問題34 (奈良女子大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、複数の長い直線電流が互いに力を及ぼし合う状況を分析する、電磁気学の総合問題です。電流がその周囲に磁場(磁界)を作り、その磁場が別の電流に力を及ぼす、という一連の相互作用を、ベクトルを用いて定量的に計算する力が試されます。xyz座標系が設定されているため、力や磁場の「向き」を座標軸に基づいて正確に捉えることが、正解への鍵となります。
- 導線P: \(x=-r\) を通りz軸に平行。電流\(I\)をz軸正の向きに流す。
- 導線Q: \(x=+r\) を通りz軸に平行。電流\(I\)をz軸負の向きに流す。
- 導線R: \(y=d\) (\(x=0\)) を通りz軸に平行。電流\(I\)をz軸負の向きに流す(問(2)以降)。
- 導線S: 位置\((x, y)\)は未知。電流\(2I\)を流す(問(3)以降)。
- 物理定数: 真空の透磁率を \(\mu_0\) とする。
- (1) 導線Pの長さ \(l\) の部分が受ける力の大きさと向き。
- (2) 導線Rの長さ \(l\) の部分が受ける力の大きさと向き。
- (3) 導線Rに働く力がつり合うときの、導線Sの位置(x, y座標)と電流の向き(2通り)。
- (コラムQ) 導線Qの電流をz軸「正」の向きに変えた場合の、(2)と(3)の問いに対する答え。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 問(2)の別解: 力を直接合成する解法
- 主たる解法が、各電流が作る「磁場」をベクトル合成し、その合成磁場から力を計算するのに対し、別解では各電流間に働く「力」を直接計算し、その力ベクトルを合成します。
- 問(3)の別解: 磁場を打ち消す解法
- 主たる解法が、力のつり合いの観点から解くのに対し、別解では「導線Rに力が働かない」=「導線Rの位置で、他の電流が作る合成磁場がゼロになる」という、より物理現象の根源に遡った考え方で解きます。
- 問(2)の別解: 力を直接合成する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「場」の考え方(磁場を介して力が伝わる)と、より直接的な「作用・反作用」の考え方(導線間に直接力が働く)の両方を学ぶことで、電磁気現象への理解が多角的になります。
- 解法の選択肢: 問題の状況によっては、力を直接合成する方が直感的であったり、磁場を考える方が計算が楽であったりします。複数のアプローチを知ることで、最適な解法を選択する能力が養われます。
- 検算への応用: 異なるアプローチで同じ結論を導くことは、自身の計算の正しさを確認する強力な手段となります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「複数の直線電流が及ぼし合う力」です。電流が周囲に磁場を作り、その磁場が他の電流に力を及ぼす、という電磁気学の基本連鎖を、ベクトルを用いて正確に計算することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アンペールの法則(右ネジの法則): 直線電流 \(I\) が、距離 \(r\) だけ離れた点に作る磁場の強さは \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) であり、その向きは電流の向きに右ネジを進めたときのネジの回転方向になります。
- 電磁力(フレミングの左手の法則): 磁場(磁束密度 \(B = \mu_0 H\))の中から、電流 \(I\) が受ける力の大きさは \(F = IBl\) で与えられ、その向きはフレミングの左手の法則に従います。
- 重ね合わせの原理: 複数の電流源がある場合、ある点が受ける磁場や力は、それぞれの電流源が単独で及ぼす磁場や力をベクトルとして足し合わせたものになります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、導線Qが導線Pの位置に作る磁場を求め、その磁場からPが受ける力を計算します。
- 問(2)では、導線PとQが導線Rの位置に作る磁場をそれぞれ求め、ベクトルとして合成します。その合成磁場からRが受ける力を計算します。
- 問(3)では、問(2)で求めた力を打ち消すような力を、導線Sが及ぼすと考え、力のつり合いの式を立ててSの位置と電流の向きを決定します。
問(1)
思考の道筋とポイント
導線Pが受ける力は、導線Qを流れる電流がPの位置に作る磁場によって生じます。したがって、まずQがPの位置に作る磁場の大きさと向きを求め、次にその磁場の中でPの電流が受ける力の大きさと向きを計算するという、2段階のプロセスで考えます。
この設問における重要なポイント
- 導線PとQの間の距離を正確に求める。
- 右ネジの法則を使って、Qが作る磁場の向きを決定する。
- フレミングの左手の法則を使って、Pが受ける力の向きを決定する。
- 逆向きに流れる平行電流間には「反発力」が働くことを知っていると、向きの確認が容易になる。
具体的な解説と立式
まず、導線Q(位置 \(x=r\))が導線P(位置 \(x=-r\))の位置に作る磁場を考えます。
2つの導線間の距離は \(r – (-r) = 2r\) です。
導線Qにはz軸負の向きに電流 \(I\) が流れているので、右ネジの法則により、導線Pの位置にはy軸正の向きの磁場が作られます。その磁場の強さ \(H_Q\) は、
$$
\begin{aligned}
H_Q &= \frac{I}{2\pi (2r)}
\end{aligned}
$$
となります。
次に、この磁場(磁束密度 \(B_Q = \mu_0 H_Q\))の中で、z軸正の向きに電流 \(I\) が流れる導線Pが受ける力を考えます。
フレミングの左手の法則(電流:z軸正の向き、磁場:y軸正の向き)を適用すると、力の向きはx軸の負の向きとなります。
力の大きさ \(F_P\) は、長さ \(l\) の部分について、
$$
\begin{aligned}
F_P &= I (\mu_0 H_Q) l
\end{aligned}
$$
と表せます。
使用した物理公式
- 直線電流が作る磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
- 電磁力: \(F = I(\mu_0 H)l\)
立式した \(H_Q\) を \(F_P\) の式に代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
F_P &= I \cdot \mu_0 \left( \frac{I}{4\pi r} \right) \cdot l \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I^2 l}{4\pi r}
\end{aligned}
$$
この問題は、まず「Qの電流が、Pのいる場所にどんな影響を与えているか?」を考えます。Qは自分の周りに渦を巻くような磁場を作っており、Pの場所ではその磁場は上向き(y軸正の向き)になっています。次に、「その磁場の中で、Pの電流がどうなるか?」を考えます。上向きの磁場の中で、手前向き(z軸正の向き)に電流が流れると、フレミングの左手の法則に従って左向き(x軸負の向き)に力が働きます。また、PとQの電流は互いに逆向きなので「反発しあう力」が働くと知っていれば、PがQから離れる向き、つまり左向きに力を受けることがすぐにわかります。
導線Pの長さ \(l\) の部分が受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{\mu_0 I^2 l}{4\pi r}\) で、向きはx軸の負の向きです。これは、逆向きに流れる平行電流間には反発力が働くという法則と完全に一致しており、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
導線Rは、導線Pと導線Qの両方から力を受けます。このような場合、それぞれの電流がRの位置に作る磁場をベクトルとして足し合わせ(重ね合わせ)、その「合成磁場」からRが受ける力を一度に計算するのが効率的です。PとQの配置がy軸に対して対称的であるため、ベクトル合成の際に成分が打ち消しあうことを見抜くのがポイントです。
この設問における重要なポイント
- P、QからRまでの距離が等しいことに気づく。
- P、QがRの位置に作る磁場をそれぞれベクトルとして図示する。
- 対称性を利用して、合成磁場の向きと大きさを正しく求める。
具体的な解説と立式
導線Rはy軸上の点C \((0, d, 0)\) を通ります。
導線P \((-r, 0, 0)\) と導線Q \((r, 0, 0)\) から点Cまでの距離は、三平方の定理より等しく、\(\sqrt{r^2+d^2}\) です。
したがって、PとQが点Cに作る磁場の強さ \(H_P\) と \(H_Q\) は等しくなります。
$$
\begin{aligned}
H_P &= H_Q \\[2.0ex]
&= \frac{I}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}}
\end{aligned}
$$
次に、これらの磁場の向きを考え、ベクトル合成します。
- Pの電流(z軸正)が作る磁場 \(\vec{H}_P\) は、線分PCに垂直で左上を向きます。
- Qの電流(z軸負)が作る磁場 \(\vec{H}_Q\) は、線分QCに垂直で右上を向きます。
この2つのベクトルを合成すると、対称性からx成分は打ち消し合い、y成分のみが残ります。合成磁場 \(\vec{H}_c\) はy軸の正の向きを向きます。
線分PCとy軸のなす角を \(\theta\) とすると、図から \(\cos\theta = \displaystyle\frac{r}{\sqrt{r^2+d^2}}\) とわかります。
合成磁場の強さ \(H_c\) は、各磁場のy成分の和なので、
$$
\begin{aligned}
H_c &= H_P \cos\theta + H_Q \cos\theta \\[2.0ex]
&= 2 H_P \cos\theta
\end{aligned}
$$
となります。
この合成磁場 \(H_c\) の中で、z軸負の向きに電流 \(I\) が流れる導線Rが受ける力を考えます。
フレミングの左手の法則(電流:z軸負の向き、磁場:y軸正の向き)を適用すると、力の向きはx軸の正の向きとなります。
力の大きさ \(F_R\) は、
$$
\begin{aligned}
F_R &= I (\mu_0 H_c) l
\end{aligned}
$$
と表せます。
使用した物理公式
- 直線電流が作る磁場: \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\)
- ベクトルの合成(重ね合わせの原理)
- 電磁力: \(F = I(\mu_0 H)l\)
まず、合成磁場 \(H_c\) の大きさを計算します。
$$
\begin{aligned}
H_c &= 2 \left( \frac{I}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}} \right) \cdot \left( \frac{r}{\sqrt{r^2+d^2}} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2Ir}{2\pi (r^2+d^2)} \\[2.0ex]
&= \frac{Ir}{\pi(r^2+d^2)}
\end{aligned}
$$
次に、この \(H_c\) を用いて力 \(F_R\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
F_R &= I \cdot \mu_0 \left( \frac{Ir}{\pi(r^2+d^2)} \right) \cdot l \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}
\end{aligned}
$$
導線Rは、左にいるPと右にいるQの両方から磁場の影響を受けます。PはRの場所に「左上向き」の磁場を作り、Qは「右上向き」の磁場を作ります。この二つの磁場が合わさると、左右の成分はちょうど打ち消しあって、真上を向く合成磁場だけが残ります。R君は、この真上向きの磁場の中で奥に向かって進んでいる(電流が流れている)ので、フレミングの左手の法則により、右向きに力を受けることになります。
導線Rの長さ \(l\) の部分が受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}\) で、向きはx軸の正の向きです。対称的な配置から、力がちょうど真横(x軸方向)を向くという結果は直感的にも理解しやすく、妥当であると言えます。
思考の道筋とポイント
磁場を介さずに、導線PとR、QとRの間に働く力をそれぞれ直接計算し、それらの力ベクトルを合成することでも答えを求められます。このアプローチでは、「平行電流は引力、逆行電流は反発力」というルールが役立ちます。
この設問における重要なポイント
- PとR、QとRの電流の向きの関係(逆行か平行か)を正しく判断する。
- 引力と反発力の向きをベクトルとして正確に図示する。
- 対称性を利用してベクトルを合成する。
具体的な解説と立式
平行な直線電流 \(I_1, I_2\) が距離 \(d\) を隔てて流れているとき、長さ \(l\) の部分に働く力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2 l}{2\pi d}\) です。
PとR、QとRの間の距離はともに \(\sqrt{r^2+d^2}\) なので、働く力の大きさ \(F_{PR}\) と \(F_{QR}\) は等しくなります。
$$
\begin{aligned}
F_{PR} &= F_{QR} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I \cdot I \cdot l}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I^2 l}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}}
\end{aligned}
$$
次に、力の向きを考えます。
- P(z正)とR(z負)は逆行電流なので、反発力が働きます。力 \(\vec{F}_{PR}\) は、RをPから遠ざける向き(右上向き)です。
- Q(z負)とR(z負)は平行電流なので、引力が働きます。力 \(\vec{F}_{QR}\) は、RをQに引き寄せる向き(右下向き)です。
この2つの力ベクトルを合成すると、対称性からy成分は打ち消し合い、x成分のみが残ります。合成力 \(\vec{F}_R\) はx軸の正の向きを向きます。
線分PCとx軸のなす角を \(\alpha\) とすると、図から \(\cos\alpha = \displaystyle\frac{r}{\sqrt{r^2+d^2}}\) とわかります。
合成力の大きさ \(F_R\) は、各力のx成分の和なので、
$$
\begin{aligned}
F_R &= F_{PR} \cos\alpha + F_{QR} \cos\alpha \\[2.0ex]
&= 2 F_{PR} \cos\alpha
\end{aligned}
$$
となります。
使用した物理公式
- 平行電流間に働く力: \(F = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2 l}{2\pi d}\)
- ベクトルの合成
立式した関係式に値を代入して計算します。
$$
\begin{aligned}
F_R &= 2 \left( \frac{\mu_0 I^2 l}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}} \right) \cdot \left( \frac{r}{\sqrt{r^2+d^2}} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2 \mu_0 I^2 rl}{2\pi (r^2+d^2)} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}
\end{aligned}
$$
この解き方では、磁場を考えずに、電流同士の相性で考えます。Rは、Pとは逆向きの電流なので「反発」して右上に押されます。一方、Qとは同じ向きの電流なので「引き合って」右下に引かれます。この「右上への力」と「右下への力」が合わさると、上下の動きはキャンセルされ、結果的にRは真右に動かされることになります。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。物理現象を「場」を介して捉えるか、直接的な「力」の作用として捉えるかの違いであり、どちらも正しいアプローチです。
問(3)
思考の道筋とポイント
問(2)で、導線Rにはx軸正の向きに力 \(\vec{F}_R\) が働くことがわかりました。この力を打ち消してつり合わせるためには、導線SがRに対して、大きさが同じで向きが正反対の力、つまりx軸負の向きの力を及ぼす必要があります。この条件を満たすSの位置と電流の向きの組み合わせを考えます。「引力」でつり合わせる場合と「反発力」でつり合わせる場合の2通りが存在することに注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 力のつり合いの条件(大きさが同じで向きが逆)を明確にする。
- SがRにx軸負の向きの力を及ぼすための配置を考える。
- 引力(平行電流)と反発力(逆行電流)の2つの可能性を網羅する。
具体的な解説と立式
導線Rに働く力をつり合わせるため、導線SがRに及ぼす力 \(\vec{F}_S\) は、問(2)で求めた力 \(\vec{F}_R\) と逆向きで同じ大きさでなければなりません。
$$
\begin{aligned}
F_S &= F_R \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}
\end{aligned}
$$
この力 \(\vec{F}_S\) の向きは、x軸の負の向きです。
この力を発生させるため、SをR \((0, d, 0)\) と同じ高さ、つまりy座標が \(d\) の直線上に置くことを考えます。SとRの間の距離を \(x_S\) とします。
Sには \(2I\) の電流が流れているので、SとR(電流 \(I\))の間に働く力の大きさは、
$$
\begin{aligned}
F_S &= \frac{\mu_0 I_R \cdot I_S \cdot l}{2\pi (\text{距離})} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I \cdot (2I) \cdot l}{2\pi x_S} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I^2 l}{\pi x_S}
\end{aligned}
$$
となります。
力のつり合いの条件 \(F_S = F_R\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{\mu_0 I^2 l}{\pi x_S} = \frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}
\end{aligned}
$$
この式から、SとRの間の距離 \(x_S\) が求まります。
この距離を保ちつつ、x軸負の向きの力を実現する組み合わせは2通り考えられます。
- ケースA(反発力): Rに左向きの反発力を及ぼすには、SをRの右側に置き、R(z負)とは逆向き(z軸正)の電流を流します。
- ケースB(引力): Rに左向きの引力を及ぼすには、SをRの左側に置き、R(z負)と同じ向き(z軸負)の電流を流します。
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)
- 平行電流間に働く力: \(F = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2 l}{2\pi d}\)
まず、力のつり合いの式から距離 \(x_S\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{\mu_0 I^2 l}{\pi x_S} &= \frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)} \\[2.0ex]
\frac{1}{x_S} &= \frac{r}{r^2+d^2} \\[2.0ex]
x_S &= \frac{r^2+d^2}{r}
\end{aligned}
$$
この距離 \(x_S\) を用いて、2つのケースのSの座標と電流の向きを決定します。
- ケースA(反発力): SはR \((0, d)\) の右側に距離 \(x_S\) の位置。
- 座標: \(x = x_S = \displaystyle\frac{r^2+d^2}{r}\), \(y = d\)
- 電流の向き: z軸正の向き
- ケースB(引力): SはR \((0, d)\) の左側に距離 \(x_S\) の位置。
- 座標: \(x = -x_S = -\displaystyle\frac{r^2+d^2}{r}\), \(y = d\)
- 電流の向き: z軸負の向き
問(2)で、Rは右向きに力を受けていることがわかりました。このままだとRは右に動いてしまうので、助っ人のSを呼んできて、左向きに力をかけてもらい、その場で静止させるのがこの問題です。Sが左向きの力をかける方法は2通りあります。一つは、Rの右側に立って「押す」方法(反発力)。もう一つは、Rの左側に立って「引っ張る」方法(引力)です。電流の世界では、「押す」なら逆向きの電流、「引っ張る」なら同じ向きの電流を流せばよいので、この2パターンの位置と電流の向きが答えになります。
力のつり合いを達成する方法として、引力と反発力の両方の可能性を考慮することで、2通りの解が得られました。物理的な条件を満足する解が複数存在することはよくあり、すべての可能性を検討する姿勢が重要です。
思考の道筋とポイント
導線Rに働く力がゼロになる、ということは、R自身の電流が作る磁場を除いて、Rの位置における合成磁場がゼロになることを意味します。つまり、PとQが作る合成磁場 \(\vec{H}_c\) を、Sが作る磁場 \(\vec{H}_S\) で完全に打ち消す、という条件で解くことができます。
この設問における重要なポイント
- \(F=0\) と \(H_{\text{合成}}=0\) が同値であると理解する。
- Sが作るべき磁場の向きと大きさを特定する。
- その磁場を生成するSの位置と電流の向きを決定する。
具体的な解説と立式
Rの位置(点C)で力がつりあう条件は、P, Q, Sが作る合成磁場がゼロになることです。
$$
\begin{aligned}
\vec{H}_c + \vec{H}_S = \vec{0}
\end{aligned}
$$
問(2)より、PとQが作る合成磁場 \(\vec{H}_c\) は、y軸正の向きで、大きさは \(H_c = \displaystyle\frac{Ir}{\pi(r^2+d^2)}\) です。
したがって、Sが点Cに作るべき磁場 \(\vec{H}_S\) は、y軸負の向きで、大きさは \(H_S = H_c\) でなければなりません。
Sと点Cの距離を \(x_S\) とすると、S(電流 \(2I\))が作る磁場の大きさは、
$$
\begin{aligned}
H_S &= \frac{2I}{2\pi x_S} \\[2.0ex]
&= \frac{I}{\pi x_S}
\end{aligned}
$$
大きさが等しいという条件から、
$$
\begin{aligned}
\frac{I}{\pi x_S} = \frac{Ir}{\pi(r^2+d^2)}
\end{aligned}
$$
この式を解けば距離 \(x_S\) が求まります。
Sが点Cにy軸負の向きの磁場を作るためには、
- SをCの右側(x>0)に置き、z軸正の向きの電流を流す(反時計回りの磁場)。
- SをCの左側(x<0)に置き、z軸負の向きの電流を流す(時計回りの磁場)。
という2つの可能性があります。
磁場の大きさが等しいという式から、
$$
\begin{aligned}
x_S = \frac{r^2+d^2}{r}
\end{aligned}
$$
となり、主たる解法と同じ距離が得られます。Sの位置と電流の向きの組み合わせも、主たる解法と全く同じ結論に至ります。
「力のつり合い」を「磁場の打ち消し」という視点から捉え直した解法です。物理現象のより根源的なレベルで問題を解いていると言え、同じ結果にたどり着くことで、解答の正しさがより確かなものになります。
① 座標: \((\displaystyle\frac{r^2+d^2}{r}, d)\)、電流の向き: z軸正の向き
② 座標: \((-\displaystyle\frac{r^2+d^2}{r}, d)\)、電流の向き: z軸負の向き
【コラム】Q. Qの電流をz軸正の向きに変えた場合
思考の道筋とポイント
Qの電流の向きが変わったことで、PとQの配置の対称性が変化します。以前は逆行電流のペアでしたが、今度は平行電流のペアになります。これにより、Rが受ける力の向きが根本的に変わります。しかし、解法のステップ(力をベクトル合成し、それとつり合う力を考える)は全く同じです。
具体的な解説と立式
問(2)の答え(Qの電流がz正向きの場合)
P(z正)とQ(z正)は、ともにR(z負)とは逆行電流になります。したがって、PとRの間、QとRの間には、どちらも反発力が働きます。
- \(\vec{F}_{PR}\) は、RをPから遠ざける向き(右上向き)。
- \(\vec{F}_{QR}\) は、RをQから遠ざける向き(左上向き)。
この2つの反発力をベクトル合成します。力の大きさは問(2)の別解で計算した \(F_1 = \displaystyle\frac{\mu_0 I^2 l}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}}\) と同じです。
今度は対称性から、x成分が互いに打ち消し合い、y成分(正の向き)が強めあいます。
合成力 \(\vec{F}_R’\) はy軸正の向きになります。
線分PRとy軸のなす角を \(\theta\) とすると、\(\sin\theta = \displaystyle\frac{d}{\sqrt{r^2+d^2}}\) です。
合成力の大きさ \(F_R’\) は、各力のy成分の和なので、
$$
\begin{aligned}
F_R’ &= F_1 \sin\theta + F_1 \sin\theta \\[2.0ex]
&= 2 F_1 \sin\theta
\end{aligned}
$$
問(3)の答え(Qの電流がz正向きの場合)
Rに働く力 \(F_R’\)(y軸正の向き)を打ち消すには、SはRにy軸負の向きの力を及ぼす必要があります。そのためには、SはRの真上か真下、つまりy軸上に置かなければなりません。
SとRの間の距離を \(D\) とします。SがRに及ぼす力の大きさ \(F_S\) と \(F_R’\) が等しいという条件から、力のつり合いの式を立てます。
$$
\begin{aligned}
F_S = F_R’
\end{aligned}
$$
ここで、\(F_S\) は \(F_S = \displaystyle\frac{\mu_0 I \cdot (2I) \cdot l}{2\pi D}\) です。この式から距離 \(D\) が求まります。
y軸負の向きの力を実現するには、2つのケースが考えられます。
- ケースA(引力): SをRの下(y<d)に置き、R(z負)と同じ向き(z軸負)の電流を流します。
- ケースB(反発力): SをRの上(y>d)に置き、R(z負)と逆向き(z軸正)の電流を流します。
問(2)の計算:
$$
\begin{aligned}
F_R’ &= 2 \left( \frac{\mu_0 I^2 l}{2\pi \sqrt{r^2+d^2}} \right) \cdot \left( \frac{d}{\sqrt{r^2+d^2}} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{2 \mu_0 I^2 ld}{2\pi (r^2+d^2)} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_0 I^2 ld}{\pi(r^2+d^2)}
\end{aligned}
$$
問(3)の計算:
まず、力のつり合いの式から距離 \(D\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{\mu_0 I \cdot (2I) \cdot l}{2\pi D} &= \frac{\mu_0 I^2 ld}{\pi(r^2+d^2)} \\[2.0ex]
\frac{\mu_0 I^2 l}{\pi D} &= \frac{\mu_0 I^2 ld}{\pi(r^2+d^2)} \\[2.0ex]
\frac{1}{D} &= \frac{d}{r^2+d^2} \\[2.0ex]
D &= \frac{r^2+d^2}{d}
\end{aligned}
$$
この距離 \(D\) を用いて、2つのケースのSの座標を求めます。
- ケースA(引力): Sのy座標は \(y = d – D = d – \displaystyle\frac{r^2+d^2}{d} = \displaystyle\frac{d^2 – (r^2+d^2)}{d} = -\displaystyle\frac{r^2}{d}\)。
- ケースB(反発力): Sのy座標は \(y = d + D = d + \displaystyle\frac{r^2+d^2}{d} = \displaystyle\frac{d^2 + r^2+d^2}{d} = \displaystyle\frac{r^2+2d^2}{d}\)。
(2) 大きさ: \(\displaystyle\frac{\mu_0 I^2 ld}{\pi(r^2+d^2)}\)、向き: y軸の正の向き
(3) ① 座標: \((0, -\displaystyle\frac{r^2}{d})\)、電流の向き: z軸負の向き
② 座標: \((0, \displaystyle\frac{r^2+2d^2}{d})\)、電流の向き: z軸正の向き
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 場の考え方と重ね合わせの原理:
- 核心: この問題は、「電流がその周囲に磁場(場)を作り、その磁場が別の電流に力を及ぼす」という電磁気学の根幹をなす考え方を扱っています。複数の電流源がある場合、ある点での磁場や、ある導線が受ける力は、各電流が単独で及ぼす磁場や力を「ベクトルとして」足し合わせたものになる、という「重ね合わせの原理」を正しく適用できるかが問われます。
- 理解のポイント:
- 原因と結果の分離: まず、力を受ける導線以外のすべての電流が、その場所にどのような「場(合成磁場)」を作っているかを考えます。
- ベクトル和: 各電流が作る磁場ベクトルを、向きを考慮して正確に足し合わせます。
- 力の計算: 最後に、その合成された場の中で、力を受ける導線がどのような力を受けるかを計算します。この思考プロセスは、電場や重力場の問題にも共通する、物理学の普遍的なアプローチです。
- ベクトルの分解と合成:
- 核心: 磁場や力は向きを持つ「ベクトル量」であるため、その計算はベクトルのルールに従わなければなりません。特に、この問題のように対称的な配置がなされている場合、ベクトルを適切に成分分解することで、特定の成分が打ち消しあうことを見抜き、計算を大幅に簡略化できます。
- 理解のポイント:
- 図示の徹底: 必ずxy平面などの見やすい図を描き、力や磁場のベクトルを矢印で書き込みます。
- 対称性の利用: 図を見て、系の対称性(例:y軸対称)を見つけます。対称性があれば、ベクトル和を計算する際に、特定の方向の成分がゼロになる可能性が高いです。
- 成分計算: 対称性がない場合や、複雑な場合には、各ベクトルをx成分とy成分に分解し、成分ごとに足し算・引き算を行います。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 複数の点電荷が作る電場・電位: 複数の点電荷がある点に作る電場を求める問題は、本問の磁場を合成する考え方と全く同じです。電場はベクトルなので重ね合わせ、電位はスカラーなのでそのまま足し算します。
- 円電流やソレノイドの中心軸上の磁場: 電流の形状が直線から円やコイルに変わっても、「微小な電流部分が作る磁場を考え、それを全体で積分(足し合わせ)する」という重ね合わせの原理が基本となります。
- クーロン力や万有引力のつり合い: 複数の荷電粒子や天体の間で働く力を考え、ある物体が静止するためのつり合い条件を求める問題は、本問の(3)と全く同じ構造をしています。
- 初見の問題での着眼点:
- 系の対称性を探す: 複雑な配置の問題ほど、まず対称性がないかを探します。対称性を見つければ、計算量が激減し、見通しが格段に良くなります。本問(2)ではy軸対称性が鍵でした。
- 2つのアプローチを意識する: 「磁場を合成してから力を求める」方法と、「導線間の力を直接計算して合成する」方法の2通りがあることを知っておくと、問題に応じて解きやすい方を選んだり、検算に利用したりできます。
- つり合いから原因を逆算する思考: 問(3)のように「結果(つり合い)」から「原因(導線Sの位置と電流)」を求める問題では、まず「つり合いに必要な力(大きさと向き)」を特定し、次に「その力を発生させるための物理的条件は何か」を論理的に探していくという逆算の思考が有効です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向きの決定ミス:
- 誤解: 右ネジの法則とフレミングの左手の法則の適用を誤り、磁場や力の向きを90度や180度間違えてしまう。特に3次元の座標系では混乱しやすい。
- 対策: 面倒くさがらずに、実際に自分の手や指を使って確認する癖をつけます。xy平面に図を描き、z軸の向き(手前/奥)を記号(\(\odot, \otimes\))で明確にすることで、3次元の関係を2次元に落とし込んで考えるとミスが激減します。
- ベクトルのスカラー和:
- 誤解: 複数の磁場や力を合成する際に、向きを無視して大きさだけを単純に足し算・引き算してしまう。
- 対策: 「力や磁場はベクトル量である」と常に意識し、必ず図を描いてベクトルを図示します。ベクトルの合成は、平行四辺形の法則や成分計算で行うことを徹底します。
- 引力と反発力の混同:
- 誤解: 「平行電流は引力、逆行電流は反発力」という便利なルールを逆に覚えてしまう。
- 対策: もしルールを忘れても、右ネジの法則とフレミングの左手の法則という基本原理に立ち返れば、2本の導線間に働く力が引力か反発力かはいつでもその場で導出できます。ルールはあくまで暗記の補助として使い、なぜそうなるのかという原理を理解しておくことが最も確実な対策です。
- 解が複数ある可能性の見落とし:
- 誤解: 問(3)やコラムQ(3)で、力のつり合いを達成する方法が1つしかないと思い込んでしまう。
- 対策: 「引力でつり合わせる場合」と「反発力でつり合わせる場合」の両方の可能性を常に検討する習慣をつけます。「~となるような条件を求めよ」という問題では、解が複数存在する可能性を常に疑うことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(H = \displaystyle\frac{I}{2\pi r}\) (直線電流の磁場):
- 選定理由: 問題で与えられているのが「十分長い直線導線」であるため。この公式は、アンペールの法則を無限長の直線電流という理想的な状況に適用して導かれた、最も基本的な結果です。
- 適用根拠: 電流が磁場の源であり、その影響(磁場の強さ)は距離に反比例して弱まるという電磁気学の基本性質を数式化したものです。
- \(F = I(\mu_0 H)l\) (電磁力):
- 選定理由: 磁場(\(H\))がわかっている状況で、そこにある電流(\(I\))が受ける力を定量的に計算するために用います。
- 適用根拠: この公式は、磁場中を運動する個々の荷電粒子が受けるローレンツ力を、導線中の多数の自由電子の流れ(電流)としてマクロな力に書き直したものです。「場」と「物体(電流)」の相互作用を記述する基本式です。
- \(F = \displaystyle\frac{\mu_0 I_1 I_2 l}{2\pi d}\) (平行電流間の力):
- 選定理由: (別解で用いたように) 2本の直線電流間に働く力を、磁場を介さずに直接計算したい場合に便利な公式です。
- 適用根拠: この公式は、上記2つの公式を組み合わせた結果に相当します。「導線1が作る磁場 \(H_1 = \frac{I_1}{2\pi d}\)」を、力の公式 \(F = I_2(\mu_0 H_1)l\) に代入すると、この式が導かれます。つまり、より基本的な法則から導出される応用公式という位置づけです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 向きと符号のダブルチェック:
- 特に注意すべき点: フレミングの左手の法則や右ネジの法則による「向き」の決定は、計算の前提となる最重要項目です。ここで間違うと、以降の計算がすべて無意味になります。
- 日頃の練習: ベクトルを図示する際に、必ず座標軸を明記し、どの方向が正であるかを意識します。計算結果が出たら、それが物理的な直感(例:反発力だから離れる向き)と合っているかを確認する癖をつけます。
- 文字式の整理と約分:
- 特に注意すべき点: この問題のように多くの物理定数や変数(\(\mu_0, \pi, r, d, I, l\))が登場する場合、式が長くなりがちです。展開や約分の際にミスが起こりやすいです。
- 日頃の練習: 途中式を省略せず、丁寧に書くことが基本です。特に、問(3)のように、力のつり合いの式を立てると両辺で多くの項がキャンセルされることがあります。慌てて計算せず、どの項が消えるのかを冷静に見極めることが重要です。
- 三角関数の適用:
- 特に注意すべき点: ベクトルを成分分解する際に、\(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) を取り違えるミスは非常に多いです。
- 日頃の練習: 図の中に直角三角形を明確に描き出し、どの角を \(\theta\) と定義したかをはっきりさせます。「\(\theta\) を挟む辺がコサイン」のように、自分なりの覚え方で確実に適用できるようにします。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 力の向き: P(z正)とQ(z負)は逆行電流なので「反発力」が働くはずです。PはQから離れる向き、つまりx軸負の向きに力を受けるはずであり、計算結果と一致します。
- (2) 力の向き: PとQの配置はy軸に対して対称です。Rに働く力も、この対称性を反映するはずです。力がy軸やx軸といった対称軸の方向を向くのは自然な結果と言えます。もし斜め方向の答えが出たら、計算ミスを疑うべきです。
- (3) つり合いの位置: つり合いの位置 \(x_S = \displaystyle\frac{r^2+d^2}{r}\) は、\(r\) や \(d\) の値に依存しています。これは、PとQが作る磁場が場所によって変わるため、当然の結果です。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし \(d \rightarrow \infty\) なら: RがP, Qから無限に遠ざかるので、受ける力はゼロに近づくはずです。問(2)の答えの式 \(F_R = \displaystyle\frac{\mu_0 I^2 rl}{\pi(r^2+d^2)}\) で \(d \rightarrow \infty\) とすると、分母が無限大になるため \(F_R \rightarrow 0\) となり、物理的な直感と一致します。
- もし \(r \rightarrow 0\) なら: PとQが重なり、電流が打ち消しあってゼロになるので、磁場は発生せず力はゼロになるはずです。式の分子に \(r\) があるため、\(r \rightarrow 0\) で \(F_R \rightarrow 0\) となり、これも直感と一致します。
- コラムQ(2)で \(r=0\) なら: PとQがy軸上で重なり、Rもy軸上にあるので、3本の導線は同一直線上に並びます。このとき、合成力はy軸方向を向くはずです。式の形から、\(r=0\) では力がゼロになりますが、これはPとQの磁場がRの位置で完全に打ち消しあうためで、妥当な結果です。
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問題35 (立教大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、様々な形状の導体に電流を流した際に、その周囲にどのような磁場(磁界)が形成されるかを問う、アンペールの法則の応用問題です。特に、同軸ケーブルのような二重円筒構造や、空洞のある導体といった、一見すると複雑に見える状況を扱います。しかし、問題文で丁寧に誘導されている通り、「重ね合わせの原理」という強力な物理の考え方を用いることで、すでに知っている単純な問題に分解して解くことができます。
- 基本定理: 半径dの薄い中空円筒導体に電流Iを流すと、磁場は、
- 外側(\(r \ge d\)): 全電流Iが中心軸に集まった直線電流の磁場と等しい。(\(H=\displaystyle\frac{I}{2\pi r}\))
- 内側(\(r < d\)): 磁場はゼロになる。(\(H=0\))
- 問イ, ロの状況:
- 導体A: 半径aの円柱。電流Iが流れる。
- 導体B: 半径bの薄い円筒。Aとは逆向きに電流Iが流れる。
- 問ハの状況:
- 導体C: 半径3Rの円柱から、中心がRずれた位置にある半径Rの円柱状の空洞をくり抜いた導体。全体で電流Iが流れる。
- イ: 導体AとBで構成される系で、\(a \le r < b\) の領域における磁場の強さ。
- ロ: 同じく、\(r \ge b\) の領域における磁場の強さ。
- ハ: 空洞のある導体Cで、空洞の中心軸l上における磁場の強さ。
- (コラムQ): 半径Rの円柱導体に一様に電流を流したときの、中心からの距離rと磁場の強さHの関係を表すグラフの描画。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
【注記】本問については、模範解答のアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。
この問題のテーマは「アンペールの法則と重ね合わせの原理」です。様々な形状の導体を流れる電流が作る磁場を、基本法則と物理的な洞察を駆使して解き明かしていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アンペールの法則: 電流とその周りにできる磁場の関係を示す基本法則です。特に円筒対称性を持つ系では、「\(H \times (経路長) = (内部の電流)\)」という形で強力な計算ツールとなります。
- 重ね合わせの原理: 複数の原因が作る効果(この場合は磁場)は、それぞれの原因が単独で作る効果のベクトル和に等しいという、物理学の普遍的な原理です。
- 対称性: 物理系の対称性に着目することで、計算を大幅に簡略化したり、結論を予測したりすることができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問イ、ロでは、求めたい点が各導体に対して「内側」か「外側」かを判断し、アンペールの法則の結果と重ね合わせの原理を適用します。
- 問ハでは、「空洞のある物体」を「完全な物体」から「空洞部分の物体」を引いたものと見なす「補う手法」(重ね合わせの原理の応用)を用いて、複雑な問題を単純な問題の組み合わせに分解します。
- コラムQでは、アンペールの法則を用いて円柱導体の内部と外部の磁場をそれぞれ計算し、グラフにまとめます。