「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第12章】応用問題

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242 ボイル・シャルルの法則

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、ピストンによってシリンダー内に封入された気体の状態変化を扱います。ピストンにはたらく力のつり合いから内部の気体の圧力を正しく求め、その上で各状態変化に対応する気体の法則(ボイルの法則、シャルルの法則)を適用する能力が問われます。

与えられた条件
  • シリンダーの断面積: \(S\)
  • ピストンの質量: \(M\)
  • 図1での初期状態:
    • 絶対温度: \(T_0\)
    • ピストンの高さ: \(H\)
  • 大気圧: \(p_0\)
  • 重力加速度の大きさ: \(g\)
問われていること
  • (1) 図1における内部の気体の圧力 \(p\)
  • (2) 温度を \(T_0\) に保ったまま水平に倒したときのピストンの位置 \(l\)
  • (3) 図1の状態から加熱し、ピストンが \(h\) 上昇したときの絶対温度 \(T\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されているボイル・シャルルの法則(およびその特殊な場合であるボイルの法則、シャルルの法則)を用いた解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 問(2), (3)の別解: 理想気体の状態方程式を用いた統一的解法
      • 模範解答が各状態変化(等温、定圧)に応じてボイルの法則、シャルルの法則を使い分けるのに対し、別解では、まず初期状態から気体の物質量に関する定数 \(nR\) を求め、すべての状態変化を理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) のみを用いて統一的に解きます。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理現象の包括的理解: ボイルの法則やシャルルの法則が、より根源的な理想気体の状態方程式から導かれる特殊なケースであることを、具体的な計算を通して深く理解できます。
    • 統一的な問題解決アプローチ: 状態変化の種類を個別に判断せずとも、状態方程式という一つの法則で問題を貫通して解くアプローチを学ぶことができます。
    • 応用力の養成: 未知数が複数ある複雑な問題においても、不変量(この場合は \(nR\))を見つけて立式する、という物理学における強力な問題解決手法を体験できます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程と思考の順序が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「力のつり合いと気体の状態変化」です。ピストンの静止条件から圧力を求め、状態変化に応じて適切な法則を適用することが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合い: 静止しているピストンにはたらく力はつり合っている。圧力 \(p\)、面積 \(S\) のとき、力は \(F=pS\) となる。
  2. ボイルの法則: 温度が一定のとき、気体の圧力 \(p\) と体積 \(V\) の積は一定 (\(pV = \text{一定}\))。
  3. シャルルの法則: 圧力が一定のとき、気体の体積 \(V\) は絶対温度 \(T\) に比例する (\(V/T = \text{一定}\))。
  4. ボイル・シャルルの法則: 封入された気体の圧力 \(p\)、体積 \(V\)、絶対温度 \(T\) の間には、\(pV/T = \text{一定}\) の関係が成り立つ。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、(1)では図1の状態でピストンにはたらく力のつり合いを考え、内部の気体の圧力を求めます。
  2. 次に、(2)では図1から図2への変化が等温変化であることを見抜き、ボイルの法則を適用します。このとき、図2での気体の圧力を力のつり合いから求めることが必要です。
  3. 最後に、(3)では図1からの変化が定圧変化であることを見抜き、シャルルの法則を適用します。

問(1)

思考の道筋とポイント
図1でピストンは静止しています。これは、ピストンにはたらく全ての力がつり合っていることを意味します。ピストンにはたらく力は、(a)内部の気体が上向きに押す力、(b)外部の大気が下向きに押す力、(c)ピストン自身の重力(下向き)の3つです。これらの力のつり合いの式を立てることで、内部の気体の圧力を求めます。

この設問における重要なポイント

  • ピストンにはたらく力は、上向きの力と下向きの力の合計が等しい。
  • 上向きの力: 内部気体の圧力 \(p\) による力 \(pS\)
  • 下向きの力: 大気圧 \(p_0\) による力 \(p_0S\) と、ピストンの重力 \(Mg\) の和

具体的な解説と立式
ピストンにはたらく力は以下の通りです。

  • 内部の気体がピストンを押し上げる力(上向き): \(F_{\text{内}} = pS\)
  • 大気圧がピストンを押し下げる力(下向き): \(F_{\text{外}} = p_0S\)
  • ピストンの重力(下向き): \(W = Mg\)

ピストンは静止しているので、力のつり合いから、
$$ pS = p_0S + Mg \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 力のつり合い
  • 圧力と力の関係: \(F = pS\)
計算過程

①式を \(p\) について解きます。両辺を \(S\) で割ると、
$$
\begin{aligned}
p &= \frac{p_0S + Mg}{S} \\[2.0ex]
&= p_0 + \frac{Mg}{S}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

シリンダーの中の気体は、ピストンを上に押し上げています。一方、ピストンの上からは大気が押さえつけ、さらにピストン自身の重さもかかっています。ピストンが動かないということは、この「押し上げる力」と「押さえつける力+重さ」がちょうど等しくなっているということです。この関係を式にして、内部の圧力を計算します。

結論と吟味

内部の気体の圧力 \(p\) は \(p_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) です。
この結果は、内部の圧力が大気圧 \(p_0\) よりも、ピストンの重力によって生じる圧力 \(\displaystyle\frac{Mg}{S}\) だけ大きいことを示しており、物理的に妥当です。

解答 (1) \(p_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
図1から図2への変化は「温度を保ちながら」とあるので、等温変化です。したがって、ボイルの法則 `pV = 一定` が使えます。この法則を適用するためには、変化前(図1)と変化後(図2)の圧力と体積をそれぞれ明らかにする必要があります。図1の状態は(1)で考えたとおりです。図2の状態では、シリンダーが水平になっているため、ピストンにはたらく力のつり合いの状況が変化することに注意が必要です。

この設問における重要なポイント

  • 変化は等温変化であり、ボイルの法則 \(p_1V_1 = p_2V_2\) が成り立つ。
  • 図2(水平状態)では、ピストンの重力 \(Mg\) は鉛直下向きにはたらくため、水平方向の力のつり合いには影響しない。
  • 図2での内部の気体の圧力は、大気圧 \(p_0\) とつり合う。

具体的な解説と立式
変化前の状態1(図1)と変化後の状態2(図2)の圧力と体積を整理します。

  • 状態1:
    • 圧力 \(p_1 = p = p_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) ((1)の結果より)
    • 体積 \(V_1 = SH\)
  • 状態2:
    • ピストンにはたらく水平方向の力は、内部気体が右向きに押す力 \(p_2S\) と、大気が左向きに押す力 \(p_0S\) のみ。力のつり合いより \(p_2S = p_0S\)。
    • したがって、圧力 \(p_2 = p_0\)
    • 体積 \(V_2 = Sl\)

温度が一定なので、ボイルの法則より次の関係が成り立ちます。
$$ p_1V_1 = p_2V_2 \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • ボイルの法則: \(pV = \text{一定}\)
  • 力のつり合い
計算過程

①式に各値を代入します。
$$ \left(p_0 + \frac{Mg}{S}\right) \times SH = p_0 \times Sl $$
この式を \(l\) について解きます。まず、両辺の \(S\) を消去します。
$$ \left(p_0 + \frac{Mg}{S}\right) \times H = p_0 \times l $$
よって、
$$
\begin{aligned}
l &= \frac{\left(p_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\right) H}{p_0} \\[2.0ex]
&= \frac{\left(\displaystyle\frac{p_0S + Mg}{S}\right) H}{p_0} \\[2.0ex]
&= \frac{(p_0S + Mg)H}{p_0S}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

シリンダーを横に倒すと、これまで気体を押さえつけていたピストンの重さがかからなくなります。その結果、気体はグッと膨張します。温度は変わらないので、「圧力 × 体積 = 一定」というボイルの法則が使えます。「重さがかかっていた時の圧力と体積の積」と「重さがなくなった時の圧力と体積の積」が等しくなるように、新しいピストンの位置 `l` を計算します。

結論と吟味

ピストンの位置 \(l\) は \(\displaystyle\frac{(p_0S + Mg)H}{p_0S}\) です。
分子の \(p_0S + Mg\) は分母の \(p_0S\) より大きいので、\(l > H\) となります。ピストンの重さによる圧力がなくなった分、気体が膨張して体積が増えるという結果は、物理的に妥当です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{(p_0S + Mg)H}{p_0S}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
図1の状態から加熱すると、気体は膨張してピストンを押し上げます。このとき、ピストンは最終的に静止するため、ピストンにはたらく力のつり合いの関係は図1のときと変わりません。つまり、内部の気体の圧力は一定のままです。圧力が一定のまま温度と体積が変化するので、これは定圧変化であり、シャルルの法則 `V/T = 一定` が使えます。

この設問における重要なポイント

  • ピストンは自由に動けるため、加熱によって気体が膨張しても、内部の圧力は \(p = p_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) のまま一定に保たれる(定圧変化)。
  • 定圧変化なので、シャルルの法則 \(V_1/T_1 = V_2/T_2\) が成り立つ。
  • ピストンが \(h\) 上昇したので、体積は \(SH\) から \(S(H+h)\) に増加する。

具体的な解説と立式
変化前の状態1(図1)と変化後の状態2(加熱後)の体積と温度を整理します。

  • 状態1:
    • 体積 \(V_1 = SH\)
    • 絶対温度 \(T_1 = T_0\)
  • 状態2:
    • ピストンが \(h\) 上昇したので、高さは \(H+h\)。
    • 体積 \(V_2 = S(H+h)\)
    • 絶対温度 \(T_2 = T\)

圧力は一定なので、シャルルの法則より次の関係が成り立ちます。
$$ \frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2} \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(V/T = \text{一定}\)
  • 力のつり合い(圧力が一定であることの根拠)
計算過程

①式に各値を代入します。
$$ \frac{SH}{T_0} = \frac{S(H+h)}{T} $$
この式を \(T\) について解きます。まず、両辺の \(S\) を消去します。
$$ \frac{H}{T_0} = \frac{H+h}{T} $$
両辺の逆数をとると、
$$ \frac{T_0}{H} = \frac{T}{H+h} $$
よって、
$$ T = \frac{H+h}{H} T_0 $$

計算方法の平易な説明

気体を温めると、中の気体分子が元気になって激しく動き回り、ピストンを押し上げます。このとき、ピストンにかかる重さや大気圧は変わらないので、気体の圧力は一定のままです。このような「定圧」の状態では、「体積は絶対温度に比例する」というシャルルの法則が成り立ちます。体積が `H` から `H+h` に増えたので、それに比例して絶対温度も `T₀` から増加します。その関係から新しい温度 `T` を計算します。

結論と吟味

気体の絶対温度 \(T\) は \(\displaystyle\frac{H+h}{H} T_0\) です。
\(H+h > H\) なので、\(T > T_0\) となります。気体を加熱したので、温度が初期温度より高くなるという結果は、物理的に妥当です。

別解: 理想気体の状態方程式を用いた統一的解法

思考の道筋とポイント
ボイルの法則やシャルルの法則は、より普遍的な理想気体の状態方程式 `pV = nRT` の特殊な場合に相当します。シリンダーに封入された気体の物質量 `n` は一連の操作で変化しないため、`nR` は一定値となります。この不変量 `nR` を利用して、すべての設問を統一的に解くことができます。まず初期状態(図1)から `nR` の値を求め、それを(2)と(3)の状態に適用します。

この設問における重要なポイント

  • 理想気体の状態方程式 \(pV = nRT\) がすべての状態変化の基礎となる。
  • 封入された気体の物質量 \(n\) は不変であるため、\(nR\) は定数として扱うことができる。
  • 各状態での圧力 \(p\)、体積 \(V\)、温度 \(T\) を整理し、状態方程式に代入する。

具体的な解説と立式
まず、定数となる \(nR\) の値を初期状態(図1)から求めます。
状態1(図1):

  • 圧力 \(p_1 = p_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\)
  • 体積 \(V_1 = SH\)
  • 絶対温度 \(T_1 = T_0\)

理想気体の状態方程式 \(p_1V_1 = nRT_1\) にこれらを代入すると、
$$ \left(p_0 + \frac{Mg}{S}\right) SH = nRT_0 $$
整理すると、
$$ (p_0S + Mg)H = nRT_0 $$
ここから、この気体に固有の定数 \(nR\) が求まります。
$$ nR = \frac{(p_0S + Mg)H}{T_0} \quad \cdots ① $$

この①式を用いて、(2)と(3)を解きます。

(2) 水平に倒した状態(状態2)

  • 圧力 \(p_2 = p_0\)
  • 体積 \(V_2 = Sl\)
  • 絶対温度 \(T_2 = T_0\)

状態方程式は \(p_2V_2 = nRT_2\) なので、
$$ p_0 \times Sl = nRT_0 \quad \cdots ② $$

(3) 加熱後の状態(状態3)

  • 圧力 \(p_3 = p_1 = p_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\)
  • 体積 \(V_3 = S(H+h)\)
  • 絶対温度 \(T_3 = T\)

状態方程式は \(p_3V_3 = nRT_3\) なので、
$$ \left(p_0 + \frac{Mg}{S}\right) S(H+h) = nRT \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 理想気体の状態方程式: \(pV = nRT\)
  • 力のつり合い
計算過程

(2)の計算:
②式に①式を代入します。
$$
\begin{aligned}
p_0 S l &= nR \times T_0 \\[2.0ex]
&= \frac{(p_0S + Mg)H}{T_0} \times T_0 \\[2.0ex]
&= (p_0S + Mg)H
\end{aligned}
$$
この式を \(l\) について解くと、
$$ l = \frac{(p_0S + Mg)H}{p_0S} $$
となり、(2)の答えが求まります。

(3)の計算:
③式を整理し、①式を代入します。
$$ (p_0S + Mg)(H+h) = nRT $$
この式に①式を代入すると、
$$
\begin{aligned}
(p_0S + Mg)(H+h) &= \left( \frac{(p_0S + Mg)H}{T_0} \right) T
\end{aligned}
$$
両辺に共通する \((p_0S + Mg)\) を消去します。
$$ H+h = \frac{H}{T_0} T $$
この式を \(T\) について解くと、
$$ T = \frac{H+h}{H} T_0 $$
となり、(3)の答えが求まります。

計算方法の平易な説明

この問題に登場する気体の法則(ボイル、シャルル)の「親玉」にあたるのが、理想気体の状態方程式 `pV=nRT` です。この方法では、まず最初の状態から、その気体の「個性」を表す定数 `nR` を計算しておきます。あとは、どんな状態に変化してもこの `nR` の値は変わらないので、それを頼りにして(2)や(3)の未知数を計算していく、という統一的なアプローチです。

結論と吟味

理想気体の状態方程式を用いることで、(2)と(3)の答えが主たる解法と完全に一致することが確認できました。このアプローチは、個々の法則を使い分けるのではなく、より根本的な一つの法則からすべてを導出するものであり、物理現象の統一的な理解を深める上で非常に有効です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{H+h}{H} T_0\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 力のつり合いと気体法則の連携:
    • 核心: この問題の根幹は、単に気体の法則を知っているだけでは解けず、「ピストンにはたらく力のつり合い」から気体の圧力 \(p\) を正しく決定し、それを気体の状態変化の法則(ボイル・シャルルの法則)に適用するという、2つの物理分野を連携させる能力にあります。
    • 理解のポイント: ピストンの向き(鉛直か水平か)や状態(静止か運動か)によって、力のつり合いの式が変化し、それが直接内部の気体の圧力に影響します。各設問で「まず、圧力はどうなるか?」を考える癖をつけることが重要です。
  • 状態変化の種類を見抜く:
    • 核心: 問題文の「温度を保ちながら」(等温変化)や、ピストンが自由に動ける状態での加熱(定圧変化)といった記述から、どの気体法則(ボイル、シャルル)が適用できるかを正確に判断することが求められます。
    • 理解のポイント:
      • 等温変化 (\(T\)一定) → ボイルの法則 \(pV = \text{一定}\)
      • 定圧変化 (\(p\)一定) → シャルルの法則 \(V/T = \text{一定}\)
      • 定積変化 (\(V\)一定) → ゲイ=リュサックの法則 \(p/T = \text{一定}\)
      • これら全てを包括するのがボイル・シャルルの法則 \(pV/T = \text{一定}\) であり、さらに根源には理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) があります。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • U字管内の液体と気体: U字管の一方を封じ、気体を閉じ込めた問題。液柱の高さの差が、内部気体と外部の圧力差を生み出します。液柱の重さによる圧力を正しく計算できるかが鍵です。
    • ばね付きピストン: ピストンにばねが取り付けられている場合。力のつり合いを考える際に、ばねの弾性力(\(kx\))も考慮に入れる必要があります。気体が膨張するとばねが縮む(または伸びる)ため、圧力と体積が両方とも変化する複雑な状態変化になります。
    • 熱気球: 気球内の空気の温度を上げることで密度を下げ、浮力を得て上昇する問題。気球内外の圧力はほぼ等しい(定圧)とみなせ、気球内の空気の密度変化をシャルルの法則から考えます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 気体は密封されているか?: 気体の出入りがなく、物質量 \(n\) が一定かを確認します。これが気体の法則を適用する大前提です。
    2. ピストン(または境界)は動けるか?: ピストンが自由に動けるなら、内外の圧力差が一定に保たれる傾向があり、定圧変化になりやすいです。固定されていれば定積変化です。
    3. 力のつり合いを最初に考える: 内部の気体の圧力が未知の場合、まずはピストンや液柱にはたらく力のつり合いを考え、圧力を求めることから始めます。
    4. 状態変化の前後で何が一定か?: 問題文をよく読み、温度、圧力、体積のうち、何が一定に保たれているか(あるいは変化しているか)を整理します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 圧力の計算ミス:
    • 誤解: (2)でシリンダーを水平にしたときも、ピストンの重力 \(Mg\) を圧力の計算に含めてしまう。
    • 対策: 力はベクトル量であることを常に意識し、図を描いて力の向きを明確にすること。水平方向のつり合いを考えているときに、鉛直方向の力である重力を混同しないように注意します。
  • 温度の単位ミス:
    • 誤解: シャルルの法則や状態方程式に、セルシウス温度(℃)をそのまま代入してしまう。
    • 対策: 気体の法則で使われる温度 \(T\) は、必ず絶対温度(K)であることを徹底します。問題でセルシウス温度が与えられたら、まず \(T[\text{K}] = t[^\circ\text{C}] + 273\) の変換を行う習慣をつけましょう。
  • 体積の計算ミス:
    • 誤解: (3)でピストンが \(h\) 上昇したときの体積を \(Sh\) と考えてしまう。
    • 対策: 体積は「変化量」ではなく「その瞬間の全体量」です。変化後の高さが \(H+h\) であることを正しく認識し、体積は \(S(H+h)\) と計算します。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力の矢印を書き込む: 問題の図に、直接力の矢印を書き込むのが最も効果的です。(1)では上向きの \(pS\)、下向きの \(p_0S\) と \(Mg\)。(2)では右向きの \(p_2S\)、左向きの \(p_0S\)、そして真下への \(Mg\)。このように図示することで、どの力がつり合いに関与するかが一目瞭然になります。
    • 状態変化を矢印で結ぶ: 「図1 →(等温)→ 図2」「図1 →(定圧)→ 加熱後」のように、状態変化の種類を明記した矢印で各状態を結ぶ図を描くと、思考のプロセスが整理されます。各状態の下に (\(p\), \(V\), \(T\)) の値を書き込んでいくと、さらに分かりやすくなります。
  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力の作用点を意識する: 圧力による力は面に垂直にはたらきます。大気圧による力はピストンの上面に、内部気体の圧力による力はピストンの下面にはたらくことを意識して描きましょう。
    • 変化の大きさを誇張して描く: (3)でピストンが \(h\) 上昇した図を描く際、\(H\) と \(H+h\) の長さの違いが明確にわかるように、少し大げさに描くと体積変化のイメージが掴みやすくなります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 力のつり合いの式:
    • 選定理由: 問題文に「ピストンは静止した」とあるため、ニュートンの運動法則の第一法則(慣性の法則)から、ピストンにはたらく合力がゼロであると結論できます。これを数式で表現したものが力のつり合いの式です。
    • 適用根拠: マクロな物体であるピストンの静止という現象を記述するための、力学における最も基本的な法則です。
  • ボイルの法則 \(pV = \text{一定}\):
    • 選定理由: (2)で「温度を保ちながら」という明確な指示があるため、等温変化を記述するこの法則を選択します。
    • 適用根拠: これは、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) において、\(n\), \(R\), \(T\) がすべて定数である特殊なケースに相当します。
  • シャルルの法則 \(V/T = \text{一定}\):
    • 選定理由: (3)では、ピストンが自由に動けるため、内部の圧力が大気圧とピストンの重力で決まる一定値に保たれます。この「定圧変化」を記述するためにこの法則を選択します。
    • 適用根拠: これは、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) において、\(n\), \(R\), \(p\) がすべて定数である特殊なケースに相当します。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 初期の圧力計算:
    • 戦略: 図1のピストンの力のつり合いから圧力を求める。
    • フロー: ①ピストンにはたらく力を図示(上向き: \(pS\), 下向き: \(p_0S, Mg\)) → ②力のつり合いの式を立式 (\(pS = p_0S + Mg\)) → ③\(p\)について解く。
  2. (2) 等温変化:
    • 戦略: 状態1(図1)と状態2(図2)でボイルの法則を適用する。
    • フロー: ①状態2の圧力を力のつり合いから求める (\(p_2 = p_0\)) → ②状態1と2の(\(p, V\))を整理 → ③ボイルの法則 \(p_1V_1 = p_2V_2\) を立式 → ④数値を代入して \(l\) を計算。
  3. (3) 定圧変化:
    • 戦略: 状態1(図1)と状態3(加熱後)でシャルルの法則を適用する。
    • フロー: ①状態3の圧力は状態1と同じであることを確認 (\(p_3 = p_1\)) → ②状態1と3の(\(V, T\))を整理 → ③シャルルの法則 \(V_1/T_1 = V_3/T_3\) を立式 → ④数値を代入して \(T\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: \((p_0 + Mg/S)\) のような項は、すぐに数値を代入せず、できるだけ計算の最後まで文字式のまま扱います。これにより、式全体の見通しが良くなり、途中の計算ミスが減ります。また、両辺で同じ項(例えば(2)の計算での \(S\))を約分できることに気づきやすくなります。
  • 分数の整理を丁寧に行う: (2)の答え \(\displaystyle\frac{(p_0S + Mg)H}{p_0S}\) のように、式が複雑に見える場合は、\(\left(1 + \displaystyle\frac{Mg}{p_0S}\right)H\) のように変形してみるなど、最もシンプルで物理的な意味が分かりやすい形に整理する習慣をつけましょう。
  • 単位の確認: 計算の最終段階で、求めた物理量の単位が正しいかを確認する。例えば、(2)で長さを求めているのに、単位が圧力の次元になっていたら、どこかで計算ミスをしています。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (1) 圧力: 内部の圧力 \(p = p_0 + Mg/S\) は、大気圧 \(p_0\) より大きい。重力に抗して気体がピストンを支えているので、圧力が高いのは当然です。妥当です。
    • (2) 長さ: 長さ \(l = \displaystyle\frac{p_0S+Mg}{p_0S}H\) は、係数部分が1より大きいので \(l > H\) となります。ピストンの重さという「おもし」がなくなったので、気体が膨張するのは当然です。妥当です。
    • (3) 温度: 温度 \(T = \displaystyle\frac{H+h}{H}T_0\) は、係数部分が1より大きいので \(T > T_0\) となります。加熱したのだから温度が上がるのは当然です。妥当です。
  • 極端な場合を考える(思考実験):
    • もしピストンの質量がゼロ (\(M=0\)) だったらどうなるか?
      • (1) \(p = p_0\) となり、内外の圧力が等しくなる。
      • (2) \(l = H\) となり、横にしてもピストンは動かない。
      • (3) \(T = \frac{H+h}{H}T_0\) は変わらない(圧力は \(p_0\) で一定)。
    • これらの結果は直感と一致しており、元の式が正しそうであるという確信を深めることができます。
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243 ボイル・シャルルの法則

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、連結された2つのピストンによって仕切られた、2つの容器A、B内の気体の状態変化を扱います。片方の気体の温度を変化させたときに、連結されたピストンが移動して新しい位置でつり合う、という状況を分析します。

与えられた条件
  • 容器A, Bは同一で、自由に動くピストンを備える。
  • 2つのピストンは連結されている。
  • 初期状態:
    • 容器A, B内の気体は「等量の同じ気体」。
    • 容器A, B内の絶対温度はともに \(T_0\)。
    • ピストンはそれぞれ容器の底から \(l\) の位置でつり合っている。
  • 変化後:
    • 容器Aの温度は \(T_0\) に保たれる。
    • 容器Bの気体の温度を \(t\) だけ下降させる(新しい温度は \(T_0 – t\))。
    • ピストンが距離 \(x\) だけBの方へ移動してつり合った。
問われていること
  • ピストンの移動距離 \(x\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で採用されているボイル・シャルルの法則を用いた解法を主たる解説としつつ、以下の別解を提示します。

  1. 提示する別解
    • 理想気体の状態方程式を用いた解法
      • 模範解答がボイル・シャルルの法則 \(pV/T = \text{一定}\) を用いて、変化の前後を比較するのに対し、別解では理想気体の状態方程式 \(pV = nRT\) を用います。まず初期状態から気体の物質量 \(n\) を求め、それを使って変化後の状態を記述し、連立方程式を解くアプローチを取ります。
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 物理法則の階層性の理解: ボイル・シャルルの法則が、より根源的な理想気体の状態方程式から導かれる関係であることを、具体的な計算を通して体感できます。
    • 異なる問題解決アプローチの学習: 「変化の前後を比較する」というアプローチだけでなく、「各状態を独立した方程式で記述し、連立して解く」という、より代数的な問題解決手法を学ぶことができます。
    • 思考の柔軟性向上: 複雑な問題に直面した際に、複数の解法アプローチを知っていることで、より見通しの良い方法を選択する能力が養われます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、計算過程と思考の順序が異なるだけで、最終的に得られる答えは模範解答と完全に一致します。

この問題のテーマは「連結ピストンと気体の状態変化」です。2つの容器内の気体が、ピストンの移動を通して互いに影響を及ぼし合う状況を正しくモデル化することが鍵となります。

問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつり合い: 連結されたピストンが静止しているとき、容器Aの気体が押す力と容器Bの気体が押す力はつり合っている。断面積が等しいので、これはA内の圧力とB内の圧力が等しいことを意味する。
  2. ボイル・シャルルの法則: 容器A、Bそれぞれに封入された気体について、物質量は一定なので、状態変化の前後で \(pV/T = \text{一定}\) が成り立つ。
  3. 状態量の整理: 変化前と変化後で、各容器の圧力、体積、温度がどのように変化したかを正確に整理する。特に、ピストンの移動に伴う体積変化(\(l \rightarrow l+x\), \(l \rightarrow l-x\))を正しく立式することが重要。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、変化後の状態でピストンが静止していることから、容器Aと容器Bの圧力が等しいことを確認します。この圧力を \(p\) とおきます。
  2. 次に、容器Aと容器Bそれぞれについて、変化前と変化後でボイル・シャルルの法則を適用する式を立てます。
  3. 立てた2つの式から、未知数である変化後の圧力 \(p\) を消去し、もう一つの未知数である移動距離 \(x\) を求めます。
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