「リードα 物理基礎・物理 改訂版」徹底解説!【第10章】応用問題

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207 緯度と重力加速度

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、地球の自転による遠心力の影響で、地上の重力(重力加速度)が緯度によってどのように変化するかを考察する問題です。地上の物体に働く「重力」が、実は地球からの「万有引力」と自転による「遠心力」の合力であることを理解することが核心です。

与えられた条件
  • 物体の質量: \(m\)
  • 地球の質量: \(M\)
  • 地球の半径: \(R\)
  • 万有引力定数: \(G\)
  • 地球の自転の角速度: \(\omega\)
  • 物体Pの緯度: \(\theta\)
問われていること
  • (1) 緯度\(\theta\)における遠心力\(F’\)の大きさ
  • (2) 万有引力\(F\)の大きさ
  • (3) 緯度\(\theta\)における重力加速度\(g\)の大きさ
  • (4) 北極での重力加速度\(g_N\)と赤道での重力加速度\(g_E\)の差 \(\Delta g = g_N – g_E\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で示されている解法を主たる解説として採用しつつ、学習者の多角的な理解を促進するため、以下の教育的価値の高い別解を追加します。

  1. 設問(3)の別解
    • ベクトル成分を用いた解法: 万有引力と遠心力をそれぞれベクトル成分で表現し、その和として重力を求める方法です。図形的な考察に頼らず、座標系を用いて代数的に計算を進めるため、より複雑な力の合成問題にも応用できる汎用性の高いアプローチです。
  2. 設問(4)の別解
    • 設問(3)の一般式の利用: 設問(3)で導出した緯度\(\theta\)における重力加速度の一般式に、赤道(\(\theta=0^\circ\))と北極(\(\theta=90^\circ\))の値を代入して計算する方法です。一般解から特殊解を導くという、物理学における重要な思考プロセスを体験できます。

いずれの解法を用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します。

この問題のテーマは「万有引力と遠心力の合成による見かけの重力」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 円運動と遠心力: 地球の自転に伴い、地上の物体は円運動をしています。この運動を地球と一緒に回転する座標系から見ると、物体には遠心力が働いているように見えます。
  2. 万有引力の法則: 地球と物体の間には、互いの質量に比例し、距離の2乗に反比例する引力が働きます。
  3. 力の合成: 重力は、ベクトルである万有引力と遠心力の合力として定義されます。ベクトルの合成には、成分分解や余弦定理が用いられます。
  4. 幾何学的な関係: 緯度\(\theta\)から円運動の半径を正しく求めることが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、緯度\(\theta\)の点Pにおける円運動の半径を求め、遠心力の大きさを計算します(問1)。
  2. 次に、万有引力の法則に従って、万有引力の大きさを計算します(問2)。
  3. 万有引力と遠心力のベクトル和を計算することで、重力の大きさを求め、重力加速度を導出します(問3)。
  4. 最後に、(3)の結果を用いて、北極と赤道における重力加速度をそれぞれ計算し、その差を求めます(問4)。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体Pに生じる遠心力の大きさを求める問題です。遠心力は、物体が地球の自転とともに行う円運動によって生じます。遠心力の公式 \(F’ = mr\omega^2\) を適用するために、まずは円運動の半径\(r\)を緯度\(\theta\)と地球の半径\(R\)を用いて正しく求めることが第一歩です。
この設問における重要なポイント

  • 円運動の半径: 物体Pは、地軸(北極と南極を結ぶ線)を中心とする円運動をしています。その回転半径\(r\)は、地球の半径\(R\)そのものではなく、Pから地軸に下ろした垂線の長さに等しくなります。
  • 幾何学的関係: 問題の図から、緯度\(\theta\)の定義(赤道面となす角)を読み取ります。三角比を用いると、回転半径\(r\)は \(r = R\cos\theta\) と表せます。
  • 遠心力の公式: 回転半径\(r\)、質量\(m\)、角速度\(\omega\)を用いて、遠心力の大きさは \(F’ = mr\omega^2\) で計算されます。

具体的な解説と立式
物体Pは、地球の自転軸(N-S軸)を中心として、角速度\(\omega\)で等速円運動をしています。
この円運動の半径\(r\)は、問題の図より、緯度\(\theta\)を用いて次のように表されます。
$$ r = R\cos\theta \quad \cdots ① $$
遠心力\(F’\)の大きさは、質量\(m\)、回転半径\(r\)、角速度\(\omega\)を用いて、公式から求められます。
$$ F’ = mr\omega^2 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 遠心力: \(F’ = mr\omega^2\)
計算過程

②式に①式を代入して、\(F’\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
F’ &= m(R\cos\theta)\omega^2 \\[2.0ex]
&= mR\omega^2\cos\theta
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

地球の自転によって、地上の物体はコマのように回っています。このとき、物体は外側に放り出されそうになる力(遠心力)を感じます。この力の大きさは、物体の質量、回転の速さ、そして「回転軸からの距離」で決まります。緯度\(\theta\)の地点では、回転軸からの距離は地球の半径\(R\)に\(\cos\theta\)を掛けたものになるので、これを使って遠心力を計算します。

結論と吟味

遠心力の大きさは \(F’ = mR\omega^2\cos\theta\) です。
この式から、緯度\(\theta\)が大きくなる(北極や南極に近づく)と\(\cos\theta\)は小さくなるため、遠心力は小さくなることがわかります。具体的には、赤道(\(\theta=0^\circ\))で\(\cos 0^\circ = 1\)となり遠心力は最大(\(mR\omega^2\))に、極(\(\theta=90^\circ\))で\(\cos 90^\circ = 0\)となり遠心力はゼロになります。これは物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。

解答 (1) \(mR\omega^2\cos\theta\)

問(2)

思考の道筋とポイント
物体Pと地球との間に生じる万有引力の大きさを求める問題です。これは万有引力の法則の公式を直接適用する基本的な問題です。
この設問における重要なポイント

  • 万有引力の法則: 2つの物体間に働く万有引力は、それぞれの質量\(M, m\)の積に比例し、物体間の距離\(r\)の2乗に反比例します。式で表すと \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) です。
  • 物体間の距離: 物体Pは地表にあるため、地球の中心との距離は地球の半径\(R\)とみなせます。

具体的な解説と立式
万有引力の法則によると、質量\(M\)の地球と質量\(m\)の物体Pの間に働く万有引力\(F\)の大きさは、万有引力定数を\(G\)、地球の中心と物体の距離を\(R\)として、次のように表されます。
$$ F = G\frac{Mm}{R^2} $$

使用した物理公式

  • 万有引力の法則: \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\)
計算過程

この問題では、公式を適用するだけであり、これ以上の計算は不要です。

計算方法の平易な説明

地球が物体を引っ張る力(万有引力)の大きさを求める問題です。この力は、地球と物体の質量が大きいほど強く、距離が離れるほど弱くなります。今回は物体が地表にあるので、距離は地球の半径\(R\)として、万有引力の公式に当てはめます。この力は、物体のいる場所(緯度)にはよりません。

結論と吟味

万有引力の大きさは \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) です。
この力は地球の中心に向かう向きに働き、その大きさは物体Pが地表のどこにあっても(緯度\(\theta\)によらず)一定です。

解答 (2) \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
物体Pに生じる重力加速度の大きさ\(g\)を求める問題です。問題の定義より、重力\(\vec{W} = m\vec{g}\)は、万有引力\(\vec{F}\)と遠心力\(\vec{F’}\)のベクトル和(合力)として与えられます。ベクトルである力を合成するため、成分に分解して計算するのが確実な方法です。
この設問における重要なポイント

  • 力の合成: 重力\(\vec{W}\)は、\(\vec{W} = \vec{F} + \vec{F’}\)というベクトルの和で表されます。力の大きさを求めるには、ベクトルの大きさを計算する必要があります。
  • 座標軸の設定と成分分解: 計算を容易にするため、赤道面(水平方向)と地軸方向(鉛直方向)に座標軸を設定し、各力を成分分解します。万有引力\(\vec{F}\)は斜めを向くため、この2方向に分解する必要があります。
  • 三平方の定理: 各方向の力の成分を合成した後、最終的な力の大きさを求めるために三平方の定理を用います。

具体的な解説と立式
重力\(\vec{W}\)は、万有引力\(\vec{F}\)と遠心力\(\vec{F’}\)の合力です。
$$ \vec{W} = \vec{F} + \vec{F’} $$
このベクトルの大きさを求めるために、力を成分分解します。赤道面に平行な方向(図の水平右向きを正)と、地軸に平行な方向(図の鉛直上向きを正)で考えます。

  1. 遠心力 \(\vec{F’}\):
    (1)で求めた通り、大きさは \(F’ = mR\omega^2\cos\theta\) で、向きは赤道面に平行で回転軸から遠ざかる向きです。

    • 水平成分: \(mR\omega^2\cos\theta\)
    • 鉛直成分: \(0\)
  2. 万有引力 \(\vec{F}\):
    (2)で求めた通り、大きさは \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) で、向きは地球の中心Oを向きます。図より、この力は水平線(赤道面)と角度\(\theta\)をなすため、成分分解すると以下のようになります。

    • 水平成分: \(-F\cos\theta = -G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\cos\theta\)
    • 鉛直成分: \(-F\sin\theta = -G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\sin\theta\)
  3. 重力 \(\vec{W}\):
    各成分を足し合わせることで、重力\(\vec{W}\)の成分が求まります。

    • 水平成分 \(W_x\): \(-G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\cos\theta + mR\omega^2\cos\theta = \left(mR\omega^2 – G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\right)\cos\theta\)
    • 鉛直成分 \(W_y\): \(-G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\sin\theta\)

重力の大きさ\(W = mg\)は、三平方の定理を用いてこれらの成分から計算できます。
$$ (mg)^2 = W_x^2 + W_y^2 $$
したがって、
$$ (mg)^2 = \left\{ \left(mR\omega^2 – G\frac{Mm}{R^2}\right)\cos\theta \right\}^2 + \left( -G\frac{Mm}{R^2}\sin\theta \right)^2 \quad \cdots ① $$

使用した物理公式

  • 力の合成(ベクトル和)
  • 三平方の定理
計算過程

①式を\(g\)について解きます。まず、両辺を\(m^2\)で割ります。
$$
\begin{aligned}
g^2 &= \left\{ \left(R\omega^2 – G\frac{M}{R^2}\right)\cos\theta \right\}^2 + \left( -G\frac{M}{R^2}\sin\theta \right)^2 \\[2.0ex]
&= \left(R\omega^2 – G\frac{M}{R^2}\right)^2\cos^2\theta + \left(G\frac{M}{R^2}\right)^2\sin^2\theta \\[2.0ex]
&= \left\{ (R\omega^2)^2 – 2(R\omega^2)\left(G\frac{M}{R^2}\right) + \left(G\frac{M}{R^2}\right)^2 \right\}\cos^2\theta + \left(G\frac{M}{R^2}\right)^2\sin^2\theta \\[2.0ex]
&= \left( R^2\omega^4 – \frac{2GM\omega^2}{R} \right)\cos^2\theta + \left(G\frac{M}{R^2}\right)^2\cos^2\theta + \left(G\frac{M}{R^2}\right)^2\sin^2\theta \\[2.0ex]
&= \left( R^2\omega^4 – \frac{2GM\omega^2}{R} \right)\cos^2\theta + \left(G\frac{M}{R^2}\right)^2(\cos^2\theta + \sin^2\theta) \\[2.0ex]
&= \left(G\frac{M}{R^2}\right)^2 + \left( R^2\omega^4 – \frac{2GM\omega^2}{R} \right)\cos^2\theta \\[2.0ex]
&= \left(G\frac{M}{R^2}\right)^2 + \left( R^2\omega^2 – \frac{2GM}{R} \right)\omega^2\cos^2\theta
\end{aligned}
$$
したがって、重力加速度\(g\)は次のようになります。
$$ g = \sqrt{\left(G\frac{M}{R^2}\right)^2 + \left( R^2\omega^2 – \frac{2GM}{R} \right)\omega^2\cos^2\theta} $$

計算方法の平易な説明

「重力」は、「地球が引く力(万有引力)」と「自転で外に飛び出す力(遠心力)」を合わせたものです。この2つの力は向きが違うので、単純な足し算や引き算はできません。そこで、それぞれの力を「水平方向」と「垂直方向」の成分に分解します。各方向で力の足し算(引き算)をした後、最後に「三平方の定理」を使って、分解した2つの方向の力を再び合成し、最終的な重力の大きさを求めます。

別解: ベクトル成分を用いた解法

思考の道筋とポイント
地球の中心を原点とする3次元座標系を設定し、万有引力と遠心力をベクトルで表現します。重力ベクトルはこれらのベクトルの和として求められ、その大きさを計算することで重力加速度を導出します。この方法は、図形的な考察を代数的な計算に置き換えるもので、見通しが良くなる場合があります。
この設問における重要なポイント

  • 座標系の設定: 地球の中心を原点O、赤道面をxy平面、地軸をz軸とします。
  • ベクトルの成分表示: 緯度\(\theta\)の点Pの位置ベクトルを求め、それを用いて万有引力ベクトルと遠心力ベクトルを成分表示します。
  • ベクトル和と大きさの計算: 2つのベクトルを成分ごとに足し合わせ、得られた重力ベクトルの大きさ(ノルム)を計算します。

具体的な解説と立式
地球の中心を原点O、地軸をz軸、赤道面をxy平面とする座標系を考えます。緯度\(\theta\)の点Pは、簡単のためxz平面上にあるとすると、その位置ベクトル\(\vec{r}_P\)は次のように表せます。
$$ \vec{r}_P = (R\cos\theta, 0, R\sin\theta) $$

  1. 万有引力ベクトル \(\vec{F}\):
    地球の中心Oに向かう力なので、位置ベクトル\(\vec{r}_P\)と逆向きです。大きさは \(F = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) です。
    $$
    \begin{aligned}
    \vec{F} &= -F \frac{\vec{r}_P}{|\vec{r}_P|} \\[2.0ex]
    &= -G\frac{Mm}{R^2} \frac{(R\cos\theta, 0, R\sin\theta)}{R} \\[2.0ex]
    &= \left(-G\frac{Mm}{R^2}\cos\theta, 0, -G\frac{Mm}{R^2}\sin\theta\right)
    \end{aligned}
    $$
  2. 遠心力ベクトル \(\vec{F’}\):
    回転軸(z軸)から離れる向き(x軸正の向き)に働きます。大きさは \(F’ = m(R\cos\theta)\omega^2\) です。
    $$ \vec{F’} = (mR\omega^2\cos\theta, 0, 0) $$
  3. 重力ベクトル \(\vec{W}\):
    万有引力ベクトルと遠心力ベクトルの和です。
    $$
    \begin{aligned}
    \vec{W} &= \vec{F} + \vec{F’} \\[2.0ex]
    &= \left( \left(mR\omega^2 – G\frac{Mm}{R^2}\right)\cos\theta, 0, -G\frac{Mm}{R^2}\sin\theta \right)
    \end{aligned}
    $$

使用した物理公式

  • ベクトルによる力の表現
  • ベクトルの和と大きさの計算
計算過程

重力の大きさ \(W=mg\) は、重力ベクトル\(\vec{W}\)の大きさ(ノルム)です。
$$
\begin{aligned}
(mg)^2 &= |\vec{W}|^2 \\[2.0ex]
&= \left\{ \left(mR\omega^2 – G\frac{Mm}{R^2}\right)\cos\theta \right\}^2 + 0^2 + \left( -G\frac{Mm}{R^2}\sin\theta \right)^2
\end{aligned}
$$
この式は、主たる解法で立てた式①と全く同じです。したがって、これ以降の計算も同様になり、同じ結果が得られます。
$$ g = \sqrt{\left(G\frac{M}{R^2}\right)^2 + \left( R^2\omega^2 – \frac{2GM}{R} \right)\omega^2\cos^2\theta} $$

計算方法の平易な説明

力を矢印(ベクトル)として、数式でその向きと大きさを表現する方法です。地球の中心を基準点(原点)として、「水平方向」「奥行き方向」「垂直方向」の3つの軸を考えます。万有引力と遠心力がそれぞれどの方向にどれだけの大きさを持つかを数字の組で表し、それらを足し合わせることで、合力である重力を計算します。

結論と吟味

重力加速度の大きさは \(g = \sqrt{\left(G\displaystyle\frac{M}{R^2}\right)^2 + \left( R^2\omega^2 – \displaystyle\frac{2GM}{R} \right)\omega^2\cos^2\theta}\) です。
この式は複雑ですが、\(\cos^2\theta\)の項が含まれていることから、重力加速度が緯度\(\theta\)に依存することを示しています。遠心力の影響(\(\omega\)を含む項)がなければ、\(g = G\displaystyle\frac{M}{R^2}\)となり、万有引力による加速度と一致します。これは物理的に妥当です。

また、ベクトル計算という異なるアプローチを用いても、主たる解法と全く同じ結果が得られました。これは、計算の正しさと物理的理解の確かさを裏付けるものです。

解答 (3) \(\sqrt{\left(G\displaystyle\frac{M}{R^2}\right)^2 + \left( R^2\omega^2 – \displaystyle\frac{2GM}{R} \right)\omega^2\cos^2\theta}\)

問(4)

思考の道筋とポイント
北極での重力加速度\(g_N\)と赤道での重力加速度\(g_E\)を求め、その差を計算する問題です。北極と赤道は、緯度\(\theta\)がそれぞれ特定の値をとる特殊なケースです。(3)で求めた一般式を用いるか、あるいはそれぞれの地点で働く力を改めて考えることで解くことができます。
この設問における重要なポイント

  • 北極での条件: 北極は緯度\(\theta = 90^\circ\)です。このとき、地軸上に位置するため円運動の半径は0となり、遠心力は働きません。したがって、重力は万有引力と等しくなります。
  • 赤道での条件: 赤道は緯度\(\theta = 0^\circ\)です。このとき、円運動の半径は地球の半径\(R\)と等しくなり、遠心力は最大になります。万有引力と遠心力は一直線上で逆向きに働くため、重力の大きさは単純な引き算で求められます。

具体的な解説と立式

  1. 北極での重力加速度 \(g_N\):
    北極では緯度\(\theta = 90^\circ\)です。
    このとき、遠心力は \(F’_N = mR\omega^2\cos 90^\circ = 0\) となります。
    したがって、働く力は万有引力のみです。
    $$
    \begin{aligned}
    mg_N &= F \\[2.0ex]
    &= G\frac{Mm}{R^2}
    \end{aligned}
    $$
    よって、
    $$ g_N = G\frac{M}{R^2} \quad \cdots ① $$
  2. 赤道での重力加速度 \(g_E\):
    赤道では緯度\(\theta = 0^\circ\)です。
    このとき、遠心力は \(F’_E = mR\omega^2\cos 0^\circ = mR\omega^2\) となり最大です。
    万有引力\(F = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\)は地球の中心向き、遠心力\(F’_E\)は中心から外向きに働くため、一直線上で逆向きです。
    したがって、重力の大きさはこれらの力の大きさの差となります。
    $$
    \begin{aligned}
    mg_E &= F – F’_E \\[2.0ex]
    &= G\frac{Mm}{R^2} – mR\omega^2
    \end{aligned}
    $$
    よって、
    $$ g_E = G\frac{M}{R^2} – R\omega^2 \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 万有引力の法則
  • 遠心力
計算過程

求めたいのは両者の差 \(\Delta g = g_N – g_E\) です。①式と②式を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta g &= g_N – g_E \\[2.0ex]
&= \left(G\frac{M}{R^2}\right) – \left(G\frac{M}{R^2} – R\omega^2\right) \\[2.0ex]
&= G\frac{M}{R^2} – G\frac{M}{R^2} + R\omega^2 \\[2.0ex]
&= R\omega^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

北極では、回転の中心軸上にいるので、遠心力は働きません。なので、重力は純粋な万有引力と同じです。一方、赤道では、最も外側を回っているので遠心力が最大になります。万有引力(内向き)から遠心力(外向き)を引いたものが重力になります。この2つの場所での重力加速度をそれぞれ計算し、引き算をします。

別解: 設問(3)の一般式の利用

思考の道筋とポイント
設問(3)で導出した重力加速度の一般式 \(g(\theta)\) に、北極の緯度 \(\theta=90^\circ\) と赤道の緯度 \(\theta=0^\circ\) をそれぞれ代入して \(g_N\) と \(g_E\) を求め、その差を計算します。
この設問における重要なポイント

  • 一般式の適用: 複雑な一般式から、具体的な条件を代入することで特殊な場合の解を導き出すことができます。
  • 三角関数の値: \(\cos 90^\circ = 0\) と \(\cos 0^\circ = 1\) を正しく適用します。
  • 近似計算: 地球の自転は十分に遅く、遠心力は万有引力に比べて非常に小さい(\(R\omega^2 \ll G\displaystyle\frac{M}{R^2}\))という事実を使います。これにより、平方根の近似式 \(\sqrt{A-x} \approx \sqrt{A} – \displaystyle\frac{x}{2\sqrt{A}}\) (ただし \(x \ll A\)) を用いることができますが、ここでは厳密に計算します。

具体的な解説と立式
(3)で求めた一般式は以下の通りです。
$$ g(\theta) = \sqrt{\left(G\frac{M}{R^2}\right)^2 + \left( R^2\omega^2 – \frac{2GM}{R} \right)\omega^2\cos^2\theta} $$

  1. 北極での重力加速度 \(g_N\):
    \(\theta = 90^\circ\) を代入します。\(\cos 90^\circ = 0\) なので、
    $$
    \begin{aligned}
    g_N &= g(90^\circ) \\[2.0ex]
    &= \sqrt{\left(G\frac{M}{R^2}\right)^2 + 0} \\[2.0ex]
    &= G\frac{M}{R^2} \quad \cdots ③
    \end{aligned}
    $$
  2. 赤道での重力加速度 \(g_E\):
    \(\theta = 0^\circ\) を代入します。\(\cos 0^\circ = 1\) なので、
    $$
    \begin{aligned}
    g_E &= g(0^\circ) \\[2.0ex]
    &= \sqrt{\left(G\frac{M}{R^2}\right)^2 + \left( R^2\omega^2 – \frac{2GM}{R} \right)\omega^2} \\[2.0ex]
    &= \sqrt{\left(G\frac{M}{R^2}\right)^2 – \frac{2GM\omega^2}{R} + R^2\omega^4} \\[2.0ex]
    &= \sqrt{\left(G\frac{M}{R^2} – R\omega^2\right)^2} \\[2.0ex]
    &= G\frac{M}{R^2} – R\omega^2 \quad \cdots ④
    \end{aligned}
    $$
    ここで、\(G\displaystyle\frac{M}{R^2} > R\omega^2\) (万有引力による加速度は遠心力による加速度よりずっと大きい)なので、平方根を外す際に絶対値はそのまま外せます。

使用した物理公式

  • 設問(3)で導出した重力加速度の一般式
計算過程

求めたいのは \(\Delta g = g_N – g_E\) です。③式と④式を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta g &= g_N – g_E \\[2.0ex]
&= \left(G\frac{M}{R^2}\right) – \left(G\frac{M}{R^2} – R\omega^2\right) \\[2.0ex]
&= R\omega^2
\end{aligned}
$$
この計算は主たる解法と全く同じになります。

計算方法の平易な説明

(3)で、どんな緯度でも重力加速度を計算できる万能な式を作りました。この万能式に、北極の緯度(90度)と赤道の緯度(0度)をそれぞれ代入して、各場所での重力加速度を求めます。最後に、その2つの値を引き算します。

結論と吟味

重力加速度の差は \(\Delta g = R\omega^2\) です。
この差は、赤道上で働く遠心力によって生じる加速度 \(R\omega^2\) に等しいことがわかります。これは、重力の緯度による違いが、本質的に遠心力の違いによってもたらされることを示しており、物理的に非常に明快な結果です。

また、一般式から出発しても、主たる解法と同じ結果が得られました。これにより、(3)で導出した複雑な一般式が、北極や赤道といった特殊な場合においても正しく物理現象を記述していることが確認できます。

解答 (4) \(R\omega^2\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 重力の正体(万有引力と遠心力の合力):
    • 核心: 私たちが日常的に「重力」と呼んでいる力は、純粋な万有引力ではなく、地球の自転による「遠心力」が加わった「合力」である、という点がこの問題全体の根幹をなす最重要ポイントです。地上の物体は、地球という回転する基準系に乗っているため、この見かけの力である遠心力を考慮する必要があります。
    • 理解のポイント: 重力 \(\vec{W}\) は、地球の中心に向かう万有引力 \(\vec{F}\) と、回転軸から遠ざかる向きの遠心力 \(\vec{F’}\) のベクトル和、すなわち \(\vec{W} = \vec{F} + \vec{F’}\) として定義されます。この関係を正しく理解することが、すべての設問を解くための出発点となります。
  • 力のベクトル合成:
    • 核心: 万有引力と遠心力は、一般の緯度では向きが異なるため、単純な足し算・引き算はできません。これらの力をベクトルとして扱い、正しく合成する能力が問われます。(3)では、このベクトル合成が中心的な課題となります。
    • 理解のポイント: ベクトルを合成する具体的な手法として、以下の2つが考えられます。
      1. 成分分解: 各ベクトルを直交する2つの方向(例:地軸方向と赤道面方向)に分解し、成分ごとに和を計算した後、三平方の定理で合力の大きさを求める方法。
      2. 余弦定理: 2つのベクトルのなす角を求め、余弦定理 \((mg)^2 = F^2 + F’^2 – 2FF’\cos\alpha\) を用いて合力の大きさを計算する方法。(模範解答の別解で示唆されているアプローチ)

      どちらの手法も使えるようにしておくことが望ましいです。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 人工衛星の運動: 人工衛星に働く力(万有引力)が向心力となり円運動する問題。遠心力とのつり合いで考える視点は、この問題と共通しています。
    • 回転する円盤上の物体の運動: 円盤と一緒に回転する物体に働く力(摩擦力など)と遠心力のつり合いを考える問題。回転系における力の扱い方を練習できます。
    • 天体の運動(連星など): 2つの星が共通の中心の周りを回る問題。万有引力が向心力となる点で本質は同じです。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 基準系を意識する: 問題を「静止した宇宙空間から見る(慣性系)」のか、「地球と一緒に回転しながら見る(回転系・非慣性系)」のかを最初に意識します。この問題のように「重力」という言葉が出てきた場合、それは回転系で考えたときの「合力」を指すことが多いです。
    2. 働く力をすべて図示する: 万有引力(中心向き)、遠心力(回転軸から外向き)を正確に図示します。力の向きと作用点を間違えないことが重要です。
    3. 幾何学的な関係を把握する: 緯度\(\theta\)と円運動の半径\(r\)の関係(\(r=R\cos\theta\))など、図形から読み取れる情報を正確に数式に変換します。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 円運動の半径の誤認:
    • 誤解: 遠心力の計算で、円運動の半径を地球の半径\(R\)のまま使ってしまう。
    • 対策: 物体は地軸の周りを回っているのであり、地球の中心の周りを回っているのではありません。必ず図を描き、回転軸からの距離が \(r=R\cos\theta\) となることを確認しましょう。赤道(\(\theta=0^\circ\))でのみ \(r=R\) となります。
  • 重力と万有引力の混同:
    • 誤解: 「重力」と「万有引力」を同じものとして扱ってしまう。
    • 対策: この問題の定義では、「重力 = 万有引力 + 遠心力」です。自転の影響を無視できる場合や、北極・南極では重力と万有引力は一致しますが、一般には異なる力であることを明確に区別しましょう。
  • 力の合成におけるスカラー計算:
    • 誤解: (3)で、向きの異なる万有引力\(F\)と遠心力\(F’\)を、ベクトルの概念を無視して単純に足したり引いたりしてしまう。
    • 対策: 力はベクトル量であることを常に意識してください。向きが異なるベクトルを合成するときは、必ず成分分解や余弦定理といったベクトル演算の手順を踏む必要があります。赤道上のように力が一直線上にある特別な場合にのみ、大きさの単純な引き算が許されます。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • 力のベクトル図: 物体Pに働く「万有引力\(\vec{F}\)」(地球中心向きの長い矢印)と「遠心力\(\vec{F’}\)」(回転軸から外向きの短い矢印)を描きます。この2つのベクトルを平行四辺形の法則で合成すると、合力ベクトル「重力\(\vec{W}\)」が求まります。この\(\vec{W}\)の向きが、実際の「鉛直下向き」であり、万有引力の向き(地球中心)からわずかにずれていることを図で確認すると、理解が深まります。
    • 極端な場合を考える:
      • 赤道(\(\theta=0^\circ\)): 万有引力は真下、遠心力は真上。重力は万有引力から遠心力を引いたものになり、最も軽くなる。
      • 極(\(\theta=90^\circ\)): 回転軸上にいるので遠心力はゼロ。重力は万有引力そのものになり、最も重くなる。

      この2つの極端なケースをイメージすることで、緯度による重力の変化の全体像を掴むことができます。

  • 図を描く際に注意すべき点:
    • 力の相対的な大きさ: 遠心力は万有引力に比べて非常に小さいです。図示する際も、遠心力の矢印を万有引力より明らかに短く描くことで、物理現象のスケール感を正しく捉えられます。
    • 角度の定義: 緯度\(\theta\)が赤道面となす角であることを明確に図に記入します。これにより、力の成分分解や回転半径の計算で角度を間違えるのを防ぎます。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 遠心力の式 (\(F’ = mr\omega^2\)):
    • 選定理由: (1)で、地球の自転という回転運動に伴って物体に生じる見かけの力を定量化するため。
    • 適用根拠: 回転座標系において、慣性の法則を成り立たせるために導入される慣性力の一種です。大きさは質量、回転半径、角速度の2乗に比例します。
  • 万有引力の法則 (\(F = G\frac{Mm}{R^2}\)):
    • 選定理由: (2)で、地球と物体の間に働く根源的な引力を計算するため。
    • 適用根拠: ニュートンによって発見された、質量を持つすべての物体の間に働く普遍的な引力に関する法則です。
  • 力のベクトル合成(成分分解+三平方の定理 or 余弦定理):
    • 選定理由: (3)で、向きの異なる2つの力(万有引力と遠心力)の合力の大きさを求めるため。
    • 適用根拠: ベクトル和の大きさを計算するための数学的な手法です。物理的な力を、計算可能な数学の土俵に乗せるために用います。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. (1) 遠心力の計算:
    • 戦略: 遠心力の公式に必要な回転半径\(r\)を求める。
    • フロー: ①図から緯度\(\theta\)と地球半径\(R\)の関係を読み取る → ②回転半径を \(r=R\cos\theta\) と計算 → ③遠心力の公式 \(F’=mr\omega^2\) に代入。
  2. (2) 万有引力の計算:
    • 戦略: 万有引力の公式を適用する。
    • フロー: ①公式 \(F=G\frac{Mm}{r^2}\) の距離\(r\)に地球半径\(R\)を代入。
  3. (3) 重力加速度の計算:
    • 戦略: 万有引力と遠心力をベクトルとして合成し、その大きさを求める。
    • フロー: ①座標軸を設定し、\(\vec{F}\)と\(\vec{F’}\)を成分分解 → ②各成分を足し合わせ、合力\(\vec{W}\)の成分を求める → ③三平方の定理 \((mg)^2 = W_x^2 + W_y^2\) を立式 → ④式を\(g\)について解く。
  4. (4) 重力加速度の差の計算:
    • 戦略: 北極と赤道という特殊な状況での力を考え、それぞれの重力加速度を求める。
    • フロー: ①北極(\(\theta=90^\circ\))では遠心力が0であることを利用し\(g_N\)を計算 → ②赤道(\(\theta=0^\circ\))では力が一直線上にあることを利用し\(g_E\)を計算 → ③差 \(\Delta g = g_N – g_E\) を計算。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: (3)の計算は非常に複雑です。途中で数値を代入せず、最後まで文字式のまま整理することで、計算の見通しが良くなります。特に、\((G\frac{M}{R^2})\)や\((R\omega^2)\)といった塊を一つの変数のように扱うと、展開や整理がしやすくなります。
  • 三角関数の公式の活用: (3)の計算の途中で \(\cos^2\theta + \sin^2\theta = 1\) という関係式が出てきます。これを見逃さずに適用することで、式が大幅に簡潔になります。常に三角関数の基本的な公式が使えないか意識しましょう。
  • 近似の利用を検討する: この問題では要求されていませんが、実際の地球では遠心力は万有引力に比べて非常に小さいため、\((R\omega^2)^2\) のような高次の微小項は無視できる場合があります。近似計算に慣れておくと、検算や物理的な大きさの評価に役立ちます。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • (3) 重力加速度: 得られた\(g\)の式は、\(\omega=0\)(自転しない場合)とすると \(g = G\frac{M}{R^2}\) となり、万有引力による加速度と一致します。また、\(\cos^2\theta\) の係数が負であることから、\(\theta\)が0(赤道)に近づくほど\(g\)は小さくなることがわかります。これらは物理的な直感と一致しており、式の妥当性を裏付けます。
    • (4) 加速度の差: \(\Delta g = R\omega^2\) という結果は、赤道における遠心力が生み出す加速度そのものです。これは、重力の緯度による変化の主な原因が遠心力であることを端的に示しており、非常に明快な結果です。
  • 別解との比較:
    • (3)の重力加速度は、力の成分分解と三平方の定理で求める方法と、ベクトルで直接計算する方法の2通りで解説しました。全く異なるアプローチから同じ結論が導かれることを確認することで、計算の正しさと、異なる数学的表現が同じ物理現象を記述していることへの理解が深まります。
    • (4)も、各点で個別に力を考える方法と、(3)の一般式に代入する方法の2通りで解きました。一般解が特殊解を内包していることを確認するのは、物理法則の理解を深める上で非常に有効な演習です。

208 人工衛星の打ち上げのエネルギー

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、地上にある人工衛星を特定の円軌道に乗せるために、外部からどれだけのエネルギーを供給する必要があるかを問う問題です。万有引力が関わる系のエネルギー計算の典型例です。

与えられた条件
  • 人工衛星の質量: \(m\)
  • 円軌道の半径: \(r\)
  • 地上での重力加速度の大きさ: \(g\)
  • 地球の半径: \(R\)
  • 地球の自転は無視する
問われていること
  • 人工衛星を地上から半径\(r\)の円軌道に打ち上げるのに必要なエネルギー \(E\)

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で示されている解法を主たる解説として採用しつつ、学習者の多角的な理解を促進するため、以下の教育的価値の高い別解を追加します。

  1. 無限遠点を基準としたエネルギー計算
    • 打ち上げに必要なエネルギーを「①地上から無限遠まで運ぶエネルギー」と「②無限遠から円軌道に乗せるエネルギー」の2段階の和として考える方法です。
    • このアプローチは、万有引力による位置エネルギーや束縛エネルギーの物理的意味を、より直感的に理解する助けとなります。また、問題を2つの単純なステップに分解することで、思考が整理しやすくなるという利点があります。

いずれの解法を用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します。

この問題のテーマは「万有引力ポテンシャル中での仕事とエネルギーの関係」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 万有引力による位置エネルギー: 質量\(M\)の天体から距離\(x\)だけ離れた質量\(m\)の物体の位置エネルギーは \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{x}\) で与えられます(無限遠が基準)。
  2. 力学的エネルギー: 運動エネルギーと位置エネルギーの和 \(E_{\text{力学}} = K + U\) です。
  3. 仕事とエネルギーの関係: 物体に外部から仕事(エネルギー)\(W\)がされると、その分だけ力学的エネルギーが増加します。(\(E_{\text{前}} + W = E_{\text{後}}\))
  4. 円運動の動力学: 人工衛星が円軌道を維持するためには、万有引力が向心力として働く必要があります。この関係から、軌道上での速さを求めることができます。
  5. 地表での重力と万有引力の関係: 地表では、重力 \(mg\) が万有引力 \(G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) と等しいとみなせるため、\(GM = gR^2\) という重要な関係式が導かれます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. まず、打ち上げ前(地上で静止している状態)の人工衛星の力学的エネルギー\(E_1\)を計算します。
  2. 次に、打ち上げ後(半径\(r\)の円軌道上)の人工衛星の力学的エネルギー\(E_2\)を計算します。この際、円運動の運動方程式を用いて速さを求めます。
  3. 最後に、エネルギーの関係式 \(E_1 + E = E_2\) を用いて、必要なエネルギー\(E\)を求めます。計算の最終段階で、\(GM = gR^2\) の関係式を使って、与えられた文字(\(m, g, R, r\))で答えを表現します。

思考の道筋とポイント
打ち上げに必要なエネルギー\(E\)は、人工衛星の力学的エネルギーの増加分に等しいと考えます。つまり、打ち上げ後の力学的エネルギー\(E_2\)から、打ち上げ前の力学的エネルギー\(E_1\)を引いた差が、求めるエネルギー\(E\)となります。したがって、まずは\(E_1\)と\(E_2\)をそれぞれ正確に計算することが目標となります。
この設問における重要なポイント

  • 地上のエネルギー \(E_1\): 人工衛星は地上で静止しているため、運動エネルギーはゼロです。万有引力による位置エネルギーは、地球の中心からの距離が\(R\)であることから \(U_1 = -G\displaystyle\frac{Mm}{R}\) となります。
  • 軌道上のエネルギー \(E_2\): 半径\(r\)の円軌道上では、運動エネルギー \(K_2 = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) と位置エネルギー \(U_2 = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) の和が力学的エネルギーとなります。速さ\(v\)は、万有引力が向心力として働くという円運動の条件から求める必要があります。
  • \(G, M\) の消去: 問題の答えは \(g, R\) などの与えられた文字で表す必要があります。そのため、計算の途中で出てくる地球の質量\(M\)や万有引力定数\(G\)は、地表での重力と万有引力の関係式 \(mg = G\displaystyle\frac{Mm}{R^2}\) から得られる \(GM = gR^2\) を用いて消去します。

具体的な解説と立式
地球の質量を\(M\)、万有引力定数を\(G\)とします。

  1. 打ち上げ前の力学的エネルギー \(E_1\)地上で静止している人工衛星の運動エネルギーは \(K_1 = 0\)。万有引力による位置エネルギーは、地球の中心からの距離が\(R\)なので、
    $$ U_1 = -G\frac{Mm}{R} $$
    したがって、力学的エネルギー\(E_1\)は、
    $$
    \begin{aligned}
    E_1 &= K_1 + U_1 \\[2.0ex]
    &= 0 + \left(-G\frac{Mm}{R}\right) \\[2.0ex]
    &= -G\frac{Mm}{R} \quad \cdots ①
    \end{aligned}
    $$
  2. 打ち上げ後の力学的エネルギー \(E_2\)半径\(r\)の円軌道上を速さ\(v\)で運動している人工衛星の運動エネルギーは \(K_2 = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。位置エネルギーは、地球の中心からの距離が\(r\)なので、
    $$ U_2 = -G\frac{Mm}{r} $$
    したがって、力学的エネルギー\(E_2\)は、
    $$
    \begin{aligned}
    E_2 &= K_2 + U_2 \\[2.0ex]
    &= \frac{1}{2}mv^2 – G\frac{Mm}{r} \quad \cdots ②
    \end{aligned}
    $$
  3. 軌道上での速さ \(v\)人工衛星に働く万有引力が向心力となり、円運動を維持します。運動方程式は、
    $$ m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2} \quad \cdots ③ $$
  4. 必要なエネルギー \(E\)打ち上げ前のエネルギー\(E_1\)に、外部からエネルギー\(E\)を供給することで、打ち上げ後のエネルギー\(E_2\)になったと考えます。
    $$ E_1 + E = E_2 \quad \cdots ④ $$
  5. 物理定数の関係式地表での重力と万有引力が等しい(地球の自転は無視)という条件から、
    $$ mg = G\frac{Mm}{R^2} $$
    これを変形すると、
    $$ GM = gR^2 \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー: \(E_{\text{力学}} = K + U\)
  • 万有引力による位置エネルギー: \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\)
  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\)
  • 仕事とエネルギーの関係
計算過程

まず、軌道上でのエネルギー\(E_2\)を簡単な形で表します。
運動方程式③から、
$$ mv^2 = G\frac{Mm}{r} $$
この結果を②式に代入すると、
$$
\begin{aligned}
E_2 &= \frac{1}{2}\left(G\frac{Mm}{r}\right) – G\frac{Mm}{r} \\[2.0ex]
&= -\frac{1}{2}G\frac{Mm}{r}
\end{aligned}
$$
次に、④式の関係から、必要なエネルギー\(E\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
E &= E_2 – E_1 \\[2.0ex]
&= \left(-\frac{1}{2}G\frac{Mm}{r}\right) – \left(-G\frac{Mm}{R}\right) \\[2.0ex]
&= G\frac{Mm}{R} – \frac{1}{2}G\frac{Mm}{r} \\[2.0ex]
&= GMm\left(\frac{1}{R} – \frac{1}{2r}\right)
\end{aligned}
$$
最後に、この式に⑤の関係式 \(GM = gR^2\) を代入して、与えられた文字で表します。
$$
\begin{aligned}
E &= (gR^2)m\left(\frac{1}{R} – \frac{1}{2r}\right) \\[2.0ex]
&= mgR^2\left(\frac{1}{R} – \frac{1}{2r}\right) \\[2.0ex]
&= mgR\left(R \times \frac{1}{R} – R \times \frac{1}{2r}\right) \\[2.0ex]
&= mgR\left(1 – \frac{R}{2r}\right)
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

打ち上げに必要なエネルギーは、人工衛星の「エネルギーの増加分」です。そこで、「打ち上げ前(地上)」と「打ち上げ後(軌道上)」の2つの状態のエネルギーをそれぞれ計算します。エネルギーは、「運動の勢い(運動エネルギー)」と「高さによる位置エネルギー(万有引力位置エネルギー)」の合計値です。この2つの状態のエネルギーの差を求めることで、打ち上げにどれだけのエネルギーを投入する必要があったかがわかります。

別解: 無限遠点を基準としたエネルギー計算

思考の道筋とポイント
打ち上げのプロセスを、「①地上から無限遠まで運び、②無限遠から目的の軌道に乗せる」という2つのステップに分解して考えます。それぞれのステップで必要なエネルギーを計算し、それらを合計することで、最終的に必要なエネルギーを求めます。この考え方は、エネルギーの絶対量ではなく、基準点(無限遠)からの変化量として捉えるもので、束縛エネルギーの概念の理解に役立ちます。
この設問における重要なポイント

  • ステップ1(地上 → 無限遠): 地上での位置エネルギーは \(-G\displaystyle\frac{Mm}{R}\) です。これを無限遠の基準点(エネルギー0)まで引き上げるのに必要なエネルギーは、位置エネルギーの差、すなわち \(0 – \left(-G\displaystyle\frac{Mm}{R}\right) = G\displaystyle\frac{Mm}{R}\) となります。
  • ステップ2(無限遠 → 軌道): 無限遠で静止している状態(エネルギー0)から、半径\(r\)の円軌道(力学的エネルギー \(E_2 = -G\displaystyle\frac{Mm}{2r}\))に移すことを考えます。必要なエネルギーは、エネルギーの差 \(E_2 – 0 = -G\displaystyle\frac{Mm}{2r}\) となります。負の値は、エネルギーを外部に放出しなければならないことを意味します。
  • 合計エネルギー: 地上から軌道へ直接移行するのに必要なエネルギーは、これら2ステップのエネルギーの和で与えられます。

具体的な解説と立式

  1. ステップ1: 地上から無限遠まで運ぶのに必要なエネルギー \(E_{\text{地上}\rightarrow\infty}\)これは、地表にある人工衛星を地球の重力による束縛から解放するエネルギーに相当します。
    $$
    \begin{aligned}
    E_{\text{地上}\rightarrow\infty} &= E_{\infty} – E_1 \\[2.0ex]
    &= 0 – \left(-G\frac{Mm}{R}\right) \\[2.0ex]
    &= G\frac{Mm}{R}
    \end{aligned}
    $$
  2. ステップ2: 無限遠から半径\(r\)の円軌道に乗せるのに必要なエネルギー \(E_{\infty\rightarrow\text{軌道}}\)これは、無限遠で静止している状態から、軌道上のエネルギー状態に移すためのエネルギー変化です。軌道上の力学的エネルギーは \(E_2 = -G\displaystyle\frac{Mm}{2r}\) なので、
    $$
    \begin{aligned}
    E_{\infty\rightarrow\text{軌道}} &= E_2 – E_{\infty} \\[2.0ex]
    &= \left(-G\frac{Mm}{2r}\right) – 0 \\[2.0ex]
    &= -G\frac{Mm}{2r}
    \end{aligned}
    $$
  3. 合計のエネルギー \(E\)地上から軌道へ打ち上げるのに必要な総エネルギー\(E\)は、この2つの和となります。
    $$ E = E_{\text{地上}\rightarrow\infty} + E_{\infty\rightarrow\text{軌道}} $$
計算過程

上記で立てた式に、各ステップのエネルギーを代入します。
$$
\begin{aligned}
E &= \left(G\frac{Mm}{R}\right) + \left(-G\frac{Mm}{2r}\right) \\[2.0ex]
&= GMm\left(\frac{1}{R} – \frac{1}{2r}\right)
\end{aligned}
$$
この式は、主たる解法の計算過程で得られた式と全く同じです。
ここから同様に、関係式 \(GM = gR^2\) を用いて変形します。
$$
\begin{aligned}
E &= (gR^2)m\left(\frac{1}{R} – \frac{1}{2r}\right) \\[2.0ex]
&= mgR\left(1 – \frac{R}{2r}\right)
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

打ち上げという複雑なプロセスを、仮想的な「無限の彼方」を経由する2つの簡単なステップに分けて考えます。まず、ステップ1として、人工衛星を地球の引力から完全に解き放ち、無限の彼方へ運ぶのに必要なエネルギーを計算します。次に、ステップ2として、無限の彼方から目的の円軌道へ「降りてきて」安定して回るために調整すべきエネルギーを計算します。この2つのエネルギーを足し合わせることで、地上から直接軌道に乗せるのに必要な総エネルギーが求められます。

結論と吟味

打ち上げに必要なエネルギーは \(E = mgR\left(1 – \displaystyle\frac{R}{2r}\right)\) です。
この結果を吟味してみましょう。もし、打ち上げ先が無限遠(\(r \rightarrow \infty\))だった場合、\(\displaystyle\frac{R}{2r} \rightarrow 0\) となり、\(E = mgR\) となります。これは、質量\(m\)の物体を地表から無限遠に運ぶのに必要なエネルギー(地球の重力圏を脱出するのに必要な最小エネルギー)と一致しており、物理的に妥当です。また、\(r\)が大きくなるほど必要なエネルギー\(E\)は大きくなることも、式から読み取れ、直感と一致します。

また、主たる解法とは異なる思考プロセスを経ましたが、全く同じ結果が得られました。これにより、計算の正しさがより確かなものになると同時に、万有引力ポテンシャルにおけるエネルギーの考え方について、多角的な理解を深めることができます。

解答 \(mgR\left(1 – \displaystyle\frac{R}{2r}\right)\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?

  • 仕事と力学的エネルギーの関係:
    • 核心: この問題の根幹は、「外部から加えられた仕事(エネルギー)は、物体の力学的エネルギーの変化に等しい」というエネルギー保存則の拡張版です。具体的には、打ち上げに必要なエネルギー\(E\)は、打ち上げ後の力学的エネルギー\(E_2\)と打ち上げ前の力学的エネルギー\(E_1\)の差、すなわち \(E = E_2 – E_1\) で求められます。
    • 理解のポイント: この関係式を正しく立て、\(E_1\)と\(E_2\)をそれぞれ正確に計算することが、解答への唯一の道筋です。
  • 万有引力による位置エネルギーと円運動の動力学:
    • 核心: 力学的エネルギーを計算するためには、その構成要素である「位置エネルギー」と「運動エネルギー」を正しく求める必要があります。
      1. 位置エネルギー: 万有引力が働く系では、位置エネルギーは \(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) で与えられます。負号がつくこと、無限遠を基準点(0)とすること、距離\(r\)に反比例することを理解することが重要です。
      2. 運動エネルギー: 軌道上の運動エネルギーを求めるには、まず速さ\(v\)を知る必要があります。この速さ\(v\)は、人工衛星が円運動を続けるための条件、すなわち「万有引力 = 向心力」という運動方程式を解くことで得られます。
    • 理解のポイント: これら2つの要素を個別に計算し、組み合わせることで、軌道上の力学的エネルギー \(E_2 = -\displaystyle\frac{1}{2}G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) という重要な関係が導かれます。

応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点

  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 軌道変更に必要なエネルギー: 半径\(r_1\)の円軌道から半径\(r_2\)の円軌道へ移るのに必要なエネルギーを求める問題。それぞれの軌道での力学的エネルギーを計算し、その差を求めるという、全く同じアプローチで解けます。
    • 地球脱出速度(第二宇宙速度): 地上から物体を打ち出し、地球の重力圏を脱して無限遠に到達させるための最小初速度を求める問題。地上の力学的エネルギーが、無限遠での力学的エネルギー(0以上)になる条件として解きます。
    • デブリの除去: 軌道上にあるデブリ(宇宙ゴミ)を回収(運動エネルギーを0にする)するために必要なエネルギーを求める問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「エネルギーを求めよ」という問いかけ: この問いかけは、ほぼ確実に「エネルギー保存則」または「仕事とエネルギーの関係」を使うサインです。
    2. 始点と終点の状態を明確にする: 「どこから(始点)」、「どこへ(終点)」エネルギーが変化するのかを特定します。この問題では「地上(静止)」が始点、「半径rの円軌道」が終点です。
    3. 各状態のエネルギーをリストアップする: 始点と終点のそれぞれについて、運動エネルギー(\(K\))と位置エネルギー(\(U\))がいくらになるかを書き出します。特に位置エネルギーの基準(無限遠)と符号に注意します。
    4. \(GM = gR^2\) の関係式を常に念頭に置く: 地表の重力加速度\(g\)が与えられている問題では、ほぼ間違いなくこの関係式を使って\(G\)や\(M\)を消去します。問題文を読んだ時点で、この変換を予測しておくとスムーズです。

要注意!ありがちなミス・誤解とその対策

  • 位置エネルギーの符号ミス:
    • 誤解: 万有引力による位置エネルギーを \(+G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) と間違える。
    • 対策: 万有引力は引力(常に引き合う力)なので、物体は束縛されています。基準点である無限遠(エネルギー0)よりもエネルギーが低い状態にあるため、位置エネルギーは必ず負になります。「引力ポテンシャルは負」と覚えましょう。
  • 地上の位置エネルギーを0とするミス:
    • 誤解: 重力の位置エネルギー \(mgh\) の感覚で、地表を基準(エネルギー0)にしてしまう。
    • 対策: 万有引力の位置エネルギーは、無限遠を基準(0)とするのが宇宙スケールでのルールです。地表は無限遠よりもエネルギーが低いので、\(U = -G\displaystyle\frac{Mm}{R}\) という負の値を持つことを徹底しましょう。
  • 軌道上の運動エネルギーの計算ミス:
    • 誤解: 運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = G\displaystyle\frac{Mm}{r^2}\) から \(mv^2 = G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) を求めた後、運動エネルギー \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) を計算する際に、\(\displaystyle\frac{1}{2}\) を忘れてしまう。
    • 対策: 運動エネルギーの定義は \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) であることを常に意識し、機械的に代入するのではなく、意味を確認しながら計算を進める習慣をつけましょう。

物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意

  • この問題での有効なイメージ化と図示:
    • エネルギーの井戸(ポテンシャルの井戸): 地球のような天体の周りの空間を、中心が深くくぼんだ「井戸」としてイメージします。地表は井戸の底近くにあり、円軌道はそれより少し高い壁の中腹を回っている状態です。打ち上げに必要なエネルギー\(E\)は、井戸の底近くから中腹まで物体を「持ち上げる」ためのエネルギーに相当します。このイメージを持つと、位置エネルギーが負であることや、軌道が高いほどエネルギーが大きいことが直感的に理解できます。
    • エネルギーの内訳図: 打ち上げ前後のエネルギー状態を棒グラフで図示します。
      • \(E_1\)(地上): \(K_1=0\), \(U_1\)は大きな負の値。合計\(E_1\)も負。
      • \(E_2\)(軌道上): \(K_2\)は正の値, \(U_2\)は負の値。\(|U_2| > K_2\) なので、合計\(E_2\)も負だが、\(E_1\)よりは0に近い。

      この図から、\(E = E_2 – E_1\) が正の値になること、つまりエネルギーを外部から供給する必要があることが視覚的にわかります。

なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法

  • 仕事とエネルギーの関係 (\(E_1 + E = E_2\)):
    • 選定理由: 「打ち上げに必要なエネルギー」という、ある状態から別の状態へ変化させるために外部がした仕事を問われているため。保存力以外の力(この場合はロケットの推進力など)が仕事をする場合の、最も基本的なエネルギーの法則です。
    • 適用根拠: エネルギー保存則を、非保存力が仕事をする場合に拡張した普遍的な原理です。
  • 円運動の運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = F\)):
    • 選定理由: 軌道上の力学的エネルギーを計算するために必要な速さ\(v\)が未知数であるため。この未知数を、運動の状態(円運動)を規定する力学的条件から導出する必要があります。
    • 適用根拠: ニュートンの第二法則 \(ma=F\) を、円運動という特殊な加速度運動に適用したものです。
  • \(GM = gR^2\):
    • 選定理由: 最終的な答えを、問題文で与えられた文字(\(g, R\))のみで表現するため。計算過程で現れる、与えられていない文字(\(G, M\))を消去する必要があります。
    • 適用根拠: 地表における万有引力が重力と等しい、という物理的な事実を数式で表現したものです。

思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー

  1. 戦略設定: 必要なエネルギー\(E\)は、力学的エネルギーの変化分 \(E_2 – E_1\) として求める。
  2. 始点エネルギー\(E_1\)の計算:
    • フロー: ①地上では静止しているので\(K_1=0\)。②位置エネルギーは\(U_1 = -G\frac{Mm}{R}\)。③よって \(E_1 = -G\frac{Mm}{R}\)。
  3. 終点エネルギー\(E_2\)の計算:
    • フロー: ①軌道上の速さ\(v\)を求めるため、運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = G\frac{Mm}{r^2}\) を立てる。→ ②これを解いて \(mv^2 = G\frac{Mm}{r}\) を得る。→ ③運動エネルギーは \(K_2 = \frac{1}{2}mv^2 = \frac{1}{2}G\frac{Mm}{r}\)。→ ④位置エネルギーは \(U_2 = -G\frac{Mm}{r}\)。→ ⑤\(E_2 = K_2 + U_2 = -\frac{1}{2}G\frac{Mm}{r}\)。
  4. エネルギー差の計算と最終的な変形:
    • フロー: ①\(E = E_2 – E_1\) に求めた値を代入し、\(GMm(\frac{1}{R} – \frac{1}{2r})\) を得る。→ ②\(GM=gR^2\) の関係式を代入し、与えられた文字だけで表現する。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック

  • 文字式のまま計算を進める: この問題のように複数の物理量が絡む場合、最後まで文字式のまま計算を進めるのが鉄則です。特に \(GM\) という塊は、最後に \(gR^2\) に置き換えるまで保持しておくと、式がすっきりして見通しが良くなります。
  • 軌道上のエネルギーの公式化: 円軌道上の力学的エネルギーが \(E = -\displaystyle\frac{1}{2}G\displaystyle\frac{Mm}{r}\) となること、またこれは位置エネルギー\(U\)の半分 (\(E = \frac{1}{2}U\)) であり、運動エネルギー\(K\)にマイナスをつけたもの (\(E = -K\)) であることは、非常によく使う関係です。これを覚えておくと、計算を大幅にショートカットでき、検算にも役立ちます。
  • 単位や次元の確認: 最終的に得られた答え \(mgR(1 – \frac{R}{2r})\) の次元を確認します。\(mgR\) はエネルギーの次元を持ち、括弧内は無次元なので、答えは正しくエネルギーの次元を持っています。このような次元解析は、単純な計算ミスを発見するのに有効です。

解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう

  • 得られた答えの物理的妥当性の検討:
    • 極限を考える:
      • もし軌道半径\(r\)が地球半径\(R\)に等しい場合(地表すれすれを回る場合)、\(E = mgR(1 – \frac{R}{2R}) = \frac{1}{2}mgR\) となります。これは正の値であり、地上で静止している状態から地表すれすれを回る状態にするにはエネルギーが必要、という直感に合います。
      • もし軌道半径が無限遠(\(r \rightarrow \infty\))の場合、\(E = mgR(1-0) = mgR\) となります。これは地球の重力圏を脱出するのに必要なエネルギーであり、物理的に正しい値です。
  • 別解との比較:
    • この問題は、「始点と終点のエネルギー差」で解く方法と、「無限遠を経由する2ステップ」で解く方法の2通りで解説しました。全く異なる思考のプロセスを経由しても、最終的に同じ答えにたどり着くことを確認することで、解答の信頼性が高まります。また、エネルギーという物理量の保存則がいかに強力なツールであるかを実感できます。
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209 だ円軌道上の運動

【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう

この問題は、地球の周りを運動する物体の、円軌道、だ円軌道、そして放物線軌道(脱出軌道)という3つの異なる状況を扱い、それぞれの運動を支配する物理法則を総合的に問う問題です。

与えられた条件
  • 地球の半径: \(R\)
  • 地球上での重力加速度の大きさ: \(g\)
  • 地球の自転は無視する
問われていること
  • (1) 地表すれすれを円運動する速さ \(v_0\)
  • (2) 点A(距離\(R\))から速さ\(v_1\)で発射し、点B(距離\(3R\))に達したときの速さ\(V_1\)と、初速\(v_1\)
  • (3) 点Bで速さを\(V_0\)に変え、半径\(3R\)の円軌道に乗せたときの速さ\(V_0\)
  • (4) 地球の重力圏を脱出するための最小の速さ \(v_2\)
  • (5) 5つの速さ \(v_0, v_1, v_2, V_0, V_1\) の大小関係

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

【相違点に関する注記】

本解説は、模範解答で示されている解法を主たる解説として採用しつつ、学習者の多角的な理解を促進するため、以下の教育的価値の高い別解を追加します。

  1. 設問(1)の別解
    • 万有引力を用いた解法: 模範解答では地表の重力\(mg\)を向心力としていますが、より根源的な万有引力\(G\frac{Mm}{R^2}\)を向心力として立式し、最後に\(GM=gR^2\)の関係を用いて変形する方法です。これにより、地表の重力が万有引力の一つの現れであることが明確になり、物理現象の階層的な理解が深まります。
  2. 設問(2)の別解
    • 模範解答ではケプラーの第二法則(面積速度一定)と力学的エネルギー保存則を併用していますが、本解説では、それぞれの法則を独立して用いた場合の計算過程をより詳細に記述します。特に、力学的エネルギー保存則のみで解くアプローチは、ケプラーの法則を知らない場合でも問題を解くことができるため、教育的価値が高いです。

いずれの解法を用いても、最終的に得られる答えは模範解答と一致します。

この問題のテーマは「中心力(万有引力)による天体運動」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 円運動の動力学: 円運動では、中心力が向心力の役割を果たします。(\(m\frac{v^2}{r} = F\))
  2. 力学的エネルギー保存則: 中心力である万有引力は保存力なので、物体の運動中に力学的エネルギー(運動エネルギー + 万有引力による位置エネルギー)は一定に保たれます。
  3. ケプラーの第二法則(面積速度一定の法則): 中心力のもとで運動する物体と中心を結ぶ線分が単位時間に掃く面積は一定です。これは、角運動量保存則と同義です。
  4. 万有引力による位置エネルギー: 無限遠を基準として \(U = -G\frac{Mm}{r}\) と表されます。
  5. 地表での重力と万有引力の関係: \(GM = gR^2\) という関係式は、\(G, M\) を問題で与えられた文字に変換する上で不可欠です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、地表すれすれの円運動について運動方程式を立てて\(v_0\)を求めます。
  2. (2)では、だ円軌道上の2点A, Bについて、力学的エネルギー保存則と面積速度一定の法則を連立させて\(V_1\)と\(v_1\)を求めます。
  3. (3)では、半径\(3R\)の円運動について運動方程式を立てて\(V_0\)を求めます。
  4. (4)では、無限遠に到達するためのエネルギー条件(力学的エネルギー \(\geq 0\))から\(v_2\)を求めます。
  5. (5)では、(1)から(4)で求めた各速度の値を比較します。

問(1)

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