波動範囲 11~15
11 波の式
本解説は、模範解答で採用されている「原点の時間変化から出発する解法」を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(a)の別解: \(t=0\) の波形を表す式から出発し、波形の平行移動として一般式を導く解法
- 模範解答が「原点の時間変化(\(y-t\)グラフ)」から出発するのに対し、別解では「全体の空間的形状(\(y-x\)グラフ)」から出発します。
- 設問(a)の別解: \(t=0\) の波形を表す式から出発し、波形の平行移動として一般式を導く解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 波の式を立てるための2つの代表的な思考法(時間軸基準と空間軸基準)を学ぶことで、波が持つ時間的周期性と空間的周期性の両側面への理解が深まります。
- 思考の柔軟性向上: 数学的な「グラフの平行移動」と物理的な「波の伝播」の明確な対応関係を学ぶことで、問題に応じてより直感的なアプローチを選択できるようになります。
- 解法の効率化: 問題によっては、\(t=0\) の波形から出発する方が、より少ないステップで直感的に式を立てられる場合があります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、三角関数の公式を用いて式を整理すれば、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「波の式 \(y(x, t)\) の導出」です。ある瞬間の波の形(\(y-x\)グラフ)と進行方向の情報から、任意の時刻 \(t\)、任意の位置 \(x\) における媒質の変位 \(y\) を表す一般式を立てる方法を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 原点(\(x=0\))の媒質の単振動の式 \(y(0, t)\) の決定: \(t=0\) のグラフと波の進行方向から、原点の媒質の初期変位と初速度の向きを判断し、\(\sin\), \(\cos\), \(-\sin\), \(-\cos\) のどの基本形で振動するかを特定します。
- 波の伝播による「時間の遅れ」の表現: \(+x\) 方向に進む波の場合、位置 \(x\) での振動は、原点での振動よりも \(x/v\) だけ遅れて起こります。これを数式で \(t\) を \(t – x/v\) に置き換えることで表現します。進行方向が逆(\(-x\)方向)の場合は、\(t\) を \(t + x/v\) に置き換えます。
- 波の基本公式の活用: \(v=f\lambda\) と \(T=1/f\) といった関係式を用いて、式を整理します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各設問の \(t=0\) のグラフと進行方向から、原点(\(x=0\))の媒質の振動が \(\sin\), \(\cos\), \(-\sin\), \(-\cos\) のどの型になるかを見抜きます。
- 原点の単振動の式 \(y(0, t)\) を、振幅 \(A\) と振動数 \(f\) (または周期 \(T\)) を用いて立てます。
- 波の進行方向に応じて、時間の項 \(t\) を \(t – x/v\) ( \(+x\) 方向) または \(t + x/v\) ( \(-x\) 方向) に置き換えて、一般式 \(y(x, t)\) を導出します。
- 最後に \(v=f\lambda\) を用いて式を整理します。
問(a)
思考の道筋とポイント
まず、原点 \(x=0\) の媒質の動きに注目します。\(t=0\) の \(y-x\) グラフと波の進行方向から、原点の媒質の初期状態(変位と速度の向き)を特定し、その単振動の式 \(y_O(t)\) を立てます。次に、波が位置 \(x\) まで伝わるのにかかる時間の「遅れ」を考慮して、一般式 \(y(x, t)\) を導きます。
この設問における重要なポイント
- 原点の初期変位: \(y=0\)
- 原点の初速度の向き: 波が \(+x\) 方向(右)に進むため、原点のすぐ左側にある「谷」が次にやってくる。よって、原点の媒質は \(y\) 軸の負の向きに動き出す。
- \(+x\) 方向への伝播は、時間の項を \(t – x/v\) で置き換えることに相当する。
具体的な解説と立式
1. 原点の単振動の式を立てる
\(t=0\) において、原点 \(O\) の媒質の変位は \(y=0\) です。
波が \(+x\) 方向に進むので、少し時間が経つと、\(x<0\) の領域にあった波形が原点にやってきます。図(a)を見ると、\(x<0\) の領域は谷になっているため、原点の媒質は \(y\) 軸負の向きに動き始めます。
\(t=0\) で \(y=0\) から負の向きに動き始める単振動は \(-\sin\) 型です。
したがって、原点 \(O\) での単振動の式 \(y_O\) は、角振動数を \(\omega=2\pi f\) として、
$$ y_O(t) = -A \sin(\omega t) = -A \sin(2\pi f t) $$
2. 一般式 \(y(x, t)\) を導く
波が原点 \(O\) から位置 \(x\) まで伝わるのにかかる時間は \(\Delta t = x/v\) です。
したがって、位置 \(x\) での振動は、原点 \(O\) での振動よりも \(x/v\) だけ遅れます。
これは、\(y_O(t)\) の式中の時刻 \(t\) を \(t – x/v\) で置き換えることで表現できます。
$$ y(x, t) = y_O\left(t – \frac{x}{v}\right) = -A \sin\left(2\pi f \left(t – \frac{x}{v}\right)\right) $$
使用した物理公式
- 単振動の基本形: \(y = -A \sin(\omega t)\)
- 角振動数と振動数の関係: \(\omega = 2\pi f\)
- 波の伝播による時間の遅れ: \(t \rightarrow t – x/v\)
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
立式した \(y(x, t) = -A \sin\left(2\pi f \left(t – \frac{x}{v}\right)\right)\) を整理します。
$$
\begin{aligned}
y &= -A \sin\left(2\pi \left(ft – \frac{fx}{v}\right)\right)
\end{aligned}
$$
ここで、波の基本式 \(v = f\lambda\) より \(f/v = 1/\lambda\) なので、これを代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= -A \sin\left(2\pi \left(ft – \frac{x}{\lambda}\right)\right)
\end{aligned}
$$
まず、ビデオカメラを原点 \(x=0\) に固定して、そこだけを観察します。\(t=0\) の瞬間、高さはゼロです。波は右に進むので、次にやってくるのは「谷」です。つまり、原点はこれから下に動き始めます。この「原点から下向きにスタート」する動きは、数学の \(-\sin\) カーブと同じです。これが原点の運命 \(y = -A \sin(2\pi f t)\) です。
次に、位置 \(x\) の点の運命を考えます。波が原点から位置 \(x\) まで届くのには、\(x/v\) 秒かかります。つまり、位置 \(x\) での出来事は、原点での出来事より常に \(x/v\) 秒遅れるわけです。この「時間の遅れ」を数式で表現するには、時間の \(t\) を \((t – x/v)\) に書き換えるだけでよいのです。
得られた式 \(y = -A \sin(2\pi(ft – x/\lambda))\) に \(t=0\) を代入してみましょう。
\(y = -A \sin(-2\pi x/\lambda) = A \sin(2\pi x/\lambda)\) となります。
これは、\(x=0\) で \(y=0\)、\(x=\lambda/4\) で \(y=A\) となる \(\sin\) カーブであり、図(a)の \(t=0\) の波形と完全に一致します。よって、この式は正しいと吟味できます。
思考の道筋とポイント
\(t=0\) の波形そのものを数式で表現することから始めます。これは \(y\) と \(x\) の関係式です。次に、この波形全体が時間とともに \(+x\) 方向に移動する様子を、数学の「グラフの平行移動」として捉え、一般式 \(y(x, t)\) を導きます。
この設問における重要なポイント
- \(t=0\) の波形は、原点を通り \(x=\lambda/4\) で山となる \(\sin\) 型のグラフである。
- \(+x\) 方向へ速さ \(v\) での波形の移動は、数式中で \(x\) を \(x – vt\) で置き換えることに相当する。
具体的な解説と立式
1. \(t=0\) の波形の式を立てる
図(a)の \(t=0\) の波形は、原点 \((0,0)\) を通り、\(x=\lambda/4\) で最初の山 \(y=A\) を迎える正弦波です。これは \(y = A \sin(kx)\) の形をしています。
波長が \(\lambda\) なので、\(x\) が \(\lambda\) 増加すると位相が \(2\pi\) 増加します。よって、\(k\lambda = 2\pi\)、すなわち波数 \(k = 2\pi/\lambda\) です。
したがって、\(t=0\) での波形の式は、
$$ y(x, 0) = A \sin\left(\frac{2\pi}{\lambda}x\right) $$
2. 一般式 \(y(x, t)\) を導く
この波形が速さ \(v\) で \(+x\) 方向に進むので、時刻 \(t\) における波形は、\(t=0\) の波形を \(x\) 軸正方向に \(vt\) だけ平行移動したものです。
グラフの平行移動の考え方から、\(y(x, 0)\) の式中の \(x\) を \(x – vt\) で置き換えることで、\(y(x, t)\) が得られます。
$$ y(x, t) = A \sin\left(\frac{2\pi}{\lambda}(x – vt)\right) $$
使用した物理公式
- 波形の式: \(y = A \sin(kx)\)
- 波数と波長の関係: \(k=2\pi/\lambda\)
- グラフの平行移動: \(x \rightarrow x – vt\)
- 波の基本式: \(v=f\lambda\)
立式した \(y(x, t) = A \sin\left(\frac{2\pi}{\lambda}(x – vt)\right)\) を、主たる解法の結果と比較するために整理します。
$$
\begin{aligned}
y &= A \sin\left(\frac{2\pi x}{\lambda} – \frac{2\pi v}{\lambda}t\right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(v=f\lambda\) より \(v/\lambda = f\) なので、これを代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= A \sin\left(\frac{2\pi x}{\lambda} – 2\pi f t\right)
\end{aligned}
$$
三角関数の性質 \(\sin(-\theta) = -\sin(\theta)\) を用いて、\(\sin\) の中身の符号を反転させると、
$$
\begin{aligned}
y &= -A \sin\left(2\pi f t – \frac{2\pi x}{\lambda}\right) \\[2.0ex]
&= -A \sin\left(2\pi \left(ft – \frac{x}{\lambda}\right)\right)
\end{aligned}
$$
この解き方では、まず \(t=0\) の瞬間の波のスナップ写真を数式にします。図(a)の形は、原点から始まるきれいな \(\sin\) カーブなので、\(y = A \sin(2\pi x/\lambda)\) と表せます。次に、この「写真全体」が時間とともに右にスライドしていく様子を考えます。数学でグラフを右に \(a\) だけ動かすには \(x\) を \(x-a\) に置き換えるのと同じで、物理では \(vt\) だけ動くので \(x\) を \(x-vt\) に置き換えるだけで、いつでもどこでも波の高さがわかる一般式が完成します。
主たる解法とは出発点(時間基準か空間基準か)が異なりますが、三角関数の性質を使うと全く同じ式になることが確認できました。これは、波の時間的側面と空間的側面が数式の上で等価であることを示しており、物理的に妥当です。
問(b)
思考の道筋とポイント
(a)と同様に、まず原点 \(O\) の動きに注目します。\(t=0\) で \(y=A\) の山の頂点にいることから、単振動の基本形を特定し、\(+x\) 方向への伝播を考慮して式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 原点の初期変位: \(y=A\)
- 原点の初速度の向き: 山の頂点なので、速度は一瞬 \(0\)。その後、波が右に進むので下り坂がやってきて、媒質は負の向きに動き出す。
- \(t=0\) で \(y=A\) から動き始める単振動は \(\cos\) 型である。
具体的な解説と立式
1. 原点の単振動の式を立てる
\(t=0\) において、原点 \(O\) の媒質の変位は \(y=A\) です。これは単振動の正の端点なので、初速度は \(0\) です。
\(t=0\) で \(y=A\) から動き始める単振動は \(\cos\) 型です。
したがって、原点 \(O\) での単振動の式 \(y_O\) は、
$$ y_O(t) = A \cos(\omega t) = A \cos(2\pi f t) $$
2. 一般式 \(y(x, t)\) を導く
波は \(+x\) 方向に進むので、(a)と同様に、位置 \(x\) での振動は原点より \(x/v\) だけ遅れます。\(y_O(t)\) の \(t\) を \(t – x/v\) で置き換えます。
$$ y(x, t) = A \cos\left(2\pi f \left(t – \frac{x}{v}\right)\right) $$
使用した物理公式
- 単振動の基本形: \(y = A \cos(\omega t)\)
- 角振動数と振動数の関係: \(\omega = 2\pi f\)
- 波の伝播による時間の遅れ: \(t \rightarrow t – x/v\)
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
\(v=f\lambda\) より \(f/v = 1/\lambda\) を代入して整理します。
$$
\begin{aligned}
y &= A \cos\left(2\pi \left(ft – \frac{x}{\lambda}\right)\right)
\end{aligned}
$$
原点 \(x=0\) に注目すると、\(t=0\) の瞬間、媒質は山のてっぺん \(y=A\) にいます。ここからスタートする振動は、数学の \(\cos\) カーブそのものです。これが原点の運命 \(y = A \cos(2\pi f t)\) です。あとは(a)と同じで、位置 \(x\) の点は原点より \(x/v\) 秒だけイベントが遅れて発生するので、時間の \(t\) を \(t-x/v\) に置き換えるだけで一般式が完成します。
得られた式に \(t=0\) を代入すると \(y = A \cos(-2\pi x/\lambda) = A \cos(2\pi x/\lambda)\) となります。これは \(x=0\) で \(y=A\) となる \(\cos\) カーブであり、図(b)の \(t=0\) の波形と一致します。よって正しい結果です。
問(c)
思考の道筋とポイント
原点 \(O\) の動きに注目します。\(t=0\) で \(y=-A\) の谷の底にいることから、単振動の基本形を特定します。この問題では、波の進行方向が \(-x\) 方向であることに注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 原点の初期変位: \(y=-A\)
- 原点の初速度の向き: 谷の底なので、速度は一瞬 \(0\)。その後、波が左に進むので、原点の右側にある上り坂がやってきて、媒質は正の向きに動き出す。
- \(t=0\) で \(y=-A\) から正の向きに動き始める単振動は \(-\cos\) 型である。
- \(-x\) 方向への伝播は、時間の項を \(t + x/v\) で置き換えることに相当する。
具体的な解説と立式
1. 原点の単振動の式を立てる
\(t=0\) において、原点 \(O\) の媒質の変位は \(y=-A\) です。これは単振動の負の端点なので、初速度は \(0\) です。
\(t=0\) で \(y=-A\) から動き始める単振動は \(-\cos\) 型です。
したがって、原点 \(O\) での単振動の式 \(y_O\) は、
$$ y_O(t) = -A \cos(\omega t) = -A \cos(2\pi f t) $$
2. 一般式 \(y(x, t)\) を導く
波は \(-x\) 方向に進みます。これは、位置 \(x\) (ただし \(x>0\))での振動が、原点 \(O\) での振動よりも \(x/v\) だけ「早く」起こることを意味します。数式上は、\(t\) を \(t – (-x)/v = t + x/v\) で置き換えることで表現します。
$$ y(x, t) = -A \cos\left(2\pi f \left(t + \frac{x}{v}\right)\right) $$
使用した物理公式
- 単振動の基本形: \(y = -A \cos(\omega t)\)
- 角振動数と振動数の関係: \(\omega = 2\pi f\)
- 波の伝播による時間の進み: \(t \rightarrow t + x/v\)
- 波の基本式: \(v = f\lambda\)
\(v=f\lambda\) より \(f/v = 1/\lambda\) を代入して整理します。
$$
\begin{aligned}
y &= -A \cos\left(2\pi \left(ft + \frac{x}{\lambda}\right)\right)
\end{aligned}
$$
原点 \(x=0\) は、\(t=0\) の瞬間、谷の底 \(y=-A\) にいます。ここから上に上がっていく振動なので、これは \(-\cos\) カーブです。これが原点の運命 \(y = -A \cos(2\pi f t)\) です。今回は波が左に進むので、位置 \(x\) の点は、原点よりも波が早く到着します。この「時間の進み」を表現するには、時間の \(t\) を \(t+x/v\) に置き換えます。
得られた式に \(t=0\) を代入すると \(y = -A \cos(2\pi x/\lambda)\) となります。これは \(x=0\) で \(y=-A\) となる \(-\cos\) カーブであり、図(c)の \(t=0\) の波形と一致します。よって正しい結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の二重性(時間と空間)の数式表現:
- 核心: この問題の根幹は、波の運動が「各点の時間的変化(単振動)」と「波形全体の空間的移動」という2つの要素から成り立っていることを理解し、それを一つの数式 \(y(x, t)\) に統合することです。この式を立てるための代表的な思考法が2つあります。
- 理解のポイント:
- 時間基準アプローチ(模範解答): まず、ある一点(通常は原点 \(x=0\))の「時間的な振動の様子 \(y(0, t)\)」を単振動の式で表す。次に、波が他の点 \(x\) に伝わるまでの「時間のズレ」を考慮して、\(t\) を \(t \mp x/v\) に置き換える。
- 空間基準アプローチ(別解): まず、ある一瞬(通常は \(t=0\))の「空間的な波の形 \(y(x, 0)\)」を三角関数の式で表す。次に、その波形全体が時間とともに移動する様子を「グラフの平行移動」と捉え、\(x\) を \(x \mp vt\) に置き換える。
どちらのアプローチも物理的に等価であり、同じ正しい答えにたどり着きます。両方を理解することで、波の式の構造をより深く把握できます。
- 位相の概念:
- 核心: \(\sin\) や \(\cos\) の中身 \(2\pi(ft – x/\lambda)\) は「位相」と呼ばれ、波の振動状態(山、谷、ゼロなど)を表す「角度」です。この位相が、時間 \(t\) と場所 \(x\) の両方によって決まることが、波の式の本質です。
- 理解のポイント:
- \(ft\) の部分: 時間の経過とともに位相が進む(振動する)ことを表す。
- \(x/\lambda\) の部分: 場所によって基準となる位相がずれている(波打っている)ことを表す。
- \(t\) と \(x\) の前の符号: 符号が逆(例: \(t\) と \(-x\))なら波は \(+x\) 方向に進み、符号が同じ(例: \(t\) と \(+x\))なら波は \(-x\) 方向に進むことを示します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 与えられた波の式からの情報読み取り: \(y = 5.0 \sin(4.0\pi t – 0.20\pi x)\) のような式が与えられ、振幅 \(A\)、振動数 \(f\)、波長 \(\lambda\)、速さ \(v\) などを読み取る問題。基本形 \(y = A \sin(2\pi ft – 2\pi x/\lambda)\) と係数を比較することで、すべての情報を抽出できます。
- \(y-t\) グラフが与えられる問題: ある点 \(x_0\) での \(y-t\) グラフが与えられ、波の式を立てる問題。まず \(y(x_0, t)\) の式を立て、そこから原点の式 \(y(0, t)\) を逆算し、一般式 \(y(x, t)\) を導きます。
- 重ね合わせと干渉: 2つの波の式 \(y_1(x, t)\) と \(y_2(x, t)\) が与えられ、合成波 \(y = y_1 + y_2\) を求める問題。三角関数の和積の公式などを用いて、合成波の振幅や定常波の腹・節の位置などを計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- 基準点の特定: まず、どの点の振動から考えるか(時間基準アプローチ)、あるいはどの瞬間の波形から考えるか(空間基準アプローチ)の方針を決めます。通常は \(x=0\) または \(t=0\) が最も考えやすいです。
- 初期条件と進行方向の確認: 基準となる振動または波形が \(\sin\), \(\cos\), \(-\sin\), \(-\cos\) のどれに当たるかを、グラフの形と進行方向から正確に判断します。
- 変数変換の方向: \(+x\) 方向への進行なら \(t \rightarrow t-x/v\) または \(x \rightarrow x-vt\)。\(-x\) 方向への進行なら \(t \rightarrow t+x/v\) または \(x \rightarrow x+vt\)。この置き換えルールを間違えないようにします。
- 係数の整理: 最後に、\(v=f\lambda\) や \(T=1/f\) を使って、問題で指定された文字(\(f\), \(\lambda\) など)で式を整理します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(t\) と \(x\) の前の符号の解釈ミス:
- 誤解: \(y = A \sin(kx – \omega t)\) と \(y = A \sin(\omega t – kx)\) は同じ \(+x\) 方向に進む波ですが、符号の組み合わせが違うため混乱する。
- 対策: 「位相 \((kx – \omega t)\) が一定のまま進む」と考えるのが本質です。\(kx – \omega t = C\) (定数) を \(t\) で微分すると \(k(dx/dt) – \omega = 0\) となり、波の速度 \(dx/dt = \omega/k > 0\) となります。つまり、\(x\) の項と \(t\) の項の符号が異なっていれば \(+x\) 方向、同じであれば \(-x\) 方向に進む、と機械的に覚えてしまうのが実践的です。
- \(2\pi\) の付け忘れ、または過剰な挿入:
- 誤解: \(y = A \sin(t/T – x/\lambda)\) のように、周期や波長で割るだけで位相になると勘違いする。
- 対策: 位相は「角度」であることを常に意識します。時間 \(t\) が1周期 \(T\) 経過すると角度は \(2\pi\) 進み、場所 \(x\) が1波長 \(\lambda\) 離れると角度は \(2\pi\) ずれます。この比例関係から、位相の項はそれぞれ \(2\pi(t/T)\) と \(2\pi(x/\lambda)\) になると理解するのが最も安全です。
- 文字の変換ミス:
- 誤解: \(v=f\lambda\), \(T=1/f\), \(\omega=2\pi f\), \(k=2\pi/\lambda\) といった多くの関係式を、式変形の際に間違って適用してしまう。
- 対策: これらの公式を丸暗記するだけでなく、それぞれの文字の意味(\(\omega\): 1秒あたりの角度、\(k\): 1mあたりの角度)を理解し、単位を確認しながら変形する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 時間基準アプローチ (\(t \rightarrow t – x/v\)):
- 選定理由: 「原因(原点の振動)と結果(点 \(x\) の振動)の時間差」という、物理的な因果関係に沿った直感的な思考法だからです。
- 適用根拠: 波は情報を伝える媒体です。原点で起きた振動という「情報」が、速さ \(v\) で \(x\) まで伝わるには \(x/v\) の時間がかかります。したがって、時刻 \(t\) に点 \(x\) で観測される現象は、時刻 \(t – x/v\) に原点で起きた現象と同じはずです。この論理が \(y(x, t) = y(0, t – x/v)\) という数式に直結しています。
- 空間基準アプローチ (\(x \rightarrow x – vt\)):
- 選定理由: 数学で学習した「グラフの平行移動」の知識を直接応用できる、視覚的で分かりやすい思考法だからです。
- 適用根拠: 時刻 \(t\) における波形上の点 \((x, y)\) を考えます。この媒質は、\(t\) 秒前、つまり \(t=0\) の時点では、\(x\) 軸の負の方向に \(vt\) だけ離れた場所 \(x’ = x – vt\) にいました。その場所での変位は \(y(x’, 0)\) でした。媒質は上下にしか動かないので、現在の変位 \(y(x, t)\) は、\(t=0\) のときの \(x’\) での変位 \(y(x’, 0)\) と等しいはずです。よって \(y(x, t) = y(x – vt, 0)\) となり、\(x\) を \(x-vt\) で置き換える操作が正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 係数比較の準備: 式を立てた後、または与えられた式を読み取る際に、まず \(y = A \sin(2\pi(t/T \pm x/\lambda))\) という最も基本的な形に整理する癖をつけましょう。この形にしてから係数を比較すると、\(T\) や \(\lambda\) の逆数をとるなどのミスが減ります。
- 代入による検算: 最終的に得られた式が本当に正しいかを確認するために、簡単な値を代入してみるのが有効です。
- \(t=0\) を代入し、得られた \(y(x, 0)\) の式が、元の \(y-x\) グラフと一致するか確認する(山の位置、谷の位置、原点の値など)。
- \(x=0\) を代入し、得られた \(y(0, t)\) の式が、最初に考えた原点の単振動のモデル(\(-\sin\) 型など)と一致するか確認する。
- 符号のダブルチェック: 式を立て終えたら、最後に「\(x\) と \(t\) の項の符号は逆か?同じか?」を確認し、それが問題で与えられた進行方向と一致しているかを再検証しましょう。
12 波の式
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「波の式の解読」です。\(y = A \sin(Bt – Cx)\) という形で与えられた波の数式から、その波が持つ物理的な性質(進む向き、振幅、波長、速さ)を読み取る方法を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の一般式の標準形: 波の式は、振幅 \(A\)、周期 \(T\)、波長 \(\lambda\) を用いて \(y = A \sin\left(2\pi\left(\frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda}\right)\right)\) という標準的な形で表せます。与えられた式をこの形と比較することが基本戦略となります。
- 位相と進行方向: \(\sin\) の中身 \((Bt – Cx)\) は位相と呼ばれ、波の振動状態を表します。この位相が一定の点が時間とともにどう動くかを追跡することで、波の進行方向がわかります。
- 角振動数と波数: 標準形 \(y = A \sin(\omega t – kx)\) と比較することも有効です。ここで、\(\omega\) は角振動数(\(\omega=2\pi/T=2\pi f\))、\(k\) は波数(\(k=2\pi/\lambda\))と呼ばれ、それぞれ時間的な振動の速さと空間的な波の密度を表します。
- 波の基本公式: \(v = f\lambda\) や \(v = \lambda/T\) といった、速さ、振動数(周期)、波長の間の基本的な関係を使いこなすことが必要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 与えられた式 \(y = A \sin(Bt – Cx)\) と、波の一般式の標準形を比較し、各係数がどの物理量に対応するかを見抜きます。
- \(\sin\) の前の係数から「振幅」を直ちに読み取ります。
- 位相 \((Bt – Cx)\) の形から「進む向き」を判断します。
- \(x\) の係数 \(C\) と波数の関係式から「波長」を求めます。
- \(t\) の係数 \(B\) と角振動数の関係式から「周期」を求め、波長と周期から「速さ」を計算します。
進む向き
思考の道筋とポイント
波の進行方向は、位相 \((Bt – Cx)\) の \(t\) の項と \(x\) の項の間の符号によって決まります。この符号の意味を、位相が一定の点の運動を追うことで物理的に理解します。
この設問における重要なポイント
- 位相 \(\theta = Bt – Cx\) が一定の値をとる点(例えば波の山)の動きを追跡する。
- \(t\) の項と \(x\) の項の符号が異なる場合、波は \(+x\) 方向に進む。
- \(t\) の項と \(x\) の項の符号が同じ場合、波は \(-x\) 方向に進む。
具体的な解説と立式
与えられた波の式は \(y = A \sin(Bt – Cx)\) です。
\(t\) の項 \(Bt\) の符号は正、\(x\) の項 \(-Cx\) の符号は負です。このように、\(t\) の項と \(x\) の項の符号が異なっているので、波は \(+x\) 方向に進みます。
この理由を物理的に考えてみましょう。
波の特定の状態、例えば山の頂点を考えます。山の頂点では、位相 \(Bt – Cx\) がある一定の値 \(\theta_0\)(例えば \(\pi/2\))をとります。
$$ Bt – Cx = \theta_0 \quad (\text{一定}) $$
この式を \(x\) について解くと、
$$ x = \frac{B}{C}t – \frac{\theta_0}{C} $$
この式は、山の頂点の位置 \(x\) が、時間 \(t\) とともにどのように変化するかを示しています。\(A, B, C\) は正の定数なので、\(B/C\) も正です。したがって、時間 \(t\) が増加すると、位置 \(x\) も直線的に増加します。これは、山が \(x\) 軸の正の向きに移動していることを意味します。
使用した物理公式
- 位相の定義: \(\theta(x, t) = Bt – Cx\)
上記「具体的な解説と立式」で示した通り、位相が一定の点の運動を追跡する式 \(x = (B/C)t – (\theta_0/C)\) から、\(t\) の係数が正であるため、\(+x\) 方向に進むことがわかります。
波の進行方向を知るには、\(\sin\) のカッコの中の \(t\) と \(x\) の符号を見ます。今回は \(+Bt\) と \(-Cx\) のように、プラスとマイナスで符号が違います。このような「符号が違う」組み合わせのときは、波はプラス方向(\(+x\) 方向)に進む、というルールがあります。逆に \(+Bt\) と \(+Cx\) のように符号が同じなら、マイナス方向に進みます。
式の符号から、また位相が一定の点の運動を追跡することから、波は \(+x\) 方向に進むことが確認できました。
振幅
思考の道筋とポイント
振幅は、媒質の振動の中心からの最大の変位を表します。これは、波の式の \(\sin\) 関数の前にかかっている係数から直接読み取ることができます。
この設問における重要なポイント
- \(\sin\) 関数の値は \(-1\) から \(+1\) の範囲で変化する。
- 振幅は、\(\sin\) 関数の前の係数の絶対値である。
具体的な解説と立式
与えられた式は \(y = A \sin(Bt – Cx)\) です。
\(\sin(Bt – Cx)\) の値は、時間や場所によって \(-1\) から \(+1\) までの範囲を周期的に変化します。
したがって、変位 \(y\) の最大値は \(A \times (+1) = A\)、最小値は \(A \times (-1) = -A\) となります。
振動の中心 \(y=0\) からの最大の変位は \(A\) なので、振幅は \(A\) です。
使用した物理公式
- 振幅の定義
計算は不要です。式から直接読み取ります。
振幅とは、波の「揺れの大きさ」のことです。式の \(\sin\) の前についている \(A\) が、この揺れの大きさを決めています。したがって、振幅はそのまま \(A\) となります。
式 \(y = A \sin(…)\) の形から、振幅が \(A\) であることは明らかです。
波長
思考の道筋とポイント
波長 \(\lambda\) は、波の空間的な周期性を表す量です。波の式の \(x\) に関する部分 \(Cx\) と、標準的な波の式の波数 \(k = 2\pi/\lambda\) を比較することで求めます。
この設問における重要なポイント
- 波の一般式 \(y = A \sin(\omega t – kx)\) と与式を比較する。
- \(x\) の係数 \(C\) が波数 \(k\) に対応する。
- 波数と波長の関係式 \(k = 2\pi/\lambda\) を用いる。
具体的な解説と立式
波の一般式の一つは \(y = A \sin(\omega t – kx)\) と書けます。
与えられた式 \(y = A \sin(Bt – Cx)\) と比較すると、\(x\) の係数について、
$$ C = k $$
という対応関係がわかります。
波数 \(k\) と波長 \(\lambda\) の間には、\(k = 2\pi/\lambda\) という定義関係があります。
したがって、
$$ C = \frac{2\pi}{\lambda} $$
この式を波長 \(\lambda\) について解きます。
使用した物理公式
- 波数と波長の関係: \(k = 2\pi/\lambda\)
$$
\begin{aligned}
C &= \frac{2\pi}{\lambda} \\[2.0ex]
\lambda C &= 2\pi \\[2.0ex]
\lambda &= \frac{2\pi}{C}
\end{aligned}
$$
波長は「波1個分の長さ」のことです。数式では、\(x\) の前にくっついている係数 \(C\) が、波長の情報を隠し持っています。公式 \(C = 2\pi/\lambda\) を使って、この \(C\) から \(\lambda\) を計算します。式を変形すると \(\lambda = 2\pi/C\) となります。
波長 \(\lambda\) は \(2\pi/C\) と表せます。\(C\) が大きいほど波が密(波長が短い)ことを示しており、直感と一致する妥当な結果です。
速さ
思考の道筋とポイント
波の速さ \(v\) は、波長 \(\lambda\) と周期 \(T\)(または振動数 \(f\))から \(v = \lambda/T = f\lambda\) で求められます。波長はすでに求めたので、次に周期 \(T\) を求めます。周期は、波の式の \(t\) に関する部分 \(Bt\) から導出します。
この設問における重要なポイント
- \(t\) の係数 \(B\) が角振動数 \(\omega\) に対応する。
- 角振動数と周期の関係式 \(\omega = 2\pi/T\) を用いる。
- 波の基本公式 \(v = \lambda/T\) を用いて速さを計算する。
具体的な解説と立式
1. 周期 \(T\) を求める
波の一般式 \(y = A \sin(\omega t – kx)\) と与えられた式 \(y = A \sin(Bt – Cx)\) を比較すると、\(t\) の係数について、
$$ B = \omega $$
という対応関係がわかります。
角振動数 \(\omega\) と周期 \(T\) の間には、\(\omega = 2\pi/T\) という定義関係があります。
したがって、
$$ B = \frac{2\pi}{T} $$
この式を周期 \(T\) について解くと、
$$ T = \frac{2\pi}{B} $$
2. 速さ \(v\) を求める
波の速さ \(v\)、波長 \(\lambda\)、周期 \(T\) の間には \(v = \lambda/T\) という関係があります。
これまでに求めた \(\lambda = 2\pi/C\) と \(T = 2\pi/B\) を代入します。
使用した物理公式
- 角振動数と周期の関係: \(\omega = 2\pi/T\)
- 波の基本公式: \(v = \lambda/T\)
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{\lambda}{T} \\[2.0ex]
&= \frac{\left(\displaystyle\frac{2\pi}{C}\right)}{\left(\displaystyle\frac{2\pi}{B}\right)} \\[2.0ex]
&= \frac{2\pi}{C} \times \frac{B}{2\pi} \\[2.0ex]
&= \frac{B}{C}
\end{aligned}
$$
速さを求めるには、まず「波1個が通り過ぎるのにかかる時間(周期 \(T\))」が必要です。これは \(t\) の前の係数 \(B\) からわかります。公式 \(B = 2\pi/T\) を変形して \(T\) を求めます。
次に、先ほど求めた「波1個の長さ(波長 \(\lambda\))」を、この時間 \(T\) で割れば、速さ \(v = \lambda/T\) が計算できます。
波の速さ \(v\) は \(B/C\) と表せます。これは、進行方向を考える際に導出した位相の速度 \(dx/dt = B/C\) と完全に一致しており、非常に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 波の式の標準形との係数比較:
- 核心: この問題の根幹は、与えられた波の式 \(y = A \sin(Bt – Cx)\) を、物理的な意味が明確な「標準形」と頭の中で結びつけ、対応する係数を比較することで、波のパラメータを抽出する能力にあります。
- 理解のポイント:
- 標準形1: \(y = A \sin\left(2\pi\left(\frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda}\right)\right)\)
- この形に整理すると、\(t\) の分母が周期 \(T\)、\(x\) の分母が波長 \(\lambda\) であることが一目瞭然です。
- 標準形2: \(y = A \sin(\omega t – kx)\)
- この形は物理学でより一般的に使われます。\(t\) の係数が角振動数 \(\omega\)、\(x\) の係数が波数 \(k\) であることを覚える必要があります。
どちらの標準形を使っても解けますが、\(\omega = 2\pi/T\) と \(k = 2\pi/\lambda\) という変換関係をマスターしておくことが不可欠です。与えられた式の \(B\) が \(\omega\) に、\(C\) が \(k\) に対応することを見抜くのが最も速い解法です。
- 標準形1: \(y = A \sin\left(2\pi\left(\frac{t}{T} – \frac{x}{\lambda}\right)\right)\)
- 位相速度の概念:
- 核心: 波の速さとは、位相が一定の点(例えば、山の頂上)が進む速さ(位相速度)のことです。
- 理解のポイント:
- 位相 \(\theta(x, t) = Bt – Cx\) を一定 \((d\theta/dt = 0)\) とおいて \(t\) で微分すると、\(B – C(dx/dt) = 0\) となり、位相の進む速さ \(v = dx/dt = B/C\) が直接導出できます。
- この方法は、波長や周期を個別に求めずに速さを直接計算できる強力な手法であり、波の式の本質的な理解にも繋がります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 具体的な数値が入った問題: \(y = 0.50 \sin(10\pi t – 2.0\pi x)\) のような式から、振幅、波長、振動数、速さなどを計算する問題。\(A=0.50\), \(\omega=10\pi\), \(k=2.0\pi\) と読み取り、\(\omega=2\pi f\) から \(f=5.0\) Hz、\(k=2\pi/\lambda\) から \(\lambda=1.0\) m、\(v=f\lambda\) から \(v=5.0\) m/s のように計算します。
- 式の形が複雑な問題: \(y = A \sin(Cx – Bt)\) や \(y = A \cos(Bt + Cx)\) のように、\(\sin\) が \(\cos\) になっていたり、\(x\) と \(t\) の順番が逆だったりする問題。振幅・波長・周期の求め方は同じです。進行方向は \(x\) と \(t\) の項の符号の関係(異符号なら \(+x\) 方向、同符号なら \(-x\) 方向)で判断します。
- 重ね合わせの問題: 2つの波の式が与えられ、それらが干渉してできる定常波の腹や節の位置を求める問題。それぞれの波の波長 \(\lambda\) を正しく読み取ることが第一歩となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 式の全体構造を把握: まず、\(A \sin(…)\) の形であることを確認し、振幅 \(A\) を即座に読み取ります。
- \(\sin\) の中身(位相)に注目: 位相内の \(t\) の項と \(x\) の項の符号を確認し、進行方向を判断します。
- 係数と物理量を対応させる: \(t\) の係数 \(B\) を \(\omega\) (または \(2\pi/T\)) と、\(x\) の係数 \(C\) を \(k\) (または \(2\pi/\lambda\)) と対応させます。この対応関係さえ見抜ければ、あとは定義式に従って計算するだけです。
- 速さは最後に計算: 速さは、波長と周期(または振動数)を求めてから \(v=\lambda/T\) や \(v=f\lambda\) で計算するのが基本ですが、\(v=\omega/k = B/C\) で直接計算できることも知っておくと検算に役立ちます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(B\) と \(T\)、\(C\) と \(\lambda\) の混同:
- 誤解: \(B\) が周期 \(T\)、\(C\) が波長 \(\lambda\) であると勘違いしてしまう。
- 対策: \(B\) や \(C\) には \(2\pi\) が含まれていることを強く意識します。\(B\) は角振動数 \(\omega\) であり、\(\omega = 2\pi/T\) です。\(C\) は波数 \(k\) であり、\(k = 2\pi/\lambda\) です。\(2\pi\) を介した逆数の関係になっていることを正確に覚えましょう。
- 進行方向の判断ミス:
- 誤解: \(Bt – Cx\) のマイナス記号を見て、\(-x\) 方向だと早合点してしまう。
- 対策: 進行方向は、\(t\) の項と \(x\) の項の「相対的な」符号で決まります。\(+Bt\) と \(-Cx\) のように符号が異なるので \(+x\) 方向です。\(+Bt\) と \(+Cx\) なら \(-x\) 方向です。このルールを機械的に適用するのが最も安全です。
- 速さの計算での \(B\) と \(C\) の逆転:
- 誤解: 速さを \(v = C/B\) と間違えて計算してしまう。
- 対策: \(v = \omega/k\) という関係を覚えておくと、「時間に関する係数 \(\omega=B\)」を「空間に関する係数 \(k=C\)」で割ると速さになる、と論理的に導けます。また、\(v=\lambda/T\) に \(\lambda=2\pi/C\) と \(T=2\pi/B\) を代入して丁寧に計算する癖をつければ、間違いを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(\omega = 2\pi/T\) (角振動数と周期の関係):
- 選定理由: 時間的な振動の速さを、物理的に分かりやすい「周期 \(T\)」と、数式的に扱いやすい「角振動数 \(\omega\)」とを結びつけるための定義式だからです。
- 適用根拠: 1周期 \(T\) 秒経つと、位相は \(2\pi\) ラジアン進みます。これは、\(\omega\) [rad/s] の角速度で \(T\) [s] 回転すると \(2\pi\) [rad] になる、という等速円運動のアナロジーから来ています。したがって、\(\omega T = 2\pi\) という関係が成り立ちます。
- \(k = 2\pi/\lambda\) (波数と波長の関係):
- 選定理由: 空間的な波の密度を、物理的に分かりやすい「波長 \(\lambda\)」と、数式的に扱いやすい「波数 \(k\)」とを結びつけるための定義式だからです。
- 適用根拠: 距離が1波長 \(\lambda\) メートル離れると、位相は \(2\pi\) ラジアンずれます。これは、\(k\) [rad/m] という「1mあたりの位相の変化量」に \(\lambda\) [m] を掛けると \(2\pi\) [rad] になることを意味します。したがって、\(k\lambda = 2\pi\) という関係が成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 標準形を書き出す: 問題用紙の余白に、まず \(y = A \sin(\omega t – kx)\) と \(\omega=2\pi/T\), \(k=2\pi/\lambda\) を書き出してから、与えられた式の係数 \(A, B, C\) をその下に書き込み、対応関係を明確にしましょう。
- 単位を意識する: \(\omega\) の単位は [rad/s]、\(k\) の単位は [rad/m] です。速さ \(v\) [m/s] は \(\omega/k\) で計算できることが、単位からも \(\text{(rad/s)} / \text{(rad/m)} = \text{m/s}\) と確認できます。このような単位のチェックは、計算式の正しさを保証する強力なツールです。
- 分数の計算を丁寧に: 速さ \(v = \lambda/T\) を計算する際、\(\lambda\) と \(T\) がそれぞれ分数 \(2\pi/C\) と \(2\pi/B\) になっています。分数の割り算は、逆数を掛ける形 \((2\pi/C) \times (B/2\pi)\) に直してから約分すると、計算ミスが格段に減ります。
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13 定常波
本解説は、模範解答で採用されている「定常波の性質を利用する直感的な解法」を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 干渉の強め合いの条件式 \(|AP – BP| = m\lambda\) を用いて、腹の位置を数学的に特定する解法
- 模範解答が定常波の「腹の間隔は \(\lambda/2\)」という性質を利用するのに対し、別解ではより根源的な波の干渉の条件式から直接、腹の位置を求めます。
- 干渉の強め合いの条件式 \(|AP – BP| = m\lambda\) を用いて、腹の位置を数学的に特定する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: なぜ定常波の腹が等間隔に並ぶのかを、より基本的な「経路差」の概念から数式で理解することができます。
- 思考の柔軟性向上: この条件式を用いる方法は、波源が直線上になかったり、媒質の端が固定端だったりする、より複雑な干渉の問題にも応用できる普遍的なアプローチです。
- 解法の厳密性: 直感的な数え上げではなく、方程式を解くことで厳密に解の個数を求める経験は、思考の正確性を高めます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「波の干渉と定常波」です。2つの波源から出た波が重なり合うことで生じる定常波について、その性質を正しく理解し、強め合う点(腹)の数を数え上げることができるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 波の干渉: 2つの波が重なるとき、特定の場所では強め合い(振幅が大きくなる)、別の場所では弱め合う(振幅が小さくなる)現象。
- 定常波: 振幅や波長が等しく、逆向きに進む2つの波が重なり合うと、波形が進まずその場で振動しているように見える波。大きく振動する「腹」と、全く振動しない「節」が交互に並びます。
- 同位相の波源: 2つの波源が山と山、谷と谷を同時に送り出す状態。この場合、波源を結ぶ線分の中点は、経路差がゼロなので必ず強め合いの点(腹)になります。
- 定常波の腹の間隔: 定常波において、隣り合う腹と腹の間隔は、もとの波の波長の半分(半波長、\(\lambda/2\))になります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題の条件(同位相)から、2つの波源A, Bの中点が「腹」になることを確認します。
- 定常波の腹と腹の間隔が半波長 \(\lambda/2\) であることを計算します。
- 中点の腹を基準として、そこから左右に半波長の間隔で腹がいくつ存在するかを、波源A, Bの間の領域内で数え上げます。