「重要問題集」徹底解説(121〜125問):未来の得点力へ!完全マスター講座

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問題121 (大阪工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、オームの法則に従わない非線形素子である「発光ダイオード(LED)」を2つ含む直流回路の解析です。LEDの特性はグラフで与えられており、回路の接続方法(並列・直列)によって動作がどう変わるかを、グラフを用いて解き明かしていく能力が問われます。特に、回路の法則から導かれる「負荷曲線」と、素子自身の「特性曲線」の交点から動作点を求める「グラフ的解法」が中心となります。

与えられた条件
  • 回路素子: 赤色LED1、緑色LED2、抵抗\(r\)、直流電源\(E\)。
  • LEDの特性: 図1の電流-電圧特性グラフに従う。
  • 発光強度: 消費電力に比例する。
  • 最大許容電流: \(1.0\,\text{A}\)(これを超えると壊れる)。
  • [A]の回路 (図2): 並列接続。\(E=3.0\,\text{V}\), \(r=2.5\,\Omega\)。
  • [B]の回路 (図3): 直列接続。\(E=8.0\,\text{V}\)。
問われていること
  • [A] 並列接続の場合
    • (1) \(E\)を\(I_1, V_1, r\)で表す式。
    • (2) 与えられた負荷直線の条件下での、LED1を流れる電流\(I_1\)。
    • (3) (2)と同じ条件下での、LED2にかかる電圧\(V_2\)。
    • (4) (2)と同じ条件下での、LED2の消費電力\(P_2\)。
    • (5) (2)と同じ条件下での、LED1とLED2の発光強度の比。
  • [B] 直列接続の場合
    • (6) LEDが壊れないための抵抗\(r\)の最小値。
    • (7) \(r=2.5\,\Omega\)で\(V_2=V_1+1.0\)という関係があるときの、回路電流\(I\)とLED1の電圧\(V_1\)の関係式およびそのグラフ。
    • (8) (7)の条件下での、LED2を流れる電流。
    • (9) (7)の条件下での、LED2とLED1の発光強度の比。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「非線形素子を含む回路のグラフ的解析」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. グラフ的解法: 回路素子が満たすべき2つの条件、すなわち「素子自身の特性(特性曲線)」と「回路の他の部分から課される制約(負荷曲線)」の連立方程式を、グラフの交点として解く手法です。
  2. 非線形素子の特性理解: LEDの電圧と電流の関係が、与えられたグラフによって決まることを理解し、グラフから必要な情報を正確に読み取る能力が不可欠です。
  3. キルヒホッフの法則: 回路が素子に課す制約式(負荷曲線の方程式)を導出するための基本法則です。どんな回路にも適用できる最も普遍的なツールとなります。
  4. 消費電力と発光強度: LEDの発光強度が消費電力(\(P=IV\))に比例するという条件を、物理的な量の比較に正しく使うことが求められます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. [A]の並列回路では、キルヒホッフの法則を用いて各LEDが満たすべき負荷直線の式を導出し、図1のグラフとの交点から各LEDの動作点(電圧、電流)を決定します。
  2. [B]の直列回路では、まず(6)で「壊れない」という限界条件から抵抗の値を求めます。
  3. (7)以降では、直列回路のキルヒホッフの法則と与えられたLED間の関係式を連立させ、新たな負荷曲線の式を導出し、同様にグラフを用いて解析します。
  4. 発光強度の比較は、各LEDの消費電力\(P=IV\)を計算し、その比を取ることで行います。

[A]

問(1)

思考の道筋とポイント
図2の回路において、電源\(E\)、抵抗\(r\)、LED1を含む左半分の閉回路に着目します。この閉回路にキルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用することで、求められる関係式を導きます。
この設問における重要なポイント

  • キルヒホッフの第2法則: 閉回路を一周したときの、電圧の上昇(起電力)と電圧の降下(抵抗や素子での電圧)の総和はゼロである。
  • 図2の回路では、電源\(E\)から出た電流のうち、\(I_1\)が抵抗\(r\)とLED1の経路を流れる。

具体的な解説と立式
図2の左側のループ(電源\(E\)、抵抗\(r\)、LED1)について、キルヒホッフの第2法則を適用します。
電源\(E\)による電圧の上昇は、抵抗\(r\)での電圧降下 \(rI_1\) と、LED1での電圧降下 \(V_1\) の和に等しくなります。
したがって、以下の関係式が成り立ちます。
$$ E = rI_1 + V_1 $$

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第2法則
計算過程

(立式のみで計算はありません)

結論と吟味

関係式は \(E = rI_1 + V_1\) となります。これは、並列回路の片側ループにキルヒホッフの法則を適用した基本的な結果です。

解答 (1) \(E = rI_1 + V_1\)

問(2)

思考の道筋とポイント
問題文で与えられた関係式 \(I_1 = 1.2 – 0.40V_1\) は、(1)で求めた \(E = rI_1 + V_1\) に \(E=3.0\,\text{V}, r=2.5\,\Omega\) を代入し、\(I_1\)について解いたものです。これはLED1が回路内で満たすべき制約(負荷直線)を表します。LED1の実際の電流は、この直線とLED1自身の特性曲線(図1)との交点で決まります。
この設問における重要なポイント

  • グラフ的解法: 回路の制約式が示す直線と、素子の特性曲線の交点が、その素子の動作点(実際の電圧と電流)となる。
  • グラフの読み取り: 図1のグラフに負荷直線 \(I_1 = 1.2 – 0.40V_1\) を描き、LED1の曲線との交点の電流値を正確に読み取る。

具体的な解説と立式
LED1が満たすべき条件は以下の2つです。

  1. 素子の特性: 図1のLED1の曲線
  2. 回路の制約: \(I_1 = 1.2 – 0.40V_1\) (負荷直線)

この2つの条件を同時に満たす点が、LED1の動作点です。図1のグラフ上で、負荷直線とLED1の特性曲線の交点を求めます。

使用した物理公式

  • (物理公式ではないが)グラフ的解法の原理
計算過程

問題の図1には、すでに負荷直線 \(I_1 = 1.2 – 0.40V_1\) が描かれています。
この直線と、LED1の特性曲線(左側の曲線)との交点をグラフから読み取ります。
交点の座標は、およそ \(V_1=2.0\,\text{V}\), \(I_1=0.40\,\text{A}\) です。
したがって、LED1に流れる電流は \(0.40\,\text{A}\) です。

計算方法の平易な説明

LED1が実際に示す電圧と電流は、「LED1自身のわがままな性質(特性曲線)」と、「回路の他の部品から押し付けられるルール(負荷直線)」の両方を満たす点でなければなりません。この2つのグラフの「交点」こそが、両方の条件を満たす唯一の答え(動作点)となります。問題のグラフにはすでに負荷直線が引かれているので、その直線とLED1の曲線の交点のI座標を読むだけです。

結論と吟味

LED1に流れる電流\(I_1\)は \(0.40\,\text{A}\) です。

解答 (2) \(0.40\,\text{A}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
LED2もLED1と同じ電源と抵抗に並列に接続されています。したがって、LED2が満たすべき回路の制約式も、LED1と全く同じ形になります。
この設問における重要なポイント

  • 並列回路の対称性: 図2の回路では、LED2のループもLED1のループと全く同じ構成(電源E、抵抗r)である。
  • したがって、LED2の負荷直線も \(I_2 = 1.2 – 0.40V_2\) となる。
  • LED2の動作点は、この共通の負荷直線と、LED2の特性曲線(図1の右側の曲線)との交点となる。

具体的な解説と立式
LED2を含む右側のループにキルヒホッフの第2法則を適用すると、
$$ E = rI_2 + V_2 $$
与えられた値を代入すると、
$$ 3.0 = 2.5 I_2 + V_2 $$
これを\(I_2\)について解くと、
$$ I_2 = \frac{3.0 – V_2}{2.5} = 1.2 – 0.40V_2 $$
これはLED1の負荷直線と同じ形の式です。
この直線と、図1のLED2の特性曲線(右側の曲線)との交点がLED2の動作点です。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第2法則
計算過程

図1のグラフ上で、負荷直線 \(I = 1.2 – 0.40V\) とLED2の特性曲線(右側の曲線)との交点を読み取ります。
交点の座標は、およそ \(V_2=2.5\,\text{V}\), \(I_2=0.20\,\text{A}\) です。
したがって、LED2に加わる電圧は \(2.5\,\text{V}\) です。

計算方法の平易な説明

LED2も、LED1と全く同じ条件で回路につながれています。そのため、LED2が従うべき「回路のルール」も、LED1と同じ直線で表されます。ただし、LED2自身の性質はLED1とは違う(特性曲線が異なる)ため、同じ直線との交点でも、違う場所になります。グラフ上で、同じ直線とLED2の曲線との交点のV座標を読み取ります。

結論と吟味

LED2に加わる電圧\(V_2\)は \(2.5\,\text{V}\) です。

解答 (3) \(2.5\,\text{V}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
(3)で求めたLED2の動作点(電圧と電流)を用いて、その消費電力を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 消費電力の公式: \(P = IV\)

具体的な解説と立式
(3)の結果より、LED2の動作点は \(V_2=2.5\,\text{V}\), \(I_2=0.20\,\text{A}\) です。
LED2の消費電力\(P_2\)は、
$$ P_2 = I_2 V_2 $$

使用した物理公式

  • 消費電力の公式: \(P=IV\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
P_2 &= (0.20\,\text{A}) \times (2.5\,\text{V}) \\[2.0ex]&= 0.50\,\text{W}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

LED2の消費電力は \(0.50\,\text{W}\) です。

解答 (4) \(0.50\,\text{W}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
LED1とLED2の発光強度の比を求めます。問題文の条件「発光強度は消費電力に比例する」を使います。
この設問における重要なポイント

  • 発光強度の比は、消費電力の比に等しい。
  • LED1の消費電力\(P_1\)を計算し、(4)で求めた\(P_2\)との比を取る。

具体的な解説と立式
発光強度の比は、消費電力の比 \(P_1/P_2\) に等しくなります。
まず、(2)の結果からLED1の消費電力\(P_1\)を計算します。LED1の動作点は \(V_1=2.0\,\text{V}\), \(I_1=0.40\,\text{A}\) でした。
$$ P_1 = I_1 V_1 $$
次に、\(P_1\)と\(P_2\)の比を計算します。

使用した物理公式

  • 消費電力の公式: \(P=IV\)
計算過程

LED1の消費電力\(P_1\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
P_1 &= (0.40\,\text{A}) \times (2.0\,\text{V}) \\[2.0ex]&= 0.80\,\text{W}
\end{aligned}
$$
発光強度の比を求めます。
$$ \frac{P_1}{P_2} = \frac{0.80}{0.50} = 1.6 $$

結論と吟味

LED1の発光強度はLED2の発光強度の \(1.6\) 倍です。

解答 (5) \(1.6\) 倍

[B]

問(6)

思考の道筋とポイント
図3の直列回路において、LEDが壊れないための抵抗\(r\)の「最小値」を求めます。抵抗\(r\)が小さいほど回路に電流が流れやすくなるため、rの最小値を求めることは、回路に流れる電流が許容最大値 \(1.0\,\text{A}\) になるときのrを求めることと同じです。
この設問における重要なポイント

  • 直列接続では、LED1とLED2に同じ電流が流れる。
  • 抵抗\(r\)が最小のとき、電流は最大の \(1.0\,\text{A}\) となる。
  • 電流が \(1.0\,\text{A}\) のときの、各LEDの電圧\(V_1, V_2\)を図1のグラフから読み取る。
  • 回路全体でキルヒホッフの第2法則を適用する。

具体的な解説と立式
回路に流れる電流を\(I\)とします。直列なので \(I = I_1 = I_2\)。
LEDが壊れない最大電流は \(I=1.0\,\text{A}\) です。このとき、抵抗\(r\)は最小値をとります。
図1のグラフから、\(I=1.0\,\text{A}\) のときの各LEDの電圧を読み取ります。

  • LED1: \(V_1 = 2.7\,\text{V}\)
  • LED2: \(V_2 = 3.7\,\text{V}\)

図3の回路全体にキルヒホッフの第2法則を適用すると、
$$ E = rI + V_1 + V_2 $$
この式に、既知の値を代入して\(r\)を求めます。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第2法則
計算過程

$$
\begin{aligned}
8.0 &= r \times 1.0 + 2.7 + 3.7 \\[2.0ex]8.0 &= r + 6.4 \\[2.0ex]r &= 8.0 – 6.4 = 1.6\,\text{Ω}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

LEDが壊れる寸前、つまり許容最大の1.0Aの電流が流れている状況を考えます。このとき、抵抗rの値は、これ以上小さくすると電流が1.0Aを超えてしまう、ギリギリの「最小値」になっているはずです。電流が1.0Aと決まれば、グラフから各LEDにかかる電圧がわかります。あとは、電源電圧(8.0V)が、抵抗と2つのLEDでどのように分け合われているか(電圧降下の和)をキルヒホッフの法則で式にすれば、未知数rの値を計算できます。

結論と吟味

抵抗\(r\)の最小値は \(1.6\,\Omega\) です。

解答 (6) \(1.6\,\Omega\)

問(7)

思考の道筋とポイント
図3の回路で、\(r=2.5\,\Omega\) とし、さらにLED間に \(V_2 = V_1 + 1.0\) という関係がある場合の、回路電流\(I\)とLED1の電圧\(V_1\)の関係式(負荷曲線)を求め、グラフに描きます。
この設問における重要なポイント

  • 回路の法則(キルヒホッフII)と、素子間の関係式を連立させる。
  • 最終的に、\(I\)を\(V_1\)の関数として表す。

具体的な解説と立式
図3の回路にキルヒホッフの第2法則を適用します。
$$ E = rI + V_1 + V_2 \quad \cdots ① $$
この問題で与えられている条件は、
$$ V_2 = V_1 + 1.0 \quad \cdots ② $$
$$ E = 8.0\,\text{V}, \quad r = 2.5\,\Omega $$
①にこれらの条件を代入して、\(I\)と\(V_1\)の関係式を導きます。
$$ 8.0 = 2.5 I + V_1 + (V_1 + 1.0) $$
この式を\(I\)について解きます。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第2法則
計算過程

$$
\begin{aligned}
8.0 &= 2.5 I + 2V_1 + 1.0 \\[2.0ex]7.0 &= 2.5 I + 2V_1 \\[2.0ex]2.5 I &= 7.0 – 2V_1 \\[2.0ex]I &= \frac{7.0 – 2V_1}{2.5} \\[2.0ex]I &= 2.8 – 0.80V_1
\end{aligned}
$$
この直線を図1に描きます。

  • V軸切片 (\(I=0\)): \(0 = 2.8 – 0.80V_1\) より \(V_1 = 3.5\,\text{V}\)
  • I軸切片 (\(V_1=0\)): \(I = 2.8\,\text{A}\)

この2点を結ぶ直線を引きます。ただし、電流は\(1.0\,\text{A}\)を超えられないので、\(I=1.0\,\text{A}\)までの部分を描きます。

結論と吟味

関係式は \(I = 2.8 – 0.80V_1\) です。この直線(負荷曲線)を図1に描きます。

解答 (7) 関係式: \(I = 2.8 – 0.80V_1\)、グラフは図1の赤線。

問(8)

思考の道筋とポイント
(7)で求めた負荷曲線と、LED1の特性曲線の交点が、この回路でのLED1の動作点を表します。直列回路なので、LED2にも同じ電流が流れます。
この設問における重要なポイント

  • グラフ的解法: (7)で求めた負荷曲線とLED1の特性曲線の交点を読み取る。
  • 直列回路の性質: 回路のどの部分でも電流は等しい。

具体的な解説と立式
(7)で求めた負荷曲線 \(I = 2.8 – 0.80V_1\) と、図1のLED1の特性曲線の交点を読み取ります。
交点の座標は、およそ \(V_1=2.5\,\text{V}\), \(I=0.80\,\text{A}\) です。
この電流\(I\)が回路全体に流れる電流なので、LED2に流れる電流も同じ値になります。

使用した物理公式

  • (物理公式ではないが)グラフ的解法の原理
計算過程

グラフの交点から、回路を流れる電流は \(I=0.80\,\text{A}\) と読み取れます。
したがって、LED2に流れる電流も \(0.80\,\text{A}\) です。

結論と吟味

LED2に流れる電流は \(0.80\,\text{A}\) です。

解答 (8) \(0.80\,\text{A}\)

問(9)

思考の道筋とポイント
(8)で求めた電流値 \(0.80\,\text{A}\) のときの、LED1とLED2の電圧をそれぞれ図1のグラフから読み取り、消費電力の比を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 発光強度の比は、消費電力の比に等しい。
  • 同じ電流値に対して、各LEDの特性曲線から対応する電圧を読み取る。

具体的な解説と立式
(8)より、回路を流れる電流は \(I=0.80\,\text{A}\) です。
図1のグラフから、\(I=0.80\,\text{A}\) のときの各LEDの電圧を読み取ります。

  • LED1: \(V_1 = 2.5\,\text{V}\) (これは(8)の交点読み取りと一致)
  • LED2: \(V_2 = 3.5\,\text{V}\)

各LEDの消費電力は \(P_1 = IV_1\), \(P_2 = IV_2\) です。
求める発光強度の比は、
$$ \frac{P_2}{P_1} = \frac{IV_2}{IV_1} = \frac{V_2}{V_1} $$

使用した物理公式

  • 消費電力の公式: \(P=IV\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
\frac{P_2}{P_1} &= \frac{3.5}{2.5} \\[2.0ex]&= \frac{7}{5} = 1.4
\end{aligned}
$$

結論と吟味

LED2の発光強度はLED1の発光強度の \(1.4\) 倍です。

解答 (9) \(1.4\) 倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • グラフ的解法(特性曲線と負荷曲線の交点):
    • 核心: この問題は、グラフ的解法の典型例です。LEDという非線形素子の動作は、素子固有の性質(特性曲線)と、回路に組み込まれることで受ける制約(負荷曲線)の2つを同時に満たす点(グラフの交点)として決まります。
    • 理解のポイント: (2), (3), (7), (8)のすべてがこの原理に基づいています。キルヒホッフの法則などを使って回路の制約式(負荷曲線の方程式)を導出し、それをグラフに重ねて交点を求める、という一連の流れをマスターすることが最重要です。
  • キルヒホッフの法則:
    • 核心: 負荷曲線の方程式を導出するための、最も基本的で強力なツールです。(1)の並列回路や、(6), (7)の直列回路で、電源の起電力と各素子での電圧降下の関係を記述するために用いられています。
    • 理解のポイント: 非線形素子が含まれていても、回路の接続形態(トポロジー)が定める電圧・電流の関係は普遍的に成り立ちます。この法則が、複雑な回路を数学的な方程式に落とし込むための橋渡しとなります。
  • 消費電力と物理的意味の関連付け:
    • 核心: 問題文で与えられた「発光強度は消費電力に比例する」「電流が1.0Aを超えると壊れる」といった物理的な条件を、数式(\(P=IV\))や不等式(\(I \le 1.0\,\text{A}\))に正しく変換し、計算結果に結びつける能力が問われます。
    • 理解のポイント: (5)や(9)での強度の比較は消費電力の比の計算に、(6)での最小抵抗値の計算は最大電流の条件に、それぞれ帰着します。物理的な言葉と数式を自在に行き来することが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 他の非線形素子: 電球やトランジスタなど、LED以外の非線形素子を含む回路でも、グラフ的解法は同様に有効です。素子の特性曲線と、回路から導かれる負荷曲線の交点を求めるという基本戦略は変わりません。
    • 負荷曲線の非線形化: この問題では負荷曲線は直線でしたが、例えば電源側に別の非線形素子が含まれている場合など、負荷曲線自体が曲線になることもあります。その場合でも、2つの曲線の交点を求めるという原理は同じです。
    • 動作点の安定性: 負荷曲線と特性曲線が複数点で交わる場合、どの点が安定な動作点になるか、といった安定性の議論に発展することもあります(大学レベル)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回路構成の把握: まず、素子が直列に接続されているか、並列に接続されているかを正確に把握します。これにより、キルヒホッフの法則の立て方が決まります(直列なら電流が共通、並列なら電圧が共通など)。
    2. 負荷曲線の方程式を立てる: 注目している非線形素子(この問題ではLED)にかかる電圧\(V\)と流れる電流\(I\)の関係式を、回路の他の部分から導出することを第一目標とします。これが負荷曲線の方程式になります。
    3. グラフの活用: 負荷曲線の方程式が導出できたら、それを特性グラフに描き込みます。交点が一つに定まるか、あるいは特定の条件(例:電流最大)から動作点を逆算するか、問題の要求に応じてグラフを読み解きます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 負荷曲線と特性曲線の混同:
    • 誤解: LEDの特性曲線そのものが、回路中での振る舞いだと思い込んでしまう。
    • 対策: 特性曲線はあくまで素子単体の性質です。実際の動作は、回路に接続されて初めて決まります。負荷曲線は「回路からの要請」、特性曲線は「素子の性質」であり、その「妥協点」が交点(動作点)である、と理解しましょう。
  • 直列・並列の法則の誤用:
    • 誤解: [A]の並列回路で、LED1とLED2に同じ電圧がかかると勘違いする。
    • 対策: LED1とLED2は、それぞれが抵抗\(r\)とセットで電源に並列になっています。LED素子自体が並列なのではなく、電圧は異なります。回路図を正確に見て、どの部分が並列・直列なのかを判断しましょう。
  • グラフの読み取りミス:
    • 誤解: 2つのLEDの特性曲線を読み間違える。特に、(3)でLED2の動作点を求める際に、LED1の曲線との交点を読んでしまう。
    • 対策: グラフには複数の曲線が描かれている場合、どの曲線がどの素子に対応するのかを、凡例や問題文でしっかり確認しましょう。指差し確認するなどの物理的な対策も有効です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 負荷直線の描画: 負荷直線の方程式を導いたら、それをグラフに描き込むことが最も重要な図示です。直線を描く際は、V軸切片(\(I=0\)の点)とI軸切片(\(V=0\)の点)の2点を計算して結ぶと、簡単かつ正確に描けます。
    • 動作点のマーキング: グラフ上で見つけた交点には、はっきりと印をつけ、その座標(\(V, I\))を書き込むことで、思考が整理され、その後の計算ミスを防げます。
    • [B]の直列回路の電圧分配: 電源電圧\(E\)が、抵抗\(r\)、LED1、LED2の3つの部分で「分け合われている」イメージを持つと、キルヒホッフの電圧則 \(E = V_r + V_1 + V_2\) が直感的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • グラフの軸とスケール: 自分でグラフを描く必要がある場合は、軸の変数(VかIか)と単位、そして適切なスケールを設定することが重要です。
    • 凡例の活用: 複数の曲線を描く場合は、どの線が何を表すのか(例:「LED1特性」「負荷曲線」など)を明記する凡例をつけると、混乱を防げます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • キルヒホッフの第2法則:
    • 選定理由: (1), (3), (6), (7)のすべてにおいて、回路の接続関係から電圧に関する制約式(負荷曲線の方程式)を導出するために使用。非線形素子を含む回路解析において、外部条件を記述するための必須ツールです。
    • 適用根拠: エネルギー保存則に基づく、電気回路における普遍的な法則です。
  • \(P=IV\)(消費電力の公式):
    • 選定理由: (4), (5), (9)で、LEDの発光強度を比較するために使用。「発光強度は消費電力に比例する」という問題の条件を、計算可能な物理量に結びつけるために必要です。
    • 適用根拠: 電力(単位時間あたりのエネルギー)の基本的な定義式です。
  • グラフ的解法:
    • 選定理由: LEDの電圧と電流の関係が複雑な曲線で与えられており、代数的に解くのが困難(または不可能)なため。数式で表された負荷曲線と、図で与えられた特性曲線を連立させるための、唯一の現実的な解法です。
    • 適用根拠: 素子の動作点は、素子自身の内部的な物理法則と、回路という外部環境から受ける制約の両方を同時に満たさなければならない、という物理的な要請に基づいています。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. [A] 並列回路 (1)~(5):
    • 戦略: 各LEDのループについて負荷曲線の式を立て、グラフとの交点から動作点を決定する。
    • フロー: ①キルヒホッフの法則から負荷直線の式 \(I = f(V)\) を導出。 ②図1のグラフに直線を描き、LED1, LED2それぞれの特性曲線との交点(\(V_1, I_1\)), (\(V_2, I_2\))を読み取る。 ③消費電力 \(P_1=I_1V_1, P_2=I_2V_2\) を計算。 ④\(P_1/P_2\) の比を計算する。
  2. [B] 直列回路 (6):
    • 戦略: 電流が最大許容値になるときの条件を考える。
    • フロー: ①\(I=1.0\,\text{A}\) と設定。 ②グラフから\(I=1.0\,\text{A}\)のときの\(V_1, V_2\)を読み取る。 ③キルヒホッフの法則 \(E = rI + V_1 + V_2\) に値を代入し、\(r\)を解く。
  3. [B] 直列回路 (7)~(9):
    • 戦略: 与えられた条件をすべて盛り込んだ新しい負荷曲線の式を立て、グラフ的解法に持ち込む。
    • フロー: ①キルヒホッフの法則 \(E = rI + V_1 + V_2\) と、条件式 \(V_2=V_1+1.0\) を連立させ、\(I\)と\(V_1\)の関係式(負荷曲線)を導出。 ②この直線とLED1の特性曲線の交点から、回路電流\(I\)と\(V_1\)を決定。 ③電流\(I\)が分かったので、グラフからそのときの\(V_2\)を読み取る。 ④消費電力の比 \(P_2/P_1 = V_2/V_1\) を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 連立方程式の整理: (7)のように複数の式を連立させる場合、どの変数を消去し、どの変数間の関係式を導きたいのか、目的を明確にしてから計算を始めましょう。
  • グラフの読み取り精度: グラフから値を読み取る際は、有効数字を意識しつつ、できるだけ正確に読み取る努力をします。目分量ではなく、定規を当てるなどして精度を上げましょう。
  • 単位の確認: 電圧は[V]、電流は[A]、抵抗は[Ω]、電力は[W]と、基本的な単位を常に意識することで、次元の違う量を足してしまうなどのケアレスミスを防げます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • [A]の動作点: LED2はLED1よりも高い電圧をかけないと電流が流れない特性を持っています。同じ回路条件(負荷曲線)であれば、LED2の方がLED1よりも高い電圧・低い電流で動作するのは物理的に妥当です。(\(V_2=2.5\text{V} > V_1=2.0\text{V}\), \(I_2=0.2\text{A} < I_1=0.4\text{A}\))
    • [B]の動作点: (7)で与えられた条件 \(V_2=V_1+1.0\) は、LED2の方が常にLED1より1.0V高い電圧がかかることを意味します。直列で電流が同じなので、これはLED2の方が消費電力が大きいことを意味します。したがって、(9)で\(P_2/P_1\)が1より大きい値(\(1.4\))になったのは妥当な結果です。
  • グラフ上での検算:
    • (8)で求めた動作点 \(I=0.80\,\text{A}, V_1=2.5\,\text{V}\) と、(9)で読み取った \(V_2=3.5\,\text{V}\) が、(7)の前提条件 \(V_2=V_1+1.0\) を満たしているか確認します。\(3.5 = 2.5 + 1.0\) となり、確かに満たしています。このように、複数の条件がすべて矛盾なく成立しているかを確認することで、解答の信頼性を高めることができます。

問題122 (福井大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、コンデンサーと抵抗を含む直流回路について、スイッチの切り替えに伴う充電、エネルギー、定常電流、消費電力、そして電荷の再配分を問う、総合的な問題です。
この問題の核心は、各状態(スイッチ1側、スイッチ2側)における定常状態の性質を正しく理解し、キルヒホッフの法則や電気量保存則といった基本法則を的確に適用する能力です。

与えられた条件
  • 抵抗: 抵抗値\(r\)の抵抗1、抵抗値\(R\)の抵抗2
  • コンデンサー: 電気容量\(C_1\)のコンデンサー1、電気容量\(C_2\)のコンデンサー2
  • 直流電源: 起電力\(E\)、内部抵抗は無視
  • 操作: ①スイッチを1側に入れる → ②十分に時間が経過 → ③スイッチを2側に入れる → ④十分に時間が経過
  • 設問(5)の条件: \(C_1=C, C_2=4C\)
問われていること
  • (1) スイッチ1側での定常状態における、コンデンサー1の極板Aの電気量\(Q\)。
  • (2) (1)の状態でのコンデンサー1の静電エネルギー\(U\)。
  • (3) スイッチを2側に切り替えた後の定常状態における、抵抗2の両端の電位差\(V\)。
  • (4) 抵抗2の消費電力\(P\)が最大になる抵抗値\(R\)と、そのときの最大消費電力\(P_{\text{最大}}\)。
  • (5) \(C_1=C, C_2=4C\)の条件で、スイッチ2側での定常状態における、コンデンサー1の極板Aの電気量\(Q_1\)とコンデンサー2の極板Bの電気量\(Q_2\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「コンデンサーを含む直流回路の解析」です。スイッチの切り替えを伴うため、状態変化の前後での物理法則の適用が鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. コンデンサーの定常状態: 十分に時間が経過した後(定常状態)、コンデンサーが接続されている直流回路部分には電流が流れません。コンデンサーは「断線」していると見なせます。
  2. キルヒホッフの法則: 複雑な回路を流れる電流や各部分の電位差を求めるための基本法則です。特に、閉回路の電位の関係(第2法則)を多用します。
  3. 電気量保存則: 回路の一部が外部から電気的に孤立している場合、その部分の電荷の総和はスイッチの切り替えなどの操作の前後で保存されます。
  4. 電力の最大値問題: ある抵抗での消費電力をその抵抗値の関数で表し、最大値を求める問題です。多くの場合、相加相乗平均の関係を利用すると効率的に解くことができます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、スイッチが1側にあるときの定常状態を考え、回路に電流が流れないことを利用して各コンデンサーの電圧と電気量を求めます(問1, 2)。
  2. 次に、スイッチを2側に切り替えた後の定常状態を考えます。このとき、コンデンサー部分は断線と見なせるため、抵抗のみの単純な回路として電流と電圧を求めます(問3)。
  3. 問3の結果を利用して消費電力を立式し、相加相乗平均の関係を用いて最大値を求めます(問4)。
  4. 最後に、スイッチ切り替え後のコンデンサーの電気量を、キルヒホッフの法則と電気量保存則を連立させて解きます(問5)。

問(1)

思考の道筋とポイント
スイッチを1側に入れてから十分に時間が経過した状態(定常状態)を考えます。このとき、コンデンサーの充電は完了しており、回路に定常電流は流れません。この「電流が0」という点が解析の出発点です。

この設問における重要なポイント

  • 充電完了時、コンデンサーに電流は流れない。
  • 回路に電流が流れないため、回路内のすべての抵抗による電圧降下は0である。
  • したがって、コンデンサー1には、電源の起電力\(E\)が直接かかることになる。

具体的な解説と立式
スイッチを1側に入れて十分に時間が経過すると、コンデンサー\(C_1\)と\(C_2\)の充電が完了し、回路に電流が流れなくなります。
電流が0なので、回路に含まれる抵抗(この場合は抵抗1)での電圧降下は\(V=rI=r \times 0 = 0\)となります。
その結果、コンデンサー1の両端にかかる電圧は、電源の起電力\(E\)に等しくなります。
コンデンサー1の極板Aに蓄えられる電気量を\(Q\)とすると、コンデンサーの基本公式\(Q=CV\)より、以下の式が成り立ちます。
$$ Q = C_1 E $$
極板Aは電源の正極側に接続されているため、蓄えられる電気量は正となります。

使用した物理公式

  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • オームの法則: \(V=RI\)(ここでは\(I=0\)を適用)
計算過程

立式した \(Q = C_1 E\) がそのまま答えとなります。

計算方法の平易な説明

スイッチを入れてしばらくすると、コンデンサーは電気を溜め込み、やがて満タンになります。満タンになると、それ以上電気は流れ込みません。つまり、回路全体の電流がストップします。電流が流れていないので、途中にある抵抗は、単なる導線と同じ役割しかしません。その結果、コンデンサー1には電源の電圧\(E\)がそのままかかることになります。あとは「電気量 = 電気容量 × 電圧」の公式に当てはめるだけです。

結論と吟味

コンデンサー1の極板Aに蓄えられている電気量は \(Q = C_1 E\) です。同様に、コンデンサー2にも電圧\(E\)がかかるため、その電気量は\(C_2E\)となります。

解答 (1) \(Q = C_1 E\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)でコンデンサー1の状態(電気容量\(C_1\)、電圧\(E\)、電気量\(Q=C_1E\))が判明しているので、これを用いて静電エネルギーを計算します。

この設問における重要なポイント

  • 静電エネルギーの公式は \(U = \displaystyle\frac{1}{2}QV = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \displaystyle\frac{Q^2}{2C}\) の3つの形がある。
  • 問題で与えられている量(\(C_1, E\))や、前の設問で求めた量を使って、最も計算しやすい形を選択する。

具体的な解説と立式
コンデンサーに蓄えられる静電エネルギー\(U\)を求める公式の中から、電気容量\(C_1\)と電圧\(E\)で表される \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\) を用いるのが最も直接的です。
コンデンサー1の電気容量は\(C_1\)、かかる電圧は\(E\)なので、蓄えられているエネルギー\(U\)は以下の式で与えられます。
$$ U = \frac{1}{2}C_1 E^2 $$

使用した物理公式

  • コンデンサーの静電エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
計算過程

立式した \(U = \displaystyle\frac{1}{2}C_1 E^2\) がそのまま答えとなります。

計算方法の平易な説明

コンデンサーが蓄えるエネルギーを計算する問題です。(1)でコンデンサー1の電気容量が\(C_1\)、かかっている電圧が\(E\)であることがわかっているので、エネルギーの公式 \(U = \frac{1}{2}CV^2\) にそのまま代入すれば答えが求まります。

結論と吟味

コンデンサー1に蓄えられているエネルギーは \(U = \displaystyle\frac{1}{2}C_1 E^2\) です。これは基本的な公式の適用であり、妥当な結果です。

解答 (2) \(U = \displaystyle\frac{1}{2}C_1 E^2\)

問(3)

思考の道筋とポイント
スイッチを2側に切り替えてから十分に時間が経過した状態を考えます。このときも、コンデンサーの充電(あるいは再配分)が完了し、コンデンサーが接続されている経路には電流が流れなくなります。

この設問における重要なポイント

  • 定常状態では、コンデンサー部分は「断線」していると見なせる。
  • 電流は、電源\(E\)、抵抗\(r\)、抵抗\(R\)からなる閉回路のみを流れる。
  • この単純な直列回路について、キルヒホッフの法則(またはオームの法則)を適用して電流を求める。

具体的な解説と立式
スイッチを2側に入れると、十分に時間が経過した後、コンデンサー部分には電流が流れなくなります。
したがって、電流\(I\)は、電源\(E\)、抵抗1(\(r\))、抵抗2(\(R\))を通るループのみを流れます。これは、抵抗\(r\)と\(R\)が直列に接続された単純な回路と見なせます。
キルヒホッフの第2法則をこの閉回路に適用すると、
$$ E = rI + RI $$
この式から、回路を流れる電流\(I\)が求まります。
$$ I = \frac{E}{R+r} $$
求めたいのは抵抗2(\(R\))の両端の電位差\(V\)なので、オームの法則 \(V=RI\) を用います。
$$ V = RI $$
この式に上で求めた\(I\)を代入します。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの第2法則: \(\sum V = 0\)
  • オームの法則: \(V=RI\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
V &= R \times I \\[2.0ex]&= R \times \frac{E}{R+r} \\[2.0ex]&= \frac{R}{R+r}E
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

スイッチを切り替えて時間が経つと、コンデンサーは再び「通行止め」の役割を果たします。そのため、電流はコンデンサーを避けて、電源\(E\)、抵抗\(r\)、抵抗\(R\)をぐるりと回るルートだけを流れます。これは単に2つの抵抗が直列につながった回路なので、まず全体の電流を計算し、その電流と抵抗\(R\)の値から、オームの法則を使って抵抗\(R\)にかかる電圧を求めます。

結論と吟味

抵抗2の両端の電位差は \(V = \displaystyle\frac{R}{R+r}E\) です。これは、電源の電圧\(E\)が、抵抗値の比 \(r:R\) に応じて分配されるうちの、\(R\)が受け取る分圧に相当します。

解答 (3) \(V = \displaystyle\frac{R}{R+r}E\)

問(4)

思考の道筋とポイント
抵抗2(\(R\))での消費電力\(P\)を、\(R\)の関数として表現し、その最大値を求める問題です。電力の公式 \(P=VI\) に(3)で求めた\(V\)と\(I\)を代入し、得られた式の最大値を相加相乗平均の関係を用いて求めます。

この設問における重要なポイント

  • 消費電力の公式: \(P=VI=RI^2=\displaystyle\frac{V^2}{R}\)
  • 相加平均と相乗平均の関係: \(a>0, b>0\) のとき、\(a+b \ge 2\sqrt{ab}\)。等号成立は \(a=b\) のとき。
  • 最大値を求めるための式変形: 相加相乗平均が使える形(和の形)に式を変形するのが定石。

具体的な解説と立式
抵抗2での消費電力\(P\)は、(3)で求めた電流\(I\)を用いて、\(P=RI^2\)で計算できます。
$$ P = R \left( \frac{E}{R+r} \right)^2 = \frac{RE^2}{(R+r)^2} $$
この式が最大となる\(R\)の値を求めます。このままでは最大値が分かりにくいので、相加相乗平均の関係が利用できるように式を変形します。分母を展開し、分母・分子を\(R\)で割ります。
$$ P = \frac{RE^2}{R^2+2Rr+r^2} = \frac{E^2}{R+2r+\frac{r^2}{R}} $$
この式は、分母の \(R + \displaystyle\frac{r^2}{R} + 2r\) が最小となるときに最大値をとります。
ここで、\(R>0, r^2/R>0\) なので、\(R\)と\(\displaystyle\frac{r^2}{R}\)の項に相加相乗平均の関係を適用できます。
$$ R + \frac{r^2}{R} \ge 2\sqrt{R \cdot \frac{r^2}{R}} $$

使用した物理公式

  • 電力: \(P=RI^2\)
  • 相加平均と相乗平均の関係
計算過程

相加相乗平均の関係より、分母の一部は
$$
\begin{aligned}
R + \frac{r^2}{R} &\ge 2\sqrt{R \cdot \frac{r^2}{R}} \\[2.0ex]&= 2\sqrt{r^2} \\[2.0ex]&= 2r
\end{aligned}
$$
等号が成立するのは \(R = \displaystyle\frac{r^2}{R}\)、すなわち \(R^2=r^2\)。\(R>0, r>0\)より \(R=r\) のときです。
このとき、分母 \(R + \displaystyle\frac{r^2}{R} + 2r\) は最小値 \(2r+2r=4r\) をとります。
したがって、消費電力\(P\)は \(R=r\) のときに最大となります。
その最大値\(P_{\text{最大}}\)は、
$$
\begin{aligned}
P_{\text{最大}} &= \frac{E^2}{4r}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

まず、抵抗\(R\)で使われる電力を、\(R\)の式で表します。この式を眺めても、いつ電力が最大になるかはすぐには分かりません。そこで、「相加相乗平均」という数学のテクニックを使います。このテクニックが使えるように式をうまく変形すると、「分母が一番小さいときに、全体の電力は最大になる」という形にできます。計算を進めると、分母が最小になるのは抵抗\(R\)と抵抗\(r\)の値が等しいときだと分かります。そのときの電力の最大値も計算できます。

結論と吟味

抵抗2の消費電力は、抵抗値\(R\)が抵抗1の抵抗値\(r\)に等しいとき、すなわち \(R=r\) のときに最大となります。その最大値は \(P_{\text{最大}} = \displaystyle\frac{E^2}{4r}\) です。これは「整合条件」として知られる重要な結果であり、妥当です。

解答 (4) \(R=r\) のとき最大となり、最大消費電力は \(P_{\text{最大}} = \displaystyle\frac{E^2}{4r}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
スイッチを2側に切り替えた後の、より複雑な状態における各コンデンサーの電気量を求める問題です。定常状態ではコンデンサーに電流は流れませんが、各部の電位が(1)の状態とは異なるため、電荷の再配分が起こります。未知数が多いため、キルヒホッフの法則と電気量保存則を連立させて解く必要があります。

この設問における重要なポイント

  • 未知数を設定する: コンデンサーの電圧\(V_1, V_2\)や電気量\(Q_1, Q_2\)などを未知数とする。
  • 関係式を立てる:
    1. コンデンサーの基本式: \(Q_1=C_1V_1\), \(Q_2=C_2V_2\)。
    2. キルヒホッフの第2法則(ループ則): 回路内の任意の閉ループにおいて、電位差の和は0。
    3. 電気量保存則: スイッチ切り替えの前後で、回路の孤立部分の総電気量は一定に保たれる。

具体的な解説と立式
コンデンサー1, 2にかかる電圧をそれぞれ\(V_1, V_2\)、蓄えられる電気量をそれぞれ\(Q_1, Q_2\)とします。これら4つの未知数を求めるために、4つの独立な方程式を立てます。

  1. コンデンサーの基本式:
    $$ Q_1 = C_1 V_1 \quad \cdots ① $$
    $$ Q_2 = C_2 V_2 \quad \cdots ② $$
  2. キルヒホッフの法則:
    コンデンサー\(C_1\)と\(C_2\)が接続されているループを考えます。\(C_1\)と\(C_2\)の電圧の和は、それらが接続されている点P2と点P0の間の電位差に等しくなります。定常状態では、P2とP0の間の電位差は抵抗\(R\)の両端の電圧\(V\)に等しくなります。(3)より \(V = \displaystyle\frac{R}{R+r}E\) なので、
    $$ V_1 + V_2 = \frac{R}{R+r}E \quad \cdots ③ $$
  3. 電気量保存則:
    スイッチの切り替え前後で、点P3に接続されている部分(コンデンサー1の下側極板とコンデンサー2の左側極板)は、回路の他の部分から電気的に孤立しています。この部分の電気量の総和は保存されます。模範解答の立式に従うと、以下の式が成り立ちます。
    $$ -Q_1 + Q_2 = -(C_1E + C_2E) \quad \cdots ④ $$

これらの4つの式と条件 \(C_1=C, C_2=4C\) を用いて連立方程式を解きます。

使用した物理公式

  • コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
  • キルヒホッフの第2法則
  • 電気量保存則
計算過程

まず、条件 \(C_1=C, C_2=4C\) を④式に代入します。
$$
\begin{aligned}
-Q_1 + Q_2 &= -(CE + 4CE) \\[2.0ex]&= -5CE
\end{aligned}
$$
この式に①, ②式を代入します。
$$ -CV_1 + 4CV_2 = -5CE $$
両辺を\(C\)で割ります。
$$ -V_1 + 4V_2 = -5E \quad \cdots ⑤ $$
次に、③式から \(V_2 = \displaystyle\frac{R}{R+r}E – V_1\) として、これを⑤式に代入します。
$$
\begin{aligned}
-V_1 + 4\left( \frac{R}{R+r}E – V_1 \right) &= -5E \\[2.0ex]-V_1 + \frac{4R}{R+r}E – 4V_1 &= -5E \\[2.0ex]-5V_1 &= -5E – \frac{4R}{R+r}E \\[2.0ex]-5V_1 &= \left( -5 – \frac{4R}{R+r} \right)E \\[2.0ex]-5V_1 &= \left( \frac{-5(R+r) – 4R}{R+r} \right)E \\[2.0ex]-5V_1 &= \frac{-9R-5r}{R+r}E \\[2.0ex]V_1 &= \frac{9R+5r}{5(R+r)}E
\end{aligned}
$$
最後に、求めた\(V_1\)を①式に代入して\(Q_1\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= C_1 V_1 \\[2.0ex]&= C \cdot \frac{9R+5r}{5(R+r)}E \\[2.0ex]&= \frac{9R+5r}{5(R+r)}CE
\end{aligned}
$$
同様に\(V_2\)を求め、\(Q_2\)を計算します。⑤式より \(V_1 = 4V_2 + 5E\)。これを③式に代入します。
$$
\begin{aligned}
(4V_2 + 5E) + V_2 &= \frac{R}{R+r}E \\[2.0ex]5V_2 &= \left( \frac{R}{R+r} – 5 \right)E \\[2.0ex]5V_2 &= \frac{R – 5(R+r)}{R+r}E \\[2.0ex]V_2 &= \frac{-4R-5r}{5(R+r)}E
\end{aligned}
$$
これを②式に代入して\(Q_2\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= C_2 V_2 \\[2.0ex]&= 4C \cdot \left( \frac{-4R-5r}{5(R+r)}E \right) \\[2.0ex]&= -\frac{4(4R+5r)}{5(R+r)}CE
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この設問は、パズルのように複数のピース(物理法則)を組み合わせて解く問題です。未知数が4つ(\(Q_1, V_1, Q_2, V_2\))あるので、式を4本立てる必要があります。1, 2本目は各コンデンサーの基本式(\(Q=CV\))、3本目は回路を一周したときの電圧の関係(キルヒホッフの法則)、4本目はスイッチを切り替えても「孤立した部分」の電気量は変わらないという保存則です。これら4つの式を立てて、あとは数学の連立方程式として解けば、答えが求まります。

結論と吟味

コンデンサー1の極板Aの電気量は \(Q_1 = \displaystyle\frac{9R+5r}{5(R+r)}CE\)、コンデンサー2の極板Bの電気量は \(Q_2 = -\displaystyle\frac{4(4R+5r)}{5(R+r)}CE\) となります。\(Q_2\)が負の値となっているのは、スイッチ切り替え後に電荷の再配分が起こり、極板Bが負に帯電したことを示しています。

解答 (5)
\(Q_1 = \displaystyle\frac{9R+5r}{5(R+r)}CE\)
\(Q_2 = -\displaystyle\frac{4(4R+5r)}{5(R+r)}CE\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • コンデンサーの定常状態の理解:
    • 核心: 直流回路において、十分に時間が経過した定常状態では、コンデンサーが接続されている経路には電流が流れません。コンデンサーは「断線」として扱える、という点がこの種の問題を解く上での大原則です。
    • 理解のポイント: (1)ではこの原則から抵抗での電圧降下が0であること、(3)では電流がコンデンサーを迂回するループのみを流れることを導き出しています。
  • 電気量保存則:
    • 核心: 回路の接続が切り替わる際、外部から電荷の出入りがない「孤立部分」の総電気量は、切り替えの前後で不変です。
    • 理解のポイント: (5)では、点P3に接続された2枚のコンデンサー極板が孤立部分を形成します。この部分の初期電荷(スイッチ1側での状態)と最終電荷(スイッチ2側での状態)を等しいと置くことで、未知数を解くための決定的な方程式が得られます。
  • キルヒホッフの法則:
    • 核心: 複雑な回路網における電流と電圧の関係を記述する普遍的な法則です。特に第2法則(閉回路一周の電位差の和は0)は、回路の各部分の電位差を関連付けるために不可欠です。
    • 理解のポイント: (3)では抵抗のみの単純なループに、(5)ではコンデンサーを含むループに適用し、電圧に関する方程式を立てています。
  • 電力の最大条件(整合):
    • 核心: 電源(内部抵抗\(r\))から外部の抵抗\(R\)に供給される電力が最大になるのは、\(R=r\)のときである、という重要な関係です。
    • 理解のポイント: (4)では、消費電力\(P\)を\(R\)の関数として表し、相加相乗平均の関係を用いてこの条件を導出します。これは様々な分野で応用される「インピーダンス整合」の基本概念です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • スイッチの切り替え問題: 本問のように、スイッチ操作で回路構成が変わる問題。常に「切り替え前の状態」と「切り替え後の状態」を明確に区別し、その前後で何が保存されるか(電気量保存則)、何が変化するかを分析することが鍵です。
    • コンデンサーと電池の再接続: 充電済みのコンデンサーを電池から切り離し、別のコンデンサーや抵抗に接続する問題。この場合も「孤立部分の電気量保存則」が活躍します。
    • 内部抵抗を持つ電源: 本問の(3)以降のように、電源に内部抵抗がある場合、電源から取り出せる電圧(端子電圧)は流れる電流によって変化します。\(V = E – rI\) の関係を常に意識する必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「十分に時間がたった」のキーワード: この言葉を見たら、即座に「コンデンサー部分の電流は0」と変換します。これが解析の第一歩です。
    2. 回路の孤立部分を探す: スイッチ操作や接続変更がある問題では、必ず電気的に孤立した部分がないかを探します。そこが電気量保存則の使いどころです。
    3. 未知数と方程式の数の確認: (5)のように未知数が多い場合は、やみくもに解き始めるのではなく、まず「未知数は何か、いくつあるか」「使える法則は何か(コンデンサーの式、キルヒホッフ則、保存則など)、式をいくつ立てられるか」を見積もる戦略的な視点が重要です。
    4. 電力の最大値問題: 「消費電力が最大になるとき」と問われたら、ほぼ確実に「相加相乗平均」か「微分して0」のどちらかです。物理の問題では相加相乗平均で解ける形に変形できることが多いと知っておくと、式変形の方針が立てやすくなります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 定常状態の誤解:
    • 誤解: スイッチを2に入れた後も、コンデンサーに電流が流れ続けると考えてしまう。
    • 対策: 直流回路では、コンデンサーは充電が完了すれば電流をブロックする「壁」のようになると覚えましょう。電流が流れるのは充電・放電の途中(過渡状態)だけです。
  • 電気量保存則の適用範囲の間違い:
    • 誤解: 回路のどこでも電気量が保存されると勘違いし、孤立していない部分に適用してしまう。
    • 対策: 電気量保存則が使えるのは、導線が途中で切れていて、他の部分と電荷のやり取りができない「浮島」のような部分だけです。必ず図で孤立部分を囲って確認する癖をつけましょう。
  • 相加相乗平均のための式変形ミス:
    • 誤解: (4)で \(P = \displaystyle\frac{RE^2}{(R+r)^2}\) の分母 \((R+r)^2\) をそのまま展開してしまい、どうすればいいか分からなくなる。
    • 対策: \(P\)が最大 \(\iff\) \(1/P\)が最小、という発想が有効です。\( \displaystyle\frac{1}{P} = \frac{(R+r)^2}{RE^2} = \frac{R^2+2Rr+r^2}{RE^2} = \frac{1}{E^2}(R+2r+\frac{r^2}{R}) \) と逆数をとると、和の形が見えやすくなります。
  • 電荷の符号ミス:
    • 誤解: (5)で電気量保存則を立てる際に、各極板の電荷の符号を間違える。
    • 対策: 電源の向きや電位の高低を元に、各極板が正負どちらに帯電するかを常に意識しましょう。例えば、電源の正極側につながる極板は正、負極側は負になります。連立方程式を解いた結果、\(Q_2\)が負になったように、未知の電荷は仮に正として計算を進め、結果の符号で判断することも有効です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 定常状態の等価回路図: (3)の状態を図示する際、コンデンサー部分を「断線」として描き直すと、電流が流れる経路が一目瞭然となります。元の回路図に、電流が流れない部分を点線で示すだけでも思考が整理されます。
    • 電位の図: 回路の各点の電位を、高さでイメージすると分かりやすいです。例えば(3)では、P1を基準(0V)とすると、電源を通って電位が\(E\)だけ上がり、抵抗\(r\)で\(rI\)下がり、抵抗\(R\)で\(RI\)下がり、P1に戻ります。コンデンサー両端の電圧は、接続されている点の「電位の差」として視覚的に捉えられます。
    • 孤立部分のマーキング: (5)を解く際に、電気量保存則を適用する「孤立部分」(P3点につながる極板群)を色ペンなどで囲むと、どの電荷の和を考えればよいかが明確になり、立式ミスを防げます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 電流の経路: 電流が流れる向きと経路を矢印で明確に書き込みましょう。特に定常状態では、どこに電流が流れていないかを意識することが重要です。
    • 電荷の符号: 各コンデンサーの極板に `+` `-` の符号を書き込むことで、電位の高低関係や電気量保存則の立式が正確になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(Q=CV\)(コンデンサーの基本式):
    • 選定理由: コンデンサーの3つの基本量(電気量、容量、電圧)の関係を表す最も基本的な式。(1)では電圧から電気量を、(5)では電圧と電気量を結びつけるために使用します。
    • 適用根拠: コンデンサーという素子の定義そのものです。
  • キルヒホッフの第2法則:
    • 選定理由: (3)や(5)のように、複数の素子が接続された閉回路における電圧(電位)の関係を調べるため。
    • 適用根拠: エネルギー保存則が電位という形で現れたもので、あらゆる電気回路で成り立つ普遍的な法則です。
  • 電気量保存則:
    • 選定理由: (5)のように、スイッチの切り替えによって回路の状態が変化する問題で、変化の前後をつなぐ関係式を得るため。
    • 適用根拠: 電荷は勝手に生まれたり消えたりせず、孤立した系の中では総量が一定であるという物理学の基本法則です。
  • \(P=VI\) と相加相乗平均:
    • 選定理由: (4)で「消費電力の最大値」を求めるため。\(P\)を求めたい変数の関数で表し、その最大値を解析する数学的ツールとして選択します。
    • 適用根拠: 相加相乗平均の関係は、和が一定のときに積が最大になる(またはその逆)という条件を求める際に強力な手法であり、物理学における最適化問題で頻繁に利用されます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 初期電荷:
    • 戦略: 充電完了 \(\rightarrow\) 電流0 \(\rightarrow\) 抵抗の電圧降下0。
    • フロー: ①定常状態で\(I=0\)と判断。②抵抗\(r\)の電圧降下\(V_r=r \cdot 0 = 0\)。③\(C_1\)の電圧は\(E\)に等しい。④\(Q=C_1V\)より\(Q=C_1E\)。
  2. (2) 初期エネルギー:
    • 戦略: (1)の結果をエネルギー公式に代入。
    • フロー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}C_1V^2\) に \(V=E\) を代入し、\(U = \displaystyle\frac{1}{2}C_1E^2\)。
  3. (3) 切り替え後の電圧:
    • 戦略: 定常状態 \(\rightarrow\) コンデンサーは断線 \(\rightarrow\) 抵抗のみの直列回路。
    • フロー: ①\(r\)と\(R\)の直列回路と見なす。②回路電流 \(I = \displaystyle\frac{E}{R+r}\)。③抵抗\(R\)の電圧 \(V=RI\)。④代入して \(V = \displaystyle\frac{R}{R+r}E\)。
  4. (4) 最大消費電力:
    • 戦略: \(P\)を\(R\)の関数で表し、相加相乗平均で最大値を求める。
    • フロー: ①\(P=RI^2\)に(3)の結果を代入。②\(P=\displaystyle\frac{RE^2}{(R+r)^2}\)。③分母が最小のときに\(P\)が最大になるように式変形 \(\rightarrow P = \displaystyle\frac{E^2}{R+\frac{r^2}{R}+2r}\)。④分母の\(R+\frac{r^2}{R}\)に相加相乗平均を適用。⑤等号成立条件 \(R=r\) が答え。⑥そのときの\(P\)を計算。
  5. (5) 最終電荷:
    • 戦略: 未知数(\(V_1, V_2, Q_1, Q_2\))を設定し、物理法則(\(Q=CV\), キルヒホッフ則, 電気量保存則)から連立方程式を立てる。
    • フロー: ①未知数を設定。②\(Q_1=C_1V_1\), \(Q_2=C_2V_2\)の式を立てる。③コンデンサー部分のループで \(V_1+V_2 = V = \displaystyle\frac{R}{R+r}E\) の式を立てる。④孤立部分で電気量保存則の式を立てる。⑤これら4式を連立方程式として解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の整理: この問題のように文字が多い計算では、どの文字が定数でどれが変数かを意識することが重要です。(4)では\(R\)が変数、(5)では\(V_1, V_2\)などが変数です。計算の途中で式が複雑になったら、一度立ち止まって項を整理しましょう。
  • 連立方程式の解法: (5)のような連立方程式では、どの式を使ってどの文字を消去するか、計画を立ててから計算を始めるとスムーズです。例えば、まず\(Q\)を\(V\)で表し、\(V\)に関する連立方程式に帰着させる、といった方針です。
  • 符号の確認: 電気量や電位差の符号は間違いやすいポイントです。特に(5)の電気量保存則では、極板のどちら側を考えているのか、その符号は正か負かを慎重に確認しましょう。計算結果の符号が物理的に妥当か(例:\(Q_2\)が負になる理由)を考えることも検算になります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3) 電圧: \(V = \displaystyle\frac{R}{R+r}E\) は、\(E\)を\(R\)と\(r\)で分圧した形であり、\(R\)大きいほど\(V\)が大きくなる直感と一致します。
    • (4) 最大電力: \(R=r\) という結果は、電源の内部抵抗と負荷抵抗が一致するときに電力供給が最大になるという、広く知られた物理法則(整合条件)です。この知識があれば、答えの妥当性を確信できます。
    • (5) 極限ケースの確認: 例えば、もし\(R \rightarrow \infty\)(抵抗2が断線)なら、(3)で\(V \rightarrow E\)となり、コンデンサーにかかる電圧の和は\(E\)になります。このとき\(Q_1, Q_2\)の式がどうなるかを考えてみるなど、極端な状況を想定して式の妥当性をチェックするのも良い訓練です。
  • 別解との比較:
    • (5)は、各点の電位を未知数(例:P1を0V、P2を\(E\)、P3を\(x\)、P0を\(y\))としてキルヒホッフの法則を適用する方法でも解けます。複数のアプローチで同じ結果が得られれば、解答の信頼性は非常に高まります。

問題123 (長崎大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、直流電源、内部抵抗を持つ電流計と電圧計を用いて、未知抵抗の値を測定する2つの異なる方法(電流計-電圧計法)について、測定値と真の値の関係、および測定誤差を評価する問題です。

与えられた条件
  • 未知抵抗: 抵抗値 \(R_x\)
  • 測定機器:
    • 直流電流計: 内部抵抗 \(r_A\)
    • 直流電圧計: 内部抵抗 \(r_V\)
  • 直流電源: 起電力 \(E\)、内部抵抗は無視できる
  • 実験1: 電圧計を未知抵抗\(R_x\)に並列に接続し、その全体に電流計を直列に接続する。測定値は \(I_1, V_1\)。
  • 実験2: 電流計を未知抵抗\(R_x\)に直列に接続し、その全体に電圧計を並列に接続する。測定値は \(I_2, V_2\)。
  • 測定抵抗の定義: \(R_1 = \displaystyle\frac{V_1}{I_1}\), \(R_2 = \displaystyle\frac{V_2}{I_2}\)
  • 誤差の定義: \(\varepsilon_1 = |R_1 – R_x|\), \(\varepsilon_2 = |R_2 – R_x|\)
問われていること
  • (1) 測定値 \(R_1\) を、真の値 \(R_x\) と電圧計の内部抵抗 \(r_V\) を用いて表す。
  • (2) 測定値 \(R_2\) を、真の値 \(R_x\) と電流計の内部抵抗 \(r_A\) を用いて表す。
  • (3) 誤差 \(\varepsilon_1\) が \(\varepsilon_2\) より小さくなるための条件を、\(\displaystyle\frac{R_x}{r_A}\) および \(\displaystyle\frac{r_V}{R_x}\) を用いて表す。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「電流計・電圧計の内部抵抗を考慮した抵抗測定と誤差の評価」です。理想的な測定器ではない、現実の測定器が測定結果にどのような影響を与えるかを、電気回路の基本法則から解き明かしていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. オームの法則: 抵抗における電圧、電流、抵抗値の関係 (\(V=RI\)) を記述する最も基本的な法則です。
  2. キルヒホッフの法則: 回路の分岐点における電流の関係(第1法則・電流則)と、閉回路における電圧の関係(第2法則・電圧則)であり、複雑な回路を解析するための普遍的なツールです。
  3. 抵抗の直列・並列合成: 回路の一部を等価な一つの抵抗と見なすことで、解析を単純化します。
  4. 測定誤差の概念: 測定値が真の値からどれだけずれているかを表し、測定方法の精度を評価する指標となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 実験1、実験2の各回路について、キルヒホッフの法則とオームの法則を用いて、測定される電圧・電流と、回路の各パラメータ(\(R_x, r_A, r_V\))の関係式を導出します(問1, 2)。
  2. 問1, 2の結果を用いて、測定抵抗 \(R_1, R_2\) を \(R_x\) などで表します。
  3. 誤差の定義に従って \(\varepsilon_1, \varepsilon_2\) を具体的に計算し、\(\varepsilon_1 < \varepsilon_2\) という不等式を立て、指定された形になるように数学的に変形します(問3)。

問(1)

思考の道筋とポイント
実験1の回路における測定抵抗 \(R_1 = V_1/I_1\) を求めます。この回路では、電流計は未知抵抗\(R_x\)に流れる電流と電圧計に流れる電流の「合計」を測定してしまいます。この点が誤差の原因であり、解析の鍵となります。

この設問における重要なポイント

  • 電流計が測定する電流\(I_1\)は、未知抵抗\(R_x\)を流れる電流と、電圧計(内部抵抗\(r_V\))を流れる電流の和である。
  • 電圧計が測定する電圧\(V_1\)は、未知抵抗\(R_x\)と電圧計の両方にかかる電圧であり、これらは等しい。
  • 回路構造として、\(R_x\)と\(r_V\)は並列接続になっている。

具体的な解説と立式
実験1の回路図において、キルヒホッフの法則とオームの法則を適用します。
電圧計に流れる電流を\(i\)、未知抵抗\(R_x\)に流れる電流を\(i_x\)とします。
分岐点において、キルヒホッフの第1法則(電流則)より、電流計を流れる電流\(I_1\)は、
$$ I_1 = i_x + i \quad \cdots ① $$
未知抵抗\(R_x\)と電圧計は並列に接続されているため、両端にかかる電圧は等しく、測定値\(V_1\)となります。それぞれにオームの法則を適用すると、
$$ V_1 = R_x i_x \quad \cdots ② $$
$$ V_1 = r_V i \quad \cdots ③ $$
求めたいのは \(R_1 = \displaystyle\frac{V_1}{I_1}\) なので、まず\(I_1\)を\(V_1\)と他のパラメータで表します。②, ③式から\(i_x\)と\(i\)を求め、①式に代入します。
$$ i_x = \frac{V_1}{R_x}, \quad i = \frac{V_1}{r_V} $$
これらを①式に代入すると、
$$ I_1 = \frac{V_1}{R_x} + \frac{V_1}{r_V} $$

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=RI\)
  • キルヒホッフの第1法則(電流則)
計算過程

立式した\(I_1\)の式を\(V_1\)でまとめます。
$$
\begin{aligned}
I_1 &= \left( \frac{1}{R_x} + \frac{1}{r_V} \right) V_1 \\[2.0ex]&= \frac{r_V + R_x}{R_x r_V} V_1
\end{aligned}
$$
測定抵抗\(R_1\)の定義式 \(R_1 = \displaystyle\frac{V_1}{I_1}\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
R_1 &= \frac{V_1}{ \frac{R_x+r_V}{R_x r_V} V_1 } \\[2.0ex]&= \frac{R_x r_V}{R_x+r_V}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

実験1では、電流計は「未知抵抗に流れる電流」と「電圧計自身に流れ込む電流」の両方を合計して測ってしまっています。一方、電圧計は未知抵抗にかかる電圧を正しく測っています。この回路は、見方を変えれば、未知抵抗\(R_x\)と電圧計の内部抵抗\(r_V\)を並列につないだものとみなせます。したがって、測定される抵抗値\(R_1\)は、この2つの抵抗の並列合成抵抗の値そのものになります。

結論と吟味

測定値\(R_1\)は \(R_1 = \displaystyle\frac{R_x r_V}{R_x+r_V}\) と表せます。これは\(R_x\)と\(r_V\)の並列合成抵抗の公式であり、物理的に妥当な結果です。並列合成抵抗は元のどの抵抗よりも小さくなるため、\(R_1 < R_x\) となることがわかります。

解答 (1) \(R_1 = \displaystyle\frac{R_x r_V}{R_x+r_V}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
実験2の回路における測定抵抗 \(R_2 = V_2/I_2\) を求めます。この回路では、電圧計は未知抵抗\(R_x\)にかかる電圧と電流計にかかる電圧の「合計」を測定してしまいます。これが誤差の原因です。

この設問における重要なポイント

  • 電流計が測定する電流\(I_2\)は、未知抵抗\(R_x\)を流れる電流そのものである。
  • 電圧計が測定する電圧\(V_2\)は、未知抵抗\(R_x\)にかかる電圧と、電流計(内部抵抗\(r_A\))にかかる電圧の和である。
  • 回路構造として、\(R_x\)と\(r_A\)は直列接続になっている。

具体的な解説と立式
実験2の回路図において、キルヒホッフの法則とオームの法則を適用します。
電流計と未知抵抗\(R_x\)は直列に接続されているため、両方ともに測定値\(I_2\)と同じ電流が流れます。
電圧計は、この直列部分全体にかかる電圧を測定します。キルヒホッフの第2法則(電圧則)より、測定電圧\(V_2\)は、電流計での電圧降下と\(R_x\)での電圧降下の和となります。
$$ V_2 = r_A I_2 + R_x I_2 $$
求めたいのは \(R_2 = \displaystyle\frac{V_2}{I_2}\) です。

使用した物理公式

  • オームの法則: \(V=RI\)
  • キルヒホッフの第2法則(電圧則)
計算過程

立式した\(V_2\)の式を\(I_2\)でまとめます。
$$
\begin{aligned}
V_2 &= (r_A + R_x) I_2
\end{aligned}
$$
測定抵抗\(R_2\)の定義式 \(R_2 = \displaystyle\frac{V_2}{I_2}\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
R_2 &= \frac{(r_A + R_x) I_2}{I_2} \\[2.0ex]&= R_x + r_A
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

実験2では、電圧計は「未知抵抗にかかる電圧」と「電流計自身にかかる電圧」の両方を合計して測ってしまっています。一方、電流計は未知抵抗に流れる電流を正しく測っています。この回路は、見方を変えれば、未知抵抗\(R_x\)と電流計の内部抵抗\(r_A\)を直列につないだものとみなせます。したがって、測定される抵抗値\(R_2\)は、この2つの抵抗の直列合成抵抗の値そのものになります。

結論と吟味

測定値\(R_2\)は \(R_2 = R_x + r_A\) と表せます。これは\(R_x\)と\(r_A\)の直列合成抵抗の公式であり、物理的に妥当な結果です。直列合成抵抗は元のどの抵抗よりも大きくなるため、\(R_2 > R_x\) となることがわかります。

解答 (2) \(R_2 = R_x + r_A\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(1), (2)で求めた\(R_1, R_2\)を使い、それぞれの真の値\(R_x\)からの誤差の大きさ\(\varepsilon_1, \varepsilon_2\)を計算します。そして、不等式\(\varepsilon_1 < \varepsilon_2\)を立て、問題文で指定された変数\(\displaystyle\frac{R_x}{r_A}\)と\(\displaystyle\frac{r_V}{R_x}\)を用いた形に変形します。

この設問における重要なポイント

  • 誤差の定義 \(\varepsilon_i = |R_i – R_x|\) に従って、計算を正確に行う。
  • 不等式の変形では、両辺に正の値を掛けたり割ったりすることに注意する。
  • 最終的な目標の形を意識して、式変形の方針を立てる。

具体的な解説と立式
まず、誤差\(\varepsilon_1, \varepsilon_2\)を定義に従って計算します。
(1)の結果より、
$$ \varepsilon_1 = |R_1 – R_x| = \left| \frac{R_x r_V}{R_x+r_V} – R_x \right| $$
(2)の結果より、
$$ \varepsilon_2 = |R_2 – R_x| = |(R_x + r_A) – R_x| $$
次に、\(\varepsilon_1 < \varepsilon_2\) という不等式を立て、これを変形していきます。

使用した物理公式

  • 特になし(数学的な計算)
計算過程

誤差の計算
$$
\begin{aligned}
\varepsilon_1 &= \left| \frac{R_x r_V – R_x(R_x+r_V)}{R_x+r_V} \right| \\[2.0ex]&= \left| \frac{R_x r_V – R_x^2 – R_x r_V}{R_x+r_V} \right| \\[2.0ex]&= \left| \frac{-R_x^2}{R_x+r_V} \right| \\[2.0ex]&= \frac{R_x^2}{R_x+r_V}
\end{aligned}
$$
(抵抗値はすべて正なので、分母は正です)
$$
\begin{aligned}
\varepsilon_2 &= |r_A| \\[2.0ex]&= r_A
\end{aligned}
$$
(内部抵抗\(r_A\)は正です)

不等式の変形
\(\varepsilon_1 < \varepsilon_2\) より、
$$ \frac{R_x^2}{R_x+r_V} < r_A $$
両辺に正の値である \((R_x+r_V)\) を掛けます。
$$ R_x^2 < r_A(R_x+r_V) $$
この不等式を、指定された形にするために、両辺を正の値である \(r_A R_x\) で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{R_x^2}{r_A R_x} &< \frac{r_A(R_x+r_V)}{r_A R_x} \\[2.0ex]\frac{R_x}{r_A} &< \frac{R_x+r_V}{R_x} \\[2.0ex]\frac{R_x}{r_A} &< 1 + \frac{r_V}{R_x}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

まず、実験1と実験2の測定結果が、本当の値からどれだけズレているか(誤差)を計算します。実験1の誤差は\(\varepsilon_1\)、実験2の誤差は\(\varepsilon_2\)です。次に、「実験1の誤差の方が実験2の誤差より小さい」という条件を不等式で表します。最後に、この不等式を問題で指定されたパーツ(\(\displaystyle\frac{R_x}{r_A}\)と\(\displaystyle\frac{r_V}{R_x}\))だけを使って表せるように、パズルを解くように式を変形していきます。

結論と吟味

実験1の誤差が実験2の誤差より小さくなるための条件は、\(\displaystyle\frac{R_x}{r_A} < 1 + \displaystyle\frac{r_V}{R_x}\) です。この条件は、測定する抵抗\(R_x\)と測定器の内部抵抗\(r_A, r_V\)の間の関係を示しており、どちらの測定方法がより正確かを選択するための基準となります。一般に、\(R_x\)が小さい場合にこの条件は満たされやすく、実験1の方法が適していると言えます。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{R_x}{r_A} < 1 + \displaystyle\frac{r_V}{R_x}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 測定器の内部抵抗の影響:
    • 核心: 理想的な電流計(内部抵抗0)や電圧計(内部抵抗∞)とは異なり、実際の測定器は回路に接続されることで、測定対象の回路そのものの状態を変化させてしまいます。この問題の核心は、その「影響」をキルヒホッフの法則とオームの法則を用いて定量的に評価することです。
    • 理解のポイント: 実験1では電圧計に電流が漏れることで電流計の読みが過大になり、実験2では電流計自身が電圧を消費することで電圧計の読みが過大になります。この違いが誤差の源泉です。
  • キルヒホッフの法則の適用:
    • 核心: 回路の分岐点では電流が保存され(第1法則)、閉回路では電位差の和が0になる(第2法則)という基本原則が、内部抵抗を含む複雑な回路を解析するための最も確実な手段です。
    • 理解のポイント: (1)では分岐点での電流則を、(2)では閉回路での電圧則を適用することで、測定値と真の値の関係を正確に立式しています。
  • 並列接続と直列接続の等価的理解:
    • 核心: 複雑に見える回路も、部分的に見れば単純な直列・並列接続と見なせます。
    • 理解のポイント: (1)の回路は「\(R_x\)と\(r_V\)の並列回路」に電流計を接続したもの、(2)の回路は「\(R_x\)と\(r_A\)の直列回路」に電圧計を接続したものと等価的に解釈できます。この視点を持つと、\(R_1\)が並列合成抵抗、\(R_2\)が直列合成抵抗になるという結果を直感的に理解できます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ホイートストンブリッジ: 抵抗測定の別の方法で、検流計に電流が流れない「平衡条件」を利用します。平衡していない場合の検流計に流れる電流を求める問題は、本問と同様にキルヒホッフの法則の応用問題となります。
    • 分流器・倍率器: 電流計の測定範囲を広げるための分流器(並列抵抗)、電圧計の測定範囲を広げるための倍率器(直列抵抗)の原理を問う問題。これらも測定器の内部抵抗と追加抵抗の関係を考える点で本問と共通しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 測定器が何を測定しているか?: 回路図を見たら、まず「この電流計はどの部分の電流を測っているのか?」「この電圧計はどの区間の電位差を測っているのか?」を正確に把握します。特に、測定器自身を含むかどうかが誤差を考える上で決定的です。
    2. 理想的な場合との比較: 「もし電流計の抵抗が0で、電圧計の抵抗が無限大だったらどうなるか?」と考えてみると、実際の測定器がなぜ誤差を生むのか、その原因が明確になります。
    3. 誤差の評価: (3)のように誤差の大小を比較する問題では、まずそれぞれの誤差を数式で表現し、その不等式を立てる、という手順を踏みます。最終的な式の形が指定されている場合は、その形をゴールとして意識しながら式変形を行うことが重要です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 電流計と電圧計の接続法の混同:
    • 誤解: 電流計を並列に、電圧計を直列に接続してしまう。
    • 対策: 「電流は流れを測るから回路に割り込む(直列)」「電圧は2点間の電位差を測るからその2点をまたぐ(並列)」と、測定の目的と接続方法をセットで覚えましょう。
  • 測定値の解釈ミス:
    • 誤解: (1)で電流計の読み\(I_1\)が\(R_x\)に流れる電流だと、(2)で電圧計の読み\(V_2\)が\(R_x\)にかかる電圧だと思い込んでしまう。
    • 対策: 回路図を注意深く見て、測定器が接続されている範囲を正確に特定する癖をつけましょう。測定器が他の素子と並列か直列かによって、その読みの意味は全く異なります。
  • 誤差計算での絶対値の扱い:
    • 誤解: \(\varepsilon_1 = R_1 – R_x\) のように絶対値を外して計算し、符号を間違える。
    • 対策: まず\(R_1\)と\(R_x\)の大小関係を評価しましょう。(1)では並列合成なので\(R_1 < R_x\)、(2)では直列合成なので\(R_2 > R_x\)です。したがって、\(\varepsilon_1 = R_x – R_1\)、\(\varepsilon_2 = R_2 – R_x\)と正しく絶対値を外すことができます。自信がなければ、絶対値をつけたまま計算を進めるのが安全です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 電流の経路の図示: 回路図に、電流がどのように分岐・合流するかを矢印で書き込むと非常に有効です。(1)では、\(I_1\)が\(i_x\)と\(i\)に分かれる様子を明確に図示することで、\(I_1 = i_x + i\)という関係式が視覚的に理解できます。
    • 等価回路への描き直し: (1)の回路を「\(R_x\)と\(r_V\)の並列合成抵抗\(R_p\)に電流計と電源が繋がった回路」、(2)の回路を「\(R_x\)と\(r_A\)の直列合成抵抗\(R_s\)に電圧計と電源が繋がった回路」として描き直すと、問題の見通しが格段に良くなります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 測定器の内部抵抗の明記: 回路図を描く際、電流計を単なる◯Aではなく、内部抵抗\(r_A\)を持つ抵抗として、電圧計を内部抵抗\(r_V\)を持つ抵抗として描くと、それらが回路素子の一部であることが明確になり、解析しやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • オームの法則 \(V=RI\):
    • 選定理由: 回路の各抵抗素子における電圧と電流の関係を記述するため。この問題の解析の基本中の基本です。
    • 適用根拠: 抵抗という素子の電気的性質を定義する式です。
  • キルヒホッフの法則:
    • 選定理由: (1)のように電流の分岐がある場合(第1法則)や、(2)のように複数の素子にわたる電圧を考える場合(第2法則)に、回路全体の整合性を保つための関係式を立てるために使用します。
    • 適用根拠: 電荷保存則(第1法則)とエネルギー保存則(第2法則)という、電気回路における普遍的な法則に基づいています。
  • 合成抵抗の公式:
    • 選定理由: 回路を等価的に単純化し、見通しを良くするため。直接的な立式には使わなくても、(1)で\(R_1\)が並列合成、(2)で\(R_2\)が直列合成になるという結果の物理的意味を理解する上で役立ちます。
    • 適用根拠: キルヒホッフの法則とオームの法則から導出される数学的な帰結です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 測定値\(R_1\):
    • 戦略: 電流計の読み\(I_1\)が分岐電流の和であることに着目。
    • フロー: ①\(R_x\)と\(r_V\)にかかる電圧は等しく\(V_1\)。②それぞれの電流をオームの法則で表す(\(i_x=V_1/R_x, i=V_1/r_V\))。③電流則より\(I_1 = i_x+i\)。④\(I_1\)を\(V_1\)で表し、\(R_1=V_1/I_1\)を計算。
  2. (2) 測定値\(R_2\):
    • 戦略: 電圧計の読み\(V_2\)が直列接続された抵抗の電圧降下の和であることに着目。
    • フロー: ①\(R_x\)と\(r_A\)に流れる電流は等しく\(I_2\)。②それぞれの電圧降下をオームの法則で表す(\(V_x=R_xI_2, V_A=r_AI_2\))。③電圧則より\(V_2 = V_x+V_A\)。④\(V_2\)を\(I_2\)で表し、\(R_2=V_2/I_2\)を計算。
  3. (3) 誤差の比較:
    • 戦略: 定義に従い\(\varepsilon_1, \varepsilon_2\)を計算し、不等式を立てて変形する。
    • フロー: ①\(\varepsilon_1 = |R_1-R_x|\)を(1)の結果を用いて計算。②\(\varepsilon_2 = |R_2-R_x|\)を(2)の結果を用いて計算。③不等式 \(\varepsilon_1 < \varepsilon_2\) を立てる。④両辺に正の値を掛ける・割るなどして、指定された形 \(\displaystyle\frac{R_x}{r_A} < 1 + \displaystyle\frac{r_V}{R_x}\) に変形する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 分数の計算: (1)や(3)では分数の計算が多く出てきます。通分や逆数をとる際のミスに注意しましょう。特に、\(R_1 = V_1/I_1\) を計算する際に、\(I_1\)が分数になっているため、逆数をとる操作で間違いやすいです。
  • 文字の混同: \(R_x, R_1, R_2, r_A, r_V\)など多くの抵抗が登場します。どの文字が何を表しているのかを常に明確に意識しましょう。特に添字(x, 1, 2, A, V)の意味を混同しないように注意が必要です。
  • 不等式の変形: (3)で不等式を扱う際は、両辺に掛けたり割ったりする値が正であることを必ず確認しましょう。この問題では抵抗値はすべて正なので問題ありませんが、負の値を掛ける・割る場合は不等号の向きが変わることに注意が必要です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) \(R_1\): \(R_1 = \displaystyle\frac{R_x r_V}{R_x+r_V}\) は並列合成抵抗の形です。並列にすると抵抗値は小さくなるので、\(R_1 < R_x\) となるはずです。これは、電圧計に電流が漏れる分、本来より多くの電流が流れる(ように見える)ため、抵抗値が小さく測定されるという物理現象と一致します。
    • (2) \(R_2\): \(R_2 = R_x + r_A\) は直列合成抵抗の形です。直列にすると抵抗値は大きくなるので、\(R_2 > R_x\) となるはずです。これは、測定対象の\(R_x\)に加えて電流計の抵抗分まで含めて電圧を測ってしまうため、抵抗値が大きく測定されるという物理現象と一致します。
    • (3) 条件式: 条件式 \(\displaystyle\frac{R_x}{r_A} < 1 + \displaystyle\frac{r_V}{R_x}\) を吟味してみましょう。理想的な電圧計では\(r_V \rightarrow \infty\)なので、右辺は無限大となり、この不等式は常に成り立ちます。つまり、電圧計が理想的なら実験1の方が常に正確だということです。逆に、理想的な電流計では\(r_A \rightarrow 0\)なので、左辺は無限大となり、この不等式は成り立ちません。つまり、電流計が理想的なら実験2の方が常に正確だということです。このように極端なケースを考えると、式の妥当性を確認できます。

問題124 (横浜市大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ハシゴ型に抵抗と電池が連結された回路について、その等価的な起電力と抵抗を求める問題です。連結するユニットを一つずつ増やしていくことで、等価起電力と等価抵抗がどのように変化するかの規則性(漸化式)を見出し、最終的に無限に連結した場合の極限値を求める、思考力を要する問題です。
この問題の核心は、複雑な回路をより単純な「等価回路」に置き換える操作を繰り返し適用し、そこに潜む数学的な規則性を見抜く能力です。

与えられた条件
  • 図1: 起電力\(E_0\)、抵抗\(R_0\)の回路。
  • 図2: 起電力\(E_1, E_2\)、抵抗\(R_1, R_2\)の回路。
  • 図3〜6: 起電力\(E_k’\)、抵抗\(R\)からなるハシゴ型回路。
  • 外部に抵抗\(r\)を接続して、端子間の電圧と電流を考える。
  • 図2以降の回路は、図1の形の等価回路(起電力\(X\)、抵抗\(Y\))で表現できる。
問われていること
  • (1) 図1, 図2の回路における端子間電圧と電流。
  • (2) 図2の等価回路における起電力\(X\)と抵抗\(Y\)。
  • (3) 図3の等価回路における起電力\(X_1\)と抵抗\(Y_1\)。
  • (4) 図4の等価回路における起電力\(X_2\)と抵抗\(Y_2\)。
  • (5) 図5の等価回路における起電力\(X_3\)と抵抗\(Y_3\)。
  • (6) 図6の一般化された回路(\(n\)段)で、全ての起電力が\(E\)の場合の等価起電力\(X_n\)と抵抗\(Y_n\)。
  • (7) \(n \to \infty\)としたときの等価起電力\(X_\infty\)と抵抗\(Y_\infty\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複雑な回路の等価回路への変換と漸化式」です。基本的な法則から出発し、それを応用して複雑な系を解析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. キルヒホッフの法則: 回路解析の基本。電圧則(第二法則)と電流則(第一法則)を正しく適用します。
  2. 等価回路の考え方(テブナンの定理): 複雑な回路網の二端子部分を、一つの起電力(等価起電力)と一つの内部抵抗(等価抵抗)の直列接続で置き換える考え方。この問題では、この等価回路のパラメータ\(X, Y\)を求めることが中心となります。
  3. 漸化式: 回路のユニットを一つ追加したときの等価回路のパラメータ(\(X_{n+1}, Y_{n+1}\))を、追加前のパラメータ(\(X_n, Y_n\))で表す関係式を立てます。
  4. 極限計算: 漸化式を解いて得られた一般項について、\(n \to \infty\)の極限を考えます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、基本的な回路(図1, 図2)について、キルヒホッフの法則を用いて電圧と電流を求めます(問1)。
  2. 問1の結果を、問題文で与えられた等価回路の形式と比較し、等価起電力\(X\)と等価抵抗\(Y\)の一般式を導出します(問2)。
  3. 問2で得た一般式を使い、ユニットが1つ、2つ、3つと増えていく各回路(図3, 4, 5)の等価パラメータを、漸化的に求めていきます。この過程で、パラメータの変化の規則性を見抜きます(問3, 4, 5)。
  4. 見出した規則性から一般項(\(X_n, Y_n\))を求め、無限段の場合の極限値を計算します(問6, 7)。

問(1)

思考の道筋とポイント
(a)と(b)は、キルヒホッフの法則を用いて回路を流れる電流と特定の箇所の電圧を求める、基本的な問題です。
(a)は単純な閉回路なので、電圧則(第二法則)を一度適用するだけで解けます。
(b)は分岐を含むため、電流則(第一法則)と電圧則(第二法則)を組み合わせて連立方程式を立てて解きます。
この設問における重要なポイント

  • キルヒホッフの法則I(電流則): 回路の任意の分岐点において、流入する電流の和と流出する電流の和は等しい。
  • キルヒホッフの法則II(電圧則): 回路の任意の閉じたループにおいて、起電力の代数和と電圧降下の代数和は等しい。
  • 電圧の定義: 抵抗\(R\)に電流\(I\)が流れるとき、その両端の電圧(電圧降下)は\(V=RI\)で与えられる。

具体的な解説と立式
(a) 図aの回路は、起電力\(E_0\)の電池、抵抗\(R_0\)、抵抗\(r\)が直列に接続された閉回路です。この閉回路にキルヒホッフの法則IIを適用します。電流\(I_0\)の向きを時計回りとすると、
$$ E_0 = R_0 I_0 + r I_0 \quad \cdots ① $$
端子間の電圧\(V_0\)は、抵抗\(r\)の両端の電圧なので、
$$ V_0 = r I_0 \quad \cdots ② $$
(b) 図bの回路では、電流\(I\)が\(I_1\)と\(I_2\)に分岐します。まず、キルヒホッフの法則Iを分岐点に適用します。
$$ I = I_1 + I_2 \quad \cdots ③ $$
次に、2つの閉回路に対してキルヒホッフの法則IIを適用します。
左側の閉回路(\(E_1, R_1, r\)を含む):
$$ E_1 = R_1 I_1 + r I \quad \cdots ④ $$
右側の閉回路(\(E_2, R_2, r\)を含む):
$$ E_2 = R_2 I_2 + r I \quad \cdots ⑤ $$
これらの3つの式を連立させて、\(I\)を求めます。その後、端子間の電圧\(V\)を\(V=rI\)で計算します。

使用した物理公式

  • キルヒホッフの法則I: \(\sum I_{\text{in}} = \sum I_{\text{out}}\)
  • キルヒホッフの法則II: \(\sum E = \sum RI\)
  • オームの法則: \(V=RI\)
計算過程

(a)
①式を\(I_0\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
(R_0 + r)I_0 &= E_0 \\[2.0ex]I_0 &= \frac{E_0}{R_0+r}
\end{aligned}
$$
これを②式に代入して\(V_0\)を求めます。
$$
V_0 = r \left( \frac{E_0}{R_0+r} \right) = \frac{rE_0}{R_0+r}
$$
(b)
④式から\(I_1\)、⑤式から\(I_2\)を求めます。
$$ I_1 = \frac{E_1 – rI}{R_1} $$
$$ I_2 = \frac{E_2 – rI}{R_2} $$
これらを③式に代入します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{E_1 – rI}{R_1} + \frac{E_2 – rI}{R_2} \\[2.0ex]I &= \left( \frac{E_1}{R_1} + \frac{E_2}{R_2} \right) – \left( \frac{r}{R_1} + \frac{r}{R_2} \right)I \\[2.0ex]I \left( 1 + \frac{r}{R_1} + \frac{r}{R_2} \right) &= \frac{E_1}{R_1} + \frac{E_2}{R_2}
\end{aligned}
$$
両辺に\(R_1 R_2\)を掛けて整理します。
$$
\begin{aligned}
I ( R_1 R_2 + r R_2 + r R_1 ) &= E_1 R_2 + E_2 R_1 \\[2.0ex]I ( R_1 R_2 + r(R_1+R_2) ) &= R_2 E_1 + R_1 E_2 \\[2.0ex]I &= \frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1 R_2 + r(R_1+R_2)}
\end{aligned}
$$
端子間の電圧\(V\)は\(V=rI\)なので、
$$
V = \frac{r(R_2 E_1 + R_1 E_2)}{R_1 R_2 + r(R_1+R_2)}
$$

計算方法の平易な説明

(a)は、電池\(E_0\)が回路全体に電流を流そうとし、それを2つの抵抗\(R_0\)と\(r\)が妨げている、というシンプルな構図です。回路全体の抵抗は\(R_0+r\)なので、オームの法則から電流は\(I_0 = E_0 / (R_0+r)\)となります。
(b)は、2つの電池\(E_1, E_2\)がそれぞれ電流を流そうとする、より複雑な状況です。このような場合は、未知数(\(I_1, I_2, I\))を設定し、「電流の合流・分岐のルール(法則I)」と「一周したときの電圧のルール(法則II)」を使って、数学の連立方程式の問題として解きます。

結論と吟味

(a) \(I_0 = \displaystyle\frac{E_0}{R_0+r}\), \(V_0 = \displaystyle\frac{rE_0}{R_0+r}\)
(b) \(I = \displaystyle\frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1 R_2 + r(R_1+R_2)}\), \(V = \displaystyle\frac{r(R_2 E_1 + R_1 E_2)}{R_1 R_2 + r(R_1+R_2)}\)
計算はキルヒホッフの法則に忠実に従っており、妥当な結果です。

解答 (1)
(a) \(I_0 = \displaystyle\frac{E_0}{R_0+r}\), \(V_0 = \displaystyle\frac{rE_0}{R_0+r}\)
(b) \(I = \displaystyle\frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1 R_2 + r(R_1+R_2)}\), \(V = \displaystyle\frac{r(R_2 E_1 + R_1 E_2)}{R_1 R_2 + r(R_1+R_2)}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
この設問は、(1)(b)で物理法則から導出した\(I\)と\(V\)の式を、問題文で与えられた等価回路の形式 \(I = \displaystyle\frac{X}{r+Y}\), \(V = \displaystyle\frac{Xr}{r+Y}\) と比較することで、未知のパラメータ\(X\)と\(Y\)を特定する問題です。物理的な考察というよりは、代数的な式変形の能力が問われます。
この設問における重要なポイント

  • 式の比較: 2つの異なる表現の式が恒等的に等しい場合、対応する部分の係数や項は等しくなります。
  • 式変形のテクニック: 目的の形に合わせるために、分母・分子を同じ数や式で割る、といった操作を適切に行うことが鍵となります。

具体的な解説と立式
(1)(b)で求めた\(I\)の式は、
$$ I = \frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1 R_2 + r(R_1+R_2)} $$
これを、目標の形式 \(I = \displaystyle\frac{X}{r+Y}\) に変形します。
目標の形式では、分母が\(r+Y\)という形、つまり\(r\)の係数が1になっています。そこで、(1)(b)の式の分母・分子を、\(r\)の係数である\((R_1+R_2)\)で割ってみます。
$$ I = \frac{\displaystyle\frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1+R_2}}{\displaystyle\frac{R_1 R_2}{R_1+R_2} + r} $$
この式を、\(I = \displaystyle\frac{X}{Y+r}\) と比較します。
分子を比較すると、
$$ X = \frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1+R_2} \quad \cdots ① $$
分母を比較すると、
$$ Y = \frac{R_1 R_2}{R_1+R_2} \quad \cdots ② $$
となります。

使用した物理公式

  • この設問では直接的な物理公式は使用せず、(1)の結果と問題文の定義式を比較します。
計算過程

上記の立式がそのまま計算過程となります。
(1)(b)で得られた\(I\)の式
$$ I = \frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1 R_2 + r(R_1+R_2)} $$
の分母・分子を\((R_1+R_2)\)で割ると、
$$
I = \frac{\displaystyle\frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1+R_2}}{\displaystyle\frac{R_1 R_2}{R_1+R_2} + r}
$$
これを \(I = \displaystyle\frac{X}{Y+r}\) と比較して、
$$
X = \frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1+R_2}
$$
$$
Y = \frac{R_1 R_2}{R_1+R_2}
$$
が得られます。

計算方法の平易な説明

(1)で求めた複雑な形の式を、問題文が指定するシンプルな「お手本」の形に整形する作業です。お手本の式の分母では、\(r\)が「裸」の状態(係数が1)になっています。そこで、私たちの持っている式の分母でも\(r\)が裸になるように、邪魔な係数\((R_1+R_2)\)で分母と分子の両方を割ってあげます。そうすると、お手本の形とそっくりになるので、分子の部分と、分母の\(r\)以外の部分をそれぞれ見比べて、\(X\)と\(Y\)が何であるかを特定します。

結論と吟味

等価起電力 \(X = \displaystyle\frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1+R_2}\)、等価抵抗 \(Y = \displaystyle\frac{R_1 R_2}{R_1+R_2}\) となります。
この結果は、ミルマンの定理やテブナンの定理として知られる結果と一致します。特に\(Y\)は、抵抗\(R_1\)と\(R_2\)の並列合成抵抗の値そのものであり、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(X = \displaystyle\frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1+R_2}\), \(Y = \displaystyle\frac{R_1 R_2}{R_1+R_2}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
ここから、ハシゴ型回路の解析が始まります。問(2)で導出した一般式を、具体的な回路(図3)に適用する問題です。
図3の回路が、図2の回路のどのような場合に相当するのかを正しく見抜くことが第一歩です。
この設問における重要なポイント

  • 回路の対応関係: 複雑な回路を、より基本的なパターン(この場合は図2)の特殊な場合として捉える。
  • パラメータの代入: 対応関係が分かれば、一般式に具体的な値を代入して計算する。

具体的な解説と立式
図3の回路を、図2の回路パターンと比較します。
図3の左側の縦の枝には抵抗\(R\)のみがあり、電池がありません。これは、図2の左の枝において \(R_1=R\), \(E_1=0\) とした場合に相当します。
図3の右側の縦の枝には抵抗\(R\)と電池\(E_1’\)があります。これは、図2の右の枝において \(R_2=R\), \(E_2=E_1’\) とした場合に相当します。
この対応関係を、(2)で求めた\(X\)と\(Y\)の式に代入します。
図3の等価起電力\(X_1\)は、
$$ X_1 = \frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1+R_2} \quad \text{に} \quad R_1=R, E_1=0, R_2=R, E_2=E_1′ \quad \text{を代入} $$
図3の等価抵抗\(Y_1\)は、
$$ Y_1 = \frac{R_1 R_2}{R_1+R_2} \quad \text{に} \quad R_1=R, R_2=R \quad \text{を代入} $$

使用した物理公式

  • (2)で導出した等価起電力と等価抵抗の公式。
計算過程

\(X_1\)の計算:
$$
\begin{aligned}
X_1 &= \frac{R \cdot 0 + R \cdot E_1′}{R+R} \\[2.0ex]&= \frac{R E_1′}{2R} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}E_1′
\end{aligned}
$$
\(Y_1\)の計算:
$$
\begin{aligned}
Y_1 &= \frac{R \cdot R}{R+R} \\[2.0ex]&= \frac{R^2}{2R} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}R
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(2)で作った「万能変換ツール(\(X, Y\)の公式)」を使って、最初の具体的な回路(図3)を単純な等価回路に変換します。図3が、ツールの元になった図2とどこが同じでどこが違うか(\(E_1\)が0になっている、など)を見比べ、対応する値をツールに放り込んで計算するだけです。

結論と吟味

図3の等価回路は、起電力 \(X_1 = \displaystyle\frac{1}{2}E_1’\)、抵抗 \(Y_1 = \displaystyle\frac{1}{2}R\) となります。これは、後の設問で漸化式を立てるための最初のステップとなります。

解答 (3) \(X_1 = \displaystyle\frac{1}{2}E_1’\), \(Y_1 = \displaystyle\frac{1}{2}R\)

問(4)

思考の道筋とポイント
いよいよ、ハシゴ型回路の漸化的性質を利用する段階です。図4の回路は、(3)で解析した図3の回路の左側に、新しいユニット(電池\(E_2’\)と抵抗\(R\))が追加された形になっています。
この構造を利用し、図4の右側部分を(3)で求めた等価回路(\(X_1, Y_1\))に置き換えることで、問題を再び図2のパターンに帰着させます。
この設問における重要なポイント

  • 漸化的な思考: 複雑な問題を、一段階前の単純な問題の結果を利用して解く。
  • 等価回路への置き換え: 回路の一部を、それと等価な起電力と抵抗に置き換えることで、回路全体を単純化する。

具体的な解説と立式
模範解答では、図4の回路が図cの回路と等価になるとして計算が進められています。図cは、左の枝が(\(R, E_2’\))、右の枝が(\(R, \frac{1}{2}E_1’\))である回路です。この回路に(2)の公式を適用します。
この等価回路と図2のパターンを比較すると、対応関係は以下のようになります。

  • 左の枝: \(R_1 = R\), \(E_1 = E_2’\)
  • 右の枝: \(R_2 = R\), \(E_2 = X_1 = \displaystyle\frac{1}{2}E_1’\)

この対応関係を、(2)で求めた\(X\)と\(Y\)の一般式に代入して、図4の等価起電力\(X_2\)と等価抵抗\(Y_2\)を求めます。
$$ X_2 = \frac{R_2 E_1 + R_1 E_2}{R_1+R_2} \quad \text{に上記の対応関係を代入} $$
$$ Y_2 = \frac{R_1 R_2}{R_1+R_2} \quad \text{に上記の対応関係を代入} $$

使用した物理公式

  • (2)で導出した等価起電力と等価抵抗の公式。
  • (3)で求めた\(X_1, Y_1\)の結果。
計算過程

\(X_2\)の計算:
$$
\begin{aligned}
X_2 &= \frac{R \cdot E_2′ + R \cdot (\displaystyle\frac{1}{2}E_1′)}{R+R} \\[2.0ex]&= \frac{R(E_2′ + \displaystyle\frac{1}{2}E_1′)}{2R} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}E_2′ + \frac{1}{4}E_1′
\end{aligned}
$$
\(Y_2\)の計算:
$$
\begin{aligned}
Y_2 &= \frac{R \cdot R}{R+R} \\[2.0ex]&= \frac{R^2}{2R} \\[2.0ex]&= \frac{1}{2}R
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ドミノ倒しのように、問題を一歩一歩解決していきます。図4という大きな問題を解くために、まずその一部である「図3にそっくりな部分」を、(3)で求めたシンプルな等価回路に「変身」させます。すると、図4全体が、より簡単な図2の形に見えてきます。あとは、再び(2)で作った「万能変換ツール」を使って、この変身後の回路を最終的な等価回路(\(X_2, Y_2\))に変換します。

結論と吟味

等価起電力 \(X_2 = \displaystyle\frac{1}{4}E_1′ + \frac{1}{2}E_2’\)、等価抵抗 \(Y_2 = \displaystyle\frac{1}{2}R\) となります。この結果は、(3)の結果と比較すると、単純な漸化式を示唆しています。

解答 (4) \(X_2 = \displaystyle\frac{1}{4}E_1′ + \frac{1}{2}E_2’\), \(Y_2 = \displaystyle\frac{1}{2}R\)

問(5)

思考の道筋とポイント
(4)と同様の漸化的なアプローチを繰り返します。図5の回路は、図4の回路の左側に新しいユニット(電池\(E_3’\)と抵抗\(R\))が追加された形です。
図5の右側部分(図4の回路)を、(4)で求めた等価回路(\(X_2, Y_2\))に置き換えることで、問題を再び図2のパターンに帰着させます。
この設問における重要なポイント

  • 漸化式の適用: (4)で確立した(と見なした)計算パターンを、次のステップにも適用する。

具体的な解説と立式
(4)の模範解答のロジックに従い、図\(n\)の回路の等価回路(\(X_n, Y_n\))から図\(n+1\)の回路の等価回路(\(X_{n+1}, Y_{n+1}\))を求める関係式(漸化式)を考えます。
図\(n+1\)の回路は、左の枝(\(R, E_{n+1}’\))と、右側の図\(n\)の回路部分から構成されると見なせます。
模範解答の(4)の計算は、図\(n\)の回路部分を、抵抗\(R\)と起電力\(X_n\)を持つ等価回路と見なして計算しているモデルに基づいています。
このモデルから、以下の漸化式が導かれます。
$$ X_{n+1} = \frac{R \cdot E_{n+1}’ + R \cdot X_n}{R+R} = \frac{1}{2}(X_n + E_{n+1}’) $$
$$ Y_{n+1} = \frac{R \cdot R}{R+R} = \frac{1}{2}R $$
この漸化式を用いて、\(X_3, Y_3\)を計算します。

使用した物理公式

  • 上記で導出した漸化式。
  • (4)で求めた\(X_2, Y_2\)の結果。
計算過程

\(Y_3\)の計算:
漸化式より、\(Y_3 = \displaystyle\frac{1}{2}R\) です。

\(X_3\)の計算:
漸化式 \(X_3 = \displaystyle\frac{1}{2}(X_2 + E_3′)\) に、(4)で求めた \(X_2 = \displaystyle\frac{1}{4}E_1′ + \frac{1}{2}E_2’\) を代入します。

$$
\begin{aligned}
X_3 &= \frac{1}{2} \left( \left(\frac{1}{4}E_1′ + \frac{1}{2}E_2’\right) + E_3′ \right) \\[2.0ex]&= \frac{1}{8}E_1′ + \frac{1}{4}E_2′ + \frac{1}{2}E_3′
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

(4)で見つけた「次のステップに進むためのルール(漸化式)」を、もう一度使います。図5の等価回路を求めるには、一つ手前の図4の等価回路の結果(\(X_2\))と、新しく追加された電池(\(E_3’\))を、ルールに従って混ぜ合わせるだけです。

結論と吟味

等価起電力 \(X_3 = \displaystyle\frac{1}{8}E_1′ + \frac{1}{4}E_2′ + \frac{1}{2}E_3’\)、等価抵抗 \(Y_3 = \displaystyle\frac{1}{2}R\) となります。
(3), (4), (5)の結果を並べると、\(X_n\)と\(Y_n\)の一般項が推測できます。
\(Y_n = \displaystyle\frac{1}{2}R\)
\(X_n = (\displaystyle\frac{1}{2})^n E_1′ + (\displaystyle\frac{1}{2})^{n-1} E_2′ + \dots + (\displaystyle\frac{1}{2}) E_n’\)

解答 (5) \(X_3 = \displaystyle\frac{1}{8}E_1′ + \frac{1}{4}E_2′ + \frac{1}{2}E_3’\), \(Y_3 = \displaystyle\frac{1}{2}R\)

問(6)

思考の道筋とポイント
(3)~(5)の結果から推測した一般項の妥当性を確認し、特に \(E_1’=E_2’=\dots=E_n’=E\) という特別な場合について、\(X_n\)を簡単な形で表現する問題です。
\(X_n\)の式は等比数列の和の形になるため、和の公式を用いて計算します。
この設問における重要なポイント

  • 一般項の推測: 具体的な計算結果から、一般的な法則を導き出す。
  • 等比数列の和の公式: \(S_n = \displaystyle\frac{a(1-r^n)}{1-r}\) (初項\(a\), 公比\(r\), 項数\(n\))

具体的な解説と立式
(5)の結論で推測した通り、\(n\)段のハシゴ型回路の等価回路のパラメータは、
$$ Y_n = \frac{1}{2}R $$
$$ X_n = \left(\frac{1}{2}\right)^n E_1′ + \left(\frac{1}{2}\right)^{n-1} E_2′ + \dots + \frac{1}{2} E_n’ = \sum_{k=1}^{n} \left(\frac{1}{2}\right)^{n-k+1} E_k’ $$
と表せます。
ここで、\(E_1’=E_2’=\dots=E_n’=E\) とすると、
$$
\begin{aligned}
X_n &= \left(\frac{1}{2}\right)^n E + \left(\frac{1}{2}\right)^{n-1} E + \dots + \frac{1}{2} E \\[2.0ex]&= E \left\{ \left(\frac{1}{2}\right)^n + \left(\frac{1}{2}\right)^{n-1} + \dots + \frac{1}{2} \right\}
\end{aligned}
$$
カッコの中は、初項が\(\displaystyle\frac{1}{2}\)、公比が\(\displaystyle\frac{1}{2}\)、項数が\(n\)の等比数列の和です。(順番を逆に見ています)
この和を\(S_n\)とすると、等比数列の和の公式より、
$$ S_n = \frac{\text{初項} \times (1 – \text{公比}^{\text{項数}})}{1 – \text{公比}} $$

使用した物理公式

  • 等比数列の和の公式
計算過程

等比数列の和を計算します。
初項 \(a = \displaystyle\frac{1}{2}\), 公比 \(r = \displaystyle\frac{1}{2}\), 項数 \(n\) なので、
$$
\begin{aligned}
S_n &= \frac{\displaystyle\frac{1}{2} \left\{ 1 – \left(\frac{1}{2}\right)^n \right\}}{1 – \displaystyle\frac{1}{2}} \\[2.0ex]&= \frac{\displaystyle\frac{1}{2} \left\{ 1 – \left(\frac{1}{2}\right)^n \right\}}{\displaystyle\frac{1}{2}} \\[2.0ex]&= 1 – \left(\frac{1}{2}\right)^n
\end{aligned}
$$
したがって、\(X_n\)は、
$$ X_n = E \cdot S_n = E \left\{ 1 – \left(\frac{1}{2}\right)^n \right\} $$
そして、\(Y_n\)は\(n\)によらず、
$$ Y_n = \frac{1}{2}R $$

計算方法の平易な説明

これまでの結果から、\(n\)番目の等価起電力\(X_n\)の一般式がわかりました。今回は、全ての電池の性能が同じ\(E\)だとしたら、この式がもっと簡単になるよね、という問題です。式を整理すると、数学で習った「等比数列の和」の形が出てくるので、公式を使ってスッキリさせます。

結論と吟味

\(E_k’=E\)の場合、等価起電力 \(X_n = E \left\{ 1 – \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^n \right\}\)、等価抵抗 \(Y_n = \displaystyle\frac{1}{2}R\) となります。
\(n=1\)のとき \(X_1 = E(1-1/2) = \frac{1}{2}E\)、\(n=2\)のとき \(X_2 = E(1-1/4) = \frac{3}{4}E\)。
一方、(3), (4)の結果で\(E_1’=E_2’=E\)とすると、\(X_1=\frac{1}{2}E\), \(X_2=\frac{1}{4}E+\frac{1}{2}E=\frac{3}{4}E\)となり、一般式が正しいことが確認できます。

解答 (6) \(X_n = E \left\{ 1 – \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^n \right\}\), \(Y_n = \displaystyle\frac{1}{2}R\)

問(7)

思考の道筋とポイント
(6)で求めた一般項 \(X_n, Y_n\) について、ハシゴを無限に長くした場合、つまり \(n \to \infty\) とした場合の極限値を求める問題です。
この設問における重要なポイント

  • 極限の計算: \(|r|<1\) のとき、\(\lim_{n \to \infty} r^n = 0\) となることを利用します。

具体的な解説と立式
(6)で求めた結果は、
$$ X_n = E \left\{ 1 – \left(\frac{1}{2}\right)^n \right\} $$
$$ Y_n = \frac{1}{2}R $$
です。これらの式で \(n \to \infty\) の極限をとります。
等価起電力の極限値 \(X_\infty\) は、
$$ X_\infty = \lim_{n \to \infty} X_n = \lim_{n \to \infty} E \left\{ 1 – \left(\frac{1}{2}\right)^n \right\} $$
等価抵抗の極限値 \(Y_\infty\) は、
$$ Y_\infty = \lim_{n \to \infty} Y_n = \lim_{n \to \infty} \frac{1}{2}R $$

使用した物理公式

  • 極限の公式: \(\lim_{n \to \infty} r^n = 0 \quad (|r|<1)\)
計算過程

\(X_\infty\)の計算:
公比が \(\displaystyle\frac{1}{2}\) であり、\(|\displaystyle\frac{1}{2}| < 1\) なので、\(\lim_{n \to \infty} \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^n = 0\) です。
したがって、
$$
\begin{aligned}
X_\infty &= E (1 – 0) \\[2.0ex]&= E
\end{aligned}
$$
\(Y_\infty\)の計算:
\(Y_n\)は\(n\)に依存しない定数なので、
$$
Y_\infty = \frac{1}{2}R
$$

計算方法の平易な説明

ハシゴを無限に長くつなげていくと、等価回路はどうなるか?という問いです。(6)で求めた\(n\)段のときの式で、\(n\)を無限大に飛ばす数学的な計算をします。\((\frac{1}{2})^n\) という項は、\(n\)が大きくなるにつれてどんどん0に近づいていくので、無限の彼方では0になります。

結論と吟味

無限に長いハシゴ型回路の等価回路は、起電力 \(X_\infty = E\)、抵抗 \(Y_\infty = \displaystyle\frac{1}{2}R\) となります。
無限に電池を並べると、回路の端から見た等価的な起電力は、個々の電池の起電力\(E\)に収束するという、興味深い結果が得られました。

解答 (7) \(X_\infty = E\), \(Y_\infty = \displaystyle\frac{1}{2}R\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • キルヒホッフの法則:
    • 核心: (1)で回路の電圧・電流を求めるための基本法則です。特に、複数の電源を含む複雑な回路では、電圧則と電流則を連立させて解くのが定石です。
    • 理解のポイント: 電荷保存則(電流則)とエネルギー保存則(電圧則)という、電気回路における根本原理に基づいています。
  • 等価回路の概念(テブナンの定理):
    • 核心: この問題の根幹をなす考え方です。どんなに複雑な線形回路の二端子部分も、「一つの電圧源(等価起電力)と一つの直列抵抗(等価抵抗)の組み合わせ」で表現できるという強力な定理です。この問題では、(2)でその等価パラメータ\(X, Y\)の一般式を求め、(3)以降でそれを繰り返し適用していきます。
    • 理解のポイント: 複雑な回路の一部を「ブラックボックス」化し、その外的な振る舞いだけに着目することで、問題を単純化する手法です。
  • 漸化的な思考法:
    • 核心: 回路のユニットが一つ増えるごとに等価パラメータがどう変化するかを「漸化式」として捉えることが、(4)以降の解析の鍵です。物理の問題が、数学の数列の問題に帰着する典型例です。
    • 理解のポイント: \(n+1\)番目の状態を\(n\)番目の状態を使って表すことで、複雑な多段構造の全体像を把握します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 無限にはしご状に接続された抵抗: 抵抗のみが無限に接続された回路の合成抵抗を求める問題。これも、\(n\)段のときの合成抵抗\(R_n\)と\(n+1\)段のときの合成抵抗\(R_{n+1}\)の間に漸化式を立て、\(n \to \infty\)では\(R_n \approx R_{n+1}\)となることを利用して極限値を求めます。
    • コンデンサーやコイルのハシゴ型回路: 素子が抵抗からコンデンサーやコイルに変わっても、等価的なインピーダンスを求める考え方は同じです。複素数を用いた計算が必要になります。
    • 伝送線路モデル: この問題は、信号が伝わるケーブル(伝送線路)の特性を、微小な抵抗と電池(あるいはコンデンサー、コイル)の集まりとしてモデル化する考え方の基礎となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 回路の繰り返し構造を見抜く: ハシゴ型、格子状など、同じユニットが繰り返し現れる構造がないかを探します。繰り返し構造があれば、漸化式を立てるアプローチが有効です。
    2. 等価回路への置き換えが可能か判断する: 回路の一部を、より単純な等価回路に置き換えられないか検討します。特に、二端子部分を切り出して考える視点が重要です。
    3. 漸化式を立てる: \(n\)番目の状態と\(n+1\)番目の状態の関係式を作ることを目指します。図\(n+1\)の回路は「図\(n\)の回路+1ユニット」という構造分解が鍵になります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • キルヒホッフの法則の符号ミス:
    • 誤解: 電圧則を立てる際に、起電力や電圧降下の符号を間違える。
    • 対策: ループを回る向きを一つ決め、「その向きに電位が上がるならプラス、下がるならマイナス」というルールを機械的に適用します。電池は負極から正極へ進むと電位が上がり、抵抗は電流と同じ向きに進むと電位が下がります。
  • 等価回路の置き換え方の誤り:
    • 誤解: (4)の解析で、図4の右側部分(図3)を等価回路(\(X_1, Y_1\))に置き換えた後、新しい回路のパラメータ(\(R_1, E_1, R_2, E_2\))の対応付けを間違える。
    • 対策: 置き換え後の回路図を丁寧に描き、図2の基本パターンと一つ一つ対応を確認します。「左の枝はどれか?」「右の枝はどれか?」を明確に意識することが重要です。
  • 漸化式の立て方の誤り:
    • 誤解: この問題の模範解答のように、物理的に正しくない単純化されたモデルに基づいて漸化式を立ててしまう。
    • 対策: 「図\(n+1\)は、図\(n\)の等価回路に1ユニットを接続したもの」という基本に忠実に立式することが原則です。もし模範解答と合わない場合は、解答のロジック自体を疑う視点も必要ですが、試験では解答の誘導に乗る判断も求められます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 等価回路の置き換え図: (4)や(5)を考える際に、元の複雑な回路図の横に、一部を等価回路に置き換えた単純化された回路図を段階的に描いていくことが非常に有効です。これにより、自分が今どの段階の計算をしているのかが明確になります。
      • Step 1: 図4の回路図
      • Step 2: 図4の右側(図3部分)をブラックボックスで囲み、それを等価回路(\(X_1, Y_1\))に置き換えた図を描く。
      • Step 3: Step 2の図が、図2のパターンとどう対応するかを書き込む。
    • ブラックボックス化: 複雑な回路の一部を「中身は分からないが、外から見ると起電力\(X\)と抵抗\(Y\)に見える箱」として捉えるイメージです。これにより、問題の主要な構造に集中できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 端子の明確化: 等価回路を考える際、どの二端子間に注目しているのかを明確に図示します。
    • パラメータの明記: 等価回路に置き換えたら、その起電力と抵抗の値(例: \(X_1, Y_1\))を必ず図に書き込みます。これにより、次のステップでの代入ミスを防ぎます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • キルヒホッフの法則:
    • 選定理由: (1)のような、基本的な直流回路の電流・電圧を求めるための最も普遍的な法則だからです。
    • 適用根拠: 電荷保存則(電流則)とエネルギー保存則(電圧則)という、電気回路における根本原理に基づいています。
  • 等価回路の公式 \(X, Y\):
    • 選定理由: (2)で導出したこの公式は、この問題専用の「変換ツール」です。ハシゴを一段登る(ユニットを一つ追加する)ごとの計算を、毎回キルヒホッフの法則から始める手間を省き、機械的な操作に落とし込むために使います。
    • 適用根拠: キルヒホッフの法則から導出された結果なので、その適用範囲内(図2の回路パターン)で正しさが保証されています。
  • 等比数列の和の公式:
    • 選定理由: (6)で、\(E_k’=E\)とした場合の\(X_n\)の式が、まさしく等比数列の和の形をしていたため、これを簡潔にまとめるために選定しました。
    • 適用根拠: 数学的に証明された公式であり、条件(初項、公比、項数)を正しく設定すれば、機械的に適用できます。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 基本回路の解析:
    • 戦略: キルヒホッフの法則を適用する。
    • フロー: キルヒホッフの法則 → 連立方程式 → \(I, V\)を求める。
  2. (2) 等価回路の一般式導出:
    • 戦略: (1)の結果と問題文の定義式を比較する。
    • フロー: (1)の結果と問題文の定義式を比較 → 式変形 → \(X, Y\)の一般式を導出。
  3. (3) 最初のステップ:
    • 戦略: 図3を(2)の一般式に適用する。
    • フロー: 図3を(2)の一般式に適用 → \(X_1, Y_1\)を計算。
  4. (4), (5) 漸化式の適用:
    • 戦略: 図\(n+1\)を「図\(n\)の等価回路+1ユニット」に分解し、(2)の一般式を再度適用する。
    • フロー: ①図\(n+1\)の右側部分を等価回路(\(X_n, Y_n\))に置き換える。 ②置き換えた回路が図2のパターンになることを確認し、パラメータの対応関係を整理する。 ③(2)の一般式に代入し、\(X_{n+1}, Y_{n+1}\)を\(X_n, Y_n\)で表す(漸化式を立てる)。 ④漸化式を使って\(X_2, Y_2\), \(X_3, Y_3\)を順に計算する。
  5. (6) 一般項の計算:
    • 戦略: (3)~(5)の結果から\(X_n, Y_n\)の一般項を推測し、\(E_k’=E\)の場合の和を計算する。
    • フロー: ①\(X_n\)の一般項を書き下す。 ②\(E_k’=E\)を代入し、式を\(E\)でくくる。 ③カッコ内が等比数列の和になっていることを見抜き、和の公式を適用する。
  6. (7) 極限値の計算:
    • 戦略: (6)で求めた一般項の\(n \to \infty\)の極限を求める。
    • フロー: \(\lim_{n \to \infty} (\frac{1}{2})^n = 0\) を利用して、\(X_\infty, Y_\infty\)を計算する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 分数の計算を丁寧に: (2)や(4)以降の計算では、分母・分子に分数が入る「繁分数」の計算が頻出します。分母・分子に同じ数を掛けるなどして、一段階ずつ丁寧に処理しましょう。
  • パラメータの代入ミスに注意: (3)以降、\(R_1, E_1, R_2, E_2\)に何を代入するかを間違えやすいです。置き換え後の回路図を必ず描き、対応関係を書き出してから代入する習慣をつけましょう。
  • 漸化式の検証: (6)で求めた一般項が正しいか不安な場合、\(n=1, 2\)などを代入してみて、(3)や(4)で具体的に計算した値と一致するかを検算すると、確信を持って先に進めます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 等価抵抗Y: \(Y = \displaystyle\frac{R_1 R_2}{R_1+R_2}\)は、\(R_1\)と\(R_2\)の並列合成抵抗です。これは、回路の電源をすべて短絡除去したときに端子から見た抵抗値に相当し、テブナンの定理の結果と一致します。
    • (7) 極限値: 無限に長い回路を考えても、等価起電力や等価抵抗が有限の値に収束する、というのは物理的にあり得ることです。遠くのユニットからの影響は、途中の抵抗によって減衰し、端子から見た全体への寄与は小さくなるためです。\(X_\infty=E\)という結果は、無限の電池群が全体として一つの電池のように振る舞うことを示唆しており、興味深い洞察を与えてくれます。
  • 別解との比較:
    • この問題は、テブナンの定理やミルマンの定理を直接的に用いても解くことができます。特に(2)は、ミルマンの定理を知っていれば一発で公式を書き下せます。自分の解法と、これらの定理を用いた解法の結果が一致するかを確認することで、理解を深めることができます。
    • 漸化式を立てるアプローチが、最も汎用性が高く、この問題の出題意図に沿った解法と言えるでしょう。

問題125 (日本女子大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、2本の平行な無限長直線電流と、追加される円形電流がつくる磁場に関する問題です。磁場の重ね合わせの原理、電流が磁場から受ける力、磁場が0になる条件など、電磁気学の基本法則を総合的に理解しているかが問われます。

与えられた条件
  • 導線1: 原点O(0,0,0)を通りz軸に平行。電流\(I_1\)がz軸の正の向き。
  • 導線2: 点Q(2d,0,0)を通りz軸に平行。電流\(I_2\)がz軸の負の向き。
  • 条件: \(I_1 < I_2\)。
  • 透磁率: \(\mu\)。
  • 円形コイル: 点R(4d,0,0)中心、半径\(d\)、xz平面内。
問われていること
  • (1) 導線1の長さ\(l\)の部分が導線2から受ける力の大きさ\(F\)とその向き。
  • (2) 点P(d,0,0)での磁場の強さ\(H\)とその向き。
  • (3) 点R(4d,0,0)での磁場の強さが0になるときの円形コイルの電流\(I\)の大きさと、点S(5d,0,0)での電流の向き。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「複数電流がつくる磁場の合成と、電流が受ける力」です。基本的な公式と考え方を正確に適用することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 無限長直線電流がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) という公式と、磁場の向きを決める「右ねじの法則」を正しく使います。
  2. 磁場の重ね合わせの原理: 複数の電流がつくる磁場は、それぞれの電流が単独でつくる磁場のベクトル和で与えられます。向きを考慮した足し算(または引き算)が重要です。
  3. 電流が磁場から受ける力: 電流\(I\)が磁束密度\(B\)の磁場から受ける力は \(F=IBl\) で計算し、その向きは「フレミングの左手の法則」で決定します。磁場の強さ\(H\)と磁束密度\(B\)の関係式 \(B=\mu H\) も使います。
  4. 円形電流がつくる磁場: 円形コイルの中心における磁場の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2r}\) で計算できます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、力を受ける側の導線がある場所に、もう一方の導線がどのような磁場をつくっているかを計算します。その磁場を使って、力の大きさと向きを求めます(問1)。
  2. 次に、指定された点に各導線がどの向きにどれだけの強さの磁場をつくるかを個別に計算し、それらをベクトルとして合成します(問2)。
  3. 問3では、まず2本の直線電流がつくる合成磁場を計算します。次に、円形コイルがその磁場をちょうど打ち消すような磁場をつくる、という条件からコイルに流すべき電流の大きさと向きを逆算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
導線1が受ける力を求めるには、まず「導線1が存在する場所(原点O)に、導線2がどのような磁場をつくっているか」を明らかにする必要があります。このプロセスは2段階に分かれます。

  1. 導線2の電流\(I_2\)が、導線1の位置につくる磁場の強さ\(H_{21}\)と向きを求める。
  2. その磁場\(H_{21}\)から、導線1の電流\(I_1\)が受ける力の大きさ\(F\)と向きを求める。

この設問における重要なポイント

  • 無限長直線電流がつくる磁場の公式: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁場と磁束密度の関係: \(B = \mu H\)
  • 電流が磁場から受ける力の公式: \(F = IBl\)
  • 向きを決定する法則: 右ねじの法則(磁場の向き)、フレミングの左手の法則(力の向き)

具体的な解説と立式

Step 1: 導線2が導線1の位置につくる磁場\(H_{21}\)を求める。
導線2は点Q(2d,0,0)を通り、導線1は原点O(0,0,0)を通るので、2つの導線間の距離は\(r=2d\)です。
導線2に流れる電流\(I_2\)が導線1の位置につくる磁場の強さ\(H_{21}\)は、
$$ H_{21} = \frac{I_2}{2\pi(2d)} $$
磁場の向きは、z軸負の向きに流れる電流\(I_2\)に対して右ねじの法則を適用すると、導線1の位置ではy軸の正の向きとなります。

Step 2: 導線1が磁場から受ける力\(F\)を求める。
導線1の位置における磁束密度\(B_{21}\)は、\(B_{21} = \mu H_{21}\)です。
この磁場の中で、電流\(I_1\)が流れる導線1の長さ\(l\)の部分が受ける力の大きさ\(F\)は、
$$ F = I_1 B_{21} l $$
力の向きは、フレミングの左手の法則で決定します。電流\(I_1\)はz軸の正の向き、磁場\(B_{21}\)はy軸の正の向きです。

使用した物理公式

  • 無限長直線電流がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁束密度: \(B = \mu H\)
  • 電流が磁場から受ける力: \(F = IBl\)
計算過程

力の大きさ\(F\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= I_1 B_{21} l \\[2.0ex]&= I_1 (\mu H_{21}) l \\[2.0ex]&= I_1 \mu \left( \frac{I_2}{2\pi(2d)} \right) l \\[2.0ex]&= \frac{\mu I_1 I_2 l}{4\pi d}
\end{aligned}
$$
力の向きを決定します。フレミングの左手の法則において、

  • 電流(中指): z軸の正の向き
  • 磁場(人差し指): y軸の正の向き

とすると、力(親指)はx軸の負の向きを向きます。

計算方法の平易な説明

この問題は、まず「導線1がいる場所に、相方の導線2がどんな磁場をつくっているか」を調べることから始まります。右ねじの法則を使って磁場の向きを、公式を使って強さを求めます。次に、その磁場の中で電流を流している導線1が、どちら向きにどれくらいの力で押されるかを「フレミングの左手の法則」と力の公式を使って計算します。

結論と吟味

力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{\mu I_1 I_2 l}{4\pi d}\)、向きはx軸の負の向きです。
導線1と2には互いに逆向きの電流が流れているため、反発力(斥力)が働くはずです。導線1がx軸の負の向きに力を受けるというのは、導線2から遠ざかる向きであり、斥力であることと一致します。よって結果は妥当です。

解答 (1) 大きさ: \(\displaystyle\frac{\mu I_1 I_2 l}{4\pi d}\), 向き: x軸の負の向き

問(2)

思考の道筋とポイント
点P(d,0,0)には、導線1と導線2の両方が磁場をつくります。それぞれの導線が単独で点Pにつくる磁場を計算し、それらをベクトルとして合成することで、点Pでの最終的な磁場を求めます。これが「磁場の重ね合わせの原理」です。
この設問における重要なポイント

  • 磁場の重ね合わせ: 複数の電流がつくる磁場は、各電流が単独でつくる磁場のベクトル和に等しい。
  • 右ねじの法則: 各直線電流がつくる磁場の向きを正確に決定する。
  • 距離の計算: 磁場を計算する点と、電流が流れる導線との最短距離を正しく求める。

具体的な解説と立式

Step 1: 導線1が点Pにつくる磁場\(H_{1\text{P}}\)を求める。
導線1(原点O)から点P(d,0,0)までの距離は\(d\)です。
$$ H_{1\text{P}} = \frac{I_1}{2\pi d} $$
電流\(I_1\)はz軸の正の向きなので、右ねじの法則より、点Pでの磁場の向きはy軸の正の向きです。

Step 2: 導線2が点Pにつくる磁場\(H_{2\text{P}}\)を求める。
導線2(点Q(2d,0,0))から点P(d,0,0)までの距離は\(2d – d = d\)です。
$$ H_{2\text{P}} = \frac{I_2}{2\pi d} $$
電流\(I_2\)はz軸の負の向きなので、右ねじの法則より、点Pでの磁場の向きはy軸の正の向きです。

Step 3: 2つの磁場を合成する。
\(H_{1\text{P}}\)と\(H_{2\text{P}}\)はどちらもy軸の正の向きを向いています。したがって、合成磁場\(H\)の強さは2つの強さの単純な和で与えられます。
$$ H = H_{1\text{P}} + H_{2\text{P}} $$

使用した物理公式

  • 無限長直線電流がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 磁場の重ね合わせの原理
計算過程

合成磁場の強さ\(H\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
H &= H_{1\text{P}} + H_{2\text{P}} \\[2.0ex]&= \frac{I_1}{2\pi d} + \frac{I_2}{2\pi d} \\[2.0ex]&= \frac{I_1 + I_2}{2\pi d}
\end{aligned}
$$
合成磁場の向きは、2つの磁場の向きと同じく、y軸の正の向きです。

計算方法の平易な説明

点Pという場所が、2つの電流(導線1と2)から影響を受けています。まず、導線1だけが点Pにつくる磁場の強さと向きを計算します。次に、導線2だけが点Pにつくる磁場の強さと向きを計算します。最後に、この2つの磁場を足し合わせます。今回はたまたま両方の磁場の向きが同じだったので、単純に強さを足し算するだけでOKです。

結論と吟味

磁場の強さは \(H = \displaystyle\frac{I_1 + I_2}{2\pi d}\)、向きはy軸の正の向きです。
各電流がつくる磁場の向きと大きさを正しく計算し、ベクトル和をとっており、妥当な結果です。

解答 (2) 強さ: \(\displaystyle\frac{I_1 + I_2}{2\pi d}\), 向き: y軸の正の向き

問(3)

思考の道筋とポイント
点Rでの磁場が0になるという条件は、「2本の直線電流がつくる合成磁場」と「円形コイルがつくる磁場」が、点Rにおいて大きさが等しく、向きが真逆になって完全に打ち消し合っていることを意味します。

  1. まず、2本の直線電流が点Rにつくる合成磁場\(H_{\text{直線}}\)の大きさと向きを計算する。
  2. 円形コイルは、この\(H_{\text{直線}}\)を打ち消す磁場\(H_{\text{円}}\)をつくらなければならない。つまり、\(H_{\text{円}}\)の大きさと向きが決定される。
  3. \(H_{\text{円}}\)をつくるために必要な円形コイルの電流\(I\)の大きさを、円形電流の公式から逆算する。
  4. \(H_{\text{円}}\)の向きから、右ねじの法則を使って電流\(I\)が流れる向きを判断し、点Sでの向きを答える。

この設問における重要なポイント

  • 磁場の重ね合わせ(打ち消し): 合成磁場が0 \(\iff\) 各成分のベクトル和が0。
  • 無限長直線電流がつくる磁場の公式: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 円形電流の中心がつくる磁場の公式: \(H = \displaystyle\frac{I}{2r}\)

具体的な解説と立式

Step 1: 直線電流が点Rにつくる合成磁場\(H_{\text{直線}}\)を求める。

  • 導線1が点R(4d,0,0)につくる磁場\(H_{1\text{R}}\):
    距離は\(4d\)。強さは \(H_{1\text{R}} = \displaystyle\frac{I_1}{2\pi(4d)} = \frac{I_1}{8\pi d}\)。向きはy軸の正の向き。
  • 導線2が点R(4d,0,0)につくる磁場\(H_{2\text{R}}\):
    距離は\(4d – 2d = 2d\)。強さは \(H_{2\text{R}} = \displaystyle\frac{I_2}{2\pi(2d)} = \frac{I_2}{4\pi d}\)。向きはy軸の負の向き。

2つの磁場は逆向きなので、合成磁場の強さは引き算になります。\(I_1 < I_2\) という条件から、\(H_{1\text{R}} = \displaystyle\frac{I_1}{8\pi d} < \frac{2I_2}{8\pi d} = H_{2\text{R}}\) となり、\(H_{2\text{R}}\)の方が強いことがわかります。
よって、合成磁場\(H_{\text{直線}}\)の強さは、
$$ H_{\text{直線}} = H_{2\text{R}} – H_{1\text{R}} $$
向きは、強い方である\(H_{2\text{R}}\)の向き、すなわちy軸の負の向きとなります。

Step 2: 円形コイルがつくる磁場\(H_{\text{円}}\)の条件を考える。
点Rでの磁場を0にするには、円形コイルは\(H_{\text{直線}}\)と大きさが等しく、逆向きの磁場をつくる必要があります。

  • \(H_{\text{円}}\)の強さ: \(H_{\text{円}} = H_{\text{直線}}\)
  • \(H_{\text{円}}\)の向き: y軸の正の向き

Step 3: 電流\(I\)の大きさを求める。
円形コイル(半径\(d\))の中心(点R)における磁場の強さの公式は \(H_{\text{円}} = \displaystyle\frac{I}{2d}\) です。
したがって、
$$ \frac{I}{2d} = H_{\text{直線}} $$

Step 4: 点Sでの電流の向きを求める。
円形コイルがy軸の正の向きに磁場をつくるためには、右ねじの法則により、電流はxz平面内をy軸の負側から見て時計回りに流れる必要があります。点S(5d,0,0)は、コイルの中心R(4d,0,0)から見てx軸正方向に半径dだけ進んだ点です。この点での電流の向きは、時計回りの軌道に沿って、z軸の負の向きとなります。

使用した物理公式

  • 無限長直線電流がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 円形電流の中心がつくる磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2r}\)
  • 磁場の重ね合わせの原理
計算過程

\(H_{\text{直線}}\)の強さを計算します。
$$
\begin{aligned}
H_{\text{直線}} &= H_{2\text{R}} – H_{1\text{R}} \\[2.0ex]&= \frac{I_2}{4\pi d} – \frac{I_1}{8\pi d} \\[2.0ex]&= \frac{2I_2 – I_1}{8\pi d}
\end{aligned}
$$
電流\(I\)の大きさを計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{I}{2d} &= \frac{2I_2 – I_1}{8\pi d} \\[2.0ex]I &= 2d \cdot \left( \frac{2I_2 – I_1}{8\pi d} \right) \\[2.0ex]&= \frac{2I_2 – I_1}{4\pi}
\end{aligned}
$$
点Sでの電流の向きは、上記の考察からz軸の負の向きです。

計算方法の平易な説明

点Rでの磁場の綱引きが「引き分け」になる状況を考えます。まず「直線電流チーム」(導線1と2)が、点Rをどちら向きにどれくらいの強さで引っ張っているかを計算します。今回はy軸の負の向きに引っ張っていました。次に、「円形コイルチーム」がこの綱引きを引き分けに持ち込むには、反対のy軸の正の向きに、全く同じ強さで引っ張り返す必要があります。その力の強さ(磁場の強さ)から、コイルに流すべき電流の大きさを逆算します。電流の向きは、引っ張る向き(磁場の向き)から右ねじの法則で決まります。

結論と吟味

電流の大きさは \(I = \displaystyle\frac{2I_2 – I_1}{4\pi}\)。点Sでの電流の向きはz軸の負の向き。
一連の論理は物理法則に則っており、計算も正確です。\(I_1 < I_2\) の条件が、直線電流の合成磁場の向きを決定する上で重要であったことも確認できます。結果は妥当です。

解答 (3) 電流の大きさ: \(\displaystyle\frac{2I_2 – I_1}{4\pi}\), 点Sでの向き: z軸の負の向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 直線電流がつくる磁場(アンペールの法則):
    • 核心: 無限に長い直線電流\(I\)から距離\(r\)離れた点での磁場の強さが \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) で与えられること、そしてその向きが「右ねじの法則」で決まること。これが(1)〜(3)の全ての設問の計算の出発点です。
    • 理解のポイント: 電流の周りには同心円状に磁力線が分布するイメージを持つことが重要です。
  • 磁場の重ね合わせの原理:
    • 核心: 複数の電流源がある場合、ある点での磁場は、それぞれの電流源が単独でつくる磁場の「ベクトル和」で求められること。
    • 理解のポイント: (2)では同じ向きの磁場を足し合わせ、(3)では逆向きの磁場を引き算しました。磁場がベクトル量であることを常に意識し、向きを考慮した計算を行うことが不可欠です。
  • 電流が磁場から受ける力(ローレンツ力):
    • 核心: 磁場\(B\)の中で電流\(I\)が流れる導線(長さ\(l\))は、\(F=IBl\) の力を受けること。その力の向きは「フレミングの左手の法則」で決まります。
    • 理解のポイント: (1)では、導線2がつくる磁場という「舞台」の上で、導線1が「力」という形で影響を受ける、という関係性を捉えることが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 正方形や三角形の頂点に置かれた直線電流: 複数の直線電流が、図形の中心や他の頂点につくる磁場を求める問題。各電流からの距離と、つくる磁場の向きを正確に作図し、ベクトル合成する能力が問われます。
    • ソレノイドコイルと直線電流の組み合わせ: ソレノイド内部の一様な磁場と、外部の直線電流がつくる磁場との重ね合わせを考える問題。
    • 平行電流間に働く力: (1)は、2本の平行電流間に働く力を求める問題の典型例です。同じ向きの電流なら引力、逆向きの電流なら斥力が働くという結果は、公式として覚えておくと検算に役立ちます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 磁場を求めるのか、力を求めるのかを明確にする: 問題が「磁場(HまたはB)を求めよ」なのか、「力(F)を求めよ」なのかを最初に確認します。使う公式が異なります。
    2. 空間認識と作図: 電流と、注目している点(または導線)の位置関係を、xy平面などで正確に図示します。特に、各電流がつくる磁場の向きを、右ねじの法則を使ってベクトル矢印で書き込むことが、合成の際のミスを防ぐ鍵です。
    3. 「磁場が0」の条件: (3)のように「磁場が0」や「力がつりあう」という条件が出てきたら、それは「複数のベクトル(磁場や力)の和が0になる」ことを意味します。つまり、打ち消し合うべきベクトルの大きさが等しく、向きが逆であるという等式を立てるのが定石です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 磁場Hと磁束密度Bの混同:
    • 誤解: 磁場の強さ\(H\)を求めるべきところで磁束密度\(B\)を計算したり、その逆をしてしまう。力の計算式\(F=IBl\)に\(H\)を直接代入してしまう。
    • 対策: \(H\)は電流がつくる「磁場そのもの」、\(B\)は磁場が物質に与える影響(磁化)も含めた実質的な磁場の強さで、\(B=\mu H\)という関係にあると区別します。力の公式は\(B\)を使う、と覚えましょう。
  • 右ねじの法則とフレミングの左手の法則の混同:
    • 誤解: 磁場の向きを求めたいのにフレミングの法則を使ったり、力の向きを求めたいのに右ねじの法則を使ったりする。
    • 対策: 「ねじ」は回るもの、つまり「磁場」の向きを決めるときに使う。「フレミング」は「力(Force)」のFと頭文字が同じなので、「力」の向きを決めるときに使う、と関連付けて覚えましょう。
  • 距離rの取り方の間違い:
    • 誤解: 直線電流がつくる磁場の公式\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)の\(r\)に、斜めの距離などを代入してしまう。
    • 対策: \(r\)は必ず「電流(導線)と、考えている点との最短距離」です。図を真上(xy平面)から見て、点と直線の距離を正しく測ることが重要です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • xy平面への射影図: この問題のように電流がz軸に平行な場合、現象はxy平面上で考えると非常に分かりやすくなります。導線は「点」、磁場は「点から出る接線方向のベクトル」、力は「点から出るベクトル」として図示できます。
    • 磁力線の作図: 各電流の周りに、右ねじの法則に従った向きの同心円状の磁力線を薄く描いてみると、任意の点での磁場の向きが一目瞭然になります。(2)で点Pでの磁場が両方ともy軸正の向きになることや、(3)で点Rでの磁場の向きが異なることが直感的に理解できます。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • ベクトルの始点: 磁場や力のベクトルを描く際は、必ずその磁場や力が作用している「点」(点Pや点R、導線1の位置など)を始点として描きましょう。
    • 向きと大きさの区別: ベクトル矢印を描く際は、向きを正確に示し、可能であれば大きさの大小関係も矢印の長さで表現すると(例:\(H_{2\text{R}}\)を\(H_{1\text{R}}\)より長く描く)、合成後の向きの判断が容易になります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)(直線電流の磁場):
    • 選定理由: (1), (2), (3)全てにおいて、無限長直線電流が周囲につくる磁場を計算する必要があるため。
    • 適用根拠: アンペールの法則を無限長直線電流に適用して導出される、この状況における基本公式です。
  • \(F = IBl\)(電流が受ける力):
    • 選定理由: (1)で「力」を問われているため。
    • 適用根拠: 磁場中の荷電粒子が受けるローレンツ力を、導線中の多数の自由電子の集まりに適用して導かれる公式です。
  • \(B = \mu H\)(磁束密度と磁場の関係):
    • 選定理由: (1)で、力の公式に必要な\(B\)を、直線電流の公式で求めた\(H\)から変換するために必要だったため。
    • 適用根拠: 磁場と磁束密度を定義し、両者を結びつける関係式です。透磁率\(\mu\)は、その空間(物質)がどれだけ磁化されやすいかを示す係数です。
  • \(H = \displaystyle\frac{I}{2r}\)(円形電流中心の磁場):
    • 選定理由: (3)で、円形コイルがその中心点Rにつくる磁場を計算する必要があったため。
    • 適用根拠: ビオ・サバールの法則を円形電流に適用し、中心点について計算して導出される公式です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 力の計算:
    • 戦略: 力 \(\leftarrow\) 磁束密度 \(\leftarrow\) 磁場 の順に遡って計算する。
    • フロー: ①力を受ける導線1の位置に、導線2がつくる磁場\(H_{21}\)を計算。②\(B_{21} = \mu H_{21}\)で磁束密度に変換。③\(F = I_1 B_{21} l\)で力を計算。④フレミングの左手の法則で向きを決定。
  2. (2) 合成磁場の計算:
    • 戦略: 各成分を計算し、ベクトル的に合成する。
    • フロー: ①導線1が点Pにつくる磁場\(H_{1\text{P}}\)を計算。②導線2が点Pにつくる磁場\(H_{2\text{P}}\)を計算。③両者の向きが同じことを確認し、強さを足し算する(\(H = H_{1\text{P}} + H_{2\text{P}}\))。
  3. (3) 磁場ゼロ条件:
    • 戦略: 直線電流の磁場を円形電流の磁場が打ち消す、という等式を立てる。
    • フロー: ①2本の直線電流が点Rにつくる合成磁場\(H_{\text{直線}}\)を計算(ベクトル和)。②円形電流がつくる磁場\(H_{\text{円}}\)が、\(H_{\text{円}} = H_{\text{直線}}\)かつ逆向きになるという条件を立てる。③\(H_{\text{円}} = \displaystyle\frac{I}{2d}\)の公式から\(I\)を逆算。④\(H_{\text{円}}\)の向きから、右ねじの法則で電流の回転方向を決定し、点Sでの向きを答える。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位と定数: この問題では\(\mu\)や\(\pi\)が文字のまま残ります。計算の最終段階まで、これらの文字を消さずに正確に持ち運びましょう。
  • 分母の\(2\pi\)の有無: 直線電流の磁場は\(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)、円形電流の中心磁場は\(H = \displaystyle\frac{I}{2r}\)です。分母に\(\pi\)が付くか付かないかを混同しないように注意しましょう。「直線は全方位\(2\pi\)ラジアンに広がるが、円は中心の一点に集中するから\(\pi\)が消える」といったイメージで覚えるのも一つの手です。
  • 向きの判断は最後にまとめて: 計算の途中で向きを考えると混乱の元です。まずは各成分の「大きさ」の計算に集中し、最後に全てのベクトルの大きさが分かった段階で、図を見ながら向きの合成(ベクトル和)を行うと、思考が整理されます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 力の向き: 導線1と2には逆向きの電流が流れています。逆向きの平行電流間には斥力(反発力)が働くことが知られています。計算結果の「x軸の負の向き」は、導線1が導線2から離れる向きであり、斥力と一致するため妥当です。
    • (3) 電流の大きさ: \(I = \displaystyle\frac{2I_2 – I_1}{4\pi}\)という結果は、\(I_1\)や\(I_2\)と直接比較しにくいですが、少なくとも電流の次元を持っていることは確認できます。もし\(2I_2 – I_1 < 0\)となるような条件(この問題ではあり得ないが)なら、電流の大きさが負になってしまい、向きの仮定が逆だったことを意味します。
  • 極端な場合を考える:
    • もし\(I_1=0\)なら、(2)の磁場は\(H = \displaystyle\frac{I_2}{2\pi d}\)となり、導線2だけが存在する場合の磁場に一致します。
    • もし\(d \to \infty\)なら、全ての磁場や力は0に近づくはずで、式もそうなっていることが確認できます。このような簡単なチェックで、式の形が大きく間違っていないかを確認できます。
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