問題46 (東北大+横浜市立大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ばねに繋がれた導体棒が鉛直レール上を運動する際に、電磁誘導と自己誘導がどのように影響を及ぼすかを考察する、力学と電磁気学の複合問題です。導体棒の運動が単振動になることを見抜き、その特性を詳しく分析することが求められます。
- 鉛直な金属レール(間隔 \(l\))と、それに接して滑らかに動く導体棒P(質量 \(m\))。
- Pはばね定数 \(k\) のばねに結ばれ、自然長から \(d\) 伸びた位置でつり合っている。
- 座標系: つり合いの位置を原点O (\(x=0\))、鉛直下向きを正とする。
- 一様な磁場(磁束密度 \(B\))がレール面に垂直にかかっている。
- レールの下端は自己インダクタンス \(L\) のコイルで結ばれている。
- 初期条件: Pを自然長の位置 (\(x=-d\)) まで持ち上げ、静かに放す。このとき電流 \(I=0\)。
- 電気抵抗と空気抵抗は無視できる。
- (1) 導体棒Pの位置が \(x\)、電流が \(I\) のときのPに働く力 \(F\) を表す式。
- (2) Pの速度が \(v\) のときの、閉回路におけるキルヒホッフの法則の式。
- (3) 電流 \(I\) を位置 \(x\) の関数として表す式。
- (4) 力 \(F\) を \(x\) の関数で表し、Pの単振動の周期 \(T\) と振動中心 \(x_0\) を求める。
- (5) 回路を流れる電流の最大値 \(I_{\text{max}}\) を求める。
- (コラムQ) コイルを (ア)直列、(イ)並列 にしたとき、元の結果をどう利用すればよいか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている運動方程式から単振動を解析する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(4)の別解: エネルギー保存則を用いる解法
- 模範解答が導体棒に働く力を運動方程式として立式するのに対し、別解では系全体のエネルギー(運動エネルギー、位置エネルギー、弾性エネルギー、コイルの磁気エネルギー)の和が保存されることを利用します。
- 設問(4)の別解: エネルギー保存則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的本質の深化: この系の運動が、力学的エネルギーと電磁エネルギーの間でエネルギーを交換しながら行われる、より広範な意味での「エネルギー保存則」に支配されていることを理解できます。
- 解法の多角化: 運動方程式(力の観点)とエネルギー保存則(エネルギーの観点)という、力学における二大原理の両方からアプローチする経験を積むことで、問題解決能力の幅が広がります。
- 検算への応用: 異なる物理法則から同じ運動方程式が導かれることを確認することで、立式の正しさを検証する強力な手段となり得ます。
- 結果への影響
- エネルギー保存則の式を時間で微分することで、主たる解法で用いる運動方程式と全く同じ式が導出され、最終的に得られる周期や振動中心は完全に一致します。
この問題のテーマは「自己誘導コイルとばね振り子を組み合わせた系における電磁誘導と単振動」です。力学的な単振動と、回路における電磁誘導が融合した複合的な問題であり、両者の法則を正確に立式し、連立して解く能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつりあいと運動方程式: 導体棒に働く重力、弾性力、電磁力を正しく評価し、運動方程式を立てられること。
- 誘導起電力: 磁場中を運動する導体棒に生じる起電力 \(V=vBl\) を理解していること。
- 自己誘導起電力: コイルを流れる電流が変化する際に生じる起電力 \(V = -L\frac{dI}{dt}\) を理解していること。
- キルヒホッフの第2法則: 閉回路における起電力と電圧降下の関係を正しく立式できること。
- 単振動の解析: 運動方程式が \(m\ddot{x} = -K(x-x_0)\) の形になることを見抜き、周期や振動中心を求められること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、導体棒Pに働く力をすべて書き出し、合力\(F\)を位置\(x\)と電流\(I\)の関数として表します。
- (2)では、導体棒Pとコイルからなる閉回路について、誘導起電力と自己誘導起電力の関係をキルヒホッフの第2法則から立式します。
- (3)では、(2)で得られた関係式を積分し、初期条件を用いて電流\(I\)を位置\(x\)の関数として求めます。
- (4)では、(1)の力の式に(3)で求めた\(I\)を代入することで、力\(F\)を\(x\)のみの関数として表し、単振動の式を導いて周期と振動中心を求めます。
- (5)では、単振動の性質(振幅と振動の端)を利用して\(x\)の最大値を求め、それを\(I\)と\(x\)の関係式に代入して電流の最大値を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
導体棒Pに働く力をすべてリストアップし、ベクトル和を求める問題です。添付された力のベクトル図を参照しながら、各力がどの向きに働くかを確認します。x軸は下向きが正であることに注意して、力の向きを符号で正しく表現することが重要です。
この設問における重要なポイント
- 力の種類: 重力(\(mg\))、弾性力(\(k \times (\text{自然長からの伸び})\))、電磁力(\(IBl\))。
- 座標軸と力の向き: x軸は下向きが正。したがって、下向きの力は正、上向きの力は負として合力を計算する。
- つり合いの条件の利用: 問題文にある「自然長からdだけ伸びた位置でつり合っている」という条件 (\(mg=kd\)) を使うと、式が簡潔になる。
具体的な解説と立式
導体棒Pに働く力を考えます。x軸の正の向き(下向き)を力の正の向きとします。力のベクトル図に示されているように、Pには3つの力が働きます。
- 重力: 常に鉛直下向きに \(mg\)。
- 弾性力: Pの位置が\(x\)のとき、ばねは自然長から \((d+x)\) だけ伸びています。したがって、弾性力はフックの法則より、上向きに \(k(d+x)\)。
- 電磁力: 電流\(I\)が矢印の向き(a→b)に流れるとき、Pには図の通り左向きに電流が流れます。磁場は紙面手前向きなので、電磁力は上向きに働きます。その大きさは \(IBl\)。
これらの合力が\(F\)なので、
$$
\begin{aligned}
F &= mg – \{ k(d+x) + IBl \}
\end{aligned}
$$
また、つり合いの位置(\(x=0\))での力のつり合いの式は、\((\text{下向きの力}) = (\text{上向きの力})\) より、
$$
\begin{aligned}
mg &= kd
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(mg=kd\)
- フックの法則: \(F_{\text{弾性力}} = k \times (\text{伸び})\)
- 電磁力: \(F_{\text{電磁力}} = IBl\)
合力の式 \(F = mg – \{ k(d+x) + IBl \}\) に、つり合いの式 \(mg = kd\) を代入して整理します。
$$
\begin{aligned}
F &= kd – \{ k(d+x) + IBl \} \\[2.0ex]
&= kd – k(d+x) – IBl \\[2.0ex]
&= kd – kd – kx – IBl \\[2.0ex]
&= -kx – IBl
\end{aligned}
$$
導体棒Pには、力のベクトル図に描かれているように、下向きに引っ張る「重力」と、上向きに引っ張る「ばねの力」「磁石の力(電磁力)」の3つの力が働いています。これらの力をすべて足し合わせたものが、Pに働く合力\(F\)です。最初にPが静止していたつり合いの位置では、「重力」と「ばねの力」がちょうど同じ大きさになっています。この関係を使うと、力の式から重力とばねの初期の力を消去でき、つり合いの位置からのずれ\(x\)と電流\(I\)だけで力を表すシンプルな式が得られます。
導体棒Pに働く合力は \(F = -kx – IBl\) と表せます。この力は、Pの位置\(x\)と、そのとき流れている電流\(I\)によって決まることがわかります。この後の運動を解析するための基本となる式です。
問(2)
思考の道筋とポイント
導体棒PとコイルLで構成される閉回路に、キルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用します。この回路には2種類の起電力が存在します。一つは、導体棒Pが磁場中を運動することで生じる「誘導起電力」、もう一つは、コイルを流れる電流が変化することで生じる「自己誘導起電力」です。これらの起電力の和が0になる、という式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 誘導起電力: 導体棒Pが速度\(v\)で運動するとき、\(V_{\text{誘導}} = vBl\) の起電力が生じる。その向きはローレンツ力で決まる。
- 自己誘導起電力: コイルの電流が変化するとき、\(V_{\text{自己誘導}} = -L\frac{\Delta I}{\Delta t}\) の起電力が生じる。
- キルヒホッフの第2法則: 閉回路を一周したときの電位の変化の和は0。
具体的な解説と立式
回路を反時計回り(b→a→コイル→b)にたどることを考え、この向きを正とします。
- 誘導起電力: 導体棒Pが下向き(x軸正の向き)に速度\(v\)で運動しているとき、P内の正電荷はローレンツ力により左向き(b→aの向き)の力を受けます。これにより、a点の電位がb点より高くなる起電力 \(vBl\) が生じます。この起電力の向きは、反時計回りの向きと一致するので、\(+vBl\) となります。
- 自己誘導起電力: コイルには、電流\(I\)が変化するとき、その変化を妨げる向きに自己誘導起電力 \(V_L = -L\frac{\Delta I}{\Delta t}\) が生じます。
キルヒホッフの第2法則より、回路の起電力の総和は0なので(抵抗がないため)、
$$
\begin{aligned}
vBl + \left(-L\frac{\Delta I}{\Delta t}\right) &= 0
\end{aligned}
$$
使用した物理公式
- キルヒホッフの第2法則
- 誘導起電力: \(V=vBl\)
- 自己誘導起電力: \(V = -L\frac{\Delta I}{\Delta t}\)
上記で立式した式を整理します。
$$
\begin{aligned}
vBl – L\frac{\Delta I}{\Delta t} &= 0
\end{aligned}
$$
この電気回路には2つの「電圧源(電池)」があると考えられます。1つは、導体棒Pが磁場の中を動くことで生じる「発電機としての電池」です。もう1つは、コイルが電流の変化を嫌って、変化と逆向きに電圧を作る「へそ曲がりな電池」です。この回路には抵抗がないので、この2つの電池の電圧がちょうど打ち消し合って、回路全体の電圧が0になる、というのがキルヒホッフの法則です。
導体棒の速度\(v\)と、電流の時間変化率\(\frac{\Delta I}{\Delta t}\)の関係を示す式 \(vBl – L\frac{\Delta I}{\Delta t} = 0\) が得られました。これは、Pの運動と回路の電気的状態を結びつける重要な関係式です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で導いた、速度\(v\)と電流の時間変化\(\Delta I / \Delta t\)の関係式を、位置\(x\)と電流\(I\)の関係式に変換します。速度\(v\)は位置\(x\)の時間変化(\(v = \Delta x / \Delta t\))であることを利用して、式から時間を消去します。得られた微小変化の関係式を、初期条件を使って積分することで、\(I\)を\(x\)の関数として求めます。
この設問における重要なポイント
- 速度と位置の関係: \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\)
- 微小変化の関係から全体の関係へ: \(\Delta I = (\text{定数}) \times \Delta x\) という関係は、積分することで \(I = (\text{定数}) \times x + (\text{積分定数})\) という一次関数の関係になる。
- 初期条件の適用: 積分定数は、\(t=0\)での\(x\)と\(I\)の値から決定される。
具体的な解説と立式
(2)で得られた式 \(vBl = L\frac{\Delta I}{\Delta t}\) に、速度と位置の関係式 \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) を代入し、時間\(\Delta t\)を消去することで、\(\Delta I\)と\(\Delta x\)の関係を導きます。
$$
\begin{aligned}
\left(\frac{\Delta x}{\Delta t}\right)Bl &= L\frac{\Delta I}{\Delta t}
\end{aligned}
$$
両辺から\(\Delta t\)を消去すると、
$$
\begin{aligned}
Bl \Delta x &= L \Delta I
\end{aligned}
$$
これを\(\Delta I\)について整理すると、
$$
\begin{aligned}
\Delta I &= \frac{Bl}{L} \Delta x
\end{aligned}
$$
この微小変化の関係を積分すると、\(I\)と\(x\)は一次関数の関係になります。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{Bl}{L}x + C \quad (C \text{ は積分定数})
\end{aligned}
$$
この式の積分定数\(C\)を、初期条件「時刻\(t=0\)で\(x=-d\), \(I=0\)」を用いて決定します。
使用した物理公式
- 速度の定義: \(v = \Delta x / \Delta t\)
- 積分
まず、積分定数\(C\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
0 &= \frac{Bl}{L}(-d) + C
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
C &= \frac{Bld}{L}
\end{aligned}
$$
次に、この\(C\)を\(I\)の式に戻して整理します。
$$
\begin{aligned}
I &= \frac{Bl}{L}x + \frac{Bld}{L} \\[2.0ex]
&= \frac{Bl}{L}(x+d)
\end{aligned}
$$
(2)で立てた式は「速度」と「電流の時間変化」の関係式でした。これを「位置」と「電流」の関係式に翻訳するのがこの設問の目的です。「速度は、すごく短い時間での位置の変化」という関係を使えば、(2)の式から「時間」の要素を消すことができます。すると、「電流のちょっとした変化は、位置のちょっとした変化に比例する」という、よりシンプルな関係が出てきます。この関係を全体に当てはめる(積分する)と、電流\(I\)が位置\(x\)の簡単な式(一次関数)で表せることがわかります。
電流\(I\)が位置\(x\)の関数として \(I = \displaystyle\frac{Bl}{L}(x+d)\) と求まりました。これは、この後の運動解析(単振動の証明)において中心的な役割を果たす、非常に重要な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
導体棒Pの運動を解析します。(1)で求めた力の式 \(F = -kx – IBl\) に、(3)で求めた電流と位置の関係式 \(I = \frac{Bl}{L}(x+d)\) を代入します。これにより、力\(F\)が位置\(x\)だけの関数として表され、その式が単振動の運動方程式の形 \(F = -K(x-x_0)\) になることを示します。この形から、実効的なばね定数\(K\)と振動中心\(x_0\)を読み取り、周期\(T\)を計算します。
この設問における重要なポイント
- 力の式の完成: \(F(x, I)\) に \(I(x)\) を代入し、\(F(x)\) を導出する。
- 単振動の形式への変形: 得られた\(F(x)\)を \(F = -Kx + (\text{定数項})\) の形に整理する。
- 周期と振動中心の同定: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\) と、\(F=0\) となる位置が振動中心\(x_0\)であることから、それぞれの値を求める。
具体的な解説と立式
(1)で求めた力の式 \(F = -kx – IBl\) に、(3)の結果 \(I = \displaystyle\frac{Bl}{L}(x+d)\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
F &= -kx – Bl \left( \frac{Bl}{L}(x+d) \right)
\end{aligned}
$$
この式を整理し、単振動の力の形式 \(F = -Kx + C\) に変形することで、実効的なばね定数\(K\)を特定します。
周期\(T\)は、公式 \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}\) を用いて計算します。
振動中心の座標\(x_0\)は、力がつりあう位置、すなわち \(F=0\) となる条件から求めます。
使用した物理公式
- 単振動の運動方程式: \(F = -K(x-x_0)\)
- 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)
まず、\(F\)を\(x\)の関数として整理します。
$$
\begin{aligned}
F &= -kx – Bl \left( \frac{Bl}{L}(x+d) \right) \\[2.0ex]
&= -kx – \frac{B^2l^2}{L}(x+d) \\[2.0ex]
&= -kx – \frac{B^2l^2}{L}x – \frac{B^2l^2d}{L} \\[2.0ex]
&= -\left(k + \frac{B^2l^2}{L}\right)x – \frac{B^2l^2d}{L}
\end{aligned}
$$
この式から、実効的なばね定数\(K\)は \(K = k + \displaystyle\frac{B^2l^2}{L}\) と読み取れます。
周期\(T\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{m}{k + \frac{B^2l^2}{L}}} \\[2.0ex]
&= 2\pi\sqrt{\frac{mL}{kL+B^2l^2}}
\end{aligned}
$$
次に、振動中心\(x_0\)を求めます。\(F=0\)より、
$$
\begin{aligned}
-\left(k + \frac{B^2l^2}{L}\right)x_0 – \frac{B^2l^2d}{L} &= 0
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
x_0 &= -\frac{\frac{B^2l^2d}{L}}{k + \frac{B^2l^2}{L}} \\[2.0ex]
&= -\frac{B^2l^2d}{L\left(k + \frac{B^2l^2}{L}\right)} \\[2.0ex]
&= -\frac{B^2l^2d}{kL + B^2l^2}
\end{aligned}
$$
(1)で求めた力の式は、まだ電流\(I\)という文字を含んでいて、運動の様子がよく分かりませんでした。(3)でその電流\(I\)を位置\(x\)で表せるようになったので、これを力の式に代入します。すると、力が位置\(x\)だけの式になります。この式を整理すると、高校で習う単振動の力の式「\(F = -(\text{定数}) \times (\text{中心からのずれ})\)」と全く同じ形になります。このことから、Pは単振動することが確定し、その周期や振動の中心も式から読み取って計算することができます。
導体棒Pは、ばねの復元力に加えて、電磁誘導による復元力(\(-\frac{B^2l^2}{L}x\) の項)も受けるため、実効的なばね定数が \(k\) から \(k + \frac{B^2l^2}{L}\) へと増加した単振動を行うことがわかります。振動中心も、電磁誘導の効果で元のつり合いの位置(\(x=0\))からずれています。
思考の道筋とポイント
この系には抵抗がないため、力学的エネルギーとコイルの磁気エネルギーを合わせた全エネルギーは保存されます。このエネルギー保存則の式を立て、それを時間で微分することで、主たる解法で用いた運動方程式を導き、単振動であることを証明します。
この設問における重要なポイント
- 保存されるエネルギーの構成要素: 運動エネルギー、重力の位置エネルギー、弾性エネルギー、コイルの磁気エネルギー。
- エネルギー保存則: \(E_{\text{合計}} = \text{一定}\)。
- 保存則の微分: \(\displaystyle\frac{dE_{\text{合計}}}{dt} = 0\) から運動方程式が導かれる。
具体的な解説と立式
系全体のエネルギー\(E\)は、以下の4つの和で表されます。(\(x=0\)を重力位置エネルギーの基準とします)
$$
\begin{aligned}
E &= \frac{1}{2}mv^2 -mgx + \frac{1}{2}k(d+x)^2 + \frac{1}{2}LI^2
\end{aligned}
$$
このエネルギーは保存されるので、時間で微分すると0になります。
$$
\begin{aligned}
\frac{dE}{dt} &= 0
\end{aligned}
$$
この式に、つり合いの条件 \(mg=kd\) と、(2)の関係式 \(L\frac{dI}{dt} = vBl\) を用いて運動方程式を導出します。
使用した物理公式
- エネルギー保存則
- 各種エネルギーの公式(運動、位置、弾性、磁気)
エネルギー保存則の式を時間\(t\)で微分します。
$$
\begin{aligned}
\frac{d}{dt} \left( \frac{1}{2}mv^2 -mgx + \frac{1}{2}k(d+x)^2 + \frac{1}{2}LI^2 \right) &= 0
\end{aligned}
$$
$$
\begin{aligned}
m v \frac{dv}{dt} – mg\frac{dx}{dt} + k(d+x)\frac{dx}{dt} + LI\frac{dI}{dt} &= 0
\end{aligned}
$$
ここで、\(v = \frac{dx}{dt}\), \(\frac{dv}{dt} = \ddot{x}\) です。また、(2)の関係式 \(L\frac{dI}{dt} = vBl\) を用いると、
$$
\begin{aligned}
m v \ddot{x} – mgv + k(d+x)v + I(vBl) &= 0
\end{aligned}
$$
両辺を \(v\) で割り(\(v\)は常に0ではない)、\(mg=kd\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
m \ddot{x} – kd + k(d+x) + IBl &= 0 \\[2.0ex]
m \ddot{x} + kx + IBl &= 0 \\[2.0ex]
m \ddot{x} &= -kx – IBl
\end{aligned}
$$
これは運動方程式 \(m\ddot{x}=F\) に他ならず、主たる解法で求めた力の式と完全に一致します。以降の計算は主たる解法と同様です。
別の視点として、エネルギーに注目します。この装置には抵抗がないので、全体のエネルギー(運動のエネルギー、位置のエネルギー、ばねのエネルギー、コイルのエネルギーの合計)は、時間が経っても変わらないはずです(エネルギー保存則)。この「エネルギーは一定」という式を立てて、それを数学の微分を使って少し変形すると、不思議なことに、(4)の主たる解法で立てた運動方程式と全く同じ式が出てきます。つまり、力のつり合いから考えても、エネルギー保存から考えても、同じ結論に至るというわけです。
エネルギー保存則という異なる物理法則から出発しても、全く同じ運動方程式が導かれることが確認できました。これは、我々の立てたモデルが物理的に自己矛盾なく、正しいことを強く裏付けています。
問(5)
思考の道筋とポイント
電流の最大値 \(I_{\text{max}}\) を求めます。(3)の結果から、電流\(I\)は位置\(x\)の一次関数 \(I = \frac{Bl}{L}(x+d)\) であり、\(x\)が増加すれば\(I\)も増加します。したがって、\(I\)が最大になるのは、単振動している導体棒Pの位置\(x\)が最大値 \(x_{\text{max}}\)(振動の下端)に達したときです。単振動の性質を利用して \(x_{\text{max}}\) を求め、それを\(I\)の式に代入します。
この設問における重要なポイント
- \(I\)と\(x\)の関係: \(I\)は\(x\)の増加関数。
- \(x_{\text{max}}\)の求め方: 振動の端点は、振動中心から振幅だけ離れた位置にある。
- 振幅の決定: 振幅は、振動中心と振動の開始点(\(x=-d\))との距離で決まる。
具体的な解説と立式
Pの単振動の運動を考えます。
- 振動中心: \(x_0 = -\displaystyle\frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2}\)
- 運動の開始点(振動の上端): \(x_{\text{start}} = -d\)
振幅\(A\)は、振動中心と端点との距離で決まります。
$$
\begin{aligned}
A &= |x_0 – x_{\text{start}}|
\end{aligned}
$$
電流が最大になるのは、位置\(x\)が最大値 \(x_{\text{max}}\) (振動の下端)になるときです。\(x_{\text{max}}\) は、振動中心\(x_0\)から振幅\(A\)だけ下(x軸正の方向)に進んだ位置です。
$$
\begin{aligned}
x_{\text{max}} &= x_0 + A
\end{aligned}
$$
この \(x_{\text{max}}\) を電流の式 \(I = \displaystyle\frac{Bl}{L}(x+d)\) に代入することで、\(I_{\text{max}}\) を求めます。
使用した物理公式
- 単振動の振幅と端点の関係
まず、振幅\(A\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
A &= |x_0 – (-d)| \\[2.0ex]
&= |x_0 + d| \\[2.0ex]
&= \left| -\frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2} + d \right| \\[2.0ex]
&= \left| \frac{-B^2l^2d + d(kL+B^2l^2)}{kL+B^2l^2} \right| \\[2.0ex]
&= \left| \frac{kLd}{kL+B^2l^2} \right| \\[2.0ex]
&= \frac{kLd}{kL+B^2l^2}
\end{aligned}
$$
次に、\(x_{\text{max}}\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
x_{\text{max}} &= x_0 + A \\[2.0ex]
&= -\frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2} + \frac{kLd}{kL+B^2l^2} \\[2.0ex]
&= \frac{kLd – B^2l^2d}{kL+B^2l^2}
\end{aligned}
$$
最後に、\(I_{\text{max}}\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
I_{\text{max}} &= \frac{Bl}{L}(x_{\text{max}}+d) \\[2.0ex]
&= \frac{Bl}{L}\left(\frac{kLd – B^2l^2d}{kL+B^2l^2}+d\right) \\[2.0ex]
&= \frac{Bl}{L}\left(\frac{kLd – B^2l^2d + d(kL+B^2l^2)}{kL+B^2l^2}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{Bl}{L}\left(\frac{kLd – B^2l^2d + kLd + B^2l^2d}{kL+B^2l^2}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{Bl}{L}\left(\frac{2kLd}{kL+B^2l^2}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{2Blkd}{kL+B^2l^2}
\end{aligned}
$$
電流が最大になるのは、導体棒Pが単振動の一番下まで下がったときです。Pがどこまで下がるかは、単振動の性質から計算できます。まず、振動の幅(振幅)を計算します。振幅は「振動の中心」と「スタート地点」の距離です。一番下の位置は、「振動の中心」から振幅の分だけさらに下に行った場所になります。この一番下の位置 \(x_{\text{max}}\) を(3)で求めた電流の式に代入すれば、電流の最大値が計算できる、という流れです。
電流の最大値が、系の物理定数(\(B, l, k, d, L\))のみを用いて表されました。計算過程は複雑ですが、単振動の基本的な性質から導かれた論理的な帰結であり、妥当な結果です。
【コラム】Q. コイルを複数にした場合の考え方
思考の道筋とポイント
コイルが複数接続された場合、それらを一つの等価なコイルに置き換えて考える「合成」のテクニックが有効です。元の問題のすべての結果式に含まれる自己インダクタンス \(L\) を、合成後のインダクタンス \(L_{合成}\) に置き換えるだけで、同様の議論ができます。直列接続と並列接続、それぞれの合成インダクタンスを導出してみましょう。
この設問における重要なポイント
- 複数のコイルは、一つの合成コイルとみなせる。
- 直列接続と並列接続で、合成インダクタンスの計算方法が異なる。
具体的な解説と立式
(ア) 直列接続:
2つのコイル \(L_1, L_2\) には同じ電流 \(I\) が流れます。したがって、電流の時間変化率 \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) も共通です。ab間の全体の起電力は、各コイルの起電力の和になります。
$$
\begin{aligned}
V_{\text{全体}} &= V_1 + V_2 \\[2.0ex]
&= -L_1 \frac{\Delta I}{\Delta t} – L_2 \frac{\Delta I}{\Delta t} \\[2.0ex]
&= -(L_1 + L_2)\frac{\Delta I}{\Delta t}
\end{aligned}
$$
これを合成コイル \(L_{\text{直列}}\) の起電力 \(V_{\text{全体}} = -L_{\text{直列}} \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) と比較することで、\(L_{\text{直列}}\) を求めます。
(イ) 並列接続:
2つのコイルには共通の電圧 \(V\) がかかります。全体の電流 \(I\) は、各コイルの電流の和 \(I = I_1 + I_2\) となります。この式の時間変化を考えると、
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta I}{\Delta t} &= \frac{\Delta I_1}{\Delta t} + \frac{\Delta I_2}{\Delta t}
\end{aligned}
$$
ここに \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を変形した \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t} = -\frac{V}{L}\) の関係を、全体および各コイルに適用することで \(L_{\text{並列}}\) を求めます。
使用した物理公式
- 自己誘導起電力: \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\)
- キルヒホッフの法則
(ア) 直列接続:
$$
\begin{aligned}
-L_{\text{直列}} \frac{\Delta I}{\Delta t} &= -(L_1 + L_2)\frac{\Delta I}{\Delta t}
\end{aligned}
$$
この式を比較して、
$$
\begin{aligned}
L_{\text{直列}} &= L_1 + L_2
\end{aligned}
$$
(イ) 並列接続:
$$
\begin{aligned}
-\frac{V}{L_{\text{並列}}} &= \left(-\frac{V}{L_1}\right) + \left(-\frac{V}{L_2}\right)
\end{aligned}
$$
両辺を \(-V\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{L_{\text{並列}}} &= \frac{1}{L_1} + \frac{1}{L_2}
\end{aligned}
$$
これを \(L_{\text{並列}}\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
L_{\text{並列}} &= \frac{L_1 L_2}{L_1 + L_2}
\end{aligned}
$$
コイルが2つになっても、慌てる必要はありません。電気抵抗の合成と同じように、コイルも「合成インダクタンス」という一つのコイルにまとめることができます。直列の場合は単純に足し算、並列の場合は逆数の和で計算します。この計算方法は、抵抗の合成と全く同じルールなので覚えやすいです。合成した値を、元の問題の \(L\) の代わりに使えば、同じように解くことができます。
コイルの合成インダクタンスは、直列接続では抵抗と同じ、並列接続でも抵抗と同じ計算方法で求められます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学と電磁気学の連成:
- 核心: この問題の核心は、導体棒の運動(力学)が回路に起電力を生み、その結果流れる電流が作る電磁力が導体棒の運動にフィードバックされる、という相互作用を数式で追う点にあります。運動方程式と回路方程式という、異なる分野の法則を連立させて解く視点が不可欠です。
- 理解のポイント:
- 運動 \(\rightarrow\) 電気: 導体棒の運動(速さ\(v\))が、誘導起電力(\(V=vBl\))と自己誘導起電力(\(V=-LdI/dt\))のつり合いを生む。
- 電気 \(\rightarrow\) 運動: 回路の法則から決まる電流\(I\)が、電磁力(\(F=IBl\))として導体棒の運動に影響を与える。
- 連立: この2つの世界の法則を結びつけ、最終的に運動方程式を位置\(x\)だけの関数に書き換えることがゴールとなる。
- 電磁力の復元力への寄与:
- 核心: 電磁力が最終的に位置 \(x\) の関数として表現され、あたかも「電磁的なばね」のように振る舞い、もともとの機械的なばね定数 \(k\) を増加させる効果を持つことを理解することが重要です。
- 理解のポイント:
- 電流と位置の関係: \(I \propto (x+d)\) の関係から、電磁力 \(F_{\text{電磁}} \propto I\) も位置\(x\)の一次関数になる。
- 復元力成分: 電磁力の一部(\(- \frac{B^2l^2}{L}x\))が、ばねの復元力(\(-kx\))と同じ形をしている。
- 実効的なばね定数: このため、系全体としては、ばね定数が \(K = k + \frac{B^2l^2}{L}\) になったかのように振る舞う。
- 積分による変数関係の導出:
- 核心: 微小量の関係 (\(\Delta I \propto \Delta x\)) から全体の関係 (\(I\) は \(x\) の1次関数) を導く思考の流れは、微分方程式の初歩的な考え方であり、様々な物理分野で応用できます。
- 理解のポイント:
- 時間変数の消去: 速度\(v\)を\(\Delta x/\Delta t\)、電流変化率を\(\Delta I/\Delta t\)と表現することで、2つの世界の法則から時間\(\Delta t\)を消去できる。
- 微小量の比例関係: 結果として得られる\(\Delta I = (\text{定数})\Delta x\)は、\(I\)と\(x\)の間に直接的な関係があることを示唆する。
- 積分と初期条件: この関係を積分し、初期条件を適用することで、任意の状態における\(I\)と\(x\)の関係式が確定する。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 回路に抵抗 \(R\) が加わった「減衰振動」の問題。
- コイルの代わりにコンデンサーが接続された「電気振動」と力学が絡む問題。
- 導体棒が水平なレール上を運動する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 力学の側面を整理: まず物体に働く力をすべて書き出し、運動方程式(または力の合算)を立てる。
- 電磁気学の側面を整理: 次に、閉回路についてキルヒホッフの法則を立て、電気的な関係式を作る。
- 関係式を連立: 2つの世界の法則を結びつけ、変数を消去していくことで、求めたい物理量についての関係式を導く。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 単振動の中心は、必ずしも原点や最初のつり合いの位置とは限らない。力が完全につり合う点 (\(F_{合計}=0\)) が新たな振動中心となる。
- \(I\) と \(x\) の関係を求める際の積分定数は、与えられた初期条件から正しく決定する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 符号の選択ミス:
- 誤解: フレミングの法則やレンツの法則の適用を誤り、力の向きや起電力の向きの符号を間違える。
- 対策: 必ず座標軸の正の向きを基準に、各ベクトルの向き(力、速度、電流)を慎重に判断し、一貫した符号を用いる。
- ばねの伸びの基準の誤り:
- 誤解: 弾性力の計算で、ばねの伸びを「つり合いの位置からの距離 \(x\)」と誤解する。
- 対策: 弾性力は常に「自然長からの伸び(または縮み)」で計算することを徹底する。この問題では \(d+x\)。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 \(ma=F\):
- 選定理由: 物体の運動(加速度)と、それに働く力との関係を記述する、力学の基本法則だから。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則。
- キルヒホッフの第2法則 \(\Sigma V = RI\):
- 選定理由: 複数の起電力や抵抗を含む閉回路における、電圧と電流の関係を記述する、電気回路の基本法則だから。
- 適用根拠: 回路におけるエネルギー保存則。
- 単振動の周期 \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\):
- 選定理由: 力が \(F=-Kx’\) という復元力の形で表せることが確認できた後、その運動の周期を求めるための専用公式だから。
- 適用根拠: 運動方程式が \(\ddot{x} = -\omega^2 x’\) の形になることに基づく。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の丁寧な扱い:
- 特に注意すべき点: \(m, k, B, l, L, d\) など多くの文字が登場するため、式変形の際に混乱しないよう、一つ一つの項を丁寧に書き、整理する。
- 日頃の練習: 複雑な文字式を扱う問題で、計算の各ステップで何をしているのか(代入、展開、整理など)を言葉で補いながら解く練習をする。
- 単位(次元)の意識:
- 特に注意すべき点: 最終的な答えの次元が正しいかを確認する習慣をつける。例えば、周期 \(T\) の式の次元が [時間] に、振動中心 \(x_0\) の次元が [長さ] になっているかを確認することで、計算ミスを発見しやすくなる。
- 日頃の練習: 主要な物理量の次元を覚えておき、計算結果が出るたびに次元解析を行う癖をつける。
- 符号のダブルチェック:
- 特に注意すべき点: 力や起電力の向き(符号)はミスの元凶。立式した後に、もう一度物理法則に立ち返って符号が正しいか確認する。
- 日頃の練習: 図を描く際に、座標軸の正の向きを大きく明記し、各ベクトルがその向きに対して正か負かを常に意識する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 定性的な予測との一致確認:
- 吟味の視点: 電磁誘導は運動を妨げるはずなので、それがない場合より振動が速くなる(周期が短くなる)はずだ。
- 物理的解釈: 計算結果では、実効的なばね定数\(K\)が\(k\)より大きくなっている。ばねが硬くなれば周期は短くなるので、予測と一致する。
- 吟味の視点: 電流による上向きの力が増えるため、振動中心は元のつり合いの位置 (\(x=0\)) よりも上 (\(x<0\)) にずれるはずだ。
- 物理的解釈: 計算結果で\(x_0\)が負の値になったので、予測と一致する。
- 極端な条件での検討:
- 吟味の視点: もし磁場がなければ (\(B=0\))、電磁力は働かないはず。このとき、式はどうなるか?
- 物理的解釈: \(B=0\) を代入すると、\(K=k\), \(T=2\pi\sqrt{m/k}\), \(x_0=0\) となり、コイルがない場合の単なるばね振り子(の鉛直版)の結果と一致する。これにより、式の妥当性が確認できる。
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問題47 (センター試験+九州大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、直流回路における「過渡現象」と、交流の基礎となる「電気振動」を総合的に扱う、非常に重要なテーマです。スイッチを切り替えた「直後」や、「十分に時間が経った後」で、コンデンサーやコイルがどのように振る舞うかを理解しているかが問われます。
- 電池: 起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\)
- 抵抗: 抵抗値 \(R\)
- コンデンサー: 電気容量 \(C\)
- コイル: 自己インダクタンス \(L\)
- スイッチ: S₁, S₂, S₃, S₄
- b点が接地され、電位は 0 V
この問題は、スイッチの開閉によって回路の接続が変化し、その時々の過渡現象や電気振動について問う形式になっています。
- A (問1, 2): RC回路の充電初期に関する問題。
- B (問3, 4): 充電済みコンデンサーの放電に関する問題。
- C (問5): LC回路の電気振動に関する問題。
- D (問6): RLC回路の定常状態からLC振動へ移行する問題。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されているキルヒホッフの法則や過渡現象の基本ルールに基づく解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(4) ジュール熱の別解: 積分計算による直接導出
- 主たる解法がエネルギー保存則から瞬時に結論を導くのに対し、別解では放電過程における電流と電力の時間変化を考慮し、消費電力を時間で積分するという、より定義に忠実なアプローチでジュール熱を求めます。
- 問(4) ジュール熱の別解: 積分計算による直接導出
- 上記の別解が有益である理由
- 物理的プロセスの理解: コンデンサーの放電電流が時間とともに指数関数的に減少し、それに伴って消費電力も変化していくという、過渡現象のダイナミックなプロセスを数式で追体験することができます。
- 数学的スキルの向上: 物理現象を積分を用いて定量的に評価する、大学物理にも通じる重要な計算スキルを学ぶ良い機会となります。
- エネルギー保存則の偉大さの再認識: 複雑な積分計算の結果が、単純なエネルギー保存則の結果と一致することを確認することで、物理法則の美しさとその強力さを実感できます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 過渡現象の基本ルール:
- スイッチON直後: 電圧が0のコンデンサーは「導線」と見なせる。電流が0のコイルは「開路(断線)」と見なせる。
- 十分時間後(直流定常状態): コンデンサーは充電を完了し電流を流さないため「開路」と見なせる。コイルは電流変化がなくなり、ただの「導線」と見なせる。
- 状態の不変性:
- スイッチを切り替える直前と直後で、コンデンサーの電気量(電圧)とコイルの電流は急に変化できない(値が維持される)。
- キルヒホッフの法則: 複雑な回路における電圧と電流の関係を解き明かすための基本法則。
- LC電気振動: コンデンサーとコイルだけで構成された回路では、静電エネルギーと磁気エネルギーが互いに移り変わりながら、エネルギーが保存される周期的な振動が起こる。
- 周期: \(T = 2\pi\sqrt{LC}\)
- エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}\frac{Q^2}{C} + \frac{1}{2}Li^2 = \text{一定}\)
これらのルールを「どの状況で」「どのように適用するか」を丁寧に見極めていくことが、この問題を攻略するカギとなります。