問題49 (東京大+甲南大+電通大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、交流回路の性質と、オシロスコープの表示原理(リサージュ図形)を組み合わせた、思考力を要する応用問題です。目に見えない電圧や電流の「大きさ(振幅)」と「タイミング(位相)」の関係が、画面上の図形の「大きさ」と「形」にどのように現れるのかを考察します。
- 回路(図1): 交流電源に抵抗RとコイルLが直列に接続されている。
- オシロスコープ(図2):
- X-X’間の電圧 \(V_{XX’}\) が輝点のx座標に、Y-Y’間の電圧 \(V_{YY’}\) がy座標に比例する。
- 比例定数はx, yで共通。
- 前提条件1: Rの電圧をX-X’にかけると、x軸上の振幅が \(a\) の直線が光る (\(-a \le x \le a\))。
- 解釈: 抵抗Rにかかる電圧の最大値 \(V_{R0}\) は、振幅 \(a\) に対応する。
- 前提条件2: 電源電圧をX-X’にかけると、x軸上の振幅が \(2a\) の直線が光る (\(-2a \le x \le 2a\))。
- 解釈: 電源電圧の最大値 \(V_{\text{電源}0}\) は、振幅 \(2a\) に対応する。
- (1) コイルLの電圧をかけた場合に光る部分。
- (2) Lを抵抗R'(\(=2R\))に替え、Rの電圧をx、R’の電圧をyにかけた場合の軌跡。
- (3) 元のRL回路で、Rの電圧をx、Lの電圧をyにかけた場合の軌跡。
- (4) 図1の回路で周波数を変えて円を描かせたときの、周波数の倍率と円の半径。
- (コラムQ) xにのこぎり波電圧、yに交流電圧をかけた場合の図形。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている電圧ベクトル図を用いる解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) コイルにかかる電圧の最大値の別解: インピーダンス図を用いる解法
- 主たる解法が電圧のベクトル和で考えるのに対し、別解では回路全体の特性であるインピーダンス(交流における抵抗)の関係からアプローチします。
- 問(4) 周波数の変化率の別解: 電圧ベクトルの位相角に着目する解法
- 主たる解法が電圧の大きさの比から周波数を求めるのに対し、別解では電圧ベクトル図における位相角(力率角)の変化に着目して解きます。
- 問(1) コイルにかかる電圧の最大値の別解: インピーダンス図を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「電圧ベクトル図」と「インピーダンス図」という、同じ現象を異なる視点から記述するモデルを学ぶことで、交流回路の本質的な理解が深まります。
- 多角的な視点の獲得: 位相角という「角度」の情報から周波数の変化という「大きさ」の情報を導き出す経験は、物理現象を多角的に捉える思考力を養います。
- 解法の選択肢の拡大: 問題の条件によっては、インピーダンスや位相角から考えた方が見通しが良くなる場合もあり、解法の引き出しが増えます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題を解く鍵は、冒頭の前提条件から「電源電圧の最大値は、抵抗Rにかかる電圧の最大値の2倍である (\(V_{\text{電源}0} = 2V_{R0}\))」という関係を導き出し、これを基に電圧ベクトル図やリサージュ図形の考え方を適用していくことです。
問(1)
思考の道筋とポイント
この設問では、X-X’間にコイルLの電圧 \(V_L\) をかけます。したがって、輝点が描く直線の長さ(振幅)は、\(V_L\) の最大値 \(V_{L0}\) に比例します。\(V_{L0}\) を求めるために、前提条件で導いた \(V_{\text{電源}0} = 2V_{R0}\) と、RL直列回路における電圧の関係(電圧ベクトル図)を利用します。
この設問における重要なポイント
- RL直列回路では、電源電圧、抵抗の電圧、コイルの電圧の最大値の間に三平方の定理が成り立つ。
- 問題文の前提条件から \(V_{\text{電源}0} = 2V_{R0}\) の関係を導き、利用する。
具体的な解説と立式
RL直列回路では、抵抗の電圧 \(V_R\) とコイルの電圧 \(V_L\) の位相は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) だけずれています。そのため、それぞれの電圧の最大値 \(V_{R0}\), \(V_{L0}\) と、電源電圧の最大値 \(V_{\text{電源}0}\) との間には、電圧ベクトル図で考えたときの三平方の定理が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{電源}0}^2 &= V_{R0}^2 + V_{L0}^2 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
ここで、問題文の前提条件を数式化します。比例定数を \(k\) とすると、
- 抵抗Rの電圧をかけたとき、振幅が \(a\) であったことから、\(a = k V_{R0}\)
- 電源電圧をかけたとき、振幅が \(2a\) であったことから、\(2a = k V_{\text{電源}0}\)
この2式より、\(k V_{\text{電源}0} = 2(k V_{R0})\) となり、以下の重要な関係式が得られます。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{電源}0} &= 2V_{R0} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
この関係式②を式①に代入することで、\(V_{L0}\) を求めます。
使用した物理公式
- RL直列回路における電圧の関係: \(V_{\text{電源}0}^2 = V_{R0}^2 + V_{L0}^2\)
式①に式②を代入します。
$$
\begin{aligned}
(2V_{R0})^2 &= V_{R0}^2 + V_{L0}^2 \\[2.0ex]
4V_{R0}^2 &= V_{R0}^2 + V_{L0}^2
\end{aligned}
$$
この式を \(V_{L0}^2\) について整理します。
$$
\begin{aligned}
V_{L0}^2 &= 4V_{R0}^2 – V_{R0}^2 \\[2.0ex]
&= 3V_{R0}^2
\end{aligned}
$$
よって、\(V_{L0}\) は \(V_{R0}\) の \(\sqrt{3}\) 倍となります。
$$
\begin{aligned}
V_{L0} &= \sqrt{3} V_{R0}
\end{aligned}
$$
電圧の最大値と画面上の振幅は比例します。\(V_{R0}\) が振幅 \(a\) に対応するので、\(V_{L0}\) が対応する振幅 \(a_L\) は、
$$
\begin{aligned}
a_L &= k V_{L0} \\[2.0ex]
&= k (\sqrt{3} V_{R0}) \\[2.0ex]
&= \sqrt{3} (k V_{R0}) \\[2.0ex]
&= \sqrt{3} a
\end{aligned}
$$
となります。
交流回路の電圧は、綱引きの力みたいに考えられます。抵抗君とコイル君が電流という綱を引いていて、電源さんがその二人をまとめた力で引っ張っています。ただ、コイル君はちょっとひねくれ者で、抵抗君とは90度違う方向(真横)に綱を引きます。なので、電源さんの力は、抵抗君の力とコイル君の力を直角三角形の斜辺のように合わせたものになります。問題文に「電源さんの力は抵抗君の力の2倍」というヒントがあります。直角三角形で、斜辺の長さが一方の辺の2倍だと分かれば、もう一方の辺(コイル君の力)の長さは計算で\(\sqrt{3}\)倍だと分かります。抵抗君の力で画面の振れ幅が\(a\)だったので、コイル君の力では\(\sqrt{3}a\)の振れ幅になる、ということです。
コイルにかかる電圧の最大値は \(V_{L0} = \sqrt{3} V_{R0}\) です。したがって、蛍光面上ではx軸上の \(-\sqrt{3}a \le x \le \sqrt{3}a\) の範囲が光ります。これは物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
電圧の関係 \(V=ZI\) を利用し、回路の特性であるインピーダンス(交流抵抗)の関係からコイルの電圧を求めます。電圧ベクトル図とインピーダンス図は、電流\(I\)を掛けるかどうかの違いだけで、本質的には同じ幾何学的関係を表します。
この設問における重要なポイント
- 回路全体のインピーダンス\(Z\)、抵抗\(R\)、リアクタンス\(X_L = \omega L\)の間には \(Z^2 = R^2 + X_L^2\) の関係がある。
- 電圧の比はインピーダンスの比に等しい (\(V_{\text{電源}0}:V_{R0}:V_{L0} = Z:R:X_L\))。
具体的な解説と立式
電流の最大値を \(I_0\) とすると、各電圧の最大値は以下のように表せます。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{電源}0} &= Z I_0 \\
V_{R0} &= R I_0 \\
V_{L0} &= X_L I_0 = (\omega L) I_0
\end{aligned}
$$
前提条件 \(V_{\text{電源}0} = 2V_{R0}\) にこれらを代入すると、
$$
\begin{aligned}
Z I_0 &= 2(R I_0)
\end{aligned}
$$
よって、インピーダンスの関係として \(Z = 2R\) が得られます。
インピーダンスの三平方の関係式にこれを代入します。
$$
\begin{aligned}
Z^2 &= R^2 + X_L^2
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- インピーダンスの関係式: \(Z^2 = R^2 + (\omega L)^2\)
- オームの法則: \(V=ZI\)
\(Z = 2R\) をインピーダンスの関係式に代入します。
$$
\begin{aligned}
(2R)^2 &= R^2 + X_L^2 \\[2.0ex]
4R^2 &= R^2 + X_L^2
\end{aligned}
$$
リアクタンス \(X_L\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
X_L^2 &= 3R^2 \\[2.0ex]
X_L &= \sqrt{3}R
\end{aligned}
$$
コイルの電圧の最大値 \(V_{L0}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{L0} &= X_L I_0 \\[2.0ex]
&= (\sqrt{3}R) I_0 \\[2.0ex]
&= \sqrt{3} (R I_0) \\[2.0ex]
&= \sqrt{3} V_{R0}
\end{aligned}
$$
これは主たる解法で得られた電圧の関係と一致します。したがって、対応する振幅も \(\sqrt{3}a\) となります。
別の考え方として、回路が持つ「電流の流れにくさ(インピーダンス)」に注目します。抵抗の「流れにくさ」を\(R\)、コイルの「流れにくさ」を\(X_L\)とすると、回路全体の「流れにくさ」\(Z\)は、やはりピタゴラスの定理で計算できます。電圧の大きさは、この「流れにくさ」に比例します。前提条件から、回路全体の流れにくさは抵抗の2倍だと分かります。これをピタゴラスの定理に当てはめると、コイルの流れにくさは抵抗の\(\sqrt{3}\)倍だと計算できます。したがって、コイルの電圧も抵抗の電圧の\(\sqrt{3}\)倍になります。
インピーダンスという回路の特性からアプローチしても、主たる解法と全く同じ結果が得られました。これにより、解法の妥当性がより強固なものとなります。
問(2)
思考の道筋とポイント
コイルLを抵抗R'(\(=2R\))に取り替えた場合、回路は抵抗Rと抵抗R’の単純な直列回路になります。x座標は\(V_R\)に、y座標は\(V_{R’}\)に比例します。電源電圧が2つの抵抗に分圧されることを利用してxとyの振幅を求めます。抵抗同士の電圧は同位相なので、軌跡は直線になります。
この設問における重要なポイント
- 抵抗の直列回路では、電圧は抵抗値の比に比例して分圧される。
- 2つの抵抗にかかる電圧は同位相であるため、軌跡は直線となる。
具体的な解説と立式
回路は抵抗RとR'(\(=2R\))の直列接続なので、電源電圧 \(V_{\text{電源}}\) は抵抗値の比 \(R:R’ = R:2R = 1:2\) に応じて分圧されます。
x座標に対応する抵抗Rにかかる電圧の最大値 \(V_{R0}’\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{R0}’ &= V_{\text{電源}0} \times \frac{R}{R+R’} \\[2.0ex]
&= V_{\text{電源}0} \times \frac{R}{R+2R} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{3}V_{\text{電源}0}
\end{aligned}
$$
y座標に対応する抵抗R’にかかる電圧の最大値 \(V_{R’0}\) は、
$$
\begin{aligned}
V_{R’0} &= V_{\text{電源}0} \times \frac{R’}{R+R’} \\[2.0ex]
&= V_{\text{電源}0} \times \frac{2R}{R+2R} \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3}V_{\text{電源}0}
\end{aligned}
$$
となります。x, yの電圧は同位相なので、時刻\(t\)の関数として、\(x(t) = A_x \sin(\omega t)\), \(y(t) = A_y \sin(\omega t)\) と書け、これから軌跡の方程式を求めます。
使用した物理公式
- 抵抗の直列接続における分圧
xの振幅 \(A_x\) とyの振幅 \(A_y\) を求めます。\(V_{\text{電源}0}\) が振幅 \(2a\) に対応することを使います。
$$
\begin{aligned}
A_x &= k V_{R0}’ \\[2.0ex]
&= k \left(\frac{1}{3}V_{\text{電源}0}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{3} (k V_{\text{電源}0}) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{3} (2a) \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3}a
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
A_y &= k V_{R’0} \\[2.0ex]
&= k \left(\frac{2}{3}V_{\text{電源}0}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3} (k V_{\text{電源}0}) \\[2.0ex]
&= \frac{2}{3} (2a) \\[2.0ex]
&= \frac{4}{3}a
\end{aligned}
$$
\(x(t) = \displaystyle\frac{2}{3}a \sin(\omega t)\) と \(y(t) = \displaystyle\frac{4}{3}a \sin(\omega t)\) から、\(\sin(\omega t)\) を消去すると、
$$
\begin{aligned}
y &= 2x
\end{aligned}
$$
この直線が描かれるxの範囲は、振幅 \(A_x\) から \(-\displaystyle\frac{2}{3}a \le x \le \displaystyle\frac{2}{3}a\) です。
今度は、ひねくれ者のコイル君の代わりに、素直な抵抗君の兄弟(抵抗R’)が登場します。電源というお小遣いを、抵抗Rと抵抗R’の二人で分け合うイメージです。抵抗R’はRの2倍の「欲張り度(抵抗値)」を持っているので、お小遣いもRの2倍、つまり \(1:2\) の割合で分けられます。x方向の動きがRの取り分、y方向の動きがR’の取り分に対応します。二人とも素直なので、お金をもらうタイミングは全く同じです。だから、画面上の点の動きは、常にyがxの2倍になるような、まっすぐな直線を描くのです。
軌跡は原点を通り傾きが2の直線 \(y=2x\) となります。xの変域は \(-\frac{2}{3}a \le x \le \frac{2}{3}a\) であり、物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
元のRL直列回路に戻します。x座標は抵抗の電圧 \(V_R\) に、y座標はコイルの電圧 \(V_L\) に比例します。xの振幅は \(a\)、yの振幅は問(1)で求めた \(\sqrt{3}a\) であり、コイルの電圧 \(V_L\) は抵抗の電圧 \(V_R\) に対して位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進みます。振幅が異なり、位相が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) ずれた2つの単振動を合成すると、軌跡は楕円になります。
この設問における重要なポイント
- 抵抗の電圧とコイルの電圧には \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) の位相差がある。
- 振幅が異なり位相差が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) の2つの単振動を合成すると楕円になる。
具体的な解説と立式
x, y座標の振幅はそれぞれ \(A_x = a\), \(A_y = \sqrt{3}a\) です。
位相差を考慮して、時刻 \(t\) の関数としてx, yを表します。抵抗の電圧を基準にすると、
$$
\begin{aligned}
x(t) &= a \sin(\omega t)
\end{aligned}
$$
コイルの電圧は \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) 進むので、
$$
\begin{aligned}
y(t) &= \sqrt{3}a \sin\left(\omega t + \frac{\pi}{2}\right) \\[2.0ex]
&= \sqrt{3}a \cos(\omega t)
\end{aligned}
$$
この2つの式から媒介変数 \(t\) を消去するために、三角関数の公式 \(\sin^2(\omega t) + \cos^2(\omega t) = 1\) を利用します。
使用した物理公式
- RL直列回路における電圧の位相差
- 三角関数の公式: \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\)
\(x(t)\), \(y(t)\) の式を、それぞれ \(\sin(\omega t)\) と \(\cos(\omega t)\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\sin(\omega t) &= \frac{x}{a}
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
\cos(\omega t) &= \frac{y}{\sqrt{3}a}
\end{aligned}
$$
これらを \(\sin^2(\omega t) + \cos^2(\omega t) = 1\) に代入します。
$$
\begin{aligned}
\left(\frac{x}{a}\right)^2 + \left(\frac{y}{\sqrt{3}a}\right)^2 &= 1
\end{aligned}
$$
整理すると、楕円の方程式が得られます。
$$
\begin{aligned}
\frac{x^2}{a^2} + \frac{y^2}{3a^2} &= 1
\end{aligned}
$$
再び抵抗君(x方向)とひねくれ者のコイル君(y方向)のコンビです。二人の動きを合成するとどうなるか見てみましょう。抵抗君がブランコの中心で一番スピードが出ている瞬間、コイル君は一番高いところで一瞬止まっています。逆にコイル君が中心で一番速いとき、抵抗君は端で止まっています。このように、動きのピークが90度ずれている二人の動きを合成すると、ちょうど縄跳びの縄が回るような「楕円」の軌跡を描きます。x方向の振れ幅が\(a\)、y方向の振れ幅が\(\sqrt{3}a\)なので、縦長の楕円になります。
軌跡は楕円 \(\displaystyle\frac{x^2}{a^2} + \frac{y^2}{3a^2} = 1\) となります。これはx方向の振幅が \(a\)、y方向の振幅が \(\sqrt{3}a\) の楕円を表しており、物理的に妥当な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
蛍光面に「円」が描かれる条件は、x方向とy方向の振動の振幅が等しく、かつ位相差が \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) であることです。この回路では位相差は常に \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\) なので、振幅が等しくなる条件、つまり \(V_{R0} = V_{L0}\) を満たすように周波数を調整すればよいことになります。
この設問における重要なポイント
- 円が描かれる条件は、振幅が等しいこと (\(V_{R0} = V_{L0}\))。
- コイルのリアクタンス \(\omega L\) が周波数に比例することを利用する。
具体的な解説と立式
円が現れる条件は、抵抗にかかる電圧の最大値とコイルにかかる電圧の最大値が等しくなることです。回路を流れる電流の最大値を \(I_0’\) とし、このときの角周波数を \(\omega’\) とすると、
$$
\begin{aligned}
V_{R0} &= V_{L0} \\[2.0ex]
R I_0′ &= (\omega’L)I_0′
\end{aligned}
$$
よって、円になる条件はリアクタンスが等しくなることです。
$$
\begin{aligned}
R &= \omega’L \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
一方、元の周波数 \(\omega\) での関係は、問(1)の結果 \(V_{L0}=\sqrt{3}V_{R0}\) より、
$$
\begin{aligned}
(\omega L)I_0 &= \sqrt{3}(RI_0)
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
\omega L &= \sqrt{3} R \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
式③と④を比較することで、周波数の変化率を求めます。
円の半径を求めるには、\(V_{R0} = V_{L0}\) のときの電圧ベクトル図を考えます。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{電源}0}^2 &= V_{R0}^2 + V_{L0}^2 \\[2.0ex]
&= V_{R0}^2 + V_{R0}^2 \\[2.0ex]
&= 2V_{R0}^2
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
V_{\text{電源}0} &= \sqrt{2}V_{R0} \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
この関係と、前提条件の比例関係を使って半径を求めます。
使用した物理公式
- リアクタンス: \(X_R=R, X_L=\omega L\)
- 電圧ベクトル図
周波数の変化:
式④から \(R = \displaystyle\frac{\omega L}{\sqrt{3}}\) を導き、これを式③に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{\omega L}{\sqrt{3}} &= \omega’L \\[2.0ex]
\frac{\omega’}{\omega} &= \frac{1}{\sqrt{3}}
\end{aligned}
$$
周波数は角周波数に比例するので、周波数も \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\) 倍になります。
円の半径:
比例定数を\(k\)とすると、前提条件より \(k V_{\text{電源}0} = 2a\)。求める半径は \(a_{\text{円}} = k V_{R0}\) です。
式⑤ \(V_{\text{電源}0} = \sqrt{2}V_{R0}\) の両辺に \(k\) を乗じます。
$$
\begin{aligned}
k V_{\text{電源}0} &= \sqrt{2} (k V_{R0})
\end{aligned}
$$
ここに \(k V_{\text{電源}0} = 2a\) と \(a_{\text{円}} = k V_{R0}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
2a &= \sqrt{2} a_{\text{円}}
\end{aligned}
$$
よって、円の半径 \(a_{\text{円}}\) は、
$$
\begin{aligned}
a_{\text{円}} &= \frac{2a}{\sqrt{2}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2}a
\end{aligned}
$$
縦長の楕円をきれいな「円」にするには、どうすればいいでしょう?答えは、縦方向の振れ幅(コイル君の力)を小さくして、横方向(抵抗君の力)と同じにしてあげることです。コイル君の力は、交流の周波数(振動の速さ)に影響されます。周波数が高いほど、コイル君は頑張って大きな力を出します。今はコイル君の力が強すぎて縦長になっているので、周波数をゆっくりにしてコイル君の力を弱めてあげます。計算すると、周波数を\(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\)倍にすると、二人の力がぴったり同じになり、きれいな円が描けることがわかります。そのときの円の半径も計算で求められます。
周波数を \(\displaystyle\frac{1}{\sqrt{3}}\) 倍にすると、\(R=\omega’L\) となり、\(V_{R0}=V_{L0}\) が満たされるため円が描かれます。そのときの半径は \(\sqrt{2}a\) となります。いずれも物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
電圧ベクトル図において、抵抗の電圧 \(V_R\) と電源電圧 \(V_{\text{電源}}\) のなす角(位相角) \(\phi\) が、回路の特性 \(\tan\phi = \frac{\omega L}{R}\) と結びついていることを利用します。円になる条件(\(V_{R0}=V_{L0}\))がどのような位相角に対応するかを考え、元の状態の位相角と比較します。
この設問における重要なポイント
- 位相角 \(\phi\) は \(\cos\phi = \displaystyle\frac{V_{R0}}{V_{\text{電源}0}}\) および \(\tan\phi = \displaystyle\frac{V_{L0}}{V_{R0}} = \frac{\omega L}{R}\) を満たす。
- 円になる条件は、電圧ベクトル図が直角二等辺三角形になること、すなわち位相角が \(\displaystyle\frac{\pi}{4}\) になること。
具体的な解説と立式
元の状態(角周波数 \(\omega\))での位相角を \(\phi\) とします。前提条件 \(V_{\text{電源}0} = 2V_{R0}\) より、
$$
\begin{aligned}
\cos\phi &= \frac{V_{R0}}{V_{\text{電源}0}} = \frac{V_{R0}}{2V_{R0}} = \frac{1}{2}
\end{aligned}
$$
よって \(\phi = \displaystyle\frac{\pi}{3}\) です。このとき、
$$
\begin{aligned}
\tan\phi &= \frac{\omega L}{R} = \tan\left(\frac{\pi}{3}\right) = \sqrt{3} \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
次に、円が描かれる状態(角周波数 \(\omega’\))での位相角を \(\phi’\) とします。このとき \(V_{R0}=V_{L0}\) なので、
$$
\begin{aligned}
\tan\phi’ &= \frac{\omega’ L}{R} = \frac{V_{L0}}{V_{R0}} = 1 \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
(このとき \(\phi’ = \displaystyle\frac{\pi}{4}\) となります。)
使用した物理公式
- 位相角(力率角)の関係式: \(\tan\phi = \displaystyle\frac{\omega L}{R}\)
式⑦を式⑥で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{\tan\phi’}{\tan\phi} &= \frac{(\omega’ L)/R}{(\omega L)/R} \\[2.0ex]
&= \frac{\omega’}{\omega}
\end{aligned}
$$
数値を代入すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{\omega’}{\omega} &= \frac{1}{\sqrt{3}}
\end{aligned}
$$
これは主たる解法の結果と一致します。半径の計算は主たる解法と同様です。
電圧の関係を、直角三角形の「角度」で考えてみましょう。元の状態では、辺の比が \(1:2:\sqrt{3}\) の有名な直角三角形になっていて、角度は30度、60度、90度です。一方、円を描くときは、辺の比が \(1:1:\sqrt{2}\) の直角二等辺三角形になり、角度は45度、45度、90度です。この「角度」の変化は、コイルの性質(リアクタンス)の変化、つまり周波数の変化によって引き起こされます。この角度の変化から周波数がどれだけ変わったかを逆算する、という方法でも同じ答えにたどり着きます。
位相角という異なる物理量に着目しても、同じ周波数の変化率が導かれました。これは、電圧の大きさと位相が密接に関連していることを示しており、解の正しさを裏付けています。
【コラム】Q. xにのこぎり波電圧、yに交流電圧をかけた場合の図形は?
思考の道筋とポイント
これは、オシロスコープがどのようにして電圧の「波形」を表示するのか、という基本原理そのものを問う問題です。x方向とy方向の輝点の動きを別々に考え、それを合成します。
- x方向の動き(水平掃引): のこぎり波電圧は、電圧が時間に比例して一定の速さで増加し、瞬時にゼロに戻ることを繰り返します。これにより、輝点は画面の左から右へ一定の速さで移動(掃引)し、右端に着くと瞬時に左端に戻ります。x軸が「時間軸」の役割を果たします。
- y方向の動き(垂直偏向): 周期Tの交流電圧(正弦波)がかかるので、輝点は上下に単振動します。y軸が「電圧軸」の役割を果たします。
この2つの動きを合成することで、y方向の電圧の時間変化、つまり交流電圧の波形が画面上に描かれます。
この設問における重要なポイント
- のこぎり波電圧は、輝点を一定速度で水平移動させる「時間軸」の役割を果たす。
- 観測したい電圧をy軸方向にかけることで、電圧の時間変化がグラフとして表示される。
具体的な解説と立式
x方向ののこぎり波電圧とy方向の交流電圧の周期が同じTである点に注目します。
のこぎり波の1周期(\(0 \le t \le T\))において、x方向の電圧は時間に比例するので、輝点のx座標も時間に比例します。比例定数を\(c_1\)として、
$$
\begin{aligned}
x(t) &= c_1 t
\end{aligned}
$$
y方向の電圧は正弦波なので、輝点のy座標も同様に変化します。振幅を\(A_y\)、初期位相を\(\delta\)として、
$$
\begin{aligned}
y(t) &= A_y \sin(\omega t + \delta) \\[2.0ex]
&= A_y \sin\left(\frac{2\pi}{T}t + \delta\right)
\end{aligned}
$$
これらの式から、yをxの関数として表すことで、軌跡の形を調べます。
使用した物理公式
- オシロスコープの原理(変位は電圧に比例)
- 単振動の変位の式
\(x(t) = c_1 t\) より、\(t = \displaystyle\frac{x}{c_1}\) です。これを \(y(t)\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
y(x) &= A_y \sin\left(\frac{2\pi}{T}\frac{x}{c_1} + \delta\right)
\end{aligned}
$$
これは、横軸をx、縦軸をyとすると、正弦波のグラフそのものを表しています。\(t=T\) で輝点はx軸の右端に達し、次の瞬間に左端に戻って再び同じ波形を描き始めます。この繰り返しにより、静止した波形として観測されます。
オシロスコープがどうやって電圧の波の形を表示するか、という話です。まず、x方向には「のこぎり波」という特殊な電圧をかけます。これは、光の点を画面の左から右へ一定の速さで動かし、右端まで行ったら一瞬で左端に戻す、という動きを繰り返させます。これは、グラフの「横軸(時間)」を作る役割をします。次に、見たい交流電圧をy方向にかけると、光の点はその電圧の大きさに合わせて上下に動きます。この「横に一定速で動きながら、縦に振動する」という動きを合成すると、結果として画面には時間に対する電圧の変化、つまりおなじみの「波形」が描かれるのです。
のこぎり波による水平掃引と、観測したい交流電圧による垂直偏向を組み合わせることで、電圧の時間変化のグラフ(波形)を視覚的に表示することができます。これはオシロスコープの最も基本的な機能です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- RLC直列回路の電圧ベクトル図とインピーダンス図:
- 核心: 交流回路では、抵抗、コイル、コンデンサーで電圧の位相(タイミング)がずれるため、単純な足し算ができません。この位相差を考慮して電圧やインピーダンス(交流での抵抗)の関係を視覚的に表すのが「電圧ベクトル図」や「インピーダンス図」です。特にRL回路では、抵抗とコイルの電圧(またはインピーダンス)が直角に交わるため、三平方の定理が成り立ちます。
- 理解のポイント:
- 電流基準: 直列回路では電流が共通なので、電流のベクトルを基準(水平右向き)に考えます。
- 電圧の位相: 抵抗の電圧は電流と同相(同じ向き)、コイルの電圧は\(\pi/2\)進み(真上向き)、コンデンサーの電圧は\(\pi/2\)遅れ(真下向き)となります。
- ベクトルの合成: 電源電圧は、これらの電圧ベクトルの和として得られます。RL回路では、直角三角形の斜辺が電源電圧に対応します。
- リサージュ図形の原理:
- 核心: 互いに垂直な2方向の単振動を合成すると、その振幅比と位相差によって、直線、楕円、円といった様々な図形(リサージュ図形)が描かれます。オシロスコープは、この原理を応用して電圧の時間変化を可視化する装置です。
- 理解のポイント:
- 位相差が0: 2つの振動のタイミングがぴったり合うと、軌跡は「直線」になります。傾きは振幅の比で決まります。
- 位相差が\(\pi/2\): タイミングが90度ずれると、軌跡は「楕円」または「円」になります。振幅が等しければ「円」、異なれば「楕円」です。
- 時間軸の生成: 片方の振動を、時間に比例して変化する「のこぎり波」にすると、もう片方の振動の「波形」そのものを描くことができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- RC回路やRLC回路でのリサージュ図形: コイルの代わりにコンデンサーが入った場合や、3つの素子がすべて入った場合。基本的な考え方は同じですが、位相関係がより複雑になります。
- 共振回路と軌跡の変化: 回路の周波数を変化させて共振させたとき、インピーダンスや位相がどう変化し、画面上の図形がどう変わるかを問う問題。
- ブラックボックス問題: 箱の中に入っている素子が何かを、オシロスコープに現れる図形から推定する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 前提条件の数式化: 「〜のとき、〜が光った」という定性的な記述は、必ず数式(この問題では \(V_{\text{電源}0} = 2V_{R0}\))に翻訳することから始めます。これが解法の突破口になります。
- 媒介変数表示された軌跡の処理: xとyが共に時刻tの関数として与えられている場合、三角関数の性質(特に \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\))を利用してtを消去し、xとyの直接の関係式(軌跡の方程式)を導くのが定石です。
- 電圧とインピーダンスの相似関係: 電圧ベクトル図とインピーダンス図は相似形です。問題の条件に応じて、電圧で考えるか、インピーダンスで考えるか、より計算しやすい方を選ぶ視点を持つと有利です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 振幅と位相差の役割の混同:
- 誤解: リサージュ図形の問題で、振幅の関係だけを見て軌跡を判断し、位相差の考慮を忘れてしまう。
- 対策: 「図形の大きさ・縦横比は振幅比」「図形の形(直線か楕円か)は位相差」と役割を明確に区別して覚える。RL回路やRC回路では、位相差が\(\pi/2\)であることを常に意識する。
- 電圧とインピーダンスの混同:
- 誤解: 電圧ベクトル図を描く際に、ベクトルの長さを抵抗値\(R\)やリアクタンス\(\omega L\)そのものだと勘違いしてしまう。
- 対策: ベクトル図はあくまで「電圧」の大きさと位相の関係を示した図であることを明確に意識する。電圧は \(V=RI\) や \(V=\omega L I\) のように電流を掛けたものであることを忘れない。インピーダンス図と混同しないように注意する。
- 最大値と実効値の混同:
- 誤解: オシロスコープの振幅は電圧の「最大値」に比例するのに、計算の途中でうっかり「実効値」を使ってしまう。
- 対策: オシロスコープに表示されるのは瞬時値であり、その最大振幅は電圧の最大値(波高値)に対応することを強く意識する。問題で特に指定がない限り、振幅に関する計算はすべて最大値で行う。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電圧ベクトル図 (\(V_{\text{電源}0}^2 = V_{R0}^2 + V_{L0}^2\)):
- 選定理由: RL直列回路で、各部品の電圧の最大値(大きさ)の関係を知りたいから。位相差があるので単純な足し算はできず、ベクトルの和(三平方の定理)で考える必要がある。
- 適用根拠: 電流を基準ベクトルとしたとき、\(V_R\)は同相、\(V_L\)は\(\pi/2\)進む。この直交するベクトルの合成として\(V_{\text{電源}}\)を求めるため。
- インピーダンスの関係式 (\(Z^2 = R^2 + (\omega L)^2\)):
- 選定理由: 回路全体の電流の流れにくさ(インピーダンス\(Z\))を、各素子の特性(\(R, \omega L\))から求めたいから。電圧と同様に位相を考慮する必要がある。
- 適用根拠: 電圧の関係式 \(V_{\text{電源}0} = ZI_0\), \(V_{R0} = RI_0\), \(V_{L0} = (\omega L)I_0\) を、電圧の三平方の定理に代入し、共通の\(I_0\)で割ることで導かれる。
- 媒介変数表示 (\(x(t)\), \(y(t)\)) と軌跡の方程式:
- 選定理由: 2つの独立した方向の運動(振動)を合成した結果、どのような図形が描かれるかを数学的に厳密に調べるため。
- 適用根拠: オシロスコープのx偏向とy偏向が独立しており、共通の時間 \(t\) で連動しているという物理的状況を数式で表現するため。三角関数の公式で \(t\) を消去すれば、\(x\) と \(y\) の直接的な関係式が得られる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比例関係の利用:
- 特に注意すべき点: この問題では、電圧と画面上の振幅が比例します。\(V_{R0}\) が振幅 \(a\) に対応するという基準を常に意識し、他の電圧も \(V_{R0}\) の何倍かで考え、最終的に \(a\) を使って振幅を表すと計算が簡潔になり、混乱が少ない。
- 日頃の練習: 基準となる量(この問題では\(V_{R0}\)と\(a\))を明確にし、他の量をその基準量に対する比で表す練習をする。
- 平方根の計算:
- 特に注意すべき点: 三平方の定理を使うため、\(V_{L0}^2 = 3V_{R0}^2\) のような式が頻出します。ここで平方根を取る際に、\(\sqrt{3}\) を忘れないように注意する。
- 日頃の練習: 計算の最終段階だけでなく、途中式でもルートを付け忘れていないか確認する癖をつける。
- 図の活用:
- 特に注意すべき点: 電圧の大きさや位相の関係を計算するときは、必ず電圧ベクトル図やインピーダンス図をフリーハンドで描き、視覚的に確認する。図があれば、三平方の定理の適用ミスや、どの電圧がどの辺に対応するかの混乱を防げる。
- 日頃の練習: 問題を読むと同時に、状況を図に描き起こす習慣をつける。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (3) 楕円の軌跡: RL回路では抵抗とコイルで電圧の位相がずれる。タイミングがずれた振動を合成するのだから、軌跡は直線ではなく、閉じた曲線(楕円)になるはずだ。これは直感と一致する。
- (4) 周波数の変化: 元の状態では \(V_{L0} = \sqrt{3}V_{R0}\) で、コイル電圧の方が大きい。円にするには \(V_{L0}\) を小さくする必要がある。コイルのリアクタンス \(\omega L\) は周波数 \(\omega\) に比例するので、\(\omega\) を小さくすればよい。求めた答えが \(\frac{1}{\sqrt{3}}\) 倍(1より小さい)なので、定性的に合っている。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もしコイルLがただの導線だったら (\(L=0\))、\(V_L=0\)。電圧ベクトル図から \(V_{\text{電源}0} = V_{R0}\) となるはず。これは前提条件 \(V_{\text{電源}0} = 2V_{R0}\) と矛盾するので、Lはゼロではないとわかる。
- もし抵抗Rがなければ (\(R=0\))、\(V_R=0\)。電圧ベクトル図から \(V_{\text{電源}0} = V_{L0}\) となる。この場合、前提条件1が成り立たないので比較できないが、回路の性質として理解できる。
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問題50 (工学院大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は「ホール効果」として知られる現象をテーマにしています。ホール効果とは、磁場の中を流れる電流の担い手(キャリア)が、磁場からローレンツ力を受けることで偏り、電流の向きと磁場の向きの両方に垂直な方向に電位差(ホール電圧)が生じる現象です。実験データの分析から始まり、ミクロな物理モデルの構築、そして両者の比較によって半導体の性質を明らかにするという、物理学の醍醐味が詰まった問題です。
- 素子: 3辺の長さが a, b, c の直方体の半導体。
- 場の設定: +z方向に一様な磁場(磁束密度 \(B\))、+y方向に電流 \(I\) を流す。
- 測定: x方向に発生する電位差 \(V\)(側面Mと側面Nの間)を測定。
- 実験データ: 様々な磁場 \(B\) のもとで、電流 \(I\) と電位差 \(V\) の関係がグラフで示されている。
- 定数: 電子の電荷の大きさ \(e=1.6\times10^{-19}\) C、半導体の厚さ \(c=1.0\times10^{-4}\) m。
- (1) 実験データから、\(V\) を \(I, B\) の関数としてモデル化し、比例定数 \(\alpha\) の値を求める。
- (2) 電流の担い手が電子の場合の運動方向と、電流 \(I\) をミクロな量で表す式。
- (3) 電子がキャリアの場合の、ホール効果による電位差の向きと大きさの導出。
- (4) 正孔(ホール)がキャリアの場合の、ホール効果による電位差の向き。
- (5) 比例定数 \(\alpha\) を理論的に導き、キャリアの個数密度 \(n\) を計算する。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) 比例定数αの算出の別解: 最小二乗法的な考え方による複数データの利用
- 主たる解法がグラフ上の一点のみを利用して比例定数を算出するのに対し、別解ではグラフ上の複数のデータ点(傾き)を利用し、平均的な値を求めることで測定誤差の影響を低減する考え方を紹介します。
- 問(1) 比例定数αの算出の別解: 最小二乗法的な考え方による複数データの利用
- 上記の別解が有益である理由
- 実験科学への理解深化: 実際の実験では、単一のデータ点ではなく複数のデータから法則性を見出すのが基本です。この別解を通じて、より実践的なデータ解析の視点を学ぶことができます。
- 解の信頼性の向上: 複数のデータを用いることで、特定のデータ点の読み取り誤差や外れ値による影響を軽減し、より信頼性の高い結果を得るという考え方に触れることができます。
- 結果への影響
- グラフが理想的な直線に乗っているため、どのデータ点を利用しても計算結果はほぼ一致します。
この問題を解く戦略は、まずマクロな視点(実験グラフ)から現象の法則性を掴み、次にミクロな視点(電子一個の運動)から理論式を立て、最後に両者を統合して未知の物理量を明らかにすることです。