問題61 (名古屋大+大阪公立大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、壮大な宇宙を舞台にしていますが、その中身は「原子物理」「波動」「力学」という、高校物理の3つの重要分野の知識を組み合わせることで解ける、非常に優れた総合問題です。一見複雑な天体の運動も、基本的な物理法則を一つずつ適用していくことで、その正体を解き明かすことができます。
- 天体の運動: 質量が等しい2つの星(連星)が、共通の中心の周りを半径 \(r\)、速さ \(v\) で等速円運動している。
- 観測事実:
- \(t=0\): 波長 \(\lambda\) のスペクトル線が1本観測される。
- \(t=t_0\): 波長 \(\lambda-\beta\) と \(\lambda+\beta\) のスペクトル線が2本観測される。
- \(t=2t_0\): 再び波長 \(\lambda\) のスペクトル線が1本観測される。
- スペクトルの情報:
- 観測された光は、水素原子の線スペクトル。
- エネルギー準位の式: \(E_n = -hcR/n^2\)
- 波長 \(\lambda\) は、バルマー系列で最も波長の長いもの。
- 物理定数: 光速 \(c\)、プランク定数 \(h\)、万有引力定数 \(G\)、リュードベリ定数 \(R\)。
- (1)-(3) 水素原子のスペクトルに関する物理量(波長、イオン化エネルギー)。
- (4)-(6) 連星系の運動に関する物理量(周期 \(T\)、速さ \(v\)、半径 \(r\)、質量 \(m\))。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この一問を解き終える頃には、天文学者がどうやって星の質量や速さを知るのか、その驚くべき手法の基礎を体験できます。
問題は大きく分けて2つのパートから構成されています。
- 原子物理パート (1)~(3): まずは「観測された光が、そもそもどんな光なのか」を特定します。水素原子のエネルギー準位の知識が主役です。
- 天体物理パート (4)~(6): 次に、その光の波長が時間と共に変化する様子(ドップラー効果)を手がかりに、星の周期的な運動(円運動)を解析し、速さや質量といった天体の正体に迫ります。
一見、分野が多岐にわたりますが、一つ一つの現象は高校物理の基本法則に基づいています。壮大な謎解きを一緒に楽しんでいきましょう!
問 (1)
思考の道筋とポイント
「バルマー系列」とは、電子が \(n>2\) のエネルギー準位から \(n=2\) の準位へ遷移するときに放出される光のグループです。その中で「最も波長が長い」光は、波の性質 \(c=\nu\lambda\) より振動数が最も小さく、光子のエネルギー \(E=h\nu\) も最小となります。エネルギーが最小となる遷移は、エネルギー準位の「段差」が最も小さい遷移、つまり隣り合う準位からの遷移です。したがって、\(n=3\) から \(n=2\) への遷移であると特定できます。
具体的な解説と立式
光子が放出される際のエネルギー保存則(振動数条件)は、
$$h\frac{c}{\lambda} = E_{\text{遷移前}} – E_{\text{遷移後}}$$
です。今回の \(n=3 \rightarrow n=2\) の遷移に、問題で与えられたエネルギー準位の式 \(E_n = -hcR/n^2\) を適用します。
$$h\frac{c}{\lambda} = E_3 – E_2 = \left( -\frac{hcR}{3^2} \right) – \left( -\frac{hcR}{2^2} \right) \quad \cdots ①$$
この式を \(\lambda\) について解きます。
使用した物理公式
- 振動数条件: \(h\nu = h\displaystyle\frac{c}{\lambda} = E_{n_1} – E_{n_2}\)
- 水素原子のエネルギー準位: \(E_n = -hcR/n^2\)
式①の右辺を計算します。
$$h\frac{c}{\lambda} = -hcR \left( \frac{1}{9} – \frac{1}{4} \right) = -hcR \left( \frac{4-9}{36} \right) = hcR \frac{5}{36}$$
両辺の \(hc\) を消去すると、
$$\frac{1}{\lambda} = \frac{5R}{36}$$
これを \(\lambda\) について解くと、
$$\lambda = \frac{36}{5R}$$
水素原子が出す光の波長は、電子がどのエネルギー準位からどの準位へジャンプしたかで決まります。「バルマー系列」と聞いたら「ゴールは \(n=2\)」、「最も波長が長い」と聞いたら「一番段差の小さいジャンプ(スタートは \(n=3\))」と翻訳しましょう。あとは、エネルギーの差を計算する公式に \(n=3\) と \(n=2\) を代入すれば、波長が計算できます。
波長 \(\lambda\) はリュードベリ定数 \(R\) を用いて \(\lambda = 36/(5R)\) と表せます。これはHα線として知られる、可視光領域の赤い光に対応します。
問 (2)
思考の道筋とポイント
問(1)とは逆に、「バルマー系列の中で最も短い波長」を求めます。これは、エネルギーが最大の光子に対応します。\(n=2\) への遷移の中でエネルギー差が最大になるのは、最もエネルギーが高い状態、つまり電子が原子核の束縛から解放される寸前の状態である \(n=\infty\) の準位からの遷移です。
具体的な解説と立式
\(n=\infty \rightarrow n=2\) の遷移を考えます。振動数条件の式は、
$$h\frac{c}{\lambda_{\text{min}}} = E_{\infty} – E_2 \quad \cdots ②$$
\(n=\infty\) のとき、エネルギー準位は \(E_\infty = 0\) となります。これを式②に代入します。
$$h\frac{c}{\lambda_{\text{min}}} = 0 – \left( -\frac{hcR}{2^2} \right) = \frac{hcR}{4}$$
上の式から、
$$\frac{1}{\lambda_{\text{min}}} = \frac{R}{4} \quad \rightarrow \quad \lambda_{\text{min}} = \frac{4}{R}$$
問題では \(\lambda\) を用いて表すことが求められています。(1)の結果 \(R = 36/(5\lambda)\) をこの式に代入します。
$$\lambda_{\text{min}} = 4 \cdot \frac{1}{R} = 4 \cdot \frac{5\lambda}{36} = \frac{5}{9}\lambda$$
「最短波長」は「最大エネルギー」の裏返しです。バルマー系列(ゴールが \(n=2\))で最大のエネルギーを持つ光は、最も遠い場所(スタートが \(n=\infty\))からのジャンプに対応します。この条件で波長を計算し、最後に(1)で求めた関係式を使って、文字 \(R\) を \(\lambda\) に書き換えます。
バルマー系列の最短波長は \(\lambda_{\text{min}} = (5/9)\lambda\) です。\(5/9 < 1\) なので、\(\lambda_{\text{min}} < \lambda\) となり、(1)の「最も波長の長い」という設定と矛盾しない、妥当な結果です。
問 (3)
思考の道筋とポイント
「イオン化エネルギー」とは、原子が最も安定な状態(基底状態)にあるときに、そこから電子を1個完全に引き離してイオンにするために必要なエネルギーのことです。ボーア模型では、基底状態は \(n=1\)、電子が完全に引き離された状態は原子核の束縛が及ばなくなる無限遠、すなわち \(n=\infty\) に対応します。
具体的な解説と立式
イオン化エネルギー \(I\) は、\(n=1 \rightarrow n=\infty\) の遷移に必要なエネルギーなので、
$$I = E_{\infty} – E_1 \quad \cdots ③$$
\(E_\infty = 0\) と \(E_1 = -hcR/1^2 = -hcR\) を代入します。
$$I = 0 – (-hcR) = hcR$$
\(I=hcR\) という結果が得られましたが、問題では \(c, h, \lambda\) で表すことが求められています。(1)の結果 \(\lambda = 36/(5R)\) を \(R\) について解くと \(R = 36/(5\lambda)\) となります。これを \(I\) の式に代入します。
$$I = hc \left( \frac{36}{5\lambda} \right) = \frac{36hc}{5\lambda}$$
イオン化とは、基底状態(\(n=1\)の部屋)にいる電子を、建物の外(\(n=\infty\))に連れ出すことです。この「引っ越し」に必要なエネルギーを計算します。エネルギーを計算すると \(hcR\) という形になりますが、解答は \(\lambda\) を使って書くルールなので、(1)で見つけた \(R\) と \(\lambda\) の関係式を使って \(R\) を \(\lambda\) に書き換えます。
水素のイオン化エネルギーは \(I = 36hc/(5\lambda)\) と表せます。エネルギーの次元を持っていることを確認できます。
問 (4)
思考の道筋とポイント
観測されたスペクトルの時間変化から、連星の周期を読み解きます。
- \(t=0\): 波長 \(\lambda\) の線が1本。これは、2つの星からの光の波長が変化していない、つまりドップラー効果が起きていない状態です。円運動において、速度ベクトルが観測者の視線方向と完全に垂直になるとき、視線方向の速度成分が0になるため、ドップラー効果は生じません。
- \(t=2t_0\): 再び波長 \(\lambda\) の線が1本。これもドップラー効果がない状態です。
\(t=0\) の状態から、再び同じ(ドップラー効果がない)状態になるまで \(2t_0\) の時間がかかっています。図を見ると、\(t=2t_0\) のとき、2つの星は \(t=0\) の位置からちょうど半周した位置に来ています。
具体的な解説と立式
\(t=0\) から \(t=2t_0\) までの時間が、円運動の半周期(半周するのにかかる時間)に相当します。
$$\frac{T}{2} = 2t_0 \quad \cdots ④$$
ここで \(T\) は円運動の周期です。
式④の両辺を2倍して、周期 \(T\) を求めます。
$$T = 4t_0$$
スペクトル線の変化は、星の運動の様子を映す鏡です。「線が1本」のときは、星が真横に動いている瞬間。「線が2本」のときは、星がこちらに向かってくるか、遠ざかっている瞬間です。円運動では「真横に動く」瞬間は半周ごとにやってきます。問題では、\(t=0\) から \(t=2t_0\) で再び「真横に動く」状態になったので、\(2t_0\) が半周分の時間だとわかります。したがって、1周分の時間(周期)はその2倍です。
円運動の周期は \(T = 4t_0\) です。観測された時間情報から、天体の周期という基本的な物理量を決定できました。
問 (5)
思考の道筋とポイント
波長の変化 \(\beta\) はドップラー効果によって生じます。\(t=t_0\) のとき、スペクトルは \(\lambda-\beta\) と \(\lambda+\beta\) の2本に分離しており、これはドップラー効果が最大になっていることを示します。このとき、一方の星は速さ \(v\) で観測者に最も近づいており(波長が縮む:\(\lambda-\beta\))、もう一方は速さ \(v\) で最も遠ざかっています(波長が伸びる:\(\lambda+\beta\))。近づいてくる星に着目し、ドップラー効果の公式を適用して速さ \(v\) を求めます。
具体的な解説と立式
光源が速さ \(v\) で観測者に近づくときのドップラー効果の公式は、
$$f’ = \frac{c}{c-v}f$$
です。ここで \(f\) は元の振動数、\(f’\) は観測される振動数です。
\(f=c/\lambda\) の関係を使って、この式を波長で書き換えます。
$$\frac{c}{\lambda’} = \frac{c}{c-v} \frac{c}{\lambda}$$
観測される波長は \(\lambda’ = \lambda – \beta\) なので、
$$\frac{c}{\lambda – \beta} = \frac{c}{c-v} \frac{c}{\lambda} \quad \cdots ⑤$$
この式を \(v\) について解きます。
使用した物理公式
- ドップラー効果: \(f’ = \displaystyle\frac{c}{c-v}f\) (光源が近づく場合)
式⑤の両辺を \(c\) で割り、整理します。
$$\frac{1}{\lambda – \beta} = \frac{c}{(c-v)\lambda}$$
クロス乗算(たすき掛け)をします。
$$(c-v)\lambda = c(\lambda – \beta)$$
$$c\lambda – v\lambda = c\lambda – c\beta$$
両辺の \(c\lambda\) を消去すると、
$$-v\lambda = -c\beta$$
$$v = \frac{c\beta}{\lambda}$$
波長のズレ \(\beta\) は、星の速さ \(v\) によって生じます。救急車のサイレンと同じで、近づいてくるときは音が高く(波長が短く)聞こえます。この波長の変化量と星の速さの関係を結びつけるのがドップラー効果の公式です。公式に、元の波長 \(\lambda\) と変化後の波長 \(\lambda-\beta\) を代入して、未知数である速さ \(v\) を求めます。
星の速さは \(v = (\beta/\lambda)c\) です。波長のずれの割合 \((\beta/\lambda)\) が、光速 \(c\) に対する星の速さの割合 \((v/c)\) に等しいという、ドップラー効果の近似式としてもよく知られた、きれいな関係が得られました。
問 (6)
思考の道筋とポイント
半径 \(r\) と質量 \(m\) という、力学的な量を求めます。
- 半径 \(r\): (4)で周期 \(T\)、(5)で速さ \(v\) が求まっているので、等速円運動の基本的な関係式 `周期 = (円周の長さ) / (速さ)` から \(r\) を計算できます。
- 質量 \(m\): 質量が関係する法則は、運動方程式です。星が円運動を続けられるのは、もう一方の星からの万有引力が向心力として働いているからです。この力のつり合いの式を立てることで、質量 \(m\) を求めます。ここで最も注意すべき点は、2つの星の間の距離が \(2r\) になることです。
具体的な解説と立式
- 半径 r の計算:
周期 \(T\)、速さ \(v\)、半径 \(r\) の関係は、
$$T = \frac{2\pi r}{v}$$
これを \(r\) について解くと、
$$r = \frac{vT}{2\pi} \quad \cdots ⑥$$
この式に、(4)で求めた \(T=4t_0\) と、(5)で求めた \(v = (\beta/\lambda)c\) を代入します。 - 質量 m の計算:
1つの星に働く万有引力 \(F\) が、円運動の向心力として作用します。2つの星の質量はともに \(m\) で、星間の距離は \(r+r=2r\) です。したがって、
$$F = G\frac{m \cdot m}{(2r)^2} = G\frac{m^2}{4r^2}$$
円運動の運動方程式は \(m a = F\) で、向心加速度は \(a = v^2/r\) なので、
$$m\frac{v^2}{r} = G\frac{m^2}{4r^2} \quad \cdots ⑦$$
この式を \(m\) について解きます。
使用した物理公式
- 等速円運動: \(T = 2\pi r/v\)
- 運動方程式: \(ma=F\) (向心加速度 \(a=v^2/r\))
- 万有引力の法則: \(F=G m_1 m_2 / d^2\)
- 半径 r の計算:
式⑥に \(T=4t_0\) と \(v=(\beta/\lambda)c\) を代入します。
$$r = \frac{1}{2\pi} \left( \frac{\beta c}{\lambda} \right) (4t_0) = \frac{2\beta c t_0}{\pi \lambda}$$ - 質量 m の計算:
式⑦を \(m\) について整理します。まず両辺の \(m\) を1つ消去し、\(r\) も1つ消去します。
$$\frac{v^2}{1} = G\frac{m}{4r}$$
これを \(m\) について解くと、
$$m = \frac{4rv^2}{G}$$
この式に、上で求めた \(r\) と、(5)の \(v\) を代入します。
$$m = \frac{4}{G} \left( \frac{2\beta c t_0}{\pi \lambda} \right) \left( \frac{\beta c}{\lambda} \right)^2$$
$$m = \frac{8\beta c t_0}{\pi G \lambda} \frac{\beta^2 c^2}{\lambda^2} = \frac{8t_0}{\pi G} \left( \frac{\beta c}{\lambda} \right)^3$$
半径 \(r\) は、速さと周期がわかっているので、「速さ×時間=距離」の応用で `(円周) = vT` から計算できます。質量 \(m\) は、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) から求めます。この場合の力 \(F\) は星どうしが引き合う「万有引力」です。注意点は、星と星の間の距離は \(2r\) なので、万有引力の式の距離の部分に \(2r\) を代入することです。
円運動の半径は \(r = 2\beta ct_0 / (\pi\lambda)\)、星の質量は \(m = (8t_0 / (\pi G)) \cdot (\beta c/\lambda)^3\) となります。観測できる量(\(t_0\), \(\beta\), \(\lambda\))から、直接見ることのできない星の半径や質量といった物理量を決定できる、物理学の強力さを示す結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 水素原子のスペクトル系列: エネルギー準位の式 \(E_n = -hcR/n^2\) を元に、バルマー系列 (\(n=2\)への遷移) など、特定の遷移に対応する光の波長を計算する能力。
- 光のドップラー効果: 光源が動くことで波長が変化する現象。特に、観測される波長の変化 \(\beta\) から光源の視線方向の速さ \(v\) を求める関係式 \(v/c = \beta/\lambda\) の導出と適用。
- 連星系の円運動と万有引力: 2つの星が万有引力を向心力として、共通の中心の周りを円運動しているという物理モデルを正しく数式化(\(mv^2/r = Gm^2/(2r)^2\))する能力。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 天体の物理量推定: この問題は、天文学で実際に使われる「分光連星」の解析の基礎です。遠方の天体のスペクトル線を観測するだけで、その天体の公転周期、速度、質量、軌道サイズなどを知ることができます。
- 他の原子・イオンへの応用: 前半の原子物理パートは、ヘリウムイオン (He+) など、電子が1個の他の原子(水素様原子)のスペクトル解析にも応用できます。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- スペクトル線の「本数」の変化に注目する: 線が1本から2本へ、そしてまた1本へ、という変化は周期的な運動を示唆しています。1本のときはドップラー効果が0、2本のときはドップラー効果が最大になる円運動の特定の位置に対応すると考えます。
- 問題文をパートに分解する: 「原子のスペクトル」に関する問いと、「天体の運動」に関する問いを明確に区別します。それぞれで使う物理法則が異なるため、頭を切り替えて取り組むと混乱が少なくなります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ミス: 連星間の万有引力の計算で、距離を \(r\) と間違える。
- 現象: 2つの星がそれぞれ半径 \(r\) で運動しているため、星と星の距離も \(r\) だと錯覚してしまう。
- 対策: 必ず簡単な図を描きましょう。中心から片方の星までが \(r\)、もう片方の星までが \(r\) なので、星間の距離は \(2r\) であることが一目瞭然です。運動方程式を立てる際に、この \(2r\) を万有引力の法則の距離に代入する必要があります。
- ミス: 「最も波長が長い/短い」と「エネルギーが最小/最大」の対応を逆にする。
- 現象: 波長とエネルギーの関係 \(E=hc/\lambda\) が瞬時に出てこない場合に起こります。
- 対策: 「波長が長い」⇔「振動数が小さい」⇔「エネルギーが小さい」という連想を常に意識しましょう。エネルギー準位図で「最も狭い間隔の遷移」を探すことと同じです。
- ミス: ドップラー効果の公式の符号を間違える。
- 現象: 近づく場合と遠ざかる場合で、分母が \(c-v\) なのか \(c+v\) なのか混乱する。
- 対策: 「近づくと波長は縮む(短くなる)」という現象から考えましょう。\(λ’ < λ\) となるためには、\(λ’ = (c-v)/c \cdot λ\) のように、分子が \(c-v\) になるはず、と物理的な結果から公式を再構成できます。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 観測事実と運動を結びつける: この問題の醍醐味は、スペクトル線という静的なデータと、その時間変化から、頭の中で2つの星がくるくる回るダイナミックな動画を再構築する点にあります。\(t=0\) の図(星が上下に動いている)、\(t=t_0\) の図(星が左右に動いている)を、円軌道上の特定の位置としてマッピングする図解が非常に有効です。
- エネルギー準位図の活用: (1)や(2)のようなスペクトル系列の問題では、横線でエネルギー準位を描いた簡単な「準位図」を余白に描くと効果的です。どの準位からどの準位への遷移なのかを矢印で示すことで、考えるべきエネルギー差が視覚的にわかり、ミスを防げます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(hc/\lambda = E_A – E_B\) (振動数条件):
- 選定理由: (1)~(3)は「水素の線スペクトル」という、原子からの光の放出を扱っています。これは、原子内の電子がエネルギー準位を遷移し、その差額が光子として放出される現象なので、この公式が現象を記述する根幹となります。
- ドップラー効果の公式:
- 選定理由: (5)では、観測される波長が \(\lambda\) から \(\lambda\pm\beta\) へと「変化」しています。光源(星)が運動しているため、この波長変化はドップラー効果であると判断し、対応する公式を選択します。
- \(T = 2\pi r/v\) と \(ma = F\) (円運動の法則):
- 選定理由: (4),(6)では「等速円運動」というキーワードが登場します。周期・速さ・半径の関係式や、運動方程式(向心力=外力)は、円運動を解析するための基本ツールセットであり、これらを選択します。
- \(F = G m_1 m_2 / d^2\) (万有引力の法則):
- 選定理由: (6)の円運動の力の源は、星同士が及ぼしあう重力です。したがって、運動方程式の力の項 \(F\) として、万有引力の法則の公式を適用します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 【原子物理パート】
- (1) 「バルマー系列」「最長波長」→ \(n=3\rightarrow2\) の遷移と特定。\(hc/\lambda = E_3 – E_2\) を計算。
- (2) 「バルマー系列」「最短波長」→ \(n=\infty\rightarrow2\) の遷移と特定。\(hc/\lambda_{\text{min}} = E_\infty – E_2\) を計算。
- (3) 「イオン化エネルギー」→ \(n=1\rightarrow\infty\) の遷移と特定。\(I = E_\infty – E_1\) を計算。
- 【天体物理パート】
- (4) 観測事実から \(t=0\) と \(t=2t_0\) が半周分の運動に対応すると解釈し、周期 \(T = 4t_0\) を導出。
- (5) \(t=t_0\) での波長変化 \(\beta\) にドップラー効果の公式を適用し、速さ \(v\) を導出。
- (6) まず \(T=2\pi r/v\) の関係から半径 \(r\) を計算。次に、運動方程式 \(mv^2/r = Gm^2/(2r)^2\) を立て、質量 \(m\) を導出。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理: (6)の質量の計算など、多くの変数を代入する場面では、一度に代入せず、段階的に計算するか、式の形をできるだけシンプルに保ちながら変形を進めるとミスが減ります。
- 万有引力の分母: 運動方程式 \(m v^2 / r = G m m / (2r)^2\) の右辺の分母は \((2r)^2 = 4r^2\) です。これを \(2r^2\) としないように、括弧を意識して計算しましょう。
- Rとλの変換: (3)のように、一度 \(R\) で表した結果を \(\lambda\) で表現し直す場面では、(1)で求めた関係式 \(\lambda = 36/(5R)\) を正確に移項(\(R=36/(5\lambda)\))してから代入しましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 定性的な関係の確認:
- (5)で求めた \(v = (\beta/\lambda)c\) は、波長のズレ \(\beta\) が大きいほど、星の速さ \(v\) が速いことを示しています。これは物理的に直感と合っています。
- (6)で求めた質量 \(m\) は、周期を決める \(t_0\) や、速さを決める \(\beta\) が大きいほど、大きくなる傾向があります。これも、重い星ほど速く回る(あるいは同じ速さでもっと大きな軌道をとる)というイメージと一致します。
- 近似の妥当性: 問題文には「\(\beta\)は\(\lambda\)に比べて十分に小さい」とあります。これは、(5)で求めた \(v = (\beta/\lambda)c\) から、星の速さ \(v\) が光速 \(c\) に比べて十分に小さい (\(v \ll c\)) ことを意味しており、非相対論的な力学(ニュートン力学)で扱っている今回の解析の前提条件を保証してくれています。
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