Step 2
125 等速円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「等速円運動の基本量の計算」です。角速度が与えられた状況で、周期、速さ、回転数、加速度、向心力といった、円運動を記述するための基本的な物理量を公式に当てはめて計算する問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 円運動の基本量: 半径(\(r\))、角速度(\(\omega\))、速さ(\(v\))、周期(\(T\))、回転数(\(n\))、加速度(\(a\))、向心力(\(F\))。これらの量が何を表し、どのような関係式で結ばれているかを理解していることが全てです。
- 角速度(\(\omega\)): 1秒あたりに何ラジアン回転するかを表す量。円運動の解析における中心的な役割を果たします。
- 向心加速度と向心力: 等速円運動では、速さは一定ですが、速度の「向き」は常に変化しています。この速度変化(=加速度)を生み出しているのが向心加速度であり、その原因となる力が向心力です。どちらも常円の中心を向いています。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 与えられた量(質量\(m\)、半径\(r\)、角速度\(\omega\))を確認する。
- 各設問で問われている物理量(周期、速さ、回転数、加速度、向心力)を、公式を用いて順番に計算していく。
問(1)
思考の道筋とポイント
回転の「周期」「速さ」「回転数」を求めます。これらはすべて、与えられている角速度 \(\omega\) と半径 \(r\) から公式を用いて直接計算できます。それぞれの量の定義と公式を正確に覚えているかが問われます。
この設問における重要なポイント
- 周期 \(T\): 1回転にかかる時間。\(T = \frac{2\pi}{\omega}\)
- 速さ \(v\): 円周上を進む速さ。\(v = r\omega\)
- 回転数 \(n\): 1秒あたりに何回転するか。周期の逆数。\(n = \frac{1}{T}\)
具体的な解説と立式
周期 \(T\) の計算:
角速度 \(\omega\) が与えられているので、公式 \(T = \frac{2\pi}{\omega}\) を使います。
$$ T = \frac{2\pi}{\omega} $$
速さ \(v\) の計算:
半径 \(r\) と角速度 \(\omega\) が与えられているので、公式 \(v = r\omega\) を使います。
$$ v = r\omega $$
回転数 \(n\) の計算:
周期 \(T\) の逆数が回転数(振動数)\(n\) です。
$$ n = \frac{1}{T} $$
使用した物理公式
- 周期と角速度の関係: \(T = \frac{2\pi}{\omega}\)
- 速さと角速度の関係: \(v = r\omega\)
- 回転数(振動数)と周期の関係: \(n = \frac{1}{T}\)
与えられた値 \(r=1.2 \text{ m}\), \(\omega=5.0 \text{ rad/s}\), \(\pi=3.14\) を用いて計算します。
周期 \(T\) の計算:
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{2 \times 3.14}{5.0} \\[2.0ex]&= \frac{6.28}{5.0} \\[2.0ex]&= 1.256 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(T \approx 1.3 \text{ s}\)。
速さ \(v\) の計算:
$$
\begin{aligned}
v &= 1.2 \times 5.0 \\[2.0ex]&= 6.0 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
回転数 \(n\) の計算:
計算途中の \(T=1.256\) ではなく、分数 \(T=6.28/5.0\) の逆数をとるとより正確です。模範解答では \(1.25\) を使っています。
$$
\begin{aligned}
n &= \frac{1}{1.25} \\[2.0ex]&= 0.80 \text{ [回/s]}
\end{aligned}
$$
よって、1秒間に0.80回転します。
円運動の性質を計算する問題です。
・「周期」は1周するのにかかる時間。角速度(1秒で進む角度)が分かっているので、「1周の角度(\(2\pi\)) ÷ 1秒で進む角度(\(\omega\))」で計算できます。
・「速さ」は、半径と角速度を掛け合わせる公式 \(v=r\omega\) で一発です。
・「1秒間の回転数」は、「周期(1回転の時間)」の逆数です。例えば、1回転に2秒かかるなら、1秒間には0.5回転します。
周期は約 \(1.3 \text{ s}\)、速さは \(6.0 \text{ m/s}\)、1秒あたりの回転数は \(0.80\) 回転です。すべての計算は基本的な公式に数値を代入するだけであり、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
等速円運動における加速度の向きと大きさを求める問題です。等速円運動では、速さは一定ですが速度の向きが変わり続けるため、加速度が生じます。この加速度は「向心加速度」と呼ばれ、常に円の中心を向いています。
この設問における重要なポイント
- 加速度の向き: 常に円の中心を向く。
- 加速度の大きさの公式: \(a = r\omega^2\) または \(a = \frac{v^2}{r}\)。今回は \(r\) と \(\omega\) が与えられているので、前者が便利。
具体的な解説と立式
加速度の向き:
等速円運動の加速度(向心加速度)は、常に円の中心を向いています。
加速度の大きさ \(a\) の計算:
半径 \(r\) と角速度 \(\omega\) を用いて、公式 \(a = r\omega^2\) から計算します。
$$ a = r\omega^2 $$
使用した物理公式
- 向心加速度: \(a = r\omega^2 = \frac{v^2}{r}\)
与えられた値 \(r=1.2 \text{ m}\), \(\omega=5.0 \text{ rad/s}\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
a &= 1.2 \times (5.0)^2 \\[2.0ex]&= 1.2 \times 25 \\[2.0ex]&= 30 \text{ [m/s}^2\text{]}
\end{aligned}
$$
等速円運動では、物体は常に円の中心に向かって引っ張られ続けています。この「引っ張られる効果」が加速度です。したがって、加速度の向きは「円の中心向き」です。大きさは、公式 \(a = r\omega^2\) に半径と角速度の値を代入するだけで計算できます。
加速度の向きは円の中心に向かう向きで、大きさは \(30 \text{ m/s}^2\) です。公式に値を代入しただけなので、計算ミスがなければ問題ありません。
問(3)
思考の道筋とポイント
物体にはたらいている向心力の大きさを求める問題です。向心力は、(2)で求めた向心加速度を生じさせる原因となる力です。ニュートンの運動方程式 \(F=ma\) を使って計算します。
この設問における重要なポイント
- 運動方程式: \(F=ma\)
- 向心力 \(F\) は、質量 \(m\) と向心加速度 \(a\) の積である。
具体的な解説と立式
向心力の大きさ \(F\) は、運動方程式 \(F=ma\) から求められます。
質量 \(m\) は問題文で与えられており、加速度 \(a\) は(2)で計算済みです。
$$ F = ma $$
(2)で求めた \(a = r\omega^2\) を代入すると、向心力の公式 \(F = mr\omega^2\) となります。
使用した物理公式
- 運動方程式: \(F=ma\)
- 向心力: \(F = mr\omega^2 = m\frac{v^2}{r}\)
与えられた値 \(m=0.20 \text{ kg}\) と、(2)で求めた \(a=30 \text{ m/s}^2\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
F &= 0.20 \times 30 \\[2.0ex]&= 6.0 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
(2)で求めた加速度は、何らかの力が原因で生じています。この原因となる力が「向心力」です。物理学の基本法則である運動方程式 \(F=ma\)(力=質量×加速度)に、問題で与えられた質量と、(2)で計算した加速度の値を代入すれば、向心力の大きさが計算できます。
向心力の大きさは \(6.0 \text{ N}\) です。この問題では、糸が物体を引く張力が向心力の役割を果たしています。したがって、糸の張力の大きさも \(6.0 \text{ N}\) であることがわかります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 等速円運動の公式群:
- 核心: 等速円運動を記述する様々な物理量(周期\(T\)、回転数\(n\)、速さ\(v\)、角速度\(\omega\)、半径\(r\)、向心加速度\(a\)、向心力\(F\))の関係性を表す一連の公式を正確に記憶し、自在に使いこなせること。
- 理解のポイント: これらの公式は独立しているのではなく、互いに密接に関連しています。特に、角速度 \(\omega\) は多くの公式に登場する中心的な量です。例えば、\(v=r\omega\)、\(T=2\pi/\omega\)、\(a=r\omega^2\)、\(F=mr\omega^2\) のように、\(\omega\) が分かっていれば他の量を次々と導出できます。
- 運動方程式 (\(F=ma\)) の応用:
- 核心: 向心力は何か特別な種類の力ではなく、運動方程式 \(F=ma\) に基づいて計算される、円運動を引き起こす「合力」であると理解すること。
- 理解のポイント: (2)で向心加速度 \(a\) を求めた後、(3)で向心力 \(F\) を求める流れは、まさに運動方程式そのものです。円運動も、力学の基本法則である運動方程式に支配されている一例に過ぎない、という視点を持つことが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 与えられる情報が違う問題: 例えば、速さ \(v\) と周期 \(T\) が与えられて、角速度 \(\omega\) や向心力 \(F\) を求める問題。どの公式を使えば、手持ちの情報から目的の量にたどり着けるか、公式のネットワークを頭の中で描けるかが鍵になります。
- 人工衛星の円運動: 地球の万有引力が向心力の役割を果たす等速円運動。万有引力の法則と円運動の公式を組み合わせることで、衛星の速さや周期を計算できます。
- 荷電粒子のローレンツ力による円運動: 磁場中で荷電粒子が受けるローレンツ力が向心力となり、円運動をする問題。ローレンツ力の公式と円運動の公式を結びつけます。
- 初見の問題での着眼点:
- 与えられた物理量の整理: まず、問題文から \(m, r, v, \omega, T, n\) などのうち、どの量が与えられているかをリストアップします。
- 求めたい物理量の確認: 次に、何を計算するよう求められているかを確認します。
- 公式の選択: 手持ちの情報とゴールを結びつける公式を選択します。例えば、「\(r\) と \(\omega\) が分かっていて \(v\) を知りたい」なら \(v=r\omega\) を、「\(m, v, r\) が分かっていて \(F\) を知りたい」なら \(F=m\frac{v^2}{r}\) を選択します。
- 単位の確認: 角速度の単位が rad/s であること、周期は s、速さは m/s であることなど、各物理量の標準的な単位を確認し、必要であれば換算します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 角速度 \(\omega\) と速さ \(v\) の混同:
- 誤解: 角速度 \(\omega\) を速さ \(v\) と同じものだと勘違いし、公式を誤って適用する。
- 対策: \(\omega\) は「角度の速さ」(単位: rad/s)、\(v\) は「円周上の速さ」(単位: m/s)と、意味も単位も全く異なることを明確に区別する。両者の関係式 \(v=r\omega\) を正しく理解する。
- 周期 \(T\) と回転数 \(n\) の混同:
- 誤解: 周期(1回転あたりの時間)と回転数(1時間あたりの回転数)を取り違える。
- 対策: 両者が互いに逆数の関係 (\(n=1/T\)) にあることを覚える。「周期が長い」ほど「回転数は小さい」という直感的なイメージを持つと間違いにくい。
- 公式の覚え間違い:
- 誤解: 向心加速度の公式を \(a=r^2\omega\) や \(a=r\omega\) と間違える。向心力を \(F=m\frac{v}{r}\) などと間違える。
- 対策: 公式を丸暗記するだけでなく、次元(単位)をチェックする習慣をつける。例えば、加速度の単位は \(\text{m/s}^2\)。\(r\omega^2\) の単位は \(\text{m} \cdot (\text{rad/s})^2 = \text{m/s}^2\) となり一致するが、\(r\omega\) の単位は \(\text{m} \cdot \text{rad/s} = \text{m/s}\) で速さの単位であり、一致しない。このように次元解析で検算できる。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(T = 2\pi/\omega\):
- 選定理由: (1)で周期を求めるため。角速度 \(\omega\) から直接計算できる最も基本的な公式。
- 適用根拠: 周期 \(T\) は1回転(\(2\pi\) ラジアン)するのにかかる時間。角速度 \(\omega\) は1秒あたりに進む角度。したがって、「時間 = 角度 ÷ 角度の速さ」という関係から導かれる。
- \(v = r\omega\):
- 選定理由: (1)で速さを求めるため。角速度 \(\omega\) と半径 \(r\) から速さ \(v\) を求めるための定義式。
- 適用根拠: 1秒間に \(\omega\) ラジアン進むとき、円周上を進む弧の長さは \(r\omega\)。これが速さの定義にほかならない。
- \(a = r\omega^2\):
- 選定理由: (2)で加速度を求めるため。角速度 \(\omega\) と半径 \(r\) から直接計算できるため、\(v\) を経由する \(a=v^2/r\) よりも効率的。
- 適用根拠: 円運動する物体の速度ベクトルの時間変化を数学的に計算(微分)することで導出される、向心加速度の定義式の一つ。
- \(F = ma\):
- 選定理由: (3)で向心力を求めるため。質量 \(m\) と加速度 \(a\) が分かっている状況で、力を求めるための最も基本的な法則。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則。円運動もこの法則に支配されており、向心加速度 \(a\) を生み出す原因が向心力 \(F\) であることを示している。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 有効数字の取り扱い: (1)の周期の計算では、\(\pi=3.14\) を使って \(1.256\) という結果が出ていますが、問題文の他の数値(0.20kg, 1.2m, 5.0rad/s)が2桁であるため、最終的な答えは2桁または3桁(この場合は1.3s)に丸めるのが適切です。計算の途中では多めの桁数を保持し、最後に丸めるのが基本です。
- 単位の確認: 計算結果に正しい単位(s, m/s, 回, m/s\(^2\), N)を付けることを忘れない。単位を付けることで、自分が何を計算したのかを再確認でき、ミスを防ぐことにもつながります。
- べき乗の計算: (2)の \(a=1.2 \times 5.0^2\) のような計算では、\(5.0^2 = 25\) を先に計算することを徹底する。\(1.2 \times 5.0\) を先に計算しないように注意する。
126 弾性力による等速円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「弾性力による等速円運動」です。ばねの弾性力が向心力の役割を果たすことで、おもりが等速円運動をする状況を扱います。円運動の基本的な関係式と、ばねの弾性力に関するフックの法則を組み合わせて解くことが求められます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 円運動の基本量: 周期(\(T\))、回転数(\(n\))、速さ(\(v\))、角速度(\(\omega\))、半径(\(r\))の関係を理解していること。特に、回転数から周期を、周期から角速度や速さを計算する流れが重要です。
- 向心力: 円運動を維持するために必要な中心向きの力。この問題では、ばねの弾性力がその役割を完全に担っています。
- フックの法則: ばねの弾性力の大きさは、ばねの自然長からの「伸び」に比例します (\(F=kx\))。ばねの全長ではない点に注意が必要です。
- 運動方程式: 円運動の運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\) を立て、向心力 \(F_{\text{向心}}\) を具体的な力(この場合は弾性力 \(kx\))で置き換えて立式します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、与えられた回転数から周期を求め、それを使っておもりの速さ \(v\) を計算します。
- 次に、円運動の運動方程式を立てます。向心力はばねの弾性力 \(kx\) です。
- 運動方程式に、(1)で求めた速さ \(v\) や、問題文で与えられた質量 \(m\)、半径 \(r\)、ばねの伸び \(x\) を代入し、ばね定数 \(k\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
おもりの速さを求める問題です。速さを計算するには、半径 \(r\) と角速度 \(\omega\)(または周期 \(T\))が必要です。問題文には「1秒間に2.0回転」という回転数 \(n\) が与えられているので、まずこれから周期 \(T\) を求め、それを使って速さ \(v\) を計算します。
この設問における重要なポイント
- 回転数 \(n\) と周期 \(T\) は逆数の関係: \(T = \frac{1}{n}\)。
- 速さ \(v\)、半径 \(r\)、周期 \(T\) の関係: \(v = \frac{2\pi r}{T}\)。これは「速さ = (円周の長さ) ÷ (1周にかかる時間)」という定義そのものです。
- 円運動の半径 \(r\) は、回転しているときのばねの長さ \(0.24 \text{ m}\) である。
具体的な解説と立式
周期 \(T\) の計算:
1秒間に \(n=2.0\) 回転するので、1回転にかかる時間(周期 \(T\))はその逆数となります。
$$ T = \frac{1}{n} $$
速さ \(v\) の計算:
周期 \(T\) と円運動の半径 \(r\) が分かれば、速さ \(v\) は公式 \(v = \frac{2\pi r}{T}\) から計算できます。
$$ v = \frac{2\pi r}{T} $$
あるいは、角速度 \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) を経由して、\(v=r\omega\) から計算することもできます。
$$ v = r\omega = r \left( \frac{2\pi}{T} \right) $$
使用した物理公式
- 周期と回転数の関係: \(T = \frac{1}{n}\)
- 速さと周期の関係: \(v = \frac{2\pi r}{T}\)
与えられた値 \(n=2.0 \text{ 回/s}\), \(r=0.24 \text{ m}\), \(\pi=3.14\) を用いて計算します。
周期 \(T\) の計算:
$$
\begin{aligned}
T &= \frac{1}{2.0} \\[2.0ex]&= 0.50 \text{ [s]}
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) の計算:
$$
\begin{aligned}
v &= \frac{2 \times 3.14 \times 0.24}{0.50} \\[2.0ex]&= \frac{1.5072}{0.50} \\[2.0ex]&= 3.0144 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(v \approx 3.0 \text{ m/s}\)。
まず、1秒間に2.0回転するという情報から、1回転にかかる時間(周期)を計算します。これは単純に逆数をとって \(1 \div 2.0 = 0.50\) 秒です。次に、速さを求めます。速さは「距離÷時間」なので、「円1周の長さ ÷ 1周にかかる時間」で計算できます。円1周の長さは \(2\pi r\)、1周にかかる時間は今求めた周期 \(T\) なので、これらを割り算すれば速さが求まります。
おもりの速さは約 \(3.0 \text{ m/s}\) です。与えられた情報から、円運動の基本公式を用いて順当に計算できました。
問(2)
思考の道筋とポイント
ばね定数 \(k\) を求める問題です。この円運動では、ばねの弾性力が向心力の役割を果たしています。この関係を運動方程式として立て、値を代入することでばね定数 \(k\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 向心力は、ばねの弾性力である: \(F_{\text{向心}} = kx\)。
- ばねの「伸び」 \(x\) は、現在の長さから自然長を引いたもの: \(x = 0.24 – 0.20 = 0.04 \text{ m}\)。
- 円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\)。
具体的な解説と立式
おもりが等速円運動をするための向心力は、ばねの弾性力によって供給されています。
向心力の大きさは \(m\frac{v^2}{r}\) であり、弾性力の大きさはフックの法則より \(kx\) です。
したがって、以下の運動方程式が成り立ちます。
$$ m\frac{v^2}{r} = kx $$
この式に、問題文で与えられた値と(1)で求めた値を代入し、\(k\) について解きます。
- 質量: \(m = 0.50 \text{ kg}\)
- 速さ: \(v \approx 3.01 \text{ m/s}\) (有効数字を考慮し、丸める前の値を使う)
- 半径: \(r = 0.24 \text{ m}\)
- ばねの伸び: \(x = 0.24 – 0.20 = 0.04 \text{ m}\)
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\)
- フックの法則: \(F = kx\)
運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = kx\) に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
0.50 \times \frac{(3.0144)^2}{0.24} &= k \times (0.24 – 0.20) \\[2.0ex]0.50 \times \frac{9.0866}{0.24} &= k \times 0.04 \\[2.0ex]0.50 \times 37.86 &\approx k \times 0.04 \\[2.0ex]18.93 &\approx 0.04k \\[2.0ex]k &\approx \frac{18.93}{0.04} \\[2.0ex]k &\approx 473.25 \text{ [N/m]}
\end{aligned}
$$
模範解答では \(v=3.01\) を使っているため、
$$ 0.50 \times \frac{3.01^2}{0.24} = 0.50 \times \frac{9.0601}{0.24} \approx 18.875 $$
$$ k = \frac{18.875}{0.04} = 471.875 \text{ [N/m]} $$
有効数字2桁に丸めて、\(k \approx 4.7 \times 10^2 \text{ N/m}\)。
おもりが円運動を続けるためには、中心に向かって常に引っ張られている必要があります。この「引っ張る力(向心力)」の正体は、この問題では「ばねが伸びて元に戻ろうとする力(弾性力)」です。つまり、「向心力 = 弾性力」という関係が成り立っています。この等式に、それぞれの力の公式(向心力は \(m\frac{v^2}{r}\)、弾性力は \(kx\))を当てはめ、数値を代入して計算すると、未知数であるばね定数 \(k\) が求まります。
ばね定数は約 \(4.7 \times 10^2 \text{ N/m}\) です。計算過程は、物理法則を正しく立式し、値を代入するものであり、妥当です。計算途中で値を丸めると誤差が大きくなるため、可能な限り最後の段階で有効数字を考慮するのが望ましいです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 運動方程式と力の法則の組み合わせ:
- 核心: この問題は、円運動の運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\)) という運動の法則と、フックの法則 (\(F=kx\)) という力の法則を結びつけて解く、物理学の典型的な問題構造をしています。
- 理解のポイント: 運動方程式の右辺 \(F_{\text{向心}}\) は、その場ではたらいている具体的な力(この場合は弾性力)に置き換えることができます。このように、異なる物理法則を「力」を仲介役として連結させる思考法が非常に重要です。
- 向心力の正体の特定:
- 核心: 円運動の問題を解く上で、「向心力として働いているのは、どの力なのか?」を正確に特定することが第一歩です。
- 理解のポイント: 向心力は独立した力ではなく、常に何らかの実在する力(または力の合力)がその役割を担っています。この問題では、ばねの弾性力が100%向心力の役割を果たしています。他の例では、糸の張力、万有引力、静止摩擦力、垂直抗力と重力の合力などが向心力となります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 円錐振り子: 重力と糸の張力の「合力」が向心力の役割を果たす問題。力を水平・鉛直に分解して考える必要があります。
- 回転する円盤上の物体: 物体と円盤の間の「静止摩擦力」が向心力の役割を果たす問題。角速度を上げていくと、必要な向心力が最大静止摩擦力を超えた瞬間に滑り出す、という限界条件を問われます。
- バンク付きカーブを曲がる自動車: 自動車にはたらく「垂直抗力と重力の合力」および「静止摩擦力」が向心力の役割を果たす問題。力の分解が鍵となります。
- 初見の問題での着眼点:
- 向心力の源泉を探す: まず、物体を円運動させている力の源は何か(張力か、弾性力か、摩擦力か、それらの合力か)を特定します。
- 円運動のパラメータを計算する: 問題で与えられた情報(回転数、周期、角速度など)から、運動方程式を立てるのに必要なパラメータ(速さ\(v\)や角速度\(\omega\))を計算します。
- 運動方程式を立てる: \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\) または \(mr\omega^2 = F_{\text{向心}}\) の形で運動方程式を立てます。
- 力の法則を代入する: 右辺の \(F_{\text{向心}}\) を、ステップ1で特定した力の具体的な式(例: \(kx\), \(\mu N\) など)に置き換えます。
- 未知数を解く: 立てた方程式を、求めたい未知数について解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- ばねの「長さ」と「伸び」の混同:
- 誤解: フックの法則 \(F=kx\) の \(x\) に、ばねの全長 \(0.24 \text{ m}\) を代入してしまう。
- 対策: \(x\) は常に「自然長からの伸びまたは縮み」であると徹底して覚える。問題文に「自然長」と「現在の長さ」の両方が書かれていたら、必ず引き算をして「伸び」を計算するステップを忘れないようにする。
- 円運動の半径 \(r\) の間違い:
- 誤解: 運動方程式の \(r\) に、ばねの自然長 \(0.20 \text{ m}\) を代入してしまう。
- 対策: \(r\) は「実際の円運動の半径」です。ばねが伸びて回転しているので、その回転半径は伸びた後のばねの長さ \(0.24 \text{ m}\) となります。常に物体がどの半径の円周上を運動しているかを正確に把握することが重要です。
- 計算の順序ミス:
- 誤解: ばね定数を求める前に速さを計算する必要があるのに、どの情報から手をつければよいか分からなくなる。
- 対策: 問題で問われていることを確認し、それを計算するために何が必要かを逆算する。「ばね定数 \(k\) を知りたい」→「運動方程式を立てる必要がある」→「そのためには速さ \(v\) が必要」→「速さ \(v\) を知るには周期 \(T\) が必要」→「周期 \(T\) は回転数 \(n\) からわかる」というように、思考の連鎖を組み立てる練習をする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(T = 1/n\):
- 選定理由: 問題文で与えられた「回転数」から、他の計算に必要な「周期」を求めるための変換式として使用。
- 適用根拠: 周期と回転数(振動数)の定義そのものから導かれる、基本的な関係式です。
- \(v = 2\pi r / T\):
- 選定理由: 周期 \(T\) と半径 \(r\) が分かっている状況で、速さ \(v\) を求めるため。
- 適用根拠: 「速さ = 距離 ÷ 時間」という定義に基づき、円運動の1周分に適用したものです(距離 = 円周 \(2\pi r\)、時間 = 周期 \(T\))。
- \(m\frac{v^2}{r} = kx\):
- 選定理由: この問題の物理的状況そのものを表す中心的な方程式。未知数であるばね定数 \(k\) を、他の既知の量と結びつけるために不可欠。
- 適用根拠: これは2つの法則の組み合わせです。左辺は「円運動をする物体に必要な向心力」を表す運動方程式の一部。右辺は「ばねが及ぼす弾性力」を表すフックの法則。この円運動では弾性力が向心力の役割を担っているため、この2つを等号で結ぶことができます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 計算途中での丸めを避ける: 模範解答では \(v=3.01\) と途中で丸めた値を使っていますが、可能であれば分数の形やより多くの桁数を保持したまま次の計算に進む方が、最終的な結果の精度が高まります。例えば、\(v = 1.5072 / 0.50\) のまま \(v^2\) を計算するなど。
- 単位の一貫性を確認する: 計算に使用するすべての物理量の単位が、基本的な単位系(この場合はMKS単位系:メートル、キログラム、秒)に揃っているかを確認する。自然長や半径がcmで与えられていたら、mに直してから計算する。
- 最終的な答えの桁数: 問題文で与えられている数値の有効数字(この場合は2桁)に合わせるのが基本です。\(k=471.8\dots\) と計算できても、最終的には \(4.7 \times 10^2\) のように整理して答える。
127 張力による等速円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「円錐振り子」です。糸につながれたおもりが水平面内で等速円運動する状況を扱います。重力と糸の張力の合力が向心力となる、円運動の典型的な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 静止系での円運動の解析: 地上から見た立場(静止系)で、おもりにはたらく力をすべて描き出し、運動方程式を立てるのが基本です。
- 力の分解: 糸の張力を水平成分と鉛直成分に分解します。このとき、鉛直成分は重力とつりあい、水平成分が向心力の役割を果たします。
- 向心力: 円運動の中心向きにはたらく力の合力のこと。この問題では、張力の水平成分が向心力となります。
- 幾何学的関係: 糸の長さ \(L\)、円運動の半径 \(r\)、振り子の鉛直からの角度 \(\theta\) の間には、\(\sin\theta = r/L\) や \(\cos\theta = \sqrt{L^2-r^2}/L\) といった三角比の関係が成り立ちます。
- 限界条件: (3)のように「糸が切れないため」という条件は、張力 \(T\) が、与えられた最大値(この場合は \(3mg\))を超えない、という不等式で表されます (\(T \le 3mg\))。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、おもりにはたらく実在の力をリストアップします。
- (2)では、与えられた半径 \(r\) から角度 \(\theta\) を特定し、力のつりあい(鉛直方向)と運動方程式(水平方向)を連立させて角速度 \(\omega\) を求めます。
- (3)では、まず任意の半径 \(r\) での張力 \(T\) を文字式で表し、その \(T\) が限界値 \(3mg\) 以下であるという不等式を立てて、\(r\) の範囲を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
静止した地上から見たときに、おもりにはたらいている「実際の力」をすべて挙げる問題です。向心力はこれらの力の合力によって生み出されるものであり、独立した力として数えない点に注意します。
この設問における重要なポイント
- 物体に実際に触れているものから受ける力(接触力)と、離れていてもはたらく力(重力)を考える。
- 向心力は力の「役割名」であり、力の種類ではない。
具体的な解説と立式
おもりにはたらく力を考えます。
- 地球がおもりを引く力:重力
- 糸がおもりを引く力:張力
これ以外に、おもりにはたらいている力はありません(空気抵抗は無視)。したがって、地上から見たときにはたらく力は重力と張力の2つです。
使用した物理公式
- 力の種類に関する基本的な知識
この設問は知識を問うものであり、計算は不要です。
おもりの周りを見渡して、何がおもりに力を及ぼしているかを考えます。まず、地球が常に下向きに引っ張っています(重力)。次に、糸がおもりを斜め上に引っ張っています(張力)。これ以外におもりにはたらく力はありません。
地上から見たとき、おもりにはたらく力は「重力」と「張力」です。
問(2)
思考の道筋とポイント
円運動の半径 \(r\) が特定の値のときの角速度 \(\omega\) を求める問題です。まず、与えられた半径 \(r\) と糸の長さ \(L\) から、糸が鉛直線となす角 \(\theta\) を特定します。次に、おもりにはたらく力のつりあい(鉛直方向)と運動方程式(水平方向)を立て、これらを連立して \(\omega\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 幾何学的関係: \(\sin\theta = r/L\) から角度 \(\theta\) を求める。
- 力の分解: 張力 \(T\) を鉛直成分 \(T\cos\theta\) と水平成分 \(T\sin\theta\) に分解する。
- 鉛直方向の力のつりあい: \(T\cos\theta = mg\)。
- 水平方向の運動方程式: \(mr\omega^2 = T\sin\theta\)。
具体的な解説と立式
半径 \(r = \frac{\sqrt{3}}{2}L\) のとき、\(\sin\theta = \frac{r}{L} = \frac{\sqrt{3}}{2}\) となるので、\(\theta=60^\circ\) です。
おもりにはたらく張力を \(T\) とすると、
鉛直方向の力のつりあい:
$$ T\cos60^\circ – mg = 0 \quad \cdots ① $$
水平方向の運動方程式:
向心力は張力の水平成分 \(T\sin60^\circ\) なので、
$$ mr\omega^2 = T\sin60^\circ \quad \cdots ② $$
この2式から \(T\) を消去して \(\omega\) を求めます。
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\sum F_y = 0\)
- 円運動の運動方程式: \(mr\omega^2 = F_{\text{向心}}\)
- 三角比
①式より、\(T = \frac{mg}{\cos60^\circ} = \frac{mg}{1/2} = 2mg\)。
これを②式に代入します。
$$
\begin{aligned}
m \left( \frac{\sqrt{3}}{2}L \right) \omega^2 &= (2mg) \sin60^\circ \\[2.0ex]m \frac{\sqrt{3}}{2}L \omega^2 &= 2mg \cdot \frac{\sqrt{3}}{2} \\[2.0ex]\frac{1}{2}mL\omega^2 &= mg
\end{aligned}
$$
両辺の \(m\) を消去し、\(\omega^2\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \frac{2g}{L} \\[2.0ex]\omega &= \sqrt{\frac{2g}{L}}
\end{aligned}
$$
②式を①式で割ることで \(T\) を消去します。
$$ \frac{mr\omega^2}{mg} = \frac{T\sin\theta}{T\cos\theta} $$
$$
\begin{aligned}
\frac{r\omega^2}{g} &= \tan\theta \\[2.0ex]\omega^2 &= \frac{g\tan\theta}{r}
\end{aligned}
$$
ここに \(\theta=60^\circ\), \(r=\frac{\sqrt{3}}{2}L\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\omega^2 &= \frac{g\tan60^\circ}{\frac{\sqrt{3}}{2}L} \\[2.0ex]&= \frac{g\sqrt{3}}{\frac{\sqrt{3}}{2}L} \\[2.0ex]&= \frac{2g}{L}
\end{aligned}
$$
よって、\(\omega = \sqrt{\frac{2g}{L}}\)。
おもりが安定して円運動しているとき、力はバランスが取れています。具体的には、「上下方向」と「水平方向」の2つの視点で見ます。「上下方向」では、張力の上向き成分が重力とつりあっています。「水平方向」では、張力の水平成分が、おもりを円の内側に引き留める向心力として働いています。この2つの関係式を立て、連立方程式として解くことで、角速度 \(\omega\) が計算できます。
角速度 \(\omega\) は \(\sqrt{\frac{2g}{L}}\) です。この結果は質量 \(m\) に依存しないことがわかります。これは、重力も向心力も質量 \(m\) に比例するため、式を整理する過程で \(m\) が相殺されるためです。
問(3)
思考の道筋とポイント
糸が切れないための円運動の半径 \(r\) の範囲を求める問題です。まず、任意の半径 \(r\) と糸の長さ \(L\) で運動しているときの張力 \(T\) を、文字式で表現します。次に、その張力 \(T\) が、糸が耐えられる最大の力 \(3mg\) 以下であるという不等式を立て、それを \(r\) について解きます。
この設問における重要なポイント
- 張力 \(T\) を半径 \(r\) の関数として表す。
- 糸が切れない条件は \(T \le 3mg\)。
- 幾何学的関係 \(\cos\theta = \frac{\sqrt{L^2-r^2}}{L}\) を利用する。
具体的な解説と立式
任意の半径 \(r\) で円運動しているとき、糸と鉛直線のなす角を \(\theta\) とします。
鉛直方向の力のつりあいは、常に成り立っています。
$$ T\cos\theta = mg $$
ここから、張力 \(T\) は \(T = \frac{mg}{\cos\theta}\) と表せます。
図の直角三角形より、\(\cos\theta = \frac{\sqrt{L^2-r^2}}{L}\) なので、これを代入すると、
$$ T = \frac{mg}{\frac{\sqrt{L^2-r^2}}{L}} = \frac{mgL}{\sqrt{L^2-r^2}} $$
糸が切れないための条件は \(T \le 3mg\) なので、
$$ \frac{mgL}{\sqrt{L^2-r^2}} \le 3mg $$
この不等式を \(r\) について解きます。
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(T\cos\theta = mg\)
- 三平方の定理(幾何学的関係)
$$
\begin{aligned}
\frac{mgL}{\sqrt{L^2-r^2}} &\le 3mg \\[2.0ex]\frac{L}{\sqrt{L^2-r^2}} &\le 3 \quad (\text{両辺を } mg > 0 \text{ で割る}) \\[2.0ex]L &\le 3\sqrt{L^2-r^2} \quad (\text{分母を払う}) \\[2.0ex]L^2 &\le 9(L^2-r^2) \quad (\text{両辺を2乗する}) \\[2.0ex]L^2 &\le 9L^2 – 9r^2 \\[2.0ex]9r^2 &\le 8L^2 \\[2.0ex]r^2 &\le \frac{8}{9}L^2 \\[2.0ex]r &\le \sqrt{\frac{8}{9}L^2} = \frac{2\sqrt{2}}{3}L
\end{aligned}
$$
また、半径 \(r\) は正の値なので \(r>0\)。したがって、\(0 < r \le \frac{2\sqrt{2}}{3}L\)。模範解答では下限を省略しています。
回転が速くなる(半径 \(r\) が大きくなる)ほど、糸にかかる張力は大きくなります。この張力が、糸が耐えられる限界(重りの重さの3倍)を超えると糸は切れてしまいます。そこでまず、半径 \(r\) がいくつのときに張力がいくつになるか、という関係式を作ります。次に、その張力が「\(3mg\) 以下」になるような不等式を立て、それを解くことで、糸が切れないで済む半径 \(r\) の範囲を求めることができます。
糸が切れないためには、半径 \(r\) は \(\frac{2\sqrt{2}}{3}L\) 以下である必要があります。半径が大きくなるほど(回転が速くなるほど)張力が大きくなるという物理的な直感とも一致する妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 円運動の力学(静止系):
- 核心: 円錐振り子の運動は、静止系(地上)から見て、おもりにはたらく「重力」と「張力」の合力が、円運動の中心に向かう「向心力」の役割を果たしている、と理解することが基本です。
- 理解のポイント: この視点に立つと、問題を「鉛直方向の力のつりあい」と「水平方向の運動方程式」という2つの独立した式に分解して考えることができます。この2式を連立させることが、円錐振り子を解くための王道パターンです。
- 幾何学と物理法則の融合:
- 核心: 糸の長さ \(L\)、円運動の半径 \(r\)、糸の傾き \(\theta\) の間にある幾何学的な関係(三角比)を、力のつりあいや運動方程式といった物理法則の中に正しく組み込む能力が問われます。
- 理解のポイント: \(r = L\sin\theta\) や \(\cos\theta = \sqrt{L^2-r^2}/L\) といった関係は、物理現象を数式に落とし込む際の「翻訳ルール」のようなものです。これらを自在に使いこなすことで、問われている変数(例えば(3)の \(r\))で式を表現し直すことができます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 回転数を上げたときの角度変化: 回転数を徐々に上げていくと、おもりはより外側に振れ、角度 \(\theta\) が大きくなる。角速度 \(\omega\) と角度 \(\theta\) の関係式を導出する問題。
- 非等速円運動(振り子)との比較: 円錐振り子は「等速」円運動ですが、単なる振り子は鉛直面内で「非等速」な円運動(単振動の近似)をします。力のつりあいの考え方は似ていますが、運動方程式の立て方やエネルギー保存則の適用の有無が異なります。この違いを意識することが重要です。
- 遠心力を用いた解法: この問題は、おもりと一緒に回転する視点(回転系)に立ち、「重力」「張力」「遠心力」の3つの力のつりあいとして解くこともできます。特に力の関係性を直感的に捉えたい場合に有効な視点です。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の作図と分解: まず、おもりにはたらく力(重力、張力)を正確に作図します。次に、張力を水平成分と鉛直成分に分解します。これが解析の出発点です。
- 2つの基本式を立てる:
- 鉛直方向: \(T\cos\theta = mg\) (力のつりあい)
- 水平方向: \(mr\omega^2 = T\sin\theta\) (運動方程式)
この2つの式を立てることを常に目標とします。
- 幾何学的関係の利用: 問題で与えられている変数(\(r, L\) など)と、式を立てるのに使った変数(\(\theta\))を関係づける三角比の式を準備します。
- 条件式の立式: 「糸が切れない」「床から浮き上がる」などの限界条件が問われたら、それを不等式(例: \(T \le T_{\text{max}}\))で表現し、これまで立てた式と組み合わせて解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向心力と張力の混同:
- 誤解: 向心力を張力 \(T\) そのものだと勘違いし、\(mr\omega^2 = T\) という式を立ててしまう。
- 対策: 向心力は、あくまでも中心方向の「力の合力」です。この問題では、張力 \(T\) の「水平成分」 \(T\sin\theta\) が向心力です。必ず力を分解して、水平方向の成分だけを取り出すことを徹底する。
- 三角関数の選択ミス:
- 誤解: (2)で \(r=\frac{\sqrt{3}}{2}L\) から \(\cos\theta = \sqrt{3}/2\) (\(\theta=30^\circ\)) と勘違いする。また、(3)で \(\cos\theta\) を求める際に、三平方の定理の分子と分母を逆にしたり、ルートを忘れたりする。
- 対策: 必ず「どの辺が斜辺で、どの辺が対辺・隣辺か」を図で確認する習慣をつける。\(\sin\theta = r/L\) は基本として覚え、\(\cos\theta\) や \(\tan\theta\) はそこから導出できるようにしておく。
- 不等式の変形ミス:
- 誤解: (3)で不等式を解く際に、分母を払った後の2乗計算や、移項、平方根をとる過程でミスをする。
- 対策: 不等式の変形は、等式の場合よりも慎重に行う。特に、負の数を掛けたり割ったりするときの不等号の向きの反転(この問題では発生しない)や、2乗する際の同値性(両辺が正であることを確認)に注意する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあい (\(T\cos\theta = mg\)):
- 選定理由: おもりは水平面内で運動しており、上下方向には動かない(加速度が0)ため。
- 適用根拠: 運動方程式 \(ma_y = F_y\) において、鉛直方向の加速度 \(a_y=0\) なので、鉛直方向の力の合力 \(F_y\) は0になります。
- 円運動の運動方程式 (\(mr\omega^2 = T\sin\theta\)):
- 選定理由: おもりは水平面内で円運動という加速度運動をしているため。
- 適用根拠: 運動方程式 \(ma_x = F_x\) において、水平方向(中心向き)の加速度は向心加速度 \(a_x = r\omega^2\) であり、水平方向の力の合力は \(F_x = T\sin\theta\) であるため、これらを等号で結びます。
- 限界条件の不等式 (\(T \le 3mg\)):
- 選定理由: (3)で「糸が切れないため」という物理的な制約を数式で表現するため。
- 適用根拠: 問題文で与えられた、糸が耐えうる張力の最大値に関する条件そのものです。この条件と、物理法則から導かれた \(T\) の関係式を組み合わせることで、運動が成立する範囲を特定できます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 連立方程式の効率的な解法: (2)で \(\omega\) を求める際、2式を割り算して \(T\) を消去すると、計算が速く、間違いも減ります。(\(\frac{mr\omega^2}{mg} = \frac{T\sin\theta}{T\cos\theta}\) より \(\frac{r\omega^2}{g} = \tan\theta\))この式は円錐振り子の基本関係式として覚えておくと便利です。
- 文字式のまま計算する: (3)のように、具体的な数値を代入するのではなく、文字(\(r, L, m, g\))のまま計算を進めることで、物理的な関係性を見失いにくく、また計算ミスも減らせます。
- 最終結果の吟味: (3)で得られた \(r \le \frac{2\sqrt{2}}{3}L\) という結果について、\(\frac{2\sqrt{2}}{3} \approx \frac{2 \times 1.41}{3} \approx 0.94\) なので、半径 \(r\) は糸の長さ \(L\) よりは必ず小さくなる、という物理的に当たり前の条件を満たしていることを確認できます。
128 摩擦力による等速円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「摩擦力が向心力となる円運動」です。回転する円板上の物体が、滑り出さずに一緒に回転し続けるための条件を考えます。このとき、物体を円運動させる向心力の役割を、物体と円板の間の「静止摩擦力」が担っています。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 向心力の正体: この問題では、物体を円の中心につなぎとめているのは静止摩擦力です。したがって、静止摩擦力が向心力となります。
- 静止摩擦力の限界: 静止摩擦力は、物体が滑り出さないように大きさを調整する力ですが、その大きさには限界があります。この限界値を「最大摩擦力」といい、\(F_{\text{最大}} = \mu N\)(\(\mu\): 静止摩擦係数, \(N\): 垂直抗力)で与えられます。
- 滑り出す瞬間の条件: 回転を速くしていくと、必要な向心力も大きくなっていきます。やがて、必要な向心力が最大摩擦力に達した瞬間、物体はそれ以上円板上にとどまれなくなり、滑り出します。つまり、「滑り出す直前」では「向心力 = 最大摩擦力」という関係が成り立ちます。
- 円運動の運動方程式: 向心力を \(F_{\text{向心}}\) とすると、\(mr\omega^2 = F_{\text{向心}}\) または \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\) が成り立ちます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 物体が滑り出す直前の状況を考える。このとき、周期は \(T=1.0 \text{ s}\) です。
- この瞬間に物体にはたらく静止摩擦力は最大摩擦力 \(\mu N\) となっており、これが向心力の役割を果たしている。
- 円運動の運動方程式を立てる。向心力の部分を最大摩擦力 \(\mu N\) で置き換える。
- 垂直抗力 \(N\) が重力 \(mg\) と等しいことを利用し、式を整理して静止摩擦係数 \(\mu\) を求める。
静止摩擦係数を求める
思考の道筋とポイント
この問題は設問が一つしかなく、静止摩擦係数 \(\mu\) を求めることがゴールです。上記のアプローチに従い、滑り出す直前の力の関係を運動方程式として立式します。
この設問における重要なポイント
- 滑り出す直前では、向心力 = 最大摩擦力 (\(\mu N\))。
- 水平な面上なので、垂直抗力 \(N\) = 重力 \(mg\)。
- 円運動の運動方程式は、角速度 \(\omega\) を用いて \(mr\omega^2 = F_{\text{向心}}\) と書ける。
- 角速度 \(\omega\) は、滑り出す直前の周期 \(T=1.0 \text{ s}\) を使って \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) と計算できる。
具体的な解説と立式
物体が滑り出す直前、すなわち回転の周期が \(T=1.0 \text{ s}\) のときを考えます。
このとき、物体にはたらく静止摩擦力は最大値 \(F_{\text{最大}}\) となり、これが向心力として作用しています。
水平な面上なので、鉛直方向の力のつりあいより、垂直抗力 \(N\) の大きさは重力 \(mg\) に等しく、\(N=mg\) です。
したがって、最大摩擦力の大きさは、
$$ F_{\text{最大}} = \mu N = \mu mg $$
一方、周期 \(T\) で円運動している物体に必要な向心力の大きさは、角速度 \(\omega = \frac{2\pi}{T}\) を用いて、
$$ F_{\text{向心}} = mr\omega^2 = mr \left( \frac{2\pi}{T} \right)^2 $$
滑り出す直前では、この2つの力が等しくなります。
$$ mr \left( \frac{2\pi}{T} \right)^2 = \mu mg $$
この式を、求めたい静止摩擦係数 \(\mu\) について解きます。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式(向心力): \(F_{\text{向心}} = mr\omega^2\)
- 角速度と周期の関係: \(\omega = \frac{2\pi}{T}\)
- 最大摩擦力: \(F_{\text{最大}} = \mu N\)
- 力のつりあい: \(N=mg\)
運動方程式 \(mr \left( \frac{2\pi}{T} \right)^2 = \mu mg\) の両辺を \(mg\) で割ります。
$$ \frac{r}{g} \left( \frac{2\pi}{T} \right)^2 = \mu $$
したがって、
$$ \mu = \frac{4\pi^2 r}{gT^2} $$
この式に、与えられた値 \(r=0.10 \text{ m}\), \(T=1.0 \text{ s}\), \(\pi=3.14\), \(g=9.8 \text{ m/s}^2\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
\mu &= \frac{4 \times (3.14)^2 \times 0.10}{9.8 \times (1.0)^2} \\[2.0ex]&= \frac{4 \times 9.8596 \times 0.10}{9.8} \\[2.0ex]&= \frac{3.94384}{9.8} \\[2.0ex]&= 0.40243…
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(\mu \approx 0.40\)。
レコード盤の上の消しゴムをイメージしてください。ゆっくり回っているうちは一緒に回りますが、回転を速くすると外に吹っ飛びます。これは、回転が速くなるほど、円運動を続けるために必要な「中心向きに引っ張る力(向心力)」が大きくなるからです。この引っ張る力の正体は、レコード盤と消しゴムの間の「静止摩擦力」です。静止摩擦力には限界(最大摩擦力)があるので、必要な向心力がこの限界を超えた瞬間に、消しゴムは滑り出してしまいます。この問題では、「滑り出す直前」の状況を考え、「必要な向心力 = 最大摩擦力」という等式を立てて、そこから静止摩擦係数を逆算します。
物体と円板との間の静止摩擦係数は約 \(0.40\) です。計算は物理法則を正しく立式し、値を代入するものであり、妥当です。この結果は物体の質量 \(m\) に依存しないことが式からわかります。これは、必要な向心力も最大摩擦力もどちらも質量 \(m\) に比例するため、相殺されるからです。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 静止摩擦力と向心力の関係:
- 核心: 回転する円板上の物体が滑らずに円運動できるのは、物体と円板の間に働く「静止摩擦力」が向心力の役割を果たしているからです。この「向心力の正体は静止摩擦力である」という関係性の理解が、この問題の出発点です。
- 理解のポイント: 回転が遅いときは、小さな向心力で済むため、静止摩擦力も小さくて済みます。回転が速くなるにつれて、より大きな向心力が必要になり、それに応じて静止摩擦力も大きくなっていきます。
- 限界条件の物理:
- 核心: 「滑り出す直前」という言葉が、物理的に「静止摩擦力がその最大値(最大摩擦力 \(\mu N\))に達した瞬間」を意味することを読み取ること。
- 理解のポイント: この限界点において、「円運動を続けるのに必要な向心力」と「静止摩擦力が出せる限界値」が等しくなります。つまり、\(mr\omega^2 = \mu N\) という等式が成立します。この等式を立てることが、この問題のゴールへの最大のステップです。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 自動車のカーブ: 自動車がカーブを曲がる(円運動する)際の向心力は、タイヤと路面の間の静止摩擦力です。「滑らずに曲がれる最大の速さ」を求める問題は、この問題と全く同じ構造(必要な向心力 = 最大摩擦力)で解くことができます。
- 遠心分離機: 回転数を上げることで、粒子に大きな遠心力(慣性力)をかけ、それを沈降させる装置。粒子が壁に押し付けられる力と摩擦力の関係を考えるなど、円運動の応用例です。
- 位置による条件変化: 同じ円板上でも、中心からの距離 \(r\) が大きい場所ほど、同じ角速度 \(\omega\) でも必要な向心力 (\(mr\omega^2\)) は大きくなります。したがって、外側に置いた物体ほど滑り出しやすい、という考察を問う問題もあります。
- 初見の問題での着眼点:
- 向心力の源泉を探す: まず、物体を円運動させている力は何かを特定します。この問題では、物体と円板をつなぐ糸もばねもないため、接触面の「摩擦力」しかありえません。
- 限界条件に注目する: 「滑り出す」「飛び出す」「倒れる」といった、状態が変化する直前の瞬間に着目します。この瞬間には、何らかの力が限界値に達していることが多いです。
- 運動方程式を立てる: 「必要な向心力 = 向心力の供給源」という形で運動方程式を立てます。この問題では、\(mr\omega^2 = F_{\text{静止摩擦力}}\) となります。
- 限界条件を代入する: ステップ2で考えた限界条件を、ステップ3の式に適用します。\(F_{\text{静止摩擦力}}\) をその最大値 \(\mu N\) で置き換えることで、\(mr\omega^2 = \mu N\) という式が得られます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 向心力と摩擦力の役割の誤解:
- 誤解: 向心力と静止摩擦力を別々の力として描き、力のつりあいを考えてしまう。
- 対策: 向心力は力の「役割名」であり、力の種類ではないことを徹底する。この問題では、「静止摩擦力」という種類の力が、「向心力」という役割を演じている、と理解する。力の図に描くのは「静止摩擦力」だけであり、「向心力」という矢印を別途描いてはいけません。
- 角速度 \(\omega\) の計算ミス:
- 誤解: 周期 \(T\) から角速度 \(\omega\) を計算する際に、\(\omega = 2\pi T\) や \(\omega = T/2\pi\) のように公式を間違える。
- 対策: \(\omega\) は「1秒あたりの角度」、\(T\) は「1周(\(2\pi\)ラジアン)あたりの秒数」という定義に立ち返る。\(\omega = \frac{2\pi}{T}\) という関係を確実に覚える。
- 垂直抗力 \(N\) の扱い:
- 誤解: 最大摩擦力の公式 \(\mu N\) の \(N\) に何を代入すればよいかわからなくなる。あるいは、斜面上の問題と混同して \(N=mg\cos\theta\) のような式を考えてしまう。
- 対策: 垂直抗力 \(N\) は、常に鉛直方向の力のつりあいから求めます。この問題では、物体は水平な円板上にあるため、鉛直方向にはたらく力は重力 \(mg\) と垂直抗力 \(N\) のみです。したがって、単純に \(N=mg\) となります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(mr\omega^2 = \mu mg\):
- 選定理由: この問題の物理的状況(滑り出す直前の力の関係)を最も的確に表現する方程式だから。
- 適用根拠: これは複数の法則を組み合わせたものです。
- 運動方程式: 左辺の \(mr\omega^2\) は、円運動をする物体に必要な向心力の大きさを表します。
- 力の法則: 右辺の \(\mu mg\) は、静止摩擦力が出せる力の最大値を表します(\(\mu N\) と \(N=mg\) を組み合わせたもの)。
- 限界条件: 「滑り出す直前」という条件が、この2つの量を等号で結びつける根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式のまま整理する: 模範解答のように、いきなり数値を代入するのではなく、まず \(\mu = \frac{4\pi^2 r}{gT^2}\) という形まで文字式で整理してから最後に数値を代入する方が、物理的な関係が見えやすく、計算ミスも減らせます。
- 単位の確認: \(\mu\) は無次元量(単位なし)です。計算式の右辺 \(\frac{4\pi^2 r}{gT^2}\) の単位が、\(\frac{\text{m}}{\text{(m/s}^2\text{)} \cdot \text{s}^2} = \frac{\text{m}}{\text{m}}\) となり、確かに無次元になっていることを確認する習慣をつけると、式の立て間違いを発見しやすくなります。
- 質量の消去: 計算の初期段階で、運動方程式の両辺に質量 \(m\) が現れることに気づけば、すぐに消去できます。これにより、静止摩擦係数が物体の質量によらないという重要な物理的性質を理解でき、計算も簡略化されます。
129 鉛直面内での円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「鉛直面内での円運動と力のつりあい」です。なめらかな円筒面に沿って滑り落ちる物体の運動を、力学的エネルギー保存則と円運動の運動方程式を用いて解析します。特に、最下点を境に運動形態が「円運動」から「直線運動」へと変化する点での、垂直抗力の変化がポイントです。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 物体にはたらく力が保存力(重力)と仕事をしない力(垂直抗力)のみなので、力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は保存されます。
- 円運動の運動方程式: 円運動をしている瞬間(点Bの直前)では、物体にはたらく力の合力が向心力となります。運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\) を立てます。
- 力のつりあい: 直線運動をしている区間(点Bの直後)では、鉛直方向の加速度は0なので、鉛直方向の力はつりあっています。
- 向心力: 円運動の中心向きにはたらく力の合力です。最下点Bでは、垂直抗力と重力の差が向心力となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、点Aと点Bの間で力学的エネルギー保存則を立て、点Bでの速さ \(v\) を求めます。
- (2)の「直前」では、点Bを円運動の最下点とみなし、運動方程式を立てて垂直抗力 \(N_1\) を求めます。
- (2)の「直後」では、点Bを水平面上の直線運動の始点とみなし、鉛直方向の力のつりあいの式を立てて垂直抗力 \(N_2\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
円筒面の最下点Bを通過するときの小物体の速さを求める問題です。なめらかな面を運動するため、力学的エネルギー保存則を用いるのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則: \((\text{運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー}) = \text{一定}\)。
- 位置エネルギーの基準面を明確に設定する(ここでは最下点Bを含む水平面BCが便利)。
- 点Aの高さは、基準面から半径 \(r\) だけ高い。
- 点Aでは「静かにはなす」ので、初速度は0。
具体的な解説と立式
水平面BCを重力による位置エネルギーの基準面(高さ0)とします。
点Aでの力学的エネルギー \(E_{\text{A}}\):
静かにはなすので初速度は0。高さは \(r=0.40 \text{ m}\)。
$$ E_{\text{A}} = \frac{1}{2}m(0)^2 + mgr $$
点Bでの力学的エネルギー \(E_{\text{B}}\):
速さを \(v\) とする。高さは基準面なので0。
$$ E_{\text{B}} = \frac{1}{2}mv^2 + mg(0) $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{A}} = E_{\text{B}}\) より、
$$ mgr = \frac{1}{2}mv^2 $$
この式を \(v\) について解きます。
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv_1^2 + mgh_1 = \frac{1}{2}mv_2^2 + mgh_2\)
$$
\begin{aligned}
mgr &= \frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]v^2 &= 2gr \\[2.0ex]v &= \sqrt{2gr}
\end{aligned}
$$
与えられた値 \(g=9.8 \text{ m/s}^2\), \(r=0.40 \text{ m}\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{2 \times 9.8 \times 0.40} \\[2.0ex]&= \sqrt{7.84} \\[2.0ex]&= 2.8 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
物体がA点からB点まで滑り落ちる間に、持っていた「高さのエネルギー(位置エネルギー)」が、すべて「速さのエネルギー(運動エネルギー)」に変換されます。このエネルギーの変換式を立てることで、B点での速さを計算できます。
最下点Bを通過するときの速さは \(2.8 \text{ m/s}\) です。エネルギー保存則から正しく導出できました。
問(2)
思考の道筋とポイント
最下点Bを通過する「直前」と「直後」で、小物体が面から受ける力(垂直抗力)の大きさをそれぞれ求める問題です。この2つの瞬間では、物体の運動状態が異なるため、垂直抗力の大きさが変わる点に注意が必要です。
この設問における重要なポイント
- 直前: 物体は円運動の最下点にいる。したがって、垂直抗力と重力の合力が向心力となる。運動方程式を立てる。
- 直後: 物体は水平面上を直線運動している。したがって、鉛直方向の加速度は0であり、鉛直方向の力はつりあっている。
具体的な解説と立式
Bを通過する直前の垂直抗力 \(N_1\):
この瞬間、物体は半径 \(r\) の円運動をしています。物体にはたらく鉛直方向の力は、上向きの垂直抗力 \(N_1\) と下向きの重力 \(mg\) です。これらの合力が円の中心Oに向かう向心力となります。中心向き(上向き)を正として運動方程式を立てると、
$$ m\frac{v^2}{r} = N_1 – mg $$
この式を \(N_1\) について解きます。速さ \(v\) は(1)で求めた値です。
Bを通過した直後の垂直抗力 \(N_2\):
この瞬間、物体は水平面BC上を運動しています。鉛直方向には運動しないので、加速度は0です。したがって、鉛直方向の力はつりあっています。
$$ N_2 – mg = 0 $$
この式を \(N_2\) について解きます。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\)
- 力のつりあい: \(\sum F_y = 0\)
与えられた値 \(m=0.20 \text{ kg}\), \(g=9.8 \text{ m/s}^2\), \(r=0.40 \text{ m}\) と、(1)で求めた \(v=2.8 \text{ m/s}\) を用います。
直前の垂直抗力 \(N_1\) の計算:
運動方程式を \(N_1\) について解くと、\(N_1 = mg + m\frac{v^2}{r}\)。
$$
\begin{aligned}
N_1 &= (0.20 \times 9.8) + 0.20 \times \frac{(2.8)^2}{0.40} \\[2.0ex]&= 1.96 + 0.20 \times \frac{7.84}{0.40} \\[2.0ex]&= 1.96 + 0.20 \times 19.6 \\[2.0ex]&= 1.96 + 3.92 \\[2.0ex]&= 5.88 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(N_1 \approx 5.9 \text{ N}\)。
直後の垂直抗力 \(N_2\) の計算:
力のつりあいの式を \(N_2\) について解くと、\(N_2 = mg\)。
$$
\begin{aligned}
N_2 &= 0.20 \times 9.8 \\[2.0ex]&= 1.96 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁に丸めて、\(N_2 \approx 2.0 \text{ N}\)。
最下点Bでは、運動の仕方が切り替わります。
・「直前」は、カーブの底を走っている状態です。体(物体)がグッと下に押し付けられるように、面からの垂直抗力はただ体重(重力)を支えるだけでなく、体をカーブさせる(円運動させる)ための力も加わるため、大きくなります。
・「直後」は、平らな道を走っている状態です。このとき垂直抗力は、単に物体の重さを支えるだけでよくなります。
この違いが、垂直抗力の大きさの違いとなって現れます。
Bを通過する直前の垂直抗力は \(5.9 \text{ N}\)、直後は \(2.0 \text{ N}\) です。円運動をしている最下点では、重力に加えて向心力分の力も支える必要があるため、垂直抗力が重力 (\(1.96 \text{ N}\)) よりも大きくなるという結果は物理的に妥当です。直後には円運動が終わるため、垂直抗力は重力と等しくなり、値が小さくなるのも理にかなっています。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 力学的エネルギー保存則:
- 核心: なめらかな面を滑る物体の運動のように、仕事をする非保存力(摩擦など)が存在しない場合、異なる2点間での速さと高さの関係を求める最も強力なツールです。
- 理解のポイント: (1)で点Aから点Bへ運動する際の速さの変化を求めるのに使われます。位置エネルギーが運動エネルギーに変換される様子を定量的に捉えることができます。
- 運動形態の変化と適用法則の切り替え:
- 核心: 最下点Bを境に、物体の運動が「円運動」から「直線運動」に切り替わることを見抜き、それぞれの状況に応じて適用すべき物理法則(運動方程式 or 力のつりあい)を正しく選択できること。
- 理解のポイント:
- 点Bの直前: 円運動の途中のため、加速度(向心加速度)が存在する。→ 運動方程式 \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\) を適用。
- 点Bの直後: 水平面上の直線運動のため、鉛直方向の加速度は0。→ 鉛直方向の力のつりあいを適用。
この「状況判断」と「法則の選択」が、(2)を解く上での最大の鍵です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- ジェットコースターの谷: ジェットコースターが谷底を通過する瞬間の座席からの垂直抗力を求める問題。この問題の(2)「直前」と全く同じ構造です。
- 振り子の最下点での張力: 振り子が最下点を通過する瞬間の糸の張力を求める問題。垂直抗力が張力に置き換わるだけで、運動方程式の立て方は同じです。
- ループ面からの離脱: 鉛直面内のループを運動する物体が、どの点で面から離れるかを問う問題。任意の点での垂直抗力を求め、\(N=0\) となる条件を解くことで離脱点を特定します。
- 初見の問題での着眼点:
- エネルギー保存の可否: まず、摩擦や空気抵抗の有無を確認し、力学的エネルギー保存則が使えるかを見極めます。
- 運動の区切り目を探す: 運動の様子が変化する点(例: 円弧から直線へ、斜面から水平面へ)に注目します。その前後で、適用すべき物理法則が変わる可能性が高いです。
- 円運動か、直線運動か: 各区間や各瞬間において、物体がどのような運動をしているかを判断します。
- カーブを描いていれば → 円運動の一部として捉え、運動方程式を考える。
- まっすぐ進んでいれば → 力のつりあいを考える(等速直線運動の場合)。
- 向心力の正体: 円運動をしている瞬間には、必ず向心力が存在します。その向心力が、どの力(または力の合力)によって供給されているのかを正確に特定することが重要です。最下点では「垂直抗力 – 重力」が向心力になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 最下点での力の扱いの誤解:
- 誤解: (2)の「直前」でも、円運動をしていることを見落とし、「直後」と同じように力のつりあい(\(N_1=mg\))を考えてしまう。
- 対策: 物体がカーブを描いている限り、必ず速度の向きを変えるための加速度(向心加速度)が存在し、力のつりあいは成り立たない、と肝に銘じる。最下点は、速度が最大になると同時に、向心加速度も最大になる点です。
- 向心力の向きと運動方程式の符号ミス:
- 誤解: 最下点での運動方程式を \(m\frac{v^2}{r} = N_1 + mg\) のように、力の向きを考えずに足してしまう。
- 対策: 必ず座標軸(例えば上向き正)を設定し、力の向きを符号で表現する習慣をつける。上向き正なら、運動方程式は \(m(+a) = (+N_1) + (-mg)\) となり、\(ma = N_1 – mg\) と正しく立式できます。向心力は「合力」であることを忘れない。
- エネルギー保存則の立式ミス:
- 誤解: 運動エネルギーと位置エネルギーの項をごちゃ混ぜにしてしまう。あるいは、高さの基準を曖昧にしたまま式を立てる。
- 対策: 「(AでのK) + (AでのU) = (BでのK) + (BでのU)」という形式を常に守る。(\(K\):運動エネルギー, \(U\):位置エネルギー)。そして、式の最初に「どこを高さの基準とするか」を宣言する癖をつける。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: (1)で、運動の始点(A)と終点(B)の間の速さの変化を計算するため。途中経過の力を考慮せずに、2点間の状態量(速さ、高さ)だけで関係式を立てられる最も効率的な方法だから。
- 適用根拠: 面はなめらかで、垂直抗力は常に仕事が0なので、仕事をするのは保存力である重力のみ。この条件がエネルギー保存則の適用を保証します。
- 円運動の運動方程式 (\(m\frac{v^2}{r} = N_1 – mg\)):
- 選定理由: (2)「直前」で、円運動の最下点という特定の瞬間における力の関係(特に垂直抗力)を解析するため。
- 適用根拠: 物体は円運動という加速度運動をしているため、その運動を引き起こす力の合力(向心力)と加速度の関係を記述する運動方程式が必要です。
- 力のつりあい (\(N_2 – mg = 0\)):
- 選定理由: (2)「直後」で、物体は水平面上を運動しており、鉛直方向には動かない(加速度が0)ため。
- 適用根拠: 運動方程式 \(ma_y = F_y\) において、鉛直方向の加速度が \(a_y=0\) であるため、力の合力も \(F_y=0\) となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- \(v^2\) の活用: (1)で \(v\) を求めた後、(2)の運動方程式では \(v^2\) が必要になります。\(v=2.8\) を代入するよりも、(1)の途中式 \(v^2 = 2gr\) を直接代入する方が計算が楽で、間違いも減ります。
\(N_1 = mg + m\frac{v^2}{r} = mg + m\frac{2gr}{r} = mg + 2mg = 3mg\)。
この結果に \(m=0.20, g=9.8\) を代入すると \(N_1 = 3 \times 0.20 \times 9.8 = 5.88\) となり、検算にもなります。 - 単位の確認: 計算の各段階で、単位が物理的に正しいかを確認する。例えば、\(mg\) も \(m\frac{v^2}{r}\) も、どちらも力の単位 [N] になっていることを確認する。
- 物理的な意味の吟味: (2)で \(N_1 > N_2\) という結果が得られました。これは、円運動の最下点では、重力に加えて遠心力(慣性力)も下向きに働き、それを支えるためにより大きな垂直抗力が必要になる、という物理的イメージと一致しており、答えの妥当性を裏付けます。
130 鉛直面内での円運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「鉛直面内での円運動の成立条件」です。特に、物体を支えるものが「棒」である場合と「糸」である場合とで、1回転するための条件がどう異なるかを比較検討する、非常に重要な問題です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 力学的エネルギー保存則: 運動の過程で、重力以外の力が仕事をしないため、力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は保存されます。これを用いて、最下点と最高点での速さの関係を導きます。
- 円運動の運動方程式: 最高点において、物体にはたらく力の合力が向心力の役割を果たします。この関係を運動方程式で表します。
- 「棒」と「糸」の違い:
- 棒: 縮む力(押し返す力)も、伸びる力(引っ張る力)も両方及ぼすことができます。
- 糸: 伸びる力(張力)しか及ぼすことができず、縮む力は及ぼせません(たるむだけ)。
- 円運動の成立条件:
- 棒の場合: 最高点で一瞬速度が0になっても、棒が支えてくれるため、再び落下して運動を継続できます。したがって、最高点に「到達できる」こと、すなわち最高点での速さが0以上 (\(v \ge 0\)) であることが条件です。
- 糸の場合: 最高点に到達する前に糸がたるんでしまうと円運動は継続できません。糸がたるまない条件は、張力 \(T\) が常に0以上 (\(T \ge 0\)) であることです。最も張力が小さくなる最高点でこの条件を満たせばよいです。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、力学的エネルギー保存則を用いて、最下点での速さ \(v_0\) と最高点での速さ \(v\) の関係式を導きます。
- (2)では、「棒」の円運動の成立条件(最高点での速さ \(v \ge 0\))を(1)の結果に適用します。
- (3)では、「糸」の円運動の成立条件(最高点での張力 \(T \ge 0\))を、運動方程式と(1)の結果を用いて解析します。
問(1)
思考の道筋とポイント
最下点での速さ \(v_0\) が与えられたときに、最高点での速さ \(v\) を求める問題です。高さが変化するときの速さの関係を問われているので、力学的エネルギー保存則を用いるのが定石です。
この設問における重要なポイント
- 力学的エネルギー保存則: \((\text{運動エネルギー}) + (\text{位置エネルギー}) = \text{一定}\)。
- 位置エネルギーの基準点を最下点に設定する。
- 最高点の高さは、最下点から \(2L\) である。
具体的な解説と立式
最下点を重力による位置エネルギーの基準面(高さ0)とします。
最下点での力学的エネルギー \(E_{\text{下}}\) と最高点での力学的エネルギー \(E_{\text{上}}\) はそれぞれ、
$$ E_{\text{下}} = \frac{1}{2}mv_0^2 + mg(0) $$
$$ E_{\text{上}} = \frac{1}{2}mv^2 + mg(2L) $$
力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{下}} = E_{\text{上}}\) より、以下の関係式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2}mv_0^2 = \frac{1}{2}mv^2 + 2mgL $$
使用した物理公式
- 力学的エネルギー保存則: \(\frac{1}{2}mv_1^2 + mgh_1 = \frac{1}{2}mv_2^2 + mgh_2\)
エネルギー保存則の式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv_0^2 &= \frac{1}{2}mv^2 + 2mgL \\[2.0ex]v_0^2 &= v^2 + 4gL \quad (\text{両辺を2倍してmで割る}) \\[2.0ex]v^2 &= v_0^2 – 4gL \\[2.0ex]v &= \sqrt{v_0^2 – 4gL}
\end{aligned}
$$
(速さ \(v\) は正なので、負の解は不適)
最下点から最高点まで上がる間に、小球は重力に逆らって仕事をされるため、その分だけ運動エネルギーが減少します。このエネルギーの変化を数式にしたのが力学的エネルギー保存則です。この式を解くことで、最高点での速さが最下点での速さを使ってどのように表されるかがわかります。
最高点での速さは \(v = \sqrt{v_0^2 – 4gL}\) です。最下点より速さが遅くなるという直感とも一致しており、妥当な結果です。
問(2)
思考の道筋とポイント
「棒」でつながれた小球が1回転するための条件を求めます。棒は、小球を引っ張ることも押し返すこともできるため、最高点で速さが一瞬0になっても、棒が支えとなって落下し、円運動を続けることができます。したがって、1回転するための条件は「最高点に到達できること」です。
この設問における重要なポイント
- 棒による円運動の成立条件: 最高点での速さが0以上 (\(v \ge 0\))。
- (1)で求めた \(v\) の式をこの条件に適用する。
具体的な解説と立式
小球が1回転するためには、最高点に到達できればよいので、最高点での速さ \(v\) が実数として存在すればよい、つまり \(v \ge 0\) であればよいです。
(1)で求めた \(v = \sqrt{v_0^2 – 4gL}\) より、根号の中が0以上である必要があります。
$$ v_0^2 – 4gL \ge 0 $$
(模範解答では \(v>0\) としていますが、\(v=0\) の場合も最高点に到達はしているので、1回転は可能です。\(v_0 > 2\sqrt{gL}\) がより厳密な答えとなります。)
使用した物理公式
- (1)で導出した速さの関係式
条件式を \(v_0\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
v_0^2 – 4gL &\ge 0 \\[2.0ex]v_0^2 &\ge 4gL \\[2.0ex]v_0 &\ge 2\sqrt{gL}
\end{aligned}
$$
(\(v_0 > 0\) なので、2乗を外す際に不等号の向きはそのままです。)
模範解答に合わせて不等号を \(>\) とすると、\(v_0 > 2\sqrt{gL}\)。
棒の場合、小球が最高点までたどり着きさえすれば、あとは重力で自然に落ちてきて1回転できます。最高点にギリギリたどり着ける条件は、最高点での速さが0になることです。この条件を(1)で求めた式に入れることで、1回転できる最低限の初速がわかります。
小球を1回転させるためには、\(v_0 > 2\sqrt{gL}\) である必要があります。
問(3)
思考の道筋とポイント
「糸」でつながれた小球が1回転するための条件を求めます。糸は小球を引っ張ることしかできず、押し返すことはできません。もし運動の途中で糸がたるんでしまう(張力が0になる)と、その時点で円運動は終わってしまいます。したがって、1回転するためには「最高点に到達する」かつ「最高点で糸がたるまない」という2つの条件が必要です。
この設問における重要なポイント
- 糸による円運動の成立条件: 最高点での張力が0以上 (\(T \ge 0\))。
- 最高点での運動方程式を立てる。向心力は「重力」と「張力」の和となる。
- 運動方程式に(1)で求めた速さの式を代入し、\(T \ge 0\) の条件を解く。
具体的な解説と立式
糸でつながれた小球が1回転するためには、張力が最も小さくなる最高点で \(T \ge 0\) であればよいです。
最高点において、小球にはたらく力は下向きの重力 \(mg\) と下向きの張力 \(T\) です。これらの合力が向心力となるため、運動方程式は以下のようになります。
$$ m\frac{v^2}{L} = mg + T $$
この式と、(1)で求めたエネルギー保存則の関係式 \(v^2 = v_0^2 – 4gL\) を用いて、条件 \(T \ge 0\) を \(v_0\) の不等式で表します。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(m\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心}}\)
- (1)で導出した速さの関係式
まず、運動方程式を \(T\) について解きます。
$$ T = m\frac{v^2}{L} – mg $$
次に、この式に \(v^2 = v_0^2 – 4gL\) を代入して、\(T\) を \(v_0\) で表します。
$$
\begin{aligned}
T &= m\frac{v_0^2 – 4gL}{L} – mg \\[2.0ex]&= \frac{mv_0^2}{L} – \frac{4mgL}{L} – mg \\[2.0ex]&= \frac{mv_0^2}{L} – 4mg – mg \\[2.0ex]&= \frac{mv_0^2}{L} – 5mg
\end{aligned}
$$
最後に、最高点で糸がたるまない条件 \(T \ge 0\) を適用します。
$$
\begin{aligned}
\frac{mv_0^2}{L} – 5mg &\ge 0 \\[2.0ex]\frac{mv_0^2}{L} &\ge 5mg \\[2.0ex]v_0^2 &\ge 5gL \\[2.0ex]v_0 &\ge \sqrt{5gL}
\end{aligned}
$$
糸の場合、棒と違って小球を押し返すことができません。もし最高点でスピードが足りないと、糸がたるんでしまい、小球は放物運動を始めてしまいます。そうならないためには、最高点でも糸がピンと張っている(張力が0以上)必要があります。この条件を数式にし、(1)の結果と組み合わせることで、糸がたるまずに1回転できるための最低限の初速がわかります。
糸を用いて1回転させるためには、\(v_0 \ge \sqrt{5gL}\) である必要があります。この条件は、棒の場合の \(v_0 > 2\sqrt{gL}\) (\(v_0^2 > 4gL\)) よりも厳しい条件です。これは、糸の場合はたるまないように、最高点でもある程度の速さを維持する必要があるためで、物理的に妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 「棒」と「糸」による束縛条件の違い:
- 核心: 鉛直面内の円運動において、物体を束縛するものが「棒」か「糸」かによって、円運動を成立させるための条件が本質的に異なる、という点を理解することがこの問題の最大のポイントです。
- 理解のポイント:
- 棒: 張力(引く力)と抗力(押す力)の両方を及ぼせる。→ 最高点に到達さえすればよい。→ 条件: 最高点での速さ \(v \ge 0\) 。
- 糸: 張力(引く力)しか及ぼせない。→ 途中でたるんではいけない。→ 条件: 最高点での張力 \(T \ge 0\) 。
この違いが、なぜ(2)と(3)で答えが変わるのかの根源的な理由です。
- 力学的エネルギー保存則と運動方程式の連携:
- 核心: この問題も、速さと位置の関係は「エネルギー保存則」で、ある点での力の関係は「運動方程式」で、という2つの法則を連携させて解く典型例です。
- 理解のポイント: (1)でエネルギー保存則を使って \(v_0\) と \(v\) の関係を導き、(3)ではその結果を運動方程式に代入して張力 \(T\) を \(v_0\) の式で表す、という流れが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 内面がなめらかな円筒や球内での運動: 物体が円筒の内面に沿って運動する場合、面から受ける力は「垂直抗力」です。垂直抗力は面が物体を押す力しかないので、「糸」と同じ扱いになります。円運動を続ける条件は、最高点で \(N \ge 0\)。
- 外面がなめらかな円筒や球上での運動: 物体が球の頂上から滑り落ちる場合も、垂直抗力がはたらきます。この場合も「糸」と同じで、\(N=0\) となった瞬間に面から離れて放物運動に移ります。
- ジェットコースター: 座席と安全バーで乗客を固定するタイプのジェットコースターは、乗客を下に押す力も上に支える力も働くため、「棒」のモデルに近いと言えます。
- 初見の問題での着眼点:
- 束縛の種類を特定する: まず、物体を円軌道上に留めているものが何か(棒、糸、レール、面など)を確認し、それが「押し引き両方可能か(棒タイプ)」、それとも「引く(または押す)一方のみ可能か(糸/垂直抗力タイプ)」を判断します。
- 成立条件を思い出す: ステップ1の判断に基づき、円運動が1回転するための条件を正しく設定します。(\(v_{\text{頂上}} \ge 0\) なのか、\(T_{\text{頂上}} \ge 0\) or \(N_{\text{頂上}} \ge 0\) なのか)
- エネルギー保存則で速さの関係式を立てる: まず、最下点と最高点(あるいは任意の点)の間でエネルギー保存則を立て、速さの関係式を準備します。
- 運動方程式で力の関係式を立てる: 次に、条件を適用したい点(通常は最高点)で、円運動の運動方程式を立てます。
- 連立して解く: 準備した速さの式と力の式(運動方程式)を組み合わせ、ステップ2で設定した条件(不等式)を解きます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 棒と糸の条件の混同:
- 誤解: 棒の問題なのに、張力 \(T \ge 0\) の条件を使おうとしたり、糸の問題なのに \(v \ge 0\) だけでよいと考えてしまう。
- 対策: 「糸はたるむが、棒はたるまない」という物理的なイメージを強く持つこと。このイメージから、「糸には張力が0以上という追加条件が必要だ」と連想できるようにする。
- 最高点での運動方程式の誤り:
- 誤解: 最高点での向心力を、張力 \(T\) や重力 \(mg\) のどちらか一方だけだと勘違いする。あるいは、力の向きを間違えて \(m\frac{v^2}{L} = T – mg\) のように式を立てる。
- 対策: 最高点では、重力も張力(または棒からの力)も、どちらも円の中心(下向き)を向いていることを図で確認する。したがって、向心力はこれらの「和」(\(T+mg\)) になります。必ず力の作図を行うことがミスを防ぎます。
- \(v_0 > 2\sqrt{gL}\) と \(v_0 \ge \sqrt{5gL}\) の関係:
- 誤解: (3)で \(T \ge 0\) の条件を解いたら \(v_0 \ge \sqrt{5gL}\) となったが、(2)で求めた \(v_0 > 2\sqrt{gL}\) という条件も同時に満たす必要があるのか混乱する。
- 対策: 2つの条件を比較する。\(\sqrt{5} \approx 2.23\) なので、\(\sqrt{5gL} > 2\sqrt{gL}\) です。したがって、より厳しい条件である \(v_0 \ge \sqrt{5gL}\) を満たしていれば、緩い方の条件 \(v_0 > 2\sqrt{gL}\) は自動的に満たされます。よって、(3)の答えは \(v_0 \ge \sqrt{5gL}\) だけで十分です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力学的エネルギー保存則:
- 選定理由: (1)で、高さの違う2点間の速さの関係を求めるため。
- 適用根拠: 運動中、仕事をするのは保存力である重力のみだからです。(棒や糸が及ぼす力は、常に運動方向と垂直なので仕事をしない)
- \(v_{\text{最高点}} \ge 0\) (棒の成立条件):
- 選定理由: (2)で、棒につながれた物体が1回転するための最低条件を数式化するため。
- 適用根拠: 棒は物体を押し返すことができるため、最高点で速さが0になっても軌道から外れることなく、重力によって再び落下し運動を継続できる、という物理的性質に基づきます。
- \(T_{\text{最高点}} \ge 0\) (糸の成立条件):
- 選定理由: (3)で、糸につながれた物体が1回転するための最低条件を数式化するため。
- 適用根拠: 糸は物体を引くことしかできず、張力が0になると「たるみ」が生じて円軌道を維持できなくなる、という物理的制約に基づきます。この条件が最も厳しくなるのが最高点であるため、最高点で考えます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- \(v^2\) のまま代入する: (3)で張力 \(T\) を計算する際、(1)で求めた \(v^2 = v_0^2 – 4gL\) をそのまま代入することで、平方根の計算を避け、計算を簡潔に保つことができます。
- 定数の比較: \(2\sqrt{gL}\) と \(\sqrt{5gL}\) の大小を比較する際は、両方を2乗して \(4gL\) と \(5gL\) を比べるのが簡単かつ確実です。
- 物理的な意味の再確認: 「棒」より「糸」の方が厳しい条件(より大きな初速)を要求される、という最終結果が、それぞれの物理的な性質(棒は押せるが糸は押せない)から考えて直感的に正しいかどうかを最後に吟味する習慣をつける。
131 慣性力
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「エレベーター内の慣性力」です。エレベーターという加速する乗り物(非慣性系)の中で、体重計が示す値(=人が体重計から受ける垂直抗力)がどのように変化するかを考察します。この種の問題は、エレベーターと一緒に運動する「加速系」の視点と、静止した地上から見る「静止系」の視点の両方から解くことができ、慣性力の概念を理解する上で非常に重要です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 体重計が測るもの: 体重計が測っているのは、物体の質量や重さそのものではなく、物体が体重計を押す力です。作用・反作用の法則により、これは「体重計が物体を押す力(垂直抗力)」の大きさに等しくなります。
- 慣性力: 加速度 \(\vec{a}\) で運動する座標系(非慣性系)から物体を見ると、実在の力に加えて、加速度と逆向きに大きさ \(ma\) の「慣性力」がはたらいているように見えます。
- 2つの視点:
- 加速系(エレベーター内)から見る: 人は静止して見えるので、「実在の力(重力、垂直抗力)」と「慣性力」の力のつりあいを考えます。
- 静止系(地上)から見る: 人はエレベーターと同じ加速度で運動しているので、運動方程式 \(ma=F\) を立てます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1) 等速運動: 加速度が0なので、慣性力ははたらかない。単純な力のつりあいを考えます。
- (2) 上向き加速: 加速系で考えると、加速度(上向き)と逆向き、つまり「下向き」に慣性力がはたらきます。
- (3) 下向き加速: 加速系で考えると、加速度(下向き)と逆向き、つまり「上向き」に慣性力がはたらきます。
各設問について、模範解答では「加速系(慣性力を用いる方法)」と「静止系(運動方程式を用いる方法)」の両方で解説されています。
問(1)
思考の道筋とポイント
エレベーターが一定の速度で上昇している場合です。「一定の速度」とは「加速度が0」であることを意味します。加速度が0の系は慣性系とみなせるため、慣性力ははたらきません。したがって、静止している場合と同じく、単純な力のつりあいを考えます。
この設問における重要なポイント
- 等速直線運動は加速度が0である。
- 加速度が0なので、慣性力ははたらかない。
- 人にはたらく力は「重力」と「垂直抗力」のみで、これらがつりあっている。
具体的な解説と立式
人にはたらく力は、鉛直下向きの重力 \(mg\) と、体重計から受ける鉛直上向きの垂直抗力 \(N\) です。エレベーターの速度は一定なので加速度は0です。したがって、鉛直方向の力はつりあっています。上向きを正とすると、
$$ N – mg = 0 $$
使用した物理公式
- 力のつりあい: \(\sum \vec{F} = 0\)
与えられた値 \(m=50 \text{ kg}\), \(g=9.8 \text{ m/s}^2\) を用いて計算します。
$$
\begin{aligned}
N &= mg \\[2.0ex]&= 50 \times 9.8 \\[2.0ex]&= 490 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
有効数字2桁で表すと、\(4.9 \times 10^2 \text{ N}\)。
エレベーターが一定の速さで動いているときは、止まっているときと体感は変わりません。したがって、体重計が示す値は、静止しているときと同じく、その人の体重(重力)と等しくなります。
人が体重計から受ける力は \(4.9 \times 10^2 \text{ N}\) です。これは人の重力と等しく、物理的に妥当です。
問(2)
思考の道筋とポイント
エレベーターが鉛直上向きに加速している場合です。この状況を、慣性力を用いる「加速系」の視点と、運動方程式を用いる「静止系」の視点の両方から考えます。
この設問における重要なポイント
- 加速系(エレベーター内)から見る:
- 加速度が上向きなので、慣性力は「下向き」にはたらく。
- 大きさは \(ma\)。
- 「重力」「垂直抗力」「慣性力」の3つが力のつりあいの状態にある。
- 静止系(地上)から見る:
- 人は上向きに加速度 \(a\) で運動している。
- 人にはたらく力は「重力」と「垂直抗力」の2つ。
- これらの合力が、上向きの運動を生み出している(運動方程式)。
具体的な解説と立式
解法1: 加速系(エレベーター内)での力のつりあい
人にはたらく力は、下向きの重力 \(mg\)、上向きの垂直抗力 \(N’\)、そして加速度(上向き)と逆向きである下向きの慣性力 \(ma\) です。これらの力がつりあっているので、
$$ N’ – mg – ma = 0 $$
解法2: 静止系(地上)での運動方程式
人にはたらく力は、下向きの重力 \(mg\) と上向きの垂直抗力 \(N’\) です。人は全体として上向きに加速度 \(a\) で運動しているので、上向きを正として運動方程式を立てると、
$$ ma = N’ – mg $$
使用した物理公式
- 慣性力: \(F_{\text{慣性}} = ma\)
- 力のつりあい: \(\sum \vec{F} = 0\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
与えられた値 \(m=50 \text{ kg}\), \(g=9.8 \text{ m/s}^2\), \(a=0.98 \text{ m/s}^2\) を用います。
解法1の計算:
$$
\begin{aligned}
N’ &= mg + ma \\[2.0ex]&= m(g+a) \\[2.0ex]&= 50 \times (9.8 + 0.98) \\[2.0ex]&= 50 \times 10.78 \\[2.0ex]&= 539 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
解法2の計算:
$$
\begin{aligned}
N’ &= mg + ma \\[2.0ex]&= m(g+a) \\[2.0ex]&= 50 \times (9.8 + 0.98) \\[2.0ex]&= 539 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
どちらの方法でも同じ結果になります。有効数字2桁で表すと、\(5.4 \times 10^2 \text{ N}\)。
エレベーターが上に加速すると、体が床に押し付けられるように感じます。これは、体重が重くなったように感じる現象です。この「見かけの重さの増加分」が慣性力です。したがって、体重計が示す値は、本来の体重(重力)に、この慣性力の分が上乗せされた値になります。
人が体重計から受ける力は \(5.4 \times 10^2 \text{ N}\) です。上向きに加速すると、体重計の示す値は静止時より大きくなるという日常の感覚と一致しており、妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
エレベーターが鉛直下向きに加速している場合です。(2)と同様に、2つの視点から考えます。
この設問における重要なポイント
- 加速系(エレベーター内)から見る:
- 加速度が下向きなので、慣性力は「上向き」にはたらく。
- 「重力」「垂直抗力」「慣性力」の3つが力のつりあいの状態にある。
- 静止系(地上)から見る:
- 人は下向きに加速度 \(a\) で運動している。
- 運動方程式を立てる際、加速度の向きに注意する。
具体的な解説と立式
解法1: 加速系(エレベーター内)での力のつりあい
人にはたらく力は、下向きの重力 \(mg\)、上向きの垂直抗力 \(N”\)、そして加速度(下向き)と逆向きである上向きの慣性力 \(ma\) です。これらの力がつりあっているので、
$$ N” + ma – mg = 0 $$
解法2: 静止系(地上)での運動方程式
人にはたらく力は、下向きの重力 \(mg\) と上向きの垂直抗力 \(N”\) です。人は全体として下向きに加速度 \(a\) で運動しているので、上向きを正とすると、加速度は \(-a\) となります。
$$ m(-a) = N” – mg $$
使用した物理公式
- 慣性力: \(F_{\text{慣性}} = ma\)
- 力のつりあい: \(\sum \vec{F} = 0\)
- 運動方程式: \(ma = F\)
与えられた値 \(m=50 \text{ kg}\), \(g=9.8 \text{ m/s}^2\), \(a=0.98 \text{ m/s}^2\) を用います。
解法1の計算:
$$
\begin{aligned}
N” &= mg – ma \\[2.0ex]&= m(g-a) \\[2.0ex]&= 50 \times (9.8 – 0.98) \\[2.0ex]&= 50 \times 8.82 \\[2.0ex]&= 441 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
解法2の計算:
$$
\begin{aligned}
N” &= mg – ma \\[2.0ex]&= m(g-a) \\[2.0ex]&= 50 \times (9.8 – 0.98) \\[2.0ex]&= 441 \text{ [N]}
\end{aligned}
$$
どちらの方法でも同じ結果になります。有効数字2桁で表すと、\(4.4 \times 10^2 \text{ N}\)。
エレベーターが下に加速すると、体がフワッと浮くように感じます。これは、体重が軽くなったように感じる現象です。この「見かけの重さの減少分」が慣性力です。したがって、体重計が示す値は、本来の体重(重力)から、この慣性力の分が差し引かれた値になります。
人が体重計から受ける力は \(4.4 \times 10^2 \text{ N}\) です。下向きに加速すると、体重計の示す値は静止時より小さくなるという日常の感覚と一致しており、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 慣性力と見かけの重力:
- 核心: 加速するエレベーター内では、本来の重力 \(mg\) に慣性力 \(ma\) が加わった「見かけの重力」 \(m(g \pm a)\) が働いていると解釈できること。これが、体重計の示す値(=垂直抗力)が変化する根本的な理由です。
- 理解のポイント:
- 上向き加速 (\(a\)): 慣性力は下向き。見かけの重力は \(m(g+a)\) となり、重くなったように感じる。
- 下向き加速 (\(a\)): 慣性力は上向き。見かけの重力は \(m(g-a)\) となり、軽くなったように感じる。
- 自由落下 (\(a=g\)): 慣性力は上向きに \(mg\)。見かけの重力は \(m(g-g)=0\) となり、無重力状態になる。
- 2つの座標系(静止系と加速系)の等価性:
- 核心: 同じ物理現象を、「静止系(地上)で運動方程式を立てる」方法と、「加速系(エレベーター内)で慣性力を導入して力のつりあいを考える」方法の、2通りで記述でき、両者が数学的に全く同じ結果を与えることを理解すること。
- 理解のポイント:
- 静止系: \(ma = N – mg\)
- 加速系: \(0 = N – mg – ma_{\text{慣性}}\)
この2つの式は、項を移項すれば全く同じ形になります。どちらの視点でも解けるようになっておくことが、応用力を高める上で重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- エレベーター内の振り子: エレベーターが加速すると、見かけの重力加速度が \(g’ = g \pm a\) に変化すると考えられる。そのため、振り子の周期 \(T = 2\pi\sqrt{L/g}\) が \(T’ = 2\pi\sqrt{L/g’}\) に変化する問題。
- エレベーター内のばね振り子: ばね振り子の周期 \(T = 2\pi\sqrt{m/k}\) は重力加速度 \(g\) に依存しないため、エレベーターが加速しても周期は変化しない。しかし、力のつり合いの位置(振動の中心)は変化する。
- 斜めに加速する電車内の物体: 水平方向と鉛直方向の両方に慣性力を考慮する必要がある問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 観測者の立場を決める: まず、「地上から見る(静止系)」か「乗り物の中から見る(加速系)」か、どちらの視点で解くかを決めます。「〜から見た」という指定がなければ、自分が解きやすい方を選んでよい。慣性力に慣れていれば、加速系で「力のつりあい」を考える方が直感的な場合が多い。
- 加速度の向きを正確に把握する: 問題文から、加速度の向き(上か下か)を正確に読み取ります。
- 慣性力の向きを決定する: 加速系で考える場合、慣性力の向きは「加速度と必ず逆向き」になります。これを間違えると全てが崩れます。
- 立式する: 決めた視点に従って、運動方程式または力のつりあいの式を立てます。力の向きを正負の符号で正確に表現することが重要です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 体重計が何を測っているかの誤解:
- 誤解: 体重計は常に質量 \(m\) や重力 \(mg\) を測っていると思い込んでしまう。
- 対策: 体重計の目盛りは、物体が体重計を押す力の大きさであり、作用・反作用の法則から「垂直抗力 \(N\)」の大きさに等しい、と正しく理解する。\(N\) は状況によって \(mg\) とは異なる値をとります。
- 慣性力の向きの間違い:
- 誤解: エレベーターが上向きに加速しているのに、慣性力も上向きだと考えてしまう。
- 対策: 「慣性力は加速度と逆!」と呪文のように唱える。エレベーターが上に「グンッ」と動けば、体は下に「グッ」と押し付けられる、という日常感覚と結びつける。
- 運動方程式の符号ミス:
- 誤解: 静止系で考える際に、力の向きや加速度の向きを考慮せず、\(ma = N + mg\) のように全ての項を足してしまう。
- 対策: 必ず座標軸(例: 上向きを正)を設定する。その軸の向きに従って、ベクトル量である力と加速度に正負の符号を付けてから式を立てる (\(m(+a) = (+N) + (-mg)\))。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあい (\(\sum \vec{F} = 0\)):
- 選定理由: (1)の等速運動(加速度0)の場合や、(2)(3)を加速系(慣性力を導入し、見かけ上静止しているとみなす)で解く場合に用いる。
- 適用根拠: ニュートンの第一法則(慣性の法則)または、非慣性系で慣性力を導入した際の見かけ上の静止状態を表す。静的な状況を解析する基本式です。
- 運動方程式 (\(ma = F\)):
- 選定理由: (2)(3)を静止系(地上から見て、人が加速度運動しているとみなす)で解く場合に用いる。
- 適用根拠: ニュートンの第二法則。力の合力が物体の運動状態(加速度)を変化させるという、力学の根幹をなす法則です。
- 慣性力の式 (\(F_{\text{慣性}} = ma\)):
- 選定理由: 加速系という特殊な座標系で物理現象を記述するために導入された「見かけの力」の大きさを計算するため。
- 適用根拠: これは定義です。この力を導入することで、非慣性系においてもニュートンの法則に似た「力のつりあい」という形式で問題を扱えるようになります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- \(g=9.8\) の計算: \(9.8\) を含む計算は、\(9.8 = 10 – 0.2\) と考えたり、分配法則をうまく使ったりすると楽になる場合があります。例えば、\(50 \times (9.8+0.98) = 50 \times 9.8 + 50 \times 0.98 = 490 + 49 = 539\)。
- 式の共通構造に注目する: (2)と(3)の答えは、どちらも \(N = m(g \pm a)\) という形をしています。この構造を理解しておけば、加速度の向きに応じて符号を選ぶだけで、素早く立式・計算ができます。
- 物理的な意味での検算:
- 上向き加速 → 体が重く感じる → \(N > mg\) になっているか?
- 下向き加速 → 体が軽く感じる → \(N < mg\) になっているか?
計算結果がこの直感的な感覚と一致しているかを確認するだけで、多くのミスを発見できます。
132 加速する電車内での落下運動
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「加速座標系における力のつりあいと物体の運動」です。加速する電車内で、糸でつるされたおもりが静止している状態と、その糸が切れた後の運動を考察します。慣性力と「見かけの重力」という概念を理解することが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 慣性力: 加速度 \(\vec{a}\) で運動する座標系(電車内)から物体を見ると、実在の力に加えて、加速度と逆向きに大きさ \(ma\) の「慣性力」がはたらいているように見えます。
- 非慣性系での力のつりあい: (1)では、電車内の観測者から見るとおもりは静止しています。このとき、「重力」「張力」「慣性力」の3つの力がつりあっていると考えます。
- 見かけの重力: (2)では、糸が切れた後の運動を電車内から見ます。このとき、おもりには「重力」と「慣性力」が常にはたらきます。この2つの力の合力を「見かけの重力」とみなすことで、電車内での運動を、地上での自由落下と同じように等加速度直線運動として捉えることができます。
- 運動の独立性: (3)では、おもりが床に落ちるまでの時間を求めます。鉛直方向の運動は、電車の水平方向の運動とは独立しています。したがって、地上から見ても電車内から見ても、鉛直方向の落下運動は同じ(自由落下)として扱えます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、電車内の観測者の視点に立ち、おもりにはたらく3つの力(重力、張力、慣性力)のつりあいの式を立てて、張力 \(T\) を求めます。
- (2)では、糸が切れた後のおもりの運動を電車内から見ます。おもりには重力と慣性力がはたらき続けるため、この2力の合力(見かけの重力)の向きに等加速度直線運動をすると考えます。
- (3)では、おもりの鉛直方向の運動に着目します。これは地上から見れば、高さ \(h\) からの単純な自由落下運動に等しいので、等加速度運動の公式を用いて時間を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
加速する電車内で、糸でつるされたおもりが傾いて静止しているときの、糸の張力の大きさを求める問題です。電車と一緒に運動する観測者の立場(加速系)で考えると、おもりは静止しているので「力のつりあい」の問題として扱えます。
この設問における重要なポイント
- 観測者を電車内(加速系)に置く。
- おもりにはたらく力は「重力」「張力」「慣性力」の3つ。
- 慣性力の向きは電車の加速度と逆向き、大きさは \(ma\)。
- おもりは静止しているので、この3つの力がつりあっている。
- 力を水平・鉛直方向に分解し、それぞれの方向でつりあいの式を立てる。
具体的な解説と立式
電車内の観測者から見ると、おもりは静止しています。おもりにはたらく力は以下の3つです。
- 重力: 鉛直下向きに大きさ \(mg\)。
- 張力: 糸の向きに大きさ \(T\)。
- 慣性力: 電車の加速度(右向き)と逆向き、つまり水平左向きに大きさ \(ma\)。
糸が鉛直線となす角を \(\theta\) とします。張力 \(T\) を水平・鉛直成分に分解すると、力のつりあいの式は以下のようになります。
鉛直方向の力のつりあい:
$$ T\cos\theta – mg = 0 \quad \cdots ① $$
水平方向の力のつりあい:
$$ T\sin\theta – ma = 0 \quad \cdots ② $$
この2つの式を連立して \(T\) を求めます。
使用した物理公式
- 慣性力: \(F_{\text{慣性}} = ma\)
- 力のつりあい: \(\sum \vec{F} = 0\)
①式と②式をそれぞれ2乗して足し合わせます。
$$ (T\sin\theta)^2 + (T\cos\theta)^2 = (ma)^2 + (mg)^2 $$
$$
\begin{aligned}
T^2(\sin^2\theta + \cos^2\theta) &= m^2a^2 + m^2g^2 \\[2.0ex]T^2(1) &= m^2(a^2 + g^2) \\[2.0ex]T^2 &= m^2(g^2 + a^2)
\end{aligned}
$$
\(T>0\) なので、
$$ T = \sqrt{m^2(g^2 + a^2)} = m\sqrt{g^2 + a^2} $$
加速する電車の中では、おもりはまっすぐ下には垂れ下がらず、進行方向と逆向きに傾いて静止します。これは、進行方向と逆向きに「慣性力」という見かけの力が働くためです。この状態では、糸が斜め上に引っ張る力(張力)が、下向きの「重力」と、横向きの「慣性力」の2つの力を同時に支えて、つりあっています。この力のつりあいを数式にして解くことで、張力の大きさがわかります。
糸にはたらく張力の大きさは \(m\sqrt{g^2 + a^2}\) です。これは、重力 \(mg\) と慣性力 \(ma\) という、直交する2つの力の合力と大きさが等しく、向きが逆の力であることを示しています。
問(2)
思考の道筋とポイント
糸が切れた後の、電車内の観測者から見たおもりの運動を答える問題です。糸が切れると、おもりを支えていた張力がなくなり、おもりには「重力」と「慣性力」のみがはたらくことになります。この2つの力の「合力」が一定なので、おもりはこの合力の向きに等加速度直線運動をします。
この設問における重要なポイント
- 糸が切れた後、おもりにはたらく力は「重力」と「慣性力」のみ。
- この2つの力の合力は、大きさと向きが一定である。
- したがって、電車内から見ると、おもりは「見かけの重力」を受けて等加速度直線運動をする。
- 見かけの重力加速度の大きさと向きを求める。
具体的な解説と立式
電車内の観測者から見ると、糸が切れた後のおもりには、鉛直下向きの重力 \(mg\) と水平左向きの慣性力 \(ma\) がはたらき続けます。
この2つの力の合力を「見かけの重力」 \(m\vec{g’}\) と考えます。
見かけの重力加速度 \(g’\) の大きさ:
\(mg\) と \(ma\) は直交しているので、三平方の定理より、見かけの重力 \(mg’\) の大きさは、
$$ (mg’)^2 = (mg)^2 + (ma)^2 $$
両辺を \(m^2\) で割って \(g’\) について解くと、
$$ g’^2 = g^2 + a^2 $$
$$ g’ = \sqrt{g^2+a^2} $$
となります。
見かけの重力加速度 \(\vec{g’}\) の向き:
合力ベクトルの向きは、鉛直方向となす角を \(\theta\) とすると、
$$
\begin{aligned}
\tan\theta &= \frac{ma}{mg} \\[2.0ex]&= \frac{a}{g}
\end{aligned}
$$
となります。この向きは、糸が切れる直前に糸が張っていた向きと同じです。
よって、おもりは「鉛直方向と \(\tan\theta = a/g\) となる角をなす向きに、大きさ \(\sqrt{g^2+a^2}\) の加速度で等加速度直線運動をする」と記述できます。
使用した物理公式
- 力の合成(ベクトル和)
- 見かけの重力の概念
この設問は運動の様子を記述するものであり、具体的な数値計算は不要です。
糸が切れると、おもりは(1)でつりあっていた張力以外の2つの力、つまり「真下に引く重力」と「真横に引く慣性力」だけを受けることになります。この2つの力を合わせた「斜め下向きの一定の力」を受け続けるので、その力の向きにまっすぐ加速していきます。これが電車の中から見たおもりの運動です。
電車内の観測者から見ると、おもりは、鉛直方向と \(\tan\theta = a/g\) の角をなす向きに、大きさ \(\sqrt{g^2+a^2}\) の等加速度直線運動をします。
問(3)
思考の道筋とポイント
糸が切れてから、おもりが電車の床に落ちるまでの時間を求める問題です。この問題は、おもりの「鉛直方向の運動」にのみ着目すれば解くことができます。水平方向の運動(慣性力による運動)は、落下の時間には影響しません。
この設問における重要なポイント
- 物体の運動は、水平方向と鉛直方向に分解して考えることができる(運動の独立性)。
- 鉛直方向の運動だけを見ると、初速度0で高さ \(h\) からの自由落下運動と同じである。
- 自由落下の公式 \(y = \frac{1}{2}gt^2\) を用いる。
具体的な解説と立式
おもりの運動を鉛直方向と水平方向に分けて考えます。
鉛直方向の運動:
初速度0、移動距離 \(h\)、加速度 \(g\) の等加速度直線運動(自由落下)です。
変位の公式 \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\) を用いると、
$$ h = 0 \cdot t + \frac{1}{2}gt^2 $$
この式を時間 \(t\) について解きます。
水平方向の運動:
電車内から見ると、初速度0、加速度 \(a\) の等加速度直線運動をします。地上から見ると、電車と同じ速度からさらに加速する運動に見えますが、いずれにせよ落下の時間には関係ありません。
使用した物理公式
- 等加速度直線運動の変位の式: \(y = v_0t + \frac{1}{2}at^2\)
$$
\begin{aligned}
h &= \frac{1}{2}gt^2 \\[2.0ex]t^2 &= \frac{2h}{g} \\[2.0ex]t &= \sqrt{\frac{2h}{g}}
\end{aligned}
$$
(時間 \(t\) は正なので、負の解は不適)
おもりが床に落ちるまでの時間は、その高さ \(h\) と重力加速度 \(g\) だけで決まります。横方向にどれだけ動いているかは、落ちる時間には影響しません。例えば、真下にボールを落とすのと、横に投げながら落とすのとで、地面に着くまでの時間は同じです。この問題も同じで、おもりの上下方向の運動だけを見れば、単純な自由落下と同じなので、自由落下の公式を使って時間を計算できます。
床に落ちるまでの時間は \(\sqrt{\frac{2h}{g}}\) です。この結果は、電車の加速度 \(a\) に依存しないことがわかります。これは運動の独立性から考えて妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 慣性力と見かけの重力:
- 核心: 加速する座標系(電車内)では、本来の重力 \(\vec{F}_g = m\vec{g}\) と慣性力 \(\vec{F}_{\text{慣性}} = -m\vec{a}\) のベクトル和である「見かけの重力 \(\vec{F}’ = m\vec{g’}\)」が支配的な力として働く、という概念を理解することが中心です。
- 理解のポイント:
- (1)の静止状態では、張力 \(\vec{T}\) がこの見かけの重力 \(\vec{F}’\) とつりあっています (\(\vec{T} + \vec{F}’ = 0\))。
- (2)の落下運動では、糸が切れることで張力がなくなり、物体は見かけの重力 \(\vec{F}’\) のみを受けて、その方向に等加速度直線運動をします。
- 運動の独立性:
- 核心: 物体の運動は、互いに直交する方向(この場合は水平方向と鉛直方向)に分解して、それぞれ独立に扱うことができるという重要な原理。
- 理解のポイント: (3)で落下時間を求める際に、この原理が決定的な役割を果たします。おもりの鉛直方向の運動は、水平方向の加速度 \(a\) や慣性力の影響を一切受けず、ただ重力加速度 \(g\) のみに支配されます。そのため、問題は「高さ \(h\) からの自由落下」という非常に単純な問題に帰着します。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 斜面を滑る台車上の振り子: 台車が斜面を滑り落ちる(加速する)中で、振り子がどの角度で静止するかを問う問題。重力と慣性力の両方を、斜面に平行・垂直な成分に分解して考える必要があります。
- 放物運動の頂点での円運動: 投げ上げられた物体が最高点に達した瞬間を円運動の頂点とみなし、その点での曲率半径を求める問題。重力が向心力の役割を果たしていると考えます。
- 電車内でボールを真上に投げる: 加速中の電車内でボールを真上に投げると、ボールは慣性力の影響で後方にずれながら放物線を描いて落ちてきます。この軌跡を電車内・地上の両方の視点から考察する問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 座標系の選択: まず、問題を「地上から見る(静止系)」か「電車内から見る(加速系)」か、どちらの視点で解くか方針を立てます。(1)や(2)は加速系、(3)は静止系(の鉛直成分)で見るのが効率的です。
- 力のリストアップ: 選択した座標系に応じて、物体にはたらく力をすべて描き出します。加速系なら慣性力を忘れないようにします。
- 「見かけの重力」の活用: 加速系での運動を考える場合、重力と慣性力をひとまとめにして「見かけの重力」として扱うと、問題の見通しが格段に良くなります。(2)の運動は、見かけの重力 \(mg’\) による自由落下と見なせます。
- 運動の分解: 運動が複雑に見える場合でも、水平方向と鉛直方向など、直交する2方向に分解できないか検討します。(3)のように、片方の方向の運動だけを取り出すことで問題が単純化されることは頻繁にあります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- (2)と(3)の混同:
- 誤解: (2)で問われている「電車内から見た運動」と、(3)で問われている「落下時間」を関連付けて考えすぎてしまう。例えば、(2)で求めた見かけの重力加速度 \(g’ = \sqrt{g^2+a^2}\) を使って、(3)の落下時間を計算しようとする。
- 対策: (2)はあくまで「電車内での観測者から見た、斜め方向の運動」を問う問題であり、(3)は「鉛直方向の変位」のみが関係する問題である、と明確に分離して考える。落下時間は、鉛直方向の運動だけで決まる、という運動の独立性を強く意識する。
- 張力の計算方法:
- 誤解: (1)で、張力 \(T\) を \(mg\) と \(ma\) の単純な和や差で計算しようとする。
- 対策: 力はベクトル量であることを常に意識する。この問題では、重力 \(mg\) と慣性力 \(ma\) は直交しているので、それらとつりあう張力 \(T\) の大きさは、三平方の定理を使って \(\sqrt{(mg)^2 + (ma)^2}\) として求める必要がある。
- 初速度の扱い:
- 誤解: (3)で、糸が切れた瞬間の速度を初速度として考慮しようとして計算が複雑になる。
- 対策: 鉛直方向の運動に限定して考えれば、糸が切れた瞬間の「鉛直方向の初速度」は0です。したがって、単純な自由落下の公式がそのまま使えます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 力のつりあいの式 (\(\sum \vec{F} = 0\)):
- 選定理由: (1)で、加速系(電車内)から見て静止しているおもりの力の関係を記述するため。
- 適用根拠: 慣性力を導入した非慣性系では、見かけ上静止している物体に対して力のつりあいの式を適用できます。これにより、動的な問題を静的な問題として扱えます。
- 見かけの重力 (\(m\vec{g’} = m\vec{g} – m\vec{a}\)):
- 選定理由: (2)で、加速系における物体の運動を直感的に理解するため。
- 適用根拠: これは、加速系における運動方程式 \(m\vec{a’} = \sum \vec{F}_{\text{実在}} – m\vec{a}\) を、\(\sum \vec{F}_{\text{実在}}\) が重力 \(m\vec{g}\) の場合に書き換えたものです。見かけの加速度 \(\vec{a’}\) は、見かけの重力加速度 \(\vec{g’}\) に等しくなります。
- 等加速度直線運動の公式 (\(h = \frac{1}{2}gt^2\)):
- 選定理由: (3)で、鉛直方向の自由落下運動にかかる時間を計算するため。
- 適用根拠: 運動の独立性により、鉛直方向の運動は、初速度0、加速度\(g\)の等加速度直線運動として完全に記述できます。その変位と時間の関係を表すのがこの公式です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 三平方の定理の活用: (1)で張力 \(T\) を求める際、模範解答のように \(\sin^2\theta + \cos^2\theta = 1\) を利用して2式から \(\theta\) を消去する方法は、角度を求める必要がない場合に非常に有効なテクニックです。
- 物理量の次元を確認する: (1)の答え \(m\sqrt{g^2+a^2}\) について、\(g\) と \(a\) は加速度なので、\(g^2+a^2\) の次元は \([\text{L}]^2[\text{T}]^{-4}\)。その平方根は \([\text{L}][\text{T}]^{-2}\) となり、加速度の次元。これに質量 \(m\) の次元 \([\text{M}]\) を掛けると、\([\text{M}][\text{L}][\text{T}]^{-2}\) となり、力の次元と一致することを確認できます。
- 問題の単純化: (3)のように、一見複雑に見える設定でも、ある特定の方向(この場合は鉛直方向)に注目することで、問題が高校物理の初期に習う単純なモデル(自由落下)に帰着することがよくあります。複雑な状況に惑わされず、問題を分解して単純な部分を見つけ出す視点を持つことが重要です。
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