問題58 (センター試験+岐阜大+室蘭工大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、真空中に水平に固定され、滑らかに動くピストンで連結された断熱容器A、B内の理想気体の状態変化を扱うものです。セクションIでは両容器の断面積が同じ場合、セクションIIではBの断面積がAの2倍の場合について、温度変化や熱の出入り、体積変化などを考察します。最後に、大気圧が存在する場合の影響についても問われています。理想気体の状態方程式、熱力学第一法則、そしてピストンの力のつり合いを正確に適用することが鍵となります。
- 真空中に水平に固定された断熱容器AとB。
- 滑らかに動くピストンが棒で連結されている。
- 容器とピストンは断熱材でできている。
- \(\alpha\) と \(\beta\) は温度調節器。
- A, Bにはそれぞれ \(1 \, \text{mol}\) ずつの単原子分子の理想気体が入っている。
- 初めの絶対温度はともに \(T_0\)。
- 気体定数を \(R\)。
- セクションI:
- 両容器の断面積は同じ (\(S\))。
- 気体の体積は初め共に \(V_0\)。
- 操作: \(\alpha\) と \(\beta\) を働かせ、A内の温度を \(T_1\) に上げ、B内の温度を \(T_0\) に保つ。
- セクションII:
- Bの断面積はAの2倍 (\(S_B = 2S_A\))。
- 初めのA内の体積を \(V_0\)。
- 操作: B内の気体との熱のやりとりを断ち (\(\beta\) を使わない、Bは断熱変化)、\(\alpha\) だけを働かせてA内の温度を \(T_1\) に上げたところ、B内の温度は \(T_2\) となった。
- セクションIについて:
- (1) 操作後のA内の気体の体積 \(V_A\) と圧力 \(P_A\)。
- (2) \(\alpha\) がAに供給した熱量を \(Q_\alpha\) とするとき、\(\beta\) がBから吸収した熱量(Bが放出した熱量)\(Q_\beta\)。
- セクションIIについて:
- (3) 初めのB内の気体の体積 \(V_{B0}\)。
- (4) \(\alpha\) がAに供給した熱量 \(q\)。
- (5) 操作後のA内の気体の体積 \(V_A’\)。
- Q. 装置が大気圧 \(P_0\) の大気中に置かれていたとして、問(1)~(4)に答えよ。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く上で中心となるのは、「理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\)」、「熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\)」、そして「ピストンの力のつり合い」です。特に、単原子分子理想気体の内部エネルギーが \(U = \frac{3}{2}nRT\) であること、断熱変化では \(Q=0\) であること、そして連結されたピストンの動きによる体積変化の関係を正確に捉えることが重要になります。各セクション、各設問ごとにこれらの法則を丁寧に適用していきましょう。
問 (1)
思考の道筋とポイント
ピストンは滑らかに動き、最終的にAとBの気体が及ぼす力がつり合って静止します。両容器の断面積が同じなので、これはA内の気体の圧力とB内の気体の圧力が等しくなることを意味します。この等しい圧力を \(P_1\) としましょう。Aの体積が \(V_A\) になったとき、容器全体の体積は \(V_0 + V_0 = 2V_0\) で一定なので、Bの体積は \(2V_0 – V_A\) となります。これらの情報と、AとBそれぞれの最終的な温度を使って状態方程式を立てれば、未知数である \(V_A\) と \(P_1\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- ピストンが静止する条件は、両側の気体の圧力が等しくなることです(断面積が等しい場合)。
- AとB、それぞれについて理想気体の状態方程式を適用します。
- AとBの体積の和が、初期の体積の和 \(2V_0\) に等しいことを利用します。
具体的な解説と立式
操作後のA内の気体の圧力を \(P_1\)、体積を \(V_A\)、温度を \(T_1\) とします。
操作後のB内の気体の圧力も \(P_1\) (ピストンにかかる力がつりあうため)、体積を \(V_B\)、温度を \(T_0\) とします。
各気体の物質量は \(n=1 \, \text{mol}\) です。
気体Aについて、理想気体の状態方程式は、
$$P_1 V_A = R T_1 \quad \cdots ①$$
気体Bについて、理想気体の状態方程式は、
$$P_1 V_B = R T_0 \quad \cdots ②$$
初めのA, Bの体積は共に \(V_0\) であったため、ピストンで連結された系全体の体積は \(2V_0\) で一定です。したがって、操作後の体積について、
$$V_A + V_B = 2V_0 \quad \cdots ③$$
式③から \(V_B = 2V_0 – V_A\) となります。これを式②に代入すると、
$$P_1 (2V_0 – V_A) = R T_0 \quad \cdots ④$$
これで、未知数 \(P_1\) と \(V_A\) に関する連立方程式①と④が得られました。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
まず、式①を \(P_1\) について解くと \(P_1 = \displaystyle\frac{R T_1}{V_A}\) となります。これを式④に代入します。
$$\left(\frac{R T_1}{V_A}\right) (2V_0 – V_A) = R T_0$$
両辺の \(R\) を消去します (\(R \neq 0\) なので)。
$$\frac{T_1}{V_A} (2V_0 – V_A) = T_0$$
次に、両辺に \(V_A\) を掛けて分母を払います。
$$T_1 (2V_0 – V_A) = T_0 V_A$$
左辺を展開します。
$$2V_0 T_1 – V_A T_1 = T_0 V_A$$
\(V_A\) を含む項を右辺にまとめます。
$$2V_0 T_1 = T_0 V_A + T_1 V_A$$
右辺を \(V_A\) でくくります。
$$2V_0 T_1 = (T_0 + T_1) V_A$$
したがって、\(V_A\) は次のように求まります。
$$V_A = \frac{2T_1}{T_0 + T_1} V_0 \quad \cdots ⑤$$
次に、この \(V_A\) の結果を式①に代入して \(P_1\) を求めます。
$$P_1 = \frac{R T_1}{V_A} = R T_1 \cdot \frac{1}{\frac{2T_1}{T_0 + T_1} V_0}$$
分数の割り算なので、逆数を掛けます。
$$P_1 = R T_1 \cdot \frac{T_0 + T_1}{2T_1 V_0}$$
分子と分母の \(T_1\) を約分します (\(T_1 \neq 0\) と考えられます)。
$$P_1 = \frac{R(T_0 + T_1)}{2V_0} \quad \cdots ⑥$$
これが求める圧力 \(P_A\) です。
AとBの部屋の気体は、ピストンを挟んで押し合っています。ピストンが最終的に止まるのは、Aの気圧とBの気圧が同じになったときです(今回はピストンの面積が同じだから)。AとBのそれぞれの部屋について、「圧力 × 体積 = 物質量 × 気体定数 × 温度」という関係式(状態方程式)が成り立ちます。また、Aの部屋の体積とBの部屋の体積を足すと、最初にあった二つの部屋の体積の合計 \(2V_0\) になります。これらの手がかり(式)を組み合わせることで、変化後のAの部屋の体積と圧力を計算することができます。
操作後のA内の気体の体積は \(V_A = \displaystyle\frac{2T_1}{T_0 + T_1} V_0\)、圧力は \(P_A = \displaystyle\frac{R(T_0 + T_1)}{2V_0}\) です。
もし、\(T_1 = T_0\)(Aの温度を変化させなかった)とすると、
\(V_A = \displaystyle\frac{2T_0}{T_0 + T_0} V_0 = \displaystyle\frac{2T_0}{2T_0} V_0 = V_0\)
\(P_A = \displaystyle\frac{R(T_0 + T_0)}{2V_0} = \displaystyle\frac{2RT_0}{2V_0} = \displaystyle\frac{RT_0}{V_0}\) (これは初期圧 \(P_0\) に等しい)
となり、初期状態と一致します。これは物理的に妥当ですね。
また、もし \(T_1 > T_0\) ならば、\(T_0 + T_1 < 2T_1\) なので、\(\displaystyle\frac{2T_1}{T_0+T_1} > 1\) となり、\(V_A > V_0\) となります。つまり、Aは膨張します。これも温度上昇に伴う膨張として直感に合います。
問 (2)
思考の道筋とポイント
この問いでは、熱のやり取りと仕事、内部エネルギー変化の関係を熱力学第一法則を用いて考えます。Aは温度調節器 \(\alpha\) から熱 \(Q_\alpha\) を吸収し、温度が \(T_0\) から \(T_1\) に変化し、体積も \(V_0\) から \(V_A\) へと変化します。この過程でAは外部(この場合はB)に対して仕事をします。Bは温度が \(T_0\) で一定に保たれながら、Aから仕事をされます。温度を一定に保つために、Bは温度調節器 \(\beta\) へ熱 \(Q_\beta\) を放出します(問題文の「\(\beta\)が吸収した熱量 \(Q_\beta\)」は、Bが放出した熱量を意味すると解釈します)。
AとBそれぞれについて熱力学第一法則の式を立て、Aがした仕事とBがされた仕事の大きさが等しいことを利用して \(Q_\beta\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 気体A、気体Bそれぞれに熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\) を適用します。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー変化は \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) で計算します。
- 気体Aがした仕事の大きさと、気体Bがされた仕事の大きさは等しくなります。
- 気体Bの温度は \(T_0\) で一定なので、Bの内部エネルギー変化は0です。
具体的な解説と立式
気体Aについて考えます。
Aが吸収した熱量は \(Q_\alpha\)。
Aの初めの温度は \(T_0\)、終わりの温度は \(T_1\) なので、内部エネルギーの変化 \(\Delta U_A\) は、物質量 \(n=1 \, \text{mol}\) より、
$$\Delta U_A = \frac{3}{2}R(T_1 – T_0) \quad \cdots ⑦$$
Aが外部にした仕事を \(W\) とすると、熱力学第一法則より、
$$\Delta U_A = Q_\alpha – W \quad \cdots ⑧$$
次に気体Bについて考えます。
Bが放出した熱量を \(Q_\beta\) とします(つまり、Bが吸収した熱は \(-Q_\beta\) です)。
Bの温度は \(T_0\) で一定なので、内部エネルギーの変化 \(\Delta U_B\) は、
$$\Delta U_B = \frac{3}{2}R(T_0 – T_0) = 0 \quad \cdots ⑨$$
気体Aが仕事 \(W\) を外部にしたとき、その仕事はすべて気体Bに対してなされます。したがって、気体Bがされた仕事は \(W\) です。Bがした仕事は \(-W\) となります。
熱力学第一法則をBに適用すると(Bが吸収した熱は \(-Q_\beta\)、Bがした仕事は \(-W\))、
$$\Delta U_B = (-Q_\beta) – (-W)$$
$$0 = -Q_\beta + W \quad \cdots ⑩$$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\) (Q: 吸収した熱量, \(W_{\text{した}}\): した仕事)
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
式⑩より、Aがした仕事(Bがされた仕事)\(W\) は、
$$W = Q_\beta \quad \cdots ⑪$$
この \(W = Q_\beta\) を式⑧に代入します。
$$\Delta U_A = Q_\alpha – Q_\beta$$
ここに式⑦の \(\Delta U_A = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0)\) を代入すると、
$$\frac{3}{2}R(T_1 – T_0) = Q_\alpha – Q_\beta$$
これを \(Q_\beta\) について解くと、
$$Q_\beta = Q_\alpha – \frac{3}{2}R(T_1 – T_0) \quad \cdots ⑫$$
Aの部屋の気体は、\(\alpha\) から熱 \(Q_\alpha\) をもらって温度が上がり(内部エネルギーが増え)、同時にBの部屋の気体を押して仕事 \(W\) をします。「もらった熱の一部が内部エネルギーの増加に使われ、残りが仕事に使われる」というエネルギー保存の関係(熱力学第一法則)が成り立ちます。
一方、Bの部屋の気体は、Aに押されて仕事 \(W\) をされますが、温度は変わらないように \(\beta\) によって調節されています。温度が変わらないということは内部エネルギーも変わりません。そのため、「された仕事 \(W\) と同じだけの熱量 \(Q_\beta\) を \(\beta\) に放出する」という関係が成り立ちます。
この二つの関係を使うと、Bが放出した熱量 \(Q_\beta\) を \(Q_\alpha\) と温度変化を使って表すことができます。
\(\beta\) が吸収した熱量(Bが放出した熱量)は \(Q_\beta = Q_\alpha – \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0)\) です。
この結果は、Aが吸収した熱 \(Q_\alpha\) の一部がAの内部エネルギー増加に使われ、残りが仕事 \(W\) となり、その仕事 \(W\) がそのままBから放出される熱 \(Q_\beta\) に等しいことを示しています。
もし、Aの内部エネルギー変化がない(\(T_1 = T_0\))なら、\(Q_\beta = Q_\alpha\) となります。このときAはもらった熱をすべて仕事としてBに与え、Bはその仕事をすべて熱として放出する、という状況です。
問 (3)
思考の道筋とポイント
セクションIIでは、Bの断面積がAの2倍 (\(S_B = 2S_A\)) となります。初めの状態では、ピストンはつり合って静止しています。Aの断面積を \(S_A\)、Bの断面積を \(S_B = 2S_A\) とします。A内の初めの圧力を \(P_{A0}\)、B内の初めの圧力を \(P_{B0}\) とすると、ピストンにはAから右向きに \(P_{A0}S_A\) の力、Bから左向きに \(P_{B0}S_B = P_{B0}(2S_A)\) の力が働きます。これらの力がつり合っているので、\(P_{A0}S_A = P_{B0}(2S_A)\) という関係が成り立ちます。これから \(P_{A0}\) と \(P_{B0}\) の関係が分かります。
Aの初めの体積は \(V_0\)、温度は \(T_0\)。Bの初めの体積を \(V_{B0}\)(これが求めるもの)、温度は \(T_0\)。それぞれについて状態方程式を立て、圧力の関係を用いることで \(V_{B0}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- ピストンにかかる力のつり合いを考えます。今回は断面積が異なるため、\(P_A S_A = P_B S_B\) の形になります。
- AとB、それぞれについて初期状態の理想気体の状態方程式を適用します。
具体的な解説と立式
初めの状態において、
A内の気体の圧力を \(P_{A0}\)、体積を \(V_0\)、温度を \(T_0\)。
B内の気体の圧力を \(P_{B0}\)、体積を \(V_{B0}\) (これを求める)、温度を \(T_0\)。
Aのピストンの断面積を \(S_A\)、Bのピストンの断面積を \(S_B = 2S_A\)。
ピストンが静止しているので、力のつり合いが成り立ちます。
Aの気体がピストンを右へ押す力: \(F_A = P_{A0}S_A\)
Bの気体がピストンを左へ押す力: \(F_B = P_{B0}S_B = P_{B0}(2S_A)\)
力のつり合いより \(F_A = F_B\):
$$P_{A0}S_A = P_{B0}(2S_A)$$
両辺の \(S_A\) を消去すると (\(S_A \neq 0\))、
$$P_{A0} = 2P_{B0} \quad \text{または} \quad P_{B0} = \frac{1}{2}P_{A0} \quad \cdots ⑬$$
次に、AとBそれぞれについて理想気体の状態方程式を立てます (\(n=1 \, \text{mol}\))。
Aについて: $$P_{A0}V_0 = RT_0 \quad \cdots ⑭$$
Bについて:$$P_{B0}V_{B0} = RT_0 \quad \cdots ⑮$$
使用した物理公式
- 力のつり合い: \(F_1 = F_2\) (この場合は \(P_1S_1=P_2S_2\))
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
式⑭と式⑮の右辺はともに \(RT_0\) で等しいので、左辺も等しくなります。
$$P_{A0}V_0 = P_{B0}V_{B0}$$
ここに式⑬の \(P_{B0} = \displaystyle\frac{1}{2}P_{A0}\) を代入します。
$$P_{A0}V_0 = \left(\frac{1}{2}P_{A0}\right)V_{B0}$$
両辺の \(P_{A0}\) を消去します (\(P_{A0} \neq 0\) と考えられます)。
$$V_0 = \frac{1}{2}V_{B0}$$
したがって、初めのB内の気体の体積 \(V_{B0}\) は、
$$V_{B0} = 2V_0 \quad \cdots ⑯$$
ピストンが止まっているということは、Aの気体がピストンを押す力と、Bの気体がピストンを押す力がつり合っているということです。ただし、今回はB側のピストンの面積がA側の2倍なので、Bの気圧はAの気圧の半分になります(同じ力で押すために)。AとB、それぞれの部屋の最初の状態(体積、圧力、温度)について状態方程式を立て、この圧力の関係を使うと、Bの最初の体積がAの最初の体積 \(V_0\) の何倍になるかが分かります。
初めのB内の気体の体積は \(V_{B0} = 2V_0\) です。
Bのピストン断面積がAの2倍であるため、同じ力でピストンを支えるにはBの圧力がAの半分で済みます。同じ温度・物質量で圧力が半分なら、体積は2倍になる、というのは \(PV=nRT\) からも妥当な結果です (\(V = nRT/P\))。
問 (4)
思考の道筋とポイント
A内の温度を \(T_0\) から \(T_1\) に上げるために、温度調節器 \(\alpha\) がAに熱量 \(q\) を供給します。この過程でAは膨張(または収縮)し、Bに対して仕事をします。Bは外部との熱のやりとりを断たれている(断熱変化)ので、Aからされた仕事の分だけ内部エネルギーが変化し、その結果温度が \(T_0\) から \(T_2\) に変わります。
AとBそれぞれについて熱力学第一法則を適用します。Aがした仕事とBがされた仕事の大きさは等しいことを利用して、\(q\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 気体A、気体Bそれぞれに熱力学第一法則を適用します。
- 気体Bは断熱変化なので、Bが吸収する熱量は0です (\(Q_B = 0\))。
- Aの内部エネルギー変化は \(\Delta U_A = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0)\)。
- Bの内部エネルギー変化は \(\Delta U_B = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_2 – T_0)\)。
- Aがした仕事の大きさと、Bがされた仕事の大きさは等しいです。
具体的な解説と立式
気体Aについて考えます。
Aが吸収した熱量は \(q\) (これを求める)。
Aの内部エネルギーの変化 \(\Delta U_A\) は、物質量 \(n=1 \, \text{mol}\) より、
$$\Delta U_A = \frac{3}{2}R(T_1 – T_0) \quad \cdots ⑰$$
Aが外部にした仕事を \(W’\) とすると、熱力学第一法則より、
$$\Delta U_A = q – W’ \quad \cdots ⑱$$
次に気体Bについて考えます。
Bは断熱変化をするので、Bが吸収した熱量 \(Q_B = 0\)。
Bの内部エネルギーの変化 \(\Delta U_B\) は、
$$\Delta U_B = \frac{3}{2}R(T_2 – T_0) \quad \cdots ⑲$$
気体Aが仕事 \(W’\) を外部にしたとき、その仕事はすべて気体Bに対してなされます。したがって、気体Bがされた仕事は \(W’\) です。Bがした仕事は \(-W’\) となります。
熱力学第一法則をBに適用すると(Bが吸収した熱は0、Bがした仕事は \(-W’\))、
$$\Delta U_B = 0 – (-W’)$$
$$\Delta U_B = W’ \quad \cdots ⑳$$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\)
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\)
- 断熱変化: \(Q=0\)
式⑲と式⑳から、Aがした仕事 \(W’\) は、
$$W’ = \Delta U_B = \frac{3}{2}R(T_2 – T_0) \quad \cdots ㉑$$
この \(W’\) を式⑱に代入します。
$$\Delta U_A = q – \frac{3}{2}R(T_2 – T_0)$$
ここに式⑰の \(\Delta U_A = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0)\) を代入すると、
$$\frac{3}{2}R(T_1 – T_0) = q – \frac{3}{2}R(T_2 – T_0)$$
これを \(q\) について解くと、
$$q = \frac{3}{2}R(T_1 – T_0) + \frac{3}{2}R(T_2 – T_0)$$
共通因子 \(\displaystyle\frac{3}{2}R\) でくくると、
$$q = \frac{3}{2}R(T_1 – T_0 + T_2 – T_0)$$
$$q = \frac{3}{2}R(T_1 + T_2 – 2T_0) \quad \cdots ㉒$$
$$q = \Delta U_A + \Delta U_B$$
$$q = \frac{3}{2}R(T_1 – T_0) + \frac{3}{2}R(T_2 – T_0)$$
$$q = \frac{3}{2}R(T_1 + T_2 – 2T_0)$$
これは上記と同じ結果になります。
Aの部屋の気体は熱 \(q\) をもらって温度が \(T_0 \rightarrow T_1\) となり内部エネルギーが増加し、同時にBを押して仕事をします。この関係を熱力学第一法則で表します。
Bの部屋の気体は、熱の出入りなしに(断熱的に)Aから仕事をされ、その結果温度が \(T_0 \rightarrow T_2\) となり内部エネルギーが増加します。この関係も熱力学第一法則で表します。
Aがした仕事とBがされた仕事は同じ大きさなので、これら2つの法則を組み合わせることで、Aがもらった熱 \(q\) を計算できます。
あるいは、AとBをひとまとめのグループとして考えると、このグループ全体がもらった熱 \(q\) は、グループ全体の内部エネルギーの増加(Aの増加分+Bの増加分)に使われた、とシンプルに考えることもできます。
\(\alpha\)が放出した熱量(Aが吸収した熱量)は \(q = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 + T_2 – 2T_0)\) です。
もし \(T_1 = T_0\) かつ \(T_2 = T_0\) であれば、\(q=0\) となり、熱の供給は不要です。これは、温度変化がなければ内部エネルギーも変化せず、断熱変化のBが仕事をされなければAも仕事をしない(体積変化なし)という状況に対応し、妥当です。
もし \(T_1 > T_0\) かつ \(T_2 > T_0\) であれば、AとB両方の内部エネルギーが増加するので、そのエネルギーは外部からの熱供給 \(q\) によってまかなわれる必要があります。
問 (5)
思考の道筋とポイント
操作後のAの体積を \(V_A’\) とします。このとき、Aの圧力は \(P_A’\)、温度は \(T_1\)。Bの圧力は \(P_B’\)、体積は \(V_B’\)、温度は \(T_2\)。
ピストンはつり合っているので、力の関係 \(P_A’S_A = P_B'(2S_A)\) が成り立ちます。つまり \(P_A’ = 2P_B’\)。
AとBそれぞれについて状態方程式を立てます。
さらに、体積変化の関係が必要です。Aの初期体積は \(V_0\)、Bの初期体積は \(V_{B0}=2V_0\) (問(3)より)。ピストンが移動した距離を \(x\) とし、A側が膨張する向きを正とすると、Aの体積変化 \(\Delta V_A = S_A x\) に対して、Bの体積変化は \(\Delta V_B = -(2S_A)x = -2(S_A x) = -2\Delta V_A\) となります (Aが膨張すればBは収縮する)。
つまり、\(V_A’ = V_0 + \Delta V_A\)、\(V_B’ = V_{B0} – 2\Delta V_A = 2V_0 – 2(V_A’ – V_0)\)。
これらの式を連立して \(V_A’\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 操作後のピストンにかかる力のつり合い (\(P_A’ = 2P_B’\))。
- AとB、それぞれについての操作後の状態方程式。
- Aの体積変化量とBの体積変化量の関係 (\(\Delta V_B = -2\Delta V_A\))。この関係を正しく導き、操作後の体積 \(V_A’\) と \(V_B’\) を初期体積と \(\Delta V_A\) (または \(V_A’\)) を用いて表すこと。
具体的な解説と立式
操作後のAの気体の圧力を \(P_A’\)、体積を \(V_A’\) (これを求める)、温度を \(T_1\)。
操作後のBの気体の圧力を \(P_B’\)、体積を \(V_B’\)、温度を \(T_2\)。
力のつり合いより、\(P_A’S_A = P_B'(2S_A)\) なので、
$$P_A’ = 2P_B’ \quad \text{または} \quad P_B’ = \frac{1}{2}P_A’ \quad \cdots ㉓$$
Aについて状態方程式 (\(n=1 \, \text{mol}\)):
$$P_A’V_A’ = RT_1 \quad \cdots ㉔$$
Bについて状態方程式 (\(n=1 \, \text{mol}\)):
$$P_B’V_B’ = RT_2 \quad \cdots ㉕$$
体積の関係を考えます。
Aの初期体積は \(V_0\)。操作後の体積を \(V_A’\)。体積変化は \(\Delta V_A = V_A’ – V_0\)。
Bの初期体積は \(V_{B0} = 2V_0\) (問(3)の結果より)。
ピストンの移動によりAの体積が \(\Delta V_A = (V_A’ – V_0)\) だけ変化したとき、Bの断面積はAの2倍なので、Bの体積変化は \(\Delta V_B = -2 \Delta V_A = -2(V_A’ – V_0)\) となります。
したがって、Bの操作後の体積 \(V_B’\) は、
$$V_B’ = V_{B0} + \Delta V_B = 2V_0 – 2(V_A’ – V_0) = 2V_0 – 2V_A’ + 2V_0 = 4V_0 – 2V_A’ \quad \cdots ㉖$$
式㉔より \(P_A’ = \displaystyle\frac{RT_1}{V_A’}\)。これを式㉓に代入して \(P_B’\) を求めると、
$$P_B’ = \frac{1}{2} P_A’ = \frac{1}{2} \frac{RT_1}{V_A’}$$
この \(P_B’\) を式㉕に代入します。
$$\left(\frac{1}{2} \frac{RT_1}{V_A’}\right) V_B’ = RT_2 \quad \cdots ㉗$$
使用した物理公式
- 力のつり合い ( \(P_1S_1=P_2S_2\) )
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
- 体積変化の関係 (連結ピストン、断面積の違いを考慮)
式㉗の両辺から \(R\) を消去します (\(R \neq 0\))。
$$\frac{T_1 V_B’}{2V_A’} = T_2$$
両辺に \(2V_A’\) を掛けて整理すると、
$$T_1 V_B’ = 2T_2 V_A’ \quad \cdots ㉘$$
ここに式㉖の \(V_B’ = 4V_0 – 2V_A’\) を代入します。
$$T_1 (4V_0 – 2V_A’) = 2T_2 V_A’$$
左辺を展開します。
$$4V_0 T_1 – 2V_A’ T_1 = 2T_2 V_A’$$
\(V_A’\) を含む項を右辺にまとめます。
$$4V_0 T_1 = 2T_2 V_A’ + 2V_A’ T_1$$
右辺を \(2V_A’\) でくくります。
$$4V_0 T_1 = 2V_A’ (T_2 + T_1)$$\p>
\(V_A’\) について解くと、
$$V_A’ = \frac{4V_0 T_1}{2(T_1 + T_2)}$$
$$V_A’ = \frac{2T_1}{T_1 + T_2} V_0 \quad \cdots ㉙$$
操作が終わった後、ピストンは止まっているので、Aの気体がピストンを押す力とBの気体がピストンを押す力がつり合っています(断面積の違いを考慮して)。AとBのそれぞれの部屋について、変化後の状態(圧力、体積、温度)で状態方程式が成り立ちます。さらに、Aの部屋の体積が増えた(または減った)分と、Bの部屋の体積が減った(または増えた)分の間には、ピストンの断面積の違いを反映した関係があります(Aの体積変化の2倍がBの体積変化になる)。これらの式をすべて組み合わせることで、変化後のAの部屋の体積を計算できます。
あとのA内の気体の体積は \(V_A’ = \displaystyle\frac{2T_1}{T_1 + T_2} V_0\) です。
この結果は、設問I-(1)の \(V_A = \displaystyle\frac{2T_1}{T_0 + T_1} V_0\) と非常に似た形をしています。違いは、分母の \(T_0\) が \(T_2\) に置き換わっている点です。これは、一部の条件(ピストンの断面積、Bの熱的条件)が異なりますが、基本的な構造(Aの温度が \(T_1\)、Bの温度が参照温度、体積の関係)が最終的な体積比の式に反映されていることを示唆しています。
もし \(T_2 = T_1\) ならば、\(V_A’ = \displaystyle\frac{2T_1}{T_1+T_1}V_0 = V_0\) となり、初期体積に戻ります。
【コラム】Q. 装置が大気圧 \(P_0\) の大気中に置かれていたとして、問(1)~(4)に答えよ。
大気圧 \(P_0\) が存在する場合、ピストンの力のつり合いや仕事の計算に影響が出る可能性があります。模範解答のQの図を参考に、力のつり合いを考えます。
Qの設問(1)について (本文の設問I-(1)に対応)
思考の道筋とポイント
設問Iと同様に、Aの断面積とBの断面積は等しく \(S\) とします。A内の圧力を \(P_A\)、B内の圧力を \(P_B\) とします。
模範解答のQの図 (左側) を見ると、ピストンの左側 (A側) の外側と右側 (B側) の外側が大気に接しています。
ピストン全体にかかる力を考えます。
ピストンを右に押す力: \(P_A S\) (気体Aによる) + \(P_0 S\) (B側ピストンの右端に働く大気圧)
ピストンを左に押す力: \(P_B S\) (気体Bによる) + \(P_0 S\) (A側ピストンの左端に働く大気圧)
連結棒で一体となっているピストンがつり合うためには、これらの力が等しくなる必要があります。
\(P_A S + P_0 S = P_B S + P_0 S\)
これを整理すると \(P_A S = P_B S\)、すなわち \(P_A = P_B\) となります。
これは、大気圧が存在しない場合と同じ力のつり合いの条件です。したがって、状態方程式や体積の関係も真空中の場合と同じになり、結果も変わらないと予想されます。模範解答のQ(1)でも「(1)の答えは変わらない」とされています。 [cite: 3]
具体的な解説と立式
力のつり合いから \(P_A = P_B\)。これを \(P_1\) とおきます。
Aについて: $$P_1 V_A = RT_1 \quad \cdots (Q1-1)$$
Bについて: $$P_1 (2V_0 – V_A) = RT_0 \quad \cdots (Q1-2)$$
これは本文の設問I-(1)の式①、④と全く同じです。
計算過程
本文の設問I-(1)と全く同じ計算になるため、
$$V_A = \frac{2T_1}{T_0 + T_1} V_0$$
$$P_1 = \frac{R(T_0 + T_1)}{2V_0}$$
結論と吟味
大気圧 \(P_0\) がピストンの両外側に等しくかかる場合、ピストン内部の気体AとBの圧力バランス \(P_A=P_B\) には影響を与えません。よって、体積と圧力の結果は真空中の場合と同じです。
Qの設問(2)について (本文の設問I-(2)に対応)
思考の道筋とポイント
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\) を考えます。
Aの内部エネルギー変化 \(\Delta U_A = \frac{3}{2}R(T_1-T_0)\)、Bの内部エネルギー変化 \(\Delta U_B = 0\) は変わりません。
仕事について考えます。Aがした仕事を \(W_A\)、Bがした仕事を \(W_B\)。
Aがした仕事 \(W_A\) は、Bに対する仕事 \(W_{AB}\) と、大気に対する仕事 \(W_{A,\text{atm}}\) の和です。
Bがした仕事 \(W_B\) は、Aからされた仕事 \(-W_{AB}\) と、大気に対する仕事 \(W_{B,\text{atm}}\) の和です。
ピストンが右に \(\Delta x\) だけ移動したとすると、Aの体積は \(S\Delta x\) 増加し、Bの体積は \(S\Delta x\) 減少します。
\(W_{A,\text{atm}} = P_0 (S\Delta x)\)
\(W_{B,\text{atm}} = P_0 (-S\Delta x) = -P_0 (S\Delta x)\)
したがって、AとBを合わせた系全体が大気にした仕事は \(W_{A,\text{atm}} + W_{B,\text{atm}} = 0\) となります。
つまり、大気との仕事のやり取りは系全体で見ると相殺されます。
このため、Aが吸収した熱 \(Q_\alpha\) とBが放出した熱 \(Q_\beta\) の関係は真空中の場合と変わらないと考えられます。模範解答のQ(2)でも「(2)の答えも変わらない」とされています。 [cite: 3]
具体的な解説と立式
Aについて: \(\Delta U_A = Q_\alpha – W_A\)。
Bについて: \(\Delta U_B = (-Q_\beta) – W_B\)。 (\(Q_\beta\) はBが放出した熱量)
ここで、\(W_A = W_{AB} + P_0 \Delta V_A\)、\(W_B = -W_{AB} + P_0 \Delta V_B\)。
\(\Delta V_A + \Delta V_B = 0\) なので \(\Delta V_B = -\Delta V_A\)。
よって \(W_B = -W_{AB} – P_0 \Delta V_A\)。
\(\Delta U_B = 0\) なので、\((-Q_\beta) – (-W_{AB} – P_0 \Delta V_A) = 0\)。
$$-Q_\beta + W_{AB} + P_0 \Delta V_A = 0 \quad \cdots (Q2-1)$$
ゆえに \(W_{AB} = Q_\beta – P_0 \Delta V_A\)。
これをAの式に代入すると、
\(\Delta U_A = Q_\alpha – (W_{AB} + P_0 \Delta V_A)\)
\(\Delta U_A = Q_\alpha – (Q_\beta – P_0 \Delta V_A + P_0 \Delta V_A)\)
$$\Delta U_A = Q_\alpha – Q_\beta \quad \cdots (Q2-2)$$
これは真空中の場合と同じ関係式です。
計算過程
式(Q2-2)に \(\Delta U_A = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0)\) を代入すると、
$$\frac{3}{2}R(T_1 – T_0) = Q_\alpha – Q_\beta$$
$$Q_\beta = Q_\alpha – \frac{3}{2}R(T_1 – T_0)$$
結論と吟味
大気圧があっても、ピストンの両側に同じように作用し、かつAとBの体積変化が互いに打ち消しあう形になるため、系全体として大気がする正味の仕事は0です。したがって、熱量の関係は真空中の場合と変わりません。
Qの設問(3)について (本文の設問II-(3)に対応)
思考の道筋とポイント
設問IIと同様に、Bの断面積はAの2倍 (\(S_B = 2S_A\))。大気圧 \(P_0\) が存在します。
初めの状態を考えます。Aの圧力を \(P_{A0}\)、Bの圧力を \(P_{B0}\)。Aの断面積を \(S_A\)、Bの断面積を \(2S_A\)。
模範解答のQの図 (右側) を参考に力のつり合いを考えます。 [cite: 3]ピストンを右に押す力: \(P_{A0}S_A\) (気体Aによる) + \(P_0(2S_A)\) (B側ピストンの右端に働く大気圧)
ピストンを左に押す力: \(P_{B0}(2S_A)\) (気体Bによる) + \(P_0S_A\) (A側ピストンの左端に働く大気圧)
力のつり合いより:
$$P_{A0}S_A + P_0(2S_A) = P_{B0}(2S_A) + P_0S_A$$
これは模範解答Q(3)の力のつり合いから導かれる関係式 \(p_B = \frac{1}{2}(p_A+P_0)\) [cite: 3] (ここでは \(p_A \rightarrow P_{A0}\), \(p_B \rightarrow P_{B0}\)に対応) と同等です。
Aの初期体積は \(V_0\)、温度 \(T_0\)。Bの初期体積を \(V_{B0}\)、温度 \(T_0\)。
それぞれ状態方程式を立て、上記圧力関係と連立して \(V_{B0}\) を求めます。
具体的な解説と立式
力のつり合いの式 \(P_{A0}S_A + 2P_0S_A = 2P_{B0}S_A + P_0S_A\) の両辺を \(S_A\) で割ると (\(S_A \neq 0\)):
$$P_{A0} + 2P_0 = 2P_{B0} + P_0$$
これを整理すると、
$$P_{A0} + P_0 = 2P_{B0} \quad \text{または} \quad P_{B0} = \frac{1}{2}(P_{A0} + P_0) \quad \cdots (Q3-1)$$
Aの初期状態の状態方程式 (\(n=1\)):
$$P_{A0}V_0 = RT_0 \quad \cdots (Q3-2)$$
Bの初期状態の状態方程式 (\(n=1\)):
$$P_{B0}V_{B0} = RT_0 \quad \cdots (Q3-3)$$
計算過程
式(Q3-2)より \(P_{A0} = \displaystyle\frac{RT_0}{V_0}\)。これを式(Q3-1)に代入します。
$$P_{B0} = \frac{1}{2}\left(\frac{RT_0}{V_0} + P_0\right) \quad \cdots (Q3-4)$$
この \(P_{B0}\) を式(Q3-3)に代入します。
$$\frac{1}{2}\left(\frac{RT_0}{V_0} + P_0\right) V_{B0} = RT_0$$
\(V_{B0}\) について解くと、
$$V_{B0} = \frac{2RT_0}{\frac{RT_0}{V_0} + P_0}$$
分母・分子に \(V_0\) を掛けて整理すると、
$$V_{B0} = \frac{2RT_0 V_0}{RT_0 + P_0 V_0}$$
$$V_{B0} = \left(\frac{2RT_0}{RT_0 + P_0V_0}\right) V_0 \quad \cdots (Q3-5)$$
結論と吟味
初めのB内の気体の体積は \(V_{B0} = \displaystyle\frac{2RT_0}{RT_0 + P_0V_0} V_0\) です。
もし大気圧 \(P_0=0\) ならば、\(V_{B0} = \displaystyle\frac{2RT_0}{RT_0}V_0 = 2V_0\) となり、本文の設問II-(3)の結果と一致します。
大気圧 \(P_0 > 0\) の場合、分母の \(RT_0 + P_0V_0\) は \(RT_0\) より大きくなるため、\(\displaystyle\frac{2RT_0}{RT_0 + P_0V_0} < 2\) となり、\(V_{B0} < 2V_0\) となります。
Qの設問(4)について (本文の設問II-(4)に対応)
思考の道筋とポイント
Aに熱量 \(q\) を供給し、Aの温度は \(T_1\)、Bは断熱変化で温度 \(T_2\) になります。Aの操作後の体積を \(V_A’\) (模範解答Qでは \(V_1\) と表記) とします。 [cite: 3]AとBを合わせた系全体で熱力学第一法則を考えます。
系全体の内部エネルギー変化は \(\Delta U_{\text{全体}} = \Delta U_A + \Delta U_B = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1-T_0) + \displaystyle\frac{3}{2}R(T_2-T_0)\)。
系が外部から吸収した熱は \(q\) (Bは断熱)。
系が外部からされた仕事を \(W_{\text{外部から}}\) とすると、\(\Delta U_{\text{全体}} = q + W_{\text{外部から}}\)。
外部(大気)が系にした仕事を考えます。Aの体積が \(V_0\) から \(V_A’\) に変化したとします。ピストンの移動距離を \(l\) とすると、\(V_A’ – V_0 = S_A l\)。
大気がA側ピストンの左面にする仕事は \(-P_0 S_A l\) (Aが膨張 \(l>0\) なら負の仕事)。
大気がB側ピストンの右面にする仕事は \(P_0 (2S_A) l\) (Bが収縮、ピストンが右へ \(l\) 移動するので正の仕事)。
したがって、系全体が大気からされる仕事は、\(W_{\text{外部から}} = -P_0 S_A l + P_0 (2S_A) l = P_0 S_A l = P_0 (V_A’ – V_0)\)。
この関係を使って \(q\) を求めます。このアプローチは模範解答Q(4)の最後のコメント「大気が気体全体に対して…仕事をしているので…真空のケースよりqが小さくなっている」と一致します。 [cite: 3]
具体的な解説と立式
Aの内部エネルギー変化: \(\Delta U_A = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 – T_0)\)
Bの内部エネルギー変化: \(\Delta U_B = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_2 – T_0)\)
系全体 (A+B) の内部エネルギー変化:
$$\Delta U_{\text{全体}} = \Delta U_A + \Delta U_B = \frac{3}{2}R(T_1 – T_0 + T_2 – T_0) = \frac{3}{2}R(T_1 + T_2 – 2T_0) \quad \cdots (Q4-1)$$
系が吸収した熱は \(q\)。
系が大気からされた仕事は \(W_{\text{atm,total}} = P_0 (V_A’ – V_0)\) (ただし \(V_A’\) は操作後のAの体積)。
熱力学第一法則を系全体に適用すると \(\Delta U_{\text{全体}} = q + W_{\text{atm,total}}\):
$$\frac{3}{2}R(T_1 + T_2 – 2T_0) = q + P_0 (V_A’ – V_0) \quad \cdots (Q4-2)$$
計算過程
式(Q4-2)を \(q\) について解くと、
$$q = \frac{3}{2}R(T_1 + T_2 – 2T_0) – P_0 (V_A’ – V_0) \quad \cdots (Q4-3)$$
ここで、\(V_A’ – V_0\) はAの体積変化です。
結論と吟味
\(\alpha\)が供給した熱量は \(q = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 + T_2 – 2T_0) – P_0 (V_A’ – V_0)\) です。
真空中の場合 (\(P_0=0\)) は、\(q = \displaystyle\frac{3}{2}R(T_1 + T_2 – 2T_0)\) となり、本文の設問II-(4)の結果と一致します。
大気圧 \(P_0\) が存在する場合、\(P_0 (V_A’ – V_0)\) の項だけ結果が異なります。
もしAが膨張して \(V_A’ > V_0\) ならば、系全体は大気から \(P_0(V_A’-V_0) > 0\) の仕事をされます。このため、同じ内部エネルギー変化を達成するために必要な外部からの熱供給 \(q\) は、その分だけ少なくて済みます(真空の場合に比べて \(P_0(V_A’-V_0)\) だけ少ない)。これは物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)): 気体の状態(圧力、体積、温度、物質量)を関連付ける基本法則であり、すべての設問で状態を記述するために不可欠でした。特に、複数の気体が関わる場合や、状態が変化する前後での適用が重要です。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\) または \(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\)): エネルギー保存則の熱力学における表現です。内部エネルギー変化、熱の出入り、仕事のやり取りの関係を正確に捉えることが核心でした。特に、\(Q\) や \(W\) の符号(吸収か放出か、した仕事かされた仕事か)の定義を明確にすることが大切です。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー (\(U = \frac{3}{2}nRT\)): 温度変化から直接内部エネルギー変化を計算できるため、熱力学第一法則と組み合わせて頻繁に用いられました。
- 力のつり合い: ピストンが静止している、またはゆっくり動いているという条件から、ピストンにかかる力のつり合いを考え、異なる部分の気体の圧力関係を導き出すことが重要でした。特にピストンの断面積が異なる場合には、圧力そのものではなく「力(圧力×面積)」でつり合いを考える必要があります。
- 断熱変化 (\(Q=0\)): 外部との熱のやり取りがないという条件は、熱力学第一法則の式を単純化し、内部エネルギー変化と仕事の関係を直接結びつけることを可能にしました(設問II)。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 複数のシリンダーがピストンで連結され、一方または両方の気体の状態を変化させる問題。
- 断熱壁や透熱壁(熱を通す壁)、固定された仕切りや可動式の仕切り(ピストン)など、境界条件が異なる問題。
- 外部からヒーターで加熱したり、外部の熱浴に接して温度を一定に保ったりする操作が含まれる問題。
- 大気圧下で気体が膨張・収縮し、大気に対して仕事をする(または仕事をされる)状況を考慮する問題。
- 初見の問題での着眼点と解法の手がかり:
- 図を丁寧に描く: 問題の状況、特にピストンの動きや力の作用点を正確に図示し、各部分の圧力、体積、温度などを記号で明確にします。
- 各気体の状態変化を追う: 操作の前後で各気体がどのような過程(等温、定圧、定積、断熱など)をたどるのか、あるいはそれらの組み合わせなのかを把握します。
- 保存則・基本法則の適用を検討: まず状態方程式、次に力のつり合い、そして熱力学第一法則が適用できないか考えます。
- 仕事の定義と計算: 気体がする仕事、される仕事、またピストンが大気にする仕事などを正確に区別し、計算します。体積変化がない場合は仕事は0です。圧力一定なら仕事は \(P\Delta V\)。圧力が変化する場合は積分が必要になることもありますが、多くは熱力学第一法則から間接的に求められます。
- 特に注意すべき点:
- 設問文を正確に読み取り、初期条件、変化の過程、最終状態、そして何が問われているのかを誤解しないこと。
- 記号の定義(例:\(Q\)が吸収熱か放出熱か)を一貫して使うこと。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 力のつり合いと圧力の混同:
- 現象: 断面積が異なるピストンでは、圧力が等しいのではなく、力が等しくなります。つまり \(P_1S_1 = P_2S_2\) です。
- 対策: 必ず「力 = 圧力 × 断面積」で考え、力のつり合いの式を立てる。
- 仕事の符号と定義の混同:
- 現象: 熱力学第一法則の \(W\) が「気体がした仕事」なのか「気体がされた仕事」なのかで符号が変わります。
- 対策: どちらの定義で立式しているかを常に意識し、問題を通して一貫した定義を用いる。図にエネルギーの出入りを矢印で描くとイメージしやすい。
- 断熱変化と等温変化の混同:
- 現象: 断熱変化は \(Q=0\) であり、温度は一般に変化します。等温変化は \(\Delta T=0\) (理想気体では \(\Delta U=0\)) であり、熱の出入りは一般にあります。
- 対策: 問題文の条件(「断熱材でできている」「熱のやりとりを断ち」「温度を一定に保った」など)を注意深く読み、どの変化に該当するかを正確に判断する。
- 体積変化の関係の見誤り:
- 現象: 連結ピストンで断面積が異なる場合、一方の体積変化量ともう一方の体積変化量の関係を誤る。
- 対策: ピストンの移動距離を共通の変数(例:\(x\))として設定し、各部分の体積変化を \(\Delta V = S \times x\) の形で表すと、関係が明確になる。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
- Aを加熱するとAの気体分子の運動が活発になり、ピストンを押して膨張しようとする。
- Bが断熱圧縮されると、外部から仕事をされて気体分子の運動エネルギーが増加し、温度が上昇する。
- ピストンが連結されているため、一方の膨張は他方の収縮を引き起こす(ただし全体の長さや配置による)。
- 大気圧が存在する場合、ピストンの動きに伴って大気も仕事をする(される)ことをイメージする。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 各容器とピストンを明確に区別して描く。
- 初期状態と変化後の状態を比較できるように、必要なら複数の図を描く。
- 圧力、体積、温度を各気体に書き込む。未知数は文字で、既知数は値で。
- ピストンにかかる力を矢印で示す(大きさや向きを意識して)。特に断面積が異なる場合は力の大きさが同じでも圧力は異なることに注意。
- 熱の出入り \(Q\) や仕事 \(W\) の方向も矢印で模式的に示すと理解の助けになる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
- 選定理由: 気体の圧力、体積、温度、物質量の間の関係を知りたいとき、またはこれらのうちいくつかが分かっていて残りを求めたいときに使用します。
- 適用根拠: 問題文で「理想気体」と明記されているため適用できます。各状態(初期、変化後など)で成り立ちます。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\)):
- 選定理由: 気体の状態変化に伴うエネルギーの収支(内部エネルギー変化、熱の出入り、仕事のやり取り)を議論する際に中心となる法則です。
- 適用根拠: エネルギー保存則であり、あらゆる熱力学的な過程に適用できます。
- 力のつり合いの式:
- 選定理由: ピストンが静止している、またはゆっくりと(加速度が無視できるほど)動いている場合に、ピストンにかかる力がつり合っていると考えられます。
- 適用根拠: ニュートンの運動法則(特に第一法則または第二法則で加速度が0の場合)。
- 公式選択の思考プロセス:
- まず、問題で何が問われているか、どのような情報が与えられているかを確認します。
- 次に、それぞれの物理現象や条件に最も適した法則・公式を選びます。例えば、気体の状態量を結びつけたいなら状態方程式、エネルギー変化を追いたいなら熱力学第一法則、ピストンの静止を考えたいなら力のつり合い、といった具合です。
- 公式を適用する際には、その公式が成り立つ前提条件(例:理想気体、断熱、等温など)が問題の状況と合致しているかを確認することが非常に重要です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題の状況分析: 容器の形状、ピストンの連結、断熱条件、温度調節の有無、初期状態(\(P, V, T, n\))、操作内容を正確に把握する。
- 物理量の設定: 未知の圧力、体積、温度、熱量、仕事などを適切な記号で設定する。添え字(例:\(P_A\), \(V_1\))を効果的に使い区別する。
- 基本法則の適用と立式:
- 力のつり合い: ピストンが静止している点に着目し、ピストンに働く力を図示し、力のつり合いの式を立てる(特に断面積が異なる場合に注意)。これにより圧力間の関係式が得られることが多い。
- 状態方程式: 各気体の各状態(操作前、操作後)について \(PV=nRT\) を適用する。
- 体積変化の関係: ピストンが連結されていることから、一方の体積変化ともう一方の体積変化の関係式を導く(断面積を考慮)。
- 熱力学第一法則: 各気体の状態変化に対して \(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\) を適用する。内部エネルギー変化 \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) (単原子分子理想気体の場合) や、断熱変化 (\(Q=0\))、等温変化 (\(\Delta U=0\)) などの条件を代入する。
- 連立方程式の求解: 上記で立てた複数の方程式を連立させ、未知数について解く。文字計算が主になるので、計算ミスに注意し、丁寧に式変形を行う。
- 解の吟味: 得られた答えが物理的に妥当か(単位、符号、極端な場合の挙動など)を検討する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- 複数の状態と複数の気体が登場するため、どの物理量がどの状態・どの気体のものかを明確に区別するための添え字の管理。
- 連立方程式を解く際の代入ミスや式変形のエラー。特に分数や複数の項を含む式の整理。
- 力のつり合いを立てる際、圧力と力を混同しないこと (\(F=PS\))。
- 体積変化の関係式を立てる際、断面積の違いや変化の向き(増加か減少か)を正確に反映すること。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 文字計算の徹底: できる限り最後まで文字で計算し、最後に数値を代入する(この問題では数値は出てきませんが)。これにより、途中の計算ミスを発見しやすくなり、一般的な関係式として結果を捉えられます。
- 途中式を省略しない: 各ステップを丁寧に記述することで、論理の流れが明確になり、間違いがあった場合の原因究明が容易になります。
- 単位を意識する: (この問題ではあまり関係ありませんが) 数値計算の場合は、単位の一貫性を保ち、最終的な答えの単位が正しいか確認する。
- 図や定義に戻る: 計算に行き詰まったり、結果がおかしいと感じたりしたら、元の図や物理量の定義、立てた式の意味に立ち返って確認する。
- 検算の習慣: 簡単な場合(例:\(T_1=T_0\)など)を代入して結果が予想通りになるか確かめる、あるいは別の方法で解けないか考える。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- 極端な条件下での振る舞いの考察: 例えば、問(1)で \(T_1 \gg T_0\) の場合や \(T_1 \approx T_0\) の場合に、\(V_A\) や \(P_A\) が直感的な振る舞い(大きく膨張する、ほとんど変化しないなど)と合うかを確認する。
- 既知の状況との比較: 例えば、Qの設問で大気圧 \(P_0=0\) とした場合に、真空中の結果と一致するかどうかを確認する。これは非常に有効な検算手段です。
- 物理量の符号の意味: 熱量 \(Q\) が正なら吸収、負なら放出。仕事 \(W_{\text{した}}\) が正なら外部に仕事をし、負なら外部から仕事をされる。内部エネルギー変化 \(\Delta U\) が正なら温度上昇、負なら温度低下(理想気体の場合)。これらの符号が物理的な状況と整合しているか常に確認する。
- 「解の吟味」を通じて得られること:
- 計算ミスや立式の誤りを発見する手がかりになる。
- 物理法則の理解が深まる。数式の背後にある物理的な意味を考えることで、単なる公式の暗記から脱却できる。
- 応用力が向上する。様々な状況で法則がどのように現れるかを考察することで、初見の問題にも対応しやすくなる。
- 物理現象に対する直感を養うことができる。
問題59 (名古屋大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、鉛直に置かれたシリンダー内の単原子理想気体が、ピストンの運動とどのように関わるかを熱力学と力学の両面から考察するものです。前半部(I)では気体の微小な断熱変化に注目し、圧力、体積、温度の変化の関係や仕事について解析します。後半部(II)では、その気体の圧力変化がピストンに及ぼす力となり、ピストンがどのような運動をするか(特に単振動)を明らかにしていきます。大気圧の存在やピストンの質量も考慮に入れる必要がある点がポイントです。
- 鉛直に置かれた断面積 \(S\) のシリンダー。
- 内部に単原子理想気体。初期状態:圧力 \(P\)、体積 \(V\)、絶対温度 \(T\)。
- ピストン:質量 \(M\)、滑らかに動く。
- 操作:ピストンを鉛直下方に距離 \(x_0\) だけ押し下げて静かに放す。
- 条件:
- \(x_0\) は底面からピストンまでの高さに比べて十分小さい(微小変化を示唆)。
- 容器全体は断熱材でできている(気体の変化は断熱変化)。
- 大気中に置かれている(大気圧 \(P_0\) を考慮)。
- セクションIでは、圧力、体積, 温度の変化 \(\Delta P, \Delta V, \Delta T\) は微小なので、それらの積は無視する。
- I. 気体の断熱変化について:
- (1) 初期状態 \(P,V,T\) と変化後 \(P+\Delta P, V+\Delta V, T+\Delta T\) の状態方程式から導かれる、\(\Delta P, \Delta V, \Delta T\) の間の関係式。
- (2) この変化において、気体がなされた仕事 \(W\) と、\(\Delta T\) と \(\Delta V\) の関係式。
- (3) \(\Delta P = -A\Delta V\) が成り立つときの \(A\)。
- II. ピストンの運動について:
- (4) ピストンがはじめの位置から \(x\) だけ鉛直下方に変位したときの、ピストンに働く合力 \(F\)。
- (5) (4)の位置でのピストンの速さ \(v\)。
- (6) ピストンの運動を特徴づける物理量2つとその大きさ。
- Q. 容器が熱をよく通し、等温変化が起こる場合、単振動の周期は長くなるか短くなるか(定性的判断)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題は、熱力学の法則と力学の法則が融合した典型的な問題です。前半では、微小な断熱変化における理想気体の性質を状態方程式と熱力学第一法則から導きます。後半では、前半で得られた気体の圧力変化がピストンに及ぼす力を復元力として捉え、ピストンの単振動を解析します。各ステップで、どの物理法則が適用できるか、近似がどのように使われるかをしっかり理解していきましょう。
問 (1)
思考の道筋とポイント
理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\) は、気体の状態が変化する前と後でそれぞれ成り立ちます。初期状態 \((P, V, T)\) と、微小変化後の状態 \((P+\Delta P, V+\Delta V, T+\Delta T)\) について状態方程式を立てます。変化後の式を展開し、\(\Delta P \Delta V\) のような「微小量 × 微小量」の項は非常に小さいため無視できるという近似を用います。そして、初期状態の式と比較することで、\(\Delta P, \Delta V, \Delta T\) の間に成り立つ関係式を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 初期状態と変化後の状態それぞれに理想気体の状態方程式を適用します。
- 微小量の積(例: \(\Delta P \Delta V\))は無視するという近似計算を正しく行います。
- 目標とする関係式は、各物理量の変化の「割合」 \(\frac{\Delta P}{P}\), \(\frac{\Delta V}{V}\), \(\frac{\Delta T}{T}\) の間の関係です。
具体的な解説と立式
気体の物質量を \(n\)、気体定数を \(R\) とします。
初期状態での理想気体の状態方程式は、
$$PV = nRT \quad \cdots ①$$
微小変化後の状態は、圧力が \(P+\Delta P\)、体積が \(V+\Delta V\)、絶対温度が \(T+\Delta T\) です。この状態での状態方程式は、
$$(P+\Delta P)(V+\Delta V) = nR(T+\Delta T) \quad \cdots ②$$
式②の左辺を展開すると、\(PV + P\Delta V + V\Delta P + \Delta P \Delta V\) となります。
問題の指示通り、微小量の積 \(\Delta P \Delta V\) は無視できるので、左辺は \(PV + P\Delta V + V\Delta P\) と近似できます。
式②の右辺は \(nRT + nR\Delta T\) です。
よって、式②は近似的に、
$$PV + P\Delta V + V\Delta P = nRT + nR\Delta T$$
となります。ここで、式① (\(PV = nRT\)) を用いると、この式の \(PV\) と \(nRT\) の部分が等しいので、これらを消去できます。
結果として、変化量に関する以下の関係式が得られます。
$$P\Delta V + V\Delta P = nR\Delta T \quad \cdots ③$$
この式を \(P, V, T\) を用いて、変化率の形にします。式①より \(nR = \frac{PV}{T}\) なので、これを式③の右辺に代入すると、
$$P\Delta V + V\Delta P = \frac{PV}{T}\Delta T$$
この式の両辺を \(PV\) で割ることにより、求める関係式が得られます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
式 \(P\Delta V + V\Delta P = \displaystyle\frac{PV}{T}\Delta T\) の両辺を \(PV\) で割ります。
$$\frac{P\Delta V}{PV} + \frac{V\Delta P}{PV} = \frac{PV\Delta T}{PVT}$$
各項を約分すると、
$$\frac{\Delta V}{V} + \frac{\Delta P}{P} = \frac{\Delta T}{T} \quad \cdots ④$$
これが \(P, V, T\) の変化量 \(\Delta P, \Delta V, \Delta T\) の間に成り立つ関係式です。
気体の状態を表す基本的な式(状態方程式)を、変化する前と変化した後でそれぞれ立てます。変化はとても小さいので、変化した量どうしの掛け算(例えば、圧力の小さな変化 × 体積の小さな変化)は、無視できるほど小さいと考えます。これらの式をうまく組み合わせることで、圧力、体積、温度のそれぞれの「変化の割合」の間に成り立つ関係を見つけ出すことができます。具体的には、「体積の変化率 + 圧力の変化率 = 温度の変化率」という形になります。
\(P, V, T\) の間に成り立つ関係式は \(\displaystyle\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T}\) です。この式は、気体の状態が微小に変化したときの、各物理量の相対的な変化(変化率)を結びつけています。例えば、温度が一定 (\(\Delta T = 0\)) であれば、ボイルの法則に近い \(\frac{\Delta P}{P} = -\frac{\Delta V}{V}\) (つまり \(P\Delta V + V\Delta P = 0\) であり、これは積の微分法から \(\Delta (PV) = (\Delta P)V + P(\Delta V)\) なので、微小変化において \(\Delta (PV) \approx 0\) を意味します) という関係が微小変化の範囲で成り立つことを示唆しています。
問 (2)
思考の道筋とポイント
まず、微小な体積変化 \(\Delta V\) において気体がなされる仕事 \(W\) を求めます。体積変化が微小なため、その間の圧力はほぼ初期圧力 \(P\) で一定とみなすことができます。この近似のもとで仕事を計算します。次に、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) を適用します。問題文より容器は断熱材でできているため、断熱変化であり \(Q=0\) です。単原子理想気体の内部エネルギー変化 \(\Delta U\) は \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) と表せます。これらの関係式から、\(\Delta T\) と \(\Delta V\) の関係を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 微小体積変化における仕事の計算: \(W_{\text{された}} = -P\Delta V\)。
- 断熱変化の条件: \(Q=0\)。
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\)。
- 単原子理想気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。
- 初期状態の状態方程式 \(PV=nRT\) を用いて \(nR\) を消去する。
具体的な解説と立式
体積が \(V\) から \(V+\Delta V\) へと微小変化する際、圧力はほぼ \(P\) で一定とみなせます。
気体が外部にする仕事は \(P\Delta V\) と近似できます。したがって、気体が外部から「なされた」仕事 \(W\) は、その符号を反転させたものになります。
$$W = -P\Delta V \quad \cdots ⑤$$
次に、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q + W\) を用います。
容器は断熱材でできているため、断熱変化であり、外部との熱のやり取りはありません。よって \(Q=0\)。
したがって、熱力学第一法則は、
$$\Delta U = W \quad \cdots ⑥$$
単原子理想気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、物質量を \(n\)、気体定数を \(R\) とすると、
$$\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T \quad \cdots ⑦$$
ここで、初期状態の状態方程式 \(PV=nRT\) (式①) を用いて \(nR\) を消去します。式①より \(nR = \displaystyle\frac{PV}{T}\) なので、これを式⑦に代入すると、
$$\Delta U = \frac{3}{2}\frac{PV}{T}\Delta T \quad \cdots ⑧$$
式⑥に、仕事 \(W\) (式⑤) と内部エネルギー変化 \(\Delta U\) (式⑧) を代入すると、\(\Delta T\) と \(\Delta V\) の関係式が得られます。
$$\frac{3}{2}\frac{PV}{T}\Delta T = -P\Delta V \quad \cdots ⑨$$
使用した物理公式
- 仕事(微小変化): \(W_{\text{された}} = -P\Delta V\)
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\)
- 断熱変化: \(Q=0\)
- 単原子理想気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
- 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\) ( \(nR\) の消去に使用)
式⑨の両辺から \(P\) を消去します (\(P \neq 0\) より)。
$$\frac{3}{2}\frac{V}{T}\Delta T = -\Delta V$$
この式を \(\Delta T\) について解くと、
$$\Delta T = -\frac{2T}{3V}\Delta V \quad \cdots ⑩$$
気体の体積がほんの少し変わるとき、気体がされる仕事は「-(圧力 × 体積の変化量)」で計算できます。一方、気体の温度が少し変わると、内部のエネルギーも変化します。このエネルギー変化は「\(\frac{3}{2} \times (\text{物質量}) \times (\text{気体定数}) \times (\text{温度の変化量})\)」で計算できます。容器が断熱材でできているので、外部との熱のやり取りはありません。このとき、「気体がされた仕事」はすべて「内部エネルギーの変化」になる、というエネルギー保存の法則(熱力学第一法則)が成り立ちます。これらの関係式を組み合わせることで、温度の変化量と体積の変化量の間の関係式が得られます。
気体がなされた仕事は \(W = -P\Delta V\) です。
そして、\(\Delta T\) と \(\Delta V\) の関係は \(\Delta T = -\displaystyle\frac{2T}{3V}\Delta V\) です。
この関係式は、断熱変化における温度と体積の変化の関係を示しています。例えば、気体が圧縮される(\(\Delta V < 0\)) 場合、\(\Delta T\) は正となり温度が上昇します。これは断熱圧縮による温度上昇という物理現象と一致しており、結果の妥当性を示しています。
問 (3)
思考の道筋とポイント
設問(1)で得られた関係式 \(\displaystyle\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T}\) (式④) と、設問(2)で得られた関係式 \(\Delta T = -\displaystyle\frac{2T}{3V}\Delta V\) (式⑩) を組み合わせます。具体的には、式④に式⑩を代入して \(\Delta T\) を消去し、\(\Delta P\) と \(\Delta V\) の間の関係式を導きます。その結果を問題で指定された形 \(\Delta P = -A\Delta V\) と比較することで、係数 \(A\) を特定します。
この設問における重要なポイント
- 前の設問で導出した関係式を正確に用います。
- 式の代入と、\(\Delta P\) について整理する代数計算を丁寧に行います。
具体的な解説と立式
設問(1)で得られた関係式は、
$$\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T} \quad \cdots ④$$
設問(2)で得られた関係式は、
$$\Delta T = -\frac{2T}{3V}\Delta V \quad \cdots ⑩$$
式⑩を式④の右辺の \(\Delta T\) に代入します。
$$\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{1}{T}\left(-\frac{2T}{3V}\Delta V\right)$$
使用した物理公式
- 設問(1)の結果: \(\displaystyle\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T}\)
- 設問(2)の結果: \(\Delta T = -\displaystyle\frac{2T}{3V}\Delta V\)
式④に式⑩を代入した式の右辺を計算すると、
$$\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = -\frac{2\Delta V}{3V}$$
この式を \(\displaystyle\frac{\Delta P}{P}\) について解きます。
$$\frac{\Delta P}{P} = -\frac{2\Delta V}{3V} – \frac{\Delta V}{V}$$
右辺を通分してまとめます。\(\frac{\Delta V}{V} = \frac{3\Delta V}{3V}\) なので、
$$\frac{\Delta P}{P} = -\frac{2\Delta V}{3V} – \frac{3\Delta V}{3V} = \frac{-2\Delta V – 3\Delta V}{3V} = -\frac{5\Delta V}{3V}$$
最後に、両辺に \(P\) を掛けて \(\Delta P\) を求めます。
$$\Delta P = -\frac{5P}{3V}\Delta V \quad \cdots ⑪$$
この結果を問題の形式 \(\Delta P = -A\Delta V\) と比較すると、係数 \(A\) は、
$$A = \frac{5P}{3V}$$
前の設問で、圧力・体積・温度の小さな変化の間の関係式(A)と、温度変化と体積変化の間の関係式(B)を見つけました。この二つの式を組み合わせます。具体的には、式(A)に式(B)を代入して「温度変化」の項を消去します。そうすると、圧力変化と体積変化だけの関係式が得られます。この式を問題で指定された形 \(\Delta P = -A\Delta V\) に整えると、係数 \(A\) が何になるかが分かります。
\(A = \displaystyle\frac{5P}{3V}\) です。
\(P\) と \(V\) はそれぞれ初期の圧力と体積で正の値なので、\(A\) も正の定数となります。この \(A\) は、断熱変化における体積変化に対する圧力変化の度合い(一種の「硬さ」のようなもの)を表しています。\(\Delta P = -A\Delta V\) の関係は、\(\Delta V > 0\)(膨張)のとき \(\Delta P < 0\)(圧力減少)、\(\Delta V < 0\)(圧縮)のとき \(\Delta P > 0\)(圧力増加)となり、物理的な直感と一致します。
問 (4)
思考の道筋とポイント
ピストンがはじめのつり合いの位置から \(x\) だけ鉛直下方に変位したときの、ピストンに働く合力 \(F\) を求めます。ピストンに働く力は、(1)重力 \(Mg\)、(2)大気圧による力 \(P_0S\)、(3)シリンダー内の気体の圧力による力 \((P+\Delta P)S\) の3つです。はじめのつり合いの位置では、これらの力がつり合っていたことを利用します。変位 \(x\) によって気体の体積が \(V-Sx\) と変化し(体積変化 \(\Delta V = -Sx\))、圧力が \(P\) から \(P+\Delta P\) に変化します。この \(\Delta P\) は設問(3)の結果 \(\Delta P = -A\Delta V\) を用いて表すことができます。これらの力から合力を計算します。力の向きに注意し、下向きを正として計算を進めます。
この設問における重要なポイント
- ピストンに働くすべての力を特定する(重力、大気圧による力、内部気体の圧力による力)。
- 初期の力のつり合いの条件を正しく利用する。
- 変位 \(x\) に伴う体積変化 \(\Delta V = -Sx\) を理解する。
- 設問(3)で求めた圧力変化 \(\Delta P = -A\Delta V\) の関係を適用する。
- 合力を計算する際の力の向き(符号)に注意する。
具体的な解説と立式
ピストンの質量を \(M\)、断面積を \(S\)、大気圧を \(P_0\) とします。鉛直下向きを正の向きとします。
はじめのつり合いの位置(\(x=0\))では、ピストンに働く力はつり合っています。
上向きの力:内部気体の初期圧力 \(P\) による力 \(PS\)。
下向きの力:重力 \(Mg\) と大気圧による力 \(P_0S\)。
力のつり合いの式は、
$$PS = Mg + P_0S \quad \cdots ⑫$$
ピストンがはじめの位置から \(x\) だけ鉛直下方に変位したとき、ピストンに働く力は以下の通りです。
- 重力:\(Mg\) (下向き、正)
- 大気圧による力:\(P_0S\) (下向き、正)
- 内部気体の圧力による力:
体積は \(V’ = V – Sx\) となり、体積変化は \(\Delta V = V’ – V = -Sx\)。
このときの気体の圧力を \(P’ = P + \Delta P\) とすると、気体がピストンを押し上げる力(上向き)は \((P+\Delta P)S\)。したがって、この力の \(x\) 方向(下向き)の成分は \( -(P+\Delta P)S \)。
ピストンに働く合力 \(F\)(下向きを正)は、これらの力の和として、
$$F = Mg + P_0S – (P+\Delta P)S \quad \cdots ⑬$$
ここで、式⑫のつり合い条件 \(Mg + P_0S = PS\) を用いると、式⑬は
$$F = PS – (P+\Delta P)S$$
となります。これを整理すると、
$$F = PS – PS – \Delta P S = -\Delta P S \quad \cdots ⑭$$
設問(3)の結果 \(\Delta P = -A\Delta V\) と、\(A = \displaystyle\frac{5P}{3V}\)、そして体積変化 \(\Delta V = -Sx\) を用います。
まず、\(\Delta P\) を \(x\) で表します。
$$\Delta P = -A\Delta V = -\left(\frac{5P}{3V}\right)(-Sx) = \frac{5PS}{3V}x$$
この \(\Delta P\) を式⑭に代入して \(F\) を求めます。
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 設問(3)の結果: \(\Delta P = -A\Delta V\) (ただし \(A = \frac{5P}{3V}\))
- 体積変化: \(\Delta V = -Sx\)
\(\Delta P = \displaystyle\frac{5PS}{3V}x\) を式⑭ \(F = -\Delta P S\) に代入します。
$$F = -\left(\frac{5PS}{3V}x\right)S$$
$$F = -\frac{5PS^2}{3V}x \quad \cdots ⑮$$
ピストンが少し下に動くと、中の気体は圧縮されて圧力が少し上がります。ピストンには、地球が引く力(重力)、外の空気が押す力(大気圧による力)、そして中の気体が押し返す力が働いています。最初にピストンが静止していたときは、これらの力が釣り合っていました。ピストンが \(x\) だけ下にずれると、中の気体の圧力だけが変わるので、力の釣り合いが崩れます。この崩れた分の力が、ピストンを元の位置に戻そうとする力(またはさらに動かそうとする力)になります。この合力の大きさと向きを計算します。初めのつり合いの条件を使うと、計算が少し簡単になります。
ピストンに働いている力(合力、下向きを正)は \(F = -\displaystyle\frac{5PS^2}{3V}x\) です。
この力の形は \(F=-Kx\) (ここで \(K = \frac{5PS^2}{3V}\) は正の定数) となっており、変位 \(x\) に比例し、向きが変位と反対向きであることを示しています。これは単振動を引き起こす復元力の特徴です。\(x\) が正(下向きに変位)のとき \(F\) は負(上向きの力)、\(x\) が負(上向きに変位)のとき \(F\) は正(下向きの力)となり、常につり合いの位置 \(x=0\) に戻そうとする方向に力が働くことがわかります。
問 (5)
思考の道筋とポイント
設問(4)で求めた力 \(F = -Kx\) (ただし \(K = \frac{5PS^2}{3V}\)) は、単振動を引き起こす復元力です。ピストンは \(x=0\)(つり合いの位置)を中心に、振幅 \(x_0\) で単振動します(静かに放したので \(x=x_0\) が振動の端です)。この単振動において、エネルギー保存則が成り立ちます。振動の端 (\(x=x_0\)) でのポテンシャルエネルギー(弾性エネルギーに相当)は \(\frac{1}{2}Kx_0^2\) で、このとき運動エネルギーは \(0\) です。任意の位置 \(x\) でのポテンシャルエネルギーは \(\frac{1}{2}Kx^2\)、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}Mv^2\) です。これらの和が保存されることを利用して、速さ \(v\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- ピストンの運動が単振動であることを理解する。
- 復元力の比例定数 \(K = \displaystyle\frac{5PS^2}{3V}\) を用いる。
- 単振動における力学的エネルギー保存則を適用する。
- 初期条件(\(x=x_0\) で \(v=0\))を正しく使う。
具体的な解説と立式
ピストンに働く復元力は \(F = -Kx\) で、ここでばね定数に相当する比例定数は \(K = \displaystyle\frac{5PS^2}{3V}\) です。
ピストンはつり合いの位置 \(x=0\) を中心として単振動を行います。
ピストンは \(x=x_0\) の位置で静かに放されたので、この位置が単振動の一方の端(振幅 \(A_{\text{amp}} = x_0\))であり、この位置での速さは \(0\) です。
単振動における力学的エネルギー保存則は、
$$(\text{位置 } x_0 \text{ での力学的エネルギー}) = (\text{位置 } x \text{ での力学的エネルギー})$$
$$\frac{1}{2}Kx_0^2 + \frac{1}{2}M(0)^2 = \frac{1}{2}Kx^2 + \frac{1}{2}Mv^2$$
ここで \(v\) は位置 \(x\) におけるピストンの速さです。
したがって、
$$\frac{1}{2}Kx_0^2 = \frac{1}{2}Kx^2 + \frac{1}{2}Mv^2 \quad \cdots ⑯$$
この式から \(v\) を求めます。
使用した物理公式
- 単振動の復元力: \(F=-Kx\)
- 単振動の力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)
式⑯の両辺に2を掛けて整理すると、
$$Kx_0^2 = Kx^2 + Mv^2$$
\(Mv^2\) について解くと、
$$Mv^2 = Kx_0^2 – Kx^2 = K(x_0^2 – x^2)$$
\(v^2\) について解くと、
$$v^2 = \frac{K}{M}(x_0^2 – x^2)$$
速さ \(v\) は \(0\) 以上なので、平方根をとります。
$$v = \sqrt{\frac{K}{M}(x_0^2 – x^2)}$$
ここに \(K = \displaystyle\frac{5PS^2}{3V}\) を代入すると、
$$v = \sqrt{\frac{1}{M}\left(\frac{5PS^2}{3V}\right)(x_0^2 – x^2)}$$
$$v = S\sqrt{\frac{5P}{3MV}(x_0^2 – x^2)} \quad \cdots ⑰$$
ピストンは、つり合いの位置を中心にして行ったり来たりする運動(単振動)をします。この運動では、全体のエネルギー(「位置のエネルギー」と「運動のエネルギー」の合計)が常に一定に保たれます。最初にピストンを押し下げて放した位置では、速さがゼロなので運動エネルギーもゼロで、位置のエネルギーが最大です。ピストンが動いている途中では、位置のエネルギーの一部が運動のエネルギーに変わります。このエネルギー保存の関係を使うと、任意の位置 \(x\) でのピストンの速さを計算することができます。
ピストンの速さは \(v = S\sqrt{\displaystyle\frac{5P}{3MV}(x_0^2 – x^2)}\) です。
この式は単振動における速さと変位の関係を示しています。
- 振動の端(\(x = \pm x_0\))では、\(x_0^2 – x^2 = 0\) となるため \(v=0\) となり、これは物理的に正しいです。
- 振動の中心(\(x=0\))では、\(x_0^2 – x^2 = x_0^2\) となり、速さは最大値 \(v_{\text{max}} = S\sqrt{\frac{5P}{3MV}x_0^2} = Sx_0\sqrt{\frac{5P}{3MV}}\) をとります。これも単振動の性質と一致します。
問 (6)
思考の道筋とポイント
ピストンの運動は、つり合いの位置 \(x=0\) を中心とする単振動です。単振動を特徴づける基本的な物理量としては、振幅、周期(または角振動数)、振動中心などが挙げられます。問題では2つ挙げるよう指示されています。
振動中心は \(x=0\) です。
振幅は、ピストンを静かに放した位置が振動の端となるため、初期の変位 \(x_0\) に等しくなります。
周期 \(T_p\) は、単振動の公式 \(T_p = 2\pi \sqrt{\frac{M}{K}}\) を用いて計算できます。ここで \(M\) はピストンの質量、\(K\) は復元力の比例定数 (\(K = \frac{5PS^2}{3V}\)) です。角振動数 \(\omega = \sqrt{\frac{K}{M}}\) を求めてから周期を計算することもできます。
この設問における重要なポイント
- 単振動の基本的な特徴量(振幅、周期、角振動数、振動中心など)を理解していること。
- 振幅が初期の変位 \(x_0\) であることを把握する。
- 質量 \(M\) と復元力の比例定数 \(K\) を用いて周期または角振動数を計算する。
具体的な解説と立式
ピストンの運動は、つり合いの位置 \(x=0\) を中心とする単振動です。
特徴づける物理量として、振幅と周期(または角振動数)を挙げます。
1. 振幅 \(A_{\text{amp}}\):
ピストンは \(x=x_0\) の位置で静かに放されたので、この位置が振動の端(最大変位)となります。したがって、振幅は、
$$A_{\text{amp}} = x_0 \quad \cdots ⑱$$
2. 周期 \(T_p\):
単振動の復元力の比例定数は \(K = \displaystyle\frac{5PS^2}{3V}\) でした。
単振動の周期 \(T_p\) は、ピストンの質量 \(M\) と比例定数 \(K\) を用いて次のように表されます。
$$T_p = 2\pi\sqrt{\frac{M}{K}} \quad \cdots ⑲$$
または、角振動数 \(\omega\) は \(\omega = \sqrt{\displaystyle\frac{K}{M}}\) であり、周期は \(T_p = \displaystyle\frac{2\pi}{\omega}\) です。
使用した物理公式
- 単振動の振幅
- 単振動の周期: \(T_p = 2\pi\sqrt{\frac{M}{K}}\)
- 単振動の角振動数: \(\omega = \sqrt{\frac{K}{M}}\)
振幅:
$$A_{\text{amp}} = x_0$$
周期 \(T_p\):
式⑲に \(K = \displaystyle\frac{5PS^2}{3V}\) を代入します。
$$T_p = 2\pi\sqrt{\frac{M}{\frac{5PS^2}{3V}}} = 2\pi\sqrt{\frac{3MV}{5PS^2}}$$
分母の \(S^2\) をルートの外に出すと、
$$T_p = \frac{2\pi}{S}\sqrt{\frac{3MV}{5P}} \quad \cdots ㉑$$
角振動数 \(\omega\) (もう一つの特徴量として):
$$\omega = \sqrt{\frac{K}{M}} = \sqrt{\frac{1}{M} \cdot \frac{5PS^2}{3V}} = S\sqrt{\frac{5P}{3MV}} \quad \cdots ㉒$$
ピストンの行ったり来たりする運動(単振動)を特徴づける量としては、「どれくらいの幅で振動するか(振幅)」と「一往復するのにどれくらいの時間がかかるか(周期)」が代表的です。
振幅は、最初にピストンを押し下げて放した距離 \(x_0\) そのものです。
周期は、ピストンの質量 \(M\) と、ピストンを元の位置に戻そうとする力の強さ(復元力の比例定数 \(K\))に関係し、\(2\pi\sqrt{M/K}\) という式で計算できます。この \(K\) は前の設問で求めた値を使います。
ピストンの運動を特徴づける物理量とその大きさの例として、以下が挙げられます。
- 振幅: \(x_0\)
- 周期: \(T_p = \displaystyle\frac{2\pi}{S}\sqrt{\frac{3MV}{5P}}\)
他の特徴量としては、角振動数 \(\omega = S\sqrt{\displaystyle\frac{5P}{3MV}}\) などがあります。周期と角振動数は互いに変換可能 (\(T_p = 2\pi/\omega\)) なので、どちらか一方を答えれば運動の振動の速さの度合いは特定されます。振動中心が \(x=0\) であることも重要な特徴です。
【コラム】Q. 容器が熱をよく通し、等温変化が起こる場合、単振動の同期は長くなるか短くなるか。PVグラフを考え、定性的に判断せよ。(★)
思考の道筋とポイント
この問題を考えるには、断熱変化と等温変化の \(P-V\) グラフ上での傾きの違いを理解することが重要です。一般に、ある点を共有する断熱変化の曲線と等温変化の曲線とでは、断熱変化の曲線の方が傾きが急(絶対値が大きい)になります。
ピストンの運動における復元力の強さ(ばね定数 \(K\) に相当)は、この \(P-V\) グラフの傾きに比例します。傾きが緩やかであれば、同じ体積変化(ピストンの変位)に対する圧力変化が小さくなり、結果として復元力も小さくなります。
単振動の周期は \(T_p = 2\pi\sqrt{M/K}\) で与えられるため、復元力の比例定数 \(K\) が小さいほど周期は長くなります。
具体的な解説と考察
\(P-V\) グラフにおいて、気体の状態変化を表す曲線の傾きは、その変化における「体積変化に対する圧力変化のしやすさ(またはしにくさ)」を反映します。
等温変化の場合、\(PV = \text{一定}\) です。この曲線の傾きは \(\displaystyle\frac{dP}{dV} = -\frac{P}{V}\) です。
断熱変化の場合、単原子理想気体では \(PV^{5/3} = \text{一定}\) (ポアソンの法則、\(\gamma = 5/3\)) です。この曲線の傾きは \(\displaystyle\frac{dP}{dV} = -\frac{5}{3}\frac{P}{V}\) となります。
同じ点 \((V, P)\) において比較すると、断熱変化の傾きの絶対値 \( \left|-\frac{5}{3}\frac{P}{V}\right| \) は、等温変化の傾きの絶対値 \( \left|-\frac{P}{V}\right| \) よりも大きいです (\(\frac{5}{3} > 1\))。つまり、断熱変化のグラフの方が急勾配です。
ピストンが微小変位 \(x\) だけ動いたときの体積変化を \(\Delta V = -Sx\) とすると、圧力変化 \(\Delta P\) はグラフの傾きを用いて \(\Delta P \approx (\text{傾き}) \Delta V\) と表せます。
ピストンに働く復元力の比例定数 \(K\) は、\(F = -\Delta P \cdot S\) であり、\(\Delta P\) が \(\Delta V\) に比例し、\(\Delta V\) が \(x\) に比例することから、\(K \propto \left|\frac{\Delta P}{\Delta V}\right|\) となります。これは \(P-V\) グラフの傾きの絶対値に比例します。
容器が熱をよく通し等温変化が起こる場合、\(P-V\) グラフの傾きは断熱変化の場合よりも緩やか(絶対値が小さい)になります。 これは、同じ体積変化 \(\Delta V\) に対する圧力変化 \(\Delta P\) が、等温変化の方が小さいことを意味します。
その結果、等温変化における復元力の比例定数 \(K_{\text{等温}}\) は、断熱変化における復元力の比例定数 \(K_{\text{断熱}}\) よりも小さくなります。
(具体的には \(K_{\text{等温}} = \frac{PS^2}{V}\)、\(K_{\text{断熱}} = \frac{5PS^2}{3V}\) なので、\(K_{\text{等温}} < K_{\text{断熱}}\) です。)
単振動の周期 \(T_p = 2\pi\sqrt{M/K}\) は、比例定数 \(K\) が小さいほど長くなります。
したがって、等温変化が起こる場合、\(K\) が小さくなるため、単振動の周期は断熱変化の場合よりも長くなります。
結論と吟味
等温変化では、気体の温度が一定に保たれるため、圧縮されても圧力の上昇は断熱圧縮ほど急激ではありません(熱が外部に逃げるため)。逆に膨張しても圧力の低下は断熱膨張ほど急激ではありません(外部から熱が入るため)。これにより、ピストンを元の位置に戻そうとする復元力が相対的に弱くなり(\(K\) が小さくなる)、振動が一往復するのにかかる時間(周期)は長くなります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)): 気体のマクロな状態量(圧力、体積、温度、物質量)を関連付ける、熱力学の基本中の基本法則です。微小変化の際にも適用し、変化量間の関係を導く出発点となりました。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\)): エネルギー保存則の熱力学バージョンです。内部エネルギーの変化が、外部との熱のやり取りと仕事のやり取りによって決まることを示します。断熱変化 (\(Q=0\)) の条件と組み合わせることで、仕事と内部エネルギー変化の関係が明確になりました。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー (\(U = \frac{3}{2}nRT\)): 気体の種類(単原子分子)と状態(理想気体)が指定されている場合に、内部エネルギーを温度だけで表せる重要な式です。これにより、温度変化 \(\Delta T\) から直接 \(\Delta U\) を計算できました。
- 断熱変化の理解 (\(Q=0\)): 容器が断熱材でできているという条件から、気体が外部と熱を交換しない断熱変化として扱いました。これは熱力学第一法則の適用を単純化します。
- 力のつり合いと運動方程式(単振動): ピストンに働く力を分析し、初期のつり合い条件を考慮することが重要でした。 また、変位に比例する復元力が働くことを見抜き、それが単振動を引き起こすことを理解する必要がありました。単振動のエネルギー保存則や周期の公式も鍵となりました。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- シリンダー内の気体の状態変化(断熱、等温、定圧、定積など)とピストンの運動(力のつり合い、単振動、等加速度運動など)が連動する問題。
- ばね振り子の類推:気体の圧縮・膨張が、あたかも「気体のばね」として働き、ピストンに復元力を及ぼすような状況。
- 微小変化を扱い、近似計算(高次の微小量の無視)を用いる問題。
- 大気圧や重力がピストンの運動に影響を与える問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 系の設定と境界条件の確認: まず、シリンダーやピストンの材質(断熱か透熱か)、気体の種類、外部環境(真空中か大気中か)などを正確に把握します。
- 変化の種類を特定: 気体の状態変化が断熱、等温、定圧、定積のいずれか、またはそれらの組み合わせかを見極めます。微小変化かどうかも重要です。
- ピストンに働く力の図示: ピストンにかかるすべての力(気体の圧力、大気圧、重力、ばねの力など)を漏れなく図示し、ベクトル的に考察します。
- 初期状態と変化後の状態の関係付け: 状態方程式や熱力学第一法則を用いて、変化の前後での物理量の関係を数式で表します。
- 運動の種類を判断: ピストンに働く合力が変位に比例し逆向き(\(F=-kx\))であれば単振動、一定であれば等加速度運動など、力の性質から運動のタイプを特定します。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 「微小変化」という言葉が出てきたら、高次の微小量は無視できる近似が使える可能性が高いです。
- 「断熱」なら \(Q=0\)。「等温」なら \(\Delta T=0\) (\(\Delta U=0\))。これらの条件を熱力学第一法則に適用します。
- 力のつり合いは、静止時だけでなく、運動中の力の関係を考える上でも基本となります。
- 単振動の場合、振動中心(つり合いの位置)と振幅を正確に特定することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事の符号の誤り:
- 現象: 気体が「する仕事」と「される仕事」を混同したり、熱力学第一法則の式の形によって符号を取り違えたりする。
- 対策: \(W\) の定義(した仕事か、された仕事か)を常に明確にし、\(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\) または \(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\) のどちらの形式で立式しているかを意識する。体積が増加すれば気体は正の仕事をし、体積が減少すれば気体は負の仕事をする(=正の仕事をされる)という基本を理解する。
- 微小変化の近似の誤用:
- 現象: \(\Delta P \Delta V\) などの高次の微小量を無視し忘れたり、逆に無視してはいけない主要な項まで無視してしまったりする。
- 対策: どの項が1次の微小量で、どの項が2次以上の微小量なのかを意識する。展開した際に、微小量同士の積の項のみを無視するという原則を守る。
- 力のつり合いと合力の混同:
- 現象: つり合いの位置からずれた場合に、依然として力がつり合っているかのように考えてしまう。あるいは、合力を求める際に一部の力を見落とす。
- 対策: ピストンに働くすべての力を図示し、つり合いの位置からの変位によってどの力がどう変化するかを考える。合力は、これらの力のベクトル和である。
- 単振動の条件の見落とし:
- 現象: 復元力が \(F=-Kx\) の形になっていることに気づかず、エネルギー保存則や周期の公式を適用できない。
- 対策: ピストンに働く合力を変位 \(x\) の関数として表したときに、\(F=-(\text{正の定数})x\) の形になるかを確認する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
- ピストンを押し下げると、中の気体は「ぎゅっ」と圧縮され、元の体積に戻ろうとする「反発力」が増すイメージ。これが復元力のもと。
- 断熱圧縮なので、気体分子がピストンに押されて運動エネルギーを得て、結果として温度が上がるイメージ。
- 放されたピストンは、この気体の反発力と重力・大気圧とのバランスを取りながら上下に振動する。まるで「気体のばね」につながれたおもりのように。
- \(P-V\) グラフ上で、断熱変化のカーブは等温変化のカーブよりも傾きが急であることを視覚的に捉える。 これは、断熱の方が「硬い」ばねに相当することを意味する。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- ピストンに働くすべての力(重力 \(Mg\)、大気圧による力 \(P_0S\)、内部気体の圧力による力 \(P’S\))を、作用点と向きを明確にして矢印で描く。
- つり合いの位置と、そこからの変位 \(x\) を図中に示す。
- 体積変化 \(\Delta V\) と変位 \(x\) の関係 (\(\Delta V = -Sx\)) を図から読み取れるようにする。
- \(P-V\) グラフを描く際は、断熱変化と等温変化の曲線の相対的な傾きの違いを意識して描く。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 理想気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
- 選定理由: (1)で気体の状態変化前後の関係を調べるため、また(2)で \(nR\) を消去するために使用。気体の \(P,V,T\) の関係を扱う基本。
- 適用根拠: 問題文に「理想気体」と明記されているため。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\)):
- 選定理由: (2)で断熱変化における内部エネルギー変化と仕事の関係を調べるために使用。エネルギーの出入りを伴う変化の解析に不可欠。
- 適用根拠: エネルギー保存則であり、あらゆる熱力学的過程に適用可能。特に「断熱材でできている」という記述から \(Q=0\) として適用。
- 単振動のエネルギー保存則 (\(\frac{1}{2}Mv^2 + \frac{1}{2}Kx^2 = \text{一定}\)):
- 選定理由: (5)でピストンの速さを求めるため。運動が単振動であると特定された後、その特性を利用。
- 適用根拠: (4)でピストンに働く合力が \(F=-Kx\) の形で表され、単振動することが確認されたため。
- 公式選択の思考プロセス:
- 公式を適用する前に、その公式が成り立つための「前提条件」を常に確認する癖をつける。「なぜこの法則が、この場面で使えるのか?」を自問自答することで、物理法則の適用範囲と限界を正しく理解し、誤用を防ぐことができる。例えば、「断熱変化だから \(Q=0\)」「単原子理想気体だから \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)」「微小変化だから \(W_{\text{された}} \approx -P\Delta V\)」など、根拠を明確にする。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題の状況把握と初期条件の確認: 鉛直シリンダー、ピストンの質量、断熱、大気圧、気体の種類、初期 \(P,V,T\)。
- I部(気体の断熱変化):
- (1) 状態方程式を変化の前後で立て、微小量の積を無視して \(\Delta P, \Delta V, \Delta T\) の関係式を導出。
- (2) 微小体積変化での仕事 \(W\) を \(W=-P\Delta V\) と近似。熱力学第一法則 (\(Q=0\)) と \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\) から \(\Delta T\) と \(\Delta V\) の関係式を導出。
- (3) (1)と(2)の結果を組み合わせて \(\Delta T\) を消去し、\(\Delta P = -A\Delta V\) の形にして \(A\) を求める。
- II部(ピストンの運動):
- (4) ピストンに働く力(重力、大気圧、内部気体圧)を図示。初期つり合い条件を利用し、変位 \(x\) のときの合力 \(F\) を \(x\) の関数として表す(\(\Delta V = -Sx\) と(3)の結果を利用)。
- (5) (4)で得られた \(F\) が \(F=-Kx\) の形(単振動)であること、初期条件(\(x=x_0\) で静かに放す)から、単振動のエネルギー保存則を用いて速さ \(v\) を \(x\) の関数として求める。
- (6) 単振動の特性(振幅、周期など)を(5)までの結果から求める。
- Q(等温変化の場合の考察): \(P-V\) グラフで断熱変化と等温変化の傾きを比較し、復元力の大小、周期の変化を定性的に判断。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- 微小量の取り扱い:\( (P+\Delta P)(V+\Delta V) \) の展開で \(\Delta P \Delta V\) の項を正しく無視すること。
- 符号の管理:仕事 \(W\) の定義(された仕事か、した仕事か)、体積変化 \(\Delta V\) の符号(圧縮なら負)、力の向き(合力をどちら向きに正とするか)など、符号の取り扱いに一貫性を持たせる。
- 代入ミス:複数の式を連立して解く際に、ある式を別の式に代入するときの写し間違いや符号ミス。
- \(A\) や \(K\) などの定数に含まれる \(P, V, S\) などの文字が多く、式が複雑になりがちなので、整理を丁寧に行う。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 定義に忠実に: 物理量の定義(特に仕事や熱量の符号)を常に意識し、立式の際にぶれないようにする。
- 途中式を丁寧に: 特に文字が多い計算や近似計算では、途中式を省略せずに書くことで、論理の飛躍や計算ミスを防ぎ、見直しもしやすくなる。
- 単位や次元の確認: (この問題ではあまり顕著ではないが) 最終的な答えの単位が正しい物理量の単位になっているかを確認する(次元解析)。
- 特殊な場合で検算: 例えば、もし \(M=0\) ならどうなるか、\(P_0=0\) ならどうなるかなど、極端な場合や簡単な場合を考えてみて、結果が直感と合うか、既知の簡単な問題の結果と一致するかなどを確認する。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- (2)の \(\Delta T = -\frac{2T}{3V}\Delta V\): 断熱圧縮 (\(\Delta V < 0\)) なら \(\Delta T > 0\) で温度上昇。断熱膨張 (\(\Delta V > 0\)) なら \(\Delta T < 0\) で温度低下。これは物理現象と一致します。
- (4)の \(F = -\frac{5PS^2}{3V}x\): \(F=-Kx\) の形であり、\(K = \frac{5PS^2}{3V} > 0\) なので、変位と逆向きの復元力が働くことを示しており、単振動の条件を満たします。
- (5)の \(v\): \(x=\pm x_0\) で \(v=0\)、\(x=0\) で \(v\) が最大値をとるなど、単振動の速さの特性と合致します。 また、根号の中が負にならない (\(|x| \le x_0\)) ことも物理的に要請されます。
- Qの考察: 等温変化の方が断熱変化より \(P-V\) グラフの傾きが緩やかで「柔らかい」ため、周期が長くなるという結論は、ばね定数が小さいほど周期が長くなるというばね振り子の類推からも自然です。
- 「解の吟味」を通じて得られること:
- 計算ミスや立式の根本的な誤りに気づくチャンスが増える。
- 物理法則の数式表現が、実際の現象とどのように対応しているのか、その意味をより深く理解できる。
- 「なぜそうなるのか?」を考えることで、単に答えを出すだけでなく、論理的思考力や物理的洞察力が養われる。
- 異なる条件下での振る舞いを予測する力がつき、応用問題への対応力が向上する。
問題60 (慶應大+静岡大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、U字管に入れられた液体の微小振動について考察するものです。前半は両端が開いたU字管(図1)、後半は一方の端(A)にふたをし、内部に空気を封じ込めた場合(図2)の振動を扱います。液体の重力による復元力に加え、後半では閉じ込められた空気の圧力変化も復元力に関わってきます。特に、図2の空気は温度一定(等温変化)とされる点、またQでは断熱変化の場合を考える点が熱力学的な要素となります。単振動の基本的な考え方と、気体の法則を組み合わせることが求められます。
- U字管の断面積:\(S\)(一定)
- 液体の密度:\(\rho\)
- 液体の長さ:\(L\)
- 重力加速度:\(g\)
- 液体と管壁との摩擦や液体の蒸発は無視できる。
- 図1(両端が開いている場合):
- 特になし。
- 図2(管Aにふたをした場合):
- 液体がつり合い位置で静止している状態で、A内の空気の長さ:\(l\)
- A内の空気は理想気体とする。
- 管は熱を伝えやすく、A内の空気の温度は一定(等温変化)。
- 大気圧:\(P\) (模範解答の表記に合わせる)
- 2次の微小量は無視する。
- (1) 図1で、管A内の液面がつり合い位置から \(x\) だけ上昇し、管B内の液面が \(x\) だけ下降したときの、液体に働く復元力の大きさ。
- (2) (1)のときの液体の振動の周期。
- (3) 図2で、(1)と同様の変位 \(x\) が生じたときの、A内の気体の圧力の増加分 \(\Delta P\) を \(P, l, x\) で表す。
- (4) (3)のときの液体の振動の周期。
- Q. 図2で、A内に単原子気体を入れ、断熱変化する場合の \(\Delta P\) と周期 \(T_2\)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
このU字管内の液体の振動問題は、力学的な単振動の考え方に加え、気体の性質(等温変化や断熱変化)が絡んでくる複合的な問題です。まず、液柱の変位によってどのような復元力が生じるかを正確に把握し、それを単振動の公式に当てはめて周期を求めるのが基本的な流れとなります。空気の存在が復元力にどう影響するかに注目しましょう。
問 (1)
思考の道筋とポイント
図1の状況では、U字管の両端が開いているため、液面には常に大気圧がかかっています。液体がつり合いの位置からずれると、左右の管で液面の高さに差が生じます。この高さの差によって生じる液柱の重さが、液体全体を元のつり合い位置に戻そうとする力、すなわち復元力として働きます。管Aの液面が \(x\) 上昇すると、液体の連続性から管Bの液面は \(x\) 下降します。したがって、A管の液面はB管の液面より \(2x\) だけ高くなります。この \(2x\) の高さの液柱部分の質量を計算し、その重力を求めれば復元力の大きさとなります。
この設問における重要なポイント
- 液面が左右で逆方向に同じ量だけ変位するため、液面の高さの差は \(2x\) となる点を正確に捉える。
- 復元力は、この高さの差 \(2x\) に相当する液柱の重力であることを理解する。
- 液柱の質量は「密度 × 体積」、体積は「断面積 × 高さ」で計算する。
具体的な解説と立式
つり合いの位置を基準とします。管A内の液面がつり合い位置から \(x\) だけ上昇すると、管B内の液面はつり合い位置から \(x\) だけ下降します。
このとき、管Aの液面は管Bの液面よりも \(h = x – (-x) = 2x\) だけ高い位置にあります。
この高さ \(2x\) の液柱が、液体全体をつり合い位置に戻そうとする復元力を生み出します。
この高さ \(2x\) の液柱の体積 \(V_{\text{excess}}\) は、U字管の断面積を \(S\) とすると、
$$V_{\text{excess}} = S \times (2x)$$この液柱の質量 \(m_{\text{excess}}\) は、液体の密度を \(\rho\) とすると、$$m_{\text{excess}} = \rho V_{\text{excess}} = \rho S (2x)$$この質量 \(m_{\text{excess}}\) にかかる重力が、復元力の大きさ \(|F_{\text{restore}}|\) となります。$$|F_{\text{restore}}| = m_{\text{excess}} g$$したがって、$$|F_{\text{restore}}| = \rho S (2x) g \quad \cdots ①$$
- 質量 = 密度 × 体積
- 重力 = 質量 × 重力加速度
式①を整理すると、復元力の大きさは、
$$|F_{\text{restore}}| = 2\rho Sgx$$
U字管の片方の液面が \(x\) だけ上がると、もう片方の液面は \(x\) だけ下がります。すると、左右の液面の高さには \(2x\) の差ができます。この \(2x\) の高さ分の液体には余分な重さがかかり、この重さが液体全体を元のバランスの取れた位置に戻そうとします。この「戻そうとする力」が復元力です。力の大きさは、「液体の密度 × (断面積 × \(2x\)) × 重力加速度」で計算できます。
液体に働く復元力の大きさは \(2\rho Sgx\) です。
この力は変位 \(x\) に比例しており、向きは常につり合い位置へ向かう方向です(変位と逆向き)。これは単振動を引き起こす復元力の典型的な形 (\(F=-Kx\)) です。
問 (2)
思考の道筋とポイント
設問(1)で求めた復元力 \(F_{\text{restore}} = -(2\rho Sg)x\) (上向きを変位 \(x\) の正方向とすると、復元力は下向きなのでマイナスがつく) は、\(F=-Kx\) の形をしています。これは液体が単振動することを示しています。単振動の周期 \(T_0\) は、振動する物体の質量 \(m\) と復元力の比例定数 \(K\) を用いて \(T_0 = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}\) と表されます。
ここで、振動する液体全体の質量 \(m\) は、液体の全長が \(L\)、断面積が \(S\)、密度が \(\rho\) なので、\(m = \rho SL\) となります。比例定数 \(K\) は \(2\rho Sg\) です。これらの値を周期の公式に代入します。
この設問における重要なポイント
- 液体が単振動をすることを理解し、復元力の比例定数 \(K\) を特定する。(\(K = 2\rho Sg\))
- 振動する液体全体の質量 \(m\) を正しく計算する。(\(m = \rho SL\))
- 単振動の周期の公式 \(T_0 = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}\) を適用する。
具体的な解説と立式
設問(1)で求めた復元力について、変位 \(x\) の向き(例えば、管Aの液面が上昇する向き)を正とすると、復元力はその逆向きに働くので、
$$F = -(2\rho Sg)x$$と書けます。これは \(F = -Kx\) の形の復元力であり、比例定数 \(K\) は、$$K = 2\rho Sg \quad \cdots ②$$振動する液体全体の質量 \(m\) は、液体の全長が \(L\)、断面積が \(S\)、密度が \(\rho\) なので、$$m = \text{密度} \times \text{体積} = \rho (SL) \quad \cdots ③$$単振動の周期 \(T_0\) は、質量 \(m\) と比例定数 \(K\) を用いて、$$T_0 = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}} \quad \cdots ④$$
この式に、求めた \(m\) と \(K\) を代入します。
- 単振動の復元力: \(F = -Kx\)
- 単振動の周期: \(T_0 = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K}}\)
- 質量 = 密度 × 体積
式④に式② (\(K = 2\rho Sg\)) と式③ (\(m = \rho SL\)) を代入します。
$$T_0 = 2\pi\sqrt{\frac{\rho SL}{2\rho Sg}}$$
分子と分母にある \(\rho S\) を約分すると、
$$T_0 = 2\pi\sqrt{\frac{L}{2g}} \quad \cdots ⑤$$
U字管の中の液体は、前の設問で見たように「元に戻ろうとする力」を受けて行ったり来たり振動します。この種の振動(単振動)が一往復するのにかかる時間(周期)は、液体の全体の「重さ」(質量)と、「元に戻ろうとする力の強さ」(復元力の比例定数、ばねでいう「ばね定数」のようなもの)によって決まります。全体の質量が大きいほど、また、戻そうとする力が弱いほど、振動はゆっくりになり周期は長くなります。この関係を表す公式に、具体的な値を代入して周期を計算します。
液体の振動の周期は \(T_0 = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{L}{2g}}\) です。
この結果は、液体の全長 \(L\) が長いほど周期が長くなり(ゆっくり振動し)、重力加速度 \(g\) が大きいほど周期が短くなる(速く振動する)ことを示しています。また、U字管の断面積 \(S\) や液体の密度 \(\rho\) には依存しないという興味深い結果が得られました。これは、復元力の比例定数 \(K\) も質量 \(m\) も \(\rho S\) に比例するため、その比 \(m/K\) において \(\rho S\) が相殺されるためです。
問 (3)
思考の道筋とポイント
図2では、管Aの端にふたがされ、内部に長さ \(l\) の空気が閉じ込められています。この空気は理想気体であり、管が熱を伝えやすいため温度は一定、つまり等温変化をします。等温変化ではボイルの法則(\(P_{\text{気体}}V_{\text{気体}} = \text{一定}\))が成り立ちます。
初期状態(つり合い位置)では、A内の空気の圧力は外部の大気圧 \(P\) とつり合っています(B管が開いており、左右の液面が同じ高さであるため)。このときの空気柱の体積は \(Sl\) です。
管Aの液面が \(x\) だけ上昇すると(A内の空気が圧縮されると)、空気柱の長さは \(l-x\) になり、体積は \(S(l-x)\) になります。このときの圧力を \(P + \Delta P\) とおき、ボイルの法則を適用して圧力の増加分 \(\Delta P\) を求めます。「2次の微小量は無視する」という指示があるので、計算途中で \(\Delta P \cdot x\) のような項が出てきたら無視します。
この設問における重要なポイント
- A内の空気の変化が等温変化であるため、ボイルの法則を適用する。
- 初期状態におけるA内の空気の圧力は、大気圧 \(P\) に等しい。
- 液面の変位 \(x\) に伴う空気柱の体積変化を正確に記述する。(\(V_{\text{初期}} = Sl\), \(V_{\text{後}} = S(l-x)\))
- 計算過程で2次の微小量(例:\(\Delta P \cdot x\))を無視する近似を用いる。
具体的な解説と立式
管A内の空気は等温変化をするため、ボイルの法則 \(P_{\text{気体}}V_{\text{気体}} = \text{一定}\) が成り立ちます。
初期状態(つり合い位置、液面変位 \(x=0\)):
A内の空気の圧力:\(P_{\text{初期}} = P\) (大気圧に等しい)
A内の空気の体積:\(V_{\text{初期}} = Sl\)
よって、ボイルの法則における一定値は \(P(Sl)\) です。
管Aの液面がつり合い位置から \(x\) だけ上昇したとき(A内の空気が圧縮されたとき):
A内の空気の圧力:\(P_{\text{後}} = P + \Delta P\) (\(\Delta P\) は圧力の増加分)
A内の空気の体積:\(V_{\text{後}} = S(l-x)\)
この状態でもボイルの法則が成り立つので、
$$(P+\Delta P)S(l-x) = PSl \quad \cdots ⑥$$
この式から \(\Delta P\) を求めます。
- ボイルの法則: \(P_1V_1 = P_2V_2\) (等温変化)
式⑥の両辺から断面積 \(S\) を消去します (\(S \neq 0\))。
$$(P+\Delta P)(l-x) = Pl$$
左辺を展開します。
$$Pl – Px + \Delta P l – \Delta P x = Pl$$
両辺の \(Pl\) を消去します。
$$-Px + \Delta P l – \Delta P x = 0$$
問題の指示により、「2次の微小量は無視」します。\(\Delta P\) は \(x\) に伴う微小な圧力変化であり、\(x\) も微小な変位なので、これらの積である \(\Delta P \cdot x\) は2次の微小量として無視できます。
$$-Px + \Delta P l \approx 0$$
これを \(\Delta P\) について解くと、
$$\Delta P l = Px$$
$$\Delta P = \frac{P}{l}x \quad \cdots ⑦$$
U字管のA側にふたをすると、Aの中の空気が閉じ込められます。液面が \(x\) だけ上がると、この閉じ込められた空気は \(x\) だけ縮みます。空気の温度は一定に保たれるので、「圧力 × 体積 = 一定」という関係(ボイルの法則)が成り立ちます。液面が動く前の空気の圧力(大気圧 \(P\))と体積(断面積 \(S \times\) 長さ \(l\))、そして液面が動いた後の空気の圧力(\(P+\Delta P\))と体積(断面積 \(S \times\) 長さ \(l-x\))の間でこの法則を使い、圧力の増加分 \(\Delta P\) を計算します。計算の途中で「小さな量 × 小さな量」のような項が出てきたら、それは無視してかまいません。
気体の圧力の増加分は \(\Delta P = \displaystyle\frac{P}{l}x\) です。
この結果は、空気柱の圧縮量 \(x\) に比例して圧力が増加することを示しています。また、初期の空気柱の長さ \(l\) が短いほど、同じ圧縮量 \(x\) に対する圧力の増加分 \(\Delta P\) が大きくなる(つまり、空気がより「硬く」反発する)ことを意味しており、物理的に妥当です。\(x\) が負(空気が膨張)の場合、\(\Delta P\) も負となり圧力が減少することも表しています。
問 (4)
思考の道筋とポイント
図2の状況で液体が振動する場合、復元力は2つの要因から生じます。一つは設問(1)で考えた液柱の重さのアンバランスによる力です。もう一つは、管Aに閉じ込められた空気の圧力変化による力です。
管Aの液面が \(x\) だけ上昇すると、A内の空気の圧力は大気圧 \(P\) から \(P+\Delta P\) に増加します。この圧力増加 \(\Delta P\) が、A側の液面を断面積 \(S\) を通して押し下げる方向に力を及ぼします。この力の大きさは \((\Delta P)S\) です。この力も、液面の変位 \(x\) に対して元に戻そうとする向きに働くため、復元力の一部となります。
したがって、全体の復元力は、これら2つの力の和として表されます。この新しい全体の復元力から比例定数 \(K’\) を求め、周期の公式 \(T_1 = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K’}}\) を用いて周期を計算します。振動する液体全体の質量 \(m\) は設問(2)で用いた \(m = \rho SL\) と同じです。
この設問における重要なポイント
- 復元力が、液柱の重力によるものと、閉じ込められた空気の圧力変化によるものの合力となることを理解する。
- 空気の圧力増加 \(\Delta P\) による追加の復元力の大きさは \((\Delta P)S\) である。
- 設問(3)で求めた \(\Delta P = \frac{P}{l}x\) の関係を利用する。
- 全体の復元力から新しい比例定数 \(K’\) を求め、周期を計算する。
具体的な解説と立式
管Aの液面がつり合い位置から \(x\) だけ上昇した場合(変位 \(x\) を上向き正とする)に液体全体に働く復元力 \(F’_{\text{restore}}\) を考えます。
1. 液柱の重さのアンバランスによる復元力(設問(1)の結果から、向きを考慮):
$$F_1 = -(2\rho Sg)x$$
2. 管A内の空気の圧力変化による復元力:
設問(3)より、空気の圧力増加分は \(\Delta P = \displaystyle\frac{P}{l}x\)。
この圧力増加により、A内の空気は液面を \((\Delta P)S\) の力で押し下げようとします。これは変位 \(x\) と逆向きなので、復元力として作用します。
$$F_2 = -(\Delta P)S = -\left(\frac{P}{l}x\right)S = -\frac{PS}{l}x$$
液体全体に働く正味の復元力 \(F’_{\text{restore}}\) は、これらの和です。
$$F’_{\text{restore}} = F_1 + F_2 = -(2\rho Sg)x – \frac{PS}{l}x$$
$$F’_{\text{restore}} = -\left(2\rho Sg + \frac{PS}{l}\right)x$$これは \(F’ = -K’x\) の形をしており、単振動の復元力です。この場合の比例定数 \(K’\) は、$$K’ = 2\rho Sg + \frac{PS}{l} = \left(2\rho g + \frac{P}{l}\right)S \quad \cdots ⑧$$
振動する液体全体の質量 \(m\) は設問(2)と同じ \(m = \rho SL\)。
このときの単振動の周期を \(T_1\) とすると、
$$T_1 = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K’}} \quad \cdots ⑨$$
この式に、\(m = \rho SL\) と式⑧の \(K’\) を代入します。
- 単振動の復元力: \(F = -Kx\)
- 単振動の周期: \(T_1 = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K’}}\)
- 設問(3)の結果: \(\Delta P = \frac{P}{l}x\)
式⑨に \(m = \rho SL\) と \(K’ = \left(2\rho g + \displaystyle\frac{P}{l}\right)S\) を代入します。
$$T_1 = 2\pi\sqrt{\frac{\rho SL}{\left(2\rho g + \frac{P}{l}\right)S}}$$
分子と分母にある断面積 \(S\) を約分します。
$$T_1 = 2\pi\sqrt{\frac{\rho L}{2\rho g + \frac{P}{l}}}$$
分母にある \(l\) を整理するために、ルートの中の分母と分子に \(l\) を掛けます。
$$T_1 = 2\pi\sqrt{\frac{\rho L \cdot l}{l\left(2\rho g + \frac{P}{l}\right)}} = 2\pi\sqrt{\frac{\rho Ll}{2\rho gl + P}} \quad \cdots ⑩$$
U字管のA側にふたをすると、液面が動いたときにAの中の空気も伸び縮みし、その圧力も変わります。この空気の圧力変化も、液体全体を元の位置に戻そうとする力(または押し出す力)として働きます。したがって、今回の「元に戻ろうとする力」は、「液体の重さのアンバランスによる力」と「空気の圧力変化による力」の合計になります。この新しく、より強くなった「元に戻ろうとする力」を使って、単振動の周期を計算します。一般に、元に戻ろうとする力が強くなると(つまり、ばねが硬くなると)、振動は速くなり、周期は短くなります。
液体の振動の周期は \(T_1 = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{\rho Ll}{2\rho gl + P}}\) です。
設問(2)で求めた、ふたがない場合の周期 \(T_0 = 2\pi\sqrt{\frac{L}{2g}}\) と比較してみましょう。
周期の2乗を考えると、
\(T_0^2 = (2\pi)^2 \displaystyle\frac{L}{2g} = (2\pi)^2 \frac{\rho Ll}{2\rho gl}\) (分母分子に \(\rho l\) を掛けた)
\(T_1^2 = (2\pi)^2 \displaystyle\frac{\rho Ll}{2\rho gl + P}\)
分母を比較すると、\(2\rho gl + P > 2\rho gl\) (なぜなら大気圧 \(P>0\)) です。
したがって、\(T_1^2 < T_0^2\) となり、\(T_1 < T_0\) であることがわかります。
これは、管Aにふたをすることで閉じ込められた空気がばねのような効果を持ち、系全体の復元力を強くする(実効的なばね定数 \(K’\) が \(K\) より大きくなる)ため、振動の周期が短くなることを意味しています。物理的に妥当な結果です。
【コラム】Q. 図2で、A内に単原子気体を入れ(初めの圧力はP)、気体は容器や液体と熱のやりとりをしないとする。この場合の微小振動について、状態方程式と第1法則を用いて\(\Delta P\)を求め、次に周期\(T_2\)を求めよ。(★★)
思考の道筋とポイント
この場合、管A内の単原子理想気体は断熱変化をします(熱のやりとりがない \(Q=0\))。
まず、圧力変化 \(\Delta P\) を求めます。これには、微小変化における状態方程式の関係 \(\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V_{\text{気体}}}{V_{\text{気体}}} = \frac{\Delta T}{T}\) と、熱力学第一法則 \(\Delta U = W_{\text{された}}\) を用います。
内部エネルギー変化 \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。気体がされる仕事 \(W_{\text{された}}\) は、液面が \(x\) 上昇(空気が圧縮)したとき、空気の体積変化 \(\Delta V_{\text{気体}} = -Sx\) を用いて \(W_{\text{された}} = -P\Delta V_{\text{気体}} = PSx\) と近似できます(初期圧力 \(P\) を使う近似)。
これらの式を連立させて \(\Delta T\) を消去し、\(\Delta P\) を \(P, l, x\) で表します。
次に、この \(\Delta P\) を用いて新たな復元力の比例定数 \(K”\) を求め、周期 \(T_2 = 2\pi\sqrt{m/K”}\) を計算します。
具体的な解説と立式
A内の単原子理想気体について考えます。初期状態は圧力 \(P\)、体積 \(V_A = Sl\)、温度を \(T\) とします。物質量を \(n\)、気体定数を \(R\) とすると、初期状態で \(PSl = nRT \quad \cdots (Q-1)\) が成り立ちます。
管Aの液面が \(x\) だけ上昇すると、A内の気体の体積変化は \(\Delta V_A = -Sx\)。
この微小な断熱変化において、気体がされる仕事 \(W\) は、
$$W = -P\Delta V_A = -P(-Sx) = PSx \quad \cdots (Q-2)$$気体の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、$$\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T \quad \cdots (Q-3)$$断熱変化なので \(Q=0\)。熱力学第一法則 \(\Delta U = W\) より、$$\frac{3}{2}nR\Delta T = PSx \quad \cdots (Q-4)$$ここから温度変化 \(\Delta T\) は、$$\Delta T = \frac{2PSx}{3nR} \quad \cdots (Q-5)$$微小変化における状態量の関係式は、$$\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V_A}{V_A} = \frac{\Delta T}{T} \quad \cdots (Q-6)$$ここで \(V_A = Sl\), \(\Delta V_A = -Sx\)。式(Q-5)と式(Q-1)を使って \(\frac{\Delta T}{T}\) を \(x\) で表します。$$\frac{\Delta T}{T} = \frac{1}{T} \cdot \frac{2PSx}{3nR} = \frac{2PSx}{3nRT} = \frac{2PSx}{3PSl} = \frac{2x}{3l}$$これを式(Q-6)に代入します。$$\frac{\Delta P}{P} + \frac{-Sx}{Sl} = \frac{2x}{3l}$$
$$\frac{\Delta P}{P} – \frac{x}{l} = \frac{2x}{3l}$$
この式から \(\Delta P\) を求めます。
復元力 \(F”\) は、液柱の重力による項と、この断熱圧力変化による項の和になります。
$$F” = -(2\rho Sg)x – S\Delta P$$
これから比例定数 \(K”\) を求め、周期 \(T_2\) を計算します。
- 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\)
- 微小変化の関係式 \(\frac{\Delta P}{P} + \frac{\Delta V}{V} = \frac{\Delta T}{T}\)
- 熱力学第一法則 \(\Delta U = W\) (断熱変化 \(Q=0\))
- 単原子理想気体の内部エネルギー変化 \(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)
- 仕事 \(W_{\text{された}} = -P\Delta V_{\text{気体}}\)
- 単振動の周期 \(T = 2\pi\sqrt{m/K}\)
まず \(\Delta P\) を求めます。
式 \(\displaystyle\frac{\Delta P}{P} – \frac{x}{l} = \frac{2x}{3l}\) より、
$$\frac{\Delta P}{P} = \frac{x}{l} + \frac{2x}{3l} = \left(1 + \frac{2}{3}\right)\frac{x}{l} = \frac{5}{3}\frac{x}{l}$$
$$\Delta P = \frac{5P}{3l}x \quad \cdots (Q-7)$$
次に、この場合の復元力 \(F”\) を求めます。
$$F” = -(2\rho Sg)x – S\Delta P$$式(Q-7)を代入すると、$$F” = -(2\rho Sg)x – S\left(\frac{5P}{3l}x\right) = -\left(2\rho Sg + \frac{5PS}{3l}\right)x$$
$$F” = -\left(2\rho g + \frac{5P}{3l}\right)Sx \quad \cdots (Q-8)$$これは \(F” = -K”x\) の形なので、単振動をします。比例定数 \(K”\) は、$$K” = \left(2\rho g + \frac{5P}{3l}\right)S$$液体の質量は \(m = \rho SL\)。周期 \(T_2\) は、$$T_2 = 2\pi\sqrt{\frac{m}{K”}} = 2\pi\sqrt{\frac{\rho SL}{\left(2\rho g + \frac{5P}{3l}\right)S}}$$
$$T_2 = 2\pi\sqrt{\frac{\rho L}{2\rho g + \frac{5P}{3l}}}$$分母の \(3l\) を払うために、ルートの中の分母・分子に \(3l\) を掛けると、$$T_2 = 2\pi\sqrt{\frac{3\rho Ll}{3l\left(2\rho g + \frac{5P}{3l}\right)}} = 2\pi\sqrt{\frac{3\rho Ll}{6\rho gl + 5P}} \quad \cdots (Q-9)$$
結論と吟味
圧力の増加分は \(\Delta P = \displaystyle\frac{5P}{3l}x\) です。
周期は \(T_2 = 2\pi\sqrt{\displaystyle\frac{3\rho Ll}{6\rho gl + 5P}}\) です。
等温変化の場合の圧力増加は \(\Delta P_{\text{等温}} = \frac{P}{l}x\) であったのに対し、断熱変化(単原子)の場合は \(\Delta P_{\text{断熱}} = \frac{5}{3}\frac{P}{l}x\) となりました。\(\frac{5}{3} > 1\) なので、同じ体積変化に対して、断熱変化の方が圧力変化が大きくなります。これは、断熱圧縮では温度も上昇し、その効果で圧力がさらに高まるためです。
結果として、復元力の比例定数 \(K”\) は等温変化の場合の \(K’ = (2\rho g + \frac{P}{l})S\) よりも大きくなります (\(K” = (2\rho g + \frac{5P}{3l})S\))。
\(K\) が大きいほど周期は短くなるため、\(T_2 < T_1\) となり、断熱変化の場合の周期は等温変化の場合よりも短くなります。これは、気体の「ばね」がより硬くなったことに対応します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 単振動の条件と性質: 変位に比例し、向きが反対の復元力 (\(F=-Kx\)) が働くときに単振動が起こることを理解し、その周期が \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) で与えられることを適用するのが基本です。
- 復元力の特定: U字管内の液体の振動では、液面の高さの差による液柱の重さが復元力となります(問1)。管の一端を閉じると、封じられた気体の圧力変化も復元力に寄与します(問4、Q)。
- 気体の状態変化の法則:
- ボイルの法則 (\(PV=\text{一定}\)): 問(3)のように温度が一定(等温変化)の場合に、圧力と体積の関係を記述します。
- 断熱変化と熱力学第一法則: Qのように熱のやりとりがない(断熱変化)場合、熱力学第一法則 (\(\Delta U = W_{\text{された}}\)) と状態方程式を組み合わせて圧力や温度の変化を解析します。単原子理想気体の内部エネルギー (\(U=\frac{3}{2}nRT\)) の知識も必要です。
- 微小変化の近似: 問題全体を通して、変位 \(x\) やそれに伴う圧力・体積・温度の変化が微小であるとし、2次の微小量(例:\(\Delta P \cdot x\))を無視する近似計算が用いられています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- U字管や連結容器内の液体振動全般。
- 気体の圧力変化が力学的な振動(単振動など)に影響を与える系(例:気体ばね)。
- 熱力学的な変化(等温、断熱など)と力学的な運動が連成する問題。
- 微小振動の近似計算を用いる問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 振動の復元力は何か?: まず、系がつり合いの位置からずれたときに、どの力がつり合いの位置に戻そうとするのか(復元力)を特定します。重力か、圧力差か、あるいはそれらの合力か。
- 振動する「もの」の質量は?: 単振動の周期を求めるには、振動する部分全体の質量が必要です。
- 気体が絡む場合、その変化の種類は?: 等温変化か、断熱変化か、あるいは他の変化か。それに応じて適用する気体の法則(ボイルの法則、ポアソンの法則、状態方程式と第一法則の組み合わせなど)が変わります。
- 微小変化の扱いは?: 「微小振動」「わずかにずらす」などの記述があれば、近似計算(高次の微小量の無視、\(P\Delta V\)仕事の近似など)が有効です。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- U字管の液面差は、片側の変位 \(x\) に対して \(2x\) になることを見落とさない。
- 気体の体積変化を変位 \(x\) と断面積 \(S\) を用いて正確に表す(圧縮なら \(l-x\)、体積変化は \(-Sx\) など)。
- 圧力と力を混同しない(力 = 圧力 × 面積)。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 復元力の算出ミス:
- 現象: U字管の液面差を \(x\) と誤認して復元力を過小評価する。閉じ込められた空気による力を考慮し忘れる、または符号を間違える。
- 対策: 必ず図を描き、どの部分がアンバランスを生んでいるか、どの力がつり合い位置に戻そうとしているかを丁寧に見極める。力の向きと変位の向きの関係から符号を決定する。
- 振動部分の質量の誤認:
- 現象: U字管内の液体全体の質量ではなく、振動によって高さが変わる部分の質量だけを考えてしまう。
- 対策: 単振動の公式における \(m\) は、振動系全体の慣性質量を指す。U字管の場合は液体全体が一体となって運動すると考える。
- 気体の法則の適用ミス:
- 現象: 等温変化なのに断熱変化の式を使ったり、その逆をしたりする。ボイルの法則や状態方程式の微小変化の扱いを誤る。
- 対策: 問題文の条件(「温度一定」「熱のやりとりをしない」など)をしっかり確認し、適切な法則を選択する。微小変化の近似は、どの項が無視できるのかを慎重に判断する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
- 図1: U字管の液体がシーソーのように揺れる様子。片方が下がればもう片方が上がる、その高さのアンバランスが重力によって元に戻ろうとする。
- 図2: A管に閉じ込められた空気が「クッション」や「ばね」のように振る舞うイメージ。液体がA管に押し込まれると空気が圧縮されて反発し、液体がA管から引かれると空気が膨張して引き戻そうとする。
- 等温変化と断熱変化の違い: 等温の空気ばねは熱が逃げるので比較的「柔らかく」、断熱の空気ばねは熱がこもるので比較的「硬い」イメージ。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- つり合いの位置と、そこからの変位 \(x\) を明確に示す。
- 液面の高さの差が \(2x\) になることを図で確認できるように描く。
- A管内の空気柱の長さの変化(\(l \rightarrow l-x\) など)を図示する。
- 復元力として働く力(重力成分、空気圧による力)を矢印で示す。
- \(P-V\)グラフ(Qの場合)では、等温線と断熱線の傾きの違いを意識して描く。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 単振動の周期の公式 (\(T=2\pi\sqrt{m/K}\)):
- 選定理由: (2)(4)およびQで、液体が単振動することが分かった(または仮定できる)ため、その周期を求めるために使用。
- 適用根拠: 復元力が変位に比例し、向きが反対 (\(F=-Kx\)) であることが確認された場合に適用できる。
- ボイルの法則 (\(P_1V_1=P_2V_2\)):
- 選定理由: (3)でA管内の空気が「温度一定」で変化するため、圧力と体積の関係を記述するのに最も適切な法則。
- 適用根拠: 理想気体が等温変化するという条件が満たされているため。
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q+W_{\text{された}}\)) と状態方程式:
- 選定理由: QでA管内の空気が「断熱変化」するため。断熱 (\(Q=0\)) なので \(\Delta U = W_{\text{された}}\)。これと状態方程式、\(\Delta U=\frac{3}{2}nR\Delta T\) を組み合わせて未知の圧力変化や温度変化を求める。
- 適用根拠: エネルギー保存則と理想気体の性質、断熱条件が与えられているため。
- 公式選択の思考プロセス:
- まず、対象とする系(液体全体か、閉じ込められた気体か)と、その系がどのような変化をするか(力学的振動か、熱力学的状態変化か)を明確にする。
- 力学的な振動であれば、力の性質(復元力か否か)を見極め、単振動なら周期やエネルギーの公式を検討する。
- 熱力学的な状態変化であれば、変化の条件(等温、断熱、定圧、定積など)に応じて適切な気体の法則(ボイル、シャルル、ポアソン、状態方程式、第一法則など)を選択する。
- 「微小変化」のキーワードがあれば、近似計算の利用を念頭に置く。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 図1の解析 (問1, 2):
- 液面の変位 \(x\) に対する高さの差 \(2x\) を把握。
- 高さ \(2x\) の液柱の質量を計算し、その重力から復元力の大きさ \(|F|=2\rho Sgx\) を求める。
- 復元力の比例定数 \(K=2\rho Sg\) と液体全体の質量 \(m=\rho SL\) から、周期 \(T_0=2\pi\sqrt{m/K}\) を計算。
- 図2の解析 (問3, 4 – 等温変化):
- A管内の空気の初期状態 (\(P, Sl\)) と変位 \(x\) 後の状態 (\(P+\Delta P, S(l-x)\)) を設定。
- 等温変化(温度一定)なのでボイルの法則を適用し、2次微小量無視の近似を使って \(\Delta P\) を \(P,l,x\) で表す。
- 全体の復元力 \(F’\) を、液柱の重力による復元力と空気の圧力変化による力 \(-S\Delta P\) の和として求める。
- 新しい復元力の比例定数 \(K’\) から周期 \(T_1=2\pi\sqrt{m/K’}\) を計算。
- Qの解析 (図2 – 断熱変化):
- A管内の空気の断熱変化を考える。仕事 \(W_{\text{された}} = PSx\)、\(\Delta U = \frac{3}{2}nR\Delta T\)。第一法則 \(\Delta U=W\) から \(\Delta T\) を \(x\) で表す。
- 微小変化の状態方程式の関係 \(\frac{\Delta P}{P}+\frac{\Delta V_A}{V_A}=\frac{\Delta T}{T}\) に、\(\Delta V_A=-Sx\), \(V_A=Sl\) および求めた \(\Delta T/T\) を代入し、\(\Delta P\) を \(P,l,x\) で表す。
- 全体の復元力 \(F”\) を求め、比例定数 \(K”\) から周期 \(T_2=2\pi\sqrt{m/K”}\) を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- U字管の液面差 \(2x\) の \(2\) を忘れない。
- 空気の体積変化の符号(圧縮なら \(l-x\) で \(\Delta V = -Sx\))。
- ボイルの法則や状態方程式の展開時の符号ミス、特に \((P+\Delta P)(l-x)\) のような積の展開。
- 2次微小量の無視を適切に行うこと (\(\Delta P \cdot x \approx 0\))。
- 周期の公式 \(T=2\pi\sqrt{m/K}\) の \(m\) と \(K\) に代入する値を間違えない。特に \(K\) が複数の項の和になる場合。
- 平方根の中の分数の整理(分母の \(l\) を払うなど)。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 近似計算の練習: 微小変化の問題では、どの項が無視できてどの項が残るのかを正確に判断する練習を積む。特に \( (1+\alpha)^n \approx 1+n\alpha \) (\(|\alpha| \ll 1\) のとき) のような近似式や、微小量の積の扱いに慣れる。
- 文字式の整理能力: 多くの物理量を文字で扱うため、複雑な文字式を正確に整理し、約分や通分を間違えないようにする。
- 符号のチェック: 特に復元力や仕事、圧力変化などの符号が物理的な状況と合っているか、ステップごとに確認する癖をつける。
- 定義に戻る: 式変形に迷ったら、各記号の物理的な意味や、基本法則の定義に立ち返る。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- (2)の周期 \(T_0\): \(L\) が大きいほど、また \(g\) が小さいほど周期が長くなるのは直感的にも理解しやすい(長い振り子や重力が弱い場所での振り子を想像)。
- (3)の \(\Delta P\): \(x > 0\) (圧縮) なら \(\Delta P > 0\) (圧力増)。\(l\) が小さい (閉じ込められた空気が短い) ほど、同じ \(x\) に対する \(\Delta P\) が大きくなる (硬いばねのイメージ)。これらも妥当です。
- (4)の周期 \(T_1\) とQの周期 \(T_2\): \(T_1 < T_0\) (ふたをすると周期が短くなる)、\(T_2 < T_1\) (断熱変化の方が等温変化より硬く、周期がさらに短くなる) という大小関係は、復元力の強さの違いから定性的に予測できる結果と一致します。
- もし \(P=0\) (A管内が真空で始まるという非現実的な仮定) なら、\(T_1\) は \(T_0\) に一致するはずで、式もそうなっています。
- 「解の吟味」を通じて得られること:
- 計算ミスや、立式の根本的な誤りに気づく。
- 物理法則がどのように現象を支配しているのか、数式の背後にある物理的な意味や構造をより深く理解できる。
- 単に問題を解くだけでなく、「なぜそうなるのか?」を考えることで、論理的思考力や応用力が養われる。例えば、Qで断熱変化と等温変化の \(P-V\) グラフの傾きの違いから周期の大小を議論することは、法則のより本質的な理解につながります。
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