「名問の森」徹底解説(28〜30問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題28 (筑波大+名古屋大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、一端を固定された軽い糸につけられた小球の鉛直面内での円運動を扱います。特筆すべきは、運動の途中で糸がくぎに引っかかり、円運動の中心と半径が変わる点です。小球の速さ、糸の張力、糸がゆるむ条件、そして円運動を続けるための初期条件などが問われています。力学的エネルギー保存則と、円運動の向心力(あるいは遠心力とのつり合い)の考え方が中心となります。

与えられた条件
  • 小球の質量: \(m\)
  • 糸の長さ: \(l\) (軽くて細い)
  • 固定点A: 糸の上端。
  • くぎB: 点Aから鉛直下方 \(\frac{3}{4}l\) の位置に水平に固定(細くて滑らか)。
  • 初期状態: 糸が鉛直線となす角が \(\theta = 60^\circ\) の位置で、小球を静かに放す。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
問われていること
  1. (1) 小球が最下点Cを通るときの速さ。
  2. (2) 小球が点Cを通る直前での糸の張力 \(T_1\) と、通った直後の糸の張力 \(T_2\)。
  3. (3) 小球が点Bと同じ高さの点Dを通るときの糸の張力。
  4. (4) 小球が点Eに達したとき糸がゆるんだ場合の \(\sin\alpha\)(\(\alpha = \angle EBD\))。
  5. (5) 糸がたるむことなく小球がBを中心とする円弧を描き、Bの鉛直上方の点Fに達するための、はじめの角 \(\theta_0\) に関する \(\cos\theta_0\)。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2) 張力\(T_1, T_2\)の別解: 静止系(慣性系)から見た運動方程式を用いる解法
      • 主たる解法が、小球と共に回転する観測者の視点から「遠心力」を含めた力のつり合いを考えるのに対し、別解では床に静止した観測者の視点から、小球にはたらく「向心力」と加速度の関係を記述する「運動方程式」を立てます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 円運動を「見かけの力(遠心力)を含めた力のつり合い」と、「実在する力(向心力)による加速度運動」という2つの異なる物理モデルで理解することにより、慣性力や向心力の概念の本質的な理解が深まります。
    • 解法の選択肢: 問題によっては、向心力を考えた方が直感的に理解しやすい場合もあります。両方の視点を知ることで、状況に応じて最適なアプローチを選択する能力が養われます。
    • 異なる視点の学習: 同じ物理現象を異なる視点から記述する訓練は、思考の柔軟性を高め、より複雑な問題への応用力を向上させます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、立式に至る思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる方程式は完全に一致します。

この問題を解く上で中心となるのは、「力学的エネルギー保存則」と「円運動の運動方程式(または遠心力を用いた力のつり合い)」です。糸の張力は常に小球の運動方向と垂直なので仕事をせず、また摩擦も考えないため、力学的エネルギーは保存されます。円運動をしている各点では、その時点での円運動の中心と半径を正確に把握し、半径方向の力の合力が向心力となっている(あるいは遠心力とつり合っている)という関係式を立てます。「糸がゆるむ」という条件は張力が0になること、「最高点を通過する」条件は最高点での張力が0以上であること、と物理的に解釈します。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力学的エネルギー保存則: 糸の張力は常に運動方向と垂直で仕事をしないため、重力のみが仕事をするこの系では力学的エネルギーが保存されます。
  2. 円運動の動力学: 円運動をしている物体には、円の中心に向かう力(向心力)がはたらいています。運動方程式は\(ma_c = F_c\)(\(a_c\)は向心加速度)となります。あるいは、回転系から見て遠心力を含めた力のつり合いを考えます。
  3. 限界条件の物理的解釈: 「糸がゆるむ」という条件は「張力\(T=0\)」、「最高点を通過できる」という条件は「最高点での張力\(T \ge 0\)」と読み替えることが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、力学的エネルギー保存則を用いて、各点での速さを求めます。
  2. 次に、各点での円運動の中心と半径を正確に把握し、半径方向の運動方程式(または力のつり合いの式)を立てて、張力を求めます。
  3. 糸がゆるむ条件や、円運動を継続する条件を、張力に関する条件として立式し、問題を解き進めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
小球は、初めの位置(糸が鉛直線と60°をなす高さ)から最下点Cまで運動する間、重力と糸の張力のみを受けます。糸の張力は常に小球の運動方向と垂直なので仕事をしません。したがって、この間で小球の力学的エネルギーは保存されます。最下点Cを位置エネルギーの基準(高さ0)とし、初めの位置の高さを計算して、エネルギー保存則を適用します。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則が適用できます。
  • 初めの状態: 速さ0。最下点Cからの高さは\(l – l\cos60^\circ\)。
  • 後の状態(最下点C): 高さを0(基準)。速さを\(v_0\)とする。

具体的な解説と立式
小球が最下点Cを通るときの速さを\(v_0\)とします。
初めの位置での小球の高さは、最下点Cを基準とすると、\(h_{\text{初}} = l – l\cos60^\circ\)です。
初めの状態では小球は静かに放されるので、速さは0です。
力学的エネルギー保存則より、
(初めの運動エネルギー)+(初めの位置エネルギー)=(最下点Cでの運動エネルギー)+(最下点Cでの位置エネルギー)
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m(0)^2 + mg(l(1-\cos60^\circ)) &= \frac{1}{2}mv_0^2 + mg(0)
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
mgl(1-\cos60^\circ) &= \frac{1}{2}mv_0^2 \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
計算過程

式①に\(\cos60^\circ = 1/2\)を代入して\(v_0\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
mgl\left(1-\frac{1}{2}\right) &= \frac{1}{2}mv_0^2 \\[2.0ex]
mgl \cdot \frac{1}{2} &= \frac{1}{2}mv_0^2
\end{aligned}
$$
両辺の\(\frac{1}{2}m\)を消去すると、
$$
\begin{aligned}
gl &= v_0^2
\end{aligned}
$$
速さ\(v_0\)は正なので、
$$
\begin{aligned}
v_0 &= \sqrt{gl} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

小球が最初の位置から一番下の点Cまで動くとき、重力だけが仕事をするので、エネルギーの合計(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は変わりません。最初の位置では小球は止まっているので運動エネルギーはゼロ、位置エネルギーは一番下の点Cを基準にすると\(mg \times (\text{高さの差})\)です。一番下の点Cでは位置エネルギーはゼロ、運動エネルギーは\(\frac{1}{2}mv_0^2\)です。これらのエネルギーの合計が等しいという式を立てて、速さ\(v_0\)を計算します。

結論と吟味

小球が最下点Cを通るときの速さは\(v_0 = \sqrt{gl}\)です。
この結果は、振り子の運動でよく見られる速さの形です。単位も[m/s]となり、速さの単位として正しいです。

解答 (1) \(\sqrt{gl}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
点Cを通る直前と直後では、小球は円運動をしています。円運動の中心と半径が直前と直後で変わる点に注意が必要です。どちらの場合も、小球の速さは(1)で求めた\(v_0 = \sqrt{gl}\)です。
円運動をしている物体には、円の中心に向かう方向の合力(向心力)が働いています。この向心力は、糸の張力と重力の合力によって供給されます。ここでは、小球と共に回転する観測者の立場から、遠心力と他の力がつり合っていると考えます。
この設問における重要なポイント

  • 点Cでの速さは\(v_0 = \sqrt{gl}\)です。
  • 点C直前: 円運動の中心はA、半径は\(l\)。
  • 点C直後: 円運動の中心はB、半径は\(r’ = l – \frac{3}{4}l = \frac{1}{4}l\)。
  • それぞれの状況で、半径方向の力のつり合い(遠心力を考慮)を立てます。

具体的な解説と立式
点Cを通る直前の張力\(T_1\):
このとき、小球は点Aを中心とする半径\(l\)の円運動をしています。最下点Cでは、小球に働く力は、鉛直上向きの張力\(T_1\)と鉛直下向きの重力\(mg\)です。回転系から見ると、これらに加えて鉛直下向きに遠心力\(m\displaystyle\frac{v_0^2}{l}\)が働いてつり合っています。
(上向きの力)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
T_1 &= mg + m\frac{v_0^2}{l} \quad \cdots ③
\end{aligned}
$$
点Cを通った直後の張力\(T_2\):
糸がくぎBに引っかかったため、小球は点Bを中心とする半径\(r’ = \frac{1}{4}l\)の円運動を始めます。速さは変わらず\(v_0\)です。
最下点Cでは、上向きの張力\(T_2\)、下向きの重力\(mg\)、下向きの遠心力\(m\displaystyle\frac{v_0^2}{r’} = m\frac{v_0^2}{l/4}\)がつり合っています。
(上向きの力)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
T_2 &= mg + m\frac{v_0^2}{l/4} \\[2.0ex]
&= mg + m\frac{4v_0^2}{l} \quad \cdots ④
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い(遠心力を考慮)
  • 遠心力: \(F_{\text{遠心}} = mv^2/r\)
計算過程

まず、点C直前の張力\(T_1\)を求めます。式③に\(v_0^2 = gl\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_1 &= mg + m\frac{gl}{l} \\[2.0ex]
&= mg + mg \\[2.0ex]
&= 2mg \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
次に、点C直後の張力\(T_2\)を求めます。式④に\(v_0^2 = gl\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_2 &= mg + m\frac{4(gl)}{l} \\[2.0ex]
&= mg + 4mg \\[2.0ex]
&= 5mg \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

小球が一番下の点Cを通るとき、小球は円運動をしています。このとき、糸が小球を引っ張る力(張力)は、小球の重力と、円運動による外向きの力(遠心力)の合計と釣り合っています。
点Cの直前では、円運動の半径は糸の全長\(l\)です。点Cを通過した直後では、糸がくぎBに引っかかるため、円運動の半径は\(l/4\)に短くなります。しかし、点Cでの小球の速さは直前と直後で変わりません。それぞれの半径を使って遠心力を計算し、張力を求めます。半径が小さいほど、同じ速さでも遠心力は大きくなるため、張力も大きくなるはずです。

結論と吟味

小球が点Cを通る直前での糸の張力\(T_1\)は\(2mg\)です。
点Cを通った直後の糸の張力\(T_2\)は\(5mg\)です。
円運動の半径が\(l\)から\(l/4\)へと1/4になったことで、同じ速さ\(v_0\)であっても遠心力は4倍になり、その結果、張力も大きく変化しています。これは物理的に妥当な結果です。

別解: 静止系(慣性系)から見た運動方程式を用いる解法

思考の道筋とポイント
静止系から見ると、小球は円運動という加速度運動をしています。半径方向の力の合力が向心力となります。
この設問における重要なポイント

  • 点Cでの速さは\(v_0 = \sqrt{gl}\)です。
  • 点C直前: 円運動の中心はA、半径は\(l\)。向心加速度は\(a_{c1} = v_0^2/l\)。
  • 点C直後: 円運動の中心はB、半径は\(r’ = l/4\)。向心加速度は\(a_{c2} = v_0^2/r’\)。
  • それぞれの状況で、半径方向の運動方程式を立てます。

具体的な解説と立式
点Cを通る直前の張力\(T_1\):
半径方向(鉛直上向き)の力の合力が向心力となります。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_0^2}{l} &= T_1 – mg \quad \cdots (別2-1)
\end{aligned}
$$
点Cを通った直後の張力\(T_2\):
半径方向(鉛直上向き)の力の合力が向心力となります。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_0^2}{l/4} &= T_2 – mg \quad \cdots (別2-2)
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(ma_c = F_c\)
  • 向心加速度: \(a_c = v^2/r\)
計算過程

式(別2-1)から\(T_1\)を求めます。\(v_0^2 = gl\)を代入すると、
$$
\begin{aligned}
m\frac{gl}{l} &= T_1 – mg \\[2.0ex]
mg &= T_1 – mg \\[2.0ex]
T_1 &= 2mg
\end{aligned}
$$
式(別2-2)から\(T_2\)を求めます。\(v_0^2 = gl\)を代入すると、
$$
\begin{aligned}
m\frac{gl}{l/4} &= T_2 – mg \\[2.0ex]
4mg &= T_2 – mg \\[2.0ex]
T_2 &= 5mg
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

動かない床から見ると、小球は円の中心に向かって常に加速しています。この加速度を生み出しているのが、糸の張力と重力の合力(向心力)です。一番下の点Cでは、上向きの張力から下向きの重力を引いたものが向心力になります。「向心力=質量×加速度」という運動の法則を使って、点Cの直前(半径\(l\))と直後(半径\(l/4\))のそれぞれの状況で張力を計算します。

結論と吟味

静止系から考えても、主たる解法と完全に同じ結果が得られます。遠心力を用いた力のつり合いと、向心力を用いた運動方程式は、数学的には移項しただけの関係であり、物理的に等価な現象を記述しています。

解答 (2) \(T_1 = 2mg\), \(T_2 = 5mg\)

問(3)

思考の道筋とポイント
小球が点Bと同じ高さの点Dを通るときを考えます。このとき、小球は点Bを中心とする半径\(r’ = l/4\)の円運動の途中にあります。点Dでの速さを\(v_D\)とします。まず、最下点Cと点Dの間で力学的エネルギー保存則を適用して\(v_D\)を求めます。点Dは点Cから見て高さ\(l/4\)の位置にあります。次に、点Dでは糸BDが水平になるため、糸の張力\(T_D\)がそのまま向心力となります(重力は鉛直下向きなので、この瞬間の半径方向には成分を持ちません)。
この設問における重要なポイント

  • 点Dは点Bと同じ高さなので、最下点Cからの高さは\(l/4\)です。
  • 力学的エネルギー保存則を用いて点Dでの速さ\(v_D\)を求めます。
  • 点Dでは、糸BDは水平となり、張力\(T_D\)が向心力となります。円運動の半径は\(l/4\)。

具体的な解説と立式
点Dでの小球の速さを\(v_D\)とします。最下点Cを位置エネルギーの基準(高さ0)とします。点Dの高さは\(l/4\)です。
最下点Cと点Dの間での力学的エネルギー保存則より、
(Cでのエネルギー)=(Dでのエネルギー)
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 + 0 &= \frac{1}{2}mv_D^2 + mg\left(\frac{l}{4}\right) \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$
点Dでは、糸BDは水平になっています。このとき、半径方向(水平方向)の力は張力\(T_D\)のみです。これが向心力となります。
$$
\begin{aligned}
T_D &= m\frac{v_D^2}{l/4} \quad \cdots ⑧
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • 円運動の運動方程式(向心力)
計算過程

まず、式⑦から\(v_D^2\)を求めます。\(v_0^2 = gl\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m(gl) &= \frac{1}{2}mv_D^2 + \frac{1}{4}mgl
\end{aligned}
$$
両辺の\(m\)を消去し、2倍すると、
$$
\begin{aligned}
gl &= v_D^2 + \frac{1}{2}gl \\[2.0ex]
v_D^2 &= \frac{1}{2}gl \quad \cdots ⑨
\end{aligned}
$$
次に、この\(v_D^2\)を式⑧に代入して張力\(T_D\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
T_D &= m\frac{\frac{1}{2}gl}{l/4} \\[2.0ex]
&= m \frac{gl}{2} \cdot \frac{4}{l} \\[2.0ex]
&= 2mg \quad \cdots ⑩
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

小球が点D(くぎBと同じ高さ)を通るときを考えます。まず、小球が一番下の点Cから点Dまで上がるときのエネルギーの変化を見ます。エネルギーの合計は変わらないので、点Dでの運動エネルギー(つまり速さ)がわかります。次に、点Dでは糸が水平になっているので、小球を円の中心Bに向かって引いているのは糸の力(張力\(T_D\))だけです。この張力が、円運動を続けるために必要な力(向心力)になっていると考え、速さを使って張力\(T_D\)を計算します。

結論と吟味

小球が点Bと同じ高さの点Dを通るときの糸の張力は\(2mg\)です。
興味深いことに、この張力\(2mg\)は、最下点Cを通る直前の張力\(T_1 = 2mg\)と同じ値です。

解答 (3) \(2mg\)

問(4)

思考の道筋とポイント
小球が点Eに達したとき、糸がゆるむとあります。糸がゆるむ瞬間は、糸の張力が0になるときです(\(T_E=0\))。このとき、小球は点Bを中心とする半径\(r’=l/4\)の円運動の途上にあり、糸BEが水平線BDとなす角が\(\alpha\)です。点Eでの速さを\(v_E\)とします。
まず、点Eでの半径方向の運動方程式を考えます。張力\(T_E=0\)なので、重力の半径方向成分が向心力となります。
次に、最下点Cと点Eとの間で力学的エネルギー保存則を立てます。
これらの2つの式を連立させて\(\sin\alpha\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 糸がゆるむ条件は、張力\(T_E = 0\)です。
  • 点Eでの円運動の半径は\(l/4\)。
  • 点Eでの半径方向の運動方程式を立てます。このとき、重力\(mg\)の半径方向成分を考慮します。
  • 力学的エネルギー保存則を、最下点Cと点Eの間で立てます。点Eの高さ(C基準)を\(\alpha\)を用いて正しく表すことが重要です。

具体的な解説と立式
点Eでの速さを\(v_E\)とします。糸がゆるむので張力\(T_E = 0\)です。
点Eにおいて、半径方向(中心B向き)の力の合力が向心力となります。重力\(mg\)の糸BEに沿った成分は\(mg\sin\alpha\)です。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_E^2}{l/4} &= mg\sin\alpha \quad \cdots ⑪
\end{aligned}
$$
次に、力学的エネルギー保存則を最下点Cと点Eの間で考えます。点EのCからの高さは\(h_E = \frac{l}{4} + \frac{l}{4}\sin\alpha\)です。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= \frac{1}{2}mv_E^2 + mg\frac{l}{4}(1+\sin\alpha) \quad \cdots ⑫
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式
  • 糸がゆるむ条件: \(T=0\)
  • 力学的エネルギー保存則
計算過程

式⑪から\(v_E^2 = \frac{gl}{4}\sin\alpha\)。
これを、\(v_0^2 = gl\)と共に式⑫に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}m(gl) &= \frac{1}{2}m\left(\frac{gl}{4}\sin\alpha\right) + mg\frac{l}{4}(1+\sin\alpha)
\end{aligned}
$$
両辺の\(\frac{1}{2}m\)を消去すると、
$$
\begin{aligned}
gl &= \frac{gl}{4}\sin\alpha + \frac{gl}{2}(1+\sin\alpha)
\end{aligned}
$$
両辺を\(gl\)で割ると、
$$
\begin{aligned}
1 &= \frac{1}{4}\sin\alpha + \frac{1}{2}(1+\sin\alpha) \\[2.0ex]
1 &= \frac{1}{4}\sin\alpha + \frac{1}{2} + \frac{1}{2}\sin\alpha
\end{aligned}
$$
\(\sin\alpha\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2} &= \frac{3}{4}\sin\alpha \\[2.0ex]
\sin\alpha &= \frac{2}{3} \quad \cdots ⑬
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

小球が点Eで糸がゆるむというのは、その瞬間、糸が小球を引く力(張力)がゼロになったということです。このときでも、小球はまだ速さ\(v_E\)を持って円運動をしようとしています。円運動をするためには中心に向かう力が必要ですが、張力がゼロなので、この力は重力の成分によって供給されることになります。この関係から、点Eでの速さ\(v_E\)と角度\(\alpha\)の間に一つの式が成り立ちます。
もう一つはエネルギーのルールです。小球が最初の位置から点Eまで動く間、エネルギーの合計は変わりません。これを使って、点Eでの速さ\(v_E\)と角度\(\alpha\)の間にもう一つの式を立てます。
こうして得られた2つの式を組み合わせることで、\(\sin\alpha\)の値を求めます。

結論と吟味

\(\sin\alpha = \displaystyle\frac{2}{3}\)です。
この値は\(0 < \sin\alpha \le 1\)の範囲内にあるため、物理的に意味のある角度として存在し得ます。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{2}{3}\)

問(5)

思考の道筋とポイント
小球が糸がたるむことなく、Bを中心とする円運動の最高点Fに達するための条件を考えます。物体が円運動を続けるためには、軌道上の各点で張力が0以上である必要があります。特に、円運動の最高点Fで張力がちょうど0になる(あるいは0より大きい)ことが、円を描いて運動を続けるためのぎりぎりの条件となります。この限界条件(最高点Fで張力\(T_F \ge 0\))から、点Fでの最小限必要な速さ\(v_F\)を求めます。次に、初めの放出角を\(\theta_0\)とし、初めの位置と点Fとの間で力学的エネルギー保存則を立て、この\(v_F\)を用いて\(\cos\theta_0\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の最高点Fを通過するための条件は、最高点Fでの張力\(T_F \ge 0\)です。ぎりぎりの場合は\(T_F=0\)。
  • 点Fでの円運動の半径は\(l/4\)。
  • 点Fでの半径方向の運動方程式から、\(T_F=0\)となる場合の速さ\(v_F\)を求めます。
  • 力学的エネルギー保存則を、初めの放出位置(角度\(\theta_0\))と点Fの間で立てます。

具体的な解説と立式
点F(Bの真上\(l/4\)の位置)に達するためのぎりぎりの条件は、点Fでの張力\(T_F = 0\)です。点Fでの速さを\(v_F\)とします。
点Fでは、重力\(mg\)と張力\(T_F\)が共に向心力となります。
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_F^2}{l/4} &= mg + T_F
\end{aligned}
$$
\(T_F=0\)とすると、
$$
\begin{aligned}
m\frac{v_F^2}{l/4} &= mg \quad \cdots ⑭
\end{aligned}
$$
次に、初めの放出位置(角度\(\theta_0\))と点Fの間で力学的エネルギー保存則を立てます。最下点Cを基準とすると、初めの高さは\(l(1-\cos\theta_0)\)、点Fの高さは\(l/2\)です。
$$
\begin{aligned}
mgl(1-\cos\theta_0) &= \frac{1}{2}mv_F^2 + mg\left(\frac{l}{2}\right) \quad \cdots ⑮
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式
  • 円運動を続けるための条件(最高点での張力\(\ge 0\))
  • 力学的エネルギー保存則
計算過程

まず、式⑭から\(v_F^2\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
m\frac{4v_F^2}{l} &= mg \\[2.0ex]
v_F^2 &= \frac{gl}{4}
\end{aligned}
$$
次に、この\(v_F^2\)の値を式⑮に代入します。
$$
\begin{aligned}
mgl(1-\cos\theta_0) &= \frac{1}{2}m\left(\frac{gl}{4}\right) + mg\frac{l}{2}
\end{aligned}
$$
両辺を\(mgl\)で割ると、
$$
\begin{aligned}
1-\cos\theta_0 &= \frac{1}{8} + \frac{1}{2} \\[2.0ex]
1-\cos\theta_0 &= \frac{5}{8}
\end{aligned}
$$
\(\cos\theta_0\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
\cos\theta_0 &= 1 – \frac{5}{8} \\[2.0ex]
&= \frac{3}{8} \quad \cdots ⑯
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

小球がくぎBを中心とした円軌道のちょうど真上(点F)まで、糸がたるむことなく到達できるための、最初の振り出し角度\(\theta_0\)を求めます。円軌道のてっぺんである点Fをぎりぎり通過できる条件は、その点で糸の張力がちょうどゼロになるときです。このとき、小球の重力が円運動を続けるために必要な力(向心力)になっています。この条件から、点Fでの小球の速さ\(v_F\)が決まります。
次に、最初の振り出し位置から点Fまでの間で、エネルギーの合計が変わらないというルール(力学的エネルギー保存則)を使います。最初の位置エネルギーと、点Fでの運動エネルギーおよび位置エネルギーが等しいという式を立て、これを最初の角度\(\theta_0\)について解きます。

結論と吟味

はじめの角\(\theta_0\)は、\(\cos\theta_0 = \displaystyle\frac{3}{8}\)を満たす角度である必要があります。Fに達するためには、この\(\cos\theta_0\)の値以下の\(\cos\theta\)(つまり、より高い位置)から放す必要があります。したがって、この値が条件の境界となります。

解答 (5) \(\displaystyle\frac{3}{8}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力学的エネルギー保存則と円運動の動力学:
    • 核心: この問題は、重力場の中での鉛直面内の円運動を扱っており、その根幹をなすのは「力学的エネルギー保存則」と「円運動の運動方程式」という2つの柱です。特に、運動の途中で円運動の中心と半径が変わるという点が特徴的です。
    • 理解のポイント:
      1. エネルギー保存則の適用: 糸の張力は常に小球の速度ベクトルと垂直な方向にはたらくため、仕事をしません。したがって、重力のみが仕事をするこの系では、どの区間においても力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)が保存されます。各点での速さを求めるための最も強力なツールです。
      2. 円運動の中心と半径の特定: 小球がどの点を中心に、どれだけの半径で円運動しているかを、各瞬間で正確に把握することが不可欠です。点Cの直前では中心A・半径\(l\)、直後では中心B・半径\(l/4\)となります。この違いが、張力の劇的な変化を生み出します。
      3. 半径方向の運動方程式: 円運動をしている物体にはたらく力の半径方向の合力が、向心力(\(m v^2/r\))となります。この関係式(運動方程式)を立てることで、張力を速さと位置の関数として求めることができます。あるいは、回転系から見て遠心力を含めた力のつり合いを考えても同じ結果が得られます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ジェットコースターのループ: レールの上を走る台車が鉛直なループを一周する問題。垂直抗力が張力の役割を果たします。最高点を通過できる条件は「最高点での垂直抗力 \(\ge 0\)」となります。
    • 振り子の糸が途中で切れる問題: 振れている振り子の糸が特定の点で切れた後、物体がどのような放物運動をするかを問う問題。切れる瞬間の速度をエネルギー保存則で求め、その後の運動を解析します。
    • 半球面上を滑る物体の運動: 半球の頂点から滑り出した物体が、どの点で面から離れるかを問う問題。「面から離れる \(\iff\) 垂直抗力\(N=0\)」という条件を使う点で、本問の(4)と本質的に同じ構造です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. エネルギーは保存されるか?: まず、問題設定から力学的エネルギーが保存される系かどうかを見抜きます。重力、弾性力、仕事をしない垂直抗力や張力のみがはたらく場合は、エネルギー保存則が有効な武器になります。
    2. 運動の「イベント」に注目する: 「くぎに引っかかる」「糸がゆるむ」「最高点を通過する」といった、運動の様子が変化する「イベント」が問題の鍵となります。それぞれのイベントが、物理的にどのような条件(半径の変化、張力\(T=0\)、張力\(T \ge 0\)など)に対応するのかを正確に翻訳することが重要です。
    3. 位置エネルギーの基準点を明確にする: エネルギー保存則を立てる際には、どこを位置エネルギーの高さの基準(\(h=0\))にするかを最初に決めましょう。最下点や初期位置など、計算が最も簡単になる点を選ぶのが定石です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 円運動の半径の取り違え:
    • 誤解: 点Cを通過した後も、円運動の半径を\(l\)のまま計算してしまう。
    • 対策: くぎBに糸が引っかかった後は、円運動の中心がBに、半径が\(l/4\)に変わることを明確に意識しましょう。図を描き、各運動フェーズでの中心と半径を明記するのが有効です。
  • 速さが一定であるという誤解:
    • 誤解: 円運動だからといって、速さが常に一定だと勘違いしてしまう。
    • 対策: 鉛直面内の円運動では、高さが変化するため、重力が仕事をして速さが変化します。力学的エネルギー保存則から、位置エネルギーが低い点ほど速さは大きくなります。
  • 「糸がゆるむ」条件の誤解:
    • 誤解: 糸がゆるむのは、速さが0になるときだと考えてしまう。
    • 対策: 糸がゆるむのは、張力が0になるときです。最高点以外では、速さが0でなくても張力が0になることがあります(本問の(4))。張力が0になった後、物体は円運動から離れ、重力だけを受ける放物運動に移行します。
  • 最高点通過の条件の誤解:
    • 誤解: 最高点を通過するための条件を、最高点での速さが0になることだと考えてしまう。
    • 対策: 最高点である程度の速さがないと、重力に引かれて円軌道を維持できずに落下してしまいます。最高点を通過できるぎりぎりの条件は、最高点で重力がちょうど向心力となる状態、すなわち「最高点での張力\(T=0\)」です。このときでも速さは0ではありません。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: 物体の速さを、その位置(高さ)の関数として求めるための最も強力で簡潔な方法だからです。力の時間的変化や経路を追跡することなく、始点と終点の状態だけで速さを計算できます。
    • 適用根拠: この問題では、仕事をする力が保存力である重力のみです(張力は仕事をしない)。したがって、どの2点間を選んでも力学的エネルギーは保存されます。
  • 円運動の運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)):
    • 選定理由: 円運動をしている物体の、その瞬間における「力」と「運動状態(速さ、半径)」の関係を記述するためです。特に、張力や垂直抗力といった、運動の状態によって大きさが変わる力を求める際に必須となります。
    • 適用根拠: 小球は各点で円運動をしています。その円運動を維持させているのが、張力と重力の合力(の半径方向成分)である向心力です。この物理的な関係を数式で表現するために、この方程式を適用します。
  • 張力\(T=0\)(糸がゆるむ条件):
    • 選定理由: 「糸がゆるむ」という言葉で表現された物理現象を、数式で扱える条件に変換するためです。
    • 適用根拠: 張力は、糸が物体を引く力です。糸がぴんと張っている限り\(T>0\)ですが、たるみ始めるまさにその瞬間、引く力は0になります。したがって、「糸がゆるむ瞬間の条件 \(\iff T=0\)」という論理的な置き換えが成り立ちます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 位置エネルギーの計算:
    • 特に注意すべき点: 高さの計算で符号や基準点を間違えやすいです。特に、角度\(\theta\)を使って高さを表す際に、\(l\cos\theta\)なのか\(l(1-\cos\theta)\)なのかを混同しがちです。
    • 日頃の練習: 必ず図を描き、どこを高さの基準(\(h=0\))にしたかを明記しましょう。そして、各点の高さを図形的に(三角比を使って)丁寧に計算する癖をつけましょう。
  • 力の分解:
    • 特に注意すべき点: 円運動の任意の位置で、重力を半径方向と接線方向に分解する際に、\(\sin\)と\(\cos\)を取り違えるミスが多いです。
    • 日頃の練習: 角度がどこに現れるかを、図形(錯角や同位角など)の性質を使って正確に特定する練習をしましょう。自信がない場合は、力のベクトルと分解したい軸を描き、小さな直角三角形を作って確認するのが確実です。
  • 代入のタイミング:
    • 特に注意すべき点: \(v^2 = gl\)のような関係式を、どのタイミングで代入するかが計算の効率を左右します。最後まで文字式のまま計算を進め、最後に代入する方が、見通しが良く、ミスが少ないことが多いです。
    • 日頃の練習: 複数の式を連立させる際には、まずどの文字を消去するかという方針を立ててから計算を始めましょう。やみくもに代入すると、式が複雑になるだけで解にたどり着けないことがあります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (2) 張力の比較: \(T_2 = 5mg > T_1 = 2mg\)。
      • 吟味の視点: 半径が小さくなると、同じ速さでもより大きな向心力が必要になります。したがって、張力が大きくなるのは当然であり、妥当です。
    • (4) \(\sin\alpha\): \(\sin\alpha = 2/3\)。
      • 吟味の視点: 値が1より小さいので、物理的に可能な角度であることがわかります。もし計算結果が1を超えたら、どこかで計算ミスをしているか、問題設定上「糸がゆるむ」という現象が起こり得ないことを意味します。
    • (5) \(\cos\theta_0\): \(\cos\theta_0 = 3/8\)。
      • 吟味の視点: これも値が1より小さいので、物理的に可能な角度です。この値は、最高点を通過できるかどうかの境界条件を与えます。この値より\(\cos\theta_0\)が小さい(つまり\(\theta_0\)が大きい、より低い位置から放す)と、最高点に到達する前に失速するか糸がゆるんでしまうことを示唆しています。
  • 単位(次元)のチェック:
    • 例えば、(1)で速さを求めた結果が\(\sqrt{gl}\)となりましたが、次元は\(\sqrt{(\text{m/s}^2) \cdot \text{m}} = \sqrt{\text{m}^2/\text{s}^2} = \text{m/s}\)となり、速さの次元と一致しています。張力を求めた結果が\(mg\)の定数倍となっていますが、これも力の次元と一致しています。このような簡単なチェックで、大きな計算ミスを防ぐことができます。
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問題29 (東京大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、直線部分と円弧部分からなる複雑な軌道上を運動する小球の力学を扱います。摩擦がないという条件下で、小球が軌道から受ける抗力が最大になる点、軌道から浮き上がる条件、特定の点に落下するための初期条件、そして円弧の最高点に到達するための条件などが問われています。力学的エネルギー保存則、円運動の動力学(向心力や遠心力)、物体が面から離れる条件(垂直抗力=0)といった、力学の重要な概念を総合的に適用する必要があります。

与えられた条件
  • 小球の質量: \(m\)
  • 軌道: 直線部分(AC, EF)と半径\(r\)の円弧部分(CDE, FGH)から構成。
  • 接続点: 点C, E, Fで直線部分と円弧部分は滑らかに接続。
  • 水平線: 点B, F, Hは同一水平線上にある。
  • 傾斜: 直線部分 AC および EFは水平線と角度\(\alpha\)をなす。
  • 初期状態: 点Aから小球を静かに滑り落とす。点AのB,F,Hを通る水平線からの高さを\(h\)とする。
  • 摩擦: なし
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
問われていること
  1. (1) この球が軌道から受ける抗力の大きさが最大となるのはどの点か。また、そのときの抗力の大きさを求めよ。
  2. (2) 出発点Aでの球の高さ\(h\)がある値\(h_0\)を超えると、球は運動の途中で軌道から浮き上がる。その\(h_0\)を求めよ。
  3. (3) \(h > h_0\)のとき、球は軌道から飛び上がり、点Hに落下した。このときの\(h\)の値を求めよ。
  4. (4) 高さ\(h\)を適当に選んで、球が軌道から浮き上がらずに円弧の最高点Gに到達するためには、角度\(\alpha\)がある条件を満たすことが必要である。この条件を求めよ。
  5. (5) ある高さ\(h\)から球を放したところ、点Gを通った後、ある点Iで円弧から離れた。\(\angle GOI = \theta\)として、\(\cos\theta\)を\(h, r, \alpha\)で表せ。 (Oは円弧FGHの中心)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1) 抗力が最大になる点の別解: 静止系(慣性系)から見た運動方程式を用いる解法
      • 主たる解法が、小球と共に回転する観測者の視点から「遠心力」を含めた力のつり合いを考えるのに対し、別解では床に静止した観測者の視点から、小球にはたらく「向心力」と加速度の関係を記述する「運動方程式」を立てます。
    • 問(4) G点に到達するための条件の別解: G点での垂直抗力の条件から解く解法
      • 主たる解法が、「F点で浮き上がらない」ことと「G点に到達できるエネルギーを持つ」ことの2つの高さの条件が両立することから条件を導くのに対し、別解では「F点で浮き上がらない」ことと「G点で軌道から離れない(垂直抗力が0以上)」という、より直接的な2つの力学的な条件が両立することから条件を導出します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 円運動を「遠心力を含めた力のつり合い」と「向心力による加速度運動」という2つのモデルで理解することや、問(4)のように条件設定の仕方を変えても同じ結論に至ることを確認することで、力学の法則への理解が深まります。
    • 解法の厳密性: 問(4)の別解は、「Gに到達できるエネルギー」というやや曖昧な条件の代わりに、「G点で垂直抗力が非負である」というより厳密な力学条件を用いるため、論理構成がより明確になります。
    • 異なる視点の学習: 同じ問題に対して、複数の視点からのアプローチを学ぶことで、思考の柔軟性が養われ、より複雑な問題への応用力が向上します。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題の中心となるのは、「力学的エネルギー保存則」と「円運動の動力学(向心力、あるいは遠心力とのつり合い)」、そして「物体が軌道から離れる条件」です。摩擦がないため、小球の力学的エネルギーは常に保存されます。これを利用して、各点での速さを求めることができます。小球が円弧部分を運動する際には、軌道からの垂直抗力と重力の成分が向心力として働く(慣性系で考える場合)、あるいは遠心力と実質の力がつり合っている(非慣性系で考える場合)と考えます。小球が軌道から浮き上がる(離れる)瞬間は、軌道からの垂直抗力が0になるときである、という条件が重要になります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力学的エネルギー保存則: 摩擦がないため、小球の力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)は常に保存されます。これを利用して、各点での速さを求めることができます。
  2. 円運動の動力学: 小球が円弧部分を運動する際には、軌道からの垂直抗力と重力の成分が向心力として働く(慣性系で考える場合)、あるいは遠心力と実質の力がつり合っている(非慣性系で考える場合)と考えます。
  3. 物体が軌道から離れる条件: 小球が軌道から浮き上がる(離れる)瞬間は、軌道からの垂直抗力が0になるときです。
  4. 力の分解: 重力や垂直抗力を、円運動の半径方向と接線方向、あるいは水平・鉛直方向など、状況に応じて適切な方向に分解して考えます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、力学的エネルギー保存則を用いて、各点での速さを、出発点の高さ\(h\)の関数として表現します。
  2. 次に、各点での円運動の運動方程式(または力のつり合いの式)を立て、垂直抗力を速さの関数として表現します。
  3. 「抗力が最大」「軌道から浮き上がる」「最高点に到達する」といった各設問の物理的な状況を、垂直抗力に関する条件(最大値、\(N=0\)、\(N \ge 0\)など)に置き換え、問題を解き進めます。

問(1)

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