波動範囲 66~70
66 くさび形薄膜による干渉
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている、透過光の干渉を直接考察する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: エネルギー保存則に基づく「反射と透過の逆条件」を用いる解法
- 模範解答でも示唆されているアプローチです。主たる解法が透過光の光路差と位相変化を直接計算するのに対し、別解ではエネルギー保存則を根拠に「透過光の強め合いは反射光の弱め合いに等しい」という関係を利用し、EX問題の結果から簡潔に答えを導きます。
- 別解: エネルギー保存則に基づく「反射と透過の逆条件」を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 反射と透過がエネルギー保存則によって結びついた相補的な現象であるという、より高い視点からの理解が得られます。
- 解法の効率化: EX問題の結果が利用できる場合、複雑な光路差や位相変化の計算を省略できる、非常に強力なショートカットになります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「くさび形空気層による透過光の干渉」です。EX問題で扱った反射光とは対照的に、薄膜を透過していく光どうしが干渉する条件を考える問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 透過光の干渉に関わる光線: 干渉を考える際には、主にどの光線どうしが重なり合うかを特定することが重要です。透過光の場合、①一度も反射せずにまっすぐ透過する光と、②空気層の内部で2回反射してから透過する光が干渉の主役となります。
- 光路差: 干渉する2つの光の光路差は、反射光の場合と同じく、空気層を往復する距離 \(2d\) となります。
- 反射における位相変化: 透過光の干渉を考える際も、光線が経由する反射での位相変化を考慮する必要があります。今回は空気層の内部からガラス面へ向かう反射を考えます。
- 幾何学的関係: くさび形の頂点からの距離\(x\)と、その位置での膜厚\(d\)の関係が、角度\(\theta\)が非常に小さいとき \(d \approx x\theta\) と近似できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 干渉しあう2つの透過光(直接透過光と2回内部反射後の透過光)を特定する。
- 2つの光の光路差が \(2d\) であることを確認する。
- 2回内部反射する光について、反射時の位相変化の有無を判断する。
- 位相変化の合計回数から、干渉条件が「通常通り」であることを確認し、強め合いの条件式を立てる。
- 幾何学的関係 \(d \approx x\theta\) を代入し、明線の位置\(x\)を求める式を導出する。
透過光で明線が見える位置
思考の道筋とポイント
この問題では、くさび形の空気層を「通り抜けた」光の干渉を考えます。主な透過光は、①空気層を素通りする光と、②空気層の内部で2回(下面→上面)反射してから通り抜ける光です。この2つの光が干渉しあうと考えます。
ポイントは、光路差の計算はEX問題の反射光の場合と全く同じであること、そして、内部で2回反射するときの位相変化がどうなるかを判断することです。
今回は、2回の反射が両方とも屈折率の「小→大」の境界(空気→ガラス)で起こるため、両方とも位相が\(\pi\)ずれます。結果として、2つの光の間の位相差は生じず、干渉条件は「通常通り」となります。
この設問における重要なポイント
- 干渉する光: ①直接透過光 と ②2回内部反射後の透過光。
- 光路差: \(2d \approx 2x\theta\)。
- 内部反射(下面:空気→下のガラス): 屈折率 小→大 なので、位相が\(\pi\)ずれる。
- 内部反射(上面:空気→上のガラス): 屈折率 小→大 なので、位相が\(\pi\)ずれる。
- 位相変化は合計2回(差は0)\(\rightarrow\) 干渉条件は通常通り。
- 明線の条件: 光路差 \( = m\lambda\)。
具体的な解説と立式
透過光の干渉は、主に以下の2つの光の重ね合わせと考えられます。
- 光a: 空気層を一度も反射せずに、まっすぐ透過する光。
- 光b: 空気層の下面で反射し、さらに上面で反射した後、下面を透過していく光。
この2つの光の光路差\(L\)は、光bが空気層を厚さ\(d\)の距離だけ往復する分であり、
$$ L = 2d $$
となります。EX問題と同様に、幾何学的関係 \(d = x\tan\theta\) と近似 \(\tan\theta \approx \theta\) を用いると、
$$ L \approx 2x\theta $$
となります。
次に、光bが経由する2回の反射における位相変化を調べます。
- 下面での反射(空気 \(\rightarrow\) 下のガラス): 屈折率が小さい媒質(空気)から大きい媒質(ガラス)へ向かう境界での反射なので、位相が \(\pi\) ずれます(固定端反射)。
- 上面での反射(空気 \(\rightarrow\) 上のガラス): こちらも同様に、屈折率が小さい媒質から大きい媒質へ向かう境界での反射なので、位相が \(\pi\) ずれます(固定端反射)。
光bは2回の反射で合計\(2\pi\)の位相変化を受けますが、これは位相が1周して元に戻るのと同じなので、実質的に位相は変化していないと見なせます。光aはもちろん反射しないので位相は変化しません。
したがって、2つの光の間には反射による位相差は生じず、干渉条件は「通常通り」となります。
透過光が強め合う(明線が見える)条件は、光路差が波長の整数倍になるときなので、
$$ L = m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
光路差の近似式を代入すると、
$$ 2x\theta = m\lambda $$
これが求める条件式です。
使用した物理公式
- 薄膜干渉の光路差: \(2d\)
- 明線の条件(反射で位相が0回または2回ずれる場合): 光路差 \( = m\lambda\)
- 幾何学的関係(微小角の近似): \(d \approx x\theta\)
上記で立式した \(2x\theta = m\lambda\) を、明線の位置\(x\)について解きます。
$$ x = \frac{m\lambda}{2\theta} $$
これ以上の計算は不要です。
今度は、ガラス板を通り抜けた光の干渉を考えます。通り抜ける光には、まっすぐ進む「エリート」の光と、空気の層で2回(床と天井で1回ずつ)反射してから進む「寄り道組」の光がいます。この2つが干渉します。
「寄り道組」が反射する床も天井も、どちらも空気より硬いガラスです。そのため、2回の反射で2回とも波がひっくり返ります。2回ひっくり返ると、結局元通りになるので、「エリート」とのタイミングのずれは生じません。
したがって、干渉のルールは「通常通り」となり、道のりの差(空気層の往復距離)が波長のちょうど整数倍になれば、2つの光は強め合って明るく見えます。
透過光で明線が見える位置は \(x = \frac{m\lambda}{2\theta}\) と求められました。EX問題の解答を見ると、これは反射光で「暗線」が見える位置の条件と全く同じです。これは、後述の別解で示すように「反射と透過は逆条件」という物理的に妥当な関係が成り立っていることを示しています。
思考の道筋とポイント
光路差や位相変化を直接計算する代わりに、より大局的な物理法則である「エネルギー保存則」を利用して答えを導く、非常にエレガントなアプローチです。EX問題の結果を直接利用できるため、計算を大幅に簡略化できます。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: 入射光強度 = 反射光強度 + 透過光強度。
- 反射と透過の逆条件: 反射光が極小(暗線) \(\iff\) 透過光が極大(明線)。
- EX問題の暗線条件を流用する。
具体的な解説と立式
光が薄膜に入射するとき、そのエネルギーは反射光と透過光に分配されます(膜自身が光を吸収しないと仮定)。
$$ (\text{入射光の強さ}) = (\text{反射光の強さ}) + (\text{透過光の強さ}) $$
このエネルギー保存則から、以下の相補的な関係が成り立ちます。
- 反射光が干渉によって最も弱め合う(暗線)場所では、反射されなかったエネルギーがすべて透過するため、透過光は最も強め合います(明線)。
したがって、「透過光が強め合う条件」は、「反射光が弱め合う(暗線)条件」と全く同じになります。
EX問題の解答から、反射光の暗線の条件式を引用します。
$$ 2d = m\lambda $$
ここに、幾何学的関係 \(d = x\tan\theta \approx x\theta\) を代入すると、
$$ 2x\theta = m\lambda $$
これが、透過光の明線の条件式となります。
使用した物理公式
- エネルギー保存則から導かれる「反射と透過の逆条件」
- EX問題の暗線条件: \(2d = m\lambda\)
上記で立式した \(2x\theta = m\lambda\) を、明線の位置\(x\)について解きます。
$$ x = \frac{m\lambda}{2\theta} $$
主たる解法の結果と完全に一致しました。
物理には「エネルギー保存の法則」という便利なルールがあります。ガラスに当たった光のエネルギーは、反射する光と通り抜ける光に分けられます。
もし、反射する光が干渉で打ち消し合って暗くなったら、その分のエネルギーはすべて通り抜ける光になるので、透過光は明るくなります。
つまり、「反射が暗い場所」=「透過が明るい場所」という逆の関係が成り立ちます。
この問題は「透過光が明るくなる(明線)位置」を聞いていますが、それはつまり、EX問題で考えた「反射光が暗くなる(暗線)位置」と同じことです。
したがって、EX問題の暗線の答えをそのまま持ってくれば、それが今回の答えになります。
主たる解法と全く同じ結果 \(x = \frac{m\lambda}{2\theta}\) が得られました。この別解は、物理法則の間の深いつながりを示しており、一度理解すれば非常に強力な思考ツールとなります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 透過光の干渉条件と「反射と透過の逆条件」:
- 核心: この問題の根幹は、薄膜を透過する光の干渉条件を正しく導出することです。そのアプローチは2つあり、1つは透過光の経路をたどり光路差と位相変化を直接計算する方法、もう1つは「エネルギー保存則」を背景とした「反射と透過は逆の条件になる」という強力な関係を用いる方法です。
- 理解のポイント:
- 直接計算する場合の位相変化: 透過光の干渉を考える際、主役となるのは「直接透過する光」と「膜内で2回反射してから透過する光」です。この2回の内部反射(空気→ガラス)は、いずれも屈折率が「小→大」の境界で起こるため、両方とも位相が\(\pi\)ずれます。結果として、反射による位相差は \(2\pi – 0 = 0\)(実質ゼロ)となり、干渉条件は「通常通り」となります。
- 「反射と透過の逆条件」の物理的背景: 光が薄膜に当たるとき、エネルギーは反射光と透過光に分配されます。もし反射光が干渉によって完全に打ち消し合えば(暗くなれば)、その分のエネルギーは保存されるために透過光に上乗せされ、透過光は強め合います(明るくなります)。この相補的な関係が「逆条件」の根拠です。
- 条件の対応関係:
- 反射光の強め合い \(\iff\) 透過光の弱め合い
- 反射光の弱め合い \(\iff\) 透過光の強め合い
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- あらゆる薄膜干渉問題: シャボン玉や油膜、ニュートンリングなど、あらゆる薄膜干渉の問題において、反射光の条件が分かれば、透過光の条件は自動的にその逆となります。両方を問われた場合、片方を計算すればもう一方はすぐに分かります。
- 誘電体多層膜ミラー: 特定の波長の光だけを強く反射し、他は透過させる特殊な鏡。これは、複数の薄膜を重ねることで、反射光の強め合いと弱め合いを波長に応じて制御する技術で、本問の原理の高度な応用例です。
- 初見の問題での着眼点:
- 「反射光」か「透過光」かの確認: まず、問題がどちらの光の干渉について問うているのかを明確にします。
- 直接計算か、逆条件を利用するかの判断:
- もし、前問などで反射光の条件がすでに分かっている場合、あるいは簡単に求められる場合は、「逆条件」を利用するのが最も速く、確実です。
- 単独で透過光の条件を問われた場合は、主たる解法のように、干渉する光線(直接透過光と2回内部反射光)を特定し、その光路差と位相変化を直接計算します。
- 内部反射の位相変化に注意: 透過光の干渉を直接計算する場合、考えるべき反射はすべて膜の「内部」で起こります。屈折率の大小関係を、膜の内側から外側へ向かう視点で正しく判断する必要があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 干渉する光線の取り違え:
- 誤解: 透過光の干渉を考える際に、どの光とどの光が干渉するのかを正しく特定できない。
- 対策: 透過光の干渉では、強度が最も近い光線どうしが主に干渉します。それは「0回反射して透過する光」と「2回反射して透過する光」です。「4回反射する光」なども存在しますが、反射のたびに強度が弱まるため、干渉への寄与は小さいと考え、通常はこの2つの光線で考えます。
- 透過光の位相変化の誤解:
- 誤解: 透過する際に位相が変化するのではないかと考えてしまう。
- 対策: 位相が\(\pi\)ずれる可能性があるのは「反射」のときだけです。光が媒質の境界を「透過(屈折)」する際には、位相は変化しません。このルールを明確に区別しましょう。
- 「逆条件」の適用の混乱:
- 誤解: 「反射と透過は逆」という言葉だけを覚えてしまい、どちらがどちらの逆なのかを混同する。
- 対策: エネルギー保存のイメージで論理的に導きましょう。「反射が消えれば、その分が透過に回って強くなる」と考えれば、「反射の弱め合い \(\iff\) 透過の強め合い」という正しい関係を間違えることはありません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 透過光の干渉条件の直接導出:
- 選定理由: これは、物理現象をその基本に立ち返って分析する、最も正攻法なアプローチです。干渉する2つの波を特定し、それらの光路差と位相差を計算し、強め合いの条件(全位相差が \(2\pi\) の整数倍)を適用するという、あらゆる干渉問題に共通する普遍的な手順を踏んでいます。
- 適用根拠: 透過光も光波である以上、重ね合わせの原理に従います。したがって、複数の経路を通ってきた透過光が同じ場所で観測されれば、それらは必ず干渉します。その干渉の条件を、光路差と反射による位相変化を用いて定量的に記述することは、物理的に完全に正当化されます。
- 「反射と透過の逆条件」の利用(別解):
- 選定理由: より高い物理法則(エネルギー保存則)を利用することで、複雑な計算を回避し、問題の本質を突くエレガントな解法です。特に、反射光の条件がすでに分かっている場合には、このアプローチが圧倒的に効率的です。
- 適用根拠: 膜での吸収や散乱が無視できる理想的な状況では、入射光のエネルギーは反射光と透過光のエネルギーに厳密に保存されます。この保存則が成り立つ限り、「反射光の強度+透過光の強度=一定」という関係が保証され、一方の極大が他方の極小に対応するという「逆条件」が成立します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- この問題は文字式の導出が主であり、論理的な構築ミスを防ぐことが重要です。
- 反射と透過の条件をセットで覚える: 薄膜干渉を学習する際は、反射光の条件と透過光の条件をセットで導出し、それらが常に逆の関係になっていることを確認する習慣をつけましょう。
- 例(空気-膜-空気):
- 反射: ずれ1回 \(\rightarrow\) 逆転条件
- 透過: ずれ0回 \(\rightarrow\) 通常条件
- 例(空気-膜-ガラス, \(n_{\text{膜}}<n_{\text{ガラス}}\)):
- 反射: ずれ2回 \(\rightarrow\) 通常条件
- 透過: ずれ2回 \(\rightarrow\) 通常条件(※このケースは注意が必要。透過光の干渉では内部反射の位相変化を考えるため、結果的に通常条件となる)
- 例(空気-膜-空気):
- 思考のフローチャート化: 「薄膜干渉の問題か? \(\rightarrow\) 反射光か透過光か? \(\rightarrow\) 媒質の構造と屈折率は? \(\rightarrow\) 位相変化は何回か? \(\rightarrow\) 通常条件か逆転条件か? \(\rightarrow\) 求めるのは強め合いか弱め合いか?」というように、自分の思考プロセスをフローチャートのように整理しておくと、どの問題でも迷わず正しい条件式を選択できるようになります。
67 くさび形薄膜による干渉
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている、隣り合う明線間の光路差の変化に着目する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 干渉の条件式から明線間隔の公式を導出する解法
- 主たる解法が隣り合う明線間の「変化量」の関係から直接立式するのに対し、別解ではまず特定の次数\(m\)の明線ができる位置の条件式を立て、そこから明線間隔の公式を導出した上で、数値を代入して答えを求めます。より基本的な原理から出発するアプローチです。
- 別解: 干渉の条件式から明線間隔の公式を導出する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 明線間隔の公式が、より基本的な干渉条件式からどのように導出されるのか、その論理的なつながりを理解することができます。
- 思考の網羅性: 「特定の点の条件」と「点と点の間の変化量」という、物理問題を解く上での2つの異なる視点を学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、導出される計算式や最終的な答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「くさび形空気層の干渉」です。EX問題で扱った原理を応用し、観測された干渉縞の間隔という実験結果から、くさび形を作っている紙の厚さを逆算する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 隣り合う明線間の光路差の変化: 隣り合う明線では、光路差がちょうど1波長\(\lambda\)だけ変化していること。
- 光路差と膜厚の関係: くさび形空気層では、光路差は空気層の厚さ\(d\)の2倍、すなわち\(2d\)であること。
- 幾何学的関係: くさび形の傾き\(\tan\theta\)が、①隣り合う明線間の厚さの変化\(\Delta d\)と間隔\(\Delta x\)の関係(\(\Delta d / \Delta x\))、②全体の厚さ\(D\)と長さ\(L\)の関係(\(D/L\))、という2通りで表せること。
- 単位換算: nm, cm, mmといった複数の単位を正しく扱い、計算を遂行すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 隣り合う明線では光路差が\(\lambda\)変化することから、厚さの変化\(\Delta d\)が\(\lambda/2\)に等しいという関係を導く。
- 幾何学的な関係 \(\tan\theta = \Delta d / \Delta x\) を用いて、くさびの傾き\(\tan\theta\)を\(\lambda\)と\(\Delta x\)で表す。
- もう一つの幾何学的な関係 \(\tan\theta = D/L\) と等しいとおき、紙の厚さ\(D\)を求める式を導出する。
- 与えられた数値を代入して\(D\)を計算する。
紙の厚さ
思考の道筋とポイント
この問題は、観測結果(「1 cm あたり 8 本の明線」)から、その原因である装置の形状(紙の厚さ \(D\))を求める逆問題です。
まず、観測結果から明線1本あたりの間隔\(\Delta x\)を計算します。次に、物理法則に立ち返り、隣り合う明線ができる場所では、空気層の厚さがどれだけ違うのか(\(\Delta d\))を考えます。この\(\Delta d\)と\(\Delta x\)の関係から、くさびの傾き\(\tan\theta\)が分かります。
最後に、この傾きはガラス全体の長さ\(L\)と端にはさんだ紙の厚さ\(D\)によっても決まる(\(\tan\theta = D/L\))ので、この2つの関係を結びつけることで、未知数である紙の厚さ\(D\)を計算することができます。
この設問における重要なポイント
- 明線間隔 \(\Delta x\) は「1 cm あたり 8 本」の逆数。
- 隣り合う明線では、光路差\(2d\)が\(\lambda\)だけ変化する。よって、厚さ\(d\)の変化は\(\lambda/2\)。
- くさびの傾き\(\tan\theta\)を、ミクロな視点(\(\Delta d / \Delta x\))とマクロな視点(\(D/L\))の2通りで表し、等しいとおく。
- 単位換算(nm, cm, mm)を正確に行う。
具体的な解説と立式
隣り合う明線の位置の差を\(\Delta x\)、その間の空気層の厚さの差を\(\Delta d\)とします。
干渉光の光路差は\(2d\)です。隣り合う明線では、光路差がちょうど1波長\(\lambda\)だけ異なるため、
$$ 2(d+\Delta d) – 2d = \lambda $$
これを整理すると、
$$ 2\Delta d = \lambda \quad \text{より} \quad \Delta d = \frac{\lambda}{2} $$
となります。
一方、くさび形の幾何学的な形状から、傾き\(\tan\theta\)は、ミクロに見ると隣り合う明線間の厚さの変化と間隔の比で表せます。
$$ \tan\theta = \frac{\Delta d}{\Delta x} $$
ここに先ほどの\(\Delta d = \lambda/2\)を代入すると、
$$ \tan\theta = \frac{\lambda/2}{\Delta x} = \frac{\lambda}{2\Delta x} \quad \cdots ① $$
また、マクロに見ると、くさび全体の長さ\(L\)と端の厚さ\(D\)の比でも表せます。
$$ \tan\theta = \frac{D}{L} \quad \cdots ② $$
①と②は同じ傾き\(\tan\theta\)を表しているので、等しいとおくことができます。
$$ \frac{D}{L} = \frac{\lambda}{2\Delta x} $$
この式を、求めたい紙の厚さ\(D\)について解きます。
$$ D = \frac{\lambda L}{2\Delta x} $$
使用した物理公式
- 隣り合う明線間の光路差の変化: \(\Delta L = \lambda\)
- 幾何学的関係: \(\tan\theta = \Delta d / \Delta x = D/L\)
まず、与えられた数値をすべてSI基本単位であるメートル[m]に変換します。
- \(\lambda = 500 \, \text{nm} = 500 \times 10^{-9} \, \text{m} = 5.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)
- \(L = 10 \, \text{cm} = 0.10 \, \text{m}\)
- 明線間隔\(\Delta x\)は、「1 cm あたり 8 本」なので、1本あたりの間隔はその逆数です。
\(\Delta x = \frac{1}{8} \, \text{cm} = 0.125 \, \text{cm} = 0.125 \times 10^{-2} \, \text{m}\)
これらの値を、\(D\)を求める式に代入します。
$$
\begin{aligned}
D &= \frac{\lambda L}{2\Delta x} \\[2.0ex]
&= \frac{(5.0 \times 10^{-7}) \times 0.10}{2 \times (0.125 \times 10^{-2})} \\[2.0ex]
&= \frac{0.50 \times 10^{-7}}{0.25 \times 10^{-2}} \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 10^{-5} \, (\text{m})
\end{aligned}
$$
最後に、問題で指定されている単位 [mm] に変換します。\(1 \, \text{m} = 10^3 \, \text{mm}\) なので、
$$
\begin{aligned}
D &= 2.0 \times 10^{-5} \times 10^3 \, (\text{mm}) \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 10^{-2} \, (\text{mm})
\end{aligned}
$$
ガラスのすき間にできる虹色の縞模様の間隔から、すき間の傾き具合、ひいては端にはさんだ紙の厚さを当てる問題です。
まず、「1 cm に 8 本」という情報から、縞模様1本分の幅が \(1/8 \, \text{cm}\) だとわかります。
物理の法則で、隣の縞模様に移るには、空気層の厚さがちょうど光の波長の半分だけ変化する必要があることがわかっています。
この2つの情報(「横に \(1/8 \, \text{cm}\) 進むと、縦に波長の半分だけ厚くなる」)から、ガラスの傾きが計算できます。
最後に、この傾きは、ガラス全体の長さ(10 cm)と端にはさんだ紙の厚さでも決まるので、そこから逆算して紙の厚さを求めることができます。
紙の厚さは \(2.0 \times 10^{-2} \, \text{mm}\) と求められました。これは 0.02 mm に相当し、非常に薄い紙(ティッシュペーパーなど)の厚さとして物理的に妥当な値です。
思考の道筋とポイント
まず、\(m\)番目の明線ができる位置\(x\)の条件式を、光路差と位相変化から導出します。次に、その式から明線間隔\(\Delta x\)の公式を求め、与えられた数値を代入して、くさびの傾き、そして紙の厚さを逆算する、より基本的な原理から出発するアプローチです。
この設問における重要なポイント
- 光路差 \(2d\)、位相変化1回より、明線条件は \(2d = (m+1/2)\lambda\)。
- 幾何学的関係 \(d \approx x\theta\) を用いて、明線の位置\(x_m\)の式を導出する。
- \(x_m\)の式から、明線間隔\(\Delta x\)の公式を導出する。
- \(\Delta x\)の公式と、全体の形状(\(\theta \approx D/L\))を結びつける。
具体的な解説と立式
EX問題で確認したように、くさび形空気層の反射光では、位相変化が1回起こるため、明線の条件は「逆転条件」となります。距離\(x\)の位置での空気層の厚さを\(d\)とすると、
$$ 2d = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
ここで、幾何学的関係 \(d = x\tan\theta\) と、\(\theta\)が非常に小さいという近似 \(\tan\theta \approx \theta\) を用いると、\(d \approx x\theta\) となります。これを代入すると、\(m\)番目の明線の位置\(x_m\)は、
$$ 2x_m\theta = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
を満たします。これを\(x_m\)について解くと、
$$ x_m = \left(m + \frac{1}{2}\right)\frac{\lambda}{2\theta} $$
隣り合う明線の間隔\(\Delta x\)は、\(m\)が1増えたときの位置との差なので、
$$ \Delta x = x_{m+1} – x_m = \frac{\lambda}{2\theta} $$
となります。
一方、くさび全体の形状から、傾き\(\theta\)は\(\tan\theta \approx \theta \approx D/L\)と表せます。これを代入すると、
$$ \Delta x = \frac{\lambda}{2(D/L)} = \frac{\lambda L}{2D} $$
この式を、求めたい紙の厚さ\(D\)について解きます。
$$ D = \frac{\lambda L}{2\Delta x} $$
使用した物理公式
- くさび形空気層の明線条件: \(2d = (m+1/2)\lambda\)
- 明線間隔の公式: \(\Delta x = \frac{\lambda}{2\theta}\)
- 幾何学的関係: \(\theta \approx D/L\)
主たる解法で導出した式 \(D = \frac{\lambda L}{2\Delta x}\) と全く同じ式が得られました。
したがって、これ以降の数値計算も主たる解法と同一であり、
$$ D = 2.0 \times 10^{-2} \, (\text{mm}) $$
となります。
まず、物理の基本ルール(光路差と位相)から、「\(m\)番目の明るい縞は、ここ!」という位置を計算する一般式を作ります。
次に、その式を使って、「\(m\)番目」と「\(m+1\)番目」の縞の位置の差、つまり縞と縞の間隔を計算する公式を導きます。
この公式には、くさびの傾き\(\theta\)が含まれています。一方、傾き\(\theta\)は、ガラスの長さ\(L\)と紙の厚さ\(D\)でも表すことができます。
この2つの関係を結びつけることで、紙の厚さ\(D\)を求める最終的な式を組み立て、数値を代入して答えを計算します。
より基本的な干渉条件式から出発しても、主たる解法と全く同じ結果が得られました。これにより、明線間隔に関する公式の正しさと、それを用いた解法の妥当性が確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ミクロな干渉条件とマクロな形状の関連付け:
- 核心: この問題の根幹は、目に見えないミクロなスケールの物理現象(光の波長\(\lambda\)と、それによって決まる厚さの変化\(\Delta d\))と、我々が測定できるマクロなスケールの量(干渉縞の間隔\(\Delta x\)やガラス板の長さ\(L\)、紙の厚さ\(D\))を、くさび形の「傾き\(\theta\)」を仲介役として結びつけることにあります。
- 理解のポイント:
- ミクロな関係(物理法則): 隣り合う明線では、光路差\(2d\)がちょうど1波長\(\lambda\)だけ変化します。これは、空気層の厚さ\(d\)が\(\lambda/2\)だけ変化することを意味します。したがって、ミクロな視点での傾きは \(\tan\theta = \frac{\Delta d}{\Delta x} = \frac{\lambda/2}{\Delta x}\) と表せます。
- マクロな関係(幾何学): くさび形全体の形状を見ると、傾きは単純に \(\tan\theta = \frac{D}{L}\) と表せます。
- 橋渡し: この2つの表現は、同じ「傾き」を表しているため、等しいと置くことができます。 \(\frac{D}{L} = \frac{\lambda}{2\Delta x}\) 。この式が、ミクロな世界の物理法則とマクロな世界の測定値を結びつける「橋」となり、問題を解く鍵となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ニュートンリングの曲率半径を求める問題: ニュートンリングの干渉縞の間隔から、レンズの曲率半径\(R\)を求める問題。これも、ミクロな視点(隣り合う明環での厚さの変化)とマクロな視点(レンズの球面形状から導かれる厚さと半径の関係)を結びつけることで解くことができます。
- 熱膨張による干渉縞の変化: くさび形空気層を加熱し、ガラス板やスペーサー(紙)が熱膨張した結果、干渉縞の間隔がどう変わるか、あるいは何本移動するかを問う問題。熱膨張による\(L\)や\(D\)の変化が、傾き\(\theta\)を変化させ、\(\Delta x\)に影響を及ぼすと考えます。
- 表面の凹凸検査: 精密に研磨された平面の上に検査対象の物体を置き、光の干渉縞を観察することで、物体の表面の微小な凹凸を測定する技術。縞がまっすぐなら平面、曲がっていれば凹凸があることがわかり、縞の曲がり具合から凹凸の高さを計算できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 観測量の特定: 問題文から、実験で観測された量は何かを読み取ります。今回は「1 cm あたり 8 本の明線」であり、これは明線間隔\(\Delta x\)の情報です。
- 未知数の特定: 求めたい量は何かを確認します。今回は「紙の厚さ\(D\)」です。
- 仲介役となる物理量の発見: 観測量(\(\Delta x\))と未知数(\(D\))を直接結びつけるのは困難です。両者に関係する共通の物理量、すなわち「傾き\(\theta\)」が仲介役になることを見抜きます。
- 2つの視点からの立式: 仲介役である\(\theta\)を、①ミクロな干渉条件から(\(\Delta x, \lambda\)を用いて)、②マクロな装置形状から(\(D, L\)を用いて)の2通りで表し、それらを等しいと置くことで方程式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 明線間隔\(\Delta x\)の計算ミス:
- 誤解: 「1 cm あたり 8 本」という情報を、\(\Delta x = 8 \, \text{cm}\) や \(\Delta x = 1/8\) [単位なし] のように誤って解釈してしまう。
- 対策: 「〜あたり」という表現は割り算を意味します。「8本 / 1cm」は「縞の密度」であり、求めたい「縞の間隔」はその逆数である「1cm / 8本」= \(1/8\) [cm/本] となります。単位まで含めて考える癖をつけましょう。
- 光路差と厚さの関係の混同:
- 誤解: 隣り合う明線で厚さの変化\(\Delta d\)が\(\lambda\)だと勘違いしてしまう。
- 対策: 光路差は空気層を「往復」することで生じるため、\(2d\)です。光路差の変化\(\Delta L = 2\Delta d\)が\(\lambda\)に等しいので、厚さの変化\(\Delta d\)は\(\lambda/2\)となります。この「2倍」の関係を常に意識しましょう。
- 単位換算のごちゃ混ぜ:
- 誤解: \(\lambda\)はnm、\(L\)はcm、\(\Delta x\)はcmのまま計算式に代入し、最終的にmmに直そうとして混乱する。
- 対策: 計算を始める前に、すべての物理量をSI基本単位(この場合はメートル)に変換してから式に代入するのが最も安全で確実です。計算結果をmで得た後、最後に要求されている単位(mm)に変換します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 傾き\(\theta\)を介した2つの関係式の連結:
- 選定理由: この問題は、直接測定できないミクロな量(波長)とマクロな量(縞の間隔)の関係、および直接測定できないマクロな量(傾き)と測定できるマクロな量(紙の厚さ)の関係という、2つの異なるスケールの関係を扱っています。これらをつなぐ唯一の共通項が「くさびの傾き\(\theta\)」です。したがって、\(\theta\)を仲介役として2つの式を立て、連立させて解くというアプローチが最も論理的です。
- 適用根拠: くさび形の傾きという幾何学的な性質は、どのスケールで見ても同じはずです。非常に小さい領域(\(\Delta x, \Delta d\))で見たときの傾きも、装置全体(\(L, D\))で見たときの傾きも、物理的に同一です。したがって、\(\tan\theta = \frac{\Delta d}{\Delta x}\) と \(\tan\theta = \frac{D}{L}\) を等しいと置くことは、数学的にも物理的にも完全に正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位を揃えてから計算する儀式: 問題文の数値をリストアップする際に、横にSI単位に変換した値も書き出すことを習慣にしましょう。
- \(L = 10 \, \text{cm} = 0.1 \, \text{m}\)
- \(\lambda = 500 \, \text{nm} = 5.0 \times 10^{-7} \, \text{m}\)
- \(\Delta x = 1/8 \, \text{cm} = 0.125 \times 10^{-2} \, \text{m}\)
この一手間が、単位換算ミスを劇的に減らします。
- 分数の割り算を丁寧に行う: \(D = \frac{\lambda L}{2\Delta x}\) のような計算では、まず分子と分母をそれぞれ計算し、最後に割り算を実行します。
- 分子: \((5.0 \times 10^{-7}) \times 0.1 = 0.5 \times 10^{-7}\)
- 分母: \(2 \times (0.125 \times 10^{-2}) = 0.25 \times 10^{-2}\)
- 割り算: \(\frac{0.5}{0.25} \times \frac{10^{-7}}{10^{-2}} = 2 \times 10^{-5}\)
このように段階的に計算することで、ミスを発見しやすくなります。
- 最終的な単位変換の確認: 計算結果(例:\(2.0 \times 10^{-5} \, \text{m}\))が出たら、問題が要求している単位(mm)を再確認し、最後の変換(\(\times 10^3\))を忘れずに行います。
[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]
68 ニュートンリング
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ニュートンリング」です。平面ガラスの上に凸レンズを置き、その間のくさび形の空気層によって生じる光の干渉現象を扱います。観測された干渉縞(暗い輪)の半径から、レンズの形状(球面半径)を逆算する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光路差: レンズ下面で反射する光と平面ガラス上面で反射する光の光路差は、その場所の空気層の厚さ \(d\) を用いて \(2d\) となること。
- 反射における位相変化: 2つの反射面(ガラス→空気、空気→ガラス)で位相がどう変化するかを正しく判断すること。
- 干渉条件の決定: 位相変化の回数から、干渉条件が「逆転」することを見抜き、暗線(弱め合い)の条件式を立てること。
- ニュートンリングの幾何学的関係: レンズの球面半径 \(R\)、暗環の半径 \(r\)、空気層の厚さ \(d\) の間に、近似式 \(d \approx \frac{r^2}{2R}\) が成り立つこと。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- レンズ下面とガラス上面での反射における位相変化を調べ、暗線の条件式を立てる。
- ニュートンリングの幾何学的な関係式 \(d \approx \frac{r^2}{2R}\) を立てる。
- これら2つの式を連立させて、空気層の厚さ \(d\) を消去し、暗環半径 \(r\) と球面半径 \(R\) の関係式を導出する。
- 導出した式に与えられた数値を代入し、球面半径 \(R\) を計算する。