「名問の森」徹底解説(7〜9問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題7 (九州大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、一様な綱とおもりを鉛直上向きに一定の力で引き上げる運動を扱います。運動方程式の立式と適用が中心テーマであり、特に綱の内部の張力が場所によって異なることや、途中で物体が分離した後の運動を考える点がポイントです。

与えられた条件
  • 綱: 質量 \(m\)[kg]、長さ \(l\)[m]、一様、伸び縮みしない。
  • おもりP: 質量 \(M\)[kg]、綱の下端につるされている。
  • 外力: 綱の上端に鉛直上向きに加えられる一定の力 \(F\)[N]。
  • 条件: \(F > (M+m)g\) (つまり、全体として上昇する加速度を持つ)。
  • 重力加速度: \(g\)[m/s²]。
問われていること
  1. (1) おもりPの加速度 \(a\)。
  2. (2) おもりPに働く綱の張力 \(T\)。
  3. (3) 綱の上端から \(x\)[m] のところでの綱の張力 \(T_x\) (\(0 \le x \le l\))。
  4. (4) 初めPは地上で静止。\(F=2(M+m)g\) で引き上げ、Pが地上 \(h\)[m] の高さに達したとき綱からはずれた。Pが引き上げられ始めてから地上に落下するまでの総時間。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1) 加速度\(a\)の別解: 個別の物体に着目し連立方程式を解く解法
      • 主たる解法が綱とおもりを一体の「系」として捉えるのに対し、別解では綱とおもりを別々の物体とみなし、それぞれについて運動方程式を立て、それらを連立させて解きます。
    • 問(2) 張力\(T\)の別解: 綱に着目する解法
      • 主たる解法がおもりPに着目するのに対し、別解では綱に着目し、綱に働く力(上からの外力\(F\)、下からおもりに引かれる張力\(T\)、重力)に関する運動方程式から張力\(T\)を求めます。
    • 問(3) 張力\(T_x\)の別解: 綱の下部分に着目する解法
      • 主たる解法が綱の上から\(x\)の部分に着目するのに対し、別解では綱の下から\((l-x)\)の部分とおもりPを一体として捉え、その系についての運動方程式から張力\(T_x\)を求めます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「系で見る」視点と「個々で見る」視点の両方を学ぶことで、内力と外力の違いや作用・反作用の法則への理解が深まります。
    • 解法の選択肢の拡大: 問題によっては、系で見るよりも個別に見た方が考えやすい場合があります。複数のアプローチを知ることで、思考の柔軟性が養われ、最適な解法を選択する能力が高まります。
    • 検算能力の向上: 同じ答えを異なる方法で導出する経験は、計算ミスを発見するための強力な検算ツールとなり得ます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題を解くためには、ニュートンの運動の第\(2\)法則(運動方程式)を正しく理解し、適用することが基本となります。運動方程式を立てる際には、まず注目する物体を明確にし、その物体に働くすべての力を図示することが重要です。また、綱のように質量が分布している物体の場合、部分によって張力が異なることを理解する必要があります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • ニュートンの運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\)
  • 力の図示: 物体に働く重力、張力、外力などを正確に把握する。
  • 作用・反作用の法則: 綱がおもりを引く張力と、おもりが綱を引く力は作用・反作用の関係にある。
  • 等加速度直線運動の公式: 加速度が一定の場合の速度、変位、時間の関係を記述する。

問(1)

思考の道筋とポイント
おもりPの加速度を求めます。綱とPは一体となって運動するため、綱とP全体の加速度は等しく、これをおもりPの加速度と考えることができます。
綱とおもりPを一つの物体(系)とみなし、この系全体の質量と、系全体に働く外力(鉛直上向きの力 \(F\) と、系全体の重力 \((M+m)g\))について運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 綱とおもりPを一体として扱う(両者の加速度は等しい)。
  • 系全体の質量は \(M+m\)。
  • 系全体に働く外力は、上向きの力 \(F\) と下向きの重力 \((M+m)g\)。
  • 運動方程式 \((\text{質量}) \times (\text{加速度}) = (\text{合力})\) を適用する。

具体的な解説と立式
綱とおもりPを一体と考えた系の質量は \(M+m\) です。
この系に働く力は、鉛直上向きに \(F\)、鉛直下向きに重力 \((M+m)g\) です。
鉛直上向きを正とし、加速度を \(a\) とすると、この系全体の運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
(M+m)a &= F – (M+m)g \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
この式から加速度 \(a\) を求めます。

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(m_{\text{全体}} a = F_{\text{合力}}\)
計算過程

式①の両辺を \((M+m)\) で割ると、加速度 \(a\) は、
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{F – (M+m)g}{M+m} \\[2.0ex]
&= \frac{F}{M+m} – g
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

重い荷物(おもりP)にロープ(綱)をつけて引き上げる状況を考えましょう。荷物とロープは一緒に動くので、まとめて一つの「大きな荷物」と見なせます。この「大きな荷物」の質量は、\(M+m\) です。この大きな荷物には、上向きに引っ張る力\(F\)と、下向きに働く全体の重力 \((M+m)g\) が作用しています。運動方程式は「全体の質量 × 加速度 = 上向きの力 – 下向きの力」というシンプルな形で表せます。この式を解けば、全体の加速度がわかります。

結論と吟味

Pの加速度 \(a\) は \(\displaystyle a = \frac{F}{M+m} – g\) です。
問題文の条件 \(F > (M+m)g\) より、\(F – (M+m)g > 0\) なので、加速度 \(a\) は正となり、上向きに加速することがわかります。もし \(F = (M+m)g\) ならば \(a=0\) となり、つり合って静止し続けるか等速で上昇することになり、物理的に妥当です。

別解: 個別の物体に着目し連立方程式を解く解法

思考の道筋とポイント
綱とおもりPを別々の物体として捉え、それぞれについて運動方程式を立てます。綱がおもりPを引く張力と、おもりPが綱を引く力は作用・反作用の関係にあり、同じ大きさです。この張力を未知数として連立方程式を解くことで、加速度を求めます。
この設問における重要なポイント

  • おもりPと綱、それぞれについて運動方程式を立てる。
  • 綱とおもりPの間の張力を \(T\) とおく。
  • 作用・反作用の法則を意識する(Pが綱を引く力も \(T\))。
  • \(2\)つの式を連立させて、張力 \(T\) を消去し加速度 \(a\) を求める。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。綱とおもりPの間の張力を \(T\) とします。

  • おもりP(質量 \(M\))についての運動方程式:
    Pには上向きに張力 \(T\)、下向きに重力 \(Mg\) が働くので、
    $$
    \begin{aligned}
    Ma &= T – Mg \quad \cdots ②
    \end{aligned}
    $$
  • 綱(質量 \(m\))についての運動方程式:
    綱には上向きに外力 \(F\)、下向きに重力 \(mg\)、そして下端でおもりPから引かれる力(張力 \(T\) の反作用)が働くので、
    $$
    \begin{aligned}
    ma &= F – T – mg \quad \cdots ③
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
  • 作用・反作用の法則
計算過程

式②と式③を辺々足し合わせることで、未知数 \(T\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
Ma + ma &= (T – Mg) + (F – T – mg) \\[2.0ex]
(M+m)a &= T – Mg + F – T – mg \\[2.0ex]
(M+m)a &= F – (M+m)g
\end{aligned}
$$
これは主たる解法で立てた式①と全く同じです。したがって、これを解くと、
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{F}{M+m} – g
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

今度は、荷物とロープを別々に見てみましょう。まず「荷物」だけに注目すると、その加速度は「ロープが引く力 – 荷物の重さ」によって決まります。次に「ロープ」だけに注目すると、その加速度は「上の人が引く力 – ロープ自体の重さ – 下の荷物がぶら下がる力」で決まります。荷物とロープの加速度は同じなので、この\(2\)つの式を組み合わせる(足し算する)と、間の力(張力)がうまく消えて、結局、全体を一つのものとして見たときと同じ式が出てきます。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。この解法は、系内部の力(内力)である張力を一度式に登場させますが、最終的には系全体で見たときと同じ結果になることを示しており、物理モデルの整合性を確認できます。

解答 (1) \(a = \displaystyle\frac{F}{M+m} – g\)

問(2)

思考の道筋とポイント
おもりPに働く綱の張力 \(T\) を求めます。今度は、おもりPのみに注目して運動方程式を立てます。
おもりPに働く力は、鉛直上向きに綱からの張力 \(T\) と、鉛直下向きに重力 \(Mg\) です。
おもりPの加速度は、(1)で求めた全体の加速度 \(a\) と同じです。
この設問における重要なポイント

  • 注目する物体はおもりPのみ。
  • Pに働く力は、張力 \(T\) (上向き) と重力 \(Mg\) (下向き)。
  • Pの加速度は \(a\) (問(1)の結果)。
  • 運動方程式 \(Ma = T – Mg\) を立てる。

具体的な解説と立式
おもりP(質量 \(M\))に注目します。
Pに働く力は、鉛直上向きに綱の張力 \(T\)、鉛直下向きに重力 \(Mg\)。
Pの加速度は \(a\)(鉛直上向きを正)。
Pについての運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
Ma &= T – Mg \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$
この式から張力 \(T\) を求めます。(1)で求めた \(a = \displaystyle\frac{F}{M+m} – g\) を代入します。

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
計算過程

式④より、
$$
\begin{aligned}
T &= Ma + Mg \\[2.0ex]
&= M(a+g)
\end{aligned}
$$
ここに、(1)で求めた \(a = \displaystyle\frac{F}{M+m} – g\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= M \left( \left(\frac{F}{M+m} – g\right) + g \right) \\[2.0ex]
&= M \left( \frac{F}{M+m} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{M}{M+m}F
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

荷物Pを引っ張っているロープの付け根の張力を求めます。荷物Pだけに注目しましょう。Pが上に加速していくのは、上向きの張力が下向きの重力よりも大きいからです。その差が、Pを加速させる力になります。運動方程式「Pの質量 × 加速度 = 張力 – Pの重さ」を立て、これを張力について解きます。加速度は(1)で計算済みなので、それを代入すれば張力が求まります。

結論と吟味

Pに働く綱の張力 \(T\) は \(\displaystyle T = \frac{M}{M+m}F\) です。
この結果は、綱とおもり全体を力 \(F\) で引き上げる際に、力 \(F\) が綱とおもりの質量比で分配されておもりを実質的に引き上げていると解釈できます。もし綱の質量 \(m\) が\(0\)ならば \(T=F\) となり、軽い糸の場合の結果と一致します。

別解: 綱に着目する解法

思考の道筋とポイント
張力 \(T\) を求めるために、おもりPではなく、綱に注目します。綱には、上端に外力 \(F\)、下端におもりPから下向きに引かれる力(張力 \(T\) の反作用)、そして綱自身の重力 \(mg\) が働いています。これらの力を使って綱の運動方程式を立て、そこから \(T\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 注目する物体は綱のみ。
  • 綱に働く力は、外力 \(F\) (上向き)、重力 \(mg\) (下向き)、おもりから引かれる力 \(T\) (下向き)。
  • 綱の加速度は \(a\) (問(1)の結果)。
  • 運動方程式 \(ma = F – mg – T\) を立てる。

具体的な解説と立式
綱(質量 \(m\))に注目します。
綱に働く力は、鉛直上向きに外力 \(F\)、鉛直下向きに綱の重力 \(mg\)、そして下端でおもりPから引かれる力 \(T\)。
綱の加速度は \(a\)(鉛直上向きを正)。
綱についての運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
ma &= F – mg – T \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
計算過程

式⑤を \(T\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
T &= F – mg – ma \\[2.0ex]
&= F – m(g+a)
\end{aligned}
$$
ここで、(1)の結果より \(a+g = \displaystyle\frac{F}{M+m}\) なので、これを代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= F – m \left( \frac{F}{M+m} \right) \\[2.0ex]
&= F \left( 1 – \frac{m}{M+m} \right) \\[2.0ex]
&= F \left( \frac{M+m-m}{M+m} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{M}{M+m}F
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

今度はロープの気持ちになってみましょう。ロープは、上から力\(F\)で引っ張られていますが、下には自分の重さと、ぶら下がっている荷物の重さ(に相当する力\(T\))がかかっています。ロープが上に加速するのは、上の力\(F\)が、下向きの力(ロープの重さ+荷物が引く力)よりも大きいからです。この関係を運動方程式で表し、荷物が引く力\(T\)について解くことで、同じ答えが得られます。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。おもりPに着目するか、綱に着目するかという視点の違いだけで、作用・反作用の法則によって両者は同じ答えを導き出します。

解答 (2) \(T = \displaystyle\frac{M}{M+m}F\)

問(3)

思考の道筋とポイント
綱の上端から \(x\) [m] のところでの綱の張力 \(T_x\) を求めます。
この点を境にして、綱を上の部分と下の部分に分けて考えます。
ここでは、綱の上端から長さ \(x\) の部分(質量 \(m_x = m \frac{x}{l}\))に注目します。
この部分に働く力は、上端に加えられる力 \(F\) (上向き)、この部分の重力 \(m_x g\) (下向き)、この部分の下端で、それより下の綱から受ける張力 \(T_x\) (下向き)です。この部分の加速度も全体の加速度 \(a\) と同じです。
この設問における重要なポイント

  • 注目する物体は、綱の上端から長さ \(x\) の部分。
  • この部分の質量は \(m_x = m \frac{x}{l}\) (綱が一様なため)。
  • この部分に働く力: 外力 \(F\) (上向き)、重力 \(m_x g\) (下向き)、下側の綱からの張力 \(T_x\) (下向き)。
  • 加速度は \(a\) (問(1)の結果)。

具体的な解説と立式
綱の上端から長さ \(x\) の部分に注目します。この部分の質量 \(m_x\) は、綱が一様なので長さに比例し、
$$
\begin{aligned}
m_x &= m \cdot \frac{x}{l}
\end{aligned}
$$
となります。
この部分に働く力は、鉛直上向きに外力 \(F\)、鉛直下向きにこの部分の重力 \(\left(m\frac{x}{l}\right)g\)、そして下端で下の部分から引かれる張力 \(T_x\)。
この部分の加速度は \(a\)(鉛直上向きを正)なので、運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
\left(m\frac{x}{l}\right)a &= F – \left(m\frac{x}{l}\right)g – T_x \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(m_{\text{部分}} a = F_{\text{合力}}\)
  • 質量の比例配分
計算過程

式⑥を \(T_x\) について解くと、
$$
\begin{aligned}
T_x &= F – \left(m\frac{x}{l}\right)g – \left(m\frac{x}{l}\right)a \\[2.0ex]
&= F – \left(m\frac{x}{l}\right)(g+a)
\end{aligned}
$$
ここで、(1)の結果より \(g+a = \displaystyle\frac{F}{M+m}\)。これを代入すると、
$$
\begin{aligned}
T_x &= F – \left(m\frac{x}{l}\right) \left(\frac{F}{M+m}\right) \\[2.0ex]
&= F \left(1 – \frac{mx}{l(M+m)}\right)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

綱の途中の張力を知るには、その点で綱を仮想的に切って、上半分か下半分のどちらかに注目します。ここでは上半分に注目しましょう。この「長さ\(x\)の上半分」には、一番上から力\(F\)で引っ張られ、下向きには「上半分自身の重さ」と「下半分がぶら下がっている力(張力\(T_x\))」が働いています。この部分も全体と同じ加速度で動いているので、運動方程式を立てて、未知の張力\(T_x\)について解けば答えが求まります。

結論と吟味

綱の上端から \(x\) のところでの綱の張力 \(T_x\) は \(T_x = F \left(1 – \displaystyle\frac{mx}{l(M+m)}\right)\) です。
\(x=0\) (上端)で \(T_0=F\)、\(x=l\) (下端)で \(T_l = \frac{M}{M+m}F\) となり、(2)の結果と一致します。\(x\) が大きくなる(下に行く)ほど張力は線形に減少し、物理的に妥当です。

別解: 綱の下部分に着目する解法

思考の道筋とポイント
綱の上端から \(x\) の点での張力 \(T_x\) を求めるために、今度はその点より下の部分全体(長さ \(l-x\) の綱とおもりP)に注目します。この部分を一つの系とみなし、運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 注目する物体は、綱の下から長さ \(l-x\) の部分とおもりPを合わせた系。
  • この系の質量は \(M + m\frac{l-x}{l}\)。
  • この系に働く力は、上端の張力 \(T_x\) (上向き)と、系全体の重力 (下向き)。
  • 加速度は \(a\) (問(1)の結果)。

具体的な解説と立式
綱の上端から \(x\) の点より下の部分全体に注目します。
この系の質量 \(M_{\text{下}}\) は、おもりPの質量 \(M\) と、長さ \(l-x\) の綱の質量 \(m\frac{l-x}{l}\) の和です。
$$
\begin{aligned}
M_{\text{下}} &= M + m\frac{l-x}{l}
\end{aligned}
$$
この系に働く力は、鉛直上向きに張力 \(T_x\)、鉛直下向きに系全体の重力 \(M_{\text{下}}g\)。
この系の加速度は \(a\)(鉛直上向きを正)なので、運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
M_{\text{下}} a &= T_x – M_{\text{下}} g \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式: \(m_{\text{系}} a = F_{\text{合力}}\)
計算過程

式⑦を \(T_x\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
T_x &= M_{\text{下}}(a+g) \\[2.0ex]
&= \left( M + m\frac{l-x}{l} \right) (a+g)
\end{aligned}
$$
ここで、\(a+g = \displaystyle\frac{F}{M+m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_x &= \left( M + m\left(1-\frac{x}{l}\right) \right) \frac{F}{M+m} \\[2.0ex]
&= \frac{M l + m(l-x)}{l} \cdot \frac{F}{M+m} \\[2.0ex]
&= \frac{Ml + ml – mx}{l(M+m)} F
\end{aligned}
$$
この結果は、主たる解法の \(T_x = F \left(1 – \frac{mx}{l(M+m)}\right) = F \frac{l(M+m)-mx}{l(M+m)} = F \frac{Ml+ml-mx}{l(M+m)}\) と完全に一致します。

この設問の平易な説明

先ほどは綱の上半分に注目しましたが、今度は下半分とおもりに注目します。この「下半分+おもり」の塊を上に引っ張り上げているのが、ちょうど綱の途中にある張力\(T_x\)です。この塊も全体と同じ加速度で動いているので、運動方程式「(下半分+おもりの)質量 × 加速度 = 上向きの張力Tx – (下半分+おもりの)重さ」を立てます。これをTxについて解けば、同じ答えが得られます。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。綱のどの部分に注目しても、正しく運動方程式を立てれば同じ物理現象を記述できることがわかります。

解答 (3) \(T_x = F \left(1 – \displaystyle\frac{mx}{l(M+m)}\right)\)

問(4)

思考の道筋とポイント
Pが引き上げられ始めてから地上に落下するまでの総時間を求めます。運動は\(2\)つの段階に分かれます。
段階\(1\): 綱につながれて力 \(F=2(M+m)g\) で引き上げられる運動。
段階\(2\): 高さ \(h\) で綱からはずれた後、初速度 \(v_0\)(綱がはずれた瞬間の速度)での投げ上げ運動(その後落下)。

まず、段階\(1\)での加速度 \(a\) を求め、この加速度で高さ \(h\) まで上昇するのにかかる時間 \(t_1\) と、そのときの速度 \(v_0\) を等加速度運動の公式で求めます。
その後、段階\(2\)として、初速度 \(v_0\) で投げ上げられたおもりPが地上(変位 \(-h\))に落下するまでの時間 \(t_2\) を求めます。
総時間は \(t_1 + t_2\) となります。
この設問における重要なポイント

  • 段階\(1\): 等加速度直線運動。加速度を求め、時間と速度を計算。
  • 段階\(2\): 投げ上げ運動(自由落下ではない!)。初速度は段階\(1\)の終わりの速度。鉛直投げ上げの公式を適用。
  • 座標系の設定に注意して変位を考える(特に段階\(2\)で地面に落ちる場合)。

具体的な解説と立式
段階\(1\): 綱につながれて引き上げられる運動
外力 \(F=2(M+m)g\) のとき、(1)で求めた加速度 \(a = \displaystyle\frac{F}{M+m} – g\) は、
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{2(M+m)g}{M+m} – g = 2g – g = g \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$
この加速度 \(g\) で、初速度\(0\)から高さ \(h\) まで上昇するのにかかる時間を \(t_1\) とすると、等加速度運動の公式 \(x = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) より、
$$
\begin{aligned}
h &= 0 \cdot t_1 + \frac{1}{2}gt_1^2 \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$
このときの速度を \(v_0\) とすると、公式 \(v = v_{\text{初}} + at\) より、
$$
\begin{aligned}
v_0 &= 0 + gt_1 \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$

段階\(2\): 綱からはずれた後の運動
綱がはずれた瞬間(高さ \(h\)、初速度 \(v_0\) 上向き)を時刻 \(t=0\) とし、この位置を座標の原点 \(y=0\)、鉛直上向きを正とします。
この後の運動は、初速度 \(v_0\)、加速度 \(-g\) の投げ上げ運動です。
おもりPが地上に落下するとき、そのy座標は \(-h\) となります。落下するまでの時間を \(t_2\) とすると、公式 \(y = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\) より、
$$
\begin{aligned}
-h &= v_0 t_2 + \frac{1}{2}(-g)t_2^2 \quad \cdots ⑪
\end{aligned}
$$
この \(t_2\) についての二次方程式を解き、\(t_2 > 0\) の解を求めます。
求める総時間は \(T_{\text{総}} = t_1 + t_2\)。

使用した物理公式

  • ニュートンの運動方程式 (加速度の計算)
  • 等加速度直線運動: \(x = v_{\text{初}}t + \frac{1}{2}at^2\), \(v = v_{\text{初}} + at\)
計算過程

段階\(1\):
式⑧より加速度 \(a=g\)。
式⑨から \(t_1\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{1}{2}gt_1^2 \\[2.0ex]
t_1^2 &= \frac{2h}{g} \\[2.0ex]
t_1 &= \sqrt{\frac{2h}{g}} \quad (\text{∵} t_1 > 0)
\end{aligned}
$$
式⑩から \(v_0\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v_0 &= g t_1 \\[2.0ex]
&= g \sqrt{\frac{2h}{g}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2gh}
\end{aligned}
$$

段階\(2\):
式⑪を整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}gt_2^2 – v_0 t_2 – h &= 0 \\[2.0ex]
gt_2^2 – 2v_0 t_2 – 2h &= 0
\end{aligned}
$$
これは \(t_2\) についての二次方程式なので、解の公式を用います。
$$
\begin{aligned}
t_2 &= \frac{-(-2v_0) \pm \sqrt{(-2v_0)^2 – 4(g)(-2h)}}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{2v_0 \pm \sqrt{4v_0^2 + 8gh}}{2g} \\[2.0ex]
&= \frac{v_0 \pm \sqrt{v_0^2 + 2gh}}{g}
\end{aligned}
$$
\(t_2 > 0\) なので、正の符号を選びます。ここに \(v_0 = \sqrt{2gh}\) を代入すると、\(v_0^2 = 2gh\)。
$$
\begin{aligned}
t_2 &= \frac{\sqrt{2gh} + \sqrt{2gh + 2gh}}{g} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2gh} + \sqrt{4gh}}{g} \\[2.0ex]
&= \frac{\sqrt{2gh} + 2\sqrt{gh}}{g} \\[2.0ex]
&= (\sqrt{2}+2)\sqrt{\frac{h}{g}}
\end{aligned}
$$

総時間:
$$
\begin{aligned}
T_{\text{総}} &= t_1 + t_2 \\[2.0ex]
&= \sqrt{\frac{2h}{g}} + (\sqrt{2}+2)\sqrt{\frac{h}{g}} \\[2.0ex]
&= \sqrt{2}\sqrt{\frac{h}{g}} + (\sqrt{2}+2)\sqrt{\frac{h}{g}} \\[2.0ex]
&= (2\sqrt{2} + 2)\sqrt{\frac{h}{g}} \\[2.0ex]
&= 2(1+\sqrt{2})\sqrt{\frac{h}{g}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

この問題は、おもりの旅を\(2\)つのパートに分けて考えます。
パート\(1\)は「ロケット噴射で上昇」。綱に引かれて、重力に逆らいながらも力強く加速して高さ\(h\)まで上昇する期間です。この間の加速度、かかった時間、そして高さ\(h\)に達した瞬間のスピードを計算します。
パート\(2\)は「エンジン停止後の慣性飛行」。高さ\(h\)で綱が外れると、おもりはパート\(1\)の最後に得たスピードで、あとは重力に引かれるままに上に放り投げられたボールと同じ運動をします。少し上昇してから、やがて地面に向かって落ちていきます。この、綱が外れてから地面に落ちるまでの時間を計算します。
最後に、パート\(1\)の時間とパート\(2\)の時間を足し合わせれば、おもりが旅を始めてから地面に戻るまでの全時間がわかります。

結論と吟味

Pが引き上げられ始めてから地上に落下するまでの時間は \(T_{\text{総}} = \displaystyle 2(1+\sqrt{2})\sqrt{\frac{h}{g}}\) [s] です。(問題文に単位が記されているため、答えにも単位を付けます。)
各部分の時間は正の値となっており、物理的に妥当です。

解答 (4) \(2(1+\sqrt{2})\sqrt{\displaystyle\frac{h}{g}}\) [s]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動方程式 (\(ma=F\)):
    • 核心: 力学の基本中の基本。注目物体を明確にし、その物体に働く「すべての力」の合力を正しく求め、質量と加速度の関係を記述する。
    • 理解のポイント: この法則を使いこなす鍵は、「注目物体を正しく選ぶ」ことと、「働く力をすべて見つけ出す」ことの2点に尽きます。
  • 系の取り扱い:
    • 核心: 複数の物体が一体となって運動する場合、それらをまとめて一つの「系」として扱い、系全体の質量と系に働く「外力」で運動方程式を立てると、全体の加速度が効率よく求まることがある(問1)。その後、系内部の個々の物体に注目して内力(張力など)を求める(問2)。
    • 理解のポイント: 「系で見る」と内力が相殺されて見えなくなり、「個々で見る」と内力が姿を現す、という視点の切り替えが重要です。
  • 張力の性質:
    • 核心: 質量のある綱の場合、場所によって張力の大きさが異なる(問3)。綱の任意の部分について運動方程式を考えることで、その点での張力が求められる。
    • 理解のポイント: 綱の上の方ほど、より多くの質量(下にある綱の部分+おもり)を支えながら加速させる必要があるため、張力は大きくなります。
  • 運動の変化点の処理:
    • 核心: 外力が変わったり、束縛条件が変わったりする点(問4で綱がはずれる点)で、運動のフェーズを区切り、各フェーズの初期条件(その瞬間の位置と速度)を正しく引き継いで考える。
    • 理解のポイント: 物理状態が変化する瞬間、加速度は不連続に変わることがありますが、位置と速度は連続的に繋がります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • エレベーター内の物体や、連結された物体の運動(運動方程式を連立する)。
    • ロープウェイやクレーンのように、ケーブルで物体を引き上げる・吊り下げる問題。
    • 途中で条件が変わる運動(例:ロケットの噴射終了、パラシュートの展開)。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 注目物体の選定: 何についての運動方程式を立てるのかを明確にする。問題に応じて、個々の物体か、複数の物体をまとめた系かを選ぶ。
    2. 力の徹底的な図示: 注目物体に働く力をすべて(重力、接触力、遠隔力)矢印で図示する。作用点と向きを正確に。
    3. 座標軸の設定: 運動の方向に合わせて座標軸を設定し、力の成分分解や加速度の向きを考える基準とする(通常は運動の向きを正とすると楽)。
    4. 運動方程式の立式: 各物体または系について、設定した座標軸の方向に運動方程式を立てる。未知数(加速度、張力など)の数だけ独立な式が必要になることが多い。
    5. 運動の段階分け: 力の状況や拘束条件が変化する場合は、変化点を境に運動を複数の段階に分け、各段階の初期条件と終状態を関連付ける。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力の図示漏れ・向きの間違い:
    • 誤解: 特に張力や垂直抗力など、物体が他の物体から受ける力を見落とす。
    • 対策: 「物体が受ける力」を常に意識し、接触しているものや繋がっているものから受ける力を系統的に洗い出す習慣をつける。
  • 運動方程式の右辺(合力)の符号ミス:
    • 誤解: 設定した座標軸の正の向きに対して、力の成分の正負を間違える。
    • 対策: 座標軸の正の向きを最初に明確に図示し、各力の成分がその向きなら正、逆向きなら負として機械的に足し合わせる。
  • 綱の質量を無視するか考慮するかの判断ミス:
    • 誤解: いつもの癖で、質量のある綱を軽い糸と同じように扱ってしまう。
    • 対策: 問題文に「質量mの綱」とあれば、その質量を考慮に入れる必要がある。「軽い糸」「質量を無視できる綱」などの記述がない限り、質量は考慮する。
  • (3)綱の途中の張力を求める際の注目物体の設定ミス:
    • 誤解: 綱の一部を考えるとき、その部分の質量や、その部分に働く力を正しく特定できない。
    • 対策: 注目する部分を明確に区切り、その部分の「外から」働く力だけを考える。内部の力は考えない。
  • (4)綱がはずれた後の運動の誤解:
    • 誤解: 綱がはずれたら「自由落下」だと思い込み、初速度を0としてしまう。
    • 対策: 条件が変わる瞬間の「速度」は連続的に引き継がれることを理解する。綱がはずれた瞬間の速度が、次の運動の初速度になる。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 (\(ma=F_{\text{合力}}\)):
    • 選定理由: 物体の運動状態(加速度)と、それに働く力との関係を記述する根幹の法則。どのような運動をしているか(加速度はいくらか)、どんな力が働いているかを分析する際に必ず出発点となる。
    • 適用根拠: 力が働いている物体の加速度を知りたい、あるいは加速度から力を知りたいという、動力学のあらゆる場面で適用される。
  • 質量の比例配分 (問3の \(m_x = m \frac{x}{l}\)):
    • 選定理由: 「一様な」物体の一部分の質量を求めるため。
    • 適用根拠: 密度が一定であるため、質量は体積に比例し、断面積も一定なので、結果として長さに比例するという物理的性質に基づいている。
  • 等加速度直線運動の公式群 (問4):
    • 選定理由: 加速度が一定である運動において、時間、位置、速度の関係を知りたいから。
    • 適用根拠: 運動方程式を解いた結果、加速度が定数になる場合にのみ適用できる。本問では、力が一定なので加速度も一定となる。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: 運動方程式や変位の式で、力の向き、加速度の向き、変位の向きを、設定した座標軸の正方向と照らし合わせて慎重に符号を決める。
    • 日頃の練習: 式を立てる前に、必ず図に座標軸の正の向きを矢印で明記する。
  • 文字の整理:
    • 特に注意すべき点: \(M, m, F, g, l, x, h\) など多くの文字が出てくるので、どの文字が何を表しているか常に意識する。代入の際に式を間違えないように。
    • 日頃の練習: 複雑な式を代入する際は、\(a+g = \frac{F}{M+m}\) のように、計算しやすい塊を作ってから代入するとミスが減る。
  • 二次方程式の解の公式 (問4):
    • 特に注意すべき点: 符号ミスやルートの中の計算ミスに注意。
    • 日頃の練習: 物理的に意味のある解(時間が正など)を選ぶことを常に意識する。負の解が出てきたら、なぜそれが出てきたのかを考えることも理解を深める。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との比較:
    • (2) \(T\): 綱の質量 \(m\) が0なら \(T=F\)。\(m>0\) なら \(T<F\)。これは、力\(F\)の一部は綱自身の加速にも使われるため、おもりを引く力\(T\)は\(F\)より小さくなる、という直感と一致する。
    • (3) \(T_x\): \(x\) が大きくなる(下に行く)ほど張力は小さくなる。これも、支えるべき下の質量が減るため、という直感と合う。
    • (4) \(a=g\) のとき、\(t_1 = \sqrt{2h/g}\), \(v_0=\sqrt{2gh}\)。これは自由落下で \(h\) 落ちる時間と速さと同じ形。物理的なアナロジーを考えることで、式の形に納得感を持つことができる。
  • 極端な場合を考える:
    • もし綱の質量 \(m=0\) なら: (1) \(a = F/M – g\)、(2) \(T=F\)、(3) \(T_x=F\)(どこでも張力はF)。これは軽い糸の場合と一致するか? → 一致する。
    • もしおもりの質量 \(M=0\) なら: (1) \(a = F/m – g\)、(2) \(T=0\)、(3) \(T_x = F(1 – x/l)\)。これは綱だけを引き上げる場合。\(x=l\)で \(T_l=0\)(下端は自由端)。これも物理的に妥当である。
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問題8 (兵庫県立大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、斜面上に置かれた物体Aと、その上に乗った物体C、そして滑車を介して吊り下げられた物体Bからなる系の運動を扱います。運動の途中でCが取り除かれることでAの運動状態が変化する点が特徴的です。運動方程式、力のつり合い、摩擦力などが関わる複合的な問題です。

与えられた条件
  • 物体A: 質量 \(M\)、滑らかな斜面上に置かれる。上面は水平。
  • 物体B: 質量 \(M/2\)、Aと糸で結ばれ滑車を通して吊り下げ。
  • 物体C: Aの上面にのせられる。
  • 初期状態: Aを手で支え、Cをのせてから静かに放すと、AはCをのせたまま加速度 \(a_1 = g/8\) で斜面に沿って滑りおりる。
  • 途中変化: Aが距離 \(l\) だけ進んだとき、CをAの上から取り去る。
  • 変化後: Aはその後一定の速度で滑りおりる。
  • 重力加速度: \(g\)。
問われていること
  1. (1) 斜面が水平面となす角 \(\theta\)。
  2. (2) 加速度運動をしているときの糸の張力 \(T_1\)。
  3. (3) 等速度運動をしているときのAの速さ \(v\)。
  4. (4) 物体Cの質量 \(m_C\)。
  5. (5) 加速度運動をしているとき、CがAに及ぼす鉛直方向の力。
  6. (6) 加速度運動中、CとAの間に滑りを起こさないための最小の静止摩擦係数 \(\mu_s\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(4) 物体Cの質量の別解: 系全体に着目する解法
      • 主たる解法が物体AとCを一体とみなした運動方程式を立てるのに対し、別解では物体A, B, Cのすべてを一つの「系」として捉え、系全体に働く外力(重力のみ)に着目して運動方程式を立てます。
    • 問(5) CがAに及ぼす鉛直方向の力の別解: 斜面に平行・垂直な座標系で解く解法
      • 主たる解法が加速度を水平・鉛直に分解するのに対し、別解では力を斜面に平行・垂直な方向に分解し、Cについての運動方程式を立てます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「系」の取り方を柔軟に変えることで、内力と外力の関係性がより明確になります。特に系全体で見る別解は、張力という内力を計算から排除できる強力な手法であることを示します。
    • 解法の選択肢の拡大: 斜面上の問題では、水平・鉛直座標系と斜面に沿った座標系のどちらを選ぶかで計算の複雑さが変わることがあります。両方のアプローチを学ぶことで、問題に応じて最適な座標系を選択する判断力が養われます。
    • 検算能力の向上: 同じ答えを異なる方法で導出する経験は、計算ミスを発見するための強力な検算ツールとなり得ます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念を段階的に適用していく必要があります。

  • ニュートンの運動方程式: \(m\vec{a} = \vec{F}_{\text{合力}}\)。各物体、あるいは複数の物体を一体とみなした系に対して適用します。
  • 力のつり合い: 物体が等速度運動をしている(または静止している)場合、その物体に働く力の合力は\(0\)です (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\))。
  • 力の図示と成分分解: 物体に働くすべての力を正確に図示し、運動方向や斜面に平行・垂直な方向などに分解することが重要です。
  • 等加速度直線運動の公式: 加速度が一定の場合の速度、変位、時間の関係を表します。
  • 作用・反作用の法則: 物体CがAに及ぼす力と、AがCに及ぼす力は大きさが等しく向きが反対です。
  • 静止摩擦力: 滑りを防ぐ力で、その最大値は \(F_{\text{最大}} = \mu_s N\) です。滑らないためには、実際に働く静止摩擦力がこの最大値以下である必要があります。

問(1)

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