「センサー総合物理 3rd Edition」徹底解説!【Chapter 32】Step 2 (449~456)

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Step 2

449 原子量

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「同位体の存在比を用いた原子量の計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 同位体: 同じ元素(原子番号が同じ)でありながら、中性子の数が異なるために質量数が異なる原子のことです。化学的性質はほぼ同じですが、質量が異なります。
  2. 原子量: 自然界に存在する元素の同位体のうち、それぞれの質量とその存在比を考慮して計算された、原子の質量の平均値です。周期表に載っているのはこの原子量です。
  3. 加重平均: 複数の数値の平均を求める際に、それぞれの数値の重要度や寄与度(重み)を考慮して計算する方法です。原子量の計算では、存在比がこの「重み」に相当します。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 各同位体の質量に、その存在比率(パーセンテージ)を掛け合わせます。
  2. それらの値をすべて足し合わせることで、加重平均を求めます。
  3. 最後に、問題で指定された有効数字に結果を丸めます。

思考の道筋とポイント
原子量とは、自然界に存在する同位体の質量の平均値です。ただし、単純に質量の和を同位体の種類数で割るのではなく、それぞれの同位体が自然界にどれくらいの割合で存在するか(存在比)を考慮した「加重平均」を計算する必要があります。たくさん存在する同位体の質量は平均値に大きく影響し、少ししか存在しない同位体の質量はあまり影響しません。この「重み」が「存在比」に相当します。
この設問における重要なポイント

  • 原子量は、各同位体の質量と存在比から計算される加重平均である。
  • 原子量 = (同位体1の質量 × 存在比率1) + (同位体2の質量 × 存在比率2) + …
  • 存在比 \(a : b\) は、比率に直すとそれぞれ \(\displaystyle\frac{a}{a+b}\) と \(\displaystyle\frac{b}{a+b}\) になる。

具体的な解説と立式
銅の原子量を\(M\)とします。問題で与えられた同位体の情報と存在比は以下の通りです。

  • 同位体1: 質量 \(M_1 = 62.93 \text{ u}\), 存在比 \(r_1 = 69.2\)
  • 同位体2: 質量 \(M_2 = 64.93 \text{ u}\), 存在比 \(r_2 = 30.8\)

存在比の合計は \(69.2 + 30.8 = 100.0\) となるため、存在比の数値をそのままパーセンテージとして扱うことができます。
したがって、同位体1の存在比率は \(\displaystyle\frac{69.2}{100}\)、同位体2の存在比率は \(\displaystyle\frac{30.8}{100}\) となります。
銅の原子量\(M\)は、これらの加重平均として次のように計算されます。
$$ M = M_1 \times \frac{r_1}{r_1+r_2} + M_2 \times \frac{r_2}{r_1+r_2} $$
値を代入すると、
$$ M = 62.93 \times \frac{69.2}{100} + 64.93 \times \frac{30.8}{100} $$

使用した物理公式

  • 原子量の定義式(加重平均): \(M = M_1 \times \displaystyle\frac{r_1}{r_1+r_2} + M_2 \times \displaystyle\frac{r_2}{r_1+r_2}\)
計算過程

$$
\begin{aligned}
M &= 62.93 \times 0.692 + 64.93 \times 0.308 \\[2.0ex]
&= 43.54756 + 19.99844 \\[2.0ex]
&= 63.546
\end{aligned}
$$
問題文で有効数字3桁で求めよと指示されているので、計算結果の \(63.546\) を上から4桁目で四捨五入します。
$$ M \approx 63.5 $$

計算方法の平易な説明

原子量というのは、たくさんの原子を集めてきたときの「平均の重さ」のことです。この問題の場合、銅原子がもし100個あったとすると、そのうち69.2個は重さ62.93の軽い銅で、残りの30.8個は重さ64.93の重い銅だ、と考えることができます。
全体の重さの合計は「\(62.93 \times 69.2 + 64.93 \times 30.8\)」で計算できます。
この合計を、原子の個数100で割ることで、平均の重さ(原子量)が求まります。

結論と吟味

銅の原子量は \(63.5 \text{ u}\) です。この値は、2つの同位体の質量 \(62.93 \text{ u}\) と \(64.93 \text{ u}\) の間にあり、存在比の大きい軽い方の同位体(\(62.93 \text{ u}\))に近い値になっています。これは加重平均の結果として物理的に妥当です。

解答 63.5 u

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 原子量の定義(加重平均):
    • 核心: この問題の核心は、「原子量」が単なる質量の平均ではなく、自然界における同位体の「存在比」を重みとして考慮した「加重平均」であるという一点に尽きます。
    • 理解のポイント:
      • 同位体: 同じ元素(陽子の数が同じ)でも、中性子の数が違うために質量が異なる原子たちのことです。
      • 原子量: 周期表に載っている原子の質量は、これら複数の同位体の質量を、その存在比に応じて平均した値です。たくさん存在する同位体の質量が、平均値に強く影響を与えます。
      • 公式: 原子量 = (同位体Aの質量 × Aの存在比率) + (同位体Bの質量 × Bの存在比率) + …
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 逆算問題: 原子量と片方の同位体の情報(質量や存在比)が与えられ、もう一方の同位体の質量や存在比を未知数として計算させる問題。
    • 存在比を未知数とする問題: 2種類の同位体の質量と原子量が与えられ、それぞれの存在比を \(x\) と \(1-x\) (または \(100-x\))とおいて方程式を解く問題。
    • 質量数による近似計算: 精密な質量ではなく、質量数(例: 塩素 35と塩素37)を質量の代わりに使って原子量を概算させる問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 与えられた数値の確認: 問題で与えられているのが「精密な質量」なのか、それとも「質量数」なのかを最初に確認します。
    2. 存在比の形式を確認: 存在比が「\(a:b\)」の形式か、「パーセント(%)」の形式かを確認します。\(a:b\) の場合、比率の合計が100になるとは限らないので、分母は \(a+b\) として計算する必要があります。(この問題では \(69.2+30.8=100\) なので、パーセントと同じように扱えます)
    3. 有効数字の桁数: 計算を始める前に、答えに求められる有効数字の桁数を必ず確認し、マークしておきましょう。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 単純平均の計算:
    • 誤解: 2つの同位体の質量を単純に足して2で割ってしまう。(例: \((62.93 + 64.93) \div 2 = 63.93\))
    • 対策: 「原子量」という言葉を見たら、脊髄反射で「加重平均!」と思い出すようにしましょう。存在比を無視してはいけない、と強く意識することが重要です。
  • 比率の計算ミス:
    • 誤解: 存在比が \(3:1\) のような簡単な整数比で与えられたときに、うっかり3や1をそのまま掛けてしまう。
    • 対策: 存在比は必ず「全体に対する割合」に直してから計算する癖をつけます。\(3:1\) ならば、全体は \(3+1=4\) なので、それぞれの割合は \(\displaystyle\frac{3}{4}\) と \(\displaystyle\frac{1}{4}\) になります。
  • 有効数字の処理ミス:
    • 誤解: 計算の途中(例: \(62.93 \times 0.692\) の結果)で四捨五入してしまい、最終的な答えに誤差が生じる。
    • 対策: 有効数字の処理は、すべての足し算・引き算が終わった最後の最後に行うのが鉄則です。計算途中では、有効数字より1〜2桁多く残して計算を進めましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 加重平均の式:
    • 選定理由: 問題が「原子量」を求めているため、その定義式である加重平均の式を選択するのは必然です。
    • 適用根拠: なぜ加重平均なのか?それは、原子量が「自然界から無作為に銅原子を1個取り出したとき、その質量の期待値はいくつか?」という問いに答えるものだからです。たくさん存在する同位体ほど、取り出される確率(=存在比)が高くなります。したがって、各同位体の質量にその確率(重み)を掛けて足し合わせる「加重平均」こそが、その元素の平均的な姿を最もよく表す指標となるのです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 式の全体像を先に書く: まず \(M = 62.93 \times \displaystyle\frac{69.2}{100} + 64.93 \times \displaystyle\frac{30.8}{100}\) という最終的な式を書き出します。これにより、何を計算すべきかが明確になります。
  • 項ごとに計算する: 上の式の2つの項、\(62.93 \times 0.692\) と \(64.93 \times 0.308\) をそれぞれ別々に、間違いのないように筆算などで計算します。
  • 概算で検算する: 計算を実行する前に、おおよその値を予測します。例えば、\(63 \times 0.7 + 65 \times 0.3 = 44.1 + 19.5 = 63.6\) のように、簡単な数値で概算します。精密な計算結果(\(63.546\))がこの概算値と大きく異なっていなければ、計算ミスをしている可能性は低いと判断できます。
  • 答えの妥当性を吟味する: 最終的な答え(\(63.5\))が、もとの2つの同位体の質量(\(62.93\)と\(64.93\))の間に収まっているかを確認します。さらに、存在比の大きい方(\(69.2\%\))の質量(\(62.93\))に近い値になっているかも確認します。この2点を満たしていれば、答えは妥当である可能性が高いです。

450 同位体の存在比

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「原子量と同位体の情報から、未知の存在比を逆算する計算」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. 原子量の定義: 原子量は、自然界に存在する同位体の質量を、その存在比で加重平均した値です。
  2. 加重平均の公式: (値A × 重みA) + (値B × 重みB) + … = 全体の平均値。この問題では、値が同位体の質量、重みが存在比率にあたります。
  3. 一次方程式: 未知数(この問題では存在比)を文字でおき、等式を立てて解を求める数学的な手法です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. 求める同位体の存在比を未知数 \(x\) [%] とおきます。
  2. もう一方の同位体の存在比は、全体の100%から \(x\) を引いた \((100-x)\) [%] と表せます。
  3. 原子量の加重平均の公式に、与えられた質量(質量数で代用)、原子量、そして \(x\) を用いた存在比率を代入して方程式を立てます。
  4. 立てた一次方程式を解き、\(x\) の値を求めます。

思考の道筋とポイント
この問題は、同位体の質量と存在比から原子量を求める計算の「逆算」バージョンです。原子量という「平均値」が、2つの同位体の質量(35uと37u)のどちらに近いかを見ることで、どちらの同位体が多く存在するのかを大まかに推測できます。原子量35.5は、35と37のちょうど真ん中(36)よりも35に近いため、質量35uの塩素原子の方が多く存在することがわかります。この推測を元に、具体的な存在比を方程式を立てて計算します。
この設問における重要なポイント

  • 原子量 = (同位体1の質量 × 存在比率1) + (同位体2の質量 × 存在比率2)
  • 2つの同位体の存在比率の和は1(または100%)になる。
  • 求める存在比を\(x\)%とすると、もう一方は \((100-x)\)% と表せる。

具体的な解説と立式
求める質量35uの塩素原子の存在比を \(x\) [%] とします。
塩素の同位体は質量35uと37uの2種類しかないので、質量37uの塩素原子の存在比は、全体(100%)から\(x\)%を引いた \((100-x)\) [%] と表すことができます。

原子量は、これらの同位体の質量を加重平均したものです。問題文では「質量35u」とありますが、このような計算では通常、精密な質量のかわりに質量数(35と37)をそのまま用いて計算します。
原子量の定義式に、それぞれの値と存在比率(%を小数に直したもの)を代入すると、次の方程式が成り立ちます。
$$ 35 \times \frac{x}{100} + 37 \times \frac{100-x}{100} = 35.5 $$

使用した物理公式

  • 原子量の定義式(加重平均)
計算過程

上記で立てた方程式を解いて、\(x\)の値を求めます。
まず、計算しやすくするために両辺に100を掛けて、分母を払います。
$$
\begin{aligned}
35x + 37(100-x) &= 35.5 \times 100 \\[2.0ex]
35x + 3700 – 37x &= 3550 \\[2.0ex]
-2x &= 3550 – 3700 \\[2.0ex]
-2x &= -150 \\[2.0ex]
x &= 75
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

求めたい「質量35uの塩素」の割合を\(x\)パーセントとします。すると、相方である「質量37uの塩素」の割合は、残りの \((100-x)\) パーセントになります。
原子量の計算は「(重さA × Aの割合) + (重さB × Bの割合) = 平均の重さ」というルールなので、これに当てはめて、
「\(35 \times \displaystyle\frac{x}{100} + 37 \times \displaystyle\frac{100-x}{100} = 35.5\)」
という方程式を作ります。あとはこの方程式を解けば、\(x\)の値が75であることがわかります。

結論と吟味

質量35uの塩素原子の存在比は75%です。
これにより、質量37uの塩素原子の存在比は \(100 – 75 = 25\)% となります。存在比は \(75:25\)、つまり \(3:1\) です。
原子量35.5は、質量35と37を \(3:1\) に内分する点に相当し、\(35 \times \displaystyle\frac{3}{4} + 37 \times \displaystyle\frac{1}{4} = 26.25 + 9.25 = 35.5\) となり、計算結果が正しいことが確認できます。また、原子量35.5は、存在比の大きい35uの方に近い値となっており、物理的に妥当です。

解答 75 %

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • 原子量の定義式の逆算:
    • 核心: この問題は、前問(449)で用いた「原子量は同位体の質量の加重平均である」という定義式を、今度は方程式として利用し、未知の「存在比」を求める逆算問題です。
    • 理解のポイント:
      • 原子量の公式: 原子量 = (同位体Aの質量 × Aの存在比率) + (同位体Bの質量 × Bの存在比率)
      • この公式は、原子量、各同位体の質量、各同位体の存在比率という4つの要素で構成されています。このうち3つの要素が分かっていれば、残りの1つを方程式を解くことで求めることができます。
      • 今回は、未知の存在比を\(x\)と置くことで、一次方程式を立てて解く問題に帰着させます。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 未知数がもう一方の同位体の質量: 2つの同位体の存在比と原子量が与えられ、片方の同位体の質量を未知数\(m\)として方程式を解く問題。
    • 同位体が3種類: 3種類の同位体が存在し、未知数が2つになる場合。他の条件(例: 2つの同位体の存在比が等しいなど)が与えられて連立方程式を解く問題。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. あたりをつける: まず、与えられた原子量(35.5)が、2つの同位体の質量(35と37)のどちらに近いかを確認します。35.5は、35と37のちょうど真ん中(36)よりも35の方に近いので、質量35uの同位体の方が多く存在するはずだと予測できます。この予測は、計算結果の検算に役立ちます。
    2. 未知数を設定する: 問題で問われている「質量35uの塩素原子の百分率」を未知数\(x\) [%]と置くのが最も素直です。
    3. 他の量を未知数で表す: 2種類の同位体しかないので、一方の存在比が\(x\)%なら、もう一方は自動的に \((100-x)\)% と表せます。この「合計が100%になる」という関係を見抜くことが重要です。
    4. 方程式を立てる: 原子量の加重平均の公式に、すべての値を代入して等式を作ります。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • 方程式の立式ミス:
    • 誤解: \(35x + 37(100-x) = 35.5\) のように、存在比率(\(\displaystyle\frac{x}{100}\))ではなく存在比のパーセント値(\(x\))をそのまま掛けてしまう。
    • 対策: 必ず「比率(小数または分数)」を掛けることを徹底しましょう。両辺に100を掛けて分母を払う場合でも、元々の式は \(\displaystyle\frac{x}{100}\) であることを意識することが大切です。
  • 分配法則の計算ミス:
    • 誤解: \(37(100-x)\) の展開を \(3700-x\) のように、後ろの\(x\)に37を掛け忘れる。
    • 対策: 括弧を展開するときは、中のすべての項に係数を掛けるという基本ルールを常に守りましょう。\(37 \times 100 – 37 \times x\) と丁寧に計算する癖をつけます。
  • 移項ミス:
    • 誤解: \(35x – 37x = 3550 – 3700\) のような計算で、項を移す際に符号を間違える。
    • 対策: 方程式を解く際は、まず文字の項を左辺に、数字の項を右辺に集めるなど、手順を決めておくとミスが減ります。移項した項は符号が反転することを、一つ一つ確認しましょう。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 原子量の加重平均の式:
    • 選定理由: 問題に「同位体」「原子量」「存在比」という3つのキーワードが登場した時点で、これらを結びつける関係式は原子量の加重平均の式しかありません。
    • 適用根拠: この問題は、原子量の定義そのものを問うています。定義式は、各要素の関係性を表す等式です。等式の中に未知数が一つだけ含まれていれば、それは未知数に関する「方程式」として解くことができます。今回は、存在比\(x\)が未知数の方程式を立てるために、この定義式を利用します。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 最初に分母を払う: 分数のまま計算を進めると複雑になりがちです。\(35 \times \displaystyle\frac{x}{100} + 37 \times \displaystyle\frac{100-x}{100} = 35.5\) の式を立てたら、まず両辺に100を掛けて \(35x + 37(100-x) = 3550\) という整数の式に直すことで、その後の計算が格段に楽になり、ミスも減ります。
  • 丁寧な展開: 上記の \(35x + 3700 – 37x = 3550\) のように、分配法則は省略せずに書き下します。
  • 検算の徹底:
    • 代入による検算: 求めた答え \(x=75\) を元の方程式に代入し、等式が成り立つか確認します。\(35 \times \displaystyle\frac{75}{100} + 37 \times \displaystyle\frac{25}{100} = 35 \times 0.75 + 37 \times 0.25 = 26.25 + 9.25 = 35.5\)。成り立ちます。
    • 物理的な妥当性の確認: 最初に立てた予測「35uの塩素の方が多いはず」と、計算結果「75%」は一致しています。もし答えが50%未満になったら、どこかで計算ミスをしている可能性が高いと判断できます。

451 質量分析器

【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド

この問題のテーマは「磁場中での荷電粒子の運動(質量分析器の原理)」です。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。

  1. ローレンツ力: 磁場中を運動する荷電粒子が受ける力で、大きさは \(F=qvB\) で与えられます(速度と磁場が垂直な場合)。
  2. フレミングの左手の法則: ローレンツ力の向きを決定する法則です。電流(正電荷の運動方向)、磁場、力の向きの関係を示します。
  3. 円運動の運動方程式: 荷電粒子はローレンツ力を向心力として等速円運動します。その運動は \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\) で記述されます。
  4. 比電荷: 粒子の質量に対する電気量の比 \(\displaystyle\frac{q}{m}\) のことで、荷電粒子の運動のしやすさを示す重要な物理量です。

基本的なアプローチは以下の通りです。

  1. (1)では、イオンの運動方向(電流の向き)、磁場の向き、そして実際に曲がる向き(力の向き)の関係をフレミングの左手の法則に当てはめて、電荷の符号を判断します。
  2. (2)では、イオンがローレンツ力を向心力として等速円運動することから運動方程式を立てます。軌道の直径が\(d\)であることから半径を求め、式を比電荷 \(\displaystyle\frac{q}{m}\) について整理します。
  3. (3)では、質量\(M\)の同位体についても(2)と全く同じように比電荷の式を立てます。そして、2つのイオンについて立てた2本の式を辺々割り算することで、質量比 \(\displaystyle\frac{M}{m}\) を求めます。

問(1)

思考の道筋とポイント
イオンが磁場から受ける力の向き(ローレンツ力の向き)を、フレミングの左手の法則を用いて判断します。イオンはスリットSを上向きに通過し、右向きに曲がっています。これは、力が円運動の中心方向、つまり右向きに働いたことを意味します。この情報と磁場の向きから、電荷の符号を決定します。
この設問における重要なポイント

  • フレミングの左手の法則は、正電荷の移動(電流)を基準にしている。
  • 磁場の向きは紙面の裏から表向きである。
  • イオンの運動方向はスリットSを通過する瞬間は上向き、力の向きは軌跡が曲がる右向きである。

具体的な解説と立式
フレミングの左手の法則を適用します。

  • 中指(電流の向き): イオンがSを通過する瞬間の速度の向き、つまり上向きに合わせます。
  • 人差し指(磁場の向き): 紙面の裏から表に向かう向きに合わせます。

このとき、親指(力の向き)は右を向きます。
実際にイオンが描く軌道は右に曲がっており、円運動の中心は右側にあるため、イオンに働く力は右向きです。
法則から導かれる力の向きと、実際の力の向きが一致するため、イオンの電荷\(q\)の符号は正であると判断できます。

使用した物理公式

  • フレミングの左手の法則
計算過程

この設問は法則の適用を問うものであり、計算は不要です。

計算方法の平易な説明

左手の「中指(電流)・人差し指(磁場)・親指(力)」を考えます。イオンは上向きに進むので、中指を上に向けます。磁場はこちら向き(紙面の奥から手前)なので、人差し指を自分の方に向けます。すると、親指は自然と右を向きます。イオンは実際に右に曲がっているので、力の向きは右向きでOKです。フレミングの左手の法則はプラスの電気を帯びた粒が動く場合を基準にしているので、イオンの電気はプラスだとわかります。

結論と吟味

フレミングの左手の法則の適用により、\(q\)の符号は正であることがわかりました。

解答 (1)

問(2)

思考の道筋とポイント
磁場中で荷電粒子が等速円運動をするとき、その向心力は磁場から受けるローレンツ力によって供給されます。この「向心力 = ローレンツ力」という関係から運動方程式を立て、式を整理して比電荷 \(\displaystyle\frac{q}{m}\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • ローレンツ力が向心力として働く。
  • 円運動の軌道の直径が\(d\)なので、半径は \(r = \displaystyle\frac{d}{2}\) である。
  • ローレンツ力の大きさは \(F=qvB\) で与えられる。

具体的な解説と立式
イオンの質量を\(m\)、電気量を\(q\)、速さを\(v\)、磁束密度を\(B\)とします。
イオンが描く半円の直径は\(d\)なので、その円運動の半径\(r\)は、
$$ r = \frac{d}{2} $$
このイオンにはたらくローレンツ力の大きさ\(F\)は、
$$ F = qvB $$
このローレンツ力が向心力となって円運動をするので、運動方程式は次のように立てられます。
$$ m\frac{v^2}{r} = qvB $$
この式に \(r = \displaystyle\frac{d}{2}\) を代入します。
$$ m\frac{v^2}{d/2} = qvB $$

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
  • ローレンツ力: \(F = qvB\)
計算過程

運動方程式を比電荷 \(\displaystyle\frac{q}{m}\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
m\frac{2v^2}{d} &= qvB
\end{aligned}
$$
両辺を \(v\) で割り(\(v \neq 0\))、式を \(\displaystyle\frac{q}{m}\) の形に整理します。
$$
\begin{aligned}
m\frac{2v}{d} &= qB \\[2.0ex]
\frac{q}{m} &= \frac{2v}{dB}
\end{aligned}
$$

計算方法の平易な説明

イオンを円運動させる力(向心力)の正体は、磁場からの力(ローレンツ力)です。なので、「向心力 = ローレンツ力」という等式を作ります。向心力は「質量 \(\times\) 速さの2乗 \(\div\) 半径」、ローレンツ力は「電気量 \(\times\) 速さ \(\times\) 磁場」です。図から、円の直径が\(d\)なので、半径は\(d/2\)です。これらの情報を式に代入し、問題で問われている「\(\displaystyle\frac{q}{m}\)」の形になるように変形すれば、答えが求まります。

結論と吟味

イオンの比電荷は \(\displaystyle\frac{2v}{dB}\) となります。式の次元を確認しても物理的に妥当な結果です。

解答 (2) \(\displaystyle\frac{2v}{dB}\)

問(3)

思考の道筋とポイント
質量\(M\)の同位体についても、(2)と全く同じ物理法則が適用できます。電気量\(q\)と速度\(v\)は質量\(m\)のイオンと等しく、磁束密度\(B\)も同じです。異なるのは質量と、その結果として変わる軌道の直径です。質量\(M\)のイオンについて(2)と同様に比電荷の式を立て、先に求めた質量\(m\)のイオンの式と比較することで、質量比 \(\displaystyle\frac{M}{m}\) を求めます。
この設問における重要なポイント

  • 同位体は質量が異なるが、電気量\(q\)は同じである。
  • 速度\(v\)も同じ条件で入射している。
  • 2つのイオンについて同じ形の式を立て、辺々割り算をして不要な文字を消去するのが定石。

具体的な解説と立式
まず、(2)で求めた質量\(m\)のイオンに関する式を再掲します。
$$ \frac{q}{m} = \frac{2v}{dB} \quad \cdots ① $$
次に、質量\(M\)の同位体について考えます。このイオンの電気量と速度はそれぞれ\(q\), \(v\)で等しいです。軌道の直径は \(d+\Delta d\) なので、半径は \(\displaystyle\frac{d+\Delta d}{2}\) となります。
この同位体についても同様に運動方程式を立てると、
$$ M\frac{v^2}{(d+\Delta d)/2} = qvB $$
これを比電荷 \(\displaystyle\frac{q}{M}\) について整理します。
$$ \frac{q}{M} = \frac{2v}{(d+\Delta d)B} \quad \cdots ② $$
求めたいのは質量比 \(\displaystyle\frac{M}{m}\) なので、式①と式②を使って、他の変数を消去します。

使用した物理公式

  • 円運動の運動方程式: \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F_{\text{向心力}}\)
  • ローレンツ力: \(F = qvB\)
計算過程

式①を式②で辺々割る(または、式① ÷ 式② を計算する)と、
$$ \frac{q/m}{q/M} = \frac{2v/dB}{2v/((d+\Delta d)B)} $$
この式の左辺と右辺をそれぞれ整理します。

左辺:
$$ \frac{q/m}{q/M} = \frac{q}{m} \times \frac{M}{q} = \frac{M}{m} $$
右辺:
$$ \frac{2v/dB}{2v/((d+\Delta d)B)} = \frac{2v}{dB} \times \frac{(d+\Delta d)B}{2v} = \frac{d+\Delta d}{d} $$
したがって、次の関係が得られます。
$$ \frac{M}{m} = \frac{d+\Delta d}{d} $$

計算方法の平易な説明

重さが\(M\)のイオンについても、(2)と全く同じように「向心力=ローレンツ力」の式を立てます。ただし、直径が\(d\)ではなく\(d+\Delta d\)になる点だけが違います。これで、イオン\(m\)についての式と、イオン\(M\)についての式の2本が手に入ります。求めたいのは質量の比 \(\displaystyle\frac{M}{m}\) なので、この2本の式を割り算します。すると、両方の式に共通して含まれている \(q, v, B\) などの文字がうまく消えてくれて、\(\displaystyle\frac{M}{m}\) が \(d\) と \(\Delta d\) だけのシンプルな式で表せます。

結論と吟味

質量比 \(\displaystyle\frac{M}{m}\) は \(\displaystyle\frac{d+\Delta d}{d}\) となります。この結果は、\(\Delta d > 0\) のとき \(\displaystyle\frac{M}{m} > 1\)、つまり \(M>m\) となることを示しています。これは、質量が大きい粒子ほど磁場で曲がりにくく、より大きな半径の円軌道を描くという物理的な直観と一致しており、妥当な結果です。

解答 (3) \(\displaystyle\frac{d+\Delta d}{d}\)

【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座

最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
  • ローレンツ力を向心力とする等速円運動:
    • 核心: この問題の物理現象は、この一言に集約されます。磁場中に垂直に入射した荷電粒子は、常に進行方向と垂直なローレンツ力を受け、その力を向心力として等速円運動を行います。
    • 理解のポイント:
      • 運動方程式: この現象を記述する最も重要な式が、円運動の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = qvB\) です。この式を立てられることが、(2)以降を解くための絶対条件です。
      • 軌道半径の公式: 上の運動方程式を半径\(r\)について解くと得られる \(r = \displaystyle\frac{mv}{qB}\) は、質量分析器やサイクロトロンなど、関連問題を解く上で非常に強力な武器となります。この式は「軌道半径は運動量\(mv\)に比例し、電気量\(q\)と磁場\(B\)に反比例する」ことを示しています。
      • 力の向き: (1)で問われるように、ローレンツ力の向きをフレミングの左手の法則で正しく判断することも、現象を理解する上で不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
  • 応用できる類似問題のパターン:
    • 速度選択器との組み合わせ: 一様な電場\(E\)と磁場\(B\)が直交する領域を粒子が直進する問題。このとき、電場からの力\(qE\)とローレンツ力\(qvB\)が釣り合うため、\(v=E/B\) となる特定の速度の粒子だけが通過できます。この装置で速度を揃えた後、本問のような質量分析器に入射させるのが典型的なパターンです。
    • サイクロトロン: D字型の電極間で周期的に加速し、磁場で半円運動を繰り返す粒子加速器。円運動の周期 \(T = \displaystyle\frac{2\pi m}{qB}\) が粒子の速度や半径によらない、という性質が重要になります。
    • らせん運動: 荷電粒子が磁場に対して斜めに入射する場合。速度を磁場に平行な成分と垂直な成分に分解して考えます。平行成分は力を受けず等速直線運動、垂直成分は円運動となり、全体としてらせん状の軌道を描きます。
  • 初見の問題での着眼点:
    1. 力の特定: まず、荷電粒子に働く力をすべてリストアップします。磁場があればローレンツ力、電場があれば静電気力です。
    2. 運動の種類の判断: 働く力(合力)の向きと速度の向きの関係から、粒子がどのような運動(直進、円運動、放物運動、らせん運動など)をするかを見極めます。
    3. 運動方程式の立式: 運動の種類に応じた運動方程式を立てます。特に円運動の場合は「向心力 = (力の正体)」という形を意識します。
    4. 軌道の幾何学的情報: 問題文や図から、軌道の半径や直径、ピッチ(らせんの場合)などの情報を正確に読み取り、運動方程式に代入します。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
  • フレミングの左手の法則の誤用:
    • 誤解: 電流の向きと正電荷の運動方向を混同したり、負電荷の場合に力の向きを逆にするのを忘れたりする。
    • 対策: 「電流の向き = 正電荷の運動の向き」と定義を明確に覚えます。負電荷(電子など)の場合は、まず正電荷として力の向きを求め、最後にその向きを180度反転させる、という2ステップで考える癖をつけましょう。
  • 半径\(r\)と直径\(d\)の混同:
    • 誤解: (2)で運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r}\) を立てる際、半径\(r\)に問題文の距離\(d\)(直径)をそのまま代入してしまう。
    • 対策: 図を注意深く見て、与えられた長さが円の半径なのか直径なのかを必ず確認します。この問題では「Sから距離dだけ離れた点P」が半円の直径にあたるため、半径は \(r=d/2\) となります。
  • 辺々割り算での計算ミス:
    • 誤解: (3)で2つの比電荷の式を割り算する際、分数の計算で混乱し、\(\displaystyle\frac{q/m}{q/M}\) を \(\displaystyle\frac{m}{M}\) と計算してしまう。
    • 対策: 分数の割り算は「逆数を掛ける」という基本に立ち返り、\(\displaystyle\frac{q}{m} \div \displaystyle\frac{q}{M} = \displaystyle\frac{q}{m} \times \displaystyle\frac{M}{q} = \displaystyle\frac{M}{m}\) と丁寧に計算します。自信がなければ、一度 \(q=\dots\) の形に直してから代入する方法も有効です。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
  • 円運動の運動方程式 \(m\displaystyle\frac{v^2}{r} = F\):
    • 選定理由: (2), (3)で、イオンが「半円を描いて」運動しているという記述から、円運動を力学的に記述する必要があるため。
    • 適用根拠: これはニュートンの第二法則 \(ma=F\) を円運動に特化させた形です。物体が円運動を続けるためには、常に円の中心方向を向く加速度(向心加速度 \(a=\displaystyle\frac{v^2}{r}\))が必要であり、そのためには中心を向く力(向心力)が働かなければなりません。この法則は、その力の大きさと運動状態(質量、速さ、半径)を結びつけます。
  • ローレンツ力の公式 \(F=qvB\):
    • 選定理由: 円運動の運動方程式の右辺、つまり向心力の「力の正体」を特定するために必要だからです。この問題では、磁場中を運動する荷電粒子が受ける力が向心力となっています。
    • 適用根拠: ローレンツ力は、電磁気学における基本法則の一つです。運動する電荷が磁場を生成し、その磁場が他の磁場と相互作用するというより根源的な現象の、一つの側面を数式化したものです。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
  • 文字式の整理は段階的に: (2)で \(m\displaystyle\frac{2v^2}{d} = qvB\) から \(\displaystyle\frac{q}{m}\) を求める際、一気に暗算しようとせず、「①両辺を\(v\)で割る」「②\(m\)を右辺に移項する」「③\(B\)と\(d\)を左辺に移項する」のように、1ステップずつ確実に変形作業を行いましょう。
  • 割り算より掛け算: (3)で式①と式②を割り算する代わりに、それぞれの式を \(m = \dots\) と \(M = \dots\) の形に変形してから比をとる方法もあります。
    • 式①より \(m = \displaystyle\frac{qdB}{2v}\)
    • 式②より \(M = \displaystyle\frac{q(d+\Delta d)B}{2v}\)

    \(\displaystyle\frac{M}{m} = \displaystyle\frac{q(d+\Delta d)B/2v}{qdB/2v}\) となり、共通部分を消去すれば同じ結果が得られます。自分にとってミスが少ない方法を選びましょう。

  • 物理的な妥当性の吟味: (3)の答え \(\displaystyle\frac{M}{m} = \displaystyle\frac{d+\Delta d}{d}\) が出たら、その意味を考えます。右辺は \(1 + \displaystyle\frac{\Delta d}{d}\) であり、\(\Delta d>0\) なので1より大きいです。つまり \(M>m\) となります。これは「質量が大きいほど、磁場で曲がりにくく(慣性が大きく)、軌道半径が大きくなる」という物理的直観と一致します。この簡単なチェックで、答えの信頼性を高めることができます。
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452 放射線の性質

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