「名問の森」徹底解説(46〜48問):未来の得点力へ!完全マスター講座【波動Ⅱ・電磁気・原子】

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問題46 (東北大+横浜市立大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ばねに繋がれた導体棒が鉛直レール上を運動する際に、電磁誘導と自己誘導がどのように影響を及ぼすかを考察する、力学と電磁気学の複合問題です。導体棒の運動が単振動になることを見抜き、その特性を詳しく分析することが求められます。

与えられた条件
  • 鉛直な金属レール(間隔 \(l\))と、それに接して滑らかに動く導体棒P(質量 \(m\))。
  • Pはばね定数 \(k\) のばねに結ばれ、自然長から \(d\) 伸びた位置でつり合っている。
  • 座標系: つり合いの位置を原点O (\(x=0\))、鉛直下向きを正とする。
  • 一様な磁場(磁束密度 \(B\))がレール面に垂直にかかっている。
  • レールの下端は自己インダクタンス \(L\) のコイルで結ばれている。
  • 初期条件: Pを自然長の位置 (\(x=-d\)) まで持ち上げ、静かに放す。このとき電流 \(I=0\)。
  • 電気抵抗と空気抵抗は無視できる。
問われていること
  • (1) 導体棒Pの位置が \(x\)、電流が \(I\) のときのPに働く力 \(F\) を表す式。
  • (2) Pの速度が \(v\) のときの、閉回路におけるキルヒホッフの法則の式。
  • (3) 電流 \(I\) を位置 \(x\) の関数として表す式。
  • (4) 力 \(F\) を \(x\) の関数で表し、Pの単振動の周期 \(T\) と振動中心 \(x_0\) を求める。
  • (5) 回路を流れる電流の最大値 \(I_{\text{max}}\) を求める。
  • (コラムQ) コイルを (ア)直列、(イ)並列 にしたとき、元の結果をどう利用すればよいか。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題は、導体棒の「単振動」と、回路に生じる「電磁誘導」、そして電流変化によって生じる「自己誘導」という3つの物理現象が融合した、非常に学びの多い応用問題です。一見複雑に見えますが、一つ一つの現象を基本法則に立ち返って丁寧に式にしていけば、必ず解きほぐすことができます。

この問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式(または力のつり合い): 物体に働く力をすべて見つけ出し、合力を考える。
  2. ファラデーの電磁誘導の法則: 導体棒が磁場を横切って運動することで起電力が生じる (\(V=vBl\))。
  3. 自己誘導: コイルを流れる電流が変化するとき、その変化を妨げる向きに起電力が生じる (\(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\))。
  4. キルヒホッフの第2法則: 閉回路の起電力の総和は、電圧降下の総和に等しい (\(\Sigma V = \Sigma RI\))。この問題では抵抗ゼロなので \(\Sigma V = 0\) となる。
  5. 単振動の条件: 物体に働く力が、つり合いの位置からの変位に比例し、常につり合いの位置を向く復元力 (\(F=-Kx\)) であること。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 力学の式を立てる: 導体棒に働く力(重力、弾性力、電磁力)を整理し、合力 \(F\) の式を立てる。
  2. 回路の式を立てる: キルヒホッフの法則から、誘導起電力と自己誘導起電力の関係式を立てる。
  3. 2つの式を連立させる: 回路の式から電流 \(I\) を位置 \(x\) の関数で表し、それを力の式に代入する。
  4. 単振動の解析: \(F\) が \(x\) だけの関数で表された式から、単振動の周期 \(T\) と振動中心 \(x_0\) を特定する。
  5. 最大値を求める: 単振動の運動範囲を考え、電流が最大となる条件から \(I_{\text{max}}\) を計算する。

各設問において、これらのステップを着実に実行していきましょう。

問 (1)

思考の道筋とポイント
導体棒Pに働く力を、鉛直方向に沿ってすべてリストアップします。力はベクトルなので、向きを常に意識することが重要です。ここでは、鉛直下向きを正としているので、上向きの力は負の値で表します。働く力は「重力」「ばねの弾性力」「電磁力」の3つです。最初に、つり合いの位置での力の関係を整理しておくことが、計算を簡潔にする秘訣です。

具体的な解説と立式
まず、問題の前提となっている「つり合いの位置」(\(x=0\))での力の関係を確認します。この位置では、下向きの重力 \(mg\) と、上向きの弾性力(ばねの伸びは \(d\)) \(kd\) がつり合っています。
$$mg = kd \quad \cdots ①$$
次に、Pが任意の位置 \(x\) にあるときに働く合力 \(F\) を考えます。

  • 重力: 常に鉛直下向きに \(mg\)。座標軸の正の向きなので、\(+mg\)。
  • 弾性力: 位置 \(x\) でのばねの自然長からの伸びは \(d+x\) です。弾性力は上向きに働くので、\(-k(d+x)\) となります。
  • 電磁力: 電流 \(I\) がb→aの向き(正)に流れると、フレミングの左手の法則より、力は上向きに働きます。よって \(-IBl\) です。

これらの力をすべて足し合わせたものが、合力 \(F\) です。
$$F = mg – k(d+x) – IBl \quad \cdots ②$$
最終的な力の式を求めるには、式①と式②を連立させます。

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(F_{合力}=0\)
  • フックの法則: \(F=kx\)
  • 電磁力: \(F=IBl\)
計算過程

式②に式①を代入して、\(mg\) を消去します。
$$F = (kd) – k(d+x) – IBl$$
括弧を展開して整理します。
$$F = kd – kd – kx – IBl$$
したがって、求める力の式は以下のようになります。
$$F = -kx – IBl \quad \cdots ③$$

計算方法の平易な説明

導体棒には、①下向きの重力、②上向きのばねの力、③上向きの電磁力が働きます(電流が図の向きの場合)。これらの合計が、導体棒を動かす力 \(F\) となります。面白いのは、最初のつり合いの条件(重力=つり合い時のばねの力)を使うと、重力とつり合い分のばねの力が相殺されて、力の式が「つり合い位置からの変位xに応じた弾性力」と「電磁力」だけのスッキリした形になる点です。

結論と吟味

導体棒Pに働く力 \(F\) は \(F = -kx – IBl\) と表されます。この式は、力が位置 \(x\) だけでなく、その瞬間に流れている電流 \(I\) にも依存することを示しています。この後の設問で、この \(I\) を \(x\) の関数で表すことが目標になります。

解答 (1) \(F = -kx – IBl\)

問 (2)

思考の道筋とポイント
導体棒P、レール、コイルLからなる閉回路に着目します。この回路には、2種類の「起電力」が発生しています。一つは、導体棒Pが磁場中を動くことで生じる誘導起電力。もう一つは、コイルに流れる電流が変化することで生じる自己誘導起電力です。これらの起電力と、回路の抵抗(この問題ではゼロ)の関係を、キルヒホッフの第2法則(電圧則)を用いて立式します。

具体的な解説と立式
キルヒホッフの第2法則 (\(\Sigma V_{起電力} = \Sigma RI\)) を適用します。この問題では電気抵抗が \(R=0\) なので、法則は「起電力の総和 = 0」となります。電流の正の向き(反時計回り)を基準に、起電力の向き(符号)を決めます。

  • 誘導起電力: 導体棒Pが速度 \(v\)(下向き、正)で運動すると、\(V_{誘導} = vBl\) の起電力が生じます。フレミングの右手の法則より、この起電力はb→aの向きに電流を流そうとし、これは電流 \(I\) の正の向きと一致するので、符号は正 (\(+vBl\)) です。
  • 自己誘導起電力: コイルに流れる電流 \(I\) が変化すると、\(V_{自己} = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) の起電力が生じます。この起電力は電流の変化を妨げる向きの電源と見なせます。

以上から、キルヒホッフの第2法則は以下のように立式されます。
$$vBl + \left(-L \frac{\Delta I}{\Delta t}\right) = 0 \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 誘導起電力: \(V=vBl\)
  • 自己誘導起電力: \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\)
  • キルヒホッフの第2法則: \(\Sigma V = RI\)
計算過程

式④を整理することが、この設問のゴールです。
$$vBl – L \frac{\Delta I}{\Delta t} = 0$$

計算方法の平易な説明

この回路には、Pが動くことで生まれる「発電機(誘導起電力)」と、電流の変化を嫌う「へそ曲がり(自己誘導起電力)」の2つの電気的要素があります。抵抗がゼロの理想的な回路なので、この2つの起電力が常にぴったり打ち消し合って、合計がゼロになる、という関係式を立てています。

結論と吟味

キルヒホッフの法則は \(vBl – L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t} = 0\) となります。この式は、導体棒の速度 \(v\) と、回路を流れる電流の変化率 \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を結びつける重要な関係式です。

解答 (2) \(vBl – L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t} = 0\)

問 (3)

思考の道筋とポイント
問(2)の式に、速度と位置の関係式 \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) を代入します。これにより、電流の微小変化 \(\Delta I\) と位置の微小変化 \(\Delta x\) の直接的な関係を導くことができます。この比例関係を積分し、与えられた初期条件(\(x=-d\) のとき \(I=0\))を用いて積分定数を決定することで、電流 \(I\) を位置 \(x\) の関数として求めます。

具体的な解説と立式
問(2)の式④ \(vBl = L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) に、\(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) を用います。これらの式から、微小変化量 \(\Delta I\) と \(\Delta x\) の間の関係を導出できます。
$$\Delta I = \frac{Bl}{L} \Delta x \quad \cdots ⑤$$
この式は「電流の変化量は、位置の変化量に比例する」ことを意味します。このような単純な比例関係にある場合、両辺を積分すると、\(I\) は \(x\) の1次関数になることがわかります。積分定数を \(C\) とおくと、
$$I = \frac{Bl}{L} x + C \quad \cdots ⑥$$
この積分定数 \(C\) を決定するために、初期条件「\(t=0\) で \(x=-d\), \(I=0\)」を用います。

使用した物理公式

  • 速度と変位の関係: \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\)
  • 比例関係からの積分
計算過程

まず、\(\Delta I\) を \(\Delta x\) で表します。式④に \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) を代入すると、
$$\left(\frac{\Delta x}{\Delta t}\right)Bl = L \frac{\Delta I}{\Delta t}$$
両辺から \(\Delta t\) を払うと、式⑤が得られます。
$$\Delta I = \frac{Bl}{L}\Delta x$$
次に、\(I\) を \(x\) で表します。式⑥に初期条件(\(x=-d, I=0\))を代入して積分定数 \(C\) を求めます。
$$0 = \frac{Bl}{L}(-d) + C$$
$$C = \frac{Bld}{L}$$
この \(C\) を式⑥に戻します。
$$I = \frac{Bl}{L}x + \frac{Bld}{L}$$
共通因数 \(\displaystyle\frac{Bl}{L}\) でくくると、最終的な関係式が得られます。
$$I = \frac{Bl}{L}(x+d) \quad \cdots ⑦$$

計算方法の平易な説明

問(2)の式は「電流の変化の速さ」と「Pの移動の速さ」の関係を示していました。この両辺から「時間の速さ」の要素を取り払うと、「電流の微小な変化量」と「Pの微小な移動距離」が比例することがわかります。これは、移動距離が積み重なれば電流もそれに比例して増えていくことを意味します。この比例関係を式にし、スタート地点(\(x=-d\) で \(I=0\))の条件を当てはめることで、任意の位置 \(x\) での電流 \(I\) がわかります。

結論と吟味

電流 \(I\) は \(I = \displaystyle\frac{Bl}{L}(x+d)\) と表されます。この式に \(x=-d\) を代入すると \(I=0\) となり、初期条件を正しく満たしていることが確認できます。

解答 (3) まず、\(\Delta I = \displaystyle\frac{Bl}{L}\Delta x\)。これから、\(I = \displaystyle\frac{Bl}{L}(x+d)\)

問 (4)

思考の道筋とポイント
問(1)で求めた力の式に、問(3)で求めた電流の式を代入します。これにより、力 \(F\) を位置 \(x\) だけの関数として表すことができます。その式が単振動の力の形である \(F = -K(x – x_0)\) となっていることを確認し、有効なばね定数 \(K\) と振動の中心 \(x_0\) を読み取ります。周期 \(T\) は \(K\) と質量 \(m\) から、公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) を使って計算します。

具体的な解説と立式
問(1)の力の式③ \(F = -kx – IBl\) と、問(3)の電流の式⑦ \(I = \displaystyle\frac{Bl}{L}(x+d)\) を連立させます。
これにより、力 \(F\) が \(x\) のみの関数として得られます。
$$F = -kx – \left\{ \frac{Bl}{L}(x+d) \right\} Bl \quad \cdots ⑧$$
この式を整理すると、単振動の復元力の形 \(F = -Kx + C\) が現れます。ここから復元力の比例定数 \(K\) が特定でき、周期 \(T\) は公式を用いて立式できます。
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \quad \cdots ⑨$$
また、振動の中心 \(x_0\) は、力がつり合う点 (\(F=0\)) であることから求めることができます。

使用した物理公式

  • 単振動の復元力: \(F = -K(x-x_0)\)
  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{K}}\)
計算過程

力 Fの計算:
式⑧を展開し、変数 \(x\) について整理します。
$$F = -kx – \frac{B^2l^2}{L}(x+d) = -kx – \frac{B^2l^2}{L}x – \frac{B^2l^2d}{L}$$
$$F = -\left(k + \frac{B^2l^2}{L}\right)x – \frac{B^2l^2d}{L}$$
周期 Tの計算:
上記の力の式から、有効なばね定数 \(K\) は \(x\) の係数部分であることがわかります。
$$K = k + \frac{B^2l^2}{L} = \frac{kL+B^2l^2}{L}$$
これを周期の公式⑨に代入します。
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{\frac{kL+B^2l^2}{L}}} = 2\pi\sqrt{\frac{mL}{kL+B^2l^2}}$$
振動中心 \(x_0\) の計算:
力の式で \(F=0\) となる位置 \(x_0\) を求めます。
$$0 = -\left(k + \frac{B^2l^2}{L}\right)x_0 – \frac{B^2l^2d}{L}$$
$$\left(k + \frac{B^2l^2}{L}\right)x_0 = – \frac{B^2l^2d}{L}$$
$$x_0 = – \frac{\frac{B^2l^2d}{L}}{k + \frac{B^2l^2}{L}} = – \frac{B^2l^2d}{L \left( \frac{kL+B^2l^2}{L} \right)} = – \frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2}$$

計算方法の平易な説明

導体棒に流れる電流は位置 \(x\) によって決まるので、電流が作る電磁力も位置 \(x\) で決まる力になります。この「電磁力」を「ばねの力」に合体させると、全体として新しい、より強力な「合体ばね」による力とみなせます。この「合体ばね」のばね定数 \(K\) を求めることで周期がわかり、この「合体ばね」の力がゼロになる点を探すことで、新しい振動の中心 \(x_0\) が見つかります。

結論と吟味

力は \(F = -\left(k + \displaystyle\frac{B^2l^2}{L}\right)x – \displaystyle\frac{B^2l^2d}{L}\) となります。周期は \(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{mL}{kL+B^2l^2}}\)、振動中心は \(x_0 = – \displaystyle\frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2}\) です。有効なばね定数が増加しており、これは電磁力が運動を抑制する方向に働く効果と解釈できます。

解答 (4) \(F = -\left(k + \displaystyle\frac{B^2l^2}{L}\right)x – \displaystyle\frac{B^2l^2d}{L}\)
周期 \(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{mL}{kL+B^2l^2}}\)
振動中心 \(x_0 = – \displaystyle\frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2}\)

問 (5)

思考の道筋とポイント
電流 \(I\) は \(I = \displaystyle\frac{Bl}{L}(x+d)\) であり、位置 \(x\) が最大のときに \(I\) も最大値 \(I_{\text{max}}\) をとります。したがって、この単振動におけるPの運動範囲の最下点 \(x_{\text{max}}\) を求めることが目標です。単振動の「中心 \(x_0\)」と「上端(スタート地点) \(x=-d\)」から振幅 \(A\) を計算し、最下点 \(x_{\text{max}}\) を特定します。

具体的な解説と立式
この単振動の情報を整理します。

  • 振動の中心: \(x_0\) (問(4)で計算済み)
  • 振動の上端: \(x=-d\) (静かに放した位置)

振幅 \(A\) は、中心から上端までの距離です。
$$A = x_0 – (-d) = x_0 + d$$
振動の最下点 \(x_{\text{max}}\) は、中心 \(x_0\) から振幅 \(A\) だけ下(正の方向)に進んだ位置です。
$$x_{\text{max}} = x_0 + A = x_0 + (x_0 + d) = 2x_0 + d \quad \cdots ⑩$$
電流の最大値 \(I_{\text{max}}\) は、この \(x=x_{\text{max}}\) を電流の式⑦に代入することで得られます。
$$I_{\text{max}} = \frac{Bl}{L}(x_{\text{max}} + d) \quad \cdots ⑪$$

使用した物理公式

  • 単振動の振幅と運動範囲の関係
計算過程

式⑪に式⑩を代入します。
$$I_{\text{max}} = \frac{Bl}{L}((2x_0+d)+d) = \frac{Bl}{L}(2x_0+2d) = \frac{2Bl}{L}(x_0+d)$$
次に、この式に含まれる \((x_0+d)\) の値を、問(4)で求めた \(x_0\) の式を使って計算します。
$$x_0 + d = \left(- \frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2}\right) + d = d \left(1 – \frac{B^2l^2}{kL+B^2l^2}\right)$$
通分して計算を進めます。
$$x_0 + d = d \left(\frac{(kL+B^2l^2) – B^2l^2}{kL+B^2l^2}\right) = d \left(\frac{kL}{kL+B^2l^2}\right) = \frac{kLd}{kL+B^2l^2}$$
この結果を \(I_{\text{max}}\) の式に代入します。
$$I_{\text{max}} = \frac{2Bl}{L} \left( \frac{kLd}{kL+B^2l^2} \right)$$
分母と分子の \(L\) を約分して、最終的な答えを得ます。
$$I_{\text{max}} = \frac{2Blkd}{kL+B^2l^2}$$

計算方法の平易な説明

電流が一番大きくなるのは、導体棒Pが一番下まで下がったときです。Pの運動は単振動なので、「どこが中心で、振幅はどれくらいか」が分かれば、一番下の位置が計算できます。中心は問(4)で求めた \(x_0\)、上端はスタート地点の \(x=-d\) です。この2つの位置から振幅を求め、中心から振幅だけ下にずれた位置として最下点を計算します。その最下点の \(x\) 座標を電流の式に入れれば、最大の電流値が求まります。

結論と吟味

電流の最大値は \(I_{\text{max}} = \displaystyle\frac{2Blkd}{kL+B^2l^2}\) となります。この値は、系の物理定数のみで構成されており、物理的に妥当な結果と言えます。

解答 (5) \(I_{\text{max}} = \displaystyle\frac{2Blkd}{kL+B^2l^2}\)

【コラム】Q. コイルを複数にした場合の考え方

思考の道筋とポイント
コイルが複数接続された場合、それらを一つの等価なコイルに置き換えて考える「合成」のテクニックが有効です。元の問題のすべての結果式に含まれる自己インダクタンス \(L\) を、合成後のインダクタンス \(L_{合成}\) に置き換えるだけで、同様の議論ができます。直列接続と並列接続、それぞれの合成インダクタンスを導出してみましょう。

具体的な解説と立式
(ア) 直列接続:
2つのコイル \(L_1, L_2\) には同じ電流 \(I\) が流れます。したがって、電流の時間変化率 \(\frac{\Delta I}{\Delta t}\) も共通です。ab間の全体の起電力は、各コイルの起電力の和になります。
$$V_{全体} = V_1 + V_2 = -L_1 \frac{\Delta I}{\Delta t} – L_2 \frac{\Delta I}{\Delta t}$$
これを合成コイル \(L_{直列}\) の起電力 \(V_{全体} = -L_{直列} \frac{\Delta I}{\Delta t}\) と比較することで、\(L_{直列}\) を求めます。

(イ) 並列接続:
2つのコイルには共通の電圧 \(V\) がかかります。全体の電流 \(I\) は、各コイルの電流の和 \(I = I_1 + I_2\) となります。この式の時間変化を考えると、
$$\frac{\Delta I}{\Delta t} = \frac{\Delta I_1}{\Delta t} + \frac{\Delta I_2}{\Delta t}$$
ここに \(V = -L \frac{\Delta I}{\Delta t}\) を変形した \(\frac{\Delta I}{\Delta t} = -\frac{V}{L}\) の関係を、全体および各コイルに適用することで \(L_{並列}\) を求めます。

計算過程

(ア) 直列接続:
$$V_{全体} = -(L_1 + L_2)\frac{\Delta I}{\Delta t}$$
この式と \(V_{全体} = -L_{直列} \frac{\Delta I}{\Delta t}\) を比較して、
$$L_{直列} = L_1 + L_2$$

(イ) 並列接続:
$$\frac{\Delta I}{\Delta t} = \frac{\Delta I_1}{\Delta t} + \frac{\Delta I_2}{\Delta t}$$
に、各部分の関係式を代入します。
$$-\frac{V}{L_{並列}} = \left(-\frac{V}{L_1}\right) + \left(-\frac{V}{L_2}\right)$$
両辺を \(-V\) で割ると、
$$\frac{1}{L_{並列}} = \frac{1}{L_1} + \frac{1}{L_2}$$
これを \(L_{並列}\) について解くと、
$$L_{並列} = \frac{L_1 L_2}{L_1 + L_2}$$

Qの解答 (ア) Lを \(L_1 + L_2\) に置き換える。
(イ) Lを \(\displaystyle\frac{L_1 L_2}{L_1 + L_2}\) に置き換える。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力学と電磁気学の連成: この問題の核心は、導体棒の運動(力学)が回路に起電力を生み、その結果流れる電流が作る電磁力が導体棒の運動にフィードバックされる、という相互作用を数式で追う点にあります。運動方程式と回路方程式という、異なる分野の法則を連立させて解く視点が不可欠です。
  • 電磁力の復元力への寄与: 電磁力が最終的に位置 \(x\) の関数として表現され、あたかも「電磁的なばね」のように振る舞い、もともとの機械的なばね定数 \(k\) を増加させる効果を持つことを理解することが重要です。
  • 積分による変数関係の導出: 微小量の関係 (\(\Delta I \propto \Delta x\)) から全体の関係 (\(I\) は \(x\) の1次関数) を導く思考の流れは、微分方程式の初歩的な考え方であり、様々な物理分野で応用できます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 回路に抵抗 \(R\) が加わった「減衰振動」の問題。
    • コイルの代わりにコンデンサーが接続された「電気振動」と力学が絡む問題。
    • 導体棒が水平なレール上を運動する問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 力学の側面を整理: まず物体に働く力をすべて書き出し、運動方程式(または力の合算)を立てる。
    2. 電磁気学の側面を整理: 次に、閉回路についてキルヒホッフの法則を立て、電気的な関係式を作る。
    3. 関係式を連立: 2つの世界の法則を結びつけ、変数を消去していくことで、求めたい物理量についての関係式を導く。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 単振動の中心は、必ずしも原点や最初のつり合いの位置とは限らない。力が完全につり合う点 (\(F_{合計}=0\)) が新たな振動中心となる。
    • \(I\) と \(x\) の関係を求める際の積分定数は、与えられた初期条件から正しく決定する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 符号の選択ミス:
    • 現象: フレミングの法則やレンツの法則の適用を誤り、力の向きや起電力の向きの符号を間違える。
    • 対策: 必ず座標軸の正の向きを基準に、各ベクトルの向き(力、速度、電流)を慎重に判断し、一貫した符号を用いる。
  • ばねの伸びの基準の誤り:
    • 現象: 弾性力の計算で、ばねの伸びを「つり合いの位置からの距離 \(x\)」と誤解する。
    • 対策: 弾性力は常に「自然長からの伸び(または縮み)」で計算することを徹底する。この問題では \(d+x\)。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • 導体棒が下に動こうとすると(\(v>0\))、それを妨げる向き(上向き)に電磁力が発生する。この電磁力は、速度を落とそうとする「ブレーキ」のように働き、このブレーキ効果が復元力を強く(ばね定数を大きく)見せているとイメージする。
    • コイル(インダクタ)は「電流の変化を嫌う」素子。導体棒が加速して電流を急に増やそうとしても、コイルが「待った」をかけて電流の増加を緩やかにする。この「慣性」のような性質が、系の運動に影響を与えていると捉える。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 \(ma=F\):
    • 選定理由: 物体の運動(加速度)と、それに働く力との関係を記述する、力学の基本法則だから。
  • キルヒホッフの第2法則 \(\Sigma V = RI\):
    • 選定理由: 複数の起電力や抵抗を含む閉回路における、電圧と電流の関係を記述する、電気回路の基本法則だから。
  • 単振動の周期 \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\):
    • 選定理由: 力が \(F=-Kx’\) という復元力の形で表せることが確認できた後、その運動の周期を求めるための専用公式だから。
    • 適用根拠: 運動方程式が \(\ddot{x} = -\omega^2 x’\) の形になることに基づく。
  • 公式を適用する前に、その公式がどのような現象を記述するものか、そして問題の状況がその適用条件を満たしているかを常に確認することが重要です。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 条件の確認と図解: 問題文を読み解き、座標軸、力の向き、電流の向きなどを図に書き込んで状況を可視化する。
  2. 力の立式: 導体棒に働く力をすべて挙げ、合力 \(F\) を \(x\) と \(I\) で表す(問1)。
  3. 回路の立式: キルヒホッフの法則を適用し、\(v\) と \(\frac{\Delta I}{\Delta t}\) の関係式を立てる(問2)。
  4. 変数関係の導出: 回路の式と \(v=\frac{\Delta x}{\Delta t}\) から、\(I\) を \(x\) の関数で表す(問3)。
  5. 単振動の特定: \(F\) の式に \(I(x)\) を代入し、\(F(x)\) が単振動の形をしていることを確認。\(K\) と \(x_0\) を読み取る(問4)。
  6. 周期と最大値の計算: 公式を用いて周期 \(T\) を計算し、単振動の運動範囲から \(I_{\text{max}}\) を求める(問4, 5)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の丁寧な扱い: \(m, k, B, l, L, d\) など多くの文字が登場するため、式変形の際に混乱しないよう、一つ一つの項を丁寧に書き、整理する。
  • 単位(次元)の意識: 最終的な答えの次元が正しいかを確認する習慣をつける。例えば、周期 \(T\) の式の次元が [時間] に、振動中心 \(x_0\) の次元が [長さ] になっているかを確認することで、計算ミスを発見しやすくなる。
  • 符号のダブルチェック: 力や起電力の向き(符号)はミスの元凶。立式した後に、もう一度物理法則に立ち返って符号が正しいか確認する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 定性的な予測との一致確認:
    • 電磁誘導は運動を妨げるはずなので、それがない場合より振動が速くなる(周期が短くなる)はずだ。→ \(K\) が大きくなっているので、結果と一致。
    • 電流による上向きの力が増えるため、振動中心は元のつり合いの位置 (\(x=0\)) よりも上 (\(x<0\)) にずれるはずだ。→ \(x_0\) が負の値になったので、結果と一致。
  • 極端な条件での検討:
    • もし磁場がなければ (\(B=0\))、電磁力は働かない。このとき、\(K=k\), \(T=2\pi\sqrt{m/k}\), \(x_0=0\) となり、コイルがない場合の単なるばね振り子(の鉛直版)の結果と一致するはず。実際に式に \(B=0\) を代入すると、そうなっていることが確認できる。
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問題47 (センター試験+九州大)

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