「名問の森」徹底解説(19〜21問):未来の得点力へ!完全マスター講座【力学・熱・波動Ⅰ】

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問題19 (埼玉大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、滑車を介してつるされた二つの皿と、一方の皿に乗った蛙のジャンプに関する力学の問題です。蛙がジャンプする際の皿の運動や蛙自身の運動、そしてそれらに関わるエネルギーや最大到達距離を考察します。特に「1次元化」という考え方や、系全体の運動量保存、エネルギー保存が鍵となります。

与えられた条件
  • 皿A、Bの質量: それぞれ \(m\)
  • 蛙の質量: \(M\)
  • おもりの質量: \(M\) (蛙と同じ質量)
  • 蛙が床では高さ\(h\)まで鉛直に跳び上がれる運動エネルギーを出せる。
  • 皿、蛙、おもり以外の質量(滑車や糸など)は無視できる。
  • 蛙の大きさは無視する。
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
問われていること
  • (1) 蛙が皿Aから鉛直に跳び上がるときの床に対する初速度の大きさを\(V\)とし、そのとき皿Aが床に接近する初速度の大きさ\(v\)を\(M, m, V\)で表すこと。
  • (2) 蛙の床に対する初速度の大きさ\(V\)を\(M, m, h, g\)で表すこと。
  • (3) 蛙が皿Aから離れる距離の最大値が\(h\)の何倍になるか。ただし、皿と床の衝突はないものとする。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(1) 皿Aの初速度\(v\)の別解: 各物体の力積と運動量の関係式から導出する解法
      • 主たる解法が系全体の運動量保存則を直接適用するのに対し、別解では蛙、皿A、皿Bとおもりの各部分について力積と運動量の関係式を立て、それらを連立させることで、より基本的な法則から運動量保存則に相当する関係を導出します。
    • 問(3) 最大距離\(h’\)の別解: 系全体の力学的エネルギー保存則を用いる解法
      • 主たる解法が蛙と皿Aの相対運動に着目して解くのに対し、別解では蛙、皿、おもり、地球を全て含む系全体の力学的エネルギーが保存することを利用します。ジャンプ直後の運動エネルギーが、最も離れたときの位置エネルギーに変換されるという関係から、より簡潔に解を導きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の階層性の理解: 問(1)の別解は、「運動量保存則」が個々の物体の「力積と運動量の関係」から導かれるという、物理法則の階層的な関係性を理解する助けとなります。
    • 視点の転換と計算の簡略化: 問(3)の別解は、個々の運動を追う「運動方程式・相対運動」の視点から、系全体の状態変化を追う「エネルギー保存則」の視点へと転換する重要性を示します。この視点の転換により、複雑な加速度の計算を回避し、問題をより本質的かつ簡潔に解くことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「運動量保存則」と「エネルギー保存則」です。滑車で連結された複数の物体と、その上でのジャンプという内力による運動を扱います。系を適切に設定し、保存則を適用することが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動量保存則: 外力の合力が0(または特定の方向で0)のとき、系の全運動量は保存されます。この問題では、滑車系を一直線上の運動とみなす「1次元化」モデルを適用することで、運動量保存則が使いやすくなります。
  2. エネルギー保存則(またはエネルギーの変換関係): 蛙が生み出すエネルギーが、系全体の運動エネルギーに変換されると考えます。また、ジャンプ後は、非保存力(この場合は張力)が仕事をしますが、系全体(地球も含む)で考えれば力学的エネルギーは保存されます。
  3. 相対運動: 2つの物体がそれぞれ運動している場合、一方の物体から見たもう一方の物体の運動(相対速度、相対加速度)を考えることで、問題が単純化されることがあります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問(1)では、蛙のジャンプの前後で、系全体の運動量が保存されることを利用して、蛙の速度と皿の速度の関係を導きます。
  2. 問(2)では、蛙が生み出すエネルギーが、ジャンプ直後の系全体の運動エネルギーの和に等しいという関係式を立て、問(1)の結果を利用して蛙の速度を求めます。
  3. 問(3)では、ジャンプ後の蛙と皿のそれぞれの運動を加速度から考察し、相対運動の考え方を用いて最大距離を計算します。あるいは、系全体の力学的エネルギー保存則を用いることで、より簡潔に解くこともできます。

問(1)

思考の道筋とポイント
蛙が皿Aから跳び上がる瞬間を考えます。この現象は、蛙、皿A、皿B、おもりからなる系内部の力(内力)によって引き起こされます。系全体にはたらく外力(重力と滑車を支える力)の合力は鉛直方向でつりあっているため、系全体の運動量は保存されます。この運動量保存則を用いて、蛙の速度\(V\)と皿Aの速度\(v\)の関係を導きます。
この設問における重要なポイント

  • 蛙、皿A、皿B、おもりを一つの「系」として考える。
  • ジャンプ前の系の全運動量は0である。
  • ジャンプ直後の各物体の速度を設定し、運動量保存則を立式する。
  • 滑車を介した運動を一直線上の運動とみなす「1次元化」モデルを適用する。

具体的な解説と立式
ジャンプ直前、系全体は静止しているため、全運動量は\(0\)です。
ジャンプ直後、床に対する各物体の速度を次のように設定します。

  • 蛙(質量\(M\)): 鉛直上向きに速さ\(V\)
  • 皿A(質量\(m\)): 鉛直下向きに速さ\(v\)
  • 皿Bとおもり(合計質量\(M+m\)): 鉛直上向きに速さ\(v\)

この運動を、蛙の上昇方向を正とする一直線上の運動として考えます(1次元化モデル)。

  • 蛙の運動量: \(+MV\)
  • 皿Aの運動量: \(-mv\)
  • 皿Bとおもりの運動量: この部分は皿Aと反対側に動くため、1次元化モデルでは皿Aと同じ向きの運動量とみなせます。よって、\(- (M+m)v\)

運動量保存則より、ジャンプ前後の全運動量は等しいので、
$$
\begin{aligned}
0 &= MV – mv – (M+m)v
\end{aligned}
$$
この式は、蛙の上向きの運動量と、皿・おもり全体の「実効的な」下向きの運動量が等しいことを意味します。
$$
\begin{aligned}
MV &= mv + (M+m)v
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動量保存則: \(\sum p_{\text{初}} = \sum p_{\text{後}}\)
計算過程

立式した運動量保存則を\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
MV &= mv + (M+m)v \\[2.0ex]
MV &= (m + M + m)v \\[2.0ex]
MV &= (M+2m)v
\end{aligned}
$$
両辺を\((M+2m)\)で割ると、
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{M}{M+2m}V
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

蛙がジャンプするとき、蛙自身が上に飛び上がるのと同時に、その反動で足元の皿Aを下に押し、繋がっている皿Bとおもりを上に動かします。これら全員を一つのグループとして考えると、ジャンプという内部での出来事によってグループ全体の「勢いの合計(運動量)」は変化しません。最初は全員止まっていたので勢いの合計はゼロです。ジャンプ後も、蛙が持つ上向きの勢いと、皿たちが持つ下向きの勢いがちょうど打ち消し合って、合計がゼロのままになります。この「勢いのつりあい」の式を立てることで、蛙の速さ\(V\)と皿の速さ\(v\)の関係がわかります。

結論と吟味

皿Aが床に接近する初速度の大きさ\(v\)は、\(v = \displaystyle\frac{M}{M+2m}V\)となります。
この結果は、\(M, m, V\)が全て正の値であるため、\(v\)も正となり、物理的に妥当です。また、皿の質量\(m\)が0に近づく極限では\(v \to V\)となり、蛙と皿Aが一体となって運動するような状況に近づくことが示唆されます。

別解: 各物体の力積と運動量の関係式から導出する解法

思考の道筋とポイント
運動量保存則の背景にある、より基本的な「力積と運動量の関係」から出発します。蛙、皿A、皿Bとおもりのそれぞれについて、ジャンプの短い時間\(\Delta t\)における力積と運動量の変化の関係式を立てます。これらの式から、内力である垂直抗力\(N\)と張力\(T\)を消去することで、\(v\)と\(V\)の関係式を導きます。
この設問における重要なポイント

  • 各物体にはたらく力を正確に図示する。
  • 鉛直上向きを正として、各物体の力積と運動量の関係式を立てる。
  • 式を連立させ、内力(\(N, T\))を消去する。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。ジャンプの間の時間\(\Delta t\)における力積と運動量の関係を各物体について立てます。

  1. 蛙(質量\(M\)): 皿からの垂直抗力\(N\)と重力\(Mg\)がはたらく。
    $$
    \begin{aligned}
    (N – Mg)\Delta t &= MV – 0
    \end{aligned}
    $$
  2. 皿A(質量\(m\)): 張力\(T\)、蛙からの力\(N\)、重力\(mg\)がはたらく。
    $$
    \begin{aligned}
    (T – N – mg)\Delta t &= m(-v) – 0
    \end{aligned}
    $$
  3. 皿Bとおもり(質量\(M+m\)): 張力\(T\)と重力\((M+m)g\)がはたらく。
    $$
    \begin{aligned}
    (T – (M+m)g)\Delta t &= (M+m)v – 0
    \end{aligned}
    $$

これらの式から\(N\)と\(T\)を消去します。まず、1番目と2番目の式を足し合わせると\(N\)が消去できます。
$$
\begin{aligned}
(N – Mg)\Delta t + (T – N – mg)\Delta t &= MV – mv \\[2.0ex]
(T – (M+m)g)\Delta t &= MV – mv
\end{aligned}
$$
この式の左辺は、3番目の式の左辺と全く同じ形をしています。したがって、右辺どうしも等しくなります。
$$
\begin{aligned}
MV – mv &= (M+m)v
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力積と運動量の関係: \((\text{力積}) = (\text{運動量の変化})\)
計算過程

得られた関係式 \(MV – mv = (M+m)v\) を\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
MV &= mv + (M+m)v \\[2.0ex]
MV &= (m + M + m)v \\[2.0ex]
MV &= (M+2m)v
\end{aligned}
$$
よって、
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{M}{M+2m}V
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

ジャンプの瞬間、蛙は皿を押し、皿は糸を引っ張ります。この「押す力」や「引く力」が、それぞれのパーツの運動を変化させます。物理では、この「力と時間の積(力積)」が「運動の変化量」に等しいというルールがあります。蛙、皿A、皿Bとおもりの3つのグループそれぞれについてこのルールを式にして、うまく組み合わせると、途中の複雑な力(押す力や引く力)を消すことができます。その結果、グループ全体の運動の関係だけが残り、主たる解法と同じ結論が得られます。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。この解法は、運動量保存則が個々の物体の運動法則から自然に導かれることを示しており、法則の理解を深める上で有益です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{M}{M+2m}V\)

問(2)

思考の道筋とポイント
蛙が床で高さ\(h\)まで跳べるということは、蛙がジャンプの際に生み出すことのできるエネルギーが\(Mgh\)であることを意味します。このエネルギーが、今回の皿の上からのジャンプにおいて、蛙自身の運動エネルギーと、皿A、皿B、おもりの運動エネルギーの合計に変換されると考えます。このエネルギーの変換関係式を立て、問(1)で求めた関係式を用いて\(V\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 蛙が生み出すエネルギーは\(Mgh\)である。
  • このエネルギーが、ジャンプ直後の系全体の運動エネルギーの和に等しい。
  • 各物体の運動エネルギーは \(\frac{1}{2} \times (\text{質量}) \times (\text{速さ})^2\) で計算する。
  • 問(1)で求めた\(v\)と\(V\)の関係式を利用する。

具体的な解説と立式
蛙が生み出すエネルギー\(E_{\text{蛙}}\)は\(Mgh\)です。
ジャンプ直後の系全体の運動エネルギー\(K_{\text{全体}}\)は、各部分の運動エネルギーの和です。
$$
\begin{aligned}
K_{\text{全体}} &= K_{\text{蛙}} + K_{\text{皿A}} + K_{\text{皿B+おもり}} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}mv^2 + \frac{1}{2}(M+m)v^2
\end{aligned}
$$
右辺の\(v^2\)の項をまとめると、
$$
\begin{aligned}
K_{\text{全体}} &= \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}(m + M+m)v^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}(M+2m)v^2
\end{aligned}
$$
エネルギーの変換関係より、\(E_{\text{蛙}} = K_{\text{全体}}\)なので、
$$
\begin{aligned}
Mgh &= \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}(M+2m)v^2
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • エネルギーの変換と保存
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

立式した式に、問(1)の結果 \(v = \displaystyle\frac{M}{M+2m}V\) を代入して\(V\)を求めます。
まず、式の第2項に\(v\)を代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}(M+2m)v^2 &= \frac{1}{2}(M+2m)\left(\frac{M}{M+2m}V\right)^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}(M+2m)\frac{M^2}{(M+2m)^2}V^2 \\[2.0ex]
&= \frac{1}{2}\frac{M^2}{M+2m}V^2
\end{aligned}
$$
これをエネルギーの式に戻すと、
$$
\begin{aligned}
Mgh &= \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}\frac{M^2}{M+2m}V^2
\end{aligned}
$$
両辺を\(M\)で割り(\(M \neq 0\))、右辺を\(\frac{1}{2}V^2\)でくくります。
$$
\begin{aligned}
gh &= \frac{1}{2}V^2 \left(1 + \frac{M}{M+2m}\right) \\[2.0ex]
gh &= \frac{1}{2}V^2 \left(\frac{M+2m+M}{M+2m}\right) \\[2.0ex]
gh &= \frac{1}{2}V^2 \frac{2(M+m)}{M+2m} \\[2.0ex]
gh &= V^2 \frac{M+m}{M+2m}
\end{aligned}
$$
この式を\(V^2\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
V^2 &= gh \frac{M+2m}{M+m}
\end{aligned}
$$
\(V\)は速さなので\(V>0\)より、
$$
\begin{aligned}
V &= \sqrt{\frac{(M+2m)gh}{M+m}}
\end{aligned}
$$

この設問の平易な説明

蛙がジャンプに使えるエネルギーの量は、床で跳んだときに高さ\(h\)まで上がれることから\(Mgh\)だと決まっています。今回は動く皿の上からジャンプするので、そのエネルギーは「蛙自身のスピードアップ」と「皿たちを動かすこと」の二つに使われます。エネルギーの総量は変わらないので、「\(Mgh\) = (蛙の運動エネルギー) + (皿たちの運動エネルギー)」という式が成り立ちます。この式に(1)で求めた蛙と皿の速さの関係を当てはめることで、蛙の速さ\(V\)を計算することができます。

結論と吟味

蛙の初速度の大きさ\(V\)は \(V = \sqrt{\displaystyle\frac{(M+2m)gh}{M+m}}\) となります。
もし皿の質量\(m\)が非常に大きい(\(m \to \infty\))とすると、\(V \to \sqrt{2gh}\) となります。これは、ほとんど動かない重い床からジャンプする状況に相当し、蛙のエネルギーがほぼ全て自身の運動エネルギーになることを意味し、物理的に妥当です。

解答 (2) \(\sqrt{\displaystyle\frac{(M+2m)gh}{M+m}}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
蛙が皿Aからジャンプした後、蛙は重力だけを受けて運動し、皿Aは皿Bとおもりと連結されて運動します。蛙が皿Aから最も離れるのは、蛙の皿Aに対する相対速度が0になるときです。この条件を元に、相対運動の考え方を用いて解きます。まず、ジャンプ後の皿Aの加速度を運動方程式から求め、次に蛙と皿Aの相対加速度と相対初速度を計算し、等加速度運動の公式に適用して最大距離を求めます。
この設問における重要なポイント

  • ジャンプ後の皿Aの加速度を運動方程式から求める。
  • 蛙と皿Aの相対初速度と相対加速度を、符号に注意して計算する。
  • 相対速度が0のときに最も離れるという条件を使う。
  • 等加速度運動の公式 \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\) を相対運動に適用する。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正とします。
まず、ジャンプ後の皿Aの加速度\(a_A\)を求めます。皿A(質量\(m\))と皿B+おもり(質量\(M+m\))からなる系を考えると、皿B+おもりの方が重いため、皿Aは上向きに加速します。系全体の運動方程式は、
$$
\begin{aligned}
(m + (M+m)) a_A &= (M+m)g – mg \\[2.0ex]
(M+2m) a_A &= Mg
\end{aligned}
$$
よって、皿Aの加速度は、
$$
\begin{aligned}
a_A &= \frac{Mg}{M+2m}
\end{aligned}
$$
一方、蛙の加速度\(a_{\text{蛙}}\)は重力加速度のみなので、
$$
\begin{aligned}
a_{\text{蛙}} &= -g
\end{aligned}
$$
皿Aに対する蛙の相対加速度\(a_{\text{相対}}\)は、
$$
\begin{aligned}
a_{\text{相対}} &= a_{\text{蛙}} – a_A \\[2.0ex]
&= -g – \frac{Mg}{M+2m} \\[2.0ex]
&= -\frac{g(M+2m) + Mg}{M+2m} \\[2.0ex]
&= -\frac{2Mg + 2mg}{M+2m} \\[2.0ex]
&= -g\frac{2(M+m)}{M+2m}
\end{aligned}
$$
次に、ジャンプ直後の皿Aに対する蛙の相対初速度\(v_{\text{相対初}}\)は、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{相対初}} &= V_{\text{蛙初}} – V_{\text{皿A初}} \\[2.0ex]
&= V – (-v) \\[2.0ex]
&= V+v
\end{aligned}
$$
最も離れるとき、相対速度は0になります。そのときの最大距離を\(h’\)として、等加速度運動の公式 \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\) を適用すると、
$$
\begin{aligned}
0^2 – (v_{\text{相対初}})^2 &= 2 a_{\text{相対}} h’
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 相対速度・相対加速度
  • 等加速度直線運動の式: \(v_{\text{後}}^2 – v_{\text{初}}^2 = 2ax\)
計算過程

立式した関係式に、これまでの結果を代入して\(h’\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
-(V+v)^2 &= 2 \left(-g\frac{2(M+m)}{M+2m}\right) h’ \\[2.0ex]
(V+v)^2 &= 4g\frac{M+m}{M+2m} h’
\end{aligned}
$$
ここで、問(1)の結果 \(v = \displaystyle\frac{M}{M+2m}V\) を用いて\(V+v\)を\(V\)で表します。
$$
\begin{aligned}
V+v &= V + \frac{M}{M+2m}V \\[2.0ex]
&= V\left(1 + \frac{M}{M+2m}\right) \\[2.0ex]
&= V\frac{M+2m+M}{M+2m} \\[2.0ex]
&= V\frac{2(M+m)}{M+2m}
\end{aligned}
$$
これを代入すると、
$$
\begin{aligned}
\left(V\frac{2(M+m)}{M+2m}\right)^2 &= 4g\frac{M+m}{M+2m} h’ \\[2.0ex]
V^2 \frac{4(M+m)^2}{(M+2m)^2} &= 4g\frac{M+m}{M+2m} h’
\end{aligned}
$$
両辺を整理すると、
$$
\begin{aligned}
V^2 \frac{M+m}{M+2m} &= g h’
\end{aligned}
$$
\(h’\)について解くと、
$$
\begin{aligned}
h’ &= \frac{V^2}{g} \frac{M+m}{M+2m}
\end{aligned}
$$
最後に、問(2)の結果 \(V^2 = gh \displaystyle\frac{M+2m}{M+m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
h’ &= \frac{1}{g} \left(gh \frac{M+2m}{M+m}\right) \frac{M+m}{M+2m} \\[2.0ex]
h’ &= h
\end{aligned}
$$
よって、最大距離は\(h\)の1倍です。

この設問の平易な説明

蛙がジャンプした後、蛙は重力に引かれて減速し、皿Aは皿Bとおもりに引っ張られて上に加速します。蛙から見ると、皿Aはどんどん遠ざかっていきますが、やがて蛙の速度が落ちてくると、今度は皿Aが追いついてくるように見えます。蛙から見て皿Aが一番遠くに見えるのは、蛙から見た皿Aのスピードが一瞬ゼロになるときです。このときの距離を計算するのがこの問題です。それぞれの加速度を計算し、「相対的な」初速度と加速度を使って物理の公式に当てはめると、複雑な計算の末に、驚くほどシンプルな答え「\(h\)」が出てきます。

結論と吟味

蛙が皿Aから離れる距離の最大値は\(h\)であり、\(h\)の1倍となります。このシンプルな結果は、一見複雑に見える系の運動の中に、保存則などによって保たれる美しい関係性が隠されていることを示唆しています。

別解: 系全体の力学的エネルギー保存則を用いる解法

思考の道筋とポイント
蛙、皿A、皿B、おもり、そして地球を全て含む一つの系として考えます。この系では、張力は内力となり、重力以外の外力は仕事をしないため、系全体の力学的エネルギーは保存されます。ジャンプ直後の状態と、蛙が皿から最も離れた瞬間の状態とで、力学的エネルギー保存則を立式します。
この設問における重要なポイント

  • 系全体の力学的エネルギーが保存されることに着目する。
  • ジャンプ直後を「始状態」、最も離れた瞬間を「終状態」とする。
  • 最も離れた瞬間には、蛙と皿の相対速度が0、つまり両者の速度が一致する。さらに、系全体の運動量が常に0であることから、このときの各物体の速度は全て0になる。
  • 位置エネルギーの基準をジャンプした高さに設定する。

具体的な解説と立式
ジャンプした位置を位置エネルギーの基準点(高さ0)とします。
始状態(ジャンプ直後):

  • 運動エネルギー \(K_{\text{初}}\): 問(2)で計算した通り、\(K_{\text{初}} = \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}(M+2m)v^2\)。
  • 位置エネルギー \(U_{\text{初}}\): \(0\)。

終状態(蛙が皿Aから最大距離\(h’\)だけ離れた瞬間):

  • このとき、蛙と皿Aの相対速度は0です。つまり、両者の速度は一致します。
  • 一方、系全体の運動量は常に0に保存されています。質量を持つ物体どうしが同じ速度で運動して運動量の和が0になるためには、その速度は0でなければなりません。したがって、この瞬間、蛙、皿A、皿B、おもりは全て一瞬静止します。
  • 運動エネルギー \(K_{\text{後}}\): \(0\)。
  • 位置エネルギー \(U_{\text{後}}\): 蛙は基準点からある高さ\(y_{\text{蛙}}\)に、皿Aは高さ\(y_{\text{皿A}}\)に移動したとします。皿Bとおもりは、皿Aと逆向きに同じ距離だけ移動するので、その高さは\(-y_{\text{皿A}}\)です。
    $$
    \begin{aligned}
    U_{\text{後}} &= Mgy_{\text{蛙}} + mgy_{\text{皿A}} + (M+m)g(-y_{\text{皿A}}) \\[2.0ex]
    &= Mgy_{\text{蛙}} – Mgy_{\text{皿A}} \\[2.0ex]
    &= Mg(y_{\text{蛙}} – y_{\text{皿A}})
    \end{aligned}
    $$
    ここで、\(y_{\text{蛙}} – y_{\text{皿A}}\)は、まさに蛙と皿Aの間の距離、すなわち最大距離\(h’\)に他なりません。
    $$
    \begin{aligned}
    U_{\text{後}} &= Mgh’
    \end{aligned}
    $$

力学的エネルギー保存則 \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\) より、
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}(M+2m)v^2 + 0 &= 0 + Mgh’
\end{aligned}
$$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
  • 運動量保存則(終状態の速度を決定するために使用)
計算過程

立式したエネルギー保存則の左辺は、問(2)で考えた蛙が生み出すエネルギー\(Mgh\)に等しいです。
問(2)の式 \(Mgh = \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}(M+2m)v^2\) を用いると、
$$
\begin{aligned}
Mgh &= Mgh’
\end{aligned}
$$
したがって、
$$
\begin{aligned}
h’ &= h
\end{aligned}
$$
これは、\(h\)の1倍です。

この設問の平易な説明

ジャンプした後の蛙と皿たちのグループ全体に注目します。このグループ全体のエネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの合計)は、時間が経っても変わりません。ジャンプ直後は、全員がスピードを持っているので運動エネルギーが最大で、位置エネルギーは基準のゼロです。一方、蛙が皿から一番遠く離れた瞬間には、実はグループ全員が一瞬だけ静止します。このとき、運動エネルギーはゼロになり、ジャンプ直後に持っていた運動エネルギーが全て位置エネルギーに変わったことになります。このエネルギーの移り変わりを式にすると、驚くほど簡単に最大距離が\(h\)であることがわかります。

結論と吟味

結果は主たる解法と完全に一致します。相対運動を考えるよりも、系全体のエネルギーに着目する方が、物理的見通しが良く、計算も劇的に簡略化されます。複雑な問題において、どの保存則が適用できるかを見抜くことの重要性を示す好例です。

解答 (3) 1倍

【コラム】問題に関する追加の考察 (Q1, Q2)

Q1: 蛙が皿Aから最も離れる時と、蛙が床に対して最高点に達する時では、どちらが先に起こるか。計算ではなく、定性的に考察してみよ。

思考の道筋とポイント
「蛙が皿Aから最も離れる時」は、蛙と皿Aの相対速度が0、すなわち両者の床に対する速度が一致する時です。「蛙が床に対して最高点に達する時」は、蛙の床に対する速度が0になる時です。系全体の運動量が保存されることを利用して、この二つの瞬間の関係を考察します。
この設問における重要なポイント

  • 系全体の運動量は、ジャンプ後も常に0に保存される。
  • 「最も離れる」とは、相対速度が0、つまり両者の速度が一致することを意味する。
  • 「最高点に達する」とは、床に対する速度が0になることを意味する。

具体的な解説と考察
蛙、皿A、皿B、おもりからなる系全体の運動量は、ジャンプ前が0であるため、ジャンプ後も常に0に保存されます。
$$
\begin{aligned}
p_{\text{全体}} &= 0 \quad (\text{常に})
\end{aligned}
$$
「蛙が皿Aから最も離れる時」とは、定義より、蛙の速度\(v_{\text{蛙}}\)と皿Aの速度\(v_{\text{皿A}}\)が等しくなる瞬間です。
$$
\begin{aligned}
v_{\text{蛙}} &= v_{\text{皿A}}
\end{aligned}
$$
このとき、皿Bとおもりの速度\(v_{\text{皿B}}\)は、皿Aと逆向きに同じ大きさなので \(v_{\text{皿B}} = -v_{\text{皿A}}\) となります。
この瞬間の全運動量を計算すると、
$$
\begin{aligned}
p_{\text{全体}} &= M v_{\text{蛙}} + m v_{\text{皿A}} + (M+m) v_{\text{皿B}} \\[2.0ex]
&= M v_{\text{蛙}} + m v_{\text{蛙}} + (M+m) (-v_{\text{蛙}}) \\[2.0ex]
&= (M+m)v_{\text{蛙}} – (M+m)v_{\text{蛙}} \\[2.0ex]
&= 0
\end{aligned}
$$
この計算は、\(v_{\text{蛙}}\)がどんな値であっても成り立ちます。しかし、これは1次元化モデルでの考察であり、実際の上下運動を考えると、運動量が0であるという条件はより強い制約を持ちます。
模範解答の解説にあるように、一次元化された系で運動量が0であり、かつ速度が一致するためには、その共通の速度は0でなければなりません。
したがって、蛙が皿Aから最も離れる瞬間、
$$
\begin{aligned}
v_{\text{蛙}} &= 0
\end{aligned}
$$
となります。
蛙の床に対する速度が0になるということは、定義上、「蛙が床に対して最高点に達する時」を意味します。
よって、二つの現象は同時に起こります。

使用した物理法則

  • 運動量保存則
  • 相対速度の概念
この設問の平易な説明

グループ全体の勢いの合計は、ジャンプした後もずっとゼロのままです。蛙が皿から一番遠ざかるのは、蛙と皿が(床から見て)同じ速度になったときです。もしこの「同じ速度」がゼロでなかったら、例えば全員が上向きに少しでも動いていたら、グループ全体の勢いは上向きになってしまい、合計がゼロというルールに反します。したがって、蛙と皿の速度が同じになる瞬間というのは、全員がピタッと一瞬だけ止まる瞬間しかないのです。蛙が止まるということは、それが最高点に達した時なので、結局「最も離れる時」と「最高点に達する時」は同じ瞬間だということになります。

結論と吟味

定性的な考察により、蛙が皿Aから最も離れる時と、床に対して最高点に達する時は同時に起こると結論付けられます。これは、問(3)の別解で、最も離れた瞬間の運動エネルギーを0としたことの論理的な裏付けにもなっています。

Q2: (1)で蛙がとび上がるときAを押す力をN、糸の張力をT、その際の時間をΔtとする。蛙、A、Bとおもりの一体、についてそれぞれ力積と運動量の関係式を記し、次に運動量保存則を導いてみよ。

思考の道筋とポイント
この問いは、問(1)で用いた運動量保存則が、より基本的な法則である「力積と運動量の関係」からどのように導かれるかを示すことを目的としています。蛙、皿A、皿Bとおもりの3つの部分に分け、それぞれについて力積と運動量の関係式を立てます。そして、これらの式を連立させ、内力である\(N\)と\(T\)を消去することで、系全体の関係式を導出します。
この設問における重要なポイント

  • 各物体にはたらく力をすべて正確に図示する。
  • 作用・反作用の法則(蛙が皿を押す力と皿が蛙を押す力\(N\))を正しく適用する。
  • 糸の張力\(T\)が、皿Aと皿B+おもりの両方に(上向きに)はたらくことを理解する。
  • 3つの式をうまく組み合わせ、内力を消去する代数的な操作を行う。

具体的な解説と立式
鉛直上向きを正の向きとします。ジャンプが起こる非常に短い時間\(\Delta t\)の間に、各物体が受ける力積と、それによる運動量の変化の関係を立式します。初期速度はすべて0です。

  1. 蛙(質量\(M\))について:
    蛙には、皿Aから上向きに押される力\(N\)と、下向きの重力\(Mg\)がはたらきます。
    $$
    \begin{aligned}
    (N – Mg)\Delta t &= M V – 0
    \end{aligned}
    $$
  2. 皿A(質量\(m\))について:
    皿Aには、糸から上向きに引かれる張力\(T\)、蛙から下向きに押される力\(N\)、そして下向きの重力\(mg\)がはたらきます。
    $$
    \begin{aligned}
    (T – N – mg)\Delta t &= m(-v) – 0
    \end{aligned}
    $$
  3. 皿Bとおもり(一体として質量\(M+m\))について:
    この一体には、糸から上向きに引かれる張力\(T\)と、下向きの重力\((M+m)g\)がはたらきます。
    $$
    \begin{aligned}
    \{T – (M+m)g\}\Delta t &= (M+m)v – 0
    \end{aligned}
    $$

これらの3つの式から、運動量保存則に相当する式を導きます。

使用した物理公式

  • 力積と運動量の関係: \((\text{力積}) = (\text{運動量の変化})\)
  • 作用・反作用の法則
計算過程

まず、1番目と2番目の式を足し合わせることで、内力\(N\)を消去します。
$$
\begin{aligned}
(N – Mg)\Delta t + (T – N – mg)\Delta t &= MV + m(-v) \\[2.0ex]
\{T – (Mg + mg)\}\Delta t &= MV – mv \\[2.0ex]
\{T – (M+m)g\}\Delta t &= MV – mv
\end{aligned}
$$
得られたこの式の左辺は、3番目の式の左辺と全く同じ形をしています。これは、皿Aと皿B+おもりをつなぐ糸の張力\(T\)と、それらにはたらく重力の関係が、蛙との相互作用を通じて結びついていることを示しています。
したがって、両式の右辺も等しくなければなりません。
$$
\begin{aligned}
MV – mv &= (M+m)v
\end{aligned}
$$
この式を整理すると、
$$
\begin{aligned}
MV &= mv + (M+m)v \\[2.0ex]
0 &= MV – mv – (M+m)v
\end{aligned}
$$
これは、問(1)で運動量保存則として用いた式そのものです。

この設問の平易な説明

「運動量保存則」という便利な法則は、魔法のように現れたわけではありません。その正体は、複数の物体がお互いに力を及しあうときの、より基本的なルール(力積と運動量の関係)をまとめたものです。この問題では、蛙、皿A、皿Bとおもりの3つの登場人物それぞれについて、「受けた力の影響で、これだけ運動が変化した」という式を立てます。そして、登場人物の間だけでやり取りされる内部の力(蛙が皿を押す力や、糸が引く力)を式の上でうまく消去してあげると、最終的にグループ全体としての運動の関係式、つまり運動量保存則が姿を現すのです。

結論と吟味

各物体についての力積と運動量の関係式から、内力\(N\)と\(T\)を消去することにより、系全体の運動量保存則が導かれることが示されました。これは、運動量保存則が、個々の物体の運動法則と作用・反作用の法則から導かれる普遍的な原理であることを再確認するものです。ジャンプのような複雑な内力が働く現象でも、系全体で考えればシンプルな保存則が成り立つ理由が、この導出過程から理解できます。

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 運動量保存則とエネルギー保存則の使い分け:
    • 核心: この問題は、一見複雑な複数の物体の運動を、「運動量」と「エネルギー」という2つの保存量に着目して解き明かす典型問題です。蛙のジャンプという瞬間的な現象(力積が関わる)には運動量保存則を、ジャンプという仕事によって生み出されたエネルギーの分配や、その後の状態変化にはエネルギー保存則(またはエネルギーの変換関係)を適用するという、2つの法則の的確な使い分けが核心となります。
    • 理解のポイント:
      1. 運動量保存則の適用場面: 蛙のジャンプは、系内部の力(内力)によるもので、非常に短い時間で起こります。このような「分裂」や「合体」のように内力が外力に比べて圧倒的に大きい現象では、運動量保存則が有効です。特にこの問題では「1次元化」というモデル化を行うことで、滑車系の運動を一直線上の運動とみなし、運動量保存則を適用しやすくしています。
      2. エネルギー保存則の適用場面: 問(2)では、蛙が「仕事」をしてエネルギーを生み出し、それが系全体の運動エネルギーに変わるという「エネルギーの変換」を考えます。問(3)では、ジャンプ後の運動において、系全体の運動エネルギーと位置エネルギーの和(力学的エネルギー)が保存されることを利用して、最もシンプルに解を導くことができます。
      3. なぜ両方が必要なのか: 運動量保存則だけでは速度の「比」しかわからず、エネルギー保存則だけではジャンプ直後の速度が未知数だらけになります。両者を連立させることで、初めて具体的な速度の値を求めることができます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 台の上での物体の運動: 静止した台の上で人が歩き始めたり、物体が滑り始めたりする問題。人と台を一つの系とみなせば、水平方向の運動量が保存されます。
    • 分裂・合体現象: ロケットの切り離し、静止した物体が爆発して分裂する問題、動いている物体どうしが衝突して一体となる問題など。これらはすべて、分裂・合体の前後で系の運動量が保存されることを利用します。
    • 滑車で繋がれた物体系: 本問のように、滑車を介して複数の物体が連動して運動する問題。系全体の運動方程式を立てるか、あるいはエネルギー保存則を適用することが多いです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「系」をどう設定するか: 問題を解く上で最も重要な最初のステップです。どこまでを一つの「系」とみなすかで、適用できる法則が変わります。内力と外力を見極め、外力の合力が0になるような系をうまく設定することが鍵です。本問では(蛙+皿A+皿B+おもり)を一つの系と考えるのが基本です。
    2. どの保存則が使えるか:
      • 「衝突」「分裂」「ジャンプ」といったキーワードがあれば、まず運動量保存則を疑います。
      • 「なめらかな面」「ばね」「重力下での運動」といったキーワードで、摩擦や空気抵抗などの非保存力が仕事をしない状況であれば、力学的エネルギー保存則が強力な武器になります。
    3. 相対運動の視点: 2つの物体の間の距離や相対的な速さが問われている場合、一方の物体から見たもう一方の運動を考える「相対運動」の視点が有効です。問(3)の主たる解法のように、相対速度や相対加速度を計算することで、問題が単純化されることがあります。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 運動量の向き(符号)の間違い:
    • 誤解: 運動量をスカラー量のように扱い、速さだけで計算してしまう。
    • 対策: 運動量はベクトル量であることを常に意識する。一直線上の運動では、必ず正の向きを定め、速度の符号に注意して運動量の和を計算する習慣をつける。本問の1次元化モデルでは、蛙の上昇方向を正とした場合、皿Aの下向きの運動や皿Bの上向きの運動が、モデル上どちら向きの運動量になるかを正確に把握する必要があります。
  • エネルギー保存則の適用範囲の誤り:
    • 誤解: 蛙のジャンプの前後で、力学的エネルギーが保存されると考えてしまう。
    • 対策: 蛙のジャンプは、蛙自身の体内の化学エネルギーが運動エネルギーに変換される現象であり、この過程で系の力学的エネルギーは増加します。これは「非保存力(蛙の筋力)が仕事をした」状況です。エネルギー保存則が使えるのは、ジャンプが終わった「後」の運動からです。問(2)はエネルギー「保存」ではなく、蛙が生み出したエネルギーと運動エネルギーの「変換関係」の式であると正しく理解することが重要です。
  • 相対速度の計算ミス:
    • 誤解: \(v_{\text{相対}} = v_A + v_B\) のように、単純に速さを足し引きしてしまう。
    • 対策: 相対速度はベクトルの引き算(\(\vec{v}_{AB} = \vec{v}_B – \vec{v}_A\))であることを徹底する。一直線上の運動では、符号を含めて計算することが不可欠です。問(3)で蛙の皿Aに対する相対初速度を計算する際、蛙の速度\(V\)(上向き、正)から皿Aの速度\(-v\)(下向き、負)を引くため、\(V – (-v) = V+v\) となる点を間違えないように注意が必要です。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 運動量保存則:
    • 選定理由: 蛙のジャンプという、系内部の力によって各部分の速度が瞬間的に変化する現象を扱うため。外力(重力)による力積は、ジャンプの短い時間では内力(蛙が皿を押す力)による力積に比べて無視できると近似でき、運動量保存則が非常に良い精度で成り立ちます。
    • 適用根拠: 問題の状況が「分裂」と類似しており、ジャンプの前後で速度の関係を知りたいという問いの要求に最も適した法則だからです。
  • エネルギーの変換関係(問(2)):
    • 選定理由: 「蛙が床では高さ\(h\)まで上がれるエネルギー」という情報が与えられており、このエネルギーがジャンプ後の運動エネルギーにどう分配されたかを問われているため。
    • 適用根拠: 蛙が生み出すエネルギーという「原因」と、ジャンプ後の各物体の運動エネルギーという「結果」を結びつける法則として、エネルギーの観点から立式するのが最も自然です。
  • 相対運動の公式(問(3)主解法):
    • 選定理由: 「蛙が皿Aから離れる距離の最大値」という、2物体間の相対的な位置関係が問われているため。
    • 適用根拠: 2つの物体がそれぞれ異なる加速度で運動している状況で、一方から見たもう一方の運動を記述するのに特化した考え方だからです。基準となる物体(皿A)の運動を差し引いて考えることで、問題を見通し良く整理できます。
  • 力学的エネルギー保存則(問(3)別解):
    • 選定理由: ジャンプ後の運動では、系内にはたらく力は重力と張力のみです。系全体(地球も含む)で考えれば、張力は内力となり、重力は保存力なので、系全体の力学的エネルギーが保存されるため。
    • 適用根拠: 始状態(ジャンプ直後)と終状態(最大距離)の2つの瞬間の状態量が分かれば、途中の複雑な運動過程を追うことなく、エネルギーの関係だけで解を導けるため、計算を大幅に簡略化できます。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式の整理:
    • 特に注意すべき点: この問題のように多くの文字(\(M, m, V, v, g, h, h’\))が登場する場合、式が複雑になりがちです。特に、分数の計算や2乗の展開でミスが起こりやすいです。
    • 日頃の練習: 途中式を省略せず、一行一行丁寧に変形する。問(2)や問(3)のように、前の設問で求めた関係式を代入する際は、どの式を代入するのかを明確に記述し、代入後の式を慎重に整理する癖をつける。例えば、\(v\)を代入する前に、式全体を\(V^2\)について整理しておくなど、計算の見通しを立てることが重要です。
  • 符号の管理:
    • 特に注意すべき点: 鉛直方向の運動を扱うため、上向きを正とするか下向きを正とするか、最初に座標軸を明確に設定することが不可欠です。速度、加速度、変位の符号が一貫しているか、常に確認しながら立式、計算を進める必要があります。
    • 日頃の練習: 問題用紙の余白に必ず座標軸の図を描き込む。立式した際に、各項の符号が物理的な意味(力の向きや速度の向き)と合っているかを確認する。
  • 代入のタイミング:
    • 特に注意すべき点: 問(3)の計算では、\(v\)を\(V\)で表す式や、\(V^2\)を\(g, h\)で表す式など、複数の関係式を代入します。どの順番で代入するかで計算の煩雑さが変わります。
    • 日頃の練習: まずは文字式のまま最後まで計算を進め、最終段階で具体的な関係式を代入する方が、見通しが良くなることが多いです。途中で数値を代入したり、複雑な式を早めに代入したりすると、式全体が複雑になり、ミスを誘発しやすくなります。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 速度の比 \(v = \frac{M}{M+2m}V\):
      • 吟味の視点: \(M, m\)は正なので、\(\frac{M}{M+2m}\)は1より小さい正の数です。つまり \(v < V\) となり、皿の速さが蛙の速さを超えないという直感に合致します。もし皿が非常に軽い(\(m \to 0\))なら \(v \to V\)、非常に重い(\(m \to \infty\))なら \(v \to 0\) となり、これも物理的に妥当です。
    • (2) 蛙の速度 \(V\):
      • 吟味の視点: もし皿が非常に重い(\(m \to \infty\))場合、\(V \to \sqrt{\frac{2mgh}{m}} = \sqrt{2gh}\) となります。これは、動かない床から高さ\(h\)までジャンプするときの初速度と一致し、妥当です。逆に皿が非常に軽い(\(m \to 0\))場合、\(V \to \sqrt{gh}\) となり、\(\sqrt{2gh}\)より小さくなります。これは、エネルギーの一部が皿を動かすのに使われるため、蛙自身の速度は遅くなるという直感と一致します。
    • (3) 最大距離 \(h’ = h\):
      • 吟味の視点: この結果は非常にシンプルで、系のパラメータ(\(M, m\))に依存しません。これは、エネルギーの分配のされ方と、その後の運動(加速度)の大きさが、うまく相殺しあう関係になっていることを示唆しています。例えば、皿が重いとジャンプ直後の蛙の速度は上がりますが、その後の皿の上昇加速度は小さくなります。これらの効果が相殺し、結果的に相対的な到達距離は変わらない、と解釈できます。
  • 極端な場合や既知の状況との比較:
    • もし皿の質量\(m\)が0だったら?: この系は蛙と質量\(M\)のおもりが糸で繋がっているだけになります。運動量保存則から \(MV – MV = 0\) となり自明です。エネルギーの式からは \(Mgh = \frac{1}{2}MV^2 + \frac{1}{2}MV^2 = MV^2\) となり \(V=\sqrt{gh}\) が得られます。この状況で最大距離を考えると、蛙とおもりは同じ加速度\(g\)で運動するため相対加速度は0。つまり等速で離れていくだけで、最大距離は定義できません。問題の答えが\(m\)に依存しないからといって、\(m=0\)の状況と同じになるわけではない点に注意が必要です。
    • もし蛙の質量\(M\)が0だったら?: ジャンプ自体が起こりません。全ての速度、エネルギーは0となり、問題が成立しません。式の上でも、\(v=0, V=0, h’=0\) となり、矛盾はありません。
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問題20 (一橋大+近畿大)

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、エレベーター内でのばねはかりの目盛りの変化を通じて、エレベーターの加速度や運動の様子を解析するものです。与えられたグラフから各時間帯でのばねはかりの読み取り値を把握し、それをもとに力のつり合い(慣性力を考慮する場合)や運動方程式を立てていきます。最終的には、エレベーターの速度変化のグラフを描き、総移動距離を求めることになります。

与えられた条件
  • 物体(おもり)の質量: \(200\,\text{g} = 0.200\,\text{kg}\) (解説内では \(m = 0.200\,\text{kg}\) とします)
  • ばねはかりの目盛りの変化(グラフより):
    • \(0\)秒~\(4\)秒: \(220\,\text{g}\) (\(0.220\,\text{kg}\) に相当する力が働いている)
    • \(4\)秒~\(9\)秒: \(200\,\text{g}\) (\(0.200\,\text{kg}\) に相当する力が働いている)
    • \(9\)秒~停止まで: \(160\,\text{g}\) (\(0.160\,\text{kg}\) に相当する力が働いている)
  • 重力加速度の大きさ: \(g = 9.8\,\text{m/s}^2\)
問われていること
  1. (1) 初めの\(4\)秒間でのエレベーターの加速度の向きと大きさ。
  2. (2) \(9\)秒から停止するまでのエレベーターの加速度の向きと大きさ。
  3. (3) エレベーターが停止した時刻。
  4. (4) 動きだしてから停止するまでのエレベーターの速さをグラフに描くこと。
  5. (5) エレベーターが全部で何\(m\)上昇または下降したか。

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 提示する別解
    • 問(1), (2)の別解: 地上の観測者から見た運動方程式を用いる解法
      • 主たる解法がエレベーター内の観測者の視点(非慣性系)で慣性力を用いて力のつり合いを考えるのに対し、別解では地上の観測者の視点(慣性系)で運動方程式を立てて解きます。
    • 問(5)の別解: 各区間の移動距離の和を計算する解法
      • 主たる解法が\(v-t\)グラフの面積から一括で距離を求めるのに対し、別解では3つの運動区間(加速、等速、減速)それぞれの移動距離を公式で計算し、それらを合計します。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理モデルの深化: 問(1),(2)の別解を通じて、「慣性力」という見かけの力と、「運動方程式」という普遍的な法則が、視点を変えただけで本質的に同じ現象を記述していることを深く理解できます。これは慣性系と非慣性系の考え方を学ぶ上で非常に重要です。
    • 計算手法の多様性: 問(5)の別解は、グラフが描けない、あるいは面積計算が複雑な場合でも、各区間の運動が分かっていれば距離を求められるという、より基本的なアプローチを示します。これにより、問題解決の選択肢が広がります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的に得られる答えは完全に一致します。

この問題のテーマは「慣性力」と「運動方程式」です。エレベーターのような加速度運動する座標系(非慣性系)における物体の運動を扱います。ばねはかりの目盛りの変化から、エレベーターの運動状態を段階的に解明していくことが求められます。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動の3法則: 特に運動方程式(\(ma=F\))は、地上の観測者(慣性系)の視点で問題を解く際の基本となります。
  2. 慣性力: 加速度運動する観測者から見たときに現れる見かけの力です。観測者の加速度と逆向きに、大きさ\(ma\)で働くと考えることで、加速度運動する系の中でも力のつり合いとして問題を扱うことができます。
  3. v-tグラフ: 速度と時間の関係を表すグラフです。その傾きは加速度を、時間軸と囲む面積は移動距離を表し、物体の運動を視覚的に理解する上で非常に有効です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問(1)と(2)では、各時間帯でのばねはかりの目盛りから、ばねの弾性力を計算します。この弾性力と重力の関係から、慣性力(または運動方程式における合力)を求め、エレベーターの加速度を導出します。
  2. 問(3)と(4)では、(1)と(2)で求めた加速度を用いて、各区間の速度変化を計算し、エレベーターが停止する時刻を求め、\(v-t\)グラフを作成します。
  3. 問(5)では、作成したv-tグラフの面積を計算することで、エレベーターの総移動距離を求めます。

問(1)

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