Step 2
449 原子量
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「同位体の存在比を用いた原子量の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 同位体: 同じ元素(原子番号が同じ)でありながら、中性子の数が異なるために質量数が異なる原子のことです。化学的性質はほぼ同じですが、質量が異なります。
- 原子量: 自然界に存在する元素の同位体のうち、それぞれの質量とその存在比を考慮して計算された、原子の質量の平均値です。周期表に載っているのはこの原子量です。
- 加重平均: 複数の数値の平均を求める際に、それぞれの数値の重要度や寄与度(重み)を考慮して計算する方法です。原子量の計算では、存在比がこの「重み」に相当します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 各同位体の質量に、その存在比率(パーセンテージ)を掛け合わせます。
- それらの値をすべて足し合わせることで、加重平均を求めます。
- 最後に、問題で指定された有効数字に結果を丸めます。
思考の道筋とポイント
原子量とは、自然界に存在する同位体の質量の平均値です。ただし、単純に質量の和を同位体の種類数で割るのではなく、それぞれの同位体が自然界にどれくらいの割合で存在するか(存在比)を考慮した「加重平均」を計算する必要があります。たくさん存在する同位体の質量は平均値に大きく影響し、少ししか存在しない同位体の質量はあまり影響しません。この「重み」が「存在比」に相当します。
この設問における重要なポイント
- 原子量は、各同位体の質量と存在比から計算される加重平均である。
- 原子量 = (同位体1の質量 × 存在比率1) + (同位体2の質量 × 存在比率2) + …
- 存在比 \(a : b\) は、比率に直すとそれぞれ \(\displaystyle\frac{a}{a+b}\) と \(\displaystyle\frac{b}{a+b}\) になる。
具体的な解説と立式
銅の原子量を\(M\)とします。問題で与えられた同位体の情報と存在比は以下の通りです。
- 同位体1: 質量 \(M_1 = 62.93 \text{ u}\), 存在比 \(r_1 = 69.2\)
- 同位体2: 質量 \(M_2 = 64.93 \text{ u}\), 存在比 \(r_2 = 30.8\)
存在比の合計は \(69.2 + 30.8 = 100.0\) となるため、存在比の数値をそのままパーセンテージとして扱うことができます。
したがって、同位体1の存在比率は \(\displaystyle\frac{69.2}{100}\)、同位体2の存在比率は \(\displaystyle\frac{30.8}{100}\) となります。
銅の原子量\(M\)は、これらの加重平均として次のように計算されます。
$$ M = M_1 \times \frac{r_1}{r_1+r_2} + M_2 \times \frac{r_2}{r_1+r_2} $$
値を代入すると、
$$ M = 62.93 \times \frac{69.2}{100} + 64.93 \times \frac{30.8}{100} $$
使用した物理公式
- 原子量の定義式(加重平均): \(M = M_1 \times \displaystyle\frac{r_1}{r_1+r_2} + M_2 \times \displaystyle\frac{r_2}{r_1+r_2}\)
$$
\begin{aligned}
M &= 62.93 \times 0.692 + 64.93 \times 0.308 \\[2.0ex]&= 43.54756 + 19.99844 \\[2.0ex]&= 63.546
\end{aligned}
$$
問題文で有効数字3桁で求めよと指示されているので、計算結果の \(63.546\) を上から4桁目で四捨五入します。
$$ M \approx 63.5 $$
原子量というのは、たくさんの原子を集めてきたときの「平均の重さ」のことです。この問題の場合、銅原子がもし100個あったとすると、そのうち69.2個は重さ62.93の軽い銅で、残りの30.8個は重さ64.93の重い銅だ、と考えることができます。
全体の重さの合計は「\(62.93 \times 69.2 + 64.93 \times 30.8\)」で計算できます。
この合計を、原子の個数100で割ることで、平均の重さ(原子量)が求まります。
銅の原子量は \(63.5 \text{ u}\) です。この値は、2つの同位体の質量 \(62.93 \text{ u}\) と \(64.93 \text{ u}\) の間にあり、存在比の大きい軽い方の同位体(\(62.93 \text{ u}\))に近い値になっています。これは加重平均の結果として物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 原子量の定義(加重平均):
- 核心: この問題の核心は、「原子量」が単なる質量の平均ではなく、自然界における同位体の「存在比」を重みとして考慮した「加重平均」であるという一点に尽きます。
- 理解のポイント:
- 同位体: 同じ元素(陽子の数が同じ)でも、中性子の数が違うために質量が異なる原子たちのことです。
- 原子量: 周期表に載っている原子の質量は、これら複数の同位体の質量を、その存在比に応じて平均した値です。たくさん存在する同位体の質量が、平均値に強く影響を与えます。
- 公式: 原子量 = (同位体Aの質量 × Aの存在比率) + (同位体Bの質量 × Bの存在比率) + …
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 逆算問題: 原子量と片方の同位体の情報(質量や存在比)が与えられ、もう一方の同位体の質量や存在比を未知数として計算させる問題。
- 存在比を未知数とする問題: 2種類の同位体の質量と原子量が与えられ、それぞれの存在比を \(x\) と \(1-x\) (または \(100-x\))とおいて方程式を解く問題。
- 質量数による近似計算: 精密な質量ではなく、質量数(例: 塩素 35と塩素37)を質量の代わりに使って原子量を概算させる問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 与えられた数値の確認: 問題で与えられているのが「精密な質量」なのか、それとも「質量数」なのかを最初に確認します。
- 存在比の形式を確認: 存在比が「\(a:b\)」の形式か、「パーセント(%)」の形式かを確認します。\(a:b\) の場合、比率の合計が100になるとは限らないので、分母は \(a+b\) として計算する必要があります。(この問題では \(69.2+30.8=100\) なので、パーセントと同じように扱えます)
- 有効数字の桁数: 計算を始める前に、答えに求められる有効数字の桁数を必ず確認し、マークしておきましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 単純平均の計算:
- 誤解: 2つの同位体の質量を単純に足して2で割ってしまう。(例: \((62.93 + 64.93) \div 2 = 63.93\))
- 対策: 「原子量」という言葉を見たら、脊髄反射で「加重平均!」と思い出すようにしましょう。存在比を無視してはいけない、と強く意識することが重要です。
- 比率の計算ミス:
- 誤解: 存在比が \(3:1\) のような簡単な整数比で与えられたときに、うっかり3や1をそのまま掛けてしまう。
- 対策: 存在比は必ず「全体に対する割合」に直してから計算する癖をつけます。\(3:1\) ならば、全体は \(3+1=4\) なので、それぞれの割合は \(\displaystyle\frac{3}{4}\) と \(\displaystyle\frac{1}{4}\) になります。
- 有効数字の処理ミス:
- 誤解: 計算の途中(例: \(62.93 \times 0.692\) の結果)で四捨五入してしまい、最終的な答えに誤差が生じる。
- 対策: 有効数字の処理は、すべての足し算・引き算が終わった最後の最後に行うのが鉄則です。計算途中では、有効数字より1〜2桁多く残して計算を進めましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 加重平均の式:
- 選定理由: 問題が「原子量」を求めているため、その定義式である加重平均の式を選択するのは必然です。
- 適用根拠: なぜ加重平均なのか?それは、原子量が「自然界から無作為に銅原子を1個取り出したとき、その質量の期待値はいくつか?」という問いに答えるものだからです。たくさん存在する同位体ほど、取り出される確率(=存在比)が高くなります。したがって、各同位体の質量にその確率(重み)を掛けて足し合わせる「加重平均」こそが、その元素の平均的な姿を最もよく表す指標となるのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式の全体像を先に書く: まず \(M = 62.93 \times \displaystyle\frac{69.2}{100} + 64.93 \times \displaystyle\frac{30.8}{100}\) という最終的な式を書き出します。これにより、何を計算すべきかが明確になります。
- 項ごとに計算する: 上の式の2つの項、\(62.93 \times 0.692\) と \(64.93 \times 0.308\) をそれぞれ別々に、間違いのないように筆算などで計算します。
- 概算で検算する: 計算を実行する前に、おおよその値を予測します。例えば、\(63 \times 0.7 + 65 \times 0.3 = 44.1 + 19.5 = 63.6\) のように、簡単な数値で概算します。精密な計算結果(\(63.546\))がこの概算値と大きく異なっていなければ、計算ミスをしている可能性は低いと判断できます。
- 答えの妥当性を吟味する: 最終的な答え(\(63.5\))が、もとの2つの同位体の質量(\(62.93\)と\(64.93\))の間に収まっているかを確認します。さらに、存在比の大きい方(\(69.2\%\))の質量(\(62.93\))に近い値になっているかも確認します。この2点を満たしていれば、答えは妥当である可能性が高いです。
450 同位体の存在比
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「原子量と同位体の情報から、未知の存在比を逆算する計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 原子量の定義: 原子量は、自然界に存在する同位体の質量を、その存在比で加重平均した値です。
- 加重平均の公式: (値A × 重みA) + (値B × 重みB) + … = 全体の平均値。この問題では、値が同位体の質量、重みが存在比率にあたります。
- 一次方程式: 未知数(この問題では存在比)を文字でおき、等式を立てて解を求める数学的な手法です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 求める同位体の存在比を未知数 \(x\) [%] とおきます。
- もう一方の同位体の存在比は、全体の100%から \(x\) を引いた \((100-x)\) [%] と表せます。
- 原子量の加重平均の公式に、与えられた質量(質量数で代用)、原子量、そして \(x\) を用いた存在比率を代入して方程式を立てます。
- 立てた一次方程式を解き、\(x\) の値を求めます。
思考の道筋とポイント
この問題は、同位体の質量と存在比から原子量を求める計算の「逆算」バージョンです。原子量という「平均値」が、2つの同位体の質量(35uと37u)のどちらに近いかを見ることで、どちらの同位体が多く存在するのかを大まかに推測できます。原子量35.5は、35と37のちょうど真ん中(36)よりも35に近いため、質量35uの塩素原子の方が多く存在することがわかります。この推測を元に、具体的な存在比を方程式を立てて計算します。
この設問における重要なポイント
- 原子量 = (同位体1の質量 × 存在比率1) + (同位体2の質量 × 存在比率2)
- 2つの同位体の存在比率の和は1(または100%)になる。
- 求める存在比を\(x\)%とすると、もう一方は \((100-x)\)% と表せる。
具体的な解説と立式
求める質量35uの塩素原子の存在比を \(x\) [%] とします。
塩素の同位体は質量35uと37uの2種類しかないので、質量37uの塩素原子の存在比は、全体(100%)から\(x\)%を引いた \((100-x)\) [%] と表すことができます。
原子量は、これらの同位体の質量を加重平均したものです。問題文では「質量35u」とありますが、このような計算では通常、精密な質量のかわりに質量数(35と37)をそのまま用いて計算します。
原子量の定義式に、それぞれの値と存在比率(%を小数に直したもの)を代入すると、次の方程式が成り立ちます。
$$ 35 \times \frac{x}{100} + 37 \times \frac{100-x}{100} = 35.5 $$
使用した物理公式
- 原子量の定義式(加重平均)
上記で立てた方程式を解いて、\(x\)の値を求めます。
まず、計算しやすくするために両辺に100を掛けて、分母を払います。
$$
\begin{aligned}
35x + 37(100-x) &= 35.5 \times 100 \\[2.0ex]35x + 3700 – 37x &= 3550 \\[2.0ex]-2x &= 3550 – 3700 \\[2.0ex]-2x &= -150 \\[2.0ex]x &= 75
\end{aligned}
$$
求めたい「質量35uの塩素」の割合を\(x\)パーセントとします。すると、相方である「質量37uの塩素」の割合は、残りの \((100-x)\) パーセントになります。
原子量の計算は「(重さA × Aの割合) + (重さB × Bの割合) = 平均の重さ」というルールなので、これに当てはめて、
「\(35 \times \displaystyle\frac{x}{100} + 37 \times \displaystyle\frac{100-x}{100} = 35.5\)」
という方程式を作ります。あとはこの方程式を解けば、\(x\)の値が75であることがわかります。
質量35uの塩素原子の存在比は75%です。
これにより、質量37uの塩素原子の存在比は \(100 – 75 = 25\)% となります。存在比は \(75:25\)、つまり \(3:1\) です。
原子量35.5は、質量35と37を \(3:1\) に内分する点に相当し、\(35 \times \displaystyle\frac{3}{4} + 37 \times \displaystyle\frac{1}{4} = 26.25 + 9.25 = 35.5\) となり、計算結果が正しいことが確認できます。また、原子量35.5は、存在比の大きい35uの方に近い値となっており、物理的に妥当です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 原子量の定義式の逆算:
- 核心: この問題は、前問(449)で用いた「原子量は同位体の質量の加重平均である」という定義式を、今度は方程式として利用し、未知の「存在比」を求める逆算問題です。
- 理解のポイント:
- 原子量の公式: 原子量 = (同位体Aの質量 × Aの存在比率) + (同位体Bの質量 × Bの存在比率)
- この公式は、原子量、各同位体の質量、各同位体の存在比率という4つの要素で構成されています。このうち3つの要素が分かっていれば、残りの1つを方程式を解くことで求めることができます。
- 今回は、未知の存在比を\(x\)と置くことで、一次方程式を立てて解く問題に帰着させます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 未知数がもう一方の同位体の質量: 2つの同位体の存在比と原子量が与えられ、片方の同位体の質量を未知数\(m\)として方程式を解く問題。
- 同位体が3種類: 3種類の同位体が存在し、未知数が2つになる場合。他の条件(例: 2つの同位体の存在比が等しいなど)が与えられて連立方程式を解く問題。
- 初見の問題での着眼点:
- あたりをつける: まず、与えられた原子量(35.5)が、2つの同位体の質量(35と37)のどちらに近いかを確認します。35.5は、35と37のちょうど真ん中(36)よりも35の方に近いので、質量35uの同位体の方が多く存在するはずだと予測できます。この予測は、計算結果の検算に役立ちます。
- 未知数を設定する: 問題で問われている「質量35uの塩素原子の百分率」を未知数\(x\) [%]と置くのが最も素直です。
- 他の量を未知数で表す: 2種類の同位体しかないので、一方の存在比が\(x\)%なら、もう一方は自動的に \((100-x)\)% と表せます。この「合計が100%になる」という関係を見抜くことが重要です。
- 方程式を立てる: 原子量の加重平均の公式に、すべての値を代入して等式を作ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 方程式の立式ミス:
- 誤解: \(35x + 37(100-x) = 35.5\) のように、存在比率(\(\displaystyle\frac{x}{100}\))ではなく存在比のパーセント値(\(x\))をそのまま掛けてしまう。
- 対策: 必ず「比率(小数または分数)」を掛けることを徹底しましょう。両辺に100を掛けて分母を払う場合でも、元々の式は \(\displaystyle\frac{x}{100}\) であることを意識することが大切です。
- 分配法則の計算ミス:
- 誤解: \(37(100-x)\) の展開を \(3700-x\) のように、後ろの\(x\)に37を掛け忘れる。
- 対策: 括弧を展開するときは、中のすべての項に係数を掛けるという基本ルールを常に守りましょう。\(37 \times 100 – 37 \times x\) と丁寧に計算する癖をつけます。
- 移項ミス:
- 誤解: \(35x – 37x = 3550 – 3700\) のような計算で、項を移す際に符号を間違える。
- 対策: 方程式を解く際は、まず文字の項を左辺に、数字の項を右辺に集めるなど、手順を決めておくとミスが減ります。移項した項は符号が反転することを、一つ一つ確認しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 原子量の加重平均の式:
- 選定理由: 問題に「同位体」「原子量」「存在比」という3つのキーワードが登場した時点で、これらを結びつける関係式は原子量の加重平均の式しかありません。
- 適用根拠: この問題は、原子量の定義そのものを問うています。定義式は、各要素の関係性を表す等式です。等式の中に未知数が一つだけ含まれていれば、それは未知数に関する「方程式」として解くことができます。今回は、存在比\(x\)が未知数の方程式を立てるために、この定義式を利用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 最初に分母を払う: 分数のまま計算を進めると複雑になりがちです。\(35 \times \displaystyle\frac{x}{100} + 37 \times \displaystyle\frac{100-x}{100} = 35.5\) の式を立てたら、まず両辺に100を掛けて \(35x + 37(100-x) = 3550\) という整数の式に直すことで、その後の計算が格段に楽になり、ミスも減ります。
- 丁寧な展開: 上記の \(35x + 3700 – 37x = 3550\) のように、分配法則は省略せずに書き下します。
- 検算の徹底:
- 代入による検算: 求めた答え \(x=75\) を元の方程式に代入し、等式が成り立つか確認します。\(35 \times \displaystyle\frac{75}{100} + 37 \times \displaystyle\frac{25}{100} = 35 \times 0.75 + 37 \times 0.25 = 26.25 + 9.25 = 35.5\)。成り立ちます。
- 物理的な妥当性の確認: 最初に立てた予測「35uの塩素の方が多いはず」と、計算結果「75%」は一致しています。もし答えが50%未満になったら、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。
451 質量分析器
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「磁場中での荷電粒子の運動(質量分析器の原理)」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子が受ける力で、大きさは \(F=qvB\) で与えられます(速度と磁場が垂直な場合)。
- フレミングの左手の法則: ローレンツ力の向きを決定する法則です。電流(正電荷の運動方向)、磁場、力の向きの関係を示します。
- 円運動の運動方程式: 荷電粒子はローレンツ力を向心力として等速円運動します。その運動は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\) で記述されます。
- 比電荷: 粒子の質量に対する電気量の比 \(\displaystyle\frac{q}{m}\) のことで、荷電粒子の運動のしやすさを示す重要な物理量です。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、イオンの運動方向(電流の向き)、磁場の向き、そして実際に曲がる向き(力の向き)の関係をフレミングの左手の法則に当てはめて、電荷の符号を判断します。
- (2)では、イオンがローレンツ力を向心力として等速円運動することから運動方程式を立てます。軌道の直径が\(d\)であることから半径を求め、式を比電荷 \(\displaystyle\frac{q}{m}\) について整理します。
- (3)では、質量\(M\)の同位体についても(2)と全く同じように比電荷の式を立てます。そして、2つのイオンについて立てた2本の式を辺々割り算することで、質量比 \(\displaystyle\frac{M}{m}\) を求めます。
問(1)
思考の道筋とポイント
イオンが磁場から受ける力の向き(ローレンツ力の向き)を、フレミングの左手の法則を用いて判断します。イオンはスリットSを上向きに通過し、右向きに曲がっています。これは、力が円運動の中心方向、つまり右向きに働いたことを意味します。この情報と磁場の向きから、電荷の符号を決定します。
この設問における重要なポイント
- フレミングの左手の法則は、正電荷の移動(電流)を基準にしている。
- 磁場の向きは紙面の裏から表向きである。
- イオンの運動方向はスリットSを通過する瞬間は上向き、力の向きは軌跡が曲がる右向きである。
具体的な解説と立式
フレミングの左手の法則を適用します。
- 中指(電流の向き): イオンがSを通過する瞬間の速度の向き、つまり上向きに合わせます。
- 人差し指(磁場の向き): 紙面の裏から表に向かう向きに合わせます。
このとき、親指(力の向き)は右を向きます。
実際にイオンが描く軌道は右に曲がっており、円運動の中心は右側にあるため、イオンに働く力は右向きです。
法則から導かれる力の向きと、実際の力の向きが一致するため、イオンの電荷\(q\)の符号は正であると判断できます。
使用した物理公式
- フレミングの左手の法則
この設問は法則の適用を問うものであり、計算は不要です。
左手の「中指(電流)・人差し指(磁場)・親指(力)」を考えます。イオンは上向きに進むので、中指を上に向けます。磁場はこちら向き(紙面の奥から手前)なので、人差し指を自分の方に向けます。すると、親指は自然と右を向きます。イオンは実際に右に曲がっているので、力の向きは右向きでOKです。フレミングの左手の法則はプラスの電気を帯びた粒が動く場合を基準にしているので、イオンの電気はプラスだとわかります。
フレミングの左手の法則の適用により、\(q\)の符号は正であることがわかりました。
問(2)
思考の道筋とポイント
磁場中で荷電粒子が等速円運動をするとき、その向心力は磁場から受けるローレンツ力によって供給されます。この「向心力 = ローレンツ力」という関係から運動方程式を立て、式を整理して比電荷 \(\displaystyle\frac{q}{m}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- ローレンツ力が向心力として働く。
- 円運動の軌道の直径が\(d\)なので、半径は \(r = \displaystyle\frac{d}{2}\) である。
- ローレンツ力の大きさは \(F=qvB\) で与えられる。
具体的な解説と立式
イオンの質量を\(m\)、電気量を\(q\)、速さを\(v\)、磁束密度を\(B\)とします。
イオンが描く半円の直径は\(d\)なので、その円運動の半径\(r\)は、
$$ r = \frac{d}{2} $$
このイオンにはたらくローレンツ力の大きさ\(F\)は、
$$ F = qvB $$
このローレンツ力が向心力となって円運動をするので、運動方程式は次のように立てられます。
$$ m\frac{v^2}{r} = qvB $$
この式に \(r = \displaystyle\frac{d}{2}\) を代入します。
$$ m\frac{v^2}{d/2} = qvB $$
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
- ローレンツ力: \(F = qvB\)
運動方程式を比電荷 \(\displaystyle\frac{q}{m}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
m\frac{2v^2}{d} &= qvB
\end{aligned}
$$
両辺を \(v\) で割り(\(v \neq 0\))、式を \(\displaystyle\frac{q}{m}\) の形に整理します。
$$
\begin{aligned}
m\frac{2v}{d} &= qB \\[2.0ex]\frac{q}{m} &= \frac{2v}{dB}
\end{aligned}
$$
イオンを円運動させる力(向心力)の正体は、磁場からの力(ローレンツ力)です。なので、「向心力 = ローレンツ力」という等式を作ります。向心力は「質量 \(\times\) 速さの2乗 \(\div\) 半径」、ローレンツ力は「電気量 \(\times\) 速さ \(\times\) 磁場」です。図から、円の直径が\(d\)なので、半径は\(d/2\)です。これらの情報を式に代入し、問題で問われている「\(\displaystyle\frac{q}{m}\)」の形になるように変形すれば、答えが求まります。
イオンの比電荷は \(\displaystyle\frac{2v}{dB}\) となります。式の次元を確認しても物理的に妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
質量\(M\)の同位体についても、(2)と全く同じ物理法則が適用できます。電気量\(q\)と速度\(v\)は質量\(m\)のイオンと等しく、磁束密度\(B\)も同じです。異なるのは質量と、その結果として変わる軌道の直径です。質量\(M\)のイオンについて(2)と同様に比電荷の式を立て、先に求めた質量\(m\)のイオンの式と比較することで、質量比 \(\displaystyle\frac{M}{m}\) を求めます。
この設問における重要なポイント
- 同位体は質量が異なるが、電気量\(q\)は同じである。
- 速度\(v\)も同じ条件で入射している。
- 2つのイオンについて同じ形の式を立て、辺々割り算をして不要な文字を消去するのが定石。
具体的な解説と立式
まず、(2)で求めた質量\(m\)のイオンに関する式を再掲します。
$$ \frac{q}{m} = \frac{2v}{dB} \quad \cdots ① $$
次に、質量\(M\)の同位体について考えます。このイオンの電気量と速度はそれぞれ\(q\), \(v\)で等しいです。軌道の直径は \(d+\Delta d\) なので、半径は \(\displaystyle\frac{d+\Delta d}{2}\) となります。
この同位体についても同様に運動方程式を立てると、
$$ M\frac{v^2}{(d+\Delta d)/2} = qvB $$
これを比電荷 \(\displaystyle\frac{q}{M}\) について整理します。
$$ \frac{q}{M} = \frac{2v}{(d+\Delta d)B} \quad \cdots ② $$
求めたいのは質量比 \(\displaystyle\frac{M}{m}\) なので、式①と式②を使って、他の変数を消去します。
使用した物理公式
- 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
- ローレンツ力: \(F = qvB\)
式①を式②で辺々割る(または、式① ÷ 式② を計算する)と、
$$ \frac{q/m}{q/M} = \frac{2v/dB}{2v/((d+\Delta d)B)} $$
この式の左辺と右辺をそれぞれ整理します。
左辺:
$$ \frac{q/m}{q/M} = \frac{q}{m} \times \frac{M}{q} = \frac{M}{m} $$
右辺:
$$ \frac{2v/dB}{2v/((d+\Delta d)B)} = \frac{2v}{dB} \times \frac{(d+\Delta d)B}{2v} = \frac{d+\Delta d}{d} $$
したがって、次の関係が得られます。
$$ \frac{M}{m} = \frac{d+\Delta d}{d} $$
重さが\(M\)のイオンについても、(2)と全く同じように「向心力=ローレンツ力」の式を立てます。ただし、直径が\(d\)ではなく\(d+\Delta d\)になる点だけが違います。これで、イオン\(m\)についての式と、イオン\(M\)についての式の2本が手に入ります。求めたいのは質量の比 \(\displaystyle\frac{M}{m}\) なので、この2本の式を割り算します。すると、両方の式に共通して含まれている \(q, v, B\) などの文字がうまく消えてくれて、\(\displaystyle\frac{M}{m}\) が \(d\) と \(\Delta d\) だけのシンプルな式で表せます。
質量比 \(\displaystyle\frac{M}{m}\) は \(\displaystyle\frac{d+\Delta d}{d}\) となります。この結果は、\(\Delta d > 0\) のとき \(\displaystyle\frac{M}{m} > 1\)、つまり \(M>m\) となることを示しています。これは、質量が大きい粒子ほど磁場で曲がりにくく、より大きな半径の円軌道を描くという物理的な直観と一致しており、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- ローレンツ力を向心力とする等速円運動:
- 核心: この問題の物理現象は、この一言に集約されます。磁場中に垂直に入射した荷電粒子は、常に進行方向と垂直なローレンツ力を受け、その力を向心力として等速円運動を行います。
- 理解のポイント:
- 運動方程式: この現象を記述する最も重要な式が、円運動の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = qvB\) です。この式を立てられることが、(2)以降を解くための絶対条件です。
- 軌道半径の公式: 上の運動方程式を半径\(r\)について解くと得られる \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) は、質量分析器やサイクロトロンなど、関連問題を解く上で非常に強力な武器となります。この式は「軌道半径は運動量\(mv\)に比例し、電気量\(q\)と磁場\(B\)に反比例する」ことを示しています。
- 力の向き: (1)で問われるように、ローレンツ力の向きをフレミングの左手の法則で正しく判断することも、現象を理解する上で不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 速度選択器との組み合わせ: 一様な電場\(E\)と磁場\(B\)が直交する領域を粒子が直進する問題。このとき、電場からの力\(qE\)とローレンツ力\(qvB\)が釣り合うため、\(v=E/B\) となる特定の速度の粒子だけが通過できます。この装置で速度を揃えた後、本問のような質量分析器に入射させるのが典型的なパターンです。
- サイクロトロン: D字型の電極間で周期的に加速し、磁場で半円運動を繰り返す粒子加速器。円運動の周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) が粒子の速度や半径によらない、という性質が重要になります。
- らせん運動: 荷電粒子が磁場に対して斜めに入射する場合。速度を磁場に平行な成分と垂直な成分に分解して考えます。平行成分は力を受けず等速直線運動、垂直成分は円運動となり、全体としてらせん状の軌道を描きます。
- 初見の問題での着眼点:
- 力の特定: まず、荷電粒子に働く力をすべてリストアップします。磁場があればローレンツ力、電場があれば静電気力です。
- 運動の種類の判断: 働く力(合力)の向きと速度の向きの関係から、粒子がどのような運動(直進、円運動、放物運動、らせん運動など)をするかを見極めます。
- 運動方程式の立式: 運動の種類に応じた運動方程式を立てます。特に円運動の場合は「向心力 = (力の正体)」という形を意識します。
- 軌道の幾何学的情報: 問題文や図から、軌道の半径や直径、ピッチ(らせんの場合)などの情報を正確に読み取り、運動方程式に代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- フレミングの左手の法則の誤用:
- 誤解: 電流の向きと正電荷の運動方向を混同したり、負電荷の場合に力の向きを逆にするのを忘れたりする。
- 対策: 「電流の向き = 正電荷の運動の向き」と定義を明確に覚えます。負電荷(電子など)の場合は、まず正電荷として力の向きを求め、最後にその向きを180度反転させる、という2ステップで考える癖をつけましょう。
- 半径\(r\)と直径\(d\)の混同:
- 誤解: (2)で運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を立てる際、半径\(r\)に問題文の距離\(d\)(直径)をそのまま代入してしまう。
- 対策: 図を注意深く見て、与えられた長さが円の半径なのか直径なのかを必ず確認します。この問題では「Sから距離dだけ離れた点P」が半円の直径にあたるため、半径は \(r=d/2\) となります。
- 辺々割り算での計算ミス:
- 誤解: (3)で2つの比電荷の式を割り算する際、分数の計算で混乱し、\(\displaystyle\frac{q/m}{q/M}\) を \(\displaystyle\frac{m}{M}\) と計算してしまう。
- 対策: 分数の割り算は「逆数を掛ける」という基本に立ち返り、\(\displaystyle\frac{q}{m} \div \displaystyle\frac{q}{M} = \displaystyle\frac{q}{m} \times \displaystyle\frac{M}{q} = \displaystyle\frac{M}{m}\) と丁寧に計算します。自信がなければ、一度 \(q=\dots\) の形に直してから代入する方法も有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 円運動の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\):
- 選定理由: (2), (3)で、イオンが「半円を描いて」運動しているという記述から、円運動を力学的に記述する必要があるため。
- 適用根拠: これはニュートンの第二法則 \(ma=F\) を円運動に特化させた形です。物体が円運動を続けるためには、常に円の中心方向を向く加速度(向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\))が必要であり、そのためには中心を向く力(向心力)が働かなければなりません。この法則は、その力の大きさと運動状態(質量、速さ、半径)を結びつけます。
- ローレンツ力の公式 \(F=qvB\):
- 選定理由: 円運動の運動方程式の右辺、つまり向心力の「力の正体」を特定するために必要だからです。この問題では、磁場中を運動する荷電粒子が受ける力が向心力となっています。
- 適用根拠: ローレンツ力は、電磁気学における基本法則の一つです。運動する電荷が磁場を生成し、その磁場が他の磁場と相互作用するというより根源的な現象の、一つの側面を数式化したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の整理は段階的に: (2)で \(m\displaystyle\frac{2v^2}{d} = qvB\) から \(\displaystyle\frac{q}{m}\) を求める際、一気に暗算しようとせず、「①両辺を\(v\)で割る」「②\(m\)を右辺に移項する」「③\(B\)と\(d\)を左辺に移項する」のように、1ステップずつ確実に変形作業を行いましょう。
- 割り算より掛け算: (3)で式①と式②を割り算する代わりに、それぞれの式を \(m = \dots\) と \(M = \dots\) の形に変形してから比をとる方法もあります。
- 式①より \(m = \displaystyle\frac{qdB}{2v}\)
- 式②より \(M = \displaystyle\frac{q(d+\Delta d)B}{2v}\)
\(\displaystyle\frac{M}{m} = \displaystyle\frac{q(d+\Delta d)B/2v}{qdB/2v}\) となり、共通部分を消去すれば同じ結果が得られます。自分にとってミスが少ない方法を選びましょう。
- 物理的な妥当性の吟味: (3)の答え \(\displaystyle\frac{M}{m} = \displaystyle\frac{d+\Delta d}{d}\) が出たら、その意味を考えます。右辺は \(1 + \displaystyle\frac{\Delta d}{d}\) であり、\(\Delta d>0\) なので1より大きいです。つまり \(M>m\) となります。これは「質量が大きいほど、磁場で曲がりにくく(慣性が大きく)、軌道半径が大きくなる」という物理的直観と一致します。この簡単なチェックで、答えの信頼性を高めることができます。
452 放射線の性質
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「放射線の種類と性質、および原子核崩壊の法則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 放射線の透過力と電離作用: 放射線が物質を通り抜ける能力を透過力、物質を構成する原子から電子を弾き飛ばす能力を電離作用といいます。両者には逆の相関があります。
- α線、β線、γ線の正体: α線はヘリウム原子核、β線は電子、γ線は高エネルギーの電磁波です。
- 電場・磁場中での荷電粒子の運動: 電荷を持つα線とβ線は電場や磁場から力を受けて進路が曲がりますが、電荷を持たないγ線は曲がりません。
- α崩壊・β崩壊における質量数と原子番号の変化: 核反応の前後で、質量数の和と原子番号の和は保存されます。
基本的なアプローチは以下の通りです。
放射線に関する基本的な知識を元に、文脈に合う適切な語句を空欄に当てはめていきます。特に、放射線の正体、透過力、電離作用の大小関係、そしてα崩壊とβ崩壊の際の質量数と原子番号の変化のルールを正確に理解しているかが問われます。
思考の道筋とポイント
この問題は、放射線と原子核崩壊に関する基本的な知識を網羅的に問う穴埋め問題です。各空欄について、前後の文脈と物理的な事実を結びつけて解答を導き出します。特に、α線、β線、γ線のそれぞれの正体と性質(透過力、電荷の有無)、そしてα崩壊とβ崩壊のルールを正確に記憶しているかが鍵となります。
この設問における重要なポイント
- 放射線の透過力は γ > β > α の順。電離作用(物質に吸収されやすさ)は α > β > γ の順。
- α線 = ヘリウム原子核 (\({}_{2}^{4}\text{He}\))、β線 = 電子 (\({}_{-1}^{0}\text{e}\))、γ線 = 電磁波。
- α崩壊では質量数が4、原子番号が2減少する。
- β崩壊では質量数は変わらず、原子番号が1増加する。
具体的な解説と立式
空欄①について
放射線が物質を通り抜ける能力を「透過力」といいます。α線は紙1枚、β線は数mmのアルミニウム板、γ線は厚い鉛などでないと止められないことから、透過力はα線 < β線 < γ線の順で大きくなります。問題文は「能力の小さいほうからα線, β線, γ線」とあるので、この能力は透過力のことです。
よって、①は「透過」。
空欄②、③、④、⑤、⑥について
- α線は、その正体がプラスの電荷を持つ「ヘリウム」原子核(\({}_{2}^{4}\text{He}\))です。よって、②は「ヘリウム」。
- β線は、その正体がマイナスの電荷を持つ「電子」(\({}_{-1}^{0}\text{e}\))です。電荷を持つ粒子は、「電場(電界)」や「磁場(磁界)」から力を受けて進路が曲がります。よって、③と④は「電場(電界)」と「磁場(磁界)」、⑤は「電子」。
- γ線は、電荷を持たないため電場や磁場では進路を曲げられません。その正体は、X線よりもさらに波長が短くエネルギーの高い「電磁波」です。よって、⑥は「電磁波」。
空欄⑦について
ラザフォードとソディーは、原子核がα線やβ線などを放出して別の原子核に変わる現象を発見しました。この放出されるものが「放射線」です。よって、⑦は「放射線」。
空欄⑧、⑨、⑩、⑪について
- α崩壊は、α粒子(\({}_{2}^{4}\text{He}\))を1個放出する崩壊です。原子核 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) がα崩壊すると、\({}_{Z-2}^{A-4}\text{Y}\) に変わります。したがって、質量数(\(A\))は「4」だけ「減少」し、原子番号(\(Z\))は2だけ「減少」します。よって、⑧は「4」、⑨は「原子番号(陽子の数)」、⑩は「減少」。
- β崩壊は、β粒子(電子 \({}_{-1}^{0}\text{e}\))を1個放出する崩壊です。これは、原子核内の中性子1個が陽子1個と電子1個に変わる現象と解釈されます。原子核 \({}_{Z}^{A}\text{X}\) がβ崩壊すると、\({}_{Z+1}^{A}\text{Y}\) に変わります。したがって、質量数(\(A\))は変わらず、原子番号(\(Z\))は1だけ「増加」します。よって、⑪は「増加」。
使用した物理公式
- α崩壊: \({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z-2}^{A-4}\text{Y} + {}_{2}^{4}\text{He}\)
- β崩壊: \({}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z+1}^{A}\text{Y} + {}_{-1}^{0}\text{e}\)
この問題は知識を問うものであり、計算過程はありません。
この問題は、放射線と原子核の世界の基本的なルールを覚えているかを確認するクイズのようなものです。
- ①: 放射線が物を通り抜ける力は「透過力」です。
- ②〜⑥: 放射線の正体を覚えます。α線はヘリウムの原子核(プラスの電気)、β線は電子(マイナスの電気)、γ線は光の仲間(電気なし)です。電気を帯びているα線とβ線は、電場や磁場の中で曲がりますが、γ線は曲がりません。
- ⑦〜⑪: 原子核が変身するルールです。α崩壊は、質量が4、原子番号が2減る大きな変化です。β崩壊は、質量は変わらず、原子番号が1増える小さな変化です。
各空欄に適切な語句を当てはめることで、放射線の性質と原子核崩壊の法則に関する一連の文章が完成します。解答はすべて基本的な知識であり、物理的に妥当です。
① 透過
② ヘリウム
③, ④ 電場(電界), 磁場(磁界) (順不同)
⑤ 電子
⑥ 電磁波
⑦ 放射線
⑧ 4
⑨ 原子番号(陽子の数)
⑩ 減少
⑪ 増加
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 放射線の正体とそれに伴う性質:
- 核心: α線、β線、γ線という3種類の放射線が、それぞれ物理的に何であるか(正体)を理解し、その正体から導かれる性質(質量、電荷、透過力、電離作用)を体系的に結びつけて覚えることが全ての基本です。
- 理解のポイント:
- α線: 正体はヘリウム原子核(\({}_{2}^{4}\text{He}\))。質量が大きく電荷も+2と大きいため、電離作用が強く、透過力は非常に小さい。
- β線: 正体は電子(\({}_{-1}^{0}\text{e}\))。質量はα線よりはるかに小さく、電荷は-1。α線とγ線の中間の性質を持つ。
- γ線: 正体は高エネルギーの電磁波。質量も電荷も0。そのため電離作用が最も弱く、透過力は非常に大きい。
- 原子核崩壊における保存則:
- 核心: 原子核が放射線を出して別の原子核に変わる「崩壊」の前後で、質量数と原子番号(電荷)の合計は変わらないという保存則を理解することです。
- 理解のポイント:
- α崩壊: α粒子(\({}_{2}^{4}\text{He}\))を放出するため、質量数は4、原子番号は2減少する。
- β崩壊: 電子(\({}_{-1}^{0}\text{e}\))を放出するため、質量数は変化せず、原子番号は1増加する。(原子核内の中性子が陽子に変わるため)
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 放射線の軌跡の作図問題: 電場や磁場中にα, β, γ線が入射した際の軌跡を図示させる、または図中の軌跡がどの放射線に対応するかを答えさせる問題。曲がる向き(電荷の符号)と曲がりやすさ(比電荷の大小)が問われます。
- 具体的な崩壊系列の問題: 例えば「\({}_{92}^{238}\text{U}\)がα崩壊を\(x\)回、β崩壊を\(y\)回行って\({}_{82}^{206}\text{Pb}\)になった。\(x, y\)を求めよ」といった計算問題。
- 透過力と遮蔽材: 各放射線を遮蔽するのに適した物質(α線→紙、β線→アルミニウム板、γ線→鉛や厚いコンクリート)を問う問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 「透過」「吸収」「電離」: これらの単語が出てきたら、放射線の透過力と電離作用の大小関係(γ > β > α、α > β > γ)を思い出します。
- 「曲がる」「曲がらない」: 電場や磁場に関する記述があれば、放射線の電荷の有無を考えます。曲がるならα線かβ線、曲がらないならγ線です。
- 「崩壊」「変わる」: 原子核の種類が変化する文脈では、α崩壊とβ崩壊の際の質量数・原子番号の変化ルールを適用します。
- 「原子核」「粒子」: α線やβ線の正体を問われているのか、それらが構成する原子核全体の変化を問われているのかを区別します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 透過力と電離作用の混同:
- 誤解: 透過力が大きいγ線が、物質に最も大きな影響を与える(電離作用が大きい)と勘違いする。
- 対策: 「透過力が大きい」=「物質と反応しにくい(素通りしやすい)」=「電離作用が小さい」という逆の関係を明確に理解する。「重くて大きいα線はすぐに壁にぶつかって止まる(透過力小)が、その分壁を大きく壊す(電離作用大)」とイメージすると覚えやすいです。
- β崩壊における原子番号の変化:
- 誤解: マイナスの電荷を持つ電子が放出されるので、原子核のプラスの電荷(原子番号)も減少すると考えてしまう。
- 対策: β崩壊は「原子核内の中性子が、陽子と電子に分裂する」現象だと覚えることが根本的な対策です。陽子が1個増えるので、原子番号は1「増加」します。
- α線とヘリウム原子の混同:
- 誤解: α線の正体を、電子を持つ中性の「ヘリウム原子」だと答えてしまう。
- 対策: α線は、ヘリウム原子から電子2個が剥ぎ取られた「ヘリウム原子核」(\({}_{2}^{4}\text{He}\))であると正確に覚えます。だからこそ+2の電荷を持ち、電場や磁場で力を受けます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- α崩壊の法則 (\(A \rightarrow A-4, Z \rightarrow Z-2\)):
- 選定理由: α崩壊という現象を、原子核の構成要素(核子)のレベルで記述するために用います。
- 適用根拠: これは、より普遍的な「質量数保存則」と「原子番号保存則」の具体的な一例です。α粒子(\({}_{2}^{4}\text{He}\))が放出されるという実験事実に基づき、反応の前後で核子の総数と電荷の総量が一致するように逆算した結果がこの法則です。
- β崩壊の法則 (\(A \rightarrow A, Z \rightarrow Z+1\)):
- 選定理由: β崩壊という現象を、原子核の構成要素のレベルで記述するために用います。
- 適用根拠: これも保存則の現れです。質量数が変化しないという実験事実と、電荷-1の電子が放出されるという事実から、電荷保存則を満たすためには原子核の電荷(原子番号)が+1されなければならない、という論理で導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
この問題は計算を伴いませんが、知識の混同や記憶違いがミスにつながります。
- 体系的な暗記:
- 表の活用: 放射線の種類(α, β, γ)を縦軸に、性質(正体, 質量, 電荷, 透過力, 電離作用)を横軸にした表を自分で作成し、関連付けて覚えるのが最も効果的です。
- イメージの活用: α線を「ボウリングの球」、β線を「パチンコ玉」、γ線を「レーザー光線」に例えるなど、具体的なイメージを持つと、透過力や電離作用の大小関係を忘れにくくなります。
- 崩壊ルールの語呂合わせ:
- α崩壊: 「アルファで、資産(A)が引くよ(4)、兄さん(2)」→ 質量数-4, 原子番号-2。
- β崩壊: 「ベータで、資産(A)は変わらず、背番号(Z)が1位にアップ」→ 質量数不変, 原子番号+1。
- 反復練習: 知識問題は一度覚えても忘れやすいものです。教科書や問題集の基本問題を定期的に見直し、記憶を何度も呼び起こすことが、確実な得点力につながります。
453 崩壊系列
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この解説は、模範解答とほぼ同じ結論に至りますが、思考の論理的な流れをより明確にするためのアプローチと、より高度な物理的洞察に基づく別解を提示する点で異なります。
- 解説の方針が模範解答と異なる点
- メインの解法: 模範解答がいきなり質量数の式と選択肢を照合しているのに対し、この解説ではまず原子番号保存則から崩壊回数に関する条件を導き、その上で質量数保存則と選択肢を照合するという、より段階的で論理的な手順を踏みます。
- 別解の追加: 模範解答にはないアプローチとして、崩壊系列における「質量数を4で割った余りの不変性」という性質を利用した、非常にエレガントな解法を別解として紹介します。
- 上記の方針を取る理由
- メインの解法では、不定方程式を解く際の思考プロセスをより丁寧に追体験できるようにするため。
- 別解では、より深い物理的知識がどのように問題解決を簡略化するかを示すことで、学習者の知的好奇心を刺激し、応用力を高めるため。
- 解答への影響
- 最終的な答えは模範解答と完全に一致しますが、解答に至るまでの思考プロセスがより詳細かつ多角的になります。
この問題のテーマは「原子核の崩壊系列における質量数と原子番号の保存則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- α崩壊: 原子核がヘリウム原子核(\({}_{2}^{4}\text{He}\))を放出し、質量数が4、原子番号が2減少する反応です。
- β崩壊: 原子核が電子(\({}_{-1}^{0}\text{e}\))を放出し、質量数は変わらず、原子番号が1増加する反応です。
- 質量数保存則: 核反応の前後で、核子(陽子と中性子)の総数である質量数の和は変わりません。
- 原子番号保存則: 核反応の前後で、陽子の数である原子番号の和(すなわち電荷の和)は変わりません。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- α崩壊の回数を\(x\)回、β崩壊の回数を\(y\)回、最終的な鉛の質量数を\(A\)と、3つの未知数を設定します。
- 質量数と原子番号、それぞれの保存則から連立方程式を立てます。
- 未知数が3つに対して式が2つしかないため、このままでは解けません。そこで、\(x, y\)が0以上の整数であること、\(A\)が選択肢の中の値であることを利用して、解を特定します。
思考の道筋とポイント
ウラン\({}_{92}^{235}\text{U}\)が、α崩壊とβ崩壊を繰り返して、最終的に鉛\({}_{82}^{A}\text{Pb}\)になる一連の過程を考えます。α崩壊の回数を\(x\)回、β崩壊の回数を\(y\)回として、この過程全体を通して「質量数の和」と「原子番号の和」がそれぞれ保存されることを利用し、連立方程式を立てます。この不定方程式を、問題の条件(選択肢、崩壊回数が自然数)を使って解き、鉛の質量数\(A\)と崩壊回数\(x, y\)を特定します。
この設問における重要なポイント
- α崩壊が\(x\)回起こると、質量数は\(4x\)、原子番号は\(2x\)減少する。
- β崩壊が\(y\)回起こると、質量数は変化せず、原子番号は\(y\)増加する。
- 質量数と原子番号、それぞれについて保存則の式を立てる。
- 不定方程式を、与えられた条件(自然数解、選択肢)を使って解く。
具体的な解説と立式
α崩壊の回数を\(x\)回、β崩壊の回数を\(y\)回、そして最終的に生成される鉛の質量数を\(A\)とします。
始状態の原子核はウラン\({}_{92}^{235}\text{U}\)、終状態の原子核は鉛\({}_{82}^{A}\text{Pb}\)です。
まず、質量数の変化に着目します。ウランの質量数235が、α崩壊\(x\)回によって\(4x\)だけ減少し、鉛の質量数\(A\)になります。β崩壊は質量数に影響を与えません。
$$ 235 – 4x = A \quad \cdots ① $$
次に、原子番号の変化に着目します。ウランの原子番号92が、α崩壊\(x\)回によって\(2x\)減少し、β崩壊\(y\)回によって\(y\)増加して、鉛の原子番号82になります。
$$ 92 – 2x + y = 82 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 質量数保存則
- 原子番号保存則
まず、式②を\(y\)について整理します。
$$
\begin{aligned}
y &= 82 – 92 + 2x \\[2.0ex]y &= 2x – 10
\end{aligned}
$$
崩壊回数\(y\)は0以上の整数でなければならないので、\(y \ge 0\)より、
$$
\begin{aligned}
2x – 10 &\ge 0 \\[2.0ex]2x &\ge 10 \\[2.0ex]x &\ge 5
\end{aligned}
$$
これにより、α崩壊の回数\(x\)は5以上の整数であることがわかります。
次に、この条件を使って式①を調べます。式①を変形すると \(A = 235 – 4x\) となります。
ここに\(x=5, 6, 7, \dots\)を順に代入し、計算される\(A\)の値が選択肢(206, 207, 208, 209)のいずれかに一致するかを確認します。
- \(x=5\) のとき、\(A = 235 – 4 \times 5 = 215\) (選択肢にない)
- \(x=6\) のとき、\(A = 235 – 4 \times 6 = 211\) (選択肢にない)
- \(x=7\) のとき、\(A = 235 – 4 \times 7 = 207\) (選択肢にある!)
- \(x=8\) のとき、\(A = 235 – 4 \times 8 = 203\) (選択肢にない)
したがって、鉛の質量数は\(A=207\)、α崩壊の回数は\(x=7\)回であると特定できます。
最後に、求めた\(x=7\)を\(y=2x-10\)に代入して、β崩壊の回数\(y\)を求めます。
$$
\begin{aligned}
y &= 2 \times 7 – 10 \\[2.0ex]&= 14 – 10 \\[2.0ex]&= 4
\end{aligned}
$$
よって、β崩壊の回数は4回です。
α崩壊が\(x\)回、β崩壊が\(y\)回起きたとします。
まず、原子の種類を決める「原子番号」(左下の数字)に注目します。「92」が「82」に変わります。α崩壊1回で2減り、β崩壊1回で1増えるので、「\(92 – 2x + y = 82\)」という式が成り立ちます。
次に、重さの目安である「質量数」(左上の数字)に注目します。「235」が鉛の質量数\(A\)に変わります。α崩壊1回で4減り、β崩壊は質量を変えないので、「\(235 – 4x = A\)」という式が成り立ちます。
1つ目の式を変形すると\(y = 2x – 10\)となります。崩壊回数\(y\)は0回以上なので、\(x\)は5回以上だとわかります。
この条件で、2つ目の式に\(x=5, 6, 7, \dots\)と順番に入れていき、計算した\(A\)が選択肢にあるものを探します。すると、\(x=7\)のときだけ\(A=207\)となり、選択肢にぴったり合います。
これで質量数が207、α崩壊が7回とわかったので、最後に\(x=7\)を\(y=2x-10\)の式に戻して、β崩壊が4回であることも計算できます。
鉛の質量数は207、α崩壊は7回、β崩壊は4回です。崩壊回数がともに正の整数となり、質量数も選択肢に含まれているため、物理的に妥当な解です。
思考の道筋とポイント
原子核の崩壊には、ある数学的な性質があります。α崩壊では質量数が4減少し、β崩壊では質量数は変化しません。これは、一連の崩壊の過程で、質量数を4で割った「余り」は常に不変であることを意味します。この性質を利用すると、鉛の質量数を選択肢から一瞬で特定できます。
この設問における重要なポイント
- α崩壊(\(A \rightarrow A-4\))、β崩壊(\(A \rightarrow A\))のどちらが起きても、質量数を4で割った余りは変化しない。
具体的な解説と立式
始状態のウラン\({}_{92}^{235}\text{U}\)の質量数は235です。この数値を4で割ってみます。
$$ 235 = 4 \times 58 + 3 $$
余りは3です。
崩壊の過程で質量数を4で割った余りは変わらないので、最終生成物である鉛の質量数も、4で割った余りが3になるはずです。
選択肢(206, 207, 208, 209)をそれぞれ4で割り、余りを調べます。
- 206 ÷ 4 = 51 余り 2
- 207 ÷ 4 = 51 余り 3
- 208 ÷ 4 = 52 余り 0
- 209 ÷ 4 = 52 余り 1
4で割った余りが3になるのは207だけです。したがって、鉛の質量数は207であると即座に決定できます。
計算過程
鉛の質量数が207と特定できたので、これを用いて崩壊回数\(x, y\)を計算します。これはメインの解法と同じです。
質量数保存則より、
$$
\begin{aligned}
235 – 4x &= 207 \\[2.0ex]4x &= 235 – 207 \\[2.0ex]4x &= 28 \\[2.0ex]x &= 7
\end{aligned}
$$
原子番号保存則より、
$$
\begin{aligned}
92 – 2x + y &= 82 \\[2.0ex]92 – 2(7) + y &= 82 \\[2.0ex]92 – 14 + y &= 82 \\[2.0ex]78 + y &= 82 \\[2.0ex]y &= 4
\end{aligned}
$$
計算方法の平易な説明
原子核の崩壊には面白い性質があります。α崩壊では質量が4ずつ減り、β崩壊では質量は変わりません。これは、どんなに崩壊が進んでも、質量数を4で割ったときの「余り」はずっと同じということを意味します。
最初のウラン235は、4で割ると余りが3です。
したがって、最後の鉛の質量数も、4で割ると余りが3になるはずです。
選択肢の中で4で割って余りが3になるのは207だけなので、これで質量数が一瞬でわかります。
あとはメインの解法と同じように、この質量数207を使って崩壊回数を計算すれば、α崩壊が7回、β崩壊が4回と求まります。
結論と吟味
崩壊系列の数学的な性質を利用することで、質量数を選択肢から簡単に特定できました。その後の計算結果もメインの解法と一致し、妥当性が確認できます。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 原子核崩壊における2大保存則:
- 核心: この問題は、原子核が崩壊する際に厳密に守られる2つのルール、「質量数保存則」と「原子番号保存則」を連立させて解く、典型的な問題です。
- 理解のポイント:
- 質量数保存: α崩壊で4減り、β崩壊で変化しない。
- 原子番号保存: α崩壊で2減り、β崩壊で1増える。
- この2つのルールを、未知の崩壊回数\(x, y\)を用いて2本の式にすることが第一歩です。
- 不定方程式と整数解:
- 核心: 上記の保存則から立式すると、未知数が3つ(\(A, x, y\))に対して式が2つしかなく、一見解けないように見えます。しかし、「崩壊回数\(x, y\)は0以上の整数でなければならない」という物理的な制約条件を利用することで、解を一つに特定できます。
- 理解のポイント: 数学的には解が無限に存在する不定方程式も、物理的な条件(整数解、選択肢の存在)を加えることで解が絞られる、という思考プロセスを理解することが重要です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 他の崩壊系列: ウラン238から始まる「ウラン系列」や、トリウム232から始まる「トリウム系列」など、始点となる原子核が変わっても、全く同じ考え方で解くことができます。
- 陽電子放出(\(\beta^+\)崩壊): 原子番号が1減少するβ崩壊の一種です。これも原子番号の変化ルールに加えることで、より複雑な崩壊系列の問題に対応できます。
- 初見の問題での着眼点:
- 未知数の設定: まず、α崩壊の回数\(x\)、β崩壊の回数\(y\)、最終的な質量数\(A\)など、問題で問われている量をすべて文字で置きます。
- 保存則で立式: 質量数と原子番号、それぞれについて愚直に保存則の式を立てます。
- 不定方程式を解く手がかりを探す: 式の数と未知数の数を確認し、式が足りない場合は「整数解」の条件が使えないか考えます。また、問題文中の「選択肢」も解を絞り込むための強力なヒントです。
- 【上級テクニック】質量数を4で割った余りに注目する:
- α崩壊では質量数が4減るため、4で割った余りは変化しません。
- β崩壊では質量数が変化しないため、もちろん4で割った余りは変化しません。
- つまり、崩壊系列の途中では、質量数を4で割った余りは常に一定です。
- この問題では、ウラン235(\(235 = 4 \times 58 + 3\))なので、余りは3です。したがって、最終的な鉛の質量数も4で割った余りが3になるはずです。選択肢の中でこれに該当するのは207(\(207 = 4 \times 51 + 3\))しかなく、一瞬で質量数を特定できます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- β崩壊の原子番号の変化ミス:
- 誤解: β崩壊でマイナスの電子が放出されるため、原子番号が1「減少する」と勘違いする。
- 対策: β崩壊は「原子核内の中性子が、陽子と電子に分裂する」現象だと覚えることが根本対策です。陽子が1個増えるので、原子番号は1「増加」します。
- 連立方程式の符号ミス:
- 誤解: 原子番号の式を立てる際、\(92 – 2x – y = 82\) のように、β崩壊による増加分(\(+y\))を減少分(\(-y\))としてしまう。
- 対策: 各崩壊が原子番号を「増やす」のか「減らす」のかを、立式する際に一つ一つ確認する癖をつけましょう。「α崩壊→-2」「β崩壊→+1」と明確に意識します。
- 不定方程式で諦めてしまう:
- 誤解: 未知数が3つで式が2つしかないのを見て、「これは解けない」と早合点してしまう。
- 対策: 物理の問題では、式の数と未知数の数が合わない場合、必ず「物理的条件」や「問題設定上の条件」(整数、正の値、選択肢など)を使うことで解けるようになっています。条件を探す癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 質量数保存則・原子番号保存則:
- 選定理由: この問題は、ある原子核が別の原子核に変化する「核反応」そのものを扱っているため、核反応の最も基本的なルールであるこれらの保存則を用いるのが当然の選択です。
- 適用根拠: これらの保存則は、より根源的な物理法則である「核子数保存則」と「電荷保存則」に基づいています。原子核の崩壊は原子核内部で完結する現象であり、外部から核子や電荷が出入りすることはないため、これらの総和は反応の前後で不変に保たれます。この普遍的な法則を、α崩壊・β崩壊という具体的な現象に適用したものが、今回の立式につながります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 立式の再確認: \(235 – 4x = A\) と \(92 – 2x + y = 82\) という2本の式を立てた後、それぞれの項の符号が正しいか(減少はマイナス、増加はプラス)、数字(4, 2, 1)が正しいかを必ず見直します。
- 不定方程式の整理: \(y = 2x – 10\) のように、一つの文字について解く形に整理すると、\(y \ge 0\) という条件から \(x\) の範囲を絞り込む、という次のステップに進みやすくなります。
- 当てはめ計算の表の活用: \(x\) の値を順に代入して \(A\) を求める際、以下のような簡単な表を作ると、計算ミスや確認漏れを防げます。
\(x\) \(A = 235 – 4x\) 選択肢にあるか 5 215 × 6 211 × 7 207 ○ - 最終検算: 求まった解(\(A=207, x=7, y=4\))を、元の2本の保存則の式に両方とも代入して、矛盾なく成立するかを必ず確認します。
- 質量数: \(235 – 4 \times 7 = 235 – 28 = 207\) (OK)
- 原子番号: \(92 – 2 \times 7 + 4 = 92 – 14 + 4 = 82\) (OK)
454 α崩壊
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「静止原子核のα崩壊における運動量保存則とエネルギー保存則」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- α崩壊の法則: 原子核がα粒子(\({}_{2}^{4}\text{He}\))を放出する現象で、反応の前後で質量数と原子番号が保存されます。
- 運動量保存則: 外力が働かない系では、全体の運動量は保存されます。特に、静止していた系が分裂した場合、分裂後の各部分の運動量のベクトル和はゼロになります。
- 運動エネルギーと運動量の関係: 質量\(m\)、運動量\(p\)、運動エネルギー\(K\)の間には、\(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) という重要な関係があります。
- 質量の近似: この問題では、原子核の質量はその質量数に比例するとみなし、質量数\(A\)の原子核の質量を\(Am_0\)として計算します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- (1)では、α崩壊の定義に従って、質量数と原子番号の変化を記述します。
- (2)では、運動エネルギーと運動量の関係式 \(p=\sqrt{2mK}\) を用いて、α粒子の運動量を計算します。
- (3)では、運動量保存則を適用し、新しい原子核の運動量がα粒子の運動量と大きさが等しく、向きが逆であることを示します。
- (4)では、運動量の大きさが等しいことを利用し、関係式 \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) から運動エネルギーが質量に反比例することを用いて、エネルギー比を求めます。
- (5)では、(4)で求めたエネルギー比と、与えられたα粒子の運動エネルギー\(E\)から、新しい原子核の運動エネルギーを計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
α崩壊とは、原子核がα粒子(ヘリウム原子核 \({}_{2}^{4}\text{He}\))を放出する現象です。このとき、核反応の前後で質量数と原子番号の和はそれぞれ保存されます。このルールに従って、崩壊後に残った新しい原子核の質量数と原子番号を求めます。
この設問における重要なポイント
- α粒子は、質量数4、原子番号2のヘリウム原子核である。
- 質量数保存則と原子番号保存則が成り立つ。
具体的な解説と立式
元の原子核を\({}_{Z}^{A}\text{X}\)、崩壊後の新しい原子核を\({}_{Z’}^{A’}\text{Y}\)とします。α崩壊の反応式は次のように書けます。
$$ {}_{Z}^{A}\text{X} \rightarrow {}_{Z’}^{A’}\text{Y} + {}_{2}^{4}\text{He} $$
質量数保存則より、
$$ A = A’ + 4 $$
原子番号保存則より、
$$ Z = Z’ + 2 $$
これらの式を \(A’\) と \(Z’\) について解きます。
使用した物理公式
- 質量数保存則
- 原子番号保存則
$$ A’ = A – 4 $$
$$ Z’ = Z – 2 $$
α崩壊は、原子核から「質量数が4で原子番号が2の粒子」が飛び出す現象です。したがって、残された原子核は、元の原子核に比べて質量数が4、原子番号が2だけ減少します。
新しい原子核の質量数は\(A-4\)、原子番号は\(Z-2\)です。
問(2)
思考の道筋とポイント
α粒子の運動エネルギー\(E\)が与えられているとき、その運動量の大きさを求める問題です。運動エネルギー\(K\)と運動量\(p\)、質量\(m\)の間には \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) という関係式があり、これを使うと速さを介さずに直接運動量を計算できます。
この設問における重要なポイント
- 運動エネルギーと運動量の関係式: \(p = \sqrt{2mK}\)
- α粒子の質量は、問題の仮定「質量数Aの原子核の質量を\(Am_0\)」から、\(m=4m_0\)とみなす。
具体的な解説と立式
α粒子の運動量を\(p_\alpha\)、質量を\(m_\alpha\)、運動エネルギーを\(E\)とします。
運動エネルギーと運動量の関係式より、
$$ p_\alpha = \sqrt{2m_\alpha E} $$
ここで、α粒子の質量数は4なので、問題の仮定からその質量は \(m_\alpha = 4m_0\) とみなせます。これを代入します。
$$ p_\alpha = \sqrt{2(4m_0)E} $$
使用した物理公式
- 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\)
$$
\begin{aligned}
p_\alpha &= \sqrt{8m_0E} \\[2.0ex]&= 2\sqrt{2m_0E}
\end{aligned}
$$
運動量と運動エネルギーの間には、「(\(\text{運動量}\))^2 = 2 \times (\text{質量}) \times (\text{運動エネルギー})」という便利な関係があります。α粒子の運動エネルギーは\(E\)、質量は質量数が4なので\(4m_0\)と近似できます。これらの値を式に入れて平方根をとることで、運動量の大きさが計算できます。
α粒子の運動量の大きさは \(2\sqrt{2m_0E}\) [kg・m/s] となります。
問(3)
思考の道筋とポイント
元の原子核は「静止」していたので、崩壊前の全運動量はゼロです。崩壊は原子核内部の力(内力)による現象なので、系全体で運動量は保存されます。したがって、崩壊後の全運動量もゼロでなければなりません。このことから、新しい原子核の運動量の大きさと向きがわかります。
この設問における重要なポイント
- 運動量保存則が適用できる。
- 静止系からの分裂では、分裂後の粒子の運動量のベクトル和はゼロになる。
具体的な解説と立式
新しい原子核の運動量を \(\vec{p}_{\text{新}}\)、α粒子の運動量を \(\vec{p}_{\alpha}\) とします。
運動量保存則より、反応前の運動量(ゼロ)と反応後の運動量の和は等しくなります。
$$ \vec{0} = \vec{p}_{\text{新}} + \vec{p}_{\alpha} $$
この式を移項すると、
$$ \vec{p}_{\text{新}} = – \vec{p}_{\alpha} $$
この関係は、新しい原子核の運動量とα粒子の運動量が、大きさが等しく、向きが正反対であることを示しています。
したがって、新しい原子核の運動量の大きさは、(2)で求めたα粒子の運動量の大きさに等しくなります。
使用した物理公式
- 運動量保存則
大きさは(2)の結果から \(2\sqrt{2m_0E}\) [kg・m/s] です。
向きはα粒子と逆向きです。
止まっていたスケーターが荷物を前に投げると、スケーター自身は後ろに動くのと同じ原理です。元の原子核が止まっていたので、α粒子が飛び出すと、残された新しい原子核は、α粒子と全く同じ勢い(運動量の大きさ)で、正反対の向きに飛び出します。
新しい原子核の運動量の大きさは \(2\sqrt{2m_0E}\) [kg・m/s]、向きはα粒子と逆向きです。
問(4)
思考の道筋とポイント
α粒子と新しい原子核の運動エネルギーの比を求めます。(3)で、両者の運動量の大きさが等しいことがわかりました。運動エネルギーと運動量の関係式 \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\) を使うと、運動量\(p\)が等しい場合、運動エネルギー\(K\)は質量\(m\)に反比例することがわかります。
この設問における重要なポイント
- 運動量\(p\)が等しいとき、運動エネルギー\(K\)は質量\(m\)に反比例する (\(K \propto \displaystyle\frac{1}{m}\))。
- 質量の近似 \(m \approx (\text{質量数}) \times m_0\) を用いる。
具体的な解説と立式
α粒子の運動エネルギーを\(K_\alpha\)、質量を\(m_\alpha\)、運動量を\(p_\alpha\)とします。
新しい原子核の運動エネルギーを\(K_{\text{新}}\)、質量を\(M_{\text{新}}\)、運動量を\(p_{\text{新}}\)とします。
(3)より、運動量の大きさは等しいので \(p_\alpha = p_{\text{新}} = p\) とおけます。
それぞれの運動エネルギーは、
$$ K_\alpha = \frac{p^2}{2m_\alpha}, \quad K_{\text{新}} = \frac{p^2}{2M_{\text{新}}} $$
これらの比をとると、
$$ \frac{K_\alpha}{K_{\text{新}}} = \frac{p^2 / (2m_\alpha)}{p^2 / (2M_{\text{新}})} = \frac{M_{\text{新}}}{m_\alpha} $$
問題の仮定より、\(m_\alpha = 4m_0\)、新しい原子核の質量数は(1)より\(A-4\)なので、\(M_{\text{新}} = (A-4)m_0\)とみなせます。
$$ \frac{K_\alpha}{K_{\text{新}}} = \frac{(A-4)m_0}{4m_0} = \frac{A-4}{4} $$
したがって、求める比「α粒子と新しい原子核の運動エネルギーの比」は、\(K_\alpha : K_{\text{新}} = (A-4) : 4\) となります。
使用した物理公式
- 運動エネルギーと運動量の関係: \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\)
上記の立式で比の計算は完了しています。
運動の勢い(運動量)が同じでも、軽い粒子ほど速く動くため、運動エネルギーは大きくなります。具体的には、運動エネルギーは質量の「逆比」になります。α粒子(質量は約4)と新しい原子核(質量は約A-4)の運動エネルギーの比は、それぞれの質量をひっくり返した比、つまり \((A-4) : 4\) になります。
運動エネルギーの比は \((A-4) : 4\) となります。質量が小さいα粒子の方が、質量が大きい新しい原子核よりも大きな運動エネルギーを持つという結果は物理的に妥当です。
問(5)
思考の道筋とポイント
(4)で求めた運動エネルギーの比と、問題で与えられたα粒子の運動エネルギー\(E\)を使って、新しい原子核の運動エネルギーを求めます。これは単純な比例計算です。
この設問における重要なポイント
- 比例式の計算: \(a:b = c:d\) ならば \(ad=bc\)。
具体的な解説と立式
(4)の結果より、α粒子の運動エネルギー \(K_\alpha\) と新しい原子核の運動エネルギー \(K_{\text{新}}\) の比は、
$$ K_\alpha : K_{\text{新}} = (A-4) : 4 $$
問題文より \(K_\alpha = E\) なので、
$$ E : K_{\text{新}} = (A-4) : 4 $$
この比例式を \(K_{\text{新}}\) について解きます。
使用した物理公式
- (4)で導出した運動エネルギーの比の関係
比例式の性質(内項の積 = 外項の積)より、
$$
\begin{aligned}
K_{\text{新}} \times (A-4) &= E \times 4 \\[2.0ex]K_{\text{新}} &= \frac{4E}{A-4}
\end{aligned}
$$
(4)で、エネルギーの比が「新しい原子核の質量 : α粒子の質量」つまり \((A-4) : 4\) になることがわかりました。α粒子のエネルギーが\(E\)なので、新しい原子核のエネルギーを\(K_{\text{新}}\)とすると、「\(E : K_{\text{新}} = (A-4) : 4\)」という比例式が成り立ちます。この式を解くことで、新しい原子核のエネルギーを求めることができます。
新しい原子核の運動エネルギーは \(\displaystyle\frac{4E}{A-4}\) [J] です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 静止系からの分裂における2大保存則:
- 核心: この問題は「静止していた原子核が分裂する」という、物理学の様々な分野で現れる基本的なモデルを扱っています。この現象を支配するのは、運動量保存則とエネルギー保存則という2つの強力な法則です。
- 理解のポイント:
- 運動量保存則: 分裂前の運動量がゼロなので、分裂後の2つの粒子の運動量は、大きさが等しく向きが真逆(\(\vec{p}_1 = -\vec{p}_2\))になります。これにより、片方の運動量が分かれば、もう片方も自動的に決まります。
- エネルギー保存則: 崩壊によって解放された全エネルギーは、分裂後の2つの粒子の運動エネルギーの和に等しくなります。
- 運動エネルギーと運動量の関係式 \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\):
- 核心: 上記の2つの保存則を結びつける「架け橋」となるのが、この関係式です。
- 理解のポイント: 運動量保存則から2つの粒子の運動量の大きさ\(p\)が等しいことがわかるので、この式に代入すると、運動エネルギー\(K\)は質量\(m\)に反比例する(\(K \propto \displaystyle\frac{1}{m}\))という非常に重要な結論が導かれます。つまり、軽い粒子ほど大きな運動エネルギーを受け取ることになります。この3つの法則の連携プレーを理解することが、この問題を完全にマスターする鍵です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 核分裂: 静止したウラン原子核が中性子を吸収し、2つの核分裂生成物に分裂する問題。これも運動量保存則とエネルギー保存則が適用できます。
- ロケットの推進: ロケット本体と噴射ガスを一つの系と見なせば、運動量保存則が成り立ちます。
- 衝突と合体: 2つの物体が衝突して合体する場合の、運動量保存則と、失われる運動エネルギー(非弾性衝突)の計算問題。
- 初見の問題での着眼点:
- 「静止していた」というキーワード: この言葉を見つけたら、即座に「運動量保存則: \(\vec{p}_{\text{前}}=0 \Rightarrow \vec{p}_{\text{後}}=0\)」を連想します。
- エネルギーの出入り: 「運動エネルギーはEであった」のようにエネルギーに関する記述があれば、エネルギー保存則や、運動エネルギーと運動量の関係式 \(K=p^2/(2m)\) の出番です。
- 質量の扱い: 「質量数Aの原子核の質量を\(Am_0\)とみなす」といった近似の指示を見逃さないこと。これにより、質量の比を質量数の比で置き換えることができます。
- 求めるものは何か?:
- 運動量 → \(p=\sqrt{2mK}\) で一発。
- 運動エネルギーの比 → 質量の逆比。
- 具体的な運動エネルギー → 全エネルギーを質量の逆比で比例配分。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- エネルギーと運動量の混同:
- 誤解: 崩壊で生じた全エネルギーが、分裂後の粒子に等しく分配されると考えてしまう。
- 対策: 静止系からの分裂では、運動量の「大きさ」は等しくなりますが、運動「エネルギー」は質量の逆比に分配されます。軽い粒子ほど速く、エネルギーも大きい、と覚えましょう。
- 運動エネルギーの比の計算ミス:
- 誤解: 運動エネルギーの比を、質量の比と同じにしてしまう(\(K_\alpha : K_{\text{新}} = 4 : (A-4)\))。
- 対策: \(K=p^2/(2m)\) の関係から、運動量\(p\)が同じなら\(K\)と\(m\)は反比例の関係にあることを強く意識します。比は質量の「逆比」\((A-4) : 4\) となります。
- 運動量の計算で遠回りする:
- 誤解: (2)で運動量を求めるのに、まず \(v = \sqrt{2E/m}\) を計算し、それを \(p=mv\) に代入して計算する。
- 対策: 間違いではありませんが、計算が煩雑になります。運動エネルギー\(K\)と質量\(m\)から直接運動量\(p\)を求める \(p=\sqrt{2mK}\) の公式を積極的に活用する癖をつけましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 運動量保存則:
- 選定理由: (3)で分裂後の粒子の運動状態(向き、大きさ)を問われているため。複数の物体が相互作用する前後での運動状態の変化を扱うには、運動量保存則が最も基本的かつ強力なツールです。
- 適用根拠: α崩壊を引き起こす核力は、原子核とα粒子からなる「系」の内部で働く力(内力)です。系に外力が働かない限り、系の全運動量は変化しないという物理学の大原則が適用できます。
- 運動エネルギーと運動量の関係式 \(K = \displaystyle\frac{p^2}{2m}\):
- 選定理由: (2)で運動エネルギーから運動量を、(4)で運動量が等しいという条件から運動エネルギーの比を求めるために使用します。運動量と運動エネルギーという、異なる二つの重要な物理量を結びつけるための必須の公式です。
- 適用根拠: この式は、運動エネルギーの定義式 \(K=\displaystyle\frac{1}{2}mv^2\) と運動量の定義式 \(p=mv\) から、速さ\(v\)を消去して導かれる、純粋に数学的な恒等式です。これにより、速さを計算することなく、運動量とエネルギーを直接行き来することが可能になります。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 文字式の扱いに慣れる: この問題はほとんどが文字式での計算です。平方根の中に文字が入る計算(\(\sqrt{8m_0E}\))や、分数の割り算などを正確に行う基礎計算力が求められます。
- 比例式の処理: (4)で比を求めた後、(5)で具体的な値を計算する際に、比例式を正しく扱えることが重要です。\(K_\alpha : K_{\text{新}} = (A-4) : 4\) という関係から、\(K_{\text{新}}\) を求めるには、\(K_{\text{新}} = K_\alpha \times \displaystyle\frac{4}{A-4}\) となります。比の関係を分数に直す練習をしておきましょう。
- 単位を意識する: 計算の各段階で、自分が求めている物理量の単位が何であるかを意識すると、間違いに気づきやすくなります。例えば、運動エネルギーの比を求めているのに単位が[J]になることはありません。
- 物理的な妥当性の確認: (4)で求めたエネルギー比 \((A-4):4\) は、質量が小さいα粒子(\(4m_0\))の方が、質量が大きい新しい原子核(\((A-4)m_0\))よりも多くのエネルギーを持つことを意味しており、直観と一致します。このような簡単なチェックで、計算結果の信頼性を高めることができます。
455 崩壊による電流
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「電流の定義と放射線の性質の融合」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 電流の定義: 電流とは、単位時間あたりに、ある断面を通過する電気量のことで、\(I = \displaystyle\frac{\Delta Q}{\Delta t}\) と表されます。1秒あたりに通過する電気量が、そのまま電流の値[A]になります。
- α線の正体: α線は、陽子2個と中性子2個からなるヘリウム原子核(\({}_{2}^{4}\text{He}\))の流れです。
- α粒子の電気量: α粒子は陽子を2個含んでいるため、その電気量は電気素量\(e\)の2倍、つまり \(+2e\) となります。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、α粒子1個が持つ電気量を計算します。
- 次に、1秒間に放出されるα粒子の総数を求めます(問題文で与えられています)。
- 1秒間に放出される全電気量(= 1個あたりの電気量 × 1秒あたりの個数)を計算します。これが求める電流の値となります。
思考の道筋とポイント
電流とは「1秒あたりに流れる電気の量」のことです。この問題では、電気を運ぶ粒子はα線、つまりα粒子です。したがって、1秒間に放出されるα粒子が運ぶ電気量の合計を計算すれば、それがそのまま電流の大きさ[A]になります。そのためには、まずα粒子1個あたりの電気量を知る必要があります。
この設問における重要なポイント
- 電流[A] = 1秒間に通過する電気量[C]
- α線の正体はヘリウム原子核(\({}_{2}^{4}\text{He}\))である。
- α粒子1個の電気量は、陽子2個分なので \(+2e\) である。
具体的な解説と立式
電流の大きさ\(I\)は、1秒あたりに流れる電気量に等しいです。
1秒間に放出されるα粒子の数を\(n\)個、α粒子1個あたりの電気量を\(q_\alpha\)とすると、電流\(I\)は次のように表せます。
$$ I = n \times q_\alpha $$
α線はヘリウム原子核(\({}_{2}^{4}\text{He}\))の流れです。ヘリウム原子核は陽子を2つ含んでいるため、その電気量\(q_\alpha\)は電気素量\(e\)の2倍となります。
$$ q_\alpha = 2e $$
したがって、電流を求める式は次のようになります。
$$ I = n \times (2e) $$
問題文より、1秒間に放出されるα粒子の数は \(n = 3.0 \times 10^{12}\) 個、電気素量は \(e = 1.6 \times 10^{-19}\) C です。
使用した物理公式
- 電流の定義: \(I = \displaystyle\frac{\Delta Q}{\Delta t}\)
- α粒子の電気量: \(q_\alpha = 2e\)
上記の式に数値を代入して、電流\(I\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
I &= (3.0 \times 10^{12}) \times 2 \times (1.6 \times 10^{-19}) \\[2.0ex]&= (3.0 \times 2 \times 1.6) \times (10^{12} \times 10^{-19}) \\[2.0ex]&= 9.6 \times 10^{12-19} \\[2.0ex]&= 9.6 \times 10^{-7}
\end{aligned}
$$
電流を求めるには、まず「1秒間にどれだけの電気量が流れるか」を計算します。
- α粒子1個の電気量: α粒子はプラスの電気を持つ陽子が2個入っているので、その電気量は \(2 \times (\text{電気素量}e)\) です。
- 1秒間の総電気量: 毎秒 \(3.0 \times 10^{12}\) 個のα粒子が出ているので、1秒間に流れる電気量の合計は、「(\(3.0 \times 10^{12}\) 個) \(\times\) (α粒子1個の電気量)」で計算できます。
この計算結果が、そのまま電流の大きさ[A]になります。
このα線による電流は \(9.6 \times 10^{-7}\) A です。計算過程も単純な掛け算であり、指数計算も正しく行えているため、妥当な結果です。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 電流のミクロな定義:
- 核心: 電流というマクロな現象を、「個々の荷電粒子の流れ」というミクロな視点で理解しているかが問われます。
- 理解のポイント: 電流の定義 \(I = \displaystyle\frac{\Delta Q}{\Delta t}\)(単位時間あたりに流れる電気量)を、この問題では「1秒間に流れる粒子の総数 × 粒子1個あたりの電気量」として具体的に計算できることが重要です。
- α線の物理的性質:
- 核心: α線が単なる記号ではなく、「電荷 \(+2e\) を持つヘリウム原子核」という物理的実体であることを正確に知っていることが不可欠です。
- 理解のポイント: この知識がなければ、粒子1個あたりの電気量を計算できず、問題を解くことができません。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- β線による電流: β線(電子)が毎秒\(n\)個放出される場合の電流を求める問題。電子1個の電気量は\(-e\)なので、電流の大きさは \(I = n \cdot e\) となります。
- 導線中の電流: 導線中の自由電子の運動から電流を計算する問題。電子の数密度\(n\)、断面積\(S\)、速さ\(v\)、電気素量\(e\)から、電流が \(I = enSv\) と表されることを導出・計算する問題は典型例です。
- 粒子加速器のビーム電流: 加速器から放出される陽子やイオンのビームが作る電流を計算する問題。考え方は本問と全く同じで、「1秒あたりの粒子数 × 粒子1個の電荷」で計算します。
- 初見の問題での着眼点:
- 「電流」の正体を探る: 問題文で「電流」が問われたら、まず「何の粒子が電荷を運んでいるのか?」を特定します(今回はα線)。
- 「1個あたりの電荷」を計算する: 次に、その粒子1個が持つ電気量を計算します(α線なら陽子2個分で\(+2e\))。
- 「1秒あたりの個数」を確認する: 単位時間あたりに何個の粒子が流れているかを確認します(今回は「毎秒\(3.0 \times 10^{12}\)個」)。
- 掛け算でゴール: 最後に「1個あたりの電荷」と「1秒あたりの個数」を掛け合わせれば、1秒あたりの総電気量、すなわち電流[A]が求まります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- α粒子の電荷の勘違い:
- 誤解: α線の電荷を、陽子1個分と同じ\(+e\)だと勘違いしてしまう。
- 対策: 「α線 \(\leftrightarrow\) ヘリウム原子核 \(\leftrightarrow\) 陽子2個 \(\leftrightarrow\) 電荷 \(+2e\)」という連想を一つのセットとして確実に記憶しましょう。β線(電子、\(-e\))や陽子(\(+e\))との違いを明確に区別することが重要です。
- 放射能(Bq)との関係の混同:
- 誤解: 「毎秒…個」という記述が放射能(単位:ベクレル, Bq)を表すことは理解できても、そこから電流への変換方法がわからなくなる。
- 対策: 放射能\(A\) [Bq]は「1秒あたりの崩壊数(=粒子放出数)」、電流\(I\) [A]は「1秒あたりの電気量」です。両者は「粒子1個の電荷\(q\)」を介して、\(I = A \times q\) という関係で結びつくと理解しましょう。
- 指数計算のミス:
- 誤解: \(10^{12} \times 10^{-19}\) の計算で、指数の足し算 \(12 + (-19) = -7\) を間違える。または、\(3.0 \times 2 \times 1.6 = 9.6\) のような係数部分の計算を間違える。
- 対策: 指数法則 \(a^m \times a^n = a^{m+n}\) を落ち着いて適用します。計算は「係数部分」と「指数部分」に分けて、\( (3.0 \times 2 \times 1.6) \times (10^{12} \times 10^{-19}) \) のように別々に行うと、ミスを大幅に減らせます。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 電流のミクロな定義式 \(I = n \cdot q_\alpha\):
- 選定理由: 問題が「電流」を求めており、与えられている情報が「単位時間あたりの粒子数」と「粒子1個の電荷(を計算するための情報)」であるため。これは電流の定義そのものを、個々の粒子の視点から表現した式であり、この問題に最適な公式です。
- 適用根拠: 電流というマクロな物理量は、ミクロな視点では個々の荷電粒子の運動の集まりです。電流の基本定義 \(I = \displaystyle\frac{\Delta Q}{\Delta t}\) において、時間 \(\Delta t = 1\)秒間に流れる総電気量 \(\Delta Q\) は、その時間内に流れる粒子の総数 \(n\) に、粒子1個あたりの電気量 \(q_\alpha\) を掛けたものに等しくなります。したがって、\(I = \displaystyle\frac{n \cdot q_\alpha}{1\text{s}} = n \cdot q_\alpha\) となり、論理的に導かれます。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式の構造化: 計算式を立てる際に、まず「電流 = (1秒あたりの個数) × (1個あたりの電荷)」のように、日本語で構造を考えます。次に、「\(I = n \times (2e)\)」のように物理記号に置き換えます。最後に、「\(I = (3.0 \times 10^{12}) \times 2 \times (1.6 \times 10^{-19})\)」のように数値を代入します。この3ステップを踏むことで、立式ミスや混乱を防ぎます。
- 係数と指数の分離: \( (3.0 \times 2 \times 1.6) \times (10^{12} \times 10^{-19}) \) のように、計算を係数部分と指数部分に明確に分けてから実行します。
- 係数の計算: \(3.0 \times 2 = 6.0\)、\(6.0 \times 1.6 = 9.6\) のように、簡単な計算でも暗算に頼らず、一つずつ着実に実行することが大切です。
- 有効数字の確認: 問題文で与えられている数値(\(3.0 \times 10^{12}\), \(1.6 \times 10^{-19}\))はどちらも有効数字2桁です。したがって、最終的な答えも有効数字2桁(9.6)で表現するのが適切です。
456 半減期
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「半減期の公式を用いた放射性物質の年代測定計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- 半減期の公式: 放射性原子の数\(N\)は、初めの数\(N_0\)、半減期\(T\)、経過時間\(t\)を用いて、\(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) と表されます。
- 常用対数とその性質: 指数部分に未知数が含まれる方程式を解くために、両辺の常用対数(\(\log_{10}\))をとるのが定石です。その際、\(\log(a^b) = b \log a\) や \(\log(a/b) = \log a – \log b\) といった性質を駆使します。
- 近似計算: 与えられた対数の値を用いて、最終的な数値を計算します。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- 半減期の公式に、問題文で与えられた経過時間と残存率の情報を代入し、未知数である半減期\(T\)に関する方程式を立てます。
- \(T\)が指数の部分にあるため、両辺の常用対数をとって\(T\)を指数の肩から下ろします。
- 対数の性質を利用して式を\(T\)について解き、最後に与えられた\(\log_{10}2\)と\(\log_{10}3\)の値を代入して、半減期\(T\)の近似値を求めます。
思考の道筋とポイント
放射性物質が時間とともにどれだけ減少するかは、半減期の公式で記述されます。この問題では、経過時間(\(t=2\)年)と、その時点での残存率(\(N/N_0 = 0.9\))が与えられており、未知数は半減期\(T\)です。公式にこれらの値を代入すると、\(T\)が指数の部分に含まれる方程式が得られます。このような指数方程式を解くための標準的なテクニックが、両辺の対数をとることです。
この設問における重要なポイント
- 半減期の公式: \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) を正しく適用する。
- 指数方程式を解くために、両辺の常用対数をとるという発想。
- 対数の性質を駆使して、式を未知数\(T\)について整理する計算能力。
具体的な解説と立式
初めの放射性物質の原子核の数を\(N_0\)、半減期を\(T\)[年]とします。
\(t\)年後に崩壊せずに残っている原子核の数\(N\)は、半減期の公式を用いて次のように表されます。
$$ N = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}} $$
問題の条件より、経過時間\(t=2\)[年]のとき、残っていた量は初めの量の9割であったので、\(N = 0.9 N_0\)となります。
これらの値を公式に代入します。
$$ 0.9 N_0 = N_0 \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{2}{T}} $$
両辺を\(N_0\)で割ると、
$$ 0.9 = \left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{2}{T}} $$
この方程式を解くために、両辺の常用対数(\(\log_{10}\))をとります。
$$ \log_{10}(0.9) = \log_{10}\left\{\left(\frac{1}{2}\right)^{\frac{2}{T}}\right\} $$
使用した物理公式
- 放射性崩壊の法則(半減期の式): \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\)
対数の性質を用いて、式を\(T\)について解いていきます。
$$
\begin{aligned}
\log_{10}\left(\frac{9}{10}\right) &= \frac{2}{T} \log_{10}\left(\frac{1}{2}\right) \\[2.0ex]\log_{10}9 – \log_{10}10 &= \frac{2}{T} (\log_{10}1 – \log_{10}2) \\[2.0ex]\log_{10}(3^2) – 1 &= \frac{2}{T} (0 – \log_{10}2) \\[2.0ex]2\log_{10}3 – 1 &= -\frac{2}{T} \log_{10}2
\end{aligned}
$$
この式を\(T\)について解きます。
$$ T = \frac{-2\log_{10}2}{2\log_{10}3 – 1} = \frac{2\log_{10}2}{1 – 2\log_{10}3} $$
ここに、与えられた対数の値 \(\log_{10}2 \approx 0.301\), \(\log_{10}3 \approx 0.477\) を代入します。
$$
\begin{aligned}
T &\approx \frac{2 \times 0.301}{1 – 2 \times 0.477} \\[2.0ex]&= \frac{0.602}{1 – 0.954} \\[2.0ex]&= \frac{0.602}{0.046} \\[2.0ex]&\approx 13.086\dots
\end{aligned}
$$
したがって、半減期は約13年となります。
放射性物質が減っていく様子を表す公式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{t/T}\) を使います。問題文から、2年(\(t=2\))で量が9割(\(N=0.9N_0\))になったことがわかっているので、これを公式に入れます。すると、\(0.9 = (\frac{1}{2})^{2/T}\) という式ができます。求めたい半減期\(T\)が指数の部分にあって計算しにくいので、「対数(log)」という道具を使って、指数の\(2/T\)を式の前に下ろします。対数のルールに従って式を変形していくと、\(T\)を\(\log_{10}2\)と\(\log_{10}3\)で表すことができます。最後に、問題で与えられた\(\log_{10}2\)と\(\log_{10}3\)の値を代入して、割り算をすれば答えが求まります。
半減期は約13年と計算されました。2年で1割しか減っていない(9割残っている)ということは、半分に減るまでにはその何倍もの時間がかかるはずです。13年という結果は、2年より十分に長く、物理的な直観と合致する妥当な値です。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 半減期の公式(放射性崩壊の法則):
- 核心: 放射性物質の原子核の数が、時間とともに指数関数的に減少していく法則を記述した公式 \(N = N_0 \left(\displaystyle\frac{1}{2}\right)^{\frac{t}{T}}\) を正しく理解し、適用できることが全てです。
- 理解のポイント:
- この公式は、初めの原子数(\(N_0\))、時間\(t\)後の原子数(\(N\))、経過時間(\(t\))、そして半減期(\(T\))という4つの量の関係を示しています。
- このうち3つの量が分かっていれば、残りの1つを計算で求めることができます。この問題は、未知数が半減期\(T\)の場合にあたります。
- 対数を用いた指数方程式の解法:
- 核心: 半減期の公式では、未知数が指数の部分に来ることが多々あります。このような指数方程式を解くための標準的な数学的テクニックが、両辺の対数をとることです。
- 理解のポイント:
- 対数の性質 \(\log(M^k) = k \log M\) を利用することで、指数の肩に乗っていた未知数を式の前に下ろし、通常の方程式として扱えるようになります。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- 年代測定: 化石などに含まれる炭素14(\({}^{14}\text{C}\))の残存率から、その化石が何年前のものかを計算する問題。これは、半減期\(T\)が既知で、経過時間\(t\)を未知数として解くパターンです。
- 残存率の計算: ある放射性物質の半減期が分かっているときに、「何年後には何%残っているか」を計算する問題。これは\(t\)と\(T\)が既知で、比\(N/N_0\)を求めるパターンです。
- 崩壊定数\(\lambda\)を用いる問題: より専門的には、崩壊は \(N = N_0 e^{-\lambda t}\) という式でも表されます。この場合は常用対数ではなく自然対数(\(\ln\))を用いて計算します。半減期との間には \(T = \displaystyle\frac{\ln 2}{\lambda}\) という関係があります。
- 初見の問題での着眼点:
- 4つの要素の特定: 問題文を読み、半減期の公式 \(N = N_0 (\frac{1}{2})^{t/T}\) の4つの要素(\(N_0, N, t, T\))のうち、何が与えられていて、何が未知数なのかを正確に整理します。
- 残存率の分数・小数化: 「9割残った」→ \(N/N_0 = 0.9 = 9/10\) のように、割合を計算しやすい形に直します。
- 対数の選択: 問題文で与えられている対数の底を確認します。\(\log_{10}\)が与えられていれば常用対数、\(\ln\)が与えられていれば自然対数をとります。
- 対数の中身の変形: \(\log_{10}(0.9)\) のような小数は、\(\log_{10}(9/10)\) のように分数に直し、\(\log_{10}9 – \log_{10}10 = 2\log_{10}3 – 1\) と変形するのが定石です。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 半減期の公式の指数の混同:
- 誤解: 指数部分を \(\displaystyle\frac{T}{t}\) や \(t \cdot T\) のように間違えて覚えてしまう。
- 対策: 指数は「半減期を何回経験したか」という回数を意味すると覚えましょう。例えば、経過時間\(t\)が半減期\(T\)の3倍なら、\(t/T=3\)で3回経験したことになり、量は \((\displaystyle\frac{1}{2})^3 = \displaystyle\frac{1}{8}\) になります。この具体例で毎回確認できます。
- 対数の計算ミス:
- 誤解: \(\log_{10}(9/10)\) を \(\log_{10}9 \div \log_{10}10\) のように、割り算の対数を対数の割り算と勘違いする。
- 対策: \(\log(A/B) = \log A – \log B\) という引き算の形になる性質を正確に覚えることが不可欠です。同様に、\(\log(A \times B) = \log A + \log B\) もセットで確認しましょう。
- 最終的な式の変形ミス:
- 誤解: \(2\log_{10}3 – 1 = -\displaystyle\frac{2}{T} \log_{10}2\) から\(T\)を求める際に、符号や分母・分子を間違える。
- 対策: 焦らず、一行ずつ丁寧に式を変形します。「まず両辺に\(-1\)を掛けて符号を整理する」「次に\(T\)を左辺に、それ以外を右辺に移項する」など、手順を分けて実行するとミスが減ります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 半減期の公式 \(N = N_0 (\displaystyle\frac{1}{2})^{t/T}\):
- 選定理由: 問題が「放射性物質」の「半減期」と時間経過による量の変化を扱っているため、この現象を直接記述する本公式を選択するのは必然です。
- 適用根拠: この公式の根源には、「ある瞬間に崩壊する原子の数は、その瞬間に存在する原子の数に比例する」という統計的な法則があります。この関係を微分方程式 \(\displaystyle\frac{dN}{dt} = -\lambda N\) として表現し、これを解くと指数関数的な減少 \(N = N_0 e^{-\lambda t}\) が導かれます。半減期の公式は、この指数関数を、より直感的で分かりやすい「半分になる時間」というパラメータ\(T\)で書き直したものに他なりません。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 式の整理を優先: 数値を代入するのは、式を求める未知数(今回は\(T\))について完全に解いてからにしましょう。\(T = \displaystyle\frac{2\log_{10}2}{1 – 2\log_{10}3}\) の形まで整理してから値を代入することで、計算の見通しが良くなり、ミスが減ります。
- 分子と分母を別々に計算: 上記の式に値を代入したら、まず分子(\(2 \times 0.301 = 0.602\))と分母(\(1 – 2 \times 0.477 = 1 – 0.954 = 0.046\))をそれぞれ個別に計算します。
- 小数点の位置を揃える: \(1 – 0.954\) のような計算は、\(1.000 – 0.954\) のように筆算で小数点の位置を揃えて計算すると、ケアレスミスを防げます。
- 概算による検算: 最終的な割り算 \(\displaystyle\frac{0.602}{0.046}\) を行う前に、\(\displaystyle\frac{0.6}{0.05} = \displaystyle\frac{60}{5} = 12\) のように概算します。計算結果(\(13.08\dots\))がこの概算値に近いため、大きな間違いはないと判断できます。
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