325 反射板がある場合のドップラー効果
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、音源、観測者、反射板が一直線上を運動するときの「ドップラー効果」を扱います。特に、観測者が動くことによる「うなり」の計算や、動く反射板による反射音の振動数を正しく求める能力が問われます。
この問題の核心は、ドップラー効果の公式を様々な状況に正しく適用すること、そして「反射」という現象を「受信」と「送信」の2段階のプロセスとして分解して考えることです。
- 音源Aの振動数: \(f\)
- 音速: \(V\)
- (1) 観測者Bの速さ: \(v\) (音源Aに向かう)
- (2) 反射板Cの速さ: \(u\) (観測者Bに向かう)
- 音源A、観測者B、反射板Cは一直線上に並ぶ
- \(v \ll V\), \(u \ll V\)
- (1) 観測者Bが観測するうなりの周期 \(T\)
- (2) 観測者Bが観測する、動く反射板Cによる反射音の振動数 \(f_4\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(2)の別解: 波長の変化に着目して導出する解法
- 模範解答がドップラー効果の公式を2回適用するのに対し、別解ではまず反射板が受け取る波の数を考え、次にその反射板が音源となって前方に送り出す波の「波長の圧縮」を計算することで、最終的な振動数を導出します。
- 設問(2)の別解: 波長の変化に着目して導出する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理現象の可視化: ドップラー効果が「波長の圧縮・伸長」という物理現象に起因することを、数式を追いながら具体的に理解できます。公式の丸暗記から一歩進んで、現象の根本原理に立ち返る思考法を養うことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「観測者や音源、反射板が動く場合のドップラー効果」です。特に、反射板が絡む問題の考え方をマスターすることが重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の公式: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_O}{V-v_S}f\)。音源と観測者を結ぶ向きを正とし、速度の符号を正しく設定することが重要です。
- うなりの振動数: 振動数がわずかに異なる2つの音を同時に聞くと、うなりが生じます。その振動数 \(n\) は \(n = |f_1 – f_2|\) で与えられます。
- 周期と振動数の関係: 周期 \(T\) と振動数 \(n\) の間には \(T = \displaystyle\frac{1}{n}\) の関係があります。
- 反射音の考え方: 反射板による音の反射は、「(i) 反射板が動く観測者として音を受け取り、(ii) 次にその振動数で音を出す動く音源になる」という2段階のプロセスとして考えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、観測者Bが聞く「直接音」と「反射音」の振動数をそれぞれドップラー効果の公式で求め、その差からうなりの振動数と周期を計算します。
- (2)では、まず反射板Cが「観測者」として受け取る音の振動数を求めます。次に、その振動数の音を出す「音源」となった反射板Cから、静止している観測者Bに届く音の振動数を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
観測者Bは、音源Aから直接届く音と、静止した反射板Cで反射された音を同時に聞きます。観測者Bは動いているため、これら2つの音に対してドップラー効果が生じ、聞こえる振動数が異なります。この振動数の差によってうなりが発生します。直接音は観測者Bが音源Aに「近づく」ケース、反射音は観測者Bが音源(反射板C)から「遠ざかる」ケースとして、それぞれの振動数を計算し、うなりの周期を求めます。
この設問における重要なポイント
- 直接音の振動数 \(f_1\): 音源A(静止)に対し、観測者Bが速さ\(v\)で近づく状況を考えます。
- 反射音の振動数 \(f_2\): 反射板C(静止)を振動数\(f\)の音を出す音源とみなし、観測者Bが速さ\(v\)で遠ざかる状況を考えます。
- うなりの計算: うなりの振動数 \(n\) は、2つの振動数の差の絶対値 \(n = |f_1 – f_2|\) で計算し、周期 \(T\) はその逆数 \(T = \displaystyle\frac{1}{n}\) で求めます。
具体的な解説と立式
ドップラー効果の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_O}{V-v_S}f\) において、音源から観測者へ向かう向きを正とします。
まず、観測者Bが聞く直接音の振動数 \(f_1\) を求めます。
音源Aは静止しているので \(v_S = 0\)。観測者Bは音源Aに近づくので、その速度は \(v_O = -v\) となります。
$$
\begin{aligned}
f_1 &= \frac{V-(-v)}{V-0}f \\[2.0ex]
&= \frac{V+v}{V}f \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
次に、観測者Bが聞く反射音の振動数 \(f_2\) を求めます。
反射板Cは静止しているので、振動数\(f\)の音を出す静止音源とみなせます。よって \(v_S = 0\)。観測者Bは反射板Cから遠ざかるので、その速度は \(v_O = v\) となります。
$$
\begin{aligned}
f_2 &= \frac{V-v}{V-0}f \\[2.0ex]
&= \frac{V-v}{V}f \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
観測者Bが聞くうなりの振動数 \(n\) は、\(v>0\) より \(f_1 > f_2\) なので、
$$ n = f_1 – f_2 \quad \cdots ③ $$
求める周期 \(T\) は、
$$ T = \frac{1}{n} \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- ドップラー効果: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_O}{V-v_S}f\)
- うなりの振動数: \(n = |f_1 – f_2|\)
- 周期と振動数の関係: \(T = \displaystyle\frac{1}{n}\)
③式に①式と②式を代入して、うなりの振動数 \(n\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{V+v}{V}f – \frac{V-v}{V}f \\[2.0ex]
&= \frac{(V+v) – (V-v)}{V}f \\[2.0ex]
&= \frac{2v}{V}f
\end{aligned}
$$
④式より、求めるうなりの周期 \(T\) は、
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{1}{n} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\frac{2v}{V}f} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{2vf}
\end{aligned}
$$
救急車のサイレンが近づくときと遠ざかるときで音が変わるように、この問題でも、自分が音源に近づくことで高く聞こえる音(直接音)と、自分が音源(この場合は反射板)から遠ざかることで低く聞こえる音(反射音)を同時に聞いています。この「高い音」と「低い音」が混ざることで、「ワーン、ワーン」という音の強弱、つまり「うなり」が聞こえます。このうなりが1秒間に何回起こるか(うなり振動数)を計算し、その逆数をとることで、うなり1回あたりの時間(周期)を求めています。
うなりの周期は \(T = \displaystyle\frac{V}{2vf}\) です。
この結果は、観測者の速さ \(v\) が大きいほど、直接音と反射音の振動数の差が大きくなり、うなりの振動数 \(n\) が増加(周期 \(T\) は減少)することを意味しており、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
動く反射板による反射音の振動数を求める問題です。これは、2段階のドップラー効果として考えるのが定石です。
ステップ1: まず、音源Aから出た音を、動いている反射板Cが「観測者」として受け取ると考え、その振動数 \(f_3\) を求めます。
ステップ2: 次に、反射板Cは、ステップ1で求めた振動数 \(f_3\) の音を出す「音源」となって動いていると考えます。この動く音源からの音を、静止している観測者Bが聞くときの振動数 \(f_4\) を求めます。この \(f_4\) が求める答えとなります。
この設問における重要なポイント
- ステップ1 (反射板Cが観測者): 音源Aは静止(\(v_S=0\))。観測者である反射板Cは、速さ\(u\)で音源に近づきます(\(v_O=-u\))。
- ステップ2 (反射板Cが音源): 音源となった反射板Cは、振動数\(f_3\)の音を出しながら、観測者Bに速さ\(u\)で近づきます(\(v_S=u\))。観測者Bは静止しています(\(v_O=0\))。
- 反射の性質: 反射板は、受け取った波をそのままの振動数で反射します。つまり、ステップ1で観測した振動数\(f_3\)が、ステップ2で音源が出す振動数になります。
具体的な解説と立式
音源から観測者へ向かう向きを正とします。
ステップ1: 反射板Cが受け取る音の振動数を \(f_3\) とします。
音源Aは静止(\(v_S=0\))、観測者である反射板Cは音源Aに近づくので、その速度は \(v_O=-u\) です。
$$
\begin{aligned}
f_3 &= \frac{V-(-u)}{V-0}f \\[2.0ex]
&= \frac{V+u}{V}f \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
ステップ2: 観測者Bが聞く反射音の振動数を \(f_4\) とします。
今度は、反射板Cが振動数 \(f_3\) の音を出す音源となります。この音源は観測者Bに近づくので、その速度は \(v_S=u\) です。観測者Bは静止しているので \(v_O=0\) です。
$$
f_4 = \frac{V-0}{V-u}f_3 \quad \cdots ②
$$
使用した物理公式
- ドップラー効果: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_O}{V-v_S}f\)
②式に①式を代入して、\(f_4\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
f_4 &= \frac{V}{V-u} \times \left( \frac{V+u}{V}f \right) \\[2.0ex]
&= \frac{V(V+u)}{V(V-u)}f \\[2.0ex]
&= \frac{V+u}{V-u}f
\end{aligned}
$$
壁(反射板)が自分に向かって動いてくるときに、壁で反射した音がどう聞こえるか、という問題です。これは2つの出来事が連続して起こっていると考えます。まず、壁が「聞く側」として、音源からの音を受け取ります。壁は音源に近づいているので、少し高い音として聞きます。次に、壁はその「少し高い音」を、今度は「出す側(スピーカー)」になって、こちらに送り出します。壁はこちらに近づきながら音を出しているので、音はさらに高くなります。この2段階の効果によって、最終的に聞こえる音の高さ(振動数)が決まります。
観測者Bが聞く反射音の振動数は \(\displaystyle\frac{V+u}{V-u}f\) です。
反射板Cが観測者Bに近づく(\(u>0\))ので、分母は \(V\) より小さく、分子は \(V\) より大きくなります。したがって、\(f_4 > f\) となり、元の音より高く聞こえるという結果は物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
ドップラー効果を、公式ではなく波長の伸縮という物理現象の根本から考えます。
ステップ1: 反射板Cが単位時間に受け取る「波の数」を計算します。これは、音速で伝わる波に加えて、反射板自身が動いて横切る波の数を足し合わせることで求まります。この「波の数」が、反射板が観測する振動数\(f_3\)となります。
ステップ2: 反射板Cは、振動数\(f_3\)の音源として、前方に波を送り出します。反射板が動いているため、前方の波は進行方向に圧縮され、波長が短くなります。この圧縮された波長\(\lambda_4\)を計算します。
ステップ3: 静止している観測者Bは、音速\(V\)で伝わってくる波長\(\lambda_4\)の音を観測します。\(f_4 = V/\lambda_4\) の関係から、最終的な振動数を求めます。
この設問における重要なポイント
- 波の数の勘定: 動く観測者が単位時間に受け取る波の数は、媒質中の波長と、観測者の媒質に対する相対速度で決まります。
- 波長の圧縮: 動く音源の前方では、波が \(V-v_S\) の空間に詰め込まれるため、波長は \(\lambda’ = \displaystyle\frac{V-v_S}{f_{\text{音源}}}\) となります。
- 振動数の定義: 観測される振動数は、音速を観測地点での波長で割ったもの (\(f’ = V/\lambda’\))です。
具体的な解説と立式
ステップ1: 音源Aが発する音の波長は \(\lambda = \displaystyle\frac{V}{f}\) です。反射板Cは速さ\(u\)でこの波に向かって進むため、Cに対する音の相対速度は \(V+u\) となります。単位時間にCが受け取る波の数(振動数\(f_3\))は、この相対速度を波長で割ったものになります。
$$
\begin{aligned}
f_3 &= \frac{V+u}{\lambda} \\[2.0ex]
&= \frac{V+u}{V/f} \\[2.0ex]
&= \frac{V+u}{V}f \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
ステップ2: 反射板Cは、振動数\(f_3\)の音を出す音源として、速さ\(u\)で観測者Bに近づきます。このとき、Cの前方に送り出される音の波長\(\lambda_4\)は圧縮されます。1秒間に\(f_3\)個の波を出す間に音源自身が\(u\)だけ進むため、これらの波は \(V-u\) の長さの区間に詰め込まれます。よって、
$$ \lambda_4 = \frac{V-u}{f_3} \quad \cdots ② $$
ステップ3: 静止している観測者Bは、この波長\(\lambda_4\)の音を音速\(V\)で受け取ります。したがって、観測する振動数\(f_4\)は、
$$ f_4 = \frac{V}{\lambda_4} \quad \cdots ③ $$
使用した物理公式
- 波の基本式: \(V = f\lambda\)
- 相対速度の概念
③式に②式を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_4 &= \frac{V}{\frac{V-u}{f_3}} \\[2.0ex]
&= \frac{V f_3}{V-u}
\end{aligned}
$$
この式に①式を代入します。
$$
\begin{aligned}
f_4 &= \frac{V}{V-u} \times \left( \frac{V+u}{V}f \right) \\[2.0ex]
&= \frac{V(V+u)}{V(V-u)}f \\[2.0ex]
&= \frac{V+u}{V-u}f
\end{aligned}
$$
この解き方では、ドップラー効果を「波の長さが変わること」として捉えます。まず、壁(反射板)が音に向かって進むので、壁はたくさんの波を次々に受け取ります。これが第1段階です。次に、壁はその受け取ったたくさんの波を、こちらに向かって押し出すように反射します。壁がこちらに動いているので、反射された波はギュッと押し縮められて、波と波の間隔(波長)が短くなります。波長が短い音は、高い音として聞こえます。この「波の数の変化」と「波長の圧縮」の2段階を計算することで、最終的に聞こえる音の高さを求めています。
観測者Bが聞く反射音の振動数は \(\displaystyle\frac{V+u}{V-u}f\) となり、主たる解法と完全に一致しました。ドップラー効果の公式を構成する各要素が、それぞれ波長の圧縮や観測者が受け取る波の数の変化に対応していることを物理的に確認でき、より深い理解につながります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ドップラー効果の公式の体系的理解:
- 核心: \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_O}{V-v_S}f\) という一つの式で、音源や観測者が動くあらゆる状況を記述できることが核心です。重要なのは、公式を暗記するだけでなく、「音源から観測者へ向かう向きを正とする」という符号のルールを正確に適用し、\(v_O\)(観測者の速度)と \(v_S\)(音源の速度)に正しい符号の値を代入できる能力です。
- 理解のポイント: 分子の \(V-v_O\) は観測者が受け取る波の数を調整する項(観測者効果)、分母の \(V-v_S\) は波長の伸縮を調整する項(音源効果)と理解すると、公式の意味がより明確になります。
- 反射板の取り扱い:
- 核心: 反射板が関わる問題は、「(1) 反射板が動く観測者として音を受け取る → (2) 反射板がその振動数で音を出す動く音源になる」という2段階のドップラー効果としてモデル化できることが最大のポイントです。
- 理解のポイント: 反射板は単に音を跳ね返すだけでなく、自身が動くことで受け取る音の振動数を変化させ、さらに動くことで送り出す音の波長を変化させます。この二重の効果を正しく計算することが求められます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 風が吹いている場合: 風速を \(w\) とすると、音速が風上へは \(V-w\)、風下へは \(V+w\) に変化します。ドップラー効果の公式の \(V\) を、それぞれの向きに応じて \(V \pm w\) に置き換えて計算します。
- 斜めに動く場合: 音源や観測者が音の伝わる直線に対して斜めに動く場合、速度ベクトルを直線方向の成分に分解し、その成分の大きさだけを \(v_S\) や \(v_O\) として公式に代入します。
- パトカーと壁: パトカーがサイレンを鳴らしながら壁に向かって進むとき、運転手が聞く壁からの反射音の振動数を求める問題。これは「動く音源」から出て、「動く観測者」が聞く反射音という、本問よりも複雑な状況設定です。
- 初見の問題での着眼点:
- 登場人物と運動状態を整理する: 音源、観測者、反射板は誰か?それぞれ静止しているか、どの向きにどんな速さで動いているかを図に書き込み、状況を正確に把握します。
- 音の経路を特定する: 観測者が聞く音は、どの経路をたどってきたものか?(例:直接音、反射音など)経路ごとに分けて考えます。
- 各経路で符号ルールを適用する: 各経路について「音源から観測者へ向かう向き」を正と定め、\(v_S\) と \(v_O\) の符号を一つずつ慎重に決定します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 速度の符号ミス:
- 誤解: 近づくときは常にプラス、遠ざかるときは常にマイナス、と単純に覚えてしまう。
- 対策: 必ず「音源から観測者へ向かう向きを正」というルールに立ち返ること。図を描き、正の向きの矢印を書き込んでから、各物体の速度ベクトルがその矢印と同じ向きか逆向きかで符号(\(+\) or \(-\))を判断する習慣をつけましょう。
- 反射板を1回のドップラー効果で処理してしまう:
- 誤解: 反射板が動く場合も、単に動く音源として一度だけ公式を適用してしまう。
- 対策: 「反射=受信+送信」という2段階のプロセスを常に思い出すこと。反射板はまず「聞き手」として機能し、その後に「話し手」として機能するというイメージを持つことが重要です。
- うなりの計算での混同:
- 誤解: うなりの周期 \(T\) を求められているのに、振動数 \(n\) を答えてしまう。またはその逆。
- 対策: 問題文で問われているのが「周期(時間)」なのか「振動数(回数/秒)」なのかを最後に必ず確認すること。\(T=1/n\) の関係を明確に意識しましょう。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 波面の図: 音源から同心円状に広がる波面をイメージします。観測者が波面に向かって動けば、波面を横切る回数が増え(振動数増)、波面から逃げるように動けば回数が減ります(振動数減)。音源が動けば、進行方向の波面の間隔が密になり(波長短縮)、後方の波面の間隔が疎になります(波長伸長)。この波面の図は、ドップラー効果の物理的起源を理解する上で非常に有効です。
- プロセスごとの図示: 模範解答の図のように、(1)の直接音、(1)の反射音、(2)のステップ1、(2)のステップ2、というように、考える状況ごとに簡単な図を描くことが非常に有効です。それぞれの図に音源・観測者を明記し、速度ベクトルと「正の向き」の矢印を書き込むことで、符号ミスを劇的に減らせます。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 役割を明記する: 各図で、誰が「音源(S)」で誰が「観測者(O)」なのかを明確に書き込みます。特に反射板の問題では、ステップ1では反射板が「O」、ステップ2では「S」と役割が変わることを明記します。
- 速度の向きを明確に: 物理的な速度の向き(例:右向き)と、ドップラー効果の公式を適用するための「正の向き」の矢印を、混同しないように描き分けましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ドップラー効果の公式 \(f’ = \displaystyle\frac{V-v_O}{V-v_S}f\):
- 選定理由: 音源と観測者の間に相対的な運動がある場合の、観測される振動数の変化を記述する唯一の基本公式だからです。
- 適用根拠: この公式は、波の伝播と相対運動に関する普遍的な原理から導出されており、音波だけでなく光などの他の波にも(相対論的補正は必要だが)同様の考え方が適用できます。
- うなりの公式 \(n = |f_1 – f_2|\):
- 選定理由: 「周期的な音の強弱」という現象が記述されているため、これは「うなり」であると判断します。うなりの頻度(振動数)を計算するための定義式がこれです。
- 適用根拠: 2つの波の重ね合わせによって、振幅が周期的に変化する現象を数学的に表現したものです。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) うなりの周期の計算:
- 戦略: 直接音と反射音の2つの経路について、それぞれ観測者が聞く振動数を求める。その差からうなり振動数を計算し、逆数をとって周期を求める。
- フロー: ①直接音の振動数\(f_1\)を計算(S:静止, O:近づく) → ②反射音の振動数\(f_2\)を計算(S:静止, O:遠ざかる) → ③うなり振動数 \(n = f_1 – f_2\) を計算 → ④周期 \(T = 1/n\) を計算。
- (2) 動く反射板による反射音の振動数の計算:
- 戦略: 「反射板が聞く→反射板が出す」の2段階でドップラー効果を適用する。
- フロー: ①【Step1】反射板が「観測者」として聞く振動数\(f_3\)を計算(S:静止, O:近づく) → ②【Step2】反射板が振動数\(f_3\)の「音源」として出す音を、観測者Bが聞く振動数\(f_4\)を計算(S:近づく, O:静止) → ③式を結合して\(f_4\)を\(f\)で表す。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 分数の計算を丁寧に: (2)の計算のように、分数の掛け算(\(\displaystyle\frac{V}{V-u} \times \frac{V+u}{V}f\))が出てきます。焦って暗算せず、どの項とどの項が約分できるかを落ち着いて確認しましょう。この場合は \(V\) がきれいに消去できます。
- 文字式のまま計算を進める: もし問題に具体的な数値が与えられていたとしても、できるだけ計算の最終段階まで文字式のまま進めることを推奨します。途中で数値を代入すると、式全体の物理的な意味が見えにくくなったり、約分などの簡略化の機会を逃したりすることがあります。
- 単位の確認: 最終的に求めたものが「周期」なら単位は[s]、「振動数」なら[Hz]になるはずです。自分の計算結果の単位が物理的に正しいかを確認する癖をつけましょう。例えば(1)で求めた \(\displaystyle\frac{V}{2vf}\) の単位は \(\displaystyle\frac{[\text{m/s}]}{[\text{m/s}][\text{1/s}]} = [\text{s}]\) となり、周期の単位として正しいことが分かります。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) うなりの周期: 観測者Bが音源Aに近づくので、直接音\(f_1\)は元の\(f\)より高くなるはずです。一方、反射板Cからは遠ざかるので、反射音\(f_2\)は元の\(f\)より低くなるはずです。したがって、\(f_1 > f_2\) となり、うなりが生じるのは妥当です。また、もし \(v=0\) ならば \(f_1=f_2=f\) となり、うなり振動数 \(n=0\)(周期は無限大)となるはずで、計算結果 \(\displaystyle n = \frac{2v}{V}f\) もこの状況と一致します。
- (2) 反射音の振動数: 反射板Cは音源Aに近づき(音が高くなる効果)、さらに観測者Bに近づきながら音を出す(さらに音が高くなる効果)。2つの「音を高くする効果」が重なるので、最終的な振動数 \(f_4\) は元の \(f\) よりかなり高くなるはずです。計算結果 \(\displaystyle f_4 = \frac{V+u}{V-u}f\) は、\(u>0\) のとき分子が \(V\) より大きく、分母が \(V\) より小さくなるため、\(f_4 > f\) を満たしており、妥当です。
- 極端な場合を考える:
- もし反射板の速さ \(u\) が音速 \(V\) に近づいたらどうなるか?(2)の答え \(\displaystyle f_4 = \frac{V+u}{V-u}f\) の分母が0に近づき、振動数は無限大に発散します。これは、音源が音速で追いかけてくることで波が極端に圧縮される「衝撃波(ソニックブーム)」の形成を示唆しており、物理的な描像と一致します。
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326 斜め方向のドップラー効果
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、音源が観測者の正面を通過するような状況、すなわち「斜め方向のドップラー効果」を扱います。
この問題の核心は、ドップラー効果に寄与するのは音源と観測者を結ぶ「視線方向」の速度成分のみであると理解し、それを正しく計算することです。また、音の伝播時間と物体の移動時間を関連付けて、幾何学的な関係を解き明かす能力も試されます。
- 音源の振動数: \(f_0\)
- 音速: \(V\)
- 音源の速さ: \(v\) (\(v < V\))
- 観測者Pと軌道の最短距離: \(l\)
- 音源とPを結ぶ直線と軌道のなす角: \(\theta\)
- (1) 角度\(\theta\)の地点で発した音の観測振動数\(f\)
- (2) \(v=\frac{1}{2}V\), \(\theta=60^\circ\)のときの観測振動数\(f_1\)
- (3) 点Oで発した音を受け、同じ振動数で送り返した音の振動数\(f_2\)
- (4) (3)の音が音源に届いたときの、Oからの距離\(r\)
- (5) (4)の状況で音源が観測する振動数\(f_3\)
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
本解説は、模範解答で採用されている解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。
- 提示する別解
- 設問(4)の別解: 時刻を追跡し、音波と音源の位置関係から立式する解法
- 模範解答が「音の全行程の時間」と「音源の全行程の時間」が等しいという関係から立式するのに対し、別解では時刻\(t\)を導入し、「時刻\(t\)における音源の位置」と「時刻\(t\)におけるPから出た音波の波面の位置」が一致する条件として立式します。
- 設問(4)の別解: 時刻を追跡し、音波と音源の位置関係から立式する解法
- 上記の別解が有益である理由
- 物理描像の具体化: 「音が届く」という現象を、ある時刻における「波面」と「物体」の空間的な一致として捉えることで、時間と空間の関係をより具体的にイメージする訓練になります。
- 座標設定による解法: 座標系を設定し、時刻\(t\)の関数として物体の位置を記述するという、解析力学的な問題解決アプローチを学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、計算過程や思考の出発点が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。
この問題のテーマは「斜め方向のドップラー効果」です。音源が観測者の正面を通過するような状況を扱います。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ドップラー効果の速度成分: 音源や観測者が斜めに動く場合、ドップラー効果に影響するのは、両者を結ぶ直線(視線)方向の速度成分のみです。
- 速度の分解: 音源の速度\(v\)を、視線方向とその垂直方向に分解し、視線方向の成分 \(v\cos\theta\) を公式に適用します。
- 音の伝播時間: 音が空間を伝わる時間と、その間に物体が移動する時間を関連付けて立式する能力が問われます。
- 幾何学的な関係: 三平方の定理などを用いて、図形から距離や角度の関係を正しく導き出すことが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、音源の速度を観測者Pとの視線方向に分解し、ドップラー効果の公式を適用します。
- (2), (3)では、(1)の結果や特定の状況(真横を通過)における物理的考察から振動数を求めます。
- (4)では、「音がO→P→Rと進む時間」と「音源がO→Rと進む時間」が等しいという条件で方程式を立て、距離\(r\)を求めます。
- (5)では、(4)で求めた幾何学的関係を使い、再び視線方向の速度成分を求めてドップラー効果を適用します。