問題96 (佐賀大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2枚のガラス板で作られた「くさび形空気層」による光の干渉を扱っています。前半(1)~(5)は基本的な干渉条件や縞模様の間隔を、後半(6)~(8)はガラス板を動かしたときの干渉縞の変化を問うています。
この問題の核心は、薄膜干渉と同様に、2つの反射光の「光路差」と「位相変化」を正しく評価することです。特に、くさび形という形状から、光路差が場所(位置\(x\))によって変化する点が特徴です。
- ガラス板: 2枚、屈折率1.4
- くさび形領域: 長さ\(L\), 端の厚さ\(D\)
- 媒質:
- (1)~(4), (6)~(8): 空気(屈折率1.0)
- (5): 液体(屈折率1.5)
- 光源: 単色光(波長\(\lambda\))
- 観測方法:
- (1)~(3), (5)~(8): 上方からの反射光を観測
- (4): 下方からの透過光を観測
- 反射のルール:
- 屈折率 大→小: 自由端反射(位相変化なし)
- 屈折率 小→大: 固定端反射(位相\(\pi\)反転)
- (1) 位置\(x\)における光路差\(p\)。
- (2) 反射光が明るくなる条件。
- (3) 干渉縞の間隔\(\Delta x\)。
- (4) 透過光が明るくなる条件。
- (5) 液体で満たしたときの干渉縞の間隔。
- (6) 下のガラスを下げたときの明線の移動方向。
- (7) 下のガラスを下げたときの干渉縞の間隔の変化。
- (8) 明線が\(l\)だけ移動したときの、下のガラスの下降距離。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「くさび形空気層による光の干渉」です。基本的な考え方は前問の薄膜干渉と同じですが、膜厚が場所によって変わるため、スクリーン上には明暗の縞模様ができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光路差の場所依存性: くさび形領域では、空気層の厚さ\(d\)が位置\(x\)の関数になります。三角形の相似を用いることで、\(d\)を\(x\)で表し、光路差\(p\)を\(x\)の関数として求めることが最初のステップです。
- 反射における位相変化: 2つの反射光がそれぞれどの境界面(ガラス→空気、空気→ガラス)で反射するかを特定し、屈折率の大小関係から位相が反転するかどうかを判断します。
- 干渉条件: 光路差と位相変化の結果を組み合わせて、明線・暗線の条件を立式します。この問題では、明線が観測される「位置\(x\)」を求めることになります。
- 干渉縞の間隔: 明線の条件式を\(x\)について解き、隣り合う明線(次数が\(m\)と\(m+1\))の位置の差を計算することで、縞の間隔\(\Delta x\)が求まります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、三角形の相似を使って、任意の位置\(x\)における空気層の厚さ\(d\)を求め、光路差\(p=2d\)を\(x\)で表します(問1)。
- 次に、2つの反射光の位相変化を調べ、干渉して明るくなる条件式を立てます(問2)。
- この条件式を\(x\)について解き、隣り合う明線の位置の差から縞の間隔\(\Delta x\)を計算します(問3)。
- 問(4)では、透過光の干渉を考えます。反射光とは位相変化の回数が異なるため、干渉条件が逆転することに注意します。
- 問(5)以降は、媒質を変えたり、ガラスを動かしたりする応用問題です。それぞれの操作が光路差や干渉条件にどう影響するかを考え、基本に立ち返って立式します。
問(1)
思考の道筋とポイント
位置\(x\)における空気層の厚さ\(d\)を、図形の相似関係から求めます。その後、空気層(屈折率1.0)を光が往復するときの光路差\(p\)を計算します。
この設問における重要なポイント
- 図1のくさび形領域は、2つの相似な直角三角形(底辺\(x\), 高さ\(d\)の三角形と、底辺\(L\), 高さ\(D\)の三角形)から成る。
- 光は空気層を垂直に往復するため、経路差は\(2d\)。
- 空気の屈折率は1.0なので、光路差と経路差は等しい。
具体的な解説と立式
図1において、ガラスが接する位置を原点とすると、2つの直角三角形の相似から、高さと底辺の比は等しくなります。
$$ d : x = D : L \quad \cdots ① $$
光は厚さ\(d\)の空気層を往復するので、その経路差は\(2d\)です。空気の屈折率は1.0なので、光路差\(p\)は経路差に屈折率1.0を掛けたものとなり、
$$ p = 1.0 \times (2d) = 2d \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 光路差 = 屈折率 \(\times\) 経路差
- 三角形の相似
式①を\(d\)について解くと、
$$ d = \frac{D}{L}x $$
これを式②に代入すると、
$$ p = 2 \left( \frac{D}{L}x \right) = \frac{2D}{L}x $$
くさび形の隙間の厚さ\(d\)は、端からの距離\(x\)に比例します。この比例関係を、大きな三角形(底辺\(L\), 高さ\(D\))と小さな三角形(底辺\(x\), 高さ\(d\))の相似を使って式にします。光の干渉を考えるための「光路差」は、この隙間を光が往復する距離(\(2d\))で決まります。
光路差は \(p = \displaystyle\frac{2D}{L}x\) です。光路差が位置\(x\)に比例するという、くさび形干渉の最も基本的な関係式であり、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
2つの反射光が干渉して明るくなる条件を考えます。そのためには、それぞれの反射面で位相が反転するかどうかを調べる必要があります。
この設問における重要なポイント
- 反射面の特定:
- 光線1: 上のガラスの下面(ガラス → 空気)で反射。
- 光線2: 下のガラスの上面(空気 → ガラス)で反射。
- 位相変化の判定:
- 光線1: 屈折率 大(1.4) → 小(1.0) の反射。自由端反射であり、位相は変化しない。
- 光線2: 屈折率 小(1.0) → 大(1.4) の反射。固定端反射であり、位相が\(\pi\)反転する。
- 強めあいの条件: 片方の光だけ位相が反転するため、条件が逆転し、「光路差 = 半波長の奇数倍」となる。
具体的な解説と立式
光線1と光線2のうち、位相が反転するのは光線2のみです。
したがって、2つの光が強めあって明るくなる条件は、
$$ p = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
使用した物理公式
- 薄膜の干渉条件(片側位相変化): 光路差 = \((m+\frac{1}{2})\lambda\) (強めあい)
この設問は条件式を導出することが目的なので、これ以上の計算はありません。
上のガラスの下面での反射では、光は「硬い所(ガラス)から軟らかい所(空気)」へ向かうので、位相は変わりません。一方、下のガラスの上面での反射では、「軟らかい所(空気)から硬い所(ガラス)」へ向かうので、位相がひっくり返ります。このように片方だけがひっくり返る場合、強めあう条件は「光路差が、(0.5, 1.5, 2.5, …)×波長」となります。
明るくなる条件は \(p = (m + \frac{1}{2})\lambda\) です。これは薄膜干渉における典型的な条件式の一つであり、物理的に正しいです。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた光路差\(p\)の式と、(2)で求めた明線の条件式を組み合わせることで、明線が現れる位置\(x\)を求めます。干渉縞の間隔\(\Delta x\)は、隣り合う明線の位置の差(次数が\(m\)の明線と\(m+1\)の明線の位置の差)として計算できます。
この設問における重要なポイント
- 2つの式を連立して、\(p\)を消去し\(x\)に関する式を導く。
- 干渉縞の間隔\(\Delta x\)は、\(x_{m+1} – x_m\) で計算される。
具体的な解説と立式
(1)で求めた光路差の式は、
$$ p = \frac{2D}{L}x \quad \cdots ① $$
(2)で求めた明線の条件式は、
$$ p = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad \cdots ② $$
\(m\)番目の明線の位置を\(x_m\)、\(m+1\)番目の明線の位置を\(x_{m+1}\)とすると、干渉縞の間隔\(\Delta x\)は、
$$ \Delta x = x_{m+1} – x_m \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- (1), (2)で導出した関係式
式①と②から\(p\)を消去して、\(x\)に関する式を導きます。
$$ \frac{2D}{L}x = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
これを\(x\)について解くと、\(m\)番目の明線の位置\(x_m\)が求まります。
$$ x_m = \frac{L}{2D}\left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
同様に、\(m+1\)番目の明線の位置\(x_{m+1}\)は、
$$ x_{m+1} = \frac{L}{2D}\left((m+1) + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
これらを式③に代入して\(\Delta x\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= x_{m+1} – x_m \\[2.0ex]&= \frac{L}{2D}\left(m + 1 + \frac{1}{2}\right)\lambda – \frac{L}{2D}\left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \\[2.0ex]&= \frac{L\lambda}{2D} \left\{ \left(m + \frac{3}{2}\right) – \left(m + \frac{1}{2}\right) \right\} \\[2.0ex]&= \frac{L\lambda}{2D} \times 1 \\[2.0ex]&= \frac{L\lambda}{2D}
\end{aligned}
$$
別解: 物理的な意味からのアプローチ
具体的な解説と立式
隣り合う明線では、次数\(m\)が1つずれます。明線の条件式 \(2d = (m+1/2)\lambda\) から、隣り合う明線が生じる場所の厚さ\(d_m\)と\(d_{m+1}\)の差を考えると、
$$ 2d_{m+1} – 2d_m = \left( (m+1)+\frac{1}{2} \right)\lambda – \left( m+\frac{1}{2} \right)\lambda = \lambda $$
よって、厚さの差は \(d_{m+1} – d_m = \lambda/2\) となります。
これは、隣り合う明線が生じる場所では、空気層の厚さが\(\lambda/2\)だけ異なることを意味します。
この厚さの差と、対応する水平方向の距離の差(=縞の間隔\(\Delta x\))の関係は、くさび全体の傾き(底辺\(L\), 高さ\(D\))との相似関係から求めることができます。
$$ (d_{m+1} – d_m) : \Delta x = D : L $$
$$ \frac{\lambda}{2} : \Delta x = D : L $$
この比例式を\(\Delta x\)について解きます。
$$ D \cdot \Delta x = L \cdot \frac{\lambda}{2} $$
$$ \Delta x = \frac{L\lambda}{2D} $$
(1)と(2)の式を合体させると、\(m\)番目の明るい縞模様が現れる位置\(x_m\)を計算する式が作れます。縞模様の間隔を知るには、\(m\)番目の縞の位置と、その隣の\(m+1\)番目の縞の位置を計算し、その差をとればOKです。
干渉縞の間隔は \(\Delta x = \displaystyle\frac{L\lambda}{2D}\) です。この結果は、縞の間隔が次数\(m\)によらず一定であることを示しています。つまり、スクリーン上には等間隔の明暗の縞模様が観測されることになり、これは実験事実と一致する妥当な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
ガラスの下側で透過光の干渉を観測する場合を考えます。干渉するのは、①そのまま透過してきた光と、②くさび形空気層で2回反射して戻ってきた後、下のガラスを透過する光です。この2つの光の光路差と位相変化を評価します。
この設問における重要なポイント
- 光路差: 透過光の場合も、干渉に関わる光の光路差は、反射光の場合と同じく空気層の往復分 \(p=2d\) となる。
- 明暗の逆転: 反射光が強めあう(明)とき、エネルギー保存則から透過光は弱めあう(暗)必要がある。逆に反射光が弱めあう(暗)とき、透過光は強めあう(明)。
- 反射光の弱めあいの条件: 光路差 = \(m\lambda\)。
具体的な解説と立式
反射光が明るくなる条件は、(2)より \(p = (m+\frac{1}{2})\lambda\) でした。
これより、反射光が暗くなる(弱めあう)条件は、
$$ p = m\lambda \quad (m=0, 1, 2, \dots) $$
エネルギー保存則により、反射光が暗いとき、透過光は明るくなります。
したがって、位置\(x\)の鉛直下方が明るくなる条件は、反射光が暗くなる条件と同じです。
使用した物理公式
- 薄膜の干渉条件(片側位相変化): \(p = m\lambda\) (弱めあい)
- エネルギー保存則(反射光と透過光の明暗は逆転)
この設問は条件式を導出することが目的なので、これ以上の計算はありません。
上からのぞいて明るく見える場所は、光のエネルギーが反射に多く使われている場所です。エネルギーは保存されるので、その場所を通り抜ける光は弱く(暗く)なります。逆に、上から見て暗い場所は、通り抜ける光が強い(明るい)場所です。したがって、下から見て明るくなる条件は、上から見て暗くなる条件と同じになります。
透過光が明るくなる条件は \(p = m\lambda\) です。これに(1)の結果を代入すると \(\displaystyle\frac{2D}{L}x = m\lambda\) となります。反射光が明るくなる条件 \(p=(m+1/2)\lambda\) と比較すると、明暗の条件が完全に入れ替わっていることがわかります。これは物理的に妥当な結果です。
問(5)
思考の道筋とポイント
くさび形の空間を屈折率\(n=1.5\)の液体で満たした場合の干渉縞の間隔を求めます。媒質が変わることで、光の波長と位相変化のルールが変わる点に注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 光路差: 経路差\(2d\)に対し、媒質の屈折率\(n\)を掛けるので、光路差は \(p’ = n \times (2d) = 2nd\)。
- 位相変化の判定:
- 光線1(ガラス→液体): \(1.4 < 1.5\) なので、小→大の反射。位相が\(\pi\)反転する。
- 光線2(液体→ガラス): \(1.5 > 1.4\) なので、大→小の反射。位相は変化しない。
- 干渉縞の間隔の式: (3)で求めた \(\Delta x = \displaystyle\frac{L\lambda}{2D}\) の光路差の考え方を応用する。
具体的な解説と立式
液体で満たした場合、光路差は \(p’ = 2nd = \displaystyle\frac{2nDx}{L}\) となります。
位相変化は、空気の場合とは逆に、上のガラス下面(光線1)で起こり、下のガラス上面(光線2)では起こりません。結局「片側のみ位相が反転する」という状況は同じです。
したがって、明線の条件は、
$$ p’ = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
$$ \frac{2nDx}{L} = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
この式から、(3)と同様の計算で、干渉縞の間隔\(\Delta x’\)は、
$$ \Delta x’ = \frac{L\lambda}{2nD} $$
与えられた値は、\(\lambda = 6.3 \times 10^{-7}\) m, \(L=1.0\) m, \(D=1.0 \times 10^{-5}\) m, \(n=1.5\)。
使用した物理公式
- \(\Delta x = \displaystyle\frac{L\lambda}{2D}\) の応用
$$
\begin{aligned}
\Delta x’ &= \frac{1.0 \times (6.3 \times 10^{-7})}{2 \times 1.5 \times (1.0 \times 10^{-5})} \\[2.0ex]&= \frac{6.3 \times 10^{-7}}{3.0 \times 10^{-5}} \\[2.0ex]&= 2.1 \times 10^{-7 – (-5)} \\[2.0ex]&= 2.1 \times 10^{-2} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
隙間を液体で満たすと、光路差が空気のときの\(n\)倍になります。そのため、縞模様の間隔は\(1/n\)倍に縮まります。(3)で求めた間隔の式を、屈折率\(n\)で割るだけで計算できます。
干渉縞の間隔は \(2.1 \times 10^{-2}\) m です。空気のときよりも屈折率の大きい液体で満たしたことで、縞の間隔が狭くなったことを示しており、妥当な結果です。
問(6)
思考の道筋とポイント
下のガラス板を鉛直下方に動かすと、任意の位置\(x\)における空気層の厚さ\(d\)は増加します。もともと位置\(x\)にあった\(m\)番目の明線が、この厚さの変化に伴ってどこへ移動するかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 明線は「特定の厚さ」の場所で生じる。
- 下のガラスを下げると、すべての場所で厚さ\(d\)が増加する。
- もともと位置\(x\)にあった厚さ\(d\)の場所は、よりガラスの接点に近い、つまり\(x\)が小さい位置(左側)へ移動する。
具体的な解説と立式
\(m\)番目の明線は、特定の光路差 \(p_m = (m+1/2)\lambda\) を満たす場所、すなわち特定の厚さ \(d_m = p_m/2\) の場所で生じます。
下のガラス板を下に動かすと、くさび全体の厚みが増します。
その結果、以前は位置\(x\)にあった厚さ\(d_m\)の場所は、より原点に近い位置、つまり\(x\)座標が小さい場所(左側)に現れることになります。
したがって、スクリーン上で観測される明線は左に動きます。
使用した物理公式
- 干渉条件は特定の厚さで決まる。
思考問題なので、計算はありません。
明るい縞模様は、いわば「特定の厚さの等高線」のようなものです。下のガラスを下げると、くさび全体の地形が底上げされます。すると、今まで位置\(x\)にあった「高さ(厚さ)」の場所は、より坂のふもと(左側)に移動します。そのため、縞模様は左に動いて見えます。
明線は「左に動く」。これは現象の直感的なイメージとも一致しており、妥当です。
問(7)
思考の道筋とポイント
下のガラスを下降させたとき、干渉縞の間隔\(\Delta x\)がどうなるかを考えます。(3)で求めた間隔の式 \(\Delta x = \displaystyle\frac{L\lambda}{2D}\) が、この操作によって変化するかどうかを分析します。
この設問における重要なポイント
- 干渉縞の間隔\(\Delta x\)は、\(L, \lambda, D\)のみに依存する。
- \(L\): ガラスが接する位置から金属箔までの距離。固定。
- \(\lambda\): 入射光の波長。固定。
- \(D\): 金属箔の厚さ。固定。
- 下のガラスを下降させる操作は、\(L, \lambda, D\)のいずれの値も変化させない。
具体的な解説と立式
干渉縞の間隔の式は、
$$ \Delta x = \frac{L\lambda}{2D} $$
です。この操作では、くさび形空気層の傾きを決める\(L\)と\(D\)は変化しません。また、入射光の波長\(\lambda\)も変わりません。
したがって、\(\Delta x\)を構成するすべての物理量が不変であるため、干渉縞の間隔も変化しません。
使用した物理公式
- \(\Delta x = \displaystyle\frac{L\lambda}{2D}\)
思考問題なので、計算はありません。
縞模様の間隔は、くさびの「傾き」(\(D/L\))と光の「波長」(\(\lambda\))だけで決まります。下のガラスを平行に上げ下げしても、くさびの傾きは変わりません。したがって、縞模様の間隔も変わることはありません。
干渉縞の間隔は「変化しない」。これも物理的に正しい結論です。
問(8)
思考の道筋とポイント
下のガラスを\(\Delta d\)だけ下降させた結果、もともと位置\(x\)にあった\(m\)番目の明線が、位置\(x-l\)に移動した状況を考えます。これは、2つの異なる場所の空気層の厚さの関係から、下降距離\(\Delta d\)を求める問題です。
この設問における重要なポイント
- 同じ\(m\)番目の明線なので、それが見える場所の「光路差」は前後で等しい。
- しかし、この問題では「同じ厚さの場所が移動する」と考える方が分かりやすい。
- 下降前の位置\(x-l\)での厚さを\(d_1\)、下降後の位置\(x-l\)での厚さを\(d\)とする。
- 下降前の位置\(x\)での厚さが\(d\)である。
- 図形的に、\(d = d_1 + \Delta d\) の関係が成り立つ。
具体的な解説と立式
下降前の位置\(x\)での空気層の厚さを\(d\)、位置\(x-l\)での厚さを\(d_1\)とします。三角形の相似より、
$$ d = \frac{D}{L}x \quad \cdots ① $$
$$ d_1 = \frac{D}{L}(x-l) \quad \cdots ② $$
下のガラスを\(\Delta d\)だけ下降させると、位置\(x-l\)での空気層の厚さは\(d_1+\Delta d\)になります。
この場所で、もともと位置\(x\)にあった\(m\)番目の明線が観測されたので、下降後の位置\(x-l\)での厚さは、下降前の位置\(x\)での厚さ\(d\)に等しくなります。
$$ d_1 + \Delta d = d \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 三角形の相似: \(d = \frac{D}{L}x\)
式③に式①と式②を代入して、\(\Delta d\)を求めます。
$$ \frac{D}{L}(x-l) + \Delta d = \frac{D}{L}x $$
\(\Delta d\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
\Delta d &= \frac{D}{L}x – \frac{D}{L}(x-l) \\[2.0ex]&= \frac{D}{L} \{ x – (x-l) \} \\[2.0ex]&= \frac{D}{L}l
\end{aligned}
$$
別解: 相似関係からの直接アプローチ
具体的な解説と立式
下のガラスを\(\Delta d\)だけ下降させると、同じ厚さの場所が水平方向に\(l\)だけ左に移動します。
この関係は、模範解答の図gのように、くさびの傾きを表す大きな三角形(底辺\(L\), 高さ\(D\))と、ガラスの下降によって生じる小さな三角形(底辺\(l\), 高さ\(\Delta d\))が相似であることから直接導くことができます。
$$ \Delta d : l = D : L $$
この比例式を\(\Delta d\)について解くと、
$$ L \cdot \Delta d = D \cdot l $$
$$ \Delta d = \frac{D}{L}l $$
もともと位置\(x\)にあった明るい縞が、ガラスを下げたことで位置\(x-l\)に移動しました。これは、ガラスを下げた後の「位置\(x-l\)での隙間の厚さ」が、下げる前の「位置\(x\)での隙間の厚さ」と等しくなった、ということです。この関係を図形的に考えると、ガラスを下げた距離\(\Delta d\)は、移動した距離\(l\)を使って計算できます。
下のガラスを移動させた距離は \(\Delta d = \displaystyle\frac{Dl}{L}\) です。これは、くさびの傾き(\(D/L\))に、縞が水平に移動した距離(\(l\))を掛けたものになっており、幾何学的に妥当な関係です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光路差の計算(特に位置依存性):
- 核心: くさび形領域では、空気層の厚さ\(d\)がガラスの接触点からの距離\(x\)に比例して変化します。三角形の相似を用いて \(d = \displaystyle\frac{D}{L}x\) と表し、光路差 \(p=2d=\displaystyle\frac{2Dx}{L}\) を\(x\)の関数として求めることが全ての出発点です。
- 理解のポイント: 光路差が場所によって異なるため、スクリーン上には連続的な明暗の縞模様(干渉縞)が形成されます。
- 反射における位相変化:
- 核心: 薄膜干渉と同様に、反射面での位相変化が干渉条件を決定します。この問題では、ガラス(屈折率1.4)と空気(屈折率1.0)の間の反射を考えます。
- 理解のポイント:
- 上のガラス下面(ガラス→空気): 屈折率 大→小 のため、位相変化はなし(自由端反射)。
- 下のガラス上面(空気→ガラス): 屈折率 小→大 のため、位相が\(\pi\)反転する(固定端反射)。
この結果、2つの反射光のうち片方のみ位相が反転するため、干渉条件が逆転します。
- 干渉縞の間隔の導出:
- 核心: 明線の条件式を位置\(x\)について解き、隣り合う明線(次数\(m\)と\(m+1\))の位置の差 \(\Delta x = x_{m+1} – x_m\) を計算することで、縞の間隔が求まります。
- 理解のポイント: くさび形領域の場合、縞の間隔 \(\Delta x = \displaystyle\frac{L\lambda}{2D}\) は次数\(m\)に依存せず、一定となります。これは、くさびの傾きが一定であるため、光路差が\(x\)に比例して直線的に増加することに起因します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ニュートンリング: 平面ガラスの上に凸レンズを置いたときの干渉。空気層の厚さが中心からの距離の2乗にほぼ比例する点が異なりますが、場所によって厚さが変わる空気層の干渉という点で本質は同じです。
- 薄膜干渉(前問): 均一な厚さの薄膜による干渉。本問は、この厚さが場所によって変化する応用版と位置づけられます。
- 液体を満たす問題: 媒質を屈折率\(n\)の液体で満たすと、光路差は\(n\)倍、波長は\(1/n\)倍になります。結果として、干渉縞の間隔は\(1/n\)倍になります。この関係は様々な干渉問題で共通です。
- 初見の問題での着眼点:
- 形状と光路差の関係を把握する: まず、干渉が起こる領域の形状(くさび形、レンズ形など)を確認し、位置\(x\)と厚さ\(d\)の関係を幾何学的に立式します。これが光路差の基本形となります。
- 反射面と位相変化を特定する: 干渉する2つの光がどの境界面で反射するかを特定し、それぞれの屈折率の大小関係から位相変化の有無を判断します。これは薄膜干渉と全く同じ手順です。
- 観測方法を確認する: 反射光を観測するのか、透過光を観測するのかで明暗の条件が逆転します。問題文を注意深く読みましょう。
- 操作の意味を物理的に解釈する: (6)~(8)のように装置の一部を動かす問題では、その操作が「厚さ」「傾き」「光路差」などの物理量にどのような変化をもたらすかを考えます。「同じ縞は同じ厚さの場所に現れる」という原理を理解することが、縞の移動を考える鍵となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 光路差と経路差の混同:
- 誤解: 媒質が空気(屈折率1.0)でない場合にも、光路差を経路差\(2d\)のまま計算してしまう。
- 対策: 常に「光路差 = 屈折率 \(\times\) 経路差」という定義に立ち返る習慣をつけましょう。問(5)のように液体で満たした場合は、光路差は\(2nd\)となります。
- 反射光と透過光の条件の混同:
- 誤解: 反射光の干渉条件と透過光の干渉条件が同じだと考えてしまう。
- 対策: エネルギー保存則をイメージしましょう。反射が強ければ透過は弱く、反射が弱ければ透過は強い。つまり、明暗の条件は必ず逆転します。反射光の条件(明暗)が分かれば、透過光の条件はその逆、と機械的に判断できます。
- 縞の移動方向の誤解:
- 誤解: (6)で下のガラスを下げると厚さが増えるから、縞は厚い方(右)へ動くと直感的に考えてしまう。
- 対策: 「特定の縞(例:m番目の明線)は、特定の厚さの場所に現れる」という原理を思い出しましょう。下のガラスを下げると、くさび全体の厚さが増します。その結果、今まで位置\(x\)にあった厚さの場所は、より原点に近い(左の)位置にずれます。したがって、縞は左へ動きます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 等高線としての干渉縞: 干渉縞を、くさび形空気層の「厚さの等高線」と見なすイメージが非常に有効です。明線は特定の厚さのラインに沿って現れます。このイメージを持つと、(6)でガラスを下げたときに「等高線」がどう動くかを直感的に理解できます。
- 相似関係の明示: 問(1)や(8)の別解のように、くさびの傾きに関する三角形の相似を図に描き込むことで、厚さ\(d\)と位置\(x\)の関係や、ガラスの下降距離\(\Delta d\)と縞の移動距離\(l\)の関係が視覚的に明らかになります。
- 別解の図解(図b): 隣り合う明線の間隔\(\Delta x\)を考える際に、その場所の厚さの差が\(\lambda/2\)になるという物理的意味を図示(模範解答の図b)すると、相似関係から\(\Delta x\)をより直感的に導出できます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 誇張して描く: 実際のくさびの傾きは非常に小さいですが、図を描くときはDやdを大きく誇張して描くと、幾何学的な関係が見やすくなります。
- 変数を書き込む: \(x, L, d, D, \Delta x, \Delta d\)など、問題に出てくる変数を図の中に正確に書き込むことが、立式のミスを防ぐ基本です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 三角形の相似 \(d:x = D:L\):
- 選定理由: 光路差が場所によって変わるため、その依存関係を数式で表現する必要があるから。くさび形という幾何学的形状から、最も単純で直接的な関係式が相似比です。
- 適用根拠: 問題設定が、直線的な傾きを持つくさび形であるという幾何学的条件に基づきます。
- 明線条件 \(p = (m+\frac{1}{2})\lambda\):
- 選定理由: 問題が「明るくなる」条件を問うており、物理状況が「片側のみ位相が反転する」ため。
- 適用根拠: 片方の波が半波長分ずれている状況で、2つの波が強めあう(山と山が重なる)ためには、光路差がそのずれを補正し、さらに整数波長分ずれる必要があります。結果、光路差が半波長の奇数倍のときに強めあいます。
- 縞の間隔 \(\Delta x = x_{m+1} – x_m\):
- 選定理由: 問題が「干渉縞の間隔」という、周期的なパターンの長さを問うているため。
- 適用根拠: 干渉縞が等間隔に並ぶ場合、隣り合う縞の位置の差を計算すれば、その間隔が求められるという定義に基づきます。この計算によって、間隔が次数\(m\)に依存しない定数であることが示されます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 光路差:
- 戦略: 三角形の相似から厚さ\(d\)を\(x\)で表し、光路差\(p=2d\)を計算する。
- フロー: \(d:x=D:L\) \(\rightarrow\) \(d=\frac{D}{L}x\) \(\rightarrow\) \(p=2d=\frac{2D}{L}x\)。
- (2) 明線条件:
- 戦略: 位相変化を判定し、強めあいの条件式を立てる。
- フロー: 片側反転を確認 \(\rightarrow\) 強めあいは光路差が半波長の奇数倍 \(\rightarrow\) \(p=(m+\frac{1}{2})\lambda\)。
- (3) 縞の間隔:
- 戦略: (1)と(2)の式を連立して\(m\)番目の明線の位置\(x_m\)を求め、\(\Delta x = x_{m+1}-x_m\)を計算する。
- フロー: \(\frac{2Dx_m}{L}=(m+\frac{1}{2})\lambda\) から \(x_m\) を解く \(\rightarrow\) \(x_{m+1}\) との差を計算し \(\Delta x = \frac{L\lambda}{2D}\) を得る。
- (4) 透過光の条件:
- 戦略: 透過光の干渉は反射光と明暗が逆転することを利用する。
- フロー: 反射光の「暗線」の条件が、透過光の「明線」の条件となる \(\rightarrow\) \(p=m\lambda\)。(1)を代入し \(\frac{2D}{L}x=m\lambda\)。
- (5) 液体中の間隔:
- 戦略: (3)で求めた間隔の式\(\Delta x\)において、光路差が\(n\)倍になる効果を考慮する。
- フロー: \(\Delta x’ = \frac{L\lambda}{2nD}\) となる \(\rightarrow\) 数値を代入して計算。
- (6), (7) ガラスを動かす:
- 戦略: (6)「特定の厚さ」の場所がどこへ動くかを考える。(7)間隔の式\(\Delta x\)の変数が変化しないことを確認する。
- フロー: (6)厚さが増えるので、同じ厚さの場所は左へ移動。(7)\(\Delta x = \frac{L\lambda}{2D}\) の\(L, \lambda, D\)は不変なので、\(\Delta x\)も不変。
- (8) 移動距離:
- 戦略: 下降後の位置\(x-l\)での厚さが、下降前の位置\(x\)での厚さと等しくなる、という関係を幾何学的に立式する。
- フロー: 下降後の厚さ \(d’ = d_1+\Delta d = \frac{D}{L}(x-l)+\Delta d\)。これが下降前の厚さ \(d=\frac{D}{L}x\) に等しいとおき、\(\Delta d\)を解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の区別: \(d\)と\(D\)、\(x\)と\(\Delta x\)、\(l\)と\(L\)など、似た文字を混同しないように注意深く書き分けましょう。特に\(D\)は定数(金属箔の厚さ)、\(d\)は変数(位置\(x\)での空気層の厚さ)であり、意味が全く異なります。
- 分数の計算: (3)や(5)の計算では、分母・分子の整理を慎重に行いましょう。特に(5)では、屈折率\(n\)が分母に来ることを間違えないようにします。
- 式の意味を考える: (8)では、複数の解法が考えられます(模範解答の別解など)。式を立てる際に「この項は何の厚さを表しているか」など、物理的な意味を常に意識することで、複雑な状況でも正しい立式ができます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) \(\Delta x = \frac{L\lambda}{2D}\): 縞の間隔が、くさびが長い(\(L\)大)ほど、また波長が長い(\(\lambda\)大)ほど広くなり、くさびの傾きが急(\(D\)大)なほど狭くなる、という結果は直感と一致します。
- (5) \(\Delta x’ < \Delta x\): 屈折率の大きい液体で満たすと縞の間隔が狭くなる(\(\Delta x’ = \Delta x / n\))という結果は、他の干渉実験とも共通する性質であり、妥当です。
- (7) \(\Delta x\)は変化しない: ガラスを平行に上下させても、くさびの傾き(\(D/L\))は変わらないので、縞の間隔も変わらないはずだ、という考察と一致します。
- 別解との比較:
- (3)の別解では、隣り合う明線では厚さの差が\(\lambda/2\)になるという物理的考察から、三角形の相似を用いて\(\Delta x\)を直接求めています。代数的に\(x_{m+1}-x_m\)を計算するメインの解法と同じ結果になることを確認することで、答えの信頼性が高まります。
問題97 (千葉大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、平凸レンズと平面ガラスによって作られる「ニュートンリング」という干渉現象を扱っています。中心からの距離\(r\)によって空気層の厚さ\(d\)が変化するため、同心円状の干渉縞が観測されます。
前半(1)~(4)は基本的な幾何学と干渉条件、後半(5)~(9)はレンズを動かしたり、間を液体で満たしたりする応用的な状況を考察します。
この問題の核心は、くさび形空気層の干渉(前問)と同様に、場所によって変わる光路差と、反射面での位相変化を正しく評価することです。
- 平凸レンズ: 球面の半径\(R\), 屈折率\(n_0\)
- 平面ガラス: 屈折率\(n_0\) (\(n_0>1\))
- 媒質:
- (1)~(6): 空気(屈折率1)
- (7)~(9): 液体(屈折率\(n\))
- 光源: 単色光(波長\(\lambda\))、垂直入射
- 近似: \(r \ll R\) のとき \(\sqrt{1+x} \approx 1 + x/2\)
- (1) 空気層の厚さ\(d\)を\(R, r\)で表す(近似なし)。
- (2) \(r \ll R\)のときの\(d\)の近似式における係数\(A\)。
- (3) \(m\)番目の明環の条件式における係数\(B, C\)。
- (4) \(m\)番目の明環の半径。
- (5) レンズを離したときの、最も近い明環の半径の変化から、離した距離を求める。
- (6) レンズを離したときに、元の干渉縞が再現されるときの距離。
- (7) 液体で満たしたときの、最も近い明環の半径。
- (8) 液体で満たしたときの、反射光の中心の様子。
- (9) 液体で満たしたときの、透過光の中心の様子。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「ニュートンリング」です。空気層の厚さが中心からの距離の2乗に比例する点が、くさび形空気層との主な違いです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 三平方の定理: 球面の形状から、中心からの距離\(r\)と空気層の厚さ\(d\)の関係を導出するために用います。
- 近似式の利用: \(r \ll R\) という条件の下で、複雑な平方根の式を単純な2次関数に近似します。これにより、以降の計算が大幅に簡略化されます。
- 光路差と位相変化: 基本的な考え方は薄膜干渉と同じです。2つの反射光(レンズ下面での反射とガラス上面での反射)の光路差(\(2d\))と、それぞれの反射面での位相変化を評価し、干渉条件を立てます。
- パラメータの変化: レンズを動かしたり(空気層の厚さが一様に変化)、液体で満たしたり(屈折率と位相変化のルールが変化)したときに、干渉条件がどう変わるかを考察します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、図に描かれた直角三角形に三平方の定理を適用し、\(d\)を\(r\)と\(R\)で表します(問1)。
- 次に、問題で与えられた近似式を用いて、\(d\)を簡単な\(r\)の2次式で表します(問2)。
- 反射光の干渉を考え、位相変化のルールから明環の条件式を立てます(問3)。
- (2)と(3)の結果を組み合わせて、明環の半径\(r\)を求めます(問4)。
- 問(5)以降は応用問題です。レンズを距離\(h\)だけ離すと、光路差が\(2d\)から\(2(d+h)\)に変わることを利用します。また、液体で満たすと、光路差が\(n\)倍になり、位相変化のルールも変わる可能性があることに注意して、各設問の条件を立式していきます。
問(1)
思考の道筋とポイント
図に示された、球面の中心、点Q、点Pを含む直角三角形に三平方の定理を適用します。これにより、\(d, r, R\)の間の厳密な関係式を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 直角三角形の3辺の長さを\(d, r, R\)で正しく表現する。
- 斜辺: \(R\)
- 高さ: \(R-d\)
- 底辺: \(r\)
具体的な解説と立式
図の直角三角形において、三平方の定理を適用します。
$$ R^2 = r^2 + (R-d)^2 $$
この式を\(d\)について解くことが目的です。
使用した物理公式
- 三平方の定理
$$
\begin{aligned}
(R-d)^2 &= R^2 – r^2 \\[2.0ex]R-d &= \sqrt{R^2 – r^2} \quad (\text{ここで } R>d \text{ より } R-d>0) \\[2.0ex]d &= R – \sqrt{R^2 – r^2}
\end{aligned}
$$
レンズの球面の中心と、点P、点Qを結ぶと直角三角形ができます。この三角形の3つの辺の長さを、半径\(R\)、距離\(r\)、厚さ\(d\)を使って表し、「斜辺の2乗 = 他の2辺の2乗の和」という三平方の定理の式を立てて、\(d\)について解きます。
空気層の厚さは \(d = R – \sqrt{R^2 – r^2}\) と表されます。これは幾何学的に厳密な関係式です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)で求めた厳密な式を、問題で与えられた近似式 \(\sqrt{1+x} \approx 1 + x/2\) を使って、\(r \ll R\) の場合に成り立つ簡単な式に変形します。
この設問における重要なポイント
- (1)の式を、近似式が使える形 \(\sqrt{1+x}\) に変形する。
- \(x = -(r/R)^2\) と対応させる。
- \(r \ll R\) のとき、\(x\)の絶対値が1に比べて非常に小さいとみなせる。
具体的な解説と立式
(1)で求めた式は、
$$ d = R – \sqrt{R^2 – r^2} $$
この式の平方根の中を\(R\)でくくり出し、近似式が使える形に変形します。
$$ d = R – \sqrt{R^2 \left(1 – \frac{r^2}{R^2}\right)} = R – R\sqrt{1 – \left(\frac{r}{R}\right)^2} $$
ここで、\(x = -\left(\frac{r}{R}\right)^2\) とおくと、近似式 \(\sqrt{1+x} \approx 1 + x/2\) が適用できます。
使用した物理公式
- (1)で導出した関係式
- 近似式: \(\sqrt{1+x} \approx 1 + x/2\)
$$
\begin{aligned}
d &\approx R – R\left\{ 1 + \frac{1}{2} \left( -\left(\frac{r}{R}\right)^2 \right) \right\} \\[2.0ex]&= R – R\left( 1 – \frac{r^2}{2R^2} \right) \\[2.0ex]&= R – \left( R – \frac{Rr^2}{2R^2} \right) \\[2.0ex]&= R – R + \frac{r^2}{2R} \\[2.0ex]&= \frac{r^2}{2R}
\end{aligned}
$$
問題文の \(d=Ar^2\) と比較すると、係数\(A\)は、
$$ A = \frac{1}{2R} $$
(1)で求めた式はルートが入っていて複雑なので、簡単な形に近似します。指定された近似の公式が使えるように、(1)の式をうまく変形してあげます。変形後に公式を当てはめて整理すると、\(d\)が簡単な\(r\)の2次式で表せます。
\(A = \displaystyle\frac{1}{2R}\) であり、空気層の厚さ\(d\)は中心からの距離\(r\)の2乗に比例することがわかります。これは放物線で近似できることを意味し、ニュートンリングの議論で用いられる基本的な関係です。
問(3)
思考の道筋とポイント
上から観察したときに明環となる条件を考えます。これは、平凸レンズ下面と平面ガラス上面からの反射光が強めあう条件です。光路差と位相変化を評価して立式します。
この設問における重要なポイント
- 光路差: 空気層の厚さ\(d\)の場所での光路差は\(2d\)。
- 位相変化の判定:
- レンズ下面(ガラス→空気): 屈折率 大(\(n_0\)) → 小(1) の反射。位相変化なし。
- ガラス上面(空気→ガラス): 屈折率 小(1) → 大(\(n_0\)) の反射。位相が\(\pi\)反転する。
- 強めあいの条件: 片側のみ位相が反転するため、「光路差 = 半波長の奇数倍」となる。
- \(m\)番目の明環の定義: 問題文では\(m=1, 2, 3, \dots\)と指定されている。一般的な干渉の次数(\(m’=0, 1, 2, \dots\))との対応を考える必要がある。最も光路差が小さい明環(\(m=1\))は、次数\(m’=0\)に対応する。よって、\(m\)番目の明環は次数\(m-1\)に対応する。
具体的な解説と立式
光路差は\(2d\)。位相変化はガラス上面での反射時のみ。
したがって、強めあいの条件は、次数を\(m’\)とすると、
$$ 2d = \left(m’ + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m’=0, 1, 2, \dots) $$
問題文では、明環を\(m=1, 2, 3, \dots\)で数えているため、\(m\)番目の明環は次数\(m’ = m-1\)に対応します。
$$ 2d = \left((m-1) + \frac{1}{2}\right)\lambda = \left(m – \frac{1}{2}\right)\lambda $$
使用した物理公式
- 薄膜の干渉条件(片側位相変化): \(2d = (m’+\frac{1}{2})\lambda\) (強めあい)
上の式を\(d\)について解くと、
$$ d = \left(\frac{m}{2} – \frac{1}{4}\right)\lambda = \frac{\lambda}{2}m – \frac{\lambda}{4} $$
この式と問題文の \(d=Bm+C\) を比較すると、係数\(B, C\)は、
$$ B = \frac{\lambda}{2}, \quad C = -\frac{\lambda}{4} $$
明るいリングが見える条件を考えます。光が進む距離の差(光路差)は、隙間の厚さ\(d\)の2倍である\(2d\)です。反射するとき、下のガラス面でだけ位相がひっくり返るので、強めあう条件は「光路差 = (0.5, 1.5, 2.5, …)×波長」となります。問題文ではリングを1番目、2番目と数えるので、\(m\)番目のリングは「光路差 = \((m-0.5)\)×波長」という条件に対応します。
\(B = \displaystyle\frac{\lambda}{2}, C = -\frac{\lambda}{4}\) となります。この結果は、明環が生じる厚さ\(d\)が\(m\)の1次関数で表せることを示しています。
問(4)
思考の道筋とポイント
(2)で求めた厚さの近似式 \(d=Ar^2\) と、(3)で求めた\(m\)番目の明環の条件式を組み合わせて、\(m\)番目の明環の半径\(r\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 2つの\(d\)に関する式を等しいと置く。
- \(r\)について解き、平方根をとる。
具体的な解説と立式
(2)より、厚さ\(d\)と半径\(r\)の関係は、
$$ d = Ar^2 \quad \cdots ① $$
(3)より、\(m\)番目の明環ができる厚さ\(d\)の条件は、
$$ 2d = \left(m – \frac{1}{2}\right)\lambda \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- \(d=Ar^2\)
- \(2d = (m-1/2)\lambda\)
式①を式②に代入します。
$$ 2(Ar^2) = \left(m – \frac{1}{2}\right)\lambda $$
これを\(r^2\)について解くと、
$$ r^2 = \frac{(m – \frac{1}{2})\lambda}{2A} = \frac{(2m-1)\lambda}{4A} $$
\(r>0\)なので、平方根をとると、
$$ r = \sqrt{\frac{(2m-1)\lambda}{4A}} $$
(2)で「厚さ\(d\)と半径\(r\)の関係式」を、(3)で「\(m\)番目の明るいリングができる厚さ\(d\)の条件式」を求めました。この2つの式を合体させることで、\(m\)番目の明るいリングの半径\(r\)を計算できます。
\(m\)番目の明環の半径は \(r = \sqrt{\displaystyle\frac{(2m-1)\lambda}{4A}}\) です。\(m\)が大きくなるほど半径\(r\)も大きくなりますが、その間隔は徐々に狭まっていく(\(r \propto \sqrt{m}\) の関係)ことを示しており、ニュートンリングの典型的な特徴と一致します。
問(5)
思考の道筋とポイント
平凸レンズを距離\(h\)だけ真上に離した状況を考えます。このとき、空気層の厚さは\(d\)から\(d+h\)に変わります。この新しい厚さで明環となる条件を立て、半径の変化についての問題文の条件と連立させて\(h\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- レンズを離すと、光路差は \(2d \rightarrow 2(d+h)\) に変化する。
- 最も近い明環は \(m=1\) に対応する。
- 離す前の半径\(r_1\)と、離した後の半径\(r_1’\)の関係が \(r_1′ = r_1/2\) である。
具体的な解説と立式
最も近い明環(\(m=1\))について考えます。
離す前の半径を\(r_1\)、離した後の半径を\(r_1’\)とします。
(4)の結果から、\(r_1^2\)は、
$$ r_1^2 = \frac{(2 \cdot 1 – 1)\lambda}{4A} = \frac{\lambda}{4A} \quad \cdots ① $$
レンズを\(h\)離した後の明環の条件は、光路差が\(2(d+h)\)になることから、
$$ 2(d+h) = \left(m – \frac{1}{2}\right)\lambda $$
ここに\(d=Ar^2\)を代入し、\(m=1\)とすると、
$$ 2(A(r_1′)^2+h) = \left(1 – \frac{1}{2}\right)\lambda = \frac{\lambda}{2} \quad \cdots ② $$
問題文の条件は、
$$ r_1′ = \frac{1}{2}r_1 \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- (4)で導出した半径の式
- 光路差の変化
式②を\((r_1′)^2\)について解くと、
$$ A(r_1′)^2+h = \frac{\lambda}{4} $$
$$ (r_1′)^2 = \frac{1}{A}\left(\frac{\lambda}{4} – h\right) $$
式③より \((r_1′)^2 = r_1^2/4\)。これと式①を代入すると、
$$ \frac{1}{4}\left(\frac{\lambda}{4A}\right) = \frac{1}{A}\left(\frac{\lambda}{4} – h\right) $$
両辺に\(4A\)を掛けると、
$$ \frac{\lambda}{4} = 4\left(\frac{\lambda}{4} – h\right) = \lambda – 4h $$
これを\(h\)について解きます。
$$ 4h = \lambda – \frac{\lambda}{4} = \frac{3\lambda}{4} $$
$$ h = \frac{3\lambda}{16} $$
レンズを少し持ち上げると、隙間全体の厚さが\(h\)だけ増えます。この状態で、一番内側の明るいリングの半径を測ったら、持ち上げる前の半分になっていた、という状況です。持ち上げる前と後、それぞれの「一番内側のリングの半径を計算する式」を立て、この2つの式を問題文の条件でつなぐことで、持ち上げた高さ\(h\)を計算できます。
離した距離は \(h = \displaystyle\frac{3\lambda}{16}\) です。光の波長程度の非常に小さな距離であり、物理的に妥当な値です。
問(6)
思考の道筋とポイント
レンズを距離\(h’\)だけ離したとき、「離す前と同じ縞模様が初めて現れた」状況を考えます。これは、離す前に\(m\)番目の明環があった場所に、離した後に\(m+1\)番目(あるいはそれ以上)の明環が移動してきたことを意味します。「初めて」現れるのは、隣の縞が移動してきたとき、つまり次数が1つずれたときです。
この設問における重要なポイント
- 同じ位置\(r\)で、異なる次数の明環が観測される。
- 離す前: 位置\(r\)で\(m\)番目の明環が観測される条件。
- 離した後: 同じ位置\(r\)で\(m+1\)番目の明環が観測される条件。
- 「初めて」なので、次数が1つだけずれる場合を考える。
具体的な解説と立式
ある位置\(r\)での空気層の厚さを\(d\)とします。
離す前の\(m\)番目の明環の条件は、
$$ 2d = \left(m – \frac{1}{2}\right)\lambda \quad \cdots ① $$
レンズを\(h’\)離すと、同じ位置\(r\)での光路差は \(2(d+h’)\) となります。この場所で\(m+1\)番目の明環が見える条件は、
$$ 2(d+h’) = \left((m+1) – \frac{1}{2}\right)\lambda = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 明環の条件式
式②を展開します。
$$ 2d + 2h’ = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
この式に、式①から \(2d\) を代入します。
$$ \left(m – \frac{1}{2}\right)\lambda + 2h’ = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda $$
\(h’\)について解くと、
$$ 2h’ = \left(m + \frac{1}{2}\right)\lambda – \left(m – \frac{1}{2}\right)\lambda $$
$$ 2h’ = \lambda $$
$$ h’ = \frac{\lambda}{2} $$
レンズを持ち上げると、(問5のように)縞模様は中心に向かって移動します。ちょうど波長\(\lambda\)の半分だけ持ち上げると、光路差が往復で\(\lambda\)だけ変化し、すべての縞が一つ内側の縞の位置にぴったり重なります。その結果、見た目上は元の縞模様が再現されます。
離した距離は \(h’ = \displaystyle\frac{\lambda}{2}\) です。この結果は、次数\(m\)や位置\(r\)に依存しません。つまり、レンズを半波長だけ動かすと、全ての縞が隣の縞の位置に移動し、全体として元のパターンが再現されることを意味しており、物理的に非常に興味深く、妥当な結果です。
問(7)
思考の道筋とポイント
レンズとガラスの間を屈折率\(n\)の液体で満たした場合を考えます。これにより、光路差と位相変化のルールが変わります。この新しい条件の下で、最も近い明環(\(m=1\))の半径を求めます。
この設問における重要なポイント
- 光路差: 液体で満たすと、光路差は \(2nd\) となる。
- 位相変化の判定 (\(1<n<n_0\)):
- レンズ下面(ガラス→液体): \(n_0 > n\) なので、大→小の反射。位相変化なし。
- ガラス上面(液体→ガラス): \(n < n_0\) なので、小→大の反射。位相が\(\pi\)反転する。
- 干渉条件: 結局、空気のときと同じく「片側のみ位相が反転する」状況になる。
具体的な解説と立式
光路差は \(2nd\)。位相変化はガラス上面でのみ起こります。
したがって、強めあいの条件は、
$$ 2nd = \left(m – \frac{1}{2}\right)\lambda \quad (m=1, 2, 3, \dots) $$
ここに、厚さの近似式 \(d=Ar^2\) を代入します。
$$ 2n(Ar^2) = \left(m – \frac{1}{2}\right)\lambda $$
最も近い明環は\(m=1\)の場合なので、その半径を\(r\)とすると、
$$ 2nAr^2 = \left(1 – \frac{1}{2}\right)\lambda = \frac{\lambda}{2} $$
使用した物理公式
- 液体中の干渉条件
- \(d=Ar^2\)
上の式を\(r^2\)について解きます。
$$ r^2 = \frac{\lambda}{4nA} $$
\(r>0\)なので、
$$ r = \sqrt{\frac{\lambda}{4nA}} $$
隙間を液体で満たすと、光路差が\(n\)倍になります。明るくなる条件式を立て、一番内側のリング(\(m=1\))に対応する半径\(r\)を計算します。
最も近い明環の半径は \(r = \sqrt{\displaystyle\frac{\lambda}{4nA}}\) です。空気のとき(\(r_1 = \sqrt{\lambda/4A}\))と比較すると、半径が \(1/\sqrt{n}\) 倍に小さくなっていることがわかります。
問(8)
思考の道筋とポイント
液体で満たしたときの中心(\(r=0, d=0\))の明るさを考えます。中心では光路差が0なので、明るさは位相変化のみで決まります。\(n>n_0\)の場合と\(1<n<n_0\)の場合で、位相変化のルールがどう変わるかを調べます。
この設問における重要なポイント
- 中心(\(d=0\))では光路差は0。
- 光路差0のとき、位相差が0なら強めあい(明)、\(\pi\)なら弱めあう(暗)。
- 位相差は、2つの反射面での位相変化の「差」で決まる。
- 両方反転 or 両方反転しない \(\rightarrow\) 位相差0 \(\rightarrow\) 明
- 片方だけ反転 \(\rightarrow\) 位相差\(\pi\) \(\rightarrow\) 暗
具体的な解説と立式
- \(n > n_0\) の場合:
- レンズ下面(ガラス→液体): \(n_0 < n\) なので、小→大の反射。位相が\(\pi\)反転する。
- ガラス上面(液体→ガラス): \(n > n_0\) なので、大→小の反射。位相変化なし。
- 結果: 片側のみ反転するので、位相差は\(\pi\)。中心は暗くなる。よって、中心が暗い同心円状の縞模様が見える。
- \(1 < n < n_0\) の場合:
- レンズ下面(ガラス→液体): \(n_0 > n\) なので、大→小の反射。位相変化なし。
- ガラス上面(液体→ガラス): \(n < n_0\) なので、小→大の反射。位相が\(\pi\)反転する。
- 結果: こちらも片側のみ反転するので、位相差は\(\pi\)。中心は暗くなる。よって、中心が暗い同心円状の縞模様が見える。
使用した物理公式
- 反射における位相変化のルール
思考問題なので、計算はありません。
リングの中心は隙間の厚さがゼロなので、光路差もゼロです。したがって、明るいか暗いかは、2つの反射光の位相が「揃っているか」「逆向きか」だけで決まります。それぞれの反射面で屈折率の大小関係を調べ、位相がひっくり返るかどうかをチェックします。
\(n>n_0\) の場合も \(1<n<n_0\) の場合も、いずれも片側のみ位相が反転するため、中心は暗くなります。したがって、どちらの場合も選択肢①が正解です。
問(9)
思考の道筋とポイント
問(8)と同じ状況で、今度は下方から透過光を観察します。透過光の干渉は、反射光の干渉と明暗が逆転する性質を利用して考えます。
この設問における重要なポイント
- 透過光と反射光の明暗は逆転する。
- 問(8)で、反射光の中心はどちらの場合も「暗」だった。
- したがって、透過光の中心はどちらの場合も「明」になる。
具体的な解説と立式
エネルギー保存則により、反射光が弱めあう(暗い)場所では、透過光は強めあう(明るい)ことになります。
問(8)の考察より、\(n>n_0\) の場合も \(1<n<n_0\) の場合も、反射光は中心で弱めあって暗くなりました。
したがって、透過光はどちらの場合も中心で強めあって明るくなります。
よって、中心が明るい同心円状の縞模様が見えます。
使用した物理公式
- エネルギー保存則(反射光と透過光の明暗は逆転)
思考問題なので、計算はありません。
(8)で、上から見ると中心は暗くなることがわかりました。光のエネルギーは消えるわけではないので、反射されなかった分のエネルギーは下へ通り抜けていきます。つまり、上から見て暗い場所は、下から見ると明るくなります。
\(n>n_0\) の場合も \(1<n<n_0\) の場合も、透過光の中心は明るくなります。したがって、どちらの場合も選択肢②が正解です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 厚さの幾何学的計算と近似:
- 核心: ニュートンリングの議論の出発点。まず三平方の定理を用いて、空気層の厚さ\(d\)と中心からの距離\(r\)の厳密な関係式 \(d = R – \sqrt{R^2 – r^2}\) を導出します。次に、\(r \ll R\) という条件下で近似計算を行い、扱いやすい関係式 \(d \approx \displaystyle\frac{r^2}{2R}\) を得ることが極めて重要です。この近似式が、以降のすべての設問の土台となります。
- 理解のポイント: この近似により、厚さ\(d\)が距離\(r\)の2乗に比例することがわかり、半径\(r\)と干渉の次数\(m\)の関係をシンプルに議論できるようになります。
- 光路差と位相変化:
- 核心: 薄膜や、くさび形空気層の干渉と全く同じ原理です。光路差(空気層の往復分 \(2d\))と、2つの反射面(レンズ下面とガラス上面)での位相変化を正しく評価することが、干渉条件を決定づけます。
- 理解のポイント:
- レンズ下面(ガラス\(n_0\)→空気1): 大→小の反射。位相変化なし。
- ガラス上面(空気1→ガラス\(n_0\)): 小→大の反射。位相が\(\pi\)反転。
この「片側のみ位相が反転する」という事実から、強めあいの条件は光路差 \(2d = (m’+\frac{1}{2})\lambda\) となります。
- パラメータ変化への対応:
- 核心: レンズを動かしたり(問5, 6)、媒質を変えたり(問7, 8, 9)したときに、どの物理量がどう変化するかを正確に追跡する能力が問われます。
- 理解のポイント:
- レンズを距離\(h\)離す \(\rightarrow\) 光路差が \(2d\) から \(2(d+h)\) に変化。
- 屈折率\(n\)の液体で満たす \(\rightarrow\) 光路差が \(2d\) から \(2nd\) に変化。さらに、反射面での屈折率の大小関係が変わり、位相変化のルールが変化する可能性がある。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- くさび形空気層の干渉(前問): 厚さ\(d\)が距離\(x\)に比例する(\(d \propto x\))点が異なりますが、光路差と位相変化を考えて干渉縞を議論する流れは全く同じです。ニュートンリングは厚さが\(r^2\)に比例する応用版と見なせます。
- 薄膜の干渉: 均一な厚さの薄膜。ニュートンリングは、この厚さが場所によって連続的に変化する系と考えることができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 厚さ\(d\)と位置\(r\)(または\(x\))の関係式を立てる: まずは幾何学的な考察から、干渉が起こる層の厚さと位置の関係を立式します。近似計算が必要な場合が多いです。
- 位相変化のルールを確認する: 干渉する2つの光がどの境界面で反射するかを特定し、それぞれの屈折率の大小関係から位相変化の有無を判断します。これは光の干渉問題における定石です。
- 「\(m\)番目」の定義に注意する: 問題文で「\(m\)番目の明環(\(m=1, 2, \dots\))」と指定されているか、物理で一般的な次数「\(m=0, 1, 2, \dots\)」で考えるべきかを確認します。両者の間には \(m_{\text{番目}} = m_{\text{次数}} + 1\) のような関係があることが多く、これを間違えると条件式がずれます。
- 中心(\(r=0, d=0\))の明暗を考える: 中心では光路差が0になるため、明暗は位相変化のみで決まります。これは問題を解く上での良いチェックポイントになります。位相差0なら明、\(\pi\)なら暗です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 近似計算のミス:
- 誤解: (2)の近似計算で、式の変形や符号の扱いを間違える。
- 対策: \(\sqrt{R^2-r^2} = R\sqrt{1-(r/R)^2}\) のように、まずは近似式\(\sqrt{1+x}\)が使える形に正確に変形する手順を確実にマスターしましょう。焦って計算しないことが重要です。
- \(m\)と「\(m\)番目」の混同:
- 誤解: (3)で、\(m\)番目の明環の条件を、次数の\(m\)をそのまま使って \(2d = (m+1/2)\lambda\) と立式してしまう。
- 対策: 物理的な次数\(m’\)は0から始まるのに対し、問題文の「番目」は1から始まります。1番目の明環は、光路差が最小の\(m’=0\)に対応するため、\(m\)番目の明環は次数\(m’=m-1\)に対応すると考え、\(2d = ((m-1)+1/2)\lambda = (m-1/2)\lambda\) と立式するのが確実です。
- 液体で満たしたときの位相変化:
- 誤解: (7), (8)で液体を注入した後も、空気のときと同じ位相変化のルールを適用してしまう。
- 対策: 媒質が変わったら、必ず屈折率の大小関係を再確認しましょう。特に(8)では、液体の屈折率\(n\)とガラスの屈折率\(n_0\)の大小関係によって、レンズ下面での反射が「大→小」から「小→大」に変わる可能性があり、これが位相変化のルールを根本的に変えます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 三平方の定理の図示: (1)では、問題図に球面の中心を点として描き加え、半径\(R\)、\(R-d\)、\(r\)を辺とする直角三角形を明示することが、立式の第一歩です。
- レンズを離すイメージ(図c): (5), (6)では、レンズ全体を距離\(h\)だけ持ち上げた図を描くと、光路差が\(2d\)から\(2(d+h)\)に変化することが視覚的に理解できます。
- 位相変化の書き込み(図b): レンズ下面とガラス上面の反射点に、位相が反転する(ずれる)かしないかを記号(例:×、○)で書き込むと、干渉条件の選択ミスを防げます。
- 屈折率の大小関係の図示(図d, e): (8)のように媒質が変わる場合は、各層の屈折率の大小関係を矢印などで図示すると、位相変化のルールを判断しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 三平方の定理:
- 選定理由: 球面の一部という幾何学的形状から、厚さ\(d\)と半径\(r\)の関係を導出するため。これは円や球が関わる幾何の問題における最も基本的なツールです。
- 適用根拠: ユークリッド幾何学の基本的な定理であり、直角三角形が存在する場面で常に適用可能です。
- 近似式 \(\sqrt{1+x} \approx 1+x/2\):
- 選定理由: 三平方の定理から導かれる厳密な式は平方根を含み扱いにくいため、\(r \ll R\) という物理的な条件を利用して、より単純な多項式に変換するためです。
- 適用根拠: テイラー展開(マクローリン展開)の1次までの近似であり、\(|x| \ll 1\) のときに数学的に保証されています。
- 明線条件 \(2d = (m-1/2)\lambda\):
- 選定理由: 問題が「明環」の条件を問うており、物理状況が「片側のみ位相が反転する」ため。
- 適用根拠: 片方の波が半波長分ずれているため、強めあうには光路差が半波長の奇数倍になる必要があります。さらに「\(m\)番目」という数え方(\(m=1,2,\dots\))を物理的な次数(\(m’=0,1,\dots\))に変換した結果、この式が選択されます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 厳密な厚さ:
- 戦略: 三平方の定理を適用する。
- フロー: \(R^2 = r^2 + (R-d)^2\) \(\rightarrow\) \(d\)について解く。
- (2) 近似的な厚さ:
- 戦略: (1)の式を近似公式が使える形に変形し、適用する。
- フロー: \(d = R – R\sqrt{1-(r/R)^2}\) \(\rightarrow\) \(\sqrt{1+x}\)の近似を適用し、\(d=r^2/(2R)\)を得る。\(A=1/(2R)\)。
- (3) 明環の条件:
- 戦略: 位相変化を考慮して強めあいの条件を立て、\(m\)番目と次数を対応させる。
- フロー: 片側反転 \(\rightarrow\) \(2d=(m’+1/2)\lambda\)。\(m=m’+1\)より\(2d=(m-1/2)\lambda\)。\(d\)について解き\(B, C\)を求める。
- (4) 明環の半径:
- 戦略: (2)の近似式と(3)の条件式を連立する。
- フロー: \(Ar^2 = (m-1/2)\lambda/2\) \(\rightarrow\) \(r\)について解く。
- (5) レンズを離す(1):
- 戦略: 離す前の半径\(r_1\)と、離した後の半径\(r_1’\)の条件式を立て、\(r_1’=r_1/2\)の関係で結ぶ。
- フロー: \(2Ar_1^2 = \lambda/2\)。\(2(A(r_1′)^2+h)=\lambda/2\)。この2式と\(r_1’=r_1/2\)から\(h\)を求める。
- (6) レンズを離す(2):
- 戦略: 同じ位置\(r\)で、離す前(次数\(m\))と離した後(次数\(m+1\))の条件式を立てて連立する。
- フロー: \(2d=(m-1/2)\lambda\) と \(2(d+h’)=(m+1/2)\lambda\) から\(d, m\)を消去し\(h’\)を求める。
- (7) 液体で満たす:
- 戦略: 光路差が\(2nd\)になることを考慮して、明環の条件式を立て直す。
- フロー: 位相変化は片側反転のまま。\(2nd=(m-1/2)\lambda\)。\(d=Ar^2\)を代入し、\(m=1\)の\(r\)を求める。
- (8), (9) 中心部分の明暗:
- 戦略: 中心(\(d=0\))では光路差が0なので、位相変化のみで明暗を判断する。透過光は反射光と明暗が逆転する。
- フロー: \(n\)と\(n_0\)の大小関係から各反射面での位相変化を判定し、反射光の中心の明暗を決める。透過光はその逆。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 近似計算の丁寧な実行: (2)の計算は、この問題の根幹をなす部分です。符号ミスや展開ミスがないよう、一行一行慎重に計算を進めましょう。
- 次数の扱いの統一: (3)のように「\(m\)番目」という表現が出てきたら、まずそれを物理的な次数(0から始まる)に変換してから式を立てる、という手順を自分の中でルール化すると、混乱が少なくなります。
- パラメータの整理: (5)や(6)のように装置の状態が変化する問題では、「変化前」「変化後」で何が定数で何が変数かを明確に意識することが重要です。特に、同じ文字(例:\(d, r\))が異なる状態を表す場合は、\(d_1, d_2\)のように添え字をつけて区別するとミスを防げます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (4) \(r \propto \sqrt{m-1/2}\): 明環の半径\(r\)は、次数\(m\)が大きくなるにつれて大きくなるが、その間隔は徐々に狭まっていくことを示しています。これは実際のニュートンリングの見た目と一致します。
- (6) \(h’=\lambda/2\): レンズを半波長だけ動かすと、光路差がちょうど1波長分変化し、隣の縞が元の位置にやってくる、という結果は非常にシンプルで物理的な意味が明快です。このような美しい結果は、答えが正しい可能性が高いことを示唆します。
- (7) \(r \propto 1/\sqrt{n}\): 屈折率\(n\)の液体で満たすと、空気のときに比べて半径が小さくなるという結果は、光路差が\(n\)倍になることで、より小さな厚さ(=より中心に近い場所)で干渉条件が満たされるため、と解釈でき妥当です。
問題98 (横浜市大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、光の干渉を応用した精密な測定装置である「マイケルソン干渉計」をテーマにしています。光源から出た光を半透明鏡で2つの経路に分け、再び合成することで生じる干渉を利用します。
設問は、鏡の移動、薄膜の挿入、容器へのガス注入といった操作によって、2つの光路の間に「光路差の変化」が生じる状況を扱っています。
この問題の核心は、それぞれの操作によって2つの光路の光路差が「どれだけ変化したか」を正しく計算し、その変化が干渉の強めあいの条件(極大)とどう結びつくかを理解することです。
- 光源: 単色光(波長\(\lambda_0\))
- 装置: マイケルソン干渉計(半透明鏡H, 平面鏡M₁, M₂)、検出器D
- 初期状態: 装置全体は真空中。M₂の位置を調整し、Dでの光の強度が極大になっている。
- 操作1 (問1): M₂を距離\(L_1\)だけ移動させると、再び強度が極大になった。
- 操作2 (問2): H-M₁間に厚さ\(d\)、屈折率\(n_1\)の薄膜を挿入。
- 操作3 (問3,4): H-M₁間に長さ\(L_2\)の真空容器Aを設置し、屈折率\(n_2\)のアルゴンガスを注入すると、強度の極大が\(p\)回繰り返された。
- その他:
- (4) \(n-1\)は気体の密度に比例する。
- 0℃, 1気圧の1molの理想気体の体積は22.4L。
- (1) 鏡の移動距離\(L_1\)を、自然数\(m\)を用いて表す。
- (2) 薄膜挿入による光路差の変化量。
- (3) ガス注入後のアルゴンガスの屈折率\(n_2\)。
- (4) 0℃, 1気圧でのアルゴンガスの屈折率に関する値 \(n_3-1\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「マイケルソン干渉計」です。光の干渉を利用した精密測定の原理を理解することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光路差の変化: マイケルソン干渉計では、2つの光路(H→M₁→HとH→M₂→H)の光路差が、波長の整数倍なら強めあい(極大)、半波長の奇数倍なら弱めあいます。重要なのは、何らかの操作によってこの光路差が「変化」した量です。
- 鏡の移動と光路差: 鏡M₂を距離\(L_1\)だけ動かすと、光はそこを往復するため、経路長は\(2L_1\)変化します。媒質が真空(屈折率1)なので、光路差の変化も\(2L_1\)です。
- 媒質の挿入と光路差: ある区間に屈折率\(n\)の媒質を挿入すると、その区間の光路長が変化します。長さ\(L\)の真空の区間を、屈折率\(n\)の媒質で満たすと、光路長は\(1 \times L\)から\(n \times L\)に変化し、その変化量は\((n-1)L\)です。光が往復する場合は、この2倍の\(2(n-1)L\)が光路差の変化量となります。
- 極大の繰り返し: 光路差の変化量がちょうど1波長分(\(\lambda_0\))になるたびに、強めあいの条件が1回繰り返されます。したがって、極大が\(p\)回繰り返された場合、光路差の変化量は\(p\lambda_0\)に等しくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各設問の操作によって、2つの光路の光路差がどれだけ変化したかを計算します。
- その光路差の変化が、干渉の条件(極大)とどう関係するかを立式します。
- 問(4)では、物理法則「\(n-1\)は気体の密度に比例する」と、気体の状態方程式やアボガドロの法則に関する知識を用いて、比例計算を行います。
問(1)
思考の道筋とポイント
平面鏡M₂を距離\(L_1\)だけ移動させたときの、光路長の変化を考えます。光はM₂で反射して戻ってくるため、往復分の距離を考慮する必要があります。強度が極大から再び極大になったということは、この光路差の変化が波長\(\lambda_0\)の整数倍になったことを意味します。
この設問における重要なポイント
- 鏡M₂を\(L_1\)動かすと、光が往復する経路長は\(2L_1\)変化する。
- 媒質は真空(屈折率1)なので、光路差の変化も\(2L_1\)。
- 強度が極大から再び極大になる条件は、「光路差の変化 = \(m\lambda_0\)」(\(m\)は自然数)。
具体的な解説と立式
平面鏡M₂を距離\(L_1\)だけ移動させると、光線S→H→M₂→H→Dの経路長は\(2L_1\)だけ変化します。
装置全体は真空中(屈折率1)なので、光路差の変化量も\(2L_1\)です。
光の強度が極大の状態から、再び極大になったので、この光路差の変化が波長\(\lambda_0\)の自然数\(m\)倍に等しくなります。
$$ 2L_1 = m\lambda_0 \quad (m=1, 2, 3, \dots) $$
使用した物理公式
- 干渉の条件: 光路差の変化 = \(m\lambda_0\) (極大→極大)
上の式を\(L_1\)について解きます。
$$ L_1 = \frac{m\lambda_0}{2} $$
鏡を\(L_1\)だけ動かすと、光は「行き」と「帰り」で2回その距離を通るので、光が進む道のりは\(2L_1\)だけ変わります。明るい状態から、次に明るい状態になるのは、この道のりの変化がちょうど波長の整数倍になったときです。
移動距離は \(L_1 = \displaystyle\frac{m\lambda_0}{2}\) です。これは、鏡を半波長(\(\lambda_0/2\))動かすごとに、光路差が1波長(\(\lambda_0\))変化し、明暗が1周期繰り返されることを意味しており、マイケルソン干渉計の基本原理として妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
H-M₁間に厚さ\(d\)、屈折率\(n_1\)の薄膜を挿入したことによる、光路長の変化量を考えます。光は薄膜を往復するため、2回通過することに注意します。変化量は「挿入後の光路長」から「挿入前の光路長」を引くことで計算します。
この設問における重要なポイント
- 光は薄膜を往復するので、通過する経路長は\(2d\)。
- 挿入前: 厚さ\(d\)の区間は真空。光路長は \(1 \times 2d = 2d\)。
- 挿入後: 厚さ\(d\)の区間は薄膜。光路長は \(n_1 \times 2d = 2n_1d\)。
- 光路差の変化量 = (挿入後の光路長) – (挿入前の光路長)。
具体的な解説と立式
光線S→H→M₁→H→Dの経路について考えます。
薄膜を挿入する前、光が通過する厚さ\(d\)の区間は真空だったので、この部分の往復の光路長は \(2d\) です。
薄膜を挿入した後、この区間の往復の光路長は \(2n_1d\) になります。
したがって、薄膜を挿入したことによる光路差の変化量\(\Delta p\)は、
$$ \Delta p = (2n_1d) – (2d) $$
使用した物理公式
- 光路長 = 屈折率 \(\times\) 経路長
$$
\begin{aligned}
\Delta p &= 2n_1d – 2d \\[2.0ex]&= 2(n_1-1)d
\end{aligned}
$$
もともと真空だった厚さ\(d\)の空間に、屈折率\(n_1\)の薄膜を置きました。光にとって、真空中の距離\(d\)は\(d\)ですが、薄膜中の距離\(d\)は実質的に\(n_1d\)の距離に相当します。光はこの区間を往復するので、光路差の変化は「往復後の光路長」と「往復前の光路長」の差になります。
光路差の変化量は \(2(n_1-1)d\) です。屈折率\(n_1\)が1より大きい場合、この変化量は正となり、光路差が増加することを示します。物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
長さ\(L_2\)の容器Aに、屈折率\(n_2\)のアルゴンガスを注入したときの光路差の変化を考えます。これは(2)の薄膜の問題と本質的に同じで、媒質が薄膜からガスに変わっただけです。光路差の変化量が、極大が\(p\)回繰り返されたという条件(つまり\(p\lambda_0\))と等しくなることから、屈折率\(n_2\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- (2)と同様に、光路差の変化量は \(2(n_2-1)L_2\)。
- 強度の極大が\(p\)回繰り返された \(\iff\) 光路差の変化量が\(p\lambda_0\)に等しい。
具体的な解説と立式
容器Aにガスを注入する前後で、光路差がどれだけ変化したかを計算します。
光は長さ\(L_2\)の容器A内を往復します。
- 注入前(真空)の光路長: \(2 \times 1 \times L_2 = 2L_2\)
- 注入後(ガス)の光路長: \(2 \times n_2 \times L_2 = 2n_2L_2\)
光路差の変化量\(\Delta p\)は、
$$ \Delta p = 2n_2L_2 – 2L_2 = 2(n_2-1)L_2 $$
この光路差の変化によって、強度の極大が\(p\)回観測されたので、
$$ 2(n_2-1)L_2 = p\lambda_0 $$
使用した物理公式
- 光路長の変化 = \(2(n-1)L\)
- 光路差の変化 = \(p\lambda_0\)
上の式を\(n_2\)について解きます。
$$ n_2-1 = \frac{p\lambda_0}{2L_2} $$
$$ n_2 = 1 + \frac{p\lambda_0}{2L_2} $$
真空だった容器にガスを入れると、光にとっての実質的な道のり(光路長)が少しだけ長くなります。この道のりの変化によって、干渉の縞模様が次々と動いていき、明るい点が\(p\)回通り過ぎました。明るい点が1回通り過ぎるたびに光路長は1波長分変化しているので、\(p\)回通り過ぎたということは、光路長が全部で \(p \times \lambda_0\) だけ変化したことを意味します。この関係から、ガスの屈折率を計算できます。
アルゴンガスの屈折率は \(n_2 = 1 + \displaystyle\frac{p\lambda_0}{2L_2}\) です。気体の屈折率は1に非常に近い値なので、この式の第2項は非常に小さい正の値になるはずです。これは物理的な事実と合致しており、妥当な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
気体の屈折率に関する値 \(n-1\) が、その気体の密度に比例するという関係を利用して、0℃, 1気圧でのアルゴンガスの屈折率\(n_3\)を求めます。まず、(3)の実験条件での密度と、0℃, 1気圧での密度をそれぞれ計算し、比例式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 比例関係: \((n_3-1) : (n_2-1) = (\text{密度}_3) : (\text{密度}_2)\)。
- 密度は「質量/体積」で計算できる。
- 実験条件での密度: 物質量0.10mol, 体積4.5L。
- 標準状態での密度: 物質量1mol, 体積22.4L。
具体的な解説と立式
問題文より、\(n-1\) は気体の密度\(\rho\)に比例するので、\(n-1 = k\rho\)(\(k\)は比例定数)と書けます。
したがって、2つの異なる状態(状態2: (3)の実験条件、状態3: 0℃, 1気圧)について、以下の比例式が成り立ちます。
$$ \frac{n_3-1}{n_2-1} = \frac{\rho_3}{\rho_2} \quad \cdots ① $$
アルゴンガスの分子量を\(M\) [g/mol]とします。
- 状態2の密度 \(\rho_2\):
物質量 0.10 mol, 体積 4.5 L。質量は \(0.10M\) [g]。
$$ \rho_2 = \frac{0.10M}{4.5} \text{ [g/L]} \quad \cdots ② $$ - 状態3の密度 \(\rho_3\):
0℃, 1気圧(標準状態)では、1 mol の体積は 22.4 L。質量は \(1 \times M\) [g]。
$$ \rho_3 = \frac{M}{22.4} \text{ [g/L]} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- \(n-1 \propto \rho\)
- 密度 \(\rho = \text{質量}/\text{体積}\)
式②と③を式①に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{n_3-1}{n_2-1} &= \frac{M/22.4}{0.10M/4.5} \\[2.0ex]&= \frac{1}{22.4} \times \frac{4.5}{0.10} \\[2.0ex]&= \frac{4.5}{2.24}
\end{aligned}
$$
よって、
$$ n_3-1 = \frac{4.5}{2.24}(n_2-1) $$
ここに、(3)で求めた \(n_2-1 = \displaystyle\frac{p\lambda_0}{2L_2}\) を代入し、与えられた数値を代入します。
\(\lambda_0 = 0.59 \times 10^{-6}\) m, \(L_2 = 0.20\) m, \(p=95\)。
$$
\begin{aligned}
n_3-1 &= \frac{4.5}{2.24} \times \frac{p\lambda_0}{2L_2} \\[2.0ex]&= \frac{4.5}{2.24} \times \frac{95 \times (0.59 \times 10^{-6})}{2 \times 0.20} \\[2.0ex]&\approx 2.009 \times \frac{56.05 \times 10^{-6}}{0.40} \\[2.0ex]&\approx 2.009 \times 140.1 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&\approx 281.5 \times 10^{-6} \\[2.0ex]&\approx 2.8 \times 10^{-4}
\end{aligned}
$$
「\(n-1\)が密度に比例する」というルールを使います。まず、実験のときのガスの密度と、0℃・1気圧のときの密度をそれぞれ計算します。次に、「(\(n_3-1\)):(\(n_2-1\)) = (密度3):(密度2)」という比例式を立てます。この式に、(3)で求めた\(n_2-1\)の式と、計算した密度の値を代入して、求めたい\(n_3-1\)の値を計算します。
\(n_3-1 \approx 2.8 \times 10^{-4}\) となります。これは非常に1に近い屈折率(\(n_3 \approx 1.00028\))を示しており、気体の屈折率の値として極めて妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光路差の変化と干渉条件:
- 核心: マイケルソン干渉計の問題では、2つの光路の「光路差そのもの」よりも、何らかの操作によって生じた「光路差の変化量」が重要になります。強度が極大の状態から、光路差の変化量が波長\(\lambda_0\)の整数倍になるたびに、再び強度が極大となります。
- 理解のポイント: 「極大が\(p\)回繰り返された」という記述は、「光路差の変化量 \(= p\lambda_0\)」と読み替えることが、この問題を解く上での最大の鍵です。
- 光路長(光学的距離)の計算:
- 核心: 光が屈折率\(n\)、距離\(L\)の媒質を進むときの「光路長」は\(nL\)で計算されます。操作によって光路差がどう変化したかを計算するには、この光路長の考え方が不可欠です。
- 理解のポイント:
- 鏡の移動: 鏡を距離\(L_1\)動かすと、光は往復するため、光路差の変化は\(2L_1\)。
- 媒質の挿入: 長さ\(L_2\)の真空部分を屈折率\(n_2\)の媒質で置き換えると、光は往復するため、光路差の変化は \(2(n_2L_2 – 1 \cdot L_2) = 2(n_2-1)L_2\)。この式は非常に頻出です。
- 気体の屈折率と密度の関係:
- 核心: 気体の場合、屈折率\(n\)は1に非常に近く、その1からのずれ (\(n-1\))が気体の密度\(\rho\)に比例するという性質があります。これは、よりミクロな物理現象とマクロな光学現象を結びつける重要な法則です。
- 理解のポイント: この比例関係 \((n-1) \propto \rho\) を使うことで、ある状態(特定の圧力・温度)での屈折率から、別の状態(例えば標準状態)での屈折率を比例計算で求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 他の干渉計(Jamin干渉計など): 構造は異なりますが、2つの光路に分けてから再び合成し、その光路差の変化を測定するという原理は共通しています。本問で学んだ「光路差の変化 = \(p\lambda_0\)」という考え方がそのまま応用できます。
- 屈折率の精密測定: 本問のように、干渉縞の移動回数(フリンジのずれ)を数えることで、気体や液体の非常にわずかな屈折率の変化を精密に測定する問題。
- 熱膨張の測定: 干渉計の一方の光路に物体を置き、温度を変化させます。物体の熱膨張によって光路長が変化し、干渉縞が移動することから、非常に小さな長さの変化を測定する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 2つの光路を特定する: まず、干渉計の図を見て、光源から出て検出器に達するまでの2つの光路がそれぞれどのような経路をたどるのかを正確に把握します。
- 「変化の前」と「変化の後」を比較する: 問題で行われる操作(鏡を動かす、媒質を入れるなど)に着目し、その操作の「前」と「後」で、2つの光路の光路差がそれぞれどうなっているかを考えます。重要なのは、その「差分(変化量)」です。
- 「縞の移動回数」を「光路差の変化量」に翻訳する: 「極大が\(p\)回繰り返された」「干渉縞が\(p\)本通過した」といった日本語の表現を、即座に「光路差の変化量 = \(p\lambda_0\)」という数式に変換できるかが勝負の分かれ目です。
- 比例関係の利用: (4)のように、一見すると情報が足りないように思える問題でも、「〜は〜に比例する」という物理法則が与えられていれば、2つの異なる状態を比較する比例式を立てることで解ける場合があります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 往復を忘れる:
- 誤解: 鏡の移動距離や媒質の長さを、光路差の変化としてそのまま使ってしまう(2倍するのを忘れる)。
- 対策: マイケルソン干渉計では、光は分割された後、それぞれの光路を「往復」することを常に意識しましょう。図に光の進む矢印を往復分描くことで、計算ミスを防げます。
- 光路差の変化の計算ミス:
- 誤解: (2)や(3)で、媒質を挿入したときの光路差の変化を \(2n_1d\) や \(2(n_2-1)\) のように、経路長を掛け忘れてしまう。
- 対策: 常に「(変化後の光路長)-(変化前の光路長)」という定義に立ち返りましょう。長さ\(L\)の真空が屈折率\(n\)の媒質に変わった場合、光路長は\(L \rightarrow nL\)と変化します。変化量は\((n-1)L\)です。これを往復させるので\(2(n-1)L\)となります。
- 密度の計算ミス:
- 誤解: (4)で密度を計算する際に、物質量と体積の関係を間違える。あるいは、比例式の分母・分子を逆にしてしまう。
- 対策: 密度は「質量÷体積」です。気体の問題では、質量は「物質量×モル質量」で計算できます。比例式を立てる際は、\((n_3-1)/(n_2-1) = \rho_3/\rho_2\) のように、添え字の対応が正しくなっているかを確認しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 光路の等価な展開図: マイケルソン干渉計は、半透明鏡Hに関して鏡M₁を折り返した仮想的な鏡M₁’を考えると、2つの鏡M₁’とM₂からの反射光の干渉(薄膜干渉に似た状況)として等価に扱うことができます。この展開図を描くと、2つの光の光路差が、鏡M₁’とM₂の間の距離の2倍に相当することが視覚的に理解しやすくなります。
- 光路差の変化の可視化: (2)や(3)では、媒質を挿入する部分を「真空の定規」から「屈折率nの伸びる定規」に置き換えるイメージを持つと良いでしょう。光にとっては、距離が\(n\)倍に伸びて見えるため、光路長が増加することが直感的にわかります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 往復経路の明記: 図中の光路に、行きと帰りの矢印を両方描くことで、経路長を2倍することを忘れないようにします。
- 変化する部分のハイライト: 各設問で操作対象となる部分(鏡M₂, 薄膜, 容器A)を図中で囲ったり色をつけたりしてハイライトすると、どこで光路差の変化が起きているのかが一目瞭然になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 光路差の変化 = \(p\lambda_0\):
- 選定理由: 問題文に「強度の極大が\(p\)回くり返された」とあるため。これは、干渉条件が周期的に変化したことを示しており、その変化量を定量的に表すための公式です。
- 適用根拠: 光路差が\(\lambda_0\)変化するごとに、干渉の位相が\(2\pi\)変化し、強めあいの状態が1サイクルします。したがって、\(p\)回の繰り返しは、光路差が\(p\lambda_0\)変化したことに対応します。
- 光路長の変化 = \(2(n-1)L\):
- 選定理由: 長さ\(L\)の真空の区間に、屈折率\(n\)の媒質を挿入(または注入)するという操作が行われたため。この操作による光路長の変化を計算するための公式です。
- 適用根拠: 光路長の定義(屈折率×距離)に基づきます。往復するので2倍、変化量は「後-前」なので\((nL-L)\)となり、合わせて\(2(n-1)L\)となります。
- 比例式 \((n_3-1)/(n_2-1) = \rho_3/\rho_2\):
- 選定理由: 「\(n-1\)の値は気体の密度に比例する」という物理法則が与えられており、2つの異なる状態(密度)における屈折率の関係を求める必要があるため。
- 適用根拠: 問題文で与えられた物理法則そのものです。この法則により、直接測定が難しい状態での屈折率を、測定しやすい状態での値から推定することが可能になります。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 鏡の移動:
- 戦略: 鏡の移動による光路差の変化を計算し、それが\(m\lambda_0\)に等しいと置く。
- フロー: 光路差の変化は\(2L_1\) \(\rightarrow\) \(2L_1 = m\lambda_0\) \(\rightarrow\) \(L_1\)を求める。
- (2) 薄膜の挿入:
- 戦略: 薄膜の挿入による光路差の変化量を計算する。
- フロー: 変化前の光路長は\(2d\)、変化後は\(2n_1d\) \(\rightarrow\) 変化量は \(2n_1d – 2d = 2(n_1-1)d\)。
- (3) ガスの注入:
- 戦略: ガス注入による光路差の変化を計算し、それが\(p\lambda_0\)に等しいと置く。
- フロー: 光路差の変化は\(2(n_2-1)L_2\) \(\rightarrow\) \(2(n_2-1)L_2 = p\lambda_0\) \(\rightarrow\) \(n_2\)を求める。
- (4) 屈折率の計算:
- 戦略: ①(3)の実験条件と標準状態での密度をそれぞれ求める → ②「\(n-1 \propto \rho\)」の比例式を立てる → ③(3)の結果を代入して計算する。
- フロー: \(\rho_2 = 0.10M/4.5\), \(\rho_3 = M/22.4\) \(\rightarrow\) \((n_3-1):(n_2-1) = \rho_3:\rho_2\) の比例式を立てる \(\rightarrow\) \(n_2-1 = p\lambda_0/(2L_2)\) と各数値を代入して\(n_3-1\)を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の換算: (4)の計算では、波長が \(\times 10^{-6}\)m、容器の長さが m で与えられています。計算過程で単位が混在しないよう、基本単位(m, L, molなど)にそろえて計算を進める意識が重要です。
- 比例式の扱い: (4)の比例計算では、分数の割り算(\(\frac{A/B}{C/D}\))が出てきます。これを \(\frac{A}{B} \times \frac{D}{C}\) と落ち着いて変形しましょう。また、どの値がどの状態に対応するのかを明確にしながら式を立てることがミスを防ぎます。
- 有効数字: 最終的な計算結果を答える際は、問題文で与えられた数値の有効数字を確認し、適切な桁数に丸めることを忘れないようにしましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) \(n_2 = 1 + \frac{p\lambda_0}{2L_2}\): 気体の屈折率は1よりわずかに大きい値です。この式は「1 + (微小な正の値)」という形になっており、物理的な直感と一致します。もし計算結果が1より小さい、あるいは2や3のような大きな値になった場合は、計算ミスを疑うべきです。
- (4) \(n_3-1 \approx 2.8 \times 10^{-4}\): この値は、標準状態の気体の屈折率が \(1.00028\) 程度であることを示しています。これは既知の物理データとも整合性が取れるオーダーであり、計算結果の信頼性が高いことを示唆します。
問題99 (名古屋工大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ピンホールカメラの「像のぼやけ」について、光の直進性(幾何光学的ぼやけ)と回折現象(波動光学的ぼやけ)の両面から総合的に考察する、思考力を要する問題です。
前半(1)(2)では、回折による像のぼやけ幅を求め、後半(3)~(5)では、それにスリット幅そのものによるぼやけを加えて、全体のぼやけ幅が最小になる最適なスリット幅を求めます。
この問題の核心は、2種類の「ぼやけ」をそれぞれ数式で表現し、それらを足し合わせた全体のぼやけ幅\(D(d)\)が、スリット幅\(d\)の関数として最小値を持つ条件を見つけ出すことです。
- 装置: ピンホールカメラ(スリット幅\(d\), スクリーンまでの距離\(f\))
- 光源: 遠方の点光源、単色光(波長\(\lambda\))
- 関係: \(f \gg d \gg \lambda\)
- 近似公式: \(|x| \ll 1\) のとき \(\sin x \approx x, \cos x \approx 1, \tan x \approx x\)。また、\((1+x)^{-1} \approx 1-x\)。
- (1) 回折により初めて暗くなる角度\(\theta_1\)の導出。
- (2) 回折による像のぼやけ幅。
- (3) 全体の像のぼやけ幅\(D(d)\)の式。
- (4) ぼやけ幅の増加量 \(D(d+\Delta d) – D(d)\) の計算。
- (5) ぼやけ幅\(D\)を最小にするスリット幅\(d\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「回折と干渉の応用、そして関数の最小化」です。光学現象の数式化と、数学的な最適化手法を結びつける総合的な力が試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 回折とホイヘンスの原理: スリットを通過した光は、スリットの各点を新たな波源として広がる(回折)。これらの素元波がスクリーン上で干渉し、明暗のパターンを作ります。
- 回折による暗線の条件: 単スリット回折でスクリーン中心から見て初めて暗くなる方向は、スリットの端と中央からの光の光路差が\(\lambda/2\)となり、打ち消しあう条件で説明できます。
- 微小角の近似: 回折角が非常に小さいという設定から、\(\sin\theta \approx \tan\theta \approx \theta\) という近似が頻繁に用いられます。これにより、角度とスクリーン上の位置を簡単に結びつけることができます。
- 関数の最小値: (5)では、全体のぼやけ幅\(D(d)\)を\(d\)の関数とみなし、その最小値を求めます。微分を用いて増減を調べるか、相加・相乗平均の大小関係を利用する方法があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、回折によって初めて暗くなる条件を、ホイヘンスの原理に基づいて考え、光路差から角度\(\theta_1\)を求めます(問1)。
- 次に、この角度\(\theta_1\)と幾何学的関係、近似を用いて、回折によるぼやけ幅を計算します(問2)。
- 回折によるぼやけとスリット幅そのものによるぼやけを足し合わせ、全体のぼやけ幅\(D(d)\)を立式します(問3)。
- (4)では、指示に従って近似計算を実行し、\(D(d)\)の増加量を求めます。これは実質的に\(D(d)\)を\(d\)で微分した形に対応します。
- 最後に、(4)の結果から\(D(d)\)が最小になる条件(増加量=0)を求めるか、(3)の式に相加・相乗平均の関係を適用して最小値を求めます(問5)。
問(1)
思考の道筋とポイント
単スリット回折で初めて暗くなる方向\(\theta_1\)を求めます。これは、スリットを無数の波源の集まりとみなし、スリットの上半分からの光と下半分からの光が、全体として打ち消しあう条件として説明されます。問題文の誘導に従い、スリットの端Aと中央Bからの光の光路差が\(\lambda/2\)になる条件を考えます。
この設問における重要なポイント
- ホイヘンスの原理に基づき、スリット内の各点が同位相の波源となる。
- 初めて暗くなる条件は、スリットの端Aと中央Bからの光の光路差が\(\lambda/2\)となり、スリットの上半分と下半分がペアで打ち消しあうことで説明される。
- 図3から、AとCからの光の光路差は\(d\sin\theta_1\)。AとBからの光路差はその半分で \((d/2)\sin\theta_1\)。
具体的な解説と立式
図3において、スリットの端Aと中央Bから角度\(\theta_1\)の方向へ進む光を考えます。
2つの光の経路差は、図a(模範解答)のように考えると \(\displaystyle\frac{d}{2}\sin\theta_1\) となります。
問題文の誘導「AとBをそれぞれ通る2つの経路の光路差は\(\lambda/2\)である」より、初めて暗くなる条件は、
$$ \frac{d}{2}\sin\theta_1 = \frac{\lambda}{2} $$
使用した物理公式
- 単スリット回折の暗線条件
上の式を整理します。
$$ d\sin\theta_1 = \lambda $$
\(\theta_1\)は非常に小さいので、近似 \(\sin\theta_1 \approx \theta_1\) を用いると、
$$ d\theta_1 \approx \lambda $$
これを\(\theta_1\)について解くと、
$$ \theta_1 \approx \frac{\lambda}{d} $$
スリットを通過した光が、ある方向で完全に打ち消しあって暗くなる最初の角度を求めます。これは、スリットの上半分から来る光と、下半分から来る光が、きれいにペアを組んで打ち消しあうときに起こります。その条件は、スリットの端と中心からの光の進む距離の差が、ちょうど波長の半分になるときです。
初めて暗くなる回折角は \(\theta_1 = \displaystyle\frac{\lambda}{d}\) です。これは単スリット回折における第1暗線の条件としてよく知られた公式であり、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
回折による像のぼやけ幅を求めます。これは、スクリーン上で光が広がる範囲に対応します。図4、図5から、ぼやけ幅は、回折角が \(-\theta_1\) から \(\theta_1\) までの範囲に光が広がることによって生じると考えられます。この広がりを、スクリーンまでの距離\(f\)を用いて長さに換算します。
この設問における重要なポイント
- 回折によるぼやけは、回折角\(\theta_1\)で決まる光の広がりに対応する。
- スクリーン上での広がりの幅は、図b(模範解答)の幾何学的関係から \(2f\tan\theta_1\) となる。
- \(\theta_1\)が微小角であるため、近似 \(\tan\theta_1 \approx \theta_1\) が使える。
具体的な解説と立式
図5の実線で示された回折による像の広がりは、回折角が \(-\theta_1\) から \(\theta_1\) までの範囲に対応します。
スクリーン上での中心からの片側の広がりは、距離\(f\)と角度\(\theta_1\)を用いて \(f\tan\theta_1\) と表せます。
したがって、ぼやけ幅全体(直径に相当)は、
$$ \text{ぼやけ幅} = 2f\tan\theta_1 $$
ここで、\(\theta_1\)は非常に小さいので、\(\tan\theta_1 \approx \theta_1\) と近似できます。
使用した物理公式
- 三角関数の幾何学的関係
- 微小角の近似
$$ \text{ぼやけ幅} \approx 2f\theta_1 $$
ここに、(1)で求めた \(\theta_1 = \lambda/d\) を代入します。
$$ \text{ぼやけ幅} = \frac{2f\lambda}{d} $$
光が回折によってどれくらい広がるか(ぼやけるか)を計算します。光が広がる角度は(1)で求めた\(\theta_1\)です。スクリーンまでの距離が\(f\)なので、スクリーン上での広がり(ぼやけ幅)は、三角関数を使って計算できます。角度が小さいので、簡単な近似式を使って長さに変換します。
回折による像のぼやけ幅は \(\displaystyle\frac{2f\lambda}{d}\) です。この式は、スリット幅\(d\)が小さいほど、回折による広がり(ぼやけ)が大きくなるという、回折の基本的な性質を正しく表しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
全体の像のぼやけ幅\(D(d)\)を立式します。問題文の指示に従い、これは「回折によるぼやけ幅」と「スリット幅そのものによるぼやけ(幾何光学的ぼやけ)」の和で表せると考えます。
この設問における重要なポイント
- 全体のぼやけは2つの要因の和でモデル化する。
- 回折によるぼやけ幅: (2)で求めた \(\displaystyle\frac{2f\lambda}{d}\)。
- スリット幅によるぼやけ幅: スリットそのものの幅\(d\)。
具体的な解説と立式
全体のぼやけ幅\(D(d)\)は、
$$ D(d) = (\text{回折によるぼやけ幅}) + (\text{スリット幅によるぼやけ幅}) $$
とモデル化します。それぞれの項は、
- 回折によるぼやけ幅 = \(\displaystyle\frac{2f\lambda}{d}\)
- スリット幅によるぼやけ幅 = \(d\)
したがって、
$$ D(d) = \frac{2f\lambda}{d} + d $$
使用した物理公式
- (2)の結果
この設問は立式が目的なので、これ以上の計算はありません。
ピンホールの像のぼやけは、2つの原因が合わさったものと考えます。一つは、光が波であるために穴を通り抜けるときに広がってしまう「回折のぼやけ」。もう一つは、穴自体に大きさがあるために生じる「穴の大きさのぼやけ」です。全体のぼやけは、この2つを単純に足し合わせたものとして式で表します。
全体のぼやけ幅は \(D(d) = \displaystyle\frac{2f\lambda}{d} + d\) と表されます。この式は、\(d\)が小さいと第1項が、\(d\)が大きいと第2項が大きくなるというトレードオフの関係を示しており、最適な\(d\)が存在することを示唆しています。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)で求めた関数\(D(d)\)について、スリット幅が\(d\)から\(d+\Delta d\)に微小に変化したときの、ぼやけ幅の増加量 \(D(d+\Delta d) – D(d)\) を計算します。指示された近似式 \((1+x)^{-1} \approx 1-x\) を用いて、\(\Delta d\)の1次の項までを求めます。
この設問における重要なポイント
- \(D(d+\Delta d)\)の第1項 \(\displaystyle\frac{2f\lambda}{d+\Delta d}\) を、近似式が使える形に変形する。
- \(\Delta d\)は\(d\)に比べて非常に小さいので、\(x = \Delta d/d\) が微小量とみなせる。
具体的な解説と立式
まず、\(D(d+\Delta d)\)を計算します。
$$ D(d+\Delta d) = \frac{2f\lambda}{d+\Delta d} + (d+\Delta d) $$
第1項の分母を\(d\)でくくり出します。
$$ \frac{2f\lambda}{d(1+\frac{\Delta d}{d})} = \frac{2f\lambda}{d}\left(1+\frac{\Delta d}{d}\right)^{-1} $$
ここで、\(x = \Delta d/d\) として、近似式 \((1+x)^{-1} \approx 1-x\) を適用します。
増加量 \(\Delta D\) は、
$$ \Delta D = D(d+\Delta d) – D(d) $$
使用した物理公式
- (3)の結果
- 近似式: \((1+x)^{-1} \approx 1-x\)
まず、\(D(d+\Delta d)\)を近似計算します。
$$
\begin{aligned}
D(d+\Delta d) &\approx \frac{2f\lambda}{d}\left(1 – \frac{\Delta d}{d}\right) + (d+\Delta d) \\[2.0ex]&= \frac{2f\lambda}{d} – \frac{2f\lambda}{d^2}\Delta d + d + \Delta d
\end{aligned}
$$
次に、増加量 \(D(d+\Delta d) – D(d)\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta D &= \left( \frac{2f\lambda}{d} – \frac{2f\lambda}{d^2}\Delta d + d + \Delta d \right) – \left( \frac{2f\lambda}{d} + d \right) \\[2.0ex]&= -\frac{2f\lambda}{d^2}\Delta d + \Delta d \\[2.0ex]&= \left(1 – \frac{2f\lambda}{d^2}\right)\Delta d
\end{aligned}
$$
スリット幅\(d\)をほんの少しだけ(\(\Delta d\))変えたときに、全体のぼやけ幅\(D\)がどれだけ変化するかを計算します。変化後のぼやけ幅の式を、指定された近似式を使って簡単な形にし、そこから変化前のぼやけ幅を引くことで、変化量を求めます。
増加量は \(\left(1 – \displaystyle\frac{2f\lambda}{d^2}\right)\Delta d\) となります。この結果は、\(D(d)\)を\(d\)で微分した導関数 \(D'(d)\) に対応しており、関数の増減を調べるための重要な情報となります。
問(5)
思考の道筋とポイント
全体のぼやけ幅\(D(d)\)を最小にする最適なスリット幅\(d\)を求めます。これには2つのアプローチが考えられます。
1. (4)の結果を利用する方法: 関数が最小値をとるとき、その点での増加量(微分係数)は0になります。
2. (3)の式に相加・相乗平均の大小関係を適用する方法。
この設問における重要なポイント
- 関数の最小値問題と捉える。
- アプローチ1: \(D(d)\)の増加量が0になる条件を解く。
- アプローチ2: \(D(d)\)が「\(a+b \ge 2\sqrt{ab}\)」の形をしていることに着目する。
具体的な解説と立式
アプローチ1: (4)の結果を利用
ぼやけ幅\(D(d)\)が最小になるとき、その増加量 \(D(d+\Delta d) – D(d)\) は0になります。
したがって、(4)で求めた結果から、
$$ 1 – \frac{2f\lambda}{d^2} = 0 $$
アプローチ2: 相加・相乗平均の大小関係を利用
(3)で求めたぼやけ幅の式は、
$$ D(d) = \frac{2f\lambda}{d} + d $$
ここで、\(a = \frac{2f\lambda}{d}\), \(b=d\) とおくと、\(a>0, b>0\) なので、相加・相乗平均の大小関係が適用できます。
$$ D(d) = a+b \ge 2\sqrt{ab} $$
等号が成立するとき、\(D(d)\)は最小値をとります。等号成立条件は \(a=b\) です。
$$ \frac{2f\lambda}{d} = d $$
使用した物理公式
- 関数の最小値条件
- 相加・相乗平均の大小関係
どちらのアプローチでも同じ式が得られます。
$$ d^2 = 2f\lambda $$
\(d>0\)なので、
$$ d = \sqrt{2f\lambda} $$
ぼやけ幅を最小にする「ちょうどいい」スリット幅を求めます。スリット幅\(d\)を小さくしすぎると回折でぼやけ、大きくしすぎると穴の大きさでぼやけます。この2つのぼやけが釣り合うときに、全体のぼやけが最小になります。(4)の結果から、ぼやけの変化がゼロになる条件を解くか、数学の「相加・相乗平均」というテクニックを使うことで、最適な\(d\)が計算できます。
ぼやけ幅を最小にする最適なスリット幅は \(d = \sqrt{2f\lambda}\) です。この結果は、回折によるぼやけ \(\frac{2f\lambda}{d}\) と、スリット幅によるぼやけ \(d\) が等しくなるときに、全体のぼやけが最小になることを示しており、物理的に非常に示唆に富んだ妥当な結論です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 単スリット回折による光の広がり:
- 核心: 光を波として捉えたとき、スリットのような狭い隙間を通過すると、光は直進せずに回り込んで広がる現象(回折)が起こります。この問題では、回折によって初めて暗くなる角度\(\theta_1\)が、スリット幅\(d\)と波長\(\lambda\)を用いて \(\theta_1 = \lambda/d\) と表されることが、回折によるぼやけを定量化する出発点です。
- 理解のポイント: この関係式は、スリット幅\(d\)が小さいほど、光はより大きく広がる(\(\theta_1\)が大きくなる)という、回折の基本的な性質を示しています。これが「穴を小さくしすぎると像がぼやける」原因です。
- 幾何光学的なぼやけと波動光学的なぼやけの合成:
- 核心: この問題の最も重要なテーマは、ピンホールカメラの像のぼやけが2つの異なる原因から生じることを理解し、それらを足し合わせて全体のぼやけとしてモデル化することです。
- 理解のポイント:
- 幾何光学的ぼやけ: 光が直進すると考えたときの、ピンホール(スリット)の大きさそのものに起因するぼやけ。その幅はスリット幅\(d\)に等しい。穴が大きいほど、このぼやけは大きくなります。
- 波動光学的ぼやけ: 光の波動性(回折)に起因するぼやけ。その幅は \(\frac{2f\lambda}{d}\) で与えられます。穴が小さいほど、このぼやけは大きくなります。
全体のぼやけ幅 \(D(d) = d + \frac{2f\lambda}{d}\) は、この2つのトレードオフ関係を数式で表現したものです。
- 関数の最小値問題への帰着:
- 核心: 全体のぼやけ幅\(D(d)\)を最小にする最適なスリット幅\(d\)を求める問題は、最終的に「\(d\)の関数\(D(d)\)の最小値を求める」という数学的な問題に帰着します。
- 理解のポイント: 物理現象を数式でモデル化した後、数学的な手法(微分や相加・相乗平均の大小関係)を用いて最適な条件を導き出す、という物理学の典型的な問題解決プロセスを体験できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 分解能の問題: 望遠鏡や顕微鏡で2つの点光源を分離して見分けられる限界(分解能)を問う問題。これも回折による像の広がりが原因で限界が決まります。本問の回折の考え方が直接応用されます。
- トレードオフ関係にある物理量の最適化: 2つの相反する効果があり、その合計(または差)を最適化する問題。例えば、回路の消費電力と処理速度の関係など、物理の様々な分野で見られます。本問のように、各要素を数式でモデル化し、その和の最小値を求めるアプローチが有効です。
- 初見の問題での着眼点:
- 現象を構成する要因を分解する: まず、考察対象の現象(この問題では「像のぼやけ」)が、どのような物理的な要因から成り立っているかを分析します。この問題では「幾何学的な要因」と「波動的な要因」の2つに分解することが第一歩です。
- 各要因を数式でモデル化する: 分解した各要因を、与えられた変数を用いて数式で表現します。この際、適切な物理法則(回折の条件、幾何学的な関係など)や近似を用いる必要があります。
- 全体量を合成し、関数として捉える: 各要因の式を足し合わせるなどして、全体を表す量を一つの変数(この問題では\(d\))の関数として立式します。
- 数学的な手法で最適値を求める: 立式した関数の最小値(または最大値)を、微分して増減表をかく、相加・相乗平均の大小関係を使う、などの数学的な手法で求めます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 回折角とスクリーン上の長さの混同:
- 誤解: 回折角\(\theta_1\)そのものを、ぼやけ幅としてしまう。
- 対策: \(\theta_1\)はあくまで「角度」です。スクリーン上の「長さ」に変換するには、スクリーンまでの距離\(f\)を考慮した幾何学的な関係(\(y = f\tan\theta\))を用いる必要があります。単位(radとm)を意識することが重要です。
- ぼやけ幅の定義の誤解:
- 誤解: (2)で、ぼやけ幅を片側の広がり \(f\tan\theta_1\) だけで計算してしまう(2倍を忘れる)。
- 対策: 図4や図5のグラフの形をよく見ましょう。ぼやけは中心から左右対称に広がっているので、全体の幅を考えるには2倍する必要があります。
- 近似計算の適用ミス:
- 誤解: (4)で近似式 \((1+x)^{-1} \approx 1-x\) を適用する際に、分母の\(d\)をうまくくくり出せず、形を間違える。
- 対策: 近似式は、必ず「1 + (微小量)」の形にしてから適用するのが鉄則です。\(\frac{1}{d+\Delta d}\) は、まず分母を\(d\)でくくり出し、\(\frac{1}{d(1+\Delta d/d)}\) と変形してから、\((1+\Delta d/d)^{-1}\) の部分に近似を適用します。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 2つのぼやけのグラフ化: ぼやけ幅\(D(d)\)を構成する2つの項、\(d\)(幾何光学的ぼやけ)と \(\frac{2f\lambda}{d}\)(波動光学的ぼやけ)を、横軸を\(d\)として別々にグラフに描いてみましょう。\(y=d\)は右上がりの直線、\(y=2f\lambda/d\)は反比例の曲線になります。この2つのグラフを足し合わせたものが全体のぼやけ\(D(d)\)のグラフとなり、下に凸の曲線(最小値を持つ)になることが視覚的に理解できます。
- 回折の打ち消し合いの図解: (1)で初めて暗くなる条件を考える際に、スリットを上半分と下半分に分け、上半分のある点から出る光と、下半分の対応する点(距離\(d/2\)だけ離れた点)から出る光が、光路差\(\lambda/2\)で打ち消しあう様子を図で描くと、条件式の物理的意味がより深く理解できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 回折の暗線条件 \(\frac{d}{2}\sin\theta_1 = \frac{\lambda}{2}\):
- 選定理由: 問題文が「初めて暗くなる」回折現象を、スリットの端Aと中央Bからの光の干渉として考えるよう誘導しているため。
- 適用根拠: ホイヘンスの原理に基づき、スリットの各点から出る素元波を考えます。スリットの上半分からの光の総和と、下半分からの光の総和が、ちょうど逆位相になって打ち消しあう条件が、第1暗線の条件となります。これは、Aからの光とBからの光の光路差が\(\lambda/2\)になる条件と等価です。
- 相加・相乗平均の大小関係 \(a+b \ge 2\sqrt{ab}\):
- 選定理由: (5)で、ぼやけ幅の関数 \(D(d) = d + \frac{2f\lambda}{d}\) が、正の2つの項の和の形をしており、その積が定数(\(d \cdot \frac{2f\lambda}{d} = 2f\lambda\))になるため。これは相加・相乗平均の大小関係が使える典型的なパターンです。
- 適用根拠: 数学的な定理であり、微分計算をせずに関数の最小値を求める強力なツールとなります。等号成立条件(\(a=b\))が最小値を与える条件になります。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 回折角:
- 戦略: スリットの端と中央からの光の光路差が\(\lambda/2\)になるという条件を立式し、近似を用いて\(\theta_1\)を求める。
- フロー: \(\frac{d}{2}\sin\theta_1 = \frac{\lambda}{2}\) \(\rightarrow\) \(d\sin\theta_1 = \lambda\)。\(\sin\theta_1 \approx \theta_1\)より、\(\theta_1 = \frac{\lambda}{d}\)。
- (2) 回折によるぼやけ幅:
- 戦略: 幾何学的な関係から、回折角\(\theta_1\)をスクリーン上の長さに変換する。
- フロー: ぼやけ幅 = \(2f\tan\theta_1\)。\(\tan\theta_1 \approx \theta_1\)より、\(2f\theta_1\)。(1)の結果を代入し、\(\frac{2f\lambda}{d}\)。
- (3) 全体のぼやけ幅:
- 戦略: 「回折によるぼやけ」と「スリット幅によるぼやけ」の和としてモデル化する。
- フロー: \(D(d) = (\text{問2の結果}) + d = \frac{2f\lambda}{d} + d\)。
- (4) ぼやけ幅の増加量:
- 戦略: \(D(d+\Delta d) – D(d)\) を計算し、指示された近似式を用いて\(\Delta d\)の1次まで求める。
- フロー: \(D(d+\Delta d) = \frac{2f\lambda}{d+\Delta d} + d+\Delta d\) を近似展開し、\(D(d)\)を引いて整理する。
- (5) 最適なスリット幅:
- 戦略: (4)の結果(増加量)が0になる条件を解く。または、(3)の式に相加・相乗平均の大小関係を適用する。
- フロー: \(1 – \frac{2f\lambda}{d^2} = 0\) を解く。または、\(d = \frac{2f\lambda}{d}\) を解く。いずれも \(d=\sqrt{2f\lambda}\) となる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 近似の段階を明確に: この問題では複数の近似が登場します。どの段階でどの近似(\(\sin\theta \approx \theta\), \((1+x)^{-1} \approx 1-x\)など)を使っているのかを、計算の各ステップで意識することが重要です。
- 微分との対応を意識する: (4)で求めた増加量は、関数\(D(d)\)の導関数\(D'(d)\)と\(\Delta d\)の積、すなわち \(D'(d)\Delta d\) に対応します。(5)で増加量を0と置くのは、微分係数を0と置いて極値を求める操作と全く同じです。この対応を理解しておくと、検算や見通しを立てるのに役立ちます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) ぼやけ幅 \(\propto 1/d\): 回折によるぼやけが、スリット幅\(d\)に反比例するという結果は、回折の最も基本的な性質です(狭い隙間ほど光は大きく広がる)。
- (5) \(d = \sqrt{2f\lambda}\): 最適なスリット幅が、スクリーンまでの距離\(f\)や波長\(\lambda\)に依存するという結果は物理的に妥当です。例えば、より遠くにスクリーンを置く場合(\(f\)大)や、より波長の長い光を使う場合(\(\lambda\)大)は、より大きな穴が最適になることを示しています。
- 最小値の条件: (5)の等号成立条件 \(d = \frac{2f\lambda}{d}\) は、幾何光学的ぼやけと波動光学的ぼやけの大きさが等しくなることを意味します。2つの相反する効果の和を最小化する場合、両者の大きさが等しくなるときに最適値をとる、というのは物理の最適化問題でよく見られる美しい結果です。
問題100 (茨城大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、静電気の基本的な現象を「箔検電器」という具体的な装置を通して理解するものです。箔検電器の箔が開いたり閉じたりする様子から、電荷の移動や帯電の状態を考察します。
問題は、帯電していない箔検電器に帯電体を近づける基本操作から始まり、接地(アース)、帯電体を遠ざける、あらかじめ帯電させておく、といった一連の操作を通して、静電気の現象を段階的に理解できるよう構成されています。
この問題の核心は、「静電誘導」と「自由電子の移動」という2つのキーワードで、箔検電器の金属板と箔の間の電荷の偏りや、全体の電荷の状態がどう変化するかを説明することです。
- 装置: 箔検電器(金属板と箔からなる導体)、アクリル棒、ナイロン
- 操作1: 負に帯電したアクリル棒を、帯電していない箔検電器に近づける。
- 操作2: 操作1の状態で、金属板に指で触れる(接地する)。
- 操作3: 操作2の状態で指を離し、その後アクリル棒を遠ざける。
- 操作4: あらかじめ正に帯電させた箔検電器に、負に帯電したアクリル棒を近づける。
- (1) 帯電体を導体に近づけたときに電荷の偏りが生じる現象の名称。
- (2) 操作1で箔が開いたときの、箔の電荷の正負。
- (3) (2)の理由説明。
- (4) 操作2での箔の開閉。
- (5) (4)の理由説明。
- (6) 操作3での箔の開閉。
- (7) (6)の理由説明。
- (8) 操作4での箔の開きの変化とその理由説明。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「静電誘導と箔検電器」です。目に見えない電荷の動きを、箔の開閉という現象から論理的に推測する力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 導体と自由電子: 金属などの導体内には、原子核に束縛されずに自由に動き回れる電子(自由電子)が存在します。
- 静電気力: 電荷の間には力が働きます。同じ符号の電荷同士は反発し(斥力)、異なる符号の電荷同士は引き合います(引力)。
- 静電誘導: 導体に帯電体を近づけると、導体内の自由電子が静電気力を受けて移動します。その結果、帯電体に近い側には帯電体と逆符号の電荷が、遠い側には同符号の電荷が現れる現象です。これが箔検電器の動作の基本原理です。
- 接地(アース): 導体を地面に接続すること。地面は非常に巨大な導体とみなせるため、電子を無限に供給したり吸収したりできます。箔検電器に指で触れる操作は、人体を通じて接地することと同じです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各操作において、帯電体(アクリル棒)から箔検電器内の自由電子がどのような力を受けるかを考えます。
- その力によって自由電子が金属板と箔の間をどのように移動し、それぞれの部分が正負どちらに帯電するかを判断します。
- 箔は同じ符号の電荷で帯電すると、互いに反発して開きます。箔の電荷の量が多いほど、反発力が強くなり、開きは大きくなります。箔の電荷がゼロになれば閉じます。
- 接地されている間は、電子は箔検電器と地球との間を自由に移動できると考えます。
問(1)
思考の道筋とポイント
問題文の下線部は「帯電した物体を帯電体といい、それを導体に近づけると、導体内の自由電子は静電気力によって移動する。その結果、導体の帯電体に近い側には帯電体と異符号の電荷が、逆に遠い側には同符号の電荷が現れる。」という現象を指しています。これは静電気に関する基本的な現象の定義そのものです。
この設問における重要なポイント
- 現象の名称を正確に記憶しているか。
具体的な解説と立式
帯電体を導体に近づけた際に、導体内の電荷が偏る現象を「静電誘導」と呼びます。
使用した物理公式
- 物理用語の定義
この設問は用語を答える問題なので、計算はありません。
電気を帯びた物を金属に近づけると、金属の中にある電子が引き寄せられたり、反発して逃げたりして、金属の中でプラスとマイナスの電気が偏ります。この現象の名前が問われています。
この現象の名称は「静電誘導」です。
問(2)
思考の道筋とポイント
操作1「負に帯電したアクリル棒を、帯電していない箔検電器に近づける」状況を考えます。静電誘導によって、箔検電器内の自由電子がどのように移動するかを考え、箔がどちらに帯電するかを判断します。
この設問における重要なポイント
- アクリル棒は負に帯電している。
- 自由電子は負の電荷を持つ。
- 負の電荷同士は反発する。
- 箔検電器全体(金属板+箔)は導体であり、自由電子が自由に移動できる。
具体的な解説と立式
- 負に帯電したアクリル棒を金属板に近づけると、アクリル棒の負電荷と、箔検電器内の自由電子(負電荷)との間に反発力が働きます。
- この反発力により、自由電子はアクリル棒からできるだけ遠い場所、つまり金属板から箔の方向へ移動します。
- その結果、箔には自由電子が過剰に集まり、負に帯電します。
- 箔同士が負に帯電するため、互いに反発し合って開きます。
使用した物理公式
- 静電誘導
思考問題なので、計算はありません。
マイナスの電気を帯びたアクリル棒を金属板に近づけると、金属の中のマイナスの電気を持つ電子は「嫌がって」反発し、アクリル棒から一番遠い場所、つまり下の箔に逃げ込みます。その結果、箔はマイナスの電気を帯びます。
箔の電荷は負です。
問(3)
思考の道筋とポイント
問(2)で考えたプロセスを、理由として簡潔に説明します。「静電誘導」「自由電子」「反発力」といったキーワードを用いて記述します。
この設問における重要なポイント
- 原因(負の帯電体を近づける)と結果(箔が負に帯電する)を論理的に結びつける。
- 自由電子の移動に着目して説明する。
具体的な解説と立式
負に帯電したアクリル棒を金属板に近づけると、静電誘導により、箔検電器内の自由電子がアクリル棒の負電荷からの反発力を受けて、金属板から箔へ移動する。その結果、箔は電子が過剰な状態となり負に帯電するため。
使用した物理公式
- 静電誘導
記述問題なので、計算はありません。
問(2)の「計算方法の平易な説明」と同じ内容を、より物理用語を使って説明します。
理由が論理的に説明できており、妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
操作2「箔が開いた状態(操作1の状態)で、金属板に指で触れる」状況を考えます。指で触れることは、人体を通じて箔検電器を地面に接続する(接地する)ことを意味します。箔に溜まっていた自由電子がどうなるかを考えます。
この設問における重要なポイント
- 指で触れる=接地(アース)。
- 箔には過剰な自由電子が溜まっている(互いに反発しあっている)。
- 接地により、電子はより広い場所(地球)へ逃げることができる。
具体的な解説と立式
- 操作1の状態で、箔は負に帯電しています。これは自由電子が過剰に集まっている状態です。
- この状態で金属板に指で触れると、箔検電器、人体、地面が一体の導体となります。
- 箔に集まっていた自由電子は、互いの反発力により、より広大な導体である地面へと移動していきます。
- 箔から電子が逃げ出すことで、箔の電荷はゼロになり、箔同士の反発力がなくなるため、箔は閉じます。
- 一方、金属板はアクリル棒の負電荷に引きつけられた正電荷が残っています。
使用した物理公式
- 接地(アース)
思考問題なので、計算はありません。
箔に集まって窮屈な思いをしていた電子たちにとって、指が触れることは「地球への逃げ道」ができたことを意味します。電子たちは、お互いの反発を嫌って、一斉に指(人体)を伝って広大な地面へと逃げていきます。その結果、箔の電気は無くなり、反発力が消えて閉じます。
箔は閉じます。
問(5)
思考の道筋とポイント
問(4)で考えたプロセスを、理由として簡潔に説明します。「接地」「自由電子の移動」といったキーワードを用いて記述します。
この設問における重要なポイント
- 指で触れることが接地であり、電子の移動経路となることを明記する。
- 電子が移動する原因(電子同士の反発力)と結果(箔の電荷が0になる)を説明する。
具体的な解説と立式
金属板に指で触れると、箔検電器が人体を通じて接地される。箔に集まっていた過剰な自由電子は、互いに反発しあっているため、より大きな導体である地面へ指を通じて移動する。その結果、箔の電荷が0になり、反発力がなくなって閉じるため。
使用した物理公式
- 接地(アース)
記述問題なので、計算はありません。
問(4)の「計算方法の平易な説明」と同じ内容を、より物理用語を使って説明します。
理由が論理的に説明できており、妥当です。
問(6)
思考の道筋とポイント
操作3「操作2の状態(指で触れたまま)で指を離し、その後アクリル棒を遠ざける」という一連の操作の結果を考えます。各段階で箔検電器全体の電荷がどうなるかを追跡します。
この設問における重要なポイント
- 指を離す瞬間: 箔検電器は地球から絶縁される。このとき、金属板には正電荷が、箔には電荷がない状態。全体として電子が不足し、正に帯電している。
- アクリル棒を遠ざける: 金属板の正電荷を束縛していたアクリル棒の引力がなくなる。
- 箔検電器全体に残った正電荷が、導体内を自由に再配置される。
具体的な解説と立式
- 操作2の後、指を離した瞬間、箔検電器は全体として正に帯電しています(電子が地面に逃げたため)。この正電荷は、アクリル棒の負電荷に引かれて金属板に集まっています。
- この状態でアクリル棒を遠ざけると、金属板の正電荷を縛り付けていた引力がなくなります。
- 箔検電器全体に残っている正電荷(電子が不足した状態)は、箔検電器という導体全体に一様に分布しようとします。
- その結果、箔にも正電荷が分布し、箔同士が正に帯電します。
- 箔同士が反発し合うため、箔は再び開きます。
使用した物理公式
- 静電誘導
- 導体内の電荷分布
思考問題なので、計算はありません。
指を離した時点で、箔検電器は電子が逃げ出してしまった「電子不足」の状態で、地球から切り離されます。この電子不足分(プラスの電気)は、アクリル棒のマイナスに引かれて金属板に集まっています。ここでアクリル棒を遠ざけると、金属板に集まっていたプラスの電気は「自由」になり、箔検電器全体に広がります。その結果、箔もプラスの電気を帯び、反発して開きます。
箔は開きます。
問(7)
思考の道筋とポイント
問(6)で考えたプロセスを、理由として簡潔に説明します。箔検電器全体が正に帯電したことと、その電荷が再配置されることを中心に記述します。
この設問における重要なポイント
- 指を離した時点で箔検電器全体が正に帯電していることを明確にする。
- アクリル棒を遠ざけることで、金属板に束縛されていた正電荷が箔検電器全体に広がることを説明する。
具体的な解説と立式
操作2で指を通じて電子が地面に逃げたため、指を離した時点で箔検電器は全体として正に帯電している。この正電荷は、負に帯電したアクリル棒に引かれて金属板に偏っている。アクリル棒を遠ざけると、この束縛が解かれ、正電荷が箔検電器全体に一様に分布する。その結果、箔も正に帯電し、互いに反発するため開く。
使用した物理公式
- 静電誘導
- 導体内の電荷分布
記述問題なので、計算はありません。
問(6)の「計算方法の平易な説明」と同じ内容を、より物理用語を使って説明します。
理由が論理的に説明できており、妥当です。
問(8)
思考の道筋とポイント
操作4「あらかじめ正に帯電している箔検電器に、負に帯電したアクリル棒を近づける」状況を考えます。箔の開きがどう変化するかを、「自由電子」の移動に着目して説明します。
この設問における重要なポイント
- 初期状態: 箔検電器全体が正に帯電。箔も正に帯電して開いている。これは「自由電子が不足している」状態。
- アクリル棒(負)を近づける: 箔検電器内の自由電子が力を受ける。
- 自由電子の移動: アクリル棒の負電荷に反発し、金属板から箔へ移動する。
- 箔の電荷の変化: 箔に自由電子が流れ込むことで、もともとあった正電荷(電子不足)が中和されていく。
具体的な解説と立式
- 初期状態: 箔検電器は全体が正に帯電しており、箔も正に帯電しているため開いている。箔が正に帯電しているのは、自由電子が不足しているからである。
- アクリル棒を近づける: 負に帯電したアクリル棒を金属板に近づけると、静電誘導により、箔検電器内のわずかに残っている自由電子がアクリル棒からの反発力を受ける。
- 自由電子の移動と箔の変化(前半): 自由電子はアクリル棒から遠い箔の方向へ移動する。箔に自由電子が流れ込むと、もともと不足していた電子が補充される形になり、箔の正の電荷が減少していく。これにより、箔同士の反発力が弱まるため、箔は「一度閉じる」。
- 箔が完全に閉じる: さらにアクリル棒を近づけると、より多くの自由電子が箔へ移動し、やがて箔の電荷はゼロになる。このとき箔は完全に閉じる。
- 自由電子の移動と箔の変化(後半): さらにアクリル棒を近づけると、さらに多くの自由電子が箔へ移動する。今度は箔に電子が過剰な状態となり、箔は負に帯電し始める。
- 再び開く: 箔が負に帯電することで、再び箔同士に反発力が生じ、箔は「再び開く」。アクリル棒を近づけるほど、箔に移動する自由電子の量が増え、箔の負の電荷が大きくなるため、開きは大きくなっていく。
まとめると、箔の開きは「一度閉じてから、再び開く」と変化する。
使用した物理公式
- 静電誘導
記述問題なので、計算はありません。
最初、箔はプラスの電気を帯びて開いています。ここにマイナスのアクリル棒を近づけると、箔検電器の中に残っていた数少ない電子が、反発して箔の方へ逃げてきます。この電子が、箔のプラスの電気を打ち消していくので、箔は一度閉じます。さらにアクリル棒を近づけると、さらに多くの電子が箔に流れ込み、今度は箔がマイナスの電気を帯び始めます。その結果、マイナス同士の反発力で、箔は再び開いていきます。
箔の開きは「一度閉じてから再び開く」と変化する。その理由は、近づいてくる負電荷の影響で、箔検電器内の自由電子が箔へ移動し、初めは箔の正電荷を中和し(閉じる)、さらに移動すると今度は箔を負に帯電させる(再び開く)ためである。物理的プロセスが論理的に説明できている。
理由:箔検電器は正に帯電しているため、初め箔は開いている。負に帯電したアクリル棒を近づけると、静電誘導により箔検電器内の自由電子が反発して箔へ移動する。これにより、初めは箔の正電荷が打ち消されていき、箔は一度閉じる。さらにアクリル棒を近づけると、さらに自由電子が箔へ移動して箔が負に帯電するため、再び開く。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 静電誘導:
- 核心: 導体に帯電体を近づけると、導体内の自由電子が静電気力(引力または斥力)を受けて移動し、電荷の分布に偏りが生じる現象。これが箔検電器の全ての動作原理の基礎となります。
- 理解のポイント:
- 負の帯電体を近づける \(\rightarrow\) 自由電子は反発し、帯電体から遠い側(箔)へ移動 \(\rightarrow\) 箔は負、金属板は正に帯電。
- 正の帯電体を近づける \(\rightarrow\) 自由電子は引かれ、帯電体に近い側(金属板)へ移動 \(\rightarrow\) 金属板は負、箔は正に帯電。
- 自由電子の移動:
- 核心: 静電誘導という現象を引き起こす主役は、導体中を自由に動ける自由電子です。箔検電器の箔が開いたり閉じたりするのは、この自由電子が金属板と箔の間を移動し、箔の電荷量が変わるためです。
- 理解のポイント: 箔の電荷は、その場所に存在する「過剰な自由電子(負電荷)」と「不足した自由電子(正電荷)」の量で決まります。箔の開き具合は、箔の電荷量の絶対値に比例すると考えられます。
- 接地(アース):
- 核心: 導体を人体や地面のような非常に大きな導体に接続すること。これにより、電子は導体と地球の間を自由に移動できるようになります。
- 理解のポイント: 接地された状態では、導体の一部(特に帯電体から遠い部分)は、電子の移動によって容易に電気的に中性になろうとします。操作2で箔が閉じるのは、箔に溜まった電子が地球へ逃げることで、箔が中性になるためです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 導体球の静電誘導: 2つの接触した導体球に帯電体を近づけ、その後に球を分離させる問題。箔検電器の金属板と箔を、2つの導体球と見なせば、考え方は全く同じです。
- コンデンサーの極板間の現象: 帯電した極板に別の導体を近づける問題など。導体内の自由電子の移動という点で共通しています。
- 初見の問題での着眼点:
- 初期状態の電荷分布を確認する: まず、箔検電器が全体として帯電しているか(問8)、中性か(問1)を把握します。
- 近づける帯電体の電荷の正負を確認する: 近づける帯電体が正か負かによって、自由電子が受ける力(引力か斥力)の向きが決まります。
- 自由電子の移動方向を矢印で示す: 図の上に、自由電子が「金属板→箔」へ動くのか、「箔→金属板」へ動くのかを矢印で書き込むと、思考が整理されます。
- 箔の電荷量の変化を追跡する: 自由電子の移動によって、箔の電荷が「正→0→負」のようにどう変化するかを時系列で追います。箔の開きは、この電荷量の絶対値の変化に対応します。
- 電荷の絶対値が増加 \(\rightarrow\) 開きが大きくなる。
- 電荷の絶対値が減少 \(\rightarrow\) 開きが小さくなる(閉じる)。
- 「接地」操作の意味を理解する: 「指で触れる」という操作は、電子の逃げ道(または供給源)ができたことを意味します。接地中は、帯電体に束縛されていない電荷(通常は箔側の電荷)は0になると考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 正孔(陽子)が移動すると考える誤解:
- 誤解: 正の電荷(陽子や正孔)が導体中を移動すると考えてしまう。
- 対策: 金属導体内で移動できるのは、負の電荷を持つ「自由電子」のみです。正の帯電は、あくまで「自由電子が不足した状態」であり、正の電荷そのものが動くわけではないことを徹底しましょう。説明問題では、「自由電子が〜へ移動したため、〜が正に帯電する」のように記述するのが正確です。
- 接地時の電荷の動きの誤解:
- 誤解: (4)で指を触れたときに、金属板に束縛されている正電荷まで中和されると考えてしまう。
- 対策: 接地しても、帯電体に引きつけられている電荷(この場合は金属板の正電荷)は、その場に「束縛」されたままです。移動するのは、帯電体から反発力を受けている電荷(箔の負電荷)や、束縛されていない自由な電子です。
- 帯電済みの検電器の挙動の誤解:
- 誤解: (8)で、正に帯電している箔検電器に負の帯電体を近づけると、さらに正の電荷が反発して箔の開きが大きくなると考えてしまう。
- 対策: 動くのは自由電子である、という基本に立ち返りましょう。負の帯電体は、箔検電器内の自由電子を反発させ、箔の方向へ移動させます。この電子が、もともと箔にあった正電荷(電子不足)を打ち消すため、箔は一度閉じます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電荷のプラスマイナスを書き込む: 各操作の段階で、金属板と箔に現れる電荷の偏りを「+」「-」の記号で図に書き込みましょう。電荷の量が多い場所は記号の数を増やすなど工夫すると、箔の開き具合が視覚的に理解できます。
- 自由電子をキャラクター化する: 自由電子を小さな粒としてイメージし、帯電体から「逃げる」「引き寄せられる」様子をアニメーションのように想像すると、複雑な操作でも動きを追いやすくなります。
- 電位の概念で捉える(発展): (4)の接地では、箔は負に帯電しているため電位が負になっています。地面の電位は0なので、電子は電位の低い箔から電位の高い地面へ移動する、と電位の概念で説明することもできます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
この問題は、定量的な公式よりも定性的な物理法則の理解を問うています。
- 静電誘導:
- 選定理由: 帯電体を導体に近づけるという、問題の根幹をなす状況設定だから。
- 適用根拠: 導体内に移動可能な自由電子が存在し、電荷間に静電気力が働くという物理的な大前提に基づきます。
- クーロンの法則(斥力・引力):
- 選定理由: 自由電子が移動する「原因」と、箔が開く「原因」を説明するため。
- 適用根拠: 電荷を持つ粒子間には必ず力が働くという基本法則。同符号なら斥力、異符号なら引力というルールが、自由電子の移動方向や箔の開閉を決定します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
この問題は記述が中心ですが、思考のフローを整理することは重要です。
- (1) 用語:
- 戦略: 現象の定義を答える。
- フロー: 静電誘導。
- (2),(3) 操作1(負の帯電体を近づける):
- 戦略: ①自由電子が受ける力を判断 → ②電子の移動先を判断 → ③箔の帯電状態を判断。
- フロー: ①負の棒から斥力 → ②電子は箔へ移動 → ③箔は電子過剰で負に帯電し、開く。
- (4),(5) 操作2(接地):
- 戦略: ①接地の意味を理解 → ②箔の電子の挙動を判断 → ③箔の状態を判断。
- フロー: ①地球への逃げ道ができる → ②箔の過剰な電子は反発しあい地球へ逃げる → ③箔は電荷0になり、閉じる。
- (6),(7) 操作3(絶縁→遠ざける):
- 戦略: ①指を離した瞬間の全体の電荷を確定 → ②帯電体を遠ざけた後の電荷の再配置を考える。
- フロー: ①全体が正に帯電(電子不足)した状態で絶縁 → ②金属板に束縛されていた正電荷が全体に広がる → ③箔も正に帯電し、開く。
- (8) 操作4(帯電済みの検電器):
- 戦略: ①初期状態(箔は正)を把握 → ②負の棒を近づけたときの自由電子の移動を考える → ③箔の電荷量の変化を段階的に追う。
- フロー: ①箔は電子不足 → ②負の棒から反発した電子が箔へ移動 → ③箔の正電荷が中和(閉じる)→ さらに電子が来て負に帯電(再び開く)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
この問題は計算問題ではありませんが、「論理のミス」をなくすための意識が重要です。
- 主語を明確にする: 「電荷が移動する」ではなく、「自由電子が移動する」と明確に記述する。
- 原因と結果を繋ぐ: 「〜だから、〜となる」という因果関係を常に意識して説明を組み立てる。「箔が開く。なぜなら反発力が働くから。なぜなら箔が同符号に帯電するから。なぜなら…」と遡って考えることで、論理の穴を防げます。
- 図を活用する: 各ステップでの電荷の分布図を自分で描くことが、最も確実な思考の補助ツールになります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 一連の操作の整合性を確認する:
- 操作1〜3は、「接触させずに導体を帯電させる」という一連のプロセス(接地誘導)になっています。操作3の結果、箔検電器は近づけたアクリル棒(負)とは逆の正の電荷を帯びました。これは接地誘導の正しい結果であり、途中の考察が妥当であったことを裏付けています。
- 極端な場合を考える:
- (8)で、もし近づけるアクリル棒の負電荷が非常に弱かったらどうなるでしょう? 箔に移動する自由電子の量が少なく、箔の正電荷を完全に打ち消すまでには至らないかもしれません。その場合、箔は「閉じる途中までで止まる」と考えられます。逆に非常に強ければ、箔は一度閉じた後、大きく開くでしょう。このように、条件を変化させた場合を想像することで、現象の理解が深まります。
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