問題46 (東北大+横浜市立大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ばねに繋がれた導体棒が鉛直レール上を運動する際に、電磁誘導と自己誘導がどのように影響を及ぼすかを考察する、力学と電磁気学の複合問題です。導体棒の運動が単振動になることを見抜き、その特性を詳しく分析することが求められます。
- 鉛直な金属レール(間隔 \(l\))と、それに接して滑らかに動く導体棒P(質量 \(m\))。
- Pはばね定数 \(k\) のばねに結ばれ、自然長から \(d\) 伸びた位置でつり合っている。
- 座標系: つり合いの位置を原点O (\(x=0\))、鉛直下向きを正とする。
- 一様な磁場(磁束密度 \(B\))がレール面に垂直にかかっている。
- レールの下端は自己インダクタンス \(L\) のコイルで結ばれている。
- 初期条件: Pを自然長の位置 (\(x=-d\)) まで持ち上げ、静かに放す。このとき電流 \(I=0\)。
- 電気抵抗と空気抵抗は無視できる。
- (1) 導体棒Pの位置が \(x\)、電流が \(I\) のときのPに働く力 \(F\) を表す式。
- (2) Pの速度が \(v\) のときの、閉回路におけるキルヒホッフの法則の式。
- (3) 電流 \(I\) を位置 \(x\) の関数として表す式。
- (4) 力 \(F\) を \(x\) の関数で表し、Pの単振動の周期 \(T\) と振動中心 \(x_0\) を求める。
- (5) 回路を流れる電流の最大値 \(I_{\text{max}}\) を求める。
- (コラムQ) コイルを (ア)直列、(イ)並列 にしたとき、元の結果をどう利用すればよいか。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、導体棒の「単振動」と、回路に生じる「電磁誘導」、そして電流変化によって生じる「自己誘導」という3つの物理現象が融合した、非常に学びの多い応用問題です。一見複雑に見えますが、一つ一つの現象を基本法則に立ち返って丁寧に式にしていけば、必ず解きほぐすことができます。
この問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動方程式(または力のつり合い): 物体に働く力をすべて見つけ出し、合力を考える。
- ファラデーの電磁誘導の法則: 導体棒が磁場を横切って運動することで起電力が生じる (\(V=vBl\))。
- 自己誘導: コイルを流れる電流が変化するとき、その変化を妨げる向きに起電力が生じる (\(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\))。
- キルヒホッフの第2法則: 閉回路の起電力の総和は、電圧降下の総和に等しい (\(\Sigma V = \Sigma RI\))。この問題では抵抗ゼロなので \(\Sigma V = 0\) となる。
- 単振動の条件: 物体に働く力が、つり合いの位置からの変位に比例し、常につり合いの位置を向く復元力 (\(F=-Kx\)) であること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 力学の式を立てる: 導体棒に働く力(重力、弾性力、電磁力)を整理し、合力 \(F\) の式を立てる。
- 回路の式を立てる: キルヒホッフの法則から、誘導起電力と自己誘導起電力の関係式を立てる。
- 2つの式を連立させる: 回路の式から電流 \(I\) を位置 \(x\) の関数で表し、それを力の式に代入する。
- 単振動の解析: \(F\) が \(x\) だけの関数で表された式から、単振動の周期 \(T\) と振動中心 \(x_0\) を特定する。
- 最大値を求める: 単振動の運動範囲を考え、電流が最大となる条件から \(I_{\text{max}}\) を計算する。
各設問において、これらのステップを着実に実行していきましょう。
問 (1)
思考の道筋とポイント
導体棒Pに働く力を、鉛直方向に沿ってすべてリストアップします。力はベクトルなので、向きを常に意識することが重要です。ここでは、鉛直下向きを正としているので、上向きの力は負の値で表します。働く力は「重力」「ばねの弾性力」「電磁力」の3つです。最初に、つり合いの位置での力の関係を整理しておくことが、計算を簡潔にする秘訣です。
具体的な解説と立式
まず、問題の前提となっている「つり合いの位置」(\(x=0\))での力の関係を確認します。この位置では、下向きの重力 \(mg\) と、上向きの弾性力(ばねの伸びは \(d\)) \(kd\) がつり合っています。
$$mg = kd \quad \cdots ①$$
次に、Pが任意の位置 \(x\) にあるときに働く合力 \(F\) を考えます。
- 重力: 常に鉛直下向きに \(mg\)。座標軸の正の向きなので、\(+mg\)。
- 弾性力: 位置 \(x\) でのばねの自然長からの伸びは \(d+x\) です。弾性力は上向きに働くので、\(-k(d+x)\) となります。
- 電磁力: 電流 \(I\) がb→aの向き(正)に流れると、フレミングの左手の法則より、力は上向きに働きます。よって \(-IBl\) です。
これらの力をすべて足し合わせたものが、合力 \(F\) です。
$$F = mg – k(d+x) – IBl \quad \cdots ②$$
最終的な力の式を求めるには、式①と式②を連立させます。
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(F_{合力}=0\)
- フックの法則: \(F=kx\)
- 電磁力: \(F=IBl\)
式②に式①を代入して、\(mg\) を消去します。
$$F = (kd) – k(d+x) – IBl$$
括弧を展開して整理します。
$$F = kd – kd – kx – IBl$$
したがって、求める力の式は以下のようになります。
$$F = -kx – IBl \quad \cdots ③$$
導体棒には、①下向きの重力、②上向きのばねの力、③上向きの電磁力が働きます(電流が図の向きの場合)。これらの合計が、導体棒を動かす力 \(F\) となります。面白いのは、最初のつり合いの条件(重力=つり合い時のばねの力)を使うと、重力とつり合い分のばねの力が相殺されて、力の式が「つり合い位置からの変位xに応じた弾性力」と「電磁力」だけのスッキリした形になる点です。
導体棒Pに働く力 \(F\) は \(F = -kx – IBl\) と表されます。この式は、力が位置 \(x\) だけでなく、その瞬間に流れている電流 \(I\) にも依存することを示しています。この後の設問で、この \(I\) を \(x\) の関数で表すことが目標になります。
問 (2)
思考の道筋とポイント
導体棒P、レール、コイルLからなる閉回路に着目します。この回路には、2種類の「起電力」が発生しています。一つは、導体棒Pが磁場中を動くことで生じる誘導起電力。もう一つは、コイルに流れる電流が変化することで生じる自己誘導起電力です。これらの起電力と、回路の抵抗(この問題ではゼロ)の関係を、キルヒホッフの第2法則(電圧則)を用いて立式します。
具体的な解説と立式
キルヒホッフの第2法則 (\(\Sigma V_{起電力} = \Sigma RI\)) を適用します。この問題では電気抵抗が \(R=0\) なので、法則は「起電力の総和 = 0」となります。電流の正の向き(反時計回り)を基準に、起電力の向き(符号)を決めます。
- 誘導起電力: 導体棒Pが速度 \(v\)(下向き、正)で運動すると、\(V_{誘導} = vBl\) の起電力が生じます。フレミングの右手の法則より、この起電力はb→aの向きに電流を流そうとし、これは電流 \(I\) の正の向きと一致するので、符号は正 (\(+vBl\)) です。
- 自己誘導起電力: コイルに流れる電流 \(I\) が変化すると、\(V_{自己} = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) の起電力が生じます。この起電力は電流の変化を妨げる向きの電源と見なせます。
以上から、キルヒホッフの第2法則は以下のように立式されます。
$$vBl + \left(-L \frac{\Delta I}{\Delta t}\right) = 0 \quad \cdots ④$$
使用した物理公式
- 誘導起電力: \(V=vBl\)
- 自己誘導起電力: \(V = -L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\)
- キルヒホッフの第2法則: \(\Sigma V = RI\)
式④を整理することが、この設問のゴールです。
$$vBl – L \frac{\Delta I}{\Delta t} = 0$$
この回路には、Pが動くことで生まれる「発電機(誘導起電力)」と、電流の変化を嫌う「へそ曲がり(自己誘導起電力)」の2つの電気的要素があります。抵抗がゼロの理想的な回路なので、この2つの起電力が常にぴったり打ち消し合って、合計がゼロになる、という関係式を立てています。
キルヒホッフの法則は \(vBl – L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t} = 0\) となります。この式は、導体棒の速度 \(v\) と、回路を流れる電流の変化率 \(\displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) を結びつける重要な関係式です。
問 (3)
思考の道筋とポイント
問(2)の式に、速度と位置の関係式 \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) を代入します。これにより、電流の微小変化 \(\Delta I\) と位置の微小変化 \(\Delta x\) の直接的な関係を導くことができます。この比例関係を積分し、与えられた初期条件(\(x=-d\) のとき \(I=0\))を用いて積分定数を決定することで、電流 \(I\) を位置 \(x\) の関数として求めます。
具体的な解説と立式
問(2)の式④ \(vBl = L \displaystyle\frac{\Delta I}{\Delta t}\) に、\(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) を用います。これらの式から、微小変化量 \(\Delta I\) と \(\Delta x\) の間の関係を導出できます。
$$\Delta I = \frac{Bl}{L} \Delta x \quad \cdots ⑤$$
この式は「電流の変化量は、位置の変化量に比例する」ことを意味します。このような単純な比例関係にある場合、両辺を積分すると、\(I\) は \(x\) の1次関数になることがわかります。積分定数を \(C\) とおくと、
$$I = \frac{Bl}{L} x + C \quad \cdots ⑥$$
この積分定数 \(C\) を決定するために、初期条件「\(t=0\) で \(x=-d\), \(I=0\)」を用います。
使用した物理公式
- 速度と変位の関係: \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\)
- 比例関係からの積分
まず、\(\Delta I\) を \(\Delta x\) で表します。式④に \(v = \displaystyle\frac{\Delta x}{\Delta t}\) を代入すると、
$$\left(\frac{\Delta x}{\Delta t}\right)Bl = L \frac{\Delta I}{\Delta t}$$
両辺から \(\Delta t\) を払うと、式⑤が得られます。
$$\Delta I = \frac{Bl}{L}\Delta x$$
次に、\(I\) を \(x\) で表します。式⑥に初期条件(\(x=-d, I=0\))を代入して積分定数 \(C\) を求めます。
$$0 = \frac{Bl}{L}(-d) + C$$
$$C = \frac{Bld}{L}$$
この \(C\) を式⑥に戻します。
$$I = \frac{Bl}{L}x + \frac{Bld}{L}$$
共通因数 \(\displaystyle\frac{Bl}{L}\) でくくると、最終的な関係式が得られます。
$$I = \frac{Bl}{L}(x+d) \quad \cdots ⑦$$
問(2)の式は「電流の変化の速さ」と「Pの移動の速さ」の関係を示していました。この両辺から「時間の速さ」の要素を取り払うと、「電流の微小な変化量」と「Pの微小な移動距離」が比例することがわかります。これは、移動距離が積み重なれば電流もそれに比例して増えていくことを意味します。この比例関係を式にし、スタート地点(\(x=-d\) で \(I=0\))の条件を当てはめることで、任意の位置 \(x\) での電流 \(I\) がわかります。
電流 \(I\) は \(I = \displaystyle\frac{Bl}{L}(x+d)\) と表されます。この式に \(x=-d\) を代入すると \(I=0\) となり、初期条件を正しく満たしていることが確認できます。
問 (4)
思考の道筋とポイント
問(1)で求めた力の式に、問(3)で求めた電流の式を代入します。これにより、力 \(F\) を位置 \(x\) だけの関数として表すことができます。その式が単振動の力の形である \(F = -K(x – x_0)\) となっていることを確認し、有効なばね定数 \(K\) と振動の中心 \(x_0\) を読み取ります。周期 \(T\) は \(K\) と質量 \(m\) から、公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) を使って計算します。
具体的な解説と立式
問(1)の力の式③ \(F = -kx – IBl\) と、問(3)の電流の式⑦ \(I = \displaystyle\frac{Bl}{L}(x+d)\) を連立させます。
これにより、力 \(F\) が \(x\) のみの関数として得られます。
$$F = -kx – \left\{ \frac{Bl}{L}(x+d) \right\} Bl \quad \cdots ⑧$$
この式を整理すると、単振動の復元力の形 \(F = -Kx + C\) が現れます。ここから復元力の比例定数 \(K\) が特定でき、周期 \(T\) は公式を用いて立式できます。
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \quad \cdots ⑨$$
また、振動の中心 \(x_0\) は、力がつり合う点 (\(F=0\)) であることから求めることができます。
使用した物理公式
- 単振動の復元力: \(F = -K(x-x_0)\)
- 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{K}}\)
力 Fの計算:
式⑧を展開し、変数 \(x\) について整理します。
$$F = -kx – \frac{B^2l^2}{L}(x+d) = -kx – \frac{B^2l^2}{L}x – \frac{B^2l^2d}{L}$$
$$F = -\left(k + \frac{B^2l^2}{L}\right)x – \frac{B^2l^2d}{L}$$
周期 Tの計算:
上記の力の式から、有効なばね定数 \(K\) は \(x\) の係数部分であることがわかります。
$$K = k + \frac{B^2l^2}{L} = \frac{kL+B^2l^2}{L}$$
これを周期の公式⑨に代入します。
$$T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{\frac{kL+B^2l^2}{L}}} = 2\pi\sqrt{\frac{mL}{kL+B^2l^2}}$$
振動中心 \(x_0\) の計算:
力の式で \(F=0\) となる位置 \(x_0\) を求めます。
$$0 = -\left(k + \frac{B^2l^2}{L}\right)x_0 – \frac{B^2l^2d}{L}$$
$$\left(k + \frac{B^2l^2}{L}\right)x_0 = – \frac{B^2l^2d}{L}$$
$$x_0 = – \frac{\frac{B^2l^2d}{L}}{k + \frac{B^2l^2}{L}} = – \frac{B^2l^2d}{L \left( \frac{kL+B^2l^2}{L} \right)} = – \frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2}$$
導体棒に流れる電流は位置 \(x\) によって決まるので、電流が作る電磁力も位置 \(x\) で決まる力になります。この「電磁力」を「ばねの力」に合体させると、全体として新しい、より強力な「合体ばね」による力とみなせます。この「合体ばね」のばね定数 \(K\) を求めることで周期がわかり、この「合体ばね」の力がゼロになる点を探すことで、新しい振動の中心 \(x_0\) が見つかります。
力は \(F = -\left(k + \displaystyle\frac{B^2l^2}{L}\right)x – \displaystyle\frac{B^2l^2d}{L}\) となります。周期は \(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{mL}{kL+B^2l^2}}\)、振動中心は \(x_0 = – \displaystyle\frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2}\) です。有効なばね定数が増加しており、これは電磁力が運動を抑制する方向に働く効果と解釈できます。
周期 \(T=2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{mL}{kL+B^2l^2}}\)
振動中心 \(x_0 = – \displaystyle\frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2}\)
問 (5)
思考の道筋とポイント
電流 \(I\) は \(I = \displaystyle\frac{Bl}{L}(x+d)\) であり、位置 \(x\) が最大のときに \(I\) も最大値 \(I_{\text{max}}\) をとります。したがって、この単振動におけるPの運動範囲の最下点 \(x_{\text{max}}\) を求めることが目標です。単振動の「中心 \(x_0\)」と「上端(スタート地点) \(x=-d\)」から振幅 \(A\) を計算し、最下点 \(x_{\text{max}}\) を特定します。
具体的な解説と立式
この単振動の情報を整理します。
- 振動の中心: \(x_0\) (問(4)で計算済み)
- 振動の上端: \(x=-d\) (静かに放した位置)
振幅 \(A\) は、中心から上端までの距離です。
$$A = x_0 – (-d) = x_0 + d$$
振動の最下点 \(x_{\text{max}}\) は、中心 \(x_0\) から振幅 \(A\) だけ下(正の方向)に進んだ位置です。
$$x_{\text{max}} = x_0 + A = x_0 + (x_0 + d) = 2x_0 + d \quad \cdots ⑩$$
電流の最大値 \(I_{\text{max}}\) は、この \(x=x_{\text{max}}\) を電流の式⑦に代入することで得られます。
$$I_{\text{max}} = \frac{Bl}{L}(x_{\text{max}} + d) \quad \cdots ⑪$$
使用した物理公式
- 単振動の振幅と運動範囲の関係
式⑪に式⑩を代入します。
$$I_{\text{max}} = \frac{Bl}{L}((2x_0+d)+d) = \frac{Bl}{L}(2x_0+2d) = \frac{2Bl}{L}(x_0+d)$$
次に、この式に含まれる \((x_0+d)\) の値を、問(4)で求めた \(x_0\) の式を使って計算します。
$$x_0 + d = \left(- \frac{B^2l^2d}{kL+B^2l^2}\right) + d = d \left(1 – \frac{B^2l^2}{kL+B^2l^2}\right)$$
通分して計算を進めます。
$$x_0 + d = d \left(\frac{(kL+B^2l^2) – B^2l^2}{kL+B^2l^2}\right) = d \left(\frac{kL}{kL+B^2l^2}\right) = \frac{kLd}{kL+B^2l^2}$$
この結果を \(I_{\text{max}}\) の式に代入します。
$$I_{\text{max}} = \frac{2Bl}{L} \left( \frac{kLd}{kL+B^2l^2} \right)$$
分母と分子の \(L\) を約分して、最終的な答えを得ます。
$$I_{\text{max}} = \frac{2Blkd}{kL+B^2l^2}$$
電流が一番大きくなるのは、導体棒Pが一番下まで下がったときです。Pの運動は単振動なので、「どこが中心で、振幅はどれくらいか」が分かれば、一番下の位置が計算できます。中心は問(4)で求めた \(x_0\)、上端はスタート地点の \(x=-d\) です。この2つの位置から振幅を求め、中心から振幅だけ下にずれた位置として最下点を計算します。その最下点の \(x\) 座標を電流の式に入れれば、最大の電流値が求まります。
電流の最大値は \(I_{\text{max}} = \displaystyle\frac{2Blkd}{kL+B^2l^2}\) となります。この値は、系の物理定数のみで構成されており、物理的に妥当な結果と言えます。
【コラム】Q. コイルを複数にした場合の考え方
思考の道筋とポイント
コイルが複数接続された場合、それらを一つの等価なコイルに置き換えて考える「合成」のテクニックが有効です。元の問題のすべての結果式に含まれる自己インダクタンス \(L\) を、合成後のインダクタンス \(L_{合成}\) に置き換えるだけで、同様の議論ができます。直列接続と並列接続、それぞれの合成インダクタンスを導出してみましょう。
具体的な解説と立式
(ア) 直列接続:
2つのコイル \(L_1, L_2\) には同じ電流 \(I\) が流れます。したがって、電流の時間変化率 \(\frac{\Delta I}{\Delta t}\) も共通です。ab間の全体の起電力は、各コイルの起電力の和になります。
$$V_{全体} = V_1 + V_2 = -L_1 \frac{\Delta I}{\Delta t} – L_2 \frac{\Delta I}{\Delta t}$$
これを合成コイル \(L_{直列}\) の起電力 \(V_{全体} = -L_{直列} \frac{\Delta I}{\Delta t}\) と比較することで、\(L_{直列}\) を求めます。
(イ) 並列接続:
2つのコイルには共通の電圧 \(V\) がかかります。全体の電流 \(I\) は、各コイルの電流の和 \(I = I_1 + I_2\) となります。この式の時間変化を考えると、
$$\frac{\Delta I}{\Delta t} = \frac{\Delta I_1}{\Delta t} + \frac{\Delta I_2}{\Delta t}$$
ここに \(V = -L \frac{\Delta I}{\Delta t}\) を変形した \(\frac{\Delta I}{\Delta t} = -\frac{V}{L}\) の関係を、全体および各コイルに適用することで \(L_{並列}\) を求めます。
(ア) 直列接続:
$$V_{全体} = -(L_1 + L_2)\frac{\Delta I}{\Delta t}$$
この式と \(V_{全体} = -L_{直列} \frac{\Delta I}{\Delta t}\) を比較して、
$$L_{直列} = L_1 + L_2$$
(イ) 並列接続:
$$\frac{\Delta I}{\Delta t} = \frac{\Delta I_1}{\Delta t} + \frac{\Delta I_2}{\Delta t}$$
に、各部分の関係式を代入します。
$$-\frac{V}{L_{並列}} = \left(-\frac{V}{L_1}\right) + \left(-\frac{V}{L_2}\right)$$
両辺を \(-V\) で割ると、
$$\frac{1}{L_{並列}} = \frac{1}{L_1} + \frac{1}{L_2}$$
これを \(L_{並列}\) について解くと、
$$L_{並列} = \frac{L_1 L_2}{L_1 + L_2}$$
(イ) Lを \(\displaystyle\frac{L_1 L_2}{L_1 + L_2}\) に置き換える。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学と電磁気学の連成: この問題の核心は、導体棒の運動(力学)が回路に起電力を生み、その結果流れる電流が作る電磁力が導体棒の運動にフィードバックされる、という相互作用を数式で追う点にあります。運動方程式と回路方程式という、異なる分野の法則を連立させて解く視点が不可欠です。
- 電磁力の復元力への寄与: 電磁力が最終的に位置 \(x\) の関数として表現され、あたかも「電磁的なばね」のように振る舞い、もともとの機械的なばね定数 \(k\) を増加させる効果を持つことを理解することが重要です。
- 積分による変数関係の導出: 微小量の関係 (\(\Delta I \propto \Delta x\)) から全体の関係 (\(I\) は \(x\) の1次関数) を導く思考の流れは、微分方程式の初歩的な考え方であり、様々な物理分野で応用できます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 回路に抵抗 \(R\) が加わった「減衰振動」の問題。
- コイルの代わりにコンデンサーが接続された「電気振動」と力学が絡む問題。
- 導体棒が水平なレール上を運動する問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 力学の側面を整理: まず物体に働く力をすべて書き出し、運動方程式(または力の合算)を立てる。
- 電磁気学の側面を整理: 次に、閉回路についてキルヒホッフの法則を立て、電気的な関係式を作る。
- 関係式を連立: 2つの世界の法則を結びつけ、変数を消去していくことで、求めたい物理量についての関係式を導く。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 単振動の中心は、必ずしも原点や最初のつり合いの位置とは限らない。力が完全につり合う点 (\(F_{合計}=0\)) が新たな振動中心となる。
- \(I\) と \(x\) の関係を求める際の積分定数は、与えられた初期条件から正しく決定する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 符号の選択ミス:
- 現象: フレミングの法則やレンツの法則の適用を誤り、力の向きや起電力の向きの符号を間違える。
- 対策: 必ず座標軸の正の向きを基準に、各ベクトルの向き(力、速度、電流)を慎重に判断し、一貫した符号を用いる。
- ばねの伸びの基準の誤り:
- 現象: 弾性力の計算で、ばねの伸びを「つり合いの位置からの距離 \(x\)」と誤解する。
- 対策: 弾性力は常に「自然長からの伸び(または縮み)」で計算することを徹底する。この問題では \(d+x\)。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 導体棒が下に動こうとすると(\(v>0\))、それを妨げる向き(上向き)に電磁力が発生する。この電磁力は、速度を落とそうとする「ブレーキ」のように働き、このブレーキ効果が復元力を強く(ばね定数を大きく)見せているとイメージする。
- コイル(インダクタ)は「電流の変化を嫌う」素子。導体棒が加速して電流を急に増やそうとしても、コイルが「待った」をかけて電流の増加を緩やかにする。この「慣性」のような性質が、系の運動に影響を与えていると捉える。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動方程式 \(ma=F\):
- 選定理由: 物体の運動(加速度)と、それに働く力との関係を記述する、力学の基本法則だから。
- キルヒホッフの第2法則 \(\Sigma V = RI\):
- 選定理由: 複数の起電力や抵抗を含む閉回路における、電圧と電流の関係を記述する、電気回路の基本法則だから。
- 単振動の周期 \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\):
- 選定理由: 力が \(F=-Kx’\) という復元力の形で表せることが確認できた後、その運動の周期を求めるための専用公式だから。
- 適用根拠: 運動方程式が \(\ddot{x} = -\omega^2 x’\) の形になることに基づく。
- 公式を適用する前に、その公式がどのような現象を記述するものか、そして問題の状況がその適用条件を満たしているかを常に確認することが重要です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 条件の確認と図解: 問題文を読み解き、座標軸、力の向き、電流の向きなどを図に書き込んで状況を可視化する。
- 力の立式: 導体棒に働く力をすべて挙げ、合力 \(F\) を \(x\) と \(I\) で表す(問1)。
- 回路の立式: キルヒホッフの法則を適用し、\(v\) と \(\frac{\Delta I}{\Delta t}\) の関係式を立てる(問2)。
- 変数関係の導出: 回路の式と \(v=\frac{\Delta x}{\Delta t}\) から、\(I\) を \(x\) の関数で表す(問3)。
- 単振動の特定: \(F\) の式に \(I(x)\) を代入し、\(F(x)\) が単振動の形をしていることを確認。\(K\) と \(x_0\) を読み取る(問4)。
- 周期と最大値の計算: 公式を用いて周期 \(T\) を計算し、単振動の運動範囲から \(I_{\text{max}}\) を求める(問4, 5)。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の丁寧な扱い: \(m, k, B, l, L, d\) など多くの文字が登場するため、式変形の際に混乱しないよう、一つ一つの項を丁寧に書き、整理する。
- 単位(次元)の意識: 最終的な答えの次元が正しいかを確認する習慣をつける。例えば、周期 \(T\) の式の次元が [時間] に、振動中心 \(x_0\) の次元が [長さ] になっているかを確認することで、計算ミスを発見しやすくなる。
- 符号のダブルチェック: 力や起電力の向き(符号)はミスの元凶。立式した後に、もう一度物理法則に立ち返って符号が正しいか確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 定性的な予測との一致確認:
- 電磁誘導は運動を妨げるはずなので、それがない場合より振動が速くなる(周期が短くなる)はずだ。→ \(K\) が大きくなっているので、結果と一致。
- 電流による上向きの力が増えるため、振動中心は元のつり合いの位置 (\(x=0\)) よりも上 (\(x<0\)) にずれるはずだ。→ \(x_0\) が負の値になったので、結果と一致。
- 極端な条件での検討:
- もし磁場がなければ (\(B=0\))、電磁力は働かない。このとき、\(K=k\), \(T=2\pi\sqrt{m/k}\), \(x_0=0\) となり、コイルがない場合の単なるばね振り子(の鉛直版)の結果と一致するはず。実際に式に \(B=0\) を代入すると、そうなっていることが確認できる。
問題47 (センター試験+九州大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、直流回路における「過渡現象」と、交流の基礎となる「電気振動」を総合的に扱う、非常に重要なテーマです。スイッチを切り替えた「直後」や、「十分に時間が経った後」で、コンデンサーやコイルがどのように振る舞うかを理解しているかが問われます。
- 電池: 起電力 \(E\)、内部抵抗 \(r\)
- 抵抗: 抵抗値 \(R\)
- コンデンサー: 電気容量 \(C\)
- コイル: 自己インダクタンス \(L\)
- スイッチ: S₁, S₂, S₃, S₄
- b点が接地され、電位は 0 V
この問題は、スイッチの開閉によって回路の接続が変化し、その時々の過渡現象や電気振動について問う形式になっています。
- A (問1, 2): RC回路の充電初期に関する問題。
- B (問3, 4): 充電済みコンデンサーの放電に関する問題。
- C (問5): LC回路の電気振動に関する問題。
- D (問6): RLC回路の定常状態からLC振動へ移行する問題。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 過渡現象の基本ルール:
- スイッチON直後: 電圧が0のコンデンサーは「導線」と見なせる。電流が0のコイルは「開路(断線)」と見なせる。
- 十分時間後(直流定常状態): コンデンサーは充電を完了し電流を流さないため「開路」と見なせる。コイルは電流変化がなくなり、ただの「導線」と見なせる。
- 状態の不変性:
- スイッチを切り替える直前と直後で、コンデンサーの電気量(電圧)とコイルの電流は急に変化できない(値が維持される)。
- キルヒホッフの法則: 複雑な回路における電圧と電流の関係を解き明かすための基本法則。
- LC電気振動: コンデンサーとコイルだけで構成された回路では、静電エネルギーと磁気エネルギーが互いに移り変わりながら、エネルギーが保存される周期的な振動が起こる。
- 周期: \(T = 2\pi\sqrt{LC}\)
- エネルギー保存則: \(\displaystyle\frac{1}{2}\frac{Q^2}{C} + \frac{1}{2}Li^2 = \text{一定}\)
これらのルールを「どの状況で」「どのように適用するか」を丁寧に見極めていくことが、この問題を攻略するカギとなります。
問 (1)
思考の道筋とポイント
「S₁を閉じた直後」という言葉が最大のヒントです。過渡現象の基本ルールによれば、スイッチを入れた直後、まだ電荷が蓄えられていないコンデンサーは、両極板の電位差がゼロです。電位差がゼロの回路素子は「導線」と等価と見なすことができます。この考え方で回路を単純化し、オームの法則を適用します。
具体的な解説と立式
スイッチを閉じた直後、コンデンサー \(C\) は導線とみなせます。この等価的な導線は抵抗 \(R\) と並列に接続されているため、抵抗 \(R\) は短絡(ショート)されます。その結果、回路全体は、起電力 \(E\) の電池と内部抵抗 \(r\) のみが接続された単純な回路と見なせます。この回路を流れる電流を \(I_0\) とすると、オームの法則から次の式が立てられます。
$$E = r I_0 \quad \cdots ①$$
この電流 \(I_0\) が、そのままコンデンサーに流れ込む電流となります。
使用した物理公式
- 過渡現象の初期条件(コンデンサーは導線)
- オームの法則: \(V=IR\)
式①を \(I_0\) について解きます。
$$I_0 = \frac{E}{r}$$
スイッチを入れた瞬間、空っぽのコンデンサーは「どうぞ、電流さん来てください」と抵抗ゼロの道を開けてくれます。電流は楽な道が好きなので、わざわざ抵抗 \(R\) のある道を通らず、コンデンサー側の道にすべて流れ込みます。そのため、回路は電池と内部抵抗だけのシンプルなものになり、流れる電流はオームの法則で簡単に計算できます。
S₁を閉じた直後にコンデンサーに流れる電流は \(\displaystyle\frac{E}{r}\) です。 内部抵抗 \(r\) が小さいほど、大きな初期電流が流れることがわかります。
問 (2)
思考の道筋とポイント
今度は充電の「途中」、コンデンサーの極板間の電位差が \(V\) になった任意の瞬間を考えます。このような途中の状態を分析するには、キルヒホッフの法則が最も有効です。コンデンサーと抵抗 \(R\) が並列接続であること、そして電池と内部抵抗を含むループの関係を考え、連立方程式を立てます。
具体的な解説と立式
コンデンサーの電位差が \(V\) のとき、並列に接続されている抵抗 \(R\) の両端の電位差も同じく \(V\) です。
したがって、抵抗 \(R\) を流れる電流を \(I_R\) とすると、オームの法則より、
$$V = I_R R \quad \cdots ②$$
次に、電池、内部抵抗 \(r\)、そして抵抗 \(R\) を含む閉回路について、キルヒホッフの第2法則(電圧則)を適用します。電池から流れ出る電流を \(I_E\) とすると、
$$E = r I_E + V \quad \cdots ③$$
最後に、電流が分岐する点aで、キルヒホッフの第1法則(電流則)を適用します。電池から来た電流 \(I_E\) が、抵抗 \(R\) に流れる \(I_R\) とコンデンサーに流れる \(I_C\) に分かれるので、
$$I_E = I_R + I_C \quad \cdots ④$$
我々が求めたいのは \(I_C\) です。式②、③、④を連立して \(I_C\) を求めます。
使用した物理公式
- キルヒホッフの第1法則(電流則)
- キルヒホッフの第2法則(電圧則)
まず、式④を \(I_C\) について変形します。
$$I_C = I_E – I_R$$
次に、この式の \(I_E\) と \(I_R\) を、式②と式③を使って \(E, V, r, R\) で表します。
式②から、
$$I_R = \frac{V}{R}$$
式③から、
$$I_E = \frac{E-V}{r}$$
これらを \(I_C\) の式に代入します。
$$I_C = \frac{E-V}{r} – \frac{V}{R}$$
充電が進んでコンデンサーに電圧 \(V\) がかかると、状況は少し複雑になります。まず、電池から出た電流(親ガメ)は、途中の分岐点で抵抗 \(R\) に行く子ガメとコンデンサーに行く子ガメに分かれます。コンデンサーに流れる電流(子ガメ)を知りたいので、「親ガメの電流」から「抵抗Rに行った子ガメの電流」を引き算すればOKです。それぞれの電流は、各部分の電圧関係(キルヒホッフの法則)から計算できます。
コンデンサーに流れる電流は \(I_C = \displaystyle\frac{E-V}{r} – \displaystyle\frac{V}{R}\) です。 充電が進み \(V\) が大きくなると、\(I_C\) は小さくなっていきます。最終的に充電が完了すると \(I_C=0\) となり、そのときの電圧 \(V\) は \(\frac{E-V}{r} = \frac{V}{R}\) を満たす値になることがわかります。
問 (3)
思考の道筋とポイント
二段階で考えます。
1. 「Aでコンデンサーを充電し終った後」の状態の確定: 「充電し終った」とは、直流回路で十分に時間が経過し、定常状態になったことを意味します。このとき、コンデンサーは充電を完了し、電流を流さなくなります。つまり「開路」とみなせます。 この状態でコンデンサーにかかる電圧 \(V_C\) と蓄えられた電気量 \(Q\) を計算します。
2. 「S₁を開いた直後」の状態: 過渡現象のルール「スイッチを切り替えた直後、コンデンサーの電気量(電圧)は変化しない」を適用します。 これにより、S₁を開いた瞬間のコンデンサーの電圧がわかります。このコンデンサーが電源となって抵抗 \(R\) に電流を流すので、オームの法則で電流を求めます。
具体的な解説と立式
1. 充電完了時の状態:
コンデンサー \(C\) は開路とみなせるので、回路は電池、内部抵抗 \(r\)、抵抗 \(R\) が直列に接続されたものになります。 コンデンサーは抵抗 \(R\) と並列なので、コンデンサーの電圧 \(V_C\) は抵抗 \(R\) の両端の電圧 \(V_R\) に等しくなります。 これは、直列回路の分圧の考え方で求めることができます。
$$V_C = \frac{R}{R+r}E \quad \cdots ⑤$$
したがって、蓄えられる電気量 \(Q\) は、
$$Q = C V_C \quad \cdots ⑥$$
2. S₁を開いた直後の状態:
コンデンサーの電圧 \(V_C\) は、開く直前の値のままです。 このコンデンサーを電圧 \(V_C\) の電池とみなすと、抵抗 \(R\) と閉回路を形成します。このとき流れる電流を \(i_0\) とすると、オームの法則より、
$$i_0 = \frac{V_C}{R} \quad \cdots ⑦$$
使用した物理公式
- 過渡現象の定常状態(コンデンサーは開路)
- 状態の不変性(コンデンサーの電荷は急に変わらない)
- 電気量: \(Q=CV\)
電気量 Q:
式⑤を式⑥に代入します。
$$Q = C \left(\frac{R}{R+r}E\right) = \frac{CR}{R+r}E$$
電流 \(i_0\):
式⑦に、式⑤で求めた \(V_C\) を代入します。
$$i_0 = \frac{1}{R} \left(\frac{R}{R+r}E\right) = \frac{E}{R+r}$$
充電が完了すると、コンデンサーは「満腹」になって電流をせき止めます。このとき、回路は単純な「電池、r、Rの直列回路」になります。コンデンサーはRの隣にいるので、Rにかかる電圧と同じ電圧まで充電されます。これが蓄えられた電気量になります。
次にスイッチS₁を開くと、コンデンサーは蓄えた電気(電圧)を使って、今度はRに電流を流し始めます。その瞬間の電流は、コンデンサーを電池とみなしてオームの法則を使えば計算できます。
S₁を開いた直後の電気量は \(Q = \displaystyle\frac{CR}{R+r}E\)、Rを流れる電流は \(i_0 = \displaystyle\frac{E}{R+r}\) です。
問 (4)
思考の道筋とポイント
コンデンサーと抵抗 \(R\) のみの閉回路で、コンデンサーが放電していきます。この過程で、コンデンサーに蓄えられていた静電エネルギーは、すべて抵抗 \(R\) でのジュール熱に変換されます。 したがって、発生する総熱量は、放電開始前にコンデンサーが蓄えていた静電エネルギーに等しくなります。
具体的な解説と立式
エネルギー保存則を考えます。
発生するジュール熱の総量を \(H\) とすると、これは放電開始時のコンデンサーの静電エネルギー \(U_C\) に等しくなります。
$$H = U_C = \frac{1}{2}C V_C^2 \quad \cdots ⑧$$
この \(V_C\) は、問(3)の計算の途中で求めた、充電完了時の電圧です。
使用した物理公式
- 静電エネルギー: \(U_C = \displaystyle\frac{1}{2}CV^2\)
- エネルギー保存則
問(3)より、放電開始時のコンデンサーの電圧は \(V_C = \displaystyle\frac{R}{R+r}E\) でした。これを式⑧に代入します。
$$H = \frac{1}{2}C \left(\frac{R}{R+r}E\right)^2 = \frac{CR^2E^2}{2(R+r)^2}$$
コンデンサーに蓄えられていた電気のエネルギーが、抵抗を通ることで熱に変わっていく、というシンプルなエネルギー変換の問題です。最初にどれだけエネルギーを持っていたかを計算すれば、それがすべて最終的に発生する熱量になります。
抵抗Rで発生する熱量は \(\displaystyle\frac{CR^2E^2}{2(R+r)^2}\) です。 これはコンデンサーの初期エネルギーに等しいです。
問 (5)
思考の道筋とポイント
この状況では、最終的にコンデンサー \(C\) とコイル \(L\) だけの閉回路(LC回路)ができ、電気振動が始まります。
1. 初期状態の確定: まず、S₄を閉じる直前の状態を考えます。S₁とS₃を閉じて充電したので、コンデンサーは起電力 \(E\) で直接充電されています。 このときの静電エネルギーが、振動の全エネルギーとなります。
2. 振動の解析:
* a点の電位が最低になるまで: 電気振動は、Cのエネルギー \(\leftrightarrow\) Lのエネルギーという変換を繰り返します。a点の電位は、Cの上側極板の電位です。初期状態が `+E` なので、最低になるのはエネルギーが逆向きに最大まで溜まったときで、電位は `-E` となります。 この状態変化は、振動の半周期に相当します。
* 電流の最大値: エネルギー保存則を適用します。Cの静電エネルギーがすべてLの磁気エネルギーに変換されたとき、電流が最大になります。
具体的な解説と立式
1. 初期状態:
コンデンサーの電圧は \(E\)、静電エネルギーは \(U_0 = \displaystyle\frac{1}{2}CE^2\) です。
2. 振動の解析:
* 時間: a点の電位が最低値 \(-E\) になるのは、半周期 \(\frac{T}{2}\) 後です。 LC回路の周期 \(T\) は、
$$T = 2\pi\sqrt{LC} \quad \cdots ⑨$$
* 最低電位: 理想的な振動では、逆向きに同じ電圧まで充電されるため、a点の最低電位は \(-E\) です。
* 電流の最大値: エネルギー保存則より、「初期の静電エネルギー」=「電流最大時の磁気エネルギー」が成り立ちます。 電流の最大値を \(i_{\text{max}}\) とすると、
$$\frac{1}{2}CE^2 = \frac{1}{2}Li_{\text{max}}^2 \quad \cdots ⑩$$
使用した物理公式
- LC振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{LC}\)
- LC回路のエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}CV^2 + \frac{1}{2}Li^2 = \text{一定}\)
時間:
求める時間は \(t = \displaystyle\frac{T}{2}\) です。式⑨を代入します。
$$t = \frac{1}{2} \left( 2\pi\sqrt{LC} \right) = \pi\sqrt{LC}$$
電流の最大値:
式⑩を \(i_{\text{max}}\) について解きます。
$$i_{\text{max}}^2 = \frac{C}{L}E^2$$
$$i_{\text{max}} = E\sqrt{\frac{C}{L}}$$
コンデンサーとコイルだけの回路は、電気のエネルギーが「コンデンサーの電圧」と「コイルの電流」の間を行ったり来たりする「電気のブランコ」のようなものです。
一番上まで充電された状態(電圧E)からスタートし、反対側に一番高く上がる(電圧-E)までにかかる時間は、ブランコが行って帰ってくる時間(周期T)のちょうど半分です。
電流が最大になるのは、ブランコが真ん中を通過するとき、つまりコンデンサーの電圧がゼロになって、全てのエネルギーがコイルの電流の勢いに変わった瞬間です。この関係をエネルギー保存の式で解くことができます。
a点の電位が初めて最低値に達するまでの時間は \(\pi\sqrt{LC}\)、その最低値は \(-E\)、電流の最大値は \(E\sqrt{\frac{C}{L}}\) です。 これらはLC振動の基本的な性質を示す結果です。
問 (6)
思考の道筋とポイント
1. 「S₁を開く直前」の状態の確定: 「S₁, S₃, S₄を閉じて十分に時間が経った」定常状態を考えます。直流では、コンデンサー \(C\) は「開路」、コイル \(L\) は「導線」とみなせます。 このルールに従って回路図を単純化し、\(C\) の電気量と \(L\) の電流を求めます。
2. 「S₁を開いた直後」の状態と振動: スイッチを開くと、LC回路が形成されます。過渡現象のルール「コイルの電流は急に変わらない」を使い、LC振動の初期電流を定めます。 この初期エネルギー(磁気エネルギー)が、すべて静電エネルギーに変わったときに電気量が最大になる、というエネルギー保存則を適用します。
具体的な解説と立式
1. S₁を開く直前の状態:
コンデンサー \(C\) は開路なので電流は流れません。コイル \(L\) は導線とみなせます。電流は電池から出て、内部抵抗 \(r\) とコイル \(L\)(導線)を通る回路を流れます。このときコイルを流れる電流を \(I_1\) とすると、
$$E = r I_1 \quad \cdots ⑪$$
コンデンサー \(C\) は、導線とみなせるコイル \(L\) と並列に接続されているため、電圧はゼロです。したがって、コンデンサーの電気量 \(Q\) は、
$$Q = 0 \quad \cdots ⑫$$
2. S₁を開いた後の振動:
S₁を開くと、LC閉回路ができます。直後、コイルは電流 \(I_1\) を流し続けます。 これがLC振動の初期電流となります。このときの初期エネルギーは、すべてコイルの磁気エネルギーです。このエネルギーがすべてコンデンサーの静電エネルギーになったときに、電気量は最大値 \(Q_1\) になります。エネルギー保存則より、
$$\frac{1}{2}LI_1^2 = \frac{Q_1^2}{2C} \quad \cdots ⑬$$
使用した物理公式
- 過渡現象の定常状態(Cは開路、Lは導線)
- 状態の不変性(Lの電流は急に変わらない)
- LC回路のエネルギー保存則
S₁を開く直前の電気量:
式⑫より、電気量は **0** です。
S₁を開いた後の電気量の最大値 \(Q_1\):
まず、式⑪から初期電流 \(I_1\) を求めます。
$$I_1 = \frac{E}{r}$$
次に、この \(I_1\) をエネルギー保存則の式⑬に代入して、\(Q_1\) を求めます。
$$\frac{1}{2}L\left(\frac{E}{r}\right)^2 = \frac{Q_1^2}{2C}$$
$$Q_1^2 = LC \left(\frac{E}{r}\right)^2$$
$$Q_1 = \sqrt{LC \left(\frac{E}{r}\right)^2} = \frac{E}{r}\sqrt{LC}$$
スイッチを開く前、電流はコンデンサーを無視して、抵抗ゼロのコイルの道を優先して流れています。そのため、コンデンサーは空っぽ(電気量ゼロ)です。
スイッチを開いた瞬間、コイルは「まだ電流を流したい!」と、それまで流していた勢いを保ちます。この電流が、今度は隣のコンデンサーに流れ込み、充電を始めます。コイルの磁気エネルギーがすべてコンデンサーの静電エネルギーに移ったとき、コンデンサーの電気量は最大になります。
S₁を開く直前のコンデンサーの電気量は0。 S₁を開いた後の電気量の最大値は \(\displaystyle\frac{E}{r}\sqrt{LC}\) となります。 問(5)とは異なり、コイルの磁気エネルギーから振動がスタートするパターンです。
【コラム】Q. Dの状況で、a点の電位を時間の関数として表す
思考の道筋とポイント
問(6)のS₁を開いた後(\(t=0\))のLC振動について、a点の電位 \(V_a(t)\) を求めます。これは三角関数を用いて振動を表現する問題です。
1. 初期条件の確認: \(t=0\) で、電気量 \(Q=0\)、電流 \(i(0) = I_1 = E/r\)。電流の向きは図において時計回りです。
2. 振動の形の決定: 電流がコンデンサーに流れ込むことで、下側の極板(b点側)が正に、上側の極板(a点側)が負に帯電していきます。 a点の電位 \(V_a\) は \(Q_a/C\) であり、\(Q_a\) が負から始まるので、\(V_a\) のグラフは「-sin型」になると予想できます。
3. 振幅の計算: 電位の振幅(最大値の絶対値)\(V_1\) は、エネルギー保存則から求めます。電気量が最大になったときの電圧が振幅になります。
4. 式の組み立て: \(V_a(t) = -V_1 \sin(\omega t)\) の形に、求めた振幅と角振動数 \(\omega = \frac{2\pi}{T} = \frac{1}{\sqrt{LC}}\) を代入します。
具体的な解説と立式
初期エネルギー(磁気エネルギー)と、電位が振幅 \(V_1\) に達したときのエネルギー(静電エネルギー)は等しくなります。
$$\frac{1}{2}LI_1^2 = \frac{1}{2}CV_1^2 \quad \cdots ⑭$$
ここで \(I_1 = E/r\) です。この式から電位の振幅 \(V_1\) を求めます。
振動のグラフは `-sin` 型なので、
$$V_a(t) = -V_1 \sin(\omega t)$$
角振動数 \(\omega\) は周期 \(T=2\pi\sqrt{LC}\) より、
$$\omega = \frac{1}{\sqrt{LC}}$$
まず、式⑭から振幅 \(V_1\) を求めます。
$$V_1^2 = \frac{L}{C}I_1^2 = \frac{L}{C}\left(\frac{E}{r}\right)^2$$
$$V_1 = \frac{E}{r}\sqrt{\frac{L}{C}}$$
次に、\(V_a(t)\) の式に \(V_1\) と \(\omega\) を代入します。
$$V_a(t) = -\left(\frac{E}{r}\sqrt{\frac{L}{C}}\right) \sin\left(\frac{t}{\sqrt{LC}}\right)$$
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 過渡現象におけるCとLの振る舞い: スイッチ操作の「直後」と「十分時間後」で、コンデンサー(C)とコイル(L)をどう見なすか(導線 or 開路)が全ての基本です。
- 直後: Cは電圧を保とうとする(電荷ゼロなら電圧ゼロで「導線」)。Lは電流を保とうとする(電流ゼロなら「開路」)。
- 十分時間後(直流): Cは充電完了で「開路」。Lは電流一定で「導線」。
- 状態の不変性: スイッチを切り替える瞬間をまたいで、コンデンサーの電荷(電圧)とコイルの電流は連続的で、値がジャンプしない。 これが過渡現象を解く最強のツールです。
- LC回路のエネルギー保存: 抵抗がないLC回路では、静電エネルギーと磁気エネルギーの合計は常に一定です。 この法則から、電圧・電流・電荷の最大値を求めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 抵抗Rを含むRLC回路の減衰振動の問題。
- ダイオードなど、非線形素子を含む回路の過渡現象。
- 交流電源に接続されたRLC回路の共振現象。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 時間軸を意識する: 「直後」「途中」「十分時間後」のどの時点の話かを明確にする。
- CとLの役割を特定する: その時点でCとLが「導線」「開路」「電池」「定電流源」のどれに近い役割を果たすかを見極める。
- 保存則を探す: 回路が切り替わるとき、「何が保存されるか(Cの電荷、Lの電流)」、閉じた回路で「何が保存されるか(エネルギー、キルヒホッフの法則)」を見つける。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- CとLの振る舞いの混同:
- 現象: スイッチON直後のCを「開路」、Lを「導線」と逆に覚えてしまう。
- 対策: 「Cは電圧を溜める」「Lは電流を流し続ける」という性質から、電圧が0のCはショート、電流が0のLは断線、と原理から毎回思い出すようにする。
- キルヒホッフの法則の適用ミス:
- 現象: 複雑な回路で、電流の分岐や電圧降下の符号を間違える。
- 対策: 回路図に自分で電流の矢印を書き込み、ループの向きを決めて、機械的に「上がる(+)」「下がる(-)」を適用するルールを徹底する。
- LC振動の初期条件の誤り:
- 現象: 問(5)と問(6)のように、コンデンサーのエネルギーから始まるか、コイルのエネルギーから始まるかで振動の位相が変わるのに、混同してしまう。
- 対策: 必ず振動が始まる直前(t=0)のQとiの値を明確にし、エネルギーがどちらに偏っているかを確認する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 水槽モデル: コンデンサーを「電圧(水位)をためる水槽」、コイルを「慣性で回り続ける重い水車」、抵抗を「流れを妨げる狭いパイプ」、電池を「水を汲み上げるポンプ」とイメージする。スイッチ操作で水路が切り替わったときの水の流れを想像すると、現象を直感的に理解しやすい。
- 等価回路の描き直し: 「直後」や「十分時間後」の状態に合わせて、CやLを導線や開路に描き直した単純な回路図を横に描くと、計算ミスが劇的に減る。
- 振動のコマ送り図: LC振動では、模範解答の図のように、1/4周期ごとの電荷と電流の分布図を描くことで、電位や電流の変化を視覚的に追跡できる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- キルヒホッフの法則:
- 選定理由: 複数の素子が複雑に絡み合った回路で、電圧と電流の関係を網羅的に記述できる普遍的な法則だから。特に充電・放電の「途中」を解析するのに必須。
- LC回路のエネルギー保存則:
- 選定理由: 抵抗がない理想的なLC回路では、エネルギーの散逸がなく、力学的エネルギー保存則と同様に強力なツールとなるから。最大値・最小値を求める問題で特に有効。
- \(Q=CV\), \(U_C = \frac{1}{2}CV^2\), \(U_L = \frac{1}{2}Li^2\):
- 選定理由: 各素子の状態(電荷、電圧、電流)とそのエネルギーを関係づける定義式・基本公式だから。これらなくして定量的な議論は始まらない。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 状況設定の把握: スイッチの状態を正確に読み取り、どの素子が回路に含まれているかを確認する。
- 時点の特定: 「直後」「途中」「十分時間後」のどの時点について問われているかを確認する。
- C/Lのモデル化: 特定した時点に応じて、CとLを「導線」「開路」などにモデル化し、回路を単純化する。
- 法則の選択: 単純化した回路に応じて、オームの法則、キルヒホッフの法則、エネルギー保存則など、最も適した法則を選択して立式する。
- 不変量の適用: スイッチ切り替えをまたぐ場合は、Cの電荷やLの電流が不変であることを利用して、初期条件を設定する。
- 計算実行: 立てた式を連立したり、代入したりして、問われている物理量を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の取り扱い: 特にキルヒホッフの法則の計算では、分数の足し引きや通分が多く発生する。焦らず、一行ずつ丁寧に計算を進める。
- 単位の意識: 最終的な答えの単位が物理的に正しいか(時間は秒、電荷はクーロンなど)を常に意識する。例えば \( \sqrt{LC} \) の単位が時間になることを知っていると、周期の公式を覚えやすく、また検算にも使える。
- 状況ごとの図の描き分け: A, B, C, Dの各状況で、有効な回路図をそれぞれ別に描く。一つの図に情報を書き込みすぎると混乱のもとになる。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 定性的な確認:
- 充電電流は時間とともに減少するか?放電電流も減少するか? → OK
- LC振動で、電荷が最大のとき電流はゼロか?電流が最大のとき電荷はゼロか? → OK
- 極端な条件での検討:
- もし内部抵抗 \(r\) がゼロなら、問(1)の初期電流は無限大に発散する。これは物理的にあり得ないが、モデルの上ではそうなると理解する。
- もし抵抗 \(R\) が非常に大きければ、問(3)の充電完了時の電圧 \(V_C\) は起電力 \(E\) に近づくはず。式で \(R \to \infty\) の極限をとると、\(\frac{R}{R+r}E \to E\) となり、確かに一致する。
問題48
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、「交流回路」における各素子の振る舞いと、「直流回路」における「過渡現象」という、電磁気学の2つの重要テーマを巧みに組み合わせた総合問題です。一見すると複雑ですが、それぞれの場面でどの物理法則が主役になるかを見極めることで、パズルを解くように素子の正体を明らかにできます。
- X, Y, Z はそれぞれ抵抗、コンデンサー、コイルのいずれか1つ。
- 交流回路(図1, 2):
- X, Y, Z を直列に接続。
- Xを流れる電流の最大値: \(I_0 = 2 \, \text{A}\)
- Xにかかる電圧の最大値: \(V_0 = 100 \, \text{V}\)
- Zにかかる電圧の最大値: \(V_1 = 50 \, \text{V}\)
- 図2のグラフから、Xの電圧は電流より位相が \(\pi/2\) (90°) 遅れている。
- 図2のグラフから、交流の周期は \(T = 4.0 \times 10^{-2} \, \text{s}\)。
- 直流回路(図3):
- 直流電源(起電力\(E\))、20Ωの抵抗、スイッチS、そして素子XとYを接続。
- Sを閉じた直後、Sを流れる電流は \(2 \, \text{A}\)。
- Sを閉じて十分な時間が経った後、Sを流れる電流は \(5 \, \text{A}\) で一定になった。
- コイルと電源の内部抵抗は無視できる。コンデンサーの初期電荷は0。
- (1) X, Y, Zの正体と、それぞれの抵抗値\(R\)、電気容量\(C\)、自己インダクタンス\(L\)の値。
- (2) 図1の交流回路における平均消費電力。
- (3) 図1でZにかかる電圧が0になる時刻。
- (4) 図1で特定の時刻における電源電圧の瞬時値。
- (5) 図3で十分時間が経った後にSを開いた直後のXの電圧と、その後に発生する総ジュール熱。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、探偵が手がかりを集めて真相を突き止めるのに似ています。
- ステップA (Xの特定): まず、最も情報が明確な図1, 2の交流回路のデータ(位相差)から、素子Xの正体を特定し、その値を計算します。
- ステップB (Y, Zの特定): 次に、図3の直流回路の過渡現象のデータ(スイッチON直後と十分後の電流値)を手がかりに、残るYとZの正体を推理します。
- ステップC (Y, Zの値の計算): Y, Zの正体が確定したら、図3のデータからYの値を、そして再び図1のデータからZの値を計算します。
- ステップD (各設問への解答): すべての素子の正体と値が判明すれば、あとは各設問の状況に応じて、交流回路の知識やエネルギー保存則を適用して計算を進めることができます。
問 (1)
思考の道筋とポイント
この設問は、3つの未知の素子X, Y, Zを特定し、その値を求める、この問題全体の根幹をなすパートです。交流回路の情報と直流回路の情報をパズルのピースのように組み合わせていきます。
- まず図1の交流回路の情報からXの正体を特定します。図2の電圧と電流の位相差に注目します。
- Xの値を計算します。
- 次に図3の直流回路の情報を使ってYとZの正体を特定します。「S閉直後」と「十分時間後」のコイルの振る舞いを利用して、問題の条件と矛盾しないかを確認します。
- Yが抵抗と分かったら、2つの時点の電流値から、電源電圧Eと抵抗値Rを連立方程式で解きます。
- Zがコンデンサーと確定したので、図1の交流回路の情報に戻り、Cの値を計算します。
具体的な解説と立式
[1. Xの正体とLの計算]
図2のグラフで、電圧\(v\)(点線)は電流\(i\)(実線)より位相が \(\pi/2\) 進んでいます。 この特性を持つ素子はコイルです。
コイルの電圧と電流の最大値の関係は \(V_0 = \omega L I_0\) です。 図2から、周期 \(T=4.0 \times 10^{-2}\) s なので、角周波数 \(\omega\) は、
$$ \omega = \frac{2\pi}{T} \quad \cdots ① $$
したがって、自己インダクタンス \(L\) は以下の式から求められます。
$$ L = \frac{V_0}{\omega I_0} \quad \cdots ② $$
[2. YとZの正体とR, Eの計算]
Xがコイルであることから、YとZは抵抗とコンデンサーのどちらかです。これを図3の直流回路で判断します。
- スイッチを閉じた直後: コイルXは「断線」とみなせます。
- 十分時間が経った後: コイルXは「導線」とみなせます。
もしYがコンデンサーなら、直後も十分後も回路の抵抗が同じになり、電流値が変化しないため、問題文の「2A → 5A」という事実と矛盾します。 したがって、Yは抵抗であり、Zはコンデンサーであると結論できます。
Yが抵抗(抵抗値\(R\))であるとして、図3の条件から起電力\(E\)と\(R\)を求めます。
- 直後: 電流は \(20\Omega\) の抵抗と抵抗Y(\(R\))を直列に流れます。
$$ E = (R + 20) \times 2 \quad \cdots ③ $$ - 十分後: 電流は \(20\Omega\) の抵抗とコイルX(導線)を流れます。
$$ E = 20 \times 5 \quad \cdots ④ $$
[3. Z(コンデンサー)のCの計算]
Zがコンデンサーと確定したので、図1の交流回路の条件から電気容量\(C\)を求めます。
コンデンサーの電圧と電流の最大値の関係は \(V_1 = \displaystyle\frac{1}{\omega C} I_0\) です。
$$ C = \frac{I_0}{\omega V_1} \quad \cdots ⑤ $$
- 角周波数: \(\omega = 2\pi/T\)
- コイルのリアクタンス: \(V_0 = \omega L I_0\)
- コンデンサーのリアクタンス: \(V_1 = I_0 / (\omega C)\)
- 直流過渡現象のルール
Lの計算:
式①から \(\omega = \frac{2\pi}{4.0 \times 10^{-2}} = 50\pi \, [\text{rad/s}]\)。
式②に各値を代入します。(\(\pi \approx 3.14\)として計算)
$$ L = \frac{100}{(50\pi) \times 2} = \frac{1}{\pi} \approx 0.32 \, [\text{H}] $$
RとEの計算:
式④から \(E = 20 \times 5 = 100 \, [\text{V}]\)。
これを式③に代入して \(100 = (R + 20) \times 2\)。 これを解いて、\(R = 30 \, [\Omega]\)。
Cの計算:
式⑤に値を代入します。
$$ C = \frac{2}{(50\pi) \times 50} = \frac{2}{2500\pi} \approx 2.5 \times 10^{-4} \, [\text{F}] $$
L ≈ 0.32 H, R = 30 Ω, C ≈ 2.5×10⁻⁴ F
問 (2)
思考の道筋とポイント
交流回路において、平均的な電力を消費するのは抵抗のみです。 コイルとコンデンサーはエネルギーを消費しません。 したがって、抵抗Y(\(R\))で消費される電力のみを考えればよく、計算には電流の「実効値」を用います。
具体的な解説と立式
平均消費電力 \(P\) は、抵抗値 \(R\) と電流の実効値 \(I_e\) を用いて、以下の式で与えられます。
$$ P = R I_e^2 \quad \cdots ⑥ $$
電流の実効値 \(I_e\) は、最大値 \(I_0\) と \(I_e = \displaystyle\frac{I_0}{\sqrt{2}}\) の関係にあります。
電流の実効値は \(I_e = \frac{2}{\sqrt{2}} \, [\text{A}]\)。
これを式⑥に、問(1)で求めた \(R=30\,\Omega\) と共に代入します。
$$ P = 30 \times \left(\frac{2}{\sqrt{2}}\right)^2 = 30 \times 2 = 60 \, [\text{W}] $$
問 (3)
思考の道筋とポイント
Z(コンデンサー)にかかる電圧 \(v_C\) が0になる時刻を求めます。直列回路なので、流れる電流 \(i\) は共通です。 コンデンサーでは、電流の位相が電圧より\(\pi/2\)進みます。 この関係から、電圧が0になるのは、電流の大きさが最大になる瞬間です。
具体的な解説と立式
電流 \(i\) のグラフ(図2実線)で、その大きさが最大(正または負のピーク)になる時刻を探せば、それが \(v_C=0\) となる時刻です。
図2のグラフから、電流 \(i\) が最大値または最小値をとる時刻を読み取ります。
$$ t = 1 \times 10^{-2}, 3 \times 10^{-2}, 5 \times 10^{-2} \, [\text{s}] $$
問 (4)
思考の道筋とポイント
キルヒホッフの第2法則より、任意の時刻において、電源電圧は各素子にかかる電圧の和に等しいです (\(v_{電源} = v_X + v_Y + v_Z\))。 指定された時刻における各素子の電圧をグラフや計算から求め、それらを合計します。
具体的な解説と立式
[ケース1: \(t = 1 \times 10^{-2}\) s]
この時刻では、図2より電流は最大値 \(i = I_0 = 2 \, \text{A}\)、コイルの電圧は \(v_X = 0 \, \text{V}\) です。 抵抗の電圧は \(v_Y = R \times i\)、コンデンサーの電圧は問(3)より \(v_Z = 0 \, \text{V}\) です。
[ケース2: \(t = 4 \times 10^{-2}\) s]
この時刻では、図2より電流は \(i = 0 \, \text{A}\)、コイルの電圧は最大値 \(v_X = V_0 = 100 \, \text{V}\) です。 抵抗の電圧は \(v_Y = R \times i = 0\)。 コンデンサーの電圧 \(v_Z\) は、電流が0でこれから増加する瞬間なので、負の最大値をとります (\(v_Z = -V_1 = -50 \, \text{V}\))。
[ケース1: \(t = 1 \times 10^{-2}\) s]
$$ v_{電源} = v_X + v_Y + v_Z = 0 + (30 \times 2) + 0 = 60 \, [\text{V}] $$
[ケース2: \(t = 4 \times 10^{-2}\) s]
$$ v_{電源} = v_X + v_Y + v_Z = 100 + 0 + (-50) = 50 \, [\text{V}] $$
問 (5)
思考の道筋とポイント
図3の直流回路で十分時間が経った後、スイッチSを開く過渡現象の問題です。
- Sを開いた直後: 「コイルの電流は急に変化できない」という不変性がポイントです。 開く直前にコイルXに流れていた電流が、Sを開いた瞬間にコイルXと抵抗Yからなる閉回路を流れ続けます。 このときの抵抗Yにかかる電圧が、そのままコイルXの電圧になります。
- 発生するジュール熱: コイルに蓄えられていた磁気エネルギーが、すべて抵抗Yでジュール熱として消費されます。
具体的な解説と立式
[1. Sを開いた直後のXの電圧]
- 開く直前の電流: 十分時間が経った状態なので、コイルXは導線。電流は20Ω抵抗とXを流れるので、\(I = E/20 = 100/20 = 5\,\text{A}\) です。
- 開いた直後: コイルはこの電流 \(I=5\,\text{A}\) を維持しようと、自身が電源のように振る舞い、コイルXと抵抗Y(\(R=30\,\Omega\))からなる閉回路に電流を流します。
このとき、抵抗Y(\(R\))にかかる電圧の大きさ \(V_R\) は、
$$ V_R = R \times I \quad \cdots ⑭ $$
模範解答の解釈に従うと、b点に対してa点の電位は負となります。
[2. 発生するジュール熱]
コイルXに蓄えられていた磁気エネルギー \(U_L\) が、すべて抵抗Yで発生するジュール熱 \(H\) になります。
$$ H = U_L = \frac{1}{2}LI^2 \quad \cdots ⑮ $$
Xの電圧:
式⑭に \(R=30\,\Omega, I=5\,\text{A}\) を代入します。
$$ V_R = 30 \times 5 = 150 \, [\text{V}] $$
aのbに対する電位は、\(-150 \, [\text{V}]\)。
ジュール熱:
式⑮に \(L \approx 0.32\,\text{H}, I=5\,\text{A}\) を代入します。
$$ H = \frac{1}{2} \times 0.32 \times 5^2 = 4.0 \, [\text{J}] $$
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 素子の同定プロセス: この問題の最大の醍醐味は、交流回路における「位相差」の情報と、直流回路における「過渡現象」の情報を組み合わせることで、ブラックボックスであるX, Y, Zの正体を論理的に突き止める点にあります。
- 時間変化の理解: 交流(周期的変化)、過渡現象(一時的な変化)、定常状態(変化の終わり)という、異なる時間スケールでの電気回路の振る舞いを正確に理解し、使い分ける能力が試されています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 未知の素子を特定する問題では、「仮定」と「検証」のプロセスが有効です。 例えば、Yがコンデンサーだと仮定した場合に、問題文の条件と矛盾が生じることを示すことで、Yが抵抗であると結論付けました。
- 交流回路の瞬時値を扱う問題では、グラフを正確に読み取り、位相関係を考慮して各素子の電圧を計算することが重要です。キルヒホッフの法則は瞬時値でも成り立ちます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 最大値と実効値の混同:
- 現象: 消費電力の計算で最大値を使ってしまう。
- 対策: 「電力・熱量計算は実効値」と徹底する。最大値と実効値の関係 (\(I_e = I_0 / \sqrt{2}\)) を正確に使う。
- 位相関係の誤り:
- 現象: コイルとコンデンサーで、電圧と電流のどちらの位相が進む(遅れる)のかを混同する。
- 対策: 「コイル(L)は電流(i)を遅らせる」のように語呂で覚えるか、グラフの形で視覚的に覚える。
- 直流過渡現象のルールの混同:
- 現象: スイッチON「直後」と「十分後」でのコイル・コンデンサーの振る舞いを逆にしてしまう。
- 対策:「Cは溜めるから最初は空っぽ(導線)、最後は満杯(断線)」「Lは嫌がるから最初は動かず(断線)、最後は慣れてスルー(導線)」のように、性質から理解する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- 直流回路(図3)で、スイッチON直後と十分後で電流値が異なることから、「回路の抵抗が時間とともに変化した」と読み解きます。これは、最初は「断線」だったコイルが、やがて「導線」に変わり、抵抗Yがショートされたためと推測できます。
- 問(4)のように瞬時値を扱う際には、各素子の電圧のグラフを頭の中や紙の上に描いてみると、全体の電圧の足し算がイメージしやすくなります。
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