今回の問題
thermodynamicsall#15【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「気体分子運動論による圧力の導出」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動量と力積: 分子の壁との弾性衝突による運動量変化から、壁が受ける力積を考えます。
- 平均の力: 多数の分子がランダムに運動しているため、個々の分子の運動を統計的に平均化して扱います。
- 圧力の定義: 全ての分子から壁が受ける力の総和を、壁の面積で割ることで圧力を定義します。
- エネルギー等分配則: 分子の運動エネルギーが、x, y, zの各方向に均等に分配されるという考え方です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (ア)では、1個の分子が壁Aに衝突してから次に同じ壁Aに衝突するまでの時間を、容器の高さと分子の速度成分を用いて求めます。
- (イ)では、問題文で与えられた圧力の定義式に、(ア)で求めた時間と、問題文で与えられた力積を代入し、平均操作を行うことで圧力の式を導出します。
問(ア)
思考の道筋とポイント
1個の分子が壁Aに衝突してから、再び同じ壁Aに衝突するまでの時間を求める問題です。この分子は、壁A(上面)と反対側の壁(底面)との間を往復運動していると考えられます。1回の往復にかかる時間と、往復する距離から時間を計算します。
この設問における重要なポイント
- 分子は壁A(上面, z=h)に衝突した後、反対側の壁(底面, z=0)まで行って戻ってきて、再び壁Aに衝突する。
- この往復運動で、z方向の移動距離は \(2h\) である。
- 分子のz軸方向の速さは、衝突の前後で大きさが変わらず \(v_z\) である(弾性衝突のため)。
具体的な解説と立式
分子が壁Aに衝突してから、次に再び壁Aに衝突するまでの過程を考えます。
- 壁A (z=h) で衝突後、z軸負の向きに速さ \(v_z\) で進む。
- 反対側の壁である底面 (z=0) に到達し、衝突する。
- 底面で跳ね返り、z軸正の向きに速さ \(v_z\) で進む。
- 再び壁A (z=h) に到達し、衝突する。
この1往復にかかる時間 \(t\) は、z方向に進む距離が \(2h\) で、z方向の速さが \(v_z\) なので、
$$ t = \frac{\text{距離}}{\text{速さ}} $$
$$ t = \frac{2h}{v_z} \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 時間 = 距離 ÷ 速さ
式①がそのまま答えとなります。
分子が天井の壁Aに1回ぶつかってから、次にまた壁Aにぶつかるまでには、床まで行って帰ってくる必要があります。容器の高さは \(h\) なので、往復の距離は \(2h\) です。分子はz方向には速さ \(v_z\) で動いているので、1回の往復にかかる時間は「距離 \(2h\) ÷ 速さ \(v_z\)」で計算できます。
壁Aに衝突してから再び同じ壁Aに衝突するまでの時間は \(\displaystyle\frac{2h}{v_z}\) です。この時間は、容器の高さ \(h\) が大きいほど長くなり、分子のz方向の速度 \(v_z\) が大きいほど短くなることを示しており、物理的に妥当な結果です。
問(イ)
思考の道筋とポイント
気体の圧力を求める問題です。問題文に「気体の圧力は \(\displaystyle\frac{NI}{tS}\) の平均値で与えられ」と誘導があります。この式に、与えられている力積 \(I\) と、(ア)で求めた時間 \(t\) を代入し、N個の分子について平均をとることで圧力を導出します。
この設問における重要なポイント
- 圧力の定義式 \(p = \overline{\left( \frac{NI}{tS} \right)}\) を利用する。
- \(I\) と \(t\) は個々の分子の速度 \(v_z\) に依存するため、平均をとる際には速度の2乗の平均値 \(\overline{v_z^2}\) を用いる。
- エネルギー等分配則の関係 \(\overline{v_z^2} = \displaystyle\frac{1}{3}\overline{v^2}\) を用いて式を整理する。
具体的な解説と立式
問題文の指示に従い、圧力 \(p\) を計算します。
$$ p = \overline{\left( \frac{NI}{tS} \right)} $$
ここで、\(N\) と \(S\) は定数なので、平均操作の外に出すことができます。
$$ p = \frac{N}{S} \overline{\left( \frac{I}{t} \right)} $$
ここに、問題文で与えられた力積 \(I=2mv_z\) と、(ア)で求めた時間 \(t = \displaystyle\frac{2h}{v_z}\) を代入します。まず、\(\displaystyle\frac{I}{t}\) の部分を計算すると、
$$
\begin{aligned}
\frac{I}{t} &= \frac{2mv_z}{2h/v_z} \\
&= \frac{2mv_z \cdot v_z}{2h} \\
&= \frac{mv_z^2}{h}
\end{aligned}
$$
この \(\displaystyle\frac{I}{t}\) は、1個の分子が壁に及ぼす平均の力に相当します。
これを圧力の式に戻すと、
$$ p = \frac{N}{S} \overline{\left( \frac{mv_z^2}{h} \right)} $$
\(m\) と \(h\) は定数なので、平均の外に出せます。
$$ p = \frac{Nm}{Sh} \overline{v_z^2} $$
ここで、問題文で与えられているエネルギー等分配則の関係 \(\overline{v_z^2} = \displaystyle\frac{1}{3}\overline{v^2}\) を用います。
$$
\begin{aligned}
p &= \frac{Nm}{Sh} \left( \frac{1}{3}\overline{v^2} \right) \\
&= \frac{Nm\overline{v^2}}{3Sh} \quad \cdots ①
\end{aligned}
$$
容器の体積が \(V=Sh\) であることを用いると、さらに見慣れた形になりますが、問題の空欄イに入れるのはこの形です。
使用した物理公式
- 問題文で与えられた圧力の定義
- (ア)の結果
- エネルギー等分配則
式①が求める圧力の式です。
$$ p = \frac{Nm\overline{v^2}}{3Sh} $$
よって、イは \(\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3Sh}\) です。
問題文に「圧力は \(\frac{NI}{tS}\) の平均値」と書いてあるので、この式を計算していきます。
まず、\(I\) には \(2mv_z\) を、\(t\) には(ア)で求めた \(\frac{2h}{v_z}\) を代入します。すると、\(\frac{I}{t}\) は \(\frac{mv_z^2}{h}\) となります。
この式には分子の速度 \(v_z\) が含まれているので、N個の分子全体で考えるには平均をとる必要があります。\(v_z^2\) の平均値は \(\overline{v_z^2}\) と書きます。
さらに、問題文のヒントにあるように、\(\overline{v_z^2}\) は \(\frac{1}{3}\overline{v^2}\) に置き換えることができます。
これらをすべて元の圧力の式に代入して整理すると、答えが求まります。
気体の圧力は \(\displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3Sh}\) となります。分母の \(Sh\) は容器の体積 \(V\) なので、この式は \(p = \displaystyle\frac{Nm\overline{v^2}}{3V}\) と書き換えられます。これは気体分子運動論から導かれる圧力の標準的な公式であり、圧力が分子の数密度(\(N/V\))と平均運動エネルギー(\(\frac{1}{2}m\overline{v^2}\))に比例することを示す、物理的に正しい結果です。
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