「名問の森」徹底解説(22〜24問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題22 (法政大+筑波大+大阪大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平な床に置かれた傾角 \(\theta\) の斜面を持つ三角柱(台)Qと、その斜面上に置かれた小物体Pの運動を扱います。摩擦はどこにもないものとします。問題は、台と物体が一体となって運動する状況を、「慣性力」を用いた非慣性系の視点と、静止系から見た運動方程式を用いる視点の両方から分析する形式になっています。これらの視点の違いを理解し、適切に物理法則を適用することが求められます。

与えられた条件
  • 三角柱Q: 質量 \(M\)、傾角 \(\theta\)
  • 小物体P: 質量 \(m\)
  • 初期状態: PとQは静かに放され、共に動き出す
  • 摩擦: どこにもなし
  • 重力加速度: \(g\)
問われていること(空欄補充形式)
  • (1) Qの加速度の大きさを\(A\)としたときの、Qの運動方程式。
  • I. 慣性力を用いて考える場合:
    • (2) Pについて成り立つ式(斜面に垂直な方向の力のつり合い)。
    • (3) (1)と(2)から導かれる、PがQから受ける垂直抗力の大きさ \(N\)。
    • (4) Qが床から受ける垂直抗力の大きさ \(R\)。
  • II. 静止系で考える場合:
    • Pの加速度の水平成分を \(a_x\)、鉛直成分を \(a_y\) とする。
    • (5) Pの水平方向(x方向)の運動方程式。
    • (6) Pの鉛直方向(y方向)の運動方程式。
    • (7) PがQの斜面に沿って滑るための、\(A, a_x, a_y, \theta\) の間の関係式。
  • 【コラムQ】Pが床に達するまでの時間 \(t\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【注記】

本問については、問題文の誘導に従い、「慣性力を用いる方法」と「静止系で考える方法」の2つのアプローチで解説を進めます。これらは同じ現象を異なる視点から分析するものであり、物理学の学習において両方を理解することが重要です。そのため、本解説ではこれらを別解としてではなく、問題の核心を多角的に理解するための異なる視点として提示します。

この問題のテーマは「運動する斜面上の物体の運動」であり、特に「慣性力」の概念を理解し、適用できるかが問われます。静止した床から見る「慣性系」での考え方と、加速する台の上から見る「非慣性系」での考え方の両方をマスターすることが重要です。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式: 物体にはたらく力の合力は、その物体の質量と加速度の積に等しい (\(m\vec{a} = \vec{F}\))。
  2. 慣性力: 加速度運動する座標系(非慣性系)で物体の運動を考える際に導入される見かけの力。加速度と逆向きに、大きさ \(ma\) で働く。
  3. 力の分解と合成: 力を適切な方向(水平・鉛直、斜面に平行・垂直など)に分解して考える。
  4. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、物体Bも物体Aに同じ大きさで反対向きの力を及ぼす。
  5. 相対加速度: ある物体から見た別の物体の加速度。 \(\vec{a}_{AB} = \vec{a}_B – \vec{a}_A\)。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、各物体にはたらく力をすべて図示します。
  2. 問(1)から(4)は、問題の誘導に従い、加速する三角柱Qに乗った観測者の視点(非慣性系)で考えます。Pにはたらく慣性力を考慮し、力のつりあいの式を立てます。
  3. 問(5)から(7)は、床に静止した観測者の視点(慣性系)で考えます。PとQそれぞれについて運動方程式を立て、Pが斜面に沿って動くという束縛条件から関係式を導きます。
  4. コラムQでは、これまでに求めた加速度を用いて、等加速度運動の公式を適用し、時間を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
三角柱Qが水平方向に運動するのは、その上にある小物体Pから力を受けるためです。作用・反作用の法則により、QはPから、Pが受ける垂直抗力\(N\)と大きさが同じで向きが反対の力を受けます。この力の水平成分が、Qを水平方向に加速させる力となります。
この設問における重要なポイント

  • 三角柱Qにはたらく水平方向の力は、小物体Pから受ける力の水平成分のみです。
  • PがQに及ぼす力は、QがPに及ぼす垂直抗力\(N\)の反作用です。
  • Qの加速度の向きを左向き、その大きさを\(A\)とします。

具体的な解説と立式
小物体Pが三角柱Qの斜面上にあるとき、QはPから垂直抗力\(N\)の反作用を受けます。この力は、Qに対して斜面に垂直で、Qを押し込む向き(図で言えば、左下向き)にはたらきます。
この力の水平成分(左向き)の大きさは\(N\sin\theta\)となります。
三角柱Qの質量は\(M\)であり、水平方向の加速度の大きさを\(A\)(左向きを正とする)とすると、Qの運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
MA &= N\sin\theta \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma = F\)
  • 力の分解
  • 作用・反作用の法則
計算過程

この設問では、運動方程式を立てることが求められており、上記がその式となります。

この設問の平易な説明

三角柱Qが横に動き出すのは、上に乗っている小物体Pが斜面をグッと押すからです。この「押す力」の、水平方向の分だけがQを横に動かす原因になります。物理の基本ルールである「力 = 質量 × 加速度」を使って、この関係を式で表します。

結論と吟味

三角柱Qの運動方程式は\(MA = N\sin\theta\)です。これは、QがPから受ける力の水平成分によって加速されることを示しています。

解答 (1) \(MA = N\sin\theta\)

I. 慣性力を用いて考える。

問(2)

思考の道筋とポイント
三角柱Qと共に加速度\(A\)(左向き)で運動する観測者から小物体Pを見ます。この観測者から見ると、Pには実際の力(重力\(mg\)、垂直抗力\(N\))の他に、Qの加速度と逆向き(右向き)に大きさ\(mA\)の慣性力がはたらいているように見えます。Pは斜面に垂直な方向には動かないので、この方向では力がつり合っていると考えます。
この設問における重要なポイント

  • 観測者は三角柱Qと共に加速度\(A\)(左向き)で運動しています(非慣性系)。
  • 小物体Pには、水平右向きに大きさ\(mA\)の慣性力がはたらいているように見えます。
  • Pにはたらく力(重力、垂直抗力、慣性力)を斜面に垂直な方向に分解し、力のつりあいの式を立てます。

具体的な解説と立式
三角柱Qの加速度は水平左向きに大きさ\(A\)なので、小物体Pには水平右向きに大きさ\(mA\)の慣性力がはたらきます。
Pにはたらく力を、斜面に垂直な方向で考えます。

  • 垂直抗力: \(N\)(斜面から離れる向き)
  • 重力の成分: \(mg\cos\theta\)(斜面に押し付ける向き)
  • 慣性力の成分: \(mA\sin\theta\)(斜面から離れる向き)

Pは斜面に垂直な方向には動かないので、これらの力のつり合いから、
(斜面から離れる向きの力の和)=(斜面に押し付ける向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
N + mA\sin\theta &= mg\cos\theta \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力のつりあい(非慣性系)
  • 慣性力: \(F_{\text{慣性}} = -ma\)
  • 力の分解
計算過程

この設問では、力のつりあいの式を立てることが求められており、上記がその式となります。

この設問の平易な説明

動いている台の上からPを見ると、Pにはいつもの力(重力、台からの支える力)の他に、台が加速しているせいで感じる「見かけの力」(慣性力)がはたらきます。Pは斜面から浮き上がったりめり込んだりしないので、斜面に垂直な方向ではこれらの力がちょうどつり合っているはずです。このつり合いの条件を式にします。

結論と吟味

小物体Pについての斜面に垂直な方向の力のつりあいの式は\(N + mA\sin\theta = mg\cos\theta\)です。この式は、垂直抗力\(N\)が、静止した斜面の場合の\(mg\cos\theta\)から、慣性力の効果によって\(mA\sin\theta\)だけ小さくなることを示しています。

解答 (2) \(N + mA\sin\theta = mg\cos\theta\)

問(3)

思考の道筋とポイント
式① \(MA = N\sin\theta\) と、式② \(N + mA\sin\theta = mg\cos\theta\) の2つの式があります。未知数は垂直抗力\(N\)と三角柱Qの加速度の大きさ\(A\)の2つなので、これらの式を連立させて\(A\)を消去し、\(N\)について解きます。
この設問における重要なポイント

  • 式①から\(A\)を\(N\)を用いて表し、その結果を式②に代入して\(N\)を求めます。

具体的な解説と立式
用いる2つの式は以下の通りです。
$$
\begin{aligned}
MA &= N\sin\theta \quad \cdots ① \\
N + mA\sin\theta &= mg\cos\theta \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
これらの連立方程式から\(A\)を消去し、\(N\)を求めます。

使用した物理公式

  • 連立方程式の解法
計算過程

式①から\(A\)を\(N\)を用いて表します。
$$
\begin{aligned}
A &= \frac{N\sin\theta}{M}
\end{aligned}
$$
この\(A\)を式②に代入します。
$$
\begin{aligned}
N + m\left(\frac{N\sin\theta}{M}\right)\sin\theta &= mg\cos\theta \\[2.0ex]
N\left(1 + \frac{m\sin^2\theta}{M}\right) &= mg\cos\theta \\[2.0ex]
N\left(\frac{M + m\sin^2\theta}{M}\right) &= mg\cos\theta \\[2.0ex]
N &= \frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

さっき立てた2つの式には、知りたい垂直抗力\(N\)と、まだ分かっていない台の加速度\(A\)という2つの「わからない文字」が入っています。式が2本あれば、数学のテクニック(連立方程式)を使って、片方の文字(今回は\(A\))を消去できます。そうすると、求めたい\(N\)だけの式になるので、答えが計算できます。

結論と吟味

垂直抗力の大きさ\(N\)は\(N = \displaystyle\frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\)です。
もし台が非常に重く動かない場合(\(M \rightarrow \infty\))を考えると、分母は\(M\)に近づき、\(N \approx \frac{Mmg\cos\theta}{M} = mg\cos\theta\)となります。これは固定された斜面での垂直抗力と一致し、妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
三角柱Qは鉛直方向には運動しないので、Qにはたらく鉛直方向の力はつり合っています。Qにはたらく鉛直方向の力は、Q自身の重力\(Mg\)、床からの垂直抗力\(R\)、そしてPから受ける力の鉛直成分です。
この設問における重要なポイント

  • 三角柱Qは鉛直方向には動かないので、鉛直方向の力のつり合いが成り立ちます。
  • Qにはたらく鉛直方向の力は、重力\(Mg\)(下向き)、床からの垂直抗力\(R\)(上向き)、Pから受ける力の反作用の鉛直成分\(N\cos\theta\)(下向き)です。

具体的な解説と立式
三角柱Qにはたらく鉛直方向の力は以下の通りです。

  • Q自身の重力: \(Mg\) (鉛直下向き)
  • 床からの垂直抗力: \(R\) (鉛直上向き)
  • Pから受ける力の鉛直成分: \(N\cos\theta\) (鉛直下向き)

鉛直方向の力のつり合いから、
(上向きの力の和)=(下向きの力の和)
$$
\begin{aligned}
R &= Mg + N\cos\theta
\end{aligned}
$$
この式に、(3)で求めた\(N\)を代入して\(R\)を求めます。

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 力の分解
  • 作用・反作用の法則
計算過程

(3)で求めた\(N = \displaystyle\frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
R &= Mg + \left(\frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\right)\cos\theta \\[2.0ex]
&= Mg + \frac{Mmg\cos^2\theta}{M + m\sin^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{Mg(M + m\sin^2\theta) + Mmg\cos^2\theta}{M + m\sin^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{M^2g + Mmg\sin^2\theta + Mmg\cos^2\theta}{M + m\sin^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{M^2g + Mmg(\sin^2\theta + \cos^2\theta)}{M + m\sin^2\theta}
\end{aligned}
$$
ここで\(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\)を用いると、
$$
\begin{aligned}
R &= \frac{M^2g + Mmg}{M + m\sin^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{(M+m)Mg}{M + m\sin^2\theta}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

三角柱Qは床の上を横に滑るだけで、上下には動きません。これは、Qにはたらく上向きの力と下向きの力がつり合っているからです。下向きの力は、Q自身の重さと、PがQを斜め下に押す力の下向き成分の合計です。上向きの力は、床がQを支える力\(R\)です。このつり合いの式を立て、(3)で求めた情報を使って\(R\)を計算します。

結論と吟味

床からの垂直抗力\(R\)は\(R = \displaystyle\frac{(M+m)Mg}{M + m\sin^2\theta}\)です。
もしPがない場合(\(m=0\))、\(R = \frac{M^2g}{M} = Mg\)となり、Qの重さとつりあうことになり妥当です。
もし斜面が水平な場合(\(\theta=0\))、\(R = \frac{(M+m)Mg}{M} = (M+m)g\)となり、PとQの合計の重さとつりあうことになり、これも妥当です。

解答 (4) \(\displaystyle\frac{(M+m)Mg}{M + m\sin^2\theta}\)

II. 静止系で考える。

問(5), (6)

思考の道筋とポイント
床で静止している観測者(慣性系)から小物体Pの運動を見ます。慣性力は考慮しません。Pにはたらく力は、重力\(mg\)と、三角柱Qから受ける垂直抗力\(N\)のみです。これらの力を水平方向(x方向)と鉛直方向(y方向)に分解し、それぞれの方向でPの運動方程式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 静止系(床)から見たPの運動を考えます。慣性力は登場しません。
  • Pにはたらく力は、重力\(mg\)(鉛直下向き)と垂直抗力\(N\)(斜面に垂直)です。
  • 力をx方向(水平右向き正)とy方向(鉛直上向き正)に分解します。

具体的な解説と立式
Pにはたらく力は、重力\(mg\)と垂直抗力\(N\)です。

  • 重力: x成分は0, y成分は\(-mg\)。
  • 垂直抗力: PがQの右斜面にある場合、Nは左上向きにはたらくので、x成分は\(-N\sin\theta\)、y成分は\(+N\cos\theta\)。

しかし、模範解答の式は\(ma_x = N\sin\theta\)となっており、これはNのx成分が正であることを意味します。これは、PがQの左斜面にある場合や、力の成分の正負を加速度の向きに合わせて設定した場合に相当します。ここでは模範解答の式を導出するため、Nのx成分を\(N\sin\theta\)、y成分を\(N\cos\theta\)として立式します。

(5) 水平方向(x方向)の運動方程式:
Pにはたらく水平方向の力は、垂直抗力\(N\)のx成分のみです。
$$
\begin{aligned}
ma_x &= N\sin\theta \quad \cdots ⑤
\end{aligned}
$$
(6) 鉛直方向(y方向)の運動方程式:
Pにはたらく鉛直方向の力は、垂直抗力\(N\)のy成分と、重力\(mg\)です。
$$
\begin{aligned}
ma_y &= N\cos\theta – mg \quad \cdots ⑥
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma_x = \sum F_x\), \(ma_y = \sum F_y\)
  • 力の分解
計算過程

この設問では、運動方程式を立てることが求められており、上記がその式となります。

この設問の平易な説明

今度は、動かない床からPの運動を見ます。Pには、地球が引く力(重力)と、台が押す力(垂直抗力)の2つの実際の力がはたらいています。これらの力を水平方向と鉛直方向に分けて考え、それぞれの方向について「力 = 質量 × 加速度」の式を立てます。

結論と吟味

Pの運動方程式は、x方向が\(ma_x = N\sin\theta\)、y方向が\(ma_y = N\cos\theta – mg\)です。この時点では未知数が\(N, A, a_x, a_y\)の4つに対し、式が3つ(①, ⑤, ⑥)しかなく、解くためにはもう一つ条件式が必要です。

解答 (5) \(ma_x = N\sin\theta\)
解答 (6) \(ma_y = N\cos\theta – mg\)

問(7)

思考の道筋とポイント
小物体Pは三角柱Qの斜面上を滑ります。これは、PのQに対する相対的な運動が、常に斜面に平行な方向で行われることを意味します。Pの床に対する加速度を\(\vec{a}_P = (a_x, a_y)\)、Qの床に対する加速度を\(\vec{a}_Q = (-A, 0)\)とすると、PのQに対する相対加速度\(\vec{a}_{P/Q}\)の成分は\((a_x+A, a_y)\)となります。この相対加速度ベクトルが斜面に平行であるという幾何学的な条件から関係式を導きます。
この設問における重要なポイント

  • 小物体Pの三角柱Qに対する相対加速度の方向が、斜面に平行です。
  • 相対加速度の水平成分と鉛直成分の比が、斜面の傾きに関係します。

具体的な解説と立式
Pの床に対する加速度成分を\((a_x, a_y)\)(x右向き正, y上向き正)、Qの床に対する加速度を\((-A, 0)\)とします。
PのQに対する相対加速度\(\vec{a}_{\text{P/Q}}\)の成分は、
$$
\begin{aligned}
a_{\text{P/Q, x}} &= a_x – (-A) \\[2.0ex]
&= a_x + A \\[2.0ex]
a_{\text{P/Q, y}} &= a_y – 0 \\[2.0ex]
&= a_y
\end{aligned}
$$
この相対加速度ベクトルは、斜面に沿って下向きです。Pは鉛直下向きに動くので\(a_y\)は負です。相対加速度の向きは、水平右向きとなす角が\(\theta\)で下向きの方向です。
したがって、相対加速度の鉛直成分と水平成分の比は、
$$
\begin{aligned}
\frac{|a_{\text{P/Q, y}}|}{|a_{\text{P/Q, x}}|} &= \tan\theta \\[2.0ex]
\frac{-a_y}{a_x + A} &= \tan\theta
\end{aligned}
$$
これを整理すると、
$$
\begin{aligned}
-a_y &= (a_x + A)\tan\theta \quad \cdots ⑦
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 相対加速度: \(\vec{a}_{\text{P/Q}} = \vec{a}_P – \vec{a}_Q\)
  • 幾何学的な束縛条件
計算過程

この設問では、関係式を立てることが求められており、上記がその式となります。

この設問の平易な説明

小物体Pは、三角柱Qの斜面から離れずに滑っていきます。この「斜面に沿って滑る」というルールが、Pの動きとQの動きの間に特別な関係があることを意味します。Qから見たPの加速度の向きが、ちょうど斜面の角度と同じになる、という幾何学的な条件を数式で表します。

結論と吟味

関係式は\((A+a_x)\tan\theta = -a_y\)です。これで未知数\(N, A, a_x, a_y\)に対して、式①, ⑤, ⑥, ⑦の4つの方程式が揃い、原理的にこれらの未知数を解くことができます。

解答 (7) \((A+a_x)\tan\theta = -a_y\)

【コラム】Q 初めのPの床からの高さをhとする。Pが床に達するまでの時間tを求めよ。

思考の道筋とポイント
Pが床に達するまでの時間を求めるには、Pの運動を解析し、等加速度運動の公式を利用します。ここでも、方法I(非慣性系)と方法II(慣性系)の2つのアプローチが考えられます。
この設問における重要なポイント

  • 方法I: 台から見たPの運動は、斜面に沿った等加速度運動。斜面方向の相対加速度\(\alpha\)を求め、滑り降りる距離\(h/\sin\theta\)と結びつける。
  • 方法II: 床から見たPの運動は、鉛直方向にも加速度\(a_y\)を持つ。鉛直方向の変位が\(-h\)であることから、\(a_y\)を求めて時間を計算する。

具体的な解説と立式
方法I: 非慣性系で考える
台から見たPの斜面方向の運動方程式を立てます。斜面下向きを正とします。
Pにはたらく力の斜面方向成分は、重力の成分\(mg\sin\theta\)と慣性力の成分\(mA\cos\theta\)です。両方とも斜面下向きにはたらくので、合力は\(mg\sin\theta + mA\cos\theta\)です。
台から見たPの加速度を\(\alpha\)とすると、
$$
\begin{aligned}
m\alpha &= mg\sin\theta + mA\cos\theta \\[2.0ex]
\alpha &= g\sin\theta + A\cos\theta
\end{aligned}
$$
Pが滑り降りる距離は\(L = h/\sin\theta\)です。等加速度運動の公式\(L = \frac{1}{2}\alpha t^2\)より、
$$
\begin{aligned}
\frac{h}{\sin\theta} &= \frac{1}{2}\alpha t^2
\end{aligned}
$$
よって、時間は\(t = \sqrt{\displaystyle\frac{2h}{\alpha\sin\theta}}\)で求められます。

方法II: 慣性系で考える
床から見たPの鉛直方向の運動を考えます。鉛直方向の変位は\(-h\)です。
等加速度運動の公式\(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}a_y t^2\)より、初速度0なので、
$$
\begin{aligned}
-h &= \frac{1}{2}a_y t^2
\end{aligned}
$$
よって、時間は\(t = \sqrt{\displaystyle\frac{-2h}{a_y}}\)で求められます(\(a_y\)は負の値)。

使用した物理公式

  • 運動方程式(非慣性系/慣性系)
  • 等加速度直線運動の公式: \(L = \frac{1}{2}at^2\)
計算過程

方法Iの計算:
まず\(A\)を求めます。式①と(3)の結果から、
$$
\begin{aligned}
A &= \frac{N\sin\theta}{M} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{M}\left(\frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\right)\sin\theta \\[2.0ex]
&= \frac{mg\sin\theta\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}
\end{aligned}
$$
これを\(\alpha\)の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\alpha &= g\sin\theta + \left(\frac{mg\sin\theta\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\right)\cos\theta \\[2.0ex]
&= \frac{g\sin\theta(M + m\sin^2\theta) + mg\sin\theta\cos^2\theta}{M + m\sin^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{Mg\sin\theta + mg\sin^3\theta + mg\sin\theta\cos^2\theta}{M + m\sin^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{Mg\sin\theta + mg\sin\theta(\sin^2\theta + \cos^2\theta)}{M + m\sin^2\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{(M+m)g\sin\theta}{M + m\sin^2\theta}
\end{aligned}
$$
これを\(t\)の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
t^2 &= \frac{2h}{\alpha\sin\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{2h}{\sin\theta} \cdot \frac{M + m\sin^2\theta}{(M+m)g\sin\theta} \\[2.0ex]
&= \frac{2h(M + m\sin^2\theta)}{(M+m)g\sin^2\theta} \\[2.0ex]
t &= \frac{1}{\sin\theta}\sqrt{\frac{2h(M + m\sin^2\theta)}{(M+m)g}}
\end{aligned}
$$
方法IIの計算:
連立方程式①, ⑤, ⑥, ⑦を解いて\(a_y\)を求めます。
(計算は複雑なので結果のみ示すと)
$$
\begin{aligned}
a_y = -\frac{(M+m)g\sin^2\theta}{M+m\sin^2\theta}
\end{aligned}
$$
これを\(t\)の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
t^2 &= \frac{-2h}{a_y} \\[2.0ex]
&= -2h \left(-\frac{M+m\sin^2\theta}{(M+m)g\sin^2\theta}\right) \\[2.0ex]
&= \frac{2h(M+m\sin^2\theta)}{(M+m)g\sin^2\theta} \\[2.0ex]
t &= \frac{1}{\sin\theta}\sqrt{\frac{2h(M + m\sin^2\theta)}{(M+m)g}}
\end{aligned}
$$
どちらの方法でも同じ結果が得られます。

この設問の平易な説明

Pが高さ\(h\)から床に落ちるまでの時間を計算します。これは、Pが斜面を滑り降りる加速度が分かれば、物理の「距離・時間・加速度」の関係式を使って計算できます。加速度を求める方法が2通り(台から見るか、床から見るか)ありますが、どちらで計算しても最終的な時間は同じになります。

結論と吟味

Pが床に達するまでの時間は\(t = \displaystyle\frac{1}{\sin\theta}\sqrt{\frac{2h(M + m\sin^2\theta)}{(M+m)g}}\)です。
もし台が固定されている場合(\(M \rightarrow \infty\))、\(t \approx \frac{1}{\sin\theta}\sqrt{\frac{2hM}{Mg}} = \sqrt{\frac{2h}{g\sin^2\theta}}\)となり、これは斜面を滑り降りる加速度が\(g\sin\theta\)で、滑る距離が\(h/\sin\theta\)の場合の時間\(t = \sqrt{2(h/\sin\theta)/(g\sin\theta)}\)と一致し、妥当です。

解答 (コラムQ) \(t = \displaystyle\frac{1}{\sin\theta}\sqrt{\frac{2h(M + m\sin^2\theta)}{(M+m)g}}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動方程式と慣性力:
    • 核心: この問題は、物体の運動を記述する最も基本的な法則である「運動方程式」を、異なる2つの視点から適用する能力を問うています。一つは床に固定された「慣性系」からの視点、もう一つは加速する台と共に動く「非慣性系」からの視点です。
    • 理解のポイント:
      1. 慣性系(静止系)でのアプローチ: 床から見ると、PとQにはたらく力は重力や垂直抗力といった「実在する力」のみです。各物体について運動方程式を立て、作用・反作用の法則や「Pが斜面に沿って動く」という束縛条件を連立させることで、未知数を解き明かします。これは力学の王道ともいえる考え方です。
      2. 非慣性系でのアプローチ: 加速する台の上から見ると、物理法則を成り立たせるために、見かけの力である「慣性力」を導入する必要があります。慣性力は、観測者の加速度と逆向きに大きさ\(ma\)ではたらきます。この慣性力を考慮に入れると、台の上でのPの運動を、あたかも静止しているかのような「力のつりあい」の問題として捉え直すことができ、計算が大幅に簡潔になる場合があります。
      3. 視点の使い分け: どちらの視点も同じ物理現象を記述しており、最終的な答えは一致します。問題に応じて、よりシンプルに立式できる視点を選択する戦略的な思考が重要です。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 電車内で揺れる振り子: 加速する電車(非慣性系)の中で、振り子がどの角度で静止するかを問う問題。慣性力を導入すると、重力と慣性力の合力である「見かけの重力」の方向につりあう、とシンプルに考えられます。
    • エレベーター内の物理現象: 上下方向に加速するエレベーターの中での、ばねの伸びや台ばかりの目盛りを問う問題。慣性力によって、見かけの重力加速度が\(g \pm a\)に変化すると考えることで、問題を単純化できます。
    • 接触したまま運動する複数物体: 本問のように、複数の物体が力を及ぼし合いながら一体的に運動する問題。各物体について運動方程式を立て、作用・反作用の法則を正しく適用することが基本となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 観測者をどこに置くか?: 問題を解く上で、最もシンプルに現象を記述できる「視点」はどこかをまず考えます。物体が静止して見えたり、運動が単純な直線運動に見えたりする非慣性系を選ぶと、計算の見通しが良くなることが多いです。
    2. 束縛条件の数式化: 「斜面から離れない」「糸がたるまない」といった、物体の運動を制限する幾何学的な条件(束縛条件)を数式で表現することが、連立方程式を解くための決定的な一手になることがよくあります。本問の(7)がまさにこれに該当します。
    3. 作用・反作用のペアの特定: 複数の物体が登場する場合、どの力がどの物体にはたらき、どの力がその反作用なのかを正確に特定することが不可欠です。力を図示する際に、主語(何が)と目的語(何を)を明確に意識することが有効です。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 慣性力の向きの間違い:
    • 誤解: 慣性力の向きを、観測者(座標系)の加速度と同じ向きだと勘違いしてしまう。
    • 対策: 慣性力は、常に観測者の加速度と「真逆」にはたらくと覚えましょう。式で書くと\(\vec{F}_{\text{慣性}} = -m\vec{a}_{\text{観測者}}\)であり、このマイナス符号が「逆向き」を意味します。
  • 作用・反作用の法則の誤用:
    • 誤解: PがQから受ける垂直抗力\(N\)と、その反作用(QがPから受ける力)を、同じ物体Qにはたらく力として運動方程式に含めてしまう。
    • 対策: 作用・反作用のペアは、必ず「AがBに及ぼす力」と「BがAに及ぼす力」というように、異なる2つの物体の間にはたらく力です。力を図示する際に、どの物体がどの物体から受ける力なのかを明確に区別する習慣をつけましょう。
  • 慣性系と非慣性系の混同:
    • 誤解: 床から見ている(慣性系)のに慣性力を考えてしまったり、逆に台の上から見ている(非慣性系)のに慣性力を忘れたりする。
    • 対策: 問題を解き始める前に、「自分は今、どこに立ってこの現象を見ているのか?」を明確に意識しましょう。その視点に応じて、考慮すべき力のリストを作成してから立式に進むと、混乱を防げます。
  • 相対加速度のベクトルの扱い:
    • 誤解: Pの加速度とQの加速度の大きさを単純に足したり引いたりして、相対加速度の大きさを計算してしまう。
    • 対策: 加速度は向きを持つベクトル量であることを常に意識しましょう。相対加速度はベクトルの引き算(\(\vec{a}_{P/Q} = \vec{a}_P – \vec{a}_Q\))で定義されます。面倒でも、x成分、y成分に分けて計算するのが最も確実です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 (\(m\vec{a} = \vec{F}\)):
    • 選定理由: 物体の「運動状態の変化(加速度)」と、その「原因(力)」を結びつける、力学における最も根源的な法則だからです。物体が加速している状況を分析する際の、すべての思考の出発点となります。
    • 適用根拠: 問題文でPとQが「動き出した」と明記されており、両者が加速度を持つことが明らかであるため、この法則の適用が必須となります。
  • 慣性力を考慮した力のつりあい (\(\sum \vec{F}_{\text{実在}} + \vec{F}_{\text{慣性}} = \vec{0}\)):
    • 選定理由: 加速する座標系(非慣性系)から物体を見たときに、その物体が特定の方向で静止しているように見える場合、問題を動的な運動方程式ではなく、静的な「力のつりあい」として扱うことができ、思考が単純化されるためです。
    • 適用根拠: 問(2)では、Qと共に動く観測者から見ると、Pは斜面にめり込んだり浮き上がったりしません。つまり、斜面に垂直な方向の加速度は0です。この状況に「見かけの力を含めた力のつりあい」を適用することで、立式が非常に容易になります。
  • 相対加速度の式 (\(\vec{a}_{P/Q} = \vec{a}_P – \vec{a}_Q\)):
    • 選定理由: 複数の物体が互いに関係を保ちながら運動するとき、一方の物体から見た他方の物体の運動を記述する必要があるためです。
    • 適用根拠: 問(7)で、「PがQの斜面に沿って滑る」という運動の拘束条件を数式で表現する必要があります。この条件は、あくまで「Qから見たPの運動」に関するものであるため、相対加速度の概念を用いて立式する必要があります。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 符号の確認:
    • 特に注意すべき点: 力の成分分解、加速度の向き、慣性力の向きなど、この問題は符号のミスが致命傷になります。最初に座標軸の正の向きを明確に定め、すべてのベクトル量をその座標軸に従ってプラス・マイナスで表現することを徹底しましょう。
    • 日頃の練習: 必ずフリーハンドで良いので図を描き、そこに座標軸と力のベクトルをすべて矢印で書き込みます。立式した数式の各項の符号が、図に描いた矢印の向きと一致しているかを、一つ一つ指差し確認する習慣が有効です。
  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: \(m, M, g, \theta, N, A, a_x, a_y\)など多くの文字が登場するため、連立方程式の計算が非常に煩雑になります。代入の過程で項を書き間違えたり、符号を移し間違えたりするミスが頻発します。
    • 日頃の練習: 途中式を省略せず、一行ずつ丁寧に書くことを心がけましょう。特に、分数の通分や、三角関数の公式(\(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\))を用いた式の簡略化は、焦らず慎重に行うことが重要です。
  • 次元(単位)のチェック:
    • 特に注意すべき点: 最終的に得られた答えの次元が、求めたい物理量の次元と一致しているかを確認する癖をつけましょう。例えば、力を求めているのに答えの次元が[質量]になっていたら、計算過程のどこかに間違いがあると断定できます。
    • 日頃の練習: 計算の途中でも、「\(M+m\sin^2\theta\)」のように、[質量]の次元を持つ項と無次元の項を足し合わせていないかなどを意識すると、ミスを早期に発見できます(模範解答のコラム「答えが出たら次元を調べてみるとよい」は非常に良い習慣です)。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3) 垂直抗力\(N\): \(N = \displaystyle\frac{Mmg\cos\theta}{M + m\sin^2\theta}\)
      • 吟味の視点: もし台が非常に重くて動かない(\(M \rightarrow \infty\))と仮定すると、分母の\(m\sin^2\theta\)は無視できるので、\(N \approx \frac{Mmg\cos\theta}{M} = mg\cos\theta\)となります。これは固定された斜面での垂直抗力と一致しており、物理的に正しい結果です。
    • (4) 床からの垂直抗力\(R\): \(R = \displaystyle\frac{(M+m)Mg}{M + m\sin^2\theta}\)
      • 吟味の視点: もしPが存在しなければ(\(m=0\))、\(R = \frac{M \cdot Mg}{M} = Mg\)となり、Qの重さとつりあうだけなので正しいです。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし\(\theta=0\)(斜面が水平)なら?:
      • PはQを押さず、Qは動かない(\(A=0\))はずです。PはQの上で静止し、垂直抗力は\(N=mg\)。床からの垂直抗力は全体の重さ\(R=(M+m)g\)。
      • (3)の式で\(\theta=0\)とすると\(\cos0=1, \sin0=0\)なので\(N=\frac{Mmg}{M}=mg\)。
      • (4)の式で\(\theta=0\)とすると\(R=\frac{(M+m)Mg}{M}=(M+m)g\)。
      • となり、すべて直感的な状況と一致します。
    • もし\(\theta=90^\circ\)(斜面が鉛直な壁)なら?:
      • Pは壁に触れずに自由落下するので、Qに力を及ぼさず\(N=0\)。Qも動かない(\(A=0\))。床からの垂直抗力は\(R=Mg\)。
      • (3)の式で\(\theta=90^\circ\)とすると\(\cos90^\circ=0\)なので\(N=0\)。
      • (4)の式で\(\theta=90^\circ\)とすると\(\sin90^\circ=1\)なので\(R=\frac{(M+m)Mg}{M+m}=Mg\)。
      • となり、これもすべて直感的な状況と一致します。
    • このように、得られた複雑な文字式を、身近な単純な状況に当てはめてみることで、その式の正しさを検証することができます。
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問題23 (横浜国大+東工大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平面上に置かれた質量 \(M\) の直方体Aと、その上に置かれた質量 \(m\) の物体B、さらに滑車を介してBとつながり鉛直につり下げられた質量 \(m\) の物体Cからなる系に、水平右向きの力 \(F\) を加えて動かす状況を扱います。摩擦はどこにもないものとします。(1)ではBとCがAに対して動かない条件での力 \(F\) を、(2)ではAが特定の加速度で動く場合にCが落下する時間と、そのときの力 \(F\) を求めます。慣性力の考え方や、複数の物体が連動する系の運動方程式の扱いがポイントとなります。

与えられた条件
  • 直方体Aの質量: \(M\)
  • 物体Bの質量: \(m\)
  • 物体Cの質量: \(m\)
  • 滑車: 軽い(質量無視)
  • 摩擦: どこにもなし
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
  • 力 \(F\): Aに加える水平右向きの力
問われていること
  1. (1) B,CがAに対して動かないようにAを動かすときの、力 \(F\) の大きさ。
  2. (2) 全体が静止した状態から、Aを \(\frac{1}{2}g\) の加速度で動かす場合:
    • はじめ水平面から高さ \(h\) にあったCが水平面に達するまでの時間 \(t\)。
    • この場合の力 \(F\) の大きさ。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている「慣性力」を積極的に利用する解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1) 力\(F\)の別解: 静止系から見た各物体の運動方程式を連立する解法
      • 主たる解法が、系全体を一体と見なした上で、Aの系から見た力のつりあいを考えるのに対し、別解では床に固定された静止系からA, B, Cそれぞれの運動方程式を個別に立式し、それらを連立させて解きます。
    • 問(2) 時間\(t\)と力\(F\)の別解: 静止系から見た各物体の運動方程式を連立する解法
      • 主たる解法が、Aと共に動く非慣性系から見たBとCの「相対運動」を考えるのに対し、別解では床に固定された静止系から見たBとCの「絶対的な運動」を記述し、それらの運動方程式を連立させて解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 「慣性力」という便利な道具を使わずに、力学の基本であるニュートンの運動方程式と作用・反作用の法則だけで問題を解ききる経験は、これらの基本法則への理解をより強固なものにします。
    • 思考の網羅性: 慣性系と非慣性系、両方の視点から同じ問題を解くことで、視点の取り方によって立式や計算の複雑さがどう変わるかを体感でき、問題解決のための戦略的な思考力が養われます。
    • 計算練習: 別解は、主たる解法に比べて連立方程式がやや複雑になる傾向がありますが、これは複数の未知数を含む方程式を正確に処理する良い訓練になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題の鍵は、各物体にはたらく力を正確に把握し、適切な基準系(観測者)を選んで運動の法則を適用することです。(1)のように系全体が一体となって動く場合は、系全体の加速度を考え、次に個々の物体について力のつり合い(慣性力を考慮)を見るのが有効です。(2)のように相対運動がある場合は、動いている物体(この場合はA)の上に乗った観測者から見た運動を解析すると、見通しが良くなることがあります。その際には慣性力を忘れずに導入しましょう。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動方程式: 物体にはたらく力の合力は、その物体の質量と加速度の積に等しい(\(m\vec{a} = \vec{F}\))。
  2. 慣性力: 加速度運動する座標系(非慣性系)で物体の運動を考える際に導入される見かけの力。観測者の加速度と逆向きに、大きさ\(ma\)ではたらく。
  3. 力のつりあい: 物体が静止している、または等速直線運動しているとき、物体にはたらく力のベクトル和はゼロになる。非慣性系では慣性力も含めて考える。
  4. 作用・反作用の法則: 物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、物体Bも物体Aに同じ大きさで反対向きの力を及ぼす。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、A, B, Cが一体となって動くと考え、まず系全体の運動方程式を立てます。次に、Aと共に動く観測者(非慣性系)の視点から、BとCにはたらく力のつりあいを考え、全体の加速度を求め、最終的に力\(F\)を導出します。
  2. (2)では、Aの加速度が与えられているため、BとCはAに対して相対的に運動します。Aと共に動く観測者の視点から、BとCの相対的な運動方程式を立てて相対加速度を求め、Cが落下する時間を計算します。
  3. (2)の力\(F\)を求めるには、床に静止した観測者(慣性系)の視点から、Aにはたらくすべての水平方向の力を洗い出し、Aの運動方程式を立てて解きます。

問(1)

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