「名問の森」徹底解説(64〜66問):未来の得点力へ!完全マスター講座【波動Ⅱ・電磁気・原子】

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問題64 (新潟大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、原子核反応における質量とエネルギーの関係、そして反応後の粒子の運動について扱います。静止したリチウム6原子核に低速の中性子を衝突させる核反応が題材です。

与えられた条件
  • 反応式: \({}_{3}^{6}\text{Li} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + \text{X}\)
  • 反応前の状態: \({}_{3}^{6}\text{Li}\)は静止、中性子(\({}_{0}^{1}\text{n}\))は遅い(運動エネルギーは無視できる)。
  • 反応エネルギー: 反応によって放出されるエネルギーは \(4.78 \, \text{MeV}\) である。
  • 質量とエネルギーの等価性: \(1 \, \text{MeV}\) のエネルギーは \(0.00107 \, \text{u}\) の質量に相当する。
  • 各粒子の質量:
    • \({}_{3}^{6}\text{Li}\): \(6.01513 \, \text{u}\)
    • 中性子 \({}_{0}^{1}\text{n}\): \(1.00867 \, \text{u}\)
    • \({}_{2}^{4}\text{He}\): \(4.00260 \, \text{u}\)
問われていること
  • (1) 質量\(m\)とエネルギー\(E\)の等価性を示す関係式。
  • (2) 未知の生成物である原子核\(\text{X}\)の正体。
  • (3) 原子核\(\text{X}\)の質量。
  • (4) 原子核\(\text{X}\)と\({}_{2}^{4}\text{He}\)の運動エネルギーの比。
  • (5) 原子核\(\text{X}\)の運動エネルギー。
  • (6) 原子核\(\text{X}\)がβ崩壊した後に生成される原子核。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題の核心は、アインシュタインによって示された質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)) です。原子核反応では、反応の前後で質量の総和が変化することがあります。この失われた質量(質量欠損)が、莫大なエネルギーに変換されて放出されます。
また、反応によって生成された粒子がどのようにエネルギーを分け合うかを考える際には、運動量保存則が鍵となります。これら二つの物理法則を組み合わせることで、未知の粒子の正体からその運動エネルギーまで、段階的に解明していくことができます。

問 (1)

思考の道筋とポイント
問題文の前段で説明されている、質量\(m\)の粒子が持つエネルギー\(E\)と、真空中の光速\(c\)との関係式を答えます。 これは現代物理学の基本原理の一つです。
具体的な解説と立式
相対性理論によれば、質量\(m\)を持つ物体は、それだけでエネルギーを持っていると見なされます。このエネルギーは「静止エネルギー」とよばれ、質量\(m\)と真空中の光速\(c\)を用いて以下のように表されます。
$$E = mc^2$$

使用した物理公式

  • 質量とエネルギーの等価性
解答 (1) \(E=mc^2\)

問 (2)

思考の道筋とポイント
原子核反応では、反応の前後で「質量数の総和」と「原子番号(陽子数、すなわち電荷数)の総和」がそれぞれ保存されます。この2つの保存則を用いることで、未知の原子核\(\text{X}\)を特定します。
具体的な解説と立式
未知の原子核\(\text{X}\)の質量数を\(A\)、原子番号を\(Z\)とおき、反応式に情報を加えます。
$${}_{3}^{6}\text{Li} + {}_{0}^{1}\text{n} \rightarrow {}_{2}^{4}\text{He} + {}_{Z}^{A}\text{X}$$
質量数と原子番号の保存則から、以下の方程式が成り立ちます。

  • 質量数の保存:$$6 + 1 = 4 + A \quad \cdots ①$$
  • 原子番号の保存:$$3 + 0 = 2 + Z \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 質量数保存則
  • 原子番号(電荷数)保存則
計算過程
  • 式①より \(A = 7 – 4 = 3\)。
  • 式②より \(Z = 3 – 2 = 1\)。
結論と吟味

計算の結果、原子核\(\text{X}\)は質量数が3、原子番号が1の原子核であることがわかりました。原子番号1は水素(\(\text{H}\))を表すため、これは水素の同位体である三重水素(トリチウム)です。記号では \({}_{1}^{3}\text{H}\) と書きます。

解答 (2) \({}_{1}^{3}\text{H}\)

問 (3)

思考の道筋とポイント
放出されたエネルギー \(4.78 \, \text{MeV}\) は、反応前後の質量差(質量欠損)がエネルギーに変換されたものです。エネルギーと質量の換算関係を使って質量欠損 \(\Delta m\) を計算し、質量欠損の定義式から未知の原子核\(\text{X}\)(\({}_{1}^{3}\text{H}\))の質量 \(m_1\) を求めます。
具体的な解説と立式
$$4.78 \times 0.00107 = (m_{{}_{3}^{6}\text{Li}} + m_{{}_{0}^{1}\text{n}}) – (m_{{}_{2}^{4}\text{He}} + m_1) \quad \cdots ①$$
ここに、与えられた質量値を代入します。
$$4.78 \times 0.00107 = (6.01513 + 1.00867) – (4.00260 + m_1) \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 質量とエネルギーの等価性
  • 質量欠損の定義
計算過程

式②の各項を計算し、\(m_1\)について解きます。
$$0.0051146 = 7.02380 – (4.00260 + m_1)$$
$$4.00260 + m_1 = 7.02380 – 0.0051146 = 7.0186854$$
$$m_1 = 7.0186854 – 4.00260 = 3.0160854 \, \text{u}$$

結論と吟味

原子核\(\text{X}\) (\({}_{1}^{3}\text{H}\)) の質量は \(3.0160854 \, \text{u}\) です。小数点以下5桁までで答えると、四捨五入して \(3.01609 \, \text{u}\) となります。

解答 (3) \(3.01609 \, \text{u}\)

問 (4)

思考の道筋とポイント
静止系からの分裂なので、生成された2つの原子核(\({}_{1}^{3}\text{H}\)と\({}_{2}^{4}\text{He}\))の運動量の大きさは等しくなります。この事実と運動エネルギーと運動量の関係式 \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) を使うことで、運動エネルギーの比を質量の比で表すことができます。
具体的な解説と立式
原子核\(\text{X}\) (\({}_{1}^{3}\text{H}\)) とヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\) の質量をそれぞれ \(m_1\), \(m_2\)、運動量の大きさを \(p_1\), \(p_2\) とします。運動量保存則より \(p_1 = p_2\) です。それぞれの運動エネルギー \(K_1\) と \(K_2\) の比は、
$$\displaystyle\frac{K_1}{K_2} = \displaystyle\frac{p_1^2 / (2m_1)}{p_2^2 / (2m_2)}$$

使用した物理公式

  • 運動量保存則
  • 運動エネルギーの定義 (\(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\))
計算過程

\(p_1 = p_2\) なので、\(p_1^2 = p_2^2\) となり、
$$\displaystyle\frac{K_1}{K_2} = \displaystyle\frac{1/m_1}{1/m_2} = \displaystyle\frac{m_2}{m_1}$$

解答 (4) \(\displaystyle\frac{m_2}{m_1}\)

問 (5)

思考の道筋とポイント
放出されたエネルギー \(Q = 4.78 \, \text{MeV}\) が、全て生成された2つの原子核の運動エネルギーの和になります。設問(4)で導いた運動エネルギーの比の関係 \(K_1/K_2 = m_2/m_1\) を用いて、\(\text{X}\)(\({}_{1}^{3}\text{H}\))の運動エネルギー \(K_1\) を求めます。計算の簡略化のため、質量の比を質量数の比で近似します。
具体的な解説と立式
\(K_1 + K_2 = 4.78 \, \text{MeV}\) と \(K_1 : K_2 = m_2 : m_1\) より、\(K_1\) は以下のように計算できます。
$$K_1 = \displaystyle\frac{m_2}{m_1 + m_2} \times (4.78 \, \text{MeV})$$
質量を質量数で近似 (\(m_1 \approx 3, m_2 \approx 4\)) して、
$$K_1 \approx \displaystyle\frac{4}{3+4} \times 4.78 \, \text{MeV}$$

使用した物理公式

  • エネルギー保存則
  • 運動エネルギーの逆比分配則
計算過程

$$K_1 = \displaystyle\frac{4}{7} \times 4.78 \approx 2.7314 \, \text{MeV}$$
有効数字3桁で答えると、\(2.73 \, \text{MeV}\) となります。

解答 (5) \(2.73 \, \text{MeV}\)

問 (6)

思考の道筋とポイント
β崩壊は、原子核内の中性子が陽子と電子に変わる現象です。これにより質量数は不変のまま、原子番号が1増加します。
具体的な解説と立式
崩壊前の原子核は \({}_{1}^{3}\text{H}\) です。β崩壊後の原子核を \({}_{Z’}^{A’}\text{Y}\) とすると、

  • 質量数は不変: \(A’ = 3\)
  • 原子番号は1増加: \(Z’ = 1 + 1 = 2\)

反応式で書くと、\({}_{1}^{3}\text{H} \rightarrow {}_{2}^{3}\text{Y} + {}_{-1}^{0}\text{e}\) となります。

使用した物理公式

  • β崩壊の法則
結論と吟味

崩壊後の原子核は、質量数が3で原子番号が2となります。原子番号2の元素はヘリウム(\(\text{He}\))なので、生成される原子核は \({}_{2}^{3}\text{He}\) (ヘリウム3)です。

解答 (6) \({}_{2}^{3}\text{He}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 質量とエネルギーの等価性 (\(E=mc^2\)): 原子核反応でエネルギーが生成される根源です。質量欠損がエネルギーに変わるという概念を理解することが不可欠です。
  • 原子核反応における保存則:
    • 質量数保存則: 核子(陽子と中性子)の総数は反応の前後で変わりません。
    • 電荷数(原子番号)保存則: 電荷の総和も反応の前後で変わりません。
  • 運動量保存則: 外力が働かない系では、反応前の全運動量と反応後の全運動量は等しくなります。 特に、静止状態からの分裂では、生成粒子の運動量の和はゼロベクトルになります。
  • エネルギー保存則: 反応で放出されたエネルギーが、生成粒子の運動エネルギーの和に等しくなります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 「静止状態からの分裂」を見抜く: このキーワードがあれば、運動エネルギーの比は質量の逆比 (\(K_1:K_2 = m_2:m_1\)) になる、という非常に強力な関係式が使えます。
  • 単位 \(\text{u}\) と \(\text{MeV}\) のペアに注目: この2つが出てきたら、それは「質量欠損と発生エネルギー」を関連付ける問題であるサインです。必ず、その2つの単位の換算レートを確認しましょう。
  • 計算における「精密さ」と「近似」の使い分け: 質量欠損の計算では精密な質量(\(\text{u}\)単位)を、運動エネルギーの分配比の計算では質量数での近似が有効です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 【誤解】原子核反応でも質量は保存する。
    【対策】 原子核反応では質量は保存されず、「質量数」が保存されると区別しましょう。
  • 【ミス】運動エネルギーを質量の「比」で分配してしまう。
    【対策】 正しくは質量の「逆比」です。「重い粒子はエネルギーを少ししかもらえない」とイメージで覚えておきましょう。
  • 【ミス】β崩壊で質量数が変わってしまう。
    【対策】 β崩壊は「質量数不変、原子番号+1」です。α崩壊との違いをしっかり整理しておくことが重要です。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 分裂の図解: 静止していた塊が、2つの破片になって反対方向に飛んでいく図を描きましょう。運動量の矢印は同じ長さで逆向きに、速度の矢印は軽い方が長く、重い方が短く描くことで、軽い方がより多くの運動エネルギーを得ることが視覚的に理解できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 未知の粒子を特定したい → 「保存則」 (質量数保存則、原子番号保存則)
  • エネルギーの発生源を知りたい → 「質量とエネルギーの等価性 \(E=mc^2\)」
  • 粒子が分裂・衝突した → 「運動量保存則」
  • エネルギーの分配を知りたい → 「エネルギー保存則」 + 「運動量保存則」

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 【Step 1: 登場人物の特定】 質量数と原子番号の保存則を使い、\(\text{X}\) が \({}_{1}^{3}\text{H}\) であることを突き止める。
  2. 【Step 2: エネルギー源の定量化】 質量欠損の定義式とエネルギー換算式から、未知の質量 \(m_{{}_{1}^{3}\text{H}}\) を求める。
  3. 【Step 3: エネルギー分配のルール導出】 運動量保存則から、\(K_1/K_2 = m_2/m_1\) という「逆比」の関係を導き出す。
  4. 【Step 4: 具体的なエネルギー計算】 全エネルギー \(Q\) を、逆比で分配する計算式を立て、解を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 小数点の桁数: 質量の計算は小数点以下の桁数が多く間違いやすいです。検算を徹底しましょう。
  • 逆比の確認: エネルギー分配の計算では、「求めるのは \(K_1\) だから、分子に来るのは \(m_2\) の方」と確認する習慣をつけましょう。
  • 概算の活用: 計算する前に、答えがどのくらいの値になるか大まかな見当をつけておくと、大きな間違いに気づきやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 質量の妥当性: 求めた \({}_{1}^{3}\text{H}\) の質量が、その構成要素(陽子1個と中性子2個)の質量の単純な和よりも「わずかに小さい」ことを確認しましょう。
  • エネルギー分配の妥当性: \({}_{1}^{3}\text{H}\) (軽い方) と \({}_{2}^{4}\text{He}\) (重い方) で、\({}_{1}^{3}\text{H}\) の運動エネルギーの方が大きいことを確認しましょう。
  • 有効数字の確認: 問題文の指定に従い、最終的な答えを正しい有効数字に丸めているか確認しましょう。
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