「物理のエッセンス(力学・波動)」徹底解説(力学76〜80問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

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力学範囲 76~80

76 運動量保存則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問の別解: 運動量ベクトルを直接合成する解法
      • 主たる解法が衝突後の速度を成分分解して考えるのに対し、別解では衝突前の運動量をベクトルとして直接合成し、運動量保存則を適用します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理量のベクトル的性質の理解: 運動量が大きさと向きを持つベクトル量であることを、矢印の合成という形で視覚的・直感的に理解することができます。
    • 思考の効率化: 成分に分解し、最後に再合成するという2段階のプロセスを、ベクトルの合成という1段階のプロセスに集約でき、問題の見通しが良くなる場合があります。
    • 図形的解法の習得: 力学の問題を図形的に解くアプローチ(ベクトルの矢印の足し算)に慣れることができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「2次元の完全非弾性衝突における運動量保存則」です。互いに直角に運動する2物体が衝突・合体する状況で、ベクトル量である運動量を正しく扱えるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存則: 外力が働かない系(または、ある方向について外力が働かない場合)では、衝突の前後で系の全運動量(または、その方向の運動量成分)は保存されます。
  2. 運動量のベクトル性: 運動量は大きさと向きを持つベクトル量です。そのため、2次元の運動では、互いに直交する2つの方向(例: \(x\)方向と\(y\)方向)に分解して考えるのが基本です。
  3. ベクトルの合成: 互いに直交する2つのベクトル成分から元のベクトルの大きさを求める際には、三平方の定理が用いられます。
  4. 完全非弾性衝突: 衝突後に物体が一体となる衝突を指します。このとき、運動エネルギーは保存されませんが、運動量は保存されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 水平面上で互いに直角な方向を、それぞれ\(x\)軸、\(y\)軸と設定します。
  2. \(x\)方向と\(y\)方向のそれぞれについて、「衝突前の運動量の和」=「衝突後の運動量の和」という運動量保存則の式を立てます。
  3. 上記で求めた衝突後の速度の\(x\)成分と\(y\)成分を用いて、三平方の定理から合体後の物体の「速さ」(速度ベクトルの大きさ)を計算します。

思考の道筋とポイント
この問題は、2次元空間での衝突現象を扱います。最大のポイントは、運動量が「ベクトル量」であると正しく認識することです。ベクトルは向きを持つため、単純な足し算はできません。そこで、動きを互いに独立した2つの方向(今回は直角なので、水平方向と鉛直方向)に分解し、それぞれの方向で別々に運動量保存則を適用するのが定石です。

「滑らかな水平面上」という条件から、水平方向には外力が働かないため、運動量保存則が適用できます。「一体となった」という記述は、衝突後の質量が2つの物体の質量の和になることを意味します。最終的に求めるのは「速さ」なので、各方向の速度の「成分」を求めた後、それらを合成してベクトルの「大きさ」を求める必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則は、運動エネルギーが保存されない衝突(非弾性衝突)でも成り立つ、非常に強力な法則です。
  • ベクトル量を扱う際は、成分に分解して考えるのが基本戦略です。
  • \(x\)方向の運動は\(y\)方向の運動から独立しており、互いに影響を与えません。したがって、各方向で独立して法則を適用できます。

具体的な解説と立式
図の右向きを\(x\)軸の正の向き、上向きを\(y\)軸の正の向きとします。
質量\(m_1 = 2 \, \text{kg}\)の物体の衝突前の速度は \(\vec{v_1}\) で、その成分は \((v_{1x}, v_{1y}) = (3, 0) \, \text{[m/s]}\) です。
質量\(m_2 = 4 \, \text{kg}\)の物体の衝突前の速度は \(\vec{v_2}\) で、その成分は \((v_{2x}, v_{2y}) = (0, 2) \, \text{[m/s]}\) です。

衝突後、一体となった物体の質量は \(M = m_1 + m_2 = 2+4 = 6 \, \text{kg}\) となります。
衝突後の速度を \(\vec{v}\) とし、その成分を \((v_x, v_y)\) とします。

\(x\)方向の運動量保存則
衝突前の\(x\)方向の運動量の和は \(m_1 v_{1x} + m_2 v_{2x}\) です。
衝突後の\(x\)方向の運動量は \(M v_x\) です。
外力は働かないので、\(x\)方向の運動量は保存されます。
$$ m_1 v_{1x} + m_2 v_{2x} = M v_x \quad \cdots ① $$
\(y\)方向の運動量保存則
同様に、衝突前の\(y\)方向の運動量の和は \(m_1 v_{1y} + m_2 v_{2y}\) です。
衝突後の\(y\)方向の運動量は \(M v_y\) です。
\(y\)方向の運動量も保存されます。
$$ m_1 v_{1y} + m_2 v_{2y} = M v_y \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則(成分表示):
    • \(x\)方向: \(m_1 v_{1x} + m_2 v_{2x} = (m_1+m_2)v_x\)
    • \(y\)方向: \(m_1 v_{1y} + m_2 v_{2y} = (m_1+m_2)v_y\)
  • 三平方の定理: \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\)
計算過程

まず、①式に数値を代入して、衝突後の速度の\(x\)成分 \(v_x\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(2 \times 3) + (4 \times 0) &= (2+4) v_x \\[2.0ex]
6 &= 6 v_x \\[2.0ex]
v_x &= 1 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、②式に数値を代入して、衝突後の速度の\(y\)成分 \(v_y\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(2 \times 0) + (4 \times 2) &= (2+4) v_y \\[2.0ex]
8 &= 6 v_y \\[2.0ex]
v_y &= \frac{8}{6} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{3} \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$
最後に、求めた \(v_x\) と \(v_y\) を用いて、三平方の定理から衝突後の速さ \(v\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{v_x^2 + v_y^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1^2 + \left(\frac{4}{3}\right)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{1 + \frac{16}{9}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{9}{9} + \frac{16}{9}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{25}{9}} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{3} \\[2.0ex]
&\approx 1.67 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

2つの物体が直角にぶつかって合体する問題です。このような衝突の問題では、「運動量保存則」という便利なルールが使えます。
運動量には向きがあるので、単純に足し算はできません。そこで、動きを「横方向(\(x\)方向)」と「縦方向(\(y\)方向)」に分けて考えます。
まず横方向だけを見ると、衝突前は\(2 \, \text{kg}\)の物体が速さ\(3\)で動いているだけです。衝突後は、合体した\(6 \, \text{kg}\)の物体が横方向にどれだけの速さになるかを計算します。すると、横方向の速さは\(1 \, \text{m/s}\)になります。
次に縦方向だけを見ると、衝突前は\(4 \, \text{kg}\)の物体が速さ\(2\)で動いているだけです。同じように計算すると、縦方向の速さは\(\displaystyle\frac{4}{3} \, \text{m/s}\)になります。
最後に、計算で求まった「横方向の速さ」と「縦方向の速さ」を、直角三角形の2辺だと考えて、三平方の定理(ピタゴラスの定理)を使って斜辺の長さ、つまり本当の速さを求めればゴールです。

結論と吟味

衝突後の速さは \(\displaystyle\frac{5}{3} \, \text{m/s}\) (約 \(1.67 \, \text{m/s}\)) となります。
この結果は、衝突後の物体が右斜め上方向に進むことを示しています。これは、衝突前の2つの物体の運動を合成した結果として直感とも一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 \(\displaystyle\frac{5}{3} \, \text{m/s}\) (または \(1.7 \, \text{m/s}\))
別解: 運動量ベクトルを直接合成する解法

思考の道筋とポイント
運動量を、成分に分解するのではなく、大きさと向きを持つ一本の矢印(ベクトル)として直接扱う方法です。運動量保存則は「衝突前の運動量ベクトルの和が、衝突後の運動量ベクトルに等しい」と解釈できます。
この問題では、衝突前の2つの物体の運動量ベクトルが互いに直角です。そのため、ベクトルの和(合成ベクトル)の大きさは、三平方の定理を使って簡単に計算できます。この合成された運動量の大きさが、衝突後の物体の「質量 × 速さ」に等しい、という式を立てることで速さを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則はベクトルについての保存則です: \(\vec{p}_{1, \text{前}} + \vec{p}_{2, \text{前}} = \vec{P}_{\text{後}}\)。
  • 互いに直交するベクトルの和の大きさは、三平方の定理で求められます。
  • この解法は、運動量のベクトル的な性質を視覚的に捉えるのに役立ちます。

具体的な解説と立式
右向きを\(x\)軸、上向きを\(y\)軸とします。
衝突前の物体1(質量\(m_1=2 \, \text{kg}\))の運動量を \(\vec{p_1}\) とします。その大きさ \(p_1\) は、\(x\)方向を向いており、
$$
\begin{aligned}
p_1 &= m_1 v_1 \\[2.0ex]
&= 2 \times 3 \\[2.0ex]
&= 6 \, \text{[kg}\cdot\text{m/s]}
\end{aligned}
$$
となります。
衝突前の物体2(質量\(m_2=4 \, \text{kg}\))の運動量を \(\vec{p_2}\) とします。その大きさ \(p_2\) は、\(y\)方向を向いており、
$$
\begin{aligned}
p_2 &= m_2 v_2 \\[2.0ex]
&= 4 \times 2 \\[2.0ex]
&= 8 \, \text{[kg}\cdot\text{m/s]}
\end{aligned}
$$
となります。

運動量保存則より、衝突後の全運動量ベクトル \(\vec{P}_{\text{後}}\) は、衝突前の全運動量ベクトル \(\vec{P}_{\text{前}} = \vec{p_1} + \vec{p_2}\) に等しくなります。
\(\vec{p_1}\) と \(\vec{p_2}\) は直交しているので、合成ベクトル \(\vec{P}_{\text{前}}\) の大きさ \(P_{\text{前}}\) は、三平方の定理を用いて計算できます。
$$ P_{\text{前}} = \sqrt{p_1^2 + p_2^2} \quad \cdots ③ $$
一方、衝突後の物体の質量は \(M = m_1 + m_2 = 6 \, \text{kg}\)、速さを \(v\) とすると、衝突後の運動量の大きさ \(P_{\text{後}}\) は、
$$ P_{\text{後}} = Mv \quad \cdots ④ $$
運動量保存則より \(P_{\text{前}} = P_{\text{後}}\) なので、③と④から以下の式が成り立ちます。
$$ Mv = \sqrt{p_1^2 + p_2^2} $$

使用した物理公式

  • 運動量の定義: \(p = mv\)
  • 運動量保存則(ベクトル): \(\vec{P}_{\text{前}} = \vec{P}_{\text{後}}\)
  • 三平方の定理
計算過程

まず、衝突前の全運動量の大きさ \(P_{\text{前}}\) を③式から計算します。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{前}} &= \sqrt{6^2 + 8^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{36 + 64} \\[2.0ex]
&= \sqrt{100} \\[2.0ex]
&= 10 \, \text{[kg}\cdot\text{m/s]}
\end{aligned}
$$
運動量保存則より、衝突後の運動量の大きさ \(P_{\text{後}}\) も \(10 \, \text{kg}\cdot\text{m/s}\) です。
この値を④式の関係 \(P_{\text{後}} = Mv\) に代入して、速さ \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
(2+4)v &= 10 \\[2.0ex]
6v &= 10 \\[2.0ex]
v &= \frac{10}{6} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{3} \\[2.0ex]
&\approx 1.67 \, \text{[m/s]}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

別の考え方として、運動量を矢印で考えてみましょう。
衝突前、横向きに「長さ6」の運動量の矢印があり、縦向きに「長さ8」の運動量の矢印があります。運動量保存のルールによれば、衝突後の全体の運動量は、この2つの矢印を足し合わせたものになります。
直角に交わる2つの矢印を足し合わせると、長方形の対角線のような矢印になります。この対角線の長さは、三平方の定理で計算でき、\(\sqrt{6^2 + 8^2} = 10\) となります。つまり、衝突後の運動量の大きさは「10」です。
衝突後は、\(6 \, \text{kg}\)の物体が速さ\(v\)で動くので、その運動量は「\(6 \times v\)」と表せます。これが「10」と等しくなるはずなので、\(6v=10\) という式から、速さ\(v\)を求めることができます。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(\displaystyle\frac{5}{3} \, \text{m/s}\) という結果が得られました。この解法は、運動量をベクトルとして図形的に捉えることで、計算の見通しが良くなる場合があることを示しています。特に、衝突前の運動量が直交している場合に有効です。

解答 \(\displaystyle\frac{5}{3} \, \text{m/s}\) (または \(1.7 \, \text{m/s}\))

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動量保存則のベクトル性
    • 核心: この問題の根幹は、運動量が単なる数値(スカラー量)ではなく、大きさと向きを持つベクトル量であることを理解し、正しく扱えるかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 分解の原則: 2次元や3次元の運動を扱うとき、ベクトルは互いに直交する成分に分解して考えるのが物理学の基本戦略です。\(x\)方向の運動と\(y\)方向の運動は互いに干渉しないため、それぞれの方向で独立して運動量保存則を立てることができます。
      • 合成の原則: 成分に分解して求めた衝突後の速度 \(v_x\) と \(v_y\) は、あくまで速度の「部品」です。最終的に求められている「速さ」は、速度ベクトルの大きさなので、三平方の定理 \(\sqrt{v_x^2 + v_y^2}\) を用いて、部品を再び一つのベクトルに合成する必要があります。
      • ベクトルとしての保存: 別解で示したように、運動量保存則は \(\vec{p}_{\text{前}} = \vec{p}_{\text{後}}\) というベクトル方程式として捉えることもできます。これは「衝突前の運動量ベクトルを矢印として足し合わせたものと、衝突後の運動量ベクトルが完全に一致する」ことを意味します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜め衝突: 物体が直角ではなく、任意の角度で衝突する問題。この場合も、軸を適切に設定し(例えば、一方の物体の進行方向を\(x\)軸とする)、各物体の速度を\(x\)成分と\(y\)成分に分解してから、それぞれの方向で運動量保存則を適用します。三角関数 (\(\sin\theta, \cos\theta\)) の扱いが重要になります。
    • 分裂: 1つの物体が、内部の力(爆発など)によって複数の破片に分裂する問題。これは衝突の逆の過程と見なせます。分裂前の運動量が、分裂後の全破片の運動量のベクトル和に等しい、という運動量保存則が成り立ちます。
    • 反発係数(はねかえり係数)が与えられた衝突: この問題は完全非弾性衝突(\(e=0\))でしたが、反発係数 \(e\) が \(0 < e \le 1\) の場合、運動量保存則に加えて、反発係数の式を連立させて解く必要があります。反発係数の式は、2物体の衝突面に垂直な方向の相対速度についてのみ成り立つことに注意が必要です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 系の特定: まず、どの物体群を一つの「系」として考えるかを明確にします。
    2. 外力の確認: その系に対して、注目する方向(水平方向など)に外力が働いていないかを確認します。「滑らかな」という記述は摩擦力が働かないことを示唆し、運動量保存則が使える重要なサインです。
    3. 座標軸の設定: 2次元の運動では、計算が最も簡単になるように座標軸を設定します。多くの場合、衝突前の物体の進行方向の一つを軸に取ると便利です。
    4. ベクトルの分解: 衝突前の各物体の速度(または運動量)ベクトルを、設定した座標軸の成分に分解します。
    5. 法則の適用: 各軸方向で独立に運動量保存則の式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • ベクトルをスカラーとして計算するミス:
    • 誤解: 衝突前の運動量の大きさを単純に足し算してしまう。(例: \(2 \times 3 + 4 \times 2 = 14\) としてしまう)
    • 対策: 「運動量はベクトル量である」と常に意識することが最も重要です。2次元以上の問題では、必ず成分に分解するか、ベクトル図を描いて考える癖をつけましょう。「向き」を無視して良いのは、全ての物体が一直線上を運動する場合のみです。
  • 成分を求めただけで満足してしまうミス:
    • 誤解: 衝突後の速度成分 \(v_x\) と \(v_y\) を求めた時点で、それが答えだと勘違いしてしまう。
    • 対策: 問題が何を尋ねているか(「速度」か「速さ」か)を最後に必ず確認しましょう。「速度を求めよ」なら成分表示(または大きさと向き)で答える必要がありますが、「速さを求めよ」と聞かれた場合は、必ず三平方の定理でベクトルの大きさを計算する最終ステップを忘れないようにします。
  • 質量の扱いを間違えるミス:
    • 誤解: 運動量保存則の式で、衝突後の質量を衝突前のどちらか一方の物体の質量で計算してしまう。
    • 対策: 「一体となった」「合体した」という言葉は、衝突後の質量が \(m_1+m_2\) になることを意味します。式の右辺と左辺で、登場する物体の状態(衝突前か後か)と、それに対応する質量を正確に対応させることが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動量保存則の選定理由:
    • 選定理由: この問題は「衝突」という、物体同士が極めて短い時間に力を及し合う現象を扱っています。このような現象では、働く力(内力)が非常に複雑で、運動方程式を直接解くのは困難です。しかし、系全体で見ると、水平方向には外力が働いていません。このような「外力が働かない(または無視できる)系の、衝突や分裂」という状況こそ、運動量保存則が最も威力を発揮する典型的な場面です。運動エネルギーは一体となる際に熱や音に変わるため保存されませんが、運動量は保存されます。
    • 適用根拠: 運動量保存則は、運動の第3法則(作用・反作用の法則)から導かれる普遍的な法則です。物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、必ず物体Bも物体Aに同じ大きさで逆向きの力を及ぼします。系全体で考えると、これらの内力は互いに打ち消し合うため、外力がなければ系の全運動量は変化しようがない、というのがこの法則の物理的な根拠です。
  • 成分分解というアプローチ:
    • 選定理由: 運動量保存則はベクトルに関する等式 \(\vec{P}_{\text{前}} = \vec{P}_{\text{後}}\) です。ベクトル方程式をそのまま扱うのは高校数学では難しいため、これをスカラー(普通の数値)の方程式に落とし込む必要があります。そのための最も強力な手法が「成分分解」です。一つのベクトル方程式は、2次元なら2つの独立したスカラー方程式(\(x\)成分と\(y\)成分)に、3次元なら3つのスカラー方程式に分けることができ、それぞれを独立に解くことができます。
    • 適用根拠: \(x\)方向の力は\(y\)方向の運動に影響を与えず、その逆もまた然り、という「運動の独立性」が根拠となります。これにより、複雑な2次元の運動を、単純な1次元の運動の組み合わせとして分析することが可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 図と情報の整理: 問題用紙の余白に、簡単な図を描き、与えられた数値(質量、速度)を書き込みましょう。さらに、自分で設定した\(x\)軸と\(y\)軸を明記し、衝突前後の状態を分けて描くと、状況が視覚的に整理され、立式ミスを防げます。
  • 立式は文字式のまま行う: まずは \(m_1 v_{1x} + m_2 v_{2x} = (m_1+m_2)v_x\) のように、文字式で正確に立式する癖をつけましょう。いきなり数値を代入すると、どの数値がどの物理量に対応するのか混乱しやすく、ケアレスミスの原因になります。
  • 分数の計算を丁寧に行う: この問題のように、計算途中で分数(\(\displaystyle\frac{4}{3}\))が出てくることは頻繁にあります。焦って小数に直さず、分数のまま計算を進める方が、最終的な結果が綺麗になることが多いです。特に、三平方の定理で2乗する際は、\(\left(\displaystyle\frac{4}{3}\right)^2 = \displaystyle\frac{16}{9}\) のように、分子と分母をそれぞれ2乗します。通分(例: \(1 = \displaystyle\frac{9}{9}\))も落ち着いて行いましょう。
  • ルートの計算に慣れる: 三平方の定理を使うと、最後は必ず平方根の計算になります。\( \sqrt{25/9} = \sqrt{25}/\sqrt{9} = 5/3 \) のように、ルートの中が分数であれば、分子と分母に分けてルートを外せることを覚えておくと便利です。日頃から、簡単な平方数の計算に慣れておくと、計算がスムーズになります。

77 運動量保存則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 設問の別解: 重心速度を用いる解法
      • 主たる解法が運動量保存則と反発係数の式を連立させて解くのに対し、別解では衝突の前後で不変である「重心速度」を基準として利用し、衝突後の各物体の速度を連立方程式を解かずに直接計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 衝突現象を「全体の重心の運動」と「重心周りの相対運動」という2つの部分に分けて捉える視点が得られます。これにより、運動量保存則が「系の重心速度が保存されること」と等価であるという、より深い物理的理解につながります。
    • 解法の効率化: 連立方程式を解くという計算ステップを省略し、各物体の衝突後の速度を個別に、より少ない計算量で求めることができます。これは、検算や問題の見通しを立てる上で非常に有効な手段となります。
    • 思考の拡張性: この「重心系で考える」というアプローチは、大学レベルの力学における2体問題など、より複雑な問題を解く際の基礎となる強力な思考法です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「1次元の非弾性衝突」です。一直線上での2物体の衝突において、運動量保存則と反発係数(はねかえり係数)の式を正しく立式し、連立方程式として解くことができるかが問われる、力学の基本問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存則: 衝突の前後で、2球を合わせた系全体の運動量の和は一定に保たれます。
  2. 反発係数(はねかえり係数)の式: 衝突後の2球の相対速度が、衝突前の相対速度の何倍になるかを示す関係式です。この値(\(e\))が衝突におけるエネルギー損失の度合いを表します。
  3. 速度の符号: 1次元の運動では、方向を正負の符号で表します。最初にどちら向きを正とするかを決め、すべての速度をそのルールに従って符号付きの量として扱うことが極めて重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、右向きを正の方向として座標軸を設定します。
  2. 衝突後の2球P, Qの速度を、未知数 \(v_P’\), \(v_Q’\) とおきます。
  3. 「衝突前の運動量の和」=「衝突後の運動量の和」として、運動量保存則の式を立てます。
  4. 反発係数の定義式 \((\text{衝突後の相対速度}) = -e \times (\text{衝突前の相対速度})\) を立式します。
  5. 上記で立てた2本の式を、\(v_P’\) と \(v_Q’\) に関する連立方程式として解きます。

思考の道筋とポイント
これは、1次元の衝突問題を解く上で最も典型的なパターンです。求めたい物理量は、衝突後のPの速度 \(v_P’\) とQの速度 \(v_Q’\) の2つです。物理では、未知数が2つあれば、それらを関係づける独立した式が2本必要になります。

この問題で使える法則は「運動量保存則」と「反発係数の式」の2つです。まさに、未知数の数と式の数が一致するため、この2つの法則を連立させれば必ず解ける、という見通しを立てることが第一歩です。

最大の注意点は、速度の「向き」を「符号」で処理することです。最初に右向きを正と決めたら、左向きに進むQの初速度は負の値として式に代入しなければなりません。計算結果として得られた速度の符号が負であれば、それは物体が左向きに進むことを意味します。
この設問における重要なポイント

  • 未知数が2つ(\(v_P’, v_Q’\))に対し、使える式も2つ(運動量保存則、反発係数の式)。
  • 最初に座標軸の正の向きを決め、すべての速度を符号付きで扱う。
  • 運動量保存則: \(m_P v_P + m_Q v_Q = m_P v_P’ + m_Q v_Q’\)
  • 反発係数の式: \(v_P’ – v_Q’ = -e(v_P – v_Q)\)

具体的な解説と立式
まず、図の右向きを正の向きとします。
衝突前の各球の速度は、符号に注意すると以下のようになります。

  • 球Pの初速度: \(v_P = +4 \, \text{m/s}\)
  • 球Qの初速度: \(v_Q = -2 \, \text{m/s}\)

衝突後の球P, Qの速度をそれぞれ \(v_P’\), \(v_Q’\) とおきます。これらが求める未知数です。

1. 運動量保存則の立式
衝突前の運動量の和と、衝突後の運動量の和は等しくなります。
$$ (\text{衝突前の運動量の和}) = (\text{衝突後の運動量の和}) $$
$$ m_P v_P + m_Q v_Q = m_P v_P’ + m_Q v_Q’ $$
2. 反発係数の式の立式
反発係数 \(e\) は、衝突前後の相対速度の比で定義されます。
$$ v_P’ – v_Q’ = -e(v_P – v_Q) $$
これらの式に、問題で与えられた数値を代入していきます。

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 v_2’\)
  • 反発係数の式: \(v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2)\)
計算過程

運動量保存則の式に、\(m_P=2\), \(m_Q=3\), \(v_P=4\), \(v_Q=-2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
2 \times 4 + 3 \times (-2) &= 2v_P’ + 3v_Q’ \\[2.0ex]
8 – 6 &= 2v_P’ + 3v_Q’ \\[2.0ex]
2v_P’ + 3v_Q’ &= 2 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、反発係数の式に、\(e=0.5\), \(v_P=4\), \(v_Q=-2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_P’ – v_Q’ &= -0.5 \times \{4 – (-2)\} \\[2.0ex]
v_P’ – v_Q’ &= -0.5 \times 6 \\[2.0ex]
v_P’ – v_Q’ &= -3 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
これで、\(v_P’\) と \(v_Q’\) に関する連立方程式ができました。これを解きます。
②式を3倍して①式に加えることで \(v_Q’\) を消去します (加減法)。
$$
\begin{aligned}
(2v_P’ + 3v_Q’) + 3(v_P’ – v_Q’) &= 2 + 3 \times (-3) \\[2.0ex]
2v_P’ + 3v_Q’ + 3v_P’ – 3v_Q’ &= 2 – 9 \\[2.0ex]
5v_P’ &= -7 \\[2.0ex]
v_P’ &= -\frac{7}{5} \\[2.0ex]
&= -1.4 \, \text{m/s}
\end{aligned}
$$
得られた \(v_P’ = -1.4\) を②式に代入して \(v_Q’\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-1.4 – v_Q’ &= -3 \\[2.0ex]
v_Q’ &= -1.4 + 3 \\[2.0ex]
&= 1.6 \, \text{m/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

2つのボールが一直線上でぶつかる問題です。衝突後のそれぞれのボールの速度を知りたいのですが、未知数が2つ(Pの速度、Qの速度)あるので、答えを出すにはルール(式)が2つ必要になります。
1つ目のルールは「運動量保存則」です。これは、衝突が起きる前後で、2つのボールが持つ「勢いの合計」は変わらない、というルールです。
2つ目のルールは「反発係数の式」です。これは、ボールの跳ね返り具合(問題では0.5と与えられています)を使って、衝突前と後で2つのボールが互いに遠ざかったり近づいたりする速さの関係を表すルールです。
この2つのルールを数式にして、中学校で習った連立方程式を解けば、それぞれの速度が計算できます。計算の結果、Pの速度がマイナスの値になりましたが、これは最初に「右向きをプラス」と決めたので、「Pは左向きに進んだ」ということを意味します。

結論と吟味

衝突後の速度は、

  • 球P: \(v_P’ = -1.4 \, \text{m/s}\)
  • 球Q: \(v_Q’ = 1.6 \, \text{m/s}\)

となります。符号は向きを表しており、\(v_P’\) の負号はPが左向きに、\(v_Q’\) の正号はQが右向きに進むことを示します。
衝突前は右に進んでいたPが、より重いQと衝突して左向きに跳ね返され、左に進んでいたQが右向きに押し返されるという結果は、物理的に見て妥当なものです。

解答 P: 左向きに \(1.4 \, \text{m/s}\), Q: 右向きに \(1.6 \, \text{m/s}\)
別解: 重心速度を用いる解法

思考の道筋とポイント
2球を一つの「系」として考えたとき、衝突のような内力しか働かない現象では、その系の「重心の速度」は変化しないという重要な性質があります。この不変量である重心速度を利用して、連立方程式を立てずに衝突後の各速度を直接計算するアプローチです。
手順は以下の通りです。

  1. まず、衝突前の情報から、系の重心速度 \(v_G\) を計算します。
  2. 衝突によって変化するのは、各球の「重心から見た相対速度」だけです。この相対速度は、衝突後に向きが反転し、大きさが \(e\) 倍になります。
  3. 衝突後の重心速度(これは不変)と、変化した後の相対速度を足し合わせることで、実験室で観測される衝突後の速度を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 重心速度は保存される: \(v_G = \displaystyle\frac{m_P v_P + m_Q v_Q}{m_P + m_Q}\) は衝突の前後で一定です。
  • 重心から見た速度の関係式: \(v’ – v_G = -e(v – v_G)\) が成り立ちます。
  • この解法を用いると、\(v_P’\) と \(v_Q’\) をそれぞれ独立に計算できるため、連立方程式が不要になります。

具体的な解説と立式
主たる解法と同様に、右向きを正とします。
まず、衝突の前後で不変である系の重心速度 \(v_G\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_G &= \frac{m_P v_P + m_Q v_Q}{m_P + m_Q} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
衝突後の球Pの速度 \(v_P’\) は、重心速度 \(v_G\) と、衝突前のPの速度 \(v_P\) を用いて、以下の式で直接計算できます。
$$
\begin{aligned}
v_P’ &= v_G – e(v_P – v_G) \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
同様に、衝突後の球Qの速度 \(v_Q’\) も計算できます。
$$
\begin{aligned}
v_Q’ &= v_G – e(v_Q – v_G) \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 重心速度の定義: \(v_G = \displaystyle\frac{m_1 v_1 + m_2 v_2}{m_1 + m_2}\)
  • 重心系における衝突後の速度の関係式: \(v’ – v_G = -e(v – v_G)\)
計算過程

まず、③式に数値を代入して、重心速度 \(v_G\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_G &= \frac{2 \times 4 + 3 \times (-2)}{2+3} \\[2.0ex]
&= \frac{8-6}{5} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{5} \\[2.0ex]
&= 0.4 \, \text{m/s}
\end{aligned}
$$
この重心速度は衝突後も変わりません。
次に、この \(v_G = 0.4\) を用いて、④式から \(v_P’\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_P’ &= 0.4 – 0.5 \times (4 – 0.4) \\[2.0ex]
&= 0.4 – 0.5 \times 3.6 \\[2.0ex]
&= 0.4 – 1.8 \\[2.0ex]
&= -1.4 \, \text{m/s}
\end{aligned}
$$
最後に、⑤式から \(v_Q’\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
v_Q’ &= 0.4 – 0.5 \times (-2 – 0.4) \\[2.0ex]
&= 0.4 – 0.5 \times (-2.4) \\[2.0ex]
&= 0.4 + 1.2 \\[2.0ex]
&= 1.6 \, \text{m/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

少し専門的ですが、2つのボールの「平均的な動きの中心(重心)」を考える、という別の解き方もあります。
面白いことに、2つのボールがどれだけ激しくぶつかり合っても、この「重心」が進む速さは衝突の前後で全く変わりません。
まず、この変わらない「重心の速さ」を計算します(結果は右向きに \(0.4 \, \text{m/s}\) となります)。
次に、それぞれのボールが、この「重心から見て」どれくらいの速さで動いているかを考えます。衝突が起きると、この「重心から見た速さ」だけが変化します。具体的には、向きが反対になり、速さが跳ね返り具合(0.5倍)を考慮した値になります。
最後に、衝突後も変わらない「重心の速さ」と、衝突によって変化した「重心から見た速さ」を足し合わせることで、私たちが観測する本当の速さを知ることができます。この方法は、連立方程式を解く手間が省けるという利点があります。

結論と吟味

主たる解法と全く同じく、衝突後の速度はPが \(-1.4 \, \text{m/s}\)、Qが \(1.6 \, \text{m/s}\) という結果が得られました。この別解は、連立方程式を解くという代数的な操作を、重心速度という物理的な概念を用いて回避するエレガントなアプローチです。物理現象の異なる側面から同じ結論に至ることを確認でき、理解を深める上で非常に有益です。

解答 P: 左向きに \(1.4 \, \text{m/s}\), Q: 右向きに \(1.6 \, \text{m/s}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 1次元衝突問題の二大法則
    • 核心: 1次元の衝突問題を解くための鍵は、「運動量保存則」と「反発係数の式」という2つの物理法則をセットで適用することにあります。
    • 理解のポイント:
      • なぜ2つの式が必要か?: 求めたい未知数が「衝突後の物体Pの速度」と「衝突後の物体Qの速度」の2つだからです。未知数が2つあれば、独立した方程式が2本必要になる、というのは数学の連立方程式の基本です。
      • 運動量保存則の役割: この法則は、衝突の種類(弾性か、非弾性か)に関わらず、外力が働かない系では**必ず**成り立ちます。作用・反作用の法則から導かれる、非常に普遍的で強力な法則です。
      • 反発係数の式の役割: この式は、衝突によってどれだけ運動エネルギーが失われるか、という「衝突の性質」を記述します。衝突前後の「相対速度」の関係を表す式であり、衝突の非弾性的な側面をモデル化する実験則です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 完全弾性衝突 (\(e=1\)): 反発係数が1の場合です。運動エネルギーも保存される最も理想的な衝突で、式に \(e=1\) を代入するだけで解けます。
    • 完全非弾性衝突 (\(e=0\)): 衝突後に2物体が一体となって運動する場合です。反発係数の式が \(v_P’ – v_Q’ = 0\)、すなわち \(v_P’ = v_Q’\) となり、未知数が実質1つになるため、運動量保存則だけで解くことができます。
    • 壁との衝突: 壁は質量が無限に大きい物体(\(m \to \infty\))で、速度は常に0とみなせます。この場合、運動量保存則は考えにくいため、反発係数の式だけを使います。壁の速度を \(v_{\text{壁}}=0\) とすると、反発係数の式は \(v’ – 0 = -e(v – 0)\) となり、衝突後の速度は \(v’ = -ev\) と非常にシンプルになります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 座標軸の設定: まず最初に、どちらの向きを正とするかを答案用紙に明確に宣言します。
    2. 情報の符号化: 設定した座標軸に従い、問題文で与えられた全ての速度を「+」または「-」の符号を付けた数値に変換して整理します。
    3. 式のテンプレート化: 「\(m_1 v_1 + m_2 v_2 = m_1 v_1′ + m_2 v_2’\)」と「\(v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2)\)」という2つの式をテンプレートとして頭に叩き込み、整理した数値を機械的に代入する準備をします。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 速度の符号ミス:
    • 誤解: 左向きの速度を、大きさのまま正の数として式に代入してしまう。
    • 対策: 物理の問題を解き始める前に、「①座標軸の設定 → ②物理量の符号化」という作業を儀式のように必ず行う癖をつけましょう。計算結果が負になったら、それは「正とは逆向き」を意味すると機械的に解釈することで、混乱を防げます。
  • 反発係数の式の覚え間違い:
    • 誤解: \(v_1′ – v_2′ = e(v_1 – v_2)\) のように、式の右辺のマイナス符号を忘れる。あるいは、\(e = -\displaystyle\frac{v_1′ – v_2′}{v_1 – v_2}\) の分母と分子を逆に覚えてしまう。
    • 対策: 式を丸暗記するのではなく、「衝突後の相対速度は、衝突前の相対速度の \(-e\) 倍になる」と日本語の文章で覚えるのが効果的です。マイナス符号は「衝突によって物体同士の前後関係が入れ替わる(追い越す、または跳ね返る)」という物理的な意味合いを持つことを理解しておくと、忘れにくくなります。
  • 連立方程式の計算ミス:
    • 誤解: 移項や代入の過程で符号を間違えたり、係数の掛け算を間違えたりする。
    • 対策: 焦らず、一行一行、途中式を省略せずに丁寧に書くことが最も有効です。計算が終わったら、求めた解(\(v_P’, v_Q’\))を元の①式と②式の両方に代入してみて、等式が成り立つかを確認する「検算」を習慣づけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動量保存則:
    • 選定理由: 「衝突」や「分裂」のように、ごく短時間に物体間で力が働き合う(これを内力と呼びます)場面で、外力が無視できる場合に適用できる最も基本的な法則だからです。衝突の過程で働く力は複雑で分かりませんが、その力の「結果」として運動量の和が保存される、という結論だけを利用できるのが強みです。
    • 適用根拠: 運動の第3法則(作用・反作用の法則)に基づいています。PがQを押す力と、QがPを押し返す力は、常に大きさが等しく逆向きです。そのため、2物体を一つの系として見れば、これらの内力は常に相殺しあい、系全体の運動量を変化させることはありません。
  • 反発係数の式:
    • 選定理由: 運動量保存則だけでは、未知数2つに対して式が1本しかなく、問題を解くことができません。衝突の「性質」(どれくらい跳ね返るか)を記述するもう一つの関係式が必要であり、それが反発係数の式です。
    • 適用根拠: これは運動の法則から直接導かれるものではなく、実験結果をうまく説明するために導入された「実験則(モデル)」です。現実の衝突では、運動エネルギーの一部が熱や音、物体の変形エネルギーとして失われます。このエネルギー損失の度合いを、\(e\) という0から1までの間の数値一つで簡潔に表現しよう、というのがこの式の物理的な背景です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 立式の整理整頓: 計算を始める前に、運動量保存則の式に①、反発係数の式に②と番号を振り、答案を誰が見ても分かりやすいように整理しましょう。これは自分の思考を整理し、ミスを発見しやすくするためにも重要です。
  • 加減法 vs 代入法: この問題のように、反発係数の式が \(v_P’ – v_Q’ = (\text{定数})\) とシンプルな形になる場合、\(v_Q’ = v_P’ – (\text{定数})\) のように移項して、もう一方の式に代入する「代入法」が計算しやすいことが多いです。もちろん、模範解答のように係数を揃えて足し引きする「加減法」も確実な方法です。自分が最もミスしにくいと感じる方法を選びましょう。
  • 最終検算の習慣化: 計算で \(v_P’\) と \(v_Q’\) が求まったら、それで終わりにするのではなく、その値を元の①式と②式の両方に代入してみましょう。両方の式が正しく成り立てば、計算は合っていると確信できます。この一手間が、テストでの失点を大きく減らします。
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78 運動量保存則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の2つの別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解1: 運動エネルギー保存則を用いる解法
      • 模範解答が「弾性衝突 \(\iff\) 反発係数 \(e=1\)」という関係式を用いるのに対し、別解1では弾性衝突の根源的な定義である「運動エネルギー保存則」を直接立式し、運動量保存則と連立させます。
    • 別解2: 重心速度を用いる解法
      • 模範解答が連立方程式を代数的に解くのに対し、別解2では衝突の前後で不変である「重心速度」という物理量を利用して、衝突後の各速度を直接計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 別解1を通じて、「反発係数の式」が運動量保存則とエネルギー保存則から導かれる便利な関係式であることが理解できます。また、別解2を通じて、運動量保存則が「系の重心速度が不変であること」と等価であるという、より深い物理的視点が得られます。
    • 思考の柔軟性向上: 一つの問題に対し、異なる物理法則(反発係数の式 vs エネルギー保存則)や異なる視点(観測者から見た運動 vs 重心から見た運動)からアプローチする経験は、問題解決能力の幅を広げます。
    • 解法の効率化: 別解2で用いる重心速度の考え方は、連立方程式を解く手間を省き、計算を簡略化する強力な手法です。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「1次元弾性衝突の公式導出」です。前問(77)のような具体的な数値ではなく、質量や速度を文字式のまま扱い、衝突後の速度を一般式として導出する問題です。運動量保存則と弾性衝突の条件を正しく連立処理できるかが問われます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存則: 衝突の前後で、系全体の運動量の和は保存されます。
  2. 弾性衝突の条件: 「弾性衝突」という言葉は、物理的に2つの意味を持ちます。一つは「反発係数 \(e=1\) であること」、もう一つは「運動エネルギーが保存されること」です。これらは等価な条件であり、どちらを使っても問題を解くことができます。
  3. 連立方程式の処理: 2つの未知数(\(v_1′, v_2’\))に対して2つの法則から式を立て、文字式のまま正確に解く計算力が求められます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 右向きを正として、各物理量を設定します。
  2. 運動量保存則を立式します。
  3. 弾性衝突の条件として、反発係数の式に \(e=1\) を代入して立式します。
  4. 上記2つの式を、\(v_1’\) と \(v_2’\) についての連立方程式とみなし、加減法などを用いて解きます。

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