「名問の森」徹底解説(28〜30問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題28 (筑波大+名古屋大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、一端を固定された軽い糸につけられた小球の鉛直面内での円運動を扱います。特筆すべきは、運動の途中で糸がくぎに引っかかり、円運動の中心と半径が変わる点です。小球の速さ、糸の張力、糸がゆるむ条件、そして円運動を続けるための初期条件などが問われています。力学的エネルギー保存則と、円運動の向心力(あるいは遠心力とのつり合い)の考え方が中心となります。

与えられた条件
  • 小球の質量: \(m\) [kg]
  • 糸の長さ: \(l\) [m] (軽くて細い)
  • 固定点A: 糸の上端。
  • くぎB: 点Aから鉛直下方 \(\frac{3}{4}l\) の位置に水平に固定(細くて滑らか)。
  • 初期状態: 糸が鉛直線となす角が \(\theta = 60^\circ\) の位置で、小球を静かに放す。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
問われていること
  1. (1) 小球が最下点Cを通るときの速さ。
  2. (2) 小球が点Cを通る直前での糸の張力 \(T_1\) と、通った直後の糸の張力 \(T_2\)。
  3. (3) 小球が点Bと同じ高さの点Dを通るときの糸の張力 \(T_D\)(モデル解答では \(T_0\))。
  4. (4) 小球が点Eに達したとき糸がゆるんだ場合の \(\sin\alpha\)(\(\alpha = \angle EBD\))。
  5. (5) 糸がたるむことなく小球がBを中心とする円弧を描き、Bの鉛直上方 \(\frac{1}{4}l\) の点Fに達するための、はじめの角 \(\theta_0\) に関する \(\cos\theta_0\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となるのは、「力学的エネルギー保存則」と「円運動の運動方程式(または遠心力を用いた力のつり合い)」です。糸の張力は常に小球の運動方向と垂直なので仕事をせず、また摩擦も考えないため、力学的エネルギーは保存されます。円運動をしている各点では、その時点での円運動の中心と半径を正確に把握し、半径方向の力の合力が向心力となっている(あるいは遠心力とつり合っている)という関係式を立てます。「糸がゆるむ」という条件は張力が0になること、「最高点を通過する」条件は最高点での張力が0以上であること、と物理的に解釈します。

問 (1)

思考の道筋とポイント

小球は、初めの位置(糸が鉛直線と60°をなす高さ)から最下点Cまで運動する間、重力と糸の張力のみを受けます。糸の張力は常に小球の運動方向と垂直なので仕事をしません。したがって、この間で小球の力学的エネルギーは保存されます。最下点Cを位置エネルギーの基準(高さ0)とし、初めの位置の高さを計算して、エネルギー保存則を適用します。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則が適用できます。
  • 初めの状態: 速さ0。最下点Cからの高さは \(l – l\cos60^\circ\)。
  • 後の状態(最下点C): 高さを0(基準)。速さを \(v_C\)(モデル解答では \(v_0\))とする。

具体的な解説と立式

小球が最下点Cを通るときの速さを \(v_0\) とします。
初めの位置(糸の角度が60°)での小球の高さは、最下点Cを基準とすると、\(h_{\text{初}} = l – l\cos60^\circ\) です。\(\cos60^\circ = 1/2\) なので、\(h_{\text{初}} = l – l/2 = l/2\) となります。
初めの状態では小球は静かに放されるので、速さは0です。
力学的エネルギー保存則より、
(初めの運動エネルギー)+(初めの位置エネルギー)=(最下点Cでの運動エネルギー)+(最下点Cでの位置エネルギー)
$$\frac{1}{2}m(0)^2 + mg(l(1-\cos60^\circ)) = \frac{1}{2}mv_0^2 + mg(0)$$
したがって、
$$mgl(1-\cos60^\circ) = \frac{1}{2}mv_0^2 \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
計算過程

式①に \(\cos60^\circ = 1/2\) を代入して \(v_0\) を求めます。
$$mgl\left(1-\frac{1}{2}\right) = \frac{1}{2}mv_0^2$$
$$mgl \cdot \frac{1}{2} = \frac{1}{2}mv_0^2$$両辺の \(\frac{1}{2}m\) を消去します(\(m \neq 0\))。$$gl = v_0^2$$速さ \(v_0\) は正なので、平方根をとると、$$v_0 = \sqrt{gl} \quad \cdots ②$$

計算方法の平易な説明

小球が最初の位置から一番下の点Cまで動くとき、重力だけが仕事をするので、エネルギーの合計(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は変わりません。最初の位置では小球は止まっているので運動エネルギーはゼロ、位置エネルギーは一番下の点Cを基準にすると \(mg \times (\text{高さの差})\) です。一番下の点Cでは位置エネルギーはゼロ、運動エネルギーは \(\frac{1}{2}mv_0^2\) です。これらのエネルギーの合計が等しいという式を立てて、速さ \(v_0\) を計算します。

結論と吟味

小球が最下点Cを通るときの速さは \(v_0 = \sqrt{gl}\) です。
この結果は、振り子の運動でよく見られる速さの形です。単位も [m/s] となり、速さの単位として正しいです。

解答 (1) \(\sqrt{gl}\)

問 (2)

思考の道筋とポイント

点Cを通る直前と直後では、小球は円運動をしています。円運動の中心と半径が直前と直後で変わる点に注意が必要です。どちらの場合も、小球の速さは(1)で求めた \(v_0 = \sqrt{gl}\) です(くぎBに引っかかる瞬間には張力以外の力は仕事をしないので、速さは変わりません)。
円運動をしている物体には、円の中心に向かう方向の合力(向心力)が働いています。この向心力は、糸の張力と重力の合力(またはその成分)によって供給されます。あるいは、小球と共に回転する観測者の立場から見れば、遠心力と他の力がつり合っていると考えます。

この設問における重要なポイント

  • 点Cでの速さは \(v_0 = \sqrt{gl}\) です。
  • 点C直前: 円運動の中心はA、半径は \(l\)。
  • 点C直後: 円運動の中心はB、半径は \(l’ = l – \frac{3}{4}l = \frac{1}{4}l\)。
  • それぞれの状況で、半径方向の力のつり合い(遠心力を考慮)または運動方程式(向心力)を立てます。

具体的な解説と立式

点Cを通る直前の張力 \(T_1\):
このとき、小球は点Aを中心とする半径 \(l\) の円運動の一部をなしています。最下点Cでは、小球に働く力は、鉛直上向きの張力 \(T_1\) と鉛直下向きの重力 \(mg\) です。小球と共に回転する観測者から見ると、これらに加えて鉛直下向き(円運動の中心Aから遠ざかる向き)に遠心力 \(m\displaystyle\frac{v_0^2}{l}\) が働いてつり合っていると考えられます。
力のつり合い(鉛直上向きを正):
$$T_1 – mg – m\frac{v_0^2}{l} = 0$$したがって、$$T_1 = mg + m\frac{v_0^2}{l} \quad \cdots ③$$

点Cを通った直後の張力 \(T_2\):
糸がくぎBに引っかかったため、この瞬間から小球は点Bを中心とする半径 \(r’ = l – \frac{3}{4}l = \frac{1}{4}l\) の円運動を始めます。点Cでの速さは直前と変わらず \(v_0\) です。
最下点Cでは、小球に働く力は、鉛直上向きの張力 \(T_2\) と鉛直下向きの重力 \(mg\) です。小球と共に回転する観測者から見ると、これらに加えて鉛直下向き(円運動の中心Bから遠ざかる向き)に遠心力 \(m\displaystyle\frac{v_0^2}{r’} = m\frac{v_0^2}{l/4}\) が働いてつり合っていると考えられます。
力のつり合い(鉛直上向きを正):
$$T_2 – mg – m\frac{v_0^2}{l/4} = 0$$したがって、$$T_2 = mg + m\frac{4v_0^2}{l} \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い(遠心力を考慮): \(\sum F_{\text{半径方向}} = 0\)
  • 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = mv^2/r\)
  • 円運動の半径の変化
計算過程

まず、点C直前の張力 \(T_1\) を求めます。式③に \(v_0^2 = gl\) (式②の2乗) を代入します。
$$T_1 = mg + m\frac{gl}{l} = mg + mg$$
$$T_1 = 2mg \quad \cdots ⑤$$

次に、点C直後の張力 \(T_2\) を求めます。式④に \(v_0^2 = gl\) を代入します。
$$T_2 = mg + m\frac{4(gl)}{l} = mg + 4mg$$
$$T_2 = 5mg \quad \cdots ⑥$$

計算方法の平易な説明

小球が一番下の点Cを通るとき、小球は円運動をしています。このとき、糸が小球を引っ張る力(張力)は、小球の重力と、円運動による外向きの力(遠心力)の合計と釣り合っています。
点Cの直前では、円運動の半径は糸の全長 \(l\) です。点Cを通過した直後では、糸がくぎBに引っかかるため、円運動の半径は \(l/4\) に短くなります。しかし、点Cでの小球の速さは直前と直後で変わりません。それぞれの半径を使って遠心力を計算し、張力を求めます。半径が小さいほど、同じ速さでも遠心力は大きくなるため、張力も大きくなるはずです。

結論と吟味

小球が点Cを通る直前での糸の張力 \(T_1\) は \(2mg\) です。
点Cを通った直後の糸の張力 \(T_2\) は \(5mg\) です。
円運動の半径が \(l\) から \(l/4\) へと1/4になったことで、同じ速さ \(v_0\) であっても遠心力は4倍 (\(m v_0^2 / (l/4) = 4 m v_0^2 / l\)) になります。その結果、張力も \(mg + (\text{遠心力})\) の形で大きく変化し、\(T_2 > T_1\) となっています。これは物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(T_1 = 2mg\), \(T_2 = 5mg\)

問 (3)

思考の道筋とポイント

小球が点Bと同じ高さの点Dを通るときを考えます。このとき、小球は点Bを中心とする半径 \(r’ = l/4\) の円運動の途中にあります。点Dでの速さを \(v_D\) とします。まず、最下点Cと点Dの間で力学的エネルギー保存則を適用して \(v_D\) を求めます。点Dは点Cから見て高さ \(l/4\) の位置にあります。次に、点Dでは糸BDが水平になるため、糸の張力 \(T_D\) がそのまま向心力となります(重力は鉛直下向きなので、この瞬間の半径方向には成分を持ちません)。

この設問における重要なポイント

  • 点Dは点Bと同じ高さなので、最下点Cからの高さは \(l/4\) です。
  • 力学的エネルギー保存則を用いて点Dでの速さ \(v_D\) を求めます。
  • 点Dでは、糸BDは水平となり、張力 \(T_D\) が向心力となります。円運動の半径は \(l/4\)。

具体的な解説と立式

点Dでの小球の速さを \(v_D\) とします。最下点Cを位置エネルギーの基準(高さ0)とします。点Dの高さは \(l/4\) です。
最下点Cと点Dの間での力学的エネルギー保存則より、
(Cでの運動エネルギー)+(Cでの位置エネルギー)=(Dでの運動エネルギー)+(Dでの位置エネルギー)
$$\frac{1}{2}mv_0^2 + 0 = \frac{1}{2}mv_D^2 + mg\left(\frac{l}{4}\right) \quad \cdots ⑦$$
(ここで \(v_0\) は(1)で求めた最下点Cでの速さ \(\sqrt{gl}\) です。)

点Dでは、糸BDは水平になっています。このとき、小球に働く半径方向(水平方向、中心B向き)の力は張力 \(T_D\) のみです(重力 \(mg\) は鉛直下向きなので、この方向の成分はありません)。この張力 \(T_D\) が向心力となります。円運動の半径は \(r’ = l/4\)、速さは \(v_D\) なので、運動方程式(または遠心力とのつり合い)は、
$$T_D = m\frac{v_D^2}{l/4} \quad \cdots ⑧$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • 円運動の運動方程式(向心力)または力のつり合い(遠心力)
計算過程

まず、式⑦から \(v_D^2\) を求めます。(1)で求めた \(v_0^2 = gl\) (式②の2乗) を代入します。
$$\frac{1}{2}m(gl) = \frac{1}{2}mv_D^2 + \frac{1}{4}mgl$$両辺の \(m\) を消去し、2倍すると、$$gl = v_D^2 + \frac{1}{2}gl$$
$$v_D^2 = gl – \frac{1}{2}gl = \frac{1}{2}gl \quad \cdots ⑨$$次に、この \(v_D^2\) を式⑧に代入して張力 \(T_D\) を求めます。$$T_D = m\frac{\frac{1}{2}gl}{l/4} = m \frac{gl}{2} \cdot \frac{4}{l}$$
$$T_D = 2mg \quad \cdots ⑩$$

計算方法の平易な説明

小球が点D(くぎBと同じ高さ)を通るときを考えます。まず、小球が一番下の点Cから点Dまで上がるときのエネルギーの変化を見ます。エネルギーの合計は変わらないので、点Dでの運動エネルギー(つまり速さ)がわかります。次に、点Dでは糸が水平になっているので、小球を円の中心Bに向かって引いているのは糸の力(張力 \(T_D\))だけです。この張力が、円運動を続けるために必要な力(向心力、あるいは外向きの遠心力とつり合う力)になっていると考え、速さを使って張力 \(T_D\) を計算します。

結論と吟味

小球が点Bと同じ高さの点Dを通るときの糸の張力 \(T_D\) は \(2mg\) です。
このとき、小球の速さは \(v_D = \sqrt{gl/2}\) となっています。興味深いことに、この張力 \(2mg\) は、最下点Cを通る直前の張力 \(T_1 = 2mg\) と同じ値です。これは、点Dでは重力が向心力に直接寄与しない(張力のみが向心力となる)のに対し、点C(直前)では張力が重力に打ち勝った上でさらに向心力を供給する必要があるため、状況は異なりますが、特定の速度と半径の関係によって偶然同じ値になったと考えられます。

解答 (3) \(2mg\)

問 (4)

思考の道筋とポイント

小球が点Eに達したとき、糸がゆるむとあります。糸がゆるむ瞬間は、糸の張力が0になるときです (\(T_E=0\))。このとき、小球は点Bを中心とする半径 \(r’=l/4\) の円運動の途上にあり、糸BEが水平線BDとなす角が \(\alpha\)(\(\angle EBD = \alpha\))です。点Eでの速さを \(v_E\) とします。
まず、点Eでの半径方向の力のつり合い(または運動方程式)を考えます。張力 \(T_E=0\) なので、重力の半径方向成分が向心力の役割を果たす(あるいは遠心力の半径方向成分とつり合う)ことになります。
次に、最下点C(または初めの放出点)と点Eとの間で力学的エネルギー保存則を立てます。点Eの高さは、Bの高さ(Cから \(l/4\))と角度 \(\alpha\) を用いて表す必要があります。モデル解答の図から、点Eは点Bの水平線BDより上にあると解釈できます。
これらの2つの式を連立させて \(\sin\alpha\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 糸がゆるむ条件は、張力 \(T_E = 0\) です。
  • 点Eでの円運動の半径は \(l/4\)。
  • 点Eでの半径方向の力のつり合い(または運動方程式)を立てます。このとき、重力 \(mg\) の半径方向(糸の方向)成分を考慮します。モデル解答の図に基づくと、\(\alpha = \angle EBD\) であり、EがBより上方にある場合、重力の糸に沿った成分は \(mg\sin\alpha\) となります(糸が水平線となす角が \(\alpha\) のため)。
  • 力学的エネルギー保存則を、例えば最下点Cと点Eの間で立てます。点Eの高さ(C基準)を \(\alpha\) を用いて正しく表すことが重要です。点EのCからの高さは \(\frac{l}{4} + \frac{l}{4}\sin\alpha\)。

具体的な解説と立式

小球が点Eに達したとき糸がゆるむので、その瞬間の張力 \(T_E = 0\) です。点Eでの速さを \(v_E\) とします。糸BEの長さ(円運動の半径)は \(r’ = l/4\) です。糸BEが水平線BDとなす角が \(\alpha\) (\(\angle EBD = \alpha\)) です。
点Eにおいて、小球に働く力の半径方向(中心B向き)の成分を考えます。張力は \(T_E=0\)。重力 \(mg\) の糸BEに沿った成分(中心B向き)は \(mg\sin\alpha\) です(EがBの水平線より上方にあるため)。これが向心力となります。
したがって、半径方向の運動方程式は、
$$m\frac{v_E^2}{l/4} = mg\sin\alpha \quad \cdots ⑪$$
(小球と共に回転する観測者から見れば、遠心力 \(m\frac{v_E^2}{l/4}\)(外向き)と重力の糸に沿った成分 \(mg\sin\alpha\)(中心向き)がつり合っている、と考えます。)

次に、力学的エネルギー保存則を考えます。最下点Cを位置エネルギーの基準(高さ0)とします。点Cでの速さは \(v_0 = \sqrt{gl}\) でした。
点Eの高さ \(h_E\) を求めます。点BのCからの高さは \(l/4\) です。点Eは、点Bから見て水平線BDより角度 \(\alpha\) だけ上に上がった位置なので、Bの高さからさらに \((l/4)\sin\alpha\) だけ高い位置にあります。したがって、点EのCからの高さは \(h_E = \frac{l}{4} + \frac{l}{4}\sin\alpha = \frac{l}{4}(1+\sin\alpha)\) です。
力学的エネルギー保存則より、(Cでの力学的エネルギー)=(Eでの力学的エネルギー)
$$\frac{1}{2}mv_0^2 + 0 = \frac{1}{2}mv_E^2 + mg\frac{l}{4}(1+\sin\alpha) \quad \cdots ⑫$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式(向心力)または力のつり合い(遠心力)
  • 糸がゆるむ条件: 張力 \(T=0\)
  • 力学的エネルギー保存則
  • 力の分解、幾何学的関係
計算過程

式⑪から \(v_E^2\) を求めると、
$$v_E^2 = \frac{gl}{4}\sin\alpha$$この \(v_E^2\) と、\(v_0^2 = gl\) (式②の2乗) を式⑫に代入します。$$\frac{1}{2}m(gl) = \frac{1}{2}m\left(\frac{gl}{4}\sin\alpha\right) + mg\frac{l}{4}(1+\sin\alpha)$$両辺の \(mg\) を消去し(\(m \neq 0, g \neq 0\))、さらに両辺を2倍すると、
$$l = \frac{l}{4}\sin\alpha + \frac{l}{2}(1+\sin\alpha)$$両辺を \(l\) で割ります(\(l \neq 0\))。
$$1 = \frac{1}{4}\sin\alpha + \frac{1}{2}(1+\sin\alpha)$$両辺を4倍して分母を払います。
$$4 = \sin\alpha + 2(1+\sin\alpha)$$$$4 = \sin\alpha + 2 + 2\sin\alpha$$$$4 = 3\sin\alpha + 2$$
$$3\sin\alpha = 4 – 2 = 2$$したがって、$$\sin\alpha = \frac{2}{3} \quad \cdots ⑬$$

計算方法の平易な説明

小球が点Eで糸がゆるむというのは、その瞬間、糸が小球を引く力(張力)がゼロになったということです。このときでも、小球はまだ速さ \(v_E\) を持って円運動(あるいはその一部)をしようとしています。円運動をするためには中心に向かう力が必要ですが、張力がゼロなので、この力は重力の成分によって供給される(あるいは遠心力と重力の成分がつり合う)ことになります。この関係から、点Eでの速さ \(v_E\) と角度 \(\alpha\) の間に一つの式が成り立ちます。
もう一つはエネルギーのルールです。小球が最初の位置から点Eまで動く間、エネルギーの合計は変わりません。これを使って、点Eでの速さ \(v_E\) と角度 \(\alpha\) の間にもう一つの式を立てます。
こうして得られた2つの式を組み合わせる(連立方程式を解く)ことで、\(\sin\alpha\) の値を求めます。

結論と吟味

\(\sin\alpha = \displaystyle\frac{2}{3}\) です。
この値は \(0 < \sin\alpha \le 1\) の範囲内にあるため、物理的に意味のある角度として存在し得ます。糸がたるむのは、円運動を続けるために必要な張力が供給できなくなったときであり、この問題では張力が0になる点をその限界としています。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{2}{3}\)

問 (5)

思考の道筋とポイント

小球が糸がたるむことなく、Bを中心とする円弧を描いてBの鉛直上方 \(\frac{1}{4}l\) のところにある点F(つまり、Bを中心とする円運動の最高点)に達するための条件を考えます。物体が円運動を続けるためには、軌道上の各点で張力が0以上である必要があります。特に、円運動の最高点Fで張力がちょうど0になる(あるいは0より大きい)ことが、円を描いて運動を続けるためのぎりぎりの条件となります。この限界条件(最高点Fで張力 \(T_F \ge 0\)、ぎりぎりなら \(T_F=0\))から、点Fでの最小限必要な速さ \(v_F\) を求めます。次に、初めの放出角を \(\theta_0\) とし、初めの位置と点Fとの間で力学的エネルギー保存則を立て、この \(v_F\) を用いて \(\cos\theta_0\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 円運動の最高点Fを通過するための条件は、最高点Fでの張力 \(T_F \ge 0\) です。ぎりぎりの場合は \(T_F=0\)。
  • 点Fでの円運動の半径は \(l/4\)。
  • 点Fでの半径方向の力のつり合い(または運動方程式)から、\(T_F=0\) となる場合の速さ \(v_F\) を求めます。このとき、重力も向心方向(下向き)に働くことに注意します。
  • 力学的エネルギー保存則を、初めの放出位置(角度 \(\theta_0\))と点Fの間で立てます。

具体的な解説と立式

小球が点F(点Bの真上 \(l/4\) の位置、すなわちBを中心とする円運動の最高点)に達するためのぎりぎりの条件を考えます。このとき、点Fでの張力 \(T_F\) がちょうど0になるとします。点Fでの速さを \(v_F\) とします。
点Fでは、小球に働く力は鉛直下向きの重力 \(mg\) と、もし張力があれば鉛直下向きの張力 \(T_F\) です。これらの力の合力が向心力となります(円運動の中心Bに向かう力)。円運動の半径は \(r’ = l/4\) です。
半径方向(鉛直下向きを正とする)の運動方程式は、
$$mg + T_F = m\frac{v_F^2}{l/4}$$
ぎりぎりの条件として \(T_F=0\) とすると、
$$mg = m\frac{v_F^2}{l/4} \quad \cdots ⑭$$

次に、初めの放出位置(糸が鉛直線となす角 \(\theta_0\)、このとき小球の高さは最下点Cを基準として \(l(1-\cos\theta_0)\))と点F(最下点Cからの高さは、CからBまでが \(l/4\)、BからFまでが \(l/4\) なので、合計 \(l/4 + l/4 = l/2\))の間で力学的エネルギー保存則を立てます。最下点Cを位置エネルギーの基準(高さ0)とします。
(初めの運動エネルギー)+(初めの位置エネルギー)=(Fでの運動エネルギー)+(Fでの位置エネルギー)
$$0 + mgl(1-\cos\theta_0) = \frac{1}{2}mv_F^2 + mg\left(\frac{l}{2}\right) \quad \cdots ⑮$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式(向心力)または力のつり合い(遠心力)
  • 円運動を続けるための条件(最高点での張力 \(\ge 0\))
  • 力学的エネルギー保存則
計算過程

まず、式⑭から \(v_F^2\) を求めます。
$$mg = m\frac{4v_F^2}{l}$$
\(m\) を消去すると、
$$g = \frac{4v_F^2}{l}$$
したがって、
$$v_F^2 = \frac{gl}{4}$$
次に、この \(v_F^2\) の値を式⑮に代入します。
$$mgl(1-\cos\theta_0) = \frac{1}{2}m\left(\frac{gl}{4}\right) + mg\frac{l}{2}$$
両辺の \(mgl\) で割ります(\(mgl \neq 0\) と仮定)。
$$1-\cos\theta_0 = \frac{1}{2}\left(\frac{1}{4}\right) + \frac{1}{2}$$
$$1-\cos\theta_0 = \frac{1}{8} + \frac{4}{8} = \frac{5}{8}$$
\(\cos\theta_0\) について解くと、
$$\cos\theta_0 = 1 – \frac{5}{8} = \frac{3}{8} \quad \cdots ⑯$$

計算方法の平易な説明

小球がくぎBを中心とした円軌道のちょうど真上(点F)まで、糸がたるむことなく到達できるための、最初の振り出し角度 \(\theta_0\) を求めます。円軌道のてっぺんである点Fをぎりぎり通過できる条件は、その点で糸の張力がちょうどゼロになる(しかし、たるみはしない)ときです。このとき、小球の重力が円運動を続けるために必要な力(向心力)になっていると考えます(あるいは、見かけの力である遠心力と重力が釣り合っている)。この条件から、点Fでの小球の速さ \(v_F\) が決まります。
次に、最初の振り出し位置(角度 \(\theta_0\) で静かに放す)から点Fまでの間で、エネルギーの合計(運動エネルギーと位置エネルギーの和)が変わらないというルール(力学的エネルギー保存則)を使います。最初の位置エネルギーと、点Fでの運動エネルギー(上で求めた \(v_F\) を使います)および点Fでの位置エネルギーが等しいという式を立て、これを最初の角度 \(\theta_0\)(の余弦 \(\cos\theta_0\))について解きます。

結論と吟味

はじめの角 \(\theta_0\) は、\(\cos\theta_0 = \displaystyle\frac{3}{8}\) を満たす角度である必要があります。問題文は「いくら以上でなければならないか」と聞いていますが、これは \(\theta_0\) の値がこのときの角度よりも小さい(つまり、より高い位置から放す)必要があることを意味します(\(\cos\theta_0\) の値としては、この値以下である必要がある)。
\(\cos\theta_0 = 3/8 \approx 0.375\) であり、これは \(0 < \cos\theta_0 < 1\) を満たすので、物理的に意味のある角度です。この角度は、最初の設問の \(\theta=60^\circ\)(\(\cos60^\circ = 0.5 = 4/8\))と比較すると、\(\cos\theta_0 = 3/8 < 4/8\) なので、\(\theta_0 > 60^\circ\) となります。つまり、(1)の初期状態よりもさらに大きな角度(より低い位置)から放すと、最高点Fには到達できない可能性があることを示唆しています。一周するためには、より高い位置(より小さい \(\theta_0\))から放す必要がある、という直感とは逆の結果に見えるかもしれませんが、これは「いくら以上」という言葉が角度 \(\theta_0\) そのものの値ではなく、振り上げの高さ(\(1-\cos\theta_0\) に比例)に関連していると解釈できます。より正確には、\(\cos\theta_0 \le 3/8\) を満たすような初期角 \(\theta_0\) から放す必要がある、つまり \(\theta_0\) はある値よりも大きく(より低い位置から)放してしまうとFに到達できない、という限界の角度を求めたことになります。したがって、Fに達するためには、この \(\cos\theta_0 = 3/8\) に対応する \(\theta_0\) よりも「小さい」角度(より高い位置)から放す必要がある、というのが正しい解釈です。モデル解答は \(\cos\theta_0 = 3/8\) を求めています。

解答 (5) \(\cos\theta_0 = \displaystyle\frac{3}{8}\) (この \(\cos\theta_0\) の値を与える角度が、Fに達するための振り出し角の上限(最も低い位置)を示します。したがって、この \(\theta_0\) 以下の角度から放す必要があります。)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力学的エネルギー保存則: 糸の張力は常に小球の運動方向と垂直であるため仕事をせず、また摩擦や空気抵抗も無視できるため、系全体の力学的エネルギー(運動エネルギーと重力による位置エネルギーの和)は常に保存される。これが各点での速さを求める上での基本となった。
  • 円運動の動力学(向心力または遠心力とのつり合い): 小球が円運動をしている各点において、円の中心に向かう方向の力の合成分が向心力 \(m v^2/r\) となっている(慣性系)。あるいは、小球と共に回転する観測者から見れば、遠心力 \(m v^2/r\) が働き、これと他の実在の力の半径方向成分とがつり合っている(非慣性系)。張力を求める際にこの考え方を用いた。
  • 糸がゆるむ条件: 糸が張力を及ぼさなくなる、すなわち張力 \(T=0\) となる瞬間が「糸がゆるむ」ときである。これは、円運動を継続できなくなる限界条件の一つ。
  • 円運動を継続する条件(最高点通過条件): 物体が円軌道の最高点を通過するためには、最高点である程度の速さが必要であり、その結果として張力が0以上(ぎりぎりなら張力0)を保つ必要がある。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 鉛直面内での振り子の運動、ジェットコースターのループ運動など、重力下での円運動全般。
    • 途中で運動の条件が変わる問題(この問題ではくぎに引っかかって回転半径が変わる)。
    • 物体が軌道から離れる条件や、一周するための条件を問う問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. エネルギー保存則の適用可能性: まず、非保存力(摩擦など)が仕事をしているかを確認し、力学的エネルギー保存則が使えるか判断する。使える場合は、どの2点間でエネルギーを比較するかを考える。
    2. 円運動をしている部分の特定: 物体が円運動をしている区間や瞬間を見抜き、その円運動の中心と半径を正確に把握する。
    3. 力の図示と半径方向の運動方程式(またはつり合い): 円運動をしている物体にはたらく全ての力を図示し、円の半径方向に運動方程式(または遠心力を含めた力のつり合いの式)を立てる。
    4. 限界条件の数式化: 「糸がゆるむ」「面から離れる」「最高点を通過するぎりぎり」といった言葉で表される物理的な限界条件を、張力や垂直抗力、速度などを用いた数式(例: \(T=0\), \(N=0\))に置き換える。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 円運動の半径の誤認:
    • 現象: くぎに引っかかった後など、円運動の半径が変わる場合に、常に最初の糸の長さ \(l\) を半径として計算してしまう。
    • 対策: 運動の各段階で、どの点を中心に、どのくらいの半径で円運動しているのかを常に図で確認する。
  • 最高点での速度の誤解:
    • 現象: 円運動の最高点で物体が一瞬止まる(速度ゼロ)と誤解し、エネルギー保存則や運動方程式を立ててしまう。鉛直面内の円運動では、最高点でも一般に速度はゼロではない(重力があるため)。
    • 対策: 最高点を通過するためにはある程度の速さが必要であり、その条件は張力や垂直抗力が0以上であることから導かれることを理解する。
  • 力の分解の方向や成分の誤り:
    • 現象: 重力や張力などを、円運動の半径方向(向心方向)と接線方向に分解する際に、角度の取り方や \(\sin, \cos\) の適用を間違える。
    • 対策: 丁寧に力を図示し、分解する方向の軸も描き入れ、三角比の関係を正確に用いる。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 小球が振り子運動を始め、最下点を通過するときに最も速くなる様子をイメージします。
  • 糸がくぎBに引っかかった瞬間、円運動の中心がAからBに、半径が \(l\) から \(l/4\) にパッと切り替わるイメージをします。半径が急に短くなるため、同じ速さでも張力が急増する様子 ((2)の結果) を理解します。
  • (4)で糸がゆるむのは、小球がある程度高い位置まで上がり、速度が落ちて円運動を維持できなくなり、重力の影響で内側に「落ち込む」ような動きになるため、糸の張りがなくなるというイメージを持ちます。
  • (5)で円軌道の最高点Fを通過するぎりぎりの状態は、糸がピンと張っているか辛うじて張力を保っている状態で、まるで無重力のようにフワッと通過するのではなく、重力に逆らって円運動を維持しているというイメージを持つことが大切です。
  • 運動の各段階(初期位置、最下点C、点D、糸がゆるむ点E、最高点F)での小球の位置と、そのときの円運動の中心、半径を明確に図示します。
  • 各点での小球にはたらく力(重力、張力)をベクトルで正確に描き、特に円運動の半径方向と接線方向を意識します。
  • 位置エネルギーを考える上で、高さの基準点と各点の高さを図中に明記します。角度(\(\theta, \alpha\))もどの部分の角度なのかを正確に示します。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力学的エネルギー保存則の選択と適用根拠:
    • 選定理由: 運動の途中で働く力が重力(保存力)と糸の張力(常に運動方向と垂直なので仕事をしない)のみであり、摩擦や空気抵抗が無視できるため。
    • 適用根拠: 非保存力が仕事をしない系では、力学的エネルギーの総和は一定であるという物理学の基本原理。
  • 円運動の運動方程式(または遠心力を用いた力のつり合い)の選択と適用根拠:
    • 選定理由: 小球が円軌道上を運動しているため、その運動を記述するために必要。
    • 適用根拠: 物体が円運動をするためには、円の中心に向かう向きの合力(向心力)が必要であるというニュートンの第二法則の応用。あるいは、回転系では遠心力と実質の力がつり合うと考える。
  • 糸がゆるむ条件 (\(T=0\))、最高点通過条件 (\(T \ge 0\)) の選択と適用根拠:
    • 選定理由: 問題文で問われている物理的な限界状況を数式で表現するため。
    • 適用根拠: 張力は糸が物体を引く力であり、負の値をとることはない(糸は押せない)。張力が0になることは、糸がたるみ始め、円運動の拘束が解けることを意味する。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 運動の各段階(A中心の円運動、B中心の円運動)と注目する点(C, D, E, F)を明確に区別する。
  2. 力学的エネルギー保存則を適用できる範囲を見極め、適切な2点間で立式し、速さを求める。
  3. 円運動をしている点では、その時点での円運動の中心、半径、速さ、そして働く力を正確に把握し、半径方向の運動方程式(または力のつり合いの式)を立てる。
  4. 「糸がゆるむ」「最高点を通過する」といった条件を、張力に関する数式(\(T=0\) や \(T \ge 0\))に置き換えて処理する。
  5. 複数の式や条件を連立させ、未知数を求める。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 力学的エネルギー保存則を立てる際の位置エネルギーの基準点と、各点の高さの正確な計算(特に角度や半径が変わる場合)。
    • 円運動の運動方程式を立てる際の、半径 \(r\) の値の使い分け(\(l\) なのか \(l/4\) なのか)。
    • 力の分解(特に(4)の点Eでの重力の半径方向成分)における三角関数の適用の正確性。
    • 連立方程式を解く際の代数計算の丁寧さ。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 複雑な設定の問題でも、基本法則(エネルギー保存、運動方程式)に立ち返り、一つ一つのステップを丁寧に立式する。
    • 文字式の計算に習熟し、特に複数の物理量や幾何学的関係が絡む場合の整理・代入を正確に行う。
    • 図を有効に活用し、力の向きや幾何学的関係を視覚的に確認しながら計算を進める。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 例えば、(2)で \(T_2 > T_1\) となったのは、回転半径が小さくなったことで同じ速さでもより大きな向心力(張力)が必要になったため、と物理的に解釈できるか。
    • (4)で \(\sin\alpha = 2/3\) という値は、\(\sin\alpha \le 1\) を満たしており、物理的にあり得る角度か。
    • (5)で求めた \(\cos\theta_0 = 3/8\) は、\(\theta_0\) が鋭角であることを意味し、また、この条件が「ぎりぎり一周できる」という物理的な状況と矛盾しないか(例えば、エネルギーが負になったりしないか)。
  • 吟味の習慣: 計算結果が出たら、それが物理的にどのような状況を表しているのかを考えることで、理解が深まるだけでなく、計算ミスや立式の誤りに気づくきっかけにもなります。

問題29 (東京大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、直線部分と円弧部分からなる複雑な軌道上を運動する小球の力学を扱います。摩擦がないという条件下で、小球が軌道から受ける抗力が最大になる点、軌道から浮き上がる条件、特定の点に落下するための初期条件、そして円弧の最高点に到達するための条件などが問われています。力学的エネルギー保存則、円運動の動力学(向心力や遠心力)、物体が面から離れる条件(垂直抗力=0)といった、力学の重要な概念を総合的に適用する必要があります。

与えられた条件
  • 小球の質量: \(m\) [kg]
  • 軌道: 直線部分(AC, EF)と半径\(r\)の円弧部分(CDE, FGH)から構成。
  • 接続点: 点C, E, Fで直線部分と円弧部分は滑らかに接続。
  • 水平線: 点B, F, Hは同一水平線上にある。
  • 傾斜: 直線部分 AC および EFは水平線と角度\(\alpha\)をなす。
  • 初期状態: 点Aから小球を静かに滑り落とす。点AのB,F,Hを通る水平線からの高さを\(h\)とする。
  • 摩擦: なし
  • 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
問われていること
  1. (1) この球が軌道から受ける抗力の大きさが最大となるのはどの点か。また、そのときの抗力の大きさを求めよ。
  2. (2) 出発点Aでの球の高さんがある値\(h_0\)を超えると、球は運動の途中で軌道から浮き上がる。その\(h_0\)を求めよ。
  3. (3) \(h > h_0\)のとき、球は軌道から飛び上がり、点Hに落下した。このときの\(h\)の値を求めよ。
  4. (4) 高さ\(h\)を適当に選んで、球が軌道から浮き上がらずに円弧の最高点Gに到達するためには、角度\(\alpha\)がある条件を満たすことが必要である。この条件を求めよ。
  5. (5) ある高さ\(h\)から球を放したところ、点Gを通った後、ある点Iで円弧から離れた。\(\angle GOI = \theta\)として、\(\cos\theta\)を\(h, r, \alpha\)で表せ。 (Oは円弧FGHの中心)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となるのは、「力学的エネルギー保存則」と「円運動の動力学(向心力、あるいは遠心力とのつり合い)」、そして「物体が軌道から離れる条件」です。摩擦がないため、小球の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は常に保存されます。これを利用して、各点での速さを求めることができます。小球が円弧部分を運動する際には、軌道からの垂直抗力と重力の成分が向心力として働く(慣性系で考える場合)、あるいは遠心力と実質の力がつり合っている(非慣性系で考える場合)と考えます。小球が軌道から浮き上がる(離れる)瞬間は、軌道からの垂直抗力が0になるときである、という条件が重要になります。

問 (1)

思考の道筋とポイント

軌道から受ける抗力(垂直抗力)の大きさを考えます。斜面AC上では、垂直抗力は \(mg\cos\alpha\) で一定です。円弧部分CDEでは、小球は円運動をするため、垂直抗力は重力の成分だけでなく、円運動の速さによる遠心力(または向心力)にも依存します。一般に、円運動の最下点では速度が最大になり、かつ重力と遠心力(または向心力を構成する力)が同じ向きに垂直抗力と働くため、垂直抗力は最大になると考えられます。したがって、点Dで抗力が最大になると予想されます。点Dでの速さをエネルギー保存則で求め、力のつり合い(遠心力を含む)から抗力の大きさを計算します。

この設問における重要なポイント

  • 抗力が最大になるのは、円弧の最下点Dであると推測されます。
  • 点Dでの速さ \(v_D\) を、点A(高さ \(h+r\)、基準点をDとする)からの力学的エネルギー保存則で求めます。
  • 点Dで小球と共に回転する観測者から見ると、上向きの垂直抗力 \(N_{\text{max}}\)、下向きの重力 \(mg\)、下向きの遠心力 \(mv_D^2/r\) がつり合っていると考えます。

具体的な解説と立式

抗力が最大となるのは、円弧軌道の最下点Dであると考えられます。
点Aから点Dまでの力学的エネルギー保存則を考えます。点Dを位置エネルギーの基準(高さ0)とすると、点Aの高さは \(h+r\) です。点Aで静かに放すので初速は0。点Dでの速さを \(v_D\) とすると、
$$mg(h+r) + \frac{1}{2}m(0)^2 = mg(0) + \frac{1}{2}mv_D^2$$
したがって、
$$mg(h+r) = \frac{1}{2}mv_D^2 \quad \cdots ①$$
点Dにおいて、小球と共に回転する観測者から見ると、小球は静止しており、以下の力がつり合っています。

  • 垂直抗力 \(N_{\text{max}}\)(鉛直上向き)
  • 重力 \(mg\)(鉛直下向き)
  • 遠心力 \(m\displaystyle\frac{v_D^2}{r}\)(鉛直下向き、円運動の中心OがDの真上にあるため)

したがって、力のつり合いの式は、
$$N_{\text{max}} – mg – m\frac{v_D^2}{r} = 0$$
よって、
$$N_{\text{max}} = mg + m\frac{v_D^2}{r} \quad \cdots ②$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • 力のつり合い(遠心力を考慮)
  • 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = mv^2/r\)
計算過程

まず、式①から \(mv_D^2\) を求めます。
$$mv_D^2 = 2mg(h+r)$$これを式② \(N_{\text{max}} = mg + \displaystyle\frac{mv_D^2}{r}\) に代入します。$$N_{\text{max}} = mg + \frac{2mg(h+r)}{r}$$共通因子 \(mg\) でくくりだし、整理します。$$N_{\text{max}} = mg\left(1 + \frac{2(h+r)}{r}\right) = mg\left(1 + \frac{2h}{r} + \frac{2r}{r}\right)$$
$$N_{\text{max}} = mg\left(1 + \frac{2h}{r} + 2\right) = mg\left(3 + \frac{2h}{r}\right) \quad \cdots ③$$

計算方法の平易な説明

小球が受ける軌道からの力(抗力)が一番大きくなるのはどこかを考えます。直感的には、一番下の点Dで最も速く、かつ軌道が最も強く小球を上に押し上げようとするとき(円運動の中心が真上にあるとき)だと予想できます。
まず、エネルギーのルール(力学的エネルギー保存則)を使って、小球が点Aから点Dまで落ちたときの速さ \(v_D\) を計算します。失った高さ分の位置エネルギーが運動エネルギーに変わります。
次に、点Dで小球が円運動をしていると考え、小球と一緒に回る人から見ます。この人にとっては、小球は止まって見え、上向きの抗力と、下向きの重力、そして下向きの見かけの力(遠心力)が釣り合っています。この釣り合いの式から、抗力の大きさを計算します。

結論と吟味

抗力の大きさが最大となるのは点Dであり、そのときの抗力の大きさは \(N_{\text{max}} = mg\left(3 + \displaystyle\frac{2h}{r}\right)\) です。
この結果から、初めの高さ \(h\) が大きいほど、また円弧の半径 \(r\) が小さいほど、最下点での垂直抗力が大きくなることがわかります。これは、\(h\) が大きいほど最下点での速度が大きくなり遠心力が増すこと、また \(r\) が小さいほど同じ速度でもより大きな向心力(すなわち垂直抗力の一部)が必要になるため、物理的に妥当です。

解答 (1) 点D, 大きさ: \(mg\left(3 + \displaystyle\frac{2h}{r}\right)\)

問 (2)

思考の道筋とポイント

小球が軌道から浮き上がる瞬間は、軌道から受ける垂直抗力 \(N\) が0になるときです。モデル解答の「Point & Hint」および「LECTURE」の記述によると、浮き上がる可能性が最も高いのは円弧FGの始点Fであると考えられます。点Fは水平線上にあり、ここから円弧が上向きにカーブし始めます。点Fでの速さを \(v_F\) とし、この点で垂直抗力が0になる条件と、点A(高さ \(h_0\))から点Fまでの力学的エネルギー保存則を連立させて \(h_0\) を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 軌道から浮き上がる条件は、垂直抗力 \(N=0\) です。
  • 浮き上がる可能性が最も高いのは、円弧FGの始点F(水平線上)であると考えます。
  • 点Fでの速さ \(v_F\) を、初めの高さ \(h_0\) を用いた力学的エネルギー保存則で表します(基準面をBFHとします)。
  • 点Fでの半径方向の力のつり合い(または運動方程式)を考えます。このとき、軌道の接線が水平線となす角が \(\alpha\) であるため、垂直抗力が働く方向(軌道に垂直)や、重力の円運動への寄与を考える際にこの角度が重要になります。モデル解答では、点Fにおいて \(m\frac{v_F^2}{r} = mg\cos\alpha\) という関係式を用いています。これは、遠心力と重力の軌道に対する法線方向成分がつり合う(\(N=0\) の場合)と解釈できます。

具体的な解説と立式

小球が点Fで軌道から浮き上がると仮定し、その瞬間の垂直抗力 \(N_F=0\) とします。点Fでの速さを \(v_F\) とします。
点Fは水平線上にあり、ここから半径 \(r\) の円弧FGが始まります。点Fにおける軌道の接線は水平線と角 \(\alpha\) をなしているので、点Fでの円弧の法線(円の中心Oへ向かう方向)は、鉛直線と角 \(\alpha\) をなします(あるいは、重力の法線方向成分が \(mg\cos\alpha\) となるように解釈)。
点Fでの半径方向の力のつり合い(遠心力を考慮、中心Oの向きを正)を考えると、遠心力 \(m\displaystyle\frac{v_F^2}{r}\)(外向き)と重力 \(mg\) の中心向き成分 \(mg\cos\alpha\) がつり合う(\(N_F=0\) なので)。
$$m\frac{v_F^2}{r} = mg\cos\alpha \quad \cdots ④$$
(これは、慣性系で見れば、重力の中心向き成分 \(mg\cos\alpha\) が向心力として働くことを意味します。)

次に、点A(高さ \(h_0\)、基準面をBFHとする)から点F(高さ0)までの力学的エネルギー保存則を考えます。点Aで静かに放すので初速は0。
$$mg h_0 + \frac{1}{2}m(0)^2 = mg(0) + \frac{1}{2}mv_F^2$$
したがって、
$$mgh_0 = \frac{1}{2}mv_F^2 \quad \cdots ⑤$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い(遠心力を考慮)または円運動の運動方程式
  • 物体が面から離れる条件: \(N=0\)
  • 力学的エネルギー保存則
計算過程

まず、式⑤から \(v_F^2\) を求めると、
$$v_F^2 = 2gh_0$$これを式④に代入します。
$$m\frac{2gh_0}{r} = mg\cos\alpha$$両辺の \(mg\) を消去し(\(mg \neq 0\))、\(h_0\) について解くと、
$$h_0 = \frac{r\cos\alpha}{2} \quad \cdots ⑥$$

計算方法の平易な説明

小球が軌道から浮き上がるのは、軌道が小球を押す力(垂直抗力)がゼロになるときです。問題では、円弧部分FGに入るところの点Fが最も浮き上がりやすいとされています。この点Fで浮き上がるギリギリの状況を考えます。
まず、小球が最初の高さ \(h_0\) から点Fまで滑り降りたときの速さ \(v_F\) を、エネルギーのルール(力学的エネルギー保存則)を使って求めます。次に、点Fで小球が円運動を続けるためには、円の中心に向かう力が必要です。この力が重力の成分だけでギリギリまかなえる(つまり垂直抗力がゼロになる)ときの速さ \(v_F\) との関係を式にします。この2つの式から、最初の高さ \(h_0\) を計算します。

結論と吟味

球が運動の途中で軌道から浮き上がるときの出発点Aでの高さ \(h_0\) は \(\displaystyle\frac{r\cos\alpha}{2}\) です。
この結果は、円弧の半径 \(r\) が大きいほど、また角度 \(\alpha\) が小さい(\(\cos\alpha\) が大きい、つまり点Fでの軌道の曲がり方が緩やかで、かつ重力の向心方向成分が大きい)ほど、浮き上がりにくく、より高い位置から落としても大丈夫であることを示唆しています。もし \(\alpha=90^\circ\)(直線EFが鉛直)なら \(\cos\alpha=0\) となり \(h_0=0\) となりますが、これはF点が特異点となるため、このモデルの適用限界かもしれません。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{r\cos\alpha}{2}\)

問 (3)

思考の道筋とポイント

\(h > h_0\) なので、小球は点Fで軌道から浮き上がります((2)で求めた \(h_0\) は浮き上がる限界の高さだったため)。点Fで浮き上がった後、小球は放物運動をして点Hに落下します。点Fと点Hは同じ水平線上にあります。点Fでの速さ \(v_F\) を、初めの高さ \(h\) を用いた力学的エネルギー保存則で求めます。点Fでの射出角は、軌道EFが水平線となす角 \(\alpha\) となります。この初速 \(v_F\) と射出角 \(\alpha\) での放物運動で、水平到達距離がFHとなる条件から \(h\) を求めます。モデル解答ではFHの長さを \(2r\sin\alpha\) としています。これは、円弧FGHの中心OがFHの中点から鉛直下方にあるとし、OF=OH=\(r\)で、\(\angle FOG = \angle HOG = \alpha\) (あるいは \(2\alpha\) が中心角)のような特別な状況を仮定しているか、あるいは別の幾何学的解釈に基づいている可能性があります。ここではモデル解答のFHの解釈 \(FH = 2r\sin\alpha\) を用いることにします。

この設問における重要なポイント

  • 点Fで軌道から浮き上がり、その後は放物運動をします。
  • 点Fでの速さ \(v_F\) を、高さ \(h\) からの力学的エネルギー保存則で求めます。
  • 点Fでの射出角は水平上向きに \(\alpha\) です。
  • 水平到達距離FHが \(2r\sin\alpha\)(モデル解答による解釈)となる条件を用います。

具体的な解説と立式

出発点A(高さ \(h\)、基準面をBFHとする)から点F(高さ0)までの力学的エネルギー保存則より、点Fでの速さ \(v_F\) は、
$$mgh = \frac{1}{2}mv_F^2 \quad \text{よって} \quad v_F = \sqrt{2gh} \quad \cdots ⑦$$
小球は点Fから初速 \(v_F\)、水平線となす角 \(\alpha\) で射出され、放物運動をします。再び同じ高さの点Hに落下するまでの時間を \(t\) とすると、鉛直方向の運動について(上向きを正)、変位が0なので、
$$0 = (v_F\sin\alpha)t – \frac{1}{2}gt^2$$
\(t \neq 0\) (落下するまでの時間を考えるので)より、
$$t = \frac{2v_F\sin\alpha}{g} \quad \cdots ⑧$$
この間に水平方向に進む距離がFHです。水平方向には等速運動をするので、
$$FH = (v_F\cos\alpha)t \quad \cdots ⑨$$
モデル解答の解釈に従い、FHの長さを \(2r\sin\alpha\) とすると、
$$2r\sin\alpha = (v_F\cos\alpha)t \quad \cdots ⑩$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • 放物運動の公式(水平到達距離、滞空時間)
計算過程

式⑧を式⑩に代入します。
$$2r\sin\alpha = (v_F\cos\alpha) \left(\frac{2v_F\sin\alpha}{g}\right)$$
\(\sin\alpha \neq 0\) と仮定して両辺の \(2\sin\alpha\) を消去します(もし \(\alpha=0\) ならFH=0となり、これは直線軌道が水平であることを意味し、放物運動の議論とは異なります)。
$$r = \frac{v_F^2\cos\alpha}{g}$$
ここで、式⑦から \(v_F^2 = 2gh\) を代入します。
$$r = \frac{(2gh)\cos\alpha}{g}$$
両辺の \(g\) を消去します(\(g \neq 0\))。
$$r = 2h\cos\alpha$$
したがって、\(h\) について解くと、
$$h = \frac{r}{2\cos\alpha} \quad \cdots ⑪$$

計算方法の平易な説明

最初の高さ \(h\) が(2)で求めた限界の高さ \(h_0\) より大きいので、小球は円弧の始まりの点Fで軌道からジャンプしてしまいます。ジャンプした後は、空中を放物線を描いて飛んでいき、同じ高さの点Hに落ちます。この一連の運動を解析します。
まず、エネルギーのルール(力学的エネルギー保存則)を使って、点Fでジャンプするときの速さ \(v_F\) を、最初の高さ \(h\) を使って表します。次に、点Fから斜め上向き(角度 \(\alpha\))に飛び出した小球が、同じ高さの点Hまで飛ぶのにかかる時間と、その間に水平に進む距離FHを計算します。問題の図から読み取れるFHの幾何学的な長さ(モデル解答では \(2r\sin\alpha\) と解釈されています)と、計算で求めたFHの飛距離が等しいという条件を使って、最初の高さ \(h\) を求めることができます。

結論と吟味

球が軌道から飛び上がり、点Hに落下したときの出発点Aでの高さ \(h\) は \(\displaystyle\frac{r}{2\cos\alpha}\) です。
この結果は、(2)で求めた浮き上がる限界の高さ \(h_0 = \frac{r\cos\alpha}{2}\) と比較すると、\(h = \frac{h_0}{\cos^2\alpha}\) という関係になっています。\(\cos^2\alpha \le 1\) なので、一般に \(h \ge h_0\) となり、問題文の \(h > h_0\) という条件と整合します(ただし、\(\cos\alpha=0\) すなわち \(\alpha=90^\circ\) の場合は物理的に意味をなさなくなるため除きます)。角度 \(\alpha\) が小さい(水平に近い直線部分から飛び出す)ほど、\(\cos\alpha\) は1に近づき、\(h\) は \(h_0\) に近づく傾向にありますが、これはFH間の距離の解釈に依存する部分もあるため、モデル解答の幾何学的設定を前提とした結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{r}{2\cos\alpha}\)

問 (4)

思考の道筋とポイント

球が軌道から浮き上がらずに円弧の最高点Gに到達するためには、少なくとも以下の2つの条件が満たされるような初めの高さ \(h\) が存在する必要があります。

  1. 点Fで浮き上がらないこと: これは、設問(2)の結果から \(h \le h_0 = \frac{r\cos\alpha}{2}\) であることを意味します。
  2. 最高点Gに到達できること: 点Gに到達するためには、Gでの速度が実数値を持ち、かつGで軌道から離れない(垂直抗力 \(N_G \ge 0\))必要があります。最も基本的な条件として、Gに達するだけのエネルギーを持っていること、つまり初めの位置エネルギー \(mgh\) がGのポテンシャルエネルギー \(mg \times (\text{Gの高さ})\) 以上であることです。モデル解答のLECTUREでは、Gの高さを水平線FHから \(r(1-\cos\alpha)\) としています。これは、円弧FGHの中心OがFH線上にあり、OGが鉛直で、\(\angle FOG = \alpha\) であるような幾何学的配置を想定しているようです(この \(\alpha\) は斜面の傾斜角と同じ記号ですが、ここでは円弧の形状を規定する角度として使われています)。

これらの条件を同時に満たす \(h\) が存在するための、角度 \(\alpha\)(直線部分の傾斜角)の条件を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 条件1: 点Fで浮き上がらないためには、\(h \le \frac{r\cos\alpha}{2}\)。(\(\alpha\) は直線部分の傾斜角)
  • 条件2: 最高点Gに到達するための最小限の高さが必要です。水平線BFHを高さの基準(0)とすると、モデル解答の解釈に基づき、点Gの高さは \(h_G = r(1-\cos\alpha)\) とされます(ここで右辺の \(\alpha\) は、円弧の形状に関連する角度として、直線部分の傾斜角と同じ記号が使われていると解釈します)。したがって、\(h \ge r(1-\cos\alpha)\) である必要があります。
  • これらの条件を同時に満たす \(h\) が存在するためには、\(r(1-\cos\alpha) \le \frac{r\cos\alpha}{2}\) である必要があります。

具体的な解説と立式

球が軌道から浮き上がらずに最高点Gに到達するためには、以下の2つの条件を満たすような初めの高さ \(h\) が存在する必要があります。

条件A (点Fで浮き上がらない):
設問(2)の結果より、点Fで浮き上がらないためには、初めの高さ \(h\) は \(h_0 = \frac{r\cos\alpha}{2}\) 以下である必要があります。
$$h \le \frac{r\cos\alpha}{2} \quad \cdots ⑫$$

条件B (最高点Gに到達できる):
最高点Gに到達するためには、少なくともGの高さ以上の位置エネルギーを初めに持っている必要があります(Gでギリギリ速度が0になる場合を考えるか、あるいはGで垂直抗力が0以上になる条件を考えますが、ここではまずGに到達できるエネルギーを持つという条件で進めます)。水平線BFHを高さの基準(0)とします。モデル解答の解釈に基づき、点Gの高さは \(h_G = r(1-\cos\alpha)\) とされます(この \(\alpha\) は直線部分の傾斜角と同じ記号が使われていますが、文脈から円弧の形状を表す角度と解釈します)。
したがって、Gに到達するためには、
$$h \ge r(1-\cos\alpha) \quad \cdots ⑬$$

このような \(h\) が存在するためには、⑬の右辺の値が⑫の右辺の値以下でなければなりません。つまり、Gに到達するための最小の高さが、Fで浮き上がらないための最大の高さを超えてはいけない、ということです。
$$r(1-\cos\alpha) \le \frac{r\cos\alpha}{2} \quad \cdots ⑭$$

使用した物理公式

  • 軌道から浮き上がらない条件(設問(2)の結果利用)
  • ある点に到達するためのエネルギー条件(その点の高さ以上の初期位置エネルギーが必要)
計算過程

不等式⑭ \(r(1-\cos\alpha) \le \displaystyle\frac{r\cos\alpha}{2}\) を \(\cos\alpha\) について解きます。
\(r>0\) なので、両辺を \(r\) で割ることができます。
$$1-\cos\alpha \le \frac{\cos\alpha}{2}$$
両辺を2倍します。
$$2 – 2\cos\alpha \le \cos\alpha$$
移項して整理します。
$$2 \le \cos\alpha + 2\cos\alpha$$
$$2 \le 3\cos\alpha$$
したがって、
$$\cos\alpha \ge \frac{2}{3} \quad \cdots ⑮$$

計算方法の平易な説明

小球が途中で軌道からジャンプしないで、円弧の一番高い点Gまでちゃんとたどり着くためには、出発点の高さ \(h\) が適切な範囲にある必要があります。まず、(2)で考えたように、円弧FGの始まりである点Fでジャンプしないためには、\(h\) はある値(具体的には \(\frac{r\cos\alpha}{2}\))以下でなければなりません。次に、そもそも点Gまで上がるためには、\(h\) が点Gの高さ以上でなければなりません(点Gの高さをモデル解答に従い \(r(1-\cos\alpha)\) とします)。この2つの条件(「\(h\) はこれ以下」かつ「\(h\) はこれ以上」)が両立するような \(h\) が存在する、ということが、直線部分の傾斜角 \(\alpha\) に対する条件になります。その条件を数式で表し、\(\cos\alpha\) について解きます。

結論と吟味

球が軌道から浮き上がらずに円弧の最高点Gに到達するためには、角度 \(\alpha\) が \(\cos\alpha \ge \displaystyle\frac{2}{3}\) を満たすことが必要です。
\(\cos\alpha\) の値は最大で1(\(\alpha=0\) のとき)なので、\(\frac{2}{3} \le \cos\alpha \le 1\) の範囲でこの条件は物理的に意味を持ちます。\(\cos\alpha = 2/3\) のとき、角度 \(\alpha\) はおよそ \(48.2^\circ\) です。この条件は、直線部分の傾斜角 \(\alpha\) があまり大きくない(つまり、傾斜があまり急ではない)必要があることを示しています。もし \(\alpha\) がこの条件を満たさないほど大きい(傾斜が急すぎる)場合、点Fで浮き上がってしまうのを避けるための高さ \(h\) の上限が、点Gに到達するための高さ \(h\) の下限よりも小さくなってしまい、両立する \(h\) が存在しなくなるため、Gまで浮き上がらずに到達することが不可能になります。

解答 (4) \(\cos\alpha \ge \displaystyle\frac{2}{3}\)

問 (5)

思考の道筋とポイント

ある高さ \(h\) から球を放し、点Gを通過した後、円弧FGH上の点Iで軌道から離れたとします。\(\angle GOI = \theta\) です(Oは円弧FGHの中心であり、OGは鉛直上向きです)。軌道から離れる瞬間は、点Iでの垂直抗力 \(N_I\) が0になるときです。点Iでの速さを \(v_I\) とします。
まず、点Iでの半径方向の力のつり合い(または運動方程式)を考えます。垂直抗力 \(N_I=0\) なので、重力の半径方向成分が向心力の役割を果たす(あるいは遠心力の半径方向成分とつり合う)ことになります。\(\angle GOI = \theta\) なので、OIが鉛直線となす角は \(\theta\) です。
次に、初めの放出点A(水平線BFHからの高さ \(h\))と点Iとの間で力学的エネルギー保存則を立てます。点Iの高さは、基準面BFH、中心Oの位置、角度 \(\theta\) および設問(4)の議論で使われた角度 \(\alpha\)(直線部分の傾斜角であり、モデル解答の解釈では円弧FGHの形状にも関連)を用いて表す必要があります。モデル解答では、円弧FGHの中心Oが水平線BFHよりも \(r\cos\alpha\) だけ下方にあると解釈し、出発点Aの高さをO基準で \(h+r\cos\alpha\)、点Iの高さをO基準で \(r\cos\theta\) としています。この解釈に基づいて立式します。

この設問における重要なポイント

  • 軌道から離れる条件は、垂直抗力 \(N_I = 0\) です。
  • 点Iでの円運動の半径は \(r\)。
  • 点Iでの半径方向の力のつり合い(または運動方程式)を立てます。このとき、重力 \(mg\) の半径方向(中心O向き)成分を考慮します。OGを鉛直上方、OIがそれと \(\theta\) の角をなすので、重力の半径方向成分は \(mg\cos\theta\)。
  • 力学的エネルギー保存則を、初めの放出点Aと点Iの間で立てます。点Iの高さを \(h, r, \alpha, \theta\) を用いて正しく表すことが重要です(モデル解答の基準点と高さの解釈に従います)。

具体的な解説と立式

小球が点Iで軌道から離れるとき、その点での垂直抗力 \(N_I = 0\) です。点Iでの速さを \(v_I\) とします。円弧FGHの中心をOとし、OGは鉛直上向きです。\(\angle GOI = \theta\) なので、OIが鉛直線(OGの方向)となす角は \(\theta\) です。
点Iにおいて、小球に働く力の半径方向(中心O向き)の成分を考えます。垂直抗力は \(N_I=0\)。重力 \(mg\) の半径方向成分(中心O向き)は \(mg\cos\theta\) です。これが向心力となります。
したがって、半径方向の運動方程式は、
$$m\frac{v_I^2}{r} = mg\cos\theta \quad \cdots ⑯$$

次に、力学的エネルギー保存則を考えます。モデル解答のLECTURE (4), (5)の記述に基づき、円弧FGHの中心Oを位置エネルギーの基準点(高さ0)と解釈し、水平線BFHが \(y = -r\cos\alpha\) の高さにあるとします(つまりOはBFHより \(r\cos\alpha\) だけ上方にある。あるいは、BFHを基準(0)とし、Oの高さが\(r\cos\alpha\)で、Aの高さが\(h\)。モデル解答の式 \(mg(h+r\cos\alpha)\) から、Oを基準とし、Aの高さが \(h+r\cos\alpha\) であると解釈するのが自然です)。
出発点AのOからの高さは \(h_{\text{A rel O}} = h+r\cos\alpha\)。点IのOからの高さは \(h_{\text{I rel O}} = r\cos\theta\)。
点A(初速0)と点I(速さ \(v_I\))の間での力学的エネルギー保存則は、
(Aでの運動エネルギー)+(AでのO基準の位置エネルギー)=(Iでの運動エネルギー)+(IでのO基準の位置エネルギー)
$$0 + mg(h+r\cos\alpha) = \frac{1}{2}mv_I^2 + mg(r\cos\theta) \quad \cdots ⑰$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式(向心力)
  • 軌道から離れる条件: \(N=0\)
  • 力学的エネルギー保存則
  • 力の分解、幾何学的関係
計算過程

まず、式⑯から \(mv_I^2\) を求めると、
$$mv_I^2 = mgr\cos\theta$$これを式⑰に代入します。
$$mg(h+r\cos\alpha) = \frac{1}{2}(mgr\cos\theta) + mg(r\cos\theta)$$
右辺を整理すると、
$$mg(h+r\cos\alpha) = \left(\frac{1}{2} + 1\right)mgr\cos\theta = \frac{3}{2}mgr\cos\theta$$
両辺の \(mg\) を消去します(\(mg \neq 0\))。
$$h+r\cos\alpha = \frac{3}{2}r\cos\theta$$
\(\cos\theta\) について解くと、
$$\cos\theta = \frac{2(h+r\cos\alpha)}{3r} = \frac{2}{3}\left(\frac{h}{r} + \cos\alpha\right) \quad \cdots ⑱$$

計算方法の平易な説明

小球が円弧の途中の点Iで軌道から離れるというのは、その点で軌道が小球を押す力(垂直抗力)がちょうどゼロになるということです。このとき、小球はまだ速さ \(v_I\) を持っています。点Iで円運動を続けるためには中心に向かう力が必要ですが、垂直抗力がゼロなので、この力は重力の成分だけで供給されることになります(あるいは、見かけの力である遠心力と重力の成分がつり合う)。この関係から、点Iでの速さ \(v_I\) と角度 \(\theta\)(\(\angle GOI\)、Gは円弧の最高点)の間に一つの式が成り立ちます。
もう一つはエネルギーのルールです。小球が最初の高さ \(h\) の点Aから点Iまで動く間、エネルギーの合計は変わりません。これを使って、点Iでの速さ \(v_I\) と角度 \(\theta\)(および最初の高さ \(h\) や直線部分の傾斜角に関連する \(\alpha\))の間に、もう一つの式を立てます。
これら2つの式を組み合わせて \(\cos\theta\) を求めます。この際、各点の高さを正しく設定することが重要です。

結論と吟味

\(\cos\theta = \displaystyle\frac{2}{3}\left(\frac{h}{r} + \cos\alpha\right)\) です。
この結果は、小球が軌道から離れる位置(角度\(\theta\)で表される)が、初めの高さ \(h\)、円弧の半径 \(r\)、そして直線部分の傾斜に関連する角度 \(\alpha\) に依存することを示しています。
モデル解答の最後の注釈にあるように、球がFG間を無事通過している(つまり設問(4)の条件 \(\cos\alpha \ge 2/3\) や、それに伴う \(h\) の条件 \(r(1-\cos\alpha) \le h \le \frac{r}{2}\cos\alpha\) が満たされている)場合、この \(\cos\theta\) の値は物理的に妥当な範囲(例えば \( \cos\alpha \le \cos\theta \le 1 \) など、点IがGとHの間に存在するような範囲)にあることが期待されます。設問(4)の条件から \(h/r \le \frac{1}{2}\cos\alpha\) であり、これを代入すると \(\cos\theta \le \frac{2}{3}(\frac{1}{2}\cos\alpha + \cos\alpha) = \frac{2}{3}(\frac{3}{2}\cos\alpha) = \cos\alpha\) となります。これは \(\theta \ge \alpha\) を意味し、図の状況(点Iが点Fよりも円弧の上方(Gに近い側またはGを超えた側)にある)と整合する可能性があります。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{2}{3}\left(\frac{h}{r} + \cos\alpha\right)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力学的エネルギー保存則: 摩擦がない軌道上の運動なので、小球の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は常に保存される。各点での速さを求める基本。
  • 円運動の動力学: 小球が円弧部分を運動する際には、軌道の中心に向かう方向の力の合成分が向心力 \(m v^2/R\) となる(慣性系)。または、小球と共に回転する観測者から見れば、遠心力 \(m v^2/R\) と他の実在の力の半径方向成分とがつり合う(非慣性系)。垂直抗力や張力を求める際に使用。
  • 物体が面から離れる条件(垂直抗力=0): 小球が軌道から浮き上がる、あるいは離れる瞬間は、軌道から受ける垂直抗力が0になるときである。これが限界状態を特定するための重要な条件となる。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • ジェットコースターのループや丘を越える運動。
    • 振り子の運動で、糸がたるむ条件や円運動を続ける条件を問う問題。
    • 物体が曲面を滑り、途中で飛び出す場合の運動解析。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. エネルギー保存の確認: まず、非保存力(摩擦力など)が仕事をするかどうかを確認し、力学的エネルギー保存則が適用できるか判断する。
    2. 運動の区間分けと特徴点の把握: 運動が直線部分と円弧部分に分かれている場合、それぞれの区間で適用する法則を考える。また、「最下点」「最高点」「軌道から離れる点」などの特徴的な点に注目する。
    3. 力の図示と円運動の解析: 円運動をしている部分では、必ず円運動の中心、半径を明確にし、物体にはたらく力を図示して半径方向の運動方程式(または力のつり合いの式)を立てる。
    4. 限界条件の数式化: 「浮き上がる」「離れる」「ちょうど〜する」といった言葉で表される限界条件を、物理量を用いた等式または不等式(例:\(N=0\), \(T=0\), \(v \ge v_{\text{min}}\)など)に正確に置き換える。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 位置エネルギーの基準点の取り方と高さの計算ミス:
    • 現象: 複雑な軌道の場合、位置エネルギーの基準点をどこに取るか、また各点の高さを正しく計算できるかが重要。特に角度が絡む場合。
    • 対策: 基準点を最初に明確に定め、各点の高さは図を描いて三角比などを用い慎重に計算する。
  • 円運動の向心力と他の力の混同:
    • 現象: 向心力という特別な力が別に働いていると誤解したり、どの力が向心力の役割を果たしているのかを正しく特定できなかったりする。
    • 対策: 向心力は常に「力の合力の中心向き成分」であると理解する。遠心力を用いる場合は、他の力と合わせて「つり合い」を考える。
  • 「軌道から離れる」条件の誤解:
    • 現象: 速度が0になったら離れる、などと誤解する。正しくは垂直抗力(または張力、軌道による束縛力)が0になるとき。
    • 対策: 面からの力である垂直抗力がなくなるときが「離れる」ときであると、物理的意味をしっかり理解する。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 小球が斜面を滑り降り、円弧の底を通過し、再び円弧を駆け上がり、場合によっては途中でジャンプして放物運動をする、という一連の流れを頭の中で追います。
  • 抗力が最大になる点Dでは、小球が軌道に最も強く押し付けられているイメージを持ちます。
  • 点Fで浮き上がるのは、ある程度の速さで円弧に突入する際に、軌道が上にカーブしていくのに小球が「ついていけず」直進しようとする(慣性)結果、軌道からの支えがなくなるというイメージを持つと良いでしょう。
  • 点G(円弧の最高点)を通過するためには、そこで軌道からの支え(垂直抗力)が辛うじて残っている必要があるというイメージが大切です。
  • 複雑な軌道なので、各注目点(A, B, C, D, E, F, G, H, I)の位置関係、特に高さ関係や円弧の中心、半径を正確に図示します。
  • 各点での小球にはたらく力(重力、垂直抗力)をベクトルで描き、円運動の区間ではその中心方向を意識します。
  • 角度(\(\alpha\), \(\theta\))が図のどの部分を指すのかを明確にし、力の分解や高さ計算に正しく用います。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: 摩擦がなく、仕事をする力が重力(保存力)と垂直抗力(常に運動方向と垂直なので仕事をしない)のみであるため。
    • 適用根拠: 非保存力が仕事をしない系では、力学的エネルギーは保存されるという普遍的な原理。
  • 円運動の運動方程式(または遠心力を用いた力のつり合い):
    • 選定理由: 小球が円弧軌道上を運動しているため、その運動を記述するのに必要。
    • 適用根拠: 物体が円運動をするためには、向心加速度を生じさせる向心力が必要であるというニュートンの第二法則の応用。
  • 軌道から離れる条件 (\(N=0\)):
    • 選定理由: 問題文で「浮き上がる」「離れた」と記述されている物理現象を数式化するため。
    • 適用根拠: 垂直抗力は面が物体を押す力であり、物体が面から離れればこの力は働かなくなる(0になる)ため。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 軌道全体の形状と各点の位置関係(特に高さ)を把握する。
  2. 力学的エネルギー保存則を適用して、各点での速さと初めの高さ \(h\) との関係を求める。
  3. 円弧上の点では、その点での円運動の中心と半径を特定し、半径方向の運動方程式(または力のつり合いの式)を立てる。
  4. 「抗力が最大」「軌道から浮き上がる」「最高点に到達する」といった条件を、垂直抗力や速さに関する数式に置き換える。
  5. 複数の式や条件を連立させ、問われている物理量を導出する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 位置エネルギーを計算する際の高さの基準点と、各点の高さの正確な計算。特に角度 \(\alpha\) や \(\theta\) が絡む場合。
    • 円運動の運動方程式を立てる際の、力の半径方向成分の取り方、符号。
    • 複数の文字(\(m, g, r, h, \alpha, \theta, v\) など)を含む代数計算の複雑さ。特に連立方程式を解く際の整理。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 図を丁寧に描き、幾何学的な関係(高さ、距離、角度)を正確に把握する。
    • 文字式の計算に習熟し、複雑な式でも焦らずに整理・変形する力を養う。
    • 計算の各ステップで、物理的な意味や単位が保たれているか意識する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 例えば、(1)の \(N_{\text{max}}\) が \(mg\) より大きくなるのは、遠心力(あるいは向心運動に必要な力)が加わるためと解釈できるか。
    • (2)の \(h_0\) が \(r\) や \(\cos\alpha\) にどのように依存しているか。例えば \(\alpha \rightarrow 90^\circ\)(F点がほぼ鉛直上方を向く)なら \(\cos\alpha \rightarrow 0\) で \(h_0 \rightarrow 0\) となり、ごく低い位置からでも浮き上がりやすくなるのは妥当か。
    • (4)の \(\cos\alpha \ge 2/3\) という条件が、どのような形状の軌道ならGに到達可能かを示唆しているか。
  • 吟味の習慣: 極端な場合を考えたり、他の設問との関連性を考えたりすることで、解の妥当性を確認し、物理現象への理解を深める。

問題30 (名古屋工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平面に対して角度 \(\alpha\) で傾いている滑らかな斜面上で、糸につながれた小球Pが円運動をする状況を扱います。Pは斜面上の点Oを中心とする半径\(r\)の円運動をします。Pの位置は、斜面に沿って水平にとったx軸(原点はO)から反時計回りの角度 \(\theta\) で表されます。まず、斜面からの垂直抗力を求め、次に特定の条件下でのPの速さと張力、円運動を続けるための初速の条件、そして糸が切れた後のPの運動について考察します。斜面上の円運動という設定が特徴的で、重力の影響を斜面内で考える必要があります。

与えられた条件
  • 小球Pの質量: \(m\) [kg]
  • 糸の長さ(円運動の半径): \(r\) [m]
  • 糸の固定点: O(斜面上の点、円運動の中心)
  • 斜面: 滑らかで、水平面に対して角度 \(\alpha\) で傾いている。
  • Pの位置の表し方: 点Oを原点とし、斜面に沿って水平にとったx軸から反時計回りの角度 \(\theta\)。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
問われていること
  1. (1) Pが斜面から受ける垂直抗力の大きさ。
  2. (2) \(\theta=0\) のときのPの速さが \(v_0\) である場合に、Pの速さ \(v\) と糸の張力 \(T\) を \(\theta\) の関数として表すこと。
  3. (3) Pが斜面上で円運動することができるために、\(\theta=0\) における速さ \(v_0\) が満たすべき条件。
  4. (4) \(\theta=\pi/3\) で糸が切れたとき(そのときのPの速さは \(u\))、Pが斜面上を運動しx軸上に達したときのx座標。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となるのは、「斜面上の円運動」という状況設定の理解です。通常の鉛直面内の円運動との大きな違いは、重力の影響が斜面の傾斜角 \(\alpha\) によって軽減される(あるいは、斜面内での「有効な重力」として \(mg\sin\alpha\) が働く)点です。この点を踏まえ、力学的エネルギー保存則や円運動の運動方程式(または遠心力を用いた力のつり合い)を適用していきます。糸が切れた後の運動は、斜面上の放物運動として扱うことになります。

問 (1)

思考の道筋とポイント

小球Pは斜面上で運動しますが、斜面にめり込んだり、斜面から浮き上がったりはしません。したがって、斜面に垂直な方向では力がつり合っていると考えられます。Pに働く力のうち、斜面に垂直な方向の成分を持つのは、重力 \(mg\) と斜面からの垂直抗力 \(N\) です。糸の張力は斜面内で円運動の半径方向を向いているため、斜面に垂直な成分は持ちません。

この設問における重要なポイント

  • 小球Pは斜面に垂直な方向には運動しません(めり込まない、浮き上がらない)。
  • Pに働く力のうち、斜面に垂直な方向の成分を考え、それらがつり合っているとします。
  • 重力 \(mg\) を斜面に垂直な成分と平行な成分に分解します。斜面が水平面となす角が \(\alpha\) なので、重力の斜面に垂直な成分は \(mg\cos\alpha\) となります。

具体的な解説と立式

小球Pに働く力は、重力 \(mg\)、糸の張力 \(T\)、斜面からの垂直抗力 \(N\) です。
斜面は水平面に対して角度 \(\alpha\) で傾いています。重力 \(mg\) を斜面に垂直な成分と平行な成分に分解すると、

  • 斜面に垂直な成分(斜面を押し付ける向き): \(mg\cos\alpha\)
  • 斜面に平行な成分(斜面を滑り下りようとする向き): \(mg\sin\alpha\)

垂直抗力 \(N\) は、斜面に垂直で、Pを斜面から支え上げる向きに働きます。糸の張力 \(T\) は斜面内で円運動の半径方向を向いているため、斜面に垂直な成分は持ちません。
Pは斜面に垂直な方向には動かないので、この方向の力のつり合いより(斜面から離れる向きを正とすると)、
$$N – mg\cos\alpha = 0$$
したがって、
$$N = mg\cos\alpha \quad \cdots ①$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い: \(\sum F_{\text{斜面に垂直}} = 0\)
  • 力の分解
計算過程

上記の立式そのものが結論を導いています。垂直抗力 \(N\) は \(mg\cos\alpha\) です。

計算方法の平易な説明

小球Pは斜面の上を動きますが、斜面から浮き上がったり、斜面にめり込んだりすることはありません。これは、斜面に垂直な方向(斜面を押す方向と、斜面から押し返される方向)で力が釣り合っているからです。Pを斜面に押し付けるのは重力の一部(斜面に垂直な成分)です。これに対して、斜面がPを押し返す力(これが垂直抗力 \(N\) です)が釣り合っています。この力の釣り合いの関係を数式で表します。

結論と吟味

Pが斜面から受ける垂直抗力の大きさは \(N = mg\cos\alpha\) です。
これは、傾斜角 \(\alpha\) の斜面上に物体を置いたときに、その物体が斜面から受ける垂直抗力の大きさを表す基本的な結果です。もし斜面が水平なら(\(\alpha=0\))、\(\cos0=1\) なので \(N=mg\) となり、垂直抗力は重力と等しくなります。もし斜面が鉛直なら(\(\alpha=90^\circ\))、\(\cos90^\circ=0\) なので \(N=0\) となり、物体は斜面(この場合は壁)に接していても、力を及ぼさない限り垂直抗力は働きません。これらの極端な場合を考えると、得られた結果は物理的に妥当であると言えます。

解答 (1) \(mg\cos\alpha\)

問 (2)

思考の道筋とポイント

小球Pは斜面上で円運動をします。この運動は、鉛直面内の円運動と類似しており、重力の影響が斜面の傾きに応じて変わると考えることができます。具体的には、重力の斜面に沿った成分 \(mg\sin\alpha\) が、円運動の面内での「重力」のような役割を果たします(モデル解答ではこれを「有効な重力加速度」\(g_{\text{斜面}} = g\sin\alpha\) として扱っています)。したがって、力学的エネルギー保存則を考える際には、この \(mg\sin\alpha\) による位置エネルギーの変化を考慮します。
速さ \(v\): \(\theta=0\)(x軸上)での速さが \(v_0\) であることから、任意の角度 \(\theta\) での速さ \(v\) を、斜面内での力学的エネルギー保存則を用いて求めます。\(\theta=0\) の点を斜面内の円運動における位置エネルギーの基準(「高さ」0)とすると、角度 \(\theta\) の点での「高さ」は \(r\sin\theta\) となります(これは円運動の面内で、Oを通るx軸からの「鉛直方向」の距離に相当します)。
張力 \(T\): 任意の角度 \(\theta\) での速さ \(v\) を用い、円運動の半径方向(糸の方向)で運動方程式(または遠心力とのつり合い)を立てて \(T\) を求めます。このとき、斜面内での「有効な重力」\(mg\sin\alpha\) の、糸の方向の成分も考慮に入れます。

この設問における重要なポイント

  • 斜面上の円運動は、重力加速度 \(g\) の代わりに「有効な重力加速度」\(g_{\text{eff}} = g\sin\alpha\) を用いた鉛直面内の円運動と類似の考え方で扱うことができます。
  • 力学的エネルギー保存則(斜面内)を適用します。基準点(\(\theta=0\))からの「高さ」の変化は \(r\sin\theta\) です。
  • 円運動の半径方向の力のつり合い(遠心力を考慮)または運動方程式(向心力)を立てます。張力 \(T\) と、「有効な重力」\(mg\sin\alpha\) の半径方向成分の和が、遠心力 \(m\frac{v^2}{r}\) とつり合うか、向心力となります。

具体的な解説と立式

モデル解答の「LECTURE」で示されているように、この斜面上の円運動は、重力加速度が \(g_{\text{斜面}} = g\sin\alpha\) であるような「斜面内重力場」での鉛直面内円運動と等価に扱うことができます。この視点で解説を進めます。

Pの速さ \(v\):
\(\theta=0\) の点(x軸上)を、斜面内の円運動における位置エネルギーの基準(「高さ」0)とします。このときの速さは \(v_0\) です。
小球Pが角度 \(\theta\) の位置にあるとき、\(\theta=0\) の基準線からの「高さ」(円運動の面内で、Oを通りx軸に垂直な方向の距離)は \(h’ = r\sin\theta\) です。
斜面内での力学的エネルギー保存則より、(\(\theta=0\) での力学的エネルギー)=(角度 \(\theta\) での力学的エネルギー)
$$\frac{1}{2}mv_0^2 + m(g\sin\alpha)(0) = \frac{1}{2}mv^2 + m(g\sin\alpha)(r\sin\theta)$$
したがって、
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv^2 + mgr\sin\alpha\sin\theta \quad \cdots ②$$
(ここで \(g\sin\alpha\) は斜面内での有効な重力加速度、\(r\sin\theta\) はその方向での高さ変化です。)

糸の張力 \(T\):
小球Pと共に円運動する観測者から見ると、Pは静止しており、以下の力が半径方向でつり合っています。モデル解答の式③ \(T + mg\sin\alpha\sin\theta = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を用います。この式は、張力 \(T\)(中心O向き)と、「有効な重力」\(mg\sin\alpha\) の半径方向成分(モデル解答の図では、角度 \(\theta\) の取り方から、これも中心O向きの寄与として \(mg\sin\alpha\sin\theta\) となっている)の和が、遠心力 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\)(中心Oから遠ざかる向き)とつり合っている、あるいはこれらの合力が向心力 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を構成していると解釈できます。
$$T + mg\sin\alpha\sin\theta = m\frac{v^2}{r} \quad \cdots ③$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則(斜面内)
  • 円運動の運動方程式(または遠心力とのつり合い)
計算過程

速さ \(v\) の計算:
式② \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv^2 + mgr\sin\alpha\sin\theta\) より \(v\) を求めます。
両辺の \(m\) を消去し(\(m \neq 0\))、\(\displaystyle\frac{1}{2}v^2\) について解くと、
$$\frac{1}{2}v^2 = \frac{1}{2}v_0^2 – gr\sin\alpha\sin\theta$$
したがって、\(v^2\) は、
$$v^2 = v_0^2 – 2gr\sin\alpha\sin\theta$$
速さ \(v\) は正なので(円運動を続けている間)、
$$v = \sqrt{v_0^2 – 2gr\sin\alpha\sin\theta} \quad \cdots ④$$

張力 \(T\) の計算:
式③ \(T + mg\sin\alpha\sin\theta = m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) より、\(T\) について解くと、
$$T = m\frac{v^2}{r} – mg\sin\alpha\sin\theta$$
この式に、上で求めた \(v^2 = v_0^2 – 2gr\sin\alpha\sin\theta\) を代入します。
$$T = m\frac{v_0^2 – 2gr\sin\alpha\sin\theta}{r} – mg\sin\alpha\sin\theta$$
$$T = m\frac{v_0^2}{r} – m\frac{2gr\sin\alpha\sin\theta}{r} – mg\sin\alpha\sin\theta$$
$$T = m\frac{v_0^2}{r} – 2mg\sin\alpha\sin\theta – mg\sin\alpha\sin\theta$$
したがって、張力 \(T\) は、
$$T = m\frac{v_0^2}{r} – 3mg\sin\alpha\sin\theta \quad \cdots ⑤$$

計算方法の平易な説明

速さ \(v\): 小球が斜面上の円軌道を動くとき、摩擦がないのでエネルギーの合計は変わりません。ただし、斜面なので「高さ」の変化は、実際の鉛直方向の高さではなく、斜面に沿った「有効な重力」(\(g\sin\alpha\) で決まる力)に逆らってどれだけ上がったか、で考えます。最初の速さ \(v_0\)(\(\theta=0\)のとき)とエネルギー保存のルールから、任意の角度 \(\theta\) での速さ \(v\) を計算します。
張力 \(T\): 小球が円運動をしているので、糸の張力 \(T\) は、小球を円の中心に引き留める役割と、斜面内での「有効な重力」の成分とバランスを取る役割を担います。これに加えて、円運動による外向きの「見かけの力」(遠心力)も考え合わせ、糸の方向に働く力のつり合いから張力 \(T\) を計算します。

結論と吟味

Pの速さ \(v\) は \(v = \sqrt{v_0^2 – 2gr\sin\alpha\sin\theta}\) であり、糸の張力 \(T\) は \(T = m\displaystyle\frac{v_0^2}{r} – 3mg\sin\alpha\sin\theta\) です。
速さ \(v\) の式は、\(\theta\) が大きくなる(円軌道の上の方へ行く)と \(\sin\theta\) が大きくなり(\(\theta\) が0から\(\pi/2\)の範囲で)、速さが減少することを示しています。これはエネルギーが位置エネルギーに変換されるためで、物理的に妥当です。張力 \(T\) の式は、初速 \(v_0\) が大きいほど、また \(\sin\theta\) が小さい(円軌道の下の方、または\(\theta\)が負の領域)ほど大きくなる傾向を示しています(第2項の係数と\(\sin\theta\)の符号に注意)。\(\theta = \pi/2\)(最高点)では \(\sin\theta=1\) となり、このとき張力が最小になる可能性があります。

解答 (2) 速さ \(v = \sqrt{v_0^2 – 2gr\sin\alpha\sin\theta}\), 張力 \(T = m\displaystyle\frac{v_0^2}{r} – 3mg\sin\alpha\sin\theta\)

問 (3)

思考の道筋とポイント

小球Pが斜面上で円運動を続けるためには、どの位置においても糸がたるまない、つまり糸の張力 \(T\) が0以上である必要があります (\(T \ge 0\))。設問(2)で求めた張力 \(T = m\displaystyle\frac{v_0^2}{r} – 3mg\sin\alpha\sin\theta\) の式を見ると、張力 \(T\) が最も小さくなるのは \(\sin\theta\) が最大となるとき、すなわち \(\theta = \pi/2\)(円運動の最高点、x軸から見て最も「上」の位置)のときです。この最高点で張力が0以上(ぎりぎりなら \(T=0\))となる条件から、\(\theta=0\) における初速 \(v_0\) の最小値を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 円運動を続けるための条件は、糸の張力 \(T \ge 0\) が常に成り立つことです。
  • 張力 \(T\) が最も小さくなるのは、円運動の最高点(\(\theta = \pi/2\)、このとき \(\sin\theta=1\))です。
  • 最高点での張力が0以上となる条件から、初速 \(v_0\) の下限値を求めます。

具体的な解説と立式

設問(2)で求めた糸の張力 \(T\) の式は、
$$T = m\frac{v_0^2}{r} – 3mg\sin\alpha\sin\theta \quad \cdots ⑤$$でした。
円運動を続けるためには、常に \(T \ge 0\) である必要があります。この式を見ると、\(T\) が最小となるのは、\(\sin\alpha > 0\) の条件下で \(\sin\theta\) が最大値1をとるとき、すなわち \(\theta = \pi/2\)(円運動の最高点)のときです。
このときの張力を \(T_{\text{min}}\) とすると、
$$T_{\text{min}} = m\frac{v_0^2}{r} – 3mg\sin\alpha(1)$$
円運動を続けるための条件は \(T_{\text{min}} \ge 0\) なので、
$$m\frac{v_0^2}{r} – 3mg\sin\alpha \ge 0 \quad \cdots ⑥$$

別解1: 最高点での速さと力のつり合い(モデル解答の考え方)

円運動の最高点(\(\theta=\pi/2\))での小球の速さを \(v_1\) とします。
まず、\(\theta=0\) での速さ \(v_0\) と、最高点での速さ \(v_1\) の関係を力学的エネルギー保存則(斜面内)から求めます。\(\theta=0\) を基準とすると、最高点での「高さ」は \(r\sin(\pi/2) = r\) です。
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv_1^2 + m(g\sin\alpha)r$$
したがって、\(v_1^2 = v_0^2 – 2gr\sin\alpha\) です。
次に、最高点での半径方向の力のつり合い(遠心力を考慮)または運動方程式を考えます。張力を \(T_1\)(これが \(T_{\text{min}}\) に相当)とすると、張力 \(T_1\) と「有効な重力」\(mg\sin\alpha\) の半径方向成分(この場合は \(mg\sin\alpha\) そのもの、円の中心Oから遠ざかる向き、したがって張力とは反対向きに寄与)の和が、遠心力 \(m\frac{v_1^2}{r}\) とつり合います(張力はO向き)。
モデル解答のLECTUREでは、\(m\frac{v_1^2}{r} \ge mg\sin\alpha\) を条件としています。これは、最高点での向心力が、張力 \(T_1\)(これが0以上)と有効重力の半径方向成分 \(mg\sin\alpha\)(これは中心Oに向かう向き)の和であることを意味し、\(T_1 + mg\sin\alpha = m\frac{v_1^2}{r}\) より \(T_1 = m\frac{v_1^2}{r} – mg\sin\alpha \ge 0\) となります。よって、\(m\frac{v_1^2}{r} \ge mg\sin\alpha\) です。
したがって、\(v_1^2 \ge gr\sin\alpha\)。
これをエネルギー保存の式から得た \(v_1^2 = v_0^2 – 2gr\sin\alpha\) と組み合わせると、
$$v_0^2 – 2gr\sin\alpha \ge gr\sin\alpha$$
$$v_0^2 \ge 3gr\sin\alpha$$
これは式⑥と同じ条件です。

使用した物理公式

  • 糸の張力の式((2)で導出)
  • 円運動を続ける条件: 張力 \(T \ge 0\) (特に張力が最小となる点で)
  • (別解では)力学的エネルギー保存則、円運動の運動方程式(または力のつり合い)
計算過程

不等式⑥ \(m\displaystyle\frac{v_0^2}{r} – 3mg\sin\alpha \ge 0\) を \(v_0\) について解きます。
$$m\frac{v_0^2}{r} \ge 3mg\sin\alpha$$両辺の \(m\) を消去し(\(m>0\))、\(r\) を掛けると(\(r>0\))、$$v_0^2 \ge 3gr\sin\alpha$$速さ \(v_0\) は正なので、平方根をとると、$$v_0 \ge \sqrt{3gr\sin\alpha} \quad \cdots ⑦$$
したがって、\(\theta=0\) における速さ \(v_0\) は、\(\sqrt{3gr\sin\alpha}\) 以上でなければなりません。

計算方法の平易な説明

小球が斜面上でクルクルと円運動を続けるためには、糸がいつでもピンと張っている(張力が0以上である)必要があります。糸の張力が一番小さくなるのは、円運動の一番高い点(\(\theta=\pi/2\) の位置)です。この一番高い点で糸の張力がちょうど0になるか、それよりも大きいという条件を考えます。(2)で求めた張力 \(T\) の式に、\(\theta=\pi/2\)(つまり \(\sin\theta=1\))を代入し、その値が0以上になるように、最初の速さ \(v_0\) の条件を求めます。

結論と吟味

Pが斜面上で円運動することができるためには、\(\theta=0\) における速さ \(v_0\) は、\(\sqrt{3gr\sin\alpha}\) 以上でなければなりません。
この結果は、鉛直面内の円運動で最高点を通過するための最低速度の条件(最下点での初速が \(\sqrt{5gR}\) 以上、最高点での速さが \(\sqrt{gR}\) 以上)と形が似ています。この問題では「有効な重力加速度」が \(g\sin\alpha\) なので、それを \(g\) と見立て、半径を \(R=r\) とすると、\(v_0 \ge \sqrt{3(g\sin\alpha)r}\) となっています。係数が3であるのは、張力の式 \(T = m\frac{v_0^2}{r} – 3mg\sin\alpha\sin\theta\) の中の係数3に由来しており、これはエネルギー保存と半径方向の力のつり合いから導かれるものです。もし \(\sin\alpha=1\)(鉛直面)なら \(v_0 \ge \sqrt{3gr}\) となりますが、通常の鉛直面内円運動(最下点初速で一周)の条件 \(\sqrt{5gr}\) とは、張力の式の導出の前提や基準点の取り方の違いから係数が異なります。

解答 (3) \(\sqrt{3gr\sin\alpha}\)

問 (4)

思考の道筋とポイント

糸を切った瞬間、小球Pは円の接線方向にそのときの速さ \(u\) で飛び出します。このとき、Pの位置は \(\theta=\pi/3 = 60^\circ\) です。その後、Pは斜面上で「有効な重力加速度」\(g_{\text{斜面}} = g\sin\alpha\) を斜面の最も傾斜が急な下向き(つまり、円運動のO点を通りx軸に垂直で斜面上のy軸を考えた場合の-y’方向、あるいは単に斜面に沿って真下)に受けて放物運動をします。
糸を切ったときのPの位置(円運動の座標系で \(x_P = r\cos60^\circ, y_P = r\sin60^\circ\))と初速度ベクトル(速さ \(u\)、方向は接線方向)を、斜面上の放物運動を解析するための適切な座標系(モデル解答の図では、糸を切った点を新たな原点とし、初速度 \(u\) が水平から30°上向きの角度で、斜面内重力加速度 \(g\sin\alpha\) が鉛直下向きに作用する系)で成分分解します。そして、Pが再びx軸(元の円運動座標系でのy=0の線、モデル解答の新しい座標系では \(y = -r\sin60^\circ\) の直線)に達するまでの時間を計算し、その時間におけるx方向の変位を求め、最終的なx座標を決定します。

この設問における重要なポイント

  • 糸を切った瞬間、Pは速さ \(u\) で円の接線方向に飛び出します。このときの速度の方向を正確に把握します。
  • その後、Pは斜面上で有効な重力加速度 \(g\sin\alpha\)(斜面に沿って鉛直下向きに相当する方向)による放物運動をします。
  • 糸を切った点の位置と初速度の方向を正確に把握し、斜面上の放物運動として扱います。モデル解答の図のように、糸を切った点を原点とする新しい座標系を設定すると便利です。
  • Pがx軸に達するとは、この新しい座標系でy座標が特定の値(元のx軸までの「高さ」)になることを意味します。

具体的な解説と立式

糸を切った瞬間、Pの位置は円運動の中心Oから見て角度 \(\theta=\pi/3 = 60^\circ\) です。モデル解答の図(LECTURE p91)に従い、糸を切った点Pを新たな原点O’とし、そこからの運動を考えます。このとき、初速度 \(u\) は、元の円運動の接線方向です。元のx軸(水平)から \(60^\circ\) の位置での接線は、水平線に対して \(90^\circ – 60^\circ = 30^\circ\) の角度をなす方向(斜面内上向き)になります。この新しい座標系で、初速度 \(u\) を水平成分と鉛直成分(斜面内で)に分解します。

  • 初速度の水平成分(元のx軸と平行とは限らない、モデル解答の図のx軸方向): \(u\cos30^\circ\)
  • 初速度の鉛直成分(斜面内で上向き): \(u\sin30^\circ\)

Pに働く加速度は、斜面に沿って真下向きに大きさ \(g\sin\alpha\) です。この加速度を、モデル解答の図で設定した新しい座標軸(y軸は鉛直上向き)に合わせて成分分解すると、y軸負の向きに \(g\sin\alpha\) となります。
Pが元のx軸(円運動の中心Oを通る水平線)に達するということは、この新しい座標系でy座標が \(-r\sin60^\circ\) になることを意味します(糸を切ったPの位置は、元のx軸から \(r\sin60^\circ\) だけ上にあるため)。
したがって、y方向の変位について、等加速度運動の式を立てます。
$$-r\sin60^\circ = (u\sin30^\circ)t + \frac{1}{2}(-g\sin\alpha)t^2 \quad \cdots ⑧$$
この2次方程式を解いて時間 \(t\) (\(t>0\)) を求めます。
そのときのx方向の変位(モデル解答の図のx軸方向)は、等速運動なので、
$$\Delta x_{\text{モデル図}} = (u\cos30^\circ)t \quad \cdots ⑨$$
求めるx座標は、糸を切ったときのPの元の円運動座標系でのx座標 \(r\cos60^\circ\) から、この \(\Delta x_{\text{モデル図}}\) だけ移動した位置となります。モデル解答の図では、\(\Delta x_{\text{モデル図}}\) が左向きの変位として描かれているため、最終的なx座標は \(x_{\text{最終}} = r\cos60^\circ – \Delta x_{\text{モデル図}}\) となります。

使用した物理公式

  • 斜面上の放物運動(有効な重力加速度 \(g\sin\alpha\) を使用)
  • 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}a_y t^2\), \(x = v_{0x}t\)
  • 初速度の成分分解
計算過程

式⑧に具体的な値を代入します: \(\sin60^\circ = \sqrt{3}/2\), \(\sin30^\circ = 1/2\)。
$$-\frac{\sqrt{3}}{2}r = \frac{1}{2}ut – \frac{1}{2}g\sin\alpha \cdot t^2$$両辺を2倍して整理すると、$$(g\sin\alpha)t^2 – ut – \sqrt{3}r = 0$$この \(t\) についての2次方程式を解きます。\(t>0\) なので、解の公式より、$$t = \frac{-(-u) + \sqrt{(-u)^2 – 4(g\sin\alpha)(-\sqrt{3}r)}}{2(g\sin\alpha)} = \frac{u + \sqrt{u^2 + 4\sqrt{3}gr\sin\alpha}}{2g\sin\alpha} \quad \cdots ⑩$$次に、モデル解答の図におけるx方向の変位 \(\Delta x_{\text{モデル図}}\) を式⑨から求めます: \(\cos30^\circ = \sqrt{3}/2\)。$$\Delta x_{\text{モデル図}} = \left(u\frac{\sqrt{3}}{2}\right)t = \frac{\sqrt{3}u}{2} \cdot \frac{u + \sqrt{u^2 + 4\sqrt{3}gr\sin\alpha}}{2g\sin\alpha}$$$$\Delta x_{\text{モデル図}} = \frac{\sqrt{3}u(u + \sqrt{u^2 + 4\sqrt{3}gr\sin\alpha})}{4g\sin\alpha}$$
糸を切ったときのPの元の円運動座標系でのx座標は \(x_{\text{初期}} = r\cos60^\circ = r/2\)。
モデル解答の図に従うと、最終的なx座標 \(x_{\text{最終}}\) は、\(x_{\text{最終}} = x_{\text{初期}} – \Delta x_{\text{モデル図}}\) となります(図では\(\Delta x_{\text{モデル図}}\)が左向きの変位の大きさとして扱われているため)。
$$x_{\text{最終}} = \frac{r}{2} – \frac{\sqrt{3}u(u + \sqrt{u^2 + 4\sqrt{3}gr\sin\alpha})}{4g\sin\alpha} \quad \cdots ⑪$$

計算方法の平易な説明

小球Pが角度 \(\theta=\pi/3\)(60°)の位置で速さ \(u\) で糸が切れると、Pは円運動の接線方向に飛び出します。その後、Pは斜面の上を、斜面に沿った下向きの「有効な重力」(\(g\sin\alpha\) で決まる加速度)を受けながら放物線を描いて運動します。この「斜面上の放物運動」を解析します。
まず、糸が切れた瞬間のPの速度を、斜面上で水平方向とそれに垂直な上向き方向に分解します。そして、Pが再び元の円運動のx軸の高さまで戻ってくる(つまり、斜面上で垂直な方向の変位が特定の値になる)までの時間を計算します。最後に、その時間と水平方向の速度(および初期のx座標)から、Pが元のx軸のどの位置に落下するか(最終的なx座標)を求めます。

結論と吟味

Pが斜面上を運動しx軸上に達したときのx座標は \(x = \displaystyle\frac{r}{2} – \frac{\sqrt{3}u(u + \sqrt{u^2 + 4\sqrt{3}gr\sin\alpha})}{4g\sin\alpha}\) です。
この式は非常に複雑ですが、各パラメータ(初速\(u\)、円運動の半径\(r\)、重力加速度\(g\)、斜面の傾斜角\(\alpha\))に依存していることがわかります。例えば、初速\(u\)が大きいほど、第2項の絶対値が大きくなり、より左側(x座標が小さい、あるいは負の大きな値)に落下する傾向があることが読み取れます。また、斜面の傾斜角\(\alpha\)が0(水平面)に近づくと \(\sin\alpha \rightarrow 0\) となり分母が0に近づくため、この式はそのままでは適用できず、別の考察(例えば、単なる等速直線運動)が必要になります。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{r}{2} – \frac{\sqrt{3}u(u + \sqrt{u^2 + 4\sqrt{3}gr\sin\alpha})}{4g\sin\alpha}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 斜面上の運動における「有効な重力加速度」:
    • 現象: 斜面上の物体の運動を考える際、斜面に平行な方向の運動に直接影響するのは、重力の斜面内成分である。この問題では、円運動や放物運動の解析において、重力加速度 \(g\) の代わりに \(g\sin\alpha\) を「有効な重力加速度」として用いる視点が重要だった。
    • 対策: 常に運動がどの面(水平面、鉛直面、斜面)で行われているかを意識し、重力の影響を正しく評価する。
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 現象: 摩擦がない滑らかな面上での運動であり、糸の張力は常に小球の速度と垂直なので仕事をしない(円運動の接線方向には)。したがって、小球の力学的エネルギー(運動エネルギーと、斜面内での有効な重力による位置エネルギーの和)は保存される。
    • 対策: 保存則が適用できる条件(非保存力が仕事をしない)を見抜く。位置エネルギーの基準点と高さを正確に設定する。
  • 円運動の動力学(向心力と張力):
    • 現象: 小球が円運動をしているとき、その運動を維持するためには中心に向かう力(向心力)が必要である。この向心力は、糸の張力と、「有効な重力」の半径方向成分の合力によって供給される。あるいは、回転系で遠心力を考えれば、それらと張力、有効重力成分がつり合う。
    • 対策: 円運動の中心、半径を正確に把握し、半径方向の力のつり合いまたは運動方程式を立てる。
  • 円運動を継続する条件(糸がたるまない条件):
    • 現象: 小球が円軌道を一周するためには、軌道上のどの点でも糸の張力 \(T \ge 0\) でなければならない。特に張力が最も小さくなる最高点(この問題では \(\theta=\pi/2\))でこの条件を満たす必要がある。
    • 対策: 「糸がたるむ」=「張力T=0」と物理的に解釈し、数式に落とし込む。
  • 斜面上の放物運動:
    • 現象: 糸が切れた後の小球は、斜面上で「有効な重力加速度」\(g\sin\alpha\) を受けて放物運動をする。
    • 対策: 初速度の方向と、この有効な重力加速度の方向を正確に把握し、適切な座標系で運動を記述する。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 鉛直面内の円運動(\(g\sin\alpha\) を \(g\) に置き換えればほぼ同じ考え方が通用する)。
    • 途中で束縛条件が変わる運動(例:糸が釘に引っかかる、物体がレールから飛び出す)。
    • 斜面上の投射運動。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 運動の場の特徴の把握: 運動が水平面か、鉛直面か、斜面か。それによって重力のどの成分が運動に影響するかを見極める。
    2. 保存則の適用可能性の検討: 摩擦や空気抵抗の有無、仕事をする外力の有無から、力学的エネルギー保存則や運動量保存則が使えるか判断する。
    3. 円運動部分の解析: 円運動の中心、半径、その点での速さ、そして半径方向の力のつり合い(または運動方程式)を考える。
    4. 限界条件の数式化: 「糸がたるむ」「面から離れる」「最高点を通過する」といった言葉で表される物理的状況を、張力=0、垂直抗力=0、速度>0(または張力\(\ge0\))といった数式に置き換える。
    5. 座標系の適切な設定: 特に放物運動などを扱う場合、初速度の方向や加速度の方向を考慮して、計算しやすい座標系を設定する。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 斜面上の運動では、重力を斜面に平行な成分と垂直な成分に分解することが基本。円運動の場合は、さらに円運動の面内で考える必要がある。
    • 角度 \(\theta\) の定義(どこを基準にどちら向きか)を正確に把握し、三角関数の適用を間違えない。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 斜面上の円運動における「高さ」と「重力」の扱い:
    • 現象: 力学的エネルギー保存則を立てる際、位置エネルギーの「高さ」を鉛直方向の高さで考えてしまう(間違いではないが、斜面内の有効な重力 \(g\sin\alpha\) と斜面内の「高さ」\(r\sin\theta\) で考える方が見通しが良い場合がある)。また、円運動の向心力に関わる重力成分を誤って鉛直方向の \(mg\) のまま使ってしまう。
    • 対策: 斜面上の運動では、斜面に沿った方向の運動エネルギーと、斜面に沿った方向の「有効な重力」による位置エネルギーを考える。円運動の半径方向の力のつり合いでは、この「有効な重力」の半径方向成分を考慮する。
  • 糸の張力が最小になる位置の誤解:
    • 現象: 鉛直面内の円運動では最高点で張力が最小になるが、この問題のような斜面上の円運動でも同様に \(\theta=\pi/2\) で張力が最小になることを正しく理解しているか。
    • 対策: 張力の式を \(\theta\) の関数として見て、実際にどの \(\theta\) で最小値をとるかを確認する(この問題ではモデル解答が \(\theta=\pi/2\) で最小として扱っている)。
  • 斜面上の放物運動における加速度の誤認:
    • 現象: 糸が切れた後、加速度を鉛直下向きの \(g\) のまま扱ってしまう。
    • 対策: 運動は斜面上で続くと問題文に指定されているため、加速度は重力の斜面内成分による \(g\sin\alpha\) であることを理解する。また、その方向も斜面に沿って最も傾斜がきつい方向である。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • 小球Pが斜面上の円軌道をクルクルと回る様子。特に、円軌道のどの位置で速さが速く、どの位置で遅くなるか。どの位置で糸の張力が大きくなり、どの位置で小さくなるかをイメージします。
  • (4)で糸が切れた後、Pが円の接線方向に飛び出し、斜面上で放物線を描いて落下する様子をイメージします。
  • 各点(特に \(\theta=0\), \(\theta=\pi/2\), \(\theta=\pi/3\), 任意の\(\theta\))でのPにはたらく力(重力、張力、垂直抗力、遠心力)をベクトルで正確に図示します。特に、重力を斜面に平行・垂直な成分に分解したり、円運動の半径方向・接線方向に分解したりする図は有効です。
  • 力の作用点、向き、相対的な大きさをできるだけ正確に描くように心がけます。
  • 座標軸(円運動のx-y座標、放物運動の座標など)の取り方を明確に示します。
  • 角度(\(\alpha\), \(\theta\))が図のどの部分を指すのかを正確に示します。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力学的エネルギー保存則(斜面内):
    • 選定理由: 摩擦がなく、垂直抗力は仕事をしない、糸の張力も(円運動の接線方向には)仕事をしないため、斜面内での有効な重力(保存力)のみが仕事をするので適用可能。
    • 適用根拠: 非保存力が仕事をしない系では、力学的エネルギーは保存されるという普遍的な原理。
  • 円運動の半径方向の運動方程式(または力のつり合い):
    • 選定理由: 小球が円運動をしているという事実から、その運動を維持するための力の条件として適用。
    • 適用根拠: 物体が円運動をするためには、向心加速度を生じさせる向心力が必要であるというニュートンの第二法則の応用。
  • 斜面上の放物運動の公式:
    • 選定理由: 糸が切れた後は、斜面上で一定の加速度(有効な重力加速度 \(g\sin\alpha\))を受ける運動なので、等加速度運動の公式(放物運動の公式)を適用可能。
    • 適用根拠: 一定加速度下での運動を記述する運動学の公式。
  • 公式選択の思考訓練:
    • 常に、「この公式が成り立つための前提条件は何か?」「この問題の状況はその条件を満たしているか?」と自問する。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問題の状況(斜面上の円運動、糸が切れるなど)と、問われている物理量を把握。
  2. 各状況で適用できる物理法則(エネルギー保存、運動方程式、力のつり合いなど)を選択。
  3. 座標系や基準点を適切に設定し、力を図示・分解。
  4. 法則に基づいて方程式を立てる。特に円運動では半径方向の力の関係が重要。
  5. 「糸がたるまない」「軌道から離れる」といった条件を数式化する。
  6. 得られた方程式(しばしば連立方程式)を解いて答えを導く。
  7. 解の物理的な妥当性を吟味する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 三角関数の計算 (\(\sin\theta, \cos\theta, \tan\theta\)) と、それらを含む式の変形。
    • エネルギー保存則を立てる際の位置エネルギーの高さの計算(特に角度 \(\theta\) や \(\alpha\) が絡む場合)。
    • 連立方程式の処理、文字式の整理。
    • (4)の放物運動の解析における、初速度の成分分解と座標設定、時間の計算。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 複雑な設定でも、基本に立ち返り、一つ一つの力を丁寧に見る。
    • 図を有効活用し、幾何学的な関係と物理的な関係を結びつける。
    • 文字計算の能力を高める。計算過程を丁寧に追い、間違いやすい箇所を意識する。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 例えば、(3)で求めた \(v_0 \ge \sqrt{3gr\sin\alpha}\) という条件。もし \(\alpha=90^\circ\)(鉛直面)なら \(v_0 \ge \sqrt{3gr}\) となるが、鉛直面内の円運動で最高点を通過する条件は \(v_0 \ge \sqrt{5gr}\)(最下点初速)であり、単純な比較はできないが、オーダーとしては \( \sqrt{gr} \) に比例するのは妥当か。
    • (4)のx座標の式の複雑さ。もし \(u=0\) ならどうなるか(放物運動ではなく、単に落下するか)。もし \(\alpha=0\)(水平面)ならどうなるか(斜面ではなくなるので問題設定が変わる)。
  • 吟味の習慣: 常に、極端な場合を考えてみたり、単位が合っているかを確認したりすることで、大きな間違いに気づくことができる。
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