問題の確認
electromagnetic#10各設問の思考プロセス
この問題は、電場中の荷電粒子の運動に関するもので、物理学における最も重要な関係の一つである「仕事とエネルギーの関係」を軸に考えます。
この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。
- 電場がする仕事: 電荷を持つ粒子が電場の中を移動するとき、電場(静電気力)は粒子に仕事をします。この仕事の大きさは、粒子の電荷と、移動した2点間の電位差(電圧)で決まります。
- 仕事と運動エネルギーの関係(仕事率の原理): 物体に外部から仕事がされると、その分だけ物体の運動エネルギーが変化します。\(W = \Delta K = K_{\text{後}} – K_{\text{初}}\)
この問題を解くための手順は、以下の2段階で進めます。
- 仕事の計算: まず、電子が極板AからBへ移動する間に、電場が電子にする仕事 \(W\) を求めます。電子は負の電荷を持ち、正の極板Bに向かって加速されるため、電場は電子に「正」の仕事をすることになります。
- 速さの計算: 次に、(1)で求めた仕事 \(W\) を使って、仕事と運動エネルギーの関係を立式します。電子は初速度 \(v_0\) を持っているので、初めの運動エネルギーも考慮に入れる必要があります。この関係式を解くことで、最終的な速さ \(v_B\) を求めることができます。
思考プロセスとしては、まず「エネルギー」という共通の土台の上で、電場による「仕事」と物体の運動状態である「運動エネルギー」を結びつけることが核心です。この考え方は、力学だけでなく電磁気学でも非常に強力なツールとなります。
各設問の具体的な解説と解答
1. 電場がAB間で電子にする仕事はいくらか。
問われている内容の明確化
この設問では、電子が極板Aから極板Bまで移動する間に、電場(静電気力)が電子に対してする仕事 \(W\) の大きさを求めます。
具体的な解説と立式
静電気力がする仕事 \(W\) は、静電ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)の変化量 \(\Delta U\) を用いて、
$$W = -\Delta U \quad \cdots ①$$
と表されます。
電荷 \(q\) の粒子が、電位差 \(\Delta V\) のある2点間を移動したときのポテンシャルエネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
$$\Delta U = q \Delta V$$
と定義されます。
この問題では、電子の電荷は \(q = -e\) です。また、電圧 \(V\) で加速するということは、極板Bの電位が極板Aの電位よりも \(V\) だけ高いことを意味します。したがって、AからBへの電位の変化(電位差)は \(\Delta V = V\) となります。
よって、電子がAからBへ移動する際のポテンシャルエネルギーの変化 \(\Delta U\) は、
$$\Delta U = (-e)V = -eV$$
となります。これを式①に代入すると、電場が電子にする仕事 \(W\) は、次のように求められます。
$$W = -(-eV) = eV \quad \cdots ②$$
使用した物理公式:
- 仕事とポテンシャルエネルギーの関係: \(W = -\Delta U\)
- 静電ポテンシャルエネルギーの変化: \(\Delta U = q \Delta V\) (電荷 \(q\), 電位差 \(\Delta V\))
計算過程
「具体的な解説と立式」で導出した式②が、そのまま解答となります。
電子の電荷の大きさ \(e\) と、極板間の電圧 \(V\) を用いて、仕事 \(W\) は
$$W = eV$$
と表されます。問題では記号のまま答えることが求められているため、これが最終的な答えです。
計算方法の平易な説明
- 電場が電荷にする仕事は、簡単に「電荷の大きさ × 電圧」で計算できます。
- この問題では、電子(負の電荷)が正の極板Bに向かって加速されています。これは、電場が電子に進行方向の力を加えており、「正の仕事」をしていることを意味します。
- その仕事の大きさは、電子の電荷の大きさ \(e\) に電圧 \(V\) を掛けた \(eV\) となります。
結論と吟味
電場が電子にする仕事は \(eV\) です。
単位を考えると、電荷 [C] × 電圧 [V] は仕事の単位 [J] となり、物理的に正しい関係です。また、電子は加速されているため、エネルギーが増加しており、仕事が正の値 \(eV\) (\(e > 0, V > 0\)) となることも妥当です。
この設問における重要なポイント
- 仕事、ポテンシャルエネルギー、電荷、電位差の関係式 \(W = -\Delta U = -q\Delta V\) を理解していること。
- 電子の電荷が \(-e\) であることと、B点の電位がA点より \(V\) 高いこと (\(\Delta V = V\)) を正しく適用できること。
- 加速される場合、電場は物体に正の仕事をすることを理解していること。
\(eV\)
2. 電子がBを通りぬけるときの速さはいくらか。
問われている内容の明確化
この設問では、電場によって加速された後の電子が、極板Bを通り抜ける瞬間の速さ \(v_B\) を求めます。
具体的な解説と立式
物体にされた仕事は、その物体の運動エネルギーの変化に等しくなります。これが「仕事と運動エネルギーの関係(仕事率の原理)」です。
$$W = K_{\text{後}} – K_{\text{初}} \quad \cdots ③$$
ここで、\(W\) は物体にされた仕事、\(K_{\text{初}}\) は仕事がされる前の運動エネルギー、\(K_{\text{後}}\) は仕事がされた後の運動エネルギーです。
この問題では、
- 電子にされた仕事 \(W\) は、(1)で求めた通り \(W = eV\) です。
- 電子の初めの運動エネルギー \(K_{\text{初}}\) は、初速度が \(v_0\) なので、\(K_{\text{初}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\) です。
- 極板Bを通り抜けるときの速さを \(v_B\) とすると、後の運動エネルギー \(K_{\text{後}}\) は、\(K_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv_B^2\) です。
これらの関係を式③に代入すると、次の方程式が成り立ちます。
$$eV = \frac{1}{2}mv_B^2 – \frac{1}{2}mv_0^2 \quad \cdots ④$$
この方程式を、未知数である \(v_B\) について解きます。
$$W = \Delta K = K_{\text{後}} – K_{\text{初}} = \frac{1}{2}mv_{\text{後}}^2 – \frac{1}{2}mv_{\text{初}}^2$$
計算過程
式④ \(eV = \displaystyle\frac{1}{2}mv_B^2 – \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\) を \(v_B\) について解きます。
まず、\(v_B\) を含む項 \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_B^2\) を左辺に残すため、\(-\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\) を左辺に移項します。
$$\frac{1}{2}mv_B^2 = eV + \frac{1}{2}mv_0^2$$
次に、両辺に2を掛けて、分母を払います。
$$2 \times \left(\frac{1}{2}mv_B^2\right) = 2 \times \left(eV + \frac{1}{2}mv_0^2\right)$$
$$mv_B^2 = 2eV + mv_0^2$$
次に、両辺を質量 \(m\) で割ります。
$$\frac{mv_B^2}{m} = \frac{2eV + mv_0^2}{m}$$
$$v_B^2 = \frac{2eV}{m} + v_0^2$$
最後に、両辺の正の平方根をとって \(v_B\) を求めます(速さは0以上の値をとるため)。
$$v_B = \sqrt{v_0^2 + \frac{2eV}{m}}$$
これが電子がBを通り抜けるときの速さです。
計算方法の平易な説明
- 電子はもともと \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\) という運動エネルギーを持っていました。
- そこに、電場から \(eV\) というエネルギー(仕事)を供給されました。
- その結果、電子の最終的な運動エネルギーは「元の運動エネルギー + 追加されたエネルギー」つまり \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 + eV\) となります。
- この最終的な運動エネルギーは、最終的な速さ \(v_B\) を使って \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_B^2\) とも書けるので、\(\displaystyle\frac{1}{2}mv_B^2 = \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 + eV\) という等式が成り立ちます。
- この式を変形していくことで、最終的な速さ \(v_B\) を求めることができます。
結論と吟味
電子がBを通りぬけるときの速さは \(\sqrt{v_0^2 + \displaystyle\frac{2eV}{m}}\) です。
この結果を見ると、ルートの中は初速度の2乗 \(v_0^2\) に正の値が加わっているため、最終的な速さ \(v_B\) は初速度 \(v_0\) よりも大きくなっていることがわかります。これは電子が加速されたという事実と一致しており、物理的に妥当な結果です。
もし初速度がゼロ (\(v_0=0\)) であれば、速さは \(\sqrt{\displaystyle\frac{2eV}{m}}\) となり、静止状態から加速された電子の速さの公式としてよく知られた形と一致します。
この設問における重要なポイント
- 仕事と運動エネルギーの関係(仕事率の原理)を正しく適用できること。
- 初めの運動エネルギー \(K_{\text{初}}\) と後の運動エネルギー \(K_{\text{後}}\) を、速さを用いて正しく表現できること。
- 初速度 \(v_0\) がある場合、その分の運動エネルギーを計算に含めることを忘れないこと。
- 最終的に、速さ \(v_B\) を求めるために、方程式を正しく変形し、平方根をとる計算ができること。
\(\sqrt{v_0^2 + \displaystyle\frac{2eV}{m}}\)
▼別の問題もチャレンジ▼
問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- 仕事とエネルギーの原理: ある物体に対して外部から仕事がされると、その分だけ物体のエネルギー(この場合は運動エネルギー)が変化するという、物理学の最も基本的な法則の一つです。力学だけでなく、電磁気学や熱力学にも通じる重要な考え方です。
- 静電ポテンシャルエネルギー: 電場の中にある電荷が持つ位置エネルギーのこと。電場が電荷に仕事をする(力を及ぼして動かす)ことで、このエネルギーは変化し、運動エネルギーなどに変換されます。
- 電位と電圧: 電位は電場における「高さ」のような概念で、電圧(電位差)はその「高低差」に相当します。電荷は電位の高い方から低い方へ(またはその逆に)移動することで、エネルギーを得たり失ったりします。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 力の向きと仕事の符号: 粒子にはたらく力の向きと、粒子の移動方向が同じ場合、力は正の仕事をします(加速)。逆向きの場合、力は負の仕事をします(減速)。この問題では電子(負電荷)が正極板に向かうので、静電気力は移動方向と同じ向きになり、仕事は正です。
- エネルギー保存則の利用: この問題は、保存力である静電気力のみが仕事をするため、「(運動エネルギー)+(静電ポテンシャルエネルギー)= 一定」というエネルギー保存則で解くこともできます。このアプローチは、仕事とエネルギーの関係と本質的に同じです。
- 粒子の電荷に注意: 問題で扱う粒子が電子(\(-e\))なのか陽子(\(+e\))なのかによって、受ける力の向きやポテンシャルエネルギーの変化の符号が変わるため、常に注意が必要です。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 仕事の符号の間違い: 電子の電荷がマイナスであることから、仕事を \(-eV\) と誤解してしまうことがあります。仕事の符号は、エネルギーが増加したか(加速)、減少したか(減速)で判断するのが確実です。加速されているので仕事は正の \(eV\) です。
- 初速度の無視: 問題に初速度 \(v_0\) が与えられているのに、それを見落として、初めの運動エネルギーをゼロとして計算してしまうミスがあります。
- 計算ミス: 最終的な速さを求める際の式変形(移項、平方根をとるなど)で計算ミスをしやすいので、一つ一つのステップを丁寧に行うことが大切です。特に、ルートの中に \(v_0^2\) を入れ忘れるなどのミスに注意しましょう。
▼別の問題もチャレンジ▼