力学範囲 106~110
106 単振動の物理
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「見かけの重力」という考え方を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 運動方程式から厳密に導出する解法
- 主たる解法が公式への類推で解くのに対し、別解ではエレベーターと一緒に動く観測者の視点(非慣性系)に立ち、慣性力を含めた運動方程式を厳密に立てることで、各振動の周期を導出します。
- 別解: 運動方程式から厳密に導出する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: なぜ単振り子の周期は変わり、ばね振り子の周期は変わらないのか、その根本的な理由を運動方程式の構造から理解することができます。
- 論理的思考力の養成: 「見かけの重力」という便利な考え方が、慣性力というより基本的な概念から導かれるものであることを学び、物理法則の階層的な理解が深まります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「非慣性系(加速するエレベーター)における単振動」です。加速度運動する座標系の中では、物体に「慣性力」という見かけの力が働くため、重力の影響が変化したかのように見えます。この「見かけの重力」が、単振り子とばね振り子の周期にそれぞれどのような影響を与えるかを比較検討する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 慣性力: 加速度\(\alpha\)で運動する座標系(非慣性系)では、内部の物体に加速度と逆向きに大きさ\(m\alpha\)の「慣性力」が働くように見えること。
- 見かけの重力: 非慣性系において、本来の重力と慣性力の合力を「見かけの重力」と捉えることができること。
- 単振り子の周期の公式: 周期が \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) であり、重力加速度\(g\)に依存すること。
- ばね振り子の周期の公式: 周期が \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) であり、重力加速度\(g\)に依存しないこと。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 加速上昇するエレベーター内での「見かけの重力加速度」がどうなるかを考えます。
- 単振り子: 周期の公式に含まれる重力加速度\(g\)を、1.で求めた「見かけの重力加速度」に置き換えて、周期を計算します。
- ばね振り子: 周期の公式がそもそも重力加速度\(g\)を含まないことから、周期は変化しないと結論付けます。
単振り子の周期
思考の道筋とポイント
エレベーターが上向きに加速度\(\alpha\)で上昇しているため、エレベーター内部の観測者から見ると、すべてのおもりには、本来の重力\(mg\)に加えて、加速度と逆向き(下向き)に大きさ\(m\alpha\)の「慣性力」が働いているように見えます。
したがって、おもりが感じる「見かけの重力」は、\(mg + m\alpha = m(g+\alpha)\) となります。これは、あたかも重力加速度が\(g\)から\(g’ = g+\alpha\)に増加した世界にいるのと同じ状況です。
この「見かけの重力加速度」\(g’\)を、単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) に適用します。
この設問における重要なポイント
- 加速するエレベーター内は非慣性系であり、慣性力を考慮する必要がある。
- 上向き加速度\(\alpha\)の場合、下向きに慣性力\(m\alpha\)が働く。
- 見かけの重力加速度は \(g’ = g+\alpha\) となる。
具体的な解説と立式
上向きに加速度\(\alpha\)で上昇するエレベーター内では、質量\(m\)のおもりには鉛直下向きに大きさ\(m\alpha\)の慣性力が働きます。
したがって、おもりに働く見かけの重力\(F_{\text{見かけ}}\)は、本来の重力\(mg\)と慣性力\(m\alpha\)の和となります。
$$
\begin{aligned}
F_{\text{見かけ}} &= mg + m\alpha \\[2.0ex]
&= m(g+\alpha)
\end{aligned}
$$
これを \(F_{\text{見かけ}} = mg’\) と書くと、見かけの重力加速度\(g’\)は、
$$ g’ = g+\alpha $$
となります。
通常の単振り子の周期の公式は \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) です。この\(g\)を、見かけの重力加速度\(g’\)に置き換えることで、エレベーター内での周期\(T_1\)を求めます。
使用した物理公式
- 慣性力: \(F = -m\alpha\)
- 単振り子の周期: \(T=2\pi\sqrt{l/g}\)
単振り子の周期の公式の\(g\)を、\(g’ = g+\alpha\) に置き換えます。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= 2\pi\sqrt{\frac{l}{g’}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{l}{g+\alpha}}
\end{aligned}
$$
エレベーターが上に加速すると、体が重くなったように感じますよね。これは、下向きの「慣性力」が、本来の「重力」に加わるからです。
振り子も同じように「重くなった」と感じます。つまり、振り子を揺り戻そうとする力が強くなるので、振動は速くなります(周期は短くなります)。
この「見かけの重さ」に対応する「見かけの重力加速度」は \(g+\alpha\) となります。したがって、普通の振り子の周期の公式の\(g\)の部分を、この\(g+\alpha\)に書き換えてあげるだけで、答えが求まります。
単振り子の周期は \(T_1 = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{g+\alpha}}\) と求められました。
分母の\(g+\alpha\)は\(g\)より大きいので、周期\(T_1\)は静止している場合よりも短くなります。これは、見かけの重力が大きくなり、復元力が強まることで振動が速くなるという物理的な状況と一致しており、妥当な結果です。
ばね振り子の周期
思考の道筋とポイント
ばね振り子の周期の公式は \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) です。この公式には、重力加速度\(g\)が含まれていません。
これは、ばね振り子の周期が、重力の大きさには依存しないことを意味しています。
エレベーター内で見かけの重力加速度が \(g+\alpha\) に変化したとしても、周期の公式には影響がないため、周期は静止している場合と変わらない、と結論付けられます。
この設問における重要なポイント
- ばね振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) は、重力加速度\(g\)を含まない。
- したがって、ばね振り子の周期は、重力の大きさが変わっても変化しない。
具体的な解説と立式
ばね振り子の周期の公式は、
$$ T_2 = 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}} $$
です。この式には重力加速度\(g\)が含まれていません。
エレベーターが加速することで、見かけの重力加速度が\(g+\alpha\)に変化しますが、この変化は周期の式に影響を与えません。
したがって、周期は静止しているときと同じです。
(補足)なぜ重力の影響を受けないのか?
エレベーター内では、見かけの重力が大きくなるため、振動の中心(つり合いの位置)は、静止しているときよりも下にずれます。しかし、その中心の位置からの変位\(x\)に対する復元力は、ばねの弾性力のみによって決まり(\(F=-kx\))、見かけの重力はつり合いの位置をずらすだけで、復元力の大きさには影響しません。周期は復元力の性質(有効なばね定数)と質量のみで決まるため、結果として周期は変わらないのです。
使用した物理公式
- ばね振り子の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/k}\)
公式をそのまま適用するだけなので、計算は不要です。
$$
\begin{aligned}
T_2 &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$
ばね振り子の場合、周期を決めているのは、おもりの「質量(動かしにくさ)」と、ばねの「硬さ」の2つだけです。
エレベーターが加速して見かけの重さが変わると、振動の中心(ぶら下がって静止する位置)は下にずれます。しかし、そのずれた中心の周りで振動するペース(周期)は、重さとは関係なく、おもりの質量とばねの硬さだけで決まります。
周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\) にも\(g\)が入っていないことからも、重力が変わっても周期は変わらない、と判断できます。
ばね振り子の周期は \(T_2 = 2\pi\sqrt{m/k}\) となり、静止時と変わらないことがわかりました。単振り子とばね振り子の、重力に対する応答の違いが明確に示された、非常に重要な結果です。
思考の道筋とポイント
「見かけの重力」という考え方に頼らず、エレベーター内の観測者の視点(非慣性系)で運動方程式を立て、周期を厳密に導出するアプローチです。この観測者から見ると、おもりには「重力」「張力(または弾性力)」に加えて、下向きの「慣性力」が働いています。この慣性力を含めた力の合力(復元力)を計算し、それが変位に比例する形になるか(\(F=-Kx\))を調べることで、単振動の周期を求めます。
この設問における重要なポイント
- 非慣性系で運動方程式を立てる。
- 慣性力\(m\alpha\)を、重力以外の一定の外力として扱う。
- 各振動について、有効なばね定数\(K\)がどうなるかを調べる。
具体的な解説と立式
エレベーターと一緒に運動する観測者から見ると、すべてのおもりには下向きに慣性力\(m\alpha\)が働いています。
【単振り子】
振れ角が微小な\(\phi\)のとき、振り子を元の位置(最下点)に戻そうとする復元力\(F_1\)は、重力と慣性力の合力の、接線方向成分です。
$$
\begin{aligned}
F_1 &= -(mg+m\alpha)\sin\phi
\end{aligned}
$$
微小振動なので \(\sin\phi \approx \phi\)、また変位を \(x=l\phi\) とすると、
$$
\begin{aligned}
F_1 &\approx -(mg+m\alpha)\phi \\[2.0ex]
&= -\frac{m(g+\alpha)}{l}x
\end{aligned}
$$
この式を単振動の復元力の式 \(F_1 = -K_1 x\) と比較すると、有効なばね定数\(K_1\)は \(K_1 = \displaystyle\frac{m(g+\alpha)}{l}\) となります。
【ばね振り子】
エレベーター内でのつり合いの位置からの変位を\(x\)とします。このとき、おもりに働く力の合力(復元力)\(F_2\)は、
$$ F_2 = (\text{重力}+\text{慣性力}) – (\text{弾性力}) $$
つり合いの位置では、\(mg+m\alpha = kl_0\) が成り立っています(\(l_0\)はエレベーター内でのつり合いの伸び)。
変位\(x\)の位置では、弾性力は \(k(l_0+x)\) となるので、
$$
\begin{aligned}
F_2 &= (mg+m\alpha) – k(l_0+x) \\[2.0ex]
&= (mg+m\alpha – kl_0) – kx
\end{aligned}
$$
つり合いの条件から前の項はゼロなので、
$$ F_2 = -kx $$
この式を単振動の復元力の式 \(F_2 = -K_2 x\) と比較すると、有効なばね定数\(K_2\)は \(K_2 = k\) となります。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/K}\)
【単振り子の周期 \(T_1\)】
有効なばね定数 \(K_1 = \displaystyle\frac{m(g+\alpha)}{l}\) を周期の公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{K_1}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{m}{m(g+\alpha)/l}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{l}{g+\alpha}}
\end{aligned}
$$
【ばね振り子の周期 \(T_2\)】
有効なばね定数 \(K_2 = k\) を周期の公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
T_2 &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{K_2}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{m}{k}}
\end{aligned}
$$
エレベーターの中の人になって、運動の法則を考えてみましょう。中の人から見ると、すべての物には下向きの「慣性力」が加わって、重くなったように見えます。
単振り子の場合、振り子を戻そうとする力は、この「見かけの重さ」に比例します。力が強くなるので、振動は速く(周期は短く)なります。
一方、ばね振り子の場合、この「見かけの重さ」の増加は、振動の中心を下にずらすだけで、中心の周りで振動するときの「復元力の強さ(=ばねの硬さ)」には影響しません。そのため、振動のペース(周期)は変わらないのです。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。この導出により、単振り子の復元力は重力(と慣性力)に直接比例するため周期が変化するのに対し、ばね振り子の復元力は、重力(と慣性力)がつり合いの位置をずらすだけで、復元力の比例定数(ばね定数)そのものには影響しない、という物理的な理由が明確になります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 慣性力と見かけの重力:
- 核心: この問題の根幹は、加速度運動する座標系(非慣性系)の中では、すべての物体に「慣性力」という見かけの力が働くことを理解する点にあります。この慣性力と本来の重力の合力を「見かけの重力」と捉えることで、非慣性系内の力学現象を、静止系と同じように扱うことができます。
- 理解のポイント:
- 慣性力の向きと大きさ: 加速度\(\vec{a}\)で運動する座標系内では、質量\(m\)の物体に、\(-m\vec{a}\)という慣性力が働いているように見えます。この問題では、エレベーターが上向きに加速度\(\alpha\)で運動するため、慣性力は下向きに大きさ\(m\alpha\)となります。
- 見かけの重力: エレベーター内では、本来の下向きの重力\(mg\)に、下向きの慣性力\(m\alpha\)が加わるため、見かけの重力は \(F_{\text{見かけ}} = mg + m\alpha = m(g+\alpha)\) となります。
- 見かけの重力加速度: この見かけの重力を\(mg’\)と書くと、見かけの重力加速度は \(g’ = g+\alpha\) となります。エレベーター内の物理現象は、あたかも重力加速度が\(g’\)になった地上で起きているかのように記述できます。
- 各振動の周期が何に依存するかの理解:
- 核心: 単振り子とばね振り子の周期の公式を比較し、それぞれの周期がどの物理量に依存するのか(あるいはしないのか)を明確に理解していることが、この問題を解く上での分岐点となります。
- 理解のポイント:
- 単振り子の周期 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\): 周期は重力加速度\(g\)に依存します。したがって、見かけの重力加速度が変化すれば、周期も変化します。
- ばね振り子の周期 \(T=2\pi\sqrt{m/k}\): 周期は質量\(m\)とばね定数\(k\)のみに依存し、重力加速度\(g\)には依存しません。したがって、見かけの重力加速度が変化しても、周期は変化しません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 減速上昇・加速下降するエレベーター: この場合、エレベーターの加速度は下向きになります。したがって、慣性力は「上向き」に働きます。見かけの重力加速度は \(g’ = g-\alpha\) となり、単振り子の周期は長くなります。
- 自由落下するエレベーター: 加速度が\(\alpha=g\)(下向き)となり、見かけの重力加速度は \(g’ = g-g = 0\) となります。これは無重力状態と同じです。単振り子は復元力がなくなり振動せず、ばね振り子はつり合いの位置が自然長の位置に移動して、その周りで通常通り振動します。
- 水平方向に加速する電車内の振り子: 水平方向に慣性力が働くため、見かけの重力は斜め下向きになります。つり合いの位置も斜めになり、その周りでの振動周期は、見かけの重力加速度の大きさ \(\sqrt{g^2+a^2}\) を使って計算できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 非慣性系の特定: 問題の舞台が「加速運動」する座標系(エレベーター、電車、ロケットなど)であるかを確認します。
- 慣性力の向きと大きさを決定する: 座標系の加速度\(\vec{a}\)を特定し、それと逆向きに大きさ\(m|\vec{a}|\)の慣性力を図に書き加えます。
- 見かけの重力加速度を計算する: 本来の重力と慣性力をベクトル的に合成し、見かけの重力(と重力加速度)を求めます。
- 公式の適用: 求めたい物理量(周期など)の公式に、通常の\(g\)の代わりに見かけの重力加速度\(g’\)を代入します。もし公式が\(g\)を含まない場合は、値は変化しないと判断します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 慣性力の向きの誤り:
- 誤解: 慣性力の向きを、座標系の加速度と同じ向きだと勘違いしてしまう。
- 対策: 「慣性力は、加速度と『逆』向き」と、常に意識して確認する癖をつけましょう。「エレベーターが上に加速するとき、体は下に押し付けられる」という日常的な感覚と結びつけて覚えるのが効果的です。
- 単振り子とばね振り子の性質の混同:
- 誤解: ばね振り子の周期も、見かけの重力が大きくなるのだから、速くなって周期が短くなるだろう、と直感で判断してしまう。
- 対策: 直感だけに頼らず、必ず周期の公式に立ち返ることが重要です。\(T=2\pi\sqrt{m/k}\) の式に\(g\)が登場しないことを確認し、「なぜ登場しないのか?」という理由(別解で示したように、復元力が\(g\)に依存しないため)まで理解しておくと、混同を防ぐことができます。
- つり合いの位置の変化と周期の変化の混同:
- 誤解: ばね振り子において、見かけの重力が変わると「つり合いの位置がずれる」のだから、「周期も変わる」に違いない、と思い込んでしまう。
- 対策: 「つり合いの位置(振動の中心)」と「周期(振動の速さ)」は、別の物理量であることを明確に区別しましょう。ばね振り子では、一定の力(重力や慣性力)が加わっても、それは振動の中心をずらすだけで、中心の周りでの振動のペース(周期)には影響を与えません。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 見かけの重力加速度の導入(主たる解法):
- 選定理由: 非慣性系内の力学現象を、静止系(地上)での現象との類似性を用いて、直感的かつ迅速に解くための強力な思考ツールだからです。
- 適用根拠: エレベーター内の観測者にとって、重力と慣性力は区別がつきません。両者の合力が、その座標系における「実効的な重力」として機能します。したがって、静止系で成り立つ物理法則の中の\(g\)を、この実効的な重力加速度\(g’\)に置き換えることは、運動方程式の構造から論理的に正当化されます(別解で証明済み)。
- 運動方程式からの導出(別解):
- 選定理由: 上記の類推の正しさを、物理学の第一原理(運動方程式)から厳密に証明するためのアプローチです。なぜ単振り子とばね振り子で結果が異なるのか、その物理的な理由を最も明確に示してくれます。
- 適用根拠: 運動方程式は力学の基本法則です。非慣性系で運動方程式を立てる際は、実際に働く力に加えて慣性力も考慮に入れる必要があります。この手順を踏んで復元力を計算し、\(F=-Kx\)の形と比較することで、系の有効なばね定数\(K\)が厳密に決定され、周期を正しく計算できます。
- 周期の公式の選択:
- 選定理由: 問題が「単振り子」と「ばね振り子」という、周期の公式が明確に異なる2つの系を比較させているからです。
- 適用根拠: それぞれの周期の公式は、それぞれの系の運動方程式を解くことで導出されたものです。単振り子の復元力は\(g\)に比例し、ばね振り子の復元力は\(k\)に比例するという、根本的な物理的性質の違いが、公式の形の違いに反映されています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の置き換えを丁寧に行う:
- 主たる解法のように公式を応用する場合、「何を」「何に」置き換えるのかを明確に意識することが重要です。「単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) の \(g\) を \(g+\alpha\) に置き換える」という操作を、答案の上でも言葉で記述すると、思考が整理され、ミスが減ります。
- 変わるものと変わらないものの区別:
- この問題では、エレベーターが加速することで「見かけの重力」は変わりますが、「質量\(m\)」「糸の長さ\(l\)」「ばね定数\(k\)」といった系の固有のパラメータは変わりません。問題で状況が変化したときに、「何が変化し、何が変化しないのか」を最初に整理する癖をつけると、誤った代入を防ぐことができます。
- 極端な場合を考える(思考実験):
- もしエレベーターが自由落下(\(\alpha=g\))したらどうなるか、考えてみます。
- 単振り子: 見かけの重力加速度は \(g’=g-g=0\)。周期は \(T_1 = 2\pi\sqrt{l/0} \to \infty\)。これは、無重力状態では復元力が働かず、振り子が振動しない(周期が無限大)という物理的な状況と一致します。
- ばね振り子: 周期は \(T_2=2\pi\sqrt{m/k}\) のまま変わりません。無重力でも、ばねの弾性力だけで振動は続きます。
- このような思考実験を行うことで、得られた答えの妥当性を確認できます。
- もしエレベーターが自由落下(\(\alpha=g\))したらどうなるか、考えてみます。
107 単振動の物理
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている「見かけの重力」という考え方を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 別解: 運動方程式から厳密に導出する解法
- 主たる解法が単振り子の公式への類推で解くのに対し、別解では電車と一緒に動く観測者の視点(非慣性系)に立ち、慣性力を含めた運動方程式を厳密に立てることで、この運動が単振動であることを証明し、周期を直接導出します。
- 別解: 運動方程式から厳密に導出する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: なぜ「見かけの重力」という考え方がうまくいくのか、その数学的・物理的な根拠を運動方程式から理解することができます。
- 論理的思考力の養成: 類推に頼らず、力学の第一原理(運動方程式)から出発して結論を導くという、物理学の基本的な思考プロセスを実践的に学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「非慣性系(加速する電車)における単振動」です。問題106のエレベーターと同様に、加速度運動する座標系の中では、物体に「慣性力」という見かけの力が働きます。この慣性力と本来の重力の合力を「見かけの重力」と捉え、それが単振り子の周期にどのような影響を与えるかを考える問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 慣性力: 加速度\(\alpha\)で運動する座標系(非慣性系)では、内部の物体に加速度と逆向きに大きさ\(m\alpha\)の「慣性力」が働くように見えること。
- 見かけの重力: 非慣性系において、本来の重力と慣性力のベクトル和を「見かけの重力」と捉えることができること。
- 単振り子の周期の公式: 単振り子の周期が \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) であり、重力加速度\(g\)に依存すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 加速する電車内での「見かけの重力」の大きさを、重力と慣性力のベクトル和として計算します。
- 1.の結果から、「見かけの重力加速度」の大きさを求めます。
- 通常の単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) に含まれる重力加速度\(g\)を、この「見かけの重力加速度」に置き換えることで、周期を求めます。
思考の道筋とポイント
電車が水平方向に加速度\(\alpha\)で運動しているため、電車内部の観測者から見ると、すべてのおもりには、本来の重力\(mg\)(鉛直下向き)に加えて、電車の加速度と逆向き(水平方向)に大きさ\(m\alpha\)の「慣性力」が働いているように見えます。
したがって、おもりが感じる「見かけの重力」は、この鉛直下向きの力と水平方向の力のベクトル和となります。この合成された力の方向が、電車内での「見かけの鉛直方向」となり、振り子はこの方向につり合います。
この運動は、あたかも重力加速度の大きさと向きが変わった新しい世界での単振り子と見なすことができます。この「見かけの重力加速度」の大きさを計算し、単振り子の周期の公式に適用します。
この設問における重要なポイント
- 加速する電車内は非慣性系であり、慣性力を考慮する必要がある。
- 水平加速度\(\alpha\)の場合、逆向き(水平)に慣性力\(m\alpha\)が働く。
- 見かけの重力は、重力と慣性力のベクトル和であり、三平方の定理でその大きさを求める。
具体的な解説と立式
水平方向に加速度\(\alpha\)で運動する電車内では、質量\(m\)のおもりには加速度と逆向き(水平方向)に大きさ\(m\alpha\)の慣性力が働きます。
したがって、おもりに働く見かけの重力\(\vec{F}_{\text{見かけ}}\)は、本来の重力\(\vec{F}_g\)(大きさ\(mg\)、鉛直下向き)と慣性力\(\vec{F}_{\text{慣性}}\)(大きさ\(m\alpha\)、水平方向)のベクトル和となります。
$$ \vec{F}_{\text{見かけ}} = \vec{F}_g + \vec{F}_{\text{慣性}} $$
これらの力は互いに直交しているので、見かけの重力の大きさ \(mg’\) は、三平方の定理を用いて計算できます。
$$
\begin{aligned}
(mg’)^2 &= (mg)^2 + (m\alpha)^2
\end{aligned}
$$
これを \(mg’\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
mg’ &= \sqrt{(mg)^2 + (m\alpha)^2} \\[2.0ex]
&= \sqrt{m^2(g^2 + \alpha^2)} \\[2.0ex]
&= m\sqrt{g^2 + \alpha^2}
\end{aligned}
$$
したがって、見かけの重力加速度\(g’\)の大きさは、
$$ g’ = \sqrt{g^2 + \alpha^2} $$
となります。
この運動は、重力加速度の大きさが\(g’\)の世界での単振り子と等価と見なせるので、通常の単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) の\(g\)を、この見かけの重力加速度\(g’\)に置き換えます。
使用した物理公式
- 慣性力: \(F = -m\alpha\)
- 三平方の定理
- 単振り子の周期: \(T=2\pi\sqrt{l/g}\)
単振り子の周期の公式の\(g\)を、\(g’ = \sqrt{g^2 + \alpha^2}\) に置き換えます。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{l}{g’}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{l}{\sqrt{g^2+\alpha^2}}}
\end{aligned}
$$
急発進する電車に乗っていると、体が後ろに引っ張られるように感じますよね。これが「慣性力」です。
電車の中の振り子も、この水平方向の慣性力と、下向きの重力の両方を受けます。その結果、振り子にとっては、まるで重力が「斜め下向き」に、しかも「より強く」なったかのように感じられます。
この「見かけの重力」の強さに対応する「見かけの重力加速度」を計算し、それを普通の振り子の周期の公式に当てはめることで、答えを求めることができます。
周期は \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{l}{\sqrt{g^2+\alpha^2}}}\) と求められました。
分母の \(\sqrt{g^2+\alpha^2}\) は\(g\)より大きいので、周期は静止している電車の中よりも短くなります。これは、見かけの重力が大きくなり、復元力が強まることで振動が速くなるという物理的な状況と一致しており、妥当な結果です。もし加速度\(\alpha=0\)なら、通常の単振り子の周期 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) に一致します。
思考の道筋とポイント
「見かけの重力」という考え方に頼らず、運動方程式から周期を厳密に導出するアプローチです。
電車と一緒に動く観測者から見ると、おもりは、重力と慣性力の合力が働く方向(斜め下向き)につり合います。このつり合いの位置を基準として、そこからわずかにずれたときの復元力を計算します。その復元力が変位に比例する形(\(F=-Kx\))になることを示し、有効なばね定数\(K\)を特定することで、単振り子の周期を求めます。
この設問における重要なポイント
- 非慣性系で運動方程式を立てる。
- つり合いの位置は、重力と慣性力の合力の方向である。
- 復元力は、重力と慣性力の合力の、振り子の接線方向成分である。
- 微小角近似を適用する。
具体的な解説と立式
電車と一緒に運動する観測者から見ると、おもりには重力\(mg\)(下向き)と慣性力\(m\alpha\)(水平後ろ向き)が働いています。これらの合力が「見かけの重力」\(mg’\) となります。振り子はこの\(mg’\)が働く方向につり合います。
このつり合いの位置から、微小角\(\phi\)だけずれた位置で、振り子の軌道の接線方向の運動方程式を立てます。
接線方向の力(復元力)\(F\)は、見かけの重力\(mg’\)の接線方向成分です。その大きさは \((mg’)\sin\phi\) であり、常につり合いの位置を向きます。
変位を\(x=l\phi\)とし、その向きを正とすると、復元力は負の向きなので、
$$
\begin{aligned}
F &= -(mg’)\sin\phi
\end{aligned}
$$
微小振動なので、\(\sin\phi \approx \phi\) と近似できます。
$$
\begin{aligned}
F &\approx -(mg’)\phi
\end{aligned}
$$
さらに、\(x=l\phi\) より \(\phi = x/l\) なので、これを代入すると、
$$
\begin{aligned}
F &\approx -(mg’)\left(\frac{x}{l}\right) \\[2.0ex]
&= -\left(\frac{mg’}{l}\right)x
\end{aligned}
$$
この式は、単振動の復元力の公式 \(F = -Kx\) と同じ形をしています。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(ma=F\)
- 微小角近似: \(\sin\phi \approx \phi\)
- 単振動の周期: \(T=2\pi\sqrt{m/K}\)
復元力の式 \(F \approx -\left(\displaystyle\frac{mg’}{l}\right)x\) と、単振動の復元力の公式 \(F = -Kx\) を比較することで、この振動系の有効なばね定数\(K\)を特定します。
$$
\begin{aligned}
K &= \frac{mg’}{l}
\end{aligned}
$$
この\(K\)を、単振動の周期の公式に代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{m}{(mg’)/l}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{l}{g’}}
\end{aligned}
$$
ここで、見かけの重力加速度 \(g’ = \sqrt{g^2+\alpha^2}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{l}{\sqrt{g^2+\alpha^2}}}
\end{aligned}
$$
「見かけの重力」という考え方を使わずに、もっとまじめに計算してみましょう。
電車の中では、振り子は少し傾いた位置で静止します。この新しい「つり合いの位置」が、振動の中心になります。
この中心から少しずらしたとき、振り子を元に戻そうとする力は、重力と慣性力を合わせた「見かけの重力」の一部です。この力を数学の式で表し、「振り子の振れが小さいとき」という条件を使って近似計算をすると、この力がちょうど「ばねが元に戻ろうとする力」とそっくりな形(変位に比例する形)になることがわかります。
つまり、この振り子の運動は単振動と見なせるのです。この計算から「見えないばね」の硬さ(有効なばね定数)を求め、周期の公式に当てはめることで、最初の解き方と同じ答えにたどり着きます。
主たる解法と全く同じ結果が得られました。これにより、「見かけの重力加速度」を導入して単振り子の公式を応用する、という考え方が、運動方程式のレベルで正当化されることが数学的に証明されました。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 慣性力と見かけの重力:
- 核心: この問題の根幹は、加速度運動する座標系(非慣性系)の中では、すべての物体に「慣性力」という見かけの力が働くことを理解する点にあります。この慣性力と本来の重力の合力を「見かけの重力」と捉えることで、非慣性系内の力学現象を、静止系と同じように扱うことができます。
- 理解のポイント:
- 慣性力の向きと大きさ: 加速度\(\vec{a}\)で運動する座標系内では、質量\(m\)の物体に、\(-m\vec{a}\)という慣性力が働いているように見えます。この問題では、電車が水平方向に加速度\(\alpha\)で運動するため、慣性力は逆の水平方向に大きさ\(m\alpha\)となります。
- 見かけの重力: 電車内では、本来の下向きの重力\(mg\)に、水平方向の慣性力\(m\alpha\)が加わります。この2つの力は直交するため、その合力である「見かけの重力」の大きさは、三平方の定理を用いて \(F_{\text{見かけ}} = \sqrt{(mg)^2 + (m\alpha)^2} = m\sqrt{g^2+\alpha^2}\) となります。
- 見かけの重力加速度: この見かけの重力を\(mg’\)と書くと、見かけの重力加速度の大きさは \(g’ = \sqrt{g^2+\alpha^2}\) となります。電車内の振り子の運動は、あたかも重力加速度の大きさが\(g’\)になった地上で起きているかのように記述できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 加速上昇するエレベーター内の単振り子(問題106): この場合、慣性力は鉛直下向きに働くため、見かけの重力加速度は単純な和 \(g’ = g+\alpha\) となります。
- 遠心力が働く系での振り子: 回転する円盤の中心から吊るされた振り子も、遠心力(慣性力の一種)と重力の合力を見かけの重力として考えることで、その振動周期を求めることができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 非慣性系の特定: 問題の舞台が「加速運動」する座標系(エレベーター、電車、ロケットなど)であるかを確認します。
- 慣性力の向きと大きさを決定する: 座標系の加速度\(\vec{a}\)を特定し、それと逆向きに大きさ\(m|\vec{a}|\)の慣性力を図に書き加えます。
- 見かけの重力加速度を計算する: 本来の重力と慣性力をベクトル的に合成し、見かけの重力(と重力加速度)の大きさを求めます。ベクトルが直交する場合は三平方の定理、同一直線上なら単純な足し算・引き算になります。
- 公式の適用: 求めたい物理量(周期など)の公式に、通常の\(g\)の代わりに見かけの重力加速度\(g’\)を代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 慣性力の向きの誤り:
- 誤解: 慣性力の向きを、座標系の加速度と同じ向きだと勘違いしてしまう。
- 対策: 「慣性力は、加速度と『逆』向き」と、常に意識して確認する癖をつけましょう。「電車が右に加速するとき、体は左に押し付けられる」という日常的な感覚と結びつけて覚えるのが効果的です。
- 見かけの重力の計算ミス:
- 誤解: 重力と慣性力が直交しているにもかかわらず、その大きさを単純に足し算してしまう(例: \(mg+m\alpha\))。
- 対策: 力はベクトル量であることを常に意識し、ベクトルの和を正しく計算することが重要です。2つのベクトルが直交している場合、その合力の大きさは三平方の定理で求める、という基本を徹底しましょう。
- 公式の丸暗記による誤用:
- 誤解: 単振り子の問題だからといって、どんな状況でも \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) を適用してしまう。
- 対策: 公式は、それが導出された前提条件(静止系、重力加速度\(g\)、微小振動)とともに理解することが不可欠です。「なぜこの公式が成り立つのか」を理解していれば、状況が変わったとき(非慣性系など)に、どの部分を修正すればよいか(この場合は\(g\))を正しく判断できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 見かけの重力加速度 \(g’ = \sqrt{g^2+\alpha^2}\) の導入(主たる解法):
- 選定理由: 非慣性系内の力学現象を、静止系(地上)での現象との類似性を用いて、直感的かつ迅速に解くための強力な思考ツールだからです。
- 適用根拠: 電車内の観測者にとって、重力と慣性力は区別がつきません。両者の合力が、その座標系における「実効的な重力」として機能します。したがって、静止系で成り立つ物理法則の中の\(g\)を、この実効的な重力加速度\(g’\)の大きさに置き換えることは、運動方程式の構造から論理的に正当化されます(別解で証明済み)。
- 運動方程式からの導出(別解):
- 選定理由: 上記の類推の正しさを、物理学の第一原理(運動方程式)から厳密に証明するためのアプローチです。あらゆる単振動の問題に適用できる、最も基本的で確実な方法です。
- 適用根拠: 運動方程式は力学の基本法則です。非慣性系で運動方程式を立てる際は、実際に働く力に加えて慣性力も考慮に入れる必要があります。この手順を踏んで復元力を計算し、\(F=-Kx\)の形と比較することで、系の有効なばね定数\(K\)が厳密に決定され、周期を正しく計算できます。
- 微小角近似:
- 選定理由: 厳密な復元力(\(F \propto \sin\phi\))を、単振動の条件である「変位に比例する力(\(F \propto \phi\))」の形に単純化するために必要だからです。
- 適用根拠: この近似は、三角関数\(\sin\phi\)のテイラー展開(マクローリン展開)において、\(\phi\)が非常に小さい場合に高次の項を無視することに相当します。物理的な微小振動を数学的に扱うための、極めて重要で頻出するテクニックです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- ベクトル図を描く習慣:
- 慣性力が関わる問題では、必ず「重力」と「慣性力」を矢印で図示し、そのベクトル和である「見かけの重力」を作図する癖をつけましょう。これにより、見かけの重力の向き(つり合いの位置)と大きさ(三平方の定理など)を視覚的に、間違いなく把握することができます。
- 文字の置き換えを丁寧に行う:
- 主たる解法のように公式を応用する場合、「何を」「何に」置き換えるのかを明確に意識することが重要です。「単振り子の周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{l/g}\) の \(g\) を \(g’=\sqrt{g^2+\alpha^2}\) に置き換える」という操作を、答案の上でも言葉で記述すると、思考が整理され、ミスが減ります。
- 単位による検算:
- 最終的な答え \(T=2\pi\sqrt{l/\sqrt{g^2+\alpha^2}}\) の単位を確認します。\(l\)の単位は\([\text{m}]\)。\(g\)と\(\alpha\)の単位は\([\text{m/s}^2]\)なので、\(g^2+\alpha^2\)の単位は\([\text{m}^2/\text{s}^4]\)。その平方根 \(\sqrt{g^2+\alpha^2}\) の単位は\([\text{m/s}^2]\)となり、重力加速度と同じです。したがって、全体の単位は単振り子の周期と同じになり、計算結果がもっともらしいと判断できます。
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108 万有引力の法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「万有引力の法則と重力加速度」です。天体の表面における重力加速度の大きさが、その天体の質量と半径によってどのように決まるかを理解し、地球と月の値を比較する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 万有引力の法則: 質量を持つすべての物体間に働く引力の法則。力の大きさは \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) で与えられること。
- 重力と重力加速度: 天体表面で物体に働く万有引力(重力)を \(mg\) と表したときの \(g\) が重力加速度であること。
- 重力加速度の公式: 上記の2つの関係から、天体表面の重力加速度が \(g = G\displaystyle\frac{M}{R^2}\) (\(M\): 天体の質量, \(R\): 天体の半径)で与えられることを理解していること。
- 比の計算: 2つの量を比較する際に、それぞれの式を立てて割り算(比をとる)することで、共通の定数(この場合は万有引力定数\(G\))を消去して計算するテクニック。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 地球の質量と半径、月の質量と半径をそれぞれ文字で設定します。
- 地球表面での重力加速度 \(g\) と、月面での重力加速度 \(g_{\text{月}}\) を、それぞれ天体の質量と半径を用いて公式で表します。
- 2つの式の比(\(g_{\text{月}}/g\))を計算し、問題で与えられた地球と月の質量比・半径比を代入して数値を求めます。