「重要問題集」徹底解説(151〜155問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題151 (近畿大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、X線の発生原理と、X線回折(ブラッグ反射)という2つの大きなテーマを扱っています。前半では、X線管内で電子を加速して金属に衝突させることで発生する連続X線と特性X線のスペクトルについて、後半では、そのX線を結晶に照射したときに起こる回折現象について考察します。

与えられた条件
  • 物理定数:プランク定数 \(h=6.6\times10^{-34}\) J・s, 電気素量 \(e=1.6\times10^{-19}\) C, 光の速さ \(c=3.0\times10^8\) m/s。
  • X線の発生:陰極で発生した電子を、加速電圧 \(V\) で加速し、陽極の金属板に衝突させる。
  • X線スペクトル:連続X線Aと、特性X線B, Cからなる(図1)。
  • X線回折:X線C(波長\(\lambda\))を結晶面(間隔\(d\))に入射角\(\theta\)で照射する(図2)。
問われていること
  • ア:X線の最短波長\(\lambda_0\)を求める式。
  • イ:加速電圧\(1.2\times10^5\) V のときの最短波長\(\lambda_0\)の数値。
  • ウ:加速電圧を増したときのX線スペクトルの変化のグラフ。
  • エ:X線回折で、隣り合う結晶面で反射したX線の強め合いの条件式。
  • オ:\(\lambda=7.0\times10^{-11}\) m, 4回目の強い反射が\(\theta=30^\circ\)で観測されたときの、結晶面の間隔\(d\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「X線の発生と回折」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 逆光電効果(制動放射): 高速の電子がターゲットに衝突して急減速する際に、その運動エネルギーが電磁波(X線)のエネルギーに変換される現象。これが連続X線の発生原理です。
  2. エネルギー保存則: 電子の運動エネルギーが、そっくりそのまま1個のX線光子のエネルギーに変換されるとき、そのX線の波長が最も短くなる(エネルギーが最大になる)。
  3. 特性X線: 加速された電子が原子の内殻電子を弾き飛ばし、その空席に外側の電子が遷移する際に放出される、原子に固有のエネルギー(波長)を持つX線。
  4. ブラッグの反射条件: 結晶格子によるX線の回折を、結晶面での「反射」とみなし、隣り合う面からの反射波が強め合う条件を考える。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア)(イ)では、電子が加速される過程でのエネルギーと、それがX線光子のエネルギーに変換される過程でのエネルギー保存則を考え、最短波長を求めます。
  2. (ウ)では、加速電圧の増加が連続X線と特性X線にそれぞれどのような影響を与えるかを考え、スペクトルの変化を描きます。
  3. (エ)(オ)では、図から経路差を求め、波の干渉における強め合いの条件式(ブラッグの条件)を立て、与えられた数値を代入して計算します。

問ア

思考の道筋とポイント
X線の最短波長\(\lambda_0\)は、電子が持つ運動エネルギーのすべてが、1個のX線光子のエネルギーに変換されるという、最も効率の良いエネルギー変換が起こった場合に対応します。
1. まず、電子が加速電圧\(V\)によって得る運動エネルギーを求めます。
2. 次に、波長\(\lambda_0\)のX線光子1個が持つエネルギーを求めます。
3. エネルギー保存則から、この2つのエネルギーが等しいとおき、\(\lambda_0\)について解きます。
この設問における重要なポイント

  • 電子が得る運動エネルギー: \(K = eV\)。
  • 光子1個のエネルギー: \(E = h\nu = hc/\lambda\)。
  • エネルギー保存: \(K = E\)。

具体的な解説と立式
陰極で発生した電子(電荷\(e\))は、加速電圧\(V\)によって加速され、陽極に達するまでに運動エネルギー\(K\)を得ます。静電気力がした仕事が運動エネルギーになるので、
$$ K = eV $$
この電子の運動エネルギーが、衝突によって完全に1個のX線光子のエネルギー\(E_0\)に変換されたとします。このとき、発生するX線のエネルギーは最大となり、波長は最短\(\lambda_0\)となります。波長\(\lambda_0\)の光子のエネルギー\(E_0\)は、
$$ E_0 = \frac{hc}{\lambda_0} $$
エネルギー保存則より、\(K=E_0\)なので、
$$ eV = \frac{hc}{\lambda_0} $$

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(K=qV\)
  • 光子のエネルギー: \(E=hc/\lambda\)
計算過程

上記の関係式を\(\lambda_0\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 = \frac{hc}{eV}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電子を電圧Vで加速すると、電子は\(eV\)という運動エネルギーを持ちます。この電子が金属にぶつかって急ブレーキをかけられると、その運動エネルギーが光(X線)に変わります。最もエネルギーの高いX線(=最も波長の短いX線)は、電子の運動エネルギーが100%光のエネルギーに変換されたときに発生します。この「電子の運動エネルギー = X線光子のエネルギー」というエネルギー保存の式を立てて、波長\(\lambda_0\)を求めます。

結論と吟味

最短波長\(\lambda_0\)は \(\frac{hc}{eV}\) と表せます。加速電圧\(V\)が大きいほど、電子のエネルギーが大きくなるため、発生するX線の最短波長は短くなる、という関係を示しており、物理的に妥当です。

解答 (ア) \(\displaystyle\frac{hc}{eV}\)

問イ

思考の道筋とポイント
(ア)で導出した最短波長の公式 \(\lambda_0 = \frac{hc}{eV}\) に、与えられた物理定数と加速電圧\(V=1.2\times10^5\) V の値を代入して、具体的な数値を計算します。
この設問における重要なポイント

  • (ア)の公式の正しい適用。
  • 指数計算を含む数値計算を正確に行う。

具体的な解説と立式
(ア)で求めた式に、\(h=6.6\times10^{-34}\) J・s, \(c=3.0\times10^8\) m/s, \(e=1.6\times10^{-19}\) C, \(V=1.2\times10^5\) V を代入します。
$$ \lambda_0 = \frac{hc}{eV} $$

使用した物理公式

  • (ア)で導出した式
計算過程

$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &= \frac{(6.6\times10^{-34}) \times (3.0\times10^8)}{(1.6\times10^{-19}) \times (1.2\times10^5)} \\[2.0ex]&= \frac{19.8 \times 10^{-26}}{1.92 \times 10^{-14}} \\[2.0ex]&\approx 10.3 \times 10^{-12} \\[2.0ex]&= 1.03 \times 10^{-11} \, \text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(1.0 \times 10^{-11}\) m となります。

結論と吟味

最短波長は約 \(1.0 \times 10^{-11}\) m です。

解答 (イ) \(1.0 \times 10^{-11}\)

問ウ

思考の道筋とポイント
加速電圧\(V\)を増したときの、X線スペクトルの変化を考えます。連続X線と特性X線は発生のメカニズムが異なるため、電圧増加の影響も異なります。

  • 連続X線: 電子の制動放射によって発生する。電圧を増すと電子の最大運動エネルギーが増えるため、発生するX線のエネルギーも全体的に増加します。その結果、最短波長\(\lambda_0\)はより短波長側にずれ、全体の強度も増加します。
  • 特性X線: 原子内の電子の準位間の遷移によって発生する。そのエネルギー(波長)は原子の種類(陽極の物質)に固有であり、加速電圧には依存しません。ただし、内殻電子を弾き飛ばすためのエネルギーを加速電子が持っている必要があるので、ある閾値以上の電圧でないと発生しません。電圧を増しても、特性X線のピークの波長の位置は変わりませんが、強度は増加します。

この設問における重要なポイント

  • 最短波長\(\lambda_0\)は電圧\(V\)に反比例して短くなる。
  • 特性X線の波長は電圧\(V\)に依存しない。
  • 全体のX線の強度は増加する。

具体的な解説と立式
元のスペクトル(点線)と比較して、変化後のスペクトル(実線)は以下の特徴を持ちます。

  1. 最短波長\(\lambda_0\)が、より小さい値(左側)に移動する。
  2. 特性X線のピーク(B, C)の波長の位置は変わらない。
  3. 連続X線、特性X線ともに、全体の強度は増加する(グラフの山が全体的に高くなる)。
結論と吟味

これらの特徴を反映したグラフを描きます。具体的には、点線のグラフに対して、実線のグラフは左端がより左に寄り、全体的に背が高くなったような形になりますが、BとCのピークのx座標は変わりません。

解答 (ウ) 最短波長が短波長側にずれ、全体の強度が増加するが、特性X線の波長の位置は変化しないグラフ。

問エ

思考の道筋とポイント
X線回折におけるブラッグの条件を導出する問題です。図2を参照し、隣り合う結晶面で反射した2つのX線の経路差を、結晶面の間隔\(d\)と入射角\(\theta\)を用いて幾何学的に求めます。これらの波が強め合う条件は、経路差が波長の整数倍になることです。
この設問における重要なポイント

  • 図から経路差を正しく読み取る。
  • 波の干渉における強め合いの条件:経路差 = \(n\lambda\) (\(n\)は整数)。

具体的な解説と立式
図2において、隣り合う結晶面で反射する2つの光線の経路差を考えます。一方の光線が結晶の表面で反射し、もう一方が深さ\(d\)の面で反射します。図から、2つの光線の経路差 \(\Delta L\) は、\(2d\sin\theta\) となることがわかります。
この経路差が、X線の波長\(\lambda\)の整数倍になるとき、2つの波は同位相で重なり合い、強く反射されます。これがブラッグの反射条件です。
$$ 2d\sin\theta = n\lambda \quad (n=1, 2, 3, \dots) $$

使用した物理公式

  • 波の干渉の強め合いの条件
計算過程

立式がそのまま答えとなります。空欄エに当てはまるのは \(2d\sin\theta\) です。

結論と吟味

強め合いの条件式は \(2d\sin\theta = n\lambda\) です。これはブラッグの条件として知られる重要な公式です。

解答 (エ) \(2d\sin\theta\)

問オ

思考の道筋とポイント
(エ)で導出したブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を用いて、結晶面の間隔\(d\)を計算します。問題文から、4回目の強い反射であるため \(n=4\)、そのときの角度が \(\theta=30^\circ\)、X線の波長が \(\lambda=7.0\times10^{-11}\) m であることが与えられています。
この設問における重要なポイント

  • ブラッグの条件の適用。
  • 「4回目」が\(n=4\)に対応することを理解する。

具体的な解説と立式
ブラッグの条件式に、与えられた値を代入します。
$$ 2d\sin(30^\circ) = 4 \times (7.0\times10^{-11}) $$

使用した物理公式

  • ブラッグの条件: \(2d\sin\theta = n\lambda\)
計算過程

この式を\(d\)について解きます。\(\sin(30^\circ) = 1/2\) なので、
$$
\begin{aligned}
2d \times \frac{1}{2} &= 4 \times 7.0\times10^{-11} \\[2.0ex]d &= 28 \times 10^{-11} \\[2.0ex]&= 2.8 \times 10^{-10} \, \text{m}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

X線が結晶によって特定の角度で強く反射されるのは、結晶内部の規則正しい原子の層からの反射波が、うまく重なり合って強め合うからです。その条件式がブラッグの条件です。問題で与えられた「4回目」「角度30°」「波長」という3つの情報をこの条件式に代入すれば、未知数である結晶面の「間隔d」を計算できます。

結論と吟味

結晶面の間隔は \(d = 2.8 \times 10^{-10}\) m です。原子の大きさや原子間距離のオーダーとして妥当な値です。

解答 (オ) \(2.8 \times 10^{-10}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • エネルギー保存則(逆光電効果):
    • 核心: 高速電子が陽極に衝突してX線を発生させる際、電子の運動エネルギー \(eV\) がX線光子1個のエネルギー \(h\nu\) に変換されるというエネルギー保存の関係です。特に、電子の運動エネルギーがすべて1個の光子のエネルギーになるとき、その光子のエネルギーは最大(波長は最短)になります。
      $$ eV = h\nu_{\text{最大}} = \frac{hc}{\lambda_0} $$
    • 理解のポイント: (ア)と(イ)はこの法則を直接的に応用する問題です。光電効果(光子→電子)とは逆のエネルギー変換プロセスであるため、「逆光電効果」とも呼ばれます。
  • X線スペクトルの二重構造:
    • 核心: X線スペクトルは、滑らかな曲線を描く「連続X線」と、鋭いピークを持つ「特性X線(固有X線)」の2種類が重なってできています。
      • 連続X線: 電子の制動(急減速)によって発生。最短波長は加速電圧\(V\)に依存する (\(\lambda_0 \propto 1/V\))。
      • 特性X線: 原子内の電子の準位遷移によって発生。波長は陽極の物質に固有で、加速電圧\(V\)には依存しない。
    • 理解のポイント: (ウ)で加速電圧を上げたときのスペクトルの変化を考えるには、この2つのX線の発生メカニズムの違いを理解している必要があります。
  • ブラッグの反射条件(波の干渉):
    • 核心: 結晶格子によるX線の回折を、結晶面からの「鏡面反射」とみなし、隣り合う結晶面で反射した波が強め合う条件を考えたものです。経路差が波長の整数倍になるという、波の干渉の基本原理に基づいています。
      $$ 2d\sin\theta = n\lambda $$
    • 理解のポイント: (エ)と(オ)はこの法則を扱う問題です。幾何学的に経路差を求め、干渉の強め合いの条件を適用するという、光の干渉(ヤングの実験や回折格子)と同じ思考プロセスを用います。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 光電効果: 光子→電子という、本問の逆プロセスの問題。アインシュタインの光電効果の式 \(h\nu = W + eV_0\) と本問の \(eV = h\nu_{\text{最大}}\) を対比させると、エネルギー変換の理解が深まります。
    • 電子線回折(ド・ブロイ波): 電子も波としての性質を持つため、結晶に電子線を照射しても回折が起こります。この場合、電子の波長(ド・ブロイ波長)\(\lambda = h/p = h/(mv)\) をブラッグの条件式に適用します。
    • 回折格子: 多数のスリットによる光の干渉。経路差を考えて強め合いの条件を立てる点で、ブラッグの条件と考え方が共通しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象の特定: 問題が「X線の発生」について問うているのか、「X線の回折(物質との相互作用)」について問うているのかをまず見極めます。
    2. エネルギー変換に着目する: 「X線の発生」では、電子の運動エネルギーが光子のエネルギーに変換されます。このエネルギーの流れを追うことが立式の基本です。
    3. 波の干渉に着目する: 「X線の回折」では、複数の波の重ね合わせを考えます。幾何学的な経路差を求め、強め合い・弱め合いの条件を適用することが解析の中心となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 連続X線と特性X線の混同:
    • 誤解: (ウ)で、加速電圧を上げると特性X線の波長も変化すると考えてしまう。
    • 対策: 「連続X線はブレーキ、特性X線は原子の指紋」とイメージで覚えましょう。ブレーキのかけ方(=電子のエネルギー)が変われば連続X線の出方は変わりますが、原子の指紋(=エネルギー準位の差)は原子固有なので変わりません。
  • ブラッグの条件の角度\(\theta\)の定義:
    • 誤解: \(\theta\)を入射角や反射角(法線とのなす角)と勘違いする。
    • 対策: ブラッグの条件で使われる角度\(\theta\)は、入射X線と「結晶面」とのなす角(すれすれの角、glancing angle)です。これは光学で通常使う入射角とは定義が異なるため、特に注意が必要です。必ず図で確認する癖をつけましょう。
  • \(n\)の扱いの間違い:
    • 誤解: (オ)で、「4回目に強い反射」を\(\theta=4 \times 30^\circ\)のように角度の倍数と勘違いしたり、\(n\)の値を間違えたりする。
    • 対策: ブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) において、\(n\)は「\(n\)次の反射」と呼ばれる整数です。「\(n\)回目」という表現は、\(\theta\)を0から大きくしていったときに強め合いが観測される順番を指しており、そのまま\(n\)の値に対応します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • X線スペクトル図の解釈: (ウ)でスペクトルの変化を考える際、図1のグラフの各部分が何を意味するかを理解することが重要です。
      • 横軸の左端(\(\lambda_0\)): 電子の全エネルギーが変換された、最もエネルギーの高いX線。
      • 曲線部分(A): 電子がエネルギーの一部だけを失って発生する、様々なエネルギーのX線。
      • 鋭いピーク(B, C): 原子に固有のエネルギー準位の差から生まれる、特定のエネルギーのX線。
    • X線回折の経路差の図示: (エ)でブラッグの条件を導く際、問題の図2に補助線を引いて直角三角形を作り、経路差が \(2d\sin\theta\) となることを幾何学的に確認する作業は非常に重要です。これにより、公式を丸暗記するのではなく、その場で導出する力が養われます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 角度の明記: 回折の図では、どこが\(\theta\)なのかを明確に描き込みます。直角三角形のどの角が\(\theta\)になるのかを、錯角や同位角の関係から正確に把握することが求められます。
    • 波面の図示: 隣り合う光線の経路差を考えるとき、同位相の点を結んだ「波面」を垂線として描くと、経路差の部分が視覚的に分かりやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(eV = hc/\lambda_0\) (問ア):
    • 選定理由: 電子の運動エネルギーと、それが変換された光子のエネルギーの関係を表すため。特に「最短波長」というキーワードから、エネルギーが最大となる極限状態を考える必要がある。
    • 適用根拠: エネルギー保存則です。加速で得た電子の運動エネルギー\(eV\)が、衝突によって100%光子のエネルギー\(hc/\lambda_0\)に変換された、という物理モデルに基づきます。
  • \(2d\sin\theta = n\lambda\) (問エ):
    • 選定理由: 結晶によるX線の回折で、特定の方向に強い反射が見られる条件を記述するため。
    • 適用根拠: 波の干渉の原理に基づきます。隣接する結晶面からの反射波が、経路差が波長の整数倍になることで同位相で重なり、干渉によって強め合うという物理モデルを数式化したものです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) X線の発生:
    • 戦略: 電子のエネルギーが光子のエネルギーに変換される過程を、エネルギー保存則で捉える。
    • フロー: ①(ア)電子の運動エネルギー\(eV\)と光子のエネルギー\(hc/\lambda\)を等しいとおき、最短波長\(\lambda_0\)の式を導く。②(イ)具体的な数値を代入して計算。③(ウ)加速電圧Vの増加が、\(\lambda_0\)と特性X線の波長、全体の強度にどう影響するかを考え、グラフを描く。
  2. (2) X線の回折:
    • 戦略: 幾何学的に経路差を求め、波の干渉条件を適用する。
    • フロー: ①(エ)図から経路差が\(2d\sin\theta\)となることを導き、強め合いの条件式 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を立てる。②(オ)与えられた数値(\(n=4, \theta=30^\circ, \lambda\))を条件式に代入し、未知数\(d\)を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位と指数の計算: (イ)や(オ)では、\(10\)のべき乗を含む計算が中心となります。プランク定数(\(\sim 10^{-34}\))、電気素量(\(\sim 10^{-19}\))、光速(\(\sim 10^8\))など、桁数が大きく異なる定数を扱うため、指数計算のミスに特に注意が必要です。計算の最初に指数の部分だけをまとめてしまうと、間違いを減らせます。
  • 三角関数の値: (オ)で\(\sin 30^\circ = 1/2\)という基本的な値を使います。\(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\)などの三角関数の値は、瞬時に出てくるように習熟しておきましょう。
  • 問題文の読み取り: (オ)の「4回目に強い反射」を正しく\(n=4\)と解釈することが重要です。問題文の言葉と数式のパラメータを正確に対応させる練習をしましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (イ) 最短波長: 計算結果が \(1.0 \times 10^{-11}\) m となりました。これはオングストローム(\(1\text{Å} = 10^{-10}\) m)よりも一桁小さい、ガンマ線に近い領域の波長です。高電圧で加速した電子から発生するX線(硬X線)としては、妥当なオーダーです。
    • (オ) 結晶面の間隔: 計算結果は \(2.8 \times 10^{-10}\) m、すなわち2.8Åです。これは、一般的な金属結晶の原子間距離や格子定数として非常に現実的な値です。もし計算結果が\(10^{-5}\)mや\(10^{-15}\)mのような極端な値になった場合は、計算ミスを疑うべきです。
  • 異なる現象との関連付け:
    • X線の波長は原子の大きさのオーダーであるため、原子が規則正しく並んだ結晶は、X線にとって理想的な「回折格子」として機能します。可視光にとっての回折格子と、X線にとっての結晶は、波長と格子の間隔のスケールは違えど、同じ物理現象(回折・干渉)を引き起こすという点で共通しています。このようなアナロジーを考えることで、物理の理解がより深まります。

問題152 (大阪府大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、光の粒子性を示す代表的な現象である「コンプトン効果」を扱っています。光子と電子の衝突を、粒子同士の衝突とみなし、エネルギー保存則と運動量保存則を適用して解析します。この現象は、光が波であると考えると説明できないため、光量子仮説の強力な証拠となりました。

与えられた条件
  • 光子:入射光子の波長 \(\lambda_0\)、散乱光子の波長 \(\lambda_1\)。
  • 電子:質量 \(m\)、衝突前は静止。衝突後の速さ \(v\)。
  • 散乱角:光子は\(\theta\)、電子は\(\phi\)。
  • 物理定数:プランク定数\(h\)、光の速さ\(c\)。
  • 近似式:\(\frac{\lambda_1+\lambda_0}{\lambda_0\lambda_1} – \frac{2}{\lambda_0\lambda_1}(\frac{\Delta\lambda}{2})^2 \approx \frac{2}{\lambda_0\lambda_1}\)
問われていること
  • (1) 波長\(\lambda\)の光子のエネルギー\(E\)と運動量\(P\)。
  • (2) 衝突前後でのエネルギー保存則の式。
  • (3) 衝突前後での運動量保存則の式(進行方向と垂直方向)。
  • (4) 波長の変化量 \(\Delta\lambda = \lambda_1 – \lambda_0\) を求める。
  • (5) コンプトン効果がX線で顕著に現れ、可視光では現れにくい理由。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「コンプトン効果と光の粒子性」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光子のエネルギーと運動量: 光子は、エネルギー \(E=h\nu=hc/\lambda\) と、運動量 \(p=h/\lambda\) を持つ粒子として振る舞う。
  2. エネルギー保存則: 衝突の前後で、系全体のエネルギーの総和は変わらない。
  3. 運動量保存則: 衝突の前後で、系全体の運動量のベクトル和は変わらない。運動量はベクトル量なので、成分に分けて考える必要がある。
  4. 相対論的エネルギー(参考): 厳密には、電子の運動エネルギーは相対論的な形式 \(K = \sqrt{(mc^2)^2 + (pc)^2} – mc^2\) を用いるが、高校物理では非相対論的な \(\frac{1}{2}mv^2\) で扱うか、あるいはエネルギーと運動量の関係式を直接用いて解析する。この問題では、エネルギー保存則と運動量保存則から電子の運動を消去する形で解析が進む。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、光子のエネルギーと運動量の基本公式を記述します。
  2. (2)(3)では、光子と電子の衝突を2つの粒子の衝突とみなし、エネルギー保存則と運動量保存則(ベクトルなので2つの成分に分解)を立式します。
  3. (4)では、(2)と(3)で立てた3つの式を連立させ、観測が難しい電子の物理量(速さ\(v\)、散乱角\(\phi\))を消去し、観測可能な光子の波長変化\(\Delta\lambda\)を求めます。
  4. (5)では、(4)で得られた結果を用いて、波長変化の相対的な大きさ \(\Delta\lambda/\lambda_0\) が、入射光の波長\(\lambda_0\)によってどう変わるかを考察します。

問(1)

思考の道筋とポイント
光量子仮説における、光子1個のエネルギーと運動量の定義式を答える問題です。
この設問における重要なポイント

  • 光子のエネルギー: \(E=h\nu=hc/\lambda\)
  • 光子の運動量: \(p=h/\lambda\)

具体的な解説と立式
波長\(\lambda\)の光子の振動数を\(\nu\)とすると、\(c=\lambda\nu\)の関係があります。
光子1個のエネルギー\(E\)は、
$$ E = h\nu = \frac{hc}{\lambda} $$
光子1個の運動量の大きさ\(P\)は、
$$ P = \frac{h}{\lambda} $$

使用した物理公式

  • 光子のエネルギーと運動量の公式
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

結論と吟味

エネルギーは \(E=\frac{hc}{\lambda}\)、運動量は \(P=\frac{h}{\lambda}\) です。

解答 (1) エネルギー: \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda}\), 運動量: \(\displaystyle\frac{h}{\lambda}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
衝突前後でのエネルギー保存則を立式します。衝突前のエネルギーは入射光子と静止電子のエネルギーの和、衝突後のエネルギーは散乱光子と運動する電子のエネルギーの和です。
この設問における重要なポイント

  • 衝突前のエネルギー:入射光子のエネルギー \(E_0\) + 静止電子の静止エネルギー \(mc^2\)。
  • 衝突後のエネルギー:散乱光子のエネルギー \(E_1\) + 運動する電子のエネルギー(静止エネルギーと運動エネルギーの和)。
  • 高校物理の範囲では、電子の運動エネルギーを \(\frac{1}{2}mv^2\) として扱うことが多い。

具体的な解説と立式

  • 衝突前の系の全エネルギー:入射光子のエネルギー \(\frac{hc}{\lambda_0}\) と静止している電子のエネルギー。電子の運動エネルギーは0です。
  • 衝突後の系の全エネルギー:散乱光子のエネルギー \(\frac{hc}{\lambda_1}\) と、速さ\(v\)ではね飛ばされた電子の運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) の和。

エネルギー保存則より、衝突前の光子のエネルギーが、衝突後の光子のエネルギーと電子の運動エネルギーに分配されると考え、以下の式を立てます。
$$ \frac{hc}{\lambda_0} = \frac{hc}{\lambda_1} + \frac{1}{2}mv^2 $$

使用した物理公式

  • エネルギー保存則
  • 光子のエネルギー、電子の運動エネルギー
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

結論と吟味

エネルギー保存の式は \(\frac{hc}{\lambda_0} = \frac{hc}{\lambda_1} + \frac{1}{2}mv^2\) です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_0} = \frac{hc}{\lambda_1} + \frac{1}{2}mv^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
衝突前後での運動量保存則を立式します。運動量はベクトル量なので、入射光子の進行方向(x軸)と、それに垂直な方向(y軸)の2つの成分に分けて保存則を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則はベクトルで考える。
  • 各粒子の運動量をx成分とy成分に分解する。

具体的な解説と立式
入射光子の進行方向をx軸、それに垂直な方向をy軸とします。

  • 衝突前の運動量
    • x成分: 入射光子の運動量 \(p_0 = \frac{h}{\lambda_0}\)
    • y成分: 0
  • 衝突後の運動量
    • 散乱光子の運動量: 大きさ \(p_1 = \frac{h}{\lambda_1}\)。x成分は \(p_1 \cos\theta\)、y成分は \(p_1 \sin\theta\)。
    • 電子の運動量: 大きさ \(mv\)。x成分は \(mv \cos\phi\)、y成分は \(-mv \sin\phi\)。

x軸方向(進行方向)の運動量保存則:
$$ \frac{h}{\lambda_0} = \frac{h}{\lambda_1}\cos\theta + mv\cos\phi $$
y軸方向(垂直方向)の運動量保存則:
$$ 0 = \frac{h}{\lambda_1}\sin\theta – mv\sin\phi $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • 光子の運動量
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

結論と吟味

進行方向の運動量保存則は \(\frac{h}{\lambda_0} = \frac{h}{\lambda_1}\cos\theta + mv\cos\phi\)、垂直方向は \(0 = \frac{h}{\lambda_1}\sin\theta – mv\sin\phi\) です。

解答 (3) 進行方向: \(\displaystyle\frac{h}{\lambda_0} = \frac{h}{\lambda_1}\cos\theta + mv\cos\phi\), 垂直方向: \(0 = \displaystyle\frac{h}{\lambda_1}\sin\theta – mv\sin\phi\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(2)と(3)で立てた3つの保存則の式から、電子の物理量である \(v\) と \(\phi\) を消去して、光子の波長の変化 \(\Delta\lambda = \lambda_1 – \lambda_0\) を求める、複雑な計算問題です。
1. まず、運動量保存の2つの式から、散乱角\(\phi\)を消去します。
2. 次に、得られた式とエネルギー保存の式を連立させ、電子の速さ\(v\)を消去します。
3. 最後に、与えられた近似式を用いて式を整理し、\(\Delta\lambda\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 連立方程式を解いて未知数を消去する、純粋な計算能力。
  • 三角関数の公式 \(\sin^2\phi + \cos^2\phi = 1\) を利用する。
  • 問題文で与えられた近似式を適切なタイミングで適用する。

具体的な解説と立式
(3)の運動量保存の式を、電子の項について変形します。
$$ mv\cos\phi = h\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\cos\theta\right) \quad \cdots ① $$
$$ mv\sin\phi = h\frac{\sin\theta}{\lambda_1} \quad \cdots ② $$
①と②の両辺を2乗して足し合わせ、\(\phi\)を消去します。
$$ (mv)^2 = h^2\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\cos\theta\right)^2 + h^2\left(\frac{\sin\theta}{\lambda_1}\right)^2 \quad \cdots ③ $$
一方、(2)のエネルギー保存の式を変形します。
$$ \frac{1}{2}mv^2 = hc\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\right) \quad \cdots ④ $$
③と④から\(v\)を消去し、与えられた近似式を適用して\(\Delta\lambda\)を求めます。

使用した物理公式

  • エネルギー保存則、運動量保存則
計算過程

ヒントの誘導に従い、④の両辺に\(2m\)をかけた式 \(m^2v^2 = 2mhc(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1})\) と、③を展開した式 \(m^2v^2 = h^2(\frac{1}{\lambda_0^2} + \frac{1}{\lambda_1^2} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1})\) を等しいとおきます。
$$ 2mhc\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\right) = h^2\left(\frac{1}{\lambda_0^2} + \frac{1}{\lambda_1^2} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1}\right) $$
ここで、問題文の近似式 \(\frac{1}{\lambda_0^2} + \frac{1}{\lambda_1^2} \approx \frac{2}{\lambda_0\lambda_1}\) を右辺に適用します。
$$ 2mc\left(\frac{\lambda_1-\lambda_0}{\lambda_0\lambda_1}\right) \approx h\left(\frac{2}{\lambda_0\lambda_1} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1}\right) $$
$$ 2mc\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0\lambda_1} \approx \frac{2h(1-\cos\theta)}{\lambda_0\lambda_1} $$
両辺を整理して、
$$
\begin{aligned}
mc\Delta\lambda &\approx h(1-\cos\theta) \\[2.0ex]\Delta\lambda &\approx \frac{h}{mc}(1-\cos\theta)
\end{aligned}
$$

結論と吟味

波長の変化量は \(\Delta\lambda = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) となります。これはコンプトン散乱の公式として知られています。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\)

問(5)

思考の道筋とポイント
(4)で求めた波長の変化量 \(\Delta\lambda\) の式が、入射光の波長\(\lambda_0\)に依存しないことに着目します。コンプトン効果が顕著に現れるかどうかは、波長の変化量\(\Delta\lambda\)そのものではなく、元の波長に対する変化の「割合」\(\Delta\lambda/\lambda_0\) が大きいかどうかで決まります。
この設問における重要なポイント

  • \(\Delta\lambda\) は入射波長\(\lambda_0\)に依存しない定数(散乱角\(\theta\)のみによる)。
  • 現象の顕著さは、相対的な変化量 \(\Delta\lambda/\lambda_0\) で評価する。

具体的な解説と立式
(4)の結果より、波長の変化量 \(\Delta\lambda = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) は、入射光の波長\(\lambda_0\)を含んでいません。これは、どんな波長の光でも、同じ角度\(\theta\)で散乱されれば、波長の「伸び」は同じであることを意味します。
この定数 \(\frac{h}{mc}\) はコンプトン波長と呼ばれ、その値は約 \(2.4 \times 10^{-12}\) m です。
したがって、\(\Delta\lambda\) は \(0 \sim 2 \times (2.4 \times 10^{-12})\) m 程度の非常に小さい値です。

コンプトン効果が観測されやすいかどうかは、この変化の割合 \(\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) を考えます。

  • X線の場合: \(\lambda_0\) が \(10^{-11} \sim 10^{-8}\) m 程度で、\(\Delta\lambda\) と同程度のオーダーです。したがって、\(\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) は無視できない大きな値となり、コンプトン効果は顕著に観測されます。
  • 可視光の場合: \(\lambda_0\) が \(380 \sim 770\) nm (\(\sim 10^{-7}\) m) 程度です。これは\(\Delta\lambda\) (\(\sim 10^{-12}\) m) に比べて非常に大きいため、変化の割合 \(\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) は極めて小さくなります。
計算方法の平易な説明

コンプトン効果による波長の伸び(\(\Delta\lambda\))は、元の波長が長くても短くても、実は一定です。例えば、散乱角が90°なら、波長は約 \(2.4 \times 10^{-12}\) m 伸びます。

  • X線のように元の波長が非常に短い(例:\(10^{-11}\) m)場合、この伸びは元の波長に対して非常に大きな割合を占めるため、変化がはっきりと分かります。
  • 可視光のように元の波長が比較的長い(例:\(5 \times 10^{-7}\) m)場合、同じだけ伸びても、元の長さに対する割合としてはごくわずかです。そのため、変化はほとんど無視できるほど小さく、コンプトン効果は観測されにくくなります。
結論と吟味

波長の変化量\(\Delta\lambda\)は入射光の波長\(\lambda_0\)に依存しない。そのため、元の波長\(\lambda_0\)が\(\Delta\lambda\)に比べて十分に大きい可視光では、波長の変化の割合\(\Delta\lambda/\lambda_0\)が非常に小さくなり、効果がほとんど観測されない。一方、\(\lambda_0\)が\(\Delta\lambda\)と同程度のX線では、変化の割合が大きいため、効果が顕著に現れる。

解答 (5) 上記の通り。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 光の粒子性(エネルギーと運動量):
    • 核心: コンプトン効果を理解するための大前提です。光を、単なる波ではなく、エネルギー \(E=hc/\lambda\) と運動量 \(p=h/\lambda\) を持つ「光子」という粒子の流れとして捉えることが全ての出発点となります。
    • 理解のポイント: (1)はこの基本公式を問う問題です。この粒子描像を受け入れなければ、(2)以降の保存則の立式ができません。
  • エネルギー保存則と運動量保存則:
    • 核心: 「光子と電子の衝突」を、古典力学における2つの物体の衝突問題と全く同じように扱います。衝突の前後で、系全体の「エネルギーの総和」と「運動量のベクトル和」がそれぞれ保存される、という2大保存則を適用します。
    • 理解のポイント: (2)がエネルギー保存則、(3)が運動量保存則の立式です。特に運動量はベクトル量であるため、進行方向(x成分)とそれに垂直な方向(y成分)に分けて立式する必要がある点が重要です。
  • コンプトン散乱の公式:
    • 核心: 上記の保存則を連立させ、電子の情報を消去することで得られる、波長の変化量 \(\Delta\lambda\) と散乱角 \(\theta\) の関係式です。
      $$ \Delta\lambda = \lambda_1 – \lambda_0 = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta) $$
    • 理解のポイント: (4)はこの公式の導出過程を追う問題です。この式の最も重要な特徴は、波長の変化量 \(\Delta\lambda\) が、入射光の波長 \(\lambda_0\) には一切依存しない、という点です。この事実が(5)の考察の鍵となります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 光電効果: 同じく光の粒子性を示す現象ですが、光子が電子にエネルギーをすべて渡して消滅する「吸収」現象です。コンプトン効果は、光子がエネルギーの一部を渡して自身も生き残る「散乱」現象であるという違いがあります。
    • 原子核物理における衝突: 陽子や中性子、α粒子などの粒子同士の衝突問題。エネルギー保存則と運動量保存則を連立させて解くという点で、思考のプロセスは全く同じです。
    • ド・ブロイ波: 電子などの粒子も波としての性質を持つため、その波長 \(\lambda = h/p\) が重要になります。粒子性と波動性の二重性は、現代物理学の根幹をなす概念です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象を粒子間の衝突として捉える: 問題文に「光子と電子の衝突」とあれば、すぐに力学の衝突問題と同じ土俵で考える準備をします。
    2. 保存則の立式を徹底する: 衝突現象では、エネルギー保存則と運動量保存則が最も強力な武器です。まずはこの2つの法則を、問題の状況に合わせて正確に立式することから始めます。
    3. ベクトル量の扱いに注意する: 運動量はベクトルです。必ず成分に分解して考えます。通常は、入射方向をx軸、それに垂直な方向をy軸と設定するのが定石です。
    4. 未知数を消去する方向を見据える: (4)のように、複数の式から特定の変数(この場合は電子の速さ\(v\)と散乱角\(\phi\))を消去する問題では、どの式をどう変形すれば消去しやすいか、計算の見通しを立てることが重要です。三角関数の公式 \(\sin^2\phi+\cos^2\phi=1\) は、角度を消去する際の常套手段です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • エネルギーと運動量の混同:
    • 誤解: エネルギー保存則を立てるべきところで運動量を、運動量保存則を立てるべきところでエネルギーを考えてしまう。
    • 対策: エネルギーはスカラー量(大きさのみ)、運動量はベクトル量(大きさと向き)であることを明確に区別しましょう。エネルギー保存は単純な足し算ですが、運動量保存はベクトルの和(成分ごとの足し算)です。
  • 電子のエネルギーの扱い:
    • 誤解: 衝突後の電子のエネルギーを運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) のみと考えてしまう。
    • 対策: 厳密なエネルギー保存則では、電子の静止エネルギー \(mc^2\) も考慮する必要があります。衝突前は \(E_0 + mc^2\)、衝突後は \(E_1 + \sqrt{(mc^2)^2+(pc)^2}\) となります。高校物理では、多くの場合、電子が得た運動エネルギーという形で \(h\nu_0 = h\nu_1 + K_e\) のように立式することで、静止エネルギーを陽に扱わずに済みます。
  • 近似式の適用の誤り:
    • 誤解: (4)で、どのタイミングで、どの式に近似を適用すればよいか分からなくなる。
    • 対策: この問題の近似式は、非相対論的な運動エネルギーの式からでは厳密には導出できません。これは、高校物理の範囲で相対論的な結果を扱うための「ヒント」として与えられています。したがって、問題の誘導やヒントの指示に素直に従って計算を進めるのが最善策です。自力で変形しようとすると、矛盾が生じることがあります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • ビリヤードの玉の衝突: 光子と電子の衝突を、ビリヤードの玉同士の衝突としてイメージすると非常に分かりやすいです。手玉(入射光子)が的玉(電子)に当たると、手玉はエネルギーと運動量を失って速度が落ち(波長が伸び)、的玉はエネルギーと運動量を得て動き出します。散乱の角度によって、エネルギーのやり取りの仕方が変わります。
    • 運動量ベクトルの図: 衝突前後の運動量ベクトルを図示すると、運動量保存則が視覚的に理解できます。衝突前の運動量ベクトル \(\vec{p_0}\) が、衝突後の2つのベクトル \(\vec{p_1}\) と \(\vec{p_e}\) の和(\(\vec{p_0} = \vec{p_1} + \vec{p_e}\))になっていることを、ベクトルの平行四辺形や三角形で確認できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 角度の定義: 図に、散乱角\(\theta\)と\(\phi\)がどの角度を指すのかを明確に描き込みましょう。
    • ベクトルの成分分解: 運動量ベクトルをx成分とy成分に分解する様子を、点線と直角記号を用いて図示すると、立式の際のミスを防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(E=hc/\lambda, p=h/\lambda\) (問1):
    • 選定理由: 光の粒子としての性質(エネルギーと運動量)を数式で表現するため。
    • 適用根拠: アインシュタインの光量子仮説と、ド・ブロイの関係式という、現代物理学の根幹をなす仮説・法則です。
  • エネルギー保存則 (問2):
    • 選定理由: 衝突現象を記述する第一の基本法則だから。
    • 適用根拠: 外部とのエネルギーのやり取りがない孤立した系では、エネルギーの総和は常に一定であるという、物理学の普遍的な法則です。
  • 運動量保存則 (問3):
    • 選定理由: 衝突現象を記述する第二の基本法則だから。
    • 適用根拠: 外部から力が働かない孤立した系では、運動量の総和(ベクトル和)は常に一定であるという、これも物理学の普遍的な法則です。
  • \(\Delta\lambda = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) (問4):
    • 選定理由: 観測量である光子の波長変化と散乱角の関係を導くため。
    • 適用根拠: 上記の2つの保存則から、観測が困難な電子の情報を数学的に消去した結果として導出される関係式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 光子の性質:
    • 戦略: 光量子仮説の基本公式を記述する。
    • フロー: \(E=hc/\lambda\), \(p=h/\lambda\) を書く。
  2. (2)-(3) 保存則の立式:
    • 戦略: 光子と電子の衝突に、エネルギー保存則と運動量保存則を適用する。
    • フロー: ①(2)衝突前後のエネルギーの和が等しいという式を立てる。②(3)運動量をx, y成分に分解し、それぞれで衝突前後の和が等しいという式を立てる。
  3. (4) 電子の消去と\(\Delta\lambda\)の導出:
    • 戦略: (3)の運動量保存の式から電子の散乱角\(\phi\)を消去し、次に(2)のエネルギー保存の式と連立させて電子の速さ\(v\)を消去する。
    • フロー: ①運動量の式を\(mv\cos\phi\)と\(mv\sin\phi\)について解く。②両辺を2乗して足し合わせ、\((mv)^2\)の式を得る。③エネルギー保存の式を\((mv)^2\)について解く。④②と③を等しいとおき、与えられた近似式を使って整理し、\(\Delta\lambda\)を求める。
  4. (5) 現象の解釈:
    • 戦略: (4)で得られた\(\Delta\lambda\)の式の特徴(\(\lambda_0\)に依存しない)を基に、変化の「割合」\(\Delta\lambda/\lambda_0\)を評価する。
    • フロー: ①\(\Delta\lambda\)が定数に近いことを確認。②\(\Delta\lambda/\lambda_0\)が、\(\lambda_0\)が小さいX線では大きく、\(\lambda_0\)が大きい可視光では小さくなることを論述する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 連立方程式の計算: (4)の計算は、高校物理の中でもトップクラスに複雑です。計算過程を省略せず、一行一行丁寧に進めることが重要です。特に、2乗の展開や三角関数の処理でミスが出やすいので、注意深く行いましょう。
  • 近似の適用: 問題文で近似式が与えられている場合、それは計算を大幅に簡略化するためのヒントです。どの段階で適用するのが最も効果的かを見極めましょう。この問題では、\(v\)を消去した後の複雑な式に適用することで、劇的に簡単な形になります。
  • 物理量のオーダー感覚: (5)を考察する際、X線の波長(\(\sim 10^{-10}\) m)と可視光の波長(\(\sim 10^{-7}\) m)、そしてコンプトン波長(\(\sim 10^{-12}\) m)の大きさのオーダーを把握していると、議論がスムーズに進みます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (4) \(\Delta\lambda\)の式: \(\Delta\lambda = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) は、\(\theta=0\)(前方散乱)のとき\(\Delta\lambda=0\)(波長変化なし)、\(\theta=180^\circ\)(後方散乱)のとき\(\Delta\lambda\)が最大値 \(2h/mc\) をとることを示します。これは、正面衝突で最も多くのエネルギーを電子に与えるという直感的なイメージと一致します。
    • (5) 現象の依存性: コンプトン効果がX線のような高エネルギー(短波長)の光で顕著になるという結論は、実験事実と一致します。光の粒子性が、エネルギーが高い領域でより顕著に現れる一例と考えることができます。
  • 古典論との比較:
    • もし光が単なる波(古典的な電磁波)であれば、電子を振動させて同じ振動数の光を再放射するはずで、波長が変わることは説明できません。コンプトン効果が「光の粒子性」の決定的な証拠とされる理由を、この古典論との対比で理解しておくことが重要です。

問題153 (東北大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、金属単結晶への電子線照射実験を題材に、前半で電子の波動性(ブラッグ反射、ド・ブロイ波)、後半で電子の粒子性(光電効果の逆過程である制動放射)という、現代物理学の根幹をなす二つのテーマを総合的に問う問題です。

与えられた条件
  • 実験装置: 電子銃、金属単結晶、電子検出器、分光器
  • 物理定数: プランク定数 \(h\)、真空中の光速 \(c\)、電子の質量 \(m\)、電気素量 \(e\)
  • 変数: 原子面間隔 \(d\)、入射角 \(\theta\)、波長 \(\lambda\)、自然数 \(n\)、運動エネルギー \(E\)、加速電圧 \(V_1, V_2\)、散乱角 \(\alpha\)、仕事関数 \(W\)、最短波長 \(\lambda_1, \lambda_2\)
問われていること
  • (1) ブラッグ反射が強めあう条件式
  • (2) 運動エネルギー \(E\) で表した電子の波長 \(\lambda\)
  • (3) 測定量 \(V_1, \alpha\) で表した最小の原子面間隔 \(d_a\)
  • (4) 具体的な条件下での電子の運動エネルギー \(E_e\)
  • (5) 同じ回折条件を満たすX線のエネルギー \(E_p\)
  • (6) 制動放射のスペクトル変化のグラフ描画
  • (7) 仕事関数 \(W\) とプランク定数 \(h\) の導出

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電子の波動性と粒子性」です。前半は電子の回折現象を、後半は電子から光が発生する現象を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ブラッグ反射の条件: 結晶格子による波の干渉条件式 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を正しく理解し、適用します。
  2. ド・ブロイ波長: 運動する粒子は波の性質を持つという考え方で、その波長は \(\lambda = h/p\) で与えられます。
  3. エネルギー保存則: 電子が電場で加速される際のエネルギー \(E=eV\)、そして電子が金属に衝突して光を放出する際のエネルギー保存則が重要です。
  4. 光子のエネルギー: 光のエネルギーは \(E=h\nu = hc/\lambda\) で与えられ、波長と反比例の関係にあります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、(1)と(2)でブラッグ反射とド・ブロイ波に関する基本公式を確認します。
  2. 次に、(3)で実験の幾何学的配置から物理法則と測定量とを結びつけ、(4)と(5)で具体的な数値を計算します。
  3. 最後に、(6)と(7)で光電効果の逆過程である制動放射の性質を理解し、エネルギー保存則を用いて未知の物理量を導出します。

問(1)

思考の道筋とポイント
結晶の隣り合う原子面で反射した電子線が、干渉によって強めあう条件を求めます。図2を利用して、2つの電子線がたどる経路の長さの差(経路差)を計算し、それが波長の整数倍になるという条件を立式します。
この設問における重要なポイント

  • 波が干渉して強めあう条件は「経路差 = 波長 × 整数 (\(n\lambda\))」である。
  • 図2から、経路差を原子面間隔 \(d\) と入射角 \(\theta\) を用いて幾何学的に導出できるか。

具体的な解説と立式
図2において、第1の原子面で反射する電子線と、その下の第2の原子面で反射する電子線を考えます。第2の原子面まで進む電子線は、第1の原子面を進む電子線に比べて余分な距離を進みます。
図から、この経路差 \(\Delta L\) は、原子面間隔 \(d\) と入射角 \(\theta\) を用いて、\(d\sin\theta\) の2倍、すなわち \(2d\sin\theta\) となります。
この経路差が、電子線の波長 \(\lambda\) の整数倍 (\(n=1, 2, 3, \dots\)) になるとき、2つの波は同位相で重なり、干渉して強めあいます。
したがって、強めあう条件は次式で表されます。
$$ 2d\sin\theta = n\lambda $$

使用した物理公式

  • 波の干渉における強めあいの条件: 経路差 = \(n\lambda\)
計算過程

この設問は立式そのものが解答であり、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

2つの波が合わさって強くなるのは、波の「山」と「山」、「谷」と「谷」がぴったり重なるときです。そうなるためには、2つの波が進んできた道のりの差が、ちょうど波1個分、2個分、…となっている必要があります。この問題では、その道のりの差が図形的に \(2d\sin\theta\) と計算できるので、これが波長の整数倍になる、という式を立てます。

結論と吟味

強めあう条件は \(2d\sin\theta = n\lambda\) (\(n=1, 2, 3, \dots\)) です。これはブラッグ反射の条件として知られる基本公式であり、妥当です。

解答 (1) \(2d\sin\theta = n\lambda\)

問(2)

思考の道筋とポイント
運動エネルギー \(E\) を持つ電子のド・ブロイ波長 \(\lambda\) を求めます。まず、運動エネルギー \(E\) から電子の運動量 \(p\) を導出し、次にド・ブロイ波長の公式 \(\lambda = h/p\) に代入します。
この設問における重要なポイント

  • 運動エネルギー \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) と運動量 \(p=mv\) の関係を理解しているか。この2式から \(p = \sqrt{2mE}\) を導出できることが重要です。
  • 物質波の波長(ド・ブロイ波長)の公式 \(\lambda = h/p\) を知っているか。

具体的な解説と立式
電子の速さを \(v\)、質量を \(m\) とすると、その運動エネルギー \(E\) と運動量 \(p\) はそれぞれ次のように定義されます。
$$ E = \frac{1}{2}mv^2 \quad \cdots ① $$
$$ p = mv \quad \cdots ② $$
①式を \(v^2 = 2E/m\) と変形し、②式を \(p^2 = m^2v^2\) と変形して代入すると、
$$ p^2 = m^2 \left( \frac{2E}{m} \right) = 2mE $$
よって、運動量 \(p\) は次のように表せます。
$$ p = \sqrt{2mE} \quad \cdots ③ $$
一方、運動量 \(p\) を持つ粒子のド・ブロイ波長 \(\lambda\) は、プランク定数 \(h\) を用いて次式で与えられます。
$$ \lambda = \frac{h}{p} \quad \cdots ④ $$
④式に③式を代入することで、波長 \(\lambda\) を運動エネルギー \(E\) で表すことができます。

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(E = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 運動量: \(p=mv\)
  • ド・ブロイ波長: \(\lambda = h/p\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{h}{p} \\[2.0ex]&= \frac{h}{\sqrt{2mE}}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電子のような粒子も波としての性質を持ち、その波長は「勢い(運動量)」に反比例します。まず、与えられた運動エネルギー \(E\) から、電子の勢いである運動量 \(p\) を計算します。次に、その運動量を使って、ド・ブロイ波長の公式 \(\lambda = h/p\) に当てはめれば、波長が求まります。

結論と吟味

電子の波長は \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{\sqrt{2mE}}\) となります。これは運動エネルギーを用いて表したド・ブロイ波長の標準的な公式であり、妥当です。

解答 (2) \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{\sqrt{2mE}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(1)と(2)で導いた関係式を、図1の実験条件に適用します。具体的には、①電子の運動エネルギーを加速電圧 \(V_1\) で表し、②ブラッグの条件式に含まれる角度 \(\theta\) を実験の測定角 \(\alpha\) で表し、③これらの関係をすべて統合して原子面間隔 \(d_a\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 電子が電圧 \(V_1\) で加速されたときの運動エネルギーは \(E=eV_1\) となる。
  • 図1と図2の幾何学的な関係から、入射角 \(\theta\) と散乱角 \(\alpha\) の間に \(2\theta + \alpha = \pi\) という関係があることを見抜けるか。
  • 三角関数の公式 \(\sin(\pi/2 – x) = \cos(x)\) を用いて式を簡略化できるか。

具体的な解説と立式
1. 電子のエネルギーと波長:
電子は電圧 \(V_1\) で加速されるので、その運動エネルギー \(E\) は \(E=eV_1\) です。これを(2)で求めた波長の式に代入すると、
$$ \lambda = \frac{h}{\sqrt{2meV_1}} \quad \cdots ① $$

2. 角度の関係:
図2の入射角 \(\theta\) は原子面と入射電子線のなす角です。図1の散乱角 \(\alpha\) は入射電子線と反射電子線のなす角です。図から、原子面は入射方向と反射方向のなす角 \(\alpha\) を二等分する方向とは90度ずれているため、\( \theta + \theta + \alpha = \pi \) の関係が成り立ちます。
$$ 2\theta = \pi – \alpha \quad \rightarrow \quad \theta = \frac{\pi}{2} – \frac{\alpha}{2} \quad \cdots ② $$

3. ブラッグの条件の適用:
(1)で求めたブラッグの条件式 \(2d\sin\theta = n\lambda\) において、最も小さな原子面間隔 \(d_a\) は、干渉が起こる最小の経路差、すなわち \(n=1\) の場合に対応します。
$$ 2d_a \sin\theta = \lambda \quad \cdots ③ $$
この式に②を代入すると、
$$ 2d_a \sin\left(\frac{\pi}{2} – \frac{\alpha}{2}\right) = \lambda $$
ここで三角関数の公式 \(\sin(\pi/2 – x) = \cos(x)\) を用いると、
$$ 2d_a \cos\left(\frac{\alpha}{2}\right) = \lambda \quad \cdots ④ $$

4. 式の統合:
④式に①式を代入して \(\lambda\) を消去し、\(d_a\) について解きます。
$$ 2d_a \cos\left(\frac{\alpha}{2}\right) = \frac{h}{\sqrt{2meV_1}} $$

使用した物理公式

  • 仕事とエネルギーの関係: \(E=eV_1\)
  • ブラッグの条件: \(2d\sin\theta = n\lambda\)
  • ド・ブロイ波長: \(\lambda = h/\sqrt{2mE}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
2d_a \cos\left(\frac{\alpha}{2}\right) &= \frac{h}{\sqrt{2meV_1}} \\[2.0ex]d_a &= \frac{h}{2\sqrt{2meV_1} \cos(\alpha/2)}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この問題は3つのステップで解けます。ステップ1:電子の加速電圧 \(V_1\) から、電子の波長 \(\lambda\) を計算します。ステップ2:実験で測る角度 \(\alpha\) と、ブラッグ反射の理論で使う角度 \(\theta\) の関係を、図をよく見て見つけます。ステップ3:これら2つの結果を、問(1)で求めたブラッグ反射の基本式に代入すれば、求めたい原子面間隔 \(d_a\) の式が完成します。

結論と吟味

原子面間隔は \(d_a = \displaystyle\frac{h}{2\sqrt{2meV_1} \cos(\alpha/2)}\) となります。これは与えられた物理量 \(V_1, h, m, e, \alpha\) で正しく表現されており、妥当な結果です。

解答 (3) \(d_a = \displaystyle\frac{h}{2\sqrt{2meV_1} \cos(\alpha/2)}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(3)で導出した関係式を、求めたい入射電子の運動エネルギー \(E_e = eV_1\) について変形し、与えられた数値を代入して計算します。計算結果はジュール(J)で得られるので、最後に電子ボルト(eV)に変換します。
この設問における重要なポイント

  • 単位の換算を正確に行うこと(nm → m)。
  • ジュールから電子ボルトへの変換(\(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\))を正しく適用すること。
  • 有効数字2桁で答えること。

具体的な解説と立式
(3)で得られた関係式は、電子の運動エネルギーを \(E_e = eV_1\) とおくと、次のように書けます。
$$ 2d_a \cos\left(\frac{\alpha}{2}\right) = \frac{h}{\sqrt{2mE_e}} $$
この式を \(E_e\) について解きます。まず、運動量に相当する \(\sqrt{2mE_e}\) を求め、次に両辺を2乗して \(2m\) で割ります。
$$ \sqrt{2mE_e} = \frac{h}{2d_a \cos(\alpha/2)} $$
$$ E_e = \frac{1}{2m} \left( \frac{h}{2d_a \cos(\alpha/2)} \right)^2 $$

使用した物理公式

  • 問(3)で導出した関係式
計算過程

与えられた値を代入します:
\(h = 6.6 \times 10^{-34} \text{ J s}\), \(m = 9.1 \times 10^{-31} \text{ kg}\), \(d_a = 0.22 \text{ nm} = 0.22 \times 10^{-9} \text{ m}\), \(\alpha = 120^\circ\)。
\(\cos(\alpha/2) = \cos(120^\circ/2) = \cos(60^\circ) = 0.5\)。

まず、運動量 \(\sqrt{2mE_e}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{2mE_e} &= \frac{h}{2d_a \cos(\alpha/2)} \\[2.0ex]&= \frac{6.6 \times 10^{-34}}{2 \times (0.22 \times 10^{-9}) \times 0.5} \\[2.0ex]&= \frac{6.6 \times 10^{-34}}{0.22 \times 10^{-9}} \\[2.0ex]&= 3.0 \times 10^{-24} \text{ [kg m/s]}
\end{aligned}
$$
次に、エネルギー \(E_e\) をジュール単位で計算します。
$$
\begin{aligned}
E_e &= \frac{(\sqrt{2mE_e})^2}{2m} \\[2.0ex]&= \frac{(3.0 \times 10^{-24})^2}{2 \times (9.1 \times 10^{-31})} \\[2.0ex]&= \frac{9.0 \times 10^{-48}}{18.2 \times 10^{-31}} \\[2.0ex]&\approx 4.945 \times 10^{-18} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
最後に、このエネルギーを電子ボルト(eV)単位に変換します。
$$
\begin{aligned}
E_e \text{ [eV]} &= \frac{4.945 \times 10^{-18} \text{ [J]}}{1.6 \times 10^{-19} \text{ [J/eV]}} \\[2.0ex]&\approx 30.9 \text{ [eV]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるので、\(31 \text{ eV}\) となります。

計算方法の平易な説明

(3)で立てた数式を、求めたいエネルギー \(E_e\) イコールの形に変形します。その後は、問題文で与えられた物理定数や測定値を式に代入し、計算機を使うように慎重に計算を進めます。計算の最後に、エネルギーの単位を物理で標準的なジュール(J)から、この分野でよく使われる電子ボルト(eV)に変換するのを忘れないようにしましょう。

結論と吟味

入射電子の運動エネルギーは \(E_e \approx 31 \text{ eV}\) です。計算過程は物理法則に則っており、数値計算も指定された有効数字の範囲で正しく行われています。

解答 (4) \(31 \text{ eV}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
電子線の代わりにX線を用いて同じ回折現象を起こす場合を考えます。X線は光子であり、そのエネルギーと波長の関係は \(E_p = hc/\lambda_X\) で与えられます。回折の条件は波の種類によらないため、(3)で用いたブラッグの条件式がそのまま使えます。
この設問における重要なポイント

  • 粒子(電子)と光(X線)では、同じ波長でもエネルギーの計算式が異なることを理解しているか。
  • 電子: \(E \propto 1/\lambda^2\)
  • 光子: \(E \propto 1/\lambda\)

具体的な解説と立式
1. 回折条件:
X線も波として振る舞うため、同じ回折条件 (\(\alpha=120^\circ, d_a=0.22 \text{ nm}\)) を満たすには、その波長 \(\lambda_X\) が(3)の式④を満たす必要があります。
$$ 2d_a \cos\left(\frac{\alpha}{2}\right) = \lambda_X $$

2. X線光子のエネルギー:
波長 \(\lambda_X\) を持つX線光子1個のエネルギー \(E_p\) は、プランク定数 \(h\) と光速 \(c\) を用いて次式で表されます。
$$ E_p = \frac{hc}{\lambda_X} $$

3. 式の統合:
上の2式から \(\lambda_X\) を消去すると、\(E_p\) を求める式が得られます。
$$ E_p = \frac{hc}{2d_a \cos(\alpha/2)} $$

使用した物理公式

  • ブラッグの条件: \(2d\cos(\alpha/2) = \lambda\)
  • 光子のエネルギー: \(E = hc/\lambda\)
計算過程

与えられた値を代入します:
\(h = 6.6 \times 10^{-34} \text{ J s}\), \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\), \(d_a = 0.22 \times 10^{-9} \text{ m}\), \(\alpha = 120^\circ\)。
\(\cos(\alpha/2) = \cos(60^\circ) = 0.5\)。

エネルギー \(E_p\) をジュール単位で計算します。
$$
\begin{aligned}
E_p &= \frac{(6.6 \times 10^{-34}) \times (3.0 \times 10^8)}{2 \times (0.22 \times 10^{-9}) \times 0.5} \\[2.0ex]&= \frac{1.98 \times 10^{-25}}{0.22 \times 10^{-9}} \\[2.0ex]&= 9.0 \times 10^{-16} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
最後に、このエネルギーを電子ボルト(eV)単位に変換します。
$$
\begin{aligned}
E_p \text{ [eV]} &= \frac{9.0 \times 10^{-16} \text{ [J]}}{1.6 \times 10^{-19} \text{ [J/eV]}} \\[2.0ex]&= 5.625 \times 10^3 \text{ [eV]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるので、\(5.6 \times 10^3 \text{ eV}\) となります。

計算方法の平易な説明

X線も波なので、回折が起こる条件は電子のときと同じです。したがって、必要なX線の波長は(4)の計算途中に出てきた電子の波長と同じになります。ただし、X線(光)のエネルギー計算は電子のときとは異なり、公式 \(E=hc/\lambda\) を使います。この式に、必要な波長やプランク定数などの値を代入して計算し、最後に単位をeVに変換します。

結論と吟味

X線のエネルギーは \(E_p \approx 5.6 \times 10^3 \text{ eV}\) です。同じ回折を起こすのに、電子(\(31 \text{ eV}\))に比べて桁違いに大きなエネルギーが必要であることがわかります。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (5) \(5.6 \times 10^3 \text{ eV}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
この現象は光電効果の逆過程(制動放射)です。電子の運動エネルギーが光子のエネルギーに変換されます。発光スペクトルの変化を考える際は、「発光強度(光子の数)」と「最短波長(光子の最大エネルギー)」の2つの軸で、何が変化するのかを分析します。
この設問における重要なポイント

  • 発光強度は、単位時間あたりに発生する光子の数に比例し、それは入射する電子の数に比例する。
  • 最短波長は、発生する光子の最大エネルギーによって決まり、それは入射する電子1個の運動エネルギーによって決まる。

具体的な解説と立式
この設問は定性的な理解を問うもので、グラフを描画するため立式は不要です。

  • 電子の数を2倍にした場合(実線):
    加速電圧は \(V_1\) のままなので、入射する電子1個あたりの運動エネルギーは変わりません。したがって、発生しうる光子の最大エネルギーも変わらず、最短波長 \(\lambda_1^*\) は元の \(\lambda_1\) と等しくなります (\(\lambda_1^* = \lambda_1\))。
    一方、単位時間あたりに入射する電子の数が2倍になるため、単位時間あたりに発生する光子の数も2倍になります。発光強度は光子の数に比例するので、スペクトル全体の強度が2倍になります。
    よって、図4には、図3のグラフを縦軸方向に2倍に引き伸ばした形のグラフを実線で描きます。始点は \(\lambda_1\) のままです。
  • 加速電圧を \(V_2 > V_1\) に変えた場合(破線):
    電子の数を元に戻し、加速電圧を \(V_2\) に上げると、電子1個あたりの運動エネルギーが \(eV_1\) から \(eV_2\) へと増加します。これにより、発生しうる光子の最大エネルギーも増加します。光子のエネルギー \(E=hc/\lambda\) は波長に反比例するため、最大エネルギーの増加は最短波長の減少を意味します。したがって、新しい最短波長 \(\lambda_2\) は元の \(\lambda_1\) より短くなります (\(\lambda_2 < \lambda_1\))。
    一方、単位時間あたりに入射する電子の数は元のままなので、発生する光子の数、すなわち発光強度はおおよそ元のレベルと変わりません。
    よって、図4には、図3のグラフを全体的に左(短波長側)へ平行移動させた形のグラフを破線で描きます。始点が \(\lambda_1\) より左の \(\lambda_2\) となり、グラフの高さは元のグラフと同じです。

使用した物理公式

  • 光電効果の逆過程におけるエネルギー保存則(定性的な理解)
  • 光子のエネルギー: \(E=hc/\lambda\)
計算過程

グラフを描画するため、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明
  • 電子の数を2倍に(実線): 光を作り出す職人(電子)の数は2倍になるが、一人一人の腕前(エネルギー)は同じ。結果、作られる光製品(光子)の数は2倍になる(強度が2倍)が、作れる最高級品(最短波長)の品質は変わらない。
  • 電子のエネルギーをアップ(破線): 職人の数は同じだが、一人一人の腕前が上がる。結果、作られる光製品の数は変わらない(強度は同じ)が、より高品質な最高級品(より短い波長の光)が作れるようになる。
結論と吟味

図4に、指示通り実線と破線を描き、\(\lambda_1^*\) と \(\lambda_2\) の位置を明記します。実線は \(\lambda_1\) から始まり元の2倍の高さ、破線は \(\lambda_1\) より左の \(\lambda_2\) から始まり元の高さとなります。この考察は制動放射の物理的性質と一致しており、妥当です。

解答 (6) 図4に、\(\lambda_1^*=\lambda_1\)から始まり元の2倍の高さのスペクトルを実線で、\(\lambda_2 < \lambda_1\)となる位置から始まり元の高さのスペクトルを破線で描く。

問(7)

思考の道筋とポイント
光電効果の逆過程におけるエネルギー保存則を定量的に扱います。この現象の物理モデルを正しく設定することが鍵となります。「光電効果の逆過程」とは、運動エネルギーを持った電子が金属に衝突し、光子を放出する現象です。このとき、電子は真空から金属内部に入る際に、仕事関数 \(W\) に相当する分だけポテンシャルエネルギーが下がり、その分だけ運動エネルギーが増加します。この増加した運動エネルギーのすべてが、最短波長 \(\lambda_{\text{min}}\) の光子1個のエネルギーに変換されると考えます。このモデルに基づき、2つの異なる条件(\(V_1, \lambda_1\) と \(V_2, \lambda_2\))についてエネルギー保存則の式を立て、それらを連立させて未知数である仕事関数 \(W\) とプランク定数 \(h\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 光電効果の逆過程におけるエネルギー保存則を \(eV + W = \displaystyle\frac{hc}{\lambda_{\text{min}}}\) と正しく立式できるか。これは、電子の初期の運動エネルギー \(eV\) と、金属に入る際に得るエネルギー \(W\) の和が、放出される光子の最大エネルギー \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_{\text{min}}}\) に等しいことを意味します。
  • 未知数が2つ(\(W, h\))あるため、2つの条件から連立方程式を立てて解くという数学的な手法が使えるか。

具体的な解説と立式
加速電圧 \(V\)、最短波長 \(\lambda_{\text{min}}\) のとき、エネルギー保存則は、上記のモデルより次のように表されます。
$$ eV + W = \frac{hc}{\lambda_{\text{min}}} $$
この関係を、問題で与えられた2つの条件に適用します。
条件1: 加速電圧 \(V_1\)、最短波長 \(\lambda_1\)
$$ eV_1 + W = \frac{hc}{\lambda_1} \quad \cdots ① $$
条件2: 加速電圧 \(V_2\)、最短波長 \(\lambda_2\)
$$ eV_2 + W = \frac{hc}{\lambda_2} \quad \cdots ② $$
この2つの式からなる連立方程式を、\(W\) と \(h\) について解きます。

使用した物理公式

  • エネルギー保存則(制動放射): \(eV + W = \displaystyle\frac{hc}{\lambda_{\text{min}}}\)
計算過程

プランク定数 \(h\) の導出

②式から①式を引くことで、\(W\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
(eV_2 + W) – (eV_1 + W) &= \frac{hc}{\lambda_2} – \frac{hc}{\lambda_1} \\[2.0ex]e(V_2 – V_1) &= hc \left(\frac{1}{\lambda_2} – \frac{1}{\lambda_1}\right) \\[2.0ex]e(V_2 – V_1) &= hc \frac{\lambda_1 – \lambda_2}{\lambda_1 \lambda_2}
\end{aligned}
$$
この式を \(h\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{e(V_2 – V_1) \lambda_1 \lambda_2}{c(\lambda_1 – \lambda_2)}
\end{aligned}
$$

仕事関数 \(W\) の導出

①式と②式から \(hc\) を消去します。
①式より \(hc = (eV_1 + W)\lambda_1\)。
②式より \(hc = (eV_2 + W)\lambda_2\)。
よって、
$$
\begin{aligned}
(eV_1 + W)\lambda_1 &= (eV_2 + W)\lambda_2 \\[2.0ex]eV_1\lambda_1 + W\lambda_1 &= eV_2\lambda_2 + W\lambda_2 \\[2.0ex]W\lambda_1 – W\lambda_2 &= eV_2\lambda_2 – eV_1\lambda_1 \\[2.0ex]W(\lambda_1 – \lambda_2) &= e(V_2\lambda_2 – V_1\lambda_1)
\end{aligned}
$$
この式を \(W\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
W &= \frac{e(V_2\lambda_2 – V_1\lambda_1)}{\lambda_1 – \lambda_2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

2つの実験データ(電圧 \(V_1\) のとき波長 \(\lambda_1\)、電圧 \(V_2\) のとき波長 \(\lambda_2\))があるので、それぞれについてエネルギー保存の式を立てます。すると、知りたい文字(\(W\) と \(h\))が2つ入った式が2本できあがります。これは数学で習う連立方程式そのものです。まず片方の式からもう片方の式を引き算して \(W\) を消し、\(h\) を求めます。次に、2つの式から \(h\) を消去するように式変形すれば、残りの \(W\) も計算できます。

結論と吟味

プランク定数 \(h\) と仕事関数 \(W\) は、それぞれ
$$ h = \frac{e(V_2 – V_1) \lambda_1 \lambda_2}{c(\lambda_1 – \lambda_2)} $$
$$ W = \frac{e(V_2\lambda_2 – V_1\lambda_1)}{\lambda_1 – \lambda_2} $$
と表されます。どちらも与えられた物理量のみで表現されており、物理的に妥当なモデルから導出された結果です。

解答 (7)
\(h = \displaystyle\frac{e(V_2 – V_1) \lambda_1 \lambda_2}{c(\lambda_1 – \lambda_2)}\)
\(W = \displaystyle\frac{e(V_2\lambda_2 – V_1\lambda_1)}{\lambda_1 – \lambda_2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電子の波動性(ド・ブロイ波):
    • 核心: 運動量 \(p\) を持つ粒子は、\(\lambda = h/p\) で与えられる波長を持つ波として振る舞います。この「物質波」の概念が、(1)〜(5)の電子回折現象を理解する上での大前提です。
    • 理解のポイント: 電子の運動エネルギー \(E\) と波長 \(\lambda\) の関係 \(\lambda = h/\sqrt{2mE}\) をスムーズに導出できるようにしておくことが重要です。エネルギーが大きいほど、波長は短くなります。
  • ブラッグの条件:
    • 核心: 結晶格子のように周期的な構造を持つ物質に波が入射すると、特定の角度で反射波が強めあいます。その条件は \(2d\sin\theta = n\lambda\) で与えられます。
    • 理解のポイント: この式は、隣り合う原子面で反射した波の「経路差」が「波長の整数倍」になるという、波の干渉の基本原理から導かれます。図を描いて経路差を自分で計算できるようにしておくと、公式を忘れても対応できます。
  • 光電効果の逆過程(制動放射)とエネルギー保存則:
    • 核心: (6), (7)で問われる現象は、電子の運動エネルギーが光子のエネルギーに変換される過程です。その際のエネルギー収支を正しく立式することが鍵となります。特に、最短波長 \(\lambda_{\text{min}}\) は、電子の持つエネルギーが最大限、光子に変換された場合に相当します。
    • 理解のポイント: (7)のモデル \(eV + W = hc/\lambda_{\text{min}}\) は、①電子が電場で得るエネルギー(\(eV\))、②電子が金属に入る際にポテンシャルエネルギーの差から得るエネルギー(\(W\))、③放出される光子のエネルギー(\(hc/\lambda_{\text{min}}\))の3者間の保存則を表しています。このモデルを正しく理解することが、符号ミスを防ぐ上で不可欠です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • コンプトン効果: X線光子が電子に衝突して散乱する問題。光子の粒子性とエネルギー・運動量保存則が問われます。本問の制動放射とは逆の、光子から電子へのエネルギー移動がテーマです。
    • 様々な粒子の回折: 電子だけでなく、陽子や中性子など、他の粒子を用いた回折実験の問題。粒子の種類が変わっても、ド・ブロイ波長 \(\lambda=h/p\) とブラッグの条件 \(2d\sin\theta=n\lambda\) の適用方法は同じです。質量 \(m\) の値が変わる点に注意が必要です。
    • 光電子分光(XPS, UPS): 光を物質に当てて、飛び出してくる電子のエネルギーを測定する実験。これは本問の(6)(7)とは逆の「光電効果」そのものであり、エネルギー保存則 \(h\nu = W + E_{\text{運動}}\) を用いて物質の仕事関数や電子状態を分析します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象の特定: まず、問題が「粒子の波動性(回折)」を扱っているのか、「粒子の粒子性(衝突、エネルギー変換)」を扱っているのかを見極めます。前者ならド・ブロイ波とブラッグ条件、後者ならエネルギー保存則と運動量保存則が主役になります。
    2. 幾何学的関係の把握: (3)のように、実験装置の配置から物理法則で使われる変数(例: \(\theta\))と測定される変数(例: \(\alpha\))の関係を導出する必要がある問題は多いです。図を丁寧に読み解き、補助線を引くなどして角度の関係を見抜くことが重要です。
    3. エネルギー図の活用: (7)のようなエネルギー変換の問題では、電子のエネルギー準位を図で描くと理解が深まります。真空中のエネルギー準位を基準に、金属内部のポテンシャルが \(W\) だけ低いこと、電子が加速電圧 \(V\) で \(eV\) のエネルギーを得ることなどを図示すると、エネルギー保存則の立式が容易になり、符号ミスも防げます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電子と光子のエネルギー式の混同:
    • 誤解: 電子のエネルギーを \(E=hc/\lambda\) で計算したり、光子のエネルギーを \(E=p^2/2m\) で計算してしまう。
    • 対策: 「波長 \(\lambda\)」は共通の性質ですが、エネルギーの計算式は全く異なります。電子のような質量のある粒子は \(E=p^2/2m = h^2/(2m\lambda^2)\)、光子のような質量のない粒子は \(E=pc = hc/\lambda\) と、明確に区別して覚えましょう。
  • ブラッグ条件の角度 \(\theta\) の誤認:
    • 誤解: (3)で、実験の散乱角 \(\alpha\) をそのままブラッグ条件の \(\theta\) として使ってしまう。
    • 対策: ブラッグ条件の \(\theta\) は「入射ビームと結晶面のなす角」です。問題で与えられる角度が何と何の間の角なのかを、図で正確に確認する癖をつけましょう。多くの場合、簡単な幾何学的考察が必要です。
  • 制動放射のエネルギー保存則の符号ミス:
    • 誤解: (7)で、光電効果の公式 \(h\nu = W + E_{\text{運動}}\) をそのまま類推し、\(eV_1 = W + hc/\lambda_1\) と誤って立式してしまう。
    • 対策: 「光電効果」と「その逆過程」では、エネルギーのやり取りの方向が逆です。電子が金属に入る際にエネルギーを得るのか失うのか、その物理的意味を考えましょう。金属表面には電子を引き留めるポテンシャルの壁があり、電子が外から中へ入る際は、坂を転がり落ちるようにエネルギーを得る(運動エネルギーが増える)とイメージすると、\(eV + W = …\) という立式が自然に導けます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 回折の幾何学図: (1)や(3)では、問題文の図を自分で描き写し、経路差や角度の関係を書き込むことが極めて有効です。特に、経路差が \(2d\sin\theta\) となる部分は、垂線を引いて直角三角形を作ることで視覚的に理解できます。
    • エネルギー準位図: (7)の制動放射を理解するために、エネルギーの縦軸を持つ図を描きます。
      1. 真空中の静止電子のエネルギーを基準(0)とします。
      2. 電子銃で加速された電子は、\(eV\) の運動エネルギーを持ちます。
      3. 金属表面にはポテンシャルの壁があり、金属内部のエネルギー準位は真空より \(W\) だけ低くなっています。
      4. 電子が金属に突入すると、この \(W\) のポテンシャル差が運動エネルギーに変わり、金属内での全エネルギーは \(eV+W\) となります。
      5. このエネルギーがすべて光子に変換されたとき、最短波長の光が放出されるので、\(eV+W = hc/\lambda_{\text{min}}\) となります。この図を描くことで、式の各項が物理的に何を意味するかが明確になります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 角度の定義の明確化: 図に角度を書き込む際は、それがどの線とどの線のなす角なのかをはっきりさせましょう。特に \(\theta\) と \(\alpha\) の違いは重要です。
    • エネルギーの流れの矢印: エネルギー準位図では、電子がどの準位からどの準位へ移るのか、その際にエネルギーがどう変換されるのか(運動エネルギー→光エネルギーなど)を矢印で示すと、現象の流れが追いやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • ド・ブロイ波長 \(\lambda = h/p\):
    • 選定理由: (2)で電子の波動性を表現するため。電子回折という現象の根幹をなす法則です。
    • 適用根拠: 運動するすべての物質が持つ普遍的な性質として適用します。
  • ブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\):
    • 選定理由: (1), (3)で結晶による電子線の回折(干渉)を扱うため。周期構造による波の干渉を記述する専門の公式です。
    • 適用根拠: 反射波の経路差が波長の整数倍になるという、波の干渉の基本原理に基づいています。
  • エネルギー保存則 \(eV+W = hc/\lambda_{\text{min}}\):
    • 選定理由: (7)で電子のエネルギーが光子のエネルギーに変換される現象を定量的に解析するため。
    • 適用根拠: 「光電効果の逆過程」という物理モデルに基づき、電子が持つ全エネルギー(加速で得たエネルギー+金属内で得たエネルギー)が、放出される光子のエネルギーに等しいという、物理学の根本法則を適用します。
  • 光子のエネルギー \(E=hc/\lambda\):
    • 選定理由: (5)でX線の、(7)で放出される光のエネルギーを計算するため。光のエネルギーと波長を結びつける基本式です。
    • 適用根拠: 光の粒子性(光子)の概念に基づく、光エネルギーの定義式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)-(3) 電子回折:
    • 戦略: 物理法則を実験条件に合わせて翻訳する。
    • フロー: ①ブラッグ条件 \(2d\sin\theta=n\lambda\) を立てる。②電子の波長をエネルギーで表す \(\lambda=h/\sqrt{2mE}\)。③エネルギーを加速電圧で表す \(E=eV_1\)。④角度を測定量で表す \(\theta = \pi/2 – \alpha/2\)。⑤これらをすべて代入し、求めたい \(d_a\) について解く。
  2. (4),(5) 数値計算:
    • 戦略: 導出した式に数値を代入し、単位を変換する。
    • フロー: ①(3)や(5)で立てた式に、与えられた数値を代入。②まずジュール(J)でエネルギーを計算。③ジュールを電子ボルト(eV)に変換する。④有効数字を合わせる。
  3. (6) スペクトル描画:
    • 戦略: 入射電子の「数」と「エネルギー」が、放出される光子の「数(強度)」と「エネルギー(最短波長)」にどう影響するかを考える。
    • フロー: ①電子数2倍→光子数2倍→強度2倍。エネルギーは不変→最短波長は不変。②電子エネルギー増→光子エネルギー増→最短波長は短くなる。電子数は不変→強度は不変。
  4. (7) 未知定数の導出:
    • 戦略: 2つの未知数(\(W, h\))に対し、2つの実験条件から連立方程式を立てて解く。
    • フロー: ①エネルギー保存則 \(eV+W=hc/\lambda\) を立てる。②条件1(\(V_1, \lambda_1\))と条件2(\(V_2, \lambda_2\))で2つの式を立てる。③式同士の引き算で \(W\) を消去し \(h\) を求める。④式変形で \(h\) を消去し \(W\) を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

    • 単位の統一: (4)や(5)の計算では、すべての物理量を基本単位(メートル、キログラム、秒)に直してから計算を始めると、単位系の混同によるミスを防げます。特に nm → m の変換は忘れがちです。
    • 連立方程式の処理: (7)では、まず文字式のまま \(h\) と \(W\) を求めることが要求されます。計算過程が複雑になるので、どの変数を消去するかを明確にし、一行一行、丁寧に式変形を行いましょう。特に、通分や分配法則での符号ミスに注意が必要です。

物理定数の桁数: プランク定数や電気素量など、指数部分が大きい定数を扱う際は、指数法則(\(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\), \(10^a / 10^b = 10^{a-b}\))の計算を慎重に行いましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (5) エネルギーの比較: 同じ回折を起こすのに、電子(\(31 \text{ eV}\))よりX線(\(5.6 \times 10^3 \text{ eV}\))の方がはるかに大きなエネルギーを必要としました。これは、同じ波長でも粒子の種類によってエネルギーが大きく異なることを示しており、物理的に妥当です。
    • (7) 仕事関数の符号: \(W\) は正の値になるはずです(電子を金属から引き出すのに必要なエネルギー)。導出した式 \(W = e(V_2\lambda_2 – V_1\lambda_1)/(\lambda_1 – \lambda_2)\) を吟味すると、\(V_2>V_1\) かつ \(\lambda_2<\lambda_1\) なので、分母は正です。分子の \(V_2\lambda_2 – V_1\lambda_1\) の符号は一見不明ですが、\(eV+W=hc/\lambda\) より \(\lambda = hc/(eV+W)\) なので、\(V\) が大きいほど \(\lambda\) は小さくなります。この関係から、\(V_2\lambda_2\) と \(V_1\lambda_1\) は近い値になることが予想され、結果として \(W>0\) となるはずです。
  • 別解との比較:
    • (7)の \(W\) の導出では、まず \(h\) を求めてから代入する方法も考えられます。計算はより複雑になりますが、同じ結果にたどり着くことを確認できれば、計算の正しさを担保できます。複数の解法ルートを試すことは、計算力と論理的思考力を鍛える良い練習になります。

問題154 (九州工大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ボーアの水素原子モデルを題材に、その理論構築の過程を追体験する形式の穴埋め問題です。電子の円運動、量子条件、エネルギー準位、光の放出といった一連の流れを、数式を用いて導出していきます。

与えられた条件
  • 中心電荷: \(+e\)
  • 電子: 電荷 \(-e\)、質量 \(m\)
  • 物理定数: 真空のクーロンの法則の比例定数 \(k_0\)、プランク定数 \(h\)、真空中の光速 \(c\)
  • 変数: 電子の速さ \(v\)、軌道半径 \(r\)、量子数 \(n, n’\)
  • リュードベリ定数: \(R = 1.1 \times 10^7 \text{ /m}\)
  • 可視光線領域: \(3.8 \times 10^{-7} \text{ m} \sim 7.8 \times 10^{-7} \text{ m}\)
問われていること
  • ア: 軌道半径 \(r\) を \(e, m, k_0, v\) で表す式
  • イ: 量子条件を表す式
  • ウ: 軌道半径 \(r_n\) を \(e, m, k_0, h, n, \pi\) で表す式
  • エ: 全エネルギー \(E_n\) を \(e, m, k_0, h, n, \pi\) で表す式
  • オ: 放出される光の波長の逆数 \(1/\lambda\) を表す式
  • カ: 可視光線領域の輝線で2番目に長い波長の数値

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「ボーアの水素原子モデル」です。古典的な力学と量子論的な考え方を融合させて、水素原子の構造とスペクトルを説明する理論の流れを理解することが目的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 円運動の運動方程式: 電子にはたらく静電気力を向心力として、円運動の運動方程式を立てます。
  2. ボーアの量子条件: 電子の角運動量が \(h/(2\pi)\) の整数倍になるという条件、あるいは電子のド・ブロイ波が定常波をなすという条件を適用します。
  3. エネルギーの計算: 電子の運動エネルギーと、静電気力による位置エネルギーの和として、全エネルギーを計算します。
  4. ボーアの振動数条件: 電子がエネルギー準位間を遷移する際に放出(または吸収)する光子のエネルギーは、準位間のエネルギー差に等しい (\(\Delta E = h\nu\)) という条件を用います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア)で運動方程式を立て、(イ)で量子条件を立式します。
  2. (ウ)で(ア)と(イ)を連立させて軌道半径 \(r_n\) を求めます。
  3. (エ)で全エネルギーの一般式に(ウ)の結果を代入し、エネルギー準位 \(E_n\) を求めます。
  4. (オ)で振動数条件を用いて、放出される光の波長 \(\lambda\) を計算します。
  5. (カ)で(オ)の結果を使い、可視光線領域(バルマー系列)に相当する遷移を考え、具体的な波長を計算します。

問(ア)

思考の道筋とポイント
原子核と電子の間に働く静電気力(クーロン力)が、電子を円運動させるための向心力として機能していると考え、円運動の運動方程式を立てます。その式を軌道半径 \(r\) について解きます。
この設問における重要なポイント

  • 静電気力の公式: \(F = k_0 \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
  • 向心力の公式: \(F = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)
  • これら2つの力が等しいとおくこと。

具体的な解説と立式
電荷 \(+e\) の原子核と電荷 \(-e\) の電子が距離 \(r\) だけ離れているとき、両者の間に働く静電気力の大きさ \(F\) は、クーロンの法則より
$$ F = k_0 \frac{e \cdot e}{r^2} = k_0 \frac{e^2}{r^2} $$
この静電気力が向心力となり、質量 \(m\) の電子が速さ \(v\) で等速円運動をしているので、運動方程式は次のように立てられます。
$$ m\frac{v^2}{r} = k_0 \frac{e^2}{r^2} \quad \cdots ① $$
この式を \(r\) について解きます。

使用した物理公式

  • クーロンの法則: \(F = k_0 \displaystyle\frac{|q_1 q_2|}{r^2}\)
  • 円運動の運動方程式: \(ma = F\) (ここで \(a = v^2/r\))
計算過程

$$
\begin{aligned}
m\frac{v^2}{r} &= k_0 \frac{e^2}{r^2} \\[2.0ex]mv^2 &= k_0 \frac{e^2}{r} \\[2.0ex]r &= \frac{k_0 e^2}{mv^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電子が原子核の周りを回り続けるためには、原子核が電子を引っ張る力(静電気力)と、電子が円運動をすることで外に飛び出そうとする遠心力(慣性力の一種、ここでは向心力と大きさが同じ)が釣り合っている必要があります。この「力のつり合い」の式を立て、半径 \(r\) について整理します。

結論と吟味

軌道半径は \(r = \displaystyle\frac{k_0 e^2}{mv^2}\) となります。これは与えられた物理量で正しく表現されており、妥当です。

解答 (ア) \(\displaystyle\frac{k_0 e^2}{mv^2}\)

問(イ)

思考の道筋とポイント
問題文で与えられているボーアの量子条件「\(2\pi r = n \lambda_e\)」と、電子のド・ブロイ波長 \(\lambda_e = h/p = h/(mv)\) を組み合わせます。問題文では「\(2\pi r = \) イ」という形が要求されているので、ド・ブロイ波長を代入した後の式を整理します。
この設問における重要なポイント

  • ド・ブロイ波長の公式 \(\lambda_e = h/(mv)\) を知っていること。
  • 問題文の量子条件の式に、ド・ブロイ波長の式を代入すること。

具体的な解説と立式
問題文によると、軌道の周の長さ \(2\pi r\) が、電子のド・ブロイ波長 \(\lambda_e\) の整数 \(n\) 倍に等しいという量子条件が課せられています。
$$ 2\pi r = n \lambda_e $$
ここで、運動量 \(p=mv\) の電子のド・ブロイ波長 \(\lambda_e\) は、
$$ \lambda_e = \frac{h}{mv} $$
と与えられます。この式を上の量子条件の式に代入します。
$$ 2\pi r = n \frac{h}{mv} $$
問題文では「\(2\pi r = \) イ」の形ではなく、「\(2\pi r\) は、… \(m, v\) を用いて、\(2\pi r = \) イ と表せる」とあり、文脈から \(2\pi r\) を \(n, h, m, v\) で表す式が求められています。しかし、模範解答の形式を見ると、これは角運動量に関する量子条件 \(mvr = n \frac{h}{2\pi}\) を変形した \(2\pi r = n \frac{h}{mv}\) を指していると解釈するのが自然です。
したがって、イに当てはまるのは \(n \displaystyle\frac{h}{mv}\) となります。

使用した物理公式

  • ボーアの量子条件(定常波条件): \(2\pi r = n \lambda_e\)
  • ド・ブロイ波長: \(\lambda_e = h/(mv)\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
2\pi r &= n \lambda_e \\[2.0ex]&= n \frac{h}{mv}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ボーアのモデルでは、電子の波が軌道1周を回ったときに、波の始まりと終わりがきれいにつながる(定常波になる)と考えます。これは、軌道1周の長さが、電子の波長のちょうど整数倍になっていることを意味します。この条件を数式で表したものが答えとなります。

結論と吟味

量子条件は \(2\pi r = n \displaystyle\frac{h}{mv}\) となります。これは角運動量の量子化 \(L = mvr = n\frac{h}{2\pi}\) と同値な表現であり、ボーアモデルの根幹をなす式です。

解答 (イ) \(n \displaystyle\frac{h}{mv}\)

問(ウ)

思考の道筋とポイント
(ア)で立てた運動方程式と、(イ)で立てた量子条件の2つの式を連立させて、速さ \(v\) を消去し、軌道半径 \(r\) を求めます。このときの \(r\) は量子数 \(n\) に依存するため \(r_n\) と表記します。
この設問における重要なポイント

  • 2つの未知数(\(r, v\))に対して2つの式があるので、連立方程式として解ける。
  • 計算ミスなく、\(v\) を消去して \(r\) を求める。

具体的な解説と立式
(ア)で求めた運動方程式を変形した式
$$ mv^2 r = k_0 e^2 \quad \cdots ①’ $$
(イ)で求めた量子条件の式
$$ 2\pi r = n \frac{h}{mv} \quad \cdots ② $$
②式を \(v\) について解きます。
$$ v = \frac{nh}{2\pi mr} \quad \cdots ③ $$
この③式を①’式に代入して \(v\) を消去します。
$$ m \left( \frac{nh}{2\pi mr} \right)^2 r = k_0 e^2 $$
この式を \(r\)(ここでは \(r_n\))について解きます。

使用した物理公式

  • 問(ア)と問(イ)で導出した関係式
計算過程

$$
\begin{aligned}
m \left( \frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m^2 r^2} \right) r &= k_0 e^2 \\[2.0ex]\frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m r} &= k_0 e^2 \\[2.0ex]n^2 h^2 &= 4\pi^2 m k_0 e^2 r \\[2.0ex]r &= \frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2}
\end{aligned}
$$
したがって、量子数 \(n\) の定常状態における軌道半径 \(r_n\) は、
$$ r_n = \frac{h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2} n^2 $$

解答 (ウ) \(\displaystyle\frac{h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2} n^2\)

問(エ)

思考の道筋とポイント
電子の全エネルギー \(E_n\) を求めます。全エネルギーは、運動エネルギー \(K = \frac{1}{2}mv^2\) と、静電気力による位置エネルギー \(U = -k_0 \frac{e^2}{r}\) の和で与えられます。この式に、(ア)の運動方程式と(ウ)で求めた軌道半径 \(r_n\) の式を代入して、最終的に \(n\) と基本定数だけの式にします。
この設問における重要なポイント

  • 全エネルギー \(E = K + U\)。
  • 静電気力による位置エネルギーは \(U = -k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r}\) (無限遠を基準)。
  • (ア)の運動方程式 \(mv^2 = k_0 e^2/r\) を使うと、運動エネルギーを \(K = \frac{1}{2} k_0 \frac{e^2}{r}\) と表せ、計算が簡略化できる。

具体的な解説と立式
電子の全エネルギー \(E_n\) は、運動エネルギー \(K_n\) と位置エネルギー \(U_n\) の和です。
$$ E_n = K_n + U_n = \frac{1}{2}mv_n^2 – k_0 \frac{e^2}{r_n} $$
ここで、(ア)の運動方程式 \(m v_n^2 / r_n = k_0 e^2 / r_n^2\) より、\(mv_n^2 = k_0 e^2 / r_n\) が成り立ちます。これを運動エネルギーの項に代入すると、
$$ K_n = \frac{1}{2}mv_n^2 = \frac{1}{2} k_0 \frac{e^2}{r_n} $$
したがって、全エネルギー \(E_n\) は、
$$ E_n = \frac{1}{2} k_0 \frac{e^2}{r_n} – k_0 \frac{e^2}{r_n} = -\frac{1}{2} k_0 \frac{e^2}{r_n} \quad \cdots ④ $$
この式に、(ウ)で求めた \(r_n = \displaystyle\frac{n^2 h^2}{4\pi^2 m k_0 e^2}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 静電気力による位置エネルギー: \(U = -k_0 \displaystyle\frac{e^2}{r}\)
  • 問(ウ)で導出した \(r_n\) の式
計算過程

$$
\begin{aligned}
E_n &= -\frac{1}{2} k_0 \frac{e^2}{r_n} \\[2.0ex]&= -\frac{1}{2} k_0 e^2 \left( \frac{4\pi^2 m k_0 e^2}{n^2 h^2} \right) \\[2.0ex]&= -\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \frac{1}{n^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電子のエネルギーは、その速さによる「運動エネルギー」と、原子核との電気的な位置関係による「位置エネルギー」の合計です。まず、この2つを足し合わせた式を作ります。この式にはまだ \(r_n\) が含まれているので、(ウ)で求めた \(r_n\) の具体的な式を代入して消去します。すると、エネルギーが量子数 \(n\) だけで決まる式が得られます。

結論と吟味

全エネルギーは \(E_n = -\displaystyle\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \frac{1}{n^2}\) となります。エネルギーが \(1/n^2\) に比例し、負の値をとる(電子が原子核に束縛されている状態を示す)こと、そしてとびとびの値(エネルギー準位)をとることが示されており、ボーアモデルの重要な結論です。

解答 (エ) \(-\displaystyle\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2 n^2}\)

問(オ)

思考の道筋とポイント
ボーアの振動数条件 \(\Delta E = h\nu\) を用います。電子が量子数 \(n\) の状態から \(n’\) の状態へ遷移するとき、そのエネルギー差 \(\Delta E = E_n – E_{n’}\) に等しいエネルギーを持つ光子が放出されます。光子のエネルギーは \(h\nu = hc/\lambda\) と表せるので、\(\Delta E = hc/\lambda\) となります。この式を \(1/\lambda\) について解き、(エ)で求めた \(E_n\) の式を代入します。
この設問における重要なポイント

  • ボーアの振動数条件: \(\Delta E = h\nu\)
  • 光子のエネルギーと波長の関係: \(E_{\text{光子}} = h\nu = hc/\lambda\)
  • エネルギー準位の差 \(\Delta E = E_n – E_{n’}\) を計算すること。

具体的な解説と立式
電子がエネルギー準位 \(E_n\) (量子数 \(n\)) から、より低いエネルギー準位 \(E_{n’}\) (量子数 \(n’, n’ < n\)) へ遷移するとき、そのエネルギー差 \(\Delta E\) に等しいエネルギーを持つ光子が放出されます。
$$ \Delta E = E_n – E_{n’} $$
放出される光子の波長を \(\lambda\) とすると、そのエネルギーは \(hc/\lambda\) なので、振動数条件は
$$ \frac{hc}{\lambda} = E_n – E_{n’} $$
この式を \(1/\lambda\) について解くと、
$$ \frac{1}{\lambda} = \frac{E_n – E_{n’}}{hc} $$
ここに、(エ)で求めた \(E_n = -\displaystyle\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \frac{1}{n^2}\) の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
E_n – E_{n’} &= \left(-\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \frac{1}{n^2}\right) – \left(-\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \frac{1}{n’^2}\right) \\[2.0ex]&= \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \left(\frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2}\right)
\end{aligned}
$$
これを \(1/\lambda\) の式に代入します。

使用した物理公式

  • ボーアの振動数条件: \(\Delta E = hc/\lambda\)
  • 問(エ)で導出した \(E_n\) の式
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\lambda} &= \frac{1}{hc} (E_n – E_{n’}) \\[2.0ex]&= \frac{1}{hc} \left[ \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^2} \left(\frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2}\right) \right] \\[2.0ex]&= \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^3 c} \left(\frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2}\right)
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電子が高いエネルギー状態から低いエネルギー状態へ「ジャンプ」するとき、その差額分のエネルギーを光として放出します。このルールを数式(振動数条件)で表します。放出される光のエネルギーは波長 \(\lambda\) で決まるので、この式を \(1/\lambda\) イコールの形に変形します。最後に、(エ)で求めたエネルギーの具体的な式を代入すれば、答えの式が完成します。

結論と吟味

放出される光の波長の逆数は、\( \displaystyle\frac{1}{\lambda} = \frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^3 c} \left(\frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2}\right) \) となります。この式の \(n, n’\) 以外の部分は定数であり、これがリュードベリ定数 \(R\) に対応します。実験結果であるバルマー系列などの線スペクトルの規則性を見事に説明する式であり、妥当です。

解答 (オ) \(\displaystyle\frac{2\pi^2 m k_0^2 e^4}{h^3 c} \left(\frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2}\right)\)

問(カ)

思考の道筋とポイント
水素原子の線スペクトルのうち、可視光線領域に対応するのはバルマー系列、すなわち量子数 \(n’=2\) の状態への遷移です。2番目に長い波長を求めるには、まず「波長が長い」ことが「エネルギー差 \(\Delta E\) が小さい」ことに対応することを理解します。\(n’=2\) への遷移でエネルギー差が最も小さいのは \(n=3 \rightarrow n’=2\) の遷移(最も長い波長)、2番目に小さいのは \(n=4 \rightarrow n’=2\) の遷移です。したがって、\(n=4\) から \(n’=2\) への遷移によって放出される光の波長を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 可視光線領域のスペクトルはバルマー系列 (\(n’=2\)) であることを知っているか。
  • 波長が長い \(\Leftrightarrow\) エネルギーが小さい \(\Leftrightarrow\) 遷移前後の量子数の差が小さい、という関係を理解しているか。
  • リュードベリの公式 \( \displaystyle\frac{1}{\lambda} = R \left(\frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2}\right) \) を用いて具体的な計算ができるか。

具体的な解説と立式
水素原子のスペクトルで、可視光線領域に現れるのは、電子が \(n \ge 3\) の励起状態から \(n’=2\) の状態へ遷移する際に放出される光(バルマー系列)です。
波長 \(\lambda\) とエネルギー差 \(\Delta E\) の関係は \(\lambda = hc/\Delta E\) なので、波長が長いほどエネルギー差は小さくなります。
\(n’=2\) への遷移において、

  • 最もエネルギー差が小さい(最も波長が長い)のは、\(n=3\) からの遷移。
  • 2番目にエネルギー差が小さい(2番目に波長が長い)のは、\(n=4\) からの遷移。

したがって、求めるのは \(n=4 \rightarrow n’=2\) の遷移に対応する波長です。
リュードベリの公式に \(n=4, n’=2\) と、与えられたリュードベリ定数 \(R=1.1 \times 10^7 \text{ /m}\) を代入します。
$$ \frac{1}{\lambda} = R \left(\frac{1}{2^2} – \frac{1}{4^2}\right) $$

使用した物理公式

  • リュードベリの公式: \( \displaystyle\frac{1}{\lambda} = R \left(\frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2}\right) \)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\lambda} &= R \left(\frac{1}{4} – \frac{1}{16}\right) \\[2.0ex]&= R \left(\frac{4-1}{16}\right) \\[2.0ex]&= \frac{3}{16}R
\end{aligned}
$$
したがって、波長 \(\lambda\) は、
$$
\begin{aligned}
\lambda &= \frac{16}{3R} \\[2.0ex]&= \frac{16}{3 \times (1.1 \times 10^7)} \\[2.0ex]&= \frac{16}{3.3 \times 10^7} \\[2.0ex]&\approx 4.848 \times 10^{-7} \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるので、\(4.8 \times 10^{-7} \text{ m}\) となります。

計算方法の平易な説明

まず、可視光線に対応する電子のジャンプは、ゴールが2階 (\(n’=2\)) のものだと知っておく必要があります。「2番目に長い波長」ということは、「2番目にエネルギーが小さいジャンプ」を意味します。ゴールが2階のジャンプで、一番エネルギーが小さいのは3階から、2番目に小さいのは4階からです。したがって、4階から2階へのジャンプの際の光の波長を、リュードベリの公式を使って計算します。

結論と吟味

計算結果は \(\lambda \approx 4.8 \times 10^{-7} \text{ m} = 480 \text{ nm}\) となり、これは可視光線領域 (\(3.8 \times 10^{-7} \text{ m} \sim 7.8 \times 10^{-7} \text{ m}\)) に含まれており、物理的に妥当です。これは青緑色の光に相当します。

解答 (カ) \(4.8 \times 10^{-7}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 円運動の運動方程式(古典力学):
    • 核心: 電子に働くクーロン力 \(k_0 e^2/r^2\) が、円運動の向心力 \(mv^2/r\) として作用するという、古典力学に基づいた力のつり合いがモデルの出発点です(問ア)。
    • 理解のポイント: この段階では、まだ量子論は導入されていません。原子の世界を、惑星の運動と同じように古典力学で記述しようという試みです。
  • ボーアの量子条件(量子論の導入):
    • 核心: 電子の軌道は連続的ではなく、特定の条件を満たすとびとびの軌道(定常状態)しか許されない、という量子論的な制約です。問題では「電子の物質波が定常波をなす条件 \(2\pi r = n\lambda_e\)」として導入されています(問イ)。
    • 理解のポイント: この量子条件が、なぜ原子が安定に存在できるのか、なぜ線スペクトルが現れるのかを説明する鍵となります。古典力学だけでは説明できない現象を、この「量子化」という新しい概念で説明します。
  • エネルギー準位と振動数条件:
    • 核心: 量子条件から、電子がとりうるエネルギーもとびとびの値(エネルギー準位 \(E_n\))になることが導かれます(問エ)。そして、電子が準位間を遷移(ジャンプ)するとき、そのエネルギー差に等しいエネルギーの光子を放出・吸収します(\(\Delta E = h\nu\)、問オ)。
    • 理解のポイント: この2つの概念が、水素原子の輝線スペクトルがなぜ特定の波長(色)の線しか示さないのかを理論的に説明します。\(E_n\) の式と振動数条件を組み合わせることで、リュードベリの公式が理論的に導出されます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • イオンの原子モデル: 水素原子(陽子1個、電子1個)だけでなく、ヘリウムイオン \(\text{He}^+\)(原子核電荷 \(+2e\)、電子1個)など、他のイオンにボーアモデルを適用する問題。原子核の電荷が \(+Ze\) に変わるため、クーロン力の式が \(k_0 (Ze)e/r^2\) となります。これにより、軌道半径やエネルギー準位の式が \(Z\) にどう依存するかを考察させられます。
    • 対応原理: 量子数 \(n\) が非常に大きい極限では、量子論的な結果が古典論的な結果に一致するという原理。例えば、\(n \rightarrow n-1\) の遷移で放出される光の振動数が、電子の古典的な円運動の振動数に近づくことを示す問題などがあります。
    • 換算質量: より精密なモデルでは、原子核が静止していると仮定せず、電子と原子核が共通重心の周りを回ると考えます。この場合、電子の質量 \(m\) の代わりに、換算質量 \(\mu = \frac{mM}{m+M}\)(\(M\)は原子核質量)を用いる必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. モデルの確認: 問題でどのような仮定(量子条件など)が置かれているかを正確に把握します。ボーアモデルには複数の導入の仕方(角運動量の量子化、定常波条件など)がありますが、問題文で指定された出発点から論理を展開することが重要です。
    2. エネルギーの関係性の整理: 全エネルギー \(E\)、運動エネルギー \(K\)、位置エネルギー \(U\) の関係を常に意識します。特に、円運動の運動方程式から導かれる \(K = -U/2\) や \(E = U/2 = -K\) という関係(ビリアル定理)は、計算を簡略化し、検算にも役立つ強力なツールです。
    3. スペクトル系列の知識: ライマン系列(\(n’=1\), 紫外線)、バルマー系列(\(n’=2\), 可視光線)、パッシェン系列(\(n’=3\), 赤外線)など、主要なスペクトル系列と、それらがどの電磁波領域に対応するかを知っていると、(カ)のような問題で考察がスムーズに進みます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 位置エネルギーの符号:
    • 誤解: 静電気力の位置エネルギーを \(+k_0 e^2/r\) としてしまう。
    • 対策: 位置エネルギーは、基準点(無限遠)からその点まで力を及ぼしながら物体を運ぶのに必要な仕事として定義されます。原子核(\(+\))と電子(\(-\))の間には引力が働くため、無限遠から電子を近づける際に外力がする仕事は負になります。したがって、位置エネルギーは \(U = -k_0 e^2/r\) となります。「引力ポテンシャルは負」と覚えておきましょう。
  • 量子数の代入ミス:
    • 誤解: (オ)の \(1/\lambda\) の式で、\(n\) と \(n’\) を逆に入れてしまう。
    • 対策: 光が放出されるのは、エネルギーが高い状態(\(n\))から低い状態(\(n’\))への遷移です。したがって、エネルギー差 \(\Delta E = E_n – E_{n’}\) は必ず正の値になります。\(E_n \propto -1/n^2\) なので、\(\Delta E\) を正にするためには、\(\frac{1}{n’^2} – \frac{1}{n^2}\) の形(小さい方の量子数が先)になることを確認しましょう。
  • 長い波長と短い波長の混同:
    • 誤解: (カ)で「2番目に長い波長」を求めるときに、\(n=5 \rightarrow n’=2\) のように、よりエネルギー差の大きい遷移を選んでしまう。
    • 対策: エネルギーと波長の関係式 \(E=hc/\lambda\) を常に意識しましょう。エネルギー \(E\) と波長 \(\lambda\) は反比例の関係です。したがって、「波長が長い」ことは「エネルギーが小さい」ことと同値です。エネルギーが小さい遷移とは、準位の差が小さい遷移、つまり \(n\) と \(n’\) の値が近い遷移を指します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • エネルギー準位図: 水素原子のエネルギー準位を、縦軸をエネルギーとして階段状に描く図は非常に有効です。
      • \(n=1\)(基底状態)が最も低い位置にあり、\(n=2, 3, 4, \dots\) と上にいくほど準位の間隔が狭くなっていきます。
      • \(n=\infty\) がエネルギー \(0\) の基準(イオン化状態)です。
      • (オ)や(カ)で考える電子の遷移は、この階段を「下向きの矢印」として描き込むことができます。矢印の長さが放出される光子のエネルギー \(\Delta E\) に対応します。
      • バルマー系列(\(n’=2\))は、様々な上の階から2階へ下りてくる矢印の集まりとして視覚化できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 準位の間隔: エネルギー準位図を描く際は、\(E_n \propto -1/n^2\) の関係を反映させ、\(n\) が大きくなるにつれて準位の間隔が「密」になるように描くと、より正確なイメージを持つことができます。
    • 遷移の矢印: どの準位からどの準位への遷移なのかを、矢印の始点と終点の量子数で明確に示しましょう。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 \(m v^2/r = k_0 e^2/r^2\):
    • 選定理由: (ア)で、電子の力学的な安定性を記述するため。
    • 適用根拠: 電荷間に働く力がクーロン力であり、それが向心力として円運動を引き起こしているという物理モデルに基づきます。
  • 量子条件 \(2\pi r = n h/(mv)\):
    • 選定理由: (イ)で、古典力学だけでは説明できない原子の安定性やスペクトルの不連続性を説明するための、量子論的な制約を導入するため。
    • 適用根拠: 電子の波動性を考慮し、軌道上で波が安定に存在するための定常波の条件を適用します。
  • 全エネルギー \(E_n = K_n + U_n\):
    • 選定理由: (エ)で、特定の定常状態にある電子のエネルギーを定義するため。
    • 適用根拠: エネルギー保存則の考え方に基づき、系の全エネルギーは運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和で与えられるという、物理学の基本原理です。
  • 振動数条件 \(\Delta E = hc/\lambda\):
    • 選定理由: (オ)で、電子のエネルギー準位の差と、放出される光の波長を結びつけるため。
    • 適用根拠: 光の粒子性(光子)とエネルギー保存則に基づきます。原子が失ったエネルギーは、一つの光子として放出されるというモデルです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (ア) 力学: 運動方程式を立て、\(r\) について解く。
  2. (イ) 量子論: 量子条件を数式で表す。
  3. (ウ) 半径の導出: (ア)と(イ)の2式を連立し、\(v\) を消去して \(r_n\) を求める。
  4. (エ) エネルギーの導出: 全エネルギーの定義式 \(E_n = K_n + U_n\) に、(ア)の関係と(ウ)の結果を代入し、\(E_n\) を求める。
  5. (オ) 波長の導出: 振動数条件 \(\Delta E = hc/\lambda\) に、(エ)で求めた \(E_n\) の式を代入し、\(1/\lambda\) を求める。
  6. (カ) 具体的な計算:
    • 戦略: 可視光線 \(\rightarrow\) バルマー系列(\(n’=2\)) \(\rightarrow\) 2番目に長い波長 \(\rightarrow\) 2番目に小さいエネルギー差 \(\rightarrow\) \(n=4 \rightarrow n’=2\) の遷移、と論理的に絞り込む。
    • フロー: リュードベリの公式に \(n=4, n’=2\) を代入し、与えられた \(R\) の値を使って \(\lambda\) を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字計算の整理: (ウ)や(エ)のように、複数の物理定数が含まれる計算では、最終的な式の形を意識しながら、焦らず丁寧に代数計算を進めましょう。分数の分母・分子を間違えないように注意が必要です。
  • 単位の確認: (カ)の計算では、リュードベリ定数 \(R\) の単位が \(\text{/m}\) (メートルの逆数) であることを確認します。これにより、計算結果の \(\lambda\) がメートル単位で得られることがわかります。
  • 検算: (エ)で導出した \(E_n\) と(ウ)で導出した \(r_n\) の間に、\(E_n = -k_0 e^2 / (2r_n)\) の関係が成り立っているかを確認するなど、導出した式同士の整合性をチェックする習慣をつけると、ミスを発見しやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (ウ) 軌道半径: \(r_n \propto n^2\) であり、量子数 \(n\) が大きいほど軌道半径は急激に大きくなる。これは、電子がより外側を回るイメージと一致します。
    • (エ) エネルギー準位: \(E_n \propto -1/n^2\) であり、エネルギーは常に負(束縛状態)で、\(n\) が大きいほどエネルギーは \(0\) に近づく(束縛が緩くなる)。これも物理的なイメージと合致します。
    • (カ) 波長のオーダー: 計算結果の \(4.8 \times 10^{-7} \text{ m}\) は、数百ナノメートルという可視光の波長のオーダーとして妥当です。もし計算結果が \(10^{-10} \text{ m}\) (X線領域) や \(10^{-3} \text{ m}\) (マイクロ波領域) のようになってしまったら、どこかで計算ミスを疑うべきです。

問題155 (大阪市大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、原子核の様々な性質、すなわちα崩壊におけるエネルギーと運動量、荷電粒子の散乱、放射性崩壊の系列、半減期、そして核分裂のエネルギー計算までを幅広く問う総合問題です。一つ一つの設問は基本的な物理法則に基づいているため、各現象に対応する法則を正確に適用できるかが鍵となります。

与えられた条件
  • 原子核X, Y, α粒子の質量: \(M_0, M_1, m\)
  • 質量欠損の条件: \(M_0 > M_1 + m\)
  • 真空中の光速: \(c\)
  • (3) α崩壊で生じるα粒子の運動エネルギー: \(K\)
  • 金(Au)原子核の原子番号: 79
  • 電気素量: \(e\)
  • クーロンの法則の定数: \(k_0\)
  • (4) 崩壊系列: \({}^{235}_{92}\text{U} \rightarrow {}^{223}_{88}\text{Ra} + n\alpha + k\beta\)
  • (5) 半減期: \({}^{238}_{92}\text{U}\) は \(T_A = 4.5 \times 10^9\) 年, \({}^{235}_{92}\text{U}\) は \(T_B = 7.5 \times 10^8\) 年 (※模範解答の計算に合わせるため、問題文の元素と半減期の対応を修正)
  • 現在の存在比: \({}^{235}_{92}\text{U} : {}^{238}_{92}\text{U} = 1 : 140\)
  • (6) \({}^{235}_{92}\text{U}\) 1個の核分裂エネルギー: \(2.0 \times 10^8 \text{ eV}\)
  • 毎秒核分裂する\({}^{235}_{92}\text{U}\)の質量: \(1.1 \times 10^{-7} \text{ kg}\)
  • 電気素量: \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\)
  • アボガドロ定数: \(N_A = 6.0 \times 10^{23} \text{ /mol}\)
  • \({}^{235}_{92}\text{U}\)のモル質量: \(235 \text{ g/mol}\)
問われていること
  • (1) α崩壊で発生する全運動エネルギー \(E\)。
  • (2) α粒子の運動エネルギー \(K_\alpha\)。
  • (3) α粒子が金原子核に最も近づく距離 \(r\)。
  • (4) α崩壊の回数 \(n\) と β崩壊の回数 \(k\)。
  • (5) 4.5×10⁹年前の \({}^{235}_{92}\text{U}\) と \({}^{238}_{92}\text{U}\) の存在比。
  • (6) 毎秒放出されるエネルギー \(Q\) [J]。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「原子核物理の基本法則の応用」です。各設問で異なる現象を扱いますが、根底にあるのは保存則や基本公式です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 質量とエネルギーの等価性: \(E=mc^2\) を用い、質量欠損がエネルギーに変換されることを理解します。
  2. 運動量保存則とエネルギー保存則: 崩壊や分裂といった現象では、外力が働かない限り、前後で運動量とエネルギーの総和が保存されます。
  3. 静電気力によるエネルギー保存: 荷電粒子間の相互作用では、運動エネルギーと静電気力による位置エネルギーの和が保存されます。
  4. 原子核崩壊の法則: 放射性同位体の原子数が時間と共に指数関数的に減少する半減期の式を正しく用います。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、質量欠損と \(E=mc^2\) から崩壊で発生する総エネルギーを求めます(問1)。
  2. 次に、運動量保存則とエネルギー保存則を連立させ、発生したエネルギーが各粒子にどう分配されるかを計算します(問2)。
  3. 荷電粒子間の散乱問題では、エネルギー保存則を用いて最近接距離を求めます(問3)。
  4. 崩壊系列では、質量数と原子番号の保存則から連立方程式を立てて解きます(問4)。
  5. 半減期の問題では、現在の状態から過去の状態を逆算します(問5)。
  6. 核分裂のエネルギー計算では、質量から原子数を求め、総エネルギーを算出します(問6)。

問(1)

思考の道筋とポイント
α崩壊によって発生するエネルギーの総量を求める問題です。原子核反応の前後で質量が僅かに減少します。この減少した質量(質量欠損)が、アインシュタインの質量とエネルギーの等価性の式 \(E=mc^2\) に従ってエネルギーに変換されます。
この設問における重要なポイント

  • 反応前の総質量と反応後の総質量を正確に把握する。
  • 質量欠損 \(\Delta m\) は「(反応前の質量の和)-(反応後の質量の和)」で計算する。
  • 発生するエネルギーは \(E = \Delta m c^2\) で与えられる。

具体的な解説と立式
初め、静止している原子核X(質量\(M_0\))が存在します。
これがα崩壊して、原子核Y(質量\(M_1\))とα粒子(質量\(m\))が生成されます。
反応前の質量は \(M_0\) です。
反応後の質量の合計は \(M_1 + m\) です。
したがって、この反応による質量欠損 \(\Delta m\) は、
$$ \Delta m = M_0 – (M_1 + m) $$
この質量欠損がエネルギーに変換されるので、発生する運動エネルギーの総量 \(E\) は、
$$ E = \Delta m c^2 $$
となります。

使用した物理公式

  • 質量とエネルギーの等価性: \(E = mc^2\)
計算過程

上記の2つの式を組み合わせます。
$$
\begin{aligned}
E &= \Delta m c^2 \\[2.0ex]&= (M_0 – M_1 – m)c^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

原子核が崩壊する際、ごくわずかに全体の質量が軽くなります。この「消えた」質量が、アインシュタインの有名な公式 \(E=mc^2\) に従って、運動エネルギーという形で現れます。まず、反応の前と後で質量がどれだけ減ったか(質量欠損)を計算し、その値に光の速さの2乗を掛けることで、発生した全エネルギーを求めます。

結論と吟味

このα崩壊で発生する運動エネルギーは \(E = (M_0 – M_1 – m)c^2\) です。問題文の条件 \(M_0 > M_1 + m\) より、質量欠損 \(\Delta m\) は正の値となり、エネルギーが放出される反応であることが確認できます。これは発熱反応に相当し、物理的に妥当な結果です。

解答 (1) \(E = (M_0 – M_1 – m)c^2\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた全エネルギー \(E\) が、生成された原子核Yとα粒子に運動エネルギーとして分配されます。もともと原子核Xは静止していたため、これは「静止物体の分裂」と見なせます。分裂の前後で、系の全運動量と全エネルギーは保存されます。この2つの保存則を用いて、α粒子の運動エネルギー \(K_\alpha\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則: 分裂前の運動量は0なので、分裂後の2つの粒子の運動量は、大きさが等しく向きが逆になる。
  • エネルギー保存則: (1)で求めたエネルギー \(E\) が、2つの粒子の運動エネルギーの和に等しい。
  • 運動量と運動エネルギーの関係: 運動エネルギー \(K\) と運動量の大きさ \(p\) の間には \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) すなわち \(p = \sqrt{2mK}\) の関係がある。

具体的な解説と立式
原子核Yとα粒子の運動エネルギーをそれぞれ \(K_Y, K_\alpha\)、運動量の大きさを \(p_Y, p_\alpha\) とします。
初めの原子核Xは静止しているので、運動量は0です。
運動量保存則より、分裂後の運動量のベクトル和も0となります。
$$ \vec{p}_Y + \vec{p}_\alpha = \vec{0} $$
これは、2つの粒子の運動量の大きさが等しいことを意味します。
$$ p_Y = p_\alpha \quad \cdots ① $$
エネルギー保存則より、2つの粒子の運動エネルギーの和は(1)で求めた \(E\) に等しくなります。
$$ K_Y + K_\alpha = E \quad \cdots ② $$
ここで、運動量と運動エネルギーの関係式 \(p = \sqrt{2(\text{質量})K}\) を用いて①式を書き換えます。
$$ \sqrt{2M_1 K_Y} = \sqrt{2m K_\alpha} \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • エネルギー保存則
  • 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\)
計算過程

まず、③式から \(K_Y\) を \(K_\alpha\) で表します。
$$
\begin{aligned}
\sqrt{2M_1 K_Y} &= \sqrt{2m K_\alpha} \\[2.0ex]2M_1 K_Y &= 2m K_\alpha \\[2.0ex]K_Y &= \frac{m}{M_1} K_\alpha
\end{aligned}
$$
次に、この結果をエネルギー保存則の②式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{m}{M_1} K_\alpha + K_\alpha &= E \\[2.0ex]\left( \frac{m}{M_1} + 1 \right) K_\alpha &= E \\[2.0ex]\left( \frac{m + M_1}{M_1} \right) K_\alpha &= E \\[2.0ex]K_\alpha &= \frac{M_1}{m+M_1} E
\end{aligned}
$$
最後に、(1)で求めた \(E = (M_0 – M_1 – m)c^2\) を代入します。
$$ K_\alpha = \frac{M_1}{m+M_1} (M_0 – M_1 – m)c^2 $$

計算方法の平易な説明

静止していた物体が2つに分裂するとき、軽い破片ほど速く、重い破片はゆっくり飛び出します。これは、2つの破片の運動量の大きさが等しくなければならないからです。エネルギーもこの2つの破片で分け合いますが、運動エネルギーは質量の逆比で分配されます。この問題では、運動量保存則とエネルギー保存則という2つのルールから連立方程式を立て、α粒子が受け取る分のエネルギーを計算します。

結論と吟味

α粒子の運動エネルギーは \(K_\alpha = \displaystyle\frac{M_1}{m+M_1} (M_0 – M_1 – m)c^2\) です。全エネルギー \(E\) のうち、\(\displaystyle\frac{M_1}{m+M_1}\) の割合がα粒子に分配されることを示しています。これは質量の逆比の分配(α粒子の質量\(m\)が分母の相方である\(M_1\)として分子に来る)となっており、物理的に正しい結果です。

解答 (2) \(K_\alpha = \displaystyle\frac{M_1}{M_1+m}(M_0 – M_1 – m)c^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
正の電荷を持つα粒子が、同じく正の電荷を持つ金(Au)原子核に近づく状況です。α粒子はAu原子核からの静電気的な反発力(クーロン力)によって減速されます。この力は保存力なので、α粒子の力学的エネルギー(運動エネルギーと静電気力による位置エネルギーの和)は保存されます。最も近づいたとき(最近接距離)には、α粒子の速さは一瞬0になります。このときのエネルギー保存則を立式して距離 \(r\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: (運動エネルギー)+(静電気力による位置エネルギー)= 一定。
  • 初期状態: α粒子はAu原子核から十分に離れている(無限遠)。このとき、運動エネルギーは \(K\)、位置エネルギーは基準点なので0とする。
  • 最終状態: α粒子が最近接距離 \(r\) にある。このとき、速さは0なので運動エネルギーは0。位置エネルギーは \(U(r)\) となる。
  • 静電気力による位置エネルギー: 電荷 \(q\) の粒子が、電位 \(V\) の点にあるときの位置エネルギーは \(U=qV\)。点電荷 \(Q\) が作る電位は \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)。

具体的な解説と立式
エネルギー保存則を考えます。
初めの状態(無限遠)では、運動エネルギーは \(K\)、位置エネルギーは基準点なので \(0\) です。よって、初めのエネルギー \(E_{\text{初}}\) は、
$$ E_{\text{初}} = K + 0 $$
最も近づいた状態(距離 \(r\))では、速さが \(0\) になるため運動エネルギーは \(0\)、位置エネルギーは \(U(r)\) となります。よって、終わりのエネルギー \(E_{\text{終}}\) は、
$$ E_{\text{終}} = 0 + U(r) $$
ここで、位置エネルギー \(U(r)\) は、電荷 \(q_\alpha = +2e\) のα粒子が、Au原子核(電荷 \(q_{\text{Au}} = +79e\))が作る電位 \(V_{\text{Au}}(r)\) の中にいるときのエネルギーです。
距離 \(r\) の点の電位は、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{Au}}(r) &= k_0 \frac{q_{\text{Au}}}{r} \\[2.0ex]&= k_0 \frac{79e}{r}
\end{aligned}
$$
したがって、位置エネルギー \(U(r)\) は、
$$
\begin{aligned}
U(r) &= q_\alpha V_{\text{Au}}(r) \\[2.0ex]&= (2e) \left( k_0 \frac{79e}{r} \right) \\[2.0ex]&= k_0 \frac{158e^2}{r}
\end{aligned}
$$
エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{終}}\) より、
$$ K = k_0 \frac{158e^2}{r} $$

使用した物理公式

  • エネルギー保存則
  • 静電気力による位置エネルギー: \(U = qV\)
  • 点電荷のまわりの電位: \(V = k_0 \displaystyle\frac{Q}{r}\)
計算過程

上記で立式したエネルギー保存則の式を、\(r\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
K &= k_0 \frac{158e^2}{r} \\[2.0ex]r K &= 158 k_0 e^2 \\[2.0ex]r &= \frac{158 k_0 e^2}{K}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

プラスの電荷を持つα粒子が、同じくプラスの電荷を持つ金の原子核にヘッドオンで向かっていくと、電気的な反発力でどんどんスピードが落ち、やがて一瞬だけ停止して跳ね返されます。この「一瞬停止した点」が最も近づける距離です。この瞬間、α粒子が最初に持っていた運動エネルギーのすべてが、電気的な反発力による「位置エネルギー」に姿を変えたと考えられます。この「エネルギーの変身」の前後で量は等しい、という式を立てて距離を計算します。

結論と吟味

α粒子とAu原子核が最も近づいたときの距離は \(r = \displaystyle\frac{158 k_0 e^2}{K}\) です。この式は、α粒子の初期運動エネルギー \(K\) が大きいほど、より原子核の近くまで到達できる(\(r\) が小さくなる)ことを示しており、物理的な直感と一致する妥当な結果です。

解答 (3) \(r = \displaystyle\frac{158k_0e^2}{K}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
原子核反応や放射性崩壊の前後では、反応に関わる粒子の「質量数の総和」と「原子番号の総和」はそれぞれ変化しません。これらを質量数保存則、原子番号保存則(または電荷保存則)と呼びます。この2つの保存則を用いて、α崩壊の回数 \(n\) とβ崩壊の回数 \(k\) に関する連立方程式を立てて解きます。
この設問における重要なポイント

  • α崩壊: ヘリウム原子核 \({}^{4}_{2}\text{He}\) を1個放出する。質量数が4減り、原子番号が2減る。
  • β崩壊: 電子 \({}^{0}_{-1}\text{e}\) を1個放出する。質量数は変わらず、原子番号が1増える。(これは原子核内の中性子1個が陽子1個と電子1個に変わるため)
  • 保存則: 反応式の矢印の左右で、上付きの数字(質量数)の合計と、下付きの数字(原子番号)の合計がそれぞれ等しくなる。

具体的な解説と立式
与えられた崩壊系列を反応式で書きます。
$$ {}^{235}_{92}\text{U} \rightarrow {}^{223}_{88}\text{Ra} + n \cdot ({}^{4}_{2}\text{He}) + k \cdot ({}^{0}_{-1}\text{e}) $$
この反応式について、保存則を適用します。
質量数保存則(上付きの数字に着目):
$$ 235 = 223 + n \times 4 + k \times 0 \quad \cdots ① $$
原子番号保存則(下付きの数字に着目):
$$ 92 = 88 + n \times 2 + k \times (-1) \quad \cdots ② $$
これで、未知数 \(n, k\) に関する2つの一次方程式が得られました。

使用した物理公式

  • 質量数保存則
  • 原子番号保存則
計算過程

まず、①式を解いて \(n\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
235 &= 223 + 4n \\[2.0ex]4n &= 235 – 223 \\[2.0ex]4n &= 12 \\[2.0ex]n &= 3
\end{aligned}
$$
次に、この \(n=3\) を②式に代入して \(k\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
92 &= 88 + 2n – k \\[2.0ex]92 &= 88 + 2(3) – k \\[2.0ex]92 &= 88 + 6 – k \\[2.0ex]92 &= 94 – k \\[2.0ex]k &= 94 – 92 \\[2.0ex]k &= 2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

原子核の崩壊は、一種のパズルのようなものです。元のウラン原子核が、最終的にラジウム原子核になるまでに、α粒子(質量数4、原子番号2)とβ粒子(質量数0、原子番号-1)をいくつか放出します。このとき、「質量数の合計」と「原子番号の合計」は崩壊の前後で変わりません。この2つのルールを使って、放出されたα粒子とβ粒子の個数(nとk)を計算します。

結論と吟味

α崩壊は \(n=3\) 回、β崩壊は \(k=2\) 回です。
検算してみましょう。
質量数: \(235 \rightarrow 235 – 3 \times 4 = 223\)。一致します。
原子番号: \(92 \rightarrow 92 – 3 \times 2 + 2 \times 1 = 92 – 6 + 2 = 88\)。一致します。
よって、計算は正しいです。

解答 (4) \(n=3, k=2\)

問(5)

思考の道筋とポイント
放射性原子核の数は、半減期 \(T\) に従って時間とともに \(N(t) = N_0 (\frac{1}{2})^{t/T}\) の式で減少します。この問題では、現在の原子数の比と各原子核の半減期が与えられているので、この式を使って \(t = 4.5 \times 10^9\) 年前の原子数をそれぞれ逆算し、その比を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 原子核崩壊の公式: \(N = N_0 (\displaystyle\frac{1}{2})^{t/T}\)。ここで \(N_0\) は時刻0の原子数、\(N\) は時間 \(t\) 後の原子数。
  • この問題では、4.5×10⁹年前を「時刻0」(\(N_0\))、現在を「時間 \(t\) 後」(\(N\))と設定する。
  • 存在比は原子数の比に等しい。
  • 計算を簡単にするため、\({}^{238}_{92}\text{U}\) をA、\({}^{235}_{92}\text{U}\) をBと記す。
    • \(T_A = 4.5 \times 10^9\) 年
    • \(T_B = 7.5 \times 10^8\) 年
    • 経過時間 \(t = 4.5 \times 10^9\) 年

具体的な解説と立式
現在の \({}^{238}\text{U}\) と \({}^{235}\text{U}\) の原子数をそれぞれ \(N_A, N_B\)、4.5×10⁹年前の原子数をそれぞれ \(N_{A0}, N_{B0}\) とします。
原子核崩壊の公式より、
$$ N_A = N_{A0} \left(\frac{1}{2}\right)^{t/T_A} \quad \cdots ① $$
$$ N_B = N_{B0} \left(\frac{1}{2}\right)^{t/T_B} \quad \cdots ② $$
現在の存在比は \({}^{235}\text{U} : {}^{238}\text{U} = 1 : 140\) なので、
$$ \frac{N_B}{N_A} = \frac{1}{140} \quad \cdots ③ $$
求めたいのは4.5×10⁹年前の存在比、すなわち \(\displaystyle\frac{N_{B0}}{N_{A0}}\) です。
①式と②式の比をとると、
$$
\begin{aligned}
\frac{N_B}{N_A} &= \frac{N_{B0} (\frac{1}{2})^{t/T_B}}{N_{A0} (\frac{1}{2})^{t/T_A}} \\[2.0ex]&= \frac{N_{B0}}{N_{A0}} \left(\frac{1}{2}\right)^{t/T_B – t/T_A}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 原子核崩壊の式: \(N = N_0 (\displaystyle\frac{1}{2})^{t/T}\)
計算過程

まず、指数部分を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{t}{T_A} &= \frac{4.5 \times 10^9}{4.5 \times 10^9} \\[2.0ex]&= 1
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
\frac{t}{T_B} &= \frac{4.5 \times 10^9}{7.5 \times 10^8} \\[2.0ex]&= \frac{45}{7.5} \\[2.0ex]&= 6
\end{aligned}
$$
これらの値を①式、②式に代入すると、
$$ N_A = N_{A0} \left(\frac{1}{2}\right)^1 $$
$$ N_B = N_{B0} \left(\frac{1}{2}\right)^6 $$
これらの式の比をとります。
$$
\begin{aligned}
\frac{N_B}{N_A} &= \frac{N_{B0} \cdot (1/2)^6}{N_{A0} \cdot (1/2)^1} \\[2.0ex]&= \frac{N_{B0}}{N_{A0}} \left(\frac{1}{2}\right)^{6-1} \\[2.0ex]&= \frac{N_{B0}}{N_{A0}} \left(\frac{1}{2}\right)^5
\end{aligned}
$$
この式に、現在の存在比 ③ を代入して \(\displaystyle\frac{N_{B0}}{N_{A0}}\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{140} &= \frac{N_{B0}}{N_{A0}} \times \frac{1}{32} \\[2.0ex]\frac{N_{B0}}{N_{A0}} &= \frac{32}{140} \\[2.0ex]&= \frac{8}{35}
\end{aligned}
$$
よって、4.5×10⁹年前の存在比は \({}^{235}\text{U} : {}^{238}\text{U} = N_{B0} : N_{A0} = 8 : 35\) となります。

計算方法の平易な説明

放射性物質は、時間が経つと一定のペース(半減期)で減っていきます。この問題では、現在のウランの比率がわかっているので、時間を45億年巻き戻して、過去の比率を計算します。それぞれのウランについて、半減期の公式を使って過去の量を計算し、その比を求めるという手順です。半減期が短い \({}^{235}\text{U}\) の方が速く減少するので、過去に遡るとその割合は現在より高くなっているはずです。

結論と吟味

4.5×10⁹年前の存在比は \({}^{235}\text{U} : {}^{238}\text{U} = 8 : 35\) です。
比の値を小数で比較すると、現在が \(1/140 \approx 0.0071\)、過去が \(8/35 \approx 0.229\) となり、過去の方が半減期の短い \({}^{235}\text{U}\) の割合が大幅に高かったことがわかります。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (5) \({}^{235}\text{U} : {}^{238}\text{U} = 8 : 35\)

問(6)

思考の道筋とポイント
1秒間に放出される総エネルギーを求めるには、まず「1秒間に核分裂する\({}^{235}\text{U}\)原子の個数」を計算する必要があります。与えられた質量 \(1.1 \times 10^{-7} \text{ kg}\) を、モル質量とアボガドロ定数を用いて原子の個数に変換します。そして、その個数に原子1個あたりの放出エネルギーを掛ければ、総エネルギーが求まります。単位換算(eVからJへ)を忘れないように注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 物質量の計算: 原子数 \(N\) は、質量 \(m\)、モル質量 \(M\)、アボガドロ定数 \(N_A\) を用いて \(N = \displaystyle\frac{m}{M} N_A\) で計算できる。単位を揃えること(kgとg)。
  • エネルギーの単位換算: \(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\)。
  • 総エネルギー: (原子の個数)×(1個あたりのエネルギー)。

具体的な解説と立式
1秒間に核分裂する\({}^{235}\text{U}\)の質量は \(m_{\text{秒}} = 1.1 \times 10^{-7} \text{ kg}\) です。
\({}^{235}\text{U}\)のモル質量は \(M = 235 \text{ g/mol} = 235 \times 10^{-3} \text{ kg/mol}\) です。
よって、1秒間に核分裂する\({}^{235}\text{U}\)の原子数 \(N\) は、
$$ N = \frac{m_{\text{秒}}}{M} \times N_A $$
1個の原子核が核分裂する際に放出するエネルギーは \(E_1 = 2.0 \times 10^8 \text{ eV}\) です。
これをジュールに換算すると、
$$ E_{1, \text{J}} = (2.0 \times 10^8) \times (1.6 \times 10^{-19}) \text{ [J]} $$
したがって、1秒間に放出される総エネルギー \(Q\) は、
$$ Q = N \times E_{1, \text{J}} = \left( \frac{m_{\text{秒}}}{M} N_A \right) \times E_{1, \text{J}} $$

使用した物理公式

  • 物質量と原子数の関係
  • エネルギーの単位換算
計算過程

与えられた値を代入して \(Q\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q &= \left( \frac{1.1 \times 10^{-7} \text{ [kg]}}{235 \times 10^{-3} \text{ [kg/mol]}} \times 6.0 \times 10^{23} \text{ [/mol]} \right) \times \left( 2.0 \times 10^8 \text{ [eV]} \times 1.6 \times 10^{-19} \text{ [J/eV]} \right) \\[2.0ex]&= \frac{1.1 \times 6.0 \times 2.0 \times 1.6}{235} \times 10^{-7 – (-3) + 23 + 8 – 19} \text{ [J]} \\[2.0ex]&= \frac{21.12}{235} \times 10^{(-7+3+23+8-19)} \text{ [J]} \\[2.0ex]&= \frac{21.12}{235} \times 10^{8} \text{ [J]} \\[2.0ex]&\approx 0.08987 \times 10^8 \text{ [J]} \\[2.0ex]&\approx 8.987 \times 10^6 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(9.0 \times 10^6 \text{ J}\) となります。

計算方法の平易な説明

この問題は、例えば「1秒間に燃える石炭の重さがわかっているとき、発生する熱の総量を求めよ」という問題と似ています。まず、与えられたウランの「質量」を「原子の個数」に変換します。これには、1モルあたりの質量(235g)とアボガドロ数(1モルあたりの個数)を使います。次に、原子1個あたりのエネルギーがeV(電子ボルト)で与えられているので、これをJ(ジュール)に換算します。最後に、「原子の個数」と「1個あたりのエネルギー[J]」を掛け合わせれば、1秒あたりの総エネルギーが求まります。

結論と吟味

1秒間に放出されるエネルギーは \(Q \approx 9.0 \times 10^6 \text{ J}\) です。これは 9.0 MJ (メガジュール) に相当し、ごくわずかな質量の核分裂から非常に大きなエネルギーが生まれることを示しています。原子力発電の原理を物語る、物理的に妥当な大きさの値です。

解答 (6) \(9.0 \times 10^6 \text{ J}\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)):
    • 核心: 原子核反応の前後で生じる質量欠損 \(\Delta m\) が、\(E = \Delta m c^2\) の関係式に従ってエネルギーに変換されるという、現代物理学の根幹をなす法則です。(1)でこの法則を直接的に使用します。
    • 理解のポイント: 質量はエネルギーの一形態であると捉えることが重要です。反応で質量が減ればエネルギーが放出され(発熱反応)、質量が増えればエネルギーが吸収されます(吸熱反応)。
  • 運動量保存則とエネルギー保存則:
    • 核心: 外力が働かない系では、物理現象の前後で運動量のベクトル和とエネルギーの総和がそれぞれ保存されます。特に(2)の静止核の分裂では、この2つの保存則を連立させるのが定石です。
    • 理解のポイント: 運動量保存は「分裂後の粒子は逆向きに同じ大きさの運動量で飛び出す」ことを、エネルギー保存は「発生した全エネルギーを分裂後の粒子が分け合う」ことを意味します。この2つを組み合わせることで、各粒子のエネルギー配分が決まります。
  • 力学的エネルギー保存則(静電気力):
    • 核心: (3)のように、荷電粒子が保存力である静電気力のみを受けて運動する場合、その(運動エネルギー)+(静電気力による位置エネルギー)の和は一定に保たれます。
    • 理解のポイント: 粒子が遠方にあるときの運動エネルギーが、原子核に近づくにつれて位置エネルギーに変換されていき、最近接点では全ての運動エネルギーが位置エネルギーに変わるとイメージします。
  • 原子核崩壊の法則(半減期):
    • 核心: 放射性原子核の数は、\(N = N_0 (\frac{1}{2})^{t/T}\) という指数関数に従って減少します。(5)ではこの法則を用いて、過去の原子数を推定します。
    • 理解のポイント: この式は、どの原子がいつ崩壊するかは確率的だが、多数の原子の集団としては予測可能な規則性で減少することを示しています。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 核融合反応: 複数の軽い原子核が合体して重い原子核になる反応。α崩壊とは逆のプロセスですが、同様に質量欠損を計算し、\(E=mc^2\) から放出エネルギーを求めます。
    • 光子の放出・吸収: 原子が光子を放出してエネルギー準位が下がる現象などでも、エネルギー保存則と運動量保存則が成り立ちます。光子の運動量は \(p = h/\lambda\) で与えられる点が異なります。
    • 様々な崩壊系列: β+崩壊(陽電子の放出)や電子捕獲(軌道電子を原子核が取り込む)など、他の崩壊モードを含む問題でも、(4)と同様に質量数と原子番号の保存則が解析の基本となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 反応の種類を特定する: まず、問題がどの現象(α崩壊、β崩壊、核分裂、散乱など)を扱っているかを明確にします。これにより、適用すべき物理法則が決まります。
    2. 保存則の成立を確認する: 「静止していた」「外力は働かない」「保存力のみ」といったキーワードに注目し、運動量保存則やエネルギー保存則が使えるかを見極めます。
    3. 単位に注意する: 原子核物理では、エネルギーにeV(電子ボルト)、質量にu(原子質量単位)が使われることがよくあります。計算の最終段階で、問題で要求されている単位(J、kgなど)に正しく変換することが不可欠です。特に(6)ではeVからJへの変換が必須です。
    4. 原子番号と質量数を正確に把握する: \({}^{A}_{Z}\text{X}\) の表記から、各原子核の陽子数(\(Z\))と中性子数(\(A-Z\))を正確に読み取ることが、(4)のような崩壊系列の問題を解く上での第一歩です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 質量欠損の計算ミス:
    • 誤解: 反応物と生成物のどちらからどちらを引くのかを混同する。
    • 対策: 質量欠損は常に「(反応前の総質量)-(反応後の総質量)」です。「減った分」がエネルギーになる、と覚えておきましょう。
  • 運動量とエネルギーの混同:
    • 誤解: (2)で、エネルギー \(E\) が原子核Yとα粒子に等しく分配されると考えてしまう。
    • 対策: 保存されるのは運動量の「大きさ」であり、エネルギーではありません。運動エネルギーは \(K=p^2/(2m)\) の関係から、同じ運動量でも質量の小さい粒子の方が大きくなります。「軽い方が速く、多くの運動エネルギーをもらう」と覚えておきましょう。
  • 半減期の式の指数の扱い:
    • 誤解: (5)で、\(N = N_0 (\frac{1}{2})^{T/t}\) のように、指数部分の \(t\) と \(T\) を逆にしてしまう。
    • 対策: 指数 \((t/T)\) は「経過時間 \(t\) の間に、半減期 \(T\) が何回分経過したか」を意味します。意味を理解しておけば、式を間違えにくくなります。
  • 単位換算の忘れ:
    • 誤解: (6)で、eVで計算したエネルギーをそのまま答えとしてしまう。
    • 対策: 問題文で「J(ジュール)単位で求めよ」と指定されている場合は、必ず最後に \(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\) を用いて換算します。計算を始める前に、最終的に必要な単位を確認する習慣をつけましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • エネルギー準位図: (1)や(2)の崩壊現象を、反応前の状態(静止したX)を高いエネルギー準位、反応後の状態(Yとαが飛び出す)を低いエネルギー準位として図示します。その準位の差が放出エネルギー \(E\) に相当します。
    • 運動量ベクトル図: (2)の分裂では、分裂前の運動量がゼロであることから、分裂後の原子核Yとα粒子の運動量ベクトルが、一直線上で互いに逆向き、同じ長さで描かれる図をイメージします。
    • ポテンシャル曲線: (3)の散乱問題では、横軸に原子核間距離 \(r\)、縦軸に位置エネルギー \(U(r) = k_0 q_1 q_2 / r\) をとったグラフ(反比例のグラフ)を描くと有効です。α粒子の全エネルギー \(K\) をこのグラフ上に水平線で引くと、ポテンシャル曲線と交わる点が最近接距離 \(r\) となり、エネルギー保存則を視覚的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 反応の前後を明確に: 崩壊や分裂の問題では、「前(Before)」と「後(After)」の図を並べて描き、それぞれの状態での粒子、質量、速度などを書き込むと、立式が容易になります。
    • 保存量の明記: 図の中に「\(p_{\text{全}} = \text{一定}\)」「\(E_{\text{全}} = \text{一定}\)」など、その場面で成り立つ保存則をメモしておくと、思考の軸がぶれません。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(E=mc^2\)(質量とエネルギーの等価性):
    • 選定理由: (1)で、原子核反応による「質量」の変化を「エネルギー」の発生に結びつけるため。この式以外に両者を関係づける法則はありません。
    • 適用根拠: 質量欠損が観測される全ての原子核現象(崩壊、分裂、融合)に適用できる普遍的な原理です。
  • 運動量保存則:
    • 選定理由: (2)で、分裂後の2つの粒子の速度(または運動エネルギー)の関係を求めるため。エネルギー保存則だけでは未知数が2つ(\(K_Y, K_\alpha\))あり、式が一つ足りないため、もう一つの制約条件として運動量保存則が必要になります。
    • 適用根拠: 反応の前後で系に外力が働いていない(孤立系である)ため。
  • エネルギー保存則:
    • 選定理由: (2)では発生したエネルギーの分配を、(3)では荷電粒子の運動状態の変化を追跡するために使用します。エネルギーは物理現象を記述する上で最も基本的な量の一つです。
    • 適用根拠: (2)では質量エネルギーを含めた総エネルギーの保存、(3)では保存力である静電気力のみが仕事をするため力学的エネルギーが保存される、という根拠に基づきます。
  • \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{t/T}\)(原子核崩壊の式):
    • 選定理由: (5)で、時間経過に伴う放射性原子核の数の変化を定量的に計算するため。
    • 適用根拠: 多数の原子核のランダムな崩壊が、統計的にこの指数関数的減衰モデルに従うことが実験的に確立されています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 全エネルギー:
    • 戦略: 質量欠損を計算し、\(E=mc^2\) に代入する。
    • フロー: ①反応前後の質量をリストアップ → ②\(\Delta m = M_0 – (M_1+m)\) を計算 → ③\(E = \Delta m c^2\) に代入。
  2. (2) α粒子のエネルギー:
    • 戦略: 運動量保存則とエネルギー保存則を連立させる。
    • フロー: ①運動量保存から \(p_Y = p_\alpha\) → ②\(p=\sqrt{2mK}\) を使い \(K_Y\) を \(K_\alpha\) で表す → ③エネルギー保存 \(K_Y+K_\alpha=E\) に代入し \(K_\alpha\) を解く → ④(1)の \(E\) を代入。
  3. (3) 最近接距離:
    • 戦略: エネルギー保存則を初期状態と最終状態で適用する。
    • フロー: ①初期エネルギー \(E_{\text{初}} = K\) → ②最終エネルギー \(E_{\text{終}} = U(r)\) → ③位置エネルギーの公式 \(U(r) = q_\alpha (k_0 q_{\text{Au}}/r)\) を計算 → ④\(E_{\text{初}} = E_{\text{終}}\) として \(r\) について解く。
  4. (4) 崩壊回数:
    • 戦略: 質量数と原子番号の保存則で連立方程式を立てる。
    • フロー: ①反応式を記述 → ②質量数(上付き数字)の和が等しい式を立てる → ③原子番号(下付き数字)の和が等しい式を立てる → ④連立方程式を解く。
  5. (5) 過去の存在比:
    • 戦略: 現在の原子数を基準に、崩壊の公式を逆向きに使って過去の原子数を求める。
    • フロー: ①各ウランについて \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{t/T}\) を \(N_0\) について解く形にする → ②現在の原子数の比 \((N_B/N_A)\) と、計算した指数 \((t/T)\) を代入 → ③過去の原子数の比 \((N_{B0}/N_{A0})\) を計算。
  6. (6) 総エネルギー/秒:
    • 戦略: 質量から原子数を求め、1個あたりのエネルギーを掛ける。
    • フロー: ①質量[kg]をモル質量[kg/mol]で割り、物質量[mol]を求める → ②アボガドロ数を掛けて原子数 \(N\) を求める → ③1個あたりのエネルギー[eV]を[J]に換算 → ④\(Q = N \times E_{1, \text{J}}\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 指数の計算: \(10^a \times 10^b = 10^{a+b}\), \(10^a / 10^b = 10^{a-b}\) といった指数法則を正確に使いこなすことが、(5)や(6)のような桁数の大きい計算では必須です。計算の際は、数値部分と指数部分を分けて計算するとミスが減ります。
  • 単位の一貫性: (6)のように、kgとg、eVとJが混在する計算では、計算を始める前に全ての単位を基本単位(SI単位系)に統一する(例:kgとJ)のが最も安全です。
  • 概算による検算: (6)の計算後、\(Q \approx \frac{1 \times 6 \times 2 \times 1.6}{240} \times 10^8 \approx \frac{20}{240} \times 10^8 \approx 0.08 \times 10^8 = 8 \times 10^6\) のように、キリの良い数字で大まかな桁を検算する習慣をつけると、大きな間違いに気づきやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) エネルギー分配: \(K_\alpha = \frac{M_1}{m+M_1} E\)。α粒子(\(m\))は原子核Y(\(M_1\))よりずっと軽いので、\(m \ll M_1\)。すると \(K_\alpha \approx \frac{M_1}{M_1} E = E\) となり、発生したエネルギーのほとんどを軽いα粒子が持っていくことがわかります。これは物理的に妥当です。
    • (5) 存在比: 半減期の短い \({}^{235}\text{U}\) は、半減期の長い \({}^{238}\text{U}\) よりも速く減少します。したがって、過去に遡れば遡るほど、\({}^{235}\text{U}\) の存在比は現在よりも高くなるはずです。計算結果 \(8:35\) は現在の \(1:140\) よりも \({}^{235}\text{U}\) の比率が高いので、妥当な結果と言えます。
  • 別解との比較:
    • (2)の計算では、模範解答のように \(K_Y\) を消去するのではなく、\(K_\alpha\) を消去して先に \(K_Y\) を求めることもできます。\(K_Y = \frac{m}{m+M_1}E\) となり、\(K_Y+K_\alpha=E\) から同じ \(K_\alpha\) の結果が導かれることを確認することで、計算の信頼性が高まります。
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