基本問題
251 内部エネルギーの保存
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「断熱容器内での気体の混合と自由膨張」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱力学第一法則: 気体の内部エネルギーの変化は、外部から得た熱量と外部からされた仕事の和で決まります。(\(\Delta U = Q + W_{\text{された}}\) または \(\Delta U = Q – W_{\text{した}}\))
- 内部エネルギー保存則: 断熱された系で、外部との仕事のやりとりがない場合、系全体の内部エネルギーは保存されます。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: 物質量 \(n\)、絶対温度 \(T\) の単原子分子理想気体の内部エネルギーは \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) で与えられます。
- 理想気体の状態方程式: 気体の圧力 \(p\)、体積 \(V\)、物質量 \(n\)、絶対温度 \(T\) の間には \(pV=nRT\) の関係が成り立ちます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、容器全体が断熱されており、気体が真空へ膨張(自由膨張)する際には外部に仕事をしないことから、内部エネルギーが保存されることを利用して温度 \(T\) を求めます。その後、気体全体に状態方程式を適用して圧力 \(p\) を求めます。
- (2)では、2種類の気体が混合する前後で、系全体の内部エネルギーが保存されることを利用して、混合後の温度 \(T\) を求めます。その後、(1)と同様に気体全体に状態方程式を適用して圧力 \(p\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
容器2が真空の場合、栓を開けると容器1の気体は容器2へ広がります。この現象は「自由膨張」と呼ばれます。容器全体は断熱されており、気体は真空(何もない空間)へ広がるため、外部に対して仕事をしません。この2つの条件から、熱力学第一法則を用いて内部エネルギーの変化を考え、最終的な温度と圧力を求めます。
この設問における重要なポイント
- 断熱容器 \(\rightarrow\) 外部との熱のやりとりがない (\(Q=0\))。
- 真空への膨張(自由膨張) \(\rightarrow\) 外部にする仕事がない (\(W=0\))。
- 熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) より、\(\Delta U = 0\)。つまり内部エネルギーは保存される。
- 単原子分子理想気体では、内部エネルギーは温度だけで決まるため、温度も変化しない。
具体的な解説と立式
栓を開ける前後で、系全体を考えます。
系は2つの断熱容器からなり、外部との熱のやりとりはありません。よって、系が得る熱量 \(Q\) は0です。
$$ Q = 0 $$
また、栓を開けると気体は真空中に膨張します。これは、気体が外部の何かを押しのけて体積を増やすわけではないため、気体が外部にする仕事 \(W\) は0です。この現象を自由膨張といいます。
$$ W = 0 $$
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) より、系の内部エネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
$$ \Delta U = 0 – 0 = 0 $$
となり、内部エネルギーは保存されます。
栓を開ける前の系の内部エネルギー \(U_{\text{前}}\) は、容器1の気体の内部エネルギーのみです。容器2は真空なので内部エネルギーは0です。
$$ U_{\text{前}} = \displaystyle\frac{3}{2}n_1RT_1 $$
栓を開けて十分時間が経った後の系の内部エネルギー \(U_{\text{後}}\) は、温度が \(T\) になったとすると、
$$ U_{\text{後}} = \displaystyle\frac{3}{2}n_1RT $$
内部エネルギー保存則 \(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\) より、
$$ \displaystyle\frac{3}{2}n_1RT_1 = \displaystyle\frac{3}{2}n_1RT \quad \cdots ① $$
この式から、混合後の温度 \(T\) が求まります。
次に、圧力 \(p\) を求めます。栓を開けた後、気体は容器1と2全体(体積 \(V_1+V_2\))に広がります。この状態について、理想気体の状態方程式を適用します。
$$ p(V_1+V_2) = n_1RT \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W\)
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
まず、温度 \(T\) を求めます。式①より、
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{3}{2}n_1RT_1 &= \displaystyle\frac{3}{2}n_1RT \\[2.0ex]
T &= T_1
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式②に代入して圧力 \(p\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
p(V_1+V_2) &= n_1RT_1 \\[2.0ex]
p &= \displaystyle\frac{n_1RT_1}{V_1+V_2}
\end{aligned}
$$
この問題は「断熱」と「真空への膨張」がキーワードです。「断熱」なので外部との熱のやりとりはありません。「真空への膨張」は、気体が広がる先に何も無いので、仕事をする必要がありません。熱も仕事もゼロなので、気体の持つエネルギー(内部エネルギー)は変化しません。単原子分子の気体の場合、内部エネルギーは温度で決まるので、エネルギーが変わらないなら温度も変わりません。だから、後の温度 \(T\) は、もとの温度 \(T_1\) と同じです。
圧力を求めるには、気体が広がった後の全体の状態(物質量 \(n_1\)、体積 \(V_1+V_2\)、温度 \(T_1\))で状態方程式 \(pV=nRT\) を使います。\(p \times (V_1+V_2) = n_1 R T_1\) という式を \(p\) について解けばOKです。
最終的な温度は \(T=T_1\)、圧力は \(p=\displaystyle\frac{n_1RT_1}{V_1+V_2}\) となります。
自由膨張では、気体分子の運動エネルギーの総和(内部エネルギー)は変わらないため、温度が一定に保たれるという結果は物理的に妥当です。一方、体積は \(V_1\) から \(V_1+V_2\) へと増加するため、圧力は減少します。これもボイルの法則から考えて妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
容器1と2にそれぞれ異なる温度・物質量の気体が入っている状態で栓を開ける「気体の混合」の問題です。(1)と同様に、容器全体は断熱されており、外部との仕事のやりとりもないため、系全体の内部エネルギーは保存されます。栓を開ける前の2つの気体の内部エネルギーの和と、栓を開けた後の混合気体の内部エネルギーが等しい、という式を立てて、混合後の温度 \(T\) を求めます。圧力 \(p\) は、その後、状態方程式を用いて計算します。
この設問における重要なポイント
- 断熱容器内での混合 \(\rightarrow\) 外部との熱のやりとりがない (\(Q=0\))。
- 容器の体積は全体で一定 \(\rightarrow\) 外部にする仕事がない (\(W=0\))。
- 熱力学第一法則より、系全体の内部エネルギーは保存される (\(\Delta U_{\text{全体}}=0\))。
- 混合後の物質量は、それぞれの物質量の和になる (\(n = n_1+n_2\))。
具体的な解説と立式
(1)と同様に、栓を開ける前後で系全体の内部エネルギーは保存されます。
栓を開ける前の系の内部エネルギー \(U_{\text{前}}\) は、容器1と容器2の気体の内部エネルギーの和です。
$$ U_{\text{前}} = U_1 + U_2 = \displaystyle\frac{3}{2}n_1RT_1 + \displaystyle\frac{3}{2}n_2RT_2 $$
栓を開けて十分時間が経つと、2つの気体は混ざり合い、均一な温度 \(T\) になります。このときの物質量は \(n_1+n_2\) となります。したがって、後の系の内部エネルギー \(U_{\text{後}}\) は、
$$ U_{\text{後}} = \displaystyle\frac{3}{2}(n_1+n_2)RT $$
内部エネルギー保存則 \(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\) より、
$$ \displaystyle\frac{3}{2}n_1RT_1 + \displaystyle\frac{3}{2}n_2RT_2 = \displaystyle\frac{3}{2}(n_1+n_2)RT \quad \cdots ③ $$
この式から、混合後の温度 \(T\) が求まります。
次に、圧力 \(p\) を求めます。混合後の気体は、物質量が \(n_1+n_2\)、体積が \(V_1+V_2\)、温度が \(T\) の状態です。この状態について、理想気体の状態方程式を適用します。
$$ p(V_1+V_2) = (n_1+n_2)RT \quad \cdots ④ $$
使用した物理公式
- 内部エネルギー保存則
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\)
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
まず、温度 \(T\) を求めます。式③の両辺を \(\displaystyle\frac{3}{2}R\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
n_1T_1 + n_2T_2 &= (n_1+n_2)T \\[2.0ex]
T &= \displaystyle\frac{n_1T_1 + n_2T_2}{n_1+n_2}
\end{aligned}
$$
次に、この結果を式④に代入して圧力 \(p\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
p &= \displaystyle\frac{(n_1+n_2)RT}{V_1+V_2} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{(n_1+n_2)R}{V_1+V_2} \cdot \left( \displaystyle\frac{n_1T_1 + n_2T_2}{n_1+n_2} \right) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{R(n_1T_1 + n_2T_2)}{V_1+V_2}
\end{aligned}
$$
(1)と同じように、容器全体が断熱されていて、外部への仕事もないので、全体のエネルギー(内部エネルギー)は混ざる前と後で変わりません。
混ざる前のエネルギーは「気体1のエネルギー」+「気体2のエネルギー」です。混ざった後のエネルギーは「合体した気体のエネルギー」です。
「\(\displaystyle\frac{3}{2}n_1RT_1 + \displaystyle\frac{3}{2}n_2RT_2 = \displaystyle\frac{3}{2}(n_1+n_2)RT\)」という式を立てて、これを \(T\) について解くと、混合後の温度がわかります。
圧力を求めるには、(1)と同じく、合体後の気体の状態(物質量 \(n_1+n_2\)、体積 \(V_1+V_2\)、上で求めた温度 \(T\))で状態方程式 \(pV=nRT\) を使います。
最終的な温度は \(T=\displaystyle\frac{n_1T_1 + n_2T_2}{n_1+n_2}\)、圧力は \(p=\displaystyle\frac{R(n_1T_1 + n_2T_2)}{V_1+V_2}\) となります。
温度の式は、\(n_1T_1\) と \(n_2T_2\) の、物質量 \(n_1, n_2\) による加重平均になっています。これは、比熱が等しい物質を混合したときの温度の公式と同じ形であり、物理的に妥当です。例えば、\(n_1=n_2\) ならば、温度はちょうど中間の \(\displaystyle\frac{T_1+T_2}{2}\) となります。
圧力の式は、混合後の状態方程式から正しく導出されています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱力学第一法則と内部エネルギー保存則:
- 核心: この問題の根幹は、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) を正しく理解し、与えられた状況に適用することです。
- 理解のポイント:
- 断熱: 「断熱容器」という記述から、外部との熱のやりとりがない、つまり \(Q=0\) であることを見抜きます。
- 外部への仕事:
- (1)の真空への膨張(自由膨張)では、気体は何も押しのけないため、外部にする仕事は \(W=0\) です。
- (2)の気体混合では、容器全体の体積は変わらないため、やはり外部にする仕事は \(W=0\) です。
- 内部エネルギー保存: 上記の条件 (\(Q=0, W=0\)) から、熱力学第一法則は \(\Delta U = 0\) となり、系全体の内部エネルギーが保存される、という結論を導き出すことが最も重要です。
- 単原子分子理想気体の内部エネルギーの式:
- 核心: 内部エネルギーが保存されることを理解した上で、その内部エネルギーを具体的な式 \(U = \displaystyle\frac{3}{2}nRT\) で表現できることが、定量的計算への鍵となります。
- 理解のポイント:
- この式は、内部エネルギーが物質量 \(n\) と絶対温度 \(T\) のみに比例することを示しています。特に、(1)で \(n\) が一定の場合、\(U\) が保存されるなら \(T\) も一定である、という物理的描像を持つことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 断熱圧縮・断熱膨張: ピストンで気体をゆっくり断熱圧縮・膨張させる問題。この場合、外部から仕事をされたり(\(W<0\))、外部に仕事をしたり(\(W>0\))するため、\(\Delta U = -W\) となり内部エネルギーが変化(温度が変化)します。本問との違いは仕事の有無です。
- 定圧変化・定積変化との組み合わせ: 一方の容器をヒーターで加熱(定積変化)し、その後で栓を開けて混合させるような複合問題。各過程で熱力学第一法則を正しく適用できるかが問われます。
- 分子種が異なる気体の混合: 例えば、単原子分子気体と二原子分子気体を混合させる問題。内部エネルギーの式が \(U = \displaystyle\frac{5}{2}nRT\) となるため、混合前後の内部エネルギーの和の式を立てる際に注意が必要です。
- 初見の問題での着眼点:
- 系の設定を確認: まず「断熱」か「等温」か、容器の壁は「固定」か「可動(ピストン)」かを確認します。これが \(Q\) や \(W\) の値を決める最初のステップです。
- 過程の種類を特定: 「真空への膨張(自由膨張)」「混合」「圧縮」「加熱」など、どのような熱力学過程が起きているかを把握します。
- エネルギー保存則の適用を検討: 外部との熱や仕事のやりとりがない、または相殺される場合、エネルギー保存則(この場合は内部エネルギー保存則)が使えないか、まず考えます。これは多くの場合、最もシンプルな解法につながります。
- 状態方程式の役割を意識: 内部エネルギーの計算で温度 \(T\) を求めた後、圧力 \(p\) や体積 \(V\) を求めるには、必ずと言っていいほど状態方程式 \(pV=nRT\) を使います。常に「状態方程式はいつでも使える切り札」と意識しておくと良いでしょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 自由膨張と断熱膨張の混同:
- 誤解: (1)の自由膨張で、体積が増えるから温度が下がる(ポアソンの法則 \(TV^{\gamma-1}=\text{const.}\) を使ってしまう)と勘違いする。
- 対策: ポアソンの法則が成り立つのは、外部に仕事をしながら「準静的(ゆっくり)」に断熱膨張する場合です。本問のような「真空への急激な膨張」では仕事がゼロであり、状況が全く異なります。「自由膨張 \(\rightarrow\) 仕事ゼロ \(\rightarrow\) 内部エネルギー不変 \(\rightarrow\) 温度不変」という一連の流れをセットで記憶することが重要です。
- 内部エネルギーの計算ミス:
- 誤解: (2)で、混合後の内部エネルギーを \(\displaystyle\frac{3}{2}n_1RT + \displaystyle\frac{3}{2}n_2RT\) のように、別々の気体として足し算してしまう。
- 対策: 混合後は、物質量 \((n_1+n_2)\) の一つの気体になったと見なします。したがって、内部エネルギーは \(\displaystyle\frac{3}{2}(n_1+n_2)RT\) と、合算した物質量で一括して計算することを徹底します。
- 状態方程式の適用範囲のミス:
- 誤解: (2)で圧力 \(p\) を求める際に、\(p(V_1+V_2) = n_1RT\) や \(p(V_1+V_2) = n_2RT\) のように、混合後の体積と混合前の物質量を使ってしまう。
- 対策: 状態方程式を適用する際は、その方程式が「どの状態」の「どの気体」について成り立っているのかを常に明確に意識します。混合後の圧力を求めるなら、「混合後の気体全体」の状態量(圧力 \(p\)、体積 \(V_1+V_2\)、物質量 \(n_1+n_2\)、温度 \(T\))を使って式を立てる必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 内部エネルギー保存則 (\(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\)):
- 選定理由: 問題文の「断熱容器」という設定から \(Q=0\)、そして「真空への膨張」や「固定容器内での混合」という状況から \(W=0\) であることが読み取れます。熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W\) にこれらを代入すると、\(\Delta U = 0\) が導かれます。これは、\(U_{\text{前}} = U_{\text{後}}\) と同義であり、この問題で最も中心的な法則となります。
- 適用根拠: この法則は、温度というミクロな状態量を、エネルギーというマクロな保存量に結びつけるために使われます。直接温度の変化を考えるのではなく、まず保存される量(内部エネルギー)に着目し、そこから温度を逆算するという思考プロセスが、熱力学の問題を解く上での定石です。
- 理想気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 選定理由: 圧力 \(p\) を求めるために使用します。温度 \(T\) が内部エネルギー保存則から求まった後、未知の状態量は圧力 \(p\) だけになります。\(p, V, n, T\) という4つの状態量のうち3つが分かれば、残りの1つを計算できるのが状態方程式の強みです。
- 適用根拠: 栓を開けた後の平衡状態では、気体全体が一つの圧力、体積、物質量、温度を持つと見なせます。この「平衡状態」に対して状態方程式を適用することで、未知の物理量を求めることができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理: (2)の温度 \(T\) や圧力 \(p\) の計算では、多くの文字が登場します。
- \(T = \displaystyle\frac{n_1T_1 + n_2T_2}{n_1+n_2}\) を求める過程で、両辺から \(\displaystyle\frac{3}{2}R\) を消去するステップを焦って間違えないように、一度式を書き下してから丁寧に約分する。
- 圧力 \(p\) を求める際、\(p = \displaystyle\frac{(n_1+n_2)RT}{V_1+V_2}\) の \(T\) に先ほど求めた式を代入しますが、このとき \((n_1+n_2)\) がきれいに約分できることに気づくことが重要です。代入しただけで満足せず、式が最もシンプルな形になるまで整理する癖をつけましょう。
- 加重平均の形を意識する: (2)で求まる温度 \(T=\displaystyle\frac{n_1T_1 + n_2T_2}{n_1+n_2}\) は、「物質量 \(n_1, n_2\) を重みとする \(T_1, T_2\) の加重平均」の形をしています。この形は物理で頻出します(例:重心の座標)。計算結果がこのような意味のある形になっているかを確認することで、検算の代わりになります。例えば、もし分母が \(n_1-n_2\) になっていたら、どこかで計算ミスをしたとすぐに気づけます。
- 単位や次元の確認: 最終的に得られた答えの次元(単位)が正しいかを確認する習慣をつけましょう。例えば、圧力 \(p\) の答え \(\displaystyle\frac{R(n_1T_1 + n_2T_2)}{V_1+V_2}\) の次元を考えると、分子は \([\text{J/K/mol}] \cdot ([\text{mol}] \cdot [\text{K}]) = [\text{J}]\)、分母は \([\text{m}^3]\) となり、\([\text{J}/\text{m}^3] = [\text{N} \cdot \text{m}/\text{m}^3] = [\text{N}/\text{m}^2] = [\text{Pa}]\) となり、確かに圧力の次元になっています。このようなチェックで、単純な計算ミスを発見できることがあります。
252 気体の状態変化
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「理想気体の基本的な状態変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 理想気体の状態方程式とボイル・シャルルの法則: 気体の状態(圧力 \(p\)、体積 \(V\)、温度 \(T\))の変化を追跡するための基本法則です。(\(pV=nRT\), \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\))
- 熱力学第一法則: 内部エネルギーの変化 \(\Delta U\)、気体が吸収する熱量 \(Q\)、気体が外部にする仕事 \(W’\) の関係 (\(\Delta U = Q – W’\)) を理解することが中心となります。
- 内部エネルギーと温度の関係: 理想気体の内部エネルギー \(U\) は絶対温度 \(T\) のみに依存し、\(T\) が上がれば \(U\) は増加し、\(T\) が下がれば \(U\) は減少します。
- 仕事の正負: 気体が膨張するとき(体積が増加)、外部に正の仕事をします (\(W’>0\))。気体が圧縮されるとき(体積が減少)、外部に負の仕事をします(外部から仕事をされる)(\(W'<0\))。体積が一定のときは仕事をしません (\(W’=0\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各設問で与えられた変化(定圧、定積、等温、断熱)の条件をまず確認します。
- ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\) を用いて、(a) 気体の温度がどう変化するかを判断します。
- (b) 内部エネルギーの変化は、(a)の温度変化に直結します。温度が上がれば増加、下がれば減少、一定なら不変です。
- (c) 気体が外部へする仕事は、体積変化で決まります。体積が増えれば正、減れば負、変わらなければ0です。
- (d) 気体が吸収する熱量は、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W’\) (変形して \(Q = \Delta U + W’\)) を使い、(b)と(c)で求めた \(\Delta U\) と \(W’\) の符号から判断します。
問(1) 圧力を一定に保って収縮させる(定圧圧縮)
思考の道筋とポイント
「圧力が一定(定圧)」で「収縮させる(体積が減少)」という2つの条件から、気体の各量がどのように変化するかを段階的に考えます。まずボイル・シャルルの法則で温度変化を、次に体積変化から仕事の符号を、最後に熱力学第一法則で熱の出入りを判断します。
この設問における重要なポイント
- 定圧変化: \(p\) が一定。
- 収縮: 体積 \(V\) が減少。
- ボイル・シャルルの法則は \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\)(シャルルの法則)と単純化できる。
- 仕事 \(W’\) は \(p\Delta V\) で計算でき、\(V\) が減少するので \(W'<0\)。
具体的な解説と立式
(a) 気体の温度
圧力 \(p\) が一定なので、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\) は、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T}=\text{一定}\) となります。
問題の条件より、気体を収縮させるので体積 \(V\) は減少します。このとき、\(\displaystyle\frac{V}{T}\) が一定を保つためには、温度 \(T\) も減少しなければなりません。
よって、気体の温度は下降します。
(b) 気体の内部エネルギー
理想気体の内部エネルギー \(U\) は絶対温度 \(T\) にのみ比例します。(a)より温度 \(T\) が下降するので、内部エネルギー \(U\) も減少します。
(c) 気体が外へする仕事
気体を「収縮」させるので、体積 \(V\) は減少します。気体が外部にする仕事 \(W’\) は、体積が増加するときに正、減少するときに負となります。したがって、仕事 \(W’\) は負です。
(d) 気体が外から吸収する熱量
熱力学第一法則は \(\Delta U = Q – W’\) です。これを \(Q\) について解くと \(Q = \Delta U + W’\) となります。
(b)より内部エネルギーは減少するので \(\Delta U < 0\)。
(c)より気体がする仕事は負なので \(W’ < 0\)。
したがって、\(Q = (\text{負の値}) + (\text{負の値})\) となるため、\(Q\) は負です。\(Q\) が負ということは、気体は熱を吸収するのではなく、外部へ放出していることを意味します。
使用した物理公式
- ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\)
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W’\)
- 内部エネルギーと温度の関係: \(\Delta U \propto \Delta T\)
- 仕事の定義: \(W’ > 0\) (膨張), \(W’ < 0\) (収縮)
この問題は定性的な変化を問うものであり、具体的な計算は不要です。
(1)は「圧力を変えずに、風船をしぼませる」イメージです。
(a) 圧力が同じなのに体積が減るということは、気体の勢いがなくなった、つまり冷えたということです。温度は「下降」。
(b) 冷えたので、気体の内部エネルギーも「減少」。
(c) 風船がしぼんだので、外部に対しては押し返すどころか、押し込まれています。仕事は「負」。
(d) 冷えてエネルギーも減り、外部からも仕事をされた(エネルギーを入れられたわけではない)ので、熱を外に逃がしたはずです。熱量は「負」。
(a) 温度は下降、(b) 内部エネルギーは減少、(c) 仕事は負、(d) 吸収する熱量は負、となります。これは定圧冷却の典型的な振る舞いであり、物理的に妥当です。
問(2) 体積を一定に保って圧力を下げる(定積冷却)
思考の道筋とポイント
「体積が一定(定積)」で「圧力を下げる」という条件から出発します。定積変化では気体は仕事をしない(\(W’=0\))という点が重要です。これを基に、ボイル・シャルルの法則と熱力学第一法則を適用します。
この設問における重要なポイント
- 定積変化: \(V\) が一定。
- 圧力を下げる: \(p\) が減少。
- ボイル・シャルルの法則は \(\displaystyle\frac{p}{T} = \text{一定}\) と単純化できる。
- 体積が変化しないので、仕事 \(W’\) は0。
具体的な解説と立式
(a) 気体の温度
体積 \(V\) が一定なので、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\) は、\(\displaystyle\frac{p}{T}=\text{一定}\) となります。
問題の条件より、圧力 \(p\) を下げるので、\(\displaystyle\frac{p}{T}\) が一定を保つためには、温度 \(T\) も減少しなければなりません。
よって、気体の温度は下降します。
(b) 気体の内部エネルギー
(a)より温度 \(T\) が下降するので、内部エネルギー \(U\) も減少します。
(c) 気体が外へする仕事
「体積を一定に保って」いるので、体積変化 \(\Delta V\) は0です。気体が外部にする仕事 \(W’\) は0となります。
(d) 気体が外から吸収する熱量
熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) において、
(b)より内部エネルギーは減少するので \(\Delta U < 0\)。
(c)より仕事は0なので \(W’ = 0\)。
したがって、\(Q = \Delta U + 0 = \Delta U < 0\)。\(Q\) は負です。
使用した物理公式
- ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\)
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W’\)
- 内部エネルギーと温度の関係: \(\Delta U \propto \Delta T\)
定性的な変化を問うものであり、具体的な計算は不要です。
(2)は「カチカチの容器に入った気体を冷やして、圧力を下げる」イメージです。
(a) 容器の大きさが同じなのに圧力が下がったということは、気体の勢いがなくなった、つまり冷えたということです。温度は「下降」。
(b) 冷えたので、内部エネルギーも「減少」。
(c) 容器の大きさが変わらないので、気体は外部に何の影響も与えていません。仕事は「0」。
(d) 仕事はしていないのにエネルギーが減ったということは、熱が外に逃げたということです。熱量は「負」。
(a) 温度は下降、(b) 内部エネルギーは減少、(c) 仕事は0、(d) 吸収する熱量は負、となります。これは定積冷却の振る舞いとして正しいです。
問(3) 温度を一定に保って圧力を上げる(等温圧縮)
思考の道筋とポイント
「温度が一定(等温)」で「圧力を上げる」という条件です。等温変化では内部エネルギーが変化しない(\(\Delta U=0\))ことが最大のポイントです。熱力学第一法則が \(Q=W’\) という非常にシンプルな形になります。
この設問における重要なポイント
- 等温変化: \(T\) が一定。
- 圧力を上げる: \(p\) が増加。
- 内部エネルギーは温度にのみ依存するため、\(\Delta U = 0\)。
- ボイル・シャルルの法則は \(pV = \text{一定}\)(ボイルの法則)と単純化できる。
具体的な解説と立式
(a) 気体の温度
問題の条件より、「温度を一定に保って」いるので、温度は一定です。
(b) 気体の内部エネルギー
(a)より温度 \(T\) が一定なので、内部エネルギー \(U\) も一定です。(\(\Delta U = 0\))
(c) 気体が外へする仕事
温度 \(T\) が一定なので、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\) は、ボイルの法則 \(pV=\text{一定}\) となります。
問題の条件より、圧力 \(p\) を上げるので、\(pV\) が一定を保つためには、体積 \(V\) は減少しなければなりません。
体積が減少するので、気体が外部にする仕事 \(W’\) は負です。
(d) 気体が外から吸収する熱量
熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) において、
(b)より内部エネルギーは変化しないので \(\Delta U = 0\)。
(c)より仕事は負なので \(W’ < 0\)。
したがって、\(Q = 0 + W’ = W’ < 0\)。\(Q\) は負です。
使用した物理公式
- ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\)
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W’\)
- 内部エネルギーと温度の関係: \(\Delta U \propto \Delta T\)
定性的な変化を問うものであり、具体的な計算は不要です。
(3)は「温度を保ちながら(ゆっくり)注射器のピストンを押す」イメージです。
(a) 問題文に「温度を一定に保って」とあるので、温度は「一定」。
(b) 温度が一定なので、内部エネルギーも「一定」。
(c) ピストンを押して圧縮したので、体積は減ります。仕事は「負」。
(d) エネルギーは変わらないのに、外部から仕事をされた(エネルギーを加えられた)形になっています。その分のエネルギーは熱として外に逃がさないと温度が上がってしまうので、熱を放出します。熱量は「負」。
(a) 温度は一定、(b) 内部エネルギーは一定、(c) 仕事は負、(d) 吸収する熱量は負、となります。これは等温圧縮の振る舞いとして正しいです。
問(4) 熱を与えたり放出させたりしないで圧縮する(断熱圧縮)
思考の道筋とポイント
「熱の出入りがない(断熱)」で「圧縮する」という条件です。断熱変化では \(Q=0\) となるため、熱力学第一法則は \(\Delta U = -W’\) となります。外部からされた仕事がすべて内部エネルギーの増加になる、という点が特徴です。
この設問における重要なポイント
- 断熱変化: \(Q=0\)。
- 圧縮: 体積 \(V\) が減少 \(\rightarrow\) 仕事 \(W’\) は負。
- 熱力学第一法則は \(\Delta U = -W’\) となる。
- \(W'<0\) なので、\(\Delta U > 0\)。
具体的な解説と立式
(d) 気体が外から吸収する熱量
問題の条件より、「熱を与えたり放出させたりしないで」いるので、気体が吸収する熱量 \(Q\) は0です。
(c) 気体が外へする仕事
「圧縮する」ので、体積 \(V\) は減少します。したがって、気体が外部にする仕事 \(W’\) は負です。
(b) 気体の内部エネルギー
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W’\) において、
(d)より \(Q=0\)。
(c)より \(W'<0\)。
したがって、\(\Delta U = 0 – W’ = -W’\)。\(W’\)が負なので、\(-W’\)は正となります。よって \(\Delta U > 0\)。
内部エネルギーは増加します。
(a) 気体の温度
(b)より内部エネルギー \(U\) が増加するので、温度 \(T\) は上昇します。
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W’\)
- 内部エネルギーと温度の関係: \(\Delta U \propto \Delta T\)
- 仕事の定義: \(W’ < 0\) (圧縮)
定性的な変化を問うものであり、具体的な計算は不要です。
(4)は「断熱材でできた注射器のピストンを素早く押す」イメージです。
(d) 問題文に「熱を与えたり放出させたりしないで」とあるので、熱量は「0」。
(c) ピストンを押して圧縮したので、仕事は「負」。
(b) 熱の出入りがないのに、外部から仕事をされた(エネルギーを加えられた)ので、そのエネルギーはすべて気体の内部エネルギーになります。内部エネルギーは「増加」。
(a) 内部エネルギーが増加したので、気体は熱くなります。温度は「上昇」。
(a) 温度は上昇、(b) 内部エネルギーは増加、(c) 仕事は負、(d) 吸収する熱量は0、となります。これは断熱圧縮の典型的な振る舞いであり、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W’\)):
- 核心: この問題は、気体の状態変化におけるエネルギーの収支を問うものであり、その収支を表す熱力学第一法則が全ての設問の根幹をなします。特に、内部エネルギーの変化(\(\Delta U\))、熱の出入り(\(Q\))、仕事(\(W’\))の3つの量の関係性を理解することが不可欠です。
- 理解のポイント:
- \(\Delta U\): 内部エネルギーの変化。温度変化と直結。
- \(Q\): 気体が外部から吸収した熱量。放出する場合は負。
- \(W’\): 気体が外部にした仕事。圧縮される場合は負。
- この法則を \(Q = \Delta U + W’\) と変形し、「吸収した熱は、内部エネルギーの増加と外部への仕事に使われる」というエネルギー保存則として捉えると考えやすいです。
- ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\)):
- 核心: 熱力学第一法則がエネルギーの関係を表すのに対し、ボイル・シャルルの法則は気体の状態量(圧力\(p\)、体積\(V\)、温度\(T\))の間の関係を表します。与えられた変化(例:定圧で圧縮)によって、他の状態量がどう変わるかを予測するために用います。
- 理解のポイント:
- 定圧変化 (\(p\)一定) \(\rightarrow\) \(\displaystyle\frac{V}{T}=\text{一定}\) (シャルルの法則)
- 定積変化 (\(V\)一定) \(\rightarrow\) \(\displaystyle\frac{p}{T}=\text{一定}\)
- 等温変化 (\(T\)一定) \(\rightarrow\) \(pV=\text{一定}\) (ボイルの法則)
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- \(p-V\)グラフの読み取り: 状態変化が\(p-V\)グラフで与えられる問題。グラフの経路(例:A→B)から、それが定圧・定積・等温・断熱のどれに当たるかを判断し、各量を計算します。特に、グラフが囲む面積が仕事を表すこと、等温線と断熱線の傾きの違いなどを理解しておく必要があります。
- 熱サイクル: 気体が状態変化を繰り返して元の状態に戻るサイクル(例:カルノーサイクル)の問題。1サイクルでの仕事や熱効率を計算させられます。各過程(等温膨張、断熱膨張など)を本問のように一つずつ分析する能力が基礎となります。
- 混合気体: 複数の気体を混合させる問題。本問の知識に加え、ドルトンの分圧の法則や、混合後の内部エネルギーの考え方が必要になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 変化の種類を特定: 問題文から「定圧」「定積」「等温」「断熱」のどの変化かを真っ先に見抜きます。これが思考の出発点です。
- 状態量の変化を追う: ボイル・シャルルの法則を使い、与えられた条件(例:「圧力を上げたら」)から、他の状態量(体積、温度)がどうなるかを判断します。
- 仕事(\(W’\))の符号を確定: 体積変化にのみ注目します。「膨張」なら\(W’>0\)、「圧縮」なら\(W'<0\)、「変化なし」なら\(W’=0\)と機械的に判断します。
- 内部エネルギー(\(\Delta U\))の符号を確定: 温度変化にのみ注目します。「温度上昇」なら\(\Delta U>0\)、「下降」なら\(\Delta U<0\)、「一定」なら\(\Delta U=0\)と判断します。
- 熱(\(Q\))の符号を決定: 最後に、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) に、上で判断した\(\Delta U\)と\(W’\)の符号を代入して、\(Q\)の符号を決定します。この3ステップ(状態量→仕事・内部エネルギー→熱)の流れを徹底することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 仕事の正負の混同:
- 誤解: 気体が「圧縮される」とき、外部から仕事を「される」ので、エネルギーが増えると考え \(W’\) を正としてしまう。
- 対策: \(W’\) の定義を「気体が”外部に”した仕事」と正確に覚えることが重要です。圧縮される場合は、気体は外部に仕事をしていない(むしろされている)ので、\(W’\)は負となります。\(W = -W’\)(\(W\): 気体が”された”仕事)という関係も合わせて理解し、問題でどちらが問われているかを確認する癖をつけましょう。
- 熱と温度の混同:
- 誤解: 「断熱圧縮」(4)で、熱の出入りがない(\(Q=0\))のに温度が上がる(\(T\)上昇)ことに混乱する。「熱い」と「温度が高い」を同一視してしまう。
- 対策: 「温度」は分子の運動エネルギーの激しさを表す指標であり、「熱」はエネルギーの移動形態の一つであることを区別します。断熱圧縮では、外部からの仕事によって内部エネルギーが増加し、その結果として温度が上がります。熱の移動がなくても仕事によって温度は変化しうる、ということを理解するのが鍵です。
- 熱力学第一法則の符号ミス:
- 誤解: \(\Delta U = Q + W’\) のように、仕事の符号を間違えて覚えてしまう。
- 対策: 法則を丸暗記するのではなく、「入ってきたエネルギー(\(Q\))が、内部エネルギーの増加(\(\Delta U\))と外部への仕事(\(W’\))に分配される」という物理的なイメージ(\(Q = \Delta U + W’\))で覚えるのがおすすめです。この形なら、エネルギー保存則として直感的に理解しやすくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 熱力学第一法則 (\(Q = \Delta U + W’\)):
- 選定理由: この問題は、気体のエネルギー状態の変化を問うています。熱力学第一法則は、そのエネルギー変化の内訳(熱の出入りと仕事のやりとり)を記述する唯一の基本法則であるため、選択は必然です。
- 適用根拠: (d)の熱量を判断するために使用します。他の物理量(温度変化\(\rightarrow \Delta U\)、体積変化\(\rightarrow W’\))が先に判明するため、最後に残った未知数である\(Q\)を、エネルギー保存の関係から論理的に導き出すことができます。
- ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\)):
- 選定理由: (a)の温度変化を判断するために使用します。問題文で与えられた2つの状態量(例:\(p\)が一定、\(V\)が減少)の変化から、残る1つの状態量(\(T\))の変化を予測する必要があるため、これら3つを関係づけるこの法則が必要になります。
- 適用根拠: この法則は、理想気体というモデルにおいて、マクロな状態量が常に満たすべき制約条件を与えます。ある状態量が変化すれば、この制約を満たすように他の状態量も変化せざるを得ない、という論理で変化を予測します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 定性的な問題での思考の定型化: この問題は計算がありませんが、思考のプロセスでミスが起こりえます。以下の手順を毎回守ることで、ミスを減らせます。
- 条件の確認: 「〇〇を一定に保ち、△△を変化させる」を書き出す。
- 温度変化の判断: ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T}=\text{一定}\) に条件を当てはめ、\(T\) の変化(上昇/一定/下降)を判断する。
- 内部エネルギー変化の判断: \(T\) の変化に連動して \(\Delta U\) の変化(正/0/負)を判断する。
- 仕事の判断: 体積変化(膨張/一定/圧縮)から \(W’\) の変化(正/0/負)を判断する。
- 熱量の判断: \(Q = \Delta U + W’\) に \(\Delta U\) と \(W’\) の符号を代入し、\(Q\) の符号(正/0/負)を判断する。
- 表を作成して整理する: 慣れないうちは、各変化について以下のような表を作成し、一つずつ埋めていくと、思考が整理され、見直しも容易になります。
変化の種類 条件 (a)温度T (b)内部エネルギーΔU (c)仕事W’ (d)熱量Q (1)定圧圧縮 p:一定, V:減少 ↓ 負 負 負 (2)定積冷却 V:一定, p:減少 ↓ 負 0 負 … … … … … … - 具体的な物理現象と結びつける: 「断熱圧縮 \(\rightarrow\) 自転車の空気入れが熱くなる」「断熱膨張 \(\rightarrow\) スプレー缶が冷たくなる」など、各変化を身近な現象と結びつけておくと、直感的に結果を予測でき、検算の役割を果たします。
253 定積変化, 定圧変化
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問(1)の圧力pの別解: 状態方程式を用いた解法
- 模範解答がボイル・シャルルの法則を用いるのに対し、別解では変化の前後で状態方程式を立て、その比から圧力を求めます。
- 設問(1)の圧力pの別解: 状態方程式を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- ボイル・シャルルの法則が、より基本的な理想気体の状態方程式から導出できる関係であることを、具体的な計算を通して確認できます。
- どのような状況でも使える状態方程式から出発する、より応用の効く思考法を学ぶことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「理想気体の定積変化と定圧変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 熱力学第一法則: 気体のエネルギー収支(内部エネルギー、熱、仕事)の関係を表す基本法則です。(\(\Delta U = Q – W’\))
- 理想気体の内部エネルギー: 理想気体の内部エネルギーの変化量は、変化の仕方(定積、定圧など)によらず、常に温度変化だけで決まります。(\(\Delta U = nC_V\Delta T\))
- 気体のする仕事: 定圧変化では仕事は \(W’ = p\Delta V\) と単純な形で計算できます。一方、定積変化では体積が変わらないため仕事は0です。
- 理想気体の状態方程式: 気体の状態量(圧力、体積、温度)を結びつける関係式です。(\(pV=nRT\))
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)は定積変化です。仕事が0であることと、内部エネルギーの公式を使って\(\Delta U\)を求めます。圧力はボイル・シャルルの法則(または状態方程式)で求めます。
- (2)は定圧変化です。仕事の公式 \(W’ = p\Delta V\) を状態方程式を使って変形し、求めます。
- (3)は(2)の定圧変化における熱量を問うています。熱力学第一法則に、これまでに求めた内部エネルギー変化と仕事の関係式を代入して計算します。
- (4)は(3)で求めた熱量の式を、定圧モル比熱の定義式 \(Q=nC_p\Delta T\) と比較することで、有名な「マイヤーの関係式」を導出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
定積変化(体積一定)で温度を上げる状況を考えます。
内部エネルギーの増加 \(\Delta U\) は、定積モル比熱 \(C_V\) の定義そのものである公式 \(\Delta U = nC_V\Delta T\) を使って計算します。この公式は、理想気体であればどんな変化のときでも使える非常に重要な式です。
一方、変化後の圧力 \(p\) は、体積が一定であることから、ボイル・シャルルの法則が \(\displaystyle\frac{p}{T} = \text{一定}\) という単純な形になることを利用して求めます。
この設問における重要なポイント
- 定積変化 \(\rightarrow\) 気体がする仕事は \(W’=0\)。
- 理想気体の内部エネルギー変化は、過程によらず常に \(\Delta U = nC_V\Delta T\)。
- 定積変化では、ボイル・シャルルの法則は \(\displaystyle\frac{p}{T} = \text{一定}\) となる。
具体的な解説と立式
内部エネルギーの増加 \(\Delta U\)
理想気体の内部エネルギーの増加量は、定積モル比熱 \(C_V\) と温度変化 \(\Delta T\) を用いて表されます。この関係は、定積変化のときだけでなく、定圧変化など、いかなる変化においても成り立ちます。
温度変化は \(\Delta T = T – T_0\) なので、
$$ \Delta U = nC_V \Delta T $$
$$ \Delta U = nC_V(T-T_0) \quad \cdots ① $$
変化後の圧力 \(p\)
体積が一定のまま変化するので、ボイル・シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\) において \(V\) が定数と見なせます。
したがって、\(\displaystyle\frac{p}{T} = \text{一定}\) が成り立ちます。
変化の前後でこの値を比較すると、
$$ \displaystyle\frac{p_0}{T_0} = \displaystyle\frac{p}{T} \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 理想気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = nC_V\Delta T\)
- ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\)
内部エネルギーの増加 \(\Delta U\) は、式①そのものが答えとなります。
圧力 \(p\) は、式②を変形して求めます。
$$
\begin{aligned}
p &= \displaystyle\frac{T}{T_0} \cdot p_0
\end{aligned}
$$
内部エネルギーの増加量は、気体の温度がどれだけ上がったかで決まります。「定積モル比熱 \(C_V\)」は、体積を変えずに気体1molの温度を1K上げるのに必要なエネルギーのことなので、これに物質量 \(n\) と温度の上昇分 \((T-T_0)\) を掛ければ、内部エネルギーの増加量が求まります。
圧力については、体積が同じなら、気体の元気の良さ(圧力)は温度に比例します。温度が \(T_0\) から \(T\) へと \(\displaystyle\frac{T}{T_0}\) 倍になったのですから、圧力ももとの \(p_0\) の \(\displaystyle\frac{T}{T_0}\) 倍になります。
内部エネルギーの増加は \(\Delta U = nC_V(T-T_0)\)、変化後の圧力は \(p = \displaystyle\frac{T}{T_0}p_0\) となります。
温度が上昇している (\(T>T_0\)) ので、内部エネルギーが増加する (\(\Delta U > 0\)) のは物理的に妥当です。また、密閉容器を加熱すれば中の圧力が上がるという日常的な感覚とも一致しています。
思考の道筋とポイント
ボイル・シャルルの法則の代わりに、より基本となる理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を直接用いて圧力を求めます。変化の前後でそれぞれ状態方程式を立て、両方の式に共通に含まれるが値が未知である体積の項を消去する、という方針で計算します。
具体的な解説と立式
初めの状態の体積を \(V_0\) とすると、状態方程式は、
$$ p_0V_0 = nRT_0 \quad \cdots ③ $$
体積を一定に保ったまま温度を \(T\) にしたので、後の状態でも体積は \(V_0\) のままです。したがって、後の状態の状態方程式は、
$$ pV_0 = nRT \quad \cdots ④ $$
式④を式③で辺々割り算することで、未知の体積 \(V_0\) と定数 \(n, R\) をまとめて消去します。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{pV_0}{p_0V_0} &= \displaystyle\frac{nRT}{nRT_0} \\[2.0ex]
\displaystyle\frac{p}{p_0} &= \displaystyle\frac{T}{T_0} \\[2.0ex]
p &= \displaystyle\frac{T}{T_0}p_0
\end{aligned}
$$
ボイル・シャルルの法則を用いた場合と全く同じ結果が得られました。状態方程式という熱力学の基本法則から出発することで、法則の暗記に頼らずとも答えを導出できることがわかります。
問(2)
思考の道筋とポイント
定圧変化(圧力一定)で気体が外部にする仕事 \(W’\) を求めます。
仕事の基本式は \(W’ = p\Delta V\) です。この問題では圧力が \(p_0\) で一定なので \(W’ = p_0\Delta V\) となります。しかし、体積の変化量 \(\Delta V\) が問題文で与えられていません。そこで、理想気体の状態方程式を使い、\(p_0\Delta V\) を与えられた文字(\(n, R, T, T_0\))だけで表すことを目指します。
この設問における重要なポイント
- 定圧変化の仕事: \(W’ = p_0 \Delta V = p_0(V_{\text{後}} – V_{\text{前}})\)。
- 状態方程式の差をとることで \(p_0\Delta V = nR\Delta T\) という便利な関係式が導ける。
具体的な解説と立式
初めの状態(圧力\(p_0\), 温度\(T_0\))の体積を \(V_0\)、後の状態(圧力\(p_0\), 温度\(T\))の体積を \(V\) とします。
定圧変化で気体が外部にする仕事 \(W’\) は、
$$ W’ = p_0(V – V_0) \quad \cdots ⑤ $$
ここで、変化の前後でそれぞれ状態方程式を立てます。
$$ p_0V_0 = nRT_0 \quad \cdots ⑥ $$
$$ p_0V = nRT \quad \cdots ⑦ $$
式⑦から式⑥の辺々を引くと、
$$ p_0V – p_0V_0 = nRT – nRT_0 $$
左辺と右辺をそれぞれ整理すると、
$$ p_0(V – V_0) = nR(T – T_0) \quad \cdots ⑧ $$
この結果は、仕事の式⑤の左辺 \(p_0(V-V_0)\) が \(nR(T-T_0)\) に等しいことを示しています。
使用した物理公式
- 定圧変化の仕事: \(W’ = p\Delta V\)
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
式⑧の結果を式⑤に代入すると、仕事 \(W’\) が求まります。
$$
\begin{aligned}
W’ &= p_0(V – V_0) \\[2.0ex]
&= nR(T-T_0)
\end{aligned}
$$
仕事は「圧力 × 体積の変化量」で計算できますが、この問題では体積がいくつになったか分かりません。そこで、状態方程式 \(pV=nRT\) を使います。この式を見ると、圧力が一定なら、体積の変化は温度の変化と比例することがわかります。この関係を利用して、「体積の変化量」を「温度の変化量」で書き直すことで、\(W’ = nR(T-T_0)\) という、問題文の文字だけで表された式が求まります。
仕事は \(W’ = nR(T-T_0)\) となります。定圧で加熱しているので気体は膨張し、外部に正の仕事をするはずです。\(T>T_0\) なので \(W’>0\) となり、この結果は物理的に妥当です。
問(3)
思考の道筋とポイント
(2)で考えた定圧変化で必要だった熱量 \(Q\) を求めます。
熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W’\) を \(Q\) について解いた \(Q = \Delta U + W’\) を利用するのが最も直接的です。
この式に含まれる内部エネルギー変化 \(\Delta U\) と仕事 \(W’\) は、これまでの設問で求めた形をそのまま利用できます。
この設問における重要なポイント
- 熱力学第一法則: \(Q = \Delta U + W’\) (吸収した熱 = 内部エネルギー増加 + 外にした仕事)
- 内部エネルギー変化 \(\Delta U = nC_V\Delta T\) は、定圧変化であっても成立する。
具体的な解説と立式
熱力学第一法則より、気体が吸収した熱量 \(Q\) は、内部エネルギーの増加 \(\Delta U\) と、気体が外部にした仕事 \(W’\) の和に等しくなります。
$$ Q = \Delta U + W’ \quad \cdots ⑨ $$
内部エネルギーの増加 \(\Delta U\) は、(1)で見たように温度変化だけで決まるので、この定圧変化の場合でも、
$$ \Delta U = nC_V(T-T_0) $$
気体がした仕事 \(W’\) は、(2)で求めた通り、
$$ W’ = nR(T-T_0) $$
これらを式⑨に代入します。
使用した物理公式
- 熱力学第一法則: \(\Delta U = Q – W’\)
- 理想気体の内部エネルギー変化: \(\Delta U = nC_V\Delta T\)
$$
\begin{aligned}
Q &= \Delta U + W’ \\[2.0ex]
&= nC_V(T-T_0) + nR(T-T_0) \\[2.0ex]
&= (nC_V + nR)(T-T_0) \\[2.0ex]
&= n(C_V+R)(T-T_0)
\end{aligned}
$$
気体に加えた熱エネルギーは、2つのことに使われます。一つは「気体の内部エネルギーを増やす(=温度を上げる)」こと、もう一つは「気体が外部に仕事をする(=膨張する)」ことです。したがって、加えた熱の総量は、この2つを足し合わせれば求まります。(1)で求めた内部エネルギーの増加分と(2)で求めた仕事の分を単純に足し算します。
熱量は \(Q = n(C_V+R)(T-T_0)\) となります。定圧変化では、気体の温度を上げるだけでなく、外部に仕事をするためにもエネルギーが必要となります。そのため、同じ温度を上げる場合でも、体積を一定に保つ定積変化のときの熱量 \(nC_V(T-T_0)\) よりも大きくなる、という結果は物理的に妥当です。
問(4)
思考の道筋とポイント
定圧モル比熱 \(C_p\) を \(C_V\) と \(R\) を用いて表します。
そのために、まず定圧モル比熱 \(C_p\) の定義を思い出します。これは「圧力一定の状況で、気体1molの温度を1K上げるのに必要な熱量」のことです。数式で書くと、熱量 \(Q\)、物質量 \(n\)、温度変化 \(\Delta T\) の間に \(Q = nC_p\Delta T\) という関係が成り立ちます。
この定義式と、(3)で熱力学第一法則から具体的に計算した熱量の式を比較することで、\(C_p\) を導出します。
この設問における重要なポイント
- 定圧モル比熱の定義式: \(Q = nC_p\Delta T\)
- この設問で導かれる \(C_p = C_V + R\) は「マイヤーの関係」として知られる非常に重要な公式です。
具体的な解説と立式
定圧モル比熱 \(C_p\) の定義より、(2)の定圧変化で加えた熱量 \(Q\) は、次のように表すことができます。
$$ Q = nC_p\Delta T $$
$$ Q = nC_p(T-T_0) \quad \cdots ⑩ $$
一方、(3)では、熱力学第一法則に基づいて同じ熱量 \(Q\) を計算し、以下の結果を得ました。
$$ Q = n(C_V+R)(T-T_0) \quad \cdots ⑪ $$
式⑩と式⑪は、どちらも同じ定圧変化における熱量 \(Q\) を表しています。したがって、これらは等しいはずです。
使用した物理公式
- 定圧モル比熱の定義: \(Q = nC_p\Delta T\)
式⑩と式⑪を等しいとおきます。
$$ nC_p(T-T_0) = n(C_V+R)(T-T_0) $$
両辺は恒等的に等しいので、共通部分である \(n(T-T_0)\) で割ることができます。
$$ C_p = C_V + R $$
(3)で、定圧変化で温度を上げるのに必要な熱は \(n(C_V+R)(T-T_0)\) だと分かりました。
一方で、「定圧モル比熱 \(C_p\)」という便利な量を使えば、この熱は定義から \(nC_p(T-T_0)\) とも書けるはずです。
この2つの式は全く同じ熱量を表しているのですから、式の形を比べると、\(C_p\) の部分が \(C_V+R\) に対応していることが分かります。
\(C_p = C_V + R\) という関係が導かれました。これはマイヤーの関係式として知られています。
この式は \(C_p > C_V\) であることを示しており、定圧変化の方が定積変化よりも(同じ温度を上げるのに)多くの熱量を要するという物理的な事実と一致します。その差 \(R\) は、気体が外部にする仕事に相当するエネルギー(気体1molを1K温度上昇させたときの仕事量)であることが分かります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 熱力学第一法則 (\(\Delta U = Q – W’\)):
- 核心: 気体のエネルギー保存則であり、熱力学の問題を解く上での根幹です。「内部エネルギーの変化(\(\Delta U\))」「吸収した熱(\(Q\))」「外部にした仕事(\(W’\))」の3つの関係を正確に理解することが全てです。
- 理解のポイント:
- 熱力学第一法則は、エネルギーの出入りと蓄積の関係を示します。
- \(Q = \Delta U + W’\) の形で、「吸収した熱は、内部エネルギーの増加と外部への仕事に使われる」と考えると、エネルギーの流れが分かりやすくなります。
- 理想気体の内部エネルギーの公式 (\(\Delta U = nC_V\Delta T\)):
- 核心: 理想気体の内部エネルギーは温度だけで決まる、という重要な性質を表す式です。
- 理解のポイント:
- この式が定積変化だけでなく、定圧変化や断熱変化など、どんな変化に対しても成り立つことを理解するのが最重要です。
- 温度変化が同じなら、どんな過程をたどっても内部エネルギーの変化は同じになります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- \(p-V\)グラフとの連携: 定積変化は\(p-V\)グラフ上で「縦線」、定圧変化は「横線」に対応します。定圧変化の仕事 \(W’ = p_0\Delta V\) は、グラフ上で変化を表す横線とV軸が囲む長方形の面積に等しくなります。
- マイヤーの関係 (\(C_p = C_V + R\)) の活用: この関係式を公式として覚えておけば、定圧変化の熱量 \(Q\) は、熱力学第一法則から計算しなくても、\(Q = nC_p\Delta T = n(C_V+R)\Delta T\) として直接計算でき、時間短縮につながります。
- 状態方程式の「差」をとるテクニック: (2)で使ったように、変化の前後で状態方程式を立てて差をとる (\(p_0V – p_0V_0 = nRT – nRT_0\)) ことで、\(p_0\Delta V = nR\Delta T\) という関係を導く手法は、仕事の計算などで非常に強力です。
- 初見の問題での着眼点:
- 変化の種類を特定: まず問題文から「定積」「定圧」などのキーワードを見つけ、どの種類の変化かを確定させます。
- 仕事(\(W’\))と内部エネルギー(\(\Delta U\))を先に求める:
- 仕事\(W’\)は体積変化から判断します(定積なら0、定圧なら\(p\Delta V\))。
- 内部エネルギー\(\Delta U\)は温度変化から判断します(常に\(\Delta U = nC_V\Delta T\))。
- 熱量(\(Q\))を最後に求める: 熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) を使い、上で求めた2つの量を足し合わせて熱量を求めます。この思考の順番が定石です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- \(\Delta U = nC_V\Delta T\) の適用範囲の誤解:
- 誤解: 式に \(C_V\) (定積モル比熱) が入っているため、定積変化のときしか使えないと勘違いしてしまう。
- 対策: 「理想気体の内部エネルギーは温度のみに依存する」という大原則を覚える。したがって、温度変化が同じなら、どんな過程をたどっても内部エネルギーの変化は同じ \(\Delta U = nC_V\Delta T\) になります。この式は万能であると理解しましょう。
- 仕事 \(W’\) の計算式の誤用:
- 誤解: 仕事の式 \(W’ = p\Delta V\) を、圧力が変化する定積変化や断熱変化でも使おうとしてしまう。
- 対策: \(W’ = p\Delta V\) は、圧力 \(p\) が一定である定圧変化のときのみ使える単純な形式です。圧力が変化する場合は計算が複雑になる(高校範囲では主に\(p-V\)グラフの面積から求める)と区別してください。
- \(C_p\) と \(C_V\) の混同:
- 誤解: 定圧変化の熱量を計算するときに、間違えて \(Q=nC_V\Delta T\) としてしまう。
- 対策: 添字の意味を常に意識しましょう。pはpressure(圧力)、Vはvolume(体積)です。定圧変化なら \(C_p\)、定積変化なら \(C_V\) が熱量の計算で主役になります。\(C_p > C_V\) であることも覚えておくと、検算に役立ちます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(\Delta U = nC_V\Delta T\) (なぜ \(C_p\) ではなく \(C_V\) なのか?):
- 選定理由: 内部エネルギーの変化量を、測定可能な「温度変化」と結びつけるための定義式です。
- 適用根拠: なぜ \(C_V\) が使われるかというと、熱力学第一法則 \(\Delta U = Q – W’\) において、定積変化 (\(W’=0\)) を考えると \(\Delta U = Q\) となります。このときの \(Q\) は \(nC_V\Delta T\) なので、\(\Delta U = nC_V\Delta T\) となります。つまり、\(C_V\) は外部への仕事という余計な要素を考えずに、与えた熱が純粋に内部エネルギー増加になる状況での比例定数であり、内部エネルギーそのものを定義するのに最も都合が良いからです。
- \(W’ = p\Delta V\) (定圧変化の仕事):
- 選定理由: 仕事を状態量(圧力、体積)で表すための関係式です。
- 適用根拠: 仕事の定義は「力 × 距離」です。ピストンの断面積を \(A\) とすると、気体が及ぼす力は \(F=pA\)。ピストンが \(\Delta x\) 移動したとすると、仕事は \(W’ = F\Delta x = (pA)\Delta x = p(A\Delta x)\) となります。\(A\Delta x\) は体積の変化量 \(\Delta V\) に等しいので、\(W’ = p\Delta V\) が導かれます。圧力が一定だからこそ、この単純な掛け算で計算できるのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 変化の条件を明確にする: 計算を始める前に、問題文の「体積を一定に保って」「圧力を一定に保って」などの条件を丸で囲み、どの物理量が定数で、どの物理量が変化するのかを明確に意識しましょう。
- \(\Delta\) の定義を徹底する: \(\Delta T\), \(\Delta U\), \(\Delta V\) などの \(\Delta\) は、常に「(後の量)-(前の量)」を意味します。\(T-T_0\) なのか \(T_0-T\) なのか、符号を間違えないように注意しましょう。
- 共通因数でくくる: (3)の計算のように、複数の項を足し合わせる際は、\(n(T-T_0)\) のような共通因数でくくる習慣をつけましょう。式が簡潔になり、(4)のような比較や次のステップへの見通しが格段に良くなります。
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254 定圧変化
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 提示する別解
- 設問[エ]の仕事\(W’\)の計算に関する別解: 定義式への直接代入による解法
- 模範解答が状態方程式の差を利用して \(W’=nR\Delta T\) を導くのに対し、別解では仕事の定義式 \(W’=p\Delta V\) に、圧力\(p\)と体積変化\(\Delta V\)の具体的な計算結果を直接代入して求めます。
- 設問[エ]の仕事\(W’\)の計算に関する別解: 定義式への直接代入による解法
- 上記の別解が有益である理由
- 仕事の基本定義に忠実な計算プロセスを具体的に体験できます。
- 一見複雑に見える文字式が、物理法則に則って計算すると最終的にシンプルな形に整理されるという、物理計算の面白さや整合性を実感できます。
- 模範解答で用いられている \(p\Delta V = nR\Delta T\) という関係式の有用性やエレガントさを、より深く理解することにつながります。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「ピストンのつり合いと定圧変化」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: なめらかに動くピストンにはたらく力(気体の圧力による力、大気圧による力、重力)がつりあうことで、内部の気体の圧力が決まります。
- 定圧変化: 上記の力のつり合いが保たれたまま気体が膨張・収縮するため、この変化は圧力が一定の「定圧変化」となります。
- 熱力学第一法則: 気体のエネルギー収支(内部エネルギー、熱、仕事)の関係を表す基本法則です。(\(\Delta U = Q – W’\))
- 単原子分子理想気体の内部エネルギー: 内部エネルギーの変化量は、単原子分子の場合、\(\Delta U = \displaystyle\frac{3}{2}nR\Delta T\) で与えられます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、ピストンにはたらく力のつり合いを考え、気体の圧力が一定であること(定圧変化)を確認し、その圧力 \(p\) の値を求めます。これにより[ア]が求まります。
- 次に、状態方程式を用いて体積の増加量 \(\Delta V\) を計算し、[イ]を求めます。
- 内部エネルギーの増加量 \(\Delta U\) と気体がした仕事 \(W’\) を、公式を用いてそれぞれ計算し、[ウ]と[エ]を求めます。
- 最後に、熱力学第一法則 \(Q = \Delta U + W’\) を用いて、気体に加えられた熱量 \(Q\) を計算し、[オ]を求めます。