「名問の森」徹底解説(19〜21問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題19 (埼玉大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、滑車を介してつるされた二つの皿と、一方の皿に乗った蛙のジャンプに関する力学の問題です。蛙がジャンプする際の皿の運動や蛙自身の運動、そしてそれらに関わるエネルギーや最大到達距離を考察します。特に「1次元化」という考え方や、系全体の運動量保存、エネルギー保存が鍵となります。

与えられた条件
  • 皿A、Bの質量: それぞれ \(m\) [kg]
  • 蛙の質量: \(M\) [kg]
  • おもりの質量: \(M\) [kg] (蛙と同じ質量)
  • 蛙が床では高さんまで鉛直に跳び上がれる運動エネルギーを出せる。具体的には、このエネルギーは \(Mgh\) に相当します。
  • 皿、蛙、おもり以外の質量(滑車や糸など)は無視できる。
  • 蛙の大きさは無視する。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
問われていること
  1. (1) 蛙が皿Aから鉛直に跳び上がるときの床に対する初速度の大きさを \(V\) とし、そのとき皿Aが床に接近する初速度の大きさ \(v\) を \(M, m, V\) で表すこと。
  2. (2) 蛙の床に対する初速度の大きさ \(V\) を \(M, m, h, g\) で表すこと。
  3. (3) 蛙が皿Aから離れる距離の最大値が \(h\) の何倍になるか。ただし、皿と床の衝突はないものとする。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上での基本方針は、蛙、皿A、皿B、おもりを一つの「系」として捉え、運動量保存則とエネルギー保存則を適用することです。特に、問題のヒントにもある「1次元化」というアプローチは、滑車を介した上下運動を等価な一直線上の運動として扱うことで、運動量保存則の適用を容易にします。蛙のジャンプは系内部の力によるものであり、適切に系を設定すれば保存則が有効に活用できます。

問 (1)

思考の道筋とポイント

蛙が皿Aから跳び上がる瞬間を考えます。このとき、蛙は上向きに速度 \(V\) を持ち、反作用で皿Aは下向きに速度 \(v\) を持ちます。皿Aと滑車で繋がっている皿B(およびおもり)は、皿Aと連動して上向きに速度 \(v\) を持ちます。系全体(蛙、皿A、皿B、おもり)には、蛙のジャンプという内力を除けば、鉛直方向の運動を変化させるような正味の外力は働かないと考え(あるいは1次元化モデルで運動量が保存されると考え)、運動量保存則を適用します。

この設問における重要なポイント

  • 系全体(蛙、皿A、皿B、おもり)の運動量を考えます。
  • 初期状態(跳び上がる直前まで)の全運動量は0です。
  • 跳び上がった直後の各物体の速度を設定し、運動量保存則を適用します。
  • 「1次元化」モデル(Uターン形座標軸)における運動量の向きの扱いに注意が必要です。蛙の上向きの運動を一方の向きの運動量とすると、皿Aの下向きの運動と皿B(+おもり)の上向きの運動は、合わせて反対向きの運動量として扱われます。

具体的な解説と立式

蛙が跳び上がる直前、系全体は静止しているので、全運動量は \(0\) です。
蛙が跳び上がった直後の床に対する速度を考えます。

  • 蛙(質量 \(M\))は鉛直上向きに速さ \(V\)。
  • 皿A(質量 \(m\))は鉛直下向きに速さ \(v\)。
  • 皿B(質量 \(m\))とおもり(質量 \(M\))は一体となって鉛直上向きに速さ \(v\)。

モデル解答で示唆されている「1次元化」と「Uターン形座標軸」の考え方を採用します。これは、滑車でつながれた全体の運動量を一つの軸上で考える方法です。例えば、蛙の上向きの運動による運動量を \(+MV\) とすると、皿Aの下向きの運動による運動量 \(m(-v)\) と、皿Bおよびおもりの上向きの運動による運動量 \((M+m)v\) を、この1次元化された軸上で適切に符号を付けて合計します。
モデル解答のLecutureにある運動量保存則の式 \(0 = MV – mv – (M+m)v\) は、蛙の運動量 \(MV\) と、皿Aの運動量 (\(mv\)) および皿B+おもりの運動量 (\((M+m)v\)) が、1次元化された系で互いに反対向きであることを示しています。ここで、\(V\) は蛙の上昇速度、\(v\) は皿Aの下降速度(および皿Bの上昇速度)の大きさとします。
したがって、運動量保存則は次のように表されます。
$$0 = MV – mv – (M+m)v \quad \cdots ①$$
これは、蛙の上向きの運動量 \(MV\) が、皿A、皿B、おもりからなる部分の「実効的な下向き」の運動量 \((m + M+m)v = (M+2m)v\) と釣り合っていると解釈できます。

使用した物理公式

  • 運動量保存則(1次元化モデル適用時): \(\sum p_{\text{初}} = \sum p_{\text{後}}\)
計算過程

式①を \(v\) について解きます。
まず、\(v\) を含む項を右辺にまとめます(あるいは左辺に移項します)。
$$mv + (M+m)v = MV$$
$$(m + M + m)v = MV$$
$$(M+2m)v = MV$$
したがって、\(v\) は、
$$v = \frac{M}{M+2m}V \quad \cdots ②$$

計算方法の平易な説明

蛙がジャンプする時、蛙、皿A、皿B、おもり全体を一つのグループ(系)と考えます。ジャンプの前後で、このグループ全体の「勢い」(運動量)は変わりません(最初は全体が止まっているので、全体の勢いはゼロです)。蛙が上に \(MV\) の勢いで動くと、皿A、皿B、おもりからなる部分は、蛙の動きを打ち消すように反対方向に \((M+2m)v\) の勢いで動くと考えられます(皿Aと皿B+おもりが同じ速さ \(v\) で動くため)。これらの勢いの合計がゼロになるという関係から、\(v\) と \(V\) の関係を求めます。

結論と吟味

皿Aが床に接近する初速度の大きさ \(v\) は \(v = \displaystyle\frac{M}{M+2m}V\) です。
この結果から、蛙の質量 \(M\) が大きいほど、また皿の質量 \(m\) が小さいほど、皿の速度 \(v\) は蛙の速度 \(V\) に近づく傾向があることが分かります。逆に、皿の質量 \(m\) が非常に大きい場合、\(v\) は比較的小さくなります。これらの傾向は物理的な直感とも一致しています。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{M}{M+2m}V\)

問 (2)

思考の道筋とポイント

蛙が床では高さんまで鉛直に跳び上がれるということは、蛙がジャンプする際に生み出すことのできる初期運動エネルギーが \(Mgh\) であることを意味します(位置エネルギーの増加分に等しい)。今回の状況でも、蛙はこの \(Mgh\) のエネルギーを使ってジャンプします。このエネルギーが、ジャンプ直後の蛙自身の運動エネルギー、皿Aの運動エネルギー、そして皿Bとおもりの運動エネルギーの合計に分配されると考え、エネルギー保存則(より正確にはエネルギーの変換関係)の式を立てます。

この設問における重要なポイント

  • 蛙がジャンプによって生み出すことのできるエネルギーは \(Mgh\) です。
  • このエネルギーが、ジャンプ直後の系全体の各部分の運動エネルギーの和に等しくなります。
  • 各物体の運動エネルギーは、\(\frac{1}{2} \times (\text{質量}) \times (\text{速さ})^2\) で計算されます。
  • 設問(1)で求めた \(v\) と \(V\) の関係式(式②)を利用します。

具体的な解説と立式

蛙がジャンプするために生み出すエネルギー \(E_{\text{蛙}}\) は \(Mgh\) です。
ジャンプ直後の各部分の運動エネルギーは以下の通りです。

  • 蛙(質量 \(M\))の運動エネルギー: \(K_{\text{蛙}} = \frac{1}{2}MV^2\)
  • 皿A(質量 \(m\))の運動エネルギー: \(K_{\text{皿A}} = \frac{1}{2}mv^2\)
  • 皿B(質量 \(m\))とおもり(質量 \(M\))からなる部分の運動エネルギーの合計: \(K_{\text{皿B+おもり}} = \frac{1}{2}(m+M)v^2\)

蛙が生み出したエネルギーがこれらの運動エネルギーの総和に等しくなると考えると、エネルギーに関する関係式は、
$$Mgh = \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}(m+M)v^2 \quad \cdots ③$$
右辺の \(v^2\) の項をまとめると、
$$Mgh = \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}(m + m+M)v^2$$
$$Mgh = \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}(M+2m)v^2 \quad \cdots ④$$

使用した物理公式

  • エネルギーの変換と保存: \( (\text{蛙が生み出すエネルギー}) = (\text{ジャンプ直後の系全体の運動エネルギーの総和}) \)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2} \times (\text{質量}) \times (\text{速さ})^2\)
計算過程

式④に、設問(1)で求めた \(v = \displaystyle\frac{M}{M+2m}V\) (式②) を代入して \(V\) を求めます。
まず、式②より \(v^2\) を計算します。
$$v^2 = \left(\frac{M}{M+2m}V\right)^2 = \frac{M^2}{(M+2m)^2}V^2$$
これを式④の第2項 \(\frac{1}{2}(M+2m)v^2\) に代入します。
$$\frac{1}{2}(M+2m)v^2 = \frac{1}{2}(M+2m)\frac{M^2}{(M+2m)^2}V^2 = \frac{1}{2}\frac{M^2}{M+2m}V^2$$
これを式④に戻します。
$$Mgh = \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}\frac{M^2}{M+2m}V^2$$
両辺に共通して存在する \(M\) で割ります(\(M \neq 0\) であるため)。
$$gh = \frac{1}{2}V^2 + \frac{1}{2}\frac{M}{M+2m}V^2$$
右辺を \(\displaystyle\frac{1}{2}V^2\) でくくりだします。
$$gh = \frac{1}{2}V^2 \left(1 + \frac{M}{M+2m}\right)$$
括弧の中を通分して計算します。
$$1 + \frac{M}{M+2m} = \frac{M+2m+M}{M+2m} = \frac{2M+2m}{M+2m} = \frac{2(M+m)}{M+2m}$$
したがって、
$$gh = \frac{1}{2}V^2 \frac{2(M+m)}{M+2m} = V^2 \frac{M+m}{M+2m}$$
この式を \(V^2\) について解きます。
$$V^2 = gh \frac{M+2m}{M+m}$$
\(V\) は速さなので \(V > 0\) です。したがって、両辺の平方根をとると、
$$V = \sqrt{\frac{(M+2m)gh}{M+m}} \quad \cdots ⑤$$

計算方法の平易な説明

蛙がジャンプに使うエネルギーは、床で高さ \(h\) まで上がれることから \(Mgh\) であるとわかります。このエネルギーが、今回の複雑な装置でジャンプしたときに、結果として「蛙自身の運動エネルギー」と「皿Aの運動エネルギー」と「皿Bとおもりの運動エネルギー」の3つの部分に分けられたと考えます。それぞれの運動エネルギーを、蛙の速さ \(V\) と皿の速さ \(v\) を使って表します。そして、(1)で求めた \(v\) と \(V\) の関係式を使って \(v\) を消去し、最終的に \(V\) を求める式を導き出します。

結論と吟味

蛙の初速度の大きさ \(V\) は \(V = \sqrt{\displaystyle\frac{(M+2m)gh}{M+m}}\) です。
この結果を吟味してみましょう。もし皿の質量 \(m\) がゼロ(\(m=0\))だと仮定すると、この式は \(V = \sqrt{\frac{Mgh}{M}} = \sqrt{gh}\) となります。一方で、蛙が床で高さんまで跳べるということは、初速 \(V_{\text{床}}\) とすると \(\frac{1}{2}MV_{\text{床}}^2 = Mgh\) より \(V_{\text{床}} = \sqrt{2gh}\) です。結果が \(\sqrt{gh}\) と \(\sqrt{2gh}\) で異なるのは、エネルギーの定義(\(Mgh\) が運動エネルギーなのか、到達できる高さから導かれるポテンシャルエネルギーなのか)や、問題設定の解釈による可能性があります。この問題では「高さんまで鉛直にとび上がれる運動エネルギーを出せる」とあるので、蛙が発揮するエネルギーそのものが \(Mgh\) と定義されています。したがって、このエネルギーが全て蛙自身の運動エネルギーになるなら \(\frac{1}{2}MV^2 = Mgh \Rightarrow V=\sqrt{2gh}\) です。今回の結果は、皿などが動くことでエネルギーが分配されるため、蛙自身の速度は単純な \(\sqrt{2gh}\) とは異なる値になります。式の形から、\(m\) が大きくなると、分母の \(M+m\) の影響で \(V\) が小さくなる傾向にあることが見て取れます。

解答 (2) \(\sqrt{\displaystyle\frac{(M+2m)gh}{M+m}}\)

問 (3)

思考の道筋とポイント

蛙が皿Aからジャンプした後、蛙は重力の影響を受けて鉛直方向に運動し、皿A(および皿Bとおもり)も滑車を介して連動して運動します。蛙が皿Aから最も離れるのは、蛙の皿Aに対する相対速度が鉛直方向で0になるときです。
まず、蛙がジャンプした後の皿Aの運動を考えます。皿A(質量 \(m\))と皿B+おもり(質量 \(M+m\))は滑車で繋がれているため、一つの系として加速度運動をします。重い方(皿B+おもり側)が下に、軽い方(皿A側)が上に動きます。この皿Aの加速度を求めます。
次に、皿Aの加速度と、重力加速度を受ける蛙の加速度から、皿Aに対する蛙の相対加速度を計算します。そして、ジャンプ直後の皿Aに対する蛙の相対初速度と、この相対加速度を用いて、相対速度が0になる(最も離れる)までの相対距離 \(h’\) を、等加速度運動の公式 \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2 a x\) を相対運動に適用して求めます。

この設問における重要なポイント

  • 蛙がジャンプした後の、皿Aと(皿B+おもり)からなる系の運動方程式を立て、皿Aの加速度を正確に求めます。このとき、皿Aは鉛直上向きに加速することに注意します。
  • 蛙自身の加速度は鉛直下向きに \(g\) です。
  • 皿Aに対する蛙の相対初速度と相対加速度を、符号に注意して求めます(鉛直上向きを正とします)。
  • 相対速度が0になるときに最も離れると考え、そのときの相対的な移動距離を \(h’\) とします。
  • 等加速度運動の公式 \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\) を、これらの相対量に適用します。

具体的な解説と立式

蛙がジャンプした後、皿A(質量 \(m\))と皿B+おもり(質量 \(M+m\))の系を考えます。鉛直上向きを正とします。
皿B+おもりの方が皿Aよりも重い(\(M>0\) なので \(M+m > m\))ため、皿B+おもりは下向きに、皿Aは上向きに同じ大きさの加速度で運動します。この加速度の大きさを \(a_{\text{皿}}\) とします。
系全体にかかる力の合力(皿B+おもり側の重力と皿A側の重力の差)は \((M+m)g – mg = Mg\)。
系全体の質量は \(m + (M+m) = M+2m\)。
したがって、加速度の大きさ \(a_{\text{皿}}\) は、
$$a_{\text{皿}} = \frac{Mg}{M+2m}$$
皿Aは鉛直上向きにこの加速度で運動するので、皿Aの加速度 \(a_A\) は(鉛直上向きを正として)、
$$a_A = +\frac{Mg}{M+2m}$$
蛙の加速度(鉛直上向きを正)は、重力のみを受けるので、
$$a_{\text{蛙}} = -g$$
皿Aに対する蛙の相対加速度 \(a_{\text{相対}}\) は、
$$a_{\text{相対}} = a_{\text{蛙}} – a_A = -g – \frac{Mg}{M+2m} = -\left(g + \frac{Mg}{M+2m}\right)$$
$$a_{\text{相対}} = -\frac{g(M+2m)+Mg}{M+2m} = -\frac{Mg+2mg+Mg}{M+2m} = -g\frac{2M+2m}{M+2m} = -g\frac{2(M+m)}{M+2m} \quad \cdots ⑥$$
次に、蛙がジャンプした直後の皿Aに対する蛙の相対初速度 \(v_{\text{相対初}}\) を求めます(鉛直上向きを正)。
蛙の床に対する初速度は \(V\)、皿Aの床に対する初速度は \(-v\) (下向きに速さ \(v\)) なので、
$$v_{\text{相対初}} = V – (-v) = V+v \quad \cdots ⑦$$
蛙が皿Aから最も離れるとき、相対速度は0になります。そのときの相対的な距離(最大距離)を \(h’\) とすると、等加速度運動の公式 \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2 a x\) を相対運動に適用して、
$$0^2 – (v_{\text{相対初}})^2 = 2 a_{\text{相対}} h’ \quad \cdots ⑧$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(F=ma\) (系全体で考える場合も)
  • 相対速度・相対加速度: \(\vec{v}_{\text{相対}} = \vec{v}_1 – \vec{v}_2\), \(\vec{a}_{\text{相対}} = \vec{a}_1 – \vec{a}_2\)
  • 等加速度直線運動の式: \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\)
計算過程

式⑧に式⑥と式⑦を代入して \(h’\) を求めます。
$$-(V+v)^2 = 2 \left(-g\frac{2(M+m)}{M+2m}\right) h’$$
$$(V+v)^2 = 4g\frac{M+m}{M+2m} h’ \quad \cdots ⑨$$
ここで、(1)の結果 \(v = \displaystyle\frac{M}{M+2m}V\) (式②) を用いて \(V+v\) を \(V\) で表します。
$$V+v = V + \frac{M}{M+2m}V = V\left(1 + \frac{M}{M+2m}\right) = V\frac{M+2m+M}{M+2m} = V\frac{2M+2m}{M+2m} = V\frac{2(M+m)}{M+2m}$$
これを式⑨に代入します。
$$\left(V\frac{2(M+m)}{M+2m}\right)^2 = 4g\frac{M+m}{M+2m} h’$$
$$V^2 \frac{4(M+m)^2}{(M+2m)^2} = 4g\frac{M+m}{M+2m} h’$$
両辺の \(4\)、および \(\displaystyle\frac{M+m}{M+2m}\) を1つずつ消去します(これらの項は0ではないため)。
$$V^2 \frac{M+m}{M+2m} = g h’$$
したがって、\(h’\) は、
$$h’ = \frac{V^2}{g} \frac{M+m}{M+2m}$$
次に、この式に(2)の結果 \(V^2 = gh \displaystyle\frac{M+2m}{M+m}\) (式⑤の2乗) を代入します。
$$h’ = \frac{1}{g} \left(gh \frac{M+2m}{M+m}\right) \frac{M+m}{M+2m}$$
ここで、右辺の \(g\)、\((M+m)\)、\((M+2m)\) がそれぞれ分子と分母で消去されます。
$$h’ = h \quad \cdots ⑩$$
したがって、蛙が皿Aから離れる距離の最大値は \(h\) であり、これは \(h\) の1倍です。

計算方法の平易な説明

蛙がジャンプした後、蛙と皿Aはそれぞれ異なる加速度で動きます。蛙が皿Aから一番遠くまで行くのは、皿Aから見た蛙の速さが一瞬ゼロになるときです。まず、ジャンプ後の皿Aがどのくらいの加速度で上に動くかを計算します(皿Bとおもりが下に引っ張るため)。次に、皿Aから見た蛙の最初の速さ(相対初速度)と、皿Aから見た蛙の加速度(相対加速度、蛙自身の重力加速度と皿Aの加速度を考慮)を計算します。最後に、これらの相対的な値を使って、「速さがゼロになるまでに進む距離」を求める物理の公式(等加速度運動の式)に当てはめて、最大距離 \(h’\) を求めます。計算は少し複雑に見えますが、(1)と(2)で求めた関係式をうまく代入していくと、最終的にはとてもシンプルな答え \(h’=h\) が出てきます。

結論と吟味

蛙が皿Aから離れる距離の最大値 \(h’\) は \(h\) と等しく、これは \(h\) の1倍です。
この結果は非常にシンプルで、一見すると驚くかもしれません。蛙が床で高さ \(h\) まで跳べるエネルギーを持っていることと、今回の動く皿の上の複雑な系の運動が組み合わさっても、最終的に皿からの相対的な最大到達距離が同じ \(h\) になるというのは、物理法則がうまく調和した結果と言えるでしょう。これは、運動エネルギーの分配やその後の加速度運動が、結果的にこのようなシンプルな関係に帰着することを示しています。

解答 (3) 1倍

【コラム】問題に関する追加の考察 (Q1, Q2)

この問題には、本文の設問とは別にQ1, Q2という形でさらに深い考察を促す質問が用意されています。これらについても見ていきましょう。

Q1: 蛙が皿Aから最も離れる時と、蛙が床に対して最高点に達する時では、どちらが先に起こるか。計算ではなく、定性的に考察してみよ。

思考の道筋とポイント

「蛙が皿Aから最も離れる時」とは、皿Aに対する蛙の相対速度が鉛直方向で0になるとき、つまり蛙と皿Aの床に対する鉛直方向の速度が一致するときです。一方、「蛙が床に対して最高点に達する時」とは、蛙の床に対する鉛直方向の速度が0になるときです。
この系(蛙、皿A、皿B、おもり)の全運動量は、蛙がジャンプする前後で保存され、初期状態が静止なので常に0です。このことを念頭に置いて考察します。

具体的な解説と考察

蛙、皿A、皿B、おもりからなる系全体の運動量は、蛙がジャンプする前は0です。蛙のジャンプは内力によるものであり、また、系全体にかかる外力(重力と滑車を支える力)の合力は鉛直方向で見ても0(つり合っている状態から変化)と見なせるため、ジャンプの前後およびその後の運動中も、系全体の全運動量は0に保たれます(これは1次元化モデルの根拠でもあります)。
蛙が皿Aから最も離れるのは、蛙の皿Aに対する相対速度が0になるとき、すなわち蛙と皿Aの(床に対する)速度が一致するときです。この共通の速度を \(v_{\text{共通}}\) とします。このとき、皿Aが \(v_{\text{共通}}\) で動けば、皿Bとおもりも(滑車を介して連動するため)逆向きに同じ大きさの速度成分を持つか、あるいは1次元化モデルにおいては系全体の運動量が0を保つように振る舞います。
ここで重要なのは、系全体の全運動量が0であるという点です。もし蛙と皿Aの速度が一致し \(v_{\text{共通}}\) となった場合、そして皿Bとおもりがそれに応じて運動したとしても、全体の運動量が0であるためには、この \(v_{\text{共通}}\) は0でなければなりません。なぜなら、もし \(v_{\text{共通}} \neq 0\) ならば、蛙(質量\(M\))と皿A(質量\(m\))が同じ向きに運動量を持ち、皿Bとおもり(質量\(M+m\))が反対向きに運動量を持ったとしても、それらが完全に打ち消しあい、かつ蛙と皿Aの速度が一致するためには、結局すべての速度が0になる必要があるからです。(より正確には、モデル解答のQ1解説にあるように「一致した両者の速度は0でしかあり得ない」と結論付けられます。)
したがって、蛙が皿Aから最も離れるとき、蛙と皿Aの床に対する速度はともに0になります。蛙の床に対する速度が0になるということは、それがまさに蛙が床に対して最高点に達する時を意味します。
よって、結論として、蛙が皿Aから最も離れる時と、蛙が床に対して最高点に達する時は、同時に起こります

Q2: (1)で蛙がとび上がるときAを押す力をN、糸の張力をT、その際の時間をΔtとする。蛙、A、Bとおもりの一体、についてそれぞれ力積と運動量の関係式を記し、次に運動量保存則を導いてみよ。

思考の道筋とポイント

各物体(蛙、皿A、皿Bとおもりの一体)にはたらく力と、それによる力積、そして運動量の変化の関係を立式します。その後、これらの式を組み合わせることで、系全体の運動量保存則((1)で用いた式)がどのように導かれるか、あるいはその背景にある考え方を確認します。鉛直上向きを正とします。

具体的な解説と立式

蛙が皿Aから飛び上がる非常に短い時間 \(\Delta t\) の間に働く力と、各部分の運動量の変化を考えます。鉛直上向きを正とします。
初期状態ではすべての物体の速度は0です。飛び上がった直後の蛙の床に対する速度を \(V\)、皿Aの床に対する速度を \(-v\)(下向きに速さ \(v\))、皿Bとおもりの床に対する速度を \(+v\)(上向きに速さ \(v\))とします。

  1. 蛙(質量 \(M\))について:
    蛙にはたらく力は、皿Aからの垂直抗力 \(N\)(上向き)と重力 \(Mg\)(下向き)です。
    力積と運動量の関係は、
    $$(N – Mg)\Delta t = M(V – 0) = MV \quad \cdots (Q2-1)$$
  2. 皿A(質量 \(m\))について:
    皿Aにはたらく力は、糸の張力 \(T\)(上向き)、蛙からの反作用である力 \(N\)(下向き、作用・反作用の法則より)、および皿Aの重力 \(mg\)(下向き)です。
    力積と運動量の関係は、
    $$(T – N – mg)\Delta t = m(-v – 0) = -mv \quad \cdots (Q2-2)$$
  3. 皿Bとおもり(一体として質量 \(M+m\))について:
    皿Bとおもり(合計質量 \(M+m\))にはたらく力は、糸の張力 \(T\)(上向き)と、それらの合計の重力 \((M+m)g\)(下向き)です。
    力積と運動量の関係は、
    $$\{T – (M+m)g\}\Delta t = (M+m)(v – 0) = (M+m)v \quad \cdots (Q2-3)$$

これらの式から運動量保存則(特に(1)で用いた \(0 = MV – mv – (M+m)v\) の形)を導くことを目指します。
モデル解答のQ2の解説では、これらの式(Q2-1), (Q2-2), (Q2-3)を足し合わせることで、内力である \(N\) と張力 \(T\) の一部が相殺され、結果として運動量保存に相当する式が現れることを示唆しています。
実際にこれらの3つの式をそのまま足し合わせると、\(N\) は消えますが \(T\) は残ります。
$$ (N-Mg + T-N-mg + T-(M+m)g)\Delta t = MV – mv + (M+m)v $$
$$ (2T – (2M+2m)g)\Delta t = MV – mv + Mv + mv = MV + Mv $$
この式から直接的に \(0 = MV – mv – (M+m)v\) を導くためには、ジャンプの瞬間 \(\Delta t\) が非常に短く、その間に重力 \(Mg, mg, (M+m)g\) による力積は、力 \(N\) や張力 \(T\) による力積に比べて無視できるか、あるいは系全体で見たときに張力 \(T\) と重力がつり合っているような特別な状況を仮定する必要があります。
モデル解答のQ2では、「NとTを消去すると」として結果の式を提示しています。これは、蛙が皿を押す力 \(N\) やそれによって変化する張力 \(T\) が主として運動量を変化させ、重力の影響はジャンプの前後でのエネルギー変化には関わるものの、この瞬間の運動量変化の式からはうまく消去または無視できるという考えに基づいている可能性があります。
あるいは、より厳密には、系全体(蛙+皿A+皿B+おもり+滑車+地球)の外力の合力が(特定の方向で)ゼロであれば運動量が保存されます。この問題設定では、滑車を支える天井からの力と全体の重力が鉛直方向につり合っており、蛙のジャンプは内力によるものと解釈することで、(1)で使った運動量保存則の式が正当化されます。力積と運動量の関係から出発するのは、その正当性をより基本的な法則から確認する試みと言えるでしょう。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動量保存則(特に1次元化モデルでの適用):
    • 滑車で繋がれた系の運動では、直接的な水平運動でなくても、全体の運動量を「1次元化」して考えることで運動量保存則を適用できる場合があること。この問題では、蛙の上昇と皿A,B(+おもり)の上下運動を、一直線上の運動量の保存として扱いました。
    • この法則が成り立つ根拠は、系全体にかかる外力の合力が(その方向において)ゼロであることです。
  • 力学的エネルギー保存則:
    • 摩擦や空気抵抗が無視できる場合、系の運動エネルギーと位置エネルギーの和は一定に保たれます。蛙がジャンプする際に生み出すエネルギーが、系全体の運動エネルギーや位置エネルギーにどのように分配されるかを考える上で不可欠でした。
  • 相対運動の考え方:
    • 設問(3)で蛙と皿Aの最大距離を求める際に、皿Aに対する蛙の相対速度や相対加速度を考えました。動く基準系から見た運動を解析する際には重要な視点です。
  • 加速度運動における力のつり合い(または運動方程式):
    • 設問(3)で蛙がジャンプした後の皿Aの加速度を求める際に、皿Aと皿B(+おもり)のそれぞれについて運動方程式を立て(あるいは系全体の運動方程式を考え)て加速度を導出しました。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • アトウッドの器械のような、滑車を介して複数の物体が連動して運動する問題。
    • 物体が別の動く物体の上でさらに運動するような、複合的な運動の問題。
    • エネルギーの変換と分配が問われる問題。
    • 相対運動の解析が必要となる問題。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 保存則の成否の確認: まず、系全体で運動量や力学的エネルギーが保存される条件(外力、非保存力の仕事の有無)が満たされているかを確認する。
    2. 「系」の適切な設定: どの範囲の物体を一つの「系」として捉えるか。それによって内力と外力が区別され、適用できる法則も変わってくる。
    3. 運動の特別な瞬間の特定: 「ジャンプ直後」「最も離れるとき(相対速度0)」「最高点(速度0または他の物体と速度一致)」など、物理状態が特徴的に変化する瞬間に注目する。
    4. 座標軸と基準点の設定: 運動の向き(正負)を定める座標軸や、位置エネルギーの基準点を明確に設定することが、立式の正確性につながる。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 「1次元化」のようなモデル化は強力だが、そのモデルが成り立つ物理的な根拠(この場合は外力の合力が0になるような対称性など)を理解しておくことが重要。
    • 相対運動を扱う際は、どの物体に対する相対量なのかを常に明確に意識する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 運動量保存則の適用条件の誤解:
    • 現象:運動量保存則は「外力の合力が0」の場合に成り立つ。この問題の1次元化モデルでは、重力の影響が見かけ上打ち消しあうような形で運動量が保存されると解釈したが、常にそう単純ではないので注意が必要。
    • 対策:保存則が成り立つ理由を、その都度確認する癖をつける。
  • エネルギーの分配の誤解:
    • 現象:蛙が出したエネルギーが、複数の物体の運動エネルギーや位置エネルギーに分配される際、どの物体がどれだけのエネルギーを持つのかを正確に把握する必要がある。
    • 対策:エネルギー収支の式を立てる際に、関与する全ての物体とエネルギー形態をリストアップする。
  • 相対速度・相対加速度の符号のミス:
    • 現象:相対運動を扱う際、基準となる物体の速度や加速度の向きを考慮して、正しく符号を設定しないと計算結果が大きく変わってしまう。
    • 対策:座標軸の正の向きを明確にし、各物体の速度・加速度ベクトルをその座標軸に射影して考える。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • 蛙がジャンプする瞬間の、蛙、皿A、皿B(+おもり)のそれぞれの速度の向きを矢印で明確に図示する。
    • 1次元化モデルを理解するために、滑車を介した上下運動が、一直線上での相対的な動きにどのように対応付けられるのかをイメージする。
    • 設問(3)では、蛙と皿Aのそれぞれの加速度の向きを図示し、相対加速度がどのようになるかを視覚的に捉える。
  • 図を描く際に注意すべき点は何か:
    • 力のベクトルだけでなく、速度や加速度のベクトルも描き込む。
    • 座標軸の向き(特に正の向き)を明記する。
    • 物体間の相対的な動きを捉えるための補助的な図(例えば、皿Aを基準としたときの蛙の動きなど)も有効な場合がある。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動量保存則の選択と適用根拠:
    • 選定理由:(1)で適用したのは、系全体で見ると蛙がジャンプする力は内力であり、また1次元化モデルで考えると重力という外力の合力が0とみなせる(あるいは短時間での力積が無視できる)ため。
    • 適用根拠:ニュートンの運動法則から導かれる、外力の合力が作用しない系の運動量は保存されるという基本原理。
  • 力学的エネルギー保存則の選択と適用根拠:
    • 選定理由:(2)で適用したのは、蛙の出す化学エネルギーが運動エネルギーに変換され、系内で非保存力の仕事がないため。
    • 適用根拠:非保存力が仕事をしない場合、系の力学的エネルギーは保存されるというエネルギー原理。
  • 運動方程式・相対運動の式の選択と適用根拠:
    • 選定理由:(3)で適用したのは、ジャンプ後の各物体の運動が加速度運動であり、その詳細を追うため。
    • 適用根拠:ニュートンの運動の第2法則、および相対運動の定義式。
  • 公式選択の思考訓練:
    • 常に「この法則が使えるのはなぜか?」「この公式の前提条件はこの状況で満たされているか?」と自問自答する習慣が大切。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 状況の把握: 蛙のジャンプ、皿と滑車の連動する動きを正確に理解する。
  2. 保存則の選択: 運動量保存則、エネルギー保存則のどちらが、あるいは両方が使えるか、その条件は満たされているかを確認する。
  3. モデル化の検討: 「1次元化」や「Uターン座標軸」のような、問題を扱いやすくするためのモデルを理解し、適用する。
  4. 各状態での物理量の設定: ジャンプ直前、直後、最大距離到達時など、各状態での速度や高さなどを文字で置く。
  5. 法則に基づく立式: 選択した法則に従って、物理量を関係づける方程式を立てる。
  6. 連立方程式の求解: 複数の未知数がある場合は、立式した方程式を連立させて解く。代入や式の整理を慎重に行う。
  7. 解の物理的な吟味: 得られた答えが物理的に妥当か(単位、符号、極端な場合の振る舞いなど)を確認する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 運動量保存の式を立てる際の符号の取り扱い。特に1次元化モデルでは、どの向きを正とし、各物体の運動量がどのように表現されるかを正確に把握する必要がありました。
    • エネルギー保存の式を立てる際に、関与する全ての物体の運動エネルギーを 빠짐없이(漏れなく)考慮すること。
    • 連立方程式を解く際の代入ミスや、その後の式変形における計算間違い。特に設問(3)では、相対加速度の計算や、複数の結果を代入していく過程で注意が必要でした。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 文字計算の習熟: 物理の問題では、具体的な数値を代入する前に文字式のまま計算を進めることが多いです。文字式の展開、整理、因数分解、分数の計算などに慣れておくことが重要です。
    • 途中式を丁寧に書く: 計算の各ステップを省略せずに丁寧に記述することで、どこで間違えたかを見つけやすくなり、また、思考のプロセスも明確になります。
    • 単位による確認: 計算結果の単位が、求めようとしている物理量の単位として正しいかどうかを常に確認する習慣は、ケアレスミスを防ぐのに役立ちます。
    • 可能であれば別解や検算を行う: 時間に余裕があれば、別の方法で問題を解いてみたり(別解の検討)、得られた答えを元の条件に代入して矛盾がないかを確認したりする(検算)ことで、計算の確実性を高めることができます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 極端な条件下での振る舞いの考察: 例えば、設問(1)で得られた皿の速度 \(v = \frac{M}{M+2m}V\) について、もし皿の質量 \(m\) がゼロ(\(m \rightarrow 0\))であったら \(v = V\) となりますが、これは物理的に皿が存在しない状況とは異なります(分母がMになる)。もし蛙の質量 \(M\) がゼロ(\(M \rightarrow 0\))であったら \(v = 0\) となり、蛙がいないので皿は動かないという直感と一致します。設問(2)の \(V\) や設問(3)の \(h’=h\) といった結果についても、同様に \(m=0\) や \(M=0\)(あるいは \(M \gg m\), \(m \gg M\))のような極端な場合を考えてみることで、式の妥当性や物理的な意味合いを考察することができます。
    • 既知の単純なケースとの比較: 例えば、もし皿が非常に重く固定されているとみなせる場合(\(m \rightarrow \infty\) または系に皿Bが存在しない場合など、問題設定によりますが)、蛙のジャンプは床からのジャンプに近い状況になるはずです。そのような単純なケースの結果と、得られた複雑な系の結果が、極限状態で漸近するかどうかを確認するのも有効な吟味方法です。
    • 物理量の符号や依存関係の確認: 速度や加速度の符号が、設定した座標軸に対して運動の向きと一致しているか。また、あるパラメータ(例えば質量や初速)を変化させたときに、結果が直感的に予想される方向に変化するかどうか(例:初速が大きいほど高く跳べるはず、など)を確認します。
  • 「解の吟味」がもたらす深い理解:
    • 単に計算問題を解くだけでなく、得られた答えの物理的な意味を考えることで、法則や概念の理解が格段に深まります。
    • 計算ミスや立式の誤りを発見する上で非常に有効な手段となります。
    • 物理現象を多角的に捉え、より本質的な理解へと繋げるための重要な思考習慣です。

問題20 (一橋大+近畿大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、エレベーター内でのばねはかりの目盛りの変化を通じて、エレベーターの加速度や運動の様子を解析するものです。与えられたグラフから各時間帯でのばねはかりの読み取り値を把握し、それをもとに力のつり合い(慣性力を考慮する場合)や運動方程式を立てていきます。最終的には、エレベーターの速度変化のグラフを描き、総移動距離を求めることになります。

与えられた条件
  • 物体(おもり)の質量: 200g = 0.200 kg (解説内では \(m = 0.200 \text{ kg}\) とします)
  • ばねはかりの目盛りの変化(グラフより):
    • 0秒~4秒: 220g (0.220 kg に相当する力が働いている)
    • 4秒~9秒: 200g (0.200 kg に相当する力が働いている)
    • 9秒~停止まで: 160g (0.160 kg に相当する力が働いている)
    • 停止後: 200g (つり合いの状態)
  • 重力加速度の大きさ: \(g = 9.8 \text{ m/s}^2\)
問われていること
  1. (1) 初めの4秒間でのエレベーターの加速度の向きと大きさ。
  2. (2) 9秒から停止するまでのエレベーターの加速度の向きと大きさ。
  3. (3) エレベーターが停止した時刻。
  4. (4) 動きだしてから停止するまでのエレベーターの速さをグラフに描くこと。
  5. (5) エレベーターが全部で何m上昇または下降したか。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く鍵は、ばねはかりの目盛りが示す「力」と、エレベーターの「加速度」との関係を正確に理解することです。エレベーターが加速しているとき、その中にいる観測者から見ると物体には「慣性力」という見かけの力が働いているように見えます。この慣性力を考慮して力のつり合いを考えるか、あるいは地上の静止した観測者から見て運動方程式を立てるか、どちらのアプローチでも解くことができます。各区間での加速度を求め、それを使って速度の時間変化や移動距離を計算していきます。

問 (1)

思考の道筋とポイント

初めの4秒間、ばねはかりの目盛りは220gを示しています。これは物体の実際の質量200gよりも大きな値です。ばねはかりの目盛りは、ばねの弾性力 \(F_{\text{ばね}}\) の大きさを表しており、この弾性力が「目盛りの値が示す質量にかかる重力」に等しいことを意味します。つまり、\(F_{\text{ばね}} = (\text{目盛りの質量}) \times g\) です。弾性力が実際の重力 \(mg\) よりも大きいということは、物体にはたらく力の合力が上向きであるか、あるいはエレベーターが上に加速しているために下向きの慣性力が働いていると考えられます。

この設問における重要なポイント

  • 物体の質量は \(m = 0.200 \text{ kg}\) です。
  • ばねはかりの目盛りが220gなので、ばねの弾性力の大きさは \(F_{\text{ばね}} = 0.220 \times g\) [N] となります。
  • この弾性力は、物体の重力 \(mg = 0.200 \times g\) [N] よりも大きいです。
  • この情報から、エレベーターの加速度の向きを判断し、その大きさを \(\alpha\) として求めます。

具体的な解説と立式(慣性力を用いる場合)

エレベーター内にいる観測者から見ると、物体はばねはかりにつるされた状態で静止して見えます。このとき、物体には以下の3つの力が働いてつり合っていると考えます。エレベーターの加速度を鉛直上向きに \(\alpha\) と仮定すると、慣性力は鉛直下向きに \(m\alpha\) の大きさで働きます。

  • ばねの弾性力: \(F_{\text{ばね}}\) (鉛直上向き)
  • 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
  • 慣性力: \(m\alpha\) (鉛直下向き)

これらの力のつり合いの式は、鉛直上向きを正とすると、
$$F_{\text{ばね}} – mg – m\alpha = 0$$
したがって、
$$F_{\text{ばね}} = mg + m\alpha = m(g+\alpha) \quad \cdots ①$$
ここで、ばねの弾性力 \(F_{\text{ばね}}\) は220gの質量にかかる重力に等しいので、\(F_{\text{ばね}} = 0.220g\) です。物体の質量は \(m=0.200\text{ kg}\) なので、これを式①に代入すると、
$$0.220g = 0.200(g+\alpha) \quad \cdots ②$$

別解1: 地上の観測者から見た運動方程式

地上で静止している観測者から見ると、物体はエレベーターと同じ加速度 \(\alpha\) で運動しています。ばねはかりの目盛りが220gであることから、ばねの弾性力 \(F_{\text{ばね}} = 0.220g\) は、物体の重力 \(mg = 0.200g\) よりも大きいです。したがって、物体にはたらく力の合力は鉛直上向きであり、エレベーターの加速度も鉛直上向きであると判断できます。鉛直上向きを正として、物体の運動方程式を立てると、
$$m\alpha = F_{\text{ばね}} – mg \quad \cdots ①’$$
ここで、\(F_{\text{ばね}} = 0.220g\)、\(m=0.200\text{ kg}\) なので、
$$0.200\alpha = 0.220g – 0.200g \quad \cdots ②’$$
この式①’は、式①を変形したものと実質的に同じです。

使用した物理公式

  • 力のつり合い(慣性力を考慮する場合): \(\sum F = 0\)
  • 慣性力: \(F_{\text{慣性}} = ma\) (観測者の加速度と逆向きに、\(ma\) の大きさ)
  • 運動方程式(慣性系の場合): \(ma = F_{\text{合力}}\)
  • 重力: \(F_g = mg\)
  • ばねはかりが示す力(弾性力): \(F_{\text{ばね}} = (\text{目盛りが示す質量}) \times g\)
計算過程

式②(または式②’)を用いて加速度 \(\alpha\) を計算します。問題で与えられた重力加速度 \(g = 9.8 \text{ m/s}^2\) を代入します。
式② \(0.220g = 0.200(g+\alpha)\) より、両辺を \(0.200\) で割ると、
$$\frac{0.220}{0.200}g = g+\alpha$$
$$1.1g = g+\alpha$$
\(\alpha\) について解くと、
$$\alpha = 1.1g – g = 0.1g$$
数値を代入すると、
$$\alpha = 0.1 \times 9.8 \text{ m/s}^2 = 0.98 \text{ m/s}^2 \quad \cdots ③$$

計算方法の平易な説明

ばねはかりの目盛りが、普段物体が静止しているときの値 (200g) よりも重い値 (220g) を示しています。これは、エレベーターが上に加速しているためです(あるいは、下向きに減速している可能性もありますが、問題文から「動きだした瞬間から」とあるので、上に加速していると考えるのが自然です)。
エレベーターが上に加速度 \(\alpha\) で動いているとすると、物体にはたらく力は、上向きのばねの力 \(F_{\text{ばね}}\)(220gの重さに相当)と下向きの重力 \(mg\)(200gの重さに相当)です。これらの力の差(合力)が、物体を上向きに \(\alpha\) で加速させる力 \(m\alpha\) になります。つまり、運動方程式 \(m\alpha = F_{\text{ばね}} – mg\) を立て、この式にそれぞれの値を代入して \(\alpha\) を求めます。

結論と吟味

初めの4秒間でのエレベーターの加速度の大きさは \(\alpha = 0.98 \text{ m/s}^2\) です。
ばねはかりの目盛りが通常より大きかったことから、エレベーターが上向きに加速している(あるいは、下向きの慣性力が働いている)と判断しました。計算結果として \(\alpha\) が正の値で得られたので、仮定した加速度の向き(上向き)は正しかったと言えます。
したがって、加速度の向きは鉛直上向き、大きさは \(0.98 \text{ m/s}^2\) です。

解答 (1) 向き: 鉛直上向き, 大きさ: \(0.98 \text{ m/s}^2\)

問 (2)

思考の道筋とポイント

9秒から停止するまでの間、ばねはかりの目盛りは160gを示しています。これは物体の実際の質量200gよりも小さな値です。弾性力が重力 \(mg\) よりも小さいということは、物体にはたらく力の合力が下向きであるか、あるいはエレベーターが下に加速しているために上向きの慣性力が働いていると考えられます。エレベーターは最終的に停止するので、この区間は減速運動をしているはずです。(1)でエレベーターは上向きに動き始めたと判断したので、この区間では上向きの運動を減速している、つまり下向きの加速度で運動していると推測できます。

この設問における重要なポイント

  • 物体の質量は \(m = 0.200 \text{ kg}\) です。
  • ばねはかりの目盛りが160gなので、ばねの弾性力の大きさは \(F_{\text{ばね}} = 0.160 \times g\) [N] となります。
  • この弾性力は、物体の重力 \(mg = 0.200 \times g\) [N] よりも小さいです。
  • この情報から、エレベーターの加速度の向きを判断し、その大きさを \(\beta\) として求めます。

具体的な解説と立式(慣性力を用いる場合)

エレベーター内にいる観測者から見ると、物体はばねはかりにつるされた状態で静止して見えます。このとき、エレベーターの加速度を鉛直下向きに \(\beta\) と仮定すると、慣性力は鉛直上向きに \(m\beta\) の大きさで働きます。物体には以下の3つの力が働いてつり合っています。

  • ばねの弾性力: \(F_{\text{ばね}}\) (鉛直上向き)
  • 重力: \(mg\) (鉛直下向き)
  • 慣性力: \(m\beta\) (鉛直上向き)

これらの力のつり合いの式は、鉛直上向きを正とすると、
$$F_{\text{ばね}} + m\beta – mg = 0$$
したがって、
$$F_{\text{ばね}} = mg – m\beta = m(g-\beta) \quad \cdots ④$$
ここで、ばねの弾性力 \(F_{\text{ばね}}\) は160gの質量にかかる重力に等しいので、\(F_{\text{ばね}} = 0.160g\) です。物体の質量は \(m=0.200\text{ kg}\) なので、これを式④に代入すると、
$$0.160g = 0.200(g-\beta) \quad \cdots ⑤$$

別解1: 地上の観測者から見た運動方程式

地上で静止している観測者から見ると、物体はエレベーターと同じ加速度で運動しています。ばねはかりの目盛りが160gであることから、ばねの弾性力 \(F_{\text{ばね}} = 0.160g\) は、物体の重力 \(mg = 0.200g\) よりも小さいです。したがって、物体にはたらく力の合力は鉛直下向きであり、エレベーターの加速度も鉛直下向きであると判断できます。鉛直下向きを正として、加速度の大きさを \(\beta\) とすると、物体の運動方程式は、
$$m\beta = mg – F_{\text{ばね}} \quad \cdots ④’$$
ここで、\(F_{\text{ばね}} = 0.160g\)、\(m=0.200\text{ kg}\) なので、
$$0.200\beta = 0.200g – 0.160g \quad \cdots ⑤’$$
この式④’は、式④を変形したものと実質的に同じです。

使用した物理公式

  • 力のつり合い(慣性力を考慮する場合): \(\sum F = 0\)
  • 慣性力: \(F_{\text{慣性}} = ma\) (観測者の加速度と逆向きに、\(ma\) の大きさ)
  • 運動方程式(慣性系の場合): \(ma = F_{\text{合力}}\)
計算過程

式⑤(または式⑤’)を用いて加速度の大きさ \(\beta\) を計算します。重力加速度 \(g = 9.8 \text{ m/s}^2\) を代入します。
式⑤ \(0.160g = 0.200(g-\beta)\) より、両辺を \(0.200\) で割ると、
$$\frac{0.160}{0.200}g = g-\beta$$
$$0.8g = g-\beta$$
\(\beta\) について解くと、
$$\beta = g – 0.8g = 0.2g$$
数値を代入すると、
$$\beta = 0.2 \times 9.8 \text{ m/s}^2 = 1.96 \text{ m/s}^2 \quad \cdots ⑥$$

計算方法の平易な説明

ばねはかりの目盛りが、普段物体が静止しているときの値 (200g) よりも軽い値 (160g) を示しています。これは、エレベーターが下に加速しているか、または上に減速しているためです。設問(1)でエレベーターは上に動き始めているので、停止に向かうこの区間では上に減速、つまり下向きの加速度で動いていると判断します。
エレベーターが下向きに加速度 \(\beta\) で動いているとすると、物体にはたらく力は、上向きのばねの力 \(F_{\text{ばね}}\)(160gの重さに相当)と下向きの重力 \(mg\)(200gの重さに相当)です。運動方程式を(例えば下向きを正として)\(m\beta = mg – F_{\text{ばね}}\) と立て、この式にそれぞれの値を代入して \(\beta\) を求めます。

結論と吟味

9秒から停止するまでのエレベーターの加速度の大きさは \(\beta = 1.96 \text{ m/s}^2\) です。
ばねはかりの目盛りが通常より小さかったことから、エレベーターが下向きに加速している(あるいは、上向きの慣性力が働いている)と判断しました。計算結果として \(\beta\) が正の値で得られたので、仮定した加速度の向き(下向き)は正しかったと言えます。
したがって、加速度の向きは鉛直下向き、大きさは \(1.96 \text{ m/s}^2\) です。

解答 (2) 向き: 鉛直下向き, 大きさ: \(1.96 \text{ m/s}^2\)

問 (3)

思考の道筋とポイント

エレベーターの運動は、グラフから3つの区間に分けられることがわかります。

  1. 0秒~4秒: (1)で求めた加速度 \(\alpha = 0.98 \text{ m/s}^2\)(上向き)で等加速度運動(初速0)。
  2. 4秒~9秒: ばねはかりの目盛りが200g(物体の質量と同じ)を示しているので、物体にはたらく力の合力はゼロです(慣性力が働いていない、または重力と弾性力がつり合っている)。したがって、この区間の加速度は0であり、エレベーターは等速直線運動をしています。このときの速度は、0~4秒の加速運動の最後の時点での速度に等しくなります。
  3. 9秒~停止まで: (2)で求めた加速度の大きさ \(\beta = 1.96 \text{ m/s}^2\)(下向き)で等加速度運動(減速)。この区間の初速は、4~9秒間の等速運動のときの速度です。最終的に速度が0になって停止します。

まず、4秒時点での速度を計算します。これが4秒から9秒までの間の一定の速度となります。次に、9秒時点の速度(これは4秒から9秒の間の速度と同じ)を初速として、下向きの加速度 \(\beta\) で速度が0になるまでの時間を計算し、その時間を9秒に加えることで停止時刻を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 0~4秒の区間: 初速 \(v_{\text{初}}=0\)、加速度 \(\alpha = 0.98 \text{ m/s}^2\) (鉛直上向き) の等加速度運動。
  • 4~9秒の区間: 加速度 \(0\) の等速直線運動。その速度は4秒時点の速度に等しい。
  • 9秒~停止時刻 \(t_{\text{停止}}\) までの区間: 初速は9秒時点の速度、加速度は鉛直下向きに \(\beta = 1.96 \text{ m/s}^2\) (鉛直上向きを正とすると \(-\beta\)) の等加速度運動。最終速度は0。

具体的な解説と立式

鉛直上向きを正の向きとして速度と加速度を扱います。
0~4秒の運動 (加速区間):
初速度 \(v_0 = 0\)。加速度 \(\alpha = 0.98 \text{ m/s}^2\)。
時刻 \(t_1 = 4 \text{ s}\) での速度を \(v_1\) とすると、等加速度直線運動の公式 \(v = v_0 + at\) より、
$$v_1 = 0 + \alpha t_1 = \alpha \times 4 \quad \cdots ⑦$$

4~9秒の運動 (等速区間):
加速度は \(0\) なので、この区間の速度は \(v_1\) のまま一定です。したがって、時刻 \(t_2 = 9 \text{ s}\) での速度も \(v_1\) です。

9秒~停止までの運動 (減速区間):
時刻 \(t_2 = 9 \text{ s}\) での初速度は \(v_1\)。加速度は鉛直下向きに \(\beta = 1.96 \text{ m/s}^2\) なので、鉛直上向きを正とすると、この区間の加速度 \(a’\) は \(a’ = -\beta = -1.96 \text{ m/s}^2\)。
この減速区間で動き始めてから停止するまでの時間を \(T\) とすると、停止時の速度は \(0\) です。等加速度直線運動の公式 \(v_{\text{後}} = v_{\text{初}} + a’T\) より、
$$0 = v_1 + a’T$$
すなわち、
$$0 = v_1 – \beta T \quad \cdots ⑧$$
エレベーターが最終的に停止した時刻 \(t_{\text{停止}}\) は、減速が始まった時刻 \(t_2=9\text{ s}\) に \(T\) を加えたものです。
$$t_{\text{停止}} = 9 + T \quad \cdots ⑨$$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
計算過程

まず、式⑦を用いて4秒時点での速度 \(v_1\) を計算します。
\(\alpha = 0.98 \text{ m/s}^2\) を代入すると、
$$v_1 = 0.98 \text{ m/s}^2 \times 4 \text{ s} = 3.92 \text{ m/s}$$
次に、この \(v_1\) の値を式⑧に代入して、減速時間 \(T\) を計算します。
\(\beta = 1.96 \text{ m/s}^2\) を用いると、
$$0 = 3.92 \text{ m/s} – (1.96 \text{ m/s}^2) \times T$$
$$1.96 T = 3.92$$
$$T = \frac{3.92}{1.96} = 2 \text{ s}$$
最後に、式⑨を用いて停止時刻 \(t_{\text{停止}}\) を計算します。
$$t_{\text{停止}} = 9 \text{ s} + 2 \text{ s} = 11 \text{ s} \quad \cdots ⑩$$

計算方法の平易な説明

エレベーターの動きは3つの段階に分けられます。

  1. 最初の4秒間:止まった状態からだんだん速くなります(等加速度運動)。まず、4秒後の速さを計算します。
  2. 次の5秒間(時刻4秒から9秒まで):同じ速さで動き続けます(等速運動)。この速さは、1.で計算した4秒後の速さと同じです。
  3. 9秒以降:それまでの速さからだんだん遅くなって、やがて止まります(等加速度運動ですが、減速)。この減速にかかる時間を計算します。

減速が始まった時刻(9秒)に、この減速にかかった時間を足したものが、エレベーターが完全に止まった時刻になります。

結論と吟味

エレベーターが停止した時刻は \(11 \text{ s}\) です。
各区間の運動(加速、等速、減速)を正しく把握し、それぞれの区間の最終速度が次の区間の初速度になるという連続性を理解していれば、順を追って計算することができます。加速度の向き(符号)にも注意が必要です。

解答 (3) \(11 \text{ s}\)

問 (4)

思考の道筋とポイント

これまでの計算結果(各区間の加速度、速度、時間)を基に、エレベーターの速さ (\(v\)) と時刻 (\(t\)) の関係を表すグラフ(v-tグラフ)を作成します。
具体的には、

  • 0秒~4秒の区間: 初速0から等加速度 \(\alpha = 0.98 \text{ m/s}^2\) で加速します。4秒後の速度は \(v_1 = 3.92 \text{ m/s}\) です。v-tグラフ上では、原点から傾き \(\alpha\) の直線となります。
  • 4秒~9秒の区間: 速度 \(v_1 = 3.92 \text{ m/s}\) で等速直線運動をします。v-tグラフ上では、水平な直線となります。
  • 9秒~11秒の区間: 初速 \(v_1 = 3.92 \text{ m/s}\) から等加速度 \(-\beta = -1.96 \text{ m/s}^2\)(鉛直上向きを正とした場合)で減速し、11秒後に速度0で停止します。v-tグラフ上では、傾き \(-\beta\) の直線となります。

横軸に時刻 \(t\)、縦軸に速さ \(v\) をとってグラフを描きます。

この設問における重要なポイント

  • v-tグラフの傾きは加速度を表します。
  • 等速運動の部分は傾き0(グラフ上で水平な線)になります。
  • 各区間の接続点(時刻4秒、9秒)で速度が連続的につながるようにグラフを描きます。

具体的な解説と立式(グラフの形状記述)

エレベーターの速さ \(v\) [m/s] を縦軸に、時刻 \(t\) [s] を横軸にとったv-tグラフを作成します。

  1. 区間 0 s \(\le t \le\) 4 s:
    初速 \(v(0)=0\)。加速度 \(\alpha = 0.98 \text{ m/s}^2\)。
    時刻 \(t\) における速さは \(v(t) = \alpha t = 0.98t\)。
    よって、\(t=4 \text{ s}\) での速さは \(v(4) = 0.98 \times 4 = 3.92 \text{ m/s}\)。
    グラフは、点(0, 0) と 点(4, 3.92) を結ぶ直線(原点を通る傾き0.98の線分)です。
  2. 区間 4 s \(\le t \le\) 9 s:
    加速度 \(0\) の等速直線運動。
    速さは \(v(t) = v(4) = 3.92 \text{ m/s}\) で一定です。
    グラフは、点(4, 3.92) と 点(9, 3.92) を結ぶ水平な直線(線分)です。
  3. 区間 9 s \(\le t \le\) 11 s:
    時刻 \(t=9 \text{ s}\) での初速は \(v(9) = 3.92 \text{ m/s}\)。加速度は \(a’ = -\beta = -1.96 \text{ m/s}^2\)(鉛直上向きを正とした場合)。
    時刻 \(t\)(ただし \(9 \le t \le 11\))における速さは \(v(t) = v(9) + a'(t-9) = 3.92 – 1.96(t-9)\)。
    時刻 \(t=11 \text{ s}\) での速さは \(v(11) = 3.92 – 1.96(11-9) = 3.92 – 1.96 \times 2 = 3.92 – 3.92 = 0 \text{ m/s}\)。
    グラフは、点(9, 3.92) と 点(11, 0) を結ぶ直線(傾き-1.96の線分)です。

これらの点を滑らかに結ぶと、上辺が時刻4秒から9秒、下辺が時刻0秒から11秒、高さが3.92m/sの台形の形状をしたv-tグラフが得られます。

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の速度の式: \(v = v_0 + at\)
  • v-tグラフの性質: 傾きが加速度を表し、等速運動の部分は水平線になる。
計算過程

上記の「具体的な解説と立式(グラフの形状記述)」で示した各区間の速度計算が、グラフを描くための主要な計算過程に相当します。グラフのキーとなる点は以下の通りです。

  • 時刻 \(t=0\) のとき、速さ \(v=0\)。
  • 時刻 \(t=4\) のとき、速さ \(v = 0.98 \times 4 = 3.92\) m/s。
  • 時刻 \(t=9\) のとき、速さ \(v = 3.92\) m/s(4秒から9秒までは等速)。
  • 時刻 \(t=11\) のとき、速さ \(v = 3.92 – 1.96 \times (11-9) = 0\) m/s。

これらの点((0,0), (4, 3.92), (9, 3.92), (11,0))をプロットし、各区間を直線で結ぶことでグラフが完成します。

計算方法の平易な説明

エレベーターの動きは3つの段階に分けられました。

  1. 最初の4秒間:止まった状態からだんだん速くなります。グラフは原点から右肩上がりの直線になります。4秒で3.92m/sの速さに達します。
  2. 次の5秒間(時刻4秒から9秒まで):その速さ3.92m/sのまま、一定の速さで進みます。グラフは水平な直線になります。
  3. 最後の2秒間(時刻9秒から11秒まで):それまでの速さ3.92m/sからだんだん遅くなり、11秒で止まります。グラフは右肩下がりの直線になります。

これらの点を結んでグラフを描きます。全体の形は台形になります。

結論と吟味

エレベーターの速さの時間変化を表すグラフ(v-tグラフ)は、横軸に時刻 \(t\) [s]、縦軸に速さ \(v\) [m/s] をとり、以下の点を順に直線で結んだ折れ線グラフとなります。

  • 点 (0, 0) から 点 (4, 3.92) へ上昇する直線(傾き \(0.98\))。
  • 点 (4, 3.92) から 点 (9, 3.92) へ水平な直線(傾き \(0\))。
  • 点 (9, 3.92) から 点 (11, 0) へ下降する直線(傾き \(-1.96\))。

このグラフの形状は、問題のモデル解答に示されている「図a」と一致するはずです。

解答 (4) (模範解答の図aを参照し、横軸を時刻 \(t\) [s]、縦軸を速さ \(v\) [m/s] として、点(0,0), (4, 3.92), (9, 3.92), (11,0) をプロットし、これらの点を順に直線で結んだグラフを描く。)

問 (5)

思考の道筋とポイント

設問(1)でエレベーターは鉛直上向きに加速し始めたことがわかっています。そして、(4)で作成したv-tグラフにおいて、速さ \(v\) は常に0以上である(負の値をとらない)ことから、エレベーターは一貫して上昇し続けたと判断できます。
エレベーターが移動した総距離は、v-tグラフの線と時間軸(横軸)とで囲まれた部分の面積から求めることができます。(4)で描いたグラフは台形を形成しているので、台形の面積公式を利用するのが簡便です。

この設問における重要なポイント

  • v-tグラフの面積が移動距離(この場合は変位の大きさに等しい)を表します。
  • (4)で作成したグラフの形状(上底の長さが \(9-4=5\) 秒、下底の長さが \(11-0=11\) 秒、高さが \(3.92\) m/s の台形)を利用します。

具体的な解説と立式(v-tグラフの面積から求める場合)

(4)で描いたv-tグラフは台形であり、その各部分の寸法は以下の通りです。

  • 上底の長さ: \(t_{\text{上底}} = (9 \text{ s} – 4 \text{ s}) = 5 \text{ s}\) (等速運動していた時間)
  • 下底の長さ: \(t_{\text{下底}} = (11 \text{ s} – 0 \text{ s}) = 11 \text{ s}\) (動き始めてから止まるまでの総時間)
  • 高さ: \(v_{\text{最大}} = 3.92 \text{ m/s}\) (エレベーターの最大速度)

台形の面積 \(S\) が、エレベーターが移動した総距離に相当します。台形の面積の公式は \(S = \frac{1}{2} \times (\text{上底} + \text{下底}) \times \text{高さ}\) なので、
$$S = \frac{1}{2} (t_{\text{上底}} + t_{\text{下底}}) \times v_{\text{最大}} \quad \cdots ⑪$$
具体的な値を代入すると、
$$S = \frac{1}{2} (5 + 11) \times 3.92 \quad \cdots ⑫$$

別解1: 各区間の移動距離の和から求める方法

エレベーターの運動は3つの区間に分けられるので、それぞれの区間で移動した距離を計算し、それらを合計することでも総移動距離を求めることができます。

  1. 区間 0 s \(\le t \le\) 4 s (加速区間、距離 \(d_1\)):
    初速 \(v_0=0\)、加速度 \(\alpha = 0.98 \text{ m/s}^2\)、時間 \(t_1=4 \text{ s}\)。
    等加速度直線運動の変位の式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) より、
    $$d_1 = 0 \cdot t_1 + \frac{1}{2}\alpha t_1^2 = \frac{1}{2}\alpha (4)^2 \quad \cdots ⑬$$
  2. 区間 4 s \(\le t \le\) 9 s (等速区間、距離 \(d_2\)):
    速度 \(v_1 = 3.92 \text{ m/s}\)((3)の計算過程で求めた値)、時間 \(t_2 = 9 \text{ s} – 4 \text{ s} = 5 \text{ s}\)。
    等速直線運動の変位の式 \(x = vt\) より、
    $$d_2 = v_1 t_2 = v_1 \times 5 \quad \cdots ⑭$$
  3. 区間 9 s \(\le t \le\) 11 s (減速区間、距離 \(d_3\)):
    初速 \(v_1 = 3.92 \text{ m/s}\)、加速度 \(a’ = -\beta = -1.96 \text{ m/s}^2\)、時間 \(T=2 \text{ s}\)((3)の計算過程で求めた値)。
    等加速度直線運動の変位の式 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\) より、
    $$d_3 = v_1 T + \frac{1}{2}a’ T^2 = v_1 T – \frac{1}{2}\beta T^2 \quad \cdots ⑮$$

全体の移動距離 \(D_{\text{総}}\) は、これらの和となります。
$$D_{\text{総}} = d_1 + d_2 + d_3 \quad \cdots ⑯$$

使用した物理公式

  • v-tグラフの面積 = 移動距離
  • 台形の面積の公式: \(S = \frac{1}{2} (\text{上底} + \text{下底}) \times \text{高さ}\)
  • 等加速度直線運動の変位の式: \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)
  • 等速直線運動の変位の式: \(x = vt\)
計算過程(v-tグラフの面積から求める場合)

式⑫を計算します。
$$S = \frac{1}{2} (5 \text{ s} + 11 \text{ s}) \times 3.92 \text{ m/s}$$
$$S = \frac{1}{2} (16 \text{ s}) \times 3.92 \text{ m/s}$$
$$S = 8 \text{ s} \times 3.92 \text{ m/s}$$
$$S = 31.36 \text{ m} \quad \cdots ⑰$$

計算過程(別解: 各区間の移動距離の和から求める場合)

式⑬、⑭、⑮をそれぞれ計算し、その結果を式⑯に代入します。
使用する値: \(\alpha = 0.98 \text{ m/s}^2\), \(v_1 = 3.92 \text{ m/s}\), \(\beta = 1.96 \text{ m/s}^2\), \(t_1=4 \text{ s}\), \(t_2=5 \text{ s}\), \(T=2 \text{ s}\)。

  1. $$d_1 = \frac{1}{2} \times 0.98 \text{ m/s}^2 \times (4 \text{ s})^2 = \frac{1}{2} \times 0.98 \times 16 = 0.98 \times 8 = 7.84 \text{ m}$$
  2. $$d_2 = 3.92 \text{ m/s} \times 5 \text{ s} = 19.6 \text{ m}$$
  3. $$d_3 = (3.92 \text{ m/s} \times 2 \text{ s}) – \frac{1}{2} \times 1.96 \text{ m/s}^2 \times (2 \text{ s})^2 = 7.84 – \frac{1}{2} \times 1.96 \times 4 = 7.84 – 1.96 \times 2 = 7.84 – 3.92 = 3.92 \text{ m}$$

これらの和を計算すると、
$$D_{\text{総}} = d_1 + d_2 + d_3 = 7.84 \text{ m} + 19.6 \text{ m} + 3.92 \text{ m} = 31.36 \text{ m} \quad \cdots ⑱$$
どちらの方法でも同じ結果 \(31.36 \text{ m}\) が得られます。

計算方法の平易な説明

エレベーターが動いた全体の距離を知るには、(4)で描いた速さの時間変化のグラフ(v-tグラフ)を利用するのが便利です。このグラフの線と横軸(時間軸)とで囲まれた部分の面積が、進んだ距離を表します。今回のグラフの形は台形なので、台形の面積を求める公式「(上底の長さ+下底の長さ)× 高さ ÷ 2」を使って計算します。
別の方法としては、エレベーターの動きを3つの区間(だんだん速くなる区間、同じ速さで進む区間、だんだん遅くなる区間)に分けて、それぞれの区間で進んだ距離を物理の公式を使って計算し、最後にそれらを全部足し合わせることでも求められます。

結論と吟味

エレベーターが移動した総距離は \(31.36 \text{ m}\) です。モデル解答では有効数字を考慮して \(31.4 \text{ m}\) となっています。
設問(1)でエレベーターは鉛直上向きに加速し始めたことが分かっており、また(4)で作成したv-tグラフでは、速さ \(v\) は常に0以上(負の値をとらない)であることから、エレベーターは一貫して上昇し続けたと判断できます。したがって、エレベーターは全部で \(31.36 \text{ m}\)(およそ \(31.4 \text{ m}\))上昇したことになります。

解答 (5) \(31.4 \text{ m}\) 上昇した (計算結果は \(31.36 \text{ m}\)。有効数字を考慮すると \(31 \text{ m}\) または \(31.4 \text{ m}\) が適切。)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • ニュートンの運動方程式 (\(ma=F\)): 地上の慣性系からエレベーター内の物体の運動を記述する際の基本。ばねはかりの示す力(張力または弾性力)と重力との合力が、物体の質量と加速度の積に等しい。
  • 力のつり合いと慣性力: 加速するエレベーター内という非慣性系で物体の静止(つり合い)を考える場合、慣性力を導入する。慣性力は、観測者の加速度と逆向きに、質量と加速度の大きさの積 \(ma\) で働く見かけの力。これを用いると、非慣性系内でも力のつり合いの式 \(\sum F = 0\) が適用できる。
  • ばねはかりの示す力の意味: ばねはかりの目盛りは、ばねの弾性力(張力)の大きさを表す。これが直接「重さ」を示すのは静止時または等速運動時のみ。加速時には「見かけの重さ」が変化する。
  • 等加速度直線運動の kinematics: 速度 \(v = v_0 + at\)、変位 \(x = v_0 t + \frac{1}{2}at^2\)、\(v^2 – v_0^2 = 2ax\) といった公式を、各運動区間で適切に利用する。
  • v-tグラフの活用: 速度と時間の関係を視覚的に捉え、傾きから加速度を、面積から移動距離を読み取る。複雑な運動も区間ごとに分けて考えることで、グラフ化しやすくなる。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 電車、エレベーター、ロケットなど、加速度運動する乗り物の中での物体の運動や力のつり合い。
    • 体重計の目盛りの変化から加速度を推定する問題。
    • 複数の運動区間(加速、等速、減速)からなる運動の解析。
    • v-tグラフやx-tグラフの作図と、それらを用いた物理量の計算。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 観測者の立場を明確にする: 地上の慣性系で考えるか、乗り物内の非慣性系で考えるか。非慣性系なら慣性力を導入する。どちらの立場でも解けることが多いが、問題によってどちらが簡明か判断する。
    2. 力の図示と力の特定: 物体に働くすべての力(重力、接触力、遠隔力、そして非慣性系なら慣性力)を正確に図示する。ばねはかりや体重計が示すのは何か(張力か垂直抗力か)を理解する。
    3. 運動の区間分け: 加速度が変化する点で運動を区切り、それぞれの区間で適切な運動法則やkinematicsの公式を適用する。
    4. グラフの情報を読み取る: 与えられたグラフが何を表しているか(この場合は力の時間変化を示唆)、そしてそこから何を導き出せるか(加速度、速度、変位)を考える。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 質量の単位(g と kg)の換算を忘れない。力の単位はN、質量の単位はkg、加速度の単位はm/s²で統一する。
    • 加速度や速度の向き(符号)を常に意識する。鉛直上向きを正とするか、下向きを正とするか、最初に決めて一貫して用いる。
    • 「停止した」という言葉は速度が0になることを意味する。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 慣性力の向きの誤り:
    • 現象: 慣性力は観測者(乗り物)の加速度と「逆向き」に働くが、これを混同しやすい。
    • 対策: 「慣性力は加速度に逆らう見かけの力」としっかり覚え、図を描いて確認する。エレベーターが上に加速すれば、慣性力は下向き。
  • ばねはかりの目盛りと質量の混同:
    • 現象: ばねはかりの目盛りは「質量」の単位(g や kg)で示されることが多いが、それはその質量に働く「重力」に相当する力でばねが伸びていることを意味する。直接質量そのものではない。
    • 対策: 目盛りが \(M_0\) [kg] なら、ばねの力は \(M_0 g\) [N] であると変換して力の式に用いる。
  • 運動方程式と力のつり合いの式の混同:
    • 現象: 地上の慣性系で考えるなら運動方程式 \(ma=F\)。加速中のエレベーター内で観測者が物体を見て「静止している」として力のつり合いを考えるなら、慣性力を含めて \(\sum F = 0\)。
    • 対策: どちらの立場で問題を解いているのかを常に明確に意識する。
  • v-tグラフの面積計算の単位ミス:
    • 現象: 時間の単位が秒(s)で、速度の単位がm/sなら面積はmになるが、もし時間の単位が分や時だったり、速度がkm/hだったりすると、単位換算が必要。
    • 対策: 計算前に単位をSI基本単位系(m, kg, s, A など)に揃えるのが無難。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • エレベーターが上に動き出す瞬間(0-4s):ぐっと上に引っ張られる感じで、体(や物体)が下に押し付けられるように感じる(これが下向きの慣性力に相当)。ばねはかりは通常より重く示す。
    • エレベーターが一定速度で上昇中(4-9s):加速も減速もしていないので、普段と変わらない感じ。ばねはかりは物体の真の重さ(\(mg\) に相当する質量)を示す。
    • エレベーターが上に動きながら減速して止まる直前(9-11s):ふわっと浮き上がるような感じ(これが上向きの慣性力に相当)。ばねはかりは通常より軽く示す。
  • 図示(特に力の図示)の有効性と描く際のポイント:
    • エレベーター内の物体にはたらく力をすべて矢印で図示する。重力、ばねの弾性力は必ず描く。慣性力を考える場合は、エレベーターの加速度の向きをまず決め、それと逆向きに慣性力を描き加える。
    • 力のベクトルの始点を作用点(この場合は物体)に合わせ、向きと相対的な大きさがわかるように描く。
    • 地上の観測者から見る場合は、慣性力は描かず、エレベーターと同じ加速度で物体が運動していることを明記する。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動方程式 \(ma=F\):
    • 選定理由: 物体に力が働いて加速度運動をしている状況を記述する基本法則だから。地上の慣性系から見る場合に適用。
    • 適用根拠: ニュートンの第2法則。
  • 慣性力を導入した力のつり合い \(\sum F = 0\):
    • 選定理由: 加速する座標系(エレベーター内)で物体の運動(この場合は静止して見える)を記述したい場合、見かけの力である慣性力を導入することで、静止系と同様に力のつり合いとして扱えるから。
    • 適用根拠: 非慣性系における運動法則の拡張。
  • 等加速度運動の公式 \(v=v_0+at\), \(x=v_0t+\frac{1}{2}at^2\), etc.:
    • 選定理由: 各区間で加速度が一定であると判断できたため。速度、時間、加速度、変位の関係を求めるのに使う。
    • 適用根拠: 一定の加速度で運動する物体の運動を記述する数学的な関係式。
  • 公式選択の思考プロセス:
    • まず、どの基準系(慣性系か非慣性系か)で現象を捉えるかを決める。
    • 物体にはたらく力を特定し、図示する。
    • 加速度が一定か、変化するかを見極める。
    • 求めたい物理量と既知の物理量に応じて、適切な公式(運動方程式、エネルギー保存、kinematicsの式など)を選択する。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問題文とグラフの読解: 与えられた情報(質量、重力加速度、ばねはかりの目盛りの時間変化)を正確に把握する。
  2. 各運動区間の特定: グラフの形状から、加速区間、等速区間、減速区間を特定する。
  3. (1),(2) 加速度の導出:
    • ばねはかりの目盛りから弾性力を計算。
    • 慣性力を用いるか、地上の系で運動方程式を立てるかを選択。
    • 力を図示し、選択した方法で立式し、加速度を求める。力の向きと加速度の向きの関係に注意。
  4. (3) 停止時刻の計算:
    • 加速区間の最終速度(=等速区間の速度)を計算。
    • 減速区間の初速度(=等速区間の速度)と加速度(の大きさと向き)から、速度が0になるまでの時間を計算。
    • 減速開始時刻にその時間を加える。
  5. (4) v-tグラフの作成: 計算した各時刻での速度の値をプロットし、各区間を適切な線(直線)で結ぶ。
  6. (5) 移動距離の計算: v-tグラフの面積を求める(台形の面積公式)、または各区間の移動距離をkinematicsの公式で求めて合計する。
  7. 解の吟味: 得られた数値やグラフが物理的に妥当か(向き、大きさのオーダーなど)を確認する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 質量の単位をgからkgに換算する点 (\(200\text{g} = 0.200\text{kg}\)など)。
    • ばねはかりの目盛りが示す「質量」から、実際の「力(ニュートン)」に変換する際に \(g\) を掛ける点。
    • 運動方程式や力のつり合いの式を立てる際の、力の向き(符号)の取り扱い。
    • 等加速度運動の公式を適用する際の、初速度、加速度、時間の対応関係。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 単位の一貫性を保つ: 計算を始める前に、全ての物理量を基本単位(m, kg, s, N など)に統一する習慣をつける。
    • 途中式を丁寧に書く: 特に符号や代入する数値を間違えやすいので、省略せずに段階を追って記述する。
    • 図を描いて状況を整理する: 力の働く向きや運動の様子を図に描くことで、立式の誤りを減らせる。
    • 検算を行う: 時間があれば、別の方法で計算してみたり、得られた答えを元の条件に代入して矛盾がないか確認したりする。例えば、(5)の移動距離はグラフの面積と区間ごとの計算の2通りで確認できる。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 加速度の向きと力の関係: (1)で目盛りが増加した \(\rightarrow\) 上向きの合力または下向きの慣性力 \(\rightarrow\) 上向き加速度。 (2)で目盛りが減少した \(\rightarrow\) 下向きの合力または上向きの慣性力 \(\rightarrow\) 下向き加速度。これらの定性的な判断と計算結果が一致するか確認する。
    • 速度変化と加速度の関係: v-tグラフの傾きが(1)(2)で求めた加速度と一致しているか。等速区間では傾きが0になっているか。
    • 運動の連続性: 各区間の変わり目(t=4s, t=9s)で速度が不連続になっていないか(滑らかにつながっているか)グラフ上で確認する。
    • 最終状態: 最終的に「停止した」という条件から、v-tグラフの最後は \(v=0\) になっているか確認する。
  • 「解の吟味」がもたらす効果:
    • 計算ミスや立式の根本的な誤りに気づくことができる。
    • 物理現象と数式の対応関係についての理解が深まる。
    • 問題の状況設定や条件の重要性を再認識できる。

問題21 (東京電機大+玉川大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、水平に加速度運動する台の斜面上に置かれた小物体Pの運動や、Pにはたらく力について考察するものです。Pが斜面から受ける垂直抗力が0になる条件や、糸の張力が0になる条件、さらには糸を切った後のPの運動など、様々な状況が設定されています。慣性力の概念を正しく理解し、適用することが問題を解く上での鍵となります。

与えられた条件
  • 小物体Pの質量: \(m\) [kg]
  • 台: 水平な面と、点Aで滑らかにつながる傾角 \(\theta\) の斜面を持つ。
  • 糸: Pは糸につながれ、糸は斜面と平行に張られ、Pは静止している(初期状態)。
  • 摩擦: Pと台の間には摩擦はない。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\) [m/s²]
問われていること
  1. (1) 台を水平に適当な加速度で動かすと、Pが斜面から受ける垂直抗力が0になる。
    • そのときの台の加速度の向きと大きさ \(\alpha\) を求める。
    • また、そのときの糸の張力 \(T\) を求める。
  2. (2) 台を水平に適当な加速度で動かすと、Pは斜面に対して静止したまま、糸の張力が0になる。
    • そのときの台の加速度の向きと大きさ \(\beta\) を求める。
    • また、そのときの垂直抗力 \(N\) を求める。
  3. (3) 問(2)の状態で糸を切り、Pを斜面に対して下向きに初速 \(v_0\) で動かした。Pは点Aを通過し点Bで台に対して一瞬静止した。
    • AB間の距離を求める。
    • また、ABの中点を通るときの台に対する速さを求める。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題を解く上で中心となるのは、「慣性力」の考え方です。台が加速度運動をすると、台と共に運動する観測者から見ると、小物体Pには台の加速度と逆向きに大きさ \(m \times (\text{台の加速度})\) の慣性力が働いているように見えます。この慣性力と、実際にPに働いている重力、糸の張力、垂直抗力とのつり合いや運動方程式を考えることで、各設問に答えていくことができます。力を斜面方向と斜面に垂直な方向に分解する基本的なテクニックも重要です。

問 (1)

思考の道筋とポイント

小物体Pが斜面から受ける垂直抗力が0になるという条件は、Pが斜面に触れているものの、斜面から力を受けていない(浮き上がる寸前のような)状態を意味します。このとき、Pは台に対して静止しています。台が水平方向に加速度 \(\alpha\) で運動していると仮定すると、Pにはその加速度と逆向きに慣性力 \(m\alpha\) が働きます。Pに働く力は、重力 \(mg\)、糸の張力 \(T\)、そしてこの慣性力の3つです。これらの力がつり合っている状態を考えます(台と共に運動する観測者から見た場合)。力のつり合いから、台の加速度の向き(慣性力の向きから判断)と大きさを求め、さらに張力を求めます。

この設問における重要なポイント

  • 垂直抗力 \(N=0\) という条件を適用します。
  • Pは台に対して静止しているので、台と共に動く観測者から見ると、Pに働く力(重力、張力、慣性力)はつり合っています。
  • 慣性力の向きは、台の加速度の向きと逆向きになります。Pが斜面上で静止し、かつ \(N=0\) となるためには、慣性力は水平左向き(台の加速度は水平右向き)に働く必要があります。
  • 力を斜面に平行な方向と垂直な方向に分解して、それぞれの方向での力のつり合いの式を立てます。

具体的な解説と立式

小物体Pに働く力は、重力 \(mg\)(鉛直下向き)、糸の張力 \(T\)(斜面に沿って上向き)、そして慣性力です。垂直抗力が0であるため、Pが斜面上で静止するためには、慣性力は水平左向きに働く必要があります。これにより、台の加速度 \(\alpha\) は水平右向きであると判断できます。慣性力の大きさは \(m\alpha\) となります。

力を斜面に垂直な方向と平行な方向に分解し、それぞれの方向での力のつり合いを考えます。

斜面に垂直な方向の力のつり合い:
斜面から離れる向きを正とします。この方向に働く力は、重力の成分 \(-mg\cos\theta\)(斜面に押し付ける向き)と、慣性力の成分 \(+m\alpha\sin\theta\)(斜面から引き離す向き)です。垂直抗力は0なので、これらの力の合力が0となります。
$$m\alpha\sin\theta – mg\cos\theta = 0 \quad \cdots ①$$

斜面に平行な方向の力のつり合い:
斜面に沿って上向きを正とします。この方向に働く力は、張力 \(T\)(上向き)、重力の成分 \(-mg\sin\theta\)(下向き)、そして慣性力の成分 \(-m\alpha\cos\theta\)(下向き)です。これらの力の合力が0となります。
$$T – mg\sin\theta – m\alpha\cos\theta = 0 \quad \cdots ②$$

別解1: 力を鉛直・水平方向に分解(モデル解答の考え方)

力を鉛直方向と水平方向に分解してつり合いを考えます。張力 \(T\) は斜面に平行なので、鉛直上向き成分は \(T\sin\theta\)、水平左向き成分は \(T\cos\theta\) です。台の加速度を右向きに \(\alpha\) とすると、慣性力は左向きに \(m\alpha\) です。
Pに働く力は、重力 \(mg\)(鉛直下向き)、張力 \(T\)、慣性力 \(m\alpha\)(水平左向き)です(垂直抗力は0)。
鉛直方向の力のつり合い(上向きを正):
$$T\sin\theta – mg = 0 \quad \cdots (別1-1)$$
水平方向の力のつり合い(右向きを正、慣性力は左向きなので \(-m\alpha\)、張力の水平成分も左向きなので \(-T\cos\theta\) ですが、モデル解答では、Pを右向きに加速させるのに必要な力が張力の水平右向き成分とつりあう形で \(m\alpha = T\cos\theta\) としています。ここでは、Pが台に対して静止しているため、慣性力を考慮したつり合いを考えます。Pに働く水平方向の力は、張力の水平左向き成分 \(T\cos\theta\) と慣性力 \(m\alpha\)(左向き)です。これらがPに(台から見て)水平方向の加速度を与えない、あるいは外部から見てPを台と同じ加速度 \(\alpha\)(右向き)で動かすための合力と考えます。モデル解答の別解1は、地上の慣性系から見て、Pが加速度 \(\alpha\) で運動するための運動方程式と解釈することもできますが、ここでは台上の観測者からの力のつり合いで統一します。
モデル解答の別解1は、Pに働く張力、重力、そして台からPを右向きに加速させるための合力 \(m\alpha\) がつりあっているというよりは、張力と重力でPが静止し(\(N=0\) の状態で)、かつ台が加速度 \(\alpha\) で動くために必要な水平方向の力が張力の水平成分から供給される、という見方をしています。ここでは、慣性力を用いたつり合いで進めます。
水平方向(左向きを正): \(T\cos\theta + m\alpha = 0\)。これだと張力と慣性力が同じ向きになり、重力の水平成分がないとおかしい。モデル解答の別解1の図と式を尊重し、Pが静止している状態での力の分解を考えます。
鉛直方向: \(T\sin\theta = mg\)
水平方向: \(m\alpha = T\cos\theta\) (張力の水平右向き成分が、Pを台と同じ加速度\(\alpha\)で動かすための力となっている、あるいは慣性力 \(m\alpha\)(左向き)と張力の水平右向き成分 \(T\cos\theta\) がつりあっている。) この解釈で進めます。

別解2: 重力と慣性力の合力と張力のつり合い(モデル解答の考え方)

Pに働く力は、重力 \(mg\)(鉛直下向き)、慣性力 \(m\alpha\)(水平左向き)、そして張力 \(T\) です(垂直抗力 \(N=0\))。Pが静止しているためには、これら3つの力がつり合っている必要があります。特に、重力 \(mg\) と慣性力 \(m\alpha\) の合力が、張力 \(T\) と一直線上で逆向きかつ同じ大きさになる必要があります。
力のベクトル図を描くと、\(mg\) を鉛直成分、\(m\alpha\) を水平成分とする直角三角形を考えることができ、その合力の方向が糸の張る方向(斜面と平行で上向き)と反対向きになります。モデル解答の図を参照すると、この直角三角形において、鉛直方向の \(mg\) と水平方向の \(m\alpha\) の関係が、斜面の角度 \(\theta\) を用いて次のように表せます。
$$m\alpha \tan\theta = mg \quad \text{または} \quad \frac{mg}{m\alpha} = \tan\theta$$
また、張力 \(T\) と重力 \(mg\) の関係は、合力が張力の方向と一致することから、
$$T\sin\theta = mg$$
(これは張力の鉛直成分が重力とつり合うことを意味します)

使用した物理公式

  • 力のつり合い(慣性力を含む): \(\sum \vec{F} = \vec{0}\)
  • 慣性力: \(F_{\text{慣性}} = ma\)
  • 力の分解、ベクトルの合成
計算過程 (本解説で採用した斜面方向の分解による方法)

式① \(m\alpha\sin\theta – mg\cos\theta = 0\) より、加速度 \(\alpha\) を求めます。
$$m\alpha\sin\theta = mg\cos\theta$$
両辺の \(m\) を消去します(\(m \neq 0\))。
$$\alpha\sin\theta = g\cos\theta$$
\(\alpha\) について解くと、
$$\alpha = \frac{g\cos\theta}{\sin\theta} = \frac{g}{\tan\theta} \quad \cdots ③$$
台の加速度の向きは、慣性力が左向きに働くように、水平右向きです。

次に、式③で求めた \(\alpha\) を式② \(T – mg\sin\theta – m\alpha\cos\theta = 0\) に代入して、張力 \(T\) を求めます。
$$T = mg\sin\theta + m\alpha\cos\theta$$
$$T = mg\sin\theta + m \left(\frac{g\cos\theta}{\sin\theta}\right) \cos\theta$$
$$T = mg\sin\theta + mg\frac{\cos^2\theta}{\sin\theta}$$
右辺を通分します。
$$T = mg \left(\frac{\sin^2\theta + \cos^2\theta}{\sin\theta}\right)$$
三角関数の基本公式 \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) を用いると、
$$T = \frac{mg}{\sin\theta} \quad \cdots ④$$

計算方法の平易な説明

小物体Pが斜面からちょうど浮き上がる(垂直抗力がゼロになる)けれど、糸には引かれていて台の上でじっとしている状態を考えます。このとき、Pにはたらく力は「地球が引く力(重力)」、「糸が引く力(張力)」、そして「台が加速することでPが感じる見かけの力(慣性力)」の3つです。これらの力が全体としてつり合っている(Pが台の上で動かない)という条件を使います。力を斜面に平行な方向と垂直な方向に分けて考えると、それぞれの方向で力がつり合っているはずです。この2つのつり合いの式から、台の加速度と糸の張力を計算します。

結論と吟味

台の加速度の向きは水平右向き、大きさは \(\alpha = \displaystyle\frac{g}{\tan\theta}\) です。
そのときの糸の張力は \(T = \displaystyle\frac{mg}{\sin\theta}\) です。
これらの結果を吟味してみましょう。もし傾斜角 \(\theta\) が非常に小さい(斜面がほぼ水平に近い)場合、\(\tan\theta \rightarrow 0\) となるため、加速度 \(\alpha\) は非常に大きくなる必要があります。また、\(\sin\theta \rightarrow 0\) となるため、張力 \(T\) も非常に大きくなります。これは、ほぼ水平な面で物体を糸だけで支え、かつ垂直抗力をゼロにするには大きな張力と、それに見合う慣性力が必要であることを意味し、直感とも合います。逆に、\(\theta \rightarrow 90^\circ\)(斜面がほぼ鉛直に近い)の場合、\(\tan\theta \rightarrow \infty\) となるため \(\alpha \rightarrow 0\)、そして \(\sin\theta \rightarrow 1\) となるため \(T \rightarrow mg\) となります。これは、Pが単に糸で鉛直にぶら下がっている状態に近づき、台がほとんど加速しなくても垂直抗力がゼロで張力が重力に等しくなるという状況と整合します(ただし、この場合は「斜面」という設定から外れますが、極限としての傾向は理解できます)。

解答 (1) 加速度: 向き 右向き, 大きさ \(\displaystyle\frac{g}{\tan\theta}\)  張力: \(\displaystyle\frac{mg}{\sin\theta}\)

問 (2)

思考の道筋とポイント

今度は、糸の張力が0になる条件で、Pが斜面に対して静止している状態を考えます。このときPに働く力は、重力 \(mg\)、斜面からの垂直抗力 \(N\)、そして台が水平方向に加速度運動することによる慣性力です。これらの力がつり合っていると考えます(台と共に運動する観測者から見た場合)。張力が0でPが斜面上で静止するためには、慣性力の向きと大きさが重要になります。

この設問における重要なポイント

  • 糸の張力 \(T=0\) という条件を適用します。
  • Pは台に対して静止しているので、台と共に動く観測者から見ると、Pに働く力(重力、垂直抗力、慣性力)はつり合っています。
  • 慣性力の向きは、台の加速度の向きと逆向きになります。Pが斜面上で静止し、かつ \(T=0\) となるためには、慣性力は水平右向き(台の加速度は水平左向き)に働く必要があります。
  • 力を斜面に平行な方向と垂直な方向に分解して、それぞれの方向での力のつり合いの式を立てます。

具体的な解説と立式

小物体Pに働く力は、重力 \(mg\)(鉛直下向き)、斜面からの垂直抗力 \(N\)(斜面に垂直で上向き)、そして慣性力です。糸の張力が0なので、Pが斜面上で静止しているためには、重力の斜面下向きの成分と、慣性力の斜面方向の成分がつり合う必要があります。重力の斜面下向きの成分は \(mg\sin\theta\) です。これを打ち消すためには、慣性力の斜面方向の成分が斜面に沿って上向きに働く必要があります。慣性力が水平方向に働くことを考えると、慣性力が水平右向きであれば、その斜面に沿って上向きの成分が得られます。慣性力が水平右向きであるということは、台の加速度 \(\beta\) は水平左向きであると判断できます。この加速度の大きさを \(\beta\) とすると、慣性力の大きさは \(m\beta\) となります。

力を斜面に平行な方向と垂直な方向に分解し、それぞれの方向での力のつり合いを考えます。

斜面に平行な方向の力のつり合い:
斜面に沿って上向きを正とします。この方向に働く力は、慣性力の成分 \(+m\beta\cos\theta\)(上向き)と、重力の成分 \(-mg\sin\theta\)(下向き)です。張力は0なので、これらの力の合力が0となります。
$$m\beta\cos\theta – mg\sin\theta = 0 \quad \cdots ⑤$$

斜面に垂直な方向の力のつり合い:
斜面から離れる向きを正とします。この方向に働く力は、垂直抗力 \(N\)(離れる向き)、重力の成分 \(-mg\cos\theta\)(斜面に押し付ける向き)、そして慣性力の成分 \(-m\beta\sin\theta\)(斜面に押し付ける向き)です。これらの力の合力が0となります。
$$N – mg\cos\theta – m\beta\sin\theta = 0 \quad \cdots ⑥$$

(モデル解答に「問(1)と同様に別解が考えられる」とあるように、力を鉛直・水平に分解する方法や、重力と慣性力の合力が垂直抗力とつり合う(合力の方向が斜面に垂直)と考える方法も可能です。)

使用した物理公式

  • 力のつり合い(慣性力を含む): \(\sum \vec{F} = \vec{0}\)
  • 慣性力: \(F_{\text{慣性}} = ma\)
  • 力の分解
計算過程

まず、式⑤ \(m\beta\cos\theta – mg\sin\theta = 0\) より、加速度の大きさ \(\beta\) を求めます。
$$m\beta\cos\theta = mg\sin\theta$$
両辺の \(m\) を消去します(\(m \neq 0\))。
$$\beta\cos\theta = g\sin\theta$$
\(\beta\) について解くと、
$$\beta = g\frac{\sin\theta}{\cos\theta} = g\tan\theta \quad \cdots ⑦$$
台の加速度の向きは、慣性力が右向きに働くように、水平左向きです。

次に、式⑦で求めた \(\beta\) を式⑥ \(N – mg\cos\theta – m\beta\sin\theta = 0\) に代入して、垂直抗力 \(N\) を求めます。
$$N = mg\cos\theta + m\beta\sin\theta$$
$$N = mg\cos\theta + m (g\tan\theta) \sin\theta$$
\(\tan\theta = \displaystyle\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\) なので、
$$N = mg\cos\theta + mg\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\sin\theta = mg\cos\theta + mg\frac{\sin^2\theta}{\cos\theta}$$
右辺を通分します。
$$N = mg \left(\frac{\cos^2\theta + \sin^2\theta}{\cos\theta}\right)$$
三角関数の基本公式 \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) を用いると、
$$N = \frac{mg}{\cos\theta} \quad \cdots ⑧$$

計算方法の平易な説明

今度は糸がたるんで張力がゼロの状態で、小物体Pが台の斜面上でじっとしているための条件を考えます。Pに働く力は「地球が引く力(重力)」、「斜面がPを押す力(垂直抗力)」、そして「台が加速することでPが感じる見かけの力(慣性力)」の3つです。これらの力が全体としてつり合っている必要があります。Pが斜面上で静止し、かつ糸の張力がないためには、慣性力は水平右向き(つまり台は水平左向きに加速)である必要があります。力を斜面に平行な方向と垂直な方向に分けて、それぞれの方向で力がつり合っているという式を立て、そこから台の加速度と垂直抗力の大きさを計算します。

結論と吟味

台の加速度の向きは水平左向き、大きさは \(\beta = g\tan\theta\) です。
そのときの垂直抗力は \(N = \displaystyle\frac{mg}{\cos\theta}\) です。
これらの結果を吟味してみましょう。もし傾斜角 \(\theta\) が0(水平面)の場合、\(\tan\theta = 0\) なので \(\beta = 0\)、つまり台は加速する必要がありません。このとき \(\cos\theta = 1\) なので \(N = mg\) となり、垂直抗力は重力とつり合います。これは物理的に妥当です。もし \(\theta \rightarrow 90^\circ\)(斜面がほぼ鉛直)の場合、\(\tan\theta \rightarrow \infty\) となるため、このような状態でPを斜面(壁)に押し付けて静止させるには非常に大きな加速度が必要になることを示唆しています。また、このとき \(\cos\theta \rightarrow 0\) となるため、垂直抗力 \(N\) も非常に大きくなります。

解答 (2) 加速度: 向き 左向き, 大きさ \(g\tan\theta\)  垂直抗力: \(\displaystyle\frac{mg}{\cos\theta}\)

問 (3)

思考の道筋とポイント

問(2)の状態、すなわち台が左向きに加速度 \(\beta = g\tan\theta\) で運動し、Pにかかる糸の張力が0で、Pが(力を加えるまでは)台の斜面上で静止できる状況から始まります。この状態で糸が切られ、Pに斜面に対して下向きの初速 \(v_0\) が与えられます。
まず、Pが斜面AC上を運動している間を考えます。Pに働く力は、重力 \(mg\)、垂直抗力 \(N\)、そして右向きの慣性力 \(m\beta\) です。これらの力の斜面方向の合力を確認します。問(2)のつり合いの条件は、まさにこれらの力の斜面方向成分がつり合う(\(mg\sin\theta = m\beta\cos\theta\))状態でした。したがって、糸が切れて初速 \(v_0\) を与えられたとしても、Pは斜面AC上を台に対して等速 \(v_0\) で運動し、点Aに達すると考えられます。
次に、Pが点Aを通過して水平面AB上を運動する際を考えます。このときも台は加速度 \(\beta\) で左向きに運動し続けているので、Pには右向きに慣性力 \(m\beta\) が働き続けます。水平面AB上では、重力 \(mg\) と垂直抗力 \(N_A\) は鉛直方向につり合い、水平方向にはこの慣性力 \(m\beta\) のみがPの運動(台から見てAからBへ向かう動き、図では左向き)を妨げる力(ブレーキ)として働きます。Pは台に対して減速し、点Bで一瞬静止します。この運動は、台から見たPの等加速度直線運動として扱うことができます。

この設問における重要なポイント

  • 台は常に水平左向きに加速度 \(\beta = g\tan\theta\) で運動しています。
  • 小物体Pには常に水平右向きに慣性力 \(m\beta\) が働いていると見なせます(台と共に動く観測者から見て)。
  • 斜面AC上では、Pに働く力の斜面方向成分がつり合っているため、Pは台に対して等速 \(v_0\) で運動します。
  • 水平面AB上では、Pは台に対して慣性力 \(m\beta\) のみを運動と反対向きの水平力として受け、減速します。
  • 台から見たPの運動について、等加速度直線運動の公式を適用します。

具体的な解説と立式

斜面AC上の運動:
Pが斜面AC上を動いているとき、Pに働く力は、重力 \(mg\)、垂直抗力、そして水平右向きの慣性力 \(m\beta\) です。斜面に平行な方向について、重力の成分は斜面下向きに \(mg\sin\theta\)、慣性力の成分は斜面と平行で上向きに \(m\beta\cos\theta\) です。問(2)で求めたように \(\beta = g\tan\theta\) なので、\(m\beta\cos\theta = m(g\tan\theta)\cos\theta = mg\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\cos\theta = mg\sin\theta\)。したがって、斜面に平行な方向の力はつり合っています(\(mg\sin\theta – m\beta\cos\theta = 0\))。よって、Pは斜面AC上を台に対して与えられた初速 \(v_0\) のまま等速直線運動をし、点Aに達するときの台に対する速さも \(v_0\) です。

水平面AB上の運動:
Pが点Aを通過し、水平面AB上を運動するときを考えます。台は依然として水平左向きに加速度 \(\beta\) で運動しているので、Pには水平右向きに慣性力 \(m\beta\) が働き続けます。Pの運動方向は水平面AB上(AからBへ向かう方向、図では左向き)であり、慣性力 \(m\beta\) はこの運動と反対向き(右向き)に働きます。
台から見たPの運動について、AからBへ向かう向き(図では左向き)を正とします。Pの初速度は \(v_0\)。Pに働く水平方向の力は右向きの慣性力 \(m\beta\) のみなので、運動方程式における力は \(-m\beta\) となります。台から見たPの加速度を \(a’_{\text{P}}\) とすると、
$$ma’_{\text{P}} = -m\beta$$
よって、台から見たPの加速度は、
$$a’_{\text{P}} = -\beta \quad \cdots ⑨$$
Pは点Bで台に対して一瞬静止するので、そのときの台に対する速さは0です。AB間の距離を \(L_{AB}\) とすると、等加速度直線運動の公式 \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\) より、
$$0^2 – v_0^2 = 2 a’_{\text{P}} L_{AB}$$
$$0^2 – v_0^2 = 2 (-\beta) L_{AB} \quad \cdots ⑩$$

次に、ABの中点を通るときの台に対する速さを \(v_{\text{中点}}\) とします。ABの中点までの距離は \(L_{AB}/2\) です。同じく等加速度直線運動の公式より、
$$v_{\text{中点}}^2 – v_0^2 = 2 a’_{\text{P}} \left(\frac{L_{AB}}{2}\right)$$
$$v_{\text{中点}}^2 – v_0^2 = 2 (-\beta) \left(\frac{L_{AB}}{2}\right) = -\beta L_{AB} \quad \cdots ⑪$$

使用した物理公式

  • 力のつり合い(斜面上の運動が等速になる条件)
  • 運動方程式(台から見たPの運動、慣性力を考慮): \(ma_{\text{相対}} = F_{\text{実質}} + F_{\text{慣性}}\)
  • 等加速度直線運動の式: \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\)
計算過程

まず、式⑩からAB間の距離 \(L_{AB}\) を求めます。
$$-v_0^2 = -2\beta L_{AB}$$
$$L_{AB} = \frac{v_0^2}{2\beta}$$
ここで、設問(2)で求めた \(\beta = g\tan\theta\) (式⑦) を代入します。
$$L_{AB} = \frac{v_0^2}{2g\tan\theta} \quad \cdots ⑫$$

次に、式⑪からABの中点を通るときの台に対する速さ \(v_{\text{中点}}\) を求めます。
式⑪は \(v_{\text{中点}}^2 – v_0^2 = -\beta L_{AB}\) でした。
右辺の \(L_{AB}\) に式⑫を代入すると、
$$-\beta L_{AB} = -\beta \left(\frac{v_0^2}{2\beta}\right) = -\frac{v_0^2}{2}$$
したがって、式⑪は、
$$v_{\text{中点}}^2 – v_0^2 = -\frac{v_0^2}{2}$$
\(v_{\text{中点}}^2\) について解くと、
$$v_{\text{中点}}^2 = v_0^2 – \frac{v_0^2}{2} = \frac{v_0^2}{2}$$
\(v_{\text{中点}}\) は速さなので正の値をとります。
$$v_{\text{中点}} = \sqrt{\frac{v_0^2}{2}} = \frac{v_0}{\sqrt{2}} \quad \cdots ⑬$$

計算方法の平易な説明

AB間の距離: 小物体Pが斜面ACを下り終えて水平な部分ABに入ると、Pは初速 \(v_0\)(これは台から見た速さ)で進み始めます。しかし、台がずっと左向きに加速しているため、Pには常に右向きの見かけの力(慣性力)がブレーキのように働きます。この一定のブレーキ(減速)を受けながら進んで、やがて台の上で(台から見て)止まります。この止まるまでの距離を、初速と減速度(慣性力による加速度の大きさ)を使って、物理の公式(等加速度運動の式)から計算します。
ABの中点での速さ: 上で求めたAB間の距離のちょうど半分の地点を通過するときのPの速さ(これも台から見た速さ)を、同様に初速、減速度、そして移動距離(AB間の半分)の関係から計算します。

結論と吟味

AB間の距離は \(L_{AB} = \displaystyle\frac{v_0^2}{2g\tan\theta}\) です。
ABの中点を通るときの台に対する速さは \(v_{\text{中点}} = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\) です。
特に注目すべきは、ABの中点での速さが \(\theta\) に依存しないという結果です。これは、AB間でPが受ける台からの見かけの減速の大きさ(慣性力によるもの)が \(\beta = g\tan\theta\) であり、結果として停止するまでの距離 \(L_{AB}\) がこの \(\beta\) に反比例するため(\(L_{AB} = v_0^2 / (2\beta)\))、中点までの運動エネルギーの変化を考えると、その過程で \(\theta\) の影響が相殺されるためです。この興味深い点については、問題の最後にあるQでさらに考察が促されています。

解答 (3) AB間の距離: \(\displaystyle\frac{v_0^2}{2g\tan\theta}\), 中点での速さ: \(\displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\)

【コラム】問題に関する追加の考察 (Q)

この問題の最後には、(3)の結果、特にABの中点での速さが \(\theta\) によらない理由についての考察を促す質問があります。これについて考えてみましょう。

Q: \(v\) の値が \(\theta\) によらない理由を、見かけの重力の観点と、ある保存則を活用することにより定性的に説明せよ。(★)

思考の道筋とポイント

台が水平左向きに加速度 \(\beta = g\tan\theta\) で運動しているため、台と共に動く観測者から見ると、小物体Pには水平右向きに慣性力 \(m\beta\) が働いています。この慣性力と実際の重力 \(mg\) の合力を「見かけの重力」として捉えることができます。この「見かけの重力」の場において、Pの運動をエネルギー保存則(あるいは仕事と運動エネルギーの関係)で考えることで、中点での速さが \(\theta\) に依存しない理由を説明します。

具体的な解説と考察

台が水平左向きに加速度 \(\beta = g\tan\theta\) で運動しているとき、台上の小物体Pには、実質的な力である重力 \(mg\)(鉛直下向き)と垂直抗力(水平面AB上では鉛直上向き)の他に、見かけの力である慣性力 \(m\beta\)(水平右向き)が働いていると見なせます。

このとき、重力 \(mg\) と慣性力 \(m\beta\) の合力を「見かけの重力」\(m\vec{g’}\) と考えることができます。この見かけの重力の方向は、鉛直下向きと水平右向きのベクトル和なので、右斜め下向きになります。そして、この見かけの重力の方向を「新しい鉛直方向」と解釈すると、Pが運動する水平面ABは、この新しい鉛直方向に対してあたかも「坂」を上っていくように見なすことができます。点Aが坂のふもと、点Bが坂の頂上(ここで一瞬静止する)に対応します。

Pが水平面AB上を点Aから点Bへ距離 \(L_{AB}\) だけ進む間に、慣性力 \(m\beta\) はPの運動(左向き)と反対向き(右向き)に働き、\(m\beta L_{AB}\) だけの負の仕事をします。これが、台から見たPの運動エネルギーの減少に等しくなります。すなわち、PがA点で持っていた台に対する運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv_0^2\) は、B点ではすべてこの慣性力に逆らう仕事(見かけのポテンシャルエネルギーの増加)に変わります。
$$\frac{1}{2}mv_0^2 = m\beta L_{AB} \quad \cdots (Q-1)$$
(これは \(L_{AB} = \frac{v_0^2}{2\beta}\) を意味し、(3)の計算結果と一致します。)

ABの中点Mまでの距離は \(L_{AB}/2\) です。この点での台に対する速さを \(v\) とすると、点Aから中点Mまでに慣性力がした仕事は \(-m\beta (L_{AB}/2)\) です。仕事と運動エネルギーの関係より、
$$ \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 = -m\beta \left(\frac{L_{AB}}{2}\right) \quad \cdots (Q-2)$$
式(Q-1)より \(m\beta L_{AB} = \frac{1}{2}mv_0^2\) であるから、これを式(Q-2)の右辺に代入すると、右辺は \(-\frac{1}{2} (m\beta L_{AB}) = -\frac{1}{2} \left(\frac{1}{2}mv_0^2\right) = -\frac{1}{4}mv_0^2\) となります。
したがって、
$$ \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 = -\frac{1}{4}mv_0^2 $$
$$ \frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}mv_0^2 – \frac{1}{4}mv_0^2 = \frac{1}{4}mv_0^2 $$
両辺の \(\frac{1}{2}m\) を消去すると、\(v^2 = \frac{1}{2}v_0^2\)。よって、\(v = \displaystyle\frac{v_0}{\sqrt{2}}\) となります。

定性的な説明のまとめ:
台と共に動く加速座標系では、慣性力を含めた「見かけの重力」を考えることができます。この見かけの重力の場において、水平面ABは一種の「坂道」と見なせます。PがAからBへ向かう運動は、この見かけの坂を初速 \(v_0\) で上り、Bで止まる運動に相当します。このとき、力学的エネルギー保存則(慣性力によるポテンシャルエネルギーを含めたもの)が成り立ちます。
点Aでの運動エネルギーが、点Bではすべて「見かけのポテンシャルエネルギー」に変わります。ABの中点Mは、この「見かけのポテンシャルエネルギー」の増加が、B点での全増加量のちょうど半分になる点です。したがって、中点Mでの運動エネルギーは、A点での運動エネルギーから、B点までに失う総運動エネルギーの半分を引いたもの、すなわち初期運動エネルギーの半分になります。
つまり、\(\frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2} \times \left( \frac{1}{2}mv_0^2 \right)\) となり、\(v^2 = \frac{1}{2}v_0^2\)、よって \(v = \frac{v_0}{\sqrt{2}}\) です。
この議論では、具体的な坂の「勾配」や見かけの重力加速度の大きさを決める \(\beta\) や \(\theta\) の値は最終的な速さの比の形(\(v/v_0\))には現れません。エネルギーの増減の「割合」で決まるため、\(\theta\) に依存しない結果となるのです。「ある保存則」とは、この加速系における(慣性力によるポテンシャルを含めた)力学的エネルギー保存則、あるいは仕事と運動エネルギーの関係を指します。

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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 慣性力: 加速度運動する座標系(この問題では台)に乗っている観測者から物体を見ると、観測者の加速度と逆向きに、\(F_{\text{慣性}} = ma\) (\(m\) は物体の質量、\(a\) は座標系の加速度)という見かけの力が働いているように見える。この概念の正しい理解と適用が、問題全体を通して中心となった。
  • 力のつり合い(非慣性系): 加速中の台の上で小物体Pが静止している場合、台と共に動く観測者から見れば、Pにはたらく力(実質の力+慣性力)はつり合っている。この考え方が(1)と(2)で用いられた。
  • ニュートンの運動方程式(非慣性系): 非慣性系で運動方程式を立てる場合、実質の力に加えて慣性力も考慮に入れる必要がある (\(m\vec{a}_{\text{相対}} = \sum \vec{F}_{\text{実質}} + \vec{F}_{\text{慣性}}\))。 (3)で台から見たPの運動を解析する際にこの考え方が使われた。
  • 力の分解: 重力や慣性力、張力などを、斜面に平行な方向と垂直な方向に分解して考える基本的なスキル。
  • 仕事とエネルギーの関係(あるいは力学的エネルギー保存則): (3)の別解的考察(Qの内容)では、加速系における見かけの重力や慣性力によるポテンシャルエネルギーを考えることで、エネルギー保存に近い考え方ができることが示唆された。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • この問題の考え方や解法は、どのようなパターンの類似問題に応用できるか:
    • 電車やエレベーターなど、加速度運動する乗り物の中での振り子の運動や、物体のつり合い、運動。
    • ベルトコンベアの上で物体が運動する場合。
    • 回転する円盤上の物体の運動(遠心力という慣性力が関わる)。
  • 初見の問題で、どこに着目すればこの問題と同じように解き進められるか:
    1. 観測者の立場(座標系)の選択: まず、問題を慣性系(静止した地面など)から見るか、加速度運動する非慣性系(台の上など)から見るかを決定する。非慣性系を選ぶなら、必ず慣性力を導入する。
    2. 慣性力の正確な導入: 慣性力の向き(座標系の加速度と逆向き)と大きさ(物体の質量 × 座標系の加速度)を間違えない。
    3. 力の図示の徹底: 物体に働くすべての力(実質の力と慣性力)をベクトルとして正確に図示する。
    4. 運動の状況に応じた法則の適用:
      • 台上で物体が静止 \(\rightarrow\) 力のつり合い(慣性力込み)。
      • 台上で物体が運動 \(\rightarrow\) 運動方程式(慣性力込みで、加速度は台に対する相対加速度)。
  • 問題解決のヒントや、特に注意すべき点は何か:
    • 「斜面に対して静止」という言葉は、台と共に動く観測者から見て静止しているという意味。
    • 「垂直抗力が0」「張力が0」といった条件は、力のつり合いの式を立てる上で重要な情報となる。
    • 加速度の向きと慣性力の向きの関係を混同しないこと。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 慣性力の存在を忘れる・向きを間違える:
    • 現象: 加速度運動する台上の問題を、慣性力を考慮せずに解こうとしたり、慣性力の向きを台の加速度と同じ向きにしてしまったりする。
    • 対策: 「台が動いているなら慣性力!」と常に意識し、「慣性力は加速度と逆」と覚え、図を描いて確認する。
  • 力の分解の際の角度の誤り:
    • 現象: 水平な慣性力や鉛直な重力を、斜面に平行・垂直な成分に分解するときの \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の適用を間違える。
    • 対策: 丁寧に図を描き、三角形の相似や角度の関係を正確に把握する練習をする。
  • 「台に対して」の運動と「床に対して」の運動の混同:
    • 現象: 特に(3)のように、物体が台の上を動き、かつ台も動いている場合、どちらの基準系での速度や加速度を考えているのかが曖昧になりやすい。
    • 対策: 問題文を注意深く読み、どの基準系での量を問われているのか、あるいはどの基準系で式を立てているのかを常に明確にする。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題における物理現象の具体的なイメージ化:
    • 台が右に加速するとき、Pが左に押されるような慣性力を感じるイメージ(電車で発車時に体が後ろに持っていかれるのと同じ)。
    • 台が左に加速するとき、Pが右に押されるような慣性力を感じるイメージ。
    • (1)で垂直抗力が0になるのは、慣性力の斜面から離す成分が重力の斜面に押し付ける成分とつり合うから。
    • (2)で張力が0になるのは、慣性力の斜面を滑り上げさせる成分が重力の滑り下ろす成分とつり合うから。
    • 図には、必ずPに働くすべての力(重力、張力、垂直抗力、慣性力)をベクトルで描き込み、それらを適切な方向に分解した成分も示すと分かりやすい。
  • 図を描く際に注意すべき点は何か:
    • 力の作用点を明確にする(この場合はP)。
    • ベクトルの向きと相対的な大きさをできるだけ正確に描く。
    • 分解する方向(斜面方向、斜面に垂直な方向、あるいは水平・鉛直方向)を明示する。
    • 座標軸を設定する場合は、その向きも図中に示す。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合いの式 (\(\sum \vec{F} = \vec{0}\)):
    • 選定理由: (1)(2)でPが台に対して静止しているため、台と共に動く観測者から見れば、Pに働く力(慣性力を含む)の合力は0であると判断し適用。
    • 適用根拠: 物体が静止または等速直線運動している場合、その物体に働く力の合力はゼロであるというニュートンの第一法則(あるいは第二法則の特別な場合)。非慣性系では慣性力を含めてこの法則を適用する。
  • 運動方程式 (\(m\vec{a} = \sum \vec{F}\)):
    • 選定理由: (3)でPが台に対して加速度運動をするため、台から見たPの運動について、実質の力と慣性力の合力によって相対加速度が生じると判断し適用。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則。質量 \(m\) の物体に合力 \(\sum \vec{F}\) が働くと、物体は加速度 \(\vec{a}\) を生じる。非慣性系で用いる場合は、見かけの力である慣性力を合力に含める。
  • 公式選択の思考プロセス:
    • 公式を適用する前に、その公式が成り立つための「前提条件」を常に確認する癖をつける。「なぜこの法則が、この場面で使えるのか?」を自問自答することで、物理法則の適用範囲と限界を正しく理解し、誤用を防ぐことができる。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 問題の状況分析: 台の加速度の有無、小物体Pの状態(静止、運動)、特定の条件(垂直抗力0、張力0など)を正確に把握する。
  2. 観測者の立場(座標系)の決定: 慣性系(地面)で解くか、非慣性系(台)で解くかを決める。非慣性系なら慣性力を導入する。
  3. 力の図示と特定: 小物体Pに働くすべての力を(慣性力も含めて)ベクトルで図示する。
  4. 力の分解: 必要に応じて、力を適切な方向(斜面に平行・垂直、水平・鉛直など)に分解する。
  5. 物理法則の選択と立式: Pの状態(静止なら力のつり合い、運動なら運動方程式)に応じて、適切な物理法則を選択し、数式で表現する。
  6. 方程式の求解: 立式した方程式(または連立方程式)を、未知数について解く。
  7. 解の物理的な吟味: 得られた答えの単位、符号、大きさなどが物理的に妥当であるかを確認する。極端な場合を考えてみるのも有効。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 今回の計算過程で特に注意すべきだった点:
    • 力の分解を行う際の、角度 \(\theta\) に対する \(\sin\theta\) と \(\cos\theta\) の選択ミス。図を丁寧に描き、三角比の関係を正確に適用することが重要。
    • 力のつり合いの式や運動方程式を立てる際の、力の向きに対応する符号(プラス・マイナス)の取り扱い。特に慣性力の向きを間違えないこと。
    • 複数の文字(\(m, g, \theta, \alpha, \beta, T, N, v_0\)など)を含む連立方程式を解く際の、代数的な計算ミス(移項、整理、代入など)。
    • \(\tan\theta = \sin\theta/\cos\theta\) や \(\sin^2\theta+\cos^2\theta=1\) といった基本的な三角関数の関係式をスムーズに利用できるか。
  • 日頃から計算練習で意識すべきこと・実践テクニック:
    • 文字式の計算に習熟する: 物理の問題では、数値を代入する前に文字式のまま計算を進めることが多いです。文字式の展開、整理、因数分解、分数の計算、平方根の扱いなどに日頃から慣れておくことが、計算ミスを減らし、思考の負担を軽減するために不可欠です。
    • 途中式を省略せずに丁寧に書く: 計算の各ステップを省略せずに丁寧に記述することで、どこで間違えたかを見つけやすくなり、また、論理の流れも明確になります。
    • 図と式を常に対応させながら考える: 図に描いた力のベクトルやその成分と、立式した数式の各項が正しく対応しているかを確認しながら進めることで、立式の誤りや符号ミスを防ぐことができます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えが物理的に妥当かどうかを検討する視点の重要性:
    • 極端な条件下での振る舞いの考察: 例えば、設問(1)で求めた加速度 \(\alpha = g/\tan\theta\) について、もし傾斜角 \(\theta\) が限りなく0に近い(斜面がほぼ水平に近い)場合、\(\tan\theta \rightarrow 0\) となるため、加速度 \(\alpha\) は非常に大きくなる(物理的に実現が難しいほど)必要があると解釈できます。逆に、\(\theta\) が \(90^\circ\) に近い(斜面がほぼ鉛直に近い)場合、\(\tan\theta \rightarrow \infty\) となるため \(\alpha \rightarrow 0\) となります。これは、Pが単に糸でぶら下がっている状態で、台がほとんど加速しなくても垂直抗力がゼロになるという状況(ただし設問の「斜面」という前提からは少しずれますが)と関連付けて考えることができます。
    • 設問(2)で求めた加速度 \(\beta = g\tan\theta\) と垂直抗力 \(N = mg/\cos\theta\) についても同様の吟味が可能です。 例えば \(\theta = 0\) なら \(\beta = 0, N = mg\)。\(\theta \rightarrow 90^\circ\) なら \(\beta \rightarrow \infty, N \rightarrow \infty\)。
    • 設問(3)の中点での速さが \(\theta\) に依存しないという結果の物理的意味: このような直感に反するように見える結果が出た場合、なぜそうなるのかをエネルギーの観点などから深く考察すること(Qの内容)は、物理法則への理解を格段に深めます。
  • 「解の吟味」を通じて得られること:
    • 計算ミスや、立式の段階での根本的な誤りに気づくきっかけになります。
    • 物理法則がどのように現象を記述しているのか、数式の背後にある物理的な意味や構造をより深く理解することができます。
    • 単に問題を解くだけでなく、「なぜそうなるのか?」を考えることで、論理的思考力や応用力が養われます。
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