無料でしっかり基礎固め!高校物理 問題演習「合力と力のモーメントの性質」【高校物理対応】

問題の確認

dynamics#21

各設問の思考プロセス

この問題は、一つの物体(棒)にはたらく複数の平行な力について、その合力や力のモーメントの性質を問う、静力学の理論的な問題です。個々の力のモーメントと、合力のモーメントの間の関係を理解しているかが鍵となります。

この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。

  • 合力: 複数の力を一つの力で代表させたもの。平行で同じ向きの力の場合、合力の大きさは単純な和で表せます。
  • 力のモーメント(トルク): ある点のまわりに物体を回転させようとする能力のことで、その大きさは「力の大きさ × 支点から力の作用線までの垂直距離」で計算されます。
  • 合力とモーメントの重要な関係:複数の力の、ある点のまわりのモーメントの合計は、それらの力の合力の、同じ点のまわりのモーメントに等しい」という非常に重要な関係があります。これを利用することで、合力の作用点の位置を特定できます。

この問題を解くための手順は以下の通りです。

  1. (1) 合力の作用線の位置を求める:
    まず、3つの力の合力の大きさを求めます。次に、合力とモーメントの関係を利用します。基準点としてO点を選び、「3つの力のO点のまわりのモーメントの合計」と「合力のO点のまわりのモーメント」が等しい、という式を立てて、合力の作用線までの距離を求めます。
  2. (2) 点Pのまわりのモーメントの和を求める:
    任意の点Pを支点として、3つの力がそれぞれ作るモーメントを計算し、足し合わせます。その後、合力が0になるという特別な条件を、得られた式に適用して結果を考察します。

各設問の具体的な解説と解答

(1) これら3力の合力が0でないとき、その作用線の位置を求めよ。

問われている内容の明確化
3つの力 \(F_1, F_2, F_3\) を一つの力(合力)で代表させたとき、その合力が棒のどの位置にはたらくかを求めます。基準点Oからの距離で答えるのが一般的です。

具体的な解説と立式
まず、3つの力の合力の大きさ \(F_R\) を求めます。図より、3つの力はすべて同じ向きなので、合力の大きさは単純な和となります。
$$F_R = F_1 + F_2 + F_3 \quad \cdots ①$$
次に、この合力 \(F_R\) の作用線の位置を、O点から測った距離 \(x_R\) とします。

ここで、合力とモーメントの間の重要な関係を適用します。基準点をO点とします。

  • 個々の力のO点のまわりのモーメントの合計は、(反時計回りを正とすると)3つの力のモーメントを足し合わせたものなので、\(F_1 l_1 + F_2 l_2 + F_3 l_3\) となります。
  • 合力のO点のまわりのモーメントは、\(F_R \times x_R\) となります。

「モーメントの合計」と「合力のモーメント」は等しくなるので、以下の関係式が成り立ちます。
$$F_R x_R = F_1 l_1 + F_2 l_2 + F_3 l_3 \quad \cdots ②$$
この式を、求めたい \(x_R\) について解きます。

使用した物理法則: 合力とそのモーメントの関係

(合力のモーメント)=(各成分の力のモーメントの合計)

計算過程
式②に、式①で求めた \(F_R\) を代入します。
$$(F_1 + F_2 + F_3)x_R = F_1 l_1 + F_2 l_2 + F_3 l_3$$
この式を \(x_R\) について解きます。問題の条件より合力は0ではないので、\(F_1+F_2+F_3 \neq 0\) であり、両辺を割ることができます。
$$
\begin{aligned}
x_R &= \frac{F_1 l_1 + F_2 l_2 + F_3 l_3}{F_1 + F_2 + F_3}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

  • まず、3つの力を全部まとめて、1つの大きな力(合力)で代表させることを考えます。この合力の大きさは \(F_1+F_2+F_3\) です。
  • 次に、「この合力がどこにはたらけば、元の3つの力が全体として持っていた回転効果(モーメントの合計)と同じになるか?」を考えます。
  • 「合力のモーメント = 3つの力のモーメントの合計」という式を立てます。これを解くことで、合力がはたらく位置が求まります。
  • 得られた答えの形は、それぞれの力の位置(\(l_1, l_2, l_3\))を、力の大きさ(\(F_1, F_2, F_3\))で重みをつけて平均する「加重平均」の計算と同じ形になっています。

この設問における重要なポイント

  • 合力のモーメントが、個々の力のモーメントの合計に等しいという関係を理解し、適用できること。
  • 合力の大きさが各力の単純な和で表されること(平行な力の場合)。
解答 (1):
O点から \(\displaystyle\frac{F_1 l_1 + F_2 l_2 + F_3 l_3}{F_1 + F_2 + F_3}\) の位置

(2) 点Pのまわりの3力のモーメントの和を求めよ。とくに、3力の合力が0となる場合はどのように書けるか。

問われている内容の明確化
O点から距離 \(x\) の位置にある点Pを支点としたときの、3つの力のモーメントの総和 \(M_P\) を求めます。また、合力が0の場合にその式がどうなるかを考察します。

具体的な解説と立式
点Pを支点として、各力のモーメントを計算します。(反時計回りを正とします)

  • 力\(F_1\)のP点のまわりのモーメント: うでの長さは \(l_1 – x\) なので、\(M_1 = F_1(l_1 – x)\)
  • 力\(F_2\)のP点のまわりのモーメント: うでの長さは \(l_2 – x\) なので、\(M_2 = F_2(l_2 – x)\)
  • 力\(F_3\)のP点のまわりのモーメント: うでの長さは \(l_3 – x\) なので、\(M_3 = F_3(l_3 – x)\)

これらの和 \(M_P\) を求めます。
$$M_P = F_1(l_1 – x) + F_2(l_2 – x) + F_3(l_3 – x) \quad \cdots ③$$

使用した物理公式: 力のモーメント
$$(\text{モーメント}) = (\text{力}) \times (\text{うでの長さ})$$

計算過程
式③を展開し、\(x\) を含む項と含まない項で整理します。
$$
\begin{aligned}
M_P &= F_1 l_1 – F_1 x + F_2 l_2 – F_2 x + F_3 l_3 – F_3 x \\[2.0ex]&= (F_1 l_1 + F_2 l_2 + F_3 l_3) – (F_1 + F_2 + F_3)x
\end{aligned}
$$
これが点Pのまわりのモーメントの和の一般式です。

特に、3力の合力が0となる場合
合力が0とは、\(F_1 + F_2 + F_3 = 0\) であることを意味します。(図では全ての力が上向きなので、この条件を満たすには、実際には下向きの力も存在する必要があります。)
この条件を上の \(M_P\) の式に代入すると、\(x\) を含む第2項が0になります。
$$
\begin{aligned}
M_P &= (F_1 l_1 + F_2 l_2 + F_3 l_3) – (0) \times x \\[2.0ex]&= F_1 l_1 + F_2 l_2 + F_3 l_3
\end{aligned}
$$
これは、O点のまわりのモーメントの和と同じ値です。

計算方法の平易な説明

  • P点を支点にしたときのモーメントの合計を計算します。それぞれの力について「力 × P点からの距離」を計算し、全部足し合わせます。
  • 式を整理すると、モーメントの合計は「(O点のまわりのモーメントの合計) – (合力) × x」という形になります。
  • もし合力がゼロなら、「(合力) × x」の項が消えるので、モーメントの合計は「O点のまわりのモーメントの合計」と等しくなります。これは、支点Pの位置(xの値)によらず、モーメントの合計が一定になるという特別な性質を表しています。

この設問における重要なポイント

  • 任意の点Pのまわりのモーメントを計算する際、うでの長さが \(l_i – x\) のように、P点の位置 \(x\) に依存することを理解すること。
  • 合力が0のとき、力のモーメントの和は支点の選び方によらず一定になるという「偶力」の性質を理解すること。
解答 (2):
モーメントの和: \((F_1 l_1 + F_2 l_2 + F_3 l_3) – (F_1 + F_2 + F_3)x\)
合力が0の場合: モーメントの和は \(F_1 l_1 + F_2 l_2 + F_3 l_3\) となり、支点の位置 \(x\) によらず一定となる。

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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則

  • 合力: 複数の力を代表する一つの力。平行な力の場合、代数和で計算できる。
  • 力のモーメント: 物体を回転させる作用の大きさ。基準点(支点)からの距離に依存する。
  • 合力とモーメントの関係: 合力のモーメントは、成分となる各力のモーメントの和に等しい。これにより、合力の作用点を特定できる。
  • 偶力: 合力が0であるが、力のモーメントの和が0でないような力(複数)の組のこと。偶力がはたらく物体は、並進運動はしないが回転運動をする。その回転作用(モーメント)は、どこを支点にとっても同じ大きさになるという特徴がある。

類似の問題を解く上でのヒントや注意点

  • 基準点の取り方: モーメントの計算では、どこを基準点(支点)にするかで計算の複雑さが変わることがありますが、物理的な結果は変わりません。(1)ではO点を基準にするのが最も簡単です。
  • 符号の統一: モーメントの回転の向き(時計回りか反時計回りか)に応じて、正負の符号を自分で決めて、一貫して計算することが重要です。
  • 数式と物理的意味の対応: (2)の結果のように、数式がどのような物理的意味を持つのか(この場合は偶力の性質)を考えることで、理解が深まります。

よくある誤解や間違いやすいポイント

  • 合力の作用点と重心の混同: (1)で求めた作用線の位置は、数学的には力の加わった点の「加重平均」の位置であり、物体の「重心」とは異なります。重心は、物体を構成する各部分にはたらく「重力」の合力の作用点です。
  • モーメントの和が0であることとの混同: 力のモーメントがつり合っている(和が0)のは、物体が回転しない静止状態のときです。この問題では、単にモーメントの和を計算することが求められており、つり合いを仮定しているわけではありません。
  • ベクトルの扱い: この問題では力がすべて平行なので大きさの代数和で計算できましたが、力が斜めを向いている場合は、ベクトルとして成分に分けて考える必要があります。

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