「物理のエッセンス(力学・波動)」徹底解説(力学61〜65問):物理の”土台”を固める!完全マスター講座

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力学範囲 61~65

61 一般的なエネルギー保存則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法(仕事とエネルギーの関係を用いる)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解1: 力のつりあいと仕事の定義(F-xグラフの面積)から計算する解法
      • 模範解答がエネルギーの観点から解くのに対し、別解1では力の観点からアプローチし、変化する手の力を積分(グラフ面積)することで仕事を求めます。
    • 別解2: 単振動のエネルギー公式を用いる解法
      • 模範解答の別解をより詳細に解説するもので、鉛直ばね振り子をつり合いの位置を振動中心とする単振動とみなし、その位置エネルギーの公式から直接答えを導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 「静かに」という言葉の力学的な意味や、鉛直ばね振り子におけるエネルギーの扱いについて、多角的な視点から理解を深めることができます。
    • 解法の選択肢拡大: エネルギーの計算が複雑に感じる場合でも、力のつりあいからアプローチする方法や、単振動の知識を応用する強力なショートカットを学ぶことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「鉛直ばね振り子における仕事とエネルギーの関係」です。重力と弾性力の両方が関わる系で、外部から加えられた仕事が、系のエネルギーをどのように変化させるかを問う問題です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事とエネルギーの関係(一般形): 外力がした仕事は、系の力学的エネルギーの変化量に等しい (\(W_{\text{外力}} = \Delta K + \Delta U\))。
  2. 力学的エネルギー: この問題では、重力による位置エネルギー (\(U_g\)) と、ばねの弾性エネルギー (\(U_s\)) の2種類を考える必要がある。
  3. つり合いの位置: はじめに物体が静止している「つり合いの位置」では、ばねの弾性力と重力がつりあっている。
  4. 「静かに」の物理的意味: 運動エネルギーを変化させずに(\(\Delta K = 0\))、極めてゆっくり動かすことを意味する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 始状態(つり合いの位置)と終状態(\(h\)だけ引き下げた位置)を定義します。
  2. 「静かに」引き下げるので、運動エネルギーの変化は0です。したがって、「手のした仕事 \(W_{\text{手}}\) = 力学的エネルギーの変化量 \(\Delta U\)」という関係が成り立ちます。
  3. 始状態と終状態の力学的エネルギー(重力位置エネルギー+弾性エネルギー)をそれぞれ計算し、その差から手のした仕事を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題では、手の力が仕事をして、系の力学的エネルギー(重力位置エネルギー+弾性エネルギー)を変化させます。したがって、「仕事とエネルギーの関係」\(W_{\text{手}} = \Delta K + \Delta U\) を適用するのが基本方針です。
「静かに」引き下げるという条件から、運動の前後で速さは0のままなので、運動エネルギーの変化 \(\Delta K\) は0です。よって、式は \(W_{\text{手}} = \Delta U\) と単純化されます。
あとは、始状態と終状態の力学的エネルギー \(U = U_g + U_s\) を正しく計算し、その変化量 \(\Delta U = U_{\text{後}} – U_{\text{前}}\) を求めれば、それがそのまま手のした仕事になります。
このとき、重力位置エネルギーと弾性エネルギーの基準点をどこに取るか、ばねの伸びをどこから測るかに注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 仕事とエネルギーの関係式: \(W_{\text{手}} = \Delta U = (U_{g, \text{後}} – U_{g, \text{前}}) + (U_{s, \text{後}} – U_{s, \text{前}})\)。
  • 「静かに」\(\rightarrow \Delta K = 0\)。
  • 始状態(つり合いの位置)での力のつりあい条件: \(kl = mg\)(\(l\)はつり合いの位置でのばねの伸び)。
  • ばねの弾性エネルギーの計算では、伸び・縮みは常に「自然長」の位置を基準にする。

具体的な解説と立式
仕事とエネルギーの関係より、
$$ W_{\text{手}} = \Delta K + \Delta U $$
「静かに」引き下げるので \(\Delta K = 0\)。よって、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{手}} &= \Delta U \\[2.0ex]
&= U_{\text{後}} – U_{\text{前}}
\end{aligned}
$$
ここで、力学的エネルギー\(U\)は、重力による位置エネルギー\(U_g\)と弾性エネルギー\(U_s\)の和です。
$$ U = U_g + U_s $$

各状態のエネルギーを計算します。

  • 基準点: 終状態(最も引き下げた位置)を重力位置エネルギーの基準(高さ0)とします。
  • ばねの伸び: 自然長の位置からの長さを\(x\)とします。

1. 始状態(つり合いの位置)

  • はじめのばねの伸びを\(l\)とすると、この位置は力のつり合いの位置なので、\(kl = mg\) が成り立ちます。
  • 高さは、終状態より\(h\)だけ高いので、\(h_{\text{前}} = h\)。
  • ばねの伸びは、\(x_{\text{前}} = l\)。
  • したがって、始状態の力学的エネルギーは、
    $$
    \begin{aligned}
    U_{\text{前}} &= mgh_{\text{前}} + \frac{1}{2}kx_{\text{前}}^2 \\[2.0ex]
    &= mgh + \frac{1}{2}kl^2
    \end{aligned}
    $$

2. 終状態(\(h\)だけ引き下げた位置)

  • 高さは基準点なので、\(h_{\text{後}} = 0\)。
  • ばねの伸びは、つり合いの位置からさらに\(h\)だけ伸びているので、\(x_{\text{後}} = l+h\)。
  • したがって、終状態の力学的エネルギーは、
    $$
    \begin{aligned}
    U_{\text{後}} &= mgh_{\text{後}} + \frac{1}{2}kx_{\text{後}}^2 \\[2.0ex]
    &= 0 + \frac{1}{2}k(l+h)^2 \\[2.0ex]
    &= \frac{1}{2}k(l+h)^2
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの関係: \(W_{\text{非保存力}} = \Delta K + \Delta U\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U_g = mgh\)
  • 弾性エネルギー: \(U_s = \frac{1}{2}kx^2\)
  • 力のつりあい: \(F_{\text{弾性力}} = F_{\text{重力}}\)
計算過程

手のした仕事 \(W_{\text{手}}\) は、力学的エネルギーの変化量 \(\Delta U\) に等しいので、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{手}} &= U_{\text{後}} – U_{\text{前}} \\[2.0ex]
&= \left\{ \frac{1}{2}k(l+h)^2 \right\} – \left\{ mgh + \frac{1}{2}kl^2 \right\} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}k(l^2 + 2lh + h^2) – mgh – \frac{1}{2}kl^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}kl^2 + klh + \frac{1}{2}kh^2 – mgh – \frac{1}{2}kl^2 \\[2.0ex]
&= klh + \frac{1}{2}kh^2 – mgh
\end{aligned}
$$
ここで、つり合いの条件式 \(kl = mg\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{手}} &= (mg)h + \frac{1}{2}kh^2 – mgh \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}kh^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

手がした仕事(物体に与えたエネルギー)が、最終的に何に変わったかを考えます。今回は「静かに」動かしたので、スピードアップには使われていません。したがって、手の仕事は、物体の「エネルギー状態の変化」にのみ使われました。
物体のエネルギー状態には、「高さ(重力位置エネルギー)」と「ばねの伸び(弾性エネルギー)」の2種類があります。
手を加えることで、物体は\(h\)だけ低い位置に移動したので、重力位置エネルギーは\(mgh\)だけ「減少」しました(重力が仕事を手伝ってくれた)。一方で、ばねは\(h\)だけ余計に伸びたので、弾性エネルギーは「増加」しました。
この「位置エネルギーの減少分」と「弾性エネルギーの増加分」を差し引きした正味のエネルギー変化量が、手がした仕事に等しくなります。計算すると、ちょうど \(\frac{1}{2}kh^2\) となります。

結論と吟味

手のした仕事は \(\displaystyle\frac{1}{2}kh^2\) となります。この結果は、つり合いの位置を基準とすると、重力の影響が見かけ上なくなり、あたかも水平なばねを\(h\)だけ伸ばしたときの弾性エネルギーの増加分と同じになることを示しています。これは鉛直ばね振り子が、つり合いの位置を中心とした単振動と見なせることと関連しており、物理的に非常に興味深く、妥当な結果です。

解答 \(\displaystyle\frac{1}{2}kh^2\)
別解1: 力のつりあいと仕事の定義(F-xグラフの面積)から計算する解法

思考の道筋とポイント
「静かに」引き下げるという条件を、「各瞬間で力がつりあっている」と解釈し、力の観点からアプローチします。引き下げる距離に応じて手の力は変化するため、仕事の計算には積分(あるいはグラフの面積)の考え方が必要になります。
この設問における重要なポイント

  • 「静かに」\(\rightarrow\) 各瞬間で力のつりあいが成立。
  • 手の力\(F\)は、引き下げる距離\(y\)に応じて \(F(y)=ky\) と変化する。
  • 力が変化する場合の仕事は、F-yグラフの面積で計算できる。

具体的な解説と立式
つり合いの位置を原点とし、鉛直下向きを正とする\(y\)軸をとります。
つり合いの位置でのばねの伸びを\(l\)とすると、力のつりあいから \(kl=mg\)。
つり合いの位置から\(y\)だけ引き下げたとき、ばねの伸びは\(l+y\)になっています。
この位置で物体を静止させるための手の力を\(F(y)\)とすると、力のつりあいの式は、
$$ (\text{上向きの力}) = (\text{下向きの力の和}) $$
$$ k(l+y) = mg + F(y) $$
\(kl=mg\) なので、
$$
\begin{aligned}
mg + ky &= mg + F(y)
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
F(y) &= ky
\end{aligned}
$$
手の力は、引き下げる距離\(y\)に比例して大きくなります。この力で、\(y=0\)から\(y=h\)まで動かすときの仕事は、F-yグラフの面積に等しくなります。このグラフは、原点を通り、点\((h, kh)\)を通る直線です。

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 仕事の定義(力が変化する場合)
計算過程

仕事\(W_{\text{手}}\)は、底辺が\(h\)、高さが\(kh\)の直角三角形の面積に等しいので、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{手}} &= \frac{1}{2} \times (\text{底辺}) \times (\text{高さ}) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2} \times h \times (kh) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}kh^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ばね付きのおもりを引き下げる時、はじめは軽い力で動きますが、ばねが伸びるにつれてだんだん力が必要になります。力の大きさが0から\(kh\)まで、直線的に増加していきます。このように力が変化する場合の仕事は、「平均の力 \(\times\) 距離」で計算できます。力の平均値は \(\frac{0+kh}{2} = \frac{1}{2}kh\) です。これに動かした距離\(h\)を掛けると、仕事は \(\frac{1}{2}kh^2\) となります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。エネルギーの観点と力の観点の両方から同じ結論が導かれることは、物理法則の整合性を示しています。

解答 \(\displaystyle\frac{1}{2}kh^2\)
別解2: 単振動のエネルギー公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
鉛直ばね振り子の運動は、力のつり合いの位置を「振動中心」とする単振動と見なせます。この単振動における位置エネルギーは、重力位置エネルギーと弾性エネルギーを合成したものであり、振動中心からの変位を\(y\)として \(\frac{1}{2}ky^2\) と表せることが知られています。この公式を直接利用します。
この設問における重要なポイント

  • 鉛直ばね振り子の振動中心は、力のつり合いの位置。
  • 振動中心を基準としたときの位置エネルギーは \(U_{\text{単振動}} = \frac{1}{2}ky^2\)。
  • 手のした仕事は、この単振動の位置エネルギーの変化量に等しい。

具体的な解説と立式
この運動系を、つり合いの位置を振動中心とする単振動とみなします。
「静かに」引き下げるので、手のした仕事は、この単振動における位置エネルギーの変化量に等しくなります。

  • 始状態: 振動中心にいるので、変位は0。
    $$
    \begin{aligned}
    U_{\text{前}} &= \frac{1}{2}k \cdot 0^2 \\[2.0ex]
    &= 0
    \end{aligned}
    $$
  • 終状態: 振動中心から\(h\)だけ引き下げたので、変位は\(h\)。
    $$
    \begin{aligned}
    U_{\text{後}} &= \frac{1}{2}kh^2
    \end{aligned}
    $$

手のした仕事\(W_{\text{手}}\)は、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{手}} &= \Delta U_{\text{単振動}} \\[2.0ex]
&= U_{\text{後}} – U_{\text{前}}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 単振動の位置エネルギー: \(U = \frac{1}{2}ky^2\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
W_{\text{手}} &= \frac{1}{2}kh^2 – 0 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}kh^2
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

鉛直ばね振り子は、一見複雑ですが、重力の効果をうまく吸収して、つり合いの位置を新しい「原点」とする、ただの水平なばね振り子と同じように扱うことができます。この見方をすると、問題は「水平なばね振り子を、原点から\(h\)だけ静かに伸ばした。手の仕事は?」と読み替えることができます。このとき、手の仕事は、ばねに蓄えられたエネルギーに等しいので、答えは \(\frac{1}{2}kh^2\) とすぐにわかります。

結論と吟味

他の解法と完全に同じ結果が得られました。単振動の性質を深く理解していると、このように非常に簡潔に問題を解くことができます。

解答 \(\displaystyle\frac{1}{2}kh^2\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 鉛直ばね振り子におけるエネルギーの扱い:
    • 核心: この問題の根幹は、鉛直ばね振り子のように「重力」と「弾性力」という2種類の保存力が関わる系で、仕事とエネルギーの関係を正しく扱えるかどうかにあります。
    • 理解のポイント:
      • 2種類の位置エネルギー: 系の力学的エネルギーは、運動エネルギー\(K\)、重力による位置エネルギー\(U_g\)、弾性エネルギー\(U_s\)の3つの和で構成されます (\(E = K + U_g + U_s\))。
      • 仕事とエネルギーの関係: 手のような外力が仕事をする場合、その仕事は、これら3つのエネルギーの合計の変化量に等しくなります (\(W_{\text{手}} = \Delta K + \Delta U_g + \Delta U_s\))。
      • 「静かに」の適用: 「静かに」という条件から \(\Delta K = 0\) となるため、\(W_{\text{手}} = \Delta U_g + \Delta U_s\) となります。つまり、手の仕事は、重力位置エネルギーと弾性エネルギーの「合計の変化量」に等しくなります。
  • つり合いの位置の重要性:
    • 核心: 鉛直ばね振り子の問題を解く上で、「つり合いの位置」が持つ物理的な意味を理解することが極めて重要です。
    • 理解のポイント:
      • 力のつりあい: つり合いの位置では、ばねの弾性力(上向き)と重力(下向き)が等しくなっています (\(kl=mg\))。この関係式は、問題を解く上で頻繁に使われる重要な鍵です。
      • エネルギーの相殺: 計算結果が \(\frac{1}{2}kh^2\) となったのは、手の仕事の一部が重力位置エネルギーの減少に使われ(重力が仕事を手伝い)、残りが弾性エネルギーの増加に使われた結果、それらがうまく相殺されたことを示しています。
      • 単振動の中心: つり合いの位置は、この系がもし振動した場合の「振動中心」となります。この視点を持つと、より高度な問題にも対応できるようになります(別解2)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 鉛直ばね振り子の振動: つり合いの位置から物体をずらして放したときの、単振動の速さや周期を求める問題。この場合、力学的エネルギー \(E = \frac{1}{2}mv^2 + mgh + \frac{1}{2}kx^2\) が保存されることを利用して解きます。
    • 斜面上のばね振り子: 斜面上に置かれたばね振り子でも、考え方は同じです。重力の斜面成分と弾性力がつりあう点が「つり合いの位置」となり、その点を中心とした単振動と見なせます。
    • 弾性体上の物体の運動: ゴム膜やトランポリンの上に物体を置く問題も、弾性エネルギーと重力位置エネルギーを同時に考える点で類似しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 関わるエネルギーの種類を特定する: 重力、ばね、運動など、どのような種類のエネルギーが関わっているかを最初にリストアップします。
    2. 基準点を明確にする: 重力位置エネルギーの基準点(\(h=0\))と、弾性エネルギーの基準点(自然長の位置、\(x=0\))を、それぞれ明確に設定します。これらは必ずしも同じ位置である必要はありません。
    3. 始状態と終状態の各エネルギーを計算する: 運動の「前」と「後」の状態で、リストアップした全ての種類のエネルギーを計算します。特に、ばねの伸び\(x\)は自然長から測ることを徹底します。
    4. 仕事とエネルギーの関係式を立てる: \(W_{\text{外力}} = \Delta K + \Delta U_g + \Delta U_s\) の基本形に、計算した値を代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 弾性エネルギーの変化を \(\frac{1}{2}kh^2\) と誤解する:
    • 誤解: つり合いの位置から\(h\)だけ伸ばしたので、弾性エネルギーの増加量も \(\frac{1}{2}kh^2\) だと勘違いしてしまう(模範解答の”Miss”の例)。
    • 対策: 弾性エネルギーは、自然長からの伸びの「2乗」に比例します。したがって、伸びが\(l\)から\(l+h\)に変化した場合、エネルギーの変化量は \(\frac{1}{2}k(l+h)^2 – \frac{1}{2}kl^2\) となり、単純な \(\frac{1}{2}kh^2\) にはなりません。必ず、始状態と終状態のそれぞれの弾性エネルギーを計算し、その差をとるようにしましょう。
  • 重力位置エネルギーの変化を忘れる:
    • 誤解: ばねの問題であるため、弾性エネルギーの変化だけに注目してしまい、物体が上下に動いたことによる重力位置エネルギーの変化を見落とす。
    • 対策: 鉛直方向や斜面上の運動では、常に重力位置エネルギーの変化が伴う可能性がある、と意識することが重要です。エネルギーの種類を最初にリストアップする習慣が、このミスを防ぎます。
  • つり合いの式 \(kl=mg\) の使い方:
    • 誤解: この関係式をどのタイミングで使えばよいか分からず、計算の途中で混乱する。
    • 対策: この式は、あくまで「始状態(つり合いの位置)」における力の関係を表すものです。エネルギーの式を最後まで文字で計算し、最終段階でこの関係式を代入して式を簡単にする、という手順を踏むのが最も確実です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 仕事とエネルギーの関係 \(W = \Delta K + \Delta U_g + \Delta U_s\):
    • 選定理由: この問題は、外力(手の力)が仕事をし、その結果として2種類以上の位置エネルギー(重力と弾性)を含む力学的エネルギーが変化する、という複雑な状況を扱っています。このような複数のエネルギーが関わる系の変化を、過不足なく記述できる最も一般的で適切な法則が、この仕事とエネルギーの関係式です。
    • 適用根拠: この法則は、エネルギー保存則を、非保存力や外力が仕事をする場合にまで拡張したものです。エネルギーの出入り(仕事)と、系のエネルギーの蓄積(力学的エネルギー)の間の収支関係を表しており、あらゆる力学現象に適用できる普遍的な原理です。
  • 力のつりあいと仕事の定義(別解1):
    • 選定理由: 「静かに」というキーワードを「力のつりあい」と解釈することで、エネルギーという抽象的な概念ではなく、より具体的な「力」をベースに問題を解くことができます。力が変化する場合の仕事の計算(積分またはグラフ面積)の良い練習にもなります。
    • 適用根拠: 「静かに」動かす、すなわち加速度0で動かすためには、運動方程式 \(ma = \sum F\) より、力の合力 \(\sum F\) が常に0でなければなりません。これは力のつりあいの条件そのものです。また、力が直線的に変化する場合の仕事が、F-xグラフの面積で計算できることは、積分の定義から数学的に保証されています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 展開を丁寧に行う: \((l+h)^2 = l^2 + 2lh + h^2\) のような展開を、焦って間違えないようにしましょう。
  • 文字の消去を確認する: 最終的に \(mgh\) と \(klh\) の項が \(kl=mg\) の関係によってきれいに消去されるのが、この問題のポイントです。もしこれらの項が残ってしまったら、どこかで計算ミスや立式の誤りがある可能性が高いです。
  • 基準点を明確に図示する: 問題の図に、自分で設定した重力位置エネルギーの基準点(\(h=0\))と、弾性エネルギーの基準点(自然長)を書き込むと、各状態でのエネルギー計算がしやすくなり、ミスが減ります。
  • エネルギー変化の内訳を考える: 最終的な答え \(\frac{1}{2}kh^2\) が、\(\Delta U_s – |\Delta U_g|\)(弾性エネルギーの増加分から重力位置エネルギーの減少分を引いたもの)と等しくなっているか、検算してみるのも良い方法です。
    • \(\Delta U_s = klh + \frac{1}{2}kh^2\)
    • \(\Delta U_g = -mgh\)
    • \(\Delta U = \Delta U_s + \Delta U_g = klh + \frac{1}{2}kh^2 – mgh\)。これに \(kl=mg\) を代入すると、確かに \(\frac{1}{2}kh^2\) となります。

62 摩擦熱

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法(仕事とエネルギーの関係を用いる)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
      • 模範解答が、運動の前後での「エネルギー」の変化に着目するのに対し、別解ではまず物体に働く「力」から運動の加速度を求め、その加速度を用いて運動学の公式から速さを計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 同じ現象を、「エネルギー保存」という視点と、「力と加速度」という視点の両方から解析することで、力学の二大原理がどのように関連し合っているかへの理解が深まります。
    • 解法の選択肢拡大: 問題によっては、エネルギー保存則よりも運動方程式を立てる方が直感的な場合があります。両方のアプローチを習得することで、問題解決能力の幅が広がります。
    • 相互検算による確実性向上: 異なる二つの方法で計算し、同じ答えが導かれることを確認することで、計算の正確性を格段に高めることができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「動摩擦力がする仕事とエネルギーの関係」です。物体が持つ運動エネルギーが、動摩擦力によってすべて熱エネルギーに変換され、やがて静止するまでの過程を、仕事とエネルギーの定理を用いて解析します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事とエネルギーの定理: 物体にされた仕事の総和は、その物体の運動エネルギーの変化量に等しい (\(W_{\text{合計}} = \Delta K\))。
  2. 動摩擦力がする仕事: 動摩擦力は常に運動を妨げる向きに働くため、その仕事は負の値となる。大きさは \(W = -(\text{動摩擦力}) \times (\text{距離})\)。
  3. 動摩擦力の大きさ: 水平面上では、垂直抗力\(N\)が重力\(mg\)とつりあうため、動摩擦力の大きさは \(f’ = \mu N = \mu mg\) となる。
  4. 運動エネルギー: 質量\(m\)、速さ\(v\)の物体の運動エネルギーは \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 始状態(初速\(v_0\))と終状態(静止)の運動エネルギーをそれぞれ求め、運動エネルギーの変化量 \(\Delta K\) を計算します。
  2. 物体が距離\(L\)を進む間に、動摩擦力がした仕事 \(W\) を式で表します。
  3. 仕事とエネルギーの定理 \(W = \Delta K\) を立式し、距離\(L\)について解きます。

思考の道筋とポイント
物体が初めに持っていた運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\) は、どこへ消えたのでしょうか?摩擦のある面を滑ることで、そのエネルギーはすべて摩擦熱に変わり、最終的に物体の運動エネルギーは0になります。このエネルギーの収支関係を数式にしたものが「仕事とエネルギーの定理」です。
具体的には、「動摩擦力がした負の仕事」が、「物体の運動エネルギーの変化量(後のエネルギー – 前のエネルギー)」に等しい、という関係式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 仕事とエネルギーの定理: \(W_{\text{動摩擦力}} = K_{\text{後}} – K_{\text{前}}\)。
  • 動摩擦力の大きさは \(f’ = \mu mg\)。
  • 動摩擦力は運動と逆向きに働くので、その仕事は \(W_{\text{動摩擦力}} = -f’L = -\mu mgL\)。
  • 始状態の運動エネルギーは \(K_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\)。
  • 終状態(止まる)の運動エネルギーは \(K_{\text{後}} = 0\)。

具体的な解説と立式
仕事とエネルギーの定理を適用します。
$$ W_{\text{動摩擦力}} = K_{\text{後}} – K_{\text{前}} $$
各項を具体的に計算します。

  • 動摩擦力がした仕事 \(W_{\text{動摩擦力}}\):
    動摩擦力の大きさは \(\mu mg\) で、運動方向と逆向きに働くため、仕事は負となります。
    $$
    \begin{aligned}
    W_{\text{動摩擦力}} &= -(\mu mg) \times L \\[2.0ex]
    &= -\mu mgL
    \end{aligned}
    $$
  • 運動エネルギーの変化 \(\Delta K\):
    $$
    \begin{aligned}
    \Delta K &= 0 – \frac{1}{2}mv_0^2 \\[2.0ex]
    &= -\frac{1}{2}mv_0^2
    \end{aligned}
    $$

これらを定理の式に代入すると、
$$ -\mu mgL = -\frac{1}{2}mv_0^2 $$
両辺のマイナスを消去すると、模範解答にあるように「はじめの運動エネルギーが摩擦熱(摩擦力のした仕事の大きさ)に変わった」という関係式になります。
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 = \mu mgL $$

使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの定理: \(W_{\text{非保存力}} = \Delta K\)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu N\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

上記で立式した \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 = \mu mgL\) を、距離\(L\)について解きます。
両辺の\(m\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}v_0^2 &= \mu gL
\end{aligned}
$$
\(L\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{v_0^2}{2\mu g}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

スケート選手が滑っているのを想像してください。選手が最初に持っているスピードのエネルギー(運動エネルギー)は、氷との摩擦によって少しずつ熱エネルギーに変わり、その分だけスピードが落ちていきます。最終的に、持っていた運動エネルギーをすべて熱に変え尽くしたとき、選手は止まります。
この関係を式にすると、「はじめの運動エネルギー = 摩擦によって発生した熱エネルギー」となります。摩擦熱は「摩擦力 \(\times\) 滑った距離」で計算できるので、この等式から止まるまでの距離を求めることができます。

結論と吟味

Pが止まるまでに進む距離\(L\)は \(\displaystyle\frac{v_0^2}{2\mu g}\) となります。
この式を吟味すると、

  • 初速\(v_0\)が大きいほど、止まるまでの距離は\(v_0^2\)に比例して長くなります。
  • 動摩擦係数\(\mu\)が大きい(床がザラザラしている)ほど、あるいは重力加速度\(g\)が大きい(物体が重く感じる)ほど、ブレーキが強くかかるため、止まるまでの距離は短くなります。

これらは日常的な感覚とも一致しており、物理的に妥当な結果です。

解答 \(\displaystyle\frac{v_0^2}{2\mu g}\)
別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法

思考の道筋とポイント
エネルギーの観点ではなく、力と加速度の観点から問題を解くアプローチです。まず、物体Pに働く力を分析して運動方程式を立て、物体の加速度(この場合は減速度)を求めます。この運動は加速度が一定なので、等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を用いて、速さが0になるまでに進む距離\(L\)を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 物体に働く水平方向の力は、運動と逆向きの動摩擦力のみである。
  • 運動方程式 \(ma=F\) を用いて、加速度を求める。
  • 等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を適用する。

具体的な解説と立式
運動方向(初速の向き)を正とします。
1. 運動方程式

  • 物体に働く水平方向の力は、負の向きに働く動摩擦力 \(f’ = \mu mg\) のみです。
  • したがって、運動方程式は、
    $$ ma = -\mu mg $$

2. 等加速度直線運動の公式

  • 初速度は\(v_0\)、終速度は\(v=0\)、進んだ距離は\(L\)なので、
    $$ 0^2 – v_0^2 = 2aL $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 動摩擦力: \(f’ = \mu N\)
  • 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
計算過程

まず、運動方程式から加速度\(a\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= -\mu g
\end{aligned}
$$
この加速度は負の値であり、物体が減速することを示しています。
次に、この\(a\)を等加速度直線運動の公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
-v_0^2 &= 2(-\mu g)L \\[2.0ex]
-v_0^2 &= -2\mu gL
\end{aligned}
$$
両辺のマイナスを消去し、\(L\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
L &= \frac{v_0^2}{2\mu g}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

まず、摩擦力が物体にどれくらいの強さでブレーキをかけているか、つまり「減速度」を計算します。運動方程式を立てると、物体の加速度は \(a = -\mu g\) であることがわかります。
次に、初速\(v_0\)で動いている物体が、この一定のブレーキ(加速度\(a\))をかけられて、ちょうど止まるまでにどれだけの距離を進むかを、運動の公式「(後の速さの2乗)-(前の速さの2乗) = 2 \(\times\) 加速度 \(\times\) 距離」を使って計算します。

結論と吟味

主たる解法である「仕事とエネルギーの関係」から導いた結果と、完全に一致しました。これは、力学の二大原理である「エネルギー保存則(の一般形)」と「運動方程式」が、本質的には等価であることを示しています。

解答 \(\displaystyle\frac{v_0^2}{2\mu g}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 仕事とエネルギーの定理(非保存力の仕事):
    • 核心: この問題の根幹は、摩擦力のような「非保存力」が仕事をする場合に、その仕事が物体の力学的エネルギーをどのように変化させるかを記述する「仕事とエネルギーの定理」を理解することにあります。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの損失: 動摩擦力は常に運動を妨げる向きに働くため、その仕事は常に負となります。これは、物体の力学的エネルギー(この場合は運動エネルギー)が、摩擦によって熱エネルギーという別の形態に変換され、系から失われていくことを意味します。
      • エネルギー収支: このエネルギーの損失を定量的に表したのが、仕事とエネルギーの定理 \(W_{\text{非保存力}} = \Delta E\) です。この問題では、水平面上で位置エネルギーは変化しないため、\(\Delta E = \Delta K\) となり、\(W_{\text{動摩擦力}} = K_{\text{後}} – K_{\text{前}}\) となります。
      • 言い換え: 模範解答のように、\(-\mu mgL = 0 – \frac{1}{2}mv_0^2\) を変形した \(\frac{1}{2}mv_0^2 = \mu mgL\) は、「はじめに持っていた運動エネルギーのすべてが、摩擦力がした仕事(=発生した摩擦熱)に等しい」と解釈でき、非常に直感的で強力な考え方です。
  • 運動方程式との等価性:
    • 核心: 「仕事とエネルギーの定理」と、「運動方程式+等加速度運動の公式」という2つのアプローチは、見た目は異なりますが数学的・物理的に完全に等価です。
    • 理解のポイント:
      • 力の視点: 運動方程式は、ある瞬間の「力」と「加速度」の関係を記述します。これを時間や距離で追跡していくのが運動学的なアプローチです。
      • エネルギーの視点: 仕事とエネルギーの定理は、運動の「始状態」と「終状態」のエネルギーの変化を、その間にされた「仕事」と結びつけます。途中の経過を問わない場合に非常に有効です。
      • どちらのアプローチもニュートンの運動法則から導かれるものであり、同じ問題に対しては必ず同じ答えを与えます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 摩擦のある斜面を滑り上がる: 初速\(v_0\)で物体を斜面に打ち上げたときの最高到達点を求める問題。はじめの運動エネルギーが、「重力による位置エネルギーの増加」と「動摩擦力がした仕事(熱エネルギー)」の2つに分配されると考えます。(\(\frac{1}{2}mv_0^2 = mgh + \mu’ mg\cos\theta \cdot L\))
    • 空気抵抗を受けながら運動する物体: 空気抵抗力が仕事をし、力学的エネルギーが減少していく問題。
    • ブレーキをかける自動車: ブレーキによる摩擦力が負の仕事をし、自動車の運動エネルギーを熱に変えて停止させる問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 非保存力の有無を確認する: 問題文に「摩擦」「空気抵抗」などの言葉があるか、あるいは人が力を加え続けるなど、力学的エネルギーが保存されない要因があるかを確認します。
    2. エネルギーが保存されない場合: すぐに「仕事とエネルギーの定理」に思考を切り替えます。
    3. 始状態と終状態のエネルギーを特定する: 運動の前後で、運動エネルギーと位置エネルギーがそれぞれどうなっているかを整理します。
    4. 非保存力がした仕事を計算する: 摩擦力などの非保存力が、移動中にどれだけの仕事をしたかを計算します。向きを考慮し、符号(多くは負)を間違えないようにします。
    5. エネルギー収支の式を立てる: 「(非保存力がした仕事)=(力学的エネルギーの変化)」、あるいは「(始状態の力学的エネルギー)+(非保存力がした仕事)=(終状態の力学的エネルギー)」という形で立式します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 摩擦力の仕事を正としてしまう:
    • 誤解: 仕事の計算で、マイナス符号をつけ忘れる。
    • 対策: 動摩擦力は常に運動を妨げるブレーキ役です。ブレーキをかけられればエネルギーは減少するので、その仕事は必ず負になります。この物理的なイメージを常に持つようにしましょう。
  • 仕事とエネルギーの定理の式を混同する:
    • 誤解: \(W = \Delta K\) の右辺を、\(\Delta K\) ではなく \(K_{\text{後}}\) だけにしてしまうなど、式の形を間違える。
    • 対策: 定理の日本語訳「仕事の総和は、運動エネルギーの『変化量』に等しい」を正確に覚えましょう。「変化量」とは、常に「後ひく前」です。
  • 垂直抗力の計算ミス:
    • 誤解: 斜面上の問題などで、垂直抗力を安易に\(mg\)としてしまい、摩擦力の大きさを間違える。
    • 対策: 摩擦力を計算する前には、必ず面に垂直な方向の力のつりあいを立て、垂直抗力\(N\)を正しく求める、という手順を徹底しましょう。(この問題では水平面なので \(N=mg\) で正しいです)
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 仕事とエネルギーの定理:
    • 選定理由: この問題は「初速\(v_0\)で動き出した物体が、止まるまでに進む距離\(L\)」を問うています。これは、運動の始状態(速さ\(v_0\))と終状態(速さ0)の関係を、その間の物理現象(摩擦力の仕事)と結びつける問題です。途中の時間や加速度を問われていないため、エネルギーの視点から状態間の関係を直接記述する「仕事とエネルギーの定理」が最も効率的です。
    • 適用根拠: この定理は、運動方程式を距離で積分することで導出される、力学における普遍的な法則です。力が一定でなくても、また運動が直線でなくても成り立ちますが、この問題のように力が一定で運動が直線的な場合は、特にその有用性が際立ちます。
  • 運動方程式と等加速度運動の公式(別解):
    • 選定理由: こちらは、力学の問題解決におけるもう一つの王道ルートです。運動の原因である「力」から出発し、運動の様子を記述する「加速度」を求め、それを使って未来の状態(速度や位置)を予測するという、非常に論理的で基本的なアプローチです。エネルギーの概念が複雑に感じる場合や、運動の途中の時刻なども知りたい場合には、こちらの方法が適しています。
    • 適用根拠: 物体に働く力(この場合は動摩擦力)が一定であるため、ニュートンの第二法則(運動方程式)から、加速度も一定であることがわかります。加速度が一定の運動は、等加速度直線運動の公式によって完全に記述されるため、この公式の適用は正当化されます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の管理を徹底する: 仕事とエネルギーの定理 \(W = \Delta K\) を使う際、\(W\)(摩擦力の仕事)も \(\Delta K\)(運動エネルギーの変化)も両方負になるため、\(-\mu mgL = -\frac{1}{2}mv_0^2\) のように、両辺のマイナス符号を意識して立式しましょう。結果的に両辺のマイナスが消えるため、はじめから大きさだけで \(\mu mgL = \frac{1}{2}mv_0^2\) と立式しても構いませんが、その場合は「失われた運動エネルギーが摩擦熱に変わった」という物理的な意味を理解していることが前提です。
  • 文字の消去を確実に行う: 式の両辺に共通して含まれる文字(この場合は\(m\))は、早い段階で消去すると、式がシンプルになり、計算ミスが減ります。
  • 単位(次元)の確認: 答えの \(L = \frac{v_0^2}{2\mu g}\) の単位を確認してみましょう。分子は [速さ]\(^2\) = [m\(^2\)/s\(^2\)]。分母の\(\mu\)は無次元で、\(g\)は [加速度] = [m/s\(^2\)]。したがって、全体の単位は \(\frac{[\text{m}^2/\text{s}^2]}{[\text{m}/\text{s}^2]} = [\text{m}]\) となり、距離の単位と一致します。このような次元解析は、強力な検算ツールです。
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63 摩擦熱

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法(仕事とエネルギーの関係を用いる)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
      • 模範解答が、運動の前後での「エネルギー」の変化に着目するのに対し、別解ではまず物体に働く「力」から運動の加速度を求め、その加速度を用いて運動学の公式から速さを計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 同じ現象を、「エネルギー保存」という視点と、「力と加速度」という視点の両方から解析することで、力学の二大原理がどのように関連し合っているかへの理解が深まります。
    • 解法の選択肢拡大: 問題によっては、エネルギー保存則よりも運動方程式を立てる方が直感的な場合があります。両方のアプローチを習得することで、問題解決能力の幅が広がります。
    • 相互検算による確実性向上: 異なる二つの方法で計算し、同じ答えが導かれることを確認することで、計算の正確性を格段に高めることができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「摩擦のある斜面での仕事とエネルギーの関係」です。物体が斜面を滑り降りる際に、重力がする仕事(位置エネルギーの減少)の一部が、動摩擦力によって熱エネルギーとして失われる状況を扱います。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事とエネルギーの関係: 物体にされた仕事の総和は、その物体の運動エネルギーの変化量に等しい。特に、非保存力(摩擦力)が仕事をする場合、力学的エネルギーは保存されない。
  2. エネルギーの収支: この問題では、「(位置エネルギーの減少分)=(運動エネルギーの増加分)+(摩擦によって発生した熱)」というエネルギーの収支関係が成り立つ。
  3. 動摩擦力がする仕事: 動摩擦力がした仕事の大きさ(摩擦熱)は、\((\text{動摩擦力}) \times (\text{距離})\) で計算される。
  4. 力の分解と垂直抗力: 斜面上では、重力を斜面に平行・垂直な成分に分解し、垂直方向の力のつりあいから垂直抗力を正しく求めることが、摩擦力を計算する上で不可欠である。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 始状態(放した瞬間)と終状態(\(l\)だけ滑り降りた後)の、物体の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギー)の変化を考えます。
  2. 物体が距離\(l\)を滑る間に、動摩擦力がした仕事(失われたエネルギー)を計算します。
  3. 「(位置エネルギーの減少分)=(運動エネルギーの増加分)+(動摩擦力がした仕事の大きさ)」というエネルギー収支の式を立て、速さ\(v\)について解きます。

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