「名問の森」徹底解説(55〜57問):未来の得点力へ!完全マスター講座【波動Ⅱ・電磁気・原子】

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問題55 (京都大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、荷電粒子を高いエネルギーまで加速するための2つの代表的な装置、「サイクロトロン」と「ベータトロン」の動作原理について問うものです。どちらの装置も磁場(ローレンツ力)を利用して粒子を円運動させますが、加速の仕組みが異なります。

  • サイクロトロン: 一様な磁場の中で、2つのD型電極間の交流電場で粒子が隙間を通過するたびに加速します。
  • ベータトロン: 軌道半径を一定に保ちながら、円軌道内部を貫く磁束を変化させることで誘導電場を発生させ、電子を連続的に加速します。

それぞれの空欄を埋めるためには、ローレンツ力による円運動、交流電圧による加速、電磁誘導の法則といった、電磁気学の重要な概念を正確に適用する必要があります。

与えられた条件
  • サイクロトロン:
    • 一様な磁場(磁束密度 \(B\))
    • 正のイオン(質量 \(M\)、電荷 \(q\))
    • 電極間の電位差 \(V_0\) の交流電源で加速
    • 取り出し口の半径 \(R\)
  • ベータトロン:
    • 電子(質量 \(m\)、電荷 \(-e\))
    • 一定半径 \(R\) の円軌道
    • 軌道上の磁束密度 \(B\)
    • 軌道を貫く磁束 \(\Phi\)
問われていること
  • 空欄ア〜ケに当てはまる数式や物理量を求める。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で鍵となる物理法則は以下の通りです。

  1. ローレンツ力と円運動: 磁場中で荷電粒子が受けるローレンツ力 \(F=qvB\) が、円運動の向心力として働きます。この関係から、円運動の運動方程式 \(M\frac{v^2}{r} = qvB\) を立てることが基本となります。
  2. サイクロトロンの加速原理: 粒子が半周する時間と、交流電圧の極性が反転する時間が一致することで、粒子は効率よく加速されます。円運動の周期が粒子の速さや半径によらないという性質が、この原理を可能にしています。
  3. 電磁誘導の法則: ベータトロンでは、磁束の時間変化が誘導起電力を生み出し、その結果として渦状の誘導電場が発生します。ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -\frac{d\Phi}{dt}\) が中心的な役割を果たします。
  4. 運動量と力積の関係: 粒子が力を受けて加速される(運動量が変化する)様子は、運動量と力積の関係(\(\Delta p = F \Delta t\))で記述されます。

これらの法則を各装置の状況に合わせて適用し、空欄を一つずつ論理的に埋めていきます。

思考の道筋とポイント
イオンは、D型電極の内部では電場がかからないため、一様な磁場からローレンツ力のみを受けて等速円運動をします。このローレンツ力が向心力の役割を果たしています。この運動の周期を求めるには、まず円運動の運動方程式を立て、そこから速さ\(v\)と半径\(r\)の関係を導き、周期の定義式 \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\) に代入します。
具体的な解説と立式
イオンの速さを\(v\)、円運動の半径を\(r\)とします。イオンが磁場から受けるローレンツ力の大きさは \(f = qvB\) です。これが向心力となり、円運動の運動方程式は次のように立てられます。
$$M\frac{v^2}{r} = qvB \quad \cdots ①$$
この式から、速さ\(v\)と半径\(r\)の関係が得られます。
$$\frac{v}{r} = \frac{qB}{M}$$
一方、周期\(T\)は、円周の長さ \(2\pi r\) を速さ \(v\) で割ることで求められます。
$$T = \frac{2\pi r}{v} = 2\pi \left(\frac{r}{v}\right) \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(M\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
  • 向心力としてのローレンツ力: \(F=qvB\)
  • 周期の定義: \(T = \displaystyle\frac{2\pi r}{v}\)
計算過程

式②に、\(\displaystyle\frac{v}{r}\) の逆数である \(\displaystyle\frac{r}{v} = \frac{M}{qB}\) を代入します。
$$T = 2\pi \cdot \frac{M}{qB} = \frac{2\pi M}{qB}$$

結論と吟味

イオンの円運動の周期は\(\displaystyle\frac{2\pi M}{qB}\)となります。この式には速さ\(v\)や半径\(r\)が含まれておらず、粒子の質量\(M\)、電荷\(q\)、そして磁場の強さ\(B\)という定数だけで決まります。これはサイクロトロンが機能するための非常に重要な性質です。

解答 ア \(\displaystyle\frac{2\pi M}{qB}\)

思考の道筋とポイント
イオンは、D型電極間の隙間を通過するたびに加速されます。例えば、イオンがIの隙間からIIの隙間へ半周して到達したとき、II側の電位がI側より低くなっていなければなりません(正イオンを加速するため)。さらに半周してIの隙間に戻ってきたときには、今度はI側の電位がII側より低くなっている必要があります。このように、イオンが半周するごと(時間 \(T/2\) ごと)に電位の正負が逆転していれば、イオンは継続的に加速されます。これを実現するのが交流電源です。最もシンプルなのは、イオンの周回周期\(T\)と交流電圧の周期が一致している場合です。
具体的な解説と立式
イオンが継続的に加速されるためには、交流電圧の周期がイオンの円運動の周期\(T\)と等しくなければなりません。
$$T_{\text{交流}} = T = \frac{2\pi M}{qB}$$
周波数\(f\)は周期\(T\)の逆数なので、
$$f = \frac{1}{T_{\text{交流}}} \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • 周波数と周期の関係: \(f = \displaystyle\frac{1}{T}\)
計算過程

式③に、アで求めた周期\(T\)の式を代入します。
$$f = \frac{1}{\frac{2\pi M}{qB}} = \frac{qB}{2\pi M}$$

結論と吟味

必要な交流電圧の周波数は\(\displaystyle\frac{qB}{2\pi M}\)です。なお、模範解答の補足にあるように、交流の周期が\(T\)の奇数分の1(\(T/3, T/5, …\))でも、タイミングを合わせることは可能です。しかし、最も基本的な設定は周期を一致させる場合です。

解答 イ \(\displaystyle\frac{qB}{2\pi M}\)

思考の道筋とポイント
イオンは、電極間の隙間を1回通過するたびに、電位差\(V_0\)によって \(qV_0\) のエネルギーを得ます。イオンは1周する間に隙間を2回(I→II と II→I)通過します。したがって、N周する間に何回加速されるかを考えれば、得られる総エネルギーが計算できます。
具体的な解説と立式

  • 1回の加速で得るエネルギー: \(E_1 = qV_0\)
  • 1周あたりに加速される回数: 2回
  • 1周で得るエネルギー: \(E_{\text{周}} = 2 \times qV_0 = 2qV_0\)

N周する間に得る総エネルギーを \(E_{\text{総計}}\) とすると、
$$E_{\text{総計}} = E_{\text{周}} \times N \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 電位差によるエネルギー変化: \(\Delta E = qV\)
計算過程

式④に値を代入します。
$$E_{\text{総計}} = 2qV_0 \times N = 2NqV_0$$

結論と吟味

イオンがN周する間に得るエネルギーは\(2NqV_0\)です。非常に多数回(Nが大きい)周回させることで、一回あたりの加速電圧\(V_0\)が小さくても、最終的に非常に高いエネルギーを得ることができるのがサイクロトロンの特長です。

解答 ウ \(2NqV_0\)

思考の道筋とポイント
イオンが取り出し口Fに達したとき、その軌道半径は\(R\)になっています。このときのイオンの速さを求め、運動エネルギーの公式 \(\frac{1}{2}Mv^2\) に代入します。速さは、円運動の運動方程式から導くことができます。
具体的な解説と立式
円運動の運動方程式(式①)を速さ\(v\)について解くと、
$$v = \frac{qBr}{M}$$
取り出し口では軌道半径が\(r=R\)なので、このときの速さ\(v_{\text{max}}\)は、
$$v_{\text{max}} = \frac{qBR}{M} \quad \cdots ⑤$$
このときの運動エネルギー \(K_{\text{max}}\) は、
$$K_{\text{max}} = \frac{1}{2}M v_{\text{max}}^2 \quad \cdots ⑥$$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}Mv^2\)
  • 円運動の運動方程式: \(M\displaystyle\frac{v^2}{r} = qvB\)
計算過程

式⑥に、式⑤を代入します。
$$K_{\text{max}} = \frac{1}{2}M \left(\frac{qBR}{M}\right)^2 = \frac{1}{2}M \frac{q^2 B^2 R^2}{M^2}$$
$$K_{\text{max}} = \frac{q^2 B^2 R^2}{2M} = \frac{(qBR)^2}{2M}$$

結論と吟味

取り出し口での運動エネルギーは\(\displaystyle\frac{(qBR)^2}{2M}\)です。この式から、到達できる最大エネルギーは、装置の最大半径\(R\)と磁場の強さ\(B\)で決まることがわかります。より高いエネルギーを得るためには、装置を大きくするか、磁場を強くする必要があります。

解答 エ \(\displaystyle\frac{(qBR)^2}{2M}\)

思考の道筋とポイント
ベータトロンでも、電子は軌道上でローレンツ力を向心力として等速円運動をしています。したがって、サイクロトロンと同様に円運動の運動方程式を立てることで、運動量\(p=mv\)を求めることができます。電子の電荷は\(-e\)ですが、力の大きさだけを考えればよいので、電荷の大きさ\(e\)を用います。
具体的な解説と立式
電子の速さを\(v\)、質量を\(m\)、軌道半径を\(R\)、軌道上の磁束密度を\(B\)とします。円運動の運動方程式は、
$$m\frac{v^2}{R} = evB$$
運動量\(p=mv\)の形にするため、両辺を\(v\)で割ります。
$$m\frac{v}{R} = eB$$
これを\(mv\)について解くと、運動量\(p\)が求まります。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{R} = evB\)
  • 運動量の定義: \(p=mv\)
計算過程

上の式から、
$$p = mv = eBR$$

結論と吟味

電子の運動量は\(eBR\)となります。ベータトロンでは軌道半径\(R\)が一定なので、電子が加速されて運動量\(p\)が増加するのに伴い、軌道上の磁束密度\(B\)も増加させる必要があることが、この式からわかります。

解答 オ \(eBR\)

思考の道筋とポイント
電子の円軌道を貫く磁束が変化すると、ファラデーの電磁誘導の法則に従って、軌道に沿って誘導起電力が生じます。法則の式をそのまま適用します。
具体的な解説と立式
ファラデーの電磁誘導の法則より、誘導起電力\(V\)の大きさは、磁束の時間変化率の大きさに等しくなります。
$$V = \left| -\frac{d\Phi}{dt} \right|$$
微小時間\(\Delta t\)の間に磁束が\(\Delta \Phi\)だけ変化した場合、誘導起電力の大きさは、
$$V = \frac{\Delta\Phi}{\Delta t}$$

使用した物理公式

  • ファラデーの電磁誘導の法則: \(V = \left| -\displaystyle\frac{d\Phi}{dt} \right|\)
計算過程

これは公式そのものであるため、これ以上の計算はありません。

結論と吟味

誘導起電力は\(\displaystyle\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\)となります。これが電子を加速する「電圧」の役割を果たします。

解答 カ \(\displaystyle\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\)

思考の道筋とポイント
誘導起電力\(V\)とは、単位電荷を一周させたときに電場がする仕事のことです。ベータトロンの円軌道は中心軸に対して対称なので、発生する誘導電場\(E\)の大きさは軌道上のどこでも同じはずです。したがって、「起電力 = 電場 × 距離」という関係式(\(V=Ed\)の応用)が使えます。ここでの距離は、円周の長さ\(2\pi R\)です。
具体的な解説と立式
誘導起電力\(V\)と、それを作り出す誘導電場\(E\)の間には、以下の関係が成り立ちます。
$$V = E \times (\text{円周の長さ})$$
$$V = E \cdot 2\pi R \quad \cdots ⑦$$
この式を電場\(E\)について解くと、
$$E = \frac{V}{2\pi R}$$
ここに、カで求めた\(V=\displaystyle\frac{\Delta\Phi}{\Delta t}\)を代入します。

使用した物理公式

  • 誘導起電力と電場の関係: \(V = E \cdot 2\pi R\)
計算過程

$$E = \frac{1}{2\pi R} \cdot \frac{\Delta\Phi}{\Delta t} = \frac{\Delta\Phi}{2\pi R \Delta t}$$

結論と吟味

誘導電場の強さは\(\displaystyle\frac{\Delta\Phi}{2\pi R \Delta t}\)となります。磁束が時間的に変化するだけで、何もない真空中に電場が生まれる、という電磁誘導の本質を示しています。

解答 キ \(\displaystyle\frac{\Delta\Phi}{2\pi R \Delta t}\)

思考の道筋とポイント
誘導電場\(E\)によって、電子は接線方向に静電気力\(eE\)を受けます。この力によって電子は加速され、運動量が変化します。運動量の変化は、受けた力積に等しいという「運動量と力積の関係」を用いて計算します。
具体的な解説と立式

  • 電子が受ける力: \(F = eE\) (大きさ)
  • 力が働く時間: \(\Delta t\)
  • 力積: \(I = F \Delta t = eE \Delta t\)

運動量の変化量\(\Delta p\)は、この力積に等しいので、
$$\Delta p = eE \Delta t \quad \cdots ⑧$$
この式に、キで求めた電場\(E = \displaystyle\frac{\Delta\Phi}{2\pi R \Delta t}\)を代入します。

使用した物理公式

  • 運動量と力積の関係: \(\Delta p = F \Delta t\)
  • 電場による力: \(F = eE\)
計算過程

$$\Delta p = e \left( \frac{\Delta\Phi}{2\pi R \Delta t} \right) \Delta t$$
\(\Delta t\)が約分されて、
$$\Delta p = \frac{e\Delta\Phi}{2\pi R} = \left(\frac{e}{2\pi R}\right) \Delta\Phi$$
問題は「ク \(\times \Delta\Phi\)」の形なので、クに当てはまるのは係数部分です。

結論と吟味

クに当てはまるのは\(\displaystyle\frac{e}{2\pi R}\)です。電子の運動量の増加が、磁束の増加に直接比例していることがわかります。

解答 ク \(\displaystyle\frac{e}{2\pi R}\)

思考の道筋とポイント
ベータトロンでは、電子が加速されても軌道半径\(R\)が一定に保たれるように、軌道上の磁束密度\(B\)も同時に増加させます。この条件式を導くのが最後の設問です。
私たちは、運動量の変化\(\Delta p\)について2つの異なる表現を得ました。

  1. オの結果から: 運動量\(p=eBR\)であり、Rは一定なので、\(p\)が変化するのは\(B\)が変化するから \(\rightarrow \Delta p = eR \Delta B\)
  2. クの結果から: 運動量の変化は磁束の変化による力積で決まる \(\rightarrow \Delta p = \displaystyle\frac{e\Delta\Phi}{2\pi R}\)

これら2つの\(\Delta p\)は等しいはずなので、イコールで結んで条件式を導きます。
具体的な解説と立式
オの結果 \(p=eBR\) において、半径\(R\)は一定なので、両辺の変化量を取ると、
$$\Delta p = eR \Delta B \quad \cdots ⑨$$
一方、クの結果は、
$$\Delta p = \frac{e\Delta\Phi}{2\pi R} \quad \cdots ⑩$$
式⑨と式⑩の左辺は同じ\(\Delta p\)なので、右辺どうしも等しくなります。
$$eR \Delta B = \frac{e\Delta\Phi}{2\pi R}$$

計算過程

この式を\(\Delta B\)について解きます。両辺を\(eR\)で割ると、
$$\Delta B = \frac{e\Delta\Phi}{2\pi R \cdot eR} = \frac{\Delta\Phi}{2\pi R^2} = \left(\frac{1}{2\pi R^2}\right) \Delta\Phi$$
問題は「ケ \(\times \Delta\Phi\)」の形なので、ケに当てはまるのは係数部分です。

結論と吟味

ケに当てはまるのは\(\displaystyle\frac{1}{2\pi R^2}\)です。この \(\Delta B = \displaystyle\frac{\Delta\Phi}{2\pi R^2}\) という関係は「ベータトロンの条件」として知られています。この条件は、軌道上の磁場の変化\(\Delta B\)と、軌道内部を貫く全磁束の変化\(\Delta\Phi\)の間に特定のバランスが必要であることを示しています。もし磁場が一様なら\(\Phi = B \cdot \pi R^2 \rightarrow \Delta\Phi = \pi R^2 \Delta B\)となり、この条件を満たせません。そのため、ベータトロンでは中心部ほど磁場が強くなるような、特殊な形状の磁石(一様でない磁場)が使われます。

解答 ケ \(\displaystyle\frac{1}{2\pi R^2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ローレンツ力と円運動: 荷電粒子が磁場から受ける力 \(F=qvB\) が向心力となり、円運動(運動方程式 \(Mv^2/r=qvB\))を引き起こす。サイクロトロンとベータトロンの両方に共通する基本原理。
  • サイクロトロンの同調条件: 円運動の周期 \(T=2\pi M/qB\) が速さや半径によらないため、一定周波数の交流電場で連続的に加速できる。
  • ファラデーの電磁誘導の法則と誘導電場: 磁束の変化 \(\Delta\Phi\) が誘導起電力 \(V=\Delta\Phi/\Delta t\) を生み、これが渦状の誘導電場 \(E=V/(2\pi R)\) の源となる。これがベータトロンの加速原理。
  • 運動量と力積: 誘導電場による力 \(F=eE\) が時間\(\Delta t\)だけ働くことで、粒子は力積 \(F\Delta t\) を受け、そのぶん運動量が増加する (\(\Delta p = F\Delta t\))。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 質量分析器: ローレンツ力による円運動で、粒子の質量や比電荷を分析する装置。サイクロトロンの円運動の式と考え方が共通。
    • ホール効果: ローレンツ力と静電気力がつり合う現象。サイクロトロンの前段階である速度選択器と原理が似ている。
    • リニアック(線形加速器): 多数の電極を直線状に並べ、交流電場で粒子を加速する装置。サイクロトロンと加速の考え方は似ているが、磁場で曲げずに直線的に加速する点が異なる。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 加速の仕組みは何か? を見抜く。電極間の電位差か、電磁誘導による電場か。
    2. 軌道を維持する力は何か? を見抜く。ほとんどの場合、磁場によるローレンツ力である。
    3. 何が一定で、何が変化するのか? を整理する。サイクロトロンでは\(B\)が一定で\(r, v\)が変化、ベータトロンでは\(R\)が一定で\(B, \Phi, v\)が変化する。この違いが両者の性質を決定づける。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • サイクロトロンの周期:
    • 現象: 半径が大きくなると速さも増すので、周期も変わってしまうと勘違いする。
    • 対策: 周期の式 \(T=2\pi M/qB\) を正しく導出し、「\(v\)も\(r\)も含まれていない」ことを確認する。速くなると同時により長い距離を回るため、一周にかかる時間は相殺されて一定になる、と物理的に理解する。
  • ベータトロンの磁場:
    • 現象: 軌道上の磁束密度\(B\)と、磁束\(\Phi\)を計算するための(平均の)磁束密度を混同する。
    • 対策: ベータトロンでは、粒子を曲げるための磁場(\(B\))と、粒子を加速するための磁束変化(\(\Delta\Phi\))という2つの役割を磁場が担っていると理解する。ケの結論が示すように、これらは両立しないため、一様な磁場ではないことを常に意識する。
  • 力の向きと符号:
    • 現象: ローレンツ力や静電気力の向きを間違える。特にベータトロンの電子(負電荷)の場合。
    • 対策: フレミングの左手の法則は「正電荷(電流)」の向きで考えることを徹底し、負電荷の場合は最後に力の向きを逆にする。電磁誘導で生じる電場の向き(レンツの法則)も、磁束の変化を妨げる向きに電流を流そうとする方向、と正確に判断する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • サイクロトロン: イオンがD型電極の間を往復するたびに「パン!」と蹴られて加速し、だんだん大きな渦巻き(螺旋)を描いていくイメージ。
  • ベータトロン: ドーナツ状のトラックを走る電子を、トラックの内側の磁場を強めることで、背中から見えない力(誘導電場)でぐいぐいと押し続けて加速させるイメージ。同時に、トラックから飛び出さないように、コース上の磁場も強くして遠心力と釣り合わせる。
  • 図の活用: 問題の図1、図2と、解答の図は、粒子の軌道と力の関係を視覚的に理解する上で極めて重要。特にベータトロンの誘導電場の図は、磁束の変化がどのようにして周回方向の力を生み出すのかを直感的に示している。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 円運動の運動方程式 \(ma = F\):
    • 選定理由: 粒子が円軌道を描いている、という記述から選択。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則。向心加速度 \(a=v^2/r\) と向心力 \(F=qvB\) を適用する。
  • ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = d\Phi/dt\):
    • 選定理由: 「磁束を変化させ」「誘導起電力を利用する」というベータトロンの原理説明から選択。
    • 適用根拠: 時間変化する磁場は、空間に(渦状の)電場を誘起するというマクスウェルの方程式の一つ。
  • 運動量と力積の関係 \(\Delta p = F\Delta t\):
    • 選定理由: 誘導電場という「力」が「時間」\(\Delta t\)だけ作用して、粒子の「運動量」を変化させる、という因果関係を記述するために最適。
    • 適用根拠: 運動方程式を時間で積分したものであり、力の時間的効果を記述する際に有効。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 【装置の特定】 サイクロトロンかベータトロンかを確認し、基本原理(加速方法、軌道の性質)を思い出す。
  2. 【力の分析】 粒子に働く力(ローレンツ力、静電気力、誘導電場による力)を特定する。
  3. 【運動のモデル化】 粒子の運動をモデル化する(等速円運動、等加速度運動など)。
  4. 【方程式の立式】 各モデルに対応する物理法則(運動方程式、電磁誘導の法則、力積の関係)を用いて方程式を立てる。
  5. 【連立と代入】 複数の式を連立させたり、ある式の結果を別の式に代入したりして、未知数を消去し、目的の物理量を導出する。
  6. 【条件の適用】 「半径Rが一定」「周期が一致」など、その装置特有の条件を式に適用する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 定数と変数の区別: 問題文をよく読み、何が一定に保たれ、何が変化する量なのかを明確に区別する。
  • 単位円周あたりの量: ベータトロンの電場や起電力の計算では、円周の長さ\(2\pi R\)が分母や分子によく現れる。混同しないよう注意する。
  • 微小変化量の扱い: \(\Delta p, \Delta \Phi, \Delta B, \Delta t\) といった微小変化量を扱う計算では、どの量がどの量に比例するのか、関係性を正確に追う。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • サイクロトロンの限界: エで求めた最大エネルギーの式を見ると、粒子を光速近くまで加速しようとすると、相対論的効果によって質量\(M\)が増加するため、周期が一定でなくなり、加速のタイミングがずれてしまう(シンクロトロンが必要になる)。この原理的な限界を考えてみる。
  • ベータトロンの条件の意味: ケで求めた \(\Delta\Phi = 2\pi R^2 \Delta B\) という条件は、物理的に「軌道内部の平均的な磁場変化は、軌道上の磁場変化のちょうど2倍でなければならない」ことを意味する。なぜそうなるのか、力のモーメント(トルク)と角運動量の関係から考察してみることも、より深い理解につながる(大学レベルの内容)。
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