「重要問題集」徹底解説(131〜135問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題131 (千葉工業大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、落下するネオジム磁石によって金属円筒に生じる電磁誘導と、それに伴う電磁力、そして磁石の力学的な運動を総合的に問う問題です。
この問題の核心は、レンツの法則、フレミングの左手の法則、そして作用・反作用の法則を正確に理解し、電磁気学と力学の法則を連携させて現象を分析する能力です。

与えられた条件
  • 金属円筒: 半径\(r\)
  • ネオジム磁石A: 質量\(M\)、円柱型、N極が下向き
  • 座標軸: 管の中心軸を\(z\)軸とし、鉛直下向きを正とする
  • 初期条件: 静かに放す
  • その他: 空気抵抗は無視、磁石は管の側面に接触しない、重力加速度は\(g\)
問われていること
  • (a) コイルCに流れる誘導電流の向き。
  • (b) コイルCが磁場から受ける力の合力の向き。
  • (ア) コイルCが磁場から受ける力の大きさ\(f\)を表す式の一部。
  • (c) 管のAより上方にある部分が受ける力の向き。
  • (イ) 磁石Aの運動方程式。
  • (ウ) 速さが一定になったときの電磁力の大きさ\(F_0\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電磁誘導と電磁力、および力学との融合」です。落下する磁石によって金属円筒に生じる誘導電流が生じ、その電流が磁場から力を受けることで磁石の運動に影響を与える、という一連の現象を解析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. レンツの法則: 磁束の変化を妨げる向きに誘導電流が流れるという、電磁誘導の向きに関する基本法則。
  2. 右ねじの法則: 電流の向きと、その電流が作る磁場の向きの関係を定める法則。
  3. フレミングの左手の法則(ローレンツ力): 磁場中を流れる電流が受ける力の向きと大きさを決定する法則。
  4. 作用・反作用の法則と運動方程式: 磁石と金属円筒の間で及ぼしあう力(電磁力)を整理し、磁石の運動を力学的に記述する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、磁石の落下による磁束の変化を捉え、レンツの法則と右ねじの法則を用いて各部に流れる誘導電流の向きを決定します(問a, cの一部)。
  2. 次に、その誘導電流が磁石の作る磁場から受ける力を、フレミングの左手の法則と円環という形状の対称性を考慮して求めます。この際、「誰が誰から力を受けるか」という作用・反作用の関係を正確に捉えることが重要です(問b, ア, cの一部)。
  3. 最後に、磁石にはたらく力(重力と電磁力)を整理し、運動方程式を立てて、特定の条件下での力の関係を導き出します(問イ, ウ)。

問(a)

思考の道筋とポイント
磁石Aが落下して下方のコイルCに近づくことで、Cを貫く磁束が変化します。この磁束の変化に対して、レンツの法則がどのように働くかを考え、誘導電流の向きを特定します。
この設問における重要なポイント

  • レンツの法則: 誘導電流は、磁束の変化を妨げる向きの磁場を作るように流れる。
  • 右ねじの法則: 電流の向きと、それが作る磁場の向きの関係を対応付ける。
  • 磁石AのN極が下を向いているため、コイルCを貫く磁束は鉛直下向き(\(z\)軸正の向き)である。

具体的な解説と立式
磁石AがコイルCに近づくにつれて、Cを貫く下向きの磁束は時間とともに増加します。
レンツの法則によれば、コイルCに流れる誘導電流は、この「下向き磁束の増加」を妨げるように作用します。すなわち、誘導電流は上向き(\(z\)軸負の向き)の磁場を自ら作り出します。
この上向きの磁場を生成する電流の向きを、右ねじの法則を用いて考えます。右手の親指を上向き(磁場の向き)に立てると、残りの4本の指が巻く向きが電流の向きに対応します。これは、コイルCを上から見たときに「反時計回り」の向きとなります。

使用した物理公式

  • レンツの法則
  • 右ねじの法則
計算過程

この設問は定性的な判断であり、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

磁石がコイルに近づいてくると、コイルは「来るな!」と反発するような磁場を作って抵抗しようとします。N極が近づいてくるので、コイル自身がN極(上向きの磁場)になるように電流を流すのです。この電流の向きは、右手の親指を上に向けて指を握ったときの、指の巻く向き、つまり「反時計回り」になります。

結論と吟味

誘導電流の向きは、上から見て反時計回りです。これは、近づいてくる磁石を反発させる向きであり、レンツの法則の「変化を妨げる」という性質と一致しており、妥当な結論です。

解答 (a) 反時計回り

問(b), (ア)

思考の道筋とポイント
(a)で求めた反時計回りの誘導電流\(I\)が、磁石Aの作る磁場から受ける力を考えます。この問題では「コイルCが受ける力」を問われています。レンツの法則は磁石の運動を妨げるように作用するため、磁石Aには上向きの力が働きます。作用・反作用の法則により、コイルCが磁石Aから受ける力は下向きとなります。この力の大きさを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 作用・反作用の法則: 「磁石が管から受ける力」と「管が磁石から受ける力」は、大きさが等しく向きが逆である。
  • レンツの法則の帰結: 磁石の落下運動は妨げられるので、磁石には上向きの力が働く。
  • 電流が磁場から受ける力(ローレンツ力): 力の大きさは \(F=IlB\sin\phi\) で与えられる。

具体的な解説と立式
まず、力の向きを考えます。磁石Aの落下によって生じる電磁誘導は、レンツの法則により、その落下運動を妨げるように作用します。つまり、磁石Aは管全体(コイルCを含む)から上向き(\(z\)軸負の向き)の力を受けます。
問題で問われているのは「コイルCが受ける力」です。作用・反作用の法則により、コイルCは磁石Aから、磁石Aが受ける力とは逆向きの力、すなわち下向き(\(z\)軸正の向き)の力を受けます。したがって、bにはが入ります。

次に、力の大きさ\(f\)を計算します。模範解答の図bは、コイルCの微小部分\(\Delta l\)が受ける力\(\Delta l \cdot IB\)と、その力の向きを示しています。この力が\(z\)軸の正方向となす角は、図から\((90^\circ – \theta)\)と読み取れるため、力の\(z\)軸成分は \((\Delta l \cdot IB) \cos(90^\circ – \theta) = \Delta l \cdot IB \sin\theta\) となります。
円環の対称性から、水平方向の力は打ち消し合います。したがって、コイル全体が受ける力の合力\(f\)は、各部分が受ける力の\(z\)軸成分を円周全体(長さ\(2\pi r\))で合計したものになります。
$$ f = (IB\sin\theta) \times (\text{円周の長さ}) $$
$$ f = (IB\sin\theta) \cdot 2\pi r $$
問題文の形式 \(f = \text{ア} \cdot 2\pi r\) と比較すると、アに相当する部分は \(IB\sin\theta\) となります。

使用した物理公式

  • 作用・反作用の法則
  • フレミングの左手の法則: \(\vec{F} = I(\vec{l} \times \vec{B})\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
f &= (\text{単位長さあたりの力のz成分}) \times (\text{円周の長さ}) \\[2.0ex]
&= (IB\sin\theta) \cdot (2\pi r)
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

磁石が落ちてくると、管は磁石の落下を邪魔しようとして、磁石に上向きの力を加えます。これは「電磁ブレーキ」です。物理の基本ルール(作用・反作用の法則)によれば、磁石が管から上向きの力を受けるなら、管は磁石から下向きの力を受けます。問題は「管(コイルC)が受ける力」を聞いているので、答えは下向き(\(z\)軸正の向き)です。力の大きさは、模範解答の図を参考に、電流、磁場、円周の長さを掛け合わせることで計算できます。

結論と吟味

力の向きは\(z\)軸の正の向き、大きさは \(f = (IB\sin\theta) \cdot 2\pi r\) となります。これは作用・反作用の法則と問題の図から導かれる結論であり、妥当です。

解答 (b), (ア) b: 正, ア: \(IB\sin\theta\)

問(c)

思考の道筋とポイント
磁石Aの上方にある管の部分が受ける力を考えます。まずレンツの法則で誘導電流の向きを決定し、次に問題の図や記述を手がかりに、その電流が受ける力の向きを論理的に導き出します。
この設問における重要なポイント

  • 磁石が遠ざかる場合、貫く磁束は「減少」する。
  • レンツの法則は、磁束の「減少を補う」向きに作用する。
  • 模範解答の図cと、「(b)と同様に」という記述が、力の向きを判断するための重要な手がかりとなる。

具体的な解説と立式
磁石Aが落下して遠ざかっていくため、Aの上方にある管の部分を貫く下向きの磁束は減少します。
レンツの法則により、誘導電流はこの磁束の減少を補う向き、すなわち下向き(\(z\)軸正の向き)の磁場を作るように流れます。右ねじの法則を適用すると、この下向き磁場を作るためには、コイルを上から見て「時計回り」に電流が流れる必要があります。

次に、この時計回りの電流が磁場から受ける力を考えます。模範解答の図cは、この状況を断面で表したものです。図cでは、時計回りの電流(紙面手前から奥へ向かう電流、記号\(\otimes\)で示される)が、磁石の磁場\(B\)から「力」と示された向き(斜め下向き)に力を受けることが図示されています。
さらに、問題文には「(b)と同様にz軸正の向きのみとなる」と記述されています。これは、(b)と同様に、円環の各部分が受ける力(図cの斜め下向きの力)の水平成分は、円環全体で考えると対称性から打ち消し合い、鉛直方向の成分だけが残ることを意味します。
図cから、力の鉛直成分は下向き(\(z\)軸正の向き)であることが明らかです。
したがって、管のAより上方にある部分が受ける力の合力の向きは、\(z\)軸の正の向きとなります。

使用した物理公式

  • レンツの法則
  • 右ねじの法則
  • フレミングの左手の法則(を図示した図cの解釈)
計算過程

この設問は定性的な判断であり、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

磁石が遠ざかっていくと、管の上側は「行かないで!」と磁石を引き留めるような磁場(下向きの磁場)を作ろうとします。そのためには「時計回り」の電流を流します。この電流が磁場から受ける力は、模範解答に描かれている図cを見ると、斜め下向きであることがわかります。円形の管全体で考えると、横方向の力は打ち消し合い、下向きの力だけが残ります。したがって、答えは下向き(\(z\)軸正の向き)となります。

結論と吟味

問題文の記述と図cを論理的に解釈することで、力の向きは\(z\)軸の正の向きであると結論付けられます。

解答 (c)

問(イ)

思考の道筋とポイント
落下する磁石Aにはたらく全ての力を特定し、ニュートンの運動方程式を立てます。磁石にはたらく力は、重力と、管全体から受ける電磁力の二つです。
この設問における重要なポイント

  • 運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
  • 作用・反作用の法則: 管が磁石から受ける力の反作用として、磁石は管から力を受ける。
  • レンツの法則の帰結として、落下運動全体を妨げる向きに力がはたらく。

具体的な解説と立式
磁石Aには、鉛直下向き(\(z\)軸正の向き)に重力\(Mg\)がはたらきます。
同時に、磁石の運動によって管に誘導電流が生じ、管は磁石から電磁力を受けます。その反作用として、磁石Aは管全体から電磁力を受けます。問題文では、この力の大きさを\(F\) (\(F \ge 0\)) と定義しています。
レンツの法則の本質は、電磁誘導が常に運動(変化)を妨げるように作用することです。したがって、落下運動している磁石Aが管全体から受ける合力の向きは、運動を妨げる向き、すなわち鉛直上向き(\(z\)軸負の向き)となります。
よって、鉛直下向き(\(z\)軸正の向き)を正として磁石Aの運動方程式を立てると、加速度を\(a\)として、
$$ Ma = (\text{正の向きの力}) – (\text{負の向きの力}) $$
$$ Ma = Mg – F $$
となります。

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(ma=F_{\text{合力}}\)
  • 作用・反作用の法則
計算過程

立式そのものが解答であり、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

磁石の運動は、綱引きに例えられます。下向きには地球が引っぱる「重力\(Mg\)」が、上向きには管が引き留めようとする「電磁ブレーキの力\(F\)」が働いています。この二つの力の差が、磁石を実際に加速させる正味の力(質量 × 加速度)になります。

結論と吟味

運動方程式は \(Ma = Mg – F\) となります。これは、重力と、運動に抵抗する力\(F\)を受けて運動する物体の一般的な運動方程式の形であり、物理的に妥当です。

解答 (イ) \(Mg – F\)

問(ウ)

思考の道筋とポイント
磁石の速さ\(v\)が一定になった、という条件が何を意味するかを考え、(イ)で立てた運動方程式に適用します。
この設問における重要なポイント

  • 速さが一定 \(\iff\) 加速度が0。
  • 加速度が0の状態とは、物体にはたらく力がつり合っている状態を意味する。

具体的な解説と立式
磁石の速さ\(v\)が一定になったとき、その加速度は\(a=0\)となります。このときの電磁力の大きさを、問題文に従い\(F_0\)とします。
(イ)で立てた運動方程式①に、\(a=0\) と \(F=F_0\) を代入すると、力のつり合いの式が得られます。
$$ M \times 0 = Mg – F_0 $$
この式を\(F_0\)について解くと、
$$ F_0 = Mg $$
となります。

使用した物理公式

  • 運動方程式(力のつり合い)
計算過程

$$
\begin{aligned}
M \times 0 &= Mg – F_0 \\[2.0ex]
0 &= Mg – F_0 \\[2.0ex]
F_0 &= Mg
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

磁石がスピードアップするほど、電磁ブレーキの力\(F\)は強くなっていきます。やがて、このブレーキの力\(F_0\)が、下向きに引っぱる重力\(Mg\)とちょうど同じ大きさになります。上向きの力と下向きの力がつり合うと、それ以上加速も減速もしなくなり、磁石は一定の速さ(終端速度)でスーッと落ちていきます。

結論と吟味

速さが一定になったとき、電磁力と重力がつり合うため、\(F_0 = Mg\)となります。これは、空気抵抗を受けながら落下する物体が終端速度に達したときの力の関係と同じ形であり、物理的に妥当な結果です。

解答 (ウ) \(Mg\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • レンツの法則と右ねじの法則:
    • 核心: 電磁誘導現象の根幹をなす法則です。磁束の変化を「妨げる」向きに誘導起電力・誘導電流が生じるというレンツの法則と、電流とその電流が作る磁場の向きを関連付ける右ねじの法則は、この問題の(a)や(c)のように、現象の第一歩を理解する上で不可欠です。
    • 理解のポイント: レンツの法則は「変化に対する抵抗」とイメージすると分かりやすいです。「N極が近づく」→「N極を作って反発」、「N極が遠ざかる」→「S極を作って引き留める」というように、常に現状維持をしようとする「あまのじゃく」な性質と捉えましょう。
  • ローレンツ力(電流が磁場から受ける力):
    • 核心: 誘導された電流が、元の磁石が作る磁場から力を受けることで、力学的な現象(ブレーキ)が引き起こされます。この力の大きさ(\(F=IlB\sin\phi\))と向き(フレミングの左手の法則)を正しく計算・適用することが、(ア)や(イ)の立式に直結します。
    • 理解のポイント: この問題のように円環状の電流の場合、各微小部分が受ける力をベクトル的に合成する必要があります。円環の対称性から、半径方向の力は打ち消し合い、軸方向の力だけが残る、という点が重要です。
  • 作用・反作用の法則:
    • 核心: この問題で最も誤解しやすいポイントです。「磁石が管から受ける力」と「管が磁石から受ける力」は、大きさが等しく向きが逆になります。レンツの法則は磁石の運動を妨げるので、磁石には上向きの力が働きます。その反作用として、管には下向きの力が働く、という論理関係を正確に把握することが(b)を正しく解く鍵です。
    • 理解のポイント: 常に「誰が」「誰から」力を受けているのか、力の主語と目的語を明確に意識する癖をつけましょう。
  • 運動方程式と力のつり合い:
    • 核心: 電磁気的な現象を、力学の言葉で記述するための最終的なツールです。(イ)では運動方程式を立て、(ウ)では終端速度(加速度0)という条件から力のつり合いの式を導きます。これは電磁気と力学の融合問題における典型的な流れです。
    • 理解のポイント: 終端速度に達するということは、速度変化を引き起こす原因である「合力」が0になるということです。つまり、重力と、速度に依存する抵抗力(この問題では電磁力)が等しくなった状態を指します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 導体棒のレール上での運動: 一様な磁場中を導体棒が運動する問題。誘導起電力 \(V=vBl\)、誘導電流 \(I=V/R\)、ローレンツ力 \(F=IBl\) を順に計算し、運動方程式を立てるのが定石です。
    • コイルを貫く磁束が時間変化する問題: 磁場自体が \(B(t)\) のように時間変化する場合。ファラデーの電磁誘導の法則 \(\displaystyle V = -N\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\) を直接用いて誘導起電力を計算します。
    • 自己誘導・相互誘導: コイル自身の電流変化が誘導起電力を生む(自己誘導)、あるいは近くのコイルの電流変化が影響する(相互誘導)問題。インダクタンス\(L\)や相互インダクタンス\(M\)の概念が中心となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象の因果関係を追う: まず「何が原因で(磁石の落下)」「何が起こり(磁束の変化)」「その結果どうなるか(誘導電流→電磁力)」という一連の因果関係をストーリーとして把握します。
    2. 力の作用点を明確にする: 「磁石にはたらく力」と「管にはたらく力」を明確に区別します。特に作用・反作用が問われる場面では、主語を間違えないように注意が必要です。
    3. 対称性の利用: この問題の円環のように、図形的な対称性がある場合、力のベクトル和を考える際に計算が大幅に簡略化できることが多いです。どの成分が打ち消し合い、どの成分が残るかを見抜きましょう。
    4. 終端速度・つり合いの条件: 「速さが一定になった」「静止した」などの記述は、加速度\(a=0\)、すなわち「力のつり合い」を意味する重要なキーワードです。この条件を運動方程式に適用することで、未知数を求めることができます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 作用・反作用の主語の混同:
    • 誤解: (b)で、レンツの法則から「磁石の運動を妨げる力=上向きの力」と考え、管が受ける力も上向きだと誤解してしまう。
    • 対策: レンツの法則が直接言及するのは「変化の原因(磁石)に働く力」の向きです。問題が「管が受ける力」を問うている場合は、作用・反作用の法則を一段階挟んで考える必要があります。「磁石が管を下に押し、管が磁石を上に押し返す」という関係を常に意識しましょう。
  • フレミングの左手の法則の適用ミス:
    • 誤解: 電流・磁場・力の3つのベクトルの向きを空間的に正しく把握できず、力の向きを間違える。
    • 対策: 図を大きく描き、電流の向き(接線方向)、磁場の向き(半径方向と軸方向の成分に分解)を明確に矢印で記入します。その上で、左手の指を一つずつ丁寧に当てはめていきましょう。
  • 力の成分分解のミス:
    • 誤解: (ア)の計算で、磁束密度\(B\)そのものを力の計算式に入れてしまう。
    • 対策: ローレンツ力は、電流と磁場のベクトル積で決まります。力が最大になるのは電流と磁場が垂直な場合です。この問題では、電流(円周の接線方向)と垂直なのは磁場の「半径方向成分」であることを理解し、正しい成分を用いて計算する必要があります。模範解答の図bは、この力の成分分解の結果を視覚的に示してくれています。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力の矢印の描き分け: 磁石にはたらく力(重力、電磁力)と、管にはたらく力(電磁力)を、別の色や線の種類で描き分けると、作用・反作用の関係が視覚的に理解しやすくなります。
    • 断面図での考察: 問題の図a, b, cのように、円環を断面で捉えることで、3次元的な力の関係を2次元平面上で考察できます。電流の向き(紙面の奥向きか手前向きか)、磁場の向き、そして力の向きを断面図に書き込む練習は非常に有効です。
    • 磁力線のイメージ: N極から出てS極に入る磁力線のループをイメージすることで、管の下側と上側で磁場の向き(特に半径方向成分の向き)がどうなるかを直感的に把握できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸の明記: \(z\)軸の正の向きがどちらかを明確に図に描き込み、力の向きを「正」「負」で判断する際の基準をはっきりさせましょう。
    • 作用点の明記: 力の矢印の始点が「磁石」にあるのか「管」にあるのかを明確に描くことで、誰にはたらく力なのかを混同しなくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • レンツの法則:
    • 選定理由: (a)や(c)で、まず現象の方向性を定めるため。電磁誘導の問題では、何よりも先に誘導電流の向きを決定する必要があります。
    • 適用根拠: エネルギー保存則の電磁気学的な現れであり、磁束の変化がある限り必ず成り立つ普遍的な法則です。
  • 作用・反作用の法則:
    • 選定理由: (b)で、「管が受ける力」を特定するため。電磁力は磁石と管の間で相互に及ぼしあう力であり、片方の力が分かればもう片方も自動的に決まります。
    • 適用根拠: 力学における最も基本的な法則の一つであり、電磁気的な相互作用にも同様に適用されます。
  • \(f = (IB\sin\theta) \cdot 2\pi r\)(ローレンツ力の合力):
    • 選定理由: (ア)で、誘導電流が磁場から受ける力の大きさを具体的に計算するため。
    • 適用根拠: フレミングの左手の法則(ローレンツ力の公式)を、円環状の導線全体にわたって積分(この場合は単純な掛け算)した結果です。
  • \(Ma = Mg – F\)(運動方程式):
    • 選定理由: (イ)と(ウ)で、磁石の力学的な運動を記述するため。電磁気現象によって生じた力を、物体の運動に結びつけるための橋渡しとなる式です。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則であり、物体にはたらく合力と加速度の関係を記述します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (a) コイルCの電流の向き:
    • 戦略: レンツの法則と右ねじの法則を適用する。
    • フロー: ①磁石落下→②Cを貫く下向き磁束が増加→③Cは上向き磁場を生成→④右ねじの法則より、電流は反時計回り。
  2. (b), (ア) コイルCが受ける力:
    • 戦略: 作用・反作用の法則で力の向きを決定し、ローレンツ力の公式で大きさを計算する。
    • フロー: ①レンツの法則より、磁石Aには上向きの力が働く→②作用・反作用より、コイルCには下向き(\(z\)軸正)の力が働く(bの答え)→③力の大きさは、模範解答の図bとローレンツ力の公式から \(f = (IB\sin\theta) \cdot 2\pi r\) と立式(アの答え)。
  3. (c) 上方部分が受ける力:
    • 戦略: レンツの法則で電流の向きを決め、模範解答の図cと記述から力の向きを論理的に導く。
    • フロー: ①磁石が遠ざかる→②上方部分を貫く下向き磁束が減少→③レンツの法則より、下向き磁場を作る時計回り電流が流れる→④図cと「(b)と同様に」という記述から、力の合力は\(z\)軸正の向きとなる。
  4. (イ) 運動方程式:
    • 戦略: 磁石にはたらく力を全て列挙し、運動方程式を立てる。
    • フロー: ①磁石にはたらく力は、下向きの重力\(Mg\)と上向きの電磁力\(F\)→②\(z\)軸下向きを正として、\(Ma = Mg – F\)。
  5. (ウ) 終端速度での力:
    • 戦略: 「速さが一定」→「加速度\(a=0\)」という条件を運動方程式に代入する。
    • フロー: ①(イ)の式に\(a=0\)を代入→②\(M \cdot 0 = Mg – F_0\)→③\(F_0 = Mg\)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の取り扱い: この問題は数値計算がなく、全て文字式で表現されます。与えられた文字(\(M, g, r, I, B, \theta\)など)と、自分で設定した文字を混同しないようにしましょう。
  • ベクトルの向き: 「正」「負」の判断は、座標軸の取り方に依存します。問題の冒頭で「鉛直下向きをz軸の正の向きとする」と定義されていることを常に念頭に置き、力の向きを判断しましょう。
  • 問題文と図の精読: この問題のように、物理的な第一印象と、図や補足説明から導かれる結論が異なるように見える場合があります。その際は、問題に与えられた全ての情報を統合して、最も整合性の取れる論理を組み立てる必要があります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (イ) 運動方程式: \(Ma = Mg – F\) という式は、「重力から抵抗力を引いたものが正味の力になる」という、落下運動の基本的な形をしています。\(F\)は速度に依存して大きくなるため、初めは\(F=0\)で\(a=g\)、速度が増すと\(F\)が増えて\(a\)が減少し、やがて\(F=Mg\)となって\(a=0\)(終端速度)に至る、という一連の運動を正しく表現しており、物理的に妥当です。
    • (ウ) つり合いの式: \(F_0 = Mg\) は、終端速度に達した物体にはたらく抵抗力と重力がつり合うことを示しています。これは空気抵抗を受ける物体の落下など、他の物理現象とも共通する結論であり、理にかなっています。
  • 全体の一貫性:
    • (a)で求めた電流の向き、(b)で求めた力の向き、(イ)で立てた運動方程式は、すべて「レンツの法則(運動を妨げる)」と「作用・反作用」という物理の大原則で貫かれています。各設問の答えが、これらの大原則と矛盾していないかを確認することで、解答全体の信頼性を高めることができます。

問題132 (関西学院大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、磁場中を運動する導体棒に生じる誘導起電力と、それを含む電気回路について、スイッチの開閉によって条件を変えながら総合的に問う問題です。導体棒の運動という「力学」と、回路に流れる電流という「電気」が、電磁誘導とローレンツ力を介して相互に影響しあう、電磁気学の典型的な応用問題です。

与えられた条件
  • 一様な磁場: 大きさ\(B\)、向きは鉛直下向き
  • 導体レール: 間隔\(L\)、抵抗は無視
  • 電池: 起電力\(E\)、内部抵抗\(r\)
  • 棒1: 抵抗\(R_1\)、質量\(M\)
  • 棒2: 抵抗\(R_2\)、質量\(M\)
  • [A]の条件: スイッチSは開いている。棒2は固定。棒1は外力により速さ\(u\)で等速運動。
  • [B]の条件: スイッチSは閉じている。\(R_1 = R_2 = 2r\)。
問われていること
  • [A] (1) 棒1が横切る磁束の変化量 \(\Delta \Phi\)。
  • [A] (2) 棒1に生じる誘導起電力 \(V\)。
  • [A] (3) 回路を流れる電流 \(I\)。
  • [A] (4) 棒1に加える外力 \(F\) とその仕事率 \(W\)。
  • [A] (5) 各棒の消費電力 \(P_1, P_2\) と、仕事率 \(W\) との関係。
  • [B] (1) 棒1, 2を固定したときの棒1の電流 \(I_1\)。
  • [B] (2) スイッチを閉じた直後の棒1の加速度 \(a_0\)。
  • [B] (3) 棒1の速さが \(v\) のときの電流 \(I_1, I_2\)。
  • [B] (4) 棒1が達する一定の速さ \(v\)。
  • [B] (5) 棒1, 2を自由に動かしたときに達する一定の速さ \(v_1, v_2\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電磁誘導と直流回路の融合」です。導体棒の運動によって生じる現象を、電気回路の法則と力学の法則を組み合わせて解析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ファラデーの電磁誘導の法則: 導体棒が磁場を横切ることで誘導起電力 \(V=vBL\) が生じます。
  2. ローレンツ力: 磁場中の導線に電流が流れると力 \(F=IBL\) が働きます。
  3. キルヒホッフの法則: 複数の電源や抵抗を含む複雑な回路を解析するための普遍的な法則です。
  4. 運動方程式と力のつりあい: 導体棒の運動状態(加速、等速)を力の観点から記述します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、導体棒の運動によって生じる誘導起電力を求めます。
  2. 次に、その誘導起電力を電源とみなし、キルヒホッフの法則などを用いて回路に流れる電流を解析します。
  3. 電流が導体棒に及ぼす力(ローレンツ力)を計算し、運動方程式や力のつりあいの式を立てます。
  4. 「一定の速さ(終端速度)」という条件は、「加速度が0」、すなわち「合力が0」という条件に置き換えて考えます。

[A] スイッチSを開いた状態

問(1)

思考の道筋とポイント
棒1が一定の速さ \(u\) で動くことにより、棒1と棒2で囲まれた長方形の面積が増加します。この面積の増加分を貫く磁束の量を計算します。磁束は「磁束密度 × 面積」で定義されます。
この設問における重要なポイント

  • 棒1が時間 \(\Delta t\) の間に進む距離は \(u \Delta t\) です。
  • これにより増加する面積 \(\Delta S\) は、縦が \(L\)、横が \(u \Delta t\) の長方形の面積となります。
  • 磁束の変化量 \(\Delta \Phi\) は、この面積変化 \(\Delta S\) に磁束密度 \(B\) を掛けることで求まります。

具体的な解説と立式
時間 \(\Delta t\) の間に、棒1は \(x\) 軸の正の向きに距離 \(u \Delta t\) だけ移動します。これにより、回路を構成する長方形の面積は \(\Delta S\) だけ増加します。
$$ \Delta S = L \times (u \Delta t) $$
この面積増加に伴う磁束の変化量 \(\Delta \Phi\) は、一様な磁束密度 \(B\) と面積変化 \(\Delta S\) の積で与えられます。
$$ \Delta \Phi = B \Delta S $$

使用した物理公式

  • 磁束の定義: \(\Phi = BS\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\Delta \Phi &= B \Delta S \\[2.0ex]
&= B (L u \Delta t) \\[2.0ex]
&= BLu \Delta t
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

磁束とは、ある面を貫く磁力線の本数のようなものです。棒1が動くと、回路が囲む面積が広がり、その分だけ貫く磁力線の本数が増えます。この問題では、時間 \(\Delta t\) の間にどれだけ磁力線の本数が増えたかを計算しています。

結論と吟味

時間 \(\Delta t\) の間に棒1が横切る磁束は \(BLu \Delta t\) です。これは時間に比例して増加する量であり、妥当な結果です。

解答 (1) \(BLu \Delta t\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた磁束の時間変化に基づき、ファラデーの電磁誘導の法則を用いて棒1に生じる誘導起電力の大きさを求めます。
この設問における重要なポイント

  • ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -N \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\) を用います。
  • 誘導起電力の「大きさ」を問われているので、絶対値をとります。
  • 回路の巻き数は \(N=1\) と考えます。

具体的な解説と立式
ファラデーの電磁誘導の法則により、回路を貫く磁束が時間的に変化すると、その変化率に比例した大きさの誘導起電力 \(V\) が生じます。コイルの巻き数は1回なので \(N=1\) です。
$$ V = \left| -N \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| = \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} $$
ここに(1)で求めた \(\Delta \Phi = BLu \Delta t\) を代入します。

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \\[2.0ex]
&= \frac{BLu \Delta t}{\Delta t} \\[2.0ex]
&= BLu
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

発電の基本原理です。磁束(磁力線の本数)が変化するスピードが速いほど、大きな電圧(誘導起電力)が発生します。この計算は、その関係を数式で表したものです。棒が速く動くほど、また磁場が強いほど、大きな電圧が生まれることがわかります。

結論と吟味

棒1に生じる誘導起電力の大きさは \(V=BLu\) です。これは導体棒に生じる誘導起電力の基本公式であり、正しい結果です。

解答 (2) \(BLu\)

問(3)

思考の道筋とポイント
棒1に生じた誘導起電力 \(V\) を電源とみなし、回路に流れる電流の大きさを求めます。スイッチSは開いているため、棒1、抵抗\(R_1\)、固定された棒2の抵抗\(R_2\)が直列に接続された閉回路を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 運動している棒1が、起電力 \(V\) の電池として機能します。
  • 回路は抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) の単純な直列接続とみなせます。
  • 回路全体の合成抵抗は \(R_1 + R_2\) となります。
  • オームの法則(またはキルヒホッフの法則II)を適用して電流を求めます。

具体的な解説と立式
棒1に生じた起電力 \(V\) により、回路には誘導電流が流れます。レンツの法則から、電流の向きは磁束の増加を妨げる向き、すなわち反時計回りとなります。このとき、棒1(抵抗\(R_1\))と棒2(抵抗\(R_2\))は直列に接続されています。したがって、回路全体の合成抵抗は \(R_{\text{合成}} = R_1 + R_2\) です。
この閉回路にキルヒホッフの法則IIを適用すると、起電力 \(V\) が抵抗での電圧降下の和に等しくなります。電流の大きさを \(I\) とすると、
$$ V = I R_1 + I R_2 $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則II: \(\sum V = \sum RI\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= I (R_1 + R_2) \\[2.0ex]
I &= \frac{V}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

動いている棒1が発電機(電池)の役割を果たし、回路に電気を流します。この電気の通り道には、2つの抵抗(棒1自身の抵抗\(R_1\)と棒2の抵抗\(R_2\))が直列につながっています。全体の電圧 \(V\) を、全体の抵抗 \(R_1+R_2\) で割ることで、回路に流れる電流の大きさが計算できます。

結論と吟味

棒1を流れる電流の大きさは \(I = \displaystyle\frac{V}{R_1 + R_2}\) です。これはオームの法則の基本的な適用であり、妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{V}{R_1 + R_2}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
棒1を一定の速さ \(u\) で動かすためには、電流が磁場から受ける力(ローレンツ力)とつりあう大きさの外力を加え続ける必要があります。この外力の大きさと、その外力がする仕事率を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 電流 \(I\) が流れる長さ \(L\) の導線が磁場 \(B\) から受ける力は \(F_{\text{ローレンツ}} = IBL\) です。力の向きはフレミングの左手の法則で決まります。
  • 棒は「一定の速さ」で運動しているので、力のつりあいが成り立っています (\(F_{\text{外力}} = F_{\text{ローレンツ}}\))。
  • 単位時間あたりの仕事、すなわち仕事率 \(W\) は、力と速さの積 \(W = F u\) で計算できます。

具体的な解説と立式
(3)で求めた電流 \(I\) が流れる棒1は、磁場から力を受けます。フレミングの左手の法則を適用すると、力の向きは \(x\) 軸の負の向き(運動を妨げる向き)となります。この力の大きさ \(F_{\text{ローレンツ}}\) は、
$$ F_{\text{ローレンツ}} = IBL $$
棒1を一定の速さ \(u\) で動かし続けるためには、このローレンツ力と大きさが等しく、向きが反対(\(x\) 軸の正の向き)の外力 \(F\) を加えなければなりません。
$$ F = F_{\text{ローレンツ}} = IBL $$
この外力が単位時間あたりに行う仕事(仕事率) \(W\) は、力 \(F\) と速さ \(u\) の積で与えられます。
$$ W = F u $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F=IBL\)
  • 仕事率: \(P=Fv\)
計算過程

まず外力 \(F\) を求めます。(3)の結果 \(I = \displaystyle\frac{V}{R_1 + R_2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= IBL \\[2.0ex]
&= \left( \frac{V}{R_1 + R_2} \right) BL \\[2.0ex]
&= \frac{VBL}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$
次に仕事率 \(W\) を求めます。(2)の結果 \(V=BLu\) より \(u = \displaystyle\frac{V}{BL}\) であることを利用します。
$$
\begin{aligned}
W &= F u \\[2.0ex]
&= \left( \frac{VBL}{R_1 + R_2} \right) \times \left( \frac{V}{BL} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{V^2}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

棒に電流が流れると、磁場からブレーキのような力(ローレンツ力)を受けます。棒を一定の速さで動かし続けるには、このブレーキ力と全く同じ大きさの力で押し続ける必要があります。これが外力です。仕事率とは、1秒あたりにどれだけのエネルギーを投入したかを表す量で、「力 × 速さ」で計算できます。

結論と吟味

外力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{VBL}{R_1 + R_2}\)、仕事率は \(W = \displaystyle\frac{V^2}{R_1 + R_2}\) です。等速運動なので質量 \(M\) は無関係です。結果は妥当です。

解答 (4) 外力: \(\displaystyle\frac{VBL}{R_1 + R_2}\), 仕事率: \(\displaystyle\frac{V^2}{R_1 + R_2}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
棒1と棒2の抵抗で消費される電力(ジュール熱)をそれぞれ計算し、その合計が(4)で求めた外力の仕事率 \(W\) と等しくなることを確認します。これはエネルギー保存則の現れです。
この設問における重要なポイント

  • 抵抗 \(R\) に電流 \(I\) が流れるときの消費電力は、公式 \(P = RI^2\) で計算できます。
  • 棒1は等速運動しているため、運動エネルギーは変化しません。したがって、外力がした仕事はすべて回路内で熱として消費されるはずです。

具体的な解説と立式
棒1と棒2には、(3)で求めた電流 \(I\) が流れています。それぞれの抵抗で消費される電力 \(P_1, P_2\) は、公式 \(P=RI^2\) を用いて計算できます。
$$ P_1 = R_1 I^2 $$
$$ P_2 = R_2 I^2 $$
これらの和 \(P_1 + P_2\) を計算し、(4)で求めた仕事率 \(W\) と比較します。

使用した物理公式

  • 消費電力: \(P=RI^2\)
  • エネルギー保存則
計算過程

まず、(3)で求めた \(I = \displaystyle\frac{V}{R_1 + R_2}\) を用いて \(P_1, P_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_1 &= R_1 \left( \frac{V}{R_1 + R_2} \right)^2 = \frac{R_1 V^2}{(R_1 + R_2)^2} \\[2.0ex]
P_2 &= R_2 \left( \frac{V}{R_1 + R_2} \right)^2 = \frac{R_2 V^2}{(R_1 + R_2)^2}
\end{aligned}
$$
問題では \(P_2\) を求めよとあるので、これが一つの答えです。
次に、仕事率 \(W\) との関係を調べます。消費電力の和を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_1 + P_2 &= \frac{R_1 V^2}{(R_1 + R_2)^2} + \frac{R_2 V^2}{(R_1 + R_2)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{(R_1 + R_2) V^2}{(R_1 + R_2)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{V^2}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$
(4)で求めた仕事率 \(W = \displaystyle\frac{V^2}{R_1 + R_2}\) と比較すると、
$$ W = P_1 + P_2 $$
となります。

計算方法の平易な説明

外から加えた仕事(エネルギー)はどこへ消えたのでしょうか?この問題では、棒の速さが変わらないので運動エネルギーは増えません。実は、投入したエネルギーはすべて、回路の抵抗で熱(ジュール熱)として消費されています。この設問では、そのことを計算で確かめています。

結論と吟味

棒2での消費電力は \(P_2 = \displaystyle\frac{R_2 V^2}{(R_1 + R_2)^2}\) です。また、外力の仕事率が消費電力の和に等しいこと \(W = P_1 + P_2\) が示されました。これは、外力がした仕事がすべてジュール熱に変換されたことを意味するエネルギー保存則を表しており、物理的に正しい関係です。

解答 (5) \(P_2 = \displaystyle\frac{R_2 V^2}{(R_1 + R_2)^2}\), 関係: \(W = P_1 + P_2\)

[B] スイッチSを閉じた状態

問(1)

思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じ、棒1と棒2を固定した状態の定常的な回路を考えます。これは電池 \(E\) と3つの抵抗 \(r, R_1, R_2\) からなる直流回路です。キルヒホッフの法則を用いて、棒1を流れる電流を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 棒は固定されているため、誘導起電力は生じません (\(v=0\))。
  • 与えられた条件 \(R_1 = R_2 = 2r\) を用います。
  • 回路の対称性から、抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) に流れる電流は等しくなると考えられます。
  • キルヒホッフの法則を適用して連立方程式を立てて解きます。

具体的な解説と立式
棒1と棒2を固定しているため、誘導起電力は生じません。回路は電池 \(E\) と内部抵抗 \(r\)、そして並列に接続された抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) から構成されます。
棒1を流れる電流を \(I_1\)、棒2を流れる電流を \(I_2\) とします。電池から流れ出る電流は、キルヒホッフの第1法則より \(I_1 + I_2\) となります。
キルヒホッフの第2法則を、2つの閉回路に適用します。

  • 右側のループ(電池、内部抵抗\(r\)、抵抗\(R_1\)を含む):
    $$ E = (I_1 + I_2)r + I_1 R_1 \quad \cdots ① $$
  • 左側のループ(電池、内部抵抗\(r\)、抵抗\(R_2\)を含む):
    $$ E = (I_1 + I_2)r + I_2 R_2 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則
計算過程

式①と②の右辺は等しいので、\(I_1 R_1 = I_2 R_2\) となります。ここで条件 \(R_1 = R_2\) を用いると、\(I_1 = I_2\) であることがわかります。
この関係を式①に代入し、さらに条件 \(R_1 = 2r\) を用いて \(I_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
E &= (I_1 + I_1)r + I_1 (2r) \\[2.0ex]
&= 2I_1 r + 2I_1 r \\[2.0ex]
&= 4r I_1
\end{aligned}
$$
したがって、棒1を流れる電流 \(I_1\) は、
$$ I_1 = \frac{E}{4r} $$

計算方法の平易な説明

スイッチを入れ、棒が動く前の瞬間を考えます。これは、単に電池と3つの抵抗がつながった電気回路の問題です。回路の形が左右対称なので、2本の棒(抵抗)には同じ大きさの電流が流れるはずです。この対称性を利用し、キルヒホッフの法則(電圧のルール)を使って電流を計算します。

結論と吟味

棒1を流れる電流は \(I_1 = \displaystyle\frac{E}{4r}\) です。対称性から棒2を流れる電流 \(I_2\) も同じ値になります。妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{E}{4r}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
スイッチを閉じた直後、棒1はまだ静止している(速さ \(v=0\))ため、誘導起電力は生じていません。しかし、(1)で求めた電流 \(I_1\) が流れているため、磁場からローレンツ力を受けて動き出します。この瞬間の加速度を運動方程式 \(Ma=F\) から求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「閉じた直後」とは、時間が経過しておらず、速度がまだ0の状態 (\(v=0\)) を指します。
  • この瞬間に流れる電流は、(1)で求めた静止時の電流 \(I_1\) です。
  • 棒1にはたらく力は、この電流によるローレンツ力 \(F = I_1 B L\) のみです。
  • 運動方程式 \(Ma_0 = F\) を立てて加速度 \(a_0\) を求めます。

具体的な解説と立式
スイッチを閉じた直後(\(t=0\))、棒1の速さは \(v=0\) です。したがって、棒1に誘導起電力は生じません。このとき棒1に流れる電流は、(1)で求めた静止時の電流 \(I_1\) に等しくなります。
この電流が磁場から受ける力(ローレンツ力) \(F\) は、フレミングの左手の法則より \(x\) 軸の正の向きとなり、その大きさは、
$$ F = I_1 B L $$
この力によって、質量 \(M\) の棒1は加速されます。運動方程式 \(Ma=F\) を立てると、この瞬間の加速度 \(a_0\) は次式で与えられます。
$$ M a_0 = F = I_1 B L $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(Ma=F\)
  • ローレンツ力: \(F=IBL\)
計算過程

(1)で求めた \(I_1 = \displaystyle\frac{E}{4r}\) を運動方程式に代入します。
$$
\begin{aligned}
M a_0 &= \left( \frac{E}{4r} \right) B L \\[2.0ex]
a_0 &= \frac{EBL}{4rM}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

スイッチを入れた瞬間、棒1には電気が流れ始めます。電流が磁場の中を流れると、フレミングの左手の法則に従って力が働きます。この力によって、静止していた棒が動き始めます。その動き始めの「初速度」ならぬ「初加速度」を、ニュートンの運動方程式(\(Ma=F\))を使って計算します。

結論と吟味

スイッチを閉じた直後の棒1の加速度は \(a_0 = \displaystyle\frac{EBL}{4rM}\) です。必要な物理量で正しく表現されており、妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{EBL}{4rM}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
棒1が加速し、速さが \(v\) になった瞬間を考えます。このとき、棒1には誘導起電力 \(V’ = vBL\) が生じます。この誘導起電力は電池の起電力 \(E\) による電流を妨げる向きに作用するため、回路の状態が変化します。キルヒホッフの法則を再び適用して、この瞬間の電流 \(I_1, I_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 棒1の運動により、誘導起電力 \(vBL\) が生じます。その向きはレンツの法則に従い、電流を減らす向きです。
  • 回路図は、電池 \(E\) と、逆向きの電池(誘導起電力) \(vBL\) が共存する複雑なものになります(図g参照)。
  • キルヒホッフの法則IIを2つのループに適用し、\(I_1\) と \(I_2\) に関する連立方程式を解きます。

具体的な解説と立式
棒1の速さが \(v\) になると、大きさ \(V’ = vBL\) の誘導起電力が生じます。この起電力の向きは、フレミングの右手の法則より、電池の起電力 \(E\) が流そうとする電流を妨げる向きとなります。
この状態の回路(図g)において、棒1を流れる電流を \(I_1\)、棒2を流れる電流を \(I_2\) とします。キルヒホッフの法則IIを2つのループに適用します。

  • 右側のループ(電池、内部抵抗\(r\)、抵抗\(R_1\)、棒1の誘導起電力を含む):
    $$ E – vBL = (I_1 + I_2)r + I_1 R_1 \quad \cdots ③ $$
  • 左側のループ(電池、内部抵抗\(r\)、抵抗\(R_2\)を含む):
    $$ E = (I_1 + I_2)r + I_2 R_2 \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則
  • 誘導起電力: \(V=vBL\)
計算過程

条件 \(R_1 = R_2 = 2r\) を式③、④に代入して整理します。
式③:
$$
\begin{aligned}
E – vBL &= (I_1 + I_2)r + I_1 (2r) \\[2.0ex]
E – vBL &= 3rI_1 + rI_2 \quad \cdots ③’
\end{aligned}
$$
式④:
$$
\begin{aligned}
E &= (I_1 + I_2)r + I_2 (2r) \\[2.0ex]
E &= rI_1 + 3rI_2 \quad \cdots ④’
\end{aligned}
$$
③’と④’の連立方程式を解きます。④’ \(\times 3 – \) ③’ を計算して \(I_2\) を求めます。
\(3E – (E – vBL) = (3rI_1 + 9rI_2) – (3rI_1 + rI_2)\)
\(2E + vBL = 8rI_2\)
$$ I_2 = \frac{2E + vBL}{8r} $$
次に、③’ \(\times 3 – \) ④’ を計算して \(I_1\) を求めます。
\(3(E – vBL) – E = (9rI_1 + 3rI_2) – (rI_1 + 3rI_2)\)
\(2E – 3vBL = 8rI_1\)
$$ I_1 = \frac{2E – 3vBL}{8r} $$

計算方法の平易な説明

棒がスピードを持つと、今度は棒自身が「逆向きの電池」のように振る舞い始めます(誘導起電力)。そのため、もともとの電池 \(E\) から流れる電流が影響を受けます。この「電池が2つある複雑な回路」の状態を、キルヒホッフの法則という強力なツールを使って分析し、それぞれの棒に流れる電流を計算します。

結論と吟味

棒1を流れる電流は \(I_1 = \displaystyle\frac{2E – 3vBL}{8r}\)、棒2を流れる電流は \(I_2 = \displaystyle\frac{2E + vBL}{8r}\) です。
ここで \(v=0\) とすると、\(I_1 = I_2 = \displaystyle\frac{2E}{8r} = \frac{E}{4r}\) となり、(1)の静止時の結果と一致するため、計算の妥当性が確認できます。

解答 (3) \(I_1 = \displaystyle\frac{2E – 3vBL}{8r}\), \(I_2 = \displaystyle\frac{2E + vBL}{8r}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
棒1が一定の速さに達した(終端速度になった)ということは、加速度が0になったことを意味します。運動方程式より、これは棒1にはたらく合力が0になったということです。棒1にはたらく力はローレンツ力のみなので、ローレンツ力が0になる条件を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 「一定の速さ」は「加速度 \(a=0\)」を意味します。
  • 運動方程式 \(Ma=F\) より、棒1にはたらく合力 \(F=0\) となります。
  • 棒1にはたらく力はローレンツ力 \(F = I_1 B L\) のみです。
  • したがって、終端速度に達する条件は、棒1を流れる電流が \(I_1 = 0\) になることです。

具体的な解説と立式
棒1が一定の速さ \(v\) に達すると、その加速度は \(a=0\) となります。棒1の運動方程式は、ローレンツ力 \(F = I_1 B L\) を受けて \(Ma = F\) と書けます。したがって、\(a=0\) となるためには、棒1にはたらく力、すなわちローレンツ力が0になる必要があります。
$$ F = I_1 B L = 0 $$
磁束密度 \(B\) とレール間隔 \(L\) は0ではないので、この条件は棒1を流れる電流 \(I_1\) が0になることを意味します。
$$ I_1 = 0 $$
この条件を(3)で求めた \(I_1\) の式に適用します。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(Ma=F\)
  • 力のつりあい(合力が0)
計算過程

(3)で求めた \(I_1 = \displaystyle\frac{2E – 3vBL}{8r}\) の式に、\(I_1=0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{2E – 3vBL}{8r} &= 0 \\[2.0ex]
2E – 3vBL &= 0 \\[2.0ex]
3vBL &= 2E \\[2.0ex]
v &= \frac{2E}{3BL}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

棒は最初、力(ローレンツ力)を受けて加速しますが、スピードが上がるにつれて逆向きの電圧(誘導起電力)が大きくなり、棒に流れる電流がだんだん減っていきます。電流が減ると、加速させる力も弱まります。最終的に、あるスピードに達すると、棒に流れる電流がちょうどゼロになり、加速させる力もゼロになります。そうなると、もう加速も減速もせず、一定の速さで進み続けます。このときの速さが終端速度です。

結論と吟味

棒1が達する一定の速さは \(v = \displaystyle\frac{2E}{3BL}\) です。このとき、棒1には電流が流れず、棒2には \(I_2 = \displaystyle\frac{2E + vBL}{8r} = \frac{2E + (\frac{2E}{3BL})BL}{8r} = \frac{2E + \frac{2}{3}E}{8r} = \frac{\frac{8}{3}E}{8r} = \frac{E}{3r}\) の電流が流れている状態になります。結果は妥当です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{2E}{3BL}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
今度は棒1と棒2の両方が自由に動ける状態で、十分時間が経過した後の状況を考えます。両方とも一定の速さ \(v_1, v_2\) に達するということは、両方の棒の加速度が0、つまり両方の棒にはたらく力が0になることを意味します。
この設問における重要なポイント

  • 棒1, 2ともに一定の速さであることから、加速度は \(a_1=0, a_2=0\) となります。
  • したがって、両方の棒にはたらくローレンツ力がそれぞれ0になります。
  • \(F_1 = I_1 B L = 0\) より \(I_1 = 0\)。
  • \(F_2 = I_2 B L = 0\) より \(I_2 = 0\)。
  • 最終状態では、回路全体に電流が流れなくなります。

具体的な解説と立式
棒1と棒2がそれぞれ一定の速さ \(v_1, v_2\) に達したとき、両方の棒の加速度は0になります。これは、それぞれの棒にはたらくローレンツ力が0になることを意味します。したがって、棒1を流れる電流 \(I_1\) と棒2を流れる電流 \(I_2\) がともに0になる必要があります。
$$ I_1 = 0, \quad I_2 = 0 $$
このとき、棒1には誘導起電力 \(v_1BL\)、棒2には誘導起電力 \(v_2BL\) が生じています。回路に電流が流れていないので、すべての抵抗での電圧降下は0です。キルヒホッフの法則IIを適用すると、各ループで起電力の代数和が0になります。

  • 右側のループ(電池、棒1を含む):
    $$ E – v_1BL = (I_1+I_2)r + I_1 R_1 = 0 \times r + 0 \times R_1 = 0 $$
  • 左側のループ(電池、棒2を含む):
    $$ E – v_2BL = (I_1+I_2)r + I_2 R_2 = 0 \times r + 0 \times R_2 = 0 $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則
  • 力のつりあい(合力が0)
計算過程

上記の2つの式から、それぞれ速さを求めます。
右側のループの式より、
$$
\begin{aligned}
E – v_1BL &= 0 \\[2.0ex]
v_1BL &= E \\[2.0ex]
v_1 &= \frac{E}{BL}
\end{aligned}
$$
同様に、左側のループの式より、
$$
\begin{aligned}
E – v_2BL &= 0 \\[2.0ex]
v_2BL &= E \\[2.0ex]
v_2 &= \frac{E}{BL}
\end{aligned}
$$
したがって、\(v_1 = v_2 = \displaystyle\frac{E}{BL}\) となります。

計算方法の平易な説明

今度は2本の棒が両方とも自由に動きます。十分時間が経つと、どちらの棒も力がかからなくなり、一定の速さになります。力がかからないということは、どちらの棒にも電流が流れなくなるということです。回路全体に全く電流が流れなくなるのは、どのような状態でしょうか?それは、2本の棒がそれぞれ発電する電圧(誘導起電力)が、電池の電圧 \(E\) とちょうど等しくなり、互いに打ち消し合うようになったときです。この条件から、2本の棒の最終的な速さを計算します。

結論と吟味

最終的に2本の棒は同じ一定の速さ \(v_1 = v_2 = \displaystyle\frac{E}{BL}\) に達します。このとき、各棒に生じる誘導起電力が電池の起電力 \(E\) と等しくなり、回路のどの部分にも電位差が生じず、電流が流れなくなります。これは物理的に非常に理にかなった、安定した最終状態です。

解答 (5) \(v_1 = v_2 = \displaystyle\frac{E}{BL}\)

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ファラデーの電磁誘導の法則 (\(V=vBL\)):
    • 核心: 導体棒の「運動」という力学的な現象が、回路に「誘導起電力」という電気的な現象を引き起こす、両分野の橋渡しとなる最重要法則です。この問題では、動く導体棒が速さに応じて電圧の変わる「電池」として機能します。
    • 理解のポイント: 棒が磁場を横切ることで、棒内部の荷電粒子がローレンツ力を受けて偏り、電位差が生じます。これが誘導起電力の正体です。
  • ローレンツ力 (\(F=IBL\)):
    • 核心: 回路に流れる「電流」という電気的な現象が、導体棒に「力」という力学的な現象を及ぼす、もう一つの橋渡しとなる法則です。この力が棒の運動を加速させたり、妨げたりします。
    • 理解のポイント: 電磁誘導とローレンツ力は、電気と力学を結びつける表裏一体の関係にあります。フレミングの法則の「右手(発電)」と「左手(力)」を正しく使い分けることが不可欠です。
  • キルヒホッフの法則:
    • 核心: [B]のように、電池と誘導起電力という複数の「電源」が混在する複雑な回路を解析するための、普遍的で強力なツールです。第1法則(電流保存)と第2法則(電圧降下)を適用することで、未知の電流を機械的に求めることができます。
    • 理解のポイント: どんなに複雑に見える回路も、この法則に従って立式すれば、あとは連立方程式を解く数学の問題に帰着させることができます。
  • 運動方程式 (\(Ma=F\)) と力のつりあい:
    • 核心: 導体棒の運動状態を記述する力学の基本法則です。ローレンツ力や外力によって棒がどのように加速するか(運動方程式)、あるいはどのような条件で速さが一定になるか(力のつりあい \(F_{\text{合力}}=0\))を解析します。
    • 理解のポイント: 「一定の速さに達した」という記述は、「加速度が0」ひいては「棒にはたらく合力が0」という力学的な条件に読み替えることが、終端速度を求める問題の定石です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜面上の導体棒: 重力が加わるパターン。終端速度は、ローレンツ力と重力の斜面方向成分がつりあう点で決まります。
    • コンデンサーを含む回路: 導体棒の運動でコンデンサーを充電する問題。電流が時間とともに変化し、最終的に充電が完了して電流が0になるまでの過渡現象を扱います。
    • コイル(インダクター)を含む回路: 自己誘導が絡む問題。電流の変化を妨げる向きに自己誘導起電力が生じ、これも過渡現象を伴います。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「時間」の状態を特定する: 問題文が「スイッチを入れた直後」「十分時間が経過した後」「速さ\(v\)の瞬間」のどれを指しているかを見極めることが最優先です。
      • 直後: \(t=0\)。速度や変位など、運動の結果生じる量は0と考えます (\(v=0\), 誘導起電力=0)。
      • 十分後(定常状態): \(t \rightarrow \infty\)。系は安定し、加速度は0になります (\(a=0\), 力はつりあっている)。
      • 途中(任意の瞬間): 加速中であり、速度も加速度も0ではありません。運動方程式と回路方程式が連動します。
    2. 等価回路図を描く: 運動している導体棒を「起電力\(vBL\)の電池」と「抵抗\(R\)」の組み合わせと見なして、回路図をその都度書き直すと、状況が整理され、キルヒホッフの法則を適用しやすくなります。特に誘導起電力の向き(極性)を正確に書き込むことが重要です。
    3. 力と運動の分析: 棒にはたらく力(ローレンツ力、外力、重力など)をすべて図示し、運動の状態(加速か等速か)に応じて、運動方程式を立てるか、力のつりあいの式を立てるかを判断します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • フレミングの法則の左右の混同:
    • 誤解: 誘導起電力(発電)を求めたいのに左手の法則を、ローレンツ力(力)を求めたいのに右手の法則を使ってしまう。
    • 対策: 「みぎ手ではつ電(誘導起電力)、ひだり手でちから(ローレンツ力)」のように、語呂合わせで明確に区別して覚えましょう。
  • 誘導起電力の向きの間違い:
    • 誤解: [B]-(3)などで、誘導起電力が常に電池の起電力を助ける向きに生じると勘違いする。
    • 対策: 誘導起電力は「磁束の変化を妨げる向き」に生じる(レンツの法則)という大原則を理解することが根本的な対策です。これにより、誘導電流が元の電流を打ち消す向き、すなわち起電力が逆向きになることが理解できます。
  • 「直後」と「十分後」の条件の混同:
    • 誤解: スイッチを入れた直後の加速度を求める問題で、終端速度の条件(力がつりあう、電流が0など)を使ってしまう。
    • 対策: 「直後」はあくまで \(v=0\) の状態からスタートする瞬間であり、力はつりあっていません。一方、「十分後」は運動が安定した最終状態です。この時間的な区別を意識することが重要です。
  • エネルギー保存則の適用ミス:
    • 誤解: [A]のように等速運動している場合に、外力の仕事が運動エネルギーの増加にも使われると考えてしまう。
    • 対策: 「等速」ならば運動エネルギーは変化しません。この場合、外力がした仕事はすべてジュール熱などの他のエネルギーに変換されます。加速している場合にのみ、(外力の仕事) = (運動エネルギーの増加) + (発生したジュール熱) という関係が成り立ちます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 等価回路図の活用: この問題の肝は、力学現象と電気現象が絡み合う点にあります。[B]-(3)や(5)のように、棒が動いている状況では、その棒を「起電力\(vBL\)の電池」と見なした等価回路図を描くことが極めて有効です。これにより、複雑な現象を使い慣れた電気回路の問題として捉え直すことができます。
    • 力のベクトル図: 各棒にはたらくローレンツ力を、向きと大きさがわかるようにベクトルで図示する習慣をつけましょう。力の向きは「①電流の向きを特定 → ②フレミングの左手の法則を適用」という2ステップで慎重に決定します。
    • 電磁ブレーキのイメージ: レンツの法則から、誘導電流によるローレンツ力は多くの場合、元の運動を妨げる向きに働きます。これを「電磁ブレーキ」と捉えると、[B]-(4)で棒が加速するほどブレーキが強くなり、やがて駆動力とつりあって一定速度に落ち着く、という終端速度のメカニズムが直感的に理解できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(V=vBL\) (誘導起電力):
    • 選定理由: 棒の「運動」という力学情報を、「起電力」という電気情報に変換するために選択します。
    • 適用根拠: 導体棒が磁場を横切って運動している、という状況設定そのものが適用根拠です。
  • \(F=IBL\) (ローレンツ力):
    • 選定理由: 回路の「電流」という電気情報を、棒にはたらく「力」という力学情報に変換するために選択します。
    • 適用根拠: 磁場の中に置かれた導体棒に電流が流れている、という状況設定が適用根拠です。
  • キルヒホッフの法則:
    • 選定理由: [B]のように、回路に複数の電源(電池E、誘導起電力\(vBL\))が存在し、単純な合成抵抗の計算では解けない場合に、機械的に電流を求めるための万能な法則として選択します。
    • 適用根拠: 回路の分岐点(第1法則)と閉回路(第2法則)が存在すれば、あらゆる定常電流の回路に適用できます。
  • 運動方程式 (\(Ma=F\)):
    • 選定理由: [B]-(2)のように、棒が力を受けて加速している状態を記述するために選択します。
    • 適用根拠: 棒にはたらく合力が0でなく、その加速度を問われている場合に適用します。
  • 力のつりあい (\(F_{\text{合力}}=0\)):
    • 選定理由: [A]-(4)や[B]-(4),(5)のように、棒が「一定の速さ」で運動している状態を解析するために選択します。
    • 適用根拠: 問題文に「一定の速さ」「等速」とある場合、それは \(a=0\) を意味し、力のつりあいが成立していることの証拠です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. [A] スイッチ開・棒1等速運動:
    • 戦略: 単純な直列回路と力のつりあい、エネルギー保存則で解く。
    • フロー: ①\(V=BLu\)で起電力を計算 → ②直列回路とみなし\(I = V/(R_1+R_2)\)で電流を計算 → ③力のつりあい(\(F_{\text{外}}=IBL\))で外力を計算 → ④仕事率\(W=F_{\text{外}}u\)と消費電力\(P=I^2R\)を計算し、エネルギー保存を確認。
  2. [B] スイッチ閉・複雑な運動:
    • 戦略: 状況(固定、直後、途中、終端)に応じて、キルヒホッフの法則と力学法則を使い分ける。
    • フロー:
      • (1) 固定時: \(v=0\)。キルヒホッフの法則で静止時の電流を計算。
      • (2) 直後: \(v=0\)。(1)の電流によるローレンツ力\(F=IBL\)を求め、運動方程式\(Ma_0=F\)を立式。
      • (3) 速さvの時: 誘導起電力\(vBL\)が発生。キルヒホッフの法則で連立方程式を立て、電流\(I_1, I_2\)を\(v\)の関数として解く。
      • (4) 棒1の終端速度: 「等速」であることから \(a_1=0\)、よって \(F_1=0\)、すなわち \(I_1=0\) となる。(3)の解に\(I_1=0\)を代入し、\(v\)を求める。
      • (5) 両棒の終端速度: 「両方等速」であることから \(a_1=a_2=0\)、よって \(F_1=F_2=0\)、すなわち \(I_1=I_2=0\) となる。回路に電流が流れない条件でキルヒホッフの法則を適用し、\(v_1, v_2\)を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の整理: この問題のように多くの物理量が現れる場合、計算の最終段階まで文字のまま計算を進めることで、見通しが良くなり、間違いを減らせます。特に[B]-(3)の連立方程式は、焦らず丁寧に、一行ずつ変形しましょう。
  • 条件の適用忘れに注意: [B]パートで与えられている条件 \(R_1=R_2=2r\) は、計算の要です。キルヒホッフの法則で式を立てた後、この条件を代入して式を簡潔にすることを忘れないようにしましょう。
  • 連立方程式の検算: [B]-(3)で連立方程式を解いた後は、得られた \(I_1\) と \(I_2\) の式を、元の連立方程式に代入してみて、式が成立するかを確かめる(検算する)と、計算ミスを格段に減らせます。
  • 極限状況でのチェック: [B]-(3)で求めた電流の式に、\(v=0\) を代入すると[B]-(1)の結果と一致するか、また、[B]-(4)で求めた終端速度\(v\)を代入すると \(I_1=0\) となるか、といった「極限チェック」は、計算の正しさを検証する非常に有効な手段です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • [A]-(5) エネルギー保存: 外力がした仕事率 \(W\) が、回路全体の消費電力の和 \(P_1+P_2\) に等しくなりました。これは「等速運動なので運動エネルギーは変化せず、外部から供給されたエネルギーはすべて熱に変わった」というエネルギー保存則の現れであり、物理的に完全に理にかなっています。
    • [B]-(4) vs (5) 終端速度の比較: 棒2を固定した場合の終端速度 \(v = \displaystyle\frac{2E}{3BL}\) と、両方自由な場合の終端速度 \(v_{1,2} = \displaystyle\frac{E}{BL}\) を比較すると、\(v_{1,2} > v\) となっています。これは、棒2も動けるようになったことで系全体がより動きやすくなり、より速い速度で安定することを示唆しており、直感とも一致します。
  • 別解との比較:
    • [B]-(1)の電流は、回路の対称性(\(R_1=R_2\))から \(I_1=I_2\) と考えて解く方法と、キルヒホッフの法則を機械的に適用する方法があります。どちらでも同じ結果になることを確認することで、解答の信頼性が高まります。
    • [B]-(5)の最終状態は、「両方の棒にはたらく力が0」という力学的な視点と、「各ループの起電力の和が0」という電気的な視点(キルヒホッフの法則)の両方から導けます。複数の視点から同じ結論に至ることを確認するのは、物理現象の深い理解につながります。
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問題133 (京都工芸繊維大)

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