「名問の森」徹底解説(13〜15問):未来の得点力へ!完全マスター講座【波動Ⅱ・電磁気・原子】

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

問題13 (関西大+大阪大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、位置に依存する電場と摩擦力が働く中での荷電小物体Pの運動を扱います。Pはベルトと共に動く段階と、ベルトに対して滑りながら単振動する段階を繰り返します。各段階での力の分析と運動の記述が求められます。

与えられた条件
  • 小物体P: 質量 \(m\)、正電荷 \(q\)
  • 電場: 水平方向に \(-ax\) で表される (\(x\) は座標、\(a\) は正の定数)
  • ベルト: 水平右向きに一定の速さ \(V\) で動く
  • 摩擦係数: 静止摩擦係数 \(\mu_1\)、動摩擦係数 \(\mu_2\) (\(\mu_2 < \mu_1\))
  • 重力加速度: \(g\)
  • その他: ベルトは帯電しない
問われていること
  • (1) Pが最初に滑り出す位置 \(x_1\)
  • (2) Pが滑っているときの合力 \(F\)
  • (3) Pが最大の速さになる位置 \(x_2\)
  • (4) Pの最大の速さ \(v_m\)
  • (5) Pが右端 \(x=b\) から \(x_2\) に至るまでの時間 \(t_1\)
  • (6) Pが再び一瞬静止する(左端の)位置 \(x_3\)
  • (7) Pが再びベルトに対して静止する位置 \(x_4\)
  • (8) Pが \(x_4\) から \(x_1\) までベルトと共に動く時間 \(t_2\)
  • (コラムQ) 右端の位置 \(b\) を他の物理量で表す式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(5) 時間 \(t_1\) の別解: 単振動の運動方程式の解を利用する解法
      • 主たる解法が「周期の1/4」という単振動の性質を利用するのに対し、別解では単振動の一般式 \(x(t) = A\cos(\omega t + \phi) + x_c\) を立て、条件を代入することで直接時間を導出します。
    • 問(6), (7) 位置 \(x_3, x_4\) の別解: 単振動のエネルギー保存則を利用する解法
      • 主たる解法が運動の「対称性」という幾何学的な性質を用いるのに対し、別解ではその物理的な根拠である「エネルギー保存則」から代数的に導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「周期の性質」や「対称性」といった便利な結果が、より基本的な「運動方程式」や「エネルギー保存則」からどのように導かれるのかを追体験することで、単振動という物理モデルへの理解が深まります。
    • 計算能力の向上: 単振動の一般解の扱いや、エネルギー保存則の具体的な立式・計算に習熟することができます。
    • 異なる視点の学習: 同じ結論に至る複数の道筋を学ぶことで、問題解決における思考の柔軟性が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題は、位置に依存する電場と摩擦力が働く中での荷電小物体Pの運動を扱います。Pはベルトと共に動く段階と、ベルトに対して滑りながら単振動する段階を繰り返します。各段階での力の分析と運動の記述が求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 電場と静電気力: 電場 \(E(x)\) 中の電荷 \(q\) に働く力は \(F_{\text{電}} = qE(x)\) です。本問では \(E(x)=-ax\) なので、力は \(F_{\text{電}} = -aqx\) となり、これは原点に向かうばねの弾性力に似た性質を持ちます。
  2. 摩擦力: 物体が滑り出すまでは、外力とつりあうように静止摩擦力が働きます(最大値は \(\mu_1 N\))。滑り出した後は、一定の大きさ \(\mu_2 N\) の動摩擦力が、接触面間の相対的な運動と逆向きに働きます。
  3. 運動方程式: 物体の運動は、その物体に働く合力によって決まります (\(ma = F_{\text{合力}}\))。
  4. 単振動: 物体に働く合力が、ある定点からの変位に比例し、常にその定点を向く力(復元力)\(F = -K(x-x_c)\) で表されるとき、物体はその定点 \(x_c\) を中心として単振動します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、Pの運動を「ベルトと一体で動く等速運動のフェーズ」と「ベルトに対して滑る単振動のフェーズ」に分けます。
  2. 問(1)では、等速運動のフェーズで、静止摩擦力が最大値に達する「滑り出しの条件」を考えます。
  3. 問(2)以降では、単振動のフェーズに注目します。Pに働く合力を求め、それが単振動の復元力の形をしていることを確認します。
  4. 単振動の性質(振動中心、周期、振幅、対称性、エネルギー保存則)を利用して、各設問で問われている物理量を順に計算していきます。
  5. 問(7), (8)では、単振動のフェーズから再び等速運動のフェーズへ移行する条件を考えます。

問(1)

思考の道筋とポイント
小物体Pがベルトと共に速さ\(V\)で等速運動しているとき、Pに働く水平方向の力はつりあっています。力は、電場による左向きの力 \(aqx\) と、それを支える右向きの静止摩擦力 \(f_s\) です。Pが右へ進むにつれて \(x\) が大きくなり、左向きの電場の力も増大します。それに伴い、静止摩擦力 \(f_s\) も増大し、やがて最大静止摩擦力 \(\mu_1 mg\) に達します。この瞬間にPはベルトに対して滑り始めます。
この設問における重要なポイント

  • 滑り出す直前まで、Pは等速運動をしており、水平方向の力はつりあっている。
  • 電場による力の大きさは \(|qE| = aqx\)。
  • 滑り出す条件は、静止摩擦力が最大静止摩擦力 \(f_{s, \text{max}} = \mu_1 mg\) に等しくなること。

具体的な解説と立式
Pがベルトと共に等速運動しているとき、水平方向の力のつりあいを考えます。右向きを正とすると、右向きの静止摩擦力 \(f_s\) と左向きの電場の力 \(aqx\) がつりあっているので、
$$
\begin{aligned}
(\text{右向きの力の和}) &= (\text{左向きの力の和}) \\[2.0ex]
f_s &= aqx
\end{aligned}
$$
となります。
Pが滑り出すのは、この静止摩擦力 \(f_s\) が最大値 \(\mu_1 N = \mu_1 mg\) に達したときです。このときのPの位置を \(x_1\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\mu_1 mg &= aqx_1 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
この式を \(x_1\) について解きます。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(\vec{F}_{\text{合力}} = \vec{0}\)
  • 静電気力: \(F = qE\)
  • 最大静止摩擦力: \(f_{s, \text{max}} = \mu N\)
計算過程

式①の両辺を \(aq\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
x_1 &= \frac{\mu_1 mg}{aq}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

Pがベルトと一緒に動いている間は、左向きに引っ張る「電気の力」と、右向きに踏ん張る「静止摩擦力」が釣り合っています。Pが右に進むほど「電気の力」は強くなるので、「静止摩擦力」もだんだん強く踏ん張ります。しかし、静止摩擦力には限界(最大静止摩擦力)があります。この限界に達した瞬間に、Pはついに滑り出してしまいます。この「限界に達した」という条件で力のつりあいの式を立てて、そのときのPの位置 \(x_1\) を計算します。

結論と吟味

Pが最初に滑り出す位置 \(x_1\) は \(x_1 = \displaystyle\frac{\mu_1 mg}{aq}\) となります。この結果は、摩擦係数や質量が大きいほど滑りにくく(\(x_1\)が大きく)、電荷や電場の強さの係数が大きいほど滑りやすい(\(x_1\)が小さく)という物理的な直感と一致しています。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{\mu_1 mg}{aq}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
Pが滑り出した後、Pはベルトに対して左へ滑ります(Pの速度はまだ右向きかもしれませんが、ベルトの速度\(V\)よりは遅くなるため、相対的には左へ滑っています)。物体が接触面に対して滑っているときにはたらく摩擦力は動摩擦力です。動摩擦力の向きは、常に「相対的な運動の向き」と逆向きになります。Pはベルトに対して左へ滑るので、ベルトから受ける動摩擦力は右向きにはたらきます。
この設問における重要なポイント

  • 動摩擦力の向きは、ベルトに対するPの「相対速度」の向きと逆向き。
  • Pはベルトに対して左へ滑るので、動摩擦力は右向き(\(+x\)方向)にはたらく。
  • 動摩擦力の大きさは一定で \(f_k = \mu_2 mg\)。

具体的な解説と立式
Pがベルトに対して滑っているとき、Pに働く水平方向の力は以下の2つです。

  1. 電場による力: \(F_{\text{電}} = qE = -aqx\) (左向き)
  2. 動摩擦力: Pはベルトに対して左へ滑るので、動摩擦力は右向きにはたらく。その大きさは \(f_k = \mu_2 mg\)。

したがって、Pに働く合力 \(F\) を右向きを正として求めると、
$$
\begin{aligned}
F &= (\text{右向きの力の和}) – (\text{左向きの力の和}) \\[2.0ex]
F &= \mu_2 mg – aqx
\end{aligned}
$$
となります。解答の形式に合わせて整理すると、
$$
\begin{aligned}
F &= -aqx + \mu_2 mg \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 静電気力: \(F = qE\)
  • 動摩擦力: \(f_k = \mu N\)
計算過程

立式の通り、合力は \(F = -aqx + \mu_2 mg\) です。

この設問の平易な説明

Pがベルトの上を滑り始めると、摩擦力は「静止摩擦」から「動摩擦」に変わります。Pはベルトに対して左方向にずれていくので、ベルトはPを「行かないで!」と右向きに引き戻そうとします。これが右向きの動摩擦力です。Pには相変わらず左向きの「電気の力」も働いているので、Pに働く全体の力(合力)は、この2つの力の足し算になります。

結論と吟味

Pが滑っているときの合力は \(F = -aqx + \mu_2 mg\) となります。この式は \(F = -K(x-x_c)\) の形に変形できるため、Pが単振動することを示唆しています。

解答 (2) \(-aqx + \mu_2 mg\)

問(3)

思考の道筋とポイント
問(2)で求めた合力 \(F = -aqx + \mu_2 mg\) は、単振動の復元力の式 \(F = -K(x-x_c)\) の形に変形できます。単振動において、物体の速さが最大になるのは、加速度がゼロ、すなわち合力がゼロになる「振動中心」 \(x_c\) です。したがって、\(F=0\) となる位置 \(x\) を求めれば、それが最大の速さになる位置 \(x_2\) となります。
この設問における重要なポイント

  • 合力の式を \(F = -K(x-x_c)\) の形に変形し、単振動であることを見抜く。
  • 単振動では、振動中心(合力がゼロになる点)で速さが最大になる。

具体的な解説と立式
合力の式 \(F = -aqx + \mu_2 mg\) を変形すると、
$$
\begin{aligned}
F &= -aq \left( x – \frac{\mu_2 mg}{aq} \right)
\end{aligned}
$$
となります。これは、ばね定数に相当するものが \(K=aq\)、振動中心が \(x_c = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\) の単振動を表す復元力の式です。
速さが最大になるのは、この振動中心なので、
$$
\begin{aligned}
x_2 &= \frac{\mu_2 mg}{aq} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 単振動の復元力: \(F = -K(x-x_c)\)
計算過程

立式の通り、振動中心は \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\) です。

この設問の平易な説明

Pに働く力は、ある一点(振動の中心)に向かって、中心からの距離に比例して強くなる「引き戻す力」になっています。このような力が働くと、物体は単振動という往復運動をします。ブランコが一番速くなるのが真下の点であるように、単振動でも一番速くなるのは振動の中心です。力の式を整理して、この「中心」がどこになるかを計算します。

結論と吟味

最大の速さとなる位置 \(x_2\) は \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\) です。問(1)で求めた \(x_1 = \displaystyle\frac{\mu_1 mg}{aq}\) と比較すると、問題の条件 \(\mu_1 > \mu_2\) より \(x_1 > x_2\) となり、滑り出した点より左側に振動中心があることがわかります。これは物理的に妥当です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
最大の速さ \(v_m\) を求めます。これは単振動のエネルギー保存則を用いて求めることができます。単振動の「位置エネルギー」は \(\frac{1}{2}K(x-x_c)^2\) と表せます。単振動の右端である \(x=b\)(ここでは速さ0)と、振動中心である \(x=x_2\)(ここでは速さ \(v_m\))とで、運動エネルギーと位置エネルギーの和が保存されることを利用します。
この設問における重要なポイント

  • 単振動におけるエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}K(x-x_c)^2 = \text{一定}\)。
  • 右端 \(x=b\) では \(v=0\)。
  • 振動中心 \(x=x_2\) では \(v=v_m\) であり、位置エネルギーはゼロ。

具体的な解説と立式
単振動の有効なばね定数を \(K=aq\)、振動中心を \(x_2\) とします。
右端 \(x=b\) でのエネルギー \(E_b\) と、振動中心 \(x_2\) でのエネルギー \(E_{x_2}\) は等しくなります。
$$
\begin{aligned}
E_{x_2} &= E_b \\[4.0ex]
(\text{中心での運動エネルギー}) &+ (\text{中心での位置エネルギー}) \\[2.0ex]
= (\text{右端での運動エネルギー}) &+ (\text{右端での位置エネルギー}) \\[4.0ex]
\frac{1}{2}mv_m^2 + \frac{1}{2}aq(x_2-x_2)^2 &= \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}aq(b-x_2)^2 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mv_m^2 &= \frac{1}{2}aq(b-x_2)^2 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
この式を \(v_m\) について解きます。

使用した物理公式

  • 単振動のエネルギー保存則
計算過程

式④の両辺を \(\frac{1}{2}\) で割り、\(v_m\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
mv_m^2 &= aq(b-x_2)^2 \\[2.0ex]
v_m^2 &= \frac{aq}{m}(b-x_2)^2
\end{aligned}
$$
\(v_m > 0\) なので、正の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
v_m &= (b-x_2)\sqrt{\frac{aq}{m}}
\end{aligned}
$$
ここで、(3)の結果 \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
v_m &= \left(b – \frac{\mu_2 mg}{aq}\right)\sqrt{\frac{aq}{m}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

単振動では、「運動の勢い(運動エネルギー)」と「ばねの伸び縮みによるエネルギー(位置エネルギー)」の合計が常に一定です。運動の端っこ(\(x=b\))では勢いがゼロになり、位置エネルギーが最大になります。逆に、運動の中心(\(x=x_2\))では位置エネルギーがゼロになり、勢いが最大になります。この「端っこのエネルギー」と「中心のエネルギー」が等しい、という式を立てて、最大の速さ \(v_m\) を計算します。

結論と吟味

最大の速さ \(v_m\) は \(v_m = \displaystyle \left(b – \frac{\mu_2 mg}{aq}\right)\sqrt{\frac{aq}{m}}\) となります。振幅 \(A = b-x_2\) と角振動数 \(\omega = \sqrt{K/m} = \sqrt{aq/m}\) を用いて \(v_m = A\omega\) と表せることからも、この結果は妥当です。

解答 (4) \(\displaystyle \left(b – \frac{\mu_2 mg}{aq}\right)\sqrt{\frac{aq}{m}}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
単振動において、物体が振動の端から中心まで移動するのにかかる時間は、周期 \(T\) のちょうど4分の1です。まず、この単振動の周期 \(T\) を求め、それを4で割ることで \(t_1\) を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 単振動の周期の公式: \(T = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}\)。
  • 振動の端から中心までの移動時間は \(T/4\)。

具体的な解説と立式
この単振動の有効なばね定数は \(K=aq\) です。したがって、周期 \(T\) は、
$$
\begin{aligned}
T &= 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} = 2\pi\sqrt{\frac{m}{aq}}
\end{aligned}
$$
となります。
右端 \(x=b\) から振動中心 \(x=x_2\) までにかかる時間 \(t_1\) は、周期の4分の1なので、
$$
\begin{aligned}
t_1 &= \frac{T}{4} = \frac{1}{4} \left( 2\pi\sqrt{\frac{m}{aq}} \right) \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)
計算過程

式⑤を計算すると、
$$
\begin{aligned}
t_1 &= \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{aq}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ブランコが「一番高いところ」から「一番低い真ん中」まで下りてくる時間は、1往復にかかる時間のちょうど4分の1です。これと同じように、単振動でも「端」から「中心」までの時間は周期の4分の1になります。まず周期を計算し、それを4で割ることで時間を求めます。

結論と吟味

\(x=b\) から \(x_2\) に至るまでの時間 \(t_1\) は \(t_1 = \displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{aq}}\) となります。この時間は振幅にはよらず、質量 \(m\) と有効なばね定数 \(aq\) のみで決まるという、単振動の等時性を示す妥当な結果です。

別解: 単振動の運動方程式の解を利用する解法

思考の道筋とポイント
「周期の1/4」という性質を知らなくても、単振動の運動を記述する一般式から直接時間を計算することができます。時刻 \(t=0\) で右端 \(x=b\) を出発したとして、位置が \(x=x_2\) になる時刻を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 単振動の位置の一般式: \(x(t) = A\cos(\omega t + \phi) + x_c\)。
  • 初期条件(時刻と位置)を代入して、未知の定数を決定する。

具体的な解説と立式
この単振動は、中心 \(x_2\)、振幅 \(A=b-x_2\)、角振動数 \(\omega = \sqrt{aq/m}\) です。
Pが右端 \(x=b\) にいる時刻を \(t=0\) とします。単振動の位置を表す一般式は、
$$
\begin{aligned}
x(t) &= A \cos(\omega t) + x_2 \\[2.0ex]
&= (b-x_2)\cos\left(\sqrt{\frac{aq}{m}}t\right) + x_2
\end{aligned}
$$
と書けます(初期位相を0と選んだ)。
Pの位置が振動中心 \(x_2\) になる時刻を \(t_1\) とすると、\(x(t_1) = x_2\) なので、
$$
\begin{aligned}
x_2 &= (b-x_2)\cos\left(\sqrt{\frac{aq}{m}}t_1\right) + x_2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 単振動の一般解: \(x(t) = A\cos(\omega t + \phi) + x_c\)
計算過程

上式を整理すると、
$$
\begin{aligned}
0 &= (b-x_2)\cos\left(\sqrt{\frac{aq}{m}}t_1\right)
\end{aligned}
$$
\(b \neq x_2\) なので、
$$
\begin{aligned}
\cos\left(\sqrt{\frac{aq}{m}}t_1\right) &= 0
\end{aligned}
$$
これを満たす最小の正の \(t_1\) は、角度部分が \(\pi/2\) になるときなので、
$$
\begin{aligned}
\sqrt{\frac{aq}{m}}t_1 &= \frac{\pi}{2} \\[2.0ex]
t_1 &= \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{aq}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

単振動の動きは、三角関数(コサインやサイン)を使って数式で正確に表すことができます。この数式に「スタート地点(時刻0で位置b)」という条件を当てはめて、Pの動きのレシピを完成させます。そして、そのレシピに「ゴール地点(位置\(x_2\))」を代入すれば、そこに着くまでの時間 \(t_1\) が計算できます。

結論と吟味

主たる解法と完全に同じ結果が得られました。この解法は、単振動の基本的な性質の導出過程を追体験するものであり、より根本的な理解につながります。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{aq}}\)

問(6)

思考の道筋とポイント
単振動は、振動中心に対して完全に対称な運動です。右側の折り返し点(右端)が \(x=b\) で、振動中心が \(x_2\) です。したがって、左側の折り返し点(左端) \(x_3\) は、振動中心 \(x_2\) から見て \(b\) とちょうど反対側にあります。つまり、中心から右端までの距離と、中心から左端までの距離は等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 単振動の運動は振動中心に対して対称である。
  • 振幅 \(A\) は、中心から端までの距離: \(A = b – x_2\)。
  • 左端の位置は \(x_3 = x_2 – A\)。

具体的な解説と立式
この単振動の振幅 \(A\) は、右端 \(b\) と中心 \(x_2\) の距離なので、
$$
\begin{aligned}
A &= b – x_2
\end{aligned}
$$
左端の位置 \(x_3\) は、中心 \(x_2\) から振幅 \(A\) だけ左に行った点なので、
$$
\begin{aligned}
x_3 &= x_2 – A \\
&= x_2 – (b – x_2) \\
&= 2x_2 – b \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
この式に(3)の結果 \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 単振動の対称性
計算過程

式⑥に \(x_2\) の値を代入すると、
$$
\begin{aligned}
x_3 &= 2\left(\frac{\mu_2 mg}{aq}\right) – b \\[2.0ex]
&= \frac{2\mu_2 mg}{aq} – b
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

単振動は、振動の中心に対してきれいな左右対称の動きをします。右側の折り返し点が \(b\)、中心が \(x_2\) です。中心から右の折り返し点までの距離は \(b – x_2\) です。左の折り返し点 \(x_3\) は、中心から同じ距離だけ左側にあるはずなので、\(x_3 = x_2 – (b – x_2)\) という計算で求められます。

結論と吟味

再び一瞬静止する左端の位置 \(x_3\) は \(x_3 = \displaystyle\frac{2\mu_2 mg}{aq} – b\) となります。これは単振動の対称性から導かれる妥当な結果です。

別解: 単振動のエネルギー保存則を利用する解法

思考の道筋とポイント
運動の対称性を直接使わずに、その根拠となるエネルギー保存則から左端の位置を求めることもできます。右端 \(x=b\) と左端 \(x=x_3\) はどちらも運動の折り返し点なので、速度はゼロです。したがって、この2点での単振動のエネルギーは等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 単振動のエネルギーは保存される。
  • 運動の端点では速度がゼロであり、運動エネルギーもゼロ。

具体的な解説と立式
右端 \(b\) での単振動のエネルギー \(E_b\) と、左端 \(x_3\) でのエネルギー \(E_3\) は等しくなります。
$$
\begin{aligned}
E_3 &= E_b \\[2.0ex]
\frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}aq(x_3-x_2)^2 &= \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}aq(b-x_2)^2 \\[2.0ex]
(x_3-x_2)^2 &= (b-x_2)^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 単振動のエネルギー保存則
計算過程

上式の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
x_3-x_2 &= \pm (b-x_2)
\end{aligned}
$$
\(x_3\) は \(b\) とは異なる点なので、\(x_3-x_2 = b-x_2\) ではなく、マイナス符号の方を選びます。
$$
\begin{aligned}
x_3-x_2 &= -(b-x_2) \\[2.0ex]
x_3 &= x_2 – (b-x_2) \\[2.0ex]
x_3 &= 2x_2 – b
\end{aligned}
$$
これは主たる解法で得られた関係式と一致します。あとは \(x_2\) の値を代入すれば同じ答えが得られます。

この設問の平易な説明

単振動の「エネルギー」は常に一定です。運動の端っこでは、物体の速さがゼロになるので、エネルギーはすべて「位置エネルギー」になります。右端 \(b\) での位置エネルギーと、左端 \(x_3\) での位置エネルギーは等しいはずです。この「エネルギーが等しい」という式を立てて計算すると、\(x_3\) の位置が求められます。

結論と吟味

エネルギー保存則という物理法則から、運動の対称性という性質を代数的に導出することができました。異なるアプローチでも同じ結果に至ることを確認できます。

解答 (6) \(\displaystyle\frac{2\mu_2 mg}{aq} – b\)

問(7)

思考の道筋とポイント
Pが左端 \(x_3\) から右へ動き出し、その速度が再びベルトの速度 \(V\) と同じになる位置 \(x_4\) を求めます。Pが最初にベルトから滑り出したのは位置 \(x_1\) で、その瞬間のPの速度はベルトと同じ \(V\) でした。単振動では、振動中心を挟んで同じ距離にある点では、速さ(速度の大きさ)が等しくなります。したがって、振動中心 \(x_2\) を挟んで \(x_1\) と対称な位置にある \(x_4\) で、再び速さが \(V\) になります。
この設問における重要なポイント

  • 単振動における速度の対称性: 振動中心から同じ距離の点では速さが等しい。
  • Pがベルトに対して静止する条件は、Pの対地速度がベルトの速度 \(V\) と一致すること。

具体的な解説と立式
単振動の対称性から、振動中心 \(x_2\) を挟んで同じ距離にある \(x_1\) と \(x_4\) で、Pの速さは等しくなります。滑り出しの点 \(x_1\) での速さは \(V\) であり、\(x_3\) から折り返して右向きに運動している途中の \(x_4\) で再び速さが \(V\) になると考えられます。
したがって、\(x_2\) は \(x_1\) と \(x_4\) の中点になります。
$$
\begin{aligned}
x_2 &= \frac{x_1 + x_4}{2}
\end{aligned}
$$
この式を \(x_4\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
x_4 &= 2x_2 – x_1 \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 単振動の運動の対称性
計算過程

式⑦に、(1)で求めた \(x_1 = \displaystyle\frac{\mu_1 mg}{aq}\) と(3)で求めた \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_4 &= 2\left(\frac{\mu_2 mg}{aq}\right) – \frac{\mu_1 mg}{aq} \\[2.0ex]
&= \frac{2\mu_2 mg – \mu_1 mg}{aq} \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{aq}(2\mu_2 – \mu_1)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

Pが最初に滑り始めた位置 \(x_1\) での速さは、ベルトと同じ \(V\) でした。単振動は中心 \(x_2\) に対して対称的な運動なので、中心を挟んで \(x_1\) とちょうど反対側にある点 \(x_4\) でも、同じ速さ \(V\) になります。この対称性を利用して \(x_4\) の位置を計算します。

結論と吟味

Pが再びベルトに対して静止する位置 \(x_4\) は \(x_4 = \displaystyle\frac{mg}{aq}(2\mu_2 – \mu_1)\) となります。この位置でPの速度がベルトの速度と一致し、再び一体となって動き始める条件が整います。

別解: 単振動のエネルギー保存則を利用する解法

思考の道筋とポイント
位置 \(x_1\) と位置 \(x_4\) では、Pの速さがどちらも \(V\) で等しくなります。単振動のエネルギーは運動エネルギーと位置エネルギーの和なので、運動エネルギーが等しいならば、位置エネルギーも等しくなければなりません。
この設問における重要なポイント

  • 単振動のエネルギーは保存される。
  • 速さが同じなら運動エネルギーも同じ。よって位置エネルギーも同じになる。

具体的な解説と立式
位置 \(x_1\) での単振動のエネルギー \(E_1\) と、位置 \(x_4\) でのエネルギー \(E_4\) は等しくなります。
$$
\begin{aligned}
E_4 &= E_1 \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mV^2 + \frac{1}{2}aq(x_4-x_2)^2 &= \frac{1}{2}mV^2 + \frac{1}{2}aq(x_1-x_2)^2
\end{aligned}
$$
両辺から \(\frac{1}{2}mV^2\) を引き、\(\frac{1}{2}aq\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
(x_4-x_2)^2 &= (x_1-x_2)^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 単振動のエネルギー保存則
計算過程

上式の平方根をとると、
$$
\begin{aligned}
x_4-x_2 &= \pm (x_1-x_2)
\end{aligned}
$$
\(x_4\) は \(x_1\) とは異なる点なので、プラス符号は不適です。
$$
\begin{aligned}
x_4-x_2 &= -(x_1-x_2) \\[2.0ex]
x_4 &= x_2 – (x_1-x_2) \\[2.0ex]
x_4 &= 2x_2 – x_1
\end{aligned}
$$
これは主たる解法で得られた関係式と一致し、同じ答えが得られます。

この設問の平易な説明

単振動のエネルギーは、運動の勢い(運動エネルギー)と位置エネルギーの合計です。位置 \(x_1\) と \(x_4\) では、どちらも速さが \(V\) なので、運動エネルギーは同じです。エネルギー全体も一定なので、引き算すれば位置エネルギーも同じになるはずです。この「位置エネルギーが等しい」という式を立てて計算すると、\(x_4\) の位置が求められます。

結論と吟味

ここでも、エネルギー保存則から運動の対称性を導くことができました。物理法則に基づいた計算によって、直感的な性質が裏付けられることがわかります。

解答 (7) \(\displaystyle\frac{mg}{aq}(2\mu_2 – \mu_1)\)

問(8)

思考の道筋とポイント
Pは位置 \(x_4\) でベルトの速度 \(V\) に追いつき、ベルトに対して静止します。その後、再び滑り出す位置 \(x_1\) までは、ベルトと共に速さ \(V\) の等速直線運動をします。この間の移動距離は \(x_1 – x_4\) で、速さは \(V\) なので、「時間 = 距離 ÷ 速さ」で時間を計算できます。
この設問における重要なポイント

  • \(x_4\) から \(x_1\) までは、速さ \(V\) の等速直線運動。
  • 等速直線運動の公式: \(t = d/v\)。

具体的な解説と立式
Pがベルトと共に速さ \(V\) で動く距離は \(d = x_1 – x_4\) です。
この間の時間 \(t_2\) は、
$$
\begin{aligned}
t_2 &= \frac{d}{V} = \frac{x_1 – x_4}{V} \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
ここで、\(x_1 – x_4\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
x_1 – x_4 &= \frac{\mu_1 mg}{aq} – \frac{mg}{aq}(2\mu_2 – \mu_1) \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{aq} \{ \mu_1 – (2\mu_2 – \mu_1) \} \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{aq} (2\mu_1 – 2\mu_2) \\[2.0ex]
&= \frac{2mg}{aq}(\mu_1 – \mu_2)
\end{aligned}
$$
この結果を \(t_2\) の式に代入します。

使用した物理公式

  • 等速直線運動: \(t = d/v\)
計算過程

計算した \(x_1 – x_4\) を式⑧に代入すると、
$$
\begin{aligned}
t_2 &= \frac{\frac{2mg}{aq}(\mu_1 – \mu_2)}{V} \\[2.0ex]
&= \frac{2mg(\mu_1 – \mu_2)}{aqV}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

Pは位置 \(x_4\) でベルトに追いつき、そこから再び滑り出す位置 \(x_1\) までは、ベルトと一体になって速さ \(V\) で進みます。この間に進んだ距離(\(x_1 – x_4\))を、そのときの速さ \(V\) で割れば、かかった時間 \(t_2\) が計算できます。

結論と吟味

\(x_4\) で再びベルトに対して静止し、\(x_1\) までベルトと共に動く時間は \(t_2 = \displaystyle\frac{2mg(\mu_1 – \mu_2)}{aqV}\) となります。条件より \(\mu_1 > \mu_2\) なので、時間は正の値となり、物理的に妥当です。

解答 (8) \(\displaystyle\frac{2mg(\mu_1 – \mu_2)}{aqV}\)

【コラム】Q. \(b\) を、ベルトの速さ\(V\)と\(a, q, m, \mu_1, \mu_2, g\)を用いて表せ。

思考の道筋とポイント
右端の位置 \(b\) を求めるには、単振動のフェーズにおけるエネルギー保存則を利用するのが有効です。Pは位置 \(x_1\) でベルトの速さ \(V\) を持って単振動を開始し、右端の位置 \(x=b\) で一瞬速度が0になります。この2つの点の間で、単振動のエネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)が保存されることを用いて式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 単振動のエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}K(x-x_c)^2 = \text{一定}\)。
  • 滑り始めの位置 \(x_1\) での速度は \(V\)。
  • 右端の位置 \(b\) での速度は \(0\)。

具体的な解説と立式
単振動のエネルギー保存則より、位置 \(x_1\)(速度\(V\))でのエネルギーと、位置 \(b\)(速度0)でのエネルギーは等しくなります。有効なばね定数は \(K=aq\)、振動中心は \(x_2\) です。
$$
\begin{aligned}
(\text{\(x_1\)でのエネルギー}) &= (\text{\(b\)でのエネルギー}) \\[2.0ex]
\frac{1}{2}mV^2 + \frac{1}{2}aq(x_1-x_2)^2 &= \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}aq(b-x_2)^2
\end{aligned}
$$
この式を \(b\) について解きます。まず両辺を2倍して整理すると、
$$
\begin{aligned}
aq(b-x_2)^2 &= mV^2 + aq(x_1-x_2)^2 \\[2.0ex]
(b-x_2)^2 &= \frac{mV^2}{aq} + (x_1-x_2)^2
\end{aligned}
$$
\(b > x_2\) なので、正の平方根をとって、
$$
\begin{aligned}
b-x_2 &= \sqrt{\frac{mV^2}{aq} + (x_1-x_2)^2} \\[2.0ex]
b &= x_2 + \sqrt{\frac{mV^2}{aq} + (x_1-x_2)^2} \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$
ここに \(x_1 = \displaystyle\frac{\mu_1 mg}{aq}\) と \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\) を代入します。

使用した物理公式

  • 単振動のエネルギー保存則
計算過程

まず、\(x_1-x_2\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
x_1-x_2 &= \frac{\mu_1 mg}{aq} – \frac{\mu_2 mg}{aq} = \frac{mg}{aq}(\mu_1-\mu_2)
\end{aligned}
$$
これを式⑨に代入します。
$$
\begin{aligned}
b &= \frac{\mu_2 mg}{aq} + \sqrt{\frac{mV^2}{aq} + \left(\frac{mg}{aq}(\mu_1-\mu_2)\right)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_2 mg}{aq} + \sqrt{\frac{m^2 g^2}{(aq)^2} \left( \frac{aqV^2}{mg^2} \right) + \frac{m^2 g^2}{(aq)^2} (\mu_1-\mu_2)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{\mu_2 mg}{aq} + \frac{mg}{aq} \sqrt{\frac{aqV^2}{mg^2} + (\mu_1-\mu_2)^2} \\[2.0ex]
&= \frac{mg}{aq}\left\{\mu_2 + \sqrt{\frac{aqV^2}{mg^2} + (\mu_1-\mu_2)^2}\right\}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

Pは位置 \(x_1\) で速さ \(V\) を持って単振動の世界に入り、やがて右端の \(b\) で一瞬止まります。この間の「運動の勢い(運動エネルギー)」と「電気力による位置エネルギー」の合計は一定に保たれます。このエネルギー保存の法則を使って式を立て、未知数である \(b\) を計算します。

結論と吟味

右端の位置 \(b\) は \(b = \displaystyle\frac{mg}{aq}\left\{\mu_2 + \sqrt{\frac{aqV^2}{mg^2} + (\mu_1-\mu_2)^2}\right\}\) となります。この式は複雑ですが、単振動のエネルギー保存則から論理的に導かれたものであり、物理的に妥当な結果です。

Qの解答 \(b = \displaystyle\frac{mg}{aq}\left\{\mu_2 + \sqrt{\frac{aqV^2}{mg^2} + (\mu_1-\mu_2)^2}\right\}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 電場中の荷電粒子に働く力と単振動:
    • 核心: 電場 \(E(x)=-ax\) により、電荷 \(q\) の粒子には力 \(F_{\text{電}} = qE(x) = -aqx\) が働きます。これがばねの弾性力 \(F=-kx\) と同じ形式であるため、一定の動摩擦力と合わさることで、物体の運動が単振動(またはその一部)として記述できる点がこの問題の根幹です。
    • 理解のポイント:
      1. 力の類似性: 位置 \(x\) に比例する復元力型の電場による力は、ばねの弾性力と数学的に同じ扱いができます。
      2. 振動中心のずれ: 一定の力(本問では動摩擦力)が加わると、力のつりあう点、すなわち単振動の中心が、復元力だけの中心(原点)からずれることを理解することが重要です。
  • 摩擦力(静止摩擦力と動摩擦力)の的確な使い分け:
    • 核心: 物体の運動状態が「ベルトと一体」か「ベルトに対して滑っているか」によって、作用する摩擦力の種類と大きさが変わります。この切り替わりの条件を正確に把握することが、問題を正しく解き進めるための鍵となります。
    • 理解のポイント:
      1. 滑り出す条件: 静止摩擦力がその最大値 \(\mu_1 N\) を超えようとするときに滑り出します。
      2. 滑っている間の力: 滑っている間は、一定の大きさ \(\mu_2 N\) の動摩擦力が、常に「相対運動」と逆向きに働きます。
      3. 再び一体になる条件: 物体の速度がベルトの速度と一致した瞬間が、再び一体になるチャンスです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 動く床の上のばね振り子: 床が一定速度で動いている上で、ばねにつながれた物体が振動する問題。本問の電場をばねに、ベルトを動く床に置き換えたものと本質的に同じです。
    • 斜面上の単振動: 重力の斜面成分という「一定の力」が加わることで、振動中心がずれる単振動。本問の動摩擦力と同じ役割を果たします。
    • 複数の運動フェーズを持つ問題: 例えば、衝突後にばねを圧縮する、あるいは摩擦のある面とない面を行き来するなど、運動の法則が変わる区間を段階的に追う問題全般に応用できます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 運動のフェーズ分け: まず、物体がどのような運動状態(等速、等加速度、単振動など)を取りうるかを考え、運動が切り替わる「境界条件」は何かを最初に整理します。本問では「滑り出す瞬間」と「速度がベルトと一致する瞬間」が境界です。
    2. 合力の形を確認する: 各フェーズで物体に働く合力を求め、その式がどのような形をしているか(一定か、時間に依存するか、位置に依存するか)を分析します。特に、合力が \(F = -Kx + C\) (\(K, C\)は定数)の形になれば、それは必ず単振動です。
    3. 対称性と保存則の利用: 運動が単振動であるとわかれば、その対称性(中心を挟んで速度や位置がどうなるか)やエネルギー保存則が強力なツールになります。複雑な微分方程式を解かなくても、多くの物理量を求めることができます。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 動摩擦力の向きの誤り:
    • 誤解: 物体の「地面に対する」運動方向と逆向きに動摩擦力を描いてしまう。例えば、Pが右向きに動きながら減速しているとき、動摩擦力を左向きだと勘違いする。
    • 対策: 動摩擦力は常に「接触面間の相対的な滑りの向き」と逆向きであると肝に銘じる。ベルトが右に速さ\(V\)で動いている場合、Pの速度\(v_P\)が\(V\)より小さい(\(v_P < V\))なら、Pはベルトに対して左に滑っているので、動摩擦力は必ず右向きです。常に「ベルトに乗っている自分」から見たPの動きを想像すると間違いが減ります。
  • 単振動の振動中心の誤認:
    • 誤解: 電場による力 \(-aqx\) の中心である原点Oを、単振動の振動中心としてしまう。
    • 対策: 単振動の中心は、ばねの自然長の位置ではなく、物体に働く「合力」がゼロになる点です。本問では、左向きの電場の力と右向きの動摩擦力がつりあう点 \(aqx = \mu_2 mg\) が振動中心になります。常に「合力=0」の点を求める癖をつけましょう。
  • エネルギー保存則の誤用:
    • 誤解: 摩擦力が働く系全体で、力学的エネルギー保存則を無条件に使ってしまう。
    • 対策: 動摩擦力は非保存力なので、力学的エネルギーは保存しません。しかし、本問のように「動摩擦力が一定」で、かつ「復元力がばねと同じ形」の場合、「動摩擦力による仕事」を位置エネルギーの一部とみなした「単振動のエネルギー保存則」 \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}K(x-x_c)^2 = \text{一定}\) は成立します。この特殊な形のエネルギー保存が使える条件を正しく理解することが重要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつりあいの式 (\(f_s = aqx\)):
    • 選定理由: 問(1)で、Pが滑り出す直前まで「等速運動」しているため。加速度がゼロの状態を記述する基本法則です。
    • 適用根拠: 問題文に「ベルトに対して滑ることなく動き始めた」とあり、滑り出すまでは速度が一定であるという物理的状況。
  • 運動方程式 (\(ma = F\)) からの単振動モデル (\(F = -K(x-x_c)\)):
    • 選定理由: 問(2)以降、Pが滑り始め、力がつりあっていない状況(加速度運動)を解析するため。
    • 適用根拠: Pに働く合力を計算した結果、その形が \(x\) の一次関数になったため、これは単振動としてモデル化できると判断しました。これにより、周期やエネルギー保存則といった単振動特有の強力なツールが利用可能になります。
  • 単振動のエネルギー保存則 (\(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}K(x-x_c)^2 = \text{一定}\)):
    • 選定理由: 問(4)やコラムQで、特定の2点間(端と中心、始点と端など)での速度と位置の関係を問われているため。時間を含まない関係式として、エネルギー保存則が最も効率的です。
    • 適用根拠: 運動が単振動であることが確定しており、その枠組みの中ではこの形のエネルギー保存則が成立するため。
  • 単振動の対称性 (\(x_4 = 2x_2 – x_1\)):
    • 選定理由: 問(7)で、ある速度になる位置を問われている。始点(\(x_1\))での速度(\(V\))が分かっているため、対称性を利用するのが最もスマートで計算量が少ない方法です。
    • 適用根拠: 単振動という運動が、その定義からして振動中心に対して点対称な軌道を描くという数学的な性質に基づいています。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: 力の向きと座標軸の向きを常に意識することが最も重要です。特に電場の力 \(-aqx\) のマイナス符号、動摩擦力の向き(本問では常に右向きでプラス)を間違えると、振動中心の位置がずれてしまい、以降の計算がすべて崩れます。
    • 日頃の練習: 式を立てる前に、必ず物体にはたらく力のベクトルをすべて図示する(フリーボディダイアグラムを描く)習慣をつけましょう。
  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: この問題のように多くの種類の文字(\(m, q, a, g, \mu_1, \mu_2, V, b\))が登場する場合、式が非常に長くなります。特にコラムQの \(b\) の計算などでは、代入の過程で項を書き間違えたり、括弧の展開を誤ったりしやすいです。
    • 日頃の練習: \(x_1\) や \(x_2\) のように、意味のある塊はすぐに代入せず、式の形がある程度整理されてから最後に代入する癖をつけると、見通しが良くなりミスが減ります。例えば、\(x_4 = 2x_2 – x_1\) のように、記号のまま関係式を導いてから値を代入するのが良い例です。
  • パラメータの混同:
    • 特に注意すべき点: 静止摩擦係数 \(\mu_1\) と動摩擦係数 \(\mu_2\) の使い分けに注意が必要です。\(\mu_1\) は滑り出す「瞬間」の条件にのみ使い、滑り出した「後」の運動には \(\mu_2\) を使います。
    • 日頃の練習: 問題文の条件を読み解く際に、どの物理量がどの場面で使われるのかを、問題用紙の余白などにメモしておく習慣をつけると良いでしょう。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 位置の大小関係:
      • \(x_1 = \frac{\mu_1 mg}{aq}\), \(x_2 = \frac{\mu_2 mg}{aq}\)。問題の条件 \(\mu_1 > \mu_2\) より、\(x_1 > x_2\) となります。これは「滑り出す点 \(x_1\) は、単振動の中心 \(x_2\) よりも右側にある」ことを意味し、物理的に正しいです。
    • 時間の正負:
      • \(t_2 = \frac{2mg(\mu_1 – \mu_2)}{aqV}\)。\(\mu_1 > \mu_2\) なので、分子は正です。他の量もすべて正なので \(t_2 > 0\) となり、時間が正しく計算できていることがわかります。もし \(\mu_1 < \mu_2\) であれば \(t_2\) が負になってしまい、物理的にありえない状況(そもそもこの運動が起こらない)を示唆します。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし摩擦がなかったら (\(\mu_1 = \mu_2 = 0\)):
      • \(x_1 = 0\), \(x_2 = 0\)。つまり、Pは原点Oで即座に滑り出し、原点Oを中心とする単振動を始めます。これは、動くベルトの意味がなくなり、単に電場 \(-ax\) の中で運動する荷電粒子の問題となり、直感と一致します。
    • もし電場がなかったら (\(a=0\)):
      • \(x_1, x_2\) などが無限大に発散してしまい、このモデルでは考えられません。物理的に考えると、電場がなければPに左向きの力は働かないので、Pはベルトに乗ったらずっと滑らずに一体で動き続けるだけです。これも直感と一致します。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

問題14 (センター試験+福井大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、はく検電器を用いた静電誘導の実験に関するものです。金属板Yの接近やスイッチSの操作によって、はく検電器の金属板Xや金属はくLの帯電状態やはくの開閉がどのように変化するかを、物理法則に基づいて考察します。問題Aでは初期状態で帯電していない検電器を、問題Bでは初期状態で帯電している検電器を扱います。

与えられた条件
  • 接地された金属板Gの上にはく検電器が設置されている。
  • 検電器の構成:金属板X、金属棒R、金属はくL。
  • Rは絶縁物によってガラス容器に支えられている。
  • スイッチSでRとGを接続/切断できる。
  • 帯電はX, L, G, Yで起こるものとする。
  • 問題A:
    • はじめ、検電器は帯電しておらず、Lは閉じている。
    • Sは開いている。
    • 正に帯電した金属板Yを、Xの真上の遠くからゆっくりとXの十分近くまで近づける。
  • 問題B:
    • はじめ、Sは開いており、ある電荷を検電器に与えてLを開かせている(状態Ⅰ)。
    • 正に帯電したYを遠くからXの十分近くまで近づける。
    • Yの移動に伴いLは開きが次第に小さくなり、いったん閉じた後、再び開いた(状態Ⅱ)。
問われていること
  • A(1) Yを近づける過程で、はくLのふるまい。
  • A(2) Sを閉じてRとGを結んだときの、はくLのふるまい。
  • A(3) Sを開き、Yを遠くに離したときの、はくLのふるまい。
  • B(1) はじめの検電器の電荷の正負。状態ⅡでのX, L, Gの電荷の正・0・負。
  • B(2) 状態ⅡでのY, X, L, Gの電位 \(V_Y, V_X, V_L, V_G\) の大小関係。
  • B(3) Sを一度閉じてから再び開き、Yを十分遠くに離したとき、Lは開いているか閉じているか。開いている場合、状態Ⅰとの比較。
  • (コラムQ) はく検電器が測定対象以外の電荷の影響を受けないようにする方法。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【注記】

本問については、静電気の基本原理を段階的に適用して論理的に考察する問題であり、模範解答で示されているアプローチが最も標準的かつ効率的であるため、別解の提示は省略します。

この問題は、静電気現象の根幹である静電誘導と、導体の性質(電荷分布、電位)についての理解を問うものです。はく検電器という具体的な装置を通して、これらの原理がどのように現れるかを見ていきましょう。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 静電誘導: 帯電体を導体に近づけると、導体内の自由電子が移動し、帯電体に近い側に反対の符号の電荷が、遠い側に同じ符号の電荷が現れる現象です。
  2. 導体の性質(静電気):
    • 導体内部の電場は0です。
    • 導体全体は等電位です。
    • 電荷は導体の表面にのみ分布します。
    • 電気力線は導体表面に垂直に出入りします。
  3. 電気量保存則: 外部との電荷のやり取りがない孤立した導体系では、全体の電気量は保存されます。スイッチSが開いているときの検電器がこれに該当します。
  4. 接地: 導体を地面(または非常に大きな導体)に接続することです。接地された導体の電位は0(または基準電位)とみなされ、電荷は自由に地面との間で移動できます。
  5. 電気力線: 正電荷から出て負電荷に入る線で、その密度は電場の強さを表します。電気力線は電位の高い方から低い方へ向かいます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 初期状態の把握: 各部分の帯電状況、スイッチの状態を確認します。
  2. 操作の分析: 金属板Yの移動やスイッチSの開閉が、検電器やGの電荷分布、電位にどのような段階的変化をもたらすかを、上記の法則に基づいて考察します。
  3. はくの動きの解釈: はくLが開くのは、Lの左右の部分が同符号の電荷を帯びて電気的な反発力が働くためです。閉じるのは、Lの電荷がなくなるか、極めて小さくなるためです。

問 A (1)

この先は、会員限定コンテンツです

記事の続きを読んで、物理の「なぜ?」を解消しませんか?
会員登録をすると、全ての限定記事が読み放題になります。

PVアクセスランキング にほんブログ村