「セミナー物理基礎+物理2025」徹底解説!【第 Ⅰ 章 10】基本問題244~250

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基本問題

244 第1宇宙速度

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 万有引力の法則から出発する解法
      • 模範解答が地表付近の重力 \(mg\) を向心力として運動方程式を立てるのに対し、別解ではより根源的な法則である万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) を向心力として運動方程式を立て、地表での重力との関係式 \(GM=gR^2\) を用いて変形します。
    • 設問(2)の別解: ケプラーの第3法則を用いる解法
      • 模範解答が(1)で求めた速さを周期の定義式に代入するのに対し、別解では天体の運動に関する普遍的な法則であるケプラーの第3法則を直接適用して周期を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 地表での重力 \(mg\) と万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) が本質的に同じものであること、そしてその関係から導かれる重要な関係式 \(GM=gR^2\) の使い方を学ぶことができます。また、個別の運動方程式と、より一般的なケプラーの法則との関連性を理解することで、力学体系への洞察が深まります。
    • 解法の選択肢拡大: 問題で与えられる文字が \(g, R\) の場合と \(G, M, R\) の場合とで、解法のアプローチを使い分ける訓練になります。特に \(GM=gR^2\) は、これら2つの表現を相互に変換するための重要な橋渡し役となることを学べます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「第1宇宙速度の導出」です。物体が地球に落下することなく、地表すれすれを回り続けるために必要な速さを計算する問題であり、円運動の運動方程式の典型的な応用例です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の法則(運動方程式): 人工衛星の等速円運動に必要な向心力が、地球からの重力(万有引力)によって供給されていることを理解し、\(ma=F\) の関係式を立てられること。
  2. 地表付近での重力: 地表すれすれを運動する物体に働く重力の大きさが、質量 \(m\) と重力加速度 \(g\) を用いて \(mg\) と表せること。
  3. 円運動の運動学: 円運動の速さ \(v\) と周期 \(T\)、軌道半径 \(R\) の間に \(T = \displaystyle\frac{2\pi R}{v}\) の関係があることを理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、人工衛星の円運動について運動方程式を立てます。このとき、軌道半径は地球の半径 \(R\)、向心力は地表での重力 \(mg\) と考えます。この方程式を解くことで、速さ \(v\) を求めます。
  2. (2)では、(1)で求めた速さ \(v\) を、周期の定義式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi R}{v}\) に代入して、周期 \(T\) を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
人工衛星が地表付近を円軌道で飛び続けるためには、その円運動に必要な「向心力」が、地球が人工衛星を引く「重力」とちょうど等しくなっている必要があります。この力のつり合い(運動方程式)を立てることで、その速さを求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 人工衛星は、地球の重力を向心力として等速円運動をしている。
  • 軌道は「地表付近」なので、軌道半径は地球の半径 \(R\) とみなせる。
  • 人工衛星に働く重力の大きさは、地表での値である \(mg\) を用いることができる。

具体的な解説と立式
人工衛星の質量を \(m\)、速さを \(v\) とします。

人工衛星は半径 \(R\) の円運動をしているので、運動方程式の左辺(質量×加速度)は \(m\displaystyle\frac{v^2}{R}\) となります。

この円運動の向心力となっているのは、地表付近での重力なので、その大きさは \(mg\) です。

したがって、運動方程式は以下のように立てられます。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{R} &= mg
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\) (ただし \(a=\displaystyle\frac{v^2}{R}\))
  • 重力: \(W=mg\)
計算過程

上記で立てた運動方程式を \(v\) について解きます。

まず、両辺の \(m\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{v^2}{R} &= g
\end{aligned}
$$
両辺に \(R\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= gR
\end{aligned}
$$
\(v>0\) なので、両辺の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{gR}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

人工衛星が地球に落ちてこずに周回できるのは、前に進む勢い(遠心力のようなもの)と、地球に引っ張られる重力がちょうど釣り合っているからです。速すぎると宇宙の彼方に飛んでいってしまい、遅すぎると地面に落ちてしまいます。この「ちょうどいい速さ」を、力のバランスの式を解いて計算するのがこの問題です。

結論と吟味

人工衛星の速さ、すなわち第1宇宙速度は \(v = \sqrt{gR}\) と求まりました。この式は、地球の重力加速度 \(g\) と半径 \(R\) だけで決まり、人工衛星自身の質量 \(m\) にはよらないことを示しています。これは、重い衛星も軽い衛星も、同じ軌道を飛ぶためには同じ速さが必要であることを意味します。

解答 (1) \(\sqrt{gR}\)
別解: 万有引力の法則から出発する解法

思考の道筋とポイント
地表での重力 \(mg\) の正体は、地球(質量 \(M\))と物体(質量 \(m\))の間に働く万有引力です。このより根源的な法則から出発して運動方程式を立て、最終的に問題で与えられている文字 \(g\) と \(R\) を用いた形に変形する方法です。
この設問における重要なポイント

  • 向心力は、万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) に等しい。
  • 地表での重力と万有引力の関係式 \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) を利用する。この式から得られる \(GM = gR^2\) という関係が鍵となる。

具体的な解説と立式
地球の質量を \(M\) とします。人工衛星が受ける万有引力を向心力として、運動方程式を立てると、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{R} &= G\frac{Mm}{R^2}
\end{aligned}
$$
となります。

また、地表での重力と万有引力は等しいので、
$$
\begin{aligned}
mg &= G\frac{Mm}{R^2}
\end{aligned}
$$
という関係も成り立ちます。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
計算過程

まず、運動方程式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{GM}{R}
\end{aligned}
$$
次に、重力と万有引力の関係式 \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) の両辺に \(\displaystyle\frac{R^2}{m}\) を掛けると、
$$
\begin{aligned}
gR^2 &= GM
\end{aligned}
$$
という、\(GM\) を \(g\) と \(R\) で表す関係式が得られます。

これを \(v^2\) の式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{gR^2}{R} \\[2.0ex]
&= gR
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{gR}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「重力」という言葉の代わりに、その正体である「万有引力」という言葉を使って、より根本から力のバランスの式を立てる方法です。最終的に、万有引力の式を重力の式に書き換えることで、主たる解法と同じ答えにたどり着きます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この別解は、なぜ向心力を \(mg\) とおいて良いのか、その物理的な背景を明確に示しています。また、\(GM = gR^2\) という関係式は、万有引力の問題を解く上で非常に重要なので、導出過程を理解しておくことは有益です。

解答 (1) \(\sqrt{gR}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
周期 \(T\) は、人工衛星が軌道を1周するのにかかる時間です。「時間 = 道のり ÷ 速さ」という基本的な関係を用います。1周の道のりは円周の長さ \(2\pi R\) であり、速さ \(v\) は(1)で求めた \(\sqrt{gR}\) です。
この設問における重要なポイント

  • 周期の定義式は \(T = \displaystyle\frac{2\pi R}{v}\) である。
  • (1)で求めた \(v = \sqrt{gR}\) を代入する。

具体的な解説と立式
周期 \(T\) は、円周 \(2\pi R\) を速さ \(v\) で進むのにかかる時間なので、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi R}{v}
\end{aligned}
$$
この式に、(1)で求めた \(v = \sqrt{gR}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 等速円運動における周期と速さの関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi R}{\sqrt{gR}}
\end{aligned}
$$
ここで、分子の \(R\) を \(\sqrt{R^2}\) と考えて根号の中に入れると、
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi \sqrt{\frac{R^2}{gR}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{R}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

(1)で人工衛星の速さがわかったので、あとは算数の問題です。1周の距離(円周)をその速さで割れば、1周するのにかかる時間が計算できます。

結論と吟味

周期は \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\) と求まりました。この式は、単振り子の周期の公式 \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{l}{g}}\) と非常によく似た形をしています。地球を半径 \(R\) の巨大な振り子と見なすような類推ができ、興味深い結果です。

解答 (2) \(2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\)
別解: ケプラーの第3法則を用いる解法

思考の道筋とポイント
人工衛星も地球の周りを公転する天体なので、ケプラーの第3法則が適用できます。この法則と、(1)の別解で用いた \(GM=gR^2\) の関係式を組み合わせることで、周期 \(T\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • ケプラーの第3法則 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\) を適用する。
  • 軌道半径 \(r\) は地球の半径 \(R\) に等しい。
  • \(GM = gR^2\) の関係式を利用して、\(G\) と \(M\) を消去する。

具体的な解説と立式
地球(質量 \(M\))の周りをまわる人工衛星に、ケプラーの第3法則を適用します。軌道半径は \(R\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{T^2}{R^3} &= \frac{4\pi^2}{GM}
\end{aligned}
$$
となります。

使用した物理公式

  • ケプラーの第3法則: \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\)
  • 重力と万有引力の関係から導かれる式: \(GM = gR^2\)
計算過程

まず、ケプラーの第3法則を \(T^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
T^2 &= \frac{4\pi^2 R^3}{GM}
\end{aligned}
$$
ここに、\(GM = gR^2\) の関係式を代入すると、
$$
\begin{aligned}
T^2 &= \frac{4\pi^2 R^3}{gR^2} \\[2.0ex]
&= \frac{4\pi^2 R}{g}
\end{aligned}
$$
\(T>0\) なので、両辺の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
T &= \sqrt{\frac{4\pi^2 R}{g}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{R}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

惑星の運動などで使われる「ケプラーの第3法則」は、実は人工衛星にも適用できます。この法則の公式に、地球のパラメータを当てはめることで、(1)の答えを使わずに周期を直接計算することができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。これは、ケプラーの第3法則が運動方程式から導かれるものであることを考えれば当然の結果です。異なる物理法則から同じ結論が導かれることは、物理学の体系の整合性を示す良い例です。

解答 (2) \(2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動方程式を用いた円運動の解析
    • 核心: この問題の根幹は、人工衛星が描く円運動を維持している「向心力」の正体が、地球が及ぼす「重力」であるという物理的状況を、運動方程式 \(ma=F\) という形で数式に落とし込む能力です。具体的には、運動方程式の左辺(\(m \times \text{加速度}\))に円運動の加速度(\(a=\displaystyle\frac{v^2}{R}\))を、右辺(力 \(F\))にその原因である重力(\(mg\))を代入し、\(m\displaystyle\frac{v^2}{R}=mg\) という等式を立てることが全てです。
    • 理解のポイント:
      • 向心力=重力: 「向心力」は特別な力ではなく、円運動をさせるための「役割」の名前です。この問題では、地球の重力がその役割を100%担っています。
      • 「地表付近」という近似: 問題文の「地表付近」というキーワードが重要です。これにより、軌道半径を地球の半径 \(R\) とみなしてよく、また、働く重力の大きさを、より簡単な表現である \(mg\) を使ってよい、という近似が許されています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 第二宇宙速度(地球脱出速度): 地表から物体を打ち上げ、地球の重力を振り切って無限遠に到達させるために必要な最小初速度を求める問題。これは、地表での力学的エネルギー(運動エネルギー+万有引力による位置エネルギー)が、無限遠でのエネルギー(ゼロ)以上になるというエネルギー保存則の観点から解きます。第1宇宙速度が \(\sqrt{gR}\) であるのに対し、第2宇宙速度は \(\sqrt{2gR}\) となり、\(\sqrt{2}\) 倍の関係があることは頻出のテーマです。
    • 任意の高度 \(h\) での円運動: 地表から高さ \(h\) の円軌道をまわる人工衛星の速さや周期を求める問題。この場合、軌道半径は \(R+h\) となり、向心力として重力 \(mg\) を使うことはできません。万有引力の法則 \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\) から出発する必要があります。その際、\(GM=gR^2\) という関係式を使って、答えを \(g\) と \(R\) で表現することが多いです。
    • 静止衛星: 赤道上空で、地球の自転と同じ周期(24時間)で公転し、地上から見ると静止しているように見える人工衛星。その軌道半径を求める問題では、周期 \(T\) が既知であるため、ケプラーの第3法則を用いるのが最も効率的です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 軌道の位置を確認する: 「地表付近」なのか、具体的な「高度 \(h\)」なのかをまず確認します。これにより、軌道半径(\(R\) か \(R+h\) か)と、向心力として \(mg\) が使えるかどうかが決まります。
    2. 与えられている文字を確認する: 問題文で与えられている定数が「重力加速度 \(g\) と地球半径 \(R\)」のペアなのか、「万有引力定数 \(G\) と地球質量 \(M\)」のペアなのかを見極めます。これによって、運動方程式の右辺を \(mg\) と書くか、\(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) と書くかの最初の方針が決まります。
    3. 求めたい物理量で解法を選択する:
      • 「速さ」を問われたら → まずは運動方程式を考える。
      • 「周期」を問われたら → 速さが分かっていれば \(T=\displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) を、分かっていなければケプラーの第3法則を検討する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 向心力と重力を別の力だと考えてしまう:
    • 誤解: 運動方程式を立てる際に、重力とは別に「向心力」という力が外から加わっていると考え、\(m\displaystyle\frac{v^2}{R} = mg + F_{\text{向心力}}\) のような誤った式を立ててしまう。
    • 対策: 向心力は力の「種類」ではなく「役割」であると繰り返し認識しましょう。この問題では、働く力は重力のみであり、その重力が「向心力」という役割を果たしています。したがって、運動方程式の右辺には重力 \(mg\) のみを記述します。
  • 万有引力の公式を無理に使おうとする:
    • 誤解: 問題文に \(g\) と \(R\) しか与えられていないにもかかわらず、万有引力の公式 \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) を使おうとして、未知数である \(G\) や \(M\) の扱いに困ってしまう。
    • 対策: 物理の問題では、原則として「問題文で与えられた文字だけで答えを表現する」必要があります。この問題では \(g\) が与えられているので、向心力(重力)は \(mg\) と表現するのが最も直接的で正しいアプローチです。
  • 周期の計算での平方根の扱いのミス:
    • 誤解: (2)で \(T = \displaystyle\frac{2\pi R}{v} = \frac{2\pi R}{\sqrt{gR}}\) を計算する際に、分母と分子の \(R\) をどう処理すればよいか混乱し、\(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{R^2}{gR}}\) の変形を誤ってしまう。
    • 対策: 根号の外にある文字は、2乗すれば根号の中に入れることができる(\(R = \sqrt{R^2}\))という基本ルールを落ち着いて適用しましょう。これにより、根号の中だけで約分ができ、式がきれいになります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(運動方程式):
    • 選定理由: 求めたいのは人工衛星の「速さ \(v\)」です。速さは運動の状態を表す量であり、その運動(円運動)の原因は「重力」です。運動の原因(力)と状態(加速度)を結びつける物理学の根本法則は、運動方程式 \(ma=F\) 以外にありません。
    • 適用根拠: 人工衛星が「等速円運動」をしているという事実から、その加速度 \(a\) は向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{R}\) でなければなりません。また、その円運動をさせている力が「地表付近での重力」であるという事実から、力 \(F\) は \(mg\) となります。これらの物理的な事実を、普遍的な法則である \(ma=F\) に適用することで、この状況を記述する具体的な方程式が得られます。
  • (2)での公式選択(\(T = \displaystyle\frac{2\pi R}{v}\)):
    • 選定理由: 求めたいのは「周期 \(T\)」です。(1)で「速さ \(v\)」が既知となりました。周期、速さ、半径は、円運動の運動学的な性質を記述する基本的な量であり、これらを結びつける最も直接的な関係式が \(T = \displaystyle\frac{2\pi R}{v}\) です。
    • 適用根拠: この公式は物理法則というより、言葉の定義に基づいています。「周期」とは「1周するのにかかる時間」であり、「速さ」は「単位時間に進む距離」です。したがって、「時間 = 距離 ÷ 速さ」という関係から、「周期 \(T\) = 1周の距離(円周)\(2\pi R\) ÷ 速さ \(v\)」が導かれます。この関係は、等速円運動である限り常に成り立つため、(1)の結果と組み合わせることが論理的に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算を進める:
    • この問題は数値計算がありませんが、常に文字式のまま計算を進める癖をつけましょう。まず(1)で \(v=\sqrt{gR}\) という最終的な文字式を導き、そのきれいな結果を(2)の計算に利用します。
  • 平方根の整理は丁寧に:
    • (2)の周期計算 \(T = \displaystyle\frac{2\pi R}{\sqrt{gR}}\) では、分母と分子に \(\sqrt{gR}\) を掛けて有理化する方法もありますが、分子の \(R\) を \(\sqrt{R^2}\) と考えて根号の中に入れる方が、計算が一行で済みスマートです。\(T = 2\pi \displaystyle\frac{\sqrt{R^2}}{\sqrt{gR}} = 2\pi \sqrt{\frac{R^2}{gR}} = 2\pi \sqrt{\frac{R}{g}}\)。
  • 物理的にありえない値でないか吟味する:
    • (1)で求めた速さ \(v=\sqrt{gR}\) に、人工衛星の質量 \(m\) が含まれていないことを確認します。重力も向心運動に必要な力も、どちらも質量 \(m\) に比例するため、最終的に速さが \(m\) によらないのは物理的に妥当です。
    • (2)で求めた周期 \(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\) の単位(次元)が、ちゃんと時間の単位になっているかを確認します。根号の中は \(\displaystyle\frac{[\text{m}]}{[\text{m/s}^2]} = [\text{s}^2]\) となり、その平方根は \([\text{s}]\) なので、正しく時間の単位になっています。このような単位のチェックは、式の形が正しいかを検証する強力な手段です。
  • 別解による検算:
    • (1)の別解で示したように、万有引力の法則から出発し、\(GM=gR^2\) を使って変形しても同じ \(v=\sqrt{gR}\) にたどり着くことを確認できれば、答えに対する自信が深まります。同様に、(2)の答えがケプラーの第3法則からも導出できることを知っていれば、より多角的な視点から問題を見直すことができます。

245 人工衛星

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(1)の別解: 比例関係に着目する解法
      • 模範解答が万有引力の法則の式から出発し、地表での重力の式を代入して変形するのに対し、別解では最初から重力(万有引力)が中心からの距離の2乗に反比例するという比例関係に注目し、直接比を計算します。
    • 設問(2)の別解1: 速さ \(v\) を用いる解法
      • 模範解答が角速度 \(\omega\) を用いて運動方程式を立てるのに対し、別解では速さ \(v\) を用いて運動方程式を立て、周期の定義式 \(T=2\pi r/v\) から周期を求めます。
    • 設問(2)の別解2: ケプラーの第3法則を用いる解法
      • 模範解答が運動方程式を解くのに対し、別解では天体の運動に関する普遍的な法則であるケプラーの第3法則を直接適用して周期を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 物理法則を具体的な計算式としてだけでなく、物理量間の「比例関係」として捉える視点(別解1)や、個別の運動方程式とより一般的なケプラーの法則との関連性(別解2)を理解することで、力学体系への洞察が深まります。
    • 解法の選択肢拡大: 円運動の解析において、角速度 \(\omega\) を使う方法と速さ \(v\) を使う方法の両方に習熟することで、問題に応じて効率的なアプローチを選択する力が養われます。また、問題で与えられる文字に応じて、運動方程式から解くか、ケプラーの法則のような一般法則から解くかの判断力を高めることができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「任意の高度における人工衛星の運動解析」です。地表付近だけでなく、地球から離れた場所での重力や周期がどのように変化するかを、万有引力の法則と運動方程式を基に考察する、より一般的な問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 万有引力の法則(距離の逆2乗則): 重力(万有引力)の大きさが、地球の中心からの距離の2乗に反比例することを理解していること。
  2. 運動の法則(運動方程式): 任意の円軌道において、人工衛星に働く万有引力が向心力となっていることを理解し、運動方程式を立てられること。
  3. 地表での重力と万有引力の関係: 地表での重力加速度 \(g\) が、地球の質量 \(M\) と半径 \(R\) を用いて \(g=G\displaystyle\frac{M}{R^2}\) と表せること、またこの関係から導かれる \(GM=gR^2\) という式を使いこなせること。
  4. 円運動の周期: 周期 \(T\) と角速度 \(\omega\) (\(T=2\pi/\omega\))、または速さ \(v\) (\(T=2\pi r/v\)) の関係を理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、地表(距離 \(R\))と軌道上(距離 \(nR\))での万有引力の大きさをそれぞれ式で表し、その比を計算します。
  2. (2)では、軌道半径 \(nR\) での円運動について運動方程式を立てます。向心力には(1)で考えた軌道上での重力を用い、周期を計算します。
  3. (3)では、(1)の結果から、軌道上での重力加速度 \(g’\) と地表での \(g\) の関係式を導き、その関係をグラフに表します。

問(1)

思考の道筋とポイント
人工衛星が受ける重力の正体は、地球との間に働く万有引力です。万有引力の大きさは、地球の中心からの距離の2乗に反比例します。この法則を用いて、地表(距離 \(R\))での重力と、軌道上(距離 \(nR\))での重力の大きさをそれぞれ計算し、その比を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 地表での重力は、地球の中心からの距離が \(R\) のときの万有引力に等しい。
  • 軌道上での重力は、地球の中心からの距離が \(nR\) のときの万有引力に等しい。
  • 地表での重力 \(mg\) は、万有引力の法則で \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) と表せる。

具体的な解説と立式
地球の質量を \(M\)、人工衛星の質量を \(m\)、万有引力定数を \(G\) とします。

地表で受ける重力の大きさ \(W_{\text{地表}}\) は、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{地表}} &= mg
\end{aligned}
$$
であり、これは万有引力の法則より、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{地表}} &= G\frac{Mm}{R^2}
\end{aligned}
$$
と等しくなります。

一方、地球の中心から距離 \(nR\) の円軌道上で受ける重力の大きさ \(W_{\text{軌道上}}\) は、その距離における万有引力に等しいので、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{軌道上}} &= G\frac{Mm}{(nR)^2}
\end{aligned}
$$
となります。

求めたいのは、この \(W_{\text{軌道上}}\) が \(W_{\text{地表}}\) の何倍か、すなわち比 \(\displaystyle\frac{W_{\text{軌道上}}}{W_{\text{地表}}}\) です。

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
  • 地表での重力と万有引力の関係: \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)
計算過程

軌道上での重力の式を変形します。
$$
\begin{aligned}
W_{\text{軌道上}} &= G\frac{Mm}{n^2 R^2} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{n^2} \left(G\frac{Mm}{R^2}\right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) は地表での重力 \(mg\) に等しいので、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{軌道上}} &= \frac{1}{n^2} (mg) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{n^2} W_{\text{地表}}
\end{aligned}
$$
したがって、軌道上での重力は、地表での重力の \(\displaystyle\frac{1}{n^2}\) 倍になります。

この設問の平易な説明

重力は、地球の中心からの距離が遠くなるほど弱くなります。その弱まり方は単純な反比例ではなく、「距離の2乗」に反比例します。地表に比べて距離が \(n\) 倍の場所では、重力の強さは \(n\) の2乗、つまり \(n^2\) 分の1になってしまいます。

結論と吟味

軌道上での重力は地表の \(\displaystyle\frac{1}{n^2}\) 倍と求まりました。\(n \ge 1\) なので、重力は地表にいるときが最大で、離れるほど急激に弱くなっていくことがわかります。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{1}{n^2}\) 倍
別解: 比例関係に着目する解法

思考の道筋とポイント
重力(万有引力)の大きさ \(W\) は、中心からの距離 \(r\) の2乗に反比例します (\(W \propto \displaystyle\frac{1}{r^2}\))。この比例関係を直接利用して、地表(距離 \(R\))と軌道上(距離 \(nR\))の重力の比を計算します。
この設問における重要なポイント

  • \(W \propto \displaystyle\frac{1}{r^2}\) の関係を用いる。

具体的な解説と立式
地表での重力を \(W_{\text{地表}}\)、軌道上での重力を \(W_{\text{軌道上}}\) とします。

重力は距離の2乗に反比例するので、その比は、
$$
\begin{aligned}
\frac{W_{\text{軌道上}}}{W_{\text{地表}}} &= \frac{1/(nR)^2}{1/R^2}
\end{aligned}
$$
と表せます。

使用した物理公式

  • 万有引力の逆2乗則: \(F \propto \displaystyle\frac{1}{r^2}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{W_{\text{軌道上}}}{W_{\text{地表}}} &= \frac{R^2}{(nR)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{R^2}{n^2 R^2} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{n^2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

重力は距離の2乗に反比例するので、重力の比は、距離の比の2乗の「逆数」になります。距離の比が \(n\) なので、その2乗の逆数は \(\displaystyle\frac{1}{n^2}\) となります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。比例関係で考えると、\(G\) や \(M\) などの定数を経由する必要がなく、より本質的かつ簡潔に答えを導くことができます。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{1}{n^2}\) 倍

問(2)

思考の道筋とポイント
人工衛星は、軌道上での重力を向心力として等速円運動をしています。この運動について運動方程式を立て、周期を求めます。模範解答では角速度 \(\omega\) を用いていますが、ここではまず角速度で解き、別解として速さ \(v\) を用いる方法とケプラーの法則を用いる方法を示します。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の半径は \(nR\) である。
  • 向心力は、(1)で求めた軌道上での重力 \(\displaystyle\frac{mg}{n^2}\) である。
  • 周期 \(T\) と角速度 \(\omega\) の関係は \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) である。

具体的な解説と立式
人工衛星の角速度を \(\omega\) とします。

半径 \(nR\) の円運動をしているので、運動方程式の左辺は \(m(nR)\omega^2\) となります。

向心力は軌道上での重力なので、その大きさは \(\displaystyle\frac{mg}{n^2}\) です。

したがって、運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
m(nR)\omega^2 &= \frac{mg}{n^2}
\end{aligned}
$$
となります。この式を \(\omega\) について解き、周期の公式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) に代入します。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\) (ただし \(a=r\omega^2\))
  • 周期と角速度の関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\)
計算過程

まず、運動方程式を \(\omega\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \frac{mg}{n^2} \times \frac{1}{mnR} \\[2.0ex]
&= \frac{g}{n^3 R}
\end{aligned}
$$
\(\omega > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \sqrt{\frac{g}{n^3 R}}
\end{aligned}
$$
これを周期の公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi}{\omega} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{n^3 R}{g}} \\[2.0ex]
&= 2\pi n \sqrt{\frac{nR}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

人工衛星がその軌道を保って回り続けるためには、外に飛び出そうとする勢いと、地球に引かれる重力が釣り合っている必要があります。この力のバランスの式を立てることで、衛星が1周するのにかかる時間(周期)を計算することができます。

結論と吟味

周期は \(T = 2\pi n \sqrt{\displaystyle\frac{nR}{g}}\) と求まりました。地表すれすれの場合 (\(n=1\)) は \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{R}{g}}\) となり、前問の結果と一致します。軌道半径が大きくなる(\(n\) が大きくなる)と、周期も長くなることがわかり、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(2\pi n \sqrt{\displaystyle\frac{nR}{g}}\)
別解1: 速さ \(v\) を用いる解法

思考の道筋とポイント
角速度 \(\omega\) の代わりに速さ \(v\) を用いて運動方程式を立て、周期を求めます。このアプローチは、速さを先に計算してから周期を求めるという、より段階的な思考プロセスです。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の半径は \(nR\)。
  • 向心力は \(\displaystyle\frac{mg}{n^2}\)。
  • 周期 \(T\) と速さ \(v\) の関係は \(T = \displaystyle\frac{2\pi(\text{半径})}{v} = \frac{2\pi(nR)}{v}\)。

具体的な解説と立式
人工衛星の速さを \(v\) とすると、軌道半径 \(nR\) の円運動の運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{nR} &= \frac{mg}{n^2}
\end{aligned}
$$
となります。この式を \(v\) について解き、その結果を周期の公式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi(nR)}{v}\) に代入します。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\) (ただし \(a=v^2/r\))
  • 周期と速さの関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

まず、運動方程式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= \frac{mg}{n^2} \times \frac{nR}{m} \\[2.0ex]
&= \frac{gR}{n}
\end{aligned}
$$
\(v > 0\) なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{gR}{n}}
\end{aligned}
$$
これを周期の公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi nR}{v} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi nR}{\sqrt{\frac{gR}{n}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi nR \sqrt{\frac{n}{gR}} \\[2.0ex]
&= 2\pi n \sqrt{\frac{nR^2}{gR}} \\[2.0ex]
&= 2\pi n \sqrt{\frac{nR}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず力のバランスの式から人工衛星の「速さ」を計算します。次に、その速さを使って「時間=道のり÷速さ」の計算をします。1周の道のりは円周の長さなので、これで1周にかかる時間(周期)が求まります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。角速度 \(\omega\) を使うか、速さ \(v\) を使うかは、思考のプロセスの違いであり、どちらも物理的に正しいアプローチです。

解答 (2) \(2\pi n \sqrt{\displaystyle\frac{nR}{g}}\)
別解2: ケプラーの第3法則を用いる解法

思考の道筋とポイント
人工衛星は地球の周りを公転する天体なので、ケプラーの第3法則が適用できます。この一般法則を利用することで、運動方程式を直接立てることなく周期を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • ケプラーの第3法則 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\) を適用する。
  • 軌道半径 \(r\) は \(nR\) である。
  • 地表での関係式 \(GM = gR^2\) を利用して、\(G\) と \(M\) を問題で与えられた文字に変換する。

具体的な解説と立式
地球(質量 \(M\))の周りをまわる人工衛星に、ケプラーの第3法則を適用します。軌道半径は \(r=nR\) なので、
$$
\begin{aligned}
\frac{T^2}{(nR)^3} &= \frac{4\pi^2}{GM}
\end{aligned}
$$
となります。この式を \(T\) について解くために、地表での重力と万有引力の関係から導かれる \(GM = gR^2\) を用います。

使用した物理公式

  • ケプラーの第3法則: \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\)
  • 重力と万有引力の関係から導かれる式: \(GM = gR^2\)
計算過程

まず、ケプラーの第3法則を \(T^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
T^2 &= \frac{4\pi^2 (nR)^3}{GM}
\end{aligned}
$$
ここに、\(GM = gR^2\) の関係式を代入すると、
$$
\begin{aligned}
T^2 &= \frac{4\pi^2 n^3 R^3}{gR^2} \\[2.0ex]
&= \frac{4\pi^2 n^3 R}{g}
\end{aligned}
$$
\(T > 0\) なので、両辺の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
T &= \sqrt{\frac{4\pi^2 n^3 R}{g}} \\[2.0ex]
&= 2\pi \sqrt{\frac{n^3 R}{g}} \\[2.0ex]
&= 2\pi n \sqrt{\frac{nR}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

惑星の運動などで使われる「ケプラーの第3法則」は、人工衛星にも適用できます。この法則の公式に、地球のパラメータと人工衛星の軌道半径を当てはめることで、(1)の答えや運動方程式を使わずに周期を直接計算することができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。これは、ケプラーの第3法則が運動方程式から導かれるものであることを考えれば当然の結果です。異なる物理法則から同じ結論が導かれることは、物理学の体系の整合性を示す良い例です。

解答 (2) \(2\pi n \sqrt{\displaystyle\frac{nR}{g}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
軌道半径 \(nR\) の円軌道上での重力加速度の大きさを \(g’\) とします。この \(g’\) が \(n\) の関数としてどのように表されるかを求め、その関係をグラフにします。
この設問における重要なポイント

  • 軌道上での重力は \(mg’\) と表せる。
  • (1)の結果から、軌道上での重力は \(\displaystyle\frac{mg}{n^2}\) でもある。
  • この2つの表現が等しいことから、\(g’\) と \(g\) の関係式が導かれる。

具体的な解説と立式
半径 \(nR\) の軌道上での重力加速度の大きさを \(g’\) とすると、その場所で質量 \(m\) の物体が受ける重力の大きさは \(mg’\) と書けます。

一方、(1)の結果から、この場所での重力の大きさは、地表での重力 \(mg\) の \(\displaystyle\frac{1}{n^2}\) 倍、すなわち \(\displaystyle\frac{mg}{n^2}\) です。

この2つの表現は同じ力を表しているので、
$$
\begin{aligned}
mg’ &= \frac{mg}{n^2}
\end{aligned}
$$
という等式が成り立ちます。

使用した物理公式

  • (1)で導出した重力の関係式
計算過程

上記の式の両辺から \(m\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
g’ &= \frac{g}{n^2}
\end{aligned}
$$
となります。この関係式に基づいて、\(1 \le n \le 4\) の範囲でグラフを描きます。

いくつか具体的な点を計算します。

  • \(n=1\) のとき: \(g’ = \displaystyle\frac{g}{1^2} = g\)
  • \(n=2\) のとき: \(g’ = \displaystyle\frac{g}{2^2} = \frac{1}{4}g\)
  • \(n=3\) のとき: \(g’ = \displaystyle\frac{g}{3^2} = \frac{1}{9}g\)
  • \(n=4\) のとき: \(g’ = \displaystyle\frac{g}{4^2} = \frac{1}{16}g\)

これらの点 (\((1, g), (2, \displaystyle\frac{1}{4}g), (3, \displaystyle\frac{1}{9}g), (4, \displaystyle\frac{1}{16}g)\)) を座標平面上にプロットし、なめらかな曲線で結びます。

この設問の平易な説明

重力加速度、つまり「重りの落ちる勢い」も、地球から離れるほど弱くなります。その弱まり方が、距離の2乗に反比例するという関係になっています。この関係を、横軸を距離(の倍率 \(n\))、縦軸を重力加速度 \(g’\) としてグラフに描く問題です。

結論と吟味

グラフは、\(n\) が大きくなるにつれて急激に減少し、横軸に近づいていく曲線(反比例のグラフに似た形)になります。これは、重力が距離の2乗で弱まるという逆2乗則を正しく反映したグラフです。

解答 (3) \(g’ = \displaystyle\frac{g}{n^2}\) の関係から、\(n=1, 2, 3, 4\) のときの \(g’\) はそれぞれ \(g, \displaystyle\frac{1}{4}g, \displaystyle\frac{1}{9}g, \displaystyle\frac{1}{16}g\) となる。これらの点を通るなめらかな曲線を描くと、模範解答の図のようになる。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 万有引力の逆2乗則と運動方程式の応用
    • 核心: この問題は、地表から離れた任意の高度での衛星の運動を扱っており、その根幹には2つの重要な物理法則があります。一つは、(1)と(3)で中心となる「万有引力の逆2乗則」、すなわち重力が中心からの距離の2乗に反比例して弱まるという法則です。もう一つは、(2)で中心となる「運動方程式」で、この弱まった重力が円運動の向心力として働くという関係を立式することです。
    • 理解のポイント:
      • 重力は一定ではない: 地表付近の問題では重力\(mg\)を一定として扱いますが、この問題のように地球の半径と同程度のスケールで高度が変化する場合、重力は一定ではなく、万有引力の法則に従って変化します。この違いを認識することが第一歩です。
      • \(GM=gR^2\) の活用: 問題文で与えられている文字は \(g\) と \(R\) であり、\(G\) や \(M\) ではありません。したがって、万有引力の法則を扱う際には、地表での関係式 \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) から導かれる \(GM=gR^2\) という関係を用いて、\(G\) や \(M\) を消去し、与えられた文字だけで式を表現する技術が不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 異なる軌道への遷移に必要なエネルギー: 半径 \(r_1\) の円軌道から半径 \(r_2\) の円軌道へ衛星を移動させるのに必要なエネルギー(仕事)を求める問題。各軌道での力学的エネルギー \(E = -G\displaystyle\frac{Mm}{2r}\) を計算し、その差 \(\Delta E = E_2 – E_1\) を求めます。この際も \(GM=gR^2\) を使って \(g\) と \(R\) で表現することが多いです。
    • 静止衛星の軌道半径: 地球の自転と同じ周期(\(T=\)24時間)で公転する静止衛星の軌道半径 \(r\) を求める問題。ケプラーの第3法則 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\) に、\(T\) と \(GM=gR^2\) を代入して \(r\) について解きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 距離の基準を明確にする: 問題で使われている距離が「地表から」なのか「地球の中心から」なのかを厳密に区別します。万有引力の法則や運動方程式で使う距離 \(r\) は、常に「中心からの距離」です。
    2. 力の表現を選ぶ: 運動方程式を立てる際、向心力である重力をどう表現するかを考えます。
      • (1)の結果が使えるなら、\(\displaystyle\frac{mg}{n^2}\) のように \(g\) を使った表現が簡潔です。
      • ケプラーの法則など、\(G\) や \(M\) が含まれる公式を使う場合は、万有引力の法則 \(G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) から出発し、最後に \(GM=gR^2\) で変換します。
    3. グラフ問題の定石: (3)のようにグラフを描く問題では、まず縦軸と横軸の変数の関係式(ここでは \(g’ = \displaystyle\frac{g}{n^2}\))を導出します。次に、定義域(\(1 \le n \le 4\))の端点やキリの良い点(\(n=1, 2, 3, 4\))での値を計算してプロットし、関数の形(\(y=1/x^2\) 型の曲線)を意識して滑らかに結びます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 距離の逆2乗則の誤用:
    • 誤解: (1)で、距離が \(n\) 倍になったので重力は \(\displaystyle\frac{1}{n}\) 倍になると、単純な反比例で考えてしまう。
    • 対策: 万有引力の法則は「逆2乗の法則」であると強く意識しましょう。距離が \(n\) 倍なら、力は \(n^2\) に反比例して \(\displaystyle\frac{1}{n^2}\) 倍になります。
  • 運動方程式における半径と力の不一致:
    • 誤解: (2)で運動方程式を立てる際、左辺の加速度の項では軌道半径 \(nR\) を正しく使うが、右辺の力の項では地表での重力 \(mg\) を誤って使ってしまう(\(m\displaystyle\frac{v^2}{nR} = mg\) など)。
    • 対策: 運動方程式の左辺と右辺は、同じ場所、同じ瞬間の物理量を記述しなければなりません。軌道半径 \(nR\) での運動を考えるなら、向心力もその場所での重力((1)で求めた \(\displaystyle\frac{mg}{n^2}\))を使わなければならない、という一貫性を常に意識しましょう。
  • ケプラーの法則の誤用:
    • 誤解: (2)の別解でケプラーの第3法則を使う際に、地表すれすれの衛星(周期 \(T_0\), 半径 \(R\))と比較して \(\displaystyle\frac{T^2}{(nR)^3} = \frac{T_0^2}{R^3}\) という比の式を立てようとするが、\(T_0\) の値が分からず混乱する。
    • 対策: ケプラーの法則には、比の形だけでなく、\(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\) という絶対的な形もあります。\(G\) や \(M\) が直接与えられていなくても、\(GM=gR^2\) という関係式を使えば \(g\) と \(R\) で表現できることを知っておくと、この形を有効に活用できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(万有引力の法則):
    • 選定理由: 「重力」が「地表の何倍になるか」という問いは、重力の大きさが距離によってどう変化するかを問うています。重力の正体は万有引力であり、その距離依存性を記述する唯一の法則が万有引力の法則(\(F \propto 1/r^2\))だからです。
    • 適用根拠: 万有引力の法則は、地球の中心から任意の距離 \(r\) において普遍的に成り立つため、地表(\(r=R\))と軌道上(\(r=nR\))の両方に適用し、その結果を比較することが論理的に正当化されます。
  • (2)での公式選択(運動方程式):
    • 選定理由: 求めたいのは「周期」。周期は円運動の性質を表す量です。円運動の原因は「力」(軌道上での重力)であり、力と運動の関係を結びつけるのは運動方程式です。したがって、運動方程式から角速度 \(\omega\) や速さ \(v\) を求め、それを周期の定義式に代入するという流れが最も基本的です。
    • 適用根拠: 衛星は軌道上で安定した円運動をしているため、その運動は運動方程式によって記述されなければなりません。向心力として、その場所で実際に働いている力((1)で求めた軌道上での重力)を正しく代入することで、その運動の具体的な様子(\(\omega\) や \(v\))を決定できます。
  • (3)での公式選択(重力加速度の定義):
    • 選定理由: 求めたいのは「重力加速度 \(g’\)」。重力加速度とは、その場所での重力 \(W’\) と質量 \(m\) の間の比例定数として \(W’ = mg’\) と定義される量です。
    • 適用根拠: (1)で、その場所での重力 \(W’\) が \(W’ = \displaystyle\frac{mg}{n^2}\) と求められています。この式と定義式 \(W’ = mg’\) は、どちらも同じ力を表現しているため、等しいとおくことができます。\(mg’ = \displaystyle\frac{mg}{n^2}\) という等式から、未知数 \(g’\) を求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の整理を丁寧に行う:
    • (2)で運動方程式 \(m(nR)\omega^2 = \displaystyle\frac{mg}{n^2}\) から \(\omega^2\) を求める際、\(\omega^2 = \displaystyle\frac{mg}{n^2 \cdot m n R} = \frac{g}{n^3 R}\) のように、分母に来る \(n\) の指数を間違えないよう、一つ一つ丁寧に項を移項しましょう。
  • 平方根の整理を習慣づける:
    • (2)で \(T = 2\pi \sqrt{\displaystyle\frac{n^3 R}{g}}\) という答えが出た場合、根号の中に \(n^3 = n^2 \cdot n\) という2乗の項が含まれていることに気づきましょう。根号の外に出せるものは出す(\(T = 2\pi n \sqrt{\displaystyle\frac{nR}{g}}\))のが、数式を最も簡潔な形で表現する上での作法です。
  • グラフの軸と目盛りを確認する:
    • (3)でグラフを描く際は、まず縦軸が \(g’\)、横軸が \(n\) であることを確認します。次に、\(n=1\) のときに \(g’=g\) となる点を取り、これを基準に他の点をプロットします。例えば、\(n=2\) のときは \(g’=\displaystyle\frac{1}{4}g\) なので、縦軸の \(1/4\) の高さに点を打ちます。このように、基準となる点からの相対的な位置を意識すると、正確なグラフが描けます。
  • 関数の形からグラフの概形を予測する:
    • \(g’ = \displaystyle\frac{g}{n^2}\) という関係式は、\(y = \displaystyle\frac{a}{x^2}\) という形の関数です。これは \(x\) が大きくなるにつれて \(y\) が急激にゼロに近づく曲線であり、直線になったり、途中で折れ曲がったりすることはありません。この関数の概形を知っていれば、プロットした点を滑らかな曲線で結ぶことに迷いがなくなります。

246 静止衛星

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問(2)の別解1: 速さ \(v\) を用いる解法
      • 模範解答が角速度 \(\omega\) を用いて運動方程式を立てるのに対し、別解では速さ \(v\) を用いて運動方程式を立て、周期との関係式から高さを求めます。
    • 設問(2)の別解2: ケプラーの第3法則を用いる解法
      • 模範解答が運動方程式を個別に解くのに対し、別解では天体の運動に関する一般法則であるケプラーの第3法則を直接適用して、より簡潔に高さを求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 思考の柔軟性向上: 円運動の解析において、角速度 \(\omega\) を使う方法と速さ \(v\) を使う方法の両方に習熟することで、問題に応じて効率的なアプローチを選択する力が養われます。
    • 物理法則の関連性の理解: 運動方程式という個別のアプローチと、ケプラーの法則というより一般的な法則のアプローチの違いと関連性を学ぶことで、力学体系への洞察が深まります。ケプラーの法則が、運動方程式を解く手間を省く強力なツールであることを実感できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「静止衛星の軌道計算」です。静止衛星という特殊な条件(地球の自転と同じ周期)から、その運動状態(角速度)や軌道の高さがどのように決まるかを、万有引力の法則と運動方程式を用いて導出する問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 静止衛星の定義: 地球の自転と同じ周期 \(T\) で、赤道上空を等速円運動していること。
  2. 運動の法則(運動方程式): 人工衛星の円運動に必要な向心力が、地球からの万有引力によって供給されていることを理解し、運動方程式を立てられること。
  3. 万有引力の法則: 地球と人工衛星の間に働く力の大きさが \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) で与えられること。特に、軌道半径 \(r\) が地球の中心からの距離であること。
  4. 円運動の運動学: 周期 \(T\) と角速度 \(\omega\) の間に \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) の関係があることを理解していること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、静止衛星の定義(周期が \(T\))から、角速度の定義式 \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を用いて角速度を求めます。
  2. (2)では、人工衛星の円運動について運動方程式を立てます。軌道半径を \(r=R+h\)、向心力を万有引力とし、(1)で求めた角速度の関係を代入して、高さ \(h\) について解きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
角速度 \(\omega\) とは、単位時間あたりに回転する角度のことです。静止衛星は、周期 \(T\) [s] の時間で \(1\) 周、すなわち \(2\pi\) [rad] 回転します。この定義から、角速度を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 周期 \(T\) は、\(1\) 周するのにかかる時間である。
  • \(1\) 周の角度は \(2\pi\) ラジアンである。
  • 角速度は「回転した角度 ÷ かかった時間」で計算できる。

具体的な解説と立式
角速度 \(\omega\) の定義は、時間 \(\Delta t\) の間に \(\Delta \theta\) だけ回転したとき、\(\omega = \displaystyle\frac{\Delta \theta}{\Delta t}\) です。

静止衛星は、時間 \(T\) で \(1\) 周 (\(2\pi\) ラジアン) するので、
$$
\begin{aligned}
\omega &= \frac{2\pi}{T}
\end{aligned}
$$
となります。

使用した物理公式

  • 角速度と周期の関係: \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)
計算過程

この設問は公式を適用するだけなので、これ以上の計算は不要です。

この設問の平易な説明

「角速度」とは、回転の速さのことです。静止衛星は、地球の自転と同じ \(T\) 秒かけて \(1\) 周します。\(1\) 周は \(360\) 度、物理で使う単位では \(2\pi\) ラジアンです。したがって、回転の速さは「\(2\pi\) ラジアンを \(T\) 秒で割ったもの」になります。

結論と吟味

静止衛星の角速度は、地球の自転周期 \(T\) だけで決まることがわかります。これは静止衛星の定義そのものを数式で表現したものです。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\) [rad/s]

問(2)

思考の道筋とポイント
人工衛星は、地球からの万有引力を向心力として等速円運動をしています。この物理的な状況を運動方程式で表します。このとき、円運動の軌道半径が、地球の中心からの距離である \(R+h\) となることに注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の軌道半径は \(r = R+h\) である。
  • 向心力は、万有引力 \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\) である。
  • 運動方程式 \(mr\omega^2 = F\) に、\(r=R+h\) と(1)で求めた \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を代入する。

具体的な解説と立式
人工衛星の質量を \(m\) とします。

軌道半径 \(r = R+h\) で、角速度 \(\omega\) の等速円運動をしているので、運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
mr\omega^2 &= F_{\text{万有引力}}
\end{aligned}
$$
となります。

左辺の \(r\) に \(R+h\) を、右辺の万有引力の公式に距離 \(R+h\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
m(R+h)\omega^2 &= G\frac{Mm}{(R+h)^2}
\end{aligned}
$$
となります。ここに、(1)で求めた \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を代入して、\(h\) について解きます。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(mr\omega^2 = F\)
  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
計算過程

運動方程式に \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m(R+h)\left(\frac{2\pi}{T}\right)^2 &= G\frac{Mm}{(R+h)^2}
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去し、式を \(R+h\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
(R+h) \frac{4\pi^2}{T^2} &= \frac{GM}{(R+h)^2}
\end{aligned}
$$
両辺に \((R+h)^2 T^2\) を掛け、\(4\pi^2\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
(R+h)^3 &= \frac{GMT^2}{4\pi^2}
\end{aligned}
$$
両辺の3乗根をとると、
$$
\begin{aligned}
R+h &= \sqrt[3]{\frac{GMT^2}{4\pi^2}}
\end{aligned}
$$
最後に \(R\) を移項して、\(h\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
h &= \sqrt[3]{\frac{GMT^2}{4\pi^2}} – R
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

静止衛星がその高さを保ち続けられるのは、外側に飛び出そうとする勢い(遠心力)と、地球に引かれる万有引力がちょうど釣り合っているからです。この力のバランスの式を立てます。この式には、求めたい「高さ \(h\)」が含まれているので、あとは数学の計算で \(h\) について解けば答えが出ます。

結論と吟味

静止衛星の地上からの高さ \(h\) が、地球の質量 \(M\)、半径 \(R\)、自転周期 \(T\)、そして万有引力定数 \(G\) だけで決まることが示されました。これは、静止衛星の軌道はただ一つに決まることを意味しています。実際にこれらの値を代入すると、\(h\) は約 \(36000\,\text{km}\) となり、実際の静止衛星の軌道高度と一致します。

解答 (2) \(\sqrt[3]{\displaystyle\frac{GMT^2}{4\pi^2}} – R\) [m]
別解1: 速さ \(v\) を用いる解法

思考の道筋とポイント
角速度 \(\omega\) の代わりに、人工衛星の速さ \(v\) を用いて運動方程式を立てる方法です。速さ \(v\) と周期 \(T\) の関係式を連立させることで、同じ結果を導きます。
この設問における重要なポイント

  • 軌道半径は \(r = R+h\)。
  • 運動方程式は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{万有引力}}\)。
  • 周期と速さの関係式は \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)。

具体的な解説と立式
軌道半径 \(r=R+h\) での運動方程式を、速さ \(v\) を用いて立てると、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{R+h} &= G\frac{Mm}{(R+h)^2} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
また、周期 \(T\) と速さ \(v\) の関係は、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2\pi(R+h)}{v}
\end{aligned}
$$
これを \(v\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{2\pi(R+h)}{T} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
となります。式②を式①に代入して \(v\) を消去し、\(h\) を求めます。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
  • 周期と速さの関係: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

式②を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
m \frac{1}{R+h} \left(\frac{2\pi(R+h)}{T}\right)^2 &= G\frac{Mm}{(R+h)^2} \\[2.0ex]
m \frac{1}{R+h} \frac{4\pi^2(R+h)^2}{T^2} &= G\frac{Mm}{(R+h)^2} \\[2.0ex]
\frac{4\pi^2 m(R+h)}{T^2} &= G\frac{Mm}{(R+h)^2}
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去し、\(R+h\) について整理すると、
$$
\begin{aligned}
(R+h)^3 &= \frac{GMT^2}{4\pi^2}
\end{aligned}
$$
この後の計算は主たる解法と全く同じです。
$$
\begin{aligned}
h &= \sqrt[3]{\frac{GMT^2}{4\pi^2}} – R
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「回転の速さ」の代わりに、衛星が軌道上を飛んでいく「速さ」を使って力のバランスの式を立てる方法です。速さと周期は簡単な関係で結びついているので、それを利用して式を整理すると、主たる解法と同じ結論にたどり着きます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。角速度 \(\omega\) を使うか、速さ \(v\) を使うかはアプローチの違いであり、どちらも物理的に正しい方法です。

解答 (2) \(\sqrt[3]{\displaystyle\frac{GMT^2}{4\pi^2}} – R\) [m]
別解2: ケプラーの第3法則を用いる解法

思考の道筋とポイント
静止衛星も地球を公転する天体の一つなので、ケプラーの第3法則が適用できます。この法則に周期 \(T\) と軌道半径 \(r=R+h\) を代入することで、運動方程式を立てるよりもはるかに簡潔に軌道半径を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • ケプラーの第3法則 \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\) を適用する。
  • 軌道半径 \(r\) は \(R+h\) である。

具体的な解説と立式
地球(質量 \(M\))の周りをまわる天体の運動に関するケプラーの第3法則は、
$$
\begin{aligned}
\frac{(\text{周期})^2}{(\text{軌道半径})^3} &= \frac{4\pi^2}{GM}
\end{aligned}
$$
です。静止衛星の周期は \(T\)、軌道半径は \(r=R+h\) なので、これを代入すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{T^2}{(R+h)^3} &= \frac{4\pi^2}{GM}
\end{aligned}
$$
となります。この式を \(h\) について解きます。

使用した物理公式

  • ケプラーの第3法則: \(\displaystyle\frac{T^2}{r^3} = \frac{4\pi^2}{GM}\)
計算過程

上記の関係式を \((R+h)^3\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
(R+h)^3 &= \frac{GMT^2}{4\pi^2}
\end{aligned}
$$
この式は、運動方程式から導いたものと完全に一致します。したがって、この後の計算も全く同じです。
$$
\begin{aligned}
h &= \sqrt[3]{\frac{GMT^2}{4\pi^2}} – R
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

天体の運動には、「(周期の2乗)÷(軌道半径の3乗)が一定になる」という便利な法則(ケプラーの第3法則)があります。静止衛星の周期は地球の自転周期 \(T\) と分かっているので、この法則に当てはめるだけで、軌道の大きさを一気に計算することができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。ケプラーの第3法則は、もともと運動方程式と万有引力の法則から導出されるものであるため、同じ結果になるのは当然です。しかし、周期が関わる問題では、この法則を直接使うことで計算が大幅に簡略化できることが多く、非常に強力な解法です。

解答 (2) \(\sqrt[3]{\displaystyle\frac{GMT^2}{4\pi^2}} – R\) [m]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 静止衛星の条件と運動方程式の結合
    • 核心: この問題の根幹は、まず「静止衛星」という言葉から「公転周期が地球の自転周期 \(T\) と等しい」という物理的条件を読み取り、それを角速度 \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) という数式に変換することです。次に、その衛星が安定して円軌道を飛び続けるための力学的な条件、すなわち「万有引力=向心力」という運動方程式を立て、これら二つの式を結合して未知の量(軌道半径)を求めることにあります。
    • 理解のポイント:
      • 条件の数式化: 「静止しているように見える」という日常的な言葉を、「周期が等しい」という物理の言葉に翻訳する能力が問われます。
      • 軌道半径の決定: 衛星がどの高さ(軌道半径)を飛ぶかは、偶然ではなく、その周期(速さ)と中心天体の質量によって力学的に一意に決まります。運動方程式は、その決定メカニズムを記述するものです。
  • 軌道半径の正しい設定
    • 核心: 万有引力の法則や円運動の公式で使われる距離 \(r\) は、常に「中心からの距離」です。この問題では、求めたいのが「地上からの高さ \(h\)」であるため、軌道半径 \(r\) を地球の半径 \(R\) と高さ \(h\) の和、すなわち \(r=R+h\) と正しく設定することが、計算を成功させるための決定的な鍵となります。
    • 理解のポイント:
      • 図による理解: 問題の図やヒントにも示されている通り、地球の中心、地表、衛星の位置関係を簡単な図で描くことで、\(r=R+h\) の関係は直感的に理解できます。
      • \(h\) と \(r\) の区別: \(h\) は地上からの高さ、\(r\) は力学計算で用いる中心からの距離。この2つを明確に区別し、最終的に \(r\) から \(h\) を求める(\(h=r-R\))という手順を意識することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • GPS衛星: GPS衛星は周期が約12時間です。この周期 \(T\) を使って、静止衛星と全く同じ手順でその軌道半径や高さを計算する問題に応用できます。
    • 中心天体の質量計算: ある惑星の周りをまわる衛星の周期 \(T\) と軌道半径 \(r\) が観測された場合、ケプラーの第3法則(または運動方程式)を逆算して、中心惑星の質量 \(M\) を推定する問題。(\(M = \displaystyle\frac{4\pi^2 r^3}{GT^2}\))
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「静止衛星」というキーワード: この言葉が出てきたら、即座に「周期 \(T\) が地球の自転周期と等しい」「赤道上空」という2つの条件を連想します。
    2. 「地上からの高さ \(h\)」: この言葉を見たら、運動方程式や万有引力の法則で使う軌道半径 \(r\) を、必ず \(r=R+h\) と置き換える準備をします。
    3. 周期 \(T\) が関わる問題での解法選択:
      • 運動方程式から解く: 力学の基本に忠実な方法。角速度 \(\omega\) または速さ \(v\) を使って立式します。
      • ケプラーの第3法則から解く: 周期 \(T\) と軌道半径 \(r\) の関係を直接結びつける最も効率的な方法。周期が与えられている、または問われている問題では、常にこの解法が使えないか検討すべきです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 軌道半径 \(r\) の設定ミス:
    • 誤解: 運動方程式や万有引力の公式の距離に、求めたい高さ \(h\) や地球の半径 \(R\) をそのまま代入してしまう。
    • 対策: 「万有引力や円運動の中心は地球の中心である」という基本に立ち返りましょう。したがって、距離は常に中心からの距離 \(r=R+h\) を使わなければなりません。計算の最初に「軌道半径 \(r=R+h\)」と明記する癖をつけるとミスを防げます。
  • 運動方程式の力の項のミス:
    • 誤解: 衛星に働く力を、地表での重力 \(mg\) と勘違いしてしまう。
    • 対策: \(mg\) はあくまで地表(中心から距離 \(R\))での重力です。中心から距離 \(r=R+h\) の場所では、万有引力の法則に従って \(F=G\displaystyle\frac{Mm}{(R+h)^2}\) と正しく記述する必要があります。
  • 最後の移項忘れ:
    • 誤解: 軌道半径 \(r=R+h\) を求めたところで満足してしまい、それを答えとしてしまう。
    • 対策: 問題が何を求めているか(この場合は「高さ \(h\)」)を常に意識しましょう。計算の最後に、求めた軌道半径 \(r\) から地球の半径 \(R\) を引く(\(h=r-R\))という操作を忘れないように注意が必要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • (1)での公式選択(\(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\)):
    • 選定理由: 求めたいのは「角速度 \(\omega\)」。問題文の「静止衛星」という定義から、その「周期 \(T\)」が地球の自転周期と等しいことが分かっています。角速度と周期を結びつける最も基本的な関係式(定義式)が \(\omega = \displaystyle\frac{2\pi}{T}\) であるため、これを選択するのは必然です。
    • 適用根拠: この公式は、物理法則というよりは角速度と周期の定義そのものです。「周期 \(T\) 秒で1周(\(2\pi\) ラジアン)回転する運動」の角速度は、定義に従って \(\displaystyle\frac{2\pi}{T}\) となります。
  • (2)での公式選択(運動方程式 \(mr\omega^2 = F\)):
    • 選定理由: 求めたいのは「高さ \(h\)」、すなわち「軌道半径 \(r=R+h\)」です。軌道半径は、衛星の運動(角速度)と、その運動を支える力(万有引力)のバランスによって決まる力学的な量です。この力と運動の関係を記述する基本法則が運動方程式であるため、これを選択します。
    • 適用根拠: 衛星は安定した円運動をしているため、その運動は運動方程式によって記述されなければなりません。向心力として、その場所で実際に働いている万有引力を正しく代入し、(1)で求めた角速度の関係を用いることで、この状況に特有の軌道半径を求めることができます。
  • (2)別解での公式選択(ケプラーの第3法則):
    • 選定理由: 求めたいのは「軌道半径 \(r\)」で、分かっているのは「周期 \(T\)」です。ケプラーの第3法則は、まさにこの2つの量(周期と軌道半径)の関係を直接記述する法則です。運動方程式を立てて解くというプロセスをショートカットできるため、非常に効率的な選択肢となります。
    • 適用根拠: ケプラーの第3法則は、万有引力の法則と運動方程式から導出される普遍的な法則であり、地球の周りをまわる衛星にも当然適用できます。したがって、この法則を用いることは論理的に正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま整理する:
    • まずは \(h = \dots\) の形になるまで、すべての量を文字のまま計算を進めましょう。特に、\((R+h)^3 = \displaystyle\frac{GMT^2}{4\pi^2}\) のように、求めたい量を含む塊を整理してから、最後に3乗根をとったり移項したりする方が、計算の見通しが良くなります。
  • 指数の計算を正確に:
    • \((R+h)^3\) のような3乗の項や、\(\sqrt[3]{\dots}\) という3乗根の計算が出てきます。これらの指数計算を落ち着いて行いましょう。
  • 単位の確認:
    • 最終的に得られた答えの単位が、本当に長さの単位 \([\text{m}]\) になっているかを確認する(次元解析)と、式の形の正しさを検証できます。例えば、\(\sqrt[3]{\displaystyle\frac{GMT^2}{4\pi^2}}\) の中身の単位は \([\displaystyle\frac{(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2)\cdot\text{kg}\cdot\text{s}^2}{1}] = [\frac{(\text{kg}\cdot\text{m}/\text{s}^2)\cdot\text{m}^2\cdot\text{s}^2}{\text{kg}}] = [\text{m}^3]\) となり、その3乗根は正しく \([\text{m}]\) になります。
  • 物理的な妥当性の吟味:
    • 計算の結果、\(h\) が負の値になったり、極端に小さい値になったりした場合は、計算ミスの可能性が高いです。静止衛星の軌道は地球の半径よりもかなり大きいことが知られているため、\(h\) は \(R\) よりも大きな正の値になるはずだ、という大まかな見当をつけておくと良いでしょう。
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247 人工衛星の軌道

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「円運動の成立条件と重力の向き」です。なぜ静止衛星が赤道上空にしか存在できないのか、という具体的な疑問に対し、円運動に必要な「向心力」と、実際に働く「重力」の向きという、物理学の基本原理に立ち返って論理的に説明する問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 円運動の成立条件: 物体が円運動を続けるためには、常にその「円軌道の中心」を向く力(向心力)を受け続けなければならないこと。
  2. 重力(万有引力)の向き: 地球が物体に及ぼす重力は、物体の位置にかかわらず、常に「地球の中心」を向いていること。
  3. 力の合成・分解: 実際に働く力と、運動に必要な力が一致しない場合、物体は軌道を維持できないこと。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、人工衛星に働く唯一の力である「重力」の向きを確認します。
  2. 次に、人工衛星が円運動を続けるために必要な「向心力」の向きを確認します。
  3. 衛星が重力のみで安定した軌道を維持するためには、この2つの力の向きが常に一致しなければならない、という結論から、軌道が満たすべき幾何学的な条件を導き出します。
  4. 最後に、静止衛星の運動(地軸の周りの回転)という条件を加味し、なぜ赤道上空に限られるのかを結論づけます。

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