問題46 (金沢工大+東北大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、ヒーターを内蔵した容器内で氷を加熱し、その状態変化や温度上昇の様子をグラフから読み取り、氷の融解熱、容器の熱容量、氷の比熱を求めるものです。さらに、その後、高温の水と容器に低温の銅塊を投入した際の熱平衡について考察し、最後に初期状態の低温の氷と容器に高温の銅塊を投入した場合の最終状態を予測します。熱量の保存が中心的なテーマとなります。
- ヒーターの電力: \(P = 600 \text{ W}\)
- 初期の氷の質量: \(m_{\text{氷}} = 200 \text{ g}\)
- 初期状態(図1): 氷と容器全体の温度は一様に \(-15 \text{ ℃}\)
- 容器の熱は外に逃げない(断熱容器)。
- ヒーターの熱容量は無視できる。
- 水の比熱: \(c_{\text{水}} = 4.2 \text{ J/(g·K)}\)
- 図2のグラフ:
- A点: \(t=0 \text{ s}\), 温度 \(-15 \text{ ℃}\)
- B点: \(t=12 \text{ s}\), 温度 \(0 \text{ ℃}\)
- C点: \(t=124 \text{ s}\), 温度 \(0 \text{ ℃}\) (融解終了)
- D点: \(t=199 \text{ s}\), 温度 \(50 \text{ ℃}\)
- (3)で追加する銅塊: 質量 \(m_{\text{銅1}} = 90 \text{ g}\), 初期温度 \(-10 \text{ ℃}\)。水と容器は\(50 \text{ ℃}\)。最終的に全体が \(47.7 \text{ ℃}\)。
- (4)で追加する銅塊: 質量 \(m_{\text{銅2}} = 500 \text{ g}\), 初期温度 \(80 \text{ ℃}\)。投入先は初期状態の図1(\(-15 \text{ ℃}\)の氷\(200 \text{ g}\)と容器)。
- (1) 氷の融解熱 \(L_f\)。
- (2) 容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) と氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\)。
- (3) 銅の比熱 \(c_{\text{銅}}\)(有効数字2けた)。
- (4) (4)の条件で、やがてどのようになるか(最終状態)。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(2) 容器の熱容量と氷の比熱の別解: グラフの傾きを利用する解法
- 主たる解法が各区間の総熱量と総温度変化から立式するのに対し、別解ではグラフの傾き(温度上昇率)が全体の熱容量の逆数に比例するという物理的関係に着目して解きます。
- 問(2) 容器の熱容量と氷の比熱の別解: グラフの傾きを利用する解法
- 上記の別解が有益である理由
- グラフの物理的解釈: 温度-時間グラフの「傾き」が持つ物理的な意味(温度上昇の速さ)と、それを決定する要因(熱容量)との関係を深く理解できます。
- 微分的な視点: 「単位時間あたりの熱量」と「単位時間あたりの温度変化」という、より微分的な視点から熱現象を捉える練習になります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、熱量の保存と物質の状態変化、比熱・熱容量の計算です。ヒーターから供給される熱量を計算し、それによって引き起こされる物質の温度変化や状態変化(融解)を、与えられたグラフから読み取った情報と結びつけて分析することが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱量の計算: 状況に応じて3種類の式を使い分けます。
- ヒーターからの供給熱量: \(Q = Pt\) (\(P\): 電力, \(t\): 時間)
- 温度変化に伴う熱量: \(Q = mc\Delta T\) (\(m\): 質量, \(c\): 比熱, \(\Delta T\): 温度変化)または \(Q = C\Delta T\) (\(C\): 熱容量)
- 状態変化に伴う熱量(潜熱): \(Q = mL_f\) (\(L_f\): 融解熱)
- 熱量保存の法則: 外部と熱のやり取りがない系(断熱系)では、高温の物体が失った熱量の総和と、低温の物体が得た熱量の総和は等しくなります。
- グラフの解釈: 温度-時間グラフにおいて、傾きがある区間は温度が変化していることを、水平な区間は温度が一定で状態変化が起きていることを示します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、グラフの水平な部分(BC間)に着目し、氷の融解に使われた熱量を計算して融解熱を求めます。
- 問(2)では、グラフの傾きを持つ部分(CD間とAB間)に着目し、熱量の収支式を立てて、容器の熱容量と氷の比熱を順に求めます。
- 問(3)と問(4)では、異なる温度の物質を混合した際の熱平衡を考えます。熱量保存の法則を適用して、未知の比熱や最終的な状態を決定します。特に問(4)では、\(0 \text{ ℃}\)を基準に段階的に熱の出入りを計算することが有効です。
問(1)
思考の道筋とポイント
図2のグラフで、時間が \(t=12 \text{ s}\) から \(t=124 \text{ s}\) までのBC区間では、温度が \(0 \text{ ℃}\) で一定に保たれています。これは、ヒーターから供給された熱エネルギーが、氷の状態を固体から液体へ変化させる「融解」のためだけに使われていることを示しています。この間に供給された総熱量を計算し、それを氷の質量で割ることで、単位質量あたりの融解熱を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 状態変化と温度: 固体が融解して液体になる間、物質の温度は融点(この場合は \(0 \text{ ℃}\))で一定に保たれます。
- ヒーターの供給熱量: 電力 \(P\) [W] のヒーターが時間 \(t\) [s] の間に供給する熱量 \(Q\) [J] は、\(Q = Pt\) で計算できます。
- 融解熱の定義: 質量 \(m\) の固体を融点で液体にするのに必要な熱量は \(Q = mL_f\) と表され、この \(L_f\) が融解熱です。
- BC区間では、氷だけでなく容器の温度も \(0 \text{ ℃}\) で一定なので、容器は熱を吸収も放出もしていません。したがって、供給された熱はすべて氷の融解に費やされます。
具体的な解説と立式
グラフから、BC区間で氷の融解にかかった時間 \(t_{BC}\) を読み取ります。
$$
\begin{aligned}
t_{BC} &= 124 \text{ s} – 12 \text{ s} \\[2.0ex]
&= 112 \text{ s}
\end{aligned}
$$
ヒーターの電力は \(P = 600 \text{ W} = 600 \text{ J/s}\) なので、この間にヒーターが供給した熱量 \(Q_{BC}\) は、
$$
Q_{BC} = P \times t_{BC} \quad \cdots ①
$$
この熱量 \(Q_{BC}\) が、質量 \(m_{\text{氷}} = 200 \text{ g}\) の氷をすべて \(0 \text{ ℃}\) の水にするために使われました。氷の融解熱を \(L_f\) [J/g] とすると、融解に必要な熱量は次の式で表されます。
$$
Q_{BC} = m_{\text{氷}} L_f \quad \cdots ②
$$
式①と②から、\(L_f\) を求めることができます。
使用した物理公式
- ジュール熱(電力による発熱量): \(Q = Pt\)
- 融解熱(潜熱): \(Q = mL_f\)
まず、式①を用いて、供給された熱量 \(Q_{BC}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{BC} &= 600 \text{ J/s} \times 112 \text{ s} \\[2.0ex]
&= 67200 \text{ J}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式②に代入して、融解熱 \(L_f\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
67200 \text{ J} &= 200 \text{ g} \times L_f \\[2.0ex]
L_f &= \frac{67200 \text{ J}}{200 \text{ g}} \\[2.0ex]
&= 336 \text{ J/g}
\end{aligned}
$$
グラフのB点からC点までの平らな部分は、氷が水にとけている時間を示しています。この間、温度は \(0 \text{ ℃}\) のまま変わりません。ヒーターは1秒間に600ジュールの熱を出し続け、氷が完全にとけ終わるまでに112秒かかりました。つまり、ヒーターが出した熱はすべて、200gの氷をとかすためだけに使われたことになります。この総熱量を氷の質量で割ることで、氷1gをとかすのに必要な熱量(融解熱)を計算できます。
氷の融解熱は \(336 \text{ J/g}\) となります。これは水の融解熱として一般的に知られている値(約 \(3.3 \times 10^2 \text{ J/g}\))とよく一致しており、物理的に妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
この設問では、容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) と氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) の2つの未知数を求めます。グラフの異なる2つの区間(温度が上昇しているAB間とCD間)について熱量の収支式を立てることで、これらを決定します。
まず、CD区間に注目します。この区間では、\(0 \text{ ℃}\) の水と容器が \(50 \text{ ℃}\) まで加熱されます。水の比熱は既知なので、この区間の熱収支の式から容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) を求めることができます。
次に、AB区間に注目します。この区間では、\(-15 \text{ ℃}\) の氷と容器が \(0 \text{ ℃}\) まで加熱されます。先ほど求めた容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) を使えば、この区間の熱収支の式から氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) を求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 熱量と温度変化の関係: 物質の温度を \(\Delta T\) だけ変化させるのに必要な熱量 \(Q\) は、比熱 \(c\) を使う場合は \(Q = mc\Delta T\)、熱容量 \(C\) を使う場合は \(Q = C\Delta T\) となります。
- 複合系の熱量: 水と容器のように、複数の物質が同時に温度変化する場合、系全体が得た熱量は、各物質が得た熱量の総和になります。
- ヒーターからの供給熱量: 各区間でヒーターが供給した熱量は \(Q = Pt\) で計算します。
具体的な解説と立式
1. 容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) の導出 (CD区間)
CD区間では、\(0 \text{ ℃}\) の水 \(m_{\text{水}} = 200 \text{ g}\) と容器が、\(50 \text{ ℃}\) まで温度上昇します。温度変化は \(\Delta T_{CD} = 50 – 0 = 50 \text{ K}\) です。
この区間の加熱時間は \(t_{CD} = 199 \text{ s} – 124 \text{ s} = 75 \text{ s}\) です。
ヒーターが供給した熱量 \(Q_{CD}\) は、
$$
Q_{CD} = P \times t_{CD} \quad \cdots ③
$$
この熱量は、水の温度上昇と容器の温度上昇に使われた熱量の和に等しくなります。
$$
Q_{CD} = (\text{水が得た熱量}) + (\text{容器が得た熱量})
$$
$$
Q_{CD} = m_{\text{水}} c_{\text{水}} \Delta T_{CD} + C_{\text{容器}} \Delta T_{CD} \quad \cdots ④
$$
2. 氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) の導出 (AB区間)
AB区間では、\(-15 \text{ ℃}\) の氷 \(m_{\text{氷}} = 200 \text{ g}\) と容器が、\(0 \text{ ℃}\) まで温度上昇します。温度変化は \(\Delta T_{AB} = 0 – (-15) = 15 \text{ K}\) です。
この区間の加熱時間は \(t_{AB} = 12 \text{ s} – 0 \text{ s} = 12 \text{ s}\) です。
ヒーターが供給した熱量 \(Q_{AB}\) は、
$$
Q_{AB} = P \times t_{AB} \quad \cdots ⑤
$$
この熱量は、氷の温度上昇と容器の温度上昇に使われた熱量の和に等しくなります。
$$
Q_{AB} = (\text{氷が得た熱量}) + (\text{容器が得た熱量})
$$
$$
Q_{AB} = m_{\text{氷}} c_{\text{氷}} \Delta T_{AB} + C_{\text{容器}} \Delta T_{AB} \quad \cdots ⑥
$$
使用した物理公式
- ジュール熱: \(Q = Pt\)
- 比熱による熱量: \(Q = mc\Delta T\)
- 熱容量による熱量: \(Q = C\Delta T\)
1. 容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) の計算
まず、式③より \(Q_{CD}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{CD} &= 600 \text{ J/s} \times 75 \text{ s} \\[2.0ex]
&= 45000 \text{ J}
\end{aligned}
$$
次に、この結果と与えられた値を式④に代入します。
$$
\begin{aligned}
45000 \text{ J} &= (200 \text{ g} \times 4.2 \text{ J/(g·K)} \times 50 \text{ K}) + (C_{\text{容器}} \times 50 \text{ K}) \\[2.0ex]
45000 &= 42000 + 50 C_{\text{容器}} \\[2.0ex]
50 C_{\text{容器}} &= 45000 – 42000 \\[2.0ex]
50 C_{\text{容器}} &= 3000 \\[2.0ex]
C_{\text{容器}} &= 60 \text{ J/K}
\end{aligned}
$$
2. 氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) の計算
まず、式⑤より \(Q_{AB}\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{AB} &= 600 \text{ J/s} \times 12 \text{ s} \\[2.0ex]
&= 7200 \text{ J}
\end{aligned}
$$
次に、この結果と先ほど求めた \(C_{\text{容器}}\) を式⑥に代入します。
$$
\begin{aligned}
7200 \text{ J} &= (200 \text{ g} \times c_{\text{氷}} \times 15 \text{ K}) + (60 \text{ J/K} \times 15 \text{ K}) \\[2.0ex]
7200 &= 3000 c_{\text{氷}} + 900 \\[2.0ex]
3000 c_{\text{氷}} &= 7200 – 900 \\[2.0ex]
3000 c_{\text{氷}} &= 6300 \\[2.0ex]
c_{\text{氷}} &= \frac{6300}{3000} \\[2.0ex]
&= 2.1 \text{ J/(g·K)}
\end{aligned}
$$
まず、グラフのC点からD点までの区間に注目します。ここでは、ヒーターからの熱が、水と容器の両方を温めるのに使われています。水が温まるのにどれくらいの熱が必要かは計算できるので、ヒーターが供給した全体の熱量からその分を差し引けば、容器を温めるのに使われた熱量がわかります。ここから、容器の「温まりにくさ」を示す熱容量が計算できます。
次に、グラフのA点からB点までの区間に注目します。ここでは、ヒーターからの熱が、氷と容器を温めるのに使われています。容器の温まりにくさはもうわかっているので、全体の熱量から容器の分を差し引けば、氷を温めるのに使われた熱量がわかります。ここから、氷の「温まりにくさ」を示す比熱を計算することができます。
容器の熱容量は \(60 \text{ J/K}\)、氷の比熱は \(2.1 \text{ J/(g·K)}\) となります。氷の比熱が水の比熱(\(4.2 \text{ J/(g·K)}\))のちょうど半分であることはよく知られており、結果は物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
グラフの傾き \(\frac{dT}{dt}\) は温度が上昇する速さ(温度上昇率)を表します。ヒーターの電力 \(P\) が一定なので、単位時間あたりに供給される熱量も一定です。この熱量が物質を温めるのに使われるので、\(P \Delta t = (\text{熱容量の合計}) \times \Delta T\) という関係が成り立ちます。これを変形すると、傾き \(\frac{\Delta T}{\Delta t}\) は、\(P\) を熱容量の合計で割ったものに等しくなります。この関係を利用して、熱容量と比熱を求めます。
この設問における重要なポイント
- 傾きの物理的意味: 傾き \(\frac{\Delta T}{\Delta t}\) は温度上昇率。
- 傾きと熱容量の関係: \(\frac{\Delta T}{\Delta t} = \frac{P}{C_{\text{合計}}}\)。傾きが急なほど、全体の熱容量 \(C_{\text{合計}}\) は小さい(温まりやすい)。
- 全体の熱容量: \(C_{\text{合計}}\) は、関与する物質の熱容量の和(例: \(m_{\text{水}}c_{\text{水}} + C_{\text{容器}}\))。
具体的な解説と立式
1. 容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) の導出 (CD区間)
CD区間のグラフの傾きは、
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta T_{CD}}{\Delta t_{CD}} &= \frac{50 \text{ K} – 0 \text{ K}}{199 \text{ s} – 124 \text{ s}} \\[2.0ex]
&= \frac{50}{75} \text{ K/s}
\end{aligned}
$$
この区間の全体の熱容量は \(C_{\text{合計CD}} = m_{\text{水}}c_{\text{水}} + C_{\text{容器}}\) です。傾きとの関係式は、
$$
\frac{\Delta T_{CD}}{\Delta t_{CD}} = \frac{P}{m_{\text{水}}c_{\text{水}} + C_{\text{容器}}} \quad \cdots ⑦
$$
2. 氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) の導出 (AB区間)
AB区間のグラフの傾きは、
$$
\begin{aligned}
\frac{\Delta T_{AB}}{\Delta t_{AB}} &= \frac{0 \text{ K} – (-15 \text{ K})}{12 \text{ s} – 0 \text{ s}} \\[2.0ex]
&= \frac{15}{12} \text{ K/s}
\end{aligned}
$$
この区間の全体の熱容量は \(C_{\text{合計AB}} = m_{\text{氷}}c_{\text{氷}} + C_{\text{容器}}\) です。傾きとの関係式は、
$$
\frac{\Delta T_{AB}}{\Delta t_{AB}} = \frac{P}{m_{\text{氷}}c_{\text{氷}} + C_{\text{容器}}} \quad \cdots ⑧
$$
使用した物理公式
- 温度上昇率と熱容量の関係: \(\frac{\Delta T}{\Delta t} = \frac{P}{C_{\text{合計}}}\)
1. 容器の熱容量 \(C_{\text{容器}}\) の計算
式⑦に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{50}{75} &= \frac{600}{200 \times 4.2 + C_{\text{容器}}} \\[2.0ex]
\frac{2}{3} &= \frac{600}{840 + C_{\text{容器}}} \\[2.0ex]
2(840 + C_{\text{容器}}) &= 3 \times 600 \\[2.0ex]
1680 + 2C_{\text{容器}} &= 1800 \\[2.0ex]
2C_{\text{容器}} &= 120 \\[2.0ex]
C_{\text{容器}} &= 60 \text{ J/K}
\end{aligned}
$$
2. 氷の比熱 \(c_{\text{氷}}\) の計算
式⑧に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{15}{12} &= \frac{600}{200 c_{\text{氷}} + 60} \\[2.0ex]
\frac{5}{4} &= \frac{600}{200 c_{\text{氷}} + 60} \\[2.0ex]
5(200 c_{\text{氷}} + 60) &= 4 \times 600 \\[2.0ex]
1000 c_{\text{氷}} + 300 &= 2400 \\[2.0ex]
1000 c_{\text{氷}} &= 2100 \\[2.0ex]
c_{\text{氷}} &= 2.1 \text{ J/(g·K)}
\end{aligned}
$$
グラフの坂の急さ(傾き)に注目します。坂が急なほど、温度が速く上がっている、つまり「温まりやすい」ことを意味します。物理学では、「温まりやすさ」は全体の「熱容量」(温まりにくさ)が小さいことと対応します。この関係を利用して、まずC→Dの坂の緩やかさから水と容器を合わせた熱容量を計算し、容器の熱容量を求めます。次にA→Bの坂の急さから氷と容器の熱容量を計算し、そこから氷の比熱を求めることができます。
主たる解法と完全に同じ結果が得られました。グラフの傾きという視覚的な情報から物理量を導出するこの方法は、現象の理解を深める上で非常に有益です。
問(3)
思考の道筋とポイント
この設問は、典型的な熱平衡の問題です。断熱された容器の中で、温度の異なる物体(高温側: \(50 \text{ ℃}\) の水と容器、低温側: \(-10 \text{ ℃}\) の銅塊)を接触させると、熱が高温側から低温側へ移動し、やがて全体が同じ温度(平衡温度 \(47.7 \text{ ℃}\))になります。この過程で、高温側が失った熱量の総和と、低温側が得た熱量の総和は等しくなります。この「熱量保存の法則」を用いて式を立て、未知の銅の比熱 \(c_{\text{銅}}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 熱量保存の法則: \(Q_{\text{失った熱量}} = Q_{\text{得た熱量}}\)。
- 各物質の熱量の計算: 温度変化に伴う熱量は \(Q = mc\Delta T\) または \(Q = C\Delta T\) で計算します。
- 温度変化の計算: 失った熱量、得た熱量を計算する際の温度変化は、常に正の値になるように `(高温 – 低温)` で計算すると間違いが少ないです。
- 有効数字: 答えは有効数字2けたで求めます。
具体的な解説と立式
熱量保存の法則より、次の等式が成り立ちます。
$$
(\text{水が失った熱量}) + (\text{容器が失った熱量}) = (\text{銅が得た熱量})
$$
各項を具体的に立式します。
- 水が失った熱量: \(m_{\text{水}} c_{\text{水}} (50 \text{ ℃} – 47.7 \text{ ℃})\)
- 容器が失った熱量: \(C_{\text{容器}} (50 \text{ ℃} – 47.7 \text{ ℃})\)
- 銅が得た熱量: \(m_{\text{銅1}} c_{\text{銅}} (47.7 \text{ ℃} – (-10 \text{ ℃}))\)
したがって、熱量保存の式は以下のようになります。
$$
m_{\text{水}} c_{\text{水}} (50 – 47.7) + C_{\text{容器}} (50 – 47.7) = m_{\text{銅1}} c_{\text{銅}} (47.7 – (-10)) \quad \cdots ⑨
$$
使用した物理公式
- 熱量保存の法則: \(Q_{\text{失った}} = Q_{\text{得た}}\)
- 比熱による熱量: \(Q = mc\Delta T\)
- 熱容量による熱量: \(Q = C\Delta T\)
式⑨に、これまでに求めた値と問題文の値を代入します。
- \(m_{\text{水}} = 200 \text{ g}\), \(c_{\text{水}} = 4.2 \text{ J/(g·K)}\)
- \(C_{\text{容器}} = 60 \text{ J/K}\)
- \(m_{\text{銅1}} = 90 \text{ g}\)
- 温度変化(左辺): \(50 – 47.7 = 2.3 \text{ K}\)
- 温度変化(右辺): \(47.7 – (-10) = 57.7 \text{ K}\)
$$
\begin{aligned}
(200 \times 4.2 \times 2.3) + (60 \times 2.3) &= 90 \times c_{\text{銅}} \times 57.7 \\[2.0ex]
(840 \times 2.3) + 138 &= 5193 c_{\text{銅}} \\[2.0ex]
1932 + 138 &= 5193 c_{\text{銅}} \\[2.0ex]
2070 &= 5193 c_{\text{銅}} \\[2.0ex]
c_{\text{銅}} &= \frac{2070}{5193} \\[2.0ex]
&\approx 0.3986135 \dots \text{ J/(g·K)}
\end{aligned}
$$
有効数字2けたに丸めると、
$$
c_{\text{銅}} \approx 0.40 \text{ J/(g·K)}
$$
温かい水と容器が入ったところに、冷たい銅の塊を入れます。すると、温かい方から冷たい方へ熱が移動し、最終的に全員が同じ温度 \(47.7 \text{ ℃}\) で落ち着きます。このとき、「水と容器が失った熱の合計」と「銅が得た熱」の量はぴったり同じになるはずです。この熱の貸し借りのバランスの式を立てることで、銅の「温まりにくさ(比熱)」を逆算することができます。
銅の比熱は \(0.40 \text{ J/(g·K)}\) となります。一般的な金属の比熱は水に比べてかなり小さく、銅の比熱の既知の値(約 \(0.39 \text{ J/(g·K)}\))ともよく一致するため、妥当な結果です。
問(4)
思考の道筋とポイント
この問題では、初期状態(\(-15 \text{ ℃}\) の氷と容器)に高温の銅塊(\(80 \text{ ℃}\))を入れた後の最終状態を予測します。最終状態が氷のままか、一部が融けるか、全部融けてさらに温度が上がるか不明なため、段階的に熱のやり取りを追跡するのが最も確実な方法です。
基準となる温度を \(0 \text{ ℃}\) に設定し、以下のステップで考えます。
- 高温の銅塊が \(80 \text{ ℃}\) から \(0 \text{ ℃}\) まで冷えるときに放出する熱量 \(Q_{\text{銅放出}}\) を計算します。
- 低温の氷と容器が \(-15 \text{ ℃}\) から \(0 \text{ ℃}\) まで温まるのに必要な熱量 \(Q_{\text{氷+容 吸収}}\) を計算します。
- \(Q_{\text{銅放出}}\) と \(Q_{\text{氷+容 吸収}}\) を比較します。
- もし \(Q_{\text{銅放出}} < Q_{\text{氷+容 吸収}}\) なら、全体は \(0 \text{ ℃}\) に達せず、\(0 \text{ ℃}\) 未満の温度で平衡になります。
- もし \(Q_{\text{銅放出}} > Q_{\text{氷+容 吸収}}\) なら、氷と容器は \(0 \text{ ℃}\) に達し、さらに銅から余剰の熱 \(Q_{\text{余剰}} = Q_{\text{銅放出}} – Q_{\text{氷+容 吸収}}\) が供給されます。
- この余剰の熱 \(Q_{\text{余剰}}\) が、\(0 \text{ ℃}\) の氷を融かすのに使われます。融ける氷の質量を計算し、最終的な氷と水の量を決定します。もし氷がすべて融けても熱が余るなら、さらに全体の温度が上昇します。
この設問における重要なポイント
- 段階的な熱量計算: 最終状態が不明な場合は、\(0 \text{ ℃}\) を基準として、各物質がそこに至るまでの熱の出入りをまず計算するのが定石です。
- 状態変化の考慮: \(0 \text{ ℃}\) に達した後の熱のやり取りでは、まず氷の融解(潜熱)を考慮する必要があります。
- 熱平衡の条件: 最終的に、系内のすべての物質は同じ温度になります。氷と水が共存している場合、その温度は \(0 \text{ ℃}\) です。
具体的な解説と立式
問(3)で求めた銅の比熱 \(c_{\text{銅}} = 0.40 \text{ J/(g·K)}\) を使用します。
ステップ1: 銅が放出する熱量の計算
\(80 \text{ ℃}\) の銅塊(\(m_{\text{銅2}} = 500 \text{ g}\))が \(0 \text{ ℃}\) になるまでに放出する熱量 \(Q_{\text{銅放出}}\) は、
$$
Q_{\text{銅放出}} = m_{\text{銅2}} c_{\text{銅}} (80 – 0) \quad \cdots ⑩
$$
ステップ2: 氷と容器が吸収する熱量の計算
\(-15 \text{ ℃}\) の氷(\(200 \text{ g}\))と容器が \(0 \text{ ℃}\) になるまでに必要な熱量 \(Q_{\text{氷+容 吸収}}\) は、問(2)のAB区間の計算から、ヒーターが供給した熱量 \(Q_{AB}\) に等しいです。
$$
Q_{\text{氷+容 吸収}} = Q_{AB} = 7200 \text{ J}
$$
ステップ3 & 4: 比較と融解
計算した \(Q_{\text{銅放出}}\) と \(Q_{\text{氷+容 吸収}}\) を比較し、余剰熱量があれば、それで融ける氷の質量 \(m_{\text{融解氷}}\) を計算します。
$$
m_{\text{融解氷}} = \frac{Q_{\text{銅放出}} – Q_{\text{氷+容 吸収}}}{L_f} \quad \cdots ⑪
$$
使用した物理公式
- 比熱による熱量: \(Q = mc\Delta T\)
- 融解熱による熱量: \(Q = mL_f\)
- これまでの設問で求めた値(\(L_f\), \(c_{\text{銅}}\), \(Q_{AB}\))
ステップ1: \(Q_{\text{銅放出}}\) を式⑩で計算します。
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{銅放出}} &= 500 \text{ g} \times 0.40 \text{ J/(g·K)} \times 80 \text{ K} \\[2.0ex]
&= 16000 \text{ J}
\end{aligned}
$$
ステップ2: \(Q_{\text{氷+容 吸収}} = 7200 \text{ J}\) です。
ステップ3: 比較します。
$$
Q_{\text{銅放出}} (16000 \text{ J}) > Q_{\text{氷+容 吸収}} (7200 \text{ J})
$$
銅が放出する熱量の方が大きいので、氷と容器は \(0 \text{ ℃}\) に達し、銅も \(0 \text{ ℃}\) まで冷えます。
この時点で、氷の融解に使える余剰の熱量 \(Q_{\text{余剰}}\) は、
$$
\begin{aligned}
Q_{\text{余剰}} &= Q_{\text{銅放出}} – Q_{\text{氷+容 吸収}} \\[2.0ex]
&= 16000 \text{ J} – 7200 \text{ J} \\[2.0ex]
&= 8800 \text{ J}
\end{aligned}
$$
ステップ4: この余剰熱量で融ける氷の質量 \(m_{\text{融解氷}}\) を、問(1)で求めた \(L_f = 336 \text{ J/g}\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
m_{\text{融解氷}} &= \frac{Q_{\text{余剰}}}{L_f} \\[2.0ex]
&= \frac{8800 \text{ J}}{336 \text{ J/g}} \\[2.0ex]
&\approx 26.19 \dots \text{ g}
\end{aligned}
$$
融ける氷の質量は約 \(26 \text{ g}\) です。これは元の氷の質量 \(200 \text{ g}\) よりも少ないため、氷はすべては融けません。したがって、最終状態では氷と水が \(0 \text{ ℃}\) で共存することになります。
- 最終的な水の質量: 約 \(26 \text{ g}\)
- 最終的な氷の質量: \(200 \text{ g} – 26 \text{ g} = 174 \text{ g}\)
熱い銅の塊を、冷たい氷と容器の中に入れるとどうなるか、という問題です。これを考えるには、熱の「貸し借り」を段階的に見ていくのが分かりやすいです。
1. まず、全員が共通の温度である \(0 \text{ ℃}\) になるまでの熱のやり取りを考えます。銅は \(80 \text{ ℃}\) から \(0 \text{ ℃}\) に冷めるまでに、16000ジュールの熱を放出できます。一方、氷と容器は \(-15 \text{ ℃}\) から \(0 \text{ ℃}\) に温まるのに、7200ジュールの熱が必要です。
2. 銅が出せる熱(16000 J)は、氷たちが必要な熱(7200 J)よりも多いので、氷と容器は無事に \(0 \text{ ℃}\) に到達できます。
3. この時点で、銅から放出された熱はまだ \(16000 – 7200 = 8800\) ジュール残っています。この「おつり」の熱が、\(0 \text{ ℃}\) の氷をとかすのに使われます。
4. 計算すると、この熱でとける氷は約26gだとわかります。元の氷は200gなので、一部だけがとけることになります。
結果として、最終的には \(0 \text{ ℃}\) で、水(約26g)と氷(約174g)が混ざった状態になります。
最終的に、全体の温度は \(0 \text{ ℃}\) になります。このとき、約26gの氷が融けて水になり、残りの約174gは氷のままとなります。したがって、最終状態は「\(0 \text{ ℃}\) で、水 約26g と 氷 約174g が容器と共存している」となります。この段階的な考察は、複雑な熱平衡問題を解く上で非常に有効な手法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱量の計算と熱量保存の法則:
- 核心: この問題は、熱に関する物理量の計算と、エネルギー保存則の熱現象における現れである「熱量保存の法則」という2つの柱で構成されています。状況に応じて適切な熱量の計算式を選択し、それらを熱量保存の枠組みの中で組み合わせることが求められます。
- 理解のポイント:
- 熱量計算の3パターン: 問題文の状況に応じて、以下の3つの公式を的確に使い分ける必要があります。
- ヒーターによる供給熱: 電力 \(P\) と時間 \(t\) が与えられている場合 → \(Q = Pt\)
- 温度変化: 物質の温度が変わる場合 → \(Q = mc\Delta T\) または \(Q = C\Delta T\)
- 状態変化(潜熱): 融解や蒸発など、温度一定で状態が変わる場合 → \(Q = mL_f\)
- グラフと物理現象の対応: 温度-時間グラフの各区間が、上記のどの物理過程に対応しているかを正確に読み取ることが第一歩です。傾きのある区間は温度変化、水平な区間は状態変化を示します。
- 熱量保存の法則: 断熱された容器内での熱のやり取りでは、「高温側が失った熱量の総和 = 低温側が得た熱量の総和」という関係が常に成り立ちます。これが問(3)や問(4)を解くための基本方程式となります。
- 熱量計算の3パターン: 問題文の状況に応じて、以下の3つの公式を的確に使い分ける必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ヒーターによる加熱問題: 一定のペースで熱を供給し、物質の温度や状態を変化させていく問題。
- 熱量計を用いた比熱測定: 既知の物質と未知の物質を混合し、熱平衡温度から未知の比熱を求める問題(問(3)がこれに該当)。
- 状態変化をまたぐ熱平衡: 最終的な状態が固体・液体・気体のいずれか、あるいはそれらの共存状態か不明な問題(問(4)がこれに該当)。
- 初見の問題での着眼点:
- グラフの「傾き」と「水平部分」: 温度-時間グラフが出てきたら、まず各区間の意味を考えます。
- 水平部分: 状態変化が起きている区間。この区間の長さ(時間)から、潜熱(融解熱や蒸発熱)を計算できます。
- 傾きのある部分: 温度が変化している区間。傾きの急さは「温まりやすさ(熱容量の小ささ)」を表します。傾きが緩やかなほど、熱容量が大きい(温まりにくい)ことを意味します。
- 基準温度(\(0 \text{ ℃}\) や \(100 \text{ ℃}\))の活用: 問(4)のように、最終状態がどうなるか予測しにくい問題では、状態変化が起こる \(0 \text{ ℃}\) や \(100 \text{ ℃}\) を計算上の一時的なゴール(基準点)に設定するのが定石です。各物質がその温度になるまでの熱の出入りを計算し、熱量の過不足を調べることで、次のステップ(融解、蒸発、あるいはその逆)に進むことができます。
- 容器の熱容量の扱い: 「容器」は熱の問題で頻出する要素です。質量や比熱が不明でも、物体全体として「\(1 \text{ K}\) 温度を上げるのに必要な熱量」である熱容量 \(C\) [J/K] という一つの量で扱うことができます。
- グラフの「傾き」と「水平部分」: 温度-時間グラフが出てきたら、まず各区間の意味を考えます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 比熱と熱容量の混同:
- 誤解: 質量 \(m\) を掛けるべき比熱 \(c\) の計算で掛け忘れたり、熱容量 \(C\) にさらに質量を掛けてしまったりする。
- 対策: 単位を常に意識することが最も有効です。比熱は \(c\) [J/(g·K)](1gあたり)、熱容量は \(C\) [J/K](物体全体)です。式を立てるときに単位も一緒に書き込み、最終的に熱量の単位 [J] になるかを確認する習慣をつけましょう。
- 潜熱(融解熱)の計算漏れ:
- 誤解: グラフのBC区間のように温度が変化していないため、熱の吸収も起きていないと勘違いしてしまう。
- 対策: 状態変化(相転移)にはエネルギーが必要であることを強く意識してください。温度が一定でも、ヒーターは熱を供給し続けており、その熱は分子間の結合を断ち切るために使われています。これを潜熱と呼びます。
- 温度変化 \(\Delta T\) の単位の混乱:
- 誤解: 問題文にセルシウス温度(℃)と絶対温度(K)が混在していると、換算が必要かと混乱してしまう。
- 対策: 温度「変化」\(\Delta T\) を計算する場合、セルシウス度とケルビンの目盛りの幅は同じなので、\(\Delta T\) [℃] = \(\Delta T\) [K] となり、数値は同じです。単位換算は不要です。ただし、気体の状態方程式 \(PV=nRT\) のように温度 \(T\) そのものを使う場合は、必ず絶対温度(K)に変換する必要があります。
- 最終状態の早合点:
- 誤解: 問(4)で、高温の銅を入れるのだから「きっと氷は全部とけて水になるだろう」と最初から決めつけて計算し、矛盾が生じる。
- 対策: 最終状態が自明でない場合は、絶対に決めつけず、段階的な検証を行うこと。\(0 \text{ ℃}\) を基準とした熱収支の比較は、このような問題を解くための確実な手順です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(Q = Pt\) (ジュール熱):
- 選定理由: 問題に「電力 \(P\) [W] のヒーター」と「時間 \(t\) [s]」という情報があり、ヒーターから供給されたエネルギー量を求める必要があるため。
- 適用根拠: [W] = [J/s] という電力の定義そのものです。単位時間あたりのエネルギー供給量に時間を掛ければ、総供給エネルギーが求まります。
- \(Q = mc\Delta T\) / \(Q = C\Delta T\) (温度変化の熱量):
- 選定理由: 物質の「温度が変化する」という現象を定量的に扱うため。グラフのAB区間やCD区間、問(3)や(4)の熱平衡過程がこれに該当します。
- 適用根拠: 物質を温めるのに必要な熱量が、その物質の量(質量)、種類(比熱)、温度変化の幅に比例するという、実験から得られた基本的な法則です。
- \(Q = mL_f\) (融解熱):
- 選定理由: 氷が水に変わるという「状態変化」が起こるため。グラフのBC区間や問(4)の融解過程がこれに該当します。
- 適用根拠: 融点に達した物質は、それ以上温度が上がらず、加えられた熱エネルギーがすべて状態変化のために使われます。この現象を記述するための専用の公式です。
- 熱量保存の法則 (\(Q_{\text{失}} = Q_{\text{得}}\)):
- 選定理由: 「断熱された容器の中で、複数の物体が熱をやり取りする」という状況(問(3), (4))を解析するため。
- 適用根拠: これは物理学の最も基本的な法則の一つである「エネルギー保存の法則」の熱バージョンです。外部とのエネルギーの出入りがなければ、系内部でエネルギーが移動するだけで、その総量は変わりません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位の確認を徹底する:
- 特に注意すべき点: この問題では質量が [g] で与えられていますが、問題によっては [kg] で与えられることもあります。比熱の単位 J/(g·K) と J/(kg·K) を混同しないように、常に単位を確認しましょう。
- 日頃の練習: 式を立てる際に、数値だけでなく単位も書き込んで計算する癖をつける。単位が正しく約分されて、求めるべき量の単位になるかを確認することで、立式の誤りを発見できます。
- 熱の出入りを明確にする:
- 特に注意すべき点: 問(3)や(4)のような熱平衡の問題では、どの物体が熱を「失う」側(高温側)で、どの物体が「得る」側(低温側)なのかを最初に整理します。
- 日頃の練習: `(失った熱量の和)=(得た熱量の和)` のように、等式の左辺と右辺で役割を分担させて立式すると、符号ミスが劇的に減ります。
- 計算の順序を計画する:
- 特に注意すべき点: 問(2)のように未知数が複数ある場合、いきなりAB区間の式を立てても \(c_{\text{氷}}\) と \(C_{\text{容器}}\) の2つが未知数となり解けません。
- 日頃の練習: 問題全体を俯瞰し、「まずCD区間の情報を使えば \(C_{\text{容器}}\) が求まる。次にその結果をAB区間の式で使えば \(c_{\text{氷}}\) が求まる」というように、計算のロードマップを描いてから手をつける習慣をつけましょう。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 融解熱 \(L_f = 336 \text{ J/g}\): 水の融解熱として有名な値(約 \(3.3 \times 10^2 \text{ J/g}\))とほぼ同じであり、妥当です。
- (2) 氷の比熱 \(c_{\text{氷}} = 2.1 \text{ J/(g·K)}\): 水の比熱 \(4.2 \text{ J/(g·K)}\) のちょうど半分です。一般に、氷の比熱は水の比熱より小さいことが知られており、この関係も妥当です。
- (3) 銅の比熱 \(c_{\text{銅}} = 0.40 \text{ J/(g·K)}\): 水の比熱に比べて一桁小さく、金属が「温まりやすく冷めやすい」(比熱が小さい)という一般的な性質と一致しています。
- (4) 最終状態が \(0 \text{ ℃}\) で氷と水が共存: 高温の銅が持つ熱量が、氷を \(0 \text{ ℃}\) にするのには十分だが、すべて融かすには足りなかった、という計算結果です。このような中間的な状態で平衡になることは物理的に十分あり得ます。
- 極端な場合や既知の状況との比較:
- もし容器の熱容量がゼロだったら?: 容器が熱を吸わない分、氷や水はもっと速く温まるはずです。計算上、\(C_{\text{容器}}=0\) とすると、グラフの傾きはもっと急になり、各区間にかかる時間は短くなります。
- もし問(4)で入れる銅の温度が非常に高かったら?: 例えば \(500 \text{ ℃}\) の銅を入れた場合、放出する熱量は莫大になり、氷はすべて融解し、さらに \(0 \text{ ℃}\) 以上の水の温度まで上昇するはずです。計算上も、余剰熱量が氷の全融解熱(\(200 \text{ g} \times 336 \text{ J/g} = 67200 \text{ J}\))を大幅に超える結果となるでしょう。
- もし問(4)で入れる銅の質量が非常に小さかったら?: 例えば \(1 \text{ g}\) の銅を入れた場合、放出する熱量はごくわずかです。氷と容器を \(0 \text{ ℃}\) にすることすらできず、\(-15 \text{ ℃}\) と \(80 \text{ ℃}\) の間のどこか(おそらく \(-15 \text{ ℃}\) に非常に近い温度)で平衡状態になるはずです。計算上も \(Q_{\text{銅放出}} < Q_{\text{氷+容 吸収}}\) となるはずです。
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問題47 (東京大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、熱気球の浮上原理と、高度による大気の状態変化(密度、圧力)を熱力学と力学の法則を用いて考察するものです。気球内部の空気の温度を調節することで浮力を制御し、積荷の重さを変えた場合の挙動を解析します。
- 熱気球の風船部の体積: \(V = 500 \text{ m}^3\) (ゴンドラの体積は無視)
- 気球全体の質量(内部の空気を含めない): \(W = 180 \text{ kg}\)
- 地表での大気圧: \(P_0 = 1.00 \times 10^5 \text{ Pa}\)
- 地表での大気の密度: \(\rho_0 = 1.20 \text{ kg/m}^3\)
- 地表での大気の温度: \(T_0 = 280 \text{ K}\)
- 大気は理想気体とし、温度は高度によらず一定 (\(T_0\)) とする。
- 熱気球の内部の空気は、下端の開口部を通じて常に外気と等しい圧力になる。
- (2)で軽くする積荷の質量: \(w = 18 \text{ kg}\)
- (1) 気球を地面から浮上させるために必要な、内部の空気の密度 \(\rho\) とそのときの内部空気の温度 \(T_1\)。
- (2) 内部の空気の温度を \(T_1\) に保ち、積荷を \(w\) だけ軽くしたとき、気球が静止する高度での大気の密度 \(\rho_1\)。
- (3) (2)の高度における大気圧 \(P_1\)。
- (4) (2)の高度 \(h\) に最も近い値の選択。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 問(1) 温度\(T_1\)の別解: ボイル・シャルルの法則を用いる解法
- 主たる解法が密度を用いた状態方程式の比から温度を求めるのに対し、別解では気球内部の空気を一つの気体塊とみなし、地表の空気と同じ質量を取り出したと仮定してボイル・シャルルの法則を適用します。
- 問(2) 大気の密度\(\rho_1\)の別解: 「浮力の変化」に着目する解法
- 主たる解法が各高度での力のつり合いを個別に立式して連立するのに対し、別解では「気球が上昇したことによる浮力の減少分」が「軽くした積荷の重さ」とつり合う、という変化量に着目した物理モデルで解きます。
- 問(3) 大気圧\(P_1\)の別解: 気体定数を具体的に計算する解法
- 主たる解法が地表との比例関係から圧力を求めるのに対し、別解では地表のデータから空気のモル質量あたりの気体定数(\(R/M_{\text{mol}}\))を算出し、それを用いて高高度での圧力を直接計算します。
- 問(4) 高度\(h\)の別解: 不等式を用いて範囲を絞り込む解法
- 主たる解法が平均密度で近似計算するのに対し、別解では「実際の空気柱の重さは、最も密な場合(密度\(\rho_0\))と最も疎な場合(密度\(\rho_1\))の間にある」という考え方から不等式を立て、高度\(h\)の範囲を絞り込みます。
- 問(1) 温度\(T_1\)の別解: ボイル・シャルルの法則を用いる解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理モデルの深化: 「変化量に着目する(問(2))」、「物理定数を特定して適用する(問(3))」、「上限と下限で評価する(問(4))」といった、より高度で普遍的な問題解決アプローチを学ぶことができます。
- 計算の選択肢: 比例計算、連立方程式、近似計算、不等式評価など、同じ問題を解くための多様な数学的ツールとその物理的背景を理解し、状況に応じて最適な手法を選択する能力が養われます。
- 本質的な理解: 特に問(2)の別解は、なぜ気球がその高度で止まるのかを「力の変化のつり合い」という動的な視点から解き明かすため、現象のより本質的な理解につながります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは、熱気球の浮沈に関わる物理法則の理解と応用です。具体的には、アルキメデスの原理に基づく浮力、力のつり合い、そして理想気体の状態方程式が中心となります。また、高度による大気圧の変化についても考察します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- アルキメデスの原理(浮力): 気球が受ける浮力は、気球が押しのけた外気の重さに等しい(\(F_{\text{浮力}} = \rho_{\text{外気}} V g\))。熱気球が浮上するのは、内部の空気を温めて密度を小さくし、内部空気の重さを軽くすることで、浮力が全体の重力を上回るからです。
- 力のつり合い: 気球が浮上する瞬間や、ある高度で静止するときには、気球に働く力の総和が\(0\)になる。具体的には、上向きの浮力と、下向きの重力(気球本体+内部空気)がつり合います。
- 理想気体の状態方程式: \(PV=nRT\)。この問題のように密度\(\rho\)が関わる場合は、\(n = \frac{m}{M_{\text{mol}}} = \frac{\rho V}{M_{\text{mol}}}\)(\(M_{\text{mol}}\)はモル質量)を代入して得られる \(P = \frac{\rho}{M_{\text{mol}}}RT\) の形が非常に有効です。
- 圧力と力の関係: ある高さでの大気圧は、その地点より上空にある空気柱の重さによって生じます。したがって、高度が上がると圧力は低くなります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問(1)では、地表で浮上する瞬間の力のつり合いの式を立てて、必要な内部空気の密度を求めます。次に、内外の圧力が等しいことを利用して、状態方程式からその密度に対応する温度を計算します。
- 問(2)では、積荷を軽くした後の、上空で静止したときの力のつり合いを考えます。このとき、浮力は周囲の(密度が小さくなった)大気から受けるため、この密度が未知数となります。状態方程式を駆使して、この未知の密度を求めます。
- 問(3)では、問(2)で求めた密度と、大気の温度は一定という条件を用いて、状態方程式からその高度での圧力を計算します。
- 問(4)では、地表と上空の圧力差が、その間の空気柱の重さに起因することを利用して、高度を近似計算します。