今回の問題
dynamics#12【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「水平投射」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 運動の分解: 水平投射は、水平方向の「等速直線運動」と、鉛直方向の「自由落下運動」という2つの単純な運動の組み合わせとして考えることができます。
- 運動の独立性: 水平方向の運動と鉛直方向の運動は、互いに影響を与えません。これら2つの運動を結びつける共通の要素は「時間 \(t\)」です。
- 速度の合成: ある瞬間の速度は、そのときの水平方向の速度成分と鉛直方向の速度成分をベクトルとして合成することで求められます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、運動を水平方向(x軸)と鉛直方向(y軸)に分解して考えます。投げだした点を原点とし、水平右向きをx軸の正、鉛直下向きをy軸の正と設定します。
- (1)では、鉛直方向の運動(自由落下)に着目し、高さ\(H\)を落下するのにかかる時間を求めます。
- (2)では、(1)で求めた時間と、水平方向の運動(等速直線運動)の速さを用いて、水平到達距離を計算します。
- (3)では、海面に落下した瞬間の速度の水平成分と鉛直成分をそれぞれ求め、三平方の定理を用いて全体の速さ(大きさ)を、三角比を用いて向きを求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
小石が海面に落下するまでの時間は、鉛直方向の運動だけで決まります。水平方向にどれだけ速く投げても、真下にそっと落としても、同じ高さからなら地面に落ちるまでの時間は同じです。したがって、この問題は「高さ\(H\)から物体を自由落下させたときの落下時間を求めよ」という問題と全く同じです。
この設問における重要なポイント
- 水平投射の落下時間は、鉛直方向の自由落下運動のみで決まる。
- 水平方向の初速度\(v_0\)は、落下時間には影響しない。
具体的な解説と立式
鉛直方向の運動に着目します。投げだした点を原点とし、鉛直下向きを正とします。
- 鉛直方向の初速度 \(v_{0y} = 0\)
- 鉛直方向の変位 \(y = H\)
- 鉛直方向の加速度 \(a_y = g\)
等加速度直線運動の変位の公式 \(y = v_{0y}t + \frac{1}{2}a_y t^2\) を用います。
$$ H = 0 \cdot t + \frac{1}{2}gt^2 \quad \cdots ① $$
- 等加速度直線運動の変位の公式: \(y = v_0 t + \displaystyle\frac{1}{2}at^2\)
式①を時間\(t\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
H &= \frac{1}{2}gt^2 \\[2.0ex]t^2 &= \frac{2H}{g}
\end{aligned}
$$
\(t>0\)なので、
$$ t = \sqrt{\frac{2H}{g}} $$
ボールが下に落ちる時間だけを考えます。これは、真下にそっと落とした場合(自由落下)と同じです。高さ\(H\)を自由落下する時間の公式は \(t = \sqrt{2H/g}\) なので、これがそのまま答えになります。
落下するまでの時間は \(\sqrt{\frac{2H}{g}}\) です。この時間は初速度\(v_0\)に依存しないという点が重要です。
問(2)
思考の道筋とポイント
水平距離\(x\)は、水平方向の運動によって決まります。水平方向には力が働かない(空気抵抗は無視)ため、小石は初速度\(v_0\)のまま等速直線運動をします。(1)で求めた落下時間\(t\)の間、この速さで進み続けるので、水平距離は「速さ × 時間」で計算できます。
この設問における重要なポイント
- 水平方向は、力が働かないため等速直線運動をする。
- (1)で求めた落下時間を利用する。
具体的な解説と立式
水平方向の運動に着目します。
- 水平方向の速度 \(v_x = v_0\) (一定)
- 時間 \(t = \sqrt{\frac{2H}{g}}\) ((1)の結果)
等速直線運動の距離の公式 \(x = v_x t\) を用います。
$$ x = v_0 \cdot t \quad \cdots ② $$
- 等速直線運動の距離の公式: \(x = vt\)
式②に(1)で求めた\(t\)を代入します。
$$ x = v_0 \sqrt{\frac{2H}{g}} $$
ボールが横方向に飛ぶ距離を求めます。横方向にはずっと速さ\(v_0\)で進みます。(1)でボールが空中にいる時間がわかったので、「距離 = 速さ × 時間」の公式に当てはめれば、横方向に進んだ距離が計算できます。
水平距離は \(v_0 \sqrt{\frac{2H}{g}}\) です。遠くに飛ばすには、初速度\(v_0\)を大きくするか、より高い場所(\(H\))から投げる必要があることが式からわかります。
問(3)
思考の道筋とポイント
海面に落下した瞬間の速度は、そのときの「水平方向の速度成分」と「鉛直方向の速度成分」を合成したものです。水平成分は常に\(v_0\)で一定です。鉛直成分は、高さ\(H\)を自由落下したときの速さです。これら2つの成分は互いに直角なので、三平方の定理で全体の速さ(大きさ)を、三角比で向きを求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 着地時の速度は、水平成分と鉛直成分のベクトル和である。
- 水平速度成分は\(v_0\)のまま、鉛直速度成分は\(gt\)で計算できる。
- 速度の大きさは三平方の定理、向きは\(\tan \theta\)で表す。
具体的な解説と立式
落下時間 \(t = \sqrt{\frac{2H}{g}}\) のときの速度の各成分を求めます。
水平方向の速度成分 \(v_x\):
等速直線運動なので、常に一定です。
$$ v_x = v_0 $$
鉛直方向の速度成分 \(v_y\):
初速度0、加速度\(g\)の等加速度直線運動なので、\(v_y = gt\)で求められます。
$$ v_y = g \cdot t = g \sqrt{\frac{2H}{g}} = \sqrt{g^2 \cdot \frac{2H}{g}} = \sqrt{2gH} $$
速度の大きさ \(v\):
\(v_x\)と\(v_y\)は直角なので、三平方の定理で合成します。
$$ v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2} = \sqrt{v_0^2 + (\sqrt{2gH})^2} = \sqrt{v_0^2 + 2gH} $$
速度の向き:
速度ベクトルが水平方向となす角を\(\theta\)とすると、
$$ \tan \theta = \frac{v_y}{v_x} = \frac{\sqrt{2gH}}{v_0} $$
- 等加速度直線運動の速度の公式: \(v_y = gt\)
- 三平方の定理: \(v = \sqrt{v_x^2 + v_y^2}\)
上記「具体的な解説と立式」の通り、各成分を計算し、それらを合成することで最終的な答えが得られます。計算は文字式の整理が中心となります。
地面に着く瞬間の速さと向きを考えます。
- 横向きの速さは、投げたときのまま \(v_0\) です。
- 縦向きの速さは、高さ\(H\)を自由落下したときの速さなので、\(\sqrt{2gH}\) となります。
- 全体の速さは、これら2つの速さを三平方の定理で合成して \(\sqrt{v_0^2 + 2gH}\) となります。
- 向きは、水平方向からどれだけ傾いているかで表します。傾き(\(\tan\theta\))は「縦の速さ ÷ 横の速さ」で計算できます。
海面に落下したときの速度の大きさは \(\sqrt{v_0^2 + 2gH}\)、向きは水平方向となす角\(\theta\)が \(\tan \theta = \frac{\sqrt{2gH}}{v_0}\) を満たす鉛直下向きの方向です。大きさの式は、力学的エネルギー保存則からも導出でき、妥当な結果です。
▼別の問題もチャレンジ▼
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動の分解と独立性:
- 核心: 水平投射という2次元の運動を、互いに影響を及ぼさない「水平方向の等速直線運動」と「鉛直方向の自由落下運動」という2つの1次元運動に分解して考えることができる、という点がこの問題のすべてを貫く最も重要な物理法則です。
- 理解のポイント: 重力は鉛直下向きにしか作用しないため、水平方向の速度には何の影響も与えません。このため、水平方向は「力が働かない運動」、鉛直方向は「重力だけが働く運動」として、別々に扱うことができます。この2つの運動を結びつける唯一の架け橋が「時間\(t\)」です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜方投射: 初速度が斜め上向きや斜め下向きの場合。この場合は、初速度を水平成分(\(v_0 \cos\alpha\))と鉛直成分(\(v_0 \sin\alpha\))に分解することから始めます。水平方向は等速直線運動、鉛直方向は鉛直投げ上げ(または投げ下ろし)運動として扱います。
- 動く物体からの投射: 例えば、一定速度で飛ぶ飛行機から物資を投下する問題。物資は投下された瞬間、飛行機と同じ水平速度を持ちます。地上から見ると、これは水平投射と同じ運動になります。
- 初見の問題での着眼点:
- 「水平投射」と認識する: 問題文や図から、初速度が水平方向で、その後は重力のみで運動する「水平投射」であることをまず認識します。
- 思考を2方向に分ける: 頭の中を「水平方向」と「鉛直方向」の2つの引き出しに分けます。
- 各方向の運動を特定する:
- 水平方向:初速度\(v_0\)、加速度0の「等速直線運動」。
- 鉛直方向:初速度0、加速度\(g\)の「自由落下運動」。
と、それぞれの運動の種類を確定させます。
- 時間\(t\)を媒介変数として利用する: 落下時間を問われたら鉛直方向の運動から、水平距離を問われたら水平方向の運動から考えますが、最終的には一方で求めた時間\(t\)をもう一方の計算に利用することになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 落下時間が水平初速度に依存すると誤解する:
- 誤解: 速く投げれば速く落ちる、と直感的に考えてしまう。
- 対策: 運動の独立性を徹底しましょう。「落ちる」のは鉛直方向の現象なので、鉛直方向のパラメータ(高さ\(H\)、重力加速度\(g\)、鉛直初速度0)だけで決まります。水平初速度\(v_0\)は無関係です。
- 水平方向にも重力が働くと誤解する:
- 誤解: 水平方向の速度も、時間が経つと変化する(減速するなど)と考えてしまう。
- 対策: 空気抵抗を無視する限り、水平方向には何の力も働きません。力が働かなければ、加速度は0であり、速度は変化しません(慣性の法則)。
- 着地時の速さを鉛直成分だけだと勘違いする:
- 誤解: (3)で、着地時の速さを \(v_y = \sqrt{2gH}\) だけで答えてしまう。
- 対策: 速度はベクトルです。着地寸前、物体は水平方向にも鉛直方向にも速度を持っています。全体の速さは、これら2つの成分を合成したものであり、必ず水平成分よりも鉛直成分よりも大きくなります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動の分解というアプローチ:
- 選定理由: 放物運動のような複雑に見える2次元の運動も、直交する2つの方向(水平と鉛直)に分解することで、我々がよく知っている単純な1次元の運動(等速直線運動と等加速度直線運動)の組み合わせとして扱うことができます。これは、複雑な問題を単純な要素に分割して解決するという、物理学における非常に強力で普遍的な問題解決アプローチです。
- 適用根拠: ベクトルの性質上、互いに直交する成分は独立して扱うことができます。重力という力が鉛直方向にしか作用しないため、水平方向と鉛直方向に分解することが、この問題において最も合理的なのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- ルートの計算は慎重に: \(g \sqrt{\frac{2H}{g}}\) をルートの中に入れる計算では、\(g\)を2乗して \(\sqrt{g^2 \frac{2H}{g}}\) となり、約分して \(\sqrt{2gH}\) となります。この過程を丁寧に行いましょう。
- 文字式のまま進める: この問題のように、具体的な数値ではなく文字で解く場合、最後まで文字式のまま計算を進めることで、物理的な意味を見失いにくくなります。
- エネルギー保存則で検算: (3)の速さ\(v\)は、力学的エネルギー保存則からも求められます。
- 投げた瞬間: 位置エネルギー \(mgH\), 運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv_0^2\)
- 落下した瞬間: 位置エネルギー \(0\), 運動エネルギー \(\frac{1}{2}mv^2\)
よって、\(mgH + \frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv^2\)。これを\(v\)について解くと、\(v = \sqrt{v_0^2 + 2gH}\) となり、運動方程式から導いた結果と一致します。これは強力な検算手段になります。
▼別の問題もチャレンジ▼