問題116 (東京農大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、複数の電池と抵抗、スイッチで構成された直流回路に関する問題です。スイッチの状態によって回路の接続が変わり、それぞれの状況でキルヒホッフの法則を用いて電流を求めます。キルヒホッフの法則を正しく適用し、連立方程式を解く計算力が試される、電気回路の基本問題です。
- 抵抗: \(R_1=1.0 \text{ Ω}\), \(R_2=2.0 \text{ Ω}\), \(R_3=3.0 \text{ Ω}\)
- 電池: \(E_1=2.0 \text{ V}\), \(E_2=7.0 \text{ V}\)
- その他: 電池の内部抵抗は無視できる。
- (1) S1, S3を閉じ、S2を開いたときの、R3を流れる電流の大きさ。
- (2) (1)のときの、R2を流れる電流の大きさ。
- (3) S1, S2を閉じ、S3を開いたときの、R1に流れる電流の向きと大きさ。
- (4) (3)のときの、R2とR3を流れる電流の大きさ。
- (5) (3)の状態で、R1に電流が流れないようにR3を交換した場合の新しい抵抗値。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「キルヒホッフの法則を用いた直流回路解析」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- キルヒホッフの法則I(電流則): 回路の任意の分岐点において、流れ込む電流の和と流れ出す電流の和は等しい。これは電荷の保存則を表します。
- キルヒホッフの法則II(電圧則): 回路の任意の閉じたループ(閉路)を一周するとき、起電力の和と電圧降下の和は等しい。これはエネルギーの保存則を表します。
- 未知電流の仮定: 回路の各部分を流れる電流の大きさと向きを未知数として仮定し、連立方程式を立てます。解が負になった場合は、仮定した向きが逆だったことを意味します。
- 回路の等価変換: (1)のように単純な並列接続が見抜ける場合や、(5)のように特定の条件で回路が単純化される場合、それを見抜くことで計算を簡略化できます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各設問のスイッチの状態に応じて、有効な回路図を描き直します。
- 各抵抗を流れる電流を未知数として、向きを仮定します。
- キルヒホッフの法則IとIIを用いて、未知数の数だけ独立した方程式を立てます。
- 得られた連立方程式を解いて、電流の値を求めます。
問(1), (2)
思考の道筋とポイント
スイッチS1とS3を閉じ、S2を開いた状態の回路を考えます。このとき、電池E2とスイッチS2は回路から切り離されているため、実質的な回路は電池E1と抵抗R1, R2, R3から構成されます。S3が閉じているため、R1とR2は並列接続になっています。この並列部分とR3がE1に接続された回路です。キルヒホッフの法則を用いて解くのが基本ですが、並列接続の性質を利用した別解も有効です。
この設問における重要なポイント
- スイッチの状態を反映した正しい回路図を描くこと。
- 未知電流の向きを仮定し、キルヒホッフの法則I(電流則)とII(電圧則)を適用して連立方程式を立てること。
- S3が閉じていることにより、R1とR2が並列接続になっていることを見抜くこと。
具体的な解説と立式
図aのように、R2を上向きに流れる電流を\(I_2\)、R3を下向きに流れる電流を\(I_3\)と仮定します。
キルヒホッフの法則Iより、分岐点に注目すると、R1を流れる電流は左向きに \(I_3 – I_2\) となります。
次に、キルヒホッフの法則IIを2つの閉路に適用します。
- 上側ループ (E1, R1, R3): E1の正極から出て時計回りにループを考えると、
$$ E_1 – R_1(I_3 – I_2) – R_3 I_3 = 0 \quad \cdots ① $$ - 下側ループ (E1, R2, R3): E1の正極から出て時計回りにループを考えると、
$$ E_1 – R_2 I_2 – R_3 I_3 = 0 \quad \cdots ② $$
この2つの連立方程式を解くことで、\(I_2\)と\(I_3\)が求まります。
使用した物理公式
- キルヒホッフの法則I(電流則)
- キルヒホッフの法則II(電圧則)
与えられた値を代入します。
①式:
$$
\begin{aligned}
2.0 – 1.0(I_3 – I_2) – 3.0 I_3 &= 0 \\[2.0ex]2.0 – 4.0 I_3 + I_2 &= 0 \quad \cdots ①’
\end{aligned}
$$
②式:
$$
\begin{aligned}
2.0 – 2.0 I_2 – 3.0 I_3 &= 0 \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
①’から \(I_2 = 4.0 I_3 – 2.0\)。これを②’に代入します。
$$
\begin{aligned}
2.0 – 2.0(4.0 I_3 – 2.0) – 3.0 I_3 &= 0 \\[2.0ex]2.0 – 8.0 I_3 + 4.0 – 3.0 I_3 &= 0 \\[2.0ex]6.0 – 11.0 I_3 &= 0 \\[2.0ex]I_3 &= \frac{6}{11} \approx 0.545 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
次に\(I_2\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
I_2 &= 4.0 \left(\frac{6}{11}\right) – 2.0 \\[2.0ex]&= \frac{24}{11} – \frac{22}{11} \\[2.0ex]&= \frac{2}{11} \approx 0.181 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
この回路は少し複雑なので、キルヒホッフの法則という万能ツールを使います。まず、各抵抗を流れる電流を「未知数」として文字で置きます。次に、回路内に2つの「周回コース」(ループ)を見つけ、それぞれのコースで「電池による電圧の上昇」と「抵抗による電圧の降下」の合計がゼロになる、というルール(電圧則)を使って式を2本立てます。あとは、この連立方程式を解けば、未知数だった電流の値が分かります。
思考の道筋とポイント
スイッチS3が閉じているため、抵抗R1とR2は並列接続になっています。並列接続では、両端の電圧が等しくなります。この性質を利用して、電流\(I_2\)と\(I_3\)の関係式を1本立てることができます。これにより、キルヒホッフの法則と組み合わせる計算が簡単になります。
この設問における重要なポイント
- 並列接続された抵抗の両端の電圧は等しい。
- \(V_1 = V_2\) より、 \(R_1 I_1 = R_2 I_2\)
具体的な解説と立式
R1とR2は並列なので、それぞれの両端にかかる電圧は等しくなります。
R1を流れる電流は \(I_1 = I_3 – I_2\)、R2を流れる電流は \(I_2\) なので、
$$ R_1 (I_3 – I_2) = R_2 I_2 \quad \cdots ③ $$
この式と、主解法で用いたループの式②を連立させます。
$$ E_1 – R_2 I_2 – R_3 I_3 = 0 \quad \cdots ② $$
式③に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
1.0 (I_3 – I_2) &= 2.0 I_2 \\[2.0ex]I_3 – I_2 &= 2.0 I_2 \\[2.0ex]I_3 &= 3.0 I_2
\end{aligned}
$$
この関係を式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
2.0 – 2.0 I_2 – 3.0 (3.0 I_2) &= 0 \\[2.0ex]2.0 – 2.0 I_2 – 9.0 I_2 &= 0 \\[2.0ex]2.0 – 11.0 I_2 &= 0 \\[2.0ex]I_2 &= \frac{2}{11} \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
そして\(I_3\)は、
$$
\begin{aligned}
I_3 &= 3.0 \times \frac{2}{11} \\[2.0ex]&= \frac{6}{11} \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
主解法と全く同じ結果が得られました。回路の構造(並列接続)を見抜くことで、より少ないループ計算で解けることがわかります。
(1) R3を流れる電流\(I_3\)の大きさは \(\frac{6}{11} \text{ A} \approx 0.55 \text{ A}\)。
(2) R2を流れる電流\(I_2\)の大きさは \(\frac{2}{11} \text{ A} \approx 0.18 \text{ A}\)。
どちらも正の値で求まったので、最初に仮定した電流の向きは正しかったことがわかります。
問(3), (4)
思考の道筋とポイント
スイッチS1とS2を閉じ、S3を開いた状態の回路を考えます。今度は電池E1とE2の両方が回路に接続され、抵抗R1, R2, R3がT字型に接続された2電源の回路となります。このような回路は単純な直列・並列に分解できないため、キルヒホッフの法則が必須となります。
この設問における重要なポイント
- 2つの電源を含む回路では、電流の向きを直感的に判断するのが難しい場合がある。仮に設定して計算し、結果の符号で判断する。
- キルヒホッフの法則IIを適用する際、ループを回る向きと、電池の起電力・抵抗の電圧降下の向きに細心の注意を払う。
具体的な解説と立式
図bのように、R1を右向きに流れる電流を\(I_1\)、R2を下向きに流れる電流を\(I_2\)と仮定します。
キルヒホッフの法則Iより、R3を流れる電流は下向きに \(I_1 + I_2\) となります。
キルヒホッフの法則IIを2つの閉路に適用します。
- 左ループ (E1, R1, R3): ループを時計回りにたどります。E1は順方向なので電位が上がり(+E1)、R1とR3は電流と同じ向きなので電圧降下となります。
$$ E_1 – R_1 I_1 – R_3 (I_1 + I_2) = 0 \quad \cdots ④ $$ - 右ループ (E2, R2, R3): ループを時計回りにたどります。E2は順方向なので電位が上がり(+E2)、R2とR3は電圧降下となります。
$$ E_2 – R_2 I_2 – R_3 (I_1 + I_2) = 0 \quad \cdots ⑤ $$
この2つの連立方程式を解くことで、\(I_1\)と\(I_2\)が求まります。
使用した物理公式
- キルヒホッフの法則I(電流則)
- キルヒホッフの法則II(電圧則)
与えられた値を代入します。
④式:
$$
\begin{aligned}
2.0 – 1.0 I_1 – 3.0 (I_1 + I_2) &= 0 \\[2.0ex]2.0 – 4.0 I_1 – 3.0 I_2 &= 0 \\[2.0ex]4I_1 + 3I_2 &= 2.0 \quad \cdots ④’
\end{aligned}
$$
⑤式:
$$
\begin{aligned}
7.0 – 2.0 I_2 – 3.0 (I_1 + I_2) &= 0 \\[2.0ex]7.0 – 3.0 I_1 – 5.0 I_2 &= 0 \\[2.0ex]3I_1 + 5I_2 &= 7.0 \quad \cdots ⑤’
\end{aligned}
$$
④’×5 – ⑤’×3 を計算して\(I_2\)を消去します。
$$ (20 I_1 + 15 I_2) – (9 I_1 + 15 I_2) = (10.0) – (21.0) $$
$$
\begin{aligned}
11 I_1 &= -11.0 \\[2.0ex]I_1 &= -1.0 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
この結果を④’に代入して\(I_2\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
4.0(-1.0) + 3.0 I_2 &= 2.0 \\[2.0ex]-4.0 + 3.0 I_2 &= 2.0 \\[2.0ex]3.0 I_2 &= 6.0 \\[2.0ex]I_2 &= 2.0 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
R3を流れる電流\(I_3\)は、
$$
\begin{aligned}
I_3 &= I_1 + I_2 \\[2.0ex]&= -1.0 + 2.0 \\[2.0ex]&= 1.0 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
今度は電池が2つになりましたが、やることは同じです。2つの未知数(\(I_1, I_2\))を設定し、2つの周回コース(左のループと右のループ)で電圧則の式を2本作ります。計算の結果、\(I_1\)がマイナスになりましたが、これは慌てずに「最初に仮定した向きと逆だった」と解釈すればOKです。
(3) R1を流れる電流\(I_1\)は \(-1.0 \text{ A}\) なので、向きは仮定した右向きとは逆の「左向き」、大きさは「\(1.0 \text{ A}\)」です。
(4) R2を流れる電流\(I_2\)の大きさは「\(2.0 \text{ A}\)」、R3を流れる電流\(I_3\)の大きさは「\(1.0 \text{ A}\)」です。
E2(7.0V)がE1(2.0V)より強力なため、E1を押し返すように電流が左向きに流れるという結果は物理的に妥当です。
問(5)
思考の道筋とポイント
(3)の回路状態で、抵抗R3を新しい抵抗\(R’_3\)に交換し、「R1に電流が流れない」ようにします。この条件は、物理的には「R1の両端の電位差が0になる」ことを意味します。この条件を使うと、複雑な回路が単純化され、未知の抵抗値\(R’_3\)を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 「抵抗に電流が流れない」 \(\iff\) 「抵抗の両端の電位差が0」。
- この条件は、ホイートストンブリッジの平衡条件と同じ考え方で解くことができる。
具体的な解説と立式
R1に電流が流れない(\(I_1=0\))という条件を考えます。
このとき、R1の両端の電位が等しくなります。
R1の左端の点の電位は、E1の正極の電位です。
R1の右端の点の電位は、R2とR3’の接続点の電位です。
\(I_1=0\)なので、E1を含む左の枝には電流が流れません。したがって、E1の正極の電位は、R2とR3’の接続点の電位と等しくなります。
このとき、R2とR3’は直列回路を構成し、電池E2によって電流\(I\)が流れます。この電流は\(I=I_2\)です。
E2の負極(回路の最下部)を電位の基準(\(0 \text{ V}\))とします。
- R1の左端の電位 \(V_A\): E1の負極が基準(0V)に接続されているので、\(V_A = E_1 = 2.0 \text{ V}\) です。
- R1の右端の電位 \(V_B\): R2とR3’の直列回路において、基準(0V)から測ったB点の電位は、R3’にかかる電圧に等しいです。
$$ V_B = V_{R’_3} = \frac{R’_3}{R_2 + R’_3} E_2 $$
「R1に電流が流れない」条件は \(V_A = V_B\) なので、
$$ E_1 = \frac{R’_3}{R_2 + R’_3} E_2 $$
この方程式を解くことで\(R’_3\)が求まります。
使用した物理公式
- 抵抗の分圧の式: \(V_{R2} = \displaystyle\frac{R_2}{R_1+R_2} V_{\text{全体}}\)
- 電位の考え方
$$
\begin{aligned}
2.0 &= \frac{R’_3}{2.0 + R’_3} \times 7.0 \\[2.0ex]2.0 (2.0 + R’_3) &= 7.0 R’_3 \\[2.0ex]4.0 + 2.0 R’_3 &= 7.0 R’_3 \\[2.0ex]4.0 &= 5.0 R’_3 \\[2.0ex]R’_3 &= \frac{4.0}{5.0} \\[2.0ex]&= 0.80 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
R1に電流が流れないようにする、というのは、R1の両端の「電気的な高さ(電位)」を同じにして、電流が流れる動機をなくす、ということです。R1の左端の高さは電池E1によって2.0Vに固定されています。一方、右端の高さは、電池E2の7.0Vという高さを、抵抗R2と新しい抵抗R3’で分け合った地点の高さです。この右端の高さがちょうど2.0Vになるように、抵抗R3’の値を調整する、という問題です。
交換した抵抗の値は \(0.80 \text{ Ω}\) です。この回路は、電池E1を検流計と見なしたホイートストンブリッジと等価な構造をしています。R1に電流が流れない条件は、ブリッジの平衡条件 `(R1に相当する部分の電圧) / (R2に相当する部分の電圧) = (R3に相当する部分の電圧) / (R4に相当する部分の電圧)` に対応します。この問題では `E1 / R_2 = (E_2の電圧降下の一部) / R’_3` のような関係ではなく、電位で考えるのが最も明快です。`V_A = E_1` と `V_B = E_2 – I R_2` が等しくなる条件からも解くことができ、同じ結果が得られます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- キルヒホッフの法則(電流則・電圧則):
- 核心: この問題は、キルヒホッフの法則を正しく適用できるかを試す典型問題です。特に、複数の電源を含む複雑な回路では、この法則が唯一の系統的な解法となります。
- 電流則(第一法則): 「分岐点に流れ込む電流の和=流れ出す電流の和」。これは電荷が途中で消えたり生まれたりしないという「電荷量保存則」の現れです。未知電流の数を減らすために使います。
- 電圧則(第二法則): 「任意の閉回路を一周すると、電位の上がり下がりの合計はゼロ」。これは「エネルギー保存則」の現れです。起電力は電位を上げる(または下げる)ポンプ、抵抗は電位を下げる坂道とイメージします。
- 法則適用の正確性:
- 核心: 法則を知っているだけでは不十分で、正しく使いこなすことが重要です。特に電圧則では、ループをたどる向き、電流の向き、電池の向きの3つを正確に把握し、電位の「上がる(+)」か「下がる(-)」かを判断する符号の付け方が全ての鍵を握ります。
- 理解のポイント: (3)の解析で、電池E1の向きを考慮して電圧則の式を立てる部分が最も重要です。`+E`なのか`-E`なのか、`+IR`なのか`-IR`なのかを、自分で決めたルールに従って一貫して適用する練習が不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ホイートストンブリッジ回路: ひし形に抵抗が配置された回路。中央の検流計に電流が流れない「平衡条件」を問う問題は、本問の(5)と全く同じ思考法で解けます。
- コンデンサーを含む直流回路(定常状態): 定常状態ではコンデンサーに電流は流れません。これは「電流が0」という条件が与えられているのと同じで、その部分を断線と見なして回路を単純化できます。
- 対称性のある回路: 立方体の各辺に抵抗を配置した回路など。回路の対称性を見抜くことで、電位が等しい点や電流が同じ経路を見つけ、未知数の数を劇的に減らすことができます。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路の構造を把握する: まず、単純な直列・並列に分解できるかを確認します。(1)のように分解できれば計算が楽になります。分解できない複雑な回路((3)など)であれば、キルヒホッフの法則を使うと覚悟を決めます。
- 未知数を設定する: 各枝路を流れる電流を、向きを仮定して\(I_1, I_2, \dots\)と設定します。電流則を使えば、未知数の数を最小限に抑えられます。
- 閉回路(ループ)を選ぶ: 未知数の数だけ、独立したループを選びます。なるべく単純なループ(含まれる素子が少ない)を選ぶと、立式や計算が楽になります。
- 「電流0」の条件: (5)のように「電流が流れない」という条件があれば、それは強力なヒントです。その抵抗の両端の電位が等しい、という条件に置き換えて考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電圧則の符号ミス:
- 誤解: ループを回る向きと電流・電池の向きの関係が混乱し、`+`と`-`を間違える。これは最も多いミスです。
- 対策: 自分なりのルールを確立し、常に守ること。例えば、「ループの向きと電流の向きが同じなら電圧降下(-IR)」「ループの向きが電池の負極から正極へなら起電力(+E)」のように、機械的に適用できるルールを決め、練習を繰り返すのが最も効果的です。
- 未知電流の向きの仮定:
- 誤解: 計算結果が負になったときにパニックになり、計算をやり直してしまう。
- 対策: 「負の解は、仮定した向きと逆向きである」ことを意味するだけです。大きさはその絶対値なので、何も問題ありません。自信を持って解答しましょう。(3)の\(I_1\)が良い例です。
- 連立方程式の計算ミス:
- 誤解: 焦って計算し、移項や代入でミスをする。
- 対策: キルヒホッフの法則の問題は、立式さえできればあとは純粋な数学の計算です。式を立てた後は一度落ち着き、見やすく整理してから計算に移りましょう。検算として、求めた電流の値を元の別の方程式に代入してみるのも有効です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電位の地図: 回路図を地形図のように見立て、電位を「標高」としてイメージします。電池は標高を上げるポンプ、抵抗は標高を下げる坂道です。キルヒホッフの電圧則は「出発点に戻ってきたら標高は元通り」という当たり前のことを数式にしたものです。
- 電流の向きを矢印で明記: 回路図に、仮定した電流の向きを必ず矢印で書き込みます。これにより、電圧則の式を立てる際の符号ミスを防げます。
- ループを色分け: 複数のループに電圧則を適用する場合、それぞれのループを色ペンでなぞって区別すると、どのループについて考えているかが明確になり、混乱を防げます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- スイッチの状態を反映: 各設問でスイッチの状態が変わるので、その都度、有効な回路図を描き直すのが最も確実です。開いているスイッチの部分は断線として描きません。
- 電位の基準点を定める: (5)のように電位を考える問題では、回路のどこか一点(通常はアースや電池の負極)を基準(0V)と定め、各点の電位を書き込んでいくと、電位差が分かりやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- キルヒホッフの法則I(電流則):
- 選定理由: 回路が分岐している場合、各枝路の電流の関係を規定するため。複数の未知電流を、より少ない独立な未知数で表現する(未知数を減らす)ために用います。
- 適用根拠: 電荷量保存則。分岐点で電荷が湧き出したり消えたりしないという基本原理に基づきます。
- キルヒホッフの法則II(電圧則):
- 選定理由: 回路に閉じたループが存在する場合、そのループ内の素子の電圧関係を規定するため。未知電流の数だけ方程式を立てるための主要なツールです。
- 適用根拠: エネルギー保存則。電荷がループを一周して元の場所に戻ってきたとき、そのエネルギー(電位)は元に戻るという原理に基づきます。
- オームの法則 \(V=IR\):
- 選定理由: 電圧則の中で、抵抗による「電圧降下」の大きさを計算するために用います。
- 適用根拠: 抵抗という素子の性質を定義する基本式です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1), (2) S1,S3閉:
- 戦略: 回路図を描き直し、R1とR2が並列であることを見抜く。キルヒホッフの法則で解く。
- フロー: ①未知電流\(I_2, I_3\)を設定。②電流則から\(I_1=I_3-I_2\)。③2つのループを選び、電圧則で2本の方程式を立てる。④連立方程式を解く。
- (3), (4) S1,S2閉:
- 戦略: 複雑な回路なので、キルヒホッフの法則で正面から解く。
- フロー: ①未知電流\(I_1, I_2\)を設定。②電流則から\(I_3=I_1+I_2\)。③2つのループ(左と右)を選び、電圧則で2本の方程式を立てる。(電池の向きに細心の注意を払う)。④連立方程式を解き、\(I_1\)の符号から向きを判断する。
- (5) R1に電流が流れない:
- 戦略: 「\(I_1=0\)」という条件を「R1の両端の電位が等しい」と読み替える。
- フロー: ①回路の基準電位(0V)を定める。②R1の左端の電位を求める(\(V_A=E_1\))。③R1の右端の電位を求める(R2とR3’の分圧)。④両者が等しいとおき、\(R’_3\)についての方程式を解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号のダブルチェック: 電圧則の式を立てた後、もう一度ループをたどり、全ての項の符号が自分のルール通りになっているかを確認する癖をつけましょう。
- 式の整理: 連立方程式を解く前に、`aI_1 + bI_2 = c` のように、各変数の項と定数項をきれいに整理してから計算を始めると、ミスが減ります。
- 単位の確認: 問題で与えられている単位(V, Ω)と、求めるべき単位(A, Ω)が一致しているかを確認します。
- 別解での検算: (1)のように、合成抵抗の考え方など、別の方法で解ける場合は、検算として利用すると非常に有効です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) 電流の向き: E2(7.0V)はE1(2.0V)よりも強力な電源です。そのため、回路全体としてはE2が主導権を握り、E1の向きに逆らって電流を流そうとします。計算結果でR1に左向きの電流が流れたのは、この力関係を反映しており、物理的に妥当な結果と言えます。
- (5) 抵抗値: 求めた抵抗値が負になることは物理的にありえません。もし負になったら、立式が根本的に間違っている証拠です。
- 極端な場合を考える:
- もし(3)でE1=E2だったら、対称性からR1には電流が流れないはずです(I1=0)。立てた連立方程式にE1=E2=Eを代入して、実際にI1=0となるか試してみるのも、式の正しさを確認する良い方法です。
問題117 (香川大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2つの異なる構成を持つ直流回路について、電位、抵抗値、消費電力、電流などを求める問題です。特に、ホイートストンブリッジの平衡条件や、非平衡状態の回路解析が中心となります。キルヒホッフの法則を自在に使いこなす能力が試されます。
- 電池: \(E_1 = 24 \text{ V}\), \(E_2 = 8.0 \text{ V}\)
- 抵抗: \(R_1 = 100 \, \Omega\), \(R_2 = 25 \, \Omega\), \(R_3 = 60 \, \Omega\), 可変抵抗 \(R\)
- 仮定: 電池および電流計の内部抵抗は無視できる。
- (1) スイッチSをa側に入れた状態
- (a) 電流計に電流が流れないときの、点Oに対する点Pの電位 \(V_P\)。
- (b) (a)の条件における可変抵抗 \(R\) の値。
- (c) 電流計に上から下へ \(0.17 \text{ A}\) の電流が流れたときの可変抵抗 \(R\) の値。
- (2) スイッチSをb側に切り替えた状態
- (a) 電流計に電流が流れないときの可変抵抗 \(R\) の値。
- (b) \(R = 30 \, \Omega\) としたときの回路全体の消費電力 \(P\)。
- (c) \(R = 30 \, \Omega\) としたときの電流計を流れる電流 \(i\) の大きさ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電池を含む複雑な直流回路の解析」です。特に、ホイートストンブリッジの扱いは重要なポイントです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- キルヒホッフの法則: 複雑な回路を解析するための最も基本的で強力なツールです。第1法則(電流則)と第2法則(電圧則)を正しく適用することが求められます。
- 電位の考え方: 回路の各点の電位を基準点から考えることで、抵抗にかかる電圧(電位差)を正確に把握できます。
- ホイートストンブリッジの平衡条件: 電流計に電流が流れないという条件は、ブリッジ回路が平衡していることを意味し、特定の抵抗比の関係式が成り立ちます。
- 合成抵抗と消費電力: 回路全体の消費電力を求めるには、まず全体の合成抵抗を計算し、電力の公式 (\(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\)など) を用います。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、問題の状況に応じて回路図を正しく理解し、どの物理法則が適用できるかを判断します。
- (1)では、電池\(E_2\)が点Pの電位を固定する役割を持つことを見抜き、キルヒホッフの法則を適用します。
- (2)では、回路がホイートストンブリッジを構成することに注目し、(a)では平衡条件を、(c)ではキルヒホッフの法則を用いて解析します。
- (b)の消費電力は、回路全体の合成抵抗を求めてから計算します。
問(1)(a)
思考の道筋とポイント
点Oに対する点Pの電位を求めます。回路図で点Oと点Pの間にどのような素子が接続されているかに注目します。電池\(E_2\)の役割を正しく理解することが鍵です。
この設問における重要なポイント
- 電位の基準点を明確にする(この問題では点O)。
- 電池は、その起電力の分だけ2点間の電位差を作り出す装置である。
- 電流計の内部抵抗は無視できるため、電流が流れても電圧降下は生じない。
具体的な解説と立式
点Oの電位を基準の \(0 \text{ V}\) とします。点Oと点Pの間には、起電力 \(E_2 = 8.0 \text{ V}\) の電池が接続されています。電池の正極がP側、負極がO側に接続されているため、点Pの電位は点Oの電位よりも \(E_2\) だけ高くなります。
この関係は、電流計に電流が流れるかどうかには依存しません。なぜなら、点Oと点Pを結ぶ経路には電池\(E_2\)しかなく、内部抵抗は0と仮定されているからです。
したがって、点Pの電位\(V_P\)は、
$$ V_P = E_2 $$
使用した物理公式
- 電位差と起電力の関係
与えられた値 \(E_2 = 8.0 \text{ V}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
V_P &= 8.0 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
点Oを地面(高さ0m)だと考えてみましょう。電池\(E_2\)は、水を8.0mの高さまで汲み上げるポンプのようなものです。点Pは、このポンプによって持ち上げられた場所なので、その「高さ(電位)」は8.0Vとなります。
点Oに対する点Pの電位は \(+8.0 \text{ V}\) です。電池の役割を正しく理解していれば、直感的に求められる設問です。
問(1)(b)
思考の道筋とポイント
「電流計に電流が流れない」という条件の下で、可変抵抗\(R\)の値を求めます。この条件から回路の各部分の電圧や電流の関係を導き出し、未知数\(R\)を決定します。キルヒホッフの法則を用いる方法と、電圧分配の公式を用いる方法があります。
この設問における重要なポイント
- 外側の閉回路(\(E_1, R_1, R\))に着目し、キルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用する。
- (a)の結果から、抵抗\(R_1\)にかかる電圧が\(8.0 \text{ V}\)であることがわかる。
具体的な解説と立式
電源\(E_1\)の負極側(点Oと同じライン)の電位を\(0 \text{ V}\)とします。このとき、(a)より点Pの電位は\(V_P = 8.0 \text{ V}\)です。したがって、抵抗\(R_1\)の両端の電位差(電圧降下)\(V_{R1}\)は \(8.0 \text{ V}\) となります。
$$ V_{R1} = 8.0 \text{ [V]} $$
抵抗\(R_1\)と可変抵抗\(R\)には同じ電流\(I\)が流れています(直列接続)。オームの法則より、
$$ V_{R1} = R_1 I \quad \cdots ① $$
次に、電源\(E_1\)、抵抗\(R_1\)、抵抗\(R\)を含む外側の閉回路について、キルヒホッフの第2法則を適用します。電源\(E_1\)による電圧の上昇は、抵抗\(R_1\)と\(R\)での電圧降下の和に等しくなります。
$$ E_1 = V_{R1} + V_R = V_{R1} + RI \quad \cdots ② $$
これらの式を用いて、まず電流\(I\)を求め、次に抵抗\(R\)を求めます。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則
- オームの法則 (\(V=IR\))
まず、①式と \(V_{R1}=8.0\text{V}\), \(R_1=100\Omega\) から電流\(I\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
8.0 &= 100 \times I \\[2.0ex]I &= \frac{8.0}{100} = 0.080 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
次に、この\(I\)の値を②式に代入して\(R\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
24 &= 8.0 + R \times (0.080) \\[2.0ex]16 &= 0.080 R \\[2.0ex]R &= \frac{16}{0.080} = \frac{1600}{8} = 200 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
よって、\(R = 2.0 \times 10^2 \, \Omega\)。
まず、(a)の結果から抵抗\(R_1\)には8.0Vの電圧がかかっていることがわかります。\(R_1\)の抵抗値は100Ωなので、オームの法則からここに流れる電流が0.080Aだと計算できます。この電流はそのまま抵抗\(R\)にも流れます。次に、回路全体を見ると、電源の24Vのうち8.0Vが\(R_1\)で使われているので、残りの16Vが抵抗\(R\)で使われるはずです。電圧16V、電流0.080Aとわかったので、再びオームの法則を使って抵抗\(R\)の値を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 抵抗\(R_1\)と\(R\)が直列接続されており、全体に\(E_1=24\text{V}\)の電圧がかかっていると見なす。
- 直列抵抗における電圧は、抵抗の大きさに比例して分配される。
具体的な解説と立式
抵抗\(R_1\)と\(R\)は直列に接続されており、この直列部分全体に電源\(E_1\)の電圧 \(24 \text{ V}\) がかかっています。
直列接続における電圧分配の公式により、\(R_1\)にかかる電圧\(V_{R1}\)は次のように表せます。
$$ V_{R1} = E_1 \times \frac{R_1}{R_1 + R} $$
(a)より \(V_{R1} = 8.0 \text{ V}\) なので、この式に値を代入して\(R\)について解きます。
使用した物理公式
- 抵抗の直列接続における電圧分配の公式
$$
\begin{aligned}
8.0 &= 24 \times \frac{100}{100 + R} \\[2.0ex]\frac{8.0}{24} &= \frac{100}{100 + R} \\[2.0ex]\frac{1}{3} &= \frac{100}{100 + R} \\[2.0ex]100 + R &= 300 \\[2.0ex]R &= 200 = 2.0 \times 10^2 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
電源の24Vの電圧を、抵抗\(R_1\)と\(R\)で分け合うと考えます。\(R_1\)が受け取る電圧は8.0Vなので、全体の1/3です。電圧の分け前が抵抗の大きさに比例するので、\(R_1\)の抵抗値が全体の抵抗値(\(R_1+R\))の1/3であればよい、ということになります。この関係から\(R\)の値を計算します。
どちらの解法でも \(R = 2.0 \times 10^2 \, \Omega\) という同じ結果が得られました。計算は妥当です。
問(1)(c)
思考の道筋とポイント
今度は電流計に \(0.17 \text{ A}\) の電流が流れるという具体的な条件が与えられています。この状況で可変抵抗\(R\)の値を求めます。複数の電流が関わるため、キルヒホッフの法則(特に第1法則と第2法則)を組み合わせて解くのが最も確実な方法です。
この設問における重要なポイント
- スイッチがa側にある限り、点Pの電位は(a)と同様に \(+8.0 \text{ V}\) に保たれる。
- 点Pを合流点として、キルヒホッフの第1法則(電流則)を適用する。
- 外側のループでキルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用する。
具体的な解説と立式
1. \(R_1\)を流れる電流\(I_1\)の計算:
(a)と同様に、点Oを基準(\(0 \text{ V}\))とすると点Pの電位は \(V_P = 8.0 \text{ V}\) です。したがって、抵抗\(R_1\)にかかる電圧は \(V_{R1} = 8.0 \text{ V}\) のままです。オームの法則より、\(R_1\)を流れる電流\(I_1\)は、
$$ I_1 = \frac{V_{R1}}{R_1} $$
2. \(R\)を流れる電流\(I_R\)の計算:
点Pにおいて、キルヒホッフの第1法則を適用します。\(R_1\)からの電流\(I_1\)と、電流計からの電流 \(i = 0.17 \text{ A}\) が合流し、抵抗\(R\)へ流れていきます。したがって、\(R\)を流れる電流\(I_R\)は、
$$ I_R = I_1 + i $$
3. \(R\)にかかる電圧\(V_R\)の計算:
外側のループ(\(E_1, R_1, R\))でキルヒホッフの第2法則を適用します。電源電圧\(E_1\)は、\(V_{R1}\)と\(R\)にかかる電圧\(V_R\)の和に等しくなります。
$$ E_1 = V_{R1} + V_R $$
4. 抵抗\(R\)の計算:
\(V_R\)と\(I_R\)がわかれば、オームの法則から\(R\)の値を計算できます。
$$ R = \frac{V_R}{I_R} $$
使用した物理公式
- キルヒホッフの法則(第1法則、第2法則)
- オームの法則
各ステップに従って計算を進めます。
1. \(I_1\)の計算:
$$ I_1 = \frac{8.0}{100} = 0.080 \text{ [A]} $$
2. \(I_R\)の計算:
$$ I_R = 0.080 + 0.17 = 0.25 \text{ [A]} $$
3. \(V_R\)の計算:
$$ V_R = E_1 – V_{R1} = 24 – 8.0 = 16 \text{ [V]} $$
4. \(R\)の計算:
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{V_R}{I_R} \\[2.0ex]&= \frac{16}{0.25} \\[2.0ex]&= 64 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
この問題も、いくつかのステップに分けて考えます。まず、点Pの電位は8.0Vで変わらないので、抵抗\(R_1\)には常に8.0Vがかかり、0.080Aの電流が流れます。次に、この電流と電流計から来た0.17Aの電流が点Pで合流するので、抵抗\(R\)には合計で0.25Aの電流が流れることになります。一方、電圧に注目すると、電源の24Vのうち8.0Vが\(R_1\)で使われるので、残りの16Vが抵抗\(R\)にかかります。最終的に、抵抗\(R\)には「16Vの電圧」がかかり「0.25Aの電流」が流れるとわかったので、オームの法則からその抵抗値を64Ωと計算できます。
可変抵抗\(R\)の大きさは \(64 \, \Omega\) です。キルヒホッフの法則を段階的に適用することで、未知数を一つずつ明らかにしていきました。計算プロセスは論理的で、妥当な結果です。
問(2)(a)
思考の道筋とポイント
スイッチSをb側に切り替えた状態を考えます。このとき、回路は\(R_1, R_2, R_3, R\)の4つの抵抗と電流計からなるホイートストンブリッジを形成します。「電流計に電流が流れない」という条件は、このブリッジが平衡していることを意味します。
この設問における重要なポイント
- スイッチb側の回路がホイートストンブリッジであることを見抜く。
- ブリッジの平衡条件を正しく適用する。
具体的な解説と立式
スイッチをb側にすると、回路は図cのようなホイートストンブリッジになります。電流計に電流が流れないとき、ブリッジは平衡状態にあります。
ホイートストンブリッジの平衡条件は、ブリッジを構成する対角線上にある抵抗の積が等しくなることです。この回路では、\(R_1\)と\(R_3\)、\(R_2\)と\(R\)がそれぞれ対角の位置にあるため、以下の関係式が成り立ちます。
$$ R_1 R_3 = R_2 R $$
または、辺の比が等しいという形で表すこともできます。
$$ \frac{R_1}{R_2} = \frac{R}{R_3} $$
この式を使って\(R\)を求めます。
使用した物理公式
- ホイートストンブリッジの平衡条件
平衡条件の式に、与えられた抵抗値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{100}{25} &= \frac{R}{60} \\[2.0ex]4 &= \frac{R}{60} \\[2.0ex]R &= 4 \times 60 = 240 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で表すと \(2.4 \times 10^2 \, \Omega\) となります。
スイッチを切り替えると、回路はおなじみの「ひし形」のブリッジ回路になります。真ん中の電流計に電流が流れないのは、このひし形が完全にバランスを取れている(平衡している)ときです。バランスの条件は「たすき掛けした抵抗の値の積が等しい」こと、つまり \(R_1 \times R_3 = R_2 \times R\) です。この簡単な方程式を解くだけで、Rの値を求めることができます。
可変抵抗\(R\)の大きさは \(2.4 \times 10^2 \, \Omega\) です。ホイートストンブリッジの平衡条件を正しく適用できました。
問(2)(b)
思考の道筋とポイント
可変抵抗\(R\)を \(30 \, \Omega\) にしたときの、回路全体の消費電力を求めます。消費電力を求めるには、まず回路全体の合成抵抗を計算する必要があります。この問題の模範解答では、図bで示される特殊な回路構成の合成抵抗を計算しています。ここではその解釈に従います。
この設問における重要なポイント
- 回路全体の消費電力は \(P = \displaystyle\frac{V^2}{R_{\text{合}}}\) で計算できる。
- 問題で示されている図bの回路構成を正しく解釈し、合成抵抗を計算する。
具体的な解説と立式
この問題の指示(図bの回路図)に従い、回路全体の合成抵抗\(R_{\text{合}}\)を求めます。図bは、「\(R_1\)と\(R_2\)の並列接続部分」と「\(R\)と\(R_3\)の並列接続部分」が、直列に接続されていると解釈できます。
1. \(R_1, R_2\)の並列合成抵抗 \(R_{12}\) の計算:
$$ R_{12} = \frac{R_1 R_2}{R_1 + R_2} $$
2. \(R, R_3\)の並列合成抵抗 \(R_{R3}\) の計算 (\(R=30\Omega\)):
$$ R_{R3} = \frac{R R_3}{R + R_3} $$
3. 全体の合成抵抗 \(R_{\text{合}}\) の計算:
これら2つの部分が直列なので、単純に足し合わせます。
$$ R_{\text{合}} = R_{12} + R_{R3} $$
4. 全体の消費電力 \(P\) の計算:
電源電圧は \(E_1 = 24 \text{ V}\) なので、消費電力\(P\)は以下の式で計算できます。
$$ P = \frac{E_1^2}{R_{\text{合}}} $$
使用した物理公式
- 抵抗の並列合成 (\(R = \displaystyle\frac{R_a R_b}{R_a + R_b}\))
- 抵抗の直列合成 (\(R = R_a + R_b\))
- 消費電力の公式 (\(P = \displaystyle\frac{V^2}{R}\))
各値を代入して計算します。
1. \(R_{12}\)の計算:
$$ R_{12} = \frac{100 \times 25}{100 + 25} = \frac{2500}{125} = 20 \text{ [Ω]} $$
2. \(R_{R3}\)の計算:
$$ R_{R3} = \frac{30 \times 60}{30 + 60} = \frac{1800}{90} = 20 \text{ [Ω]} $$
3. \(R_{\text{合}}\)の計算:
$$ R_{\text{合}} = 20 + 20 = 40 \text{ [Ω]} $$
4. \(P\)の計算:
$$
\begin{aligned}
P &= \frac{24^2}{40} \\[2.0ex]&= \frac{576}{40} = \frac{144}{10} = 14.4 \text{ [W]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えると \(14 \text{ W}\) となります。
回路全体の消費電力を知るには、まず回路全体が電源から見てどれくらいの「抵抗の大きさ」に見えるか、つまり「合成抵抗」を計算します。この問題で与えられた図bのモデルでは、まず左側の2つの抵抗を並列として1つにまとめ、右側の2つの抵抗も並列として1つにまとめます。そして、その2つのまとまりを直列として足し合わせることで、全体の合成抵抗を求めます。最後に、電力の公式に電源の電圧とこの合成抵抗を代入すれば、全体の消費電力が計算できます。
回路全体の消費電力は \(14 \text{ W}\) です。問題の特殊な設定に従って合成抵抗を計算し、電力公式を適用しました。
問(2)(c)
思考の道筋とポイント
\(R=30 \, \Omega\) のとき、ブリッジは平衡していません。そのため、電流計に電流が流れます。このような複雑な回路の各部分を流れる電流を求めるには、キルヒホッフの法則を用いて連立方程式を立てて解くのが最も基本的で確実な方法です。
この設問における重要なポイント
- 未知の電流を文字で設定し、回路に流れるすべての電流を表現する。
- 独立な閉回路(ループ)を3つ見つけ、それぞれについてキルヒホッフの第2法則(電圧則)の式を立てる。
- 得られた連立方程式を解いて、目的の電流を求める。
具体的な解説と立式
図cを参考に、電流を以下のように設定します。
- \(R_1\)を流れる電流: \(i_1\)
- \(R_2\)を流れる電流: \(i_2\)
- 電流計を上から下に流れる電流: \(i\)
キルヒホッフの第1法則(電流則)より、点Pと点Sでの電流の関係から、
- \(R\)を流れる電流: \(i_1 + i\)
- \(R_3\)を流れる電流: \(i_2 – i\)
次に、3つの独立な閉回路を選び、キルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用します。
1. 左上のループ (\(E_1, R_1, R\)):
$$ E_1 = R_1 i_1 + R(i_1 + i) $$
$$ 24 = 100 i_1 + 30(i_1 + i) \quad \cdots ① $$
2. 左下のループ (\(R_1, R_2\)とそれらを結ぶ導線):
P点とS点の上流側(電源のプラス極側)の電位は等しいので、\(R_1\)での電圧降下と\(R_2\)での電圧降下は等しくなります。
$$ R_1 i_1 = R_2 i_2 $$
$$ 100 i_1 = 25 i_2 \quad \cdots ② $$
3. 右のループ (電流計, \(R, R_3\)):
電流計には内部抵抗がないので電圧降下は0です。このループを時計回りにたどると、
$$ R(i_1 + i) – R_3(i_2 – i) = 0 $$
$$ 30(i_1 + i) – 60(i_2 – i) = 0 \quad \cdots ③ $$
これら3つの連立方程式を解いて、電流\(i\)を求めます。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第1法則(電流則)
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)
まず、②式と③式を整理して、\(i_1\)と\(i_2\)の関係を\(i\)で表します。
②式より:
$$ i_2 = \frac{100}{25} i_1 = 4i_1 \quad \cdots ②’ $$
③式を整理:
$$
\begin{aligned}
30(i_1 + i) &= 60(i_2 – i) \\[2.0ex]i_1 + i &= 2(i_2 – i) \\[2.0ex]i_1 + 3i &= 2i_2 \quad \cdots ③’
\end{aligned}
$$
②’を③’に代入:
$$
\begin{aligned}
i_1 + 3i &= 2(4i_1) = 8i_1 \\[2.0ex]3i &= 7i_1 \\[2.0ex]i_1 &= \frac{3}{7}i
\end{aligned}
$$
最後に、この\(i_1\)を①式に代入します。
①式を整理:
$$ 24 = 100i_1 + 30i_1 + 30i = 130i_1 + 30i $$
\(i_1 = \frac{3}{7}i\) を代入:
$$
\begin{aligned}
24 &= 130 \left( \frac{3}{7}i \right) + 30i \\[2.0ex]24 &= \frac{390}{7}i + \frac{210}{7}i \\[2.0ex]24 &= \frac{600}{7}i \\[2.0ex]i &= \frac{24 \times 7}{600} = \frac{168}{600} = \frac{28}{100} = 0.28 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
この設問における重要なポイント
- これはブリッジ回路の枝電流を求めるための特殊な計算テクニックであり、その厳密な証明は高校範囲を超える。
- 元の回路とは異なる計算用の回路(図d)を考え、そこで求めた2つの電流の差から答えを導く。
具体的な解説と立式
この解法では、図dで示されるような、計算上の中間的な回路を考えます。
1. 全電流の計算: まず、図dの回路全体の合成抵抗\(R_{\text{合}}\)を求め、電源から流れ出る全電流\(I\)を計算します。この合成抵抗は(b)で計算したもので、\(R_{\text{合}} = 40 \, \Omega\)です。
$$ I = \frac{E_1}{R_{\text{合}}} $$
2. 電流の分配: この全電流\(I\)が、図dの左側の並列部分と右側の並列部分に流れると考えます。
3. \(I_1\)の計算: 左側の並列部分で、電流\(I\)が\(R_1\)と\(R_2\)に分配されます。\(R_1\)に流れる電流\(I_1\)は、電流分配の法則より、
$$ I_1 = I \times \frac{R_2}{R_1 + R_2} $$
4. \(I_R\)の計算: 同様に、右側の並列部分で、電流\(I\)が\(R\)と\(R_3\)に分配されます。\(R\)に流れる電流\(I_R\)は、
$$ I_R = I \times \frac{R_3}{R + R_3} $$
5. 電流計の電流\(i\)の計算: 最後に、これら2つの電流の差を取ることで、元のブリッジ回路の電流計を流れる電流\(i\)が求められます。
$$ i = I_R – I_1 $$
使用した物理公式
- 合成抵抗の計算
- 電流分配の法則
1. 全電流\(I\)の計算:
$$ I = \frac{24}{40} = 0.60 \text{ [A]} $$
2. \(I_1\)の計算:
$$
\begin{aligned}
I_1 &= 0.60 \times \frac{25}{100 + 25} \\[2.0ex]&= 0.60 \times \frac{25}{125} = 0.60 \times \frac{1}{5} = 0.12 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
3. \(I_R\)の計算:
$$
\begin{aligned}
I_R &= 0.60 \times \frac{60}{30 + 60} \\[2.0ex]&= 0.60 \times \frac{60}{90} = 0.60 \times \frac{2}{3} = 0.40 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
4. 電流計の電流\(i\)の計算:
$$
\begin{aligned}
i &= I_R – I_1 \\[2.0ex]&= 0.40 – 0.12 = 0.28 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
- 主解法: 回路が複雑なときの万能ツールが「キルヒホッフの法則」です。回路の中を流れる未知の電流をいくつか文字で置き、回路をいくつかの周回コースに分けて「電圧の上がり下がりの合計はゼロ」というルールで式を立てます。あとは、根気よく連立方程式を解けば、必ず答えにたどり着けます。
- 別解: ブリッジ回路の真ん中を流れる電流を求めるための、少し不思議な「裏ワザ」があります。元の回路とは違う、計算しやすい別の回路を考えます。そこで2つの枝に流れる電流をそれぞれ計算し、その「差」を取ると、なぜか元の回路の真ん中を流れる電流と同じ値になります。これは便利な計算テクニックとして知られています。
主解法であるキルヒホッフの法則と、別解のテクニックのどちらを用いても、電流計を流れる電流は \(0.28 \text{ A}\) となりました。結果が一致することから、計算の正しさが確認できます。キルヒホッフの法則はどんな回路にも適用できる普遍的な方法として、必ずマスターしておくべきです。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- キルヒホッフの法則(電流則・電圧則):
- 核心: どんなに複雑な直流回路でも、未知の電流や電圧を解析できる最も普遍的で強力な法則です。(1)(c)や(2)(c)のような、単純な公式では解けない非平衡状態の回路を解くための必須ツールです。
- 理解のポイント: 第1法則は「交差点に流れ込む電流と流れ出す電流の和は等しい」(電荷保存則)、第2法則は「回路を一周したときの電圧の上がり下がりの合計はゼロ」(エネルギー保存則)という、物理学の基本法則に基づいています。
- ホイートストンブリッジの平衡条件:
- 核心: (2)(a)のように、ブリッジの中央にある電流計に電流が流れない(=2点間の電位が等しい)という特別な状況で成り立つ、抵抗の比に関する便利な公式(\(R_1 R_3 = R_2 R\))です。
- 理解のポイント: これはキルヒホッフの法則から導かれる特殊なケースです。この条件を知っていれば、面倒な連立方程式を解かずに一瞬で答えを出すことができます。
- 電位の概念:
- 核心: 回路の各点が持つ電気的な「高さ」を表すのが電位です。(1)では、電池\(E_2\)が点Pの電位を基準点Oに対して\(+8.0 \text{ V}\)に固定する役割を果たしており、これが解析の出発点となります。
- 理解のポイント: 電圧(電位差)は2点間の「高さの差」です。基準点(アースなど、通常\(0 \text{ V}\)とする)を決めると、各点の電位が定まり、回路の理解が格段に深まります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 内部抵抗を持つ電池を含む回路: 電池の端子電圧が起電力と異なる(\(V = E – rI\))場合を考慮する問題。本質的にはキルヒホッフの法則で解けます。
- コンデンサーを含む直流回路(定常状態): 充電が完了した定常状態では、コンデンサー部分は電流が流れない「断線」とみなして回路を解析します。
- 対称性のある回路: 立方体の各辺に抵抗を配置したような対称性の高い回路では、電位が等しくなる点を見つけて回路を単純化するテクニックが有効です。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路の構造分析: まず、回路図をよく見て、単純な直列・並列か、ブリッジ回路か、それともより複雑な網目状回路かを見極めます。
- 「電流ゼロ」の条件を見逃さない: 「電流計に電流が流れない」「検流計が0を指す」といった記述は、2点間の電位が等しいことを示す最大のヒントです。これにより、ブリッジの平衡条件を使えたり、複雑な回路を分割して考えられたりします。
- 解法の戦略的選択:
- 単純な回路 → オームの法則、合成抵抗、電圧・電流分配則で素早く解く。
- ブリッジ平衡状態 → 平衡条件式 (\(R_1/R_2 = R/R_3\)) を使い、計算をショートカットする。
- 複雑な回路(非平衡ブリッジなど) → 迷わず「キルヒホッフの法則」を使う。これが最終手段であり、最も信頼性の高い正攻法です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- キルヒホッフの法則での符号ミス:
- 誤解: ループを一周する際に、電圧降下(\(-IR\))と電圧上昇(\(+E\))の符号を混同してしまう。
- 対策: ①ループをたどる向き(例:時計回り)を最初に決める。②その向きに沿って、「抵抗を電流と同じ向きに通れば電位は下がる(\(-IR\))」「電池を負極から正極へ通れば電位は上がる(\(+E\))」のように、機械的に符号を決定するルールを徹底しましょう。
- ブリッジ平衡条件の乱用:
- 誤解: ブリッジ回路であれば、いつでも平衡条件式が使えると勘違いする。
- 対策: 平衡条件は、あくまで「中央の検流計に電流が流れない」という特別な場合にのみ使えるショートカット公式です。(2)(c)のような非平衡状態では、必ずキルヒホッフの法則に立ち返る必要があります。
- 電位と電圧(電位差)の混同:
- 誤解: (1)(a)で、点Pの電位(\(8.0 \text{ V}\))を、抵抗\(R_1\)にかかる電圧そのものだと早合点してしまう(今回はたまたま一致したが、常にそうとは限らない)。
- 対策: 「電位」は基準点からの電気的な高さ、「電圧」は2点間の高さの差、と明確に区別しましょう。回路図に基準点(例:アース、\(0 \text{ V}\))を書き込み、各点の電位を考える習慣をつけると、この種の混同を防げます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電位の等高線マップ: 回路図を地形図に見立て、電位を「標高」としてイメージします。電池は水を汲み上げるポンプ、抵抗は滝や急な坂道、電流は水流です。キルヒホッフの第2法則は「どのルートで散歩しても、一周すれば必ず元の高さに戻ってくる」という当たり前のことに対応します。
- (2)(c)の別解のイメージ: このテクニックは「重ね合わせの理」の応用と見なせます。ブリッジ中央の電流は、左側の経路(\(R_1, R_2\))が作る電流と、右側の経路(\(R, R_3\))が作る電流の「せめぎ合い」の結果とイメージできます。別解では、この2つの流れを個別に計算し、その差を取ることで中央の流れを求めています。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 電流の矢印を書き込む: キルヒホッフの法則を適用する際は、まず未知の電流をすべて仮の向きで矢印として図に書き込みます。計算結果が負になれば、実際の向きは逆だったとわかるだけなので、最初の向きは自由に設定して構いません。
- ループを明記する: 連立方程式を立てる際、どのループ(閉回路)について式を立てたのかを、図に「ループ①」「ループ②」のように書き込むと、式の立て間違いや後からの見直しが非常に楽になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ホイートストンブリッジの平衡条件:
- 選定理由: (2)(a)で「電流計に電流が流れない」という、この公式が適用できる典型的な状況が与えられていたため。キルヒホッフの法則で解くよりも圧倒的に速く、確実です。
- 適用根拠: この条件は、ブリッジ中央の2点の電位が等しくなることから導出されます。キルヒホッフの法則を一般的に解いた結果の特殊なケースです。
- キルヒホッフの法則:
- 選定理由: (1)(c)や(2)(c)のように、回路が複雑で単純な公式が使えない場合。特にブリッジが平衡していない状況では、これが唯一の正攻法となります。
- 適用根拠: 電荷保存則(第1法則)とエネルギー保存則(第2法則)という、電気回路における最も基本的な物理法則に基づいているため、どんな回路にも普遍的に適用できます。
- 電圧・電流分配の公式:
- 選定理由: (1)(b)の別解や(2)(c)の別解のように、直列・並列部分の電圧や電流を素早く計算するためのショートカットとして使用します。
- 適用根拠: これらはオームの法則とキルヒホッフの法則から導かれる便利な関係式であり、計算を効率化します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1)(b) Rの計算(電流計電流=0):
- 戦略: 点Pの電位から\(R_1\)の電圧・電流を求め、外周ループの電圧則から\(R\)の電圧を確定させ、オームの法則で解く。
- フロー: ①\(V_P = 8.0\text{V}\)より\(V_{R1} = 8.0\text{V}\)。 ②\(I = V_{R1}/R_1\)で電流を計算。 ③\(V_R = E_1 – V_{R1}\)で\(R\)にかかる電圧を計算。 ④\(R = V_R/I\)で抵抗値を計算。
- (2)(a) Rの計算(ブリッジ平衡):
- 戦略: ブリッジの平衡条件式に値を代入するだけ。
- フロー: ①平衡条件式 \(R_1/R_2 = R/R_3\) を立てる。 ②数値を代入して\(R\)を解く。
- (2)(c) 電流iの計算(非平衡ブリッジ):
- 戦略: キルヒホッフの法則で連立方程式を立てて解く。
- フロー: ①未知電流(\(i_1, i_2, i\)など)を図に設定。 ②独立な閉回路(ループ)を必要な数だけ選び、電圧則の式を立てる。 ③連立方程式を解いて目的の電流\(i\)を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認: 抵抗は[\(\Omega\)]、電圧は[\(V\)]、電流は[\(A\)]。基本的なことですが、計算の各段階で意識することが大切です。
- 連立方程式の丁寧な処理: (2)(c)のような3元連立方程式は計算が煩雑になりがちです。
- まず1つの文字を消去して2元連立方程式に帰着させるなど、見通しを立ててから計算を始めましょう。
- 式を整理する際は、係数を簡単な整数比にしておくと計算ミスが減ります(例:\(100 i_1 = 25 i_2 \rightarrow 4i_1 = i_2\))。
- 検算の習慣:
- (2)(c)で求めた電流値を、方程式を立てる際に使わなかった別のループ(例:\(E_1, R_2, R_3\)を含む外周ループ)に代入してみて、電圧則が成り立つか確認する。
- (1)(b)や(2)(c)のように、別解がある場合は両方で計算してみて、答えが一致するか確かめるのが最も強力な検算です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2)(a)と(2)(c)の比較: ブリッジが平衡するときの抵抗値は \(R=240 \, \Omega\) でした。設問(c)では \(R=30 \, \Omega\) と、平衡点から大きくずれています。そのため、電流計に比較的大きな電流(\(0.28\text{A}\))が流れるという結果は、物理的に妥当だと考えられます。
- (2)(c)の電流の向き: \(R=30 \, \Omega\) は平衡条件の \(R=240 \, \Omega\) より小さいです。これはブリッジの右腕の抵抗が相対的に小さくなったことを意味し、右腕側(\(R, R_3\)側)に電流がより多く流れようとします。結果として、別解で計算したように \(I_R(0.40\text{A}) > I_1(0.12\text{A})\) となり、電流計には上から下に電流が流れる(\(i>0\))という結果は、物理的な直感と一致します。
- 極端な場合を考えてみる:
- もし(2)(c)で \(R=0 \, \Omega\) だったら? 電流計の上側の点は電源のプラス極に直結されます。下側の点の電位は \(24 \times \displaystyle\frac{25}{100+25} = 4.8\text{V}\)。上側は\(24\text{V}\)なので、大きな電位差が生じ、下から上へ大きな電流が流れるはずです。
- もし \(R\) が非常に大きかったら(\(R \rightarrow \infty\))? \(R\)の枝は断線とみなせます。電流計には\(R_3\)を流れる電流がそのまま逆流してくる形になります。このように極端なケースを考えることで、回路の挙動に対する理解を深めることができます。
問題118 (宮城教育大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、電池の内部抵抗という、より現実的な電池のモデルについて考察するものです。電池に可変抵抗を接続し、流れる電流\(I\)と端子電圧\(V\)の関係をグラフから読み解き、内部抵抗の概念、関連する物理法則、そして外部抵抗で消費される電力が最大になる条件などを段階的に分析していきます。
- 測定対象: 内部抵抗\(r\)を持つ起電力\(E\)の電池。
- 実験装置: 可変抵抗\(R\)、電流計、電圧計。
- 実験結果: 電流\(I\)と端子電圧\(V\)の関係を示すV-Iグラフ。
- 仮定: 電流計の内部抵抗は十分に小さく、電圧計の内部抵抗は十分に大きい(理想的な測定器)。
- (1)(a) 電流と電圧を測定するための正しい回路図。
- (1)(b) 測定で可変抵抗を使用する理由。
- (2)(a) 内部抵抗の接続方法とその理由。
- (2)(b) 起電力\(E\)、端子電圧\(V\)、電流\(I\)、内部抵抗\(r\)の間の関係式。
- (2)(c) 内部抵抗がより大きい電池を用いた場合のV-Iグラフの変化。
- (2)(d) 内部抵抗\(r\)を、測定可能な量を含む式で表す。
- (2)(e) 内部抵抗で消費される電力\(P_r\)の式と、その消費形態。
- (2)(f) 外部の可変抵抗で消費される電力\(P_R\)の式。
- (2)(g) \(P_R\)と\(R\)の関係を示すグラフの概形。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電池の内部抵抗と消費電力」です。理想的な電池からのステップアップであり、現実の回路を理解する上で非常に重要な概念を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- オームの法則: 回路全体(\(E = (R+r)I\))と、回路の外部(\(V=RI\))の両方に適用する視点が重要です。
- 端子電圧の式: 電池の性能を特徴づける最も重要な式 \(V = E – rI\) の物理的意味を理解することが核心です。
- 電力の公式: \(P = IV = I^2R = \displaystyle\frac{V^2}{R}\) を、内部抵抗と外部抵抗のそれぞれについて正しく使い分ける能力が問われます。
- 相加・相乗平均の関係: 外部抵抗で消費される電力の最大値を求める際に有効な数学的ツールです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、電流計は直列に、電圧計は並列に接続するという測定器の基本原則を思い出します。
- (2)(a)から(c)にかけては、与えられたV-Iグラフの縦軸切片が起電力\(E\)、傾きの絶対値が内部抵抗\(r\)に対応することを、数式と物理的意味の両面から理解します。
- (2)(d)から(f)では、回路全体にオームの法則を適用して得られる関係式を、各設問の指示(どの文字を含み、どの文字を含まないか)に従って的確に変形していきます。
- (2)(g)では、(f)で求めた消費電力の式を\(R\)の関数とみなし、数学的な手法を用いて最大値を求め、グラフの概形を決定します。
問(1)(a)
思考の道筋とポイント
電池から流れ出る電流\(I\)と、そのときの電池の端子電圧\(V\)を測定するための回路を考えます。これは、電流計と電圧計の最も基本的な使い方を問う問題です。
この設問における重要なポイント
- 電流計は、測定したい部分を流れる電流を測るため、回路に「直列」に挿入する。
- 電圧計は、測定したい2点間の電位差を測るため、その2点間に「並列」に接続する。
具体的な解説と立式
設問の指示に従い、電池、可変抵抗、電流計、電圧計を接続します。
- 電池、可変抵抗、電流計を直列に接続し、一つのループを作ります。これにより、電流計は回路を流れる電流\(I\)を測定できます。
- 電圧計を、電池の両端(端子)に並列に接続します。これにより、電圧計は電池の端子電圧\(V\)を測定できます。
使用した物理公式
- (物理公式ではないが)電流計・電圧計の接続原則。
(計算はありません)
電流を「川を流れる水の量」、電圧を「2点間の高さの差」とイメージしてみましょう。水の流量を測る流量計(電流計)は、川の流れをせき止めてその途中に設置しないと測れません(直列接続)。一方、2地点の高さの差を測るには、それぞれの地点に物差しを当てて比較する必要があります(並列接続)。これと全く同じです。
電池、可変抵抗、電流計を直列に接続し、電圧計を電池の両端に並列に接続した回路図を描きます。
問(1)(b)
思考の道筋とポイント
なぜ抵抗値が固定された抵抗器ではなく、値を変えられる「可変抵抗」を使うのか、その理由を考えます。V-Iグラフという「関係」を得るための実験操作が問われています。
この設問における重要なポイント
- V-Iグラフは、一つの\(I\)と\(V\)のペア(データ点)だけでは描けない。
- 外部抵抗\(R\)の値を変えると、回路を流れる電流\(I\)が変化し、それに伴って端子電圧\(V\)も変化する。
具体的な解説と立式
(文章での説明のため、立式はありません)
使用した物理公式
- (物理公式ではありません)
(計算はありません)
グラフを描くためには、たくさんの点(データのペア)が必要です。もし抵抗の値が一つに決まっていると、測定できる電流と電圧のペアも一組だけになってしまい、グラフ上のたった一つの点しか得られません。可変抵抗を使って抵抗の値をいろいろ変えることで、様々な電流と電圧のペアを測定でき、それらの点を結ぶことでV-Iグラフという「関係」を明らかにすることができます。
外部抵抗を変化させることによって、電池から流れ出る電流と、電池の端子電圧の値の変化を連続して得るため。
問(2)(a)
思考の道筋とポイント
与えられたV-Iグラフが右下がりの直線になる、という実験事実から、電池内部に隠れている「内部抵抗」の存在と、それがどのように接続されているかを推論します。
この設問における重要なポイント
- グラフから、端子電圧\(V\)は、電流\(I\)が0のときの最大値\(E\)から、\(I\)の増加に比例して減少していることが読み取れる。
- 電流に比例した電圧降下 (\(V_{\text{降下}} \propto I\)) は、オームの法則 (\(V=RI\)) から、抵抗の存在を示唆する。
- 端子電圧\(V\)が起電力\(E\)から「引き算」される形で表されるため、内部抵抗は起電力に対して「直列」に接続されていると考えるのが自然である。
具体的な解説と立式
(文章での説明のため、立式はありません)
使用した物理公式
- (物理公式ではありません)
(計算はありません)
電池を、水を汲み上げる「理想的なポンプ(起電力\(E\))」と、ポンプから出口までの間にある「細くて抵抗の大きいパイプ(内部抵抗\(r\))」がセットになったものだと想像してください。水を流さないとき(電流\(I=0\))は、出口の水圧はポンプの性能そのもの(\(V=E\))です。しかし、水を流し始めると(\(I>0\))、内部の細いパイプで必ず水圧のロス(電圧降下\(rI\))が生じます。このロスは、流す水の量が多いほど大きくなります。その結果、電池の出口で観測される水圧(端子電圧\(V\))は、ポンプ本来の力(\(E\))から内部のロス分(\(rI\))を差し引いたものになります。この「ロス」の原因である内部抵抗は、ポンプと直列につながっていると考えることができます。
接続:起電力に対して直列に接続されている。
理由:電池の端子電圧は、流れる電流が大きくなるにつれて一定の割合で減少している。これは、電流に比例する電圧降下が生じていることを意味し、それは一定の抵抗(内部抵抗)が直列に存在すると考えられるため。
理由:電池の端子電圧は、流れる電流が大きくなるにつれて一定の割合で減少していることから、一定の抵抗による電圧降下が生じていると考えられるため。
問(2)(b)
思考の道筋とポイント
(2)(a)で考察した物理的なイメージを、数式で表現します。
この設問における重要なポイント
- 「端子電圧\(V\)」は、「起電力\(E\)」(電池が本来持つ電圧)から「内部抵抗\(r\)による電圧降下\(rI\)」を引いたものである。
具体的な解説と立式
(2)(a)の考察より、端子電圧\(V\)は、起電力\(E\)と内部抵抗による電圧降下\(rI\)を用いて次のように表されます。
$$ V = E – rI $$
使用した物理公式
- 端子電圧の定義式
(計算はありません)
関係式は \(V = E – rI\) です。これは電池を扱う上で最も基本的な関係式の一つです。
問(2)(c)
思考の道筋とポイント
V-Iグラフにおいて、内部抵抗\(r\)がどのような役割を果たしているかを考えます。(2)(b)で求めた関係式 \(V = -rI + E\) を、\(I\)を横軸、\(V\)を縦軸とする一次関数のグラフとして解釈します。
この設問における重要なポイント
- V-Iグラフの式 \(V = -rI + E\) は、傾きが\(-r\)、縦軸切片が\(E\)の直線を表す。
- 内部抵抗\(r\)が大きくなると、傾きの絶対値が大きくなる(グラフがより急になる)。
- 起電力\(E\)は変わらないので、縦軸切片は同じである。
具体的な解説と立式
(文章での説明のため、立式はありません)
使用した物理公式
- (物理公式ではありません)
(計算はありません)
内部抵抗\(r\)は、電池内部での「電圧ロスの激しさ」を表すパラメータです。\(r\)が大きくなるということは、同じ電流を流しても、より大きな電圧ロスが生じることを意味します。これをグラフで表現すると、電流が増えたときの電圧の下がり方がより「急」になります。つまり、グラフの傾きが急になります。一方、電池が本来持っている起電力\(E\)(電流がゼロのときの電圧)は変わらないので、グラフのスタート地点である縦軸の切片は同じままです。
縦軸の切片(起電力\(E\))は同じで、傾きの絶対値がより大きい(元のグラフより急な傾斜の)直線になる。
問(2)(d)
思考の道筋とポイント
内部抵抗\(r\)の値を、測定可能な量(\(E, I, R\))を使って表します。これには、電池の内部に関する式と、外部回路に関する式の2つを立て、連立させる必要があります。
この設問における重要なポイント
- 電池の端子電圧\(V\)は、外部から見れば「外部抵抗\(R\)にかかる電圧」である。
- したがって、\(V=RI\) という関係(オームの法則)が成り立つ。
- この\(V=RI\)と、内部の関係式\(V=E-rI\)を結びつける。
具体的な解説と立式
電池の内部と外部について、以下の2つの関係式が成り立ちます。
電池の内部:
$$ V = E – rI \quad \cdots ① $$
外部回路:
$$ V = RI \quad \cdots ② $$
①、②より\(V\)を消去すると、
$$ RI = E – rI $$
この式を\(r\)について解きます。
使用した物理公式
- オームの法則 (\(V=RI\))
- 端子電圧の式 (\(V=E-rI\))
$$
\begin{aligned}
RI &= E – rI \\[2.0ex]rI &= E – RI \\[2.0ex]r &= \frac{E – RI}{I}
\end{aligned}
$$
この問題は、電池を「内側から見た視点」と「外側から見た視点」の2つで考えるのがコツです。内側から見ると、端子電圧は \(V = E – rI\) です。一方、外側から見ると、電池につながっているのは抵抗\(R\)だけなので、その両端の電圧はオームの法則から \(V = RI\) です。どちらの視点から見ても、この「端子電圧\(V\)」は同じものであるはずなので、2つの式をイコールで結ぶことができます。あとは、この方程式を\(r\)について解くだけです。
内部抵抗\(r\)は、\(r = \displaystyle\frac{E – RI}{I}\) と表せます。
問(2)(e)
思考の道筋とポイント
電池の内部抵抗\(r\)によって消費される電力\(P_r\)を求めます。ただし、答えの式に\(r\)を含んではいけない、という制約条件があります。電力の公式 \(P_r = I^2 r\) を、(2)(d)などで得られた関係式を使って変形します。
この設問における重要なポイント
- 電力の公式 \(P=I^2R\) を内部抵抗に適用すると \(P_r = I^2 r\)。
- \(r\)を消去するために、\(rI = E – RI\) の関係を利用する。
- 電力の保存則(電池が供給する全電力 = 外部での消費電力 + 内部での消費電力)から考えることもできる。
具体的な解説と立式
内部抵抗\(r\)で消費される電力\(P_r\)は、電力の公式より、
$$ P_r = I^2 r $$
この式を、\(r\)を含まない形に変形します。(2)(d)の計算途中に出てきた関係式 \(rI = E – RI\) を利用するのが効率的です。
$$ P_r = I \times (rI) $$
ここに \(rI = E – RI\) を代入します。
使用した物理公式
- 消費電力の公式 (\(P=I^2R\))
- 端子電圧の式
$$
\begin{aligned}
P_r &= I \times (rI) \\[2.0ex]&= I(E – RI) \\[2.0ex]&= EI – I^2R
\end{aligned}
$$
この電力は、電池内部で電流が流れることによる発熱、すなわちジュール熱として消費されます。
電池が供給する全エネルギー(電力)は\(EI\)です。そのエネルギーのうち、外部の抵抗\(R\)で使われるのが\(I^2R\)。では、残りのエネルギーはどこへ行ったのか?それが電池内部で熱となって失われたエネルギー(電力)です。したがって、内部で消費される電力は、全体の電力から外部で使われた電力を引いた残り、\(P_r = EI – I^2R\) となります。これはエネルギー保存の考え方に基づいた、とても分かりやすい解釈です。
電力は \(P_r = EI – I^2R\)。この電力は、電池内部での発熱(ジュール熱)として消費されます。
問(2)(f)
思考の道筋とポイント
外部の可変抵抗\(R\)で消費される電力\(P_R\)を、\(E, r, R\) を用いて表します。まず回路全体を流れる電流\(I\)をこれらの文字で表し、それを電力の公式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 回路全体を一つの閉回路とみなし、オームの法則を適用する。
- 回路全体の抵抗は、外部抵抗\(R\)と内部抵抗\(r\)の直列合成で \(R+r\)。
- 回路全体の起電力は\(E\)。
具体的な解説と立式
まず、回路全体にオームの法則を適用して、電流\(I\)を求めます。
$$ I = \frac{E}{R+r} $$
次に、外部抵抗\(R\)での消費電力\(P_R\)を、電力の公式 \(P_R = I^2 R\) を用いて計算します。
$$ P_R = I^2 R $$
この式に、上で求めた\(I\)を代入します。
使用した物理公式
- オームの法則
- 消費電力の公式 (\(P=I^2R\))
$$
\begin{aligned}
P_R &= \left( \frac{E}{R+r} \right)^2 R \\[2.0ex]&= \frac{E^2 R}{(R+r)^2}
\end{aligned}
$$
外部抵抗で使われる電力を計算するには、まずその抵抗にどれだけの電流が流れているかを知る必要があります。電流の大きさは、電源の電圧(\(E\))を、回路全体の抵抗(外部の\(R\)と内部の\(r\)を足したもの)で割れば求まります。電流がわかれば、あとは電力の公式 \(P=I^2R\) に代入するだけで、外部抵抗での消費電力が計算できます。
可変抵抗での消費電力は \(P_R = \displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\) となります。
問(2)(g)
思考の道筋とポイント
(f)で求めた \(P_R = \displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2}\) という関係式のグラフの概形を描きます。これは、変数\(R\)が分母と分子の両方にあるため、単純な関数ではありません。\(R\)が0や無限大のときの振る舞いを調べ、最大値が存在するかどうかを数学的に解析します。
この設問における重要なポイント
- 関数の最大値を求める問題では、微分を用いるか、相加・相乗平均の関係を利用するのが定石。
- 相加・相乗平均の関係を適用するために、変数を分母(または分子)に集める式変形を行う。
具体的な解説と立式
(f)で求めた式を変形し、変数を分母にまとめます。
$$
\begin{aligned}
P_R &= \frac{E^2 R}{(R+r)^2} \\[2.0ex]&= \frac{E^2}{ \frac{(R+r)^2}{R} } \\[2.0ex]&= \frac{E^2}{ \frac{R^2 + 2Rr + r^2}{R} } \\[2.0ex]&= \frac{E^2}{R + 2r + \frac{r^2}{R}}
\end{aligned}
$$
この式が最大になるのは、分母の \(R + 2r + \displaystyle\frac{r^2}{R}\) が最小になるときです。分母のうち、\(R\)と\(\displaystyle\frac{r^2}{R}\)は\(R\)の値によって変化します。ここで、\(R>0, r>0\)なので、相加・相乗平均の関係を用いることができます。
$$ R + \frac{r^2}{R} \ge 2 \sqrt{R \cdot \frac{r^2}{R}} = 2r $$
等号が成立するのは \(R = \displaystyle\frac{r^2}{R}\)、すなわち \(R^2 = r^2\) より \(R=r\) のときです。
使用した物理公式
- 相加・相乗平均の関係: \(a>0, b>0\) のとき \(a+b \ge 2\sqrt{ab}\)(等号成立は \(a=b\) のとき)
分母 \(R + 2r + \displaystyle\frac{r^2}{R}\) の最小値を求めます。
\(R + \displaystyle\frac{r^2}{R}\) の最小値が \(2r\) なので、分母全体の最小値は、
$$ (\text{分母})_{\text{最小}} = (2r) + 2r = 4r $$
これは \(R=r\) のときに達成されます。
したがって、\(P_R\) の最大値は、
$$ P_{R, \text{最大}} = \frac{E^2}{4r} $$
また、グラフの端点での振る舞いを調べると、
- \(R=0\) のとき、\(P_R=0\)。
- \(R \rightarrow \infty\) のとき、分母が無限大になるので \(P_R \rightarrow 0\)。
これらの結果から、グラフは原点(0,0)から始まり、\(R=r\)で最大値\(\displaystyle\frac{E^2}{4r}\)をとり、その後は再び0に漸近していく山形の曲線となります。
外部の抵抗で消費される電力が、いつ最大になるか?という問題です。直感的に考えると、外部抵抗\(R\)が小さすぎると(ショートに近い)、電流はたくさん流れますが、抵抗自体が小さいので電力はあまり消費されません。逆に\(R\)が大きすぎると(断線に近い)、電圧は大きくかかりますが、今度は電流がほとんど流れなくなるので、やはり電力は小さくなります。つまり、電力はどこか中間の「ちょうど良い」抵抗値で最大になるはずです。数学的なテクニックである「相加・相乗平均の関係」を使って計算すると、この「ちょうど良い点」は、なんと外部抵抗の大きさが電池の内部抵抗と等しくなるとき(\(R=r\))であることがわかります。
グラフは、\(R=0\)で\(P_R=0\)から始まり、\(R=r\)のときに最大値 \(P_{R, \text{最大}} = \displaystyle\frac{E^2}{4r}\) をとり、その後はR軸に漸近しながら減少していく、上に凸の山形の概形となります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 端子電圧の式 \(V = E – rI\):
- 核心: この問題全体を貫く最も重要な関係式です。電池の性能は、理想的な起電力\(E\)だけでは決まらず、電流を流したときに内部抵抗\(r\)でどれだけ電圧が「ロス」するかによって決まる、という現実的な電池の姿を示しています。
- 理解のポイント: V-Iグラフが右下がりの直線になる物理的根拠そのものです。縦軸切片が\(E\)、傾きの絶対値が\(r\)であることを理解すれば、グラフから電池の性能を読み取ることができます。
- 回路全体のオームの法則 \(E = (R+r)I\):
- 核心: 電池の内部抵抗\(r\)を、外部抵抗\(R\)と直列に接続された一つの抵抗とみなすことで、中学校で習ったオ-ムの法則を回路全体に拡張したものです。
- 理解のポイント: この式から電流\(I = \displaystyle\frac{E}{R+r}\)が導かれ、(2)(f)や(g)で消費電力を\(R\)の関数として分析する際の出発点となります。
- 電力の公式とエネルギー保存:
- 核心: 電池が供給する全電力(\(EI\))は、外部抵抗で消費される電力(\(P_R\))と内部抵抗で消費される電力(\(P_r\))の和に等しい、というエネルギー保存則が成り立っています。(\(EI = P_R + P_r\))
- 理解のポイント: (2)(e)では、この関係から \(P_r = EI – P_R = EI – I^2R\) と求めることもできます。電力の計算では、どの部分の電力を問われているのか(外部か、内部か、全体か)を明確に区別することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 電池の直列・並列接続: 複数の電池を接続したときの合成起電力と合成内部抵抗を求め、回路を解析する問題。
- 最大電力供給問題: (2)(g)のように、ある素子で消費される電力が最大になる条件を求める問題。モーターの仕事率が最大になる条件などにも応用されます。
- 非オーム抵抗を含む回路: 電圧と電流が比例しない素子(ダイオードや電球など)を含む回路。V-Iグラフを連立方程式のように使って解く(グラフ的解法)必要があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 「内部抵抗」という言葉に注目: この言葉が出てきたら、理想的な電池(電圧一定)ではなく、\(V=E-rI\)で表される現実的な電池モデルを使うサインです。
- グラフの切片と傾きを読む: V-Iグラフが与えられたら、まず縦軸切片(\(I=0\)の点)が起電力\(E\)、傾きが\(-r\)であることを読み取ります。グラフから電池の基本性能がわかります。
- 「最大値を求めよ」という問い: (2)(g)のような最大値問題では、数学的なアプローチが必要になります。
- 対象の式を一つの変数(この場合は\(R\))の関数として表す。
- 微分して導関数=0から極値を求めるか、相加・相乗平均の関係が使えないか検討する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 起電力と端子電圧の混同:
- 誤解: 電池の電圧は常に一定(起電力\(E\))だと考えてしまう。
- 対策: 電流が流れている限り、端子電圧\(V\)は起電力\(E\)より必ず小さくなります(\(V=E-rI\))。「起電力」は電池のポテンシャル、「端子電圧」は実際に外部回路にかかる電圧、と区別しましょう。
- 電力の計算対象の混同:
- 誤解: \(P=EI\) を外部での消費電力だと勘違いする。
- 対策: \(EI\)は電池が「供給する全電力」です。\(P_R=VI=I^2R\)が「外部での消費電力」、\(P_r=I^2r\)が「内部での消費電力」です。どの部分の電力を問われているのか、設問を注意深く読んでください。
- 相加・相乗平均の適用条件の誤り:
- 誤解: (2)(g)で、分母の \(R+2r+\displaystyle\frac{r^2}{R}\) を \(R+r\) と勘違いして、\(R+r \ge 2\sqrt{Rr}\) のように間違って適用してしまう。
- 対策: 相加・相乗平均は、和の形になっている2つの項(この場合は\(R\)と\(\displaystyle\frac{r^2}{R}\))に適用します。式変形を丁寧に行い、どの項に適用するのかを明確に意識しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電池のモデル図: 電池の記号の横に、理想的な電源\(E\)と抵抗\(r\)が直列につながった内部構造の図を常に描く癖をつけると、\(V=E-rI\)の関係が視覚的に理解できます。
- 電力のエネルギーフロー図: 電池から\(EI\)という太い矢印が出て、それが外部抵抗に向かう\(P_R\)の矢印と、内部抵抗に向かう\(P_r\)の矢印に分岐するような図をイメージします。エネルギー保存則が一目瞭然になります。
- (2)(g)のグラフの物理的解釈:
- \(R\)が小さい領域: 電流は大きいが、電力を消費する「場」である\(R\)が小さいため、電力は小さい。
- \(R\)が大きい領域: 電圧は大きくかかるが、流れる電流が小さくなるため、電力は小さい。
- \(R=r\)のとき: 電流と抵抗のバランスが最も良く、電力が最大になる。「インピーダンスマッチング」と呼ばれる、より高度な概念の入り口です。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 文字の区別: \(R\)(外部抵抗)と\(r\)(内部抵抗)を明確に区別して書く。\(P_R\)(外部電力)と\(P_r\)(内部電力)も同様です。添字を丁寧に書きましょう。
- 式変形の目的意識: (2)(g)のように複雑な式を扱う場合、「なぜこの変形をするのか?」という目的(この場合は相加・相乗平均を使える形にするため)を常に意識すると、計算の道筋を見失いにくくなります。
- 分数の計算: (2)(g)の式変形 \(\displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2} = \displaystyle\frac{E^2}{\frac{(R+r)^2}{R}}\) のように、分母と分子を同じ数(この場合は\(R\))で割る操作は、ミスしやすいポイントです。落ち着いて丁寧に行いましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(V=E-rI\)(端子電圧の式):
- 選定理由: (2)(b)で電池の基本特性を問われたため。また、(2)(c)でグラフの形状を、(2)(d)で\(r\)を求める際に、回路の内部を記述する式として不可欠だったため。
- 適用根拠: 電池内部でのエネルギー保存(起電力が内部での電圧降下と外部への電圧供給に分配される)に基づいています。
- \(V=RI\)(オームの法則):
- 選定理由: (2)(d)で、回路の外部を記述する式として使用。端子電圧\(V\)を介して、内部の式と外部の式を接続する「橋渡し」の役割を果たします。
- 適用根拠: 外部抵抗\(R\)の両端の電位差が\(V\)で、流れる電流が\(I\)であるという、実験事実を記述する基本法則です。
- \(P_R = I^2 R\)(消費電力の公式):
- 選定理由: (2)(f), (g)で外部抵抗での消費電力を計算するため。電流\(I\)が\(R\)の関数として表されるため、この形が最も計算に適しています。
- 適用根拠: ジュール熱の定義式であり、抵抗で消費される電力を計算する際の基本公式です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (2)(d) 内部抵抗rの導出:
- 戦略: 内部の式と外部の式を立て、連立して解く。
- フロー: ①内部の式 \(V=E-rI\) を立てる。 ②外部の式 \(V=RI\) を立てる。 ③2式から\(V\)を消去し、\(RI=E-rI\)を得る。 ④\(r\)について解く。
- (2)(f) 外部消費電力\(P_R\)の導出:
- 戦略: 回路全体の電流\(I\)を求め、電力公式に代入する。
- フロー: ①回路全体のオームの法則から \(I = \displaystyle\frac{E}{R+r}\) を求める。 ②電力公式 \(P_R = I^2 R\) に代入する。
- (2)(g) \(P_R\)の最大値とグラフ:
- 戦略: \(P_R\)の式を変形し、相加・相乗平均の関係を適用して分母の最小値を求める。
- フロー: ①\(P_R\)の式の変数を分母に集める。 ②分母の変数部分 \(R+\displaystyle\frac{r^2}{R}\) に相加・相乗平均を適用し、最小値と等号成立条件(\(R=r\))を求める。 ③\(P_R\)の最大値を計算する。 ④\(R=0, R\rightarrow\infty\)での値を調べ、グラフの概形を描く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の区別: \(R\)(外部抵抗)と\(r\)(内部抵抗)を明確に区別して書く。\(P_R\)(外部電力)と\(P_r\)(内部電力)も同様です。添字を丁寧に書きましょう。
- 式変形の目的意識: (2)(g)のように複雑な式を扱う場合、「なぜこの変形をするのか?」という目的(この場合は相加・相乗平均を使える形にするため)を常に意識すると、計算の道筋を見失いにくくなります。
- 分数の計算: (2)(g)の式変形 \(\displaystyle\frac{E^2 R}{(R+r)^2} = \displaystyle\frac{E^2}{\frac{(R+r)^2}{R}}\) のように、分母と分子を同じ数(この場合は\(R\))で割る操作は、ミスしやすいポイントです。落ち着いて丁寧に行いましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2)(g)の最大電力: 外部抵抗での消費電力が最大になるのは、外部抵抗と内部抵抗が等しいとき(\(R=r\))という結果は、非常に重要で示唆に富んでいます。これは「整合がとれている」状態であり、回路から効率よくエネルギーを取り出すための基本原理(インピーダンスマッチング)です。この物理的な意味を知っていると、結果の妥当性を確信できます。
- グラフの形状: \(R=0\)(ショート)でも\(R=\infty\)(開放)でも外部で消費される電力は0になる、という両極端の振る舞いは物理的に直感的であり、グラフが山形になることは妥当だと判断できます。
- 別解との比較:
- (2)(g)の最大値問題は、微分を使っても解くことができます。\(P_R(R)\)を\(R\)で微分して \(P’_R(R)=0\) となる\(R\)を求めると、同じく\(R=r\)が得られます。異なる数学的アプローチで同じ結論に至ることを確認すれば、解答の信頼性は格段に高まります。
問題119 (熊本大 改)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、抵抗とコンデンサーを含む直流回路(RC回路)における過渡現象を扱う典型的な問題です。スイッチを操作した「直後」と「十分時間が経過した後」でコンデンサーがどのように振る舞うかを理解し、電流、電気量、エネルギーなどを計算します。さらに、スイッチの切り替えによって生じる電荷の再配分と、その過程で発生するジュール熱についても問われており、RC回路の総合的な理解度が試されます。
- 抵抗: \(R_1 = 3.0 \, \Omega\), \(R_2 = 2.0 \, \Omega\), \(R_3 = 1.0 \, \Omega\)
- コンデンサー: \(C_1 = 1.0 \times 10^{-6} \, \text{F}\), \(C_2 = 1.0 \times 10^{-6} \, \text{F}\)
- 直流電源: \(E = 1.2 \, \text{V}\)
- 初期条件: コンデンサーの電荷は0。スイッチ\(S_1\)は開、\(S_2\)は閉。
- 仮定: 導線、電源の内部抵抗は無視。
- (1) \(S_1\)を閉じた瞬間の電源を流れる電流\(I_E\)。
- (2) \(S_1\)を閉じて十分時間が経過した後の電流\(I_E\)。
- (3) (2)のときの各コンデンサーの電気量\(Q_1, Q_2\)。
- (4) \(S_1\)を閉じた瞬間から十分後までの\(I_E\)の時間変化グラフ。
- (5) \(S_1, S_2\)を同時に開いて十分時間が経過した後の各コンデンサーの電気量\(Q’_1, Q’_2\)。
- (6) (5)の過程で抵抗で失われた全ジュール熱\(J\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「コンデンサーを含む回路の過渡現象とエネルギー保存」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの過渡応答: スイッチを入れた直後、電荷が0のコンデンサーは「導線」とみなせます。十分時間が経過し充電が完了すると、電流が流れなくなり「断線」とみなせます。この2つの状態を的確にモデル化することが解析の第一歩です。
- キルヒホッフの法則とオームの法則: 定常状態になった回路を流れる電流や、各部分の電圧を計算するための基本ツールです。
- 電気量保存則: スイッチ操作によって回路の一部が電源から切り離され「孤立」した場合、その孤立部分の電気量の総和は変化しません。これは(5)を解くための最重要法則です。
- エネルギー保存則: 回路の構成が変化する前後での静電エネルギーの変化量は、その過程で抵抗で発生したジュール熱に等しくなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (2)では、コンデンサーの振る舞いに応じて等価回路を描き、合成抵抗を求めてオームの法則を適用します。
- (3)では、(2)の定常状態において、コンデンサーと並列な部分の電圧を計算し、\(Q=CV\)で電気量を求めます。
- (5)では、スイッチを開いた後の孤立部分を見つけ、電気量保存則の式を立てて解きます。
- (6)では、(5)の操作の前後での静電エネルギーをそれぞれ計算し、その差からジュール熱を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
「\(S_1\)を閉じた瞬間」の電流を求めます。この瞬間、コンデンサーにはまだ電荷が蓄えられていないため、コンデンサーの両端の電圧は0です。電圧が0の回路素子は「導線」とみなすことができます。
この設問における重要なポイント
- スイッチON直後、電荷0のコンデンサーは「導線」として扱う。
- 等価回路を描き、回路の接続関係(直列・並列)を正しく見抜く。
具体的な解説と立式
\(S_1\)を閉じた瞬間、\(C_1\)と\(C_2\)は導線とみなせます。このときの等価回路は、抵抗\(R_1, R_2, R_3\)がすべて電源\(E\)に対して並列に接続された形になります。
回路全体の合成抵抗を\(R\)とすると、並列接続の公式から、
$$ \frac{1}{R} = \frac{1}{R_1} + \frac{1}{R_2} + \frac{1}{R_3} $$
この合成抵抗\(R\)に電源電圧\(E\)がかかるので、オームの法則より電源を流れる電流\(I_E\)は、
$$ I_E = \frac{E}{R} $$
使用した物理公式
- 抵抗の並列合成: \(\displaystyle\frac{1}{R} = \sum \frac{1}{R_i}\)
- オームの法則: \(I = \displaystyle\frac{V}{R}\)
まず、合成抵抗\(R\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{R} &= \frac{1}{3.0} + \frac{1}{2.0} + \frac{1}{1.0} \\[2.0ex]&= \frac{2.0 + 3.0 + 6.0}{6.0} \\[2.0ex]&= \frac{11.0}{6.0} \text{ [1/Ω]}
\end{aligned}
$$
よって、\(R = \displaystyle\frac{6.0}{11.0} \, \Omega\)。
次に、電流\(I_E\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_E &= \frac{E}{R} = E \times \frac{1}{R} \\[2.0ex]&= 1.2 \times \frac{11.0}{6.0} \\[2.0ex]&= 0.20 \times 11.0 \\[2.0ex]&= 2.2 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
スイッチを入れた瞬間、空っぽのコンデンサーは電流を全く妨げず、まるで「ただの導線」のように振る舞います。この状態で回路図を描き直してみると、3つの抵抗がすべて電源に直接つながる「並列接続」になっていることがわかります。あとは、並列接続の合成抵抗を計算し、オームの法則を使えば、電源から流れ出す全体の電流が求まります。
\(S_1\)を閉じた瞬間の電流は \(2.2 \text{ A}\) です。コンデンサーの初期状態を「導線」と正しくモデル化し、並列回路として計算しました。
問(2)
思考の道筋とポイント
「\(S_1\)を閉じて十分に時間が経過した後」の電流を求めます。この状態では、コンデンサーの充電が完了し、コンデンサーを含む経路には電流が流れなくなります。これは「断線」とみなすことができます。
この設問における重要なポイント
- 十分時間経過後、コンデンサーは「断線」として扱う。
- 電流が流れる経路を特定し、その部分の合成抵抗を求める。
具体的な解説と立式
十分時間が経過すると、\(C_1\)と\(C_2\)は充電が完了し、電流を流さなくなります。したがって、\(C_1\)と\(C_2\)の部分は断線しているとみなせます。
このとき、電流が流れる経路は、電源\(E\)を出て、\(R_3 \rightarrow R_2 \rightarrow R_1\)と直列に通過して電源に戻るループのみとなります。
したがって、回路の合成抵抗\(R’\)は、これら3つの抵抗の直列合成となります。
$$ R’ = R_1 + R_2 + R_3 $$
この回路を流れる電流\(I_E\)は、オームの法則より、
$$ I_E = \frac{E}{R’} $$
使用した物理公式
- 抵抗の直列合成: \(R = \sum R_i\)
- オームの法則
まず、合成抵抗\(R’\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
R’ &= 3.0 + 2.0 + 1.0 \\[2.0ex]&= 6.0 \text{ [Ω]}
\end{aligned}
$$
次に、電流\(I_E\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_E &= \frac{1.2}{6.0} \\[2.0ex]&= 0.20 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
スイッチを入れてから時間が経つと、コンデンサーは電気で満タンになり、それ以上電流を通さなくなります。これは道が「行き止まり(断線)」になったのと同じです。そのため、電流はコンデンサーのある枝道を避けて、\(R_3, R_2, R_1\)を順番にぐるっと一周する経路だけを流れるようになります。これは単純な直列回路なので、3つの抵抗を足し合わせてオームの法則を適用すれば電流が求まります。
十分時間が経過した後の電流は \(0.20 \text{ A}\) です。コンデンサーの定常状態を「断線」と正しくモデル化し、直列回路として計算しました。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)の定常状態において、各コンデンサーに蓄えられている電気量を求めます。そのためには、まず各コンデンサーにかかる電圧を求める必要があります。コンデンサーにかかる電圧は、そのコンデンサーと並列に接続されている部分の電位差に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの電圧は、並列部分の電位差で決まる。
- 各抵抗にかかる電圧は、オームの法則の応用 \(V=IR\) で計算できる。
- 電気量は \(Q=CV\) で計算する。
具体的な解説と立式
(2)で求めた電流 \(I_E = 0.20 \text{ A}\) が \(R_1, R_2, R_3\) を流れています。
- \(C_1\)の電圧\(V_{C1}\)と電気量\(Q_1\)の計算:
\(C_1\)は、抵抗\(R_2\)と\(R_3\)の直列部分に並列に接続されています。したがって、\(C_1\)にかかる電圧\(V_{C1}\)は、\(R_2\)と\(R_3\)にかかる電圧の和に等しくなります。
$$ V_{C1} = R_2 I_E + R_3 I_E = (R_2 + R_3)I_E $$
電気量\(Q_1\)は、
$$ Q_1 = C_1 V_{C1} $$ - \(C_2\)の電圧\(V_{C2}\)と電気量\(Q_2\)の計算:
\(C_2\)は、抵抗\(R_1\)と\(R_2\)の直列部分に並列に接続されています。したがって、\(C_2\)にかかる電圧\(V_{C2}\)は、\(R_1\)と\(R_2\)にかかる電圧の和に等しくなります。
$$ V_{C2} = R_1 I_E + R_2 I_E = (R_1 + R_2)I_E $$
電気量\(Q_2\)は、
$$ Q_2 = C_2 V_{C2} $$
使用した物理公式
- オームの法則
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
- \(V_{C1}\)と\(Q_1\)の計算:
$$
\begin{aligned}
V_{C1} &= (2.0 + 1.0) \times 0.20 \\[2.0ex]&= 3.0 \times 0.20 = 0.60 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= (1.0 \times 10^{-6}) \times 0.60 \\[2.0ex]&= 6.0 \times 10^{-7} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$ - \(V_{C2}\)と\(Q_2\)の計算:
$$
\begin{aligned}
V_{C2} &= (3.0 + 2.0) \times 0.20 \\[2.0ex]&= 5.0 \times 0.20 = 1.0 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= (1.0 \times 10^{-6}) \times 1.0 \\[2.0ex]&= 1.0 \times 10^{-6} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
コンデンサーの電圧は、その両端が接続されている場所の電位差と同じになります。回路図をよく見ると、\(C_1\)は\(R_2\)と\(R_3\)をまたぐように接続されているので、\(C_1\)の電圧は\(R_2\)と\(R_3\)の電圧の合計です。同様に、\(C_2\)は\(R_1\)と\(R_2\)をまたいでいるので、その電圧の合計に等しくなります。各抵抗の電圧はオームの法則で計算できるので、コンデンサーの電圧がわかります。最後に公式\(Q=CV\)を使えば、それぞれの電気量が求まります。
電気量はそれぞれ \(Q_1 = 6.0 \times 10^{-7} \, \text{C}\), \(Q_2 = 1.0 \times 10^{-6} \, \text{C}\) です。計算は段階的で論理的です。
問(4)
思考の道筋とポイント
\(S_1\)を閉じた瞬間から十分時間が経過するまでの、電源を流れる電流\(I_E\)の時間変化をグラフにします。これはRC回路の過渡現象の典型的な振る舞いを問う問題です。
この設問における重要なポイント
- 初期値: (1)で求めた \(I_E(0) = 2.2 \text{ A}\)。
- 最終値: (2)で求めた \(I_E(\infty) = 0.20 \text{ A}\)。
- 変化の様子: 電流は初期値から最終値に向かって、指数関数的に(最初は急に、だんだん緩やかに)変化する。
具体的な解説と立式
(グラフを描く問題のため、立式はありません)
縦軸に電流\(I_E\)、横軸に時間\(t\)をとります。
- \(t=0\) の点に、初期値 \(2.2 \text{ A}\) をプロットします。
- \(t\)が十分大きい領域に、最終値 \(0.20 \text{ A}\) の漸近線を引きます。
- 初期値の点から、最終値の漸近線に向かって、滑らかな曲線(指数関数的減衰曲線)を描きます。
使用した物理公式
- (物理公式ではないが)RC回路の過渡応答の性質。
(計算はありません)
スイッチを入れた直後、電流は勢いよく流れます(2.2A)。しかし、コンデンサーに電気が溜まっていくにつれて、だんだん電流は流れにくくなり、最終的には一定の値(0.20A)に落ち着きます。この「勢いがだんだん弱まっていく」様子をグラフにすると、急な坂道がだんだん緩やかになって平地につながるような、滑らかなカーブになります。
縦軸切片が2.2、\(t \rightarrow \infty\)で0.20に漸近する、単調減少の指数関数的な曲線を描きます。
問(5)
思考の道筋とポイント
\(S_1\)と\(S_2\)を同時に開いた後の、各コンデンサーの電気量を求めます。スイッチを開くことで、回路は電源から切り離され、\(C_1, C_2, R_3\)からなる閉回路が形成されます。この閉回路は外部から孤立しているため、特定の場所の電荷の総和が保存されます。
この設問における重要なポイント
- スイッチ操作による「孤立部分」を見つけ、「電気量保存則」を適用する。
- 十分時間経過後は、抵抗に電流が流れなくなり、コンデンサーは並列接続と同じ状態(電圧が等しい)になる。
具体的な解説と立式
スイッチを開く直前の電気量は(3)で求めた \(Q_1, Q_2\) です。
スイッチを開くと、\(C_1\)の左極板と\(C_2\)の左極板をつなぐ導線は、外部から孤立します。したがって、これらの極板の電荷の合計は保存されます。
スイッチを開く前の左極板の電荷の合計は \(+Q_1 + (+Q_2)\) です。(回路図から極板の符号を判断)
スイッチを開いて十分時間が経過した後、電荷の再配分が完了し、抵抗\(R_3\)には電流が流れなくなります。このとき、\(C_1\)と\(C_2\)にかかる電圧は等しくなり、これを\(V\)とします。このときの電気量をそれぞれ\(Q’_1, Q’_2\)とすると、
$$ Q’_1 = C_1 V, \quad Q’_2 = C_2 V $$
電気量保存則より、
$$ Q_1 + Q_2 = Q’_1 + Q’_2 $$
$$ Q_1 + Q_2 = (C_1 + C_2)V $$
この式から最終的な電圧\(V\)を求め、各電気量を計算します。
使用した物理公式
- 電気量保存則
- コンデンサーの基本式: \(Q=CV\)
電気量保存則の式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
(6.0 \times 10^{-7}) + (1.0 \times 10^{-6}) &= (1.0 \times 10^{-6} + 1.0 \times 10^{-6}) V \\[2.0ex]1.6 \times 10^{-6} &= (2.0 \times 10^{-6}) V \\[2.0ex]V &= \frac{1.6 \times 10^{-6}}{2.0 \times 10^{-6}} = 0.80 \text{ [V]}
\end{aligned}
$$
この電圧\(V\)を使って、最終的な電気量を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q’_1 &= C_1 V = (1.0 \times 10^{-6}) \times 0.80 \\[2.0ex]&= 8.0 \times 10^{-7} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
Q’_2 &= C_2 V = (1.0 \times 10^{-6}) \times 0.80 \\[2.0ex]&= 8.0 \times 10^{-7} \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
スイッチを開くと、2つのコンデンサーと1つの抵抗だけの「閉じ込められた世界」ができます。この世界では、外部との電気のやり取りができないため、もともとコンデンサーの左側の板にあった電気の総量は、いくら再配置されても変わりません。これが「電気量保存則」です。時間が経つと、電気は抵抗\(R_3\)を通りながら安定な配置(2つのコンデンサーの電圧が等しくなる状態)に落ち着きます。この2つのルール(電気量保存、最終電圧が等しい)を連立方程式のように使って、最終的な電気量を求めます。
最終的な電気量は \(Q’_1 = 8.0 \times 10^{-7} \, \text{C}\), \(Q’_2 = 8.0 \times 10^{-7} \, \text{C}\) です。孤立系の電気量保存則という重要な概念を正しく適用できました。
問(6)
思考の道筋とポイント
(5)の過程で抵抗で失われた全ジュール熱を求めます。これは、エネルギー保存則を考えるのが最も簡単です。閉回路内でのエネルギーのやり取りなので、静電エネルギーの減少分が、すべて抵抗でのジュール熱に変換されたと考えます。
この設問における重要なポイント
- エネルギー保存則: (失われた静電エネルギー) = (発生したジュール熱)
- 静電エネルギーの公式: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2 = \frac{Q^2}{2C}\)
具体的な解説と立式
発生したジュール熱を\(J\)とします。エネルギー保存則より、
$$ J = (\text{スイッチを開く前の全静電エネルギー}) – (\text{スイッチを開いた後の全静電エネルギー}) $$
$$ J = W – W’ $$
ここで、\(W\)は(3)の状態のエネルギー、\(W’\)は(5)の状態のエネルギーです。
$$ W = \frac{Q_1^2}{2C_1} + \frac{Q_2^2}{2C_2} $$
$$ W’ = \frac{Q_1’^2}{2C_1} + \frac{Q_2’^2}{2C_2} $$
電気量がすでに求まっているので、\(\displaystyle\frac{Q^2}{2C}\)の形を使うと計算が楽です。
使用した物理公式
- エネルギー保存則
- コンデンサーの静電エネルギーの公式
- スイッチを開く前のエネルギー\(W\)の計算:
$$
\begin{aligned}
W &= \frac{(6.0 \times 10^{-7})^2}{2 \times (1.0 \times 10^{-6})} + \frac{(1.0 \times 10^{-6})^2}{2 \times (1.0 \times 10^{-6})} \\[2.0ex]&= \frac{36 \times 10^{-14}}{2.0 \times 10^{-6}} + \frac{1.0 \times 10^{-12}}{2.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]&= (18 \times 10^{-8}) + (0.50 \times 10^{-6}) \\[2.0ex]&= (1.8 \times 10^{-7}) + (5.0 \times 10^{-7}) \\[2.0ex]&= 6.8 \times 10^{-7} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$ - スイッチを開いた後のエネルギー\(W’\)の計算:
$$
\begin{aligned}
W’ &= \frac{(8.0 \times 10^{-7})^2}{2 \times (1.0 \times 10^{-6})} + \frac{(8.0 \times 10^{-7})^2}{2 \times (1.0 \times 10^{-6})} \\[2.0ex]&= 2 \times \frac{64 \times 10^{-14}}{2.0 \times 10^{-6}} \\[2.0ex]&= 64 \times 10^{-8} \\[2.0ex]&= 6.4 \times 10^{-7} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$ - ジュール熱\(J\)の計算:
$$
\begin{aligned}
J &= W – W’ \\[2.0ex]&= (6.8 \times 10^{-7}) – (6.4 \times 10^{-7}) \\[2.0ex]&= 0.4 \times 10^{-7} \\[2.0ex]&= 4 \times 10^{-8} \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
コンデンサーに蓄えられていた電気エネルギーは、スイッチを開く前後で変化します。この「失われた」エネルギーはどこにも消えることはなく、電荷が抵抗\(R_3\)を移動する際にすべて熱(ジュール熱)に変わります。したがって、発生した熱の量は、単純に「前のエネルギー」から「後のエネルギー」を引き算すれば求めることができます。
抵抗で失われた全ジュール熱は \(4 \times 10^{-8} \, \text{J}\) です。エネルギー保存則という物理学の根幹をなす法則を適用しており、論理的に妥当な解法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- コンデンサーの過渡応答(スイッチ直後と十分後):
- 核心: コンデンサーを含む回路の解析は、時間によってその振る舞いが劇的に変わることを理解するのが出発点です。「スイッチを入れた直後」は電荷が0なので電圧も0、すなわち「導線」とみなせます。「十分時間が経過した後」は充電が完了し電流が流れなくなるため「断線」とみなせます。
- 理解のポイント: (1)と(2)は、この2つの状態を正しく等価回路に置き換えられるかを問うています。このモデル化ができれば、問題は単純な抵抗回路の計算に帰着します。
- 電気量保存則:
- 核心: (5)のように、回路の一部が電源から切り離されて「孤立系」を形成したとき、その孤立部分に含まれる導体プレート群の電荷の総和は、操作の前後で変化しません。
- 理解のポイント: これは電荷が勝手に生まれたり消えたりしないという、物理学の基本法則の現れです。スイッチ操作の問題では、「どこが孤立部分になるか」を見抜く眼が重要になります。
- エネルギー保存則:
- 核心: (6)のように、電荷の再配分が起こる過程で抵抗で発生するジュール熱は、回路全体の静電エネルギーの減少分に等しくなります。(\(J = -\Delta U = U_{\text{前}} – U_{\text{後}}\))
- 理解のポイント: 回路から失われた静電エネルギーは、抵抗での熱エネルギーに姿を変えただけで、エネルギーの総量は保存されています。この法則を知っていれば、電流の時間変化を積分するような複雑な計算をせずとも、前後のエネルギー差を計算するだけでジュール熱を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 複数のコンデンサーとスイッチの組み合わせ: スイッチを段階的に切り替えていく問題。各ステップで「孤立部分」がどこになるか、電荷がどのように再配分されるかを丁寧に追う必要があります。
- コンデンサーに誘電体を挿入する問題: 充電後に電源から切り離して誘電体を挿入する場合(電荷Qが一定)と、電源に接続したまま挿入する場合(電圧Vが一定)で、その後の電気量やエネルギーの扱いが変わります。
- 交流回路におけるコンデンサー: 交流回路では、コンデンサーは電流を妨げる「抵抗」のような役割(リアクタンス)を果たします。直流回路での振る舞いは、その基礎となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 時間軸を意識する: 問題文の「〜した瞬間」「十分に時間が経過した後」という言葉に最大限の注意を払います。これにより、コンデンサーを「導線」と見るか「断線」と見るかが決まります。
- スイッチ操作で「孤立部分」を探す: スイッチを開いたり閉じたりする問題では、必ず「電源から切り離された部分はどこか?」を探します。その部分に電気量保存則を適用するのが定石です。
- エネルギーの流れを追う: 「ジュール熱を求めよ」という問いに対しては、まずエネルギー保存則(\(J = U_{前} – U_{後}\))が使えないか考えます。これが最も簡単な解法であることが多いためです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- コンデンサーの電圧の求め方:
- 誤解: (3)で、コンデンサーの電圧を、隣接する一つの抵抗の電圧と勘違いしてしまう。
- 対策: コンデンサーの電圧は、そのコンデンサーが「どの2点間をまたいでいるか」で決まります。回路図をよく見て、コンデンサーと並列になっている部分全体(複数の抵抗の直列合成など)の電圧を計算する必要があります。
- 電気量保存則の適用範囲:
- 誤解: 回路のどの部分でも電気量が保存されると勘違いする。
- 対策: 電気量保存則が適用できるのは、外部(特に電源)との電気のやり取りが完全に遮断された「孤立部分」だけです。スイッチ操作後にどの部分が孤立するのかを正確に特定しましょう。
- 極板の電荷の符号:
- 誤解: (5)で電気量保存則を立てる際に、各コンデンサーの極板の電荷の符号を考慮せず、単純に\(Q_1+Q_2\)としてしまう。
- 対策: (3)の定常状態で、電流の向きから各抵抗の電位の高低を判断し、それによってコンデンサーのどちらの極板がプラスでどちらがマイナスに帯電するかを、あらかじめ図に書き込んでおきましょう。これにより、保存則を立てる際の符号ミスを防げます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 等価回路図: (1)の「導線モデル」と(2)の「断線モデル」のように、状況に応じた等価回路図を自分で描くことが、問題を解く上で最も有効な手段です。複雑な回路が、一目でわかる単純な回路に変わります。
- 水槽モデル: コンデンサーを「水槽」、抵抗を「細いパイプ」、電流を「水流」、電圧を「水圧(水位)」とイメージします。
- スイッチON直後: 空の水槽(コンデンサー)には勢いよく水が流れ込む(電流大)。
- 十分時間後: 水槽が満杯になり、水の流れが止まる(電流0)。
- (5)の操作: 2つの水位が違う水槽(\(C_1, C_2\))をパイプ(\(R_3\))でつなぐと、水が移動して最終的に同じ水位(電圧)になる。このとき、パイプの抵抗で摩擦熱(ジュール熱)が発生する。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 電荷の符号の明記: (3)や(5)で、コンデンサーの各極板に `+Q`, `-Q` のように符号を明記すると、電気量保存則を立てる際に非常に役立ちます。
- 孤立部分を囲む: (5)で電気量保存則を考える際、対象となる孤立部分を点線で囲むと、どの電荷を足し合わせればよいかが明確になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 合成抵抗の公式:
- 選定理由: (1)と(2)で、等価回路全体の電流をオームの法則で求めるため。回路全体の抵抗値を一つの値として扱う必要があります。
- 適用根拠: 回路の接続形態(直列か並列か)に応じて、キルヒホッフの法則から導出された公式を適用します。
- \(Q=CV\)(コンデンサーの基本式):
- 選定理由: (3)と(5)で、電圧から電気量を計算するため。コンデンサーの3つの基本量(Q, C, V)の関係を問うあらゆる場面で使用します。
- 適用根拠: コンデンサーという素子の最も基本的な定義式です。
- 電気量保存則:
- 選定理由: (5)で、電源から切り離された後の未知の電気量を決定するため。この法則がなければ、未知数に対して式が足りず解くことができません。
- 適用根拠: 物理学の基本法則である電荷保存則に基づいています。
- \(U = \frac{Q^2}{2C}\)(エネルギーの公式):
- 選定理由: (6)でジュール熱を計算するため。前後の状態の電気量\(Q\)が分かっているので、この形が最も計算しやすいです。(\(\frac{1}{2}CV^2\)でも計算可能)
- 適用根拠: 電場に蓄えられるエネルギー密度を積分して導かれる、コンデンサーの静電エネルギーの公式です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) スイッチON直後:
- 戦略: Cを導線とみなし、並列回路の合成抵抗から電流を求める。
- フロー: ①Cを導線に置き換えた等価回路を描く。 ②\(R_1, R_2, R_3\)の並列合成抵抗\(R\)を計算。 ③\(I_E = E/R\)で電流を計算。
- (2),(3) 十分時間後:
- 戦略: Cを断線とみなし、直列回路の電流と電圧を求め、Qを計算。
- フロー: ①Cを断線に置き換えた等価回路を描く。 ②\(R_1, R_2, R_3\)の直列合成抵抗\(R’\)を計算。 ③\(I_E = E/R’\)で電流を計算。 ④各コンデンサーの並列部分の電圧\(V_C\)を計算。 ⑤\(Q=CV_C\)で電気量を計算。
- (5) スイッチを開いた後:
- 戦略: 孤立部分で電気量保存則を立て、最終電圧が等しい条件と連立する。
- フロー: ①孤立部分を特定。 ②電気量保存則の式 \(Q_1+Q_2 = Q’_1+Q’_2\) を立てる。 ③最終状態の式 \(Q’_1=C_1V, Q’_2=C_2V\) を立てる。 ④連立して\(V, Q’_1, Q’_2\)を解く。
- (6) ジュール熱:
- 戦略: エネルギー保存則を使い、前後の静電エネルギーの差を計算する。
- フロー: ①(3)の状態の全静電エネルギー\(W\)を計算。 ②(5)の状態の全静電エネルギー\(W’\)を計算。 ③\(J = W – W’\)でジュール熱を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の接頭語: 電気容量がマイクロファラッド(\(\mu \text{F}\) = \(10^{-6}\text{F}\))で与えられている場合、計算の最終段階まで\(\mu\)のままで計算し、答えを求めるときに\(10^{-6}\)に変換すると、途中の記述がスッキリします。
- 逆数の計算: (1)の並列合成抵抗の計算では、\(\displaystyle\frac{1}{R}\)を求めた後、最後に逆数をとって\(R\)に戻すのを忘れないように注意しましょう。
- エネルギー計算の検算: (6)で、\(W\)と\(W’\)の大小関係を確認しましょう。エネルギーは熱として失われるので、必ず \(W > W’\) となるはずです。もし逆転していたら、どこかで計算ミスをしています。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1)と(2)の電流値: スイッチON直後(\(2.2\text{A}\))は、コンデンサーが電流をバイパスさせるため回路全体の抵抗が小さく、大きな電流が流れます。十分時間後(\(0.20\text{A}\))は、コンデンサーが断線となり電流の経路が限定されるため、抵抗が大きくなり電流は小さくなります。この大小関係は物理的に妥当です。
- (5)の最終電荷: \(C_1=C_2\)なので、最終的に電圧が等しくなれば電気量も等しくなる(\(Q’_1=Q’_2\))はずです。計算結果もそうなっており、妥当性が確認できます。
- 別解との比較:
- (6)のジュール熱は、(5)の過程で抵抗\(R_3\)を流れる電流\(i(t)\)を時間で積分し、\(J = \int_0^\infty i(t)^2 R_3 dt\) としても原理的には計算できます。しかし、これは高校範囲を超える微分方程式を解く必要があり非常に複雑です。エネルギー保存則がいかに強力で便利なツールであるかがわかります。
問題120 (東京都立大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、オームの法則に従わない非線形素子である「電球」と「ダイオード」を含む直流回路の解析です。このような回路では、単純な計算だけでは解けず、素子自身の特性(グラフや数式)と、回路の接続関係から導かれる法則(キルヒホッフの法則など)を連立させて解く「グラフ的解法」が中心となります。
- 回路素子: 電球、ダイオード、抵抗(\(R=20\,\Omega\))、可変直流電源。
- 電球の特性: 図2の電流-電圧特性グラフに従う。
- ダイオードの特性: 図3のグラフ、および以下の数式に従う。
- 電圧 \(V_{\text{ダイオード}} < 1.0\,\text{V}\) のとき、電流 \(I_{\text{ダイオード}} = 0\,\text{A}\)。
- 電圧 \(V_{\text{ダイオード}} \ge 1.0\,\text{V}\) のとき、電流 \(I_{\text{ダイオード}} = 0.20 \times (V_{\text{ダイオード}} – 1.0)\)。
- (1) 電球の抵抗値が \(26\,\Omega\) になるときの、電球にかかる電圧。
- (2) 電源電圧を0から増加させたとき、ダイオードに電流が流れ始める瞬間の電源電圧。
- (3) 電源電圧が \(0.8\,\text{V}\) のときの、電球の電圧と電流。
- (4) 電球にかかる電圧が \(2.0\,\text{V}\) のときの、ダイオードに流れる電流。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「非線形素子を含む回路のグラフ的解析」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- グラフ的解法: 回路素子が満たすべき2つの条件、すなわち「素子自身の特性(特性曲線)」と「回路の他の部分から課される制約(負荷曲線)」の連立方程式を、グラフの交点として解く手法です。
- 非線形素子の特性理解: 電球(電圧によって抵抗値が変わる)やダイオード(特定の電圧を超えると急に電流が流れるスイッチのような性質)の振る舞いを、与えられたグラフや数式から正確に読み取ることが不可欠です。
- キルヒホッフの法則: 回路が素子に課す制約式を導出するための基本法則です。どんな回路にも適用できる最も普遍的なツールとなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1), (3)では、回路の条件から電圧と電流の関係式(直線)を導き、それを電球の特性グラフに重ねて描くことで、交点から動作点を求めます。
- (2)では、「ダイオードに電流が流れ始める」という物理的なイベント(ダイオードの電圧が\(1.0\,\text{V}\)になる)を起点に、回路の各部分の電圧と電流をドミノ倒しのように順に決定していきます。
- (4)では、与えられた条件から回路を流れる電流を特定し、キルヒホッフの法則を用いてダイオードが満たすべき条件を連立方程式として解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
電球の抵抗値が\(26\,\Omega\)になる、という条件を考えます。抵抗値は電圧と電流の比で定義されるため、この条件は電球の電圧\(V\)と電流\(I\)の関係式に翻訳できます。この関係式と、電球がもともと持つ特性(図2のグラフ)を同時に満たす点を探します。
この設問における重要なポイント
- 非線形素子であっても、ある動作点における抵抗値は \(R = V/I\) で定義される。
- 条件式 \(I = V/26\) は、V-Iグラフ上で原点を通る直線を表す。
- 求めるべき電圧・電流は、この直線と電球の特性曲線の交点として与えられる。
具体的な解説と立式
電球の抵抗値が\(26\,\Omega\)であるとき、そのときの電圧を\(V\)、電流を\(I\)とすると、オームの法則の定義より以下の関係が成り立ちます。
$$ 26 = \frac{V}{I} $$
この式を、グラフで扱いやすいように\(I\)について変形します。
$$ I = \frac{1}{26}V $$
この一次関数が表す直線と、図2の電球の特性曲線との交点が、求める電圧と電流の組み合わせです。
- 抵抗の定義式: \(R = V/I\)
直線 \(I = \displaystyle\frac{1}{26}V\) を図2のグラフに描きます。この直線は原点(0, 0)を通ります。もう一点、計算しやすい点を探すと、例えば \(V=2.6\,\text{V}\) のとき \(I=0.10\,\text{A}\) となります。この2点を結ぶ直線をグラフに引きます。
描いた直線と電球の特性曲線との交点をグラフから読み取ると、電圧はおよそ \(1.9\,\text{V}\) となります。
電球の性質は図2のグニャリとした曲線で表されていますが、「抵抗が26Ωになる」という特別な条件は、グラフ上では原点を通るキレイな直線で表すことができます。電球は、自身の特性(曲線)と、回路から課された条件(直線)の両方を同時に満たさなければなりません。したがって、その答えは2つのグラフの「交点」を見つけることで求まります。
グラフの交点を読み取ると、電球にかかる電圧は \(1.9\,\text{V}\) となります。
問(2)
思考の道筋とポイント
「ダイオードに電流が流れ始める」という、回路の状態が変化する決定的な瞬間に着目します。この瞬間のダイオードの電圧が分かれば、並列接続された抵抗の電圧、そしてそこを流れる電流が分かり、最終的に電球の状態、電源電圧へと繋がっていきます。
この設問における重要なポイント
- ダイオードの特性から、電流が流れ始める電圧は \(1.0\,\text{V}\) である。
- 並列に接続された素子にかかる電圧は等しい。
- 回路図から、電球と「ダイオードと抵抗の並列部分」は直列に接続されている。
具体的な解説と立式
1. ダイオードの状態決定:
ダイオードに電流が流れ始める瞬間、ダイオードにかかる電圧 \(V_{\text{ダイオード}}\) は、その特性から \(1.0\,\text{V}\) です。
2. 抵抗の状態決定:
抵抗はダイオードと並列なので、抵抗にかかる電圧 \(V_{\text{抵抗}}\) も \(1.0\,\text{V}\) です。したがって、抵抗を流れる電流 \(I_{\text{抵抗}}\) はオームの法則より、
$$ I_{\text{抵抗}} = \frac{V_{\text{抵抗}}}{20} $$
3. 電球の状態決定:
この瞬間、ダイオードにはまだ電流が流れていない(流れ始める直前なので \(I_{\text{ダイオード}}=0\))ため、電球を流れる電流 \(I_{\text{電球}}\) は抵抗を流れる電流に等しくなります。
$$ I_{\text{電球}} = I_{\text{抵抗}} $$
この電流値を図2の特性曲線に適用し、そのときの電球の電圧 \(V_{\text{電球}}\) を読み取ります。
4. 電源電圧の計算:
電源電圧 \(V_{\text{電源}}\) は、直列接続された電球の電圧と、並列部分の電圧の和になります。
$$ V_{\text{電源}} = V_{\text{電球}} + V_{\text{ダイオード}} $$
- オームの法則
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)
1. \(V_{\text{ダイオード}} = 1.0\,\text{V}\)。
2. \(I_{\text{抵抗}} = \displaystyle\frac{1.0}{20} = 0.050\,\text{A}\)。
3. \(I_{\text{電球}} = 0.050\,\text{A}\)。図2のグラフで \(I=0.050\,\text{A}\) の点を探すと、対応する電圧は \(V_{\text{電球}} = 0.8\,\text{V}\) と読み取れます。
4. $$
\begin{aligned}
V_{\text{電源}} &= 0.8 + 1.0 \\[2.0ex]&= 1.8\,\text{V}
\end{aligned}
$$
この問題は「ダイオードの門が開く瞬間」という一点に注目するのがカギです。門が開く電圧は1.0Vと決まっています。ダイオードと並列の抵抗にも同じ1.0Vがかかるので、オームの法則から抵抗を流れる電流が0.050Aだと計算できます。この電流はそのまま電球にも流れるので、今度は電球の特性グラフから、そのときの電圧が0.8Vだとわかります。最後に、電球の電圧(0.8V)とダイオード部分の電圧(1.0V)を足し合わせれば、電源が供給すべき電圧(1.8V)が求まります。
ダイオードに電流が流れ始めるときの電源の電圧は \(1.8\,\text{V}\) です。
問(3)
思考の道筋とポイント
電源電圧が \(0.8\,\text{V}\) のときの電球の状態を求めます。まず、この電源電圧でダイオードに電流が流れる可能性があるかを検討します。もし流れなければ、回路を単純化して考えることができます。
この設問における重要なポイント
- 電源電圧が \(0.8\,\text{V}\) であるため、ダイオードにかかる電圧が \(1.0\,\text{V}\) に達することはない。したがって、ダイオードには電流が流れない。
- ダイオードが「断線」とみなせるため、回路は電球と抵抗の単純な直列回路となる。
- この直列回路にキルヒホッフの法則を適用し、(1)と同様のグラフ的解法に持ち込む。
具体的な解説と立式
電源電圧が \(0.8\,\text{V}\) なので、回路のどの部分の電圧も \(0.8\,\text{V}\) を超えることはありません。ダイオードがONになるには \(1.0\,\text{V}\) が必要なので、このダイオードには電流が流れません (\(I_{\text{ダイオード}}=0\))。
したがって、この回路は電球と\(20\,\Omega\)の抵抗が直列に接続されたものと等価です。
この直列回路にキルヒホッフの第2法則を適用します。電球にかかる電圧を\(V\)、流れる電流を\(I\)とすると、
$$ 0.8 = V + 20I $$
この式は、電球が回路の中で満たすべき制約条件を表しています。これを\(I\)について解くと、
$$ I = -\frac{1}{20}V + 0.04 $$
この直線と、電球自身の特性曲線(図2)との交点が、求める動作点(V, I)となります。
- キルヒホッフの第2法則
直線 \(I = -0.05V + 0.04\) を図2のグラフに描きます。
この直線の切片は、
- V軸切片 (\(I=0\)): \(0 = -0.05V + 0.04\) より \(V = 0.8\,\text{V}\)
- I軸切片 (\(V=0\)): \(I = 0.04\,\text{A}\)
この2点を結ぶ直線をグラフに引き、特性曲線との交点を読み取ります。
交点は、およそ \(V=0.2\,\text{V}\), \(I=0.03\,\text{A}\) となります。
電源電圧が0.8Vでは、ダイオードの門(1.0V必要)は開きません。なので、ダイオードは「ない」ものとして無視できます。すると、回路は電球と抵抗がただ直列につながっただけの単純なものになります。この回路のルール(キルヒホッフの法則)を式にすると、グラフ上では一本の直線になります。この直線と、電球の特性曲線との交点が、実際に電球が示す電圧と電流です。
電球にかかる電圧は \(0.2\,\text{V}\)、流れる電流は \(0.03\,\text{A}\) です。
問(4)
思考の道筋とポイント
電球にかかる電圧が \(2.0\,\text{V}\) と具体的に与えられています。この条件から出発し、電球の特性グラフを使って回路全体の電流を求め、キルヒホッフの法則を駆使して未知数であるダイオードの電流を求めます。
この設問における重要なポイント
- 出発点: \(V_{\text{電球}}=2.0\,\text{V}\)。
- グラフ利用: 図2から \(V_{\text{電球}}=2.0\,\text{V}\) のときの \(I_{\text{電球}}\) を求める。
- キルヒホッフの法則: 電流則 (\(I_{\text{電球}} = I_{\text{抵抗}} + I_{\text{ダイオード}}\)) と、並列部分の電圧則 (\(V_{\text{抵抗}} = V_{\text{ダイオード}}\)) を使う。
- 連立方程式: 抵抗のオームの法則とダイオードの特性式を連立させて解く。
具体的な解説と立式
1. 電球の電流を求める:
図2の電球の特性曲線から、\(V_{\text{電球}}=2.0\,\text{V}\) のとき、電球を流れる電流 \(I_{\text{電球}}\) は \(0.075\,\text{A}\) であることがわかります。
2. 電流の関係式を立てる:
キルヒホッフの第1法則より、この電流は抵抗を流れる電流 \(I_{\text{抵抗}}\) とダイオードを流れる電流 \(I_{\text{ダイオード}}\) の和に等しいです。
$$ 0.075 = I_{\text{抵抗}} + I_{\text{ダイオード}} \quad \cdots ① $$
3. 電圧の関係式を立てる:
抵抗とダイオードは並列なので、かかる電圧は等しくなります。
$$ V_{\text{抵抗}} = V_{\text{ダイオード}} \quad \cdots ② $$
4. 各素子の特性を式にする:
抵抗についてはオームの法則が成り立ちます。
$$ V_{\text{抵抗}} = 20 \times I_{\text{抵抗}} \quad \cdots ③ $$
ダイオードについては、その特性式が与えられています。
$$ I_{\text{ダイオード}} = 0.20(V_{\text{ダイオード}} – 1.0) \quad \cdots ④ $$
5. 連立方程式を解く:
これらの式を連立させて \(I_{\text{ダイオード}}\) を求めます。
①より \(I_{\text{抵抗}} = 0.075 – I_{\text{ダイオード}}\)。これを③に代入して \(V_{\text{抵抗}} = 20(0.075 – I_{\text{ダイオード}})\)。
②より \(V_{\text{ダイオード}} = 20(0.075 – I_{\text{ダイオード}})\)。
これを④に代入します。
$$ I_{\text{ダイオード}} = 0.20 \{ 20(0.075 – I_{\text{ダイオード}}) – 1.0 \} $$
具体的な解説と立式
1. 上記と同様に、抵抗とダイオードの並列部分について、\(V_{\text{並列}} = V_{\text{抵抗}} = V_{\text{ダイオード}}\) と \(I_{\text{電球}} = I_{\text{抵抗}} + I_{\text{ダイオード}}\) が成り立ちます。
2. \(I_{\text{電球}}=0.075\,\text{A}\) なので、\(I_{\text{抵抗}} = 0.075 – I_{\text{ダイオード}}\)。
3. 抵抗の電圧は \(V_{\text{抵抗}} = 20 \times I_{\text{抵抗}} = 20(0.075 – I_{\text{ダイオード}})\)。
4. 並列なので、\(V_{\text{ダイオード}} = 20(0.075 – I_{\text{ダイオード}})\)。
5. この式を \(I_{\text{ダイオード}}\) について変形すると、\(I_{\text{ダイオード}} = -\frac{1}{20}V_{\text{ダイオード}} + 0.075\)。
6. この直線と、ダイオードの特性(図3のグラフ)との交点を求めます。
- キルヒホッフの法則(第1法則、第2法則)
- オームの法則
- ダイオードの特性式
主解法の連立方程式を解きます。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{ダイオード}} &= 0.20 \{ 20(0.075 – I_{\text{ダイオード}}) – 1.0 \} \\[2.0ex]I_{\text{ダイオード}} &= 0.20 \{ 1.5 – 20 I_{\text{ダイオード}} – 1.0 \} \\[2.0ex]I_{\text{ダイオード}} &= 0.20 \{ 0.5 – 20 I_{\text{ダイオード}} \} \\[2.0ex]I_{\text{ダイオード}} &= 0.1 – 4 I_{\text{ダイオード}} \\[2.0ex]5 I_{\text{ダイオード}} &= 0.1 \\[2.0ex]I_{\text{ダイオード}} &= 0.020 \text{ [A]}
\end{aligned}
$$
まず、電球の電圧が2.0Vと決まっているので、特性グラフから電球に流れる電流が0.075Aだとわかります。この電流は、その先でダイオードと抵抗の2つの道に分かれます。この2つの道は並列なので、かかる電圧は同じです。この「電圧が同じ」という条件と、「電流の合計は0.075A」という条件、そしてそれぞれの素子の特性(抵抗はオームの法則、ダイオードは与えられた数式)をすべて組み合わせることで、連立方程式を立てて解くことができます。
ダイオードに流れる電流は \(0.020\,\text{A}\) です。複数の法則を組み合わせて解く、総合的な問題でした。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- グラフ的解法(特性曲線と負荷曲線の交点):
- 核心: オームの法則に従わない非線形素子(電球やダイオード)の解析における最重要テクニックです。素子が単独で持つ性質(特性曲線)と、回路に組み込まれることで課される外部からの制約(負荷曲線)を、グラフ上で連立方程式として解き、交点として実際の動作点(電圧・電流)を求めます。
- 理解のポイント: (1)や(3)では、回路の制約が直線(負荷直線)として表され、その直線と電球の特性曲線の交点を探す操作がまさにこれにあたります。
- キルヒホッフの法則:
- 核心: 回路が素子に課す制約(負荷曲線)を導き出すための、最も基本的で普遍的な法則です。(3)では直列回路の電圧則から負荷直線の式を導出し、(4)では電流則と電圧則を組み合わせてダイオードの動作点を求めるための方程式を立てています。
- 理解のポイント: どんなに複雑な回路でも、あるいは非線形素子を含んでいても、キルヒホッフの法則は常に成り立ちます。非線形回路解析の土台となる法則です。
- 非線形素子の特性の理解:
- 核心: 電球の抵抗値が一定ではないこと、ダイオードが特定の電圧(スレッショルド電圧)を超えると急に電流を流し始めるスイッチのような性質を持つことを、与えられたグラフや数式から正確に読み取る能力が求められます。
- 理解のポイント: (2)では「電流が流れ始める」という言葉からダイオードの電圧を\(1.0\,\text{V}\)と特定し、(3)では電源電圧が\(0.8\,\text{V}\)であることからダイオードはOFF状態(断線)であると判断するなど、素子の特性を理解していることが解析の出発点となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- トランジスタを含む回路: トランジスタも代表的な非線形素子であり、その増幅作用などを解析する際に、負荷線を引いて動作点を求めるグラフ的解法が用いられます。
- 発光ダイオード(LED)やツェナーダイオード: それぞれ異なる特性を持つダイオードを含む回路。基本的なアプローチは同じで、その素子固有の特性を理解し、キルヒホッフの法則と連立させます。
- 複数の非線形素子を含む回路: 例えば、電球とダイオードが直列に接続されている場合など。この場合、2つの素子の電圧の和が電源電圧に等しくなるような電流値を、それぞれの特性グラフを合成(図的加算)することで探す、といったより高度なグラフ操作が必要になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 線形か非線形かを見極める: 回路に抵抗以外の素子(電球、ダイオード、トランジスタ等)が含まれていたら、まず「非線形回路の問題だ」と認識します。これにより、単純なオームの法則だけでは解けないと心構えができます。
- グラフと数式の関係を把握する: 与えられた特性グラフと、それを説明する数式(ダイオードの式など)の両方をよく読み、対応関係を理解します。グラフから読み取るべきか、数式で計算すべきかを判断します。
- 解法の戦略を立てる:
- 動作点を求める問題 → グラフ的解法を疑う。キルヒホッフの法則で負荷曲線の式を立て、グラフとの交点を探す。
- 「〜が〜になるとき」という条件付きの問題 → その条件を起点に、ドミノ倒しのように他の素子の状態を決定していく。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電球の抵抗値を一定とみなす:
- 誤解: 電球も抵抗の一種だからと、ある一点の抵抗値を計算し、それを常に使うと勘違いする。
- 対策: 問題文に「抵抗値は一定ではなく…」と明記されている通り、電球の抵抗は動作点(電圧・電流)によって変化します。特性グラフそのものが電球の性質だと理解し、安易に一つの抵抗値で代表させないようにしましょう。
- 負荷曲線の式の立て間違い:
- 誤解: (3)で負荷直線の式を立てる際に、キルヒホッフの法則の符号を間違える(例: \(0.8 = V – 20I\)としてしまう)。
- 対策: 電源の電圧上昇と、各素子での電圧降下の和が等しい(\(E = V_1 + V_2 + …\))という基本に立ち返り、丁寧に式を立てましょう。電位を追跡する方法も有効です。
- グラフの読み取り誤差:
- 誤解: グラフの目盛りを不正確に読み取ってしまう。
- 対策: グラフを読む際は、定規を使うなどして慎重に読み取ります。特に、(1)や(3)のように自分で直線を引く場合は、切片などの計算しやすい点を正確にプロットすることが重要です。有効数字の桁数にも注意しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 負荷直線の図示: グラフ的解法の核心は、特性曲線と負荷直線を同じグラフ上に描くことです。負荷直線を描く際は、V軸切片(電流が0のときの電圧)とI軸切片(電圧が0のときの電流)を求め、その2点を結ぶと簡単かつ正確に描けます。
- ダイオードのスイッチモデル: ダイオードを「特定の電圧(ここでは1.0V)がかかるとONになるスイッチ」とイメージすると、回路の挙動が直感的に理解しやすくなります。(2)はスイッチがONになる瞬間、(3)はスイッチがOFFのままの状態を解析していると見なせます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 動作点の明記: グラフ上に負荷直線を引いたら、特性曲線との交点に印をつけ、「動作点」と明記しましょう。その点の座標(V, I)が求める答えです。
- 電流の向きの明記: (4)のように複数の経路に電流が分かれる場合は、各経路に流れる電流を\(I_1, I_2\)のように定義し、矢印で向きを回路図に書き込むと、キルヒホッフの電流則の式が立てやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(R=V/I\)(抵抗の定義式):
- 選定理由: (1)で「抵抗値が26Ωになる」という条件を、グラフ上で扱えるVとIの関係式に変換するために使用しました。これは抵抗の普遍的な定義です。
- 適用根拠: オームの法則が成り立たない非線形素子であっても、ある特定の動作点における電圧と電流の比を「その点での抵抗値」と定義することは可能です。
- キルヒホッフの法則:
- 選定理由: (3)や(4)で、回路の接続関係から素子が満たすべき制約条件(負荷曲線の方程式)を導出するために使用しました。非線形素子を含む回路では、素子単体の特性だけでは動作点が決まらないため、この外部からの制約が不可欠です。
- 適用根拠: 回路のトポロジー(接続の仕方)によって決まる、電圧と電流に関する普遍的な法則です。
- ダイオードの特性式 \(I=0.20(V-1.0)\):
- 選定理由: (4)で、ダイオードの振る舞いを数学的に記述するために使用しました。グラフから読み取る代わりに、この数式を用いることで、より厳密な連立方程式を立てて解くことができます。
- 適用根拠: この素子固有の物理的特性を実験的に測定し、数式でモデル化したものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 特定の抵抗値での動作点:
- 戦略: 抵抗値の条件をV-Iの直線関係に直し、特性グラフとの交点を読む。
- フロー: ①\(R=V/I \rightarrow I=V/R\) の式を立てる。 ②この直線と図2の曲線の交点をグラフから読み取る。
- (2) ダイオードONの瞬間:
- 戦略: ダイオードのON電圧を起点に、各素子のV, Iを順に決定する。
- フロー: ①\(V_{\text{ダイオード}}=1.0\text{V}\)と確定。 ②並列の抵抗から\(I_{\text{抵抗}}\)を計算。 ③\(I_{\text{電球}}=I_{\text{抵抗}}\)として、図2から\(V_{\text{電球}}\)を読む。 ④\(V_{\text{電源}} = V_{\text{電球}} + V_{\text{ダイオード}}\)を計算。
- (3) 特定の電源電圧での動作点:
- 戦略: ダイオードがOFFであることを確認し、単純な直列回路として負荷直線を立て、グラフとの交点を読む。
- フロー: ①ダイオードがOFFと判断。 ②電球と抵抗の直列回路でキルヒホッフの法則を立て、負荷直線の式を導出。 ③この直線と図2の曲線の交点をグラフから読み取る。
- (4) 特定の電球電圧での動作点:
- 戦略: 電球の状態から全電流を確定し、並列部分にキルヒホッフの法則を適用して連立方程式を解く。
- フロー: ①図2から\(V_{\text{電球}}=2.0\text{V}\)のときの\(I_{\text{電球}}\)を読む。 ②電流則と電圧則、各素子の特性式を連立させ、\(I_{\text{ダイオード}}\)を解く。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- グラフの単位と目盛りの確認: グラフを読む前に、縦軸と横軸の単位([V], [A]か[mV], [mA]かなど)と、一目盛りがいくつを表すかを必ず確認しましょう。
- 負荷直線のプロット: 負荷直線を描く際は、V軸切片とI軸切片という、計算が簡単で間違いにくい2点を使うのがおすすめです。
- 有効数字の意識: 問題文で指定された有効数字(この問題では2桁や1桁)に合わせて解答を作成する習慣をつけましょう。グラフからの読み取りは、指定された有効数字より一桁多く読み取っておくと、その後の計算で丸め誤差が少なくなります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 電球の抵抗値: グラフから、電球は電圧が上がるほど電流の増え方が鈍くなる(=抵抗値が大きくなる)ことがわかります。\(V=1.9\text{V}\)のときの抵抗が\(26\,\Omega\)なら、それより電圧が低い(3)の\(V=0.2\text{V}\)のときの抵抗は \(R=0.2/0.03 \approx 6.7\,\Omega\) となり、\(26\,\Omega\)より小さいです。これはグラフの傾向と一致しており、妥当です。
- (4) 電流の分配: 電球に流れる全電流が\(0.075\text{A}\)で、ダイオードに流れるのが\(0.020\text{A}\)という結果は、残りの\(0.055\text{A}\)が抵抗に流れることを意味します。このときの並列部分の電圧は、抵抗側で計算すると \(V=RI=20 \times 0.055 = 1.1\text{V}\)。ダイオード側で計算すると \(I=0.2(V-1.0) \rightarrow 0.020=0.2(V-1.0) \rightarrow V=1.1\text{V}\)。両者で電圧が一致し、キルヒホッフの法則が満たされていることが確認でき、解答の信頼性が高まります。