問題73 (京都工繊大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、光が異なる媒質の境界面でどのように振る舞うか、特に「屈折」と「全反射」という現象に焦点を当てています。円柱状のガラス棒を舞台に、光が空気からガラスへ、そしてガラスから別の媒質へと進む際の法則性や条件を考察します。
- 円柱状のガラス棒Aがあり、その屈折率は \(n_A\)。
- ガラス棒Aの上端面は空気に接しており、空気の屈折率は1とする。
- ガラス棒Aの側面は屈折率 \(n_B\) の媒質Bで囲まれている。
- 真空中の光速を \(c\) とする。
- (1) ガラス棒Aの上端面での入射角 \(\alpha\)、屈折角 \(\beta\)、およびガラス棒Aの屈折率 \(n_A\) の間に成り立つ関係式。
- (2) 光がAからBへ進むときの臨界角を \(\theta_0\) として、\(\theta_0\), \(n_A\), \(n_B\) の間に成り立つ関係式 (\(n_A > n_B\) の場合)。
- (3) (1)の光が媒質Bへ出ることなくAの中を進むために、\(\alpha\), \(n_A\), \(n_B\) の間に必要な条件。
- (4) ガラス棒の長さを \(l\) としたとき、全反射を繰り返して進む光がガラス棒を突き抜けるのに要する時間(\(\beta\) を用いる)。
- (5) 媒質Bが空気のとき常全反射、水(屈折率 \(4/3\))のとき \(\alpha\) によっては側面から光が出る、という条件から \(n_A\) の範囲を求める。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、光の基本的な性質である「屈折の法則」と「全反射」という2つの重要な現象を扱っています。これらの現象は、光ファイバー通信やプリズムによる光の分散など、私たちの身の回りの技術や自然現象にも深く関わっています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 屈折の法則: 光が異なる媒質の境界面に入射するとき、入射角と屈折角のサインの比が、各媒質の屈折率の逆比に等しい(または、\(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\))。
- 全反射の条件: 光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進むとき、入射角がある一定の角度(臨界角)以上になると、光は屈折せずにすべて反射される。
これらの法則を正しく理解し、問題の状況に合わせて適用していくことがポイントになります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) まず、ガラス棒の上端面(空気との境界面)での光の屈折に注目し、屈折の法則を適用します。
- (2) 次に、ガラス棒の側面(媒質Bとの境界面)で全反射が起こる条件を考えます。特に、全反射が起こり始めるギリギリの角度である臨界角の定義式を導きます。
- (3) (1)でガラス棒に入った光が、側面で全反射を繰り返して進むための条件を数式で表します。これには、側面への入射角が(2)で考えた臨界角よりも大きくなるという条件と、(1)の結果を結びつける必要があります。
- (4) 全反射しながら進む光がガラス棒の軸方向に進む速度成分を考え、ガラス棒の長さとこの速度成分から所要時間を計算します。
- (5) (3)で導いた条件式に、媒質Bが空気の場合と水の場合の具体的な屈折率を代入します。問題文で与えられた「常に全反射する」または「条件によっては透過する」という情報から、ガラス棒Aの屈折率 \(n_A\) に関する不等式を立てて解きます。
それでは、各設問について詳しく見ていきましょう。
問(1)
思考の道筋とポイント
空気中からガラス棒Aの上面に入射する光の屈折現象です。入射する媒質(空気)と屈折する媒質(ガラス棒A)の屈折率、入射角、屈折角が与えられているので、屈折の法則を素直に適用します。
この設問における重要なポイント
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
- 空気の屈折率は1。
- 入射角 \(\alpha\) と屈折角 \(\beta\) を正しく対応させる。
具体的な解説と立式
光は空気(屈折率 \(n_1 = 1\))からガラス棒A(屈折率 \(n_2 = n_A\))へ入射します。
入射角は \(\theta_1 = \alpha\)、屈折角は \(\theta_2 = \beta\) です。
屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) にこれらの値を代入すると、
$$1 \cdot \sin\alpha = n_A \sin\beta \quad \cdots ①$$
これが求める関係式です。
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
上記「具体的な解説と立式」で示した式①が、そのまま関係式となります。
$$\sin\alpha = n_A \sin\beta$$
光がある物質から別の物質に入るとき、その進む向きが変わります。この現象を「屈折」といい、その曲がり方には「屈折の法則」というルールがあります。この法則は、「(物質1の屈折率)× sin(入射角) = (物質2の屈折率)× sin(屈折角)」という形をしています。今回は、空気に入射角 \(\alpha\) で入ってきた光が、ガラス棒Aに屈折角 \(\beta\) で入っていくので、空気の屈折率を1、ガラスAの屈折率を \(n_A\) としてこの法則に当てはめると、\(\sin\alpha = n_A \sin\beta\) という関係が得られます。
関係式は \(\sin\alpha = n_A \sin\beta\) です。これは基本的な屈折の法則の適用であり、物理的に妥当です。模範解答とも一致しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
ガラス棒Aから媒質Bへ光が進む際に、全反射が起こりうる条件を考えます。全反射は、光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進むときに、入射角がある特定の角度(臨界角)以上になると発生します。臨界角 \(\theta_0\) とは、屈折角が \(90^\circ\) になるときの入射角のことです。この状況に屈折の法則を適用します。問題文より \(n_A > n_B\) とされています。
この設問における重要なポイント
- 全反射は屈折率大 \(\rightarrow\) 屈折率小 のときに起こる。
- 臨界角 \(\theta_0\) では、屈折角が \(90^\circ\)。
- 屈折の法則を適用する。
具体的な解説と立式
光はガラス棒A(屈折率 \(n_1 = n_A\))から媒質B(屈折率 \(n_2 = n_B\))へ進もうとします。
臨界角を \(\theta_0\) とすると、このときの入射角は \(\theta_1 = \theta_0\)、屈折角は \(\theta_2 = 90^\circ\) です。
屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) にこれらの値を代入すると、
$$n_A \sin\theta_0 = n_B \sin90^\circ \quad \cdots ②$$
使用した物理公式
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\)
- 臨界角の定義(屈折角が \(90^\circ\))
式②において、\(\sin90^\circ = 1\) ですから、
$$n_A \sin\theta_0 = n_B \cdot 1$$これを \(\sin\theta_0\) について解くと、$$\sin\theta_0 = \frac{n_B}{n_A}$$
これが求める関係式です。
ガラスのような透明な物質(A)から空気や水のような別の物質(B)へ光が出ていくとき、入射する角度がある角度(これを臨界角 \(\theta_0\) といいます)よりも大きいと、光は物質Bへ出ていかずに全部反射してしまいます。これを全反射といいます。臨界角 \(\theta_0\) は、ちょうど光が物質Bの表面スレスレ(屈折角 \(90^\circ\))に進むときの物質A側での入射角のことです。この状況に屈折の法則「(物質Aの屈折率 \(n_A\))× sin(\(\theta_0\)) = (物質Bの屈折率 \(n_B\))× sin(\(90^\circ\))」を適用し、\(\sin90^\circ=1\) を使うと、\(\sin\theta_0 = n_B/n_A\) という関係が得られます。
関係式は \(\sin\theta_0 = \displaystyle\frac{n_B}{n_A}\) です。\(n_A > n_B\) なので、\(\displaystyle\frac{n_B}{n_A} < 1\) となり、\(\sin\theta_0\) の値として妥当です。模範解答とも一致しています。
別解(2): 光速を用いた屈折の法則からの導出
思考の道筋とポイント
屈折の法則は、各媒質中の光速の比で表すこともできます。媒質1での光速を \(v_1\)、媒質2での光速を \(v_2\) とすると、\(\displaystyle\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v_1}{v_2}\) となります。また、絶対屈折率 \(n\) の媒質中での光速は \(v = c/n\) (\(c\) は真空中の光速)と表されることを利用します。
この設問における重要なポイント
- 媒質中の光速 \(v = c/n\)
- 屈折の法則の光速表現 \(\displaystyle\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v_1}{v_2}\)
- 臨界角では屈折角が \(90^\circ\)
具体的な解説と立式
媒質A中での光速を \(v_A\)、媒質B中での光速を \(v_B\) とします。
絶対屈折率の定義より、\(v_A = \displaystyle\frac{c}{n_A}\)、\(v_B = \displaystyle\frac{c}{n_B}\) です。
光がAからBへ入射角 \(\theta_A\)、屈折角 \(\theta_B\) で進むとき、屈折の法則は
$$\frac{\sin\theta_A}{\sin\theta_B} = \frac{v_A}{v_B} \quad \cdots ③$$と表せます。ここに \(v_A\) と \(v_B\) を代入すると、$$\frac{v_A}{v_B} = \frac{c/n_A}{c/n_B} = \frac{n_B}{n_A}$$よって、式③は$$\frac{\sin\theta_A}{\sin\theta_B} = \frac{n_B}{n_A} \quad \cdots ④$$
となります。これは \(n_A \sin\theta_A = n_B \sin\theta_B\) と同等です。
臨界角 \(\theta_0\) の条件は、入射角 \(\theta_A = \theta_0\) のときに屈折角 \(\theta_B = 90^\circ\) となることです。
使用した物理公式
- 媒質中の光速: \(v = c/n\)
- 屈折の法則(光速表示): \(\displaystyle\frac{\sin\theta_1}{\sin\theta_2} = \frac{v_1}{v_2}\)
- 臨界角の定義
式④に \(\theta_A = \theta_0\) と \(\theta_B = 90^\circ\) を代入します。
$$\frac{\sin\theta_0}{\sin90^\circ} = \frac{n_B}{n_A}$$\(\sin90^\circ = 1\) なので、$$\sin\theta_0 = \frac{n_B}{n_A}$$
光の屈折は、物質によって光の進む速さが異なるために起こります。屈折の法則は、入射角と屈折角のサインの比が、それぞれの物質での光の速さの比に等しい、という形でも表せます。物質の屈折率 \(n\) は、真空中の光速 \(c\) をその物質中での光速 \(v\) で割ったもの (\(n=c/v\)) なので、これを使うと結局、最初の屈折の法則と同じ形 \(n_A \sin\theta_A = n_B \sin\theta_B\) にたどり着きます。あとは臨界角の条件(屈折角 \(90^\circ\))を当てはめれば、同じ結果が得られます。
別解によっても、関係式は \(\sin\theta_0 = \displaystyle\frac{n_B}{n_A}\) となり、主たる解法と同じ結果が得られました。
問(3)
思考の道筋とポイント
(1)でガラス棒Aの上面から入射した光が、媒質Bとの境界面(ガラス棒の側面)で全反射を繰り返してAの中だけを進むための条件を考えます。全反射するためには、側面への入射角が(2)で求めた臨界角 \(\theta_0\) よりも大きくなければなりません (模範解答では等号を含めない「より大きい」で議論が進められているので、それに倣います)。
問題の図(特に図b)を参照すると、ガラス棒Aの側面への光の入射角 \(\phi\) は、上面での屈折角 \(\beta\) を用いて \(\phi = 90^\circ – \beta\) と表されることが分かります。この \(\phi\) が \(\theta_0\) より大きければよいわけです。
この設問における重要なポイント
- 全反射の条件: 側面への入射角 \(\phi > \theta_0\)。
- 側面への入射角 \(\phi = 90^\circ – \beta\)。
- 三角関数の性質 \(\sin(90^\circ – x) = \cos x\)。
- (1)と(2)の結果を利用して、条件を \(\alpha, n_A, n_B\) で表す。
- \(\sin\theta\) は \(0^\circ \le \theta \le 90^\circ\) で単調増加であるため、\(\phi > \theta_0\) と \(\sin\phi > \sin\theta_0\) は同値。
具体的な解説と立式
光が媒質Bへ出ることなくAの中を進むためには、AからBへの境界面(側面)で全反射が起こる必要があります。
側面への入射角を \(\phi\) とすると、図より \(\phi = 90^\circ – \beta\) です。
全反射の条件は、この入射角 \(\phi\) が臨界角 \(\theta_0\) よりも大きいことなので、
$$\phi > \theta_0$$すなわち、$$90^\circ – \beta > \theta_0 \quad \cdots ⑤$$\(0^\circ < \beta < 90^\circ\) であり、また \(0^\circ < \theta_0 < 90^\circ\) なので、\(90^\circ – \beta\) も \(\theta_0\) も \(0^\circ\) から \(90^\circ\) の間の角度です。この範囲では \(\sin x\) は単調増加関数なので、不等号の向きを変えずに \(\sin\) をとることができます。$$\sin(90^\circ – \beta) > \sin\theta_0 \quad \cdots ⑥$$三角関数の公式 \(\sin(90^\circ – \beta) = \cos\beta\) を用いると、$$\cos\beta > \sin\theta_0 \quad \cdots ⑦$$ここで、(2)の結果 \(\sin\theta_0 = \displaystyle\frac{n_B}{n_A}\) を代入すると、$$\cos\beta > \frac{n_B}{n_A} \quad \cdots ⑧$$
次に、\(\cos\beta\) を \(\alpha\) と \(n_A\) で表すことを考えます。(1)の結果 \(\sin\alpha = n_A \sin\beta\) より、\(\sin\beta = \displaystyle\frac{\sin\alpha}{n_A}\) です。
三角関数の基本公式 \(\sin^2\beta + \cos^2\beta = 1\) より、\(\cos^2\beta = 1 – \sin^2\beta\)。
\(\beta\) は屈折角なので \(0 < \beta < 90^\circ\) であり、\(\cos\beta > 0\)。したがって、
$$\cos\beta = \sqrt{1 – \sin^2\beta} = \sqrt{1 – \left(\frac{\sin\alpha}{n_A}\right)^2} \quad \cdots ⑨$$この式⑨を整理すると、$$\cos\beta = \sqrt{\frac{n_A^2 – \sin^2\alpha}{n_A^2}} = \frac{\sqrt{n_A^2 – \sin^2\alpha}}{n_A} \quad \cdots ⑩$$
(ただし、根号の中が非負であること、すなわち \(n_A^2 – \sin^2\alpha \ge 0\) が必要です。)
式⑩を式⑧に代入します。
使用した物理公式
- 全反射の条件: 入射角 > 臨界角
- 三角関数の性質: \(\sin(90^\circ – x) = \cos x\), \(\sin^2x + \cos^2x = 1\)
- 屈折の法則(問(1)の結果): \(\sin\alpha = n_A \sin\beta\)
- 臨界角の式(問(2)の結果): \(\sin\theta_0 = n_B/n_A\)
式⑩を式⑧に代入すると、
$$\frac{\sqrt{n_A^2 – \sin^2\alpha}}{n_A} > \frac{n_B}{n_A}$$両辺に \(n_A\) を掛けます(\(n_A\) は屈折率なので正です)。$$\sqrt{n_A^2 – \sin^2\alpha} > n_B$$この不等式の両辺は正なので(\(n_B > 0\)、また左辺が \(n_B\) より大きいので左辺も正)、両辺を2乗しても不等号の向きは変わりません。$$n_A^2 – \sin^2\alpha > n_B^2$$\(\sin^2\alpha\) について整理すると、$$n_A^2 – n_B^2 > \sin^2\alpha$$すなわち、$$\sin^2\alpha < n_A^2 – n_B^2$$
\(\alpha\) は入射角なので \(0 \le \alpha < 90^\circ\) であり、\(\sin\alpha \ge 0\)。 また、右辺が正であるためには \(n_A^2 – n_B^2 > 0\)、つまり \(n_A > n_B\) が必要ですが、これは全反射が起こるための前提条件と一致します。
したがって、
$$\sin\alpha < \sqrt{n_A^2 – n_B^2}$$
これが求める条件です。
ガラス棒の側面で光が全反射し続けるためには、側面への光の入射角度が、(2)で求めた臨界角よりも大きくなければなりません。図を見ると、側面への入射角は、上面での屈折角 \(\beta\) を使って \(90^\circ – \beta\) と表せます。この \(90^\circ – \beta\) が臨界角 \(\theta_0\) より大きいという条件 (\(90^\circ – \beta > \theta_0\)) を立てます。この不等式の両辺のサインをとっても大小関係は変わらないので、\(\sin(90^\circ – \beta) > \sin\theta_0\) となります。\(\sin(90^\circ – \beta)\) は \(\cos\beta\) と同じです。そして、(1)と(2)で求めた関係を使って \(\cos\beta\) と \(\sin\theta_0\) を、最初の入射角 \(\alpha\) や屈折率 \(n_A, n_B\) で表し、整理していくと最終的な条件式が得られます。
条件は \(\sin\alpha < \sqrt{n_A^2 – n_B^2}\) です。この式は、入射角 \(\alpha\) が小さいほど、またガラス棒Aの屈折率 \(n_A\) が周囲の媒質Bの屈折率 \(n_B\) に比べて大きいほど、全反射が起こりやすいことを示しており、物理的に妥当です。模範解答では \(n_B\) が明示的に書かれていない段階がありますが、(5)の設問との整合性を考えるとこの形が適切です。
問(4)
思考の道筋とポイント
全反射を繰り返しながらガラス棒Aの中を進む光が、長さ \(l\) のガラス棒を突き抜けるのにかかる時間を求めます。光はジグザグに進みますが、重要なのはガラス棒の軸方向にどれだけの速さで進むかです。ガラス棒A内での光の速さと、軸方向への速度成分を考えます。
この設問における重要なポイント
- ガラス棒A内での光の速さ \(v_A = c/n_A\)。
- 光の進む方向は、ガラス棒の軸に対して角度 \(\beta\) をなす。
- 軸方向の速度成分は \(v_A \cos\beta\)。
- 時間 = 距離 / 速さ。
具体的な解説と立式
ガラス棒A内での光の速さを \(v_A\) とすると、\(v_A = \displaystyle\frac{c}{n_A}\) です。
光はガラス棒の軸(中心軸)に対して角度 \(\beta\) の方向に進んでいます(図の光線と中心軸のなす角が \(\beta\))。
したがって、ガラス棒の軸方向の速度成分 \(v_{\text{軸}}\) は、
$$v_{\text{軸}} = v_A \cos\beta$$ガラス棒の長さは \(l\) です。この距離を軸方向の速度 \(v_{\text{軸}}\) で進むのに要する時間 \(t\) は、$$t = \frac{l}{v_{\text{軸}}} = \frac{l}{v_A \cos\beta} \quad \cdots ⑪$$
使用した物理公式
- 媒質中の光速: \(v = c/n\)
- 速度の成分分解
- 時間 = 距離 / 速さ
式⑪に \(v_A = \displaystyle\frac{c}{n_A}\) を代入すると、
$$t = \frac{l}{\left(\frac{c}{n_A}\right) \cos\beta}$$整理すると、$$t = \frac{n_A l}{c \cos\beta}$$
これが求める時間です。
光はガラス棒の中を斜めにジグザグ進みますが、ガラス棒の端から端まで(長さ \(l\))進むのにかかる時間を考えます。光が実際に進む道のりは \(l\) より長いですが、ガラス棒の軸の方向にどれだけの速さで進んでいるか(これが \(v_A \cos\beta\))が重要です。ガラス棒Aの中での光の速さは \(v_A = c/n_A\) なので、軸方向の速さは \((c/n_A)\cos\beta\) となります。時間は「距離 ÷ 速さ」なので、\(l\) をこの軸方向の速さで割れば、求める時間が得られます。
時間は \(t = \displaystyle\frac{n_A l}{c \cos\beta}\) です。
\(\cos\beta\) が小さい(\(\beta\) が \(90^\circ\) に近い)ほど時間は長くなり、光がより横方向に進むため軸方向の進行が遅くなることに対応します。逆に \(\cos\beta\) が大きい(\(\beta\) が \(0^\circ\) に近い)ほど時間は短くなり、光がより軸方向に沿って進むことに対応します。物理的に妥当な結果です。模範解答とも一致しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
(3)で求めた全反射の条件 \(\sin\alpha < \sqrt{n_A^2 – n_B^2}\) を利用します。
入射角 \(\alpha\) は \(0 \le \alpha < 90^\circ\) の範囲をとるため、\(\sin\alpha\) は \(0 \le \sin\alpha < 1\) の範囲の値を取ります。
1. 媒質Bが空気の場合 (\(n_B = 1\)):
「\(\alpha\) の値にかかわらずすべてAの中だけを進む」ということは、\(\sin\alpha\) が取りうる最大値(1に限りなく近い値)でも全反射の条件を満たす、ということです。つまり、不等式の右辺 \(\sqrt{n_A^2 – 1^2}\) が1以上であると考えられます。模範解答の解釈に合わせて \(\sqrt{n_A^2 – 1^2} \ge 1\) とします。
2. 媒質Bが水の場合 (\(n_B = 4/3\)):
「\(\alpha\) の値によっては側面からも光が出てきた」ということは、全反射の条件 \(\sin\alpha < \sqrt{n_A^2 – (4/3)^2}\) を満たさないような \(\alpha\) が存在する、ということです。これは、不等式の右辺 \(\sqrt{n_A^2 – (4/3)^2}\) が \(\sin\alpha\) の最大値(1に限りなく近い値)よりも小さい場合があることを意味します。つまり、\(\sqrt{n_A^2 – (4/3)^2} < 1\) と考えられます。 これらの条件から \(n_A\) に関する不等式を立てて解きます。また、全反射が起こる前提として \(n_A > n_B\) も考慮に入れる必要があります。
この設問における重要なポイント
- \(\sin\alpha\) の取りうる値の範囲: \(0 \le \sin\alpha < 1\)。
- 「\(\alpha\) の値にかかわらず常に条件を満たす」 は 条件式の右辺 \(\ge \max(\sin\alpha)\) を意味する。
- 「\(\alpha\) の値によって条件を満たさないことがある」 は 条件式の右辺 \(< \max(\sin\alpha)\) を意味する。
- 前提条件: \(n_A > n_B\)。
具体的な解説と立式
(3)で得られた、光がAの中だけを進むための条件(全反射条件)は、
$$\sin\alpha < \sqrt{n_A^2 – n_B^2} \quad \cdots (*)$$
\(\sin\alpha\) は最大で1に近づくことができます (\(0 \le \sin\alpha < 1\))。
ケース1: 媒質Bが空気 (\(n_B=1\))
このとき、\(\alpha\) の値にかかわらず常に光がAの中だけを進む(全反射する)。
これは、(*)式の右辺が \(\sin\alpha\) の取りうる最大値である1以上であることを意味します。
$$\sqrt{n_A^2 – 1^2} \ge 1 \quad \cdots ⑫$$
また、前提として \(n_A > n_B = 1\) が必要です。
ケース2: 媒質Bが水 (\(n_B = 4/3\))
このとき、\(\alpha\) の値によっては側面から光が出てくる(全反射しない場合がある)。
これは、(*)式の右辺が \(\sin\alpha\) の取りうる最大値である1よりも小さい場合があることを意味します。つまり、どんなに頑張っても1より小さい値しか取れないということです。
$$\sqrt{n_A^2 – \left(\frac{4}{3}\right)^2} < 1 \quad \cdots ⑬$$ また、前提として \(n_A > n_B = 4/3\) が必要です。
使用した物理公式
- 全反射の条件式(問(3)の結果)
- 不等式の性質
まず、条件⑫(媒質Bが空気の場合)を解きます。
$$\sqrt{n_A^2 – 1} \ge 1$$両辺は正なので、2乗しても不等号の向きは変わりません。$$n_A^2 – 1 \ge 1$$
$$n_A^2 \ge 2$$\(n_A > 0\) (屈折率は正) かつ前提 \(n_A > 1\) より、$$n_A \ge \sqrt{2}$$
次に、条件⑬(媒質Bが水の場合)を解きます。
$$\sqrt{n_A^2 – \left(\frac{4}{3}\right)^2} < 1$$ まず、根号内が非負である必要があります: \(n_A^2 – \left(\frac{4}{3}\right)^2 \ge 0\) 。これから \(n_A^2 \ge \frac{16}{9}\) となり、\(n_A \ge \frac{4}{3}\) (∵ \(n_A>0\))です。これは前提 \(n_A > 4/3\) と整合します。
この条件のもとで、両辺を2乗します(両辺は正なので大小関係は変わりません)。
$$n_A^2 – \left(\frac{4}{3}\right)^2 < 1^2$$$$n_A^2 – \frac{16}{9} < 1$$$$n_A^2 < 1 + \frac{16}{9}$$$$n_A^2 < \frac{9}{9} + \frac{16}{9}$$$$n_A^2 < \frac{25}{9}$$\(n_A > 0\) かつ前提 \(n_A > 4/3\) (\(\approx 1.333\))より、$$n_A < \sqrt{\frac{25}{9}}$$
$$n_A < \frac{5}{3}$$ \(\frac{5}{3} \approx 1.667\) なので、\(n_A > 4/3\) と矛盾しません。
以上の2つの条件 \(n_A \ge \sqrt{2}\) と \(n_A < \displaystyle\frac{5}{3}\) を同時に満たす \(n_A\) の範囲を求めます。 \(\sqrt{2} \approx 1.414\) \(\displaystyle\frac{4}{3} \approx 1.333\) \(\displaystyle\frac{5}{3} \approx 1.667\) \(\sqrt{2} > 4/3\) なので、すべての前提条件(\(n_A > 1\), \(n_A > 4/3\)) は \(n_A \ge \sqrt{2}\) に含まれます。
よって、求める \(n_A\) の範囲は、
$$\sqrt{2} \le n_A < \frac{5}{3}$$
(3)で求めた「光がガラス棒の中だけを進む条件」を使います。この条件は \(\sin\alpha\) とガラスや周りの物質の屈折率の関係式です。
まず、周りが空気のとき、「どんな \(\alpha\) でも光は中だけを進む」ということは、条件式の右辺(屈折率で決まる部分)が、\(\sin\alpha\) が取りうる一番大きな値(ほぼ1)以上だということです。これから \(n_A\) の下限が分かります。
次に、周りが水のとき、「\(\alpha\) によっては光が側面から出てくる」ということは、条件式の右辺が1より小さくなるということです。これから \(n_A\) の上限が分かります。
これら2つの条件を合わせて、\(n_A\) の範囲を決定します。
ガラス棒Aの屈折率 \(n_A\) の取りうる範囲は \(\sqrt{2} \le n_A < \displaystyle\frac{5}{3}\) です。
\(\sqrt{2} \approx 1.414\)、\(\displaystyle\frac{5}{3} \approx 1.667\) です。水の屈折率 \(4/3 \approx 1.333\) よりも大きい値であり、空気の屈折率1よりも大きいので、全反射が起こりうる基本的な条件を満たしています。
この結果は模範解答とも一致しており、物理的に妥当な範囲と考えられます。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 屈折の法則: \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\) が基本中の基本。光が異なる媒質の境界面を通過する際の振る舞いを記述します。各変数が何を表すかを正確に把握することが重要です。
- 全反射: 光が屈折率の大きな媒質から小さな媒質へ入射する際に、入射角が臨界角以上になると光が屈折せずに全て反射される現象。光ファイバーなどに応用される重要な概念です。
- 臨界角: 全反射が起こり始める入射角のことで、屈折角が \(90^\circ\) になるときの入射角として定義されます。その値は \(\sin\theta_0 = n_2/n_1\) (\(n_1 > n_2\)) で与えられます。
- 媒質中の光速: 媒質の屈折率 \(n\) とその媒質中での光速 \(v\) の間には \(v = c/n\) (\(c\) は真空中の光速)という関係があります。これにより、屈折現象を光速の違いとして理解することもできます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できるパターン:
- 光ファイバー内で光がどのように伝播するかを考える問題。
- プリズムを通過する光の経路や、プリズムによる光の分散・全反射を利用した装置(例:双眼鏡のポロプリズム)に関する問題。
- 水中から空気中へ光が進むときの見え方(浮き上がって見える現象や、水中からの視界の限界など)に関する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 光路図の作成: まずは問題文の状況を正確に図示し、光の進む経路(光路)を丁寧に描くこと。法線、入射角、屈折角(または反射角)を明確に記入する。
- 境界面の特定: 光がどの媒質からどの媒質へ進もうとしているのか、境界面を特定する。
- 現象の判断: その境界面で屈折が起こるのか、反射が起こるのか、あるいは全反射の可能性があるのかを判断する。全反射の可能性を考えるときは、屈折率の大小関係(大→小)と入射角の大きさがポイント。
- 角度の関係: 図形的な性質(錯角、同位角、三角形の内角・外角など)を利用して、必要な角度(特に境界面への入射角)を求める。問(3)の \(\phi = 90^\circ – \beta\) が典型例。
- 問題解決のヒントと注意点:
- 全反射の条件は「入射角 \(\ge\) 臨界角」。等号を含むか含まないかは、問題の文脈(「~だけを進む」「~も出てくる」など)で判断するが、多くの場合、臨界角自体も全反射が始まっていると解釈できる。
- 三角関数の公式(特に \(\sin(90^\circ – \theta) = \cos\theta\), \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\))は頻繁に使うので、スムーズに適用できるようにしておく。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 入射角・屈折角の誤認:
- 現象: これらの角度は、必ず境界面の法線と光線のなす角です。境界面とのなす角と混同しないように注意が必要です。
- 対策: 図を描く際に法線を明確にし、角度を正しく定義する習慣をつける。
- 全反射の方向:
- 現象: 全反射は、必ず光が屈折率の大きい媒質から小さい媒質へ進もうとするときにのみ起こりえます。逆方向(小→大)では起こりません。
- 対策: 屈折率の大小関係を常に意識する。\(n_{\text{大}} \rightarrow n_{\text{小}}\) のときのみ全反射の可能性あり。
- 臨界角の式の \(n_1, n_2\) の混同:
- 現象: \(\sin\theta_0 = n_2/n_1\) において、\(n_1\) は光が入射する側の媒質(屈折率大)、\(n_2\) は光が進もうとする先の媒質(屈折率小)の屈折率です。分母と分子を逆にしないように注意しましょう。
- 対策: 「臨界角は屈折率が大きい媒質側で定義される角度」「\(\sin\theta_0\) は1より小さいので、分子は屈折率小、分母は屈折率大」と覚える。
- 不等号の向き:
- 現象: 全反射の条件を扱う際、入射角が臨界角「以上」であること、またそれに関連する不等式変形での向きの扱いに注意が必要です。特に、\(\sin\) 関数の単調性を利用して角度の大小関係を \(\sin\) の値の大小関係に置き換える際など。
- 対策: 不等式を変形する各ステップで、操作の根拠(例:正の数を両辺に掛けた、両辺が正なので2乗した等)と不等号の向きが変わらないかを確認する。
- (5)のような条件の解釈:
- 現象: 「\(\alpha\) の値にかかわらず~」や「\(\alpha\) の値によっては~」という条件を、\(\sin\alpha\) の値域(この場合は \(0 \le \sin\alpha < 1\))と関連付けて、不等式の右辺と比較する考え方がポイントです。右辺が \(\sin\alpha\) の最大値より大きいか小さいかで判断します。
- 対策: 条件文を正確に数式(不等式)に翻訳する練習を積む。「常に成り立つ」は「任意の \(\sin\alpha\) (範囲内)で成り立つ」であり、これは 「右辺 \(\ge \max(\sin\alpha)\)」を意味する。「成り立つとは限らない」は「ある \(\sin\alpha\) で成り立たない」であり、これは「右辺 \(< \max(\sin\alpha)\)」を意味する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 光路の可視化: この種の問題では、光がどのように進むかを正確に図に描くことが理解の第一歩です。特に、ガラス棒の上面での屈折と側面での反射(または屈折)を連続して追跡する図は必須です。
- 角度の関係の発見: 問(3)で側面への入射角 \(\phi\) が上面での屈折角 \(\beta\) と \(\phi = 90^\circ – \beta\) の関係にあることは、正確な図があれば容易に見て取れます。複雑な光路では、補助線を引くなどして幾何学的な関係を見抜く力が試されます。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 法線を必ず描く。法線は境界面に垂直な線です。
- 入射角、屈折角、反射角を明確に区別して記入する。これらの角度は法線となす角です。
- 複数の境界面がある場合は、それぞれの境界面で何が起こるかを順を追って考える。
- 全反射が起こる場合、光は境界面を透過しないことを明確に描く。光線が境界面で完全に反射される様子を示す。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 屈折の法則 \(n_1 \sin\theta_1 = n_2 \sin\theta_2\):
- 選定理由: 異なる媒質の境界面で光が透過(屈折)する際の、入射角と屈折角の関係を記述する基本的な法則だから。
- 適用根拠: 問題(1)では空気とガラス棒Aの境界面、問題(2)ではガラス棒Aと媒質Bの境界面(臨界角の状況)に適用。
- 臨界角の公式 \(\sin\theta_0 = n_2/n_1\):
- 選定理由: 全反射が起こるかどうかの境界となる角度を求めるため。
- 適用根拠: 屈折の法則で屈折角を \(90^\circ\) とした場合の特別な形であり、問題(2)で直接的に、問題(3)や(5)では間接的に利用。
- 公式を適用する際は、それぞれの文字(\(n_1, n_2, \theta_1, \theta_2\) など)が問題のどの部分に対応するのかを常に意識することが重要です。曖昧なまま適用すると、誤った結果につながります。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 上面での屈折: 屈折の法則を適用し、\(\alpha, \beta, n_A\) の関係を導く。(\(\sin\alpha = n_A \sin\beta\))
- (2) 臨界角の定義: AからBへの境界面で、屈折角 \(90^\circ\) となる入射角 \(\theta_0\) を屈折の法則から求める。(\(\sin\theta_0 = n_B/n_A\))
- (3) 側面での全反射条件:
- 側面への入射角 \(\phi\) を図から \(\beta\) で表す (\(\phi = 90^\circ – \beta\))。
- 全反射条件 \(\phi > \theta_0\) を立てる(模範解答に倣い等号なし)。
- \(\sin\) をとって \(\sin(90^\circ – \beta) > \sin\theta_0\) となり、これは \(\cos\beta > \sin\theta_0\) を意味する。
- (1)から \(\sin\beta = (\sin\alpha)/n_A\) を使い \(\cos\beta\) を \(\alpha, n_A\) で表す (\(\cos\beta = \sqrt{n_A^2 – \sin^2\alpha}/n_A\))。
- (2)の \(\sin\theta_0\) を代入し、\(\alpha, n_A, n_B\) の不等式を導く (\(\sin\alpha < \sqrt{n_A^2 – n_B^2}\))。
- (4) 伝播時間: 軸方向の速度成分 \(v_{\text{軸}} = (c/n_A)\cos\beta\) を求め、時間 \(t = l/v_{\text{軸}}\) を計算する。
- (5) \(n_A\) の範囲決定:
- (3)の条件式 \(\sin\alpha < \sqrt{n_A^2 – n_B^2}\) を用いる。
- Bが空気 (\(n_B=1\)): 「常時全反射」は \(\sqrt{n_A^2-1} \ge 1\) を意味する。これを解き \(n_A \ge \sqrt{2}\)。
- Bが水 (\(n_B=4/3\)): 「一部透過」は \(\sqrt{n_A^2-(4/3)^2} < 1\) を意味する。これを解き \(n_A < 5/3\)。
- 得られた2つの不等式と、前提条件 (\(n_A>n_B\)) を満たす共通範囲 \(\sqrt{2} \le n_A < 5/3\) を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三角関数の計算: \(\sin90^\circ = 1\)、\(\sin(90^\circ – \beta) = \cos\beta\)、\(\cos\beta = \sqrt{1-\sin^2\beta}\) などの変形を正確に行う。特に根号の前の符号(通常は正)に注意。符号ミスは結果を大きく狂わせます。
- 不等式の変形:
- 両辺に正の数を掛ける・割る場合は不等号の向きは変わらない。
- 両辺を2乗する場合、両辺が非負であることを確認してから行う。負の数を含む場合は注意が必要だが、この問題では主に正の値同士の比較なので、2乗しても向きは変わらないケースが多い。
- 根号を含む不等式では、まず根号内が非負である条件(定義域)を確認する。これを怠ると誤った解範囲を導くことがある。
- 分数の計算: 通分や約分を丁寧に行う。(5)の \(n_A^2 < 1 + 16/9\) のような計算は、ケアレスミスが起こりやすいポイント。
- 文字の整理: \(n_A, n_B, \sin\alpha, \cos\beta\) など多くの文字が登場するので、どの変数を何で置き換えるのかを明確にしながら式変形を進める。途中で混乱しないように、式の意味を考えながら変形する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性:
- 屈折率 \(n_A\) は通常1より大きい値をとる。得られた範囲がこれに合致するか。(\(\sqrt{2} \approx 1.414\), \(5/3 \approx 1.667\) なのでOK)
- 問(3)の条件 \(\sin\alpha < \sqrt{n_A^2 – n_B^2}\) で、もし \(n_A \approx n_B\) なら右辺は0に近づき、全反射は非常に起こりにくくなる(\(\alpha \approx 0\) のみ)。もし \(n_A \gg n_B\) なら右辺は大きくなり、より広い \(\alpha\) の範囲で全反射が起こる。これは直感と合うか。
- 問(4)の時間 \(t = \frac{n_A l}{c \cos\beta}\): \(n_A\) が大きいほど(光速が遅いほど)時間はかかり、\(\cos\beta\) が小さい(より斜めに進む)ほど時間がかかる。これは妥当。
- 極端な条件でのチェック (思考実験):
- もし \(\beta \to 0\) (垂直入射に近い)なら \(\cos\beta \to 1\) で、\(t \to n_A l/c\)。光がまっすぐ進む場合。
- もし \(\beta \to 90^\circ\) (ほぼ水平に進む、実際にはありえないが)なら \(\cos\beta \to 0\) で \(t \to \infty\)。軸方向に進まない。このような極端なケースを考えることで、式の妥当性や物理的意味の理解が深まる。
- 単位の確認: 今回は比や関係式が主だが、例えば(4)の時間は[s]の次元を持つはず。\(n_A\) は無次元、\(l\) は[m]、\(c\) は[m/s]、\(\cos\beta\) は無次元なので、\([無次元] \cdot [m] / ([m/s] \cdot [無次元]) = [s]\) となり、次元は正しい。計算結果の次元がおかしい場合、途中の計算や公式の適用が間違っている可能性が高い。
問題74 (熊本大+東京電機大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、レンズによる結像の基本的な理解を試すものです。単一レンズによる像の性質(位置、実像・虚像の別、倍率)を求めることから始まり、レンズの移動、媒質の屈折率の変化(見かけの深さ)、そして複数のレンズを組み合わせた場合の合成像の扱い方まで、段階的に考察を深めていきます。
- レンズL₁: 薄い凸レンズ、焦点距離 \(f_1 = 8 \text{ cm}\)。
- 初期のL₁の位置: 光源の真上 \(10 \text{ cm}\) の高さ。
- 光源: L₁の下方 \(10 \text{ cm}\) の位置にある(すなわち、L₁に対する初期の物体距離 \(a_1 = 10 \text{ cm}\))。
- (3)で用いる液体: 容器の底の光源の上から深さ \(4 \text{ cm}\) まで入れる。 このとき、L₁による光源の実像がL₁の上方 \(72 \text{ cm}\) のところにできる。
- レンズL₂: 薄い凸レンズ、焦点距離 \(f_2 = 12 \text{ cm}\)。 (4)でL₁の上方に光軸を合わせて置く。
- レンズL₃: 薄い凹レンズ、焦点距離 \(f_3 = 12 \text{ cm}\) (凹レンズなので実際には \(f_3 = -12 \text{ cm}\) として扱う)。 (5)でL₁の上方 \(30 \text{ cm}\) に光軸を合わせて置く。
- (1) 初期のL₁による光源の像の位置(L₁の上方または下方何cmか)、実像か虚像か、像の大きさは光源の大きさの何倍か。
- (2) L₁の高さを変え、実像が(1)の場合と同じ絶対位置にできるようにするには、L₁を上下どちらへ何cm動かせばよいか。
- (3) 液体の屈折率はいくらか。
- (4) L₁とL₂による光源の像がL₂の下方 \(24 \text{ cm}\) の位置で虚像となるための、L₁とL₂の間の距離。 そのときの像の大きさは光源の大きさの何倍か。
- (5) L₁とL₃を置いたときの合成像の位置(L₃の上方または下方何cmか)、実像か虚像か。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、レンズによる結像の基本的な理解を試すものです。単一レンズによる像の性質(位置、実像・虚像の別、倍率)を求めることから始まり、レンズの移動、媒質の屈折率の変化(見かけの深さ)、そして複数のレンズを組み合わせた場合の合成像の扱い方まで、段階的に考察を深めていきます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
ここで、\(a\) は物体距離、\(b\) は像距離、\(f\) は焦点距離です。符号の規約(物体がレンズの前方なら \(a>0\)、実像がレンズの後方なら \(b>0\)、虚像がレンズの前方なら \(b<0\)、凸レンズなら \(f>0\)、凹レンズなら \(f<0\))を正しく適用することが極めて重要です。 - 像の倍率: \(m = \displaystyle\left|\frac{b}{a}\right|\)
(倒立・正立を含めて考える場合は \(m = -\displaystyle\frac{b}{a}\) ですが、問題文では「大きさ」を問われているので絶対値で考えます。) - 見かけの深さ: 屈折率 \(n\) の媒質中にある深さ \(D\) の物体を、媒質の表面から真上に見たときの見かけの深さ \(d’\) は \(d’ = \displaystyle\frac{D}{n}\) で与えられます(空気の屈折率を1とした場合)。
- 組み合わせレンズ: 1枚目のレンズによる像を2枚目のレンズの物体として扱います。 この際、1枚目の像が2枚目のレンズの後方にある場合は、2枚目のレンズへの物体距離を負として扱うことがあります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) まず、与えられた物体距離と焦点距離から、レンズの公式を用いて像距離を求め、その符号と値から像の性質と位置、倍率を決定します。
- (2) 光源と(1)でできた像の絶対位置を固定し、その間にレンズL₁を配置し直すと考えます。L₁と光源の新しい距離を未知数とし、レンズの公式からその値を求め、元の位置からの移動距離と方向を判断します。「光路の可逆性」の考え方も有効です。
- (3) まず、L₁に関して、与えられた実像の位置から逆算して「見かけの物体」の位置を求めます。次に、実際の光源の位置とこの「見かけの物体」の位置の差から、液体による浮き上がりの量を特定し、見かけの深さの公式を用いて液体の屈折率を計算します。
- (4) 1枚目のレンズL₁による像の位置と倍率を求め((1)の結果を利用可能)、これを2枚目のレンズL₂の物体と考えます。L₁とL₂の距離を未知数とし、L₂についてレンズの公式を適用して、与えられた最終像の条件から未知数を決定します。全体の倍率は各レンズの倍率の積で求めます。
- (5) (4)と同様に、L₁による像をL₃の物体として扱います。L₃は凹レンズであるため、焦点距離を負の値で用いることに注意します。また、L₁による像がL₃の後方にある場合は、L₃への物体距離を負として扱う点も重要です。
それでは、各設問について詳しく見ていきましょう。
問(1)
思考の道筋とポイント
レンズL₁について、物体である光源のL₁からの距離 \(a_1\) とL₁の焦点距離 \(f_1\) が与えられています。レンズの公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\) を用いて像のL₁からの距離 \(b_1\) を計算します。 \(b_1\) の符号によって、像がL₁の上方(後方、実像)か下方(前方、虚像)かが決まります。 また、倍率の公式 \(m = \displaystyle\left|\frac{b}{a}\right|\) を用いて像の大きさが光源の大きさの何倍になるかを求めます。
この設問における重要なポイント
- レンズの公式の適用。
- 物体距離 \(a\): 光源はL₁の下方10cmなので、L₁の前方10cmにある。 \(a_1 = 10 \text{ cm}\)。
- 焦点距離 \(f\): 凸レンズL₁の焦点距離は \(f_1 = 8 \text{ cm}\) (正の値)。
- 像距離 \(b\): 計算結果の符号で像の位置と種類を判断 (\(b>0\) なら後方・実像、\(b<0\) なら前方・虚像)。
- 倍率の計算。
具体的な解説と立式
光源はレンズL₁の前方 \(a_1 = 10 \text{ cm}\) の位置にあります。
レンズL₁は凸レンズで、その焦点距離は \(f_1 = 8 \text{ cm}\) です。
レンズの公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\) に、\(a=a_1\), \(b=b_1\), \(f=f_1\) を代入すると、
$$\frac{1}{10} + \frac{1}{b_1} = \frac{1}{8} \quad \cdots ①$$
像の倍率 \(m_1\) は、光源の大きさを基準とした像の大きさの比で、
$$m_1 = \left|\frac{b_1}{a_1}\right| \quad \cdots ②$$
で与えられます。
使用した物理公式
- レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
- 倍率: \(m = \displaystyle\left|\frac{b}{a}\right|\)
式①から \(\displaystyle\frac{1}{b_1}\) について解きます。
$$\frac{1}{b_1} = \frac{1}{8} – \frac{1}{10}$$
右辺を通分します。共通の分母として \(40\) を用いると、
$$\frac{1}{b_1} = \frac{5}{40} – \frac{4}{40} = \frac{1}{40}$$
したがって、像距離 \(b_1\) は、
$$b_1 = 40 \text{ cm}$$
\(b_1\) が正 (\(b_1 > 0\)) なので、像はレンズL₁の後方、すなわちL₁の上方 \(40 \text{ cm}\) の位置にできる実像です。
次に、倍率 \(m_1\) を式②を用いて計算します。
$$m_1 = \left|\frac{40}{10}\right| = |4| = 4$$
よって、像の大きさは光源の大きさの4倍です。
レンズが像を作る基本ルールである「レンズの公式」を使います。この公式は「\(\frac{1}{\text{物体までの距離}} + \frac{1}{\text{像までの距離}} = \frac{1}{\text{焦点距離}}\)」という形です。
光源(物体)からレンズL₁までの距離は \(10 \text{ cm}\)、L₁の焦点距離は \(8 \text{ cm}\) です。これらを公式に代入して、レンズL₁から像までの距離を計算すると \(40 \text{ cm}\) となります。この距離がプラスの値なので、像はレンズL₁の後ろ側(上方)にでき、これは「実像」であることを意味します。
像の大きさは、光源の大きさと比べてどれくらい変わるか(倍率)も計算できます。「倍率 = |像までの距離 / 物体までの距離|」なので、\(|40 \text{ cm} / 10 \text{ cm}| = 4\) となり、像の大きさは光源の大きさの4倍になります。
光源の像はL₁の上方 \(40 \text{ cm}\) の位置にでき、実像です。像の大きさは光源の大きさの4倍です。
物体距離 \(a_1=10 \text{ cm}\) が焦点距離 \(f_1=8 \text{ cm}\) よりも大きい(\(a_1 > f_1\))ので、凸レンズによって倒立の実像が後方にできるという一般的な性質と一致しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)でできた実像の「絶対的な位置」を変えずに、レンズL₁の位置を変えることを考えます。
(1)では、光源はL₁の下方 \(10 \text{ cm}\)、実像はL₁の上方 \(40 \text{ cm}\) にありました。つまり、光源から実像までの距離は \(10 \text{ cm} + 40 \text{ cm} = 50 \text{ cm}\) です。
この光源と実像の間の距離 \(50 \text{ cm}\) を保ったまま、L₁の位置をずらすと考えます。
新しいL₁から光源までの距離を \(a’\)、新しいL₁から実像までの距離を \(b’\) とすると、\(a’ + b’ = 50 \text{ cm}\) という関係が成り立ちます(ただし、光源と実像の間にL₁がある場合)。レンズの公式 \(\displaystyle\frac{1}{a’} + \displaystyle\frac{1}{b’} = \displaystyle\frac{1}{f_1}\) に \(b’ = 50 – a’\) を代入して \(a’\) についての方程式を解きます。 \(f_1 = 8 \text{ cm}\) です。
この方程式の解の一つは \(a’=10 \text{ cm}\) (元の状態) であり、もう一つの解が新しいL₁と光源の距離を与えます。それにより、L₁をどれだけ、どちらの向きに動かせばよいかが分かります。
「光路の可逆性」を利用すると、(1)の状況で物体と像を入れ替えた配置、つまりL₁から \(40 \text{ cm}\) の位置に物体を置けばL₁から \(10 \text{ cm}\) の位置に像ができる、というのも一つの解になります。
この設問における重要なポイント
- 光源の位置と、(1)でできた実像の絶対位置は固定されている。
- L₁を動かすことで、L₁から光源までの距離 \(a’\) とL₁から実像までの距離 \(b’\) が変化する。
- \(a’ + b’ = (\text{光源から(1)の実像までの総距離})\) という関係を用いる。
- レンズの公式を適用して \(a’\) を求める。
- 光路の可逆性。
具体的な解説と立式
(1)の状態では、光源からL₁までの距離が \(10 \text{ cm}\)、L₁から実像までの距離が \(40 \text{ cm}\) でした。光源から実像までの全長は \(10 + 40 = 50 \text{ cm}\) です。
L₁を動かして、新しいL₁から光源までの距離を \(a’\) とし、新しいL₁から同じ絶対位置にある実像までの距離を \(b’\) とします。このとき、光源と実像の間にL₁があるので、\(a’ + b’ = 50 \text{ cm}\) という関係が成り立ちます。よって \(b’ = 50 – a’\)。
レンズの公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\) に \(a=a’\), \(b=b’\), \(f=f_1=8 \text{ cm}\) を代入すると、
$$\frac{1}{a’} + \frac{1}{50-a’} = \frac{1}{8} \quad \cdots ③$$
この2次方程式を解くことで \(a’\) の値が得られます。
使用した物理公式
- レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
式③の両辺に \(8a'(50-a’)\) を掛けて分母を払います。
$$8(50-a’) + 8a’ = a'(50-a’)$$展開して整理すると、$$400 – 8a’ + 8a’ = 50a’ – a’^2$$$$400 = 50a’ – a’^2$$$$a’^2 – 50a’ + 400 = 0$$
この2次方程式を因数分解します。掛けて \(400\)、足して \(-50\) になる2数は \(-10\) と \(-40\) です。$$(a’-10)(a’-40) = 0$$
よって、解は \(a’ = 10 \text{ cm}\) または \(a’ = 40 \text{ cm}\) です。
\(a’ = 10 \text{ cm}\) は、(1)の元の状態を示しています。
したがって、もう一つの解である \(a’ = 40 \text{ cm}\) が、L₁を動かした場合のL₁と光源の距離です。
元のL₁と光源の距離は \(10 \text{ cm}\) でした。新しい距離が \(40 \text{ cm}\) なので、L₁は光源から \(40 \text{ cm} – 10 \text{ cm} = 30 \text{ cm}\) だけ遠ざける(つまり上方へ動かす)必要があります。
このとき、L₁と像の距離は \(b’ = 50 – a’ = 50 – 40 = 10 \text{ cm}\)。
元のL₁は光源の上方 \(10 \text{ cm}\) にありました。新しいL₁は光源の上方 \(40 \text{ cm}\) の位置になります。
元の実像は、元のL₁の上方 \(40 \text{ cm}\)(つまり光源の上方 \(10+40=50 \text{ cm}\))の位置。
新しい実像は、新しいL₁の上方 \(10 \text{ cm}\)(つまり光源の上方 \(40+10=50 \text{ cm}\))の位置。
確かに実像のできる絶対位置は同じです。
したがって、L₁を上方へ \(30 \text{ cm}\) 動かせばよいことになります。
(1)では、光源から10cmの位置にレンズL₁があり、その40cm上方に実像ができました。光源とこの実像の間の距離は合計50cmです。
レンズの面白い性質として、物体と実像の位置を保ったまま、その間にレンズを置く場合、レンズの位置が2箇所考えられることがあります(解が2つある場合)。(1)の位置はその一つです。もう一つのレンズの位置を探します。
新しいレンズL₁から光源までの距離を \(a’\) とすると、レンズL₁から実像までの距離は \(50-a’\) となります。これをレンズの公式 \(1/a’ + 1/(50-a’) = 1/8\) に入れて解くと、\(a’=10\text{cm}\) (元の状態) と \(a’=40\text{cm}\) が出てきます。
つまり、光源から40cmの位置にレンズL₁を置けば、同じ場所に実像ができます。
元のレンズの位置は光源の10cm上だったので、新しい40cm上まで動かすには、\(40-10=30\text{cm}\)だけレンズを上に動かせばよいことになります。これは「光の進む道筋は逆向きにもたどれる」という光路の可逆性からも説明できます。
L₁を上方へ \(30 \text{ cm}\) 動かせばよい。
このとき、L₁から光源までの距離は \(40 \text{ cm}\)、L₁から実像までの距離は \(10 \text{ cm}\) となります。
レンズの公式を確認すると \(\displaystyle\frac{1}{40} + \displaystyle\frac{1}{10} = \displaystyle\frac{1+4}{40} = \displaystyle\frac{5}{40} = \displaystyle\frac{1}{8}\) となり、焦点距離 \(8 \text{ cm}\) と一致します。
問(3)
思考の道筋とポイント
レンズL₁は元の位置(光源の真上 \(10 \text{ cm}\))に固定されています。容器に液体を深さ \(4 \text{ cm}\) まで入れると、光源は液体中に存在することになります。 液体中にある物体を空気中から見ると、屈折により実際よりも浅い位置にあるように見えます(見かけの深さ)。 この「見かけの光源」がレンズL₁にとっての物体となります。
問題文より、このとき光源の実像がL₁の上方 \(72 \text{ cm}\) にできたとあります。 L₁の焦点距離は \(8 \text{ cm}\) なので、レンズの公式を用いて、まずL₁から「見かけの光源」までの距離 \(a”\) を求めます。
次に、光源の実際のL₁からの距離 \(10 \text{ cm}\) と、求めた \(a”\) を比較することで、液体によって光源がどれだけ浮き上がって見えたかを計算します。
液体の実際の深さ \(D=4 \text{ cm}\) と、それに対応する見かけの深さ \(D’\) が分かれば、見かけの深さの公式 \(D’ = D/n\) から液体の屈折率 \(n\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 液体中の光源は浮き上がって見える(見かけの深さが浅くなる)。
- レンズL₁にとっての物体は、この「見かけの光源」の位置。
- レンズの公式を使って「見かけの光源」のL₁からの距離を求める。
- 見かけの深さの公式 \(D’ = D/n\) を利用して屈折率 \(n\) を計算する。
具体的な解説と立式
液体を入れた状態で、レンズL₁による実像がL₁の上方 \(b” = 72 \text{ cm}\) にできました。
L₁の焦点距離は \(f_1 = 8 \text{ cm}\) です。
このとき、L₁から「見かけの光源」(液体によって浮き上がって見えた光源の位置)までの距離を \(a”\) とすると、レンズの公式より、
$$\frac{1}{a”} + \frac{1}{72} = \frac{1}{8} \quad \cdots ④$$
光源は元々L₁の下方 \(10 \text{ cm}\) の位置にあります。 液体は容器の底から \(4 \text{ cm}\) の深さまで入っています。
したがって、光源は液体中にあり、液面はL₁の下方 \(10 \text{ cm} – 4 \text{ cm} = 6 \text{ cm}\) の位置にあります。
式④から \(a”\) を求めると、これがL₁から見かけの光源までの距離です。
この \(a”\) が分かれば、見かけの光源が液面からどれだけの深さ \(D’\) にあるかが分かります(\(D’ = a” – 6 \text{ cm}\))。
液体の実際の深さは \(D = 4 \text{ cm}\) です。
見かけの深さの公式 \(D’ = \displaystyle\frac{D}{n}\) を用いて、屈折率 \(n\) を求めます。
(模範解答の解釈に基づくより直接的なアプローチ)
まず式④から \(a”\) を求めます。
光源の実際のL₁からの距離は \(10 \text{ cm}\) です。見かけのL₁からの距離が \(a”\) なので、光源が浮き上がって見えた距離は \(10 \text{ cm} – a”\) です。
液体の実際の深さは \(4 \text{ cm}\) です。この \(4 \text{ cm}\) の部分が、見かけ上は \(4 \text{ cm} – (10 \text{ cm} – a”) = a” – 6 \text{ cm}\) の深さに見えていることになります。
これを \(D’ = a” – 6\) とし、\(D=4\) として \(D’ = D/n\) を適用します。
使用した物理公式
- レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
- 見かけの深さ: \(D’ = \displaystyle\frac{D}{n}\) (空気の屈折率を1とした場合)
まず、式④から \(a”\) を求めます。
$$\frac{1}{a”} = \frac{1}{8} – \frac{1}{72}$$右辺を通分すると、分母は \(72\) で、$$\frac{1}{a”} = \frac{9}{72} – \frac{1}{72} = \frac{8}{72} = \frac{1}{9}$$よって、L₁から見かけの光源までの距離 \(a”\) は、$$a” = 9 \text{ cm}$$
光源は元々L₁の下方 \(10 \text{ cm}\) の位置にありました。 液体を入れると、見かけ上、L₁の下方 \(9 \text{ cm}\) の位置にあるように見えます。
これは、光源が \(10 \text{ cm} – 9 \text{ cm} = 1 \text{ cm}\) だけ浮き上がって見えたことを意味します。
液体の実際の深さは \(D = 4 \text{ cm}\) です。 この \(4 \text{ cm}\) の部分が、\(1 \text{ cm}\) 浮き上がった結果、見かけの深さ \(D’\) は、
$$D’ = 4 \text{ cm} – 1 \text{ cm} = 3 \text{ cm}$$
となります。
見かけの深さの公式 \(D’ = \displaystyle\frac{D}{n}\) に \(D=4 \text{ cm}\), \(D’=3 \text{ cm}\) を代入すると、
$$3 = \frac{4}{n}$$
これを \(n\) について解くと、$$n = \frac{4}{3}$$
液体の中に物を入れると、実際よりも浅いところにあるように見える現象があります。これを「見かけの深さ」と言います。
まず、レンズL₁が作る像の情報(L₁の上方72cmに実像)とL₁の焦点距離(8cm)を使って、レンズの公式から「レンズL₁が見ている物体の位置」(つまり、液体によって浮き上がって見えた光源の見かけの位置)を計算します。計算すると、見かけの光源はL₁から9cm下にあることが分かります。
もともと光源はL₁から10cm下にあったので、液体を入れたことで \(10-9=1\text{cm}\) だけ浮き上がって見えたことになります。
液体の実際の深さは4cmでした。この4cmの部分が、1cm浮き上がって見えた結果、見かけ上は \(4-1=3\text{cm}\) の深さになったと考えられます。
「見かけの深さ = 実際の深さ / 液体の屈折率」という関係式があるので、これに値を代入 (\(3 = 4 / n\)) して液体の屈折率 \(n\) を求めると、\(n=4/3\) となります。
この液体の屈折率は \(\displaystyle\frac{4}{3}\) です。 これは水の屈折率としてよく知られている値であり、物理的に妥当な結果です。
模範解答では \(n \approx 1.3\) と小数でも示していますが、分数での \(\displaystyle\frac{4}{3}\) がより正確です。
問(4)
思考の道筋とポイント
液体を取り除き、L₁を最初の位置に戻します。L₁による像I₁は(1)で求めた通り、L₁の上方 \(40 \text{ cm}\) にできる4倍の実像です。
次に、このL₁の上方に凸レンズL₂(焦点距離 \(f_2 = 12 \text{ cm}\))を置きます。L₁とL₂の間の距離を \(l\) とします。
L₁が作った像I₁は、L₂にとっての物体となります。
最終的な像I₂が、L₂の下方 \(24 \text{ cm}\) の位置で虚像となる、とあります。 L₂の下方ということはL₂の前方なので、L₂に対する像距離 \(b_2\) は負の値を持ち、虚像なので \(b_2 = -24 \text{ cm}\) となります。
L₂から見た物体I₁までの距離 \(a_2\) は、\(l\) とI₁のL₁からの距離(\(40 \text{ cm}\))の関係で決まります。模範解答の図や一般的な配置を考えると、I₁はL₂の前方にある(つまり \(l > 40 \text{ cm}\) で \(a_2 = l – 40 \text{ cm}\)、または \(l < 40 \text{ cm}\) でも \(a_2 > 0\) となるように \(l\) が配置される)と考えるのが自然です。模範解答では \(a_2 = l-40\) としています。
これらの値をL₂についてのレンズの公式に代入し、\(l\) を求めます。
全体の倍率は、L₁による倍率 \(m_1\) とL₂による倍率 \(m_2 = |b_2/a_2|\) の積で与えられます。
この設問における重要なポイント
- 組み合わせレンズの基本的な考え方:1枚目のレンズによる像が2枚目のレンズの物体となる。
- L₁による像I₁の位置と倍率の再確認((1)の結果)。
- L₂に対する物体距離 \(a_2\) を、L₁L₂間距離 \(l\) とI₁の位置関係から正しく設定する。
- L₂による像の条件:L₂の下方(前方)\(24 \text{ cm}\) の虚像なので \(b_2 = -24 \text{ cm}\)。
- L₂は凸レンズなので \(f_2 = 12 \text{ cm}\) (正)。
- 全体の倍率は各レンズの倍率の積。
具体的な解説と立式
まず、レンズL₁による像I₁について確認します。(1)より、像I₁はL₁の上方 \(40 \text{ cm}\) の位置にできる実像で、その倍率 \(m_1 = 4\) です。
次に、レンズL₂をL₁の上方 \(l\) の距離に置きます。
像I₁がL₂にとっての物体となります。L₂から物体I₁までの距離を \(a_2\) とします。
模範解答と同様に、物体I₁がL₂の前方にあるとして \(a_2 = l – 40 \text{ cm}\) と設定します(これは \(l > 40 \text{ cm}\) を暗に仮定しています)。
レンズL₂による最終像I₂は、L₂の下方(前方)\(24 \text{ cm}\) の位置にできる虚像なので、L₂に対する像距離 \(b_2 = -24 \text{ cm}\) です。
レンズL₂の焦点距離は \(f_2 = 12 \text{ cm}\) です。
レンズL₂についてレンズの公式を適用すると、
$$\frac{1}{a_2} + \frac{1}{b_2} = \frac{1}{f_2}$$
$$\frac{1}{l-40} + \frac{1}{-24} = \frac{1}{12} \quad \cdots ⑥$$
全体の倍率 \(M\) は、L₁による倍率 \(m_1\) とL₂による倍率 \(m_2 = \displaystyle\left|\frac{b_2}{a_2}\right|\) の積なので、
$$M = m_1 \times m_2 = 4 \times \left|\frac{-24}{l-40}\right| \quad \cdots ⑦$$
使用した物理公式
- レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
- 倍率: \(m = \displaystyle\left|\frac{b}{a}\right|\)
- 組み合わせレンズの倍率: \(M = m_1 \times m_2\)
式⑥から \(\displaystyle\frac{1}{l-40}\) について解きます。
$$\frac{1}{l-40} = \frac{1}{12} – \frac{1}{-24} = \frac{1}{12} + \frac{1}{24}$$右辺を通分します。共通の分母として \(24\) を用いると、$$\frac{1}{l-40} = \frac{2}{24} + \frac{1}{24} = \frac{3}{24} = \frac{1}{8}$$したがって、$$l-40 = 8$$
$$l = 48 \text{ cm}$$
このとき、L₂に対する物体距離 \(a_2\) は \(a_2 = l-40 = 48-40 = 8 \text{ cm}\) となります。
\(a_2 = 8 \text{ cm}\) はL₂の焦点距離 \(f_2 = 12 \text{ cm}\) よりも短い(\(a_2 < f_2\))ので、凸レンズL₂が虚像を作る条件と一致しています。 また、\(l=48 \text{ cm}\) は \(l>40 \text{ cm}\) を満たしており、物体I₁がL₂の前方にあるという仮定とも整合します。
次に、全体の倍率 \(M\) を式⑦を用いて計算します。
$$M = 4 \times \left|\frac{-24}{a_2}\right| = 4 \times \left|\frac{-24}{8}\right| = 4 \times |-3| = 4 \times 3 = 12$$
よって、像の大きさは光源の大きさの12倍です。
この問題ではレンズが2枚になります。まず1枚目のレンズL₁が作る像(これをI₁とします)を考えます。(1)の結果から、I₁はL₁の上方40cmの位置にできる4倍の実像です。
次に、この像I₁を、2枚目のレンズL₂にとっての「新しい物体」として扱います。L₁とL₂の間の距離を \(l\) とすると、I₁からL₂までの距離は \(l-40\)cm と表せます(ここでは \(l\) が40cmより大きいと仮定)。
問題文に「L₂による像がL₂の下方24cmの位置で虚像となる」とあるので、L₂から最終的な像までの距離は \(-24\)cm(虚像で、レンズの前方なのでマイナス)です。L₂の焦点距離は12cmです。
これらをL₂についてのレンズの公式「\(1/(l-40) + 1/(-24) = 1/12\)」に代入して \(l\) を解くと、\(l=48\text{cm}\) となります。
全体の倍率は、L₁による倍率(4倍)と、L₂による倍率(今計算した \(a_2=l-40=8\text{cm}\) と \(b_2=-24\text{cm}\) から \(|-24/8|=3\)倍)を掛け合わせたものになります。なので、\(4 \times 3 = 12\)倍です。
L₁とL₂の間の距離は \(48 \text{ cm}\) です。その像の大きさは光源の大きさの12倍です。
L₂について \(a_2=8 \text{ cm}\), \(b_2=-24 \text{ cm}\), \(f_2=12 \text{ cm}\) でレンズの公式 \(\frac{1}{8} + \frac{1}{-24} = \frac{3-1}{24} = \frac{2}{24} = \frac{1}{12}\) が成り立ち、すべての条件と整合しています。
問(5)
思考の道筋とポイント
L₁は最初の位置にあり、L₁による像I₁は(1)と同じくL₁の上方 \(40 \text{ cm}\) の実像で、倍率 \(m_1=4\) です。
今度はL₁の上方 \(30 \text{ cm}\) に凹レンズL₃(焦点距離 \(f_3=12 \text{ cm}\)、つまり \(f_3=-12 \text{ cm}\))を置きます。
L₁による像I₁は、L₃にとっての物体となります。
L₁とL₃の間の距離が \(30 \text{ cm}\) で、I₁はL₁の上方 \(40 \text{ cm}\) にあります。したがって、I₁はL₃よりもさらに上方(後方)\(40 \text{ cm} – 30 \text{ cm} = 10 \text{ cm}\) の位置にあります。
これは、L₃に入射する光が、L₃を通過する前にその後方 \(10 \text{ cm}\) の点で収束しようとしている状況を意味します。このような場合、L₃に対する物体距離 \(a_3\) は負の値として扱い、\(a_3 = -10 \text{ cm}\) となります。
この \(a_3\) と \(f_3 = -12 \text{ cm}\) を用いて、L₃による最終像I₃の像距離 \(b_3\) をレンズの公式から求めます。\(b_3\) の符号と値から、像の位置と種類(実像/虚像)を判断します。 全体の倍率も求めますが、問題では位置と種類のみ問われています。
この設問における重要なポイント
- L₁による像I₁の位置と倍率の再確認。
- L₃は凹レンズなので焦点距離 \(f_3\) は負の値。
- L₁の像I₁がL₃の後方にある場合、L₃に対する物体距離 \(a_3\) は負の値として扱う(収束光の入射)。
- レンズの公式の適用。
具体的な解説と立式
レンズL₁による像I₁は、L₁の上方 \(40 \text{ cm}\) の位置にできる実像です。
凹レンズL₃は、L₁の上方 \(30 \text{ cm}\) の位置に置かれます。
したがって、像I₁は、L₃から見ると、L₃のさらに上方(後方)に \(40 \text{ cm} – 30 \text{ cm} = 10 \text{ cm}\) だけ離れた位置にあります。
この像I₁に光が集まろうとしている状態でL₃に入射するため、L₃にとっての物体距離 \(a_3\) は負となり、
$$a_3 = -10 \text{ cm}$$
凹レンズL₃の焦点距離は \(f_3 = -12 \text{ cm}\) です(問題文では12cmとありますが、凹レンズなので負号をつけます)。
L₃による最終像I₃の像距離を \(b_3\) とすると、レンズの公式より、
$$\frac{1}{a_3} + \frac{1}{b_3} = \frac{1}{f_3}$$
$$\frac{1}{-10} + \frac{1}{b_3} = \frac{1}{-12} \quad \cdots ⑧$$
使用した物理公式
- レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
- 凹レンズの焦点距離は負。
- 収束光がレンズに入射する場合の物体距離は負。
式⑧から \(\displaystyle\frac{1}{b_3}\) について解きます。
$$\frac{1}{b_3} = \frac{1}{-12} – \frac{1}{-10} = -\frac{1}{12} + \frac{1}{10}$$右辺を通分します。共通の分母として \(60\) を用いると、$$\frac{1}{b_3} = -\frac{5}{60} + \frac{6}{60} = \frac{1}{60}$$したがって、像距離 \(b_3\) は、$$b_3 = 60 \text{ cm}$$
\(b_3\) が正 (\(b_3 > 0\)) なので、最終像I₃はレンズL₃の後方、すなわちL₃の上方 \(60 \text{ cm}\) の位置にできる実像です。
(参考:全体の倍率 \(M’ = m_1 \times m_3 = 4 \times \displaystyle\left|\frac{b_3}{a_3}\right| = 4 \times \left|\frac{60}{-10}\right| = 4 \times 6 = 24\) 倍)
まず、レンズL₁が作る像I₁の位置を確認します。これはL₁の上方40cmの実像です。
次に、凹レンズL₃をL₁の上方30cmに置きます。すると、像I₁はL₃から見ると、L₃のさらに10cm上方(つまりL₃の後方)に位置することになります。レンズに入ってくる光が、まるでレンズの向こう側(後方)にある一点から出てきたり、あるいはその一点に集まろうとしたりする場合、物体までの距離をマイナスの値として扱います。今回は、L₁で作られた光がL₃の後方10cmの点に集まろうとしているので、L₃にとっての物体距離は \(-10\)cm となります。
L₃は凹レンズで焦点距離が12cmなので、レンズの公式では \(f_3 = -12\)cm として扱います。
これらをレンズの公式「\(1/(-10) + 1/b_3 = 1/(-12)\)」に入れて、L₃が作る像の位置 \(b_3\) を計算すると、\(b_3 = 60\)cm となります。\(b_3\) がプラスの値なので、この像はL₃の後方(上方)60cmにできる「実像」です。
L₁, L₃による像はL₃の上方 \(60 \text{ cm}\) にできる実像です。
\(a_3=-10 \text{ cm}\) (収束光)、\(f_3=-12 \text{ cm}\) (凹レンズ) の組み合わせで実像ができるのは興味深い結果ですが、レンズの公式に従った計算結果です。凹レンズでも、物体がレンズの焦点より内側(ただし \(a<0\) の場合)にあると実像を作ることがあります。
具体的には \(\frac{1}{b_3} = \frac{1}{f_3} – \frac{1}{a_3} = \frac{1}{-12} – \frac{1}{-10} = \frac{-5+6}{60} = \frac{1}{60}\)。\(b_3 = 60 \text{ cm}\) であり、正なので実像。これは模範解答と一致しています。
【コラム】Q. (4)では \(l \ge 40\) として解いている。 \(l < 40\) の場合に答えが変わるおそれはないのか。(★)
思考の道筋とポイント
(4)の設問では、L₁による実像I₁(L₁の上方 \(40 \text{ cm}\))があり、L₁とL₂の間の距離を \(l\) としました。L₂に対する物体距離を \(a_2 = l-40\) と設定して解いた結果、\(l=48 \text{ cm}\) が得られました。 このとき \(a_2 = 48-40 = 8 \text{ cm}\) となり、正の値です。 これは物体I₁がL₂の前方にあることを意味し、\(l > 40 \text{ cm}\) という条件と矛盾しません。
ここで問われているのは、「もし初期設定として \(l < 40 \text{ cm}\) の場合(つまり、L₁による像I₁がL₂よりも上方、すなわちL₂の後方にある場合)を考えたら、同じ最終像の条件(L₂の下方 \(24 \text{ cm}\) に虚像)を満たすような別の \(l\) の値が存在するのではないか?」という点です。
具体的な解説と立式
L₂による像の条件は \(b_2 = -24 \text{ cm}\)(L₂の下方24cmの虚像)、L₂の焦点距離は \(f_2 = 12 \text{ cm}\) です。
レンズの公式 \(\displaystyle\frac{1}{a_2} + \displaystyle\frac{1}{b_2} = \displaystyle\frac{1}{f_2}\) から、L₂に対する物体距離 \(a_2\) が一意に決まります。
$$\frac{1}{a_2} + \frac{1}{-24} = \frac{1}{12}$$
$$\frac{1}{a_2} = \frac{1}{12} + \frac{1}{24} = \frac{2+1}{24} = \frac{3}{24} = \frac{1}{8}$$
よって、\(a_2 = 8 \text{ cm}\) でなければなりません。
これは、L₂から見て、その前方 \(8 \text{ cm}\) の位置に物体(この場合はL₁による像I₁)がなければならないことを意味します。
ここで、L₁による像I₁はL₁の上方 \(40 \text{ cm}\) に固定されています。L₁とL₂の間の距離が \(l\) です。
L₂の前方 \(8 \text{ cm}\) にI₁があるということは、
$$l – 40 \text{ cm} = 8 \text{ cm}$$
という関係が成り立つ必要があります(L₂がI₁よりも \(l-40\) だけ下方にあり、その距離が \(8 \text{ cm}\))。
これを解くと、\(l = 48 \text{ cm}\) となります。
もし、\(l < 40 \text{ cm}\) の場合を考えると、L₁による像I₁はL₂の後方(上方)に位置します。このときのL₂に対する物体距離は \(a_2′ = -(40-l) = l-40\) となり、これは負の値を取ります(\(l-40 < 0\))。
しかし、L₂が所定の像(\(b_2=-24\text{cm}\))を作るためには、L₂に対する物体距離は \(a_2 = 8 \text{ cm}\)(正の値)でなければならないことが既に分かっています。
負の物体距離 \(a_2′ = l-40\) (ここで \(l<40\))が、正の必要な物体距離 \(8 \text{ cm}\) と等しくなることはありません。
したがって、\(l < 40 \text{ cm}\) の場合には、L₂が指定された虚像を作ることはできません。
使用した物理公式
- レンズの公式: \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)
上記「具体的な解説と立式」の通りです。
L₂が指定の像を作るためには、L₂に対する物体距離 \(a_2\) は必ず \(8 \text{ cm}\) (正の値) でなければなりません。
L₁による像I₁とL₂の位置関係から、\(a_2 = l – 40\) と表されるので、\(l-40=8\)、すなわち \(l=48 \text{ cm}\) のみが解となります。
この \(l=48 \text{ cm}\) は \(l \ge 40\) の範囲に含まれています。
\(l < 40\) を仮定すると \(a_2 = l-40\) は負の値となりますが、レンズの公式から要求される \(a_2\) は \(8 \text{ cm}\) (正) であるため、矛盾が生じます。
よって、\(l < 40\) の場合に条件を満たす解は存在しません。
(4)で、L₂が特定の像(L₂の下方24cmの虚像)を作るためには、L₂の前に物体がどの位置にあればよいかをまず計算します。レンズの公式を使うと、物体はL₂の前方8cmの位置になければならないことが分かります。
この「物体」とは、L₁が作った像I₁のことです。I₁はL₁の上方40cmにあります。
L₁とL₂の距離を \(l\) とすると、I₁がL₂の前方8cmにあるという条件は、「\(l – 40 = 8\)」と表せます。これを解くと \(l=48\text{cm}\) となります。
もし \(l\) が40cmより小さかった場合、I₁はL₂の後方に位置することになり、L₂から見た物体距離は負になります。しかし、上で計算したようにL₂が必要とする物体距離は正の8cmなので、\(l < 40\text{cm}\) の場合には条件を満たすことができません。したがって、答えは \(l=48\text{cm}\) の一つだけです。
(4)の条件を満たすためには、L₂に対する物体距離 \(a_2\) は \(+8 \text{ cm}\) でなければなりません。L₁による像I₁の位置(L₁の上方 \(40 \text{ cm}\))とL₁L₂間距離 \(l\) の関係から、\(a_2 = l-40\) となります。したがって、\(l-40 = 8\)、すなわち \(l=48 \text{ cm}\) が唯一の解となります。この解は \(l \ge 40\) の範囲にあり、最初の仮定と矛盾しません。\(l<40\) の場合には \(a_2\) が負となり、\(a_2=+8 \text{ cm}\) という条件を満たせないため、答えが変わる(別の解が存在する)おそれはありません。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- レンズの公式 (\(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\)): レンズによる結像問題を解く上での最も基本的なツールです。 各文字の意味(物体距離、像距離、焦点距離)と、それらの符号の規約(レンズの前方/後方、実像/虚像、凸レンズ/凹レンズ)を正確に理解し適用することが不可欠です。
- 倍率の公式 (\(m = \displaystyle\left|\frac{b}{a}\right|\)): 像が物体の何倍の大きさになるかを示します。 問題によっては倒立/正立を区別するために符号付きの倍率 (\(-\frac{b}{a}\)) を使うこともあります。
- 見かけの深さ (\(d’ = d/n\)): 異なる屈折率の媒質を通して物体を見るときに起こる現象です。 光の屈折によって、物体が実際とは異なる位置にあるように見えることを理解します。
- 組み合わせレンズの処理: 複数のレンズがある場合、1枚目のレンズが作る像を2枚目のレンズの「物体」として考えるのが基本です。 この際、1枚目の像が2枚目のレンズの後方にある(光が収束してくる途中に2枚目のレンズがある)場合、2枚目のレンズに対する物体距離を負として扱う点に注意が必要です(問(5)のケース)。
- 光路の可逆性: 光の進む道筋は、逆向きにたどっても同じ経路を通るという原理です。 問(2)のような問題では、物体と像の役割を入れ替えて考えることで、別の解を見つけるヒントになることがあります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- 様々な種類のレンズ(凸レンズ、凹レンズ)やそれらを組み合わせた光学系(望遠鏡、顕微鏡の原理など)の問題。
- レンズと鏡を組み合わせた系の問題。
- 物体やレンズが移動する場合の像の追跡。
- 屈折率の異なる媒質が複数層になっている場合の見え方。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 図の理解と作図: まず問題文の図を正確に把握し、必要であれば自分で光線図を描いて状況を視覚化する。特にレンズの位置関係、物体の位置、焦点の位置を明確にする。
- 符号の規約の確認: レンズの公式を用いる前に、使用する符号の規約(物体距離、像距離、焦点距離の正負)を再確認する。 これが曖昧だと計算結果が全く変わってしまう。
- 「何が物体で、何が像か」の明確化: 特に組み合わせレンズでは、各レンズにとっての物体と像を混同しないように、段階的に考える。
- 条件の整理: 問題文で与えられている条件(像の位置、種類、倍率など)を数式(\(a, b, f\) の関係)に置き換える。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 凹レンズの焦点距離は必ず負として扱う。
- 虚像の像距離は負として扱う。
- 物体がレンズの後方にある場合(例えば、前のレンズで作られた実像が次のレンズの後方に位置するとき)は、その物体距離を負として扱う。 これを「虚物体」と呼ぶこともあるが、入射光が収束してくる場合と理解すると良い。
- 全体の倍率は、各レンズの倍率の積で求められる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 符号のミス: 最も多い間違い。特に像距離 \(b\) や焦点距離 \(f\)(凹レンズの場合)の符号を間違えると、答えが大きく変わります。
- 対策: レンズの公式を使う前に、必ず符号のルール(例:実像なら \(b>0\)、虚像なら \(b<0\)、凸なら \(f>0\)、凹なら \(f<0\))を確認する癖をつける。 物体がレンズの前なら \(a>0\)。
- 組み合わせレンズでの物体距離の設定ミス: 1枚目のレンズによる像が2枚目のレンズの物体になるとき、その距離の計算や符号の扱いで混乱しやすい。
- 対策: 図を描いて、1枚目の像の位置と2枚目のレンズの位置関係を明確にする。距離を正しく計算し、2枚目のレンズから見て前方か後方かで符号を判断する。
- 見かけの深さの適用の誤り: どの距離が「実際の深さ」で、どの距離が「見かけの深さ」なのかを混同する。
- 対策: 光が屈折する境界面(この場合は液面)を基準に、実際の物体の位置と見かけの物体の位置を考える。公式 \(d’=d/n\) の \(d\) と \(d’\) がそれぞれ何に対応するかを明確にする。
- 倍率計算での符号の扱い: 大きさだけを問われている場合は絶対値で良いが、倒立・正立まで考慮する場合は \(m = -b/a\) を使う。問題の問いに合わせて使い分ける。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 光線追跡のイメージ: 光源から出た光がレンズでどのように屈折し、どこに像を作るのかを光線図でイメージする。主要な光線(光軸に平行な光、レンズの中心を通る光、焦点を通る光)を描くことで、像の位置や種類(実像/虚像、倒立/正立)を把握しやすくなる。
- レンズの位置関係の図示: 特に組み合わせレンズの場合、各レンズと中間像、最終像の位置関係を一直線上に正確にプロットすることで、物体距離や像距離の計算が容易になる。
- 見かけの深さの図: 液体中の光源からの光が液面で屈折し、あたかも浅い位置から来たかのように見える様子を図でイメージする。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 光軸を基準線として描く。
- レンズの種類(凸か凹か)を明確に描く。
- 物体、レンズ、焦点、像の位置関係をできるだけ正確に(縮尺はある程度で良いが大小関係は正しく)描く。
- 光線の進む向きを矢印で示す。
- 組み合わせレンズの場合、1枚目のレンズによる像が2枚目のレンズの物体として機能する様子を明確に段階分けして描く。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- レンズの公式 \(\displaystyle\frac{1}{a} + \displaystyle\frac{1}{b} = \displaystyle\frac{1}{f}\):
- 選定理由: 薄レンズによる結像において、物体距離・像距離・焦点距離の関係を表す普遍的な法則だから。
- 適用根拠: 問題の各状況(単独レンズ、組み合わせレンズ)で、レンズを通過する光が像を作る場合に常に適用できる。ただし、各変数の符号を状況に応じて正しく設定する必要がある。
- 見かけの深さの公式 \(d’ = d/n\):
- 選定理由: 屈折率の異なる媒質の境界面を通して物体を見る際に、その見かけの位置(深さ)を計算するため。
- 適用根拠: 問(3)で液体中の光源を空気中のレンズから見ている状況に適用できる。
- 公式を選ぶ際には、その公式が成り立つ前提条件(例:薄レンズであること、近軸光線であることなど、高校物理では通常暗黙の前提)と、各変数が何を表しているのかを理解していることが重要です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 状況の把握: 問題文と図から、どのレンズがどこにあり、物体はどこにあるのか、何が問われているのかを正確に把握する。
- 適切な公式の選択: レンズならレンズの公式、見かけの深さならその公式、というように状況に応じた公式を選ぶ。
- 変数の設定と符号の決定: 物体距離 \(a\)、像距離 \(b\)、焦点距離 \(f\) などを定義し、問題の条件と符号の規約に従って具体的な値や符号を決定する。
- 立式: 選んだ公式に設定した変数を代入して方程式を立てる。
- 計算実行: 立てた方程式を解いて未知数を求める。分数計算や2次方程式の解法など、数学的な処理も正確に行う。
- 結果の解釈: 得られた数値や符号から、物理的な意味(像の位置、種類、大きさなど)を読み取る。
- (組み合わせレンズの場合)ステップの繰り返し: 1枚目の結果を2枚目の入力として、上記プロセスを繰り返す。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の再確認: レンズの公式では符号が命。 立式時、計算途中、最終確認と、何度も符号が正しいかチェックする。
- 分数の計算の丁寧さ: \(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = \frac{1}{f}\) のような逆数の和の計算は、通分や逆数を取る際にミスしやすい。計算過程を丁寧に書き出し、検算する習慣をつける。
- 単位の確認(今回は長さのみだが): 基本的にcmで統一されているかなど、単位系に注意する。
- 図との照らし合わせ: 計算結果が、大まかな光線図から予測される像の位置や種類と大きくかけ離れていないか確認する。
- 途中計算の整理: 特に組み合わせレンズで複数のステップがある場合、各ステップの結果(中間像の位置など)を明確にメモしながら進める。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理的な妥当性の検討:
- 凸レンズで物体が焦点の外側にあれば実像、内側にあれば虚像。 凹レンズは通常虚像(問(5)のような例外もある)。計算結果がこれら一般的な性質と矛盾しないか。
- 倍率が極端に大きすぎたり小さすぎたりしないか(問題設定によるが)。
- 問(2)のように解が複数ある場合、それぞれの解が物理的に何を意味するのか考える。
- 問(3)の屈折率が、一般的な物質の値(例:水なら1.33程度)から大きく外れていないか。
- 極端な条件での考察:
- もし物体が無限遠にあれば \(a \to \infty\)、\(\frac{1}{a} \to 0\) なので \(b=f\) となるはず。
- もしレンズがただのガラス板なら(\(f \to \infty\)、\(\frac{1}{f} \to 0\))、\(\frac{1}{a} + \frac{1}{b} = 0\) であり \(b=-a\)、つまり素通しで同じ位置に虚像(物体と同じ大きさ)。
- 問題文の条件との再照合: 得られた答えが、問題文で与えられたすべての条件(像が虚像である、特定の位置にできるなど)を満足しているか最終確認する。
問題75 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、回転する歯車で周期的に遮断されるレーザー光を用い、光の伝播時間や媒質中での速度変化、そしてそれらが検出される信号のタイミングにどう影響するかを考察するものです。フィゾーの光速測定実験に関連する要素も含まれています。
- 図1の装置構成:
- M: レーザー光源。
- G: 歯車。歯の数は \(N=200\)枚。 一定の回転数で回転。
- A: 半透明の鏡。 光を2つに分ける。
- P₁, P₂: 検出器。
- B: 遠方の鏡。 距離ABを \(l\) [m] とする。
- C: 鏡。 Aの近くにある。
- 距離の関係: \(\text{AB} = \text{BC} = l\)。 \(\text{AP}_1 = \text{CP}_2\)。
- 水槽: 長さ \(L_{\text{水槽}} = 500 \text{ m}\)。 経路AB (またはBC) の途中にある。
- 図2の測定結果:
- 横軸: 時間。 1目盛りは \(T_{\text{目盛り}} = 5.0 \times 10^{-6} \text{ s}\)。
- 実線: P₁からの信号。
- 破線: P₂からの信号。
- 光速: \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)。
- (1) P₁の信号(実線)の間隔(周期)は \(a = 4.0\) 目盛り。
- (2) 水槽に水がない場合、P₁の信号とP₂の信号のずれは \(b = 1.6\) 目盛り。 水の屈折率は \(n_{\text{水}} = 1.3\)。
- (3) 水槽の水を抜き、歯車の回転数を変えた後、P₁の信号の間隔は \(a’ = 5.0\) 目盛り、P₁とP₂の信号のずれは \(b’ = 0.6\) 目盛りになった。
- (1) 歯車の毎秒の回転数 \(f_G\)。
- (2) 水槽に水を満たした場合、破線の図形(P₂の信号)はどちらに何目盛りずれるか。
- (3) 距離 \(l\) (AB間距離)。
- Q. (コラムとしての設問) 別の装置構成(フィゾーの実験)で、光が検出されなくなる歯車の回転数 \(f_0\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、光の基本的な性質である「光の速さ」と、光が媒質中を伝わる際の「屈折」という現象を扱っています。回転する歯車を使って光のパルスを作り出し、そのパルスが検出器に到達する時間差を測定することで、光速や距離、あるいは媒質の影響を調べようという、実験的な設定に基づいた問題です。特に(3)やコラムQは、歴史的に光速測定に用いられたフィゾーの実験と思考の基盤を共有しています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 等速運動の関係: 時間 = 距離 / 速さ。
- 媒質中の光速: 屈折率 \(n\) の媒質中での光の速さ \(v\) は、真空中の光速 \(c\) を用いて \(v = c/n\) と表されます。
- 周期と回転数: 回転運動において、1回転にかかる時間(周期 \(T\))とその逆数である毎秒の回転数(または周波数 \(f\))の関係 \(f = 1/T\)。
これらの原理を理解し、問題文の各条件や図から情報を正確に読み取り、論理的に考察を進めることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) P₁で観測される光パルスの周期を図2から読み取り、1目盛りの時間を使って秒単位に変換します。歯車の歯の数とこのパルスの周期の関係から、歯車1回転にかかる時間を求め、その逆数として毎秒の回転数を計算します。
- (2) 水槽に水を入れた場合と入れない場合とで、光が水槽部分(往復)を通過するのにかかる時間の差を計算します。この時間差が、P₂で観測される信号のさらなる遅れとなり、図2の破線のずれとして現れます。
- (3) P₂の信号は、P₁の信号に対して、光がAからBを経由してCまで進む時間だけ遅れて検出されます。この遅延時間は \(2l/c\) です。この遅延が、P₁の信号の周期の整数倍 \(m\) と、周期内のずれ \(b\)(または \(b’\))の和として観測されると考え、回転数を変える前後の情報 (\(a, b, a’, b’\)) から、まず整数 \(m\) を特定します。その後、実際の遅延時間を計算し、それを用いて距離 \(l\) を求めます。
- コラムQ: フィゾーの実験の原理に基づき、光が歯車の隙間を通り、鏡で反射して戻ってくるまでの間に、歯車が回転して次の歯が光路を塞ぐ条件を考え、そのときの回転数を求めます。
それでは、各設問について詳しく見ていきましょう。
問(1)
思考の道筋とポイント
検出器P₁で観測される実線の信号は、回転する歯車によって周期的に作られる光のパルスです。図2から、このパルスの1周期(間隔 \(a\))が4.0目盛りであることが読み取れます。 1目盛りが示す時間も与えられているので、パルスの周期 \(T_{\text{パルス}}\) を秒単位で計算できます。
歯車には200枚の歯があります。 歯車が1回転する間に、200個の「歯と隙間のペア」が光路を通過すると考えられ、その結果としてP₁では周期的な信号が観測されます。1つのパルスの周期 \(T_{\text{パルス}}\) は、歯車が \(1/200\) 回転するのにかかる時間に対応します。この関係から、歯車が1回転するのにかかる時間(歯車の回転周期 \(T_G\))を求め、その逆数をとることで毎秒の回転数 \(f_G\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 図2からP₁の信号の周期(パルス間隔 \(a\))を読み取る。
- 横軸1目盛りの時間を正確に用いて、周期を秒単位に換算する。
- 歯車の歯の数 \(N=200\) とパルスの周期の関係を理解する(1パルスの周期が \(1/N\) 回転に対応)。
- 回転周期 \(T_G\) と毎秒の回転数 \(f_G\) の関係 (\(f_G = 1/T_G\))。
具体的な解説と立式
図2の実線で示されるP₁からの信号の1サイクルの間隔は \(a = 4.0\) 目盛りです。
横軸の1目盛りが示す時間は \(T_{\text{目盛り}} = 5.0 \times 10^{-6} \text{ s}\) なので、P₁で観測される光パルスの周期 \(T_{\text{パルス}}\) は、
$$T_{\text{パルス}} = a \times T_{\text{目盛り}} = 4.0 \text{ 目盛り} \times (5.0 \times 10^{-6} \text{ s/目盛り}) \quad \cdots ①$$
歯車には \(N=200\) 枚の歯があります。 歯車が1回転する間に、この「歯と隙間」のパターンが200回繰り返されるため、1つのパルスの周期 \(T_{\text{パルス}}\) は、歯車が \(\displaystyle\frac{1}{N} = \frac{1}{200}\) 回転するのにかかる時間に相当します。
したがって、歯車が1回転するのにかかる時間(歯車の回転周期 \(T_G\))は、
$$T_G = N \times T_{\text{パルス}} = 200 \times T_{\text{パルス}} \quad \cdots ②$$
歯車の毎秒の回転数 \(f_G\) は、この回転周期 \(T_G\) の逆数なので、
$$f_G = \frac{1}{T_G} = \frac{1}{N \times T_{\text{パルス}}} \quad \cdots ③$$
- 周期と時間の関係
- 回転数と周期の関係: \(f = 1/T\)
まず、式①を用いて \(T_{\text{パルス}}\) を計算します。
$$T_{\text{パルス}} = 4.0 \times 5.0 \times 10^{-6} \text{ s} = 20.0 \times 10^{-6} \text{ s} = 2.0 \times 10^{-5} \text{ s}$$
次に、式③(または式②と \(f_G = 1/T_G\))を用いて毎秒の回転数 \(f_G\) を計算します。
$$f_G = \frac{1}{200 \times T_{\text{パルス}}} = \frac{1}{200 \times 2.0 \times 10^{-5} \text{ s}}$$
$$f_G = \frac{1}{400 \times 10^{-5}} = \frac{1}{4.0 \times 10^{-3}} = \frac{1000}{4.0} = 250 \text{ 回転/s}$$
これは、\(2.5 \times 10^2 \text{ 回転/s}\) とも書けます。
P₁でキャッチされる光の信号は、歯車が回ることでチカチカと点滅するようなパターンになります。図2から、このチカチカの1回分の間隔(周期)が4.0目盛りだと分かります。 1目盛りが \(5.0 \times 10^{-6}\) 秒なので、1回のチカチカの周期は \(4.0 \times 5.0 \times 10^{-6} = 2.0 \times 10^{-5}\) 秒です。
歯車には歯が200枚あります。 歯車がぐるっと1回転すると、このチカチカが200回繰り返されることになります。つまり、歯車が1回転するのにかかる時間は、1回のチカチカの周期の200倍、すなわち \(200 \times 2.0 \times 10^{-5}\) 秒です。
毎秒の回転数というのは、1秒間に何回転するかということなので、1回転にかかる時間の逆数をとればよく、計算すると250回転/秒となります。
歯車の毎秒の回転数は \(2.5 \times 10^2 \text{ 回転/s}\)(または \(250 \text{ 回転/s}\))です。これは模範解答と一致しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
検出器P₂の信号(破線)は、光がAから出発し、Bで反射し、Cを経由してP₂に到達するまでの経路をたどります。P₁の信号との時間差は、主にこの長距離の往復部分(特にAB間とBC間、合わせて \(2l\) のうち水槽が含まれる区間)で生じます。
水槽に水を満たすと、水槽の区間(長さ \(L_{\text{水槽}} = 500 \text{ m}\))における光の速さが、屈折率 \(n_{\text{水}}\) の影響で遅くなります (\(v_{\text{水}} = c/n_{\text{水}}\))。 光はこの水槽区間を往復する(模範解答は往復 \(500\text{m} \times 2\) で計算しているので、水槽区間を往復すると解釈するのが妥当)。
水がない場合(光速 \(c\))と水がある場合(光速 \(v_{\text{水}}\))とで、この水槽区間(合計 \(2 \times L_{\text{水槽}}\))を通過するのにかかる時間の差を計算します。この時間差だけP₂の信号がさらに遅れるため、図2の破線は時間軸の正の方向(右向き)にずれます。そのずれを目盛り数に換算します。
この設問における重要なポイント
- 媒質中の光速は \(v = c/n\)。
- 光は水槽区間(長さ \(L_{\text{水槽}}=500 \text{ m}\))を2回通過する。
- 水がない場合とある場合の、水槽区間通過時間の差を求める。
- 時間差を目盛り数に換算する(1目盛り = \(5.0 \times 10^{-6} \text{ s}\))。
- 遅れるので右にずれる。
具体的な解説と立式
光が通過する水槽の区間の長さは \(L_{\text{水槽}} = 500 \text{ m}\) です。 P₂に到達する光は、この水槽区間を2回通過すると考えられます。合計で \(2 \times L_{\text{水槽}} = 1000 \text{ m}\) の距離を水槽(または元々真空だった空間)として進むと考えます。
水がない場合(屈折率 \(n_1 = 1\) とみなすと光速は \(c\))、この \(2L_{\text{水槽}}\) の区間を光が進むのにかかる時間 \(t_1\) は、
$$t_1 = \frac{2 L_{\text{水槽}}}{c} \quad \cdots ④$$
水槽に水を満たした場合(屈折率 \(n_{\text{水}} = 1.3\))、水中での光速 \(v_{\text{水}}\) は \(v_{\text{水}} = \displaystyle\frac{c}{n_{\text{水}}}\) です。この区間を光が進むのにかかる時間 \(t_2\) は、
$$t_2 = \frac{2 L_{\text{水槽}}}{v_{\text{水}}} = \frac{2 L_{\text{水槽}}}{c/n_{\text{水}}} = \frac{2 L_{\text{水槽}} n_{\text{水}}}{c} \quad \cdots ⑤$$
水を入れることによって余分にかかる時間 \(\Delta t\) は、\(t_2\) と \(t_1\) の差です。
$$\Delta t = t_2 – t_1 = \frac{2 L_{\text{水槽}} n_{\text{水}}}{c} – \frac{2 L_{\text{水槽}}}{c} = \frac{2 L_{\text{水槽}}}{c} (n_{\text{水}} – 1) \quad \cdots ⑥$$
この \(\Delta t\) だけP₂の信号がさらに遅れるため、破線の図形は右にずれます。
この時間差 \(\Delta t\) を、図2の横軸の目盛り数に換算します。1目盛りの時間は \(T_{\text{目盛り}} = 5.0 \times 10^{-6} \text{ s}\) なので、ずれる目盛り数 \(\Delta N_{\text{目盛り}}\) は、
$$\Delta N_{\text{目盛り}} = \frac{\Delta t}{T_{\text{目盛り}}} \quad \cdots ⑦$$
- 時間 = 距離 / 速さ
- 媒質中の光速: \(v = c/n\)
まず、式⑥を用いて余分にかかる時間 \(\Delta t\) を計算します。
与えられた値は、\(L_{\text{水槽}} = 500 \text{ m}\)、\(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\)、\(n_{\text{水}} = 1.3\) です。
$$\Delta t = \frac{2 \times 500 \text{ m}}{3.0 \times 10^8 \text{ m/s}} \times (1.3 – 1)$$$$\Delta t = \frac{1000}{3.0 \times 10^8} \times 0.3 \text{ s}$$$$\Delta t = \frac{10^3 \times 0.3}{3.0 \times 10^8} \text{ s} = \frac{300}{3.0 \times 10^8} \text{ s} = \frac{100}{1.0 \times 10^8} \text{ s} = 100 \times 10^{-8} \text{ s} = 1.0 \times 10^{-6} \text{ s}$$
次に、式⑦を用いて、この時間差が何目盛りに相当するかを計算します。
\(T_{\text{目盛り}} = 5.0 \times 10^{-6} \text{ s}\) なので、
$$\Delta N_{\text{目盛り}} = \frac{1.0 \times 10^{-6} \text{ s}}{5.0 \times 10^{-6} \text{ s/目盛り}} = \frac{1.0}{5.0} \text{ 目盛り} = 0.2 \text{ 目盛り}$$
時間が余分にかかるので、P₂の信号(破線)は右向きにずれます。
光は、空気中(または真空中)よりも水の中を進む方が時間がかかります。水槽に水を入れると、その水槽部分(500m)を光が通過するのにかかる時間が長くなります。光はP₂に到達するまでにこの水槽区間を2回通るので、合計1000m分、水中を進むことによる影響を考えます。
水がない場合とある場合で、この1000mを進むのにかかる時間の差を計算します。
水がない場合は、時間 = \(1000 / c\)。
水がある場合は、時間 = \(1000 / (c/1.3)\)。
この差を計算すると \(1.0 \times 10^{-6}\) 秒となります。
図2のグラフの1目盛りは \(5.0 \times 10^{-6}\) 秒なので、この時間差は \( (1.0 \times 10^{-6}) / (5.0 \times 10^{-6}) = 0.2 \) 目盛りに相当します。
時間がより多くかかるようになるので、P₂の信号(破線)は右側(時間的に遅れる方向)にずれます。
破線の図形は右に \(0.2\) 目盛りずれる。 これは模範解答と一致しています。
問(3)
思考の道筋とポイント
P₂の信号は、P₁の信号に対して、光がAからBを経由してCまで進む時間 \(t_{\text{遅れ}} = \frac{2l}{c}\) だけ遅れて検出されます。この遅延時間は、歯車の回転数が変わっても物理的に変化しません(距離 \(l\) と光速 \(c\) は一定なので)。
この遅延が、P₁で観測される信号の周期の整数倍 \(m\) と、その周期内の時間的ずれ \(b\)(または \(b’\))の和として観測されていると考えます。
つまり、実際の遅延時間 \(t_{\text{遅れ}}\) は、目盛り単位で表すと、
最初の状態(周期 \(a\)、ずれ \(b\))では \(N_1 = m \cdot a + b\) 目盛り分。
回転数を変えた後の状態(周期 \(a’\)、ずれ \(b’\))では \(N_2 = m \cdot a’ + b’\) 目盛り分。
ここで重要なのは、模範解答の解説にあるように「LとL’は光源から同時に出た光で、その時間差は、光がAB間を往復する時間であり、一定である」という点と、「LL’間にm個の明暗のパターンがあるとすると」という記述です。 これは、P₂で観測される特定のパルス(例えば立ち上がり L’)が、P₁で観測される対応するパルス(立ち上がり L)から \(m\) 周期分と \(b\)(または \(b’\))のずれで現れるとして、この \(m\) が歯車の回転数を徐々に変える過程で変化しなかった(追跡できていた)と解釈することです。
したがって、実際の遅延時間(秒単位)は一定なので、目盛り数で表した遅れも \(m \cdot a + b = m \cdot a’ + b’\) という関係が成り立ちます(ただし、これは \(T_{\text{目盛り}}\) が共通だから成り立つ)。この式からまず整数 \(m\) を求めます。
\(m\) が求まれば、実際の遅延時間 \(t_{\text{遅れ}} = (m \cdot a + b) \times T_{\text{目盛り}}\) が計算でき、これを用いて \(2l = c \cdot t_{\text{遅れ}}\) から距離 \(l\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 光がAB間を往復する時間 \(t_{\text{遅れ}} = 2l/c\) は、歯車の回転数によらず一定。
- この遅れが、P₁の信号の周期の \(m\) 倍(\(m\) は整数)と、周期内のずれ \(b\)(または \(b’\))の和として観測される。
- 歯車の回転数を「徐々に」変えたという記述から、この整数 \(m\) は変化しなかったと解釈する。
- したがって、目盛り数で表した遅れ \(m \cdot a + b\) と \(m \cdot a’ + b’\) が等しいとおいて \(m\) を求める。
具体的な解説と立式
光がAからBを経由してCまで進む(実質的に距離 \(2l\) を進む)のにかかる時間 \(t_{\text{遅れ}}\) は、
$$t_{\text{遅れ}} = \frac{2l}{c} \quad \cdots ⑧$$
この時間遅れは、P₁の信号パターンを基準として、何周期分かとその端数として観測されます。
最初の状態では、P₁の周期は \(a=4.0\) 目盛り、P₁のパルスの立ち上がりからP₂のパルスの立ち上がりまでのずれは \(b=1.6\) 目盛りです。 P₂のパルスが、P₁のあるパルスの立ち上がりから \(m\) 周期後のパターンに対応し、さらにそこから \(b\) 目盛り遅れて観測されるとすると、P₂の信号が観測されるまでの総遅れに相当する目盛り数 \(N_1\) は、
$$N_1 = m \cdot a + b \quad \cdots ⑨$$
歯車の回転数を徐々に変え、一定にした後の状態では、P₁の信号の周期は \(a’=5.0\) 目盛り、ずれは \(b’=0.6\) 目盛りです。 「徐々に変えた」という記述から、P₂で観測されるパルスがP₁の何番目の周期に対応するかという整数 \(m\) は変わらなかったと解釈します。このときの総遅れに相当する目盛り数 \(N_2\) は、
$$N_2 = m \cdot a’ + b’ \quad \cdots ⑩$$
実際の遅延時間 \(t_{\text{遅れ}}\) は不変なので、\(N_1 \times T_{\text{目盛り}} = N_2 \times T_{\text{目盛り}}\) が成り立ちます。したがって、目盛り数で表した遅れも等しいはずなので、
$$m \cdot a + b = m \cdot a’ + b’ \quad \cdots ⑪$$
この式から整数 \(m\) を求めます。
\(m\) が求まれば、実際の遅延時間 \(t_{\text{遅れ}}\) は、例えば \(t_{\text{遅れ}} = N_1 \times T_{\text{目盛り}} = (m \cdot a + b) \times T_{\text{目盛り}}\) として計算できます。
そして、式⑧から \(l\) を計算します: \(l = \displaystyle\frac{c \cdot t_{\text{遅れ}}}{2}\)。
- 時間 = 距離 / 速さ
- 周期的な現象の位相の考え方
まず、式⑪に与えられた値を代入して整数 \(m\) を求めます。
\(a=4.0\), \(b=1.6\), \(a’=5.0\), \(b’=0.6\)。
$$m \times 4.0 + 1.6 = m \times 5.0 + 0.6$$
$$1.6 – 0.6 = 5.0m – 4.0m$$
$$1.0 = 1.0m$$
よって、$$m = 1$$
これは、P₂の信号がP₁の次の(1周期後の)パターンに対応して観測されていることを意味します。
次に、この \(m=1\) を用いて、最初の状態での総遅れ目盛り数 \(N_1\) を計算します(\(N_2\) を用いても同じ結果になります)。
$$N_1 = m \cdot a + b = 1 \times 4.0 + 1.6 = 5.6 \text{ 目盛り}$$
この目盛り数が表す実際の遅れ時間 \(t_{\text{遅れ}}\) を計算します。1目盛りの時間は \(T_{\text{目盛り}} = 5.0 \times 10^{-6} \text{ s}\) なので、
$$t_{\text{遅れ}} = N_1 \times T_{\text{目盛り}} = 5.6 \text{ 目盛り} \times (5.0 \times 10^{-6} \text{ s/目盛り})$$
$$t_{\text{遅れ}} = 28.0 \times 10^{-6} \text{ s} = 2.8 \times 10^{-5} \text{ s}$$
最後に、この遅れ時間 \(t_{\text{遅れ}}\) と光速 \(c = 3.0 \times 10^8 \text{ m/s}\) を用いて、距離 \(l\) を式⑧から計算します。
$$l = \frac{c \cdot t_{\text{遅れ}}}{2} = \frac{(3.0 \times 10^8 \text{ m/s}) \times (2.8 \times 10^{-5} \text{ s})}{2}$$
$$l = \frac{3.0 \times 2.8 \times 10^{8-5}}{2} \text{ m} = \frac{8.4 \times 10^3}{2} \text{ m}$$
$$l = 4.2 \times 10^3 \text{ m}$$
P₂で光が検出されるのは、P₁で検出されるよりも、光が遠くの鏡Bまで往復する時間だけ遅れます。この「遅れ時間」は、歯車の回転数を変えても、光源と鏡の距離が変わらない限り一定です。
この遅れは、P₁の信号のチカチカの周期のちょうど何倍か(これを \(m\) 倍とします)に、周期の中のちょっとしたズレ(\(b\) や \(b’\))を足した時間として観測されます。
問題文で「歯車の回転数を徐々に変えた」とあるので、この「\(m\) 倍」の \(m\) の値は変わらなかったと考えられます。
そこで、回転数を変える前と後で、「\(m \times (\text{周期の目盛り数}) + (\text{ズレの目盛り数})\)」が等しいという式を立てます。
前の値(周期4.0、ズレ1.6)と後の値(周期5.0、ズレ0.6)を代入すると、\(m \times 4.0 + 1.6 = m \times 5.0 + 0.6\) となり、これを解くと \(m=1\) が求まります。
つまり、P₂の信号はP₁の信号の1周期分とちょっとのズレで現れているということです。
この \(m=1\) を使って、実際の遅れ時間を計算します。例えば、前の状態なら \(1 \times 4.0 + 1.6 = 5.6\) 目盛り分です。 1目盛りが \(5.0 \times 10^{-6}\) 秒なので、実際の遅れ時間は \(5.6 \times 5.0 \times 10^{-6}\) 秒となります。
この時間が、光が距離 \(l\) を往復する (\(2l\)) のにかかる時間 (\(2l/c\)) なので、ここから \(l\) を計算すると \(4.2 \times 10^3\) メートル(4200メートル)と求まります。
距離 \(l\) は \(4.2 \times 10^3 \text{ m}\) です。 模範解答と一致しています。
この問題の鍵は、回転数を変えても \(m\) が一定であると解釈し、それを利用して \(m\) を特定すること、そしてその \(m\) から実際の遅延時間を計算して距離を求めるという流れです。\(m=1\) というきれいな整数値が得られたことは、この解釈の妥当性を示唆しています。
【コラム】Q. 次図のように装置をセットし直し、歯車Gの回転数を増していくと、P₁で光が検出されなくなる。このときの回転数を、c, l と歯の数Nで表せ。(★)
思考の道筋とポイント
この設問は、フィゾーの光速測定実験の原理に関するものです。 光源から出た光が回転する歯車の「歯と歯の間(隙間)」を通過し、遠方の鏡(距離 \(l\))で反射され、再び歯車の位置に戻ってきます。 この光が検出器Pで観測されるためには、戻ってきたときに再び歯車の隙間を通過する必要があります。
歯車の回転数を増していくと、光が往復する間に歯車が回転し、戻ってきた光が「歯」によって遮られて検出されなくなる瞬間が訪れます。 初めて光が検出されなくなるのは、光が往復する時間 \(t = 2l/c\) の間に、歯車がちょうど「隙間から隣の歯へ」と移り変わるだけ回転したときです。
歯車の歯の数が \(N\) 枚であるため、1つの「歯」または「隙間」が占める角度は、1回転(360°)の \(\frac{1}{2N}\) に相当します(歯と隙間が交互に \(N\) 個ずつあるので、合計 \(2N\) 個のセクターで1回転を構成すると考えられます)。 つまり、光が遮られるためには、歯車が \(\frac{1}{2N}\) 回転(またはその奇数倍)する時間と、光の往復時間が一致すればよいと考えられます。
ここでは「初めて検出されなくなる」回転数を問われているので、歯車が \(\frac{1}{2N}\) 回転する時間を考えます。
具体的な解説と立式
光源から出た光が歯車の隙間を通過し、鏡Bまでの距離 \(l\) を往復するのにかかる時間 \(t\) は、
$$t = \frac{2l}{c} \quad \cdots ⑫$$
この時間 \(t\) の間に、歯車の歯が、光が戻ってきた経路をちょうど遮る位置に来たとします。このとき、光は検出器Pでは光が検出されなくなります。
歯車の歯の数は \(N\) 枚です。 歯と隙間が等しい幅で交互に並んでいると考えると、歯車が \(\frac{1}{2N}\) 回転すると、隙間だった位置が歯で塞がれることになります(1つの歯と1つの隙間のペアで \(\frac{1}{N}\) 回転、その半分で状態が切り替わる)。
歯車の毎秒の回転数を \(f_0\) とすると、時間 \(t\) の間に歯車が回転する回数は \(f_0 \times t\) 回転です。
光が初めて検出されなくなるのは、この回転が \(\frac{1}{2N}\) 回転に等しくなるときなので、
$$f_0 \times t = \frac{1}{2N} \quad \cdots ⑬$$
この式に式⑫を代入します。
$$f_0 \times \frac{2l}{c} = \frac{1}{2N}$$
- 時間 = 距離 / 速さ
- 回転数と回転角度(回転回数)の関係
式⑬を \(f_0\) について解きます。
$$f_0 = \frac{1}{2N} \times \frac{c}{2l}$$
$$f_0 = \frac{c}{4Nl}$$
光が歯車の歯のすき間を通り抜けて、遠くの鏡まで行って反射して戻ってくる時間を考えます。この時間は「往復距離 \(2l\) / 光の速さ \(c\)」です。
この間に歯車が回転して、ちょうど戻ってきた光を次の歯でさえぎってしまえば、光は検出されなくなります。
歯車の歯の数が \(N\) 枚なので、歯1つぶん(またはすき間1つぶん)の角度は、1回転の \(1/(2N)\) にあたります(歯とすき間が交互にN個ずつあるので)。
歯車が1秒間に \(f_0\) 回転するとすると、光が往復する時間 \(2l/c\) の間に、歯車は \(f_0 \times (2l/c)\) 回転します。
この回転数がちょうど \(1/(2N)\) になったとき、光は初めてさえぎられます。
この関係から \(f_0\) を求めると、\(f_0 = c/(4Nl)\) となります。
光が検出されなくなる(初めての)歯車の回転数は \(f_0 = \displaystyle\frac{c}{4Nl}\) です。 これはフィゾーが光速を測定した実験の原理に基づく式であり、物理的に正しい結果です。 模範解答のPDFとも一致しています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 光の速さと伝播時間: 光が一定の速さ \(c\) (真空中) または \(v\) (媒質中) で進むとき、距離 \(d\) を進むのにかかる時間は \(t = d/v\) であるという基本的な関係。この問題では、光の往復時間や、信号の遅延時間を計算する上で頻繁に用います。
- 媒質中の光速と屈折率: 屈折率 \(n\) の媒質中では、光の速さは \(v = c/n\) になること。これにより、同じ距離でも媒質によって光の伝播時間が変わることを理解する(問(2))。
- 周期運動と回転数: 回転する歯車が生み出す光パルスの周期と、歯車の回転数(または回転周期)の関係を正しく把握すること(問(1))。歯の数 \(N\) が関わってきます。
- 信号の位相と遅延: 検出される信号のタイミングのずれ(位相のずれ)が、光の伝播経路の差や、基準となる周期的な現象の何周期分に相当するのかを考えること(問(3))。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- フィゾー法やフーコー法など、回転体(歯車や回転鏡)を利用した光速測定実験に関する問題。
- 光や音のパルスを用いて距離を測定する問題(レーダーやソナーの原理に近い)。
- 周期的な信号の重ね合わせや、うなりではなく「位相のずれ」として時間差を読み取る問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 図と時間の対応: 図2のような時間軸上の波形が与えられた場合、1目盛りが何秒に相当するのか、パルスの周期やずれが何目盛りに相当するのかを正確に把握する。
- 光路の特定: 2つの検出器P₁とP₂がある場合、それぞれの検出器に光が到達するまでの正確な光路を特定し、その経路差や時間差の原因となる区間を見極める。
- 「一定」なものは何か: 問(3)のように条件が変化する場合でも、物理的に不変な量(この場合は光路長 \(2l\) や光速 \(c\)、したがって光の伝播遅延時間 \(2l/c\))を見つけることが重要。
- 整数倍の可能性: 周期的な現象が関わる場合、観測される遅れやずれが、基準周期の整数倍に何かを加えた形になっていないか疑ってみる(問(3)の \(m\) の導入)。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 光は「往復」することが多いので、距離を2倍にし忘れないように注意(問(2), (3), Q)。
- 単位の換算(目盛り数から秒へなど)を正確に行う。
- 「徐々に変えた」という記述は、途中で基準となる周期の整数倍 \(m\) が飛び越えたりせず、連続的に変化した(\(m\) は一定のままだった)と解釈するヒントになることがある。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 歯車の歯の数と周期の関係の誤解:
- 現象: 歯車の1回転で1つのパルスと誤解したり、歯の数 \(N\) の扱いを間違えたりする。
- 対策: 歯車が1回転すると \(N\) 個の「歯と隙間のペア」が通過するので、1つのパルスの周期は \(1/N\) 回転に対応することを理解する。図を描いて確認する。
- 往復距離の考慮漏れ:
- 現象: 光が鏡で反射して戻ってくる場合、片道の距離だけで時間を計算してしまう。
- 対策: 問題文や図から光が往復しているかを確認し、距離を2倍にする必要があるか常に意識する。
- 媒質中の光速の式の誤用:
- 現象: 屈折率 \(n\) を掛けるべきか割るべきか混乱する。
- 対策: 「媒質中では光速は遅くなる」と覚え、\(v=c/n\) (ただし \(n \ge 1\)) となることを確認する。時間がかかるようになるので、\(t = d/v = dn/c\)。
- 問(3)における整数 \(m\) の導入の仕方の誤り:
- 現象: 単純に \(a+b = a’+b’\) としたり、\(m\) を導入せずに混乱したりする。
- 対策: 遅延時間が一定であることを基に、それが周期の整数倍と端数の和で表されるというモデルを理解する。複数の状態がある場合、その整数倍 \(m\) が共通である可能性を疑う。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題では、物理現象をどのようにイメージし、図にどのように表現することが有効だったか:
- 時間と光パルスの関係の図示 (図2の活用): 図2はまさに時間経過と光の強度変化を示しており、これを読み解くことが全ての始まり。 パルスの周期 \(a\)、信号間のずれ \(b\) を図上で明確に指し示す。
- 歯車の回転と光の遮断のイメージ: 歯車が回転し、歯と隙間が交互に光を通過させたり遮ったりする様子を頭の中で動画のようにイメージする。1回転で何回パルスが生成されるか。
- 光路の概略図 (図1の活用): 光がどの経路を通って各検出器に到達するかを図1で追いかける。 特にP₂への経路がP₁より長いこと、水槽がその途中にあることを確認する。
- 問(3)の \(m\) のイメージ: P₂の信号がP₁の信号の何番目の「波」に乗ってやってくるのか、というイメージ。模範解答のLECTURE(3)の図が参考になる。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 時間軸のあるグラフでは、横軸の1目盛りの意味を常に意識する。
- 複数の信号がある場合、それらの時間的な前後関係やずれを正確に読み取る(または描く)。
- 空間的な配置図では、光の進む向きを矢印で明確にする。反射や屈折が起こる点も明示する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 時間 = 距離 / 速さ:
- 選定理由: 光が一定の速さで進む場合、その到達時間を計算するための最も基本的な関係式だから。
- 適用根拠: 光の伝播経路長と光速(または媒質中の光速)が分かれば、常に適用可能(問(2), (3), Q)。
- \(v = c/n\):
- 選定理由: 媒質の屈折率が与えられている場合に、その媒質中での光速を求めるため。
- 適用根拠: 光が水槽(水)を通過する際に、その中での光速を計算するために用いる(問(2))。
- \(f = 1/T\) (回転数と周期の関係):
- 選定理由: 周期的な回転運動の速さを表すため。
- 適用根拠: 歯車の回転周期(1回転にかかる時間)と毎秒の回転数を結びつけるために用いる(問(1), Q)。
- 公式を適用する際には、各物理量が何を指しているのか(例えば、距離は片道か往復か、時間は1周期かそれ以外かなど)を問題文や図と照らし合わせて正確に把握することが重要です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) 回転数の計算:
- 図2からP₁の信号周期 \(a\) を読み取り、\(T_{\text{パルス}} = a \times T_{\text{目盛り}}\) を計算。
- 歯車の歯の数 \(N\) を用い、歯車の回転周期 \(T_G = N \times T_{\text{パルス}}\) を計算。
- 回転数 \(f_G = 1/T_G\) を計算。
- (2) 水による信号のずれ:
- 水槽区間の往復長 \(2L_{\text{水槽}}\) を確認。
- 水がない場合の通過時間 \(t_1 = 2L_{\text{水槽}}/c\) を計算。
- 水がある場合の水中光速 \(v_{\text{水}} = c/n_{\text{水}}\) を求め、通過時間 \(t_2 = 2L_{\text{水槽}}/v_{\text{水}}\) を計算。
- 時間差 \(\Delta t = t_2 – t_1\) を求め、目盛り数 \(\Delta N = \Delta t / T_{\text{目盛り}}\) に換算。 ずれの方向を判断。
- (3) 距離 \(l\) の計算:
- P₂の信号の遅延がP₁の \(m\) 周期とずれ \(b\)(または \(b’\))で表されると考え、\(ma+b = ma’+b’\) の関係から整数 \(m\) を特定。
- \(m\) を用いて、実際の遅延時間 \(t_{\text{遅れ}} = (ma+b)T_{\text{目盛り}}\) を計算。
- 光の往復距離 \(2l\) と遅延時間の関係 \(2l = c \cdot t_{\text{遅れ}}\) から \(l\) を計算。
- (Q) フィゾーの実験:
- 光の往復時間 \(t=2l/c\) を計算。
- この時間 \(t\) の間に歯車が \(\frac{1}{2N}\) 回転する条件 \(f_0 t = \frac{1}{2N}\) から回転数 \(f_0\) を求める。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認と換算: 目盛りを時間に直す、時間を回転数に直すなど、単位を意識して計算する。指数の計算(例:\(10^{-6}\), \(10^8\))は特に注意。
- 有効数字: 問題で与えられている数値の桁数に合わせて、最終的な答えの桁数を適切に処理する(この問題では特に指定はないが、一般的に)。
- 数値の代入タイミング: できるだけ文字式で計算を進め、最後に数値を代入する方が、途中の計算ミスを発見しやすく、また物理的な意味も見失いにくい。
- 概算による検算: 計算結果が出たら、おおよその値として妥当かどうか(例えば、光速は非常に速いので、短い時間で長距離を進むはず、など)を感覚的にチェックする。
- 図や条件の再確認: 立式や計算の途中で、元の図や問題文の条件を再確認し、矛盾がないか、見落としがないかを確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 物理量のオーダー感覚:
- 問(1)の回転数: 毎秒250回転というのは高速だが、実験装置としてはあり得る範囲か。
- 問(2)のずれ: 0.2目盛りという小さなずれは、媒質の屈折率によるわずかな光速変化を反映しているか。
- 問(3)の距離 \(l\): 4200m というのは実験装置としては大規模だが、光速測定の実験では長距離が必要な場合がある。
- 条件変化に対する結果の傾向:
- 問(2)で、もし水の屈折率がもっと大きかったら、ずれはもっと大きくなるはず。式と合うか。
- 問(3)で、もし \(m\) が0や2だったら \(l\) はどう変わるか(あり得ないが思考実験として)。
- 別の解釈の可能性の排除:
- 問(3)の \(m\) が他の整数値を取りえないか。与えられた \(a,b,a’,b’\) の値から \(m=1\) が一意に求まることを確認。 もし複数の整数 \(m\) が候補になるなら、問題の条件から絞り込む必要がある。
- フィゾーの実験との比較 (Q): コラムQの結果が、フィゾーの実験の原理説明と整合しているか確認する。
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