力学範囲 56~60
56 力学的エネルギー保存則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(力学的エネルギー保存則を2段階で適用する)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 「仕事とエネルギーの定理」を明確に適用する解法
- 模範解答が「エネルギーの保存」という状態の比較に着目するのに対し、別解では各段階で「どの力が仕事をして、その結果として運動エネルギーがどう変化したか」という、仕事とエネルギーの因果関係をより明確にした「仕事とエネルギーの定理」の視点から立式します。
- 別解: 「仕事とエネルギーの定理」を明確に適用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 「力学的エネルギー保存則」が、「仕事とエネルギーの定理」において、仕事をする力が保存力のみである場合の特別な形式であることを理解できます。
- 思考の整理: 運動を2つのフェーズに分け、それぞれのフェーズで「仕事をした力」と「エネルギーが変化した物体」を明確に対応させることで、複雑な問題でも思考のプロセスを整理しやすくなります。
- 結果への影響
- 立式の表現や思考の出発点が異なりますが、数式そのものは主たる解法と等価であり、最終的に得られる答えは完全に一致します。
この問題のテーマは「運動の途中で系が分離する問題における力学的エネルギー保存則の応用」です。運動が2つの異なるフェーズに分かれており、それぞれのフェーズで適切にエネルギー保存則を適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦や空気抵抗など、非保存力が仕事をしない場合、系の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は一定に保たれる。
- 運動のフェーズ分割: この問題のように、運動の途中で条件が変わる(物体が分離する)場合、運動を複数のフェーズに区切って考える必要がある。
- 弾性エネルギー: ばね定数\(k\)のばねが自然長から\(x\)だけ変形したときに蓄えられるエネルギーで、\(U_{\text{ばね}} = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。
- 重力による位置エネルギー: 質量\(m\)の物体が基準の高さから\(h\)だけ高い位置にあるときのエネルギーで、\(U_{\text{重力}} = mgh\)。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 運動を2つのフェーズに分けます。(1)ばねに押されて板と小球が一体で加速するフェーズ、(2)板から離れた小球が単独で曲面を上がるフェーズ。
- まず、フェーズ(1)で力学的エネルギー保存則を適用し、板と小球が分離する瞬間(自然長の位置)の速さを求めます。
- 次に、フェーズ(2)で、分離した瞬間の小球の速さを用いて、再び力学的エネルギー保存則を適用し、到達できる最高点の高さを求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、2つの異なる運動が連続して起こる複合問題です。それぞれの運動区間で、どの物体を「系」として考え、どのエネルギーが保存されるのかを正しく見極めることが重要です。
ステップ1: ばねが自然長になるまでの運動
最初にばねを\(l\)だけ縮めた状態から、板と小球Pが一体となって動き出し、ばねが自然長になる瞬間までを考えます。この区間では、「ばね+板M+小球m」を一つの系と見なします。摩擦がないため、この系の力学的エネルギー(弾性エネルギーと、板・小球の運動エネルギーの和)は保存されます。
ステップ2: 自然長の位置で分離した後の運動
ばねが自然長になった瞬間、板はばねからの力を受けなくなり、小球Pは板から離れて単独で運動を始めます。ここからは、「小球P」だけを系として考えます。小球Pは、分離した瞬間の速さを持って、滑らかな曲面を上がっていきます。この運動では、小球Pの力学的エネルギー(運動エネルギーと重力による位置エネルギーの和)が保存されます。
この2つのステップを、分離する瞬間の速さ\(v_0\)を介してつなぎ合わせることで、最終的な高さ\(h\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 運動を2つのフェーズに明確に分割して考える。
- フェーズ1では、質量\((M+m)\)の物体が運動すると考える。
- フェーズ2では、質量\(m\)の物体が運動すると考える。
- 水平面を重力による位置エネルギーの基準(高さ0)とする。
- 最高点では、小球の速さは0になる。
具体的な解説と立式
ステップ1: 自然長での速さ\(v_0\)を求める
ばねを\(l\)だけ縮めて放した瞬間と、ばねが自然長になった瞬間とで、力学的エネルギー保存則を立てます。系は「ばね+板+小球」です。
- 始状態(縮み\(l\))のエネルギー \(E_1\):
物体は静止しているので運動エネルギーは0。弾性エネルギーのみ。
$$ E_1 = \frac{1}{2}k l^2 $$ - 中間状態(自然長)のエネルギー \(E_2\):
板と小球は一体で速さ\(v_0\)で運動。弾性エネルギーは0。
$$ E_2 = \frac{1}{2}(M+m)v_0^2 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_1 = E_2\) より、
$$ \frac{1}{2}kl^2 = \frac{1}{2}(M+m)v_0^2 \quad \cdots ① $$
ステップ2: 最高点の高さ\(h\)を求める
自然長の位置で板から離れた瞬間と、小球Pが最高点に達した瞬間とで、力学的エネルギー保存則を立てます。系は「小球P」です。水平面を位置エネルギーの基準(高さ0)とします。
- 始状態(自然長の位置)のエネルギー \(E’_{2}\):
速さは\(v_0\)、高さは0。
$$ E’_{2} = \frac{1}{2}mv_0^2 $$ - 最終状態(最高点)のエネルギー \(E’_{3}\):
速さは0、高さは\(h\)。
$$ E’_{3} = mgh $$
力学的エネルギー保存則 \(E’_{2} = E’_{3}\) より、
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 = mgh \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
- 弾性エネルギー: \(U_{\text{ばね}} = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
- 重力による位置エネルギー: \(U_{\text{重力}} = mgh\)
まず、②式を\(v_0^2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &= 2gh
\end{aligned}
$$
次に、①式の両辺から\(\frac{1}{2}\)を消去し、\(v_0^2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &= \frac{kl^2}{M+m}
\end{aligned}
$$
この2つの\(v_0^2\)の式を等しいとおいて、\(h\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
2gh &= \frac{kl^2}{M+m} \\[2.0ex]
h &= \frac{kl^2}{2g(M+m)}
\end{aligned}
$$
この問題は、エネルギーのバトンリレーのようなものです。
- 第1走者(ばね): 最初に、縮められたばねが \(\frac{1}{2}kl^2\) というエネルギーを持っています。
- バトンタッチ: ばねが自然長に戻った瞬間、持っていたエネルギーをすべて「板と小球のチーム」にスピードのエネルギーとして渡します。この瞬間のスピードを\(v_0\)とします。
- 第2走者(小球P): 板から離れた小球Pは、受け取ったスピードのエネルギー \(\frac{1}{2}mv_0^2\) を使って、一人で坂を駆け上がります。
- ゴール: スピードのエネルギーがすべて高さのエネルギー \(mgh\) に変わったところが最高点です。
このエネルギーのリレーを数式で追いかけることで、最終的な高さを計算できます。
Pが達する最高点の高さ\(h\)は \(\displaystyle\frac{kl^2}{2g(M+m)}\) となります。この式は、ばねが硬い(\(k\))、あるいは縮み(\(l\))が大きいほど、最初に蓄えられるエネルギーが大きくなるため、より高く到達できることを示しています。また、板(\(M\))や小球(\(m\))が重いほど、同じエネルギーで得られる速さが遅くなるため、到達する高さは低くなります。これらは物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
力学的エネルギー保存則の代わりに、より一般的な「仕事とエネルギーの定理(仕事の総和 = 運動エネルギーの変化)」を各フェーズで適用します。考え方の本質は同じですが、エネルギーの出入りを「仕事」という観点から明確に記述するアプローチです。
この設問における重要なポイント
- フェーズ1では、「ばねがした仕事」が「板と小球の運動エネルギー」に変わる。
- フェーズ2では、「重力がした負の仕事」によって「小球の運動エネルギー」が失われる。
具体的な解説と立式
ステップ1: 自然長での速さ\(v_0\)を求める
系を「板M+小球m」とします。この系に対して、ばねが仕事をして運動エネルギーを与えます。
- ばねがした仕事 \(W_{\text{ばね}}\): ばねが自然長に戻るまでに解放するエネルギーに等しいので、\(W_{\text{ばね}} = \displaystyle\frac{1}{2}kl^2\)。
- 系の運動エネルギーの変化 \(\Delta K_{\text{全体}}\): \( \displaystyle\frac{1}{2}(M+m)v_0^2 – 0 \)。
仕事とエネルギーの定理 \(W_{\text{ばね}} = \Delta K_{\text{全体}}\) より、
$$ \frac{1}{2}kl^2 = \frac{1}{2}(M+m)v_0^2 $$
ステップ2: 最高点の高さ\(h\)を求める
系を「小球P」とします。小球が曲面を上がる間、重力が負の仕事をします。
- 重力がした仕事 \(W_{\text{重力}}\): 高さ\(h\)だけ上がるので、\(W_{\text{重力}} = -mgh\)。
- 小球の運動エネルギーの変化 \(\Delta K_{\text{P}}\): 最高点で静止するので、\(0 – \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\)。
仕事とエネルギーの定理 \(W_{\text{重力}} = \Delta K_{\text{P}}\) より、
$$ -mgh = -\frac{1}{2}mv_0^2 $$
$$ mgh = \frac{1}{2}mv_0^2 $$
使用した物理公式
- 仕事とエネルギーの定理: \(W_{\text{合計}} = \Delta K\)
主たる解法と全く同じ計算になります。2つのステップで得られた式を連立させることで、
$$ h = \frac{kl^2}{2g(M+m)} $$
という結果が得られます。
エネルギーのやり取りを「仕事」という言葉で説明します。
- 第1段階: ばねが「プラスの仕事」をして、「板と小球のチーム」に運動エネルギーを与えます。
- 第2段階: 坂を上る小球に対して、今度は重力が「マイナスの仕事」(ブレーキをかける仕事)をします。小球が持っていた運動エネルギーが、この重力のマイナスの仕事によってすべて奪われたとき、小球は一瞬停止し、そこが最高点となります。
この「仕事」を介したエネルギーの増減を計算することで、高さを求めます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。力学的エネルギー保存則は、仕事をする力が保存力のみの場合の「仕事とエネルギーの定理」の特別な表現であり、両者が本質的に同じ物理法則を指していることが確認できます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動フェーズに応じた「系」の適切な設定:
- 核心: この問題の根幹は、運動の状況が変化するのに応じて、力学的エネルギー保存則を適用する対象となる「系」を正しく再設定できるかどうかにあります。
- 理解のポイント:
- フェーズ1(接触中): 板と小球は一体となって運動するため、両者を合わせた「質量\((M+m)\)の物体」として扱うのが適切です。このとき、保存されるのは「ばねの弾性エネルギー」と「板と小球全体の運動エネルギー」の和です。
- フェーズ2(分離後): 小球は板から離れて単独で運動します。したがって、ここからは「小球P」のみを系として考えます。保存されるのは「小球Pの運動エネルギー」と「小球Pの重力による位置エネルギー」の和です。
- 接続点: これら2つのフェーズは、小球が板から離れる瞬間の「速さ\(v_0\)」によって結びつけられます。フェーズ1の終状態が、フェーズ2の始状態となります。
- エネルギー保存則の段階的適用:
- 核心: 運動全体を通して単一のエネルギー保存則が成り立つわけではない場合でも、各フェーズでエネルギー保存則が成り立っていれば、それらを段階的に適用することで問題を解くことができます。
- 理解のポイント:
- 最初にばねに蓄えられた弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kl^2\) が、まず板と小球全体の運動エネルギー \(\frac{1}{2}(M+m)v_0^2\) に変換されます。
- 次に、そのうち小球が持つ運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv_0^2\) が、小球の重力による位置エネルギー \(mgh\) に変換されます。
- このように、エネルギーが異なる物体間を移動し、形態を変えていくプロセスを追いかけることが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 分裂・合体を伴う運動: 台車の上から物体を射出したり、動いている台車に物体を落下させたりする問題。分裂・合体の前後で運動量保存則を、それ以外の区間ではエネルギー保存則を用いることが多いです。
- ロケットの多段切り離し: 1段目のロケットが燃焼して加速し、切り離された後、2段目がさらに加速するような問題。各段階で質量が変化することに注意しながら、運動量保存則や仕事とエネルギーの関係を適用します。
- 衝突と振り子: 弾丸が木片に撃ち込まれ、一体となって振り子運動をする「バリスティック振り子」の問題。衝突の瞬間は(力学的エネルギーが保存されないため)運動量保存則を、その後の振り子運動は力学的エネルギー保存則を用いる、典型的な複合問題です。
- 初見の問題での着眼点:
- 運動のシナリオを時系列で追う: 問題文を読み、物体がどのような順序で運動するか(例: ばねで押される→分離する→曲面を上がる)を、頭の中で映像化します。
- イベント(状況変化点)を特定する: 物体が接触する、分離する、衝突するなど、運動のルールが変わる「イベント」がどこで起こるかを見つけます。
- 各区間(イベント間)で成り立つ法則を考える: 各区間でエネルギーは保存されるか?運動量は保存されるか?などを判断します。
- 「系」の範囲を明確にする: 各区間で、どの物体をまとめて一つの「系」として考えるべきかを明確にします。特に、内力しか及ぼし合っていない物体は、まとめて考えるのが基本です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 分離後も質量\((M+m)\)を使い続ける:
- 誤解: 最初の勢いで、小球が曲面を上がるフェーズでも、質量を\((M+m)\)としてエネルギー保存則を立ててしまう。
- 対策: 運動のフェーズを分割する意識を強く持ちましょう。「板から離れ」という記述を見たら、その瞬間から小球は単独行動になる、と頭を切り替えることが重要です。各フェーズで「今、動いている主役は誰か?」を自問自答する癖をつけましょう。
- エネルギー保存則の立式ミス:
- 誤解: 最初の弾性エネルギーと最後の位置エネルギーを直接結びつけようとして、途中の運動エネルギーの分配を忘れてしまう。(例: \(\frac{1}{2}kl^2 = mgh\) のような誤った式を立てる)
- 対策: エネルギーは、まずばねから「板と小球のセット」に渡され、その後「小球だけ」がそのエネルギーの一部を持って次の運動に移る、という流れを理解することが不可欠です。途中の分離点での速さ\(v_0\)を介して、2段階で式を立てるのが最も確実です。
- 速さ\(v_0\)の2乗の扱い:
- 誤解: 計算途中で平方根をとってしまい、その後の計算が複雑になったり、ミスをしたりする。
- 対策: エネルギーの式には速度が\(v^2\)の形で現れます。多くの場合、\(v\)そのものを求める必要はなく、\(v^2\)のまま次の式に代入する方が計算が楽になります。この問題でも、①式から\(v_0^2\)を求め、それを②式に代入するのが最もスマートな解法です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: この問題は、運動の始点、中間点、終点における「速さ」「ばねの縮み」「高さ」といった、状態量を結びつける問題です。時間や加速度といった途中経過を問われていないため、エネルギーの視点から状態間の関係を直接記述する力学的エネルギー保存則が最も適しています。
- 適用根拠: 問題文に「摩擦はない」と明記されており、ばねの弾性力と重力はともに保存力です。したがって、各フェーズにおいて、適切な「系」を設定すれば、その系の力学的エネルギーは保存されるという法則を適用できます。
- フェーズ1: 「ばね+板+小球」の系。内力(板と小球の間の垂直抗力)は仕事をするが、一体で動くため変位が同じであり、仕事の合計は0と見なせる。
- フェーズ2: 「小球」の系。働く力は重力のみ(垂直抗力は仕事しない)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 2段階の計算を明確に分ける: ノートや答案用紙を上下に分けるなどして、「ステップ1:分離するまで」「ステップ2:分離してから」と見出しをつけ、それぞれの計算を区別して書くと、思考が整理され、ミスが減ります。
- 中間変数(\(v_0\))をうまく使う: 2つのフェーズをつなぐ中間的な物理量(この場合は\(v_0\))を文字で置くことで、それぞれのフェーズの立式が単純になります。
- 代入は最後に行う: まずは\(v_0^2\)を\(k, l, M, m\)で表す式と、\(h\)を\(v_0^2\)で表す式の2つを立て、最後に代入して\(h\)を求める、という手順を踏むと、計算の見通しが良くなります。
- 最終的な答えの吟味: 求まった高さ\(h\)の式を見て、物理的に妥当か考えましょう。例えば、\(k\)や\(l\)が大きいほど\(h\)は大きくなるか? \(M\)や\(m\)が大きいほど\(h\)は小さくなるか?といった定性的なチェックは、単純な計算ミスを発見するのに役立ちます。
57 力学的エネルギー保存則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(分離後の板の運動について力学的エネルギー保存則を適用する)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解1: エネルギー分配の比率から解く別解
- 模範解答が分離後の運動に着目するのに対し、この別解では最初にばねに蓄えられた全エネルギーが、分離の瞬間に板と小球にどのように分配されるか、という比率に着目して直接、板のエネルギーを求めます。
- 別解2: 単振動の接続として解く別解
- この別解では、運動全体を「質量\((M+m)\)の単振動」と「質量\(M\)の単振動」が接続したものと捉え、単振動の公式を用いて解きます。
- 別解1: エネルギー分配の比率から解く別解
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: エネルギーが質量に応じて分配されるという力学の重要な側面や、運動の途中でパラメータ(質量)が変化する単振動の振る舞いについて、理解を深めることができます。
- 思考の多角化: 一つの問題を、エネルギー保存則、エネルギーの分配比、単振動という3つの異なる視点から解く経験は、物理現象を多角的に捉える能力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題は、前問56の続きです。テーマは「分離後の物体の運動と力学的エネルギー保存則」です。前問で板から離れた小球Pは曲面を上がっていきましたが、今回はその一方で、ばねにつながれたままの板Mがどのような運動をするかに焦点を当てます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 摩擦がないため、運動の各段階で適切な「系」を設定すれば、その系の力学的エネルギーは保存される。
- 運動の連続性: 小球Pが板Mから離れる瞬間、板Mはその瞬間の速さ\(v_0\)を保ったまま、次の運動(ばねを伸ばす運動)に移行する。
- 運動の転換点: 板が最もばねを伸ばした点では、板の速さは一瞬0になる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 前問56の結果を利用して、板と小球が分離する瞬間(ばねが自然長の位置)の速さ\(v_0\)を再確認します。
- 分離した瞬間を始状態、ばねの伸びが最大になった瞬間を終状態として、「板Mとばね」の系で力学的エネルギー保存則を立てます。
- この式を解いて、ばねの最大の伸び\(x\)を求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、前問56で小球Pが離れた後の「板Mのその後」を追うストーリーです。
自然長の位置で、小球Pは\(v_0\)の速さで右へ去っていきました。一方、板Mも同じ速さ\(v_0\)で右へ運動を続けます。しかし、板Mはばねにつながれているため、自然長の位置を通過した後は、ばねを伸ばし始めます。
ばねが伸びると、板Mはばねから左向きの力(復元力)を受けるため、だんだん減速していきます。そして、ついに速さが一瞬0になったとき、ばねの伸びが最大になります。
この、板Mが単独で運動する区間、すなわち「自然長の位置から、ばねの伸びが最大になるまで」の区間で、力学的エネルギー保存則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 考察する系は、小球Pが去った後の「板Mとばね」の系である。
- 始状態(自然長の位置)では、板Mは運動エネルギー \(\frac{1}{2}Mv_0^2\) を持ち、ばねの弾性エネルギーは0。
- 終状態(最大の伸び\(x\))では、板Mの速さは0で運動エネルギーは0、ばねは弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kx^2\) を持つ。
- 始状態の運動エネルギーが、すべて終状態の弾性エネルギーに変換される。
具体的な解説と立式
自然長の位置から、ばねの伸びが最大になるまでの板Mの運動について、力学的エネルギー保存則を立てます。
- 始状態(自然長)でのエネルギー \(E_{\text{始}}\):
板の速さは\(v_0\)。ばねは自然長。
$$ E_{\text{始}} = \frac{1}{2}Mv_0^2 + 0 $$ - 終状態(最大伸)でのエネルギー \(E_{\text{終}}\):
板の速さは0。ばねの伸びは\(x\)。
$$ E_{\text{終}} = 0 + \frac{1}{2}kx^2 $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{始}} = E_{\text{終}}\) より、
$$ \frac{1}{2}Mv_0^2 = \frac{1}{2}kx^2 \quad \cdots ① $$
ここで、速さ\(v_0\)は、前問56のステップ1で求めた、板と小球が分離する瞬間の速さです。前問の結果より、
$$ v_0 = l\sqrt{\frac{k}{M+m}} $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
- 前問56の結果
①式の両辺から\(\frac{1}{2}\)を消去し、\(x^2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
x^2 &= \frac{M}{k}v_0^2
\end{aligned}
$$
この式に、前問の結果である \(v_0 = l\sqrt{\frac{k}{M+m}}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x^2 &= \frac{M}{k} \left( l\sqrt{\frac{k}{M+m}} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{M}{k} \left( l^2 \frac{k}{M+m} \right) \\[2.0ex]
&= l^2 \frac{M}{M+m}
\end{aligned}
$$
\(x\)は伸びの大きさを表すので正の値です。両辺の正の平方根をとって、
$$
\begin{aligned}
x &= l\sqrt{\frac{M}{M+m}}
\end{aligned}
$$
前問のバトンリレーの続きです。ばねからエネルギーを受け取った「板と小球のチーム」は、自然長の位置で解散します。小球Pは自分の分の運動エネルギーを持って坂を上りに行きました。一方、板Mも自分の分の運動エネルギー \(\frac{1}{2}Mv_0^2\) を持っています。板Mはこのエネルギーを使って、今度はばねを反対側に伸ばす仕事をします。持っていた運動エネルギーをすべて使い果たし、ばねに弾性エネルギーとして蓄えさせたとき、板は一瞬止まり、そこが最大の伸びの位置となります。「板が持っていた運動エネルギー = 最大の伸びのときの弾性エネルギー」という式を立てることで、答えが求まります。
ばねの最大の伸び\(x\)は \(l\sqrt{\displaystyle\frac{M}{M+m}}\) となります。
この結果を吟味すると、
- \(x < l\) となっており、最初に縮めた長さよりも伸びが小さいことがわかります。これは、最初の弾性エネルギーの一部を小球Pが持ち去ってしまったため、残された板Mのエネルギーだけでは、元の長さまでばねを伸ばすことができない、という物理的な状況を正しく反映しています。
- もし小球の質量\(m\)が0なら、\(x=l\)となり、単純なばね振り子と同じく、縮みと伸びの最大値が等しくなります。
思考の道筋とポイント
最初にばねに蓄えられていた全エネルギー \(\frac{1}{2}kl^2\) が、自然長の位置で板Mと小球Pに運動エネルギーとして分配される、という視点から解きます。運動エネルギーは質量に比例して分配されるため、板Mが受け取るエネルギーの割合を計算し、そのエネルギーが最終的にばねの弾性エネルギーに変換されると考えます。
この設問における重要なポイント
- 最初の全エネルギーは \(E_{\text{全}} = \frac{1}{2}kl^2\)。
- 自然長の位置で、板Mと小球Pは同じ速さ\(v_0\)を持つため、運動エネルギーの比は質量の比に等しい (\(K_M : K_P = M : m\))。
- 板Mが受け取るエネルギー \(K_M\) は、全エネルギーのうち \(\frac{M}{M+m}\) の割合である。
- このエネルギー \(K_M\) が、最大の伸び\(x\)での弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kx^2\) に等しい。
具体的な解説と立式
最初にばねに蓄えられた全エネルギーは \(E_{\text{全}} = \displaystyle\frac{1}{2}kl^2\) です。
このエネルギーは、自然長の位置で、板Mと小球Pの運動エネルギーに分配されます。
$$ E_{\text{全}} = K_M + K_P = \frac{1}{2}Mv_0^2 + \frac{1}{2}mv_0^2 $$
板Mが受け取るエネルギーの割合は、
$$ \frac{K_M}{E_{\text{全}}} = \frac{\frac{1}{2}Mv_0^2}{\frac{1}{2}(M+m)v_0^2} = \frac{M}{M+m} $$
よって、板Mが受け取るエネルギー \(K_M\) は、
$$ K_M = \frac{M}{M+m} E_{\text{全}} = \frac{M}{M+m} \cdot \frac{1}{2}kl^2 $$
この板Mの運動エネルギーが、ばねが最大に伸びたときの弾性エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) にすべて変換されるので、
$$ \frac{1}{2}kx^2 = \frac{M}{M+m} \cdot \frac{1}{2}kl^2 $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則
上記で立式した式の両辺から \(\displaystyle\frac{1}{2}k\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
x^2 &= \frac{M}{M+m} l^2
\end{aligned}
$$
両辺の正の平方根をとって、
$$
\begin{aligned}
x &= l\sqrt{\frac{M}{M+m}}
\end{aligned}
$$
最初にあった \(\frac{1}{2}kl^2\) というエネルギーのパイを、板Mと小球Pが質量に応じて分け合います。板Mの取り分は、全体の質量のうちの自分の質量の割合、つまり \(\frac{M}{M+m}\) です。小球Pが去った後、板Mはこの自分の取り分のエネルギーだけを使ってばねを伸ばします。したがって、「板Mの取り分エネルギー = 最大の伸びでのばねのエネルギー」という式から、答えを直接計算できます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。このアプローチは、運動の途中経過である速さ\(v_0\)を計算する必要がなく、エネルギーの分配という観点からより直接的に答えを導ける点でエレガントです。
思考の道筋とポイント
この運動を、パラメータの異なる2つの単振動が接続したものと捉えます。
- フェーズ1(接触中): 質量\((M+m)\)の物体が、振幅\(l\)で単振動の一部を行う。
- フェーズ2(分離後): 質量\(M\)の物体が、新たな振幅\(x\)で単振動を行う。
フェーズ1の最大速さ(自然長での速さ)が、フェーズ2の最大速さになることを利用して、フェーズ2の振幅(=最大の伸び\(x\))を求めます。
この設問における重要なポイント
- フェーズ1の角振動数: \(\omega_1 = \sqrt{\frac{k}{M+m}}\), 振幅: \(A_1 = l\)。
- フェーズ2の角振動数: \(\omega_2 = \sqrt{\frac{k}{M}}\), 振幅: \(A_2 = x\)。
- 接続点(自然長)での速さ\(v_0\)は、両方の単振動における最大速さである。
- 単振動の最大速さは \(v_{\text{最大}} = A\omega\)。
具体的な解説と立式
フェーズ1における最大速さ(自然長での速さ\(v_0\))は、
$$ v_0 = A_1 \omega_1 = l \sqrt{\frac{k}{M+m}} $$
フェーズ2においても、自然長の位置が振動中心であり、ここでの速さ\(v_0\)が最大速さとなります。したがって、フェーズ2の振幅を\(x\)とすると、
$$ v_0 = A_2 \omega_2 = x \sqrt{\frac{k}{M}} $$
この2つの\(v_0\)の式が等しいとおくことで、\(x\)を求めます。
$$ l \sqrt{\frac{k}{M+m}} = x \sqrt{\frac{k}{M}} $$
使用した物理公式
- 単振動の最大速さ: \(v_{\text{最大}} = A\omega\)
- 角振動数: \(\omega = \sqrt{k/m}\)
上記で立式した式の両辺から \(\sqrt{k}\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
\frac{l}{\sqrt{M+m}} &= \frac{x}{\sqrt{M}}
\end{aligned}
$$
この式を\(x\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
x &= l \frac{\sqrt{M}}{\sqrt{M+m}} \\[2.0ex]
&= l\sqrt{\frac{M}{M+m}}
\end{aligned}
$$
この運動は、2種類のブランコを乗り換えるようなものです。
- 最初のブランコ: 重い二人乗り(質量\(M+m\))で、振れ幅\(l\)で漕ぎ始めます。一番低い位置(自然長)で最大の速さ\(v_0\)に達します。
- 乗り換え: この最大の速さの瞬間に、同乗者Pが飛び降ります。
- 次のブランコ: 残された一人(質量\(M\))は、速さ\(v_0\)を持ったまま、一人乗りのブランコを漕ぎ始めます。このときの最大の振れ幅が、求めるばねの最大の伸び\(x\)になります。
それぞれのブランコの「最大振れ幅と最大速度の関係式」を立てて、それらを等しいとおくことで、乗り換え後の振れ幅を計算します。
他の解法と完全に同じ結果が得られました。この問題が、運動の途中で質量が変化する単振動としてモデル化できることを示しており、単振動の理解を深める上で非常に有益な視点です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動フェーズに応じた「系」の適切な設定(再訪):
- 核心: 前問56に引き続き、この問題も運動の状況変化に応じて考察の対象となる「系」を正しく切り替えることが核心となります。
- 理解のポイント:
- 分離の瞬間: 自然長の位置で小球Pが離れた瞬間が、物語の転換点です。
- 分離後の板の運動: この問題で焦点を当てるのは、分離後の「板Mとばね」だけで構成される新しい系です。
- エネルギーの引き継ぎ: この新しい系は、分離の瞬間に板Mが持っていた運動エネルギー \(\frac{1}{2}Mv_0^2\) を初期エネルギーとして運動を開始します。前問で計算した全体のエネルギーの一部だけが、この新しい系の運動を支配します。
- 力学的エネルギー保存則の適用:
- 核心: 分離後の「板Mとばね」の系においても、働く力は保存力である弾性力のみ(水平面なので重力と垂直抗力は仕事をしない)であり、摩擦もないため、力学的エネルギーは保存されます。
- 理解のポイント:
- エネルギーの変換: 分離直後の板Mの運動エネルギーが、ばねが伸びるにつれて弾性エネルギーに変換されていきます。
- エネルギー保存則の立式: (分離直後の運動エネルギー)=(ばねが最大に伸びたときの弾性エネルギー)という関係式を立てます。
- 数式: \(\displaystyle\frac{1}{2}Mv_0^2 = \frac{1}{2}kx^2\)
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- エネルギーの分配: 最初に与えられたエネルギーが、運動の途中で複数の物体に分配される問題全般に応用できます。例えば、爆発によって物体が分裂する場合、爆発のエネルギーが各破片の運動エネルギーに分配されます(この場合は運動量保存則も併用します)。
- パラメータが変化する単振動: 運動の途中でばね定数が変わったり、質量が変化したりする単振動の問題。変化の前後でエネルギー保存則や、振動の中心・振幅がどう変わるかを考える必要があります。
- 段階的なエネルギー損失: 摩擦のある区間とない区間が交互に現れるような問題。摩擦のない区間ではエネルギーは保存され、摩擦のある区間ではその仕事の分だけエネルギーが減少します。各区間の接続点でエネルギー量を計算し直していくことで、全体の運動を追跡できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 前問との関連性を読み取る: 「前問で、」という記述がある場合、前問の結果(特に、状況が変化する瞬間の速度など)を利用することが前提となっています。
- 誰の運動を問われているか?: 今回は「板」の運動、特に「ばねの最大の伸び」が問われています。小球Pのその後の運動は無視してよいことを確認します。
- 分離後の初期条件を整理する: 板Mは、分離の瞬間にどのような状態(位置、速度)にあるかを明確にします。この場合は、位置は自然長(\(x=0\))、速度は\(v_0\)です。
- 分離後の終状態をイメージする: 「ばねの伸びが最大」になるのは、どのような物理的状態かを考えます。これは、板の速度が一瞬0になるときです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 最初のエネルギーをそのまま使ってしまう:
- 誤解: 最初にばねに蓄えられた全エネルギー \(\frac{1}{2}kl^2\) が、すべて板Mの運動に使われると勘違いし、\(\frac{1}{2}kl^2 = \frac{1}{2}kx^2\) という誤った式を立ててしまう(結果として \(x=l\) となり間違いに気づきにくい)。
- 対策: 全エネルギーの一部は小球Pが持ち去ってしまった、という物理的なイメージを強く持つことが重要です。必ず、分離の瞬間に板Mが持っていたエネルギー \(\frac{1}{2}Mv_0^2\) を正しく計算し、それを基準に考える癖をつけましょう。
- 分離後の系の質量を間違える:
- 誤解: 分離後の板の運動エネルギーを計算する際に、質量を\((M+m)\)のままにしてしまう。
- 対策: 前問と同様に、運動のフェーズが変わったことを強く意識します。分離後は板Mが単独で運動するので、運動エネルギーの計算に使う質量は\(M\)のみです。
- 前問の答えの引用ミス:
- 誤解: 前問で求めた\(v_0\)の式を、写し間違えたり、2乗の計算を間違えたりする。
- 対策: 複数の問題にまたがる場合、前の問題の答えは慎重に確認してから使いましょう。特に、\(v_0^2 = l^2 \frac{k}{M+m}\) のように、2乗の計算を丁寧に行うことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: この問題は、分離後の板の運動について、始状態(自然長の位置、速さ\(v_0\))と終状態(最大の伸び、速さ0)の関係を問うています。これもまた、2点間の状態変化を扱う問題であり、途中の時間や加速度を問われていないため、力学的エネルギー保存則が最も効率的な解法となります。
- 適用根拠: 分離後の「板とばね」の系では、働く力は弾性力のみ(水平面なので重力・垂直抗力は仕事をしない)で、摩擦もありません。弾性力は保存力なので、この系の力学的エネルギーは保存されます。
- エネルギー分配の比率(別解1):
- 選定理由: 運動の途中経過である速さ\(v_0\)すら計算せずに、最初のエネルギーが最終的にどうなるかを直接結びつけたい場合に有効な視点です。エネルギーというスカラー量が、系の構成要素にどのように分配されるかという、より大局的な観点から問題を解くことができます。
- 適用根拠: 同じ速さで運動している複数の物体がある場合、その運動エネルギーの合計は \(\frac{1}{2}(m_1+m_2+\dots)v^2\) となり、各物体の運動エネルギーの比は質量の比 \(m_1:m_2:\dots\) に等しくなります。この数学的な性質を利用しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 2段階の計算を明確に分ける: ノートや答案用紙を上下に分けるなどして、「ステップ1:分離するまで」「ステップ2:分離してから」と見出しをつけ、それぞれの計算を区別して書くと、思考が整理され、ミスが減ります。
- 中間変数(\(v_0\))をうまく使う: 2つのフェーズをつなぐ中間的な物理量(この場合は\(v_0\))を文字で置くことで、それぞれのフェーズの立式が単純になります。
- 代入は最後に行う: まずは\(v_0^2\)を\(k, l, M, m\)で表す式と、\(x\)を\(v_0^2\)で表す式の2つを立て、最後に代入して\(x\)を求める、という手順を踏むと、計算の見通しが良くなります。
- 極端な場合を考える:
- もし \(m=0\) なら、\(x = l\sqrt{\frac{M}{M}} = l\)。小球がなければ、縮みと伸びは同じになるはずなので、これは正しいです。
- もし \(M=0\) なら、\(x=0\)。板がなければ、ばねは伸びようがないので、これも正しいです。
このような簡単なチェックで、式の妥当性を確認できます。
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58 力学的エネルギー保存則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法(P, Q, 地球を一つの系とみなす力学的エネルギー保存則)を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
- 模範解答が、運動の前後での「エネルギー」の変化に着目するのに対し、別解ではまず物体に働く「力」から運動の加速度を求め、その加速度を用いて運動学の公式から速さを計算します。
- 別解: 運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: 同じ現象を、「エネルギー保存」という視点と、「力と加速度」という視点の両方から解析することで、力学の二大原理がどのように関連し合っているかへの理解が深まります。
- 解法の選択肢拡大: 問題によっては、エネルギー保存則よりも運動方程式を立てる方が直感的な場合があります。両方のアプローチを習得することで、問題解決能力の幅が広がります。
- 相互検算による確実性向上: 異なる二つの方法で計算し、同じ答えが導かれることを確認することで、計算の正確性を格段に高めることができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「連結された物体の力学的エネルギー保存則」です。重力によって動く2つの物体(アトウッドの器械)について、エネルギー保存則を用いて、ある距離を移動した後の速さを求める典型的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 物体PとQ、そして地球全体を一つの「系」として考えると、系内部で働く力(重力と張力)のうち、張力は仕事をしない(※後述)ため、系全体の力学的エネルギーが保存される。
- 系のエネルギー: 系全体のエネルギーを考えるときは、構成するすべての物体のエネルギー(運動エネルギー、位置エネルギー)を足し合わせる必要がある。
- 位置エネルギーの変化: 物体が上がれば位置エネルギーは増加し、下がれば減少する。系全体の位置エネルギーの変化は、これらの増減の合計で決まる。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 物体PとQを一つの系とみなし、運動の前後で力学的エネルギー保存則を立てます。
- 始状態(静かに放した瞬間)と終状態(Qが\(h\)だけ下がった瞬間)の、系全体の運動エネルギーと位置エネルギーをそれぞれ計算します。
- 「始状態の全エネルギー = 終状態の全エネルギー」という式を立て、速さ\(v\)について解きます。