Step 2
19 力のモーメント
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力のモーメントの合成」です。剛体に複数の力が働くとき、各力が作る力のモーメントを正しく計算し、それらを足し合わせる能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のモーメントの定義: 物体を回転させようとする能力のことで、力の大きさと腕の長さの積で決まります。
- 力のモーメントの符号: 問題の指示に従い、回転の向き(反時計回りか時計回りか)によって正負を判断します。通常、反時計回りを正とします。
- 力のモーメントの計算方法: 計算方法は主に2つあり、(1)力の作用線までの垂直距離(腕の長さ)を求める方法と、(2)力を腕に垂直な成分と平行な成分に分解する方法があります。
- 力のモーメントの合成: 複数の力のモーメントが働く場合、その総和(代数和)を計算することで、物体全体に働く回転の効果を知ることができます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 図に示された3つの力(\(8.0\,\text{N}\), \(6.0\,\text{N}\), \(5.0\,\text{N}\))が、点Oのまわりに作る力のモーメントをそれぞれ計算します。
- 問題文の「左回り(反時計回り)を正」という定義に従い、各モーメントの符号を決定します。
- 計算した3つのモーメントを足し合わせて、モーメントの和を求めます。
思考の道筋とポイント
点Oのまわりに働く3つの力について、それぞれの力のモーメントを計算し、その代数和を求める問題です。力のモーメントを計算する公式 \(M = FL\sin\theta\) を正しく適用できるかが鍵となります。ここで \(L\) は回転の中心から力の作用点までの距離、\(\theta\) は腕の方向と力の方向がなす角です。また、問題で指定された通り、反時計回りのモーメントを正、時計回りのモーメントを負として計算します。
この設問における重要なポイント
- 力のモーメントの公式: \(M = FL\sin\theta\)。
- モーメントの符号: 反時計回り(左回り)を正、時計回り(右回り)を負とする。
- モーメントの合成: 各力のモーメントを、符号に注意して足し合わせる(代数和)。
- 力の作用線が回転中心を通る場合、モーメントはゼロになる。
具体的な解説と立式
3つの力をそれぞれ \(F_1 = 8.0\,\text{N}\), \(F_2 = 6.0\,\text{N}\), \(F_3 = 5.0\,\text{N}\) とし、対応する力のモーメントを \(M_1, M_2, M_3\) とします。求めるモーメントの和 \(M\) は、これらの代数和です。
$$ M = M_1 + M_2 + M_3 $$
1. 力 \(F_1 = 8.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_1\)
この力は物体を反時計回り(正の向き)に回転させようとします。回転中心Oから作用点までの距離は \(L_1 = 4.0\,\text{m}\)、腕と力のなす角は \(\theta_1 = 60^\circ\) です。
$$ M_1 = + F_1 L_1 \sin\theta_1 $$
2. 力 \(F_2 = 6.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_2\)
この力の作用線は回転の中心Oを通っています。これは、腕と力のなす角が \(\theta_2 = 0^\circ\) であることを意味します。
$$ M_2 = F_2 L_2 \sin\theta_2 $$
ここで \(L_2 = 5.0\,\text{m}\), \(\sin 0^\circ = 0\) です。
3. 力 \(F_3 = 5.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_3\)
この力は物体を時計回り(負の向き)に回転させようとします。回転中心Oから作用点までの距離は \(L_3 = 6.0\,\text{m}\)、腕の延長線と力のなす角は \(\theta_3 = 30^\circ\) です。
$$ M_3 = – F_3 L_3 \sin\theta_3 $$
したがって、モーメントの和 \(M\) は次のように立式できます。
$$ M = (+ F_1 L_1 \sin\theta_1) + (F_2 L_2 \sin\theta_2) + (- F_3 L_3 \sin\theta_3) $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = FL\sin\theta\)
- 力のモーメントの合成: \(M_{\text{合計}} = M_1 + M_2 + \dots\)
具体的な数値を代入して \(M\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
M &= (+ 8.0 \times 4.0 \sin 60^\circ) + (6.0 \times 5.0 \sin 0^\circ) + (- 5.0 \times 6.0 \sin 30^\circ) \\[2.0ex]&= 32.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} + 30.0 \times 0 – 30.0 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= 16\sqrt{3} + 0 – 15 \\[2.0ex]&= 16\sqrt{3} – 15
\end{aligned}
$$
ここで、\(\sqrt{3} \approx 1.73\) を用いて近似計算します。
$$
\begin{aligned}
M &\approx 16 \times 1.73 – 15 \\[2.0ex]&= 27.68 – 15 \\[2.0ex]&= 12.68
\end{aligned}
$$
問題で与えられている数値の有効数字は2桁なので、答えも2桁に丸めます。
$$ M \approx 13 \, [\text{N·m}] $$
物体を回す力「モーメント」を3つの力についてそれぞれ計算し、最後に全部足し合わせます。「反時計回り」をプラス、「時計回り」をマイナスとするルールです。
- \(8.0\,\text{N}\)の力:反時計回りに回すのでプラス。計算式は \(8.0 \times 4.0 \times \sin 60^\circ\)。
- \(6.0\,\text{N}\)の力:回転の中心Oに向かっているので、物体を回しません。モーメントはゼロです。
- \(5.0\,\text{N}\)の力:時計回りに回すのでマイナス。計算式は \(- 5.0 \times 6.0 \times \sin 30^\circ\)。
これら3つを足し算すると、全体のモーメントが求まります。
点Oのまわりの力のモーメントの和は \(13\,\text{N·m}\) です。
計算結果が正の値であるため、この物体は全体として反時計回りの向きに回転を始めることがわかります。各力の回転方向と大きさの評価が正しく行えているか、符号の付け間違いがないかを確認することが重要です。
思考の道筋とポイント
力のモーメントの定義である「\(M\) = (力の大きさ) × (腕の長さ)」に立ち返って計算する方法です。ここで「腕の長さ」とは、回転の中心Oから、力の作用線(力の向きに沿って引いた直線)に下ろした垂線の長さのことです。各力についてこの腕の長さを図形的に求め、モーメントを計算します。
この設問における重要なポイント
- 力のモーメントの定義: \(M = F \times l\)
- 腕の長さ \(l\): 回転の中心から力の作用線までの垂直距離。
- 三角比を用いて、図から腕の長さを正確に計算する。
具体的な解説と立式
各力の腕の長さを \(l_1, l_2, l_3\) として、モーメントの和 \(M\) を計算します。
$$ M = M_1 + M_2 + M_3 $$
1. 力 \(F_1 = 8.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_1\)
回転方向は反時計回り(正)。腕の長さ \(l_1\) は、図の直角三角形を考えると \(L_1 \sin 60^\circ\) となります。
$$ l_1 = 4.0 \sin 60^\circ $$
したがって、モーメント \(M_1\) は、
$$ M_1 = + F_1 \times l_1 = + 8.0 \times (4.0 \sin 60^\circ) $$
2. 力 \(F_2 = 6.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_2\)
この力の作用線は回転の中心Oを通過するため、中心Oと作用線の距離はゼロです。
$$ l_2 = 0 $$
したがって、モーメント \(M_2\) は、
$$ M_2 = 0 $$
3. 力 \(F_3 = 5.0\,\text{N}\) のモーメント \(M_3\)
回転方向は時計回り(負)。腕の長さ \(l_3\) は、図の直角三角形を考えると \(L_3 \sin 30^\circ\) となります。
$$ l_3 = 6.0 \sin 30^\circ $$
したがって、モーメント \(M_3\) は、
$$ M_3 = – F_3 \times l_3 = – 5.0 \times (6.0 \sin 30^\circ) $$
これらの和を求めます。
$$ M = 8.0 \times 4.0 \sin 60^\circ + 0 – 5.0 \times 6.0 \sin 30^\circ $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\) (\(l\)は腕の長さ)
- 力のモーメントの合成: \(M_{\text{合計}} = M_1 + M_2 + \dots\)
立式された式は、メインの解法と全く同じです。
$$
\begin{aligned}
M &= 32.0 \sin 60^\circ – 30.0 \sin 30^\circ \\[2.0ex]&= 32.0 \times \frac{\sqrt{3}}{2} – 30.0 \times \frac{1}{2} \\[2.0ex]&= 16\sqrt{3} – 15 \\[2.0ex]&\approx 16 \times 1.73 – 15 \\[2.0ex]&= 27.68 – 15 = 12.68
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、
$$ M \approx 13 \, [\text{N·m}] $$
モーメントは「力 × 腕の長さ」で計算できます。「腕の長さ」とは、回転の中心から力の直線までの最短距離です。
- \(8.0\,\text{N}\)の力:腕の長さは三角関数を使って \(4.0 \times \sin 60^\circ\)。反時計回りなのでプラスのモーメント。
- \(6.0\,\text{N}\)の力:力の直線が中心を通るので、腕の長さはゼロ。モーメントもゼロ。
- \(5.0\,\text{N}\)の力:腕の長さは \(6.0 \times \sin 30^\circ\)。時計回りなのでマイナスのモーメント。
これらをすべて足し合わせれば、答えが求まります。
点Oのまわりの力のモーメントの和は \(13\,\text{N·m}\) です。
「腕の長さ」を考えるこの方法は、力のモーメントの定義に忠実であり、物理的なイメージが掴みやすいです。計算結果も一致し、妥当であることが確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のモーメントの定義と計算
- 核心: 力のモーメントとは「物体を回転させようとする能力」のことであり、その大きさは「力の大きさ」と「腕の長さ」の積で決まります。この基本概念を理解し、正しく計算できることが全てです。
- 理解のポイント:
- 計算方法1 (\(M=FL\sin\theta\)): 回転中心から力の作用点までの距離 \(L\) と、腕の方向と力の方向がなす角 \(\theta\) を使う方法。図から角度が読み取りやすい場合に便利です。
- 計算方法2 (\(M=F \times l\)): 回転中心から力の作用線へ下ろした垂線の長さ(腕の長さ \(l\))を使う方法。力のモーメントの定義そのものであり、物理的なイメージが掴みやすいです。(\(l = L\sin\theta\) の関係があるので、両者は本質的に同じです。)
- 力のモーメントの合成(代数和)
- 核心: 複数の力が働くとき、剛体に働く全体の回転効果は、各力が作る力のモーメントの「代数和(符号を考慮した足し算)」で決まります。
- 理解のポイント:
- 符号のルール: 問題で指定された回転方向(この問題では反時計回りが正)に従って、各モーメントに
+
または-
の符号を付けます。この符号付けを間違えると、全く違う答えになってしまいます。 - 総和の計算: 全てのモーメントを符号付きで足し合わせることで、全体のモーメントが求まります。
- 符号のルール: 問題で指定された回転方向(この問題では反時計回りが正)に従って、各モーメントに
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 剛体のつり合い: 「力のつり合い(\(\sum F = 0\))」と「力のモーメントのつり合い(\(\sum M = 0\))」の2つの条件式を連立させて、未知の力や距離を求める問題。シーソーやはしごの問題が典型的です。
- 回転運動方程式: 力のモーメントの和が0でない場合、物体は回転運動を始めます。その際の角加速度 \(\alpha\) は、力のモーメントの和 \(M\) と慣性モーメント \(I\) を用いて \(I\alpha = M\) と表されます。
- 重心の計算: 物体を構成する各部分にはたらく重力のモーメントの和は、全体の重心に全質量(全重量)が集中してはたらくと考えたときのモーメントと等しくなります。これを利用して複雑な形状の物体の重心を求めます。
- 初見の問題での着眼点:
- 回転の中心(基準点)の確認: まず、どの点のまわりのモーメントを考えるのかを明確にします。つり合いの問題では、未知の力が作用する点を中心に選ぶと、その力のモーメントが0になり計算が楽になることが多いです。
- すべての力の図示: 物体にはたらく力(重力、垂直抗力、張力、外力など)をすべて、作用点と向きがわかるように図に書き込みます。
- 符号の決定: 計算を始める前に、どちらの回転方向を正とするか(例:反時計回り(+))を決め、図の隅にメモしておきます。
- 計算方法の選択: 各力について、「腕の長さ \(l\) を求める」方法と「\(FL\sin\theta\) を使う」方法のどちらが楽に計算できるかを見極めます。角度が90°など、腕の長さが明らかな場合は前者、斜めに力がかかっている場合は後者が便利なことが多いです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 腕の長さの勘違い:
- 誤解: 回転の中心から力の作用点までの「直線距離」を、そのまま腕の長さとして計算してしまう。
- 対策: 「腕の長さ」とは、回転の中心から「力の作用線」に下ろした「垂線の長さ」であると定義を徹底します。図に作用線と垂線を実際に描いてみる癖をつけることが有効です。
- 符号の付け間違い:
- 誤解: 計算の途中で、時計回りと反時計回りのどちらが正だったかを忘れてしまい、符号を逆にしてしまう。
- 対策: 計算を始める前に、図の余白に「反時計回り(+)」などとルールを明記します。各力のモーメントを計算するたびに、その力が物体をどちら向きに回すか指でなぞって確認し、符号を決定します。
- 角度 \(\theta\) の選択ミス:
- 誤解: 公式 \(M=FL\sin\theta\) の \(\theta\) に、図に示されている角度を何も考えずに代入してしまう。
- 対策: \(\theta\) は「中心から作用点への腕の方向」と「力の方向」との間の角度であることを常に意識します。図でどの角度に対応するのかを正確に特定してから計算に入ります。
- 力の作用線が中心を通る力の扱い:
- 誤解: 力の作用線が回転中心を通る場合でも、モーメントを計算しようとしてしまう。
- 対策: 力の作用線が回転中心を通るとき、腕の長さは0なので、モーメントも0になる、と覚えておきましょう。これにより計算を一つ省略できます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のモーメントの基本式 (\(M = FL\sin\theta\) または \(M = F \times l\)):
- 選定理由: この問題は、力のモーメントの大きさを計算し、それらを足し合わせるという、モーメントの概念の根幹を問うています。したがって、その定義式そのものを用いるのが最も直接的です。
- 適用根拠:
- \(M = FL\sin\theta\) の視点: この式は、力を「腕に垂直な成分 \(F_{\perp} = F\sin\theta\)」と「腕に平行な成分 \(F_{\parallel} = F\cos\theta\)」に分解した考え方に基づいています。回転に寄与するのは垂直成分のみであり、そのモーメントは \(M = F_{\perp} \times L = (F\sin\theta)L\) となります。図から角度 \(\theta\) と距離 \(L\) が読み取れる場合に非常に有効です。
- \(M = F \times l\) の視点: こちらは、腕の長さを「回転中心から作用線までの垂直距離 \(l = L\sin\theta\)」と定義し、力 \(F\) との積を取る考え方です。物理的な「てこ」のイメージに近く、直感的です。
- 結論として、どちらの公式も同じ物理現象を異なる視点から数式化したものであり、問題の図や条件に応じて使いやすい方を選択すればよい、ということになります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 符号の一元管理: 計算用紙の最初に「反時計回り(+)」とルールを書き、計算した各モーメント(例: \(M_1 = +27.68\), \(M_3 = -15\))を符号付きでリストアップしてから最後に合算する。これにより、足し算の段階での符号ミスを防ぎます。
- 三角関数の正確な計算: \(\sin 60^\circ = \displaystyle\frac{\sqrt{3}}{2}\), \(\sin 30^\circ = \displaystyle\frac{1}{2}\) のような基本的な三角関数の値は、瞬時に正確に出てくるように習熟しておく。不安な場合は単位円を描いて確認する。
- 近似値の扱い: \(\sqrt{3} \approx 1.73\) のような近似計算は、計算の最終段階で行う。途中で丸めると誤差が大きくなる可能性があります。筆算を行う際は、桁をそろえて丁寧に計算する。
- 有効数字の意識: 問題文で使われている数値(\(8.0\), \(4.0\) など)は有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁(この場合は \(13\))に丸めるのが適切です。計算途中では、有効数字より1桁多く(例: \(12.68\))保持しておくと、丸めによる誤差を減らせます。
- 単位の記入: 最終的な答えには、必ず単位「N·m」を忘れずに記入する。単位は物理量の意味を明確にする上で非常に重要です。
20 釘抜き
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力のモーメントのつり合い」と「てこの原理」です。身近な道具である釘抜きを題材に、小さい力で大きな力を生み出す仕組みを物理的に解明します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のモーメントのつり合い: 物体が回転せずに静止しているとき、任意の点のまわりの力のモーメントの和(代数和)はゼロになります。
- てこの原理: 力のモーメントのつり合いの応用で、「力 × 腕の長さ」が作用点と力点で等しくなる関係を指します。
- 作用・反作用の法則: 釘抜きが釘を抜く力と、その反作用として釘が釘抜きを引く力は、大きさが等しく向きが逆になります。
- 回転の中心(支点)の選定: 計算を簡単にするために、未知の力がはたらく点を回転の中心に選ぶのがセオリーです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 釘が「抜ける直前」の状態を、力のモーメントがつり合っている状態として考えます。
- 釘抜きが壁に接している点を「支点(回転の中心)」とします。
- 釘が釘抜きを引く力と、手で加える力\(F\)が、支点のまわりに作るモーメントのつり合いの式を立てます。
- 方程式を解いて、つり合いが成立するときの力\(F\)の大きさを求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、てこの原理を用いて、釘を抜くために必要な力\(F\)を求める典型的な力のモーメントのつり合いの問題です。「釘が抜ける」という現象を、物理的には「手で加える力のモーメントが、釘が抵抗する力のモーメントを上回る瞬間」と捉えます。まずは、両者のモーメントがつり合う限界の状況を考え、そのときの力\(F\)の値を計算します。
この設問における重要なポイント
- 力のモーメントのつり合いの式(モーメントの和が0)を立てる。
- 回転の中心(支点)を正しく設定する。壁との接点を支点に取ると、壁からの抗力のモーメントが0になり計算が簡略化できる。
- 作用・反作用の法則を理解する。「釘を抜くのに必要な力(\(100\,\text{N}\))」は釘抜きが釘に及ぼす力であり、計算で使うのはその反作用として「釘が釘抜きを引く力(\(100\,\text{N}\))」である。
- 単位をSI単位系に統一する(cm → m)。
具体的な解説と立式
釘が抜ける直前の、力のモーメントがつり合っている状態を考えます。
釘抜きが壁に接している点を支点Pとし、この点のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。反時計回りのモーメントを正、時計回りのモーメントを負とします。
1. 釘が釘抜きを引く力によるモーメント \(M_{\text{釘}}\)
問題文より、釘を抜くのに必要な力は \(100\,\text{N}\) です。これは釘抜きが釘に及ぼす力です。作用・反作用の法則により、釘もまた、釘抜きを大きさ \(100\,\text{N}\) の力で引きます。この力は図の左向きにはたらき、釘抜きを支点Pのまわりに反時計回り(正の向き)に回転させようとします。
腕の長さは \(l_{\text{釘}} = 4.0\,\text{cm} = 0.040\,\text{m}\) です。
$$ M_{\text{釘}} = + 100 \times 0.040 $$
2. 手で加える力 \(F\) によるモーメント \(M_F\)
手で加える力 \(F\) は、釘抜きを時計回り(負の向き)に回転させようとします。
腕の長さは \(l_F = 50\,\text{cm} = 0.50\,\text{m}\) です。
$$ M_F = – F \times 0.50 $$
力のモーメントのつり合い(モーメントの和が0)より、\(M_{\text{釘}} + M_F = 0\) となるので、
$$ 100 \times 0.040 – F \times 0.50 = 0 $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\) (\(l\)は腕の長さ)
- 力のモーメントのつり合い: モーメントの和は0になる
- 作用・反作用の法則
力のモーメントのつり合いの式を \(F\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
100 \times 0.040 – F \times 0.50 &= 0 \\[2.0ex]F \times 0.50 &= 100 \times 0.040 \\[2.0ex]0.50 F &= 4.0 \\[2.0ex]F &= \frac{4.0}{0.50} \\[2.0ex]F &= 8.0 \, [\text{N}]\end{aligned}
$$
これは「てこ」の問題です。支点(壁との接点)を中心に、釘が釘抜きを引っ張る回転力と、手が釘抜きを押す回転力が等しくなる瞬間を考えます。回転力は「力 × 支点からの距離」で計算できます。
- 釘側の回転力: \(100\,\text{N} \times 4.0\,\text{cm} = 400\)
- 手側の回転力: \(F\,\text{N} \times 50\,\text{cm}\)
これらがつり合うので、\(F \times 50 = 400\) という式が成り立ちます。これを解くと、\(F = 400 \div 50 = 8.0\,\text{N}\) となります。
(注意:実際の計算では、cmをmに直してから計算するのが正式な方法です。)
計算の結果、\(F = 8.0\,\text{N}\) のときに力のモーメントがつり合うことがわかりました。これは、釘が抜けるか抜けないかの境界の力です。
問題では「Fをいくらより大きくすると釘が抜けるか」と問われているため、厳密には「\(8.0\,\text{N}\)より大きい力を加えると、手で加える力のモーメントが勝ち、釘が抜ける」と答えるべきです。解答ではつり合いの値を求めているため、\(8.0\,\text{N}\)とします。
てこの原理により、腕の長さが \(50 : 4.0 = 12.5\) 倍になっているため、必要な力は \(1/12.5\) になり、\(100 \div 12.5 = 8.0\,\text{N}\) となって計算結果は妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のモーメントのつり合い
- 核心: 物体が回転せずに静止している、あるいは回転し始める直前の状態では、任意の点のまわりの「力のモーメントの和がゼロ」になるという法則。これがこの問題を解くための絶対的なルールです。
- 理解のポイント:
- モーメントの和: 「反時計回りのモーメント」と「時計回りのモーメント」が等しい、と考えると分かりやすいです。これを式で書くと、力のモーメントの和が0となります。
- てこの原理: この問題は、力のモーメントのつり合いを「てこ」という具体的な道具に応用したものです。「力点にかかる力 × 支点からの距離 = 作用点にかかる力 × 支点からの距離」という関係は、まさにモーメントのつり合いそのものです。
- 作用・反作用の法則
- 核心: 釘を抜くために「釘抜きが釘に及ぼす力」と、その反作用として「釘が釘抜きに及ぼす力」は、大きさが等しく向きが逆であるという関係。
- 理解のポイント: 計算で使うのは、あくまで「釘抜きにはたらく力」です。したがって、問題文の「釘を抜くのに必要な力(\(100\,\text{N}\))」を、作用・反作用の法則を使って「釘が釘抜きを引く力(\(100\,\text{N}\))」に読み替える必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- シーソーのつり合い: 左右の人が乗ったシーソーが水平につり合う条件を求める問題。
- はしごの安定: 壁に立てかけたはしごが滑り出さない条件を、「力のつり合い(力の和が0)」と「力のモーメントのつり合い(モーメントの和が0)」から求める問題。
- レンチやスパナ: ボルトを締める(緩める)ために必要な力を、腕の長さを変えながら考える問題。
- ドアの開閉: ドアノブが蝶番から遠い位置にある理由を、モーメントの観点から説明する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 「つり合い」「静止」「〜する直前」のキーワードを確認: これらの言葉があれば、力のモーメントのつり合い(モーメントの和が0)を使うサインです。
- 支点(回転の中心)を探す: 物体がどの点を中心に回転しようとするかを見極めます。釘抜きの場合、壁との接点が動かないので、ここが支点です。
- 力をすべて図示する: 注目する物体(今回は釘抜き)にはたらく力を、作用点と向きがわかるようにすべて書き出します。特に、作用・反作用の関係や、支点にはたらく抗力(今回は計算不要だが)を意識することが重要です。
- 腕の長さを正確に測る: 各力の作用線から支点までの「垂直距離」を正確に図から読み取ります。単位(cmとm)の換算を忘れないように注意します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 作用・反作用の力の取り違え:
- 誤解: 問題文の「釘を抜くのに必要な力 \(100\,\text{N}\)」を、そのまま釘抜きにはたらく外力として扱ってしまう。
- 対策: 常に「どの物体に、どの物体から、力がはたらいているか」を意識する癖をつける。「釘抜きが釘を引く力」の反作用が「釘が釘抜きを引く力」であると、力の関係性を正確に整理してから立式します。
- 支点の選び間違い:
- 誤解: 釘と釘抜きが接している点を支点だと勘違いしてしまう。
- 対策: 「支点」とは、回転運動において「動かない点(回転の中心)」のことです。釘抜きが動く様子をイメージし、壁との接点が回転の中心になることを理解します。戦略的に「未知の力がはたらく点(壁からの抗力)」を支点に選ぶと計算が楽になる、というセオリーも有効です。
- 単位換算のミス:
- 誤解: \(4.0\,\text{cm}\) や \(50\,\text{cm}\) を、mに直さずにそのまま計算式に入れてしまう。この問題では比の関係で偶然答えが合いますが、他の問題では致命的なミスになります。
- 対策: 物理計算の鉄則として、「計算を始める前に、すべての単位をSI単位系(長さ:m, 質量:kg, 力:N)に統一する」ことを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のモーメントのつり合いの式(モーメントの和が0):
- 選定理由: この問題は「釘が抜ける直前」という、静止状態が破れる限界を扱っています。これは物理学的には「つり合い」の状態と見なせます。剛体が回転せずにつり合っている場合、その条件を記述する法則が「力のモーメントのつり合い」だからです。
- 適用根拠: 釘抜きという剛体には、①釘が引く力、②手が加える力、③支点が及ぼす抗力、の3つが主にはたらいています。これらの力による回転効果が打ち消し合っている状態を数式で表現するために、モーメントの和が0になるという関係式を適用します。特に、未知の力である「支点の抗力」のモーメントを計算から消去するために、抗力の作用点そのものを回転の中心(支点)として選ぶのが最も論理的かつ効率的なアプローチとなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 単位換算の先行実施: 計算を始める前に、問題図の \(4.0\,\text{cm}\) を \(0.040\,\text{m}\)、\(50\,\text{cm}\) を \(0.50\,\text{m}\) と書き直してしまう。
- 立式の整理: \((\text{反時計回りモーメント}) – (\text{時計回りモーメント}) = 0\) の形に整理して立式すると、符号ミスが減ります。\(100 \times 0.040 – F \times 0.50 = 0\)。
- 小数の割り算: \(F = \displaystyle\frac{4.0}{0.50}\) のような計算は、分母と分子を10倍または100倍して整数にしてから計算すると確実です。\(F = \displaystyle\frac{40}{5} = 8\)。
- オーダーチェック(概算): 腕の長さの比は \(50\,\text{cm} : 4.0\,\text{cm} \approx 12\) 倍です。てこの原理から、必要な力は釘を引く力の約 \(1/12\) になるはずだと予測できます。\(100\,\text{N} \div 12 \approx 8.3\,\text{N}\) となり、計算結果の \(8.0\,\text{N}\) が妥当な値であることが確認できます。
21 モーメントのつり合い
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」の複合問題です。複数の物体(おもりa, おもりb, 棒)が互いに関係しながら静止している系を、一つずつ丁寧に分析していく能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 静止している物体にはたらく力のベクトル和はゼロになります。特に鉛直方向の力のつり合いを考えます。
- 力のモーメントのつり合い: 静止している剛体にはたらく、任意の点のまわりの力のモーメントの和(代数和)はゼロになります。
- 張力の理解: 糸が物体を引く力(張力)は、糸の両端で同じ大きさではたらきます。
- 段階的な問題解決: 求める量(垂直抗力\(N\))を直接計算するのではなく、他の物体のつり合いから必要な情報(張力)を段階的に求めていく思考プロセスが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、最も単純な「おもりb」の力のつり合いを考え、糸bが引く張力\(T_b\)を求めます。
- 次に、得られた\(T_b\)を使って「棒」の力のモーメントのつり合いを考え、糸aが引く張力\(T_a\)を求めます。
- 最後に、得られた\(T_a\)を使って「おもりa」の力のつり合いを考え、目的の垂直抗力\(N\)を求めます。
思考の道筋とポイント
この問題の最終目標は、おもりaにはたらく垂直抗力\(N\)を求めることです。そのためには、おもりaにはたらく力のつり合いの式を立てる必要があります。おもりaには、(1)重力\(mg\)、(2)糸の張力\(T_a\)、(3)垂直抗力\(N\)の3つの力がはたらいています。重力は既知ですが、張力\(T_a\)が未知数です。
そこで、次に\(T_a\)を求める方法を考えます。張力\(T_a\)は、棒を介して他の物体と関係しています。棒は水平に静止しているので、力のモーメントがつり合っているはずです。棒のモーメントのつり合いを考えれば、\(T_a\)を計算できそうです。
棒のモーメントのつり合いの式には、糸bの張力\(T_b\)も含まれます。\(T_b\)は、おもりbの力のつり合いを考えれば簡単に求まります。
このように、「おもりaのつり合い → \(T_a\)が必要 → 棒のモーメントのつり合い → \(T_b\)が必要 → おもりbのつり合い」と逆算的に思考を組み立て、実際の計算は「おもりb → 棒 → おもりa」の順で実行します。
この設問における重要なポイント
- 注目する物体を「おもりb」「棒」「おもりa」と明確に切り替え、それぞれについて適切な物理法則(力のつり合い or モーメントのつり合い)を適用する。
- 棒のモーメント計算では、回転の中心(支点)を、棒がつるされている中心Oに設定すると計算が最も簡単になる。
- 長さの比(\(OA = 5 \times OB\))を、文字式のまま計算に利用する。
具体的な解説と立式
この問題は3つのステップで解くことができます。
Step 1: おもりbの力のつり合い
おもりbは静止しているので、おもりbにはたらく力はつり合っています。糸bがおもりbを引く張力の大きさを\(T_b\)とすると、おもりbには上向きに張力\(T_b\)、下向きに重力\(3mg\)がはたらきます。
力のつり合いの式は、
$$ T_b – 3mg = 0 $$
Step 2: 棒の力のモーメントのつり合い
棒は水平に静止しているので、任意の点のまわりの力のモーメントがつり合っています。ここでは、棒の支点である中心Oのまわりのモーメントを考えます。
糸aが棒を引く張力の大きさを\(T_a\)、糸bが棒を引く張力の大きさを\(T_b\)とします。棒には、点Aに下向きの力\(T_a\)、点Bに下向きの力\(T_b\)がはたらきます。
反時計回りを正とすると、\(T_a\)は反時計回りのモーメント、\(T_b\)は時計回りのモーメントを生じさせます。
モーメントのつり合いの式は、
$$ T_a \times OA – T_b \times OB = 0 $$
Step 3: おもりaの力のつり合い
おもりaも静止しているので、おもりaにはたらく力はつり合っています。求める垂直抗力の大きさを\(N\)とすると、おもりaには上向きに垂直抗力\(N\)と張力\(T_a\)、下向きに重力\(mg\)がはたらきます。
力のつり合いの式は、
$$ N + T_a – mg = 0 $$
使用した物理公式
- 力のつり合い: 物体にはたらく力の和は0
- 力のモーメントのつり合い: モーメントの和は0
上記で立てた3つの式を順に解いていきます。
Step 1: \(T_b\)の計算
おもりbの力のつり合いの式から、
$$
\begin{aligned}
T_b – 3mg &= 0 \\[2.0ex]T_b &= 3mg
\end{aligned}
$$
Step 2: \(T_a\)の計算
棒のモーメントのつり合いの式を変形します。
$$
\begin{aligned}
T_a \times OA – T_b \times OB &= 0 \\[2.0ex]T_a &= T_b \times \frac{OB}{OA}
\end{aligned}
$$
この式に、Step 1で求めた \(T_b = 3mg\) と、問題の条件 \(OA = 5 \times OB\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T_a &= (3mg) \times \frac{OB}{5 \times OB} \\[2.0ex]&= \frac{3}{5}mg
\end{aligned}
$$
Step 3: \(N\)の計算
おもりaの力のつり合いの式を変形します。
$$
\begin{aligned}
N + T_a – mg &= 0 \\[2.0ex]N &= mg – T_a
\end{aligned}
$$
この式に、Step 2で求めた \(T_a = \displaystyle\frac{3}{5}mg\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
N &= mg – \frac{3}{5}mg \\[2.0ex]&= \left(1 – \frac{3}{5}\right)mg \\[2.0ex]&= \frac{2}{5}mg
\end{aligned}
$$
この問題は、パズルを解くように3段階で考えます。
- まず、おもりbに注目します。おもりbは重さ\(3mg\)でぶら下がっているので、それを支える糸の力\(T_b\)も\(3mg\)です。
- 次に、棒を「てこ」として見ます。支点Oを中心に、左右の「力×距離」がつり合っています。つまり「\(T_a \times OA = T_b \times OB\)」です。OAはOBの5倍なので、力\(T_a\)は\(T_b\)の5分の1になります。\(T_a = 3mg \div 5 = \frac{3}{5}mg\)と計算できます。
- 最後に、おもりaに注目します。おもりaは重さ\(mg\)で下に引っ張られていますが、上向きに糸の力\(T_a\)と板が押す力\(N\)で支えられています。力のつり合いから「\(N + T_a = mg\)」となります。ここに先ほど計算した\(T_a\)の値を代入すると、\(N + \frac{3}{5}mg = mg\)となり、これを解くと\(N = \frac{2}{5}mg\)が求まります。
おもりaが板から受ける垂直抗力の大きさは \(\displaystyle\frac{2}{5}mg\) です。
この問題のように、複数の物体が関係するつり合いの問題では、どの物体に注目し、どの法則を適用するかを一つ一つ明確にすることが重要です。計算結果が正の値で得られたことから、板がおもりaを上向きに押しているという状況と矛盾せず、物理的に妥当な解であると言えます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 静力学の二大原理:「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」
- 核心: この問題は、静止している物体群を扱っており、その状態を記述する2つの基本法則を的確に使い分けることが核心です。
- 理解のポイント:
- 力のつり合い(力の和が0): 物体が並進運動しない(上下左右に動かない)ための条件。おもりa, bのような、回転を考えない(または考える必要がない)物体に適用します。
- 力のモーメントのつり合い(モーメントの和が0): 物体が回転運動しないための条件。棒のような、大きさがあり回転する可能性のある剛体に適用します。
- 複数物体系の分析アプローチ
- 核心: 複数の物体が相互作用している系では、系全体を一度に考えるのではなく、個々の物体に「注目」し、それぞれに物理法則を適用していくという考え方が不可欠です。
- 理解のポイント:
- 物体間の力の伝達: 糸の張力や接触面の垂直抗力などが、物体間をつなぐ「橋渡し」の役割を果たします。ある物体のつり合いから求めた力を、別の物体のつり合いの式に代入していくことで、問題が解けていきます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 複数の剛体を組み合わせた問題: 2枚の板を重ねて壁に立てかける問題や、複数の棒を蝶番でつないだ構造物の問題など。
- 滑車と棒を組み合わせた問題: 滑車を介して棒におもりがつるされているような、張力とモーメントが複雑に絡む問題。
- 浮力とモーメントのつり合い: 水に浮かべた棒の一部におもりを乗せたとき、棒が傾かずに水平を保つ条件を求める問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 系を分解する: まず、問題を構成する物体(おもりa, おもりb, 棒)をリストアップし、それぞれを独立した分析対象として捉えます。
- 逆算で計画を立てる: 最終目標(垂直抗力\(N\))を確認し、「\(N\)を求めるには、おもりaのつり合いを考えればよい」→「そのためには張力\(T_a\)が必要だ」→「\(T_a\)を求めるには、棒のモーメントのつり合いを考えればよい」→「そのためには張力\(T_b\)が必要だ」→「\(T_b\)は、おもりbのつり合いから求まる」というように、ゴールから逆算して解法の道筋を設計します。
- 力の伝達役を探す: 物体と物体をつないでいる「糸」や「接触面」に着目します。これらの点にはたらく張力や抗力が、連立方程式を解く上での鍵となります。
- 支点の戦略的選択: モーメントのつり合いを考える際、どの点を支点(回転の中心)に選ぶかが重要です。未知の力がはたらく点(今回は棒を支える中心の糸の張力)や、力が集中する点を支点に選ぶと、その力のモーメントが0になり、式がシンプルになります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 注目する物体のごちゃ混ぜ:
- 誤解: 棒のモーメントのつり合いを考える際に、おもりの重力\(mg\)や\(3mg\)を直接、棒にはたらく力として式に入れてしまう。
- 対策: 必ず「注目している物体にはたらく力」だけを図示する(フリーボディダイアグラムを描く)習慣をつけます。棒にはたらく力は、あくまで糸の張力\(T_a\)と\(T_b\)です。重力は糸を介して間接的に影響を与えている、と理解することが重要です。
- 張力と重力の混同:
- 誤解: おもりaにはたらく張力\(T_a\)が、その重力\(mg\)と等しいと早合点してしまう。
- 対策: おもりaにはたらく力をすべてリストアップします。「重力\(mg\)」「張力\(T_a\)」「垂直抗力\(N\)」の3つがあることを確認すれば、単純に\(T_a = mg\)とはならないことに気づけます。
- 力の比と腕の長さの比の混同:
- 誤解: てこの原理で、腕の長さが5倍だから力も5倍(または1/5)と安易に考えてしまい、比を逆にしてしまう(\(T_a = 5T_b\)など)。
- 対策: 必ず \(T_a \times OA = T_b \times OB\) という基本のつり合い式を立ててから、代入・式変形を行います。\(T_a = T_b \times \displaystyle\frac{OB}{OA}\) となり、力と腕の長さは「逆比」の関係にあることを毎回確認します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合い(力の和が0):
- 選定理由: おもりa, bは、その運動を考える上で回転を考慮する必要がない「質点」として扱えます。質点が静止している(並進運動の加速度が0)ための条件は、ニュートンの運動方程式 \(ma=F\) において \(a=0\) となること、すなわち合力\(F\)が0になることです。
- 適用根拠: おもりa, bは静止しているので、それぞれにはたらく力のベクトル和は0になります。
- 力のモーメントのつり合い(モーメントの和が0):
- 選定理由: 棒は大きさを持つ「剛体」であり、回転する可能性があります。剛体が静止している(回転運動の角加速度が0)ための条件は、回転の運動方程式 \(I\alpha = M\) において \(\alpha=0\) となること、すなわち合モーメント\(M\)が0になることです。
– 適用根拠: 棒は水平を保って静止しているので、どの点のまわりの力のモーメントの和も0になります。特に、未知の力(天井からつるす糸の張力)がはたらく中心Oを支点に選ぶことで、その未知数を計算から排除でき、効率的に解を導けます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の活用: \(T_b=3mg\) のように、計算の最後まで具体的な数値を代入せず、文字式のまま計算を進める習慣をつけましょう。式が簡潔になり、関係性が見やすくなるため、ミスが減ります。
- 比の分数化: \(OA = 5 \times OB\) という条件は、式変形の際に \(\displaystyle\frac{OB}{OA} = \frac{1}{5}\) のように分数で扱うと、代入がスムーズに行え、計算ミスを防ぎます。
- 分数の計算: \(mg – \displaystyle\frac{3}{5}mg\) のような計算は、\(mg \left(1 – \frac{3}{5}\right)\) のように共通因数でくくってから計算すると、通分などの計算が楽になり、ミスを減らせます。
- 段階的な検算: \(T_b\), \(T_a\), \(N\) と計算を進める各ステップで、求めた値が物理的に妥当か(例えば、張力や垂直抗力が負の値になっていないか)を簡単に確認する癖をつけると、早い段階で間違いに気づくことができます。
22 針金の重心
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「剛体の重心の計算」です。複雑な形状の物体の重心を、計算しやすい単純な部分に分割し、それらを合成することで求める方法を学びます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 重心の定義: 重心とは、物体にはたらく重力の合力の作用点のことです。その点で物体を支えれば、物体は回転せずにつり合います。
- 分割思考: L字型のような複雑な形状を、重心の位置が明らかな単純な形状(この場合は2つの直線部分)に分割して考えます。
- 重心の公式: 複数の質点からなる物体系の重心は、各質点の質量で重み付けした座標の平均値として計算できます。
- 一様な物体の質量: 針金が一様な材質であるため、その質量は長さに比例します。これを利用して、各部分の質量比を求めます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- L字型の針金を、y軸上のOA部分とx軸上のOB部分の2つに分割します。
- 一様な針金なので、各部分の重心はその中点にあると考えます。また、質量は長さに比例することから、線密度を導入して各部分の質量を文字で表します。
- 2つの部分をそれぞれ質点とみなし、重心の公式を用いて全体の重心座標を計算します。
思考の道筋とポイント
この問題は、重心の座標を求める公式を正しく使えるかが問われます。まず、L字型の針金を、重心位置が簡単にわかる2つの直線部分OAとOBに分割します。一様な棒の重心はその中点にあるため、OA部分の重心G1とOB部分の重心G2の座標はすぐに特定できます。
次に、各部分の質量を求めます。針金は一様なので、質量は長さに比例します。単位長さあたりの質量(線密度)を\(\rho\)と設定すると、OA部分の質量は\(1.2\rho\)、OB部分の質量は\(2.4\rho\)と表せます。
これで、座標(0, 0.60)に質量\(1.2\rho\)の質点と、座標(1.2, 0)に質量\(2.4\rho\)の質点がある、という2質点系の問題に置き換えることができました。あとは、この2質点の重心を公式で計算します。
この設問における重要なポイント
- 複雑な形状を、重心が既知の単純な部分に分割する。
- 一様な物体の重心はその図心(幾何学的な中心)にあり、質量は長さ(面積、体積)に比例する。
- 重心の公式をx座標、y座標それぞれに適用する。
具体的な解説と立式
L字型の針金を、OA部分とOB部分の2つに分けて考えます。針金は一様なので、単位長さあたるの質量(線密度)を \(\rho \, [\text{kg/m}]\) とします。
1. OA部分について
- 長さ: \(L_1 = 1.2 \, \text{m}\)
- 質量: \(m_1 = \rho L_1 = 1.2\rho\)
- 重心G1の位置: OAの中点なので、座標は \((x_1, y_1) = (0, 0.60)\)
2. OB部分について
- 長さ: \(L_2 = 2.4 \, \text{m}\)
- 質量: \(m_2 = \rho L_2 = 2.4\rho\)
- 重心G2の位置: OBの中点なので、座標は \((x_2, y_2) = (1.2, 0)\)
物体全体の重心Gの座標を \((x_G, y_G)\) とすると、重心の公式より、
x座標 \(x_G\):
$$ x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2} $$
y座標 \(y_G\):
$$ y_G = \frac{m_1 y_1 + m_2 y_2}{m_1 + m_2} $$
使用した物理公式
- 重心の座標:
$$ x_G = \frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots} $$
$$ y_G = \frac{m_1y_1 + m_2y_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots} $$
上で立てた式に、具体的な値を代入して計算します。
x座標 \(x_G\) の計算:
$$
\begin{aligned}
x_G &= \frac{(1.2\rho) \times 0 + (2.4\rho) \times 1.2}{1.2\rho + 2.4\rho} \\[2.0ex]&= \frac{2.4\rho \times 1.2}{3.6\rho} \\[2.0ex]&= \frac{2.88}{3.6} \\[2.0ex]&= 0.80 \, [\text{m}]\end{aligned}
$$
y座標 \(y_G\) の計算:
$$
\begin{aligned}
y_G &= \frac{(1.2\rho) \times 0.60 + (2.4\rho) \times 0}{1.2\rho + 2.4\rho} \\[2.0ex]&= \frac{1.2\rho \times 0.60}{3.6\rho} \\[2.0ex]&= \frac{0.72}{3.6} \\[2.0ex]&= 0.20 \, [\text{m}]\end{aligned}
$$
線密度\(\rho\)は計算の途中で約分されて消えることがわかります。
L字の針金を「縦の棒(OA)」と「横の棒(OB)」の2つに分けます。それぞれの棒の重心は、ちょうど真ん中の点です。
- 縦の棒の重心は (0, 0.6) の位置。
- 横の棒の重心は (1.2, 0) の位置。
また、棒の重さは長さに比例するので、重さの比は「縦 : 横 = 1.2 : 2.4 = 1 : 2」となります。
全体の重心は、この2つの重心の「重さを考慮した平均の位置」になります。これを計算するのが重心の公式です。重い横の棒の方に、より近く位置することになります。
物体AOBの重心の座標は \((0.80 \, \text{m}, 0.20 \, \text{m})\) です。
OB部分(質量比2)はOA部分(質量比1)より重いので、重心がOB側に寄ったx座標(\(0.80\))、OA側に寄ったy座標(\(0.20\))という結果は直感的にも妥当です。重心は必ずしも物体の上にあるとは限らず、このL字型のように物体のない空間に位置することもあります。
思考の道筋とポイント
全体の重心Gは、各部分の重心G1とG2にはたらく重力の合力の作用点です。G1とG2にはたらく重力は、互いに平行です。平行な2力の合力の作用点は、2点を結ぶ線分を力の大きさの「逆比」に内分する点になる、という性質を利用します。
この設問における重要なポイント
- 平行な2力の合力の作用点は、力の大きさの逆比に内分する点である。
- 重力の比は質量の比に等しく、今回は長さの比に等しい。
- 内分点の座標を求める公式を利用する。
具体的な解説と立式
OA部分の重心G1にはたらく重力の大きさを\(W_1\)、OB部分の重心G2にはたらく重力の大きさを\(W_2\)とします。
重力の大きさは質量に比例し、質量は長さに比例するので、
$$ W_1 : W_2 = m_1 : m_2 = 1.2 : 2.4 = 1 : 2 $$
全体の重心Gは、線分G1G2を、力の大きさの逆比、すなわち \(2:1\) に内分する点になります。
G1の座標は \((x_1, y_1) = (0, 0.60)\)、G2の座標は \((x_2, y_2) = (1.2, 0)\) です。
内分点の公式より、
x座標 \(x_G\):
$$ x_G = \frac{1 \cdot x_1 + 2 \cdot x_2}{2+1} $$
y座標 \(y_G\):
$$ y_G = \frac{1 \cdot y_1 + 2 \cdot y_2}{2+1} $$
使用した物理公式
- 平行な力の合成(合力の作用点の位置)
- 内分点の座標の公式
x座標 \(x_G\) の計算:
$$
\begin{aligned}
x_G &= \frac{1 \times 0 + 2 \times 1.2}{3} \\[2.0ex]&= \frac{2.4}{3} \\[2.0ex]&= 0.80 \, [\text{m}]\end{aligned}
$$
y座標 \(y_G\) の計算:
$$
\begin{aligned}
y_G &= \frac{1 \times 0.60 + 2 \times 0}{3} \\[2.0ex]&= \frac{0.60}{3} \\[2.0ex]&= 0.20 \, [\text{m}]\end{aligned}
$$
縦の棒(OA)と横の棒(OB)の重さの比は「1 : 2」です。全体の重心は、それぞれの棒の重心(真ん中の点)を結んだ直線を、重さの逆の比である「2 : 1」に分ける点になります。これは、シーソーで体重が1:2の人がつり合うとき、支点からの距離が2:1になるのと同じ原理です。
重心の座標は \((0.80 \, \text{m}, 0.20 \, \text{m})\) となり、重心の公式を用いた方法と一致します。この方法は、特に2つの部分に分ける場合に、物理的なイメージがしやすく直感的に計算できます。
思考の道筋とポイント
「重心」の定義は「その点で物体を支えれば、重力による力のモーメントがつり合う点」です。この定義から、任意の点のまわりで「各部分にはたらく重力のモーメントの和」と「全体の重心に全重力がはたらくと考えたときのモーメント」が等しくなる、という関係が導かれます。これを利用して重心を求めます。この方法は、重心の公式の導出そのものです。
この設問における重要なポイント
- モーメントのつり合いの考え方: (各部分のモーメントの和) = (全体のモーメント)
- モーメントの基準点として、計算がしやすい原点Oを選ぶ。
具体的な解説と立式
原点Oのまわりの力のモーメントを考えます。
全体の質量は \(M = m_1 + m_2\)、全体の重心の座標を \((x_G, y_G)\) とします。
x座標 \(x_G\) の決定:
各部分にはたらく重力 \(m_1 g\) と \(m_2 g\) によるモーメントの和は、全重力 \(Mg\) が重心 \(x_G\) にはたらいたときのモーメントと等しくなります。(ここでは、y軸を回転軸と考え、x座標を腕の長さと見なします。)
$$ (m_1 g) \cdot x_1 + (m_2 g) \cdot x_2 = (M g) \cdot x_G $$
両辺を \(g\) で割ると、
$$ m_1 x_1 + m_2 x_2 = (m_1 + m_2) x_G $$
y座標 \(y_G\) の決定:
同様に、x軸を回転軸と考え、y座標を腕の長さと見なします。
$$ (m_1 g) \cdot y_1 + (m_2 g) \cdot y_2 = (M g) \cdot y_G $$
両辺を \(g\) で割ると、
$$ m_1 y_1 + m_2 y_2 = (m_1 + m_2) y_G $$
これらの式を \(x_G\), \(y_G\) について解くと、最初の解法で用いた重心の公式と全く同じ形になります。
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\)
- モーメントの合成則
導かれた式は重心の公式と同一であるため、計算過程と結果は最初の解法と全く同じになります。
$$ x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2} = 0.80 \, [\text{m}] $$
$$ y_G = \frac{m_1 y_1 + m_2 y_2}{m_1 + m_2} = 0.20 \, [\text{m}] $$
もし原点OでこのL字の針金を支えようとすると、針金は重力で回転してしまいます。この回転させる力(モーメント)は、縦の棒によるものと横の棒によるものの合計です。この合計の回転力は、「もし全体の重さが重心の一点にかかっていたとしたら」生じる回転力と等しくなります。この関係を使うと、重心の位置を逆算することができます。
重心の座標は \((0.80 \, \text{m}, 0.20 \, \text{m})\) となり、他の解法と一致します。この方法は、重心の公式が力のモーメントのつり合いから導かれることを示しており、公式の物理的な意味を深く理解するのに役立ちます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 重心の概念とその計算方法
- 核心: 重心とは、物体の各部分にはたらく重力の合力の作用点であり、その位置は「質量による重み付き平均」で計算できるという概念を理解することが全てです。
- 理解のポイント:
- 分割思考: 複雑な形状の物体でも、重心位置が既知の単純な部分(一様な棒なら中点)に分割することで、計算可能な問題に落とし込めます。
- 重心の公式: \(x_G = \displaystyle\frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\) という公式は、単なる数学の公式ではなく、「力のモーメントのつり合い」という物理法則から導出されたものであることを理解することが重要です。
- 質量と形状の関係: 「一様な」という言葉は、質量が長さ(または面積、体積)に比例することを意味します。これにより、具体的な質量が与えられていなくても、長さの比から質量の比を求めて計算を進めることができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 板の重心: L字型やT字型、コの字型などの板の重心を求める問題。棒(線)が板(面)に変わるだけで、考え方は同じです。各部分の質量が「面積」に比例すると考えます。
- 穴のあいた板の重心: 円盤から小さな円をくり抜いたような物体の重心を求める問題。「くり抜く」という操作を、「マイナスの質量」を持つ物体を重ね合わせると考えるのがテクニックです。
- 立体物の重心: 直方体を組み合わせたL字型のブロックなど、3次元の物体の重心を求める問題。z座標についても同様に計算します。各部分の質量は「体積」に比例します。
- 初見の問題での着眼点:
- 分割ラインを探す: まず、与えられた複雑な形状を、長方形や円、三角形といった、重心位置が公式で分かっている(または簡単に求められる)単純な図形にどう分割できるかを探します。
- 座標軸を設定する: 計算を簡単にするため、物体の角や対称軸が座標軸と重なるように、自分で座標軸を設定します。
- 各部分の「重心座標」と「質量(またはその比)」をリストアップする: 分割した各部分について、その重心の座標と、質量(または長さ・面積・体積の比)を表にまとめると、思考が整理され、計算ミスを防げます。
- 公式に代入する: リストアップした値を、x座標、y座標それぞれについて重心の公式に丁寧に代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 質量と長さの混同:
- 誤解: 重心の公式の \(m_1, m_2\) に、質量の代わりに長さ \(1.2, 2.4\) をそのまま代入してしまう。(この問題では結果的に同じになりますが、線密度が異なる場合は間違いになります。)
- 対策: 質量は \(m = \rho L\) のように、線密度\(\rho\)と長さ\(L\)の積であることを意識し、常に質量で計算する癖をつけます。これにより、密度が異なる物体を組み合わせた問題にも対応できます。
- 部分の重心座標のミス:
- 誤解: OA部分の重心のy座標を、長さそのものである \(1.2\) と勘違いしてしまう。
- 対策: 「一様な棒の重心は中点にある」という基本を徹底します。OAの長さが\(1.2\)なら、その中点のy座標は\(0.6\)です。図に各部分の重心(G1, G2)をプロットし、座標を書き込むとミスが減ります。
- x座標とy座標の取り違え:
- 誤解: \(x_G\) の計算式にy座標の値を、\(y_G\) の計算式にx座標の値を代入してしまう。
- 対策: x座標とy座標の計算は、完全に独立したものとして、一つずつ分けて計算します。計算前に「\(x_G\)の計算」と見出しをつけ、x座標に関する値だけを使うように意識を集中させます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 重心の座標の公式 (\(x_G = \displaystyle\frac{m_1x_1 + m_2x_2 + \dots}{m_1+m_2+\dots}\)):
- 選定理由: この問題は、複数の部分から構成される合成物体の「重心」を求めることが目的です。この公式は、そのものずばり重心の位置を計算するために定義されたものです。
- 適用根拠(物理的背景): この公式は「力のモーメントのつり合い」から導かれます。原点のまわりのモーメントを考えると、「各部分の重力によるモーメントの和」\((m_1 g x_1 + m_2 g x_2 + \dots)\) は、「全体の重心に全重力がかかるときのモーメント」\(((m_1+m_2+\dots)g x_G)\) と等しくなります。この等式 \((m_1 g x_1 + m_2 g x_2) = (m_1+m_2)g x_G\) の両辺から \(g\) を消去すると、重心の公式が得られます。つまり、この公式を使うことは、間接的に力のモーメントのつり合いを計算していることと同じなのです。別解で示した「平行な2力の合成」も、力のモーセントのつり合いから導かれる性質であり、すべては同じ物理法則に基づいています。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 線密度\(\rho\)の扱い: 計算の途中で約分されて消えることが分かっていても、最初は\(\rho\)を含んだ式を立てるのが丁寧です。これにより、なぜ長さの比だけで計算できるのかを論理的に理解できます。
- 分数の計算: \(x_G = \displaystyle\frac{2.88\rho}{3.6\rho}\) のような計算では、まず\(\rho\)を約分します。小数の割り算は、分母・分子を100倍して \(\displaystyle\frac{288}{360}\) のように整数にしてから約分するとミスが減ります。\(288 = 144 \times 2\), \(360 = 144 \times 2.5\) のように共通の約数を見つけるのも手です。
- 座標の代入ミス防止: \(x_G = \displaystyle\frac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2}\) の式に代入する際、\(m_1=1.2\rho, x_1=0\), \(m_2=2.4\rho, x_2=1.2\) のように、対応する値をセットで確認しながら代入する。
- 直感による検算: 計算後、求まった重心の座標 \((0.80, 0.20)\) を図にプロットしてみます。OA部分(質量比1)とOB部分(質量比2)の間にあり、より重いOB部分に近い位置にあることが確認でき、大きな間違いがないことを直感的に検証できます。
23 円板の重心
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「穴のあいた物体の重心」の計算です。一様な物体から一部を切り取った後の重心を求める問題で、複数の考え方でアプローチできる典型問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 重心の概念: 物体にはたらく重力の合力の作用点です。
- 分割と合成の思考: 複雑な物体を単純な部分に分け、それらの重心を合成して全体の重心を求めます。
- 「補完」の考え方: 「残りの部分」と「切り取った部分」を合わせると「元の物体」に戻る、という関係を利用します。
- 「マイナス質量」の考え方: 物体から一部を切り取ることを、マイナスの質量を持つ物体を重ね合わせることと等価と見なすテクニックです。
- 質量と面積の関係: 一様な板では、質量はその面積に比例します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 「残りの部分」と「切り取った部分」という2つの物体を考えます。
- この2つの物体を合成すると、重心が中心Oである元の完全な円板になります。
- この関係を利用して、「2つの部分の合成重心がOになる」という条件から、力のモーメントのつり合いの式や、重心の公式を立てて解きます。
思考の道筋とポイント
穴のあいた物体の重心を直接計算するのは困難です。そこで、「残りの部分」と「切り取った部分」を合体させると「元の完全な円板」になる、という逆のプロセスを考えます。
「残りの部分」と「切り取った部分」は、それぞれ独立した物体と見なせます。この2つの物体の合成重心が、元の円板の中心Oに一致するはずです。この条件を利用して、未知数であるOG間の距離\(L\)を求めます。
まず、各部分の質量を面積比から求め、それぞれの重心位置を確認することから始めます。
この設問における重要なポイント
- 「残り」+「切り取り」=「全体」という合成の考え方を用いる。
- 質量は面積に比例する。円の面積は半径の2乗に比例する。
- 2つの部分の合成重心が、全体の重心(点O)になることを利用する。
具体的な解説と立式
1. 質量と重心位置の整理
元の円板の質量を\(M\)とします。一様な円板なので、質量は面積に比例します。
- 元の円板: 半径\(r\)、面積 \(S_0 = \pi r^2\)、質量 \(M\)、重心 O
- 切り取った円板: 半径 \(r/4\)、面積 \(S_C = \pi (r/4)^2 = \pi r^2 / 16 = S_0/16\)。
- 質量 \(m_C = M/16\)。
- 重心 C。Oからの距離は \(OC = r – r/4 = 3r/4\)。
- 残りの部分:
- 質量 \(m_G = M – m_C = M – M/16 = 15M/16\)。
- 重心 G。Oからの距離を\(L\)とする。
2. 合成重心の考え方
「残りの部分(質量\(m_G\)、重心G)」と「切り取った円板(質量\(m_C\)、重心C)」の2つの物体を考えると、その合成重心は「元の円板の重心O」に一致します。
これは、点Oが線分GCを質量の逆比 \(m_C : m_G\) に内分する点であることを意味します。
質量の比は、
$$ m_C : m_G = \frac{1}{16}M : \frac{15}{16}M = 1 : 15 $$
したがって、Oは線分GCを \(15:1\) の逆比、すなわち \(1:15\) に内分します。
これにより、距離の比について次の関係が成り立ちます。
$$ OG : OC = 1 : 15 $$
求める距離は \(OG = L\)、また \(OC = 3r/4\) なので、
$$ L : \frac{3r}{4} = 1 : 15 $$
使用した物理公式
- 平行な力の合成(合力の作用点の位置)
比の式から\(L\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
15 \times L &= 1 \times \frac{3r}{4} \\[2.0ex]L &= \frac{3r}{4 \times 15} \\[2.0ex]L &= \frac{r}{20}
\end{aligned}
$$
この問題を、重さの違う2人が乗ったシーソーと考えます。
- 「残りの部分」さん(重さ15)と、「切り取った部分」さん(重さ1)がいます。
- この2人が乗ったシーソーが、ちょうど元の円の中心Oでつり合っている状態です。
- 「切り取った部分」さんの重心Cは、支点Oから \(3r/4\) の距離にいます。
- つり合うためには、距離の比が重さの逆比(1:15)になる必要があります。
- 「残りの部分」さんの距離を\(L\)とすると、\(L : (3r/4) = 1 : 15\) という関係が成り立ちます。これを解くと答えが求まります。
OG間の距離は \(\displaystyle\frac{r}{20}\) です。
円板の右側を切り取ったので、重心が左側にずれるという結果は直感的にも正しく、またそのずれは比較的小さい値であり、物理的に妥当な結果と言えます。
思考の道筋とポイント
「残りの部分」と「切り取った部分」の合成重心がOになる、という事実は、点Oのまわりで2つの部分にはたらく重力のモーメントがつり合っていることを意味します。このつり合いの式を直接立てて解く方法です。
この設問における重要なポイント
- モーメントの基準点として、全体の重心であるOを選ぶ。
- (反時計回りモーメント)=(時計回りモーメント)の式を立てる。
具体的な解説と立式
点Oを回転の中心とします。
- 残りの部分(質量 \(15M/16\))にはたらく重力は、Oの左側\(L\)の距離にある重心Gにはたらき、反時計回りのモーメントを生じさせます。
$$ M_G = \left(\frac{15}{16}M\right)g \times L $$ - 切り取った部分(質量 \(M/16\))にはたらく重力は、Oの右側\(3r/4\)の距離にある重心Cにはたらき、時計回りのモーメントを生じさせます。
$$ M_C = \left(\frac{1}{16}M\right)g \times \frac{3r}{4} $$
モーメントのつり合いより、\(M_G = M_C\) なので、
$$ \frac{15}{16}Mg \times L = \frac{1}{16}Mg \times \frac{3r}{4} $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\)
- 力のモーメントのつり合い
つり合いの式の両辺から共通の項 \((M/16)g\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
15 L &= \frac{3r}{4} \\[2.0ex]L &= \frac{3r}{4 \times 15} \\[2.0ex]L &= \frac{r}{20}
\end{aligned}
$$
結果はメインの解法と一致します。この方法は、力のモーメントという物理法則に直接基づいており、非常に明快な解法です。
思考の道筋とポイント
「穴をあける」という操作を、「マイナスの質量を持つ物体を重ねる」と解釈するテクニックです。「元の完全な円板」と「マイナス質量の切り取った円板」を合成すると、「穴のあいた残りの部分」になると考え、重心の公式を適用します。
この設問における重要なポイント
- マイナス質量の考え方を適用する。
- 重心の公式を機械的に利用する。
具体的な解説と立式
ABを通る直線をx軸とし、原点をOとします。求める重心Gの座標を\(x_G\)とします。
- 物体1: 元の円板。質量 \(m_1 = M\)、重心座標 \(x_1 = 0\)。
- 物体2: 切り取った円板(マイナス質量と考える)。質量 \(m_2 = -M/16\)、重心座標 \(x_2 = 3r/4\)。
この2つの物体を合成したものが「残りの部分」なので、その重心\(x_G\)は重心の公式で計算できます。
$$ x_G = \frac{m_1 x_1 + m_2 x_2}{m_1 + m_2} $$
使用した物理公式
- 重心の座標の公式
公式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
x_G &= \frac{M \times 0 + \left(-\displaystyle\frac{M}{16}\right) \times \left(\displaystyle\frac{3r}{4}\right)}{M + \left(-\displaystyle\frac{M}{16}\right)} \\[2.0ex]&= \frac{-\displaystyle\frac{3Mr}{64}}{\displaystyle\frac{15M}{16}} \\[2.0ex]&= -\frac{3Mr}{64} \times \frac{16}{15M} \\[2.0ex]&= -\frac{3r \times 1}{4 \times 15} \\[2.0ex]&= -\frac{r}{20}
\end{aligned}
$$
重心の座標が \(-r/20\) なので、Oからの距離\(L\)は \(|x_G| = r/20\) となります。
結果は他の解法と一致します。マイナス質量の考え方は、一見すると奇妙に思えるかもしれませんが、穴あき物体の重心計算において非常に強力で機械的な計算を可能にするテクニックです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 重心の合成と分解(補完の考え方)
- 核心: 穴のあいた物体の重心を求める問題の核心は、「(残りの部分)+(切り取った部分)=(元の全体)」という関係を利用することです。これは、重心計算における「補完」あるいは「足し算・引き算」の考え方です。
- 理解のポイント:
- 2つの物体の合成重心が既知である場合、片方の物体の重心位置から、もう一方の物体の重心位置を逆算できる、という点がポイントです。
- この考え方は、力のモーメントのつり合い、内分点の公式、マイナス質量のテクニックなど、すべての解法の根底に流れる共通の思想です。
- 質量と面積の比例関係
- 核心: 「一様な」円板という条件から、質量が面積に比例することを見抜くことが不可欠です。
- 理解のポイント:
- 円の面積は半径の2乗に比例します(\(S = \pi r^2\))。したがって、質量比は半径の比ではなく、半径の2乗の比になります。この問題では、元の円板と切り取った円板の半径比が \(r : r/4 = 4:1\) なので、面積比(=質量比)は \(4^2 : 1^2 = 16:1\) となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 様々な形状の穴あき問題: 正方形の板から三角形をくり抜いた場合など。基本的な考え方は同じで、「元の図形の重心と質量」と「くり抜いた図形の重心と質量」を正確に求めることが鍵となります。
- 異なる材質の組み合わせ: 半円の鉄板と半円のアルミ板を貼り合わせた物体の重心など。この場合、質量比は面積比だけでなく、密度の比も考慮する必要があります。
- 立体の重心: 円柱から円錐をくり抜いた物体の重心など。質量が体積に比例すると考え、3次元で重心を計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- 「補完」の関係を見つける: 「何」と「何」を合わせれば、重心が分かりやすい「きれいな形」になるかを見抜きます。
- 座標軸を戦略的に設定する: 物体の対称軸を座標軸に合わせると、計算する座標成分が一つ減り、楽になります。この問題では、中心線ABをx軸とすることで、y座標の計算が不要になります。
- 各パーツの「質量比」と「重心座標」をリストアップする: 「元の全体」「切り取った部分」「残りの部分」の3者について、質量(またはその比)と重心の座標を表にまとめると、思考が整理され、どの解法を使うにしても役立ちます。
- 解法を選択する:
- 直感的なイメージを重視するなら「内分点の公式(シーソーモデル)」。
- 物理法則に忠実に立式するなら「力のモーメントのつり合い」。
- 機械的に計算したい、より複雑な問題に応用したいなら「重心の公式(マイナス質量)」。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 質量比の計算ミス:
- 誤解: 半径の比が \(4:1\) なので、質量比も \(4:1\) だと勘違いする。
- 対策: 質量は「面積」に比例し、面積は「半径の2乗」に比例することを徹底します。\(m \propto S \propto r^2\)。したがって、質量比は \(4^2 : 1^2 = 16:1\) となります。
- 重心の座標の計算ミス:
- 誤解: 切り取った円板の重心Cの位置を、原点Oから測るのを忘れ、単に \(r/4\) などとしてしまう。
- 対策: 必ず図を描き、すべての距離を一つの基準点(この場合はO)から測るようにします。Cの座標は \(x_C = r – r/4 = 3r/4\) であることを正確に把握します。
- 内分比の取り違え:
- 誤解: 質量の比が \(m_G : m_C = 15:1\) なので、距離の比も \(OG:OC = 15:1\) だと思ってしまう。
- 対策: 「距離の比は、質量の逆比になる」と覚えます。シーソーで重い人(残りの部分)は支点Oの近くに、軽い人(切り取った部分)は遠くにいるはずです。したがって、\(OG:OC = m_C : m_G = 1:15\) となります。
- マイナス質量の扱い:
- 誤解: 重心の公式の分母を計算する際に、マイナスを忘れて \(M + M/16\) と足してしまう。
- 対策: 「マイナスの質量を持つ物体を重ねる」という定義に忠実に、\(m_2 = -M/16\) と設定し、分母も \(m_1+m_2 = M + (-M/16)\) と、符号を含めて計算することを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のモーメントのつり合い(別解1):
- 選定理由: 「(残りの部分)+(切り取った部分)」の合成重心がOになる、という物理的状況を最も直接的に表現する法則だからです。
- 適用根拠: 合成後の物体(元の円板)は、その重心Oで支えればつり合います。これは、O点のまわりで「残りの部分が作るモーメント」と「切り取った部分が作るモーメント」が大きさが等しく逆向きで、打ち消し合っていることを意味します。このつり合いの式を立てるのが、この解法の本質です。
- 重心の公式(別解2、マイナス質量):
- 選定理由: これは、力のモーメントのつり合いを一般化し、より機械的な計算を可能にした数学的なツールです。
- 適用根拠: 重心の定義式 \(x_G = \frac{m_1x_1 + m_2x_2}{m_1+m_2}\) は、加法性を持っています。この性質を形式的に拡張し、「物体を取り除く」という操作を「マイナスの質量を持つ物体を加える」という操作に置き換えることで、穴あき問題にもこの強力な公式を適用できるようになります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 質量比を整数比で扱う: 質量を \(15M/16\) や \(M/16\) と分数で扱うよりも、質量比が \(15:1\) であることを利用し、質量を \(15m, m\) のように簡単な整数の比で置くと、計算が楽になりミスが減ります。
- 共通項の消去: モーメントのつり合いの式を立てた際、両辺に共通する \(M, g, 1/16\) などの項は、計算を始める前に約分して消去すると、式が非常にシンプルになります。
- 繁分数の処理: 別解2のような繁分数の計算では、分母と分子に同じ数を掛けて分母を払うと、計算が簡単になります。例えば、\(\displaystyle\frac{-3Mr/64}{15M/16}\) の分母・分子に64を掛けると、\(\displaystyle\frac{-3Mr}{15M \times 4}\) となり、見通しが良くなります。
- 結果の物理的吟味: 計算結果 \(L=r/20\) が出たら、それが物理的に妥当か考えます。「円板の右側を切り取ったのだから、重心は左にずれるはず(OK)」「切り取った質量は全体の1/16と小さいので、重心のずれも小さいはず(\(r/20\)は小さいのでOK)」といった簡単なチェックで、大きな間違いを防げます。
24 棒の重心
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力のモーメントのつり合い」を利用した、未知の質量と重心の位置の決定です。一様でない棒について、2つの異なる状況から連立方程式を立てて解く、という応用的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のモーメントのつり合い: 物体が回転し始める直前では、任意の点のまわりの力のモーメントの和はゼロになります。
- 支点の選定: 片方の端を持ち上げる場合、もう片方の端が回転の中心(支点)となります。
- 連立方程式: 未知数が「質量\(m\)」と「重心の位置\(x\)」の2つあるため、独立した2つの条件式を立てて解く必要があります。
- 平行な2力の合成: 2つの力で物体を支える状況は、2力の合力が物体の重力とつり合っていると考えることもできます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 棒の質量を\(m\)、A端から重心までの距離を\(x\)と、2つの未知数を設定します。
- 「B端を持ち上げる直前」の状況を考え、A端を支点とした力のモーメントのつり合いの式を立てます。
- 「A端を持ち上げる直前」の状況を考え、B端を支点とした力のモーメントのつり合いの式を立てます。
- 得られた2つの式を連立方程式として解き、\(m\)と\(x\)を求めます。
思考の道筋とポイント
この問題では、棒の質量\(m\)と、A端からの重心の位置\(x\)という2つの未知数を求める必要があります。未知数が2つなので、独立した条件式が2本必要になります。問題文で与えられている「A端を持ち上げるのに必要な力」と「B端を持ち上げるのに必要な力」という2つの情報が、それぞれ条件式に対応します。
「〜より大きい力が必要」という表現は、「その力の大きさで、棒がちょうど持ち上がる直前になる」と解釈します。この「直前」の状態は、力のモーメントがつり合っている状態と見なせます。
- B端を持ち上げる状況: B端に\(29.4\,\text{N}\)の力を加えると、棒はA端を支点として回転しようとします。このとき、A端のまわりで「重力によるモーメント」と「持ち上げる力によるモーメント」がつり合います。
- A端を持ち上げる状況: A端に\(19.6\,\text{N}\)の力を加えると、棒はB端を支点として回転しようとします。このとき、B端のまわりで「重力によるモーメント」と「持ち上げる力によるモーメント」がつり合います。
この2つのつり合いの式を立てることで、未知数\(m\)と\(x\)に関する連立方程式が得られます。
この設問における重要なポイント
- 未知数を質量\(m\)と重心位置\(x\)の2つに設定する。
- 「A端を持ち上げる」「B端を持ち上げる」という2つの状況について、それぞれ力のモーメントのつり合いの式を立てる。
- 片方の端を持ち上げる時、もう片方の端が支点になることを理解する。
- 重力の大きさは \(mg = m \times 9.8\) として計算する。
具体的な解説と立式
棒の質量を\(m \, [\text{kg}]\)、A端から重心までの距離を\(x \, [\text{m}]\)とします。棒にはたらく重力の大きさは \(mg = 9.8m \, [\text{N}]\) です。
1. B端を持ち上げる直前のつり合い
B端に上向きの力 \(F_B = 29.4\,\text{N}\) を加えるとき、支点はA端になります。A端のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。
- 重力\(9.8m\)による時計回りのモーメント: \( (9.8m) \times x \)
- 力\(F_B\)による反時計回りのモーメント: \( 29.4 \times 5.0 \)
つり合いの式は、
$$ 29.4 \times 5.0 – 9.8m \times x = 0 \quad \cdots ① $$
2. A端を持ち上げる直前のつり合い
A端に上向きの力 \(F_A = 19.6\,\text{N}\) を加えるとき、支点はB端になります。B端のまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。
- 重力\(9.8m\)による反時計回りのモーメント: \( (9.8m) \times (5.0 – x) \)
- 力\(F_A\)による時計回りのモーメント: \( 19.6 \times 5.0 \)
つり合いの式は、
$$ 9.8m \times (5.0 – x) – 19.6 \times 5.0 = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\)
- 力のモーメントのつり合い
①、②の連立方程式を解きます。
式①より、
$$
\begin{aligned}
147 – 9.8mx &= 0 \\[2.0ex]9.8mx &= 147 \quad \cdots ①’
\end{aligned}
$$
式②より、
$$
\begin{aligned}
49m – 9.8mx – 98 &= 0 \\[2.0ex]49m – 9.8mx &= 98 \quad \cdots ②’
\end{aligned}
$$
式②’に式①’を代入して \(9.8mx\) を消去します。
$$
\begin{aligned}
49m – 147 &= 98 \\[2.0ex]49m &= 98 + 147 \\[2.0ex]49m &= 245 \\[2.0ex]m &= \frac{245}{49} = 5.0 \, [\text{kg}]\end{aligned}
$$
求まった \(m=5.0\) を式①’に代入します。
$$
\begin{aligned}
9.8 \times 5.0 \times x &= 147 \\[2.0ex]49x &= 147 \\[2.0ex]x &= \frac{147}{49} = 3.0 \, [\text{m}]\end{aligned}
$$
この問題は、2つのシーソーの問題を組み合わせたものと考えられます。
- Bを上げるシーソー: Aを支点にして、Bを\(29.4\,\text{N}\)で持ち上げます。このとき、「\(29.4 \times 5.0\)」の回転力と、「棒の重さ \(\times\) 支点Aから重心までの距離\(x\)」の回転力がつり合います。
- Aを上げるシーソー: Bを支点にして、Aを\(19.6\,\text{N}\)で持ち上げます。このとき、「\(19.6 \times 5.0\)」の回転力と、「棒の重さ \(\times\) 支点Bから重心までの距離\((5.0-x)\)」の回転力がつり合います。
この2つのつり合いの式を連立方程式として解くことで、棒の重さ(質量)と重心の位置が両方わかります。
(1) この棒の重心はA端より \(3.0\,\text{m}\) の距離のところにあります。
(2) この棒の質量は \(5.0\,\text{kg}\) です。
A端を持ち上げる力(\(19.6\,\text{N}\))がB端を持ち上げる力(\(29.4\,\text{N}\))より小さいことから、重心は棒の中心(2.5m)よりもB端側にあると予測できます。計算結果の \(x=3.0\,\text{m}\) はこの予測と一致しており、物理的に妥当です。
思考の道筋とポイント
A端を\(19.6\,\text{N}\)、B端を\(29.4\,\text{N}\)の力で同時に持ち上げる状況を考えます。このとき、棒全体が持ち上がる直前では、この2つの上向きの力の「合力」が、棒にはたらく下向きの「重力」と完全につり合っていると見なせます。この考え方を用いると、連立方程式を解かずに各値を直接求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 2つの持ち上げる力の合力が、棒の重力と大きさが等しく、作用線が同じである。
- 合力の作用点の位置(=重心の位置)は、2力の作用点を力の大きさの「逆比」に内分する点である。
- 合力の大きさは、2力の大きさの和である。
具体的な解説と立式
問(1) 重心の位置
合力の作用点(重心)の位置は、2つの力の作用点(AとB)を、力の大きさの逆比に内分する点になります。
A端からの距離を\(x\)、B端からの距離を\((5.0-x)\)とすると、
$$ x : (5.0 – x) = 29.4 : 19.6 $$
問(2) 棒の質量
鉛直方向の力のつり合いを考えます。上向きの力の合計と、下向きの重力がつり合います。
$$ 19.6 + 29.4 – m \times 9.8 = 0 $$
使用した物理公式
- 平行な2力の合成
- 力のつり合い
問(1)の計算:
比を簡単な整数比に直します。\(19.6 = 2 \times 9.8\)、\(29.4 = 3 \times 9.8\) なので、
$$ 29.4 : 19.6 = 3 : 2 $$
よって、
$$ x : (5.0 – x) = 3 : 2 $$
内項の積と外項の積は等しいので、
$$
\begin{aligned}
2x &= 3(5.0 – x) \\[2.0ex]2x &= 15 – 3x \\[2.0ex]5x &= 15 \\[2.0ex]x &= 3.0 \, [\text{m}]\end{aligned}
$$
問(2)の計算:
$$
\begin{aligned}
19.6 + 29.4 – 9.8m &= 0 \\[2.0ex]49.0 – 9.8m &= 0 \\[2.0ex]9.8m &= 49.0 \\[2.0ex]m &= \frac{49.0}{9.8} = 5.0 \, [\text{kg}]\end{aligned}
$$
この棒を、AさんとBさんの2人で持ち上げる状況を想像します。Aさんは\(19.6\,\text{N}\)、Bさんは\(29.4\,\text{N}\)の力で持ち上げると、棒は水平に持ち上がります。
- 棒の重さ: 2人がかりで持ち上げているので、棒の重さは2人の力の合計です。\(19.6 + 29.4 = 49.0\,\text{N}\)。これを質量に直すと\(5.0\,\text{kg}\)です。
- 重心の位置: 棒の重さの中心(重心)は、力の弱いAさんよりも、力の強いBさんの方に近いはずです。力の比が \(19.6 : 29.4 = 2 : 3\) なので、重心はAとBの間を逆の比の \(3:2\) に分ける点になります。全長\(5.0\,\text{m}\)を\(3:2\)に分けると、Aから\(3.0\,\text{m}\)の点になります。
メインの解法と全く同じ結果が得られました。この別解は、物理的な状況を「力の合成」という視点から捉え直すことで、複雑な連立方程式を回避し、より簡潔に解を導くことができるエレガントな方法です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のモーメントのつり合い
- 核心: 物体が回転し始める直前の状態は、力のモーメントがつり合っていると見なせること。この法則を、異なる状況(A端を支点にする場合とB端を支点にする場合)に2回適用することが、この問題を解くための最も基本的なアプローチです。
- 理解のポイント:
- 支点の移動: どちらの端を持ち上げるかによって、回転の中心(支点)がもう片方の端に移動するという点を理解することが重要です。
- 未知数2つには式2本: 求める未知数が「質量\(m\)」と「重心位置\(x\)」の2つであるため、独立した2つのつり合いの式を立てて連立方程式にする、という数学的な思考が求められます。
- 平行な2力の合成(別解の核心)
- 核心: 2つの力で物体を支える状況は、「2つの力の合力が、物体の重力とつり合っている」と解釈できること。この視点の切り替えが、エレガントな別解につながります。
- 理解のポイント:
- 合力の大きさ: 合力の大きさは、単純に2つの力の和になります。(\(F_{\text{合力}} = F_A + F_B\))
- 合力の作用点: 合力の作用点(=重心の位置)は、2つの力の作用点を、力の大きさの「逆比」に内分する点になります。これは、てこの原理そのものです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 台秤(はかり)の問題: 2つの台秤の上に長い物体を置いたときの、それぞれの台秤が示す値を求める問題。考え方は別解と全く同じです。
- 橋の問題: 橋の上をトラックが通過するとき、橋の両端にある橋脚がそれぞれ受ける力を、トラックの位置の関数として求める問題。
- 人体の力学: 前かがみになったときに背筋にはたらく力や、腕を伸ばして荷物を持ったときに関節にはたらく力を、モーメントのつり合いから計算する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 未知数を確認する: まず、問題で何を求められているのか(この場合は質量\(m\)と重心位置\(x\))を明確にし、未知数がいくつあるかを確認します。
- 利用できる条件を探す: 未知数の数だけ、独立した条件式を立てる必要があります。問題文から、「A端を持ち上げる力」「B端を持ち上げる力」という2つの条件を抜き出します。
- 「〜する直前」を「つり合い」と読み替える: 「持ち上がる直前」「滑り出す直前」といった表現は、物理では「力のモーメントのつり合い」または「力のつり合い(最大摩擦力)」が成立している瞬間としてモデル化します。
- 解法を選択する:
- 基本に忠実に解くなら、各状況についてモーメントのつり合いを立て、連立方程式を解きます。
- 物理的な洞察が働くなら、「力の合成」の考え方(別解)を用いると、計算が大幅に簡略化できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 支点の設定ミス:
- 誤解: B端を持ち上げるのに、モーメントの基準点をB端にしてしまうなど、支点を間違える。
- 対策: 「支点」とは「回転の中心」であり、動かない点のことです。B端を持ち上げるなら、動かないのはA端なので、A端が支点になります。指で棒の模型を動かしてみるなど、具体的なイメージを持つことが有効です。
- 腕の長さの計算ミス:
- 誤解: B端を支点にするときの、重心までの腕の長さを\(x\)としてしまう。
- 対策: 常に「支点からの距離」で腕の長さを測ることを徹底します。A端からの重心位置を\(x\)と定義した場合、B端からの距離は \(L-x\) (この問題では \(5.0-x\)) となります。図に長さを書き込むとミスが減ります。
- 内分比の逆転:
- 誤解: 別解において、重心の位置を力の比と同じ \(2:3\) に内分してしまう。
- 対策: てこの原理を思い出し、「力が強い方が、支点からの距離は短い」という関係を常に意識します。力の比が \(F_A : F_B = 2:3\) なら、重心までの距離の比は逆の \(3:2\) になります。
- 質量と重力の混同:
- 誤解: モーメントの計算で、力の大きさに質量\(m\)をそのまま使ってしまう。
- 対策: 力の単位はニュートン[N]、質量の単位はキログラム[kg]です。重力という「力」の大きさは、必ず質量\(m\)に重力加速度\(g\) (この問題では9.8)を掛けた \(mg\) であることを徹底します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のモーメントのつり合い:
- 選定理由: この問題は、棒という「剛体」が回転し始める直前の状態を扱っています。剛体の回転に関する静止条件を記述する法則は、力のモーメントのつり合いだからです。
- 適用根拠: 「B端を持ち上げる」という一つの事象に対して、A端を支点としたモーメントのつり合いの式を立てる。「A端を持ち上げる」というもう一つの独立した事象に対して、B端を支点としたモーメントのつり合いの式を立てる。これにより、2つの未知数に対して2つの独立した方程式が得られ、解が一意に定まります。
- 平行な2力の合成(別解):
- 選定理由: この問題の状況を、「2つの力で1つの重力を支えている」という別の物理モデルとして捉え直すことができるからです。このモデルに最も適した法則が、平行な2力の合成則です。
- 適用根拠: 棒全体が静止(または等速で持ち上がる)しているとき、棒にはたらく力の合力は0でなければなりません(力のつり合い)。また、力のモーメントの合力も0でなければなりません。この2つの条件を同時に満たすのが、「上向きの2力の合力が、下向きの重力と、大きさが等しく作用線が一致する」という状態です。このことから、合力の大きさと作用点の位置に関する公式が直接適用できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の処理:
- 代入法: 式①’ (\(9.8mx = 147\)) のように、特定の項 (\(9.8mx\)) の値を求めてから、それをもう一方の式②’に代入すると、計算がスムーズに進む場合があります。
- 加減法: 式を整理し、変数の係数を揃えて足したり引いたりすることで、一つの変数を消去します。
- 比の計算: 別解のように比の計算が出てきた場合、\(29.4 : 19.6\) をそのまま計算するのではなく、両方を9.8で割って \(3:2\) のように、できるだけ簡単な整数比に直してから計算すると、ミスが大幅に減ります。
- 単位の確認: 最終的に求めた値が、(1)は距離[m]、(2)は質量[kg]になっているか、単位を必ず確認します。重力加速度9.8を掛けるか割るかのミスを防ぐことにも繋がります。
- 物理的な妥当性のチェック: A端を持ち上げる力(\(19.6\,\text{N}\))の方がB端を持ち上げる力(\(29.4\,\text{N}\))より小さいので、重心はAから遠い、つまり中心よりB側にあるはずだと予測できます。全長5.0mの中心は2.5mなので、計算結果の \(x=3.0\,\text{m}\) は妥当です。
25 棒のつり合い
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「剛体のつり合い」です。静止している棒について、(1)では「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」を連立させて解く基本的な問題、(2)では物体が「ひっくり返る直前」という限界状態を物理的にどう捉えるかが問われる応用問題となっています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体が静止しているとき、鉛直方向の力の合計はゼロになります。
- 力のモーメントのつり合い: 物体が静止しているとき、任意の点のまわりの力のモーメントの和はゼロになります。
- 支点の選定: モーメントの計算では、未知の力がはたらく点を支点に選ぶと、その力のモーメントが消えて計算が簡単になります。
- つり合いが崩れる条件: 物体がひっくり返る直前では、片方の支点から受ける垂直抗力がゼロになります。その点を支点として回転が始まります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 棒にはたらく力(重力、支点Aからの垂直抗力、支点Bからの垂直抗力)を図示し、「鉛直方向の力のつり合い」と「任意の点(例えばB)のまわりの力のモーメントのつり合い」の2つの式を立て、連立させて解きます。
- (2) 「棒がひっくり返る」とは、支点Aが浮き上がり、支点Bを軸に回転することを意味します。この直前の状態では、支点Aからの垂直抗力がゼロになると考え、支点Bのまわりの力のモーメントのつり合いの式を立てます。
問(1)
思考の道筋とポイント
支点A, Bが棒に及ぼす力(垂直抗力)の大きさ\(N_A, N_B\)を求める問題です。未知数が2つなので、2つの独立した式が必要です。剛体のつり合いの条件である「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」を連立させて解きます。
まず、棒にはたらく力をすべて図示します。上向きに\(N_A, N_B\)、下向きに棒の重力\(Mg\)です。棒は一様なので、重力は棒の中心にはたらきます。
次に、つり合いの式を立てます。
- 力のつり合い:上向きの力の和と下向きの力の和が等しい。
- 力のモーメントのつり合い:任意の点のまわりで、時計回りのモーメントと反時計回りのモーメントが等しい。モーメントの計算を簡単にするため、未知の力の一つがはたらく点(AまたはB)を回転の中心に選ぶのが定石です。
この設問における重要なポイント
- 剛体のつり合いの条件は「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」の2つ。
- 一様な棒の重心は、その中点にある。
- モーメントの計算では、未知の力がはたらく点を支点に選ぶと計算が楽になる。
具体的な解説と立式
支点A, Bが棒に及ぼす垂直抗力の大きさをそれぞれ\(N_A, N_B\)とします。
棒は一様で長さLなので、その重心は棒の中心、すなわち左端から\(L/2\)の位置にあります。図より、支点Aは左端から\(0.1L\)の位置にあるので、重心はAから見て右に \(L/2 – 0.1L = 0.4L\) の距離にあります。したがって、Bから重心までの距離は \(0.7L – 0.4L = 0.3L\) となります。
1. 鉛直方向の力のつり合い
上向きの力の合計と下向きの力の合計がつり合っているので、
$$ N_A + N_B – Mg = 0 \quad \cdots ① $$
2. 点Bのまわりの力のモーメントのつり合い
点Bを回転の中心とします。
- \(N_A\)による反時計回りのモーメント: \( N_A \times 0.7L \)
- 重力\(Mg\)による時計回りのモーメント: \( Mg \times 0.3L \)
つり合いの式は、
$$ N_A \times 0.7L – Mg \times 0.3L = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 力のモーメントのつり合い
式②から\(N_A\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
N_A \times 0.7L &= Mg \times 0.3L \\[2.0ex]0.7 N_A &= 0.3 Mg \\[2.0ex]N_A &= \frac{3}{7}Mg
\end{aligned}
$$
求めた\(N_A\)を式①に代入して\(N_B\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
\frac{3}{7}Mg + N_B – Mg &= 0 \\[2.0ex]N_B &= Mg – \frac{3}{7}Mg \\[2.0ex]N_B &= \frac{4}{7}Mg
\end{aligned}
$$
支点Aが棒から受ける力は \(\displaystyle\frac{3}{7}Mg\)、支点Bが受ける力は \(\displaystyle\frac{4}{7}Mg\) です。
重心がBに近いので、Bの方がより大きな力を受けるという結果は物理的に妥当です。また、2つの力の和は \(\frac{3}{7}Mg + \frac{4}{7}Mg = Mg\) となり、棒の重力と等しくなるため、力のつり合いの観点からも正しいことが確認できます。
問(2)
思考の道筋とポイント
棒の右端Cにおもりをつるし、棒が「ひっくり返る」瞬間のおもりの質量\(m\)を求める問題です。「ひっくり返る」という現象を物理的にどう解釈するかが鍵となります。
おもりの質量を徐々に大きくしていくと、おもりによる時計回りのモーメントが増加します。これに応じて、支点Aが棒を押し上げる力\(N_A\)は徐々に減少し、やがてゼロになります。\(N_A\)がゼロになった瞬間、棒は支点Aから浮き上がり、支点Bだけを回転軸として回転し始めます。これが「ひっくり返る」瞬間です。
したがって、「ひっくり返る直前」とは「\(N_A=0\)となる状態」と考えることができます。この状態で、支点Bのまわりの力のモーメントのつり合いの式を立てます。
この設問における重要なポイント
- 「ひっくり返る直前」とは、片方の支点の垂直抗力が0になる状態である。
- ひっくり返る際の回転軸(支点)は、最後まで接地している方の支点(この場合はB)である。
具体的な解説と立式
おもりの質量を\(m\)とします。おもりにはたらく重力は\(mg\)です。
棒がひっくり返る直前、支点Aからの垂直抗力\(N_A\)は0になります。このとき、棒は支点Bを回転軸として回転しようとします。
支点Bのまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。
- 棒の重力\(Mg\)による反時計回りのモーメント: \( Mg \times 0.3L \)
- おもりの重力\(mg\)による時計回りのモーメント: \( mg \times 0.2L \)
つり合いの式は、
$$ Mg \times 0.3L – mg \times 0.2L = 0 $$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつり合い
つり合いの式を\(m\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
mg \times 0.2L &= Mg \times 0.3L \\[2.0ex]0.2 m &= 0.3 M \\[2.0ex]m &= \frac{0.3}{0.2} M \\[2.0ex]m &= \frac{3}{2}M
\end{aligned}
$$
これはつり合うぎりぎりの質量なので、これより少しでも大きくすれば棒はひっくり返ります。
棒がひっくり返る時、それは支点Bをシーソーの支点として、左側の棒の重さと右側のおもりの重さが回転力で勝負する状態です。ひっくり返る直前は、この回転力がつり合っています。
- 左側の回転力(棒の重力による): \( Mg \times 0.3L \)
- 右側の回転力(おもりによる): \( mg \times 0.2L \)
この2つが等しくなるので、\(Mg \times 0.3L = mg \times 0.2L\) という式が成り立ちます。これを解くと、\(m = \frac{3}{2}M\) が求まります。
おもりの質量を \(\displaystyle\frac{3}{2}M\) より大きくすれば、棒はひっくり返ります。
支点Bから重心までの距離(0.3L)がおもりまでの距離(0.2L)より長いので、おもりには棒の質量Mより大きな質量が必要になる、という結果は妥当です。具体的には、距離の逆比である \(0.3L/0.2L = 3/2\) 倍の質量が必要となり、計算結果と一致します。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体の静止条件(つり合いの条件)
- 核心: 剛体が静止し続けるためには、「力のつり合い(並進しない)」と「力のモーメントのつり合い(回転しない)」という2つの条件を同時に満たす必要がある、という静力学の基本原理を理解し、適用できることが全てです。
- 理解のポイント:
- 力のつり合い: 上向きの力の和と下向きの力の和が等しい。(\(N_A + N_B = Mg\))
- 力のモーメントのつり合い: 任意の点のまわりで、時計回りのモーメントの和と反時計回りのモーメントの和が等しい。
- つり合いが崩れる瞬間の物理的解釈
- 核心: (2)のように物体が「ひっくり返る」「浮き上がる」といった、つり合いが崩れる限界状態を問う問題では、その現象を「支点からの垂直抗力が0になる」と物理的に正しくモデル化できるかが鍵となります。
- 理解のポイント:
- ひっくり返る直前 → 片方の支点が効力を失う(\(N_A=0\)) → 残った支点(B)が新たな回転軸になる。この思考の流れが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 人が乗った板のつり合い: 2つの支点に乗った板の上を人が歩くとき、人がどの位置に来たら板が傾くか、あるいは各支点が受ける力は人の位置によってどう変わるか、といった問題。
- 積まれたブロックの安定性: 形や大きさの違うブロックを積み上げたとき、どの角度まで傾けたら倒れるか、という問題。
- 家具の転倒条件: 地震などで家具が転倒する条件を、力のモーメントの観点から考える問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 物体にはたらく力をすべて図示する: まず、注目する物体(棒)にはたらく力(重力、垂直抗力、張力など)を、作用点と向きがわかるようにすべて書き込みます。特に、一様な棒の重力は中点にはたらくことを忘れないようにします。
- 未知数と式の数を確認する: (1)では未知数が\(N_A, N_B\)の2つなので、式が2本必要だと判断し、「力のつり合い」と「モーメントのつり合い」をセットで使います。
- モーメントの支点を戦略的に選ぶ: モーメントのつり合いを立てる際、未知の力がはたらく点(例えばAやB)を支点に選ぶと、その力の腕の長さが0になり、モーメントの式からその未知数が消去されるため、計算が非常に楽になります。
- 「ひっくり返る」などの現象を物理語に翻訳する: 「ひっくり返る」→「片方の垂直抗力が0になる」のように、日常的な言葉を物理の概念に置き換えることが、応用問題を解く上での重要なステップです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 棒の重心の位置の勘違い:
- 誤解: 図に書かれている長さ(0.1L, 0.7Lなど)から、重心がAとBの中点にあるなどと早合点してしまう。
- 対策: 「一様な棒」とあれば、その重心は必ず棒全体の長さLの「中点」にある、と定義に立ち返ります。図の寸法から、支点AやBが棒の端からどれだけ離れているかを確認し、支点から重心までの距離を正確に計算します。
- (2)で力のつり合いの式を立ててしまう:
- 誤解: ひっくり返る直前の状態でも、(1)と同じように力のつり合いの式 \(N_A + N_B + mg = Mg\) を立てようとしてしまう(このとき\(N_A=0\)なので無意味ではないが遠回り)。
- 対策: 「ひっくり返る」のは回転運動の問題であると捉え、まずは「力のモーメントのつり合い」から考えるのが本質的です。回転軸(支点B)のまわりのモーメントのつり合いだけで、未知数\(m\)が直接求まります。
- (2)の回転軸の選び間違い:
- 誤解: おもりをつるしたC点が回転軸になるなど、回転軸を間違える。
- 対策: 物体が回転する様子を具体的にイメージします。棒は支点Bを「蝶番」のようにして回転します。したがって、回転軸はBです。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式 (\(N_A+N_B=Mg\)):
- 選定理由: (1)では棒が静止しており、並進運動(上下運動)をしていません。物体の並進運動を記述するのはニュートンの運動方程式であり、その静止条件が「力のつり合い」だからです。
- 適用根拠: 棒にはたらく鉛直方向の力をすべて足し合わせると、加速度が0なので、その総和は0になる必要があります。
- 力のモーメントのつり合いの式:
- 選定理由: (1)では棒が回転もしていません。(2)では回転し始める直前です。剛体の回転運動を記述するのが「力のモーメント」であり、その静止(または回転開始の限界)条件が「力のモーメントのつり合い」だからです。
- 適用根拠:
- (1)では、棒はどの点のまわりにも回転していないので、任意の点を支点としてモーメントのつり合い式を立てることができます。計算を簡単にするため、未知の抗力がはたらくB点を支点に選びます。
- (2)では、棒はB点のまわりに回転し始めようとしています。この回転を引き起こすモーメントと、それを妨げるモーメントがつり合っている状態が限界点であるため、回転の中心であるB点のまわりのモーメントのつり合いを考えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字のまま計算する: \(L\)や\(Mg\)などの文字は、最後までそのままで計算を進める。途中で具体的な数値を代入するよりも、式が簡潔になり、間違いが起こりにくくなります。特に、共通の文字(この場合は\(L\)や\(g\))が両辺から消去できる場合が多く、計算が大幅に楽になります。
- 分数の扱い: \(\displaystyle\frac{3}{7}Mg\) のような分数が計算に出てきても、焦らずにそのまま扱います。通分が必要な場合は、分母を揃えて丁寧に計算します。
- 式の整理: \(N_A \times 0.7L – Mg \times 0.3L = 0\) のような式は、まず両辺を\(L\)で割り、\(0.7N_A = 0.3Mg\) と整理してから次のステップに進むと、見通しが良くなります。
- 単位の省略と記入: 計算途中では単位を省略して数値を扱い、最終的な答えにのみ正しい単位を付記すると、式がすっきりします。ただし、自分が何の量を計算しているのかは常に意識することが重要です。
26 棒のつり合い
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力のモーメントのつり合い」です。特に、力が斜めにはたらく場合のモーメントの計算方法と、計算を簡単にするための支点の選び方が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のモーメントのつり合い: 静止している剛体にはたらく、任意の点のまわりの力のモーメントの和はゼロになります。
- 支点の戦略的な選定: 計算を簡単にするため、未知の力が集中する点や、複数の力がはたらく点を回転の中心(支点)に選ぶのがセオリーです。
- 力のモーメントの計算: 力が腕に対して斜めにはたらく場合、(1)力の作用線までの垂直距離(腕の長さ)を求める方法、(2)力を腕に垂直な成分に分解する方法、の2通りがあります。
- 図形情報の正確な読解: 問題文や図から、角度や距離の関係を正しく読み取ることが重要です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 棒にはたらく力(重力、張力、杭からの抗力)を図示します。
- 未知の力である「杭からの抗力」のモーメントを計算しなくて済むように、杭との接点Cを回転の支点に選びます。
- 点Cのまわりで、重力によるモーメントと、糸の張力によるモーメントがつり合う式を立てます。
- 式を解いて、張力の大きさを求めます。
思考の道筋とポイント
求めるものは、棒が糸から受ける力の大きさ(張力\(T\))です。棒は水平に静止しているため、力のモーメントのつり合いが成立しています。
棒にはたらく力は、(1)重力\(mg\)、(2)張力\(T\)、(3)杭が棒に及ぼす抗力(垂直抗力\(N\)と、おそらく水平方向の力\(f\))の3種類です。
このうち、杭からの抗力は未知数です。そこで、これらの未知の力がはたらく点Cを回転の中心(支点)に選ぶことで、これらの力のモーメントを計算から排除するのが最も賢明な戦略です。
点Cのまわりで、重力\(mg\)が作る時計回りのモーメントと、張力\(T\)が作る反時計回りのモーメントがつり合う、という式を立てることで、\(T\)を直接求めることができます。
この設問における重要なポイント
- 力のモーメントのつり合いの式を立てる。
- 未知の力がはたらく杭との接点Cを支点に選ぶ。
- 斜めにはたらく張力のモーメントを正しく計算する。
- 問題文の「糸が杭となす角が\(\theta\)」という定義を正確に使う。
具体的な解説と立式
棒が糸から受ける力の大きさを\(T\)とします。棒は静止しているので、杭との接点Cのまわりの力のモーメントはつり合っています。反時計回りを正とします。
1. 重力\(mg\)によるモーメント \(M_g\)
棒は一様なので、重力\(mg\)は棒の中心にはたらきます。棒の中心はA端から\(L/2\)の位置です。
支点CはA端から\(L/4\)の位置なので、Cから重心までの腕の長さは、
$$ l_g = \frac{L}{2} – \frac{L}{4} = \frac{L}{4} $$
この重力は時計回りのモーメントを作るので、
$$ M_g = – mg \times \frac{L}{4} $$
2. 張力\(T\)によるモーメント \(M_T\)
張力\(T\)はA点にはたらきます。この力のモーメントを計算するには、支点Cから力の作用線(糸の方向)までの垂直距離(腕の長さ\(l_T\))を求めるのが一つの方法です。
問題文より、糸と鉛直な杭のなす角が\(\theta\)です。棒は水平なので、糸と棒のなす角は\(90^\circ – \theta\)となります。
支点Cから力の作用線に下ろした垂線の長さ\(l_T\)は、図の三角形を考えると、
$$ l_T = AC \sin(90^\circ – \theta) = \frac{L}{4} \cos\theta $$
この張力は反時計回りのモーメントを作るので、
$$ M_T = + T \times l_T = + T \times \left(\frac{L}{4} \cos\theta\right) $$
力のモーメントのつり合いの式は \(M_T + M_g = 0\) なので、
$$ T \times \frac{L}{4} \cos\theta – mg \times \frac{L}{4} = 0 $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\) (\(l\)は腕の長さ)
- 力のモーメントのつり合い
つり合いの式を\(T\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
T \times \frac{L}{4} \cos\theta &= mg \times \frac{L}{4} \\[2.0ex]T \cos\theta &= mg \\[2.0ex]T &= \frac{mg}{\cos\theta}
\end{aligned}
$$
杭との接点Cをシーソーの支点と考えます。この支点を中心に、棒の重さが生む「時計回りの回転力」と、糸が引く力が生む「反時計回りの回転力」がつり合っています。
- 重さによる回転力:棒の重さ\(mg\)が、支点から\(L/4\)の距離にはたらくので、回転力は \(mg \times (L/4)\)。
- 糸による回転力:糸は斜めに引いているため、回転に有効なのは棒を真上に持ち上げようとする成分です。この有効成分の大きさは \(T\cos\theta\) と計算できます。これが支点から\(L/4\)の距離にはたらくので、回転力は \((T\cos\theta) \times (L/4)\)。
この2つの回転力が等しいので、式を立てて解くと答えが求まります。
棒が糸から受ける力の大きさは \(\displaystyle\frac{mg}{\cos\theta}\) です。
\(\theta\)が0に近づくと(糸が鉛直に近くなると)、\(\cos\theta\)は1に近づき、\(T\)は\(mg\)に近づきます。これは、重力と張力がより直接的につり合う状況に対応しており、妥当です。逆に\(\theta\)が90°に近づくと(糸が水平に近くなると)、\(\cos\theta\)は0に近づき、\(T\)は無限大に発散します。これは、水平に近い糸で重いものを支えるには非常に大きな力が必要になるという物理的な事実と一致しており、結果は妥当であると言えます。
思考の道筋とポイント
張力\(T\)のモーメントを計算するもう一つの方法として、張力\(T\)そのものを、棒に垂直な成分と平行な成分に分解する方法があります。モーメントに寄与するのは垂直な成分だけです。
この設問における重要なポイント
- 力を、腕に垂直な成分と平行な成分に分解する。
- モーメントの計算には、垂直な成分のみを用いる。
具体的な解説と立式
支点Cのまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。
重力による時計回りのモーメントは、メインの解法と同じく \(mg \times (L/4)\) です。
張力\(T\)による反時計回りのモーメントを考えます。
問題文より、糸と鉛直な杭のなす角が\(\theta\)です。棒は水平なので、糸が棒となす角(鋭角側)は \(90^\circ – \theta\) です。
張力\(T\)を、棒に垂直な成分\(T_{\perp}\)と、棒に平行な成分\(T_{\parallel}\)に分解します。
$$ T_{\perp} = T \sin(90^\circ – \theta) = T\cos\theta $$
$$ T_{\parallel} = T \cos(90^\circ – \theta) = T\sin\theta $$
モーメントに寄与するのは垂直成分\(T_{\perp}\)のみです。この力が、支点Cから距離\(L/4\)にあるA点にはたらくので、そのモーメントは、
$$ M_T = T_{\perp} \times AC = (T\cos\theta) \times \frac{L}{4} $$
力のモーメントのつり合いより、
$$ (T\cos\theta) \times \frac{L}{4} – mg \times \frac{L}{4} = 0 $$
この式はメインの解法で立てた式と全く同じです。
$$
\begin{aligned}
(T\cos\theta) \times \frac{L}{4} &= mg \times \frac{L}{4} \\[2.0ex]T\cos\theta &= mg \\[2.0ex]T &= \frac{mg}{\cos\theta}
\end{aligned}
$$
結果はメインの解法と一致します。モーメントの計算において、「腕の長さを求める」方法と「力を分解する」方法は、どちらを使っても同じ結果が得られます。問題の状況によって、どちらが計算しやすいかを見極めて使い分けるのが良いでしょう。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のモーメントのつり合い
- 核心: 剛体が静止しているとき、任意の点のまわりで力のモーメントの和がゼロになる、という静力学の基本原理。この問題を解くための唯一かつ絶対的な法則です。
- 理解のポイント:
- 支点の任意性: モーメントのつり合いは「任意の点」で成立するため、計算が最も簡単になる点を戦略的に選ぶことができます。
- 支点の戦略的選択: この問題では、杭が棒に及ぼす力(垂直抗力と摩擦力)が未知です。これらの未知の力がはたらく点Cを支点に選ぶことで、これらの力のモーメントがゼロになり、計算から排除できます。これが最も重要な解法テクニックです。
- 斜めの力のモーメント計算
- 核心: 力が腕に対して斜めにはたらく場合のモーメント計算を、正確に実行できること。
- 理解のポイント:
- 方法1(腕の長さを求める): モーメント = (力の大きさ) × (支点から力の作用線までの垂直距離)。図形的に腕の長さを求める必要があります。
- 方法2(力を分解する): モーメント = (腕に垂直な力の成分) × (支点から力の作用点までの距離)。力を分解する必要があります。
- どちらの方法も本質的には同じであり(\(M = T \times (AC \cos\theta) = (T\cos\theta) \times AC\))、同じ結果を与えます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 壁に立てかけたはしご: はしごにはたらく重力、床からの垂直抗力・摩擦力、壁からの垂直抗力、これらすべての力のモーメントがつり合うことを利用して、滑り出す条件などを求める問題。
- 蝶番(ちょうつがい)で留められた看板: 蝶番を支点として、看板の重力と、それを支えるワイヤーの張力とのモーメントのつり合いを考える問題。
- クレーン車の安定性: クレーンが荷物を持ち上げる際の、クレーン自身の重力によるモーメントと荷物の重力によるモーメントのつり合いから、転倒しない条件を求める問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 物体にはたらく力をすべて図示する: 注目する物体(棒)にはたらく力を、作用点と向きがわかるようにすべて書き出します。特に、未知の力(杭からの抗力など)も忘れずに書き込みます。
- 支点(回転の中心)を決定する: 「未知の力が最も多くはたらく点」または「力が集中している点」を探し、そこを支点に選びます。この問題では、杭との接点Cが最適です。
- 各力の腕の長さを特定する: 決めた支点から、各力の作用線までの「垂直距離」を図形的に求めます。あるいは、各力を支点と作用点を結ぶ線に対して垂直・平行に分解します。
- モーメントの符号(回転方向)を確認する: 各力が物体を時計回りに回すか、反時計回りに回すかを確認し、符号を付けてつり合いの式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 支点の選び方が非効率的:
- 誤解: A点や棒の中心など、未知の抗力がはたらいていない点を支点に選んでしまう。
- 対策: もちろんそれでも解けますが、杭からの抗力\(N\)を未知数として式に含める必要があり、計算が複雑になります。「未知の力を消すために支点を選ぶ」という戦略的な思考を身につけることが重要です。
- 角度\(\theta\)の使い方の間違い:
- 誤解: 張力\(T\)のモーメントを計算する際に、腕の長さを \((L/4)\sin\theta\) としたり、力の垂直成分を \(T\sin\theta\) としたりするなど、\(\sin\)と\(\cos\)を間違える。
- 対策: 図を丁寧に描き、どの角度が\(\theta\)なのかを正確に把握します。直角三角形を描き、「斜辺・対辺・隣辺」の関係を明確にしてから三角関数を適用します。この問題では、糸と「鉛直な」杭のなす角が\(\theta\)なので、糸と「水平な」棒のなす角は \(90^\circ-\theta\) となり、\(\sin(90^\circ-\theta) = \cos\theta\) の関係を使います。
- 腕の長さの勘違い:
- 誤解: 重力\(mg\)の腕の長さを、棒の中心までの距離\(L/2\)としてしまう。
- 対策: 腕の長さは、必ず「支点からの距離」で測ります。支点はCなので、重心(中心)までの距離は \(L/2 – L/4 = L/4\) となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のモーメントのつり合いの式:
- 選定理由: この問題は、棒という「剛体」が静止している状態を扱っています。剛体の静止条件のうち、回転に関する条件を記述するのが「力のモーメントのつり合い」だからです。
- 適用根拠: 棒にはたらく力は3種類(重力、張力、抗力)ありますが、力のつり合いの式を立てても未知数が多くて解けません。しかし、力のモーメントのつり合いを使えば、支点の選び方次第で未知数を計算から排除し、求める張力\(T\)だけを含む式を立てることができます。これは、問題を解く上で最も効率的かつ本質的なアプローチです。杭からの抗力\(N\)を求める必要がないのに、わざわざ力のつり合いの式を立てるのは遠回りになります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 共通項の消去: つり合いの式 \(T \times \displaystyle\frac{L}{4} \cos\theta – mg \times \displaystyle\frac{L}{4} = 0\) を立てた後、計算を進める前に両辺に共通する \(L/4\) を消去することで、式が \(T\cos\theta = mg\) と非常にシンプルになり、計算ミスを防げます。
- 図形への書き込み: 力を分解する場合、分解した成分(\(T\cos\theta\)など)や、腕の長さ(\((L/4)\cos\theta\)など)を、計算の前に図に直接書き込むと、立式する際のミスが減ります。
- 極端な場合を考える(検算):
- もし\(\theta=0\)(糸が鉛直)なら、\(T=mg\)となるはず。式に代入すると \(T=mg/\cos 0^\circ = mg/1 = mg\) となり、一致します。
- もし\(\theta=90^\circ\)(糸が水平)なら、支えるのは不可能なので\(T\)は無限大になるはず。式に代入すると \(T=mg/\cos 90^\circ = mg/0 \rightarrow \infty\) となり、物理的な直感と一致します。このようなチェックで、式の妥当性を確認できます。
27 棒のつり合い
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「力のモーメントのつり合い」です。特に、傾いた棒にはたらく力のモーメントを、2つの異なる方法(腕の長さを求める方法と、力を分解する方法)で計算する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のモーメントのつり合い: 静止している剛体にはたらく、任意の点のまわりの力のモーメントの和はゼロになります。
- 支点の選定: 床との接点Aには未知の抗力(垂直抗力と摩擦力)がはたらくため、ここを回転の中心(支点)に選ぶのが最も効率的です。
- 力のモーメントの計算方法:
- 腕の長さを求める方法: モーメント = (力の大きさ) × (支点から力の作用線までの垂直距離)。
- 力を分解する方法: モーメント = (支点から作用点までの距離) × (腕の方向に垂直な力の成分)。
- 三角関数の利用: 図形から腕の長さや力の成分を求めるために、三角関数を正しく利用する必要があります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 棒にはたらく力(重力、引き上げる力\(F\)、床からの抗力)を図示します。
- 未知の抗力がはたらく床との接点Aを回転の支点に選びます。
- 点Aのまわりで、重力によるモーメントと、力\(F\)によるモーメントがつり合う式を立てます。
- 式を解いて、力\(F\)の大きさを求めます。
思考の道筋とポイント
棒は傾いた状態で静止しているため、力のモーメントがつり合っています。棒にはたらく力は、(1)重力\(Mg\)、(2)引き上げる力\(F\)、(3)床からの抗力(垂直抗力と摩擦力)です。
床からの抗力は未知数なので、これらの力がはたらく点Aを回転の中心(支点)に選ぶことで、計算から排除します。
点Aのまわりで、重力\(Mg\)が作る時計回りのモーメントと、力\(F\)が作る反時計回りのモーメントがつり合う、という式を立てます。
このとき、各力のモーメントを計算する方法として、主に2つのアプローチが考えられます。
アプローチ1:腕の長さを求める
支点Aから、各力の作用線(力がはたらく向きの直線)に垂線を下ろし、その長さ(腕の長さ)を求めます。
- 力\(F\)の腕の長さ: 図より\(L\sin\theta\)
- 重力\(Mg\)の腕の長さ: 図より\((L/2)\cos\theta\)
これらの腕の長さと力の大きさの積がモーメントになります。
アプローチ2:力を分解する
各力を、棒に平行な成分と垂直な成分に分解します。モーメントに寄与するのは垂直な成分だけです。
- 力\(F\)の棒に垂直な成分: \(F\sin\theta\)
- 重力\(Mg\)の棒に垂直な成分: \(Mg\cos\theta\)
これらの力の成分と、支点から作用点までの距離(\(L\)または\(L/2\))の積がモーメントになります。
この設問における重要なポイント
- 床との接点Aを支点に選ぶ。
- 重力は棒の中心にはたらく。
- 腕の長さを求めるか、力を分解するかのどちらかの方法でモーメントを計算する。
具体的な解説と立式(腕の長さを求める方法)
棒の長さを\(L\)とします。支点Aのまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。反時計回りを正とします。
1. 力\(F\)によるモーメント \(M_F\)
力\(F\)は棒の端Bにはたらきます。支点Aから力\(F\)の作用線に下ろした垂線の長さ(腕の長さ)は、図より \(l_F = L\sin\theta\) です。
この力は反時計回りのモーメントを作るので、
$$ M_F = + F \times (L\sin\theta) $$
2. 重力\(Mg\)によるモーメント \(M_g\)
重力\(Mg\)は棒の中心にはたらきます。支点Aから重力\(Mg\)の作用線に下ろした垂線の長さ(腕の長さ)は、図より \(l_g = (L/2)\cos\theta\) です。
この力は時計回りのモーメントを作るので、
$$ M_g = – Mg \times \left(\frac{L}{2}\cos\theta\right) $$
力のモーメントのつり合いの式は \(M_F + M_g = 0\) なので、
$$ F \times L\sin\theta – Mg \times \frac{L}{2}\cos\theta = 0 $$
使用した物理公式
- 力のモーメント: \(M = F \times l\) (\(l\)は腕の長さ)
- 力のモーメントのつり合い
つり合いの式を\(F\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
F \times L\sin\theta &= Mg \times \frac{L}{2}\cos\theta \\[2.0ex]F \sin\theta &= \frac{Mg}{2}\cos\theta \\[2.0ex]F &= \frac{Mg \cos\theta}{2 \sin\theta} \\[2.0ex]F &= \frac{Mg}{2 \tan\theta}
\end{aligned}
$$
床との接点Aを支点として、シーソーのつり合いを考えます。
- 引き上げる力\(F\)による回転力:力\(F\)の大きさ × 支点Aからの垂直距離(腕の長さ)。腕の長さは図から\(L\sin\theta\)とわかります。
- 重力\(Mg\)による回転力:重さ\(Mg\) × 支点Aからの垂直距離(腕の長さ)。腕の長さは図から\((L/2)\cos\theta\)とわかります。
この2つの回転力が等しいので、式を立てて解くと答えが求まります。
引き上げる力\(F\)の大きさは \(\displaystyle\frac{Mg}{2 \tan\theta}\) です。
\(\theta\)が90°に近づくと\(\tan\theta\)は無限大になり、\(F\)は0に近づきます。これは棒が垂直に立つ直前の状態で、ほとんど力がいらないことに対応し、妥当です。逆に\(\theta\)が0に近づくと\(\tan\theta\)は0に近づき、\(F\)は無限大に発散します。これは水平な棒を片方の端だけで支えるのは不可能であること(実際には床からの垂直抗力が必要になる)を示唆しており、物理的に妥当な結果です。
思考の道筋とポイント
各力を棒に垂直な成分と平行な成分に分解し、垂直成分のみを使ってモーメントを計算する方法です。
この設問における重要なポイント
- 力を棒に垂直な成分と平行な成分に分解する。
- モーメントの計算には垂直成分のみを用いる。
- 支点から力の作用点までの距離を腕の長さとして使う。
具体的な解説と立式
支点Aのまわりの力のモーメントのつり合いを考えます。
1. 力\(F\)によるモーメント \(M_F\)
力\(F\)を棒に垂直な成分\(F_{\perp}\)と平行な成分\(F_{\parallel}\)に分解します。
$$ F_{\perp} = F\sin\theta $$
この力が支点Aから距離\(L\)の点Bにはたらくので、反時計回りのモーメントは、
$$ M_F = F_{\perp} \times L = (F\sin\theta) \times L $$
2. 重力\(Mg\)によるモーメント \(M_g\)
重力\(Mg\)を棒に垂直な成分\(Mg_{\perp}\)と平行な成分\(Mg_{\parallel}\)に分解します。
$$ Mg_{\perp} = Mg\cos\theta $$
この力が支点Aから距離\(L/2\)の重心にはたらくので、時計回りのモーメントは、
$$ M_g = – Mg_{\perp} \times \frac{L}{2} = – (Mg\cos\theta) \times \frac{L}{2} $$
力のモーメントのつり合いより、
$$ (F\sin\theta) \times L – (Mg\cos\theta) \times \frac{L}{2} = 0 $$
この式は、メインの解法で立てた式と全く同じです。
$$
\begin{aligned}
F L \sin\theta &= \frac{MgL}{2}\cos\theta \\[2.0ex]F \sin\theta &= \frac{Mg}{2}\cos\theta \\[2.0ex]F &= \frac{Mg \cos\theta}{2 \sin\theta} = \frac{Mg}{2 \tan\theta}
\end{aligned}
$$
結果はメインの解法と一致します。モーメントの計算において、「腕の長さを求める」方法と「力を分解する」方法は、どちらも強力なツールであり、問題に応じて使い分けることが重要です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力のモーメントのつり合い
- 核心: 剛体が静止しているとき、任意の点のまわりで力のモーメントの和がゼロになる、という静力学の基本原理。この問題を解くための唯一の法則です。
- 理解のポイント:
- 支点の任意性と戦略性: モーメントのつり合いは「任意の点」で成立するため、計算が最も簡単になる点を戦略的に選ぶことができます。この問題では、床からの未知の抗力(垂直抗力と摩擦力)がはたらく点Aを支点に選ぶことで、これらの力のモーメントをゼロにし、計算から排除することが最も重要な解法テクニックです。
- 傾いた剛体のモーメント計算
- 核心: 力や腕が座標軸に対して斜めになっている場合のモーメント計算を、2つの方法のいずれかを用いて正確に実行できることが、この問題の技術的な核心です。
- 理解のポイント:
- 方法1(腕の長さを求める): モーメント = (力の大きさ) × (支点から力の作用線までの垂直距離)。図形的に腕の長さを求める必要があります。
- 方法2(力を分解する): モーメント = (支点から力の作用点までの距離) × (腕の方向に垂直な力の成分)。力を分解する必要があります。
- どちらの方法も本質的には同じであり、同じ結果を与えます。図形的にどちらが考えやすいかで使い分けるのが良いでしょう。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 壁に立てかけたはしご: はしごにはたらく重力、床からの垂直抗力・摩擦力、壁からの垂直抗力など、複数の力がはたらく状況で、滑り出す条件などをモーメントのつり合いから求める問題。
- 蝶番(ちょうつがい)で留められた看板や扉: 蝶番を支点として、物体の重力と、それを支えるワイヤーの張力や人が押す力とのモーメントのつり合いを考える問題。
- クレーン車の安定性: クレーンが荷物を持ち上げる際の、クレーン自身の重力によるモーメントと荷物の重力によるモーメントのつり合いから、転倒しない条件を求める問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 物体にはたらく力をすべて図示する: 注目する物体(棒)にはたらく力を、作用点と向きがわかるようにすべて書き出します。特に、未知の力(床からの抗力など)も忘れずに書き込みます。
- 支点(回転の中心)を決定する: 「未知の力が最も多くはたらく点」または「力が集中している点」を探し、そこを支点に選びます。この問題では、床との接点Aが最適です。
- モーメント計算の方法を選択する: 「腕の長さを求める」方法と「力を分解する」方法のどちらが、その問題の図形において考えやすいかを見極めます。
- 角度と距離の関係を正確に把握する: 図を丁寧に見て、どの角度が\(\theta\)なのか、どの長さが\(L\)や\(L/2\)なのかを正確に特定し、三角関数を正しく適用します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 腕の長さの勘違い:
- 誤解: 重力\(Mg\)の腕の長さを、支点からの距離である\(L/2\)と勘違いしてしまう。
- 対策: 腕の長さは、支点から「力の作用線」への「垂直距離」であることを徹底します。図を描いて確認すると、重力の腕の長さは \((L/2)\cos\theta\) であることがわかります。
- 力の分解方向のミス(sinとcosの混同):
- 誤解: 別解で、重力\(Mg\)の棒に垂直な成分を\(Mg\sin\theta\)としてしまう。
- 対策: 図を丁寧に描き、棒と水平線のなす角が\(\theta\)であることから、重力(鉛直下向き)と棒のなす角が\(90^\circ-\theta\)になることを確認します。したがって、棒に垂直な成分は \(Mg\sin(90^\circ-\theta) = Mg\cos\theta\) となります。分解する力の近くに直角三角形を描いて考える癖をつけることが有効です。
- 支点の選び方が非効率的:
- 誤解: 棒の中心やB点を支点に選んでしまう。
- 対策: それでも解くことは可能ですが、床からの未知の抗力(垂直抗力\(N\)と摩擦力\(f\))がモーメントの式に入ってきてしまい、未知数が3つ(\(F, N, f\))になるため、力のつり合いの式と連立させる必要があり、計算が非常に複雑になります。「未知の力を消すために支点を選ぶ」というセオリーを常に意識することが重要です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のモーメントのつり合いの式:
- 選定理由: この問題は、傾いた棒という「剛体」が静止している状態を扱っています。剛体の静止条件のうち、回転に関する条件を記述するのが「力のモーメントのつり合い」だからです。
- 適用根拠: 棒にはたらく力は3種類(重力、引く力\(F\)、床からの抗力)ありますが、床からの抗力は垂直抗力と摩擦力の2つの未知の力を含みます。力のつり合いの式(x方向、y方向)を立てても、未知数が\(F\), 垂直抗力, 摩擦力の3つになり、式が足りず解けません。しかし、力のモーメントのつり合いを使い、未知の抗力がはたらく点Aを支点に選べば、これらのモーメントが0になり、求める\(F\)だけを含む一つの式を立てることができます。これが、この問題を解く上で最も合理的かつ効率的なアプローチです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 図への書き込み: 腕の長さ(\(L\sin\theta\) や \((L/2)\cos\theta\))や、分解した力の成分(\(F\sin\theta\) や \(Mg\cos\theta\))を、計算を始める前に図に直接書き込むと、立式する際のミスが減り、思考が整理されます。
- 共通項の早期消去: つり合いの式を立てた後、両辺に共通する文字(この問題では\(L\))は、計算を進める前に約分して消去すると、式がシンプルになり、計算ミスを防げます。
- 三角関数の整理: 最終的な答えの形 \(\displaystyle\frac{Mg \cos\theta}{2 \sin\theta}\) は、\(\displaystyle\frac{\cos\theta}{\sin\theta} = \frac{1}{\tan\theta}\) の関係を使って、\(\displaystyle\frac{Mg}{2 \tan\theta}\) と整理すると、より簡潔な表現になります。
- 極端な場合を考える(検算):
- もし\(\theta=90^\circ\)(棒が垂直)なら、支える力はほぼ不要なので\(F \approx 0\)のはず。計算式で \(\tan 90^\circ \to \infty\) なので、\(F \to 0\) となり、物理的な直感と一致します。
- もし\(\theta \to 0^\circ\)(棒が水平)なら、非常に大きな力が必要になるはず。計算式で \(\tan 0^\circ \to 0\) なので、\(F \to \infty\) となり、これも直感と一致します。
28 転倒する条件
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「剛体がすべり出す条件と転倒する条件」の比較です。物体を引く力を大きくしていくと、「すべり出す」のが先か、「傾き出す(転倒する)」のが先か、という2つの現象を物理的に分析します。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力のつり合い: 物体が静止しているとき、水平方向および鉛直方向の力の和はそれぞれゼロになります。
- 力のモーメントのつり合い: 物体が回転せずに静止しているとき、任意の点のまわりの力のモーメントの和はゼロになります。
- 最大摩擦力: 物体がすべり出す直前に受ける摩擦力で、その大きさは \(f_{\text{最大}} = \mu_0 N\) で与えられます。
- 転倒の条件: 物体が傾き出す直前、垂直抗力の作用点は回転軸となる物体の端(この場合は右下隅)に移動します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、「傾くことなくすべり出す」という条件の下で、引く力が最大摩擦力を超える瞬間を考え、水平方向の力のつり合いからその力を求めます。
- (2)では、「すべり出すことなく傾く」という条件の下で、物体が右下隅を軸に回転し始める瞬間を考え、力のモーメントのつり合いからその力を求めます。
- (3)では、(1)と(2)で求めた「すべり出す力」と「傾き出す力」の大小関係を比較し、「傾く方が先に起こる」ための条件を不等式で表して解きます。
問(1)
思考の道筋とポイント
「傾くことなくすべり出す」という状況を考えます。これは、力のモーメントはつり合ったままで、水平方向の力のつり合いが崩れる瞬間を意味します。物体がすべり出すのは、引く力 \(F\) が最大摩擦力を超えたときです。したがって、すべり出す直前の力の大きさ \(F_1\) は、最大摩擦力に等しくなります。
最大摩擦力を求めるためには、まず鉛直方向の力のつり合いから垂直抗力 \(N\) を求める必要があります。
この設問における重要なポイント
- すべり出す条件は、引く力が最大摩擦力を超えること。
- 最大摩擦力の公式は \(f_{\text{最大}} = \mu_0 N\)。
- 鉛直方向の力のつり合いから垂直抗力\(N\)を求める。
具体的な解説と立式
物体にはたらく力は、鉛直方向には重力\(mg\)と垂直抗力\(N\)、水平方向には引く力\(F\)と静止摩擦力\(f\)です。
鉛直方向の力のつり合いより、
$$ N – mg = 0 $$
よって、垂直抗力の大きさは \(N = mg\) です。
したがって、最大摩擦力の大きさ \(f_{\text{最大}}\) は、
$$ f_{\text{最大}} = \mu_0 N = \mu_0 mg $$
物体がすべり出すのは、引く力\(F\)がこの最大摩擦力を超えるときです。すべり出す直前の力の大きさを\(F_1\)とすると、
$$ F_1 = f_{\text{最大}} $$
使用した物理公式
- 力のつり合い
- 最大摩擦力: \(f_{\text{最大}} = \mu_0 N\)
上記で立てた式に、\(f_{\text{最大}} = \mu_0 mg\) を代入します。
$$ F_1 = \mu_0 mg $$
物体がすべり出すのは、引く力が床との摩擦力の限界(最大摩擦力)に達したときです。最大摩擦力は「滑りにくさの係数(\(\mu_0\)) × 物体を床に押し付ける力(垂直抗力)」で計算できます。この物体の場合、垂直抗力は物体の重さ(\(mg\))と等しいので、すべり出すのに必要な力は \(\mu_0 mg\) となります。
物体が傾くことなくすべり出すのは、引く力の大きさが \(\mu_0 mg\) を超えたときです。これは摩擦力の基本的な定義そのものであり、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
「すべり出すことなく傾いた場合」を考えます。これは、摩擦力はまだ限界に達しておらず、力のモーメントのつり合いが崩れる状況です。物体が傾き始めるとき、それは物体の右下隅を回転軸(支点)として回転運動が始まることを意味します。したがって、傾き出す直前の状態では、この支点のまわりの力のモーメントがつり合っていると考えます。
この設問における重要なポイント
- 傾き出す直前、物体は右下の角を回転軸として回転する。
- この回転軸のまわりで、力のモーメントがつり合う。
- 重力は物体の中心(重心)にはたらく。
具体的な解説と立式
物体の右下隅を支点として、力のモーメントのつり合いを考えます。反時計回りを正とします。
- 引く力\(F\)によるモーメント \(M_F\)引く力\(F\)は、支点から高さ\(h\)の位置にはたらき、物体を反時計回りに回転させようとします。
$$ M_F = + F \times h $$ - 重力\(mg\)によるモーメント \(M_g\)重力\(mg\)は物体の中心にはたらきます。中心は支点から水平方向に \(b/2\) の距離にあります。この重力は時計回りのモーメントを作ります。
$$ M_g = – mg \times \frac{b}{2} $$
傾き出す直前の力の大きさを\(F_2\)とすると、モーメントのつり合いの式は \(M_F + M_g = 0\) なので、
$$ F_2 h – mg \frac{b}{2} = 0 $$
使用した物理公式
- 力のモーメントのつり合い
つり合いの式を\(F_2\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
F_2 h &= mg \frac{b}{2} \\[2.0ex]F_2 &= \frac{mgb}{2h}
\end{aligned}
$$
物体が傾くのは、引く力が物体を倒そうとする回転力(モーメント)が、重さが物体を支えようとする回転力に勝ったときです。右下の角を支点とすると、引く力による回転力は「\(F_2 \times h\)」、重さによる回転力は「\(mg \times (b/2)\)」。この2つがつり合うときの\(F_2\)を計算します。
物体がすべり出すことなく傾き出すのは、引く力の大きさが \(\displaystyle\frac{mgb}{2h}\) を超えたときです。この式から、引く位置\(h\)が高いほど、また物体の幅\(b\)が狭いほど、小さい力で傾くことがわかります。これは物理的な直感と一致しており、妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
「物体がすべり出すことなく傾く」ための条件を求めます。これは、力を徐々に大きくしていったときに、「傾き出す」という現象が「すべり出す」という現象よりも先に起こることを意味します。
つまり、「傾き出すのに必要な力 \(F_2\)」が、「すべり出すのに必要な力 \(F_1\)」よりも小さい、という条件になります。この大小関係を不等式で表現し、静止摩擦係数\(\mu_0\)の条件を導き出します。
この設問における重要なポイント
- すべらずに傾く \(\iff\) 傾く力 < すべる力
- (1)と(2)で求めた \(F_1\) と \(F_2\) を用いて、\(F_2 < F_1\) という不等式を立てる。
具体的な解説と立式
物体がすべり出すことなく傾くためには、傾き出すのに必要な力\(F_2\)が、すべり出すのに必要な力\(F_1\)より小さければよいです。
$$ F_2 < F_1 $$
(1), (2)の結果を代入すると、
$$ \frac{mgb}{2h} < \mu_0 mg $$
この不等式を\(\mu_0\)について解くことで、条件が求まります。
使用した物理公式
- (1), (2)で求めた結果
不等式の両辺を \(mg\) で割ります(\(mg\)は正なので不等号の向きは変わりません)。
$$
\begin{aligned}
\frac{b}{2h} &< \mu_0 \\[2.0ex] \mu_0 &> \frac{b}{2h}
\end{aligned}
$$
「すべるより先に傾く」ための条件を求めます。これは、「傾けるための力」が「すべらせるための力」よりも小さければよい、ということです。(1)と(2)で求めた力を \((\text{傾ける力}) < (\text{すべらせる力})\) という不等式に当てはめて、\(\mu_0\)(滑りにくさ)の条件を求めます。
物体がすべり出すことなく傾くための条件は、\(\mu_0 > \displaystyle\frac{b}{2h}\) です。
この結果は、静止摩擦係数\(\mu_0\)が大きい(=滑りにくい)ほど、また、比\(b/2h\)が小さい(=背が高く幅が狭い、倒れやすい)ほど、すべるより先に傾きやすいことを示しています。これは物理的な直感とよく一致しており、妥当な結論です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 剛体のつり合いの2つの条件と、その「崩壊」
- 核心: この問題は、剛体の静止状態を記述する「力のつり合い」と「力のモーメントのつり合い」という2つの法則が、それぞれどのような条件下で破られるのかを理解することが核心です。
- 理解のポイント:
- すべり出す \(\iff\) 水平方向の「力のつり合い」が崩れる。これは、引く力が最大静止摩擦力を超えることで起こります。
- 傾き出す(転倒する) \(\iff\) 「力のモーメントのつり合い」が崩れる。これは、引く力による転倒モーメントが、重力による安定モーメントを上回ることで起こります。
- 垂直抗力の作用点の移動
- 核心: 物体が傾き始めるとき、床からの垂直抗力の作用点は、回転軸となる物体の端(この問題では右下隅)まで移動するという、目に見えない重要な物理現象を理解していることが鍵となります。
- 理解のポイント:
- 力を加えていない状態では、垂直抗力は底面の中心に分布しています。
- 引く力を大きくしていくと、垂直抗力の分布は右側に偏っていきます。
- そして、傾き出す直前には、垂直抗力の作用点は右下隅の一点に集中します。この点が回転軸(支点)となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜面上の物体の転倒条件: 斜面上に置かれた物体が、すべり出すのが先か、転倒するのが先かを、斜面の角度を変化させながら考える問題。
- 人が乗ったはしごの安定性: 壁に立てかけたはしごを人が登っていくとき、はしごが滑り出すのが先か、人が乗ったことで転倒する(壁から離れる)のが先か、といった問題。
- 自動車のコーナリング: カーブを曲がる自動車が、スリップするのが先か、横転するのが先かを、速さや重心の高さから考える問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 2つのシナリオを明確に分離する: まず、「すべり出す場合」と「傾き出す場合」の2つのシナリオを、完全に別の問題として考えます。
- 「すべり出す」シナリオの分析:
- 「力のつり合い」に注目します。
- キーワードは「最大摩擦力 \(f_{\text{最大}} = \mu_0 N\)」です。
- 鉛直方向の力のつり合いから\(N\)を求め、水平方向の力のつり合い \(F = f_{\text{最大}}\) から、すべり出す力\(F_1\)を求めます。
- 「傾き出す」シナリオの分析:
- 「力のモーメントのつり合い」に注目します。
- キーワードは「回転軸(支点)」です。物体がどの点を中心に回転するかを見極めます。
- その支点のまわりで、モーメントのつり合いの式を立て、傾き出す力\(F_2\)を求めます。
- 条件を比較する: 最後に、問題で問われている条件(例:「すべらずに傾く」)に合わせて、\(F_1\)と\(F_2\)の大小関係を不等式で表現し、解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 垂直抗力の作用点を考えない:
- 誤解: 傾く場合を考えるときに、垂直抗力が底面の中心にはたらいたままだと考えてしまう。
- 対策: 「傾く直前には、垂直抗力は支点(回転軸)に移動する」というルールを徹底します。これにより、モーメントの計算において垂直抗力のモーメントが0になり、計算が簡単になるというメリットも理解できます。
- すべり出す条件と傾く条件の混同:
- 誤解: すべり出す条件を考えるのにモーメントの式を使ったり、傾く条件を考えるのに摩擦力の式を使ったりする。
- 対策: 「すべる=並進運動」「傾く=回転運動」という基本に立ち返り、「並進は力のつり合い」「回転はモーメントのつり合い」と、対応する物理法則を明確に区別します。
- (3)の不等号の向きの間違い:
- 誤解: 「すべらずに傾く」という条件を、\(F_1 < F_2\) と間違えてしまう。
- 対策: 「〜が先に起こる」ということは、「〜を起こすのに必要な力が小さい」ということです。「傾くのが先」なら「傾く力 \(F_2\) < すべる力 \(F_1\)」と、言葉の意味を正確に不等式に翻訳する練習をします。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつり合いの式(すべり出す条件):
- 選定理由: 「すべり出す」とは、物体が水平方向に動き始める、つまり並進運動の加速度が生じる瞬間です。物体の並進運動を支配するのはニュートンの運動方程式であり、その静止限界を記述するのが「力のつり合い」と「最大摩擦力」の法則だからです。
- 適用根拠: 引く力\(F\)が最大摩擦力\(\mu_0 N\)に達するまでは、静止摩擦力が\(F\)と等しくなるように調整され、力のつり合いが保たれます。\(F\)が\(\mu_0 N\)を超えた瞬間に、このつり合いが破れて動き出します。
- 力のモーメントのつり合いの式(傾き出す条件):
- 選定理由: 「傾き出す」とは、物体が回転し始める、つまり回転運動の角加速度が生じる瞬間です。剛体の回転運動を支配するのは「力のモーメント」であり、その静止限界を記述するのが「力のモーメントのつり合い」だからです。
- 適用根拠: 引く力\(F\)による転倒モーメント(\(Fh\))が、重力による安定モーメント(\(mg \cdot b/2\))に達するまでは、つり合いが保たれます。\(Fh\)が\(mg \cdot b/2\)を超えた瞬間に、このつり合いが破れて回転し始めます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま計算する: \(m, g, b, h, \mu_0\)などの文字は、最後までそのままで計算を進める。特に(3)のように、最終的に多くの文字が約分されて消える問題では、この方法が非常に有効です。
- 不等式の変形: \( \displaystyle\frac{mgb}{2h} < \mu_0 mg \) のような不等式を解く際、両辺を\(mg\)で割ります。このとき、\(m\)も\(g\)も正の値なので、不等号の向きは変わらないことを確認する癖をつけます。
- 次元解析(単位のチェック): (3)の最終結果 \(\mu_0 > \displaystyle\frac{b}{2h}\) を見ます。左辺の\(\mu_0\)は無次元量です。右辺の\(b/h\)も(長さ/長さ)で無次元量です。このように両辺の次元が一致していることを確認する(次元解析)ことで、大きな間違いがないかをチェックできます。
- 物理的意味の再確認: \(\mu_0 > b/2h\) という結果が何を意味するかを言葉で説明してみます。「滑りにくさ(\(\mu_0\))が、形状で決まる倒れやすさ(\(b/2h\))の逆数より大きいとき、先に倒れる」と解釈でき、物理的な直感と合っていることを確認します。
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