「名問の森」徹底解説(46〜48問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題46 (金沢工大+東北大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ヒーターを内蔵した容器内で氷を加熱し、その状態変化や温度上昇の様子をグラフから読み取り、氷の融解熱、容器の熱容量、氷の比熱を求めるものです。さらに、その後、高温の水と容器に低温の銅塊を投入した際の熱平衡について考察し、最後に初期状態の低温の氷と容器に高温の銅塊を投入した場合の最終状態を予測します。熱量の保存が中心的なテーマとなります。

与えられた条件
  • ヒーターの電力: \(P = 600 \text{ W}\)
  • 初期の氷の質量: \(m_{\text{氷}} = 200 \text{ g}\)
  • 初期状態(図1): 氷と容器全体の温度は一様に \(-15 \text{ ℃}\)
  • 容器の熱は外に逃げない(断熱容器)。
  • ヒーターの熱容量は無視できる。
  • 水の比熱: \(c_{\text{水}} = 4.2 \text{ J/(g·K)}\)
  • 図2のグラフ:
    • A点: \(t=0 \text{ s}\), 温度 \(-15 \text{ ℃}\)
    • B点: \(t=12 \text{ s}\), 温度 \(0 \text{ ℃}\)
    • C点: \(t=124 \text{ s}\), 温度 \(0 \text{ ℃}\) (融解終了)
    • D点: \(t=199 \text{ s}\), 温度 \(50 \text{ ℃}\)
  • (3)で追加する銅塊: 質量 \(m_{\text{銅1}} = 90 \text{ g}\), 初期温度 \(-10 \text{ ℃}\)。水と容器は50℃。最終的に全体が \(47.7 \text{ ℃}\)。
  • (4)で追加する銅塊: 質量 \(m_{\text{銅2}} = 500 \text{ g}\), 初期温度 \(80 \text{ ℃}\)。投入先は初期状態の図1(-15℃の氷200gと容器)。
問われていること
  1. (1) 氷の融解熱 \(L_f\)。
  2. (2) 容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) と氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\)。
  3. (3) 銅の比熱 \(c_{\text{銅}}\)(有効数字2けた)。
  4. (4) (4)の条件で、やがてどのようになるか(最終状態)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは、熱量の保存と物質の状態変化、比熱・熱容量の計算です。与えられた電力と時間から熱量を計算し、それによって引き起こされる物質の温度変化や状態変化(融解)を分析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 熱量: ヒーターが発生する熱量 \(Q = Pt\)、温度変化に伴う熱量 \(Q = mc\Delta T\) または \(Q = C\Delta T\)。
  • 融解熱(潜熱): 固体が液体に状態変化する際に吸収する熱量 \(Q = mL_f\)。この間、温度は一定。
  • 熱量の保存: 断熱された系内で高温物体が失った熱量の総和と低温物体が得た熱量の総和は等しい。

これらの概念をグラフの各区間や、異なる物質を混合する各状況に適用して、未知の量を求めていきます。
全体的な戦略としては、まず(1)でグラフのBC間から融解熱を求めます。(2)ではCD間とAB間の熱収支から容器の熱容量と氷の比熱を順に求めます。(3)では熱量保存の法則を用いて銅の比熱を計算し、(4)では0℃を基準とした各段階での熱の出入りを計算して最終状態を判断します。

問(1)

思考の道筋とポイント
図2のグラフのBC間に注目します。この区間では、温度が0℃で一定に保たれたまま時間が経過しています。これは、ヒーターから供給された熱がすべて氷の融解(固体から液体への状態変化)に使われていることを意味します。供給された熱量を計算し、それを氷の質量で割ることで、単位質量あたりの融解熱を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 状態変化中の温度一定: 固体が融解して液体になる間、物質の温度は一定(融点)に保たれます。
  • ヒーターからの供給熱量: 電力 \(P\) のヒーターが時間 \(t\) の間に供給する熱量 \(Q\) は \(Q = Pt\)。
  • 融解熱の定義: 単位質量の固体を融点で液体にするのに必要な熱量。質量 \(m\) の物質の融解に必要な熱量は \(Q = mL_f\)、ここで \(L_f\) は融解熱。
  • BC間では容器の温度も0℃で一定なので、容器は熱を吸収も放出もしません。

具体的な解説と立式
BC間で氷の融解にかかった時間は、グラフより \(t_{BC} = 124 \text{ s} – 12 \text{ s} = 112 \text{ s}\) です。
ヒーターの電力は \(P = 600 \text{ W} = 600 \text{ J/s}\) なので、この間にヒーターが供給した熱量 \(Q_{BC}\) は、
$$Q_{BC} = P \times t_{BC} \quad \cdots ①$$
この熱量 \(Q_{BC}\) が、質量 \(m_{\text{氷}} = 200 \text{ g}\) の氷をすべて0℃の水にするために使われました。氷の融解熱を \(L_f\) [J/g] とすると、融解に必要な熱量は、
$$Q_{BC} = m_{\text{氷}} L_f \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • ジュール熱(電力による発熱量): \(Q = Pt\)
  • 融解熱(潜熱): \(Q = mL_f\)
計算過程

式①を用いて \(Q_{BC}\) を計算します。
$$Q_{BC} = 600 \text{ J/s} \times 112 \text{ s} = 67200 \text{ J}$$
次に、式② \(Q_{BC} = m_{\text{氷}} L_f\) より \(L_f\) を求めます。
$$67200 \text{ J} = 200 \text{ g} \times L_f$$
$$L_f = \frac{67200 \text{ J}}{200 \text{ g}} = 336 \text{ J/g} \quad \cdots ③$$

計算方法の平易な説明

グラフのB点からC点までは、温度が0℃のままです。これは氷が水にとけている最中です。この間、ヒーターからの熱はすべて氷をとかすために使われます。ヒーターは1秒間に600ジュールの熱を出し、氷がとけるのに112秒かかっています。この熱量で200gの氷がとけたので、1gあたりの融解熱を計算します。

結論と吟味

氷の融解熱は \(336 \text{ J/g}\) です。これは水の融解熱として知られる値と近いものであり、妥当です。

解答 (1) \(336 \text{ J/g}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
まず容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) を求めます。図2のCD間では0℃の水と容器が50℃まで温度上昇します。供給された熱量が、水の温度上昇と容器の温度上昇の和に等しいという式を立てます。
次に氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) を求めます。図2のAB間では-15℃の氷と容器が0℃まで温度上昇します。供給された熱量が、氷の温度上昇と容器の温度上昇の和に等しいという式を立て、先ほど求めた \(C_{\text{容器}}\) を用います。

この設問における重要なポイント

  • 熱量と温度変化の関係: \(Q = mc\Delta T\)(比熱)、\(Q = C\Delta T\)(熱容量)。
  • 複合系の熱量: 複数の物質が同時に温度変化する場合、各物質が得た熱量の総和を考える。
  • ヒーターからの供給熱量: \(Q = Pt\)。

具体的な解説と立式(容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\))
CD間: 0℃の水 \(m_{\text{水}} = 200 \text{ g}\) と容器が \(50 \text{ K}\) 温度上昇。時間は \(t_{CD} = 199 \text{ s} – 124 \text{ s} = 75 \text{ s}\)。
ヒーター供給熱量 \(Q_{CD}\) は、
$$Q_{CD} = P \times t_{CD} \quad \cdots ④$$
熱量の関係式は、
$$Q_{CD} = m_{\text{水}} c_{\text{水}} \Delta T_{CD} + C_{\text{容器}} \Delta T_{CD} \quad \cdots ⑤$$
(ここで \(\Delta T_{CD} = 50 \text{ K}\))

具体的な解説と立式(氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\))
AB間: -15℃の氷 \(m_{\text{氷}} = 200 \text{ g}\) と容器が \(15 \text{ K}\) 温度上昇。時間は \(t_{AB} = 12 \text{ s} – 0 \text{ s} = 12 \text{ s}\)。
ヒーター供給熱量 \(Q_{AB}\) は、
$$Q_{AB} = P \times t_{AB} \quad \cdots ⑥$$
熱量の関係式は、
$$Q_{AB} = m_{\text{氷}} c_{\text{氷}} \Delta T_{AB} + C_{\text{容器}} \Delta T_{AB} \quad \cdots ⑦$$
(ここで \(\Delta T_{AB} = 15 \text{ K}\))

使用した物理公式

  • ジュール熱: \(Q = Pt\)
  • 比熱による熱量: \(Q = mc\Delta T\)
  • 熱容量による熱量: \(Q = C\Delta T\)
計算過程(容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\))

式④より \(Q_{CD} = 600 \text{ J/s} \times 75 \text{ s} = 45000 \text{ J}\)。
式⑤に値を代入します: \(m_{\text{水}} = 200 \text{ g}\), \(c_{\text{水}} = 4.2 \text{ J/(g·K)}\), \(\Delta T_{CD} = 50 \text{ K}\)。
$$45000 \text{ J} = (200 \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g·K)} \times 50 \text{ K}) + (C_{\text{容器}} \times 50 \text{ K})$$
$$45000 = 42000 + 50 C_{\text{容器}}$$
$$50 C_{\text{容器}} = 3000$$
$$C_{\text{容器}} = 60 \text{ J/K} \quad \cdots ⑧$$

計算過程(氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\))

式⑥より \(Q_{AB} = 600 \text{ J/s} \times 12 \text{ s} = 7200 \text{ J}\)。
式⑦に値を代入します: \(m_{\text{氷}} = 200 \text{ g}\), \(\Delta T_{AB} = 15 \text{ K}\), \(C_{\text{容器}} = 60 \text{ J/K}\)。
$$7200 \text{ J} = (200 \text{ g} \times c_{\text{氷}} \times 15 \text{ K}) + (60 \text{ J/K} \times 15 \text{ K})$$
$$7200 = 3000 c_{\text{氷}} + 900$$
$$3000 c_{\text{氷}} = 6300$$
$$c_{\text{氷}} = \frac{6300}{3000} = 2.1 \text{ J/(g·K)} \quad \cdots ⑨$$

計算方法の平易な説明

容器の熱容量: グラフC→Dでは0℃の水と容器が50℃に。ヒーターからの熱がこれらに分配されます。水の分を引けば容器の分がわかり、熱容量が求まります。
氷の比熱: グラフA→Bでは-15℃の氷と容器が0℃に。同様にヒーターからの熱が分配されます。容器の分(上で計算済み)を引けば氷の分がわかり、比熱が求まります。

結論と吟味

容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) は \(60 \text{ J/K}\) です。氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) は \(2.1 \text{ J/(g·K)}\) です。水の比熱の半分であり、妥当な値です。

解答 (2) 容器の熱容量: \(60 \text{ J/K}\), 氷の比熱: \(2.1 \text{ J/(g·K)}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
50℃の水と容器に、-10℃の銅の塊を入れると熱平衡状態になります。高温側(水と容器)が失った熱量の総和と、低温側(銅の塊)が得た熱量の総和は等しくなります(熱量保存の法則)。最終的な平衡温度は \(47.7 \text{ ℃}\) です。

この設問における重要なポイント

  • 熱量保存の法則: \(Q_{\text{失った熱量}} = Q_{\text{得た熱量}}\)。
  • 各物質の熱量の計算: \(Q = mc\Delta T\) または \(Q = C\Delta T\)。
  • 有効数字に注意して最終的な答えを出す。

具体的な解説と立式
水と容器の初期温度 \(T_{\text{高初}} = 50 \text{ ℃}\)。銅塊の初期温度 \(T_{\text{低初}} = -10 \text{ ℃}\)。最終平衡温度 \(T_{\text{終}} = 47.7 \text{ ℃}\)。
水が失った熱量 \(Q_{\text{水失}} = m_{\text{水}} c_{\text{水}} (T_{\text{高初}} – T_{\text{終}})\)。
容器が失った熱量 \(Q_{\text{容器失}} = C_{\text{容器}} (T_{\text{高初}} – T_{\text{終}})\)。
銅塊が得た熱量 \(Q_{\text{銅得}} = m_{\text{銅1}} c_{\text{銅}} (T_{\text{終}} – T_{\text{低初}})\)。
熱量保存より、
$$m_{\text{水}} c_{\text{水}} (T_{\text{高初}} – T_{\text{終}}) + C_{\text{容器}} (T_{\text{高初}} – T_{\text{終}}) = m_{\text{銅1}} c_{\text{銅}} (T_{\text{終}} – T_{\text{低初}}) \quad \cdots ⑩$$

使用した物理公式

  • 熱量保存の法則: \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た}}\)
  • 比熱による熱量: \(Q = mc\Delta T\)
  • 熱容量による熱量: \(Q = C\Delta T\)
計算過程

式⑩に値を代入します。\(T_{\text{高初}} – T_{\text{終}} = 50 – 47.7 = 2.3 \text{ K}\)。\(T_{\text{終}} – T_{\text{低初}} = 47.7 – (-10) = 57.7 \text{ K}\)。
$$(200 \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g·K)} \times 2.3 \text{ K}) + (60 \text{ J/K} \times 2.3 \text{ K}) = 90 \text{ g} \times c_{\text{銅}} \times 57.7 \text{ K}$$
$$(1932 \text{ J}) + (138 \text{ J}) = (5193 \text{ g·K}) \cdot c_{\text{銅}}$$
$$2070 \text{ J} = (5193 \text{ g·K}) \cdot c_{\text{銅}}$$
$$c_{\text{銅}} = \frac{2070}{5193} \approx 0.3986135 \text{ J/(g·K)}$$
有効数字2けたで、
$$c_{\text{銅}} \approx 0.40 \text{ J/(g·K)} \quad \cdots ⑪$$

計算方法の平易な説明

温かいもの(水と容器)が冷たいもの(銅)に熱を渡して、全体が同じ温度になります。「温かいものが失った熱」=「冷たいものが得た熱」という式を立てて、銅の比熱を計算します。

結論と吟味

銅の比熱は \(0.40 \text{ J/(g·K)}\)(有効数字2けた)です。一般的な金属の比熱として妥当なオーダーの値です。

解答 (3) \(0.40 \text{ J/(g·K)}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
初期状態(図1: -15℃の氷200gと容器)に、80℃、500gの銅の塊を入れる場合、最終的にどのような状態になるかを考えます。段階的に熱のやり取りを追っていく必要があります。
1. 銅塊が0℃まで冷えるときに出す熱量 \(Q_{\text{銅放出}}\) を計算。
2. -15℃の氷と容器が0℃まで温まるのに必要な熱量 \(Q_{\text{氷+容 吸収}}\) を計算。
3. これらを比較し、残った熱量でどれだけ氷が融けるか計算します。

この設問における重要なポイント

  • 熱量の段階的計算: 0℃を基準として、各物質が0℃になるまでに放出または吸収する熱量をまず計算する。
  • 状態変化の考慮: 0℃に達した後、融解に必要な熱量を考える。
  • 熱平衡の条件: すべての物質が同じ最終温度になり、かつ熱のやり取りが終了した状態。

具体的な解説と立式
銅の比熱は \(c_{\text{銅}} \approx 0.40 \text{ J/(g·K)}\) を使用します。
1. 銅塊(500g, 80℃)が0℃まで冷えるときに出す熱量 \(Q_{\text{銅放出}}\):
$$\Delta T_{\text{銅}} = 80 \text{ K}$$
$$Q_{\text{銅放出}} = m_{\text{銅2}} c_{\text{銅}} \Delta T_{\text{銅}} \quad \cdots ⑫$$
2. -15℃の氷(200g)と容器が0℃まで温まるのに必要な熱量 \(Q_{\text{氷+容 吸収}}\) (図2のAB間のヒーター供給熱量):
$$Q_{\text{氷+容 吸収}} = 7200 \text{ J} \quad \text{(問(2)計算過程より)}$$

使用した物理公式

  • 比熱による熱量: \(Q = mc\Delta T\)
  • 融解熱による熱量: \(Q = mL_f\)
  • 問(1)の \(L_f\), 問(3)の \(c_{\text{銅}}\) の結果
計算過程

1. \(Q_{\text{銅放出}}\) の計算:
$$Q_{\text{銅放出}} = 500 \text{ g} \times 0.40 \text{ J/(g·K)} \times 80 \text{ K} = 16000 \text{ J}$$
2. \(Q_{\text{氷+容 吸収}} = 7200 \text{ J}\)。
3. 比較と氷の融解:
\(Q_{\text{銅放出}} (16000 \text{ J}) > Q_{\text{氷+容 吸収}} (7200 \text{ J})\) なので、氷と容器は0℃に達し、銅塊も0℃に達します。
氷の融解に使える熱量 \(Q_{\text{余剰}}\) は、
$$Q_{\text{余剰}} = Q_{\text{銅放出}} – Q_{\text{氷+容 吸収}} = 16000 \text{ J} – 7200 \text{ J} = 8800 \text{ J}$$
この熱量で融ける氷の質量 \(m_{\text{融解氷}}\) を計算します。氷の融解熱 \(L_f = 336 \text{ J/g}\)(問(1)の結果)を用いると、
$$m_{\text{融解氷}} = \frac{Q_{\text{余剰}}}{L_f} = \frac{8800 \text{ J}}{336 \text{ J/g}} \approx 26.19 \text{ g}$$
約 \(26 \text{ g}\) の氷が融けます。元の氷の質量は \(200 \text{ g}\) なので、すべての氷が融けるわけではありません。
したがって、最終状態では氷と水が0℃で共存します。
融けた水の質量: 約 \(26 \text{ g}\)
残った氷の質量: \(200 \text{ g} – 26 \text{ g} = 174 \text{ g}\)

計算方法の平易な説明

熱い銅を、冷たい氷と容器の中に入れます。
1. まず、銅が80℃から0℃まで冷めるときに出す熱量を計算します。
2. 次に、-15℃の氷と容器が0℃まで温まるのに必要な熱量を計算します。
3. 銅が出す熱と、氷と容器が必要とする熱を比べると、銅が出す熱の方が多いので、氷と容器は0℃まで温まり、銅も0℃まで冷めます。それでも銅が出し切れなかった熱が残ります。
4. この残った熱が、0℃の氷をとかすのに使われます。計算すると、氷は一部だけがとけることがわかります。なので、最終的には0℃で、水と氷が混ざった状態になります。

結論と吟味

やがて、全体の温度は0℃になります。このとき、約26gの氷が融けて水になり、残りの約174gは氷のままです。したがって、最終状態は「0℃で、水 約26g と 氷 約174g が容器と共存している」となります。

解答 (4) 温度は0℃で水約26gと氷約174gになる。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 熱量の保存と、比熱・熱容量・潜熱(融解熱)の概念の正しい理解と適用。
    • ヒーターによる供給熱量 \(Q=Pt\)。
    • 温度変化に伴う熱量 \(Q=mc\Delta T, Q=C\Delta T\)。
    • 状態変化に伴う熱量(融解熱 \(Q=mL_f\))。この間、温度は一定。
    • 熱量保存の法則: 断熱された系内で、高温物体が失う熱量と低温物体が得る熱量が等しい。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 異なる温度・異なる物質を混合したときの最終温度や状態を求める問題(カロリメトリー)。
    • 複数の状態変化(融解、蒸発など)が連続して起こる問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 熱の出入り(断熱か、ヒーター供給か、放熱か)。
    2. 関与する物質とその状態(質量、比熱、熱容量、潜熱、初期温度、初期状態)。
    3. 温度変化と状態変化の区別(グラフの傾きや平坦な部分)。
    4. 熱量保存の式の立式(どの物体が熱を得て、どの物体が熱を失ったか)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 状態変化中の温度上昇の誤認:
    • 現象: 融解中や蒸発中も温度が上昇すると誤解する。
    • 対策: 潜熱は状態変化のみに使われ、温度は一定に保たれることを理解する。
  • 熱容量と比熱の混同: \(C=mc\)。
  • 熱量保存の式での符号ミスや考慮漏れ:
    • 現象: \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た}}\) で温度変化の取り方を誤る。容器の熱容量を無視する。
    • 対策: 熱の移動方向を明確にし、関与する全ての要素をリストアップする。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • 温度-時間グラフから、各区間(昇温、融解)を明確にイメージする。
    • 熱の移動を高温物体から低温物体へのエネルギーの流れとして捉える。
  • 図を描く際に注意すべき点は何か:
    • 与えられたグラフの読解が主だが、熱平衡の問題では各物質の温度変化を線分図で整理すると良い。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • \(Q=Pt\): 一定電力のヒーターによる供給熱量。
  • \(Q=mc\Delta T\), \(Q=C\Delta T\): 状態変化がない区間の温度変化に伴う熱量。
  • \(Q=mL_f\): 融解時の状態変化(温度一定)に伴う熱量。
  • 熱量保存の法則: 断熱系内での熱のやり取り。
  • 現象と公式を正しく結びつける。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. グラフ分析と熱的過程の特定。
  2. 問(1) 融解熱: BC区間に着目。\(Pt = mL_f\)。
  3. 問(2) 熱容量・比熱: CD区間 (\(Pt = m_wc_w\Delta T + C_{\text{容器}}\Delta T\)) で \(C_{\text{容器}}\) 決定。AB区間 (\(Pt = m_{\text{氷}}c_{\text{氷}}\Delta T’ + C_{\text{容器}}\Delta T’\)) で \(c_{\text{氷}}\) 決定。
  4. 問(3) 銅の比熱: 熱量保存 \(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)。
  5. 問(4) 最終状態予測: 段階的熱量計算と比較(銅の放出熱、氷+容の吸収熱、融解熱)。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • グラフからの時間読み取り。
    • 単位の統一(今回は問題なし)。
    • 基本的な四則演算。
    • 問(4)の多段階計算での熱量の引き継ぎ。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 途中式を丁寧に書く。
    • 単位も一緒に書く習慣(検算のため)。
    • 概算で見積もる。
    • 有効数字の扱いに注意。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 問(1) 融解熱: 水の融解熱として一般的な値(約334 J/g)と比較。
    • 問(2) 熱容量・比熱: 正の値か。氷の比熱が水の比熱より小さいのは一般的か。
    • 問(3) 銅の比熱: 一般的な金属の比熱と比較。
    • 問(4) 最終状態: 熱量のバランスが直感と合うか。0℃で氷と水が共存するのは妥当か。

問題47 (東京大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、熱気球の浮上原理と、高度による大気の状態変化(密度、圧力)を熱力学と力学の法則を用いて考察するものです。気球内部の空気の温度を調節することで浮力を制御し、積荷の重さを変えた場合の挙動を解析します。

与えられた条件
  • 熱気球の風船部の体積: \(V = 500 \text{ m}^3\) (ゴンドラの体積は無視)
  • 気球全体の質量(内部の空気を含めない): \(W = 180 \text{ kg}\)
  • 地表での大気圧: \(P_0 = 1.00 \times 10^5 \text{ Pa}\)
  • 地表での大気の密度: \(\rho_0 = 1.20 \text{ kg/m}^3\)
  • 地表での大気の温度: \(T_0 = 280 \text{ K}\)
  • 大気は理想気体とし、温度は高度によらず一定 (\(T_0\)) とする。
  • 熱気球の内部の空気は、下端の開口部を通じて常に外気と等しい圧力になる。
  • (2)で軽くする積荷の質量: \(w = 18 \text{ kg}\)
問われていること
  1. (1) 気球を地面から浮上させるために必要な、内部の空気の密度 \(\rho\) とそのときの内部空気の温度 \(T_1\)。
  2. (2) 内部の空気の温度を \(T_1\) に保ち、積荷を \(w\) だけ軽くしたとき、気球が静止する高度での大気の密度 \(\rho_1\)。
  3. (3) (2)の高度における大気圧 \(P_1\)。
  4. (4) (2)の高度 \(h\) に最も近い値の選択。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは、熱気球の浮沈に関わる物理法則の理解と応用です。具体的には、アルキメデスの原理に基づく浮力、力のつり合い、そして理想気体の状態方程式が中心となります。また、高度による大気圧の変化についても考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • アルキメデスの原理(浮力): 気球が受ける浮力は、気球が押しのけた外気の重さに等しい(\(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{外気}} V g\))。
  • 力のつり合い: 気球が浮上する瞬間や、ある高度で静止するときには、気球に働く力の総和が0になる。
  • 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)。密度 \(\rho\) を用いた形 \(P = \frac{\rho}{M_{\text{mol}}}RT\) も有効。
  • 圧力と力の関係: 高さの異なる場所での圧力差は、その間の流体柱の重さに起因する。

これらの法則を組み合わせ、各設問の条件に応じて立式し、未知数を解いていくことになります。
全体的な戦略としては、まず(1)で力のつり合いと状態方程式から浮上時の内部空気の密度と温度を求めます。(2)では同様に、高度変化後のつり合いと状態方程式からその高度での外気密度を導きます。(3)では状態方程式を用いて(2)の高度での圧力を計算し、(4)では圧力差と空気柱の重さの関係から高度を推定します。

問(1)

思考の道筋とポイント
気球が地面から浮上するためには、気球に働く上向きの浮力が、気球全体の重力(気球本体の重さ \(Wg\) と内部の空気の重さ \(m_{\text{内部空気}}g\))以上になる必要があります。浮上する瞬間の臨界状態では、これらの力がつり合っていると考えます。浮力は、気球が押しのけた外気(地表の空気)の重さに等しく、その密度は \(\rho_0\) です。内部の空気の密度を \(\rho\) とすると、その質量は \(\rho V\) となります。
力のつり合いの式から内部空気の密度 \(\rho\) を求め、次に、気球内部の圧力は地表の大気圧 \(P_0\) に等しいことと、理想気体の状態方程式(密度を用いた形が便利)を用いて、密度 \(\rho\) に対応する内部空気の温度 \(T_1\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 力のつり合い: 浮力 = 全体の重力。
  • 浮力の計算: \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g\)。
  • 内部空気の重力: \(m_{\text{内部空気}}g = (\rho V) g\)。
  • 気球全体の重力: \(Wg + (\rho V)g\)。
  • 内外の圧力均等: \(P_{\text{内部}} = P_{\text{外部}} = P_0\)。
  • 理想気体の状態方程式(密度を用いた形): 外気については \(P_0 = \frac{\rho_0}{M_{\text{mol}}}RT_0\)、内部空気については \(P_0 = \frac{\rho}{M_{\text{mol}}}RT_1\)。

具体的な解説と立式
気球が浮上する瞬間、気球に働く力のつり合いを考えます。浮力 \(F_{\text{浮力}}\) は、
$$F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g \quad \cdots ①$$
全体の重力 \(F_{\text{重力合計}}\) は、気球本体の重さ \(Wg\) と、内部の空気の重さ \((\rho V)g\) の合計です。
$$F_{\text{重力合計}} = Wg + (\rho V)g \quad \cdots ②$$
浮上する臨界状態ではつり合っているので、
$$\rho_0 V g = Wg + (\rho V)g \quad \cdots ③$$
次に、内部空気の温度 \(T_1\) を求めます。地表における外気の状態方程式は(空気のモル質量を \(M_{\text{mol}}\)、気体定数を \(R\) として)、
$$P_0 = \frac{\rho_0}{M_{\text{mol}}}RT_0 \quad \cdots ④$$
気球内部の空気も圧力が \(P_0\) で、密度 \(\rho\)、温度 \(T_1\) なので、
$$P_0 = \frac{\rho}{M_{\text{mol}}}RT_1 \quad \cdots ⑤$$

使用した物理公式

  • アルキメデスの原理(浮力): \(F_B = \rho_{\text{流体}} V g\)
  • 力のつり合い: \(\sum F = 0\)
  • 質量と密度の関係: \(m = \rho V\)
  • 理想気体の状態方程式(密度を用いた形): \(P = \frac{\rho}{M_{\text{mol}}}RT\)
計算過程

まず、密度 \(\rho\) を式③から求めます。両辺の \(g\) を消去し、\(\rho V\) について整理すると、
$$\rho V = \rho_0 V – W$$
$$\rho = \frac{\rho_0 V – W}{V} = \rho_0 – \frac{W}{V}$$
値を代入します: \(\rho_0 = 1.20 \text{ kg/m}^3\), \(V = 500 \text{ m}^3\), \(W = 180 \text{ kg}\)。
$$\rho = 1.20 \text{ kg/m}^3 – \frac{180 \text{ kg}}{500 \text{ m}^3} = 1.20 \text{ kg/m}^3 – 0.36 \text{ kg/m}^3 = 0.840 \text{ kg/m}^3 \quad \cdots ⑥$$
次に、温度 \(T_1\) を求めます。式④と式⑤から、\(\frac{P_0 M_{\text{mol}}}{R}\) が共通なので、\(\rho_0 T_0 = \rho T_1\) となります。
よって、
$$T_1 = \frac{\rho_0}{\rho} T_0$$
値を代入します: \(\rho_0 = 1.20 \text{ kg/m}^3\), \(\rho = 0.840 \text{ kg/m}^3\), \(T_0 = 280 \text{ K}\)。
$$T_1 = \frac{1.20}{0.840} \times 280 \text{ K} = \frac{10}{7} \times 280 \text{ K} = 400 \text{ K} \quad \cdots ⑦$$

計算方法の平易な説明

内部の空気の密度 \(\rho\): 気球が浮き上がるためには、浮力が全体の重さ(気球の材料+中の温かい空気)と等しくなる必要があります。このつり合いの式から、中の空気がどれだけ軽くなればよいか(密度 \(\rho\))を計算します。
内部の空気の温度 \(T_1\): 気球の中と外の空気は圧力が同じです。空気は温度が上がると密度が小さくなるので、理想気体の法則を使って、求めた密度 \(\rho\) になるためには中の空気を何度まで熱すればよいか (\(T_1\)) を計算します。

結論と吟味

浮上させるために必要な内部の空気の密度 \(\rho\) は \(0.840 \text{ kg/m}^3\) です。そのために必要な内部の空気の温度 \(T_1\) は \(400 \text{ K}\) (摂氏 \(127 \text{ ℃}\)) です。内部空気の密度が外気より小さく、温度が外気より高くなっているため、物理的に妥当です。

解答 (1) 密度: \(0.840 \text{ kg/m}^3\), 温度: \(400 \text{ K}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
内部の空気の温度を \(T_1=400 \text{ K}\) に保ったまま、積荷を \(w=18 \text{ kg}\) だけ軽くすると、気球全体の重さが減るため気球は上昇し、ある高度で再び静止します。この高度での外気の密度を \(\rho_1\)、圧力を \(P_1\) とします。内部空気の温度は \(T_1\)、圧力は \(P_1\)、密度を \(\rho’\) とします。力のつり合いの式と、内外の空気に対する状態方程式を連立させて、\(\rho_1\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 高高度での力のつり合い: 浮力(\(\rho_1 Vg\)) = 新しい全体の重力 (\((W-w)g + \rho’Vg\))。
  • 内外の圧力均等: \(P_{\text{内部}} = P_{\text{外部}} = P_1\)。
  • 状態方程式の適用: 外部大気 \(P_1 = \frac{\rho_1}{M_{\text{mol}}}RT_0\)、内部空気 \(P_1 = \frac{\rho’}{M_{\text{mol}}}RT_1\)。

具体的な解説と立式
気球が静止する高度での外気の密度を \(\rho_1\)、圧力を \(P_1\)。内部空気の温度 \(T_1\)、密度 \(\rho’\)、圧力 \(P_1\)。
力のつり合いの式は、
$$\rho_1 V g = (W-w)g + (\rho’V)g \quad \cdots ⑧$$
外部大気(温度 \(T_0\))と内部空気(温度 \(T_1\))はともに圧力 \(P_1\) なので、状態方程式から(空気のモル質量を \(M_{\text{mol}}\)、気体定数を \(R\) として)、
$$P_1 = \frac{\rho_1}{M_{\text{mol}}}RT_0 \quad \cdots ⑨$$
$$P_1 = \frac{\rho’}{M_{\text{mol}}}RT_1 \quad \cdots ⑩$$
式⑨と式⑩から、\(\frac{P_1 M_{\text{mol}}}{R}\) は共通なので、次の関係が成り立ちます。
$$\rho_1 T_0 = \rho’ T_1$$
したがって、\(\rho’\) について解くと、
$$\rho’ = \rho_1 \frac{T_0}{T_1} \quad \cdots ⑪$$
この \(\rho’\) を式⑧に代入して \(\rho_1\) を求めます。

使用した物理公式

  • アルキメデスの原理(浮力)
  • 力のつり合い
  • 理想気体の状態方程式(密度を用いた形)
計算過程

まず、式⑧の両辺から \(g\) を消去します。
$$\rho_1 V = (W-w) + \rho’V$$ここに式⑪ \(\rho’ = \rho_1 \frac{T_0}{T_1}\) を代入します。$$\rho_1 V = (W-w) + \left(\rho_1 \frac{T_0}{T_1}\right)V$$
\(\rho_1\) について解くために、\(\rho_1\) を含む項を左辺にまとめます。
$$\rho_1 V – \rho_1 \frac{T_0}{T_1}V = W-w$$
$$\rho_1 V \left(1 – \frac{T_0}{T_1}\right) = W-w$$
$$\rho_1 V \left(\frac{T_1 – T_0}{T_1}\right) = W-w$$
よって、
$$\rho_1 = \frac{(W-w)T_1}{V(T_1 – T_0)}$$
値を代入します: \(W-w = 180 – 18 = 162 \text{ kg}\), \(T_1=400 \text{ K}\), \(V=500 \text{ m}^3\), \(T_1 – T_0 = 400 – 280 = 120 \text{ K}\)。
$$\rho_1 = \frac{162 \text{ kg} \times 400 \text{ K}}{500 \text{ m}^3 \times 120 \text{ K}} = \frac{162 \times 4}{5 \times 120} = \frac{162}{150} = 1.08 \text{ kg/m}^3 \quad \cdots ⑫$$

計算方法の平易な説明

積荷を軽くすると気球は上昇し、周りの空気が薄くなった(密度が小さくなった)ある高さで再び止まります。このときも「浮力=全体の重さ」がつり合っています。中の空気の温度は \(T_1\) のままですが、外の気圧が下がるので中の空気の密度 \(\rho’\) も変わります。これらの関係を気体の法則とつり合いの式から解いて、その高さでの外の空気の密度 \(\rho_1\) を求めます。

結論と吟味

気球が静止する高度における大気の密度 \(\rho_1\) は \(1.08 \text{ kg/m}^3\) です。これは地表での密度 \(\rho_0 = 1.20 \text{ kg/m}^3\) より小さく、物理的に妥当です。

解答 (2) \(1.08 \text{ kg/m}^3\)

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で求めた高度における大気の密度 \(\rho_1\) と、大気の温度が高度によらず \(T_0 = 280 \text{ K}\) で一定であるという条件から、理想気体の状態方程式(密度を用いた形)を用いて、その高度での大気圧 \(P_1\) を求めます。地表での状態(圧力 \(P_0\)、密度 \(\rho_0\)、温度 \(T_0\))との比較が有効です。

この設問における重要なポイント

  • 理想気体の状態方程式: \(P = \frac{\rho}{M_{\text{mol}}}RT\)。
  • 大気の温度 \(T_0\) は高度によらず一定。
  • 地表と高度 \(h\) での状態を比較する。

具体的な解説と立式
地表での状態方程式は \(P_0 = \frac{\rho_0}{M_{\text{mol}}}RT_0\)。
高度 \(h\) での状態方程式は \(P_1 = \frac{\rho_1}{M_{\text{mol}}}RT_0\)。
これらの式の比をとると、
$$\frac{P_1}{P_0} = \frac{\rho_1}{\rho_0} \quad \cdots ⑬$$
この式から \(P_1\) を求めます。

使用した物理公式

  • 理想気体の状態方程式(密度を用いた形): \(P = \frac{\rho}{M_{\text{mol}}}RT\)
計算過程

式⑬に値を代入します: \(P_0 = 1.00 \times 10^5 \text{ Pa}\), \(\rho_1 = 1.08 \text{ kg/m}^3\), \(\rho_0 = 1.20 \text{ kg/m}^3\)。
$$P_1 = P_0 \frac{\rho_1}{\rho_0} = (1.00 \times 10^5 \text{ Pa}) \times \frac{1.08}{1.20}$$
$$P_1 = (1.00 \times 10^5 \text{ Pa}) \times 0.9 = 0.900 \times 10^5 \text{ Pa} = 9.00 \times 10^4 \text{ Pa} \quad \cdots ⑭$$

計算方法の平易な説明

高いところへ行くと気圧が下がります。気体の法則「圧力 = 密度 × (定数) × 温度」において、大気の温度はどこでも同じ \(T_0\) と仮定されているので、圧力は密度に比例します。地表での圧力と密度、そして(2)で求めた高度での密度を使って、比例計算でその高度での圧力を求めます。

結論と吟味

その高度における大気圧 \(P_1\) は \(9.00 \times 10^4 \text{ Pa}\) です。地表の圧力 \(1.00 \times 10^5 \text{ Pa}\) よりも低く、妥当です。

解答 (3) \(9.00 \times 10^4 \text{ Pa}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
地表から高度 \(h\) までの間の圧力差 \(P_0 – P_1\) は、その間の高さ \(h\) の空気柱の単位面積当たりの重さに相当します。ただし、この空気柱の密度は一定ではなく変化するため、平均密度を \(\bar{\rho} = (\rho_0 + \rho_1)/2\) と近似して、圧力差と重さの関係式 \(P_0 – P_1 \approx \bar{\rho} h g\) を用いて \(h\) を計算します。

この設問における重要なポイント

  • 圧力差と流体柱の重さの関係: \(\Delta P = \rho_{\text{平均}} g h\)。
  • 平均密度の近似: 密度が変化する場合、その区間の平均密度を用いることで近似計算ができる。

具体的な解説と立式
地表と高度 \(h\) の間の空気柱を考えます。平均密度を \(\bar{\rho} = \frac{\rho_0 + \rho_1}{2}\) と近似すると、圧力差は、
$$P_0 – P_1 \approx \left(\frac{\rho_0 + \rho_1}{2}\right) h g \quad \cdots ⑮$$
この式から高度 \(h\) を求めます。

使用した物理公式

  • 圧力と力の関係 (静水圧の考え方の応用): \(\Delta P \approx \rho_{\text{平均}} g h\)
計算過程

式⑮から \(h\) について解くと、
$$h \approx \frac{2(P_0 – P_1)}{(\rho_0 + \rho_1)g}$$
値を代入します: \(P_0 – P_1 = 1.00 \times 10^4 \text{ Pa}\), \(\rho_0 + \rho_1 = 1.20 + 1.08 = 2.28 \text{ kg/m}^3\), \(g \approx 9.8 \text{ m/s}^2\)。
$$h \approx \frac{2 \times (1.00 \times 10^4 \text{ Pa})}{(2.28 \text{ kg/m}^3) \times 9.8 \text{ m/s}^2} = \frac{20000}{22.344} \text{ m} \approx 895.09 \text{ m}$$
したがって、高度 \(h\) は約 \(895 \text{ m}\)。選択肢の中で最も近い値は \(900 \text{ m}\) です。

計算方法の平易な説明

地表とある高さ \(h\) の場所では、空気の圧力が異なります。この圧力の差は、その間の高さ \(h\) の空気の柱の「重さ」によって生じます。空気は上にいくほど薄くなるので、平均の密度を使って大まかな高さを計算します。「圧力の差 ≒ 平均の密度 × 高さ \(h\) × 重力加速度」という式を \(h\) について解きます。

結論と吟味

計算結果は約 \(895 \text{ m}\) となり、選択肢の中で最も近いのは \(900 \text{ m}\) です。平均密度を用いた近似ですが、妥当な値が得られています。

解答 (4) \(900 \text{ m}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 浮力と力のつり合い、そして理想気体の状態方程式の組み合わせ。
    • 浮力の原理(アルキメデスの原理): \(F_B = \rho_{\text{外気}}Vg\)。
    • 力のつり合い: 静止時には鉛直方向の力がつり合う(浮力、気球構造の重力、内部空気の重力)。
    • 理想気体の状態方程式: \(P = \frac{\rho}{M_{\text{mol}}}RT\)。内外の圧力均等条件と併用。
    • 大気圧と高度の関係(静水圧の考え方の近似的応用)。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 潜水艦や船など、液体中での浮力とつり合いに関する問題。
    • 異なる条件下(温度、圧力)での気体の密度や体積の変化を問う問題。
    • 高層大気の圧力や密度分布に関する問題(近似的な扱い)。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 力の図示: 物体に働く全ての力を正確に図示(特に浮力は周囲の流体の密度で)。
    2. つり合い条件の確認: 静止または等速直線運動なら力のつり合い。
    3. 気体の状態の特定: 関与する気体のP, V, T, \(\rho\) の関係を状態方程式で。
    4. 問題文の拘束条件の整理: 「圧力が等しい」「温度が一定」など。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 浮力の計算ミス:
    • 現象: 内部空気の密度で浮力を計算する。
    • 対策: 浮力は常に「周囲の流体の密度」で決まることを徹底する。
  • 内部空気の質量の無視または誤算:
    • 現象: 気球全体の重さを考える際に内部空気の質量 \(m = \rho V\) を忘れる。
    • 対策: つり合いに関わる全ての質量(力)をリストアップする。
  • 状態方程式の誤用: 温度を絶対温度でなく摂氏で代入する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • 熱気球に働く力の図示(浮力、気球本体の重力、内部空気の重力)。
    • 圧力と空気柱の重さの概念図(問(4))。
  • 図を描く際に注意すべき点は何か:
    • 各力の作用点と向きを明確に。
    • 変数(\(\rho_0, \rho, \rho_1, \rho’\) など)がどの部分の密度を指しているか混同しないように区別。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 浮力の公式: アルキメデスの原理。
  • 力のつり合い: 静止条件。
  • 理想気体の状態方程式: 気体の状態量間の関係。
  • 圧力差と空気柱の重さの関係: 静水圧の考え方の近似的応用。
  • 各公式の適用条件を常に意識する。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 浮上条件の分析 (問1 \(\rho\))。
  2. 内部温度の計算 (問1 \(T_1\))。
  3. 高高度でのつり合いと密度 (問2 \(\rho_1\))。
  4. 高高度での圧力 (問3 \(P_1\))。
  5. 高度の推定 (問4 \(h\))。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 代数計算(文字式の整理、分数の計算)。
    • 数値計算(有効数字、単位)。
    • 多くの密度記号の混同。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 途中式を丁寧に書く。
    • 単位を付けて計算する習慣。
    • 概算をする癖。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 問(1) \(\rho < \rho_0\), \(T_1 > T_0\) か。
    • 問(2) \(\rho_1 < \rho_0\) か。
    • 問(3) \(P_1 < P_0\) か。
    • 問(4) \(h\) の値が物理的にありえない高さでないか。

問題48 (横浜市立大+山口大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、理想気体の分子運動論の基本的な考え方を用いて、気体分子が容器の壁に及ぼす力や圧力、そして分子の運動エネルギーと絶対温度の関係、内部エネルギーなどを導出するものです。球形の容器内での分子の弾性衝突をモデルとしています。

与えられた条件
  • 半径 \(r\) の球形容器に入った理想気体。
  • 気体分子は器壁と弾性衝突をする。
  • 分子どうしの衝突は無視する。
  • 1つの分子の質量を \(m\)。
  • ある特定の分子の速さを \(v\)、器壁への入射角を \(\theta\) とする。
  • (3)では、球内の総分子数を \(N\)、分子の速さの2乗平均を \(\overline{v^2}\) とする。
  • (4)では、気体定数を \(R\)、アボガドロ定数を \(N_A\) とする。
  • (5)では、気体が単原子分子からなるとし、モル数を \(n\) とする。
問われていること
  1. (1) 1回の衝突で、1つの分子が器壁に与える力積の大きさ。
  2. (2) 1つの分子が器壁と衝突してから次に衝突するまでに進む距離、および時間 \(t\) の間にこの分子が器壁に衝突する回数。
  3. (3) 気体分子全体が器壁に及ぼす力の大きさと、気体の圧力。
  4. (4) 分子の運動エネルギーの平均値 \(\frac{1}{2}m\overline{v^2}\) を絶対温度 \(T\) を用いて表すこと。
  5. (5) この気体が単原子分子からなる場合の \(n\) モルの内部エネルギー \(U\) を \(n, R, T\) で表すこと。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは、気体分子運動論の基礎です。気体の巨視的な性質(圧力、温度など)を、それを構成する分子の微視的な運動(速度、衝突など)から説明する理論です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 運動量と力積: 力積は運動量の変化に等しい。
  • 弾性衝突: 壁との弾性衝突では、壁に垂直な速度成分の大きさが変わらず向きが反転し、平行な成分は変化しない。
  • 平均の考え方: 多数の分子の運動を扱うため、速度の2乗平均などの統計的な量を用いる。
  • 圧力の定義: 単位面積あたりに垂直に働く力の大きさ。
  • 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)。
  • 内部エネルギー: 理想気体(特に単原子分子)の場合は、分子の並進運動エネルギーの総和。

これらの概念を段階的に適用し、気体の巨視的な性質と分子の微視的な運動を結びつけていきます。
全体的な戦略としては、まず(1)で1回の衝突における力積を運動量変化から求めます。(2)では幾何学的に衝突間の距離と時間 \(t\) 内の衝突回数を導きます。(3)では全分子からの力積を時間平均して力を求め、圧力を計算します。(4)では(3)の結果と理想気体の状態方程式を比較して平均運動エネルギーと温度の関係を導出し、(5)で単原子分子理想気体の内部エネルギーを求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
分子が器壁と弾性衝突する際、運動量の変化を考えます。衝突面(器壁の接平面)に平行な速度成分は変化せず、垂直な速度成分(半径方向の成分)のみが向きを反転させます。力積は運動量の変化に等しいので、この運動量変化から分子が壁から受ける力積を求め、作用・反作用の法則により壁が分子から受ける力積(分子が壁に与える力積)の大きさを導きます。

この設問における重要なポイント

  • 弾性衝突の性質: 壁に垂直な速度成分が反転し、平行な成分は不変。
  • 運動量と力積の関係: \(\vec{I} = \Delta \vec{p}\)。
  • 作用・反作用の法則: 分子が壁に与える力積の大きさは、壁が分子に与える力積の大きさに等しい。
  • 速度の分解: 入射角 \(\theta\) を用いて、速度 \(v\) を壁に垂直な成分 \(v \cos\theta\) と平行な成分 \(v \sin\theta\) に分解する。

具体的な解説と立式
分子の質量を \(m\)、速さを \(v\)、器壁への入射角(法線とのなす角)を \(\theta\) とします。
衝突の際、器壁の接平面に平行な方向の速度成分は変化しません。器壁に垂直な方向(半径方向)の速度成分は、衝突前を \(-v \cos\theta\)(壁に向かう向き、中心から外向きを正とする)、衝突後を \(+v \cos\theta\)(壁から遠ざかる向き)とします。
分子が器壁から受けた力積 \(I_{\text{分子}}\) は、分子の運動量の変化に等しいので、
$$I_{\text{分子}} = m(v \cos\theta) – m(-v \cos\theta) = 2mv \cos\theta$$
作用・反作用の法則により、分子が器壁に与える力積 \(I_{\text{壁}}\) の大きさはこれに等しく、
$$|I_{\text{壁}}| = 2mv \cos\theta \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • 運動量: \(p = mv\)
  • 力積と運動量の関係: \(I = \Delta p\)
  • 作用・反作用の法則
計算過程

(上記「具体的な解説と立式」で結論①が導かれているため、追加の計算ステップは不要です。)

計算方法の平易な説明

分子が壁に弾性衝突するとき、壁に垂直な方向の速度成分だけが向きを変えます。力積は運動量の変化なので、この垂直方向の運動量の変化を計算します。変化の大きさは \(2mv\cos\theta\) となります。分子が壁に与える力積の大きさはこれと同じです。

結論と吟味

1回の衝突で、この分子が器壁に与える力積の大きさは \(2mv \cos\theta\) です。これは入射角 \(\theta\) が0(垂直衝突)で最大、\(\theta\) が90°(接線方向)で0となり、物理的に妥当です。

解答 (1) \(2mv \cos\theta\)

問(2)

思考の道筋とポイント
分子が器壁と衝突してから次に衝突するまでに進む距離を求めます。弾性衝突では入射角と反射角が等しく、分子は直線運動をします。図形的に考えると、衝突点と次の衝突点を結ぶ線分は、球の弦となります。この弦の長さを求めます。
次に、時間 \(t\) の間にこの分子が器壁に衝突する回数を求めます。分子は速さ \(v\) で運動しているので、時間 \(t\) の間に進む総距離は \(vt\) です。この総距離を、1回の衝突間に進む距離で割れば、衝突回数が得られます。

この設問における重要なポイント

  • 弾性衝突における反射の法則: 入射角 = 反射角。
  • 幾何学的考察: 球の中心O、衝突点A、次の衝突点Bでできる三角形(\(\triangle \text{OAB}\))は二等辺三角形になる。

具体的な解説と立式
分子が器壁上のある点Aで入射角 \(\theta\) で衝突し、次に点Bで衝突するとします。線分OAと弦ABのなす角は \(\theta\) なので、\(\triangle \text{OAB}\) はOA=OB=\(r\) の二等辺三角形です。衝突してから次に衝突するまでに進む距離 \(L_{AB}\) は、
$$L_{AB} = 2r \cos\theta \quad \cdots ②$$
時間 \(t\) の間にこの分子が進む総距離は \(vt\) です。1回の衝突間に進む距離が \(L_{AB}\) なので、時間 \(t\) の間の衝突回数 \(N_{\text{衝突}}\) は、
$$N_{\text{衝突}} = \frac{vt}{L_{AB}} \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • 三角比(二等辺三角形の性質)
  • 等速直線運動の距離: 距離 = 速さ × 時間
計算過程

衝突間の距離は式②で \(L_{AB} = 2r \cos\theta\)。
衝突回数 \(N_{\text{衝突}}\) は、式③に式②を代入して、
$$N_{\text{衝突}} = \frac{vt}{2r \cos\theta} \quad \cdots ④$$

計算方法の平易な説明

衝突間の距離: 分子が壁に当たって跳ね返る道筋は、球の内部に引かれた「弦」になります。幾何学的にこの弦の長さは \(2r\cos\theta\) と計算できます。
衝突回数: 分子は時間 \(t\) の間に \(vt\) だけ進みます。1回ぶつかるごとに \(2r\cos\theta\) 進むので、\(vt\) の中にこの距離が何回含まれるかを割り算で求めます。

結論と吟味

分子が器壁と衝突してから、次に衝突するまでに進む距離は \(2r \cos\theta\) です。時間 \(t\) の間にこの分子が器壁に衝突する回数は \(\displaystyle \frac{vt}{2r \cos\theta}\) です。

解答 (2) 距離: \(2r \cos\theta\), 衝突回数: \(\displaystyle \frac{vt}{2r \cos\theta}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
気体分子全体が器壁に及ぼす力の大きさを求め、次に圧力を導出します。
1つの分子が時間 \(t\) の間に器壁に与える総力積は、(1)の力積と(2)の衝突回数の積です。全分子数 \(N\) 倍し、\(v^2\) をその平均値 \(\overline{v^2}\) で置き換えることで、全分子からの総力積を求めます。平均の力 \(F\) は総力積を時間 \(t\) で割ることで得られます。圧力 \(P\) は力 \(F\) を器壁の表面積 \(4\pi r^2\) で割ります。

この設問における重要なポイント

  • 時間平均の力の考え方: (平均の力) = (単位時間に与える力積)。
  • 全分子からの寄与: 各分子の寄与を合計し、平均値(\(\overline{v^2}\))を用いる。
  • 圧力の定義: \(P = F/S_{\text{表面積}}\)。

具体的な解説と立式
1つの分子が時間 \(t\) の間に器壁に与える総力積 \(I_{\text{1分子}, t}\) は、
$$I_{\text{1分子}, t} = (2mv \cos\theta) \times \left(\frac{vt}{2r \cos\theta}\right) = \frac{mv^2 t}{r} \quad \cdots ⑤$$
全分子数 \(N\) 個について、\(v^2\) をその平均値 \(\overline{v^2}\) で置き換えて総力積 \(I_{\text{全分子}, t}\) を考えると、
$$I_{\text{全分子}, t} = N \frac{m\overline{v^2}t}{r} \quad \cdots ⑥$$
気体分子全体が器壁に及ぼす平均の力の大きさ \(F\) は、
$$F = \frac{I_{\text{全分子}, t}}{t} \quad \cdots ⑦$$
気体の圧力 \(P\) は、この力 \(F\) を球の表面積 \(S_{\text{球}} = 4\pi r^2\) で割ったものなので、
$$P = \frac{F}{S_{\text{球}}} \quad \cdots ⑧$$
球の体積 \(V = \frac{4}{3}\pi r^3\) を用いて圧力を表します。

使用した物理公式

  • 力積(問(1)の結果)
  • 衝突回数(問(2)の結果)
  • 平均の力と力積の関係: \(F = I/t\)
  • 圧力の定義: \(P = F/S\)
  • 球の表面積・体積
計算過程

式⑦に式⑥を代入して \(F\) を求めます。
$$F = \frac{N \frac{m\overline{v^2}t}{r}}{t} = \frac{Nm\overline{v^2}}{r} \quad \cdots ⑨$$
次に、式⑧に \(F\) と \(S_{\text{球}} = 4\pi r^2\) を代入して \(P\) を求めます。
$$P = \frac{\frac{Nm\overline{v^2}}{r}}{4\pi r^2} = \frac{Nm\overline{v^2}}{4\pi r^3}$$
球の体積 \(V = \frac{4}{3}\pi r^3\) より \(4\pi r^3 = 3V\) なので、これを代入すると、
$$P = \frac{Nm\overline{v^2}}{3V} \quad \cdots ⑩$$

計算方法の平易な説明

全体の力: 1個の分子が時間 \(t\) の間に壁に与える力積の合計は \(\frac{mv^2t}{r}\) です。\(N\) 個の分子があり、速さがバラバラなので \(v^2\) を平均値 \(\overline{v^2}\) で置き換え、\(N\) 倍します。これが全分子からの総力積です。力は「力積÷時間」なので、時間 \(t\) で割ります。
圧力: 圧力は「力÷面積」です。上で求めた力を球の表面積 \(4\pi r^2\) で割り、球の体積 \(V\) を使って整理します。

結論と吟味

気体分子全体が器壁に及ぼす力の大きさ \(F\) は \(\displaystyle F = \frac{Nm\overline{v^2}}{r}\) です。気体の圧力 \(P\) は \(\displaystyle P = \frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\) と表されます。後者は気体分子運動論の基本式です。

解答 (3) 力の大きさ: \(\displaystyle \frac{Nm\overline{v^2}}{r}\), 圧力: \(\displaystyle \frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
分子の運動エネルギーの平均値 \(\frac{1}{2}m\overline{v^2}\) を絶対温度 \(T\) を用いて表します。これには、(3)で導いた圧力の微視的表現 \(PV = \frac{1}{3}Nm\overline{v^2}\) と、理想気体の状態方程式の巨視的表現 \(PV=nRT\) を比較します。ここで、モル数 \(n\) は全分子数 \(N\) とアボガドロ定数 \(N_A\) を用いて \(n = N/N_A\) と表せることを利用します。

この設問における重要なポイント

  • 気体分子運動論による圧力の式: \(PV = \frac{1}{3}Nm\overline{v^2}\)。
  • 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)。
  • 物質量(モル数)と分子数の関係: \(n = N/N_A\)。

具体的な解説と立式
(3)で得られた圧力の式を変形すると、
$$PV = \frac{1}{3}Nm\overline{v^2} \quad \cdots ⑪$$
理想気体の状態方程式は、\(n = N/N_A\) を用いて、
$$PV = \frac{N}{N_A}RT \quad \cdots ⑬$$
式⑪と式⑬の左辺は等しいので、右辺も等しくなります。
$$\frac{1}{3}Nm\overline{v^2} = \frac{N}{N_A}RT \quad \cdots ⑭$$
この式から、分子の運動エネルギーの平均値 \(\frac{1}{2}m\overline{v^2}\) を導きます。

使用した物理公式

  • 気体分子運動論による圧力の式(問(3)の結果)
  • 理想気体の状態方程式: \(PV = nRT\)
  • アボガドロ定数の定義: \(n = N/N_A\)
計算過程

式⑭ \(\displaystyle \frac{1}{3}Nm\overline{v^2} = \frac{N}{N_A}RT\) の両辺から \(N\) を消去します。
$$\frac{1}{3}m\overline{v^2} = \frac{R}{N_A}T$$
両辺に \(\frac{3}{2}\) を掛けて \(\frac{1}{2}m\overline{v^2}\) の形にすると、
$$\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}\frac{R}{N_A}T \quad \cdots ⑮$$

計算方法の平易な説明

気体の圧力は、分子のミクロな運動からも説明でき((3)の式)、温度や体積といったマクロな量からも説明できます(理想気体の状態方程式)。これら2つの \(PV\) の表現をイコールで結び、整理すると、分子1個あたりの平均的な運動エネルギー (\(\frac{1}{2}m\overline{v^2}\)) が、絶対温度 \(T\) で表せます。

結論と吟味

分子の運動エネルギーの平均値 \(\frac{1}{2}m\overline{v^2}\) は、絶対温度 \(T\) を用いて \(\displaystyle \frac{3R}{2N_A}T\) と表されます。ここで、\(k_B = R/N_A\) はボルツマン定数なので、\(\frac{3}{2}k_B T\) とも書けます。これは理想気体の分子1個の平均運動エネルギーが絶対温度 \(T\) にのみ比例するという重要な結果です。

解答 (4) \(\displaystyle \frac{3R}{2N_A}T\)

問(5)

思考の道筋とポイント
この気体が単原子分子からなるとすると、その内部エネルギー \(U\) は、気体を構成する全分子の並進運動エネルギーの総和に等しいと考えられます。単原子分子の場合、分子内の振動や回転のエネルギーは(古典的には)考えないためです。
(4)で求めた分子1個あたりの平均運動エネルギーを、全分子数 \(N\) 倍することで、内部エネルギー \(U\) を求めます。そして、\(N = n N_A\) の関係を用いて、\(n, R, T\) で表します。

この設問における重要なポイント

  • 単原子分子理想気体の内部エネルギー: 全分子の並進運動エネルギーの総和。
  • \(U = N \times (\text{1分子あたりの平均運動エネルギー})\)。
  • 物質量 \(n\)、分子数 \(N\)、アボガドロ定数 \(N_A\) の関係: \(N = nN_A\)。

具体的な解説と立式
単原子分子理想気体の内部エネルギー \(U\) は、\(N\) 個の分子の並進運動エネルギーの総和です。
1分子あたりの平均運動エネルギーは、(4)の結果から \(\displaystyle \frac{3}{2}\frac{R}{N_A}T\) なので、
$$U = N \times \left(\frac{3}{2}\frac{R}{N_A}T\right) \quad \cdots ⑯$$
ここで、全分子数 \(N\) は、モル数 \(n\) とアボガドロ定数 \(N_A\) を用いて \(N = nN_A\) と表せるので、これを式⑯に代入します。

使用した物理公式

  • 単原子分子理想気体の内部エネルギーの定義
  • 問(4)の結果: \(\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}\frac{R}{N_A}T\)
  • \(N = nN_A\)
計算過程

式⑯に \(N = nN_A\) を代入します。
$$U = (nN_A) \times \left(\frac{3}{2}\frac{R}{N_A}T\right)$$
\(N_A\) が約分されて、
$$U = \frac{3}{2}nRT \quad \cdots ⑰$$

計算方法の平易な説明

単原子分子の理想気体の場合、その「内部エネルギー」は、気体中のすべての分子が持っている運動エネルギーの合計です。(4)で分子1個あたりの平均運動エネルギーがわかったので、これを全分子数 \(N\) 倍します。さらに、分子の数 \(N\) をモル数 \(n\) で表し直すと、\(U\) が \(n, R, T\) で表せます。

結論と吟味

\(n\) モルの単原子分子理想気体の内部エネルギー \(U\) は \(\displaystyle U = \frac{3}{2}nRT\) です。これは熱力学における重要な公式で、内部エネルギーが物質量と絶対温度にのみ比例することを示しています。

解答 (5) \(\displaystyle U = \frac{3}{2}nRT\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 気体分子運動論の基本的な考え方と導出過程
    • 力積と運動量の関係。
    • 幾何学的考察と平均化(\(\overline{v^2}\))。
    • 圧力の微視的導出 (\(PV = \frac{1}{3}Nm\overline{v^2}\))。
    • マクロな法則との接続(理想気体の状態方程式との比較による \(\frac{1}{2}m\overline{v^2} = \frac{3}{2}k_B T\) の導出)。
    • 単原子分子理想気体の内部エネルギー (\(U = \frac{3}{2}nRT\))。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 立方体容器中の気体の圧力の導出。
    • 気体分子の速度分布に関連する問題の導入部。
    • エネルギー等分配の法則へのつながり。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. モデル化の仮定(理想気体、弾性衝突など)の確認。
    2. 1分子の運動の分析(衝突、運動量変化、力積)。
    3. 統計的処理(平均化、総和)。
    4. マクロな量との関連付け(状態方程式など)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力積の計算での符号や成分の誤り。
  • 衝突回数の計算ミス。
  • 圧力の導出における平均化の誤解。
  • \(N\)(分子数)と \(n\)(モル数)の混同。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • 分子の壁への衝突と反射(速度ベクトルの変化)。
    • 多数の分子がランダムに運動し、壁に均等な圧力を及ぼす様子。
  • 図を描く際に注意すべき点は何か:
    • 速度ベクトルの分解(衝突面に対し垂直・平行)。
    • 角度の定義の明確化。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力積 = 運動量の変化: 衝突による運動量変化を力積と関連付けるため。
  • 圧力 \(P=F/S\): 力から圧力を定義するため。
  • 理想気体の状態方程式 \(PV=nRT\): マクロな状態量間の関係として。
  • 内部エネルギー \(U = N \times (\text{KE}_{\text{avg}})\): 単原子分子理想気体の定義として。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 1分子の衝突分析(力積)。
  2. 1分子の連続衝突(衝突間距離、衝突回数)。
  3. 全分子による力と圧力の導出。
  4. 平均運動エネルギーと温度の関係導出。
  5. 内部エネルギーの計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 運動量変化の符号。
    • \(r\) と \(V\) の関係を用いた圧力の式変形。
    • 係数(1/2, 1/3, 3/2など)の扱い。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 定義に忠実な立式。
    • 次元解析。
    • 文字式の計算練習。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 問(1) 力積の \(\theta\) 依存性。
    • 問(3) 圧力の式が \(N/V\) や \(m\overline{v^2}\) に比例するか。
    • 問(4) 平均運動エネルギーが絶対温度に比例するか。
    • 問(5) 内部エネルギーが物質量と絶対温度に比例するか。教科書の公式と一致するか。
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