「重要問題集」徹底解説(131〜135問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題131 (千葉工業大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、落下するネオジム磁石によって金属円筒に生じる電磁誘導と、それに伴う電磁力、そして磁石の力学的な運動を総合的に問う問題です。
この問題の核心は、レンツの法則、フレミングの左手の法則、そして作用・反作用の法則を正確に理解し、電磁気学と力学の法則を連携させて現象を分析する能力です。

与えられた条件
  • 金属円筒: 半径\(r\)
  • ネオジム磁石A: 質量\(M\)、円柱型、N極が下向き
  • 座標軸: 管の中心軸を\(z\)軸とし、鉛直下向きを正とする
  • 初期条件: 静かに放す
  • その他: 空気抵抗は無視、磁石は管の側面に接触しない、重力加速度は\(g\)
問われていること
  • (a) コイルCに流れる誘導電流の向き。
  • (b) コイルCが磁場から受ける力の合力の向き。
  • (ア) コイルCが磁場から受ける力の大きさ\(f\)を表す式の一部。
  • (c) 管のAより上方にある部分が受ける力の向き。
  • (イ) 磁石Aの運動方程式。
  • (ウ) 速さが一定になったときの電磁力の大きさ\(F_0\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電磁誘導と電磁力、および力学との融合」です。落下する磁石によって金属円筒に生じる誘導電流が生じ、その電流が磁場から力を受けることで磁石の運動に影響を与える、という一連の現象を解析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. レンツの法則: 磁束の変化を妨げる向きに誘導電流が流れるという、電磁誘導の向きに関する基本法則。
  2. 右ねじの法則: 電流の向きと、その電流が作る磁場の向きの関係を定める法則。
  3. フレミングの左手の法則(ローレンツ力): 磁場中を流れる電流が受ける力の向きと大きさを決定する法則。
  4. 作用・反作用の法則と運動方程式: 磁石と金属円筒の間で及ぼしあう力(電磁力)を整理し、磁石の運動を力学的に記述する。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、磁石の落下による磁束の変化を捉え、レンツの法則と右ねじの法則を用いて各部に流れる誘導電流の向きを決定します(問a, cの一部)。
  2. 次に、その誘導電流が磁石の作る磁場から受ける力を、フレミングの左手の法則と円環という形状の対称性を考慮して求めます。この際、「誰が誰から力を受けるか」という作用・反作用の関係を正確に捉えることが重要です(問b, ア, cの一部)。
  3. 最後に、磁石にはたらく力(重力と電磁力)を整理し、運動方程式を立てて、特定の条件下での力の関係を導き出します(問イ, ウ)。

問(a)

思考の道筋とポイント
磁石Aが落下して下方のコイルCに近づくことで、Cを貫く磁束が変化します。この磁束の変化に対して、レンツの法則がどのように働くかを考え、誘導電流の向きを特定します。
この設問における重要なポイント

  • レンツの法則: 誘導電流は、磁束の変化を妨げる向きの磁場を作るように流れる。
  • 右ねじの法則: 電流の向きと、それが作る磁場の向きの関係を対応付ける。
  • 磁石AのN極が下を向いているため、コイルCを貫く磁束は鉛直下向き(\(z\)軸正の向き)である。

具体的な解説と立式
磁石AがコイルCに近づくにつれて、Cを貫く下向きの磁束は時間とともに増加します。
レンツの法則によれば、コイルCに流れる誘導電流は、この「下向き磁束の増加」を妨げるように作用します。すなわち、誘導電流は上向き(\(z\)軸負の向き)の磁場を自ら作り出します。
この上向きの磁場を生成する電流の向きを、右ねじの法則を用いて考えます。右手の親指を上向き(磁場の向き)に立てると、残りの4本の指が巻く向きが電流の向きに対応します。これは、コイルCを上から見たときに「反時計回り」の向きとなります。

使用した物理公式

  • レンツの法則
  • 右ねじの法則
計算過程

この設問は定性的な判断であり、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

磁石がコイルに近づいてくると、コイルは「来るな!」と反発するような磁場を作って抵抗しようとします。N極が近づいてくるので、コイル自身がN極(上向きの磁場)になるように電流を流すのです。この電流の向きは、右手の親指を上に向けて指を握ったときの、指の巻く向き、つまり「反時計回り」になります。

結論と吟味

誘導電流の向きは、上から見て反時計回りです。これは、近づいてくる磁石を反発させる向きであり、レンツの法則の「変化を妨げる」という性質と一致しており、妥当な結論です。

解答 (a) 反時計回り

問(b), (ア)

思考の道筋とポイント
(a)で求めた反時計回りの誘導電流\(I\)が、磁石Aの作る磁場から受ける力を考えます。この問題では「コイルCが受ける力」を問われています。レンツの法則は磁石の運動を妨げるように作用するため、磁石Aには上向きの力が働きます。作用・反作用の法則により、コイルCが磁石Aから受ける力は下向きとなります。この力の大きさを計算します。
この設問における重要なポイント

  • 作用・反作用の法則: 「磁石が管から受ける力」と「管が磁石から受ける力」は、大きさが等しく向きが逆である。
  • レンツの法則の帰結: 磁石の落下運動は妨げられるので、磁石には上向きの力が働く。
  • 電流が磁場から受ける力(ローレンツ力): 力の大きさは \(F=IlB\sin\phi\) で与えられる。

具体的な解説と立式
まず、力の向きを考えます。磁石Aの落下によって生じる電磁誘導は、レンツの法則により、その落下運動を妨げるように作用します。つまり、磁石Aは管全体(コイルCを含む)から上向き(\(z\)軸負の向き)の力を受けます。
問題で問われているのは「コイルCが受ける力」です。作用・反作用の法則により、コイルCは磁石Aから、磁石Aが受ける力とは逆向きの力、すなわち下向き(\(z\)軸正の向き)の力を受けます。したがって、bにはが入ります。

次に、力の大きさ\(f\)を計算します。模範解答の図bは、コイルCの微小部分\(\Delta l\)が受ける力\(\Delta l \cdot IB\)と、その力の向きを示しています。この力が\(z\)軸の正方向となす角は、図から\((90^\circ – \theta)\)と読み取れるため、力の\(z\)軸成分は \((\Delta l \cdot IB) \cos(90^\circ – \theta) = \Delta l \cdot IB \sin\theta\) となります。
円環の対称性から、水平方向の力は打ち消し合います。したがって、コイル全体が受ける力の合力\(f\)は、各部分が受ける力の\(z\)軸成分を円周全体(長さ\(2\pi r\))で合計したものになります。
$$ f = (IB\sin\theta) \times (\text{円周の長さ}) $$
$$ f = (IB\sin\theta) \cdot 2\pi r $$
問題文の形式 \(f = \text{ア} \cdot 2\pi r\) と比較すると、アに相当する部分は \(IB\sin\theta\) となります。

使用した物理公式

  • 作用・反作用の法則
  • フレミングの左手の法則: \(\vec{F} = I(\vec{l} \times \vec{B})\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
f &= (\text{単位長さあたりの力のz成分}) \times (\text{円周の長さ}) \\[2.0ex]&= (IB\sin\theta) \cdot (2\pi r)
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

磁石が落ちてくると、管は磁石の落下を邪魔しようとして、磁石に上向きの力を加えます。これは「電磁ブレーキ」です。物理の基本ルール(作用・反作用の法則)によれば、磁石が管から上向きの力を受けるなら、管は磁石から下向きの力を受けます。問題は「管(コイルC)が受ける力」を聞いているので、答えは下向き(\(z\)軸正の向き)です。力の大きさは、模範解答の図を参考に、電流、磁場、円周の長さを掛け合わせることで計算できます。

結論と吟味

力の向きは\(z\)軸の正の向き、大きさは \(f = (IB\sin\theta) \cdot 2\pi r\) となります。これは作用・反作用の法則と問題の図から導かれる結論であり、妥当です。

解答 (b), (ア) b: 正, ア: \(IB\sin\theta\)

問(c)

思考の道筋とポイント
磁石Aの上方にある管の部分が受ける力を考えます。まずレンツの法則で誘導電流の向きを決定し、次に問題の図や記述を手がかりに、その電流が受ける力の向きを論理的に導き出します。
この設問における重要なポイント

  • 磁石が遠ざかる場合、貫く磁束は「減少」する。
  • レンツの法則は、磁束の「減少を補う」向きに作用する。
  • 模範解答の図cと、「(b)と同様に」という記述が、力の向きを判断するための重要な手がかりとなる。

具体的な解説と立式
磁石Aが落下して遠ざかっていくため、Aの上方にある管の部分を貫く下向きの磁束は減少します。
レンツの法則により、誘導電流はこの磁束の減少を補う向き、すなわち下向き(\(z\)軸正の向き)の磁場を作るように流れます。右ねじの法則を適用すると、この下向き磁場を作るためには、コイルを上から見て「時計回り」に電流が流れる必要があります。

次に、この時計回りの電流が磁場から受ける力を考えます。模範解答の図cは、この状況を断面で表したものです。図cでは、時計回りの電流(紙面手前から奥へ向かう電流、記号\(\otimes\)で示される)が、磁石の磁場\(B\)から「力」と示された向き(斜め下向き)に力を受けることが図示されています。
さらに、問題文には「(b)と同様にz軸正の向きのみとなる」と記述されています。これは、(b)と同様に、円環の各部分が受ける力(図cの斜め下向きの力)の水平成分は、円環全体で考えると対称性から打ち消し合い、鉛直方向の成分だけが残ることを意味します。
図cから、力の鉛直成分は下向き(\(z\)軸正の向き)であることが明らかです。
したがって、管のAより上方にある部分が受ける力の合力の向きは、\(z\)軸の正の向きとなります。

使用した物理公式

  • レンツの法則
  • 右ねじの法則
  • フレミングの左手の法則(を図示した図cの解釈)
計算過程

この設問は定性的な判断であり、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

磁石が遠ざかっていくと、管の上側は「行かないで!」と磁石を引き留めるような磁場(下向きの磁場)を作ろうとします。そのためには「時計回り」の電流を流します。この電流が磁場から受ける力は、模範解答に描かれている図cを見ると、斜め下向きであることがわかります。円形の管全体で考えると、横方向の力は打ち消し合い、下向きの力だけが残ります。したがって、答えは下向き(\(z\)軸正の向き)となります。

結論と吟味

問題文の記述と図cを論理的に解釈することで、力の向きは\(z\)軸の正の向きであると結論付けられます。

解答 (c)

問(イ)

思考の道筋とポイント
落下する磁石Aにはたらく全ての力を特定し、ニュートンの運動方程式を立てます。磁石にはたらく力は、重力と、管全体から受ける電磁力の二つです。
この設問における重要なポイント

  • 運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
  • 作用・反作用の法則: 管が磁石から受ける力の反作用として、磁石は管から力を受ける。
  • レンツの法則の帰結として、落下運動全体を妨げる向きに力がはたらく。

具体的な解説と立式
磁石Aには、鉛直下向き(\(z\)軸正の向き)に重力\(Mg\)がはたらきます。
同時に、磁石の運動によって管に誘導電流が生じ、管は磁石から電磁力を受けます。その反作用として、磁石Aは管全体から電磁力を受けます。問題文では、この力の大きさを\(F\) (\(F \ge 0\)) と定義しています。
レンツの法則の本質は、電磁誘導が常に運動(変化)を妨げるように作用することです。したがって、落下運動している磁石Aが管全体から受ける合力の向きは、運動を妨げる向き、すなわち鉛直上向き(\(z\)軸負の向き)となります。
よって、鉛直下向き(\(z\)軸正の向き)を正として磁石Aの運動方程式を立てると、加速度を\(a\)として、
$$ Ma = (\text{正の向きの力}) – (\text{負の向きの力}) $$
$$ Ma = Mg – F $$
となります。

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(ma=F_{\text{合力}}\)
  • 作用・反作用の法則
計算過程

立式そのものが解答であり、計算過程はありません。

計算方法の平易な説明

磁石の運動は、綱引きに例えられます。下向きには地球が引っぱる「重力\(Mg\)」が、上向きには管が引き留めようとする「電磁ブレーキの力\(F\)」が働いています。この二つの力の差が、磁石を実際に加速させる正味の力(質量 × 加速度)になります。

結論と吟味

運動方程式は \(Ma = Mg – F\) となります。これは、重力と、運動に抵抗する力\(F\)を受けて運動する物体の一般的な運動方程式の形であり、物理的に妥当です。

解答 (イ) \(Mg – F\)

問(ウ)

思考の道筋とポイント
磁石の速さ\(v\)が一定になった、という条件が何を意味するかを考え、(イ)で立てた運動方程式に適用します。
この設問における重要なポイント

  • 速さが一定 \(\iff\) 加速度が0。
  • 加速度が0の状態とは、物体にはたらく力がつり合っている状態を意味する。

具体的な解説と立式
磁石の速さ\(v\)が一定になったとき、その加速度は\(a=0\)となります。このときの電磁力の大きさを、問題文に従い\(F_0\)とします。
(イ)で立てた運動方程式①に、\(a=0\) と \(F=F_0\) を代入すると、力のつり合いの式が得られます。
$$ M \times 0 = Mg – F_0 $$
この式を\(F_0\)について解くと、
$$ F_0 = Mg $$
となります。

使用した物理公式

  • 運動方程式(力のつり合い)
計算過程

$$
\begin{aligned}
M \times 0 &= Mg – F_0 \\[2.0ex]0 &= Mg – F_0 \\[2.0ex]F_0 &= Mg
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

磁石がスピードアップするほど、電磁ブレーキの力\(F\)は強くなっていきます。やがて、このブレーキの力\(F_0\)が、下向きに引っぱる重力\(Mg\)とちょうど同じ大きさになります。上向きの力と下向きの力がつり合うと、それ以上加速も減速もしなくなり、磁石は一定の速さ(終端速度)でスーッと落ちていきます。

結論と吟味

速さが一定になったとき、電磁力と重力がつり合うため、\(F_0 = Mg\)となります。これは、空気抵抗を受けながら落下する物体が終端速度に達したときの力の関係と同じ形であり、物理的に妥当な結果です。

解答 (ウ) \(Mg\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • レンツの法則と右ねじの法則:
    • 核心: 電磁誘導現象の根幹をなす法則です。磁束の変化を「妨げる」向きに誘導起電力・誘導電流が生じるというレンツの法則と、電流とその電流が作る磁場の向きを関連付ける右ねじの法則は、この問題の(a)や(c)のように、現象の第一歩を理解する上で不可欠です。
    • 理解のポイント: レンツの法則は「変化に対する抵抗」とイメージすると分かりやすいです。「N極が近づく」→「N極を作って反発」、「N極が遠ざかる」→「S極を作って引き留める」というように、常に現状維持をしようとする「あまのじゃく」な性質と捉えましょう。
  • ローレンツ力(電流が磁場から受ける力):
    • 核心: 誘導された電流が、元の磁石が作る磁場から力を受けることで、力学的な現象(ブレーキ)が引き起こされます。この力の大きさ(\(F=IlB\sin\phi\))と向き(フレミングの左手の法則)を正しく計算・適用することが、(ア)や(イ)の立式に直結します。
    • 理解のポイント: この問題のように円環状の電流の場合、各微小部分が受ける力をベクトル的に合成する必要があります。円環の対称性から、半径方向の力は打ち消し合い、軸方向の力だけが残る、という点が重要です。
  • 作用・反作用の法則:
    • 核心: この問題で最も誤解しやすいポイントです。「磁石が管から受ける力」と「管が磁石から受ける力」は、大きさが等しく向きが逆になります。レンツの法則は磁石の運動を妨げるので、磁石には上向きの力が働きます。その反作用として、管には下向きの力が働く、という論理関係を正確に把握することが(b)を正しく解く鍵です。
    • 理解のポイント: 常に「誰が」「誰から」力を受けているのか、力の主語と目的語を明確に意識する癖をつけましょう。
  • 運動方程式と力のつり合い:
    • 核心: 電磁気的な現象を、力学の言葉で記述するための最終的なツールです。(イ)では運動方程式を立て、(ウ)では終端速度(加速度0)という条件から力のつり合いの式を導きます。これは電磁気と力学の融合問題における典型的な流れです。
    • 理解のポイント: 終端速度に達するということは、速度変化を引き起こす原因である「合力」が0になるということです。つまり、重力と、速度に依存する抵抗力(この問題では電磁力)が等しくなった状態を指します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 導体棒のレール上での運動: 一様な磁場中を導体棒が運動する問題。誘導起電力 \(V=vBl\)、誘導電流 \(I=V/R\)、ローレンツ力 \(F=IBl\) を順に計算し、運動方程式を立てるのが定石です。
    • コイルを貫く磁束が時間変化する問題: 磁場自体が \(B(t)\) のように時間変化する場合。ファラデーの電磁誘導の法則 \(\displaystyle V = -N\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\) を直接用いて誘導起電力を計算します。
    • 自己誘導・相互誘導: コイル自身の電流変化が誘導起電力を生む(自己誘導)、あるいは近くのコイルの電流変化が影響する(相互誘導)問題。インダクタンス\(L\)や相互インダクタンス\(M\)の概念が中心となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象の因果関係を追う: まず「何が原因で(磁石の落下)」「何が起こり(磁束の変化)」「その結果どうなるか(誘導電流→電磁力)」という一連の因果関係をストーリーとして把握します。
    2. 力の作用点を明確にする: 「磁石にはたらく力」と「管にはたらく力」を明確に区別します。特に作用・反作用が問われる場面では、主語を間違えないように注意が必要です。
    3. 対称性の利用: この問題の円環のように、図形的な対称性がある場合、力のベクトル和を考える際に計算が大幅に簡略化できることが多いです。どの成分が打ち消し合い、どの成分が残るかを見抜きましょう。
    4. 終端速度・つり合いの条件: 「速さが一定になった」「静止した」などの記述は、加速度\(a=0\)、すなわち「力のつり合い」を意味する重要なキーワードです。この条件を運動方程式に適用することで、未知数を求めることができます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 作用・反作用の主語の混同:
    • 誤解: (b)で、レンツの法則から「磁石の運動を妨げる力=上向きの力」と考え、管が受ける力も上向きだと誤解してしまう。
    • 対策: レンツの法則が直接言及するのは「変化の原因(磁石)に働く力」の向きです。問題が「管が受ける力」を問うている場合は、作用・反作用の法則を一段階挟んで考える必要があります。「磁石が管を下に押し、管が磁石を上に押し返す」という関係を常に意識しましょう。
  • フレミングの左手の法則の適用ミス:
    • 誤解: 電流・磁場・力の3つのベクトルの向きを空間的に正しく把握できず、力の向きを間違える。
    • 対策: 図を大きく描き、電流の向き(接線方向)、磁場の向き(半径方向と軸方向の成分に分解)を明確に矢印で記入します。その上で、左手の指を一つずつ丁寧に当てはめていきましょう。
  • 力の成分分解のミス:
    • 誤解: (ア)の計算で、磁束密度\(B\)そのものを力の計算式に入れてしまう。
    • 対策: ローレンツ力は、電流と磁場のベクトル積で決まります。力が最大になるのは電流と磁場が垂直な場合です。この問題では、電流(円周の接線方向)と垂直なのは磁場の「半径方向成分」であることを理解し、正しい成分を用いて計算する必要があります。模範解答の図bは、この力の成分分解の結果を視覚的に示してくれています。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力の矢印の描き分け: 磁石にはたらく力(重力、電磁力)と、管にはたらく力(電磁力)を、別の色や線の種類で描き分けると、作用・反作用の関係が視覚的に理解しやすくなります。
    • 断面図での考察: 問題の図a, b, cのように、円環を断面で捉えることで、3次元的な力の関係を2次元平面上で考察できます。電流の向き(紙面の奥向きか手前向きか)、磁場の向き、そして力の向きを断面図に書き込む練習は非常に有効です。
    • 磁力線のイメージ: N極から出てS極に入る磁力線のループをイメージすることで、管の下側と上側で磁場の向き(特に半径方向成分の向き)がどうなるかを直感的に把握できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸の明記: \(z\)軸の正の向きがどちらかを明確に図に描き込み、力の向きを「正」「負」で判断する際の基準をはっきりさせましょう。
    • 作用点の明記: 力の矢印の始点が「磁石」にあるのか「管」にあるのかを明確に描くことで、誰にはたらく力なのかを混同しなくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • レンツの法則:
    • 選定理由: (a)や(c)で、まず現象の方向性を定めるため。電磁誘導の問題では、何よりも先に誘導電流の向きを決定する必要があります。
    • 適用根拠: エネルギー保存則の電磁気学的な現れであり、磁束の変化がある限り必ず成り立つ普遍的な法則です。
  • 作用・反作用の法則:
    • 選定理由: (b)で、「管が受ける力」を特定するため。電磁力は磁石と管の間で相互に及ぼしあう力であり、片方の力が分かればもう片方も自動的に決まります。
    • 適用根拠: 力学における最も基本的な法則の一つであり、電磁気的な相互作用にも同様に適用されます。
  • \(f = (IB\sin\theta) \cdot 2\pi r\)(ローレンツ力の合力):
    • 選定理由: (ア)で、誘導電流が磁場から受ける力の大きさを具体的に計算するため。
    • 適用根拠: フレミングの左手の法則(ローレンツ力の公式)を、円環状の導線全体にわたって積分(この場合は単純な掛け算)した結果です。
  • \(Ma = Mg – F\)(運動方程式):
    • 選定理由: (イ)と(ウ)で、磁石の力学的な運動を記述するため。電磁気現象によって生じた力を、物体の運動に結びつけるための橋渡しとなる式です。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則であり、物体にはたらく合力と加速度の関係を記述します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (a) コイルCの電流の向き:
    • 戦略: レンツの法則と右ねじの法則を適用する。
    • フロー: ①磁石落下→②Cを貫く下向き磁束が増加→③Cは上向き磁場を生成→④右ねじの法則より、電流は反時計回り。
  2. (b), (ア) コイルCが受ける力:
    • 戦略: 作用・反作用の法則で力の向きを決定し、ローレンツ力の公式で大きさを計算する。
    • フロー: ①レンツの法則より、磁石Aには上向きの力が働く→②作用・反作用より、コイルCには下向き(\(z\)軸正)の力が働く(bの答え)→③力の大きさは、模範解答の図bとローレンツ力の公式から \(f = (IB\sin\theta) \cdot 2\pi r\) と立式(アの答え)。
  3. (c) 上方部分が受ける力:
    • 戦略: レンツの法則で電流の向きを決め、模範解答の図cと記述から力の向きを論理的に導く。
    • フロー: ①磁石が遠ざかる→②上方部分を貫く下向き磁束が減少→③レンツの法則より、下向き磁場を作る時計回り電流が流れる→④図cと「(b)と同様に」という記述から、力の合力は\(z\)軸正の向きとなる。
  4. (イ) 運動方程式:
    • 戦略: 磁石にはたらく力を全て列挙し、運動方程式を立てる。
    • フロー: ①磁石にはたらく力は、下向きの重力\(Mg\)と上向きの電磁力\(F\)→②\(z\)軸下向きを正として、\(Ma = Mg – F\)。
  5. (ウ) 終端速度での力:
    • 戦略: 「速さが一定」→「加速度\(a=0\)」という条件を運動方程式に代入する。
    • フロー: ①(イ)の式に\(a=0\)を代入→②\(M \cdot 0 = Mg – F_0\)→③\(F_0 = Mg\)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の取り扱い: この問題は数値計算がなく、全て文字式で表現されます。与えられた文字(\(M, g, r, I, B, \theta\)など)と、自分で設定した文字を混同しないようにしましょう。
  • ベクトルの向き: 「正」「負」の判断は、座標軸の取り方に依存します。問題の冒頭で「鉛直下向きをz軸の正の向きとする」と定義されていることを常に念頭に置き、力の向きを判断しましょう。
  • 問題文と図の精読: この問題のように、物理的な第一印象と、図や補足説明から導かれる結論が異なるように見える場合があります。その際は、問題に与えられた全ての情報を統合して、最も整合性の取れる論理を組み立てる必要があります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (イ) 運動方程式: \(Ma = Mg – F\) という式は、「重力から抵抗力を引いたものが正味の力になる」という、落下運動の基本的な形をしています。\(F\)は速度に依存して大きくなるため、初めは\(F=0\)で\(a=g\)、速度が増すと\(F\)が増えて\(a\)が減少し、やがて\(F=Mg\)となって\(a=0\)(終端速度)に至る、という一連の運動を正しく表現しており、物理的に妥当です。
    • (ウ) つり合いの式: \(F_0 = Mg\) は、終端速度に達した物体にはたらく抵抗力と重力がつり合うことを示しています。これは空気抵抗を受ける物体の落下など、他の物理現象とも共通する結論であり、理にかなっています。
  • 全体の一貫性:
    • (a)で求めた電流の向き、(b)で求めた力の向き、(イ)で立てた運動方程式は、すべて「レンツの法則(運動を妨げる)」と「作用・反作用」という物理の大原則で貫かれています。各設問の答えが、これらの大原則と矛盾していないかを確認することで、解答全体の信頼性を高めることができます。

問題132 (関西学院大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、磁場中を運動する導体棒に生じる誘導起電力と、それを含む電気回路について、スイッチの開閉によって条件を変えながら総合的に問う問題です。導体棒の運動という「力学」と、回路に流れる電流という「電気」が、電磁誘導とローレンツ力を介して相互に影響しあう、電磁気学の典型的な応用問題です。

与えられた条件
  • 一様な磁場: 大きさ\(B\)、向きは鉛直下向き
  • 導体レール: 間隔\(L\)、抵抗は無視
  • 電池: 起電力\(E\)、内部抵抗\(r\)
  • 棒1: 抵抗\(R_1\)、質量\(M\)
  • 棒2: 抵抗\(R_2\)、質量\(M\)
  • [A]の条件: スイッチSは開いている。棒2は固定。棒1は外力により速さ\(u\)で等速運動。
  • [B]の条件: スイッチSは閉じている。\(R_1 = R_2 = 2r\)。
問われていること
  • [A] (1) 棒1が横切る磁束の変化量 \(\Delta \Phi\)。
  • [A] (2) 棒1に生じる誘導起電力 \(V\)。
  • [A] (3) 回路を流れる電流 \(I\)。
  • [A] (4) 棒1に加える外力 \(F\) とその仕事率 \(W\)。
  • [A] (5) 各棒の消費電力 \(P_1, P_2\) と、仕事率 \(W\) との関係。
  • [B] (1) 棒1, 2を固定したときの棒1の電流 \(I_1\)。
  • [B] (2) スイッチを閉じた直後の棒1の加速度 \(a_0\)。
  • [B] (3) 棒1の速さが \(v\) のときの電流 \(I_1, I_2\)。
  • [B] (4) 棒1が達する一定の速さ \(v\)。
  • [B] (5) 棒1, 2を自由に動かしたときに達する一定の速さ \(v_1, v_2\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電磁誘導と直流回路の融合」です。導体棒の運動によって生じる現象を、電気回路の法則と力学の法則を組み合わせて解析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ファラデーの電磁誘導の法則: 導体棒が磁場を横切ることで誘導起電力 \(V=vBL\) が生じます。
  2. ローレンツ力: 磁場中の導線に電流が流れると力 \(F=IBL\) が働きます。
  3. キルヒホッフの法則: 複数の電源や抵抗を含む複雑な回路を解析するための普遍的な法則です。
  4. 運動方程式と力のつりあい: 導体棒の運動状態(加速、等速)を力の観点から記述します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、導体棒の運動によって生じる誘導起電力を求めます。
  2. 次に、その誘導起電力を電源とみなし、キルヒホッフの法則などを用いて回路に流れる電流を解析します。
  3. 電流が導体棒に及ぼす力(ローレンツ力)を計算し、運動方程式や力のつりあいの式を立てます。
  4. 「一定の速さ(終端速度)」という条件は、「加速度が0」、すなわち「合力が0」という条件に置き換えて考えます。

[A] スイッチSを開いた状態

問(1)

思考の道筋とポイント
棒1が一定の速さ \(u\) で動くことにより、棒1と棒2で囲まれた長方形の面積が増加します。この面積の増加分を貫く磁束の量を計算します。磁束は「磁束密度 × 面積」で定義されます。
この設問における重要なポイント

  • 棒1が時間 \(\Delta t\) の間に進む距離は \(u \Delta t\) です。
  • これにより増加する面積 \(\Delta S\) は、縦が \(L\)、横が \(u \Delta t\) の長方形の面積となります。
  • 磁束の変化量 \(\Delta \Phi\) は、この面積変化 \(\Delta S\) に磁束密度 \(B\) を掛けることで求まります。

具体的な解説と立式
時間 \(\Delta t\) の間に、棒1は \(x\) 軸の正の向きに距離 \(u \Delta t\) だけ移動します。これにより、回路を構成する長方形の面積は \(\Delta S\) だけ増加します。
$$ \Delta S = L \times (u \Delta t) $$
この面積増加に伴う磁束の変化量 \(\Delta \Phi\) は、一様な磁束密度 \(B\) と面積変化 \(\Delta S\) の積で与えられます。
$$ \Delta \Phi = B \Delta S $$

使用した物理公式

  • 磁束の定義: \(\Phi = BS\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\Delta \Phi &= B \Delta S \\[2.0ex]&= B (L u \Delta t) \\[2.0ex]&= BLu \Delta t
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

磁束とは、ある面を貫く磁力線の本数のようなものです。棒1が動くと、回路が囲む面積が広がり、その分だけ貫く磁力線の本数が増えます。この問題では、時間 \(\Delta t\) の間にどれだけ磁力線の本数が増えたかを計算しています。

結論と吟味

時間 \(\Delta t\) の間に棒1が横切る磁束は \(BLu \Delta t\) です。これは時間に比例して増加する量であり、妥当な結果です。

解答 (1) \(BLu \Delta t\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で求めた磁束の時間変化に基づき、ファラデーの電磁誘導の法則を用いて棒1に生じる誘導起電力の大きさを求めます。
この設問における重要なポイント

  • ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -N \displaystyle\frac{\Delta \Phi}{\Delta t}\) を用います。
  • 誘導起電力の「大きさ」を問われているので、絶対値をとります。
  • 回路の巻き数は \(N=1\) と考えます。

具体的な解説と立式
ファラデーの電磁誘導の法則により、回路を貫く磁束が時間的に変化すると、その変化率に比例した大きさの誘導起電力 \(V\) が生じます。コイルの巻き数は1回なので \(N=1\) です。
$$ V = \left| -N \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \right| = \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} $$
ここに(1)で求めた \(\Delta \Phi = BLu \Delta t\) を代入します。

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -N \displaystyle\frac{d\Phi}{dt}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= \frac{\Delta \Phi}{\Delta t} \\[2.0ex]&= \frac{BLu \Delta t}{\Delta t} \\[2.0ex]&= BLu
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

発電の基本原理です。磁束(磁力線の本数)が変化するスピードが速いほど、大きな電圧(誘導起電力)が発生します。この計算は、その関係を数式で表したものです。棒が速く動くほど、また磁場が強いほど、大きな電圧が生まれることがわかります。

結論と吟味

棒1に生じる誘導起電力の大きさは \(V=BLu\) です。これは導体棒に生じる誘導起電力の基本公式であり、正しい結果です。

解答 (2) \(BLu\)

問(3)

思考の道筋とポイント
棒1に生じた誘導起電力 \(V\) を電源とみなし、回路に流れる電流の大きさを求めます。スイッチSは開いているため、棒1、抵抗\(R_1\)、固定された棒2の抵抗\(R_2\)が直列に接続された閉回路を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 運動している棒1が、起電力 \(V\) の電池として機能します。
  • 回路は抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) の単純な直列接続とみなせます。
  • 回路全体の合成抵抗は \(R_1 + R_2\) となります。
  • オームの法則(またはキルヒホッフの法則II)を適用して電流を求めます。

具体的な解説と立式
棒1に生じた起電力 \(V\) により、回路には誘導電流が流れます。レンツの法則から、電流の向きは磁束の増加を妨げる向き、すなわち反時計回りとなります。このとき、棒1(抵抗\(R_1\))と棒2(抵抗\(R_2\))は直列に接続されています。したがって、回路全体の合成抵抗は \(R_{\text{合成}} = R_1 + R_2\) です。
この閉回路にキルヒホッフの法則IIを適用すると、起電力 \(V\) が抵抗での電圧降下の和に等しくなります。電流の大きさを \(I\) とすると、
$$ V = I R_1 + I R_2 $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則II: \(\sum V = \sum RI\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= I (R_1 + R_2) \\[2.0ex]I &= \frac{V}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

動いている棒1が発電機(電池)の役割を果たし、回路に電気を流します。この電気の通り道には、2つの抵抗(棒1自身の抵抗\(R_1\)と棒2の抵抗\(R_2\))が直列につながっています。全体の電圧 \(V\) を、全体の抵抗 \(R_1+R_2\) で割ることで、回路に流れる電流の大きさが計算できます。

結論と吟味

棒1を流れる電流の大きさは \(I = \displaystyle\frac{V}{R_1 + R_2}\) です。これはオームの法則の基本的な適用であり、妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{V}{R_1 + R_2}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
棒1を一定の速さ \(u\) で動かすためには、電流が磁場から受ける力(ローレンツ力)とつりあう大きさの外力を加え続ける必要があります。この外力の大きさと、その外力がする仕事率を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 電流 \(I\) が流れる長さ \(L\) の導線が磁場 \(B\) から受ける力は \(F_{\text{ローレンツ}} = IBL\) です。力の向きはフレミングの左手の法則で決まります。
  • 棒は「一定の速さ」で運動しているので、力のつりあいが成り立っています (\(F_{\text{外力}} = F_{\text{ローレンツ}}\))。
  • 単位時間あたりの仕事、すなわち仕事率 \(W\) は、力と速さの積 \(W = F u\) で計算できます。

具体的な解説と立式
(3)で求めた電流 \(I\) が流れる棒1は、磁場から力を受けます。フレミングの左手の法則を適用すると、力の向きは \(x\) 軸の負の向き(運動を妨げる向き)となります。この力の大きさ \(F_{\text{ローレンツ}}\) は、
$$ F_{\text{ローレンツ}} = IBL $$
棒1を一定の速さ \(u\) で動かし続けるためには、このローレンツ力と大きさが等しく、向きが反対(\(x\) 軸の正の向き)の外力 \(F\) を加えなければなりません。
$$ F = F_{\text{ローレンツ}} = IBL $$
この外力が単位時間あたりに行う仕事(仕事率) \(W\) は、力 \(F\) と速さ \(u\) の積で与えられます。
$$ W = F u $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F=IBL\)
  • 仕事率: \(P=Fv\)
計算過程

まず外力 \(F\) を求めます。(3)の結果 \(I = \displaystyle\frac{V}{R_1 + R_2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= IBL \\[2.0ex]&= \left( \frac{V}{R_1 + R_2} \right) BL \\[2.0ex]&= \frac{VBL}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$
次に仕事率 \(W\) を求めます。(2)の結果 \(V=BLu\) より \(u = \displaystyle\frac{V}{BL}\) であることを利用します。
$$
\begin{aligned}
W &= F u \\[2.0ex]&= \left( \frac{VBL}{R_1 + R_2} \right) \times \left( \frac{V}{BL} \right) \\[2.0ex]&= \frac{V^2}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

棒に電流が流れると、磁場からブレーキのような力(ローレンツ力)を受けます。棒を一定の速さで動かし続けるには、このブレーキ力と全く同じ大きさの力で押し続ける必要があります。これが外力です。仕事率とは、1秒あたりにどれだけのエネルギーを投入したかを表す量で、「力 × 速さ」で計算できます。

結論と吟味

外力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{VBL}{R_1 + R_2}\)、仕事率は \(W = \displaystyle\frac{V^2}{R_1 + R_2}\) です。等速運動なので質量 \(M\) は無関係です。結果は妥当です。

解答 (4) 外力: \(\displaystyle\frac{VBL}{R_1 + R_2}\), 仕事率: \(\displaystyle\frac{V^2}{R_1 + R_2}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
棒1と棒2の抵抗で消費される電力(ジュール熱)をそれぞれ計算し、その合計が(4)で求めた外力の仕事率 \(W\) と等しくなることを確認します。これはエネルギー保存則の現れです。
この設問における重要なポイント

  • 抵抗 \(R\) に電流 \(I\) が流れるときの消費電力は、公式 \(P = RI^2\) で計算できます。
  • 棒1は等速運動しているため、運動エネルギーは変化しません。したがって、外力がした仕事はすべて回路内で熱として消費されるはずです。

具体的な解説と立式
棒1と棒2には、(3)で求めた電流 \(I\) が流れています。それぞれの抵抗で消費される電力 \(P_1, P_2\) は、公式 \(P=RI^2\) を用いて計算できます。
$$ P_1 = R_1 I^2 $$
$$ P_2 = R_2 I^2 $$
これらの和 \(P_1 + P_2\) を計算し、(4)で求めた仕事率 \(W\) と比較します。

使用した物理公式

  • 消費電力: \(P=RI^2\)
  • エネルギー保存則
計算過程

まず、(3)で求めた \(I = \displaystyle\frac{V}{R_1 + R_2}\) を用いて \(P_1, P_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_1 &= R_1 \left( \frac{V}{R_1 + R_2} \right)^2 = \frac{R_1 V^2}{(R_1 + R_2)^2} \\[2.0ex]P_2 &= R_2 \left( \frac{V}{R_1 + R_2} \right)^2 = \frac{R_2 V^2}{(R_1 + R_2)^2}
\end{aligned}
$$
問題では \(P_2\) を求めよとあるので、これが一つの答えです。
次に、仕事率 \(W\) との関係を調べます。消費電力の和を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_1 + P_2 &= \frac{R_1 V^2}{(R_1 + R_2)^2} + \frac{R_2 V^2}{(R_1 + R_2)^2} \\[2.0ex]&= \frac{(R_1 + R_2) V^2}{(R_1 + R_2)^2} \\[2.0ex]&= \frac{V^2}{R_1 + R_2}
\end{aligned}
$$
(4)で求めた仕事率 \(W = \displaystyle\frac{V^2}{R_1 + R_2}\) と比較すると、
$$ W = P_1 + P_2 $$
となります。

計算方法の平易な説明

外から加えた仕事(エネルギー)はどこへ消えたのでしょうか?この問題では、棒の速さが変わらないので運動エネルギーは増えません。実は、投入したエネルギーはすべて、回路の抵抗で熱(ジュール熱)として消費されています。この設問では、そのことを計算で確かめています。

結論と吟味

棒2での消費電力は \(P_2 = \displaystyle\frac{R_2 V^2}{(R_1 + R_2)^2}\) です。また、外力の仕事率が消費電力の和に等しいこと \(W = P_1 + P_2\) が示されました。これは、外力がした仕事がすべてジュール熱に変換されたことを意味するエネルギー保存則を表しており、物理的に正しい関係です。

解答 (5) \(P_2 = \displaystyle\frac{R_2 V^2}{(R_1 + R_2)^2}\), 関係: \(W = P_1 + P_2\)

[B] スイッチSを閉じた状態

問(1)

思考の道筋とポイント
スイッチSを閉じ、棒1と棒2を固定した状態の定常的な回路を考えます。これは電池 \(E\) と3つの抵抗 \(r, R_1, R_2\) からなる直流回路です。キルヒホッフの法則を用いて、棒1を流れる電流を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 棒は固定されているため、誘導起電力は生じません (\(v=0\))。
  • 与えられた条件 \(R_1 = R_2 = 2r\) を用います。
  • 回路の対称性から、抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) に流れる電流は等しくなると考えられます。
  • キルヒホッフの法則を適用して連立方程式を立てて解きます。

具体的な解説と立式
棒1と棒2を固定しているため、誘導起電力は生じません。回路は電池 \(E\) と内部抵抗 \(r\)、そして並列に接続された抵抗 \(R_1\) と \(R_2\) から構成されます。
棒1を流れる電流を \(I_1\)、棒2を流れる電流を \(I_2\) とします。電池から流れ出る電流は、キルヒホッフの第1法則より \(I_1 + I_2\) となります。
キルヒホッフの第2法則を、2つの閉回路に適用します。

  • 右側のループ(電池、内部抵抗\(r\)、抵抗\(R_1\)を含む):
    $$ E = (I_1 + I_2)r + I_1 R_1 \quad \cdots ① $$
  • 左側のループ(電池、内部抵抗\(r\)、抵抗\(R_2\)を含む):
    $$ E = (I_1 + I_2)r + I_2 R_2 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則
計算過程

式①と②の右辺は等しいので、\(I_1 R_1 = I_2 R_2\) となります。ここで条件 \(R_1 = R_2\) を用いると、\(I_1 = I_2\) であることがわかります。
この関係を式①に代入し、さらに条件 \(R_1 = 2r\) を用いて \(I_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
E &= (I_1 + I_1)r + I_1 (2r) \\[2.0ex]&= 2I_1 r + 2I_1 r \\[2.0ex]&= 4r I_1
\end{aligned}
$$
したがって、棒1を流れる電流 \(I_1\) は、
$$ I_1 = \frac{E}{4r} $$

計算方法の平易な説明

スイッチを入れ、棒が動く前の瞬間を考えます。これは、単に電池と3つの抵抗がつながった電気回路の問題です。回路の形が左右対称なので、2本の棒(抵抗)には同じ大きさの電流が流れるはずです。この対称性を利用し、キルヒホッフの法則(電圧のルール)を使って電流を計算します。

結論と吟味

棒1を流れる電流は \(I_1 = \displaystyle\frac{E}{4r}\) です。対称性から棒2を流れる電流 \(I_2\) も同じ値になります。妥当な結果です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{E}{4r}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
スイッチを閉じた直後、棒1はまだ静止している(速さ \(v=0\))ため、誘導起電力は生じていません。しかし、(1)で求めた電流 \(I_1\) が流れているため、磁場からローレンツ力を受けて動き出します。この瞬間の加速度を運動方程式 \(Ma=F\) から求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「閉じた直後」とは、時間が経過しておらず、速度がまだ0の状態 (\(v=0\)) を指します。
  • この瞬間に流れる電流は、(1)で求めた静止時の電流 \(I_1\) です。
  • 棒1にはたらく力は、この電流によるローレンツ力 \(F = I_1 B L\) のみです。
  • 運動方程式 \(Ma_0 = F\) を立てて加速度 \(a_0\) を求めます。

具体的な解説と立式
スイッチを閉じた直後(\(t=0\))、棒1の速さは \(v=0\) です。したがって、棒1に誘導起電力は生じません。このとき棒1に流れる電流は、(1)で求めた静止時の電流 \(I_1\) に等しくなります。
この電流が磁場から受ける力(ローレンツ力) \(F\) は、フレミングの左手の法則より \(x\) 軸の正の向きとなり、その大きさは、
$$ F = I_1 B L $$
この力によって、質量 \(M\) の棒1は加速されます。運動方程式 \(Ma=F\) を立てると、この瞬間の加速度 \(a_0\) は次式で与えられます。
$$ M a_0 = F = I_1 B L $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(Ma=F\)
  • ローレンツ力: \(F=IBL\)
計算過程

(1)で求めた \(I_1 = \displaystyle\frac{E}{4r}\) を運動方程式に代入します。
$$
\begin{aligned}
M a_0 &= \left( \frac{E}{4r} \right) B L \\[2.0ex]a_0 &= \frac{EBL}{4rM}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

スイッチを入れた瞬間、棒1には電気が流れ始めます。電流が磁場の中を流れると、フレミングの左手の法則に従って力が働きます。この力によって、静止していた棒が動き始めます。その動き始めの「初速度」ならぬ「初加速度」を、ニュートンの運動方程式(\(Ma=F\))を使って計算します。

結論と吟味

スイッチを閉じた直後の棒1の加速度は \(a_0 = \displaystyle\frac{EBL}{4rM}\) です。必要な物理量で正しく表現されており、妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{EBL}{4rM}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
棒1が加速し、速さが \(v\) になった瞬間を考えます。このとき、棒1には誘導起電力 \(V’ = vBL\) が生じます。この誘導起電力は電池の起電力 \(E\) による電流を妨げる向きに作用するため、回路の状態が変化します。キルヒホッフの法則を再び適用して、この瞬間の電流 \(I_1, I_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 棒1の運動により、誘導起電力 \(vBL\) が生じます。その向きはレンツの法則に従い、電流を減らす向きです。
  • 回路図は、電池 \(E\) と、逆向きの電池(誘導起電力) \(vBL\) が共存する複雑なものになります(図g参照)。
  • キルヒホッフの法則IIを2つのループに適用し、\(I_1\) と \(I_2\) に関する連立方程式を解きます。

具体的な解説と立式
棒1の速さが \(v\) になると、大きさ \(V’ = vBL\) の誘導起電力が生じます。この起電力の向きは、フレミングの右手の法則より、電池の起電力 \(E\) が流そうとする電流を妨げる向きとなります。
この状態の回路(図g)において、棒1を流れる電流を \(I_1\)、棒2を流れる電流を \(I_2\) とします。キルヒホッフの法則IIを2つのループに適用します。

  • 右側のループ(電池、内部抵抗\(r\)、抵抗\(R_1\)、棒1の誘導起電力を含む):
    $$ E – vBL = (I_1 + I_2)r + I_1 R_1 \quad \cdots ③ $$
  • 左側のループ(電池、内部抵抗\(r\)、抵抗\(R_2\)を含む):
    $$ E = (I_1 + I_2)r + I_2 R_2 \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則
  • 誘導起電力: \(V=vBL\)
計算過程

条件 \(R_1 = R_2 = 2r\) を式③、④に代入して整理します。
式③:
$$
\begin{aligned}
E – vBL &= (I_1 + I_2)r + I_1 (2r) \\[2.0ex]E – vBL &= 3rI_1 + rI_2 \quad \cdots ③’
\end{aligned}
$$
式④:
$$
\begin{aligned}
E &= (I_1 + I_2)r + I_2 (2r) \\[2.0ex]E &= rI_1 + 3rI_2 \quad \cdots ④’
\end{aligned}
$$
③’と④’の連立方程式を解きます。④’ \(\times 3 – \) ③’ を計算して \(I_2\) を求めます。
\(3E – (E – vBL) = (3rI_1 + 9rI_2) – (3rI_1 + rI_2)\)
\(2E + vBL = 8rI_2\)
$$ I_2 = \frac{2E + vBL}{8r} $$
次に、③’ \(\times 3 – \) ④’ を計算して \(I_1\) を求めます。
\(3(E – vBL) – E = (9rI_1 + 3rI_2) – (rI_1 + 3rI_2)\)
\(2E – 3vBL = 8rI_1\)
$$ I_1 = \frac{2E – 3vBL}{8r} $$

計算方法の平易な説明

棒がスピードを持つと、今度は棒自身が「逆向きの電池」のように振る舞い始めます(誘導起電力)。そのため、もともとの電池 \(E\) から流れる電流が影響を受けます。この「電池が2つある複雑な回路」の状態を、キルヒホッフの法則という強力なツールを使って分析し、それぞれの棒に流れる電流を計算します。

結論と吟味

棒1を流れる電流は \(I_1 = \displaystyle\frac{2E – 3vBL}{8r}\)、棒2を流れる電流は \(I_2 = \displaystyle\frac{2E + vBL}{8r}\) です。
ここで \(v=0\) とすると、\(I_1 = I_2 = \displaystyle\frac{2E}{8r} = \frac{E}{4r}\) となり、(1)の静止時の結果と一致するため、計算の妥当性が確認できます。

解答 (3) \(I_1 = \displaystyle\frac{2E – 3vBL}{8r}\), \(I_2 = \displaystyle\frac{2E + vBL}{8r}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
棒1が一定の速さに達した(終端速度になった)ということは、加速度が0になったことを意味します。運動方程式より、これは棒1にはたらく合力が0になったということです。棒1にはたらく力はローレンツ力のみなので、ローレンツ力が0になる条件を考えます。
この設問における重要なポイント

  • 「一定の速さ」は「加速度 \(a=0\)」を意味します。
  • 運動方程式 \(Ma=F\) より、棒1にはたらく合力 \(F=0\) となります。
  • 棒1にはたらく力はローレンツ力 \(F = I_1 B L\) のみです。
  • したがって、終端速度に達する条件は、棒1を流れる電流が \(I_1 = 0\) になることです。

具体的な解説と立式
棒1が一定の速さ \(v\) に達すると、その加速度は \(a=0\) となります。棒1の運動方程式は、ローレンツ力 \(F = I_1 B L\) を受けて \(Ma = F\) と書けます。したがって、\(a=0\) となるためには、棒1にはたらく力、すなわちローレンツ力が0になる必要があります。
$$ F = I_1 B L = 0 $$
磁束密度 \(B\) とレール間隔 \(L\) は0ではないので、この条件は棒1を流れる電流 \(I_1\) が0になることを意味します。
$$ I_1 = 0 $$
この条件を(3)で求めた \(I_1\) の式に適用します。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(Ma=F\)
  • 力のつりあい(合力が0)
計算過程

(3)で求めた \(I_1 = \displaystyle\frac{2E – 3vBL}{8r}\) の式に、\(I_1=0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{2E – 3vBL}{8r} &= 0 \\[2.0ex]2E – 3vBL &= 0 \\[2.0ex]3vBL &= 2E \\[2.0ex]v &= \frac{2E}{3BL}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

棒は最初、力(ローレンツ力)を受けて加速しますが、スピードが上がるにつれて逆向きの電圧(誘導起電力)が大きくなり、棒に流れる電流がだんだん減っていきます。電流が減ると、加速させる力も弱まります。最終的に、あるスピードに達すると、棒に流れる電流がちょうどゼロになり、加速させる力もゼロになります。そうなると、もう加速も減速もせず、一定の速さで進み続けます。このときの速さが終端速度です。

結論と吟味

棒1が達する一定の速さは \(v = \displaystyle\frac{2E}{3BL}\) です。このとき、棒1には電流が流れず、棒2には \(I_2 = \displaystyle\frac{2E + vBL}{8r} = \frac{2E + (\frac{2E}{3BL})BL}{8r} = \frac{2E + \frac{2}{3}E}{8r} = \frac{\frac{8}{3}E}{8r} = \frac{E}{3r}\) の電流が流れている状態になります。結果は妥当です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{2E}{3BL}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
今度は棒1と棒2の両方が自由に動ける状態で、十分時間が経過した後の状況を考えます。両方とも一定の速さ \(v_1, v_2\) に達するということは、両方の棒の加速度が0、つまり両方の棒にはたらく力が0になることを意味します。
この設問における重要なポイント

  • 棒1, 2ともに一定の速さであることから、加速度は \(a_1=0, a_2=0\) となります。
  • したがって、両方の棒にはたらくローレンツ力がそれぞれ0になります。
  • \(F_1 = I_1 B L = 0\) より \(I_1 = 0\)。
  • \(F_2 = I_2 B L = 0\) より \(I_2 = 0\)。
  • 最終状態では、回路全体に電流が流れなくなります。

具体的な解説と立式
棒1と棒2がそれぞれ一定の速さ \(v_1, v_2\) に達したとき、両方の棒の加速度は0になります。これは、それぞれの棒にはたらくローレンツ力が0になることを意味します。したがって、棒1を流れる電流 \(I_1\) と棒2を流れる電流 \(I_2\) がともに0になる必要があります。
$$ I_1 = 0, \quad I_2 = 0 $$
このとき、棒1には誘導起電力 \(v_1BL\)、棒2には誘導起電力 \(v_2BL\) が生じています。回路に電流が流れていないので、すべての抵抗での電圧降下は0です。キルヒホッフの法則IIを適用すると、各ループで起電力の代数和が0になります。

  • 右側のループ(電池、棒1を含む):
    $$ E – v_1BL = (I_1+I_2)r + I_1 R_1 = 0 \times r + 0 \times R_1 = 0 $$
  • 左側のループ(電池、棒2を含む):
    $$ E – v_2BL = (I_1+I_2)r + I_2 R_2 = 0 \times r + 0 \times R_2 = 0 $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則
  • 力のつりあい(合力が0)
計算過程

上記の2つの式から、それぞれ速さを求めます。
右側のループの式より、
$$
\begin{aligned}
E – v_1BL &= 0 \\[2.0ex]v_1BL &= E \\[2.0ex]v_1 &= \frac{E}{BL}
\end{aligned}
$$
同様に、左側のループの式より、
$$
\begin{aligned}
E – v_2BL &= 0 \\[2.0ex]v_2BL &= E \\[2.0ex]v_2 &= \frac{E}{BL}
\end{aligned}
$$
したがって、\(v_1 = v_2 = \displaystyle\frac{E}{BL}\) となります。

計算方法の平易な説明

今度は2本の棒が両方とも自由に動きます。十分時間が経つと、どちらの棒も力がかからなくなり、一定の速さになります。力がかからないということは、どちらの棒にも電流が流れなくなるということです。回路全体に全く電流が流れなくなるのは、どのような状態でしょうか?それは、2本の棒がそれぞれ発電する電圧(誘導起電力)が、電池の電圧 \(E\) とちょうど等しくなり、互いに打ち消し合うようになったときです。この条件から、2本の棒の最終的な速さを計算します。

結論と吟味

最終的に2本の棒は同じ一定の速さ \(v_1 = v_2 = \displaystyle\frac{E}{BL}\) に達します。このとき、各棒に生じる誘導起電力が電池の起電力 \(E\) と等しくなり、回路のどの部分にも電位差が生じず、電流が流れなくなります。これは物理的に非常に理にかなった、安定した最終状態です。

解答 (5) \(v_1 = v_2 = \displaystyle\frac{E}{BL}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ファラデーの電磁誘導の法則 (\(V=vBL\)):
    • 核心: 導体棒の「運動」という力学的な現象が、回路に「誘導起電力」という電気的な現象を引き起こす、両分野の橋渡しとなる最重要法則です。この問題では、動く導体棒が速さに応じて電圧の変わる「電池」として機能します。
    • 理解のポイント: 棒が磁場を横切ることで、棒内部の荷電粒子がローレンツ力を受けて偏り、電位差が生じます。これが誘導起電力の正体です。
  • ローレンツ力 (\(F=IBL\)):
    • 核心: 回路に流れる「電流」という電気的な現象が、導体棒に「力」という力学的な現象を及ぼす、もう一つの橋渡しとなる法則です。この力が棒の運動を加速させたり、妨げたりします。
    • 理解のポイント: 電磁誘導とローレンツ力は、電気と力学を結びつける表裏一体の関係にあります。フレミングの法則の「右手(発電)」と「左手(力)」を正しく使い分けることが不可欠です。
  • キルヒホッフの法則:
    • 核心: [B]のように、電池と誘導起電力という複数の「電源」が混在する複雑な回路を解析するための、普遍的で強力なツールです。第1法則(電流保存)と第2法則(電圧降下)を適用することで、未知の電流を機械的に求めることができます。
    • 理解のポイント: どんなに複雑に見える回路も、この法則に従って立式すれば、あとは連立方程式を解く数学の問題に帰着させることができます。
  • 運動方程式 (\(Ma=F\)) と力のつりあい:
    • 核心: 導体棒の運動状態を記述する力学の基本法則です。ローレンツ力や外力によって棒がどのように加速するか(運動方程式)、あるいはどのような条件で速さが一定になるか(力のつりあい \(F_{\text{合力}}=0\))を解析します。
    • 理解のポイント: 「一定の速さに達した」という記述は、「加速度が0」ひいては「棒にはたらく合力が0」という力学的な条件に読み替えることが、終端速度を求める問題の定石です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 斜面上の導体棒: 重力が加わるパターン。終端速度は、ローレンツ力と重力の斜面方向成分がつりあう点で決まります。
    • コンデンサーを含む回路: 導体棒の運動でコンデンサーを充電する問題。電流が時間とともに変化し、最終的に充電が完了して電流が0になるまでの過渡現象を扱います。
    • コイル(インダクター)を含む回路: 自己誘導が絡む問題。電流の変化を妨げる向きに自己誘導起電力が生じ、これも過渡現象を伴います。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「時間」の状態を特定する: 問題文が「スイッチを入れた直後」「十分時間が経過した後」「速さ\(v\)の瞬間」のどれを指しているかを見極めることが最優先です。
      • 直後: \(t=0\)。速度や変位など、運動の結果生じる量は0と考えます (\(v=0\), 誘導起電力=0)。
      • 十分後(定常状態): \(t \rightarrow \infty\)。系は安定し、加速度は0になります (\(a=0\), 力はつりあっている)。
      • 途中(任意の瞬間): 加速中であり、速度も加速度も0ではありません。運動方程式と回路方程式が連動します。
    2. 等価回路図を描く: 運動している導体棒を「起電力\(vBL\)の電池」と「抵抗\(R\)」の組み合わせと見なして、回路図をその都度書き直すと、状況が整理され、キルヒホッフの法則を適用しやすくなります。特に誘導起電力の向き(極性)を正確に書き込むことが重要です。
    3. 力と運動の分析: 棒にはたらく力(ローレンツ力、外力、重力など)をすべて図示し、運動の状態(加速か等速か)に応じて、運動方程式を立てるか、力のつりあいの式を立てるかを判断します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • フレミングの法則の左右の混同:
    • 誤解: 誘導起電力(発電)を求めたいのに左手の法則を、ローレンツ力(力)を求めたいのに右手の法則を使ってしまう。
    • 対策: 「みぎ手ではつ電(誘導起電力)、ひだり手でちから(ローレンツ力)」のように、語呂合わせで明確に区別して覚えましょう。
  • 誘導起電力の向きの間違い:
    • 誤解: [B]-(3)などで、誘導起電力が常に電池の起電力を助ける向きに生じると勘違いする。
    • 対策: 誘導起電力は「磁束の変化を妨げる向き」に生じる(レンツの法則)という大原則を理解することが根本的な対策です。これにより、誘導電流が元の電流を打ち消す向き、すなわち起電力が逆向きになることが理解できます。
  • 「直後」と「十分後」の条件の混同:
    • 誤解: スイッチを入れた直後の加速度を求める問題で、終端速度の条件(力がつりあう、電流が0など)を使ってしまう。
    • 対策: 「直後」はあくまで \(v=0\) の状態からスタートする瞬間であり、力はつりあっていません。一方、「十分後」は運動が安定した最終状態です。この時間的な区別を意識することが重要です。
  • エネルギー保存則の適用ミス:
    • 誤解: [A]のように等速運動している場合に、外力の仕事が運動エネルギーの増加にも使われると考えてしまう。
    • 対策: 「等速」ならば運動エネルギーは変化しません。この場合、外力がした仕事はすべてジュール熱などの他のエネルギーに変換されます。加速している場合にのみ、(外力の仕事) = (運動エネルギーの増加) + (発生したジュール熱) という関係が成り立ちます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 等価回路図の活用: この問題の肝は、力学現象と電気現象が絡み合う点にあります。[B]-(3)や(5)のように、棒が動いている状況では、その棒を「起電力\(vBL\)の電池」と見なした等価回路図を描くことが極めて有効です。これにより、複雑な現象を使い慣れた電気回路の問題として捉え直すことができます。
    • 力のベクトル図: 各棒にはたらくローレンツ力を、向きと大きさがわかるようにベクトルで図示する習慣をつけましょう。力の向きは「①電流の向きを特定 → ②フレミングの左手の法則を適用」という2ステップで慎重に決定します。
    • 電磁ブレーキのイメージ: レンツの法則から、誘導電流によるローレンツ力は多くの場合、元の運動を妨げる向きに働きます。これを「電磁ブレーキ」と捉えると、[B]-(4)で棒が加速するほどブレーキが強くなり、やがて駆動力とつりあって一定速度に落ち着く、という終端速度のメカニズムが直感的に理解できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(V=vBL\) (誘導起電力):
    • 選定理由: 棒の「運動」という力学情報を、「起電力」という電気情報に変換するために選択します。
    • 適用根拠: 導体棒が磁場を横切って運動している、という状況設定そのものが適用根拠です。
  • \(F=IBL\) (ローレンツ力):
    • 選定理由: 回路の「電流」という電気情報を、棒にはたらく「力」という力学情報に変換するために選択します。
    • 適用根拠: 磁場の中に置かれた導体棒に電流が流れている、という状況設定が適用根拠です。
  • キルヒホッフの法則:
    • 選定理由: [B]のように、回路に複数の電源(電池E、誘導起電力\(vBL\))が存在し、単純な合成抵抗の計算では解けない場合に、機械的に電流を求めるための万能な法則として選択します。
    • 適用根拠: 回路の分岐点(第1法則)と閉回路(第2法則)が存在すれば、あらゆる定常電流の回路に適用できます。
  • 運動方程式 (\(Ma=F\)):
    • 選定理由: [B]-(2)のように、棒が力を受けて加速している状態を記述するために選択します。
    • 適用根拠: 棒にはたらく合力が0でなく、その加速度を問われている場合に適用します。
  • 力のつりあい (\(F_{\text{合力}}=0\)):
    • 選定理由: [A]-(4)や[B]-(4),(5)のように、棒が「一定の速さ」で運動している状態を解析するために選択します。
    • 適用根拠: 問題文に「一定の速さ」「等速」とある場合、それは \(a=0\) を意味し、力のつりあいが成立していることの証拠です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. [A] スイッチ開・棒1等速運動:
    • 戦略: 単純な直列回路と力のつりあい、エネルギー保存則で解く。
    • フロー: ①\(V=BLu\)で起電力を計算 → ②直列回路とみなし\(I = V/(R_1+R_2)\)で電流を計算 → ③力のつりあい(\(F_{\text{外}}=IBL\))で外力を計算 → ④仕事率\(W=F_{\text{外}}u\)と消費電力\(P=I^2R\)を計算し、エネルギー保存を確認。
  2. [B] スイッチ閉・複雑な運動:
    • 戦略: 状況(固定、直後、途中、終端)に応じて、キルヒホッフの法則と力学法則を使い分ける。
    • フロー:
      • (1) 固定時: \(v=0\)。キルヒホッフの法則で静止時の電流を計算。
      • (2) 直後: \(v=0\)。(1)の電流によるローレンツ力\(F=IBL\)を求め、運動方程式\(Ma_0=F\)を立式。
      • (3) 速さvの時: 誘導起電力\(vBL\)が発生。キルヒホッフの法則で連立方程式を立て、電流\(I_1, I_2\)を\(v\)の関数として解く。
      • (4) 棒1の終端速度: 「等速」であることから \(a_1=0\)、よって \(F_1=0\)、すなわち \(I_1=0\) となる。(3)の解に\(I_1=0\)を代入し、\(v\)を求める。
      • (5) 両棒の終端速度: 「両方等速」であることから \(a_1=a_2=0\)、よって \(F_1=F_2=0\)、すなわち \(I_1=I_2=0\) となる。回路に電流が流れない条件でキルヒホッフの法則を適用し、\(v_1, v_2\)を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の整理: この問題のように多くの物理量が現れる場合、計算の最終段階まで文字のまま計算を進めることで、見通しが良くなり、間違いを減らせます。特に[B]-(3)の連立方程式は、焦らず丁寧に、一行ずつ変形しましょう。
  • 条件の適用忘れに注意: [B]パートで与えられている条件 \(R_1=R_2=2r\) は、計算の要です。キルヒホッフの法則で式を立てた後、この条件を代入して式を簡潔にすることを忘れないようにしましょう。
  • 連立方程式の検算: [B]-(3)で連立方程式を解いた後は、得られた \(I_1\) と \(I_2\) の式を、元の連立方程式に代入してみて、式が成立するかを確かめる(検算する)と、計算ミスを格段に減らせます。
  • 極限状況でのチェック: [B]-(3)で求めた電流の式に、\(v=0\) を代入すると[B]-(1)の結果と一致するか、また、[B]-(4)で求めた終端速度\(v\)を代入すると \(I_1=0\) となるか、といった「極限チェック」は、計算の正しさを検証する非常に有効な手段です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • [A]-(5) エネルギー保存: 外力がした仕事率 \(W\) が、回路全体の消費電力の和 \(P_1+P_2\) に等しくなりました。これは「等速運動なので運動エネルギーは変化せず、外部から供給されたエネルギーはすべて熱に変わった」というエネルギー保存則の現れであり、物理的に完全に理にかなっています。
    • [B]-(4) vs (5) 終端速度の比較: 棒2を固定した場合の終端速度 \(v = \displaystyle\frac{2E}{3BL}\) と、両方自由な場合の終端速度 \(v_{1,2} = \displaystyle\frac{E}{BL}\) を比較すると、\(v_{1,2} > v\) となっています。これは、棒2も動けるようになったことで系全体がより動きやすくなり、より速い速度で安定することを示唆しており、直感とも一致します。
  • 別解との比較:
    • [B]-(1)の電流は、回路の対称性(\(R_1=R_2\))から \(I_1=I_2\) と考えて解く方法と、キルヒホッフの法則を機械的に適用する方法があります。どちらでも同じ結果になることを確認することで、解答の信頼性が高まります。
    • [B]-(5)の最終状態は、「両方の棒にはたらく力が0」という力学的な視点と、「各ループの起電力の和が0」という電気的な視点(キルヒホッフの法則)の両方から導けます。複数の視点から同じ結論に至ることを確認するのは、物理現象の深い理解につながります。

問題133 (京都工芸繊維大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、傾斜したレール上を動く導体棒に関する電磁誘導の問題です。棒の運動(力学)と回路に流れる電流(電気)が、誘導起電力とローレンツ力を通じて相互に作用する様子を、様々な条件下で分析します。

与えられた条件
  • 一様な磁場: 大きさ\(B\)、向きは鉛直上向き
  • 導体レール: 間隔\(l\)、傾斜角\(\theta\)、抵抗は無視
  • 回路部品: 抵抗\(R\)、直流電源\(E\)、スイッチ\(S_1, S_2\)
  • 導体棒PQ: 質量\(m\)、抵抗は無視
  • 初期状態: スイッチは両方とも開いており、PQは固定されている。
  • その他: 回路の自己誘導や電流が作る磁場の影響は無視。重力加速度は\(g\)。
問われていること
  • (1) 棒の落下時、電位が高いのはP, Qのどちらか。
  • (2) スイッチが開いた状態で落下を始めてから時刻\(t\)後の誘導起電力。
  • (3) S1を閉じ、速さ\(v\)で落下中の誘導起電力。
  • (4) (3)のときの電流。
  • (5) 速さが一定になったときの電流。
  • (6) 一定になった速さ(終端速度)。
  • (7) 等速落下中に単位時間あたりに失う力学的エネルギー。
  • (8) (7)のときの単位時間あたりのジュール熱。
  • (9) S2を閉じ、PQが静止するときの電源電圧\(E\)。
  • (10) 電源電圧を\(V\)に変え、一定の速さ\(u\)で上昇するときの\(u\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「傾斜レール上の導体棒の電磁力学」です。重力、ローレンツ力、誘導起電力が複雑に絡み合う状況を、力学と電気回路の両面から解き明かしていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 誘導起電力: 導体棒が磁場を横切る速度成分に比例して起電力 \(V = (v \cos\theta) B l\) が生じます。磁場の向きと棒の運動方向が直交していない点がポイントです。
  2. ローレンツ力: 誘導電流が流れると、棒は力 \(F = I B l\) を受けます。この力も、斜面方向の運動に影響を与える成分を考える必要があります。
  3. 力のつりあいと運動方程式: 棒の運動状態(静止、等速、加速)に応じて、斜面方向の力のつりあいの式、または運動方程式を立てます。
  4. エネルギー保存則: 「失われる力学的エネルギー」と「発生するジュール熱」の関係を問う設問では、エネルギー保存の観点が重要になります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、棒の速度\(v\)から、磁場を垂直に横切る速度成分 \(v_{\perp}\) を求め、誘導起電力 \(V = v_{\perp} B l\) を計算します。
  2. 次に、キルヒホッフの法則を用いて、その誘導起電力によって回路に流れる電流\(I\)を求めます。
  3. 電流\(I\)が棒に及ぼすローレンツ力\(F=IBl\)を計算し、その斜面方向成分を求めます。
  4. 棒にはたらく力(重力の斜面成分、ローレンツ力の斜面成分)をすべて考慮し、運動方程式または力のつりあいの式を立てて、未知の量(速さ、電流など)を決定します。

問(1)

思考の道筋とポイント
導体棒PQが落下すると、棒とレールで囲まれた回路を貫く鉛直上向きの磁束が減少します。レンツの法則によれば、この磁束の変化を妨げる向き、すなわち鉛直上向きの磁場を作るような誘導電流が流れます。この電流の向きから、棒PQがどちらの極がプラスの電池になったかを判断します。
この設問における重要なポイント

  • レンツの法則: 誘導電流は磁束の変化を妨げる向きに流れる。
  • 右ねじの法則: 電流の向きとそれが作る磁場の向きの関係。
  • 誘導起電力が生じた導体棒は電池とみなせる。電流は負極から正極へ向かう。

具体的な解説と立式

  1. PQが落下すると、回路の面積が減少し、回路を貫く上向きの磁束が減少します。
  2. レンツの法則により、誘導電流はこの磁束の減少を補うため、上向きの磁場を作ろうとします。
  3. 右ねじの法則を適用すると、上向きの磁場を作るためには、電流はP→Qの向きに流れる必要があります。
  4. 導体棒PQを電池とみなすと、電流は電池の内部を負極から正極に向かって流れます。したがって、Pが負極、Qが正極となり、Qの方が電位が高くなります。
別解: ローレンツ力による説明

思考の道筋とポイント
棒が運動することで、棒内部の自由電子が磁場からローレンツ力を受けます。この力によって電子がどちらかの端に偏るため、電位差が生じます。電子の偏りから電位の高低を判断します。
具体的な解説と立式

  1. 棒PQは斜面を滑り降ります。この速度ベクトルと磁場ベクトル(鉛直上向き)の外積の方向にローレンツ力が発生します。
  2. 棒内の正電荷で考えると、フレミングの左手の法則で「電流」の指を速度の向き(斜め下)、「磁場」の指を上向きにすると、力の向きはP→Qとなります。
  3. したがって、正電荷がQ側に集まり、Qの電位が高くなります。
結論と吟味

どちらの考え方でも、Qの方が電位が高いという結論になります。

結論と吟味

誘導電流はP→Qの向きに流れるため、導体棒PQはQ側が正極の電池とみなせます。よって、電位が高いのはQです。

解答 (1) Q

問(2)

思考の道筋とポイント
スイッチが両方開いているため、棒PQにはたらく力は重力のみです(垂直抗力は運動方向に影響しない)。したがって、棒は重力の斜面成分によって等加速度運動をします。時刻\(t\)における速さを求め、その速さによって生じる誘導起電力の大きさを計算します。誘導起電力は、磁場を垂直に横切る速度成分に比例することに注意が必要です。
この設問における重要なポイント

  • 棒の加速度は、重力の斜面成分から \(a = g \sin\theta\) となります。
  • 時刻\(t\)における速さは、等加速度運動の公式 \(v = v_0 + at\) から求まります。
  • 誘導起電力の公式は \(V = v_{\perp} B l\)。ここで \(v_{\perp}\) は磁場に垂直な速度成分です。
  • 磁場は鉛直上向きなので、棒の速度の水平成分が \(v_{\perp}\) に相当します。速度 \(v_t\) の水平成分は \(v_t \cos\theta\) です。

具体的な解説と立式
棒にはたらく斜面方向の力は重力の成分 \(mg \sin\theta\) のみなので、運動方程式は \(ma = mg \sin\theta\)、よって加速度は \(a = g \sin\theta\) です。
初速度0で落下を始めるので、時刻\(t\)における速さ \(v_t\) は、
$$ v_t = at = (g \sin\theta) t $$
このとき、棒の速度 \(v_t\) のうち、鉛直上向きの磁場を横切る成分(水平成分) \(v_{\perp}\) は、
$$ v_{\perp} = v_t \cos\theta $$
したがって、時刻\(t\)における誘導起電力の大きさ \(V_1\) は、
$$ V_1 = v_{\perp} B l = (v_t \cos\theta) B l $$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 等加速度運動: \(v = v_0 + at\)
  • 誘導起電力: \(V = v_{\perp} B l\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V_1 &= (v_t \cos\theta) B l \\[2.0ex]&= ((g \sin\theta) t \cos\theta) B l \\[2.0ex]&= g B l t \sin\theta \cos\theta
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

まず、棒が斜面を滑り落ちる速さが時間とともにどう変わるかを計算します。これはただの力学の問題です。次に、その速さによってどれだけの電圧(誘導起電力)が発生するかを計算します。このとき、磁場と運動方向が斜めなので、速度を磁場に垂直な成分に分解して計算するのがポイントです。

結論と吟味

時刻\(t\)における誘導起電力の大きさは \(g B l t \sin\theta \cos\theta\) です。時間に比例して起電力が大きくなるという、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(g B l t \sin\theta \cos\theta\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)と考え方は同じですが、今度は速さが一般の\(v\)として与えられています。この速さ\(v\)によって生じる誘導起電力の大きさを求めます。ここでも、磁場を垂直に横切る速度成分を考えることが重要です。
この設問における重要なポイント

  • 棒の速さは \(v\)。
  • 磁場は鉛直上向き。
  • 誘導起電力を生むのは、磁場に垂直な速度成分、すなわち速度の水平成分 \(v \cos\theta\) です。

具体的な解説と立式
棒の速さが\(v\)のとき、その速度の水平成分(磁場に垂直な成分)は \(v_{\perp} = v \cos\theta\) です。
したがって、このときに生じる誘導起電力の大きさ \(V_0\) は、
$$ V_0 = v_{\perp} B l = (v \cos\theta) B l $$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V = v_{\perp} B l\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V_0 &= (v \cos\theta) B l \\[2.0ex]&= vBl \cos\theta
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(2)の計算を、時刻\(t\)ではなく、速さ\(v\)という変数を使って一般的に表したものです。速さ\(v\)で滑っている棒が、どれだけの電圧を生み出すかを計算します。

結論と吟味

速さ\(v\)のときの誘導起電力は \(vBl \cos\theta\) です。速さに比例しており、妥当な式です。

解答 (3) \(vBl \cos\theta\)

問(4)

思考の道筋とポイント
S1を閉じると、棒PQと抵抗Rで閉回路ができます。(3)で求めた誘導起電力 \(V_0\) を電源とみなし、この閉回路に流れる電流の大きさをキルヒホッフの法則(オームの法則)を用いて求めます。
この設問における重要なポイント

  • 棒PQが起電力 \(V_0\) の電源として機能します。
  • 回路の抵抗は \(R\) のみです(棒やレールの抵抗は無視)。
  • キルヒホッフの法則II: \(\sum V = \sum RI\)。

具体的な解説と立式
誘導起電力 \(V_0\) によって、抵抗 \(R\) に電流 \(I\) が流れます。この閉回路にキルヒホッフの法則IIを適用すると、
$$ V_0 – IR = 0 $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則II
計算過程

$$
\begin{aligned}
IR &= V_0 \\[2.0ex]I &= \frac{V_0}{R}
\end{aligned}
$$
ここに(3)で求めた \(V_0 = vBl \cos\theta\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{vBl \cos\theta}{R}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

棒が発電した電圧(誘導起電力)によって、回路に接続された抵抗\(R\)に電流が流れます。電圧を抵抗で割れば電流が求まるという、オームの法則そのものです。

結論と吟味

電流の大きさは \(\displaystyle\frac{vBl \cos\theta}{R}\) です。速さ\(v\)に比例する妥当な結果です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{vBl \cos\theta}{R}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
棒の速さが一定になった(終端速度に達した)とき、棒にはたらく力はつりあっています。棒にはたらく斜面方向の力は、重力の成分と、電流が磁場から受けるローレンツ力の成分です。この力のつりあいの式から、一定になったときの電流の大きさを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「速さが一定」 \(\rightarrow\) 加速度が0 \(\rightarrow\) 力のつりあい。
  • 棒にはたらく力は、重力 \(mg\) とローレンツ力 \(F_{\text{ローレンツ}} = I_2 B l\)。
  • ローレンツ力は水平方向(レールに垂直)に働くため、その斜面方向の成分を考える必要があります。
  • 力のつりあいの式: \(mg \sin\theta = F_{\text{ローレンツ}} \cos\theta\)。

具体的な解説と立式
速さが一定になったときの電流を \(I_2\) とします。この電流によって棒にはたらくローレンツ力は \(F_{\text{ローレンツ}} = I_2 B l\) です。フレミングの左手の法則より、この力は水平で斜面を駆け上がる向きに働きます。
斜面方向の力のつりあいを考えます。

  • 斜面下向きの力: 重力の成分 \(mg \sin\theta\)
  • 斜面上向きの力: ローレンツ力の成分 \(F_{\text{ローレンツ}} \cos\theta = (I_2 B l) \cos\theta\)

力のつりあいの式は、
$$ mg \sin\theta = I_2 B l \cos\theta $$

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • ローレンツ力: \(F=IBl\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
I_2 B l \cos\theta &= mg \sin\theta \\[2.0ex]I_2 &= \frac{mg \sin\theta}{Bl \cos\theta} \\[2.0ex]&= \frac{mg}{Bl} \tan\theta
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

棒が落下しようとする力(重力)と、電流が流れることで発生するブレーキ力(ローレンツ力)がちょうどつりあうと、棒はそれ以上加速せず一定の速さで滑り落ちます。この問題では、そのつりあいの状態から、そのときに流れているはずの電流の大きさを逆算します。

結論と吟味

一定の速さになったときの電流は \(\displaystyle\frac{mg}{Bl} \tan\theta\) です。これは棒の質量や傾斜角に依存する定数であり、妥当な結果です。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{mg \tan\theta}{Bl}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
棒の速さが一定値 \(v_2\) になったとき、回路を流れる電流は(5)で求めた \(I_2\) となります。一方、速さ \(v_2\) のときの電流は(4)の式で \(v=v_2\) としたものと等しいはずです。この2つの表現が等しいとおくことで、終端速度 \(v_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 定常状態では、力学的な条件(力のつりあい)から導かれる電流と、電気的な条件(キルヒホッフの法則)から導かれる電流が一致します。

具体的な解説と立式
(4)で求めた電流の式で、速さを終端速度 \(v_2\) とすると、そのときの電流は、
$$ I = \frac{v_2 Bl \cos\theta}{R} $$
この電流が、(5)で求めた力のつりあいから決まる電流 \(I_2\) と等しくなります。
$$ \frac{v_2 Bl \cos\theta}{R} = I_2 $$

使用した物理公式

  • (4)と(5)の結果の結合
計算過程

(5)の結果 \(I_2 = \displaystyle\frac{mg \sin\theta}{Bl \cos\theta}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{v_2 Bl \cos\theta}{R} &= \frac{mg \sin\theta}{Bl \cos\theta} \\[2.0ex]v_2 (Bl \cos\theta)^2 &= mgR \sin\theta \\[2.0ex]v_2 &= \frac{mgR \sin\theta}{(Bl \cos\theta)^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(5)では「力のつりあい」という力学の視点から電流を求め、(4)では「オームの法則」という電気の視点から電流を求めました。棒が一定の速さで動いている定常状態では、この2つの視点から見た電流は同じはずです。この「はず」を等式にして、未知数である速さ \(v_2\) を求めます。

結論と吟味

終端速度は \(\displaystyle\frac{mgR \sin\theta}{(Bl \cos\theta)^2}\) です。抵抗\(R\)が大きいほど速くなるなど、物理的に妥当な依存性を示しています。

解答 (6) \(\displaystyle\frac{mgR \sin\theta}{(Bl \cos\theta)^2}\)

問(7)

思考の道筋とポイント
「単位時間あたりに失う力学的エネルギー」を求めます。棒は一定の速さ \(v_2\) で運動しているため、運動エネルギーは変化しません。したがって、失われる力学的エネルギーは、重力による位置エネルギーの減少分のみです。これは、重力が単位時間あたりにする仕事に等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー = 運動エネルギー + 位置エネルギー。
  • 等速運動なので運動エネルギーの変化は0。
  • 単位時間あたりの位置エネルギーの変化 \(\displaystyle\frac{\Delta U}{\Delta t}\) を計算します。
  • 棒が単位時間に下がる高さ \(\Delta h / \Delta t\) は、速さ \(v_2\) の鉛直成分 \(v_2 \sin\theta\) です。

具体的な解説と立式
単位時間あたりに失う力学的エネルギーは、単位時間あたりの位置エネルギーの減少量に等しいです。
位置エネルギーの減少率は、重力がする仕事率に等しく、\( (mg \sin\theta) v_2 \) で与えられます。
$$ \frac{\Delta E_{\text{力学}}}{\Delta t} = mg (v_2 \sin\theta) $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存の法則(非保存力がある場合)
  • 仕事率: \(P = Fv\)
計算過程

(6)で求めた \(v_2 = \displaystyle\frac{mgR \sin\theta}{(Bl \cos\theta)^2}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta E_{\text{力学}}}{\Delta t} &= mg \left( \frac{mgR \sin\theta}{(Bl \cos\theta)^2} \right) \sin\theta \\[2.0ex]&= \frac{m^2 g^2 R \sin^2\theta}{(Bl \cos\theta)^2} \\[2.0ex]&= R \left( \frac{mg \sin\theta}{Bl \cos\theta} \right)^2 \\[2.0ex]&= R \left( \frac{mg}{Bl} \tan\theta \right)^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

棒が一定の速さで滑り落ちているとき、運動エネルギーは増えも減りもしません。しかし、高さはどんどん低くなるので、位置エネルギーは失われ続けます。ここでは、1秒あたりにどれだけの位置エネルギーが失われるかを計算しています。

結論と吟味

単位時間あたりに失う力学的エネルギーは \(R \left( \displaystyle\frac{mg}{Bl} \tan\theta \right)^2\) です。この後(8)で計算するジュール熱と等しくなるはずです。

解答 (7) \(R \left( \displaystyle\frac{mg \tan\theta}{Bl} \right)^2\)

問(8)

思考の道筋とポイント
「単位時間あたりに発生するジュール熱」とは、抵抗での消費電力のことです。棒が一定の速さで運動しているとき、回路には(5)で求めた一定の電流 \(I_2\) が流れています。消費電力の公式 \(P = I^2 R\) を用いて計算します。
この設問における重要なポイント

  • 単位時間あたりのジュール熱 = 消費電力 \(P\)。
  • 消費電力の公式: \(P = I^2 R\)。
  • 電流は、終端速度に達したときの電流 \(I_2\) を用います。

具体的な解説と立式
抵抗\(R\)で単位時間あたりに発生するジュール熱は、消費電力 \(P\) に等しいです。
$$ P = I_2^2 R $$

使用した物理公式

  • 消費電力: \(P=I^2R\)
計算過程

(5)で求めた \(I_2 = \displaystyle\frac{mg}{Bl} \tan\theta\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
P &= \left( \frac{mg}{Bl} \tan\theta \right)^2 R \\[2.0ex]&= R \left( \frac{mg \tan\theta}{Bl} \right)^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

回路に電流が流れると、抵抗で熱が発生します。1秒あたりにどれだけの熱が発生するか(=消費電力)を計算します。電流の2乗に抵抗を掛けるだけです。

結論と吟味

単位時間あたりに発生するジュール熱は \(R \left( \displaystyle\frac{mg \tan\theta}{Bl} \right)^2\) です。これは(7)で求めた「失われる力学的エネルギー」と完全に一致します。これは、失われた位置エネルギーがすべてジュール熱に変換されたことを示すエネルギー保存則が成り立っていることを意味し、結果の妥当性を強く裏付けています。

解答 (8) \(R \left( \displaystyle\frac{mg \tan\theta}{Bl} \right)^2\)

問(9)

思考の道筋とポイント
スイッチS2を閉じ、PQが静止している状態を考えます。このとき、棒にはたらく力はつりあっています。棒にはたらく斜面方向の力は、重力の成分と、電源\(E\)による電流が作るローレンツ力の成分です。この力のつりあいの式と、回路に関するキルヒホッフの法則を連立させて、電源の電圧\(E\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「静止している」 \(\rightarrow\) 加速度が0 \(\rightarrow\) 力のつりあい。
  • 棒は動いていないので、誘導起電力は0です。
  • 回路は電源\(E\)と抵抗\(R\)だけの単純な回路です。
  • 力のつりあい: \(mg \sin\theta = F_{\text{ローレンツ}} \cos\theta\)。

具体的な解説と立式
棒が静止しているので、誘導起電力は生じません。電源\(E\)によって回路に流れる電流を \(I_3\) とすると、キルヒホッフの法則IIより、
$$ E – I_3 R = 0 $$
よって、
$$ I_3 = \frac{E}{R} $$
この電流 \(I_3\) によって、棒はローレンツ力 \(F_{\text{ローレンツ}} = I_3 B l\) を受けます。この力は斜面を駆け上がる向きに働きます。
棒が静止しているためには、このローレンツ力の斜面成分が、重力の斜面成分とつりあっている必要があります。
$$ mg \sin\theta = (I_3 B l) \cos\theta $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則II
  • 力のつりあい
  • ローレンツ力: \(F=IBl\)
計算過程

力のつりあいの式に、キルヒホッフの法則から得られた \(I_3 = E/R\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
mg \sin\theta &= \left( \frac{E}{R} \right) B l \cos\theta \\[2.0ex]mgR \sin\theta &= E B l \cos\theta \\[2.0ex]E &= \frac{mgR \sin\theta}{Bl \cos\theta} \\[2.0ex]&= \frac{mgR}{Bl} \tan\theta
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

今度は電源の力で棒を斜面に留まらせます。重力によって滑り落ちようとする力と、電源が流す電流によるローレンツ力(斜面を駆け上がろうとする力)がちょうどつりあうように、電源の電圧\(E\)を調整する、という問題です。

結論と吟味

棒を静止させるために必要な電圧は \(E = \displaystyle\frac{mgR}{Bl} \tan\theta\) です。妥当な結果です。

解答 (9) \(\displaystyle\frac{mgR \tan\theta}{Bl}\)

問(10)

思考の道筋とポイント
電源の電圧を\(V\)に変えたところ、棒が一定の速さ\(u\)で上昇しました。「一定の速さで上昇」しているので、再び力のつりあいが成り立っています。ただし、今度は棒が動いているため、上昇を妨げる向きに誘導起電力が発生します。この誘導起電力も考慮してキルヒホッフの法則を立て、力のつりあいの式と連立させて速さ\(u\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 「一定の速さで上昇」 \(\rightarrow\) 力のつりあい。
  • 棒が速さ\(u\)で動くため、誘導起電力 \(V_4 = uBl \cos\theta\) が発生します。
  • この誘導起電力は、電源電圧\(V\)と逆向きに作用します。
  • 力のつりあい: \(F_{\text{ローレンツ}} \cos\theta = mg \sin\theta\)。

具体的な解説と立式
棒が速さ\(u\)で上昇しているとき、誘導起電力 \(V_4 = uBl \cos\theta\) が生じます。この起電力は上昇運動を妨げる向き、すなわち電源\(V\)と逆向きに作用します。回路に流れる電流を \(I_4\) とすると、キルヒホッフの法則IIより、
$$ V – V_4 – I_4 R = 0 $$
よって、
$$ I_4 = \frac{V – V_4}{R} = \frac{V – uBl \cos\theta}{R} $$
一方、棒は一定の速さで動いているので、斜面方向の力はつりあっています。斜面上向きのローレンツ力と、斜面下向きの重力成分がつりあうので、
$$ (I_4 B l) \cos\theta = mg \sin\theta $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則II
  • 力のつりあい
  • 誘導起電力: \(V = v_{\perp} B l\)
  • ローレンツ力: \(F=IBl\)
計算過程

力のつりあいの式に、キルヒホッフの法則から得られた \(I_4\) の式を代入します。
$$
\begin{aligned}
\left( \frac{V – uBl \cos\theta}{R} \right) Bl \cos\theta &= mg \sin\theta \\[2.0ex](V – uBl \cos\theta) Bl \cos\theta &= mgR \sin\theta \\[2.0ex]VBl \cos\theta – u(Bl \cos\theta)^2 &= mgR \sin\theta \\[2.0ex]u(Bl \cos\theta)^2 &= VBl \cos\theta – mgR \sin\theta \\[2.0ex]u &= \frac{VBl \cos\theta – mgR \sin\theta}{(Bl \cos\theta)^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

より強い電圧\(V\)をかけることで、棒を斜め上に押し上げます。棒が動き出すと、今度は上昇を邪魔する向きの電圧(誘導起電力)が発生し、押し上げる力が弱まります。最終的に、押し上げる力(ローレンツ力)と滑り落ちようとする力(重力)がつりあったところで、棒は一定の速さで上昇し続けます。このときの速さを計算します。

結論と吟味

一定の上昇速度は \(u = \displaystyle\frac{VBl \cos\theta – mgR \sin\theta}{(Bl \cos\theta)^2}\) です。
ここで、もし \(VBl \cos\theta = mgR \sin\theta\) ならば \(u=0\) となります。このときの \(V\) は \(V = \frac{mgR \sin\theta}{Bl \cos\theta} = \frac{mgR}{Bl} \tan\theta\) となり、(9)で求めた静止するときの電圧\(E\)と一致します。したがって、結果は整合性がとれており、妥当です。

解答 (10) \(\displaystyle\frac{VBl \cos\theta – mgR \sin\theta}{(Bl \cos\theta)^2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 誘導起電力(磁場と運動の垂直成分):
    • 核心: 導体棒の運動が電気エネルギーを生み出す根源です。特にこの問題では、磁場が鉛直、運動が斜面方向なので、磁場を「垂直に」横切る速度成分 \(v_{\perp} = v \cos\theta\) を正しく見抜くことが全ての計算の出発点となります。
    • 理解のポイント: なぜ \(v \cos\theta\) なのか? 磁場(鉛直)と平行な速度成分(鉛直成分 \(v \sin\theta\))は磁力線を横切らないため、起電力に寄与しません。起電力はあくまで磁力線を「切る」運動によって生じます。
  • ローレンツ力(力と電流の垂直成分):
    • 核心: 回路に流れる電流が力学的な運動にフィードバックを与える根源です。この問題では、電流はレールに沿って流れますが、磁場は鉛直上向きです。フレミングの左手の法則から、ローレンツ力は水平方向に働きます。この力を斜面方向の運動に影響する成分 \(F_{\text{ローレンツ}} \cos\theta\) に分解することが重要です。
    • 理解のポイント: 力の分解は力学の基本です。ローレンツ力がどの向きに働き、それが斜面上の運動にどう影響するかを、ベクトル図を描いて正確に把握することが不可欠です。
  • 力のつりあいと運動方程式:
    • 核心: 導体棒の運動状態(静止、等速、加速)を決定する力学の法則です。問題文の「静かに外す」「速さが一定になった」「静止したまま」「一定の速さで上昇」といったキーワードから、どの法則を適用すべきかを判断します。
      • 「静止」「一定の速さ」 \(\rightarrow\) 加速度 \(a=0\) \(\rightarrow\) 力のつりあい (\(\sum F = 0\))
      • 「落下し始め」 \(\rightarrow\) 加速運動 \(\rightarrow\) 運動方程式 (\(ma=F\))
  • エネルギー保存則:
    • 核心: (7)と(8)で問われているように、力学的なエネルギーの変化と電気的なエネルギー(ジュール熱)の発生を結びつける法則です。等速運動の場合、「失われた位置エネルギー」が「発生したジュール熱」に等しくなります。
    • 理解のポイント: これは電磁誘導におけるエネルギー変換の美しい現れです。重力がした仕事(位置エネルギーの減少)が、電磁誘導を介して電気エネルギーに変換され、最終的に抵抗で熱エネルギーとして消費される、という一連の流れを理解することが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 磁場の向きが違う問題: 例えば磁場が斜面に垂直な場合、誘導起電力は \(V=vBl\)、ローレンツ力は斜面に沿って働くため、力の分解が不要になり、計算が簡単になります。逆に磁場が水平な場合は、また別の分解が必要になります。
    • コンデンサーやコイルを含む回路: 抵抗Rの代わりにコンデンサーやコイルが接続されている場合。コンデンサーなら充電が進むと電流が減少し、最終的に力がつりあいます。コイルなら自己誘導により電流の変化が緩やかになります。どちらも過渡現象を扱う問題に発展する可能性があります。
    • 2本の導体棒が動く問題: 2本の棒が互いに力を及ぼし合いながら運動します。系の運動量保存則やエネルギー保存則も考慮する必要が出てくる場合があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. ベクトルを正確に図示する: まず、速度 \(\vec{v}\)磁場 \(\vec{B}\)重力 \(m\vec{g}\) の3つのベクトルを正確に図示します。
    2. 垂直成分を見抜く:
      • 起電力: \(\vec{v}\) を \(\vec{B}\) に垂直な成分 \(v_{\perp}\) に分解します。\(V = v_{\perp} B l\)。
      • ローレンツ力: 電流 \(\vec{I}\) と \(\vec{B}\) の両方に垂直な方向に力 \(\vec{F}\) が働きます。
    3. 力の分解: ローレンツ力 \(\vec{F}\) と重力 \(m\vec{g}\) を、運動方向(斜面方向)とそれに垂直な方向に分解します。運動を記述するのは斜面方向の力の合力です。
    4. 運動状態のキーワードを拾う: 「静止」「一定の速さ」なら力のつりあい。「動き始め」なら運動方程式。この判断が解析の分かれ道となります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 起電力・ローレンツ力の成分の取り間違い:
    • 誤解: 誘導起電力を \(vBl\) としたり、ローレンツ力を \(IBl\) としてそのまま斜面方向の力として扱ってしまう。
    • 対策: 「何と何が垂直か」を常に意識します。
      • 起電力: 速度磁場が垂直な成分。\(V = (v\cos\theta)Bl\)。
      • ローレンツ力: 電流磁場が垂直。力は水平に働くので、それを斜面方向に分解する。\(F_{\text{斜面}} = (IBl)\cos\theta\)。
      • 必ず図を描いて、角度\(\theta\)がどこに来るかを確認します。
  • 力の向きの間違い:
    • 誤解: フレミングの法則を適用する際に、電流・磁場・力の向きを混乱する。特に、上昇時と下降時で電流の向きや力の関係が変わる点を見落とす。
    • 対策:
      • 下降時: 誘導電流はP→Q。ローレンツ力は斜面を駆け上がる向き(ブレーキ)。
      • 上昇時 (電源駆動): 主な電流はQ→P。ローレンツ力は斜面を駆け上がる向き(駆動力)。ただし、誘導起電力による逆向きの電流も考慮する必要があります。
      • 一つ一つの場面で、レンツの法則やフレミングの法則を丁寧に適用します。
  • エネルギーの計算ミス:
    • 誤解: (7)で失う力学的エネルギーを計算する際に、運動エネルギーの変化も考慮してしまう。
    • 対策: 問題文の「速さは一定になった」という記述を絶対に見逃しません。「速さ一定」は「運動エネルギー変化なし」を意味します。したがって、力学的エネルギーの変化は位置エネルギーの変化のみとなります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 3次元的なベクトル図: この問題は本質的に3次元なので、斜め上から見たような立体的な図を描くことが非常に有効です。磁場\(\vec{B}\)(真上)、速度\(\vec{v}\)(斜め下)、ローレンツ力\(\vec{F}\)(水平)の関係が一目瞭然になります。
    • 断面図の活用: レールを横から見た断面図を描き、そこに力のベクトル(重力、ローレンツ力、垂直抗力)を書き込みます。そして、それらを斜面方向と斜面に垂直な方向に分解します。これは力学の基本であり、この問題でも極めて重要です。
    • エネルギーの流れの可視化:
      • 落下時: [重力の位置エネルギー] \(\rightarrow\) [電気エネルギー(誘導起電力)] \(\rightarrow\) [熱エネルギー(ジュール熱)] というエネルギー変換のフローチャートをイメージします。
      • 上昇時: [電源の電気エネルギー] \(\rightarrow\) [運動エネルギー(加速中) + 位置エネルギー] + [熱エネルギー] というエネルギーの分配図をイメージします。等速上昇なら [電源の仕事] = [重力の仕事] + [ジュール熱] となります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(V = (v \cos\theta) B l\) (誘導起電力):
    • 選定理由: 棒の「運動(速さ\(v\))」を「電気(起電力\(V\))」に変換する必要があるため。
    • 適用根拠: 磁場と運動方向が垂直でないため、公式 \(V=vBl\) をそのまま使えず、磁場を垂直に横切る速度成分 \(v_{\perp}\) を用いる必要があります。
  • \(F_{\text{斜面}} = (I B l) \cos\theta\) (ローレンツ力の成分):
    • 選定理由: 回路の「電気(電流\(I\))」が棒の「運動」にどう影響するか(力)を知るため。
    • 適用根拠: ローレンツ力は水平方向に働きますが、棒の運動は斜面上に束縛されています。そのため、運動に直接影響する斜面方向の成分に分解する必要があります。
  • 力のつりあい (\(\sum F_{\text{斜面}} = 0\)):
    • 選定理由: (5), (6), (9), (10)のように、問題文に「速さは一定になった」「静止したまま」というキーワードがあるため。
    • 適用根拠: 加速度が0であるという物理的状況が、この公式の適用を正当化します。
  • エネルギー保存則 (\(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\)):
    • 選定理由: (7), (8)で「力学的エネルギーの減少」と「ジュール熱」という、エネルギーに関する量が問われているため。
    • 適用根拠: この系では、非保存力であるローレンツ力が仕事をするが、その仕事は最終的にジュール熱として散逸します。等速運動では、重力がする仕事(位置エネルギーの減少)が、そのまま抵抗で発生するジュール熱に等しくなります。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)-(4) 落下初期〜途中:
    • 戦略: 力学と電磁誘導の基本公式を順に適用する。
    • フロー: ①運動状態を分析(等加速度運動)\(\rightarrow\) ②時刻\(t\)の速さ\(v_t\)を計算 \(\rightarrow\) ③\(v_t\)から誘導起電力\(V_1\)を計算。④一般の速さ\(v\)での起電力\(V_0\)を計算 \(\rightarrow\) ⑤キルヒホッフの法則で電流\(I\)を計算。
  2. (5)-(8) 終端速度での落下:
    • 戦略: 「力のつりあい」と「電気回路」の2つの側面から定常状態を記述し、連立させる。
    • フロー: ①「速さ一定」\(\rightarrow\) 力のつりあい。重力成分とローレンツ力成分の式を立て、電流\(I_2\)を求める。②(4)の電流の式に\(v=v_2\)を代入したものと、①で求めた\(I_2\)が等しいとおき、\(v_2\)を解く。③エネルギー計算:\(\Delta E_{\text{力学}} = mg(v_2\sin\theta)\) と \(P_{\text{ジュール}} = I_2^2 R\) をそれぞれ計算し、両者が等しいことを確認。
  3. (9) 電源による静止:
    • 戦略: 「静止」\(\rightarrow\) 力のつりあい。ただし、起電力は0。
    • フロー: ①静止しているので\(v=0\)、よって誘導起電力も0。②回路は\(E\)と\(R\)のみ。電流\(I_3=E/R\)。③力のつりあいの式(重力成分=ローレンツ力成分)に\(I_3\)を代入し、\(E\)を解く。
  4. (10) 電源による等速上昇:
    • 戦略: 「等速上昇」\(\rightarrow\) 力のつりあい。ただし、誘導起電力が電源と逆向きに発生。
    • フロー: ①速さ\(u\)で上昇しているので、誘導起電力\(V_4=uBl\cos\theta\)が発生。②キルヒホッフの法則より、電流\(I_4 = (V-V_4)/R\)。③力のつりあいの式(ローレンツ力成分=重力成分)に\(I_4\)を代入し、\(u\)について解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の混同に注意: この問題では、速度の成分分解と力の成分分解で\(\sin\theta\)と\(\cos\theta\)が頻出します。どちらにどちらを使うか、その都度、直角三角形を描いて確認する癖をつけましょう。安易な暗記は間違いのもとです。
  • 文字の多さに惑わされない: \(m, g, B, l, R, \theta\)など多くの文字が登場します。計算過程で文字を書き間違えたり、写し間違えたりしないよう、丁寧に記述します。特に、(6)や(10)の最終的な式の形は複雑なので、分母と分子を間違えないように注意します。
  • 整合性チェックによる検算: (10)で求めた上昇速度\(u\)の式に、(9)で求めた静止電圧\(E\)を代入すると\(u=0\)になるはずです。このような、異なる設問間の関係を用いた整合性チェックは、計算ミスを発見する上で非常に有効な手段です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (7)と(8)の一致: 失われる力学的エネルギーと発生するジュール熱が完全に一致しました。これはエネルギー保存則が成り立つべき物理現象であり、計算の正しさを強く示唆しています。もし一致しなければ、どこかで計算ミスをしている可能性が高いです。
    • (9)と(10)の整合性: (10)で求めた上昇速度\(u\)の式で、電圧\(V\)を(9)で求めた静止電圧\(E\)に置き換えると、\(u=0\)となりました。これは「静止させるための電圧をかけたら、ちょうど上昇速度が0になる」という物理的に当たり前の状況を表しており、(9)と(10)の式が相互に矛盾していないことを示しています。
  • 極限状態を考える:
    • もし抵抗\(R \rightarrow \infty\)(断線)なら、電流は流れず、ローレンツ力も働きません。このとき、棒はただの自由落下(加速度\(g\sin\theta\))をするはずです。(6)の式で\(R \rightarrow \infty\)とすると\(v_2 \rightarrow \infty\)となり、これはいつまでも加速し続ける状況に対応し、妥当です。
    • もし磁場\(B=0\)なら、電磁誘導は一切起きません。これも自由落下と同じです。(6)の式で\(B \rightarrow 0\)とすると、分母が0に近づくので\(v_2 \rightarrow \infty\)となり、これも加速し続ける状況に対応し、妥当です。
    • もし傾斜角\(\theta=0\)(水平)なら、重力は落下させません。\(v_2=0\)となるはずです。(6)の式で\(\theta \rightarrow 0\)とすると\(\sin\theta \rightarrow 0\)なので\(v_2=0\)となり、これも妥当です。

問題134 (高知大 改)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、強さの異なる2つの磁場領域を長方形コイルが一定の速さで通過する際の電磁誘導について、総合的に考察する問題です。コイルの位置に応じてコイルを貫く磁束が変化し、それによって誘導起電力と誘導電流が生じます。この誘導電流が磁場から力を受けるため、コイルの等速運動を維持するには外力が必要です。磁束、電流、力、ジュール熱を各区間で計算し、最終的にエネルギー保存則を確認することが大きな流れとなります。

与えられた条件
  • 磁場領域: \(x=0 \sim 2l\)で強さ\(B\)、\(x=2l \sim 3l\)で強さ\(3B\)。向きは紙面の表から裏。
  • 長方形コイルPQRS: 辺QRの長さ\(l\)、辺PQの長さ\(d\)、抵抗\(R\)。
  • 運動: \(x\)軸正方向に一定の速さ\(v\)で運動。
  • 区間分け: 辺PQのx座標\(x\)により、(ア)\(0 \le x \le l\)、(イ)\(l \le x \le 2l\)、(ウ)\(2l \le x \le 3l\)、(エ)\(3l \le x \le 4l\)の4区間に分ける。
問われていること
  • (1) 全区間における、コイルを貫く磁束\(\Phi\)のグラフ。
  • (2) 各区間における、コイルに流れる電流。
  • (3) 各区間において、コイルが磁場から受ける力の大きさと向き。
  • (4) 全区間でコイルに生じたジュール熱の総量と、外力との関係。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「磁場領域を通過するコイルに生じる電磁誘導」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 磁束の計算 (\(\Phi = BS\)): コイルを貫く磁束を、コイルの位置の関数として正確に計算することが全ての基本です。
  2. ファラデーの電磁誘導の法則 (\(V = -N \frac{d\Phi}{dt}\)): 磁束の時間変化率から誘導起電力を求めます。\( \frac{d\Phi}{dt} = v \frac{d\Phi}{dx} \) の関係が有効です。
  3. ローレンツ力 (\(F=IBl\)): 誘導電流が流れるコイルの各辺が磁場から受ける力を計算し、コイル全体にはたらく合力を求めます。
  4. エネルギー保存則: コイルを等速で動かすために外力がした仕事が、最終的にジュール熱として消費される、というエネルギーの変換関係を理解することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1) コイルの位置\(x\)の関数として、磁場を貫く面積を求め、磁束\(\Phi(x)\)を計算しグラフ化します。
  2. (2) \(\Phi(x)\)の時間変化率から誘導起電力\(V\)を求め、オームの法則で電流\(I\)を計算します。
  3. (3) 電流\(I\)が流れる各辺が磁場から受けるローレンツ力を計算し、コイル全体で合成します。
  4. (4) 各区間で発生するジュール熱を計算して総和を求め、(3)で求めた力に対する外力の仕事と比較し、両者の関係を考察します。

問(1)

思考の道筋とポイント
コイルの位置(辺PQのx座標)に応じて、コイルが磁場を貫く面積がどう変化するかを考えます。磁束は「磁束密度×面積」で計算できます。磁場は2つの領域で強さが異なるため、それぞれの領域内にあるコイルの面積を別々に計算して足し合わせる必要があります。
この設問における重要なポイント

  • 磁束の定義は \(\Phi = BS\) です。
  • コイルのx方向の長さは\(l\)です。
  • (ア) x=0~l: コイルが磁場Bに入っていく過程。
  • (イ) x=l~2l: コイル全体が磁場Bの中に完全に収まっている過程。
  • (ウ) x=2l~3l: コイルが磁場Bから出つつ、同時に磁場3Bに入っていく過程。
  • (エ) x=3l~4l: コイルが磁場3Bから出ていく過程。

具体的な解説と立式
コイルを貫く磁束\(\Phi(x)\)を、辺PQのx座標\(x\)の関数として各区間で求めます。紙面の表から裏に向かう向きを正とします。

  • (ア) 区間 \(0 \le x \le l\):
    磁場Bの領域に、幅\(x\)、高さ\(d\)の部分が入っています。
    $$ \Phi(x) = B \times (d \cdot x) = Bdx $$
  • (イ) 区間 \(l \le x \le 2l\):
    コイル全体が磁場Bの領域に完全に入っています。磁場を貫く面積は \(d \cdot l\) で一定です。
    $$ \Phi(x) = B \times (d \cdot l) = Bdl $$
  • (ウ) 区間 \(2l \le x \le 3l\):
    コイルの一部が磁場Bの領域に、残りが磁場3Bの領域にあります。
    磁場Bの領域にある部分の幅は \(2l – (x-l) = 3l-x\)。
    磁場3Bの領域にある部分の幅は \(x-2l\)。
    $$ \Phi(x) = B \cdot d \cdot (3l-x) + 3B \cdot d \cdot (x-2l) $$
  • (エ) 区間 \(3l \le x \le 4l\):
    コイルは磁場3Bの領域から出ていきます。
    磁場3Bの領域にある部分の幅は \(3l – (x-l) = 4l-x\)。
    $$ \Phi(x) = 3B \cdot d \cdot (4l-x) $$

使用した物理公式

  • 磁束: \(\Phi = BS\)
計算過程

区間(ウ)の磁束の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
\Phi(x) &= Bd(3l-x) + 3Bd(x-2l) \\[2.0ex]&= 3Bdl – Bdx + 3Bdx – 6Bdl \\[2.0ex]&= 2Bdx – 3Bdl
\end{aligned}
$$
各区間の境界での値を確認します。

  • \(x=0\): \(\Phi(0) = 0\)
  • \(x=l\): \(\Phi(l) = Bdl\)
  • \(x=2l\): \(\Phi(2l) = Bdl\)
  • \(x=3l\): \(\Phi(3l) = 2Bd(3l) – 3Bdl = 3Bdl\)
  • \(x=4l\): \(\Phi(4l) = 3Bd(4l-4l) = 0\)

これらの値を元にグラフを描くと、(0, 0) → (l, Bdl) → (2l, Bdl) → (3l, 3Bdl) → (4l, 0) を結ぶ折れ線グラフになります。

計算方法の平易な説明

コイルが磁場を横切る旅を4つのステージに分けて考えます。各ステージで、コイルのうちどれだけの面積が磁場の中にあるかを計算します。磁場が2種類あるステージ(ウ)では、それぞれの磁場にかかっている面積を別々に計算して足し合わせます。こうして求めた磁束の値をx座標に対してプロットすると、折れ線グラフが完成します。

結論と吟味

計算結果に基づき、図2にグラフを描きます。x=0からlまでは直線的に増加、lから2lは一定、2lから3lは傾きがより急な直線で増加、3lから4lは直線的に減少して0になる折れ線グラフとなります。各区間での磁束の変化が正しく反映されており、妥当なグラフです。

解答 (1) (0, 0), (l, Bdl), (2l, Bdl), (3l, 3Bdl), (4l, 0) を結ぶ折れ線グラフ。

問(2)

思考の道筋とポイント
ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -\frac{d\Phi}{dt}\) を用いて各区間の誘導起電力を求めます。磁束\(\Phi\)はxの関数として求まっているので、\( \frac{d\Phi}{dt} = \frac{d\Phi}{dx} \frac{dx}{dt} = v \frac{d\Phi}{dx} \) の関係を使うと便利です。求めた起電力Vを抵抗Rで割って電流Iを求めます。電流の向き(符号)はレンツの法則、または起電力Vの符号から判断します。
この設問における重要なポイント

  • 誘導起電力は \(V = -v \frac{d\Phi}{dx}\) で計算できます。
  • 電流はオームの法則 \(I = \frac{V}{R}\) で求まります。
  • 電流の正の向きはP→Qと定義されています。
  • \(\frac{d\Phi}{dx}\)は、(1)で考えた\(\Phi(x)\)のグラフの傾きに相当します。

具体的な解説と立式
各区間での誘導起電力\(V\)と電流\(I\)を求めます。起電力の向きは、P→Qを正とします。

  • (ア) 区間 \(0 \le x \le l\):
    \(\Phi(x) = Bdx\) より \(\frac{d\Phi}{dx} = Bd\)。
    裏向きの磁束が増加するため、レンツの法則により表向きの磁場を作る反時計回りの電流(P→Q向き)が流れます。したがって、起電力は正の向きに生じます。
    $$ V = v \left| \frac{d\Phi}{dx} \right| = v(Bd) = Bdv $$
    $$ I = \frac{V}{R} = \frac{Bdv}{R} $$
  • (イ) 区間 \(l \le x \le 2l\):
    \(\Phi(x) = Bdl\) (定数) より \(\frac{d\Phi}{dx} = 0\)。
    $$ V = 0 $$
    $$ I = 0 $$
  • (ウ) 区間 \(2l \le x \le 3l\):
    \(\Phi(x) = 2Bdx – 3Bdl\) より \(\frac{d\Phi}{dx} = 2Bd\)。
    磁束は増加しているので、(ア)と同様にP→Q向きの電流が流れます。
    $$ V = v \left| \frac{d\Phi}{dx} \right| = v(2Bd) = 2Bdv $$
    $$ I = \frac{V}{R} = \frac{2Bdv}{R} $$
  • (エ) 区間 \(3l \le x \le 4l\):
    \(\Phi(x) = 3Bd(4l-x)\) より \(\frac{d\Phi}{dx} = -3Bd\)。
    裏向きの磁束が減少するため、レンツの法則により裏向きの磁場を強める時計回りの電流(Q→P向き)が流れます。したがって、電流は負となります。
    $$ V = v \left| \frac{d\Phi}{dx} \right| = v|-3Bd| = 3Bdv $$
    $$ I = -\frac{V}{R} = -\frac{3Bdv}{R} $$

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = -N\frac{d\Phi}{dt}\)
  • オームの法則: \(I = V/R\)
計算方法の平易な説明

コイルを貫く磁力線の本数が変化するスピード(磁束の変化率)に比例して電圧が発生します。(1)のグラフの「傾き」が、この変化のスピードを表します。傾きが急なほど大きな電圧が生まれ、傾きが0なら電圧も0です。発生した電圧をコイルの抵抗で割れば、流れる電流がわかります。電流の向きは、磁束の変化を邪魔する向き、というレンツの法則で決まります。

結論と吟味

各区間の電流は以下の通りです。
(ア) \(I = \displaystyle\frac{Bdv}{R}\)
(イ) \(I = 0\)
(ウ) \(I = \displaystyle\frac{2Bdv}{R}\)
(エ) \(I = -\displaystyle\frac{3Bdv}{R}\)
磁束の変化率に応じて電流の大きさが変わり、磁束の増減によって電流の向きが変わるという、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) (ア)\(\displaystyle\frac{Bdv}{R}\), (イ)0, (ウ)\(\displaystyle\frac{2Bdv}{R}\), (エ)\(-\displaystyle\frac{3Bdv}{R}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
電流が流れる導線が磁場から受ける力(ローレンツ力)を計算します。公式は \(F=IBl\)。コイルの辺QRとSPに働く力は、常に互いに逆向きで同じ大きさなので打ち消し合います。したがって、磁場中にある辺PQと辺RSに働く力だけを考え、それらをベクトル的に合成すればよいです。
この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力の公式は \(F=IdB\) (辺の長さはd)。
  • 力の向きはフレミングの左手の法則で決定します。
  • 各辺がどの強さの磁場の中にあるかに注意して計算します。

具体的な解説と立式
各区間でコイルにはたらく力の大きさと向きを求めます。

  • (ア) 区間 \(0 \le x \le l\):
    辺PQのみが磁場Bの中にあります。電流は \(I = \frac{Bdv}{R}\) (P→Q)。フレミングの左手の法則より、力はx軸負の向きに働きます。
    $$ F = I d B $$
  • (イ) 区間 \(l \le x \le 2l\):
    電流が0なので、コイルにはたらく力も0です。
    $$ F = 0 $$
  • (ウ) 区間 \(2l \le x \le 3l\):
    辺PQは磁場3Bの中、辺RSは磁場Bの中にあります。電流は \(I = \frac{2Bdv}{R}\) (P→Q、RSではR→S)。
    辺PQにはたらく力 \(F_{\text{PQ}}\) は、\(I d (3B)\) でx軸負の向き。
    辺RSにはたらく力 \(F_{\text{RS}}\) は、\(I d B\) でx軸正の向き。
    合力 \(F\) は、x軸負の向きを正とすると、
    $$ F = F_{\text{PQ}} – F_{\text{RS}} = I d (3B) – I d B = 2IdB $$
  • (エ) 区間 \(3l \le x \le 4l\):
    辺RSのみが磁場3Bの中にあります。電流は \(I = -\frac{3Bdv}{R}\) (Q→P、RSではS→R)。フレミングの左手の法則より、力はx軸負の向きに働きます。
    $$ F = |I| d (3B) $$

使用した物理公式

  • ローレンツ力: \(F=IBl\)
計算過程

各区間の力の大きさを、(2)で求めた電流\(I\)を代入して計算します。

  • (ア)
    $$
    \begin{aligned}
    F &= I d B = \left(\frac{Bdv}{R}\right) d B = \frac{B^2d^2v}{R}
    \end{aligned}
    $$
  • (ウ)
    $$
    \begin{aligned}
    F &= 2IdB = 2\left(\frac{2Bdv}{R}\right)dB = \frac{4B^2d^2v}{R}
    \end{aligned}
    $$
  • (エ)
    $$
    \begin{aligned}
    F &= |I| d (3B) = \left(\frac{3Bdv}{R}\right) d (3B) = \frac{9B^2d^2v}{R}
    \end{aligned}
    $$
計算方法の平易な説明

コイルに電流が流れると、磁石と反発したり引き合ったりするのと同じように、磁場から力を受けます。この力の向きはフレミングの左手の法則で、大きさは「電流×辺の長さ×磁場の強さ」で決まります。コイルの各辺が受ける力を計算し、足し合わせることで、コイル全体に働く力がわかります。

結論と吟味

(ア) 大きさ \(\displaystyle\frac{B^2d^2v}{R}\)、向き x軸負の向き。
(イ) 大きさ 0 N。
(ウ) 大きさ \(\displaystyle\frac{4B^2d^2v}{R}\)、向き x軸負の向き。
(エ) 大きさ \(\displaystyle\frac{9B^2d^2v}{R}\)、向き x軸負の向き。
全てコイルの運動を妨げる向きの力(ブレーキ力)となっており、物理的に妥当です。

解答 (3) (ア)大きさ\(\frac{B^2d^2v}{R}\),向きx軸負 (イ)0N (ウ)大きさ\(\frac{4B^2d^2v}{R}\),向きx軸負 (エ)大きさ\(\frac{9B^2d^2v}{R}\),向きx軸負

問(4)

思考の道筋とポイント
まず、各区間で発生するジュール熱を計算します。ジュール熱は \(Q = I^2 R t\)。各区間を通過するのにかかる時間は \(t = l/v\) で一定です。次に、外力のした仕事を計算します。コイルは一定の速さで動いているので、外力は磁場から受ける力と大きさが等しく逆向きです。仕事は \(W = F_{\text{外}} \times (\text{距離})\)。最後に、ジュール熱の総量と外力の仕事の総量を比較し、その関係を述べます。
この設問における重要なポイント

  • ジュール熱の公式は \(Q = I^2Rt\)。
  • 各区間の通過時間は \(t = l/v\)。
  • 外力の仕事は \(W = F_{\text{磁場}} \times l\)。
  • エネルギー保存則: \(W_{\text{外}} = Q_{\text{ジュール}}\)。

具体的な解説と立式
各区間で発生するジュール熱 \(Q = I^2 R (l/v)\) を計算し、その総量を求めます。

  • (ア) \(Q_{\text{ア}} = \left(\frac{Bdv}{R}\right)^2 R \frac{l}{v}\)
  • (イ) \(Q_{\text{イ}} = 0\)
  • (ウ) \(Q_{\text{ウ}} = \left(\frac{2Bdv}{R}\right)^2 R \frac{l}{v}\)
  • (エ) \(Q_{\text{エ}} = \left(-\frac{3Bdv}{R}\right)^2 R \frac{l}{v}\)

ジュール熱の総量は \(Q_{\text{総量}} = Q_{\text{ア}} + Q_{\text{イ}} + Q_{\text{ウ}} + Q_{\text{エ}}\) です。

使用した物理公式

  • ジュール熱: \(Q = I^2Rt\)
  • 仕事: \(W = Fx\)
  • エネルギー保存則
計算過程

各区間のジュール熱を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{ア}} &= \frac{B^2d^2v^2}{R^2} R \frac{l}{v} = \frac{B^2d^2vl}{R} \\[2.0ex]Q_{\text{ウ}} &= \frac{4B^2d^2v^2}{R^2} R \frac{l}{v} = \frac{4B^2d^2vl}{R} \\[2.0ex]Q_{\text{エ}} &= \frac{9B^2d^2v^2}{R^2} R \frac{l}{v} = \frac{9B^2d^2vl}{R}
\end{aligned}
$$
ジュール熱の総量は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{総量}} &= \frac{B^2d^2vl}{R} + 0 + \frac{4B^2d^2vl}{R} + \frac{9B^2d^2vl}{R} \\[2.0ex]&= (1+4+9) \frac{B^2d^2vl}{R} \\[2.0ex]&= \frac{14B^2d^2vl}{R}
\end{aligned}
$$
一方、外力のした仕事の総量は、(3)で求めた各区間の力に距離\(l\)を掛けて足し合わせたものに等しく、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{総量}} &= \left(\frac{B^2d^2v}{R}\right)l + 0 + \left(\frac{4B^2d^2v}{R}\right)l + \left(\frac{9B^2d^2v}{R}\right)l \\[2.0ex]&= \frac{14B^2d^2vl}{R}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

コイルに電流が流れると抵抗で熱が発生します。各ステージで発生する熱を計算し、全部足し合わせます。一方、コイルは磁場からブレーキをかけられながらも一定の速さで進むので、誰かが「押し」続けなければなりません。この「押す力(外力)」がした仕事の総量も計算します。すると、発生した熱の総量と、外力がした仕事の総量がぴったり一致することがわかります。

結論と吟味

ジュール熱の総量は \(\displaystyle\frac{14B^2d^2vl}{R}\) です。
関係:コイルに生じたジュール熱の総量は、コイルの速さを一定に保つために作用させた外力のした仕事と等しい。
これは、コイルが等速直線運動をしているため運動エネルギーが変化せず、外力が供給したエネルギーがすべてジュール熱として消費されたことを示すエネルギー保存則の現れであり、物理的に正しい関係です。

解答 (4) 総量:\(\displaystyle\frac{14B^2d^2vl}{R}\)。関係:ジュール熱の総量は外力のした仕事に等しい。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 磁束の計算 (\(\Phi = BS\)) とその変化:
    • 核心: この問題の全ての現象の根源は、コイルが動くことでコイルを貫く磁束\(\Phi\)が変化することにあります。特に、磁場の強さが異なる領域をまたぐ区間(ウ)で、各領域からの寄与を正しく足し合わせ、\(\Phi\)をコイルの位置\(x\)の関数として正確に表現することが最も重要です。
    • 理解のポイント: (1)の\(\Phi-x\)グラフは、この問題全体の設計図です。グラフの「値」そのものよりも、その「傾き」が誘導起電力の大きさを、「傾きの符号」が起電力の向きを決定するという関係性を理解することが核心です。
  • ファラデーの電磁誘導の法則 (\(V = -d\Phi/dt\)):
    • 核心: 磁束の変化という磁気的な現象を、誘導起電力という電気的な現象に結びつける法則です。コイルが一定の速さ\(v\)で動く場合、\(d\Phi/dt = (d\Phi/dx)(dx/dt) = v(d\Phi/dx)\)という関係式を用いて、空間的な変化(\(d\Phi/dx\))を時間的な変化(\(d\Phi/dt\))に変換するテクニックが鍵となります。
    • 理解のポイント: \(\Phi-x\)グラフの傾きが急な区間ほど、大きな誘導起電力が生じます。傾きが0の区間(イ)では起電力も0になります。
  • ローレンツ力 (\(F=IBl\)) と力の合成:
    • 核心: 誘導電流が流れることで、コイルは磁場から力を受けます。この力がコイルの運動を妨げる「電磁ブレーキ」として作用します。コイルの各辺が受ける力をフレミングの左手の法則で求め、ベクトル的に合成してコイル全体にはたらく力を計算する能力が問われます。
    • 理解のポイント: 区間(ウ)では、辺PQと辺RSが異なる強さの磁場から逆向きの力を受けるため、その差が合力となります。この力の計算が正確にできるかがポイントです。
  • エネルギー保存則 (\(W_{\text{外力}} = Q_{\text{ジュール熱}}\)):
    • 核心: コイルは「一定の速さ」で運動しているため、運動エネルギーは変化しません。この条件下では、電磁ブレーキに逆らってコイルを動かすために外力がした仕事は、どこにも消えず、すべてジュール熱として回路内で消費されます。
    • 理解のポイント: (4)で問われているのは、このエネルギー保存則そのものです。外力の仕事とジュール熱を別々に計算し、両者が等しくなることを示すことで、解答全体の妥当性を検証できます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 磁場の向きが逆の領域: 磁場が\(B\)の領域と\(-B\)の領域を通過する問題。コイルが領域をまたぐ際に、両辺からの誘導起電力が足し合わされ、非常に大きな電流が流れる可能性があります。
    • コイルの回転運動: 一様な磁場中でコイルを回転させる発電機の問題。コイルを貫く磁束が\(\Phi = BS\cos(\omega t)\)のように周期的に変化するため、交流電流が発生します。
    • 自己インダクタンスを含む場合: コイル自身の抵抗だけでなく、自己インダクタンス\(L\)を考慮する問題。誘導起電力は\(V = -d\Phi/dt – L(dI/dt)\)となり、電流が急に変化できなくなります(過渡現象)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. \(\Phi-x\)グラフをまず描く: 問題で問われていなくても、まず最初にコイルの位置\(x\)に対する磁束\(\Phi\)のグラフを描くことが最善手です。このグラフさえ正確に描ければ、
      • グラフの傾き \(\rightarrow\) 誘導起電力 \(V\)
      • \(V/R\) \(\rightarrow\) 電流 \(I\)
      • \(I\)と\(B\) \(\rightarrow\) ローレンツ力 \(F\)
      • \(I^2R\) \(\rightarrow\) ジュール熱 \(P\)

      というように、全ての物理量を芋づる式に導出できます。

    2. 区間の変わり目に注目する: コイルが磁場に入るとき、完全に入っているとき、領域をまたぐとき、出ていくときで、物理現象が質的に変化します。各区間の「境界」(\(x=l, 2l, 3l\))で何が起こるかを意識して、区間ごとに丁寧に立式することが重要です。
    3. 力の向きを慎重に判断する: 電流の向き(レンツの法則)と力の向き(フレミングの左手の法則)は間違いやすいポイントです。特に複数の辺が力を受ける場合は、各辺について個別に力の向きを図示し、それらを合成するプロセスを省略しないようにしましょう。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 磁束の計算ミス:
    • 誤解: 区間(ウ)で、コイル全体が磁場の中にあるからと、単純な計算をしてしまう。
    • 対策: 磁場の強さが異なる領域をまたぐ場合は、必ず「領域A内の面積×磁場A」+「領域B内の面積×磁場B」のように、各領域からの寄与を分けて計算し、最後に足し合わせるという原則を徹底します。
  • 電流の向き(符号)の間違い:
    • 誤解: 磁束が増えても減っても同じ向きに電流が流れると勘違いする。
    • 対策: レンツの法則「変化を妨げる向き」を正確に適用します。「磁束が増加するなら、それを打ち消す向きの磁場を作る電流」「磁束が減少するなら、それを補う向きの磁場を作る電流」と、二つのパターンを明確に区別します。これは\(\Phi-x\)グラフの傾きの符号に対応します(傾きが正なら逆向きの起電力、負なら同じ向きの起電力)。
  • 力の合成ミス:
    • 誤解: 区間(ウ)で、辺PQとRSに働く力を単純に足してしまう。
    • 対策: 力はベクトルです。必ず向きを考慮して合成します。フレミングの左手の法則から、辺PQに働く力と辺RSに働く力は逆向きになるため、合力は力の大きさの「差」になります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • \(\Phi-x\)グラフの活用: (1)で描いた\(\Phi-x\)グラフは、単なる答えではありません。このグラフから他の物理量を導出する「マスターチャート」として活用します。
      • \(V-x\)グラフ: \(\Phi-x\)グラフの各区間の「傾き」をプロットしたものになります(符号は逆転)。
      • \(I-x\)グラフ: \(V-x\)グラフを抵抗\(R\)で割ったもの。形は同じです。
      • \(F-x\)グラフ: \(I-x\)グラフに磁場や辺の長さを掛け合わせたもの。力の働く辺や磁場の強さが区間ごとに違うため、形は少し複雑になります。

      このように、一つのグラフから次々と別の物理量のグラフを導出する練習は、現象の連関を理解する上で非常に有効です。

    • 力の矢印の図示: コイルの図に、各辺に流れる電流の向きと、それによって生じるローレンツ力の向きを、区間ごとに描き込むと、力の合成の計算ミスを防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(\Phi = BS\) (磁束):
    • 選定理由: (1)で、電磁誘導の根本原因である磁束を定義・計算するため。
    • 適用根拠: 磁場が一様である各領域において、面積に磁束密度を掛けることで磁束が定義されます。
  • \(V = -v(d\Phi/dx)\) (誘導起電力):
    • 選定理由: (2)で、磁束の空間的な変化を、コイルの運動を通じて起電力に変換するため。
    • 適用根拠: ファラデーの法則 \(V=-d\Phi/dt\) と、等速運動の条件 \(dx=vdt\) を組み合わせた、この種の問題で非常に便利な公式です。
  • \(F = IdB\) (ローレンツ力):
    • 選定理由: (3)で、回路に流れる電流がコイルに及ぼす力学的な影響を計算するため。
    • 適用根拠: 磁場中で電流が流れる導線の辺に力が働くという、基本的な物理法則です。
  • \(Q = I^2Rt\) (ジュール熱) と \(W = Fl\) (仕事):
    • 選定理由: (4)で、エネルギーの変換と保存を定量的に議論するため。
    • 適用根拠: 外力がした仕事が、コイルの運動エネルギーを変化させず、すべてジュール熱に変換されるというエネルギー保存則に基づいています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 磁束の計算:
    • 戦略: コイルの位置\(x\)で場合分けし、各区間での磁場内の面積を計算する。
    • フロー: ①(ア)入る途中 ②(イ)完全に入る ③(ウ)領域をまたぐ ④(エ)出る途中、の4区間で\(\Phi(x)\)を立式し、グラフを描く。
  2. (2) 電流の計算:
    • 戦略: \(\Phi-x\)グラフの傾きから起電力を求め、オームの法則を適用する。
    • フロー: ①各区間で\(\Phi(x)\)を\(x\)で微分して傾き\(d\Phi/dx\)を求める。②\(V = v|d\Phi/dx|\)で起電力の大きさを計算。③\(I=V/R\)で電流の大きさを計算。④レンツの法則で電流の向き(符号)を決定。
  3. (3) ローレンツ力の計算:
    • 戦略: 電流が流れる各辺にはたらく力を計算し、ベクトル的に合成する。
    • フロー: ①各区間で、辺PQとRSがどの磁場にあるか確認。②フレミングの左手の法則で力の向きを判断。③\(F=IdB\)で力の大きさを計算し、合力を求める。
  4. (4) エネルギーの計算と比較:
    • 戦略: ジュール熱の総量と外力の仕事の総量をそれぞれ計算し、比較する。
    • フロー: ①各区間の通過時間 \(t=l/v\) を用いて、ジュール熱 \(Q=I^2Rt\) を計算し、合計する。②各区間の外力(=\(F_{\text{磁場}}\))に距離\(l\)を掛けて仕事を計算し、合計する。③両者が等しいことを述べ、エネルギー保存則との関係を説明する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位と文字の確認: 問題文で与えられている文字(\(B, l, d, v, R\))を正確に使い、計算途中で混同しないように注意します。特に\(l\)(コイルの長さ)と\(d\)(コイルの幅)の使い分けに気をつけましょう。
  • 符号の管理: 電流や力の向きを「正負」で管理する場合、最初にどちらの向きを正とするかを明確に定義し、最後まで一貫して使うことが重要です。レンツの法則やフレミングの法則を適用するたびに、この定義に立ち返って符号を決定します。
  • 区間ごとの整理: (ア)〜(エ)の各区間で計算した物理量(\(\Phi, V, I, F, Q\))を表にまとめると、全体像が整理され、計算ミスや見落としを防ぐのに役立ちます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 力の向き: (3)で計算した力は、全ての区間でコイルの運動を妨げる向き(x軸負の向き)になりました。これは電磁誘導におけるレンツの法則の力学的な現れ(電磁ブレーキ)であり、物理的に正しい結果です。もし運動を助ける向きの力が出てきたら、計算ミスを疑うべきです。
    • (4)のエネルギー保存則: 外力がした仕事と発生したジュール熱が完全に一致したことは、計算の正しさを強く裏付けるものです。この関係が成り立たない場合、(2)の電流か(3)の力の計算、あるいは(4)のエネルギー計算のどこかに間違いがある可能性が高いです。
  • グラフの連続性:
    • (1)で描いた\(\Phi-x\)グラフは、連続的な折れ線グラフになりました。磁束が突然ジャンプすることはないので、これは物理的に妥当です。もしグラフが途切れていたら、区間の境界での計算が間違っている可能性があります。
    • 一方、\(\Phi-x\)グラフの「傾き」は区間の境界で不連続に変化するため、誘導起電力\(V\)や電流\(I\)は、境界で値がジャンプする不連続なグラフになります。これも物理的に正しい振る舞いです。

問題135 (新潟大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、磁場の強さが場所によって直線的に変化する領域を、正方形のコイルが滑り落ちる際の電磁誘導に関する総合問題です。コイルに生じる誘導起電力、電流、電磁力、そして運動やエネルギー保存則との関係を段階的に解き明かしていきます。

与えられた条件
  • コイル: 質量 \(m\)、電気抵抗 \(R\)、一辺の長さ \(d\) の正方形コイル
  • 斜面: 水平面との角度 \(\theta\)
  • 磁場: 斜面上の \(x \ge 0\) の領域に、面に垂直上向きに存在。磁束密度の大きさは \(B=kx\) で、位置 \(x\) に比例する(\(k\) は正の定数)。
  • 初期条件: 辺ABが \(x=0\)、辺CDが \(x=d\) の位置から静かに放す。
  • 運動中の状態: 辺ABが位置 \(x\) にあり、速さ \(v\) で運動している。
  • 無視する要素: 自己インダクタンス、摩擦力。
  • 定数: 重力加速度の大きさ \(g\)。
問われていること
  • (1) 辺ABに生じる誘導起電力 \(V_1\) の大きさと、電位が高い端。
  • (2) コイル全体に生じる誘導起電力 \(V\) の大きさ。
  • (3) コイルを流れる電流 \(I\) の大きさと向き。
  • (4) コイルが磁場から受ける力 \(F\) の大きさ。
  • (5) コイルの加速度 \(a\) の大きさ。
  • (6) 動き出してからその瞬間までに発生したジュール熱 \(Q\)。
  • (7) コイルが達する一定の速さ(終端速度) \(v_{\text{f}}\)。
  • (8) 終端速度で運動中に、単位時間あたりに発生するジュール熱 \(P_{\text{J}}\) と、単位時間あたりに失う位置エネルギー \(E_{\text{f}}\) を計算し、両者が等しくなることを示すこと。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「空間的に変化する磁場中での電磁誘導と力学」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 導体棒の誘導起電力: 磁場を横切る導体に生じる誘導起電力の公式 \(V=vBl\) を正しく適用すること。
  2. レンツの法則とフレミングの法則: 誘導起電力・電流の向き、そして電磁力の向きを正確に決定すること。
  3. 運動方程式: コイルに働く力(重力、電磁力)をすべて考慮し、運動の状態を記述すること。
  4. エネルギー保存則: 力学的エネルギー(位置エネルギー、運動エネルギー)と、非保存力である電磁力の仕事(ジュール熱)との間のエネルギー変換関係を理解すること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、コイルの各辺に生じる誘導起電力を、公式 \(V=vBl\) を用いて計算します。磁場が位置によって異なるため、辺ABと辺CDで起電力の大きさが異なる点に注意します(問1, 2)。
  2. 次に、回路全体の起電力と抵抗から、オームの法則を用いて電流を求めます(問3)。
  3. 求めた電流を使い、公式 \(F=IBL\) を用いて各辺に働く電磁力を計算し、それらを合成します(問4)。
  4. コイルに働く重力と電磁力を考慮して運動方程式を立て、加速度を求めます(問5)。
  5. エネルギー保存則を用いて、力学的エネルギーの減少分が発生したジュール熱に等しいとして計算します(問6)。
  6. 最後に、終端速度の条件(加速度が0、力がつり合う)を用いて、そのときの速さとエネルギーの関係を解析します(問7, 8)。

問(1)

思考の道筋とポイント
磁場を垂直に横切る導体棒に生じる誘導起電力の公式 \(V=vBl\) を適用します。この問題では、磁束密度 \(B\) が辺ABの位置 \(x\) の関数である \(B=kx\) となる点に注意が必要です。起電力によってどちらの端の電位が高くなるかは、レンツの法則(またはフレミングの右手の法則)を用いて判断します。
この設問における重要なポイント

  • 誘導起電力の公式: \(V=vBl\)
  • レンツの法則: 誘導電流は、コイルを貫く磁束の変化を妨げる向きに流れる。この誘導電流を流すような向きに起電力が生じる。
  • 磁束密度が位置に依存すること: \(B=kx\)

具体的な解説と立式
辺ABは、斜面に沿って速さ \(v\) で運動しており、磁場を垂直に横切っています。辺ABの位置は \(x\) なので、この位置における磁束密度の大きさ \(B_{\text{AB}}\) は、与えられた式 \(B=kx\) より、
$$ B_{\text{AB}} = kx $$
辺ABの長さは \(d\) なので、誘導起電力の公式 \(V=vBl\) を用いると、辺ABに生じる誘導起電力の大きさ \(V_1\) は、
$$ V_1 = v B_{\text{AB}} d $$
次に、電位の向きを考えます。コイルが斜面を下る(\(x\) が増加する)と、コイルを貫く上向きの磁束が増加します。レンツの法則によれば、誘導電流はこの磁束の増加を妨げる向き、すなわち下向きの磁場を作るような向きに流れます。右ねじの法則を適用すると、このような電流は B→A の向きに流れます。電流を流す源である起電力は、電流を低い電位から高い電位へと流すので、辺ABは端Aの方が端Bよりも電位が高い電池とみなせます。

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V=vBl\)
  • レンツの法則
計算過程

$$
\begin{aligned}
V_1 &= v B_{\text{AB}} d \\[2.0ex]&= v (kx) d \\[2.0ex]&= vkxd
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

導体棒が磁場を横切ると、電圧(誘導起電力)が発生します。その大きさは「速さ × 磁場の強さ × 棒の長さ」というシンプルな掛け算で求まります。この問題では、辺ABがある場所の磁場の強さが \(kx\) なので、これに速さ \(v\) と辺の長さ \(d\) を掛けるだけです。電位の向きは、コイルの運動を邪魔する方向に電流が流れるように決まる、と考えると分かりやすいです。

結論と吟味

辺ABに生じる誘導起電力の大きさは \(V_1 = vkxd\) であり、電位が高いのは端Aです。

解答 (1) 大きさ: \(vkxd\), 電位が高い端: A

問(2)

思考の道筋とポイント
コイル全体を一つの閉回路と見なして、回路に生じる正味の誘導起電力を求めます。辺CDにも辺ABと同様に誘導起電力が生じますが、辺CDは異なる位置にあるため磁場の強さが異なり、起電力の大きさも異なります。辺BCと辺ADは運動方向が辺の向きと平行であり、磁場を横切らないため起電力は生じません。コイル全体の起電力は、辺ABと辺CDに生じる起電力の合成によって決まります。
この設問における重要なポイント

  • 回路全体の起電力は、各部分の起電力の向きを考慮した和(代数和)で求められる。
  • 辺CDの位置は \(x+d\) であり、磁束密度も異なる。

具体的な解説と立式
辺CDは、辺ABから斜面下方に距離 \(d\) だけ離れているので、その位置は \(x+d\) となります。この位置における磁束密度の大きさ \(B_{\text{CD}}\) は、
$$ B_{\text{CD}} = k(x+d) $$
辺CDも速さ \(v\) で運動しているため、ここに生じる誘導起電力の大きさ \(V_2\) は、
$$ V_2 = v B_{\text{CD}} d $$
この起電力の向きもレンツの法則から、端Dの方が端Cよりも電位が高くなる向きです。
コイルを A→B→C→D→A という一つの閉回路として考えると、辺ABの起電力 \(V_1\) はB→Aの向きに電位を上げ、辺CDの起電力 \(V_2\) はC→Dの向きに電位を上げます。これは、二つの電池が逆向きに接続されているのと同じ状況です。
磁束密度は \(x\) が大きいほど大きいので、\(B_{\text{CD}} > B_{\text{AB}}\) であり、したがって \(V_2 > V_1\) となります。コイル全体の起電力 \(V\) の大きさは、これらの差として求められます。
$$ V = V_2 – V_1 $$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V=vBl\)
  • キルヒホッフの第2法則(起電力の合成)
計算過程

まず \(V_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= v B_{\text{CD}} d \\[2.0ex]&= v k(x+d) d
\end{aligned}
$$
次に、全体の起電力 \(V\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
V &= V_2 – V_1 \\[2.0ex]&= vk(x+d)d – vkxd \\[2.0ex]&= (vkxd + vkd^2) – vkxd \\[2.0ex]&= vkd^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

コイルの辺ABと辺CDは、それぞれが独立した電池のように振る舞います。ただし、磁場の強さが違うため、発生する電圧の大きさが異なります。回路全体で見ると、この二つの電池が互いに逆向きに押し合う形になっています。したがって、回路全体に現れる正味の電圧は、二つの電圧の「引き算」で求まります。

結論と吟味

コイルに生じる誘導起電力の大きさは \(V = vkd^2\) です。興味深いことに、この起電力の大きさはコイルの位置 \(x\) には依存せず、速さ \(v\) にのみ比例します。

解答 (2) \(vkd^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で求めたコイル全体の起電力 \(V\) と、コイルが持つ電気抵抗 \(R\) を使って、オームの法則から回路を流れる電流の大きさを求めます。電流の向きは、合成された正味の起電力の向き、つまり起電力の大きい \(V_2\) が電流を流そうとする向きと一致します。
この設問における重要なポイント

  • オームの法則: \(I = V/R\)
  • 電流の向きは、回路全体の正味の起電力の向き(電位が上がる向き)と一致する。

具体的な解説と立式
コイルは、抵抗値 \(R\) を持つ閉回路と見なせます。この回路には、(2)で求めた大きさ \(V=vkd^2\) の正味の起電力が存在します。オームの法則を適用すると、コイルを流れる電流の大きさ \(I\) は、
$$ I = \frac{V}{R} $$
電流の向きについては、(2)で考察したように、起電力の大きい \(V_2\) の向きが優勢となります。\(V_2\) はD→Cの向きに電流を流そうとするため、回路全体では D→C→B→A の閉じたループを描くように電流が流れます。したがって、問題で問われている辺ABの部分では、A→Bの向きに電流が流れます。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(I = V/R\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
I &= \frac{V}{R} \\[2.0ex]&= \frac{vkd^2}{R}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

回路に流れる電流の大きさは、電圧を抵抗で割ることで計算できます。これはおなじみのオームの法則です。(2)で計算した回路全体の電圧 \(V\) を、コイルの抵抗 \(R\) で割るだけで答えが求まります。電流の向きは、電圧の大きい方の電池が勝って決まる向きになります。

結論と吟味

コイルを流れる電流の大きさは \(I = \displaystyle\frac{vkd^2}{R}\) で、その向きは A→B です。

解答 (3) 大きさ: \(\displaystyle\frac{vkd^2}{R}\), 向き: A→B

問(4)

思考の道筋とポイント
電流が流れる導線が磁場から受ける力(電磁力)を計算します。公式 \(F=IBL\) を、電流が流れる辺ABと辺CDのそれぞれに適用します。力の向きはフレミングの左手の法則で決定します。コイル全体に働く力は、これらの力のベクトル和となります。辺BCと辺ADに働く力は、電流の向きと辺の向きが同じため、互いに逆向きで同じ大きさとなり打ち消し合います。
この設問における重要なポイント

  • 電磁力の公式: \(F=IBL\)
  • 力の向きの決定: フレミングの左手の法則
  • コイル全体に働く力は、各部分に働く力のベクトル和である。

具体的な解説と立式
(3)で求めた電流 \(I\) が流れる辺ABと辺CDが、それぞれ磁場から力を受けます。
辺ABに働く力の大きさ \(F_{\text{AB}}\) は、位置 \(x\) での磁束密度 \(B_{\text{AB}}=kx\) を用いて、
$$ F_{\text{AB}} = I B_{\text{AB}} d $$
フレミングの左手の法則を適用します。電流の向き(A→B)と磁場の向き(斜面垂直上向き)から、力の向きは \(x\) 軸の正の向き(斜面下向き)となります。
同様に、辺CDに働く力の大きさ \(F_{\text{CD}}\) は、位置 \(x+d\) での磁束密度 \(B_{\text{CD}}=k(x+d)\) を用いて、
$$ F_{\text{CD}} = I B_{\text{CD}} d $$
フレミングの左手の法則より、電流の向き(D→C)と磁場の向きから、力の向きは \(x\) 軸の負の向き(斜面上向き)となります。
コイル全体が磁場から受ける力 \(F\) は、これら2つの力の合力です。\(B_{\text{CD}} > B_{\text{AB}}\) なので \(F_{\text{CD}} > F_{\text{AB}}\) であり、力の大きさはこれらの差となります。
$$ F = F_{\text{CD}} – F_{\text{AB}} $$
力の向きは、大きい方の力である \(F_{\text{CD}}\) の向き、すなわち \(x\) 軸の負の向き(斜面上向き)です。

使用した物理公式

  • 電磁力: \(F=IBL\)
  • フレミングの左手の法則
計算過程

$$
\begin{aligned}
F &= F_{\text{CD}} – F_{\text{AB}} \\[2.0ex]&= I B_{\text{CD}} d – I B_{\text{AB}} d \\[2.0ex]&= I (B_{\text{CD}} – B_{\text{AB}}) d \\[2.0ex]&= \left( \frac{vkd^2}{R} \right) (k(x+d) – kx) d \\[2.0ex]&= \left( \frac{vkd^2}{R} \right) (kd) d \\[2.0ex]&= \frac{v k^2 d^4}{R}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

電流が流れる導線が磁場の中にあると、力を受けます。その力の大きさは「電流 × 磁場の強さ × 導線の長さ」で決まります。辺ABと辺CDでは磁場の強さが違うため、受ける力の大きさも異なります。また、電流の向きが逆なので、力の向きも逆になります。コイル全体が受ける力は、この二つの力の引き算で求まります。

結論と吟味

コイルが磁場から受ける力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{v k^2 d^4}{R}\) です。この力はコイルの運動を妨げる向き(斜面上向き)に働き、電磁ブレーキとして機能します。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{v k^2 d^4}{R}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
コイルに働くすべての力を特定し、斜面方向(\(x\)軸方向)について運動方程式 \(ma = F_{\text{合力}}\) を立てます。コイルに働く力は、重力の斜面方向成分と、(4)で求めた電磁力です。
この設問における重要なポイント

  • 運動方程式: \(ma = \sum F\)
  • 力を正しく図示し、運動方向の成分を考える。

具体的な解説と立式
コイルの運動方向である斜面方向(\(x\)軸方向)に働く力を考えます。斜面下向きを正とします。

  1. 重力の斜面方向成分: 大きさ \(mg\) の重力のうち、斜面に沿った成分は \(mg\sin\theta\) です。これは \(x\) 軸の正の向きに働きます。
  2. 電磁力: (4)で求めた力 \(F\) です。これは \(x\) 軸の負の向き(斜面上向き)に働きます。

したがって、コイルの質量を \(m\)、加速度を \(a\) として運動方程式を立てると、
$$ ma = mg\sin\theta – F $$
この式に(4)の結果を代入することで、加速度 \(a\) を求めます。

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
計算過程

(4)で求めた \(F = \displaystyle\frac{v k^2 d^4}{R}\) を運動方程式に代入します。
$$
\begin{aligned}
ma &= mg\sin\theta – \frac{v k^2 d^4}{R} \\[2.0ex]a &= \frac{1}{m} \left( mg\sin\theta – \frac{v k^2 d^4}{R} \right) \\[2.0ex]&= g\sin\theta – \frac{v k^2 d^4}{mR}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

物体の加速度は、物体に働く力の合計を質量で割ることで求まります(ニュートンの運動方程式)。このコイルには、斜面を滑り落とそうとする「重力の分力」と、それを邪魔する「電磁力」という2つの力が働いています。この2つの力を差し引きしたものが正味の力となり、これをコイルの質量 \(m\) で割れば加速度が計算できます。

結論と吟味

コイルの加速度は \(a = g\sin\theta – \displaystyle\frac{v k^2 d^4}{mR}\) となります。この式から、速さ \(v\) が大きくなるにつれてブレーキ力である電磁力が強くなり、加速度が減少することがわかります。

解答 (5) \(g\sin\theta – \displaystyle\frac{v k^2 d^4}{mR}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
エネルギー保存則を適用します。この系では、電磁力は非保存力として働き、その仕事はジュール熱として消費されます。したがって、コイルが動き始めてから問題の瞬間までの「力学的エネルギーの減少分」が、発生したジュール熱 \(Q\) に等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • エネルギー保存則: \(\Delta E_{\text{力学}} = W_{\text{非保存力}}\)
  • ジュール熱と非保存力の仕事の関係: \(Q = -W_{\text{非保存力}}\)
  • 力学的エネルギー = 運動エネルギー + 位置エネルギー

具体的な解説と立式
コイルが動き始めた瞬間(初期状態)と、辺ABが位置 \(x\)、速さ \(v\) になった瞬間(最終状態)の間のエネルギー変化を考えます。

  • 初期状態: 辺ABの位置は \(x_{\text{初}}=0\)、速さは \(v_{\text{初}}=0\)。
  • 最終状態: 辺ABの位置は \(x\)、速さは \(v\)。

位置エネルギーの基準を、最終状態のコイルの位置(辺ABが \(x\) の位置)に取ります。
すると、初期状態ではコイルは最終状態より高さ \(x\sin\theta\) だけ高い位置にあります。
初期の力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\) は、
$$ E_{\text{初}} = K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = 0 + mgx\sin\theta $$
最終の力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\) は、
$$ E_{\text{後}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}} = \frac{1}{2}mv^2 + 0 $$
力学的エネルギーの減少分がジュール熱 \(Q\) になるので、
$$ Q = E_{\text{初}} – E_{\text{後}} $$

使用した物理公式

  • エネルギー保存則
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
Q &= (mgx\sin\theta) – \left(\frac{1}{2}mv^2\right) \\[2.0ex]&= mgx\sin\theta – \frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

コイルが斜面を滑り落ちることで失った「位置エネルギー」は、どこへ行ったのでしょうか?そのエネルギーの一部はコイルを速く動かすための「運動エネルギー」に変わり、残りはすべて回路の抵抗で発生した「ジュール熱」に変わります。したがって、発生したジュール熱は、「失った位置エネルギー」から「得られた運動エネルギー」を差し引くことで計算できます。

結論と吟味

発生したジュール熱は \(Q = mgx\sin\theta – \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) です。これは失われた力学的エネルギーに等しく、エネルギー保存の観点から妥当な結果です。

解答 (6) \(mgx\sin\theta – \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)

問(7)

思考の道筋とポイント
コイルが一定の速さ \(v_{\text{f}}\)(終端速度)で運動するようになったとき、その加速度は \(a=0\) となります。これは、コイルに働く力の合力が0、すなわち、斜面を下ろうとする重力の成分と、運動を妨げる電磁力がつり合っている状態を意味します。(5)で立てた運動方程式にこの条件を適用することで、終端速度 \(v_{\text{f}}\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 終端速度の条件: 加速度 \(a=0\)、または力のつり合い(重力成分 = 電磁力)。

具体的な解説と立式
(5)で求めた加速度の式
$$ a = g\sin\theta – \frac{v k^2 d^4}{mR} $$
において、コイルの速さが一定の終端速度 \(v_{\text{f}}\) に達したとき、加速度は \(a=0\) となります。したがって、\(v=v_{\text{f}}\) を代入して、
$$ 0 = g\sin\theta – \frac{v_{\text{f}} k^2 d^4}{mR} $$
この方程式を \(v_{\text{f}}\) について解きます。

使用した物理公式

  • 運動方程式(\(a=0\) の場合)
計算過程

$$
\begin{aligned}
g\sin\theta &= \frac{v_{\text{f}} k^2 d^4}{mR} \\[2.0ex]v_{\text{f}} k^2 d^4 &= mgR\sin\theta \\[2.0ex]v_{\text{f}} &= \frac{mgR\sin\theta}{k^2 d^4}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

コイルが一定の速さで滑り落ちるということは、もはや加速も減速もしていない状態です。これは、斜面を滑り落とそうとする力(重力)と、ブレーキをかける力(電磁力)がちょうど釣り合っていることを意味します。(5)で立てた運動に関する式で、加速度を0とおき、そのときの速さを求めれば、それが終端速度になります。

結論と吟味

終端速度は \(v_{\text{f}} = \displaystyle\frac{mgR\sin\theta}{k^2 d^4}\) です。この結果は、重力が大きいほど、また抵抗が大きくブレーキが効きにくいほど速くなり、磁場が強い(\(k, d\) が大きい)ほどブレーキが強く効いて遅くなるという物理的な直感と一致しており、妥当です。

解答 (7) \(\displaystyle\frac{mgR\sin\theta}{k^2 d^4}\)

問(8)

思考の道筋とポイント
2つの物理量、「単位時間あたりに発生するジュール熱 \(P_{\text{J}}\)」と「単位時間あたりに失う位置エネルギー \(E_{\text{f}}\)」をそれぞれ計算し、両者が等しくなることを示します。

  1. \(P_{\text{J}}\) は消費電力の公式 \(P=I^2R\) を用いて計算します。電流 \(I\) は終端速度 \(v_{\text{f}}\) のときの値を代入します。
  2. \(E_{\text{f}}\) は、コイルが単位時間にどれだけ高さを下がるかを考え、\(mg \times (\text{単位時間あたりの高さの変化})\) で計算します。

最後に、(7)で導いた関係式を用いて、二つの量が等しいことを証明します。
この設問における重要なポイント

  • 消費電力の公式: \(P = I^2 R\)
  • 仕事率(パワー)の考え方: 仕事率 = (エネルギー変化) / (時間)
  • 終端速度では運動エネルギーが変化しないため、失われた位置エネルギーはすべてジュール熱に変換されるというエネルギー保存則が成り立つ。

具体的な解説と立式
1. 単位時間あたりのジュール熱 \(P_{\text{J}}\) の計算

コイルが終端速度 \(v_{\text{f}}\) で運動しているときの電流 \(I_{\text{f}}\) は、(3)の式の \(v\) に \(v_{\text{f}}\) を代入して得られます。
$$ I_{\text{f}} = \frac{v_{\text{f}}kd^2}{R} $$
単位時間あたりのジュール熱、すなわち消費電力 \(P_{\text{J}}\) は、
$$ P_{\text{J}} = I_{\text{f}}^2 R $$
2. 単位時間あたりに失う位置エネルギー \(E_{\text{f}}\) の計算

コイルは速さ \(v_{\text{f}}\) で斜面を滑り降りるので、単位時間あたりに進む距離は \(v_{\text{f}}\) です。このとき、鉛直方向に下がる高さ \(\Delta h\) は \(v_{\text{f}}\sin\theta\) となります。
したがって、単位時間あたりに失う位置エネルギー \(E_{\text{f}}\) は、
$$ E_{\text{f}} = mg \times (\text{単位時間あたりの高さの減少量}) = mgv_{\text{f}}\sin\theta $$
最後に、これら二つの式が等しいことを示します。

使用した物理公式

  • 消費電力: \(P=I^2R\)
  • 位置エネルギー: \(U=mgh\)
計算過程

まず \(P_{\text{J}}\) を具体的に計算します。
$$
\begin{aligned}
P_{\text{J}} &= I_{\text{f}}^2 R \\[2.0ex]&= \left( \frac{v_{\text{f}}kd^2}{R} \right)^2 R \\[2.0ex]&= \frac{v_{\text{f}}^2 k^2 d^4}{R^2} R \\[2.0ex]&= \frac{v_{\text{f}}^2 k^2 d^4}{R}
\end{aligned}
$$
次に、\(E_{\text{f}} = mgv_{\text{f}}\sin\theta\) を変形します。
(7)で求めた力のつり合いの関係式 \(mgR\sin\theta = v_{\text{f}} k^2 d^4\) を変形すると、
$$ mg\sin\theta = \frac{v_{\text{f}} k^2 d^4}{R} $$
この関係を \(E_{\text{f}}\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{f}} &= (mg\sin\theta) v_{\text{f}} \\[2.0ex]&= \left( \frac{v_{\text{f}} k^2 d^4}{R} \right) v_{\text{f}} \\[2.0ex]&= \frac{v_{\text{f}}^2 k^2 d^4}{R}
\end{aligned}
$$
以上より、\(P_{\text{J}}\) と \(E_{\text{f}}\) の式は完全に一致し、\(P_{\text{J}} = E_{\text{f}}\) が示されました。

計算方法の平易な説明

まず、コイルで1秒あたりに発生する熱の量(消費電力)を計算します。これは電流と抵抗の値から求めることができます。次に、コイルが1秒あたりに失う位置エネルギーの量を計算します。これは、コイルが1秒間にどれだけの高さを下るかで決まります。最後に、この二つの計算結果が、(7)で求めた「力のつり合い」の式を使うと、全く同じ式になることを確認します。

結論と吟味

\(P_{\text{J}} = E_{\text{f}}\) が示されました。これは、コイルが一定速度で運動している(運動エネルギーが変化しない)とき、重力によって供給されるエネルギー(失われる位置エネルギー)が、すべて電気エネルギー(ジュール熱)に変換されていることを意味します。これはエネルギー保存則が正しく成り立っていることを示しており、物理的に正しい結論です。

解答 (8) 上記の通り計算され、\(P_{\text{J}} = E_{\text{f}}\) が示された。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 誘導起電力 (\(V=vBl\)):
    • 核心: 磁場を横切る導体に起電力が生じるという基本法則の応用です。特に、磁束密度\(B\)が一定ではなく、位置\(x\)の関数(\(B=kx\))であるため、コイルの異なる部分で異なる大きさの起電力が生じる点がこの問題の鍵です。
    • 理解のポイント: ファラデーの法則 \(\Delta \Phi / \Delta t\) を直接計算するのが難しい場合に、この \(V=vBl\) の公式が極めて有効です。
  • エネルギー保存則:
    • 核心: この物理現象をエネルギーの観点から捉えることです。重力による位置エネルギーが、コイルの運動エネルギーと、電磁力の仕事によって生じるジュール熱に変換されるというエネルギーの流れを理解することが重要です。
    • 理解のポイント: (8)で示したように、終端速度に達した状態では運動エネルギーは変化しないため、「単位時間あたりに失われる位置エネルギー」が「単位時間あたりに発生するジュール熱(消費電力)」に完全に等しくなります。これはエネルギー保存則の美しい現れです。
  • 運動方程式 (\(ma=F\)):
    • 核心: 物体の運動を力の観点から記述する基本法則です。この問題では、コイルに働く力として、常に働く「重力」と、速さ\(v\)に依存して変化する「電磁力」の2つを考え、それらの合力によって運動(加速度)が決まるという関係を数式化します。
    • 理解のポイント: 加速度が0になる条件(力のつり合い)を考えることで、(7)のように終端速度という重要な物理量を導き出すことができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 一様な磁場での落下: 本問と異なり\(B\)が定数の場合。電磁力が単純に \(F \propto v\) となり、計算がより簡単になりますが、終端速度に達する現象は同様に起こります。
    • 水平面上の運動: 重力の影響がなくなり、初速を与えられたコイルが電磁ブレーキによって減速し、やがて停止する問題。運動方程式は \(ma = -F\) となります。
    • 交流発電機の原理: コイルが磁場中で回転する問題。磁束の変化が三角関数で表されるため、交流電圧が発生します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁場の分布の確認: まず、磁場は「一様」か、「場所によって変化する」かを確認します。変化する場合、どのように変化するのか(例: \(B=kx\))を数式で把握することが第一歩です。
    2. 力の依存性の分析: 電磁力が速度\(v\)や位置\(x\)にどのように依存するかを分析します。本問では \(F \propto v\) となり、速度が上がるほどブレーキが強くなるという関係が、終端速度の存在を示唆します。
    3. エネルギーの流れの把握: 「何のエネルギーが」「何のエネルギーに」変換されているかを考えます。特に「非保存力の仕事」が何に対応するのか(本問ではジュール熱)を明確にすることが、エネルギー保存則を正しく立式する鍵です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 起電力の向きの合成ミス:
    • 誤解: (2)で、辺ABと辺CDに生じる起電力\(V_1\)と\(V_2\)を単純に足してしまう。
    • 対策: コイルを一つの電気回路とみなし、各辺を電池に置き換えた図(等価回路図)を描く習慣をつけましょう。辺ABはAが高電位、辺CDはDが高電位の電池なので、これらは逆向きに接続されています。したがって、全体の起電力は引き算(\(V_2 – V_1\))になることが視覚的に理解できます。
  • 電磁力の向きの間違い:
    • 誤解: (4)で、フレミングの左手の法則を適用する際に、電流や磁場の向きを混同してしまう。
    • 対策: 各辺について、「電流」「磁場」「力」の向きを指で一つ一つ丁寧に確認しましょう。また、電磁力は常に運動を妨げる向きに働く(レンツの法則)という観点からも検算すると、間違いを防げます。
  • エネルギー保存則の立式ミス:
    • 誤解: (6)で、ジュール熱を力学的エネルギーの和(\(mgx\sin\theta + \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\))と勘違いしてしまう。
    • 対策: 「(後のエネルギー)-(前のエネルギー)= 非保存力の仕事」という基本形を常に意識しましょう。あるいは、「失われたエネルギーの総和 = 増えたエネルギーの総和」という観点から、「失われた位置エネルギー = 増えた運動エネルギー + 発生したジュール熱」と立式すると、関係性が明確になります。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力の図示: コイルに働く「重力の斜面成分」と、「辺ABと辺CDに働く電磁力」を、矢印で明確に図示することが極めて重要です。特に、電磁力の大きさが \(F_{\text{CD}} > F_{\text{AB}}\) であることを矢印の長さで表現すると、合力の向き(斜面上向き)が直感的に理解できます。
    • 等価回路図: コイル全体を、抵抗\(R\)と2つの逆向きに接続された電池(起電力\(V_1, V_2\))で構成される等価回路として描くと、(2)の起電力の合成や(3)の電流の計算が、純粋な電気回路の問題としてスッキリ理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 座標軸と力の向き: 座標軸の正の向き(例: 斜面下向き)を明確にし、各力がその向きに対して正か負かを判断しやすくすることが、運動方程式の立式ミスを防ぎます。
    • 電位の高低の明記: 誘導起電力が生じる各辺に、電池の記号と+-を書き込むと、電流の向きや起電力の合成が視覚的にわかりやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(V=vBl\)(誘導起電力):
    • 選定理由: (1),(2)で、磁場を横切る導体棒の起電力を計算するため。磁束の変化 \(\Delta \Phi\) を直接計算するのが難しい場合に特に有効です。
    • 適用根拠: 導体内の自由電子がローレンツ力 \(f=qvB\) を受けて移動することで生じる電位差として導出される、ファラデーの法則の一つの表現形です。
  • \(F=IBL\)(電磁力):
    • 選定理由: (4)で、電流が流れる導線が磁場から受ける力を計算するため。
    • 適用根拠: 導線内を流れる多数の電荷がそれぞれ受けるローレンツ力の合力として導出されます。
  • \(ma=F\)(運動方程式):
    • 選定理由: (5),(7)で、力の情報から運動の状態(加速度、速度)を解析するため。力学と電磁気学を繋ぐ重要な式です。
    • 適用根拠: ニュートンの運動の第二法則であり、力学の根幹をなす法則です。
  • エネルギー保存則:
    • 選定理由: (6),(8)で、運動の前後でのエネルギー変換(特にジュール熱の計算)を扱うため。力の空間積分である「仕事」を直接計算するよりも簡単な場合が多いです。
    • 適用根拠: 熱力学第一法則の力学系への応用であり、物理学における最も普遍的な法則の一つです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1)~(5) 運動解析フロー:
    • 戦略: 電磁誘導から力を求め、力学法則に繋げる。
    • フロー: ①位置\(x\)での磁場\(B\)を特定 → ②各辺の起電力\(V_1, V_2\)を計算 → ③合成起電力\(V\)と電流\(I\)を計算 → ④各辺の電磁力\(F_{\text{AB}}, F_{\text{CD}}\)を計算 → ⑤合成力\(F\)を計算 → ⑥運動方程式 \(ma = mg\sin\theta – F\) を立式。
  2. (6) ジュール熱の計算:
    • 戦略: エネルギー保存則を利用する。
    • フロー: ①初期の力学的エネルギー\(E_{\text{初}}\)を定義 → ②後の力学的エネルギー\(E_{\text{後}}\)を計算 → ③エネルギー保存則 \(Q = E_{\text{初}} – E_{\text{後}}\) を適用。
  3. (7)~(8) 終端速度の解析:
    • 戦略: 加速度が0になる定常状態の条件を適用する。
    • フロー: ①運動方程式で\(a=0\)とおく → ②力のつり合い式から\(v_{\text{f}}\)を解く → ③\(v=v_{\text{f}}\)のときの消費電力\(P_{\text{J}}\)と位置エネルギー減少率\(E_{\text{f}}\)をそれぞれ定義に従って計算 → ④両者が等しいことを(7)の関係式を用いて証明。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の整理: \(k, d, v, R\)など多くの文字が登場するため、計算の各段階で式を整理し、物理的な意味のまとまり(例: (3)の電流\(I\)、(4)の力\(F\))を意識すると、見通しが良くなり、代入ミスを防げます。
  • 符号の確認: 力の向き、起電力の向きを常に意識し、足し算か引き算か、座標軸に対して正か負かを慎重に判断しましょう。特に(2)の起電力の合成と(4)の力の合成は、符号ミスが起こりやすい最重要ポイントです。
  • 次元(単位)の確認: 最終的な答えの次元が正しいかを確認する習慣をつけましょう。例えば(7)で求めた\(v_{\text{f}}\)の式が、ちゃんと速度の次元(\([L T^{-1}]\))になっているか、各物理量の単位を代入して検算すると、大きな間違いに気づくことができます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 起電力: \(V=vkd^2\)は位置\(x\)に依存しません。これは、起電力の差が磁場の「勾配」\(k\)に依存するためで、磁場が線形に変化する限り、コイルがどこにあっても速さが同じなら起電力は同じになるという、物理的に興味深く妥当な結果です。
    • (7) 終端速度: \(v_{\text{f}}\)の式を見て、各物理量との関係を吟味します。\(v_{\text{f}} \propto mg\sin\theta\)(重力が強いほど速い)、\(v_{\text{f}} \propto R\)(抵抗が大きくブレーキが弱いほど速い)、\(v_{\text{f}} \propto 1/k^2, 1/d^4\)(磁場やコイルサイズが大きくブレーキが強いほど遅い)。これらの関係はすべて物理的な直感と一致しており、答えの妥当性を裏付けます。
  • 異なるアプローチとの比較:
    • (8)の結果は、エネルギー保存則の微分形(仕事率の式)と見なせます。すなわち、\(\displaystyle\frac{dE_{\text{力学}}}{dt} = P_{\text{非保存力}}\)。終端速度では運動エネルギーは一定なので \(\displaystyle\frac{dK}{dt}=0\)。よって、\(-\displaystyle\frac{dU}{dt} = P_{\text{ジュール熱}}\)となり、\(mgv_{\text{f}}\sin\theta = P_{\text{J}}\)が直接導かれます。このように、異なる視点から同じ結論が導けることを確認すると、物理現象への理解が深まります。
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