「物理のエッセンス(熱・電磁気・原子)」徹底解説(熱力学21〜25問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

熱力学範囲 21~25

21 気体の比熱

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている「モル比熱の公式を用いる解法」を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 熱力学第一法則から直接比を求める解法
      • 主たる解法が、定圧モル比熱 \(C_p\) の具体的な値(\(\frac{5}{2}R\))を知っていることを前提に計算を進めるのに対し、別解では、モル比熱の公式を直接使わず、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) と、内部エネルギー \(\Delta U\) および仕事 \(W’\) の基本式だけを用いて比を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 定圧変化で加えた熱が、どのように「内部エネルギーの増加」と「外部への仕事」に分配されるのか、その比率が気体の種類(単原子分子であること)によって普遍的に決まることを、より根源的な法則から理解できます。
    • 思考の柔軟性向上: モル比熱の公式を忘れてしまった場合でも、熱力学第一法則という基本に立ち返ることで、自力で答えを導き出す思考プロセスを学ぶことができます。
    • 法則間の連携理解: 熱力学第一法則、内部エネルギーの式、仕事の式がどのように連携して「熱と仕事の比」という結論を導くかを確認でき、熱力学の体系的な理解が深まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「定圧変化におけるエネルギー分配」です。定圧変化の際に気体に加えた熱エネルギーが、「内部エネルギーの増加」と「外部への仕事」にどのような比率で分配されるかを問う、熱力学の核心に触れる問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 定圧変化における仕事: 圧力が一定のとき、気体がする仕事 \(W’\) は、温度変化 \(\Delta T\) を用いて \(W’ = nR\Delta T\) と表せること。
  2. 定圧変化で加えた熱: 定圧変化で気体に加える熱量 \(Q\) は、定圧モル比熱 \(C_p\) を用いて \(Q = nC_p\Delta T\) と表せること。
  3. 単原子分子気体の定圧モル比熱: 単原子分子理想気体の場合、定圧モル比熱が \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) となることを知っていること。
  4. 比の計算: 求めたいものが「仕事は熱量の何倍か」なので、最終的に \(\displaystyle\frac{W’}{Q}\) の値を計算します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 定圧変化で気体がした仕事 \(W’\) を、\(n, R, \Delta T\) を用いて式で表します (\(W’ = nR\Delta T\))。
  2. 定圧変化で気体に加えた熱量 \(Q\) を、定圧モル比熱 \(C_p\) を用いて式で表します (\(Q = nC_p\Delta T\))。
  3. 単原子分子気体の \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) を代入し、\(Q\) を \(n, R, \Delta T\) を用いて表します。
  4. \(W’\) と \(Q\) の比 \(\displaystyle\frac{W’}{Q}\) を計算します。

仕事と熱量の比

思考の道筋とポイント
この問題は、「気体がした仕事 \(W’\)」が「加えた熱量 \(Q\)」の何倍かを問うています。つまり、最終的なゴールは比の値 \(\displaystyle\frac{W’}{Q}\) を計算することです。

まず、分子と分母にあたる \(W’\) と \(Q\) を、それぞれ共通の物理量を使って表現することを考えます。
今回の変化は「定圧変化」です。

  • 仕事 \(W’\): 定圧変化で気体がした仕事は、\(W’ = P\Delta V\) ですが、温度変化 \(\Delta T\) を使うと \(W’ = nR\Delta T\) と表せます。
  • 熱量 \(Q\): 定圧変化で気体に加えた熱量は、定圧モル比熱 \(C_p\) を用いて \(Q = nC_p\Delta T\) と表せます。

ここで重要なのが、「単原子気体」という条件です。単原子分子理想気体の場合、定圧モル比熱は \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) という決まった値をとります。この知識が不可欠です。
この関係を \(Q\) の式に代入すると、\(Q\) も \(n, R, \Delta T\) を使った式で表現できます。

これで、\(W’\) と \(Q\) の両方を \(nR\Delta T\) という共通のパーツを含む式で表すことができたので、両者の比をとれば、\(nR\Delta T\) がきれいに約分され、数値だけの答えが求まります。
この設問における重要なポイント

  • 定圧変化で気体がした仕事: \(W’ = nR\Delta T\)
  • 定圧変化で加えた熱量: \(Q = nC_p\Delta T\)
  • 単原子分子気体の定圧モル比熱: \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\)
  • 求める量は比 \(\displaystyle\frac{W’}{Q}\) である。

具体的な解説と立式
定圧変化で気体が膨張し、その温度が \(\Delta T\) だけ上昇したとします。
このとき、気体が外部にした仕事 \(W’\) は、
$$ W’ = P\Delta V = nR\Delta T $$
と表せます。

一方、この定圧変化の過程で気体に加えた熱量 \(Q\) は、定圧モル比熱 \(C_p\) を用いて、
$$ Q = nC_p\Delta T $$
と表せます。
問題の条件より、気体は「単原子気体」なので、その定圧モル比熱は \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) です。これを代入すると、
$$ Q = n \left(\frac{5}{2}R\right) \Delta T = \frac{5}{2}nR\Delta T $$
となります。

求めたいのは、仕事 \(W’\) が熱量 \(Q\) の何倍か、すなわち比 \(\displaystyle\frac{W’}{Q}\) です。

使用した物理公式

  • 定圧変化における仕事: \(W’ = nR\Delta T\)
  • 定圧モル比熱を用いた熱量: \(Q = nC_p\Delta T\)
  • 単原子分子気体の定圧モル比熱: \(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\)
計算過程

上記で立式した \(W’\) と \(Q\) の比を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{W’}{Q} &= \frac{nR\Delta T}{\frac{5}{2}nR\Delta T} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\frac{5}{2}} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{5}
\end{aligned}
$$
したがって、気体がした仕事は加えた熱量の \(\displaystyle\frac{2}{5}\) 倍となります。

この設問の平易な説明

気体に熱を加えると、そのエネルギーは「気体の温度を上げる(内部エネルギーを増やす)」ことと、「気体を膨張させる(外部に仕事をする)」ことの2つに使われます。
今回は、圧力が一定のまま単原子気体を温める、という特殊な状況です。この場合、物理法則により、加えた熱エネルギーの分配比率が決まっていることが知られています。
具体的には、加えた熱のうち \(\displaystyle\frac{3}{5}\) が温度上昇のために、残りの \(\displaystyle\frac{2}{5}\) が膨張(仕事)のために使われます。
したがって、仕事は加えた熱量の \(\displaystyle\frac{2}{5}\) 倍になります。

結論と吟味

気体がした仕事は加えた熱量の \(\displaystyle\frac{2}{5}\) 倍である、という結果が得られました。
これは、定圧変化において、単原子分子気体に与えた熱エネルギーのうち、40%が外部への仕事に使われ、残りの60%が内部エネルギーの増加に使われることを意味します。この \(2:3\) というエネルギーの分配比率は、単原子分子気体の定圧変化における普遍的な性質であり、非常に重要な結果です。

解答 \(\displaystyle\frac{2}{5}\) 倍
別解: 熱力学第一法則から直接比を求める解法

思考の道筋とポイント
定圧モル比熱 \(C_p\) の公式を知らなくても、より基本的な法則の組み合わせで答えを導く方法です。
出発点は、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) です。この式から、求めたい比 \(\displaystyle\frac{W’}{Q}\) は \(\displaystyle\frac{W’}{\Delta U + W’}\) と変形できます。
したがって、仕事 \(W’\) と内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) の関係が分かれば、この比を計算することができます。

  • 仕事 \(W’\): 定圧変化なので、\(W’ = nR\Delta T\)。
  • 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\): 気体の種類が「単原子分子」であることから、内部エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) が使えます。したがって、その変化量は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) となります。

この2つの式から、\(\Delta U\) は \(W’\) の \(\displaystyle\frac{3}{2}\) 倍であることがわかります。この関係を、先ほどの比の式に代入することで、答えを導きます。
この設問における重要なポイント

  • 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W’\)
  • 定圧変化における仕事: \(W’ = nR\Delta T\)
  • 単原子分子気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
  • これらの式を連立させて \(\displaystyle\frac{W’}{Q}\) を求める。

具体的な解説と立式
熱力学第一法則より、加えた熱量 \(Q\)、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)、気体がした仕事 \(W’\) の間には以下の関係が成り立ちます。
$$ Q = \Delta U + W’ $$
求めたいのは \(\displaystyle\frac{W’}{Q}\) なので、この式は
$$ \frac{W’}{Q} = \frac{W’}{\Delta U + W’} $$
と書き換えられます。

ここで、\(\Delta U\) と \(W’\) を、共通の変数 \(n, R, \Delta T\) を用いて表します。
定圧変化なので、仕事 \(W’\) は、
$$ W’ = nR\Delta T $$
気体は単原子分子なので、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
これらの関係を比の式に代入します。

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W’\)
  • 定圧変化における仕事: \(W’ = nR\Delta T\)
  • 単原子分子気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
計算過程

\(\Delta U\) と \(W’\) の関係式を、\(\displaystyle\frac{W’}{Q}\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{W’}{Q} &= \frac{W’}{\Delta U + W’} \\[2.0ex]
&= \frac{nR\Delta T}{\frac{3}{2}nR\Delta T + nR\Delta T}
\end{aligned}
$$
分母を計算すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{W’}{Q} &= \frac{nR\Delta T}{\left(\frac{3}{2} + 1\right)nR\Delta T} \\[2.0ex]
&= \frac{nR\Delta T}{\frac{5}{2}nR\Delta T}
\end{aligned}
$$
共通項 \(nR\Delta T\) を約分すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{W’}{Q} &= \frac{1}{\frac{5}{2}} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{5}
\end{aligned}
$$
したがって、気体がした仕事は加えた熱量の \(\displaystyle\frac{2}{5}\) 倍となります。

この設問の平易な説明

気体に熱を加えると、そのエネルギーは「内部エネルギーの増加(温度上昇)」と「外部への仕事(膨張)」の2つに分配されます。
単原子気体の場合、この分配比率は決まっています。

  • 内部エネルギーの増加分: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
  • 仕事: \(W’ = nR\Delta T\)

この2つの式の形を比べると、内部エネルギーの増加は仕事の \(1.5\) 倍のエネルギーを必要とすることがわかります。
したがって、加えた熱の総量は \(\Delta U + W’ = \displaystyle\frac{3}{2}W’ + W’ = \displaystyle\frac{5}{2}W’\) となります。
ここから、仕事 \(W’\) は熱の総量 \(Q\) の \(\displaystyle\frac{2}{5}\) であることが計算できます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。この別解は、定圧モル比熱の公式を暗記していなくても、より基本的な法則である熱力学第一法則と内部エネルギーの公式から答えを導けることを示しています。法則間のつながりを理解する上で非常に有益なアプローチです。

解答 \(\displaystyle\frac{2}{5}\) 倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 定圧変化におけるエネルギー分配の法則:
    • 核心: この問題の根幹は、単原子分子理想気体を「定圧」で加熱したとき、加えられた熱エネルギー \(Q\) が、「内部エネルギーの増加 \(\Delta U\)」と「外部への仕事 \(W’\)」に、常に一定の比率(\(\Delta U : W’ = 3:2\))で分配される、という物理法則を理解しているかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 熱の使い道: 熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) は、加えた熱の使い道がこの2つであることを示しています。
      • 比率の根拠: なぜ \(3:2\) になるのか。それは、単原子分子気体の内部エネルギーの変化が \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) であり、定圧変化での仕事が \(W’ = nR\Delta T\) と、どちらも \(nR\Delta T\) という共通の量に比例するためです。この係数の比 \(\frac{3}{2}:1\) が、そのままエネルギー分配の比 \(3:2\) になります。
      • 結論: この \(3:2\) という比率から、仕事 \(W’\) は全体の \(3+2=5\) のうちの \(2\) を占めるので、\(W’ = \frac{2}{5}Q\) となります。
  • モル比熱の物理的意味:
    • 核心: モル比熱(特に定圧モル比熱 \(C_p\) と定積モル比熱 \(C_v\))が、単なる公式のパーツではなく、エネルギー分配の内訳を表現する物理量であることを理解することが重要です。
    • 理解のポイント:
      • \(C_v\): 定積変化では仕事がゼロなので、加えた熱はすべて内部エネルギーの増加になります。したがって、\(C_v\) は純粋に「内部エネルギーを増やす能力」を表します。(\(\Delta U = nC_v\Delta T\))
      • \(C_p\): 定圧変化では、内部エネルギーを増やし「かつ」外部へ仕事をする必要があるため、同じ温度を上げるのにより多くの熱が必要です。したがって、\(C_p\) は「内部エネルギー増加+仕事」の両方を行う能力を表します。(\(Q = nC_p\Delta T\))
      • マイヤーの関係式 \(C_p – C_v = R\): この差 \(R\) は、まさしく「仕事をするために余分に必要な熱」に対応しており、\(W’ = nR\Delta T\) という仕事の公式と本質的につながっています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 内部エネルギーの増加は加えた熱量の何倍か?: 本問と同じ設定で、\(\Delta U\) は \(Q\) の何倍かを問う問題。エネルギー分配比が \(\Delta U : W’ = 3:2\) なので、\(\Delta U\) は全体の \(5\) のうちの \(3\) を占めます。よって \(\Delta U = \frac{3}{5}Q\)。
    • 二原子分子の場合: 気体が二原子分子(\(N_2, O_2\) など)の場合、内部エネルギーの式が \(\Delta U = \frac{5}{2}nR\Delta T\) に変わります(回転運動のエネルギーが加わるため)。仕事の式 \(W’ = nR\Delta T\) は変わりません。したがって、エネルギー分配比は \(\Delta U : W’ = 5:2\) となり、仕事は加えた熱量の \(\frac{2}{7}\) 倍になります。
    • 定積変化の場合: 「定積変化で加えた熱量は、内部エネルギーの増加の何倍か?」という問題。定積変化では仕事がゼロなので、\(Q = \Delta U\)。したがって、答えは \(1\) 倍です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 変化の種類と気体の種類を特定: まず「定圧変化」であることと、「単原子気体」であることを確認します。これが、使用すべき公式を決定づける最も重要な情報です。
    2. 求めたい「比」を明確にする: 「仕事は熱量の何倍か」なので、\(\frac{W’}{Q}\) を計算することがゴールであると設定します。
    3. \(W’\) と \(Q\) を共通の変数で表す: \(W’\) と \(Q\) を、両者に共通して現れる \(n, R, \Delta T\) を使って表現し、比をとることでこれらを消去する、という方針を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • モル比熱の公式の混同:
    • 誤解: 単原子分子気体の \(C_v = \frac{3}{2}R\) と \(C_p = \frac{5}{2}R\) を取り違えて使ってしまう。
    • 対策: 「p(pressure, 圧力)」の方が「v(volume, 体積)」よりアルファベット順で後なので、値も大きい(\(\frac{5}{2} > \frac{3}{2}\))と覚える、あるいは、定圧変化の方が仕事をする分だけ余計に熱が必要なので \(C_p\) の方が大きい、と物理的な意味で記憶しましょう。
  • 気体の種類を見落とす:
    • 誤解: 問題文の「単原子気体」という重要な条件を読み飛ばし、どの公式を使えばよいか分からなくなってしまう。
    • 対策: 内部エネルギーやモル比熱が関わる問題では、気体の種類(単原子か二原子か)が計算結果を直接左右します。問題文を読む際に、気体の種類に関する記述には必ず印をつける習慣をつけましょう。
  • 仕事の公式の混同:
    • 誤解: 定圧変化の仕事 \(W’\) を、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) と同じ \(\frac{3}{2}nR\Delta T\) だと勘違いしてしまう。
    • 対策: \(W’ = nR\Delta T\) と \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)(単原子分子の場合)は、形は似ていますが全く別の物理量を表す式です。両者を明確に区別して覚えることが不可欠です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • \(W’ = nR\Delta T\) と \(Q = nC_p\Delta T\) の選択:
    • 選定理由: 求めたい比 \(\frac{W’}{Q}\) の分子と分母を、それぞれ最も直接的に表現する公式だからです。特に「定圧変化」という条件下での仕事と熱量を扱う上で、これらは定義式に近い基本的な関係式です。
    • 適用根拠: \(W’ = nR\Delta T\) は、仕事の基本式 \(W’=P\Delta V\) と状態方程式 \(PV=nRT\) から導かれる、定圧変化に特有の厳密な関係式です。\(Q = nC_p\Delta T\) は、定圧モル比熱 \(C_p\) の定義そのものです。
  • 熱力学第一法則からのアプローチ(別解):
    • 選定理由: モル比熱の公式を暗記していなくても、より基本的な法則の組み合わせで解けることを示すためです。また、エネルギー分配の物理的意味をより明確に理解するためにも有効です。
    • 適用根拠: 熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) は、あらゆる過程で成り立つエネルギー保存則です。単原子分子気体の内部エネルギーが \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) で与えられること、定圧変化の仕事が \(W’ = nR\Delta T\) で与えられることは、それぞれ独立した物理法則に基づいています。これらの確立された法則を組み合わせることは、論理的に完全に正当です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式のまま計算する: この問題は、具体的な数値を一切使わずに、文字式の比を計算する問題です。最後まで文字のまま計算を進め、共通項(\(nR\Delta T\))を約分することで、答えが求まります。
  • 分数の計算を丁寧に行う: \(\displaystyle\frac{nR\Delta T}{\frac{5}{2}nR\Delta T}\) のような分数の計算では、まず共通項を消去して \(\displaystyle\frac{1}{\frac{5}{2}}\) の形にします。分母が分数になる場合は、その逆数を掛けるのと同じなので、\(1 \times \frac{2}{5} = \frac{2}{5}\) となります。
  • 物理的な意味で検算する: 定圧変化では、加えた熱は必ず内部エネルギーの増加と外部への仕事の両方に使われるため、仕事 \(W’\) が熱量 \(Q\) より大きくなることはありえません(\(\frac{W’}{Q} < 1\))。また、どちらも正の値なので、比が負になることもありません。計算結果が \(0 < \frac{W’}{Q} < 1\) の範囲にあるかを確認することは、簡単な検算になります。

22 断熱変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている「気体がされた仕事」を用いる形式の熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q + W\)) を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 「気体がした仕事」を用いる形式の熱力学第一法則 (\(Q = \Delta U + W’\)) を使う解法
      • 主たる解法が、外部から「された」仕事を基準にエネルギーの出入りを考えるのに対し、別解では、気体が外部へ「した」仕事を基準にエネルギー保存則を考えます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的意味の明確化: \(Q = \Delta U + W’\) という形式は、「加えた熱(収入)は、内部エネルギーの増加(貯金)と、外部への仕事(支出)に分配される」というエネルギーの収支モデルとして非常に直感的で理解しやすいです。
    • 解法の多角化: 物理の教科書や参考書によって採用している熱力学第一法則の形式が異なる場合があるため、両方の形式に慣れておくことは非常に重要です。
    • 論理的整合性の確認: 異なる形式の公式を用いても、符号のルールを正しく適用すれば同じ結論に至ることを確認でき、法則への理解が深まります。
  3. 結果への影響
    • どちらの形式の公式を用いても、符号の扱いに注意すれば、最終的に得られる答えは完全に一致します。

この問題のテーマは「断熱変化における熱力学第一法則」です。気体のエネルギー保存則である熱力学第一法則を、断熱変化という特殊な条件下で適用する問題です。各項(内部エネルギーの変化、熱、仕事)の符号の意味と、断熱変化の物理的な特性を正確に理解しているかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 熱力学第一法則: 気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、気体が吸収した熱量 \(Q\) と、気体が外部からされた仕事 \(W\) の和に等しい (\(\Delta U = Q + W\))。
  2. 断熱変化の特性: 「断熱圧縮」とは、外部との熱のやりとりがない (\(Q=0\)) 状態で気体を圧縮することです。
  3. 単原子分子気体の内部エネルギー: 単原子分子理想気体の内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) で与えられ、その変化量は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) となります。
  4. 内部エネルギーと温度の関係: 理想気体の内部エネルギーは絶対温度にのみ比例するため、内部エネルギーが増加すれば温度は上がります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 「断熱圧縮」という現象から、\(\Delta T\) の符号を物理的に考察します。
  2. 熱力学第一法則の式を立て、「断熱」という条件から \(Q=0\) を代入します。
  3. これにより、気体に加えた仕事 \(W\) が内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) に等しいことを導きます。
  4. 「単原子気体」という条件から内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) の公式を適用し、仕事 \(W\) を求めます。

\(\Delta T\)の符号と気体に加えた仕事

思考の道筋とポイント
この問題は、まず「断熱圧縮」という物理現象を正しくイメージし、その上で熱力学第一法則を適用することが求められます。

\(\Delta T\)の符号について
「断熱圧縮」とは、熱が逃げられないようにして気体を無理やり押し縮めることです。外部から気体に対して力を加えて圧縮する(仕事をする)と、そのエネルギーはどこへ行くでしょうか?断熱されているため、熱として外部に逃げることはできません。したがって、外部から加えられた仕事のエネルギーは、すべて気体の内部エネルギーとして蓄積されます。
内部エネルギーが増加するということは、気体分子の運動が激しくなることを意味し、結果として温度は上昇します。したがって、温度変化 \(\Delta T\) はとなります。

気体に加えた仕事について
次に、仕事の大きさを計算します。出発点は熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) です。

  • 「断熱」なので、熱の出入りはなく \(Q=0\)。
  • 求めたいのは「気体に加えた仕事」であり、これはまさに公式の \(W\) そのものです。

\(Q=0\) を代入すると、熱力学第一法則は \(\Delta U = W\) となります。つまり、気体に加えた仕事 \(W\) は、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) に等しいことがわかります。

最後に、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を計算します。気体は「単原子気体」なので、その内部エネルギーの変化は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) という公式で計算できます。
これを組み合わせることで、仕事 \(W\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W\)
  • 断熱変化 → \(Q=0\)
  • 圧縮 → 気体は仕事をされる → \(W > 0\)
  • 単原子分子気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)

具体的な解説と立式
\(\Delta T\)の符号
断熱圧縮では、外部から気体になされた仕事 \(W\) がすべて内部エネルギーの増加 \(\Delta U\) に変換されます。
$$ \Delta U = W $$
気体は圧縮されているので、外部から正の仕事をされています (\(W>0\))。したがって、\(\Delta U > 0\) となり、内部エネルギーは増加します。
理想気体の内部エネルギーは絶対温度に比例するため、内部エネルギーの増加は温度の上昇を意味します。よって、温度変化 \(\Delta T\) はです。

気体に加えた仕事
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) において、断熱変化なので \(Q=0\) です。
$$ \Delta U = 0 + W = W $$
したがって、気体に加えた仕事 \(W\) は、内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) に等しくなります。
気体は \(n\) モルの単原子気体なので、その内部エネルギーの変化は、温度変化 \(\Delta T\) を用いて次のように表せます。
$$ \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
よって、気体に加えた仕事 \(W\) は、
$$ W = \Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
となります。

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W\)
  • 断熱変化の条件: \(Q=0\)
  • 単原子分子気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
計算過程

これ以上の計算は不要です。

この設問の平易な説明

お財布の例えで考えてみましょう。「内部エネルギー」は貯金です。
「断熱」とは、「お小遣いのやりとりは一切なし(収入ゼロ)」という状況です。
「圧縮」とは、「外部から無理やりお金をねじ込まれる(仕事をされる)」ことです。
ねじ込まれたお金は、お小遣いとして逃げ道がないので、全額がお財布の中身(内部エネルギー)の増加になります。
したがって、内部エネルギーは増加し、気体の元気度である温度は上がります。
そして、「ねじ込まれた仕事の量」は、そのまま「増えた内部エネルギーの量」に等しくなります。単原子気体の場合、内部エネルギーの増加量は \(\frac{3}{2}nR\Delta T\) という公式で計算できるので、これがそのまま仕事の答えになります。

結論と吟味

\(\Delta T\) は正であり、気体に加えた仕事は \(W = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) となります。
\(\Delta T\) が正であることから、仕事 \(W\) も正の値となり、「気体に仕事を加えた(された)」という状況と矛盾しません。物理的に妥当な結果です。

解答 \(\Delta T\) は正。気体に加えた仕事は \(\displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)。
別解: 「気体がした仕事」を用いる形式の熱力学第一法則 (\(Q = \Delta U + W’\)) を使う解法

思考の道筋とポイント
熱力学第一法則のもう一つの表現形式 \(Q = \Delta U + W’\) を用いるアプローチです。これは「収入=貯金+支出」というエネルギーの分配モデルで、各項の符号のルールは以下の通りです。

  • \(Q\): 気体が熱を吸収すれば
  • \(\Delta U\): 内部エネルギーが増加すれば
  • \(W’\): 気体が外部へ仕事をすれば正

問題文の情報をこのルールに当てはめます。

  • 「断熱」→ \(Q = 0\)
  • 「圧縮」→ 気体は外部から仕事を「される」ので、気体が「した」仕事 \(W’\) はの値をとります。

この設問における重要なポイント

  • 熱力学第一法則の別形式: \(Q = \Delta U + W’\)
  • 断熱変化であるから \(Q = 0\)。
  • 圧縮であるから \(W’ < 0\)。

具体的な解説と立式
熱力学第一法則の \(Q = \Delta U + W’\) の形式を用います。
断熱変化なので \(Q=0\) です。
$$ 0 = \Delta U + W’ $$
これを変形すると、
$$ \Delta U = -W’ $$
となります。
気体は圧縮されているので、外部から仕事をされています。これは、気体が外部にした仕事 \(W’\) が負であることを意味します (\(W'<0\))。 したがって、\(\Delta U = -(\text{負の値}) > 0\) となり、内部エネルギーは増加します。よって、温度は上昇し、\(\Delta T\) はです。

求めたいのは「気体に加えた仕事」です。これは \(W\) のことであり、\(W = -W’\) の関係があります。
上の式 \(\Delta U = -W’\) より、\(W = \Delta U\) となります。
単原子気体の内部エネルギーの変化は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) なので、
$$ W = \frac{3}{2}nR\Delta T $$
となり、主たる解法と同じ結果が得られます。

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則(別形式): \(Q = \Delta U + W’\)
計算過程

これ以上の計算は不要です。

この設問の平易な説明

「収入=貯金+支出」という家計簿のルールで考えてみましょう。

  • 「収入はゼロ (\(Q = 0\))」
  • 「圧縮された」ということは、支出がマイナスだった(お金をもらった)ということです。

このとき、「\(0 = \text{貯金の変化} + (\text{マイナスの支出})\)」という式が成り立ちます。
これを変形すると、「貯金の変化 = プラスの支出額」となり、貯金(内部エネルギー)が増えることがわかります。
求めたい「気体に加えた仕事」は、この「マイナスの支出」の絶対値、すなわち「プラスの支出額」のことなので、結局「増えた貯金額(内部エネルギーの変化)」に等しくなります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ結果が得られました。どちらの形式の公式を使っても、符号のルールを正しく守れば同じ結論に至ります。

解答 \(\Delta T\) は正。気体に加えた仕事は \(\displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 断熱変化における熱力学第一法則:
    • 核心: この問題の根幹は、熱力学第一法則を「断熱変化」という特殊な条件下で適用することです。断熱変化の物理的な意味を正しく理解しているかが問われます。
    • 理解のポイント:
      • 断熱変化 → \(Q = 0\): 「熱のやりとりをなくし」という記述は、気体が外部と熱を交換しない「断熱変化」を意味します。これにより、熱力学第一法則における熱量 \(Q\) がゼロになります。
      • 仕事と内部エネルギーの直接変換: \(Q=0\) のとき、熱力学第一法則は \(\Delta U = W\) (または \(\Delta U = -W’\)) という非常にシンプルな形になります。これは、「断熱変化では、気体が外部にした仕事は、すべて内部エネルギーを消費することによって行われ、逆に外部からされた仕事は、すべて内部エネルギーの増加になる」という、エネルギーの直接的な変換関係を意味します。
  • 内部エネルギーと温度の関係:
    • 核心: 理想気体の内部エネルギーは、その気体の絶対温度にのみ比例します。特に「単原子分子気体」と指定されていることで、その関係を具体的な式で表現できます。
    • 理解のポイント:
      • 温度の指標: 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) の符号を調べるだけで、温度が上がったか (\(\Delta U > 0\))、下がったか (\(\Delta U < 0\)) を判断することができます。
      • 具体的な公式: 単原子分子気体の場合、内部エネルギーの変化は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) という式で、温度変化 \(\Delta T\) と直接結びつけられます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 断熱膨張: 今回は圧縮でしたが、膨張の場合はどうなるか。「断熱膨張させた」場合、気体が外部に仕事をする (\(W’>0\)) ので、\(\Delta U = -W’ < 0\)。内部エネルギーが減少し、温度が下がります。(例:スプレー缶から気体を噴出させると缶が冷たくなる、雲の発生原理など)
    • 他の状態変化との比較: 等温圧縮と断熱圧縮の違い。等温圧縮は熱を放出しながらゆっくり圧縮するので温度は変わりません (\(\Delta U=0\))。一方、断熱圧縮はされた仕事のエネルギーがそのまま内部エネルギーになるため温度が上がります (\(\Delta U > 0\))。\(P-V\)グラフ上では、断熱変化の曲線の方が等温変化の曲線よりも傾きが急になります。
    • ポアソンの法則を用いる問題: 断熱変化では \(PV^\gamma = \text{一定}\)(ポアソンの法則)も成り立ちます。もし問題が「体積を半分に断熱圧縮したとき、圧力や温度は何倍になるか」といった問いであれば、この法則と状態方程式を連立させて解く必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 状態変化の種類を特定: 「断熱」というキーワードを見つけ、即座に「\(Q=0\)」を確定させます。
    2. 操作を特定: 「圧縮」というキーワードを見つけ、気体は外部から「仕事をされた」(\(W>0\)) と判断します。
    3. 気体の種類を特定: 「単原子気体」というキーワードを見つけ、内部エネルギーの公式として \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) が使えることを確認します。
    4. 物理的なストーリーを組み立てる: 「熱が逃げられないのに、無理やり押し縮められた → 外部から加えられたエネルギーは気体の中に溜まるしかない → 内部エネルギーが増加して、温度は上がるはずだ」という直感的な予測を立て、計算結果の検証に用います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 「断熱」と「等温」の混同:
    • 誤解: 「熱のやりとりがない (\(Q=0\))」のだから、「温度も変化しない (\(\Delta T=0\))」だろうと早合点してしまう。
    • 対策: 断熱変化は、むしろ温度が最も大きく変化する過程の一つです。熱の出入りがない分、仕事としてやりとりされたエネルギーが直接内部エネルギーの変化、すなわち温度変化に結びつきます。このダイナミックな温度変化こそが断熱変化の特徴であると理解しましょう。
  • 仕事の符号のミス:
    • 誤解: 「圧縮」という言葉から、体積が「減る」というイメージに引きずられ、仕事を負の値だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 仕事の符号は、常に「気体を主語」として、エネルギーをもらったのか使ったのかで判断します。「圧縮」は外部からエネルギーを注入されることなので、気体にとってはプラスのエネルギー流入です。したがって、\(\Delta U = Q+W\) の形式では \(W>0\) となります。
  • 内部エネルギーの公式の係数ミス:
    • 誤解: 単原子分子気体の内部エネルギーの係数 \(\displaystyle\frac{3}{2}\) を、二原子分子の \(\displaystyle\frac{5}{2}\) と間違えたり、忘れたりする。
    • 対策: 「単原子分子=x, y, zの3次元空間を並進運動する自由度3」→係数 \(\displaystyle\frac{3}{2}\) と、物理的な意味と結びつけて覚えるのが確実です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 熱力学第一法則の選択:
    • 選定理由: 問題が「熱」「仕事」「内部エネルギー」「温度」という、熱力学第一法則を構成する3つの要素の関係を問うているからです。
    • 適用根拠: エネルギー保存則という物理学の大原則に基づいているため、あらゆる熱力学過程に適用できる最も基本的な法則です。
  • \(Q=0\) という条件の適用:
    • 選定理由: 問題文に「断熱」と明記されているからです。これは、この問題で最も重要な制約条件です。
    • 適用根拠: これは「断熱変化」の定義そのものです。この条件を熱力学第一法則に適用することで、仕事と内部エネルギーの関係が \(\Delta U = W\) という直接的な形に単純化されます。
  • \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) の選択:
    • 選定理由: 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) を、問題で与えられている温度変化 \(\Delta T\) を使って具体的に計算する必要があるからです。
    • 適用根拠: 気体分子運動論から導かれる、単原子分子理想気体の内部エネルギーの定義式です。問題文で「単原子気体」と種類が指定されているため、この具体的な式を適用することができ、仕事 \(W\) を \(\Delta T\) を用いて表現することが可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 物理的なストーリーによる検算: 計算を始める前に、「断熱圧縮 → 外部から仕事をされる → された仕事の分だけ内部エネルギーが増加する → 温度は上昇する」という物理的な因果関係を頭の中で組み立ててみましょう。この予測と、計算結果(\(\Delta T\)が正、\(W\)が正)が一致するかを確認することで、ケアレスミスを防げます。
  • 符号を明記した立式: \(Q=0\), \(W>0\) (求めたい量) とメモし、\(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) で \(\Delta T>0\) だから \(\Delta U>0\)。よって \(\Delta U = W\) から \(W>0\) となり、矛盾がないことを確認する、というように論理の整合性をチェックしながら進めると確実です。
  • 結論の多角的な記述: 問題で問われている「\(\Delta T\)は正か負か」「仕事はいくらか」の両方に明確に答えることを意識します。さらに、「内部エネルギーは増加か、減少か」という中間的な問いにも答える形で思考を整理すると、より理解が深まります。
  • 文字式のまま解く: この問題は文字式で答える問題なので、途中で具体的な数値を代入する必要はありません。最後まで文字式の関係を追うことに集中しましょう。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

23 断熱変化

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている「ポアソンの法則 \(PV^\gamma=\text{一定}\) を用いる解法」を主たる解説としつつ、模範解答にも示されている以下の別解を、より詳細な解説とともに提示します。

  1. 提示する別解
    • ポアソンの法則 \(TV^{\gamma-1}=\text{一定}\) を用いる解法
      • 主たる解法が、まず圧力の変化を計算し、その後に状態方程式を用いて温度の変化を計算する二段階のアプローチを取るのに対し、別解では、温度と体積の関係を直接結びつけるポアソンの法則の別形式を用いて、温度の変化を一段階で直接計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 解法の効率化: 問題が温度変化のみを問うている場合、この別解のアプローチは圧力の計算を省略できるため、より少ない計算ステップで答えにたどり着けます。
    • 公式の多角的理解: ポアソンの法則には、\(PV\) の関係式だけでなく、\(TV\) の関係式や \(TP\) の関係式も存在することを学び、状況に応じて最適な公式を選択する能力が養われます。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの物理現象(断熱変化)を、異なる変数の組み合わせで記述する方法を知ることで、物理法則への理解が深まります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「断熱変化におけるポアソンの法則の適用」です。外部との熱のやりとりがない断熱変化において、体積が変化したときに圧力や温度がどのように変化するかを、ポアソンの法則を用いて定量的に計算する問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ポアソンの法則: 断熱変化において、圧力 \(P\) と体積 \(V\) の間に \(PV^\gamma = \text{一定}\) の関係が成り立つこと。
  2. 比熱比 \(\gamma\) の計算: 比熱比 \(\gamma\) が、定圧モル比熱 \(C_p\) と定積モル比熱 \(C_v\) の比 (\(\gamma = C_p/C_v\)) で定義されること。
  3. 単原子分子気体のモル比熱: 単原子分子理想気体の場合、\(C_v = \displaystyle\frac{3}{2}R\)、\(C_p = \displaystyle\frac{5}{2}R\) となることを知っていること。
  4. 理想気体の状態方程式: 圧力、体積、温度の関係を常に結びつける基本法則 \(PV=nRT\) を、ポアソンの法則と連立させて用いること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、単原子分子気体の比熱比 \(\gamma\) の値を計算します。
  2. ポアソンの法則 \(PV^\gamma = \text{一定}\) を用い、変化前と変化後の状態で式を立て、圧力の変化率を求めます。
  3. 次に、変化前と変化後のそれぞれで理想気体の状態方程式を立て、両者を辺々割り算することで、温度の変化率を圧力と体積の変化率から求めます。

圧力と温度の変化

この先は、会員限定コンテンツです

記事の続きを読んで、物理の「なぜ?」を解消しませんか?
会員登録をすると、全ての限定記事が読み放題になります。

PVアクセスランキング にほんブログ村