「良問の風」攻略ガイド(151〜154問):重要問題の解き方と物理の核心をマスター!

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

問題151 (芝浦工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ウランの放射性崩壊系列、α崩壊とβ崩壊の回数の特定、特定の崩壊過程における放出粒子や生成核の同定、そして原子核崩壊における運動量保存則とエネルギー分配に関する総合的な問題です。原子核物理の基本的な知識と計算能力が問われます。

与えられた条件
  • 始原核: \(^{235}_{92}\text{U}\)
  • 最終安定核: \(^{207}_{82}\text{Pb}\)
  • 崩壊の種類: α崩壊とβ崩壊(問題文からはβ⁻崩壊と解釈するのが自然)
  • 第1段階の崩壊: \(^{235}_{92}\text{U} \rightarrow ^{231}_{90}\text{Th} + \text{X}\)
  • 続く崩壊系列の一部: \(^{231}_{90}\text{Th} \rightarrow ^{x}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) (ここで \(x\) はPaの質量数、\(y\) はAcの質量数)
  • 初期状態: \(^{235}_{92}\text{U}\) 原子核は静止。
  • 粒子Xの運動エネルギー: \(K_X = 7.0 \times 10^{-13} \text{ [J]}\)
問われていること
  1. 【1】\(^{235}_{92}\text{U}\) が \(^{207}_{82}\text{Pb}\) になるまでのα崩壊の回数。
  2. 【2】上記過程におけるβ崩壊の回数。
  3. 【3】粒子Xの正体。
  4. 【4】崩壊系列における \(x\) の値 (プロトアクチニウム Pa の質量数)。
  5. 【5】崩壊系列における \(y\) の値 (アクチニウム Ac の質量数)。
  6. 【6】第1段階の崩壊で生成される \(^{231}_{90}\text{Th}\) 原子核の運動エネルギー。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。

この問題を解き進めるにあたって、以下の物理法則や概念が鍵となります。

  1. α崩壊とβ崩壊の法則: 各崩壊で原子番号 \(Z\) と質量数 \(A\) がどのように変化するかを正確に理解していることが不可欠です。
  2. 質量数保存則と原子番号保存則: 全ての原子核反応や崩壊において厳密に成り立つため、未知の粒子や崩壊回数を決定する際に不可欠なツールです。
  3. 運動量保存則: 特に、静止している系が分裂する際には、分裂後の各粒子の運動量のベクトル和がゼロとなるという形で適用されます。
  4. 運動エネルギーと運動量の関係 (\(K=p^2/2m\)): 運動量保存則と組み合わせることで、分裂片の運動エネルギーの分配(質量の逆比になること)を導き出すことができます。

問(1)および問(2)

思考の道筋とポイント
\(^{235}_{92}\text{U}\) が \(^{207}_{82}\text{Pb}\) に変化する過程で、全体の質量数の変化と原子番号の変化を考えます。質量数の変化はα崩壊によってのみ引き起こされるため、まずα崩壊の回数を決定できます。その後、原子番号の変化を考慮してβ崩壊の回数を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 質量数はα崩壊でのみ変化し (-4)、β崩壊では変化しない。
  • 原子番号はα崩壊で (-2)、β崩壊で (+1) 変化する。
  • 全体の質量数変化からα崩壊の回数を求める。
  • 全体の原子番号変化とα崩壊による原子番号変化からβ崩壊の回数を求める。

具体的な解説と立式
α崩壊の回数を \(N_\alpha\) 回、β崩壊 (β⁻崩壊) の回数を \(N_\beta\) 回とします。

質量数の変化:

質量数は、始状態 \(A_{\text{初}} = 235\) から終状態 \(A_{\text{後}} = 207\) へと変化します。
α崩壊1回につき質量数は4減少するので、
$$
\begin{aligned}
4 \times N_\alpha &= 235 – 207 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$

原子番号の変化:

原子番号は、始状態 \(Z_{\text{初}} = 92\) から終状態 \(Z_{\text{後}} = 82\) へと変化します。
α崩壊1回で2減少し、β崩壊1回で1増加するので、
$$
\begin{aligned}
Z_{\text{後}} &= Z_{\text{初}} – 2 \times N_\alpha + 1 \times N_\beta \\[2.0ex]
82 &= 92 – 2 N_\alpha + N_\beta \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • α崩壊: \(A \rightarrow A-4\), \(Z \rightarrow Z-2\)
  • β⁻崩壊: \(A \rightarrow A\), \(Z \rightarrow Z+1\)
計算過程

問(1) α崩壊の回数 \(N_\alpha\):

式①より、
$$
\begin{aligned}
4 N_\alpha &= 28 \\[2.0ex]
N_\alpha &= 7 \text{ 回}
\end{aligned}
$$

問(2) β崩壊の回数 \(N_\beta\):

式②に \(N_\alpha = 7\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
82 &= 92 – 2 \times 7 + N_\beta \\[2.0ex]
82 &= 92 – 14 + N_\beta \\[2.0ex]
82 &= 78 + N_\beta \\[2.0ex]
N_\beta &= 82 – 78 \\[2.0ex]
&= 4 \text{ 回}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ウラン(\(^{235}_{92}\text{U}\))が鉛(\(^{207}_{82}\text{Pb}\))に変わる変化を見てみましょう。
まず、質量数(左上の数字)の変化に注目します。\(235 – 207 = 28\) だけ減っています。質量数が減るのはα崩壊だけなので、α崩壊が何回起きたかを計算します。1回で4減るので、\(28 \div 4 = 7\) 回のα崩壊があったことがわかります。
次に、原子番号(左下の数字)の変化を見ます。α崩壊が7回起きると、原子番号は \(2 \times 7 = 14\) だけ減り、\(92 – 14 = 78\) になります。しかし、最終的な原子番号は \(82\) です。この差 \(82 – 78 = 4\) は、β崩壊によって原子番号が増えた分です。β崩壊1回で原子番号は1増えるので、4回β崩壊が起きたことになります。

結論と吟味

α崩壊の回数【1】は7回、β崩壊の回数【2】は4回です。
確認:質量数 \(235 – (4 \times 7) = 207\)。原子番号 \(92 – (2 \times 7) + (1 \times 4) = 82\)。計算は合っています。

解答 (1) 7
解答 (2) 4

問(3)

思考の道筋とポイント
最初の崩壊 \(^{235}_{92}\text{U} \rightarrow ^{231}_{90}\text{Th} + \text{X}\) について、反応の前後で質量数と原子番号が保存されることを利用して、未知の粒子Xの質量数と原子番号を決定します。
この設問における重要なポイント

  • 質量数保存則の適用。
  • 原子番号保存則の適用。
  • 特定された質量数・原子番号から粒子を同定する。

具体的な解説と立式
与えられた最初の崩壊反応は、
$$
\begin{aligned}
^{235}_{92}\text{U} \rightarrow ^{231}_{90}\text{Th} + \text{X}
\end{aligned}
$$
です。粒子Xの質量数を \(A_X\)、原子番号を \(Z_X\) とします。

質量数保存則より、
$$
\begin{aligned}
235 &= 231 + A_X \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
原子番号保存則より、
$$
\begin{aligned}
92 &= 90 + Z_X \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 質量数保存則
  • 原子番号保存則
計算過程

式③より、
$$
\begin{aligned}
A_X &= 235 – 231 \\[2.0ex]
&= 4
\end{aligned}
$$
式④より、
$$
\begin{aligned}
Z_X &= 92 – 90 \\[2.0ex]
&= 2
\end{aligned}
$$
したがって、粒子Xは質量数4、原子番号2の粒子です。これはヘリウム原子核 (\(^{4}_{2}\text{He}\))、すなわちα粒子です。

この設問の平易な説明

最初の崩壊反応式で、反応の前と後で左上の数字(質量数)と左下の数字(原子番号)の合計がそれぞれ等しくなるように、粒子Xの数字を決めます。質量数は \(235 = 231 + 4\)、原子番号は \(92 = 90 + 2\) となるので、Xは質量数4、原子番号2の粒子、つまりα粒子です。

結論と吟味

【3】は \(^{4}_{2}\text{He}\) (α粒子) です。この崩壊はα崩壊であることがわかります。

解答 (3) \(^{4}_{2}\text{He}\) (または α粒子)

問(4)および問(5)

思考の道筋とポイント
与えられた崩壊系列 \(^{231}_{90}\text{Th} \rightarrow ^{x}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) を順に追います。各崩壊ステップで原子番号と質量数がどのように変化するかを見ることで、崩壊の種類を判断し、未知数 \(x\) と \(y\) を決定します。
この設問における重要なポイント

  • 各崩壊段階での原子番号と質量数の変化に注目する。
  • 原子番号が1増加し質量数不変ならβ⁻崩壊。
  • 原子番号が2減少し質量数が4減少ならα崩壊。

具体的な解説と立式
第1ステップ: \(^{231}_{90}\text{Th} \rightarrow ^{x}_{91}\text{Pa}\) の崩壊

この崩壊では、原子番号が90から91へ1増加しています。これはβ⁻崩壊の特徴です。β⁻崩壊では質量数は変化しません。
したがって、
$$
\begin{aligned}
x &= 231 \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$

第2ステップ: \(^{x}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) の崩壊

上で \(x=231\) とわかったので、この崩壊は \(^{231}_{91}\text{Pa} \rightarrow ^{y}_{89}\text{Ac}\) です。
この崩壊では、原子番号が91から89へと2減少しています。これはα崩壊の特徴です。α崩壊では質量数は4減少します。
したがって、
$$
\begin{aligned}
y &= x – 4 \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • β⁻崩壊: \(A \rightarrow A\), \(Z \rightarrow Z+1\)
  • α崩壊: \(A \rightarrow A-4\), \(Z \rightarrow Z-2\)
計算過程

問(4) \(x\) の値:

式⑤より、
$$
\begin{aligned}
x &= 231
\end{aligned}
$$

問(5) \(y\) の値:

式⑥に \(x = 231\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
y &= 231 – 4 \\[2.0ex]
&= 227
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

崩壊の連鎖を順番に見ていきましょう。まず、ThがPaに変わるとき、原子番号が90から91に1増えています。これはβ崩壊なので、質量数は変わりません。よって \(x=231\) です。次に、PaがAcに変わるとき、原子番号が91から89に2減っています。これはα崩壊なので、質量数は4減ります。よって \(y = 231 – 4 = 227\) です。

結論と吟味

【4】は \(x=231\)、【5】は \(y=227\) です。各崩壊段階における原子番号と質量数の変化から、崩壊の種類を正しく判断し、未知数を特定できました。

解答 (4) 231
解答 (5) 227

問(6)

思考の道筋とポイント
はじめの \(^{235}_{92}\text{U}\) 原子核は静止しているので、崩壊前の全運動量はゼロです。崩壊後、\(^{231}_{90}\text{Th}\) 原子核と粒子X(α粒子)が放出されますが、運動量保存則により、これら2つの粒子の運動量のベクトル和もゼロでなければなりません。つまり、2つの粒子は互いに反対方向に、同じ大きさの運動量で飛び出します。
運動エネルギー \(K\) と運動量 \(p\)、質量 \(m\) の間には \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) の関係があります。運動量の大きさが等しい場合、運動エネルギーは質量に反比例します。質量の比は、質量数の比で近似できます。
この設問における重要なポイント

  • 静止系からの分裂では、運動量保存則が成り立つ。
  • 分裂片の運動量の大きさは等しく、向きは逆。
  • 運動エネルギーは質量に反比例する (\(K_1/K_2 = m_2/m_1\))。
  • 質量の比は質量数の比で近似してよい。

具体的な解説と立式
静止していた \(^{235}_{92}\text{U}\) が崩壊して、\(^{231}_{90}\text{Th}\) (質量 \(M_{\text{Th}}\)) と粒子X (\(^{4}_{2}\text{He}\)、質量 \(m_X\)) になったとします。
運動量保存則より、崩壊後の \(^{231}_{90}\text{Th}\) の運動量を \(\vec{p}_{\text{Th}}\)、粒子Xの運動量を \(\vec{p}_X\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\vec{0} &= \vec{p}_{\text{Th}} + \vec{p}_X
\end{aligned}
$$
したがって、運動量の大きさは等しくなります。
$$
\begin{aligned}
p_{\text{Th}} &= p_X = p
\end{aligned}
$$
運動エネルギーは \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) と表せるので、
$$
\begin{aligned}
M_{\text{Th}}K_{\text{Th}} &= m_X K_X
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
K_{\text{Th}} &= \displaystyle\frac{m_X}{M_{\text{Th}}} K_X \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
質量の比は質量数の比で近似できるので、\(\displaystyle\frac{m_X}{M_{\text{Th}}} \approx \frac{4}{231}\) とします。

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\)
  • 運動エネルギーの分配比(静止からの分裂時): \(K_1 : K_2 = m_2 : m_1\)
計算過程

式⑦に、質量数の比と \(K_X = 7.0 \times 10^{-13} \text{ J}\) の値を代入します。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{Th}} &= \frac{4}{231} \times (7.0 \times 10^{-13}) \\[2.0ex]
&= \frac{28}{231} \times 10^{-13} \\[2.0ex]
&\approx 0.1212 \times 10^{-13} \\[2.0ex]
&= 1.212 \times 10^{-14} \text{ J}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で丸めると、
$$
\begin{aligned}
K_{\text{Th}} &\approx 1.2 \times 10^{-14} \text{ J}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

もともと止まっていた原子核が分裂するとき、運動量の保存から、分裂した2つの粒子は反対方向に同じ「勢い」(運動量)で飛び出します。運動エネルギーは、勢いが同じなら、質量が軽い粒子ほど大きくなります(質量に反比例)。分裂した粒子はα粒子(質量数4)とTh(質量数231)なので、Thの運動エネルギーは、α粒子の運動エネルギーの \(4/231\) 倍になります。与えられたα粒子の運動エネルギーに \(4/231\) を掛けて計算します。

結論と吟味

【6】の \(^{231}_{90}\text{Th}\) 原子核の運動エネルギーは約 \(1.2 \times 10^{-14} \text{ J}\) です。これは粒子Xの運動エネルギー \(7.0 \times 10^{-13} \text{ J}\) よりも小さく、質量の重い粒子の方が運動エネルギーが小さいという関係 (\(K \propto 1/m\)) と整合しています。

解答 (6) \(1.2 \times 10^{-14}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 原子核反応における保存則(質量数と原子番号):
    • 核心: 問(1)から(5)までを貫く最も基本的な法則です。原子核反応や崩壊の前後で、核子(陽子と中性子)の総数である「質量数」と、電荷の総量である「原子番号」がそれぞれ保存されるという原理を理解し、適用できるかが問われます。
    • 理解のポイント:
      1. 質量数保存: 反応に関わる粒子の質量数(左上の数字)の和は、反応の前後で変わりません。
      2. 電荷保存(原子番号保存): 反応に関わる粒子の電荷の総和(左下の数字の和)は、反応の前後で変わりません。
  • α崩壊・β崩壊の法則:
    • 核心: 質量数と原子番号の保存則を、具体的な崩壊現象に適用したものです。各崩壊でどの粒子が放出され、その結果として原子番号と質量数がどう変化するかを正確に記憶している必要があります。
    • 理解のポイント:
      • α崩壊: \(^{4}_{2}\text{He}\)を放出 → 質量数-4, 原子番号-2
      • β⁻崩壊: \(e^-\)を放出 → 質量数不変, 原子番号+1
  • 運動量保存則:
    • 核心: 問(6)で問われる、静止した原子核が分裂する際のエネルギー分配を決定する法則です。分裂前の全運動量がゼロであるため、分裂後の粒子群の運動量のベクトル和もゼロになります。
    • 理解のポイント:
      1. 静止からの分裂: 2つの粒子に分裂する場合、それらは互いに逆向きに、同じ大きさの運動量で飛び出します。
      2. 運動エネルギーとの関係: 運動エネルギーは \(K=p^2/2m\) で与えられるため、運動量の大きさが等しい場合、運動エネルギーは質量に反比例します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 複雑な崩壊系列の解析: 複数のα崩壊とβ崩壊が混在する長い崩壊系列でも、各ステップを丁寧に追うことで最終生成物や途中の核種を特定できます。
    • 核分裂反応: 原子核がほぼ等しい大きさの二つ以上の原子核に分裂する際も、運動量保存則やエネルギー保存則(質量欠損と放出エネルギーの関係)が重要になります。
    • 粒子の衝突と散乱: 原子核や素粒子の衝突実験においても、運動量保存則とエネルギー保存則は基本的な解析ツールです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 崩壊系列全体を見渡す: まず始原核と最終核の質量数・原子番号の変化から、α崩壊とβ崩壊の総回数を把握します(問(1),(2)のアプローチ)。
    2. 個別の崩壊ステップに着目: 各崩壊段階で、質量数と原子番号がどのように変化しているかを確認し、それがα崩壊なのかβ崩壊なのかを判断します(問(3),(4),(5)のアプローチ)。
    3. 「静止していた」「分裂した」というキーワード: これらは運動量保存則が使える典型的な状況を示唆しています(問(6)のアプローチ)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • α崩壊とβ崩壊のルールの混同:
    • 誤解: 原子番号や質量数の変化量を間違える(例: β崩壊で質量数も変化させてしまう)。
    • 対策: 各崩壊の定義と結果を明確に区別して覚える。簡単な表にまとめておくのも有効。
  • 保存則の立式ミス:
    • 誤解: 反応の前後で足し合わせるべき数値を間違える、符号を間違えるなど。
    • 対策: 反応式を丁寧に書き出し、各粒子の質量数・原子番号を正確に把握した上で、慎重に方程式を立てる。
  • 運動エネルギーの分配:
    • 誤解: 運動エネルギーが質量に比例すると誤解する(正しくは運動量が等しい場合、質量に反比例)。
    • 対策: \(K=p^2/2m\) の関係から、\(p\) が一定なら \(K \propto 1/m\) であることを導けるようにしておく。または「軽い方が速く飛んで大きな運動エネルギーを持つ」とイメージで覚える。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 質量数保存則・原子番号保存則:
    • 選定理由: 設問(1)~(5)は原子核の変換が伴う現象(崩壊)であり、反応の前後で保存される基本的な量に着目する必要があるため。
    • 適用根拠: これらは素粒子反応や原子核反応において普遍的に成り立つ法則です。原子番号保存は電荷保存則に、質量数保存は(厳密ではないが高校範囲では)核子の総数が保存されることに対応します。
  • 運動量保存則:
    • 選定理由: 設問(6)で「はじめの原子核は静止しており」という条件があり、その後の分裂による粒子の運動エネルギーを問われているため。
    • 適用根拠: 孤立系での分裂・衝突では、内力のみが働くため、系の全運動量は保存されます。
  • \(K = p^2/(2m)\) および運動エネルギーの分配比:
    • 選定理由: 運動量保存則から各粒子の運動量の関係がわかった後、その運動エネルギーを求めるためにこの関係式を用います。
    • 適用根拠: 運動エネルギーの定義式 \(K=\frac{1}{2}mv^2\) と運動量の定義式 \(p=mv\) から導かれる、物理学の基本的な関係式だからです。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: 原子番号の変化で、α崩壊なら減少(-2)、β⁻崩壊なら増加(+1)といった符号の扱いに注意します。
    • 日頃の練習: 各崩壊様式について、\(Z\)と\(A\)の変化を「\(+1\)」「\(-4\)」のように符号付きで覚えるようにします。
  • 代入ミス防止:
    • 特に注意すべき点: 複数の未知数やステップがある場合、どの値をどこに代入するかを明確にします。特に(2)で(1)の結果を使う場面など。
    • 日頃の練習: 複雑な問題では、求めた中間結果(例:\(N_\alpha=7\))を問題用紙の余白に大きくメモし、次の計算で参照しやすくします。
  • 分数・小数の計算:
    • 特に注意すべき点: 問(6)のような運動エネルギーの比の計算では、分数の約分や小数計算を正確に行います。特に \(10^n\) の指数計算は丁寧に。
    • 日頃の練習: 指数を含む計算では、数値部分と指数部分を分けて計算する癖をつけると、ミスが減ります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1),(2) 崩壊回数: 求めた崩壊回数が正の整数になっているかを確認します。
    • (3),(4),(5) 核種: 特定した粒子や原子核が、物理的にあり得るものか(質量数や原子番号が極端に変でないか)を確認します。
    • (6) エネルギー分配: 運動エネルギーが質量の逆比になっているかを確認します。\(m_X \approx 4u\), \(M_{\text{Th}} \approx 231u\) なので、\(K_X\) が \(K_{\text{Th}}\) よりもはるかに大きくなるはずです。計算結果 \(K_X = 7.0 \times 10^{-13} \text{ J}\) と \(K_{\text{Th}} \approx 1.2 \times 10^{-14} \text{ J}\) は、この関係を満たしており妥当です。
  • オーダー感覚:
    • 原子核崩壊で放出される粒子の運動エネルギーは、MeVオーダーが多いです。今回の値 (\(7.0 \times 10^{-13} \text{ J}\)) は、\(1 \text{ MeV} \approx 1.6 \times 10^{-13} \text{ J}\) で換算すると約 \(4.4 \text{ MeV}\) となり、α崩壊のエネルギーとしては典型的な値です。このオーダー感覚があると、計算結果の桁が大きくずれていないかを確認できます。

問題152 (立教大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、(1)では原子核のα崩壊とそれに続く光子(γ線)の放出、光子のエネルギー・振動数・運動量、そして運動量保存則を扱い、(2)では電子と陽電子の対消滅における質量とエネルギーの等価性、エネルギー保存則を扱います。原子核物理と現代物理の基本的な概念と計算が問われます。

与えられた条件
  • 物理定数:
    • 電子の質量: \(m_e = 9.1 \times 10^{-31} \text{ [kg]}\)
    • 電気素量: \(e = 1.6 \times 10^{-19} \text{ [C]}\)
    • 真空中の光速: \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ [m/s]}\)
    • プランク定数: \(h = 6.6 \times 10^{-34} \text{ [J}\cdot\text{s]}\)
  • 解答の有効数字: 数値が整数でない場合は有効数字2桁で記す。
  • 設問(1):
    • ビスマス \(^{212}_{83}\text{Bi}\) がα崩壊し、タリウム \(^{\text{ア}}_{\text{イ}}\text{Tl}\) となる。
    • 崩壊後のタリウムは静止している。
    • その後、タリウムがエネルギー \(E_{\gamma} = 4.5 \times 10^5 \text{ eV}\) の光子を1個放出する。
  • 設問(2):
    • 陽電子は正の電荷をもち、その質量は電子の質量に等しい。
    • 静止している陽電子と電子が結合(対消滅)する。
    • エネルギーの等しい2個の光子が発生する。
    • \(1 \text{ MeV} = 10^6 \text{ eV}\)。
問われていること
  1. 【ア】: (1)におけるタリウムの質量数。
  2. 【イ】: (1)におけるタリウムの原子番号。
  3. 【ウ】: (1)で放出された光子の振動数 (Hz)。
  4. 【エ】: (1)で光子放出時にTlに与えられた運動量の大きさ (kg・m/s)。
  5. 【オ】: (2)で発生した光子1個のエネルギー (MeV)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。

この問題を解き進めるにあたって、以下の物理法則や概念が鍵となります。

  1. α崩壊の法則: 原子核がα粒子 (\(^{4}_{2}\text{He}\)) を放出すると、質量数が4減少し、原子番号が2減少する。
  2. 光子のエネルギーと振動数: \(E = h\nu\)
  3. 光子の運動量: \(p = E/c\)
  4. 運動量保存則: 外力が働かない系では、系の全運動量は保存される。
  5. 質量とエネルギーの等価性: \(E = mc^2\)
  6. エネルギー保存則: エネルギーの総量は形態を変えても常に一定に保たれる。

(ア)(イ)

思考の道筋とポイント
α崩壊では、原子核からα粒子(\(^{4}_{2}\text{He}\))が放出されます。その結果、元の原子核の質量数は4減少し、原子番号は2減少します。このルールをビスマス \(^{212}_{83}\text{Bi}\) に適用して、崩壊後のタリウムの質量数【ア】と原子番号【イ】を求めます。
この設問における重要なポイント

  • α崩壊では質量数が4減少する。
  • α崩壊では原子番号が2減少する。

具体的な解説と立式
ビスマス \(^{212}_{83}\text{Bi}\) がα崩壊してタリウム \(^{\text{ア}}_{\text{イ}}\text{Tl}\) になる反応を考えます。

α崩壊により、タリウムの質量数【ア】は、
$$
\begin{aligned}
\text{【ア】} &= 212 – 4 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
タリウムの原子番号【イ】は、
$$
\begin{aligned}
\text{【イ】} &= 83 – 2 \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • α崩壊の法則: \(A \rightarrow A-4\), \(Z \rightarrow Z-2\)
計算過程

式①より、【ア】(タリウムの質量数)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\text{【ア】} &= 208
\end{aligned}
$$
式②より、【イ】(タリウムの原子番号)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\text{【イ】} &= 81
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

α崩壊とは、原子核がヘリウムの原子核(陽子2個、中性子2個の塊)を放出する現象です。したがって、元のビスマス(\(^{212}_{83}\text{Bi}\))からα粒子が飛び出すと、質量数(原子の重さの目安)は4だけ小さくなります。\(212 – 4 = 208\)。これが【ア】です。原子番号(原子の種類を決める番号)は2だけ小さくなります。\(83 – 2 = 81\)。これが【イ】です。

結論と吟味

【ア】は208、【イ】は81です。したがって、崩壊後のタリウムは \(^{208}_{81}\text{Tl}\) となります。これはα崩壊の法則に正しく従っています。

解答 (1) ア: 208, イ: 81

(ウ)

思考の道筋とポイント
光子のエネルギー \(E\) と振動数 \(\nu\) の間には \(E = h\nu\) という関係があります。与えられた光子のエネルギーは \(4.5 \times 10^5 \text{ eV}\) です。このエネルギーを、プランク定数 \(h\) の単位 (J・s) に合わせて、ジュール(J)単位に換算する必要があります。\(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\) の関係を用います。
この設問における重要なポイント

  • 光子のエネルギーと振動数の関係式 \(E=h\nu\)。
  • エネルギーの単位 eV と J の換算。
  • 有効数字2桁での解答。

具体的な解説と立式
放出された光子のエネルギー \(E_{\text{光子}}\) は \(4.5 \times 10^5 \text{ eV}\) です。
まず、このエネルギーをジュール単位に換算します。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{光子, J}} &= (4.5 \times 10^5 \text{ eV}) \times (1.6 \times 10^{-19} \text{ J/eV}) \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
光子のエネルギー \(E\) と振動数 \(\nu\) の関係は \(E = h\nu\) なので、振動数【ウ】(\(\nu\)) は、
$$
\begin{aligned}
\nu &= \displaystyle\frac{E_{\text{光子, J}}}{h} \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 光子のエネルギー: \(E = h\nu\)
  • エネルギーの単位換算: \(1 \text{ eV} = 1.6 \times 10^{-19} \text{ J}\)
計算過程

式③を用いて、光子のエネルギーをジュールで計算します。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{光子, J}} &= (4.5 \times 1.6) \times 10^{5 + (-19)} \\[2.0ex]
&= 7.2 \times 10^{-14} \text{ J}
\end{aligned}
$$
次に、式④を用いて振動数 \(\nu\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\nu &= \displaystyle\frac{7.2 \times 10^{-14}}{6.6 \times 10^{-34}} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{7.2}{6.6} \times 10^{-14 – (-34)} \\[2.0ex]
&\approx 1.09 \times 10^{20} \text{ Hz}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、
$$
\begin{aligned}
\nu &\approx 1.1 \times 10^{20} \text{ Hz}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

光の粒である「光子」のエネルギー \(E\) は、振動数 \(\nu\) を使って \(E=h\nu\) と表せます。与えられたエネルギー \(4.5 \times 10^5 \text{ eV}\) をまずジュール(J)に直します。計算すると \(7.2 \times 10^{-14} \text{ J}\) です。これを \(\nu = E/h\) の式に入れて、プランク定数 \(h\) で割ると、振動数 \(\nu\) は約 \(1.1 \times 10^{20} \text{ Hz}\) となります。

結論と吟味

【ウ】の光子の振動数は約 \(1.1 \times 10^{20} \text{ Hz}\) です。単位換算、公式の適用、有効数字の処理が適切に行われています。

解答 (1) ウ: \(1.1 \times 10^{20}\)

(エ)

思考の道筋とポイント
初め静止していたタリウム原子核が光子を放出すると、運動量保存則により、タリウム原子核は光子と反対方向に同じ大きさの運動量を持って反跳します。光子の運動量 \(p_{\text{光子}}\) は、そのエネルギー \(E_{\text{光子}}\) と光速 \(c\) を用いて \(p_{\text{光子}} = E_{\text{光子}}/c\) と表されます。
この設問における重要なポイント

  • 運動量保存則の適用(静止系からの放出)。
  • 光子の運動量とエネルギーの関係式 \(p=E/c\)。
  • 有効数字2桁での解答。

具体的な解説と立式
タリウム原子核は光子を放出する前は静止していたため、系の初期運動量はゼロです。運動量保存則より、タリウム原子核の運動量の大きさと光子の運動量の大きさは等しくなります。
タリウム原子核に与えられた運動量の大きさ【エ】は、放出された光子の運動量の大きさに等しいです。
$$
\begin{aligned}
\text{【エ】} &= p_{\text{光子}} = \displaystyle\frac{E_{\text{光子, J}}}{c} \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
【ウ】で計算した \(E_{\text{光子, J}} = 7.2 \times 10^{-14} \text{ J}\) を用います。

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • 光子の運動量: \(p = E/c\)
計算過程

式⑤に値を代入して【エ】を計算します。
$$
\begin{aligned}
\text{【エ】} &= \displaystyle\frac{7.2 \times 10^{-14}}{3.0 \times 10^8} \\[2.0ex]
&= \left(\displaystyle\frac{7.2}{3.0}\right) \times 10^{-14-8} \\[2.0ex]
&= 2.4 \times 10^{-22} \text{ kg}\cdot\text{m/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

静止していた原子核が光子を放出すると、その反動で原子核は光子と反対向きに動きます。運動量保存の法則から、このとき原子核が持つ運動量の大きさと、光子が持つ運動量の大きさは等しくなります。光子の運動量は、そのエネルギーを光速で割ることで計算できます。【ウ】で計算したエネルギー \(7.2 \times 10^{-14} \text{ J}\) を光速 \(3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) で割ると、\(2.4 \times 10^{-22} \text{ kg}\cdot\text{m/s}\) となります。

結論と吟味

【エ】のタリウムに与えられた運動量の大きさは \(2.4 \times 10^{-22} \text{ kg}\cdot\text{m/s}\) です。運動量保存則と光子の運動量の公式が正しく適用されています。

解答 (1) エ: \(2.4 \times 10^{-22}\)

(オ)

思考の道筋とポイント
静止している陽電子と電子が対消滅すると、それらが持っていた静止エネルギーの合計が、発生する2個の光子のエネルギーの合計に変換されます(エネルギー保存則)。陽電子の質量は電子の質量 \(m_e\) に等しいので、反応前の全エネルギーは \(2m_e c^2\) です。これがエネルギーの等しい2個の光子になるので、光子1個のエネルギーは \(m_e c^2\) となります。
この設問における重要なポイント

  • 対消滅におけるエネルギー保存則。
  • 質量とエネルギーの等価性 \(E=mc^2\)。
  • MeV と J の単位換算 (\(1 \text{ MeV} = 1.6 \times 10^{-13} \text{ J}\))。
  • 有効数字2桁での解答。

具体的な解説と立式
静止している陽電子と電子が対消滅し、エネルギーの等しい2個の光子(各光子のエネルギーを \(E_{\text{1光子}}\) とする)が発生します。
エネルギー保存則より、
$$
\begin{aligned}
m_e c^2 + m_e c^2 &= E_{\text{1光子}} + E_{\text{1光子}} \\[2.0ex]
2 m_e c^2 &= 2 E_{\text{1光子}}
\end{aligned}
$$
したがって、発生した光子1個のエネルギー \(E_{\text{1光子}}\) は、
$$
\begin{aligned}
E_{\text{1光子}} &= m_e c^2 \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
このエネルギーをまずジュール(J)で計算し、その後MeV(メガ電子ボルト)に換算します。
$$
\begin{aligned}
\text{【オ】} &= \displaystyle\frac{m_e c^2}{1.6 \times 10^{-13} \text{ J/MeV}} \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • エネルギー保存則
  • 質量とエネルギーの等価性: \(E = mc^2\)
  • 単位換算: \(1 \text{ MeV} = 1.6 \times 10^{-13} \text{ J}\)
計算過程

まず、式⑥を用いて光子1個のエネルギーをジュール単位で計算します。
$$
\begin{aligned}
E_{\text{1光子, J}} &= (9.1 \times 10^{-31}) \times (3.0 \times 10^8)^2 \\[2.0ex]
&= (9.1 \times 10^{-31}) \times (9.0 \times 10^{16}) \\[2.0ex]
&= 81.9 \times 10^{-15} \\[2.0ex]
&= 8.19 \times 10^{-14} \text{ J}
\end{aligned}
$$
次に、式⑦を用いてこのエネルギーをMeV単位に換算します。
$$
\begin{aligned}
\text{【オ】} &= \displaystyle\frac{8.19 \times 10^{-14}}{1.6 \times 10^{-13}} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{8.19}{1.6} \times 10^{-1} \\[2.0ex]
&\approx 5.118 \times 10^{-1} \\[2.0ex]
&= 0.5118 \text{ MeV}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えるため、
$$
\begin{aligned}
\text{【オ】} &\approx 0.51 \text{ MeV}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

電子とその反対の性質を持つ陽電子がぶつかると、両方とも消えてしまい、その質量がエネルギーに変わります。このとき、アインシュタインの \(E=mc^2\) という式が使われます。電子と陽電子の質量は同じなので、消滅前の全エネルギーは \(2m_e c^2\) です。これが同じエネルギーを持つ2個の光子に変わったので、1個の光子が持つエネルギーは \(m_e c^2\) となります。電子の質量と光速を代入して計算し、最後に単位をMeVに直すと、約 \(0.51 \text{ MeV}\) となります。

結論と吟味

【オ】の光子1個のエネルギーは約 \(0.51 \text{ MeV}\) です。これは電子(または陽電子)の静止エネルギーとしてよく知られている値であり、物理的に妥当です。

解答 (2) オ: 0.51

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • α崩壊の法則:
    • 核心: 質量数と原子番号の変化 (\(A \rightarrow A-4, Z \rightarrow Z-2\))。これは原子核の安定性を理解する上で基本的な崩壊様式の一つです。
    • 理解のポイント:
      1. α粒子の正体: α粒子が陽子2個と中性子2個の塊(ヘリウム原子核 \(^4_2\text{He}\))であることを理解します。
      2. 保存則の適用: 崩壊の前後で、陽子の数(原子番号)と核子の総数(質量数)が保存されるという原理を適用した結果が、この法則になります。
  • 光子の粒子性(エネルギーと運動量):
    • 核心: 光子は波としての性質だけでなく、エネルギー \(E=h\nu\) と運動量 \(p=E/c\) を持つ粒子としても振る舞います。この二重性は現代物理学の根幹です。
    • 理解のポイント:
      1. エネルギー: 光子のエネルギーはその振動数\(\nu\)に比例します。
      2. 運動量: 光子は質量ゼロですが運動量を持ち、その大きさはエネルギーを光速で割ったものに等しいことを理解します。
  • 運動量保存則:
    • 核心: 外力が働かない系において、全運動量は常に保存されます。これは原子核の崩壊や衝突、光子の放出・吸収など、ミクロな世界の現象にも適用される普遍的な法則です。
    • 理解のポイント:
      1. ベクトルの和: 運動量はベクトル量であり、保存されるのはそのベクトル和です。
      2. 静止からの分裂・放出: 静止していた物体が分裂・放出を行う場合、分裂・放出された粒子群の運動量のベクトル和はゼロになります。2つの粒子になる場合は、互いに逆向きに同じ大きさの運動量で飛び出します。
  • 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)):
    • 核心: 質量はエネルギーの一形態であり、互いに変換しうるというアインシュタインの発見は、原子核物理学(特に核反応や対消滅・対生成)を理解する上で不可欠です。
    • 理解のポイント:
      1. 静止エネルギー: 質量\(m\)を持つ粒子は、静止していても\(mc^2\)という莫大なエネルギーを持っています。
      2. 質量のエネルギーへの変換: 対消滅のように粒子が消滅する場合、その質量がエネルギー(光子など)に変換されます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • β崩壊やγ崩壊を含む原子核反応全般。
    • 光電効果、コンプトン散乱など、光子のエネルギーや運動量が関わる現象。
    • 素粒子の対生成(高エネルギー光子から粒子と反粒子のペアが生まれる現象)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象の特定: 問題文が記述している物理現象(α崩壊、光子放出、対消滅など)を正確に把握する。
    2. 保存則の確認: その現象に適用できる保存則(エネルギー保存、運動量保存、質量数保存、原子番号保存など)は何かを考える。
    3. 関与する粒子とその性質: 電子、陽電子、光子、原子核など、登場する粒子の質量、電荷、エネルギー、運動量の関係式を思い出す。
    4. 単位の確認: 与えられている数値や定数の単位を確認し、必要に応じて計算前に換算する。特にエネルギー単位(J と eV/MeV) は要注意。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 単位換算のミス:
    • 誤解: eV と J の換算係数 (\(1.6 \times 10^{-19}\)) の適用忘れや、指数計算の誤り。特にMeVは\(10^6\) eVである点に注意。
    • 対策: 物理定数や換算係数は正確に記憶し、単位もセットで覚える。計算の最初か最後にまとめて換算するなどルールを決めることが有効です。
  • 光子の運動量の扱い:
    • 誤解: 光子の運動量を \(p=mc\) と誤って計算してしまう(光子に静止質量はない)。
    • 対策: 正しくは \(p=E/c\) または \(p=h/\lambda\)。光子の性質(質量0、エネルギー \(h\nu\)、運動量 \(h/\lambda\))を正確に理解する。
  • 対消滅・対生成のエネルギー計算:
    • 誤解: 関与する粒子の数(例: 対消滅で2光子生成)や、エネルギーの分配を誤る。
    • 対策: 対消滅・対生成の基本的なプロセスを図で理解し、エネルギー保存則を正しく適用します。「2個の粒子」が「2個の光子」になるので、1個あたりのエネルギーを求める際には注意が必要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • α崩壊の法則 (\(A-4, Z-2\)):
    • 選定理由: 「α崩壊するビスマス」と明記されているため、この法則を適用して娘核を特定します。
    • 適用根拠: α粒子(\(^{4}_{2}\text{He}\))が放出されるという物理現象に基づき、反応前後で質量数と原子番号が保存されるという普遍的な法則を適用した結果です。
  • \(E=h\nu\):
    • 選定理由: 「光子の振動数は」という問いと、光子のエネルギーが与えられていることから、この公式が適切であると判断します。
    • 適用根拠: 光のエネルギーが振動数に比例する塊(光子)として存在するという、光量子仮説の根幹をなす定義式だからです。
  • \(p=E/c\):
    • 選定理由: 「運動量の大きさは」という問いで、光子のエネルギーが既知である場合、この関係式から光子の運動量を求めるのが最も直接的です。
    • 適用根拠: 特殊相対性理論から導かれる、質量ゼロの粒子のエネルギーと運動量の関係式です。
  • 運動量保存則:
    • 選定理由: 「静止しているTlが光子を放出する」という、孤立した系での分裂・放出現象を扱うため。
    • 適用根拠: 相互作用が内力のみで完結し、外力が働かない(または無視できる)系では、全運動量は常に保存されるという物理学の大原則だからです。
  • \(E=mc^2\):
    • 選定理由: 「陽電子と電子は消滅し、エネルギーの等しい2個の光子が発生した」という、質量がエネルギーに変換される典型的な現象であるため。
    • 適用根拠: 質量とエネルギーが等価であることを示す、特殊相対性理論の基本原理です。エネルギー保存則と組み合わせて用います。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の一貫性:
    • 特に注意すべき点: 計算途中では単位をジュール(J)、キログラム(kg)、メートル(m)、秒(s)といった基本単位(または揃えた単位)で行うことを意識します。最終的に求められる単位に換算します。
    • 日頃の練習: 物理定数を用いる計算では、単位も一緒に記述し、最終的な単位が求めるべき物理量の単位と一致するかを確認する習慣をつけます。
  • 指数計算の正確性:
    • 特に注意すべき点: \(10^n \times 10^m = 10^{n+m}\), \(10^n / 10^m = 10^{n-m}\) といった指数法則を確実に適用します。特に符号に注意が必要です。
    • 日頃の練習: 複雑な計算ほど、数値部分と指数部分を分けて計算する癖をつけると、ケアレスミスが減ります。
  • 有効数字の処理:
    • 特に注意すべき点: 計算の最終段階で、問題文の指示(整数でない場合は2桁)に従って有効数字を処理します。
    • 日頃の練習: 途中の計算では1桁多く保持すると精度が保たれることを意識します。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的オーダー(桁数)の確認:
    • 【ウ】の振動数: 計算された振動数 \(1.1 \times 10^{20} \text{ Hz}\) は、エネルギー \(4.5 \times 10^5 \text{ eV}\) (450 keV) に対応し、これはγ線や硬X線の領域であり、原子核からの光子放出として妥当なオーダーです。
    • 【オ】のエネルギー: 電子の静止エネルギーとして \(0.511 \text{ MeV}\) は非常に有名な値であり、これに近い値が得られれば計算が正しい可能性が高いです。
  • 物理的な意味の再確認:
    • 【エ】の運動量: 静止状態からの放出なので、Tlの運動量と光子の運動量の大きさが等しくなるのは当然です。
    • 【オ】の対消滅: 静止した粒子と反粒子が対消滅する場合、運動量保存則から2個以上の光子が放出されなければならず(1個だと運動量が保存しない)、2光子の場合は互いに逆向きに飛び出す必要があります。エネルギー保存則から、そのエネルギーは元の粒子の静止エネルギーに由来します。これらの基本事項と計算結果が整合しているかを確認します。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。【引用】https://makoto-physics-school.com[…]

問題153 (東海大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、原子核の構造(質量欠損と結合エネルギー)および核反応(特に核融合反応の一種)における質量とエネルギーの関係を扱っています。現代物理学の重要な柱である質量エネルギー等価性の具体的な応用例です。

与えられた条件
  • 物理量・定数:
    • 中性子の質量 (\(m_n\)): \(1.0087 \text{ u}\)
    • 陽子の質量 (\(m_p\)): \(1.0073 \text{ u}\)
    • リチウムの同位核の質量 (\(m_{\text{Li}}\)): \(6.0135 \text{ u}\)
    • 重水素の原子核の質量 (\(m_{\text{D}}\)): \(2.0136 \text{ u}\)
    • ヘリウムの原子核の質量 (\(m_{\text{He}}\)): \(4.0015 \text{ u}\)
    • 質量とエネルギーの換算係数: \(1 \text{ u} = 931 \text{ MeV}\)
  • 反応の概要: リチウムの同位核1個 + 重水素の原子核1個 \(\rightarrow\) ヘリウムの原子核2個
  • 解答の指示:
    • (c) 【8】は小数点以下第4位まで。
    • (d) 【9】は有効数字3桁。
    • その他、数値が整数でない場合は有効数字2桁で記す(一般的な指示)。
問われていること
  1. 【1】: 重水素原子核の質量欠損 (u)
  2. 【2】: 重水素原子核の結合エネルギー (MeV)
  3. 【3】: リチウムの質量数
  4. 【4】: リチウムの原子番号
  5. 【5】: 重水素の原子番号
  6. 【6】: 生成されるヘリウム原子核の個数
  7. 【7】: ヘリウムの原子番号
  8. 【8】: 核反応で失われた質量 (u)
  9. 【9】: 核反応で放出されるエネルギー (MeV)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。

この問題を解き進めるにあたって、以下の物理法則や概念が鍵となります。

  1. 質量欠損: 原子核を構成する陽子と中性子の質量の総和から、実際の原子核の質量を引いた差。
  2. 結合エネルギー: 質量欠損に相当するエネルギー。\(1 \text{ u}\) の質量が持つエネルギーが \(931 \text{ MeV}\) であることを利用。
  3. 原子核反応における保存則: 反応の前後で、質量数と原子番号はそれぞれ保存される。
  4. 核反応エネルギー (Q値): 核反応によって放出または吸収されるエネルギー。反応前後の質量の総和の差に等しいエネルギーが放出(質量が減少した場合)または吸収(質量が増加した場合)される。

問(a)

この先は、会員限定コンテンツです

記事の続きを読んで、物理の「なぜ?」を解消しませんか?
会員登録をすると、全ての限定記事が読み放題になります。

PVアクセスランキング にほんブログ村