「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第12章】基本例題~基本問題236

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基本例題

基本例題43 気体の状態方程式

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 設問(2)の別解
    • 別解1: シャルルの法則を用いた解法
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 「定圧変化」という物理的状況と、それに対応する「シャルルの法則」を直接結びつけて考える力を養うことができます。
    • 状態方程式から毎回導出するのではなく、特定の条件下での気体法則を適用する良い練習になります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。

この問題のテーマは「ピストンのつりあいと理想気体の状態方程式」です。ピストンが動くことで体積や圧力が変化する問題を解くための基本が詰まっています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ピストンにはたらく力のつりあい
  2. 理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\)
  3. 定圧変化(ピストンが自由に動く場合)
  4. シャルルの法則 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\)

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、まずピストンにはたらく力のつりあいを考え、内部気体の圧力を求めます。次に、その圧力を用いて理想気体の状態方程式を立て、ピストンの高さを計算します。
  2. (2)では、加熱の前後で状態方程式を立て、それらの差を取ることで体積の増加量を求めます。あるいは、この変化が定圧変化であることに着目し、シャルルの法則を適用することでも解くことができます。

問(1)

思考の道筋とポイント
ピストンが静止しているという条件は、物理的には「ピストンにはたらく力がつりあっている」ことを意味します。この力のつりあい条件から、まずは未知数である内部気体の圧力\(p\)を求めます。次に、気体の状態(圧力、体積、温度、物質量)に関する万能な関係式である「理想気体の状態方程式」を用いて、残りの未知数である高さ\(l_0\)を求める、という2段階の思考プロセスが重要です。
この設問における重要なポイント

  • ピストンにはたらく力は、①内部気体がピストンを上に押す力、②大気圧がピストンを下に押す力、③ピストン自身の重力、の3つです。
  • ピストンが静止していることから、これらの力のつりあいを立式します。
  • 力のつりあいから求めた圧力を用いて、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を適用します。

具体的な解説と立式
内部の気体の圧力を \(p \text{ [Pa]}\) とします。ピストンはなめらかに動き、静止しているため、ピストンにはたらく上下方向の力はつりあっています。
ピストンを上向きに押す力は、内部気体の圧力による力で \(pS\) です。
一方、ピストンを下向きに押す力は、大気圧による力 \(p_0S\) と、ピストン自身の重力 \(Mg\) の和です。
したがって、力のつりあいの式は以下のように立てられます。
$$ pS = p_0S + Mg \quad \cdots ① $$
次に、この気体について理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) を立てます。問題文より、物質量は \(n=1 \text{ mol}\)、気体定数は \(R\)、このときの気体の温度は \(T_0\) です。容器の底面積が \(S\)、高さが \(l_0\) なので、体積は \(V_0 = Sl_0\) と表せます。
これらを状態方程式に代入すると、
$$ p(Sl_0) = 1 \cdot RT_0 \quad \cdots ② $$
となります。

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(F_{\text{上向き}} = F_{\text{下向き}}\)
  • 圧力と力の関係: \(F = pS\)
  • 理想気体の状態方程式: \(pV = nRT\)
計算過程

まず、式①を \(p\) について解きます。
$$ p = p_0 + \frac{Mg}{S} $$
この \(p\) を式②に代入します。
$$ \left( p_0 + \frac{Mg}{S} \right) (Sl_0) = RT_0 $$
この式を \(l_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
(p_0S + Mg) l_0 &= RT_0 \\[2.0ex]
l_0 &= \frac{RT_0}{p_0S + Mg}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

まず、ピストンがなぜその高さで止まっているのかを考えます。それは、下から気体が押す力と、上から大気とピストン自身の重さで押される力がちょうど等しくなっている(つりあっている)からです。この「力のつりあい」の関係式から、中の気体の圧力が計算できます。次に、気体の「圧力、体積、温度」の間の関係を表す「状態方程式」という万能ツールを使います。今わかった圧力の値と、問題で与えられている温度 \(T_0\) を使って、体積(つまり高さ \(l_0\))を計算します。

結論と吟味

気体の温度が \(T_0\) のときのピストンの高さは \(l_0 = \displaystyle\frac{RT_0}{p_0S + Mg}\) となります。この結果を見ると、気体の温度 \(T_0\) が高いほど、また気体定数 \(R\) が大きいほど、分子の運動が激しくなるためピストンはより高く押し上げられ、\(l_0\) は大きくなります。逆に、外部の大気圧 \(p_0\) やピストンの質量 \(M\) が大きいほど、気体を押さえつける力が強くなるため \(l_0\) は小さくなります。これらの関係は物理的な直感と一致しており、妥当な結果であると言えます。

解答 (1) \( \displaystyle\frac{RT_0}{p_0S + Mg} \text{ [m]} \)

問(2)

思考の道筋とポイント
気体を加熱しても、ピストンはなめらかに動くことができるため、最終的に静止した状態では力のつりあいの関係が保たれます。これは、加熱の前後で内部の気体の圧力 \(p\) が一定であることを意味します(定圧変化)。この「圧力が一定」という条件のもとで、加熱前と加熱後の2つの状態でそれぞれ理想気体の状態方程式を立てます。そして、2つの式の差を計算することで、体積の変化量 \(\Delta V\) と温度の変化量 \((T-T_0)\) の関係を直接導き出すことができます。
この設問における重要なポイント

  • ピストンが自由に動けるため、加熱の前後で気体の圧力は一定に保たれる(定圧変化)。
  • 変化の前と後、それぞれの状態で状態方程式を立てる。
  • 2つの式の差を取ることで、変化量だけの関係式を導出する。

具体的な解説と立式
加熱前の気体の状態は、温度 \(T_0\)、体積 \(V_0 = Sl_0\) です。加熱後の状態は、温度 \(T\)、体積 \(V = V_0 + \Delta V\) とします。ここで \(\Delta V\) が求める体積の増加量です。この間、圧力 \(p\) は一定です。
それぞれの状態で理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\)(ただし \(n=1\))を立てます。

加熱前:
$$ pV_0 = RT_0 \quad \cdots ③ $$
加熱後:
$$ p(V_0 + \Delta V) = RT \quad \cdots ④ $$
これらの2式から \(\Delta V\) を求めます。

使用した物理公式

  • 理想気体の状態方程式: \(pV = nRT\)
計算過程

式④から式③を引くことで、\(V_0\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
p(V_0 + \Delta V) – pV_0 &= RT – RT_0 \\[2.0ex]
pV_0 + p\Delta V – pV_0 &= R(T – T_0) \\[2.0ex]
p\Delta V &= R(T – T_0)
\end{aligned}
$$
この式を \(\Delta V\) について解きます。
$$ \Delta V = \frac{R(T – T_0)}{p} $$
ここで、圧力 \(p\) は(1)の力のつりあいから \(pS = p_0S + Mg\)、すなわち \(p = \displaystyle\frac{p_0S + Mg}{S}\) で与えられます。これを代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta V &= \frac{R(T – T_0)}{\displaystyle\frac{p_0S + Mg}{S}} \\[2.0ex]
&= \frac{RS(T – T_0)}{p_0S + Mg}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

気体の温度を上げると、気体は膨張してピストンを押し上げます。この問題では、ピストンが動いても、上から押す力(大気圧+ピストンの重さ)は変わらないので、中の気体の圧力も結局は元の値と同じになります。そこで、温度を上げる前と後のそれぞれの状態で「状態方程式」を立てます。2つの式を並べて引き算をすると、最初の体積などの途中の量がうまく消えてくれて、「体積の変化量」と「温度の変化量」だけのシンプルな関係式が出てきます。あとは、(1)で求めた圧力の値を使って計算すれば答えが出ます。

結論と吟味

体積の増加量は \(\Delta V = \displaystyle\frac{RS(T-T_0)}{p_0S+Mg}\) となります。この式は、温度の上昇分 \((T-T_0)\) に比例して体積が増加することを示しており、直感と一致します。また、分母の \(p_0S+Mg\) は気体を押さえつける力の大きさを表しており、この力が大きいほど気体は膨張しにくく、\(\Delta V\) が小さくなることも物理的に妥当です。この関係式は、定圧変化における \(p\Delta V = nR\Delta T\) という関係そのものであり、正しく導出できています。

解答 (2) \( \displaystyle\frac{RS(T-T_0)}{p_0S+Mg} \text{ [m}^3\text{]} \)
別解: シャルルの法則を用いた解法

思考の道筋とポイント
この問題における加熱プロセスは、ピストンが自由に動くことで内部の圧力が大気圧とピストンの重力によって決まる一定の値に保たれる「定圧変化」です。このような定圧変化に特化した物理法則である「シャルルの法則」を適用することで、状態方程式の差分を取るのとは別のアプローチで解くことができます。シャルルの法則は「圧力が一定のとき、気体の体積は絶対温度に比例する」という法則です。
この設問における重要なポイント

  • 状況が「定圧変化」であることを見抜く。
  • 定圧変化に適用できる「シャルルの法則」 \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) を用いる。
  • 加熱前の体積 \(V_0\) を、(1)で求めた結果を使って具体的に表す必要がある。

具体的な解説と立式
ピストンが自由に動くため、内部の気体の圧力 \(p\) は一定に保たれます。したがって、この変化は定圧変化であり、シャルルの法則が適用できます。
加熱前の体積を \(V_0\)、温度を \(T_0\)、加熱後の体積を \(V\)、温度を \(T\) とすると、シャルルの法則より以下の関係が成り立ちます。
$$ \frac{V_0}{T_0} = \frac{V}{T} \quad \cdots ⑤ $$
求めたいのは体積の増加量 \(\Delta V = V – V_0\) です。

使用した物理公式

  • シャルルの法則: \(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\) (定圧変化)
  • 理想気体の状態方程式: \(pV=nRT\) (設問(1)の結果を通じて間接的に使用)
計算過程

まず、式⑤を使って加熱後の体積 \(V\) を \(V_0\) で表します。
$$ V = V_0 \frac{T}{T_0} $$
次に、体積の増加量 \(\Delta V\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta V &= V – V_0 \\[2.0ex]
&= V_0 \frac{T}{T_0} – V_0 \\[2.0ex]
&= V_0 \left( \frac{T}{T_0} – 1 \right) \\[2.0ex]
&= V_0 \frac{T-T_0}{T_0}
\end{aligned}
$$
ここで、加熱前の体積 \(V_0\) は \(V_0 = Sl_0\) です。設問(1)の結果 \(l_0 = \displaystyle\frac{RT_0}{p_0S + Mg}\) を用いると、
$$ V_0 = S \times \frac{RT_0}{p_0S + Mg} = \frac{RST_0}{p_0S + Mg} $$
この \(V_0\) の式を、上で求めた \(\Delta V\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta V &= \left( \frac{RST_0}{p_0S + Mg} \right) \times \frac{T-T_0}{T_0} \\[2.0ex]
&= \frac{RS(T-T_0)}{p_0S + Mg}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

この問題では、気体を温めても圧力は変わりません。このように圧力が一定のまま温度と体積が変わる変化では、「シャルルの法則」という便利な法則が使えます。これは「気体の体積は、そのときの絶対温度に正比例する」という法則です。この法則を使って、温めた後の全体の体積を計算し、そこから元の体積を引くことで、どれだけ体積が増えたか(\(\Delta V\))を計算します。計算の途中で必要になる元の体積は、(1)で求めた高さを使って表します。

結論と吟味

主たる解法で得られた結果と完全に一致しました。これは、シャルルの法則が理想気体の状態方程式において圧力を一定とした場合の特別な関係式であることから当然の結果です。物理現象を「定圧変化」と捉え、それに対応する法則を的確に選択することで、見通しよく問題を解くことができることを示しています。

解答 (2) \( \displaystyle\frac{RS(T-T_0)}{p_0S+Mg} \text{ [m}^3\text{]} \)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ピストンの力のつりあい:
    • 核心: 内部気体の圧力は独立して決まるのではなく、外部の大気圧とピストンの重さとのバランスによって決まる、という力学的な側面を理解することが第一歩です。\(pS = p_0S + Mg\) という力のつりあいの式が、この問題の力学的な本質を表しています。
    • 理解のポイント: ピストンが「なめらかに動く」という記述は、内部の圧力が常に外部の条件とつりあう状態を保つことを意味します。これにより、(2)で加熱しても圧力は一定(定圧変化)と考えることができます。
  • 理想気体の状態方程式:
    • 核心: 気体の圧力\(p\)、体積\(V\)、温度\(T\)、物質量\(n\)という4つの状態量を結びつける、熱力学の基本法則 \(pV = nRT\) を適用することです。
    • 理解のポイント: この問題は、力学(力のつりあい)で圧力を決定し、その結果を熱力学(状態方程式)に代入するという、2つの分野の法則を連携させて解く典型的な問題構造になっています。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ピストンを固定した場合: ピストンが固定されている場合、体積\(V\)が一定の「定積変化」になります。この場合、状態方程式から \(\displaystyle\frac{p}{T} = \text{一定}\) という関係(ゲイ=リュサックの法則)が導かれ、加熱による圧力の変化などを問われます。
    • 断熱変化: 容器が断熱材でできていたり、ピストンを「急激に」動かしたりする場合です。このときは熱の出入りがない \(Q=0\) として熱力学第一法則 \(\Delta U = W\) を適用するか、ポアソンの法則 \(pV^\gamma = \text{一定}\) を用います。
    • U字管の問題: U字管に封入された気体の問題も、液柱の重さによる圧力差を考慮する点で本質的に同じです。力のつりあいの考え方がそのまま応用できます。
    • 2つの気体がピストンで仕切られている場合: 容器の中央に可動式のピストンがあり、左右に異なる気体が入っている問題。ピストンが静止している点では左右の気体の圧力が等しい \(p_1 = p_2\) という条件から立式します。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. ピストンの状態を最優先で確認: 問題文の「なめらかに動く」「固定されている」「断熱材でできた」などのキーワードに注目し、それが「定圧」「定積」「断熱」のどの変化に対応するのかを判断します。
    2. まず力のつりあい: 内部気体の圧力が直接与えられていない場合は、まずピストンや液柱にはたらく力のつりあいを考え、圧力を求める、という手順を定石とします。
    3. 変化の前後を整理: 変化前の状態(\(p_1, V_1, T_1\))と変化後の状態(\(p_2, V_2, T_2\))を書き出し、どの変数が一定で、どの変数が変化するのかを明確に整理することで、適用すべき法則が見えてきます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 圧力の計算ミス:
    • 誤解: ピストンの重さを忘れ、内部気体の圧力\(p\)を大気圧\(p_0\)と等しいとしてしまう。
    • 対策: 必ずピストンにはたらく力を図示する癖をつけましょう。「内部気体が押す力」「大気が押す力」「ピストンの重力」の3つを書き出し、つりあいの式を立てることで、重力項 \(Mg\) の存在を忘れません。
  • 「圧力」と「力」の混同:
    • 誤解: 力のつりあいの式で、圧力\(p\)と力である重力\(Mg\)をそのまま \(p = p_0 + Mg\) のように足してしまう。
    • 対策: 「圧力\(p\) [Pa] = 力\(F\) [N] / 面積\(S\) [m²]」という定義を常に意識してください。力のつりあいの式は、全ての項を「力」の次元に揃える必要があります。したがって、圧力には必ず面積\(S\)を掛けて \(pS\) という力に直してから式を立てます。
  • 温度の単位ミス:
    • 誤解: 理想気体の状態方程式やシャルルの法則に、問題文で与えられたセルシウス温度 [℃] をそのまま代入してしまう。
    • 対策: 気体関連の公式で使われる温度\(T\)は、必ず「絶対温度 [K]」です。セルシウス温度\(t\) [℃] が与えられたら、まず \(T = t + 273.15\) の計算を行うことを習慣づけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつりあいの式 (\(pS = p_0S + Mg\)):
    • 選定理由: この式は、未知数である内部気体の圧力\(p\)を、問題文で与えられている既知の物理量(\(p_0, M, g, S\))だけで表すために必要不可欠です。力学的な拘束条件を数式に翻訳する役割を果たします。
    • 適用根拠: ピストンが「静止している」という記述は、ニュートンの運動法則における「合力が0」の状態を意味します。この物理法則をピストンに適用した結果が、このつりあいの式です。
  • 理想気体の状態方程式 (\(pV = nRT\)):
    • 選定理由: 気体の状態(圧力、体積、温度)に関する情報を扱う上で、最も基本的かつ普遍的な関係式だからです。力のつりあいで求めた圧力\(p\)と、他の状態量(\(V, T\))とを結びつけるために用います。
    • 適用根拠: 問題文に「理想気体」と明記されているため、この方程式を適用することが正当化されます。
  • シャルルの法則 (\(\displaystyle\frac{V}{T} = \text{一定}\)):
    • 選定理由: (2)の別解で用いました。ピストンが自由に動くことから、この変化が「定圧変化」であると見抜ければ、状態方程式よりもこの変化に特化したシャルルの法則を用いる方が、思考のステップが簡潔になる場合があります。
    • 適用根拠: シャルルの法則は、理想気体の状態方程式 \(pV=nRT\) において、圧力\(p\)と物質量\(n\)が一定という条件下で成立する特別な関係式です。本問の状況はこの条件を満たすため、適用が可能です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の整理の工夫: (1)で \(p\) を代入した後、\(\left( p_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S} \right) (Sl_0) = RT_0\) という式が出てきます。ここで左辺の \(S\) を分配して \((p_0S + Mg)l_0 = RT_0\) と変形してから \(l_0\) について解くと、分数の計算が後回しになり、計算の見通しが良くなります。
  • 代入のタイミング: (2)で \(p\Delta V = R(T-T_0)\) を導いた後、すぐに \(p\) に複雑な式を代入するのではなく、まず \(\Delta V = \displaystyle\frac{R(T-T_0)}{p}\) と整理します。その上で、「ここで \(p\) は力のつりあいから \(p = p_0 + \displaystyle\frac{Mg}{S}\) である」と一段階おいてから代入することで、思考が整理され、分数の分母・分子を間違えるようなケアレスミスを防げます。
  • 単位による検算(ディメンションチェック): 計算結果の物理的な妥当性を確認するために、単位の計算をしてみるのが有効です。例えば(1)の答え \(\displaystyle\frac{RT_0}{p_0S + Mg}\) の単位は、分子が \([\text{J}] = [\text{N}\cdot\text{m}]\)、分母が \([\text{N}/\text{m}^2]\cdot[\text{m}^2] + [\text{N}] = [\text{N}]\) なので、全体として \([\text{N}\cdot\text{m}]/[\text{N}] = [\text{m}]\) となり、確かに長さの単位になっています。これが合わなければ、式のどこかが間違っている証拠です。

基本問題

233 気体の圧力

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 別解
    • 別解1: 「圧力」のつり合い(圧力差)を用いた解法
  2. 上記の別解が有益である理由
    • 力のつり合いの式を圧力の式に変形することで、物理的な意味(大気圧に、人が加えた分の圧力が上乗せされる)がより直感的に理解できます。
    • 計算がよりシンプルになり、見通しが良くなります。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。

この問題のテーマは「力のつりあいと圧力の計算」です。ピストンが静止している状況から、内部の気体の圧力を求める、力学の基本的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ピストンにはたらく力のつりあい
  2. 圧力と力の関係式 \(F=pS\)
  3. 単位換算(特に面積の単位)

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. ピストンにはたらく力をすべて図示し、力の向きを明確にします。
  2. 「左向きの力の合計 = 右向きの力の合計」として、力のつりあいの式を立てます。
  3. 計算の前に、すべての物理量の単位をSI単位系(m, N, Pa)に統一し、未知の圧力\(p\)を求めます。

思考の道筋とポイント
ピストンが力を加えられて静止している、という状況から「ピストンにはたらく力はつりあっている」と考えます。この問題の鍵は、ピストンにどのような力が、どちらの向きにはたらいているかを正確に把握することです。力をすべてリストアップし、力のつりあいの式を立てることで、未知数である内部の圧力を求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • ピストンにはたらく力は3つ:①内部の空気がピストンを左向きに押す力、②人がピストンを右向きに押す力、③外の大気がピストンを右向きに押す力。
  • 力のつりあいの関係は「左向きの力の合計 = 右向きの力の合計」で表される。
  • 圧力 \(p\) [Pa] から力 \(F\) [N] を計算するには、断面積 \(S\) [m²] を掛ける(\(F=pS\))。
  • 計算を実行する前に、すべての単位をSI単位系に揃えることが極めて重要。特に、面積の単位 \(1.0 \text{ cm}^2\) を \(\text{m}^2\) に正しく変換する必要がある。

具体的な解説と立式
求める内部の圧力を \(p \text{ [Pa]}\)、大気圧を \(p_0 \text{ [Pa]}\)、人が押す力を \(F \text{ [N]}\)、注射器の断面積を \(S \text{ [m}^2]\) とします。
ピストンは静止しているので、水平方向の力はつりあっています。
ピストンにはたらく力は以下の通りです。

  • 左向きの力:内部の空気の圧力による力 \(F_{\text{内部}} = pS\)
  • 右向きの力:人が押す力 \(F\) と、大気圧による力 \(F_{\text{大気圧}} = p_0S\) の合計

力のつりあいの式は、「左向きの力 = 右向きの力の合計」なので、
$$ pS = F + p_0S \quad \cdots ① $$
と立てることができます。

使用した物理公式

  • 力のつりあい
  • 圧力と力の関係: \(F=pS\)
計算過程

まず、問題で与えられた値をSI単位系に整理します。

  • \(F = 20 \text{ N}\)
  • \(p_0 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
  • \(S = 1.0 \text{ cm}^2 = 1.0 \times (10^{-2} \text{ m})^2 = 1.0 \times 10^{-4} \text{ m}^2\)

式①を \(p\) について解くと、
$$ p = p_0 + \frac{F}{S} $$
となります。この式に、上記の値を代入して \(p\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
p &= 1.0 \times 10^5 + \frac{20}{1.0 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^5 + 20 \times 10^4 \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^5 + 2.0 \times 10^5 \\[2.0ex]
&= (1.0 + 2.0) \times 10^5 \\[2.0ex]
&= 3.0 \times 10^5 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

注射器のピストンが動かずに止まっているのは、内側から空気が押す力と、外側から「人が押す力」と「周りの大気が押す力」を合わせた力が、ちょうど等しくなっているからです。この「力のつりあい」を式にします。このとき、圧力は力そのものではないので、圧力に面積を掛けて力に直す必要があります。また、面積の単位が「cm²」なので、計算前に「m²」に直すのを忘れないようにしましょう。「内側からの力 = 外側からの力の合計」という式を立て、これを内部の圧力 \(p\) について解けば、答えが求まります。

結論と吟味

内部の圧力は \(p = 3.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) となります。これは大気圧 \(1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) の3倍です。人が \(20 \text{ N}\) という力(約2kgの物体を持ち上げる力に相当)で押しているため、内部の圧力が大気圧より高くなるのは当然であり、物理的に妥当な結果です。

解答 \(3.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)

別解: 「圧力」のつり合い(圧力差)を用いた解法

思考の道筋とポイント
ピストンにはたらく力のつり合いを、直接「圧力」の観点から考えるアプローチです。内部の圧力 \(p\) と外部の大気圧 \(p_0\) との「圧力差」が、人が加えた力によって生じる圧力とつり合っている、と解釈することで、より直接的で物理的な意味が分かりやすい立式が可能になります。
この設問における重要なポイント

  • 人が押す力 \(F\) は、断面積 \(S\) あたり \(\displaystyle\frac{F}{S}\) の圧力を生み出すと考える。
  • 内部の圧力 \(p\) は、大気圧 \(p_0\) に、この人が加えた分の圧力が上乗せされたものである。
  • 単位換算の重要性は主たる解法と全く同じ。

具体的な解説と立式
内部の圧力を \(p\)、大気圧を \(p_0\) とします。
ピストンが静止しているのは、内部の圧力 \(p\) が、外部からの圧力の合計とつりあっているからです。
外部からの圧力は、大気圧 \(p_0\) と、人が力 \(F\) で押すことによって生じる圧力 \(\displaystyle\frac{F}{S}\) の和と考えることができます。
したがって、圧力のつり合いの式は以下のように立てられます。
$$ p = p_0 + \frac{F}{S} \quad \cdots ② $$
この式は、主たる解法で立てた力のつりあいの式 \(pS = F + p_0S\) の両辺を面積 \(S\) で割ったものと全く同じであり、物理的に等価です。

使用した物理公式

  • 圧力の定義: \(p = \displaystyle\frac{F}{S}\)
計算過程

与えられた値をSI単位系に整理します。

  • \(F = 20 \text{ N}\)
  • \(p_0 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)
  • \(S = 1.0 \text{ cm}^2 = 1.0 \times 10^{-4} \text{ m}^2\)

式②にこれらの値を代入します。
$$
\begin{aligned}
p &= 1.0 \times 10^5 + \frac{20}{1.0 \times 10^{-4}} \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^5 + 20 \times 10^4 \\[2.0ex]
&= 1.0 \times 10^5 + 2.0 \times 10^5 \\[2.0ex]
&= 3.0 \times 10^5 \text{ [Pa]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

注射器の中の圧力がどうなっているかというと、もともと外からかかっている大気圧に、さらに人がぐっと押した分の圧力が上乗せされた状態だと考えられます。人が加えた分の圧力は「力÷面積」で計算できます。したがって、「内部の圧力 = 大気圧 + 人が加えた圧力」という非常にシンプルな足し算で答えを求めることができます。この方法でも、面積の単位を「cm²」から「m²」に直すことだけは忘れないようにしましょう。

結論と吟味

主たる解法と全く同じ \(3.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) という結果が得られました。力のつり合いを圧力の式で直接考えることで、物理的な意味がより明確になり、計算も直感的になることが確認できました。

解答 \(3.0 \times 10^5 \text{ Pa}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつりあい:
    • 核心: ピストンが「静止している」という状態は、物理学的に「ピストンにはたらく全ての力の合力がゼロである」ことを意味します。この問題は、このつりあいの法則を数式に落とし込めるかが全てです。
    • 理解のポイント: 「左向きの力の合計 = 右向きの力の合計」という形で立式することが基本です。どの力がどちら向きにはたらくかを正確に把握することが、正解への第一歩となります。
  • 圧力と力の関係 (\(F=pS\)):
    • 核心: 圧力は力そのものではなく、単位面積あたりの力です。力のつりあいの式を立てるためには、圧力 \(p\) に面積 \(S\) を掛けて、力 \(F\) に変換する必要があります。
    • 理解のポイント: この関係式は、圧力の定義そのものです。圧力の異なる問題で頻繁に使うため、機械的に適用できるよう習熟しておく必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 水圧の問題: 水中にある物体の上面と下面にはたらく水圧差による浮力や、水圧を受ける壁にはたらく合力を求める問題。水深 \(h\) での圧力 \(p = p_0 + \rho gh\) を用いて、力のつりあいを考えます。
    • ピストンと気体の状態変化: 本問に加えて、ピストンを動かして気体を圧縮・膨張させる問題。力のつりあいに加え、ボイル・シャルルの法則や理想気体の状態方程式を組み合わせて解きます。
    • 油圧ジャッキ(パスカルの原理): 断面積の異なる2つのピストンが液体でつながっている装置。小さいピストンに加えた力が、パスカルの原理(密閉流体内の圧力はどこでも等しい)によって大きいピストンに伝わり、より大きな力として作用する問題を解く際に、力のつりあいの考え方が基礎となります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 単位の確認と統一: 問題文中の物理量の単位を最初にチェックします。特に、長さが cm、面積が cm² で与えられている場合は、計算を始める前に必ず m、m² に変換する癖をつけます。これを怠ると、桁が大きくずれた答えになってしまいます。
    2. 力の図示: 対象となる物体(この問題ではピストン)を抜き出し、そこにはたらく力をすべて矢印で書き込みます(フリーボディダイアグラム)。「人が押す力」「大気圧による力」「内部気体による力」「重力」「垂直抗力」など、考えられる力を漏れなくリストアップすることが重要です。
    3. 座標軸の設定: 水平方向、鉛直方向など、力のつりあいを考える軸を決めます。力が斜めにはたらく場合は、この軸に沿って成分分解します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 単位換算のミス:
    • 誤解: \(1.0 \text{ cm}^2 = 1.0 \times 10^{-2} \text{ m}^2\) と間違えてしまう。
    • 対策: \(1 \text{ cm} = 10^{-2} \text{ m}\) であることを思い出し、面積は長さの2乗なので、\((10^{-2})^2 = 10^{-4}\) となると論理的に考えます。「\(1 \text{ m}^2\) は \(100 \text{ cm} \times 100 \text{ cm} = 10000 \text{ cm}^2\) なので、\(1 \text{ cm}^2 = 1/10000 \text{ m}^2 = 10^{-4} \text{ m}^2\)」と覚えるのも有効です。
  • 力の向きの勘違い:
    • 誤解: 大気圧による力を、内部の圧力と同じ向き(左向き)にはたらくものとしてしまう。
    • 対策: 圧力は常に面を「押す」方向にはたらく、と覚えましょう。内部の気体はピストンの内面を左向きに押し、外部の大気はピストンの外面を右向きに押します。図を描いて矢印の向きを明確にすることが最も効果的な対策です。
  • 圧力と力の混同:
    • 誤解: 力のつりあいの式に、力 \(F=20 \text{ N}\) と圧力 \(p_0 = 1.0 \times 10^5 \text{ Pa}\) をそのまま足し引きしてしまう。
    • 対策: 常に単位を意識し、「N(ニュートン)」と「Pa(パスカル)」は次元が違うため直接足し算・引き算はできない、と理解してください。力の式を立てるなら全ての項を力 [N] に、圧力の式を立てるなら全ての項を圧力 [Pa] に統一する必要があります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつりあいの式 (\(pS = F + p_0S\)):
    • 選定理由: 問題の状況が「ピストンが静止している」という力学的な平衡状態であるため、ニュートンの運動法則の最も基本的な形である「合力=0」を適用するのが最も直接的です。
    • 適用根拠: ピストンに加速度が生じていない(静止している)という事実が、この法則を適用する根拠となります。この式は、未知の物理量(内部の圧力 \(p\))と既知の物理量(\(F, p_0, S\))とを結びつける関係式を与えてくれます。
  • 圧力の定義式 (\(p = p_0 + \displaystyle\frac{F}{S}\)):
    • 選定理由: 別解で用いました。これは力のつりあいの式を変形したもので、物理的な解釈がよりしやすい形です。
    • 適用根拠: 「内部の圧力は、基準となる大気圧に、外部から加えられた圧力(力\(F\)を面積\(S\)で割ったもの)が上乗せされたものである」という、圧力の重ね合わせとして現象を捉えることができます。これはパスカルの原理の考え方にも通じるもので、より本質的な理解につながります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 指数の計算: \(20 / (1.0 \times 10^{-4})\) のような計算では、まず \(20 / 1.0 = 20\) と係数部分を計算し、次に \(1 / 10^{-4} = 10^4\) と指数部分を計算して、最後にそれらを掛け合わせる \(20 \times 10^4\) と段階的に行うとミスが減ります。
  • 有効数字と桁の統一: \(1.0 \times 10^5 + 20 \times 10^4\) のような足し算では、まず指数を揃えることが鉄則です。\(20 \times 10^4 = 2.0 \times 10^5\) と変形し、\(1.0 \times 10^5 + 2.0 \times 10^5\) としてから、係数部分を足して \((1.0+2.0) \times 10^5 = 3.0 \times 10^5\) と計算します。これにより、桁を間違えるミスを防げます。
  • 単位換算の先行実施: 計算を始める前に、問題で与えられた全ての値をSI基本単位に変換したリストを作成する習慣をつけましょう。例えば、問題用紙の余白に「\(S = 1.0 \text{ cm}^2 = 1.0 \times 10^{-4} \text{ m}^2\)」と書き出しておけば、計算途中で換算を忘れるというミスを防げます。
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234 ボイルの法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】
  1. 別解
    • 別解1: 理想気体の状態方程式を用いた解法
  2. 上記の別解が有益である理由
    • ボイルの法則が、より普遍的な法則である「理想気体の状態方程式」において、温度と物質量が一定という条件下で成り立つ特殊な場合であることを、数式を通して理解することができます。
    • 様々な気体の状態変化の問題に対して、常に状態方程式という統一的な視点からアプローチする力を養うことができます。
  3. 結果への影響
    • いずれのアプローチを用いても、最終的な答えは模範解答と一致します。

この問題のテーマは「等温変化におけるボイルの法則の適用」です。気体の状態変化に関する法則を正しく選択し、適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 等温変化(気体の温度を一定に保ったまま、圧力や体積を変化させること)
  2. ボイルの法則(温度と物質量が一定のとき、圧力と体積は反比例する)
  3. 理想気体の状態方程式(気体の状態量を包括的に扱う基本法則)
  4. 絶対温度(気体の法則で用いる温度の単位)

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 問題文の「温度を一定に保って」という記述から、この変化が「等温変化」であると判断し、ボイルの法則を適用します。
  2. 変化の前と後について、それぞれの圧力と体積をボイルの法則の式に代入し、未知の体積を計算します。
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