問題61 原子構造・波動・力学 (名古屋大+大阪公立大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(5)の別解: ドップラー効果の近似公式を用いた解法
- 模範解答がドップラー効果の厳密式から導出しているのに対し、別解では \(\beta \ll \lambda\) という条件に着目し、近似公式 \(\frac{\Delta \lambda}{\lambda} \approx \frac{v}{c}\) を用いて直感的に解きます。
- 設問(4)〜(6)の別解: 微積分とベクトルを用いた体系的解法(連星の円運動モデル)
- 個別の公式(\(v=r\omega\)、\(F=ma\))を組み合わせるのではなく、位置ベクトルを時間微分して速度・加速度を導出し、視線方向の速度成分と運動方程式を一括して扱う原理的なアプローチをとります。
- 設問(5)の別解: ドップラー効果の近似公式を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- 近似公式の解法: 物理現象のオーダー(規模感)を即座に見積もる能力を養い、検算テクニックとしても極めて有効です。
- 微積分の解法: 「円運動とは何か」「ドップラー効果の原因となる速度成分は何か」を数学的定義から導くことで、力学と波動の分野を横断した深い理解を促します。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「連星の運動と原子スペクトル(ドップラー効果)」です。
力学的な天体運動と、そこから放出される光の波動現象(ドップラー効果)、さらには原子物理のエネルギー準位という3つの分野が融合した総合問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ボーアの振動数条件: 原子のエネルギー準位間の遷移に伴い、光子(光)が放出または吸収されます。エネルギー差 \(\Delta E\) と光の波長 \(\lambda\) の関係は \(h\frac{c}{\lambda} = \Delta E\) です。
- 光のドップラー効果: 光源が観測者に近づくとき波長は短く(青方偏移)、遠ざかるとき波長は長く(赤方偏移)なります。
- 等速円運動の運動方程式: 星が円運動を続けるためには、中心向きの力(向心力)が必要です。
- 万有引力の法則: 質量を持つ2つの物体の間には引力が働きます。連星系では、この万有引力が向心力の役割を果たします。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)〜(3)では、水素原子のエネルギー準位の式を用いて、特定の遷移に対応する波長やエネルギーを計算します。
- (4)〜(5)では、観測されるスペクトルの時間変化から、連星の運動の周期と速さを読み取ります。
- (6)では、力学の法則(運動方程式)を適用して、軌道半径と星の質量を決定します。
問(1)
思考の道筋とポイント
水素原子の線スペクトルに関する問題です。
「バルマー系列」とは、エネルギー準位が高い状態(\(n \ge 3\))から \(n=2\) の状態へ電子が遷移するときに放出される光の系列です。
波長 \(\lambda\) が最も長いということは、振動数 \(\nu = c/\lambda\) が最も小さい、つまりエネルギー差 \(\Delta E = h\nu\) が最も小さい遷移であることを意味します。
この設問における重要なポイント
- エネルギーと波長の反比例: \(E = h\nu = h\frac{c}{\lambda}\) より、エネルギー差が小さいほど波長は長くなります。
- バルマー系列の定義: 遷移先の量子数が \(n’=2\) である光の系列。
- 最小のエネルギー差: \(n=2\) に落ちる遷移の中でエネルギー差が最小なのは、すぐ上の \(n=3\) からの遷移です。
具体的な解説と立式
量子数 \(n\) のエネルギー準位 \(E_n\) は以下の式で与えられています。
$$
E_n = -\frac{hcR}{n^2}
$$
バルマー系列(\(n’ \to 2\))の中で最も波長が長い光は、エネルギー差 \(E_n – E_2\) が最小となる \(n=3\) から \(n=2\) への遷移で放出されます。
求める波長を \(\lambda\) とすると、ボーアの振動数条件より以下の関係が成り立ちます。
$$
h\frac{c}{\lambda} = E_3 – E_2
$$
使用した物理公式
- 光子のエネルギー: \(E = h\frac{c}{\lambda}\)
- エネルギー準位: \(E_n = -\frac{hcR}{n^2}\)
エネルギー準位の式を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
h\frac{c}{\lambda} &= \left( -\frac{hcR}{3^2} \right) – \left( -\frac{hcR}{2^2} \right) \\[2.0ex]
&= – \frac{hcR}{9} + \frac{hcR}{4} \\[2.0ex]
&= hcR \left( \frac{1}{4} – \frac{1}{9} \right) \\[2.0ex]
&= hcR \left( \frac{9 – 4}{36} \right) \\[2.0ex]
&= hcR \frac{5}{36}
\end{aligned}
$$
両辺を \(hc\) で割り、逆数をとって \(\lambda\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\lambda} &= \frac{5R}{36} \\[2.0ex]
\lambda &= \frac{36}{5R}
\end{aligned}
$$
原子の中の電子が高い階(エネルギー準位)から低い階へ飛び降りるとき、その落差分のエネルギーを光として放出します。
「バルマー系列」というのは「2階(\(n=2\))まで降りる」というルールです。
波長が一番長い光というのは、エネルギーが一番小さい光のことです。2階に降りるジャンプの中で一番落差が小さいのは、すぐ上の3階(\(n=3\))から降りるときです。このときのエネルギー差を計算して、波長に直しました。
答えは \(\lambda = \frac{36}{5R}\) です。\(R\) はリュードベリ定数で長さの逆数の次元を持つため、\(\lambda\) は長さの次元となり妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
問(1)とは逆に、バルマー系列の中で「最も短い波長 \(\lambda_{\text{最小}}\)」を求めます。
波長が最短ということは、エネルギー差が最大になる遷移です。
この設問における重要なポイント
- 最大のエネルギー差: \(n=2\) に落ちる遷移の中でエネルギー差が最大になるのは、最も高い場所、つまり \(n=\infty\) からの遷移です。
具体的な解説と立式
バルマー系列(\(n’ \to 2\))の中で最も波長が短い光は、エネルギー差 \(E_\infty – E_2\) が最大となる \(n=\infty\) から \(n=2\) への遷移に対応します。
求める波長を \(\lambda_{\text{最小}}\) とすると、以下の式が成り立ちます。
$$
h\frac{c}{\lambda_{\text{最小}}} = E_\infty – E_2
$$
使用した物理公式
- 光子のエネルギー: \(E = h\frac{c}{\lambda}\)
\(n \to \infty\) のとき、\(E_\infty = -\frac{hcR}{\infty^2} = 0\) となります。
$$
\begin{aligned}
h\frac{c}{\lambda_{\text{最小}}} &= 0 – \left( -\frac{hcR}{2^2} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{hcR}{4}
\end{aligned}
$$
両辺を \(hc\) で割り、\(\lambda_{\text{最小}}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{\lambda_{\text{最小}}} &= \frac{R}{4} \\[2.0ex]
\lambda_{\text{最小}} &= \frac{4}{R}
\end{aligned}
$$
ここで、問題文の指示により \(\lambda\) を用いて答える必要があります。
問(1)の結果 \(\lambda = \frac{36}{5R}\) より、\(R = \frac{36}{5\lambda}\) です。これを代入します。
$$
\begin{aligned}
\lambda_{\text{最小}} &= \frac{4}{\frac{36}{5\lambda}} \\[2.0ex]
&= 4 \cdot \frac{5\lambda}{36} \\[2.0ex]
&= \frac{5}{9}\lambda
\end{aligned}
$$
今度は一番激しいジャンプ、つまりエネルギーが一番大きい光を考えます。
2階(\(n=2\))に降りるジャンプで落差が最大になるのは、はるか彼方の無限遠(\(n=\infty\))から飛び降りてくるときです。
このときの波長を計算し、先ほど求めた \(\lambda\) を使って表しました。
答えは \(\frac{5}{9}\lambda\) です。最短波長なので、元の \(\lambda\)(最長波長)より小さくなっているはずです。\(\frac{5}{9} < 1\) なので妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
「イオン化エネルギー(電離エネルギー)」とは、原子を基底状態から電子を剥ぎ取ってバラバラにする(イオン化する)ために必要な最小エネルギーのことです。
この設問における重要なポイント
- 基底状態: 水素原子で最もエネルギーが低い状態は \(n=1\) です。
- 電離状態: 電子が原子核の束縛を離れた状態は \(n=\infty\) (エネルギー \(0\))に対応します。
- イオン化エネルギーの定義: \(I = E_\infty – E_1\)。
具体的な解説と立式
イオン化エネルギー \(I\) は、基底状態 \(n=1\) にある電子を \(n=\infty\) まで持ち上げるのに必要なエネルギーです。
$$
I = E_\infty – E_1
$$
使用した物理公式
- エネルギー準位: \(E_n = -\frac{hcR}{n^2}\)
$$
\begin{aligned}
I &= 0 – \left( -\frac{hcR}{1^2} \right) \\[2.0ex]
&= hcR
\end{aligned}
$$
問(1)の結果 \(R = \frac{36}{5\lambda}\) を用いて、\(R\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
I &= hc \cdot \frac{36}{5\lambda} \\[2.0ex]
&= \frac{36hc}{5\lambda}
\end{aligned}
$$
水素原子の電子は普段、一番下の1階(\(n=1\))にいます。この電子を原子の外(無限遠)まで放り出すのに必要なエネルギーを計算します。
これは、1階から無限階までのエネルギー差に相当します。
答えは \(\frac{36hc}{5\lambda}\) です。エネルギーの次元を持ち、物理定数と波長で表されています。
問(4)
思考の道筋とポイント
ここからは連星の運動とドップラー効果の問題になります。
図Aと図Bのスペクトルの変化から、星の運動状態を読み取ります。
この設問における重要なポイント
- ドップラー効果の有無: 観測者に向かう速度成分(視線速度)があるときだけ波長がずれます。
- スペクトルが1本(図A): 2つの星からの光の波長が同じ \(\lambda\) になっている状態。これは、星の運動方向が視線方向と垂直で、視線速度が \(0\) のときです。
- スペクトルが2本(図B): 波長のずれが最大(\(\pm \beta\))になっている状態。これは、星の運動方向が視線方向と平行で、一方が近づき、他方が遠ざかっているときです。
- 周期の読み取り: \(t=0\)(ずれなし)から \(t=t_0\)(最大ずれ)を経て、\(t=2t_0\)(再びずれなし)に戻るまでの時間が半周期に相当するかどうかを確認します。
具体的な解説と立式
図A(\(t=0\))では波長のずれがないため、星の速度ベクトルは視線方向に対して垂直です。
図B(\(t=t_0\))では波長のずれが最大なので、星の速度ベクトルは視線方向を向いています。このとき、連星は \(t=0\) の位置から \(90^\circ\)(\(1/4\) 回転)進んだ位置にあります。
再び図A(\(t=2t_0\))の状態に戻ったとき、波長のずれがなくなります。これはさらに \(90^\circ\) 進んで、合計 \(180^\circ\)(半周)した状態に対応します。
したがって、時刻 \(0\) から \(2t_0\) までの間に、星は円軌道を半周しています。
求める周期を \(T\) とすると、半周にかかる時間が \(2t_0\) なので、以下の関係が成り立ちます。
$$
\frac{T}{2} = 2t_0
$$
使用した物理公式
- 特になし(円運動の幾何学的性質)
$$
\begin{aligned}
T &= 4t_0
\end{aligned}
$$
観測者から見て、星が「真横」に動いているときはドップラー効果が起きず、波長は変わりません(\(t=0\))。
星が「真正面」に向かってきたり遠ざかったりしているときはドップラー効果が最大になります(\(t=t_0\))。
再び「真横」に動くようになる(\(t=2t_0\))までにかかった時間が \(2t_0\) です。
図を見ると、これは円運動のちょうど半分(半周)に相当します。半周で \(2t_0\) かかるなら、一周(周期)はその2倍の \(4t_0\) です。
周期は \(4t_0\) です。時間の次元を持ち妥当です。
問(5)
思考の道筋とポイント
波長の最大変化量 \(\beta\) から、星の公転速度 \(v\) を求めます。
光源が動く場合のドップラー効果の公式を用います。
この設問における重要なポイント
- 光源が動くドップラー効果: 光源が速さ \(v_{\text{源}}\) で観測者に近づくとき、観測される振動数 \(f’\) は \(f’ = \frac{c}{c-v_{\text{源}}}f\) となります。
- 波長と振動数の関係: \(c = f\lambda\) より、\(\lambda’ = \frac{c}{f’}\) です。
具体的な解説と立式
星の速さを \(v\) とします。
図Bの状態では、一方の星が速さ \(v\) で観測者に近づき、もう一方の星が速さ \(v\) で遠ざかっています。
近づく星からの光の波長は短くなり、\(\lambda – \beta\) と観測されます。
ドップラー効果の公式より、近づく場合の波長 \(\lambda’\) は次のように表されます。
$$
\lambda’ = \lambda \frac{c-v}{c}
$$
これが \(\lambda – \beta\) に等しいので、以下の式を立てます。
$$
\lambda – \beta = \lambda \frac{c-v}{c}
$$
使用した物理公式
- ドップラー効果(波長形式): \(\lambda’ = \lambda \frac{c \mp v_{\text{源}}}{c}\) (近づくときはマイナス)
式を展開して \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\lambda – \beta &= \lambda \left( 1 – \frac{v}{c} \right) \\[2.0ex]
\lambda – \beta &= \lambda – \lambda \frac{v}{c} \\[2.0ex]
-\beta &= – \lambda \frac{v}{c} \\[2.0ex]
\beta &= \lambda \frac{v}{c}
\end{aligned}
$$
これより、
$$
v = \frac{\beta}{\lambda}c
$$
星が近づいてくるとき、光の波長はギュッと縮みます。
元の波長 \(\lambda\) が、星の速さ \(v\) の分だけ縮んで \(\lambda – \beta\) になりました。
この縮み具合と速さの関係式を使って、星の速さを計算しました。
答えは \(v = \frac{\beta}{\lambda}c\) です。\(\beta/\lambda\) は無次元量なので、全体として速さの次元になります。また、\(\beta \ll \lambda\) なので \(v \ll c\) となり、光速より十分遅いという物理的要請も満たしています。
思考の道筋とポイント
問題文に「\(\beta\) は \(\lambda\) に比べて十分に小さく」とあるため、\(v \ll c\) が成立します。
この場合、ドップラー効果の近似公式を用いると、計算を大幅にショートカットできます。
この設問における重要なポイント
- 近似公式: 光源の速さ \(v\) が光速 \(c\) より十分小さいとき、波長の変化率 \(\frac{|\Delta \lambda|}{\lambda}\) は、速さの比 \(\frac{v}{c}\) に等しくなります。
具体的な解説と立式
波長の変化分の大きさは \(|\Delta \lambda| = \beta\) です。
近似公式より、以下の関係が成り立ちます。
$$
\frac{\beta}{\lambda} = \frac{v}{c}
$$
使用した物理公式
- ドップラー効果の近似式: \(\frac{|\Delta \lambda|}{\lambda} \approx \frac{v}{c}\)
この式を \(v\) について解くだけです。
$$
v = \frac{\beta}{\lambda}c
$$
「波長がどれくらいの割合で変化したか」は、「星の速さが光速の何割か」と同じになります。
波長の変化率 \(\beta/\lambda\) がそのまま \(v/c\) になるので、すぐに答えが出ます。
厳密解と完全に一致します。検算用としても非常に強力なツールです。
問(6)
思考の道筋とポイント
最後に、力学の法則を使って円運動の半径 \(r\) と星の質量 \(m\) を求めます。
連星系では、2つの星が互いの万有引力を向心力として、共通重心の周りを回ります。
この設問における重要なポイント
- 円運動の半径: 重心から星までの距離 \(r\) です。
- 万有引力の距離: 2つの星の間の距離は \(2r\) です。万有引力の式の分母には \((2r)^2\) が入ります。ここが最大のミスポイントです。
- 運動方程式: \(m \times (\text{向心加速度}) = (\text{万有引力})\)。
具体的な解説と立式
1. 半径 \(r\) の導出
星は速さ \(v\)、周期 \(T\) で等速円運動をしています。
円周の長さ \(2\pi r\) は、速さ \(\times\) 時間(周期)に等しいので、以下の式が成り立ちます。
$$
2\pi r = vT
$$
2. 質量 \(m\) の導出
星の運動方程式を立てます。
円運動の加速度は中心向きで、大きさは \(\frac{v^2}{r}\) です。
働く力は、もう一方の星からの万有引力で、距離は \(2r\) なので、大きさは \(G\frac{m \cdot m}{(2r)^2}\) です。
運動方程式(中心向きを正)は以下のようになります。
$$
m \frac{v^2}{r} = G \frac{m^2}{(2r)^2}
$$
使用した物理公式
- 円運動の基本式: \(v = \frac{2\pi r}{T}\)
- 等速円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F\)
- 万有引力の法則: \(F = G\frac{Mm}{R^2}\)
半径 \(r\) の計算
\(2\pi r = vT\) より \(r = \frac{vT}{2\pi}\) です。
これに (4) の \(T=4t_0\) と (5) の \(v=\frac{\beta c}{\lambda}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
r &= \frac{1}{2\pi} \cdot \left( \frac{\beta c}{\lambda} \right) \cdot (4t_0) \\[2.0ex]
&= \frac{2\beta c t_0}{\pi \lambda}
\end{aligned}
$$
質量 \(m\) の計算
運動方程式を整理して \(m\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
m \frac{v^2}{r} &= G \frac{m^2}{4r^2} \\[2.0ex]
\frac{v^2}{r} &= \frac{Gm}{4r^2} \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{Gm}{4r} \\[2.0ex]
m &= \frac{4rv^2}{G}
\end{aligned}
$$
これに求めた \(r\) と \(v\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
m &= \frac{4}{G} \cdot \left( \frac{2\beta c t_0}{\pi \lambda} \right) \cdot \left( \frac{\beta c}{\lambda} \right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{8\beta c t_0}{\pi G \lambda} \cdot \frac{\beta^2 c^2}{\lambda^2} \\[2.0ex]
&= \frac{8\beta^3 c^3 t_0}{\pi G \lambda^3}
\end{aligned}
$$
解答の形を整えるため、定数部分と変数部分を整理します(模範解答の形式に合わせる)。
$$
m = \frac{8t_0}{\pi G} \left( \frac{\beta c}{\lambda} \right)^3
$$
まず、円運動の「速さ」と「一周にかかる時間」が分かっているので、そこから円の「半径」を計算しました。
次に、「星を円運動させている力(向心力)」の正体が「お互いに引き合う重力(万有引力)」であることを使います。
「必要な力 = 実際に働く力」という式(運動方程式)を立てて、そこから星の重さ(質量)を逆算しました。
ポイントは、重力の計算で距離を「半径 \(r\)」ではなく「星同士の距離 \(2r\)」にすることです。
半径 \(r = \frac{2\beta c t_0}{\pi \lambda}\)、質量 \(m = \frac{8t_0}{\pi G} (\frac{\beta c}{\lambda})^3\)。
質量の式において、\(G\) は分母にあります。重力が弱い(\(G\)が小さい)ほど、同じ軌道につなぎ止めるには大きな質量が必要になるため、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
問(4)〜(6)を、円運動の運動学(位置・速度・加速度)と動力学(運動方程式)の観点から一括して解きます。
観測者の視線方向を \(x\) 軸とし、星の位置ベクトルを時間 \(t\) の関数として定義します。
これを微分して速度ベクトルを求め、その \(x\) 成分がドップラー効果を引き起こすと解釈します。
この設問における重要なポイント
- 位置ベクトルの定義: 等速円運動する星の位置を \(\vec{r}(t) = (r\cos\omega t, r\sin\omega t)\) と置きます。
- 速度の視線成分: 速度ベクトル \(\vec{v} = \frac{d\vec{r}}{dt}\) の \(x\) 成分が、観測される波長のずれに対応します。
- ベクトル形式の運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}\) を用いて、向心力と万有引力の関係を導きます。
具体的な解説と立式
1. 運動学的な記述(問4, 5の導出)
回転の中心を原点、観測者の方向を \(x\) 軸正方向(右向き)、それに垂直な方向を \(y\) 軸(上向き)とします。
時刻 \(t=0\) で星が \(y\) 軸上(視線と垂直)にあり、その後 \(x\) 軸方向へ動くとすると、位置ベクトル \(\vec{r}(t)\) は以下のように表せます(位相は初期条件に合わせて設定)。
$$
\vec{r}(t) = \begin{pmatrix} r\sin\omega t \\ r\cos\omega t \end{pmatrix}
$$
速度ベクトル \(\vec{v}(t)\) は位置ベクトルの時間微分です。
$$
\vec{v}(t) = \frac{d\vec{r}}{dt} = \begin{pmatrix} r\omega\cos\omega t \\ -r\omega\sin\omega t \end{pmatrix}
$$
観測されるドップラー効果は、視線方向(\(x\) 軸方向)の速度成分 \(v_x\) に依存します。
$$
v_x(t) = r\omega\cos\omega t
$$
\(t=0\) で \(v_x=0\)(ずれなし)、\(t=t_0\) で \(|v_x|\) が最大(ずれ最大)となる条件を考えます。
上記の式では \(t=0\) で \(v_x\) が最大となってしまうため、位相を修正し、\(\vec{r}(t) = \begin{pmatrix} r\cos\omega t \\ r\sin\omega t \end{pmatrix}\) とします。
すると速度は以下のようになります。
$$
\vec{v}(t) = \begin{pmatrix} -r\omega\sin\omega t \\ r\omega\cos\omega t \end{pmatrix}
$$
視線速度は \(v_x(t) = -r\omega\sin\omega t\) となります。
\(t=0\) で \(v_x=0\)(ずれなし)を満たします。
\(t=t_0\) で \(|v_x|\) が最大(ずれ最大)となる最小の正の時刻は、\(\omega t_0 = \frac{\pi}{2}\) のときです。
周期 \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) なので、以下の関係が成り立ちます。
$$
\frac{2\pi}{T} t_0 = \frac{\pi}{2}
$$
これを解くと \(T = 4t_0\) となり、(4) が求まります。
最大速度(速さ)は \(v = r\omega\) です。
ドップラー効果の式より、以下の関係が成り立ちます。
$$
\lambda – \beta = \lambda \frac{c-v}{c}
$$
これを解くと \(v = \frac{\beta}{\lambda}c\) となり、(5) が求まります。
2. 動力学的な記述(問6の導出)
加速度ベクトル \(\vec{a}(t)\) は速度ベクトルの時間微分です。
$$
\vec{a}(t) = \frac{d\vec{v}}{dt} = \begin{pmatrix} -r\omega^2\cos\omega t \\ -r\omega^2\sin\omega t \end{pmatrix} = -\omega^2 \vec{r}(t)
$$
運動方程式 \(m\vec{a} = \vec{F}\) を立てます。
力 \(\vec{F}\) は万有引力で、向きは中心向き(\(-\vec{r}\) 方向)、距離は \(2r\) です。
$$
\vec{F} = – G \frac{m^2}{(2r)^2} \frac{\vec{r}}{r} = – \frac{Gm^2}{4r^3} \vec{r}
$$
成分を比較(または係数を比較)します。
$$
\begin{aligned}
m(-\omega^2 \vec{r}) &= – \frac{Gm^2}{4r^3} \vec{r} \\[2.0ex]
m\omega^2 &= \frac{Gm^2}{4r^3} \\[2.0ex]
\omega^2 &= \frac{Gm}{4r^3}
\end{aligned}
$$
使用した数学・物理公式
- 微分の定義: \(\frac{d}{dt}(\cos\omega t) = -\omega\sin\omega t\)
- 速度と加速度の定義: \(\vec{v} = \frac{d\vec{r}}{dt}, \vec{a} = \frac{d\vec{v}}{dt}\)
- 運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}\)
ここで、\(v = r\omega\) より \(\omega = v/r\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\left( \frac{v}{r} \right)^2 &= \frac{Gm}{4r^3} \\[2.0ex]
\frac{v^2}{r^2} &= \frac{Gm}{4r^3} \\[2.0ex]
v^2 &= \frac{Gm}{4r}
\end{aligned}
$$
これはメイン解法の運動方程式と同じ形になりました。
あとは同様に計算して \(m\) を求めます。
また、\(r = v/\omega = v \cdot \frac{T}{2\pi}\) から \(r\) も求まります。
星の位置を座標 \((x, y)\) で表し、それを時間で微分することで、速度と加速度を計算しました。
「ドップラー効果」は速度の \(x\) 成分(視線方向)によって決まり、「力のつりあい」は加速度と引力の関係によって決まります。
これらを数式で追っていくと、周期、速さ、質量といった全ての量が芋づる式に求まります。
微積分を用いても、全く同じ結果が得られます。特に、周期 \(T=4t_0\) が三角関数の位相 \(\pi/2\) から自然に導かれる点は、この解法の大きなメリットです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ボーアの振動数条件とエネルギー準位
- 核心: 原子の内部エネルギーの変化(準位間の遷移)が、放出される光のエネルギー(波長)と一対一に対応するという量子力学の基本原理です。
- 理解のポイント:
- 高い準位から低い準位へ落ちるときに、その差額分のエネルギーを光として放出します。
- エネルギー差 \(\Delta E\) が大きいほど、放出される光の振動数は大きく、波長は短くなります(\(E = h\nu = hc/\lambda\))。
- 連星の円運動と万有引力
- 核心: 2つの星がお互いに及ぼし合う万有引力を向心力として、共通重心の周りを等速円運動します。
- 理解のポイント:
- 半径と距離の区別: 円運動の半径 \(r\)(重心から星までの距離)と、万有引力の計算に使う距離 \(2r\)(星と星の間の距離)を明確に区別することが、この問題の最大の急所です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 質量が異なる連星の問題: 今回は等質量なので重心は中点でしたが、質量が異なると重心位置がずれます(\(m_1 r_1 = m_2 r_2\))。その場合も「角速度 \(\omega\)(周期 \(T\))が共通である」ことが解法の鍵となります。
- 視線方向と角度を持つ運動: 星の軌道面が視線に対して傾いている場合、速度ベクトルを分解し、視線成分 \(v \cos \theta\) を用いてドップラー効果を計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- スペクトルの本数から位置を特定: 「1本=視線速度0(横向き運動)」「2本=視線速度最大(縦向き運動)」と即座に変換し、円運動の位相(角度)を特定します。
- 近似の可否を判断: 問題文に「\(\beta \ll \lambda\)」や「\(v \ll c\)」の記述があれば、迷わず近似公式 \(\Delta \lambda / \lambda \approx v/c\) の利用を検討します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 万有引力の距離の取り違え:
- 誤解: 運動方程式の右辺(万有引力)の分母に、円運動の半径 \(r\) をそのまま \(r^2\) として代入してしまう。
- 対策: 作図の段階で、星と星を結ぶ線分に「距離 \(2r\)」と明記します。連星系では「回る半径」と「引力の距離」が異なることを常に意識します。
- ドップラー効果の符号ミス:
- 誤解: 近づくときに波長が長くなる(プラス)と勘違いしたり、公式の分母分子を逆にしてしまう。
- 対策: 「近づく=波が圧縮される=波長が短くなる(マイナス)」という物理的イメージを常に持ち、公式の符号をその場で確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ドップラー効果の厳密式と近似式:
- 選定理由: 設問(5)では、問題文の誘導に従い厳密式から導出しましたが、別解で示した通り、\(\beta \ll \lambda\) の条件下では近似式の方が圧倒的に速く、計算ミスも減らせます。
- 適用根拠: 光源の速度 \(v\) が光速 \(c\) に比べて十分に小さい場合、相対論的効果を無視でき、一次近似が成立するためです。
- 運動方程式(円運動):
- 選定理由: 星の質量や軌道半径を決定するには、力学的な因果関係(力 \(\to\) 運動)を記述する運動方程式が不可欠です。
- 適用根拠: 慣性系(静止した観測者)から見て、星には万有引力のみが働いており、これが向心加速度を生じさせているという力学的モデルに基づきます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 次元解析(ディメンションチェック):
- 意識: 複雑な文字式の計算では、最後に単位(次元)が合っているか確認します。
- 実践: 例えば \(m\) の答え \(\frac{t_0}{G} (\frac{c}{\lambda})^3\) のような形になった時、\(G\) の単位 \(\text{N}\cdot\text{m}^2/\text{kg}^2\) を代入して、全体が質量の次元 \(\text{kg}\) になるか確認します。
- 定数のかたまり化:
- 意識: 同じ文字の組み合わせ(例: \(\beta c / \lambda\))が何度も出てくる場合、計算途中ではこれを \(A\) などの文字に置き換えます。
- 実践: 転記ミスを防ぎ、式の構造を見やすくします。計算の最後に元の式に戻すことで、ミスのリスクを最小限に抑えます。
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問題62 原子構造・分子運動論 (大阪大)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(5)の別解: ベクトル図形(余弦定理)を用いた解法
- 模範解答が成分ごとの連立方程式を代数的に解くのに対し、別解では運動量ベクトルが作る三角形(または平行四辺形)に着目し、余弦定理を用いて幾何学的に関係式を導きます。これは問題文末尾の \(Q_1\) に対応するアプローチです。
- 設問(6)の別解1: ドップラー効果の公式を用いた解法
- 粒子性(保存則)から導かれた結果を、波動性(ドップラー効果)の観点から再解釈し、直感的に理解します。これは問題文末尾の \(Q_2\) に対応するアプローチです。
- 設問(6)の別解2: 微積分を用いた体系的解法(位相関数の微分)
- ドップラー効果の公式を既知とせず、波の位相関数 \(\Phi(t)\) を定義し、それを時間微分することで観測される振動数を導出する原理的なアプローチをとります。
- 設問(5)の別解: ベクトル図形(余弦定理)を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- ベクトル図形の解法: 複雑な成分計算を回避し、式の構造(特に \(u^2\) の消去)を視覚的に理解できるため、計算ミスを減らし見通しを良くします。
- ドップラー効果の解法: 「光子の放出」という微視的な現象と、「波源の移動」という巨視的な波動現象の整合性を確認することで、物理学の統一的な理解を深めます。
- 微積分の解法: 公式の暗記に頼らず、波の定義から現象を数学的に記述する力を養います。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「光子の放出に伴う原子の反跳とスペクトル線の広がり」です。
原子が光を放出するとき、光子も運動量を持つため、原子自身も反作用を受けて速度が変化します(反跳)。この現象を、エネルギー保存則と運動量保存則(粒子性)の観点から解析し、さらにそれがドップラー効果(波動性)とどのように結びつくかを考察します。また、気体分子運動論と組み合わせて、熱運動によるスペクトル幅の広がりを定量的に評価します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ボーアの振動数条件: 原子がエネルギー準位 \(E_l\) から \(E_n\) へ遷移するとき、その差額のエネルギーを持つ光子を放出します。
- 光子のエネルギーと運動量: 振動数 \(\nu\) の光子は、エネルギー \(E = h\nu\) と運動量 \(p = \frac{h\nu}{c}\) を持ちます。
- 保存則: 光子の放出前後で、系全体のエネルギーと運動量は保存されます。
- 気体分子運動論: 気体分子の熱運動の激しさは温度で決まり、2乗平均速度は \(\sqrt{\overline{v^2}} = \sqrt{\frac{3RT}{M}}\) で与えられます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、静止した原子の基本的な遷移振動数を求めます。
- (2)〜(5)では、運動する原子が光子を放出する場合について、エネルギー保存則と運動量保存則を立式し、振動数 \(\nu\) を求めます。
- (6)〜(7)では、得られた振動数から波長を求め、原子の運動方向による波長の変化(スペクトル幅)を計算します。
- (8)〜(11)では、具体的な数値を代入して、水素原子のスペクトル幅を見積もります。
問(1)
ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。
「解法に至る思考プロセス」を
全て言語化した、超詳細解説。
なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
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