無料でしっかり基礎固め!高校物理 問題演習「気体の状態変化とピストン」【高校物理対応】

今回の問題

thermodynamicsall#12

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「気体の状態変化と力のつりあい」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 気体の状態方程式: 理想気体の圧力、体積、温度の関係を表す基本法則です。
  2. シャルルの法則: 圧力が一定の条件下(定圧変化)で、気体の体積が絶対温度に比例するという法則です。
  3. ボイルの法則: 温度が一定の条件下(等温変化)で、気体の圧力が体積に反比例するという法則です。
  4. 力のつりあい: 物体が静止しているとき、その物体に働く力のベクトル和はゼロになります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、ピストンが自由に動くことから内部の圧力が大気圧で一定であること(定圧変化)を見抜き、シャルルの法則を適用して温度変化後の気体の長さを求めます。
  2. (2)では、まず温度一定のままピストンを動かすので、気体AとBがそれぞれ等温変化することからボイルの法則を用いて変化後の圧力を求めます。次に、連結されたピストンに働く力のつりあいの式を立て、加えた力を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
容器Aの気体の温度を上昇させたときの、気体部分の長さを求める問題です。「自由に動くピストン」であり、「ゆっくり移動」することから、この過程でピストンの内外の圧力が常につりあっている、すなわち容器内の気体の圧力が常に大気圧 \(p_0\) で一定であると判断することが最も重要です。これは「定圧変化」にあたり、シャルルの法則を適用できます。
この設問における重要なポイント

  • 自由に動くピストンは、内部の気体の圧力が外部の圧力(大気圧)と等しいことを意味する。
  • 圧力が一定のまま温度と体積が変化する場合、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) が成り立つ。
  • 気体の体積 \(V\) は、断面積 \(S\) と長さ \(L\) を用いて \(V = SL\) と表せる。

具体的な解説と立式
変化前の気体の状態を「状態1」、温度を上昇させた後の状態を「状態2」とします。求める気体の長さを \(L\) とおきます。

状態1(変化前):
圧力 \(p_1 = p_0\)
絶対温度 \(T_1 = T_0\)
体積 \(V_1 = Sl\)

状態2(変化後):
圧力 \(p_2 = p_0\) (定圧変化のため)
絶対温度 \(T_2 = T_0 + t\)
体積 \(V_2 = SL\)

この変化は定圧変化なので、シャルルの法則が成り立ちます。
$$ \frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2} $$
それぞれの状態の体積と温度を代入すると、以下の関係式が得られます。
$$ \frac{Sl}{T_0} = \frac{SL}{T_0 + t} \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\)
  • 圧力の定義に基づく力のつりあい(定圧変化の根拠)
計算過程

式①の両辺から断面積 \(S\) を消去すると、
$$ \frac{l}{T_0} = \frac{L}{T_0 + t} $$
この式を \(L\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{T_0 + t}{T_0} l \\[2.0ex]
&= \left( 1 + \frac{t}{T_0} \right) l
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ピストンが自由に動けるので、中の気体の圧力は外の大気圧とずっと同じです。このように圧力が一定のまま温度を上げると、気体は膨張します。このとき、「体積 ÷ 絶対温度」の値が変化しないという「シャルルの法則」が使えます。はじめの状態と後の状態でこの値が等しいという式を立てます。
「はじめの体積 \(Sl\) ÷ はじめの絶対温度 \(T_0\)」 = 「後の体積 \(SL\) ÷ 後の絶対温度 \((T_0 + t)\)」。
この式を、求めたい「後の長さ \(L\)」について解くと、答えが得られます。

結論と吟味

Aの気体の入っている部分の長さは \(\left( 1 + \displaystyle\frac{t}{T_0} \right) l\) となります。
温度を上昇させているので \(t>0\) であり、\(\left( 1 + \displaystyle\frac{t}{T_0} \right) > 1\) となります。したがって、長さ \(L\) は元の長さ \(l\) よりも長くなり、気体が熱膨張したという物理的な状況と一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) \(\left( 1 + \displaystyle\frac{t}{T_0} \right) l\)

問(2)

思考の道筋とポイント
連結されたピストンに右向きの力 \(F\) を加えて \(x\) だけ動かしたとき、その力の大きさを求める問題です。ピストンが静止してつりあっているため、「力のつりあい」の考え方を用います。ピストンには、加えた外力 \(F\) のほかに、容器A内の気体が押す力と容器B内の気体が押す力が働きます。これらの力を求めるために、まず各気体の圧力を計算する必要があります。問題文に「温度を常に \(T_0\) に保ちながら」とあるため、気体A、Bの変化は「等温変化」であり、ボイルの法則が適用できます。
この設問における重要なポイント

  • 温度が一定のまま圧力と体積が変化する場合、ボイルの法則 \(PV = \text{一定}\) が成り立つ。
  • ピストンが静止している状態では、ピストンに働く力の合計はゼロである(力のつりあい)。
  • 気体がピストンを押す力は、気体の圧力 \(P\) とピストンの断面積 \(S\) の積 \(PS\) で与えられる。

具体的な解説と立式
まず、力を加える前の初期状態と、力を加えてつりあった後の最終状態について、気体の圧力と体積を整理します。加えた力の大きさを \(F\) とします。

初期状態:
容器A, B内の気体はともに、問題文の条件と(1)の初期状態から、圧力が大気圧 \(p_0\) に等しいと考えられます。
圧力 \(p_{\text{A,初}} = p_{\text{B,初}} = p_0\)
体積 \(V_{\text{A,初}} = V_{\text{B,初}} = Sl\)
温度 \(T_{\text{A,初}} = T_{\text{B,初}} = T_0\)

最終状態(ピストンが右に \(x\) 移動後):
気体A:
体積は \(V_A = S(l+x)\) に増加します。このときの圧力を \(p_A\) とします。
気体B:
体積は \(V_B = S(l-x)\) に減少します。このときの圧力を \(p_B\) とします。

気体A, Bともに等温変化なので、ボイルの法則を適用します。
気体Aについて: \(p_0 V_{\text{A,初}} = p_A V_A\)
$$ p_0 (Sl) = p_A S(l+x) \quad \cdots ① $$
気体Bについて: \(p_0 V_{\text{B,初}} = p_B V_B\)
$$ p_0 (Sl) = p_B S(l-x) \quad \cdots ② $$

次に、連結されたピストン全体の力のつりあいを考えます。ピストンには、以下の3つの力が水平方向に働きます。

  1. 気体Aがピストンを右向きに押す力: \(p_A S\)
  2. 加えた右向きの外力: \(F\)
  3. 気体Bがピストンを左向きに押す力: \(p_B S\)

力のつりあいの式は、右向きの力の和と左向きの力の和が等しいことから、
$$ p_A S + F = p_B S \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • ボイルの法則: \(PV = \text{一定}\)
  • 力のつりあい: \(\sum F_{\text{右向き}} = \sum F_{\text{左向き}}\)
  • 圧力と力の関係: \(F = PS\)
計算過程

まず、式①と②から、最終状態の圧力 \(p_A\) と \(p_B\) を求めます。
式①より、
$$
\begin{aligned}
p_A S(l+x) &= p_0 S l \\[2.0ex]
p_A &= p_0 \frac{l}{l+x}
\end{aligned}
$$
式②より、
$$
\begin{aligned}
p_B S(l-x) &= p_0 S l \\[2.0ex]
p_B &= p_0 \frac{l}{l-x}
\end{aligned}
$$
次に、これらの圧力の式を、力のつりあいの式③を変形した \(F = p_B S – p_A S\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= (p_B – p_A)S \\[2.0ex]
&= \left( p_0 \frac{l}{l-x} – p_0 \frac{l}{l+x} \right) S \\[2.0ex]
&= p_0 S l \left( \frac{1}{l-x} – \frac{1}{l+x} \right) \\[2.0ex]
&= p_0 S l \left( \frac{(l+x) – (l-x)}{(l-x)(l+x)} \right) \\[2.0ex]
&= p_0 S l \left( \frac{l+x-l+x}{l^2 – x^2} \right) \\[2.0ex]
&= p_0 S l \left( \frac{2x}{l^2 – x^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2 p_0 S l x}{l^2 – x^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ピストンを右に \(x\) だけ押すと、Aの部屋は \(l+x\) に広がり、Bの部屋は \(l-x\) に狭くなります。温度は変わらないので、Aの気圧は下がり、Bの気圧は上がります。この気圧の変化は「ボイルの法則(圧力×体積=一定)」を使って計算できます。
まず、AとBの新しい気圧を、はじめの気圧 \(p_0\) と体積 \(Sl\) を使ってそれぞれ求めます。
次に、ピストンが止まっているのは、力がつりあっているからです。ピストンには「加えた力 \(F\)」と「Aの気体が押す力」が右向きに、「Bの気体が押す力」が左向きに働いています。「右向きの力の合計=左向きの力」というつりあいの式を立て、先ほど計算したAとBの新しい気圧(に面積Sを掛けた力)を代入して、加えた力 \(F\) を求めます。

結論と吟味

ピストンに加えた力の大きさは \(\displaystyle\frac{2 p_0 S l x}{l^2 – x^2}\) です。
この式は、移動距離 \(x\) が大きいほど、また初期圧力 \(p_0\) や断面積 \(S\) が大きいほど、必要な力 \(F\) が大きくなることを示しており、直感と一致します。特に、\(x\) が \(l\) に近づくと(気体Bを潰しきる寸前)、分母が0に近づくため \(F\) は無限大に発散します。これは、体積をゼロにするには無限の力が必要であることを意味し、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{2 p_0 S l x}{l^2 – x^2}\)

 


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