「名問の森」徹底解説(34〜36問):未来の得点力へ!完全マスター講座【波動Ⅱ・電磁気・原子】

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問題34 (奈良女子大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、複数の長い直線電流が互いに力を及ぼし合う状況を分析する、電磁気学の総合問題です。電流がその周囲に磁場(磁界)を作り、その磁場が別の電流に力を及ぼす、という一連の相互作用を、ベクトルを用いて定量的に計算する力が試されます。xyz座標系が設定されているため、力や磁場の「向き」を座標軸に基づいて正確に捉えることが、正解への鍵となります。

与えられた条件
  • 導線P: x=-r を通りz軸に平行。電流Iをz軸正の向きに流す。
  • 導線Q: x=+r を通りz軸に平行。電流Iをz軸負の向きに流す。
  • 導線R: y=d (x=0) を通りz軸に平行。電流Iをz軸負の向きに流す(※問(2)以降)。
  • 導線S: 位置(x, y)は未知。電流2Iを流す(※問(3)以降)。
  • 物理定数: 真空の透磁率を \(\mu_0\) とする。
問われていること
  • (1) 導線Pの長さ \(l\) の部分が受ける力の大きさと向き。
  • (2) 導線Rの長さ \(l\) の部分が受ける力の大きさと向き。
  • (3) 導線Rに働く力がつり合うときの、導線Sの位置(x, y座標)と電流の向き(2通り)。
  • (コラムQ) 導線Qの電流をz軸「正」の向きに変えた場合の、(2)と(3)の問いに対する答え。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くための武器は、電流と磁場の関係を支配する2つの基本的な法則です。

  1. アンペールの法則(右ネジの法則): 電流は、その進行方向に右ネジを進めたときにネジが回る向きに、同心円状の磁場を作ります。直線電流から距離rだけ離れた点の磁場の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) で与えられます。
  2. 電磁力(フレミングの左手の法則): 電流が磁場の中から受ける力です。力の向きはフレミングの左手の法則(中指:電流、人差し指:磁場、親指:力)で決まり、その大きさは \(F = IBl = I(\mu_0 H)l\) で計算できます。

この問題のように複数の電流が登場する場合、ある導線が受ける力は、それ以外のすべての電流が作る磁場をベクトルとして足し合わせ(重ね合わせ)、その合成磁場から力を受ける、と考えます。あるいは、導線間に直接働く力(同方向の電流なら引力、逆方向なら反発力)をそれぞれ計算し、その力をベクトルとして合成するというアプローチも非常に有効です。

問 (1)

思考の道筋とポイント
導線Pが受ける力は、導線Qを流れる電流がPの位置に作る磁場によって生じます。したがって、思考のステップは2段階です。

  1. 導線QがPの位置に作る磁場 \(\vec{H_Q}\) の大きさと向きを求める。
  2. その磁場 \(\vec{H_Q}\) の中で、導線Pを流れる電流 \(I\) が受ける力 \(\vec{F_P}\) を計算する。

具体的な解説と立式
1. QがPの位置に作る磁場:
導線Q(x=+r)から導線P(x=-r)までの距離は \(r – (-r) = 2r\) です。導線Qにはz軸負の向き(紙面の奥向き)に電流が流れています。右ネジの法則を用いると、Pの位置(x=-r)では、Qが作る磁場はy軸の正の向きを向きます。
その磁場の強さ \(H_Q\) は、アンペールの法則の公式より、
$$H_Q = \frac{I}{2\pi (\text{距離})} = \frac{I}{2\pi (2r)} = \frac{I}{4\pi r} \quad \cdots ①$$
2. Pが受ける電磁力:
この磁場(強さ\(H_Q\), 向きはy軸正)の中で、導線Pにはz軸正の向き(紙面の手前向き)に電流Iが流れています。フレミングの左手の法則(電:手前、磁:上)を適用すると、力の向きはx軸の負の向き(左向き)となります。
力の大きさ \(F_P\) は、\(F=I(\mu_0 H)l\) の公式より、
$$F_P = I_P \cdot (\mu_0 H_Q) \cdot l = I \cdot \mu_0 \left( \frac{I}{4\pi r} \right) \cdot l \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 直線電流が作る磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
  • 電磁力: \(F = I(\mu_0 H)l\)
計算過程

式②を整理して、力の大きさを求めます。
$$F_P = \frac{\mu_0 I^2 l}{4\pi r}$$

計算方法の平易な説明

まず、Qの電流がPの場所にどれくらいの強さの磁場を作っているかを計算します。PとQの距離は2rなので、公式から磁場の強さが求まります。次に、その磁場がPにいる電流に及ぼす力を、フレミングの左手の法則(向き)と力の公式(大きさ)を使って計算します。また、PとQの電流は互いに逆向きなので「反発力(斥力)」が働くと知っていれば、PがQから離れる向き、つまりx軸負の向きに力を受けることが直感的に分かります。

結論と吟味

Pの長さ\(l\)の部分が受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{\mu_0 I^2 l}{4\pi r}\) [N]で、向きはx軸の負の向きです。これは、逆向きに流れる平行電流間には反発力が働くという法則とも完全に一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) 大きさ: \(\displaystyle\frac{\mu_0 I^2 l}{4\pi r}\)、向き: x軸の負の向き

問 (2)

思考の道筋とポイント
導線Rは、導線Pと導線Qの両方から力を受けます。これは、Rの位置(y軸上の点C)にPとQがそれぞれ磁場を作り、Rはその「合成された磁場」から力を受ける、と考えるのがスマートです。

  1. PがC点に作る磁場 \(\vec{H_P}\) と、QがC点に作る磁場 \(\vec{H_Q}\) の大きさと向きをそれぞれ求める。
  2. 2つの磁場ベクトルを足し合わせて(ベクトル合成)、C点における合成磁場 \(\vec{H_c}\) を求める。
  3. 合成磁場 \(\vec{H_c}\) の中で、導線Rに流れる電流が受ける力 \(\vec{F_R}\) を計算する。

この問題は対称性が高いので、ベクトルの合成が計算を簡単にする鍵となります。

具体的な解説と立式
1. P, QがC点に作る磁場:
C点(0, d, 0)とP(-r, 0, 0)、Q(r, 0, 0)の間の距離は、三平方の定理よりどちらも \(\sqrt{r^2+d^2}\) です。
したがって、PとQがC点に作る磁場の強さ \(H_P, H_Q\) は等しくなります。
$$H_P = H_Q = \frac{I}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}} \quad \cdots ①$$
2. 磁場のベクトル合成:
C点をxy平面で見たとき、

  • Pの電流(z正:手前向き)が作る磁場 \(\vec{H_P}\) は、右ネジの法則より、線分PCに垂直な向き(左上向き)です。
  • Qの電流(z負:奥向き)が作る磁場 \(\vec{H_Q}\) は、右ネジの法則より、線分QCに垂直な向き(右上向き)です。

この2つのベクトルは、y軸に対して対称な向きと大きさを持つため、ベクトル合成すると x成分は互いに打ち消し合い、y成分(正の向き)は強めあいます。
PCとy軸のなす角を \(\theta\) とすると、合成磁場 \(H_c\) の大きさは、それぞれの磁場のy成分(\(H_P \cos\theta\))の2倍になります。
$$H_c = (H_P \cos\theta) \times 2 \quad \cdots ②$$
図から、\(\cos\theta = \displaystyle\frac{r}{\sqrt{r^2+d^2}}\) と読み取れます。
3. Rが受ける電磁力:
合成磁場 \(\vec{H_c}\) はy軸正の向きです。この中で、導線Rにはz軸負の向き(奥向き)に電流Iが流れています。フレミングの左手の法則(電:奥、磁:上)を適用すると、力の向きはx軸の正の向き(右向き)となります。
力の大きさ \(F_R\) は、
$$F_R = I_R \cdot (\mu_0 H_c) \cdot l = I \cdot \mu_0 H_c \cdot l \quad \cdots ③$$

計算過程

まず、式①と \(\cos\theta\) の値を式②に代入して、合成磁場 \(H_c\) を求めます。
$$H_c = \left( \frac{I}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}} \right) \cdot \left( \frac{r}{\sqrt{r^2+d^2}} \right) \times 2 = \frac{2Ir}{2\pi (r^2+d^2)} = \frac{Ir}{\pi(r^2+d^2)}$$
次に、この \(H_c\) を式③に代入して、力 \(F_R\) を求めます。
$$F_R = I \cdot \mu_0 \cdot \left( \frac{Ir}{\pi(r^2+d^2)} \right) \cdot l = \frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}$$

別解1: 力を直接合成する方法
思考の道筋とポイント
磁場を介さずに、導線間に働く力を直接計算して合成することもできます。

  1. PとRの間に働く力 \(\vec{F_{PR}}\) と、QとRの間に働く力 \(\vec{F_{QR}}\) の大きさと向きをそれぞれ求める。
  2. 2つの力ベクトルを足し合わせて(ベクトル合成)、合成力 \(\vec{F_R}\) を求める。

具体的な解説と立式
1. 導線間に働く力:
平行な直線電流間に働く力の大きさの公式は \(F = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2 l}{2\pi (\text{距離})}\) です。
PとR、QとRの間の距離はともに \(\sqrt{r^2+d^2}\) なので、力の大きさ \(F_{PR}\) と \(F_{QR}\) は等しくなります。
$$F_{PR} = F_{QR} = \frac{\mu_0 I \cdot I \cdot l}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}} = \frac{\mu_0 I^2 l}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}} \quad \cdots ④$$
2. 力の向きとベクトル合成:

  • P(z正向き)とR(z負向き)は逆行電流なので、反発力が働きます。力 \(\vec{F_{PR}}\) は、PからRを遠ざける向き(右上向き)です。
  • Q(z負向き)とR(z負向き)は平行電流なので、引力が働きます。力 \(\vec{F_{QR}}\) は、RをQに引き寄せる向き(右下向き)です。

この2つの力をベクトル合成すると、対称性から y成分は互いに打ち消し合い、x成分(正の向き)は強めあいます。
線分PCとx軸のなす角を \(\alpha\) とすると、合成力 \(F_R\) の大きさは、それぞれの力のx成分(\(F_{PR} \cos\alpha\))の2倍になります。
$$F_R = (F_{PR} \cos\alpha) \times 2 \quad \cdots ⑤$$
図から、\(\cos\alpha = \displaystyle\frac{r}{\sqrt{r^2+d^2}}\) です。

計算過程

式④と \(\cos\alpha\) の値を式⑤に代入します。
$$F_R = \left( \frac{\mu_0 I^2 l}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}} \right) \cdot \left( \frac{r}{\sqrt{r^2+d^2}} \right) \times 2 = \frac{2 \mu_0 I^2 rl}{2\pi (r^2+d^2)} = \frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}$$
これはメインの解法と完全に一致します。

結論と吟味

Rの長さlの部分が受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}\) [N]で、向きはx軸の正の向きです。対称的な配置により、力がちょうど真横(x軸方向)を向くことが、どちらの解法からも確認できました。

解答 (2) 大きさ: \(\displaystyle\frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}\)、向き: x軸の正の向き

問 (3)

思考の道筋とポイント
導線Rに働く力 \(\vec{F_R}\) は、(2)で求めた通り、x軸正の向きです。この力を打ち消して「つり合わせる」ためには、導線SがRに対して、大きさが同じで向きが正反対の力、つまり x軸負の向き の力を及ぼす必要があります。そのような力を発生させるSの位置と電流の向きの組み合わせは、SをRの右に置くか左に置くかで2通り考えられます。

具体的な解説と立式
1. SがRに及ぼす力 \(\vec{F_S}\) の条件:
Rに働く力をつり合わせるための、Sが及ぼす力 \(F_S\) の条件は、

  • 大きさ: \(F_S = F_R = \displaystyle\frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}\)
  • 向き: x軸負の向き

2. Sの位置と電流の向きの検討:
Rにx軸負の向きの力を及ぼすためには、SはRと同じ高さ(y=d)の平面上に置くのが最も効率的です。

  • ケースA (反発力でつり合わせる): Rにx軸負の向きの反発力を及ぼすには、SはRの右側(x>0)にあり、かつRとは逆向きの電流(z軸正の向き)を流す必要があります。
  • ケースB (引力でつり合わせる): Rにx軸負の向きの引力を及ぼすには、SはRの左側(x<0)にあり、かつRと同じ向きの電流(z軸負の向き)を流す必要があります。

3. SとRの距離の計算:
どちらのケースでも、SとRの間の距離を \(x_S\) とします。S(電流2I)とR(電流I)の間に働く力の大きさの公式は、
$$F_S = \frac{\mu_0 I_R \cdot I_S \cdot l}{2\pi (\text{距離})} = \frac{\mu_0 I \cdot (2I) \cdot l}{2\pi x_S} = \frac{\mu_0 I^2 l}{\pi x_S} \quad \cdots ①$$
4. 力のつり合いの式:
\(F_S = F_R\) の条件から、
$$\frac{\mu_0 I^2 l}{\pi x_S} = \frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)} \quad \cdots ②$$

計算過程

式②の両辺の共通項(\(\mu_0, I^2, l, \pi\))をすべて消去すると、非常にシンプルな関係式が残ります。
$$\frac{1}{x_S} = \frac{r}{r^2+d^2}$$
これを解いて、SとRの間の距離 \(x_S\) を求めます。
$$x_S = \frac{r^2+d^2}{r}$$
この距離を使って、2つのケースのSの座標と電流の向きを答えます。

  • ケースA (反発力): SはR(x=0, y=d)の右側に距離 \(x_S\) の位置。
    • 座標: \((\displaystyle\frac{r^2+d^2}{r}, d)\)
    • 電流の向き: z軸正の向き
  • ケースB (引力): SはR(x=0, y=d)の左側に距離 \(x_S\) の位置。
    • 座標: \((-\displaystyle\frac{r^2+d^2}{r}, d)\)
    • 電流の向き: z軸負の向き

別解1: 磁場を打ち消す方法
思考の道筋とポイント
導線Rに働く力がゼロになる、ということは、導線Rの位置(C点)における合成磁場がゼロになることを意味します(ただし、R自身の電流が作る磁場は除く)。つまり、PとQが作る合成磁場 \(\vec{H_c}\) を、Sが作る磁場 \(\vec{H_S}\) で完全に打ち消せばよいのです。
具体的な解説と立式
磁場を打ち消す条件は \(\vec{H_S} + \vec{H_c} = 0\)、つまり \(\vec{H_S} = -\vec{H_c}\) です。
\(\vec{H_c}\) は(2)で求めた通り、大きさ \(\displaystyle\frac{Ir}{\pi(r^2+d^2)}\) で向きはy軸正の向きです。
したがって、SがC点に作る磁場 \(\vec{H_S}\) は、同じ大きさで y軸負の向き を持つ必要があります。SとC点の距離を \(x_S\) とすると、Sが作る磁場の大きさは \(H_S = \displaystyle\frac{2I}{2\pi x_S} = \displaystyle\frac{I}{\pi x_S}\) です。
大きさが等しいという条件から、
$$\frac{I}{\pi x_S} = \frac{Ir}{\pi(r^2+d^2)} \quad \rightarrow \quad x_S = \frac{r^2+d^2}{r}$$
Sがy軸負の向きの磁場を作るためには、メインの解法と同様に2つのケースが考えられ、同じ結論に至ります。

結論と吟味

答えは2通り存在します。Sを置く位置によって、引力でつり合わせるか、反発力でつり合わせるかが決まり、それに伴って電流の向きも変わります。どちらか一方だけでなく、両方の可能性を考慮することが重要です。

解答 (3)
① 座標: \((\displaystyle\frac{r^2+d^2}{r}, d)\)、電流の向き: z軸正の向き
② 座標: \((-\displaystyle\frac{r^2+d^2}{r}, d)\)、電流の向き: z軸負の向き

【コラム】Q. Qの電流をz軸正の向きに変えた場合

思考の道筋とポイント
Qの電流の向きが変わったことで、PとQが作る磁場や、それによってRが受ける力の向きが根本的に変わります。しかし、解法のステップ(力をベクトル合成し、それとつり合う力を考える)は全く同じです。

具体的な解説と立式
問(2)の答え (Qの電流がz正向きの場合):
1. 力の向きの変化:

  • P(z正)とR(z負)の間には、逆行電流なので反発力が働きます(左上向き)。
  • Q(z正)とR(z負)の間にも、逆行電流なので反発力が働きます(右上向き)。

2. ベクトル合成:
この2つの反発力をベクトル合成します。対称性から、今度は x成分が互いに打ち消し合い、y成分(正の向き)が強めあいます。
したがって、合成力 \(F_R’\) はy軸正の向きになります。
力の大きさは、それぞれの力のy成分(\(F_1 \sin\theta\))の2倍です。ここで \(F_1 = \displaystyle\frac{\mu_0 I^2 l}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}}\) であり、\(\sin\theta = \displaystyle\frac{d}{\sqrt{r^2+d^2}}\) です。
$$F_R’ = (F_1 \sin\theta) \times 2 = \left( \frac{\mu_0 I^2 l}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}} \right) \cdot \left( \frac{d}{\sqrt{r^2+d^2}} \right) \times 2$$

問(3)の答え (Qの電流がz正向きの場合):
1. 力のつり合い:
Rに働く力 \(F_R’\) (y軸正の向き) を打ち消すには、SはRに y軸負の向き の力を及ぼす必要があります。そのためには、SはRの真上か真下(つまりy軸上)に置かなければなりません。
2. SとRの距離の計算:
SがRに及ぼす力の大きさ \(F_S\) と \(F_R’\) が等しいという条件から、SとRの間の距離Dを求めます。
$$F_S = \frac{\mu_0 I \cdot (2I) \cdot l}{2\pi D} = F_R’$$
$$\frac{\mu_0 I^2 l}{\pi D} = \frac{\mu_0 I^2 ld}{\pi(r^2+d^2)} \quad \rightarrow \quad D = \frac{r^2+d^2}{d}$$
3. Sの位置と電流の向き:

  • ケースA (引力でつり合わせる): y軸負の向きの引力を働かせるには、SをRの下 (y<d) に置き、Rと同じ向きの電流(z軸負の向き)を流します。
    Sのy座標: \(y = d – D = d – \frac{r^2+d^2}{d} = -\frac{r^2}{d}\)。x座標は0。
  • ケースB (反発力でつり合わせる): y軸負の向きの反発力を働かせるには、SをRの上 (y>d) に置き、Rと逆向きの電流(z軸正の向き)を流します。
    Sのy座標: \(y = d + D = d + \frac{r^2+d^2}{d} = \frac{d^2+r^2+d^2}{d} = \frac{r^2+2d^2}{d}\)。x座標は0。
計算過程

問(2)の計算:
$$F_R’ = \frac{2 \mu_0 I^2 ld}{2\pi (r^2+d^2)} = \frac{\mu_0 I^2 ld}{\pi(r^2+d^2)}$$
問(3)の計算:
距離Dは上記の通り \(D = \displaystyle\frac{r^2+d^2}{d}\) です。
よって、2通りの答えは、

  • 座標: \((0, -\displaystyle\frac{r^2}{d})\), 電流の向き: z軸負の向き
  • 座標: \((0, \displaystyle\frac{r^2+2d^2}{d})\), 電流の向き: z軸正の向き
Qの解答
(2) 大きさ: \(\displaystyle\frac{\mu_0 I^2 ld}{\pi(r^2+d^2)}\)、向き: y軸の正の向き
(3) ① 座標: \((0, -\displaystyle\frac{r^2}{d})\)、電流の向き: z軸負の向き
② 座標: \((0, \displaystyle\frac{r^2+2d^2}{d})\)、電流の向き: z軸正の向き

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 場の考え方と重ね合わせの原理: この問題の最も重要な概念です。複数の電流がある場合、ある点での磁場や、ある導線が受ける力は、各電流が単独で及ぼす磁場や力を「ベクトルとして」足し合わせたものになる、という「重ね合わせの原理」を体現しています。
  • ベクトルの分解と合成: 力や磁場というベクトル量を、x, y成分に分解したり、系の対称性を利用して特定の成分が打ち消しあうことを見抜いたりと、ベクトルを自在に扱う計算能力が不可欠です。
  • 電磁気の基本法則の適用: 「電流→磁場(右ネジの法則)」と「磁場+電流→力(フレミングの左手の法則)」という2つの基本法則を、向きと大きさの両方で正確に適用できることが全ての基礎となります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 電場や重力場の問題: 「重ね合わせの原理」と「ベクトル合成」は、複数の点電荷が作る電場や、複数の質点が作る重力場を求める問題でも全く同じように使えます。物理分野を超えた普遍的な思考ツールです。
    • 円電流やソレノイドが作る磁場: この問題は直線電流でしたが、電流の形が変わっても、「まず磁場を求め、次に力を計算する」という基本的な思考フローは共通しています。
    • 力のつり合い全般: (3)やQ(3)のように、力のつり合いを考える問題では、力のベクトル図を正確に描き、各方向の成分ごとに「力の和=0」の式を立てることが基本戦略となります。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 系の対称性を探す: 複雑な配置に見えても、どこかに対称性(例:y軸対称)が隠れていることが多いです。対称性を見つければ、ベクトル計算が劇的に楽になります(例:x成分が消える)。
    2. 2つのアプローチを使い分ける: 「磁場を合成してから力を求める」方法と、「力を直接計算してから合成する」方法の2通りがあることを知っておくと、問題に応じて解きやすい方を選んだり、検算に使ったりできます。
    3. 力のつり合いから原因を逆算する: (3)のように「結果(つり合い)」から「原因(Sの位置と電流)」を求める問題では、どのような力が必要かをまず考え、その力を発生させる条件を論理的に探していきます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 向きの決定ミス:
    • 現象: 右ネジの法則とフレミングの左手の法則の適用を誤り、磁場や力の向きを90度や180度間違えてしまう。特に3次元の座標系では混乱しやすい。
    • 対策: 面倒くさがらずに、実際に手や指を使って確認する。xy平面に図を描き、z軸の向き(手前/奥)を記号(\(\odot, \otimes\))で明確にすることで、3次元の関係を2次元に落とし込んで考えるとミスが減る。
  • ベクトルのスカラー和:
    • 現象: ベクトル量を、向きを無視して大きさだけを足し算・引き算してしまう。
    • 対策: 必ず図を描き、ベクトルを図示する。ベクトルの合成は、平行四辺形の法則や成分計算で行うことを徹底する。
  • 引力と反発力の混同:
    • 現象: 「平行電流は引力、逆行電流は反発力」というルールを逆に覚えてしまう。
    • 対策: もし忘れても、右ネジとフレミングの法則に立ち返れば、2本の導線間に働く力が引力か反発力かはいつでもその場で導出できる。ルールは暗記の補助として使い、原理を理解しておく。
  • 解が複数ある可能性の見落とし:
    • 現象: (3)やQ(3)で、力のつり合いを達成する方法が1つしかないと思い込んでしまう。
    • 対策: 「引力でつり合わせる場合」と「反発力でつり合わせる場合」の両方の可能性を常に検討する習慣をつける。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
    • 磁力線を「渦」としてイメージする: 電流が流れる導線を芯として、その周りに磁力線が渦を巻いているイメージを持つ。右ネジの法則は、その渦の向きを決めるルールです。
    • 「場の考え方」を可視化する: 空間の各点に、Pが作る磁場ベクトルとQが作る磁場ベクトルが「生えている」と想像する。Rが置かれたC点では、その2つのベクトルが合成された結果、1つの磁場ベクトルになっている、というイメージが重要です。
    • 平面への射影: 3次元のxyz空間で考えるのは難しいので、xy平面に注目して図を描くのが極めて有効でした。電流の向きは、紙面に垂直な向きを示す記号(\(\odot\):手前向き、\(\otimes\):奥向き)を使って表現することで、2次元の図で3次元の状況を正確に把握できます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) (直線電流の磁場):
    • 選定理由: 問題で与えられているのが「十分長い直線導線」であるため。この公式は、アンペールの法則を無限長の直線電流に適用して導かれた結果。
    • 適用根拠: 電流が磁場の源であり、その影響は距離に反比例して弱まるという電磁気学の基本性質。
  • \(F = I(\mu_0 H)l\) (電磁力):
    • 選定理由: 磁場(\(H\))がわかっている状況で、そこにある電流(\(I\))が受ける力を計算するために用いる。
    • 適用根拠: 運動する荷電粒子が磁場から受けるローレンツ力を、導線中の多数の電子の流れ(電流)としてマクロな力に書き直したもの。
  • \(F = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2 l}{2\pi d}\) (平行電流間の力):
    • 選定理由: (別解で用いた) 2本の直線電流間に働く力を直接計算したい場合に便利。
    • 適用根拠: 上記2つの公式を組み合わせた結果に相当。「導線1が作る磁場」を力の公式のHに代入すると、この式が導かれる。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 力の原因を特定する: どの導線が、どの導線に力を及ぼすのか、その相互作用のペアを全てリストアップする。
  2. アプローチを選択する:
    • [A] 磁場を合成するアプローチ: 各原因電流が作る磁場ベクトルを計算 → それらをベクトル合成 → 合成磁場から最終的な力を計算。
    • [B] 力を合成するアプローチ: 各原因電流との間に働く力ベクトルを直接計算 → それらをベクトル合成。
  3. ベクトルを図示する: xy平面などの適切な平面に、全ての磁場ベクトルまたは力ベクトルを、向きと大きさを意識して描き出す。
  4. ベクトル計算を実行する: 図を元に、対称性を利用したり、成分に分解したりして、正確にベクトル和を計算する。
  5. つり合いの条件を適用する: (3)やQ(3)のように、つり合いが問われている場合は、求めた力のベクトル和がゼロになる(\(\sum \vec{F} = 0\))という条件式を立てて、未知数を解く。
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問題35 (立教大)

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