問題7 (新潟大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、回折格子による光の干渉、光のドップラー効果、そして媒質中での光の干渉という複数の物理現象を組み合わせた総合的な問題です。それぞれの現象の原理を理解し、数式を正しく適用することが求められます。
- 回折格子K: 1 cm あたり400本の溝
- レンズLの焦点距離: \(F = 100 \text{ cm}\)
- レンズLとスクリーンS間の距離: \(100 \text{ cm}\) (レンズの焦点距離に等しい)
- (1) H\(\alpha\)線の波長(静止光源): \(\lambda_0 = 656 \text{ nm} = 656 \times 10^{-9} \text{ m}\)
- (2) 縞の間隔の減少量: \(0.011 \text{ cm}\)
- 光速: \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)
- (3) 水の屈折率: \(n = 1.33\)
- 近似: 回折角 \(\theta\) は微小 (\(\sin\theta \approx \tan\theta\))
- (1) 静止水素原子のH\(\alpha\)線による干渉縞の明るい縞の間隔 \(\Delta x\)。
- (2) 星雲の運動方向(接近または後退)と、その速さ \(v\)。
- (3) 水を満たしたときのH\(\alpha\)線による干渉縞の明るい縞の間隔 \(\Delta x’\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、波動光学の主要なテーマである「回折格子による光の干渉」、「光のドップラー効果」、そして「媒質中での光波の性質の変化」を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 回折格子の干渉条件: 格子定数を \(d\)、回折角を \(\theta\)、光の波長を \(\lambda\)、干渉の次数を \(m\) とすると、強め合い(明るい縞)の条件は \(d\sin\theta = m\lambda\) です。
- 微小角近似: \(\theta\) が非常に小さいとき、\(\sin\theta \approx \tan\theta \approx \theta\)(ラジアン単位)が成り立ちます。
- レンズによる集光: 平行光線が焦点距離 \(F\) のレンズに入射すると、焦点面(レンズから距離 \(F\) の位置)に集光します。回折角 \(\theta\) の光は、光軸から \(x = F\tan\theta\) の位置に集まります。
- 光のドップラー効果: 光源または観測者が運動することにより、観測される光の波長(または振動数)が変化する現象です。光源が近づく場合は波長が短く(青方偏移)、遠ざかる場合は波長が長く(赤方偏移)なります。
- 媒質中の光: 屈折率 \(n\) の媒質中では、光の波長は真空中の波長 \(\lambda_0\) に対して \(\lambda_n = \lambda_0/n\) となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 明線間隔の計算: まず回折格子の格子定数 \(d\) を求めます。次に、回折格子による \(m\) 次の明線の条件式と、レンズの焦点面における明線の位置 \(x_m\) の関係式を立て、微小角近似を用います。これにより \(x_m\) が \(m, \lambda, F, d\) で表されるので、隣り合う明線の間隔 \(\Delta x\) を計算します。
- (2) ドップラー効果の適用: 観測された縞の間隔が変化したことから、星雲から届く光の波長が変化したと判断します。\(\Delta x\) が \(\lambda\) に比例することから、波長が短くなったのか長くなったのかを特定し、星雲が地球に近づいているのか遠ざかっているのかを判断します。その後、ドップラー効果の公式を用いて、波長の変化量と縞の間隔の変化量から星雲の速さ \(v\) を求めます。
- (3) 水中での明線間隔の計算: 装置内が水で満たされた場合、光の波長が水中で変化する(\(\lambda_n = \lambda_0/n\))と考えるか、あるいは回折格子の条件式における光路差が変化する(\(nd\sin\theta = m\lambda_0\))と考えて、(1)と同様の手順で新しい明線間隔 \(\Delta x’\) を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
まず、回折格子の格子定数 \(d\) を計算します。「1cm当たり400本の溝」という情報から、1本の溝の間隔(格子定数)を求めます。次に、回折格子による強め合い(明線)の条件式 \(d\sin\theta = m\lambda\) を用います。スクリーンSはレンズLの焦点面上にあるため、回折角 \(\theta\) で回折した平行光線は、レンズを通過後、スクリーン上の光軸から \(x = F\tan\theta\) の位置に集光します。「回折角は微小」との近似 \(\sin\theta \approx \tan\theta\) を用い、\(m\) 次の明線の位置 \(x_m\) を求め、隣り合う明線の間隔 \(\Delta x\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 格子定数 \(d\) の正しい計算と単位変換。
- 回折格子の強め合いの条件式: \(d\sin\theta = m\lambda\)。
- レンズによる集光位置: \(x = F\tan\theta\)。
- 微小角近似: \(\sin\theta \approx \tan\theta\)。
具体的な解説と立式
1. 格子定数 \(d\) の計算:
1cmあたり400本の溝があるので、格子定数 \(d\) は、
$$d = \frac{1 \text{ cm}}{400}$$
2. \(m\) 次の明線の位置 \(x_m\):
強め合いの条件は \(d\sin\theta_m = m\lambda\)。集光位置は \(x_m = F\tan\theta_m\)。
微小角近似 \(\sin\theta_m \approx \tan\theta_m\) より、\(d\tan\theta_m \approx m\lambda\)、すなわち \(\tan\theta_m \approx \displaystyle\frac{m\lambda}{d}\)。
よって、$$x_m \approx F \frac{m\lambda}{d}$$
3. 明るい縞の間隔 \(\Delta x\):
$$\Delta x = x_{m+1} – x_m = F \frac{(m+1)\lambda}{d} – F \frac{m\lambda}{d} = \frac{F\lambda}{d}$$
使用した物理公式
- 回折格子の強め合い条件: \(d\sin\theta = m\lambda\)
- レンズによる集光: \(x = F\tan\theta\)
- 微小角近似: \(\sin\theta \approx \tan\theta\)
格子定数 \(d = \displaystyle\frac{1}{400} \text{ cm}\)。
波長 \(\lambda = 656 \text{ nm} = 656 \times 10^{-7} \text{ cm}\)。
焦点距離 \(F = 100 \text{ cm}\)。
明るい縞の間隔 \(\Delta x\) は、
$$\Delta x = \frac{F\lambda}{d} = \frac{100 \text{ cm} \times (656 \times 10^{-7} \text{ cm})}{\frac{1}{400} \text{ cm}}$$$$= 100 \times 656 \times 10^{-7} \times 400 \text{ cm}$$$$= 2624 \times 10^{-3} \text{ cm} = 2.624 \text{ cm}$$
有効数字2桁で、\(\Delta x \approx 2.6 \text{ cm}\)。
回折格子の溝の間隔 \(d\) は \(1/400 \text{ cm}\) です。明るい縞の間隔 \(\Delta x\) は \(\frac{F\lambda}{d}\) と表せます。これに \(F=100 \text{ cm}\)、\(\lambda = 656 \times 10^{-7} \text{ cm}\)、\(d = 1/400 \text{ cm}\) を代入して計算すると、約2.6cmとなります。
S上にできる干渉縞の明るい縞の間隔は約 \(2.6 \text{ cm}\) です。
問(2)
思考の道筋とポイント
縞の間隔 \(\Delta x = \frac{F\lambda}{d}\) は波長 \(\lambda\) に比例します。縞の間隔が小さくなったということは、観測された波長 \(\lambda’\) が元の波長 \(\lambda_0\) よりも短くなったことを意味します。これは光源が観測者に近づく場合のドップラー効果(青方偏移)です。星雲の速さ \(v\) は、ドップラー効果の公式 \(\lambda’ = \lambda_0 \frac{c-v}{c}\) と、縞の間隔の変化量 \(\delta(\Delta x) = \frac{F}{d}(\lambda_0 – \lambda’)\) から求めます。
この設問における重要なポイント
- 縞の間隔 \(\Delta x\) と波長 \(\lambda\) の比例関係。
- ドップラー効果:波長が短くなるのは光源が近づく場合。
- 光のドップラー効果の公式の適用。
具体的な解説と立式
1. 星雲の運動方向の判断:
縞の間隔 \(\Delta x\) が \(\lambda\) に比例するため、\(\Delta x\) が小さくなったことは \(\lambda\) が短くなったことを意味します。したがって、星雲は地球に近づいています。
2. 星雲の速さ \(v\) の計算:
観測された波長を \(\lambda’\) とすると、\(\lambda’ = \lambda_0 \displaystyle\frac{c-v}{c}\)。
縞の間隔の変化量は \(\delta(\Delta x) = \Delta x_0 – \Delta x’ = \displaystyle\frac{F}{d}(\lambda_0 – \lambda’) = 0.011 \text{ cm}\)。
\(\lambda_0 – \lambda’ = \lambda_0 \displaystyle\frac{v}{c}\) なので、
$$\frac{F}{d} \left(\lambda_0 \frac{v}{c}\right) = 0.011 \text{ cm}$$
ここで、\(\Delta x_0 = \displaystyle\frac{F\lambda_0}{d}\) なので、
$$\Delta x_0 \frac{v}{c} = 0.011 \text{ cm}$$
$$v = c \frac{0.011 \text{ cm}}{\Delta x_0}$$
使用した物理公式
- 縞の間隔: \(\Delta x = \displaystyle\frac{F\lambda}{d}\)
- 光のドップラー効果(光源が近づく場合): \(\lambda’ = \lambda_0 \displaystyle\frac{c-v}{c}\)
運動方向: 近づいている。
速さ \(v\) の計算:
\(v = c \displaystyle\frac{\delta(\Delta x)}{\Delta x_0}\)。
\(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)、\(\delta(\Delta x) = 0.011 \text{ cm}\)、\(\Delta x_0 = 2.624 \text{ cm}\)。
$$v = (3.0 \times 10^8 \text{ m/s}) \times \frac{0.011 \text{ cm}}{2.624 \text{ cm}}$$$$= (3.0 \times 10^8) \times 0.00419199… \text{ m/s}$$$$\approx 1.2576 \times 10^6 \text{ m/s}$$
有効数字2桁で \(v \approx 1.3 \times 10^6 \text{ m/s}\)。
縞の間隔が小さくなったので、波長が短くなり、星雲は近づいています。速さ \(v\) は \(v = c \times \frac{\text{間隔の変化量}}{\text{元の間隔}}\) で計算でき、約 \(1.3 \times 10^6 \text{ m/s}\) です。
この星雲は地球に近づいており、その速さは約 \(1.3 \times 10^6 \text{ m/s}\) です。
問(3)
思考の道筋とポイント
装置全体が屈折率 \(n=1.33\) の水で満たされた場合を考えます。模範解答のメイン解法は、水中での光路差が \(nd\sin\theta\) となることに着目します。強め合いの条件は \(nd\sin\theta = m\lambda_0\) となります(ここで \(\lambda_0\) は真空中の波長)。これとレンズの式 \(x’_m = F\tan\theta\)、微小角近似を用いて、水中の縞の間隔 \(\Delta x’\) を求めます。
別解として、水中では光の波長が \(\lambda_n = \lambda_0/n\) に変化すると考え、縞の間隔の公式 \(\Delta x = \frac{F\lambda}{d}\) の \(\lambda\) を \(\lambda_n\) に置き換える方法もあります。
この設問における重要なポイント
- 水中での光路差の変化、または波長の変化を正しく考慮する。
- 回折格子の条件式とレンズの式の適用。
具体的な解説と立式
メイン解法(光路差の変化を考慮):
水中で、隣り合うスリットから角 \(\theta_m\) 方向に出る光の光路差は \(nd\sin\theta_m\) となります。ここで \(n\) は水の屈折率、\(d\) は格子定数、\(\lambda_0\) は真空中の光の波長です。
強め合いの条件は、
$$nd\sin\theta_m = m\lambda_0 \quad \cdots ⑥$$
スクリーン上の \(m\) 次の明線の位置 \(x’_m\) は、レンズの焦点距離を \(F\) として、
$$x’_m = F\tan\theta_m \quad \cdots ⑦$$
微小角近似 \(\sin\theta_m \approx \tan\theta_m\) を用いると、式⑥は \(nd\tan\theta_m \approx m\lambda_0\) となり、\(\tan\theta_m \approx \displaystyle\frac{m\lambda_0}{nd}\)。
これを式⑦に代入すると、
$$x’_m \approx F \frac{m\lambda_0}{nd}$$
したがって、水中での明るい縞の間隔 \(\Delta x’\) は、
$$\Delta x’ = x’_{m+1} – x’_m = F \frac{(m+1)\lambda_0}{nd} – F \frac{m\lambda_0}{nd} = \frac{F\lambda_0}{nd}$$
ここで、(1)で求めた空気中での縞の間隔は \(\Delta x_0 = \displaystyle\frac{F\lambda_0}{d}\) でしたので、
$$\Delta x’ = \frac{\Delta x_0}{n}$$
使用した物理公式
- 水中での強め合い条件: \(nd\sin\theta = m\lambda_0\)
- レンズによる集光: \(x = F\tan\theta\)
- 微小角近似: \(\sin\theta \approx \tan\theta\)
(1)で計算した空気中(真空中)での縞の間隔 \(\Delta x_0 = 2.624 \text{ cm}\)。
水の屈折率 \(n = 1.33\)。
水中での縞の間隔 \(\Delta x’\) は、
$$\Delta x’ = \frac{\Delta x_0}{n} = \frac{2.624 \text{ cm}}{1.33}$$
$$\Delta x’ \approx 1.9729… \text{ cm}$$有効数字2桁で答えるので、$$\Delta x’ \approx 2.0 \text{ cm}$$
メイン解法: 水の中では、回折格子で光が強め合う条件が少し変わります。光が進む道のりの差(光路差)が、水の屈折率 \(n\) の影響を受けて \(nd\sin\theta\) となります。これが真空中の波長 \(\lambda_0\) の整数倍になるときに明るい縞ができます。この条件から計算すると、縞の間隔は空気中のときの \(1/n\) 倍になります。
別解: 水の中では光の波長が \(1/n\) 倍 (\(\lambda_0/n\)) に短くなります。縞の間隔は波長に比例するので、水中での縞の間隔も空気中での間隔の \(1/n\) 倍になります。
どちらの考え方でも、(1)で求めた空気中での間隔約2.6cmを屈折率1.33で割ると、約2.0cmとなります。
別解: 水中での波長変化を考慮
具体的な解説と立式
水中での光の波長 \(\lambda_n\) は、真空中の波長を \(\lambda_0\) とすると、
$$\lambda_n = \frac{\lambda_0}{n}$$
明るい縞の間隔の公式は一般に \(\Delta x = \displaystyle\frac{F\lambda_{\text{使用波長}}}{d}\) と書けます。
したがって、水中での間隔 \(\Delta x’\) は、波長に \(\lambda_n\) を用いて、
$$\Delta x’ = \frac{F\lambda_n}{d} = \frac{F(\lambda_0/n)}{d} = \frac{1}{n} \left(\frac{F\lambda_0}{d}\right)$$
ここで、\(\displaystyle\frac{F\lambda_0}{d}\) は(1)で求めた空気中(真空中)での縞の間隔 \(\Delta x_0\) です。
よって、
$$\Delta x’ = \frac{\Delta x_0}{n}$$
この後の計算過程はメイン解法と同じです。
水で満たしたときの明るい縞の間隔は約 \(2.0 \text{ cm}\) です。
水の屈折率 \(n=1.33\) は1より大きいため、水中での実効的な波長は短くなり(または光路長が長くなり)、結果として縞の間隔も狭まります。これは物理的に妥当な結果です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 回折格子の干渉条件:
- 核心: 格子定数\(d\)、入射光の波長\(\lambda\)、回折角\(\theta\)、干渉次数\(m\)の間の関係式 \(d\sin\theta = m\lambda\) (強め合い)。
- 理解のポイント: 隣り合うスリットを通過する光の光路差が波長の整数倍になるときに強め合うという、多光束干渉の基本原理を理解する。
- レンズによる集光と縞模様の形成:
- 核心: 回折格子を通過した平行な回折光が、レンズの焦点面上に集光し、干渉縞を形成する。縞の位置は \(x \approx F\theta \approx F\lambda m/d\)。
- 理解のポイント: 平行光線がレンズの焦点に集まる性質と、微小角近似の組み合わせを把握する。
- 光のドップラー効果:
- 核心: 光源と観測者の相対運動により、観測される光の波長(振動数)が変化する現象。
- 理解のポイント: 近づく場合は波長が短く(青方偏移)、遠ざかる場合は波長が長くなる(赤方偏移)という方向性を理解する。また、\(\lambda’ = \lambda_0 (1 \mp v/c)\) や \(f’ = f_0 (c/(c \pm v))\) といった公式の符号と適用条件を正しく把握する。
- 媒質中の光の波長:
- 核心: 屈折率\(n\)の媒質中では、光の波長は真空中の\(1/n\)倍になる (\(\lambda_n = \lambda_0/n\))。
- 理解のポイント: これにより、媒質中で干渉現象を考える場合、実効的な波長が変わるか、光路長が\(n\)倍になると解釈できる。どちらの考え方でも同じ結果に至ることを理解する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- ヤングの実験(複スリット干渉): 縞の間隔の式は類似の形をとる。回折格子は多数のスリットの集まりと見なせる。
- X線回折(ブラッグの条件など): 結晶格子によるX線の回折・干渉も、周期構造による波動の干渉という点で共通の原理。
- 天体からの光のスペクトル分析: 星や銀河の出す光のスペクトル線がドップラー効果によりずれることから、天体の視線速度を測定し、宇宙の膨張などを研究する。
- 薄膜干渉での媒質の効果: 薄膜やその周囲の媒質の屈折率が、光路長や位相変化に影響し、干渉条件を変える。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 現象の特定: まず、問題がどの物理現象(回折格子の干渉か、ドップラー効果か、媒質中の光か、あるいはそれらの組み合わせか)を扱っているのかを正確に把握する。
- 関連する公式の想起: 特定した現象に対応する基本的な物理法則や公式(例: \(d\sin\theta = m\lambda\)、ドップラー効果の式など)を思い出す。
- 図と条件の整理: 問題文中の図や与えられた数値を整理し、未知数と既知数の関係を明確にする。特に幾何学的な配置(距離、角度など)を正確に読み取る。
- 近似条件の確認: 「微小角近似」のような近似条件があれば、それを適用できる場面を見極める。
- 段階的な立式: 複数の現象が絡む場合は、各現象ごとに式を立て、それらを連立させて解くことを考える。例えば、(2)では縞の間隔の式とドップラー効果の式を組み合わせる。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 回折格子の格子定数\(d\)は、「単位長さあたりの筋の本数」の逆数であることに注意し、単位を正しく扱う。
- ドップラー効果の公式は複数ある(波長で表すか振動数で表すか、光源が動くか観測者が動くかなど)。問題の状況に合わせて適切な公式を選び、符号の向き(近づくか遠ざかるか)に注意する。
- レンズが介在する場合、平行光線が焦点面に集まるという性質を理解し、回折角\(\theta\)とスクリーン上の位置\(x\)の関係 (\(x=F\tan\theta\)) を使う。
- 媒質が変わると波長が変わるという点を忘れずに。縞の間隔などの量は波長に依存するため、媒質の効果を考慮に入れる必要がある。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 格子定数 \(d\) の計算ミス:
- 現象: 「1cmあたりN本」という情報を、\(d=N\) [cm]や \(d=1/N\) [m] のように単位換算を誤ったり、逆数を忘れたりする。
- 対策: 格子定数 \(d\) は「1本あたりの間隔」なので、\(d = (\text{与えられた長さ}) / (\text{本数})\) で計算する。単位はmに基本統一することを推奨(例: 1cmあたり400本なら \(d = (1 \times 10^{-2} \text{ m}) / 400\))。
- ドップラー効果の公式の符号選択ミス:
- 現象: 光源が近づく場合と遠ざかる場合で、波長が長くなるのか短くなるのか、また公式中の \(v\) の符号をどちらにすべきか混乱する。
- 対策: 「光源が近づく \(\rightarrow\) 波面が圧縮される \(\rightarrow\) 波長は短くなる(青方偏移)、振動数は高くなる」という物理的イメージを持つ。公式 \(\lambda’ = \lambda_0 (1 \mp v/c)\) では近づくとき「\(-\)」遠ざかるとき「\(+\)」。振動数の公式 \(f’ = f_0 (c/(c \pm v))\) では近づくとき分母が「\(c-v\)」、遠ざかるとき「\(c+v\)」。
- 微小角近似の不適切な適用や誤解:
- 現象: \(\sin\theta \approx \theta\), \(\tan\theta \approx \theta\) の近似は\(\theta\)がラジアン単位の時に成り立つが、度数法のまま使ってしまう。また、近似が使えない比較的大きな角度でも使ってしまう。
- 対策: 問題文に「微小角として近似し」とあれば積極的に使う。このとき\(\theta\)そのものより\(\sin\theta\)や\(\tan\theta\)の形で扱うことが多い。近似の結果、式が簡単になることを確認する。
- 媒質中での波長の扱いと光路長の混同:
- 現象: 水中での波長を \(\lambda_0/n\) とするか、光路長を \(n\) 倍にするかのどちらか一方を適用すべきところを混同したり、両方適用してしまったりする。
- 対策: 干渉条件 \(d\sin\theta = m\lambda\) を使う場合、右辺の\(\lambda\)を媒質中の波長\(\lambda_n = \lambda_0/n\)に置き換えるか、左辺の光路差を \(nd\sin\theta\) と考えて右辺を真空中の波長\(\lambda_0\)のままにするか、どちらか一方のアプローチで統一する。結果は同じになる。
- 単位換算の漏れ・ミス:
- 現象: nm, cm, m が混在しているのに、適切な換算を行わずに計算を進めてしまい、桁が大きくずれる。
- 対策: 計算を始める前に全ての物理量を基本単位(例: m)に統一するか、あるいは最終的に求められる単位に合わせて計算途中で計画的に換算する。特に波長(\(\lambda\))、格子定数(\(d\))、焦点距離(\(F\))の単位に注意。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 回折格子の光路: 平行光線が回折格子に入射し、各スリット(溝)を通過した光が異なる方向に回折していく様子。特に、隣り合うスリットからの光が特定の方向(\(\theta\))に進む際に生じる光路差(\(d\sin\theta\))を図で明確にイメージする。
- レンズによる集光: 同じ角度\(\theta\)で回折した平行光線群が、レンズによって焦点面上の特定の一点に集められる様子。レンズの中心を通る光線と、スクリーン上の集光点までの関係 (\(x = F\tan\theta\)) を図で確認する。
- ドップラー効果の波面: 光源が近づく場合、波面の間隔(=波長)が進行方向で密になるイメージ。逆に遠ざかる場合は疎になるイメージ。
- 媒質中の波の伝播: 水のような媒質中では光速が遅くなり、その結果として波長が短くなる(振動数は変わらない)イメージ。波の「目盛り」が細かくなる感じ。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 回折角\(\theta\)の定義: 格子面に垂直な線(法線)からの角度として正確に図示する。
- 光路差の図示: 隣り合うスリットからの光路差\(d\sin\theta\)が生じる部分を、直角三角形を意識して描く。
- レンズと焦点面: レンズの光軸、焦点距離\(F\)、スクリーン(焦点面)の位置関係を明確にする。
- 近似の反映: 微小角近似を使う場合、図では多少角度を大きく描いても、数式上では近似が適用されていることを意識する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(d\sin\theta = m\lambda\) (回折格子の強め合い条件):
- 選定理由: 多数のスリットからの光が干渉して明線(強め合い)を作る方向を特定するため。
- 適用根拠: 隣り合うスリットを通過した光の光路差が、波長の整数倍になるときに同位相で重なり強め合うという、ホイヘンスの原理と重ね合わせの原理に基づく。
- \(x = F\tan\theta\) (レンズ焦点面での集光位置):
- 選定理由: 回折角\(\theta\)で進んできた平行光線が、レンズ通過後にスクリーン(焦点面に設置)上のどの位置に集光するかを求めるため。
- 適用根拠: レンズの光軸に平行な光線は焦点を通る。光軸に対して角度\(\theta\)で入射する平行光線は、焦点面上で光軸から距離 \(F\tan\theta\) の位置に集まるというレンズの性質。
- \(\lambda’ = \lambda_0 \frac{c-v}{c}\) (光のドップラー効果、光源が近づく場合):
- 選定理由: 光源(星雲)が観測者(地球)に対して運動しているため、観測される光の波長が変化する効果を計算するため。
- 適用根拠: 光速不変の原理に基づき、光源の運動によって単位時間あたりに放出される波の数(振動数)は変わらないが、その波が占める空間的長さ(波長)が光源の速度に応じて変化するという考え方。近づく場合は波が圧縮されて波長が短くなる。
- \(\Delta x’ = \Delta x_0 / n\) または \(\lambda_n = \lambda_0/n\) (水中での縞間隔または波長):
- 選定理由: 光が屈折率\(n\)の媒質(水)中を進むことによる干渉縞の間隔の変化を計算するため。
- 適用根拠: 媒質中では光速が\(c/n\)になるため、振動数が変わらないとすると波長が\(\lambda_0/n\)になる。縞の間隔\(\Delta x\)は波長\(\lambda\)に比例するため(\(\Delta x = F\lambda/d\))、間隔も\(1/n\)倍になる。あるいは、光路差の条件を\(nd\sin\theta = m\lambda_0\)として扱うことで同じ結果が得られる。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 静止光源・空気中での縞間隔\(\Delta x_0\):
- 格子定数 \(d\) を計算する (\(d = (\text{単位長さ}) / (\text{本数})\))。
- 回折格子の強め合いの条件 \(d\sin\theta_m = m\lambda_0\) を立てる。
- レンズによる集光位置 \(x_m = F\tan\theta_m\) と微小角近似 \(\sin\theta_m \approx \tan\theta_m\) を用いて、\(x_m = \frac{F m \lambda_0}{d}\) を導く。
- 縞の間隔 \(\Delta x_0 = x_1 – x_0 = \frac{F\lambda_0}{d}\) として計算する。
- (2) 星雲の運動方向と速さ\(v\):
- 縞の間隔の変化 (\(\Delta x’ < \Delta x_0\)) から波長の変化 (\(\lambda’ < \lambda_0\)) を判断し、ドップラー効果により星雲が「近づいている」と結論づける。
- 元の縞の間隔 \(\Delta x_0 = \frac{F\lambda_0}{d}\) と観測された縞の間隔 \(\Delta x’ = \frac{F\lambda’}{d}\) の差 \(\delta(\Delta x) = \Delta x_0 – \Delta x’\) を計算する。
- \(\delta(\Delta x) = \frac{F}{d}(\lambda_0 – \lambda’)\) という関係を得る。
- ドップラー効果の公式(近づく場合) \(\lambda’ = \lambda_0 \frac{c-v}{c}\) から \(\lambda_0 – \lambda’ = \lambda_0 \frac{v}{c}\) を導く。
- 上記2式を組み合わせて \(\delta(\Delta x) = \frac{F\lambda_0}{d} \frac{v}{c} = \Delta x_0 \frac{v}{c}\) を得る。
- \(v = c \frac{\delta(\Delta x)}{\Delta x_0}\) として速さ\(v\)を計算する。
- (3) 水中での縞間隔\(\Delta x’\):
- 水中での波長が \(\lambda_n = \lambda_0/n\) となることを用いる。
- 縞の間隔の公式に水中での波長を適用し、\(\Delta x’ = \frac{F\lambda_n}{d} = \frac{F(\lambda_0/n)}{d} = \frac{1}{n}\left(\frac{F\lambda_0}{d}\right) = \frac{\Delta x_0}{n}\) として計算する。(別解として光路差 \(nd\sin\theta=m\lambda_0\) から導出も可)
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の一貫性の徹底:
- 現象: nm(ナノメートル)、cm(センチメートル)、m(メートル)が混在しており、換算を忘れたり間違えたりしやすい。特に格子定数\(d\)、波長\(\lambda\)、焦点距離\(F\)の単位。
- 対策: 計算を始める前に、全ての物理量を基本単位であるメートル(m)に統一する。あるいは、最終的に求めたい単位(例: cm)に合わせて、計算の各段階で意識的に単位を揃える。指数計算(\(10^{-9}, 10^{-7}, 10^{-2}\)など)を正確に行う。
- 格子定数 \(d\) の正確な計算:
- 現象: 「1cmあたり400本」から格子定数を求める際に、単純に400を使ったり、逆数を取る際に単位を誤る。
- 対策: 格子定数\(d\)は「1本あたりの溝の間隔」であるため、\(d = \frac{1 \text{ cm}}{400} = \frac{10^{-2} \text{ m}}{400}\) と正しく計算する。
- 有効数字の適切な処理:
- 現象: 計算途中で不用意に丸めて最終結果の精度が落ちる、または問題文の指示(有効数字2桁)を無視する。
- 対策: 計算途中では有効数字より1~2桁多く保持し、最終的な答えを出す段階で指定された有効数字に正しく丸める。
- 分数の計算:
- 現象: \(\Delta x = F\lambda/d\) のような分数計算で、分母と分子を取り違えたり、割り算を間違えたりする。
- 対策: 式を丁寧に書き、どの物理量が分母に来てどれが分子に来るのかを明確に意識する。特に \(d\) が分数になる場合(例: \(d=1/400\) cm)は、逆数を掛ける操作を慎重に行う。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 縞間隔のオーダーの確認:
- (1)で求めた縞の間隔(約2.6cm)が、実験室の光学装置で観察される干渉縞として現実的な大きさ(オーダー)であるか。極端に大きすぎたり小さすぎたりしないか。
- 星雲の速さの物理的妥当性:
- (2)で求めた星雲の速さ(約 \(1.3 \times 10^6 \text{ m/s}\))が、光速 (\(3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)) に比べて十分に小さいか(ドップラー効果の非相対論的公式の適用範囲内か)。また、天文学的な速度としてあり得る範囲の値か。
- 運動方向(「近づいている」)が、波長の短縮(青方偏移)という現象と矛盾していないか。
- 水中での縞間隔の変化の方向:
- (3)で水中に装置を浸した場合、屈折率 \(n > 1\) なので、水中での波長は真空中に比べて短くなるはず。その結果、縞の間隔は空気中(真空中)よりも狭くなるはず (\(\Delta x’ < \Delta x_0\))。計算結果がこの定性的な予測と一致しているか。
- 近似の妥当性:
- 微小角近似 (\(\sin\theta \approx \tan\theta\)) を用いたが、実際に得られる\(\theta\)が十分に小さい範囲に収まっているか(例えば、\(\sin\theta = \lambda/d \approx (656 \times 10^{-9}) / (1/400 \times 10^{-2}) \approx 0.026\)、これは約1.5度程度なので微小角と見なせる)。
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