「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 7】Step 2

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Step 2

91 仕事の原理

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「滑車と仕事の原理」です。道具を使った際の仕事の関係性を理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事の原理: 摩擦や道具の質量が無視できる場合、道具を使っても使わなくても仕事の量は変わらないという法則。
  2. 仕事の定義: 仕事 \(W\) は、力の大きさ \(F\) と、力の向きに動いた距離 \(x\) の積で表される(\(W = Fx\))。
  3. 力のつり合い: 物体が静止または等速直線運動しているとき、物体にはたらく力の合力は0になる。
  4. 動滑車の仕組み: 力を小さくする代わりに、綱を引く距離が長くなるというトレードオフの関係。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 【解法1 仕事の原理】人がする仕事と、荷物がされる仕事(直接持ち上げる仕事)が等しいことを利用して立式します。問題文で距離の関係が与えられているため、この解法が最も直接的です。
  2. 【解法2 力のつり合い】荷物にかかる重力と、荷物を支える複数本の綱の張力とのつり合い関係から立式します。図の構造を正確に読み取ることが重要です。

思考の道筋とポイント
この問題は、滑車という道具を使った際の力の関係を問うています。解法は主に2つ考えられます。1つは、問題文の「人が綱を引く距離」と「荷物が上がる距離」の関係が与えられていることから「仕事の原理」を用いる方法です。もう1つは、図の構造から荷物にかかる力のつり合いを考える方法です。ここでは、模範解答で示されている「仕事の原理」を用いる方法をメインに解説し、別解として「力のつり合い」を用いる方法も紹介します。
この設問における重要なポイント

  • 仕事の原理:摩擦や道具の質量が無視できるとき、道具を使っても使わなくても、仕事の量は変わらない。
  • 仕事の定義:仕事 \(W\) は、「力の大きさ \(F\)」と「力の向きに動いた距離 \(x\)」の積で表される (\(W = Fx\))。
  • 人がする仕事:人が綱を引く力 \(F\) で、綱を \(4s\) 動かす仕事。
  • 直接持ち上げる仕事:荷物の重さ \(mg\) に等しい力で、荷物を \(s\) 持ち上げる仕事。

具体的な解説と立式
荷物を直接持ち上げるのに必要な力は、その重力に等しく、荷物の質量を \(m\) [kg]、重力加速度の大きさを \(g\) [m/s²] とすると \(mg\) [N] となります。この力で荷物を \(s\) [m] だけ持ち上げる仕事 \(W_{\text{直接}}\) は、
$$ W_{\text{直接}} = mg \times s $$
と表せます。

一方、装置を使って人が綱を引く力の大きさを \(F\) [N] とすると、問題文より綱を \(4s\) [m] 引く必要があるので、このとき人がする仕事 \(W_{\text{人}}\) は、
$$ W_{\text{人}} = F \times 4s $$
となります。

滑車や綱の重さ、摩擦は無視できるので、「仕事の原理」により、人がする仕事と直接持ち上げる仕事は等しくなります。
$$ W_{\text{人}} = W_{\text{直接}} \quad \cdots ① $$
したがって、以下の関係式が成り立ちます。
$$ F \times 4s = mg \times s \quad \cdots ② $$
この式を解くことで、力 \(F\) が直接持ち上げる力 \(mg\) の何倍になるかを求めます。

使用した物理公式

  • 仕事の原理
  • 仕事の定義: \(W = Fx\)
計算過程

式②を \(F\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
F \times 4s &= mg \times s \\[2.0ex]4F &= mg \\[2.0ex]F &= \displaystyle\frac{1}{4}mg
\end{aligned}
$$
この結果から、人が綱を引く力 \(F\) は、荷物を直接持ち上げる力 \(mg\) の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍であることがわかります。

計算方法の平易な説明

「仕事の原理」とは、簡単に言えば「物理的に楽はできない」という法則です。滑車を使うと、引く力は小さくて済みますが、その分、綱をたくさん引かなければなりません。結局、力と距離を掛け合わせた「仕事」の総量は、道具を使っても使わなくても同じになります。
人がした仕事は「(人の力 \(F\)) × (綱を引いた長さ \(4s\))」です。
荷物がされた仕事は「(荷物の重さ \(mg\)) × (持ち上がった高さ \(s\))」です。
この二つが等しい(イコール)ので、\(F \times 4s = mg \times s\) という式が作れます。この式を解くと、人の力 \(F\) が荷物の重さ \(mg\) の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) になることがわかります。

結論と吟味

人が綱を引く力は、荷物を直接持ち上げる力の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍です。
人が綱を引く距離(\(4s\))が荷物を持ち上げる高さ(\(s\))の4倍になっていることから、力はその逆数である \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍になるという結果は、仕事の原理と整合性が取れており、物理的に妥当です。

別解: 力のつり合いから考えるアプローチ

思考の道筋とポイント
別解として、力のつり合いから解く方法を考えます。荷物がゆっくりと引き上げられている状況は、力がつり合っている状態とみなすことができます。図から、荷物が何本の綱によって支えられているかを正確に読み取り、力のつり合いの式を立てることが鍵となります。このとき、「1本の軽い綱の張力は、どこでも同じ大きさである」という原則を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合い:物体が静止しているか、等速直線運動しているとき、物体にはたらく力の合力は0になる。
  • 張力:1本の軽い(質量が無視できる)綱では、どの部分でも張力の大きさは等しい。
  • 図の読解力:荷物と動滑車を一体として見たときに、何本の綱で上向きに支えられているかを見抜く。

具体的な解説と立式
人が綱を引く力の大きさを \(F\) とします。滑車や綱の重さ、摩擦が無視できるため、1本の綱でつながっている部分の張力の大きさは、どこでも \(F\) に等しくなります。

図を見ると、荷物と2つの動滑車は、合計4本の綱によって鉛直上向きに支えられています(荷物に取り付けられた一番下の動滑車を2本の綱が、その上の動滑車を2本の綱が支えているため)。したがって、荷物と動滑車全体(動滑車の質量は無視)にかかる上向きの力の合力は \(4F\) となります。

一方、荷物には鉛直下向きに重力 \(mg\) がはたらいています。
荷物がゆっくりと引き上げられるとき、これらの力はつり合っていると考えることができるので、以下の式が成り立ちます。
$$ 4F = mg \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの式
計算過程

式③を \(F\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
4F &= mg \\[2.0ex]F &= \displaystyle\frac{1}{4}mg
\end{aligned}
$$
直接持ち上げる力は \(mg\) ですから、人が引く力 \(F\) はその \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍となります。

計算方法の平易な説明

荷物の視点に立って考えてみましょう。荷物は、自分を吊り上げているロープが何本あるかを見ています。図をよく見ると、荷物とそれにつながる動滑車は、合計4本のロープで真上に引っ張り上げられています。人が引く力は、このロープ1本1本にかかる力と同じです。つまり、「4つの力」で「1つの重さ」を支えている構図になります。したがって、1つあたりの力(=人が引く力)は、荷物の重さの \(\displaystyle\frac{1}{4}\) で済むわけです。

結論と吟味

人が綱を引く力は、荷物を直接持ち上げる力の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍です。この結果は、仕事の原理を用いた解法と完全に一致しており、物理的に正しいことが確認できます。力の比が \(1:4\) であることから、逆に距離の比が \(4:1\) になることも説明でき、両方のアプローチが同じ結論を導くことがわかります。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 仕事の原理
    • 核心: 摩擦や道具の質量が無視できる理想的な状況では、道具を使って力を小さくしても、その分動かす距離が長くなるため、結果として仕事の総量(力 × 距離)は変わらないという法則。
    • 理解のポイント:
      • 人がする仕事: \(W_{\text{人}} = (\text{人が引く力}) \times (\text{綱を引く距離})\)
      • 荷物がされる仕事(直接持ち上げる場合): \(W_{\text{直接}} = (\text{荷物の重さ}) \times (\text{持ち上がる高さ})\)
      • 仕事の原理より、\(W_{\text{人}} = W_{\text{直接}}\) が成り立つ。
  • 力のつり合い(別解のアプローチ)
    • 核心: 物体がゆっくりと動いている(加速度がほぼ0)とき、物体にはたらく力のベクトル和は0になる。
    • 理解のポイント:
      • 荷物と動滑車を一体と見なし、この物体グループにはたらく力を考える。
      • 上向きの力:荷物を支える綱の張力の合計。
      • 下向きの力:荷物にはたらく重力。
      • 「上向きの力の合計 = 下向きの力の合計」という式を立てる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 動滑車の数が異なる問題:動滑車が1個や3個の場合でも、基本的な考え方は同じ。「荷物を支える綱の本数」を正確に数えることができれば、力のつり合いからすぐに力の比を求められる。また、その本数倍だけ綱を引く距離が長くなるので、仕事の原理も適用できる。
    • 斜面と組み合わせた問題:斜面上の物体を滑車装置で引き上げる場合、直接引き上げる力は重力 \(mg\) ではなく、重力の斜面平行成分 \(mg\sin\theta\) となる。仕事の原理を考える際は、この力に対して仕事がされると考える。
    • 滑車や綱に質量がある問題:「滑車や綱の重さ、摩擦は無視する」という条件がない場合、仕事の原理はそのままでは使えない(道具を持ち上げるための余分な仕事が必要になるため)。この場合は、動滑車の重さも考慮に入れた「力のつり合い」で解くのが基本となる。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「仕事の原理」の適用条件を確認する:まず問題文で「滑車・綱の質量」「摩擦」が無視できるかを確認する。この条件があれば、「仕事の原理」と「力のつり合い」の2つのアプローチが選択肢になる。
    2. 図の構造を徹底的に分析する
      • 力のつり合いで解く場合:「荷物(と動滑車)を直接支えている上向きの綱は何本か?」を数える。これが力の比を決める最も重要な情報となる。
      • 仕事の原理で解く場合:「荷物が \(s\) 上がるとき、人は綱を何\(s\)引く必要があるか?」という距離の関係を図から読み取る。綱の本数が\(n\)本なら、引く距離は\(n\)倍になる。
    3. 問われているものを明確にする:「力」を問われているのか、「仕事」を問われているのかを区別する。今回は「力の何倍か」なので、力の比を求めればよい。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 綱の本数の数え間違い:
    • 誤解: 図に動滑車が2つあるから、力は \(1/2\) 倍だと短絡的に考えてしまう。また、人が引いている綱も本数に含めてしまう。
    • 対策: 荷物と、荷物と一緒に動く「動滑車」を一つのグループと見なす。そのグループを「真上に」引っ張っている綱の本数だけを数える。この問題では、下の動滑車を支える2本と、上の動滑車を支える2本の、合計4本が該当する。人が下向きに引いている綱は、定滑車を介しているだけで、荷物を直接上向きに支えてはいない。
  • 仕事の原理における距離と力の対応ミス:
    • 誤解: \(F \times s = mg \times 4s\) のように、小さい力と小さい距離、大きい力と大きい距離を組み合わせて式を立ててしまう。
    • 対策: 「楽な(小さい)力で引く代わりに、長い距離を引く」というトレードオフの関係を常に意識する。式を立てた後、「小さいはずの力\(F\)に、長いはずの距離\(4s\)が掛かっているか?」「大きいはずの力\(mg\)に、短いはずの距離\(s\)が掛かっているか?」と指差し確認する癖をつける。
  • 定滑車と動滑車の役割の混同:
    • 誤解: すべての滑車が力を小さくする効果を持つと勘違いする。
    • 対策: 役割を明確に区別する。定滑車は「力の向きを変える」だけで力の大きさは変えない。動滑車は「綱を複数本に分けて力を分散させる」ことで、1本あたりの力を小さくする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 仕事の原理 (\(W_{\text{人}} = W_{\text{直接}}\)):
    • 選定理由: 問題文に「荷物を \(s\) [m] 引き上げるのに、綱を \(4s\) [m] 引く必要があった」という、道具を使った場合と使わない場合の「移動距離」の関係が具体的に与えられている。これは、仕事の原理 (\(F_1 x_1 = F_2 x_2\)) を使うための典型的なヒントである。
    • 適用根拠: この原理は、より根本的な「エネルギー保存則」に基づいている。摩擦などでエネルギーが失われない限り、人が綱に与えたエネルギー(仕事)は、すべて荷物を持ち上げるための位置エネルギーの増加(仕事)に変換される。そのため、入力した仕事と、有効に使われた仕事は等しくなる。
  • 力のつり合いの式 (\(4F = mg\)):
    • 選定理由: 図から、物体にはたらく力の構造が静力学的に分析できるため。特に「ゆっくり引き上げた」という状況は、加速度がほぼ0 (\(a \approx 0\)) とみなせるため、力のつり合いが非常に良い近似で成立する。
    • 適用根拠: ニュートンの運動方程式 \(ma = \text{合力}\) が根拠となる。加速度 \(a=0\) のとき、物体にはたらく力の合力は0になる。この問題では、鉛直上向きの張力の合計と、鉛直下向きの重力の合力が0になる、という形で適用される。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の整理を優先する: 仕事の原理の式 \(F \times 4s = mg \times s\) を立てたら、計算を進める前に両辺に共通する文字(この場合は \(s\))を消去する。これにより、\(4F = mg\) というシンプルな関係式になり、その後の計算ミスや混乱を防げる。
  • 「比」を意識した計算: 問題は「力の何倍か」を問うている。これは比 \(\displaystyle\frac{F}{mg}\) の値を求めることと同じである。\(F = \displaystyle\frac{1}{4}mg\) と求めた後、思考を止めずに「したがって、\(F\) は \(mg\) の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍である」と、問題の問いに答える形で結論づける習慣をつける。
  • ダブルチェック(別解による検算): この問題のように、複数のアプローチ(仕事の原理と力のつり合い)が可能な場合、一方の方法で解いた後、時間があればもう一方の方法でも計算してみる。両者で同じ答え (\(\displaystyle\frac{1}{4}\)倍) が得られれば、解答の信頼性は飛躍的に高まる。これは試験本番で非常に有効な検算テクニックである。

92 ポンプの仕事率

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「仕事率とエネルギーの関係」です。仕事率、仕事、エネルギーという3つの重要な物理概念の関係性を理解し、計算に適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事率 \(P\) の定義 (\(P = W/t\)): 1秒あたりにする仕事のことで、単位はワット[W]または[J/s]。
  2. 重力による位置エネルギー \(U = mgh\): 質量\(m\)の物体を基準の高さから\(h\)だけ持ち上げたときに蓄えられるエネルギー。これは重力に逆らってする仕事\(W\)に等しい。
  3. 質量と体積の関係(密度): 質量 \(m\)、密度 \(\rho\)、体積 \(V\) の間には \(m = \rho V\) の関係がある。
  4. 単位の変換: 物理計算では、単位を国際単位系(SI単位)に揃えることが基本。特に時間の単位「分」を「秒」に直す必要がある。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. ポンプがした仕事の総量を、仕事率と時間から計算します。(\(W = Pt\))
  2. その仕事が、くみ上げた水の増加した位置エネルギーに等しいと考えます。(\(W = mgh\))
  3. くみ上げた水の質量\(m\)を、求めたい体積\(V\)を使って表します。(\(m = \rho V\))
  4. これらを一つの式にまとめて(\(Pt = \rho Vgh\))、水の体積\(V\)を求めます。

思考の道筋とポイント
「仕事率」が与えられているので、まず「仕事」と「時間」の関係を考えます。ポンプがした仕事が何に使われたのかを考えると、それは「水を高いところに持ち上げること」、つまり「水の位置エネルギーを増加させること」に使われています。問題で問われているのは「水の体積」ですが、位置エネルギーの公式で必要なのは「質量」です。したがって、問題文で与えられた水の密度を用いて、「体積」を「質量」に変換するプロセスが必要になります。これらの関係を一つの式にまとめることができれば、答えを導くことができます。
この設問における重要なポイント

  • 仕事率 \(P\) [W] とは、1秒あたりにする仕事 \(P\) [J/s] のことである。
  • ポンプが \(t\) 秒間でした仕事の総量 \(W\) は \(W = Pt\) で計算できる。
  • 質量 \(m\) の物体を高さ \(h\) だけ持ち上げるのに必要な仕事は \(W = mgh\) である。
  • 水の質量 \(m\) は、密度 \(\rho\) と体積 \(V\) を用いて \(m = \rho V\) と表せる。

具体的な解説と立式
ポンプの仕事率を \(P\) [W]、稼働時間を \(t\) [s] とすると、この間にポンプがする仕事の総量 \(W_{\text{ポンプ}}\) は、
$$ W_{\text{ポンプ}} = P \times t \quad \cdots ① $$
と表せます。

一方、くみ上げる水の体積を \(V\) [m³]、水の密度を \(\rho\) [kg/m³] とすると、くみ上げる水の質量 \(m\) [kg] は、
$$ m = \rho V \quad \cdots ② $$
となります。

この質量 \(m\) の水を高さ \(h\) [m] まで持ち上げるのに必要な仕事 \(W_{\text{水}}\) は、重力に逆らってする仕事であり、増加する位置エネルギーに等しくなります。重力加速度の大きさを \(g\) [m/s²] とすると、
$$ W_{\text{水}} = mgh \quad \cdots ③ $$
と表せます。

ポンプがした仕事がすべて水を持ち上げるために使われると考えると、\(W_{\text{ポンプ}} = W_{\text{水}}\) が成り立ちます。①と③より、
$$ Pt = mgh \quad \cdots ④ $$
となります。さらに、この式に②を代入することで、求めたい体積 \(V\) を含む関係式を導くことができます。
$$ Pt = (\rho V)gh \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 仕事率: \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\)
  • 重力による位置エネルギー(重力に逆らう仕事): \(W = mgh\)
  • 質量と密度の関係: \(m = \rho V\)
計算過程

まず、問題文で与えられた値を整理し、単位をSI基本単位(秒、メートル、キログラム)に揃えます。

  • 仕事率: \(P = 490\) [W]
  • 時間: \(t = 20 \text{分} = 20 \times 60 = 1200\) [s]
  • 高さ: \(h = 10\) [m]
  • 水の密度: 水1m³の質量が \(1.0 \times 10^3\) kg なので、\(\rho = 1.0 \times 10^3\) [kg/m³]
  • 重力加速度: \(g = 9.8\) [m/s²] (特に指定がないが、物理定数としてこの値を用いる)

これらの値を、立式した関係式 ⑤ \(Pt = \rho Vgh\) に代入します。
$$
490 \times (20 \times 60) = (1.0 \times 10^3 \times V) \times 9.8 \times 10
$$
この式を、求めたい体積 \(V\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V &= \displaystyle\frac{490 \times 20 \times 60}{1.0 \times 10^3 \times 9.8 \times 10} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{490 \times 1200}{1000 \times 98} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{490 \times 12}{10 \times 98}
\end{aligned}
$$
ここで、\(490 = 5 \times 98\) であることを利用して式を簡単にします。
$$
\begin{aligned}
V &= \displaystyle\frac{(5 \times 98) \times 12}{10 \times 98} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{5 \times 12}{10} \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{60}{10} \\[2.0ex]&= 6.0
\end{aligned}
$$
したがって、くみ上げられる水の体積は \(6.0\) [m³] となります。

計算方法の平易な説明

まず、ポンプが20分間でどれだけの「仕事」をしたかを計算します。「仕事率」は1秒あたりの仕事量なので、\(490 \text{ [W]} \times 20 \text{ [分]} \times 60 \text{ [秒/分]}\) で、仕事の総量が出ます。
次に、この仕事が何に使われたかを考えます。それは「水を10mの高さに持ち上げる」ことです。
「水を持ち上げる仕事」は「(水の重さ) × (高さ)」で計算できます。水の重さは「(水の体積) × (1m³あたりの質量) × (重力加速度)」です。
「ポンプがした仕事の総量」=「水を持ち上げる仕事」という等式を立て、求めたい「水の体積」について解けば答えが出ます。

結論と吟味

20分間でくみ上げることができる水の体積は \(6.0 \text{ m}^3\) です。
仕事率490Wは、\(490 = 50 \times 9.8\) なので、質量50kgの物体を毎秒1mの速さで持ち上げる能力に相当します。20分間(1200秒)では、\(50 \text{ [kg]} \times 1200 \text{ [s]} = 60000\) [kg] の水を1mの高さまで持ち上げることができます。今回は10mの高さまで持ち上げるので、持ち上げられる水の総質量は \(60000 \div 10 = 6000\) [kg] となります。水の密度は 1000 kg/m³ なので、その体積は \(6000 \text{ [kg]} \div 1000 \text{ [kg/m³]} = 6.0 \text{ [m³]}\) となり、計算結果と一致し、物理的に妥当であることがわかります。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 仕事率と仕事、時間の関係
    • 核心:仕事率 \(P\) [W] は、単位時間(1秒)あたりに行う仕事 [J] の量を表す。したがって、時間 \(t\) [s] の間に行われる仕事の総量 \(W\) [J] は、\(W = Pt\) という単純な掛け算で求められる。
    • 理解のポイント:
      • 仕事率の単位 [W] は [J/s] と等価であることを理解する。
      • この問題では、ポンプが供給したエネルギーの総量をまず計算することが出発点となる。
  • 仕事とエネルギーの関係
    • 核心:物体に仕事 \(W\) をすると、その物体のエネルギーが \(W\) だけ変化する。この問題では、ポンプが水にした仕事が、そのまま水の重力による位置エネルギーの増加に変換される。
    • 理解のポイント:
      • 重力に逆らって質量 \(m\) の物体を高さ \(h\) だけ持ち上げる仕事は、位置エネルギーの増加分 \(mgh\) に等しい。
      • したがって、\(W_{\text{ポンプ}} = \Delta U_{\text{位置}} = mgh\) という関係が成り立つ。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 効率が与えられている問題:「仕事率490Wのポンプを使い、効率80%で…」のように、効率が与えられる場合がある。この場合、ポンプがした仕事 \(Pt\) のうち、実際に水を持ち上げるのに使われた仕事は \(Pt \times 0.8\) となる。\(Pt \times (\text{効率}) = mgh\) という式を立てる必要がある。
    • 運動エネルギーの変化も伴う問題:「静止していた水を、高さ10mまでくみ上げ、秒速5mで放出した」という場合、ポンプがした仕事は「位置エネルギーの増加」と「運動エネルギーの増加」の両方に使われる。この場合、\(Pt = mgh + \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) という式を立てる。
    • 抵抗力がはたらく問題:「空気抵抗を受けながら物体を一定の速さで引き上げる」場合、モーターがする仕事は「位置エネルギーの増加」と「抵抗力に逆らう仕事」の和になる。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 単位の確認と統一:問題文に出てくる物理量の単位をチェックし、すべてSI基本単位系(メートル、キログラム、秒)に変換する。特に「分」→「秒」、「cm」→「m」、「g」→「kg」の変換は忘れやすい。
    2. エネルギーの流れを追う:「誰が(何が)エネルギーを供給したのか?」「そのエネルギーは何に変換されたのか?」というエネルギーの流れを明確にする。この問題では「ポンプがエネルギーを供給」→「水の持つ位置エネルギーに変換」というシンプルな流れである。
    3. 未知数と既知数を整理する:求めたいものは何か(この場合は水の体積 \(V\))を明確にし、それを計算するために必要な他の物理量(質量 \(m\))との関係式(\(m = \rho V\))を準備する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 時間の単位換算忘れ:
    • 誤解: 時間の \(t\) に20(分)をそのまま代入して計算してしまう。
    • 対策: 仕事率の単位 [W] が [J/s]、つまり「秒」を基準にしていることを常に意識する。計算を始める前に、問題文中の「分」や「時間」をすべて「秒」に直す癖をつける。\(t = 20 \times 60\) と、式の中に換算過程を明記するとミスが減る。
  • 質量と体積の混同:
    • 誤解: 位置エネルギーの公式 \(mgh\) の \(m\) に、体積 \(V\) を直接代入しようとして混乱する。
    • 対策: 「質量(m) [kg]」と「体積(V) [m³]」は異なる物理量であることを明確に意識する。両者をつなぐのが「密度(\(\rho\)) [kg/m³]」であり、\(m = \rho V\) の関係を常に念頭に置く。
  • 重力加速度 \(g\) の掛け忘れ:
    • 誤解: 位置エネルギーを \(mh\) と計算してしまう。
    • 対策: 重力 \(mg\) [N] という「力」で、距離 \(h\) [m] を動かす仕事が位置エネルギー \(mgh\) [J] である、という定義を正確に思い出す。「重さ」と「質量」の違いを意識し、力を計算する際には必ず \(g\) が必要になることを再確認する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 仕事率の定義式 (\(W = Pt\)):
    • 選定理由: 問題文に「仕事率 \(P=490\) W」と「時間 \(t=20\) 分」が与えられている。この2つの情報から計算できる最も基本的な物理量は「仕事の総量 \(W\)」であるため、この公式を選択する。
    • 適用根拠: 仕事率の定義そのものである。仕事率が一定であれば、仕事量は時間に比例して増加する。
  • 重力に逆らう仕事の式 (\(W = mgh\)):
    • 選定理由: ポンプの仕事の結果として「水が高さ10mに持ち上げられた」という現象が起きている。これは、水が重力に逆らって移動したことを意味し、その際にされた仕事は位置エネルギーの増加分として計算できるため、この公式を選択する。
    • 適用根拠: これは、力 \(F=mg\) で距離 \(h\) を動かしたときの仕事 \(W=Fh\) の計算に他ならない。エネルギー保存則の観点からは、された仕事が位置エネルギーに変換されたと解釈できる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 大きな数の計算の工夫: \(490 \times 20 \times 60 = (1.0 \times 10^3 \times V) \times 9.8 \times 10\) のような式では、すぐに全ての数を掛け合わせるのではなく、約分できる組み合わせを探す。
    • 例えば、右辺の \(9.8 \times 10 = 98\) と、左辺の \(490\) に着目する。\(490 \div 98 = 5\) であることに気づけば、計算が大幅に簡略化される。
    • 日頃から \(9.8\) の倍数(\(19.6, 29.4, 49, 98\) など)に慣れておくと、計算が速く正確になる。
  • 指数の扱い: \(1.0 \times 10^3\) のような指数を含む計算では、指数部分と係数部分を分けて計算するとミスが少ない。
  • 単位による検算: 最終的に体積 \(V\) を求める式 \(V = \displaystyle\frac{Pt}{\rho gh}\) ができたとき、右辺の単位を計算してみる。「\(\displaystyle\frac{[\text{W}] \cdot [\text{s}]}{[\text{kg/m³}] \cdot [\text{m/s²}] \cdot [\text{m}]}\)」→「\(\displaystyle\frac{[\text{J/s}] \cdot [\text{s}]}{[\text{kg/m³}] \cdot [\text{m/s²}] \cdot [\text{m}]}\)」→「\(\displaystyle\frac{[\text{J}]}{[\text{kg} \cdot \text{m/s²}] \cdot [\text{1/m²}]}\)」→「\(\displaystyle\frac{[\text{N} \cdot \text{m}]}{[\text{N}] \cdot [\text{1/m²}]} = [\text{m³}]\)」となり、確かに体積の単位になることが確認できる。このような単位チェックは、立式の誤りを発見するのに有効である。

93 弾性力による位置エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「弾性力による位置エネルギーの計算」です。ばねの伸びと蓄えられるエネルギーの関係を正しく理解し、計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 弾性力による位置エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\): ばねが蓄えるエネルギーを計算するための基本公式。
  2. 公式中の「\(x\)」の物理的意味: \(x\)はばねの全長ではなく、「自然の長さからの変化量(伸びまたは縮み)」である。
  3. エネルギーの差の計算: ある状態から別の状態へ変化したときのエネルギーの変化量は、それぞれの状態のエネルギーの引き算で求める。
  4. 単位の統一: 物理計算の基本として、ばね定数の単位[N/m]に合わせて、長さの単位をセンチメートル(cm)からメートル(m)に変換することが不可欠。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. ばねの全長が80cmのときと90cmのときの、それぞれの「自然の長さからの伸び」を計算します。
  2. それぞれの状態における弾性力による位置エネルギーを、公式を用いて個別に算出します。
  3. 算出した2つのエネルギーの差を求めることで、答えを導き出します。

思考の道筋とポイント
この問題は、ばねが異なる2つの状態にあるときの「弾性力による位置エネルギーの差」を問うています。解法の核心は、弾性エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) を正しく適用することにあります。特に、この公式に出てくる \(x\) が「ばねの全長」ではなく、「自然の長さからの伸び(または縮み)」であることを正確に理解しているかが試されます。また、物理計算の基本として、与えられた数値をSI単位系(この場合はメートル)に統一してから計算することも非常に重要です。
この設問における重要なポイント

  • 弾性力による位置エネルギーの公式は \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) である。
  • 公式の \(x\) は、ばねの「自然の長さからの伸びまたは縮み」の大きさを表す。
  • 計算を行う前に、すべての長さの単位をセンチメートル(cm)からメートル(m)に変換する必要がある。

具体的な解説と立式
まず、問題で与えられた値をSI単位系に変換し、各状態でのばねの「伸び」を計算します。

  • ばね定数: \(k = 4.0\) [N/m]
  • 自然の長さ: \(l_0 = 60 \text{ cm} = 0.60 \text{ m}\)

次に、2つの状態それぞれについて、ばねの全長から自然の長さを引いて「伸び」を求めます。

1. ばねの全長が \(l_1 = 80 \text{ cm} = 0.80 \text{ m}\) のとき

このときの伸びを \(x_1\) とすると、
$$ x_1 = l_1 – l_0 = 0.80 – 0.60 = 0.20 \text{ [m]} $$
このときの弾性エネルギーを \(U_1\) とすると、
$$ U_1 = \displaystyle\frac{1}{2}kx_1^2 $$

2. ばねの全長が \(l_2 = 90 \text{ cm} = 0.90 \text{ m}\) のとき

このときの伸びを \(x_2\) とすると、
$$ x_2 = l_2 – l_0 = 0.90 – 0.60 = 0.30 \text{ [m]} $$
このときの弾性エネルギーを \(U_2\) とすると、
$$ U_2 = \displaystyle\frac{1}{2}kx_2^2 $$

求めたいのは、これら2つの状態におけるエネルギーの差 \(\Delta U\) です。
$$ \Delta U = U_2 – U_1 = \displaystyle\frac{1}{2}kx_2^2 – \displaystyle\frac{1}{2}kx_1^2 $$

使用した物理公式

  • 弾性力による位置エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

各状態での伸び \(x_1 = 0.20 \text{ m}\), \(x_2 = 0.30 \text{ m}\) と、ばね定数 \(k = 4.0 \text{ N/m}\) を用いて、エネルギーの差 \(\Delta U\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= U_2 – U_1 \\[2.0ex]&= \left( \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (0.30)^2 \right) – \left( \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (0.20)^2 \right) \\[2.0ex]&= (2.0 \times 0.090) – (2.0 \times 0.040) \\[2.0ex]&= 0.18 – 0.08 \\[2.0ex]&= 0.10 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
計算を効率化するために、\(\displaystyle\frac{1}{2}k\) でくくる方法もあります。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \displaystyle\frac{1}{2}k(x_2^2 – x_1^2) \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (0.30^2 – 0.20^2) \\[2.0ex]&= 2.0 \times (0.09 – 0.04) \\[2.0ex]&= 2.0 \times 0.05 \\[2.0ex]&= 0.10 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ばねに蓄えられるエネルギーは、ばねが「自然の長さからどれだけ伸びたか」によって決まります。

  1. まず、それぞれのケースで「伸び」が何cmになるかを計算します。
    • 全長80cmのとき: \(80\text{cm} – 60\text{cm} = 20\text{cm}\) の伸び
    • 全長90cmのとき: \(90\text{cm} – 60\text{cm} = 30\text{cm}\) の伸び
  2. 物理の計算では単位をメートル(m)に揃えるのが基本なので、20cmを0.2m、30cmを0.3mに直します。
  3. それぞれの伸びに対応するエネルギーを、公式 \(U = \frac{1}{2} \times k \times (\text{伸び})^2\) を使って計算します。
  4. 最後に、90cmまで伸ばしたときのエネルギーから、80cmまで伸ばしたときのエネルギーを引き算すれば、その「差」が求まります。
結論と吟味

弾性力による位置エネルギーの差は \(0.10 \text{ J}\) です。
ばねは伸びが大きくなるほど硬く感じられる(より大きな力が必要になる)ため、同じ10cmを伸ばすにも、すでにある程度伸びている状態からの方がより多くの仕事(エネルギー)が必要です。したがって、エネルギーの差が正の値になるのは物理的に妥当です。計算過程においても、単位の換算と公式の適用が正しく行われています。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 弾性力による位置エネルギーの公式
    • 核心:ばねが自然の長さから \(x\) だけ変形したときに蓄える弾性エネルギー \(U\) は、\(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) で与えられる。ここで \(k\) はばね定数である。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーは変形量 \(x\) の 2乗 に比例する。つまり、伸びが2倍になるとエネルギーは4倍になる。
      • エネルギーは、ばねが「伸びている」か「縮んでいる」かにはよらず、変形量の大きさだけで決まる。
  • \(x\) の定義の正確な理解
    • 核心:公式中の \(x\) は、ばねの「全長」ではなく、あくまで「自然の長さからの変化量(伸びまたは縮み)」である。
    • 理解のポイント:
      • 計算を始める前に、必ず「自然の長さ」を基準として「伸び」または「縮み」を計算する必要がある。
      • この問題では、\(x_1 = (\text{全長 } 80\text{cm}) – (\text{自然長 } 60\text{cm})\)、\(x_2 = (\text{全長 } 90\text{cm}) – (\text{自然長 } 60\text{cm})\) のように、引き算のステップが不可欠である。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばねを伸ばすのに必要な「仕事」を問う問題:「自然長から \(x\) だけ伸ばすのに必要な仕事は?」と問われた場合、それはその状態での弾性エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) に等しい。「\(x_1\) の状態から \(x_2\) の状態まで伸ばすのに必要な仕事は?」と問われた場合は、エネルギーの差 \(\Delta U = U_2 – U_1\) を計算することになり、本質的にこの問題と同じである。
    • ばね振り子のエネルギー保存則の問題:おもりが振動している最中のある瞬間について、「運動エネルギーと弾性エネルギーの和は一定」というエネルギー保存則を立てる問題。このときも、弾性エネルギーの計算には「自然長からの伸び・縮み」を正しく使う必要がある。
    • 鉛直ばね振り子の問題:鉛直に吊るされたばねでは、おもりの重力によってあらかじめ伸びた「つり合いの位置」が存在する。弾性エネルギーを計算する際は、この「つり合いの位置」ではなく、あくまで「自然長の位置」を基準に \(x\) を測る必要がある。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「自然の長さ」はどこか?:問題文から自然の長さ \(l_0\) を正確に読み取る。これが全ての計算の基準点となる。
    2. 単位系の統一:ばね定数 \(k\) の単位が [N/m] で与えられているため、長さはすべてメートル [m] に統一する必要がある。cmで与えられた長さを最初にmに変換する。
    3. 問われているのは「エネルギー」か「エネルギーの差」か?:「〜のときのエネルギーはいくらか」なら \(U\) そのものを、「〜のときと〜のときのエネルギーの差は」なら \(\Delta U = U_2 – U_1\) を計算する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • \(x\) にばねの全長を代入するミス:
    • 誤解: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}k(0.80)^2\) のように、ばねの全長を \(x\) として計算してしまう。
    • 対策: 公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) を覚える際に、「\(x\) は自然長からの変化量」とセットで、声に出して覚える。問題を解く前に、\(x_1 = \dots\), \(x_2 = \dots\) と、伸びを計算するステップを必ず書くように習慣づける。
  • 単位換算のミス:
    • 誤解: \(x_1 = 80 – 60 = 20\) [cm] のまま計算してしまい、\(U = \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (20)^2\) のように、単位が混在した式を立ててしまう。
    • 対策: 計算を始める前に、問題文に出てくる数値をすべてSI単位系に変換して書き出す癖をつける。「\(l_0 = 60 \text{ cm} = 0.60 \text{ m}\)」「\(l_1 = 80 \text{ cm} = 0.80 \text{ m}\)」のように、換算後の値を明確にしてから立式に進む。
  • エネルギーの差の計算ミス:
    • 誤解: エネルギーの差を \(\Delta U = \displaystyle\frac{1}{2}k(x_2 – x_1)^2\) のように、伸びの差を2乗して計算してしまう。
    • 対策: 「エネルギーの差」は「(後のエネルギー)引く(前のエネルギー)」であると定義に立ち返る。つまり、\((x_2^2 – x_1^2)\) であって \((x_2 – x_1)^2\) ではないことを明確に区別する。因数分解の公式 \(a^2 – b^2 = (a-b)(a+b)\) を思い出すと間違いにくい。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 弾性力による位置エネルギーの公式 (\(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)):
    • 選定理由: 問題が「弾性力による位置エネルギー」について直接問うているため、この公式を選択するのは自明である。
    • 適用根拠: この公式は、ばねを自然長から \(x\) だけ伸ばすのに必要な仕事を表している。ばねの力(弾性力)はフックの法則 \(F=kx\) に従い、伸びに比例して直線的に増加する。したがって、ばねを伸ばすのに必要な仕事は、\(F-x\)グラフ(力と変位のグラフ)を描いたときの三角形の面積として求められる。この三角形の面積が「底辺 \(x\) × 高さ \(kx\) ÷ 2」となり、\(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) という公式が導かれる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 因数分解の活用: \(\Delta U = \displaystyle\frac{1}{2}kx_2^2 – \displaystyle\frac{1}{2}kx_1^2\) を計算する際、共通因数 \(\displaystyle\frac{1}{2}k\) でくくると計算が楽になることが多い。
    • \(\Delta U = \displaystyle\frac{1}{2}k(x_2^2 – x_1^2)\)
    • この形にすれば、掛け算が一回で済む。さらに、\(x_2^2 – x_1^2 = (x_2-x_1)(x_2+x_1)\) を利用すると、\(\Delta U = \displaystyle\frac{1}{2}k(x_2-x_1)(x_2+x_1)\) となり、2乗の計算を避けられるため、暗算や筆算がより簡単になる場合がある。
    • 今回の例:\(\Delta U = \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (0.30-0.20)(0.30+0.20) = 2.0 \times (0.10) \times (0.50) = 0.10\) [J]
  • 小数の計算: \(0.2^2 = 0.04\), \(0.3^2 = 0.09\) のような小数の2乗計算は、焦ると小数点の位置を間違えやすい。自信がなければ筆算で確認する。
  • 有効数字の意識: 問題文の数値が「4.0 N/m」「60cm」など2桁で与えられているため、最終的な答えも有効数字2桁で「0.10 J」と答えるのが適切である。単に「0.1 J」と答えるのではなく、測定の精度を意識した表記を心がける。

94 運動エネルギーと仕事

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「仕事と運動エネルギーの関係」です。物体に力がはたらき、速さが変化したときに、その力がした仕事を計算する方法を理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動エネルギーの公式 \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\): 質量\(m\)、速さ\(v\)の物体が持つエネルギー。
  2. 仕事とエネルギーの関係(エネルギー原理): 物体にされた仕事の総和は、その物体の運動エネルギーの変化量に等しい (\(W = \Delta K\))。
  3. (別解)運動方程式 \(ma=F\): 物体の運動状態の変化と力の関係を示す基本法則。
  4. (別解)等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\): 一定の加速度で運動する物体の速さと移動距離の関係式。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 【解法1】仕事とエネルギーの関係を利用し、運動エネルギーの変化量を計算することで、された仕事を直接求めます。これが最も効率的な解法です。
  2. 【解法2】仕事の定義 \(W=Fx\) に立ち返り、運動方程式と運動の公式から力\(F\)と距離\(x\)の関係を導出して仕事を計算します。エネルギー原理が基本法則から導かれることを確認できます。

思考の道筋とポイント
この問題では、台車にした「仕事」が問われています。与えられている情報は「質量」「変化前の速さ」「変化後の速さ」のみで、力が加わった「時間」や「距離」、そして「力の大きさ」そのものは分かっていません。
このような状況で仕事を求める最も直接的な方法は、「仕事とエネルギーの関係(エネルギー原理)」を用いることです。物体にされた仕事の総和は、その物体の運動エネルギーの変化量に等しい、というこの関係を使えば、速さの変化から直接仕事を計算することができます。
この設問における重要なポイント

  • 物体にされた仕事の総和は、その物体の運動エネルギーの変化量に等しい (\(W = \Delta K\))。
  • 運動エネルギーは、質量 \(m\) と速さ \(v\) を用いて \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) と表される。
  • 運動エネルギーの変化量は、「変化後の運動エネルギー」から「変化前の運動エネルギー」を引くことで求められる。

具体的な解説と立式
台車の質量を \(m\)、力を加える前の速さを \(v_0\)、加えた後の速さを \(v\) とします。
力を加える前の台車の運動エネルギーを \(K_0\)、加えた後の運動エネルギーを \(K\) とすると、それぞれ次のように表せます。
$$ K_0 = \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 $$
$$ K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 $$
「仕事とエネルギーの関係」より、この間に力が台車にした仕事 \(W\) は、台車の運動エネルギーの変化量 \(\Delta K\) に等しくなります。
$$ W = \Delta K = K – K_0 $$
したがって、求める仕事 \(W\) は以下の式で計算できます。
$$ W = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2 $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 仕事と運動エネルギーの関係: \(W = \Delta K = K_{\text{後}} – K_{\text{前}}\)
計算過程

問題文で与えられた値、\(m = 4.0 \text{ kg}\), \(v_0 = 3.0 \text{ m/s}\), \(v = 5.0 \text{ m/s}\) を立式した関係式に代入します。
$$
\begin{aligned}
W &= \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (5.0)^2 – \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (3.0)^2 \\[2.0ex]&= (2.0 \times 25) – (2.0 \times 9.0) \\[2.0ex]&= 50 – 18 \\[2.0ex]&= 32 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
共通因数 \(\displaystyle\frac{1}{2}m\) でくくって計算することもできます。
$$
\begin{aligned}
W &= \displaystyle\frac{1}{2}m(v^2 – v_0^2) \\[2.0ex]&= \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (5.0^2 – 3.0^2) \\[2.0ex]&= 2.0 \times (25 – 9.0) \\[2.0ex]&= 2.0 \times 16 \\[2.0ex]&= 32 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

物理の基本的なルールに、「物体にした仕事の分だけ、その物体の運動エネルギーが増える(または減る)」というものがあります。この問題は、まさにこのルールを使います。

  1. まず、力が加えられる「前」と「後」の運動エネルギーをそれぞれ計算します。運動エネルギーは「\( \frac{1}{2} \times (\text{質量}) \times (\text{速さ})^2 \)」という公式で求められます。
  2. 次に、「後の運動エネルギー」から「前の運動エネルギー」を引き算します。この差が、運動エネルギーがどれだけ増えたかを表します。
  3. この「増えた運動エネルギーの量」が、そのまま「力がした仕事の量」になります。
結論と吟味

力が台車にした仕事は \(32 \text{ J}\) です。
台車の速さが増加しているため、運動エネルギーは増加しており、された仕事が正の値になるという結果は物理的に妥当です。また、「なめらかな水平面」とあるため摩擦力による仕事は0であり、加えられた力の仕事がすべて運動エネルギーの増加に費やされたと考えることができます。

別解: 運動の法則から導くアプローチ

思考の道筋とポイント
別解として、仕事の定義である \(W=Fx\) から出発する方法も考えられます。このアプローチでは、未知数である力の大きさ \(F\) と移動距離 \(x\) を、運動方程式と等加速度直線運動の公式を用いて導出する必要があります。計算は少し複雑になりますが、仕事とエネルギーの関係が、より基本的な運動法則から導かれることを確認できます。
この設問における重要なポイント

  • 仕事の定義: \(W=Fx\)
  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)

具体的な解説と立式
台車に加えた一定の力の大きさを \(F\)、そのときの加速度を \(a\)、力がはたらいた距離を \(x\) とします。
運動方程式より、力と加速度の関係は、
$$ F = ma \quad \cdots ① $$
と表せます。また、等加速度直線運動の公式から、速さ、加速度、距離の関係は、
$$ v^2 – v_0^2 = 2ax \quad \cdots ② $$
となります。
求めたい仕事 \(W\) は、仕事の定義より、
$$ W = Fx \quad \cdots ③ $$
です。この式に①を代入すると、
$$ W = (ma)x = m(ax) $$
となります。ここで、②の式を \(ax\) について解くと \(ax = \displaystyle\frac{v^2 – v_0^2}{2}\) となるので、これを代入します。
$$ W = m \left( \displaystyle\frac{v^2 – v_0^2}{2} \right) = \displaystyle\frac{1}{2}m(v^2 – v_0^2) $$
この式は、運動エネルギーの変化量を表す式と全く同じ形になります。

使用した物理公式

  • 仕事の定義: \(W=Fx\)
  • 運動方程式: \(ma=F\)
  • 等加速度直線運動の公式: \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
計算過程

導出した関係式 \(W = \displaystyle\frac{1}{2}m(v^2 – v_0^2)\) に、与えられた値を代入します。この計算過程は、解法1と同一です。
$$
\begin{aligned}
W &= \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (5.0^2 – 3.0^2) \\[2.0ex]&= 2.0 \times (25 – 9.0) \\[2.0ex]&= 2.0 \times 16 \\[2.0ex]&= 32 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

仕事はもともと「力 × 距離」で計算されるものです。この問題では力も距離も分かりませんが、運動の法則を使えば計算できます。
まず、速さが3.0m/sから5.0m/sに変化したことから、加速度と距離の関係が分かります。次に、運動方程式(力=質量×加速度)を使えば、力と加速度の関係も分かります。
これらの式をうまく組み合わせると、未知数だった「力」と「距離」を消去することができ、最終的には「運動エネルギーの変化」を計算するのと同じ式にたどり着きます。

結論と吟味

力が台車にした仕事は \(32 \text{ J}\) です。
この結果は、仕事とエネルギーの関係を用いた解法1と完全に一致します。これにより、仕事とエネルギーの関係式が、運動の基本法則(運動方程式など)から導かれる普遍的な原理であることが確認できます。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 仕事と運動エネルギーの関係(エネルギー原理)
    • 核心:ある物体に対して外部からされた仕事の総和は、その物体の運動エネルギーの変化量に等しい。これは力学における最も重要な原理の一つである。
    • 理解のポイント:
      • 式で表すと \(W_{\text{総和}} = \Delta K = K_{\text{後}} – K_{\text{前}}\)。
      • \(W_{\text{総和}}\) には、主役となる力(この問題で問われている力)だけでなく、摩擦力や空気抵抗など、物体にはたらく全ての力がする仕事が含まれる。この問題では「なめらかな水平面」なので、摩擦力は0と考える。
      • この原理を使えば、力の大きさや作用した距離・時間が分からなくても、速さの変化だけで仕事を計算できる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 減速する運動:「速さ5.0m/sで動いていた台車に逆向きの力を加えたら、速さが3.0m/sになった。この力がした仕事は?」という問題。この場合、運動エネルギーは減少するので、\(\Delta K = K_{\text{後}} – K_{\text{前}}\) は負の値になる。つまり、された仕事は負であり、物体からエネルギーを奪ったことを意味する。
    • 摩擦力がはたらく場合:「粗い水平面上で、物体を力\(F\)で引いて速さが変化した。力\(F\)がした仕事は?」という問題。この場合、物体にされた仕事の総和は \(W_F + W_{\text{摩擦}}\) となる。したがって、運動エネルギーの変化量は \(\Delta K = W_F + W_{\text{摩擦}}\) となる。摩擦力がする仕事 \(W_{\text{摩擦}}\) は常に負の値であることに注意。
    • 位置エネルギーも変化する場合:坂道を上りながら加速するような問題。この場合、物体にされた仕事は、運動エネルギーの変化と位置エネルギーの変化の両方に使われる。これを一般化したものが「エネルギー保存則の拡張版」であり、\(W_{\text{非保存力}} = \Delta K + \Delta U\)(非保存力がした仕事は、力学的エネルギーの変化に等しい)という関係式で表される。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「仕事」を問われているか?:問題文が「仕事」を求めていることを確認する。
    2. 与えられている情報は何か?
      • 「速さの変化」が与えられている場合 → 「仕事と運動エネルギーの関係」を使うのが最も近道。
      • 「力の大きさ」と「移動距離」が与えられている場合 → 仕事の定義 \(W=Fx\) で計算する。
      • 「力の大きさ」と「作用時間」が与えられている場合 → 運動方程式から加速度を求め、等加速度運動の公式を駆使して距離を計算し、\(W=Fx\) に持ち込むか、力積と運動量の関係を考える。
    3. 「なめらか」「粗い」などの条件を確認する:摩擦力の有無は、仕事の総和を考える上で非常に重要。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • エネルギー変化の引き算の順序ミス:
    • 誤解: \(\Delta K = (\text{前のエネルギー}) – (\text{後のエネルギー})\) のように、引き算の順序を逆にしてしまう。
    • 対策: 「変化量」は常に「(後)引く(前)」であると徹底して覚える。物理学における \(\Delta\) (デルタ) の記号は、常に「後の状態量 – 前の状態量」を意味する。
  • 速さの差を2乗してしまうミス:
    • 誤解: \(\Delta K = \displaystyle\frac{1}{2}m(v – v_0)^2\) のように、速さの差を計算してから2乗してしまう。
    • 対策: エネルギーの差は、あくまで「エネルギーの引き算」であると意識する。\(\Delta K = K – K_0 = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\) であり、\(\displaystyle\frac{1}{2}m(v^2 – v_0^2)\) とは等しいが、\(\displaystyle\frac{1}{2}m(v – v_0)^2\) とは全く異なる。
  • 仕事と力の混同:
    • 誤解: 仕事[J]を問われているのに、力[N]を計算しようとして混乱する。
    • 対策: 問題で何が問われているのか(物理量とその単位)を最初に明確にする。この問題は「仕事[J]」であり、力や加速度を求める必要はない(別解では求めるが、それは遠回りな方法である)。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 仕事と運動エネルギーの関係 (\(W = \Delta K\)):
    • 選定理由: 問題で与えられている情報が「質量」「初速度」「終速度」であり、求めたいものが「仕事」である。この組み合わせに最も直接的に対応する物理法則が、仕事と運動エネルギーの関係だから。力の大きさや距離、時間といった中間的な情報を一切計算せずに答えにたどり着ける、最も効率的な解法である。
    • 適用根拠: (別解で示したように)この関係式は、運動方程式 \(ma=F\) と等加速度運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\)、そして仕事の定義 \(W=Fx\) という、より基本的な3つの法則を組み合わせることで導出される。つまり、これらの基本法則を内包した、非常に強力で便利な関係式である。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 因数分解の活用: \(W = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – \displaystyle\frac{1}{2}mv_0^2\) を計算する際、共通因数 \(\displaystyle\frac{1}{2}m\) でくくると、掛け算の回数が減り、計算が楽になる。
    • \(W = \displaystyle\frac{1}{2}m(v^2 – v_0^2)\)
    • この形にすれば、\(v^2\) と \(v_0^2\) をそれぞれ計算し、引き算してから最後に \(\displaystyle\frac{1}{2}m\) を掛けるだけで済む。
  • 2乗の計算を正確に: \(3^2=9\), \(5^2=25\) のような基本的な計算でも、試験の緊張下ではミスが起こりうる。落ち着いて計算する。
  • 計算順序の確認: \(\displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times 5.0^2\) のような計算では、まず \(5.0^2=25\) を計算し、次に \(4.0 \times 25 = 100\)、最後に \(\displaystyle\frac{1}{2} \times 100 = 50\) のように、一つ一つのステップを確実に実行する。

95 仕事とエネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「振り子の運動における仕事と力学的エネルギー保存則」です。振り子のような円運動の一部において、どの力が仕事をし、エネルギーがどのように移り変わるかを総合的に理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事の定義: 力が物体にした仕事は、力の大きさと力の向きに動いた距離の積で決まる。特に、運動方向と垂直な力は仕事をしない。
  2. 運動エネルギー \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\): 物体の速さに関連するエネルギー。
  3. 重力による位置エネルギー \(U = mgh\): 物体の高さに関連するエネルギー。
  4. 力学的エネルギー保存則: 保存力(重力や弾性力)のみが仕事をする場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和(力学的エネルギー)は一定に保たれる。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、おもりにはたらく力(重力と張力)を考え、どちらが仕事をするかを判断します。仕事の大きさは、力の大きさと力の向きに動いた距離から計算します。
  2. (2)では、「静かにはなした」という条件から初速度を判断し、運動エネルギーを計算します。位置エネルギーは、基準面からの高さを用いて計算します。
  3. (3)と(4)では、保存力である重力のみが仕事をするため、力学的エネルギー保存則が成り立つことを利用します。運動の前後2点における力学的エネルギーが等しいという式を立てて、未知の速さや高さを求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
おもりをはなしてから最下点を通過するまでに「仕事をする力」とその大きさを求める問題です。まず、おもりにはたらいている力をすべて特定します。それは「重力」と「糸の張力」です。次に、それぞれの力が仕事をするかどうかを判断します。力が仕事をするのは、力の向きと物体の運動方向に平行な成分がある場合です。仕事の大きさは、その力と移動距離から計算します。
この設問における重要なポイント

  • 物体にはたらく力は、鉛直下向きの「重力」と、糸に沿った向きの「張力」の2つ。
  • 糸の張力は、常におもりの運動方向(円弧の接線方向)と垂直であるため、仕事をしない。
  • したがって、仕事をするのは重力のみである。
  • 重力がした仕事は、\(W = mg \times (\text{鉛直方向の移動距離})\) で計算できる。

具体的な解説と立式
おもりにはたらく力は、重力 \(mg\) と張力 \(T\) です。張力 \(T\) の向きは常におもりの運動方向と直交するため、張力は仕事をしません。したがって、仕事をする力は重力のみです。

重力がした仕事 \(W\) を求めるには、おもりが鉛直方向にどれだけ移動したかを知る必要があります。この高低差を \(h\) とします。
図より、糸の長さを \(L=3.2 \text{ m}\)、糸が鉛直線となす角を \(\theta=60^\circ\) とすると、はなした位置の高さは、最下点を基準として
$$ h = L – L\cos\theta $$
と表せます。
重力がした仕事 \(W\) は、この高低差 \(h\) を用いて、
$$ W = mgh $$
と計算できます。

使用した物理公式

  • 仕事の定義: \(W = Fx\) (この場合は \(W=mgh\))
計算過程

まず、鉛直方向の移動距離 \(h\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
h &= 3.2 – 3.2\cos 60^\circ \\[2.0ex]&= 3.2 – 3.2 \times \displaystyle\frac{1}{2} \\[2.0ex]&= 3.2 – 1.6 \\[2.0ex]&= 1.6 \text{ [m]}
\end{aligned}
$$
次に、重力がした仕事 \(W\) を計算します。\(m=2.5 \text{ kg}\), \(g=9.8 \text{ m/s}^2\) を用いて、
$$
\begin{aligned}
W &= mgh \\[2.0ex]&= 2.5 \times 9.8 \times 1.6 \\[2.0ex]&= 39.2 \\[2.0ex]&\approx 39 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
有効数字を考慮して、仕事の大きさは \(39 \text{ J}\) となります。

計算方法の平易な説明

おもりが動くとき、糸の張力は常におもりの進行方向に対して真横から引っ張る形になるので、運動を助けも邪魔もしません(仕事をしない)。一方、重力は下向きにはたらき、おもりが下に落ちていくのを助けるので、仕事をします。
仕事の大きさは「重さ」×「どれだけ真下に落ちたか」で決まります。図から、真下に落ちた距離は \(1.6 \text{ m}\) と計算できるので、これに重さ(質量×重力加速度)を掛けて仕事の大きさを求めます。

結論と吟味

仕事をする力は重力で、その仕事の大きさは \(39 \text{ J}\) です。おもりは下向きに運動しており、重力も下向きにはたらくため、重力は正の仕事をしたことになります。計算結果も正の値であり、妥当です。

解答 (1) 力:重力,仕事:39 J

問(2)

思考の道筋とポイント
「静かにはなした直後」のおもりが持つ運動エネルギーと位置エネルギーを求める問題です。「静かにはなす」という言葉が初速度が0であることを意味します。運動エネルギーは速さで決まり、位置エネルギーは基準面からの高さで決まります。問題文の指示通り、最下点を位置エネルギーの基準面とします。
この設問における重要なポイント

  • 「静かにはなす」は、初速度 \(v=0\) を意味する。
  • 運動エネルギーの公式: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。
  • 重力による位置エネルギーの公式: \(U=mgh\)。\(h\) は基準面からの高さ。

具体的な解説と立式
運動エネルギー \(K_0\)
「静かにはなした」ので、初速度は \(v_0 = 0 \text{ m/s}\) です。したがって、はなした直後の運動エネルギーは、
$$ K_0 = \displaystyle\frac{1}{2}m v_0^2 = \displaystyle\frac{1}{2} \times 2.5 \times 0^2 = 0 \text{ [J]} $$
となります。

重力による位置エネルギー \(U_0\)
位置エネルギーの基準面は最下点です。はなした位置は、(1)で計算したように、最下点から \(h=1.6 \text{ m}\) の高さにあります。したがって、はなした直後の位置エネルギーは、
$$ U_0 = mgh = 2.5 \times 9.8 \times 1.6 = 39.2 \approx 39 \text{ [J]} $$
となります。

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U=mgh\)
計算過程

計算は「具体的な解説と立式」の項で示した通りです。

  • 運動エネルギーは \(0 \text{ J}\)。
  • 位置エネルギーは \(2.5 \times 9.8 \times 1.6 = 39.2 \approx 39 \text{ J}\)。
計算方法の平易な説明

はなした瞬間、おもりはまだ止まっているので、速さに関連する「運動エネルギー」はゼロです。一方、一番低い場所(最下点)よりも高い位置にあるため、その高さ分の「位置エネルギー」を持っています。この高さは(1)で求めた1.6mなので、位置エネルギーの大きさは(1)で計算した重力の仕事と同じ値になります。

結論と吟味

はなした直後の運動エネルギーは \(0 \text{ J}\)、重力による位置エネルギーは \(39 \text{ J}\) です。この合計 \(39 \text{ J}\) が、この運動における力学的エネルギーの総量となります。

解答 (2) 運動エネルギー:0 J,重力による位置エネルギー:39 J

問(3)

思考の道筋とポイント
最下点での速さを求める問題です。おもりが運動している間、仕事をするのは保存力である重力のみです(張力は仕事をしない)。したがって、力学的エネルギーは保存されます。「はなした瞬間の力学的エネルギー」と「最下点での力学的エネルギー」が等しい、という式を立てることで速さを求めます。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則が成り立つ。(\(K_{\text{前}} + U_{\text{前}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\))
  • はなした瞬間:運動エネルギーは0、位置エネルギーは \(mgh\)。
  • 最下点:位置エネルギーは0(基準面)、運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則より、「はなした瞬間の力学的エネルギー」と「最下点での力学的エネルギー」は等しくなります。
最下点での速さを \(v\) とします。
$$ (\text{はなした瞬間のK}) + (\text{はなした瞬間のU}) = (\text{最下点のK}) + (\text{最下点のU}) $$
(2)の結果を用いると、
$$ 0 + mgh = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + 0 $$
この式を \(v\) について解きます。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則: \(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
mgh &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]gh &= \displaystyle\frac{1}{2}v^2 \\[2.0ex]v^2 &= 2gh
\end{aligned}
$$
値を代入して \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2 \times 9.8 \times 1.6 \\[2.0ex]&= 31.36 \\[2.0ex]v &= \sqrt{31.36} \\[2.0ex]&= 5.6 \text{ [m/s]}
\end{aligned}
$$
速さは正の値なので、\(v=5.6 \text{ m/s}\) となります。

計算方法の平易な説明

おもりが持つ「エネルギーの合計」は、運動の途中で変わりません。はなした瞬間は、すべてが「位置エネルギー」でした。それが最下点に来ると、高さがゼロになるため「位置エネルギー」はゼロになり、すべてが「運動エネルギー」に変換されます。
つまり、「はなした瞬間の位置エネルギー」=「最下点での運動エネルギー」という等式が成り立ちます。この式から速さを計算することができます。

結論と吟味

最下点での速さは \(5.6 \text{ m/s}\) です。位置エネルギーが運動エネルギーに変換され、高さが最も低い最下点で速さが最大になるという物理的なイメージと一致しており、妥当な結果です。

解答 (3) 5.6 m/s

問(4)

思考の道筋とポイント
最下点を通過後、おもりが達する最高点の高さを求める問題です。これも(3)と同様に、力学的エネルギー保存則を用いて解くことができます。運動のどの瞬間でも力学的エネルギーは一定なので、「はなした瞬間の力学的エネルギー」と「反対側で達する最高点での力学的エネルギー」も等しくなります。
この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギーは運動のどの点でも保存される。
  • 最高点では、おもりは一瞬静止するため、速さは0になる。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則より、「はなした瞬間の力学的エネルギー」と「達する最高点での力学的エネルギー」は等しくなります。
求める最高点の、最下点からの高さを \(h_{\text{最高}}\) とします。最高点では速さは0になります。
$$ (\text{はなした瞬間のK}) + (\text{はなした瞬間のU}) = (\text{最高点のK}) + (\text{最高点のU}) $$
$$ 0 + mgh = 0 + mgh_{\text{最高}} $$
ここで、\(h\) ははなしたときの高さ \(1.6 \text{ m}\) です。

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則
計算過程

$$
\begin{aligned}
mgh &= mgh_{\text{最高}} \\[2.0ex]h &= h_{\text{最高}}
\end{aligned}
$$
したがって、
$$ h_{\text{最高}} = 1.6 \text{ [m]} $$

計算方法の平易な説明

摩擦や空気抵抗がなければ、エネルギーが失われることはありません。そのため、おもりは最初に持っていたエネルギーの分だけ、反対側でも同じ高さまで上がることができます。最初に高さ1.6mの場所からスタートしたので、反対側で達する最も高い場所も、基準となる最下点から1.6mの高さになります。

結論と吟味

最高点の高さは \(1.6 \text{ m}\) です。これは、はなしたときの高さと全く同じです。エネルギーが保存されている限り、物体は元の高さまで戻るという、物理的に直感とも一致する妥当な結果です。

解答 (4) 1.6 m

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力学的エネルギー保存則
    • 核心:物体にはたらく力が「保存力」(この問題では重力)のみである場合、その物体の「運動エネルギー」と「位置エネルギー」の和である「力学的エネルギー」は、運動の前後で一定に保たれる。
    • 理解のポイント:
      • 式で表すと \(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)、または \(\displaystyle\frac{1}{2}mv_1^2 + mgh_1 = \displaystyle\frac{1}{2}mv_2^2 + mgh_2\)。
      • この法則が成り立つ条件は「保存力以外の力が仕事をしない」こと。この問題では、糸の張力が常に運動方向と垂直なため仕事をせず、この条件を満たしている。
      • エネルギーが形を変える(位置エネルギー \(\leftrightarrow\) 運動エネルギー)だけで、総量は変わらないというイメージを持つことが重要。
  • 仕事とエネルギーの関係
    • 核心:(1)で問われているように、重力がした仕事の分だけ、物体の運動エネルギーが増加する(位置エネルギーが減少する)。これは力学的エネルギー保存則の別の表現方法でもある。
    • 理解のポイント:
      • 重力がした仕事 \(W_{\text{重力}}\) は、位置エネルギーの変化 \(\Delta U\) を使って \(W_{\text{重力}} = -\Delta U = -(U_{\text{後}} – U_{\text{前}})\) と表せる。
      • 仕事と運動エネルギーの関係 \(W_{\text{総和}} = \Delta K\) に代入すると、\(-\Delta U = \Delta K\)、すなわち \(\Delta K + \Delta U = 0\) となり、力学的エネルギーの変化が0(=保存)であることが導かれる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ジェットコースターや斜面を滑り降りる物体の運動:これらも、摩擦が無視できれば重力のみが仕事をするため、力学的エネルギー保存則が適用できる典型例。
    • ばね振り子の運動:重力と弾性力の両方がはたらく場合。弾性力も保存力なので、力学的エネルギーは「運動エネルギー」「重力による位置エネルギー」「弾性力による位置エネルギー」の3つの和として定義され、その総和が保存される。(\(\frac{1}{2}mv^2 + mgh + \frac{1}{2}kx^2 = \text{一定}\))
    • 摩擦や空気抵抗がある場合:力学的エネルギーは保存されない。この場合、「(後の力学的エネルギー)-(前の力学的エネルギー)=(非保存力がした仕事)」という、より一般的なエネルギー原理を用いる。摩擦力がした仕事は負の値になるため、力学的エネルギーは減少する。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 物体にはたらく力をすべてリストアップする:まず、物体にどんな力がはたらいているか(重力、張力、垂直抗力、摩擦力など)を考える。
    2. 仕事をする力はどれか判断する:リストアップした力のうち、運動の過程で仕事をするのはどれか、しないのはどれかを判断する。特に、運動方向と常に垂直な力(張力、垂直抗力など)は仕事をしない。
    3. 力学的エネルギー保存則が使えるか判断する:仕事をする力が「保存力(重力、弾性力)」のみであれば、力学的エネルギー保存則が使える。摩擦力などの「非保存力」が仕事をしていたら使えない。
    4. エネルギーの基準点を決める:位置エネルギーを計算するために、どこを高さの基準(\(h=0\))にするかを自分で決める。通常、最も低い位置を基準にすると計算が楽になる。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 位置エネルギーの高さ\(h\)の計算ミス:
    • 誤解: (1)で高低差を計算する際に、三角関数を正しく使えない。例えば、\(L\sin\theta\) を高さとしてしまう。
    • 対策: 図を丁寧に描き、直角三角形を見つける。糸の長さ\(L\)が斜辺になることに注意し、求めたい辺が \(\cos\theta\) と \(\sin\theta\) のどちらに対応するかを慎重に判断する。この問題では、鉛直方向の長さが \(L\cos\theta\) であり、高低差は \(h = L – L\cos\theta\) となる。
  • 力学的エネルギー保存則の立式ミス:
    • 誤解: 運動エネルギーと位置エネルギーの項を、式の左辺と右辺でごちゃ混ぜにしてしまう。例えば、\(K_1 + K_2 = U_1 + U_2\) のような無意味な式を立てる。
    • 対策: 「(状態1でのエネルギーの和)=(状態2でのエネルギーの和)」という構造を常に意識する。左辺には状態1のKとU、右辺には状態2のKとUをセットで書くように徹底する。
  • 張力が仕事をするという誤解:
    • 誤解: おもりを引っ張っている張力も仕事をするのではないかと考えてしまう。
    • 対策: 「仕事の定義」に立ち返る。仕事は「力の大きさと、力の向きに動いた距離の積」である。円運動では、張力は中心を向き、運動方向(接線方向)とは常に90°をなす。力の向きに動いた距離はゼロなので、仕事もゼロであると理解する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力学的エネルギー保存則 (\(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)):
    • 選定理由: (3)や(4)のように、運動の途中での速さや高さを問う問題で、かつ摩擦や空気抵抗が無視できる場合、この法則が最も強力で計算が簡単だから。運動方程式を立てて時間追跡するよりも、はるかに少ない計算で答えにたどり着ける。
    • 適用根拠: この法則は、仕事とエネルギーの関係 \(W_{\text{総和}} = \Delta K\) から導かれる。仕事をする力が保存力(この場合は重力)のみの場合、\(W_{\text{総和}} = W_{\text{重力}}\) となる。また、重力がする仕事は位置エネルギーの減少分に等しいので、\(W_{\text{重力}} = -\Delta U\)。よって、\(-\Delta U = \Delta K\) となり、移項すると \(\Delta K + \Delta U = \Delta(K+U) = 0\)。これは力学的エネルギー \(K+U\) が変化しない(保存される)ことを意味する。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 三角関数の値の暗記: \(\cos 60^\circ = 1/2\), \(\sin 60^\circ = \sqrt{3}/2\) などの基本的な三角関数の値は、瞬時に出てくるようにしておく。
  • 文字式での計算を優先する: (3)で \(mgh = \frac{1}{2}mv^2\) となったとき、すぐに数値を代入するのではなく、まず文字式で整理する。両辺の \(m\) を消去して \(v^2 = 2gh\) というシンプルな形にしてから数値を代入すると、計算が楽になり、ミスも減る。また、この \(v=\sqrt{2gh}\) という関係式は、自由落下など他の場面でも頻出する重要な結果である。
  • 平方根の計算: \(v^2 = 31.36\) のような計算では、\(5^2=25\), \(6^2=36\) であることから、答えが5と6の間にあると見当をつけられる。末尾が6なので、一の位は4か6。\(5.4^2\) や \(5.6^2\) を試してみることで答えを見つけられる。日頃から概算の癖をつけておくと良い。

96 力学的エネルギー保存の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「釘にひっかかる振り子の運動における力学的エネルギー保存の法則の適用」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力学的エネルギー保存の法則: 非保存力(この問題では釘が糸に及ぼす力や張力)が仕事をしない場合、物体の力学的エネルギー(運動エネルギー+位置エネルギー)は一定に保たれます。
  2. 仕事とエネルギーの関係: 張力は常におもりの運動方向と垂直なため仕事をしません。また、釘は動かないため、釘がおもりに力を及ぼしてもその仕事は0です。結果として、重力のみが仕事をするため力学的エネルギーが保存されます。
  3. 位置エネルギーの基準面: 位置エネルギーを計算するためには、基準となる高さ(位置エネルギーが0となる点)を適切に設定する必要があります。どこを基準に取っても良いですが、計算が簡単になるように選ぶのがポイントです。
  4. 円運動の半径の変化: 釘にひっかかった後、振り子の円運動の中心と半径が変化することを正しく把握することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. おもりが点Aから点Dまで運動する前後で、力学的エネルギーが保存されることを確認します。
  2. 位置エネルギーの基準面を設定し、点Aと点Dにおけるおもりの高さと速さを文字で表します。
  3. 点Aと点Dについて力学的エネルギー保存の法則の式を立てます。
  4. 立てた式を解いて、点Dでの速さを求めます。

思考の道筋とポイント
この問題は、振り子の糸が途中で釘に引っかかるという設定が特徴です。このとき、運動の前後で力学的エネルギーが保存されるかどうかを判断することが最初の関門です。糸が釘に引っかかる際、釘から糸へ、そしておもりへと力が働きますが、この力が仕事をしないことを理解できれば、あとは単純な力学的エネルギー保存の問題として解くことができます。始点である点Aと終点である点Dの2点間でのエネルギー保存を考えます。

この設問における重要なポイント

  • 重力以外の力(張力、釘からの力)が仕事をしないため、全体の力学的エネルギーは保存されます。
  • 位置エネルギーの基準面はどこに設定しても良いですが、計算が楽な点(点Aや点Oなど)を基準に選ぶと効率的です。
  • 釘Cに引っかかった後の振り子は、Cを中心とする半径 \(L – \displaystyle\frac{L}{2} = \displaystyle\frac{L}{2}\) の円運動の一部となります。

具体的な解説と立式
おもりの質量を \(m\) [kg]、点Dを通過するときの速さを \(v\) [m/s] とします。
この運動では、重力と糸の張力がはたらきます。糸の張力は常におもりの運動方向と垂直なので、仕事をしません。また、糸が釘Cにひっかかるとき、釘は動かないため、釘がおもりにする仕事も0です。したがって、仕事をするのは保存力である重力のみとなり、おもりの力学的エネルギーは点Aから点Dまで保存されます。

力学的エネルギー保存の法則を適用するために、位置エネルギーの基準面を設定します。ここでは、模範解答と同様に、点A(または点O)を通る水平面を基準(高さ0)とします。

点Aにおける力学的エネルギー \(E_{\text{A}}\):

おもりは点Aで静かにはなされるので、速さは \(v_{\text{A}} = 0\) [m/s] です。高さは基準面なので \(h_{\text{A}} = 0\) [m] です。
したがって、点Aでの力学的エネルギーは、
$$ E_{\text{A}} = \displaystyle\frac{1}{2} m v_{\text{A}}^2 + m g h_{\text{A}} = \displaystyle\frac{1}{2}m(0)^2 + mg(0) = 0 \quad \cdots ① $$

点Dにおける力学的エネルギー \(E_{\text{D}}\):

点Dでの速さは求める \(v\) [m/s] です。
点Dの高さ \(h_{\text{D}}\) を考えます。図から、点Dは釘Cと同じ高さにあります。点Cは点Oから \(\displaystyle\frac{L}{2}\) だけ下にあるので、基準面(点Oの高さ)から測った点Dの高さは \(h_{\text{D}} = -\displaystyle\frac{L}{2}\) [m] となります。
したがって、点Dでの力学的エネルギーは、
$$ E_{\text{D}} = \displaystyle\frac{1}{2} m v^2 + m g h_{\text{D}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mg \left(-\displaystyle\frac{L}{2}\right) = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – \displaystyle\frac{1}{2}mgL \quad \cdots ② $$

力学的エネルギー保存の法則 \(E_{\text{A}} = E_{\text{D}}\) より、①式と②式から、
$$ 0 = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – \displaystyle\frac{1}{2}mgL $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
  • 力学的エネルギー保存の法則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\) (非保存力が仕事をしない場合)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた力学的エネルギー保存の法則の式を \(v\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
0 &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – \displaystyle\frac{1}{2}mgL \\[2.0ex]\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}mgL \\[2.0ex]v^2 &= gL \\[2.0ex]v &= \sqrt{gL}
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) は正の値なので、\(v = \sqrt{gL}\) [m/s] となります。

計算方法の平易な説明

この問題は「エネルギーの宝探し」のようなものです。おもりが持っている「力学的エネルギー」という宝物の総量は、途中で釘にひっかかっても、最初から最後まで変わりません。

  1. スタート地点(点A)のエネルギーを計算します。静かに手を離すので、速さ(運動エネルギー)は0。高さの基準をここにしたので、高さ(位置エネルギー)も0。つまり、最初のエネルギーは合計で0です。
  2. ゴール地点(点D)のエネルギーを計算します。速さは求めたい \(v\) なので、運動エネルギーは「\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)」です。高さは、スタート地点より \(\displaystyle\frac{L}{2}\) だけ低い場所にあるので、位置エネルギーは「\(-mg\displaystyle\frac{L}{2}\)」となります。
  3. 「スタートのエネルギー = ゴールのエネルギー」なので、「\(0 = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 – mg\displaystyle\frac{L}{2}\)」という式が成り立ちます。これを \(v\) について解けば答えが求まります。
結論と吟味

点Dをおもりが通過するときの速さは \(\sqrt{gL}\) [m/s] です。
この結果は、おもりの質量 \(m\) に依存しないことがわかります。これは、重力加速度 \(g\) が質量によらないことと同様に、力学的エネルギー保存の法則から導かれる自然な帰結です。また、次元を確認すると、\(\sqrt{gL}\) の単位は \(\sqrt{(\text{m/s}^2) \cdot \text{m}} = \sqrt{\text{m}^2/\text{s}^2} = \text{m/s}\) となり、速さの単位と一致するため、物理的に妥当な結果であると言えます。

別解: 最下点Bを位置エネルギーの基準面とする

思考の道筋とポイント
力学的エネルギー保存則を適用する際、位置エネルギーの基準面は任意に選べます。ここでは、運動の最下点である点Bを基準面(高さ0)として計算を進めます。どの基準面を選んでも最終的な答えは変わらないことを確認し、問題に応じて最も計算がしやすい基準面を選ぶ能力を養います。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギー保存則が成り立つことはメインの解法と同じです。
  • 基準面が変わると、始点(A)と終点(D)のそれぞれの位置エネルギーの値が変わります。
  • 点Aの高さは \(L\)、点Dの高さは \(L – \displaystyle\frac{L}{2} = \displaystyle\frac{L}{2}\) となります。

具体的な解説と立式
最下点Bを重力による位置エネルギーの基準面(高さ0)とします。
おもりの質量を \(m\) [kg]、点Dでの速さを \(v\) [m/s] とします。

点Aにおける力学的エネルギー \(E’_{\text{A}}\):

点Aの高さは、基準面Bから \(L\) [m] です。速さは \(v_{\text{A}} = 0\) [m/s] です。
$$ E’_{\text{A}} = \displaystyle\frac{1}{2}m(0)^2 + mgL = mgL \quad \cdots ③ $$

点Dにおける力学的エネルギー \(E’_{\text{D}}\):

点Dの高さは、釘Cの高さと同じです。釘Cは点Oから \(\displaystyle\frac{L}{2}\) 下にあり、点Oは基準面Bから \(L\) 上にあるので、点Dの高さは \(h’_{\text{D}} = L – \displaystyle\frac{L}{2} = \displaystyle\frac{L}{2}\) [m] です。
$$ E’_{\text{D}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mg\left(\displaystyle\frac{L}{2}\right) \quad \cdots ④ $$

力学的エネルギー保存の法則 \(E’_{\text{A}} = E’_{\text{D}}\) より、③式と④式から、
$$ mgL = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}mgL $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U = mgh\)
  • 力学的エネルギー保存の法則: \(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\) (非保存力が仕事をしない場合)
計算過程

$$
\begin{aligned}
mgL &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + \displaystyle\frac{1}{2}mgL \\[2.0ex]\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 &= mgL – \displaystyle\frac{1}{2}mgL \\[2.0ex]\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}mgL \\[2.0ex]v^2 &= gL \\[2.0ex]v &= \sqrt{gL}
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) は正の値なので、\(v = \sqrt{gL}\) [m/s] となります。

計算方法の平易な説明

今度は、一番低い場所(点B)を高さの基準(0メートル地点)としてエネルギーを計算してみます。

  1. スタート地点(点A)のエネルギー:速さは0。高さは基準より \(L\) 高いので、位置エネルギーは「\(mgL\)」。合計エネルギーは \(mgL\) です。
  2. ゴール地点(点D)のエネルギー:速さは \(v\)。高さは基準より \(\displaystyle\frac{L}{2}\) 高いので、位置エネルギーは「\(mg\displaystyle\frac{L}{2}\)」。合計エネルギーは「\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mg\displaystyle\frac{L}{2}\)」です。
  3. 「スタートのエネルギー = ゴールのエネルギー」なので、「\(mgL = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mg\displaystyle\frac{L}{2}\)」という式が成り立ちます。これを解くと、先ほどと同じ答えが出てきます。
結論と吟味

点Dをおもりが通過するときの速さは \(\sqrt{gL}\) [m/s] です。
位置エネルギーの基準面を最下点Bに変更しても、当然ながら同じ結果が得られました。これは、位置エネルギーの差が物理的な意味を持つため、基準点の選び方によらず物理法則が成り立つことを示しています。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力学的エネルギー保存の法則:
    • 核心: この問題は、重力以外の力(糸の張力、釘がおもりに及ぼす力)が仕事をしないため、おもりの力学的エネルギー(運動エネルギーと位置エネルギーの和)が運動の前後で一定に保たれる、という「力学的エネルギー保存の法則」を理解し、適用できるかが全てです。
    • 理解のポイント:
      • 糸の張力: 常におもりの運動方向(円弧の接線方向)に対して垂直にはたらくため、仕事をしません(\(W = Fx\cos\theta\) で \(\theta=90^\circ\))。
      • 釘からの力: 釘は固定されて動かないため、おもりが釘にひっかかる瞬間に力がはたらいても、力の作用点の移動距離は0です。したがって、釘がおもりにする仕事も0となります。
      • 結論: 仕事をするのは保存力である重力のみ。よって、力学的エネルギーは保存されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ジェットコースターのループ運動: 円形のコースを滑り落ちる物体が、ループを無事に一周するための条件を求める問題。力学的エネルギー保存則に加えて、ループの最高点で物体がレールから離れないための条件(垂直抗力 \(\geq 0\))を円運動の運動方程式から考える必要があります。
    • 運動量保存則との融合問題: 振り子が最下点で静止している別の物体と衝突し、一体となって運動する、あるいは分裂して運動する場合。衝突の瞬間には「運動量保存則」を、衝突前後の振り子の運動には「力学的エネルギー保存則」を、と複数の法則を使い分ける必要があります。
    • ばね振り子: 糸の代わりにばねが使われている振り子の運動。この場合、力学的エネルギーは運動エネルギー、重力による位置エネルギーに加えて、「弾性力による位置エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)」も考慮する必要があります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 非保存力の仕事の有無をチェック: まず、問題設定に摩擦力、空気抵抗、人が加える力など、力学的エネルギーを変化させる「非保存力」が仕事をしていないかを確認します。これらの力がなければ、力学的エネルギー保存則の適用を第一に考えます。
    2. 運動の「始点」と「終点」を明確にする: 問題文で与えられている初期状態(例:静かにはなした点A)を「始点」、求めたい物理量を持つ状態(例:速さ\(v\)で通過する点D)を「終点」と定めます。
    3. 位置エネルギーの基準面を戦略的に設定する: 計算が最も簡単になる点を位置エネルギーの基準(高さ0)に選びます。始点や運動の最下点がよく選ばれますが、どこに設定しても最終的な答えは同じです。計算ミスを減らすために、最も項が消去される(0になる)点を選ぶのが賢明です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 釘にひっかかる際にエネルギーが失われるという誤解:
    • 誤解: 釘に糸が「カツン」と当たるので、その衝撃でエネルギーが失われる(力学的エネルギーが保存されない)と考えてしまう。
    • 対策: 「仕事」の定義(力 × 移動距離)に立ち返ることが重要です。釘は動かないので移動距離は0、よって釘がする仕事は0です。仕事をするのが重力だけであることを論理的に確認し、「力学的エネルギーは保存される」と自信を持って判断しましょう。
  • 位置エネルギーの高さの計算ミス:
    • 誤解: 点Dの高さを計算する際に、基準面からの位置関係を間違える。例えば、点Oを基準にした場合に、点Dは点Oより下にあるのに高さを \(+\displaystyle\frac{L}{2}\) としてしまう。
    • 対策: 必ず図を描き、自分で設定した基準面(高さ0の水平線)を明確に描き入れましょう。そして、各点が基準面より「上にあるか(正)」「下にあるか(負)」を一つ一つ確認し、符号を慎重に決定します。
  • 円運動の半径が変わることを忘れる:
    • 誤解: 糸が釘Cにひっかかった後も、おもりは点Oを中心とする半径\(L\)の円運動を続けると勘違いし、点Dの位置を正しく把握できない。
    • 対策: 運動の途中で条件が変わる点(この問題では最下点Bの直後)に注目します。この問題では、運動の中心がOからCへ、半径が\(L\)から\(L-OC = \displaystyle\frac{L}{2}\)へと変化します。この変化を正確に図に反映させることが、正しい立式への第一歩です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力学的エネルギー保存の法則 (\(K_{\text{初}} + U_{\text{初}} = K_{\text{後}} + U_{\text{後}}\)):
    • 選定理由: この問題は、おもりの運動の「途中経過」ではなく、ある「始点」(点A)と「終点」(点D)の状態だけを比較して速さを求める問題です。このように、始点と終点の2点間の関係を問われ、かつその間で非保存力が仕事をしない場合、力学的エネルギー保存の法則が最も強力かつシンプルな解法となります。
    • 適用根拠: 運動方程式を立てて、経路に沿って積分するという方法も原理的には可能ですが、非常に複雑になります。力学的エネルギー保存則は、この積分計算を「位置エネルギー」という概念で置き換えたものであり、途中の複雑な経路を一切無視して始点と終点だけで立式できるという絶大なメリットがあります。問題が「速さ」や「高さ」といったスカラー量を問うている点も、エネルギーというスカラー量で考えるアプローチが有効である根拠となります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 共通項の消去を先に行う:
    • 力学的エネルギー保存の式 \(\displaystyle\frac{1}{2}m v_{\text{A}}^2 + mgh_{\text{A}} = \displaystyle\frac{1}{2}m v_{\text{D}}^2 + mgh_{\text{D}}\) を立てた後、すぐに数値を代入するのではなく、まず両辺に共通するおもりの質量\(m\)を消去しましょう。これにより、式がシンプルになり、計算ミスを大幅に減らすことができます。
  • 基準面の明記:
    • 計算を始める前に、ノートの余白などに「基準面:点Oの高さ」や「基準面:最下点B」のように、自分がどこを位置エネルギーの基準(\(h=0\))にしたかをはっきりと書き残しておきましょう。これにより、計算途中で混乱することなく、各点の高さを一貫して正しく求めることができます。
  • 符号のダブルチェック:
    • 位置エネルギーの項(\(mgh\))を計算する際は、基準面より下にある点の高さ\(h\)が負になることに特に注意してください。立式した後、各項の符号が物理的に妥当か(運動エネルギーは常に正、位置エネルギーは基準より下なら負)を再確認する癖をつけましょう。
  • 次元解析による検算:
    • 計算で得られた最終的な答え(例:\(\sqrt{gL}\))の単位(次元)が、求めたい物理量(この場合は速さ)の単位と一致しているかを確認する「次元解析」は非常に有効な検算テクニックです。速さの単位は [m/s] です。一方、\(\sqrt{gL}\) の単位は \(\sqrt{[\text{m/s}^2] \cdot [\text{m}]} = \sqrt{[\text{m}^2/\text{s}^2]} = [\text{m/s}]\) となり、一致します。もし単位が合わなければ、どこかで計算ミスや公式の誤用がある証拠です。

97 力学的エネルギー保存の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「鉛直ばね振り子における力のつりあいと力学的エネルギー保存の法則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 力のつりあい: 物体が静止しているとき、物体にはたらく力の合力は0になります。
  2. フックの法則: ばねの弾性力は、ばねの自然の長さからの伸びや縮みに比例します(\(F=kx\))。
  3. 力学的エネルギー保存の法則: 運動中、重力と弾性力(どちらも保存力)のみが仕事をする場合、運動エネルギー、重力による位置エネルギー、弾性力による位置エネルギーの和である力学的エネルギーは一定に保たれます。
  4. エネルギーの基準面: 位置エネルギーを計算する際には、基準となる高さ(重力)や伸び(弾性力)を明確に設定することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、物体が静止している点での「力のつりあい」の式を立てて、ばね定数を求めます。
  2. (2)では、運動の始点(手をはなす点)と終点(自然長の点)の2点間で「力学的エネルギー保存の法則」を適用します。このとき、3種類のエネルギー(運動、重力位置、弾性位置)を漏れなく考慮することがポイントです。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体が「静止した」という記述から、力がつりあっている状況を考えます。物体にはたらく力は、鉛直下向きの「重力」と、ばねが物体を引く鉛直上向きの「弾性力」の2つです。これらの力がつりあっていることから、ばね定数 \(k\) を求めることができます。

この設問における重要なポイント

  • 静止状態では、物体にはたらく力の合力は0である。
  • ばねの弾性力はフックの法則 \(F=kx\) に従う。
  • この場合、ばねの伸び \(x\) は \(d\) である。

具体的な解説と立式
ばね定数を \(k\) [N/m] とします。
物体が自然の長さから \(d\) [m] だけ伸びて静止しているとき、物体にはたらく力は以下の通りです。

  • 鉛直下向き:重力 \(mg\)
  • 鉛直上向き:ばねの弾性力 \(F\)

フックの法則より、弾性力の大きさは \(F = kd\) と表せます。
物体は静止しているので、これらの力はつりあっています。したがって、力のつりあいの式は、
$$ kd – mg = 0 $$

使用した物理公式

  • 力のつりあい: \(\text{合力} = 0\)
  • フックの法則: \(F = kx\)
計算過程

力のつりあいの式を \(k\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
kd – mg &= 0 \\[2.0ex]kd &= mg \\[2.0ex]k &= \displaystyle\frac{mg}{d}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

おもりがぶら下がってピタッと止まっている状態を想像してください。このとき、ばねが「上に引っ張る力」と、地球が「下に引っ張る力(重力)」がちょうど同じ大きさで、引き分けになっています。ばねの力は「ばねの硬さ(ばね定数 \(k\))× 伸び(\(d\))」で計算できます。重力は「質量(\(m\))× 重力加速度(\(g\))」です。この2つが等しい(\(kd = mg\))という式を立てて、ばねの硬さ \(k\) を求めます。

結論と吟味

ばね定数は \(k = \displaystyle\frac{mg}{d}\) [N/m] です。この結果は、問題で与えられた物理量 \(m, g, d\) を用いて表されており、物理的に妥当です。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{mg}{d}\) [N/m]

問(2)

思考の道筋とポイント
ばねを伸ばした状態から手をはなすと、物体は振動を始めます。この運動の間、物体にはたらく力は重力と弾性力のみです。これらはどちらも「保存力」であるため、物体の力学的エネルギーは保存されます。力学的エネルギーは「運動エネルギー」「重力による位置エネルギー」「弾性力による位置エネルギー」の3つの合計です。運動の始点(伸び \(3d\))と終点(自然長)で、このエネルギーの合計が等しいという式を立てて速さを求めます。

この設問における重要なポイント

  • 力学的エネルギーは「運動エネルギー」「重力による位置エネルギー」「弾性力による位置エネルギー」の3つの和で考える。
  • 始点(伸び \(3d\))と終点(自然長)のそれぞれのエネルギーを正しく計算する。
  • 重力による位置エネルギーの基準面をどこに設定するかで計算の見た目は変わるが、答えは同じになる。

具体的な解説と立式
求める速さを \(v\) [m/s] とします。運動の始点(ばねの伸び \(3d\))と終点(ばねの伸び \(0\)、すなわち自然長)で力学的エネルギー保存の法則を適用します。

重力による位置エネルギーの基準面を、物体を静かにはなした位置(ばねの伸びが \(3d\) の位置)とします。
弾性力による位置エネルギーは、ばねが自然長のときに0となります。

始点(伸び \(3d\)、高さの基準)での力学的エネルギー \(E_{\text{初}}\):

  • 速さ: \(v_{\text{初}} = 0\) (静かにはなすため)
  • 高さ: \(h_{\text{初}} = 0\) (基準面のため)
  • ばねの伸び: \(x_{\text{初}} = 3d\)

よって、
$$ E_{\text{初}} = \displaystyle\frac{1}{2}m(0)^2 + mg(0) + \displaystyle\frac{1}{2}k(3d)^2 = \displaystyle\frac{9}{2}kd^2 \quad \cdots ① $$

終点(自然長)での力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):

  • 速さ: \(v_{\text{後}} = v\)
  • 高さ: \(h_{\text{後}} = 3d\) (始点より \(3d\) 上方にあるため)
  • ばねの伸び: \(x_{\text{後}} = 0\)

よって、
$$ E_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mg(3d) + \displaystyle\frac{1}{2}k(0)^2 = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + 3mgd \quad \cdots ② $$

力学的エネルギー保存の法則 \(E_{\text{初}} = E_{\text{後}}\) より、①式と②式から、
$$ \displaystyle\frac{9}{2}kd^2 = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + 3mgd $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存の法則: \(E = K + U_{\text{重力}} + U_{\text{弾性}} = \text{一定}\)
  • 運動エネルギー: \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー: \(U_{\text{重力}} = mgh\)
  • 弾性力による位置エネルギー: \(U_{\text{弾性}} = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

力学的エネルギー保存の法則の式に、(1)で求めた \(k = \displaystyle\frac{mg}{d}\) を代入して \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
\displaystyle\frac{9}{2}kd^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + 3mgd \\[2.0ex]\displaystyle\frac{9}{2}\left(\displaystyle\frac{mg}{d}\right)d^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + 3mgd \\[2.0ex]\displaystyle\frac{9}{2}mgd &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + 3mgd \\[2.0ex]\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 &= \displaystyle\frac{9}{2}mgd – 3mgd \\[2.0ex]\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 &= \displaystyle\frac{3}{2}mgd \\[2.0ex]v^2 &= 3gd \\[2.0ex]v &= \sqrt{3gd}
\end{aligned}
$$
速さ \(v\) は正の値なので、\(v = \sqrt{3gd}\) [m/s] となります。

計算方法の平易な説明

物体が動いている間、エネルギーの形は変わりますが、その合計量は一定です。この問題のエネルギーは「速さのエネルギー(運動)」「高さのエネルギー(重力)」「ばねの伸び縮みのエネルギー(弾性)」の3種類です。

  1. スタート地点(\(3d\)伸びた所)の合計エネルギーを計算します。止まっているので速さのエネルギーは0。ばねは \(3d\) 伸びているので、ばねのエネルギーは最大級です。高さのエネルギーは、ここを基準の高さ0とします。
  2. ゴール地点(ばねが自然の長さの所)の合計エネルギーを計算します。速さは求めたい \(v\)。ばねは伸びていないので、ばねのエネルギーは0。高さはスタート地点より \(3d\) 上にあるので、その分の高さのエネルギーがあります。
  3. 「スタートの合計エネルギー = ゴールの合計エネルギー」という式を立て、(1)で求めたばねの硬さ \(k\) の値を使って計算すると、速さ \(v\) が求まります。
結論と吟味

ばねが自然の長さになったときの物体の速さは \(\sqrt{3gd}\) [m/s] です。
(1)で求めた \(k\) を代入することで、最終的な答えが与えられた文字 \(g, d\) だけで表せました。次元を確認すると、\(\sqrt{g d}\) の単位は \(\sqrt{(\text{m/s}^2) \cdot \text{m}} = \text{m/s}\) となり、速さの単位と一致するため、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(\sqrt{3gd}\) [m/s]
別解: 自然長の位置を重力による位置エネルギーの基準面とする

具体的な解説と立式
重力による位置エネルギーの基準面を、ばねが自然長のときの物体の位置とします。

始点(伸び \(3d\))での力学的エネルギー \(E’_{\text{初}}\):

  • 速さ: \(v_{\text{初}} = 0\)
  • 高さ: \(h’_{\text{初}} = -3d\) (基準面より \(3d\) 下方にあるため)
  • ばねの伸び: \(x_{\text{初}} = 3d\)

よって、
$$ E’_{\text{初}} = \displaystyle\frac{1}{2}m(0)^2 + mg(-3d) + \displaystyle\frac{1}{2}k(3d)^2 = -3mgd + \displaystyle\frac{9}{2}kd^2 $$

終点(自然長、高さの基準)での力学的エネルギー \(E’_{\text{後}}\):

  • 速さ: \(v_{\text{後}} = v\)
  • 高さ: \(h’_{\text{後}} = 0\)
  • ばねの伸び: \(x_{\text{後}} = 0\)

よって、
$$ E’_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + mg(0) + \displaystyle\frac{1}{2}k(0)^2 = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 $$

力学的エネルギー保存の法則 \(E’_{\text{初}} = E’_{\text{後}}\) より、
$$ -3mgd + \displaystyle\frac{9}{2}kd^2 = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 $$

計算過程

この式に \(k = \displaystyle\frac{mg}{d}\) を代入して \(v\) を求めます。
$$
\begin{aligned}
-3mgd + \displaystyle\frac{9}{2}\left(\displaystyle\frac{mg}{d}\right)d^2 &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]-3mgd + \displaystyle\frac{9}{2}mgd &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]\displaystyle\frac{3}{2}mgd &= \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]v^2 &= 3gd \\[2.0ex]v &= \sqrt{3gd}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

当然ながら、重力による位置エネルギーの基準面をどこに設定しても、同じ答え \(\sqrt{3gd}\) [m/s] が得られます。計算がしやすいと思う基準面を自分で選んで解くことができます。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力のつりあいとエネルギー保存の法則の使い分け:
    • 核心: この問題は、物理現象の異なる側面に、適切な法則を使い分ける能力を試しています。
      • 問(1) 静力学: 物体が「静止」している状態を扱います。この場合、力の大きさが等しく、向きが反対であるという「力のつりあい」の法則を適用します。
      • 問(2) 動力学: 物体が「運動」している状態を扱います。始点と終点の2点間の速さや位置の変化を問われているため、「力学的エネルギー保存の法則」を適用するのが最も効率的です。
  • 3種類のエネルギーからなる力学的エネルギー:
    • 核心: 鉛直ばね振り子のように、高さとばねの伸びの両方が変化する運動では、力学的エネルギーは以下の3つの要素の和で構成されることを理解することが不可欠です。
      1. 運動エネルギー: \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
      2. 重力による位置エネルギー: \(mgh\)
      3. 弾性力による位置エネルギー: \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
    • これらのうち、一つでも計算から漏れると正しい答えは得られません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 水平ばね振り子: 床の上のばねにつながれた物体の運動。この場合、高さの変化がないため「重力による位置エネルギー」を考慮する必要がなく、運動エネルギーと弾性エネルギーの2つだけで力学的エネルギー保存則を考えればよいため、よりシンプルです。
    • 斜面上のばね振り子: 斜面上に置かれた物体とばねの運動。この場合、重力の斜面方向成分(\(mg\sin\theta\))と弾性力がつりあいます。エネルギーを考える際は、高さの変化(\(h = x\sin\theta\) など)を正しく計算する必要があります。
    • 単振動との関連: この問題の運動は「単振動」です。力のつりあいの位置が振動の中心となり、物体の速さは振動中心で最大、振動の両端で0になります。(2)は、振動の一端から自然長の位置までの運動と見なせます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 物体の状態を把握する: 問題文の「静止した」「つりあった」という言葉に注目すれば「力のつりあい」を、「〜から〜まで運動したときの速さは」という問いには「エネルギー保存則」を、というように解法を判断します。
    2. エネルギーの種類をリストアップする: 問題を解き始める前に、「運動エネルギー」「重力位置エネルギー」「弾性位置エネルギー」の3つをチェックリストのように確認し、この問題ではどれが変化するのかを把握します。
    3. 基準点を図に書き込む: 重力による位置エネルギーの基準(\(h=0\))と、弾性力による位置エネルギーの基準(ばねの自然長の位置、\(x=0\))は異なります。簡単な図を描き、両方の基準点を明確に書き込むことで、混乱を防ぎます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 重力による位置エネルギーの考慮漏れ:
    • 誤解: (2)で、ばねの運動であることから弾性エネルギーに集中してしまい、物体の高さも変化していることを見落とし、重力による位置エネルギーを式に入れない。
    • 対策: 「鉛直方向」や「斜面」でのばねの運動では、必ず高さが変わります。常に「運動・重力・弾性」の3つのエネルギーをセットで考える癖をつけ、どれが0になり、どれが変化するのかを一つずつ吟味しましょう。
  • 位置エネルギーの基準の混同:
    • 誤解: ばねの伸び \(x\) と高さ \(h\) を混同したり、力のつりあいの点を全てのエネルギーの基準点(\(h=0, x=0\))としてしまう。
    • 対策: 「弾性エネルギーの基準は、ばねの自然長の位置で固定」「重力エネルギーの基準は、計算が楽になるように任意に設定可能」という原則を徹底します。2つの基準は全く別物であると認識することが重要です。
  • ばねの伸びと物体の位置の混同:
    • 誤解: (2)で、始点(伸び\(3d\))から終点(自然長)までの高さの変化量を \(3d\) と正しく認識できず、計算を間違う。
    • 対策: 物理現象を正確に把握するために、必ず簡単な図を描きましょう。「自然長」「つりあいの点」「始点」「終点」の位置関係を明確に図示し、それぞれの点での「高さ \(h\)」と「ばねの伸び \(x\)」の値を書き出してから立式に進むと、ミスが激減します。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力のつりあい (\(F_{\text{合力}}=0\)):
    • 選定理由: (1)では「ばね定数 \(k\)」という、力の性質を表す量を求めたい。そして、問題文に「静止した」という決定的なキーワードがあります。物体の静止は、力がつりあっている状態を意味するため、力の関係式を立てることが最も直接的で論理的なアプローチです。
    • 適用根拠: 物体の運動状態(静止)から、その原因である力学的条件(力のつりあい)を導き出し、未知数を求めるという物理の基本的な思考プロセスに基づいています。
  • 力学的エネルギー保存の法則 (\(E=\text{一定}\)):
    • 選定理由: (2)では、運動の途中経過(加速度など)は問われず、始点と終点の状態(位置と速さ)を結びつけたい。このような場合に、経路に依存しない「エネルギー」というスカラー量で考える保存則は非常に強力です。
    • 適用根拠: この運動で物体にはたらく力は、重力と弾性力のみです。これらは両方とも「保存力」であり、非保存力(摩擦や空気抵抗など)が仕事をしないため、力学的エネルギー保存の法則が厳密に成り立ちます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字の代入は早めに: (2)でエネルギー保存の式を立てたら、できるだけ早い段階で(1)の結果 \(k = \displaystyle\frac{mg}{d}\) を代入しましょう。これにより、扱う文字の種類が減り、式全体の見通しが良くなって計算ミスを防げます。
  • 2乗の計算は慎重に: \((3d)^2\) のような括弧付きの2乗を計算する際、\((3d)^2 = 3^2 \times d^2 = 9d^2\) と正しく展開しましょう。これを \(3d^2\) と誤記するミスは頻発します。
  • 分数の整理を丁寧に: \(\displaystyle\frac{9}{2}mgd – 3mgd\) のような計算では、暗算に頼らず、\(3mgd = \displaystyle\frac{6}{2}mgd\) のように通分してから計算を実行する癖をつけましょう。
  • 単位(次元)での検算: 最終的に得られた答え \(\sqrt{3gd}\) の単位が、求めたい物理量である「速さ」の単位 [m/s] と一致するかを確認します。\(\sqrt{[\text{m/s}^2] \cdot [\text{m}]} = \sqrt{[\text{m}^2/\text{s}^2]} = [\text{m/s}]\) となり、一致することが確認できれば、計算の信頼性が高まります。

98 ゴムひもにつるした小球

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「重力と弾性力によるエネルギーの保存」です。小球の運動を、エネルギーという観点から追跡する能力が問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 運動エネルギーと仕事の関係: 物体の運動エネルギーの変化は、その物体にされた仕事の総和に等しいという関係です。
  2. 力学的エネルギー保存則: 重力や弾性力のような保存力のみが仕事をする場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和(力学的エネルギー)は一定に保たれます。
  3. 重力による位置エネルギー: 基準面からの高さに比例するエネルギーで、\(U_g = mgh\) と表されます。
  4. 弾性力による位置エネルギー(弾性エネルギー): ばねやゴムの自然長からの伸び(または縮み)の2乗に比例するエネルギーで、\(U_e = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) と表されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、小球が高さ\(h\)に達するまでの運動を考えます。この区間ではゴムひもは伸びていないため、働く力は重力のみです。したがって、「運動エネルギーと仕事の関係」または「自由落下の公式」を用いて速さを求めます。
  2. (2)では、運動の始点(高さ\(2h\))から終点(最下点)までを通して考えます。この全区間では重力と弾性力のみが仕事をするため、「力学的エネルギー保存則」を適用して式を立てます。

問(1)

思考の道筋とポイント
小球が高さ\(h\)の位置を通過する瞬間を考えます。運動の開始点(高さ\(2h\))からこの点まで、ゴムひもは自然長\(h\)よりたるんでいるため、弾性力は働きません。したがって、この区間で小球に仕事をする力は重力のみです。「運動エネルギーの変化が、された仕事に等しい」という関係式を用いて解くのが一つの方法です。また、この運動が単なる自由落下であることに着目し、等加速度直線運動の公式を用いる別解も考えられます。
この設問における重要なポイント

  • ゴムひもが自然長\(h\)に達するまでは、弾性力は0であり、小球は重力のみを受けて落下する(自由落下)。
  • 運動エネルギーと仕事の関係:\(\displaystyle\frac{1}{2}mv_{\text{後}}^2 – \frac{1}{2}mv_{\text{前}}^2 = W_{\text{された仕事}}\)。
  • 重力がする仕事は、\(W_g = mg \times (\text{鉛直方向の落下距離})\)で計算できる。

具体的な解説と立式
小球が運動を開始する高さ\(2h\)の点と、高さ\(h\)の点を比較します。
初めの状態では小球を静かにはなすので、初速度は\(0\)です。高さ\(h\)の位置を通過するときの速さを\(v\)とします。
この間に小球が落下した距離は \(2h – h = h\) です。
この落下中に重力がした仕事 \(W_g\) は、力の大きさが\(mg\)、移動距離が\(h\)なので、\(W_g = mgh\) となります。
運動エネルギーの変化と仕事の関係から、次の式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2}mv^2 – \frac{1}{2}m \cdot 0^2 = mgh $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギー:\(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 運動エネルギーと仕事の関係:\(\Delta K = W\)
  • 重力がする仕事:\(W_g = mgh\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式を\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}mv^2 &= mgh \\[2.0ex]v^2 &= 2gh
\end{aligned}
$$
速さ\(v\)は正の値なので、
$$ v = \sqrt{2gh} $$

計算方法の平易な説明

スタート地点から高さ\(h\)の位置まで、ゴムひもはまだぶら下がっているだけで伸びていないので、小球の運動はただの自由落下と同じです。つまり、「高さ\(h\)だけ落ちたときの物体の速さはいくらか?」という問題に帰着します。エネルギーの観点では、「失われた高さのエネルギー(位置エネルギー)が、すべて速さのエネルギー(運動エネルギー)に変わった」と考えて計算します。

結論と吟味

小球が高さ\(h\)の位置を通過したときの速さは \(\sqrt{2gh}\) です。これは、高さ\(h\)の場所から物体を自由落下させたときに地面に到達する速さと同じであり、物理的に妥当な結果です。

別解: 自由落下の公式を用いる方法

思考の道筋とポイント
設問(1)の運動区間は、初速度0、加速度\(g\)の等加速度直線運動(自由落下)と見なせます。移動距離が\(h\)であることが分かっているので、時間を含まない等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) を使うと、直接速さを求めることができます。
この設問における重要なポイント

  • ゴムが伸びていない区間の運動は、重力のみが働く自由落下と同一視できる。
  • 等加速度直線運動の公式 \(v^2 – v_0^2 = 2ax\) が適用できる。

具体的な解説と立式
鉛直下向きを正の向きとします。
初速度は \(v_0 = 0\)、加速度は重力加速度で \(a = g\)、移動距離は \(x = 2h – h = h\) です。
高さ\(h\)の位置での速さを\(v\)として、等加速度直線運動の公式にこれらの値を代入します。
$$ v^2 – 0^2 = 2gh $$

使用した物理公式

  • 等加速度直線運動の式:\(v^2 – v_0^2 = 2ax\)
計算過程

立式した式を\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
v^2 &= 2gh
\end{aligned}
$$
速さ\(v\)は正の値なので、
$$ v = \sqrt{2gh} $$

計算方法の平易な説明

小球が高さ\(h\)まで落ちる運動は、単純な自由落下です。物理基礎で学ぶ自由落下の公式「\(v^2 = 2gx\)」(速さの2乗は、2 × 重力加速度 × 落ちた距離)に、落ちた距離として\(h\)を代入するだけで、速さを計算できます。

結論と吟味

速さは \(\sqrt{2gh}\) となり、エネルギーと仕事の関係を用いた解法と完全に一致します。問題の状況に応じて、エネルギーの観点と運動方程式の観点の両方からアプローチできることを示しています。

解答 (1) \(\sqrt{2gh}\)

問(2)

思考の道筋とポイント
小球が運動を開始してから最下点に達するまでの全過程を考えます。この運動中に小球に仕事をする力は、保存力である重力と弾性力のみです。したがって、系の力学的エネルギー(運動エネルギー、重力による位置エネルギー、弾性エネルギーの和)は、運動の前後で保存されます。運動の始点(高さ\(2h\))と終点(最下点、高さ\(z_0\))とで力学的エネルギー保存則を立式し、未知数であるばね定数\(k\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 保存力(重力、弾性力)のみが仕事をする場合、力学的エネルギー保存則が成り立つ。
  • 力学的エネルギーの構成要素:運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)、重力による位置エネルギー \(mgh\)、弾性エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。
  • 位置エネルギーの基準面を明確に定めることが重要(ここでは床面を基準とすると計算がしやすい)。
  • ゴムの「伸び」は、現在のゴムひもの下端の位置から自然長の位置を引いて計算する。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則を適用します。重力による位置エネルギーの基準面を床(高さ\(0\))とします。

始点(高さ\(2h\)の点)での力学的エネルギー \(E_{\text{前}}\):

  • 静かにはなすので、速さは\(0\)。運動エネルギーは \(K_{\text{前}} = 0\)。
  • 高さは\(2h\)。重力による位置エネルギーは \(U_{g, \text{前}} = mg(2h)\)。
  • ゴムは自然長なので、伸びは\(0\)。弾性エネルギーは \(U_{e, \text{前}} = 0\)。

よって、\(E_{\text{前}} = 0 + 2mgh + 0 = 2mgh\)。

終点(最下点、高さ\(z_0\))での力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):

  • 最下点では一瞬静止するので、速さは\(0\)。運動エネルギーは \(K_{\text{後}} = 0\)。
  • 高さは\(z_0\)。重力による位置エネルギーは \(U_{g, \text{後}} = mgz_0\)。
  • ゴムの自然長は\(h\)。点A(高さ\(2h\))から自然長の下端までの位置は、高さ\(2h-h=h\)の点です。最下点の高さは\(z_0\)なので、ゴムの伸び \(x\) は、\(x = h – z_0\)。
  • 弾性エネルギーは \(U_{e, \text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}k(h-z_0)^2\)。

よって、\(E_{\text{後}} = 0 + mgz_0 + \displaystyle\frac{1}{2}k(h-z_0)^2\)。

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\) より、以下の式が成り立ちます。
$$ 2mgh = mgz_0 + \frac{1}{2}k(h-z_0)^2 $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則:\(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)
  • 運動エネルギー:\(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 重力による位置エネルギー:\(U_g = mgh\)
  • 弾性力による位置エネルギー:\(U_e = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた力学的エネルギー保存則の式を、\(k\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
2mgh &= mgz_0 + \frac{1}{2}k(h-z_0)^2 \\[2.0ex]\frac{1}{2}k(h-z_0)^2 &= 2mgh – mgz_0 \\[2.0ex]\frac{1}{2}k(h-z_0)^2 &= mg(2h – z_0) \\[2.0ex]k(h-z_0)^2 &= 2mg(2h – z_0) \\[2.0ex]k &= \frac{2mg(2h – z_0)}{(h-z_0)^2}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「スタート地点での全エネルギー」と「一番下まで落ちた地点での全エネルギー」が等しい、という保存則を使います。
エネルギーには「速さのエネルギー」「高さのエネルギー」「ゴムのバネのエネルギー」の3種類があります。
スタート地点では、速さゼロ、ゴムの伸びゼロなので、「高さ\(2h\)分のエネルギー」だけを持っています。
一番下の地点では、速さゼロになりますが、「高さ\(z_0\)分のエネルギー」と「伸びたゴムのバネのエネルギー」を持っています。
この「スタートのエネルギー」=「一番下のエネルギー」という等式を作り、それを問題で問われている\(k\)の形になるように式変形していきます。

結論と吟味

ばね定数\(k\)は \(k = \displaystyle\frac{2mg(2h – z_0)}{(h-z_0)^2}\) と表されます。
この式について物理的に考えてみます。もし重力\(mg\)が大きければ、ゴムはより伸ばされるので、同じ\(z_0\)を達成するにはより強いばね(大きい\(k\))が必要となり、式と整合します。また、落下距離 \((2h-z_0)\) が大きいほど、解放される位置エネルギーが大きくなるため、それを支える\(k\)も大きくなるはずで、これも式と一致しています。このように、得られた結果が物理的な直感と合うかを確認することは、検算として有効です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{2mg(2h – z_0)}{(h-z_0)^2}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力学的エネルギー保存則の適用範囲の理解:
    • 核心: この問題は、運動の区間によって「仕事をする力」の種類が変わる点に特徴があります。前半(高さ\(2h \rightarrow h\))では重力のみが仕事をするため、力学的エネルギー(運動エネルギー+重力位置エネルギー)が保存されます。後半(高さ\(h \rightarrow z_0\))では重力と弾性力の両方が仕事をするため、力学的エネルギー(運動エネルギー+重力位置エネルギー+弾性エネルギー)が保存されます。
    • 理解のポイント:
      • 保存力とは何か: 重力や弾性力のように、仕事が経路によらず始点と終点だけで決まる力のこと。これらの力がする仕事は「位置エネルギー」として扱うことができます。
      • エネルギー保存則の使い分け:
        • 力学的エネルギー保存則: 保存力のみが仕事をする場合に成立。
        • エネルギーと仕事の関係: 非保存力(摩擦力、空気抵抗、人が加える力など)が仕事をする場合も含めて常に成立する、より一般的な法則。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばね振り子: 天井から吊るしたばねの振動。重力と弾性力の両方を考慮した力学的エネルギー保存則や、つり合いの位置を中心とした単振動として解く問題。
    • 斜面上のばね: 斜面上で物体をばねにつないで運動させる問題。重力の斜面方向成分を考慮した位置エネルギーの扱いや、垂直抗力が仕事をしないことを理解するのが鍵。
    • 衝突とエネルギー保存: 物体がばねに衝突して押し縮める問題。衝突直前とばねが最も縮んだ瞬間とで力学的エネルギー保存則を立てることが多い。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力を全てリストアップする: まず、物体に働く力を(重力、弾性力、垂直抗力、張力、摩擦力など)すべて図に書き出します。
    2. 保存力か非保存力か分類する: 書き出した力のうち、どれが保存力で、どれが非保存力かを判断します。垂直抗力や張力のように、常に移動方向と垂直で仕事をしない力も区別します。
    3. エネルギー保存則が使えるか判断する: 非保存力が仕事をしない、またはその仕事が0とみなせる場合、力学的エネルギー保存則の適用を考えます。非保存力が仕事をする場合は、エネルギーと仕事の関係(\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\))を考えます。
    4. 基準点を明確にする: 位置エネルギー(重力・弾性力)の基準(どこで0とするか)を自分で設定します。計算が最も簡単になる場所(床、自然長の位置など)を選ぶのがコツです。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 弾性エネルギーの「伸び」の計算ミス:
    • 誤解: (2)で、最下点でのゴムの伸びを\(z_0\)や\(h\)など、単純な座標の値や長さと勘違いしてしまう。
    • 対策: 弾性エネルギーの公式 \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) の \(x\) は「自然長からの変化量」であると常に意識する。この問題では、ゴムの固定点が高さ\(2h\)、自然長が\(h\)なので、自然長の下端は高さ\(h\)の位置にある。最下点の高さが\(z_0\)なので、伸びは「自然長下端の位置」-「現在の位置」で \(h-z_0\) となる。必ず図を描いて位置関係を視覚的に確認する。
  • 位置エネルギーの基準点の混同:
    • 誤解: 運動の始点と終点で、重力による位置エネルギーの基準点を無意識に変えてしまう(例:始点は点Aを基準、終点は床を基準にしてしまう)。
    • 対策: 問題を解き始める前に、「この問題では、重力位置エネルギーの基準は床(高さ0)とする」のように、基準点を一つに固定することを宣言する癖をつける。
  • 力学的エネルギーの定義の誤り:
    • 誤解: (2)で力学的エネルギーを考える際に、弾性エネルギーを計算に入れ忘れる。または、(1)でまだゴムが伸びていないのに弾性エネルギーを考慮しようとして混乱する。
    • 対策: 「力学的エネルギー」という言葉が出てきたら、常に「運動エネルギー」「重力位置エネルギー」「弾性エネルギー」の3点セットを思い浮かべる。その上で、問題の状況に応じて「今は速さが0だから運動エネルギーは0」「まだ伸びてないから弾性エネルギーは0」というように、各項が0になるかどうかをチェックしていく。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動エネルギーと仕事の関係 vs 力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: (1)では、働く力が重力のみなので、どちらの法則も使えます。仕事の計算が単純なので「運動エネルギーと仕事の関係」は直感的です。一方、自由落下という運動モデルが明確なので「等加速度運動の公式」も有効です。(2)では、運動の全区間で重力と弾性力という保存力のみが仕事をするため、「力学的エネルギー保存則」を用いるのが最も簡潔で強力です。
    • 適用根拠:
      • 力学的エネルギー保存則: 「途中の力のやり取りはどうでもよく、始点と終点の状態だけで式が立てられる」という強力なメリットがあります。特に、力が変化する(弾性力など)運動では、運動方程式を積分するより圧倒的に計算が楽になります。
      • 運動エネルギーと仕事の関係: 力学的エネルギー保存則のより根源的な法則です。非保存力が働く場合にも使える汎用性がありますが、保存則が使える場面では、位置エネルギーを導入した保存則のほうが計算が楽なことが多いです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 符号の確認: 位置エネルギーや仕事の計算では符号が重要です。特に、\(k = \displaystyle\frac{2mg(2h – z_0)}{(h-z_0)^2}\) のような最終的な式が出たとき、各項が物理的に正の値になるかを確認します。問題設定から \(2h > h > z_0 > 0\) なので、\((2h-z_0)\)も\((h-z_0)\)も正であり、\(k\)が正の値になることが確認できます。もし負になったら、どこかで符号ミスをしています。
  • 移項のミス: (2)の計算過程で、\(mgz_0\)を移項する際に符号を間違えるケアレスミスが考えられます。
    $$ 2mgh = mgz_0 + \frac{1}{2}k(h-z_0)^2 $$
    という式から、\(k\)の項を左辺に残すなら、
    $$ 2mgh – mgz_0 = \frac{1}{2}k(h-z_0)^2 $$
    と、一つ一つ丁寧に移項操作を行う。
  • 文字式の整理: 複数の文字(\(m, g, h, z_0\))が含まれる計算では、何を求めたいのか(この場合は\(k\))を常に意識し、「\(k=\dots\)」の形にすることを目指して式を変形します。共通因数(\(mg\))でくくるなど、式を簡潔に保つ工夫も有効です。

99 力学的エネルギー保存の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「なめらかな面でのばねと物体による力学的エネルギー保存」です。ばねの弾性エネルギー、物体の運動エネルギー、重力による位置エネルギーの間でのエネルギーの移り変わりを、力学的エネルギー保存則を用いて追跡する典型的な問題です。

  1. 力学的エネルギー保存則: 物体に働く力が保存力(この問題では重力と弾性力)のみの場合、その物体の力学的エネルギーは一定に保たれます。
  2. 運動エネルギー: 物体の運動の状態を表すエネルギーで、\(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) と表されます。
  3. 弾性力による位置エネルギー: ばねの伸びや縮みに蓄えられるエネルギーで、自然長からの変化量を\(x\)として \(U_e = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) と表されます。
  4. 重力による位置エネルギー: 物体の高さによって決まるエネルギーで、基準面からの高さを\(h\)として \(U_g = mgh\) と表されます。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、ばねが最も縮んだ最初の状態と、ばねが自然長に戻った点Aの状態で力学的エネルギー保存則を立てます。
  2. (2)では、最初の状態と、斜面を上った最高点Bの状態で力学的エネルギー保存則を立てます。
  3. (3)では、最初の状態と、斜面から下りてきて再びばねを最も縮めた状態で力学的エネルギー保存則を立てます。全行程でエネルギー損失がないことがポイントです。

問(1)

思考の道筋とポイント
ばねを縮めた状態から小物体を静かにはなすと、ばねに蓄えられていた弾性エネルギーが小物体の運動エネルギーに変換されていきます。点Aはばねが自然長に戻った点なので、弾性エネルギーは0になります。この過程では、水平面上で重力による位置エネルギーの変化はないため、弾性エネルギーがまるごと運動エネルギーに変わると考えられます。最初の状態と点Aを通過する瞬間の2点で、力学的エネルギー保存則を立式します。
この設問における重要なポイント

  • 床と小物体との間に摩擦はないため、力学的エネルギーが保存される。
  • 最初の状態では、小物体は静止しており(\(v=0\))、ばねは\(x\)だけ縮んでいる。
  • 点Aでは、ばねは自然長に戻っており(縮み\(0\))、小物体は速さ\(v\)で運動している。
  • 水平面上なので、重力による位置エネルギーは考えなくてよい(変化しない)。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則を、運動の始点(ばねの縮み\(x\))と点A(ばねの縮み\(0\))の間で適用します。水平面を重力による位置エネルギーの基準面(高さ\(0\))とします。

始点での力学的エネルギー \(E_{\text{前}}\):

  • 速さは\(0\)なので、運動エネルギーは \(K_{\text{前}} = 0\)。
  • ばねの縮みは\(x\)なので、弾性エネルギーは \(U_{e, \text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。

よって、\(E_{\text{前}} = 0 + \displaystyle\frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}kx^2\)。

点Aでの力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):

  • 速さを\(v\)とすると、運動エネルギーは \(K_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。
  • ばねは自然長なので、弾性エネルギーは \(U_{e, \text{後}} = 0\)。

よって、\(E_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 + 0 = \frac{1}{2}mv^2\)。

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\) より、
$$ \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}mv^2 $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則:\(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)
  • 運動エネルギー:\(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 弾性力による位置エネルギー:\(U_e = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式を\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kx^2 &= \frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]kx^2 &= mv^2 \\[2.0ex]v^2 &= \frac{k}{m}x^2
\end{aligned}
$$
速さ\(v\)は正の値なので、
$$
\begin{aligned}
v &= \sqrt{\frac{k}{m}x^2} \\[2.0ex]&= x\sqrt{\frac{k}{m}}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

最初にぎゅっと縮めたばねが持っていた「バネのエネルギー」が、小物体がばねから離れる瞬間に、すべて「小物体の速さのエネルギー」に変わった、と考えます。このエネルギーの等式を立てて、速さ\(v\)を計算します。

結論と吟味

点Aを通過するときの速さは \(x\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) です。ばねの初期の縮み\(x\)が大きいほど、また、ばねが硬い(\(k\)が大きい)ほど速くなり、物体の質量\(m\)が大きいほど速くなりにくいという、物理的に直感と合う結果が得られました。

解答 (1) \(x\sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}\) [m/s]

問(2)

思考の道筋とポイント
点Aを通過した小物体は、その運動エネルギーを使って斜面をすべり上がります。なめらかな斜面を上がるにつれて、運動エネルギーが重力による位置エネルギーに変換されていきます。最高点Bでは、速さが一瞬0になり、運動エネルギーがすべて位置エネルギーに変わった状態になります。この問題でも、最初の状態(ばねの縮み\(x\))と最高点Bの状態で力学的エネルギー保存則を立てるのが最も簡単です。
この設問における重要なポイント

  • 斜面もなめらかなので、全行程で力学的エネルギーが保存される。
  • 最高点Bでは、小物体の速さは一瞬0になる。
  • 最初の状態の弾性エネルギーが、最高点Bでの重力による位置エネルギーに変換される。
  • 重力による位置エネルギーの基準面を、水平面(高さ0)と定める。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則を、運動の始点と最高点Bの間で適用します。求める高さを\(h\)とします。

始点での力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\):
問(1)と同様に、\(E_{\text{始}} = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。

最高点Bでの力学的エネルギー \(E_{\text{B}}\):

  • 速さは\(0\)なので、運動エネルギーは \(K_{\text{B}} = 0\)。
  • 高さは\(h\)なので、重力による位置エネルギーは \(U_{g, \text{B}} = mgh\)。
  • ばねからは離れているので、弾性エネルギーは \(U_{e, \text{B}} = 0\)。

よって、\(E_{\text{B}} = 0 + mgh + 0 = mgh\)。

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{始}} = E_{\text{B}}\) より、
$$ \frac{1}{2}kx^2 = mgh $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則:\(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)
  • 重力による位置エネルギー:\(U_g = mgh\)
  • 弾性力による位置エネルギー:\(U_e = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式を\(h\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kx^2 &= mgh \\[2.0ex]h &= \frac{kx^2}{2mg}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

最初にばねが蓄えていた「バネのエネルギー」が、小物体が斜面を一番上まで登ったとき、すべて「高さのエネルギー」に変わった、と考えます。このエネルギーの等式を立てて、高さ\(h\)を計算します。

結論と吟味

最高点Bの高さは \(\displaystyle\frac{kx^2}{2mg}\) です。最初に蓄えられたエネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) が大きいほど高く登り、物体の重さ \(mg\) が大きいほど高く登れないという、物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{kx^2}{2mg}\) [m]

問(3)

思考の道筋とポイント
最高点Bに達した小物体は、再び斜面をすべり下り、水平面を通ってばねに接触し、ばねを押し縮めます。床や斜面はなめらかで、空気抵抗も無視できるため、この全行程を通じて力学的エネルギーは一切失われません。したがって、小物体とばねからなる系の力学的エネルギーは常に一定値 \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) に保たれます。このことから、再びばねを押し縮めて一瞬静止したとき、系が持つエネルギーはすべて弾性エネルギーとなり、その値は最初の弾性エネルギーと等しくなるはずです。
この設問における重要なポイント

  • 全行程で摩擦や空気抵抗によるエネルギー損失がないため、力学的エネルギーは完全に保存される。
  • 運動の始点と、再びばねが最も縮んだ最終点とを比較する。
  • 始点と最終点では、どちらも小物体の速さは0であり、高さも0である。

具体的な解説と立式
力学的エネルギー保存則を、運動の始点と、ばねが再び最も縮んだ最終点との間で適用します。最終的にばねが縮んだ距離を\(x’\)とします。

始点での力学的エネルギー \(E_{\text{始}}\):
問(1)と同様に、\(E_{\text{始}} = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)。

最終点での力学的エネルギー \(E_{\text{終}}\):

  • 最も縮んだ瞬間、速さは\(0\)なので、運動エネルギーは \(K_{\text{終}} = 0\)。
  • 水平面上なので、高さは\(0\)。重力による位置エネルギーは \(U_{g, \text{終}} = 0\)。
  • ばねの縮みは\(x’\)なので、弾性エネルギーは \(U_{e, \text{終}} = \displaystyle\frac{1}{2}kx’^2\)。

よって、\(E_{\text{終}} = 0 + 0 + \displaystyle\frac{1}{2}kx’^2 = \frac{1}{2}kx’^2\)。

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{始}} = E_{\text{終}}\) より、
$$ \frac{1}{2}kx^2 = \frac{1}{2}kx’^2 $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則:\(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)
  • 弾性力による位置エネルギー:\(U_e = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式を\(x’\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kx^2 &= \frac{1}{2}kx’^2 \\[2.0ex]x^2 &= x’^2
\end{aligned}
$$
縮む距離 \(x’\) は正の値なので、
$$ x’ = x $$

計算方法の平易な説明

この運動では、摩擦などで途中でエネルギーが失われることが一切ありません。そのため、最初にばねに与えたエネルギーは、小物体が斜面を行ったり来たりしても、まったく減ることがありません。したがって、最後に戻ってきてばねを縮めるときも、最初と全く同じだけのエネルギーを持っているので、最初と全く同じ距離\(x\)だけ縮めることができます。

結論と吟味

再びばねを押し縮めることができる距離は \(x\) です。エネルギーが保存される系では、外部からの仕事がなければ、同じ状態に何度も戻ることができます。この結果は、エネルギー保存則の基本的な性質を反映しており、物理的に正しいです。

解答 (3) \(x\) [m]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 力学的エネルギー保存則の適用
    • 核心: この問題の全ての設問は、「力学的エネルギー保存則」という一つの法則で解くことができます。物体に働く力が保存力(この問題では弾性力と重力)のみであるため、運動のどの2点間を選んでも、力学的エネルギー(運動エネルギー、弾性エネルギー、重力位置エネルギーの和)は一定に保たれます。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの形態変化: ばねの弾性エネルギー \(\leftrightarrow\) 物体の運動エネルギー \(\leftrightarrow\) 重力による位置エネルギー、というように、エネルギーが形を変えながら総量は一定に保たれる様子をイメージすることが重要です。
      • 比較する2点の選び方: 計算を簡単にするために、比較する2点は「速さが0」や「高さが0」、「ばねの伸び縮みが0」となる点を選ぶのがセオリーです。例えば、(2)では点Aを経由せず、最初の状態と最高点Bを直接比較することで計算が簡略化されます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 摩擦のある面での運動: 床や斜面に摩擦がある場合、力学的エネルギーは保存されません。この場合、「(後の力学的エネルギー)-(前の力学的エネルギー)=(摩擦力がした仕事)」という、より一般的なエネルギーと仕事の関係式を使います。摩擦力がした仕事は負の値になるため、力学的エネルギーは減少します。
    • 振り子の運動: 糸で吊るされたおもりの運動。張力は常におもりの運動方向と垂直なので仕事をせず、重力のみが仕事をするため、力学的エネルギーが保存されます。
    • 非弾性衝突を含む運動: 小物体が粘土のような物体に衝突して一体となる場合など。衝突の前後では力学的エネルギーは保存されませんが、運動量は保存されます。衝突後に、一体となった物体がばねを縮めたり斜面を上ったりする運動では、再び力学的エネルギー保存則が使えることがあります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「なめらか」という言葉に注目: 問題文に「なめらか」「摩擦は無視できる」といった記述があれば、それは「力学的エネルギー保存則を使ってください」という強いサインです。
    2. エネルギーを持つ状態をリストアップ: 運動の過程で、物体がどのようなエネルギーを持つ可能性があるかを考えます。「速さがあるか?(運動エネルギー)」「ばねが伸び縮みしているか?(弾性エネルギー)」「高さが変わるか?(重力位置エネルギー)」の3点を確認します。
    3. 始点と終点を賢く選ぶ: どの2点でエネルギー保存則を立てるかを考えます。求めたい量を含む「終点」と、情報が最も多く分かっている「始点」(多くは速さが0の点)を選ぶのが基本戦略です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • エネルギーの種類の見落とし:
    • 誤解: (2)で最高点Bを考える際に、最初の状態のエネルギーを点Aでの運動エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) だけだと考えてしまう。
    • 対策: 常に「最初の状態」から考える癖をつける。この問題の根源的なエネルギーは、最初に人間がばねを縮めて与えた弾性エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) です。途中の状態(点A)から計算を始めると、計算ミスや勘違いのリスクが増えます。常に「大元のエネルギーは何か?」と考えることが重要です。
  • (3)での複雑な思考:
    • 誤解: (3)で、斜面を上って下りる過程を真面目に計算しようとして混乱する。
    • 対策: 「エネルギーは保存される」という法則の強力さを信じること。途中の経路がどれだけ複雑でも、エネルギーの損失がなければ、始点と終点だけを見ればよい、という「ワープ思考」が有効です。この問題では、始点と終点(再び最も縮んだ点)はどちらも速さ0、高さ0なので、持つエネルギーは弾性エネルギーのみです。したがって、その値は等しくなるはずだと直感的に理解できます。
  • 基準点の設定ミス:
    • 誤解: 重力による位置エネルギーの基準面(高さ0の点)を、設問ごとに変えてしまう。
    • 対策: 問題全体を通して、エネルギーの基準点は一つに固定します。この問題では、水平面を高さ0と決めたら、最後までその設定を使い続けることが計算ミスを防ぎます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 力学的エネルギー保存則 (\(E_1 = E_2\)):
    • 選定理由: この問題は、働く力が保存力のみで、エネルギーの損失がないという、力学的エネルギー保存則を適用するための理想的な状況設定になっています。運動方程式を立てて時間追跡するよりも、始点と終点のエネルギー状態を比較するだけで答えが出るため、計算量が圧倒的に少なく、最も効率的な解法です。
    • 適用根拠:
      • (1) 弾性エネルギー \(\rightarrow\) 運動エネルギー
      • (2) 弾性エネルギー \(\rightarrow\) 重力位置エネルギー
      • (3) 弾性エネルギー \(\rightarrow\) (運動エネルギー + 重力位置エネルギー) \(\rightarrow\) 弾性エネルギー

      というエネルギーの変換過程を、この一つの法則で統一的に記述できます。わざわざ運動方程式 \(ma=F\) を考える必要がありません。

計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位の確認: 最終的な答えの単位が正しいかを確認する癖をつけましょう。例えば(1)で速さを求めているのに、単位が[m]になっていたらおかしいと気づけます。
  • 文字式の平方根: (1)の計算で \(v^2 = \displaystyle\frac{k}{m}x^2\) から \(v\) を求める際に、\(v = \sqrt{\displaystyle\frac{k}{m}}x\) と正しくルートを外すこと。\(x^2\) をルートの外に出すのを忘れるミスに注意。
  • 分数の整理: (2)の \(h = \displaystyle\frac{kx^2}{2mg}\) のような式では、どの文字が分子にあり、どの文字が分母にあるかを明確に意識します。特に、\(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) を \(mgh\) で割るという計算なので、\(2\)が分母に来ることを間違えないようにします。
  • 自明な答えの吟味: (3)で答えが \(x\) となったとき、「本当にこんなに単純でいいのか?」と一度立ち止まって考えます。「エネルギーが保存されるのだから、元の状態に戻るはずだ」と物理的な意味付けができれば、その答えに自信を持つことができます。

100 力学的エネルギー保存の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「斜面上のばね振り子におけるエネルギー保存と仕事の関係」です。斜面がなめらかな場合と摩擦がある場合とで、エネルギーの扱い方がどう変わるかを理解することが問われます。

  1. 力学的エネルギー保存則: 重力や弾性力のような保存力のみが仕事をする場合、力学的エネルギー(運動エネルギー、重力位置エネルギー、弾性エネルギーの和)は一定に保たれます。
  2. エネルギーと仕事の関係: 摩擦力のような非保存力が仕事をする場合、力学的エネルギーは保存されません。その変化量は、非保存力がした仕事に等しくなります。
  3. 仕事の計算: 重力、弾性力、動摩擦力が物体にする仕事をそれぞれ正しく計算できることが必要です。
  4. つり合いの位置と最大伸びの位置: 物体が静止する「つり合いの位置」と、運動の過程で一瞬だけ速さが0になる「最大伸びの位置(運動の端)」は異なる点であると認識することが重要です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、斜面がなめらかなので、働く力は保存力(重力、弾性力)のみです。したがって、運動の始点と終点(最大伸びの位置)とで力学的エネルギー保存則を立てます。
  2. (2)では、斜面に摩擦があるため、非保存力である動摩擦力が仕事をします。この場合、「力学的エネルギーの変化量=動摩擦力がした仕事」という関係式を立てて解きます。
  3. どちらの設問も、「運動エネルギーの変化=物体にされた仕事の総和」という、より一般的な関係式から解くことも可能です。

問(1)

思考の道筋とポイント
斜面がなめらかなので、物体に働く力のうち仕事をするのは保存力である重力と弾性力のみです。したがって、系の力学的エネルギーは保存されます。運動の始点(ばねが自然長、速さ0)と、ばねの伸びが最大になった終点(速さ0)の2点で力学的エネルギー保存則を立式します。始点から終点にかけて、重力による位置エネルギーが減少し、その分が弾性エネルギーに変換される、というエネルギーの移り変わりを考えます。
この設問における重要なポイント

  • なめらかな斜面では、力学的エネルギーが保存される。
  • 始点(自然長)と終点(最大伸び)では、どちらも物体の速さは0である。
  • 重力による位置エネルギーの基準面をどこに設定するかが計算を簡単にする鍵となる。ここでは、終点である「最大伸びの位置」を基準面に取ると計算がしやすい。

具体的な解説と立式
ばねの伸びの最大値を\(d\)とします。力学的エネルギー保存則を適用するために、運動の始点と終点のエネルギーを比較します。重力による位置エネルギーの基準面を、ばねの伸びが最大になった位置(終点)とします。

始点(自然長の位置)での力学的エネルギー \(E_{\text{前}}\):

  • 静かにはなすので、速さは\(0\)。運動エネルギーは \(K_{\text{前}} = 0\)。
  • 終点の基準面から見ると、始点は斜面に沿って\(d\)だけ高い位置にあるため、その高さは \(d\sin\theta\)。よって重力による位置エネルギーは \(U_{g, \text{前}} = mg(d\sin\theta)\)。
  • ばねは自然長なので、伸びは\(0\)。弾性エネルギーは \(U_{e, \text{前}} = 0\)。

よって、\(E_{\text{前}} = 0 + mgd\sin\theta + 0 = mgd\sin\theta\)。

終点(最大伸びの位置)での力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):

  • 最大伸びの位置では一瞬静止するので、速さは\(0\)。運動エネルギーは \(K_{\text{後}} = 0\)。
  • 位置エネルギーの基準面なので、高さは\(0\)。重力による位置エネルギーは \(U_{g, \text{後}} = 0\)。
  • ばねの伸びは\(d\)。弾性エネルギーは \(U_{e, \text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}kd^2\)。

よって、\(E_{\text{後}} = 0 + 0 + \displaystyle\frac{1}{2}kd^2 = \frac{1}{2}kd^2\)。

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\) より、
$$ mgd\sin\theta = \frac{1}{2}kd^2 $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則:\(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)
  • 重力による位置エネルギー:\(U_g = mgh\)
  • 弾性力による位置エネルギー:\(U_e = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式を\(d\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
mgd\sin\theta &= \frac{1}{2}kd^2
\end{aligned}
$$
物体は移動するので \(d \neq 0\) です。したがって、両辺を\(d\)で割ることができます。
$$
\begin{aligned}
mg\sin\theta &= \frac{1}{2}kd \\[2.0ex]d &= \frac{2mg\sin\theta}{k}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

物体が斜面を滑り落ちることで失った「高さのエネルギー」が、すべて「ばねを伸ばすためのエネルギー」に変換された瞬間に、物体の伸びは最大になります。この「失った高さのエネルギー」=「蓄えられたばねのエネルギー」という等式を立てて、伸び\(d\)を求めます。

結論と吟味

ばねの最大の伸びは \(\displaystyle\frac{2mg\sin\theta}{k}\) です。この結果は、重力の斜面方向の成分 \(mg\sin\theta\) が大きいほど伸びが大きくなり、ばねが硬い(\(k\)が大きい)ほど伸びにくくなることを示しており、物理的に妥当です。

別解: 運動エネルギーと仕事の関係を用いる方法

思考の道筋とポイント
運動エネルギーの変化が、物体にされた仕事の総和に等しいという、より一般的な法則を用います。始点と終点では速さが0なので、運動エネルギーの変化は0です。つまり、この間に物体にされた仕事(重力の仕事と弾性力の仕事)の合計が0になる、という式を立てます。
この設問における重要なポイント

  • 運動エネルギーの変化 \(\Delta K = 0\)。
  • 仕事の総和 \(W_{\text{総和}} = W_{\text{重力}} + W_{\text{弾性力}} = 0\)。
  • 仕事の正負に注意する。重力は変位と同じ向きの成分を持つので正の仕事、弾性力は変位と逆向きなので負の仕事をする。

具体的な解説と立式
運動の始点から終点までの間に、重力と弾性力がした仕事を考えます。

  • 重力がした仕事 \(W_{\text{重力}}\):重力の斜面方向成分 \(mg\sin\theta\) が、距離\(d\)にわたって働き続けるので、\(W_{\text{重力}} = (mg\sin\theta) \times d\)。
  • 弾性力がした仕事 \(W_{\text{弾性力}}\):ばねが伸び\(0\)から\(d\)まで変化するときの弾性力がする仕事は、\(-\displaystyle\frac{1}{2}kd^2\)。

運動エネルギーの変化と仕事の関係より、
$$ \Delta K = W_{\text{重力}} + W_{\text{弾性力}} $$
$$ \frac{1}{2}m \cdot 0^2 – \frac{1}{2}m \cdot 0^2 = mgd\sin\theta – \frac{1}{2}kd^2 $$
$$ 0 = mgd\sin\theta – \frac{1}{2}kd^2 $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギーと仕事の関係:\(\Delta K = W\)
  • 仕事の定義:\(W = Fx\)
  • 弾性力がする仕事:\(W_e = -\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

立式した式は、力学的エネルギー保存則から導いたものと全く同じです。
$$
\begin{aligned}
mgd\sin\theta &= \frac{1}{2}kd^2 \\[2.0ex]d &= \frac{2mg\sin\theta}{k}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

結果はメインの解法と完全に一致します。力学的エネルギー保存則は、運動エネルギーと仕事の関係から、保存力の仕事だけを位置エネルギーとして移項したものであることが分かります。

解答 (1) \(\displaystyle\frac{2mg\sin\theta}{k}\) [m]

問(2)

思考の道筋とポイント
斜面に摩擦がある場合、非保存力である動摩擦力が仕事をするため、力学的エネルギーは保存されません。このような場合は、「力学的エネルギーの変化量 = 非保存力がした仕事」という関係式を立てます。始点と終点では速さが0であることは(1)と同じです。動摩擦力は常に運動を妨げる向きに働くため、その仕事は負の値になります。
この設問における重要なポイント

  • 摩擦があるため、力学的エネルギーは保存されない。
  • 力学的エネルギーの変化 \(\Delta E = E_{\text{後}} – E_{\text{前}}\)。
  • 非保存力(動摩擦力)がした仕事 \(W_{\text{非保存力}}\) を計算する。
  • 動摩擦力の大きさは \(f’ = \mu’N\)。斜面上の垂直抗力 \(N\) は \(mg\cos\theta\) に等しい。

具体的な解説と立式
ばねの伸びの最大値を\(d’\)とします。(1)と同様に、重力による位置エネルギーの基準面を終点(最大伸びの位置)とします。

始点(自然長の位置)での力学的エネルギー \(E_{\text{前}}\):

  • \(E_{\text{前}} = mg(d’\sin\theta)\)。

終点(最大伸びの位置)での力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):

  • \(E_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}kd’^2\)。

動摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}}\):

  • 動摩擦力の大きさは \(f’ = \mu’N = \mu’mg\cos\theta\)。
  • この力が運動と逆向きに距離\(d’\)だけ働くので、仕事は \(W_{\text{摩擦}} = -f’ \times d’ = -\mu’mgd’\cos\theta\)。

エネルギーと仕事の関係 \(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\) より、
$$ E_{\text{後}} – E_{\text{前}} = W_{\text{摩擦}} $$
$$ \frac{1}{2}kd’^2 – mgd’\sin\theta = -\mu’mgd’\cos\theta $$

使用した物理公式

  • エネルギーと仕事の関係:\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)
  • 動摩擦力:\(f’ = \mu’N\)
  • 力のつりあい(斜面に垂直な方向):\(N = mg\cos\theta\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式を\(d’\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kd’^2 &= mgd’\sin\theta – \mu’mgd’\cos\theta
\end{aligned}
$$
物体は移動するので \(d’ \neq 0\) です。両辺を\(d’\)で割ります。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kd’ &= mg\sin\theta – \mu’mg\cos\theta \\[2.0ex]\frac{1}{2}kd’ &= mg(\sin\theta – \mu’\cos\theta) \\[2.0ex]d’ &= \frac{2mg(\sin\theta – \mu’\cos\theta)}{k}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

物体が滑り落ちて失った「高さのエネルギー」は、今度は「ばねを伸ばすエネルギー」と「摩擦によって失われたエネルギー(熱)」の2つに分配されます。このエネルギーの収支の式を立てて、伸び\(d’\)を求めます。

結論と吟味

ばねの最大の伸びは \(\displaystyle\frac{2mg(\sin\theta – \mu’\cos\theta)}{k}\) です。(1)の結果と比較すると、分子が \(\mu’mg\cos\theta\) の分だけ小さくなっており、摩擦によって伸びが減少したことがわかります。これは物理的に妥当な結果です。

別解: 運動エネルギーと仕事の関係を用いる方法

思考の道筋とポイント
(1)の別解と同様に、運動エネルギーの変化が仕事の総和に等しいという法則を使います。今回は、仕事の項に動摩擦力の仕事も加わります。
この設問における重要なポイント

  • 運動エネルギーの変化 \(\Delta K = 0\)。
  • 仕事の総和 \(W_{\text{総和}} = W_{\text{重力}} + W_{\text{弾性力}} + W_{\text{摩擦}} = 0\)。
  • 動摩擦力の仕事は負。

具体的な解説と立式
運動の始点から終点までの間に、重力、弾性力、動摩擦力がした仕事を考えます。

  • 重力がした仕事 \(W_{\text{重力}} = mgd’\sin\theta\)。
  • 弾性力がした仕事 \(W_{\text{弾性力}} = -\displaystyle\frac{1}{2}kd’^2\)。
  • 動摩擦力がした仕事 \(W_{\text{摩擦}} = -\mu’mgd’\cos\theta\)。

運動エネルギーの変化と仕事の関係より、
$$ \Delta K = W_{\text{重力}} + W_{\text{弾性力}} + W_{\text{摩擦}} $$
$$ 0 = mgd’\sin\theta – \frac{1}{2}kd’^2 – \mu’mgd’\cos\theta $$

計算過程

立式した式は、メインの解法から導いたものと全く同じです。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}kd’^2 &= mgd’\sin\theta – \mu’mgd’\cos\theta \\[2.0ex]d’ &= \frac{2mg(\sin\theta – \mu’\cos\theta)}{k}
\end{aligned}
$$

結論と吟味

結果はメインの解法と完全に一致します。摩擦がある場合でも、エネルギーの観点から統一的に問題を扱えることがわかります。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{2mg(\sin\theta – \mu’\cos\theta)}{k}\) [m]

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • エネルギー保存則と仕事の関係の使い分け
    • 核心: この問題は、(1)の「なめらかな面」と(2)の「摩擦のある面」という設定の違いを通じて、エネルギーの法則をどう使い分けるかを学ぶことに核心があります。
    • 理解のポイント:
      • (1) なめらかな面(保存力のみ): 働く力は重力と弾性力のみ。これらは保存力なので、力学的エネルギーは保存されます。したがって、\(\Delta E = 0\) すなわち \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\) という最もシンプルな「力学的エネルギー保存則」を適用できます。
      • (2) 摩擦のある面(非保存力が存在): 重力と弾性力に加えて、非保存力である動摩擦力が仕事をします。この場合、力学的エネルギーは保存されません。その変化量は動摩擦力がした仕事に等しくなるため、「\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)」という、より一般的な「エネルギーと仕事の関係」を適用する必要があります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 往復運動でのエネルギー損失: (2)の状況で、「ばねが最も縮んだ後、再び物体が上昇して最初に静止する高さはどこか?」を問う問題。往路と復路で動摩擦力が仕事をするため、力学的エネルギーはさらに減少し、元の高さには戻れません。
    • 空気抵抗を受ける落下運動: 空気抵抗(非保存力)を受けながら物体が落下する場合。力学的エネルギーの変化量が空気抵抗のした仕事に等しい、という式を立てます。
    • 人が仕事をする場合: 人が物体を押したり引いたりして動かす問題。人がする仕事も非保存力の仕事として扱い、\(\Delta E = W_{\text{人}}\) のように考えます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力のリストアップと分類: まず物体に働く力をすべて書き出し、「保存力(重力、弾性力)」と「非保存力(摩擦力、空気抵抗、人が加える力など)」に分類します。
    2. 非保存力の有無で方針決定:
      • 非保存力が仕事をしない(または存在しない) \(\rightarrow\) 力学的エネルギー保存則 \((E_{\text{前}} = E_{\text{後}})\) を選択。
      • 非保存力が仕事をする \(\rightarrow\) エネルギーと仕事の関係 \((\Delta E = W_{\text{非保存力}})\) を選択。
    3. 位置エネルギーの基準点を決める: 計算を簡単にするため、始点か終点のどちらかを重力位置エネルギーの基準(高さ0)に設定するのが定石です。この問題では終点(最大伸びの位置)を基準にすると、\(U_{g, \text{後}}=0\) となり計算が楽になります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事の符号ミス:
    • 誤解: (2)で動摩擦力がした仕事を正の値で計算してしまう。
    • 対策: 仕事の符号は、力の向きと変位の向きの関係で決まります。動摩擦力は常に物体の運動方向と「逆向き」に働くため、その仕事は必ず負(\(W = -fx\))になります。エネルギーを「奪う」仕事だとイメージすることが重要です。
  • 重力による位置エネルギーの高さの計算ミス:
    • 誤解: 斜面に沿った距離\(d\)を、そのまま高さ\(h\)として \(mgd\) と計算してしまう。
    • 対策: 必ず図を描き、三角比を使って「高さ」を正しく求める癖をつける。斜面に沿った距離が\(d\)、傾斜角が\(\theta\)のとき、高さの変化は \(d\sin\theta\) となります。これは頻出パターンなので暗記しても良いくらいです。
  • つり合いの位置との混同:
    • 誤解: ばねの伸びが最大になる位置を、力のつり合いの位置(\(mg\sin\theta = kx\)となる点)だと勘違いする。
    • 対策: 「つり合いの位置」は力が0になる点で、そこでは加速度が0(速さが最大)になります。「最大伸びの位置」は運動の端であり、そこでは速さが0になります。この2点は明確に区別する必要があります。この問題では、つり合いの位置の2倍の距離まで伸びることが(1)の結果から分かります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • エネルギーと仕事の関係 (\(\Delta E = W_{\text{非保存力}}\)):
    • 選定理由: この公式は、力学的エネルギー保存則を内包する、より包括的な法則です。非保存力が仕事をする(2)ではこの公式を使う必要があります。また、(1)でも \(W_{\text{非保存力}}=0\) と考えれば同じ公式で解くことができ、物理現象を統一的に捉えることができます。
    • 適用根拠: 物理学の基本法則である「運動エネルギーと仕事の関係(\(\Delta K = W_{\text{総和}}\))」から導かれます。仕事の総和を保存力の仕事と非保存力の仕事に分け、保存力の仕事を位置エネルギーの項として移項すると、この公式が得られます。
      $$ \Delta K = W_{\text{保存力}} + W_{\text{非保存力}} $$
      $$ \Delta K – W_{\text{保存力}} = W_{\text{非保存力}} $$
      ここで \(\Delta E = \Delta K + \Delta U = \Delta K – W_{\text{保存力}}\) なので、
      $$ \Delta E = W_{\text{非保存力}} $$
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 共通因数でくくる: (2)の計算過程で、\(mgd’\sin\theta – \mu’mgd’\cos\theta\) という項が出てきたら、すぐに共通因数 \(mgd’\) でくくり、\(mgd'(\sin\theta – \mu’\cos\theta)\) と整理する癖をつけましょう。式が簡潔になり、見通しが良くなります。
  • \(d \neq 0\) の確認: 計算の途中で両辺を \(d\) や \(d’\) で割る際には、必ず「物体は動くので \(d \neq 0\)」と頭の中で確認する。これにより、数学的に厳密な思考が身につきます。
  • (1)と(2)の比較: (2)の答えが出たら、(1)の答えと比較してみましょう。(2)の答えは、(1)の答えの \(mg\sin\theta\) の部分が \(mg(\sin\theta – \mu’\cos\theta)\) に置き換わった形をしています。これは「重力の斜面成分が、摩擦力によって見かけ上弱まった」と解釈でき、結果の妥当性を確認できます。

101 力学的エネルギー保存の法則

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「連結された物体系におけるエネルギー保存」です。個々の物体に注目した場合と、物体を一体(系)とみなした場合とで、エネルギーの法則をどう適用するかが問われます。

  1. 運動エネルギーと仕事の関係: 物体の運動エネルギーの変化は、その物体にされた仕事の総和に等しいという、最も基本的なエネルギーの法則です。
  2. 力学的エネルギー保存則: 仕事をする力が重力や弾性力などの保存力のみの場合、運動エネルギーと位置エネルギーの和である力学的エネルギーは一定に保たれます。
  3. 「系」で考える視点: 複数の物体をまとめて一つの「系」と見なすと、物体間で及ぼしあう力(内力)の仕事が相殺され、エネルギー保存則が適用しやすくなる場合があります。
  4. 束縛条件: 糸でつながれた物体は、常に同じ速さで運動するという条件です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、AとB、それぞれの物体に個別に注目し、「運動エネルギーの変化と仕事の関係」を立式します。
  2. (2)では、(1)で立てた2つの式を連立させて速さ\(v\)を求めます。その過程で、2式を合体させたものが「系全体の力学的エネルギー保存則」に対応することを確認します。
  3. (3)では、(2)で得られた「系全体の力学的エネルギーが保存される」という知見を利用して、初速が与えられた状況での物体の運動を解析します。

問(1)

思考の道筋とポイント
物体Aと物体B、それぞれに注目し、運動の始点(静止状態)から終点(速さ\(v\)でBが床に到達)までの間に、どの力がどれだけの仕事をしたかを考えます。その結果を「運動エネルギーの変化量 = された仕事の総和」という関係式にまとめます。AとBは一本の糸でつながれているため、速さの大きさは常に等しく、Bが\(h\)だけ落下する間にAも\(h\)だけ移動します。
この設問における重要なポイント

  • 物体Aに仕事をする力は、糸の張力\(T\)のみです。
  • 物体Bに仕事をする力は、重力\(2mg\)と糸の張力\(T\)です。
  • Aにとって張力の仕事は正ですが、Bにとって張力の仕事は運動方向と逆向きなので負となります。
  • 運動の始点では、A, Bともに静止しているので運動エネルギーは0です。

具体的な解説と立式
物体Aについて

  • 運動エネルギーの変化は、\(\Delta K_A = \displaystyle\frac{1}{2}(3m)v^2 – \frac{1}{2}(3m) \cdot 0^2 = \frac{1}{2}(3m)v^2\)。
  • された仕事は、張力\(T\)が距離\(h\)だけした仕事なので、\(W_A = T \times h\)。

運動エネルギーと仕事の関係より、以下の式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2}(3m)v^2 = Th \quad \cdots ① $$

物体Bについて

  • 運動エネルギーの変化は、\(\Delta K_B = \displaystyle\frac{1}{2}(2m)v^2 – \frac{1}{2}(2m) \cdot 0^2 = \frac{1}{2}(2m)v^2\)。
  • された仕事は、重力\(2mg\)がした正の仕事と、張力\(T\)がした負の仕事の和です。\(W_B = 2mgh – Th\)。

運動エネルギーと仕事の関係より、以下の式が成り立ちます。
$$ \frac{1}{2}(2m)v^2 = 2mgh – Th \quad \cdots ② $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギーと仕事の関係:\(\Delta K = W\)
  • 運動エネルギー:\(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
  • 仕事:\(W = Fx\)
計算過程

この設問では立式のみが求められており、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

Aは糸にグイッと引っ張られてスピードアップします。Aのスピードのエネルギーの増加分は、まさに「糸がAを引っ張った仕事」に等しくなります。
一方、Bは下に落ちる力(重力)でスピードアップしようとしますが、糸に上に引っ張られて邪魔されます。そのため、Bのスピードのエネルギーの増加分は、「重力がBを引っ張った仕事」から「糸が邪魔した分の仕事」を差し引いたものになります。

結論と吟味

物体Aについては \(\displaystyle\frac{1}{2}(3m)v^2 = Th\)、物体Bについては \(\displaystyle\frac{1}{2}(2m)v^2 = 2mgh – Th\) となります。それぞれの物体に働く力とエネルギーの関係を正しく式で表現できました。

解答 (1) A: \(\displaystyle\frac{1}{2}(3m)v^2 = Th\), B: \(\displaystyle\frac{1}{2}(2m)v^2 = 2mgh – Th\)

問(2)

思考の道筋とポイント
(1)で立てた2つの式①、②は、未知数が\(v\)と\(T\)の連立方程式です。これを解いて\(v\)を求めます。最も簡単な解法は、①式と②式を辺々足し合わせることです。これにより、張力\(T\)の項が消去できます。
そして、得られた式の物理的な意味を考えます。張力\(T\)はAとBの間で力を及ぼしあう「内力」です。AとBを一体の「系」として考えると、内力のする仕事(Aには\(+Th\)、Bには\(-Th\))は互いに打ち消し合います。その結果、系全体に仕事をする外力は保存力である重力のみとなり、系全体の力学的エネルギーが保存されることがわかります。
この設問における重要なポイント

  • ①式と②式を足し合わせると、張力\(T\)が消去できる。
  • 張力は内力であり、系全体で考えると仕事の和は0になる。
  • 系全体では、重力の位置エネルギーが、AとBの運動エネルギーに変換されたと見なせる。

具体的な解説と立式
式①と式②を足し合わせます。
(左辺の和) = \(\displaystyle\frac{1}{2}(3m)v^2 + \frac{1}{2}(2m)v^2 = \frac{1}{2}(3m+2m)v^2\)
(右辺の和) = \(Th + (2mgh – Th) = 2mgh\)
よって、2式を合わせた結果は次のようになります。
$$ \frac{1}{2}(3m+2m)v^2 = 2mgh \quad \cdots ③ $$
この式は、AとBを一体とみなしたときの力学的エネルギー保存則を表しています。左辺はAとBの運動エネルギーの和、右辺はBが失った重力による位置エネルギーです。

使用した物理公式

  • (1)で立てた関係式
計算過程

式③を\(v\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}(5m)v^2 &= 2mgh \\[2.0ex]5mv^2 &= 4mgh \\[2.0ex]v^2 &= \frac{4gh}{5}
\end{aligned}
$$
速さ\(v\)は正の値なので、
$$ v = \sqrt{\frac{4gh}{5}} = 2\sqrt{\frac{gh}{5}} $$

計算方法の平易な説明

(1)で作った2つの式を合体させると、やっかいな張力\(T\)がプラスマイナスで消えてくれます。残った式は「AとB、チーム全体のスピードのエネルギー = Bが落ちたことで得られた高さのエネルギー」というシンプルな形になります。これを解けば、速さ\(v\)が求められます。このことから、AとBを一つのチームとして見ると、チーム全体のエネルギーは保存されている、ということが言えます。

結論と吟味

速さ\(v\)は \(2\sqrt{\displaystyle\frac{gh}{5}}\) です。また、A, B全体で考えると、張力は内力として仕事が相殺されるため、系全体の力学的エネルギーが保存される、ということが言えます。

解答 (2) \(v=2\sqrt{\displaystyle\frac{gh}{5}}\), A, B全体で力学的エネルギーが保存される。

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)の考察から、AとBを一体とみなした「系」では、力学的エネルギーが保存されることがわかりました。この法則を利用して、初速\(v_0\)が与えられた状況を考えます。運動の始点(Aに初速\(v_0\)、Bの高さ\(h\))と、Bが最高点に達した終点(A, Bの速さ0、Bの高さ\(h’\))の2点で、系全体の力学的エネルギー保存則を立式します。
この設問における重要なポイント

  • AとBを一体とした系全体で、力学的エネルギー保存則が適用できる。
  • 始点のエネルギーは、AとB両方の運動エネルギーと、Bの重力による位置エネルギーの和。
  • 終点(最高点)では、AとBの速さはともに0になる。

具体的な解説と立式
Bが床から上がる高さを\(h’\)とします。A, Bを一体とした系で力学的エネルギー保存則を立てます。

始点での力学的エネルギー \(E_{\text{前}}\):

  • A, Bの速さはともに\(v_0\)。系全体の運動エネルギーは \(K_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}(3m)v_0^2 + \frac{1}{2}(2m)v_0^2 = \frac{1}{2}(5m)v_0^2\)。
  • Bの高さは\(h\)。重力による位置エネルギーは \(U_{\text{前}} = 2mgh\)。

よって、\(E_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}(5m)v_0^2 + 2mgh\)。

終点(最高点)での力学的エネルギー \(E_{\text{後}}\):

  • A, Bの速さはともに0。運動エネルギーは \(K_{\text{後}} = 0\)。
  • Bの高さは\(h’\)。重力による位置エネルギーは \(U_{\text{後}} = 2mgh’\)。

よって、\(E_{\text{後}} = 2mgh’\)。

力学的エネルギー保存則 \(E_{\text{前}} = E_{\text{後}}\) より、
$$ \frac{1}{2}(5m)v_0^2 + 2mgh = 2mgh’ $$

使用した物理公式

  • 力学的エネルギー保存則:\(K_1 + U_1 = K_2 + U_2\)
計算過程

与えられた初速 \(v_0 = 2\sqrt{\displaystyle\frac{gh}{5}}\) を代入して、\(h’\)を求めます。
まず、\(v_0^2\)を計算します。
$$ v_0^2 = \left(2\sqrt{\frac{gh}{5}}\right)^2 = 4 \times \frac{gh}{5} = \frac{4gh}{5} $$
これをエネルギー保存則の式に代入します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{2}(5m)\left(\frac{4gh}{5}\right) + 2mgh &= 2mgh’ \\[2.0ex]\frac{1}{2}(4mgh) + 2mgh &= 2mgh’ \\[2.0ex]2mgh + 2mgh &= 2mgh’ \\[2.0ex]4mgh &= 2mgh’ \\[2.0ex]h’ &= 2h
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

AとBを一つのチームとして考え、エネルギー保存の法則を使います。「運動開始時点でのチームの全エネルギー」と「Bが一番高い点に達したときのチームの全エネルギー」が等しくなります。
最初のエネルギーは、「AとBのスピードのエネルギー」と「Bの高さのエネルギー」の合計です。
最後のエネルギーは、全員一瞬止まるので、「Bの新しい高さのエネルギー」だけです。
この2つが等しいという式を立て、与えられた初スピードの値を代入して計算すると、新しい高さが求まります。

結論と吟味

Bは床から \(2h\) の高さまで上がります。
ここで、与えられた初速\(v_0 = 2\sqrt{\displaystyle\frac{gh}{5}}\)は、(2)で求めた、Bが床に到達したときの速さ\(v\)と全く同じ値です。これは、Bが床に速さ\(v\)で到達した状態から、運動を逆再生させるのと同じ状況であることを意味します。エネルギーが保存される系では、運動は可逆的です。したがって、Bは元の高さ\(h\)まで戻り、さらに初めの位置エネルギー\(2mgh\)に相当する分だけ上昇できます。結果として、\(h+h=2h\)の高さまで上がると直感的に推測でき、計算結果と一致します。

解答 (3) \(2h\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 「個」と「系」の視点でのエネルギー法則の適用
    • 核心: この問題は、物体を一つずつ(個)見る視点と、連結された物体全体を一つのグループ(系)として見る視点とで、エネルギーの法則がどのように表現されるかを理解することが核心です。
    • 理解のポイント:
      • 「個」で見る場合: 各物体に働く力をすべて考慮し、「運動エネルギーの変化 = された仕事の総和」を適用します。このとき、物体間をつなぐ糸の張力\(T\)は、仕事をする「外力」として扱われます。
      • 「系」で見る場合: 物体AとBを一体と見なします。すると、張力\(T\)は系内部で力を及ぼしあう「内力」となります。Aにする仕事(\(+Th\))とBにする仕事(\(-Th\))がちょうど打ち消し合うため、張力の仕事は系全体では0になります。その結果、系全体に仕事をする外力は保存力である重力のみとなり、「系全体の力学的エネルギー保存則」が使えるようになります。この「視点の切り替え」が、問題を簡潔に解く鍵です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • アトウッドの器械: 2つの異なる質量の物体を、滑車を介して一本の糸でつないだもの。これも系全体で力学的エネルギーが保存される典型例です。
    • 動滑車を含む問題: 滑車自体が動く場合。物体の移動距離と滑車の移動距離の関係(束縛条件)が複雑になりますが、系全体でエネルギー保存を考えるアプローチは同様に有効です。
    • 摩擦がある場合: 物体Aが置かれている水平面に摩擦がある場合。系全体で考えると、重力(保存力)と摩擦力(非保存力)が外力として仕事をするため、「系全体の力学的エネルギーの変化 = 摩擦力がした仕事」という関係式を立てることになります。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 連結されているか?: 複数の物体が糸やばねで連結されている問題では、まず「系」として扱えないかを考えます。
    2. 内力と外力の分類: 系全体で考えたとき、どの力が内力(張力など)で、どの力が外力(重力、摩擦力など)になるかを分類します。
    3. 内力の仕事は相殺されるか?: 内力(張力など)が系全体でする仕事の合計が0になるかを確認します。この問題のように、糸が伸び縮みせず、片方にする仕事が正、もう片方にする仕事が負で大きさが等しい場合、相殺されます。
    4. 系全体でのエネルギー保存則を立式: 内力の仕事が相殺されることを確認したら、外力に注目します。外力が保存力のみなら「力学的エネルギー保存則」、非保存力が含まれるなら「エネルギーと仕事の関係」を、系全体に対して立式します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 張力の仕事の符号ミス:
    • 誤解: (1)で、物体Bに対する張力の仕事を正(\(+Th\))としてしまう。
    • 対策: 仕事の符号は、力の向きと変位の向きで決まります。物体Bは下向きに\(h\)だけ動きますが、張力\(T\)は上向きに働いています。向きが逆なので、張力がBにする仕事は負(\(-Th\))になります。必ず図を描いて力の向きと運動の向きを確認する癖をつけましょう。
  • 系全体の運動エネルギーの計算ミス:
    • 誤解: 系全体の運動エネルギーを \(\displaystyle\frac{1}{2}(3m+2m)v^2\) と正しく計算できず、どちらか一方の物体の運動エネルギーしか考えない。
    • 対策: 「系全体のエネルギー」を考えるときは、構成要素すべてのエネルギーを足し合わせることを徹底します。\(E_{\text{系}} = E_A + E_B\) のように、各物体のエネルギーの和を取ることを意識します。
  • (3)でのエネルギー保存則の適用範囲の誤り:
    • 誤解: (3)で、物体Bだけに注目して \(2mgh = \displaystyle\frac{1}{2}(2m)v_0^2 + 2mgh’\) のような間違った式を立ててしまう。
    • 対策: (2)で導いた「AとBを一体として系で考えれば力学的エネルギーが保存される」という結論を信じて使うことが重要です。個々の物体では、張力が仕事をするため力学的エネルギーは保存されません。常に「どの範囲でエネルギーが保存されるのか」を明確に意識することが大切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 系全体の力学的エネルギー保存則:
    • 選定理由: この問題のように、複数の物体が相互作用しながら運動する場合、個々の物体について運動方程式や仕事とエネルギーの関係式を立てると、張力\(T\)のような未知数が多くなり、連立方程式を解く手間が発生します。しかし、「系」として捉えることで、内力である張力\(T\)を計算から消去でき、問題を非常に簡潔に扱えます。
    • 適用根拠: (2)の計算過程で、個々の物体の「運動エネルギーと仕事の関係式」を足し合わせると、結果的に「系全体の力学的エネルギー保存則」が導出されました。これは、個々の物体に対する基本法則を組み合わせることで、より強力で便利な法則(系の保存則)が生まれることを示しています。物理法則の階層性を理解する良い例です。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字の整理: \(m\)や\(g\)、\(h\)など多くの文字が出てきますが、焦らずに整理します。(2)の計算では、両辺の\(m\)を最初に消去すると式がすっきりします。
  • 平方根の計算: \(v^2 = \displaystyle\frac{4gh}{5}\) から \(v\) を求める際に、\(v = \sqrt{\displaystyle\frac{4gh}{5}} = \displaystyle\frac{2\sqrt{gh}}{\sqrt{5}}\) となりますが、解答の \(2\sqrt{\displaystyle\frac{gh}{5}}\) の形に合わせるなど、表現方法にも注意します。
  • 代入のタイミング: (3)では、先に文字式で \(h’\) を解いてから \(v_0\) の値を代入する方が、計算の見通しが良くなることが多いです。
    $$ h’ = \frac{1}{2g} \left( \frac{1}{2}(5)v_0^2 + 2gh \right) $$
    のように整理してから代入すると、計算ミスを減らせます。
  • 物理的な意味の確認: (3)で \(h’=2h\) というきれいな答えが出たとき、「なぜだろう?」と考えてみることが重要です。与えられた初速\(v_0\)が(2)の終端速度\(v\)と同じであることに気づけば、「運動の逆再生」という物理的イメージと結びつき、答えの確信度が高まります。

102 動摩擦力のする仕事と力学的エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「運動エネルギーと仕事の関係」です。特に、非保存力である動摩擦力が物体にする仕事と、それによる運動エネルギーの変化を定量的に扱う、物理学の基本法則を問う問題です。

  1. 運動エネルギー: 物体の運動の状態を表すエネルギーで、質量\(m\)、速さ\(v\)の物体は \(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) の運動エネルギーを持ちます。
  2. 運動エネルギーと仕事の関係: 物体の運動エネルギーの変化量(\(\Delta K\))は、その物体にされた仕事の総和(\(W\))に等しいという関係 (\(\Delta K = W\))。これは物理学における最も重要な原理の一つです。
  3. 動摩擦力がする仕事: 動摩擦力は常に運動の向きと逆向きに働くため、その仕事は負の値になります。動摩擦力の大きさを\(f\)、移動距離を\(s\)とすると、仕事は \(W = -fs\) となります。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、運動エネルギーの「変化量」の定義である「後のエネルギーひく前のエネルギー」を忠実に計算します。
  2. (2)では、「運動エネルギーと仕事の関係」の公式に、(1)で求めた変化量と、動摩擦力がした仕事を代入して方程式を立てます。
  3. (3)では、(2)で導いた関係式から、スリップ距離\(s\)と速さ\(v\)の関係を読み解き、速さが2倍になったときの影響を計算します。

問(1)

思考の道筋とポイント
自動車の運動エネルギーが「いくら変化したか」を問われています。物理における「変化量」は、常に「後の状態量ひく前の状態量」で定義されます。したがって、停止後の運動エネルギーから、ブレーキをかける直前の運動エネルギーを引くことで求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動エネルギーの変化量 \(\Delta K = K_{\text{後}} – K_{\text{前}}\)。
  • ブレーキをかける前の速さは\(v\)、停止後の速さは\(0\)。
  • エネルギーが減少するため、変化量は負の値になる。

具体的な解説と立式
ブレーキをかける前の自動車の運動エネルギーを\(K_{\text{前}}\)、停止した後の運動エネルギーを\(K_{\text{後}}\)とします。

  • 前の状態:速さ\(v\)なので、\(K_{\text{前}} = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。
  • 後の状態:速さ\(0\)なので、\(K_{\text{後}} = \displaystyle\frac{1}{2}m \cdot 0^2 = 0\)。

運動エネルギーの変化量\(\Delta K\)は、
$$ \Delta K = K_{\text{後}} – K_{\text{前}} $$
となります。

使用した物理公式

  • 運動エネルギー:\(K = \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式に、各値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta K &= 0 – \frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]&= -\frac{1}{2}mv^2
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

「変化はいくら?」と聞かれたら、必ず「あと引くはじめ」で計算します。この場合、自動車は最終的に止まるので「後のエネルギー」は0です。そこから「はじめのエネルギー」を引くので、答えはマイナスになります。これは、持っていたエネルギーが失われたことを意味します。

結論と吟味

運動エネルギーの変化は \(-\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) [J] です。運動エネルギーが減少しているので、変化量が負になるのは物理的に正しい結果です。

解答 (1) \(-\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) [J]

問(2)

思考の道筋とポイント
問題文で「運動エネルギーと仕事の関係より」と指定されているので、その法則を適用します。自動車の運動エネルギーが変化した(減少した)原因は、路面から動摩擦力を受けて、負の仕事をされたからです。したがって、「運動エネルギーの変化量 = 動摩擦力がした仕事」という等式を立て、未知数である動摩擦力の大きさ\(f\)を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 運動エネルギーと仕事の関係:\(\Delta K = W\)。
  • 自動車がされた仕事は、動摩擦力による仕事のみ。
  • 動摩擦力\(f\)は自動車の進行方向と逆向きに働くため、その仕事は負の値 \(W = -fs\) となる。

具体的な解説と立式
運動エネルギーと仕事の関係 \(\Delta K = W\) を用います。

  • 運動エネルギーの変化 \(\Delta K\) は、(1)で求めた通り \(\Delta K = -\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\)。
  • 動摩擦力がした仕事 \(W\) は、力の大きさ\(f\)と移動距離\(s\)を用いて \(W = -f \times s\)。

これらを関係式に代入すると、以下のようになります。
$$ -\frac{1}{2}mv^2 = -fs $$

使用した物理公式

  • 運動エネルギーと仕事の関係:\(\Delta K = W\)
  • 仕事の定義:\(W = -Fx\) (力と変位が逆向きの場合)
計算過程

「具体的な解説と立式」で立てた式を\(f\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
-\frac{1}{2}mv^2 &= -fs \\[2.0ex]fs &= \frac{1}{2}mv^2 \\[2.0ex]f &= \frac{mv^2}{2s}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

自動車がブレーキをかけて失った「スピードのエネルギー」は、すべて「摩擦がした仕事」によって奪われたと考えられます。つまり、「失ったエネルギーの大きさ」と「摩擦がした仕事の大きさ」は等しくなります。この等式(\(\displaystyle\frac{1}{2}mv^2 = fs\))を立てて、摩擦力\(f\)を求めます。

結論と吟味

動摩擦力の大きさは \(f = \displaystyle\frac{mv^2}{2s}\) [N] です。この式から、速さ\(v\)が大きいほど、また、より短い距離\(s\)で停止するためには、より大きな動摩擦力\(f\)が必要になることがわかります。これは私たちの日常感覚とも一致する妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{mv^2}{2s}\) [N]

問(3)

思考の道筋とポイント
(2)で導出した、速さ\(v\)、スリップ距離\(s\)、動摩擦力\(f\)の間の関係式 \(f = \displaystyle\frac{mv^2}{2s}\) を利用します。この式を\(s\)について整理し、スリップ距離\(s\)が速さ\(v\)のどのような関数になっているかを調べます。動摩擦力\(f\)は速さによらず一定という条件が重要です。
この設問における重要なポイント

  • スリップ距離\(s\)は、速さ\(v\)の2乗に比例する。
  • 動摩擦力\(f\)と質量\(m\)は一定である。

具体的な解説と立式
(2)で得られた関係式を、スリップ距離\(s\)について解きます。
$$ s = \frac{mv^2}{2f} $$
この式から、\(m\)と\(f\)が一定のとき、\(s\)は\(v^2\)に比例することがわかります。
速さが2倍、つまり \(v’ = 2v\) になったときのスリップ距離を\(s’\)とすると、
$$ s’ = \frac{m(v’)^2}{2f} = \frac{m(2v)^2}{2f} $$
となります。

使用した物理公式

  • (2)で導出した関係式:\(s = \displaystyle\frac{mv^2}{2f}\)
計算過程

\(s’\)を計算し、元の\(s\)と比較します。
$$
\begin{aligned}
s’ &= \frac{m(2v)^2}{2f} \\[2.0ex]&= \frac{m(4v^2)}{2f} \\[2.0ex]&= 4 \left( \frac{mv^2}{2f} \right)
\end{aligned}
$$
ここで、\(s = \displaystyle\frac{mv^2}{2f}\) なので、
$$ s’ = 4s $$
したがって、スリップする距離は4倍になります。

計算方法の平易な説明

車の「スピードのエネルギー」は、速さの「2乗」に比例して大きくなります。つまり、速さが2倍になると、エネルギーは \(2 \times 2 = 4\) 倍になります。車を止めるには、この4倍に増えたエネルギーをすべて摩擦の仕事で消し去る必要があります。摩擦力の大きさが同じなら、4倍の仕事をするためには、スリップする距離も4倍必要になる、というわけです。

結論と吟味

自動車の速さが2倍になると、スリップする距離は4倍になります。これは、高速道路での車間距離を十分にとることの重要性など、交通安全の観点からも非常に重要な物理的帰結です。結果は物理的に妥当です。

解答 (3) 4倍

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 運動エネルギーと仕事の関係
    • 核心: この問題は、物理学の根幹をなす「運動エネルギーと仕事の関係(\(\Delta K = W\))」を理解し、正しく適用できるかを問うています。特に、動摩擦力という「非保存力」がする仕事によって、物体の運動エネルギーがどのように変化(減少)するかを捉えることが中心テーマです。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーの変化には原因がある: 物体の運動エネルギーが変化するとき、そこには必ず「仕事」という原因が存在します。この問題では、自動車の運動エネルギーが\( \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \)から0に減少しましたが、その原因は「動摩擦力が負の仕事をした」ことにあります。
      • 仕事の正負とエネルギーの増減: 物体に正の仕事をすればエネルギーは増加し、負の仕事をすればエネルギーは減少します。動摩擦力は常に運動と逆向きに働くため、その仕事は常に負となり、物体の運動エネルギーを奪います。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 物体を投げてから止まるまでの運動: ボールを投げて床の上を滑らせたとき、止まるまでに滑る距離を求める問題。これも、初めの運動エネルギーがすべて摩擦力の仕事によって失われると考えます。
    • 粗い斜面を滑り降りる運動: 粗い(摩擦のある)斜面を物体が滑り降りる問題。この場合、重力が正の仕事をしてエネルギーを与える一方で、摩擦力が負の仕事をしてエネルギーを奪います。運動エネルギーの変化は、これらの仕事の合計に等しくなります。
    • 空気抵抗を受けながらの落下: 空気抵抗を受けながら物体が落下する場合。重力がエネルギーを与え、空気抵抗がエネルギーを奪います。最終的に速さが一定(終端速度)になったとき、運動エネルギーの変化は0なので、重力がする仕事と空気抵抗がする仕事の大きさが等しくなっている状態です。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「エネルギー」という言葉に注目: 問題文に「運動エネルギー」や「仕事」という言葉が出てきたら、まず「運動エネルギーと仕事の関係」を使うことを考えます。
    2. 始点と終点の状態を明確にする: 「始点(ブレーキ前)」と「終点(停止後)」のそれぞれの速さ、高さなどを整理します。
    3. 働く力と仕事を図示する: 始点から終点までの間に物体に働く力をすべて図に書き出し、それぞれの力が「正の仕事」「負の仕事」「仕事をしない」のどれに当たるかを判断します。この問題では、動摩擦力\(f\)が負の仕事をし、重力と垂直抗力は仕事をしません。
    4. \(\Delta K = W\) に代入する: 整理した情報を、\(\Delta K = K_{\text{後}} – K_{\text{前}}\) と \(W = W_1 + W_2 + \dots\) にそれぞれ代入して方程式を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 仕事の符号ミス:
    • 誤解: (2)で、動摩擦力がした仕事を \(+fs\) と計算してしまう。
    • 対策: 仕事の符号は、力の向きと変位の向きで決まります。自動車は前方に\(s\)だけ進みますが、動摩擦力\(f\)は後方に働いています。向きが真逆なので、仕事は必ず負(\(-fs\))になります。エネルギーを「奪う」力だと常に意識することが重要です。
  • 「変化量」の定義の誤解:
    • 誤解: (1)で運動エネルギーの変化量を、単純に \( \displaystyle\frac{1}{2}mv^2 \) と正の値で答えてしまう。
    • 対策: 物理における「変化量」は、常に「後の量 – 前の量」です。このルールを機械的に適用する癖をつけましょう。エネルギーが減っているのだから、変化量は負になるはずだ、という物理的な直感も働かせるとミスを防げます。
  • (3)での比例関係の誤り:
    • 誤解: スリップ距離\(s\)は速さ\(v\)に比例すると考え、速さが2倍なら距離も2倍だと答えてしまう。
    • 対策: (2)で導いた \(s = \displaystyle\frac{mv^2}{2f}\) という式をしっかり見ること。\(s\)は\(v\)ではなく、\(v^2\)に比例しています。この「2乗に比例」という関係は、運動エネルギーの式に由来するもので、非常に多くの物理現象で見られる重要な関係です。公式の文字だけでなく、何乗に比例するのかまで正確に把握することが大切です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 運動エネルギーと仕事の関係 (\(\Delta K = W\)):
    • 選定理由: この問題は、力学的エネルギーが保存されない状況(摩擦力が仕事をするため)を扱っています。力学的エネルギー保存則は使えないため、より普遍的な法則である「運動エネルギーと仕事の関係」を用いるのが唯一かつ最適な選択です。この法則は、保存力・非保存力を問わず、どんな力が働く場合でも常に成り立ちます。
    • 適用根拠: この法則は、運動方程式 \(ma=F\) を積分することによって導出される、運動方程式と等価な法則です。力が一定でない場合や、経路が複雑な場合でも、始点と終点のエネルギーと、その間にされた仕事だけで関係を記述できるため、非常に強力なツールとなります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 単位を意識する: (1)はエネルギーの変化量なので単位は[J]、(2)は力の大きさなので[N]です。自分が何を計算しているのかを単位と共に意識することで、思考が整理され、ミスが減ります。
  • 式の変形: (3)を考える際に、(2)で求めた \(f = \displaystyle\frac{mv^2}{2s}\) を、求めたい量である\(s\)が主役になるように \(s = \displaystyle\frac{mv^2}{2f}\) と変形してから考察を始めると、関係性が一目瞭然になります。
  • 比例計算: 「\(s\)は\(v^2\)に比例する」ことが分かったら、\(v \rightarrow 2v\) のとき \(v^2 \rightarrow (2v)^2 = 4v^2\) となるので、\(s \rightarrow 4s\) となります。このように、比例定数(この場合は \(\displaystyle\frac{m}{2f}\))を具体的に書かなくても、比例関係だけで答えを導き出す練習をすると、計算が速く正確になります。
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