「良問の風」攻略ガイド(26〜30問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

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問題26 (芝浦工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、単振り子の運動と衝突、そして完全非弾性衝突(合体)という複数の物理現象を扱っています。力学的エネルギー保存則、運動量保存則、反発係数の概念、そして衝突によるエネルギー損失の計算が主なテーマとなります。

与えられた条件
  • 小球A: 質量 \(m\)、糸の長さ \(l\)
  • 小球B: 質量 \(2m\)、糸の長さ \(l\)
  • 初期状態: Bは最下点で静止。Aは糸が鉛直線から \(60^\circ\) 傾いた位置から静かに放される。
  • 重力加速度: \(g\)
  • 状況1 (問1): AとBが最下点で完全弾性衝突 (\(e=1\))。
  • 状況2 (問2, 3): AとBの衝突直後、Aが最下点で静止。
  • 状況3 (問4, 5): Aを取り去り、静止したBに弾丸Cが水平に打ち込まれ一体となる。衝突直後の(B+C)の速さは衝突直前のCの速さの \(\displaystyle\frac{1}{5}\)。
問われていること
  1. 状況1における、衝突直後のBの速さ。
  2. 状況2における、AとBのはね返り係数 \(e\)。
  3. 状況2における、衝突後のBが上昇する最高の高さ(最下点基準)。
  4. 状況3における、弾丸Cの質量。
  5. 状況3の衝突で失われた力学的エネルギーが、衝突直前のCの運動エネルギーの何倍か。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1) 衝突直後のBの速さの別解: 力学的エネルギー保存則を利用する解法
      • 主たる解法が運動量保存則と反発係数の式を連立させるのに対し、別解では完全弾性衝突において力学的エネルギーも保存されることを利用し、運動量保存則と力学的エネルギー保存則を連立させて解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 法則の多角的理解: 完全弾性衝突が「運動量」と「力学的エネルギー」の両方を保存するという、この衝突の最も重要な物理的性質を直接的に利用することで、法則への理解が深まります。
    • 計算テクニックの習得: 2乗の項を含む連立方程式を解く経験は、他の物理問題(例えば円運動とエネルギー保存)にも応用できる計算スキルを養います。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程は異なりますが、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題は、単振り子の運動と物体の衝突という、力学の重要テーマを組み合わせた総合問題です。各段階でどの物理法則を適用すべきかを正確に判断することが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力学的エネルギー保存則: 振り子の運動のように、重力などの保存力のみが仕事をする区間では、運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。
  2. 運動量保存則: 衝突の前後で、系に外力がはたらかない(または内力に比べて無視できる)場合、系全体の運動量の和は保存されます。これは、弾性衝突でも非弾性衝突でも成り立ちます。
  3. 反発係数(はね返り係数)の式: 衝突の跳ね返りの度合いを示す指標で、衝突前後の相対速度の比で定義されます。完全弾性衝突では \(e=1\)、完全非弾性衝突(一体化)では \(e=0\) となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、Aが最下点に達するまでの振り子運動に「力学的エネルギー保存則」を適用し、衝突直前のAの速さを求めます。
  2. 問(1)と(2)の衝突現象には、「運動量保存則」と「反発係数の式」を連立させて適用します。
  3. 問(3)の衝突後のBの上昇運動には、再び「力学的エネルギー保存則」を適用します。
  4. 問(4)と(5)のCとBの一体となる衝突(完全非弾性衝突)には、「運動量保存則」を適用し、エネルギーの変化量を計算します。

準備: 衝突直前のAの速さ \(v_0\) の計算
まず、各設問を解くために必要となる、小球Aが最下点で小球Bに衝突する直前の速さ \(v_0\) を求めておきます。
Aは、糸が鉛直線から \(60^\circ\) の位置から静かに放されます。このときの高さを \(h\) とすると、図より \(h = l – l\cos 60^\circ\) となります。最下点を位置エネルギーの基準(\(h=0\))とします。
Aが最下点に達するまでの運動では、力学的エネルギーが保存されます。
(初期の位置エネルギー) = (最下点での運動エネルギー)
という関係が成り立ちます。
$$ mg(l – l\cos 60^\circ) = \frac{1}{2}mv_0^2 $$
ここで \(\cos 60^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}\) なので、
$$ mg\left(l – \frac{1}{2}l\right) = \frac{1}{2}mv_0^2 $$
$$ mg\left(\frac{1}{2}l\right) = \frac{1}{2}mv_0^2 $$
この式を \(v_0\) について解くと、衝突直前のAの速さが求まります。
$$ gl = v_0^2 $$
よって、
$$ v_0 = \sqrt{gl} $$
この \(v_0\) を以降の設問で共通して使用します。

問(1)

思考の道筋とポイント
小球A(質量 \(m\)、速さ \(v_0\))と静止している小球B(質量 \(2m\))が完全弾性衝突(\(e=1\))します。衝突後のA, Bの速度をそれぞれ \(v_A\), \(v_B\) とします。衝突現象の基本である「運動量保存則」と、完全弾性衝突の条件である「反発係数の式(\(e=1\))」の2つの式を立て、連立方程式として解くことで衝突後のBの速さ \(v_B\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 衝突現象では、まず運動量保存則を考える。
  • 「完全弾性衝突」という言葉から、反発係数 \(e=1\) という条件を式にする。
  • 速度は向きを持つ量(ベクトル)なので、正の向きを定めて式を立てる。

具体的な解説と立式
衝突前の速度は、Aが \(v_0\)、Bが \(0\) です。衝突後の速度を、Aが \(v_A\)、Bが \(v_B\) とします。水平右向きを正の向きとします。

1. 運動量保存則
衝突前の運動量の和と、衝突後の運動量の和は等しくなります。
$$ mv_0 + (2m) \cdot 0 = mv_A + (2m)v_B $$
$$ mv_0 = mv_A + 2mv_B \quad \cdots ① $$

2. 反発係数の式
完全弾性衝突なので、反発係数 \(e=1\) です。反発係数の定義式にこれを適用すると、
$$ 1 = -\frac{v_A – v_B}{v_0 – 0} $$
この式を整理すると、
$$ -(v_A – v_B) = v_0 $$
よって、
$$ v_B – v_A = v_0 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v_1′ + m_2v_2’\)
  • 反発係数の式: \(e = -\displaystyle\frac{v_1′ – v_2′}{v_1 – v_2}\)
計算過程

式①の両辺を \(m\) で割ると、
$$ v_0 = v_A + 2v_B \quad \cdots ①’ $$
式②より \(v_A = v_B – v_0\) なので、これを式①’に代入します。
$$
\begin{aligned}
v_0 &= (v_B – v_0) + 2v_B \\[2.0ex]
v_0 &= 3v_B – v_0 \\[2.0ex]
2v_0 &= 3v_B
\end{aligned}
$$
したがって、衝突直後のBの速さ \(v_B\) は、
$$ v_B = \frac{2}{3}v_0 $$
準備で求めた \(v_0 = \sqrt{gl}\) を代入すると、
$$ v_B = \frac{2}{3}\sqrt{gl} $$

この設問の平易な説明

おもりAとおもりBがぶつかる時、全体の「勢い」(運動量)はぶつかる前後で変わりません。また、「完全弾性衝突」というのは、最もよく跳ね返る理想的な衝突で、はね返り係数が1の場合を指します。この2つの物理法則を数式で表し、それらを連立方程式として解くことで、衝突後のBの速さを求めることができます。

結論と吟味

衝突直後のBの速さは \(\displaystyle\frac{2}{3}\sqrt{gl}\) となります。
ちなみに、このときのAの速度は \(v_A = v_B – v_0 = \displaystyle\frac{2}{3}v_0 – v_0 = -\displaystyle\frac{1}{3}v_0\) となり、負の符号はAが衝突後に左向きに跳ね返ることを示しています。軽い物体が重い物体に弾性衝突すると跳ね返る、という直感とも一致しており、物理的に妥当な結果です。

別解: 力学的エネルギー保存則を利用する解法

思考の道筋とポイント
完全弾性衝突では、運動量だけでなく、系全体の力学的エネルギー(この場合は運動エネルギー)も保存されます。この性質を利用して、「運動量保存則」と「力学的エネルギー保存則」を連立させて解くこともできます。
この設問における重要なポイント

  • 完全弾性衝突では、力学的エネルギーも保存される。
  • 運動量保存則とエネルギー保存則の2式を連立する。

具体的な解説と立式
1. 運動量保存則 (式①と同じ)
$$ mv_0 = mv_A + 2mv_B \quad \cdots ① $$

2. 力学的エネルギー保存則
衝突前後の運動エネルギーの和は等しくなります。
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 + \frac{1}{2}(2m) \cdot 0^2 = \frac{1}{2}mv_A^2 + \frac{1}{2}(2m)v_B^2 $$
両辺を \(\displaystyle\frac{1}{2}m\) で割ると、
$$ v_0^2 = v_A^2 + 2v_B^2 \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v_1′ + m_2v_2’\)
  • 力学的エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}m_1v_1^2 + \frac{1}{2}m_2v_2^2 = \frac{1}{2}m_1(v_1′)^2 + \frac{1}{2}m_2(v_2′)^2\)
計算過程

式①より \(v_A = v_0 – 2v_B\) なので、これを式③に代入します。
$$
\begin{aligned}
v_0^2 &= (v_0 – 2v_B)^2 + 2v_B^2 \\[2.0ex]
v_0^2 &= v_0^2 – 4v_0v_B + 4v_B^2 + 2v_B^2 \\[2.0ex]
v_0^2 &= v_0^2 – 4v_0v_B + 6v_B^2
\end{aligned}
$$
両辺の \(v_0^2\) を消去して整理すると、
$$ 0 = -4v_0v_B + 6v_B^2 $$
$$ 2v_B (3v_B – 2v_0) = 0 $$
衝突後、Bは動き出すので \(v_B \neq 0\) です。したがって、両辺を \(2v_B\) で割ることができ、
$$ 3v_B – 2v_0 = 0 $$
$$ v_B = \frac{2}{3}v_0 $$
\(v_0 = \sqrt{gl}\) を代入すると、
$$ v_B = \frac{2}{3}\sqrt{gl} $$

この設問の平易な説明

「完全弾性衝突」は、運動の「勢い」だけでなく、運動の「エネルギー」も全体として失われない、とても特殊な衝突です。この2つの保存則(運動量保存則とエネルギー保存則)を使って連立方程式を立てることで、反発係数の式を使わなくても答えを出すことができます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。反発係数の式を使う方が計算は少し楽ですが、完全弾性衝突の物理的本質(エネルギーも保存される)を理解する上で、こちらの解法も非常に有益です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{2}{3}\sqrt{gl}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
この設問では、衝突後にAが静止する(\(v_A’=0\))という特定の条件が与えられています。この条件の下で、まず「運動量保存則」を用いて衝突後のBの速度 \(v_B’\) を求めます。次に、得られた速度の値を「反発係数の定義式」に代入することで、この衝突のはね返り係数 \(e\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 問題文の条件「Aが最下点でそのまま静止」を数式(\(v_A’=0\))に正確に置き換える。
  • 未知数が2つ(\(v_B’\) と \(e\))あるので、2つの法則(運動量保存則と反発係数の式)を使って解く。

具体的な解説と立式
衝突前の速度は、Aが \(v_0\)、Bが \(0\) です。衝突後の速度は、問題文の条件よりAが \(v_A’ = 0\)、Bが \(v_B’\) となります。

1. 運動量保存則
$$ mv_0 + (2m) \cdot 0 = m \cdot 0 + (2m)v_B’ $$
$$ mv_0 = 2mv_B’ \quad \cdots ④ $$

2. 反発係数の定義式
$$ e = -\frac{v_A’ – v_B’}{v_0 – 0} $$
これに \(v_A’=0\) を代入すると、
$$ e = -\frac{0 – v_B’}{v_0} \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v_1′ + m_2v_2’\)
  • 反発係数の定義式: \(e = -\displaystyle\frac{v_1′ – v_2′}{v_1 – v_2}\)
計算過程

まず、式④から \(v_B’\) を求めます。
$$ v_B’ = \frac{mv_0}{2m} = \frac{1}{2}v_0 $$
次に、この結果を式⑤に代入して \(e\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
e &= -\frac{-v_B’}{v_0} \\[2.0ex]
e &= \frac{v_B’}{v_0} \\[2.0ex]
e &= \frac{\frac{1}{2}v_0}{v_0} \\[2.0ex]
e &= \frac{1}{2}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

今度は、ぶつかった後にAがピタッと止まってしまうような衝突を考えます。この場合でも、全体の「勢い」(運動量)は衝突の前後で変わらないというルールを使えば、衝突後のBの速さがわかります。その次に、この衝突の「はね返り係数」がいくらだったのかを、定義式にそれぞれの速度を当てはめて計算します。

結論と吟味

このときのはね返り係数は \(\displaystyle\frac{1}{2}\) となります。
反発係数 \(e\) は \(0 \le e \le 1\) の範囲の値をとる物理量であり、\(\displaystyle\frac{1}{2}\) はこの範囲内にあるため、物理的に妥当な値です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{1}{2}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
問(2)の衝突の結果、小球Bは速さ \(v_B’ = \displaystyle\frac{1}{2}v_0\) を得て運動を開始します。その後、Bは振り子として円弧に沿って上昇し、最高点で一瞬静止します。この上昇過程では、糸の張力は仕事をせず、重力のみが仕事をするため、「力学的エネルギー保存則」が成り立ちます。最下点での運動エネルギーが、最高点での位置エネルギーに変換されると考えます。
この設問における重要なポイント

  • 振り子の運動では、力学的エネルギーが保存される。
  • 最高点では速さが \(0\) になる。
  • 位置エネルギーの基準点を明確に設定する(通常は最下点)。

具体的な解説と立式
Bが衝突直後に持つ運動エネルギーが、最高点 \(h\) での位置エネルギーに等しくなります。最下点を位置エネルギーの基準(\(U_g=0\))とします。

・最下点でのBの力学的エネルギー: \(E_{\text{初}} = \displaystyle\frac{1}{2}(2m)(v_B’)^2 + 0\)
・最高点 \(h\) でのBの力学的エネルギー: \(E_{\text{後}} = 0 + (2m)gh\)

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、
$$ \frac{1}{2}(2m)(v_B’)^2 = (2m)gh $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{重力,初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{重力,後}}\)
計算過程

上の式を \(h\) について整理します。
$$ m(v_B’)^2 = 2mgh $$
$$ h = \frac{(v_B’)^2}{2g} $$
ここで、問(2)の結果 \(v_B’ = \displaystyle\frac{1}{2}v_0\) と、準備で求めた \(v_0 = \sqrt{gl}\) を代入します。
$$ v_B’ = \frac{1}{2}\sqrt{gl} $$
これを \(h\) の式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{\left(\frac{1}{2}\sqrt{gl}\right)^2}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{\frac{1}{4}gl}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{8}l
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

衝突後、速さ \(v_B’\) を持って動き出したおもりBは、ブランコのように揺れてある高さまで上がります。このとき、Bが最初に持っていた「運動のエネルギー」が、徐々に「高さのエネルギー」に変わっていき、一番高いところでは全ての運動エネルギーが高さのエネルギーに変わって一瞬止まります。この「最初の運動エネルギー = 最高点での高さのエネルギー」という関係式を使って、Bがどれだけの高さまで上がるかを計算します。

結論と吟味

Bは最下点より \(\displaystyle\frac{1}{8}l\) の高さまで上昇します。
Aが最初に落下した高さは \(\displaystyle\frac{1}{2}l\) でした。衝突によってエネルギーの一部がBに伝わり、Bがそのエネルギーで上昇します。結果が \(l\) の数分の一というオーダーで出ており、極端に大きかったり小さかったりしないため、妥当と考えられます。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{1}{8}l\)

問(4)

思考の道筋とポイント
静止している小球B(質量 \(2m\))に、弾丸C(質量を \(m_C\) とする)が速さ \(v_C\) で衝突し、一体となって運動します。これは完全非弾性衝突です。衝突現象なので、「運動量保存則」が成り立ちます。問題文に「衝突直後の速さが衝突直前のCの速さの \(\displaystyle\frac{1}{5}\) になった」という条件が与えられているので、これを立式に反映させます。
この設問における重要なポイント

  • 物体が一体となって運動する衝突は、完全非弾性衝突(\(e=0\))である。
  • 完全非弾性衝突でも、運動量保存則は厳密に成り立つ。
  • 問題文の条件を正確に数式で表現する。

具体的な解説と立式
衝突前のCの質量を \(m_C\)、速さを \(v_C\)。Bの質量は \(2m\)、速さは \(0\)。
衝突後、CとBは一体となり、質量は \((m_C + 2m)\)、速さは \(v’ = \displaystyle\frac{1}{5}v_C\)。
水平右向きを正として、運動量保存則を立てます。
$$ m_C v_C + (2m) \cdot 0 = (m_C + 2m) v’ $$
ここに、\(v’ = \displaystyle\frac{1}{5}v_C\) の関係を代入します。
$$ m_C v_C = (m_C + 2m) \left(\frac{1}{5}v_C\right) $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v_1′ + m_2v_2’\)
計算過程

上の式の両辺に \(v_C\) がありますが、弾丸は打ち込まれるので \(v_C \neq 0\) です。したがって、両辺を \(v_C\) で割ることができます。
$$ m_C = (m_C + 2m) \cdot \frac{1}{5} $$
両辺を5倍して、
$$ 5m_C = m_C + 2m $$
\(m_C\) の項を左辺に集めると、
$$ 4m_C = 2m $$
$$ m_C = \frac{2m}{4} = \frac{1}{2}m $$

この設問の平易な説明

弾丸CがおもりBに撃ち込まれて一体となるような衝突を考えます。このような場合でも、全体の「勢い」(運動量)はぶつかる前後で変わりません。「衝突前のCの運動量(Bは止まっているので運動量は0)= 衝突後に一体となった(B+C)の運動量」という関係式を立てます。問題文には「衝突後の速さが衝突前のCの速さの \(1/5\) になった」という重要なヒントがあるので、これを使ってCの質量を求めます。

結論と吟味

弾丸Cの質量は \(\displaystyle\frac{1}{2}m\) となります。
質量が正の値として求まっており、物理的に妥当です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{1}{2}m\)

問(5)

思考の道筋とポイント
問(4)の完全非弾性衝突において、失われた力学的エネルギーが、衝突直前のCの運動エネルギーの何倍になるかを求めます。衝突は水平方向で起こり、高さの変化はないため、力学的エネルギーの変化は運動エネルギーの変化だけを考えれば十分です。「失われたエネルギー」は「衝突前の全運動エネルギー」から「衝突後の全運動エネルギー」を引くことで計算できます。
この設問における重要なポイント

  • 完全非弾性衝突では、力学的エネルギーは保存されず、熱や変形エネルギーに変わり減少する。
  • 失われたエネルギーは \(E_{\text{初}} – E_{\text{後}}\) で計算する。
  • 「〜の何倍か」という問いは、比率(割り算)を計算することを意味する。

具体的な解説と立式
1. 衝突直前の系の全運動エネルギー \(E_{\text{初}}\)
Bは静止しているので、Cの運動エネルギーのみです。
$$ E_{\text{初}} = \frac{1}{2}m_C v_C^2 $$

2. 衝突直後の系の全運動エネルギー \(E_{\text{後}}\)
BとCが一体となって速さ \(v’\) で運動します。
$$ E_{\text{後}} = \frac{1}{2}(m_C + 2m)(v’)^2 $$

3. 失われた力学的エネルギー \(\Delta E\)
$$ \Delta E = E_{\text{初}} – E_{\text{後}} $$

4. 求めたい比率
$$ \frac{\Delta E}{E_{\text{初}}} $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

問(4)の結果 \(m_C = \displaystyle\frac{1}{2}m\) と、問題の条件 \(v’ = \displaystyle\frac{1}{5}v_C\) を使って、\(E_{\text{初}}\) と \(E_{\text{後}}\) を \(m\) と \(v_C\) で表します。
$$ E_{\text{初}} = \frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}m\right)v_C^2 = \frac{1}{4}mv_C^2 $$
$$
\begin{aligned}
E_{\text{後}} &= \frac{1}{2}\left(\frac{1}{2}m + 2m\right)\left(\frac{1}{5}v_C\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}\left(\frac{5}{2}m\right)\left(\frac{1}{25}v_C^2\right) \\[2.0ex]
&= \frac{5}{4}m \cdot \frac{1}{25}v_C^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{20}mv_C^2
\end{aligned}
$$
求めたい比率は、\(\displaystyle\frac{\Delta E}{E_{\text{初}}} = \frac{E_{\text{初}} – E_{\text{後}}}{E_{\text{初}}} = 1 – \frac{E_{\text{後}}}{E_{\text{初}}}\) と計算できます。
$$
\begin{aligned}
\frac{E_{\text{後}}}{E_{\text{初}}} &= \frac{\frac{1}{20}mv_C^2}{\frac{1}{4}mv_C^2} \\[2.0ex]
&= \frac{1/20}{1/4} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{20} \times 4 \\[2.0ex]
&= \frac{4}{20} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{5}
\end{aligned}
$$
よって、求める比率は、
$$ 1 – \frac{1}{5} = \frac{4}{5} $$

この設問の平易な説明

弾丸CがおもりBにめり込むような一体となる衝突では、通常、運動のエネルギーの一部が熱や変形のエネルギーに変わって失われます。
1. まず、衝突前に弾丸Cが持っていた運動エネルギーを計算します。
2. 次に、衝突後に一体となった物体(BとC)が持つ運動エネルギーを計算します。
3. 「失われた運動エネルギー」は、1で計算したエネルギーから2で計算したエネルギーを引いたものです。
4. 最後に、この「失われた運動エネルギー」が、「衝突前の弾丸Cが持っていた運動エネルギー」の何倍にあたるのかを、割り算(比)で求めます。

結論と吟味

この衝突で失われた力学的エネルギーは、衝突直前のCの運動エネルギーの \(\displaystyle\frac{4}{5}\) 倍です。
これは、衝突前のエネルギーの \(80\%\) が失われ、残りの \(20\%\) (\(1/5\)) が衝突後の運動エネルギーとして残ったことを意味します。完全非弾性衝突では力学的エネルギーが大きく失われるという事実と整合しており、妥当な結果です。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{4}{5}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力学的エネルギー保存則:
    • 核心: 単振り子の運動のように、保存力(重力)のみが仕事をするか、非保存力の仕事が無視できる場合に成り立つ (\(K + U_g = \text{一定}\))。
    • 適用場面: 衝突前のAの速さや、衝突後のBの上昇高さを求めるのに使用した。
  • 運動量保存則:
    • 核心: 衝突現象において、系に外力が作用しない(または内力に比べて無視できるほど小さい)場合に、系全体の運動量のベクトル和が衝突の前後で保存される (\(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v_1′ + m_2v_2’\))。
    • 適用場面: 全ての衝突タイプで成り立つ基本法則であり、本問の全ての衝突計算の基礎となった。
  • 反発係数(はね返り係数):
    • 核心: 衝突の際の跳ね返りの度合いを示す。\(e = -\displaystyle\frac{v_{\text{相対,後}}}{v_{\text{相対,初}}}\)。
    • 理解のポイント:
      • 完全弾性衝突: \(e=1\)。この場合、力学的エネルギーも(系全体として)保存される。
      • 完全非弾性衝突(一体となる場合): \(e=0\)。力学的エネルギーは著しく失われる。
  • 仕事とエネルギーの関係:
    • 核心: 非弾性衝突などで力学的エネルギーが保存されない場合、その変化量(減少量)は、変形や熱の発生に使われたエネルギーに相当する。
    • 適用場面: 問(5)で、失われた力学的エネルギーの割合を計算した。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 振り子と床の衝突、壁との衝突。
    • 水平面での複数物体の連続衝突。
    • 衝突後にばねに接触する、あるいは摩擦のある面を運動するなど、複数の物理現象が組み合わさる問題。
    • 爆発や分裂の問題(運動量保存則が中心)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象の分解: 問題文を読み解き、「振り子の運動」「衝突」「衝突後の運動」など、個別の物理現象に分解する。
    2. 各現象への適切な法則の選択:
      • 振り子運動や自由落下など → 力学的エネルギー保存則(非保存力の仕事がなければ)。
      • 衝突 → 運動量保存則はほぼ必須。反発係数の情報があればそれも使う。衝突の種類(弾性、非弾性)を確認。
      • 一体化する衝突 → 完全非弾性衝突として扱い、運動量保存則を適用。エネルギーは失われる。
    3. エネルギー変化の追跡: 衝突の種類によって力学的エネルギーが保存されるか、失われるか(あるいは増えるか、例:爆発)を常に意識する。
    4. 座標軸(正の向き)の設定: 速度や運動量はベクトル量なので、一貫した座標軸を設定し、向きを符号で表現する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 運動量と運動エネルギーの混同:
    • 誤解: 保存則を適用する際に、運動量と運動エネルギーの式を混同する。
    • 対策: それぞれの定義式 (\(p=mv, K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)) と、保存則が適用される条件を明確に区別して覚える。運動量はベクトル、運動エネルギーはスカラーであることを意識する。
  • 反発係数の式の符号ミス:
    • 誤解: \(e = -\displaystyle\frac{v_1′ – v_2′}{v_1 – v_2}\) のマイナス符号を忘れたり、速度の代入順を間違えたりする。
    • 対策: 「衝突後の相対速度の大きさ = \(e \times\) 衝突前の相対速度の大きさ」で、向きが逆転すると覚えるか、定義式を正確に運用する練習を積む。
  • 非弾性衝突でのエネルギー保存の誤用:
    • 誤解: 完全非弾性衝突(一体化など)で力学的エネルギーが保存されると誤解する。
    • 対策: 反発係数が \(e<1\) の衝突では、力学的エネルギーは必ず失われる(または変化する)と理解する。保存されるのは運動量のみと心得る。
  • 複数物体のエネルギー計算ミス:
    • 誤解: 系全体の運動エネルギーを計算する際に、各物体の運動エネルギーを正しく足し合わせていない。質量や速度の二乗を間違える。
    • 対策: 各物体について個別に運動エネルギーを計算し、最後に足し合わせるなど、手順を明確にする。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力学的エネルギー保存則: (Aの衝突前速度、Bの衝突後上昇高さ)
    • 選定理由: 振り子の運動であり、途中で摩擦や空気抵抗が無視できるため。
    • 適用根拠: 保存力(重力)のみが仕事をする系では、力学的エネルギーが一定に保たれるから。
  • 運動量保存則: (全ての衝突: 問1, 2, 4)
    • 選定理由: 2物体以上の衝突現象を扱う際の基本法則だから。
    • 適用根拠: 衝突という短時間での内力のやり取りでは、系全体にかかる外力が無視できるか、特定方向で0であるため、その方向の運動量の総和が不変であるから。
  • 反発係数の式: (問1, 2)
    • 選定理由: 衝突後の各物体の速度を決定するため、運動量保存則だけでは式が足りない場合に、衝突の「跳ね返り具合」を表すもう一つの関係式として用いるため。
    • 適用根拠: 衝突における相対速度の変化に関する実験則だから。
  • 運動エネルギーの計算とエネルギー損失: (問5)
    • 選定理由: 完全非弾性衝突によって失われた力学的エネルギーを定量的に評価するため。
    • 適用根拠: エネルギーは形態を変えるだけで総量は保存されるが、力学的エネルギーの一部が熱エネルギーなどに変換されるため、その差を計算する必要があるから。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: 速度はベクトル量なので、最初に設定した正の向きを最後まで一貫させる。計算結果の符号が物理的な状況(例:跳ね返り)と合っているか確認する。
    • 日頃の練習: 図を描く際に、必ず座標軸(正の向き)を書き込む習慣をつける。
  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: 質量の \(m, 2m, m_C\)、速度の \(v_0, v_A, v_B, v_A’, v_B’, v_C, v’\) など、多くの記号が登場するため、どの記号が何を表しているのかを常に明確に意識する。
    • 日頃の練習: 連立方程式を解く際に、代入法や加減法を焦らず丁寧に行う。文字が多くても、一つ一つの意味を確認しながら進める。
  • 代入のタイミング:
    • 特に注意すべき点: \(v_0 = \sqrt{gl}\) のような関係式は、文字式のまま計算を進め、最後の最後に代入する方が、計算が簡潔になりミスが減ることが多い。
    • 日頃の練習: 途中で数値を代入した場合と、最後に代入した場合の両方を試してみて、どちらが自分にとってミスが少ないかを知る。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 衝突後の速度: 軽いAが重いBに当たった場合、Aが跳ね返り(\(v_A < 0\))、Bが前進する(\(v_B > 0\))という結果は直感に合うか。
    • (2) 反発係数: \(e\) が \(0 \le e \le 1\) の範囲にあるか。
    • (3) 上昇高さ: Bの上昇高さ \(h\) が、元のAの落下高さ \(\displaystyle\frac{l}{2}\) より小さいか(エネルギーが分配・損失されるため)。
    • (4) 質量: Cの質量 \(m_C\) が正の値として求まるか。
    • (5) エネルギー損失: 失われたエネルギーの割合が \(0\) より大きく \(1\) 以下になるか。完全非弾性衝突なので、ある程度大きな割合で失われるはず。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もしAとBの質量が等しかったら(\(m=2m\)ではなく\(m=m\))、問(1)の完全弾性衝突では速度交換が起きるはず(\(v_A=0, v_B=v_0\))。自分の立てた式がその状況を再現できるか試してみる。
    • もし衝突が完全弾性衝突だったら、問(5)で失われるエネルギーは0になるはず。自分の計算方法がそれを再現できるか確認する。

問題27 (福岡大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、円形パイプ内で同じ質量の2つの小球が衝突を繰り返す運動を扱います。衝突の基本法則である運動量保存則と反発係数の式、そして相対速度の考え方が中心となります。衝突が繰り返されることで速度がどのように変化し、最終的にどのような状態に落ち着くかを考察する点が特徴的です。

与えられた条件
  • 円形パイプ: 半径 \(R\)、水平に固定。
  • 小球A, B: ともに質量 \(m\)。
  • 初期状態: AとBは接触した状態から打ち出される。
  • 打ち出し速度: Aを速さ \(2v_0\)、Bを速さ \(v_0\) で互いに逆向きに同時に打ち出す。
  • 運動形態: AとBはパイプ内で等速円運動し、衝突を繰り返す。
  • 衝突の性質: 反発係数 \(e\)、ただし \(0 < e < \displaystyle\frac{1}{3}\)。
  • その他: 摩擦なし、空気抵抗なし。
問われていること
  1. AとBを打ち出してから1回目の衝突が起こるまでの時間 \(t\)。
  2. 1回目の衝突直後のAとBの速さ。
  3. (1回目の衝突後、AとBは同じ向きに運動し、BがAに追いついて2回目の衝突が起きるという前提のもとで) 2回目の衝突直後のAとBの速さ。
  4. 衝突を繰り返していくと、AとBの速さが同じ値に近づいていくときの、その共通の速さ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1) 1回目の衝突までの時間の別解: 相対速度を用いる解法
      • 主たる解法が各小球の移動距離の和で立式するのに対し、別解では一方の小球から見たもう一方の小球の相対的な運動として捉え、相対速度で円周の距離を進む時間として直接計算します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「相対運動」という重要な物理概念の理解が深まり、複数の物体が動く問題をより簡潔にモデル化する視点が養われます。
    • 計算の効率化: 立式がより直接的になり、計算が簡略化されます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題は、円形パイプという特殊な状況下での2物体の衝突を扱いますが、衝突自体は1次元的なものとして考えることができます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存則: 2物体以上の系において、外力が作用しない(または無視できる)場合、衝突の前後で系全体の運動量のベクトル和が保存されます。
  2. 反発係数(はね返り係数)の式: 衝突における跳ね返りの度合いを記述する式で、運動量保存則と連立させて衝突後の各物体の速度を決定します。
  3. 相対速度: 2物体の運動を記述する上で重要な概念です。衝突までの時間計算や、反発係数の定義に用いられます。
  4. 極限状態への収束: 反発係数が \(e<1\) の場合、衝突を繰り返すことで相対速度が減少し、最終的に共通の速度に収束するという考え方です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問(1)では、2つの小球が進んだ距離の合計が円周長になる条件から、衝突までの時間を求めます。
  2. 問(2)と(3)では、各衝突の直前と直後について、「運動量保存則」と「反発係数の式」を連立させて解きます。
  3. 問(4)では、衝突の全過程を通じて系全体の運動量が保存されることを利用し、初期状態と最終状態(共通速度)を比較して解きます。

問(1)

思考の道筋とポイント
小球AとBは、円形パイプの中心に対して互いに逆向きに打ち出されます。1回目の衝突は、AとBが進んだ距離の合計がパイプの円周 \(2\pi R\) になったときに起こります。Aの速さは \(2v_0\)、Bの速さは \(v_0\) で一定なので、この条件から時間を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 2物体が出会う問題は、2物体が進む距離の和(または差)と初期距離の関係で考える。
  • この問題では、2物体が進む距離の合計が円周長になるときに出会う。

具体的な解説と立式
時間 \(t\) の間にAが進む距離を \(s_A\)、Bが進む距離を \(s_B\) とします。それぞれの距離は速さと時間の積で表されます。
$$ s_A = (2v_0)t \quad \cdots ① $$
$$ s_B = (v_0)t \quad \cdots ② $$
1回目の衝突が起こるのは、2つの小球が進んだ距離の合計が円周 \(2\pi R\) に等しくなるときです。
$$ s_A + s_B = 2\pi R \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 等速運動の距離: 距離 = 速さ \(\times\) 時間
計算過程

式①と式②を式③に代入します。
$$ (2v_0)t + (v_0)t = 2\pi R $$
左辺を \(t\) でまとめると、
$$
\begin{aligned}
(2v_0 + v_0)t &= 2\pi R \\[2.0ex]
3v_0 t &= 2\pi R
\end{aligned}
$$
したがって、1回目の衝突までの時間 \(t\) は、
$$ t = \frac{2\pi R}{3v_0} $$

この設問の平易な説明

A君とB君が円形のコースを反対方向に走り出す状況を想像してください。A君の速さは \(2v_0\)、B君の速さは \(v_0\) です。二人が出会うのは、二人が走った距離の合計がコース一周分 (\(2\pi R\)) になったときです。時間 \(t\) の間にA君は \(2v_0 t\)、B君は \(v_0 t\) の距離を走るので、その合計が \(2\pi R\) になるという式を立てて \(t\) を求めます。

結論と吟味

1回目の衝突が起こるまでの時間は \(\displaystyle \frac{2\pi R}{3v_0}\) です。
この結果は物理的に妥当です。単位も \([\text{m}] / ([\text{m/s}]) = [\text{s}]\) となり正しいです。

別解: 相対速度を用いる解法

思考の道筋とポイント
Aから見たBの相対的な速さを考えます。AとBは互いに逆向きに運動しているので、Aから見るとBは \(2v_0 + v_0 = 3v_0\) の速さで近づいてくるように見えます。この相対的な速さで、円周 \(2\pi R\) の距離を移動する時間を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 互いに逆向きに運動する2物体の相対速度の大きさは、それぞれの速さの和になる。
  • 時間 = 距離 ÷ 速さ の関係を用いる。

具体的な解説と立式
Aに対するBの相対速度の大きさ \(v_{\text{相対}}\) は、それぞれの速さの和で与えられます。
$$ v_{\text{相対}} = 2v_0 + v_0 $$
この相対速度で、円周の長さ \(2\pi R\) を進む時間が衝突までの時間 \(t\) なので、次の関係式が成り立ちます。
$$ t = \frac{2\pi R}{v_{\text{相対}}} $$

使用した物理公式

  • 相対速度
  • 時間 = 距離 ÷ 速さ
計算過程

まず相対速度を計算します。
$$ v_{\text{相対}} = 3v_0 $$
これを時間の式に代入すると、
$$ t = \frac{2\pi R}{3v_0} $$

この設問の平易な説明

A君の立場になって考えてみましょう。A君が止まっていると考えると、B君はものすごい速さで自分に向かってくるように見えます。その速さは、A君自身の速さとB君の速さを足し合わせた \(3v_0\) になります。この見かけの速さでコースを一周 (\(2\pi R\)) して自分に到達するまでの時間を計算すれば、それが衝突までの時間になります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。相対速度の考え方を用いると、より直接的に立式できます。

解答 (1) \(\displaystyle \frac{2\pi R}{3v_0}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
1回目の衝突直前のAの速度を \(+2v_0\) (例えば時計回りを正とする)、Bの速度を \(-v_0\) (反時計回り) とします。衝突直後のAの速度を \(v_A\)、Bの速度を \(v_B\) とします。質量はともに \(m\) です。運動量保存則と反発係数 \(e\) の式を連立して \(v_A\) と \(v_B\) を求めます。問題文の条件 \(0 < e < \displaystyle\frac{1}{3}\) が速度の符号を吟味する上で重要になります。
この設問における重要なポイント

  • 衝突問題の基本である運動量保存則と反発係数の式を正確に立てること。
  • 速度の向き(符号)を衝突の前後で一貫して扱うこと。
  • 「速さ」は速度の大きさ(絶対値)を意味する。

具体的な解説と立式
衝突前の速度を \(v_{\text{A,初}} = 2v_0\), \(v_{\text{B,初}} = -v_0\) とします(時計回りを正)。
衝突後の速度を \(v_A\), \(v_B\) とします。

1. 運動量保存則
衝突の前後で、系全体の運動量の和は保存されます。
$$ m v_{\text{A,初}} + m v_{\text{B,初}} = m v_A + m v_B \quad \cdots ① $$

2. 反発係数の式
衝突後の相対速度は、衝突前の相対速度の \(-e\) 倍になります。
$$ v_A – v_B = -e(v_{\text{A,初}} – v_{\text{B,初}}) \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(m_1v_1 + m_2v_2 = m_1v_1′ + m_2v_2’\)
  • 反発係数の式: \(v_1′ – v_2′ = -e (v_1 – v_2)\)
計算過程

まず、式①に値を代入し、整理します。
$$ m(2v_0) + m(-v_0) = m v_A + m v_B $$
両辺を \(m\) で割ると、
$$ v_0 = v_A + v_B \quad \cdots ①’ $$
次に、式②に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
v_A – v_B &= -e(2v_0 – (-v_0)) \\[2.0ex]
v_A – v_B &= -3ev_0 \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
式①’と式②’を連立して解きます。
(①’ + ②’) より、
$$
\begin{aligned}
2v_A &= v_0 – 3ev_0 \\[2.0ex]
v_A &= \frac{1-3e}{2}v_0
\end{aligned}
$$
(①’ – ②’) より、
$$
\begin{aligned}
2v_B &= v_0 – (-3ev_0) \\[2.0ex]
v_B &= \frac{1+3e}{2}v_0
\end{aligned}
$$
問題文の条件 \(0 < e < \displaystyle\frac{1}{3}\) より、\(1-3e > 0\) なので \(v_A > 0\) となります。また、\(1+3e > 0\) なので \(v_B > 0\) です。
したがって、衝突後、AとBはともに正の向き(時計回り)に運動します。
よって、速さはそのまま速度の大きさとなります。
Aの速さ: \(\displaystyle \frac{1-3e}{2}v_0\)
Bの速さ: \(\displaystyle \frac{1+3e}{2}v_0\)

この設問の平易な説明

AとBがぶつかった直後のそれぞれの速さを求めます。この衝突でも、「全体の勢い(運動量)は変わらない」というルールと、「はね返り係数」に関するルールを使います。衝突前のAとBの速度(向きに注意して、一方向を正、逆方向を負とします)と、与えられたはね返り係数 \(e\) を使って2つの式を立て、これらを連立方程式として解くことで、衝突後のAとBの速度(向きも含む)が求まります。「速さ」は、この速度の大きさ(絶対値)です。

結論と吟味

1回目の衝突直後のAの速さは \(\displaystyle \frac{1-3e}{2}v_0\)、Bの速さは \(\displaystyle \frac{1+3e}{2}v_0\) です。
条件 \(0 < e < \displaystyle\frac{1}{3}\) のため、\(v_A\) も \(v_B\) も正となり、両小球は衝突後同じ向き(最初にAが運動していた向き、時計回り)に運動します。 また、\(v_B – v_A = \displaystyle\frac{1+3e}{2}v_0 – \frac{1-3e}{2}v_0 = 3ev_0 > 0\) なので、\(v_B > v_A\) です。これは問題文の「衝突後、AとBは同じ向きに運動し、やがてBがAに追いついて2回目の衝突が起き」という記述と整合しています。

解答 (2) Aの速さ: \(\displaystyle \frac{1-3e}{2}v_0\), Bの速さ: \(\displaystyle \frac{1+3e}{2}v_0\)

問(3)

思考の道筋とポイント
1回目の衝突後のAの速度を \(v_A^{(1)}\)、Bの速度を \(v_B^{(1)}\) とします。これらが2回目の衝突直前の速度となります。2回目の衝突直後のAの速度を \(v_A^{(2)}\)、Bの速度を \(v_B^{(2)}\) として、再び運動量保存則と反発係数の式を適用します。
この設問における重要なポイント

  • 多重衝突では、各衝突を独立した事象として扱い、直前の衝突の結果を次の衝突の初期条件として用いる。
  • 系全体の運動量の和は、衝突が繰り返されても常に一定である。
  • 衝突ごとの相対速度は、前の衝突の相対速度の \(-e\) 倍になる。

具体的な解説と立式
2回目の衝突直前の速度を \(v_A^{(1)}\), \(v_B^{(1)}\) とし、2回目の衝突直後の速度を \(v_A^{(2)}\), \(v_B^{(2)}\) とします。

1. 運動量保存則
$$ m v_A^{(1)} + m v_B^{(1)} = m v_A^{(2)} + m v_B^{(2)} \quad \cdots ③ $$

2. 反発係数の式
$$ v_A^{(2)} – v_B^{(2)} = -e(v_A^{(1)} – v_B^{(1)}) \quad \cdots ④ $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • 反発係数の式
計算過程

問(2)の計算過程で得られた関係式を利用します。
式①’より、\(v_A^{(1)} + v_B^{(1)} = v_0\) です。これを式③に代入すると、
$$ m v_0 = m (v_A^{(2)} + v_B^{(2)}) $$
$$ v_0 = v_A^{(2)} + v_B^{(2)} \quad \cdots ③’ $$
また、式②’より、\(v_A^{(1)} – v_B^{(1)} = -3ev_0\) です。これを式④に代入すると、
$$
\begin{aligned}
v_A^{(2)} – v_B^{(2)} &= -e(-3ev_0) \\[2.0ex]
v_A^{(2)} – v_B^{(2)} &= 3e^2v_0 \quad \cdots ④’
\end{aligned}
$$
式③’と式④’を連立して解きます。
(③’ + ④’) より、
$$
\begin{aligned}
2v_A^{(2)} &= v_0 + 3e^2v_0 \\[2.0ex]
v_A^{(2)} &= \frac{1+3e^2}{2}v_0
\end{aligned}
$$
(③’ – ④’) より、
$$
\begin{aligned}
2v_B^{(2)} &= v_0 – 3e^2v_0 \\[2.0ex]
v_B^{(2)} &= \frac{1-3e^2}{2}v_0
\end{aligned}
$$
これらの速度は \(0 < e < 1/3\) のとき正なので、そのまま速さとなります。
Aの速さ: \(\displaystyle \frac{1+3e^2}{2}v_0\)
Bの速さ: \(\displaystyle \frac{1-3e^2}{2}v_0\)

この設問の平易な説明

1回目の衝突の後、BがAに追いついて2回目の衝突が起こります。この2回目の衝突についても、1回目と同じように「全体の勢いは変わらない」ルールと「はね返り係数」のルールを使います。ただし、今度は衝突直前の速さとして、1回目の衝突が終わったときのAとBの速さを使います。これらから、2回目の衝突が終わった後のAとBの速さを計算します。

結論と吟味

2回目の衝突直後のAの速さは \(\displaystyle \frac{1+3e^2}{2}v_0\)、Bの速さは \(\displaystyle \frac{1-3e^2}{2}v_0\) です。
1回目の衝突後とは速度の大小関係が逆転し、\(v_A^{(2)} > v_B^{(2)}\) となります(\( (1+3e^2) – (1-3e^2) = 6e^2 > 0 \))。これにより、今度はAがBに追いついて3回目の衝突が起こることになります。このようにして衝突が繰り返されます。

解答 (3) Aの速さ: \(\displaystyle \frac{1+3e^2}{2}v_0\), Bの速さ: \(\displaystyle \frac{1-3e^2}{2}v_0\)

問(4)

思考の道筋とポイント
衝突を無限に繰り返すと、2つの小球の相対速度は0に近づき、最終的には同じ速度 \(v_{\infty}\) で運動するようになります。これは、反発係数 \(e\) が \(0 < e < 1\) であるため、衝突のたびに相対速度の大きさが \(e\) 倍に減少していくからです。この最終状態においても、衝突の全過程を通じて系全体の運動量は保存されています。したがって、最初の状態(打ち出し直後)の全運動量と、最終状態(共通速度 \(v_{\infty}\))の全運動量が等しいとおいて \(v_{\infty}\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 多数回の非弾性衝突(\(e<1\))を繰り返すと、物体系は最終的に一体となって運動する(相対速度が0になる)状態に近づく。
  • この過程全体を通じて、系全体の運動量は保存されている。
  • 最終状態では、各物体の速度は共通の速度 \(v_{\infty}\) となる。

具体的な解説と立式
最初の打ち出し直後のAの速度は \(+2v_0\)、Bの速度は \(-v_0\) (時計回りを正とする)。
系全体の初期運動量 \(P_{\text{初}}\) は、
$$ P_{\text{初}} = m(2v_0) + m(-v_0) $$
衝突を十分に繰り返した後、AとBが共通の速度 \(v_{\infty}\) で運動するときの系全体の最終運動量 \(P_{\text{後}}\) は、
$$ P_{\text{後}} = mv_{\infty} + mv_{\infty} $$
運動量保存則より \(P_{\text{初}} = P_{\text{後}}\) なので、
$$ m(2v_0) + m(-v_0) = mv_{\infty} + mv_{\infty} $$

使用した物理公式

  • 運動量保存則 (初期状態と最終状態の間で適用)
計算過程

上の運動量保存則の式を整理します。
$$
\begin{aligned}
m(2v_0 – v_0) &= 2mv_{\infty} \\[2.0ex]
mv_0 &= 2mv_{\infty}
\end{aligned}
$$
両辺から \(m\) を消去すると、
$$ v_0 = 2v_{\infty} $$
したがって、共通の速さ(この場合は速度も同じ向きなので)\(v_{\infty}\) は、
$$ v_{\infty} = \frac{1}{2}v_0 $$

この設問の平易な説明

AとBは何度もぶつかり合いますが、跳ね返りが完全ではない(\(e<1\))ため、ぶつかるたびに互いの速さの差が小さくなっていきます。十分に時間が経って何度も衝突を繰り返すと、最終的にはAとBはまるでくっついたかのように同じ速さで動くようになります。この最終状態でも、一番最初にAとBが持っていた「全体の勢い(運動量)」の合計は変わらずに保たれているはずです。「一番最初の全体の運動量 = 最終状態での全体の運動量」という式を立て、そのときの共通の速さを求めます。

結論と吟味

衝突を繰り返していくと、AとBの速さは同じ値 \(\displaystyle \frac{1}{2}v_0\) に近づいていきます。
この値は、初期の全運動量 \(mv_0\) を、AとBの合計質量 \(2m\) で割ったものに等しく、これは2物体が一体となって運動する場合(完全非弾性衝突の最終結果)の速度と同じです。物理的に妥当な結果です。この最終状態では、AとBは時計回りに速さ \(\displaystyle\frac{1}{2}v_0\) で運動し続けることになります。

解答 (4) \(\displaystyle \frac{1}{2}v_0\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動量保存則:
    • 核心: 2物体以上の系において、外力が作用しない(または無視できる)場合、衝突の前後で系全体の運動量のベクトル和が保存される。
    • 適用場面: 本問題では全ての衝突フェーズでこの法則が適用できる。特に問(4)では、初期状態と最終状態の間でも成り立つことを利用した。
  • 反発係数(はね返り係数)の式:
    • 核心: 衝突における跳ね返りの度合いを示す式 \(v_1′ – v_2′ = -e(v_1 – v_2)\)。
    • 適用場面: 運動量保存則と連立させて衝突後の各物体の速度を決定する際に使用した。
  • 相対速度:
    • 核心: 2物体の運動を記述する上で重要な概念。
    • 適用場面: 衝突までの時間計算や、反発係数の定義、衝突の繰り返しによる速度変化の理解に役立つ。
  • 極限状態への収束:
    • 核心: 反発係数が \(e<1\) の場合、衝突を繰り返すことで相対速度が減少し、最終的に共通の速度に収束するという考え方。
    • 適用場面: 問(4)で、衝突を無限に繰り返した後の最終状態を考える際にこの概念を用いた。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 直線上の多重衝突問題。
    • 壁との繰り返し衝突(壁を質量が無限大の物体とみなす)。
    • 気体分子の運動モデルなど、多数の粒子が衝突を繰り返す系の統計的な振る舞いの基礎。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動の向きと座標設定: まず、速度の正負を定義するための一貫した座標軸(または向き)を設定する。
    2. 衝突フェーズの特定: 問題文から何回目の衝突について問われているのか、その直前直後の状態は何かを把握する。
    3. 保存則の適用可否: 運動量保存則が適用できるか(外力は?)、力学的エネルギー保存則が適用できるか(衝突の種類は?摩擦は?)を判断する。
    4. 相対運動の利用: 複数の物体が動く場合、一方から見た他方の運動(相対速度)を考えると、問題が単純化されることがある。
    5. 繰り返しと収束のパターン: 衝突が繰り返される場合、速度がどのように変化していくかのパターン(漸化式など)を見つけられるか、最終的にどのような状態に収束するかを予測する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 速度の向き(符号)の取り扱いミス:
    • 誤解: 最初に設定した正の向きと逆向きの速度を正の値として扱ってしまう。
    • 対策: 最初に座標軸の正の向きを明確に定め、速度が負になる場合もそのまま計算し、最後に速さを問われたら絶対値をとる。
  • 反発係数の式の符号や速度の代入順の誤り:
    • 誤解: \(v_A’ – v_B’ = -e(v_A – v_B)\) のマイナス符号や、添え字(衝突前か後か、物体AかBか)を間違える。
    • 対策: 「衝突後の相対速度 = \(-e \times\) 衝突前の相対速度」と意味で覚えるか、定義式を正確に書く練習をする。
  • 多重衝突における初期条件の誤り:
    • 誤解: 2回目以降の衝突で、衝突直前の速度を間違える(例: 初期の打ち出し速度を再度使ってしまう)。
    • 対策: 衝突の各段階を図示し、直前の状態を正確に把握する。
  • (4)の最終状態の理解不足:
    • 誤解: なぜ共通の速度になるのか(相対速度が0に収束するため)、その際に運動量保存則が初期状態から通して使えるのか(使える)といった点が曖昧になる。
    • 対策: 反発係数 \(e<1\) の意味(エネルギー散逸と相対速度の減少)を理解する。運動量保存則は外力がない限り常に成り立つ強力な法則であることを再認識する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 距離 = 速さ \(\times\) 時間 (相対速度で): (問1)
    • 選定理由: 2物体が互いに近づいて衝突するまでの時間を求めるため。
    • 適用根拠: 等速運動の基本。相対的な速さで相対的な距離を縮めると考える。
  • 運動量保存則: (問2, 3, 4)
    • 選定理由: 物体間の衝突現象を扱う際の最も基本的な法則。
    • 適用根拠: 衝突という短時間に働く内力は外力に比べて非常に大きく、また系全体に働く外力のベクトル和が0(または特定方向で0)である場合、運動量の総和が保存される。
  • 反発係数の式: (問2, 3)
    • 選定理由: 衝突後の各物体の速度を決定するため、運動量保存則だけでは未知数に対して式が一つ足りない。衝突の「跳ね返り具合」という物理的性質を記述する式が必要。
    • 適用根拠: 衝突前後の相対速度の比が一定であるという実験則。
  • 極限状態における運動量保存: (問4)
    • 選定理由: 衝突を無限回繰り返した後の最終的な共通速度を求めるため。
    • 適用根拠: 衝突の全過程を通じて、系全体の運動量は保存され続ける。最終状態もその保存則を満たす。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の取り扱い:
    • 特に注意すべき点: 速度の向きを最初に定義した正負のルールに従って一貫して扱う。特に反発係数の式や運動量保存則の立式で重要。
    • 日頃の練習: 式を立てる際に、必ず図を描いて速度の向きと座標軸を確認する習慣をつける。
  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: 多数の速度記号(\(v_0, v_A, v_B, v_A^{(2)}, v_B^{(2)}, v_{\infty}\))や係数(\(e, m\))が出てくるため、混同しないように注意深く扱う。
    • 日頃の練習: 連立方程式を解く際に、加減法や代入法を正確に行い、計算途中の符号ミスや移項ミスに注意する。
  • 条件の確認と利用:
    • 特に注意すべき点: 問題文で与えられた条件(例: \(0 < e < 1/3\))が、計算結果の物理的な妥当性(例: 速度の向き)の判断に役立つことがある。
    • 日頃の練習: 計算が終わった後、得られた答えが問題の条件を満たしているかを確認する癖をつける。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) \(0 < e < 1/3\) のとき、衝突後も両球が同じ向き(最初にAが進んでいた向き)に進むことは妥当か? また、BがAより速くなることは、次の衝突がBの追突で起こるという記述と整合しているか?
    • (3) 衝突を繰り返すことで、速度の差が小さくなっていく傾向が見られるか?(\(|v_A^{(1)}-v_B^{(1)}| = |-3ev_0| = 3ev_0\), \(|v_A^{(2)}-v_B^{(2)}| = |3e^2v_0|\)。\(e<1\) ならば \(3e^2v_0 < 3ev_0\) なので、相対速度の大きさは減少している。)
    • (4) 最終的な共通速度 \(v_{\infty} = v_0/2\) は、初期の平均速度のような値になっているか?(初期の運動量の合計 \(mv_0\) を全質量 \(2m\) で割った値。)
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし \(e=0\) (完全非弾性衝突) なら、(2)で \(v_A = v_B = v_0/2\)。これは1回目の衝突で共通速度になることを意味し、(4)の結果と一致。
    • もし \(e=1\) (完全弾性衝突) なら、相対速度の大きさは変わらないため、同じ速度には収束しない。本問の条件は \(e<1/3\)。
  • 問題文の記述との整合性:
    • 「衝突後、AとBは同じ向きに運動し、やがてBがAに追いついて2回目の衝突が起き」という記述が、(2)で得られた \(v_A, v_B\) の大小関係と整合しているか。
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問題28 (センター試験)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、鉛直投げ上げ運動と斜方投射、2物体の衝突条件、そして衝突・合体後の運動量保存、さらにはその後の放物運動(水平投射)までを網羅する総合的な力学の問題です。それぞれの運動フェーズで適切な物理法則を選択し、条件を正確に数式化することが求められます。

与えられた条件
  • 小物体A: 質量 \(m\)、P点から鉛直上向きに打ち上げ、初速 \(v\)。
  • 小球B: 質量 \(M\)、Q点から打ち上げ、初速 \(V\)、打ち上げ角度 \(\alpha\)。
  • 初速の関係: \(V > v\)。
  • PQ間の初期距離: (3)では \(l\) として設定。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)。
  • 衝突の詳細 (問4): AとBがそれぞれの最高点で衝突し合体する。
問われていること
  1. AがBと衝突しない場合の、Aの打ち上げから着地までの時間。
  2. BをAに衝突させるために必要な打ち上げ角度 \(\alpha\) に関する条件 (\(\sin\alpha\) の値)。
  3. Aの最高点でAとBが衝突するための、P点とQ点の間の初期距離 \(l\) (\(\alpha\) を用いずに表す)。
  4. Aの最高点でAとBが衝突し合体した直後の、合体物の速度の水平成分と鉛直成分の大きさ。
  5. (4)の合体物が地面に落下したときの、P点からの水平到達距離 \(x\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2) 衝突条件の別解: 相対運動を用いる解法
      • 主たる解法が「常に同じ高さにいる」という条件から鉛直初速度を比較するのに対し、別解ではAから見たBの相対運動を考えます。重力下で運動する2物体間の相対加速度はゼロ、つまり相対運動は等速直線運動になるという性質を利用し、衝突条件を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理的本質の深化: 「Aから見るとBは(重力がないかのように)まっすぐ飛んでくる」という、重力下での放物運動の重要な性質を理解できます。これにより、複雑に見える現象をより単純な物理モデルに置き換える視点が養われます。
    • 解法の一般化: この考え方は、戦闘機から見たミサイルの運動など、より複雑な設定の問題にも応用できる強力な解法テクニックです。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題は、複数の運動形態と事象(鉛直投げ上げ、斜方投射、衝突、合体、水平投射)を段階的に扱います。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 放物運動の解析: 運動を水平方向(等速直線運動)と鉛直方向(等加速度運動)に分解して考えることが基本です。
  2. 衝突の条件: 2物体が衝突するためには、ある時刻において両者の空間座標(位置)が一致する必要があります。
  3. 運動量保存則: 衝突の前後で、系全体の運動量のベクトル和が保存されます(外力の力積が無視できる場合)。
  4. 合体(完全非弾性衝突): 衝突後に物体が一体となる現象です。運動量は保存されますが、力学的エネルギーは一般に大きく失われます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問(1)では、鉛直投げ上げの基本公式を適用します。
  2. 問(2)では、AとBが衝突するための鉛直方向の運動に関する条件を立式します。
  3. 問(3)では、Aが最高点に達する時刻を求め、その時刻にBの水平位置がAと一致するようにPQ間距離 \(l\) を設定します。
  4. 問(4)では、衝突は瞬間的な現象とみなし、衝突直前直後で運動量保存則を水平・鉛直それぞれに適用します。
  5. 問(5)では、問(4)で求めた合体直後の速度と、衝突した高さを初期条件として、地面に落下するまでの水平到達距離を計算します。

問(1)

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