問題13 (関西大+大阪大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、位置に依存する電場と摩擦力が働く中での荷電小物体Pの運動を扱います。Pはベルトと共に動く段階と、ベルトに対して滑りながら単振動する段階を繰り返します。各段階での力の分析と運動の記述が求められます。
- 電場: \(E(x) = -ax\) ( \(a>0\)、xは座標)
- ベルト: 水平右向きに一定の速さ \(V\)
- 小物体P: 質量 \(m\)、正電荷 \(q\)
- 摩擦係数: 静止摩擦係数 \(\mu_1\)、動摩擦係数 \(\mu_2\) (\(\mu_2 < \mu_1\))
- 重力加速度: \(g\)
- (1) Pが最初に滑り出す位置 \(x_1\)。
- (2) Pが滑っているときの合力 \(F(x)\)。
- (3) 左向き運動で最大速さになる位置 \(x_2\)。
- (4) その最大速さ \(v_m\)。
- (5) 右端 \(x=b\) から \(x_2\) までの時間 \(t_1\)。
- (6) 左端の折り返し位置 \(x_3\)。
- (7) 再びベルトに対して静止する位置 \(x_4\)。
- (8) \(x_4\) から \(x_1\) までベルトと共に動く時間 \(t_2\)。
- (コラムQ) 右端の位置 \(b\) の表式。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本問は「荷電粒子の運動」と「摩擦力」「単振動」を組み合わせた力学の応用問題です。Pの運動が「ベルトとの一体運動(静止摩擦)」と「ベルトに対する滑り運動(動摩擦、単振動)」の二つのフェーズに分かれる点が特徴的です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電場と静電気力: 電場 \(E(x)\) 中の電荷 \(q\) に働く力 \(F_e = qE(x) = -aqx\)。
- 摩擦力: 静止摩擦力(最大値 \(\mu_1 N\))と動摩擦力(一定値 \(\mu_2 N\)、相対運動と逆向き)。
- 運動方程式: \(ma = F_{\text{net}}\)。
- 単振動: 復元力が変位に比例する形 \(F = -K(x-x_c)\) で書けるとき、\(x_c\) を中心とする単振動。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 滑り出し: Pがベルトと共に運動中、電場による力と静止摩擦力がつり合う(または等速運動)。静止摩擦力が最大静止摩擦力を超えると滑り出す。
- (2) 滑り運動中の合力: 動摩擦力の向きを正しく判断し、電場による力と合わせて合力を求める。
- (3)-(6) 単振動の解析: (2)の合力が単振動の形をしていることを確認し、振動中心、角振動数、振幅などを特定して各量を求める。
- (7) 再びベルトに追いつく: Pの速度がベルトの速度Vと一致する位置を、単振動の対称性から求める。
- (8) ベルトとの一体運動: Pがベルトに対して静止した後、再び滑り出すまでの等速運動の時間を計算する。
問(1)
思考の道筋とポイント
Pがベルトと共に速さ\(V\)で等速運動しているとき、Pに働く水平方向の力(電場による力 \(F_e = -aqx\) と静止摩擦力 \(f_s\))はつり合っています。\(x\) が増加し \(F_e\)(左向き)が増加すると、\(f_s\)(右向き)も増加します。\(f_s\) が最大静止摩擦力 \(\mu_1 mg\) に達するとPは滑り始めます。
この設問における重要なポイント
- 滑り出す直前まで力のつり合い(または等速運動)。
- 電場による力 \(F_e = -aqx\)。
- 最大静止摩擦力 \(f_{s,\text{max}} = \mu_1 mg\)。
具体的な解説と立式
Pがベルトと共に等速運動しているとき、力のつり合いより、静止摩擦力 \(f_s\) は電場による力 \(aqx\)(左向きの力の大きさ)と等しく右向きに働きます。
$$f_s = aqx$$
Pが滑り出すのは、\(f_s\) が最大静止摩擦力 \(\mu_1 N = \mu_1 mg\) に達したときです。滑り出す位置を \(x_1\) とすると、
$$aqx_1 = \mu_1 mg \quad \cdots ①$$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 静電気力: \(F_e = -aqx\)
- 最大静止摩擦力: \(f_{s,\text{max}} = \mu_1 mg\)
式①の両辺を \(aq\) で割ると、
$$x_1 = \frac{\mu_1 mg}{aq}$$
Pがベルトと一緒に動いている間は、左向きの電気の力と右向きの静止摩擦力がつり合っています。Pが右に動くほど電気の力が強くなり、静止摩擦力も強くなります。静止摩擦力が限界 (\(\mu_1 mg\)) に達した瞬間にPは滑り始めます。このときの \(aqx_1 = \mu_1 mg\) という関係から \(x_1\) を求めます。
Pが滑り出す位置 \(x_1\) は \(\displaystyle x_1 = \frac{\mu_1 mg}{aq}\) です。
問(2)
思考の道筋とポイント
Pがベルトに対して左へ滑る(Pの対地速度 \(v_P\) がベルトの対地速度 \(V\)(右向き)より小さいか、Pが左向きに動く)場合、Pがベルトから受ける動摩擦力は右向き(\(+x\)方向)で、大きさは \(\mu_2 mg\) です。電場による力は \(-aqx\) です。これらの合力が \(F\) となります。
この設問における重要なポイント
- 動摩擦力の向きはベルトに対するPの相対運動の向きと逆向き。
- 動摩擦力の大きさは \(\mu_2 mg\)。
具体的な解説と立式
Pがベルトに対して左へ滑っているとき、Pに働く力は、
1. 電場による力: \(F_e = -aqx\)
2. 動摩擦力: 右向きに大きさ \(\mu_2 mg\)
したがって、Pに働く合力 \(F\) は、
$$F = -aqx + \mu_2 mg \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 静電気力: \(F_e = -aqx\)
- 動摩擦力: \(f_k = \mu_2 mg\)
合力は \(F = -aqx + \mu_2 mg\) です。
Pが滑っている間、Pには左向きの電気の力と、ベルトから右向きの動摩擦力が働きます。これらの力の合計がPに働く合力です。
Pが滑っているときの合力は \(F = -aqx + \mu_2 mg\) です。これは単振動の復元力の形に変形できます。
問(3)
思考の道筋とポイント
合力 \(F = -aqx + \mu_2 mg = -aq(x – \frac{\mu_2 mg}{aq})\) は、\(x_c = \frac{\mu_2 mg}{aq}\) を振動中心とする単振動の復元力です。最大の速さとなるのはこの振動中心です。
この設問における重要なポイント
- 合力の式から単振動であることを見抜く。
- 最大の速さになるのは振動中心である。
具体的な解説と立式
合力 \(F = -aq\left(x – \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\right)\) より、振動中心は \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\)。
この位置で速さが最大になります。
使用した物理公式
- 単振動の復元力: \(F = -K(x-x_c)\)
振動中心 \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\)。
Pに働く力から、Pが単振動することが分かります。単振動では、振動の中心で速さが最大になります。この中心の位置を力の式から求めます。
最大の速さとなる位置 \(x_2\) は \(\displaystyle x_2 = \frac{\mu_2 mg}{aq}\) です。
問(4)
思考の道筋とポイント
最大の速さ \(v_m\) を求めます。単振動のエネルギー保存則、または \(v_m = A\omega\) を用います。振幅 \(A = b – x_2\)、角振動数 \(\omega = \sqrt{aq/m}\)。
この設問における重要なポイント
- 単振動のエネルギー保存則または最大速度の公式。
- 振幅 \(A = |x_{\text{端}} – x_{\text{中心}}|\)。
具体的な解説と立式
単振動の有効なばね定数を \(K=aq\)。右端 \(x=b\) (速度0) と振動中心 \(x_2\) (速度 \(v_m\)) でのエネルギー保存を考えます。
$$\frac{1}{2}aq(b-x_2)^2 = \frac{1}{2}mv_m^2 \quad \cdots ④$$
または、振幅 \(A = b-x_2\)、角振動数 \(\omega = \sqrt{aq/m}\) を用いて、\(v_m = A\omega\)。
使用した物理公式
- 単振動のエネルギー保存則 or \(v_m = A\omega\)
式④より、\(v_m^2 = \displaystyle\frac{aq}{m}(b-x_2)^2\)。
よって、\(v_m = (b-x_2)\sqrt{\displaystyle\frac{aq}{m}}\)。
(3)より \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\) を代入すると、
$$v_m = \left(b – \frac{\mu_2 mg}{aq}\right)\sqrt{\frac{aq}{m}}$$
単振動の端 (\(x=b\)) でのエネルギー(位置エネルギーのみ)と中心 (\(x=x_2\)) でのエネルギー(運動エネルギーのみ)が等しいというエネルギー保存則から \(v_m\) を求めます。
最大の速さ \(v_m\) は \(\displaystyle v_m = \left(b – \frac{\mu_2 mg}{aq}\right)\sqrt{\frac{aq}{m}}\) です。
問(5)
思考の道筋とポイント
\(x=b\)(右端)から \(x=x_2\)(振動中心)に至る時間 \(t_1\) は、単振動の周期 \(T\) の1/4です。周期 \(T = 2\pi\sqrt{m/K} = 2\pi\sqrt{m/aq}\)。
この設問における重要なポイント
- 単振動の周期の公式。
- 端から中心までの時間は周期の1/4。
具体的な解説と立式
単振動の周期 \(T = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{m}{aq}}\)。
時間 \(t_1\) は \(T/4\) なので、
$$t_1 = \frac{1}{4}T = \frac{1}{4} \cdot 2\pi\sqrt{\frac{m}{aq}} \quad \cdots ⑤$$
使用した物理公式
- 単振動の周期: \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)
式⑤より、
$$t_1 = \frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{aq}}$$
単振動の端から中心まで動くのにかかる時間は、周期の4分の1です。周期を計算し、それを4で割ります。
\(x=b\) から \(x_2\) に至るまでの時間は \(t_1 = \displaystyle\frac{\pi}{2}\sqrt{\frac{m}{aq}}\) です。
問(6)
思考の道筋とポイント
左端の折り返し位置 \(x_3\) は、振動中心 \(x_2\) に対して右端 \(b\) と対称な位置です。振幅 \(A = b – x_2\)。よって \(x_3 = x_2 – A\)。
この設問における重要なポイント
- 単振動の対称性。
具体的な解説と立式
振幅 \(A = b – x_2\)。左端 \(x_3\) は、
$$x_3 = x_2 – A = x_2 – (b – x_2) = 2x_2 – b \quad \cdots ⑥$$
(3)より \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\) を代入します。
使用した物理公式
- 単振動の対称性
式⑥に \(x_2\) を代入すると、
$$x_3 = 2\left(\frac{\mu_2 mg}{aq}\right) – b = \frac{2\mu_2 mg}{aq} – b$$
単振動は中心に対して左右対称です。右側の折り返し点が\(b\)、中心が\(x_2\)なので、左側の折り返し点\(x_3\)は\(x_2\)から\(b-x_2\)だけ左に行った点です。
再び一瞬静止する位置 \(x_3\) は \(\displaystyle x_3 = \frac{2\mu_2 mg}{aq} – b\) です。
問(7)
思考の道筋とポイント
Pが左端 \(x_3\) から右へ動き、再びベルトの速度 \(V\) と同じ速度になる位置 \(x_4\) を求めます。最初にPが滑り出した位置 \(x_1\) での速度は \(V\) でした。単振動の対称性から、振動中心 \(x_2\) を挟んで \(x_1\) と同じ距離にある \(x_4\) で再び速度の大きさが \(V\) になります(運動方向も同じ右向き)。
この設問における重要なポイント
- 単振動における速度の対称性。
- Pがベルトに対して静止する条件: Pの対地速度が \(V\)。
具体的な解説と立式
振動中心 \(x_2\) に対して、\(x_1\) と \(x_4\) は対称な位置にあり、そこで同じ速さ \(V\)(右向き)を持つと考えられます。
よって、\(x_2\) が \(x_1\) と \(x_4\) の中点になるので、
$$x_4 = 2x_2 – x_1 \quad \cdots ⑦$$
使用した物理公式
- 単振動の運動の対称性
式⑦に \(x_1 = \displaystyle\frac{\mu_1 mg}{aq}\) と \(x_2 = \displaystyle\frac{\mu_2 mg}{aq}\) を代入します。
$$x_4 = 2\left(\frac{\mu_2 mg}{aq}\right) – \frac{\mu_1 mg}{aq} = \frac{mg}{aq}(2\mu_2 – \mu_1)$$
Pが最初に滑り始めた位置 \(x_1\) での速度は \(V\) でした。単振動は中心 \(x_2\) に対して対称なので、中心を挟んで \(x_1\) と同じ距離にある \(x_4\) でも速度が \(V\) になります。
Pが再びベルトに対して静止する位置 \(x_4\) は \(\displaystyle x_4 = \frac{mg}{aq}(2\mu_2 – \mu_1)\) です。
問(8)
思考の道筋とポイント
Pは位置 \(x_4\) でベルトと共に速さ \(V\) で右向きに動き始め、再び滑り出す位置 \(x_1\) まで等速運動します。この間の時間 \(t_2\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 等速直線運動: 時間 = 距離 / 速さ。
具体的な解説と立式
Pがベルトと共に速さ \(V\) で動く距離は \(x_1 – x_4\)。この間の時間 \(t_2\) は、
$$t_2 = \frac{x_1 – x_4}{V} \quad \cdots ⑧$$
使用した物理公式
- 等速直線運動: 時間 = 距離 / 速さ
\(x_1 – x_4 = \displaystyle\frac{\mu_1 mg}{aq} – \frac{mg}{aq}(2\mu_2 – \mu_1) = \frac{mg}{aq}(\mu_1 – 2\mu_2 + \mu_1) = \frac{2mg}{aq}(\mu_1 – \mu_2)\)。
これを式⑧に代入すると、
$$t_2 = \frac{\frac{2mg}{aq}(\mu_1 – \mu_2)}{V} = \frac{2mg(\mu_1 – \mu_2)}{aqV}$$
Pは \(x_4\) から \(x_1\) まで、ベルトと同じ速さ \(V\) で動きます。進む距離 \(x_1 – x_4\) を速さ \(V\) で割れば時間が求まります。
\(x_4\) で再びベルトに対して静止し、\(x_1\) までベルトと共に動く時間は \(t_2 = \displaystyle\frac{2mg(\mu_1 – \mu_2)}{aqV}\) です。
【コラム】Q. \(b\) を、ベルトの速さ\(V\)と\(a, q, m, \mu_1, \mu_2, g\)を用いて表せ。
思考の道筋とポイント
Pは位置 \(x_1\) でベルトの速さ \(V\) で滑り始めます。この点を単振動の始点の一つと考え、右端の \(x=b\)(速度0)まで単振動のエネルギー保存則を適用します。単振動のばね定数 \(K=aq\)、振動中心 \(x_2 = \frac{\mu_2 mg}{aq}\)。
この設問における重要なポイント
- 単振動のエネルギー保存則。
- 滑り始めの位置 \(x_1\) での速度は \(V\)。
具体的な解説と立式
単振動のエネルギー保存則より、位置 \(x_1\)(速度\(V\))でのエネルギーと、位置 \(b\)(速度0)でのエネルギーは等しい。
$$\frac{1}{2}mV^2 + \frac{1}{2}aq(x_1-x_2)^2 = \frac{1}{2}m(0)^2 + \frac{1}{2}aq(b-x_2)^2$$
$$(b-x_2)^2 = \frac{mV^2}{aq} + (x_1-x_2)^2$$
$$b = x_2 + \sqrt{\frac{mV^2}{aq} + (x_1-x_2)^2} \quad \cdots ⑨$$
\(x_1 = \frac{\mu_1 mg}{aq}\), \(x_2 = \frac{\mu_2 mg}{aq}\) を代入。
使用した物理公式
- 単振動のエネルギー保存則
\(x_1-x_2 = \frac{mg}{aq}(\mu_1-\mu_2)\)。これを式⑨に代入。
$$b = \frac{\mu_2 mg}{aq} + \sqrt{\frac{mV^2}{aq} + \left(\frac{mg}{aq}(\mu_1-\mu_2)\right)^2}$$
$$b = \frac{mg}{aq}\left\{\mu_2 + \sqrt{\frac{aqV^2}{mg^2} + (\mu_1-\mu_2)^2}\right\}$$
Pは \(x_1\) の位置で速さ \(V\) で単振動に入り、\(b\) で速度0になります。この間の単振動のエネルギー保存から \(b\) を求めます。
右端の位置 \(b\) は \(b = \displaystyle\frac{mg}{aq}\left\{\mu_2 + \sqrt{\frac{aqV^2}{mg^2} + (\mu_1-\mu_2)^2}\right\}\) です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電場中の荷電粒子に働く力と単振動:
- 核心: 電場 \(E(x)=-ax\) により、電荷 \(q\) の粒子には力 \(F_e = qE(x) = -aqx\) が働く。これがばねの弾性力 \(F=-kx\) と同様の形式であるため、摩擦力との兼ね合いで単振動(またはその一部)が実現する。
- 理解のポイント: 電場が位置に依存する場合、静電気力も位置によって変化する。合力が \(F = -K(x-x_c)\) の形に書ける場合、\(x_c\) を中心とする単振動が起こる。
- 摩擦力(静止摩擦力と動摩擦力):
- 核心: 滑り出すまでは静止摩擦力が外力とつり合うように働き(最大値 \(\mu_1 N\) まで)、滑り出すと一定の動摩擦力 \(\mu_2 N\) が相対運動と逆向きに働く。
- 理解のポイント: 静止摩擦力の上限、動摩擦力の向き(ベルトに対する相対速度と逆向き)を正確に判断する。
- 単振動の性質とエネルギー保存:
- 核心: 単振動は振動中心、振幅、周期で特徴づけられる。単振動の系では適切なポテンシャルエネルギーを定義すればエネルギー保存則が成り立つ。
- 理解のポイント: 振動中心で速さ最大。両端で速さ0。端から中心までの時間は周期の1/4。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- ばね振り子が動く床やベルトの上で運動する問題。
- 位置によって変化する力が働く場合の物体の運動(特に単振動)。
- 静止摩擦と動摩擦が切り替わる条件を扱う問題。
- 複数の運動フェーズを段階的に追う問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 物体に働く全ての力をリストアップし、図示する。特に摩擦力の種類と向き。
- 運動のフェーズ分け(ベルトと一体か、滑っているか)。
- 合力の式が単振動の形 \(F = -K(x-x_c)\) になるか確認。
- 運動のフェーズが変わる瞬間の条件(滑り出し、速度0、相対速度0など)を立式。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 動摩擦力の向きは「ベルトに対する小物体の相対速度」と逆向き。
- 単振動の「振動中心」は合力が0になる点。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 動摩擦力の向きの誤り:
- 現象: 小物体の地面に対する運動方向と逆向きに動摩擦力を描いてしまう。
- 対策: 動摩擦力は常に「接触面間の相対的な滑りの向き」と逆向き。ベルトが右に速さ\(V\)で動いている場合、小物体の速度\(v_P\)が\(V\)より小さいなら、小物体はベルトに対して左に滑るので動摩擦力は右向き。
- 単振動の振動中心の誤認:
- 現象: 電場による力 \(-aqx\) の中心である原点Oを、単振動の振動中心としてしまう。
- 対策: 単振動の振動中心は、復元力の式 \(F=-K(x-x_c)\) における \(x_c\) であり、合力が0になる点。本問では動摩擦力の影響で振動中心がずれる。
- 静止摩擦と動摩擦の切り替え条件の曖昧さ:
- 現象: 滑り出す条件や、再び一体となる条件を正しく立てられない。
- 対策: 滑り出すのは「静止摩擦力 > 最大静止摩擦力」。再び一体となるのは「小物体の速度 = ベルトの速度」かつ「その後の運動維持に必要な静止摩擦力 \(\le\) 最大静止摩擦力」。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 力の図示(フリーボディダイアグラム)を各運動フェーズで正確に描く。
- \(x-t\)グラフ、\(v-t\)グラフの概形を運動の種類に応じてイメージする。
- 単振動のエネルギー図(運動エネルギーと位置エネルギーのやり取り)をイメージする。
- ベルトと小物体の相対運動を具体的に想像する。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 座標軸と原点を明確にする。
- 力の向き(特に電場による力と摩擦力)を正確に。
- 運動の区間(\(x_1, x_2, x_3, x_4, b\)など)をx軸上にプロットする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(F_e = -aqx\) (電場による力):
- 選定理由: 電場が\(E=-ax\)として与えられているため、電荷\(q\)が受ける力を計算する。
- 適用根拠: 電荷\(q\)が電場\(E\)中に存在するという問題設定。
- \(f_s \le \mu_1 N\), \(f_k = \mu_2 N\) (摩擦力):
- 選定理由: 物体が滑るか滑らないか、滑る場合の摩擦力を計算するため。
- 適用根拠: 物体とベルト間に摩擦が存在し、摩擦係数が与えられている。
- 運動方程式 (\(ma = \sum F\)):
- 選定理由: 物体の運動状態(加速度)を記述するための基本法則。
- 適用根拠: ニュートンの運動の法則。
- 単振動の復元力 (\(F = -K(x-x_c)\)), 周期 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
- 選定理由: 合力が単振動の復元力の形をしているため、運動を単振動として解析するため。
- 適用根拠: 合力が変位に比例し、平衡点に戻そうとする形で表せる場合。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 滑り出し位置\(x_1\): 力のつり合い(電気力+静止摩擦力=0)から、静止摩擦力が最大値 \(\mu_1 mg\) になる \(x_1\) を求める。
- (2) 滑り運動中の合力\(F\): 電気力 \(-aqx\) と動摩擦力(右向き \(\mu_2 mg\))の和。
- (3)-(6) 単振動解析: 合力\(F\)を \(F=-aq(x-x_c)\) と変形し振動中心\(x_c=x_2\)とばね定数\(K=aq\)特定。エネルギー保存や周期、振幅の関係から各量を求める。
- (7) 再び一体となる位置\(x_4\): 単振動の対称性から \(x_4 = 2x_2 – x_1\) を利用。
- (8) 一体運動の時間\(t_2\): 距離 \(x_1-x_4\) を速度\(V\)で等速運動する時間。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 力の向きと符号: 電場による力、摩擦力の向きを正確に判断し、式に符号で反映させる。
- 単振動のパラメータ: 振動中心、ばね定数、角振動数、振幅を正確に定義・計算する。
- 場合分けの整理: 運動のフェーズを明確に区別し、適用する法則を間違えない。
- 代数計算の正確性: 複数のパラメータを含む式の変形や代入を慎重に行う。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 各位置の大小関係: \(x_1 > x_2\), \(b > x_2\), \(x_3 < x_2\) などを確認。
- 速度・時間の正負: 時間は常に正。速度の向きも考慮。
- 物理的条件の確認: 一体化条件、滑り出し条件が満たされているか。
- 極端な場合を考える: 摩擦がない場合、電場がない場合などで式の妥当性を確認。
問題14 (センター試験+福井大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、はく検電器を用いた静電誘導の実験に関するものです。金属板Yの接近やスイッチSの操作によって、はく検電器の金属板Xや金属はくLの帯電状態やはくの開閉がどのように変化するかを、物理法則に基づいて考察します。問題Aでは初期状態で帯電していない検電器を、問題Bでは初期状態で帯電している検電器を扱います。
- 接地された金属板Gの上にはく検電器が設置されている。
- 検電器の構成:金属板X、金属棒R、金属はくL。
- Rは絶縁物によってガラス容器に支えられている。
- スイッチSでRとGを接続/切断できる。
- 帯電はX, L, G, Yで起こるものとする。
- 問題A:
- はじめ、検電器は帯電しておらず、Lは閉じている。
- Sは開いている。
- Xと同じ形の金属板Yを正に帯電させ、Xの真上の遠くからゆっくりとXの十分近くまで近づける。
- 問題B:
- はじめ、Sは開いており、ある電荷を検電器に与えてLを開かせている(状態Ⅰ)。
- 正に帯電したYを遠くからXの十分近くまで近づける。
- Yの移動に伴いLは開きが次第に小さくなり、いったん閉じた後、再び開いた(状態Ⅱ)。
- A(1) Yを近づける過程で、はくLのふるまい。
- A(2) Sを閉じてRとGを結んだときの、はくLのふるまい。
- A(3) Sを開き、Yを遠くに離したときの、はくLのふるまい。
- B(1) はじめの検電器の電荷の正負。状態ⅡでのX, L, Gの電荷の正・0・負。
- B(2) 状態ⅡでのY, X, L, Gの電位 \(V_Y, V_X, V_L, V_G\) の大小関係。
- B(3) Sを一度閉じてから再び開き、Yを十分遠くに離したとき、Lは開いているか閉じているか。開いている場合、状態Ⅰとの比較。
- (コラムQ) はく検電器が測定対象以外の電荷の影響を受けないようにする方法。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、静電気現象の根幹である静電誘導と、導体の性質(電荷分布、電位)についての理解を問うものです。はく検電器という具体的な装置を通して、これらの原理がどのように現れるかを見ていきましょう。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 静電誘導: 帯電体を導体に近づけると、導体内の自由電子が移動し、帯電体に近い側に反対の符号の電荷が、遠い側に同じ符号の電荷が現れる現象です。
- 導体の性質(静電気):
- 導体内部の電場は0です。
- 導体全体は等電位です。
- 電荷は導体の表面にのみ分布します。
- 電気力線は導体表面に垂直に出入りします。
- 電気量保存則: 外部との電荷のやり取りがない孤立した導体系では、全体の電気量は保存されます。スイッチSが開いているときの検電器がこれに該当します。
- 接地: 導体を地面(または非常に大きな導体)に接続することです。接地された導体の電位は0(または基準電位)とみなされ、電荷は自由に地面との間で移動できます。
- 電気力線: 正電荷から出て負電荷に入る線で、その密度は電場の強さを表します。電気力線は電位の高い方から低い方へ向かいます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 初期状態の把握: 各部分の帯電状況、スイッチの状態を確認します。
- 操作の分析: 金属板Yの移動やスイッチSの開閉が、検電器やGの電荷分布、電位にどのような段階的変化をもたらすかを、上記の法則に基づいて考察します。
- はくの動きの解釈: はくLが開くのは、Lの左右の部分が同符号の電荷を帯びて電気的な反発力が働くためです。閉じるのは、Lの電荷がなくなるか、極めて小さくなるためです。
問 A (1)
思考の道筋とポイント
はじめ、検電器は帯電しておらず(電気的に中性)、はくLは閉じています。スイッチSは開いたままです。ここに、正に帯電した金属板Yを金属板Xの真上からゆっくりと近づけていきます。
- YがXに近づくと、Yの持つ正電荷によって、検電器の導体部分(金属板X、金属棒R、金属はくL)において静電誘導が発生します。
- 検電器内に存在する自由電子(負の電荷)が、Yの正電荷に引き寄せられます。
- その結果、Yに最も近い金属板Xの上面には負電荷が集まります。
- 検電器全体としては初め電気的に中性だったので、Xに負電荷が集まった分だけ、検電器のYから遠い部分、すなわち金属はくL(および金属棒Rの下部)には正電荷が現れることになります。
- 金属はくLは2枚あり、それぞれが正に帯電するため、同符号の電荷どうしの間に働く反発力(クーロン力)によって、はくLは開きます。
- YをXにさらに近づけていくと、Yからの電場の影響が強まり、Xに引き寄せられる負電荷の量が増加し、それに伴ってLに現れる正電荷の量も増加します。そのため、はくLの開きは徐々に大きくなっていきます。
- YがXに十分近くまで接近すると、Xに誘導される負電荷とLに現れる正電荷の量は、Yの電荷量やYとXの位置関係である程度飽和状態に達し、はくLの開きは一定になります。模範解答では、このときYが持つ電荷量と同程度の大きさの負の電気量 \(-Q\) がXに現れるとしています。
この設問における重要なポイント
- 静電誘導によって、導体内部で電荷がどのように分離(偏り)を生じるかを正確に理解することが大切です。
- はくが開く基本的な原理は、はく自身が電荷を帯び、同種電荷間の反発力が生じるためであることを把握しましょう。
- 帯電体Yと検電器との距離が、誘導される電荷の量、ひいてははくの開き具合に影響を与えることを理解してください。
具体的な解説と立式
この設問では、現象の定性的な記述が求められており、具体的な数式を用いた立式は必要ありません。物理現象のステップを追って理解することが中心となります。
金属板Y(仮に正電荷 \(+Q_Y\) を持つとします)が金属板Xに接近するにつれて、静電誘導によりXの上面には負電荷 \(-q_X\) が、金属はくLには正電荷 \(+q_L\) が現れます。スイッチSは開いているため、検電器全体(X+R+L)の総電気量は初期状態の0のまま保存されます。つまり、X部分に負電荷が現れた分、それと同じ量の正電荷がL部分(およびR部分の一部)に現れることで、全体の電気的バランスが保たれます。
金属はくLの開き具合は、L部分が帯びる電荷 \(q_L\) の量が多いほど大きくなります。Yを近づけるにつれて誘導される電荷の偏りが大きくなり \(q_L\) は増加し、ある程度以上近づくとその増加も緩やかになり、ほぼ一定の電荷量に達します。
使用した物理原理
- 静電誘導
- クーロン力(同符号の電荷間に働く反発力)
- 電気量保存則(スイッチSが開いているため、検電器は電気的に孤立している)
この設問において、具体的な数値を代入して解を求める計算はありません。現象が進行する論理的なステップは以下の通りです。
- Yの接近により、検電器内で静電誘導が発生します。
- 金属板XにはYの正電荷と反対の負電荷が、金属はくLにはYの正電荷と同じ正電荷が誘導されます。
- L部分が正に帯電するため、はく同士が反発し開きます。
- Yがさらに接近すると、誘導される電荷量が増加し、はくの開きも大きくなります。
- Yが十分に接近すると、誘導される電荷量はある程度で飽和し、はくの開きは一定になります。
プラスの電気を帯びた板Yを、電気がゼロの検電器に近づけていくと何が起こるか見てみましょう。検電器の中には、自由に動けるマイナスの電気(自由電子)がたくさんいます。Yのプラスの電気に引かれて、これらのマイナスの電気が検電器の上の金属板Xに集まってきます。すると、もともとプラスマイナスゼロだった検電器の下の部分、つまり金属のはくLは、マイナスの電気が上に移動した分だけ、プラスの電気が残ったような状態になります。はくLは2枚ともプラスの電気を帯びるので、お互いに「いやだー!」と反発し合ってパッと開きます。Yをどんどん近づけると、Xに集まるマイナスの電気が増え、それに伴ってはくLに残るプラスの電気も増えるので、はくはもっと大きく開いていきます。でも、ある程度以上近づくと、もうそれ以上は電気の偏り方が大きくは変わらなくなり、はくの開き方も一定のところで落ち着きます。
はくLは、金属板Yの接近に伴って徐々に開き、やがて一定の開きに達します。これは静電誘導による電荷の偏りと、それに伴うクーロン力の反発作用という基本的な物理現象として非常に妥当なふるまいです。
問 A (2)
思考の道筋とポイント
A(1)の最後の状態では、正に帯電した金属板Yは金属板Xの十分近くにあり、Xには負電荷 \(-Q\) が、金属はくLには正電荷 \(+Q\) が誘導されています。この状態でスイッチSを閉じ、検電器の金属棒Rと接地された金属板Gを導線で結びます。
- スイッチSを閉じると、検電器(具体的には金属棒Rを介してXおよびL)と金属板Gが電気的に接続され、これらは一体の導体と見なせるようになります。
- 金属板Gは接地されているため、その電位は \(V_G = 0\)(地球を基準とした基準電位)です。導体は全体が等電位になる性質があるので、接続された検電器の電位もGと同じく \(0 \, \text{V}\) になろうとします。
- 金属板X上にある負電荷 \(-Q\) は、真上にある金属板Yの正電荷 \(+Q\) に強く引きつけられています。このため、この負電荷はYの束縛を受けており、ほとんど動きません。
- 一方、金属はくL上にある正電荷 \(+Q\) は、上方のYの正電荷からは反発力を受けており、また、Gと接続されたことで電荷が自由に移動できる経路ができました。この正電荷は、より電位の低いG(電位 \(0 \, \text{V}\))へ向かって移動します。より直感的には、Gから負電荷である自由電子が検電器側に供給され、Lの正電荷と中和すると考えても良いでしょう。
- その結果、金属はくLの正電荷は失われ、Lは電気的に中性(電荷0)の状態に戻ります。
- Lが電荷を失うと、はくどうしの電気的な反発力がなくなり、はくLは重力や弾力で元の閉じた状態に戻ります。
この設問における重要なポイント
- 「接地(アース)」とは何か、その電気的な意味(電位が基準電位になり、電荷が自由に供給・排出される)を正しく理解することが重要です。
- 帯電体の近くにあるために動きにくい「束縛電荷」と、比較的自由に動ける「自由電荷」の概念を区別して考えると、現象が理解しやすくなります。
- はくが閉じるのは、はく部分の電荷がなくなり、反発力が作用しなくなるためです。
具体的な解説と立式
この設問も現象の定性的な説明が中心となります。
スイッチSを閉じる前の状態では、各部分の電荷は以下のようになっているとモデル化できます。
- 金属板Xの電荷: \(-Q\) (これはYの正電荷 \(+Q\) に束縛されています)
- 金属はくLの電荷: \(+Q\)
- 金属板Gの電荷: \(-Q\) (これはLの正電荷 \(+Q\) と対峙するように誘導されています)
スイッチSを閉じた後の状態を考えます。
検電器(X,R,L)とGが電気的に接続され、全体として電位が接地電位である \(V_G = 0 \, \text{V}\) になろうとします。
金属板Xの負電荷 \(-Q\) は、Yの正電荷 \(+Q\) との間に働く強い電気的引力(クーロン力)によって、その場にほぼ保持されます。
しかし、金属はくLの正電荷 \(+Q\) は、Gに接続されたことによってGへ移動し、Gから供給される負電荷(電子)と結合して中和します。その結果、L部分の電荷は実質的に0になります。
したがって、電気的な反発力を失ったはくLは閉じます。
使用した物理原理
- 接地(アース)の概念
- 導体の等電位性
- 電荷の移動(中和)
- 束縛電荷と自由電荷
ここでも、具体的な数値計算ではなく、現象の論理的な推移を追います。
- スイッチSを閉じることにより、検電器と金属板Gが導線で結ばれ、全体が一つの導体とみなせます。
- 接地されているGの電位は \(0 \, \text{V}\) であるため、接続された検電器も電位が \(0 \, \text{V}\) になろうとします。
- 金属はくLに存在した正電荷 \(+Q\) は、Gへと移動するか、Gから供給された電子と中和することで消失します。
- L部分の電荷が0になるため、はく間の反発力がなくなり、はくは閉じます。
スイッチSをポチッと閉じると、はく検電器が地面(金属板Gのこと)につながります。ここで想像してみてください。金属板Xにいるマイナスの電気は、すぐ真上にあるプラスの電気を帯びたYにガッチリと心を奪われている(強く引きつけられている)ので、その場からあまり動けません。でも、はくLにいたプラスの電気君たちは、自由に動ける地面につながったことで、「わーい、自由だ!」とばかりに地面の方へ逃げて行ってしまいます(あるいは、地面からマイナスの電気たちがやってきて、Lのプラスの電気を打ち消しちゃう、と考えてもOKです)。その結果、はくLは電気を持っていない状態、つまりプラスでもマイナスでもない状態になり、お互いに反発する力がなくなって、しょぼん…と閉じてしまうのです。
はくLは閉じます。これは、接地によって金属はくLの電荷が中和され、電気的な反発力が失われるためであり、物理的に妥当な結果と言えます。
問 A (3)
思考の道筋とポイント
A(2)の操作の後、つまり、YがXの近くにあり、Xには負電荷 \(-Q\) が存在し、Lは電荷0で閉じており、検電器全体としては \(-Q\) の電荷を帯びている状態で、まずスイッチSを開きます(これにより検電器は再びGから電気的に孤立します)。その後、金属板Yをゆっくりと十分遠くに離します。
- スイッチSを開いた直後、検電器の状態はA(2)の最終状態と基本的に同じです。すなわち、金属板Xには依然として負電荷 \(-Q\) があり(これはまだYに束縛されています)、金属はくLは電荷0で閉じたままです。この瞬間に重要なのは、スイッチSを開いたことで、検電器全体(X, R, L)が再び電気的に孤立し、その総電荷量 \(-Q\) が保存されるようになるということです。
- 次に、金属板Yをゆっくりと十分遠くに離していきます。Yが遠ざかるにつれて、Yの正電荷がX上の負電荷 \(-Q\) に及ぼしていた束縛力(電気的な引力)が徐々に弱まっていきます。
- 束縛が弱まると、金属板Xに集中していた負電荷 \(-Q\) は、もはやX部分だけにとどまっている理由がなくなります。負電荷どうしは互いに反発し合うため、導体である検電器(X, R, L)の表面全体にできるだけ均等に広がろうとします。
- その結果、金属はくLにも、検電器全体の負電荷 \(-Q\) の一部が分布することになります。
- 金属はくLが負に帯電すると、はくの各部分が負電荷を持つため、再び同符号の電荷どうしの反発力が働き、はくLは開きます。
- Yが十分遠方まで離れると、Yからの静電誘導の影響は無視できるようになります。このとき、検電器全体の負電荷 \(-Q\) がX, R, Lに分布した状態で安定し、はくLは一定の開きを保ちます。
この設問における重要なポイント
- スイッチSを開いた後の検電器は電気的に孤立した系となり、その全体の電気量が保存されるという点をしっかり押さえることが重要です。
- 帯電体Yを遠ざけることで、それまでYによって束縛されていた電荷が解放され、導体内で再分布する現象を理解しましょう。
- この場合、はくLは負に帯電することで再び開くことになります。
具体的な解説と立式
この設問も現象の定性的な説明が中心です。
スイッチSを開いた時点での検電器の総電荷は \(-Q\) であり、これは主に金属板Xに局在しています。
金属板Yを遠ざける過程を考えます。
Yからの電気的な束縛が弱まるにつれて、金属板Xに存在していた負電荷 \(-Q\) が、検電器の他の部分(金属棒Rや金属はくL)にも広がっていきます。
最終的にYが十分遠方に行ったとき、この総電荷 \(-Q\) は検電器全体(X, R, Lの表面)に分布します。その結果、金属はくL部分にも負電荷 \(-q’_L\) (ただし、\(q’_L > 0\) であり、\(-Q\) の一部)が分布します。
金属はくLが負に帯電するため、はく同士は反発し合って再び開きます。Yが十分遠方に行き、電荷分布が安定すると、このはくの開きは一定になります。
使用した物理原理
- 電気量保存則(孤立導体系)
- 電荷の再分布(導体表面における電荷の拡散)
- クーロン力(同符号電荷間の反発)
ここでも、具体的な数値計算ではなく、現象の論理的な推移を追います。
- スイッチSを開いた時点で、検電器は総量 \(-Q\) の負電荷を持ち、電気的に孤立します。
- 金属板Yを遠ざけると、金属板Xにあった負電荷 \(-Q\) への束縛が解かれます。
- 検電器が持つ総電荷 \(-Q\) が、検電器全体(X, R, L)の表面に再分布します。
- その結果、金属はくLも負に帯電します。
- Lが負電荷どうしの反発力により再び開きます。
- Yが十分遠くに行くと、電荷分布は安定し、Lの開きは一定になります。
さあ、今度はスイッチSをパチッと開いて、検電器を地面から切り離します。このとき、金属板XにはまだYに引っ張られたマイナスの電気がたくさん残っていますね。これが今の検電器全体の電気の量(マイナス)になります。次に、Yをそろーりそろーりと遠くへ持っていくとどうなるでしょう? Xのマイナスの電気をギュッと引っ張っていたYがいなくなるので、マイナスの電気たちは「解散!」とばかりに自由になります。マイナスの電気どうしは反発し合う性質があるので、狭いXだけにいるのではなく、検電器全体(金属板Xだけでなく、金属棒Rや金属はくLにも)に広がっていこうとします。その結果、はくLもマイナスの電気をしっかりともらうことになり、再びお互いに反発し合ってパッと開きます。Yがずっと遠くへ行ってしまうと、このマイナス電気の広がり方も落ち着き、はくの開き具合は一定になります。
はくLは負に帯電し、再び開いて一定の開きになります。これは電気量保存の法則と、導体表面における電荷の再分布という原理から導かれる、物理的に妥当な結果です。
問 B (1)
思考の道筋とポイント
問題Bでは、はじめにスイッチSが開いており、検電器はある電荷を与えられて金属はくLが開いている状態(これを状態Ⅰ)からスタートします。この状態の検電器に、正に帯電した金属板Yを遠くからXの十分近くまで近づけたところ、Lの開きが次第に小さくなり、いったん閉じ、その後再び開いた(これを状態Ⅱ)と記述されています。
はじめの検電器の電荷の正負の判定:
この現象を手がかりに、検電器が最初に持っていた電荷の符号を推理します。
- 仮説1: もし初めの検電器の電荷が「正」だった場合
- 金属はくLは正に帯電しており、その反発力で開いています。
- ここに「正」に帯電した金属板Yを近づけると、Yの持つ正電荷は、検電器内の正電荷に対して反発力を及ぼします。
- この反発力により、検電器のYから遠い部分である金属はくLには、さらに多くの正電荷が集まる(あるいは、Yに近い金属板X部分の正電荷がLへと押しやられる)と考えられます。
- その結果、Lの正電荷は増加し、Lの開きは現状よりもさらに大きくなるはずです。
- しかし、問題文では「Lの開きが次第に小さくなり」と記述されているため、この仮説は矛盾します。
- 仮説2: もし初めの検電器の電荷が「負」だった場合
- 金属はくLは負に帯電しており、その反発力で開いています。
- ここに「正」に帯電した金属板Yを近づけると、Yの持つ正電荷は、検電器内の負電荷に対して引力を及ぼします。
- この引力により、検電器のYに近い金属板Xには、検電器全体が元々持っていた負電荷の中から、より多くの負電荷が集まってきます。
- その結果、Yから遠い金属はくL部分の負電荷の量は相対的に減少します。
- Lの負電荷が減少すれば、はくどうしの反発力が弱まり、Lの開きは小さくなります。これは問題文の記述と一致します。
以上の考察から、はじめの検電器の電荷は「負」であったと結論付けられます。
状態ⅡでのX, L, Gの電荷の正・0・負の判定:
次に、Yをさらに近づけていったときの状態Ⅱについて考えます。
- Yを近づけるにつれて、金属板Xにはますます多くの負電荷が引き寄せられ集中します。
- はじめ検電器全体が負に帯電していたので、Xに負電荷が集中していくと、金属はくL部分の負電荷は減少し続け、やがて0になります。このとき、Lの電荷が0になるため反発力がなくなり、Lは一時的に閉じます。
- Yをさらに近づけると、Xにはさらに多量の負電荷が引き寄せられます。検電器全体の負電荷の総量は一定(初めに与えられた負電荷の量で保存されている)ですが、Yからの非常に強い引力によって、その負電荷の大部分がXに極端に集中します。
- すると、もともと金属はくL部分にあった負電荷が完全に金属板Xに吸い上げられた後、今度はL部分が相対的に正に帯電し始めます。(これは、検電器全体では負の総電荷を保ちつつ、Xに極端に負電荷が偏るため、電荷のバランスを取るためにLは正になるしかありません。)
- Lが正に帯電すると、はくどうしは今度は正電荷による反発力で再び開きます。これが問題文中の状態Ⅱです。
- このとき、金属板XはYの強い影響で多量の負電荷を帯びています。
- 金属はくLは正電荷を帯びています。
- 最後に金属板Gの電荷を考えます。Gは接地された導体板です。状態ⅡではLが正に帯電しており、LとGの間には電気力線が存在します(LからGへ向かう)。このLの正電荷の影響により、GのLに近い表面には静電誘導によって負電荷が現れます。
なお、このような現象(はくが一度閉じて逆符号の電荷で再び開く)が起こるためには、近づける金属板Yが持つ正電荷の量が、初めに検電器に与えられた負電荷の絶対値よりも十分に大きい(つまり、Yの誘導効果が非常に強い)必要があります。
この設問における重要なポイント
- 問題文に記述された現象(はくの開閉の仕方)を手がかりに、仮説を立てて検証し、初期電荷の符号を論理的に決定する能力が問われます。
- 帯電体Yの接近に伴う検電器内部での電荷の移動(偏り)を段階的に、かつ正確に追跡することが重要です。
- はくが一度閉じてから再び開くという現象は、はく部分の電荷の符号が途中で反転することを示唆しています。このメカニズムを静電誘導の観点から理解しましょう。
具体的な解説と立式
この設問も、現象の定性的な理解と論理的な推論が中心となります。
はじめの検電器の総電荷を \(Q_{\text{検電器}}\) とします。
金属はくLの開きが小さくなるという現象から、\(Q_{\text{検電器}}\) は負であると判断できます。
状態Ⅱにおける各部分の電荷の符号は以下の通りです。
- 金属板Xの電荷: \(Q_X < 0\) (負)
- 金属はくLの電荷: \(Q_L > 0\) (正)
- 金属板Gの電荷: \(Q_G < 0\) (負、これはLの正電荷 \(Q_L\) により誘導されるものです)
使用した物理原理
- 静電誘導
- 電荷の移動と保存(スイッチSが開いているため、検電器は孤立しており総電荷は保存)
- クーロン力(反発力と引力)
ここでの「計算」は、論理的な推論のステップを指します。
- 初期状態(Lが開いている)と、Yを近づけた際のLの挙動(閉じてから再び開く)という観察結果から、検電器の初期電荷が負であると結論付けます。
- 金属はくLが閉じるのは、L部分の電荷が一時的に0になったときです。
- 金属はくLが再び開くのは、L部分が初期とは逆の符号の電荷(つまりこの場合は正電荷)を帯びたときです。
- Lが正に帯電するためには、金属板XにはYの強い引力によって、検電器全体の負電荷の大部分が集中している必要があります。
- Lが正に帯電しているので、それと対面する接地金属板Gの表面には、静電誘導により負電荷が現れます。
まず、検電器が最初にどんな種類の電気(プラスかマイナスか)を持っていたかを探偵のように推理しましょう。もし最初にプラスの電気を持っていたとしたら、そこに同じプラスの電気を持つYを近づけると、はくLのプラス電気はYに反発されてもっと増え、はくはもっと大きく開くはずです。でも、問題には「はくの開きが小さくなり、いったん閉じた」と書いてありますね。これは、最初の電気がプラスではありえない証拠です。だから、最初の電気はマイナスだったと分かります。
では、マイナスの電気を持っていた検電器に、プラスのYを近づけるとどうなるでしょう? 検電器の中のマイナスの電気が、Yのプラスにグーッと引き寄せられて、上の金属板Xに集まります。そうすると、下のはくLにあったマイナスの電気がだんだん減っていき、ついにゼロになってはくは一度ピタッと閉じます。Yをもーっと近づけると、Xにはさらにたくさんのマイナスの電気が吸い寄せられます。検電器全体のマイナス電気の量は決まっているので、Xにマイナス電気が集中しすぎると、今度は逆にはくLの方がプラスの電気を帯びた状態になってしまいます。それで、はくLはプラスの電気どうしの反発で再びパッと開くのです。
このとき、金属板Xはたくさんのマイナスの電気、はくLはプラスの電気、そして地面の板Gは、Lのプラス電気に引かれて表面にマイナスの電気が現れている、という状態になっています。
はじめの検電器の電荷は負です。そして、状態Ⅱでの各部分の電荷は、X:負、L:正、G:負となります。これは静電誘導による電荷の複雑な偏りの結果であり、問題文に記述された一連の現象とも論理的に整合性が取れています。
問 B (2)
思考の道筋とポイント
状態Ⅱにおける金属板Y、金属板X、金属はくL、金属板Gのそれぞれの電位を \(V_Y, V_X, V_L, V_G\) とし、これらの大小関係を不等式や等式で表します。
B(1)での考察から、状態Ⅱにおける各部分の帯電状況は以下のようになっています。
- Y: 正に帯電 (\(Q_Y > 0\))
- X: 負に帯電 (\(Q_X < 0\))
- L: 正に帯電 (\(Q_L > 0\))
- G: 負に帯電 (\(Q_G < 0\))、かつ接地されているので、その電位は \(V_G = 0\) とするのが一般的ですが、模範解答では相対的な高低で議論しています。ここでは、Gが負に帯電しているという事実と、他の部分との比較を重視します。
電位に関する基本的な性質を思い出しましょう。
- 正電荷はその周囲に高い電位を形成し、負電荷はその周囲に低い電位を形成する傾向があります。
- 電気力線は、電位の高い点から低い点へ向かって描かれます。
- 導体の内部および表面は、静電平衡状態ではどこでも同じ電位(等電位)になります。
これらの性質に基づいて、各部分の電位を比較していきます。
- \(V_G\) の扱いについて: 金属板Gは接地されています。通常、接地された導体の電位は基準電位として \(0 \, \text{V}\) と定義されます。しかし、模範解答では \(V_G < V_L\) という比較から入っており、Gが負に帯電していることから相対的に低い電位を持つ、という解釈をしています。Gの表面に負電荷があることは、Lの正電荷との間で電気力線がLからGへ向かうことを意味し、これは \(V_L > V_G\) であることと整合します。
- \(V_L\) と \(V_X\) の関係: 金属板X、金属棒R、金属はくLは一体の導体であり、電気的に繋がっています。したがって、これらの部分は全て等電位となります。よって、\(V_L = V_X\)。
- \(V_L\) (または \(V_X\)) と \(V_Y\) の関係:
- 金属はくLは正に帯電 (\(Q_L > 0\)) しており、金属板Xは負に帯電 (\(Q_X < 0\)) しています。そして、金属板Yは正に帯電 (\(Q_Y > 0\)) しています。
- YとXの間には強い電気的な相互作用があり、電気力線はY(正電荷)から出てX(負電荷)へ向かっています。電気力線は電位の高い方から低い方へ向かうという原則から、\(V_Y > V_X\) となります。
- \(V_G\) と \(V_L\) の関係:
- 金属はくLは正に帯電 (\(Q_L > 0\)) しており、金属板Gは負に帯電 (\(Q_G < 0\)) しています。電気力線はL(正電荷)から出てG(負電荷)へ向かっています。したがって、\(V_L > V_G\) となります。
以上の考察と模範解答の記述を総合すると、電位の大小関係は \(V_G < V_L = V_X < V_Y\) となります。
この設問における重要なポイント
- 接地された導体の電位の扱い(通常は \(0 \, \text{V}\) を基準とするが、相対的な高低も重要)。
- 一つの導体(電気的に接続された部分全体)は等電位であるという導体の基本性質。
- 電気力線の向き(正電荷から負電荷へ、または高電位から低電位へ)と電位の高低の関係を正確に理解する。
- 各部分の帯電の正負から、その部分が作る電位が大まかに高いか低いかを類推する能力。
具体的な解説と立式
状態Ⅱにおける各部分の電荷の符号は、B(1)の解説より以下の通りです。
- Y: 正電荷 (\(Q_Y > 0\))
- X: 負電荷 (\(Q_X < 0\))
- L: 正電荷 (\(Q_L > 0\))
- G: 負電荷 (\(Q_G < 0\))
これらの情報と物理原理から電位の関係を導きます。
- 導体の性質より、金属板X、金属棒R、金属はくLは導体で接続されているため、これらは全て等電位です。
$$V_X = V_L \quad \cdots ①$$ - 金属板Yは正に帯電し、金属板Xは負に帯電しています。電気力線はYからXの方向へ向かいます。電気力線は電位の高い方から低い方へ向かうため、Yの電位はXの電位より高くなります。
$$V_Y > V_X \quad \cdots ②$$ - 金属はくLは正に帯電し、金属板Gは負に帯電しています(Lの正電荷による静電誘導)。電気力線はLからGの方向へ向かいます。したがって、Lの電位はGの電位より高くなります。
$$V_L > V_G \quad \cdots ③$$
式①、②、③をまとめると、以下の大小関係が得られます。
$$V_G < V_L = V_X < V_Y$$
使用した物理原理
- 電位の定義と性質(電気力線との関連、電荷の符号との関連)
- 導体の等電位性
- 接地された導体の電位(基準電位)
上記「具体的な解説と立式」で示した不等式および等式を論理的に組み合わせることで、最終的な結論を導き出します。
- まず、導体である検電器のX, R, L部分は等電位であることから、\(V_X = V_L\)。
- 次に、Y(正)とX(負)の間では、Yの方が電位が高いので \(V_Y > V_X\)。これを \(V_L\) を用いて表すと \(V_Y > V_L\)。
- そして、L(正)とG(負)の間では、Lの方が電位が高いので \(V_L > V_G\)。
これらを一つの連続した不等式・等式で表現すると、\(V_G < V_L = V_X < V_Y\) となります。
電気の世界には「電位」という、電気的な高さのようなものがあります。プラスの電気は高い電位を作りやすく、マイナスの電気は低い電位を作りやすいとイメージしてください。
- まず、地面につながっている金属板Gはマイナスの電気を帯びているので、電位は低いと考えましょう。
- 金属のはくLはプラスの電気を帯びているので、Gよりも電位が高いです。
- 金属板Xと金属のはくLは、電気的に繋がった同じ金属部品なので、電位は同じ高さです。
- 最後に、金属板Yはプラスの電気、金属板Xはマイナスの電気なので、Yの方がXよりも電位が高くなります。
これらを低い方から順番に並べると、「Gがいちばん低く、次にLとXが同じ高さで、Yがいちばん高い」という関係になります。
電位の大小関係は \(V_G < V_L = V_X < V_Y\) となります。これは、各部分の電荷の符号、導体の性質(等電位性)、そして電気力線が電位の高い方から低い方へ向かうという基本的な物理原理から導かれる、論理的に妥当な関係です。
問 B (3)
思考の道筋とポイント
状態Ⅱ(YがXの近くにあり、Xは負に帯電、Lは正に帯電して開いている)から、以下の操作を順に行います。
1. スイッチSを一度閉じる。
2. スイッチSを再び開く。
3. 金属板Yを十分遠くに離す。
この結果、金属はくLは開いているか閉じているか、そして開いている場合にはその開きが状態Ⅰ(初期状態)に比べてどうなっているかを考察します。
操作1: スイッチSを一度閉じる
- 状態Ⅱでは、金属はくLは正電荷 \(Q_L > 0\) を持ち、金属板Xは負電荷 \(Q_X < 0\) を持っています。金属板Yは正に帯電して近くにあります。
- スイッチSを閉じると、検電器の金属棒Rと接地された金属板Gが電気的に接続されます。Gは接地されているため、電位は \(V_G = 0\) です。したがって、接続された検電器の電位も \(0 \, \text{V}\) になろうとします。
- 金属板Xにある負電荷 \(Q_X\) は、依然としてYの正電荷に強く束縛されているため、その大部分は動きません。
- 金属はくLにある正電荷 \(Q_L\) は、Gに接続されたことでGへと移動するか、Gから供給される負電荷(電子)と中和して失われます。
- その結果、L部分の電荷は0になり、はくLは閉じます。
- この時点で、検電器全体としては、金属板Xに依然として存在する負電荷 \(Q_X\) の分だけ、負に帯電していることになります。この負電荷の量は、状態ⅡのときにXに蓄えられていた負電荷の量です。
操作2: スイッチSを再び開く
- スイッチSを開くと、検電器は再び金属板Gから電気的に孤立します。
- この瞬間に、検電器全体の総電荷は、操作1の最後にX部分に残っていた負電荷(これを \(Q_X(\text{状態Ⅱ})\) とします)となります。この電荷量は、これ以降の操作では保存されます。金属はくLは閉じたままです。
操作3: 金属板Yを十分遠くに離す
- 金属板Yを遠ざけると、Yの正電荷が金属板X上の負電荷に及ぼしていた束縛力が失われます。
- 検電器全体が持っている負電荷(\(Q_X(\text{状態Ⅱ})\))は、もはやX部分だけに留まる理由がなくなり、導体である検電器(X, R, L)の表面全体に再分布しようとします(負電荷どうしの反発のため)。
- その結果、金属はくLにも負電荷の一部が分布します。
- 金属はくLが負に帯電するため、はくの各部分は負電荷どうしの反発力で再び開きます。
状態Ⅰとの比較
- 状態Ⅰでは、検電器は初めに与えられたある量の負電荷 \(Q_{\text{初}}\) を持っていました。
- 今回の3つの操作を経た後の検電器が持つ負電荷は、状態Ⅱのときに金属板Xに蓄えられていた負電荷 \(Q_X(\text{状態Ⅱ})\) です。
- ここで重要なのは、\(|Q_X(\text{状態Ⅱ})|\) と \(|Q_{\text{初}}|\) のどちらが大きいかです。
模範解答では「絶対値は初めより大きい」と結論付けています。これは以下のように解釈できます。
正に帯電したYをXに強く近づけた状態(状態Ⅱ)でスイッチSを閉じると、検電器の電位は \(0 \, \text{V}\) になろうとします。Yの強い正の誘導効果に対抗して電位を \(0 \, \text{V}\) に保つためには、X部分にはかなりの量の負電荷が引き寄せられ、保持される必要があります。この量は、最初に検電器に漠然と与えられた負電荷 \(|Q_{\text{初}}|\) よりも多くなる(つまり、より多くの電子がGから流れ込むか、検電器からより多くの正電荷がGへ逃げることで実効的な負電荷が増える)と考えるのが自然です。 - 検電器が持つ負電荷の絶対値が大きいほど、Yを離した後に金属はくLに分布する負電荷の量も多くなり、はくの開きは大きくなります。
- したがって、最終的にLは開いており、その開きは状態Ⅰ(初期状態)に比べて大きくなっていると考えられます。
この設問における重要なポイント
- スイッチSの開閉操作が、検電器の電気的な状態(接地状態か孤立状態か)をどのように変えるかを正確に理解することが不可欠です。
- 帯電体を近づけた状態で接地操作を行うと、検電器に結果としてより多くの(この場合は絶対値として大きい)電荷を蓄えることができる、という静電誘導の応用的な側面を把握しましょう。
- はくの開き具合は、はく部分に分布する電荷の量に依存し、総電荷量が多ければそれに応じて開きも大きくなる傾向があることを理解してください。
具体的な解説と立式
この設問も、現象の定性的な理解と論理的なステップが中心となります。
状態Ⅰにおける検電器の総電荷を \(Q_{\text{Ⅰ}}\) とします。B(1)より \(Q_{\text{Ⅰ}} < 0\) です。
状態ⅡでスイッチSを閉じ、再度開いた後の検電器の総電荷を \(Q_{\text{終}}\) とします。この \(Q_{\text{終}}\) は、状態Ⅱにおいて金属板Yの強い引力によって金属板Xに蓄えられていた負電荷にほぼ等しく、\(Q_{\text{終}} < 0\) です。 模範解答の記述に従うと、この操作によって検電器に蓄えられる負電荷の絶対値は、初期状態Ⅰのときよりも大きくなると考えられます。つまり、 $$|Q_{\text{終}}| > |Q_{\text{Ⅰ}}|$$
金属板Yを遠ざけると、この総電荷 \(Q_{\text{終}}\) が検電器全体(X, R, L)に再分布し、金属はくLも負に帯電して開きます。
金属はくLの開きは、そこに分布する電荷の絶対値に依存するため、\(|Q_{\text{終}}|\) が \(|Q_{\text{Ⅰ}}|\) より大きいことから、最終的なはくの開きは状態Ⅰのときよりも大きくなると結論付けられます。
使用した物理原理
- 接地による電荷の中和と蓄積
- 電気量保存則(孤立系において)
- 電荷の再分布(導体表面)
- 静電誘導による電荷の蓄積効果の強化
ここでの「計算」は、論理的な推論のステップを指します。
- 状態ⅡでスイッチSを閉じると、金属はくLの正電荷は中和され、Lは閉じます。このとき、金属板XにはYの強い引力により多量の負電荷が保持されています。
- スイッチSを再び開くと、検電器はこのXに保持されていた負電荷を総電荷として電気的に孤立します。
- 金属板Yを遠ざけると、この検電器全体の負の総電荷がX, R, Lに再分布し、Lも負に帯電して開きます。
- この操作によって検電器に残った負電荷の総量の絶対値は、状態Ⅰのときの初期負電荷の絶対値よりも大きいと判断されます(Yの強い静電誘導と接地操作の組み合わせによる効果)。
- したがって、最終的なはくの開きは、状態Ⅰのときよりも大きくなります。
状態Ⅱで、プラスのYがすぐ近くにいるときにスイッチSを閉めると、はくLにいたプラスの電気は地面に逃げて、Lは閉じましたね。このとき、金属板XにはYに強く引かれたマイナスの電気がまだたくさん残っています。ここでスイッチSをまた開くと、検電器は地面から切り離され、Xに溜まっていたこのマイナスの電気をまるごと自分の電気として持つことになります。Yの力が非常に強かったので、このとき検電器が持つことになったマイナス電気の「量」は、実は最初に検電器が持っていたマイナス電気の量(状態Ⅰのとき)よりも多くなっているのです。
そして最後に、Yをゆっくりと遠くへ離していくと、検電器全体にこの「より多くの」マイナスの電気が広がっていきます。当然、はくLもマイナスの電気を帯びるので、再び反発して開きます。そして、持っているマイナス電気の量が状態Ⅰのときよりも多いので、はくの開き方も状態Ⅰのときよりも大きくなる、というわけです。
金属はくLは開いており、その開きは状態Ⅰに比べて大きくなっています。これは、正に帯電した物体を近づけた状態で一時的に接地するという操作を通じて、検電器に結果的により多くの(ここでは絶対値としてより大きい)負電荷を蓄積させることができる、という静電誘導の応用的な現象を反映しており、物理的に妥当な結論です。
【コラム】Q. はく検電器の実験をするとき、検電器が測定対象以外の電荷の影響を受けないようにしたい。それにはどうすればよいか。
思考の道筋とポイント
はく検電器は、微量な電荷の存在やそのおおよその量を検出するための非常に敏感な装置です。そのため、本来測定したい対象物以外の、周囲に存在するさまざまな電荷(例えば、実験を行っている人の衣服が摩擦で帯電したものや、他の実験機器が発生させる電場など)からの電気的な影響を不用意に受けてしまうと、測定結果の信頼性が損なわれたり、正確な観察ができなくなったりします。この問題は、そのような外部からの望ましくない電気的影響(いわゆる電気的ノイズ)を遮断し、検電器を保護するための具体的な方法について尋ねています。
この問題の鍵となる概念は、「静電遮蔽(せいでんしゃへい)」または「ファラデーケージ」と呼ばれる現象です。
この設問における重要なポイント
- 外部の電場から内部の空間を電気的に保護する「静電遮蔽」の原理を理解することが中心です。
- この現象が、導体の持つ基本的な性質(自由電子の移動、導体内部の電場が0になること)に深く関連していることを把握しましょう。
具体的な解説と立式
はく検電器が測定対象以外の電荷(つまり、外部の不要な電場)の影響を受けないようにするためには、はく検電器の周囲を完全に金属(導体)で取り囲むことが最も効果的な方法です。この原理を静電遮蔽といいます。
静電遮蔽が起こるメカニズム:
- 導体(例えば金属製の箱)を外部電場が存在する空間に置くと、導体内部にある自由電子が外部電場から力を受けて移動を開始します。
- 自由電子は、外部電場を打ち消すような向きの内部電場が形成されるまで移動を続けます。具体的には、外部電場と同じ向きの面には負電荷が、反対向きの面には正電荷が偏って分布します。
- 最終的に、この誘導された電荷が作る逆向きの電場と外部電場が完全に打ち消し合い、導体内部の電場は0(ゼロ)になります。
- その結果、導体で囲まれた内部の空間は、外部にどのような電場が存在しようとも、またその外部電場が時間的に変化しようとも、影響を受けなくなります。つまり、導体の壁が電気的な盾(シールド)の役割を果たすのです。
具体的に検電器に応用する場合、以下のような方法が考えられます。
- 金属製の箱の中に検電器をすっぽりと入れてしまう。
- 目の細かい金属製の網(金網)で検電器全体を覆う。金網でもある程度の遮蔽効果が得られるのは、網目が電場の波長(この場合は静電場なので、空間的な変動のスケール)に対して十分に細かければ、実質的に連続した導体面として機能するためです。
このようにして検電器を外部の電場から隔離することで、測定対象からの影響のみを正確に捉えることが可能になります。
使用した物理原理
- 静電遮蔽(ファラデーケージ)
- 導体の性質:
- 自由電子の存在と移動
- 外部電場に対する応答(誘導電荷の発生)
- 導体内部の電場は静電平衡状態で0になる
このQ&Aは、静電遮蔽という物理現象の原理とその応用方法に関する説明であり、具体的な数値計算を伴うものではありません。
はく検電器はとってもデリケートなので、周りからのちょっとした電気の影響も拾ってしまいます。実験したいもの以外の電気の影響を受けないようにするには、検電器を「電気のバリアー」で守ってあげると良いのです。そのバリアーとは、金属でできた箱や、目の細かい金属の網です。
金属(導体)には面白い性質があって、外から電気がやってきても、金属の中にいる小さな電気の粒(自由電子)たちがサーッと動いて、金属の表面でうまく電気を調整し、金属の「内側」には電気が入り込めないようにしてくれます。まるで、金属の壁が外の電気的なノイズをシャットアウトしてくれるような感じです。だから、金属で囲まれた中は、外がどんなに電気的に騒がしくても、静かで安全な空間になります。このおかげで、はく検電器は測定したい相手だけに集中して、正確に働くことができるようになるのです。この賢い仕組みを「静電遮蔽」と呼んでいます。
はく検電器を測定対象以外の電荷の影響から守るためには、その周囲を金属で取り囲む(例:金属製の箱に入れる、または目の細かい金網で覆う)のが有効です。これにより静電遮蔽の効果が働き、外部の電場が検電器内部に侵入するのを防ぐことができるため、より精密で信頼性の高い測定が可能になります。これは実験物理学において広く用いられている確立された手法であり、物理原理に基づいた非常に合理的な対策です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 静電誘導:
- 核心:帯電体を導体に近づけた際に、導体内部の自由電子が移動し、電荷の偏りが生じる現象です。
- 理解のポイント:
- 自由電子の動きが原因であることを理解する(正の帯電体を近づければ自由電子は引き寄せられ、負の帯電体を近づければ自由電子は反発して遠ざかる)。
- 帯電体に近い側には帯電体と「反対」の符号の電荷が、遠い側には帯電体と「同じ」符号の電荷が現れる(または残る)ことを正確に把握する。
- 誘導される電荷の量は、近づける帯電体の電荷量、距離、周囲の導体の形状や接地状況によって複雑に変化します。
- 導体の性質(静電気における):
- 核心:静電平衡状態(電荷の移動が完了し、電流が流れていない状態)にある導体は、その内部には電場が存在せず(電場 \(E=0\))、導体全体が等電位となるという重要な性質です。また、余剰な電荷は導体の表面にのみ分布します。
- 理解のポイント:
- 「導体内部の電場が0」:もし内部に電場が存在すれば、自由電子はその電場から力を受けて移動し、電流が流れてしまうはずですが、静電気の状況では電流は流れていません。この矛盾を解消するために内部電場は0であると結論づけられます。
- 「導体全体が等電位」:内部電場が0であることから、導体内のどの2点を取っても電位差が生じないためです。
- 「電荷は導体表面にのみ分布」:もし導体内部に余剰電荷が存在すると、その電荷から電気力線が発し、ガウスの法則によりその周囲に電場が生じてしまいます。これは内部電場0と矛盾します(ただし、導体内部に空洞があり、その空洞内に別途電荷が存在する場合は除く)。
- 電気量保存則:
- 核心:電気的に孤立した系(外部との間で電荷のやり取りがない系)においては、その系全体の電荷の総和は常に一定に保たれるという基本的な法則です。
- 理解のポイント:この問題では、検電器のスイッチSが開いている状態では、検電器(金属板X、金属棒R、金属はくLを一体とみなす)は電気的に孤立しているため、その総電荷量は変化しません。電荷の「偏り」や「再分布」は起こりますが、「総量」は不変です。
- 接地(アース):
- 核心:導体を地球(または電気的に非常に大きな導体)に接続する操作のことです。接地された導体の電位は、地球の電位を基準(通常 \(0 \, \text{V}\))として、それと同じになると考えます。また、接地された導体は、必要に応じて地球との間で自由に電荷をやり取りできます。
- 理解のポイント:地球は非常に大きいため、多少の電荷が流入・流出しても、その電位はほとんど変化しないと近似できます。接地は、導体の電位を安定させたり、不要な電荷を逃がしたりする目的で用いられます。
- 電気力線と電位の関係:
- 核心:電気力線は電位の高いところから低いところへ向かって描かれ、その線の密度は電場の強さを表します。また、電気力線は導体表面に垂直に出入りします。
- 理解のポイント:電荷の分布状態からおおよその電気力線の様子をイメージし、それに基づいて各部分の電位の高低を判断する、という思考の流れが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 複数の導体を接触させたり、離したり、接地したりする操作によって、電荷がどのように移動し、最終的に各導体にどのように分布するかを問う問題。
- コンデンサーにおいて、極板間に誘電体を挿入したり、極板間の距離を変化させたり、あるいはスイッチ操作で電源から切り離したり接地したりする場合の、極板上の電荷や極板間の電位差、電場の変化を考察する問題。
- ファラデーケージや静電遮蔽の原理が関わる、電磁シールドなどの応用的な問題。
- 電位の概念を用いて、電荷を移動させるのに必要な仕事や、静電エネルギーの変化を計算する問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 初期状態の完全な把握: まず、問題で与えられた各導体が、最初にどのような電荷を持っているか(帯電しているか中性か)、接地されているか、電気的に孤立しているか、スイッチは開いているか閉じているか、といった初期条件を徹底的に確認します。
- 操作のステップごとの分析: 問題文中で行われる操作(帯電体を近づける/遠ざける、スイッチを開く/閉じる、導体を接触させる/離すなど)を一つ一つ順番に追い、その各操作が電荷分布や電位にどのような影響を及ぼすかを段階的に考えます。
- 電荷の移動経路の確認: 導体が物理的に接触しているか、導線で接続されているか(特にスイッチが閉じている場合)、接地されているかによって、電荷が移動できる「道」があるかどうかを判断します。
- 保存則適用のタイミング: 電気的に孤立している部分系(例えばスイッチが開いている検電器全体)を見つけ出し、その部分系については電気量保存則が成り立つことを常に意識します。
- 導体の基本性質の活用: 「導体内部は電場ゼロ」「導体全体は等電位」「余剰電荷は表面のみ」といった静電気における導体の基本性質を、思考の前提として常に念頭に置きます。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 「帯電体を近づける(静電誘導)」と「帯電体を接触させる(電荷の分配)」は、起こる現象や電荷の移動の仕方が異なる明確な操作です。混同しないように注意が必要です。
- スイッチの「開」と「閉」が、電気回路のどの部分を電気的に接続し、どの部分を分離するのかを、図を見て正確に把握することが極めて重要です。
- 問題文中の「十分遠くに」や「無限遠に」といった表現は、その物体からの静電誘導の影響が実質的に無視できるほど小さくなることを意味します。
- はく検電器のはくが開くのは、はくの左右の部分が同符号の電荷を帯びて電気的な反発力が働くためです。逆に、はくが閉じるのは、はく部分の電荷がなくなるか、極めて小さくなるためです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 静電誘導によって導体表面に現れる電荷の符号の混同:
- 現象:近づけた帯電体と「同じ」符号の電荷が帯電体に近い側に誘導され、帯電体と「反対」の符号の電荷が遠い側に誘導される、と誤って記憶してしまう。
- 対策:必ず「帯電体に近い側には、帯電体と引き合うために『反対』の符号の電荷が集まる」「帯電体から遠い側には、帯電体と同じ符号の電荷が押しやられるか、あるいは残される」と正しく理解し直しましょう。自由電子(負電荷)の動きに着目して考えると、なぜそうなるのかがより明確になります。
- 接地(アース)した導体の電荷に関する誤解:
- 現象:「接地すると導体の電荷は必ず0(中性)になる」と短絡的に思い込んでしまう。
- 対策:接地操作の核心は「導体の電位が基準電位(通常0V)になる」ことです。その結果として電荷が移動し、最終的に導体の電荷が0になる場合も確かに多いですが、近くに他の帯電体が存在し、その影響(静電誘導)を受けている場合には、電位を0Vに保つために接地された導体が電荷を帯び続けることもあります(例:本問題のA(2)操作後の金属板Xの状態)。
- スイッチを開いて電気的に孤立した後の電気量保存の法則の適用漏れや誤解:
- 現象:スイッチを開いて検電器が電気的に孤立した後でも、外部の帯電体の影響だけで検電器全体の総電荷量がどんどん変化するように考えてしまう。
- 対策:スイッチが開かれたことによって、その導体系(例えば検電器全体)が外部と電気的に遮断され「孤立系」になったことを強く意識してください。孤立系においては、内部での電荷の「偏り」や「再分布」は起こり得ますが、系全体の「総電荷量」は不変に保たれます(電気量保存則)。
- はく検電器のはくの開閉状態と、はく部分の電荷の符号の絶対的な結びつけ:
- 現象:はくが開いていれば必ず正電荷(あるいは必ず負電荷)と決めつけてしまい、実験操作の過程ではくの電荷の符号が途中で反転する可能性を見落としてしまう(特に本問題のB(1)のようなケース)。
- 対策:はくが開くのは、あくまで「はくの左右の部分が『同符号』の電荷を帯びて反発し合う」ためです。その電荷の符号が正であるか負であるかは、それまでの操作や周囲の状況によって決まります。問題B(1)で見たように、複雑な操作の過程では、はくの電荷の符号が途中で変わる(例えば、負 \(\rightarrow\) 0 \(\rightarrow\) 正)こともあり得るという柔軟な思考が必要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 電荷の分布の変化の可視化:正に帯電した金属板Yを近づけたとき、検電器の金属板Xや金属はくLに、プラス(+)やマイナス(-)の記号を使って、電荷がどのように分布するか(偏るか)を模式的に図に描き込むことが非常に有効です。その際、電荷の相対的な量(多い場所は記号を多く、少ない場所は少なく描くなど)も意識するとより理解が深まります。
- 自由電子の動きの追跡:例えば、Yの正電荷に検電器内の自由電子(負の電気の粒)が引き寄せられてXに集まる様子や、逆にL部分から電子が不足してLが正に帯電する様子などを、矢印などを使って動きを模式的に描くことで、なぜそのような電荷分布になるのかを直感的に理解できます。
- 電気力線の描画:Yから出る電気力線がXに吸い込まれる様子、あるいはLから出る(またはLへ入る)電気力線がGへ向かう(またはGから来る)様子を簡単な線で描くことで、電場の向きやおおよその強さ、そして電位の高低関係を視覚的に捉える助けになります。模範解答に示されている図aや図bは、この電気力線を用いた表現の良い例です。
- スイッチの開閉状態の明確化:回路図のように、スイッチが開いている状態では検電器が電気的に孤立していること、スイッチが閉じている状態では検電器が金属板Gと電気的に繋がっていることを、図上で明確に意識することが重要です。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 関与する各導体(Y, X, L, R, Gなど)を、それぞれ区別できるように明確に描きましょう。
- 電荷の符号(「+」か「-」か)を必ず明記し、可能であればその相対的な量(例えば、電荷が多い部分は+や-の記号を密集させて描くなど)も意識して描き分けると、状況把握が容易になります。
- 電気力線を描く場合は、その向き(正電荷から出て負電荷へ向かう)、密度(おおよその電場の強さに対応)、そして導体表面への出入りの仕方(導体表面とは必ず垂直に交わる)といった基本的なルールに注意して描きましょう。
- 問題中で行われる操作(Yを近づける、スイッチを閉じるなど)の各段階ごとに、対応する電荷分布の図を描き、状態がどのように変化していくかを追跡すると、複雑な現象も整理して理解できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
この問題は定性的な理解を主とするため、具体的な数式(公式)の適用は限定的ですが、以下の物理法則・原理の論理的な適用が解答の根幹をなしています。
- クーロンの法則(定性的な適用):
- 選定理由:金属はくLが開いたり閉じたりする現象の直接的な原因が、はく部分に帯びた電荷間の電気的な力(反発力またはその消失)であるため。
- 適用根拠:はくLの左右の部分が同符号の電荷を帯びた際には、互いに反発力が働く。電荷がなくなれば反発力も働かない。この力の存在がはくの動きを決定します。
- 導体の性質(内部電場ゼロ、全体が等電位):
- 選定理由:問題に登場するはく検電器や金属板Y、Gはすべて導体であり、静電気の問題を考える上での最も基本的な前提条件となるため。
- 適用根拠:問題の状況が、電荷の移動が完了し、電流が定常的に流れていない「静電気的」な平衡状態を扱っているため、これらの性質が適用できます。
- 電気量保存則:
- 選定理由:スイッチSが開いている状態の検電器のように、外部と電気的に隔離された導体系の総電荷について考察する際に不可欠な法則であるため。
- 適用根拠:その導体系が外部の他の導体と電気的な接続を持たず、電荷の出入りがない「閉じた系」を形成している場合に適用されます。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
この問題は本質的に定性的であるため、「立式」や「計算」という言葉は、主に論理的な思考の展開や推論のプロセスを指します。
- 初期状態の正確な把握: まず、検電器が帯電しているか否か、帯電している場合はその電荷の符号、そしてスイッチSが開いているか閉じているかといった、実験開始時の条件を明確に理解します。
- 各操作の実行とその影響の分析: 次に、問題文で指示された操作(金属板Yの接近・遠離、スイッチSの開閉など)を一つずつ順番に実行し、その都度、静電誘導がどのように発生するかを考えます。
- 静電誘導による電荷の偏りの特定: 金属板Yが近づけば、検電器の導体部分に静電誘導が起こり、電荷が偏ります。Yに近い部分と遠い部分で、それぞれどのような符号の電荷が現れるかを特定します。
- 電荷の移動可能性の判断と結果予測:
- スイッチSが開いている場合:検電器は電気的に孤立しているため、内部での電荷の偏りは生じますが、検電器全体の総電荷量は変化しません(電気量保存)。
- スイッチSが閉じている場合:検電器は接地された金属板Gと電気的に接続されるため、電荷はGとの間で自由に移動可能です。このとき、検電器の電位はGの電位(通常0V)と同じになろうとします。
- 金属はくLの挙動の予測: 上記の考察に基づき、金属はくL部分の電荷の状態(符号と相対的な量)がどのようになるかを判断し、それによって、はくが開くか閉じるか、またその開き具合がどのように変化するかを予測します。
- 電位の比較(必要な場合): 各部分の電荷の符号や、想定される電気力線の様子から、それぞれの部分の電位の高低を比較・判断します。
- 次の操作への移行: 一つの操作による状態変化を確定させ、それを次の操作の初期条件として、同様の思考プロセスを繰り返します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
この問題は数値計算を伴いませんが、論理的な誤りを防ぐための工夫として以下のような点が挙げられます。
- 段階的かつ丁寧な思考の徹底: 一つの操作が引き起こす変化を確実に捉え、その結果を次のステップの初期条件として、思考を一つ一つ丁寧に積み重ねていくことが重要です。一度に多くの変化を同時に考えようとすると、混乱しやすくなります。
- 図の積極的な活用: 操作の各段階における電荷の分布の様子や、想定される電気力線の概略などを、簡単な図で描きながら考えることは、状況を整理し、誤解や見落としを防ぐ上で非常に有効です。
- 電荷の符号と相対的な量への細心の注意: 特に問題Bのように、検電器が初期電荷を持っている場合や、実験操作の途中で電荷の符号が反転する可能性がある場合には、各部分の電荷の符号がどうなっているか、またその相対的な量(多いか少ないか、ゼロか)に細心の注意を払う必要があります。
- 物理用語の正確な理解の再確認: 「接地」「孤立系」「束縛電荷」「自由電荷」といった、静電気の分野で用いられる専門用語の意味を正確に理解しておくことが、誤った解釈を防ぐ上で不可欠です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 導き出した結論が、基本的な物理現象として自然なものかどうかを検討する:
- 例えば、正に帯電した物体を近づけた場合に、本来ならば反発するはずの正電荷が、理由なくさらに集まってくるような結論になっていないか。
- 接地操作を行った場合に、電荷が中和されて然るべき場面で、逆に帯電が強まるような不自然な結論になっていないか(ただし、他の強い静電誘導源が存在し、その影響で接地導体が電荷を帯びることはあり得るので、状況をよく見極める必要があります)。
- 極端な条件や単純なケースを想定して、結果がどうなるかを考えてみる:
- もし近づける金属板Yの電荷が非常に小さかったら、はくの反応はどうなるだろうか。
- もしYを無限遠まで離したら、検電器の状態は完全に初期状態に戻るべきなのか、それとも途中の操作によって何らかの変化が残るのか(例えば、検電器全体の電荷量が変わっているなど)。
- 自分の推論プロセスに論理的な矛盾や飛躍がないかを確認する: 問題文で与えられた現象(例:「はくが閉じた後、再び開いた」)と、自分の思考から導かれた結論とが、きちんと整合しているかを厳しくチェックします。
- 他の可能性や解釈が成り立たないかを検討する: 特に、初期電荷の符号を決定するような問題では、逆の仮定をしてみた場合に明確な矛盾が生じることを確認することで、自分の結論の確からしさを高めることができます。
問題15
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、同心導体球Aと同心導体球殻Bからなる球形コンデンサーを扱います。導体球Aに \(+Q\)、導体球殻Bに \(-Q\) の電荷を与えたときの電気力線、電場、電位を考察し、最終的にこのコンデンサーの電気容量を求めることが目標です。問題文で与えられた「定理」(実質的にはガウスの法則の結論の一部)と、静電気に関する基本的な知識(導体の性質、電位の定義など)を駆使して、段階的に空欄を埋めていきます。
- 導体球A: 半径 \(a\)、電荷 \(+Q\)
- 導体球殻B: 内半径 \(b\)、電荷 \(-Q\) (AとBは同心)
- クーロンの比例定数: \(k\)
- 電位の基準: 無限遠点を \(0 \, \text{V}\) とする。
- 定理: \(+Q\) の電荷から \(4\pi kQ\) 本の電気力線が出る。
問題文中の空欄(1)~(9)を埋めること。具体的には、
- (1) 球殻Bの電荷 \(-Q\) の分布場所
- (2) \(r>b\) の領域での電場の強さ
- (3) 球殻Bの電位
- (4) 球殻Bがない場合の \(r=b\) でのAによる電位
- (5) 球殻Bがない場合の \(r=a\) でのAによる電位
- (6) 球殻Bがある場合のAB間の電場の比較
- (7) 球殻Bがある場合の \(r=a\) での電位(球Aの電位)
- (8) 球Aの内部での電位の変化
- (9) 球形コンデンサーの電気容量
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、静電気学の重要な概念である電場、電位、電気力線、そしてコンデンサーの基本について、球形コンデンサーという具体的な対象を通して理解を深めることを目的としています。問題の誘導に従って、一歩ずつ物理法則を適用していくことが大切です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電気力線とその性質: 正電荷から湧き出し負電荷に吸い込まれる線で、その密度は電場の強さを、接線方向は電場の向きを表します。電気力線は途中で途切れたり、交差したり、枝分かれしたりしません。また、導体表面には必ず垂直に出入りします。問題文で与えられた「定理」は、電荷量と電気力線の総本数に関するガウスの法則の一つの表現です。
- 導体の性質(静電平衡時):
- 導体内部の電場は常に0です。もし電場があれば、導体内の自由電子が力を受けて移動し、電流が流れてしまいますが、静電平衡状態では電荷の移動は止まっています。
- 導体全体は等電位です。内部に電場がないため、導体内のどの2点をとっても電位差はありません。
- 導体に与えられた余剰な電荷は、導体の表面にのみ分布します。
- 点電荷が作る電場と電位: 真空中で電気量 \(Q\) の点電荷から距離 \(r\) だけ離れた点の電場の強さは \(E = k\displaystyle\frac{Q}{r^2}\)(\(k\) はクーロンの比例定数)、電位は \(V = k\displaystyle\frac{Q}{r}\) (無限遠点を電位の基準 \(0 \, \text{V}\) とした場合)で与えられます。特に、球対称な電荷分布を持つ導体球がその外部に作る電場や電位は、全電荷がその中心に集まった点電荷が作るものと同じになります。
- コンデンサーの電気容量: 2つの導体(極板)にそれぞれ \(+Q\) と \(-Q\) の電荷を蓄えたとき、極板間に生じる電位差を \(V\) とすると、電気容量 \(C\) は \(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\) と定義されます。電気容量は、コンデンサーの形状や大きさ、極板間の物質(誘電体の種類)によって決まる量です。
この問題は空欄補充形式で、それぞれの空欄が前の考察結果を利用して解けるように構成されています。一つ一つの物理現象を丁寧に追い、法則を適用していくことで、最終的に球形コンデンサーの電気容量を導出することができます。
問 (1)
思考の道筋とポイント
導体球Aには \(+Q\) の電荷があり、それを取り囲む導体球殻Bには \(-Q\) の電荷があります。この球殻Bが持つ \(-Q\) の電荷が、Bのどの部分(内側の表面、内部、外側の表面)に分布するのかを考えます。
- 導体内部の電場: 導体である球殻Bの内部(金属部分)の電場は、静電平衡の状態では必ず0にならなければなりません。
- 静電誘導: 導体球Aの持つ \(+Q\) の電荷は、導体球殻Bに対して静電誘導を及ぼします。つまり、B内の自由電子(負の電荷)はAの \(+Q\) に引き寄せられようとします。
- 電荷の分布の可能性:
- もしBの \(-Q\) がBの「外側の表面」に分布した場合:Aの \(+Q\) から出る電気力線の一部はBを通り抜けてBの外側の \(-Q\) に向かうことになり、Bの内部に電場が生じてしまう可能性があります。また、AとBがコンデンサーとして対向する形になりにくいです。
- もしBの \(-Q\) がBの「内部」に分布した場合:これは導体の性質(電荷は表面に分布)に反します。
- もしBの \(-Q\) がBの「内側の表面」に分布した場合:Aの \(+Q\) から出た電気力線は、すべてBの内側の表面にある \(-Q\) で終わることができます。これにより、AとBの間の空間には電場が形成されますが、Bの導体内部には電気力線が侵入せず、電場を0に保つことができます。
- 全体の整合性: Bの総電荷が \(-Q\) であり、そのすべてが内側の表面に集まると、Bの外側の表面の電荷は0となります。これは、コンデンサーとしてAとBの間で電荷と電場を閉じ込める上で最も自然な分布です。
したがって、\(-Q\) の電荷は球殻Bの「ア 内側の表面」に分布すると考えるのが最も適切です。
この設問における重要なポイント
- 導体内部の電場は0であるという、静電気における導体の最も基本的な性質を理解していること。
- 静電誘導により、対面する導体表面には異種の電荷が集まりやすいという傾向を把握していること。
- 電気力線が導体内部を通過しない(静電平衡時)というイメージを持つこと。
具体的な解説と立式
この設問は、物理法則に基づいた定性的な考察が求められます。
導体球Aには \(+Q\) の電荷が存在します。これにより、導体である球殻B中の自由電子は、Aの \(+Q\) からの電気的な引力を受けて、Aに近い側、つまりBの内側の表面 (\(r=b\) の面) に引き寄せられます。球殻Bは全体として \(-Q\) の電荷を持っているので、この \(-Q\) の電荷がすべてBの内側の表面に集まると仮定します。
このとき、導体球Aの \(+Q\) から出る電気力線は、すべて球殻Bの内側の表面にある \(-Q\) の電荷で終端します。その結果、球殻Bの導体部分(\(b < r < (\text{Bの外半径})\))には電気力線が侵入せず、電場が \(0\) という導体の性質が満たされます。また、球殻Bの外側の表面には電荷が存在しないことになり、これはコンデンサーの外部への電場の漏れをなくす上で重要です。
以上の理由から、球殻Bの \(-Q\) の電荷は、その内側の表面に分布すると結論付けられます。
使用した物理原理
- 静電誘導
- 導体内部の電場は0(ゼロ)
- 電気力線の性質(正電荷から出て負電荷に入る、導体内部を通過しない)
この設問は直接的な計算を伴いません。以下は論理的な推論のステップです。
- 導体球Aの \(+Q\) の電荷は、導体球殻Bに静電誘導を及ぼします。
- 導体である球殻Bの内部(金属部分)の電場は \(0\) でなければなりません。
- この条件を満たすためには、Aの \(+Q\) から出る電気力線がBの内部を通過せず、Bの表面で終端する必要があります。
- Bが持つ \(-Q\) の電荷がBの内側の表面に集まることで、Aからの電気力線はすべてそこで吸収され、Bの内部および外部(Bの外面の電荷が0の場合)への電場の影響を遮断できます。
導体でできたボールAにはプラスの電気が、それを取り囲む殻Bにはマイナスの電気が蓄えられています。Aのプラスの電気は、Bの中のマイナスの電気(自由に動ける電子など)を自分の方へ「おいでー」と引っ張ろうとします。B自身がもともとマイナスの電気 \(-Q\) を持っているので、このマイナスの電気は、できるだけAに近いところ、つまり殻Bの「内側の表面」に集まってきます。こうすることで、Aのプラスの電気とBの内側のマイナスの電気がちょうど向かい合う形になり、電気の線(電気力線)がAとBの間にキレイに収まります。そして大事なのは、殻Bの金属の中や、殻Bの外側には電気が影響しにくくなる(電場がゼロになる)ように、うまく電荷が配置されるのです。
球殻Bに帯電した \(-Q\) の電荷は、「ア 内側の表面」に分布します。これにより、導体球Aと球殻Bの間でコンデンサーとしての電場が形成され、同時に導体である球殻Bの内部の電場が \(0\) であるという物理的な条件が満たされます。これは静電誘導と導体の性質から導かれる妥当な結論です。
問 (2)
思考の道筋とポイント
球の中心からの距離を \(r\) としたとき、\(r>b\) の領域、すなわち球殻Bの外側の空間における電場の強さを考えます。
- 導体球Aには \(+Q\) の電荷があります。
- 問(1)で考察したように、導体球殻Bの内側の表面には \(-Q\) の電荷が分布しています。
- 球殻Bは全体として \(-Q\) の電荷を持っているので、そのすべてが内側の表面に集まると、Bの外側の表面には電荷が存在しない状態(電荷0)となります。
- ガウスの法則(この問題では「定理」としてその一部が与えられています)を適用することを考えます。\(r>b\) となるような任意の半径 \(r\) の球面(ガウス面)を想定すると、この球面内部に存在する全電気量は、導体球Aの電荷 \(+Q\) と、球殻Bの内側の表面にある電荷 \(-Q\) の合計となります。
- つまり、ガウス面内部の総電荷は \(+Q + (-Q) = 0\) です。
- ガウスの法則によれば、閉曲面を貫く電気力線の正味の総本数は、その閉曲面内部の総電気量に比例します。内部の総電気量が0であるため、このガウス面を貫く電気力線の正味の総本数も0となります。
- この系は球対称であるため、もし電場が存在するとすれば、それは動径方向を向き、ガウス面上で一定の強さを持つはずです。しかし、電気力線の総本数が0であることから、電場の強さも0でなければならないと結論付けられます。
- あるいは電気力線の観点からより直感的に考えると、導体球Aの \(+Q\) から出た電気力線は、すべて球殻Bの内側の表面の \(-Q\) に入ります。球殻Bの外側の表面には電荷がないため、そこから外側の空間へ向かう電気力線は存在しません。したがって、\(r>b\) の領域では電場の強さは0となります。
この設問における重要なポイント
- ガウスの法則の基本的な考え方(閉曲面内の総電荷と、そこを貫く電気力線あるいは電場の関係)を理解していること。
- 球対称な電荷分布における電場の特徴を把握していること。
- 電気力線が電荷のない場所からは湧き出したり、電荷のない場所に吸い込まれたりしないという性質を理解していること。
具体的な解説と立式
導体球Aの電荷は \(+Q\) です。問(1)より、導体球殻Bの内側表面には \(-Q\) の電荷が分布しています。球殻Bは全体で \(-Q\) の電荷を持つため、その外側表面の電荷は \(0\) となります。
球殻Bの外側の領域 (\(r>b\)) に、中心Oを中心とする半径 \(r\) の閉じた球面Sを考えます(これをガウス面と呼びます)。この球面Sの内部に存在する総電気量 \(Q_{\text{内}}\) は、導体球Aが持つ電荷 \(+Q\) と、導体球殻Bの内側表面が持つ電荷 \(-Q\) の代数和になります。
$$Q_{\text{内}} = (+Q) + (-Q) = 0 \quad \cdots ①$$
ガウスの法則(または問題文で与えられた定理)によれば、閉曲面から出ていく正味の電気力線の総本数は、その内部の総電気量に比例します。今、内部の総電気量 \(Q_{\text{内}}\) が \(0\) であるため、この球面Sを貫いて出ていく正味の電気力線の総本数も \(0\) となります。
この系は球対称であるため、もし電場が存在するとすれば、その電場は動径方向を向き、球面S上でどこでも同じ強さ \(E\) を持つはずです。球面Sの面積は \(4\pi r^2\) なので、球面Sを貫く電気力線の総本数は \(E \times 4\pi r^2\) に比例する量となります(より正確にはガウスの法則の積分形を考えますが、ここでは定理との関連で本数で考えます)。この総本数が \(0\) になるためには、電場の強さ \(E\) が \(0\) でなければなりません。
$$E = 0 \, [\text{N/C}] \quad (\text{for } r>b) \quad \cdots ②$$
使用した物理原理/公式
- ガウスの法則(問題文の定理で代用可)
- 電荷の重ね合わせの原理
- 電気力線の定義と性質
- 球対称性
- 球殻Bの外側の領域 (\(r>b\)) において、中心Oからの距離 \(r\) の球面を考えます(ガウス面)。
- このガウス面の内部に含まれる総電荷を計算します。
- 導体球Aの電荷: \(+Q\)
- 導体球殻Bの内面に分布する電荷: \(-Q\) (問(1)より)
- 導体球殻Bの外面に分布する電荷: \(0\) (B全体の電荷が \(-Q\) であり、そのすべてが内面に分布するため)
したがって、ガウス面内部の総電荷は \(+Q + (-Q) + 0 = 0\)。
- ガウスの法則(または問題文の定理)により、閉曲面内部の総電荷が \(0\) であれば、その閉曲面を貫く電気力線の正味の総本数は \(0\) となります。
- この系は球対称であるため、電場が存在するとすれば動径方向であり、ガウス面上で電場の強さは一定のはずです。電気力線の総本数が \(0\) ということは、電場の強さが \(0\) であることを意味します。
$$E = 0$$
球殻Bの外側の空間 (\(r>b\) の場所) に電場があるかどうかを調べてみましょう。導体球Aにはプラス \(+Q\) の電気が、そして球殻Bの内側の表面にはマイナス \(-Q\) の電気がいましたね。もし、この球殻Bの外側をすっぽりと大きな風船のようなもので囲ったと想像してください。その風船の中に入っている電気の合計は、プラス \(Q\) とマイナス \(Q\) で、ちょうどゼロになります。物理の法則(ガウスの法則や問題の定理)によると、このように囲いの中の電気の合計がゼロの場合、その囲いの外側には電気的な影響(電場)は及ばないのです。だから、球殻Bの外側では電場の強さは0(ゼロ)になります。
\(r>b\) の領域、すなわち球殻Bの外側の空間では電場の強さは \(0 \, \text{[N/C]}\) となります。これは、導体球Aの \(+Q\) の電荷と、球殻Bの内側の表面にある \(-Q\) の電荷が、外部の空間に対して作る電場を互いに完全に打ち消し合うためです(球殻Bの外側の表面に電荷がないという条件下で)。これは物理的に妥当な結果です。
問 (3)
思考の道筋とポイント
導体でできた球殻Bの電位を求めます。問題文で電位の基準は無限遠点であり、無限遠点における電位は \(0 \, \text{[V]}\) とすると指定されています。
- 問(2)の考察により、\(r>b\) の領域(球殻Bの外側の表面から無限遠点までの空間)では、電場の強さが \(E=0\) であることがわかっています。
- 電場が \(0\) の領域では、電気的な力は働かないため、電荷を動かしても仕事はされません。これは、その領域内では電位が変化しないこと、つまり等電位であることを意味します。
- したがって、球殻Bの表面(例えば内半径 \(r=b\) の位置や外半径の位置)から無限遠点までの任意の点の電位は、無限遠点の電位と同じ \(0 \, \text{[V]}\) となります。
- 導体球殻B全体は導体であるため、その内部および表面はすべて等電位です。よって、球殻Bのどの部分をとっても、その電位は \(0 \, \text{[V]}\) となります。
この設問における重要なポイント
- 電場が \(0\) の領域では電位が一定不変であるという重要な関係を理解していること。
- 電位の基準点(この問題では無限遠点で \(0 \, \text{V}\))から出発し、電場を積分する(あるいは電位差を考える)ことによって、任意の点の電位が決定されるというプロセスを把握していること。この場合は、電場が \(0\) なので積分値も \(0\) となります。
- 導体は全体が等電位であるという、導体の基本的な性質を適用すること。
具体的な解説と立式
球殻Bの電位 \(V_B\) を求めます。電位の基準は無限遠点 (\(r=\infty\)) であり、そこでの電位は \(V(\infty)=0\) とします。
ある点の電位は、基準点からその点まで電場を線積分したものの負の値として定義されます。すなわち、球殻Bの表面(例えば \(r=b\) の点)の電位 \(V_B\) は、
$$V_B – V(\infty) = – \int_{\infty}^{b} E \, dr \quad \cdots ③$$
と表すことができます。
問(2)で確立したように、球殻Bの外側の領域 (\(r \ge b\)) では電場 \(E=0\) です。したがって、この積分は、
$$V_B – V(\infty) = – \int_{\infty}^{b} 0 \, dr = 0 \quad \cdots ④$$
となります。
\(V(\infty) = 0\) を代入すると、
$$V_B = 0 \, [\text{V}] \quad \cdots ⑤$$
が得られます。
また、導体である球殻Bは全体が等電位であるため、球殻Bのどの部分(内側の表面、金属内部、外側の表面)をとっても、その電位は \(0 \, \text{[V]}\) となります。
使用した物理原理/公式
- 電場と電位の関係( \(E = -\displaystyle\frac{dV}{dr}\) または \(V = -\int E dr + \text{const.}\) )
- 導体の等電位性
- 電位の基準点の定義
- 電位の基準点を無限遠とし、そこでの電位を \(V(\infty) = 0\) とします。
- 球殻Bの外側の領域 (\(r \ge b\)) では、電場 \(E=0\) であること(問(2)の結果)を用います。
- 電場が \(0\) の領域では電位は変化しません。したがって、無限遠点 (\(V=0\)) から球殻Bの表面 (\(r=b\)) まで、電位は一定で \(0 \, \text{[V]}\) のままです。
- 導体である球殻Bは全体が等電位なので、球殻B全体の電位は \(0 \, \text{[V]}\) となります。
$$V_B = 0$$
電気的な高さ(電位)の基準は、ものすごーく遠い「無限の彼方」で \(0 \, \text{V}\) (ゼロボルト)と決められています。さて、問(2)で、球殻Bの外側には電場がない(つまり、電気的な坂道が全くない平坦な土地のようなもの)ことが分かりましたね。坂道がなければ、高さはずっと変わりません。だから、無限の彼方(高さ \(0 \, \text{V}\))から球殻Bの表面まで、ずーっと電気的な高さは \(0 \, \text{V}\) のままです。そして、球殻B自体も金属でできている導体なので、その表面も内部も全部同じ電気的な高さ(等電位)になります。ということは、球殻B全体の電位は \(0 \, \text{V}\) ということになるのです。
球殻Bの電位は \(0 \, \text{[V]}\) となります。これは、電位の基準の取り方と、\(r>b\) の領域で電場が \(0\) であるという事実から論理的に導かれる結果であり、物理的に整合性があります。
問 (4)
思考の道筋とポイント
この設問では、「もし球殻Bがなければ」という仮定のもとで、導体球A(半径 \(a\)、電荷 \(+Q\))の周囲の電場の様子を考え、特に中心Oからの距離が \(r=b\) の位置における電位を求めます。
- 球殻Bが存在しない場合、我々が考えるのは半径 \(a\) で電荷 \(+Q\) を持つ孤立した導体球Aのみが存在する状況です。この様子は問題文中の図2に示されています。
- 球対称な電荷分布を持つ導体球が、その外部(この場合は \(r>a\) の領域)に作る電場および電位は、その導体球の全電荷(ここでは \(+Q\))が導体球の中心Oに集まった点電荷として存在する場合と全く同じになります。これはガウスの法則から導かれる非常に重要な結果です。
- したがって、中心Oに \(+Q\) の点電荷が存在すると仮定し、その点電荷から距離 \(r\) の点の電位を求める公式 \(V(r) = k\displaystyle\frac{Q}{r}\) (電位の基準は無限遠点で \(0 \, \text{V}\))を適用することができます。
- この公式を用いて、\(r=b\) の位置における電位を具体的に計算します。
この設問における重要なポイント
- 球対称な電荷を持つ導体球がその外部に作る電場・電位は、あたかも全電荷が中心に集中した点電荷が作るものと等価である、という原理を理解していること。
- 点電荷のまわりの電位を求める公式 \(V = kQ/r\) を正しく記憶し、適用できること。
具体的な解説と立式
球殻Bが存在しないと仮定した場合、導体球A(半径 \(a\)、電荷 \(+Q\))が単独で空間に存在している状況を考えます。この導体球Aの外部の点(中心Oからの距離 \(r\) が \(r \ge a\) を満たす点)における電位は、導体球Aの全電荷 \(+Q\) がその中心Oに集中した点電荷であるかのように振る舞い、その点電荷が作る電位と同じになります。
点電荷 \(+Q\) が作る、中心Oからの距離 \(r\) の点の電位 \(V(r)\) は、無限遠点を電位の基準 (\(0 \, \text{V}\)) として、以下の式で与えられます。
$$V(r) = \frac{kQ}{r} \quad \cdots ⑥$$
今、求めたいのは中心Oからの距離が \(r=b\) の位置における電位ですから、式⑥に \(r=b\) を代入します。
$$V_b = V(b) = \frac{kQ}{b} \, [\text{V}] \quad \cdots ⑦$$
使用した物理原理/公式
- 球対称な導体球が外部空間に作る電位の性質(点電荷の作る電位への帰着)
- 点電荷の電位の公式: \(V(r) = k\displaystyle\frac{Q}{r}\) (無限遠基準)
- 球殻Bが存在しないという条件下では、導体球A(電荷 \(+Q\)、半径 \(a\))の外部 (\(r \ge a\)) の任意の点における電位は、あたかも導体球Aの中心Oに全電荷 \(+Q\) が集中した点電荷が存在する場合の電位と同じになります。
- 電気量 \(+Q\) の点電荷が、その電荷からの距離 \(r\) の位置に作る電位の公式は \(V(r) = k\displaystyle\frac{Q}{r}\) です(無限遠点を電位の基準 \(0 \, \text{V}\) とした場合)。
- この公式に、中心Oからの距離として \(r=b\) を代入することで、求める電位が得られます。
$$V_b = \frac{kQ}{b}$$
もし球殻Bがなくて、導体球A(プラス \(+Q\) の電気を持つ)だけがポツンと宇宙空間に浮かんでいると想像してください。このような球形の金属が自分の周りに作る電気的な高さ(電位)は、実は、球の中心に \(+Q\) の小さな電気の粒がギュッと集まっている場合と全く同じように計算できるのです。中心からの距離が \(r\) の場所の電位は、\(k \times Q \div r\) という簡単な式で表せます(\(k\) は決まった数です)。今知りたいのは、中心から距離 \(b\) の場所の電位なので、この式の \(r\) に \(b\) を入れてあげればよく、答えは \(kQ/b\) となります。
球殻Bがない場合、中心Oからの距離が \(r=b\) の位置における導体球Aによる電位は、\(\displaystyle\frac{kQ}{b} \, \text{[V]}\) となります。これは、球対称な電荷分布に関する重要な性質と点電荷の電位の公式を正しく適用した結果であり、物理的に妥当です。
問 (5)
思考の道筋とポイント
問(4)と考え方は基本的に同じです。引き続き「もし球殻Bがなければ」という仮定のもとで、今度は導体球A(半径 \(a\)、電荷 \(+Q\))の \(r=a\) の位置、すなわち導体球Aの表面における電位を求めます。
- 球殻Bが存在しない場合、孤立した導体球Aが作るその外部および表面の電位は、全電荷 \(+Q\) が中心Oに集まった点電荷が作るものと等価です。
- 再び、点電荷の電位の公式 \(V(r) = k\displaystyle\frac{Q}{r}\) (無限遠基準)を用います。
- 今回は、導体球Aの表面、つまり中心Oからの距離が \(r=a\) である位置における電位を求めたいので、この公式に \(r=a\) を代入します。
この設問における重要なポイント
- 問(4)での考察と考え方は完全に共通です。導体球の表面における電位も、中心に全電荷を置いたと仮定した点電荷の公式を用いて計算することが可能です。
具体的な解説と立式
問(4)と同様に、球殻Bが存在しない場合を考え、導体球A(半径 \(a\)、電荷 \(+Q\))の表面 (\(r=a\)) における電位を求めます。
点電荷 \(+Q\) が作る、中心Oからの距離 \(r\) の点の電位の公式は、繰り返しになりますが、
$$V(r) = \frac{kQ}{r} \quad (\text{式⑥と同じ})$$
でした。今、求めたいのは導体球Aの表面、すなわち \(r=a\) の位置における電位なので、式⑥に \(r=a\) を代入します。
$$V_a = V(a) = \frac{kQ}{a} \, [\text{V}] \quad \cdots ⑧$$
使用した物理原理/公式
- 球対称な導体球がその表面に作る電位の性質(点電荷の作る電位への帰着)
- 点電荷の電位の公式: \(V(r) = k\displaystyle\frac{Q}{r}\) (無限遠基準)
- 球殻Bが存在しないという条件下では、導体球A(電荷 \(+Q\)、半径 \(a\))の表面 (\(r=a\)) における電位は、あたかも導体球Aの中心Oに全電荷 \(+Q\) が集中した点電荷が存在し、その点電荷から距離 \(a\) の位置での電位と同じになります。
- 電気量 \(+Q\) の点電荷が、その電荷からの距離 \(r\) の位置に作る電位の公式は \(V(r) = k\displaystyle\frac{Q}{r}\) です。
- この公式に、中心Oからの距離として \(r=a\) を代入することで、求める電位が得られます。
$$V_a = \frac{kQ}{a}$$
問(4)とほとんど同じお話です。もし球殻Bがなくて導体球A(プラス \(+Q\) の電気を持つ)だけがあった場合、今度はAの「表面」での電気的な高さ(電位)を考えます。Aの半径は \(a\) なので、表面は中心から距離 \(a\) の場所にありますね。これも、Aの中心に \(+Q\) の小さな電気の粒がギュッと集まっていると考えて、中心から距離 \(a\) の場所の電位を求めることができます。使う式は同じく \(k \times Q \div (\text{距離})\) なので、今度は距離に \(a\) を入れて \(kQ/a\) となります。
球殻Bがない場合、\(r=a\) の位置、つまり導体球Aの表面における電位は、\(\displaystyle\frac{kQ}{a} \, \text{[V]}\) となります。これも点電荷の電位の公式を正しく適用した結果です。
問 (6)
思考の道筋とポイント
球殻Bが存在する場合(問題の図1の状態)と、球殻Bが存在しない場合(問題の図2の状態)とで、AB間(より正確には、導体球Aの表面から球殻Bの内側の表面までの空間、すなわち \(a \le r < b\) の領域)における電場を比較します。
- 球殻Bが存在する場合(図1): この場合、導体球Aには \(+Q\) の電荷があり、球殻Bの内側の表面には \(-Q\) の電荷が分布しています。Aから出た電気力線は、すべてBの内側の表面に向かって伸びています。この空間 \(a \le r < b\) における電場は、実質的に導体球Aの \(+Q\) の電荷のみによって作られていると考えることができます。なぜなら、球殻Bの内側の表面に分布する \(-Q\) の電荷は、その球殻の「内側」の空間(つまり \(r<b\) の領域)には電場を作りません(これは、一様に帯電した球殻がその内部に電場を作らないという、ガウスの法則から導かれる重要な結果です)。また、球殻Bの外側の表面には電荷がないため、それによる電場の影響もありません。
- 球殻Bが存在しない場合(図2): この場合、導体球Aには \(+Q\) の電荷があり、その外部空間 \(r>a\) における電場は、当然ながらAの \(+Q\) の電荷のみによって作られます。
- 比較: 結局のところ、どちらのシナリオにおいても、空間 \(a \le r < b\) における電場は、中心に \(+Q\) の電荷を持つ半径 \(a\) の導体球が単独でその外部に作る電場と同じになります。具体的には、その電場の強さは \(E = k\displaystyle\frac{Q}{r^2}\) で与えられます。
電気力線の様子を図1と図2で見比べても、導体球Aから放射状に出ている電気力線のパターンは、AとBの間(図1)と、Aの外部でBに到達する前までの領域(図2)で、本質的に同じであることがわかります(ただし、図1では電気力線が \(r=b\) で終端するという違いはあります)。
したがって、AB間の電場は、球殻Bがあってもなくても同じであると結論付けられます。
この設問における重要なポイント
- 一様に帯電した球殻(またはその一部である同心球面上の電荷)が、その球殻の「内部」の空間に作る電場は0(ゼロ)である、という非常に重要な物理法則を理解していること。これはガウスの法則を用いることで証明できます。
- 電気力線図から電場の状況(向きや相対的な強さ)を直感的に類推する能力。
具体的な解説と立式
この設問は、電場の定性的な比較を求めるものです。
空間 \(a \le r < b\) における電場について考えます。
- 球殻Bが存在する場合(図1): この空間における電場は、主に導体球Aの表面にある電荷 \(+Q\) によって作られます。球殻Bの内側の表面に分布している電荷 \(-Q\) は、この \(a \le r < b\) の領域(これは球殻Bから見ればその内側に位置します)には電場を及ぼしません。また、球殻Bの外側の表面には電荷が存在しないため、それによる影響もありません。したがって、この空間の電場の強さは、中心に \(+Q\) の点電荷を置いた場合と同じく、\(E(r) = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\) となります。
- 球殻Bが存在しない場合(図2): この場合、導体球Aの外部空間における電場は、Aの電荷 \(+Q\) のみによって作られます。したがって、空間 \(a \le r < b\) における電場の強さも同様に \(E(r) = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\) となります。
両者を比較すると、AB間の電場は、球殻Bがあってもなくても同じであることがわかります。
使用した物理原理
- 重ね合わせの原理(間接的に考慮)
- 球殻状に分布した電荷が、その内部の空間に作る電場は0(ゼロ)であるという法則
- 電気力線図の解釈(電気力線のパターンが電場の状況を反映する)
この設問は、数式による計算よりも物理法則の理解に基づく論理的な推論が中心となります。
- 球殻Bが存在する場合:導体球Aと球殻Bの間の空間 (\(a \le r < b\)) における電場は、主に導体球Aの \(+Q\) の電荷によって決定されます。球殻Bの内側の表面にある \(-Q\) の電荷は、この領域(球殻Bの内側)の電場には寄与しません(球殻電荷がその内部に作る電場は0であるため)。
- 球殻Bが存在しない場合:同様に、導体球Aと仮想的な球面 \(r=b\) の間の空間における電場は、導体球Aの \(+Q\) の電荷によって決定されます。
- 上記1と2の状況を比較すると、どちらの場合も空間 \(a \le r < b\) における電場は、中心に \(+Q\) の電荷を置いた場合と同じ \(E = k\displaystyle\frac{Q}{r^2}\) となります。
したがって、AB間の電場の様子(強さと向き)は、球殻Bの有無によらず同じであると結論できます。
導体球Aと球殻Bの間の空間(AB間)の電気の様子(専門用語で「電場」といいます)が、球殻Bがあるときとないときでどう違うか、という問題です。ちょっと不思議に聞こえるかもしれませんが、実は、このAB間の電場の様子は、球殻Bが「あってもなくても同じ」なのです。
なぜかというと、この空間の電場は、主に導体球Aが持っているプラス \(+Q\) の電気が作っています。球殻Bの内側の表面にマイナス \(-Q\) の電気が集まっていますが、このような球の殻の形に分布した電気は、自分がいる殻の「内側」には影響を与えない(電場を作らない)という性質があるのです。だから、球殻Bが存在していても、AB間の電場は、まるでAだけが存在しているときと同じようになるのです。問題の図1(Bがある場合)と図2(Bがない場合)の電気力線(電気の矢印)を見比べても、AとBの間では矢印のパターンがそっくりですよね。
AB間の電場は、「ウ、Bがあってもなくても同じ」です。これは、上記の考察の通り、この領域の電場が主に導体球Aの電荷によって決定され、球殻Bの内面の電荷の影響がその内部に及ばないという、球対称な電荷分布の重要な性質に基づいています。
問 (7)
思考の道筋とポイント
球殻Bが存在する場合において、\(r=a\) の位置での電位、すなわち導体球Aの電位 \(V_A\) を求めます。
- 問(3)において、球殻Bが存在する場合のBの電位は \(V_B = 0 \, \text{[V]}\) であることがわかっています。これは電位の基準点(無限遠)からの帰結です。
- 問(6)において、AB間(導体球Aの表面から球殻Bの内側の表面までの空間 \(a \le r < b\))の電場は、球殻Bがあってもなくても同じであることがわかりました。
- 電場の分布が同じであるということは、その区間における「電位差」も同じであることを意味します。つまり、導体球Aの表面 (\(r=a\)) と球殻Bの内側の表面 (\(r=b\)) の間の電位差 \(V_A – V_B\) は、球殻Bが存在する場合と存在しない場合とで等しくなります。
- 球殻Bが存在しない場合における、\(r=a\) の位置の電位は問(5)で \(V_a = \displaystyle\frac{kQ}{a}\) と求め、\(r=b\) の位置の電位は問(4)で \(V_b = \displaystyle\frac{kQ}{b}\) と求めています。したがって、球殻Bが存在しない場合の \(r=a\) と \(r=b\) の間の電位差は \(V_a – V_b\) となります。
- 以上のことから、球殻Bが存在する場合の電位差 \(V_A – V_B\) は、この \(V_a – V_b\) に等しいと考えられます。すなわち、\(V_A – V_B = \displaystyle\frac{kQ}{a} – \displaystyle\frac{kQ}{b}\)。
- ここで \(V_B = 0 \, \text{[V]}\) を代入すれば、導体球Aの電位 \(V_A\) が求まります。
この設問における重要なポイント
- ある区間の電場の分布が同じであれば、その区間の両端の電位差も同じになる、という重要な関係を理解していること。
- 基準となる点の電位(この場合は球殻Bの電位 \(V_B=0\))がわかっていれば、そこからの電位差を考えることで目的の点の電位を求めることができること。
具体的な解説と立式
球殻Bが存在する場合の導体球Aの電位を \(V_A\)、導体球殻Bの電位を \(V_B\) とします。
問(3)より、\(V_B = 0 \, \text{[V]}\) です。
問(6)より、導体球Aと球殻Bの間の空間 (\(a \le r < b\)) における電場の分布は、球殻Bが存在しない場合と同じです。電場の分布が同じであれば、その区間の始点と終点の間の電位差も同じになります。
球殻Bが存在しない場合、導体球Aの表面 (\(r=a\)) の電位は \(V_{a,\text{Bなし}} = \displaystyle\frac{kQ}{a}\) (問(5)の結果)、そして中心からの距離が \(r=b\) の位置の電位は \(V_{b,\text{Bなし}} = \displaystyle\frac{kQ}{b}\) (問(4)の結果)でした。
したがって、球殻Bが存在しない場合の、\(r=a\) の位置と \(r=b\) の位置の間の電位差は、
$$\Delta V_{\text{Bなし}} = V_{a,\text{Bなし}} – V_{b,\text{Bなし}} = \frac{kQ}{a} – \frac{kQ}{b} \quad \cdots ⑨$$
となります。
球殻Bが存在する場合においても、導体球Aの表面 (\(r=a\)) と球殻Bの内側の表面 (\(r=b\)) の間の電位差は、この \(\Delta V_{\text{Bなし}}\) と等しくなります。つまり、
$$V_A – V_B = \Delta V_{\text{Bなし}} = \frac{kQ}{a} – \frac{kQ}{b} \quad \cdots ⑩$$
ここで、\(V_B = 0\) を式⑩に代入すると、
$$V_A – 0 = \frac{kQ}{a} – \frac{kQ}{b}$$
これを整理すると、導体球Aの電位 \(V_A\) は、
$$V_A = kQ \left(\frac{1}{a} – \frac{1}{b}\right) = kQ \frac{b-a}{ab} = \frac{kQ(b-a)}{ab} \, [\text{V}] \quad \cdots ⑪$$
と求まります。
使用した物理原理/公式
- 電場と電位差の関係(同じ電場分布なら同じ電位差)
- 導体の等電位性(\(V_B=0\) の適用)
- 問(4)および問(5)で求めた、球殻Bがない場合の各位置における電位
- 球殻Bが存在する場合の球殻Bの電位は \(V_B = 0\) です(問(3)の結果)。
- 導体球Aと球殻Bの間の空間 (\(a \le r < b\)) における電場の分布は、球殻Bが存在しない場合と同じです(問(6)の結果)。このことから、この区間の電位差も球殻Bの有無によらず同じになります。
- 球殻Bが存在しない場合、\(r=a\) での電位は \(V_a = \displaystyle\frac{kQ}{a}\)、\(r=b\) での電位は \(V_b = \displaystyle\frac{kQ}{b}\) でした。したがって、このときの \(r=a\) と \(r=b\) の間の電位差は \(V_a – V_b = \displaystyle\frac{kQ}{a} – \displaystyle\frac{kQ}{b}\) です。
- したがって、球殻Bが存在する場合の導体球Aの電位 \(V_A\) と球殻Bの電位 \(V_B\) の差もこれに等しく、\(V_A – V_B = \displaystyle\frac{kQ}{a} – \displaystyle\frac{kQ}{b}\) が成り立ちます。
- \(V_B = 0\) を代入して \(V_A\) について解くと、
$$V_A – 0 = \frac{kQ}{a} – \frac{kQ}{b}$$
通分して整理すると、
$$V_A = kQ \left( \frac{1}{a} – \frac{1}{b} \right) = kQ \frac{b-a}{ab} = \frac{kQ(b-a)}{ab}$$
導体球Aの電気的な高さ(電位 \(V_A\))を求めましょう。球殻Bの高さ \(V_B\) は \(0 \, \text{V}\) でしたね。そして、AとBの間の空間の電気的な坂道の様子(電場)は、Bがあってもなくても同じだったことを思い出してください。坂道の様子が同じなら、AとBの「高さの差」(電位差)も、Bがあってもなくても同じはずです。
もしBがなかった場合、Aの表面の高さは \(kQ/a\) で、距離 \(b\) の地点の高さは \(kQ/b\) でした。ですから、そのときの高さの差は \(kQ/a – kQ/b\) です。
Bがあるときも、AとBの高さの差はこれと全く同じになります。そして、Bの高さが \(0 \, \text{V}\) なのですから、Aの高さ \(V_A\) は、そのまま \(0 + (kQ/a – kQ/b)\) と計算できて、結果は \(kQ(1/a – 1/b)\) となります。これを整理すると \(\frac{kQ(b-a)}{ab}\) です。
球殻Bが存在する場合の \(r=a\) の位置での電位、すなわち導体球Aの電位は、\(\displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab} \, \text{[V]}\) となります。ここで \(b>a\) である(球殻Bが球Aを囲んでいる)ため、\(b-a > 0\) であり、\(Q>0\) なので \(V_A > 0\) となります。これは、正電荷 \(+Q\) に帯電した導体球Aの電位が、電位の基準 \(0 \, \text{V}\) よりも高くなるという物理的な状況と整合しています。
問 (8)
思考の道筋とポイント
導体球Aの内部(中心Oからの距離 \(r\) が \(0 \le r < a\) の領域)に入り、中心Oに近づくにつれて、電位がどのように変化するかを考えます。
- 導体球Aは金属などの導体でできています。
- 静電平衡状態にある導体の重要な性質として、その内部の電場は常に \(0\) であり、結果として導体全体(表面も内部も)は等電位になる、というものがあります。
- 問(7)で求めた \(r=a\) の位置での電位、つまり導体球Aの表面の電位が \(V_A = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\) でした。
- 導体Aは等電位であるため、その内部の任意の点(中心Oを含む)における電位も、表面の電位と同じ \(V_A\) になります。
したがって、導体球Aの内部に入り中心Oに近づいても、電位は変化しません。
この設問における重要なポイント
- 導体は(静電平衡時には)全体が等電位であるという、極めて重要かつ基本的な性質を正しく理解し、適用できること。
具体的な解説と立式
導体球Aの内部 (\(0 \le r < a\)) における電位の振る舞いについて考えます。
導体はその全体が等電位となるという基本的な性質を持っています(これは静電平衡状態、すなわち電荷の移動が完了し電流が流れていない状態において成り立ちます)。この性質は、もし導体内部に電位差(つまり電場)が存在すると、導体内の自由電子がその電場から力を受けて移動を開始し、電流が流れてしまうため、静電平衡状態ではありえない、という理由に基づいています。
したがって、導体球Aの表面 (\(r=a\)) における電位と、その内部の任意の点(中心Oを含む、\(0 \le r < a\) の範囲)における電位は等しくなります。
問(7)において、導体球Aの表面の電位は \(V_A = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\) と求められました。
よって、導体球Aの内部の電位もこの \(V_A\) と同じ値を取り続け、中心Oに近づくにつれて電位は「変わらない」ということになります。
使用した物理原理
- 導体の等電位性(静電平衡時)
- 導体内部の電場が0(ゼロ)であること
この設問は、数式計算ではなく物理法則の適用に関するものです。
- 導体球Aは導体です。
- 静電平衡状態にある導体は、その全体(表面および内部を含む)が等電位となります。
- したがって、導体球Aの表面における電位(これは問(7)で \(V_A = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\) と求められています)が、そのまま導体球Aの内部の任意の点の電位となります。
- よって、導体球Aの内部に入り中心Oに近づいても、電位は変化しません。
導体球Aは金属でできていますよね。金属のような電気をよく通す物質(導体)の中では、電気が安定しているとき(専門用語で静電平衡のときといいます)、電気的な高さ(電位)はどこでも同じになる、というとても大切なルールがあります。ちょうど、静かな水面がどこも同じ高さになるのに似ています。導体球Aの表面の電気的な高さは、問(7)で計算した値でした。ですから、Aの内部に入って中心Oにどんなに近づいても、その電気的な高さはずーっと表面と同じままで、「変わらない」のです。
導体球Aの内部に入り中心Oに近づくにつれて、電位は「ウ、変わらない」。これは、導体が静電平衡時に等電位であるという基本的な物理的性質を正しく反映しています。
問 (9)
思考の道筋とポイント
この球形コンデンサーの電気容量 \(C\) を求めます。電気容量の定義に基づいて計算を進めます。
- コンデンサーの電気容量 \(C\) は、コンデンサーに蓄えられた電荷の大きさ \(Q\) と、2つの極板(この場合は導体球Aと導体球殻B)の間の電位差 \(V\) を用いて、\(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\) と定義されます。
- この球形コンデンサーでは、導体球Aに \(+Q\) の電荷、導体球殻Bに \(-Q\) の電荷が蓄えられているので、コンデンサーに蓄えられた電荷の大きさは \(Q\) です。
- 次に、導体球Aと導体球殻Bの間の電位差 \(V_{AB}\) を求める必要があります。これは、導体球Aの電位 \(V_A\) と導体球殻Bの電位 \(V_B\) の差、すなわち \(V_{AB} = V_A – V_B\) (あるいは絶対値 \(|V_A – V_B|\))として計算されます。
- 問(7)より、導体球Aの電位は \(V_A = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\) です。
- 問(3)より、導体球殻Bの電位は \(V_B = 0\) です。
- したがって、AとBの間の電位差は \(V_{AB} = V_A – V_B = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab} – 0 = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\) となります。
- これらの \(Q\) と \(V_{AB}\) の値を、電気容量の定義式 \(C = \displaystyle\frac{Q}{V_{AB}}\) に代入して、\(C\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- コンデンサーの電気容量の定義式 \(C=Q/V\) を正しく理解し、適用できること。
- 式中の \(V\) は、2つの極板間の「電位差」であるということを正確に認識すること。
具体的な解説と立式
球形コンデンサーの電気容量 \(C\) は、コンデンサーが蓄える電荷の大きさを \(Q\)、そして導体球Aと導体球殻Bの間の電位差を \(V_{AB}\) とすると、その定義により、
$$C = \frac{Q}{V_{AB}} \quad \cdots ⑫$$
と表されます。
導体球Aの電位 \(V_A\) は、問(7)の結果から \(V_A = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\) です。
導体球殻Bの電位 \(V_B\) は、問(3)の結果から \(V_B = 0\) です。
したがって、導体球Aと導体球殻Bの間の電位差 \(V_{AB}\) は、
$$V_{AB} = V_A – V_B = \frac{kQ(b-a)}{ab} – 0 = \frac{kQ(b-a)}{ab} \quad \cdots ⑬$$
となります。
この電位差 \(V_{AB}\) を、電気容量の定義式⑫に代入すると、
$$C = \frac{Q}{\frac{kQ(b-a)}{ab}} \quad \cdots ⑭$$
が得られます。
使用した物理原理/公式
- コンデンサーの電気容量の定義: \(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\)
- 問(7)で求めた導体球Aの電位 \(V_A\)
- 問(3)で求めた導体球殻Bの電位 \(V_B\)
- コンデンサーの電気容量 \(C\) の定義は \(C = \displaystyle\frac{Q}{V_{AB}}\) です。ここで、\(Q\) は蓄えられた電荷の大きさ(この問題では \(Q\))、\(V_{AB}\) は導体球Aと導体球殻Bの間の電位差です。
- 導体球Aの電位 \(V_A = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\) (問(7)の結果)。
- 導体球殻Bの電位 \(V_B = 0\) (問(3)の結果)。
- したがって、AとBの間の電位差は \(V_{AB} = V_A – V_B = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\)。
- これを電気容量の定義式に代入します。
$$C = \frac{Q}{V_{AB}} = \frac{Q}{\frac{kQ(b-a)}{ab}}$$ - この式を整理します。分子と分母にある \(Q\) が約分によって消去されます。
$$C = \frac{1}{\frac{k(b-a)}{ab}}$$
分母が分数になっているので、その逆数をとると、
$$C = \frac{ab}{k(b-a)}$$
したがって、この球形コンデンサーの電気容量は、
$$C = \frac{ab}{k(b-a)} \, [\text{F}]$$
と表されます。
コンデンサーがどれだけたくさんの電気を蓄えることができるかの能力を「電気容量 \(C\)」といいます。これは、「コンデンサーに蓄えられた電気の量 \(Q\)」を「2つの電極(この場合は球Aと殻B)の間の電気的な高さの差 \(V_{AB}\)」で割ったものとして、\(C = Q \div V_{AB}\) という式で計算できます。
前の問いで、球Aの電気的な高さ \(V_A\) は \(\displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\) で、殻Bの電気的な高さ \(V_B\) は \(0 \, \text{V}\) であることがわかりましたね。
ですから、AとBの電気的な高さの差 \(V_{AB}\) は、\(V_A – V_B = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab} – 0 = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\) となります。
これを \(C = Q \div V_{AB}\) の式に入れてみましょう。
\(C = Q \div \left( \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab} \right)\)
分数の割り算は、割る数の逆数を掛けるのと同じですから、
\(C = Q \times \left( \displaystyle\frac{ab}{kQ(b-a)} \right)\)
ここで、分子と分母にある \(Q\) が打ち消しあって(約分されて)消えます。
その結果、電気容量 \(C\) は \(\displaystyle\frac{ab}{k(b-a)}\) となります。
この球形コンデンサーの電気容量は \(\displaystyle\frac{ab}{k(b-a)} \, \text{[F]}\) と表せることが分かりました。この結果の妥当性を少し考えてみましょう。
- \(a\) や \(b\) はコンデンサーの大きさを表す半径なので、これらが大きいほど電気容量 \(C\) が大きくなる傾向があるのは直感的にも理解できます(大きな容器ほど多くの水を蓄えられるのに似ています)。
- \(b-a\) は球Aと球殻Bの間の隙間の大きさに対応します。もしこの隙間 \((b-a)\) が非常に小さくなると、分母が小さくなるため電気容量 \(C\) は非常に大きくなります。これは、平行平板コンデンサーで極板間の距離を狭めると電気容量が増大する現象と類似しており、物理的に整合性があります。
- クーロンの比例定数 \(k\) が分母にあるため、\(k\) が大きい(つまり電気が及ぼす力が強い媒質、あるいは真空中の値)と電気容量は小さくなる傾向を示します。\(k = 1/(4\pi\varepsilon)\) と書けば、誘電率 \(\varepsilon\) が分子に来るので、誘電率が大きいほど容量が大きくなるという既知の性質とも一致します。
これらの点から、得られた電気容量の式は物理的に妥当な形をしていると考えられます。
【コラム】Q1. 電場Eのグラフを、横軸を中心からの距離rとして、実線で描け。A, Bがなく、中心に点電荷+Qがある場合(点線)と比較できるようにせよ。Bの外半径をc〔m〕とする。また、電位Vのグラフについても同様に描け。(★) 次に、Bの総電気量が0のケースについて、同様のグラフを描け。(★★)
思考の道筋とポイント
このコラム問題は、本問題で扱った球形コンデンサー(ケース1:Aに \(+Q\)、Bに \(-Q\))と、もう一つのケース(ケース2:Aに \(+Q\)、Bの総電気量が0)について、中心からの距離 \(r\) に対する電場 \(E\) の強さと電位 \(V\) の変化の様子をグラフで表現することを要求しています。さらに、比較対象として、中心に点電荷 \(+Q\) のみがある場合のグラフも点線で示す必要があります。
グラフの形状を正しく描くためには、各領域(導体内部、導体間、導体外部など)における電場 \(E(r)\) と電位 \(V(r)\) の関数形を導き出し、導体の性質(内部電場0、等電位)を正確に反映させることが重要です。
ケース1:Aに \(+Q\)、Bに \(-Q\) の場合(本問題の設定)
- 電場 \(E(r)\) の考察:
- 導体球Aの内部 (\(0 \le r < a\)):導体内部なので、電場は \(E=0\)。
- AとBの間 (\(a \le r < b\)):この空間の電場は、導体球Aの電荷 \(+Q\) のみが作ると考えられます(球殻Bの内面の \(-Q\) はその内側に電場を作らない)。したがって、中心に \(+Q\) の点電荷がある場合と同じく \(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\)。
- 導体球殻Bの内部(金属部分, \(b \le r \le c\)、ここで \(c\) はBの外半径):導体内部なので、電場は \(E=0\)。
- 球殻Bの外側 (\(r > c\)):問(2)で考察した通り、Aの \(+Q\) とBの内面の \(-Q\) の電荷の合計が0になるため、この領域の電場は \(E=0\)。
- 電位 \(V(r)\) の考察(無限遠点を基準 \(V(\infty)=0\) とする):
- 球殻Bの外側 (\(r > c\)):この領域で \(E=0\) なので、電位は無限遠点と同じく \(V=0\)。
- 導体球殻B(金属部分, \(b \le r \le c\)):導体なので等電位。外側が \(V=0\) なので、B全体で \(V=0\)。これは問(3)の結果と一致します。
- AとBの間 (\(a \le r < b\)):電場 \(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\) を用いて、\(V(b)=0\) を基準に電位を求めます。\(V(r) = V(b) – \int_b^r E(r’) dr’ = -\int_b^r \displaystyle\frac{kQ}{(r’)^2} dr’ = kQ\left[\displaystyle\frac{1}{r’}\right]_b^r = kQ\left(\displaystyle\frac{1}{r} – \displaystyle\frac{1}{b}\right)\)。
- 導体球A(内部を含む, \(0 \le r \le a\)):導体なので等電位。表面の電位 \(V(a)\) に等しく、\(V_A = V(a) = kQ\left(\displaystyle\frac{1}{a} – \displaystyle\frac{1}{b}\right) = \displaystyle\frac{kQ(b-a)}{ab}\)。これは問(7)の結果と一致します。
ケース2:Aに \(+Q\)、Bの総電気量が0の場合
この場合、導体球Aの \(+Q\) による静電誘導で、導体球殻Bの内側の表面には \(-Q\) の電荷が、そしてBの総電荷を0に保つためにBの外側の表面には \(+Q\) の電荷が誘導されます。
- 電場 \(E(r)\) の考察:
- 導体球Aの内部 (\(0 \le r < a\)):\(E=0\)。
- AとBの間 (\(a \le r < b\)):Aの \(+Q\) が作る電場のみで、\(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\)。これはケース1と同じです。
- 導体球殻Bの内部(金属部分, \(b \le r < c\)):\(E=0\)。
- 球殻Bの外側 (\(r \ge c\)):この領域の電場は、Bの外側の表面にある \(+Q\) の電荷によって作られます。球対称なので、これは中心に \(+Q\) の点電荷がある場合と同じく \(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\) となります。
- 電位 \(V(r)\) の考察(無限遠点を基準 \(V(\infty)=0\) とする):
- 球殻Bの外側 (\(r \ge c\)):この領域の電場は \(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\) なので、電位は \(V(r) = \displaystyle\frac{kQ}{r}\)。
- 導体球殻B(金属部分, \(b \le r \le c\)):等電位なので、その外表面の電位 \(V(c)\) に等しく、\(V_B = V(c) = \displaystyle\frac{kQ}{c}\)。
- AとBの間 (\(a \le r < b\)):電場は \(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\)。\(V(b) = \displaystyle\frac{kQ}{c}\) を基準に、\(V(r) = V(b) – \int_b^r E(r’) dr’ = \displaystyle\frac{kQ}{c} – \int_b^r \displaystyle\frac{kQ}{(r’)^2} dr’ = \displaystyle\frac{kQ}{c} + kQ\left(\displaystyle\frac{1}{r} – \displaystyle\frac{1}{b}\right)\)。
- 導体球A(内部を含む, \(0 \le r \le a\)):等電位なので、表面の電位 \(V(a)\) に等しく、\(V_A = V(a) = kQ\left(\displaystyle\frac{1}{a} – \displaystyle\frac{1}{b} + \displaystyle\frac{1}{c}\right)\)。
比較対象:中心に点電荷 \(+Q\) のみがある場合
- 電場 \(E(r) = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\) (ただし、\(r=0\) では定義できません。\(r>0\) の領域で適用します。)
- 電位 \(V(r) = \displaystyle\frac{kQ}{r}\) (無限遠基準)
この設問における重要なポイント
- 各領域(導体内部、導体間、導体外部)における電場の式を正しく導き出すこと。特に、導体内部では電場が \(0\) であることを忘れないようにしましょう。
- 電位は電場を積分することによって得られる(あるいは、点電荷の電位の公式や導体の等電位性を基準に考える)ことを理解し、電位が空間的に連続であるようにグラフを描くこと。
- 導体部分は等電位であるため、電位のグラフではその領域が水平な線(\(r\) 軸に平行)になることを正確に表現すること。
- ケース2のように、静電誘導によって導体表面に電荷がどのように再配置されるかを正しく考慮すること。
具体的な解説と立式
(模範解答の図Q1-①, ②, ④, ⑤(および電気力線図の図Q1-③)を参照しながら、各グラフの形状と、その形状になる物理的な理由について説明します。)
ケース1:Aに \(+Q\)、Bに \(-Q\) の場合(本問題の球形コンデンサー)
(模範解答の図Q1-①(電場E-rグラフ)および図Q1-②(電位V-rグラフ)を参照してください。)
- 電場 \(E(r)\) のグラフ(図Q1-①の実線):
- 領域 \(0 \le r < a\) (導体球Aの内部):導体内部なので電場は \(E=0\)。グラフは \(r\) 軸(横軸)に一致します。
- 領域 \(a \le r < b\) (AとBの間):電場は \(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\) で与えられます。これは中心に点電荷 \(+Q\) がある場合の電場(図Q1-①の点線)と全く同じ形になります。\(r=a\) での値は \(E=\displaystyle\frac{kQ}{a^2}\) で、ここから \(r\) が増加するにつれて \(1/r^2\) の形で急激に減少します。
- 領域 \(r \ge b\) (導体球殻Bの内部および外部):これらの領域では電場は \(E=0\)。グラフは再び \(r\) 軸に一致します。
- 電位 \(V(r)\) のグラフ(図Q1-②の実線):
- 領域 \(r \ge b\) (導体球殻Bの外部およびB上):この領域で電場が \(E=0\) であり、電位の基準を無限遠点 (\(V(\infty)=0\)) としているので、電位は \(V=0\)。グラフは \(r\) 軸に一致します。
- 領域 \(a \le r < b\) (AとBの間):電位は \(V(r) = kQ\left(\displaystyle\frac{1}{r} – \displaystyle\frac{1}{b}\right)\) で与えられます。\(r=b\) で \(V(b)=0\) となり、\(r\) が減少する(中心に近づく)につれて電位は単調に増加します。\(r=a\) での電位は \(V_A = kQ\left(\displaystyle\frac{1}{a} – \displaystyle\frac{1}{b}\right)\) となります。この曲線は、点電荷の電位のグラフ(図Q1-②の点線 \(V=kQ/r\))を全体的に下方へシフトさせ、かつ \(r=b\) で \(0\) になるように調整したような形になります。
- 領域 \(0 \le r \le a\) (導体球Aの内部およびA上):導体Aは等電位なので、電位は表面の電位 \(V_A\) と同じ値で一定となります。グラフは \(V=V_A\) の水平線になります。
ケース2:Aに \(+Q\)、Bの総電気量が0の場合
(この場合、Bの内側の表面に \(-Q\)、外側の表面に \(+Q\) が誘導されます。模範解答の電気力線図 図Q1-③、電場E-rグラフ 図Q1-④、電位V-rグラフ 図Q1-⑤を参照してください。)
- 電場 \(E(r)\) のグラフ(図Q1-④の実線):
- 領域 \(0 \le r < a\) (A内部):\(E=0\)。
- 領域 \(a \le r < b\) (AB間):\(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\)。これはケース1のAB間と同じです。
- 領域 \(b \le r < c\) (Bの導体内部、\(c\) はBの外半径):\(E=0\)。
- 領域 \(r \ge c\) (Bの外部):この領域の電場は、Bの外側の表面にある \(+Q\) の電荷によって作られます。球対称性から、これは中心に点電荷 \(+Q\) がある場合の電場と同じになり、\(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\)。図Q1-④の点線と一致します。
- 電位 \(V(r)\) のグラフ(図Q1-⑤の実線):
- 領域 \(r \ge c\) (Bの外部):電場が \(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\) なので、電位は \(V(r) = \displaystyle\frac{kQ}{r}\)。図Q1-⑤の点線と一致します。
- 領域 \(b \le r \le c\) (Bの導体内部およびB上):Bは等電位なので、その外表面の電位 \(V(c)\) と同じ値になります。つまり \(V = V(c) = \displaystyle\frac{kQ}{c}\) で一定。グラフは水平線になります。
- 領域 \(a \le r < b\) (AB間):電場は \(E = \displaystyle\frac{kQ}{r^2}\)。\(V(b) = \displaystyle\frac{kQ}{c}\) を基準として電位を計算すると、\(V(r) = \displaystyle\frac{kQ}{c} + kQ\left(\displaystyle\frac{1}{r} – \displaystyle\frac{1}{b}\right)\)。\(r=b\) で \(V(b)=\displaystyle\frac{kQ}{c}\)、\(r=a\) での電位は \(V_A = kQ\left(\displaystyle\frac{1}{a} – \displaystyle\frac{1}{b} + \displaystyle\frac{1}{c}\right)\)。
- 領域 \(0 \le r \le a\) (Aの内部およびA上):Aは等電位なので、電位は表面の電位 \(V_A\) と同じ値で一定。グラフは \(V=V_A\) の水平線になります。
使用した物理原理/公式
- 電場の定義とガウスの法則(間接的な利用を含む)
- 電位の定義と電場との関係( \(V = -\int E dr + \text{積分定数}\) )
- 導体内部の電場は0(ゼロ)であるという性質
- 導体は等電位であるという性質
- 点電荷が作る電場の強さの公式 \(E=kQ/r^2\)
- 点電荷が作る電位の公式 \(V=kQ/r\) (無限遠基準)
- 静電誘導による導体表面への電荷の再配置
各領域における電場 \(E(r)\) および電位 \(V(r)\) の具体的な関数形は、上記の「具体的な解説と立式」セクションで詳細に述べたとおりです。グラフは、これらの導出された関数形と、導体の基本的な性質(内部電場0、全体が等電位)を正確に反映させて描く必要があります。模範解答として提供されているグラフ(図Q1-①、②、④、⑤)は、これらの計算結果を視覚的に正しく表現したものです。
この問題では、球形コンデンサーの周りの「電気の強さ(電場 \(E\))」と「電気の高さ(電位 \(V\))」が、中心からの距離 \(r\) によってどのように変わっていくかをグラフに描きます。
ケース1(Aにプラス、Bにマイナスの電気がある、問題本編のコンデンサー):
電場は、AとBの間だけに存在し、Aの表面で一番強く、Bに近づくにつれて弱くなります。AやBの金属の中、そしてBの外側では電場はゼロです。
電位は、Bの外側とBの金属部分は高さゼロ。AとBの間では、BからAに向かってだんだん高くなり、Aの金属の中では一定の最高の高さになります。
ケース2(Aにプラスの電気があり、Bは全体として電気ゼロだが、静電誘導で内側と外側に電気が分かれる場合):
電場は、AとBの間と、Bの外側の両方に存在します。Aの金属の中とBの金属の中では電場はゼロです。
電位は、無限に遠いところで高さゼロ。そこからBの外表面に近づくにつれて高くなっていき、Bの金属部分は一定の高さ。AとBの間ではさらに高くなり、Aの金属の中では最も高い一定の高さになります。
これらのグラフを、もし中心にプラスの電気の小さな粒が一つだけポツンとあった場合(点線のグラフ)と比較しながら描くのがポイントです。
(模範解答の図Q1-①、②、④、⑤を参照し、それぞれのケースについて指定された実線と点線を描くようにしてください。)
これらのグラフを描くことにより、電場や電位という物理量が空間的にどのように分布し変化するのかを視覚的に深く理解することができます。特に、導体内部の電場が \(0\) になること、導体が等電位であること、そして電位が空間的に連続的に変化する(一方で電場は導体表面などで不連続に変化する場合がある)といった重要な物理的特徴が、グラフから明確に読み取れるはずです。
【コラム】Q2. ガウスの法則と、一様電場について成り立つ(電位差) = (電場の強さ)×(間隔) を利用して、右のような面積S, 間隔dの平行板コンデンサーの電気容量Cをk, S, dで表せ。(★)
思考の道筋とポイント
面積 \(S\)、極板間隔 \(d\) の平行板コンデンサーを考え、一方の極板に \(+Q\)、もう一方の極板に \(-Q\) の電荷が蓄えられているとします。このコンデンサーの電気容量 \(C\) を、ガウスの法則(問題文の「定理」と同等の内容)と一様電場における電位差の公式を用いて導出します。
- 極板間の電場の強さ \(E\) を求める:
- 正極板 (\(+Q\)) から出る電気力線の総本数 \(N\) は、問題文の定理と同様に考え、\(N = 4\pi kQ\) 本とします。これはガウスの法則から導かれる結論です。
- 平行板コンデンサーの極板間では、電場は一様であると近似できます(ただし、極板の端の部分での電場の乱れは無視します)。
- これらの電気力線は、極板の面積 \(S\) を垂直に、かつ一様に貫くと考えられるため、単位面積あたりの電気力線の本数(これが電場の強さ \(E\) に相当します)を計算します。
- 極板間の電位差 \(V\) を求める:
- 極板間の電場 \(E\) は一様であるため、電場の向きに距離 \(d\) だけ離れた2点間の電位差 \(V\) は、単純に \(V = Ed\) という関係式で与えられます。
- 電気容量 \(C\) を求める:
- コンデンサーの電気容量の基本定義式 \(Q=CV\) を用います。上で求めた \(Q\) と \(V\) の関係式(具体的には \(V\) を \(Q\) で表した式)をこの定義式に代入し、\(C\) を \(k, S, d\) を用いて表します。
この設問における重要なポイント
- ガウスの法則(電気力線の総本数と電荷の関係)を理解し、それを用いて電場の強さを導き出すことができること。
- 一様な電場中における電位差の公式 \(V=Ed\) を正しく適用できること。
- コンデンサーの電気容量の定義式 \(Q=CV\) を理解し、これに導出した \(Q\) と \(V\) の関係を代入して \(C\) を求める流れを把握すること。
具体的な解説と立式
面積 \(S\)、極板間隔 \(d\) の平行板コンデンサーの極板に、それぞれ \(+Q\) および \(-Q\) の電荷が蓄えられている状況を考えます。
- 極板間の電場の強さ \(E\) の導出:
正極板が持つ電荷 \(+Q\) から出る電気力線の総本数 \(N\) は、問題文の定理(またはガウスの法則)に基づき、次のように表せます。
$$N = 4\pi kQ \quad \cdots (\text{コQ2}-①)$$
これらの電気力線は、極板間の空間を、極板の面積 \(S\) にわたって一様に垂直に貫くと考えられます。電場の強さ \(E\) は、単位面積あたりの電気力線の本数として定義されるため、
$$E = \frac{N}{S} = \frac{4\pi kQ}{S} \quad \cdots (\text{コQ2}-②)$$
と表すことができます。 - 極板間の電位差 \(V\) の導出:
平行板コンデンサーの極板間の電場 \(E\) は一様であるため、極板間の距離が \(d\) であることから、2つの極板の間の電位差 \(V\) は、
$$V = Ed \quad \cdots (\text{コQ2}-③)$$
と与えられます。この式に、式(\text{コQ2}-②)で求めた \(E\) を代入すると、
$$V = \left(\frac{4\pi kQ}{S}\right) d = \frac{4\pi kQd}{S} \quad \cdots (\text{コQ2}-④)$$
となります。 - 電気容量 \(C\) の導出:
コンデンサーの電気容量 \(C\) の定義は \(Q=CV\) です。この式を \(C\) について解くと \(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\) となります。この式に、式(\text{コQ2}-④)で得られた \(V\) の表現を代入します。
$$C = \frac{Q}{\frac{4\pi kQd}{S}} \quad \cdots (\text{コQ2}-⑤)$$
この式を整理すると、電気容量 \(C\) が求まります。
なお、クーロンの比例定数 \(k\) と真空の誘電率 \(\varepsilon_0\)(より一般的には極板間の物質の誘電率を \(\varepsilon\) とする)の間には \(k = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon}\) という関係があるため、これを用いると、よく知られた平行板コンデンサーの電気容量の公式 \(C = \displaystyle\frac{\varepsilon S}{d}\) を導くことができます。
- ガウスの法則(問題文の定理に相当する、電荷から出る電気力線の総本数): \(N=4\pi kQ\)
- 電場の強さと電気力線の面密度の関係: \(E=\displaystyle\frac{N}{S}\) (一様な場合)
- 一様な電場における電位差の公式: \(V=Ed\)
- コンデンサーの電気容量の定義: \(C=\displaystyle\frac{Q}{V}\)
- 正極板の電荷 \(+Q\) から出る電気力線の総本数 \(N\) は、与えられた定理により \(N = 4\pi kQ\) とします。
- これらの電気力線が極板の面積 \(S\) を一様に貫くと考えると、極板間の電場の強さ \(E\) は、単位面積あたりの電気力線の本数として \(E = \displaystyle\frac{N}{S} = \displaystyle\frac{4\pi kQ}{S}\) となります。
- 極板間の距離は \(d\) であり、電場は一様なので、極板間の電位差 \(V\) は \(V = Ed = \left(\displaystyle\frac{4\pi kQ}{S}\right)d = \displaystyle\frac{4\pi kQd}{S}\) と計算されます。
- コンデンサーの電気容量 \(C\) は、その定義 \(Q=CV\) から \(C = \displaystyle\frac{Q}{V}\) として求められます。これに上記で求めた \(V\) の式を代入すると、
$$C = \frac{Q}{\frac{4\pi kQd}{S}}$$ - この式の分子と分母にある \(Q\) を約分し、分母にある分数を整理(逆数をとる)すると、
$$C = \frac{S}{4\pi kd}$$
という結果が得られます。
平行な金属板2枚で作られたコンデンサーが、どれだけ電気を蓄えられるかの能力(電気容量 \(C\))を計算してみましょう。
まず、片方の金属板にプラス \(+Q\) の電気があるとします。問題のヒントにある「定理」を使うと、この \(+Q\) の電気からは \(4\pi kQ\) 本の電気の矢印(電気力線)が出ていると考えられます(\(k\) は決まった数です)。これらの矢印が、金属板の面積 \(S\) をまっすぐ貫いていると想像してください。そうすると、1平方メートルあたりを貫く矢印の本数(これが電気の強さ、電場 \(E\) になります)は、全体の矢印の本数 \(4\pi kQ\) を面積 \(S\) で割ったもの、つまり \(E = \displaystyle\frac{4\pi kQ}{S}\) となりますね。
次に、2枚の金属板の間の電気的な高さの差(電位差 \(V\))を考えます。電場 \(E\) が一定の強さで、板の間の距離が \(d\) の場合、電位差は単純に \(V = E \times d\) で計算できます。これに先ほどの \(E\) の式を入れると、\(V = \left(\displaystyle\frac{4\pi kQ}{S}\right) \times d\) となります。
最後に、コンデンサーの電気を蓄える能力 \(C\) は、\(Q = C \times V\) という関係式で表されるので、これを \(C\) について解くと \(C = Q \div V\) です。この式に、上で求めた \(V\) の表現を代入して整理すると、\(C = \displaystyle\frac{S}{4\pi kd}\) という答えが出てきます。
これは、よく知られている平行板コンデンサーの電気容量の公式(誘電率 \(\varepsilon\) を使うと \(C = \varepsilon S/d\))と同じものを、クーロンの比例定数 \(k\) を使って表した形になっています。
平行板コンデンサーの電気容量は \(C = \displaystyle\frac{S}{4\pi kd}\) と表されます。この結果は、
- 極板の面積 \(S\) が大きいほど、電気容量 \(C\) も大きくなる。
- 極板間の距離 \(d\) が小さいほど、電気容量 \(C\) は大きくなる。
- クーロンの比例定数 \(k\) が小さいほど(つまり、極板間の物質の誘電率 \(\varepsilon\) が大きいほど、\(k = 1/(4\pi\varepsilon)\) の関係があるため)、電気容量 \(C\) は大きくなる。
といった、コンデンサーの性質とよく一致しており、物理的に妥当なものです。また、これは教科書などで見られる平行板コンデンサーの電気容量の公式 \(C = \displaystyle\frac{\varepsilon S}{d}\) と、定数の関係 \(k = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon}\) を考慮すれば、完全に一致します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電気力線とガウスの法則(問題文では「定理」として一部提示):
- 核心:電荷から出る(または電荷に入る)電気力線の総本数は、その電荷の量に比例し(具体的には \(4\pi k Q\) 本)、この性質はガウスの法則に基づいています。ガウスの法則は、任意の閉曲面を貫く電気力線の正味の総本数が、その閉曲面内部に存在する総電荷量によって決まるという、電場に関する極めて重要な法則です。
- 理解のポイント:電気力線は電場の様子を視覚的に表現したものであり、その本数や密度が電場のさまざまな性質(強さ、向き、分布)を反映します。ガウスの法則をうまく利用することで、対称性の高い電荷分布における電場を比較的容易に計算することができます。
- 電場と電位の関係:
- 核心:電場は電位の空間的な変化率(勾配)として定義され( \(E = -dV/dr\) のような関係)、逆に電位は電場を基準点からある点まで線積分することによって得られます( \(V = -\int \vec{E} \cdot d\vec{r}\) )。
- 理解のポイント:電場が \(0\) の領域では電位は一定値を保ちます。一様な電場 \(E\) の中を電場の向きに距離 \(d\) だけ進んだときの電位差は \(V=Ed\) となります。電位はスカラー量であるため、重ね合わせが容易な場合があります。
- 導体の性質(静電平衡の状態において):
- 核心:導体内部には電場が存在せず (\(E=0\))、その結果として導体全体(表面も内部も)は等電位となります。また、導体に与えられた余剰な電荷は、導体の表面にのみ分布します(内部には存在しません)。
- 理解のポイント:これらの特異な性質は、導体内部に多数存在する自由電子が、外部からの電場や他の電荷の影響を受けて移動し、最終的に導体内部の電場を打ち消すように再配置されることによって生じます。静電誘導もこの性質の現れの一つです。
- コンデンサーの電気容量:
- 核心:コンデンサーが蓄えることができる電荷の量 \(Q\) と、そのときの2つの極板間の電位差 \(V\) の比 \(C=Q/V\) として定義される量です。
- 理解のポイント:電気容量 \(C\) は、コンデンサーの形状(極板の面積、間隔、形状など)や、極板間を満たす物質の種類(誘電率)によって決まる、そのコンデンサー固有の幾何学的な性質を表す量です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 同軸円筒コンデンサーなど、他の形状を持つコンデンサーの電気容量の計算問題。
- 複数の導体が複雑に配置された系における、各導体の電位分布や電荷分布の解析問題。
- ガウスの法則を直接用いて、様々な対称性(球対称、円筒対称、平面対称など)を持つ電荷分布が作る電場を計算する問題。
- 電場が与えられた場合に、それを積分して電位差や特定の点の電位を計算する問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 電荷分布の対称性の確認: まず、問題で与えられた電荷の分布が、球対称性、円筒対称性、あるいは平面対称性などのような、特別な対称性を持っているかどうかを見抜くことが重要です。対称性があれば、ガウスの法則を適用して電場を求める際に、計算を大幅に簡略化できるガウス面を選ぶことができます。
- 導体の存在とその性質の活用: 問題中に導体が含まれている場合(コンデンサーの極板など)、導体内部の電場が \(0\) であること、そして導体全体が等電位であるという条件を積極的に利用します。これは、電位や電場の境界条件として非常に有効です。
- 電位の基準点の明確化: 電位について考える際には、必ずどこを電位の基準(\(0 \, \text{V}\))としているかを確認することが不可欠です。通常は無限遠点か、接地(アース)された部分が基準とされます。
- 電気力線の概略図のイメージ: 電荷の配置から、電気力線が空間にどのように分布するかを大まかにでも頭の中で描いてみる(あるいは実際に簡単な図を書いてみる)ことで、電場の向きや強さの程度、そして電位の高低関係について直感的な見通しを得ることができます。
- コンデンサーに関する問題の場合の基本方針: コンデンサーの電気容量を問われた場合は、まず定義式 \(C=Q/V\) に立ち返り、「極板に蓄えられた電荷 \(Q\)」と「極板間の電位差 \(V\)」をそれぞれ個別に求めることを目標に設定します。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 問題文中で与えられている「定理」や特定の物理法則は、その問題を解く上での重要な手がかりやヒントとなる場合が多いので、見落とさないようにしましょう。
- 電場はベクトル量(大きさと向きを持つ)であり、電位はスカラー量(大きさのみを持つ)であるため、それぞれの物理量の扱い方(例えば、重ね合わせの原理の適用方法など)が異なる点に注意が必要です。
- 電場を積分して電位を求める際には、積分範囲(始点と終点)と積分経路の向きを正しく設定することが、符号を含めて正確な結果を得るために重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電気力線の「総本数」とある点での「電場の強さ」の混同:
- 現象:電荷から出る電気力線の「総本数」が電場の強さそのものであると誤解してしまう、あるいは電気力線の密度という概念を忘れ、単に本数だけで電場の強弱を判断しようとする。
- 対策:電気力線の総本数は電荷の総量に比例しますが(ガウスの法則)、ある点における電場の強さは、その点を垂直に貫く単位面積あたりの電気力線の「密度」として定義されることを明確に理解しましょう。つまり、同じ本数でも狭い面積を貫けば電場は強く、広い面積を貫けば電場は弱くなります。
- 導体内部の「電位」に関する誤解:
- 現象:導体内部の電場が \(0\) であることから、短絡的に導体内部の電位も \(0\) であると誤解してしまう。
- 対策:導体内部の電場が \(0\) であるということは、導体内部では電位が「変化しない」、つまり「一定である」という意味です。その一定となる電位の値は、導体の表面の電位と同じ値であり、必ずしも \(0 \, \text{V}\) とは限りません(導体が接地されているか、あるいは電位の基準点の取り方によります)。
- 「電位」と「電位差」の混同:
- 現象:ある特定の点の「電位(基準点からの電気的な高さ)」と、2つの異なる点の間の「電位差(電気的な高さの差)」を区別せずに、同じように扱ってしまう。
- 対策:「電位」はある基準点(通常は無限遠点や接地された点)に対する相対的な値であるのに対し、「電位差」は2点間の値の差であることを明確に区別しましょう。特にコンデンサーの基本式 \(Q=CV\) における \(V\) は、2つの極板間の「電位差」を指します。
- ガウスの法則を適用する際の「ガウス面(閉曲面)」の選び方の不適切さ:
- 現象:ガウスの法則を用いて電場を計算しようとする際に、電荷分布の対称性をうまく利用できないような不適切な形状や大きさの閉曲面(ガウス面)を選んでしまい、計算が非常に複雑になるか、あるいは解けなくなる。
- 対策:ガウスの法則を有効に使うためには、電荷分布が持つ対称性(球対称、円筒対称、平面対称など)に合わせて、ガウス面上で電場の強さが一定であるか、あるいは電場ベクトルがガウス面の法線ベクトルに対して常に垂直または平行になるような、都合の良いガウス面を選ぶ練習を積むことが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 電気力線図の活用:導体球Aから出て球殻Bへ入る同心円状の電気力線の様子(問題の図1)や、孤立した導体球から放射状に広がる電気力線(問題の図2)を頭の中で描いたり、実際に手で描いてみたりすることで、電場の向きや相対的な強さの分布を直感的に把握することができました。Q1の電気力線図(図Q1-③)も同様に有効です。
- 電荷の分布のイメージング:球殻Bの内側の表面に電荷 \(-Q\) が集まる様子を具体的にイメージすることで、なぜ球殻Bの外部空間の電場が \(0\) になるのか、という理由をより深く理解しやすくなりました。
- 電位のグラフ(Q1で実践):電場が \(1/r^2\) に比例して変化する領域では電位が \(1/r\) の形(プラス積分定数)で変化し、電場が \(0\) の領域では電位が一定値(水平線)になる、といった空間的な変化の様子をグラフで視覚化することにより、抽象的な電位という概念が具体的な関数の振る舞いとして一目瞭然となりました。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 電気力線を描く際には、その基本的な性質(正電荷から出て負電荷へ向かうという「向き」、線の「密度」が電場の強さを表すこと、導体表面への出入りの仕方が必ず「垂直」であることなど)を正しく反映させるように心がけましょう。
- 電荷の符号(「+」か「-」か)を明確に図中に示し、可能であればその電荷の相対的な量(例えば、電荷密度が高い場所は記号を密集させて描くなど)も区別して描くと、より状況が理解しやすくなります。
- 電位のグラフを描く際には、電位が空間的に連続的に変化すること(ただし電場は導体表面などで不連続になる場合があります)、導体部分では電位が一定で平坦なグラフになること、そして電位の基準点(\(0 \, \text{V}\) の点)との関係を明確に示すことが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 点電荷が作る電位の公式 \(V = k\displaystyle\frac{Q}{r}\):
- 選定理由:球対称な電荷分布を持つ導体球が、その外部の空間に作る電位を計算するために選びました。
- 適用根拠:ガウスの法則から導かれる重要な結論として、球対称な電荷分布を持つ導体球の外部の電場(および電位)は、その導体球の全電荷が中心に集中したと仮定した点電荷が作るものと等価になるという性質があります。この問題では、電位の基準が無限遠点に取られているため、この公式を直接適用できます。
- 点電荷が作る電場の強さの公式 \(E = k\displaystyle\frac{Q}{r^2}\):
- 選定理由:同様に、球対称な電荷分布を持つ導体球が、その外部の空間に作る電場の強さを計算するために選びました。
- 適用根拠:電位の場合と同じく、導体球の全電荷が中心に集中した点電荷が作る電場と等価であるという性質に基づいています。
- コンデンサーの電気容量の基本定義式 \(Q=CV\):
- 選定理由:コンデンサーの電気容量そのものを定義し、計算するための最も基本的な関係式であるため選びました。
- 適用根拠:2つの導体(この問題では導体球Aと導体球殻B)が極板として機能し、それらの間に電位差 \(V\) があり、それぞれに \(+Q\) と \(-Q\) の電荷が蓄えられている系に対して普遍的に適用できる定義式です。
- 一様な電場における電位差と電場の関係 \(V=Ed\) (コラムQ2で使用):
- 選定理由:平行板コンデンサーのように、電場が一様であると見なせる状況で、極板間の電位差を簡単に計算するために選びました。
- 適用根拠:この公式は、電場 \(E\) が空間的に一様(場所によらず一定の大きさと向きを持つ)であり、かつ距離 \(d\) がその電場の方向に沿った長さである場合に限り成立します。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題文の図と空欄、そして「定理」を照らし合わせ、何が問われているのか、どのような道具を使って考えるべきかを正確に把握します。 特に、「球殻Bがない場合」と「球殻Bがある場合」という条件の違いが、考察にどう影響するかを常に意識します。
- まず、電荷の分布を確定させます(設問(1))。 静電誘導の原理と、導体の基本的な性質(特に内部の電場が \(0\) になるように電荷が分布する)から、球殻B上の電荷 \(-Q\) がどこに存在するのかを論理的に導きます。
- 次に、電場の様子を考察します(設問(2), (6))。 電気力線の概念やガウスの法則(問題文の「定理」がその一部を示唆)を念頭に置き、各領域(導体内部、導体間、導体外部)における電場の有無や強さを判断します。
- 電位を順を追って計算していきます(設問(3), (4), (5), (7))。 電位の基準点(この問題では無限遠点)から出発し、導体の等電位性、そして電場と電位の関係(電場の積分や点電荷の電位の公式)を用いて、各部分の電位を段階的に決定していきます。
- 導体内部の物理的性質を適用します(設問(8))。 導体内部は(静電平衡時には)等電位であるという重要な性質を思い出して適用します。
- 最後に、電気容量をその定義に従って計算します(設問(9))。 コンデンサーに蓄えられた電荷 \(Q\) と、2つの極板(導体球Aと球殻B)の間の電位差 \(V_{AB}\) を求め、基本式 \(C=Q/V_{AB}\) に代入して最終的な答えを導き出します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理と計算の丁寧さ: この問題では、半径を表す \(a, b\)、クーロンの比例定数 \(k\)、電荷 \(Q\) など、複数の文字記号が登場します。特に分数の計算(通分や逆数の処理など)を含む式変形を行う際には、計算ミスをしないように、一つ一つのステップを丁寧に、かつ正確に行うことを心がけましょう。
- 単位の確認と物理的な次元の意識: 最終的に得られる電気容量の単位がファラド \([\text{F}]\) になることはもちろんですが、計算の途中過程で登場する各物理量(電場、電位、電荷など)の単位も頭の片隅で意識することで、例えば次元的に明らかに誤った式を立てていないかといった、基本的なチェックが可能です(ただし、この問題のように空欄補充形式で最終的な単位のみが問われる場合は、計算途中の単位換算は不要なことが多いです)。
- 基本的な代数計算の正確性: 例えば、\(\displaystyle\frac{1}{a} – \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{b-a}{ab}\) のような、基本的な分数の通分や整理といった代数的な操作を迅速かつ正確に行えるようにしておくことが、スムーズな問題解決に繋がります。
- 電位差の計算における符号の明確化: 電位差を計算する際には、どちらの点の電位からどちらの点の電位を引いているのか(例えば、高電位の点から低電位の点を引いて正の値として扱うのか、あるいは始点と終点を明確に意識するのか)を、自分の中で一貫して明確にしておくことが、符号の誤りを防ぐ上で重要です。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた電気容量の式が、物理的に妥当なパラメータ依存性を示しているか検討する:
- 例えば、本問題で得られた球形コンデンサーの電気容量 \(C = \displaystyle\frac{ab}{k(b-a)}\) という結果について、いくつかの極端な場合や既知の状況と比較してみましょう。
- もし、導体球Aと球殻Bの間の隙間が非常に狭い、つまり \(a\) が \(b\) に限りなく近い(\(a \to b\), \(b-a \to 0\)) とすると、分母の \(b-a\) が \(0\) に近づくため、電気容量 \(C\) は無限大に発散する傾向を示します。これは、平行平板コンデンサーで極板間の距離を極限まで狭めると電気容量が非常に大きくなるという現象と質的に類似しており、物理的に妥当な振る舞いと言えます。
- もし、外側の球殻Bが無限に遠くに存在する場合、つまり \(b \to \infty\) の極限を考えると、\(C = \displaystyle\frac{ab}{k(b-a)} = \displaystyle\frac{a}{k(1-a/b)}\) と変形でき、\(b \to \infty\) で \(a/b \to 0\) となるため、\(C \to \displaystyle\frac{a}{k}\) となります。クーロンの比例定数 \(k\) を真空の誘電率 \(\varepsilon_0\) を用いて \(k = \displaystyle\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\) と書き換えれば、\(C \to 4\pi\varepsilon_0 a\) となります。これは、半径 \(a\) の孤立した導体球の電気容量の公式と一致し、この結果も物理的に妥当です。
- 例えば、本問題で得られた球形コンデンサーの電気容量 \(C = \displaystyle\frac{ab}{k(b-a)}\) という結果について、いくつかの極端な場合や既知の状況と比較してみましょう。
- 各物理量の符号が、設定された物理的状況と整合しているか確認する: 例えば、正電荷 \(+Q\) に帯電した導体球Aの電位が、電位の基準(無限遠点や接地された球殻B)に対して正の値になっているか、あるいは電位差の向きが電荷の移動や電場の向きと矛盾していないか、などを確認します。
- 式の定義域や物理的な限界を考慮する: 例えば、半径 \(a\) や \(b\) が \(0\) になったり、\(b\) が \(a\) より小さくなったりするような、物理的に意味をなさない極限条件を式に代入した場合に、式がどのように振る舞うか(あるいは定義できなくなるか)を考えてみることも、式の理解を深める上で役立つことがあります(ただし、数学的な操作と物理的な意味の対応には注意が必要です)。
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