「重要問題集」徹底解説(151〜155問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題151 (近畿大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、X線の発生原理と、X線回折(ブラッグ反射)という2つの大きなテーマを扱っています。前半では、X線管内で電子を加速して金属に衝突させることで発生する連続X線と特性X線のスペクトルについて、後半では、そのX線を結晶に照射したときに起こる回折現象について考察します。

与えられた条件
  • 物理定数:プランク定数 \(h=6.6\times10^{-34}\) J・s, 電気素量 \(e=1.6\times10^{-19}\) C, 光の速さ \(c=3.0\times10^8\) m/s。
  • X線の発生:陰極で発生した電子を、加速電圧 \(V\) で加速し、陽極の金属板に衝突させる。
  • X線スペクトル:連続X線Aと、特性X線B, Cからなる(図1)。
  • X線回折:X線C(波長\(\lambda\))を結晶面(間隔\(d\))に入射角\(\theta\)で照射する(図2)。
問われていること
  • ア:X線の最短波長\(\lambda_0\)を求める式。
  • イ:加速電圧\(1.2\times10^5\) V のときの最短波長\(\lambda_0\)の数値。
  • ウ:加速電圧を増したときのX線スペクトルの変化のグラフ。
  • エ:X線回折で、隣り合う結晶面で反射したX線の強め合いの条件式。
  • オ:\(\lambda=7.0\times10^{-11}\) m, 4回目の強い反射が\(\theta=30^\circ\)で観測されたときの、結晶面の間隔\(d\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「X線の発生と回折」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 逆光電効果(制動放射): 高速の電子がターゲットに衝突して急減速する際に、その運動エネルギーが電磁波(X線)のエネルギーに変換される現象。これが連続X線の発生原理です。
  2. エネルギー保存則: 電子の運動エネルギーが、そっくりそのまま1個のX線光子のエネルギーに変換されるとき、そのX線の波長が最も短くなる(エネルギーが最大になる)。
  3. 特性X線: 加速された電子が原子の内殻電子を弾き飛ばし、その空席に外側の電子が遷移する際に放出される、原子に固有のエネルギー(波長)を持つX線。
  4. ブラッグの反射条件: 結晶格子によるX線の回折を、結晶面での「反射」とみなし、隣り合う面からの反射波が強め合う条件を考える。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (ア)(イ)では、電子が加速される過程でのエネルギーと、それがX線光子のエネルギーに変換される過程でのエネルギー保存則を考え、最短波長を求めます。
  2. (ウ)では、加速電圧の増加が連続X線と特性X線にそれぞれどのような影響を与えるかを考え、スペクトルの変化を描きます。
  3. (エ)(オ)では、図から経路差を求め、波の干渉における強め合いの条件式(ブラッグの条件)を立て、与えられた数値を代入して計算します。

問ア

思考の道筋とポイント
X線の最短波長\(\lambda_0\)は、電子が持つ運動エネルギーのすべてが、1個のX線光子のエネルギーに変換されるという、最も効率の良いエネルギー変換が起こった場合に対応します。
1. まず、電子が加速電圧\(V\)によって得る運動エネルギーを求めます。
2. 次に、波長\(\lambda_0\)のX線光子1個が持つエネルギーを求めます。
3. エネルギー保存則から、この2つのエネルギーが等しいとおき、\(\lambda_0\)について解きます。
この設問における重要なポイント

  • 電子が得る運動エネルギー: \(K = eV\)。
  • 光子1個のエネルギー: \(E = h\nu = hc/\lambda\)。
  • エネルギー保存: \(K = E\)。

具体的な解説と立式
陰極で発生した電子(電荷\(e\))は、加速電圧\(V\)によって加速され、陽極に達するまでに運動エネルギー\(K\)を得ます。静電気力がした仕事が運動エネルギーになるので、
$$ K = eV $$
この電子の運動エネルギーが、衝突によって完全に1個のX線光子のエネルギー\(E_0\)に変換されたとします。このとき、発生するX線のエネルギーは最大となり、波長は最短\(\lambda_0\)となります。波長\(\lambda_0\)の光子のエネルギー\(E_0\)は、
$$ E_0 = \frac{hc}{\lambda_0} $$
エネルギー保存則より、\(K=E_0\)なので、
$$ eV = \frac{hc}{\lambda_0} $$

使用した物理公式

  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(K=qV\)
  • 光子のエネルギー: \(E=hc/\lambda\)
計算過程

上記の関係式を\(\lambda_0\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 = \frac{hc}{eV}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電子を電圧Vで加速すると、電子は\(eV\)という運動エネルギーを持ちます。この電子が金属にぶつかって急ブレーキをかけられると、その運動エネルギーが光(X線)に変わります。最もエネルギーの高いX線(=最も波長の短いX線)は、電子の運動エネルギーが100%光のエネルギーに変換されたときに発生します。この「電子の運動エネルギー = X線光子のエネルギー」というエネルギー保存の式を立てて、波長\(\lambda_0\)を求めます。

結論と吟味

最短波長\(\lambda_0\)は \(\frac{hc}{eV}\) と表せます。加速電圧\(V\)が大きいほど、電子のエネルギーが大きくなるため、発生するX線の最短波長は短くなる、という関係を示しており、物理的に妥当です。

解答 (ア) \(\displaystyle\frac{hc}{eV}\)

問イ

思考の道筋とポイント
(ア)で導出した最短波長の公式 \(\lambda_0 = \frac{hc}{eV}\) に、与えられた物理定数と加速電圧\(V=1.2\times10^5\) V の値を代入して、具体的な数値を計算します。
この設問における重要なポイント

  • (ア)の公式の正しい適用。
  • 指数計算を含む数値計算を正確に行う。

具体的な解説と立式
(ア)で求めた式に、\(h=6.6\times10^{-34}\) J・s, \(c=3.0\times10^8\) m/s, \(e=1.6\times10^{-19}\) C, \(V=1.2\times10^5\) V を代入します。
$$ \lambda_0 = \frac{hc}{eV} $$

使用した物理公式

  • (ア)で導出した式
計算過程

$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &= \frac{(6.6\times10^{-34}) \times (3.0\times10^8)}{(1.6\times10^{-19}) \times (1.2\times10^5)} \\[2.0ex]
&= \frac{19.8 \times 10^{-26}}{1.92 \times 10^{-14}} \\[2.0ex]
&\approx 10.3 \times 10^{-12} \\[2.0ex]
&= 1.03 \times 10^{-11} \, \text{m}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると、\(1.0 \times 10^{-11}\) m となります。

結論と吟味

最短波長は約 \(1.0 \times 10^{-11}\) m です。

解答 (イ) \(1.0 \times 10^{-11}\)

問ウ

思考の道筋とポイント
加速電圧\(V\)を増したときの、X線スペクトルの変化を考えます。連続X線と特性X線は発生のメカニズムが異なるため、電圧増加の影響も異なります。

  • 連続X線: 電子の制動放射によって発生する。電圧を増すと電子の最大運動エネルギーが増えるため、発生するX線のエネルギーも全体的に増加します。その結果、最短波長\(\lambda_0\)はより短波長側にずれ、全体の強度も増加します。
  • 特性X線: 原子内の電子の準位間の遷移によって発生する。そのエネルギー(波長)は原子の種類(陽極の物質)に固有であり、加速電圧には依存しません。ただし、内殻電子を弾き飛ばすためのエネルギーを加速電子が持っている必要があるので、ある閾値以上の電圧でないと発生しません。電圧を増しても、特性X線のピークの波長の位置は変わりませんが、強度は増加します。

この設問における重要なポイント

  • 最短波長\(\lambda_0\)は電圧\(V\)に反比例して短くなる。
  • 特性X線の波長は電圧\(V\)に依存しない。
  • 全体のX線の強度は増加する。

具体的な解説と立式
元のスペクトル(点線)と比較して、変化後のスペクトル(実線)は以下の特徴を持ちます。

  1. 最短波長\(\lambda_0\)が、より小さい値(左側)に移動する。
  2. 特性X線のピーク(B, C)の波長の位置は変わらない。
  3. 連続X線、特性X線ともに、全体の強度は増加する(グラフの山が全体的に高くなる)。
結論と吟味

これらの特徴を反映したグラフを描きます。具体的には、点線のグラフに対して、実線のグラフは左端がより左に寄り、全体的に背が高くなったような形になりますが、BとCのピークのx座標は変わりません。

解答 (ウ) 最短波長が短波長側にずれ、全体の強度が増加するが、特性X線の波長の位置は変化しないグラフ。

問エ

思考の道筋とポイント
X線回折におけるブラッグの条件を導出する問題です。図2を参照し、隣り合う結晶面で反射した2つのX線の経路差を、結晶面の間隔\(d\)と入射角\(\theta\)を用いて幾何学的に求めます。これらの波が強め合う条件は、経路差が波長の整数倍になることです。
この設問における重要なポイント

  • 図から経路差を正しく読み取る。
  • 波の干渉における強め合いの条件:経路差 = \(n\lambda\) (\(n\)は整数)。

具体的な解説と立式
図2において、隣り合う結晶面で反射する2つの光線の経路差を考えます。一方の光線が結晶の表面で反射し、もう一方が深さ\(d\)の面で反射します。図から、2つの光線の経路差 \(\Delta L\) は、\(2d\sin\theta\) となることがわかります。
この経路差が、X線の波長\(\lambda\)の整数倍になるとき、2つの波は同位相で重なり合い、強く反射されます。これがブラッグの反射条件です。
$$ 2d\sin\theta = n\lambda \quad (n=1, 2, 3, \dots) $$

使用した物理公式

  • 波の干渉の強め合いの条件
計算過程

立式がそのまま答えとなります。空欄エに当てはまるのは \(2d\sin\theta\) です。

結論と吟味

強め合いの条件式は \(2d\sin\theta = n\lambda\) です。これはブラッグの条件として知られる重要な公式です。

解答 (エ) \(2d\sin\theta\)

問オ

思考の道筋とポイント
(エ)で導出したブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を用いて、結晶面の間隔\(d\)を計算します。問題文から、4回目の強い反射であるため \(n=4\)、そのときの角度が \(\theta=30^\circ\)、X線の波長が \(\lambda=7.0\times10^{-11}\) m であることが与えられています。
この設問における重要なポイント

  • ブラッグの条件の適用。
  • 「4回目」が\(n=4\)に対応することを理解する。

具体的な解説と立式
ブラッグの条件式に、与えられた値を代入します。
$$ 2d\sin(30^\circ) = 4 \times (7.0\times10^{-11}) $$

使用した物理公式

  • ブラッグの条件: \(2d\sin\theta = n\lambda\)
計算過程

この式を\(d\)について解きます。\(\sin(30^\circ) = 1/2\) なので、
$$
\begin{aligned}
2d \times \frac{1}{2} &= 4 \times 7.0\times10^{-11} \\[2.0ex]
d &= 28 \times 10^{-11} \\[2.0ex]
&= 2.8 \times 10^{-10} \, \text{m}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

X線が結晶によって特定の角度で強く反射されるのは、結晶内部の規則正しい原子の層からの反射波が、うまく重なり合って強め合うからです。その条件式がブラッグの条件です。問題で与えられた「4回目」「角度30°」「波長」という3つの情報をこの条件式に代入すれば、未知数である結晶面の「間隔d」を計算できます。

結論と吟味

結晶面の間隔は \(d = 2.8 \times 10^{-10}\) m です。原子の大きさや原子間距離のオーダーとして妥当な値です。

解答 (オ) \(2.8 \times 10^{-10}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • エネルギー保存則(逆光電効果):
    • 核心: 高速電子が陽極に衝突してX線を発生させる際、電子の運動エネルギー \(eV\) がX線光子1個のエネルギー \(h\nu\) に変換されるというエネルギー保存の関係です。特に、電子の運動エネルギーがすべて1個の光子のエネルギーになるとき、その光子のエネルギーは最大(波長は最短)になります。
      $$ eV = h\nu_{\text{最大}} = \frac{hc}{\lambda_0} $$
    • 理解のポイント: (ア)と(イ)はこの法則を直接的に応用する問題です。光電効果(光子→電子)とは逆のエネルギー変換プロセスであるため、「逆光電効果」とも呼ばれます。
  • X線スペクトルの二重構造:
    • 核心: X線スペクトルは、滑らかな曲線を描く「連続X線」と、鋭いピークを持つ「特性X線(固有X線)」の2種類が重なってできています。
      • 連続X線: 電子の制動(急減速)によって発生。最短波長は加速電圧\(V\)に依存する (\(\lambda_0 \propto 1/V\))。
      • 特性X線: 原子内の電子の準位遷移によって発生。波長は陽極の物質に固有で、加速電圧\(V\)には依存しない。
    • 理解のポイント: (ウ)で加速電圧を上げたときのスペクトルの変化を考えるには、この2つのX線の発生メカニズムの違いを理解している必要があります。
  • ブラッグの反射条件(波の干渉):
    • 核心: 結晶格子によるX線の回折を、結晶面からの「鏡面反射」とみなし、隣り合う結晶面で反射した波が強め合う条件を考えたものです。経路差が波長の整数倍になるという、波の干渉の基本原理に基づいています。
      $$ 2d\sin\theta = n\lambda $$
    • 理解のポイント: (エ)と(オ)はこの法則を扱う問題です。幾何学的に経路差を求め、干渉の強め合いの条件を適用するという、光の干渉(ヤングの実験や回折格子)と同じ思考プロセスを用います。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 光電効果: 光子→電子という、本問の逆プロセスの問題。アインシュタインの光電効果の式 \(h\nu = W + eV_0\) と本問の \(eV = h\nu_{\text{最大}}\) を対比させると、エネルギー変換の理解が深まります。
    • 電子線回折(ド・ブロイ波): 電子も波としての性質を持つため、結晶に電子線を照射しても回折が起こります。この場合、電子の波長(ド・ブロイ波長)\(\lambda = h/p = h/(mv)\) をブラッグの条件式に適用します。
    • 回折格子: 多数のスリットによる光の干渉。経路差を考えて強め合いの条件を立てる点で、ブラッグの条件と考え方が共通しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象の特定: 問題が「X線の発生」について問うているのか、「X線の回折(物質との相互作用)」について問うているのかをまず見極めます。
    2. エネルギー変換に着目する: 「X線の発生」では、電子の運動エネルギーが光子のエネルギーに変換されます。このエネルギーの流れを追うことが立式の基本です。
    3. 波の干渉に着目する: 「X線の回折」では、複数の波の重ね合わせを考えます。幾何学的な経路差を求め、強め合い・弱め合いの条件を適用することが解析の中心となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 連続X線と特性X線の混同:
    • 誤解: (ウ)で、加速電圧を上げると特性X線の波長も変化すると考えてしまう。
    • 対策: 「連続X線はブレーキ、特性X線は原子の指紋」とイメージで覚えましょう。ブレーキのかけ方(=電子のエネルギー)が変われば連続X線の出方は変わりますが、原子の指紋(=エネルギー準位の差)は原子固有なので変わりません。
  • ブラッグの条件の角度\(\theta\)の定義:
    • 誤解: \(\theta\)を入射角や反射角(法線とのなす角)と勘違いする。
    • 対策: ブラッグの条件で使われる角度\(\theta\)は、入射X線と「結晶面」とのなす角(すれすれの角、glancing angle)です。これは光学で通常使う入射角とは定義が異なるため、特に注意が必要です。必ず図で確認する癖をつけましょう。
  • \(n\)の扱いの間違い:
    • 誤解: (オ)で、「4回目に強い反射」を\(\theta=4 \times 30^\circ\)のように角度の倍数と勘違いしたり、\(n\)の値を間違えたりする。
    • 対策: ブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) において、\(n\)は「\(n\)次の反射」と呼ばれる整数です。「\(n\)回目」という表現は、\(\theta\)を0から大きくしていったときに強め合いが観測される順番を指しており、そのまま\(n\)の値に対応します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • X線スペクトル図の解釈: (ウ)でスペクトルの変化を考える際、図1のグラフの各部分が何を意味するかを理解することが重要です。
      • 横軸の左端(\(\lambda_0\)): 電子の全エネルギーが変換された、最もエネルギーの高いX線。
      • 曲線部分(A): 電子がエネルギーの一部だけを失って発生する、様々なエネルギーのX線。
      • 鋭いピーク(B, C): 原子に固有のエネルギー準位の差から生まれる、特定のエネルギーのX線。
    • X線回折の経路差の図示: (エ)でブラッグの条件を導く際、問題の図2に補助線を引いて直角三角形を作り、経路差が \(2d\sin\theta\) となることを幾何学的に確認する作業は非常に重要です。これにより、公式を丸暗記するのではなく、その場で導出する力が養われます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 角度の明記: 回折の図では、どこが\(\theta\)なのかを明確に描き込みます。直角三角形のどの角が\(\theta\)になるのかを、錯角や同位角の関係から正確に把握することが求められます。
    • 波面の図示: 隣り合う光線の経路差を考えるとき、同位相の点を結んだ「波面」を垂線として描くと、経路差の部分が視覚的に分かりやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(eV = hc/\lambda_0\) (問ア):
    • 選定理由: 電子の運動エネルギーと、それが変換された光子のエネルギーの関係を表すため。特に「最短波長」というキーワードから、エネルギーが最大となる極限状態を考える必要がある。
    • 適用根拠: エネルギー保存則です。加速で得た電子の運動エネルギー\(eV\)が、衝突によって100%光子のエネルギー\(hc/\lambda_0\)に変換された、という物理モデルに基づきます。
  • \(2d\sin\theta = n\lambda\) (問エ):
    • 選定理由: 結晶によるX線の回折で、特定の方向に強い反射が見られる条件を記述するため。
    • 適用根拠: 波の干渉の原理に基づきます。隣接する結晶面からの反射波が、経路差が波長の整数倍になることで同位相で重なり、干渉によって強め合うという物理モデルを数式化したものです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) X線の発生:
    • 戦略: 電子のエネルギーが光子のエネルギーに変換される過程を、エネルギー保存則で捉える。
    • フロー: ①(ア)電子の運動エネルギー\(eV\)と光子のエネルギー\(hc/\lambda\)を等しいとおき、最短波長\(\lambda_0\)の式を導く。②(イ)具体的な数値を代入して計算。③(ウ)加速電圧Vの増加が、\(\lambda_0\)と特性X線の波長、全体の強度にどう影響するかを考え、グラフを描く。
  2. (2) X線の回折:
    • 戦略: 幾何学的に経路差を求め、波の干渉条件を適用する。
    • フロー: ①(エ)図から経路差が\(2d\sin\theta\)となることを導き、強め合いの条件式 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を立てる。②(オ)与えられた数値(\(n=4, \theta=30^\circ, \lambda\))を条件式に代入し、未知数\(d\)を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位と指数の計算: (イ)や(オ)では、\(10\)のべき乗を含む計算が中心となります。プランク定数(\(\sim 10^{-34}\))、電気素量(\(\sim 10^{-19}\))、光速(\(\sim 10^8\))など、桁数が大きく異なる定数を扱うため、指数計算のミスに特に注意が必要です。計算の最初に指数の部分だけをまとめてしまうと、間違いを減らせます。
  • 三角関数の値: (オ)で\(\sin 30^\circ = 1/2\)という基本的な値を使います。\(30^\circ, 45^\circ, 60^\circ\)などの三角関数の値は、瞬時に出てくるように習熟しておきましょう。
  • 問題文の読み取り: (オ)の「4回目に強い反射」を正しく\(n=4\)と解釈することが重要です。問題文の言葉と数式のパラメータを正確に対応させる練習をしましょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (イ) 最短波長: 計算結果が \(1.0 \times 10^{-11}\) m となりました。これはオングストローム(\(1\text{Å} = 10^{-10}\) m)よりも一桁小さい、ガンマ線に近い領域の波長です。高電圧で加速した電子から発生するX線(硬X線)としては、妥当なオーダーです。
    • (オ) 結晶面の間隔: 計算結果は \(2.8 \times 10^{-10}\) m、すなわち2.8Åです。これは、一般的な金属結晶の原子間距離や格子定数として非常に現実的な値です。もし計算結果が\(10^{-5}\)mや\(10^{-15}\)mのような極端な値になった場合は、計算ミスを疑うべきです。
  • 異なる現象との関連付け:
    • X線の波長は原子の大きさのオーダーであるため、原子が規則正しく並んだ結晶は、X線にとって理想的な「回折格子」として機能します。可視光にとっての回折格子と、X線にとっての結晶は、波長と格子の間隔のスケールは違えど、同じ物理現象(回折・干渉)を引き起こすという点で共通しています。このようなアナロジーを考えることで、物理の理解がより深まります。

問題152 (大阪府大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、光の粒子性を示す代表的な現象である「コンプトン効果」を扱っています。光子と電子の衝突を、粒子同士の衝突とみなし、エネルギー保存則と運動量保存則を適用して解析します。この現象は、光が波であると考えると説明できないため、光量子仮説の強力な証拠となりました。

与えられた条件
  • 光子:入射光子の波長 \(\lambda_0\)、散乱光子の波長 \(\lambda_1\)。
  • 電子:質量 \(m\)、衝突前は静止。衝突後の速さ \(v\)。
  • 散乱角:光子は\(\theta\)、電子は\(\phi\)。
  • 物理定数:プランク定数\(h\)、光の速さ\(c\)。
  • 近似式:\(\frac{\lambda_1+\lambda_0}{\lambda_0\lambda_1} – \frac{2}{\lambda_0\lambda_1}(\frac{\Delta\lambda}{2})^2 \approx \frac{2}{\lambda_0\lambda_1}\)
問われていること
  • (1) 波長\(\lambda\)の光子のエネルギー\(E\)と運動量\(P\)。
  • (2) 衝突前後でのエネルギー保存則の式。
  • (3) 衝突前後での運動量保存則の式(進行方向と垂直方向)。
  • (4) 波長の変化量 \(\Delta\lambda = \lambda_1 – \lambda_0\) を求める。
  • (5) コンプトン効果がX線で顕著に現れ、可視光では現れにくい理由。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「コンプトン効果と光の粒子性」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光子のエネルギーと運動量: 光子は、エネルギー \(E=h\nu=hc/\lambda\) と、運動量 \(p=h/\lambda\) を持つ粒子として振る舞う。
  2. エネルギー保存則: 衝突の前後で、系全体のエネルギーの総和は変わらない。
  3. 運動量保存則: 衝突の前後で、系全体の運動量のベクトル和は変わらない。運動量はベクトル量なので、成分に分けて考える必要がある。
  4. 相対論的エネルギー(参考): 厳密には、電子の運動エネルギーは相対論的な形式 \(K = \sqrt{(mc^2)^2 + (pc)^2} – mc^2\) を用いるが、高校物理では非相対論的な \(\frac{1}{2}mv^2\) で扱うか、あるいはエネルギーと運動量の関係式を直接用いて解析する。この問題では、エネルギー保存則と運動量保存則から電子の運動を消去する形で解析が進む。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、光子のエネルギーと運動量の基本公式を記述します。
  2. (2)(3)では、光子と電子の衝突を2つの粒子の衝突とみなし、エネルギー保存則と運動量保存則(ベクトルなので2つの成分に分解)を立式します。
  3. (4)では、(2)と(3)で立てた3つの式を連立させ、観測が難しい電子の物理量(速さ\(v\)、散乱角\(\phi\))を消去し、観測可能な光子の波長変化\(\Delta\lambda\)を求めます。
  4. (5)では、(4)で得られた結果を用いて、波長変化の相対的な大きさ \(\Delta\lambda/\lambda_0\) が、入射光の波長\(\lambda_0\)によってどう変わるかを考察します。

問(1)

思考の道筋とポイント
光量子仮説における、光子1個のエネルギーと運動量の定義式を答える問題です。
この設問における重要なポイント

  • 光子のエネルギー: \(E=h\nu=hc/\lambda\)
  • 光子の運動量: \(p=h/\lambda\)

具体的な解説と立式
波長\(\lambda\)の光子の振動数を\(\nu\)とすると、\(c=\lambda\nu\)の関係があります。
光子1個のエネルギー\(E\)は、
$$ E = h\nu = \frac{hc}{\lambda} $$
光子1個の運動量の大きさ\(P\)は、
$$ P = \frac{h}{\lambda} $$

使用した物理公式

  • 光子のエネルギーと運動量の公式
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

結論と吟味

エネルギーは \(E=\frac{hc}{\lambda}\)、運動量は \(P=\frac{h}{\lambda}\) です。

解答 (1) エネルギー: \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda}\), 運動量: \(\displaystyle\frac{h}{\lambda}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
衝突前後でのエネルギー保存則を立式します。衝突前のエネルギーは入射光子と静止電子のエネルギーの和、衝突後のエネルギーは散乱光子と運動する電子のエネルギーの和です。
この設問における重要なポイント

  • 衝突前のエネルギー:入射光子のエネルギー \(E_0\) + 静止電子の静止エネルギー \(mc^2\)。
  • 衝突後のエネルギー:散乱光子のエネルギー \(E_1\) + 運動する電子のエネルギー(静止エネルギーと運動エネルギーの和)。
  • 高校物理の範囲では、電子の運動エネルギーを \(\frac{1}{2}mv^2\) として扱うことが多い。

具体的な解説と立式

  • 衝突前の系の全エネルギー:入射光子のエネルギー \(\frac{hc}{\lambda_0}\) と静止している電子のエネルギー。電子の運動エネルギーは0です。
  • 衝突後の系の全エネルギー:散乱光子のエネルギー \(\frac{hc}{\lambda_1}\) と、速さ\(v\)ではね飛ばされた電子の運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) の和。

エネルギー保存則より、衝突前の光子のエネルギーが、衝突後の光子のエネルギーと電子の運動エネルギーに分配されると考え、以下の式を立てます。
$$ \frac{hc}{\lambda_0} = \frac{hc}{\lambda_1} + \frac{1}{2}mv^2 $$

使用した物理公式

  • エネルギー保存則
  • 光子のエネルギー、電子の運動エネルギー
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

結論と吟味

エネルギー保存の式は \(\frac{hc}{\lambda_0} = \frac{hc}{\lambda_1} + \frac{1}{2}mv^2\) です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_0} = \frac{hc}{\lambda_1} + \frac{1}{2}mv^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
衝突前後での運動量保存則を立式します。運動量はベクトル量なので、入射光子の進行方向(x軸)と、それに垂直な方向(y軸)の2つの成分に分けて保存則を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則はベクトルで考える。
  • 各粒子の運動量をx成分とy成分に分解する。

具体的な解説と立式
入射光子の進行方向をx軸、それに垂直な方向をy軸とします。

  • 衝突前の運動量
    • x成分: 入射光子の運動量 \(p_0 = \frac{h}{\lambda_0}\)
    • y成分: 0
  • 衝突後の運動量
    • 散乱光子の運動量: 大きさ \(p_1 = \frac{h}{\lambda_1}\)。x成分は \(p_1 \cos\theta\)、y成分は \(p_1 \sin\theta\)。
    • 電子の運動量: 大きさ \(mv\)。x成分は \(mv \cos\phi\)、y成分は \(-mv \sin\phi\)。

x軸方向(進行方向)の運動量保存則:
$$ \frac{h}{\lambda_0} = \frac{h}{\lambda_1}\cos\theta + mv\cos\phi $$
y軸方向(垂直方向)の運動量保存則:
$$ 0 = \frac{h}{\lambda_1}\sin\theta – mv\sin\phi $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • 光子の運動量
計算過程

立式がそのまま答えとなります。

結論と吟味

進行方向の運動量保存則は \(\frac{h}{\lambda_0} = \frac{h}{\lambda_1}\cos\theta + mv\cos\phi\)、垂直方向は \(0 = \frac{h}{\lambda_1}\sin\theta – mv\sin\phi\) です。

解答 (3) 進行方向: \(\displaystyle\frac{h}{\lambda_0} = \frac{h}{\lambda_1}\cos\theta + mv\cos\phi\), 垂直方向: \(0 = \displaystyle\frac{h}{\lambda_1}\sin\theta – mv\sin\phi\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(2)と(3)で立てた3つの保存則の式から、電子の物理量である \(v\) と \(\phi\) を消去して、光子の波長の変化 \(\Delta\lambda = \lambda_1 – \lambda_0\) を求める、複雑な計算問題です。
1. まず、運動量保存の2つの式から、散乱角\(\phi\)を消去します。
2. 次に、得られた式とエネルギー保存の式を連立させ、電子の速さ\(v\)を消去します。
3. 最後に、与えられた近似式を用いて式を整理し、\(\Delta\lambda\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 連立方程式を解いて未知数を消去する、純粋な計算能力。
  • 三角関数の公式 \(\sin^2\phi + \cos^2\phi = 1\) を利用する。
  • 問題文で与えられた近似式を適切なタイミングで適用する。

具体的な解説と立式
(3)の運動量保存の式を、電子の項について変形します。
$$ mv\cos\phi = h\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\cos\theta\right) \quad \cdots ① $$
$$ mv\sin\phi = h\frac{\sin\theta}{\lambda_1} \quad \cdots ② $$
①と②の両辺を2乗して足し合わせ、\(\phi\)を消去します。
$$ (mv)^2 = h^2\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\cos\theta\right)^2 + h^2\left(\frac{\sin\theta}{\lambda_1}\right)^2 \quad \cdots ③ $$
一方、(2)のエネルギー保存の式を変形します。
$$ \frac{1}{2}mv^2 = hc\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\right) \quad \cdots ④ $$
③と④から\(v\)を消去し、与えられた近似式を適用して\(\Delta\lambda\)を求めます。

使用した物理公式

  • エネルギー保存則、運動量保存則
計算過程

ヒントの誘導に従い、④の両辺に\(2m\)をかけた式 \(m^2v^2 = 2mhc(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1})\) と、③を展開した式 \(m^2v^2 = h^2(\frac{1}{\lambda_0^2} + \frac{1}{\lambda_1^2} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1})\) を等しいとおきます。
$$ 2mhc\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\right) = h^2\left(\frac{1}{\lambda_0^2} + \frac{1}{\lambda_1^2} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1}\right) $$
ここで、問題文の近似式 \(\frac{1}{\lambda_0^2} + \frac{1}{\lambda_1^2} \approx \frac{2}{\lambda_0\lambda_1}\) を右辺に適用します。
$$ 2mc\left(\frac{\lambda_1-\lambda_0}{\lambda_0\lambda_1}\right) \approx h\left(\frac{2}{\lambda_0\lambda_1} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1}\right) $$
$$ 2mc\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0\lambda_1} \approx \frac{2h(1-\cos\theta)}{\lambda_0\lambda_1} $$
両辺を整理して、
$$
\begin{aligned}
mc\Delta\lambda &\approx h(1-\cos\theta) \\[2.0ex]
\Delta\lambda &\approx \frac{h}{mc}(1-\cos\theta)
\end{aligned}
$$

結論と吟味

波長の変化量は \(\Delta\lambda = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) となります。これはコンプトン散乱の公式として知られています。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\)

問(5)

思考の道筋とポイント
(4)で求めた波長の変化量 \(\Delta\lambda\) の式が、入射光の波長\(\lambda_0\)に依存しないことに着目します。コンプトン効果が顕著に現れるかどうかは、波長の変化量\(\Delta\lambda\)そのものではなく、元の波長に対する変化の「割合」\(\Delta\lambda/\lambda_0\) が大きいかどうかで決まります。
この設問における重要なポイント

  • \(\Delta\lambda\) は入射波長\(\lambda_0\)に依存しない定数(散乱角\(\theta\)のみによる)。
  • 現象の顕著さは、相対的な変化量 \(\Delta\lambda/\lambda_0\) で評価する。

具体的な解説と立式
(4)の結果より、波長の変化量 \(\Delta\lambda = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) は、入射光の波長\(\lambda_0\)を含んでいません。これは、どんな波長の光でも、同じ角度\(\theta\)で散乱されれば、波長の「伸び」は同じであることを意味します。
この定数 \(\frac{h}{mc}\) はコンプトン波長と呼ばれ、その値は約 \(2.4 \times 10^{-12}\) m です。
したがって、\(\Delta\lambda\) は \(0 \sim 2 \times (2.4 \times 10^{-12})\) m 程度の非常に小さい値です。

コンプトン効果が観測されやすいかどうかは、この変化の割合 \(\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) を考えます。

  • X線の場合: \(\lambda_0\) が \(10^{-11} \sim 10^{-8}\) m 程度で、\(\Delta\lambda\) と同程度のオーダーです。したがって、\(\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) は無視できない大きな値となり、コンプトン効果は顕著に観測されます。
  • 可視光の場合: \(\lambda_0\) が \(380 \sim 770\) nm (\(\sim 10^{-7}\) m) 程度です。これは\(\Delta\lambda\) (\(\sim 10^{-12}\) m) に比べて非常に大きいため、変化の割合 \(\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) は極めて小さくなります。
計算方法の平易な説明

コンプトン効果による波長の伸び(\(\Delta\lambda\))は、元の波長が長くても短くても、実は一定です。例えば、散乱角が90°なら、波長は約 \(2.4 \times 10^{-12}\) m 伸びます。

  • X線のように元の波長が非常に短い(例:\(10^{-11}\) m)場合、この伸びは元の波長に対して非常に大きな割合を占めるため、変化がはっきりと分かります。
  • 可視光のように元の波長が比較的長い(例:\(5 \times 10^{-7}\) m)場合、同じだけ伸びても、元の長さに対する割合としてはごくわずかです。そのため、変化はほとんど無視できるほど小さく、コンプトン効果は観測されにくくなります。
結論と吟味

波長の変化量\(\Delta\lambda\)は入射光の波長\(\lambda_0\)に依存しない。そのため、元の波長\(\lambda_0\)が\(\Delta\lambda\)に比べて十分に大きい可視光では、波長の変化の割合\(\Delta\lambda/\lambda_0\)が非常に小さくなり、効果がほとんど観測されない。一方、\(\lambda_0\)が\(\Delta\lambda\)と同程度のX線では、変化の割合が大きいため、効果が顕著に現れる。

解答 (5) 上記の通り。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 光の粒子性(エネルギーと運動量):
    • 核心: コンプトン効果を理解するための大前提です。光を、単なる波ではなく、エネルギー \(E=hc/\lambda\) と運動量 \(p=h/\lambda\) を持つ「光子」という粒子の流れとして捉えることが全ての出発点となります。
    • 理解のポイント: (1)はこの基本公式を問う問題です。この粒子描像を受け入れなければ、(2)以降の保存則の立式ができません。
  • エネルギー保存則と運動量保存則:
    • 核心: 「光子と電子の衝突」を、古典力学における2つの物体の衝突問題と全く同じように扱います。衝突の前後で、系全体の「エネルギーの総和」と「運動量のベクトル和」がそれぞれ保存される、という2大保存則を適用します。
    • 理解のポイント: (2)がエネルギー保存則、(3)が運動量保存則の立式です。特に運動量はベクトル量であるため、進行方向(x成分)とそれに垂直な方向(y成分)に分けて立式する必要がある点が重要です。
  • コンプトン散乱の公式:
    • 核心: 上記の保存則を連立させ、電子の情報を消去することで得られる、波長の変化量 \(\Delta\lambda\) と散乱角 \(\theta\) の関係式です。
      $$ \Delta\lambda = \lambda_1 – \lambda_0 = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta) $$
    • 理解のポイント: (4)はこの公式の導出過程を追う問題です。この式の最も重要な特徴は、波長の変化量 \(\Delta\lambda\) が、入射光の波長 \(\lambda_0\) には一切依存しない、という点です。この事実が(5)の考察の鍵となります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 光電効果: 同じく光の粒子性を示す現象ですが、光子が電子にエネルギーをすべて渡して消滅する「吸収」現象です。コンプトン効果は、光子がエネルギーの一部を渡して自身も生き残る「散乱」現象であるという違いがあります。
    • 原子核物理における衝突: 陽子や中性子、α粒子などの粒子同士の衝突問題。エネルギー保存則と運動量保存則を連立させて解くという点で、思考のプロセスは全く同じです。
    • ド・ブロイ波: 電子などの粒子も波としての性質を持つため、その波長 \(\lambda = h/p\) が重要になります。粒子性と波動性の二重性は、現代物理学の根幹をなす概念です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象を粒子間の衝突として捉える: 問題文に「光子と電子の衝突」とあれば、すぐに力学の衝突問題と同じ土俵で考える準備をします。
    2. 保存則の立式を徹底する: 衝突現象では、エネルギー保存則と運動量保存則が最も強力な武器です。まずはこの2つの法則を、問題の状況に合わせて正確に立式することから始めます。
    3. ベクトル量の扱いに注意する: 運動量はベクトルです。必ず成分に分解して考えます。通常は、入射方向をx軸、それに垂直な方向をy軸と設定するのが定石です。
    4. 未知数を消去する方向を見据える: (4)のように、複数の式から特定の変数(この場合は電子の速さ\(v\)と散乱角\(\phi\))を消去する問題では、どの式をどう変形すれば消去しやすいか、計算の見通しを立てることが重要です。三角関数の公式 \(\sin^2\phi+\cos^2\phi=1\) は、角度を消去する際の常套手段です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • エネルギーと運動量の混同:
    • 誤解: エネルギー保存則を立てるべきところで運動量を、運動量保存則を立てるべきところでエネルギーを考えてしまう。
    • 対策: エネルギーはスカラー量(大きさのみ)、運動量はベクトル量(大きさと向き)であることを明確に区別しましょう。エネルギー保存は単純な足し算ですが、運動量保存はベクトルの和(成分ごとの足し算)です。
  • 電子のエネルギーの扱い:
    • 誤解: 衝突後の電子のエネルギーを運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\) のみと考えてしまう。
    • 対策: 厳密なエネルギー保存則では、電子の静止エネルギー \(mc^2\) も考慮する必要があります。衝突前は \(E_0 + mc^2\)、衝突後は \(E_1 + \sqrt{(mc^2)^2+(pc)^2}\) となります。高校物理では、多くの場合、電子が得た運動エネルギーという形で \(h\nu_0 = h\nu_1 + K_e\) のように立式することで、静止エネルギーを陽に扱わずに済みます。
  • 近似式の適用の誤り:
    • 誤解: (4)で、どのタイミングで、どの式に近似を適用すればよいか分からなくなる。
    • 対策: この問題の近似式は、非相対論的な運動エネルギーの式からでは厳密には導出できません。これは、高校物理の範囲で相対論的な結果を扱うための「ヒント」として与えられています。したがって、問題の誘導やヒントの指示に素直に従って計算を進めるのが最善策です。自力で変形しようとすると、矛盾が生じることがあります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • ビリヤードの玉の衝突: 光子と電子の衝突を、ビリヤードの玉同士の衝突としてイメージすると非常に分かりやすいです。手玉(入射光子)が的玉(電子)に当たると、手玉はエネルギーと運動量を失って速度が落ち(波長が伸び)、的玉はエネルギーと運動量を得て動き出します。散乱の角度によって、エネルギーのやり取りの仕方が変わります。
    • 運動量ベクトルの図: 衝突前後の運動量ベクトルを図示すると、運動量保存則が視覚的に理解できます。衝突前の運動量ベクトル \(\vec{p_0}\) が、衝突後の2つのベクトル \(\vec{p_1}\) と \(\vec{p_e}\) の和(\(\vec{p_0} = \vec{p_1} + \vec{p_e}\))になっていることを、ベクトルの平行四辺形や三角形で確認できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 角度の定義: 図に、散乱角\(\theta\)と\(\phi\)がどの角度を指すのかを明確に描き込みましょう。
    • ベクトルの成分分解: 運動量ベクトルをx成分とy成分に分解する様子を、点線と直角記号を用いて図示すると、立式の際のミスを防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(E=hc/\lambda, p=h/\lambda\) (問1):
    • 選定理由: 光の粒子としての性質(エネルギーと運動量)を数式で表現するため。
    • 適用根拠: アインシュタインの光量子仮説と、ド・ブロイの関係式という、現代物理学の根幹をなす仮説・法則です。
  • エネルギー保存則 (問2):
    • 選定理由: 衝突現象を記述する第一の基本法則だから。
    • 適用根拠: 外部とのエネルギーのやり取りがない孤立した系では、エネルギーの総和は常に一定であるという、物理学の普遍的な法則です。
  • 運動量保存則 (問3):
    • 選定理由: 衝突現象を記述する第二の基本法則だから。
    • 適用根拠: 外部から力が働かない孤立した系では、運動量の総和(ベクトル和)は常に一定であるという、これも物理学の普遍的な法則です。
  • \(\Delta\lambda = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) (問4):
    • 選定理由: 観測量である光子の波長変化と散乱角の関係を導くため。
    • 適用根拠: 上記の2つの保存則から、観測が困難な電子の情報を数学的に消去した結果として導出される関係式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 光子の性質:
    • 戦略: 光量子仮説の基本公式を記述する。
    • フロー: \(E=hc/\lambda\), \(p=h/\lambda\) を書く。
  2. (2)-(3) 保存則の立式:
    • 戦略: 光子と電子の衝突に、エネルギー保存則と運動量保存則を適用する。
    • フロー: ①(2)衝突前後のエネルギーの和が等しいという式を立てる。②(3)運動量をx, y成分に分解し、それぞれで衝突前後の和が等しいという式を立てる。
  3. (4) 電子の消去と\(\Delta\lambda\)の導出:
    • 戦略: (3)の運動量保存の式から電子の散乱角\(\phi\)を消去し、次に(2)のエネルギー保存の式と連立させて電子の速さ\(v\)を消去する。
    • フロー: ①運動量の式を\(mv\cos\phi\)と\(mv\sin\phi\)について解く。②両辺を2乗して足し合わせ、\((mv)^2\)の式を得る。③エネルギー保存の式を\((mv)^2\)について解く。④②と③を等しいとおき、与えられた近似式を使って整理し、\(\Delta\lambda\)を求める。
  4. (5) 現象の解釈:
    • 戦略: (4)で得られた\(\Delta\lambda\)の式の特徴(\(\lambda_0\)に依存しない)を基に、変化の「割合」\(\Delta\lambda/\lambda_0\)を評価する。
    • フロー: ①\(\Delta\lambda\)が定数に近いことを確認。②\(\Delta\lambda/\lambda_0\)が、\(\lambda_0\)が小さいX線では大きく、\(\lambda_0\)が大きい可視光では小さくなることを論述する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 連立方程式の計算: (4)の計算は、高校物理の中でもトップクラスに複雑です。計算過程を省略せず、一行一行丁寧に進めることが重要です。特に、2乗の展開や三角関数の処理でミスが出やすいので、注意深く行いましょう。
  • 近似の適用: 問題文で近似式が与えられている場合、それは計算を大幅に簡略化するためのヒントです。どの段階で適用するのが最も効果的かを見極めましょう。この問題では、\(v\)を消去した後の複雑な式に適用することで、劇的に簡単な形になります。
  • 物理量のオーダー感覚: (5)を考察する際、X線の波長(\(\sim 10^{-10}\) m)と可視光の波長(\(\sim 10^{-7}\) m)、そしてコンプトン波長(\(\sim 10^{-12}\) m)の大きさのオーダーを把握していると、議論がスムーズに進みます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (4) \(\Delta\lambda\)の式: \(\Delta\lambda = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) は、\(\theta=0\)(前方散乱)のとき\(\Delta\lambda=0\)(波長変化なし)、\(\theta=180^\circ\)(後方散乱)のとき\(\Delta\lambda\)が最大値 \(2h/mc\) をとることを示します。これは、正面衝突で最も多くのエネルギーを電子に与えるという直感的なイメージと一致します。
    • (5) 現象の依存性: コンプトン効果がX線のような高エネルギー(短波長)の光で顕著になるという結論は、実験事実と一致します。光の粒子性が、エネルギーが高い領域でより顕著に現れる一例と考えることができます。
  • 古典論との比較:
    • もし光が単なる波(古典的な電磁波)であれば、電子を振動させて同じ振動数の光を再放射するはずで、波長が変わることは説明できません。コンプトン効果が「光の粒子性」の決定的な証拠とされる理由を、この古典論との対比で理解しておくことが重要です。
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問題153 (東北大)

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