問題151 (近畿大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、X線の発生原理と、X線回折(ブラッグ反射)という2つの大きなテーマを扱っています。前半では、X線管内で電子を加速して金属に衝突させることで発生する連続X線と特性X線のスペクトルについて、後半では、そのX線を結晶に照射したときに起こる回折現象について考察します。
- 物理定数:プランク定数 \(h=6.6\times10^{-34} \, \text{J}\cdot\text{s}\), 電気素量 \(e=1.6\times10^{-19} \, \text{C}\), 光の速さ \(c=3.0\times10^8 \, \text{m/s}\)。
- X線の発生:陰極で発生した電子を、加速電圧 \(V\) で加速し、陽極の金属板に衝突させる。
- X線スペクトル:連続X線Aと、特性X線B, Cからなる(図1)。
- X線回折:X線C(波長\(\lambda\))を結晶面(間隔\(d\))に入射角\(\theta\)で照射する(図2)。
- ア:X線の最短波長\(\lambda_0\)を求める式。
- イ:加速電圧\(1.2\times10^5 \, \text{V}\) のときの最短波長\(\lambda_0\)の数値。
- ウ:加速電圧を増したときのX線スペクトルの変化のグラフ。
- エ:X線回折で、隣り合う結晶面で反射したX線の強め合いの条件式。
- オ:\(\lambda=7.0\times10^{-11} \, \text{m}\), \(4\)回目の強い反射が\(\theta=30^\circ\)で観測されたときの、結晶面の間隔\(d\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「X線の発生と回折」です。電子のエネルギーが光子のエネルギーに変換される過程と、結晶格子による波の干渉という、現代物理学の重要な2つのトピックを扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- エネルギー保存則(逆光電効果): 高速の電子がターゲットに衝突して急減速する際に、その運動エネルギーが電磁波(X線)のエネルギーに変換されます。電子の運動エネルギーが、そっくりそのまま1個のX線光子のエネルギーに変換されるとき、そのX線の波長が最も短くなります。
- 光子のエネルギー: 波長\(\lambda\)の光子1個が持つエネルギーは \(E = h\nu = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\) で与えられます。
- 連続X線と特性X線の違い: X線スペクトルは、滑らかな連続X線と、鋭いピークを持つ特性X線から構成されます。両者は発生の仕組みが異なり、加速電圧に対する応答も異なります。
- ブラッグの反射条件: 結晶格子によるX線の回折を、結晶面での「反射」とみなし、隣り合う面からの反射波が強め合う条件(経路差 = 波長の整数倍)を考えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(ア), (イ)では、電子が加速によって得る運動エネルギーと、X線光子のエネルギーの間のエネルギー保存則を立式し、最短波長を求めます。
- 問(ウ)では、連続X線と特性X線の発生原理の違いを元に、加速電圧を上げたときのスペクトルの変化を考察します。
- 問(エ), (オ)では、図からX線の経路差を求め、波の干渉における強め合いの条件(ブラッグの条件)を立式し、与えられた値から結晶面の間隔を計算します。
問ア
思考の道筋とポイント
X線の最短波長\(\lambda_0\)は、電子が持つ運動エネルギーのすべてが、1個のX線光子のエネルギーに変換されるという、最も効率の良いエネルギー変換が起こった場合に対応します。
1. まず、電子が加速電圧\(V\)によって得る運動エネルギーを求めます。
2. 次に、波長\(\lambda_0\)のX線光子1個が持つエネルギーを求めます。
3. エネルギー保存則から、この2つのエネルギーが等しいとおき、\(\lambda_0\)について解きます。
この設問における重要なポイント
- 電子が得る運動エネルギー: \(K = eV\)。
- 光子1個のエネルギー: \(E = h\nu = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)。
- エネルギー保存: 電子の運動エネルギーの最大値が、光子のエネルギーに変換される。
具体的な解説と立式
陰極で発生した電子(電気素量\(e\))は、電極間の加速電圧\(V\)によって加速され、陽極に達するまでに電場から仕事をされて運動エネルギー\(K\)を得ます。その大きさは、
$$ K = eV $$
この電子が陽極の金属原子と衝突して急減速(制動)される際に、その運動エネルギーがX線光子のエネルギーに変換されます。電子の持つ運動エネルギー\(K\)が、完全に1個のX線光子のエネルギー\(E_0\)に変換されたとき、その光子のエネルギーは最大となり、対応する波長は最短\(\lambda_0\)となります。
波長\(\lambda_0\)の光子のエネルギー\(E_0\)は、プランク定数\(h\)、光速\(c\)を用いて、
$$ E_0 = \frac{hc}{\lambda_0} $$
エネルギー保存則より、\(K=E_0\)が成り立つので、
$$ eV = \frac{hc}{\lambda_0} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 仕事と運動エネルギーの関係: \(K=qV\)
- 光子のエネルギー: \(E=\displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)
- エネルギー保存則
式①を\(\lambda_0\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 = \frac{hc}{eV}
\end{aligned}
$$
電子を電圧\(V\)で加速すると、電子は\(eV\)という大きさの運動エネルギーを持ちます。この電子が金属にぶつかって急ブレーキをかけられると、その運動エネルギーが光(X線)に変わります。最もエネルギーの高いX線(つまり、最も波長の短いX線)は、電子の運動エネルギーが100%光のエネルギーに変換されたときに発生します。この「電子の運動エネルギー = X線光子のエネルギー」というエネルギー保存の式を立てて、波長\(\lambda_0\)を求めます。
最短波長\(\lambda_0\)は \(\displaystyle\frac{hc}{eV}\) と表せます。この式は、加速電圧\(V\)が大きいほど、電子のエネルギーが大きくなるため、発生するX線の最短波長は短くなる、という関係を示しており、物理的に妥当です。
問イ
思考の道筋とポイント
問アで導出した最短波長の公式 \(\lambda_0 = \displaystyle\frac{hc}{eV}\) に、与えられた物理定数と加速電圧\(V=1.2\times10^5 \, \text{V}\) の値を代入して、具体的な数値を計算します。
この設問における重要なポイント
- 問アの公式の正しい適用。
- 指数計算を含む数値計算を正確に行う。
具体的な解説と立式
問アで求めた式に、与えられた数値を代入します。
- プランク定数: \(h=6.6\times10^{-34} \, \text{J}\cdot\text{s}\)
- 光の速さ: \(c=3.0\times10^8 \, \text{m/s}\)
- 電気素量: \(e=1.6\times10^{-19} \, \text{C}\)
- 加速電圧: \(V=1.2\times10^5 \, \text{V}\)
$$ \lambda_0 = \frac{hc}{eV} $$
使用した物理公式
- 問アで導出した式
$$
\begin{aligned}
\lambda_0 &= \frac{(6.6\times10^{-34}) \times (3.0\times10^8)}{(1.6\times10^{-19}) \times (1.2\times10^5)} \\[2.0ex]
&= \frac{19.8 \times 10^{-34+8}}{1.92 \times 10^{-19+5}} \\[2.0ex]
&= \frac{19.8 \times 10^{-26}}{1.92 \times 10^{-14}} \\[2.0ex]
&= \frac{19.8}{1.92} \times 10^{-26 – (-14)} \\[2.0ex]
&= 10.3125 \times 10^{-12} \\[2.0ex]
&\approx 1.03 \times 10^{-11} \, \text{m}
\end{aligned}
$$
問題文の有効数字を考慮すると、解答は有効数字2桁で \(1.0 \times 10^{-11} \, \text{m}\) とするのが適切です。
問アで作った公式に、問題文で与えられたプランク定数などの数値をすべて代入して、電卓を使わずに計算する問題です。大きな数や小さな数を扱うので、\(10\)の何乗という部分(指数)の計算と、それ以外の数字の部分の計算を分けて行うと、ミスが少なくなります。
最短波長は約 \(1.0 \times 10^{-11} \, \text{m}\) と計算できました。これは原子の大きさ(約\(10^{-10} \, \text{m}\))よりも小さい波長であり、X線として妥当な値です。
問ウ
思考の道筋とポイント
加速電圧\(V\)を増したときの、X線スペクトルの変化を考えます。連続X線と特性X線は発生のメカニズムが異なるため、電圧増加の影響も異なります。それぞれの変化を個別に考察し、それらを重ね合わせたグラフをイメージします。
この設問における重要なポイント
- 最短波長\(\lambda_0\)は電圧\(V\)に反比例して短くなる。
- 特性X線の波長は電圧\(V\)に依存せず、一定である。
- 全体のX線の強度は増加する。
具体的な解説と立式
元のスペクトル(点線)と比較して、変化後のスペクトル(実線)は以下の3つの特徴を持ちます。
- 最短波長の変化: 連続X線の最短波長\(\lambda_0\)は、問アで導出した通り \(\lambda_0 = \displaystyle\frac{hc}{eV}\) で与えられます。加速電圧\(V\)を大きくすると、\(\lambda_0\)は小さくなります。したがって、グラフの左端は、より波長が短い左側へ移動します。
- 特性X線の波長の変化: 特性X線B, Cの波長は、陽極金属の原子のエネルギー準位の差\(\Delta E\)によって決まる固有の値です。その波長は \(\lambda_{\text{特性}} = \displaystyle\frac{hc}{\Delta E}\) で与えられ、加速電圧\(V\)には依存しません。したがって、ピークの位置(横軸の値)は変化しません。
- 全体の強度の変化: 加速電圧\(V\)を大きくすると、陽極に衝突する電子1個あたりのエネルギーが大きくなり、より多くのX線が生成されるため、連続X線・特性X線ともに全体の強度は増加します。したがって、グラフの山は全体的に高くなります。
使用した物理公式
- 最短波長の式: \(\lambda_0 = \displaystyle\frac{hc}{eV}\)
- 特性X線の波長: \(\lambda = \displaystyle\frac{hc}{\Delta E}\)
本問は数値計算ではなく作図問題です。作図のプロセスは以下の通りです。
- 変化前のスペクトル(点線)を基準とします。
- 変化後のスペクトル(実線)の左端(最短波長)を、点線の左端よりも左側に描きます。
- 実線のスペクトルにおける特性X線のピークB, Cの横軸の位置を、点線のピークの位置と完全に同じになるように描きます。
- 実線のグラフ全体を、点線のグラフよりも高い位置(強度が大きい)になるように描きます。
加速電圧を上げることは、電子をより速く、より強く金属にぶつけることに相当します。
- 最短波長: 電子のエネルギーが上がった分、生まれるX線の最大エネルギーも上がり、最短波長は短くなります。グラフは左にずれます。
- 全体の明るさ: より強くぶつかるので、発生するX線全体の量が増えて明るくなります。グラフは全体的に高くなります。
- 特性X線: これは原子の「指紋」のようなもので、原子の種類で決まっています。ぶつける電子のエネルギーを上げても、指紋自体は変わらないので、ピークの波長の位置は変わりません。
以上の3つの特徴(最短波長の左へのシフト、ピーク波長の不変、全体の強度の増加)をすべて満たすグラフが正解となります。模範解答の図aはこれらの特徴を正しく表現しています。
問エ
思考の道筋とポイント
X線回折におけるブラッグの条件を導出する問題です。問題の図2を参照し、隣り合う結晶面で反射した2つのX線の経路差を、結晶面の間隔\(d\)と入射角\(\theta\)を用いて幾何学的に求めます。これらの波が強め合う条件は、経路差が波長の整数倍になることです。
この設問における重要なポイント
- 図から経路差を正しく読み取る幾何学的な考察。
- 波の干渉における強め合いの条件:経路差 = \(n\lambda\) (\(n\)は整数)。
具体的な解説と立式
問題の図2において、隣り合う結晶面で反射する2つの光線の経路差を考えます。上の光線は表面で、下の光線は深さ\(d\)の面で反射します。下の光線が、上の光線に比べてどれだけ長く進むかを考えます。
模範解答の図bにあるように補助線を引くと、下の光線は、結晶に入る際に上の光線より\(d\sin\theta\)だけ長く進み、結晶から出る際にも\(d\sin\theta\)だけ長く進むことが幾何学的にわかります。
したがって、2つの光線の全経路差 \(\Delta L\) は、
$$ \Delta L = d\sin\theta + d\sin\theta = 2d\sin\theta $$
この経路差が、X線の波長\(\lambda\)の整数(\(n\))倍になるとき、2つの波は同位相で重なり合い、強く反射されます。これがブラッグの反射条件です。
$$ 2d\sin\theta = n\lambda \quad (n=1, 2, 3, \dots) $$
問題では、この式の左辺が問われています。
使用した物理公式
- 波の干渉の強め合いの条件
立式がそのまま答えとなります。空欄エに当てはまるのは \(2d\sin\theta\) です。
結晶は、原子が規則正しく並んだ「原子の棚」のような構造をしています。X線がこの棚に入ると、それぞれの段で反射されます。隣の段で反射したX線は、少しだけ長い距離を旅して出てきます。この「寄り道した距離(経路差)」が、ちょうどX線の波長の1倍、2倍、3倍、…になるとき、波の山と山、谷と谷がぴったり重なり、非常に強い反射光となって観測されます。この問題では、その「寄り道した距離」を数式で表します。
強め合いの条件式は \(2d\sin\theta = n\lambda\) であり、その経路差を表す部分は \(2d\sin\theta\) です。これはブラッグの条件として知られる重要な公式です。
問オ
思考の道筋とポイント
問エで導出したブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を用いて、結晶面の間隔\(d\)を計算します。問題文から、4回目の強い反射であるため \(n=4\)、そのときの角度が \(\theta=30^\circ\)、X線の波長が \(\lambda=7.0\times10^{-11} \, \text{m}\) であることが与えられています。
この設問における重要なポイント
- ブラッグの条件の適用。
- 「4回目に強い反射」が\(n=4\)に対応することを理解する。
具体的な解説と立式
ブラッグの条件式に、与えられた値を代入します。
- 次数: \(n=4\)
- 角度: \(\theta=30^\circ\)
- 波長: \(\lambda=7.0\times10^{-11} \, \text{m}\)
$$ 2d\sin\theta = n\lambda $$
$$ 2d\sin(30^\circ) = 4 \times (7.0\times10^{-11}) $$
使用した物理公式
- ブラッグの条件: \(2d\sin\theta = n\lambda\)
この式を\(d\)について解きます。\(\sin(30^\circ) = \displaystyle\frac{1}{2}\) なので、
$$
\begin{aligned}
2d \times \frac{1}{2} &= 4 \times 7.0\times10^{-11} \\[2.0ex]
d &= 28 \times 10^{-11} \\[2.0ex]
&= 2.8 \times 10^{-10} \, \text{m}
\end{aligned}
$$
X線が結晶によって特定の角度で強く反射されるのは、結晶内部の規則正しい原子の層からの反射波が、うまく重なり合って強め合うからです。その条件式がブラッグの条件です。問題で与えられた「4回目」「角度30°」「波長」という3つの情報をこの条件式に代入すれば、未知数である結晶面の「間隔d」を計算できます。
結晶面の間隔は \(d = 2.8 \times 10^{-10} \, \text{m}\) と計算できました。この値は \(2.8\) オングストロームに相当し、原子の大きさや原子間距離のオーダーとして物理的に非常に妥当な値です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- エネルギー保存則(逆光電効果):
- 核心: 高速電子が陽極に衝突してX線を発生させる際、電子の運動エネルギー \(eV\) がX線光子1個のエネルギー \(h\nu\) に変換されるというエネルギー保存の関係です。特に、電子の運動エネルギーがすべて1個の光子のエネルギーになるとき、その光子のエネルギーは最大(波長は最短)になります。
$$ eV = h\nu_{\text{最大}} = \frac{hc}{\lambda_0} $$ - 理解のポイント: 問アと問イはこの法則を直接的に応用する問題です。光電効果(光子→電子)とは逆のエネルギー変換プロセスであるため、「逆光電効果」とも呼ばれます。
- 核心: 高速電子が陽極に衝突してX線を発生させる際、電子の運動エネルギー \(eV\) がX線光子1個のエネルギー \(h\nu\) に変換されるというエネルギー保存の関係です。特に、電子の運動エネルギーがすべて1個の光子のエネルギーになるとき、その光子のエネルギーは最大(波長は最短)になります。
- X線スペクトルの二重構造:
- 核心: X線スペクトルは、滑らかな曲線を描く「連続X線」と、鋭いピークを持つ「特性X線(固有X線)」の2種類が重なってできています。
- 連続X線: 電子の制動(急減速)によって発生。最短波長は加速電圧\(V\)に依存する (\(\lambda_0 \propto 1/V\))。
- 特性X線: 原子内の電子の準位遷移によって発生。波長は陽極の物質に固有で、加速電圧\(V\)には依存しない。
- 理解のポイント: 問ウで加速電圧を上げたときのスペクトルの変化を考えるには、この2つのX線の発生メカニズムの違いを理解している必要があります。
- 核心: X線スペクトルは、滑らかな曲線を描く「連続X線」と、鋭いピークを持つ「特性X線(固有X線)」の2種類が重なってできています。
- ブラッグの反射条件(波の干渉):
- 核心: 結晶格子によるX線の回折を、結晶面からの「鏡面反射」とみなし、隣り合う結晶面で反射した波が強め合う条件を考えたものです。経路差が波長の整数倍になるという、波の干渉の基本原理に基づいています。
$$ 2d\sin\theta = n\lambda $$ - 理解のポイント: 問エと問オはこの法則を扱う問題です。幾何学的に経路差を求め、干渉の強め合いの条件を適用するという、光の干渉(ヤングの実験や回折格子)と同じ思考プロセスを用います。
- 核心: 結晶格子によるX線の回折を、結晶面からの「鏡面反射」とみなし、隣り合う結晶面で反射した波が強め合う条件を考えたものです。経路差が波長の整数倍になるという、波の干渉の基本原理に基づいています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 光電効果: 光子→電子という、本問の逆プロセスの問題。アインシュタインの光電効果の式 \(h\nu = W + eV_0\) と本問の \(eV = h\nu_{\text{最大}}\) を対比させると、エネルギー変換の理解が深まります。
- 電子線回折(ド・ブロイ波): 電子も波としての性質を持つため、結晶に電子線を照射しても回折が起こります。この場合、電子の波長(ド・ブロイ波長)\(\lambda = \displaystyle\frac{h}{p} = \displaystyle\frac{h}{mv}\) をブラッグの条件式に適用します。
- 回折格子: 多数のスリットによる光の干渉。経路差を考えて強め合いの条件を立てる点で、ブラッグの条件と考え方が共通しています。
- 初見の問題での着眼点:
- 現象の特定: 問題が「X線の発生」について問うているのか、「X線の回折(物質との相互作用)」について問うているのかをまず見極めます。
- エネルギー変換に着目する: 「X線の発生」では、電子の運動エネルギーが光子のエネルギーに変換されます。このエネルギーの流れを追うことが立式の基本です。
- 波の干渉に着目する: 「X線の回折」では、複数の波の重ね合わせを考えます。幾何学的な経路差を求め、強め合い・弱め合いの条件を適用することが解析の中心となります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 連続X線と特性X線の混同:
- 誤解: 問ウで、加速電圧を上げると特性X線の波長も変化すると考えてしまう。
- 対策: 「連続X線はブレーキ、特性X線は原子の指紋」とイメージで覚えましょう。ブレーキのかけ方(=電子のエネルギー)が変われば連続X線の出方は変わりますが、原子の指紋(=エネルギー準位の差)は原子固有なので変わりません。
- ブラッグの条件の角度\(\theta\)の定義:
- 誤解: \(\theta\)を入射角や反射角(法線とのなす角)と勘違いする。
- 対策: ブラッグの条件で使われる角度\(\theta\)は、入射X線と「結晶面」とのなす角(すれすれの角)です。これは光学で通常使う入射角とは定義が異なるため、特に注意が必要です。必ず図で確認する癖をつけましょう。
- \(n\)の扱いの間違い:
- 誤解: 問オで、「4回目に強い反射」を\(\theta=4 \times 30^\circ\)のように角度の倍数と勘違いしたり、\(n\)の値を間違えたりする。
- 対策: ブラッグの条件 \(2d\sin\theta = n\lambda\) において、\(n\)は「\(n\)次の反射」と呼ばれる整数です。「\(n\)回目」という表現は、\(\theta\)を\(0\)から大きくしていったときに強め合いが観測される順番を指しており、そのまま\(n\)の値に対応します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(eV = \displaystyle\frac{hc}{\lambda_0}\) (問ア):
- 選定理由: 電子の運動エネルギーと、それが変換された光子のエネルギーの関係を表すため。特に「最短波長」というキーワードから、エネルギーが最大となる極限状態を考える必要がある。
- 適用根拠: エネルギー保存則です。加速で得た電子の運動エネルギー\(eV\)が、衝突によって100%光子のエネルギー\(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_0}\)に変換された、という物理モデルに基づきます。
- \(2d\sin\theta = n\lambda\) (問エ):
- 選定理由: 結晶によるX線の回折で、特定の方向に強い反射が見られる条件を記述するため。
- 適用根拠: 波の干渉の原理に基づきます。隣接する結晶面からの反射波が、経路差が波長の整数倍になることで同位相で重なり、干渉によって強め合うという物理モデルを数式化したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認:
- 特に注意すべき点: 本問では符号ミスは起こりにくいですが、物理量の定義を正しく理解することが重要です。例えば、エネルギーや波長は常に正の値です。
- 日頃の練習: 物理量を扱う際は、その正負に物理的な意味があるかどうかを常に意識する習慣をつけましょう。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: 問アや問エのように、まずは文字式で関係を立てることが重要です。数値を最初から代入すると、見通しが悪くなったり、計算ミスをしやすくなったりします。
- 日頃の練習: どんな問題でも、まずは文字式で最終的な形まで変形し、最後に数値を代入する、という手順を徹底しましょう。
- 代入のタイミング:
- 特に注意すべき点: 問イや問オでは、\(10\)のべき乗を含む計算が中心となります。プランク定数(\(\sim 10^{-34}\))、電気素量(\(\sim 10^{-19}\))、光速(\(\sim 10^8\))など、桁数が大きく異なる定数を扱うため、指数計算のミスに特に注意が必要です。
- 日頃の練習: 計算の最初に指数の部分だけをまとめてしまう(例: \(10^{-34} \times 10^8 / (10^{-19} \times 10^5) = 10^{-12}\))、あるいは有効数字の部分と指数部分を分けて計算する癖をつけると、間違いを減らせます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 問イ 最短波長: 計算結果が \(1.0 \times 10^{-11} \, \text{m}\) となりました。これはオングストローム(\(1\,\text{Å} = 10^{-10} \, \text{m}\))よりも一桁小さい、ガンマ線に近い領域の波長です。高電圧で加速した電子から発生するX線(硬X線)としては、妥当なオーダーです。
- 問オ 結晶面の間隔: 計算結果は \(2.8 \times 10^{-10} \, \text{m}\)、すなわち\(2.8\,\text{Å}\)です。これは、一般的な金属結晶の原子間距離や格子定数として非常に現実的な値です。もし計算結果が\(10^{-5}\,\text{m}\)や\(10^{-15}\,\text{m}\)のような極端な値になった場合は、計算ミスを疑うべきです。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし加速電圧\(V\)を無限大にすると、最短波長\(\lambda_0\)は\(0\)に近づきます。これは、電子のエネルギーが無限大なら、発生する光子のエネルギーも無限大になるという直感と一致します。
- ブラッグの条件で、もし結晶面の間隔\(d\)が波長\(\lambda\)に比べて非常に大きい場合、強め合いが起こる角度\(\theta = \arcsin(n\lambda/2d)\)は非常に小さくなります。これは、大きな構造物では回折現象が観測されにくいという日常経験と一致します。
問題152 (大阪府大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、光の粒子性を示す代表的な現象である「コンプトン効果」を扱っています。光子と電子の衝突を、粒子同士の衝突とみなし、エネルギー保存則と運動量保存則を適用して解析します。この現象は、光が波であると考えると説明できないため、光量子仮説の強力な証拠となりました。
- 光子:入射光子の波長 \(\lambda_0\)、散乱光子の波長 \(\lambda_1\)。
- 電子:質量 \(m\)、衝突前は静止。衝突後の速さ \(v\)。
- 散乱角:光子は\(\theta\)、電子は\(\phi\)。
- 物理定数:プランク定数\(h\)、光の速さ\(c\)。
- 近似式:\(\displaystyle\frac{\lambda_1+\lambda_0}{\lambda_0\lambda_1} – \frac{2}{\lambda_0\lambda_1}\left(\frac{\Delta\lambda}{2}\right)^2 \approx \frac{2}{\lambda_0\lambda_1}\) (模範解答の誘導より、\(\displaystyle\frac{1}{\lambda_0^2} + \frac{1}{\lambda_1^2} \approx \frac{2}{\lambda_0\lambda_1}\)として使用)
- (1) 波長\(\lambda\)の光子のエネルギー\(E\)と運動量\(P\)。
- (2) 衝突前後でのエネルギー保存則の式。
- (3) 衝突前後での運動量保存則の式(進行方向と垂直方向)。
- (4) 波長の変化量 \(\Delta\lambda = \lambda_1 – \lambda_0\) を求める。
- (5) コンプトン効果がX線で顕著に現れ、可視光では現れにくい理由。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「コンプトン効果と光の粒子性」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 光子のエネルギーと運動量: 光子は、エネルギー \(E=h\nu=\displaystyle\frac{hc}{\lambda}\) と、運動量 \(p=\displaystyle\frac{h}{\lambda}\) を持つ粒子として振る舞う。
- エネルギー保存則: 衝突の前後で、系全体のエネルギーの総和は変わらない。
- 運動量保存則: 衝突の前後で、系全体の運動量のベクトル和は変わらない。運動量はベクトル量なので、成分に分けて考える必要がある。
- 連立方程式による未知数の消去: 複数の保存則から、観測が難しい物理量(この問題では電子の速さや散乱角)を消去し、観測量同士の関係式を導出する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、光子のエネルギーと運動量の基本公式を記述します。
- 問(2)と問(3)では、光子と電子の衝突を2つの粒子の衝突とみなし、エネルギー保存則と運動量保存則(ベクトルなので2つの成分に分解)を立式します。
- 問(4)では、問(2)と問(3)で立てた3つの式を連立させ、観測が難しい電子の物理量(速さ\(v\)、散乱角\(\phi\))を消去し、観測可能な光子の波長変化\(\Delta\lambda\)を求めます。
- 問(5)では、問(4)で得られた結果を用いて、波長変化の相対的な大きさ \(\displaystyle\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) が、入射光の波長\(\lambda_0\)によってどう変わるかを考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
光量子仮説における、光子1個のエネルギーと運動量の定義式を答える問題です。これらの式は現代物理学の基本となる重要な関係式です。
この設問における重要なポイント
- 光子のエネルギー: \(E=h\nu=\displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)
- 光子の運動量: \(p=\displaystyle\frac{h}{\lambda}\)
具体的な解説と立式
波長\(\lambda\)の光子の振動数を\(\nu\)とすると、光の速さ\(c\)との間に \(c=\lambda\nu\) の関係があります。
光子1個のエネルギー\(E\)は、プランク定数\(h\)を用いて、
$$ E = h\nu = \frac{hc}{\lambda} $$
また、光子1個の運動量の大きさ\(P\)は、
$$ P = \frac{h}{\lambda} $$
と表されます。
使用した物理公式
- 光子のエネルギーの公式
- 光子の運動量の公式
立式がそのまま答えとなります。
光は波の性質と同時に、粒の性質も持っています。この「光の粒」を光子と呼びます。この設問は、光子のエネルギーと運動量(勢いのようなもの)を、波としての性質である波長\(\lambda\)を使ってどう表すか、という基本公式を問うています。
光子のエネルギーは \(E=\displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)、運動量は \(P=\displaystyle\frac{h}{\lambda}\) です。波長\(\lambda\)が短いほど、エネルギーも運動量も大きくなることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
衝突前後でのエネルギー保存則を立式します。衝突前のエネルギーは「入射光子のエネルギー」と「静止電子のエネルギー」の和、衝突後のエネルギーは「散乱光子のエネルギー」と「運動する電子のエネルギー」の和です。
この設問における重要なポイント
- 衝突前のエネルギー:入射光子のエネルギー \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_0}\) のみ。(静止電子の運動エネルギーは\(0\))
- 衝突後のエネルギー:散乱光子のエネルギー \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_1}\) + はね飛ばされた電子の運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。
- 高校物理の範囲では、電子の運動エネルギーを非相対論的な \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) として扱います。
具体的な解説と立式
- 衝突前の系の全エネルギー:
入射光子のエネルギー \(E_0 = \displaystyle\frac{hc}{\lambda_0}\) と、静止している電子の運動エネルギー \(K_e = 0\) の和です。 - 衝突後の系の全エネルギー:
散乱光子のエネルギー \(E_1 = \displaystyle\frac{hc}{\lambda_1}\) と、速さ\(v\)ではね飛ばされた電子の運動エネルギー \(K_e’ = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) の和です。
エネルギー保存則より、「衝突前のエネルギーの総和 = 衝突後のエネルギーの総和」なので、以下の式が成り立ちます。
$$ \frac{hc}{\lambda_0} + 0 = \frac{hc}{\lambda_1} + \frac{1}{2}mv^2 $$
使用した物理公式
- エネルギー保存則
- 光子のエネルギー: \(E=\displaystyle\frac{hc}{\lambda}\)
- 運動エネルギー: \(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
立式がそのまま答えとなります。
ビリヤードで、手玉(入射光子)が止まっている的玉(電子)に当たった状況を考えます。衝突前に手玉が持っていたエネルギーが、衝突後に「勢いが弱くなった手玉(散乱光子)」と「動き出した的玉(電子)」のエネルギーに分け与えられた、というエネルギーの保存関係を数式で表します。
エネルギー保存の式は \(\displaystyle\frac{hc}{\lambda_0} = \displaystyle\frac{hc}{\lambda_1} + \frac{1}{2}mv^2\) です。この式から、入射光子の一部エネルギーが電子に与えられたことがわかります。
問(3)
思考の道筋とポイント
衝突前後での運動量保存則を立式します。運動量はベクトル量なので、入射光子の進行方向(x軸)と、それに垂直な方向(y軸)の2つの成分に分けて保存則を考えます。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則はベクトルで考えるため、成分に分解する。
- 入射方向をx軸、垂直方向をy軸と設定する。
- 各粒子の運動量をx成分とy成分に分解する。
具体的な解説と立式
入射光子の進行方向をx軸、それに垂直な方向をy軸とします。
- 衝突前の運動量:
- x成分: 入射光子の運動量 \(p_0 = \displaystyle\frac{h}{\lambda_0}\)。電子は静止しているので運動量は\(0\)。
- y成分: 光子も電子もy方向の運動量はないので\(0\)。
- 衝突後の運動量:
- 散乱光子の運動量: 大きさは \(p_1 = \displaystyle\frac{h}{\lambda_1}\)。x成分は \(p_1 \cos\theta = \displaystyle\frac{h}{\lambda_1}\cos\theta\)、y成分は \(p_1 \sin\theta = \displaystyle\frac{h}{\lambda_1}\sin\theta\)。
- 電子の運動量: 大きさは \(mv\)。x成分は \(mv \cos\phi\)、y成分は \(-mv \sin\phi\)(図のy軸下向きを負とする)。
x軸方向(進行方向)の運動量保存則:
$$ \frac{h}{\lambda_0} = \frac{h}{\lambda_1}\cos\theta + mv\cos\phi $$
y軸方向(垂直方向)の運動量保存則:
$$ 0 = \frac{h}{\lambda_1}\sin\theta – mv\sin\phi $$
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 光子の運動量: \(p=\displaystyle\frac{h}{\lambda}\)
- ベクトルの成分分解
立式がそのまま答えとなります。
先ほどのビリヤードの例えで、今度は「勢い(運動量)」の保存を考えます。運動量には向きがあるので、x方向(もともと手玉が進んでいた方向)とy方向(それと垂直な方向)に分けて考えます。
- x方向: 衝突前の手玉の勢いが、衝突後の手玉のx方向の勢いと的玉のx方向の勢いの合計に等しい。
- y方向: 衝突前は誰もy方向に動いていなかったので、y方向の勢いの合計は\(0\)。衝突後も、手玉のy方向の勢いと的玉のy方向の勢いは、向きが逆で大きさが同じなので、合計すると\(0\)になる。
進行方向の運動量保存則は \(\displaystyle\frac{h}{\lambda_0} = \displaystyle\frac{h}{\lambda_1}\cos\theta + mv\cos\phi\)、垂直方向は \(0 = \displaystyle\frac{h}{\lambda_1}\sin\theta – mv\sin\phi\) です。
問(4)
思考の道筋とポイント
問(2)と問(3)で立てた3つの保存則の式から、電子の物理量である \(v\) と \(\phi\) を消去して、光子の波長の変化 \(\Delta\lambda = \lambda_1 – \lambda_0\) を求める、複雑な計算問題です。
- まず、運動量保存の2つの式から、電子の散乱角\(\phi\)を消去します。これは \(\sin^2\phi + \cos^2\phi = 1\) を利用するのが定石です。
- 次に、得られた式とエネルギー保存の式を連立させ、電子の速さ\(v\)を消去します。
- 最後に、与えられた近似式を用いて式を整理し、\(\Delta\lambda\)を求めます。
この設問における重要なポイント
- 連立方程式を解いて未知数を消去する、純粋な計算能力。
- 三角関数の公式 \(\sin^2\phi + \cos^2\phi = 1\) を利用する。
- 問題文で与えられた近似式を適切なタイミングで適用する。
具体的な解説と立式
問(3)の運動量保存の式を、電子の項について変形します。
$$ mv\cos\phi = h\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\cos\theta\right) \quad \cdots ① $$
$$ mv\sin\phi = \frac{h}{\lambda_1}\sin\theta \quad \cdots ② $$
①と②の両辺を2乗して足し合わせ、\(\cos^2\phi + \sin^2\phi = 1\) を利用して\(\phi\)を消去します。
$$ (mv\cos\phi)^2 + (mv\sin\phi)^2 = (mv)^2(\cos^2\phi + \sin^2\phi) = (mv)^2 $$
よって、
$$ (mv)^2 = h^2\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\cos\theta\right)^2 + h^2\left(\frac{\sin\theta}{\lambda_1}\right)^2 \quad \cdots ③ $$
一方、問(2)のエネルギー保存の式を変形して、\(v^2\) を求めます。
$$ \frac{1}{2}mv^2 = hc\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\right) $$
$$ v^2 = \frac{2hc}{m}\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\right) \quad \cdots ④ $$
③と④から\(v\)を消去し、\(\Delta\lambda\)を求めます。
使用した物理公式
- エネルギー保存則、運動量保存則(問(2), (3)の式)
- \(\sin^2\phi + \cos^2\phi = 1\)
模範解答のヒントにあるように、計算を進めます。
まず、式③の右辺を展開・整理します。
$$
\begin{aligned}
(mv)^2 &= h^2 \left( \frac{1}{\lambda_0^2} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1} + \frac{\cos^2\theta}{\lambda_1^2} \right) + h^2 \frac{\sin^2\theta}{\lambda_1^2} \\[2.0ex]
&= h^2 \left( \frac{1}{\lambda_0^2} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1} + \frac{\cos^2\theta + \sin^2\theta}{\lambda_1^2} \right) \\[2.0ex]
&= h^2 \left( \frac{1}{\lambda_0^2} + \frac{1}{\lambda_1^2} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1} \right)
\end{aligned}
$$
次に、エネルギー保存の式④から \(m^2v^2\) を作ります。
$$ m^2v^2 = 2mhc\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\right) $$
この2つの \(m^2v^2\) の式を等しいとおきます。
$$ 2mhc\left(\frac{1}{\lambda_0} – \frac{1}{\lambda_1}\right) = h^2 \left( \frac{1}{\lambda_0^2} + \frac{1}{\lambda_1^2} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1} \right) $$
ここで、問題文で与えられた近似式 \(\displaystyle\frac{1}{\lambda_0^2} + \displaystyle\frac{1}{\lambda_1^2} \approx \displaystyle\frac{2}{\lambda_0\lambda_1}\) を右辺に適用します。(この近似は \(\lambda_1 \approx \lambda_0\) のときに成り立ちます)
$$ 2mc\left(\frac{\lambda_1-\lambda_0}{\lambda_0\lambda_1}\right) \approx h\left(\frac{2}{\lambda_0\lambda_1} – \frac{2\cos\theta}{\lambda_0\lambda_1}\right) $$
両辺の \(h\) を1つ約分し、整理します。
$$ 2mc\frac{\lambda_1-\lambda_0}{\lambda_0\lambda_1} \approx \frac{2h(1-\cos\theta)}{\lambda_0\lambda_1} $$
両辺に \(\displaystyle\frac{\lambda_0\lambda_1}{2}\) を掛けて、
$$ mc(\lambda_1-\lambda_0) \approx h(1-\cos\theta) $$
\(\Delta\lambda = \lambda_1 – \lambda_0\) なので、
$$ \Delta\lambda \approx \frac{h}{mc}(1-\cos\theta) $$
エネルギー保存の式と、運動量保存の2つの式、合計3つの式があります。知りたいのは光子の波長の変化だけで、電子がどっちにどれくらいの速さで飛んだかは興味がありません。そこで、これら3つの式をうまく組み合わせて(連立方程式を解いて)、電子の情報(速さ\(v\)と角度\(\phi\))を消去する計算を行います。計算は複雑ですが、最終的に光子の情報だけのきれいな関係式が出てきます。
波長の変化量は \(\Delta\lambda = \displaystyle\frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) となります。これはコンプトン散乱の公式として知られています。この式は、波長の変化が光子の散乱角\(\theta\)だけで決まり、入射光の波長\(\lambda_0\)やエネルギーによらないという重要な結果を示しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
問(4)で求めた波長の変化量 \(\Delta\lambda\) の式が、入射光の波長\(\lambda_0\)に依存しないことに着目します。コンプトン効果が顕著に現れるかどうかは、波長の変化量\(\Delta\lambda\)そのものではなく、元の波長に対する変化の「割合」\(\displaystyle\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) が大きいかどうかで決まります。
この設問における重要なポイント
- \(\Delta\lambda\) は入射波長\(\lambda_0\)に依存しない(散乱角\(\theta\)のみによる)。
- 現象の顕著さは、相対的な変化量 \(\displaystyle\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) で評価する。
具体的な解説と立式
問(4)の結果より、波長の変化量 \(\Delta\lambda = \displaystyle\frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) は、入射光の波長\(\lambda_0\)を含んでいません。これは、どんな波長の光でも、同じ角度\(\theta\)で散乱されれば、波長の「伸び」は同じであることを意味します。
この定数 \(\displaystyle\frac{h}{mc}\) はコンプトン波長と呼ばれ、その値は約 \(2.4 \times 10^{-12} \, \text{m}\) です。
したがって、\(\Delta\lambda\) は \(0\) から最大でも \(2 \times \displaystyle\frac{h}{mc} \approx 4.8 \times 10^{-12} \, \text{m}\) 程度の非常に小さい値です。
コンプトン効果が観測されやすいかどうかは、この変化の割合 \(\displaystyle\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) を考えます。
- X線の場合:
波長\(\lambda_0\)が \(10^{-11} \sim 10^{-8} \, \text{m}\) 程度です。これは\(\Delta\lambda\) (\(\sim 10^{-12} \, \text{m}\)) と同程度か、それほど大きくは違いません。したがって、変化の割合 \(\displaystyle\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) は無視できない大きな値となり、コンプトン効果は顕著に観測されます。 - 可視光の場合:
波長\(\lambda_0\)が \(380 \sim 770 \, \text{nm}\) (\(3.8 \times 10^{-7} \sim 7.7 \times 10^{-7} \, \text{m}\)) 程度です。これは\(\Delta\lambda\) (\(\sim 10^{-12} \, \text{m}\)) に比べて \(10^5\) 倍程度も大きいため、変化の割合 \(\displaystyle\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\) は極めて小さくなります。
このため、可視光では波長の変化が測定困難なほど小さく、コンプトン効果は実質的に観測されません。
コンプトン効果による波長の伸び(\(\Delta\lambda\))は、元の波長が長くても短くても、実は一定です。例えば、散乱角が90°なら、波長は約 \(2.4 \times 10^{-12} \, \text{m}\) 伸びます。
- X線のように元の波長が非常に短い(例:\(10^{-11} \, \text{m}\))場合、この伸びは元の波長に対して非常に大きな割合を占めるため、変化がはっきりと分かります。
- 可視光のように元の波長が比較的長い(例:\(5 \times 10^{-7} \, \text{m}\))場合、同じだけ伸びても、元の長さに対する割合としてはごくわずかです。そのため、変化はほとんど無視できるほど小さく、コンプトン効果は観測されにくくなります。
波長の変化量\(\Delta\lambda\)は入射光の波長\(\lambda_0\)に依存しない。そのため、元の波長\(\lambda_0\)が\(\Delta\lambda\)に比べて十分に大きい可視光では、波長の変化の割合\(\displaystyle\frac{\Delta\lambda}{\lambda_0}\)が非常に小さくなり、効果がほとんど観測されない。一方、\(\lambda_0\)が\(\Delta\lambda\)と同程度のX線では、変化の割合が大きいため、効果が顕著に現れる。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光の粒子性(エネルギーと運動量):
- 核心: コンプトン効果を理解するための大前提です。光を、単なる波ではなく、エネルギー \(E=\displaystyle\frac{hc}{\lambda}\) と運動量 \(p=\displaystyle\frac{h}{\lambda}\) を持つ「光子」という粒子の流れとして捉えることが全ての出発点となります。
- 理解のポイント: 問(1)はこの基本公式を問う問題です。この粒子描像を受け入れなければ、問(2)以降の保存則の立式ができません。
- エネルギー保存則と運動量保存則:
- 核心: 「光子と電子の衝突」を、古典力学における2つの物体の衝突問題と全く同じように扱います。衝突の前後で、系全体の「エネルギーの総和」と「運動量のベクトル和」がそれぞれ保存される、という2大保存則を適用します。
- 理解のポイント: 問(2)がエネルギー保存則、問(3)が運動量保存則の立式です。特に運動量はベクトル量であるため、進行方向(x成分)とそれに垂直な方向(y成分)に分けて立式する必要がある点が重要です。
- コンプトン散乱の公式:
- 核心: 上記の保存則を連立させ、電子の情報を消去することで得られる、波長の変化量 \(\Delta\lambda\) と散乱角 \(\theta\) の関係式です。
$$ \Delta\lambda = \lambda_1 – \lambda_0 = \frac{h}{mc}(1-\cos\theta) $$ - 理解のポイント: 問(4)はこの公式の導出過程を追う問題です。この式の最も重要な特徴は、波長の変化量 \(\Delta\lambda\) が、入射光の波長 \(\lambda_0\) には一切依存しない、という点です。この事実が問(5)の考察の鍵となります。
- 核心: 上記の保存則を連立させ、電子の情報を消去することで得られる、波長の変化量 \(\Delta\lambda\) と散乱角 \(\theta\) の関係式です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 光電効果: 同じく光の粒子性を示す現象ですが、光子が電子にエネルギーをすべて渡して消滅する「吸収」現象です。コンプトン効果は、光子がエネルギーの一部を渡して自身も生き残る「散乱」現象であるという違いがあります。
- 原子核物理における衝突: 陽子や中性子、α粒子などの粒子同士の衝突問題。エネルギー保存則と運動量保存則を連立させて解くという点で、思考のプロセスは全く同じです。
- ド・ブロイ波: 電子などの粒子も波としての性質を持つため、その波長 \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{p}\) が重要になります。粒子性と波動性の二重性は、現代物理学の根幹をなす概念です。
- 初見の問題での着眼点:
- 現象を粒子間の衝突として捉える: 問題文に「光子と電子の衝突」とあれば、すぐに力学の衝突問題と同じ土俵で考える準備をします。
- 保存則の立式を徹底する: 衝突現象では、エネルギー保存則と運動量保存則が最も強力な武器です。まずはこの2つの法則を、問題の状況に合わせて正確に立式することから始めます。
- ベクトル量の扱いに注意する: 運動量はベクトルです。必ず成分に分解して考えます。通常は、入射方向をx軸、それに垂直な方向をy軸と設定するのが定石です。
- 未知数を消去する方向を見据える: 問(4)のように、複数の式から特定の変数(この場合は電子の速さ\(v\)と散乱角\(\phi\))を消去する問題では、どの式をどう変形すれば消去しやすいか、計算の見通しを立てることが重要です。三角関数の公式 \(\sin^2\phi+\cos^2\phi=1\) は、角度を消去する際の常套手段です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- エネルギーと運動量の混同:
- 誤解: エネルギー保存則を立てるべきところで運動量を、運動量保存則を立てるべきところでエネルギーを考えてしまう。
- 対策: エネルギーはスカラー量(大きさのみ)、運動量はベクトル量(大きさと向き)であることを明確に区別しましょう。エネルギー保存は単純な足し算ですが、運動量保存はベクトルの和(成分ごとの足し算)です。
- 電子のエネルギーの扱い:
- 誤解: 衝突後の電子のエネルギーを運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) のみと考えてしまう。
- 対策: 厳密なエネルギー保存則では、電子の静止エネルギー \(mc^2\) も考慮する必要があります。衝突前は \(E_0 + mc^2\)、衝突後は \(E_1 + \sqrt{(mc^2)^2+(pc)^2}\) となります。高校物理では、多くの場合、電子が得た運動エネルギーという形で \(h\nu_0 = h\nu_1 + K_e\) のように立式することで、静止エネルギーを陽に扱わずに済みます。
- 近似式の適用の誤り:
- 誤解: 問(4)で、どのタイミングで、どの式に近似を適用すればよいか分からなくなる。
- 対策: この問題の近似式は、非相対論的な運動エネルギーの式からでは厳密には導出できません。これは、高校物理の範囲で相対論的な結果を扱うための「ヒント」として与えられています。したがって、問題の誘導やヒントの指示に素直に従って計算を進めるのが最善策です。自力で変形しようとすると、矛盾が生じることがあります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(E=\displaystyle\frac{hc}{\lambda}, p=\displaystyle\frac{h}{\lambda}\) (問1):
- 選定理由: 光の粒子としての性質(エネルギーと運動量)を数式で表現するため。
- 適用根拠: アインシュタインの光量子仮説と、ド・ブロイの関係式という、現代物理学の根幹をなす仮説・法則です。
- エネルギー保存則 (問2):
- 選定理由: 衝突現象を記述する第一の基本法則だから。
- 適用根拠: 外部とのエネルギーのやり取りがない孤立した系では、エネルギーの総和は常に一定であるという、物理学の普遍的な法則です。
- 運動量保存則 (問3):
- 選定理由: 衝突現象を記述する第二の基本法則だから。
- 適用根拠: 外部から力が働かない孤立した系では、運動量の総和(ベクトル和)は常に一定であるという、これも物理学の普遍的な法則です。
- \(\Delta\lambda = \displaystyle\frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) (問4):
- 選定理由: 観測量である光子の波長変化と散乱角の関係を導くため。
- 適用根拠: 上記の2つの保存則から、観測が困難な電子の情報を数学的に消去した結果として導出される関係式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認:
- 特に注意すべき点: 運動量保存則を成分で考える際、y軸の正負の取り方に注意が必要です。問(3)では、散乱光子のy成分を正、電子のy成分を負として立式しています。自分で軸を設定し、符号を間違えないようにしましょう。
- 日頃の練習: ベクトルを扱う問題では、必ず図を描き、座標軸と各ベクトルの成分の正負を確認する習慣をつけましょう。
- 文字式の整理:
- 特に注意すべき点: 問(4)の計算は、高校物理の中でもトップクラスに複雑です。計算過程を省略せず、一行一行丁寧に進めることが重要です。特に、2乗の展開や三角関数の処理でミスが出やすいので、注意深く行いましょう。
- 日頃の練習: 複雑な計算問題にこそ、途中式をきれいに書く練習が有効です。どの式をどう変形しているのか、後から見直せるように記述しましょう。
- 代入のタイミング:
- 特に注意すべき点: 問題文で近似式が与えられている場合、それは計算を大幅に簡略化するためのヒントです。どの段階で適用するのが最も効果的かを見極めましょう。この問題では、\(v\)を消去した後の複雑な式に適用することで、劇的に簡単な形になります。
- 日頃の練習: 複数の公式を連立させる問題では、どの変数をどの順番で消去するか、戦略を立てる練習をしましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- 問(4) \(\Delta\lambda\)の式: \(\Delta\lambda = \displaystyle\frac{h}{mc}(1-\cos\theta)\) は、\(\theta=0^\circ\)(前方散乱)のとき\(\Delta\lambda=0\)(波長変化なし)、\(\theta=180^\circ\)(後方散乱)のとき\(\Delta\lambda\)が最大値 \(\displaystyle\frac{2h}{mc}\) をとることを示します。これは、正面衝突で最も多くのエネルギーを電子に与えるという直感的なイメージと一致します。
- 問(5) 現象の依存性: コンプトン効果がX線のような高エネルギー(短波長)の光で顕著になるという結論は、実験事実と一致します。光の粒子性が、エネルギーが高い領域でより顕著に現れる一例と考えることができます。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし光が単なる波(古典的な電磁波)であれば、電子を振動させて同じ振動数の光を再放射するはずで、波長が変わることは説明できません。コンプトン効果が「光の粒子性」の決定的な証拠とされる理由を、この古典論との対比で理解しておくことが重要です。
- もし電子の質量\(m\)が非常に大きいと仮定すると、\(\Delta\lambda\)は\(0\)に近づきます。これは、非常に重い物体に衝突しても、光子はほとんどエネルギーを失わない(跳ね返されるだけ)というイメージと一致します。
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問題153 (東北大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、金属単結晶への電子線照射実験を題材に、前半で電子の波動性(ブラッグ反射、ド・ブロイ波)、後半で電子の粒子性(光電効果の逆過程である制動放射)という、現代物理学の根幹をなす二つのテーマを総合的に問う問題です。
- 実験装置: 電子銃、金属単結晶、電子検出器、分光器
- 物理定数: プランク定数 \(h\)、真空中の光速 \(c\)、電子の質量 \(m\)、電気素量 \(e\)
- 変数: 原子面間隔 \(d\)、入射角 \(\theta\)、波長 \(\lambda\)、自然数 \(n\)、運動エネルギー \(E\)、加速電圧 \(V_1, V_2\)、散乱角 \(\alpha\)、仕事関数 \(W\)、最短波長 \(\lambda_1, \lambda_2\)
- (1) ブラッグ反射が強めあう条件式
- (2) 運動エネルギー \(E\) で表した電子の波長 \(\lambda\)
- (3) 測定量 \(V_1, \alpha\) で表した最小の原子面間隔 \(d_a\)
- (4) 具体的な条件下での電子の運動エネルギー \(E_e\)
- (5) 同じ回折条件を満たすX線のエネルギー \(E_p\)
- (6) 制動放射のスペクトル変化のグラフ描画
- (7) 仕事関数 \(W\) とプランク定数 \(h\) の導出
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「電子の波動性と粒子性」です。前半は電子の回折現象を、後半は電子から光が発生する現象を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ブラッグ反射の条件: 結晶格子による波の干渉条件式 \(2d\sin\theta = n\lambda\) を正しく理解し、適用します。
- ド・ブロイ波長: 運動する粒子は波の性質を持つという考え方で、その波長は \(\lambda = \displaystyle\frac{h}{p}\) で与えられます。
- エネルギー保存則: 電子が電場で加速される際のエネルギー \(E=eV\)、そして電子が金属に衝突して光を放出する際のエネルギー保存則が重要です。
- 光子のエネルギー: 光のエネルギーは \(E=h\nu = \displaystyle\frac{hc}{\lambda}\) で与えられ、波長と反比例の関係にあります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、問(1)と問(2)でブラッグ反射とド・ブロイ波に関する基本公式を確認します。
- 次に、問(3)で実験の幾何学的配置から物理法則と測定量とを結びつけ、問(4)と問(5)で具体的な数値を計算します。
- 最後に、問(6)と問(7)で光電効果の逆過程である制動放射の性質を理解し、エネルギー保存則を用いて未知の物理量を導出します。