問題151 (芝浦工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ウランの放射性崩壊系列、α崩壊とβ崩壊の回数の特定、特定の崩壊過程における放出粒子や生成核の同定、そして原子核崩壊における運動量保存則とエネルギー分配に関する総合的な問題です。原子核物理の基本的な知識と計算能力が問われます。
- 始原核: \(^{235}_{92}\text{U}\)
- 最終安定核: \(^{207}_{82}\text{Pb}\)
- 崩壊の種類: α崩壊とβ崩壊(問題文からはβ⁻崩壊と解釈するのが自然)
- 第1段階の崩壊: \(^{235}_{92}\text{U} \rightarrow ^{231}_{90}\text{Th} + \text{X}\)
- 続く崩壊系列の一部: \(^{231}_{90}\text{Th} \rightarrow ^{x}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) (ここで \(x\) はPaの質量数、\(y\) はAcの質量数)
- 初期状態: \(^{235}_{92}\text{U}\) 原子核は静止。
- 粒子Xの運動エネルギー: \(K_X = 7.0 \times 10^{-13} \text{ [J]}\)
- 【1】\(^{235}_{92}\text{U}\) が \(^{207}_{82}\text{Pb}\) になるまでのα崩壊の回数。
- 【2】上記過程におけるβ崩壊の回数。
- 【3】粒子Xの正体。
- 【4】崩壊系列における \(x\) の値 (プロトアクチニウム Pa の質量数)。
- 【5】崩壊系列における \(y\) の値 (アクチニウム Ac の質量数)。
- 【6】第1段階の崩壊で生成される \(^{231}_{90}\text{Th}\) 原子核の運動エネルギー。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解き進めるにあたって、以下の物理法則や概念が鍵となります。
- α崩壊とβ崩壊の法則:
- α崩壊: 原子核がα粒子 (\(^{4}_{2}\text{He}\)) を放出し、質量数が4減少し、原子番号が2減少する。
- β崩壊 (β⁻崩壊): 原子核内の中性子が陽子に変わり、電子 (\(e^-\)) と反電子ニュートリノ (\(\bar{\nu}_e\)) を放出する。質量数は変わらず、原子番号が1増加する。
- 原子核反応における保存則: 質量数と原子番号 (電荷) の総和は、反応や崩壊の前後で保存される。
- 運動量保存則: 外力が働かない系では、系の全運動量は保存される。静止した原子核が分裂する場合、分裂片の運動量のベクトル和はゼロとなる。
- 運動エネルギーと質量の関係: 運動量が等しい場合、運動エネルギーは質量に反比例する (\(K = p^2/(2m)\))。
問【1】および問【2】
思考の道筋とポイント
\(^{235}_{92}\text{U}\) が \(^{207}_{82}\text{Pb}\) に変化する過程で、全体の質量数の変化と原子番号の変化を考えます。質量数の変化はα崩壊によってのみ引き起こされるため、まずα崩壊の回数を決定できます。その後、原子番号の変化を考慮してβ崩壊の回数を求めます。
この設問における重要なポイント
- 質量数はα崩壊でのみ変化し (-4)、β崩壊では変化しない。
- 原子番号はα崩壊で (-2)、β崩壊で (+1) 変化する。
- 全体の質量数変化からα崩壊の回数を求める。
- 全体の原子番号変化とα崩壊による原子番号変化からβ崩壊の回数を求める。
具体的な解説と立式
始原核 \(^{235}_{92}\text{U}\) から最終核 \(^{207}_{82}\text{Pb}\) への変化を考えます。
α崩壊の回数を \(N_\alpha\) 回、β崩壊 (β⁻崩壊) の回数を \(N_\beta\) 回とします。
質量数の変化:
質量数は、始状態 \(A_{\text{初}} = 235\) から終状態 \(A_{\text{後}} = 207\) へと変化します。
その差は \(A_{\text{初}} – A_{\text{後}} = 235 – 207 = 28\) です。
α崩壊1回につき質量数は4減少します。β崩壊では質量数は変化しません。
したがって、質量数の変化はα崩壊のみによるので、
$$4 \times N_\alpha = 28 \quad \cdots ①$$
原子番号の変化:
原子番号は、始状態 \(Z_{\text{初}} = 92\) から終状態 \(Z_{\text{後}} = 82\) へと変化します。
α崩壊1回につき原子番号は2減少し、β崩壊1回につき原子番号は1増加します。
したがって、全体の原子番号の変化は、
$$Z_{\text{後}} = Z_{\text{初}} – 2 \times N_\alpha + 1 \times N_\beta$$$$82 = 92 – 2 N_\alpha + N_\beta \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- α崩壊: \(A \rightarrow A-4\), \(Z \rightarrow Z-2\)
- β⁻崩壊: \(A \rightarrow A\), \(Z \rightarrow Z+1\)
【1】α崩壊の回数 \(N_\alpha\):
式① \(4 \times N_\alpha = 28\) より、
$$N_\alpha = \frac{28}{4} = 7 \text{ 回}$$
【2】β崩壊の回数 \(N_\beta\):
式② \(82 = 92 – 2 N_\alpha + N_\beta\) に \(N_\alpha = 7\) を代入します。
$$82 = 92 – 2 \times 7 + N_\beta$$$$82 = 92 – 14 + N_\beta$$$$82 = 78 + N_\beta$$
$$N_\beta = 82 – 78 = 4 \text{ 回}$$
原子核が変化するとき、α崩壊とβ崩壊という2つの主な方法があります。
- α崩壊:質量数が4減り、原子番号が2減ります。
- β崩壊:質量数は変わらず、原子番号が1増えます。
ウラン(\(^{235}_{92}\text{U}\))が鉛(\(^{207}_{82}\text{Pb}\))に変わる変化を見てみましょう。
まず、質量数(左上の数字)の変化に注目します。\(235\) から \(207\) へ、\(235 – 207 = 28\) だけ減っています。質量数が減るのはα崩壊だけなので、α崩壊が何回起きたかを計算します。1回で4減るので、\(28 \div 4 = 7\) 回のα崩壊があったことがわかります。これが【1】の答えです。
次に、原子番号(左下の数字)の変化を見ます。\(92\) から \(82\) へ変わっています。α崩壊が7回起きると、原子番号は \(2 \times 7 = 14\) だけ減ります。そうすると、\(92 – 14 = 78\) になります。しかし、最終的な原子番号は \(82\) です。この差 \(82 – 78 = 4\) は、β崩壊によって原子番号が増えた分です。β崩壊1回で原子番号は1増えるので、4回β崩壊が起きたことになります。これが【2】の答えです。
α崩壊の回数【1】は7回、β崩壊の回数【2】は4回です。
確認:質量数 \(235 – (4 \times 7) = 235 – 28 = 207\)。原子番号 \(92 – (2 \times 7) + (1 \times 4) = 92 – 14 + 4 = 78 + 4 = 82\)。計算は合っています。
問【3】
思考の道筋とポイント
最初の崩壊 \(^{235}_{92}\text{U} \rightarrow ^{231}_{90}\text{Th} + \text{X}\) について、反応の前後で質量数と原子番号が保存されることを利用して、未知の粒子Xの質量数と原子番号を決定します。
この設問における重要なポイント
- 質量数保存則の適用。
- 原子番号保存則の適用。
- 特定された質量数・原子番号から粒子を同定する。
具体的な解説と立式
与えられた最初の崩壊反応は、
$$^{235}_{92}\text{U} \rightarrow ^{231}_{90}\text{Th} + \text{X}$$
です。粒子Xの質量数を \(A_X\)、原子番号を \(Z_X\) とします。
質量数保存則より、
$$235 = 231 + A_X \quad \cdots ③$$原子番号保存則より、$$92 = 90 + Z_X \quad \cdots ④$$
使用した物理公式
- 質量数保存則
- 原子番号保存則
式③ \(235 = 231 + A_X\) より、
$$A_X = 235 – 231 = 4$$式④ \(92 = 90 + Z_X\) より、$$Z_X = 92 – 90 = 2$$
したがって、粒子Xは質量数4、原子番号2の粒子です。これはヘリウム原子核 (\(^{4}_{2}\text{He}\))、すなわちα粒子です。
最初の崩壊は \(^{235}_{92}\text{U} \rightarrow ^{231}_{90}\text{Th} + \text{X}\) と表されています。
質量数(左上の数字)に注目すると、反応前は235です。反応後は \(231 + \text{Xの質量数}\) です。これらが等しいので、Xの質量数は \(235 – 231 = 4\) です。
原子番号(左下の数字)に注目すると、反応前は92です。反応後は \(90 + \text{Xの原子番号}\) です。これらが等しいので、Xの原子番号は \(92 – 90 = 2\) です。
質量数が4で原子番号が2の粒子といえば、ヘリウムの原子核、つまりα粒子です。
【3】は \(^{4}_{2}\text{He}\) (α粒子) です。この崩壊はα崩壊であることがわかります。
問【4】および問【5】
思考の道筋とポイント
与えられた崩壊系列 \(^{231}_{90}\text{Th} \rightarrow ^{x}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) を順に追います。各崩壊ステップで原子番号と質量数がどのように変化するかを見ることで、崩壊の種類を判断し、未知数 \(x\) (Paの質量数) と \(y\) (Acの質量数) を決定します。
この設問における重要なポイント
- 各崩壊段階での原子番号と質量数の変化に注目する。
- 原子番号が1増加し質量数不変ならβ⁻崩壊。
- 原子番号が2減少し質量数が4減少ならα崩壊。
具体的な解説と立式
修正された崩壊系列は \(^{231}_{90}\text{Th} \rightarrow ^{x}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) です。
第1ステップ: \(^{231}_{90}\text{Th} \rightarrow ^{x}_{91}\text{Pa}\) の崩壊
この崩壊では、原子番号が90から91へ1増加しています。質量数は231から \(x\) へ変化しています。
原子番号が1増加するのはβ⁻崩壊の特徴です。β⁻崩壊では質量数は変化しません。
したがって、この崩壊はβ⁻崩壊であり、プロトアクチニウム Pa の質量数 \(x\) は、
$$x = 231 \quad \cdots ⑤$$
この結果、\(^{231}_{91}\text{Pa}\) が生成されます。
第2ステップ: \(^{x}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) の崩壊
上で \(x=231\) とわかったので、この崩壊は \(^{231}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) と書けます。
この崩壊では、原子番号が91から89へ2減少しています。これはα崩壊の特徴です。
α崩壊では質量数は4減少します。元のプロトアクチニウム Pa の質量数は \(x=231\) だったので、生成されるアクチニウム Ac の質量数 \(y\) は、
$$y = x – 4 \quad \cdots ⑥$$
使用した物理公式
- β⁻崩壊: \(A \rightarrow A\), \(Z \rightarrow Z+1\)
- α崩壊: \(A \rightarrow A-4\), \(Z \rightarrow Z-2\)
【4】\(x\) の値 (Paの質量数):
式⑤より、
$$x = 231$$
【5】\(y\) の値 (Acの質量数):
式⑥に \(x = 231\) を代入します。
$$y = 231 – 4 = 227$$
与えられた崩壊の連鎖を順番に見ていきましょう。
まず、\(^{231}_{90}\text{Th} \rightarrow ^{x}_{91}\text{Pa}\) です。
原子番号(左下の数字)が90から91に1増えています。これはβ崩壊です。β崩壊のとき、質量数(左上の数字)は変わりません。なので、Paの質量数である \(x\) は、Thの質量数と同じ231です。これが【4】の答えです。
次に、\(^{x}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) です。上で \(x=231\) とわかったので、これは \(^{231}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) という崩壊です。
原子番号が91から89へと2減っています。これはα崩壊です。α崩壊のとき、質量数は4減ります。元のPaの質量数は231だったので、Acの質量数である \(y\) は \(231-4=227\) となります。これが【5】の答えです。
【4】は \(x=231\)、【5】は \(y=227\) です。各崩壊段階における原子番号と質量数の変化から、崩壊の種類を正しく判断し、未知数を特定できました。
問【6】
思考の道筋とポイント
はじめの \(^{235}_{92}\text{U}\) 原子核は静止しているので、崩壊前の全運動量はゼロです。崩壊後、\(^{231}_{90}\text{Th}\) 原子核と粒子X(α粒子)が放出されますが、運動量保存則により、これら2つの粒子の運動量のベクトル和もゼロでなければなりません。つまり、2つの粒子は互いに反対方向に、同じ大きさの運動量で飛び出します。
運動エネルギー \(K\) と運動量 \(p\)、質量 \(m\) の間には \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) の関係があります。運動量の大きさが等しい場合、運動エネルギーは質量に反比例します。質量の比は、質量数の比で近似できます。
この設問における重要なポイント
- 静止系からの分裂では、運動量保存則が成り立つ。
- 分裂片の運動量の大きさは等しく、向きは逆。
- 運動エネルギーは質量に反比例する (\(K_1/K_2 = m_2/m_1\))。
- 質量の比は質量数の比で近似してよい。
具体的な解説と立式
静止していた \(^{235}_{92}\text{U}\) が崩壊して、\(^{231}_{90}\text{Th}\) (質量 \(M_{\text{Th}}\)) と粒子X (\(^{4}_{2}\text{He}\)、質量 \(m_X\)) になったとします。
\(^{235}_{92}\text{U}\) の初めの運動量は \(0\) です。運動量保存則より、崩壊後の \(^{231}_{90}\text{Th}\) の運動量を \(\vec{p}_{\text{Th}}\)、粒子Xの運動量を \(\vec{p}_X\) とすると、
$$\vec{0} = \vec{p}_{\text{Th}} + \vec{p}_X$$したがって、\(\vec{p}_{\text{Th}} = -\vec{p}_X\) となり、運動量の大きさは等しくなります。$$p_{\text{Th}} = p_X = p \quad (\text{とおく}) \quad \cdots ⑦$$
運動エネルギーは \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) と表せるので、
\(^{231}_{90}\text{Th}\) の運動エネルギー \(K_{\text{Th}}\) は、
$$K_{\text{Th}} = \frac{p^2}{2M_{\text{Th}}} \quad \cdots ⑧$$粒子Xの運動エネルギー \(K_X\) は、$$K_X = \frac{p^2}{2m_X} \quad \cdots ⑨$$式⑧と⑨から \(p^2\) を消去すると、\(p^2 = 2M_{\text{Th}}K_{\text{Th}} = 2m_X K_X\) なので、$$M_{\text{Th}}K_{\text{Th}} = m_X K_X$$よって、$$K_{\text{Th}} = \frac{m_X}{M_{\text{Th}}} K_X \quad \cdots ⑩$$
ここで、\(m_X\) は粒子X(α粒子 \(^{4}_{2}\text{He}\))の質量、\(M_{\text{Th}}\) は \(^{231}_{90}\text{Th}\) の質量です。これらの質量の比は、それぞれの質量数の比で近似できます。
\(m_X \approx 4u\), \(M_{\text{Th}} \approx 231u\) (ここで \(u\) は原子質量単位)。
したがって、\(\displaystyle\frac{m_X}{M_{\text{Th}}} \approx \frac{4}{231}\)。
粒子Xの運動エネルギー \(K_X = 7.0 \times 10^{-13} \text{ [J]}\) が与えられています。
使用した物理公式
- 運動量保存則: \(p_{\text{前}} = p_{\text{後}}\)
- 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\)
- 運動エネルギーの分配比(静止からの分裂時): \(K_1 : K_2 = m_2 : m_1\)
式⑩に、質量数の比と \(K_X\) の値を代入します。
$$K_{\text{Th}} = \frac{4}{231} \times (7.0 \times 10^{-13} \text{ J})$$
$$K_{\text{Th}} = \frac{28}{231} \times 10^{-13} \text{ J}$$
ここで、\(\displaystyle\frac{28}{231}\) を計算します。
\(28 \div 231 \approx 0.121212…\)
よって、
$$K_{\text{Th}} \approx 0.121212… \times 10^{-13} \text{ J}$$これを整理して有効数字2桁で表すと(\(K_X\) が有効数字2桁なので)、$$K_{\text{Th}} \approx 1.212 \times 10^{-14} \text{ J} \approx 1.2 \times 10^{-14} \text{ J}$$
原子核が分裂するとき、もともと止まっていた場合、分裂してできた粒子たちは運動量保存の法則に従って飛び出します。具体的には、2つの粒子に分裂した場合、それらは反対方向に同じ大きさの「勢い」(運動量)で飛び出します。
運動エネルギーは、この「勢い」と「質量」に関係していて、勢いが同じなら、質量が軽い粒子ほど大きな運動エネルギーを持ちます(質量に反比例します)。
今回の分裂では、\(^{235}_{92}\text{U}\) が \(^{231}_{90}\text{Th}\) と粒子X(α粒子 \(^{4}_{2}\text{He}\))に分かれました。
粒子Xの質量(質量数4)は、トリウムThの質量(質量数231)よりもずっと軽いです。
したがって、トリウムThの運動エネルギー \(K_{\text{Th}}\) は、粒子Xの運動エネルギー \(K_X\) に比べて \(\displaystyle\frac{\text{粒子Xの質量}}{\text{トリウムThの質量}}\) 倍になります。
質量の代わりに質量数を使って計算すると、
\(K_{\text{Th}} = \displaystyle\frac{4}{231} \times K_X\)
粒子Xの運動エネルギー \(K_X\) は \(7.0 \times 10^{-13}\) J なので、
\(K_{\text{Th}} = \displaystyle\frac{4}{231} \times (7.0 \times 10^{-13}) \approx 0.1212 \times 10^{-13} \approx 1.2 \times 10^{-14}\) J となります。
【6】の \(^{231}_{90}\text{Th}\) 原子核の運動エネルギーは約 \(1.2 \times 10^{-14} \text{ J}\) です。これは粒子Xの運動エネルギー \(7.0 \times 10^{-13} \text{ J}\) よりも小さく、質量の重い粒子の方が運動エネルギーが小さいという関係 (\(K \propto 1/m\)) と整合しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- α崩壊・β崩壊の法則: 各崩壊で原子番号 \(Z\) と質量数 \(A\) がどのように変化するかを正確に理解していることが、崩壊系列の問題を解く上での大前提です。
- α崩壊: \(A \rightarrow A-4\), \(Z \rightarrow Z-2\)
- β⁻崩壊: \(A \rightarrow A\), \(Z \rightarrow Z+1\)
- 質量数保存則と原子番号保存則: これらは全ての原子核反応や崩壊において厳密に成り立つため、未知の粒子や崩壊回数を決定する際に不可欠なツールです。
- 運動量保存則: 特に、静止している系が分裂する際には、分裂後の各粒子の運動量のベクトル和がゼロになるという形で適用され、放出される粒子の運動方向や速さの比を決定します。
- 運動エネルギーと運動量の関係 (\(K=p^2/2m\)): 運動量保存則と組み合わせることで、分裂片の運動エネルギーの分配(質量の逆比になること)を導き出すことができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 複雑な崩壊系列の解析: 複数のα崩壊とβ崩壊が混在する長い崩壊系列でも、各ステップを丁寧に追うことで最終生成物や途中の核種を特定できます。
- 核分裂反応: 原子核がほぼ等しい大きさの二つ以上の原子核に分裂する際も、運動量保存則やエネルギー保存則(質量欠損と放出エネルギーの関係)が重要になります。
- 粒子の衝突と散乱: 原子核や素粒子の衝突実験においても、運動量保存則とエネルギー保存則は基本的な解析ツールです。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 崩壊系列全体を見渡す: まず始原核と最終核の質量数・原子番号の変化から、α崩壊とβ崩壊の総回数を把握します(問【1】【2】のアプローチ)。
- 個別の崩壊ステップに着目: 各崩壊段階で、質量数と原子番号がどのように変化しているかを確認し、それがα崩壊なのかβ崩壊なのかを判断します(問【3】【4】【5】のアプローチ)。
- 「静止していた」「分裂した」というキーワード: これらは運動量保存則が使える典型的な状況を示唆しています(問【6】のアプローチ)。
- エネルギーに関する問い: 運動エネルギーが問われている場合、運動量保存則と \(K=p^2/2m\) の関係、あるいはエネルギー保存則(特に崩壊エネルギーが関わる場合)を考慮します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- α崩壊とβ崩壊のルールの混同:
- 原子番号や質量数の変化量を間違える(例: β崩壊で質量数も変化させてしまう)。
- 対策: 各崩壊の定義と結果を明確に区別して覚える。簡単な表にまとめておくのも有効。
- 保存則の立式ミス:
- 反応の前後で足し合わせるべき数値を間違える、符号を間違えるなど。
- 対策: 反応式を丁寧に書き出し、各粒子の質量数・原子番号を正確に把握した上で、慎重に方程式を立てる。
- 運動エネルギーの分配:
- 運動エネルギーが質量に比例すると誤解する(正しくは運動量が等しい場合、質量に反比例)。
- 対策: \(K=p^2/2m\) の関係から、\(p\) が一定なら \(K \propto 1/m\) であることを導けるようにしておく。または「軽い方が速く飛んで大きな運動エネルギーを持つ」とイメージで覚える。
- 単位の扱い:
- エネルギーの単位(J、eV、MeVなど)の換算が必要な場合に間違える。本問では[J]で統一。
- 対策: 常に単位を意識し、必要に応じて換算を行う。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 崩壊系列の図示:
- 元素記号を縦軸に原子番号、横軸に中性子数(または質量数)をとった核図表(セグレチャートのようなもの)上で、α崩壊(左下に斜めに移動)やβ⁻崩壊(右上に斜めに移動)の軌跡をイメージすると、系列全体の流れが掴みやすくなります。
- 原子核分裂のイメージ:
- 静止した大きな塊(親核)が、内部からの力で二つ(またはそれ以上)の小さな塊に分裂し、それらが互いに反発し合って飛び去る様子をイメージします。このとき、全体の重心は動かない(運動量保存)ことが重要です。
- 分裂片の質量の違いによって、飛び出す速さや運動エネルギーが異なることを具体的に想像してみましょう。軽い破片は速く、重い破片はゆっくりと。
- 図を描く際の注意点:
- 崩壊反応では、反応前後の原子核と放出される粒子を明確に描く。質量数と原子番号を付記する。
- 運動量保存を考える際は、分裂前後の速度ベクトルを図示すると、向きや大きさの関係が分かりやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- α崩壊・β崩壊の法則:
- 選定理由: 問題文で「αまたはβ崩壊をくり返し」や個別の崩壊過程が記述されているため、これらの法則の適用が必須です。
- 質量数保存則・原子番号保存則:
- 選定理由: 原子核の変換が伴う現象(崩壊、反応)では、常にこれらの保存則が成り立ちます。未知の粒子や核種を決定する際の基本ルールです。
- 運動量保存則:
- 選定理由: 問【6】で「はじめの原子核は静止しており」という条件があり、その後の分裂による粒子の運動エネルギーを問われているため。孤立系での分裂・衝突では運動量保存則が強力な手がかりとなります。
- \(K = p^2/(2m)\) および運動エネルギーの分配比:
- 選定理由: 運動量保存則から各粒子の運動量の関係がわかった後、その運動エネルギーを求めるためにこの関係式を用います。特に静止からの2体分裂では、運動エネルギーが質量の逆比に分配されるという結果は頻用されます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問【1】【2】 (崩壊回数の決定):
- 始原核と最終核の質量数の差を計算し、4で割ることでα崩壊の回数 \(N_\alpha\) を求める。
- 始原核と最終核の原子番号の差を計算する。
- \(N_\alpha\) 回のα崩壊による原子番号の減少分を考慮し、残りの原子番号の変化をβ崩壊で調整するようにしてβ崩壊の回数 \(N_\beta\) を求める。(\(Z_{\text{終}} = Z_{\text{始}} – 2N_\alpha + N_\beta\))
- 問【3】 (粒子Xの特定):
- 与えられた崩壊反応式で、質量数保存の式を立てる。
- 同様に、原子番号保存の式を立てる。
- 上記2式から粒子Xの質量数と原子番号を求め、粒子を同定する。
- 問【4】【5】 (\(x, y\) の特定 (修正済)):
- 崩壊系列の最初のステップ (\(^{231}_{90}\text{Th} \rightarrow ^{x}_{91}\text{Pa}\)) に着目。原子番号の変化から崩壊の種類(β⁻崩壊)を判断し、質量数 \(x\) を決定する。
- 次のステップ (\(^{x}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\)) に着目。原子番号の変化から崩壊の種類(α崩壊)を判断し、質量数 \(y\) を決定する。(\(y = x-4\))
- 問【6】 (運動エネルギーの計算):
- 静止している親核の崩壊なので、運動量保存則を適用 (\(p_{\text{Th}} = p_X\))。
- 運動エネルギーと運動量の関係 \(K=p^2/(2m)\) から、\(K_{\text{Th}}/K_X = m_X/M_{\text{Th}}\) を導く。
- 質量の比を質量数の比で近似 (\(m_X/M_{\text{Th}} \approx A_X/A_{\text{Th}}\))。
- 与えられた \(K_X\) の値と質量数の比を用いて \(K_{\text{Th}}\) を計算する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の確認: 原子番号の変化で、α崩壊なら減少(-2)、β⁻崩壊なら増加(+1)といった符号の扱いに注意する。
- 代入ミス防止: 複数の未知数やステップがある場合、どの値をどこに代入するかを明確にする。
- 分数・小数の計算: 問【6】のような運動エネルギーの比の計算では、分数の約分や小数計算を正確に行う。特に \(10^n\) の指数計算は丁寧に。
- 検算の実施:
- 問【1】【2】では、求めた崩壊回数で実際に質量数と原子番号が合うか確認する。
- 問【6】では、質量の軽い方がエネルギーが大きいという関係になっているか確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理量のオーダー感覚:
- 原子核崩壊で放出される粒子の運動エネルギーは、MeVオーダーが多いですが、ジュール[J]で与えられている場合は換算せずにそのまま扱います。今回の値 (\(10^{-13} \text{ J} \sim 10^{-14} \text{ J}\)) は、MeVに換算すると数MeV程度であり、α崩壊のエネルギーとしては妥当な範囲です。(\(1 \text{ MeV} \approx 1.6 \times 10^{-13} \text{ J}\))
- 保存則の再確認: 全ての問いで、基本的な保存則(質量数、原子番号、運動量)が破られていないかを振り返ることが重要です。
- 問題文の条件の利用漏れがないか: 「静止しており」などの初期条件は、運動量保存則を適用する上で非常に重要なので、見落とさないようにします。
問題152 (立教大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、(1)では原子核のα崩壊とそれに続く光子(γ線)の放出、光子のエネルギー・振動数・運動量、そして運動量保存則を扱い、(2)では電子と陽電子の対消滅における質量とエネルギーの等価性、エネルギー保存則を扱います。原子核物理と現代物理の基本的な概念と計算が問われます。
- 物理定数:
- 電子の質量: \(m_e = 9.1 \times 10^{-31} \text{ [kg]}\)
- 電気素量: \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ [C]}\)
- 真空中の光速: \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ [m/s]}\)
- プランク定数: \(h = 6.6 \times 10^{-34} \text{ [J}\cdot\text{s]}\)
- 解答の有効数字: 数値が整数でない場合は有効数字2桁で記す。
- 設問(1):
- ビスマス \(^{212}_{83}\text{Bi}\) がα崩壊し、タリウム \(^{\text{ア}}_{\text{イ}}\text{Tl}\) となる。
- 崩壊後のタリウムは静止している。
- その後、タリウムがエネルギー \(E_{\gamma} = 4.5 \times 10^5 \text{ eV}\) の光子を1個放出する。
- 設問(2):
- 陽電子は正の電荷をもち、その質量は電子の質量に等しい。
- 静止している陽電子と電子が結合(対消滅)する。
- エネルギーの等しい2個の光子が発生する。
- \(1 \text{ MeV} = 10^6 \text{ eV}\)。
- 【ア】: (1)におけるタリウムの質量数。
- 【イ】: (1)におけるタリウムの原子番号。
- 【ウ】: (1)で放出された光子の振動数 (Hz)。
- 【エ】: (1)で光子放出時にTlに与えられた運動量の大きさ (kg・m/s)。
- 【オ】: (2)で発生した光子1個のエネルギー (MeV)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解き進めるにあたって、以下の物理法則や概念が鍵となります。
- α崩壊の法則: 原子核がα粒子 (\(^{4}_{2}\text{He}\)) を放出すると、質量数が4減少し、原子番号が2減少する。
- 光子のエネルギーと振動数: \(E = h\nu\)
- 光子の運動量: \(p = E/c\)
- 運動量保存則: 外力が働かない系では、系の全運動量は保存される。
- エネルギーの単位換算: \(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\)
- 質量とエネルギーの等価性: \(E = mc^2\)
- エネルギー保存則: エネルギーの総量は形態を変えても常に一定に保たれる。
問【ア】および問【イ】
思考の道筋とポイント
α崩壊では、原子核からα粒子(\(^{4}_{2}\text{He}\))が放出されます。その結果、元の原子核の質量数は4減少し、原子番号は2減少します。このルールをビスマス \(^{212}_{83}\text{Bi}\) に適用して、崩壊後のタリウムの質量数【ア】と原子番号【イ】を求めます。
この設問における重要なポイント
- α崩壊では質量数が4減少する。
- α崩壊では原子番号が2減少する。
具体的な解説と立式
ビスマス \(^{212}_{83}\text{Bi}\) がα崩壊してタリウム \(^{\text{ア}}_{\text{イ}}\text{Tl}\) になる反応を考えます。
α崩壊により、タリウムの質量数【ア】は、
$$\text{【ア】} = (\text{Biの質量数}) – 4 = 212 – 4 \quad \cdots ①$$
タリウムの原子番号【イ】は、
$$\text{【イ】} = (\text{Biの原子番号}) – 2 = 83 – 2 \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- α崩壊の法則: \(A \rightarrow A-4\), \(Z \rightarrow Z-2\)
式①より、【ア】(タリウムの質量数)を計算します。
$$\text{【ア】} = 212 – 4 = 208$$
式②より、【イ】(タリウムの原子番号)を計算します。
$$\text{【イ】} = 83 – 2 = 81$$
α崩壊とは、原子核がヘリウムの原子核(陽子2個、中性子2個の塊)を放出する現象です。ヘリウムの原子核は質量数が4、原子番号が2です。
したがって、元のビスマス(\(^{212}_{83}\text{Bi}\))からα粒子が飛び出すと、
質量数(原子の重さの目安)は4だけ小さくなります。\(212 – 4 = 208\)。これが【ア】です。
原子番号(原子の種類を決める番号)は2だけ小さくなります。\(83 – 2 = 81\)。これが【イ】です。
こうしてできた原子はタリウム(\(^{\text{208}}_{\text{81}}\text{Tl}\))です。
【ア】は208、【イ】は81です。したがって、崩壊後のタリウムは \(^{208}_{81}\text{Tl}\) となります。これはα崩壊の法則に正しく従っています。数値は整数なので有効数字の指示は適用されません。
問【ウ】
思考の道筋とポイント
光子のエネルギー \(E\) と振動数 \(\nu\) の間には \(E = h\nu\) という関係があります。与えられた光子のエネルギーは \(4.5 \times 10^5 \text{ eV}\) です。このエネルギーを、プランク定数 \(h\) の単位 (J・s) に合わせて、ジュール(J)単位に換算する必要があります。\(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\) の関係(電気素量 \(e\) の値を利用)を用います。
この設問における重要なポイント
- 光子のエネルギーと振動数の関係式 \(E=h\nu\)。
- エネルギーの単位 eV と J の換算。
- 有効数字2桁での解答。
具体的な解説と立式
放出された光子のエネルギー \(E_{\text{光子}}\) は \(4.5 \times 10^5 \text{ eV}\) です。
まず、このエネルギーをジュール単位に換算します。電気素量 \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ C}\) を用いて、\(1 \text{ eV} = (1.6 \times 10^{-19} \text{ C}) \times (1 \text{ V}) = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\) となります。
$$E_{\text{光子, J}} = (4.5 \times 10^5 \text{ eV}) \times (1.6 \times 10^{-19} \text{ J/eV}) \quad \cdots ③$$
光子のエネルギー \(E\) と振動数 \(\nu\)、プランク定数 \(h\) の間には \(E = h\nu\) の関係があります。
したがって、光子の振動数【ウ】(\(\nu\)) は、
$$\nu = \frac{E_{\text{光子, J}}}{h} \quad \cdots ④$$
ここで、プランク定数 \(h = 6.6 \times 10^{-34} \text{ J}\cdot\text{s}\) を用います。
使用した物理公式
- 光子のエネルギー: \(E = h\nu\)
- エネルギーの単位換算: \(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\)
式③を用いて、光子のエネルギーをジュールで計算します。
$$E_{\text{光子, J}} = (4.5 \times 1.6) \times 10^{5 + (-19)} \text{ J}$$
$$E_{\text{光子, J}} = 7.2 \times 10^{-14} \text{ J}$$
次に、式④を用いて振動数 \(\nu\) を計算します。
$$\nu = \frac{7.2 \times 10^{-14} \text{ J}}{6.6 \times 10^{-34} \text{ J}\cdot\text{s}}$$
$$\nu = \frac{7.2}{6.6} \times 10^{-14 – (-34)} \text{ Hz}$$
$$\nu = \frac{72}{66} \times 10^{20} \text{ Hz} = \frac{12}{11} \times 10^{20} \text{ Hz}$$
ここで、\(\displaystyle\frac{12}{11} \approx 1.090909…\) です。
問題の指示に従い、有効数字2桁で答えるため、
$$\nu \approx 1.1 \times 10^{20} \text{ Hz}$$
光の粒である「光子」のエネルギー \(E\) は、その振動数 \(\nu\) とプランク定数 \(h\) を使って \(E=h\nu\) と表せます。
問題では、光子のエネルギーが \(4.5 \times 10^5 \text{ eV}\)(電子ボルト)と与えられています。プランク定数 \(h\) の単位がジュール・秒なので、エネルギーもジュール(J)に直す必要があります。\(1 \text{ eV}\) は約 \(1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\) です。
光子のエネルギー (J) \( = (4.5 \times 10^5) \times (1.6 \times 10^{-19}) = 7.2 \times 10^{-14} \text{ J} \)。
これを \(\nu = E/h\) の式に入れて、\(h = 6.6 \times 10^{-34} \text{ J}\cdot\text{s}\) で割ると、
\(\nu = (7.2 \times 10^{-14}) / (6.6 \times 10^{-34}) \approx 1.0909… \times 10^{20} \text{ Hz}\)。
有効数字2桁で答えるので、\(1.1 \times 10^{20} \text{ Hz}\) となります。
【ウ】の光子の振動数は約 \(1.1 \times 10^{20} \text{ Hz}\) です。単位換算、公式の適用、有効数字の処理が適切に行われています。
問【エ】
思考の道筋とポイント
初め静止していたタリウム原子核が光子を放出すると、運動量保存則により、タリウム原子核は光子と反対方向に同じ大きさの運動量を持って反跳します。光子の運動量 \(p_{\text{光子}}\) は、そのエネルギー \(E_{\text{光子}}\) と光速 \(c\) を用いて \(p_{\text{光子}} = E_{\text{光子}}/c\) と表されます。問【ウ】で計算した光子のエネルギー(ジュール単位)を利用するのが効率的です。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則の適用(静止系からの放出)。
- 光子の運動量とエネルギーの関係式 \(p=E/c\)。
- 有効数字2桁での解答。
具体的な解説と立式
タリウム原子核は光子を放出する前は静止していたため、系の初期運動量はゼロです。光子放出後、タリウム原子核が運動量 \(\vec{p}_{\text{Tl}}\) を持ち、光子が運動量 \(\vec{p}_{\text{光子}}\) を持つとすると、運動量保存則より、
$$\vec{0} = \vec{p}_{\text{Tl}} + \vec{p}_{\text{光子}}$$
したがって、タリウム原子核の運動量の大きさと光子の運動量の大きさは等しくなります: \(|\vec{p}_{\text{Tl}}| = |\vec{p}_{\text{光子}}|\)。
よって、タリウム原子核に与えられた運動量の大きさ【エ】は、放出された光子の運動量の大きさに等しいです。
光子の運動量 \(p_{\text{光子}}\) は、そのエネルギー \(E_{\text{光子, J}}\) と光速 \(c\) を用いて次のように表せます。
$$\text{【エ】} = p_{\text{光子}} = \frac{E_{\text{光子, J}}}{c} \quad \cdots ⑤$$
問【ウ】の計算過程で求めた \(E_{\text{光子, J}} = 7.2 \times 10^{-14} \text{ J}\) と、真空中の光速 \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) を用います。
使用した物理公式
- 運動量保存則
- 光子の運動量: \(p = E/c\)
式⑤に値を代入して【エ】を計算します。
$$\text{【エ】} = \frac{7.2 \times 10^{-14} \text{ J}}{3.0 \times 10^8 \text{ m/s}}$$
$$\text{【エ】} = \left(\frac{7.2}{3.0}\right) \times 10^{-14-8} \text{ kg}\cdot\text{m/s}$$
$$\text{【エ】} = 2.4 \times 10^{-22} \text{ kg}\cdot\text{m/s}$$
物体が静止している状態から何かを放出すると、本体は放出物と反対方向に動きます。これは運動量が保存されるためです。この場合、タリウム原子核は光子を放出し、自身はその反動で動きます。タリウムの運動量の大きさと光子の運動量の大きさは等しくなります。
光子の運動量 \(p\) は、そのエネルギー \(E\) を光速 \(c\) で割ったもの、つまり \(p=E/c\) で計算できます。
問【ウ】で計算した光子のエネルギーは \(7.2 \times 10^{-14} \text{ J}\)、光速は \(3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) です。
したがって、光子の運動量は \((7.2 \times 10^{-14}) / (3.0 \times 10^8) = 2.4 \times 10^{-22} \text{ kg}\cdot\text{m/s}\) となります。これがタリウムに与えられた運動量の大きさ【エ】です。
【エ】のタリウムに与えられた運動量の大きさは \(2.4 \times 10^{-22} \text{ kg}\cdot\text{m/s}\) です。運動量保存則と光子の運動量の公式が正しく適用され、有効数字も2桁で適切です。
問【オ】
思考の道筋とポイント
静止している陽電子と電子が対消滅すると、それらが持っていた静止エネルギーの合計が、発生する2個の光子のエネルギーの合計に変換されます(エネルギー保存則)。陽電子の質量は電子の質量 \(m_e\) に等しいので、反応前の全エネルギーは \(m_e c^2 (\text{電子}) + m_e c^2 (\text{陽電子}) = 2m_e c^2\) です。これがエネルギーの等しい2個の光子になるので、光子1個のエネルギーは \( (2m_e c^2) / 2 = m_e c^2 \) となります。この値を計算し、MeV単位に換算します。
この設問における重要なポイント
- 対消滅におけるエネルギー保存則。
- 質量とエネルギーの等価性 \(E=mc^2\)。
- MeV と J の単位換算 (\(1 \text{ MeV} = 1.6 \times 10^{-13} \text{ J}\))。
- 有効数字2桁での解答。
具体的な解説と立式
静止している陽電子(質量 \(m_e\))と電子(質量 \(m_e\))が対消滅し、エネルギーの等しい2個の光子(各光子のエネルギーを \(E_{\text{1光子}}\) とする)が発生します。
エネルギー保存則より、消滅前の全エネルギー(電子と陽電子の静止エネルギーの和)と、消滅後の全エネルギー(2個の光子のエネルギーの和)は等しくなります。
$$m_e c^2 + m_e c^2 = E_{\text{1光子}} + E_{\text{1光子}}$$
$$2 m_e c^2 = 2 E_{\text{1光子}} \quad \cdots ⑥$$
したがって、発生した光子1個のエネルギー \(E_{\text{1光子}}\) は、
$$E_{\text{1光子}} = m_e c^2 \quad \cdots ⑦$$
このエネルギーをまずジュール(J)で計算し、その後MeV(メガ電子ボルト)に換算します。
与えられた値: \(m_e = 9.1 \times 10^{-31} \text{ kg}\), \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)。
換算係数: \(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\), \(1 \text{ MeV} = 10^6 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-13} \text{ J}\)。
ジュールで計算したエネルギーを \(E_{\text{1光子, J}}\) とすると、MeV単位のエネルギー【オ】は、
$$\text{【オ】} = \frac{E_{\text{1光子, J}}}{1.6 \times 10^{-13} \text{ J/MeV}} \quad \cdots ⑧$$
使用した物理公式
- エネルギー保存則
- 質量とエネルギーの等価性: \(E = mc^2\)
- 単位換算: \(1 \text{ MeV} = 1.6 \times 10^{-13} \text{ J}\)
まず、式⑦を用いて光子1個のエネルギー \(E_{\text{1光子, J}}\) をジュール単位で計算します。
$$E_{\text{1光子, J}} = (9.1 \times 10^{-31} \text{ kg}) \times (3.0 \times 10^8 \text{ m/s})^2$$
$$E_{\text{1光子, J}} = (9.1 \times 10^{-31}) \times (9.0 \times 10^{16}) \text{ J}$$
$$E_{\text{1光子, J}} = (9.1 \times 9.0) \times 10^{-31+16} \text{ J}$$
$$E_{\text{1光子, J}} = 81.9 \times 10^{-15} \text{ J} = 8.19 \times 10^{-14} \text{ J}$$
次に、式⑧を用いてこのエネルギーをMeV単位に換算します。
$$\text{【オ】} = \frac{8.19 \times 10^{-14} \text{ J}}{1.6 \times 10^{-13} \text{ J/MeV}}$$
$$\text{【オ】} = \frac{8.19}{1.6} \times 10^{-14 – (-13)} \text{ MeV}$$
$$\text{【オ】} = \frac{8.19}{1.6} \times 10^{-1} \text{ MeV}$$
ここで、\(\displaystyle\frac{8.19}{1.6} = \frac{819}{160} \approx 5.11875\) です。
$$\text{【オ】} \approx 5.11875 \times 10^{-1} \text{ MeV} = 0.511875 \text{ MeV}$$
問題の指示に従い、有効数字2桁で答えるため、
$$\text{【オ】} \approx 0.51 \text{ MeV}$$
電子とその「鏡写し」のような粒子である陽電子がぶつかると、両方とも消えてしまい、その代わりに光のエネルギー(光子)が生まれます。このとき、アインシュタインの \(E=mc^2\) という有名な式に従って、質量がエネルギーに変わります。
電子と陽電子は静止していたので、運動エネルギーはゼロです。持っているのは質量 \(m_e\) による「静止エネルギー」\(m_e c^2\) だけです。2つあるので、消滅前の全エネルギーは \(2m_e c^2\) です。
これが同じエネルギーを持つ2個の光子に変わったので、1個の光子が持つエネルギーは \( (2m_e c^2) / 2 = m_e c^2 \) となります。
電子の質量 \(m_e = 9.1 \times 10^{-31} \text{ kg}\)、光速 \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) を代入して \(m_e c^2\) を計算すると、約 \(8.19 \times 10^{-14} \text{ J}\) となります。
これをMeV(メガ電子ボルト)という単位に直します。\(1 \text{ MeV}\) は \(1.6 \times 10^{-13} \text{ J}\) なので、
エネルギー(MeV) \( = (8.19 \times 10^{-14} \text{ J}) / (1.6 \times 10^{-13} \text{ J/MeV}) \approx 0.511875 \text{ MeV}\)。
有効数字2桁にすると、約 \(0.51 \text{ MeV}\) です。
【オ】の光子1個のエネルギーは約 \(0.51 \text{ MeV}\) です。これは電子(または陽電子)の静止エネルギーとしてよく知られている値であり、物理的に妥当です。計算過程、単位換算、有効数字の処理も適切です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- α崩壊の法則: 質量数と原子番号の変化 (\(A \rightarrow A-4, Z \rightarrow Z-2\))。これは原子核の安定性を理解する上で基本的な崩壊様式の一つです。
- 光子の粒子性(エネルギーと運動量): 光子は波としての性質だけでなく、エネルギー \(E=h\nu\) と運動量 \(p=E/c\) を持つ粒子としても振る舞います。この二重性は現代物理学の根幹です。
- 運動量保存則: 外力が作用しない系において、全運動量は常に保存されます。これは原子核の崩壊や衝突、光子の放出・吸収など、ミクロな世界の現象にも適用される普遍的な法則です。
- 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)): 質量はエネルギーの一形態であり、互いに変換しうるというアインシュタインの発見は、原子核物理学(特に核反応や対消滅・対生成)を理解する上で不可欠です。
- エネルギー保存則: 孤立系において、エネルギーの総量は形態を変えても常に一定に保たれます。対消滅では、粒子の静止エネルギーが光子のエネルギーに変換されます。
- 単位系の理解と換算: 物理量の計算において、エネルギーの単位ジュール(J)と電子ボルト(eV, MeV)の換算は頻繁に現れます。その定義と換算係数を正確に把握することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- β崩壊やγ崩壊を含む原子核反応全般。
- 光電効果、コンプトン散乱など、光子のエネルギーや運動量が関わる現象。
- 素粒子の対生成(高エネルギー光子から粒子と反粒子のペアが生まれる現象)。
- 原子核反応における反応エネルギー(Q値)の計算と、それが生成物の運動エネルギーにどう分配されるか。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 現象の特定: 問題文が記述している物理現象(α崩壊、光子放出、対消滅など)を正確に把握する。
- 保存則の確認: その現象に適用できる保存則(エネルギー保存、運動量保存、質量数保存、原子番号保存など)は何かを考える。
- 関与する粒子とその性質: 電子、陽電子、光子、原子核など、登場する粒子の質量、電荷、エネルギー、運動量の関係式を思い出す。
- 単位の確認: 与えられている数値や定数の単位を確認し、必要に応じて計算前に換算する。特にエネルギー単位(J と eV/MeV) は要注意。
- 初期条件と最終状態: 「静止していた」「衝突した」「消滅した」などの記述から、系の状態変化を明確にする。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単位換算のミス: eV と J の換算係数 (\(1.6 \times 10^{-19}\)) の適用忘れや、指数計算の誤り。
- 対策: 物理定数や換算係数は正確に記憶し、単位もセットで覚える。計算の最初か最後にまとめて換算するなどルールを決める。
- 光子の運動量の扱い: 光子の運動量を \(p=mc\) と誤って計算してしまう(光子に静止質量はない)。
- 対策: 正しくは \(p=E/c\) または \(p=h/\lambda\)。光子の性質(質量0、エネルギー \(h\nu\)、運動量 \(h/\lambda\))を正確に理解する。
- 対消滅・対生成のエネルギー計算: 関与する粒子の数(例: 対消滅で2光子生成)や、エネルギーの分配を誤る。
- 対策: 対消滅・対生成の基本的なプロセスを図で理解し、エネルギー保存則を正しく適用する。
- 運動量保存の適用の誤り: ベクトル量である運動量の向きを考慮しない、またはスカラー量のように扱ってしまう。
- 対策: 図を描いて現象を視覚化し、特にベクトル量は向きも考慮する。
- 有効数字の処理: 指示された有効数字で解答するための丸め処理のタイミングや方法の誤り。
- 対策: 有効数字のルールを再確認し、計算の最終段階で適切に処理する。途中の計算では1桁多く保持すると精度が保たれる。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- (1) α崩壊と光子放出:
- α崩壊では、大きな原子核から小さなα粒子が「飛び出し」、残りの原子核(娘核)ができるイメージ。
- その後、娘核が励起状態にある場合、余分なエネルギーを光子(γ線)として放出して安定な状態に落ち着くイメージ。この際、光子と娘核が互いに反対方向に運動量を持って飛び出す(反跳)様子を図示すると、運動量保存が理解しやすい。
- (2) 電子・陽電子の対消滅:
- 電子と陽電子が近づき、衝突して「消滅」し、その場から2つの光子が正反対の方向に飛び出していくイメージ。これは、元の電子・陽電子対の運動量がゼロ(静止していたため)なので、生成される光子対の全運動量もゼロでなければならないためです。
- 図を描く際の注意点:
- 反応や崩壊の前後で、関与する粒子とそれらの運動量ベクトル(向きと相対的な大きさ)を明確に描く。
- エネルギーの出入りや変換の様子を矢印などで示すと、エネルギー保存の概念が捉えやすくなる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- α崩壊の法則 (\(A-4, Z-2\)): 「α崩壊するビスマス」と明記されているため、この法則を適用して娘核を特定する。
- \(E=h\nu\): 「光子の振動数は」という問いと、光子のエネルギーが与えられていることから、この公式が適切であると判断する。
- \(p=E/c\): 「運動量の大きさは」という問いで、光子のエネルギーが既知である場合、この関係式から光子の運動量を求めるのが最も直接的。
- 運動量保存則: 「静止した」「放出した」という記述から、外力の影響がない(または無視できる)系での運動量の変化を考える際に適用する。
- \(E=mc^2\): 「陽電子と電子は消滅し、エネルギーの等しい2個の光子が発生した」という、質量がエネルギーに変換される典型的な現象であるため、この公式を適用する。エネルギー保存則と組み合わせて用いる。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 【ア】【イ】: α崩壊の定義に基づき、質量数と原子番号の差を計算する。
- 【ウ】:
- 光子のエネルギーをeVからJに換算する (\(E_{\text{J}} = E_{\text{eV}} \times e\))。
- \(E=h\nu\) を \(\nu\) について解き (\(\nu = E/h\))、値を代入して計算する。
- 【エ】:
- 運動量保存則から、Tlの運動量の大きさが光子の運動量の大きさに等しいことを確認する。
- 光子の運動量を \(p=E/c\) で計算する(Eはジュール単位)。
- 【オ】:
- エネルギー保存則から、2光子の全エネルギーが電子と陽電子の静止エネルギーの和 (\(2m_e c^2\)) に等しいことを理解する。
- 光子1個のエネルギーが \(m_e c^2\) であることを導く。
- \(m_e c^2\) をジュール単位で計算する。
- 計算結果をジュールからMeVに換算する (\(\text{値[J]} / (1.6 \times 10^{-13} \text{ J/MeV})\))。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の一貫性: 計算途中では単位をジュール(J)、キログラム(kg)、メートル(m)、秒(s)といった基本単位(または揃えた単位)で行うことを意識する。最終的に求められる単位に換算する。
- 指数計算の正確性: \(10^n \times 10^m = 10^{n+m}\), \(10^n / 10^m = 10^{n-m}\) といった指数法則を確実に適用する。特に符号に注意。
- 定数の値の正確な入力: 与えられた物理定数(\(m_e, e, c, h\))の値を正確に用いる。
- 有効数字の処理: 計算の最終段階で、問題文の指示(整数でない場合は2桁)に従って有効数字を処理する。途中の計算では1桁多く保持すると精度が保たれる。
- 概算による検算: 大きな桁の計算や指数計算では、オーダー(\(10\) の何乗か)が大きくずれていないか概算して確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 【ア】【イ】: 生成されたタリウムの原子番号と質量数が、周期表や核図表上で不自然な値でないか(極端に軽すぎたり重すぎたりしていないか)。
- 【ウ】: 計算された振動数のオーダーが、光子のエネルギーに対して妥当か。X線やγ線の領域になるはず。
- 【エ】: 運動量の値が極端に大きすぎたり小さすぎたりしないか。単位が正しいか (\(\text{kg}\cdot\text{m/s}\))。
- 【オ】: 電子の静止エネルギーとして \(0.511 \text{ MeV}\) は非常に有名な値であり、これに近い値が得られれば計算が正しい可能性が高い。
- 全体を通して、計算結果の物理的な意味を考え、ありえないような値が出ていないかを確認する。例えば、エネルギーや質量が負になる、光速を超える速度になるなど。
問題153 (東海大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、原子核の構造(質量欠損と結合エネルギー)および核反応(特に核融合反応の一種)における質量とエネルギーの関係を扱っています。現代物理学の重要な柱である質量エネルギー等価性の具体的な応用例です。
- 物理量・定数:
- 中性子の質量 (\(m_n\)): \(1.0087 \text{ u}\)
- 陽子の質量 (\(m_p\)): \(1.0073 \text{ u}\)
- リチウムの同位核の質量 (\(m_{\text{Li}}\)): \(6.0135 \text{ u}\)
- 重水素の原子核の質量 (\(m_{\text{D}}\)): \(2.0136 \text{ u}\)
- ヘリウムの原子核の質量 (\(m_{\text{He}}\)): \(4.0015 \text{ u}\)
- 質量とエネルギーの換算係数: \(1 \text{ u} = 931 \text{ MeV}\)
- 反応の概要: リチウムの同位核1個 + 重水素の原子核1個 \(\rightarrow\) ヘリウムの原子核2個
- 解答の指示:
- (c) 【8】は小数点以下第4位まで。
- (d) 【9】は有効数字3桁。
- その他、数値が整数でない場合は有効数字2桁で記す(一般的な指示)。
- 【1】: 重水素原子核の質量欠損 (u)
- 【2】: 重水素原子核の結合エネルギー (MeV)
- 【3】: リチウムの質量数
- 【4】: リチウムの原子番号
- 【5】: 重水素の原子番号
- 【6】: 生成されるヘリウム原子核の個数
- 【7】: ヘリウムの原子番号
- 【8】: 核反応で失われた質量 (u)
- 【9】: 核反応で放出されるエネルギー (MeV)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解き進めるにあたって、以下の物理法則や概念が鍵となります。
- 質量欠損: 原子核を構成する陽子と中性子の質量の総和から、実際の原子核の質量を引いた差。
- 結合エネルギー: 質量欠損に相当するエネルギー。\(1 \text{ u}\) の質量が持つエネルギーが \(931 \text{ MeV}\) であることを利用。
- 原子核反応における保存則: 反応の前後で、質量数と原子番号はそれぞれ保存される。
- 核反応エネルギー (Q値): 核反応によって放出または吸収されるエネルギー。反応前後の質量の総和の差に等しいエネルギーが放出(質量が減少した場合)または吸収(質量が増加した場合)される。
問(a) 【1】および【2】
思考の道筋とポイント
重水素原子核は、陽子1個と中性子1個から構成されます。質量欠損は、これらの構成粒子の質量の合計から、実際の重水素原子核の質量を引いたものです。結合エネルギーは、この質量欠損に \(1 \text{ u} = 931 \text{ MeV}\) の換算係数を掛けて求めます。
この設問における重要なポイント
- 重水素原子核の構成(陽子1個、中性子1個)を把握する。
- 質量欠損 \(\Delta m = (\text{構成粒子の質量和}) – (\text{原子核の質量})\)。
- 結合エネルギー \(E_B = \Delta m \times 931 \text{ MeV}\) (\(\Delta m\) はu単位)。
具体的な解説と立式
重水素原子核 (\(^{2}_{1}\text{H}\)) は、陽子1個と中性子1個から構成されています。
与えられた各粒子の質量は以下の通りです。
- 陽子の質量: \(m_p = 1.0073 \text{ u}\)
- 中性子の質量: \(m_n = 1.0087 \text{ u}\)
- 重水素原子核の質量: \(m_{\text{D}} = 2.0136 \text{ u}\)
重水素原子核の構成粒子の質量の総和 \(m_{\text{構成}}\) は、
$$m_{\text{構成}} = m_p + m_n \quad \cdots ①$$
質量欠損【1】 (\(\Delta m_{\text{D}}\)) は、
$$\text{【1】} = \Delta m_{\text{D}} = m_{\text{構成}} – m_{\text{D}} \quad \cdots ②$$
結合エネルギー【2】 (\(E_{B,\text{D}}\)) は、質量欠損 \(\Delta m_{\text{D}}\) に \(931 \text{ MeV/u}\) を乗じて求めます。
$$\text{【2】} = E_{B,\text{D}} = \Delta m_{\text{D}} \times 931 \text{ (MeV)} \quad \cdots ③$$
使用した物理公式
- 質量欠損の定義
- 結合エネルギーの定義 (\(1 \text{ u} = 931 \text{ MeV}\) を利用)
式①を用いて、構成粒子の質量の総和を計算します。
$$m_{\text{構成}} = 1.0073 \text{ u} + 1.0087 \text{ u} = 2.0160 \text{ u}$$
式②を用いて、質量欠損【1】を計算します。
$$\text{【1】} = \Delta m_{\text{D}} = 2.0160 \text{ u} – 2.0136 \text{ u} = 0.0024 \text{ u}$$
式③を用いて、結合エネルギー【2】を計算します。
$$\text{【2】} = E_{B,\text{D}} = 0.0024 \text{ u} \times 931 \text{ MeV/u} = 2.2344 \text{ MeV}$$
問題文の一般的な指示「数値が整数でない場合は有効数字2桁で記せ」を考慮すると、\(0.0024 \text{ u}\) (有効数字2桁) と \(931 \text{ MeV/u}\) (有効数字3桁) の積なので、結果は有効数字2桁で \(2.2 \text{ MeV}\) となります。
原子核は陽子と中性子でできていますが、原子核全体の重さは、それを構成する陽子と中性子の部品としての重さの合計よりも少し軽くなっています。この「軽くなった重さ」が質量欠損です。
重水素の原子核は陽子1個と中性子1個からできています。陽子の重さ(\(1.0073 \text{ u}\))と中性子の重さ(\(1.0087 \text{ u}\))を足すと \(2.0160 \text{ u}\) です。実際の重水素原子核の重さは \(2.0136 \text{ u}\) なので、質量欠損は \(2.0160 \text{ u} – 2.0136 \text{ u} = 0.0024 \text{ u}\) です。これが【1】の答えです。
この失われた質量はエネルギーに変わり、原子核を結びつけている力(結合エネルギー)になります。\(1 \text{ u}\) の質量は \(931 \text{ MeV}\) のエネルギーに相当するので、結合エネルギーは \(0.0024 \text{ u} \times 931 \text{ MeV/u} = 2.2344 \text{ MeV}\) です。有効数字2桁で答えると \(2.2 \text{ MeV}\) です。これが【2】の答えです。
重水素原子核の質量欠損【1】は \(0.0024 \text{ u}\) です。結合エネルギー【2】は約 \(2.2 \text{ MeV}\) です。
問(b) 【3】~【7】
思考の道筋とポイント
修正された核反応式 \(^{\text{【3】}}_{\text{【4】}}\text{Li} + ^{2}_{\text{【5】}}\text{H} \rightarrow \text{【6】} \times ^{4}_{\text{【7】}}\text{He}\) について、問題文の記述「リチウムの同位核1個と重水素の原子核(質量数2)1個が結合して、2個のヘリウムの原子核(質量数4)を構成する」という情報を基に、各空欄を特定します。リチウムの原子番号は3、水素の原子番号は1、ヘリウムの原子番号は2です。リチウムの同位体の質量数については、与えられたリチウムの質量 \(6.0135 \text{ u}\) が手がかりとなります。
この設問における重要なポイント
- 問題文の情報を正確に読み取り、核反応に関与する粒子を特定する。
- 質量数保存則と原子番号保存則を適用する。
具体的な解説と立式
修正された核反応式は、
$$^{\text{【3】}}_{\text{【4】}}\text{Li} + ^{2}_{\text{【5】}}\text{H} \rightarrow \text{【6】} \times ^{4}_{\text{【7】}}\text{He}$$
問題文の情報から各要素を特定します。
- リチウム (Li): 原子番号は常に3なので、【4】\(=3\)。質量が \(6.0135 \text{ u}\) と与えられており、これは質量数6のリチウム (\(^{6}\text{Li}\)) の質量 (\(m \approx 6.015 \text{ u}\)) に非常に近いため、【3】\(=6\) と判断します。
- 重水素 (H): 質量数は式中で「2」と明記されています。水素の原子番号は常に1なので、【5】\(=1\)。
- ヘリウム (He): 質量数は式中で「4」と明記されています。ヘリウムの原子番号は常に2なので、【7】\(=2\)。
- ヘリウムの個数: 問題文に「2個のヘリウムの原子核を構成する」とあるため、【6】\(=2\)。
したがって、完成した核反応式は、
$$^{6}_{3}\text{Li} + ^{2}_{1}\text{H} \rightarrow 2 \times ^{4}_{2}\text{He}$$
この反応式で質量数と原子番号の保存を確認します。
質量数保存: (左辺) \( \text{【3】} + 2 = 6+2=8\)、(右辺) \( \text{【6】} \times 4 = 2 \times 4 = 8\)。保存されています。
原子番号保存: (左辺) \( \text{【4】} + \text{【5】} = 3+1=4\)、(右辺) \( \text{【6】} \times \text{【7】} = 2 \times 2 = 4\)。保存されています。
使用した物理公式
- 質量数保存則
- 原子番号保存則
上記考察により、
【3】= 6
【4】= 3
【5】= 1
【6】= 2
【7】= 2
となります。
核反応の式では、矢印の左側(反応前)と右側(反応後)で、原子核の記号の左上についている「質量数」の合計と、左下についている「原子番号」の合計がそれぞれ変わりません。
修正された式は \(^{\text{【3】}}_{\text{【4】}}\text{Li} + ^{2}_{\text{【5】}}\text{H} \rightarrow \text{【6】} \times ^{4}_{\text{【7】}}\text{He}\) です。
問題文には、「リチウムの同位核1個」と「重水素の原子核(質量数2)1個」が反応して、「ヘリウムの原子核(質量数4)2個」ができると書かれています。
- リチウム(Li)の原子番号は3です。質量が \(6.0135 \text{ u}\) とあるので、これは質量数6の \(^{6}_{3}\text{Li}\) です。よって【3】=6、【4】=3。
- 重水素は、式で質量数が2と書かれています。水素の原子番号は1なので、【5】=1。
- ヘリウムは、式で質量数が4と書かれています。ヘリウムの原子番号は2なので、【7】=2。
- ヘリウムが2個できると問題文にあるので、【6】=2。
これらを式に当てはめると \(^{6}_{3}\text{Li} + ^{2}_{1}\text{H} \rightarrow 2 \times ^{4}_{2}\text{He}\) となります。
【3】=6, 【4】=3, 【5】=1, 【6】=2, 【7】=2 です。これにより完成する核反応式は \(^{6}_{3}\text{Li} + ^{2}_{1}\text{H} \rightarrow 2 \times ^{4}_{2}\text{He}\) であり、質量数も原子番号も反応の前後で保存されています。
問(c) 【8】
思考の道筋とポイント
この核反応 (\(^{6}_{3}\text{Li} + ^{2}_{1}\text{H} \rightarrow 2 \times ^{4}_{2}\text{He}\)) で失われた質量を計算します。これは、反応前の質量の総和から、反応後の質量の総和を引いたものです。与えられた各原子核の質量値を使用します。答えは小数点以下第4位まで求めます。
この設問における重要なポイント
- 反応前後の総質量を計算し、その差を求める。
- \((\text{失われた質量}) = (\text{反応前の総質量}) – (\text{反応後の総質量})\)。
- 指定された小数点以下の桁数で解答する。
具体的な解説と立式
核反応式 \(^{6}_{3}\text{Li} + ^{2}_{1}\text{H} \rightarrow 2 \times ^{4}_{2}\text{He}\) において、失われた質量【8】(\(\Delta M_{\text{反応}}\)) を計算します。
反応前の質量の総和 \(M_{\text{反応前}}\) は、
$$M_{\text{反応前}} = m_{\text{Li}} + m_{\text{D}} \quad \cdots ④’$$
反応後の質量の総和 \(M_{\text{反応後}}\) は、
$$M_{\text{反応後}} = 2 \times m_{\text{He}} \quad \cdots ⑤’$$
失われた質量【8】(\(\Delta M_{\text{反応}}\)) は、
$$\text{【8】} = \Delta M_{\text{反応}} = M_{\text{反応前}} – M_{\text{反応後}} \quad \cdots ⑥’$$
与えられた質量:
- \(m_{\text{Li}} = 6.0135 \text{ u}\)
- \(m_{\text{D}} = 2.0136 \text{ u}\)
- \(m_{\text{He}} = 4.0015 \text{ u}\)
使用した物理公式
- 核反応における質量変化の計算
式④’より、反応前の質量の総和を計算します。
$$M_{\text{反応前}} = 6.0135 \text{ u} + 2.0136 \text{ u} = 8.0271 \text{ u}$$
式⑤’より、反応後の質量の総和を計算します。
$$M_{\text{反応後}} = 2 \times 4.0015 \text{ u} = 8.0030 \text{ u}$$
式⑥’より、失われた質量【8】を計算します。
$$\text{【8】} = \Delta M_{\text{反応}} = 8.0271 \text{ u} – 8.0030 \text{ u} = 0.0241 \text{ u}$$
答えは小数点以下第4位までという指示に合致しています。
核反応が起こると、反応する前と後で全体の質量が少し変わることがあります。この「失われた質量」がエネルギーに変わります。
今回の反応では、反応前はリチウム(\(6.0135 \text{ u}\))と重水素(\(2.0136 \text{ u}\))なので、合計の質量は \(6.0135 + 2.0136 = 8.0271 \text{ u}\) です。
反応後はヘリウム(\(4.0015 \text{ u}\))が2個できるので、合計の質量は \(2 \times 4.0015 = 8.0030 \text{ u}\) です。
したがって、失われた質量は、反応前の質量から反応後の質量を引いて、\(8.0271 \text{ u} – 8.0030 \text{ u} = 0.0241 \text{ u}\) となります。これが【8】です。
【8】は \(0.0241 \text{ u}\) です。小数点以下第4位までという指定通りです。
問(d) 【9】
思考の道筋とポイント
この核反応で放出されるエネルギーは、(c)で求めた「失われた質量」(反応における質量欠損)に相当するエネルギーです。\(1 \text{ u}\) の質量は \(931 \text{ MeV}\) のエネルギーに相当するという関係を用いて計算します。答えは有効数字3桁で求めます。
この設問における重要なポイント
- 核反応で失われた質量がエネルギーとして放出される。
- \(1 \text{ u} = 931 \text{ MeV}\) の換算係数を正しく用いる。
- 指定された有効数字で解答する。
具体的な解説と立式
核反応で放出されるエネルギー【9】 (\(E_{\text{放出}}\)) は、反応で失われた質量 \(\Delta M_{\text{反応}}\) (問【8】の結果) に、質量とエネルギーの換算係数を乗じて求められます。
$$\text{【9】} = E_{\text{放出}} = \Delta M_{\text{反応}} \times 931 \text{ (MeV)} \quad \cdots ⑦’$$
問【8】より、\(\Delta M_{\text{反応}} = 0.0241 \text{ u}\) です。
使用した物理公式
- 核反応エネルギー: \(Q = \Delta M c^2 = \Delta M \text{ [u]} \times 931 \text{ [MeV/u]}\)
式⑦’に値を代入します。
$$\text{【9】} = E_{\text{放出}} = 0.0241 \text{ u} \times 931 \text{ MeV/u}$$
$$E_{\text{放出}} = 22.4371 \text{ MeV}$$
答えは有効数字3桁で求めよ、との指示なので、小数点第2位を四捨五入します。
$$E_{\text{放出}} \approx 22.4 \text{ MeV}$$
核反応で質量が減ると、その減った分の質量はエネルギーに変わります。このエネルギーが反応によって放出されます。
問題(c)で、この反応で \(0.0241 \text{ u}\) の質量が失われることがわかりました。
そして、\(1 \text{ u}\) の質量は \(931 \text{ MeV}\) のエネルギーに相当すると与えられています。
したがって、放出されるエネルギーは、失われた質量にこの換算係数を掛けて、\(0.0241 \times 931 = 22.4371 \text{ MeV}\) です。
有効数字3桁で答えるので、約 \(22.4 \text{ MeV}\) となります。これが【9】です。
【9】は約 \(22.4 \text{ MeV}\) です。失われた質量をエネルギーに正しく換算しており、有効数字の指示にも従っています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 質量欠損と結合エネルギー: 原子核を構成する陽子と中性子の質量の総和と、実際の原子核の質量との差が質量欠損であり、これが原子核の安定性を示す結合エネルギーに相当する。\(1 \text{ u} = 931 \text{ MeV}\) の関係が重要。
- 原子核反応における保存則: 核反応の前後で、質量数(核子の総数)と原子番号(陽子の総数、つまり電荷)はそれぞれ保存される。
- 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)): 核反応において、反応前後の質量の差(反応による質量欠損)がエネルギーとして放出または吸収される。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 類似問題への応用:
- 他の原子核の結合エネルギーの計算。
- 様々な核融合反応や核分裂反応における放出エネルギーの計算。
- 太陽のエネルギー源である核融合反応に関する問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 「質量欠損」「結合エネルギー」という言葉があれば、(構成粒子の質量和) – (原子核の質量) と \(1 \text{ u} = 931 \text{ MeV}\) を連想する。
- 核反応式が関わる問題では、まず質量数と原子番号の保存則を確認し、未知の粒子や係数を決定する。
- 「放出エネルギー」「反応エネルギー(Q値)」を問われたら、反応前後の質量の総和を比較し、その差からエネルギーを計算する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 質量欠損の計算ミス: 構成粒子の数を間違える、引き算の順序を逆にする。
- 対策: 対象の原子核の構成(陽子数、中性子数)を正確に把握する。常に「(部品の合計重さ) – (完成品の重さ)」と覚える。
- 単位の混同・換算ミス: 原子質量単位(u)とエネルギー単位(MeVやJ)の関係を誤る。
- 対策: \(1 \text{ u} \Leftrightarrow 931 \text{ MeV}\) の換算をしっかり記憶する。
- 核反応式の空欄補充で、どの数字がどの物理量(質量数、原子番号、個数)に対応するかを正確に読み取れない。
- 対策: 核種の表記 (\(^{A}_{Z}X\)) の意味を常に意識し、反応式の各項が何を表しているかを確認する。
- 有効数字の不注意: 問題文で指定された有効数字や小数点以下の桁数を守らない。
- 対策: 計算の最終段階で、問題文の指示を再確認し、適切に処理する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 質量欠損: バラバラのレンガ(陽子・中性子)を積み上げて家(原子核)を作ると、全体の重さが元のレンガの合計より軽くなる、その軽くなった分が家を強固に結びつけている力(結合エネルギー)の源、というイメージ。
- 核反応: 材料(反応前の核種)を混ぜ合わせたら、製品(反応後の核種)と熱(放出エネルギー)が出てきた、という化学反応のようなイメージ。ただし、質量の変化がエネルギーに直結する点が特徴。
- 図示のポイント: 核反応式を図で描く際には、各原子核を円などで表し、内部に質量数や原子番号(あるいは陽子・中性子の数)を明記すると、保存則の確認や質量計算がしやすくなる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 質量欠損 \(\Delta m = (\sum m_{\text{構成粒子}}) – M_{\text{核}}\): 原子核の安定性や結合エネルギーを議論する際の基本的な定義。
- 結合エネルギー \(E_B = \Delta m \times 931 \text{ MeV}\) ( \(\Delta m\) が u 単位の場合): 質量欠損とエネルギーを直接結びつける実用的な式。
- 質量数・原子番号保存則: 核反応を記述する上で普遍的に成り立つ法則。
- 放出エネルギー \(Q = (M_{\text{反応前総質量}} – M_{\text{反応後総質量}}) \times 931 \text{ MeV}\): 核反応に伴うエネルギーの出入りを定量的に評価するための基本式。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (a) 質量欠損・結合エネルギー:
- 対象の原子核(重水素)の構成粒子(陽子、中性子)の数を特定。
- 構成粒子の質量の総和を計算。
- 実際の原子核の質量を引いて、質量欠損を求める【1】。
- 質量欠損に \(931 \text{ MeV/u}\) を乗じて結合エネルギーを求める【2】。
- (b) 核反応式の完成 (修正後):
- 問題文の記述と与えられた核反応式の空欄を照らし合わせる。
- リチウムの原子番号、質量(から質量数)を特定し【3】【4】を埋める。
- 重水素の質量数(式中に固定)、原子番号を特定し【5】を埋める。
- ヘリウムの質量数(式中に固定)、原子番号を特定し【7】を埋める。
- 生成されるヘリウムの個数を問題文から読み取り【6】を埋める。
- 質量数と原子番号の保存を確認する。
- (c) 反応での質量変化:
- 完成した核反応式の左辺(反応物)の全質量を計算。
- 反応式の右辺(生成物)の全質量を計算。
- (反応前の全質量) – (反応後の全質量) を計算し、失われた質量【8】を求める。
- (d) 放出エネルギー:
- (c)で求めた失われた質量【8】に \(931 \text{ MeV/u}\) を乗じて、放出エネルギー【9】を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 数値の正確な読み取り: 問題文に多数の質量値が与えられているため、計算に用いる数値を間違えないように注意深く読み取る。
- 小数点計算の丁寧さ: 質量は小数点以下4桁まで与えられているものが多く、計算過程での桁落ちや丸め誤差に注意する。
- 単位の確認: 質量は(u)、エネルギーは(MeV)で求められていることを意識し、換算係数の適用を間違えない。
- 有効数字の指示の遵守: (c)では小数点以下第4位まで、(d)では有効数字3桁という個別の指示があるので、これを守る。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 質量欠損・結合エネルギーの符号: 通常、安定な原子核の質量欠損や結合エネルギーは正の値となる。
- 放出エネルギーの符号と意味: 核反応で質量が減少した場合(\(\Delta M > 0\))、エネルギーが放出される(\(Q > 0\))。本問では「エネルギーが放出される」とあるので、計算結果も正になるはず。
- 値のオーダー: 計算された結合エネルギーや放出エネルギーが、一般的な原子核現象における値のオーダー(数MeV~数十MeV程度)から大きく外れていないかを確認する。
問題154 (日本大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、2つの重水素原子核が核融合反応を起こし、ヘリウム3原子核と中性子が生成される際のエネルギーと運動量に関する問題です。質量とエネルギーの等価性、運動量保存則、エネルギー保存則といった現代物理学の基本的な概念の理解と応用が問われます。
- 反応物: 2個の重水素原子核 (\(^{2}_{1}\text{H}\))
- 各 \(^{2}_{1}\text{H}\) の初期運動エネルギー: \(K_{\text{H初期}} = 0.26 \text{ MeV}\)
- 衝突形態: 正面衝突
- 生成物: ヘリウム3原子核 (\(^{3}_{2}\text{He}\)) と中性子 (\(^{1}_{0}\text{n}\))
- 反応式: \(^{2}_{1}\text{H} + ^{2}_{1}\text{H} \rightarrow ^{3}_{2}\text{He} + ^{1}_{0}\text{n}\)
- 質量:
- 中性子 (\(m_{\text{n}}\)): \(1.0087 \text{ u}\)
- 重水素原子核 (\(m_{\text{H}}\)): \(2.0136 \text{ u}\)
- ヘリウム3原子核 (\(m_{\text{He}}\)): \(3.0150 \text{ u}\)
- 定数:
- \(1 \text{ u} = 1.7 \times 10^{-27} \text{ kg}\)
- \(1 \text{ MeV} = 1.6 \times 10^{-13} \text{ J}\)
- 光速 \(c = 3.0 \times 10^{8} \text{ m/s}\)
- (1) 質量を失うことによって生じたエネルギーは \(\fbox{ (1) } \text{ [MeV]}\) である。
- (2) 衝突後のヘリウム3原子核の速さ \(V_{\text{He}}\) と中性子の速さ \(v_{\text{n}}\) の比 \(\displaystyle\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}}\) は \(\fbox{ (2) }\) である。
- (3) 中性子の運動エネルギーは \(\fbox{ (3) } \text{ [MeV]}\) である。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは、核反応におけるエネルギーと運動量の保存です。特に、アインシュタインによって示された質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)) が中心的な役割を果たします。核反応では、反応の前後で質量が変化することがあり、その変化した質量がエネルギーに変換されたり、逆にエネルギーが質量に変換されたりします。
この問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 質量欠損と発生エネルギー: 核反応で質量が減少する場合、その減少分 (\(\Delta m\)) に応じてエネルギー (\(E = \Delta m c^2\)) が発生します。
- 運動量保存則: 外力が働かない系では、反応の前後で全運動量は保存されます。これは、反応後の粒子の速度の関係を導くのに役立ちます。
- エネルギー保存則: 反応で発生したエネルギーと、反応前の粒子が持っていた運動エネルギーの合計が、反応後の粒子の運動エネルギーとして分配されます。
これらの法則を理解し、適切に適用することで、各設問に答えることができます。
問題を解くための全体的な戦略と手順
- (1) 発生エネルギーの計算:
まず、反応前後の総質量をそれぞれ計算します。反応前の総質量 (重水素原子核2個分) と反応後の総質量 (ヘリウム3原子核1個と中性子1個分) の差を求め、これを質量欠損 \(\Delta m\) とします。次に、アインシュタインの公式 \(E = \Delta m c^2\) を用いて、質量欠損から発生するエネルギーを計算します。この際、質量の単位を \(\text{u}\) から \(\text{kg}\) へ、エネルギーの単位を \(\text{J}\) から \(\text{MeV}\) へと正しく換算することが重要です。 - (2) 速さの比の計算:
「等しい運動エネルギーをもつ2個の重水素原子核が正面衝突」という条件から、実験室系で考えると、これら2つの重水素原子核は互いに逆向きに同じ速さで衝突し、系の全運動量はゼロであると解釈できます。運動量保存則により、反応後のヘリウム3原子核と中性子からなる系の全運動量もゼロとなります。これは、ヘリウム3原子核と中性子が互いに逆向きに、かつ運動量の大きさが等しくなるように飛び出すことを意味します。この関係から、両者の速さの比を質量の比で表すことができます。 - (3) 中性子の運動エネルギーの計算:
まず、この核反応において、生成物の運動エネルギーとして分配される全エネルギーを求めます。これは、(1)で計算した質量欠損による発生エネルギーと、反応前に2つの重水素原子核が持っていた運動エネルギーの総和です。
次に、この全運動エネルギーが、反応後に生成されたヘリウム3原子核と中性子にどのように分配されるかを考えます。(2)で利用した運動量保存則から、ヘリウム3原子核と中性子の運動量の大きさは等しくなります。運動エネルギー \(K\) は運動量 \(p\) と質量 \(m\) を用いて \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) と表せるため、運動量の大きさが等しい場合、運動エネルギーは質量に反比例して分配されます。この関係を用いて、中性子の運動エネルギーを計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
核反応において、反応物の質量の総和と生成物の質量の総和に差が生じることがあります。この質量の差を質量欠損と呼びます。質量が減少した場合(質量欠損が正の場合)、その失われた質量 \(\Delta m\) はアインシュタインの有名な関係式 \(E = \Delta m c^2\) に従ってエネルギーに変換されます。この問題では、この発生エネルギーを計算し、単位 \(\text{MeV}\) で表します。
この設問における重要なポイント
- 反応前の全質量 \(M_{\text{前}}\) と反応後の全質量 \(M_{\text{後}}\) を、与えられた各原子核・粒子の質量から正確に計算すること。
- 質量欠損 \(\Delta m = M_{\text{前}} – M_{\text{後}}\) を求めること。
- 質量欠損をエネルギーに換算する式 \(E = \Delta m c^2\) を正しく用いること。
- 単位の換算(\(\text{u} \rightarrow \text{kg}\)、\(\text{J} \rightarrow \text{MeV}\))を正確に行うこと。
具体的な解説と立式
反応前の粒子は2個の重水素原子核 (\(^{2}_{1}\text{H}\)) です。それぞれの質量を \(m_{\text{H}}\) とすると、反応前の総質量 \(M_{\text{前}}\) は、
$$M_{\text{前}} = 2 \times m_{\text{H}} \quad \cdots ①$$
反応後の粒子はヘリウム3原子核 (\(^{3}_{2}\text{He}\)) と中性子 (\(^{1}_{0}\text{n}\)) です。それぞれの質量を \(m_{\text{He}}\)、\(m_{\text{n}}\) とすると、反応後の総質量 \(M_{\text{後}}\) は、
$$M_{\text{後}} = m_{\text{He}} + m_{\text{n}} \quad \cdots ②$$
質量欠損 \(\Delta m\) は、反応前の総質量と反応後の総質量の差として定義されるので、
$$\Delta m = M_{\text{前}} – M_{\text{後}} \quad \cdots ③$$
この質量欠損 \(\Delta m\) がエネルギー \(E\) に変換されます。アインシュタインの質量とエネルギーの等価性の式より、
$$E = \Delta m c^2 \quad \cdots ④$$
ここで、\(c\) は光速です。この \(E\) の値を \(\text{MeV}\) 単位で求めることが目標です。
使用した物理公式
- 質量欠損: \(\Delta m = (\text{反応前の質量の総和}) – (\text{反応後の質量の総和})\)
- アインシュタインの質量とエネルギーの等価性: \(E = \Delta m c^2\)
与えられた質量値を代入して、まず反応前後の総質量を計算します。
重水素原子核の質量 \(m_{\text{H}} = 2.0136 \text{ u}\)
ヘリウム3原子核の質量 \(m_{\text{He}} = 3.0150 \text{ u}\)
中性子の質量 \(m_{\text{n}} = 1.0087 \text{ u}\)
式①より、反応前の総質量 \(M_{\text{前}}\) は、
$$M_{\text{前}} = 2 \times 2.0136 \text{ u} = 4.0272 \text{ u}$$
式②より、反応後の総質量 \(M_{\text{後}}\) は、
$$M_{\text{後}} = 3.0150 \text{ u} + 1.0087 \text{ u} = 4.0237 \text{ u}$$
次に、式③を用いて質量欠損 \(\Delta m\) を計算します。
$$\Delta m = M_{\text{前}} – M_{\text{後}} = 4.0272 \text{ u} – 4.0237 \text{ u} = 0.0035 \text{ u}$$
この質量欠損 \(\Delta m\) をエネルギー \(E\) に変換します。式④を用います。
まず、\(\Delta m\) を \(\text{kg}\) 単位に変換します。\(1 \text{ u} = 1.7 \times 10^{-27} \text{ kg}\) なので、
$$\Delta m = 0.0035 \times (1.7 \times 10^{-27} \text{ kg})$$
$$\Delta m = 0.00595 \times 10^{-27} \text{ kg} = 5.95 \times 10^{-30} \text{ kg}$$
光速 \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) を用いて、エネルギー \(E\) を \(\text{J}\) 単位で計算します。
$$E = \Delta m c^2 = (5.95 \times 10^{-30} \text{ kg}) \times (3.0 \times 10^8 \text{ m/s})^2$$
$$E = 5.95 \times 10^{-30} \times 9.0 \times 10^{16} \text{ J}$$
$$E = 53.55 \times 10^{-14} \text{ J} = 5.355 \times 10^{-13} \text{ J}$$
最後に、このエネルギー \(E\) を \(\text{MeV}\) 単位に変換します。\(1 \text{ MeV} = 1.6 \times 10^{-13} \text{ J}\) なので、
$$E = \displaystyle\frac{5.355 \times 10^{-13} \text{ J}}{1.6 \times 10^{-13} \text{ J/MeV}}$$
$$E = \displaystyle\frac{5.355}{1.6} \text{ MeV}$$
$$E \approx 3.346875 \text{ MeV}$$
問題で与えられている数値の有効数字を考慮すると(質量は小数点以下4桁、定数は2桁または3桁)、結果は2桁程度で \(3.3 \text{ MeV}\) とするのが適切です。これは模範解答の数値とも一致します。
- ステップ1: 反応前後の全質量を計算する
- 反応前: 重水素原子核が2個なので、\(2.0136 \text{ u} \times 2 = 4.0272 \text{ u}\)。
- 反応後: ヘリウム3原子核1個と中性子1個なので、\(3.0150 \text{ u} + 1.0087 \text{ u} = 4.0237 \text{ u}\)。
- ステップ2: 失われた質量(質量欠損)を計算する
- 失われた質量 \(\Delta m =\) (反応前の全質量) – (反応後の全質量)
\(= 4.0272 \text{ u} – 4.0237 \text{ u} = 0.0035 \text{ u}\)。
- 失われた質量 \(\Delta m =\) (反応前の全質量) – (反応後の全質量)
- ステップ3: 失われた質量をエネルギーに変換する(まずkgに直してからジュールで計算)
- \(\Delta m\) を \(\text{kg}\) に変換: \(0.0035 \text{ u} \times (1.7 \times 10^{-27} \text{ kg/u}) = 5.95 \times 10^{-30} \text{ kg}\)。
- エネルギー \(E = \Delta m c^2\) を計算:
\(E = (5.95 \times 10^{-30} \text{ kg}) \times (3.0 \times 10^8 \text{ m/s})^2 = 5.355 \times 10^{-13} \text{ J}\)。
- ステップ4: エネルギーをMeVに変換する
- \(E\) を \(\text{MeV}\) に変換: \(\displaystyle\frac{5.355 \times 10^{-13} \text{ J}}{1.6 \times 10^{-13} \text{ J/MeV}} \approx 3.3 \text{ MeV}\)。
質量を失うことによって生じたエネルギーは、約 \(3.3 \text{ MeV}\) です。このエネルギーは、核反応によって解放され、主に生成されたヘリウム3原子核と中性子の運動エネルギーとして現れます。計算過程での単位換算(\(\text{u}\) から \(\text{kg}\)、\(\text{J}\) から \(\text{MeV}\))が正確に行われているか、途中の計算ミスがないかを確認することが大切です。
問(2)
思考の道筋とポイント
問題文には「等しい運動エネルギーをもつ2個の重水素原子核が正面衝突」とあります。2つの粒子が等しい質量と等しい運動エネルギーを持ち、正面衝突(一直線上での衝突)する場合、それらの速さは等しく、互いに逆向きに運動していると考えるのが自然です。この場合、衝突前の系の全運動量はゼロになります。
核反応の前後では、外力が働かなければ系の全運動量は保存されます(運動量保存則)。したがって、反応後の系の全運動量もゼロでなければなりません。反応後にはヘリウム3原子核と中性子が生成されるので、これら2つの粒子は互いに逆向きに、同じ大きさの運動量で飛び出すことになります。この関係から、速さの比を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 衝突前の全運動量がゼロであることを正しく理解する。
- 運動量保存則を適用し、反応後の全運動量もゼロであることを用いる。
- 反応後のヘリウム3原子核の運動量と中性子の運動量の大きさが等しくなることを立式する。
- ヘリウム3原子核の質量を \(m_{\text{He}}\)、速さを \(V_{\text{He}}\)、中性子の質量を \(m_{\text{n}}\)、速さを \(v_{\text{n}}\) とおいて関係式を導く。
具体的な解説と立式
反応前の2つの重水素原子核は、質量が等しく (\(m_{\text{H}}\))、運動エネルギー \(K_{\text{H初期}} = \frac{1}{2} m_{\text{H}} v_{\text{H初期}}^2\) が等しいです。これらが正面衝突し、系の全運動量がゼロとなるためには、互いに逆向きに同じ速さ \(v_{\text{H初期}}\) で運動している必要があります。一方の進行方向を正とすると、系の全運動量 \(P_{\text{前}}\) は、
$$P_{\text{前}} = m_{\text{H}} v_{\text{H初期}} + m_{\text{H}} (-v_{\text{H初期}}) = 0 \quad \cdots ⑤$$
運動量保存則により、反応後の全運動量 \(P_{\text{後}}\) もゼロでなければなりません。
$$P_{\text{後}} = 0 \quad \cdots ⑥$$
反応後、ヘリウム3原子核(質量 \(m_{\text{He}}\)、速さ \(V_{\text{He}}\))と中性子(質量 \(m_{\text{n}}\)、速さ \(v_{\text{n}}\))が生成されます。これらが一直線上を互いに逆向きに運動すると考えられます。ヘリウム3原子核が正の向きに、中性子が負の向きに運動すると仮定すると(逆でも結果は同じ)、反応後の全運動量は、
$$P_{\text{後}} = m_{\text{He}} V_{\text{He}} – m_{\text{n}} v_{\text{n}}$$
運動量保存則 \(P_{\text{後}} = 0\) を適用すると、
$$m_{\text{He}} V_{\text{He}} – m_{\text{n}} v_{\text{n}} = 0$$
したがって、ヘリウム3原子核の運動量の大きさと中性子の運動量の大きさは等しくなります。
$$m_{\text{He}} V_{\text{He}} = m_{\text{n}} v_{\text{n}} \quad \cdots ⑦$$
この式から、速さの比 \(\displaystyle\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}}\) を求めます。
使用した物理公式
- 運動量の定義: \(p = mv\)
- 運動量保存則: \(\sum \vec{p}_{\text{前}} = \sum \vec{p}_{\text{後}}\)
式⑦の両辺を \(v_{\text{n}}\) で割り、さらに \(m_{\text{He}}\) で割ると、速さの比 \(\displaystyle\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}}\) が得られます。
$$\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}} = \frac{m_{\text{n}}}{m_{\text{He}}}$$
与えられた質量値を代入します。
中性子の質量 \(m_{\text{n}} = 1.0087 \text{ u}\)
ヘリウム3原子核の質量 \(m_{\text{He}} = 3.0150 \text{ u}\)
$$\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}} = \frac{1.0087 \text{ u}}{3.0150 \text{ u}} = \frac{1.0087}{3.0150}$$
この値を計算すると、
$$\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}} \approx 0.3345605…$$
模範解答では、この比を近似的に \(\displaystyle\frac{1}{3}\) または \(0.33\) としています。実際に、\(1.0087 / 3.0150 \approx 1/2.989 \approx 1/3\) と近似できます。
有効数字を考慮し、模範解答に合わせて \(0.33\) と答えるのが適切でしょう。
- ステップ1: 反応前の全体の「運動の勢い」(運動量)を考える
- 2つの重水素原子核が同じ運動エネルギーで正面からぶつかるとき、互いの運動の勢いが打ち消しあい、全体の運動量はゼロになります。
- ステップ2: 運動量保存則を使う
- 衝突や反応の前後で、全体の運動の勢いは変わらないという法則(運動量保存則)があります。なので、反応後のヘリウム3と中性子を合わせた運動量もゼロになります。
- ステップ3: 反応後の運動量の関係式を作る
- 全体の運動量がゼロということは、ヘリウム3と中性子は互いに反対方向に飛び出し、それぞれの「質量 × 速さ」の値(運動量の大きさ)が等しくなります。つまり、\(m_{\text{He}} V_{\text{He}} = m_{\text{n}} v_{\text{n}}\) です。
- ステップ4: 速さの比を計算する
- 上の式から、ヘリウム3の速さ \(V_{\text{He}}\) と中性子の速さ \(v_{\text{n}}\) の比は、\(\displaystyle\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}} = \displaystyle\frac{m_{\text{n}}}{m_{\text{He}}}\) となります。これは、速さの比が質量の逆比になることを意味します(軽い方が速い)。
- 数値を代入: \(\displaystyle\frac{1.0087}{3.0150} \approx 0.33\)。
衝突後のヘリウム3原子核の速さと中性子の速さの比 \(\displaystyle\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}}\) は約 \(0.33\) (または \(\displaystyle\frac{1}{3}\)) です。これは、質量の小さい中性子 (\(m_{\text{n}} \approx 1 \text{ u}\)) の方が、質量の大きいヘリウム3原子核 (\(m_{\text{He}} \approx 3 \text{ u}\)) よりも約3倍速く運動することを示しており、直感的にも理解しやすい結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
この核反応で利用可能な全エネルギー(運動エネルギーに変換されるエネルギー)をまず計算します。これは、問1で求めた質量欠損によって生じたエネルギー \(E_{\text{発生}}\) と、反応前に2つの重水素原子核が持っていた運動エネルギーの総和 \(K_{\text{前総和}}\) の合計です。
$$E_{\text{全運動}} = E_{\text{発生}} + K_{\text{前総和}}$$
この \(E_{\text{全運動}}\) が、反応後に生成されたヘリウム3原子核の運動エネルギー \(K_{\text{He}}\) と中性子の運動エネルギー \(K_{\text{n}}\) に分配されます。
$$E_{\text{全運動}} = K_{\text{He}} + K_{\text{n}}$$
問2で見たように、運動量保存則からヘリウム3原子核と中性子の運動量の大きさは等しくなります (\(p_{\text{He}} = p_{\text{n}} = p\))。運動エネルギー \(K\) は \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) と書けるので、運動エネルギーは質量に反比例します。つまり、\(K_{\text{He}} : K_{\text{n}} = m_{\text{n}} : m_{\text{He}}\) という関係が成り立ちます。この比を用いて、全運動エネルギーを分配し、中性子の運動エネルギーを求めます。
この設問における重要なポイント
- 反応によって運動エネルギーに変換される総エネルギーを正しく計算する(発生エネルギー+初期運動エネルギー)。
- 運動量保存則 (\(p_{\text{He}} = p_{\text{n}}\)) を利用する。
- 運動エネルギーと運動量・質量の関係式 \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) を理解し、運動エネルギーが質量に反比例して分配されることを導く。すなわち、\(K_{\text{He}} : K_{\text{n}} = m_{\text{n}} : m_{\text{He}}\)。
- 全運動エネルギーを上記の比に従って分配し、中性子の運動エネルギーを計算する。
具体的な解説と立式
反応前の重水素原子核1個あたりの運動エネルギーは \(K_{\text{H初期}} = 0.26 \text{ MeV}\) です。2個あるので、反応前の全運動エネルギー \(K_{\text{前総和}}\) は、
$$K_{\text{前総和}} = 2 \times K_{\text{H初期}} \quad \cdots ⑧$$
問1で求めた質量欠損による発生エネルギーを \(E_{\text{発生}}\) (約 \(3.3 \text{ MeV}\)) とします。
この反応で、生成物の運動エネルギーとして利用可能になる総エネルギー \(E_{\text{全運動}}\) は、
$$E_{\text{全運動}} = E_{\text{発生}} + K_{\text{前総和}} \quad \cdots ⑨$$
この \(E_{\text{全運動}}\) が、ヘリウム3原子核の運動エネルギー \(K_{\text{He}}\) と中性子の運動エネルギー \(K_{\text{n}}\) の和に等しくなります。
$$E_{\text{全運動}} = K_{\text{He}} + K_{\text{n}} \quad \cdots ⑩$$
運動量保存則から、ヘリウム3原子核と中性子の運動量の大きさは等しく、これを \(p\) とおきます (\(p = m_{\text{He}}V_{\text{He}} = m_{\text{n}}v_{\text{n}}\))。
それぞれの運動エネルギーは、
$$K_{\text{He}} = \frac{p^2}{2m_{\text{He}}} \quad \cdots ⑪$$
$$K_{\text{n}} = \frac{p^2}{2m_{\text{n}}} \quad \cdots ⑫$$
これらの式から、運動エネルギーの比は、
$$\frac{K_{\text{He}}}{K_{\text{n}}} = \frac{p^2 / (2m_{\text{He}})}{p^2 / (2m_{\text{n}})} = \frac{m_{\text{n}}}{m_{\text{He}}} \quad \cdots ⑬$$
したがって、運動エネルギーは質量の逆比で分配されます。つまり、\(K_{\text{He}} : K_{\text{n}} = m_{\text{n}} : m_{\text{He}}\)。
全運動エネルギー \(E_{\text{全運動}}\) をこの比で分配するので、中性子の運動エネルギー \(K_{\text{n}}\) は、総和 \(m_{\text{n}} + m_{\text{He}}\) のうち \(m_{\text{He}}\) の割合を占めることになります(注意:中性子\(K_{\text{n}}\)の相手であるヘリウム\(m_{\text{He}}\)の質量が分子に来る)。
$$K_{\text{n}} = E_{\text{全運動}} \times \frac{m_{\text{He}}}{m_{\text{n}} + m_{\text{He}}} \quad \cdots ⑭$$
使用した物理公式
- エネルギー保存則 (広義): (初期の全エネルギー) = (終状態の全エネルギー)
- 運動エネルギー: \(K = \frac{1}{2}mv^2 = \frac{p^2}{2m}\)
- 運動量保存則から導かれる運動エネルギーの分配比
まず、反応前の全運動エネルギー \(K_{\text{前総和}}\) を計算します。式⑧より、
\(K_{\text{前総和}} = 2 \times 0.26 \text{ MeV} = 0.52 \text{ MeV}\)
次に、運動エネルギーに変換される総エネルギー \(E_{\text{全運動}}\) を計算します。式⑨に、問1の結果 \(E_{\text{発生}} \approx 3.3 \text{ MeV}\) (模範解答に倣いこの値を用います) と上記の \(K_{\text{前総和}}\) を代入します。
\(E_{\text{全運動}} = 3.3 \text{ MeV} + 0.52 \text{ MeV} = 3.82 \text{ MeV}\)
この \(E_{\text{全運動}}\) を、ヘリウム3原子核と中性子に分配します。式⑭を用いて中性子の運動エネルギー \(K_{\text{n}}\) を計算します。
質量の値は \(m_{\text{n}} = 1.0087 \text{ u}\), \(m_{\text{He}} = 3.0150 \text{ u}\) です。
$$K_{\text{n}} = 3.82 \text{ MeV} \times \frac{3.0150 \text{ u}}{1.0087 \text{ u} + 3.0150 \text{ u}}$$
$$K_{\text{n}} = 3.82 \text{ MeV} \times \frac{3.0150}{4.0237}$$
分数の部分を計算すると、
\(\displaystyle\frac{3.0150}{4.0237} \approx 0.749359\)
よって、
\(K_{\text{n}} = 3.82 \text{ MeV} \times 0.749359 \approx 2.86255138 \text{ MeV}\)
模範解答では、質量比を近似的に \(m_{\text{n}} : m_{\text{He}} \approx 1:3\) としています。この近似を用いると、
\(\displaystyle\frac{m_{\text{He}}}{m_{\text{n}} + m_{\text{He}}} \approx \frac{3}{1+3} = \frac{3}{4} = 0.75\)
この近似値を使って計算すると、
\(K_{\text{n}} \approx 3.82 \text{ MeV} \times \displaystyle\frac{3}{4} = 3.82 \text{ MeV} \times 0.75 = 2.865 \text{ MeV}\)
有効数字を考慮し、模範解答の \(2.9 \text{ MeV}\) に合わせると、\(2.865 \text{ MeV}\) を四捨五入して \(2.9 \text{ MeV}\) となります。
- ステップ1: 反応で使える全運動エネルギーを計算する
- まず、反応前に重水素が持っていた運動エネルギーの合計を求めます: \(0.26 \text{ MeV} \times 2 = 0.52 \text{ MeV}\)。
- 次に、(1)で計算した「失われた質量から生じたエネルギー」(約 \(3.3 \text{ MeV}\))と、上の初期運動エネルギーを足し合わせます。これが、反応後にヘリウム3と中性子に分け与えられる全運動エネルギーです: \(3.3 \text{ MeV} + 0.52 \text{ MeV} = 3.82 \text{ MeV}\)。
- ステップ2: 運動エネルギーがどう分配されるかを考える
- ヘリウム3と中性子は、運動量の大きさが等しくなります。
- 運動エネルギーは \(K = p^2/(2m)\) と書けるので、運動量が同じなら、運動エネルギーは質量に反比例します。つまり、軽い粒子ほど多くの運動エネルギーをもらいます。
- 具体的には、ヘリウム3の運動エネルギー (\(K_{\text{He}}\)) と中性子の運動エネルギー (\(K_{\text{n}}\)) の比は、中性子の質量 (\(m_{\text{n}}\)) とヘリウム3の質量 (\(m_{\text{He}}\)) の比、\(K_{\text{He}} : K_{\text{n}} = m_{\text{n}} : m_{\text{He}}\) となります。
- ステップ3: 中性子の運動エネルギーを計算する
- 全運動エネルギー \(3.82 \text{ MeV}\) を、\(m_{\text{n}} : m_{\text{He}}\) の比(おおよそ \(1:3\))で分けます。中性子がもらうのは、全体の質量のうちヘリウム3の質量が占める割合(の逆比の関係から、中性子の運動エネルギーの割合は \(\frac{m_{\text{He}}}{m_{\text{n}} + m_{\text{He}}}\))です。
- \(K_{\text{n}} = 3.82 \text{ MeV} \times \displaystyle\frac{m_{\text{He}}}{m_{\text{n}} + m_{\text{He}}} = 3.82 \text{ MeV} \times \displaystyle\frac{3.0150}{1.0087 + 3.0150} \approx 3.82 \text{ MeV} \times \displaystyle\frac{3}{4} \approx 2.865 \text{ MeV}\)。
- これを四捨五入して \(2.9 \text{ MeV}\) とします。
中性子の運動エネルギーは約 \(2.9 \text{ MeV}\) です。これは、全運動エネルギー \(3.82 \text{ MeV}\) のうち約 \(75\%\) を占めており、質量の小さい中性子が大きな運動エネルギーを持って飛び出すことを示しています。これは、運動量が保存され、運動エネルギーが質量に反比例して分配される結果として理解できます。計算においては、質量比の近似(例:\(m_{\text{n}} : m_{\text{He}} \approx 1:3\))を用いると、模範解答の数値とよく一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)):
- この問題を解く上で最も根幹となるのは、質量がエネルギーの一形態であるというアインシュタインの発見です。核反応では、反応前後の質量の総和がわずかに変化し、この「失われた」あるいは「得られた」質量が莫大なエネルギーとして放出されたり吸収されたりします。
- 本質的な理解のポイントは、「質量そのものがエネルギーを持つ」のではなく、「質量の変化がエネルギーの変化に対応する」という点です。特に核力による結合エネルギーの変化が、質量の変化として観測されます。
- 運動量保存則:
- 外力が作用しない系(または内力が外力に比べて圧倒的に大きい短時間の現象)では、系の全運動量は常に保存されます。これはベクトル量であることに注意が必要です。
- 本問では、反応前の全運動量がゼロであることから、反応後の生成物全体の運動量もゼロとなり、各生成物は互いに逆向きに同じ大きさの運動量で飛び出すことがわかります。この関係が、速度比やエネルギー分配を決定する鍵となります。
- エネルギー保存則 (広義):
- 核反応を含む現象では、運動エネルギーや位置エネルギーだけでなく、質量エネルギーも考慮に入れた広義のエネルギー保存則が成り立ちます。
- 本問では、「反応前の総エネルギー(質量エネルギー+運動エネルギー)」が「反応後の総エネルギー(質量エネルギー+運動エネルギー)」と等しくなります。これを整理すると、「質量欠損による発生エネルギー \(+\) 初期運動エネルギーの総和 \(=\) 終状態の粒子の運動エネルギーの総和」という関係が得られます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 他の核反応: 核分裂反応(例: ウランの核分裂)、アルファ崩壊、ベータ崩壊など、質量欠損が生じるあらゆる核反応における放出エネルギーの計算。
- 粒子の崩壊: 素粒子が他の粒子に崩壊する際にも、質量欠損や運動量保存、エネルギー保存が同様に適用されます。
- 衝突と合体・分裂: 巨視的な物体の非弾性衝突や爆発などでも、運動量保存則は常に有効です。エネルギー保存則は、熱エネルギーの発生などを考慮すれば成り立ちます。
- 相対論的エネルギー・運動量: 粒子が光速に近い速度で運動する場合は、相対論的なエネルギー (\(E=\gamma mc^2\)) と運動量 (\(p=\gamma mv\)) の関係を用いる必要がありますが、基本的な保存則の考え方は共通です。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 反応式の確認: まず、どのような反応が起きているのか、反応物と生成物は何かを正確に把握します。質量数や原子番号の保存も確認しましょう。
- 保存則の適用可能性:
- 運動量保存則: 系に外力が働いていないか(または無視できるか)を確認します。衝突や崩壊のような短時間の現象では、通常、運動量保存則が適用できます。
- エネルギー保存則: どのようなエネルギー形態が関与しているか(質量エネルギー、運動エネルギー、位置エネルギー、熱エネルギーなど)を整理します。
- 初期条件の分析: 「静止状態から分裂」「等しい速度で衝突」など、初期状態に関する記述は、全運動量の計算を単純化する上で非常に重要です。
- 未知数と既知数の整理: 何を求めるべきで、何が与えられているのかを明確にします。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
- 単位の統一と換算: 質量は \(\text{u}\) や \(\text{kg}\)、エネルギーは \(\text{J}\) や \(\text{eV}\) (\(\text{MeV}\), \(\text{GeV}\)) など、様々な単位が用いられます。計算の際は単位を統一するか、適切に換算する必要があります。特に \(c^2\) の因子や、\(\text{u}\) から \(\text{MeV}\) への直接換算係数(\(1 \text{ u} \approx 931.5 \text{ MeV}/c^2\))を知っていると便利な場合がありますが、問題で与えられた換算値を使うのが基本です。
- 近似の利用: 質量比を整数比で近似するような場合は、問題の要求する精度や有効数字を考慮して行います。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- この問題や関連分野で、受験生がよく間違えるポイント、誤解しやすい概念は何か:
- 質量欠損の符号: 発生エネルギーを計算する際、\(\Delta m = (\text{反応前の質量}) – (\text{反応後の質量})\) とすべきところを逆にし、エネルギーが負になるなど。質量が減ればエネルギーが発生(正)します。
- エネルギーと運動量の混同: エネルギーはスカラー量、運動量はベクトル量です。保存則を適用する際にこの違いを意識しないと、特に多次元での運動では誤った結論に至ります。
- 運動エネルギーの分配: 全運動エネルギーが、生成物の質量に比例して分配されると誤解するケースがあります。正しくは、運動量の大きさが等しい場合、運動エネルギーは質量に反比例します(\(K=p^2/2m\))。
- 「失われた」の意味: 質量が「消滅」するのではなく、「エネルギーという別の形態に変わる」と理解することが重要です。
- それを避けるためには、日頃の演習で何を意識すべきか:
- 定義の正確な理解: 質量欠損、運動量、運動エネルギーなどの物理量の定義を正確に覚える。
- 単位を伴った計算: 計算過程で常に単位を意識し、単位の整合性を確認する癖をつける。
- 図を用いた思考: 運動の様子やエネルギーの流れを図で表現し、直感的な理解を助ける。
- 基本法則からの導出: 結果の公式だけを暗記するのではなく、運動量保存則やエネルギー保存則から、必要な関係式(例えばエネルギーの分配比)を自分で導けるように練習する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 核反応のイメージ: 2つの重水素原子核が近づき、合体して新しい原子核(ヘリウム3)と中性子に「変身」するイメージ。この「変身」の際に、質量の帳尻が合わなくなり、余った(あるいは不足した)質量がエネルギーとして放出(吸収)されると捉えます。
- 衝突と分裂のイメージ:
- 反応前: 2つの粒子が一直線上を互いに向かって飛んでくる様子。それぞれの速度ベクトルを矢印で示す。
- 反応後: 生成された2つの粒子が、一直線上を互いに逆方向に飛び去る様子。やはり速度ベクトルを矢印で示す。質量の小さい粒子の方が速く飛ぶイメージを持つと良いでしょう。
- 図への情報の書き込み: 各粒子に質量 (\(m_{\text{H}}\), \(m_{\text{He}}\), \(m_{\text{n}}\))、速度 (\(v_{\text{H初期}}\), \(V_{\text{He}}\), \(v_{\text{n}}\))、運動エネルギー (\(K_{\text{H初期}}\), \(K_{\text{He}}\), \(K_{\text{n}}\)) などの記号を書き込むと、立式がスムーズになります。運動量のベクトルも矢印で書き加えると、運動量保存の理解が深まります。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- ベクトルの向きと大きさを相対的に正しく描く(例:運動量が保存されるなら、反応前後の全運動量ベクトルは等しくなるように)。
- 作用・反作用や運動量保存が成り立つ場合、粒子が互いに押し合う方向や、分裂後の飛び出す方向を明確にする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(E = \Delta m c^2\):
- 選定理由: 問題文に「質量を失うことによって生じたエネルギー」とあり、核反応による質量の変化とエネルギーの関係が問われているため。
- 適用根拠: 原子核の結合エネルギーが変化するような核反応では、質量の変化が観測され、それがエネルギーに転換されるという現代物理学の基本原理に基づいているため。
- 運動量保存則 (\(\sum m\vec{v}_{\text{前}} = \sum m\vec{v}_{\text{後}}\)):
- 選定理由: 衝突や分裂といった相互作用において、相互作用が起こる前後での粒子の速度や運動方向の関係を知りたい場合。
- 適用根拠: 核反応は非常に短時間で起こり、粒子間に働く内力(核力や電磁気力)は、系外から働く外力(もしあれば)に比べて圧倒的に大きいと考えられるため、系全体としては外力の影響を無視でき、全運動量が保存されるとみなせるため。特に、反応前の全運動量がゼロという条件は計算を大幅に簡略化します。
- エネルギー保存則(\(E_{\text{発生}} + \sum K_{\text{前}} = \sum K_{\text{後}}\)):
- 選定理由: 反応で放出されるエネルギーと、反応前後の粒子の運動エネルギーの関係を明らかにしたい場合。
- 適用根拠: 孤立系では、エネルギーの形態が変わってもその総和は一定に保たれるという物理学の普遍的な法則。核反応では質量エネルギーの変化も考慮に入れる必要がある。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問1 (発生エネルギーの導出):
- 現象の把握: 核反応による質量変化がエネルギーに変わる。
- 関連法則の想起: 質量とエネルギーの等価性 (\(E=\Delta mc^2\))。
- 手順の構成:
- 反応前後の全質量を計算する。
- 質量欠損 \(\Delta m\) を求める。
- \(\Delta m\) をエネルギー \(E\) に換算する。
- 単位を \(\text{MeV}\) に揃える。
- 実行と検証: 各ステップで数値を代入し計算。単位換算に注意。
- 問2 (速さの比の導出):
- 現象の把握: 2粒子衝突後の分裂。
- 関連法則の想起: 運動量保存則。
- 手順の構成:
- 反応前の全運動量を評価する(問題条件からゼロと判断)。
- 反応後の全運動量もゼロであるとし、各粒子の運動量の関係式を立てる (\(m_{\text{He}}V_{\text{He}} = m_{\text{n}}v_{\text{n}}\))。
- 速さの比 \(\displaystyle\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}}\) を求める。
- 実行と検証: 質量を代入し比を計算。
- 問3 (中性子の運動エネルギーの導出):
- 現象の把握: 反応エネルギーと初期運動エネルギーが、終状態の粒子の運動エネルギーに分配される。
- 関連法則の想起: エネルギー保存則、運動量保存則、運動エネルギーと運動量の関係 (\(K=p^2/2m\))。
- 手順の構成:
- 反応で運動エネルギーに変わる総量 (\(E_{\text{全運動}} = E_{\text{発生}} + K_{\text{前総和}}\)) を計算する。
- 運動量保存から \(p_{\text{He}}=p_{\text{n}}\) であることを確認。
- \(K=p^2/2m\) より、\(K_{\text{He}}:K_{\text{n}} = m_{\text{n}}:m_{\text{He}}\) の分配比を導く。
- \(E_{\text{全運動}}\) をこの比で分配し、\(K_{\text{n}}\) を計算する。
- 実行と検証: 各エネルギー、質量を代入し計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で、ミスを防ぐために特に注意すべき点はどこだったか:
- 問1: 原子質量単位 \(\text{u}\) から \(\text{kg}\) への換算、および \(\text{J}\) から \(\text{MeV}\) への換算。特に \(10\) のべき乗の計算。光速 \(c\) の二乗の計算。
- 問2: 速さの比を求める際に、分子と分母を逆にしないように注意(\(\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}} = \frac{m_{\text{n}}}{m_{\text{He}}}\))。
- 問3: エネルギーの分配比を正しく理解すること(\(K_{\text{n}}\) を求めるには、分子に \(m_{\text{He}}\) が来る)。質量の値を正確に代入すること。
- 日頃からどのような意識で計算練習に取り組むべきか:
- 単位を必ず書く: 計算の各ステップで単位を明記することで、換算忘れや次元の誤りを発見しやすくなります。
- 概算で見積もる: 詳細な計算に入る前に、おおよその値を予測する習慣をつけると、計算結果が大きくずれた場合に気づきやすくなります。例えば、質量比が \(1:3\) なら、エネルギーもそれに応じて分配されるはず、など。
- 途中式を丁寧に書く: 省略せずに途中式を書くことで、見直しの際にどこで間違えたかを発見しやすくなります。
- 指数の計算ルールの徹底: \(10^A \times 10^B = 10^{A+B}\), \((10^A)^B = 10^{AB}\) などの基本ルールを確実に身につける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- 問1 (発生エネルギー): \(3.3 \text{ MeV}\) という値は、核反応のエネルギーとしては一般的なオーダーです。もしこれが \(10^{-10} \text{ MeV}\) や \(10^{15} \text{ MeV}\) のような極端な値になったら、計算ミスを疑うべきです。
- 問2 (速さの比): \(\displaystyle\frac{V_{\text{He}}}{v_{\text{n}}} \approx \frac{1}{3}\) という結果は、質量の重いヘリウム3の方が遅く、軽い中性子の方が速いことを示しており、運動量保存の観点から妥当です。もし比が \(3\) になっていたら、直感と反するので見直す必要があります。
- 問3 (中性子の運動エネルギー): \(K_{\text{n}} \approx 2.9 \text{ MeV}\) は、全運動エネルギー \(3.82 \text{ MeV}\) の大部分(約 \(3/4\))を占めています。これは、軽い中性子がエネルギーの多くを持っていくという物理的描像と一致します。
- その他:
- 極端なケースを考える: 例えば、もし中性子の質量がヘリウム3に比べて無視できるほど小さかったら、中性子はほぼ全ての運動エネルギーを持っていくはず、などの思考実験をしてみる。
- 単位の確認: 最終的な答えの単位が、求められている物理量の単位と一致しているか常に確認する。
- 有効数字の確認: 問題文の数値の有効数字に合わせて、解答の有効数字も適切に処理する。
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