問題141 (徳島大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、一様な磁場中で正方形コイルを回転させることで生じる交流電圧について、2つの異なるアプローチ([A] ローレンツ力による起電力、[B] ファラデーの法則)で考察し、さらにその交流によって生じる電流、力、消費電力を解析する、交流発電機の原理に関する総合的な問題です。
- コイル:一辺の長さが \(l\) の正方形、1回巻き (\(N=1\))
- 磁場:一様で磁束密度 \(B\)
- 運動:磁力線に垂直な軸の周りを、一定の角速度 \(\omega\) で回転
- 回路:コイルの両端は抵抗 \(R\) に接続されている
- 角度の定義:時刻 \(t=0\) でコイル面と磁場が平行な状態を \(\theta=0\) とする。時刻 \(t\) での角度は \(\theta = \omega t\)。
- [A] ローレンツ力によるアプローチ
- (1) 辺abの速さ \(v_{\text{ab}}\)。
- (2) 辺abに生じる誘導起電力の大きさ。
- (3) コイル全体に生じる誘導起電力 \(V\) の大きさ。
- [B] ファラデーの法則によるアプローチ
- (4) コイルを貫く磁束 \(\Phi\)。
- (5) コイル全体に生じる誘導起電力 \(V\) の大きさ。
- [C] 発生した交流の解析
- (6) 時刻 \(t_0\) における電流の向きと、コイルが受ける力の向き。
- (7) 消費電力の最大値 \(P_{\text{最大}}\) と、\(P\) と \(\omega t\) の関係を表すグラフ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「交流発電の原理」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 誘導起電力(ローレンツ力): 導体棒が磁場を横切ることで生じる起電力 \(V=v_{\perp}Bl\) を計算する。
- 誘導起電力(ファラデーの法則): コイルを貫く磁束の時間変化率から起電力 \(V = -N\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) を計算する。
- 円運動の運動学: 速さと角速度の関係式 \(v=r\omega\) を用いる。
- 交流回路の解析: 発生した交流電圧によって回路に流れる電流、ローレンツ力、消費電力を求める。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- [A]では、コイルの各辺を運動する導体棒とみなし、ローレンツ力によって生じる誘導起電力を辺ごとに計算し、それらを足し合わせることでコイル全体の起電力を求めます。
- [B]では、コイル全体を一つの閉回路とみなし、回転に伴う磁束の変化率をファラデーの法則に適用して、コイル全体の起電力を一括で求めます。
- [C]では、[A]や[B]で求めた起電力を用いて、抵抗に流れる電流や消費電力を解析します。
問(1)
思考の道筋とポイント
辺abは、回転軸から距離 \(r = l/2\) の位置で、角速度 \(\omega\) の円運動をしています。円運動における速さと角速度の関係式 \(v=r\omega\) を用いて、辺abの速さを求めます。
この設問における重要なポイント
- 円運動の速さと角速度の関係: \(v=r\omega\)
- 回転半径の特定: 辺abの回転半径はコイルの一辺の長さの半分、\(l/2\) であることを正しく認識する。
具体的な解説と立式
辺abの回転半径を \(r\) とすると、図1から \(r = \displaystyle\frac{l}{2}\) です。
速さ \(v_{\text{ab}}\) は、関係式 \(v=r\omega\) より、
$$ v_{\text{ab}} = \left(\frac{l}{2}\right) \omega $$
使用した物理公式
- 円運動の速度: \(v=r\omega\)
立式がそのまま答えとなります。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{ab}} = \frac{l\omega}{2}
\end{aligned}
$$
辺abは、コイルの中心を軸としてぐるぐる回っています。このとき、辺abの速さは「回転軸からの距離 × 角速度」で計算できます。回転軸からの距離は辺の長さの半分 \(l/2\) なので、これに角速度 \(\omega\) を掛けるだけで速さが求まります。
辺ab部分の速さは \(v_{\text{ab}} = \displaystyle\frac{l\omega}{2}\) です。速さが角速度 \(\omega\) と半径 \(l/2\) に比例するという、基本的な関係式に基づいた妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
導体棒が磁場を横切るときに生じる誘導起電力の公式は \(V=v_{\perp}Bl\) です。ここで \(v_{\perp}\) は、導体棒の速度のうち、磁場の向きと垂直な成分の大きさです。時刻 \(t\) における辺abの速度ベクトルと磁場のなす角を考え、\(v_{\perp}\) を求めて公式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 誘導起電力の公式: \(V=v_{\perp}Bl\)
- 速度の成分分解: 速度 \(v_{\text{ab}}\) を磁場に垂直な成分と平行な成分に分解する。
- 角度の把握: 時刻 \(t\) におけるコイルの回転角が \(\theta = \omega t\) であることを利用する。
具体的な解説と立式
時刻 \(t\) において、コイル面は水平から角度 \(\omega t\) だけ回転しています。辺abの速度 \(v_{\text{ab}}\) は円の接線方向を向いています。磁場は水平方向(図1の右向き)です。
速度 \(v_{\text{ab}}\) のうち、磁場に垂直な成分 \(v_{\perp}\) は、図aからわかるように、
$$ v_{\perp} = v_{\text{ab}} |\cos(\omega t)| $$
したがって、辺abに生じる誘導起電力の大きさ \(|V_{\text{ab}}|\) は、
$$ |V_{\text{ab}}| = B l v_{\perp} = B l (v_{\text{ab}} |\cos(\omega t)|) $$
ここに(1)で求めた \(v_{\text{ab}} = \displaystyle\frac{l\omega}{2}\) を代入します。
使用した物理公式
- 誘導起電力: \(V=v_{\perp}Bl\)
$$
\begin{aligned}
|V_{\text{ab}}| &= B l \left( \frac{l\omega}{2} \right) |\cos(\omega t)| \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}Bl^2\omega |\cos(\omega t)|
\end{aligned}
$$
導体棒が磁場を「切る」ことで電圧が発生します。最も効率よく切るのは、磁場に対して垂直に動くときです。コイルが回転すると、辺abが磁場を切る角度が刻々と変わるため、速度の「磁場を真横に切る成分」だけを考えます。この成分は \(\cos(\omega t)\) で変化するので、発生する電圧もそれに比例して変化します。
辺abに生じる誘導起電力の大きさは \(\displaystyle\frac{1}{2}Bl^2\omega |\cos(\omega t)|\) です。起電力が時間と共に周期的に変化する交流電圧であることがわかります。
問(3)
思考の道筋とポイント
コイル全体に生じる誘導起電力は、各辺に生じる誘導起電力の総和です。
1. 辺abと辺cd: 磁場を横切るため、起電力が生じます。
2. 辺bcと辺da: 速度の向きが磁場と平行なため、磁場を横切らず、起電力は生じません。
辺cdに生じる起電力の大きさを(2)と同様に求め、辺abの起電力と足し合わせます。このとき、2つの起電力が強め合う向きか、打ち消し合う向きかを正しく判断する必要があります。
この設問における重要なポイント
- 起電力の重ね合わせ: コイル全体の起電力は、各部分の起電力の代数和。
- 起電力の向き: レンツの法則やフレミングの右手の法則で判断する。
具体的な解説と立式
辺cdも辺abと同様に、回転軸から距離 \(l/2\) で円運動しており、速さも \(v_{\text{cd}} = \displaystyle\frac{l\omega}{2}\) で同じです。したがって、辺cdに生じる誘導起電力の大きさ \(|V_{\text{cd}}|\) も辺abと同じになります。
$$ |V_{\text{cd}}| = \frac{1}{2}Bl^2\omega |\cos(\omega t)| $$
次に、起電力の向きを考えます。\(0 < \omega t < \pi/2\) のとき、レンツの法則より、コイルを貫く磁束(右向き)の増加を妨げるため、左向きの磁場を作るような電流(d→c→b→a→dの向き)が流れようとします。これは、辺abではb→aの向き、辺cdではd→cの向きに起電力が生じていることを意味します。この2つの起電力は、コイルを一周する経路で見ると直列に接続された電池のように同じ向きであり、足し合わされます。
したがって、pq間に発生する誘導起電力の大きさ \(V\) は、
$$ V = |V_{\text{ab}}| + |V_{\text{cd}}| $$
使用した物理公式
- 誘導起電力: \(V=v_{\perp}Bl\)
- レンツの法則
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{1}{2}Bl^2\omega |\cos(\omega t)| + \frac{1}{2}Bl^2\omega |\cos(\omega t)| \\[2.0ex]
&= Bl^2\omega |\cos(\omega t)|
\end{aligned}
$$
コイルの上下の辺(abとcd)は発電する部分ですが、左右の辺(bcとda)は発電しません。上下の辺は、互いに逆方向に動きながらも、回路全体で見ると同じ向きの電圧(d→c→b→a)を発生させる「協力関係」にあります。したがって、コイル全体の電圧は、片方の辺が作る電圧のちょうど2倍になります。
pq間に発生する誘導起電力の大きさは \(V = Bl^2\omega |\cos(\omega t)|\) です。これは交流発電機で発生する電圧の基本式です。
問(4)
思考の道筋とポイント
ここからは、ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -d\Phi/dt\) を用いるアプローチです。まず、コイルを貫く磁束 \(\Phi\) を時刻 \(t\) の関数として求めます。磁束は \(\Phi = B S_{\perp}\) で計算できます。ここで \(S_{\perp}\) は、磁場に垂直なコイル面の射影面積です。
この設問における重要なポイント
- 磁束の定義: \(\Phi = BS_{\perp}\)
- 射影面積の計算: コイルの回転角 \(\theta = \omega t\) を用いて、磁場に垂直な面の面積を求める。
具体的な解説と立式
コイルの面積は \(S=l^2\) です。時刻 \(t=0\) でコイル面は磁場と平行(\(\theta=0\))です。時刻 \(t\) でコイル面は角度 \(\omega t\) だけ回転します。
磁場(右向き)に対して垂直な面の面積、すなわち射影面積 \(S_{\perp}\) は、図bからわかるように、
$$ S_{\perp} = S \sin(\omega t) = l^2 \sin(\omega t) $$
したがって、コイルを貫く磁束 \(\Phi\) は、
$$ \Phi = B S_{\perp} = B l^2 \sin(\omega t) $$
ただし、これは \(0 < \omega t < \pi\) の範囲で磁束の向きを正とした場合です。
使用した物理公式
- 磁束: \(\Phi = BS_{\perp}\)
立式がそのまま答えとなります。
$$
\begin{aligned}
\Phi = Bl^2 \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$
磁束とは、コイルを「貫く」磁力線の本数のようなものです。コイルが磁場と平行なとき(\(t=0\))は1本も貫かないので磁束は0です。コイルが回転して磁場に対して傾くと、貫く磁力線が増えていきます。その本数は、コイルの傾き \(\sin(\omega t)\) に比例して変化します。
コイルを貫く磁束は \(\Phi = Bl^2 \sin(\omega t)\) です。磁束が時間と共に正弦波状に変化することがわかります。
問(5)
思考の道筋とポイント
ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -N\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\) を用いて、コイル全体の誘導起電力を求めます。コイルは1回巻きなので \(N=1\) です。(4)で求めた磁束 \(\Phi\) の式を時間 \(t\) で微分します。
この設問における重要なポイント
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -N\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)
- 三角関数の微分: \(\displaystyle\frac{d}{dt}(\sin(\omega t)) = \omega \cos(\omega t)\)
具体的な解説と立式
ファラデーの法則に、\(N=1\) と(4)で求めた \(\Phi = Bl^2 \sin(\omega t)\) を代入します。
$$ V = – \frac{d\Phi}{dt} = – \frac{d}{dt} (Bl^2 \sin(\omega t)) $$
\(B\) と \(l\) は定数なので、微分の外に出せます。
$$ V = -Bl^2 \frac{d}{dt}(\sin(\omega t)) $$
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -N\displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)
問題文で与えられた微分公式を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
V &= -Bl^2 (\omega \cos(\omega t)) \\[2.0ex]
&= -Bl^2\omega \cos(\omega t)
\end{aligned}
$$
問題では起電力の「大きさ」を問われているので、絶対値をとります。
$$ |V| = |-Bl^2\omega \cos(\omega t)| = Bl^2\omega |\cos(\omega t)| $$
ファラデーの法則によれば、電圧は「磁束の変化の速さ」に比例します。磁束がサインカーブで変化するとき、その変化の速さ(グラフの傾き)はコサインカーブになります。したがって、(4)で求めた磁束の式を時間で微分するだけで、電圧の式が求まります。
誘導起電力の大きさは \(V = Bl^2\omega |\cos(\omega t)|\) です。この結果は、(3)でローレンツ力から導いた結果と完全に一致します。異なる2つの物理的アプローチが同じ結論に至ることは、電磁気学の理論の整合性を示す美しい例であり、計算の妥当性を強く裏付けています。
問(6)
思考の道筋とポイント
時刻 \(t_0\) では \(0 < \omega t_0 < \pi/2\) です。このとき、コイルを貫く右向きの磁束は増加しています。
1. **電流の向き**: レンツの法則を用いて、誘導電流が作る磁場の向きを考え、そこから電流の向きを決定します。
2. **力の向き**: フレミングの左手の法則を用いて、辺abと辺cdに流れる電流が磁場から受ける力の向きを決定します。
この設問における重要なポイント
- レンツの法則: 誘導電流は、磁束の変化を妨げる向きに流れる。
- フレミングの左手の法則: 電流が磁場から受ける力の向きを決定する。
具体的な解説と立式
電流の向き:
時刻 \(t_0\) では、コイルを貫く右向きの磁束が増加しています。レンツの法則により、誘導電流はこの磁束の増加を妨げるため、左向きの磁場を作ろうとします。右ねじの法則から、左向きの磁場を作るには、コイルを上から見て時計回りの向きに電流が流れる必要があります。したがって、辺abには aからbの向き に電流が流れます。
力の向き:
この a→b の向きの電流 \(I\) が、右向きの磁場 \(B\) から受ける力を考えます。フレミングの左手の法則を適用すると、辺abには 下向き の力が働きます。
同様に、辺cdにはc→dの向きに電流が流れるため、上向き の力が働きます。
これらの力は、コイルの中心軸に対して偶力となり、コイルの回転(図1の矢印の向き)を 妨げる向き のトルクを生じさせます。
磁石のN極をコイルに近づけると、コイルは反発してN極になろうとします。この問題でも同じで、右向きの磁束が増えているので、コイルはそれに抵抗して左向きの磁場を作ろうとします。その結果、a→bの向きに電流が流れます。この電流が流れると、今度はモーターのように磁場から力を受けます。フレミングの左手の法則を使うと、この力はコイルの回転を邪魔する「ブレーキ」として働くことがわかります。
電流の向きはa→b。この電流により、コイルは回転を妨げる向きの力を受けます。これは、発電するには外部からエネルギーを供給し続けなければならないというエネルギー保存則(外部がした仕事が電気エネルギーになる)と一致しており、物理的に正しい現象です。
問(7)
思考の道筋とポイント
抵抗 \(R\) での消費電力 \(P\) は、公式 \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を用いて計算するのが最も効率的です。ここで \(V\) は(3)や(5)で求めた誘導起電力です。
1. **最大値**: \(P\) の式を立て、それが最大となる条件(\(\cos^2(\omega t)=1\))から \(P_{\text{最大}}\) を求めます。
2. **グラフ**: \(P\) の時間変化の式を、グラフが描きやすいように三角関数の倍角の公式 \(\cos^2\theta = \displaystyle\frac{1+\cos(2\theta)}{2}\) を用いて変形し、その形からグラフの概形を判断します。
この設問における重要なポイント
- 消費電力の公式: \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)
- 三角関数の最大値・最小値
- 倍角の公式: \(\cos^2\theta = \displaystyle\frac{1+\cos(2\theta)}{2}\)
具体的な解説と立式
消費電力 \(P\) は、起電力 \(V = -Bl^2\omega \cos(\omega t)\) を用いて、
$$ P = \frac{V^2}{R} = \frac{(-Bl^2\omega \cos(\omega t))^2}{R} = \frac{B^2 l^4 \omega^2}{R} \cos^2(\omega t) \quad \cdots ① $$
最大値 \(P_{\text{最大}}\):
電力 \(P\) は \(\cos^2(\omega t)\) に比例します。\(\cos^2(\omega t)\) の最大値は1なので、\(P\) の最大値 \(P_{\text{最大}}\) は、
$$ P_{\text{最大}} = \frac{B^2 l^4 \omega^2}{R} $$
グラフ:
式①に倍角の公式を適用すると、
$$ P = \frac{B^2 l^4 \omega^2}{R} \left( \frac{1+\cos(2\omega t)}{2} \right) = \frac{P_{\text{最大}}}{2} (1+\cos(2\omega t)) $$
この式は、
- 平均値(振動の中心)が \(\displaystyle\frac{P_{\text{最大}}}{2}\)
- 振幅が \(\displaystyle\frac{P_{\text{最大}}}{2}\)
- 角振動数が \(2\omega\)(周期が電圧の半分)
のコサインカーブであることを示しています。\(P\) は常に0以上です。
使用した物理公式
- 消費電力: \(P = V^2/R\)
- 三角関数の倍角の公式
最大値の計算は立式の通りです。
グラフは、\(y=P\) 軸、\(x=\omega t\) 軸で描きます。
- \(\omega t = 0, \pi, 2\pi\) で最大値 \(P_{\text{最大}}\) をとる。
- \(\omega t = \pi/2, 3\pi/2\) で \(\cos(2\omega t)=-1\) となり、最小値 \(P=0\) をとる。
- 常に \(P \ge 0\) で、山の頂上が平らではなく尖った形になる \(\cos^2\) のグラフを描きます。
電力は電圧の2乗に比例します。電圧がコサインで変化するので、電力はコサインの2乗で変化します。コサインの2乗が最大になるのは1のときなので、そのときの電力が最大値です。グラフを描くとき、2乗のグラフは少し描きにくいですが、「マイナスの部分がプラスに折り返される」「周期が半分になる」という特徴を覚えておくと便利です。電圧がプラスでもマイナスでも、抵抗は常に熱を発生させる(電力を消費する)ので、電力のグラフが常に0以上になるのは当然と言えます。
消費電力の最大値は \(P_{\text{最大}} = \displaystyle\frac{B^2 l^4 \omega^2}{R}\) です。
\(P\) と \(\omega t\) の関係グラフは、周期が \(\pi\)、振幅が \(\frac{P_{\text{最大}}}{2}\) で、\(y=\frac{P_{\text{最大}}}{2}\) を中心に振動し、常に0以上の値をとる曲線となります。電圧の周波数の2倍の周波数で電力が脈動するという、交流電力の重要な特徴を示しています。
グラフ: 上記の考察に基づく、周期が\(\pi\)で\(0 \le P \le P_{\text{最大}}\)の範囲で変化するグラフ。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 誘導起電力の2つの表現:
- 核心: この問題の最大のポイントは、誘導起電力を2つの異なる視点から導出できることを示している点です。
- ローレンツ力描像(ミクロな視点): コイルの各辺を運動する導体棒とみなし、荷電粒子が受けるローレンツ力から起電力 \(V=v_{\perp}Bl\) を計算し、足し合わせる方法([A]のアプローチ)。
- ファラデーの法則描像(マクロな視点): コイル全体を一つの閉回路とみなし、回路を貫く磁束 \(\Phi\) の時間変化率から起電力 \(V = -N\frac{d\Phi}{dt}\) を計算する方法([B]のアプローチ)。
- 理解のポイント: この2つのアプローチが全く同じ結果 \(V = Bl^2\omega |\cos(\omega t)|\) を与えることを確認することは、電磁気学の理論体系の整合性を深く理解する上で非常に重要です。
- 核心: この問題の最大のポイントは、誘導起電力を2つの異なる視点から導出できることを示している点です。
- レンツの法則とフレミングの左手の法則:
- 核心: (6)で問われたように、誘導電流の「向き」と、その電流が受ける力の「向き」を正しく判断することが、現象の因果関係を理解する鍵となります。
- 理解のポイント: レンツの法則(変化を妨げる向き)は原因(磁束変化)と結果(誘導電流)の関係を、フレミングの左手の法則は原因(電流)と結果(力)の関係を示します。これらは「作用・反作用」や「エネルギー保存則」の電磁気学的な現れと捉えることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- N回巻きコイル: この問題は1回巻きでしたが、N回巻きのコイルであれば、誘導起電力は単純にN倍になります。\(V = NBl^2\omega |\cos(\omega t)|\)。
- 回転軸が異なる場合: コイルの中心ではなく、一辺を軸として回転させる問題。この場合、もう一方の辺の回転半径が \(l\) となり、速さや起電力の計算が変わります。
- コイルの形状が異なる場合: 長方形コイル(辺の長さが \(l_1, l_2\))や円形コイルなど。基本的な考え方は同じで、ローレンツ力描像では起電力が生じる辺を特定し、ファラデー描像では面積 \(S\) と磁束 \(\Phi\) を正しく計算することが重要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 起電力の計算方法を選択する: 問題の誘導に応じて、ローレンツ力(\(V=vBl\))とファラデーの法則(\(V=-d\Phi/dt\))のどちらを使うか、あるいは両方を使うかを判断します。一般に、コイル全体の起力を問われた場合はファラデーの法則が計算しやすいことが多いです。
- 角度の定義を正確に把握する: \(\theta = \omega t\) の基準(\(t=0\)で\(\theta=0\))がどこに設定されているか(コイル面が磁場と平行か、垂直か)を最初に確認します。これにより、磁束の式が \(\sin\) になるか \(\cos\) になるかが決まり、その後の計算全体に影響します。
- 瞬時値か、実効値か、最大値か: 交流の問題では、電圧や電流、電力の何を問われているのかを明確に区別する必要があります。「時刻tにおける値」は瞬時値、「最大値」は振幅、「実効値」は直流換算したときの値です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度成分 \(v_{\perp}\) の取り間違い:
- 誤解: (2)で、誘導起電力の計算に辺abの速さ \(v_{\text{ab}}\) をそのまま使ってしまう。
- 対策: 公式は \(V=v_{\perp}Bl\) であり、\(v_{\perp}\) は速度のうち磁場と垂直な成分であることを徹底しましょう。図を描いて、速度ベクトルを磁場に平行な成分と垂直な成分に分解する癖をつけることが有効です。
- 磁束計算での面積の取り間違い:
- 誤解: (4)で、磁束の計算にコイルの面積 \(S\) をそのまま使ってしまう。
- 対策: 磁束の公式は \(\Phi = B S_{\perp}\) であり、\(S_{\perp}\) は磁場に垂直な「射影面積」です。コイルが回転している場合、この射影面積は \(S\sin(\omega t)\) や \(S\cos(\omega t)\) のように時間変化します。
- 電力の周期の勘違い:
- 誤解: (7)で、電圧の周期と電力の周期が同じだと考えてしまう。
- 対策: 電力は電圧の2乗(\(P=V^2/R\))に比例します。三角関数を2乗すると、角振動数が2倍(周期は半分)になります(例: \(\cos^2(\omega t) = \frac{1+\cos(2\omega t)}{2}\))。電圧がプラスでもマイナスでも電力はプラスになるため、振動数が倍になる、とイメージで覚えておくと間違いにくいです。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 回転の断面図: 問題の図2のように、回転軸に沿って見た断面図を描くことは、角度 \(\omega t\) と速度成分 \(v_{\perp}\) や射影面積 \(S_{\perp}\) の関係を視覚的に理解する上で極めて有効です。
- グラフの重ね描き: 電圧 \(V(t)\) のグラフと電力 \(P(t)\) のグラフを同じ時間軸上に描いてみると、\(P(t)\) が常に0以上であることや、周期が半分になっていることが一目瞭然となります。磁束 \(\Phi(t)\) のグラフも重ねると、\(\Phi(t)\) の傾きが \(V(t)\) に対応している関係(微分・積分の関係)も見て取れます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 3次元的な向きの表現: フレミングの法則などを適用する際、紙面に垂直な向きを ⦿(手前向き)と ⊗(奥向き)で明確に表現すると、力の向きや電流の向きの判断がしやすくなります。
- ベクトルの分解: (2)のように速度ベクトルを成分分解する場合、元のベクトルと分解後のベクトルを点線や色で区別し、直角三角形と角度を明記すると、三角関数の選択ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=v_{\perp}Bl\) (ローレンツ力描像):
- 選定理由: [A]で、コイルの「辺」という部分に生じる起電力を計算するため。導体棒1本に注目したミクロなアプローチに適しています。
- 適用根拠: 導体内の自由電子が導体棒と共に運動することでローレンツ力を受け、導体の両端に偏ることで電位差(起電力)が生じる、という物理現象に基づきます。
- \(V = -N\frac{d\Phi}{dt}\) (ファラデー描像):
- 選定理由: [B]で、コイル「全体」に生じる起電力を一括で計算するため。閉回路全体の磁束変化というマクロなアプローチに適しています。
- 適用根拠: 閉回路を貫く磁束が時間変化すると、その周りに渦状の電場(誘導電場)が生じるという、電磁気学の基本法則です。
- \(P = V^2/R\) (消費電力):
- 選定理由: (7)で、抵抗での消費電力を計算するため。\(P=IV\) や \(P=I^2R\) も正しいですが、この問題では電圧 \(V\) が先に求まっているので、この形が最も計算しやすいです。
- 適用根拠: 抵抗に電圧 \(V\) をかけたときに流れる電流が \(I=V/R\) であり、その仕事率が \(P=VI = V(V/R) = V^2/R\) となることから導かれます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- [A] ローレンツ力アプローチ:
- 戦略: 辺ごとに起電力を計算し、足し合わせる。
- フロー: ①辺abの速さ \(v\) を求める。 ②磁場に垂直な速度成分 \(v_{\perp}\) を求める。 ③辺abの起電力 \(|V_{\text{ab}}|=Blv_{\perp}\) を計算。 ④辺cdも同様に計算し、向きを考慮して足し合わせる。
- [B] ファラデーの法則アプローチ:
- 戦略: コイル全体の磁束を求め、時間微分する。
- フロー: ①磁場に垂直な射影面積 \(S_{\perp}\) を求める。 ②磁束 \(\Phi = BS_{\perp}\) を計算。 ③\(V = -d\Phi/dt\) を計算し、大きさをとる。
- [C] 回路解析:
- 戦略: 求めた起電力 \(V\) を使って、電流、力、電力を解析する。
- フロー: ①電流の向きをレンツの法則で、力の向きをフレミングの左手の法則で判断する。 ②消費電力 \(P=V^2/R\) を計算。 ③\(P\) の式から最大値を求め、倍角公式でグラフの形を分析する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 微分計算の確認: \(\sin(\omega t)\) の時間微分は \(\omega \cos(\omega t)\)、\(\cos(\omega t)\) の時間微分は \(-\omega \sin(\omega t)\) です。特に、内部の \(\omega\) が外に出てくる点と、符号の変化を忘れないようにしましょう。
- 絶対値の扱い: 問題で「大きさ」を問われている場合、計算結果が負になる可能性があれば、最後に絶対値をとることを忘れないようにしましょう。\(|\cos(\omega t)|\) のように、常に正の値をとることを明確にすることが重要です。
- グラフの要点: (7)のグラフを描く際は、最大値、最小値、周期、そして特定の点(\(\omega t = 0, \pi/2, \pi\) など)での値をプロットすることで、正確な概形を描くことができます。特に、\(\cos^2\) のグラフは下に凸の滑らかな曲線であり、山の頂点も滑らかになる点に注意しましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- [A]と[B]の一致: (3)と(5)で、全く異なる方法で計算した起電力が \(Bl^2\omega |\cos(\omega t)|\) という同じ結果になりました。これは偶然ではなく、物理法則の整合性を示しています。この一致を確認することで、計算の正しさに強い確信が持てます。
- (6) 回転を妨げる力: 発電するということは、運動エネルギーや外部からの仕事が電気エネルギーに変換されることを意味します。したがって、その変換の反作用として、運動を妨げる向きの力(トルク)が発生するのはエネルギー保存則から考えて当然です。
- (7) 消費電力: 消費電力が常に0以上であることは、抵抗が常にエネルギーを消費する素子であることと一致します。もし計算結果が負になる瞬間があれば、それは物理的にありえないため、計算ミスを疑うべきです。
問題142 (九州工大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、交流送電の根幹をなす「変圧器」の原理と、実際の送電における「電力損失」と「送電効率」について学ぶ問題です。前半では変圧器の基本法則を、後半ではそれを利用した電力輸送モデルを扱います。
- 変圧器:理想的で電力損失がない。
- コイル:1次コイル(巻数 \(n_1\))、2次コイル(巻数 \(n_2\))。
- 相互インダクタンス:\(M\)。
- 物理量の定義:
- (1)~(4):瞬時値 \(v_1, v_2, i_1\) を扱う。
- (5)~(7):実効値 \(V_1, V_2, V_3, I_1, I_2\) と平均電力 \(P, P’\) を扱う。
- 送電線:抵抗値 \(R\)。
- (1) 1次コイルの誘導起電力 \(|v_1|\)。
- (2) 1次、2次コイルの誘導起電力の比 \(|v_2/v_1|\)。
- (3) 2次コイルの誘導起電力 \(v_2\) を相互インダクタンス \(M\) を用いて表す式。
- (4) \(i_1\) の時間変化(図2)に対する \(v_2\) の時間変化のグラフ(図3)。
- (5) 送電線の終端電圧 \(V_3\)。
- (6) 送電効率 \(e\)。
- (7) 送電効率を高くする方法。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「変圧器の原理と高電圧送電の仕組み」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ファラデーの電磁誘導の法則: コイルを貫く磁束の時間変化が誘導起電力を生むという基本法則。自己誘導・相互誘導の根源です。
- 相互誘導: 1次コイルの電流変化が2次コイルに誘導起電力を生じさせる現象。
- 理想的な変圧器の性質: 電圧は巻数に比例し(\(V_1:V_2 = n_1:n_2\))、電流は巻数に反比例する(\(I_1:I_2 = n_2:n_1\))。そして、電力が保存される(\(P_1=P_2\))。
- オームの法則とジュール熱: 送電線における電圧降下(\(V=IR\))と電力損失(\(P=I^2R\))を理解する。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)~(3)では、ファラデーの法則と相互誘導の定義式を正確に適用し、変圧器の基本関係を導きます。
- (4)では、(3)の関係を使い、グラフから電流の変化率を読み取って計算し、グラフを作成します。
- (5)~(7)では、理想的な変圧器の性質と送電線での電圧降下を組み合わせ、送電効率の式を導出し、その意味を考察します。
問(1)
思考の道筋とポイント
1次コイルに生じる誘導起電力は、コイル自身を貫く磁束の変化によって生じるため、自己誘導の一種です。ファラデーの電磁誘導の法則を、巻数\(n_1\)の1次コイルに適用します。
この設問における重要なポイント
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -N \frac{d\Phi}{dt}\)
- 1巻きあたりの磁束変化が \(\Delta \Phi\) であるため、\(n_1\)回巻きのコイル全体では磁束鎖交数が \(n_1 \Phi\) となる。
具体的な解説と立式
1次コイルの1巻きあたりを貫く磁束が時間 \(\Delta t\) の間に \(\Delta \Phi\) 変化します。
ファラデーの電磁誘導の法則によれば、1巻きあたりに生じる起電力の大きさは \(\left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\) です。
1次コイルは \(n_1\) 回巻きなので、コイル全体で生じる誘導起電力 \(v_1\) の大きさは、各巻きで生じる起電力の和となります。
$$ |v_1| = n_1 \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| $$
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -N\frac{d\Phi}{dt}\)
立式がそのまま答えとなります。
$$ |v_1| = n_1 \frac{|\Delta \Phi|}{|\Delta t|} $$
コイルの1巻き1巻きが小さな電池のように振る舞うとイメージしてください。磁石を近づけたり遠ざけたりすると(磁束が変化すると)、まず1巻きのコイルに電圧が発生します。変圧器のコイルは、その小さな電池をたくさん直列につないだものなので、全体の電圧は「1巻きあたりの電圧 × 巻数」になります。
1次コイルに生じる誘導起電力の大きさは \(|v_1| = n_1 \frac{|\Delta \Phi|}{|\Delta t|}\) です。起電力が巻数と磁束の時間変化率に比例するという、ファラデーの法則の基本形です。
問(2)
思考の道筋とポイント
理想的な変圧器では、鉄心によって1次コイルで作られた磁束がすべて2次コイルを貫くと考えます。したがって、2次コイルの「1巻きあたりを貫く磁束の変化」も、1次コイルと同じ \(\Delta \Phi\) になります。この考え方に基づき、ファラデーの法則を2次コイルに適用し、(1)の結果との比を計算します。
この設問における重要なポイント
- 理想的な変圧器の仮定:1巻きあたりの磁束変化は1次側と2次側で等しい。
- 電圧比と巻数比の関係を導出する過程である。
具体的な解説と立式
2次コイルも1次コイルと同じ鉄心に巻かれているため、1巻きあたりを貫く磁束の変化は同じ \(\Delta \Phi\) です。
2次コイルの巻数は \(n_2\) なので、(1)と同様にファラデーの法則を適用すると、2次コイルに生じる誘導起電力 \(v_2\) の大きさは、
$$ |v_2| = n_2 \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| $$
(1)で求めた \(|v_1| = n_1 \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|\) との比をとると、
$$ \frac{|v_2|}{|v_1|} = \frac{n_2 \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|}{n_1 \left| \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right|} $$
使用した物理公式
- ファラデーの電磁誘導の法則
$$
\begin{aligned}
\frac{|v_2|}{|v_1|} = \frac{n_2}{n_1}
\end{aligned}
$$
変圧器で電圧が変わる根本的な理由は、1次側と2次側のコイルの巻数の違いにあります。1巻きあたりに発生する電圧はどちらのコイルでも同じです。したがって、全体の電圧は単純に巻数の比になります。巻数を2倍にすれば電圧も2倍、半分にすれば電圧も半分になります。
起電力の比は巻数比に等しく、\(\frac{|v_2|}{|v_1|} = \frac{n_2}{n_1}\) となります。これは変圧器の最も重要な公式の一つです。
問(3)
思考の道筋とポイント
1次コイルに流れる電流の変化が、2次コイルに誘導起電力を生じさせる現象を「相互誘導」と呼びます。その関係を表す定義式をそのまま用います。
この設問における重要なポイント
- 相互誘導の公式: \(V_2 = -M \frac{d i_1}{dt}\)
- \(M\) は相互インダクタンスと呼ばれる比例定数。
- 負の符号はレンツの法則(変化を妨げる向き)を表す。
具体的な解説と立式
1次コイルの電流 \(i_1\) が時間 \(\Delta t\) の間に \(\Delta i_1\) だけ変化するとき、2次コイルに生じる誘導起電力 \(v_2\) は、相互インダクタンス \(M\) を用いて次のように表されます。
$$ v_2 = -M \frac{\Delta i_1}{\Delta t} $$
使用した物理公式
- 相互誘導の公式
立式がそのまま答えとなります。
1次コイルに電流が流れると電磁石になります。その電流が変化すると、電磁石の強さも変化し、周りの磁場が変化します。その磁場の変化が、隣にある2次コイルを貫くことで、2次コイルに電圧が発生します。この「隣のコイルに影響を与える能力」の大きさを表すのが相互インダクタンス \(M\) です。
2次コイルに生じる誘導起電力は \(v_2 = -M \frac{\Delta i_1}{\Delta t}\) です。これは相互誘導の定義式そのものです。
問(4)
思考の道筋とポイント
(3)で導いた関係式 \(v_2 = -M \frac{\Delta i_1}{\Delta t}\) を用いて、グラフを作成します。図2の \(i_1-t\) グラフから、各時間区間における「電流の変化率(グラフの傾き)」\(\frac{\Delta i_1}{\Delta t}\) を読み取り、\(v_2\) の値を計算します。計算した値を元に、\(v_2-t\) グラフを図3に描きます。
この設問における重要なポイント
- グラフの傾きが物理的な意味(電流の時間変化率)を持つことを理解する。
- \(v_2\) は傾きに比例するが、負の符号が付くため、傾きが正の区間では \(v_2\) は負になる。
具体的な解説と立式
与えられた \(M=5\text{H}\) と、(3)の式 \(v_2 = -M \frac{\Delta i_1}{\Delta t}\) を使います。
各区間の傾きを計算します。
- \(0 \le t \le 1\text{s}\) の区間:
$$ \frac{\Delta i_1}{\Delta t} = \frac{2\text{A} – 0\text{A}}{1\text{s} – 0\text{s}} = 2 \text{ A/s} $$ - \(1 \le t \le 3\text{s}\) の区間:
$$ \frac{\Delta i_1}{\Delta t} = \frac{2\text{A} – 2\text{A}}{3\text{s} – 1\text{s}} = 0 \text{ A/s} $$ - \(3 \le t \le 5\text{s}\) の区間:
$$ \frac{\Delta i_1}{\Delta t} = \frac{0\text{A} – 2\text{A}}{5\text{s} – 3\text{s}} = -1 \text{ A/s} $$ - \(5 \le t \le 7\text{s}\) の区間:
$$ \frac{\Delta i_1}{\Delta t} = \frac{0\text{A} – 0\text{A}}{7\text{s} – 5\text{s}} = 0 \text{ A/s} $$
使用した物理公式
- 相互誘導の公式
各区間の \(v_2\) を計算します。
- \(0 \le t \le 1\text{s}\) の区間:
$$ v_2 = -5\text{H} \times (2 \text{ A/s}) = -10 \text{ V} $$ - \(1 \le t \le 3\text{s}\) の区間:
$$ v_2 = -5\text{H} \times (0 \text{ A/s}) = 0 \text{ V} $$ - \(3 \le t \le 5\text{s}\) の区間:
$$ v_2 = -5\text{H} \times (-1 \text{ A/s}) = 5 \text{ V} $$ - \(5 \le t \le 7\text{s}\) の区間:
$$ v_2 = -5\text{H} \times (0 \text{ A/s}) = 0 \text{ V} $$
これらの値を元に、図3に方形波のグラフを描きます。
2次側に発生する電圧は、1次側の電流グラフの「傾き」に比例します。ただし、マイナス符号が付くので、傾きの正負がひっくり返ります。
- 0秒から1秒:傾きが「+2」なので、電圧は「-10V」で一定。
- 1秒から3秒:傾きが「0」なので、電圧も「0V」。
- 3秒から5秒:傾きが「-1」なので、電圧は「+5V」で一定。
- 5秒から7秒:傾きが「0」なので、電圧も「0V」。
このように計算した値を時間ごとにプロットすれば、グラフが完成します。
グラフは、\(0<t<1\)で-10V、\(1<t<3\)で0V、\(3<t<5\)で+5V、\(5<t<7\)で0Vとなる方形波を描きます。電流が変化しているときだけ電圧が誘導され、その向きはレンツの法則に従うという物理現象を正しく反映しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
送電線の終端電圧 \(V_3\) は、変圧器Aから送り出された電圧 \(V_2\) から、送電線(抵抗\(R\))で生じる電圧降下分を引いたものになります。まず送電線を流れる電流 \(I_2\) を求め、次に電圧降下を計算します。
この設問における重要なポイント
- 理想的な変圧器では電力が保存される: \(P = V_2 I_2\)。
- 送電線での電圧降下はオームの法則で計算: \(V_{\text{降下}} = I_2 R\)。
- 電圧、電流、電力はすべて実効値または平均電力として扱われている。
具体的な解説と立式
発電所で生み出された電力 \(P\) は、理想的な変圧器Aによって電力損失なく2次側に伝えられます。したがって、変圧器Aの2次側から送り出される電力も \(P\) です。このときの電圧が \(V_2\)、電流が \(I_2\) なので、
$$ P = V_2 I_2 $$
この式から、送電線を流れる電流 \(I_2\) は、
$$ I_2 = \frac{P}{V_2} \quad \cdots ① $$
この電流 \(I_2\) が抵抗 \(R\) の送電線を流れることで、電圧降下 \(V_{\text{降下}}\) が生じます。
$$ V_{\text{降下}} = I_2 R \quad \cdots ② $$
送電線の終端電圧 \(V_3\) は、始端の電圧 \(V_2\) からこの電圧降下分を引いたものなので、
$$ V_3 = V_2 – V_{\text{降下}} = V_2 – I_2 R $$
使用した物理公式
- 電力の式: \(P=VI\)
- オームの法則: \(V=IR\)
\(V_3 = V_2 – I_2 R\) の式に、①で求めた \(I_2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_3 = V_2 – \left( \frac{P}{V_2} \right) R = V_2 – \frac{PR}{V_2}
\end{aligned}
$$
電気を送るための長い電線にも抵抗があります。電流がこの電線を流れると、そこでエネルギーが消費され、電圧が少し下がってしまいます。これを「電圧降下」と呼びます。目的地(変圧器B)に着いたときの電圧 \(V_3\) は、出発点(変圧器A)での電圧 \(V_2\) から、この途中で下がった分の電圧を引いたものになります。
送電線の終端電圧は \(V_3 = V_2 – \displaystyle\frac{PR}{V_2}\) です。送る電力が大きいほど、また送電線の抵抗が大きいほど、電圧降下が大きくなることを示しており、物理的に妥当な結果です。
問(6)
思考の道筋とポイント
送電効率 \(e\) は、届けられた電力 \(P’\) を、送り出した電力 \(P\) で割ったものです (\(e = P’/P\))。届けられた電力 \(P’\) は、送電線の終端における電圧 \(V_3\) と電流 \(I_2\) の積で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 送電効率の定義: \(e = \frac{P’}{P}\)
- 届けられた電力: \(P’ = I_2 V_3\)
- 送電線で失われる電力(ジュール熱): \(P_{\text{損失}} = I_2^2 R\)
具体的な解説と立式
送電線の終端で受け取れる電力 \(P’\) は、
$$ P’ = I_2 V_3 $$
この式に、\(I_2 = P/V_2\) と、(5)で求めた \(V_3 = V_2 – \frac{PR}{V_2}\) を代入します。
$$ P’ = \left( \frac{P}{V_2} \right) \left( V_2 – \frac{PR}{V_2} \right) $$
これを整理して、送電効率 \(e = P’/P\) を計算します。
使用した物理公式
- 電力の式: \(P=VI\)
$$
\begin{aligned}
P’ &= \frac{P}{V_2} \cdot V_2 – \frac{P}{V_2} \cdot \frac{PR}{V_2} \\[2.0ex]
&= P – \frac{P^2 R}{V_2^2}
\end{aligned}
$$
したがって、送電効率 \(e\) は、
$$
\begin{aligned}
e &= \frac{P’}{P} = \frac{P – \frac{P^2 R}{V_2^2}}{P} \\[2.0ex]
&= 1 – \frac{PR}{V_2^2}
\end{aligned}
$$
送電効率とは、発電所で発電した電力のうち、何パーセントが無事に家庭や工場に届いたかを示す割合です。100%から、途中の電線で熱として捨てられてしまった電力の割合を引いたものと考えられます。この「失われた電力の割合」が \(\frac{PR}{V_2^2}\) にあたります。
送電効率は \(e = 1 – \displaystyle\frac{PR}{V_2^2}\) です。この式は、送電効率を1に近づける(100%に近づける)ためには、損失項である \(\frac{PR}{V_2^2}\) を小さくする必要があることを明確に示しています。
問(7)
思考の道筋とポイント
(6)で導出した送電効率の式 \(e = 1 – \frac{PR}{V_2^2}\) を最大にする(1に近づける)ための方法を考察します。
この設問における重要なポイント
- 損失項 \(\frac{PR}{V_2^2}\) を最小化する方法を考える。
- \(P\)(送電電力)と \(R\)(送電線の抵抗)は、通常、簡単には変えられない定数とみなす。
具体的な解説と立式
送電効率 \(e\) を高くするには、損失を表す項 \(\frac{PR}{V_2^2}\) をできるだけ小さくする必要があります。
送る電力 \(P\) と送電線の抵抗 \(R\) は所与の条件であると考えると、この値を小さくするためには、分母である \(V_2^2\) を大きくするしかありません。
つまり、送電電圧 \(V_2\) を高くすればよいことになります。
(6)の結論の式を見ると、電力の損失は送電電圧 \(V_2\) の2乗に反比例することがわかります。つまり、電圧を2倍にすれば損失は1/4に、10倍にすれば損失は1/100に激減します。したがって、送電効率を良くするための最も効果的な方法は、できるだけ高い電圧で電気を送ることです。
送電効率を高くするためには、送電電圧 \(V_2\) を高くすればよい。これが、発電所から街の近くの変電所までが超高圧の送電線で結ばれている理由であり、変圧器が電力輸送に不可欠である根拠です。物理的現実と完全に一致する結論です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ファラデーの電磁誘導の法則:
- 核心: 変圧器の動作原理の根幹をなす法則です。1次コイルの電流変化が鉄心内の磁束を変化させ、その磁束変化が1次コイル自身と2次コイルの両方に誘導起電力を生じさせます。\(v_1 = -n_1 \frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\) と \(v_2 = -n_2 \frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\) という関係が、変圧器の電圧比の基本となります。
- 理解のポイント: (1), (2)はこの法則を直接的に適用する問題です。理想的な変圧器では「1巻きあたりの磁束変化が共通」であることが、電圧比が巻数比になる理由です。
- 相互誘導:
- 核心: 1つのコイルの電流変化が、隣接する別のコイルに起電力を生じさせる現象で、\(v_2 = -M \frac{\Delta i_1}{\Delta t}\) という式で表されます。(3), (4)はこの法則の応用です。
- 理解のポイント: ファラデーの法則がより根源的な法則であり、相互誘導はそれを2つのコイル系に適用した具体的な表現と考えることができます。
- 電力輸送におけるエネルギー保存:
- 核心: (5)以降の送電問題では、「理想的な変圧器では電力が保存される(\(P_1=P_2\))」ことと、「送電線では電力が損失する(\(P_{\text{損失}}=I^2R\))」ことの2点を区別して考える必要があります。
- 理解のポイント: (6)で導出された送電効率 \(e = 1 – \frac{PR}{V_2^2}\) は、このエネルギー保存と損失を定量的に表したものであり、高電圧送電の重要性を示す結論として極めて重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 自己誘導: 1つのコイルで、自身の電流変化によって起電力が生じる現象(\(v = -L \frac{di}{dt}\))。相互誘導と自己誘導は、現象としては同じ電磁誘導であり、式の形も酷似しています。
- 非理想的な変圧器: 鉄心でのエネルギー損失(ヒステリシス損、渦電流損)や、コイルの抵抗を考慮する問題。この場合、\(P_1 > P_2\) となります。
- 直流回路とコイル: 直流回路にコイルを接続し、スイッチを入れた直後や十分に時間が経った後の電流を問う問題。(4)のように、電流の時間変化率が重要になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 瞬時値か実効値か: 問題で使われている記号(小文字か大文字か)や文脈から、瞬時値(時刻 \(t\) での値)を扱うのか、実効値(交流の平均的な大きさ)を扱うのかをまず見極めます。(1)~(4)は瞬時値、(5)~(7)は実効値の問題です。
- グラフの傾きと面積: (4)のように時間変化のグラフが与えられた場合、グラフの「傾き」が \(di/dt\) や \(dv/dt\) といった時間微分に、「面積」が \(\int i dt\)(電気量)や \(\int v dt\) といった時間積分に対応することを意識すると、解法の糸口が見つかりやすいです。
- エネルギーの流れを追う: 送電の問題では、発電所 → 変圧器A → 送電線 → 変圧器B → 消費地というエネルギーの流れを図に書き込み、各段階で「何が保存され、何が失われるか」を整理すると、立式が容易になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 相互誘導の式の符号:
- 誤解: \(v_2 = -M \frac{\Delta i_1}{\Delta t}\) のマイナス符号の意味を理解せず、大きさだけを考えてしまう。
- 対策: このマイナスはレンツの法則に由来し、「1次コイルの電流変化を妨げる向きに2次コイルの起電力が生じる」ことを意味します。(4)のグラフ作成では、この符号の有無で結果が正負逆転するため、極めて重要です。
- 電圧と電流の関係の混同:
- 誤解: 変圧器で電圧が上がると電流も上がると勘違いする。
- 対策: 理想的な変圧器では電力 \(P=VI\) が保存されます。したがって、電圧 \(V\) を高くすると、電流 \(I\) は逆に小さくなります(\(I=P/V\))。この「電圧と電流が反比例の関係」にあることが、高電圧送電の鍵です。
- 電力損失の式の選択ミス:
- 誤解: 送電線での電力損失を \(P_{\text{損失}} = V_2 I_2\) や \(P_{\text{損失}} = V_3 I_2\) のように計算してしまう。
- 対策: 電力損失は送電線の抵抗 \(R\) で発生するジュール熱です。したがって、必ず抵抗 \(R\) を含んだ式、すなわち \(P_{\text{損失}} = I_2^2 R\) で計算する必要があります。\(V_2\) や \(V_3\) は送電線の両端の電圧であり、送電線自体にかかる電圧(電圧降下 \(I_2R\))とは異なります。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 磁束の可視化: 変圧器の鉄心の中に、磁力線がループを描いている様子をイメージします。1次コイルの電流が増えると磁力線が密になり、減ると疎になる。この磁力線の「混み具合の変化」が2次コイルに影響を与える、と考えると相互誘導が直感的に理解できます。
- 送電の模式図: (5)以降では、問題の図4のような模式図を自分で描いてみることが有効です。各点での電圧(\(V_1, V_2, V_3\))、電流(\(I_1, I_2\))、電力(\(P, P’\))を書き込み、送電線部分に「電圧降下 \(I_2R\)」と「電力損失 \(I_2^2R\)」を明記すると、関係性が一目瞭然になります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 電流と電圧の向き: (4)のグラフ作成のように符号が重要になる問題では、あらかじめ回路図に電流や電圧の正の向きを矢印で定義しておくと、計算結果の正負の判断が容易になります。
- グラフの対応関係: (4)では、図2(\(i_1-t\))と図3(\(v_2-t\))のグラフを上下に並べて描き、図2の各区間の「傾き」が図3の「値」にどう対応するかを矢印などで結びつけると、思考のプロセスが明確になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(|v_2|/|v_1| = n_2/n_1\) (電圧比):
- 選定理由: (2)で変圧器の基本的な性質を問われているため。
- 適用根拠: ファラデーの法則と「1巻きあたりの磁束変化は共通」という理想変圧器の仮定から導出される、最も重要な関係式です。
- \(v_2 = -M \Delta i_1 / \Delta t\) (相互誘導):
- 選定理由: (3)で相互インダクタンス \(M\) を使って \(v_2\) を表すよう指定されているため。また、(4)で具体的な電流変化から電圧を計算するために必要です。
- 適用根拠: 相互誘導という物理現象の定義式です。
- \(P = V_2 I_2\) (電力保存):
- 選定理由: (5)で送電電流 \(I_2\) を、与えられた電力 \(P\) と電圧 \(V_2\) で表すため。
- 適用根拠: 「理想的な変圧器ではエネルギーが保存される」という前提に基づきます。
- \(e = 1 – PR/V_2^2\) (送電効率):
- 選定理由: (6)で送電効率を求め、(7)でその改善策を議論するため。
- 適用根拠: 送電効率の定義 \(e=P’/P\) と、エネルギー保存則(\(P’ = P – P_{\text{損失}}\))から導出されます。この式自体を覚えるのではなく、導出できることが重要です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1)-(3) 変圧器の基本:
- 戦略: 定義式を正確に適用する。
- フロー: ①ファラデーの法則から \(|v_1|\) を求める。②同様に \(|v_2|\) を求め、比をとる。③相互誘導の定義式を書く。
- (4) グラフ作成:
- 戦略: \(i_1-t\) グラフの傾きを読み取り、\(v_2\) を計算する。
- フロー: ①各区間の \(\Delta i_1 / \Delta t\) を計算。②\(v_2 = -M (\Delta i_1 / \Delta t)\) に代入して \(v_2\) の値を求める。③結果をプロットする。
- (5)-(7) 送電問題:
- 戦略: エネルギーの流れを追い、効率の式を導出・評価する。
- フロー: ①電力保存 \(P=V_2I_2\) から送電電流 \(I_2\) を求める。②電圧降下 \(V_3 = V_2 – I_2R\) を計算する(5)。③送電効率 \(e = P’/P = (I_2V_3)/P\) を計算し、整理する(6)。④効率の式を最大化する条件を考察する(7)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: (4)で \(M=5\text{H}\) と与えられています。ヘンリー[H]は \([V \cdot s / A]\) の次元を持つことを知っていると、計算結果の単位がボルト[V]になることを確認でき、検算に役立ちます。
- グラフの読み取り: (4)では、グラフの座標を正確に読み取ることが計算の前提となります。特に変化量 \(\Delta i_1, \Delta t\) を計算する際の引き算のミスに注意しましょう。
- 文字式の整理: (6)の送電効率の計算では、複数の式を代入して整理します。どの文字を消去し、どの文字で最終的な答えを表すのか(問題文の指示は「P, V2, R」)を常に意識しながら式変形を行うと、迷子になりにくいです。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (4) グラフの形: 電流が一定の区間(\(1<t<3\))では、磁束が変化しないため、誘導起電力は0になります。これは物理的に正しいです。また、電流が増加する区間(\(0<t<1\))と減少する区間(\(3<t<5\))で、起電力の符号が逆転するのもレンツの法則と一致しており、妥当です。
- (7) 高電圧送電の結論: 「送電効率を上げるには送電電圧を高くする」という結論は、我々の社会の電力インフラのあり方そのものです。物理法則から導かれた結論が、現実世界で大規模に実用化されている例として、理解を深めることができます。
- 極端な場合を考える:
- もし送電線の抵抗 \(R=0\) なら、電力損失は0になり、送電効率 \(e=1\) (100%)になるはずです。(6)の式で \(R=0\) とすると、確かに \(e=1\) となり、つじつまが合います。
- もし送電電圧 \(V_2\) を無限に大きくできれば、損失項 \(\frac{PR}{V_2^2}\) は0に近づき、効率は1に近づきます。これも式の上で成り立っており、結論の正しさを補強します。
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