問題の確認
dynamics#29各設問の思考プロセス
この問題は、ばねに吊るされたおもりを動かすときの加速度を求める、力学の基本的な問題です。おもりにはたらく力(ばねの弾性力と重力)を正しく特定し、ニュートンの運動方程式を立てることで解くことができます。
この問題を解く上で中心となる物理法則は以下の通りです。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさ \(F_{\text{ばね}}\) は、自然の長さからの伸び縮み \(x\) に比例する (\(F_{\text{ばね}} = kx\))。
- ニュートンの運動の第二法則(運動方程式): 物体の質量を \(m\)、生じる加速度を \(a\)、物体にはたらく力の合力を \(F_{\text{合力}}\) とすると、\(ma = F_{\text{合力}}\) の関係が成り立つ。
この問題を解くための手順は以下の通りです。
- 力の図示(フリーボディダイアグラム): まず、おもりにはたらく力をすべて見つけ出し、矢印で図示します。この問題では、鉛直上向きの「ばねの弾性力」と、鉛直下向きの「重力」の2つです。
- 運動方程式の立式: 問題で指定された「鉛直上向きを正」として、各力に符号をつけて足し合わせ、合力を求めます。そして、運動方程式 \(Ma = (\text{合力})\) を立てます。
- 加速度の計算: 立てた運動方程式を、求めたい加速度 \(a\) について解きます。
この手順で、ある特定の瞬間の加速度を求めることができます。
各設問の具体的な解説と解答
おもりの加速度を求めよ。
問われている内容の明確化
ばねの伸びが \(l\) の瞬間の、おもり(質量 \(M\))の加速度 \(a\) を求めます。
具体的な解説と立式
まず、おもりにはたらく力を整理します。問題の指示に従い、鉛直上向きを正の向きとします。
- ばねの弾性力:
- 大きさ: フックの法則より、ばねの伸びが \(l\) なので、\(F_{\text{ばね}} = kl\)。
- 向き: ばねは伸びているので、元に戻ろうとしておもりを上向きに引きます。これは座標軸の正の向きなので、正(+)の力となります。
- 重力:
- 大きさ: \(W = Mg\)。
- 向き: 鉛直下向き。これは座標軸の正の向きと反対なので、負(-)の力となります。
したがって、おもりにはたらく合力 \(F_{\text{合力}}\) は、
$$F_{\text{合力}} = kl – Mg$$
となります。
これをニュートンの運動方程式 \(Ma = F_{\text{合力}}\) に代入すると、
$$Ma = kl – Mg \quad \cdots ①$$
これが、このおもりの運動方程式です。この式を加速度 \(a\) について解きます。
使用した物理公式:
- フックの法則: \(F_{\text{ばね}} = k \times (\text{伸び})\)
- ニュートンの運動方程式: \(ma = F_{\text{合力}}\)
計算過程
式①の両辺を質量 \(M\) で割って、加速度 \(a\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
a &= \frac{kl – Mg}{M} \\[2.0ex]&= \frac{kl}{M} – g
\end{aligned}
$$
計算方法の平易な説明
- おもりには、上向きにばねが引く力(大きさ \(kl\))と、下向きに重力(大きさ \(Mg\))の2つがはたらいています。
- 上向きをプラスとすると、おもりにはたらく力の合計(合力)は「\(kl – Mg\)」となります。
- 運動方程式「質量 × 加速度 = 合力」に当てはめると、「\(M \times a = kl – Mg\)」という式ができます。
- この式を \(a\) について解くと、答えが求まります。
結論と吟味
加速度 \(a\) は \(a = \displaystyle\frac{kl}{M} – g\) となります。
この式から、
- もし上向きの弾性力 \(kl\) が下向きの重力 \(Mg\) より大きければ(\(kl > Mg\))、\(a\) は正となり、おもりは上向きに加速します。
- もし弾性力と重力がつり合っていれば(\(kl = Mg\))、\(a=0\) となり、おもりは静止または等速直線運動をします。
- もし重力の方が大きければ(\(kl < Mg\))、\(a\) は負となり、おもりは下向きに加速します。
このように、力の大小関係と加速度の向きが直感と一致しており、物理的に妥当な結果であると確認できます。
この設問における重要なポイント
- おもりにはたらく力を(重力と弾性力)もれなく見つけること。
- 座標軸の向きに合わせて、各力に正負の符号を正しくつけて合力を計算すること。
- フックの法則で使うのは、ばねの全長ではなく「自然長からの伸び(または縮み)」であること。
\(\displaystyle a = \frac{kl}{M} – g\)
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問題全体を通して理解しておくべき重要な物理概念や法則
- ニュートンの運動の第二法則(運動方程式): 力学の根幹をなす法則。物体にはたらく力の合力と、それによって生じる加速度の関係を記述する。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさを記述する法則。力はばねの自然長からの変位に比例する。
- 力の合成: 複数の力がはたらく場合、物体の運動を決めるのは個々の力ではなく、それらをベクトル的に足し合わせた「合力」である。
類似の問題を解く上でのヒントや注意点
- 力の図示(フリーボディダイアグラム): どんな力学の問題でも、まず対象となる物体にはたらく力をすべて矢印で図示することが、問題を正しく解くための第一歩です。
- 座標軸の明確化: どちらの向きを正とするかを最初に明確に決めることが重要です。それによって、運動方程式における各力の符号が決まります。
- ばねの「長さ」と「伸び」の区別: フックの法則で使うのは、ばねの自然長からの「伸び」や「縮み」です。ばねの全長そのものではないことに常に注意しましょう。
よくある誤解や間違いやすいポイント
- 力の見落とし: 重力や、この問題にはありませんが垂直抗力、摩擦力など、はたらいている力を見落としてしまうケース。
- 力の向き(符号)の間違い: 設定した座標軸の向きに対して、力の符号を間違えるミス。特に、ばねが縮んでいる場合の弾性力の向き(押し返す向き)などで混乱しやすい。
- つり合いとの混同: 物体が運動している(加速度がある)にもかかわらず、力がつり合っている(合力が0)として式を立ててしまうミス。運動方程式は、力がつり合っていない状態を記述するための法則です。
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