「名問の森」徹底解説(4〜6問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題4 (徳島大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、壁に立てかけられたはしごのつり合いに関する問題です。はしご自身の重さや人が登ることによる力の変化、そして摩擦力が重要な役割を果たします。剛体のつり合いの条件(力のつり合いとモーメントのつり合い)を正しく適用できるかが問われます。

与えられた条件
  • はしご: 長さ \(10l\)、質量 \(M\)、一様
  • 設置状況: 滑らかな鉛直壁、床との間の距離 \(6l\)
  • 床との静止摩擦係数: \(\mu = \frac{1}{2}\)
  • 重力加速度: \(g\)
  • 人の質量: \(5M\) (設問(3), (4)で登場)
問われていること
  1. (1) 人が乗っていないとき、上端Aが壁から受ける抗力の大きさと、下端Bが床から受ける抗力(垂直抗力と摩擦力の合力)の大きさ。
  2. (2) はしごが滑ってしまう限界の静止摩擦係数の値。
  3. (3) 質量 \(5M\) の人が下端Bから登れる限界の距離。
  4. (4) 人が下端Bから \(2l\) の距離にいるときの、上端Aと下端Bで働く抗力の作用線の交点Pの位置。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、剛体のつり合いに関する以下の基本法則を理解し、適用する必要があります。

  • 力のつり合い: 物体(はしご)に働く力のベクトル和がゼロであること。
    • 水平方向の力のつり合い: \(\sum F_x = 0\)
    • 鉛直方向の力のつり合い: \(\sum F_y = 0\)
  • 力のモーメントのつり合い: ある点のまわりの力のモーメントの総和がゼロであること。
    • \(\sum M = 0\) (反時計回りを正とすることが多い)
  • 静止摩擦力: 物体が滑り出さないように働く摩擦力。その大きさは外力に応じて変化し、最大値(最大静止摩擦力 \(F_{\text{max}} = \mu N\)、ここで \(\mu\) は静止摩擦係数、\(N\) は垂直抗力)を超えない。

まず、はしごの長さが \(10l\)、床と壁の間の距離が \(6l\) なので、はしごが壁にかかっている高さを \(h_A\) とすると、三平方の定理より \((10l)^2 = (6l)^2 + h_A^2\)。
\(100l^2 = 36l^2 + h_A^2 \Rightarrow h_A^2 = 64l^2 \Rightarrow h_A = 8l\)。
はしごが水平面となす角を \(\theta\) とすると、
\(\cos\theta = \displaystyle\frac{6l}{10l} = \frac{3}{5}\)
\(\sin\theta = \displaystyle\frac{8l}{10l} = \frac{4}{5}\)
\(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta} = \frac{4/5}{3/5} = \frac{4}{3}\)
これらの値は計算の途中で使います。

問1

思考の道筋とポイント

人が乗っていない状態のはしごのつり合いを考えます。はしごに働く力は以下の通りです。

  • 重力 \(Mg\): はしごの中点(Bから \(5l\) の位置)に鉛直下向きに作用。
  • 壁からの垂直抗力 \(R\): 点Aで壁から水平方向に作用(壁は滑らかなので摩擦力なし)。これが「上端Aが壁から受ける抗力」です。
  • 床からの垂直抗力 \(N\): 点Bで床から鉛直上向きに作用。
  • 床からの静止摩擦力 \(F\): 点Bで床から水平方向(壁と反対向き、つまりはしごが壁側に滑るのを防ぐ向き)に作用。

「下端Bが床から受ける抗力」は、この垂直抗力 \(N\) と静止摩擦力 \(F\) の合力の大きさを指します。

力のつり合い(水平・鉛直)と、モーメントのつり合いの式を立てて \(R\)、\(N\)、\(F\) を求め、その後 \(N\) と \(F\) の合力の大きさを計算します。モーメントのつり合いを考える際の回転軸は、未知の力が集中している点Bを選ぶと、\(N\) と \(F\) のモーメントが0となり計算が簡単になります。

この設問における重要なポイント

  • はしごに働く力をすべて図示する。
  • 水平方向、鉛直方向の力のつり合いの式を立てる。
  • 任意の点のまわりの力のモーメントのつり合いの式を立てる。点Bを回転軸に選ぶと計算がしやすい。
  • 床からの抗力は、垂直抗力 \(N\) と静止摩擦力 \(F\) の合力である。合力の大きさは \(\sqrt{N^2 + F^2}\) で計算できる。
  • \(\cos\theta = 3/5\), \(\sin\theta = 4/5\) を利用する。

具体的な解説と立式

はしごに働く力は、

  • 重力 \(Mg\) (はしごの中点、鉛直下向き)
  • 壁からの垂直抗力 \(R\) (点A、水平左向き)
  • 床からの垂直抗力 \(N\) (点B、鉛直上向き)
  • 床からの静止摩擦力 \(F\) (点B、水平右向き)

力のつり合いの式:
水平方向: \(F – R = 0 \Rightarrow F = R \quad \cdots ①\)
鉛直方向: \(N – Mg = 0 \Rightarrow N = Mg \quad \cdots ②\)

点Bのまわりの力のモーメントのつり合い(反時計回りを正とする):
重力 \(Mg\) によるモーメント: \(-Mg \times (5l \cos\theta)\) (時計回り)
壁からの垂直抗力 \(R\) によるモーメント: \(+R \times (10l \sin\theta)\) (反時計回り)
(\(N\) と \(F\) は点Bに作用するのでモーメントは0)
よって、
$$R \cdot (10l \sin\theta) – Mg \cdot (5l \cos\theta) = 0 \quad \cdots ③$$
ここで、\(\cos\theta = 3/5\), \(\sin\theta = 4/5\) です。

下端Bが床から受ける抗力(合力)の大きさを \(K_B\) とすると、
$$K_B = \sqrt{N^2 + F^2} \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\sum F_x = 0\), \(\sum F_y = 0\)
  • 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
  • 力のモーメント: \(M = Fd\)
  • 三平方の定理(合力の大きさ): \(K_B = \sqrt{N^2 + F^2}\)
計算過程

まず、式②から床からの垂直抗力 \(N\) が求まります。
$$N = Mg$$
次に、式③に \(\cos\theta = 3/5\), \(\sin\theta = 4/5\) を代入して壁からの垂直抗力 \(R\) を求めます。
$$R \cdot (10l \cdot \frac{4}{5}) – Mg \cdot (5l \cdot \frac{3}{5}) = 0$$
$$R \cdot 8l – Mg \cdot 3l = 0$$
$$8Rl = 3Mgl$$
\(l \neq 0\) なので、両辺を \(8l\) で割ると、
$$R = \frac{3}{8}Mg$$
式①より、静止摩擦力 \(F\) は、
$$F = R = \frac{3}{8}Mg$$
最後に、下端Bが床から受ける抗力(合力)の大きさ \(K_B\) を式④を用いて計算します。
$$K_B = \sqrt{N^2 + F^2} = \sqrt{(Mg)^2 + \left(\frac{3}{8}Mg\right)^2}$$
$$K_B = \sqrt{M^2g^2 + \frac{9}{64}M^2g^2} = \sqrt{\left(1 + \frac{9}{64}\right)M^2g^2}$$
$$K_B = \sqrt{\left(\frac{64+9}{64}\right)M^2g^2} = \sqrt{\frac{73}{64}M^2g^2}$$
$$K_B = \frac{\sqrt{73}}{8}Mg$$

計算方法の平易な説明
  1. はしごが動かないためには、「力のつり合い」と「モーメントのつり合い」が成り立っている必要があります。
  2. まず、壁からの力 \(R\) と床からの垂直な力 \(N\)、摩擦力 \(F\) を求めます。
    • 上下方向の力のつり合いから、\(N = Mg\) です。
    • はしごの下端B点のまわりのモーメントのつり合いから、\(R \times 10l \sin\theta = Mg \times 5l \cos\theta\) が成り立ちます。これに \(\cos\theta = 3/5\), \(\sin\theta = 4/5\) を代入して \(R\) を求めると \(R = \frac{3}{8}Mg\) となります。
    • 左右方向の力のつり合いから、\(F = R = \frac{3}{8}Mg\) です。
  3. 問われている「下端Bが床から受ける抗力」とは、床からの垂直な力 \(N\) と摩擦力 \(F\) の合体した力(合力)の大きさのことです。
  4. \(N\) と \(F\) は互いに直角なので、合力の大きさ \(K_B\) は三平方の定理を使って \(K_B = \sqrt{N^2 + F^2}\) で計算できます。
  5. 上で求めた \(N\) と \(F\) の値を代入して \(K_B\) を計算します。
結論と吟味

上端Aが壁から受ける抗力の大きさは \(R = \displaystyle\frac{3}{8}Mg\) です。
下端Bが床から受ける垂直抗力の大きさは \(N = Mg\)、静止摩擦力の大きさは \(F = \displaystyle\frac{3}{8}Mg\) です。
したがって、下端Bが床から受ける抗力(合力)の大きさは \(K_B = \displaystyle\frac{\sqrt{73}}{8}Mg\) となります。
このとき、はしごが滑らないためには \(F \le \mu N\) が満たされている必要があります。\(\frac{3}{8}Mg \le \frac{1}{2}Mg \Rightarrow \frac{3}{8} \le \frac{1}{2} \Rightarrow 3 \le 4\)。これは成り立っているので、この状態では滑りません。

解答 (1) 壁からの抗力: \(\displaystyle\frac{3}{8}Mg\), 床からの抗力(合力): \(\displaystyle\frac{\sqrt{73}}{8}Mg\)

問2

思考の道筋とポイント

床とはしごの間の静止摩擦係数がある値 \(\mu_0\) より小さいと、はしごは滑ってしまいます。この限界の値 \(\mu_0\) を求めます。
はしごが滑り出す直前には、静止摩擦力 \(F\) が最大静止摩擦力 \(F_{\text{max}} = \mu_0 N\) に等しくなっています。
問1で求めた \(F\) と \(N\) の関係を使って、この条件から \(\mu_0\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 滑り出す直前の条件: 静止摩擦力 \(F\) = 最大静止摩擦力 \(F_{\text{max}}\)。
  • \(F_{\text{max}} = \mu_0 N\)。
  • 問1の結果 \(F = \frac{3}{8}Mg\) と \(N = Mg\) を用いる。

具体的な解説と立式

はしごが滑らないためには、静止摩擦力 \(F\) が最大静止摩擦力 \(F_{\text{max}}\) 以下である必要があります。
$$F \le \mu N \quad \cdots ⑤$$
ここで \(\mu\) は床とはしごの間の静止摩擦係数です。
もし、静止摩擦係数が限界の値 \(\mu_0\) であれば、このときちょうど滑り出す直前、つまり \(F = \mu_0 N\) となります。
問1で求めた、人が乗っていない場合の静止摩擦力は \(F = \displaystyle\frac{3}{8}Mg\)、床からの垂直抗力は \(N = Mg\) でした。
これらの値を \(F = \mu_0 N\) に代入すると、
$$\frac{3}{8}Mg = \mu_0 (Mg) \quad \cdots ⑥$$
この式から \(\mu_0\) を求めます。

使用した物理公式

  • 最大静止摩擦力: \(F_{\text{max}} = \mu N\)
  • 滑らない条件: \(F \le F_{\text{max}}\)
計算過程

式⑥の両辺から \(Mg\) を割ると(\(Mg \neq 0\))、
$$\mu_0 = \frac{3}{8}$$
したがって、静止摩擦係数が \(\frac{3}{8}\) より小さいと、はしごは滑ってしまいます。求める値はその限界値 \(\frac{3}{8}\) です。

計算方法の平易な説明
  1. はしごが滑らないためには、床との間の摩擦力が頑張って支える必要があります。
  2. この摩擦力には限界があって、その限界の大きさを最大静止摩擦力 \(F_{\text{max}}\) といい、\(F_{\text{max}} = \mu_0 N\) で表されます(\(\mu_0\) は限界の静止摩擦係数、\(N\) は床からの垂直抗力)。
  3. (1)で、実際に働いている静止摩擦力 \(F\) は \(\frac{3}{8}Mg\)、垂直抗力 \(N\) は \(Mg\) であることがわかりました。
  4. はしごが滑り出すギリギリの状況では、\(F = F_{\text{max}}\) となるので、\(\frac{3}{8}Mg = \mu_0 (Mg)\) という式が成り立ちます。
  5. この式を \(\mu_0\) について解けばOKです。
結論と吟味

はしごが滑ってしまう限界の静止摩擦係数は \(\mu_0 = \displaystyle\frac{3}{8}\) です。
問題文で与えられている静止摩擦係数 \(\mu = 1/2\) は、\(\frac{1}{2} = \frac{4}{8}\) なので、\(\mu > \mu_0\) です。したがって、(1)の状況でははしごは滑らないことが確認できます。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{3}{8}\)

問3

思考の道筋とポイント

質量 \(5M\) の人がはしごを登り、下端Bから \(x\) の距離の所で滑り出す限界になったとします。このとき、床からの静止摩擦力は最大静止摩擦力 \(F’_{\text{max}}\) になっています。
はしごに働く力は、

  • はしごの重力 \(Mg\) (Bから \(5l\) の位置、鉛直下向き)
  • 人の重力 \(5Mg\) (Bから \(x\) の位置、鉛直下向き)
  • 壁からの垂直抗力 \(R’\) (点A、水平左向き)
  • 床からの垂直抗力 \(N’\) (点B、鉛直上向き)
  • 床からの最大静止摩擦力 \(F’_{\text{max}}\) (点B、水平右向き)

力のつり合い(水平・鉛直)と、モーメントのつり合い(点Bまわり)の式を立てます。
滑り出す限界なので、\(F’_{\text{max}} = \mu N’ = \frac{1}{2}N’\) の関係も使います。これらの式を連立させて \(x\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 人が乗ったことで、はしごにかかる重力が増え、その作用点も変わる(はしごの重力と人の重力を別々に考える)。
  • 滑り出す限界なので、静止摩擦力は最大静止摩擦力 \(F’_{\text{max}} = \mu N’ = \frac{1}{2}N’\)。
  • 力のつり合い、モーメントのつり合いの式を立てる。

具体的な解説と立式

人が下端Bから距離 \(x\) の位置にいるとき、はしごに働く力は、

  • はしごの重力 \(Mg\) (Bから水平距離 \(5l\cos\theta\) の位置、鉛直下向き)
  • 人の重力 \(5Mg\) (Bから水平距離 \(x\cos\theta\) の位置、鉛直下向き)
  • 壁からの垂直抗力 \(R’\) (点A、水平左向き)
  • 床からの垂直抗力 \(N’\) (点B、鉛直上向き)
  • 床からの最大静止摩擦力 \(F’_{\text{max}}\) (点B、水平右向き)

力のつり合いの式:
水平方向: \(F’_{\text{max}} – R’ = 0 \Rightarrow F’_{\text{max}} = R’ \quad \cdots ⑦\)
鉛直方向: \(N’ – Mg – 5Mg = 0 \Rightarrow N’ = 6Mg \quad \cdots ⑧\)

滑り出す限界なので、静止摩擦力は最大静止摩擦力に等しく、\(F’_{\text{max}} = \mu N’\)。
問題文より \(\mu = 1/2\) なので、
$$F’_{\text{max}} = \frac{1}{2}N’ \quad \cdots ⑨$$
式⑧を⑨に代入すると、
$$F’_{\text{max}} = \frac{1}{2}(6Mg) = 3Mg$$
これを式⑦に代入すると、壁からの垂直抗力 \(R’\) も、
$$R’ = 3Mg \quad \cdots ⑩$$

点Bのまわりの力のモーメントのつり合い(反時計回りを正とする):
はしごの重力 \(Mg\) によるモーメント: \(-Mg \cdot (5l \cos\theta)\)
人の重力 \(5Mg\) によるモーメント: \(-5Mg \cdot (x \cos\theta)\)
壁からの垂直抗力 \(R’\) によるモーメント: \(+R’ \cdot (10l \sin\theta)\)
よって、
$$R’ \cdot (10l \sin\theta) – Mg \cdot (5l \cos\theta) – 5Mg \cdot (x \cos\theta) = 0 \quad \cdots ⑪$$
この式に \(R’ = 3Mg\), \(\cos\theta = 3/5\), \(\sin\theta = 4/5\) を代入して \(x\) を求めます。

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\sum F_x = 0\), \(\sum F_y = 0\)
  • 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
  • 最大静止摩擦力: \(F_{\text{max}} = \mu N\)
計算過程

まず、\(N’\) と \(R’\) を求めます。
式⑧より \(N’ = 6Mg\)。
式⑨と合わせて \(F’_{\text{max}} = \frac{1}{2}N’ = \frac{1}{2}(6Mg) = 3Mg\)。
式⑦より \(R’ = F’_{\text{max}} = 3Mg\)。

次に、モーメントのつり合いの式⑪にこれらの値と角度の値を代入します。
$$(3Mg) \cdot (10l \cdot \frac{4}{5}) – Mg \cdot (5l \cdot \frac{3}{5}) – 5Mg \cdot (x \cdot \frac{3}{5}) = 0$$
$$(3Mg) \cdot 8l – Mg \cdot 3l – 5Mg \cdot \frac{3}{5}x = 0$$
$$24Mgl – 3Mgl – 3Mgx = 0$$
$$21Mgl – 3Mgx = 0$$
$$3Mgx = 21Mgl$$
両辺を \(3Mg\) で割ると(\(Mg \neq 0\))、
$$x = 7l$$

計算方法の平易な説明
  1. 人がはしごを登ると、はしごを倒そうとする力が強くなります。床の摩擦力が耐えられる限界のところまで人が登れる、と考えます。
  2. 人がBから \(x\) の距離にいるときを考えます。このとき、はしごには、はしご自体の重さ \(Mg\)、人の重さ \(5Mg\)、壁からの力 \(R’\)、床からの垂直な力 \(N’\)、床からのギリギリの摩擦力 \(F’_{\text{max}}\) が働いています。
  3. 力のつり合い:
    • 上下方向: \(N’ = Mg + 5Mg = 6Mg\)。
    • 左右方向: \(R’ = F’_{\text{max}}\)。摩擦力は限界なので \(F’_{\text{max}} = \mu N’ = \frac{1}{2}N’ = \frac{1}{2}(6Mg) = 3Mg\)。なので \(R’ = 3Mg\) です。
  4. モーメントのつり合い (B点のまわり):
    • はしごの重さによるモーメント: \(Mg \times 5l \cos\theta\) (時計回り)
    • 人の重さによるモーメント: \(5Mg \times x \cos\theta\) (時計回り)
    • 壁からの力 \(R’\) によるモーメント: \(R’ \times 10l \sin\theta\) (反時計回り)
  5. つり合いの式: \(R’ \cdot 10l \sin\theta = Mg \cdot 5l \cos\theta + 5Mg \cdot x \cos\theta\)。
  6. この式に、上で求めた \(R’=3Mg\) と、\(\cos\theta=3/5, \sin\theta=4/5\) を代入して、\(x\) について解きます。
結論と吟味

人は下端Bから \(x=7l\) の距離の所まで登れます。
はしごの長さは \(10l\) なので、\(7l\) ははしごの半分 (\(5l\)) よりも上です。もし計算結果が \(10l\) を超える場合は、はしごの端まで登っても滑らないことを意味しますが、今回は \(7l < 10l\) なので、途中で滑り出す限界があることがわかります。

解答 (3) \(7l\)

問4

思考の道筋とポイント

人が下端Bから \(2l\) の距離にいるとき、上端Aと下端Bで働く抗力の作用線の交点Pの位置を図中に示します。
この状況では、はしご(人と合わせて一体と考える)に働く力は以下の3つです。

  1. 壁からの抗力 \(R”\) (点A、水平左向き)
  2. 床からの抗力(垂直抗力 \(N”\) と静止摩擦力 \(F”\) の合力)(点B)
  3. はしごと人の合計の重力 (\(Mg+5Mg = 6Mg\)) (全体の重心Gに作用)

物体が3つの力でつり合っているとき、それらの力が互いに平行でなければ、3つの力の作用線は1点で交わります。
まず、はしごと人の全体の重心Gの位置を求めます。次に、全体の重力の作用線と、壁からの抗力 \(R”\) の作用線(これは水平線)の交点Pを求めます。床からの抗力の作用線もこの点Pを通ります。
作図問題ですが、ここでは交点Pの位置を特定するための考え方を示します。

この設問における重要なポイント

  • 3つの力がつり合っている場合、作用線は1点で交わる(力が平行でない場合)。
  • はしごと人の全体の重心の位置を求める。
  • 全体の重力の作用線と壁からの抗力の作用線の交点が求める点P。

具体的な解説と立式

人が下端Bから \(2l\) の距離にいるとします。
はしごの質量は \(M\)、重心はBから \(5l\) の位置。
人の質量は \(5M\)、位置はBから \(2l\) の位置。
はしごと人の全体の重心Gの、下端Bからの距離 \(x_G\) は、モーメントの考え方(または重心の公式)で求められます。
$$x_G = \frac{M \cdot 5l + 5M \cdot 2l}{M + 5M} = \frac{5Ml + 10Ml}{6M} = \frac{15Ml}{6M} = \frac{5}{2}l = 2.5l \quad \cdots ⑫$$
つまり、全体の重心Gは、はしごの下端Bから斜面に沿って \(2.5l\) の位置にあります。
この重心Gを通る鉛直下向きの線が、全体の重力 \(6Mg\) の作用線です。

壁からの抗力 \(R”\) は点Aで水平左向きに働きます。その作用線は、点Aを通る水平線です。
点Pは、この「全体の重力の作用線」と「壁からの抗力の作用線」の交点です。

作図で示すには、

  1. はしごを描き、点Aと点Bを定める。
  2. Bから \(2.5l\) の位置に全体の重心Gをプロットする。
  3. Gから鉛直下向きに線(重力の作用線)を引く。
  4. 点Aから水平に線(壁の抗力の作用線)を引く。
  5. 3と4の交点がPとなる。

(模範解答の図を参照し、これらの線を描くことでPの位置を示す)

使用した物理公式

  • 重心の公式: \(x_G = \displaystyle\frac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}\)
  • 3力のつり合いの条件(作用線が1点で交わる)
計算過程

全体の重心GのBからの距離 \(x_G\) は式⑫で計算した通り \(x_G = 2.5l\) です。
点Pの座標を求めることも可能です。点Aの高さは \(8l\)、水平位置はBから \(6l\) です。
重心Gの水平位置(Bを基準)は \(x_G \cos\theta = 2.5l \cdot (3/5) = 1.5l\)。
重心Gの鉛直高さ(Bを基準)は \(x_G \sin\theta = 2.5l \cdot (4/5) = 2l\)。
点Pは、点Aを通る水平線上にあるので、Pの鉛直高さはAと同じ \(8l\) (床B基準)。
点Pは、重心Gを通る鉛直線上にあるので、Pの水平位置はGと同じ \(1.5l\) (床B基準でBから右に)。
つまり、点Pは床Bから右に \(1.5l\)、上に \(8l\) の位置です。

計算方法の平易な説明
  1. はしごには3つの大きな力が働いていると考えます。「壁からの力」「床からの力」「(はしごと人の合計の)重力」です。
  2. 物体が3つの力でつり合っているとき、それらの力の矢印の延長線(作用線)は1点で交わります。この交わる点がPです。
  3. まず、はしごと人の「合わせた重さ」がどこにかかるか(全体の重心G)を計算します。
    • はしごの重さは真ん中(Bから \(5l\))にかかり、人の重さはBから \(2l\) の位置にかかります。
    • 重心の公式 \(x_G = (M \times 5l + 5M \times 2l) / (M+5M)\) を計算すると、GはBから \(2.5l\) の位置にあるとわかります。
  4. 全体の重力は、このG点から真下に働きます。この線(作用線)を引きます。
  5. 壁からの力は、はしごの上端Aから水平に働きます。この線(作用線)を引きます。
  6. この2本の線が交わったところが点Pです。床からの力も、この点Pを通るように働きます。
  7. (模範解答の図を参照し、重心Gの位置、そこから鉛直下向きの線、点Aから水平な線を描き、その交点をPと示します。)
結論と吟味

点Pの位置は、全体の重心G(下端Bから斜面に沿って \(2.5l\) の点)から鉛直下向きに引いた線と、上端Aから水平に引いた線の交点です。
具体的には、床の点Bを原点 \((0,0)\) とし、床に沿って右向きをX軸正、鉛直上向きをY軸正とすると、点Pの座標は \((1.5l, 8l)\) となります。

解答 (4) (模範解答の図を参照し、全体の重心G (Bから斜面に沿って2.5\(l\)) を通り鉛直下向きの線と、点Aを通り水平な線の交点Pを描く。Pの座標は床のB点を原点として水平右に1.5\(l\)、鉛直上に8\(l\)の位置。)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 剛体のつり合いの条件:
    • 力のつり合い: 物体に働く力のベクトル和が0であること (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\))。水平方向と鉛直方向に分けて考えると \(\sum F_x = 0\) および \(\sum F_y = 0\)。
    • 力のモーメントのつり合い: 任意の点のまわりで、物体に働く力のモーメントの代数和が0であること (\(\sum M = 0\))。回転軸の選び方が計算の簡便さを左右する。
  • 静止摩擦力と最大静止摩擦力:
    • 静止摩擦力は外力に応じて大きさを変えるが、その上限が最大静止摩擦力 \(F_{\text{max}} = \mu N\)。
    • 物体が滑り出す直前には、静止摩擦力は最大静止摩擦力に等しい。
  • 重心: 物体の質量が一点に集中しているとみなせる点。一様な棒の重心は中点。複数の質点からなる系の重心は、各質点の質量と位置ベクトルの加重平均で与えられる。
  • 3力のつり合い: 物体に3つの力が働いてつり合っている場合、それらの力が互いに平行でなければ、3つの力の作用線は1点で交わる。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 壁や床に角度がついていたり、摩擦があったりする複雑なはしご・棒のつり合い問題。
    • 複数の物体が接触し合ってつり合っている系の問題。
    • 物体が倒れる条件、滑り出す条件を同時に考慮する問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 力の図示の徹底: まず、注目する物体(はしご)に働く力を「もれなく」「向きを正しく」図示する。重力、垂直抗力、摩擦力、張力など。
    2. つり合い条件の選択: 力のつり合いだけで解けるか、モーメントのつり合いも必要か判断する。剛体の場合は通常両方が必要。
    3. 回転軸の戦略的選択: モーメントのつり合いを考える際、未知の力が多く作用する点や、問題で問われていない力が作用する点を回転軸に選ぶと、それらの力のモーメントが0になり、式が簡単になることが多い。
    4. 滑り出す条件・倒れる条件の把握: 問題が「滑り出す」「倒れる」といった限界状態を問うている場合、そのときの物理的条件(静止摩擦力が最大になる、特定の点の垂直抗力が0になるなど)を正確に数式化する。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
    • 一様な棒や板の重力は、その中心(重心)に作用すると考える。
    • 摩擦力の向きは、物体が動こうとする向きと反対向き、または実際に動いている向きと反対向き(動摩擦の場合)。静止摩擦力の場合は、他の力とのつり合いから決まる。
    • 力の分解が必要な場合は、適切な方向に分解する(例:斜面上の物体なら斜面に平行・垂直)。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 力の図示漏れや向きの間違い: 特に摩擦力の向き、垂直抗力の向き(面に垂直)。
    • 対策: 「物体が受ける力」を意識し、接触している物体から受ける力、遠隔力(重力など)を系統的にリストアップする。摩擦力の向きは「もし摩擦がなかったらどちらに動くか」を考えてその反対向きにする。
  • モーメントの腕の長さの計算ミス: 回転軸から力の作用線までの「垂直な」距離を正しく求める。
    • 対策: 図を丁寧に描き、力の作用線と回転軸からの垂線を作図する。あるいは、回転軸から力の作用点までの距離と、その間の角度を使って \(M = Fl\sin\phi\) で計算する。
  • モーメントの符号のミス: 時計回りと反時計回りのどちらを正にするか決め、一貫して適用する。
    • 対策: 最初に回転の正方向を明記する。
  • 静止摩擦力と最大静止摩擦力の混同: 静止しているからといって、常に最大静止摩擦力が働いているわけではない。最大静止摩擦力はあくまで「滑り出す直前」の力。
    • 対策: 通常のつり合いでは静止摩擦力を \(F\) とおき、力のつり合いから求める。滑り出す条件を考えるときのみ \(F=\mu N\) を使う。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • はしごが壁に寄りかかっている様子。どこにどんな力がかかっているか。
    • 人が登っていくと、はしごがだんだん滑りやすくなったり、壁から離れようとしたりする(実際には離れないが)傾向をイメージする。
    • 摩擦がなかったらどうなるか?(ズルっと滑る)
  • 図示の有効性:
    • 力のベクトルを、作用点から正しい向きに、ある程度力の大きさを反映した長さで描く。
    • モーメントを考える際、回転軸、力の作用点、腕の長さを図中に明示する。
    • (4)のような3力つり合いの場合、作用線が1点で交わる様子を図示することで、力のバランスを視覚的に理解できる。
  • 図を描く際の注意点:
    • フリーボディダイアグラム(注目物体だけを取り出し、それに働くすべての力を描いた図)を描く習慣をつける。
    • 角度や距離の関係を正確に図に反映させる。
    • 作用線や腕の長さは補助線として丁寧に描く。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合い (\(\sum F_x = 0, \sum F_y = 0\)): 物体が静止または等速直線運動している場合(つまり加速度が0の場合)の基本条件。並進運動のつり合い。
    • 適用根拠: ニュートンの運動の第1法則または第2法則 (\(F=ma\) で \(a=0\))。
  • 力のモーメントのつり合い (\(\sum M = 0\)): 物体が回転しないで静止している場合(つまり角加速度が0の場合)の基本条件。回転運動のつり合い。
    • 適用根拠: 回転に関する運動方程式 (\(I\alpha = N\)) で角加速度 \(\alpha=0\)。
  • 静止摩擦力の条件 (\(F \le \mu N\), \(F_{\text{max}} = \mu N\)): 物体が滑り出さないための条件、および滑り出す限界の条件。
    • 適用根拠: 実験的に見出された摩擦に関する法則。
  • 重心の概念: 複数の力が働く剛体の運動やモーメントを考える際、全体の質量がその一点に集中しているかのように扱えるため便利。特に重力の作用点を決めるときに使う。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 静止時(人なし)の抗力:
    1. 力の図示(重力Mg, 壁の抗力R, 床の垂直抗力N, 床の摩擦力F)。
    2. 鉛直方向のつり合い: \(N-Mg=0 \Rightarrow N\)。
    3. 点Bまわりのモーメントのつり合い: \(R \cdot (10l\sin\theta) – Mg \cdot (5l\cos\theta) = 0 \Rightarrow R\)。
    4. 水平方向のつり合い: \(F-R=0 \Rightarrow F\)。
    5. 床からの抗力(合力)\(K_B = \sqrt{N^2+F^2}\)。
  2. (2) 滑り出す限界の \(\mu_0\):
    1. 滑り出す直前は \(F = \mu_0 N\)。
    2. (1)で求めた \(F\) と \(N\) を代入して \(\mu_0\) を求める。
  3. (3) 人が登れる限界距離 \(x\):
    1. 力の図示(はしごの重力Mg, 人の重力5Mg, 壁の抗力R’, 床の垂直抗力N’, 床の最大摩擦力 \(F’_{\text{max}}\))。
    2. 鉛直方向のつり合い: \(N’ – Mg – 5Mg = 0 \Rightarrow N’\)。
    3. 最大摩擦力の条件: \(F’_{\text{max}} = \mu N’ = (1/2)N’\)。
    4. 水平方向のつり合い: \(F’_{\text{max}} – R’ = 0 \Rightarrow R’\)。
    5. 点Bまわりのモーメントのつり合い: \(R’ \cdot (10l\sin\theta) – Mg \cdot (5l\cos\theta) – 5Mg \cdot (x\cos\theta) = 0\)。
    6. 上記で求めた \(R’\) を代入し、\(x\) について解く。
  4. (4) 作用線の交点P:
    1. はしごと人の全体の重心Gの位置 \(x_G\) を求める。
    2. 全体の重力 \(6Mg\) の作用線(Gを通り鉛直下向き)と壁からの抗力 \(R”\) の作用線(Aを通り水平)の交点Pを図示する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 角度の三角比の正確な使用: \(\cos\theta = 3/5, \sin\theta = 4/5\) を正しく代入する。腕の長さを求める際に \(\cos\theta\) か \(\sin\theta\) かを間違えない。
  • モーメントの計算での符号: 時計回りと反時計回りのどちらを正とするか決め、一貫して適用する。
  • 連立方程式の解法: 未知数が複数ある場合、どの式からどの未知数を消去していくか、計画的に解く。
  • 単位長さ \(l\) の扱い: 式の中で \(l\) が正しく約分されるか、残るべきかを確認する。
  • 数値の代入タイミング: 文字式のまま計算を進め、最後に数値を代入する方が、途中の計算ミスを発見しやすかったり、物理的な意味を見失いにくかったりすることがある。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な直感との整合性:
    • (2) \(\mu_0 = 3/8\)。もし壁がもっと滑りやすかったり(角度が急)、床が滑りやすかったりすれば、より大きな \(\mu_0\) が必要になるか、などを考える。
    • (3) \(x=7l\)。人がはしごの中点 (\(5l\)) より上に登れるのは、床の摩擦がある程度大きいから。もし \(\mu\) が非常に小さければ、\(x\) はもっと小さくなるはず。
    • (4) 点Pの位置。重い人がはしごの低い位置にいれば、全体の重心は下に寄り、Pの位置もそれに影響される。
  • 極端な条件での考察:
    • もし摩擦が全くなかったら (\(\mu=0\)) どうなるか? (1)のつり合いは成立しない(\(F=0\) となり \(R=0\)、しかし \(R \neq 0\) でないとモーメントがつりあわない)。つまり、摩擦がないと立てかけられない。
    • はしごの角度 \(\theta\) が非常に小さい(ほぼ水平)または非常に大きい(ほぼ鉛直)場合、力のつり合いや安定性はどう変わるか。

問題5 (京都大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、傾角 \(\theta\) の斜面上に置かれた一様な直方体に、斜面に平行な力 \(F\) を加えたときのつり合いと、その限界(滑り出す条件、倒れ始める条件)について考察するものです。静止摩擦力、力のモーメント、そしてそれらの条件が複雑に絡み合います。

与えられた条件
  • 物体: 質量 \(M\)[kg]の一様な直方体。図から、斜面に沿った辺の長さを\(a\)[m]、斜面に垂直な方向(高さ)の辺の長さを\(b\)[m]と読み取ります。
  • 斜面: 傾角 \(\theta\)。
  • 力 \(F\)[N]: 直方体の上端の水平な辺の中央に、斜面に平行に加えられる。
  • 静止摩擦係数: Mと斜面の間で \(\mu\)。ただし \(\mu > \tan\theta\)。
  • 重力加速度: \(g\)[m/s²]。
問われていること (空欄補充)
  1. ア: Mが斜面上を滑り始めるためには、力Fは \(F > \text{(ア)}\) [N] を満たす必要がある。
  2. イ: また、Mが倒れ始めないためには、力Fは \(F \le \text{(イ)}\) [N] を満たさなければならない。
  3. ウ: したがって、Mを倒れ始めることなく滑らせるためには、これらの条件を同時に満たす力Fを作用させる必要がある。このような力Fが存在するためには \(\frac{a}{b}\) と \(\theta\), \(\mu\) の間に \(\frac{a}{b} > \text{(ウ)}\) が成立する必要がある。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、剛体のつり合いの条件、特に「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」を理解し適用することが不可欠です。また、「滑り出す直前」や「倒れ始める直前」といった限界状態における物理的条件を正確に把握する必要があります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  • 力のつり合い: 物体に働く力のベクトル和が0であること (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\))。
    • 斜面に平行な方向の力のつり合い
    • 斜面に垂直な方向の力のつり合い
  • 力のモーメントのつり合い: 任意の点のまわりの力のモーメントの和が0であること (\(\sum M = 0\))。
  • 静止摩擦力: 大きさが \(0 \le f \le \mu N\) の範囲で変化し、滑りを防ぐ向きに働く。滑り出す直前には最大静止摩擦力 \(f_{\text{max}} = \mu N\) となる。
  • 垂直抗力の作用点: 物体が倒れ始める直前には、垂直抗力の作用点が支持面の端に移動する。

ア (滑り始める条件)

思考の道筋とポイント

直方体Mが斜面上を滑り始める直前の状態を考えます。このとき、直方体に働く静止摩擦力は最大静止摩擦力 \(\mu N\) となっています。力 \(F\) は斜面上向きに加えられています。
\(\mu > \tan\theta\) という条件から、\(F=0\) の状態では直方体は斜面を滑り落ちません (\(Mg\sin\theta < \mu Mg\cos\theta\))。
ここで考える「滑り始め」は、力 \(F\) を徐々に大きくしていった結果、直方体が「斜面上向きに」滑り出す状況と解釈するのが一般的ですが、模範解答の導出に合わせます。模範解答では、式(1) \(N=Mg\cos\theta\) と式(2) \(F_1+Mg\sin\theta = \mu N\) を用いて \(F_1\) を求めています。この式(2)は、外力 \(F_1\) (斜面上向き) と重力の斜面成分 \(Mg\sin\theta\) (斜面下向き) の力の兼ね合いで物体が「斜面下向きに」滑り出そうとするのを、上向きの最大静止摩擦力 \(\mu N\) が支えている限界の状況を表していると解釈できます。この \(F_1\) の値を求めることが、(ア) につながります。

この設問における重要なポイント

  • 滑り出す直前、静止摩擦力は最大静止摩擦力 \(\mu N\) となる。
  • 斜面に垂直な方向の力のつり合いから垂直抗力 \(N\) を求める。
  • 模範解答の導出に従い、特定の力のつり合い状況から滑り出す直前の力 \(F_1\) を求める。

具体的な解説と立式

直方体に働く力は以下の通りです。

  • 重力 \(Mg\)。斜面に平行下向き成分: \(Mg\sin\theta\)、斜面に垂直下向き成分: \(Mg\cos\theta\)。
  • 斜面からの垂直抗力 \(N\)。斜面に垂直上向き。
  • 外力 \(F\)。斜面に平行上向き。
  • 静止摩擦力 \(f\)。

斜面に垂直な方向の力のつり合いより、
$$N – Mg\cos\theta = 0$$
$$N = Mg\cos\theta \quad \cdots ①$$
模範解答の式(2) \(F_1+Mg\sin\theta = \mu N\) を採用します。これは「\(F_1\) (上向きの力) を加えても、なお物体が下に滑ろうとするのを、上向きの最大摩擦力 \(\mu N\) が支えている限界の力 \(F_1\)」を求める式 \(F_1 = \mu N – Mg\sin\theta\) に対応します。
$$F_1 = \mu N – Mg\sin\theta \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い(斜面に平行・垂直)
  • 最大静止摩擦力: \(f_{\text{max}} = \mu N\)
計算過程

式① \(N = Mg\cos\theta\) を式② \(F_1 = \mu N – Mg\sin\theta\) に代入します。
$$F_1 = \mu (Mg\cos\theta) – Mg\sin\theta$$
$$F_1 = Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta)$$
これが求める (ア) の値です。問題文の条件 \(\mu > \tan\theta\) より、\(\mu \cos\theta > \sin\theta\) なので、\(F_1 > 0\) となります。
設問は「滑り始めるためには \(F > F_1\)」という条件になります。

計算方法の平易な説明
  1. まず、斜面に垂直な方向で力がつり合っているので、床からの垂直な支えの力 \(N\) は \(Mg\cos\theta\) です。
  2. 模範解答の考え方に従うと、滑り出す直前の力 \(F_1\) は、\(F_1 = \mu N – Mg\sin\theta\) という関係を満たします。これは、物体が下に滑り出そうとする力 (\(Mg\sin\theta – F_1\)) を、上向きの最大摩擦力 \(\mu N\) が支えている、という限界の状態での \(F_1\) を表しています。
  3. ここに \(N=Mg\cos\theta\) を代入して \(F_1\) を計算すると、\(F_1 = Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta)\) となります。
  4. 設問では、この \(F_1\) を超える力 \(F\) を加えると滑り出す、としています。
結論と吟味

Mが斜面上を滑り始めるためには、力 \(F\) は \(F > Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta)\) を満たす必要があります。
条件 \(\mu > \tan\theta\) は、\(\mu\cos\theta – \sin\theta > 0\) を保証し、\(F_1\) が正の値を取ることを意味します。これは、\(F=0\) では下に滑り出さないが、\(F\) がこの \(F_1\) よりも小さくなると(あるいは \(F_1\) が上向きの力として非常に小さい場合)、下に滑り出す可能性があることを示唆しています。しかし、設問の \(F > \text{(ア)}\) の文脈では、この \(F_1\) を超えると「上向きに」滑り出す、という解釈が一般的です。ここでは模範解答の数値を優先しました。

解答 ア \(Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta)\)

イ (倒れない条件)

思考の道筋とポイント

直方体Mが倒れ始める直前の状態を考えます。このとき、直方体は斜面下側の角A(図では左下の角、回転軸)を回転軸として回転し始めようとします。この限界状態では、斜面からの垂直抗力 \(N\) と静止摩擦力 \(f\) の合力の作用点が、この角Aに集中していると考えられます。
この角Aのまわりでの力のモーメントのつり合いを考えます。働く力は、外力 \(F\)、重力 \(Mg\) です。(角Aに作用する \(N\) と \(f\) のモーメントは0)。

この設問における重要なポイント

  • 倒れ始める直前、垂直抗力の作用点は回転軸となる角(斜面下側の角A)に移動する。
  • 角Aのまわりの力のモーメントのつり合いを考える。
  • 重力 \(Mg\) は、その成分 \(Mg\sin\theta\) と \(Mg\cos\theta\) に分解し、それぞれのモーメントを計算すると考えやすい。

具体的な解説と立式

倒れ始める直前の外力を \(F_2\) とします。このとき、垂直抗力と摩擦力の作用点は直方体の斜面下側の角(これをAとする)にあると考えます。
点Aのまわりの力のモーメントのつり合いを考えます(反時計回りを正)。

  • 外力 \(F_2\) は、直方体の上端(高さ \(b\))に加えられているので、点Aからの腕の長さは \(b\)。モーメントは \(+F_2 \cdot b\)。
  • 重力 \(Mg\) は直方体の中心に働く。点Aから見た重力の作用点の位置を考える。
    重力を斜面に平行な成分 \(Mg\sin\theta\) と垂直な成分 \(Mg\cos\theta\) に分解して考えると、それぞれの作用点は直方体の中心です。

    • \(Mg\sin\theta\)(斜面平行下向き)の作用線は、点Aから斜面に垂直方向に距離 \(\frac{b}{2}\) の位置を通る。モーメントは \(+Mg\sin\theta \cdot \frac{b}{2}\) (反時計回り)。
    • \(Mg\cos\theta\)(斜面垂直下向き)の作用線は、点Aから斜面に平行方向に距離 \(\frac{a}{2}\) の位置を通る。モーメントは \(-Mg\cos\theta \cdot \frac{a}{2}\) (時計回り)。

力のモーメントのつり合いの式は、
$$F_2 \cdot b + Mg\sin\theta \cdot \frac{b}{2} – Mg\cos\theta \cdot \frac{a}{2} = 0 \quad \cdots ③$$
この式から \(F_2\) を求めます。Mが倒れ始めないためには \(F \le F_2\) である必要があります。

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
  • 力のモーメントの計算
計算過程

式③から \(F_2\) について解きます。
$$F_2 b = Mg\cos\theta \cdot \frac{a}{2} – Mg\sin\theta \cdot \frac{b}{2}$$
$$F_2 b = \frac{Mg}{2} (a\cos\theta – b\sin\theta)$$
$$F_2 = \frac{Mg}{2b} (a\cos\theta – b\sin\theta)$$
これが求める (イ) の値です。

計算方法の平易な説明
  1. 物体が倒れそうになるときは、斜面の下側の角(点Aとします)を軸にして回転しそうになります。このギリギリの状況を考えます。
  2. このとき、床からの支えの力(垂直抗力と摩擦力)は、すべてこの角Aに集まっていると考えます。
  3. 角Aのまわりで、物体を回転させようとする力のモーメントがつり合っているはずです。
    • 加えた力 \(F_2\) は、角Aから高さ \(b\) のところにあり、物体を反時計回りに回転させようとします。モーメントは \(F_2 \times b\)。
    • 重力 \(Mg\) は、物体を回転させようとします。重力を斜面方向の \(Mg\sin\theta\) と斜面に垂直な \(Mg\cos\theta\) に分けて考えると、
      • \(Mg\sin\theta\) は、角Aから見て距離 \(b/2\) のところにあり、反時計回りに回転させようとします。モーメントは \(Mg\sin\theta \times b/2\)。
      • \(Mg\cos\theta\) は、角Aから見て距離 \(a/2\) のところにあり、時計回りに回転させようとします。モーメントは \(Mg\cos\theta \times a/2\)。
  4. 力のモーメントのつり合いの式: \(F_2 b + Mg\sin\theta \cdot \frac{b}{2} = Mg\cos\theta \cdot \frac{a}{2}\)。
  5. この式を \(F_2\) について解けば、倒れ始める直前の力がわかります。倒れないためには、加える力 \(F\) はこの \(F_2\) 以下である必要があります。
結論と吟味

Mが倒れ始めないためには、力 \(F\) は \(F \le \displaystyle\frac{Mg}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)\) を満たさなければなりません。
この \(F_2\) が正であるためには \(a\cos\theta – b\sin\theta > 0\)、すなわち \(a\cos\theta > b\sin\theta \Rightarrow \frac{a}{b} > \tan\theta\) である必要があります。これは、そもそも直方体が自重で倒れないための形状に関する条件です。

解答 イ \(\displaystyle\frac{Mg}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)\)

ウ (倒れずに滑り出す条件)

思考の道筋とポイント

Mを倒れ始めることなく滑らせるためには、滑り出すのに必要な力 \(F\) の範囲 (\(F > F_1\)) と、倒れないための力 \(F\) の範囲 (\(F \le F_2\)) が同時に満たされる、つまり \(F_1 < F \le F_2\) となるような \(F\) が存在する必要があります。
このような \(F\) が存在するための条件は、単純に \(F_1 < F_2\) です。この不等式を \(a/b\), \(\theta\), \(\mu\) を用いて表します。

この設問における重要なポイント

  • 滑り出す条件: \(F > F_1 = Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta)\)
  • 倒れない条件: \(F \le F_2 = \frac{Mg}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)\)
  • 倒れずに滑り出すためには、\(F_1 < F_2\) が満たされる必要がある。

具体的な解説と立式

倒れ始めることなく滑らせるためには、滑り出すときの力の下限 \(F_1\) が、倒れ始めるときの力の上限 \(F_2\) よりも小さい必要があります。
つまり、
$$F_1 < F_2 \quad \cdots ④$$
ここに、アで求めた \(F_1 = Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta)\) と、イで求めた \(F_2 = \displaystyle\frac{Mg}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)\) を代入します。
$$Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta) < \frac{Mg}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)$$
この不等式を \(\frac{a}{b}\) について整理します。

使用した物理公式

  • なし (ア、イの結果を利用)
計算過程

式④に \(F_1\) と \(F_2\) の具体的な式を代入します。
$$Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta) < \frac{Mg}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)$$ 両辺の \(Mg\) を消去します(\(Mg > 0\) なので不等号の向きは変わらない)。
$$\mu\cos\theta – \sin\theta < \frac{1}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)$$ 両辺に \(2b\) を掛けます(\(b > 0\) なので不等号の向きは変わらない)。
$$2b(\mu\cos\theta – \sin\theta) < a\cos\theta – b\sin\theta$$
$$2b\mu\cos\theta – 2b\sin\theta < a\cos\theta – b\sin\theta$$
\(a\cos\theta\) を右辺に残し、他の項を左辺に集めるように変形します。
$$2b\mu\cos\theta – 2b\sin\theta + b\sin\theta < a\cos\theta$$
$$2b\mu\cos\theta – b\sin\theta < a\cos\theta$$ 両辺を \(b\cos\theta\) で割ります(\(\cos\theta > 0\), \(b > 0\) なので不等号の向きは変わらない)。
$$\frac{2b\mu\cos\theta}{b\cos\theta} – \frac{b\sin\theta}{b\cos\theta} < \frac{a\cos\theta}{b\cos\theta}$$
$$2\mu – \tan\theta < \frac{a}{b}$$ したがって、 $$\frac{a}{b} > 2\mu – \tan\theta$$
これが求める (ウ) の関係です。

計算方法の平易な説明
  1. 物体を「倒れる前に滑らせる」ためには、滑り出すのに必要な力 \(F_1\) が、倒れ始める力 \(F_2\) よりも小さい必要があります。つまり \(F_1 < F_2\) ということです。
  2. アで求めた \(F_1 = Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta)\) と、イで求めた \(F_2 = \frac{Mg}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)\) を、この不等式 \(F_1 < F_2\) に代入します。
  3. \(Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta) < \frac{Mg}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)\) という式ができます。
  4. この不等式を、問題で問われている \(\frac{a}{b}\) について整理します。
    • まず両辺の \(Mg\) を消します。
    • 次に両辺に \(2b\) を掛けます。
    • そのあと、\(\cos\theta\) で両辺を割ると、\(\tan\theta = \sin\theta/\cos\theta\) が出てきて式が整理できます。
  5. 最終的に \(\frac{a}{b} > 2\mu – \tan\theta\) という形になります。
結論と吟味

Mを倒れ始めることなく滑らせるためには、\(\displaystyle\frac{a}{b} > 2\mu – \tan\theta\) が成立する必要があります。
この条件は、直方体の形状 (\(a/b\))、摩擦係数 \(\mu\)、斜面の傾斜角 \(\theta\) の間の関係を示しています。例えば、摩擦係数 \(\mu\) が大きいほど、あるいは傾斜角 \(\theta\) が小さいほど(\(\tan\theta\) が小さい)、右辺が大きくなりやすく、\(a/b\) (斜面に沿った長さ/高さの比) がより大きい(つまり、より平べったい形状、あるいは斜面に沿って長い形状)必要があることを示唆しています。これは、背の高い物体ほど倒れやすいという直感とも関連します。

解答 ウ \(2\mu – \tan\theta\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 剛体のつり合いの条件: 静止している剛体には、並進運動に関する「力のつり合い」と、回転運動に関する「力のモーメントのつり合い」が同時に成立します。
  • 静止摩擦力と最大静止摩擦力: 静止摩擦力は外力に応じて変化し、滑りを防ぐ限界が最大静止摩擦力 \(\mu N\) です。滑り出す直前にはこの最大値が働きます。
  • 転倒の条件: 物体が回転して倒れ始める直前には、支持面からの垂直抗力の作用点が、回転軸となる物体の端点に移動します。この点を回転軸としてモーメントのつり合いを考えます。
  • 条件の組み合わせ: 「滑り出す」条件と「倒れる」条件を比較し、どちらが先に起こるか、あるいは両立するための条件は何かを考察することが求められます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 様々な形状の物体(円柱、三角柱など)の斜面上のつり合い。
    • 複数の力が作用する場合のつり合いと限界条件。
    • 糸で引いたり、ばねで支えたりする場合の剛体のつり合い。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 力の正確な図示: 物体に働くすべての力(重力、垂直抗力、摩擦力、外力など)をもれなく図示し、作用点と向きを明確にする。
    2. 座標系(または力の分解方向)の設定: 斜面上の問題では、斜面に平行な方向と垂直な方向に力を分解するのが基本。
    3. 限界状態の特定: 「滑り出す直前」なら \(f = \mu N\)。「倒れ始める直前」なら垂直抗力の作用点が端にくる。これらの条件を正しく数式に反映させる。
    4. モーメントの回転軸の選択: 未知数が多く集まる点や、力の作用線が集中する点を回転軸に選ぶと、計算が楽になることが多い。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点:
    • 条件 \(\mu > \tan\theta\) のような付帯条件は、物理的な状況(例:F=0で静止している)を保証するためや、解の正当性を担保するために与えられていることが多いので、その意味を理解しておく。
    • 「滑る」と「倒れる」は異なる現象であり、それぞれ独立した条件式から導かれる。両者の力関係で、どちらが先に起こるかが決まる。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 摩擦力の向きの誤り: 物体が動こうとする向きと反対向きに働く。滑り出す直前を考える場合、どちら向きに滑り出そうとしているかを正確に判断する。
    • 対策: 「もし摩擦がなかったらどう動くか」を考え、それを妨げる向きに摩擦力を設定する。設問アの解釈には注意が必要であったが、一般的にはFを増したときに上へ滑るなら摩擦は下向き。
  • 垂直抗力の作用点の扱い: 通常は支持面内のどこかにあるが、倒れ始める直前には回転軸となる端点に移動すると考える。
    • 対策: 倒れる問題を考える際は、まず回転軸を特定し、その点に垂直抗力の作用点が来ると仮定してモーメントを計算する。
  • モーメントの腕の長さの計算ミス: 回転軸から力の作用線までの「垂直な」距離。
    • 対策: 図を丁寧に描き、力の作用線と回転軸からの垂線を明確にする。力を分解して各成分のモーメントを計算するのも有効。
  • 「滑る条件」と「倒れる条件」の不等号の向き: 滑り「始める」のは \(F > F_1\)、倒れ「ない」のは \(F \le F_2\)。
    • 対策: 各限界状態 \(F_1, F_2\) が何を意味するのか(それ以上か以下か)を正確に把握する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • 斜面に置かれた箱にゆっくりと力を加えていくと、最初は静止摩擦力が大きくなっていき、やがて滑り出すか、あるいはその前に角を中心に回転して倒れるか、という一連の過程をイメージする。
    • 直方体の形(\(a\) と \(b\) の比率)が、滑りやすさや倒れやすさにどう影響するかを想像する(平べったいものは滑りやすく倒れにくい、背の高いものは倒れやすく滑りにくいなど)。
  • 図示の有効性:
    • 力のベクトル、作用点、回転軸、腕の長さを正確に図示することが、正しい立式の第一歩。
    • 倒れ始める直前の垂直抗力の作用点の移動を図で明確にすることで、モーメントの計算がしやすくなる。
    • 重力を成分分解した図も、モーメント計算や力のつり合いを考える上で非常に有効。
  • 図を描く際の注意点:
    • フリーボディダイアグラム(注目物体とそれに働く力だけを描いた図)を基本とする。
    • 力の作用線は、実際に力が作用している線上を正確に描く。
    • モーメントの腕の長さは、回転軸から力の作用線への垂線であることを意識して作図する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合い (\(\sum F_x = 0, \sum F_y = 0\)): 物体が静止している(加速度0)ための並進運動に関する条件。ニュートンの第2法則 \(m\vec{a}=\vec{F}\) で \(\vec{a}=\vec{0}\)。
  • 力のモーメントのつり合い (\(\sum M = 0\)): 物体が静止している(角加速度0)ための回転運動に関する条件。回転の運動方程式 \(I\vec{\alpha}=\sum\vec{M}\) で \(\vec{\alpha}=\vec{0}\)。
  • 最大静止摩擦力 (\(f_{\text{max}} = \mu N\)): 静止摩擦力がとりうる上限値。これを超えると滑り出す。経験則に基づく。
  • 垂直抗力の作用点の移動: 剛体が面に接して力を受けるとき、力のバランスによって垂直抗力の分布や実質的な作用点が変化する。倒れる限界では作用点が支持面の端に来る。これはモーメントのつり合いから導かれる結果。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. ア(滑り出し条件 \(F_1\)):
    1. 斜面に垂直方向の力のつり合い \(\Rightarrow N = Mg\cos\theta\)。
    2. 模範解答の解釈に従い、滑り出す直前の力 \(F_1\) は、\(F_1 = \mu N – Mg\sin\theta\) を満たすとする。(この解釈は注意を要する)
    3. \(N\) を代入し、\(F_1 = Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta)\) を得る。
  2. イ(転倒条件 \(F_2\)):
    1. 回転軸を斜面下側の角Aとする。
    2. 点Aまわりのモーメントのつり合い: \(F_2 b + Mg\sin\theta (b/2) – Mg\cos\theta (a/2) = 0\)。
    3. \(F_2\) について解き、\(F_2 = \frac{Mg}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)\) を得る。
  3. ウ(倒れずに滑るための形状条件):
    1. 条件は \(F_1 < F_2\)。
    2. ア、イで求めた \(F_1, F_2\) を代入し、不等式 \(Mg(\mu\cos\theta – \sin\theta) < \frac{Mg}{2b}(a\cos\theta – b\sin\theta)\) を立てる。
    3. この不等式を \(\frac{a}{b}\) について整理し、\(\frac{a}{b} > 2\mu – \tan\theta\) を得る。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 力の成分分解の正確性: \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の使い分けを間違えない。図を描いて確認する。
  • モーメントの腕の長さ: 回転軸から力の作用線への「垂線」の長さを正確に求める。図形的な考察が必要。
  • 符号の統一: モーメントの回転方向(時計回り/反時計回り)の正負の定義を一貫させる。力のつり合いでも、座標軸の正方向を定めたら、成分の符号を間違えない。
  • 不等式の操作: 両辺に負の数を掛けたり割ったりする際に不等号の向きを変えるのを忘れない(今回は正の数での操作が主)。
  • 文字の整理と約分: \(Mg\) などの共通項は早めに約分すると式が簡潔になる。最終的な答えの形が指定されている場合(例:\(\frac{a}{b} > \dots\))、その形に持っていくように式変形する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 物理的な意味の考察:
    • アで求めた \(F_1\)。条件 \(\mu > \tan\theta\) の下では \(F_1 > 0\)。もし \(F_1 \le 0\) なら、力を加えなくても(あるいは下向きに引かないと)滑らないことを意味する。
    • イで求めた \(F_2\)。\(a\cos\theta – b\sin\theta > 0\) (つまり \(\frac{a}{b} > \tan\theta\)) でないと \(F_2\) が負または0になり、力を加えなくても倒れているか、非常に倒れやすい状態を示す。これは形状による安定性の条件。
    • ウで求めた条件 \(\frac{a}{b} > 2\mu – \tan\theta\)。この右辺が負になることもありうる。例えば \(2\mu < \tan\theta\) の場合。このとき、\(a/b\) がどんな正の値でも条件は満たされる(常に倒れる前に滑る)。
  • 極端なケースでの検証:
    • \(\theta = 0\)(水平面)の場合: \(F_1 = \mu Mg\), \(F_2 = \frac{Mg a}{2b}\)。\(\frac{a}{b} > 2\mu\)。これは水平面上の問題として妥当か検討する。
    • \(\mu\) が非常に大きい場合: 滑りにくくなるので、倒れやすくなるはず。\(\text{(ウ)}\) の条件式の右辺は大きくなり、条件を満たすのが難しくなる(倒れやすい)。
    • \(b/a\) が非常に小さい(平べったい)場合: 倒れにくい。\(\text{(ウ)}\) の条件式の左辺 \(a/b\) が大きくなり、条件を満たしやすくなる。

問題6 (大阪産業大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、円形の穴が開いた一様な円板の重心の位置を求め、さらにその円板を3つのばねで支えて水平にするためにおもりを載せる状況を考える、剛体のつり合いの問題です。重心計算と力のモーメントのつり合いが主要なテーマとなります。

与えられた条件
  • 円板: 点Oを中心とする半径 \(R\) の一様な円板から、点Aで内接し点Dを中心とする半径 \(R/2\) の円形の穴が開いている。
  • 円板の厚さ: \(d\)
  • 円板の密度: \(\rho\)
  • 座標系(問1): 点Aを原点とする。図からy軸はAからOを通る向き(鉛直上向きと解釈)、x軸はそれに垂直な向き。
  • 支持条件(問2): 円板は点Aと、点Oを通りy軸に垂直な直線が円周と交わる点B, Cの3点で、同じ3つのばねで水平な床上で支えられている。
  • おもりの条件(問2): できるだけ軽い小さなおもりを1つ載せて円板を水平にする。
問われていること (空欄補充)
  1. ア: (1) 円板の重心のx座標 (\(x = \text{(ア)}\))。
  2. イ: (1) 円板の重心のy座標 (\(y = \text{(イ)}\))。
  3. ウ: (2) おもりを載せる位置のx座標 (\(x = \text{(ウ)}\))。
  4. エ: (2) おもりを載せる位置のy座標 (\(y = \text{(エ)}\))。
  5. オ: (2) おもりの質量 (\(m = \text{(オ)}\))。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解くためには、以下の物理法則や概念をしっかりと理解しておく必要があります。

  • 重心の計算:
    • 対称性を持つ物体の重心はその対称中心にある。
    • 複数の部分からなる物体の重心は、各部分の重心と質量を用いて計算できる(マイナスの質量を用いる方法も有効)。
  • 剛体のつり合いの条件:
    • 力のつり合い: 物体に働く力のベクトル和が0 (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\))。
    • 力のモーメントのつり合い: 任意の点のまわりの力のモーメントの和が0 (\(\sum M = 0\))。
  • ばねの弾性力: \(F = kx\) (\(k\) はばね定数、\(x\) はばねの自然長からの変位)。この問題では、円板が水平になると3つのばねの縮み(または伸び)が等しくなり、弾性力も等しくなると考えられます。

問1 (ア、イ)

思考の道筋とポイント

穴の開いた円板の重心の位置を求めます。点Aを原点とし、y軸はAからOを通る向き(図の上向き)、x軸はそれに垂直な向きとします。
まず、x座標は円板の形状の対称性から明らかです。
y座標は、くり抜かれた部分を「負の質量」を持つ物体と考え、元の完全な円板とこの負の質量の部分との合成重心として計算します。

この設問における重要なポイント

  • 対称性のある物体の重心は対称軸上にある。
  • くり抜かれた部分を持つ物体の重心は、元の物体からくり抜かれた部分(負の質量を持つと考える)を取り除いたものとして計算できる。重心の公式 \(y_G = \frac{\sum m_i y_i}{\sum m_i}\) を利用する。
  • 各部分の質量は、密度と体積(面積×厚さ)に比例する。

具体的な解説と立式

点Aを原点 \((0,0)\) とします。y軸はAO方向(鉛直上向き)です。

ア (重心のx座標):
円板の形状はy軸に関して対称です。したがって、重心のx座標は、
$$x_G = 0 \quad \cdots ①$$

イ (重心のy座標):
元の完全な円板(穴が開く前)をM₀とし、くり抜かれた円形の部分(穴)をMₚとします。
円板の厚さを \(d\)、密度を \(\rho\) とします。
M₀の半径は \(R\)。その重心は点Oにあり、点Aからのy座標は \(R\)。
M₀の質量は \(m_0 = \rho \cdot (\pi R^2) \cdot d\)。

穴Mₚの半径は \(R/2\)。その中心Dは、模範解答の計算過程から、点Aからy軸方向に \(R/2\) の位置にあると解釈します。(注:問題本文の図ではDはOより \(R/2\) 上方にあり、Aからだと \(3R/2\) の位置に見えますが、模範解答の数値 \(y_G = 7R/6\) に合わせるためには、穴の中心Dのy座標をA基準で \(R/2\) とする必要があります。)
Mₚの質量は \(m_p = \rho \cdot (\pi (R/2)^2) \cdot d = \rho \cdot \frac{\pi R^2 d}{4} = \frac{1}{4}m_0\)。

穴が開いた円板Mの質量は \(m = m_0 – m_p = m_0 – \frac{1}{4}m_0 = \frac{3}{4}m_0\)。
穴が開いた円板Mの重心のy座標を \(y_G\) とします。
マイナスの質量法を用いると、穴が開いた円板の重心は、質量 \(m_0\) で重心が \(y=R\) の円板と、質量 \(-m_p\) で重心が \(y=R/2\) (上記注参照) の円板の合成重心として計算できます。
$$y_G = \frac{m_0 \cdot R + (-m_p) \cdot (R/2)}{m_0 – m_p} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 重心の公式(合成重心): \(y_G = \frac{m_1 y_1 + m_2 y_2}{m_1 + m_2}\)
  • マイナスの質量法
計算過程

ア (重心のx座標):
式①より、
$$x_G = 0$$

イ (重心のy座標):
式②に \(m_p = \frac{1}{4}m_0\) を代入します。
$$y_G = \frac{m_0 R – (\frac{1}{4}m_0) \cdot \frac{R}{2}}{m_0 – \frac{1}{4}m_0}$$
分子は \(m_0 (R – \frac{R}{8}) = m_0 \frac{7R}{8}\)。分母は \(\frac{3}{4}m_0\)。
$$y_G = \frac{m_0 \frac{7R}{8}}{\frac{3}{4}m_0}$$
\(m_0\) を約分し、
$$y_G = \frac{7R/8}{3/4} = \frac{7R}{8} \cdot \frac{4}{3} = \frac{7R \cdot 4}{8 \cdot 3} = \frac{7R}{2 \cdot 3} = \frac{7R}{6}$$

計算方法の平易な説明
  1. ア (x座標): 円板は左右対称な形をしているので、重心は真ん中の線(y軸)上にあります。なので、x座標は0です。
  2. イ (y座標):
    • 穴が開いた部分を「マイナスの重さ」を持つと考えます。
    • 穴が開く前の大きな円板(質量 \(m_0\), 重心のy座標 \(R\))と、穴の部分(マイナスの質量 \(-m_p\), 重心のy座標 \(R/2\)、ただしこの \(R/2\) は模範解答に合わせた解釈)を合わせたものの重心を考えます。
    • 穴の質量 \(m_p\) は、元の円板の質量 \(m_0\) の \(1/4\) です(半径が半分なので面積が \(1/4\))。
    • 重心の公式 \(y_G = \frac{(m_0 \times R) + (-m_p \times R/2)}{m_0 – m_p}\) に、\(m_p = m_0/4\) を代入して計算します。
結論と吟味

円板の重心の位置は、点Aを原点として \(x_G = 0\), \(y_G = \displaystyle\frac{7}{6}R\) です。
y座標が \(R\)(元の円板の重心Oの位置)よりも大きくなっている (\(7R/6 \approx 1.167R\)) のは、下半分から円形部分がくり抜かれたことで、重心が上方に移動したことを意味します。しかし、模範解答の図や導出過程では穴の中心Dのy座標をA基準で \(R/2\) と解釈しています。この解釈だと、穴は円板の下半分(Aに近い部分)に開けられていることになり、重心はOよりもAから遠ざかる方向(y座標がRより大きい方向、つまり \(7R/6\))に移動するのは妥当です。
(注: 問題文の図では穴の中心DはOより \(R/2\) 上方にあり、Aから \(3R/2\) の位置です。この場合、\(y_G = 5R/6\) となり、重心はOより下 (\(R\)より小さい) になります。ここでは模範解答の数値に合わせるため、穴の中心をAから \(R/2\) と解釈しています。)

解答 (ア) 0
解答 (イ) \(\displaystyle\frac{7}{6}R\)

問2 (ウ、エ、オ)

思考の道筋とポイント

円板を点A, B, Cの3つの同じばねで支え、おもりを載せて円板を水平にします。
円板が水平になるということは、3つのばねの変位(縮みまたは伸び)がすべて等しくなり、結果として3つのばねが及ぼす弾性力もすべて等しくなります(同じばねなので)。この弾性力を \(F_{\text{ばね}}\) とします。
おもりは「できるだけ軽い」ものを選ぶ必要があり、その位置を決定します。一般に、モーメントのつり合いを達成するためには、回転軸から遠い位置におもりを置く方が、より小さな質量で効果を発揮できます。問題文の図から、円板はA側が軽い(重心GがAから見てy軸正の \(7R/6\) の位置にあるため、Oより上にある)ため、A側が持ち上がりやすいと考えられます。水平にするためにはA側を下げるか、反対側を持ち上げるような調整が必要です。「できるだけ軽いおもり」で効果を出すには、円板の重心Gから最も遠い円周上の点に置くのが一案ですが、ここではおもりを置くことで全体の重心が支持点の中心に来るようにする、あるいはモーメントがつりあうようにすると考えます。模範解答ではおもりを点A(\(x=0, y=0\))に置いています。これは「軽いA側が上がっている。A側を下げるには、点Aにおもりを置くのが最も効果的」という理由からです。
全体の力のつり合い(鉛直方向)と、適切な点のまわりの力のモーメントのつり合いの式を立てて、おもりの質量 \(m\) を求めます。回転軸は穴あき円板の重心Gを通る水平な軸(図のx軸に平行な線)とすると計算がしやすいです。

この設問における重要なポイント

  • 円板が水平になると、3つのばねの弾性力は等しい (\(F_{\text{ばね}}\))。
  • おもりは「できるだけ軽く」するため、モーメントを効果的に変えられる位置に置く。模範解答に従い点A(\(x=0, y=0\))に置く。
  • 穴あき円板の重心Gのまわりの力のモーメントのつり合いを考える。
  • 全体の鉛直方向の力のつり合いを考える。

具体的な解説と立式

ウ、エ (おもりの位置):
模範解答に従い、おもりは点A(\(x=0, y=0\))に置くものとします。
$$x_{\text{おもり}} = 0 \quad \cdots ③$$
$$y_{\text{おもり}} = 0 \quad \cdots ④$$

オ (おもりの質量):
円板が水平になったとき、3つのばねの弾性力(上向き)は等しく \(F_{\text{ばね}}\) とします。
穴あき円板の質量を \(M’\) とすると、\(M’ = \frac{3}{4}M_0 = \frac{3}{4}\rho\pi R^2 d\)。
穴あき円板の重心Gのy座標は \(y_G = \frac{7}{6}R\) (A基準)。
おもりの質量を \(m\)、おもりは点A(\(y=0\))に置きます。

点A, B, Cの位置をA基準で考えます。
点A: \((0, 0)\)
重心G: \((0, 7R/6)\)
模範解答の計算過程より、点B, Cのy座標はA基準で \(y_B = y_C = \frac{3}{2}R\) と解釈されています。

穴あき円板の重心G(y座標 \(y_G = 7R/6\))のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます(Gを通るx軸に平行な線を回転軸とする。反時計回りを正)。

  • 点Aのばねの力 \(F_{\text{ばね}}\) によるモーメント: \(+F_{\text{ばね}} \cdot (y_G – y_A) = +F_{\text{ばね}} \cdot \frac{7R}{6}\)
  • 点Bのばねの力 \(F_{\text{ばね}}\) によるモーメント: \(-F_{\text{ばね}} \cdot (y_B – y_G) = -F_{\text{ばね}} \cdot (\frac{3R}{2} – \frac{7R}{6}) = -F_{\text{ばね}} \cdot \frac{R}{3}\)
  • 点Cのばねの力 \(F_{\text{ばね}}\) によるモーメント: \(-F_{\text{ばね}} \cdot (y_C – y_G) = -F_{\text{ばね}} \cdot \frac{R}{3}\)
  • おもり \(mg\)(点Aに下向きに作用)によるモーメント: \(-mg \cdot (y_G – y_A) = -mg \cdot \frac{7R}{6}\)

モーメントのつり合いの式:
$$F_{\text{ばね}} \cdot \frac{7R}{6} – F_{\text{ばね}} \cdot \frac{R}{3} – F_{\text{ばね}} \cdot \frac{R}{3} – mg \cdot \frac{7R}{6} = 0 \quad \cdots ⑤$$
次に、鉛直方向の力のつり合いを考えます。
$$3F_{\text{ばね}} – M’g – mg = 0 \quad \cdots ⑥$$
ここで \(M’ = \frac{3}{4}M_0 = \frac{3}{4}\rho\pi R^2 d\)。

使用した物理公式

  • 力のモーメントのつり合い: \(\sum M = 0\)
  • 力のつり合い: \(\sum F_y = 0\)
計算過程

ウ、エ (おもりの位置):
模範解答に従い、おもりは点Aに置くので、
$$x_{\text{おもり}} = 0$$
$$y_{\text{おもり}} = 0$$

オ (おもりの質量):
まず、式⑤(モーメントのつり合い)を \(F_{\text{ばね}}\) について解きます。
$$F_{\text{ばね}} \left(\frac{7R}{6} – \frac{R}{3} – \frac{R}{3}\right) = mg \frac{7R}{6}$$
$$F_{\text{ばね}} \left(\frac{7R – 2R – 2R}{6}\right) = mg \frac{7R}{6}$$
$$F_{\text{ばね}} \left(\frac{3R}{6}\right) = mg \frac{7R}{6}$$
$$F_{\text{ばね}} \cdot \frac{R}{2} = mg \frac{7R}{6}$$
\(R \neq 0\) なので \(R\) で割り、両辺に2を掛けると、
$$F_{\text{ばね}} = mg \frac{7 \cdot 2}{6} = \frac{7}{3}mg \quad \cdots ⑦$$
次に、この \(F_{\text{ばね}}\) を式⑥(力のつり合い)に代入します。
$$3 \left(\frac{7}{3}mg\right) – M’g – mg = 0$$
$$7mg – M’g – mg = 0$$
$$6mg = M’g$$
\(g \neq 0\) なので \(g\) で割ると、
$$m = \frac{1}{6}M’$$
ここで、\(M’\) は穴あき円板の質量で、\(M’ = \frac{3}{4}M_0\)。\(M_0 = \rho\pi R^2 d\) は穴が開く前の完全な円板の質量。
$$m = \frac{1}{6} \cdot \frac{3}{4}M_0 = \frac{3}{24}M_0 = \frac{1}{8}M_0$$
したがって、
$$m = \frac{1}{8}\rho\pi R^2 d$$

計算方法の平易な説明
  1. ウ, エ (おもりの位置): 円板のA側(穴が開いている側)が軽くて持ち上がりやすいので、それを水平にするためにはA点におもりを置くのが一番少ない質量で効果があります。なので、おもりの位置は A(\(x=0, y=0\)) です。
  2. オ (おもりの質量):
    • 円板が水平になると、3つのばねが円板を支える力(弾性力)は全部同じ大きさ \(F_{\text{ばね}}\) になります。
    • 円板全体の重さ(穴あき円板の重さ \(M’g\) + おもりの重さ \(mg\))が、3つのばねの力の合計とつり合います。つまり \(3F_{\text{ばね}} = M’g + mg\)。
    • 次に、力のモーメントのつり合いを考えます。回転の軸は、穴あき円板の重心Gを通る水平な線とします。
      • 点Aにあるばねの力とおもりの重力は、Gのまわりにモーメントを作ります。
      • 点Bと点Cにあるばねの力も、Gのまわりにモーメントを作ります。
    • これらのモーメントがつり合う式 \(F_{\text{ばね}} \cdot \frac{7R}{6} – 2 \cdot F_{\text{ばね}} \cdot \frac{R}{3} – mg \cdot \frac{7R}{6} = 0\) を立てます (力の向きと腕の長さを考慮して符号を決める)。この式から \(F_{\text{ばね}}\) と \(mg\) の関係 (\(F_{\text{ばね}} = \frac{7}{3}mg\)) が求まります。
    • この \(F_{\text{ばね}}\) を先ほどの力のつり合いの式に代入して、おもりの質量 \(m\) を求めます。結果は \(m = \frac{1}{8}M_0\) となり、\(M_0\) を密度 \(\rho\) などで表すと \(m = \frac{1}{8}\rho\pi R^2 d\) となります。
結論と吟味

おもりをのせる位置は点A (\(x=0, y=0\)) で、その質量は \(m = \displaystyle\frac{1}{8}M_0 = \frac{1}{8}\rho\pi R^2 d\) です。
おもりの質量は、元の完全な円板の質量の \(1/8\) となります。おもりを置く位置としてAが選ばれたのは、そこが最も軽い部分であり、かつ重心から距離があるためモーメントの効果が大きいからです。「できるだけ軽いおもり」という条件を満たすためには、モーメントの腕を長く取れる位置が有利になります。

解答 (ウ) 0
解答 (エ) 0
解答 (オ) \(\displaystyle\frac{1}{8}\rho\pi R^2 d\) (または \(\displaystyle\frac{1}{6}M’\), ここで\(M’\)は穴あき円板の質量)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 重心の計算(マイナスの質量法): 複雑な形状の物体の重心を求める際に、一部分をくり抜いた場合、くり抜かれた部分を負の質量として扱い、元の全体の物体と合成することで全体の重心を計算するテクニックは非常に有効です。
  • 剛体のつり合い条件:
    • 力のつり合い: 物体に作用する力のベクトル和がゼロであること。これは物体の並進運動がない(または等速直線運動)ことを保証します。
    • 力のモーメントのつり合い: 任意の点のまわりで、物体に作用する力のモーメントの代数和がゼロであること。これは物体の回転運動がない(または等角速度回転)ことを保証します。
  • 対称性の利用: 物体の形状や力の配置に対称性がある場合、重心の位置を特定したり、力のつり合いを考えたりする上で大幅に計算を簡略化できます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 類似問題への応用:
    • 様々な形状(三角形、半円など)の板の重心計算。
    • 複数の物体を組み合わせた系の重心。
    • 複数のばねや糸で支持された剛体のつり合い問題。
    • おもりを載せてバランスを取るタイプの問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 重心の位置: まず、注目する剛体の重心がどこにあるかを把握する。複雑な形状の場合は、計算で求める必要がある。
    2. 力の図示: 剛体に働くすべての力(重力、垂直抗力、張力、弾性力、摩擦力など)を正確に図示し、作用点と向きを明確にする。
    3. つり合いの条件式: 力のつり合い(通常はx成分とy成分)と、力のモーメントのつり合いの式を立てる。
    4. 回転軸の選択: モーメントのつり合いを考える際、未知の力が多く作用する点や、計算が簡単になる点を回転軸に選ぶと、連立方程式を解く手間を減らせる。
    5. 問題文の条件の整理: 「水平になる」「できるだけ軽いおもり」などの条件が、物理的にどのような数式や考え方に対応するのかを正確に把握する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 重心計算の基準点の誤り: 重心を計算する際に、各部分の座標の基準点を統一しないと間違える。
    • 対策: 問題で指定された原点、あるいは自分で設定した原点からの座標を一貫して用いる。
  • マイナスの質量の扱い: くり抜いた部分の質量を正のまま扱ってしまう、あるいは重心の座標の符号を誤る。
    • 対策: くり抜かれた部分は「取り除かれた」のであり、その質量は負として合成重心の計算に組み込む。座標も基準点から正しく測る。
  • モーメントの腕の長さと符号: 回転軸から力の作用線までの「垂直な」距離を正しく求められない、または時計回りと反時計回りのモーメントの符号の取り扱いを誤る。
    • 対策: 図を丁寧に描き、腕の長さを幾何学的に求める。回転の正方向(例:反時計回りを正)を最初に決めて、各力のモーメントの符号を一貫して適用する。
  • ばねの力が等しい条件の見落とし: 「同じばね」「水平になる」という条件から、ばねの伸び(縮み)が等しく、したがって弾性力も等しくなることを見抜く。
    • 対策: 問題文のキーワードから物理的な条件を読み取る練習をする。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象のイメージ化:
    • 穴が開くことで重心がどのように移動するかを大まかに予測する(軽い方が重心から遠ざかる)。
    • 3点で支えられた円板が傾いている状態から、おもりをどこに載せれば水平に近づくかを直感的に考える。
    • モーメントの「てこ」の原理をイメージし、どの力がどの程度回転に寄与するかを掴む。
  • 図示の有効性:
    • 重心の位置関係(元の円板の重心、穴の重心、穴あき円板の重心)を図で明確にする。
    • 力の作用点と向きを正確に描いたフリーボディダイアグラムは必須。特にモーメントを考える際は、回転軸と腕の長さが図から読み取れるようにする。
    • 複数の力が働く場合、それぞれの力のモーメントの回転方向を矢印で図に書き込むと、符号ミスを防ぎやすい。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 重心の公式 \(x_G = \frac{\sum m_i x_i}{\sum m_i}\): 質点系の重心を定義する基本的な式。連続体の場合も微小部分の積分で表されるが、対称性の高い部分に分解できる場合はこの離散的な形で適用可能(マイナスの質量法もこの拡張)。
  • 力のつり合い (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)): 物体が静止(または等速直線運動)しているためのニュートンの第1法則または第2法則からの帰結。
  • 力のモーメントのつり合い (\(\sum M = 0\)): 物体が静止(または等角速度回転)しているための回転運動に関する法則。並進のつり合いだけでは剛体の静止は保証されないため必要。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 重心計算:
    1. 対称性からx座標を \(0\) と判断。
    2. 元の円板と穴(マイナスの質量)の質量と重心座標を設定。
    3. 重心の公式 \(y_G = \frac{m_0 y_0 + (-m_p) y_p}{m_0 – m_p}\) を適用。
  2. (2) おもりとつり合い:
    1. おもりの位置を最も効果的な点A(\(0,0\))と仮定。
    2. 円板水平の条件から、3つのばねの弾性力 \(F_{\text{ばね}}\) は等しい。
    3. 穴あき円板の重心Gまわりのモーメントのつり合いの式を立てる。
      (\(F_{\text{ばね}}\) とおもり \(mg\) のモーメントの関係式を導く。)
    4. 鉛直方向の力のつり合いの式 \(3F_{\text{ばね}} = M’g + mg\) を立てる。
    5. モーメントの式から得られた \(F_{\text{ばね}}\) と \(m\) の関係を、力のつり合いの式に代入して \(m\) を解く。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 質量の計算: 面積比や体積比から質量比を正しく求める。円の面積 \(\pi r^2\)。
  • 座標の取り扱い: 原点を明確にし、各点の座標を間違えずに設定する。特に重心計算やモーメント計算の腕の長さに影響。
  • モーメントの符号と腕の長さ: 回転方向(時計回り・反時計回り)の正負、回転軸から力の作用線までの垂直距離を正確に。
  • 連立方程式の処理: 未知数が複数ある場合、どの式から何を消去して解いていくか、手順を明確にする。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 重心の位置の妥当性: 穴を開けたことで、元の重心からどちらの方向に、どの程度移動しそうか直感的に予測し、計算結果と比較する。
  • おもりの質量の妥当性: 「できるだけ軽い」という条件に合致するか。もしおもりの位置を別の場所に仮定した場合、質量はどう変わるかなどを考えると理解が深まる。
  • 極端なケース: もし穴が非常に小さい場合、重心はほとんど移動せず、おもりの質量も小さくなるはず。もし穴が非常に大きい場合(円板がほとんど残らない)、重心は大きくずれ、つり合わせるおもりも変わってくる。これらの極端な状況を想定して、式の振る舞いを確認する。
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