「名問の森」徹底解説(7〜9問):未来の得点力へ!完全マスター講座【波動Ⅱ・電磁気・原子】

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

問題7 (新潟大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、回折格子による光の干渉、光のドップラー効果、そして媒質中での光の干渉という複数の物理現象を組み合わせた総合的な問題です。それぞれの現象の原理を理解し、数式を正しく適用することが求められます。

与えられた条件
  • 回折格子K: \(1 \text{ cm}\) あたり400本の溝
  • レンズLの焦点距離: \(F = 100 \text{ cm}\)
  • レンズLとスクリーンS間の距離: \(100 \text{ cm}\) (レンズの焦点距離に等しい)
  • (1) H\(\alpha\)線の波長(静止光源): \(\lambda = 656 \text{ nm} = 656 \times 10^{-9} \text{ m}\)
  • (2) 縞の間隔の減少量: \(0.011 \text{ cm}\)
  • 光速: \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)
  • (3) 水の屈折率: \(n = 1.33\)
  • 近似: 回折角 \(\theta\) は微小 (\(\sin\theta \approx \tan\theta\))
問われていること
  • (1) 静止水素原子のH\(\alpha\)線による干渉縞の明るい縞の間隔 \(\Delta x\)
  • (2) 星雲の運動方向(接近または後退)と、その速さ \(v\)
  • (3) 水を満たしたときのH\(\alpha\)線による干渉縞の明るい縞の間隔 \(\Delta x’\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(3) 明るい縞の間隔\(\Delta x’\)の別解: 水中での波長変化を利用する解法
      • 主たる解法が、水中での光路差が\(nd\sin\theta\)となることから干渉条件を再設定するのに対し、別解では、水中では光の波長が\(\lambda_n = \lambda/n\)に変化するという、より直接的な物理モデルを用いて解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 媒質中での光の振る舞いについて、「光路長」という概念と「波長の変化」という概念の2つの側面から理解でき、両者が等価であることを確認できます。
    • 計算の効率化: (1)で求めた縞の間隔の公式を直接利用できるため、立式から計算までのプロセスがより簡潔になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「回折格子による光の干渉」、「光のドップラー効果」、そして「媒質中での光波の性質の変化」です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 回折格子の干渉条件: 格子定数を \(d\)、回折角を \(\theta\)、光の波長を \(\lambda\)、干渉の次数を \(m\) とすると、強め合い(明るい縞)の条件は \(d\sin\theta = m\lambda\) です。
  2. 微小角近似: \(\theta\) が非常に小さいとき、\(\sin\theta \approx \tan\theta\) が成り立ちます。
  3. レンズによる集光: 平行光線が焦点距離 \(F\) のレンズに入射すると、焦点面(レンズから距離 \(F\) の位置)に集光します。回折角 \(\theta\) の光は、光軸から \(x = F\tan\theta\) の位置に集まります。
  4. 光のドップラー効果: 光源または観測者が運動することにより、観測される光の波長(または振動数)が変化する現象です。光源が近づく場合は波長が短く(青方偏移)、遠ざかる場合は波長が長く(赤方偏移)なります。
  5. 媒質中の光: 屈折率 \(n\) の媒質中では、光の波長は真空中の波長 \(\lambda_0\) に対して \(\lambda_n = \lambda_0/n\) となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まず回折格子の格子定数 \(d\) を求めます。次に、回折格子による \(m\) 次の明線の条件式と、レンズの焦点面における明線の位置 \(x_m\) の関係式を立て、微小角近似を用います。これにより \(x_m\) が \(m, \lambda, F, d\) で表されるので、隣り合う明線の間隔 \(\Delta x\) を計算します。
  2. (2)では、観測された縞の間隔が変化したことから、星雲から届く光の波長が変化したと判断します。\(\Delta x\) が \(\lambda\) に比例することから、波長が短くなったのか長くなったのかを特定し、星雲が地球に近づいているのか遠ざかっているのかを判断します。その後、ドップラー効果の公式を用いて、波長の変化量と縞の間隔の変化量から星雲の速さ \(v\) を求めます。
  3. (3)では、装置内が水で満たされた場合、光の波長が水中で変化する(\(\lambda_n = \lambda_0/n\))と考えるか、あるいは回折格子の条件式における光路差が変化する(\(nd\sin\theta = m\lambda_0\))と考えて、(1)と同様の手順で新しい明線間隔 \(\Delta x’\) を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
まず、回折格子の格子定数 \(d\) を計算します。「\(1 \text{ cm}\)当たり400本の溝」という情報から、1本の溝の間隔(格子定数)を求めます。次に、回折格子による強め合い(明線)の条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) を用います。スクリーンSはレンズLの焦点面上にあるため、回折角 \(\theta\) で回折した平行光線は、レンズを通過後、スクリーン上の光軸から \(x = F\tan\theta\) の位置に集光します。「回折角は微小」との近似 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) を用い、\(m\) 次の明線の位置 \(x_m\) を求め、隣り合う明線の間隔 \(\Delta x\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 格子定数 \(d\) の正しい計算と単位変換。
  • 回折格子の強め合いの条件式: \(d\sin\theta = m\lambda\)。
  • レンズによる集光位置: \(x = F\tan\theta\)。
  • 微小角近似: \(\sin\theta \approx \tan\theta\)。

具体的な解説と立式
\(m\)次の明線ができる方向の回折角を \(\theta_m\) とすると、強め合いの条件は、
$$
\begin{aligned}
d\sin\theta_m &= m\lambda
\end{aligned}
$$
となります。
スクリーンはレンズの焦点面上にあるので、この光線がスクリーン上に集光する位置 \(x_m\) は、光軸からの距離として、
$$
\begin{aligned}
x_m &= F\tan\theta_m
\end{aligned}
$$
と表せます。
ここで、\(\theta_m\) は微小角なので \(\sin\theta_m \approx \tan\theta_m\) という近似が成り立ちます。
したがって、強め合いの条件式は \(d\tan\theta_m \approx m\lambda\) と書き換えられます。
この式を \(\tan\theta_m\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
\tan\theta_m &\approx \frac{m\lambda}{d}
\end{aligned}
$$
これを \(x_m\) の式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
x_m &\approx F \frac{m\lambda}{d}
\end{aligned}
$$
となります。
明るい縞の間隔 \(\Delta x\) は、隣り合う明線の位置の差、例えば \(m+1\) 次と \(m\) 次の明線の位置の差で与えられます。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= x_{m+1} – x_m \\[2.0ex]
&\approx F \frac{(m+1)\lambda}{d} – F \frac{m\lambda}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{F\lambda}{d}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 回折格子の強め合い条件: \(d\sin\theta = m\lambda\)
  • レンズによる集光: \(x = F\tan\theta\)
  • 微小角近似: \(\sin\theta \approx \tan\theta\)
計算過程

まず、格子定数 \(d\) を求めます。\(1 \text{ cm}\) あたり400本なので、
$$
\begin{aligned}
d &= \frac{1 \text{ cm}}{400} \\[2.0ex]
&= \frac{1 \times 10^{-2} \text{ m}}{400}
\end{aligned}
$$
与えられた値を \(\Delta x = \displaystyle\frac{F\lambda}{d}\) の式に代入します。単位をmに統一して計算します。
\(\lambda = 656 \text{ nm} = 656 \times 10^{-9} \text{ m}\)
\(F = 100 \text{ cm} = 1.00 \text{ m}\)
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= \frac{1.00 \times (656 \times 10^{-9})}{ \frac{1 \times 10^{-2}}{400} } \\[2.0ex]
&= 1.00 \times 656 \times 10^{-9} \times 400 \times 10^2 \\[2.0ex]
&= 262400 \times 10^{-7} \\[2.0ex]
&= 0.02624 \text{ m} \\[2.0ex]
&= 2.624 \text{ cm}
\end{aligned}
$$
問題文の指示に従い、有効数字2桁で答えます。
$$
\begin{aligned}
\Delta x &\approx 2.6 \text{ cm}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

回折格子は、たくさんの細いすき間が並んだものです。ここを光が通ると、波の性質によって特定の方向にだけ強く進む光が現れます。この光をレンズで集めると、スクリーン上に明るい点が並んだ縞模様ができます。この明るい点の間隔を計算するのがこの問題です。間隔は、レンズの焦点距離 \(F\) と光の波長 \(\lambda\) に比例し、すき間の間隔 \(d\) に反比例します。与えられた数値を公式 \(\Delta x = \displaystyle\frac{F\lambda}{d}\) に当てはめて計算します。

結論と吟味

S上にできる干渉縞の明るい縞の間隔は \(2.6 \text{ cm}\) となります。これは実験室で観測できる程度の大きさであり、妥当な値と考えられます。

解答 (1) \(2.6 \text{ cm}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で導出した縞の間隔の式 \(\Delta x = \displaystyle\frac{F\lambda}{d}\) から、\(\Delta x\) は波長 \(\lambda\) に比例することがわかります。問題文より、星雲からの光による縞の間隔は(1)の場合より小さくなったとあるので、観測された光の波長 \(\lambda’\) は元の波長 \(\lambda\) よりも短くなったことを意味します。これは、光源が観測者に近づく場合のドップラー効果(青方偏移)に相当します。したがって、星雲は地球に近づいていると判断できます。
次に、星雲の速さ \(v\) を求めます。縞の間隔の変化量 \(\delta(\Delta x)\) と波長の変化量 \(\delta \lambda = \lambda – \lambda’\) の関係式を立て、光のドップラー効果の公式と結びつけて \(v\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 縞の間隔 \(\Delta x\) と波長 \(\lambda\) の比例関係の理解。
  • ドップラー効果の物理的解釈(近づくと波長は短くなる)。
  • 光のドップラー効果の公式の適用。

具体的な解説と立式
縞の間隔の式 \(\Delta x = \displaystyle\frac{F\lambda}{d}\) より、\(\Delta x\) は \(\lambda\) に比例します。
縞の間隔が \(0.011 \text{ cm}\) だけ小さくなったので、観測された波長 \(\lambda’\) は元の波長 \(\lambda\) より短くなっています。波長が短くなるのは、光源(星雲)が観測者(地球)に近づいている場合です。

次に速さ \(v\) を求めます。
元の縞の間隔を \(\Delta x\)、観測された縞の間隔を \(\Delta x’\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\Delta x &= \frac{F\lambda}{d} \\[2.0ex]
\Delta x’ &= \frac{F\lambda’}{d}
\end{aligned}
$$
縞の間隔の変化量 \(\delta(\Delta x)\) は、
$$
\begin{aligned}
\delta(\Delta x) &= \Delta x – \Delta x’ \\[2.0ex]
&= \frac{F}{d}(\lambda – \lambda’)
\end{aligned}
$$
一方、光源が速さ \(v\) で近づく場合の光のドップラー効果の公式は、
$$
\begin{aligned}
\lambda’ &= \lambda \frac{c-v}{c} \\[2.0ex]
&= \lambda \left(1 – \frac{v}{c}\right)
\end{aligned}
$$
この式を変形して、波長の変化量 \(\lambda – \lambda’\) を求めると、
$$
\begin{aligned}
\lambda – \lambda’ &= \lambda \frac{v}{c}
\end{aligned}
$$
この関係を \(\delta(\Delta x)\) の式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
\delta(\Delta x) &= \frac{F}{d} \left(\lambda \frac{v}{c}\right) \\[2.0ex]
&= \left(\frac{F\lambda}{d}\right) \frac{v}{c} \\[2.0ex]
&= \Delta x \frac{v}{c}
\end{aligned}
$$
この式を \(v\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
v &= c \frac{\delta(\Delta x)}{\Delta x}
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 縞の間隔: \(\Delta x = \displaystyle\frac{F\lambda}{d}\)
  • 光のドップラー効果(光源が近づく場合): \(\lambda’ = \lambda \displaystyle\frac{c-v}{c}\)
計算過程

運動方向: 近づいている

速さ \(v\) の計算:
与えられた値 \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\), \(\delta(\Delta x) = 0.011 \text{ cm}\) と、(1)で求めた \(\Delta x = 2.624 \text{ cm}\) を用います。
$$
\begin{aligned}
v &= (3.0 \times 10^8 \text{ m/s}) \times \frac{0.011 \text{ cm}}{2.624 \text{ cm}} \\[2.0ex]
&= (3.0 \times 10^8) \times 0.00419199… \text{ m/s} \\[2.0ex]
&\approx 1.2576 \times 10^6 \text{ m/s}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えます。
$$
\begin{aligned}
v &\approx 1.3 \times 10^6 \text{ m/s}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

縞模様の間隔は、光の波長が長いほど広くなります。観測された縞の間隔が狭くなったということは、星雲から届いた光の波長が、本来の長さより縮んでしまったことを意味します。救急車が近づいてくるときにサイレンの音が高く聞こえるのと同じ「ドップラー効果」で、光の場合、光源が近づいてくると波長が縮みます。なので、星雲は地球に「近づいている」とわかります。
速さは、元の縞の間隔に対する「変化した間隔の割合」に光の速さを掛けることで計算できます。

結論と吟味

星雲は地球に近づいており、その速さは約 \(1.3 \times 10^6 \text{ m/s}\) です。この速さは光速 (\(3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)) に比べて十分に小さいため、ここで用いた近似的なドップラー効果の公式は妥当です。

解答 (2) 近づいている、速さ \(1.3 \times 10^6 \text{ m/s}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
装置全体が屈折率 \(n=1.33\) の水で満たされた場合を考えます。光が真空中から屈折率 \(n\) の媒質に入ると、その速さと波長が変化します。振動数は変化しません。
主たる解法では、水中での光路差が \(nd\sin\theta\) となることに着目します。強め合いの条件は、この光路差が真空中の波長 \(\lambda\) の整数倍になるとき、すなわち \(nd\sin\theta = m\lambda\) となります。これとレンズの式 \(x’_m = F\tan\theta\)、微小角近似を用いて、水中の縞の間隔 \(\Delta x’\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 水中での光路差の変化を正しく考慮する。
  • 干渉条件式を媒質の効果を含めて正しく立てる。

具体的な解説と立式
水中で、隣り合うスリットから角 \(\theta_m\) 方向に出る光を考えます。これらの光の幾何学的な経路差は \(d\sin\theta_m\) ですが、媒質中での光路差は、経路差に屈折率 \(n\) を掛けた \(nd\sin\theta_m\) となります。
強め合いの条件は、この光路差が真空中の波長 \(\lambda\) の整数倍になるときなので、
$$
\begin{aligned}
nd\sin\theta_m &= m\lambda
\end{aligned}
$$
となります。
スクリーン上の \(m\) 次の明線の位置 \(x’_m\) は、(1)と同様に、
$$
\begin{aligned}
x’_m &= F\tan\theta_m
\end{aligned}
$$
です。微小角近似 \(\sin\theta_m \approx \tan\theta_m\) を用いると、強め合いの条件式は \(nd\tan\theta_m \approx m\lambda\) となります。
これを \(\tan\theta_m\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
\tan\theta_m &\approx \frac{m\lambda}{nd}
\end{aligned}
$$
これを \(x’_m\) の式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
x’_m &\approx F \frac{m\lambda}{nd}
\end{aligned}
$$
したがって、水中での明るい縞の間隔 \(\Delta x’\) は、
$$
\begin{aligned}
\Delta x’ &= x’_{m+1} – x’_m \\[2.0ex]
&\approx F \frac{(m+1)\lambda}{nd} – F \frac{m\lambda}{nd} \\[2.0ex]
&= \frac{F\lambda}{nd}
\end{aligned}
$$
ここで、(1)で求めた空気中での縞の間隔は \(\Delta x = \displaystyle\frac{F\lambda}{d}\) でしたので、
$$
\begin{aligned}
\Delta x’ &= \frac{1}{n} \left(\frac{F\lambda}{d}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{\Delta x}{n}
\end{aligned}
$$
となり、水中での縞の間隔は空気中の \(1/n\) 倍になることがわかります。

使用した物理公式

  • 水中での強め合い条件: \(nd\sin\theta = m\lambda\)
  • レンズによる集光: \(x = F\tan\theta\)
  • 微小角近似: \(\sin\theta \approx \tan\theta\)
計算過程

(1)で計算した空気中での縞の間隔 \(\Delta x = 2.624 \text{ cm}\) と、水の屈折率 \(n = 1.33\) を用います。
$$
\begin{aligned}
\Delta x’ &= \frac{\Delta x}{n} \\[2.0ex]
&= \frac{2.624 \text{ cm}}{1.33} \\[2.0ex]
&\approx 1.9729… \text{ cm}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で答えます。
$$
\begin{aligned}
\Delta x’ &\approx 2.0 \text{ cm}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

装置を水で満たすと、光は水中を進むことになります。水中では光の進む速さが遅くなるため、波としての性質が変化します。具体的には、光の「波長」が短くなったのと同じ効果が現れます。縞模様の間隔は波長に比例するので、波長が短くなる効果によって、縞の間隔も狭くなります。その割合は、水の屈折率 \(n\) の逆数、つまり \(1/n\) 倍になります。(1)で求めた間隔を \(1.33\) で割ることで、水中での間隔が計算できます。

結論と吟味

水で満たしたときの明るい縞の間隔は約 \(2.0 \text{ cm}\) となります。水の屈折率 \(n=1.33\) は1より大きいため、縞の間隔は空気中よりも狭くなります (\(2.0 \text{ cm} < 2.6 \text{ cm}\))。これは物理的に妥当な結果です。

別解: 水中での波長変化を利用する解法

思考の道筋とポイント
光が屈折率 \(n\) の媒質中を進むとき、その波長 \(\lambda_n\) は真空中の波長 \(\lambda\) に対して \(\lambda_n = \lambda/n\) となります。この水中での波長 \(\lambda_n\) を、(1)で導出した縞の間隔の公式 \(\Delta x = \displaystyle\frac{F\lambda}{d}\) に直接適用することで、水中での縞の間隔 \(\Delta x’\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 媒質中での波長の変化: \(\lambda_n = \lambda/n\)。
  • 縞の間隔の公式への直接適用。

具体的な解説と立式
水中での光の波長を \(\lambda_n\) とすると、真空中の波長 \(\lambda\) との関係は、
$$
\begin{aligned}
\lambda_n &= \frac{\lambda}{n}
\end{aligned}
$$
となります。
縞の間隔の公式は、その媒質中での波長を使って \(\Delta x’ = \displaystyle\frac{F\lambda_n}{d}\) と表せます。
この式に \(\lambda_n = \lambda/n\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
\Delta x’ &= \frac{F(\lambda/n)}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{n} \left(\frac{F\lambda}{d}\right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(\displaystyle\frac{F\lambda}{d}\) は(1)で求めた空気中での縞の間隔 \(\Delta x\) です。
よって、
$$
\begin{aligned}
\Delta x’ &= \frac{\Delta x}{n}
\end{aligned}
$$
となり、主たる解法と同じ結果が得られます。計算過程も同様です。

使用した物理公式

  • 媒質中の波長: \(\lambda_n = \lambda/n\)
  • 縞の間隔: \(\Delta x = \displaystyle\frac{F\lambda}{d}\)
計算過程

主たる解法と同じ計算により、\(\Delta x’ \approx 2.0 \text{ cm}\) となります。

この設問の平易な説明

水の中では光の波長が \(1/n\) 倍、つまり \(1/1.33\) 倍に短くなります。縞模様の間隔は波長に比例するので、水中での縞の間隔も空気中での間隔の \(1/1.33\) 倍になります。(1)で求めた間隔約 \(2.6 \text{ cm}\) を \(1.33\) で割ると、約 \(2.0 \text{ cm}\) となります。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、媒質中での波長の概念を直接的に用いるため、物理現象を直感的に捉えやすいという利点があります。

解答 (3) \(2.0 \text{ cm}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 回折格子の干渉条件:
    • 核心: 格子定数\(d\)、入射光の波長\(\lambda\)、回撮角\(\theta\)、干渉次数\(m\)の間の関係式 \(d\sin\theta = m\lambda\) (強め合い)。
    • 理解のポイント: 隣り合うスリットを通過する光の光路差が波長の整数倍になるときに強め合うという、多光束干渉の基本原理を理解することが重要です。
  • レンズによる集光と縞模様の形成:
    • 核心: 回折格子を通過した平行な回折光が、レンズの焦点面上に集光し、干渉縞を形成します。縞の位置は \(x \approx F\theta \approx F\lambda m/d\) で与えられます。
    • 理解のポイント: 平行光線がレンズの焦点に集まる性質と、微小角近似の組み合わせを把握することが鍵となります。
  • 光のドップラー効果:
    • 核心: 光源と観測者の相対運動により、観測される光の波長(振動数)が変化する現象です。
    • 理解のポイント: 近づく場合は波長が短く(青方偏移)、遠ざかる場合は波長が長く(赤方偏移)という方向性を理解することが大切です。また、\(\lambda’ = \lambda_0 (1 \mp v/c)\) や \(f’ = f_0 (c/(c \pm v))\) といった公式の符号と適用条件を正しく把握する必要があります。
  • 媒質中の光の波長:
    • 核心: 屈折率\(n\)の媒質中では、光の波長は真空中の\(1/n\)倍になります (\(\lambda_n = \lambda_0/n\))。
    • 理解のポイント: これにより、媒質中で干渉現象を考える場合、実効的な波長が変わるか、光路長が\(n\)倍になると解釈できます。どちらの考え方でも同じ結果に至ることを理解することが重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ヤングの実験(複スリット干渉): 縞の間隔の式は類似の形をとります。回折格子は多数のスリットの集まりと見なせます。
    • X線回折(ブラッグの条件など): 結晶格子によるX線の回折・干渉も、周期構造による波動の干渉という点で共通の原理に基づいています。
    • 天体からの光のスペクトル分析: 星や銀河の出す光のスペクトル線がドップラー効果によりずれることから、天体の視線速度を測定し、宇宙の膨張などを研究する分野に応用されます。
    • 薄膜干渉での媒質の効果: 薄膜やその周囲の媒質の屈折率が、光路長や位相変化に影響し、干渉条件を変える問題と共通しています。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 現象の特定: まず、問題がどの物理現象(回折格子の干渉か、ドップラー効果か、媒質中の光か、あるいはそれらの組み合わせか)を扱っているのかを正確に把握します。
    2. 関連する公式の想起: 特定した現象に対応する基本的な物理法則や公式(例: \(d\sin\theta = m\lambda\)、ドップラー効果の式など)を思い出します。
    3. 図と条件の整理: 問題文中の図や与えられた数値を整理し、未知数と既知数の関係を明確にします。特に幾何学的な配置(距離、角度など)を正確に読み取ることが重要です。
    4. 近似条件の確認: 「微小角近似」のような近似条件があれば、それを適用できる場面を見極めます。
    5. 段階的な立式: 複数の現象が絡む場合は、各現象ごとに式を立て、それらを連立させて解くことを考えます。例えば、(2)では縞の間隔の式とドップラー効果の式を組み合わせます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 格子定数 \(d\) の計算ミス:
    • 誤解: 「\(1 \text{ cm}\)あたりN本」という情報を、\(d=N \text{ [cm]}\)や \(d=1/N \text{ [m]}\) のように単位換算を誤ったり、逆数を忘れたりする。
    • 対策: 格子定数 \(d\) は「1本あたりの間隔」なので、\(d = (\text{与えられた長さ}) / (\text{本数})\) で計算します。単位はmに基本統一することを推奨します(例: \(1 \text{ cm}\)あたり400本なら \(d = (1 \times 10^{-2} \text{ m}) / 400\))。
  • ドップラー効果の公式の符号選択ミス:
    • 誤解: 光源が近づく場合と遠ざかる場合で、波長が長くなるのか短くなるのか、また公式中の \(v\) の符号をどちらにすべきか混乱する。
    • 対策: 「光源が近づく \(\rightarrow\) 波面が圧縮される \(\rightarrow\) 波長は短くなる(青方偏移)、振動数は高くなる」という物理的イメージを持つことが重要です。公式 \(\lambda’ = \lambda_0 (1 \mp v/c)\) では近づくとき「\(-\)」遠ざかるとき「\(+\)」。振動数の公式 \(f’ = f_0 (c/(c \pm v))\) では近づくとき分母が「\(c-v\)」、遠ざかるとき「\(c+v\)」となります。
  • 微小角近似の不適切な適用や誤解:
    • 誤解: \(\sin\theta \approx \theta\), \(\tan\theta \approx \theta\) の近似は\(\theta\)がラジアン単位の時に成り立つが、度数法のまま使ってしまう。また、近似が使えない比較的大きな角度でも使ってしまう。
    • 対策: 問題文に「微小角として近似し」とあれば積極的に使います。このとき\(\theta\)そのものより\(\sin\theta\)や\(\tan\theta\)の形で扱うことが多いです。近似の結果、式が簡単になることを確認します。
  • 媒質中での波長の扱いと光路長の混同:
    • 誤解: 水中での波長を \(\lambda_0/n\) とするか、光路長を \(n\) 倍にするかのどちらか一方を適用すべきところを混同したり、両方適用してしまったりする。
    • 対策: 干渉条件 \(d\sin\theta = m\lambda\) を使う場合、右辺の\(\lambda\)を媒質中の波長\(\lambda_n = \lambda_0/n\)に置き換えるか、左辺の光路差を \(nd\sin\theta\) と考えて右辺を真空中の波長\(\lambda_0\)のままにするか、どちらか一方のアプローチで統一します。結果は同じになります。
  • 単位換算の漏れ・ミス:
    • 誤解: nm, cm, m が混在しているのに、適切な換算を行わずに計算を進めてしまい、桁が大きくずれる。
    • 対策: 計算を始める前に全ての物理量を基本単位(例: m)に統一するか、あるいは最終的に求められる単位に合わせて計算途中で計画的に換算します。特に波長(\(\lambda\))、格子定数(\(d\))、焦点距離(\(F\))の単位に注意が必要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(d\sin\theta = m\lambda\) (回折格子の強め合い条件):
    • 選定理由: 多数のスリットからの光が干渉して明線(強め合い)を作る方向を特定するため、必須の法則です。
    • 適用根拠: 隣り合うスリットを通過した光の光路差が、波長の整数倍になるときに同位相で重なり強め合うという、ホイヘンスの原理と重ね合わせの原理に基づいています。
  • \(x = F\tan\theta\) (レンズ焦点面での集光位置):
    • 選定理由: 回折角\(\theta\)で進んできた平行光線が、レンズ通過後にスクリーン(焦点面に設置)上のどの位置に集光するかを求めるためです。
    • 適用根拠: レンズの光軸に平行な光線は焦点を通ります。光軸に対して角度\(\theta\)で入射する平行光線は、焦点面上で光軸から距離 \(F\tan\theta\) の位置に集まるというレンズの性質に基づいています。
  • \(\lambda’ = \lambda_0 \frac{c-v}{c}\) (光のドップラー効果、光源が近づく場合):
    • 選定理由: 光源(星雲)が観測者(地球)に対して運動しているため、観測される光の波長が変化する効果を計算するために選択します。
    • 適用根拠: 光速不変の原理に基づき、光源の運動によって単位時間あたりに放出される波の数(振動数)は変わらないが、その波が占める空間的長さ(波長)が光源の速度に応じて変化するという考え方です。近づく場合は波が圧縮されて波長が短くなります。
  • \(\Delta x’ = \Delta x_0 / n\) または \(\lambda_n = \lambda_0/n\) (水中での縞間隔または波長):
    • 選定理由: 光が屈折率\(n\)の媒質(水)中を進むことによる干渉縞の間隔の変化を計算するために用います。
    • 適用根拠: 媒質中では光速が\(c/n\)になるため、振動数が変わらないとすると波長が\(\lambda_0/n\)になります。縞の間隔\(\Delta x\)は波長\(\lambda\)に比例するため(\(\Delta x = F\lambda/d\))、間隔も\(1/n\)倍になります。あるいは、光路差の条件を\(nd\sin\theta = m\lambda_0\)として扱うことで同じ結果が得られます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 単位の一貫性の徹底:
    • 特に注意すべき点: nm(ナノメートル)、cm(センチメートル)、m(メートル)が混在しており、換算を忘れたり間違えたりしやすいです。特に格子定数\(d\)、波長\(\lambda\)、焦点距離\(F\)の単位に注意が必要です。
    • 日頃の練習: 計算を始める前に、全ての物理量を基本単位であるメートル(m)に統一する習慣をつけます。あるいは、最終的に求めたい単位(例: cm)に合わせて、計算の各段階で意識的に単位を揃える練習をします。指数計算(\(10^{-9}, 10^{-7}, 10^{-2}\)など)を正確に行うことが重要です。
  • 格子定数 \(d\) の正確な計算:
    • 特に注意すべき点: 「\(1 \text{ cm}\)あたり400本」から格子定数を求める際に、単純に400を使ったり、逆数を取る際に単位を誤ること。
    • 日頃の練習: 格子定数\(d\)は「1本あたりの溝の間隔」であることを常に意識し、\(d = \frac{1 \text{ cm}}{400} = \frac{10^{-2} \text{ m}}{400}\) と正しく立式する練習をします。
  • 有効数字の適切な処理:
    • 特に注意すべき点: 計算途中で不用意に丸めて最終結果の精度が落ちること、または問題文の指示(有効数字2桁)を無視すること。
    • 日頃の練習: 計算途中では有効数字より1~2桁多く保持し、最終的な答えを出す段階で指定された有効数字に正しく丸める習慣をつけます。
  • 分数の計算:
    • 特に注意すべき点: \(\Delta x = F\lambda/d\) のような分数計算で、分母と分子を取り違えたり、割り算を間違えたりすること。
    • 日頃の練習: 式を丁寧に書き、どの物理量が分母に来てどれが分子に来るのかを明確に意識します。特に \(d\) が分数になる場合(例: \(d=1/400 \text{ cm}\))は、逆数を掛ける操作を慎重に行う練習をします。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 縞の間隔: 求めた縞の間隔(約\(2.6 \text{ cm}\))が、実験室の光学装置で観察される干渉縞として現実的な大きさ(オーダー)であるかを確認します。極端に大きすぎたり小さすぎたりしないか吟味します。
    • (2) 星雲の速さ: 求めた星雲の速さ(約 \(1.3 \times 10^6 \text{ m/s}\))が、光速 (\(3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)) に比べて十分に小さいか(ドップラー効果の非相対論的公式の適用範囲内か)を確認します。また、運動方向(「近づいている」)が、波長の短縮(青方偏移)という現象と矛盾していないかを確認します。
    • (3) 水中での縞の間隔: 水中に装置を浸した場合、屈折率 \(n > 1\) なので、水中での波長は真空中に比べて短くなるはずです。その結果、縞の間隔は空気中(真空中)よりも狭くなるはず (\(\Delta x’ < \Delta x_0\))。計算結果がこの定性的な予測と一致しているかを確認します。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし屈折率\(n\)が1に近づけば、\(\Delta x’ \rightarrow \Delta x_0\) となり、空気中の状態に戻るはずです。式 \(\Delta x’ = \Delta x_0/n\) はこの状況を満たしています。
    • もしドップラー効果による波長の変化が非常に大きければ、星雲の速さも光速に近くなるはずです。式 \(v = c \frac{\delta(\Delta x)}{\Delta x}\) はこの比例関係を正しく示しています。
    • 微小角近似 (\(\sin\theta \approx \tan\theta\)) を用いましたが、実際に得られる\(\theta\)が十分に小さい範囲に収まっているかを確認します(例えば、\(\sin\theta = \lambda/d \approx (656 \times 10^{-9}) / (1/400 \times 10^{-2}) \approx 0.026\)、これは約1.5度程度なので微小角と見なせます)。
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問題8 (東京理科大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、マイケルソン干渉計を用いた光の干渉に関するものです。鏡の移動や波長の変更、媒質の挿入によって光路差が変化し、それに伴い干渉条件(強め合い・弱め合い)がどのように変わるかを考察します。

与えられた条件
  • S: 単色平行光線光源
  • H: 半透明鏡(厚さ無視)
  • M₁, M₂: 平面鏡
  • D: 光の検出器
  • 初期状態: 光路差なし、Dで強め合い。
  • (1) 初期波長 \(\lambda_0 = 5.00 \times 10^{-7} \text{ m}\)
  • (1) M₁の移動距離 \(d = 2.25 \times 10^{-3} \text{ mm} = 2.25 \times 10^{-6} \text{ m}\)
  • (4) 平行平面膜の屈折率 \(n = 1.500\)
  • (4) 平行平面膜の厚さ \(t\) の範囲: \(48.8 \text{ µm} \le t \le 49.4 \text{ µm}\)
問われていること
  • (1) M₁を距離 \(d\) 移動させる間にDで観測される強め合いの回数。
  • (2) M₁を \(d\) 移動させた位置で固定し、波長を減少させて次に強め合ったときの波長 \(\lambda_1\)。
  • (3) 波長を \(\lambda_0\) に戻し、M₁は \(d\) 移動させた位置のまま、波長を増加させて最初に弱め合ったときの波長 \(\lambda_2\)。
  • (4) HとM₂の間に平行平面膜を置いたときに強め合った。このときの膜の厚さ \(t\)。
  • (コラムQ₁) M₁の移動とDでの光の強弱の関係から、光の波長\(\lambda\)を\(\Delta x\)で表す。
  • (コラムQ₂) M₂だけをわずかに傾けるとDで見られる干渉模様。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1) 強め合いの回数の別解: 強め合いの間隔を利用する解法
      • 主たる解法が、移動距離の上限における干渉の次数を計算するのに対し、別解では、鏡を\(\lambda/2\)動かすたびに強め合いが1回起こるという物理的な性質から直接回数を求めます。
    • 問(4) 膜の厚さ\(t\)の別解: 全体の光路差を再計算する解法
      • 主たる解法が、膜の挿入による「光路差の変化分」が波長の整数倍になることに着目するのに対し、別解では、膜挿入後の「全体の光路差」が強め合いの条件を満たす、というより基本的な定義から立式します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: (1)の別解は干渉縞の周期性を直感的に理解するのに役立ちます。(4)では、二つのアプローチが最終的に同じ結論に至ることを確認でき、光路差の概念への理解が深まります。
    • 計算の効率化: (1)の別解や(4)の主たる解法は、物理的な洞察を用いることで計算を簡略化できる場合があります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「光の干渉」の代表的な装置である「マイケルソン干渉計」の動作原理と応用です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 光路差: 干渉する二つの光がたどる経路の光学的距離の差。鏡M₁を距離\(d\)だけ動かすと、光路差は往復分の\(2d\)だけ変化します。
  2. 干渉条件: 光路差が波長の整数倍 \(m\lambda\) のときに強め合い、半整数倍 \((m+1/2)\lambda\) のときに弱め合います(この装置では反射による位相変化は相殺されます)。
  3. 光学的距離: 屈折率\(n\)の媒質中を幾何学的な距離\(L\)だけ進む光の光学的距離は\(nL\)と表されます。
  4. 干渉の次数の変化: 光路差や波長が変化すると、干渉条件を満たす次数\(m\)も変化します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、M₁の移動による光路差の変化 \(2d\) を計算し、これが波長の整数倍になるという強め合いの条件から、観測される強め合いの回数を求めます。
  2. (2)では、(1)の最終状態での光路差を固定し、波長を変化させたときに次数がどのように変化して再び強め合いの条件を満たすかを考え、新しい波長を求めます。
  3. (3)では、(1)の最終状態での光路差を固定したまま、波長を変化させて最初に弱め合いの条件を満たす状況を考え、そのときの波長を求めます。
  4. (4)では、平行平面膜の挿入による光路長の変化を計算し、干渉条件と与えられた厚さの範囲から実際の厚さを決定します。

問(1)

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