今回の問題
thermodynamicsall#13【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「気体の状態変化と浮力」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 気体の状態方程式: 理想気体の圧力、体積、温度、物質量の関係を表す基本法則です。密度との関係を導くために用います。
- アルキメデスの原理(浮力): 流体中の物体が受ける浮力の大きさは、その物体が押しのけた流体の重さに等しいという原理です。
- 力のつりあい: 物体が浮上し始める瞬間は、上向きの浮力と下向きの重力がつりあうときと考えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、圧力が一定という条件の下で、気体の状態方程式を用いて温度と密度の関係式を導出します。
- (2)では、熱気球が浮上する条件(浮力 ≧ 重力)を力のつりあいの観点から立式します。このとき、(1)で求めた関係式を利用して、内部の空気の重さを温度の関数として表し、浮上するための最低温度を計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
圧力が一定の条件下で、空気の温度を \(T_0\) から \(T\) に変えたときの密度 \(\rho\) を求める問題です。気体の状態を記述する最も基本的な法則である「気体の状態方程式」から出発し、密度 \(\rho\) を式に導入することを考えます。
この設問における重要なポイント
- 気体の状態方程式 \(PV=nRT\) が基本となる。
- 密度 \(\rho\) は、気体の質量 \(m\) と体積 \(V\) を用いて \(\rho = \displaystyle\frac{m}{V}\) と表せる。
- 圧力一定の条件下では、気体の密度 \(\rho\) と絶対温度 \(T\) は反比例の関係 (\(\rho T = \text{一定}\)) にある。
具体的な解説と立式
ある一定質量の空気を考え、その質量を \(m\)、モル質量を \(M_{\text{mol}}\) とします。このとき、気体の物質量 \(n\) は \(n = \displaystyle\frac{m}{M_{\text{mol}}}\) と表せます。
気体の状態方程式 \(PV=nRT\) にこれを代入すると、
$$ PV = \frac{m}{M_{\text{mol}}}RT $$
となります。ここで、密度 \(\rho = \displaystyle\frac{m}{V}\) を導入するために、式を変形します。
$$ P = \frac{m}{V} \frac{RT}{M_{\text{mol}}} $$
$$ P = \rho \frac{RT}{M_{\text{mol}}} $$
この式を \(\rho T\) について整理すると、
$$ \rho T = P \frac{M_{\text{mol}}}{R} $$
となります。問題の条件より圧力 \(P\) は一定であり、気体の種類(空気)も変わらないためモル質量 \(M_{\text{mol}}\) も一定です。気体定数 \(R\) は普遍定数なので、この式の右辺は定数となります。
したがって、圧力一定の条件下では \(\rho T = \text{一定}\) という関係が成り立ちます。
初期状態(温度 \(T_0\), 密度 \(\rho_0\))と、温度を \(T\) に変えた後の状態(密度 \(\rho\))についてこの関係を適用すると、以下の式が立てられます。
$$ \rho_0 T_0 = \rho T \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 気体の状態方程式: \(PV=nRT\)
- 密度の定義: \(\rho = \displaystyle\frac{m}{V}\)
式①を、求めたい密度 \(\rho\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\rho T &= \rho_0 T_0 \\[2.0ex]\rho &= \frac{T_0}{T} \rho_0
\end{aligned}
$$
空気を温めると、膨張して密度が小さくなります。この関係を式で考えます。気体の性質を表す基本公式「状態方程式」に、「密度=質量÷体積」の関係を組み合わせると、「密度 × 絶対温度」の値が(圧力が一定なら)常に同じになる、という便利な関係式が作れます。
したがって、「はじめの密度 \(\rho_0\) × はじめの絶対温度 \(T_0\)」と「変化後の密度 \(\rho\) × 変化後の絶対温度 \(T\)」が等しい、という式を立てます。この式を、求めたい「変化後の密度 \(\rho\)」について解けば答えが得られます。
空気の密度 \(\rho\) は \(\displaystyle\frac{T_0}{T} \rho_0\) となります。
温度を上げる、つまり \(T > T_0\) のとき、分数 \(\displaystyle\frac{T_0}{T}\) は1より小さくなるので、密度 \(\rho\) は元の密度 \(\rho_0\) より小さくなります。これは、気体を温めると膨張して密度が低下するという物理現象と一致しており、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
熱気球が浮上するために必要な、内部の空気の最低温度を求める問題です。「浮上する」という条件は、熱気球に働く上向きの「浮力」が、下向きの「熱気球全体の重力」以上になることを意味します。求めるのは「最低温度」なので、浮力と重力がちょうどつりあう瞬間を考えます。
この設問における重要なポイント
- 浮力の大きさは、気球が押しのけた流体(まわりの大気)の重さに等しい (\(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g\))。
- 熱気球全体の重さは、「気球本体の重さ」と「内部の温かい空気の重さ」の和で与えられる。
- 内部の空気の密度は、(1)で求めたように温度 \(T\) に依存する。
具体的な解説と立式
熱気球に働く力は、鉛直上向きの浮力 \(F_{\text{浮力}}\) と、鉛直下向きの重力 \(W_{\text{全体}}\) です。
浮力は、気球の体積 \(V\) とまわりの大気の密度 \(\rho_0\) を用いて、
$$ F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g $$
と表されます。
一方、熱気球全体の重力は、空気を除いた気球本体の質量を \(M\)、内部の空気の質量を \(m_{\text{内部}}\) とすると、
$$ W_{\text{全体}} = (M + m_{\text{内部}})g $$
となります。内部の空気の質量 \(m_{\text{内部}}\) は、その密度 \(\rho\) と体積 \(V\) を用いて \(m_{\text{内部}} = \rho V\) と書けます。
ここで、(1)の結果 \(\rho = \displaystyle\frac{T_0}{T} \rho_0\) を用いると、
$$ m_{\text{内部}} = \left( \frac{T_0}{T} \rho_0 \right) V $$
となります。
熱気球が浮上するための条件は \(F_{\text{浮力}} \ge W_{\text{全体}}\) です。浮上できる「最低」温度を求めるので、力がつりあう限界の状態、すなわち \(F_{\text{浮力}} = W_{\text{全体}}\) を考えます。
$$ \rho_0 V g = \left( M + \frac{T_0}{T} \rho_0 V \right) g \quad \cdots ① $$
使用した物理公式
- 浮力の公式: \(F = \rho_{\text{流体}} V g\)
- 力のつりあい: 上向きの力の和 = 下向きの力の和
- (1)で導いた密度と温度の関係: \(\rho = \displaystyle\frac{T_0}{T} \rho_0\)
式①の両辺から重力加速度 \(g\) を消去します。
$$ \rho_0 V = M + \frac{T_0}{T} \rho_0 V $$
この式を、求める温度 \(T\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{T_0}{T} \rho_0 V &= \rho_0 V – M \\[2.0ex]\frac{1}{T} &= \frac{\rho_0 V – M}{T_0 \rho_0 V} \\[2.0ex]T &= \frac{T_0 \rho_0 V}{\rho_0 V – M}
\end{aligned}
$$
ここに、与えられた数値を代入します。
\(M = 300 \, \text{kg}\), \(V = 2000 \, \text{m}^3\), \(T_0 = 280 \, \text{K}\), \(\rho_0 = 1.2 \, \text{kg/m}^3\)
まず、\(\rho_0 V\) の値を計算します。これは気球が押しのけた空気の質量に相当します。
$$
\begin{aligned}
\rho_0 V &= 1.2 \text{ [kg/m}^3\text{]} \times 2000 \text{ [m}^3\text{]} \\[2.0ex]&= 2400 \text{ [kg]}
\end{aligned}
$$
この値を \(T\) の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{280 \times 2400}{2400 – 300} \\[2.0ex]&= \frac{280 \times 2400}{2100} \\[2.0ex]&= \frac{280 \times 24}{21} \\[2.0ex]&= \frac{280 \times 8}{7} \\[2.0ex]&= 40 \times 8 \\[2.0ex]&= 320 \text{ [K]}
\end{aligned}
$$
熱気球がギリギリ浮かび上がる瞬間は、上向きの「浮力」と下向きの「全体の重さ」が等しくなるときです。
まず、この「浮力=全体の重さ」というつりあいの式を立てます。
浮力は、周りの空気の密度を使って計算します。一方、全体の重さは、「気球本体の重さ」と「気球の中の温かい空気の重さ」の合計です。
この「中の空気の重さ」は、(1)でわかったように温度によって変わります。
つりあいの式に(1)の結果を代入して、求めたい温度 \(T\) についての式に変形します。最後に、問題で与えられた数字をすべて代入して計算すると、答えの温度が求まります。
熱気球が浮上するために必要な最低温度は \(320 \, \text{K}\) です。
この値は、外気の温度 \(T_0 = 280 \, \text{K}\) よりも高くなっています。内部の空気を温めることで密度を下げ、軽くすることで浮力を得て浮上するという、熱気球の原理と一致する妥当な結果です。もし気球本体の質量 \(M\) が、押しのけた空気の質量 \(\rho_0 V\) (\(2400 \, \text{kg}\)) より重い場合は、どんなに温度を上げても(内部の空気の重さをゼロに近づけても)浮上できないことも、この式からわかります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 気体の状態方程式の応用:
- 核心: この問題は、単に \(PV=nRT\) を使うだけでなく、密度 \(\rho = \displaystyle\frac{m}{V}\) を導入して、物理現象(温度と密度の関係)を記述する形に変形できるかが問われています。
- 理解のポイント: (1)で導出した、圧力一定の条件下での \(\rho T = \text{一定}\) という関係は、気体の温度変化が密度にどう影響するかを直接的に示しており、(2)の浮力と重力の比較をスムーズに行うための重要な布石となります。
- 浮力と力のつりあい:
- 核心: 熱気球が浮上するという現象を、「浮力」と「重力」の大小関係で捉え、力のつりあいの式として定量的に立式することが求められます。
- 理解のポイント: (2)では、浮力 \(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g\) と全体の重力 \(W_{\text{全体}} = (M + m_{\text{内部}})g\) を正しく設定し、\(F_{\text{浮力}} \ge W_{\text{全体}}\) という条件式を立てることが全ての出発点です。特に、浮力の計算には外部の流体(大気)の密度 \(\rho_0\) を使い、重力の計算には内部の気体の質量 \(m_{\text{内部}}\) を使うという区別が重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 水中の物体の浮沈: 水中にある物体(例えば、内部に空気の入った鉄球など)が浮くか沈むか、あるいは水中で静止するための条件を問う問題。基本的な考え方は熱気球と全く同じで、「浮力=物体の重さ」を考えます。
- 密度が変化する流体中の浮力: 温度や塩分濃度によって密度が異なる液体(水など)の中での浮力を考える問題。物体がどの深さで静止するかなどを問われます。
- 天秤と浮力: 天秤の両側に異なる体積のおもりを吊るし、空気中でつりあわせた後、水中に入れるとどうなるか、といった問題。空気中でもわずかな浮力が働いていること、水中では大きな浮力が働くことを考慮して、モーメントのつりあいを考えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の図示: まず、対象となる物体(この問題では熱気球)に働く力をすべて矢印で図示します。重力は常に重心から鉛直下向き、浮力は流体から上向きに働きます。
- 力の大きさを定義する: 図示 した各力が、どの物理量で表されるかを定義します。(例: 重力は \(mg\)、浮力は \(\rho_{\text{流体}} V g\))
- 運動状態から立式する: 「浮上する」「静止する」「沈む」といったキーワードから、力の大小関係(\(F_{\text{浮力}} > W\), \(F_{\text{浮力}} = W\), \(F_{\text{浮力}} < W\))を判断し、適切な式を立てます。
- 未知数を特定する: 最終的に求めたい量は何か(この問題では温度 \(T\))を確認し、その未知数を含むように式を変形していきます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 浮力の計算ミス:
- 誤解: 浮力の公式 \(F = \rho V g\) の密度 \(\rho\) に、物体自身の密度(この問題では内部の空気の密度)を使ってしまう。
- 対策: 浮力は「物体が押しのけた『まわりの流体』の重さ」であると常に意識する。したがって、密度は必ず「まわりの流体」の密度(この問題では大気の密度 \(\rho_0\))を使います。
- 重力の計算ミス:
- 誤解: 熱気球全体の重さを考える際に、内部の空気の重さを忘れて、気球本体の重さ \(Mg\) だけで計算してしまう。
- 対策: 「全体の重さ」と言われたら、構成要素をすべてリストアップする癖をつける。(気球本体+内部の空気)のように、足し忘れがないか確認します。
- 温度の単位ミス:
- 誤解: 状態方程式やシャルルの法則に、絶対温度(K)ではなくセルシウス温度(℃)を代入してしまう。
- 対策: 気体関連の計算では、温度は必ず絶対温度(K)を使う、と徹底する。この問題では最初から絶対温度で与えられていますが、もしセルシウス温度で与えられたら、真っ先に変換する習慣をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 気体の状態方程式 (\(PV=nRT\)):
- 選定理由: (1)で気体の状態(圧力、体積、温度)が変化し、かつ密度との関係を問われているため、これらの量を包括的につなぐ状態方程式が最も根本的な出発点となります。
- 適用根拠: 状態方程式は、理想気体というモデルにおけるマクロな物理量(P, V, T, n)の関係を規定する基本法則です。ここから、問題の条件(P=一定)を適用することで、より具体的な法則(この場合は \(\rho T = \text{一定}\))を導き出すことができます。
- アルキメデスの原理 (\(F_{\text{浮力}} = \rho_0 V g\)):
- 選定理由: (2)で「浮力」が現象の鍵となっているため、浮力の大きさを定義するこの原理を用いる必要があります。
- 適用根拠: この原理は、流体中の物体が受ける圧力差(下面が受ける圧力>上面が受ける圧力)を積分した結果として得られるもので、流体静力学における基本法則です。熱気球は「大気」という流体中にあるため、この原理が適用できます。
- 力のつりあいの式 (力の総和がゼロ):
- 選定理由: (2)で「浮上するために必要な最低温度」を問われており、これは浮力と重力が「つりあう」限界状態を考えることに相当するためです。
- 適用根拠: 物体が静止している、または動き出す瞬間の条件を考える場合、ニュートンの運動法則(第一法則または第二法則で加速度a=0)から、物体に働く合力がゼロになるという条件を適用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式で最後まで計算する: (2)の計算では、いきなり数値を代入するのではなく、まず \(T = \displaystyle\frac{T_0 \rho_0 V}{\rho_0 V – M}\) という文字式の形まで変形することが重要です。これにより、式の構造が明確になり、代入ミスや計算ミスを減らせます。また、物理的な意味(例えば、\(\rho_0 V > M\) でないと \(T\) が負になってしまい浮上不可能、など)の考察もしやすくなります。
- 大きな数値の計算の工夫: \(2400 / 2100\) のような計算では、まず \(100\) で約分して \(24/21\) とし、さらに公約数 \(3\) で約分して \(8/7\) とすることで、計算が大幅に楽になります。焦って筆算を始めず、まず約分できないか探す習慣をつけましょう。
- 答えの吟味(単位と妥当性チェック):
- 単位チェック: (2)の答えの式 \(T = \displaystyle\frac{T_0 \rho_0 V}{\rho_0 V – M}\) の単位を確認します。分子は [K]×[kg/m³]×[m³] = [K・kg]、分母は [kg/m³]×[m³] – [kg] = [kg] です。よって、全体の単位は [K・kg]/[kg] = [K] となり、求める温度の単位と一致します。
- 妥当性チェック: 計算結果の \(320 \, \text{K}\) は、外気の \(280 \, \text{K}\) よりも高い温度です。熱気球は内部を温めて浮くものなので、この大小関係は物理的に妥当です。もし外気より低い温度になってしまったら、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。
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