「名問の森」徹底解説(58〜60問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

当ページでは、数式をより見やすく表示するための処理に、少しお時間がかかることがございます。お手数ですが、ページを開いたまま少々お待ちください。

問題58 熱力学 (センター試験+岐阜大+室蘭工大)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問I(2), II(4), Q(4)の別解1: 複合系のエネルギー保存則を用いた解法
      • 模範解答が気体Aと気体Bそれぞれについて第一法則の式を立てて仕事を消去するのに対し、別解1ではAとB(およびピストン)を「一つの系」とみなし、系全体と外部とのエネルギー収支を一発で立式します。
    • 設問Q(4)の別解2: 微積分を用いた体系的解法(微小仕事の積分)
      • 力のつりあい式と微小変位の関係から、系全体が外部に対して行う「微小仕事」を数式的に導出し、それを積分することで有限変化におけるエネルギー保存則を導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 複合系の解法: 未知数である「内部でやり取りされる仕事 \(W\)」を最初から無視できるため、計算量が大幅に減り、計算ミスのリスクを低減できます。
    • 微積分の解法: 複雑な設定(断面積が異なる、大気圧があるなど)においても、「力 \(\times\) 微小距離」という仕事の定義に立ち返ることで、符号や項の過不足なく正確にエネルギー関係式を導く力が身につきます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「連結されたピストンを持つ2室の気体の状態変化」です。
断熱材で囲まれた2つの気体A、Bが、可動ピストンを介して力学的・熱的に相互作用する様子を追跡します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 力のつりあい: ピストンが静止しているとき、ピストンに働く左右の力はつりあっています。連結されている場合、系全体での力のつりあいを考えることが有効です。
  • ボイル・シャルルの法則(理想気体の状態方程式): \(PV/T = \text{一定}\) または \(PV = nRT\) を用いて、圧力、体積、温度の関係を記述します。
  • 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\) (吸収した熱量 = 内部エネルギーの増加 + 外部へした仕事)。特に単原子分子理想気体では \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) となります。
  • 幾何学的拘束条件: ピストンが連結されているため、一方の体積が増えれば、他方の体積は(断面積比に応じて)確定的に減少します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  • (1)~(2)では、断面積が等しい基本的な設定で、力のつりあいと熱のやり取りを確認します。
  • (3)~(5)では、断面積が異なる設定(\(S_B = 2S_A\))において、圧力比や体積変化の比率が変わる点に注意して計算します。
  • 追加問題Qでは、大気圧 \(P_0\) が存在する場合の影響を考察します。大気圧による力が加わることで、つりあいの式や仕事の計算がどう変化するかを見極めます。

パートI:断面積が同じ場合 (\(S_A = S_B = S\))

問I(1)

思考の道筋とポイント
Aの温度を \(T_1\) に上げ、Bの温度を \(T_0\) に保った後の平衡状態を考えます。
ピストンは滑らかに動くので、最終的に静止したとき、AとBの圧力はつりあっています。
また、容器全体の体積は不変なので、Aが膨張した分だけBは圧縮されます。

この設問における重要なポイント

  • 力のつりあい: 断面積が等しいので、\(P_A S = P_B S\) より \(P_A = P_B\) となります。
  • 体積保存: \(V_A + V_B = 2V_0\) です。

具体的な解説と立式
あとのAの圧力を \(P_A\)、体積を \(V_A\) とします。
あとのBの圧力を \(P_B\)、体積を \(V_B\) とします。

まず、ピストンの力のつりあい(右向きの力=左向きの力)より、
$$
\begin{aligned}
P_A S &= P_B S \\[2.0ex]
P_B &= P_A \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、全体の体積は変わらないので、以下の関係が成り立ちます。
$$
\begin{aligned}
V_A + V_B &= 2V_0 \\[2.0ex]
V_B &= 2V_0 – V_A \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
それぞれの気体について、理想気体の状態方程式 \(PV = nRT\) を立てます。物質量は共に \(1\,\text{mol}\) です。
$$
\begin{aligned}
\text{Aについて:} \quad P_A V_A &= R T_1 \quad \cdots ③ \\[2.0ex]
\text{Bについて:} \quad P_B V_B &= R T_0 \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(F_{\text{右}} = F_{\text{左}}\)
  • 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
計算過程

式①、②を式④に代入して、\(P_B\) と \(V_B\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
P_A (2V_0 – V_A) &= R T_0 \quad \cdots ④’
\end{aligned}
$$
式③より \(P_A = \displaystyle\frac{R T_1}{V_A}\) なので、これを式④’に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{R T_1}{V_A} (2V_0 – V_A) &= R T_0
\end{aligned}
$$
両辺を \(R\) で割り、整理します。
$$
\begin{aligned}
T_1 (2V_0 – V_A) &= T_0 V_A \\[2.0ex]
2 T_1 V_0 – T_1 V_A &= T_0 V_A \\[2.0ex]
(T_0 + T_1) V_A &= 2 T_1 V_0 \\[2.0ex]
V_A &= \frac{2 T_1}{T_0 + T_1} V_0
\end{aligned}
$$
次に、求めた \(V_A\) を式③に代入して \(P_A\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
P_A &= \frac{R T_1}{V_A} \\[2.0ex]
&= \frac{R T_1}{\frac{2 T_1}{T_0 + T_1} V_0} \\[2.0ex]
&= \frac{R T_1 (T_0 + T_1)}{2 T_1 V_0} \\[2.0ex]
&= \frac{R (T_0 + T_1)}{2 V_0}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

温度が上がったAは膨張しようとし、温度が変わらないBを押します。
最終的に圧力が等しくなる位置でピストンは止まります。
「圧力等しい」「体積の合計は一定」という条件と、それぞれの状態方程式を連立させることで、未知の体積と圧力を特定しました。

結論と吟味

\(V_A = \displaystyle\frac{2 T_1}{T_0 + T_1} V_0\) について、もし \(T_1 = T_0\) ならば \(V_A = V_0\) となり、変化しないため妥当です。\(T_1 > T_0\) ならば \(V_A > V_0\) となり、温度が高い方が体積が増えるという直感と一致します。
\(P_A = \displaystyle\frac{R (T_0 + T_1)}{2 V_0}\) について、全体の平均温度のような形になっており、温度上昇に伴い圧力が増加することがわかります。

解答 (1) \(V_A = \displaystyle\frac{2 T_1}{T_0 + T_1} V_0, \quad P_A = \displaystyle\frac{R (T_0 + T_1)}{2 V_0}\)

問I(2)

思考の道筋とポイント
熱量のやり取りを問われているので、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W\) を使います。
Aは膨張して仕事をし、Bは圧縮されて仕事をされます。
ピストンがなめらかに動くので、Aがした仕事 \(W\) とBがされた仕事 \(W’\) は等しくなります(\(W = W’\))。

この設問における重要なポイント

  • 内部エネルギーの変化: 単原子分子なので \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) です。
  • 仕事の連鎖: Aの気体がピストンを押してした仕事は、そのままBの気体を圧縮する仕事に使われます。

具体的な解説と立式
Aが外部(B側)にした仕事を \(W\) とします。
Bは外部(A側)から仕事をされるので、Bがした仕事は \(-W\) となります。
A、Bそれぞれについて熱力学第一法則を立てます。

Aについて(吸収熱 \(Q_\alpha\)):
$$
\begin{aligned}
Q_\alpha &= \Delta U_A + W \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} R (T_1 – T_0) + W \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
Bについて(放出熱 \(Q_\beta\) なので、吸収熱は \(-Q_\beta\)):
$$
\begin{aligned}
-Q_\beta &= \Delta U_B + (-W) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} R (T_0 – T_0) – W \\[2.0ex]
&= 0 – W \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$
※Bの温度は \(T_0\) で一定なので \(\Delta U_B = 0\) です。

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則: \(Q_{\text{入}} = \Delta U + W_{\text{出}}\)
  • 単原子分子理想気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
計算過程

式⑥より、以下の関係が得られます。
$$
\begin{aligned}
W &= Q_\beta
\end{aligned}
$$
これを式⑤に代入して \(W\) を消去し、\(Q_\beta\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
Q_\alpha &= \frac{3}{2} R (T_1 – T_0) + Q_\beta \\[2.0ex]
Q_\beta &= Q_\alpha – \frac{3}{2} R (T_1 – T_0)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

Aに加えられた熱エネルギー \(Q_\alpha\) は、一部がA自身の温度上昇(内部エネルギー増加)に使われ、残りがピストンを押す仕事としてBに伝わりました。
Bはその仕事を受け取りましたが、温度を一定に保つ(内部エネルギーを変えない)ために、受け取ったエネルギーをすべて熱 \(Q_\beta\) として外に捨てました。
つまり、「捨てた熱 \(Q_\beta\)」=「もらった仕事」=「\(Q_\alpha\) からAの温度上昇分を引いた残り」となります。

結論と吟味

\(Q_\beta = Q_\alpha – \frac{3}{2} R (T_1 – T_0)\) です。
Aの温度上昇に必要なエネルギー分だけ、Bに伝わるエネルギーが減っていることがわかります。

解答 (2) \(Q_\beta = Q_\alpha – \displaystyle\frac{3}{2} R (T_1 – T_0)\)
別解: 複合系のエネルギー保存則を用いた解法

思考の道筋とポイント
AとBをまとめて一つの「系」とみなします。
ピストンは系内部の部品であり、AとBの間でやり取りされる仕事 \(W\) は「内部仕事」として相殺されます。
系全体に入ってきた熱と、系全体の内部エネルギー変化の関係に注目します。

この設問における重要なポイント

  • 系全体の第一法則: \(Q_{\text{全}} = \Delta U_{\text{全}} + W_{\text{全}}\)
  • 外部との仕事: 容器全体は固定されており体積が変わらないため、外部への仕事は \(0\) です。

具体的な解説と立式
系全体(A+B)に対して熱力学第一法則を適用します。
系に入った正味の熱量は \(Q_\alpha – Q_\beta\) です。
系全体の内部エネルギー変化は \(\Delta U_A + \Delta U_B\) です。
外部への仕事は \(0\) です。
$$
\begin{aligned}
(\text{正味の吸熱}) &= (\text{内部エネルギー増加}) + (\text{外部への仕事}) \\[2.0ex]
Q_\alpha – Q_\beta &= (\Delta U_A + \Delta U_B) + 0
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則(系全体): \(Q_{\text{正味}} = \Delta U_{\text{全}} + W_{\text{外}}\)
計算過程

各項を代入します。
$$
\begin{aligned}
Q_\alpha – Q_\beta &= \frac{3}{2} R (T_1 – T_0) + \frac{3}{2} R (T_0 – T_0) \\[2.0ex]
Q_\alpha – Q_\beta &= \frac{3}{2} R (T_1 – T_0)
\end{aligned}
$$
これを \(Q_\beta\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
Q_\beta &= Q_\alpha – \frac{3}{2} R (T_1 – T_0)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

AとBを一つの箱と考えれば、外から \(Q_\alpha\) の熱が入り、\(Q_\beta\) の熱が出ていきました。
その差額が、箱の中(AとB)のエネルギー増加分になっています。
仕事 \(W\) の計算を完全にスキップできるため、非常に効率的です。

結論と吟味

メインの解法と全く同じ結果が得られました。

解答 (2) \(Q_\beta = Q_\alpha – \displaystyle\frac{3}{2} R (T_1 – T_0)\)

パートII:断面積が異なる場合 (\(S_B = 2S_A\))

ここからは、Bの断面積がAの2倍(\(S_B = 2S_A\))である設定に変わります。
初期状態では、Aの体積は \(V_0\)、温度は \(T_0\) です。
Bの初期体積については問(3)で求めます。

問II(3)

思考の道筋とポイント
「初めの」状態について考えます。
ピストンは静止しており、温度はA、Bともに \(T_0\) です。
断面積が違うため、力のつりあいの式において圧力は等しくなりません。

この設問における重要なポイント

  • 力のつりあい(面積差): \(F = PS\) より、力がつりあっていても、面積が違えば圧力は逆比になります。
  • 初期状態の特定: Aの状態は \((P_A, V_0, T_0)\)、Bの状態は \((P_B, V_B, T_0)\) です。

具体的な解説と立式
初めのAの圧力を \(p_A\)、Bの圧力を \(p_B\) とします。
Aの断面積を \(S\) とすると、Bの断面積は \(2S\) です。
ピストンの力のつりあい(右向きの力=左向きの力)より、
$$
\begin{aligned}
p_A S &= p_B (2S) \\[2.0ex]
p_A &= 2 p_B \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
それぞれの気体について状態方程式を立てます。初めのBの体積を \(V_{B0}\) とします。
$$
\begin{aligned}
\text{Aについて:} \quad p_A V_0 &= R T_0 \quad \cdots ⑧ \\[2.0ex]
\text{Bについて:} \quad p_B V_{B0} &= R T_0 \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(P_A S_A = P_B S_B\)
  • 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
計算過程

式⑧と式⑨の右辺は共に \(R T_0\) で等しいので、左辺同士を等置します。
$$
\begin{aligned}
p_A V_0 &= p_B V_{B0}
\end{aligned}
$$
これに式⑦ \(p_A = 2 p_B\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
(2 p_B) V_0 &= p_B V_{B0}
\end{aligned}
$$
両辺を \(p_B\) で割ります(\(p_B \neq 0\))。
$$
\begin{aligned}
2 V_0 &= V_{B0} \\[2.0ex]
V_{B0} &= 2 V_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

BのピストンはAの2倍の面積があります。
力がつりあうためには、Bの圧力はAの半分で済みます(\(P_B = P_A/2\))。
温度が同じで圧力が半分なら、体積は2倍になるはずです(ボイルの法則的思考)。

結論と吟味

\(2V_0\) という結果は、断面積が2倍で圧力が半分であることから直感的にも妥当です。

解答 (3) \(2V_0\)

問II(4)

思考の道筋とポイント
変化の過程:
1. \(\beta\) とBの熱交換を断つ \(\rightarrow\) Bは断熱変化をする(\(Q_B = 0\))。
2. \(\alpha\) だけ働かせてAを加熱 \(\rightarrow\) Aは熱 \(q\) を吸収。
3. 最終的にAは \(T_1\)、Bは \(T_2\) になった。

Aが放出した熱量 \(q\)(=Aが吸収した熱量)を求めます。
ここでも熱力学第一法則を使いますが、断面積が違うため、Aがした仕事とBがされた仕事の関係に注意が必要です。

この設問における重要なポイント

  • 仕事の伝達: ピストンは一体となって動くので、移動距離 \(l\) は共通です。しかし、断面積が違うため、仕事 \(W = F l\) は等しくなりますが、\(P \Delta V\) で考えると複雑になります。ここでは「力がつりあっている」と仮定して(準静的変化)、仕事の関係を導きます。
  • 力のつりあいと仕事: 常に \(P_A S = P_B (2S)\) が成り立つならば、Aがする仕事 \(W_A = \int P_A S dx\) と、Bがされる仕事 \(W_B = \int P_B (2S) dx\) は等しくなります。

具体的な解説と立式
Aが気体B(ピストン)に対してした仕事を \(W’\) とします。
Bは断熱変化を行い、ピストンから仕事をされます。
常に \((\text{Aの力}) = (\text{Bの力})\) が保たれて移動したとすると、作用・反作用の法則(および移動距離が同じこと)より、
$$
\begin{aligned}
(\text{Aがした仕事}) &= (\text{Bがされた仕事}) \\[2.0ex]
W’ &= W’
\end{aligned}
$$
となります。
A、Bそれぞれについて熱力学第一法則を立てます。

Aについて(吸熱 \(q\)):
$$
\begin{aligned}
q &= \Delta U_A + W’ \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} R (T_1 – T_0) + W’ \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$
Bについて(断熱 \(Q=0\)、仕事される):
$$
\begin{aligned}
0 &= \Delta U_B + (-W’) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} R (T_2 – T_0) – W’ \quad \cdots ⑪
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
計算過程

式⑪より、以下の関係が得られます。
$$
\begin{aligned}
W’ &= \frac{3}{2} R (T_2 – T_0)
\end{aligned}
$$
これを式⑩に代入します。
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{3}{2} R (T_1 – T_0) + \frac{3}{2} R (T_2 – T_0) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} R (T_1 + T_2 – 2T_0)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

Aに加えられた熱 \(q\) は、A自身の温度を上げることに使われ、残りは仕事としてBに渡されました。
Bは断熱されているので、渡された仕事エネルギーをすべて自分の温度上昇に使いました。
結局、熱 \(q\) は「AとB両方の温度を上げるためのエネルギー」として使われたことになります。

結論と吟味

\(q = \frac{3}{2} R (T_1 – T_0) + \frac{3}{2} R (T_2 – T_0)\) という形になっており、系全体の内部エネルギー増加と一致しています。これは外部への仕事がないため妥当です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{3}{2} R (T_1 + T_2 – 2T_0)\)
別解: 複合系のエネルギー保存則を用いた解法

思考の道筋とポイント
問(2)と同様に、AとBを一つの系とみなします。
断面積が違っても、容器全体の外壁は固定されており、外部に対して体積変化による仕事をしません。
したがって、外部とのエネルギーのやり取りは、ヒーター \(\alpha\) からの熱 \(q\) のみです。

この設問における重要なポイント

  • 系全体の第一法則: \(Q_{\text{全}} = \Delta U_{\text{全}} + W_{\text{外}}\)
  • 外部仕事ゼロ: 容器全体は動かないため、外部への仕事は \(0\) です。

具体的な解説と立式
系全体(A+B)のエネルギー保存則より、
$$
\begin{aligned}
(\text{入ってきた熱}) &= (\text{全体の内部エネルギー増加}) + (\text{外部への仕事}) \\[2.0ex]
q &= (\Delta U_A + \Delta U_B) + 0
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則(系全体): \(Q_{\text{正味}} = \Delta U_{\text{全}} + W_{\text{外}}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
q &= \frac{3}{2} R (T_1 – T_0) + \frac{3}{2} R (T_2 – T_0) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} R (T_1 + T_2 – 2T_0)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

断面積が違おうが、ピストンがどう動こうが、外から見れば「閉じた箱に熱 \(q\) を入れた」だけです。
その熱はどこにも逃げず、中の気体AとBのエネルギーになりました。
この視点を持てば、計算は一瞬で終わります。

結論と吟味

メイン解法と同じ結果が得られました。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{3}{2} R (T_1 + T_2 – 2T_0)\)

問II(5)

思考の道筋とポイント
あとのAの体積 \(V_1\) を求めます。
未知数は、あとの圧力 \(p\)(A側)と \(V_1\) です。
条件は以下の通りです。
1. 力のつりあい: \(p S = p_B (2S)\) (\(p_B\) はあとのBの圧力)
2. 幾何学的拘束: Aの体積が増えた分、ピストンが移動し、Bの体積が減ります。ただし断面積が違うので、体積変化量は等しくありません。
3. 状態方程式: A(温度 \(T_1\))、B(温度 \(T_2\))それぞれで成り立ちます。

この設問における重要なポイント

  • 体積変化の連動: ピストンの移動距離を \(l\) とすると、Aの体積増加は \(\Delta V_A = Sl\)、Bの体積減少は \(\Delta V_B = 2Sl\) です。つまり、Bの体積減少量はAの増加量の2倍です。
    • \(\Delta V_B = 2 \Delta V_A\)
    • \(V_B = (\text{初めの}V_B) – 2(V_1 – V_0) = 2V_0 – 2(V_1 – V_0)\)

具体的な解説と立式
あとのAの圧力を \(p\) とします。
力のつりあいより、あとのBの圧力 \(p_B\) は \(p_B = \frac{1}{2}p\) となります。
あとのAの体積は \(V_1\) なので、体積増加量は \(V_1 – V_0\) です。
Bの断面積はAの2倍なので、Bの体積減少量は \(2(V_1 – V_0)\) となります。
よって、あとのBの体積 \(V_B’\) は、
$$
\begin{aligned}
V_B’ &= (\text{初めの}V_B) – 2(V_1 – V_0) \\[2.0ex]
&= 2V_0 – 2(V_1 – V_0) \quad \cdots ⑫
\end{aligned}
$$
それぞれの気体について、あとの状態で状態方程式を立てます。
$$
\begin{aligned}
\text{Aについて:} \quad p V_1 &= R T_1 \quad \cdots ⑬ \\[2.0ex]
\text{Bについて:} \quad \frac{1}{2}p \cdot V_B’ &= R T_2 \quad \cdots ⑭
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(p_A S_A = p_B S_B\)
  • 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
計算過程

式⑬より \(p = \displaystyle\frac{R T_1}{V_1}\) です。これを式⑭に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} \left( \frac{R T_1}{V_1} \right) \{ 2V_0 – 2(V_1 – V_0) \} &= R T_2
\end{aligned}
$$
両辺の \(R\) を消去し、左辺の係数を整理します。
$$
\begin{aligned}
\frac{T_1}{2 V_1} \cdot 2 \{ V_0 – (V_1 – V_0) \} &= T_2 \\[2.0ex]
\frac{T_1}{V_1} (2V_0 – V_1) &= T_2
\end{aligned}
$$
分母の \(V_1\) を払って展開します。
$$
\begin{aligned}
T_1 (2V_0 – V_1) &= T_2 V_1 \\[2.0ex]
2 T_1 V_0 – T_1 V_1 &= T_2 V_1 \\[2.0ex]
(T_1 + T_2) V_1 &= 2 T_1 V_0 \\[2.0ex]
V_1 &= \frac{2 T_1}{T_1 + T_2} V_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

Aが膨らむとBは縮みますが、Bの方が太いので、Aが少し膨らむだけでBはたくさん体積が減ります。
この「体積の減り方のルール」と、それぞれの温度での圧力・体積の関係(状態方程式)を組み合わせることで、最終的な体積を求めました。

結論と吟味

\(V_1 = \displaystyle\frac{2 T_1}{T_1 + T_2} V_0\) です。
もし \(T_1 = T_2 = T_0\) ならば \(V_1 = V_0\) となり、変化しません。
\(T_1\) が大きくなれば \(V_1\) も大きくなる傾向があり、妥当です。

解答 (5) \(V_1 = \displaystyle\frac{2 T_1}{T_1 + T_2} V_0\)

追加問題Q:大気圧 \(P_0\) がある場合

装置全体が大気圧 \(P_0\) の中に置かれている場合を考えます。
大気圧は、ピストンの「気体が入っていない側の面」を押します。

問Q(1)(2)

思考の道筋とポイント
断面積が等しい場合(\(S_A = S_B = S\))を考えます。
(1) 力のつりあい:
Aのピストンには、内側から \(P_A S\)、外側から \(P_0 S\) と棒の力が働きます。
Bのピストンには、内側から \(P_B S\)、外側から \(P_0 S\) と棒の力が働きます。
左右対称に大気圧がかかるため、大気圧の影響はキャンセルされます。
(2) 熱量:
Aが膨張するとき大気を押し、Bが圧縮されるとき大気に押されます。
移動距離と断面積が同じなら、大気に対してする仕事と大気からされる仕事は相殺されます。

この設問における重要なポイント

  • 大気圧のキャンセル: 断面積が等しい場合、大気圧による力は左右で等しく、つりあいに影響しません。
  • 仕事のキャンセル: 体積変化の絶対値が等しい場合、大気に対する正味の仕事はゼロです。

具体的な解説と立式
(1)について
力のつりあいを考えます。右向きを正とします。
$$
\begin{aligned}
(\text{Aの気体の力}) + (\text{B側からの大気圧}) &= (\text{Bの気体の力}) + (\text{A側からの大気圧}) \\[2.0ex]
P_A S + P_0 S &= P_B S + P_0 S \\[2.0ex]
P_A &= P_B
\end{aligned}
$$
これは大気圧がない場合と同じ式です。よって答えは変わりません。

(2)について
系全体で考えます。
Aの体積が増え(\(+\Delta V\))、Bの体積が減り(\(-\Delta V\))ます。
大気に対してする仕事 \(W_{\text{大気}}\) は、
$$
\begin{aligned}
W_{\text{大気}} &= P_0 \Delta V + P_0 (-\Delta V) \\[2.0ex]
&= 0
\end{aligned}
$$
外部への仕事はゼロなので、エネルギー収支も変わりません。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(F_{\text{右}} = F_{\text{左}}\)
  • 仕事: \(W = P \Delta V\)
計算過程

上記の通り、大気圧の項が消去されるため、計算結果は問I(1)(2)と同一になります。

この設問の平易な説明

ピストンの両側から同じ大気圧がかかっているので、力としては打ち消し合っています。
また、Aが膨らんで大気を押した分だけ、Bが縮んで大気に押されているので、エネルギーの貸し借りもチャラになります。
だから、大気圧がない時と同じ答えになります。

結論と吟味

大気圧の影響が完全に相殺されるため、答えが変わらないことは物理的に妥当です。

解答 Q(1)(2) (1), (2) ともに答えは変わらない。

問Q(3)

思考の道筋とポイント
断面積が異なる場合(\(S_B = 2S_A = 2S\))の初期状態を考えます。
大気圧 \(P_0\) がピストンを押す力は、面積に比例するため、左右でキャンセルされません。
具体的には、Bのピストン(面積 \(2S\))を押す大気の力の方が、Aのピストン(面積 \(S\))を押す力より大きくなります。

この設問における重要なポイント

  • 力のつりあい(大気圧あり):
    • 右向きの力: Aの気体圧力 \(p_A S\) + Bのピストン左面を押す大気圧 \(P_0 (2S)\)
    • 左向きの力: Bの気体圧力 \(p_B (2S)\) + Aのピストン右面を押す大気圧 \(P_0 S\)
    • ※図の構造上、大気は「容器の外側」からピストンを押します。

具体的な解説と立式
初めのAの圧力を \(p_A\)、Bの圧力を \(p_B\) とします。
ピストン全体(Aのピストン+棒+Bのピストン)にはたらく力のつりあいを立てます。
$$
\begin{aligned}
(\text{右向きの力の和}) &= (\text{左向きの力の和}) \\[2.0ex]
p_A S + P_0 (2S) &= p_B (2S) + P_0 S
\end{aligned}
$$
これを整理して \(p_B\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
p_B (2S) &= p_A S + P_0 S \\[2.0ex]
2 p_B &= p_A + P_0 \\[2.0ex]
p_B &= \frac{1}{2} (p_A + P_0) \quad \cdots ⑮
\end{aligned}
$$
状態方程式は問(3)と同じです。
$$
\begin{aligned}
p_A V_0 &= R T_0 \quad \cdots ⑯ \\[2.0ex]
p_B V_{B0} &= R T_0 \quad \cdots ⑰
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(F_{\text{右}} = F_{\text{左}}\)
  • 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
計算過程

式⑯より \(p_A = \frac{RT_0}{V_0}\)、式⑰より \(p_B = \frac{RT_0}{V_{B0}}\) です。
これらを式⑮に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{RT_0}{V_{B0}} &= \frac{1}{2} \left( \frac{RT_0}{V_0} + P_0 \right)
\end{aligned}
$$
これを \(V_{B0}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{V_{B0}} &= \frac{1}{2RT_0} \left( \frac{RT_0 + P_0 V_0}{V_0} \right) \\[2.0ex]
V_{B0} &= \frac{2RT_0 V_0}{RT_0 + P_0 V_0} \\[2.0ex]
&= \frac{2RT_0}{RT_0 + P_0 V_0} V_0
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

大気圧が加わったことで、力のバランスが変わりました。
Bのピストンの方が面積が大きいため、大気圧は「全体を左に押す」効果(\(P_0(2S) – P_0 S = P_0 S\) の差分)を持ちます。
その分、Bの中の気体圧力 \(p_B\) は、大気圧がない時よりも小さくて済みます(あるいは \(p_A\) が大きくなる必要があります)。
この新しいバランスに基づいて計算すると、Bの初期体積は \(2V_0\) よりも小さくなることがわかります。

結論と吟味

答えは \(\displaystyle V_{B0} = \frac{2RT_0 V_0}{RT_0 + P_0 V_0}\) です。
\(P_0 = 0\) とすると \(2V_0\) になり、問(3)の結果と一致します。

解答 Q(3) \(\displaystyle\frac{2RT_0 V_0}{RT_0 + P_0 V_0}\)

問Q(4)

思考の道筋とポイント
Aが放出した熱量 \(q\) を求めます。
大気圧があるため、系全体が膨張(または収縮)する際、大気に対して仕事をします。
具体的には、Aの体積が増え、Bの体積が減りますが、Bの減少量の方が大きいため、全体としては体積が減り、大気から仕事をされる形になります。

この設問における重要なポイント

  • 大気がする仕事:
    • Aの体積増加 \(V_1 – V_0\) \(\rightarrow\) 大気を押す(仕事をする)。
    • Bの体積減少 \(2(V_1 – V_0)\) \(\rightarrow\) 大気に押される(仕事をされる)。
    • 差し引きで、大気が系に対して仕事をしてくれます。

具体的な解説と立式
Aの体積変化を \(\Delta V_A = V_1 – V_0\) とします。
Bの体積変化は \(\Delta V_B = -2(V_1 – V_0) = -2\Delta V_A\) です。
Aがした仕事を \(W_A\)、Bがされた仕事を \(W_B\) とします。
力のつりあい式 \(p_A S + P_0 S = p_B (2S)\) より、微小移動距離 \(\Delta x\) に対して、
$$
\begin{aligned}
(p_A S)\Delta x + (P_0 S)\Delta x &= (p_B 2S)\Delta x \\[2.0ex]
W_A + P_0 \Delta V_A &= W_B
\end{aligned}
$$
の関係があります(\(W_B\) はBが気体から受ける仕事ではなく、Bの気体がピストンにする仕事 \(p_B \Delta V_B\) の大きさ)。
ここでは、模範解答に倣い、個別の第一法則を立てて \(W_1\)(Aがした仕事)を消去します。

Aについて(吸熱 \(q\)):
$$
\begin{aligned}
q &= \Delta U_A + W_1 \quad \cdots ⑱
\end{aligned}
$$
Bについて(断熱、仕事 \(W_2\) される):
Bがされる仕事 \(W_2\) は、Aがした仕事 \(W_1\) に、大気圧による仕事の差分を加えたものです。
ピストンが距離 \(l\) 動いたとすると、
$$
\begin{aligned}
W_1 &= (\text{Aの気体の力}) \times l = p_A S l \\[2.0ex]
W_2 &= (\text{Bの気体がされた仕事}) = p_B (2S) l
\end{aligned}
$$
力のつりあい \(p_B (2S) = p_A S + P_0 S\) より、両辺に \(l\) を掛けて、
$$
\begin{aligned}
p_B (2S) l &= p_A S l + P_0 S l \\[2.0ex]
W_2 &= W_1 + P_0 (S l)
\end{aligned}
$$
ここで \(Sl = V_1 – V_0\) なので、
$$
\begin{aligned}
W_2 &= W_1 + P_0 (V_1 – V_0)
\end{aligned}
$$
Bの第一法則:
$$
\begin{aligned}
0 &= \Delta U_B – W_2 \\[2.0ex]
&= \Delta U_B – \{ W_1 + P_0 (V_1 – V_0) \} \quad \cdots ⑲
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\)
  • 仕事の関係式: \(W_2 = W_1 + P_0 \Delta V\)
計算過程

式⑲より、以下の関係が得られます。
$$
\begin{aligned}
W_1 &= \Delta U_B – P_0 (V_1 – V_0)
\end{aligned}
$$
これを式⑱に代入します。
$$
\begin{aligned}
q &= \Delta U_A + \{ \Delta U_B – P_0 (V_1 – V_0) \} \\[2.0ex]
&= \Delta U_A + \Delta U_B – P_0 (V_1 – V_0)
\end{aligned}
$$
各項を代入します。
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{3}{2} R (T_1 – T_0) + \frac{3}{2} R (T_2 – T_0) – P_0 (V_1 – V_0) \\[2.0ex]
&= \frac{3}{2} R (T_1 + T_2 – 2T_0) – P_0 (V_1 – V_0)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

大気圧があるため、ピストンが動くと大気も仕事をします。
全体として体積が減る(Bの減少が大きい)ため、大気がピストンを押し込んで「仕事をしてくれた」形になります。
その分、ヒーターから供給しなければならない熱 \(q\) は少なくて済みます。
式の結果も、大気圧がない場合の答えから \(P_0(V_1 – V_0)\) を引いた形になっています。

結論と吟味

\(q = \frac{3}{2} R (T_1 + T_2 – 2T_0) – P_0 (V_1 – V_0)\) です。
大気からのエネルギー供給があるため、必要な熱量が減少しており、物理的に妥当です。

解答 Q(4) \(\displaystyle\frac{3}{2} R (T_1 + T_2 – 2T_0) – P_0 (V_1 – V_0)\)
別解: 微積分を用いた体系的解法(微小仕事の積分)

思考の道筋とポイント
系全体(A+B)が外部(大気)に対して行う仕事を、微小変化の積み重ねとして計算します。
力のつりあい式を出発点とし、微小変位 \(dx\) に伴う仕事 \(dW\) を定式化し、それを積分することで、有限変化におけるエネルギー収支を導きます。

この設問における重要なポイント

  • 微小仕事の定義: 気体が外部にする仕事は \(dW = P dV\) です。
  • 複合系の仕事: 系全体が外部にする仕事 \(dW_{\text{全}}\) は、Aがする仕事とBがする仕事の和です。
  • 幾何学的拘束: \(dV_B = -2 dV_A\) の関係を用います。

具体的な解説と立式
Aの体積変化を \(dV_A\)、Bの体積変化を \(dV_B\) とします。
ピストンが右に \(dx\) 動いたとき、\(dV_A = S dx\)、\(dV_B = -2S dx\) です。
系全体が外部(大気およびピストン)に対して行う微小仕事 \(d’W_{\text{系}}\) は、
$$
\begin{aligned}
d’W_{\text{系}} &= P_A dV_A + P_B dV_B
\end{aligned}
$$
ここで、力のつりあい式 \(P_A S + P_0 S = P_B (2S)\) を変形します。
$$
\begin{aligned}
P_A S – 2 P_B S &= – P_0 S
\end{aligned}
$$
この左辺は、\(dx\) を掛けると仕事の形になります。
$$
\begin{aligned}
(P_A S – 2 P_B S) dx &= – P_0 S dx
\end{aligned}
$$
左辺を変形します。\(S dx = dV_A\)、\(-2S dx = dV_B\) なので、
$$
\begin{aligned}
P_A (S dx) + P_B (-2S dx) &= – P_0 (S dx) \\[2.0ex]
P_A dV_A + P_B dV_B &= – P_0 dV_A
\end{aligned}
$$
よって、系がする微小仕事は以下のようになります。
$$
\begin{aligned}
d’W_{\text{系}} &= – P_0 dV_A
\end{aligned}
$$
熱力学第一法則(微分形)は \(d’Q = dU_{\text{全}} + d’W_{\text{系}}\) です。
$$
\begin{aligned}
d’q &= d(U_A + U_B) – P_0 dV_A
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 仕事の定義: \(dW = P dV\)
  • 熱力学第一法則(微分形): \(dQ = dU + dW\)
計算過程

上記の微分形の式を、始状態から終状態まで積分します。
$$
\begin{aligned}
\int d’q &= \int d(U_A + U_B) – \int P_0 dV_A \\[2.0ex]
q &= \Delta (U_A + U_B) – P_0 \Delta V_A
\end{aligned}
$$
ここで、\(\Delta (U_A + U_B) = \frac{3}{2}R(T_1 – T_0) + \frac{3}{2}R(T_2 – T_0)\)、\(\Delta V_A = V_1 – V_0\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
q &= \frac{3}{2} R (T_1 + T_2 – 2T_0) – P_0 (V_1 – V_0)
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

「力のつりあい」という静的な関係式に、微小な動き \(dx\) を掛け合わせることで、「仕事のつりあい」の式を作りました。
これを積分すると、「エネルギーのつりあい」の式になります。
結果として、「系全体が外部にした仕事は、大気圧に逆らってAの体積が増えた分(負の仕事)だけである」ということが数学的に導かれました。

結論と吟味

微積分を用いることで、仕事 \(W_1, W_2\) を個別に計算することなく、系全体の体積変化のみから直接エネルギー収支を導くことができました。結果は当然一致します。

解答 Q(4) \(\displaystyle\frac{3}{2} R (T_1 + T_2 – 2T_0) – P_0 (V_1 – V_0)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつりあいと幾何学的拘束の連動
    • 核心: 連結されたピストン問題では、「力のつりあい」と「体積変化の幾何学的関係」が常にセットになります。特に断面積が異なる場合、圧力は面積の逆比(\(P_A S_A = P_B S_B\))になり、体積変化量は面積比(\(\Delta V_B = – \frac{S_B}{S_A} \Delta V_A\))になるという「逆の関係」を正確に把握することが不可欠です。
    • 理解のポイント:
      • 静力学的視点: ピストンが静止しているなら、左右の力(圧力 \(\times\) 面積)は必ずつりあっています。
      • 幾何学的視点: ピストンは剛体なので、移動距離 \(l\) は共通です。ここから \(\Delta V = Sl\) を用いて体積変化を結びつけます。
  • 複合系におけるエネルギー保存則
    • 核心: 複数の気体が相互作用する場合、個別に第一法則を立てるよりも、全体を一つの系とみなす方が計算が劇的に簡単になります。内部でやり取りされる仕事(作用・反作用)は相殺され、外部との熱・仕事のやり取りだけに着目すれば良くなるからです。
    • 理解のポイント:
      • 系の境界: どこまでを「内側」とみなすかを明確にします。今回はAとBとピストンをまとめて「系」としました。
      • 外部仕事: 系全体の体積が変わらない(外壁が動かない)場合、外部への仕事は \(0\) です。大気圧がある場合は、大気との境界の移動分だけ仕事が発生します。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばね付きピストン: ピストンにばねが付いている場合、力のつりあいに弾性力 \(kx\) が加わります。エネルギー保存則では弾性エネルギー \(\frac{1}{2}kx^2\) を考慮するだけで、基本的な枠組みは今回の「複合系」のアプローチと同じです。
    • シリンダーが動く問題: ピストンではなく容器自体が動く場合も、相対的な位置関係と力のつりあいに着目すれば、同様に解けます。
    • 重力がある縦型シリンダー: 力のつりあいに重力 \(mg\) を加えるだけです。位置エネルギーの変化も考慮に入れます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 連結の有無: ピストンが棒でつながれているか?(連動して動く)
    2. 断面積の違い: \(S_A = S_B\) か?(圧力が等しいか、逆比か)
    3. 外部環境: 真空か、大気圧 \(P_0\) があるか?(力のつりあいと仕事に \(P_0\) の項が入るか)
    4. 解法の選択:
      • 「状態量(\(P, V, T\))」を問われたら \(\rightarrow\) 力のつりあい + 状態方程式 + 体積の関係式
      • 「熱量 \(Q\)」を問われたら \(\rightarrow\) 複合系のエネルギー保存則(最速)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 断面積差による圧力・体積関係の取り違え:
    • 誤解: 「力がつりあう \(\rightarrow\) 圧力も等しい」と思い込んだり、体積変化の比率を逆にしてしまう。
    • 対策: 必ず \(F = PS\) の式を書き、「面積が大きい方が圧力は小さい」「面積が大きい方が体積変化は大きい」と、物理的なイメージと言語化で確認する癖をつけましょう。
  • 大気圧による仕事の符号ミス:
    • 誤解: 大気圧がある場合、常に「大気に対して仕事をする(正)」と考えてしまう。
    • 対策: 体積が「増えた」のか「減った」のかを確認します。系全体の体積が減る場合(今回のように太い側が縮む場合)、大気から仕事を「される(負の仕事をする)」ことになります。\(W = P_0 \Delta V_{\text{全}}\) の符号を慎重に判定しましょう。
  • 内部エネルギー変化の計算ミス:
    • 誤解: 温度変化 \(\Delta T\) を \(T_{\text{初}} – T_{\text{後}}\) としてしまい、符号が逆になる。
    • 対策: 変化量 \(\Delta\) は常に「あと \(\boldsymbol{-}\) まえ」です。また、単原子分子なら係数は必ず \(\frac{3}{2}\) です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 問I(2), II(4)での公式選択(個別第一法則 vs 複合系保存則):
    • 選定理由: 模範解答(個別)は、内部のメカニズム(仕事の授受)を詳細に理解するのに適していますが、計算が煩雑です。別解(複合系)は、内部プロセスをブラックボックス化し、入出力だけを見るため、計算ミスが少なく実戦的です。
    • 適用根拠: エネルギーは保存量であり、系全体で足し合わせることができるため、どちらで解いても物理的に等価です。試験場では「熱量」を聞かれたら即座に複合系を想起すべきです。
  • 問Q(4)別解での公式選択(微小仕事の積分):
    • 選定理由: 大気圧、断面積差、連結ピストンという複雑な要素が絡む場合、符号ミスが起きやすくなります。微小仕事 \(dW = -P_0 dV_A\) を導出してから積分する手法は、符号や係数を自動的に正しく処理できるため、検算としても強力です。
    • 適用根拠: 熱力学第一法則は微分形式 \(dQ = dU + dW\) でも成立し、これを積分することで有限変化の式が得られるという数学的・物理的原理に基づいています。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 次元確認(ディメンションチェック):
    • 答えの式を見て、単位が合っているか確認します。例えばエネルギーの単位は \([\text{PV}]\) や \([nRT]\) です。\(P_0(V_1 – V_0)\) は圧力 \(\times\) 体積なのでエネルギーの次元でOKです。もし \(P_0\) が単独で足されていたら間違いです。
  • 極限的なケースでの検算:
    • 断面積が等しい場合: \(S_B = S_A\) とすると、問IIの結果は問Iの結果と一致するはずです。
    • 大気圧がない場合: \(P_0 = 0\) とすると、問Qの結果は問IIの結果と一致するはずです。
    • 温度変化がない場合: \(T_1 = T_2 = T_0\) なら、熱量 \(q\) は \(0\) になるはずです。
  • 比の計算の活用:
    • \(S_B = 2S_A\) のような係数は、計算の最後まで具体的な数値(\(2\))として残さず、\(k = S_B/S_A\) のように文字で置いて計算し、最後に代入すると、式の構造が見やすくなりミスが減ります。今回は単純な \(2\) 倍だったのでそのまま計算しましたが、複雑な比の場合は文字置きが有効です。
関連記事

[mathjax] SNSでのシェアはご自由にどうぞ。(上のボタンをクリック) ブログで引用する際には、こちらのリンクを添えてください。 【引用】https://makoto-physics-school.com […]

問題59 熱力学・力学 (名古屋大)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 設問I(1)~(3)の別解: 微積分を用いた体系的解法(全微分による一括導出)
      • 模範解答が状態方程式の差分と熱力学第一法則を個別に立式して連立するのに対し、別解ではポアソンの法則 \(PV^{\gamma} = \text{一定}\) を導出し、それを全微分(対数微分)することで、圧力と体積の微小変化の関係式を一気に導きます。
    • 設問II(5)の別解: 運動学的な解法(変位の微分)
      • 模範解答が力学的エネルギー保存則を用いるのに対し、別解では単振動の変位の式 \(x(t)\) を時間微分して速度 \(v(t)\) を求め、そこから位置 \(x\) と速さ \(v\) の関係式を導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 微積分の解法: 「断熱変化における \(P\) と \(V\) の微小変化の比」が、比熱比 \(\gamma\) を用いて簡潔に表されるという物理的本質(断熱弾性率の概念)を理解でき、計算の見通しが劇的に良くなります。
    • 運動学的な解法: エネルギー保存則が使えない状況(例えば時間 \(t\) を問われる場合)でも対応できる汎用的な力を養います。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「断熱変化する気体のばね作用による単振動」です。
シリンダー内の気体が断熱変化するとき、体積変化に伴って圧力が変化し、それがピストンを元の位置に戻そうとする復元力となります。この復元力がばねのような役割を果たし、ピストンは単振動します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
  • 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W\) (断熱変化では \(Q=0\))
  • 微小変化の近似: \(x \ll 1\) のとき \((1+x)^n \approx 1+nx\) や、微小量同士の積は無視できるという近似を用います。
  • 単振動の運動方程式: \(ma = -Kx\) (\(K\) は復元力定数)
  • 単振動のエネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)

基本的なアプローチは以下の通りです。

  • (1)~(3)では、気体の微小な断熱変化における圧力、体積、温度の関係を導きます。これが「気体のばね定数」を決める基礎となります。
  • (4)~(6)では、導出した圧力変化を力に換算し、ピストンの運動方程式を立てて単振動の特性(周期、速さなど)を解析します。
  • 追加問題Qでは、変化が「等温」だった場合に復元力がどう変わるかを、\(P-V\) グラフの傾きから定性的に考察します。

パートI:気体の断熱変化の微小近似

問I(1)

ここから先が、他の受験生と差がつく重要パートです。

「解法に至る思考プロセス」
全て言語化した、超詳細解説。

なぜその公式を使うのか?どうしてその着眼点を持てるのか?
市販の解説では省略されてしまう「行間の思考」を、泥臭く解説しています。
まずは2週間、無料でこの続きを読んでみませんか?

1週間無料で続きを読む

(※無料期間中に解約すれば0円です)

既に会員の方はこちら

PVアクセスランキング にほんブログ村