問題49 (東京大+甲南大+電通大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、交流回路の性質と、オシロスコープの表示原理(リサージュ図形)を組み合わせた、思考力を要する応用問題です。目に見えない電圧や電流の「大きさ(振幅)」と「タイミング(位相)」の関係が、画面上の図形の「大きさ」と「形」にどのように現れるのかを考察します。
- 回路(図1): 交流電源に抵抗RとコイルLが直列に接続されている。
- オシロスコープ(図2):
- X-X’間の電圧 \(V_{XX’}\) が輝点のx座標に、Y-Y’間の電圧 \(V_{YY’}\) がy座標に比例する。
- 比例定数はx, yで共通。
- 前提条件1: Rの電圧をX-X’にかけると、x軸上の振幅が \(a\) の直線が光る (\(-a \le x \le a\))。
- 解釈: 抵抗Rにかかる電圧の最大値 \(V_{R0}\) は、振幅 \(a\) に対応する。
- 前提条件2: 電源電圧をX-X’にかけると、x軸上の振幅が \(2a\) の直線が光る (\(-2a \le x \le 2a\))。
- 解釈: 電源電圧の最大値 \(V_{電源0}\) は、振幅 \(2a\) に対応する。
- (1) コイルLの電圧をかけた場合に光る部分。
- (2) Lを抵抗R'(\(=2R\))に替え、Rの電圧をx、R’の電圧をyにかけた場合の軌跡。
- (3) 元のRL回路で、Rの電圧をx、Lの電圧をyにかけた場合の軌跡。
- (4) 図1の回路で周波数を変えて円を描かせたときの、周波数の倍率と円の半径。
- (コラムQ) xにのこぎり波電圧、yに交流電圧をかけた場合の図形。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く鍵は、冒頭の前提条件から「電源電圧の最大値は、抵抗Rにかかる電圧の最大値の2倍である (\(V_{電源0} = 2V_{R0}\))」という関係を導き出し、これを基に電圧ベクトル図やリサージュ図形の考え方を適用していくことです。
問 (1)
思考の道筋とポイント
この設問では、X-X’間にコイルLの電圧 \(V_L\) をかけます。したがって、輝点が描く直線の長さ(振幅)は、\(V_L\) の最大値 \(V_{L0}\) に比例します。\(V_{L0}\) を求めるために、前提条件で導いた \(V_{電源0} = 2V_{R0}\) と、RL直列回路における電圧の関係(電圧ベクトル図)を利用します。
具体的な解説と立式
RL直列回路では、抵抗の電圧 \(V_R\) とコイルの電圧 \(V_L\) の位相が \(\pi/2\) ずれているため、それぞれの最大値 \(V_{R0}\), \(V_{L0}\) と電源電圧の最大値 \(V_{電源0}\) との間には、三平方の定理が成り立ちます。
$$V_{電源0}^2 = V_{R0}^2 + V_{L0}^2 \quad \cdots ①$$
ここに、前提条件から得られた関係式 \(V_{電源0} = 2V_{R0}\) を用います。
使用した物理公式
- RL直列回路における電圧の関係(電圧ベクトル図): \(V_{電源0}^2 = V_{R0}^2 + V_{L0}^2\)
式①に \(V_{電源0} = 2V_{R0}\) を代入します。
$$(2V_{R0})^2 = V_{R0}^2 + V_{L0}^2$$
$$4V_{R0}^2 = V_{R0}^2 + V_{L0}^2$$
\(V_{L0}^2\) について整理します。
$$V_{L0}^2 = 3V_{R0}^2$$
$$V_{L0} = \sqrt{3} V_{R0}$$
前提条件より、電圧 \(V_{R0}\) がx方向の振幅 \(a\) に対応していました。コイルの電圧 \(V_{L0}\) はその \(\sqrt{3}\) 倍なので、対応するx方向の振幅も \(\sqrt{3}a\) となります。
コイルにかかる電圧の振幅は、抵抗にかかる電圧の \(\sqrt{3}\) 倍でした。したがって、蛍光面ではx軸上の \(-\sqrt{3}a \le x \le \sqrt{3}a\) の範囲が光ります。
問 (2)
思考の道筋とポイント
コイルLを抵抗R'(\(=2R\))に取り替えた場合、回路は抵抗Rと抵抗R’の単純な直列回路になります。x座標は\(V_R\)に、y座標は\(V_{R’}\)に比例します。電源電圧が2つの抵抗に分圧されることを利用してxとyの振幅を求めます。抵抗同士の電圧は同位相なので、軌跡は直線になります。
具体的な解説と立式
回路は抵抗RとR'(\(=2R\))の直列接続なので、電源電圧 \(V_{電源}\) は抵抗値の比 \(R:R’ = 1:2\) に応じて分圧されます。
x座標の振幅を \(A_x\)、y座標の振幅を \(A_y\) とすると、これらは各抵抗にかかる電圧の最大値に比例します。
$$V_{R0}’ = V_{電源0} \times \frac{R}{R+R’} \quad \cdots ②$$
$$V_{R’0} = V_{電源0} \times \frac{R’}{R+R’} \quad \cdots ③$$
x, yの電圧は同位相なので、時刻\(t\)の関数として、\(x(t) = A_x \sin(\omega t)\), \(y(t) = A_y \sin(\omega t)\) と書け、これから軌跡の方程式を求めます。
使用した物理公式
- 抵抗の直列接続における分圧
電圧 \(V_{R0}\) が振幅 \(a\) に、\(V_{電源0}\) が振幅 \(2a\) に対応することを使います。比例定数を\(k\)とします。
xの振幅 \(A_x\) は電圧 \(V_{R0}’\) に、yの振幅 \(A_y\) は電圧 \(V_{R’0}\) に比例します。
$$A_x = k V_{R0}’ = k \left(V_{電源0} \frac{R}{R+2R}\right) = k \left(\frac{1}{3}V_{電源0}\right) = \frac{1}{3} (k V_{電源0}) = \frac{1}{3} (2a) = \frac{2}{3}a$$
$$A_y = k V_{R’0} = k \left(V_{電源0} \frac{2R}{R+2R}\right) = k \left(\frac{2}{3}V_{電源0}\right) = \frac{2}{3} (k V_{電源0}) = \frac{2}{3} (2a) = \frac{4}{3}a$$
\(x(t) = \frac{2}{3}a \sin(\omega t)\) と \(y(t) = \frac{4}{3}a \sin(\omega t)\) から、\(\sin(\omega t)\) を消去すると、
$$y = 2x$$
この直線が描かれるxの範囲は、振幅 \(A_x\) から \(-\frac{2}{3}a \le x \le \frac{2}{3}a\) です。
問 (3)
思考の道筋とポイント
元のRL直列回路に戻します。x座標は抵抗の電圧 \(V_R\) に、y座標はコイルの電圧 \(V_L\) に比例します。xの振幅は \(a\)、yの振幅は \(\sqrt{3}a\) であり、コイルの電圧 \(V_L\) は抵抗の電圧 \(V_R\) に対して位相が \(\pi/2\) 進みます。振幅が異なり、位相が \(\pi/2\) ずれた2つの単振動を合成すると、軌跡は楕円になります。
具体的な解説と立式
x, y座標の振幅はそれぞれ \(A_x = a\), \(A_y = \sqrt{3}a\) です。
位相差を考慮して、時刻 \(t\) の関数としてx, yを表します。
$$x(t) = a \sin(\omega t)$$
$$y(t) = \sqrt{3}a \sin(\omega t + \frac{\pi}{2}) = \sqrt{3}a \cos(\omega t)$$
この2つの式から媒介変数 \(t\) を消去するために、三角関数の公式 \(\sin^2(\omega t) + \cos^2(\omega t) = 1\) を利用します。
使用した物理公式
- RL直列回路における電圧の位相差
- 三角関数の公式: \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\)
\(x(t)\), \(y(t)\) の式を、それぞれ \(\sin(\omega t)\) と \(\cos(\omega t)\) について解きます。
$$\sin(\omega t) = \frac{x}{a}$$
$$\cos(\omega t) = \frac{y}{\sqrt{3}a}$$
これらを \(\sin^2(\omega t) + \cos^2(\omega t) = 1\) に代入します。
$$\left(\frac{x}{a}\right)^2 + \left(\frac{y}{\sqrt{3}a}\right)^2 = 1$$
$$\frac{x^2}{a^2} + \frac{y^2}{3a^2} = 1$$
問 (4)
思考の道筋とポイント
蛍光面に「円」が描かれる条件は、x方向とy方向の振動の振幅が等しく、かつ位相差が \(\pi/2\) であることです。この回路では位相差は常に \(\pi/2\) なので、振幅が等しくなる条件、つまり \(V_{R0} = V_{L0}\) を満たすように周波数を調整すればよいことになります。
具体的な解説と立式
円が現れる条件は、\(V_{R0} = V_{L0}\) です。リアクタンスの式を代入すると、
$$RI_0 = (\omega’L)I_0 \quad \rightarrow \quad R = \omega’L \quad \cdots ④$$
一方、元の周波数 \(\omega\) での関係は、問(1)の結果 \(V_{L0}=\sqrt{3}V_{R0}\) より、
$$(\omega L)I_0 = \sqrt{3}(RI_0) \quad \rightarrow \quad \omega L = \sqrt{3} R \quad \cdots ⑤$$
式④と⑤を比較することで、周波数の変化率を求めます。
円の半径を求めるには、\(V_{R0} = V_{L0}\) のときの電圧ベクトル図を考えます。
$$V_{電源0}^2 = V_{R0}^2 + V_{L0}^2 = 2V_{R0}^2 \quad \rightarrow \quad V_{電源0} = \sqrt{2}V_{R0} \quad \cdots ⑥$$
この関係と、前提条件の比例関係を使って半径を求めます。
使用した物理公式
- リアクタンス: \(X_R=R, X_L=\omega L\)
- 電圧ベクトル図
周波数の変化:
式④を式⑤で割ります。
$$\frac{\omega’L}{\omega L} = \frac{R}{\sqrt{3}R} \quad \rightarrow \quad \frac{\omega’}{\omega} = \frac{1}{\sqrt{3}}$$
周波数は角周波数に比例するので、周波数も \(\frac{1}{\sqrt{3}}\) 倍になります。
円の半径:
比例定数を\(k\)とすると、前提条件より \(k V_{電源0} = 2a\)。求める半径は \(a_{円} = k V_{R0}\) です。
式⑥ \(V_{電源0} = \sqrt{2}V_{R0}\) の両辺に \(k\) を乗じます。
$$k V_{電源0} = \sqrt{2} (k V_{R0})$$
$$2a = \sqrt{2} a_{円}$$
$$a_{円} = \frac{2a}{\sqrt{2}} = \sqrt{2}a$$
【コラム】Q. xにのこぎり波電圧、yに交流電圧をかけた場合の図形は?
思考の道筋とポイント
これは、オシロスコープがどのようにして電圧の「波形」を表示するのか、という基本原理そのものを問う問題です。x方向とy方向の輝点の動きを別々に考え、それを合成します。
- x方向の動き(水平掃引): のこぎり波電圧は、電圧が時間に比例して一定の速さで増加し、瞬時にゼロに戻ることを繰り返します。これにより、輝点は画面の左から右へ一定の速さで移動(掃引)し、右端に着くと瞬時に左端に戻ります。x軸が「時間軸」の役割を果たします。
- y方向の動き(垂直偏向): 周期Tの交流電圧(正弦波)がかかるので、輝点は上下に単振動します。y軸が「電圧軸」の役割を果たします。
この2つの動きを合成することで、y方向の電圧の時間変化、つまり交流電圧の波形が画面上に描かれます。
具体的な解説と立式
x方向ののこぎり波電圧とy方向の交流電圧の周期が同じTである点に注目します。
のこぎり波の1周期(\(0 \le t \le T\))において、x方向の電圧は時間に比例するので、輝点のx座標も時間に比例します。比例定数を\(c_1\)として、
$$x(t) = c_1 t$$
y方向の電圧は正弦波なので、輝点のy座標も同様に変化します。振幅を\(A_y\)として、
$$y(t) = A_y \sin(\omega t + \delta) = A_y \sin\left(\frac{2\pi}{T}t + \delta\right)$$
これらの式から、yをxの関数として表すことで、軌跡の形を調べます。
使用した物理公式
- オシロスコープの原理(変位は電圧に比例)
- 単振動の変位の式
\(x(t) = c_1 t\) より、\(t = x/c_1\) です。これを \(y(t)\) の式に代入します。
$$y(x) = A_y \sin\left(\frac{2\pi}{T}\frac{x}{c_1} + \delta\right)$$
これは、横軸をx、縦軸をyとすると、正弦波のグラフそのものを表しています。\(t=T\) で輝点はx軸の右端に達し、次の瞬間に左端に戻って再び同じ波形を描き始めます。この繰り返しにより、静止した波形として観測されます。
のこぎり波による水平掃引と、観測したい交流電圧による垂直偏向を組み合わせることで、電圧の時間変化のグラフ(波形)を視覚的に表示することができます。これはオシロスコープの最も基本的な機能です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- RLC直列回路の電圧ベクトル図: 電源電圧と各素子の電圧の最大値(振幅)の関係は、位相を考慮したベクトル(フェーザ)の和で考えます。特にRL回路やRC回路では、三平方の定理がそのまま適用でき、電圧の大きさを求める強力なツールとなります。
- リサージュ図形の原理: 互いに垂直な2方向の単振動を合成すると、その振幅比と位相差によって、直線、楕円、円といった様々な図形(リサージュ図形)が描かれます。この問題は、オシロスコープという具体的な装置を通して、この原理を理解しているかを問うています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 前提条件の数式化: 問題文の冒頭に書かれている定性的な記述や実験結果を、まず数式(この問題では \(V_{電源0} = 2V_{R0}\))に翻訳することが、問題を解く上での第一歩であり、最も重要な作業です。
- 媒介変数表示された軌跡の処理: 問(2)や(3)のように、xとyが共に時刻tの関数として与えられている場合、三角関数の性質などを利用してtを消去し、xとyの直接の関係式(軌跡の方程式)を導く数学的スキルが役立ちます。
- 未知の素子の決定: 交流回路の位相差の情報と、直流回路の過渡現象の情報を組み合わせることで、ブラックボックスの素子を特定する論理的な推理が求められます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 振幅と位相差の混同:
- 現象: リサージュ図形の問題で、振幅の関係だけを見て軌跡を判断し、位相差の考慮を忘れてしまう。
- 対策: 「形は位相差、大きさは振幅」と覚え、必ず両方の要素を確認する習慣をつける。特にRL回路やRC回路では、位相差が\(\pi/2\)であることを常に意識する。
- 電圧と抵抗の混同:
- 現象: 電圧ベクトル図を描く際に、ベクトルの長さを抵抗値やリアクタンスそのものだと勘違いしてしまう。
- 対策: ベクトル図はあくまで「電圧」の大きさと位相の関係を示した図であることを明確に意識する。インピーダンス図と混同しないように注意する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 電圧ベクトル図の活用: RL直列回路の電圧関係を考える際、右向きに\(V_{R0}\)のベクトル、上向きに\(V_{L0}\)のベクトルを描き、その合成ベクトルが\(V_{電源0}\)になる、という直角三角形をイメージすることが極めて有効です。この図一つで、電圧の大きさの関係(三平方の定理)と位相の関係が一目瞭然になります。
- リサージュ図形の生成イメージ: x方向とy方向にそれぞれ振動するペン先を想像し、そのペンが紙の上を動く軌跡をイメージすると、リサージュ図形がどのように描かれるか直感的に理解できます。xとyの振動の「タイミング」がずれる(位相差がある)と、軌跡が円や楕円のように膨らむ様子を想像してみましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電圧ベクトル図 (\(V_{電源0}^2 = V_{R0}^2 + V_{L0}^2\)):
- 選定理由: RL直列回路で、各部品の電圧の最大値(大きさ)の関係を知りたいから。位相差があるので単純な足し算はできず、ベクトルの和(三平方の定理)で考える必要がある。
- 適用根拠: 電流を基準ベクトルとしたとき、\(V_R\)は同相、\(V_L\)は\(\pi/2\)進む。この直交するベクトルの合成として\(V_{電源}\)を求めるため。
- リアクタンスの式 (\(V_{L0} = \omega L I_0\)):
- 選定理由: コイルにかかる電圧の大きさを、電流の大きさと回路の特性(\(\omega\), \(L\))から計算するため。
- 適用根拠: ファラデーの電磁誘導の法則 \(V = -L\frac{dI}{dt}\) を、\(I = I_0 \sin(\omega t)\) という正弦波交流に適用した結果。
- 媒介変数表示 (\(x(t)\), \(y(t)\)):
- 選定理由: 2つの独立した方向の運動(振動)を合成した結果、どのような図形が描かれるかを調べるため。
- 適用根拠: オシロスコープのx偏向とy偏向が独立しており、共通の時間 \(t\) で連動しているという物理的状況を数式で表現するため。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 前提条件の解読・数式化: 問題文の実験結果から \(V_{電源0} = 2V_{R0}\) を導出。これが全ての起点。
- 素子の特定: 交流の位相差からXをコイルと特定。直流の過渡現象からYを抵抗、Zをコンデンサーと特定。
- 定数の計算: 特定した素子ごとに、対応する公式 (\(V=\omega LI\), \(V=RI\)など) を使って \(L\), \(R\), \(C\) を順に計算。
- 各設問の状況把握: どの電圧が \(x\), \(y\) に対応するか、回路構成はどうなっているかを設問ごとに整理。
- 軌跡の分析:
- \(x\), \(y\) の振幅を電圧の分圧やベクトル図から計算。
- \(x\), \(y\) の位相差を確認(同位相なら直線、\(\pi/2\)なら楕円/円)。
- 媒介変数 \(t\) を消去し、軌跡の方程式を導出。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比例関係の利用: \(V_{R0}\) が振幅 \(a\) に対応するという基準を常に意識する。他の電圧も \(V_{R0}\) の何倍かで考え、最終的に \(a\) を使って振幅を表すと混乱が少ない。
- 角周波数と周期: \(\omega\) と \(T\) の変換 (\(\omega = 2\pi/T\)) を正確に行う。\(10^{-2}\) などの指数計算を間違えない。
- ベクトル図の活用: 電圧の大きさを計算するときは、必ずベクトル図を描いて視覚的に確認する。三平方の定理の適用ミスを防ぐ。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 定性的な確認:
- 問(3): RL回路で位相差があるから、軌跡は直線ではなく、閉じた曲線(楕円)になるはずだ。→ OK。
- 問(4): 周波数を下げるとコイルのリアクタンス \(\omega L\) は小さくなる。元の状態では\(\omega L = \sqrt{3}R\)だったので、\(R\)に近づけるには周波数を下げる必要がある。→ \(\frac{1}{\sqrt{3}}\)倍は1より小さいので、定性的に合っている。
- 極端な条件での検討:
- もしコイルLがなければ(L=0)、\(V_L=0\)。電圧ベクトル図から \(V_{電源0} = V_{R0}\) となるはず。これは前提条件 \(V_{電源0} = 2V_{R0}\) と矛盾するので、Lはゼロではないとわかる。
問題50 (工学院大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は「ホール効果」として知られる現象をテーマにしています。ホール効果とは、磁場の中を流れる電流の担い手(キャリア)が、磁場からローレンツ力を受けることで偏り、電流の向きと磁場の向きの両方に垂直な方向に電位差(ホール電圧)が生じる現象です。実験データの分析から始まり、ミクロな物理モデルの構築、そして両者の比較によって半導体の性質を明らかにするという、物理学の醍醐味が詰まった問題です。
- 素子: 3辺の長さが a, b, c の直方体の半導体。
- 場の設定: +z方向に一様な磁場(磁束密度 \(B\))、+y方向に電流 \(I\) を流す。
- 測定: x方向に発生する電位差 \(V\)(側面Mと側面Nの間)を測定。
- 実験データ: 様々な磁場 \(B\) のもとで、電流 \(I\) と電位差 \(V\) の関係がグラフで示されている。
- 定数: 電子の電荷の大きさ \(e=1.6\times10^{-19}\) C、半導体の厚さ \(c=1.0\times10^{-4}\) m。
- (1) 実験データから、\(V\) を \(I, B\) の関数としてモデル化し、比例定数 \(\alpha\) の値を求める。
- (2) 電流の担い手が電子の場合の運動方向と、電流 \(I\) をミクロな量で表す式。
- (3) 電子がキャリアの場合の、ホール効果による電位差の向きと大きさの導出。
- (4) 正孔(ホール)がキャリアの場合の、ホール効果による電位差の向き。
- (5) 比例定数 \(\alpha\) を理論的に導き、キャリアの個数密度 \(n\) を計算する。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く戦略は、まずマクロな視点(実験グラフ)から現象の法則性を掴み、次にミクロな視点(電子一個の運動)から理論式を立て、最後に両者を統合して未知の物理量を明らかにすることです。
問 (1)
思考の道筋とポイント
まず、与えられたグラフの形から、電圧\(V\)と電流\(I\)の関係を読み取ります。Bが特定の値に固定されているとき、グラフは原点を通る直線なので、\(V\) は \(I\) に比例します。次に、その比例係数が磁場 \(B\) によってどう変わるかに注目します。グラフの傾きが \(B\) に比例していることを見抜ければ、\(V\) を \(I\) と \(B\) の関数として表現できます。比例定数 \(\alpha\) は、グラフから読み取れる具体的な数値を代入して計算します。
具体的な解説と立式
- 関数形の決定:
- 磁場 \(B\) を一定とすると、グラフは原点を通る直線なので、\(V\) は \(I\) に比例します。比例定数を \(k_1\) として \(V = k_1 I\) と書けます。
- 次に、この比例定数(グラフの傾き)\(k_1\) が \(B\) に比例していることに注目します。この比例定数を \(\alpha\) とすると \(k_1 = \alpha B\) と書けます。
- 以上をまとめると、\(V, I, B\) の間には次の関係式が成り立ちます。
$$V = \alpha B I \quad \cdots ①$$
- 比例定数 \(\alpha\) の計算:
式①を \(\alpha\) について変形し、グラフから読みやすい点を1つ選び、その数値を代入します。
$$\alpha = \frac{V}{BI}$$
使用した物理公式
- グラフ読解による関数形の推定
グラフの右上の点(\(B=0.64\) T, \(I=6.0\) mA, \(V=80\) mV)の値を、\(\alpha\)を求める式に代入します。 単位の接頭語(m: ミリ)に注意してください。
$$\alpha = \frac{80 \times 10^{-3} \, [\text{V}]}{0.64 \, [\text{T}] \times 6.0 \times 10^{-3} \, [\text{A}]} = \frac{80}{0.64 \times 6.0} \, [\text{V/(T}\cdot\text{A)}]$$
$$ = \frac{80}{3.84} \approx 20.83… \, [\text{V/(T}\cdot\text{A)}]$$
有効数字2桁で答えるので、21 となります。
問 (2)
思考の道筋とポイント
電流の正体を、ミクロな視点で「電荷を帯びた粒子の流れ」として捉え直します。
- 電子の運動方向: 電流の向きは「正の電荷が流れる向き」と定義されています。電子は負の電荷を持つため、その運動方向は電流の向きとは逆になります。
- 電流の大きさ: 電流とは「ある断面を1秒あたりに通過する電気量の大きさ」です。断面積 \(S=ac\) の領域を、電子が平均の速さ \(v\) で通過する状況を考え、1秒間に通過する電子の数から総電気量を計算します。
具体的な解説と立式
- 運動方向: 電流が+y方向に流れているので、電子は逆の **-y方向** に運動しています。
- 電流の大きさ: 電流の向きに垂直な断面の面積は \(S = ac\) です。1秒間にこの断面を通過する電子の総電気量が電流 \(I\) となるので、
$$I = enacv \quad \cdots ②$$
(\(e\): 電気素量, \(n\): キャリア密度, \(a, c\): 辺の長さ, \(v\): キャリアの速さ)
使用した物理公式
- 電流のミクロな定義: \(I=nqSv\)
この設問では立式がゴールなので、これ以上の計算はありません。
問 (3)
思考の道筋とポイント
運動している電子が磁場から受ける力(ローレンツ力)の向きを考えます。これにより、電子がどちらの側面に偏るかが決まり、電位の高低が判断できます。電子の偏りによって半導体内部に電場が発生し、電子はこの電場から静電気力を受けます。定常状態では、この静電気力とローレンツ力がつり合います。この力のつり合いの式から電場を求め、最終的に電位差を計算します。
具体的な解説と立式
- 電位の高低: 電子(電荷 \(-e\))が -y方向に速さ \(v\) で運動し、磁場は +z方向です。ローレンツ力を+x方向に受け、側面Mに集まります。 その結果、側面Mは負に、側面Nは正に帯電します。 したがって、電位はNの方がMより高くなります。
- 電位差V: 電子の偏りにより、側面Nから側面Mへ向かう向きの電場 \(E\) が生じます。 定常状態では、キャリアが受けるローレンツ力(大きさ \(evB\))と静電気力(大きさ \(eE\))がつり合います。
$$eE = evB \quad \cdots ③$$
MN間の距離は \(a\) で、電場 \(E\) は一様とみなせるので、電位差 \(V\) は、
$$V = Ea \quad \cdots ④$$
使用した物理公式
- ローレンツ力: \(F_L = qvB\)
- 静電気力: \(F_E = qE\)
- 一様な電場と電位差の関係: \(V=Ed\)
式③から電場 \(E = vB\) となります。 これを式④に代入します。
$$V = (vB)a = vBa \quad \cdots ⑤$$
問 (4)
思考の道筋とポイント
今度は、電流の担い手が正の電荷 \(+e\) をもつ正孔(ホール)である場合を考えます。基本的な考え方は問(3)と全く同じですが、キャリアの電荷の符号と運動方向が変わるため、ローレンツ力の向きがどうなるかを再検討します。
具体的な解説と立式
- 運動方向: 正孔(ホール)は正の電荷を持つキャリアなので、その運動方向は電流の向きと同じ、+y方向 です。
- ローレンツ力の向き: フレミングの左手の法則により、力の向きは **+x方向** となります。
- 電位の高低: ローレンツ力を+x方向に受けた正孔は、側面Mに引き寄せられ、蓄積します。 その結果、側面Mは正に帯電します。 したがって、電位はMの方がNより高くなります。
使用した物理公式
- ローレンツ力: \(F_L = qvB\)
この設問では定性的な判断が問われているため、計算はありません。
問 (5)
思考の道筋とポイント
これまでの設問で得られた関係式を総動員します。問(1)で求めたマクロな実験式 \(V=\alpha BI\) と、問(2), (3)から導かれるミクロな理論式を結びつけます。具体的には、\(I=enacv\) と \(V=vBa\) からキャリアの速さ \(v\) を消去し、\(V\) を \(I\) と \(B\) で表す理論式を導きます。これを実験式と比較することで、\(\alpha\) の正体が明らかになります。最後に、その関係式を \(n\) について解き、数値を代入してキャリア密度を求めます。
具体的な解説と立式
これまでに得られた3つの重要な式を連立させます。
- 実験式: \(V = \alpha B I \quad \cdots ①\)
- 電流のミクロ表現: \(I = enacv \quad \cdots ②\)
- ホール電圧の理論式: \(V = vBa \quad \cdots ⑤\)
式②から \(v\) を求め、式⑤に代入することで、マクロな量 \(V, I, B\) とミクロな量 \(n, e, c\) を結びつけます。得られた理論式と実験式①を比較して \(\alpha\) を求め、最終的に \(n\) を算出します。
$$n = \frac{1}{ec\alpha}$$
使用した物理公式
- これまでに導出したすべての関係式を統合して使用します。
\(\alpha\) の導出:
式②を \(v\) について解くと、\(v = \displaystyle\frac{I}{enac}\)。 これを式⑤ \(V=vBa\) に代入します。
$$V = \left( \frac{I}{enac} \right) Ba = \frac{1}{enc} B I$$
この式と、実験から得られた式① \(V = \alpha B I\) の係数を比較します。
$$\alpha = \frac{1}{enc}$$
\(n\) の計算:
上の式を \(n\) について解き、与えられた数値と問(1)で求めた \(\alpha \approx 20.8\) の値を代入します。
$$n = \frac{1}{ec\alpha} = \frac{1}{(1.6 \times 10^{-19} \, [\text{C}]) \times (1.0 \times 10^{-4} \, [\text{m}]) \times 20.8 \, [\text{V/(T}\cdot\text{A)}]}$$
$$n \approx \frac{1}{3.33 \times 10^{-22}} \approx 3.0 \times 10^{21} \, [\text{m}^{-3}]$$
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ホール効果のメカニズム: この問題の核心は、ホール効果の物理的プロセスを段階的に理解することです。すなわち、「①磁場中のキャリアがローレンツ力を受ける → ②キャリアが側面に偏る → ③内部に電場が発生する → ④ローレンツ力と静電気力がつり合う」という一連の流れを、物理法則に基づいて説明できることが最重要です。
- キャリアの符号と電位差: キャリアの電荷の符号(電子か正孔か)によって、ローレンツ力を受けて偏る方向が逆になり、その結果生じるホール電圧の極性も逆転します。 これが、半導体のp型/n型を判別する原理となっています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- ミクロとマクロの連携: この問題のように、実験データ(マクロな関係式)と、物理モデル(ミクロな理論式)を比較検討する問題は物理の王道です。最初にグラフから読み取れる経験則を立て、次に理論的な考察を行い、最後に両者を結びつけて未知の量を求める、という流れは様々な問題に応用できます。
- 力のつり合いへの着目: 複雑に見える電磁気現象も、最終的に「一個の粒子に働く力のつり合い」という力学の基本に帰着させることができます。どの力とどの力がつり合っているのかを見抜くことが解法の鍵です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ローレンツ力の向き:
- 現象: キャリアが電子(負電荷)の場合に、フレミングの左手則をそのまま適用してしまい、力の向きを逆にしてしまう。
- 対策: 「フレミングの法則は正電荷(または電流)の向きが基準」と常に意識する。電子の場合は、まず電流の向きで力の向きを判断し、最後にそれを「ひっくり返す」という手順を踏むと確実です。
- 電流のミクロな式の断面積:
- 現象: 電流の式 \(I=nqSv\) の断面積Sに、電流の向きと平行な面の面積(この問題ではabやbc)を使ってしまう。
- 対策: Sは必ず「電流が垂直に通過する断面の面積」であることを確認する。この問題ではac面です。
- 単位の換算:
- 現象: 計算の途中で、mA(ミリアンペア)やmV(ミリボルト)を、AやVに直さずに計算してしまう。
- 対策: 数値計算を行う際は、必ず全ての量を基本単位(SI単位系)に直してから式に代入する習慣をつける。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- キャリアの動きの図解: 半導体の図を描き、電子(または正孔)を一個だけ取り出して、その運動方向(\(\vec{v}\))、磁場の向き(\(\vec{B}\))を矢印で記入します。そこからローレンツ力(\(\vec{F}_L\))の向きを決定し、キャリアがどちらに偏るかを図示します。さらに、その偏りによって生じる電場(\(\vec{E}\))と静電気力(\(\vec{F}_E\))を書き加えることで、力のつり合いの状況を視覚的に完璧に把握できます。
- グラフから物理法則を読み取る: 問(1)のように、実験データがプロットされたグラフを見たときに、「原点を通る直線だから比例関係だ」「傾きがBと共に大きくなっているから、傾きもBに比例しているのではないか」と、数式的な関係を推測する眼を養うことが、物理学の探究では非常に重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ローレンツ力 (\(F=qvB\)):
- 選定理由: 磁場という「場」から、運動する荷電粒子という「物体」が受ける力を記述するための基本法則だから。ホール効果の根源的な原因を説明するために必須。
- 電流のミクロ表現 (\(I=nqSv\)):
- 選定理由: 観測されるマクロな量(電流I)を、半導体内部のミクロな状態(キャリア密度n, 速さv)と結びつけるため。理論と実験をつなぐ架け橋となる公式。
- 力のつり合い (\(eE = evB\)):
- 選定理由: 現象が定常状態に達したとき、物理系は安定な状態にあることを示すため。この問題では、キャリアのx方向への移動が止まった状態が「力のつり合い」に対応する。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 【実験式の導出】グラフから \(V \propto I\) と \(V/I \propto B\) を読み取り、\(V = \alpha B I\) という関係式を立てる。グラフの数値から \(\alpha\) を計算する。
- 【理論式の準備】
- 電流の担い手(電子)の運動方向を特定し、電流のミクロな式 \(I = enacv\) を立てる。
- 電子に働くローレンツ力の向きを特定し、電荷の偏りと電場の発生を考察する。
- ローレンツ力と静電気力のつり合いから \(eE = evB\)、さらに電位差の式 \(V = Ea\) を用いて、\(V = vBa\) を導出する。
- 【理論と実験の結合】理論式の \(v\) を電流の式を使って消去し、\(V\) を \(I, B\) で表す。
- 【係数比較と計算】導出した理論式と実験式を比較して \(\alpha\) の正体を突き止め、未知の物理量 \(n\) を算出する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位系を統一する: 計算を始める前に、与えられた数値をすべてSI基本単位(m, s, A, V, C, Tなど)に変換する癖をつける。特に `m` (ミリ) や `c` (センチ) などの接頭語を見落とさない。
- 指数計算の徹底: \(10^{-19}\) や \(10^{-4}\) といった指数が多数出てくる。特に分数の分母にある場合、最終的な答えの指数の符号を間違えやすいので、慎重に計算する。
- 有効数字の確認: 問題文で「有効数字2桁」と指定されている場合、計算の途中では少し多めの桁数(3〜4桁)で計算を進め、最後に四捨五入して指定の桁数に合わせると、誤差が少なくなります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- キャリアの符号による結果の反転: 問(3)と(4)を比較し、「キャリアの電荷の符号が逆になると、ホール電圧の極性が逆になる」という物理的に重要な結論が得られているか確認する。 これがホール効果の半導体タイプの判別への応用につながります。
- オーダーの感覚: 計算で得られたキャリア密度 \(n \approx 3.0 \times 10^{21} \, \text{m}^{-3}\) という値は、一般的な半導体のキャリア密度 (\(10^{19} \sim 10^{22} \, \text{m}^{-3}\) 程度) と比べて妥当なオーダーか、といった感覚を持つと、大きな計算ミスに気づきやすくなります。
問題51 (慶應大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、電場や磁場の中で荷電粒子(電子)がどのように運動するかを問う、電磁気学と力学の融合問題の集大成です。
- 電場による加速(仕事とエネルギー)
- 一様な電場中の放物運動(等加速度運動)
- 一様な磁場中のらせん運動(等速円運動+等速直線運動)
- 電場と磁場を組み合わせた速度選択
という、この分野の重要テーマがすべて盛り込まれています。一つ一つの領域で電子に何が起こるのか、基本法則に立ち返って丁寧に分析していくことが重要です。
- 粒子: 電子(電荷 \(-e\), 質量 \(m\))
- 運動のプロセス:
- 加速: 陰極Cから初速 \(v_0\) で出た電子が、電圧 \(V\) で加速され、陽極を速さ \(u\) で+z方向に通過する。
- 領域I (電場): -y方向、大きさ \(E\) の一様な電場中を、z方向に距離 \(l\) だけ進む。
- 領域II (磁場): +z方向、磁束密度 \(B\) の一様な磁場中を進む。
- 観測: 領域IIのz軸に垂直なスクリーンで電子の到達点を観測する。MN(領域の境界)とスクリーンとの距離は \(L\)。
- (1) ア: 加速に必要な電圧 \(V\)。
- (2) イ, ウ, エ: 領域Iを通過した直後(MN上)での電子の速度のz成分・y成分と、MNからスクリーンまでの所要時間。
- (3) 領域IIでスクリーンを動かしたときに見える軌跡の概形。
- (4) オ: (3)で完全な軌跡を描くために必要なスクリーンの最小移動距離。
- (5) カ, キ: 領域IIにさらに電場を加えて電子を直進させるための、電場の向きと大きさ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、電子の運動をステージごとに区切って考えるのが有効です。
- 加速ステージ(問1): 電子が電場からされる仕事と運動エネルギーの変化の関係式を立てます。
- 電場領域Iステージ(問2前半): 電子の運動を、力が働かないz方向(等速直線運動)と、一定の力が働くy方向(等加速度運動)に分けて考え、それぞれの速度成分を求めます。
- 磁場領域IIステージ(問2後半, 3, 4): 領域IIに突入した電子の速度ベクトルを、磁場に平行な成分(z成分)と垂直な成分(y成分)に分解します。平行成分は「等速直線運動」を、垂直成分は「等速円運動」を引き起こし、合成された「らせん運動」を分析します。
- 電磁場領域ステージ(問5): 磁場によるローレンツ力と、新たにかける電場による静電気力がつり合って、電子が力を受けずに直進する条件を考えます。
問 (1)
思考の道筋とポイント
電子が陰極Cから陽極まで移動する間に、電場(電圧\(V\))から仕事をされます。この仕事の分だけ、電子の運動エネルギーが増加します。この「仕事と運動エネルギーの関係(エネルギー保存則)」を用いて、電圧\(V\)を求めます。
具体的な解説と立式
電子(電気量の大きさ \(e\))が電位差 \(V\) のある領域で加速されるとき、電場からされる仕事 \(W\) は \(W=eV\) です。
この仕事が運動エネルギーの増加分 \(\Delta K = \frac{1}{2}mu^2 – \frac{1}{2}mv_0^2\) に等しくなります。したがって、以下のエネルギーに関する等式が成り立ちます。
$$\frac{1}{2}mu^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 = eV \quad \cdots ①$$
この式を \(V\) について解きます。
使用した物理公式
- 仕事と運動エネルギーの関係: \(\Delta K = W\)
- 電場がする仕事: \(W = qV\)
式①の両辺を \(e\) で割り、\(V\) について整理します。
$$V = \frac{1}{e} \left( \frac{1}{2}mu^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 \right) = \frac{m(u^2 – v_0^2)}{2e}$$
加速に必要な電圧Vは \(\displaystyle\frac{m(u^2-v_0^2)}{2e}\) となります。電子の運動エネルギーの増加分を、電気素量eで割ったものになっており、次元的にも正しいことがわかります。
問 (2)
思考の道筋とポイント
電子の運動を、領域I(電場)と領域II(磁場)の2段階に分けて考えます。
- 領域I: z方向には力が働かないため、z方向の速度は変わりません。y方向には-y向きの電場から一定の力(+y向き)を受けるため、等加速度運動をします。
- 領域II: 磁場から受ける力(ローレンツ力)は常に速度と垂直なため、z方向の速度成分は変化しません。
具体的な解説と立式
- イ (z成分の速度): 領域Iではz方向に力が働かないため、速度は一定に保たれます。
- ウ (y成分の速度): 領域Iで、電子は+y方向に大きさ \(F_y = eE\) の力を受けます。運動方程式 \(ma_y=F_y\) より、y方向の加速度 \(a_y\) が求まります。
$$ma_y = eE \quad \cdots ②$$
領域Iを通過する時間 \(t\) は、z方向に距離 \(l\) を速さ \(u\) で進むので、
$$t = \frac{l}{u} \quad \cdots ③$$
y方向の初速度は0なので、y成分の速度 \(v_y\) は、等加速度運動の公式より、
$$v_y = a_y t \quad \cdots ④$$ - エ (MNからスクリーンまでの時間): 領域IIでは、z方向に力が働かないため、z方向の速度 \(u\) は一定です。距離 \(L\) を進むのにかかる時間 \(t’\) は、
$$t’ = \frac{L}{u} \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- 運動の法則、運動方程式: \(ma=F\)
- 等加速度運動の公式: \(v=v_0+at\)
- 等速直線運動の公式: \(時間 = 距離 / 速さ\)
- イ: 議論の通り、\(u\) です。
- ウ: 式②から \(a_y = \displaystyle\frac{eE}{m}\) を求め、式④に式③と共に代入します。
$$v_y = \left(\frac{eE}{m}\right) \times \left(\frac{l}{u}\right) = \frac{eEl}{mu}$$ - エ: 式⑤の通り、\(\displaystyle\frac{L}{u}\) です。
問 (3)
思考の道筋とポイント
領域IIに突入した電子の運動は、磁場に斜めに入射する荷電粒子の運動、すなわち「らせん運動」です。この運動は、磁場に平行な方向(z軸方向)の「等速直線運動」と、磁場に垂直な平面(xy平面)内での「等速円運動」の重ね合わせとして分析できます。スクリーンをz軸の正側から見るということは、xy平面上での軌跡を問われているのと同じです。
具体的な解説と立式
- 運動の分解:
- 磁場に平行な速度成分: \(v_z = u\) (z方向の等速直線運動)
- 磁場に垂直な速度成分: \(v_y = \frac{eEl}{mu}\) (xy平面での等速円運動)
- 円運動の解析: xy平面内で、電子は速さ \(v_y\) で等速円運動をします。このときの向心力は、磁場から受けるローレンツ力です。円運動の半径を \(r\) とすると、運動方程式は、
$$m \frac{v_y^2}{r} = ev_y B \quad \cdots ⑥$$ - 軌跡の向き: 電子がMNを通過した瞬間、速度は+y方向、磁場は+z方向です。電子は負電荷なので、ローレンツ力は **-x方向** に働きます。したがって、電子は-x方向に曲がり始め、xy平面上で時計回りの円運動をします。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(ma=F\) (向心加速度 \(a=v^2/r\))
- ローレンツ力: \(F=qvB\)
式⑥を半径 \(r\) について解きます。
$$r = \frac{mv_y}{eB}$$
ここに、問(2)で求めた \(v_y = \frac{eEl}{mu}\) を代入します。
$$r = \frac{m}{eB} \left(\frac{eEl}{mu}\right) = \frac{El}{Bu}$$
問 (4)
思考の道筋とポイント
問(3)で考えた「らせん運動」において、電子がxy平面でちょうど一周して元のy座標に戻ってくるまでの間に、z方向に進む距離を求めます。この距離が、スクリーン上で完全な円の軌跡を描くために必要なスクリーンの最小移動距離になります。この距離は、らせん運動の1周分の長さ(ピッチ)と呼ばれます。
具体的な解説と立式
- 円運動の周期を求める: まず、xy平面での円運動の周期 \(T\) を計算します。
$$T = \frac{2\pi r}{v_y} \quad \cdots ⑦$$ - z方向に進む距離を求める: この周期 \(T\) の間、電子はz方向に速さ \(u\) で等速直線運動をします。進む距離(ピッチ)\(d_{pitch}\) は、
$$d_{pitch} = u T \quad \cdots ⑧$$
使用した物理公式
- 等速円運動の周期: \(T = 2\pi r / v\)
- 等速直線運動の距離: \(距離 = 速さ \times 時間\)
まず、式⑦を使って周期 \(T\) を計算します。問(3)の結果 \(r = \frac{mv_y}{eB}\) を代入すると、
$$T = \frac{2\pi}{v_y} \left(\frac{mv_y}{eB}\right) = \frac{2\pi m}{eB}$$
次に、この \(T\) を式⑧に代入して、移動距離を求めます。
$$d_{pitch} = u \times \left(\frac{2\pi m}{eB}\right) = \frac{2\pi mu}{eB}$$
問 (5)
思考の道筋とポイント
領域IIで、軌跡がy軸上の直線となる条件を考えます。これは、電子がxy平面内で曲がらず、x方向の速度成分が0のままであることを意味します。しかし、電子は磁場からローレンツ力を受けて-x方向に曲げられようとします。この力を打ち消すために、逆向き(+x方向)に静電気力が働くような電場をかければよい、ということになります。
具体的な解説と立式
- カ (電場の向き): 電子は、磁場から-x方向に大きさ \(F_L = ev_y B\) のローレンツ力を受けます。これを打ち消すには、+x方向に静電気力 \(F_E\) を加える必要があります。電子(電荷 \(-e\))に+x方向の力を働かせるためには、電場はその逆向き、すなわち **-x方向** にかける必要があります。
- キ (電場の大きさ): かける電場の大きさを \(E_1\) とすると、静電気力の大きさは \(F_E = eE_1\) です。力のつり合いの式は、
$$eE_1 = ev_y B \quad \cdots ⑨$$
使用した物理公式
- ローレンツ力: \(F_L = qvB\)
- 静電気力: \(F_E = qE\)
- 力のつり合い
式⑨の両辺を \(e\) で割り、\(E_1\) を求めます。
$$E_1 = v_y B$$
ここに、問(2)で求めた \(v_y = \frac{eEl}{mu}\) を代入します。
$$E_1 = \left(\frac{eEl}{mu}\right)B = \frac{eElB}{mu}$$
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場と磁場が荷電粒子に及ぼす力の性質の違いを明確に理解することが核心です。電場は速度によらず一定方向に力を及ぼし(等加速度運動の原因)、磁場(ローレンツ力)は常に速度に垂直な方向に力を及ぼします(等速円運動の原因)。
- 磁場に斜めに入射した粒子の運動は「らせん運動」となり、これは磁場に平行な「等速直線運動」と、磁場に垂直な面内での「等速円運動」の重ね合わせとして分析できる、という視点が極めて重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 運動の成分分解: 複雑に見える運動も、座標軸に沿って成分に分解することで、単純な運動(等速、等加速度)の組み合わせとして扱うことができます。特に、力が働く方向と働かない方向を区別することが有効です。
- 速度選択器の原理(問5): ローレンツ力と静電気力を釣り合わせることで、特定の速度の粒子だけを直進させることができます。この「力のつり合い」の条件式は、質量分析器など他の応用問題でも頻繁に登場します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ローレンツ力の向き:
- 現象: 電子は負電荷であることを見落とし、フレミング左手則で求めた力の向きをそのまま答えにしてしまう。
- 対策: 「フレミングの法則は正電荷(電流)が基準」と常に意識し、電子の場合は最後に力の向きを「ひっくり返す」ことを徹底する。
- らせん運動の速さの成分:
- 現象: 円運動の速さに、入射したときの速さ全体(この問題では \(\sqrt{u^2+v_y^2}\))を使ってしまう。
- 対策: 円運動を引き起こすのは、あくまで「磁場に垂直な速度成分(この問題では \(v_y\))」であることを明確に区別する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 運動のステージ分け: 「加速」→「電場で偏向」→「磁場で回転」と、電子の旅をステージごとに区切って図を描き、各ステージの入口と出口での速度ベクトルを明確にすることで、思考が整理されます。
- 視点の切り替え: らせん運動を、横から(y-z平面で)見るとサインカーブのように、進行方向から(x-y平面で)見ると円に見えます。一つの現象を異なる視点から見ることで、その全体像を立体的に捉えることができます。
- 水平投射との類推: 領域Iでの電子の運動は、数学的には、重力下で物体を水平に投げ出す「水平投射」と全く同じモデルです。z方向を水平、y方向を鉛直と見なすことで、既知の力学の知識を応用できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 円運動の運動方程式 (\(m v^2/r = F\)):
- 選定理由: 粒子が円運動しているという事実から、その運動を維持している向心力の大きさを計算し、半径などのパラメータを求めるため。
- 適用根拠: 円運動している物体には、必ず中心向きに「向心力」が働いており、その大きさが質量×向心加速度(\(v^2/r\))に等しいという力学の基本法則に基づきます。この問題ではローレンツ力が向心力の役割を果たしています。
- 運動エネルギーと仕事の関係 (\(\Delta K = W\)):
- 選定理由: 始点と終点での速さが与えられ、その間のポテンシャルエネルギーの変化(電位差)が分かっている場合に、途中の詳細な運動を追わずに2点間の関係を結びつけるため。
- 適用根拠: 物体にされた仕事の総和は、その物体の運動エネルギーの変化に等しいという、エネルギー保存則から導かれる普遍的な法則に基づきます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 【加速】エネルギー保存則(仕事と運動エネルギーの関係)から、加速後の速さ \(u\) と電圧 \(V\) の関係を立てる。
- 【領域I:電場】運動をz方向(等速)とy方向(等加速度)に分解。通過時間 \(t=l/u\) を求め、y方向の速度 \(v_y=a_yt\) を計算する。
- 【領域II:磁場】運動をz方向(等速)とxy平面(等速円運動)に分解する。
- 【円運動の分析】向心力=ローレンツ力の式を立て、円運動の半径 \(r\) と周期 \(T\) を求める。
- 【らせん運動の分析】周期 \(T\) の間にz方向に進む距離(ピッチ)を \(uT\) で計算する。
- 【力のつり合い】問(5)のような直進条件では、ローレンツ力と静電気力のつり合いの式を立てる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字の区別: \(u\), \(v_0\), \(v_y\) など、様々な速度が出てくる。どの場面でのどの方向の速度成分なのかを、添え字などで明確に区別して計算を進める。
- 公式の導出過程を意識する: 例えば、円運動の周期 \(T=2\pi m/eB\) は、半径rや速さvに依存しないという重要な性質があります。この結果を覚えておくと、途中の \(r\) や \(v_y\) の計算が正しくなくても、周期の計算は正しく行える可能性があり、検算にも役立ちます。
- 代入は最後に行う: 計算はできるだけ文字式のまま進め、最後に数値を代入する方が、途中の計算ミスが減り、物理的な意味も見失いにくいです。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 次元(単位)の確認: 例えば、問(4)で求めた距離の単位が本当に[m]になっているか、各項の単位を追って確認する習慣をつける。(\(mu/eB\) の単位など)
- 物理的状況との照らし合わせ: 例えば、問(5)で求めた電場の向きが、本当にローレンツ力と逆向きの静電気力を生むか、再度、図を描いて確認する。
- 極端な場合を考える: もし磁場Bが0なら、電子はらせん運動せず、直進するはず。式にB=0を代入すると半径rが無限大になり、これは直進と解釈でき、矛盾がないことを確認する。
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