問題22 (法政大+筑波大+大阪大)
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、水平な床に置かれた傾角 \(\theta\) の斜面を持つ三角柱(台)Qと、その斜面上に置かれた小物体Pの運動を扱います。摩擦はどこにもないものとします。問題は、台を特定の加速度で動かしたときのPに働く力や台の運動、さらに糸でつながれていたPを初速を与えて動かした場合の運動を解析する形式になっています。特に「慣性力」を用いた考え方と、静止系から見た運動方程式を用いる考え方の両方が問われており、これらの比較検討が重要となります。
- 三角柱Qの質量: \(M\) [kg]
- 小物体Pの質量: \(m\) [kg]
- 斜面の傾斜角: \(\theta\)
- 摩擦: どこにもなし
- 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
- 小物体Pは初期状態では糸につながれ斜面上で静止(設問(1), (2)の考察対象)
- (1) Qの加速度の大きさを\(A\)としたときの、Qの運動方程式。
- I. 慣性力を用いて考える場合:
- (2) Pについて成り立つ式(斜面に垂直な方向の力のつり合い)。
- (3) (1)と(2)から導かれる、PがQから受ける垂直抗力の大きさ \(N\)。
- (4) Qが床から受ける垂直抗力の大きさ \(R\)。
- II. 静止系で考える場合:
- Pの加速度の水平成分を \(a_x\)、鉛直成分を \(a_y\) とする(図のx,yの向きを正)。
- (5) Pの水平方向(x方向)の運動方程式。
- (6) Pの鉛直方向(y方向)の運動方程式。
- (7) PがQの斜面に沿って滑るための、\(A, a_x, a_y, \theta\) の間の関係式。
- (設問(3)で、(2)の状態で糸を切り、Pを斜面に対して下向きに初速\(v_0\)で動かした場合のAB間の距離とABの中点での速さ)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題を解く上で中心となるのは、「慣性力」の概念と、それを用いた非慣性系での力のつり合い、または慣性系での運動方程式の立式です。小物体Pが三角柱Qの斜面上を運動(または静止)する際、Q自身が加速度運動をすることで、Pの運動はQと共に動く観測者と、床で静止している観測者とで異なって記述されます。これらの視点の違いを理解し、適切に物理法則を適用することが求められます。
問 (1)
思考の道筋とポイント
三角柱Qが水平方向に運動するのは、その上にある小物体Pから力を受けるためです。小物体Pが三角柱Qの斜面上にあるとき、PはQの斜面から垂直抗力 \(N\) を受けます。作用・反作用の法則により、QもPから同じ大きさで反対向きの力(斜面に垂直でQを押し込む向き)を受けます。この力の水平成分が、Qを水平方向に加速させる力となります。問題の図から、PがQの右側の斜面を滑り降りようとすると、Qを左向きに押すことが考えられます。
この設問における重要なポイント
- 三角柱Qに働く水平方向の力は、小物体Pから受ける力の水平成分のみです(床は滑らかなので摩擦力はなし)。
- PがQに及ぼす力は、QがPに及ぼす垂直抗力 \(N\) の反作用です。この力は、Qに対して斜面に垂直で押し込む向きに働きます。
- Qの加速度の向きを左向き、その大きさを \(A\) とします。
具体的な解説と立式
小物体Pが三角柱Qの斜面上にあるとき、QはPから垂直抗力 \(N\) の反作用を受けます。この力は、Qに対して斜面に垂直で、Qを押し込む向き(図で言えば、Pが右斜面にある場合、左下向き)に働きます。この力の水平成分(左向き)の大きさは \(N\sin\theta\) となります。
三角柱Qの質量は \(M\) であり、水平方向の加速度の大きさを \(A\)(左向きを正とする)とすると、Qの運動方程式は、
$$MA = N\sin\theta \quad \cdots (1)$$
使用した物理公式
- 運動方程式: \((\text{質量}) \times (\text{加速度}) = (\text{力の合力})\)
- 力の分解
- 作用・反作用の法則
この設問では、運動方程式を立てることが求められており、上記がその式となります。
三角柱Qが動き出すのは、その上に乗っている小物体PがQの斜面を押すからです。PがQを押す力(これはQがPを支える垂直抗力の反対向きの力です)の、水平方向の成分が、Qを横に動かす原因となります。「力は質量と加速度を掛けたものに等しい」というニュートンの運動の法則を使って、Qの動きを表す式を立てます。
三角柱Qの運動方程式は \(MA = N\sin\theta\) です。これは、Qが小物体Pから受ける力の水平成分によって、水平方向に加速されることを示しています。Qが図の左向きに加速する場合、\(A\) も \(N\sin\theta\) も左向きの成分として正の値を持つと解釈できます。
I. 慣性力を用いて考える。
問 (2)
思考の道筋とポイント
三角柱Qと共に加速度 \(A\)(左向き)で運動する観測者から小物体Pを見ます。この観測者から見ると、Pには実際の力(重力 \(mg\)、Qからの垂直抗力 \(N\))の他に、Qの加速度と逆向き(この場合は右向き)に大きさ \(mA\) の慣性力が働いているように見えます。小物体Pは斜面に沿って滑り降りますが、斜面に垂直な方向には動きません(つまり、斜面から浮き上がったり、めり込んだりしません)。したがって、この斜面に垂直な方向では力がつり合っていると考えます。
この設問における重要なポイント
- 観測者は三角柱Qと共に加速度 \(A\)(左向き)で運動しています。
- 小物体Pには、水平右向きに大きさ \(mA\) の慣性力が働いているように見えます。
- Pに働く力は、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N\)、慣性力 \(mA\) です。
- これらの力を斜面に垂直な方向に分解し、その方向での力のつり合いの式を立てます。
具体的な解説と立式
三角柱Qの加速度は水平左向きに大きさ \(A\) なので、小物体Pには水平右向きに大きさ \(mA\) の慣性力が働きます。
Pに働く力を、斜面に垂直な方向で考えます。斜面からPに向かって離れる向きを正とします。
- 垂直抗力 \(N\): この向きに \(+N\)。
- 重力 \(mg\): この向きの成分は \(-mg\cos\theta\)(斜面に押し付ける向き)。
- 慣性力 \(mA\): 水平右向きなので、その斜面に垂直な成分は、Pを斜面から引き離す向きに \(+mA\sin\theta\) となります(モデル解答の図を参照)。
Pは斜面に垂直な方向には動かないので、これらの力の合力は0です。したがって、力のつり合いの式は、
$$N + mA\sin\theta – mg\cos\theta = 0$$
これを整理すると、モデル解答の形に合わせて、
$$N + mA\sin\theta = mg\cos\theta \quad \cdots (2)$$
使用した物理公式
- 力のつり合い(非慣性系で慣性力を考慮): \(\sum F_{\text{斜面に垂直}} = 0\)
- 慣性力: \(F_{\text{慣性}} = mA\)
- 力の分解
この設問では、力のつり合いの式を立てることが求められており、上記がその式となります。
動いている台(三角柱Q)の上に乗っている人から小物体Pを見ると、Pにはいつもの力(重力、台からの垂直な力)の他に、台が加速しているせいで感じる「見かけの力」(慣性力)が働きます。Pは斜面から浮き上がったりめり込んだりしないので、斜面に垂直な方向ではこれらの力がちょうどつり合っているはずです。このつり合いの条件を式にします。
小物体Pについて成り立つ式(斜面に垂直な方向の力のつり合い)は \(N + mA\sin\theta = mg\cos\theta\) です。この式は、垂直抗力 \(N\) が、慣性力がない場合 (\(A=0\)) の \(mg\cos\theta\) と比較して、慣性力の効果 (\(mA\sin\theta\)) によってどのように変化するかを示しています。この場合、慣性力がPを斜面から引き離す方向に作用するため、\(N = mg\cos\theta – mA\sin\theta\) となり、垂直抗力は小さくなる方向に寄与します。
問 (3)
思考の道筋とポイント
式(1) \(MA = N\sin\theta\) と、式(2) \(N + mA\sin\theta = mg\cos\theta\) の2つの式があります。未知数は垂直抗力 \(N\) と三角柱Qの加速度の大きさ \(A\) の2つなので、これらの式を連立させて \(A\) を消去し、\(N\) について解きます。
この設問における重要なポイント
- 式(1)から \(A\) を \(N\) を用いて表し、その結果を式(2)に代入して \(N\) を求めます。
具体的な解説と立式
用いる2つの式は以下の通りです。
$$MA = N\sin\theta \quad \cdots (1)$$
$$N + mA\sin\theta = mg\cos\theta \quad \cdots (2)$$
これらの連立方程式から \(A\) を消去し、\(N\) を求めることを目指します。
使用した物理公式
- 連立方程式の解法
まず、式(1)から \(A\) を \(N\) を用いて表します(ただし \(M \neq 0\))。
$$A = \frac{N\sin\theta}{M}$$
次に、この \(A\) の表式を式(2)に代入します。
$$N + m\left(\frac{N\sin\theta}{M}\right)\sin\theta = mg\cos\theta$$
左辺を \(N\) でくくりだし、整理します。
$$N\left(1 + \frac{m\sin^2\theta}{M}\right) = mg\cos\theta$$
括弧の中を通分します。
$$N\left(\frac{M + m\sin^2\theta}{M}\right) = mg\cos\theta$$
最後に、\(N\) について解くと、
$$N = \frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta} \quad \cdots (3)$$
前に立てた2つの式((1)と(2))には、求めたい垂直抗力 \(N\) と、まだ分かっていない台の加速度の大きさ \(A\) の2つの未知数が入っています。式が2本あって未知数が2つなので、これらをうまく組み合わせる(数学でいう「連立方程式を解く」)ことで、加速度 \(A\) を式の中から消去し、垂直抗力 \(N\) だけの式にすることができます。具体的には、一方の式を使って \(A\) を \(N\) を使った形で表し、それをもう一方の式に代入して \(N\) について整理します。
小物体Pが三角柱Qから受ける垂直抗力の大きさ \(N\) は \(N = \displaystyle\frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\) です。
この結果を吟味してみましょう。
- もし三角柱Qの質量 \(M\) が非常に大きい(\(M \rightarrow \infty\)、つまり台がほとんど動かないとみなせる場合)を考えると、分母の \(M+m\sin^2\theta \approx M\) となるので、\(N \approx \frac{Mmg\cos\theta}{M} = mg\cos\theta\) となります。これは、固定された斜面上の物体が受ける垂直抗力の大きさに一致し、物理的に妥当です。
- もし傾斜角 \(\theta = 0\)(斜面が水平面の場合)を考えると、\(\cos\theta = 1, \sin\theta = 0\) なので、\(N = \frac{Mmg}{M} = mg\) となります。水平面では垂直抗力は重力とつり合うので、これも妥当な結果です。
- もし傾斜角 \(\theta = 90^\circ\)(斜面が鉛直な壁の場合)を考えると、\(\cos\theta = 0\) なので \(N = 0\) となります。これは、Pが壁に沿って自由落下し、壁からの垂直抗力を受けない状況に対応しており、これも物理的に妥当です(ただし、この場合は「斜面」という設定からは外れますが、極限としての傾向は理解できます)。
問 (4)
思考の道筋とポイント
三角柱Qは水平方向にのみ運動し、鉛直方向には運動しません。したがって、Qに働く鉛直方向の力はつり合っています。Qに働く鉛直方向の力は、Q自身の重力 \(Mg\)、床からの垂直抗力 \(R\)(上向き)、そして小物体Pから受ける力の鉛直成分です。PからQに働く力は、QがPに及ぼす垂直抗力 \(N\) の反作用であり、その向きは斜面に垂直でQを押し込む向き(図でPが右斜面にある場合、左下向き)です。この力の鉛直下向きの成分を考慮に入れます。
この設問における重要なポイント
- 三角柱Qは鉛直方向には運動しないので、鉛直方向の力のつり合いが成り立ちます。
- Qに働く鉛直方向の力は、Q自身の重力 \(Mg\)(下向き)、床からの垂直抗力 \(R\)(上向き)、そして小物体Pから受ける力(QがPに及ぼす垂直抗力 \(N\) の反作用)の鉛直成分(下向き)です。
- PからQへの力の鉛直成分の大きさは \(N\cos\theta\)(下向き)です。
具体的な解説と立式
三角柱Qに働く鉛直方向の力は以下の通りです。
- Q自身の重力: \(Mg\) (鉛直下向き)
- 床からの垂直抗力: \(R\) (鉛直上向き)
- 小物体Pから受ける力(QがPに及ぼす垂直抗力 \(N\) の反作用)の鉛直成分: PからQへの力は、斜面に垂直でQを押し込む向きに大きさ \(N\) で働きます。この力の鉛直下向きの成分は \(N\cos\theta\) となります。
三角柱Qは鉛直方向には動かないので、これらの力のつり合いから、鉛直上向きを正とすると、
$$R – Mg – N\cos\theta = 0$$
したがって、床からの垂直抗力 \(R\) は、
$$R = Mg + N\cos\theta \quad \cdots (4)$$
この式に、(3)で求めた \(N = \displaystyle\frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\) を代入して \(R\) を求めます。
使用した物理公式
- 力のつり合い(鉛直方向): \(\sum F_y = 0\)
- 力の分解
- 作用・反作用の法則
式(4) \(R = Mg + N\cos\theta\) に、(3)で求めた \(N = \displaystyle\frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\) を代入します。
$$R = Mg + \left(\frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\right)\cos\theta$$
$$R = Mg + \frac{Mmg\cos^2\theta}{M + m\sin^2\theta}$$
右辺を通分します。
$$R = \frac{Mg(M + m\sin^2\theta) + Mmg\cos^2\theta}{M + m\sin^2\theta}$$
分子を展開し、整理します。
$$R = \frac{M^2g + Mmg\sin^2\theta + Mmg\cos^2\theta}{M + m\sin^2\theta}$$
分子の第2項と第3項を \(Mmg\) でくくりだすと、\(Mmg(\sin^2\theta + \cos^2\theta)\) となります。
三角関数の基本公式 \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) を用いると、この部分は \(Mmg\) となります。
したがって、分子は \(M^2g + Mmg = Mg(M+m)\) となります。
よって、床からの垂直抗力 \(R\) は、
$$R = \frac{Mg(M+m)}{M + m\sin^2\theta} \quad \cdots (4)$$
三角柱Qは床の上を横に滑るだけで、上下には動きません。これは、Qに働く上向きの力と下向きの力がつり合っているからです。下向きの力は、Q自身の重さ \(Mg\) と、小物体PがQを斜め下に押す力の「下向き成分」の合計です。上向きの力は、床がQを支える力 \(R\)(これが求めたい垂直抗力)です。これらの力のつり合いの式を立てて、(3)で求めたPがQを押す力(の反作用である \(N\))の情報を使って \(R\) を計算します。
三角柱Qが床から受ける垂直抗力の大きさ \(R\) は \(R = \displaystyle\frac{Mg(M+m)}{M + m\sin^2\theta}\) です。
この結果を吟味してみましょう。
- もし小物体Pが存在しない場合(\(m=0\))、この式は \(R = \frac{MgM}{M} = Mg\) となります。これは、Qの重力と床からの垂直抗力がつり合うという、物理的に妥当な結果です。
- もし傾斜角 \(\theta = 0\)(斜面が水平面の場合)、\(\sin\theta=0\) なので \(R = \frac{Mg(M+m)}{M} = (M+m)g\) となります。このとき、(3)から \(N=mg\) であり、PからQに働く力は鉛直下向きに \(mg\) なので、床からの垂直抗力はQの重力 \(Mg\) とPから押される力 \(mg\) の合計 \((M+m)g\) となり、一致します。
- もし傾斜角 \(\theta = 90^\circ\)(斜面が鉛直な壁の場合)、\(\sin\theta=1\) なので \(R = \displaystyle\frac{Mg(M+m)}{M+m} = Mg\) となります。このとき(3)から \(N=0\) なので、PはQに力を及ぼさず(Qの側面にただ沿って自由落下するような状況)、床からの垂直抗力はQの重力 \(Mg\) とつり合うだけとなり、これも物理的に妥当です。
II. 静止系で考える。
Pの加速度の水平成分を \(a_x\)、鉛直成分を \(a_y\) として(図のx,yの向きを正とする)
問 (5), (6)
思考の道筋とポイント
今度は、床で静止している観測者(慣性系)から小物体Pの運動を見ます。したがって、慣性力は考慮しません。Pに働く力は、重力 \(mg\) と、三角柱Qから受ける垂直抗力 \(N\) のみです(摩擦はありません)。垂直抗力 \(N\) は斜面に垂直で、Pを斜め上方に押し上げる向きに働きます。これらの力を水平方向(x方向)と鉛直方向(y方向)に分解し、それぞれの方向でPの運動方程式 \(ma_x = \sum F_x\) および \(ma_y = \sum F_y\) を立てます。問題文の図に示されたx軸(水平右向きが正)とy軸(鉛直上向きが正)の向きに従います。
この設問における重要なポイント
- 静止系(床)から見たPの運動を考えます。慣性力は登場しません。
- Pに働く力は、重力 \(mg\)(鉛直下向き)と垂直抗力 \(N\) です。問題の最初の図ではPはQの右斜面に乗っているため、垂直抗力 \(N\) はPに対して左斜め上向きに働きます。この \(N\) のx成分は \(-N\sin\theta\)、y成分は \(+N\cos\theta\) となります。しかし、モデル解答の(5)の式 \(ma_x = N\sin\theta\) と(6)の式 \(ma_y = N\cos\theta – mg\) は、図のx,y軸の向き(x右向き正、y上向き正)に対して、垂直抗力Nのx成分が正、y成分が正であると仮定しています。これは、モデル解答のLECTURE p67の図(NがPに対して右上を向く、つまりPがQの左斜面にあるかのような図)を基準にしているためと考えられます。ここでは、モデル解答の式に合わせて、垂直抗力 \(N\) がPに対して右斜め上向きに働く(つまり、Nのx成分が \(+N\sin\theta\)、y成分が \(+N\cos\theta\) となる)と仮定して立式します。
具体的な解説と立式
床で静止している観測者から見た小物体Pの運動を考えます。Pに働く力は、重力 \(mg\)(鉛直下向き)と、三角柱Qから受ける垂直抗力 \(N\) です。モデル解答のLECTURE p67の図解に基づき、垂直抗力 \(N\) はPに対して右斜め上向き(x軸正方向から反時計回りに \(90^\circ-\theta\) の角度、またはy軸正方向から時計回りに \(\theta\) の角度)に働いているとします。
(5) 水平方向(x方向、右向き正)の運動方程式:
Pに働く水平方向の力は、垂直抗力 \(N\) のx成分のみです。この成分は \(+N\sin\theta\) となります。
したがって、Pのx方向の運動方程式は、
$$ma_x = N\sin\theta \quad \cdots (5)$$
(6) 鉛直方向(y方向、上向き正)の運動方程式:
Pに働く鉛直方向の力は、垂直抗力 \(N\) のy成分(上向きに \(+N\cos\theta\))と、重力 \(mg\)(下向きなので \(-mg\))です。
したがって、Pのy方向の運動方程式は、
$$ma_y = N\cos\theta – mg \quad \cdots (6)$$
使用した物理公式
- 運動方程式(慣性系): \(ma_x = \sum F_x\), \(ma_y = \sum F_y\)
- 力の分解
この設問では、運動方程式を立てることが求められており、上記がその式となります。
今度は、動いている台の上からではなく、動かない床から小物体Pの運動を見ます。Pには、地球がPを引く力(重力)と、台がPを押す力(垂直抗力)の2つの実際の力が働いています。これらの力を水平方向(x方向)と鉛直方向(y方向)に分けて考え、それぞれの方向について「力は質量と加速度を掛けたものに等しい」というニュートンの運動の法則を使って式を立てます。
小物体Pの水平方向(x方向)の運動方程式は \(ma_x = N\sin\theta\) であり、鉛直方向(y方向)の運動方程式は \(ma_y = N\cos\theta – mg\) です。
これらの式は、Pの加速度のx成分 \(a_x\) とy成分 \(a_y\) が、Pに働く垂直抗力 \(N\) と重力 \(mg\)、そして斜面の角度 \(\theta\) によってどのように決まるかを示しています。この時点では未知数が \(N\)、Qの加速度\(A\)、Pの加速度成分 \(a_x, a_y\) の4つ(式(1)も合わせると)に対して、式が3つ((1), (5), (6))しかありません。したがって、これらの未知数を決定するためには、さらに条件式が必要となります。それが次の(7)で問われています。
問 (7)
思考の道筋とポイント
小物体Pは三角柱Qの斜面上を滑り降ります。これは、PのQに対する相対的な運動が、常に斜面に平行な方向で行われることを意味します。Pの床に対する加速度を \(\vec{a}_P = (a_x, a_y)\)(x成分: \(a_x\)、y成分: \(a_y\))、Qの床に対する加速度を \(\vec{a}_Q = (-A, 0)\)(Qは左向きに大きさ \(A\) で加速するので、x成分は \(-A\)、y成分は0)とすると、PのQに対する相対加速度 \(\vec{a}_{P/Q}\) の成分は \((a_x – (-A), a_y – 0) = (a_x+A, a_y)\) となります。この相対加速度ベクトル \(\vec{a}_{P/Q}\) が斜面に平行であるという幾何学的な条件から、\(A, a_x, a_y, \theta\) の間の関係式を導きます。
この設問における重要なポイント
- 小物体Pの三角柱Qに対する相対加速度の方向が、斜面に平行(傾斜角\(\theta\))です。
- 相対加速度の水平成分と鉛直成分の比が、斜面の傾きに関係します。
- Pは鉛直方向には下向きに落ちるため、\(a_y\) は負の値となることに注意して、幾何学的な関係を考えます。
具体的な解説と立式
小物体Pの床に対する加速度の成分を \((a_x, a_y)\) とします(x軸右向き正、y軸上向き正)。
三角柱Qの床に対する加速度は、水平左向きに大きさ \(A\) なので、その加速度ベクトルは \((-A, 0)\) と表せます。
したがって、PのQに対する相対加速度 \(\vec{a}_{\text{P/Q}}\) のx成分とy成分は、
$$a_{\text{P/Q, x}} = a_x – (-A) = a_x + A$$
$$a_{\text{P/Q, y}} = a_y – 0 = a_y$$
この相対加速度 \(\vec{a}_{\text{P/Q}}\) は、斜面に沿って下向きです。つまり、水平右向きのx軸から見て、時計回りに \(\theta\) の角度をなす方向(あるいは、-x方向から反時計回りに \(\theta\) の角度をなす方向など、問題の最初の図における斜面の向き)です。モデル解答のLECTURE p67の右下の図では、相対加速度の水平右向き成分を \(A+a_x\)、鉛直下向き成分を \(|a_y| = -a_y\)(\(a_y\) は負であるため)として、これらの比が \(\tan\theta\) になることを示しています。
具体的には、相対加速度ベクトルが水平となす角が \(\theta\) であり、鉛直下向き成分を持つため、
$$\frac{(\text{相対加速度の鉛直下向き成分の大きさ})}{(\text{相対加速度の水平右向き成分の大きさ})} = \tan\theta$$
$$\frac{-a_y}{A+a_x} = \tan\theta$$
したがって、関係式は、
$$-a_y = (A+a_x)\tan\theta$$
または、モデル解答の形式に合わせて、
$$(A+a_x)\tan\theta = -a_y \quad \cdots (7)$$
使用した物理公式
- 相対加速度: \(\vec{a}_{\text{P/Q}} = \vec{a}_P – \vec{a}_Q\)
- 幾何学的な拘束条件(物体が斜面を滑る運動の方向と斜面の角度の関係)
この設問では、関係式を立てることが求められており、上記がその式となります。
小物体Pは、三角柱Qの斜面に沿って滑り降ります。この「斜面に沿って」という動き方のルールが、Pの動き(床から見た加速度の水平成分 \(a_x\) と鉛直成分 \(a_y\))と、Qの動き(床から見た加速度 \(A\))の間に、ある決まった関係があることを意味します。具体的には、PのQに対する相対的な加速度の方向が、斜面の傾斜角 \(\theta\) と一致するという幾何学的な条件を数式で表します。
三角柱Qの加速度の大きさ \(A\)、小物体Pの床に対する加速度の水平成分 \(a_x\)、鉛直成分 \(a_y\)、そして斜面の傾斜角 \(\theta\) の間の関係式は \((A+a_x)\tan\theta = -a_y\) です。
ここで、\(A\) はQの左向き加速度の大きさ、\(a_x\) はPの右向き加速度、\(a_y\) はPの上向き加速度(実際には負の値をとるため、\(-a_y\) が鉛直下向きの加速度の大きさを表す)です。この式は、PのQに対する相対加速度ベクトルが、水平方向に対して角度 \(\theta\) で斜め下向きであるという運動の拘束条件を数学的に表現したものです。これで、未知数 \(N, A, a_x, a_y\) に対して、式(1), (5), (6), (7) の4つの独立した方程式が揃い、原理的にこれらの未知数を解くことができます。
(設問(1)~(7)はここまでですが、問題文には(3)として、設問(2)の状態から糸を切り初速を与えた場合の運動を問う部分があります。これはPDFのページ構成上、問題文の主要な問いとは別に(3)として記載されているため、以下で解説します。)
問 (3) (問題文中の続き)
思考の道筋とポイント
この設問は、問(2)の状態(台が左向きに加速度 \(\beta = g\tan\theta\) で運動し、Pにかかる糸の張力が0で、Pが台の斜面上で力を加えるまでは静止できる状況)から始まります。この状態で糸が切られ、Pに斜面に対して下向きの初速 \(v_0\) が与えられます。
まず、Pが斜面AC上を運動している間を考えます。Pに働く力は、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N\)、そして右向きの慣性力 \(m\beta\) です。これらの力の斜面方向の合力を確認します。問(2)のつり合いの条件は、まさにこれらの力の斜面方向成分がつり合う(\(mg\sin\theta = m\beta\cos\theta\))状態でした。したがって、糸が切れて初速 \(v_0\) を与えられたとしても、Pは斜面AC上を台に対して等速 \(v_0\) で運動し、点Aに達すると考えられます。
次に、Pが点Aを通過して水平面AB上を運動する際を考えます。このときも台は加速度 \(\beta\) で左向きに運動し続けているので、Pには右向きに慣性力 \(m\beta\) が働き続けます。水平面AB上では、重力 \(mg\) と垂直抗力 \(N_A\) は鉛直方向につり合い、水平方向にはこの慣性力 \(m\beta\) のみがPの運動(台から見てAからBへ向かう動き、図では左向き)を妨げる力(ブレーキ)として働きます。Pは台に対して減速し、点Bで一瞬静止します。この運動は、台から見たPの等加速度直線運動として扱うことができます。
この設問における重要なポイント
- 台は常に水平左向きに加速度 \(\beta = g\tan\theta\) で運動しています。
- 小物体Pには常に水平右向きに慣性力 \(m\beta\) が働いていると見なせます(台と共に動く観測者から見て)。
- 斜面AC上では、Pに働く力の斜面方向成分がつり合っているため、Pは台に対して等速 \(v_0\) で運動します。
- 水平面AB上では、Pは台に対して慣性力 \(m\beta\) のみを運動と反対向きの水平力として受け、減速します。
- 台から見たPの運動について、等加速度直線運動の公式を適用します。
具体的な解説と立式
斜面AC上の運動:
Pが斜面AC上を動いているとき、Pに働く力は、重力 \(mg\)、垂直抗力、そして水平右向きの慣性力 \(m\beta\) です。斜面に平行な方向について、重力の成分は斜面下向きに \(mg\sin\theta\)、慣性力の成分は斜面に平行で上向きに \(m\beta\cos\theta\) です。問(2)で求めたように \(\beta = g\tan\theta\) なので、\(m\beta\cos\theta = m(g\tan\theta)\cos\theta = mg\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\cos\theta = mg\sin\theta\)。したがって、斜面に平行な方向の力はつり合っています(\(mg\sin\theta – m\beta\cos\theta = 0\))。よって、Pは斜面AC上を台に対して与えられた初速 \(v_0\) のまま等速直線運動をし、点Aに達するときの台に対する速さも \(v_0\) です。
水平面AB上の運動:
Pが点Aを通過し、水平面AB上を運動するときを考えます。台は依然として水平左向きに加速度 \(\beta\) で運動しているので、Pには水平右向きに慣性力 \(m\beta\) が働き続けます。Pの運動方向は水平面AB上(AからBへ向かう方向、図では左向き)であり、慣性力 \(m\beta\) はこの運動と反対向き(右向き)に働きます。
台から見たPの運動について、AからBへ向かう向き(図では左向き)を正とします。Pの初速度は \(v_0\)。Pに働く水平方向の力は右向きの慣性力 \(m\beta\) のみなので、運動方程式における力は \(-m\beta\) となります。台から見たPの加速度を \(a’_{\text{P}}\) とすると、
$$ma’_{\text{P}} = -m\beta$$よって、台から見たPの加速度は、$$a’_{\text{P}} = -\beta \quad \cdots ⑨$$Pは点Bで台に対して一瞬静止するので、そのときの台に対する速さは0です。AB間の距離を \(L_{AB}\) とすると、等加速度直線運動の公式 \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\) より、$$0^2 – v_0^2 = 2 a’_{\text{P}} L_{AB}$$
$$0^2 – v_0^2 = 2 (-\beta) L_{AB} \quad \cdots ⑩$$
次に、ABの中点を通るときの台に対する速さを \(v_{\text{中点}}\) とします。ABの中点までの距離は \(L_{AB}/2\) です。同じく等加速度直線運動の公式より、
$$v_{\text{中点}}^2 – v_0^2 = 2 a’_{\text{P}} \left(\frac{L_{AB}}{2}\right)$$
$$v_{\text{中点}}^2 – v_0^2 = 2 (-\beta) \left(\frac{L_{AB}}{2}\right) = -\beta L_{AB} \quad \cdots ⑪$$
使用した物理公式
- 力のつり合い(斜面上の運動が等速になる条件)
- 運動方程式(台から見たPの運動、慣性力を考慮): \(ma_{\text{相対}} = F_{\text{実質}} + F_{\text{慣性}}\)
- 等加速度直線運動の式: \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\)
まず、式⑩からAB間の距離 \(L_{AB}\) を求めます。
$$-v_0^2 = -2\beta L_{AB}$$
$$L_{AB} = \frac{v_0^2}{2\beta}$$ここで、設問(2)で求めた \(\beta = g\tan\theta\) (式⑦を再掲、ただしここでは(2)の解答そのものを指す) を代入します。$$L_{AB} = \frac{v_0^2}{2g\tan\theta} \quad \cdots ⑫$$
次に、式⑪からABの中点を通るときの台に対する速さ \(v_{\text{中点}}\) を求めます。
式⑪は \(v_{\text{中点}}^2 – v_0^2 = -\beta L_{AB}\) でした。
右辺の \(L_{AB}\) に式⑫を代入すると、
$$-\beta L_{AB} = -\beta \left(\frac{v_0^2}{2\beta}\right) = -\frac{v_0^2}{2}$$したがって、式⑪は、
$$v_{\text{中点}}^2 – v_0^2 = -\frac{v_0^2}{2}$$
\(v_{\text{中点}}^2\) について解くと、
$$v_{\text{中点}}^2 = v_0^2 – \frac{v_0^2}{2} = \frac{v_0^2}{2}$$
\(v_{\text{中点}}\) は速さなので正の値をとります。
$$v_{\text{中点}} = \sqrt{\frac{v_0^2}{2}} = \frac{v_0}{\sqrt{2}} \quad \cdots ⑬$$
AB間の距離: 小物体Pが斜面ACを下り終えて水平な部分ABに入ると、Pは初速 \(v_0\)(これは台から見た速さ)で進み始めます。しかし、台がずっと左向きに加速しているため、Pには常に右向きの見かけの力(慣性力)がブレーキのように働きます。この一定のブレーキ(減速)を受けながら進んで、やがて台の上で(台から見て)止まります。この止まるまでの距離を、初速と減速度(慣性力による加速度の大きさ)を使って、物理の公式(等加速度運動の式)から計算します。
ABの中点での速さ: 上で求めたAB間の距離のちょうど半分の地点を通過するときのPの速さ(これも台から見た速さ)を、同様に初速、減速度、そして移動距離(AB間の半分)の関係から計算します。
AB間の距離は \(L_{AB} = \displaystyle\frac{v_0^2}{2g\tan\theta}\) です。
ABの中点を通るときの台に対する速さは \(v_{\text{中点}} = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\) です。
特に注目すべきは、ABの中点での速さが \(\theta\) に依存しないという結果です。これは、AB間でPが受ける台からの見かけの減速の大きさ(慣性力によるもの)が \(\beta = g\tan\theta\) であり、結果として停止するまでの距離 \(L_{AB}\) がこの \(\beta\) に反比例するため(\(L_{AB} = v_0^2 / (2\beta)\))、中点までの運動エネルギーの変化を考えると、その過程で \(\theta\) の影響が相殺されるためです。この興味深い点については、問題の最後にあるQでさらに考察が促されています。
【コラム】問題に関する追加の考察 (Q)
この問題の最後には、(3)の結果、特にABの中点での速さが \(\theta\) によらない理由についての考察を促す質問があります。これについて考えてみましょう。
Q: \(v\) の値が \(\theta\) によらない理由を、見かけの重力の観点と、ある保存則を活用することにより定性的に説明せよ。(★)
思考の道筋とポイント
台が水平左向きに加速度 \(\beta = g\tan\theta\) で運動しているため、台と共に動く観測者から見ると、小物体Pには水平右向きに慣性力 \(m\beta\) が働いています。この慣性力と実際の重力 \(mg\) の合力を「見かけの重力」として捉えることができます。この「見かけの重力」の場において、Pの運動をエネルギー保存則(あるいは仕事と運動エネルギーの関係)で考えることで、中点での速さが \(\theta\) に依存しない理由を説明します。
具体的な解説と考察
台が水平左向きに加速度 \(\beta = g\tan\theta\) で運動しているとき、台上の小物体Pには、実質的な力である重力 \(mg\)(鉛直下向き)と垂直抗力(水平面AB上では鉛直上向き)の他に、見かけの力である慣性力 \(m\beta\)(水平右向き)が働いていると見なせます。
このとき、重力 \(mg\) と慣性力 \(m\beta\) の合力を「見かけの重力」\(m\vec{g’}\) と考えることができます。この見かけの重力の方向は、鉛直下向きと水平右向きのベクトル和なので、右斜め下向きになります。そして、この見かけの重力の方向を「新しい鉛直方向」と解釈すると、Pが運動する水平面ABは、この新しい鉛直方向に対してあたかも「坂」を上っていくように見なすことができます。点Aが坂のふもと、点Bが坂の頂上(ここで一瞬静止する)に対応します。
Pが水平面AB上を点Aから点Bへ距離 \(L_{AB}\) だけ進む間に、慣性力 \(m\beta\) はPの運動(左向き)と反対向き(右向き)に働き、\(m\beta L_{AB}\) だけの負の仕事をします。これが、台から見たPの運動エネルギーの減少に等しくなります。すなわち、PがA点で持っていた台に対する運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv_0^2\) は、B点ではすべてこの慣性力に逆らう仕事(見かけのポテンシャルエネルギーの増加)に変わります。
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = m\beta L_{AB} \quad \cdots (Q-1)$$
(これは \(L_{AB} = \frac{v_0^2}{2\beta}\) を意味し、(3)の計算結果と一致します。)
ABの中点Mまでの距離は \(L_{AB}/2\) です。この点での台に対する速さを \(v\) とすると、点Aから中点Mまでに慣性力がした仕事は \(-m\beta (L_{AB}/2)\) です。仕事と運動エネルギーの関係より、
$$ \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 = -m\beta \left(\frac{L_{AB}}{2}\right) \quad \cdots (Q-2)$$
式(Q-1)より \(m\beta L_{AB} = \frac{1}{2}mv_0^2\) であるから、これを式(Q-2)の右辺に代入すると、右辺は \(-\frac{1}{2} (m\beta L_{AB}) = -\frac{1}{2} \left(\frac{1}{2}mv_0^2\right) = -\frac{1}{4}mv_0^2\) となります。
したがって、
$$ \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 = -\frac{1}{4}mv_0^2 $$
$$ \frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{4}mv_0^2 = \frac{1}{4}mv_0^2 $$
両辺の \(\frac{1}{2}m\) を消去すると、\(v^2 = \frac{1}{2}v_0^2\)。よって、\(v = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\) となります。
定性的な説明のまとめ:
台と共に動く加速座標系では、慣性力を含めた「見かけの重力」を考えることができます。この見かけの重力の場において、水平面ABは一種の「坂道」と見なせます。PがAからBへ向かう運動は、この見かけの坂を初速 \(v_0\) で上り、Bで止まる運動に相当します。このとき、力学的エネルギー保存則(慣性力によるポテンシャルエネルギーを含めたもの)が成り立ちます。
点Aでの運動エネルギーが、点Bではすべて「見かけのポテンシャルエネルギー」に変わります。ABの中点Mは、この「見かけのポテンシャルエネルギー」の増加が、B点での全増加量のちょうど半分になる点です。したがって、中点Mでの運動エネルギーは、A点での運動エネルギーから、B点までに失う総運動エネルギーの半分を引いたもの、すなわち初期運動エネルギーの半分になります。
つまり、\(\frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2} \times \left( \frac{1}{2}mv_0^2 \right)\) となり、\(v^2 = \frac{1}{2}v_0^2\)、よって \(v = \frac{v_0}{\sqrt{2}}\) です。(この部分は、正しくは「中点Mでの運動エネルギー = 初期の運動エネルギー – 中点までのポテンシャルエネルギーの増加」であり、中点までのポテンシャルエネルギーの増加は、B点での全ポテンシャルエネルギー増加(これは初期の運動エネルギーに等しい)の半分、つまり \(\frac{1}{2} \times (\frac{1}{2}mv_0^2) = \frac{1}{4}mv_0^2\) です。したがって、\(\frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{4}mv_0^2 = \frac{1}{4}mv_0^2\)。これから \(v = v_0/\sqrt{2}\) が得られます。)
この導出過程では、具体的な坂の「勾配」や見かけの重力加速度の大きさを決める \(\beta\) や、それを作る元の角度 \(\theta\) の値は最終的な速さの比の形(\(v/v_0\))には現れません。全体のエネルギー変化と、その半分という比率で決まるためです。「ある保存則」とは、この加速系における(慣性力によるポテンシャルを含めた)力学的エネルギー保存則、あるいは仕事と運動エネルギーの関係を指します。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 慣性力: 加速度 \( \vec{a}_{\text{系}} \) で運動する非慣性系において、質量 \(m\) の物体には見かけの力 \( -m\vec{a}_{\text{系}} \) が働く。この問題では、水平に加速する三角柱(台)に乗った小物体Pの運動を、台と共に動く観測者の立場から考える際に慣性力を導入した。
- ニュートンの運動方程式 (\(m\vec{a} = \vec{F}\)): 慣性系(静止系)において、物体に働く力の合力と物体の加速度の関係を示す基本法則。方法IIではこの法則を直接適用した。非慣性系で適用する場合は、慣性力も「力」の一つとして合力に含める。
- 力のつり合い: 物体が(観測者から見て)静止している、または等速直線運動している場合、物体に働く力の合力はゼロである。慣性系では実質の力のみ、非慣性系では実質の力と慣性力の合力がゼロとなる。
- 作用・反作用の法則: 小物体Pが三角柱Qを押す力(垂直抗力の反作用)が、Qを加速させる原因となった。
- 運動の拘束条件: 小物体Pが三角柱Qの斜面上を滑るという条件は、PとQの加速度の間に特定の幾何学的関係(相対加速度が斜面に平行)をもたらす。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
- エレベーターや電車など、加速度運動する乗り物の中での物体の運動(振り子、ばねにつるされたおもり、床に置かれた物体など)。
- ベルトコンベアの上で物体が滑る、あるいは転がる問題。
- 互いに力を及ぼし合いながら運動する複数の物体系の問題。
- 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
- 基準系(観測者)の選択: まず、問題を慣性系から解くか、非慣性系(加速度運動する物体の上)から解くか、どちらが考えやすいかを見極める。非慣性系を選ぶ場合は、必ず慣性力を導入する。
- 力の徹底的な図示: 物体に働くすべての力をベクトルで図示する(重力、垂直抗力、張力、摩擦力など)。非慣性系なら慣性力も忘れずに。
- 運動の方向と力の分解: 運動方向や斜面の方向など、力を分解するのに都合の良い方向を見つける。
- 拘束条件の利用: 「斜面上を滑る」「糸がたるまない」など、運動を制限する条件があれば、それらを数式で表現する。
- 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
- 「台(斜面)に対して静止」と「床(地面)に対して静止」は意味が異なることに注意。
- 「垂直抗力が0」「張力が0」といった条件は、特定の力が働かなくなることを意味し、力のつり合いや運動方程式を簡略化する。
- 加速度の向きと慣性力の向きの関係を混同しないこと。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 慣性力の存在を忘れる・向きを間違える:
- 現象: 加速度運動する台上の問題を、慣性力を考慮せずに解こうとしたり、慣性力の向きを台の加速度と同じ向きにしてしまったりする。
- 対策: 「台が動いているなら慣性力!」と常に意識し、「慣性力は加速度と逆」と覚え、図を描いて確認する。
- 力の分解の際の角度の誤り:
- 現象: 水平な慣性力や鉛直な重力を、斜面に平行・垂直な成分に分解するときの \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の適用を間違える。
- 対策: 丁寧に図を描き、三角形の相似や角度の関係を正確に把握する練習をする。
- 作用・反作用の誤認:
- 現象: QがPから受ける力は、PがQから受ける力の反作用であるが、これを混同したり、大きさが異なると考えたりする。
- 対策: 作用・反作用の法則(2物体間に働き、大きさが等しく向きが反対)を正確に理解する。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
- 台が右に加速するとき、Pが左に「押される」ような慣性力を感じるイメージ(電車で発車時に体が後ろに持っていかれるのと同じ)。
- 台が左に加速するとき、Pが右に「押される」ような慣性力を感じるイメージ。
- (1)で垂直抗力が0になるのは、慣性力の斜面から離す成分が重力の斜面に押し付ける成分とつり合うから。
- (2)で張力が0になるのは、慣性力の斜面を滑り上げさせる成分が重力の滑り下ろす成分とつり合うから。
- 各物体にはたらく力をすべてベクトルで図示し、特に慣性力の向きと大きさを明記することが極めて重要。
- 図を描く際に注意すべき点は何か:
- 力の作用点を明確にする。
- 力のベクトルの向きと相対的な大きさをできるだけ正確に描くように心がける。
- 力を分解する場合は、分解する方向(座標軸)も図中に示す。
- 複数の物体がある場合は、それぞれ別々に力の図示を行うと混乱が少ない。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)):
- 選定理由: Pが台に対して静止している場合、台と共に動く観測者から見れば、Pに働く(慣性力を含む)力の合力は0である、という判断から適用。
- 適用根拠: 物体が静止または等速直線運動している場合、その物体に働く力の合力はゼロであるというニュートンの第一法則(あるいは第二法則の特別な場合)。非慣性系では慣性力を含めてこの法則を適用する。
- 運動方程式 (\(m\vec{a} = \sum \vec{F}\)):
- 選定理由: Pが床や台に対して加速度運動をしている場合、その加速度を生じさせる力の合力を特定し、ニュートンの第2法則を適用。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則。質量 \(m\) の物体に合力 \(\sum \vec{F}\) が働くと、物体は加速度 \(\vec{a}\) を生じる。非慣性系で用いる場合は、見かけの力である慣性力を合力に含める。
- 相対加速度の関係式:
- 選定理由: 複数の物体が連動して動く場合、それぞれの絶対加速度と相対加速度の関係を正しく理解し、立式する必要があるため(方法IIの(7))。
- 適用根拠: 加速度のベクトル的な合成・分解の法則。
- 公式選択の思考訓練:
- 公式を適用する前に、その公式が成り立つための「前提条件」を常に確認する。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- 問題の状況(台の加速度、Pの状態)を把握する。
- Pに働く力をすべてリストアップ(非慣性系なら慣性力も忘れずに)。
- 力を適切な方向に分解する。
- Pの状態(静止か運動か)に応じて、力のつり合いの式か運動方程式を立てる。
- 未知数について方程式を解く。
- 得られた解が物理的に妥当か吟味する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
- 力の分解における三角関数の選択(\(\sin\theta\) と \(\cos\theta\))。
- 力のつり合いの式や運動方程式を立てる際の符号(特に慣性力の向き)。
- 連立方程式を解く際の代数計算。
- \(\tan\theta = \sin\theta/\cos\theta\) や \(\sin^2\theta+\cos^2\theta=1\) といった三角関数の関係式の利用。
- 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
- 文字式の計算に習熟する。
- 途中式を丁寧に書き、符号や変数の書き間違いがないか確認する。
- 図と式を常に対応させながら考える。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
- 例えば、(1)で求めた加速度 \(\alpha = g/\tan\theta\) について、\(\theta \rightarrow 0\) (ほぼ水平)なら \(\tan\theta \rightarrow 0\) で \(\alpha \rightarrow \infty\) となり、非常に大きな加速度が必要になることや、\(\theta \rightarrow 90^\circ\) (ほぼ鉛直)なら \(\tan\theta \rightarrow \infty\) で \(\alpha \rightarrow 0\) となることの意味を考える。
- (2)で求めた加速度 \(\beta = g\tan\theta\) について、\(\theta \rightarrow 0\) なら \(\beta \rightarrow 0\)、\(\theta \rightarrow 90^\circ\) なら \(\beta \rightarrow \infty\) となることの意味を考える。
- (3)の中点での速さが \(\theta\) によらないという結果は直感的ではないかもしれないが、エネルギーの観点(Qの内容)からその理由を考えると理解が深まる。
- 吟味の習慣: 極端な場合を考えたり、単位を確認したりすることで、解の妥当性を検証する癖をつける。
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