「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 7】Step 2

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Step 2

91 仕事の原理

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「滑車と仕事の原理」です。道具を使った際の仕事の関係性を理解しているかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事の原理: 摩擦や道具の質量が無視できる場合、道具を使っても使わなくても仕事の量は変わらないという法則。
  2. 仕事の定義: 仕事 \(W\) は、力の大きさ \(F\) と、力の向きに動いた距離 \(x\) の積で表される(\(W = Fx\))。
  3. 力のつり合い: 物体が静止または等速直線運動しているとき、物体にはたらく力の合力は0になる。
  4. 動滑車の仕組み: 力を小さくする代わりに、綱を引く距離が長くなるというトレードオフの関係。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 【解法1 仕事の原理】人がする仕事と、荷物がされる仕事(直接持ち上げる仕事)が等しいことを利用して立式します。問題文で距離の関係が与えられているため、この解法が最も直接的です。
  2. 【解法2 力のつり合い】荷物にかかる重力と、荷物を支える複数本の綱の張力とのつり合い関係から立式します。図の構造を正確に読み取ることが重要です。

思考の道筋とポイント
この問題は、滑車という道具を使った際の力の関係を問うています。解法は主に2つ考えられます。1つは、問題文の「人が綱を引く距離」と「荷物が上がる距離」の関係が与えられていることから「仕事の原理」を用いる方法です。もう1つは、図の構造から荷物にかかる力のつり合いを考える方法です。ここでは、模範解答で示されている「仕事の原理」を用いる方法をメインに解説し、別解として「力のつり合い」を用いる方法も紹介します。
この設問における重要なポイント

  • 仕事の原理:摩擦や道具の質量が無視できるとき、道具を使っても使わなくても、仕事の量は変わらない。
  • 仕事の定義:仕事 \(W\) は、「力の大きさ \(F\)」と「力の向きに動いた距離 \(x\)」の積で表される (\(W = Fx\))。
  • 人がする仕事:人が綱を引く力 \(F\) で、綱を \(4s\) 動かす仕事。
  • 直接持ち上げる仕事:荷物の重さ \(mg\) に等しい力で、荷物を \(s\) 持ち上げる仕事。

具体的な解説と立式
荷物を直接持ち上げるのに必要な力は、その重力に等しく、荷物の質量を \(m\) [kg]、重力加速度の大きさを \(g\) [m/s²] とすると \(mg\) [N] となります。この力で荷物を \(s\) [m] だけ持ち上げる仕事 \(W_{\text{直接}}\) は、
$$ W_{\text{直接}} = mg \times s $$
と表せます。

一方、装置を使って人が綱を引く力の大きさを \(F\) [N] とすると、問題文より綱を \(4s\) [m] 引く必要があるので、このとき人がする仕事 \(W_{\text{人}}\) は、
$$ W_{\text{人}} = F \times 4s $$
となります。

滑車や綱の重さ、摩擦は無視できるので、「仕事の原理」により、人がする仕事と直接持ち上げる仕事は等しくなります。
$$ W_{\text{人}} = W_{\text{直接}} \quad \cdots ① $$
したがって、以下の関係式が成り立ちます。
$$ F \times 4s = mg \times s \quad \cdots ② $$
この式を解くことで、力 \(F\) が直接持ち上げる力 \(mg\) の何倍になるかを求めます。

使用した物理公式

  • 仕事の原理
  • 仕事の定義: \(W = Fx\)
計算過程

式②を \(F\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
F \times 4s &= mg \times s \\[2.0ex]
4F &= mg \\[2.0ex]
F &= \displaystyle\frac{1}{4}mg
\end{aligned}
$$
この結果から、人が綱を引く力 \(F\) は、荷物を直接持ち上げる力 \(mg\) の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍であることがわかります。

計算方法の平易な説明

「仕事の原理」とは、簡単に言えば「物理的に楽はできない」という法則です。滑車を使うと、引く力は小さくて済みますが、その分、綱をたくさん引かなければなりません。結局、力と距離を掛け合わせた「仕事」の総量は、道具を使っても使わなくても同じになります。
人がした仕事は「(人の力 \(F\)) × (綱を引いた長さ \(4s\))」です。
荷物がされた仕事は「(荷物の重さ \(mg\)) × (持ち上がった高さ \(s\))」です。
この二つが等しい(イコール)ので、\(F \times 4s = mg \times s\) という式が作れます。この式を解くと、人の力 \(F\) が荷物の重さ \(mg\) の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) になることがわかります。

結論と吟味

人が綱を引く力は、荷物を直接持ち上げる力の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍です。
人が綱を引く距離(\(4s\))が荷物を持ち上げる高さ(\(s\))の4倍になっていることから、力はその逆数である \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍になるという結果は、仕事の原理と整合性が取れており、物理的に妥当です。

別解: 力のつり合いから考えるアプローチ

思考の道筋とポイント
別解として、力のつり合いから解く方法を考えます。荷物がゆっくりと引き上げられている状況は、力がつり合っている状態とみなすことができます。図から、荷物が何本の綱によって支えられているかを正確に読み取り、力のつり合いの式を立てることが鍵となります。このとき、「1本の軽い綱の張力は、どこでも同じ大きさである」という原則を利用します。
この設問における重要なポイント

  • 力のつり合い:物体が静止しているか、等速直線運動しているとき、物体にはたらく力の合力は0になる。
  • 張力:1本の軽い(質量が無視できる)綱では、どの部分でも張力の大きさは等しい。
  • 図の読解力:荷物と動滑車を一体として見たときに、何本の綱で上向きに支えられているかを見抜く。

具体的な解説と立式
人が綱を引く力の大きさを \(F\) とします。滑車や綱の重さ、摩擦が無視できるため、1本の綱でつながっている部分の張力の大きさは、どこでも \(F\) に等しくなります。

図を見ると、荷物と2つの動滑車は、合計4本の綱によって鉛直上向きに支えられています(荷物に取り付けられた一番下の動滑車を2本の綱が、その上の動滑車を2本の綱が支えているため)。したがって、荷物と動滑車全体(動滑車の質量は無視)にかかる上向きの力の合力は \(4F\) となります。

一方、荷物には鉛直下向きに重力 \(mg\) がはたらいています。
荷物がゆっくりと引き上げられるとき、これらの力はつり合っていると考えることができるので、以下の式が成り立ちます。
$$ 4F = mg \quad \cdots ③ $$

使用した物理公式

  • 力のつり合いの式
計算過程

式③を \(F\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
4F &= mg \\[2.0ex]
F &= \displaystyle\frac{1}{4}mg
\end{aligned}
$$
直接持ち上げる力は \(mg\) ですから、人が引く力 \(F\) はその \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍となります。

計算方法の平易な説明

荷物の視点に立って考えてみましょう。荷物は、自分を吊り上げているロープが何本あるかを見ています。図をよく見ると、荷物とそれにつながる動滑車は、合計4本のロープで真上に引っ張り上げられています。人が引く力は、このロープ1本1本にかかる力と同じです。つまり、「4つの力」で「1つの重さ」を支えている構図になります。したがって、1つあたりの力(=人が引く力)は、荷物の重さの \(\displaystyle\frac{1}{4}\) で済むわけです。

結論と吟味

人が綱を引く力は、荷物を直接持ち上げる力の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍です。この結果は、仕事の原理を用いた解法と完全に一致しており、物理的に正しいことが確認できます。力の比が \(1:4\) であることから、逆に距離の比が \(4:1\) になることも説明でき、両方のアプローチが同じ結論を導くことがわかります。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 仕事の原理
    • 核心: 摩擦や道具の質量が無視できる理想的な状況では、道具を使って力を小さくしても、その分動かす距離が長くなるため、結果として仕事の総量(力 × 距離)は変わらないという法則。
    • 理解のポイント:
      • 人がする仕事: \(W_{\text{人}} = (\text{人が引く力}) \times (\text{綱を引く距離})\)
      • 荷物がされる仕事(直接持ち上げる場合): \(W_{\text{直接}} = (\text{荷物の重さ}) \times (\text{持ち上がる高さ})\)
      • 仕事の原理より、\(W_{\text{人}} = W_{\text{直接}}\) が成り立つ。
  • 力のつり合い(別解のアプローチ)
    • 核心: 物体がゆっくりと動いている(加速度がほぼ0)とき、物体にはたらく力のベクトル和は0になる。
    • 理解のポイント:
      • 荷物と動滑車を一体と見なし、この物体グループにはたらく力を考える。
      • 上向きの力:荷物を支える綱の張力の合計。
      • 下向きの力:荷物にはたらく重力。
      • 「上向きの力の合計 = 下向きの力の合計」という式を立てる。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 動滑車の数が異なる問題:動滑車が1個や3個の場合でも、基本的な考え方は同じ。「荷物を支える綱の本数」を正確に数えることができれば、力のつり合いからすぐに力の比を求められる。また、その本数倍だけ綱を引く距離が長くなるので、仕事の原理も適用できる。
    • 斜面と組み合わせた問題:斜面上の物体を滑車装置で引き上げる場合、直接引き上げる力は重力 \(mg\) ではなく、重力の斜面平行成分 \(mg\sin\theta\) となる。仕事の原理を考える際は、この力に対して仕事がされると考える。
    • 滑車や綱に質量がある問題:「滑車や綱の重さ、摩擦は無視する」という条件がない場合、仕事の原理はそのままでは使えない(道具を持ち上げるための余分な仕事が必要になるため)。この場合は、動滑車の重さも考慮に入れた「力のつり合い」で解くのが基本となる。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「仕事の原理」の適用条件を確認する:まず問題文で「滑車・綱の質量」「摩擦」が無視できるかを確認する。この条件があれば、「仕事の原理」と「力のつり合い」の2つのアプローチが選択肢になる。
    2. 図の構造を徹底的に分析する
      • 力のつり合いで解く場合:「荷物(と動滑車)を直接支えている上向きの綱は何本か?」を数える。これが力の比を決める最も重要な情報となる。
      • 仕事の原理で解く場合:「荷物が \(s\) 上がるとき、人は綱を何\(s\)引く必要があるか?」という距離の関係を図から読み取る。綱の本数が\(n\)本なら、引く距離は\(n\)倍になる。
    3. 問われているものを明確にする:「力」を問われているのか、「仕事」を問われているのかを区別する。今回は「力の何倍か」なので、力の比を求めればよい。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 綱の本数の数え間違い:
    • 誤解: 図に動滑車が2つあるから、力は \(1/2\) 倍だと短絡的に考えてしまう。また、人が引いている綱も本数に含めてしまう。
    • 対策: 荷物と、荷物と一緒に動く「動滑車」を一つのグループと見なす。そのグループを「真上に」引っ張っている綱の本数だけを数える。この問題では、下の動滑車を支える2本と、上の動滑車を支える2本の、合計4本が該当する。人が下向きに引いている綱は、定滑車を介しているだけで、荷物を直接上向きに支えてはいない。
  • 仕事の原理における距離と力の対応ミス:
    • 誤解: \(F \times s = mg \times 4s\) のように、小さい力と小さい距離、大きい力と大きい距離を組み合わせて式を立ててしまう。
    • 対策: 「楽な(小さい)力で引く代わりに、長い距離を引く」というトレードオフの関係を常に意識する。式を立てた後、「小さいはずの力\(F\)に、長いはずの距離\(4s\)が掛かっているか?」「大きいはずの力\(mg\)に、短いはずの距離\(s\)が掛かっているか?」と指差し確認する癖をつける。
  • 定滑車と動滑車の役割の混同:
    • 誤解: すべての滑車が力を小さくする効果を持つと勘違いする。
    • 対策: 役割を明確に区別する。定滑車は「力の向きを変える」だけで力の大きさは変えない。動滑車は「綱を複数本に分けて力を分散させる」ことで、1本あたりの力を小さくする。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 仕事の原理 (\(W_{\text{人}} = W_{\text{直接}}\)):
    • 選定理由: 問題文に「荷物を \(s\) [m] 引き上げるのに、綱を \(4s\) [m] 引く必要があった」という、道具を使った場合と使わない場合の「移動距離」の関係が具体的に与えられている。これは、仕事の原理 (\(F_1 x_1 = F_2 x_2\)) を使うための典型的なヒントである。
    • 適用根拠: この原理は、より根本的な「エネルギー保存則」に基づいている。摩擦などでエネルギーが失われない限り、人が綱に与えたエネルギー(仕事)は、すべて荷物を持ち上げるための位置エネルギーの増加(仕事)に変換される。そのため、入力した仕事と、有効に使われた仕事は等しくなる。
  • 力のつり合いの式 (\(4F = mg\)):
    • 選定理由: 図から、物体にはたらく力の構造が静力学的に分析できるため。特に「ゆっくり引き上げた」という状況は、加速度がほぼ0 (\(a \approx 0\)) とみなせるため、力のつり合いが非常に良い近似で成立する。
    • 適用根拠: ニュートンの運動方程式 \(ma = \text{合力}\) が根拠となる。加速度 \(a=0\) のとき、物体にはたらく力の合力は0になる。この問題では、鉛直上向きの張力の合計と、鉛直下向きの重力の合力が0になる、という形で適用される。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の整理を優先する: 仕事の原理の式 \(F \times 4s = mg \times s\) を立てたら、計算を進める前に両辺に共通する文字(この場合は \(s\))を消去する。これにより、\(4F = mg\) というシンプルな関係式になり、その後の計算ミスや混乱を防げる。
  • 「比」を意識した計算: 問題は「力の何倍か」を問うている。これは比 \(\displaystyle\frac{F}{mg}\) の値を求めることと同じである。\(F = \displaystyle\frac{1}{4}mg\) と求めた後、思考を止めずに「したがって、\(F\) は \(mg\) の \(\displaystyle\frac{1}{4}\) 倍である」と、問題の問いに答える形で結論づける習慣をつける。
  • ダブルチェック(別解による検算): この問題のように、複数のアプローチ(仕事の原理と力のつり合い)が可能な場合、一方の方法で解いた後、時間があればもう一方の方法でも計算してみる。両者で同じ答え (\(\displaystyle\frac{1}{4}\)倍) が得られれば、解答の信頼性は飛躍的に高まる。これは試験本番で非常に有効な検算テクニックである。

92 ポンプの仕事率

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「仕事率とエネルギーの関係」です。仕事率、仕事、エネルギーという3つの重要な物理概念の関係性を理解し、計算に適用できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 仕事率 \(P\) の定義 (\(P = W/t\)): 1秒あたりにする仕事のことで、単位はワット[W]または[J/s]。
  2. 重力による位置エネルギー \(U = mgh\): 質量\(m\)の物体を基準の高さから\(h\)だけ持ち上げたときに蓄えられるエネルギー。これは重力に逆らってする仕事\(W\)に等しい。
  3. 質量と体積の関係(密度): 質量 \(m\)、密度 \(\rho\)、体積 \(V\) の間には \(m = \rho V\) の関係がある。
  4. 単位の変換: 物理計算では、単位を国際単位系(SI単位)に揃えることが基本。特に時間の単位「分」を「秒」に直す必要がある。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. ポンプがした仕事の総量を、仕事率と時間から計算します。(\(W = Pt\))
  2. その仕事が、くみ上げた水の増加した位置エネルギーに等しいと考えます。(\(W = mgh\))
  3. くみ上げた水の質量\(m\)を、求めたい体積\(V\)を使って表します。(\(m = \rho V\))
  4. これらを一つの式にまとめて(\(Pt = \rho Vgh\))、水の体積\(V\)を求めます。

思考の道筋とポイント
「仕事率」が与えられているので、まず「仕事」と「時間」の関係を考えます。ポンプがした仕事が何に使われたのかを考えると、それは「水を高いところに持ち上げること」、つまり「水の位置エネルギーを増加させること」に使われています。問題で問われているのは「水の体積」ですが、位置エネルギーの公式で必要なのは「質量」です。したがって、問題文で与えられた水の密度を用いて、「体積」を「質量」に変換するプロセスが必要になります。これらの関係を一つの式にまとめることができれば、答えを導くことができます。
この設問における重要なポイント

  • 仕事率 \(P\) [W] とは、1秒あたりにする仕事 \(P\) [J/s] のことである。
  • ポンプが \(t\) 秒間でした仕事の総量 \(W\) は \(W = Pt\) で計算できる。
  • 質量 \(m\) の物体を高さ \(h\) だけ持ち上げるのに必要な仕事は \(W = mgh\) である。
  • 水の質量 \(m\) は、密度 \(\rho\) と体積 \(V\) を用いて \(m = \rho V\) と表せる。

具体的な解説と立式
ポンプの仕事率を \(P\) [W]、稼働時間を \(t\) [s] とすると、この間にポンプがする仕事の総量 \(W_{\text{ポンプ}}\) は、
$$ W_{\text{ポンプ}} = P \times t \quad \cdots ① $$
と表せます。

一方、くみ上げる水の体積を \(V\) [m³]、水の密度を \(\rho\) [kg/m³] とすると、くみ上げる水の質量 \(m\) [kg] は、
$$ m = \rho V \quad \cdots ② $$
となります。

この質量 \(m\) の水を高さ \(h\) [m] まで持ち上げるのに必要な仕事 \(W_{\text{水}}\) は、重力に逆らってする仕事であり、増加する位置エネルギーに等しくなります。重力加速度の大きさを \(g\) [m/s²] とすると、
$$ W_{\text{水}} = mgh \quad \cdots ③ $$
と表せます。

ポンプがした仕事がすべて水を持ち上げるために使われると考えると、\(W_{\text{ポンプ}} = W_{\text{水}}\) が成り立ちます。①と③より、
$$ Pt = mgh \quad \cdots ④ $$
となります。さらに、この式に②を代入することで、求めたい体積 \(V\) を含む関係式を導くことができます。
$$ Pt = (\rho V)gh \quad \cdots ⑤ $$

使用した物理公式

  • 仕事率: \(P = \displaystyle\frac{W}{t}\)
  • 重力による位置エネルギー(重力に逆らう仕事): \(W = mgh\)
  • 質量と密度の関係: \(m = \rho V\)
計算過程

まず、問題文で与えられた値を整理し、単位をSI基本単位(秒、メートル、キログラム)に揃えます。

  • 仕事率: \(P = 490\) [W]
  • 時間: \(t = 20 \text{分} = 20 \times 60 = 1200\) [s]
  • 高さ: \(h = 10\) [m]
  • 水の密度: 水1m³の質量が \(1.0 \times 10^3\) kg なので、\(\rho = 1.0 \times 10^3\) [kg/m³]
  • 重力加速度: \(g = 9.8\) [m/s²] (特に指定がないが、物理定数としてこの値を用いる)

これらの値を、立式した関係式 ⑤ \(Pt = \rho Vgh\) に代入します。
$$
490 \times (20 \times 60) = (1.0 \times 10^3 \times V) \times 9.8 \times 10
$$
この式を、求めたい体積 \(V\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V &= \displaystyle\frac{490 \times 20 \times 60}{1.0 \times 10^3 \times 9.8 \times 10} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{490 \times 1200}{1000 \times 98} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{490 \times 12}{10 \times 98}
\end{aligned}
$$
ここで、\(490 = 5 \times 98\) であることを利用して式を簡単にします。
$$
\begin{aligned}
V &= \displaystyle\frac{(5 \times 98) \times 12}{10 \times 98} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{5 \times 12}{10} \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{60}{10} \\[2.0ex]
&= 6.0
\end{aligned}
$$
したがって、くみ上げられる水の体積は \(6.0\) [m³] となります。

計算方法の平易な説明

まず、ポンプが20分間でどれだけの「仕事」をしたかを計算します。「仕事率」は1秒あたりの仕事量なので、\(490 \text{ [W]} \times 20 \text{ [分]} \times 60 \text{ [秒/分]}\) で、仕事の総量が出ます。
次に、この仕事が何に使われたかを考えます。それは「水を10mの高さに持ち上げる」ことです。
「水を持ち上げる仕事」は「(水の重さ) × (高さ)」で計算できます。水の重さは「(水の体積) × (1m³あたりの質量) × (重力加速度)」です。
「ポンプがした仕事の総量」=「水を持ち上げる仕事」という等式を立て、求めたい「水の体積」について解けば答えが出ます。

結論と吟味

20分間でくみ上げることができる水の体積は \(6.0 \text{ m}^3\) です。
仕事率490Wは、\(490 = 50 \times 9.8\) なので、質量50kgの物体を毎秒1mの速さで持ち上げる能力に相当します。20分間(1200秒)では、\(50 \text{ [kg]} \times 1200 \text{ [s]} = 60000\) [kg] の水を1mの高さまで持ち上げることができます。今回は10mの高さまで持ち上げるので、持ち上げられる水の総質量は \(60000 \div 10 = 6000\) [kg] となります。水の密度は 1000 kg/m³ なので、その体積は \(6000 \text{ [kg]} \div 1000 \text{ [kg/m³]} = 6.0 \text{ [m³]}\) となり、計算結果と一致し、物理的に妥当であることがわかります。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 仕事率と仕事、時間の関係
    • 核心:仕事率 \(P\) [W] は、単位時間(1秒)あたりに行う仕事 [J] の量を表す。したがって、時間 \(t\) [s] の間に行われる仕事の総量 \(W\) [J] は、\(W = Pt\) という単純な掛け算で求められる。
    • 理解のポイント:
      • 仕事率の単位 [W] は [J/s] と等価であることを理解する。
      • この問題では、ポンプが供給したエネルギーの総量をまず計算することが出発点となる。
  • 仕事とエネルギーの関係
    • 核心:物体に仕事 \(W\) をすると、その物体のエネルギーが \(W\) だけ変化する。この問題では、ポンプが水にした仕事が、そのまま水の重力による位置エネルギーの増加に変換される。
    • 理解のポイント:
      • 重力に逆らって質量 \(m\) の物体を高さ \(h\) だけ持ち上げる仕事は、位置エネルギーの増加分 \(mgh\) に等しい。
      • したがって、\(W_{\text{ポンプ}} = \Delta U_{\text{位置}} = mgh\) という関係が成り立つ。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 効率が与えられている問題:「仕事率490Wのポンプを使い、効率80%で…」のように、効率が与えられる場合がある。この場合、ポンプがした仕事 \(Pt\) のうち、実際に水を持ち上げるのに使われた仕事は \(Pt \times 0.8\) となる。\(Pt \times (\text{効率}) = mgh\) という式を立てる必要がある。
    • 運動エネルギーの変化も伴う問題:「静止していた水を、高さ10mまでくみ上げ、秒速5mで放出した」という場合、ポンプがした仕事は「位置エネルギーの増加」と「運動エネルギーの増加」の両方に使われる。この場合、\(Pt = mgh + \displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) という式を立てる。
    • 抵抗力がはたらく問題:「空気抵抗を受けながら物体を一定の速さで引き上げる」場合、モーターがする仕事は「位置エネルギーの増加」と「抵抗力に逆らう仕事」の和になる。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 単位の確認と統一:問題文に出てくる物理量の単位をチェックし、すべてSI基本単位系(メートル、キログラム、秒)に変換する。特に「分」→「秒」、「cm」→「m」、「g」→「kg」の変換は忘れやすい。
    2. エネルギーの流れを追う:「誰が(何が)エネルギーを供給したのか?」「そのエネルギーは何に変換されたのか?」というエネルギーの流れを明確にする。この問題では「ポンプがエネルギーを供給」→「水の持つ位置エネルギーに変換」というシンプルな流れである。
    3. 未知数と既知数を整理する:求めたいものは何か(この場合は水の体積 \(V\))を明確にし、それを計算するために必要な他の物理量(質量 \(m\))との関係式(\(m = \rho V\))を準備する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 時間の単位換算忘れ:
    • 誤解: 時間の \(t\) に20(分)をそのまま代入して計算してしまう。
    • 対策: 仕事率の単位 [W] が [J/s]、つまり「秒」を基準にしていることを常に意識する。計算を始める前に、問題文中の「分」や「時間」をすべて「秒」に直す癖をつける。\(t = 20 \times 60\) と、式の中に換算過程を明記するとミスが減る。
  • 質量と体積の混同:
    • 誤解: 位置エネルギーの公式 \(mgh\) の \(m\) に、体積 \(V\) を直接代入しようとして混乱する。
    • 対策: 「質量(m) [kg]」と「体積(V) [m³]」は異なる物理量であることを明確に意識する。両者をつなぐのが「密度(\(\rho\)) [kg/m³]」であり、\(m = \rho V\) の関係を常に念頭に置く。
  • 重力加速度 \(g\) の掛け忘れ:
    • 誤解: 位置エネルギーを \(mh\) と計算してしまう。
    • 対策: 重力 \(mg\) [N] という「力」で、距離 \(h\) [m] を動かす仕事が位置エネルギー \(mgh\) [J] である、という定義を正確に思い出す。「重さ」と「質量」の違いを意識し、力を計算する際には必ず \(g\) が必要になることを再確認する。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 仕事率の定義式 (\(W = Pt\)):
    • 選定理由: 問題文に「仕事率 \(P=490\) W」と「時間 \(t=20\) 分」が与えられている。この2つの情報から計算できる最も基本的な物理量は「仕事の総量 \(W\)」であるため、この公式を選択する。
    • 適用根拠: 仕事率の定義そのものである。仕事率が一定であれば、仕事量は時間に比例して増加する。
  • 重力に逆らう仕事の式 (\(W = mgh\)):
    • 選定理由: ポンプの仕事の結果として「水が高さ10mに持ち上げられた」という現象が起きている。これは、水が重力に逆らって移動したことを意味し、その際にされた仕事は位置エネルギーの増加分として計算できるため、この公式を選択する。
    • 適用根拠: これは、力 \(F=mg\) で距離 \(h\) を動かしたときの仕事 \(W=Fh\) の計算に他ならない。エネルギー保存則の観点からは、された仕事が位置エネルギーに変換されたと解釈できる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 大きな数の計算の工夫: \(490 \times 20 \times 60 = (1.0 \times 10^3 \times V) \times 9.8 \times 10\) のような式では、すぐに全ての数を掛け合わせるのではなく、約分できる組み合わせを探す。
    • 例えば、右辺の \(9.8 \times 10 = 98\) と、左辺の \(490\) に着目する。\(490 \div 98 = 5\) であることに気づけば、計算が大幅に簡略化される。
    • 日頃から \(9.8\) の倍数(\(19.6, 29.4, 49, 98\) など)に慣れておくと、計算が速く正確になる。
  • 指数の扱い: \(1.0 \times 10^3\) のような指数を含む計算では、指数部分と係数部分を分けて計算するとミスが少ない。
  • 単位による検算: 最終的に体積 \(V\) を求める式 \(V = \displaystyle\frac{Pt}{\rho gh}\) ができたとき、右辺の単位を計算してみる。「\(\displaystyle\frac{[\text{W}] \cdot [\text{s}]}{[\text{kg/m³}] \cdot [\text{m/s²}] \cdot [\text{m}]}\)」→「\(\displaystyle\frac{[\text{J/s}] \cdot [\text{s}]}{[\text{kg/m³}] \cdot [\text{m/s²}] \cdot [\text{m}]}\)」→「\(\displaystyle\frac{[\text{J}]}{[\text{kg} \cdot \text{m/s²}] \cdot [\text{1/m²}]}\)」→「\(\displaystyle\frac{[\text{N} \cdot \text{m}]}{[\text{N}] \cdot [\text{1/m²}]} = [\text{m³}]\)」となり、確かに体積の単位になることが確認できる。このような単位チェックは、立式の誤りを発見するのに有効である。

93 弾性力による位置エネルギー

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「弾性力による位置エネルギーの計算」です。ばねの伸びと蓄えられるエネルギーの関係を正しく理解し、計算できるかが問われます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 弾性力による位置エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\): ばねが蓄えるエネルギーを計算するための基本公式。
  2. 公式中の「\(x\)」の物理的意味: \(x\)はばねの全長ではなく、「自然の長さからの変化量(伸びまたは縮み)」である。
  3. エネルギーの差の計算: ある状態から別の状態へ変化したときのエネルギーの変化量は、それぞれの状態のエネルギーの引き算で求める。
  4. 単位の統一: 物理計算の基本として、ばね定数の単位[N/m]に合わせて、長さの単位をセンチメートル(cm)からメートル(m)に変換することが不可欠。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. ばねの全長が80cmのときと90cmのときの、それぞれの「自然の長さからの伸び」を計算します。
  2. それぞれの状態における弾性力による位置エネルギーを、公式を用いて個別に算出します。
  3. 算出した2つのエネルギーの差を求めることで、答えを導き出します。

思考の道筋とポイント
この問題は、ばねが異なる2つの状態にあるときの「弾性力による位置エネルギーの差」を問うています。解法の核心は、弾性エネルギーの公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) を正しく適用することにあります。特に、この公式に出てくる \(x\) が「ばねの全長」ではなく、「自然の長さからの伸び(または縮み)」であることを正確に理解しているかが試されます。また、物理計算の基本として、与えられた数値をSI単位系(この場合はメートル)に統一してから計算することも非常に重要です。
この設問における重要なポイント

  • 弾性力による位置エネルギーの公式は \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) である。
  • 公式の \(x\) は、ばねの「自然の長さからの伸びまたは縮み」の大きさを表す。
  • 計算を行う前に、すべての長さの単位をセンチメートル(cm)からメートル(m)に変換する必要がある。

具体的な解説と立式
まず、問題で与えられた値をSI単位系に変換し、各状態でのばねの「伸び」を計算します。

  • ばね定数: \(k = 4.0\) [N/m]
  • 自然の長さ: \(l_0 = 60 \text{ cm} = 0.60 \text{ m}\)

次に、2つの状態それぞれについて、ばねの全長から自然の長さを引いて「伸び」を求めます。

1. ばねの全長が \(l_1 = 80 \text{ cm} = 0.80 \text{ m}\) のとき

このときの伸びを \(x_1\) とすると、
$$ x_1 = l_1 – l_0 = 0.80 – 0.60 = 0.20 \text{ [m]} $$
このときの弾性エネルギーを \(U_1\) とすると、
$$ U_1 = \displaystyle\frac{1}{2}kx_1^2 $$

2. ばねの全長が \(l_2 = 90 \text{ cm} = 0.90 \text{ m}\) のとき

このときの伸びを \(x_2\) とすると、
$$ x_2 = l_2 – l_0 = 0.90 – 0.60 = 0.30 \text{ [m]} $$
このときの弾性エネルギーを \(U_2\) とすると、
$$ U_2 = \displaystyle\frac{1}{2}kx_2^2 $$

求めたいのは、これら2つの状態におけるエネルギーの差 \(\Delta U\) です。
$$ \Delta U = U_2 – U_1 = \displaystyle\frac{1}{2}kx_2^2 – \displaystyle\frac{1}{2}kx_1^2 $$

使用した物理公式

  • 弾性力による位置エネルギー: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)
計算過程

各状態での伸び \(x_1 = 0.20 \text{ m}\), \(x_2 = 0.30 \text{ m}\) と、ばね定数 \(k = 4.0 \text{ N/m}\) を用いて、エネルギーの差 \(\Delta U\) を計算します。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= U_2 – U_1 \\[2.0ex]
&= \left( \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (0.30)^2 \right) – \left( \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (0.20)^2 \right) \\[2.0ex]
&= (2.0 \times 0.090) – (2.0 \times 0.040) \\[2.0ex]
&= 0.18 – 0.08 \\[2.0ex]
&= 0.10 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$
計算を効率化するために、\(\displaystyle\frac{1}{2}k\) でくくる方法もあります。
$$
\begin{aligned}
\Delta U &= \displaystyle\frac{1}{2}k(x_2^2 – x_1^2) \\[2.0ex]
&= \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (0.30^2 – 0.20^2) \\[2.0ex]
&= 2.0 \times (0.09 – 0.04) \\[2.0ex]
&= 2.0 \times 0.05 \\[2.0ex]
&= 0.10 \text{ [J]}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

ばねに蓄えられるエネルギーは、ばねが「自然の長さからどれだけ伸びたか」によって決まります。

  1. まず、それぞれのケースで「伸び」が何cmになるかを計算します。
    • 全長80cmのとき: \(80\text{cm} – 60\text{cm} = 20\text{cm}\) の伸び
    • 全長90cmのとき: \(90\text{cm} – 60\text{cm} = 30\text{cm}\) の伸び
  2. 物理の計算では単位をメートル(m)に揃えるのが基本なので、20cmを0.2m、30cmを0.3mに直します。
  3. それぞれの伸びに対応するエネルギーを、公式 \(U = \frac{1}{2} \times k \times (\text{伸び})^2\) を使って計算します。
  4. 最後に、90cmまで伸ばしたときのエネルギーから、80cmまで伸ばしたときのエネルギーを引き算すれば、その「差」が求まります。
結論と吟味

弾性力による位置エネルギーの差は \(0.10 \text{ J}\) です。
ばねは伸びが大きくなるほど硬く感じられる(より大きな力が必要になる)ため、同じ10cmを伸ばすにも、すでにある程度伸びている状態からの方がより多くの仕事(エネルギー)が必要です。したがって、エネルギーの差が正の値になるのは物理的に妥当です。計算過程においても、単位の換算と公式の適用が正しく行われています。


【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 弾性力による位置エネルギーの公式
    • 核心:ばねが自然の長さから \(x\) だけ変形したときに蓄える弾性エネルギー \(U\) は、\(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) で与えられる。ここで \(k\) はばね定数である。
    • 理解のポイント:
      • エネルギーは変形量 \(x\) の 2乗 に比例する。つまり、伸びが2倍になるとエネルギーは4倍になる。
      • エネルギーは、ばねが「伸びている」か「縮んでいる」かにはよらず、変形量の大きさだけで決まる。
  • \(x\) の定義の正確な理解
    • 核心:公式中の \(x\) は、ばねの「全長」ではなく、あくまで「自然の長さからの変化量(伸びまたは縮み)」である。
    • 理解のポイント:
      • 計算を始める前に、必ず「自然の長さ」を基準として「伸び」または「縮み」を計算する必要がある。
      • この問題では、\(x_1 = (\text{全長 } 80\text{cm}) – (\text{自然長 } 60\text{cm})\)、\(x_2 = (\text{全長 } 90\text{cm}) – (\text{自然長 } 60\text{cm})\) のように、引き算のステップが不可欠である。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • ばねを伸ばすのに必要な「仕事」を問う問題:「自然長から \(x\) だけ伸ばすのに必要な仕事は?」と問われた場合、それはその状態での弾性エネルギー \(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) に等しい。「\(x_1\) の状態から \(x_2\) の状態まで伸ばすのに必要な仕事は?」と問われた場合は、エネルギーの差 \(\Delta U = U_2 – U_1\) を計算することになり、本質的にこの問題と同じである。
    • ばね振り子のエネルギー保存則の問題:おもりが振動している最中のある瞬間について、「運動エネルギーと弾性エネルギーの和は一定」というエネルギー保存則を立てる問題。このときも、弾性エネルギーの計算には「自然長からの伸び・縮み」を正しく使う必要がある。
    • 鉛直ばね振り子の問題:鉛直に吊るされたばねでは、おもりの重力によってあらかじめ伸びた「つり合いの位置」が存在する。弾性エネルギーを計算する際は、この「つり合いの位置」ではなく、あくまで「自然長の位置」を基準に \(x\) を測る必要がある。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 「自然の長さ」はどこか?:問題文から自然の長さ \(l_0\) を正確に読み取る。これが全ての計算の基準点となる。
    2. 単位系の統一:ばね定数 \(k\) の単位が [N/m] で与えられているため、長さはすべてメートル [m] に統一する必要がある。cmで与えられた長さを最初にmに変換する。
    3. 問われているのは「エネルギー」か「エネルギーの差」か?:「〜のときのエネルギーはいくらか」なら \(U\) そのものを、「〜のときと〜のときのエネルギーの差は」なら \(\Delta U = U_2 – U_1\) を計算する。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • \(x\) にばねの全長を代入するミス:
    • 誤解: \(U = \displaystyle\frac{1}{2}k(0.80)^2\) のように、ばねの全長を \(x\) として計算してしまう。
    • 対策: 公式 \(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) を覚える際に、「\(x\) は自然長からの変化量」とセットで、声に出して覚える。問題を解く前に、\(x_1 = \dots\), \(x_2 = \dots\) と、伸びを計算するステップを必ず書くように習慣づける。
  • 単位換算のミス:
    • 誤解: \(x_1 = 80 – 60 = 20\) [cm] のまま計算してしまい、\(U = \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (20)^2\) のように、単位が混在した式を立ててしまう。
    • 対策: 計算を始める前に、問題文に出てくる数値をすべてSI単位系に変換して書き出す癖をつける。「\(l_0 = 60 \text{ cm} = 0.60 \text{ m}\)」「\(l_1 = 80 \text{ cm} = 0.80 \text{ m}\)」のように、換算後の値を明確にしてから立式に進む。
  • エネルギーの差の計算ミス:
    • 誤解: エネルギーの差を \(\Delta U = \displaystyle\frac{1}{2}k(x_2 – x_1)^2\) のように、伸びの差を2乗して計算してしまう。
    • 対策: 「エネルギーの差」は「(後のエネルギー)引く(前のエネルギー)」であると定義に立ち返る。つまり、\((x_2^2 – x_1^2)\) であって \((x_2 – x_1)^2\) ではないことを明確に区別する。因数分解の公式 \(a^2 – b^2 = (a-b)(a+b)\) を思い出すと間違いにくい。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 弾性力による位置エネルギーの公式 (\(U = \displaystyle\frac{1}{2}kx^2\)):
    • 選定理由: 問題が「弾性力による位置エネルギー」について直接問うているため、この公式を選択するのは自明である。
    • 適用根拠: この公式は、ばねを自然長から \(x\) だけ伸ばすのに必要な仕事を表している。ばねの力(弾性力)はフックの法則 \(F=kx\) に従い、伸びに比例して直線的に増加する。したがって、ばねを伸ばすのに必要な仕事は、\(F-x\)グラフ(力と変位のグラフ)を描いたときの三角形の面積として求められる。この三角形の面積が「底辺 \(x\) × 高さ \(kx\) ÷ 2」となり、\(\displaystyle\frac{1}{2}kx^2\) という公式が導かれる。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 因数分解の活用: \(\Delta U = \displaystyle\frac{1}{2}kx_2^2 – \displaystyle\frac{1}{2}kx_1^2\) を計算する際、共通因数 \(\displaystyle\frac{1}{2}k\) でくくると計算が楽になることが多い。
    • \(\Delta U = \displaystyle\frac{1}{2}k(x_2^2 – x_1^2)\)
    • この形にすれば、掛け算が一回で済む。さらに、\(x_2^2 – x_1^2 = (x_2-x_1)(x_2+x_1)\) を利用すると、\(\Delta U = \displaystyle\frac{1}{2}k(x_2-x_1)(x_2+x_1)\) となり、2乗の計算を避けられるため、暗算や筆算がより簡単になる場合がある。
    • 今回の例:\(\Delta U = \displaystyle\frac{1}{2} \times 4.0 \times (0.30-0.20)(0.30+0.20) = 2.0 \times (0.10) \times (0.50) = 0.10\) [J]
  • 小数の計算: \(0.2^2 = 0.04\), \(0.3^2 = 0.09\) のような小数の2乗計算は、焦ると小数点の位置を間違えやすい。自信がなければ筆算で確認する。
  • 有効数字の意識: 問題文の数値が「4.0 N/m」「60cm」など2桁で与えられているため、最終的な答えも有効数字2桁で「0.10 J」と答えるのが適切である。単に「0.1 J」と答えるのではなく、測定の精度を意識した表記を心がける。
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94 運動エネルギーと仕事

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