基本問題
237 シャルルの法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 設問(2)の別解
- 別解1: 理想気体の状態方程式を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- シャルルの法則が、より普遍的な法則である「理想気体の状態方程式」において、圧力と物質量が一定という条件下で成り立つ特殊な場合であることを、数式を通して理解することができます。
- 様々な気体の状態変化の問題に対して、常に状態方程式という統一的な視点からアプローチする力を養うことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「定圧変化の条件判断とシャルルの法則の適用」です。実験装置の状況から物理条件を正しく読み取り、適切な気体の法則を選択する能力が試されます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 定圧変化の条件(自由に動けるピストンや水銀滴)
- シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\))
- 絶対温度への変換
- 変化しない物理量(保存量)の特定
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、フラスコ内の空気が水銀滴で「封じられている」こと、そして水銀滴が「水平な管を自由に動ける」ことから、質量と圧力がどうなるかを考察します。
- (2)では、(1)で圧力が一定であると判断したことから、シャルルの法則を適用します。その際、セルシウス温度を絶対温度に変換することが不可欠です。
問(1)
思考の道筋とポイント
フラスコ内の空気の「圧力、温度、体積、質量」が、フラスコを温める過程でそれぞれどうなるかを考える問題です。ポイントは、装置の構造が物理量にどのような制約を与えるかを読み解くことです。「水銀滴で封じられている」ことと、「水平な管を水銀滴が動く」ことの意味を物理的に解釈します。
この設問における重要なポイント
- 「封じられている」は、気体の出入りがないことを意味し、したがって「質量」は一定に保たれる。
- 「水平な管を水銀滴が自由に動ける」は、内部の空気の圧力が常に外部の大気圧とつりあっている状態を保つことを意味する。大気圧は一定なので、内部の「圧力」も一定となる。
- 「フラスコを温める」と明記されているので、「温度」は変化する。
- 温度が上がると気体は膨張し、水銀滴を押し動かすので「体積」も変化する。
具体的な解説と立式
この設問は、物理的な考察が中心であり、立式は不要です。
- 質量: フラスコ内の空気は水銀滴によって封じられており、外部との出入りがありません。したがって、空気の質量は一定です。
- 圧力: ガラス管が水平に置かれているため、水銀滴の重さは内部の空気の圧力に影響を与えません。水銀滴は管内をなめらかに動けるので、水銀滴にはたらく力は常につりあっています。すなわち、フラスコ内部の空気が水銀滴を押す力と、外部の大気が水銀滴を押す力が等しくなります。両側から同じ面積で押しているので、フラスコ内の空気の圧力は常に大気圧と等しく、一定に保たれます。
- 温度: 問題文で「フラスコを温める」とあるので、温度は変化します。
- 体積: シャルルの法則によれば、圧力が一定のとき、気体の体積は絶対温度に比例します。温度が変化するため、体積も変化します。
使用した物理公式
- 力のつりあい(概念的な適用)
この設問では、計算は不要です。
水銀滴はフラスコ内の空気にとって「フタ」の役割をしています。フタがしてあるので、中の空気の量(質量)は変わりません。また、このフタは自由に動けるので、中の空気が押す力と外の空気が押す力(大気圧)がいつも同じ強さで引き分けの状態になります。外の大気圧は変わらないので、中の圧力も一定です。一方、問題文で「温める」とあるので温度は変わりますし、温められて空気が膨らむので体積も変わります。したがって、変化しないのは「質量」と「圧力」です。
以上の考察から、変化しない物理量は質量と圧力です。温度と体積は変化します。これは定圧変化の状況設定として正しい理解です。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)の考察から、この気体の変化は「圧力が一定」の定圧変化であることがわかります。したがって、体積と絶対温度の関係を表す「シャルルの法則」を適用します。計算における最大の注意点は、シャルルの法則で用いる温度は必ず絶対温度[K]でなければならない、という点です。与えられたセルシウス温度[℃]を絶対温度[K]に変換してから、式に代入します。
この設問における重要なポイント
- シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\) を用いる。
- 温度は必ず絶対温度に変換する: \(T[\text{K}] = t[℃] + 273\)。
- 体積の単位は、式の両辺で揃っていれば、m³に変換しなくても良い。この問題ではcm³のまま計算する方が簡便である。
具体的な解説と立式
変化前の状態を状態1、変化後の状態を状態2とします。
状態1:
体積 \(V_1 = 500 \text{ cm}^3\)。
温度 \(t_1 = 15 \text{℃}\)。絶対温度 \(T_1\) に変換します。
$$ T_1 = 15 + 273 = 288 \text{ K} $$
状態2:
求める体積を \(V_2 = V\) とします。
温度 \(t_2 = 31 \text{℃}\)。絶対温度 \(T_2\) に変換します。
$$ T_2 = 31 + 273 = 304 \text{ K} $$
(1)より圧力は一定なので、シャルルの法則を適用します。
$$ \frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\)
- 絶対温度の定義: \(T[\text{K}] = t[℃] + 273\)
式①に値を代入します。
$$ \frac{500}{288} = \frac{V}{304} $$
この式を \(V\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{500 \times 304}{288} \\[2.0ex]
&= \frac{500 \times (16 \times 19)}{16 \times 18} \\[2.0ex]
&= 500 \times \frac{19}{18} \\[2.0ex]
&= \frac{4750}{9} \\[2.0ex]
&= 527.77… \text{ [cm}^3\text{]}
\end{aligned}
$$
問題文の数値の有効数字は2桁(15℃, 31℃)と3桁(500cm³)ですが、模範解答に倣い、結果を有効数字3桁で丸めます。
$$ V \approx 528 \text{ cm}^3 $$
(1)でこの実験では圧力が一定だとわかったので、「シャルルの法則」が使えます。この法則は「気体の体積は、そのときの絶対温度に比例する」というものです。計算する前に、まず15℃と31℃を、273を足して絶対温度の288Kと304Kに直します。あとは、「変化前の体積 ÷ 変化前の絶対温度 = 変化後の体積 ÷ 変化後の絶対温度」という式に、わかっている数値をあてはめて計算すれば、答えが求まります。
変化後の体積は約 \(528 \text{ cm}^3\) となります。絶対温度が \(288 \text{ K}\) から \(304 \text{ K}\) へと増加しているので、体積も \(500 \text{ cm}^3\) から増加するという結果は、シャルルの法則と矛盾せず、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
シャルルの法則は、より根本的な法則である「理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\)」から導かれます。この別解では、状態方程式を直接用いて問題を解きます。このアプローチのポイントは、変化の前後で何が一定で、何が変化するのかを状態方程式の変数と照らし合わせて考えることです。この問題では、(1)の考察から物質量 \(n\) と圧力 \(p\) が一定であるため、状態方程式を変形すると \(\displaystyle\frac{V}{T} = \frac{nR}{p}\) となり、右辺が定数となります。このことから、左辺の \(\displaystyle\frac{V}{T}\) もまた定数でなければならない、という結論に至ります。
この設問における重要なポイント
- 理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を用いる。
- (1)の考察から、物質量 \(n\) と圧力 \(p\) が一定であることに着目する。
- 状態方程式を用いる場合も、温度は絶対温度 [K] で考える必要がある。
具体的な解説と立式
変化前の状態(圧力 \(p\), 体積 \(V_1\), 温度 \(T_1\))と、変化後の状態(圧力 \(p\), 体積 \(V_2\), 温度 \(T_2\))について、それぞれ理想気体の状態方程式を立てます。
$$ p V_1 = nRT_1 \quad \cdots ② $$
$$ p V_2 = nRT_2 \quad \cdots ③ $$
(1)の考察より、圧力 \(p\) と物質量 \(n\) は一定です。
式②と③をそれぞれ「\(\displaystyle\frac{V}{T}\)」の形に変形します。
$$ \frac{V_1}{T_1} = \frac{nR}{p} $$
$$ \frac{V_2}{T_2} = \frac{nR}{p} $$
この2式の右辺は等しくなります。よって、左辺も等しくなければならないため、
$$ \frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2} $$
という、シャルルの法則と全く同じ式が導かれます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
- 絶対温度の定義: \(T[\text{K}] = t[℃] + 273\)
導かれた式が主たる解法で用いた式①と同一であるため、計算過程も全く同じになります。
まず、温度を絶対温度に変換します。
\(T_1 = 15 + 273 = 288 \text{ K}\)
\(T_2 = 31 + 273 = 304 \text{ K}\)
次に、導かれた式に値を代入します。
$$ \frac{500}{288} = \frac{V}{304} $$
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{500 \times 304}{288} \\[2.0ex]
&= 527.77… \\[2.0ex]
&\approx 528 \text{ [cm}^3\text{]}
\end{aligned}
$$
気体の状態を調べるための万能公式「状態方程式 \(pV=nRT\)」から考えます。この公式を変形すると \(\displaystyle\frac{V}{T} = \frac{nR}{p}\) となります。この問題では、(1)で考えたように空気の量 \(n\) と圧力 \(p\) が変化しないので、右側の \(\displaystyle\frac{nR}{p}\) はずっと同じ値です。ということは、左側の \(\displaystyle\frac{V}{T}\) もずっと同じ値でなければなりません。これはシャルルの法則そのものであり、同じ計算で答えを出すことができます。
主たる解法と全く同じ結果 \(528 \text{ cm}^3\) が得られました。このことから、シャルルの法則は理想気体の状態方程式において圧力と物質量が一定という、特別な条件下での関係式であることが確認できます。より基本的な法則から出発しても、同じ結論にたどり着くことが示されました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 定圧変化の条件の物理的解釈:
- 核心: 「水平な管を水銀滴が自由に動く」という実験設定から、「フラスコ内の圧力は常に大気圧と等しく一定である」という物理条件を読み取ることが、この問題の出発点です。
- 理解のポイント: 水銀滴が「フタ」として機能し、(1)空気を閉じ込める(質量一定)、(2)自由に動けることで内外の圧力を等しく保つ(圧力一定)、という2つの重要な役割を果たしていることを理解することが重要です。
- シャルルの法則と絶対温度:
- 核心: 圧力が一定の「定圧変化」では、体積\(V\)と絶対温度\(T\)の間に \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) というシャルルの法則が成り立ちます。この法則を適用する際、温度は必ず絶対温度[K]に変換しなければなりません。
- 理解のポイント: なぜ圧力が一定になるのかを(1)で考察させ、その上で(2)の計算をさせるという問題構成は、物理法則の適用条件を正しく理解しているかを問う典型的なパターンです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ガラス管が鉛直な場合: 管が鉛直上向きなら、内部圧力は \(p = p_{\text{大気圧}} + p_{\text{水銀滴}}\) で一定。鉛直下向きなら \(p = p_{\text{大気圧}} – p_{\text{水銀滴}}\) で一定となります。いずれも定圧変化なので、シャルルの法則が使えます。
- ガラス管が傾いている場合: 管が水平面と角\(\theta\)をなす場合、内部圧力は \(p = p_{\text{大気圧}} + p_{\text{水銀滴}}\sin\theta\) で一定となり、これも定圧変化です。
- J字管の問題: J字管の一方を封じ、もう一方に液体を注いでいく問題。左右の液面の高さの差が、封じられた気体の圧力に関係します。これも圧力変化を計算した上で、気体の法則を適用する問題です。
- 初見の問題での着眼点:
- 装置の構造と向きを把握する: まず、気体を封じているピストンや液滴が自由に動けるか、固定されているかを確認します。次に、管が水平か、鉛直か、傾いているかを見て、圧力の計算方法を決定します。
- 「何が一定か」を特定する: 装置の構造と問題の操作(温める、冷やすなど)から、圧力、体積、温度、質量のうち、どれが一定に保たれるのかを慎重に判断します。
- 単位の確認: 温度がセルシウス温度[℃]で与えられていないか、体積や圧力の単位は何かを確認します。特にシャルルの法則やボイル・シャルルの法則では、絶対温度への変換は必須です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 定圧条件の見落とし:
- 誤解: (1)で、水銀滴が動くのだから圧力も変化するだろう、と勘違いしてしまう。
- 対策: 「ゆっくり動く」「なめらかに動く」という表現は、物理では「力のつりあいを保ったまま動く」と解釈します。したがって、水銀滴を挟んで内外の圧力が常に等しい、と考えるのが正しいアプローチです。
- 絶対温度への変換忘れ:
- 誤解: \(15℃\) と \(31℃\) のまま、\(\displaystyle\frac{500}{15} = \frac{V}{31}\) と計算してしまう。
- 対策: 「気体の法則の温度はK(ケルビン)」と徹底的に体に覚えさせましょう。問題文に℃を見たら、反射的に「+273」する癖をつけることが最も効果的です。
- 単位換算の要否の判断ミス:
- 誤解: 体積の単位 \(500 \text{ cm}^3\) を、律儀に \(\text{m}^3\) に変換しようとして計算を複雑にしてしまう。
- 対策: \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\) のような比の形をした法則では、\(V_1\)と\(V_2\)の単位が同じであれば、どんな単位(cm³, Lなど)でもそのまま使えます。単位換算が必要なのは、状態方程式 \(pV=nRT\) に気体定数 \(R\) の値(通常はSI単位系)を代入する場合などです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{V_1}{T_1} = \frac{V_2}{T_2}\)):
- 選定理由: (1)で物理的状況を考察した結果、この変化が「定圧変化」であると結論づけられたからです。定圧変化における体積と温度の関係を最もシンプルに記述するのがシャルルの法則です。
- 適用根拠: 気体の質量(物質量)が一定であり、かつ圧力が一定である、という2つの条件が満たされていることが、この法則を適用する根拠となります。
- 理想気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 選定理由: (別解) 気体の状態変化を扱うすべての法則の根源となる、最も普遍的な公式だからです。
- 適用根拠: 状態方程式に、この問題の物理的条件である \(p=\text{一定}\) と \(n=\text{一定}\) を適用すると、\(\displaystyle\frac{V}{T} = \frac{nR}{p} = \text{一定}\) という関係、すなわちシャルルの法則が論理的に導かれます。これは、なぜこの状況でシャルルの法則が使えるのか、という理由そのものを示しています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 絶対温度の足し算: \(273+15=288\), \(273+31=304\) のような単純な足し算でも、試験の緊張下ではミスが起こりえます。必ず筆算するか、見直しで再計算しましょう。
- 大きな数の割り算・掛け算: \(V = \displaystyle\frac{500 \times 304}{288}\) のような計算では、いきなり筆算するのではなく、まず約分できないかを探すのが鉄則です。304と288は偶数なので2で割っていく、4で割れるか、8で割れるか、と試していきます。例えば、\(304 = 4 \times 76\), \(288 = 4 \times 72\) のように、共通の因数で割っていくと、最終的に \(V = 500 \times \displaystyle\frac{19}{18}\) まで簡略化できます。
- 有効数字の処理: 計算の途中では多めの桁数(例: 527.77)で計算を進め、最後に問題文の有効数字に合わせて四捨五入します。この問題では、与えられた数値が2桁と3桁なので、答えを2桁または3桁で示すのが一般的です。模範解答が3桁なので、それに従い \(528 \text{ cm}^3\) とします。
238 ボイル・シャルルの法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 別解
- 別解1: 理想気体の状態方程式を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- ボイル・シャルルの法則が、より普遍的な法則である「理想気体の状態方程式」において、物質量が一定という条件下で成り立つ関係式であることを、数式を通して理解することができます。
- 様々な気体の状態変化の問題に対して、常に状態方程式という統一的な視点からアプローチする力を養うことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「ボイル・シャルルの法則の適用」です。圧力、体積、温度のすべてが変化する、最も一般的な気体の状態変化を扱う問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\))
- 絶対温度への変換
- 理想気体の状態方程式
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 問題文から、圧力、体積、温度の3つの状態量がすべて変化していることを読み取り、ボイル・シャルルの法則を選択します。
- 計算の前に、与えられたセルシウス温度[℃]を絶対温度[K]に変換します。
- 変化の前と後について、それぞれの状態量をボイル・シャルルの法則の式に代入し、未知の体積を計算します。
思考の道筋とポイント
この問題では、気体の圧力、温度、体積がすべて変化しています。このような、ボイルの法則(温度一定)やシャルルの法則(圧力一定)の条件に当てはまらない、より一般的な状態変化を扱うための法則が「ボイル・シャルルの法則」です。この法則は「圧力と体積の積を、絶対温度で割った値が一定になる」というものです。したがって、変化前の状態と変化後の状態でこの関係式を立て、未知の体積を求めます。ここでも、温度は必ず絶対温度[K]に変換することが絶対条件です。
この設問における重要なポイント
- ボイル・シャルルの法則: 物質量が一定の理想気体において、\(\displaystyle\frac{pV}{T}\) の値は一定である。
- 絶対温度への変換: セルシウス温度 \(t\) [℃] から絶対温度 \(T\) [K] へは、\(T = t + 273\) の関係式で変換する。
- 変化の前と後で、\(\displaystyle\frac{p_1V_1}{T_1} = \displaystyle\frac{p_2V_2}{T_2}\) の関係式を立てる。
具体的な解説と立式
変化前の状態を状態1、変化後の状態を状態2とします。
状態1:
圧力 \(p_1 = 2.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
体積 \(V_1 = 3.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\)
温度 \(t_1 = 27 \text{℃}\)。絶対温度 \(T_1\) に変換します。
$$ T_1 = 27 + 273 = 300 \text{ K} $$
状態2:
圧力 \(p_2 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
求める体積を \(V_2 = V\) とします。
温度 \(t_2 = 87 \text{℃}\)。絶対温度 \(T_2\) に変換します。
$$ T_2 = 87 + 273 = 360 \text{ K} $$
気体の量は一定なので、ボイル・シャルルの法則が成り立ちます。
$$ \frac{p_1V_1}{T_1} = \frac{p_2V_2}{T_2} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- ボイル・シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{p_1V_1}{T_1} = \frac{p_2V_2}{T_2}\)
- 絶対温度の定義: \(T[\text{K}] = t[℃] + 273\)
式①に値を代入します。
$$ \frac{(2.0 \times 10^5) \times (3.0 \times 10^{-2})}{300} = \frac{(1.0 \times 10^5) \times V}{360} $$
この式を \(V\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{(2.0 \times 10^5) \times (3.0 \times 10^{-2}) \times 360}{300 \times (1.0 \times 10^5)} \\[2.0ex]
&= \frac{(6.0 \times 10^3) \times 360}{300 \times 10^5} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0 \times 360}{300} \times 10^{3-5} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0 \times 36}{30} \times 10^{-2} \\[2.0ex]
&= \frac{6.0 \times 6}{5} \times 10^{-2} \\[2.0ex]
&= \frac{36}{5} \times 10^{-2} \\[2.0ex]
&= 7.2 \times 10^{-2} \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$
この問題のように、気体の圧力・体積・温度が全部変わってしまう複雑な状況で活躍するのが「ボイル・シャルルの法則」です。この法則は「(圧力 × 体積)÷ 絶対温度」の値が、変化の前後でずっと同じ、というものです。計算で一番大事なのは、摂氏温度(℃)を絶対温度(K)に直すこと(273を足すだけです)。あとは、変化の前と後について、わかっている数値をこの法則の式にあてはめて、未知の体積を計算すれば答えが出ます。
変化後の体積は \(7.2 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) となります。
圧力が半分に(体積は2倍になる方向に作用)、絶対温度が \(300 \text{ K}\) から \(360 \text{ K}\) へと \(1.2\) 倍に(体積は1.2倍になる方向に作用)なっています。これらの効果を掛け合わせると、体積は全体として \(2 \times 1.2 = 2.4\) 倍になることが予測されます。初期体積 \(3.0 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) の \(2.4\) 倍は \(7.2 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) であり、計算結果と一致します。物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
ボイル・シャルルの法則は、より根本的な法則である「理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\)」から導かれます。この別解では、状態方程式を直接用いて問題を解きます。このアプローチのポイントは、変化の前後で何が一定で、何が変化するのかを状態方程式の変数と照らし合わせて考えることです。この問題では、気体の出入りがないため物質量 \(n\) が一定です。このことから、状態方程式を変形して \(nR\) という定数部分を消去することで、ボイル・シャルルの法則を導き出します。
この設問における重要なポイント
- 理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を用いる。
- 変化の前後で、物質量 \(n\) と気体定数 \(R\) が一定であることに着目する。
- 状態方程式を用いる場合も、温度は絶対温度 [K] で考える必要がある。
具体的な解説と立式
変化前の状態(圧力 \(p_1\), 体積 \(V_1\), 温度 \(T_1\))と、変化後の状態(圧力 \(p_2\), 体積 \(V_2\), 温度 \(T_2\))について、それぞれ理想気体の状態方程式を立てます。
$$ p_1 V_1 = nRT_1 \quad \cdots ② $$
$$ p_2 V_2 = nRT_2 \quad \cdots ③ $$
気体の出入りはないので、物質量 \(n\) は一定です。気体定数 \(R\) も定数です。
式②と③をそれぞれ定数である \(nR\) について解きます。
$$ nR = \frac{p_1V_1}{T_1} $$
$$ nR = \frac{p_2V_2}{T_2} $$
この2式の右辺は等しくなければならないため、
$$ \frac{p_1V_1}{T_1} = \frac{p_2V_2}{T_2} $$
という、ボイル・シャルルの法則と全く同じ式が導かれます。
使用した物理公式
- 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\)
- 絶対温度の定義: \(T[\text{K}] = t[℃] + 273\)
導かれた式が主たる解法で用いた式①と同一であるため、計算過程も全く同じになります。
まず、温度を絶対温度に変換します。
\(T_1 = 27 + 273 = 300 \text{ K}\)
\(T_2 = 87 + 273 = 360 \text{ K}\)
次に、導かれた式に値を代入します。
$$ \frac{(2.0 \times 10^5) \times (3.0 \times 10^{-2})}{300} = \frac{(1.0 \times 10^5) \times V}{360} $$
$$
\begin{aligned}
V &= \frac{(2.0 \times 10^5) \times (3.0 \times 10^{-2}) \times 360}{300 \times (1.0 \times 10^5)} \\[2.0ex]
&= 7.2 \times 10^{-2} \text{ [m}^3\text{]}
\end{aligned}
$$
気体の状態を調べるための万能公式「状態方程式 \(pV=nRT\)」から考えます。この公式を変形すると \(\displaystyle\frac{pV}{T} = nR\) となります。この問題では、気体の量 \(n\) は変化しないので、右側の \(nR\) はずっと同じ値(定数)です。ということは、左側の \(\displaystyle\frac{pV}{T}\) もずっと同じ値でなければなりません。これはボイル・シャルルの法則そのものであり、同じ計算で答えを出すことができます。
主たる解法と全く同じ結果 \(7.2 \times 10^{-2} \text{ m}^3\) が得られました。このことから、ボイル・シャルルの法則は理想気体の状態方程式において物質量が一定という、ごく一般的な条件下での関係式であることが確認できます。より基本的な法則から出発しても、同じ結論にたどり着くことが示されました。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\)):
- 核心: この問題は、圧力・体積・温度の3つの状態量がすべて変化する、最も一般的な気体の状態変化を扱っています。このような状況で、変化前と変化後の状態を結びつけるのがボイル・シャルルの法則です。
- 理解のポイント: この法則は、ボイルの法則(\(pV=\text{一定}\))とシャルルの法則(\(\displaystyle\frac{V}{T}=\text{一定}\))を組み合わせたものと理解できます。圧力、体積、温度のうち、何かが一定であれば、この法則からボイルの法則やシャルルの法則が導かれます。
- 絶対温度の利用:
- 核心: 気体の状態変化を扱う法則では、温度は必ず「絶対温度 [K]」で計算しなければなりません。セルシウス温度 [℃] のまま計算すると、全く異なる誤った答えになります。
- 理解のポイント: \(T[\text{K}] = t[℃] + 273\) という変換は、気体法則を扱う上での大前提です。物理現象は、分子の運動エネルギーに比例する絶対温度を基準に記述される、という基本を理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 特殊な状態変化との関係:
- 等温変化 (\(T_1=T_2\)): ボイル・シャルルの法則で \(T\) を消去すると、ボイルの法則 \(p_1V_1=p_2V_2\) になります。
- 定圧変化 (\(p_1=p_2\)): ボイル・シャルルの法則で \(p\) を消去すると、シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V_1}{T_1}=\frac{V_2}{T_2}\) になります。
- 定積変化 (\(V_1=V_2\)): ボイル・シャルルの法則で \(V\) を消去すると、ゲイ=リュサックの法則 \(\displaystyle\frac{p_1}{T_1}=\frac{p_2}{T_2}\) になります。
- ピストン付き容器の問題: ピストンが動くことで圧力や体積が変化し、さらに加熱・冷却で温度も変わる問題は、ボイル・シャルルの法則の典型的な応用例です。
- 特殊な状態変化との関係:
- 初見の問題での着眼点:
- 変化の前後で状態量をリストアップ: 変化前の状態(\(p_1, V_1, T_1\))と変化後の状態(\(p_2, V_2, T_2\))の値を、単位も含めて書き出します。これにより、どの変数が変化し、どれが未知数なのかが一目瞭然になります。
- 温度の単位を最優先で変換: 問題文に「℃」を見つけたら、他のことを考える前に、まず「+273」して「K」に直す作業を済ませます。これをルーティン化することで、変換忘れを防ぎます。
- 「一定量」の確認: この法則が使える大前提は「気体の物質量\(n\)が一定」であることです。問題文に「密閉された」「封じられた」などの記述があるかを確認します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 絶対温度への変換忘れ:
- 誤解: \(27℃\) と \(87℃\) のまま計算してしまう。これは最も頻発し、かつ致命的なミスです。
- 対策: 「気体の法則の温度は、絶対!絶対温度!」と何度も唱えて覚えましょう。問題用紙の余白に、変換後の絶対温度の値を大きく書き出してから計算を始めるのが有効な対策です。
- 式の形を間違える:
- 誤解: \(\displaystyle\frac{pV}{T}\) の分母と分子を混同し、\(\displaystyle\frac{pT}{V}\) や \(pVT\) など、誤った式を立ててしまう。
- 対策: 状態方程式 \(pV=nRT\) から \(\displaystyle\frac{pV}{T}=nR=\text{一定}\) と導出する流れを理解しておけば、式の形を間違えることはありません。「\(p\)と\(V\)は分子、\(T\)は分母」と覚えましょう。
- 移項のミス:
- 誤解: \(\displaystyle\frac{p_1V_1}{T_1} = \frac{p_2V_2}{T_2}\) から \(V_2\) を求める際に、\(V_2 = \displaystyle\frac{p_1V_1T_1}{p_2T_2}\) のように、\(T_2\) を分母に掛けたままにしてしまう。
- 対策: 焦らずに一段階ずつ移項しましょう。まず両辺に \(T_2\) を掛けて \(\displaystyle\frac{p_1V_1T_2}{T_1} = p_2V_2\)、次に両辺を \(p_2\) で割って \(V_2 = \displaystyle\frac{p_1V_1T_2}{p_2T_1}\) と、丁寧な式変形を心がけます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{p_1V_1}{T_1} = \frac{p_2V_2}{T_2}\)):
- 選定理由: 問題文で、圧力、体積、温度の3つの状態量がすべて変化しているため、これら3つを同時に関係づけることができるこの法則が唯一の選択肢となります。
- 適用根拠: この法則が適用できるのは、「気体の物質量\(n\)が一定」の場合です。この問題では、気体は容器に閉じ込められており、その量は変化しないため、この法則を適用することが正当化されます。
- 理想気体の状態方程式 (\(pV=nRT\)):
- 選定理由: (別解) ボイル・シャルルの法則を含む、すべての気体法則の根源となる最も基本的な方程式だからです。
- 適用根拠: 状態方程式を変形すると \(\displaystyle\frac{pV}{T} = nR\) となります。気体の物質量\(n\)が一定であれば、気体定数\(R\)も定数なので、右辺の\(nR\)は定数です。したがって、変化の前後で \(\displaystyle\frac{pV}{T}\) の値は一定に保たれる、という論理でボイル・シャルルの法則そのものを導出できます。これは、法則の成り立ちを理解する上で非常に重要です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算前の約分: \(V = \displaystyle\frac{(2.0 \times 10^5) \times (3.0 \times 10^{-2}) \times 360}{300 \times (1.0 \times 10^5)}\) のような式では、まず大きな数や指数を約分します。
- 分母と分子の \(10^5\) を消去。
- \(360\) と \(300\) を \(10\) で割って \(36\) と \(30\) にし、さらに \(6\) で割って \(6\) と \(5\) にする。(\(\displaystyle\frac{360}{300} = \frac{6}{5}\))
- 式は \(V = \displaystyle\frac{(2.0) \times (3.0 \times 10^{-2}) \times 6}{5}\) となり、見通しが良くなります。
- 物理的な見当をつける(変化の合成):
- 圧力の効果: 圧力が \(2.0 \to 1.0\) と半分になったので、体積は \(2\) 倍になる方向に作用します。
- 温度の効果: 絶対温度が \(300 \to 360\) と \(1.2\) 倍になったので、体積は \(1.2\) 倍になる方向に作用します。
- 総合効果: 体積は \(2 \times 1.2 = 2.4\) 倍になるはずです。
- 検算: \(V_2 = V_1 \times 2.4 = (3.0 \times 10^{-2}) \times 2.4 = 7.2 \times 10^{-2}\)。計算結果と一致することを確認します。
- 単位の確認: 最終的に求めた答えの単位が、問題で問われている単位(この場合は m³)と一致しているかを確認する癖をつけましょう。
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239 ボイル・シャルルの法則
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
- 別解
- 別解1: 理想気体の状態方程式を用いた解法
- 上記の別解が有益である理由
- ボイル・シャルルの法則が、より普遍的な法則である「理想気体の状態方程式」において、物質量が一定という条件下で成り立つ関係式であることを、数式を通して理解することができます。
- 様々な気体の状態変化の問題に対して、常に状態方程式という統一的な視点からアプローチする力を養うことができます。
- 結果への影響
- いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。
この問題のテーマは「力のつりあいとボイル・シャルルの法則の応用」です。ピストンにおもりを乗せることによる圧力変化と、加熱による温度変化が同時に起こる状況を正しく分析し、計算する総合力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ピストンにはたらく力のつりあい
- 圧力と力の関係式 \(F=pS\)
- ボイル・シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{pV}{T} = \text{一定}\))
- 単位換算(特にcmからmへ)
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 変化前と変化後のそれぞれの状態について、気体の圧力、体積、温度を整理します。
- 変化後の圧力は、ピストンとおもりにはたらく力のつりあいから計算します。
- 変化前後の状態量をボイル・シャルルの法則に代入して、未知の高さ\(h\)を求めます。