333 電気容量の変化
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、電源に接続された平行板コンデンサーの極板間隔や挿入する誘電体を変化させたときの、電気容量、電気量、電界の変化を考察する問題です。特に、「スイッチが閉じている(電圧一定)」場合と「スイッチが開いている(電気量一定)」場合の違いを正確に理解することが核心となります。
- 電源の電圧: \(V\) [V]
- (1)の初期状態で流れた電気量: \(Q\) [C]
- 誘電体の比誘電率: \(\varepsilon_r\)
- 初期状態は真空中(比誘電率1)
- (1) 初期の電気容量 \(C\)
- (2) スイッチを閉じたまま極板間隔を4倍にしたときの電流の向き
- (3) (2)で流れた電気量 \(\Delta Q\)
- (4) (2)のときの電界の強さの、(1)に対する倍率
- (5) スイッチを閉じたまま誘電体を挿入したときの電気量の、(1)に対する倍率
- (6) (5)のときの電界の強さの、(1)に対する倍率
- (7) スイッチを開いてから誘電体を挿入したときの、電気量・電界の強さ・電位差の、(1)に対する倍率
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「条件変化に伴うコンデンサーの挙動」です。コンデンサーの基本公式を理解し、回路の接続状況に応じてどの物理量が一定に保たれるかを見抜くことが鍵となります。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの基本関係式: 電気量\(Q\)、電気容量\(C\)、電圧\(V\)の間の関係式 \(Q=CV\) を使いこなすこと。
- 平行板コンデンサーの電気容量: 電気容量が極板の面積\(S\)、極板間隔\(d\)、そして極板間の物質の誘電率\(\varepsilon\)によってどのように決まるか (\(C = \varepsilon \frac{S}{d}\)) を理解していること。
- 一様な電界と電位差: 極板間の電界\(E\)と電位差\(V\)、間隔\(d\)の関係式 \(V=Ed\) を理解していること。
- 接続条件の判断: スイッチが閉じているときは「電圧\(V\)が一定」、スイッチが開いているときは「電気量\(Q\)が一定」という、物理的制約を正しく適用すること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、各設問の状況で「電圧一定」か「電気量一定」かを確認します。
- 次に、極板間隔や誘電体の変化が電気容量\(C\)にどう影響するかを計算します。
- 最後に、\(Q=CV\) と \(V=Ed\) の関係式を用いて、問われている物理量を導出します。
問(1)
思考の道筋とポイント
コンデンサーの電気容量を求める問題です。コンデンサーの最も基本的な関係式である \(Q=CV\) を用います。問題文で与えられているのは、スイッチを閉じたときにコンデンサーに蓄えられた電気量\(Q\)と、電源の電圧\(V\)です。
この設問における重要なポイント
- 基本公式の適用: \(Q=CV\) という関係式を直接利用します。
- 電圧の特定: スイッチを閉じた直後、コンデンサーは電源に直接接続されているため、コンデンサーの極板間の電圧は電源電圧\(V\)に等しくなります。
具体的な解説と立式
コンデンサーに蓄えられる電気量を\(Q\)、電気容量を\(C\)、極板間の電圧を\(V_{\text{C}}\)とすると、\(Q = C V_{\text{C}}\) が成り立ちます。
スイッチを閉じた状態では、コンデンサーは電圧\(V\)の電源に接続されているため、その電圧は \(V_{\text{C}} = V\) となります。
問題文より、このときに蓄えられた電気量は\(Q\)なので、
$$ Q = CV $$
この式を\(C\)について解きます。
使用した物理公式
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
上記で立てた式を\(C\)について解くと、
$$ C = \displaystyle\frac{Q}{V} \text{ [F]} $$
これ以上の計算は不要です。
コンデンサーの「容量」とは、どれだけ電気を溜めやすいかを示す指標です。1Vの電圧をかけたときに溜まる電気量が、そのまま電気容量の値になります。この問題では、\(V\) [V]の電圧をかけたら \(Q\) [C]の電気が溜まったので、容量は \(Q\) を \(V\) で割った値になります。
コンデンサーの電気容量は \(\displaystyle\frac{Q}{V}\) [F] です。これは電気容量の定義そのものであり、基本的な関係を正しく理解しているかを確認する設問です。
問(2)
思考の道筋とポイント
スイッチを閉じたまま、つまりコンデンサーの電圧を\(V\)に保ったまま、極板の間隔を4倍にしたときの電流の向きを問う問題です。極板間隔の変化が電気容量にどう影響し、その結果として蓄えられる電気量がどう変化するかを考えます。電気量の増減によって、電流がどちら向きに流れるかが決まります。
この設問における重要なポイント
- 電圧一定: スイッチが閉じているため、コンデンサーの電圧は常に電源電圧\(V\)で一定です。
- 電気容量の変化: 平行板コンデンサーの電気容量は \(C = \varepsilon_0 \frac{S}{d}\) で与えられます。極板間隔\(d\)が4倍になると、電気容量\(C\)は減少します。
- 電気量の変化: 電圧\(V\)が一定のまま電気容量\(C\)が減少すると、蓄えられる電気量\(Q=CV\)も減少します。
- 電流の向き: コンデンサーの電気量が減少するということは、蓄えられていた電荷が回路に戻ることを意味します。正極板から正電荷が流れ出す向きが電流の向きです。
具体的な解説と立式
初めの電気容量を\(C_0\)、極板間隔を\(d_0\)、極板面積を\(S\)とすると、
$$ C_0 = \varepsilon_0 \frac{S}{d_0} $$
極板の間隔を4倍にした後の電気容量を\(C_1\)とすると、間隔は \(d_1 = 4d_0\) となるので、
$$
\begin{aligned}
C_1 &= \varepsilon_0 \frac{S}{d_1} \\[2.0ex]
&= \varepsilon_0 \frac{S}{4d_0} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4} \left( \varepsilon_0 \frac{S}{d_0} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4} C_0
\end{aligned}
$$
初めに蓄えられていた電気量は \(Q_0 = C_0 V = Q\) です。
間隔を広げた後に蓄えられている電気量を\(Q_1\)とすると、電圧は\(V\)で一定なので、
$$
\begin{aligned}
Q_1 &= C_1 V \\[2.0ex]
&= \left( \frac{1}{4} C_0 \right) V \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4} (C_0 V) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4} Q_0
\end{aligned}
$$
電気量が\(Q_0\)から\(\frac{1}{4}Q_0\)に減少しました。これは、コンデンサーの正極板に蓄えられていた正電荷の一部が、電源の正極に向かって移動したことを意味します。電流の向きは正電荷の移動の向きなので、電流はコンデンサーから電源へ、つまり図の左向きに流れます。
使用した物理公式
- 平行板コンデンサーの電気容量: \(C = \varepsilon_0 \frac{S}{d}\)
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
計算は立式の段階で完了しています。電気量が減少することから、電流の向きを判断します。
コンデンサーの極板の間隔を広げると、プラスとマイナスの電気が引き合う力が弱まるため、同じ電圧でもたくさんの電気を溜めておくことができなくなります(容量が小さくなる)。そのため、もともと溜まっていた電気の一部がコンデンサーからあふれ出て、電源に戻っていきます。この戻っていく電気の流れが電流となり、その向きは図の左向きになります。
電流の向きは図の左向きです。物理的な直感とも一致する妥当な結果です。
問(3)
思考の道筋とポイント
問(2)の状況で、電流計Aを流れた電気の総量を求める問題です。これは、コンデンサーの電気量の変化量に等しくなります。
この設問における重要なポイント
- 流れた電気量 = 電気量の変化量: 回路を流れる電気量は、コンデンサーに蓄えられている電気量の変化分です。
- 初期と最終状態の電気量: (2)で考えたように、初期の電気量は\(Q\)、最終的な電気量は\(\frac{1}{4}Q\)です。
具体的な解説と立式
電流計を流れた電気量を\(\Delta Q\)とします。これは、コンデンサーの電気量の変化量に等しいです。
初期の電気量を \(Q_{\text{初}} = Q\)。
極板間隔を4倍にした後の電気量を \(Q_{\text{後}}\)。問(2)の考察より、
$$ Q_{\text{後}} = \frac{1}{4}Q $$
流れた電気量は、これらの差の大きさです。
$$ \Delta Q = Q_{\text{初}} – Q_{\text{後}} $$
使用した物理公式
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
上記で立てた式に値を代入します。
$$
\begin{aligned}
\Delta Q &= Q – \frac{1}{4}Q \\[2.0ex]
&= \frac{3}{4}Q \text{ [C]}
\end{aligned}
$$
もともと\(Q\)だけ電気が溜まっていたのに、極板を広げた結果、\(\frac{1}{4}Q\)しか溜められなくなりました。その差額である \(Q – \frac{1}{4}Q = \frac{3}{4}Q\) が、コンデンサーから出て行ってしまった電気の量です。これが電流計を流れた電気量になります。
流れた電気量は \(\displaystyle\frac{3}{4}Q\) [C] です。電気量が減少したので、その差分が電流として観測されるというのは理にかなっています。
問(4)
思考の道筋とポイント
問(2)の状況、つまり極板間隔を4倍にしたときの、極板間の電界の強さを問う問題です。電界\(E\)、電圧\(V\)、極板間隔\(d\)の関係式 \(V=Ed\) を用いて解きます。
この設問における重要なポイント
- 電圧一定: スイッチは閉じているので、電圧\(V\)は一定です。
- 関係式 \(V=Ed\): 一様な電界中での電位差と電界の関係式を適用します。
具体的な解説と立式
初期状態の電界を\(E_0\)、極板間隔を\(d_0\)とすると、電圧\(V\)は一定なので、
$$ V = E_0 d_0 \quad \cdots ① $$
極板間隔を4倍にした後の電界を\(E_1\)、間隔を\(d_1 = 4d_0\)とすると、
$$ V = E_1 d_1 \quad \cdots ② $$
②に\(d_1 = 4d_0\)を代入すると、
$$ V = E_1 (4d_0) \quad \cdots ③ $$
①と③の左辺は等しいので、
$$ E_0 d_0 = E_1 (4d_0) $$
この式から、\(E_1\)が\(E_0\)の何倍かを求めます。
使用した物理公式
- 一様な電界と電位差: \(V=Ed\)
上記で立てた式を\(E_1\)について解きます。
$$
\begin{aligned}
E_1 &= \frac{E_0 d_0}{4d_0} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4} E_0
\end{aligned}
$$
したがって、電界の強さは(1)の場合の\(\displaystyle\frac{1}{4}\)倍になります。
電界の強さは、電圧(電位の差)を距離で割ったもの、つまり「電位の坂道の傾き」のようなものです。今、電圧という「高さの差」は同じままで、極板間の「距離」だけが4倍に伸びました。同じ高さの差を4倍の距離で下るわけですから、坂の傾きは\(\frac{1}{4}\)に緩やかになります。つまり、電界の強さは\(\frac{1}{4}\)倍になります。
電界の強さは\(\displaystyle\frac{1}{4}\)倍になります。電圧が一定で距離が長くなれば電界が弱まるというのは、直感的にも理解しやすい結果です。
思考の道筋とポイント
電界の強さを、極板上の電荷が作るという視点から求めます。平行板コンデンサーの極板間の電界の強さ\(E\)は、極板の電荷密度\(\sigma\)(単位面積あたりの電気量)を用いて \(E = \frac{\sigma}{\varepsilon_0}\) と表せます。電気量の変化から電界の変化を追跡します。
この設問における重要なポイント
- 電界と電荷密度の関係: \(E = \frac{\sigma}{\varepsilon_0}\)
- 電荷密度の定義: \(\sigma = \frac{Q}{S}\)
- 電気量の変化: 問(2)で考察したように、電気量は \(Q \rightarrow \frac{1}{4}Q\) と変化します。
具体的な解説と立式
初期状態の電気量を\(Q_0\)、極板面積を\(S\)とすると、電荷密度は \(\sigma_0 = \frac{Q_0}{S}\) です。このときの電界\(E_0\)は、
$$ E_0 = \frac{\sigma_0}{\varepsilon_0} \quad \cdots ① $$
極板間隔を4倍にした後の電気量は \(Q_1 = \frac{1}{4}Q_0\) です。このときの電荷密度は \(\sigma_1 = \frac{Q_1}{S} = \frac{Q_0/4}{S}\) となります。
したがって、後の電界\(E_1\)は、
$$ E_1 = \frac{\sigma_1}{\varepsilon_0} \quad \cdots ② $$
式を整理すると、
$$
\begin{aligned}
E_1 &= \frac{Q_0/4}{\varepsilon_0 S} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{4} \frac{Q_0}{\varepsilon_0 S}
\end{aligned}
$$
①の関係を用いると、
$$ E_1 = \frac{1}{4} E_0 $$
となります。
使用した物理公式
- コンデンサー極板間の電界: \(E = \frac{\sigma}{\varepsilon_0} = \frac{Q}{\varepsilon_0 S}\)
計算は立式の段階で完了しています。電界の強さは(1)の場合の\(\displaystyle\frac{1}{4}\)倍になります。
電界は、そこにある電気の量によって作られます。極板の間隔を広げた結果、コンデンサーに溜まっている電気の量が\(\frac{1}{4}\)に減ってしまいました。電界を作る源である電気の量が\(\frac{1}{4}\)になったので、電界の強さも\(\frac{1}{4}\)倍になります。
\(V=Ed\) を用いた解法と同じく、\(\displaystyle\frac{1}{4}\)倍という結果が得られました。異なる物理的視点から同じ結論に至ることで、理解の確かさを確認できます。
問(5)
思考の道筋とポイント
元の状態に戻し、スイッチを閉じたまま(電圧\(V\)一定)で、極板間に比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体を挿入した場合に蓄えられる電気量を問う問題です。誘電体の挿入が電気容量にどう影響するかを考え、\(Q=CV\)から電気量を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電圧一定: スイッチが閉じているため、電圧\(V\)は一定です。
- 電気容量の変化: 真空中の電気容量を\(C_0\)とすると、比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体で満たしたときの電気容量\(C_2\)は \(C_2 = \varepsilon_r C_0\) となります。
具体的な解説と立式
初期状態(真空中)の電気容量を\(C_0\)とすると、蓄えられている電気量は \(Q_0 = C_0 V = Q\) です。
比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体を挿入した後の電気容量を\(C_2\)とすると、
$$ C_2 = \varepsilon_r C_0 $$
このときに蓄えられる電気量を\(Q_2\)とすると、電圧は\(V\)で一定なので、
$$ Q_2 = C_2 V $$
この式に\(C_2 = \varepsilon_r C_0\)を代入すると、
$$
\begin{aligned}
Q_2 &= (\varepsilon_r C_0) V \\[2.0ex]
&= \varepsilon_r (C_0 V)
\end{aligned}
$$
\(Q_0 = C_0 V\) なので、これを代入して\(Q_2\)と\(Q_0\)の関係を求めます。
使用した物理公式
- 誘電体を含むコンデンサーの電気容量: \(C = \varepsilon_r C_0\)
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
上記で立てた式に \(Q_0 = Q\) を代入します。
$$ Q_2 = \varepsilon_r Q_0 = \varepsilon_r Q $$
したがって、蓄えられる電気量は(1)の場合の\(\varepsilon_r\)倍になります。
誘電体をコンデンサーに入れると、誘電分極という現象が起きて、コンデンサーはより多くの電気を溜められるようになります(容量が大きくなる)。比誘電率\(\varepsilon_r\)は、その「溜めやすさが何倍になるか」を示す値です。したがって、容量が\(\varepsilon_r\)倍になり、電圧は同じなので、溜まる電気の量も\(\varepsilon_r\)倍になります。
電気量は\(\varepsilon_r\)倍になります。誘電体の役割を正しく理解していれば、直感的に導ける結果です。
問(6)
思考の道筋とポイント
問(5)の状況で、極板間の電界の強さがどうなるかを問う問題です。問(4)と同様に、\(V=Ed\) の関係式から考えます。
この設問における重要なポイント
- 電圧一定: スイッチは閉じているので、電圧\(V\)は一定です。
- 極板間隔不変: この操作では、極板間隔\(d\)は元の状態から変わっていません。
- 関係式 \(V=Ed\): \(V\)と\(d\)が不変であることから、\(E\)がどうなるかを結論付けます。
具体的な解説と立式
初期状態の電界を\(E_0\)、極板間隔を\(d_0\)とすると、
$$ V = E_0 d_0 $$
誘電体を挿入した後も、電圧は\(V\)、極板間隔は\(d_0\)で不変です。このときの電界を\(E_2\)とすると、
$$ V = E_2 d_0 $$
両式の左辺と右辺の \(d_0\) が等しいので、\(E_2 = E_0\) となります。
使用した物理公式
- 一様な電界と電位差: \(V=Ed\)
立式の段階で \(E_2 = E_0\) が導かれています。したがって、電界の強さは(1)の場合と変わらず、1倍です。
電界の強さは「電位の坂道の傾き」でした。この操作では、電圧という「高さの差」も、極板間の「距離」も変わっていません。坂の高さも長さも変わらないので、傾きも当然変わりません。したがって、電界の強さは変化せず1倍のままです。
電界の強さは1倍(不変)です。一見、誘電体を入れると電界が弱まりそうに感じますが、それは電気量が一定の場合です。電圧が一定に保たれる場合は、誘電分極で弱まった分の電界を補うようにさらに電荷が供給され、結果として電界は元の強さに保たれます。この違いを理解することが重要です。
思考の道筋とポイント
問(4)の別解と同様に、電界を \(E = \frac{\sigma}{\varepsilon}\) の関係から求めます。ここで、誘電体中の誘電率が \(\varepsilon = \varepsilon_r \varepsilon_0\) となることに注意します。
この設問における重要なポイント
- 誘電体中の電界: \(E = \frac{\sigma}{\varepsilon} = \frac{Q}{\varepsilon_r \varepsilon_0 S}\)
- 電気量の変化: 問(5)で考察したように、電気量は \(Q_0 \rightarrow \varepsilon_r Q_0\) と変化します。
具体的な解説と立式
初期状態(真空中)の電気量を\(Q_0\)、電界を\(E_0\)とすると、
$$ E_0 = \frac{Q_0}{\varepsilon_0 S} \quad \cdots ① $$
誘電体を挿入した後の電気量は \(Q_2 = \varepsilon_r Q_0\) です。このときの電界\(E_2\)は、誘電率が \(\varepsilon = \varepsilon_r \varepsilon_0\) となることを考慮して、
$$
\begin{aligned}
E_2 &= \frac{Q_2}{\varepsilon_r \varepsilon_0 S} \\[2.0ex]
&= \frac{\varepsilon_r Q_0}{\varepsilon_r \varepsilon_0 S} \\[2.0ex]
&= \frac{Q_0}{\varepsilon_0 S} \quad \cdots ②
\end{aligned}
$$
①と②を比較して、\(E_2\)と\(E_0\)の関係を求めます。
使用した物理公式
- 誘電体中のコンデンサー極板間の電界: \(E = \frac{Q}{\varepsilon S} = \frac{Q}{\varepsilon_r \varepsilon_0 S}\)
①と②の右辺は全く同じ式なので、
$$ E_2 = E_0 $$
となり、電界の強さは(1)の場合と変わらず、1倍です。
誘電体を入れると、分母の誘電率が\(\varepsilon_r\)倍になって電界を弱める効果がありますが、同時に分子の電気量も\(\varepsilon_r\)倍に増えます。この二つの効果がちょうど打ち消し合うため、結果として電界の強さは変わりません。
\(V=Ed\) を用いた解法と同じく、1倍という結果が得られました。電圧一定の状況で誘電体を挿入すると、電気量が増加して電界を一定に保つ、という物理的描像がより明確になります。
問(7)
思考の道筋とポイント
この設問は、これまでの問題と決定的に条件が異なります。まず(1)の状態でスイッチを開き、コンデンサーを回路から孤立させます。その後に誘電体を挿入するため、「電気量\(Q\)が一定」の条件で考えます。電気量、電界、電位差がそれぞれどうなるかを、基本公式を適用して一つずつ解き明かします。
この設問における重要なポイント
- 電気量一定: スイッチが開いているため、コンデンサーは孤立しており、蓄えられた電気量\(Q\)は変化しません。
- 電気容量の変化: 問(5)と同様に、誘電体を挿入すると電気容量は \(C_0 \rightarrow \varepsilon_r C_0\) と\(\varepsilon_r\)倍になります。
- 電圧と電界の変化: 電気量\(Q\)が一定のまま電気容量\(C\)が変化するため、電圧\(V=Q/C\)と電界\(E=V/d\)は変化します。
具体的な解説と立式
初期状態(1)の物理量を \(Q_0=Q\), \(C_0\), \(V_0=V\), \(E_0\) とします。
スイッチを開いてから、比誘電率\(\varepsilon_r\)の誘電体を挿入した後の物理量を \(Q_3, C_3, V_3, E_3\) とします。
- 電気量 \(Q_3\)
スイッチを開いたので、電荷の逃げ道がありません。したがって、電気量は保存されます。
$$ Q_3 = Q_0 = Q $$ - 電気容量 \(C_3\)
誘電体を挿入したので、電気容量は\(\varepsilon_r\)倍になります。
$$ C_3 = \varepsilon_r C_0 $$ - 電位差 \(V_3\)
基本公式 \(Q=CV\) を使って\(V_3\)を求めます。
$$ Q_3 = C_3 V_3 $$
この式に上記の結果を代入して、\(V_3\)を\(V_0\)で表します。
$$ Q_0 = (\varepsilon_r C_0) V_3 $$
ここで、初期状態の関係式 \(Q_0 = C_0 V_0\) を用います。 - 電界の強さ \(E_3\)
関係式 \(V=Ed\) を使って\(E_3\)を求めます。極板間隔\(d\)は不変です。
$$ V_3 = E_3 d $$
この式に求めた\(V_3\)を代入して、\(E_3\)を\(E_0\)で表します。
使用した物理公式
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
- 誘電体を含むコンデンサーの電気容量: \(C = \varepsilon_r C_0\)
- 一様な電界と電位差: \(V=Ed\)
- 電気量:
変化しないので、(1)の場合の1倍です。 - 電位差:
\(Q_0 = (\varepsilon_r C_0) V_3\) の式を \(V_3\) について解きます。
$$
\begin{aligned}
V_3 &= \frac{Q_0}{\varepsilon_r C_0} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\varepsilon_r} \left( \frac{Q_0}{C_0} \right)
\end{aligned}
$$
初期状態では \(V_0 = \frac{Q_0}{C_0}\) なので、
$$ V_3 = \frac{1}{\varepsilon_r} V_0 $$
したがって、電位差は(1)の場合の\(\displaystyle\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍になります。 - 電界の強さ:
\(V_3 = E_3 d\) と \(V_0 = E_0 d\) の関係を使います。
$$
\begin{aligned}
E_3 &= \frac{V_3}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{(1/\varepsilon_r)V_0}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\varepsilon_r} \left( \frac{V_0}{d} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\varepsilon_r} E_0
\end{aligned}
$$
したがって、電界の強さは(1)の場合の\(\displaystyle\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍になります。
- 電気量: スイッチが切れているので、電気はどこにも行けません。だから量は変わりません(1倍)。
- 電位差(電圧): 誘電体を入れると、コンデンサーの性能が上がって電気を溜めやすくなります(容量が\(\varepsilon_r\)倍)。同じ量の電気が入っていても、より楽に(より低い電圧で)溜めておけるようになります。その結果、電圧は\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍に下がります。
- 電界の強さ: 電圧が\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍に下がり、極板間の距離は変わらないので、「電位の坂道の傾き」である電界の強さも\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍になります。
電気量は1倍、電位差は\(\displaystyle\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍、電界の強さは\(\displaystyle\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍となります。
「スイッチON(電圧一定)」と「スイッチOFF(電気量一定)」で、誘電体を入れたときの振る舞いが全く異なることが分かります。この対比を理解することが、この問題の最大のポイントです。
思考の道筋とポイント
電気量\(Q\)が一定であることに着目し、ガウスの法則から直接、電界の変化を求めます。その後、\(V=Ed\) を使って電位差を求めます。
この設問における重要なポイント
- 電気量一定: \(Q_3 = Q_0\)
- 誘電体中の電界: \(E = \frac{Q}{\varepsilon S} = \frac{Q}{\varepsilon_r \varepsilon_0 S}\)
具体的な解説と立式
- 電気量 \(Q_3\)
スイッチが開いているため、\(Q_3 = Q_0\)。よって1倍。 - 電界の強さ \(E_3\)
初期状態の電界は \(E_0 = \frac{Q_0}{\varepsilon_0 S}\) です。
誘電体を挿入した後の電界\(E_3\)は、電気量は\(Q_0\)のままで、誘電率が\(\varepsilon_r \varepsilon_0\)になるので、
$$
\begin{aligned}
E_3 &= \frac{Q_0}{\varepsilon_r \varepsilon_0 S} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\varepsilon_r} \left( \frac{Q_0}{\varepsilon_0 S} \right) \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\varepsilon_r} E_0
\end{aligned}
$$ - 電位差 \(V_3\)
関係式 \(V=Ed\) を使って\(V_3\)を求めます。極板間隔\(d\)は不変です。
$$
\begin{aligned}
V_3 &= E_3 d \\[2.0ex]
&= \left( \frac{1}{\varepsilon_r} E_0 \right) d \\[2.0ex]
&= \frac{1}{\varepsilon_r} (E_0 d)
\end{aligned}
$$
初期状態の関係式 \(V_0 = E_0 d\) を用います。
使用した物理公式
- 誘電体中のコンデンサー極板間の電界: \(E = \frac{Q}{\varepsilon_r \varepsilon_0 S}\)
- 一様な電界と電位差: \(V=Ed\)
- 電気量: 1倍。
- 電界の強さ:
上記の立式より、電界の強さは(1)の場合の\(\displaystyle\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍になります。 - 電位差:
\(V_3 = \frac{1}{\varepsilon_r} (E_0 d)\) に \(V_0 = E_0 d\) を代入して、
$$ V_3 = \frac{1}{\varepsilon_r} V_0 $$
したがって、電位差は(1)の場合の\(\displaystyle\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍になります。
- 電気量: スイッチが切れているので、電気は逃げられず、量は変わりません(1倍)。
- 電界の強さ: 電界は電気の量と、空間の電気の通しにくさ(誘電率)で決まります。電気の量は同じですが、誘電体を入れると分極が起きて元の電界を打ち消す向きの電界が作られるため、合成された電界は\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍に弱まります。
- 電位差(電圧): 電界という「坂の傾き」が\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍に緩やかになり、距離は同じなので、トータルの「高さの差」である電圧も\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍になります。
メインの解法と同じ結果が得られました。思考の順序が違うだけで、物理的な内容は同じです。どちらのアプローチでも解けるようにしておくと、理解が深まります。
【総まとめ】この一問を未来の得点力へ!完全マスター講座
最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 接続条件による不変量の見極め:
- 核心: この問題で最も重要なのは、コンデンサーが置かれている状況に応じて「何が一定に保たれるか」を正しく判断することです。
- スイッチが閉じている(電源に接続されている)場合: コンデンサーの極板間の電圧は、常に電源電圧\(V\)に等しく保たれます。したがって「電圧\(V\)が一定」となります。
- スイッチが開いている(電源から切り離されている)場合: コンデンサーは電気的に孤立し、電荷の移動経路がなくなります。したがって、一度蓄えられた「電気量\(Q\)が一定」に保たれます。
- 理解のポイント: (1)から(6)までは「電圧一定」、(7)は「電気量一定」という制約条件の下で物理現象を考えます。この違いが、すべての設問の答えを決定づける根本的な分岐点です。
- 核心: この問題で最も重要なのは、コンデンサーが置かれている状況に応じて「何が一定に保たれるか」を正しく判断することです。
- コンデンサーの基本公式の連動:
- 核心: 以下の3つの基本公式が、互いにどのように関連し合っているかを理解することが不可欠です。
- \(Q=CV\) (電気量・容量・電圧の関係)
- \(C = \varepsilon \frac{S}{d}\) (電気容量の決定要因)
- \(V=Ed\) (電圧・電界・距離の関係)
- 理解のポイント: 例えば、極板間隔\(d\)を変えると、まず②の式から電気容量\(C\)が変化します。次に、接続条件(電圧一定か電気量一定か)に応じて、①の式を使って\(Q\)または\(V\)の変化を求めます。最後に、③の式を使って\(E\)の変化を求める、というように、これらの公式は一連の思考プロセスとして連動しています。
- 核心: 以下の3つの基本公式が、互いにどのように関連し合っているかを理解することが不可欠です。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コンデンサーの一部に誘電体を挿入する問題: 極板間に誘電体を部分的に挿入する場合、真空部分のコンデンサーと誘電体部分のコンデンサーの並列接続、あるいは直列接続としてモデル化して解くことができます。
- 複数のコンデンサーを含む回路: 複数のコンデンサーが直列・並列接続された回路で、スイッチを切り替えたり、あるコンデンサーの容量を変化させたりする問題。電荷保存則やキルヒホッフの法則と組み合わせて解く必要があります。
- コンデンサーのエネルギー変化を問う問題: \(U = \frac{1}{2}CV^2 = \frac{1}{2}QV = \frac{Q^2}{2C}\) の公式を使い、操作の前後で静電エネルギーがどう変化したかを計算する問題。外力がした仕事や、電池がした仕事を問われることもあります。
- 初見の問題での着眼点:
- 回路図をよく見る: まず、スイッチが開いているか閉じているかを確認します。これが「電圧一定」か「電気量一定」かを判断する最大のヒントです。
- 何を操作したかを確認する: 「極板間隔を変えた」「誘電体を入れた」「極板面積を変えた」など、どのパラメータを変化させたのかを特定します。これにより、まず電気容量\(C\)がどう変化するかが分かります。
- 物理量を順番に追う: 「操作」→「\(C\)の変化」→「不変量(\(V\) or \(Q\))の確認」→「\(Q=CV\)による従属変数(\(Q\) or \(V\))の変化の計算」→「\(V=Ed\)による\(E\)の変化の計算」というように、因果関係に沿って一つずつ物理量の変化を追跡していくと、混乱なく解くことができます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 電圧一定と電気量一定の混同:
- 誤解: 最も多いミスは、スイッチが開いているのに電圧が一定だと考えたり、閉じているのに電気量が一定だと考えてしまうことです。特に、(7)で(6)までの感覚を引きずって「電圧一定」で解いてしまうケースが頻発します。
- 対策: 問題文を読む際に、「スイッチを閉じたまま」「スイッチを開いてから」というキーワードに必ず印をつける習慣をつけましょう。そして、それぞれの言葉が「電圧\(V\)一定」「電気量\(Q\)一定」という物理的制約に直結することを強く意識します。
- 誘電体挿入時の電界の誤解:
- 誤解: 「誘電体を入れると、誘電分極によって電界は必ず弱まる」と単純に記憶していると、(6)で間違えます。
- 対策: 電界が弱まるのは「孤立系(電気量一定)」の場合です。電圧が一定に保たれる場合は、電界を一定に保つために追加の電荷が電源から供給されます。常に「電圧一定か、電気量一定か」という前提条件に立ち返って考える癖をつけましょう。
- 変化の倍率計算のミス:
- 誤解: \(d\)が4倍になったとき、\(C\)が4倍になると勘違いする(正しくは\(\frac{1}{4}\)倍)。あるいは、\(C\)が\(\varepsilon_r\)倍になったとき、\(V\)が\(\varepsilon_r\)倍になると勘違いする(電気量一定なら正しくは\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍)。
- 対策: 公式 \(C = \varepsilon_0 \frac{S}{d}\) や \(V = Q/C\) を見て、各物理量が分母にあるか分子にあるかを正確に確認しましょう。比例関係なのか反比例関係なのかを、式を見ながら判断することが重要です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電圧一定(スイッチON)のイメージ: コンデンサーは、常に電圧\(V\)という「蛇口」につながった「バケツ」のようなものです。バケツの形(容量\(C\))を変えると、溜まる水の量(電気量\(Q\))は変わりますが、水面の高さ(電圧\(V\))は常に蛇口の高さに保たれます。
- 電気量一定(スイッチOFF)のイメージ: コンデンサーは、一定量の水(電気量\(Q\))が入った状態で蓋をされた「バケツ」です。この状態でバケツの形(容量\(C\))を変える(例えば底を広くする)と、水面の高さ(電圧\(V\))は変化します。
- 電界のイメージ: 電界\(E\)は、極板間の「電位の坂道の傾き」です。電圧\(V\)が「坂道の高さ」、間隔\(d\)が「坂道の水平距離」に対応します。\(E=V/d\) は、傾き=高さ÷距離という関係そのものです。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 状態変化の図示: (1)初期状態、(2)dを4倍にした状態、(5)誘電体を入れた状態、(7)孤立させて誘電体を入れた状態、など各ステップのコンデンサーの絵を並べて描くと、何が変化して何が不変なのかが視覚的に整理しやすくなります。
- 電荷の図示: 極板に蓄えられている電荷を「+」や「-」の記号で描き込み、その数が変化する様子をイメージするのも有効です。(2)では電荷が減り、(5)では電荷が増える様子が分かります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- \(C = \varepsilon_0 \frac{S}{d}\) (問2, 5, 7):
- 選定理由: 問題の操作(間隔変更、誘電体挿入)が、コンデンサーの幾何学的・物質的構造そのものを変えているため。この変化がまず電気容量\(C\)にどう影響するかを計算する必要があるからです。
- 適用根拠: この公式は、平行板コンデンサーの性能(電気のためやすさ)が、その形状と材質によって決まるという物理法則を表現しています。
- \(Q=CV\) (問1, 2, 3, 5, 7):
- 選定理由: 電気容量\(C\)の変化と、接続条件(\(V\)一定 or \(Q\)一定)が分かった後、残りの未知の物理量(\(Q\) or \(V\))を求めるために使います。コンデンサーの3つの基本量を結びつける中心的な関係式です。
- 適用根拠: どんなコンデンサーでも成り立つ、電気量・容量・電圧の間の普遍的な定義式です。
- \(V=Ed\) (問4, 6, 7):
- 選定理由: 電圧\(V\)と極板間隔\(d\)が分かっている、あるいは変化が分かったときに、電界\(E\)を求めるために使います。
- 適用根拠: 一様な電場中における電位差と電場の関係を示す基本法則です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1)〜(6) スイッチON(電圧\(V\)一定)の場合:
- 戦略: \(V\)を不変量として、\(C\)の変化から\(Q\)と\(E\)の変化を追う。
- フロー: ① 操作(\(d \rightarrow 4d\) or 誘電体挿入)を確認。 → ② \(C = \varepsilon \frac{S}{d}\) より、\(C\)の変化を計算。(\(C \rightarrow \frac{1}{4}C\) or \(C \rightarrow \varepsilon_r C\)) → ③ \(V\)は一定なので、\(Q=CV\) より、\(Q\)の変化を計算。(\(Q \rightarrow \frac{1}{4}Q\) or \(Q \rightarrow \varepsilon_r Q\)) → ④ \(V\)と\(d\)の変化から、\(E=V/d\) より、\(E\)の変化を計算。(\(E \rightarrow \frac{1}{4}E\) or \(E \rightarrow E\))
- (7) スイッチOFF(電気量\(Q\)一定)の場合:
- 戦略: \(Q\)を不変量として、\(C\)の変化から\(V\)と\(E\)の変化を追う。
- フロー: ① 操作(誘電体挿入)を確認。 → ② \(C = \varepsilon \frac{S}{d}\) より、\(C\)の変化を計算。(\(C \rightarrow \varepsilon_r C\)) → ③ \(Q\)は一定なので、\(V=Q/C\) より、\(V\)の変化を計算。(\(V \rightarrow \frac{1}{\varepsilon_r}V\)) → ④ 求めた\(V\)の変化と\(d\)が不変なことから、\(E=V/d\) より、\(E\)の変化を計算。(\(E \rightarrow \frac{1}{\varepsilon_r}E\))
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 比で考える: この問題はすべて「何倍になるか」を問うています。具体的な数値を計算するのではなく、初期状態の物理量(\(C_0, Q_0, V_0, E_0\))を基準として、変化後の量がその何倍になるか、という形で式を立てると見通しが良くなります。
例: \(C_1 = \frac{1}{4}C_0\), \(Q_1 = C_1 V_0 = (\frac{1}{4}C_0)V_0 = \frac{1}{4}Q_0\)。 - 分数の扱いに注意: \(C\)は\(d\)に反比例、\(V\)は\(C\)に反比例(\(Q\)一定時)など、逆数の関係が多く登場します。分数の計算を丁寧に行い、4倍なのか\(\frac{1}{4}\)倍なのかを取り違えないようにしましょう。
- 単位は最後に確認: 今回は倍率を求める問題なので単位は不要ですが、具体的な値を求める問題では、計算結果の単位が物理的に正しいか(電気量なら[C]、電界なら[V/m]など)を確認する習慣がミスを防ぎます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (2) 間隔を広げると容量が減り、電荷が戻る(左向き電流)。これは直感に合います。
- (4) 電圧一定で距離が4倍になれば、電位の傾き(電界)は緩やかになるはず(\(\frac{1}{4}\)倍)。妥当です。
- (6) 電圧一定、距離一定なら、電位の傾き(電界)は変わらないはず(1倍)。妥当です。
- (7) 孤立系で誘電体を入れると、分極により電界は弱まるはず(\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍)。電界が弱まれば、同じ距離での電位差も小さくなるはず(\(\frac{1}{\varepsilon_r}\)倍)。妥当です。
- 別解との比較:
- (4)や(6)では、\(V=Ed\)から攻める方法と、\(E=Q/(\varepsilon S)\)から攻める方法の2通りがありました。両方のアプローチで同じ答え(\(\frac{1}{4}\)倍、1倍)が得られたことは、計算の正しさと物理的理解の確かさを裏付けています。特に(6)では、一見異なる物理現象(\(V,d\)不変 vs \(Q, \varepsilon\)両方が変化)が同じ結果をもたらすことが確認でき、深い理解につながります。
- 極端な場合を考える(思考実験):
- もし比誘電率\(\varepsilon_r\)が無限大だったら? (5)では無限大の電気が流れ込み、(7)では電圧と電界がゼロになります。
- もし極板間隔\(d\)を無限大にしたら? (2)では容量がゼロになり、溜まっていた電荷\(Q\)がすべて戻ります。
このような極端なケースを考えると、数式の意味がより直感的に把握できます。
334 コンデンサーの接続
【問題の確認】まずは問題文をしっかり読み解こう
この問題は、複数の金属板を平行に並べて作られたコンデンサー回路に関する問題です。スイッチの開閉によって回路構成が変化し、それに伴う各極板の電気量や電位、そして極板間の電界を求めることが要求されます。コンデンサーの直列接続の考え方、電位の決定方法、そして電界と電位差の関係を総合的に理解しているかが問われます。
- 金属板K, L, M, Nは面積が等しい。
- K-L間のコンデンサーの電気容量: \(C\)
- K-L間の距離: \(d\)
- L-M間の距離: \(2d\)
- M-N間の距離: \(d\)
- 電池の電圧: \(V\)
- アース点の電位: 0 [V]
- (1) S₁とS₂を閉じたときの、極板Lの電気量と電位。
- (2) (1)の状態からS₁を開いたときの、KL間とLM間の電界の強さ。
- (3) 初期の状態からS₂のみを閉じたときの、極板Mの電位。
【設問別解説】考え方から計算プロセスまで徹底ガイド
この問題のテーマは「複合コンデンサー回路の解析」です。複数の極板が並んだ配置は、複数のコンデンサーが直列または並列に接続された等価回路として考えることができます。
問題を解く上で鍵となる物理法則や概念は以下の通りです。
- コンデンサーの電気容量: 平行板コンデンサーの電気容量は、極板間隔に反比例します (\(C \propto 1/d\))。
- コンデンサーの直列接続: 複数のコンデンサーを直列に接続したときの合成容量の計算方法 (\(\frac{1}{C_{\text{合成}}} = \frac{1}{C_1} + \frac{1}{C_2} + \dots\)) と、各コンデンサーに蓄えられる電気量は等しいという性質を理解していること。
- 電位の計算: アース(基準点)からの電位差を順に足し合わせていくことで、回路の各点の電位を決定します。
- 電界と電位差の関係: 一様な電界\(E\)と電位差\(V\)、距離\(d\)の関係式 \(V=Ed\) を適用できること。
基本的なアプローチは以下の通りです。
- まず、各設問のスイッチの状態に応じて、回路がどのようにつながっているかを判断し、等価回路を描きます。
- 等価回路に基づいて合成容量を計算し、回路全体に蓄えられる電気量を求めます。
- 各コンデンサーの電位差を計算し、アースを基準として各極板の電位を決定します。
- 電位差と極板間距離から、電界の強さを計算します。
問(1)
思考の道筋とポイント
この設問は、問題の図やスイッチの役割について複数の解釈が可能であり、非常に難解です。ここでは、模範解答の結論「電気量: \(-CV/2\)」「電位: \(-V/2\)」から逆算し、その結論に至るための物理的なモデル(等価回路)を構築して解説します。この結論は「容量\(C\)のコンデンサー2つが直列接続され、全体に電圧\(V\)がかかり、片方の端(K)がアース(0V)されている」という状況に対応します。
この設問における重要なポイント
- 等価回路の特定(解答からの推測): 回路は、容量\(C\)のコンデンサー2つが直列に接続されたものと見なします。
- 直列接続の性質: 合成容量を計算し、回路全体に流れる電気量を求めます。直列接続では、各コンデンサーに蓄えられる電気量は等しくなります。
- 電位の計算: 極板Kがアース(電位0)されていると解釈し、K-L間の電位差を計算してLの電位を求めます。
具体的な解説と立式
模範解答のロジックに基づき、容量\(C\)のコンデンサー2つが直列に接続されていると考えます。合成容量を\(C_1\)とすると、
$$ \frac{1}{C_1} = \frac{1}{C} + \frac{1}{C} = \frac{2}{C} \quad \cdots ① $$
この合成コンデンサーに電圧\(V\)がかかっているため、蓄えられる電気量\(Q\)は、
$$ Q = C_1 V \quad \cdots ② $$
極板Lは、K-L間コンデンサーの片方の極板です。Kが電池の正極側、Lが負極側に接続されていると考えると、Lには負の電荷が蓄えられます。その大きさは\(Q\)に等しいです。
次に、極板Lの電位を求めます。K-L間の電位差を\(V_1\)とすると、
$$ Q = C V_1 \quad \cdots ③ $$
問題の図から極板Kはアースされており、電位は0であると解釈します。また、Lの方が電位が低いと考えます。
使用した物理公式
- コンデンサーの直列合成容量
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
①より、合成容量\(C_1\)は、
$$ C_1 = \frac{C}{2} $$
②より、蓄えられる電気量\(Q\)は、
$$
\begin{aligned}
Q &= \frac{C}{2} V \\[2.0ex]
&= \frac{CV}{2}
\end{aligned}
$$
極板Lには負の電荷が蓄えられるので、その電気量は \(-\displaystyle\frac{CV}{2}\) となります。
次に、Lの電位を求めます。③より、K-L間の電位差\(V_1\)は、
$$
\begin{aligned}
V_1 &= \frac{Q}{C} \\[2.0ex]
&= \frac{CV/2}{C} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{2}
\end{aligned}
$$
極板Kの電位は0であり、Lの方が電位が低いので、Lの電位は、
$$
\begin{aligned}
V_L &= 0 – V_1 \\[2.0ex]
&= -\frac{V}{2}
\end{aligned}
$$
2つの同じコンデンサーを直列につなぐと、電圧は半分ずつに分けられます。Kの電位が0Vで、K-L間の電圧が\(V/2\)なので、Lの電位はKより\(V/2\)だけ低くなり、\(-V/2\)となります。また、このとき蓄えられる電気量は、合成容量(\(C/2\))に全体の電圧(\(V\))を掛けた\(CV/2\)になります。Lは負極側なので、電気量はマイナスになります。
極板Lの電気量は \(-\displaystyle\frac{CV}{2}\)、電位は \(-\displaystyle\frac{V}{2}\) です。この結果は、問題の図の解釈が非常に難しいものの、模範解答が想定している特定の条件下での計算として成立します。
問(2)
思考の道筋とポイント
(1)の状態からスイッチS₁を開いたときの、KL間とLM間の電界の強さを求める問題です。S₁を開くと、電池が回路から切り離されます。このとき、K-L間のコンデンサーに蓄えられていた電荷は保存されます。LM間は(1)の状態でLとMが等電位であったため、電界は0でした。S₁を開いても、この部分に電荷の移動が起こる要因がないため、等電位は保たれます。
この設問における重要なポイント
- 電荷保存: スイッチを開いて回路を孤立させると、その部分のコンデンサーの電気量は保存されます。
- 電界と電位差の関係: \(V=Ed\) を用いて電界を計算します。
- 等電位: 電位差がない空間では、電界は0です。
具体的な解説と立式
(1)の状態で、KL間の電位差は \(V_1 = V/2\) でした。
スイッチS₁を開くと、K-Lコンデンサーは電気量 \(Q=CV/2\) を保ったまま孤立します。したがって、KL間の電位差は \(V_1=V/2\) のままです。
KL間の電界の強さを\(E_1\)とすると、
$$ E_1 = \frac{V_1}{d} \quad \cdots ① $$
LM間については、(1)の状態でLとMは等電位でした。S₁を開いても、LM間に新たに電位差が生じることはないため、電界の強さ\(E_2\)は0です。
$$ E_2 = 0 \quad \cdots ② $$
使用した物理公式
- 一様な電界と電位差: \(V=Ed\)
- 電荷保存則
①に \(V_1 = V/2\) を代入すると、
$$
\begin{aligned}
E_1 &= \frac{V/2}{d} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{2d}
\end{aligned}
$$
②より、\(E_2 = 0\)。
スイッチを開くと、KとLの間のコンデンサーは蓄えた電気を逃がせなくなります。そのため、(1)のときの電圧(\(V/2\))が保たれます。電界の強さは電圧を距離で割ったものなので、\(V/2\)を\(d\)で割って計算します。一方、LとMの間はもともと電圧がかかっておらず、スイッチを開いてもその状態は変わらないので、電界はずっと0のままです。
KL間の電界の強さは \(\displaystyle\frac{V}{2d}\)、LM間の電界の強さは0です。S₁を開くことで電池から切り離され、蓄えられた電荷による電界が維持されるという点がポイントです。
問(3)
思考の道筋とポイント
初期状態からS₂のみを閉じたときの、極板Mの電位を求める問題です。この状態では、K-L間、L-M間、M-N間の3つのコンデンサーが直列に接続されたものと見なせます。Kがアース(0V)され、Nは電池の負極(-V)に接続されていると考え、全体の合成容量と電気量を求めてから、各部の電位差を計算します。
この設問における重要なポイント
- 等価回路: 4枚の極板が、3つの直列コンデンサーを構成していると見なします。
- 容量と距離の関係: 容量は距離に反比例するため、各部の容量を正しく設定します。(\(C_{KL}=C\), \(C_{LM}=C/2\), \(C_{MN}=C\))
- 電位の計算: Kを基準(0V)として、Nの電位を-Vと設定します。全体の電気量を求め、M-N間の電位差を計算してMの電位を求めます。
具体的な解説と立式
K-L間、L-M間、M-N間のコンデンサーが直列に接続されていると考えます。それぞれの容量は、
\(C_{KL} = C\)
\(C_{LM} = C/2\) (距離が2dのため)
\(C_{MN} = C\)
この3つの直列合成容量を\(C_2\)とすると、
$$ \frac{1}{C_2} = \frac{1}{C_{KL}} + \frac{1}{C_{LM}} + \frac{1}{C_{MN}} \quad \cdots ① $$
Kはアースされているので \(V_K=0\)。Nは電池の負極側なので \(V_N=-V\)。
回路全体にかかる電位差は \(V_{KN} = V_K – V_N = 0 – (-V) = V\)。
回路に蓄えられる電気量を\(Q’\)とすると、
$$ Q’ = C_2 V \quad \cdots ② $$
極板Mの電位\(V_M\)を求めるには、M-N間の電位差\(\Delta V_{MN}\)を計算し、Nの電位\(V_N\)を基準に考えます。
$$ Q’ = C_{MN} \Delta V_{MN} \quad \cdots ③ $$
KからNへ向かって電位が下がるので、Mの電位はNより高くなります。したがって、\(V_M = V_N + \Delta V_{MN}\) となります。
使用した物理公式
- コンデンサーの直列合成容量
- コンデンサーの電気量: \(Q=CV\)
①より、合成容量\(C_2\)を計算します。
$$
\begin{aligned}
\frac{1}{C_2} &= \frac{1}{C} + \frac{1}{C/2} + \frac{1}{C} \\[2.0ex]
&= \frac{1}{C} + \frac{2}{C} + \frac{1}{C} \\[2.0ex]
&= \frac{4}{C}
\end{aligned}
$$
よって、\(C_2 = \displaystyle\frac{C}{4}\)。
②より、蓄えられる電気量\(Q’\)は、
$$
\begin{aligned}
Q’ &= \frac{C}{4} V \\[2.0ex]
&= \frac{CV}{4}
\end{aligned}
$$
③より、M-N間の電位差\(\Delta V_{MN}\)は、
$$
\begin{aligned}
\Delta V_{MN} &= \frac{Q’}{C_{MN}} \\[2.0ex]
&= \frac{CV/4}{C} \\[2.0ex]
&= \frac{V}{4}
\end{aligned}
$$
Nの電位は \(V_N = -V\) であり、Mの方が電位が高いので、Mの電位\(V_M\)は、
$$
\begin{aligned}
V_M &= V_N + \Delta V_{MN} \\[2.0ex]
&= -V + \frac{V}{4} \\[2.0ex]
&= -\frac{3V}{4}
\end{aligned}
$$
3つのコンデンサー(容量C, C/2, C)が直列につながっていると考えます。まず、回路全体の「電気のため難さ」(容量の逆数)を足し合わせ、全体の容量を求めます。次に、全体の電圧Vと全体の容量から、回路に流れる電気の量を計算します。最後に、M-N間のコンデンサーに注目し、「電気の量=容量×電圧」の関係からM-N間の電圧を計算します。Nの電位が-Vなので、そこから計算した電圧分だけ電位を上げることで、Mの電位が求まります。
極板Mの電位は \(-\displaystyle\frac{3V}{4}\) です。この問題は、与えられた図から物理的に妥当な等価回路を構成し、電位の基準を正しく設定して計算する能力が問われる難問です。模範解答のロジックに従うことで、この結論に至ります。
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最重要ポイント:この問題の核心となる物理法則は?
- 等価回路への変換能力:
- 核心: 複数の金属板が並んだ配置を、コンデンサーの直列・並列接続で構成される「等価回路」として正しくモデル化することが、この問題の出発点であり最も重要なスキルです。
- (1)では、スイッチの状態から回路構成を解釈する必要がありますが、模範解答は「容量Cのコンデンサー2つの直列接続」というモデルを採用しています。
- (3)では、4枚の極板が3つのコンデンサー(K-L, L-M, M-N)の直列接続を構成すると見なします。
- 理解のポイント: スイッチの開閉や導線での接続が、どの極板を等電位にし、どの部分をコンデンサーとして機能させる(あるいはさせない)のかを正確に読み取ることが、正しい等価回路を描く鍵となります。
- 核心: 複数の金属板が並んだ配置を、コンデンサーの直列・並列接続で構成される「等価回路」として正しくモデル化することが、この問題の出発点であり最も重要なスキルです。
- 電位の追跡と計算:
- 核心: アース(電位0V)を基準として、回路の各点の電位を決定する能力が不可欠です。電池は電位差を生み出す装置であり、アースの位置によって各極板の絶対的な電位が決まります。
- 理解のポイント:
- まずアース点の電位を0と定めます。
- 電池によって生じる電位差\(V\)を考慮し、電池の両極の電位を決定します(例:Kがアースなら\(V_K=0\), \(V_N=-V\))。
- コンデンサーによる電位降下(または上昇)を \( \Delta V = Q/C \) で計算します。
- 基準点から出発し、電位差を順に足し引きしていくことで、目的の点の電位を求めます(例:\(V_M = V_N + \Delta V_{MN}\))。
応用テクニック:似た問題が出たらココを見る!解法の鍵と着眼点
- 応用できる類似問題のパターン:
- コンデンサーへの導体板の挿入: 平行板コンデンサーの間に、極板と同じ面積の導体板を挿入する問題。挿入された導体板によって、元のコンデンサーが2つの直列コンデンサーに分割されたと見なして解きます。
- 複雑なスイッチング回路: 複数のコンデンサーとスイッチで構成され、スイッチの切り替えによって電荷が再分配される問題。電荷保存則と、最終状態での各部の電位の関係(キルヒホッフの法則に類似)を連立させて解くことが多いです。
- 誘電体の部分挿入: (3)のように空間が複数の領域に分かれている場合と同様に、誘電体が部分的に挿入された場合も、それぞれの部分を独立したコンデンサーの直列(または並列)接続として扱います。
- 初見の問題での着眼点:
- スイッチとアースの位置を最優先で確認する: 回路の接続関係と電位の基準を確定させることが全ての基本です。
- 等価回路を描いてみる: 複雑な極板配置は、必ずコンデンサーの記号を使った等価回路図に描き直しましょう。これにより、接続関係(直列か並列か)が一目瞭然になります。
- 容量を距離から求める: 各コンデンサーの容量が与えられていない場合、基準となる容量\(C\)と極板間隔\(d\)の関係 (\(C \propto 1/d\)) を使って、各部分の容量を\(C\)で表現します。
- 電荷と電位の関係を意識する: 直列接続なら「電気量\(Q\)が共通」、並列接続なら「電位差\(V\)が共通」という基本原則を常に念頭に置き、どちらの物理量から計算を始めるべきか戦略を立てます。
要注意!ありがちなミス・誤解とその対策
- 等価回路の誤認:
- 誤解: (3)でLが浮いている(孤立している)にもかかわらず、これを無視してK-M間のコンデンサーとしてしまうなど、等価回路の構成を間違える。
- 対策: 孤立した導体(この問題の(3)のL)も、静電誘導によって電荷が偏り、コンデンサーの一部として機能することを理解する必要があります。「間に挟まれた板は、2つのコンデンサーの極板を兼ねる」と考え、機械的に直列接続の等価回路を描く練習をしましょう。
- 電位の符号ミス:
- 誤解: 電位差を計算した後、基準電位に足すべきか引くべきかを間違える。特に、電池の向きや電荷の正負を考慮する際に混乱しやすいです。
- 対策: 電界の向きと電位の関係を常に意識しましょう。「電界の向きに沿って進むと電位は下がる」という大原則に立ち返ります。例えば、正電荷が蓄えられた極板から負電荷の極板へ向かう方向に電界があるので、その向きに電位は降下します。図に電位の高い点(H)と低い点(L)を書き込むとミスが減ります。
- 問題の前提条件の解釈違い:
- 誤解: (1)のように、問題文や図の記述が物理的に曖昧、あるいは複数の解釈が可能な場合、一つの解釈に固執してしまい、模範解答の意図とずれてしまう。
- 対策: 難問では、解答のロジックから問題の意図を逆算する柔軟性も必要になります。もし自分の解釈で計算結果が解答と合わない場合、「アースの位置が違うのではないか」「電池の向きが逆なのではないか」など、前提条件の解釈を疑ってみる視点も有効です。
物理の眼を養う:現象のイメージ化と図解の極意
- この問題での有効なイメージ化と図示:
- 電位のグラフ化: 横軸に極板の位置(K, L, M, N)、縦軸に電位をとったグラフを描くと、極板間の電位変化が視覚的に理解できます。コンデンサーの部分は電位が直線的に変化(傾きが電界の強さ)し、導線で接続された部分は水平な線(等電位)になります。
- 電荷の分布図: 各極板の表面に「+」や「-」の記号を描き込み、静電誘導の様子をイメージします。(3)では、Kに近いLの面には負電荷、Mに近いLの面には正電荷が誘導される、といった具体的な電荷分布を想像すると、現象の理解が深まります。
- 図を描く際に注意すべき点:
- 等価回路図の徹底: 必ず、問題の図を単純な回路図記号(コンデンサー、電池、スイッチ、アース)で描き直すプロセスを挟みましょう。
- 電位情報の書き込み: 回路図の各点に、分かっている電位(\(0, V, -V\)など)や、求めたい電位(\(V_L, V_M\))を書き込みます。これにより、計算の目標が明確になります。
なぜその公式?論理的な公式選択と適用の思考法
- 直列合成容量の公式 (\(\frac{1}{C_{\text{合成}}} = \sum \frac{1}{C_i}\)):
- 選定理由: (1)や(3)のように、複数のコンデンサーが電荷の逃げ道なく一列に接続されている(と見なせる)場合、回路全体の振る舞いを一つのコンデンサーとして扱うために使用します。
- 適用根拠: 直列接続では、各コンデンサーの電位差の和が全体の電位差に等しく (\(V = V_1 + V_2 + \dots\))、電気量はすべて等しい (\(Q = Q_1 = Q_2 = \dots\)) という性質から導かれます。\(V=Q/C\) を代入するとこの公式が得られます。
- \(Q=CV\):
- 選定理由: 合成容量と全体の電圧から全体の電気量を求める、あるいは、部分の電気量と部分の容量から部分の電位差を求める、といった計算の核となる関係式です。
- 適用根拠: コンデンサーの基本定義式であり、マクロな視点(回路全体)でもミクロな視点(各コンデンサー)でも適用できます。
- \(E = V/d\):
- 選定理由: (2)のように、極板間の電位差と距離が分かっているときに、電界の強さを求めるために使います。
- 適用根拠: 一様な電場における電位と電場の関係を示す、基本的な公式です。
思考を整理する:立式から計算までのロジカルフロー
- (1) Lの電気量と電位:
- 戦略: 問題の状況を「容量Cのコンデンサー2つの直列接続」と解釈し、合成容量、全電気量、部分の電位差の順に計算する。
- フロー: ①等価回路を特定 → ②合成容量 \(C_1\) を計算 → ③全電気量 \(Q = C_1 V\) を計算 → ④Lの電気量は \(-Q\) と決定 → ⑤K-L間の電位差 \(\Delta V_{KL} = Q/C\) を計算 → ⑥Kの電位を基準にLの電位 \(V_L = V_K – \Delta V_{KL}\) を計算。
- (2) KL間、LM間の電界:
- 戦略: S₁を開くと電荷が保存されることを利用する。(1)で求めた電位差を元に電界を計算する。
- フロー: ①(1)の状態でのKL間の電位差 \(V_1\) を確認 → ②\(E_1 = V_1/d\) でKL間の電界を計算 → ③(1)の状態でLとMは等電位だったため、LM間の電位差は0。よって電界も0と判断。
- (3) Mの電位:
- 戦略: K-L-M-Nを3つの直列コンデンサーと見なし、合成容量、全電気量、部分の電位差を計算してMの電位を求める。
- フロー: ①各部の容量(\(C, C/2, C\))を特定 → ②3つの直列合成容量 \(C_2\) を計算 → ③全電気量 \(Q’ = C_2 V\) を計算 → ④M-N間の電位差 \(\Delta V_{MN} = Q’/C_{MN}\) を計算 → ⑤Nの電位 \(V_N\) を基準にMの電位 \(V_M = V_N + \Delta V_{MN}\) を計算。
計算ミスをなくす!日頃の意識と実践テクニック
- 容量の逆数計算: 直列合成容量の計算では、逆数の和を計算した後に、もう一度逆数を取るのを忘れないようにしましょう。(\(\frac{1}{C_2} = \frac{4}{C}\) で満足せず、\(C_2 = \frac{C}{4}\) まで計算する)
- 文字式の整理: 計算過程では、\(C\)や\(V\)といった文字をうまく使い、最後まで文字式のまま計算を進めると、途中の物理的意味が分かりやすく、ミスも減ります。
- 電位の足し算・引き算の検算: (3)でMの電位を求める際、Kを基準に \(V_M = V_K – \Delta V_{KL} – \Delta V_{LM}\) と計算することも可能です。N基準の計算結果と一致するかどうかで検算ができます。
解きっぱなしはNG!解答の妥当性を吟味する習慣をつけよう
- 得られた答えの物理的妥当性の検討:
- (1) 直列接続なので、各コンデンサーにかかる電圧は全体の電圧Vより小さくなるはず(\(V/2\))。妥当です。
- (3) K(0V)とN(-V)の間にL, Mがあります。L, Mの電位は0と-Vの間に入るはずです。\(V_M = -3V/4\) はこの範囲内にあり、妥当です。また、容量が小さいL-M間に最も大きな電圧がかかるため、電位の変化が一番大きいことも確認できます。
- 解答のロジックの一貫性: この問題は特に解釈が難しいため、(1)と(3)で採用した「アースの位置」や「電池の接続方法」の解釈に一貫性があるかを確認することが重要です(ただし、この問題自体が設問ごとに異なる状況を想定している可能性もあります)。
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